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特表2023-528139ヒト核因子E2関連因子2の発現ベクター及び発現ベクターの適用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ヒト核因子E2関連因子2の発現ベクター及び発現ベクターの適用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230627BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230627BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230627BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230627BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 Z
A61K48/00
A61K35/76
A61P25/00
A61P27/02
A61P27/06
C12N15/864 100Z
C07K14/47
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559360
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2020082162
(87)【国際公開番号】W WO2021195876
(87)【国際公開日】2021-10-07
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521001087
【氏名又は名称】ウーハン ニューロフス バイオテクノロジー リミテッド カンパニー
【氏名又は名称原語表記】WUHAN NEUROPHTH BIOTECHNOLOGY LIMITED COMPANY
【住所又は居所原語表記】C270-271 B1,No.666 Ave Gaoxin,Wuhan,Hubei 430060(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】李斌
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE04
4B064CE11
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA58
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA33
4H045AA20
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA06
4H045GA15
4H045GA23
(57)【要約】
ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードする核酸及びその核酸のヌクレオチド配列が提供される。その核酸を含む組換え発現ベクター及びその核酸を宿主に導入する形質転換体も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、
(a)配列番号1に記載のヌクレオチド配列、及び
(b)配列番号1に記載のヌクレオチド配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列
からなる群から選択される、前記ヌクレオチド配列。
【請求項2】
請求項1に記載のヌクレオチド配列を含む、ベクター。
【請求項3】
宿主細胞であって、請求項2に記載のベクターを含むか、またはその染色体に組み込まれた請求項1に記載の外因性ヌクレオチド配列を有する、前記宿主細胞。
【請求項4】
視神経関連疾患の治療のための調製物または組成物の調製における、請求項2に記載のベクターの使用。
【請求項5】
前記調製物または組成物が、
(a)細胞の抗炎症反応または抗酸化反応を活性化すること、
(b)神経節細胞の生存率を高めること、
(c)神経節細胞のアポトーシスを防止するまたは遅延させること、
(d)網膜神経節細胞におけるNrf2遺伝子の安定した高い発現を引き起こすこと、及び
(e)疾患細胞からフリーラジカルを除去すること
からなる群から選択される1つ以上の項目のためにも使用される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記視神経関連疾患が視神経損傷を含む、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記視神経関連疾患が、緑内障、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、虚血性視神経症、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
(a)請求項2に記載のベクターと、(b)薬学的に許容される担体または賦形剤と、を含む、医薬調製物。
【請求項9】
前記医薬調製物中の前記ベクターの含有量が1×10~1×1016ウイルス/ml、好ましくは1×1010~1×1012ウイルス/mlである、請求項8に記載の医薬調製物。
【請求項10】
組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を調製する方法であって、請求項3に記載の宿主細胞を培養して、前記組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を得るステップを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的調製物の分野に関し、具体的には、ヒト核因子E2関連因子2の発現ベクター及びその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
視神経は、網膜の神経節細胞層に由来し、中枢神経系の一部であり、網膜によって得られた視覚情報は、視神経を介して脳に伝達される。緑内障、虚血性視神経症、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)などを含む視神経損傷に関連する多くの疾患が存在する。神経節細胞及びそれらの軸索への損傷は不可逆的であり、患者の視力低下、さらには失明の主な原因である。現在、視神経損傷に対する有効な薬剤は市場に存在しない。視神経保護のための薬物研究は、神経細胞の成長を促進し、かつ損傷した視神経を修復することが作用機序であるBDNF、CNTFなどの神経栄養因子薬に主に焦点を当てているが、治療効果は理想的ではない。
【0003】
したがって、当該技術分野において、良好な治療効果を有する視神経損傷などの視神経関連疾患を治療するための方法を開発することが急務である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の目的は、良好な治療効果を有する視神経損傷などの視神経関連疾患を治療するための方法を提供することである。
【0005】
本発明の第2の目的は、先行技術の欠陥に狙いを定めて、眼疾患を長時間にわたって治療することができるヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を提供することである。
【0006】
本発明の第3の目的は、ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードするアデノ随伴ウイルスベクターを提供することである。
【0007】
本発明の第4の目的は、急性または慢性視神経関連疾患の治療におけるヌクレオチド、アデノ随伴ウイルスベクター、及びプラスミドのうちのいずれかの使用を提供することであり、ここで、好ましくは、疾患は、緑内障、DOA、LHON、虚血性視神経症などである。
【0008】
本発明の第5の目的は、ベクターと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬調製物を提供することである。
【0009】
本発明の第6の目的は、医薬調製物の送達方法を提供することであり、ここで、医薬調製物が眼内注射され、より好ましくは、眼内注射が硝子体内注射である。
【0010】
本発明の第1の態様は、ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、
(a)配列番号1に記載のヌクレオチド配列、及び
(b)配列番号1に記載のヌクレオチド配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、からなる群から選択される、ヌクレオチド配列を提供する。
【0011】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、DNA配列、cDNA配列、またはmRNA配列を含む。
【0012】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、一本鎖配列及び二本鎖配列を含む。
【0013】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1に完全に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0014】
本発明は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
【0015】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、核酸配列に作動可能に連結された1つ以上のプロモーター、エンハンサー、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製起点、選択可能なマーカー、核酸制限部位、及び/または相同組換え部位を含む。
【0016】
別の好ましい実施形態では、プロモーターは、SYN、CMV、CAG、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0017】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、プラスミド及びウイルスベクターからなる群から選択される。
【0018】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ベクターはAAVベクターである。
【0019】
別の好ましい実施形態では、AAVベクターの血清型は、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0020】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、DNAウイルス及びレトロウイルスベクターを含む。
【0021】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、請求項1に記載のヌクレオチド配列を含むか、またはそれが挿入されたAAVベクターであり、好ましくは、AAVベクタープラスミドpAAV、pAAV-MCS、pAAV-MCS2、またはpAAV-2Aneoである。
【0022】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を発現するために使用される。
【0023】
本発明の第3の態様は、宿主細胞であって、本発明の第2の態様に記載のベクターを含むか、またはその染色体に組み込まれた本発明の第1の態様に記載の外因性ヌクレオチド配列を有する、宿主細胞を提供する。
【0024】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、哺乳類細胞であり、哺乳動物には、ヒト及び非ヒト哺乳動物が含まれる。
【0025】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293T-17細胞、光受容細胞(錐体細胞及び/または桿体細胞を含む)、他の視細胞(双極細胞など)、(視)神経細胞、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0026】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、桿体細胞、錐体細胞、オン双極細胞、オフ双極細胞、水平細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、またはこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、宿主細胞は、(網膜)神経節細胞である。
【0027】
本発明の第4の態様は、視神経関連疾患を治療するための調製物または組成物の調製における本発明の第2の態様に記載のベクターの使用を提供する。
【0028】
別の好ましい実施形態では、調製物または組成物は、
(a)細胞の抗炎症反応または抗酸化反応を活性化すること、
(b)神経節細胞の生存率を高めること、
(c)神経節細胞のアポトーシスを防止するまたは遅延させること、
(d)網膜神経節細胞におけるNrf2遺伝子の安定した高い発現を引き起こすこと、及び
(e)疾患細胞からフリーラジカルを除去すること
からなる群から選択される1つ以上の項目のためにも使用される。
【0029】
別の好ましい実施形態では、神経関連疾患には、視神経損傷が含まれる。
【0030】
別の好ましい実施形態では、神経関連疾患には、急性視神経損傷及び慢性視神経損傷が含まれる。
【0031】
別の好ましい実施形態では、視神経関連疾患は、緑内障、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、虚血性視神経症、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0032】
本発明の第5の態様は、(a)本発明の第2の態様に記載のベクターと、(b)薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬調製物を提供する。
【0033】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物の剤形は、凍結乾燥調製物、液体調製物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ベクターはAAVベクターである。
【0035】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物中のベクターの量は、1×10~1×1016ウイルス/ml、好ましくは1×1010~1×1012ウイルス/mlである。
【0036】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、視神経関連疾患を治療するために使用される。
【0037】
本発明の第6の態様は、本発明の第2の態様に記載のベクターを、それを必要とする対象に投与することを含む治療方法を提供する。
【0038】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ベクターはAAVベクターである。
【0039】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、それを必要とする対象の眼に導入される。
【0040】
別の好ましい実施形態では、それを必要とする対象には、ヒト及び非ヒト哺乳動物が含まれる。
【0041】
別の好ましい実施形態では、治療方法は、視神経関連疾患を治療するための方法である。
【0042】
別の好ましい実施形態では、投与は、眼内注射を含む。
【0043】
別の好ましい実施形態では、投与は、硝子体内注射を含む。
【0044】
本発明の第7の態様は、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を調製する方法であって、本発明の第3の態様に記載の宿主細胞を培養して、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を得るステップを含む、方法を提供する。
【0045】
本発明の範囲内で、本発明の上記の技術的特徴及び以下に具体的に説明される技術的特徴(例えば、実施例)が互いに組み合わせられて、新たなまたは好ましい技術的解決策を生み出すことができることを理解されたい。簡潔にするために、繰り返しの説明は本明細書では提供されない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1a】マウス網膜をrAAV2/2-NRF2_天然ウイルス及びrAAV2/2-NRF2_最適化ウイルスに感染させた後のNrf2タンパク質の発現レベルの比較である。
図1b】マウス網膜をrAAV2/2-NRF2_天然ウイルス及びrAAV2/2-NRF2_最適化ウイルスに感染させた後のNrf2下流標的遺伝子nqolの転写レベルの比較である。
図2a】正常群におけるマウスの網膜のTUJ1染色の結果である(20倍)。
図2b】対照群におけるマウスの網膜のTUJ1染色の結果である。
図2c】rAAV2/2-Nrf2_天然群におけるマウスの網膜伸長調製物のTUJ1染色の結果である。
図2d】rAAV2/2-Nrf2_最適化群におけるマウスの網膜伸長調製物のTUJ1染色の結果である。
図2e】各群におけるマウスの網膜神経節細胞密度の統計的結果である。
図3a】正常群におけるマウスの網膜のBrn3a染色の結果である(20倍)。
図3b】モデル群におけるマウスの網膜のBrn3a染色の結果である。
図3c】モデル+CAG-Nrf2_最適化群におけるマウスの網膜のBrn3a染色の結果である。
図3d】モデル+SYN-Nrf2_最適化群におけるマウスの網膜のBrn3a染色の結果である。
図3e】各群におけるマウスの網膜神経節細胞密度の統計的結果である。
図4a】モデル+CAG-Nrf2_最適化群におけるマウスの眼球切片の蛍光写真である。
図4b】モデル+SYN-Nrf2_最適化群におけるマウスの眼球切片の蛍光写真である。
図5a】対照群におけるウサギの眼底の写真である。
図5b】実験群Aにおけるウサギの眼底の写真である。
図5c】実験群Bにおけるウサギの眼底の写真である。
図6a】対照群におけるウサギの眼球切片のH&E染色である。
図6b】実験群Aにおけるウサギの眼球切片のH&E染色である。
図6c】実験群Bにおけるウサギの眼球切片のH&E染色である。
図7a】エンハンサー/プロモーター、遺伝子配列、ポリA、ウイルスパッケージングITR配列を含む各エレメントの開始-終止部位を示すプラスミドのプロファイルであり、pAAV-CMV-Nrf2-天然プラスミドのプロファイルである。
図7b】エンハンサー/プロモーター、遺伝子配列、ポリA、ウイルスパッケージングITR配列を含む各エレメントの開始-終止部位を示すプラスミドのプロファイルであり、pAAV-CMV-Nrf2_最適化プラスミドのプロファイルである。
図7c】エンハンサー/プロモーター、遺伝子配列、ポリA、ウイルスパッケージングITR配列を含む各エレメントの開始-終止部位を示すプラスミドのプロファイルであり、pAAV-CAG-Nrf2_最適化プラスミドのプロファイルである。
図7d】エンハンサー/プロモーター、遺伝子配列、ポリA、ウイルスパッケージングITR配列を含む各エレメントの開始-終止部位を示すプラスミドのプロファイルであり、pAAV-SYN-Nrf2_最適化プラスミドのプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明者らは、広範かつ徹底的な研究により、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質のコード配列の標的最適化及び設計を行い、それにより、哺乳類(ヒトなど)細胞におけるNrf2タンパク質の効率的な転写及び発現に特に好適なヌクレオチド配列を得て、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質の組換え発現ベクターを構築した。特異的に最適化されたNrf2コード配列(配列番号1)の転写効率及び翻訳効率が有意に改善され、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質の発現量が5倍以上増加した。これに基づいて、本発明者らは、本発明を完了させた。
【0048】
用語
本開示をより容易に理解することができるように、ある特定の用語が最初に定義される。本出願で使用される場合、本明細書で別途明確に記載されない限り、以下の用語は各々、以下に付与される意味を有する。他の定義は、本出願を通じて記載される。
【0049】
「約」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成の許容される誤差範囲内の値または組成を指すことができ、値または組成がどのように測定または決定されるかに部分的に依存する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99~101のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0050】
本明細書で使用される場合、「含有する(containing)」または「含む(including)(含む(comprising))」という用語は、オープン、セミクローズド、及びクローズドとすることができる。言い換えると、この用語は、「~から本質的になる」または「~からなる」も含む。
【0051】
配列同一性は、所定の比較ウィンドウ(参照ヌクレオチド配列またはタンパク質の長さの50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%であり得る)に沿って2つの整列させた配列を比較し、かつ同一の残基が生じる位置の数を決定することによって決定される。典型的には、これは、パーセンテージで表される。ヌクレオチド配列の配列同一性の測定は、当業者に周知の方法である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「対象」、「それを必要とする対象」という用語は、任意の哺乳動物または非哺乳動物を指す。哺乳動物には、ヒト、脊椎動物、例えば、げっ歯類、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、及びヤギが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
「ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質」、「Nrf2(タンパク質)」、「ポリペプチド」、「本発明のポリペプチド」、及び「本発明のタンパク質」という用語は、互換的に使用される。
【0054】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus、AAV)、別名、アデノ随伴ウイルス(adeno associated virus)は、Parvoviridae科のディペンドウイルス属に属し、これまでに発見された最も単純な構造を有する一本鎖DNA欠損ウイルスのクラスであり、その複製にはヘルパーウイルス(通常、アデノウイルス)の関与が必要である。これは、2つの逆方向末端反復(ITR)におけるcap遺伝子及びrep遺伝子をコードする。ITRは、ウイルス複製及びパッケージングにおいて決定的な役割を果たす。cap遺伝子はウイルスカプシドタンパク質をコードし、rep遺伝子はウイルスの複製及び組み込みに関与する。AAVは、様々な細胞に感染することができる。
【0055】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、非病原性野生型アデノ随伴ウイルスに由来し、最も有望な遺伝子導入ベクターのうちの1つとみなされており、それらが、良好な安全性、広範囲の宿主細胞(分裂細胞及び非分裂細胞)、低免疫原性、及びインビボにおける外来遺伝子の長期発現などの特徴を有するため、遺伝子治療及びワクチン研究において世界中で広く使用されている。10年を超える研究を経て、組換えアデノ随伴ウイルスの生物学的特徴が深く理解されており、特に様々な細胞、組織、及びインビボ実験への適用の効果に関して多くのデータが蓄積されている。医学研究では、rAAVは、様々な疾患の遺伝子治療の研究(インビボ実験及びインビトロ実験を含む)に使用されており、特徴的な遺伝子導入ベクターとして、遺伝子機能の研究、疾患モデルの構築、及び遺伝子ノックアウトマウスの調製などにも広く使用されている。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、ベクターは、組換えAAVベクターである。AAVは、それらが安定した部位特異的な様式で感染する細胞のゲノムに組み込まれ得る比較的小さいDNAウイルスである。これらは、細胞の成長、形態、または分化に何ら影響を及ぼすことなく幅広い細胞に感染することができ、ヒト病理に関与していないようである。AAVゲノムは、クローニングされ、配列決定され、特徴付けられている。AAVは、およそ4700個の塩基と、両端に約145個の塩基を有するウイルスの複製起点となる逆方向末端反復(ITR)領域とを含む。残りのゲノムは、封入機能を有する2つの重要な領域に分けられ、ゲノムの左部分がウイルス複製及びウイルス遺伝子発現に関与するrep遺伝子を含み、ゲノムの右部分がウイルスカプシドタンパク質をコードするcap遺伝子を含む。
【0057】
AAVベクターは、当該技術分野における標準の方法を使用して調製することができる。任意の血清型のアデノ随伴ウイルスが好適である。ベクターを精製するための方法は、例えば、米国特許第6,566,118号、同第6,989,264号、及び同第6,995,006号で見つけることができ、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。ハイブリッドベクターの調製は、例えば、PCT出願第PCT/US2005/027091号に記載されており、この開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。インビトロ及びインビボでの遺伝子導入のためのAAV由来のベクターの使用が記載されている(例えば、すべて参照により全体が本明細書に組み込まれる、国際特許出願公開第WO91/18088号及び同第WO93/09239号、米国特許第4,797,368号、同第6,596,535号、及び同第5,139,941号、ならびに欧州特許第0,488,528号を参照のこと)。これらの特許公報は、rep遺伝子及び/またはcap遺伝子が欠失しており、かつ目的とする遺伝子によって置き換えられている様々なAAV由来の構築物、ならびにインビトロ(培養細胞に)またはインビボ(生物に直接)での目的とする遺伝子の導入におけるこれらの構築物の使用を記載している。複製欠損組換えAAVは、ヒトヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)に感染した細胞株へのプラスミド(2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する目的とする核酸配列を含むプラスミド及びAAV封入遺伝子(rep遺伝子及びcap遺伝子)を有するプラスミド)の共トランスフェクションによって調製することができる。その後、結果として得られたAAV組換え体が標準の技法によって精製される。
【0058】
いくつかの実施形態では、組換えベクターは、ウイルス粒子(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV14、AAV15、及びAAV16、AAV-DJのAAVウイルス粒子を含むが、これらに限定されない)に封入される。したがって、本開示は、本明細書に記載のベクターのうちのいずれかを含む組換えウイルス粒子(組換えポリヌクレオチドを含むため、それらは組換え体である)を含む。かかる粒子を生成する方法は、当該技術分野で既知であり、米国特許第6,596,535号に記載されている。
【0059】
核酸コード配列
本発明によって解決されるべき技術的課題は、先行技術における核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質のトランスフェクション効率の低さ及び治療効果の低さという技術的欠陥を克服することである。本発明は、核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質ならびにその調製方法及び適用を提供する。本発明の最適化されたNrf2遺伝子配列(配列番号1)がNrf2タンパク質の発現をより効率的にし、それにより、より多くのNrf2タンパク質が患者の視神経節細胞において生理的役割を果たすことが研究により見出される。
【0060】
本発明に記載のヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1に記載される。ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードする核酸は、1818bpの全長を有する。本発明では、ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードする核酸は、Nrf2最適化遺伝子またはNrf2最適化核酸とも称される。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもRNAの形態であってもよい。別の好ましい実施形態では、ヌクレオチドは、DNAである。DNAの形態には、cDNA、ゲノムDNA、または人工的に合成されたDNAが含まれる。DNAは、一本鎖とすることも二本鎖とすることもできる。DNAは、コード鎖とすることも非コード鎖とすることもできる。
【0062】
本発明の全長ヌクレオチド配列またはその断片は、典型的には、PCR増幅、組換え法、または人工合成などの方法によって得ることができる。PCR増幅の場合、公開されている関連ヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列に従ってプライマーを設計することができ、市販のcDNAライブラリまたは当業者に既知の従来の方法によって調製されたcDNAライブラリを増幅のための鋳型として使用して、関連配列を得ることができる。配列が長い場合、多くの場合、2回以上のPCR増幅を行い、その後、各ラウンドの増幅断片を正しい順序で一緒にスプライシングする必要がある。現在、本発明のポリペプチド(またはその断片もしくはその誘導体)をコードするDNA配列は、完全に化学合成によって得ることができる。その後、このDNA配列は、当該技術分野で既知の様々な既存のDNA分子(または例えば、ベクター)及び細胞に導入することができる。
【0063】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに本発明のベクターまたはポリペプチドコード配列を遺伝子操作することによって産生される宿主細胞にも関する。上記のポリヌクレオチド、ベクター、または宿主細胞は、単離され得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「単離される」とは、物質をその元の環境から分離することを指す(天然物質の場合、元の環境は天然環境である)。例えば、生細胞における天然状態のポリヌクレオチド及びポリペプチドは単離及び精製されていないが、天然状態で存在する他の物質から分離される場合、そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離及び精製されている。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1に記載される。
【0066】
関連配列が得られた時点で、組換え法を使用して、関連配列を一括して得ることができる。これは、通常、従来の方法によって、関連配列をベクターにクローニングし、ベクターを細胞に導入し、かつ関連配列を増殖した宿主細胞から単離することによって行われる。
【0067】
加えて、特に断片の長さが短い場合、人工合成法を使用して、関連配列を合成することもできる。非常に長い配列を有する断片は、典型的には、複数の小さい断片を合成し、続いて、ライゲーションすることによって得ることができる。
【0068】
本発明の遺伝子を得るために、PCR技術を使用してDNA/RNAを増幅する方法が好ましい。PCR用プライマーは、本明細書に開示される本発明の配列情報に従って適切に選択することができ、従来の方法によって合成することができる。増幅されたDNA/RNA断片は、ゲル電気泳動などの従来の方法によって単離及び精製することができる。
【0069】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに本発明のベクターまたはタンパク質コード配列を遺伝子操作することによって産生される宿主細胞、ならびに宿主細胞を使用して組換え技法によってNrf2タンパク質を発現する方法にも関する。
【0070】
従来の組換えDNA技法により、本発明のNrf2タンパク質を発現する宿主細胞(例えば、哺乳類細胞)を、本発明のポリヌクレオチド配列を使用することによって得ることができる。一般に、これは、本発明の第1の態様のポリヌクレオチドまたは本発明の第2の態様のベクターを宿主細胞に形質導入するステップを含む。
【0071】
当業者に周知の方法を使用して、本発明のポリペプチドをコードするDNA配列と、適切な転写/翻訳制御シグナルとを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技法、DNA合成技法、インビボ組換え技法などが含まれる。DNA配列は、発現ベクター内の適切なプロモーターに効果的に連結されて、mRNA合成を指示することができる。発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位及び転写ターミネーターも含む。
【0072】
加えて、発現ベクターは、好ましくは、真核細胞培養の場合にジヒドロ葉酸還元酵素、ネオマイシン耐性、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)、またはE.coliの場合にテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性などの、形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質を提供する1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含む。
【0073】
上述の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターを使用して、適切な宿主細胞を形質転換することができ、これにより、細胞がポリペプチドを発現できるようになる。
【0074】
宿主細胞は、原核細胞、または下等真核細胞もしくは高等真核細胞、例えば、哺乳類細胞(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む)とすることができる。代表的な例には、CHO、NS0、COS7、または293細胞などの動物細胞が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、HEK細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293T-17細胞、光受容細胞(錐体細胞及び/または桿体細胞を含む)、他の視細胞(双極細胞など)、及び神経細胞が宿主細胞として選択される。別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、桿体細胞、錐体細胞、オン双極細胞、オフ双極細胞、水平細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、宿主細胞は、(網膜)神経節細胞である。
【0075】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来の技法を使用して行うことができる。宿主がE.coliなどの原核生物である場合、DNAを取り込むことができるコンピテント細胞を指数増殖期後に採取し、CaCl法で処理することができ、使用される手順は当該技術分野で周知である。別の方法は、MgClを使用することである。所望の場合、形質転換をエレクトロポレーションによって行うこともできる。宿主が真核生物である場合、次のDNAトランスフェクション方法:リン酸カルシウム共沈殿、従来の機械的方法、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージングなどを選択することができる。
【0076】
得られた形質転換体は、本発明の遺伝子によってコードされるタンパク質を発現するための従来の方法によって培養することができる。培養に使用される培地は、使用される宿主細胞に応じて、様々な従来の培地から選択することができる。培養は、宿主細胞の成長に好適な条件下で行われる。宿主細胞が適切な細胞密度に成長した後、最適なプロモーターが適切な方法(例えば、温度切り替えまたは化学的誘導)によって誘導され、細胞がさらなる期間にわたって培養される。
【0077】
上記の方法におけるポリペプチドは、細胞内もしくは細胞膜上で発現され得るか、または細胞外に分泌され得る。所望の場合、タンパク質は、その物理的特性、化学的特性、及び他の特性を使用した様々な分離法によって単離及び精製され得る。これらの方法は、当業者に周知である。これらの方法の例には、従来の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、細菌の浸透圧的破壊、超処理(ultratreatment)、超遠心分離、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び様々な他の液体クロマトグラフィー技法、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
配列最適化
本発明は、Nrf2ヌクレオチド配列の最適化(配列番号1に記載のもの、本発明では最適化Nrf2遺伝子/核酸と称される)を行い、この配列は特別に最適化され、それ故に、図1aに示されるように、転写効率及び翻訳効率が著しく改善され、ここで、最適化Nrf2配列と非最適化Nrf2配列の相同性は75%である。
【0079】
本発明では、配列番号1に記載の核コドンバイアスのために最適化された組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質の配列が提供される。
【0080】
本明細書で使用される場合、「最適化Nrf2コード配列」及び「最適化Nrf2コード遺伝子」はいずれも、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードするためのヌクレオチド配列を指し、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3に記載される。
【0081】
発現ベクター及び宿主細胞
本発明は、本発明の最適化Nrf2コード配列を含むNrf2タンパク質の発現ベクターも提供する。
【0082】
配列情報が提供されると、当業者であれば、利用可能なクローニング技法を使用して、細胞への形質導入に好適な核酸配列またはベクターを生成することができる。
【0083】
好ましくは、Nrf2タンパク質をコードする核酸配列は、ベクター、好ましくは発現ベクターとして提供される。好ましくは、これは、好ましくは標的網膜細胞における形質導入及び発現に好適な遺伝子治療ベクターとして提供される。ベクターは、ウイルスとすることも非ウイルス(例えば、プラスミド)とすることもできる。ウイルスベクターには、変異アデノ随伴ウイルス(AAV)を含むアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、MMLV、GaLV、サル免疫不全ウイルス(SIV)、HIV、ポックスウイルス、及びSV40に由来するものが含まれる。好ましくは、ウイルスベクターは、複製欠損型、複製可能型、または条件付き複製可能型であり得ると想定されるが、複製欠損型である。ウイルスベクターは、一般に、標的網膜細胞のゲノムに組み込まれることなく染色体外状態で留まることができる。Nrf2タンパク質をコードする核酸配列を標的網膜細胞に導入するための好ましいウイルスベクターは、AAVベクター、例えば、自己相補的アデノ随伴ウイルス(scAAV)である。選択的標的化は、特定のAAV血清型(AAV血清型2~AAV血清型12、AAV-DJ)またはこれらの血清型のうちのいずれかの修飾バージョン(AAV 4YF及びAAV 7m8ベクターを含む)を使用して達成することができる。
【0084】
ウイルスベクターは、任意の非必須配列を欠失させるように修飾することができる。例えば、AAVでは、ウイルスは、IX遺伝子、Ela遺伝子、及び/またはElb遺伝子のすべてまたは一部を欠失させるように修飾することができる。野生型AAVの場合、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスの不在下では、複製は非常に非効率的である。組換えアデノ随伴ウイルスの場合、好ましくは、複製遺伝子及びカプシド遺伝子がトランスで(pRep/Capプラスミド内に)提供され、AAVゲノムの2ITRのみが保持され、ビリオンにパッケージングされる一方で、必要なアデノウイルス遺伝子がアデノウイルスまたは別のプラスミドによって提供される。同様の修飾がレンチウイルスベクターにも行うことができる。
【0085】
ウイルスベクターは、細胞に入る能力を有する。しかしながら、プラスミドなどの非ウイルスベクターは、標的細胞によるウイルスベクターの取り込みを促進するための薬剤と複合体化することができる。かかる薬剤には、ポリカチオン剤が含まれる。任意選択的に、リポソームベースの送達系などの送達系を使用することができる。本発明における使用のためのベクターは、好ましくはインビボまたはインビトロでの使用に好適であり、好ましくはヒトにおける使用に好適である。プラスミドは、好ましくは、AAVベクタープラスミドpAAV、pAAV-MCS、pAAV-MCS2、またはpAAV-2Aneoである。
【0086】
ベクターは、好ましくは、標的網膜細胞における核酸配列の発現を指示するための1つ以上の調節配列を含む。調節配列は、核酸配列に作動可能に連結されたプロモーター、エンハンサー、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製起点、核酸制限部位、及び相同組換え部位を含むことができる。ベクターは、例えば、成長系(例えば、細菌細胞)または標的網膜細胞におけるベクターの発現を決定するために、選択可能なマーカーも含み得る。
【0087】
「作動可能に連結された」とは、核酸配列が作動可能に連結された配列と機能的に関連しており、これにより、それらが互いの発現または機能に影響を及ぼす様式で連結されるようになることを意味する。例えば、プロモーターに作動可能に連結された核酸配列は、プロモーターの影響を受ける発現パターンを有することになる。
【0088】
プロモーターは、それが連結している核酸配列の発現を媒介する。プロモーターは、構成的であっても誘導性であってもよい。プロモーターは、内側網膜細胞における遍在的発現、またはニューロン特異的発現を指示することができる。後者の場合、プロモーターは、例えば、視神経節細胞に対して細胞型特異的発現を指示し得る。好適なプロモーターは、当業者に既知であろう。例えば、好適なプロモーターは、CAG、SYN、L7、thy-1、レストリン、カルビンジン、ヒトCMV、GAD-67、ニワトリベータアクチン、hSyn、Grm6、Grm6エンハンサーSV40融合タンパク質からなる群から選択することができる。標的化は、細胞特異的プロモーター、例えば、視神経細胞を選択的に標的化するためのGrm6-SV40を使用して達成することができる。Grm6プロモーターは、Grm6遺伝子の200bpのエンハンサー配列と、SV40真核生物プロモーターとの融合物であり、Grm6遺伝子が視神経細胞特異的代謝型グルタミン酸受容体mGluR6をコードする。Grm6遺伝子は、マウス及びヒト由来が好ましい。遍在的発現は、汎神経細胞プロモーターを使用して達成することができ、その例は当該技術分野で既知であり、かつ入手可能である。かかる例の1つがCAGである。CAGプロモーターは、CMV初期エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターとの融合物である。
【0089】
好適なプロモーターの例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。プロモーター配列は、それに作動可能に連結されたいずれのポリヌクレオチド配列の高レベル発現も駆動することができる強力な構成的プロモーター配列である。好適なプロモーターの別の例は、伸長成長因子-1α(EF-1α)である。しかしながら、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、及びヒト遺伝子プロモーター(アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘムプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターなどであるが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない他の構成的プロモーター配列を使用することもできる。さらに、本発明は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として企図される。誘導性プロモーターの使用は、かかる発現が所望される場合に誘導性プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにすることができ、または発現が所望されない場合に発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明のプロモーターには、CAGプロモーター、SYN1プロモーター、及びCMVプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
好ましい実施形態では、CAGプロモーターの配列は、配列番号4に記載される。
【0092】
好ましい実施形態では、SYN1プロモーターの配列は、配列番号5に記載される。
【0093】
好ましい実施形態では、CMVプロモーターの配列は、配列番号6に記載される。
【0094】
哺乳類細胞(好ましくはヒト、より好ましくはヒト視神経細胞または光受容細胞)においてNrf2タンパク質を発現するために多くの発現ベクターを使用することができる。本発明では、アデノ随伴ウイルスが発現ベクターとして使用されることが好ましい。
【0095】
本発明は、Nrf2タンパク質を発現するための宿主細胞も提供する。好ましくは、宿主細胞は、哺乳類細胞(好ましくはヒト、より好ましくはヒト視神経細胞または光受容細胞)であり、Nrf2タンパク質の発現レベルを増加させる。
【0096】
本発明は、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を調製する方法であって、上記の宿主細胞を培養して、組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を得るステップを含む、方法も提供する。
【0097】
本発明は、ベクターを、それを必要とする対象に投与することを含む治療方法も提供する。
【0098】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、ベクターは、AAVベクターである。
【0099】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、それを必要とする対象の眼に導入される。
【0100】
別の好ましい実施形態では、それを必要とする対象には、ヒト及び非ヒト哺乳動物が含まれる。
【0101】
別の好ましい実施形態では、治療方法は、視神経関連疾患を治療するための方法である。
【0102】
別の好ましい実施形態では、視神経関連疾患は、緑内障、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、虚血性視神経症、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0103】
調製物及び組成物
本発明は、(a)請求項2に記載のベクターと、(b)薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む調製物または組成物を提供する。
【0104】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物の剤形は、凍結乾燥調製物、液体調製物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0105】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ベクターはAAVベクターである。
【0106】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物中のベクターの含有量は、1×10~1×1016ウイルス/ml、好ましくは1×10~1×1012ウイルス/mlである。
【0107】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、視神経関連疾患を治療するために使用される。
【0108】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、
(a)細胞の抗炎症反応または抗酸化反応を活性化すること、
(b)神経節細胞の生存率を高めること、
(c)神経節細胞のアポトーシスを防止するまたは遅延させること、
(d)網膜神経節細胞におけるNrf2遺伝子の安定した高い発現を引き起こすこと、及び
(e)疾患細胞からフリーラジカルを除去すること
からなる群から選択される1つ以上の項目のために使用される。
【0109】
本発明の医薬組成物中の「活性成分」とは、本発明のベクター、例えば、ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルスベクターを含む)を指す。本発明の「活性成分」、調製物、及び/または組成物を使用して、視神経関連疾患を治療することができる。「安全かつ有効な量」とは、重篤な副作用を引き起こすことなく、状態または症状を有意に改善するのに十分な活性成分の量を指す。「薬学的に許容される担体または賦形剤」とは、ヒトでの使用に好適であり、かつ十分な純度及び十分な低毒性でなければならない1つ以上の適合性固体または液体充填剤またはゲル化物質を指す。本明細書で使用される「適合性」とは、組成物の成分を本発明の活性成分とブレンドすることができ、かつ互いに活性成分の有効性を有意に低下させないことを指す。
【0110】
組成物は、液体または固体、例えば、粉末、ゲル、またはペーストとすることができる。好ましくは、組成物は、液体、好ましくは注射用液体である。好適な賦形剤は、当業者に既知であろう。
【0111】
本発明では、担体は、網膜下投与または硝子体内投与により眼に投与することができる。いずれの投与様式でも、担体が注射用液体として提供されることが好ましい。好ましくは、注射用液体は、カプセルまたはシリンジとして提供される。
【0112】
薬学的に許容される担体のいくつかの例には、セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースナトリウム、酢酸セルロースなど)、ゼラチン、タルク、固体滑沢剤(ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムなど)、硫酸カルシウム、植物油(大豆油、ゴマ油、ピーナッツ油、オリーブ油など)、ポリオール(プロピレングリコール、グリセロール、マンニトール、ソルビトールなど)、乳化剤(Tween(登録商標)など)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、着色剤、香味料、安定剤、抗酸化剤、防腐剤、発熱物質除去水などが挙げられる。
【0113】
組成物は、生理学的に許容される水性または非水性滅菌溶液、分散液、懸濁液、または乳濁液、及び滅菌注射用溶液または分散液に再構成される滅菌粉末を含み得る。好適な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒、または賦形剤には、水、エタノール、ポリオール、及びそれらの好適な混合物が含まれる。
【0114】
本発明によって提供されるNrf2をコードする核酸または融合核酸は、インビトロまたはインビボでNrf2タンパク質を産生することができ、このタンパク質またはこのタンパク質を含む調製物を使用して、視神経関連疾患を治療するための薬物を調製することができる。
【0115】
ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードする最適化核酸は、より高い発現レベルを有し、それにより、より多くのNrf2タンパク質を翻訳する。最適化Nrf2核酸を含む薬剤をウサギの眼の硝子体腔に注入し、ここで、薬剤が硝子体腔内で存続可能なままであり、核酸を視神経細胞にトランスフェクトした。最適化Nrf2核酸は、より高いトランスフェクション効率で先行技術よりも多くのNrf2タンパク質をコードして、より良い方法で視神経関連疾患を治療する。
【0116】
先行技術と比較して、本発明は、主に以下の利点を有する。
1.本発明の組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質のコード遺伝子配列は、特別に最適化されている。Nrf2の非最適化DNAコード配列と比較して、転写効率及び翻訳効率が有意に改善され、コドン使用がより効率的になり、最適化配列のNrf2タンパク質発現レベルが有意に改善され、生物学的活性が高い。
【0117】
2.本発明の最適化Nrf2コード遺伝子(配列番号1)は、高い安全性で非常に効果的に視神経関連疾患を治療することができる。
【0118】
3.本発明は、ヒトの体内でNrf2タンパク質を発現することができるアデノウイルス関連ベクターを提供し、マウスにおける急性損傷モデルは、アデノウイルス関連ベクターが網膜に効率的に感染し、大量の標的遺伝子を発現することができ、それにより、細胞の抗炎症性反応及び抗酸化反応を活性化し、マウスRGCの生存率を効果的に増加させることを示す。したがって、これは、視神経損傷及び緑内障などの急性または慢性視神経関連疾患の治療に使用することができる。
【0119】
4.本発明の最適化配列は、インビボでより高い発現レベル及びより安定した発現を有し、それにより、薬物の治療効果を改善する。
【0120】
本発明は、具体的な実施例と併せて以下にさらに説明される。これらの実施例が本発明の範囲を限定するのではなく本発明を説明するためにのみ使用されていることを理解されたい。以下の実施例に示される特定の条件を有しない実験方法は、通常、従来の条件、例えば、Sambrook et al.,molecular cloning:laboratory manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載の条件、または製造業者が推奨する条件に従う。別途指示されない限り、パーセンテージ及び部は重量に基づく。
【0121】
別途特定されない限り、実施例の材料及び試薬はすべて市販の製品である。
【0122】
実施例1:pAAV-Nrf2ベクターの構築方法
1.1 ベクターの構築
ヒトNrf2ヌクレオチド配列(配列番号2に記載のもの)を得た後、Nrf2ヌクレオチド配列最適化(配列番号1に記載のもの)を行った。核酸配列最適化には、コドン使用バイアス、発現を助長しない二次構造(ヘアピン構造など)の排除、GC含有量、CpGジヌクレオチド含有量、mRNA二次構造、潜在スプライス部位、初期ポリアデニル化部位、内部リボソーム進入及び結合部位、ネガティブCpGアイランド、RNA不安定性領域、反復(直接反復、逆方向反復など)、ならびにクローニングに影響を及ぼし得る制限部位の変化が含まれる。最適化配列(配列番号1)にCla I及びXba Iの2つの制限部位を付加するか、または新規遺伝子及びpAAVプラスミドベクターに設計したプライマーでのPCR増幅によって生成された生成物を、それぞれ、Cla I及びXba I二重酵素消化に供し、その後、消化産物を回収し、T4 DNAリガーゼで一晩ライゲーションし、その後、ライゲーション産物をコンピテント細胞に形質転換して、組換えpAAV-Nrf2を得た。細菌液体シーケンシングのために単一のクローンを選択し、シーケンシングによって得た配列を配列アラインメント分析に供して、エンハンサー/プロモーター、遺伝子配列、ポリA、及びウイルスパッケージングITR配列を含む、図7に示される、正しい配列を有する組換えアデノ随伴ウイルスプラスミドpAAV-Nrf2の取得に成功した。図7a、図7b、図7c、及び図7dは、それぞれ、pAAV-CMV-Nrf2_天然プラスミド、pAAV-CMV-Nrf2_最適化プラスミド、pAAV-CAG-Nrf2_最適化プラスミド、及びpAAV-SYN-Nrf2_最適化プラスミドのプロファイルである。
【0123】
1.2 pAAV-Nrf2組換えアデノ随伴ウイルスのコーティング
pAdHelperプラスミド、pAAV-r2c5プラスミド、pAAV-Nrf2プラスミドを293T細胞にトランスフェクトし(225cmの細胞培養フラスコに播種)、細胞を48時間後に採取した。細胞をPBS中に再懸濁し、3回凍結融解した。
【0124】
1.3 rAAV2/2-Nrf2ウイルスの精製及び濃縮
クロロホルム処理-PEG/NaCl析出-クロロホルム抽出の3つのステップを使用してrAAV2/2-Nrf2ウイルスを単離し、濃縮し、精製した。全回収率=最終生成物中のウイルス粒子の数/出発材料中のウイルス粒子の数。
【0125】
1.4 rAAV2/2-Nrf2の物理的力価を検出するための蛍光定量PCR法
実験材料:SYBR II(takara)、標的断片プライマー(20uM)、ウイルスをパッケージングするための標的プラスミド(既知の濃度)、試験するウイルス、8チューブPCRストリップ(Bio-red)。
【0126】
PCR反応条件:前変性:95℃で10分、サイクル:95℃で15秒及び60℃で1分。
【0127】
ゲノムの力価が1×1012vg/mLであると最終的に決定した。
【0128】
他のベクターの調製方法は、上記と同じである。
【0129】
実施例2:マウスにおけるrAAV2/2-Nrf2_天然及びrAAV2/2-Nrf2_最適化の発現レベル及び生物学的活性の比較
2.1 マウスの眼の硝子体への組換えアデノ随伴ウイルスの注射
マウスを5%抱水クロラールの腹腔内注射により麻酔し、マウスを麻酔した後、マウスの眼の外側及び眼球を洗浄し、消毒した。インスリン針を使用してマウスの強角膜縁の下に穴を開け、組換えアデノ随伴ウイルスベクター及び薬学的に許容される担体または賦形剤からなる1~2μlの組換えアデノ随伴ウイルス調製物をマイクロシリンジで硝子体内注射した。マウスを、自由に食餌させた標準環境で維持し、マウスの眼の状態を毎日観察した。
【0130】
2.2 マウスの網膜における発現レベル及び生物学的活性の比較
投薬の3週間後、眼球を取り出した状態で脊椎を折ることによってマウスを屠殺し、網膜を氷上で速やかに剥離し、液体窒素下で保存した。RIPA緩衝液で網膜組織を溶解した後、Nrf2タンパク質の発現レベルをWB実験によって検出した。図1aは、rAAV2/2-Nrf2_天然ウイルス及びrAAV2/2-Nrf2_最適化ウイルスがマウスの網膜に感染した後のタンパク質レベルの比較であり、配列最適化後のベクターのタンパク質発現レベルは、最適化前の5倍以上高い。
【0131】
同時に、RNAをマウスの網膜から抽出し、その後、Nrf2調節下流標的遺伝子nqo1の転写レベルをqPCR実験によって検出した。図1bは、rAAV2/2-NRF_天然ウイルス及びrAAV2/2-NRF_最適化ウイルスがマウスの網膜に感染した後のNrf2下流標的遺伝子の転写レベルの比較であり、これらの結果は、配列最適化後のベクタータンパク質によって活性化された下流遺伝子の転写レベルが最適化前よりも約4倍高いことを示す。これは、配列最適化後のベクターがより強力な生物学的活性を有することを示す。
【0132】
実施例3:急性視神経損傷モデルにおける視神経に対する保護効果
3.1 マウス急性視神経損傷モデル
成体BL6/C57マウスを5%抱水クロラールの腹腔内注射によって麻酔した。マウスを動物手術台上に固定し、眼皮膚をヨードフォアで消毒した。眼球の結膜組織を強角膜縁から強膜に沿って切断し、眼球と結膜との間で鈍的後方分離(bluntly backward separation)を行い、脊椎筋肉を露出させた。この分離により視神経が完全に露出し、その後、視神経を、鉗子の終端を幅1mmに保った状態で逆自動ロック式エルボー鉗子を用いて、眼球の2mm後方で10秒間保持した。術後観察を行い、眼軟膏を使用して、眼底出血、水晶体損傷、及び眼内炎症を有するマウスを除外した。
【0133】
3.2 実験的群分け及び硝子体内注射
5匹の非モデル化マウスを正常群として使用した。モデル化に成功したマウスを、硝子体内注射のために3つの群に分けた。対照群にrAAV2/2-mCherryウイルスを注射し(n=7)、実験群AにrAAV2/2-Nrf2_天然ウイルスを注射し(n=8)、実験群BにrAAV2/2-Nrf2_最適化ウイルスを注射した(n=8)。
【0134】
3.3 網膜神経節細胞の免疫蛍光染色及びRGC細胞計数
脊椎を折ることによってマウスを屠殺し、眼球を取り出し、固定剤で20分間固定し、その後、網膜を剥離し、4枚の花弁状の花びらに切断し、4%パラホルムアルデヒドに4℃で一晩固定した。得られた材料を1%TritonX-100で2時間穿孔し、ブロッキング溶液で1時間ブロックした。その後、得られた材料を、一次抗体としてTUJ1抗体(神経節細胞特異的抗体)と4℃で一晩インキュベートし、二次抗体と室温で2時間インキュベートした。核をDAPIで15分間染色した後、載置した。
【0135】
蛍光顕微鏡下で、網膜側頭四分円、上四分円、鼻四分円、及び下四分円の2つの周辺視野(視神経乳頭から3mm)及び1つの中心視野(視神経乳頭から1mm)を撮影及び計数のために選択した。網膜当たり12の視野画像を収集し、それから平均値を計算し、その後、単位面積当たりの網膜神経節細胞数を計算した。
【0136】
図2に示される結果は、ONCモデル化群(322±46 RGC/mm図2b)における生存神経節細胞の密度が正常群(1496±53 RGC/mm図2a)よりも有意に低かったことを示し(P<0.005)、モデル化の成功を示した。rAAV2/2-Nrf2_天然薬物群(479±46 RGC/mm図2c)における神経節細胞の密度及びrAAV2/2-Nrf2_最適化薬物群(802±16 RGC/mm図2d)における神経節細胞の密度はいずれも、対照群(322±46 RGC/mm図2b)よりも有意に高く、薬物群のモデル化マウスにおける網膜神経節細胞に対する保護効果を示した。本明細書では、rAAV2/2-Nrf2_最適化薬物群のマウスにおける生存神経節細胞数は、rAAV2/2-Nrf2_天然薬物群よりも有意に高く(P<0.05)、配列最適化後の薬物の神経節細胞に対する保護効果が天然配列を有する薬物の保護効果よりも良好であることを示した。図2eは、各群におけるマウスの単位網膜面積当たりのRGC細胞数の統計的結果を示す。
【0137】
実施例4:緑内障マウスモデルにおける視神経に対する保護効果
4.1 DBA/2Jマウスの硝子体内注射
7ヶ月齢のDBA/2Jマウス(眼内圧>18mmHg)を3つの群に分け、6匹のマウスにモデル群としてPBSを注射し、他の2つの群に、それぞれ、rAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化ウイルス(n=7)及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化ウイルス(n=7)を単眼硝子体内注射した。同じ月齢の5匹のC57/BL6マウスを正常群として使用した。
【0138】
4.2 マウスの眼内圧検査及び眼底検査
眼底検査及び眼内圧検査を術後3~5日毎に行った。すべてのマウスの眼に明らかな異常は認められず、結膜充血、分泌、眼内炎、または眼内圧の明らかな変化は認められなかった。
【0139】
4.3 網膜神経節細胞の染色及び計数
投薬の5ヶ月後、脊椎を折ることによってマウスを屠殺し、網膜を神経節細胞の免疫蛍光染色及び計数のために採取した。図3に示される結果は、モデル群のマウスにおける生存神経節細胞の密度(971±146 RGC/mm図3b)が正常群(1506±152 RGC/mm図3a)よりも有意に低かった(P<0.05)ことを示す。rAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化群(1426±179 RGC/mm図3c)及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化群(1384±88 RGC/mm図3d)における神経節細胞の密度は、モデル群(1506±152 RGC/mm図3b)と比較して有意に増加し(P<0.05)、薬物群のモデル化マウスにおける網膜神経節細胞に対する保護効果を示した。しかしながら、rAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化群とrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化群との間に有意差はなかった。図3eは、各群におけるマウスの単位網膜面積当たりのRGC細胞数の統計的結果を示す。
【0140】
4.4 網膜発現レベル
眼球を、凍結切片及びNrf2抗体での免疫蛍光染色を行うために採取した。網膜におけるrAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化の発現レベルを検出した。図4に示される結果は、マウスの網膜をrAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化に感染させた後、Nrf2タンパク質が網膜神経節細胞のみならず、双極細胞及びアマクリン細胞でも強く発現したことを示す(図4a)。しかしながら、Nrf2タンパク質は、rAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化による網膜感染後では、網膜神経節細胞で主に発現し(図4b)、より高い特異性を有した。
【0141】
実施例5:ウサギ網膜におけるrAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化の発現ならびに安全性検出
5.1 ウサギ眼への硝子体内注射
27匹のニュージーランド白ウサギを、PBS群、実験群A、及び実験群Bを含む3つの群に分け、その後、50uLの1×1012vg/mlのrAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化を、それぞれ、角膜縁から3mmに位置する毛様体扁平部を穿刺した後に硝子体内注射して、硝子体腔に入れた。
【0142】
5.2 細隙灯、眼内圧、及び眼底撮影による検査
3つの群のウサギを、術後1、3、7、及び30日目に細隙灯及び眼内圧に関して検査した。すべてのウサギに明らかな異常は認められず、結膜充血、分泌、眼内炎、または眼内圧の増加は認められなかった。術後1ヶ月のウサギの眼底写真の結果を図5に示す。対照群におけるウサギの眼底(図5a)と比較して、実験群A(図5b)及び実験群B(図5c)におけるウサギの網膜血管及び視神経に明らかな合併症または損傷はなく、通常の標準硝子体内注射が明らかな炎症反応または他の合併症を引き起こさないことを示した。
【0143】
5.3 眼球パラフィン切片のH&E染色
ウサギ眼球切片のH&E染色の結果は、実験群A(図6b)、実験群B(図6c)、及び対照群(図6a)における網膜神経節細胞数が基本的に同じであり、かつ階層構造が完全であることを示し、Nrf2_最適化組換え遺伝子が安全であり、網膜に損傷を与えないことを示した。
【0144】
本発明で言及されるすべての文書は、各文書が参照により個別に組み込まれるかのように、参照により本出願に組み込まれる。加えて、本発明の上記の教示を読んだ後、当業者であれば、本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も本出願の添付の特許請求の範囲によって定義される範囲に含まれることを理解されたい。
図1a-b】
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3a-c】
図3d
図3e
図4a-b】
図5a-c】
図6a-c】
図7a-b】
図7c-d】
【配列表】
2023528139000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質をコードし、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と95%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、核酸
【請求項2】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と98%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と99%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項4】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列である、請求項1に記載の核酸。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項6】
前記ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項5に記載のベクター
【請求項7】
前記AAVベクターが、AAV2、AAV5、AAV7、若しくはAAV8、またはそれらの組み合わせの血清型を有する、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターが更にプロモーター及びエンハンサーを含み、前記プロモーターがSYN、CMV、又はCAGから選択される、請求項5~7のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記プロモーターが、配列番号4~6から選択される配列を含む、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
宿主細胞であって、請求項5~9のいずれか1項に記載のベクターを含むか、またはその染色体に組み込まれた請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸を有する、前記宿主細胞。
【請求項11】
視神経関連疾患の治療のための組成物の調製における、請求項5~9のいずれか1項に記載のベクターの使用。
【請求項12】
前記組成物が、
(a)細胞の抗炎症反応または抗酸化反応を活性化すること、
(b)神経節細胞の生存率を高めること、
(c)神経節細胞のアポトーシスを防止するまたは遅延させること、
(d)網膜神経節細胞におけるNrf2遺伝子の安定した高い発現を引き起こすこと、及び
(e)疾患細胞からフリーラジカルを除去すること
からなる群から選択される1つ以上の項目のためにも使用される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記視神経関連疾患が視神経損傷を含む、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記視神経関連疾患が、緑内障、常染色体優性視神経萎縮症(DOA)、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、虚血性視神経症、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
(a)請求項5~9のいずれか1項に記載のベクターと、(b)薬学的に許容される担体または賦形剤と、を含む、医薬調製物。
【請求項16】
液体調製物である、請求項15に記載の医薬調製物。
【請求項17】
前記医薬調製物中の前記ベクターの含有量が1×10~1×1016ウイルス/mlである、請求項15又は16に記載の医薬調製物。
【請求項18】
前記医薬調製物中の前記ベクターの含有量が1×10 10 ~1×10 12 ウイルス/mlである、請求項15又は16に記載の医薬調製物。
【請求項19】
組換えヒト核因子E2関連因子2(Nrf2)タンパク質を調製する方法であって、請求項10に記載の宿主細胞を培養して、前記Nrf2タンパク質を得るステップを含む、前記方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
1.2 pAAV-Nrf2組換えアデノ随伴ウイルスのコーティング
pAdHelperプラスミド、pAAV-r2cプラスミド、pAAV-Nrf2プラスミドを293T細胞にトランスフェクトし(225cmの細胞培養フラスコに播種)、細胞を48時間後に採取した。細胞をPBS中に再懸濁し、3回凍結融解した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0139
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0139】
4.3 網膜神経節細胞の染色及び計数
投薬の5ヶ月後、脊椎を折ることによってマウスを屠殺し、網膜を神経節細胞の免疫蛍光染色及び計数のために採取した。図3に示される結果は、モデル群のマウスにおける生存神経節細胞の密度(971±146 RGC/mm図3b)が正常群(1506±152 RGC/mm図3a)よりも有意に低かった(P<0.05)ことを示す。rAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化群(1426±179 RGC/mm図3c)及びrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化群(1384±88 RGC/mm図3d)における神経節細胞の密度は、モデル群(971±146 RGC/mm図3b)と比較して有意に増加し(P<0.05)、薬物群のモデル化マウスにおける網膜神経節細胞に対する保護効果を示した。しかしながら、rAAV2/2-CAG-Nrf2_最適化群とrAAV2/2-SYN-Nrf2_最適化群との間に有意差はなかった。図3eは、各群におけるマウスの単位網膜面積当たりのRGC細胞数の統計的結果を示す。
【国際調査報告】