(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】組換えヒアルロニダーゼの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/26 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
C12N9/26
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559471
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 KR2021010368
(87)【国際公開番号】W WO2022031093
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0099100
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517432732
【氏名又は名称】アルテオジェン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】パク スンジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム ギュワン
(72)【発明者】
【氏名】ユン サンフン
(72)【発明者】
【氏名】チョ ジョンス
(72)【発明者】
【氏名】パク キプン
(72)【発明者】
【氏名】ピョン ミンス
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒュンナム
(72)【発明者】
【氏名】キム ジスン
(72)【発明者】
【氏名】ナム キソク
【テーマコード(参考)】
4B050
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC04
4B050DD11
4B050FF09C
4B050FF11C
4B050LL01
(57)【要約】
本発明は、ヒアルロニダーゼ又はその変異体の生産方法に関し、具体的には、培養液グルコースの濃度を調節して培養する条件、下げた培養温度で特定の培養日に培養する条件などを適用し、前記タンパク質のN-糖鎖の含量を変化させることによって比活性を10%以上増加させ、品質及び生産収率を向上させることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を発現する宿主細胞を培養温度35℃~38℃で累積生存細胞濃度を基準にして20×10
6~120×10
6細胞x日/mLまでになるように培養する段階;及び
(2)培養温度を28℃~34℃に下げた後、培養温度を維持しながら、2~18日間、
(a)培地内の残留グルコース濃度を培養期間の間に0.001g/L~4.5g/Lに維持する培養;及び
(b)培養液のpHを6.8~7.2に維持する培養;
方法からなる群から選ばれた一つ以上の方法で培養する段階;
を含むPH20又はその変異体の生産方法であって、
前記生産されたPH20又はその変異体のN-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~38%であって、ヒアルロニダーゼ酵素の培養液での活性が10,000unit/mL以上であることを特徴とするPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項2】
前記生産されたPH20又はその変異体のN-糖鎖の含量のうちガラクトシル化の含量が1%~68%で、シアリル化の含量が1%~38%で、マンノシル化の含量が40%~63%であることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項3】
N-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~30%であることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項4】
生産されたPH20又はその変異体の酵素比活性は、天然型ヒトPH20の比活性より10%以上向上したことを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項5】
前記(1)段階及び/又は(2)段階での宿主細胞の培養は、回分培養法(batch culture)、繰り返し回分培養法(repeated batch culture)、流加培養法(fed-batch culture)、繰り返し流加培養法(repeated fed-batch culture)、連続培養法(continuous culture)及び灌流培養法(perfusion culture)からなる群から選ばれた一つ以上の方法によって行われることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項6】
前記(1)段階及び/又は(2)段階での宿主細胞の培養は、
(i)培地内にアンモニアを添加したり、培地内のアンモニアの濃度を5mM以上に増加させる条件;
(ii)グルタミン、グルコサミン、ウリジン、グルコサミン、及び酪酸ナトリウムからなる群から選ばれた一つ以上の物質を培地に添加する条件;及び
(iii)ガラクトース及びManNAcを添加しない条件;
からなる群から選ばれた一つ以上の条件下で行われることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項7】
PH20の変異体は、天然型PH20のアミノ酸配列において、一つ以上のアミノ酸残基の置換を含み、選択的にN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸残基の一部が欠失したことを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項8】
前記宿主細胞は、動物細胞、酵母、放線菌又は昆虫細胞であることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項9】
さらに生産されたPH20又はその変異体を分離・精製する段階を含むことを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項10】
前記PH20又はその変異体の分離・精製は、親和力結合特性を用いることなく、PH20又はその変異体のイオン結合特性及び/又は疎水性相互作用特性を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項11】
前記PH20又はその変異体の分離・精製は、アフィニティークロマトグラフィーを用いることなく、イオン交換クロマトグラフィーと疎水性作用クロマトグラフィーを用いて行われることを特徴とする、請求項10に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項12】
酸性を帯びるPH20又はその変異体が除去されることを特徴とする、請求項9に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項13】
前記酸性を帯びるPH20又はその変異体の除去は、イオン交換クロマトグラフィーを用いて行われることを特徴とする、請求項12に記載のPH20又はその変異体の生産方法。
【請求項14】
N-糖鎖の含量のうちガラクトシル化の含量が1%~68%で、シアリル化の含量が1%~38%で、マンノシル化の含量が40%~63%であることを特徴とするPH20又はその変異体。
【請求項15】
N-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量を1%~30%に制限することを特徴とする、請求項14に記載のPH20又はその変異体。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法によって生産されたことを特徴とする、請求項14に記載のPH20又はその変異体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロニダーゼ、特に、天然型PH20又は成熟した天然型PH20、又は天然型PH20又は成熟した天然型PH20のアミノ酸配列において、一つ以上のアミノ酸残基の置換を含み、選択的にN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸残基の一部が欠失したヒアルロニダーゼPH20変異体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロニダーゼは、細胞外基質(extracellular matrix)に位置したヒアルロン酸を分解する酵素である。このようなヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を加水分解することによって細胞外基質のヒアルロン酸の粘性(viscosity)を減少させ、組織(皮膚)への透過性(permeability)を増加させる(Bookbinder et al.,2006)。ヒアルロニダーゼは、皮下注射[Muchmore et al.,2012]又は筋肉内注射[Krantz et al.,2016]によって提供される体液の吸収を向上させ、局所麻酔剤の拡散を改善するために使用されている[Clement et al.,2003]。このような方式で皮下投与が促進された薬物には、モルヒネ[Thomas et al.,2009]、セフトリアキソン[Harb et al.,2010]、インスリン[Muchmore et al.,2012]及び免疫グロブリン[Wasserman et al.,2014]がある。また、ヒアルロニダーゼは、静脈注射又は血腫拡散によって組織に流出した体液又は薬物の分散を向上させるのに使用されている。ヒアルロニダーゼのうち中性pHで活性を有しているヒトPH20の組換えタンパク質は、Halozyme Therapeutic社によって開発され、Hylenexという商標名で販売されている(Bookbinder et al.,2006)。
【0003】
ヒトPH20の組換えタンパク質は、酵母(P.pastoris)、DS-2昆虫細胞、動物細胞などで発現されたことが報告された。昆虫細胞及び酵母で生産された組換えPH20タンパク質は、タンパク質の翻訳後、変形過程でN-糖化の様相がヒトPH20と異なるので、活性にも影響を及ぼし、体内で副作用が発生するという憂いが存在する。
【0004】
バイオ医薬品の開発の場合、製品の一貫性及び長い保存可能期間は、製造及び柔軟性を提供する重要な要素である。製造する間に、酵素又は自発的分解及び変形によってサイズ及び電荷などの差によって多様な形態の微小不均一性(Microheterogeneity)が発生する。脱アミド化及びシアリル化などの化学的及び酵素的変形は、それぞれ抗体で正味の負電荷を増加させ、pI値を減少させることによって酸性変異体を形成する[Harris RJ et al.,2004]。また、C-末端リシン切断は、正味の正電荷の損失をもたらし、酸性変異体の形成をもたらす。塩基性変異体の形成は、C-末端リシン又はグリシンアミド化(glycine amidation)、スクシンイミド(succinimide)の形成、アミノ酸の酸化又はシアル酸の除去によって発生可能であり、これは、追加的な正電荷又は負電荷を除去し;二つの類型の変形はpI値を増加させる[Harris RJ et al.,2004]。
【0005】
糖化(glycosylation)は、細胞(真核生物)のタンパク質翻訳後の過程であって、小胞体及びゴルジ体で起こる反応である。糖化は、N-糖化とO-糖化とに分けられるが、これは、付着する官能基によって異なる。細胞で生成されたタンパク質にラクトースやフコースなどの糖が付着する過程を「糖化」と総称する。糖化過程で糖鎖がタンパク質に連結されると、タンパク質が「フォールディング」過程を経て立体的な構造物を形成する。これは、タンパク質が放出されずに長い間維持され得る安定性を付与する。このような糖鎖は、細胞間の意思疎通及び情報交換の役割もするので重要な過程である。
【0006】
タンパク質に糖鎖が付加される反応には、N-結合或いはO結合糖質化(N-linked or O-linked Glycosylation)の二つの形態がある。これらの二つの糖質化過程は、糖鎖合成及び付加メカニズムで差を示しており、このうちN-糖質化のメカニズムと役割がよりよく知られている。N-糖質化を通じて付加される糖鎖は、N-糖鎖(N-Glycan)と呼び、小胞体で形成される。小胞体膜に存在するドリコールピロリン酸(Dolichol Pyrophosphate、PP-Dol)にALG(Asparagine-Linked Glycosylation)と命名された一連のALG酵素が、N-アセチルグルコサミン(N-Acetylglucosamine、GlcNAc)、マンノース(Mannose、Man)、ブドウ糖(Glucose、Glc)などを付加し、最終的に脂質と連結されたオリゴ糖(Lipid-linked Oligosaccharide、LLO)形態の複合糖鎖であるGlc3Man9GlcNAc2-PP-Dolを合成するようになる。このように合成されたLLOは、8個以上のサブユニットで構成されたオリゴ糖転移酵素(Oligosaccharyltransferase)によって共翻訳トランスロケーション(Co-translational Translocation)メカニズムを通じてリボソームから小胞体に直接翻訳されるN-x-S/Tを含むペプチドのN-糖質化配列に伝達される。このようにタンパク質に付着したN-糖鎖は、小胞体内に存在するグルコシダーゼ(α-Glucosidase I、Gls1p;αglucosidase II、Glsp II)によって糖鎖の末端のブドウ糖から一つずつ除去される。2番目と3番目のブドウ糖がさらにゆっくり除去されながら、レクチンシャペロン(Lectin Chaperone)であるカルネキシン/カルレティキュリン(Calnexin/Calreticulin)の助けによってフォールディングが完成する。全てのブドウ糖が切り出されると、タンパク質のフォールディングが完了したと認知し、Man8GlcNAc2糖鎖が付着した形態でゴルジ体に移される。ところが、小胞体からゴルジ体に移される前に、糖タンパク質のフォールディングを再検証する品質管理過程がある。適切なフォールディングが行われていない場合、ブドウ糖の一つの分子をカルネキシン/カルレティキュリンサイクル(Calnexin/Calreticulin Cycle)に再び入り込ませ、フォールディングを完成できる機会を与える過程を繰り返す。
【0007】
上述した小胞体で行われるN-糖鎖の初期生合成過程は、真核微生物である酵母から高等生物である動物に至るまでほぼ同一の過程で保存されている。しかし、ゴルジ体に移された糖鎖は、それぞれの種に特異的に多様な糖鎖修飾過程を経るようになり、その結果、酵母、昆虫、植物及び動物などで完全に異なる形態の各糖鎖が作られる。しかし、このように多様な糖鎖も、核心部位は共通的に有しているが、3つのマンノースと2つのGlcNAcがアスパラギンの窒素に連結された構造であって、トリマンノシルコア(Trimannosyl Core)と呼ばれる。このトリマンノシルコアに主にマンノースが連結された形態を高マンノース型(high-mannose type)と呼び、酵母及びカビなどで多く観察される。伝統酵母であるサッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の場合は、ゴルジ体でマンノースの付加が継続され、約数十個のマンノースが付加された形態が観察されることもある。その一方で、昆虫細胞では、欠乏マンノース型(Pauci-mannose type)の糖鎖を有する各糖タンパク質が観察される。これらは、ゴルジ体で各マンノシダーゼ(Mannosidase IA、IB & IC)により、まず、Man5GlcNAc2の形態で整えられ、これにN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT)Iが作用し、GlcNAcが一つ付加された後、マンノシダーゼIIが作用し、トリマンノシルコアにGlcNAcが一つ付加されている混合型構造が作られる。その後、付加されていたGlcNAcが再度切り出されながら欠乏マンノース型糖鎖構造が作られる。動物細胞は、アスパラギン残基に結合されている1番目のGlcNAcにα(1,6)-フコース(Fucose)が時々付加される。動物では、トリマンノシルコアにGlcNAcが1つ付加されている構造にGNT IIが作用し、GlcNAcが一つさらに付加され、2つのアンテナ構造を有する糖鎖が生成される。その後、GNT IVとVが作用し、4つのアンテナ構造が作られることもあり、一部では、GNT VI、IX又はVBなどが作用し、6つのアンテナ構造まで作られる場合もある。GlcNAcが付加され、アンテナの骨格が作られた後、ゴルジ体内に存在するβ-ガラクトシルトランスフェラーゼ(β-Galactosyltransferase)とα-シアリルトランスフェラーゼ(α-Sialyltransferase)などが作用し、GlcNAc上にガラクトースとシアル酸が付加された形態の複合型糖鎖構造が作られる。
【0008】
N-糖化は、タンパク質のフォールディングや活性などに相当な影響を及ぼし得る。遺伝工学方法を用いて、自然界に存在するタンパク質或いはその変異体を産業的に利用するために生産する場合、宿主細胞の種類、組換え体の操作方法、培養条件によって糖質化の有無、糖鎖の構造や形態が変わり得る可能性が非常に大きい(Schilling,et al.,2002)。すなわち、タンパク質の生産過程中に、生産条件の差によって糖鎖構造や糖鎖を構成する各糖成分に量的な差などが発生する。N-糖化に影響を及ぼす培養条件には、培養培地のグルコース又はグルタミンの濃度(Tachibana et al.1994)、DO(Dissolved oxygen)の濃度(Restelli et al.2006)、培養液pH(Borys et al.1993)、培養液のアンモニアの濃度(Borys et al.1994;)、培養温度(Clark et al.2004)などがある。
【0009】
一般に、酵素は、基質と特異的に結合し、酵素-基質複合体(enzyme-substrate complex)を形成することによって反応の活性化エネルギー(activation energy)を低下させる触媒としての役割をし、酵素の反応を促進させる。酵素は、基質及び基質と競争する各分子を識別できるが、これは、酵素の基質結合位置に相補的な電荷の分布、相補的な構造、親水性/疎水性の分布によって基質との特異的な結合を可能にする。酵素の結合位置を説明するために、酵素と基質が互いに相補的且つ幾何学的な形態を有しており、結合しやすいという鍵と鍵穴モデルが提示されたが、これによると、酵素-基質複合体の遷移状態について説明しにくい。これを克服するために提示された誘導適合モデルにおいては、酵素タンパク質の柔軟な構造を通じて酵素-基質複合体で酵素と基質が継続して相互作用しながら構造が変化するが、この過程では、活性部位を構成するアミノ酸残基やN-糖鎖による周辺電荷の分布、親水性/疎水性分布によって反応がさらに促進され得る。
【0010】
さらに、基質であるヒアルロン酸を加水分解するヒアルロニダーゼ酵素の反応において、電荷相互作用は必須的な要素である。Arming等は、ヒアルロニダーゼPH20で負電荷が多量に分布されている基質であるヒアルロン酸と結合するためには、正電荷を有しているアルギニン残基が酵素活性に必須的な要素であることを明らかにした(Arming et al.1997)。よって、N-糖鎖の電荷分布も、このような酵素活性に影響を及ぼすと類推することができ、負電荷が多い基質であるヒアルロン酸とヒアルロニダーゼとが結合する場合、N-糖鎖のうち負電荷を帯びるシアル酸キャッピングシュガー(Sialic Acid Capping Sugars)の含量、すなわち、シアリル化(Sialylation)の含量が酵素-基質結合体を構成したり、酵素反応の進行に影響を及ぼすか否かを立証することが重要である。シアリル化の含量を制限するためには、ガラクトース残基へのシアル酸の伝達が制限されたり、脱シアリル化(Desialylation)されたり、ガラクトシル化(Galactosylation)の含量が制限されなければならない。
【0011】
したがって、組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産性及び活性は、N-糖鎖の含量変化によって影響を受けるので、これを調節して維持することによって、活性に優れると共に、生産性の高い産業的に有用に使用可能なヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法に対する研究は、効率的な大規模生産のために当業界で要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を生産する宿主細胞の培養方法及びこのような方法で製造されたPH20又はその変異体を提供することにあり、特に、酵素活性及び生産性が向上したヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法を提供することにある。
【0013】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されなく、言及していない他の課題は、本発明の明細書の記載から通常の技術者に明確に理解され得るだろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を生産する宿主細胞を特定の培養条件下で培養する場合、生産された組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体のN-糖化特性、さらに、生産されたヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の酵素活性が著しく向上することを確認した。
【0015】
具体的には、N-糖鎖の含量において、シアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化(Mannosylation)の含量、特に、シアリル化の含量を調節することによって活性を高めることが効果的であり、この含量を調節するためには、培地内のグルコースの濃度及び/又はpHを調節したり、培養温度の変更後、一定期間にわたって培養することによって、本発明で目的とするヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の酵素活性及び生産性を著しく増加できることを確認した。
【0016】
具体的には、本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法は、
(1)組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を発現する宿主細胞を、培養温度35℃~38℃で累積生存細胞濃度(integral viable cell density)を基準にして20×106~120×106細胞x日/mLになるように培養する段階;及び
(2)培養温度を28℃~34℃に下げた後、培養温度を維持しながら、2日~18日間、
(a)培地内の残留グルコースの濃度を培養期間の間に0.001g/L~4.5g/Lに維持する培養;及び
(b)培養液のpHを6.8~7.2に維持する培養;
方法からなる群から選ばれた一つ以上の方法で培養する段階;
を含むことを特徴とする。
【0017】
前記本発明に係る生産方法で生産されたPH20又はその変異体は、N-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~38%であって、酵素活性が著しく増加したことを特徴とするが、これに限定されるものではなく、前記数値は、10%の誤差範囲を有している実験値である。これは、培養条件を設定する場合、培養に使用する機器及び試験者の業務熟達程度などの条件によって偏差が発生するので、本発明で設定した数値は、制限された意味よりは、偏差を考慮してさらに広範囲な意味で解釈しなければならないためである。
【0018】
前記宿主細胞の培養は、回分培養法(batch culture)、繰り返し回分培養法(repeated batch culture)、流加培養法(fed-batch culture)、繰り返し流加培養法(repeated fed-batch culture)、連続培養法(continuous culture)及び灌流培養法(perfusion culture)からなる群から選ばれた一つ以上の方法によって培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、天然型ヒトヒアルロニダーゼPH20とその変異体に対する酵素活性、等電点、N-糖鎖含量の分析結果であって、
図1のAは、天然型ヒトヒアルロニダーゼPH20とその変異体に対する酵素活性、
図1のBは、各試料の等電点電気泳動の結果、
図1のCは、N-糖鎖の含量を示す。
【
図2】
図2は、ヒアルロニダーゼPH20変異体の精製分画での酵素活性と等電点分析を、PNGase F処理、シアリダーゼ(Sialidase)A処理、シアリダーゼA +ガラクトシダーゼ(Galactosidase)処理で比較した結果であって、
図2のAは、各試料の等電点電気泳動の結果、
図2のBは、酵素活性の結果、
図2のCは、N-糖鎖の含量を示す。
【
図3】
図3は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するN-アセチル-D-マンノサミン又はガラクトースの添加培養条件での細胞成長、細胞生存率、pH、ラクテートの濃度の変化を分析した結果であって、
図3のAは、細胞成長、
図3のBは、細胞生存率、
図3のCは、pHの変化、
図3のDは、ラクテートの濃度の変化を示す。
【
図4】
図4は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するN-アセチル-D-マンノサミン又はガラクトースの添加培養条件での培養回収液に対する活性を分析したグラフである。
【
図5】
図5は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するN-アセチル-D-マンノサミン又はガラクトースの添加培養において、培養回収液に対する等電点電気泳動(isoelectric focusing)を行って分析した結果である。
【
図6】
図6は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するN-アセチル-D-マンノサミン又はガラクトースの添加培養において、培養回収液にN-糖鎖構造分析を行って分析した結果である。
【
図7】
図7は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対する培養日による細胞成長、細胞生存率、及びアンモニア濃度の変化を分析した結果であって、
図7のAは、細胞成長、
図7のBは、細胞生存率、
図7のCは、累積細胞の濃度、
図7のDは、アンモニア濃度の変化を示す。
【
図8】
図8は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対する培養日別の回収液に対する活性を分析したグラフである。
【
図9】
図9は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対する培養日別の回収液に対する等電点電気泳動を行って分析した結果である。
【
図10】
図10は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対する培養日別の回収液に対するN-糖鎖構造及び活性を分析した結果である。
【
図11】
図11は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するグルコース濃度条件での細胞成長、細胞生存率、pH変化、浸透圧変化、グルコース濃度、及びラクテート濃度を分析した結果であって、
図11のAは、細胞成長、
図11のBは、細胞生存率、
図11のCは、pH変化、
図11のDは、浸透圧変化、
図11のEは、グルコース濃度の変化、
図11のFは、ラクテート濃度の変化を示す。
【
図12】
図12は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するグルコース濃度条件での活性を分析したグラフである。
【
図13】
図13は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するグルコース濃度条件での等電点電気泳動を行って分析した結果である。
【
図14】
図14は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するグルコース濃度条件でのN-糖鎖構造を分析した結果である。
【
図15】
図15は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するpH条件での細胞成長、細胞生存率、pH変化、及び累積細胞濃度の変化を分析した結果であって、
図15のAは、細胞成長、
図15のBは、細胞生存率、
図15のCは、pH変化、
図15のDは、累積細胞濃度の変化を示す。
【
図16】
図16は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するpH条件での活性を分析したグラフである。
【
図17】
図17は、ヒアルロニダーゼPH20変異体を生産する細胞に対するpH条件での等電点電気泳動を行って分析した結果である。
【
図18】
図18は、ヒアルロニダーゼPH20変異体の精製過程で得た第1次陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーによる精製クロマトグラムである。
【
図19】
図19は、ヒアルロニダーゼPH20変異体の精製過程で得た第2次陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーによる精製クロマトグラムである。
【
図20】
図20は、ヒアルロニダーゼPH20変異体の精製過程で得た陽イオン交換樹脂クロマトグラフィーによる精製クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用した全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0021】
本発明は、遺伝子組換え方法でヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を産業的に有用に使用するために生産するにおいて、N-糖鎖含量のうちシアリル化、ガラクトシル化及び/又はマンノシル化の含量、特に、シアリル化の含量がヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の酵素活性及び生産性に非常に重要であるという事実を確認し、完成に至ったものである。
【0022】
具体的には、PH20又はその変異体のN-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~38%、好ましくは1%~30%、さらに好ましくは1.5%~28%、最も好ましくは2%~25%である場合、ヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の酵素活性及び生産性が予測できない程度に高く向上することを確認した。
【0023】
より具体的には、PH20又はその変異体のN-糖鎖の含量のうちガラクトシル化の含量が1%~68%、シアリル化の含量が1%~38%、マンノシル化の含量が40%~63%で、好ましくは、ガラクトシル化の含量が5%~60%、シアリル化の含量が1%~30%、マンノシル化の含量が42%~62%で、さらに好ましくは、ガラクトシル化の含量が10%~56%、シアリル化の含量が1.5%~28%、マンノシル化の含量が44%~61%で、最も好ましくは、ガラクトシル化の含量が15%~50%、シアリル化の含量が2%~25%、マンノシル化の含量が47%~60%である場合、ヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の酵素活性及び生産性が予測できない程度に高く向上し得る。
【0024】
前記数値は、実施例の表1の実験結果から導出された数値であって、95%信頼区間の数値を適用したものであり、この数値も10%の誤差を含むことができる。これは、タンパク質の糖含量を測定する場合、実験に使用する機器、酵素反応時間、試験温度、試験者の業務熟達程度などの条件によって偏差が発生するので、本発明で測定した糖含量は、制限された意味よりは、実験室の間の偏差を考慮してさらに広範囲な意味で解釈しなければならないためである。
【0025】
本発明において、N-糖鎖の含量のうちガラクトシル化の%含量は、N-糖鎖のうちG1、G1F、G1F'、G2、G2F、A1、A1F、A2、A2Fなどの末端にガラクトースを含むものの%含量を合算したものであって、シアリル化の%含量は、N-糖鎖のうちA1、A1F、A2、A2Fなどの末端にシアル酸を含むものの%含量を合算したものであって、マンノシル化の%含量は、N-糖鎖のうちM4G0F、M5、M5G0、M6、M7、M8、M9などの末端にマンノースを含むものの%含量を合算したものである。
【0026】
具体的には、本発明に係るN-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~38%であるヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法は、
(1)組換えヒアルロニダーゼPH20又はその変異体を発現する宿主細胞を培養温度35℃~38℃で累積生存細胞濃度を基準にして20×106~120×106細胞x日/mLになるように培養する段階;及び
(2)培養温度を28℃~34℃に下げた後、培養温度を維持しながら、2日~18日間、
(a)培地内の残留グルコースの濃度を培養期間の間に0.001g/L~4.5g/Lに維持する培養;及び
(b)培養液のpHを6.8~7.2に維持する培養;
方法からなる群から選ばれた一つ以上の方法で培養する段階;
を含むことを特徴とする。
【0027】
前記数値は、10%の誤差範囲を有している実験値である。これは、培養条件を設定する場合、培養に使用する機器及び試験者の業務熟達程度などの条件によって偏差が発生するので、本発明で設定した数値は、制限された意味よりは、偏差を考慮してさらに広範囲な意味で解釈しなければならないためである。
【0028】
前記(1)段階から(2)段階への培養温度の低下は、累積生存細胞濃度を基準にして20×106~120×106細胞x日/mL、好ましくは40×106~100×106細胞x日/mL、さらに好ましくは60×106~80×106細胞x日/mLである場合になされ得るが、これに限定されない。
【0029】
また、前記(2)段階での培養期間は、2日~18日、好ましくは3日~16日、さらに好ましくは4日~14日であり得るが、これに限定されない。
【0030】
例示的には、本発明に係るPH20又はその変異体の生産で流加培養法を使用する場合、本培養直前の種培養において、灌流培養法又は流加培養法で一定濃度の細胞に到逹するまで35℃~38℃で培養した後、本培養で接種し、35℃未満に減少させた後、2日~18日、好ましくは3日~16日、さらに好ましくは4日~14日間培養することによってPH20又はその変異体の生産性を極大化できるだけでなく、生産されたPH20又はその変異体の酵素活性も著しく増加させることができる。
【0031】
前記本培養の細胞接種濃度は、1×105cells/mL以上、好ましくは5×105cells/mL以上、さらに好ましくは1×106cells/mL以上であり得るが、これに限定されない。
【0032】
本発明に係るPH20又はその変異体の生産で流加培養法と灌流培養法を混用する場合、培養によってPH20又はその変異体の生産性を極大化できるだけでなく、生産されたPH20又はその変異体の酵素活性も著しく増加させることができる。
【0033】
本発明において、前記培地内の残留グルコースの濃度は、0.001g/L~4.5g/L、好ましくは0.01g/L~4.0g/L、さらに好ましくは0.1g/L~3.5g/Lに維持しながら培養できるが、これに限定されない。
【0034】
本発明において、前記「培地内の残留グルコースの濃度を0.001g/L~4.5g/L、好ましくは0.01g/L~4.0g/L、さらに好ましくは0.1g/L~3.5g/Lに維持しながら培養」することは、培養期間の間、培地内の残留グルコースの濃度を毎1時間~36時間、好ましくは毎3時間~30時間、さらに好ましくは毎6時間~24時間の間隔又はリアルタイムで測定し、培地内の残留グルコースの濃度が0.001g/L~4.5g/L、好ましくは0.01g/L~4.0g/L、さらに好ましくは0.1g/L~3.5g/L内で設定された基準濃度以下である場合、該当の基準濃度になるように培地にグルコース溶液(glucose stock solution)を添加して培養することを意味する。
【0035】
本発明において、前記培地内の残留グルコースの濃度の基準濃度は、0.001g/L~4.5g/L、好ましくは0.01g/L~4.0g/L、さらに好ましくは0.1g/L~3.5g/Lの範囲内で設定可能であり、培養期間の間、その基準濃度が適宜変化可能であることは通常の技術者にとって自明である。例えば、初期1日~2日目には培地内の残留グルコースの濃度の基準濃度を2g/Lにして培養し、3日~5日目には基準濃度を1.5g/Lに低下させて培養した後、再び基準濃度を2g/Lにして培養することもでき、1.5g/Lより低い濃度、すなわち、1.0g/Lに基準濃度を設定して培養することもできる。
【0036】
本発明に係る方法によって生産され、N-糖鎖の含量での特定のシアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化の含量を有するヒアルロニダーゼPH20又はその変異体は、ヒアルロニダーゼ酵素の培養液での活性が10,000unit/mL、好ましくは11,000unit/mL以上、さらに好ましくは12,000unit/mL以上であることを特徴とするが、これに制限されなく、
また、本発明に係る方法によって生産され、N-糖鎖の含量での特定のシアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化の含量を有するヒアルロニダーゼPH20又はその変異体は、通常の方法によって生産された天然型ヒトPH20の活性より10%以上、好ましくは12%以上、さらに好ましくは15%以上酵素活性が増加したことを特徴とすることができるが、これに制限されない。
【0037】
好ましくは、本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法において、前記(1)段階及び/又は(2)段階での宿主細胞の培養は、
(i)培地内にアンモニアを添加したり、培地内のアンモニアの濃度を5mM以上に増加させる条件;
(ii)グルタミン、グルコサミン、ウリジン及び酪酸ナトリウムからなる群から選ばれた一つ以上の物質を培地に添加する条件;及び
(iii)ガラクトース及びManNAcを添加しない条件;
からなる群から選ばれた一つ以上の条件下で行われ得るが、これに限定されない。
【0038】
より具体的には、本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法において、前記(1)段階及び/又は(2)段階での宿主細胞の培養は、前記培地内にアンモニアを添加したり、培地内のアンモニアの濃度を5mM以上に増加させる培養、グルタミンを添加する培養、ガラクトース及びManNAcを添加しない培養、ウリジン又はグルコサミンを添加する培養、酪酸ナトリウムを添加する培養を特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0039】
本発明において、ヒアルロニダーゼPH20又はその変異体は、細胞外基質に位置したヒアルロン酸を分解する酵素を意味する。
【0040】
本発明に係る「ヒアルロニダーゼPH20」又は「PH20」は、天然型PH20とその成熟した形態を全て含む意味で解釈され、「ヒアルロニダーゼPH20」又は「PH20」の「変異体」は、「ヒアルロニダーゼPH20」又は「PH20」のアミノ酸配列において、一つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失及び挿入を含み、選択的にN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸残基の一部が欠失したPH20変異体を意味するが、これに限定されない。
【0041】
本発明に係るヒアルロニダーゼは、動物及びストレプトマイセスなどの微生物由来のものであって、ヒアルロニダーゼ活性を有する全てのものを意味し、このうち、「ヒアルロニダーゼPH20」又は「PH20」は、動物及びストレプトマイセスなどの微生物由来のものであって、ヒト、牛又は羊由来のものであることが好ましい。
【0042】
本発明に係るヒト由来の「ヒアルロニダーゼPH20」又は「PH20変異体」としては、国際公開特許第2020/022791号及び米国登録特許第9,447,401号などに記載したものなどが例示され得るが、これに限定されなく、「ヒアルロニダーゼPH20」又は、「PH20」のアミノ酸配列で一つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失及び挿入を含み、選択的にN-末端及び/又はC-末端のアミノ酸残基の一部が欠失したものであって、ヒアルロニダーゼの酵素活性を有するものであれば全て含まれると解釈しなければならない。
【0043】
本発明において、ヒアルロニダーゼタンパク質の発現に使用する宿主細胞としては、動物細胞(animal cell)、酵母(yeast)、放線菌(Actinomycetes)及び昆虫細胞(insect cell)などが使用され得るが、これに限定されない。
【0044】
動物細胞は、哺乳動物細胞であることが好ましい。さらに好ましくは、CHO細胞、HEK細胞、COS細胞、3T3細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Vero細胞などの一般的に使用されている動物培養細胞を使用し、大量発現を目的とする場合は、特にCHO細胞を使用することが好ましい。また、所望のタンパク質を製造するためには、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,4216-4220)やCHO K-1細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1968)60,1275)などの所望の遺伝子を導入するのに適した細胞であることが好ましい。前記CHO細胞としては、特に、DG44株、DXB-11株、K-1株又はCHO-S株が好ましく、宿主細胞へのベクターの導入は、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、電気穿孔法、リポフェクション法などの方法で実施することが可能である。
【0045】
酵母としては、サカロマイセス(Sacchromyces sp.)、ハンセヌラ(Hansenula sp.)、クルイベロマイセス (Kluyveromyces)及びピキア(Pichia sp.)などが例示されてもよく、放線菌としてはストレプトマイセス(Streptomyces)などが例示されてもよいが、これに限定されない。
【0046】
本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産方法において、前記(1)段階及び/又は(2)段階での宿主細胞の培養は、回分培養法、繰り返し回分培養法、流加培養法、繰り返し流加培養法、連続培養法及び灌流培養法からなる群から選ばれた一つ以上の方法によって行われ得るが、これに限定されない。
【0047】
回分培養法は、培養中に新しく培地を追加したり、又は培養液を排出することなく、細胞を増殖させる培養方法である。連続培養法は、培養中に連続的に培地を追加し、また、連続的に排出させる培養方法である。また、連続培養法には、灌流培養も含まれる。流加培養法は、回分培養法と連続培養法との中間に該当するので、半回分培養法(semi-batch culture)とも呼ばれ、培養中に連続的に又は逐次的に培地が追加されるが、連続培養法などの連続的な培養液の排出が実施され、細胞は流出しない培養方法である。本発明において、いずれの培養方法も使用可能であるが、好ましくは、流加培養法又は連続培養法が使用され、特に好ましくは、流加培養法が使用される。
【0048】
以上で説明したように、本発明に係る生産方法によって生産されたヒアルロニダーゼPH20又はその変異体は、酵素の非活性が、一般的な方法によって生産されたものに比べて10%以上増加することができ、特に、天然型ヒトPH20の活性より10%以上向上したことを特徴とする。このような酵素活性の増加は、本発明に係る生産方法によって生産されたヒアルロニダーゼPH20又はその変異体のN-糖化特性の変化及び/又は電荷変形によるものである。
【0049】
特に、N-糖化中にシアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化の含量の変化によって酵素活性が増加するが、本発明に係る生産方法により、このようなN-糖化特性、特に、シアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化の含量が調節され得る。
【0050】
本発明において、糖とタンパク質の共有結合としては、タンパク質を構成するアスパラギン残基にN-アセチル-D-グルコサミンが共有結合されたN-グリコシド結合(N-グリコシド結合糖鎖)、セリン又はトレオニン残基にN-アセチル-D-ガラクトサミンが共有結合されたO-グリコシド結合(O-グリコシド結合糖鎖)などがあるが、本発明の糖タンパク質における糖とタンパク質の共有結合の様式に特別な限定はなく、N-グリコシド結合糖鎖及びO-グリコシド結合糖鎖のうちいずれか一側及び両側を有する糖タンパク質も本発明の糖タンパク質に含まれる。
【0051】
このような観点で、本発明は、N-糖鎖の含量のうちシアリル化の含量が1%~38%、好ましくは1%~30%、さらに好ましくは1.5%~28%、最も好ましくは2%~25%であるヒアルロニダーゼPH20又はその変異体に関する。
【0052】
より具体的には、N-糖鎖の含量のうちガラクトシル化の含量が1%~68%、シアリル化の含量が1%~38%、マンノシル化の含量が40%~63%で、好ましくは、ガラクトシル化の含量が5%~60%、シアリル化の含量が1%~30%、マンノシル化の含量が42%~62%で、さらに好ましくは、ガラクトシル化の含量が10%~56%、シアリル化の含量が1.5%~28%、マンノシル化の含量が44%~61%で、最も好ましくは、ガラクトシル化の含量が15%~50%、シアリル化の含量が2%~25%、マンノシル化の含量が47%~60%であることを特徴とするヒアルロニダーゼPH20又はその変異体に関する。
【0053】
前記数値は、実施例の表1の実験結果から導出された数値であって、95%信頼区間の数値を適用したものであり、この数値も10%の誤差を含むことができる。その理由は、タンパク質の糖含量を測定する場合、実験に使用する機器、酵素反応時間、試験温度、試験者の業務熟達程度などの条件によって偏差が発生するので、本発明で測定した糖含量は、制限された意味よりは、実験室の間の偏差を考慮してさらに広範囲な意味で解釈しなければならないためである。また、前記PH20又はその変異体の電荷変形体は、等電点電気泳動を通じて確認され得る。
【0054】
本発明に係るN-糖鎖の含量のうち特定のシアリル化の含量、ガラクトシル化の含量及び/又はマンノシル化の含量を有するヒアルロニダーゼPH20又はその変異体は、本発明に係る生産方法によって生産されたものであることが好ましいが、これに限定されなく、通常の技術者の常識に照らして変形可能な他の方法によっても生産され得ることは当然である。
【0055】
本発明において、細胞を培養し、糖タンパク質を発現させるために用いた培地は、無血清培地であることが好ましいが、これに限定されなく、DMEM/F12培地(DMEMとF12の混合培地)を基本培地として使用することができる。また、商業的に利用可能な無血清培地、例えば、HycellCHO培地、ActiPro培地(以上、Hyclone社、米国)、CD OptiCHOTM培地、CHO-S-SFM II培地又はCD CHO培地(以上、Gibco社、米国)、IS CHO-VTM培地(IrvineScientific社、米国)、EX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Fed-Batch Medium)(Sigma-Aldrich社、米国)などを基本培地として使用することもできるが、これに限定されない。
【0056】
本発明において、細胞を培養し、糖タンパク質を発現させるために用いたフィード培地は、無血清培地であって、例えば、Cell BoostTM 1、Cell BoostTM 2、Cell BoostTM 3、Cell BoostTM 4、Cell BoostTM 5、Cell BoostTM 6、Cell BoostTM 7a/7b(以上、Hyclone社、米国)、CD CHO EfficientFeedTM A AGTTM、CD CHO EfficientFeedTM B AGTTM、CD CHO EfficientFeedTM C AGTTM、CD CHO EfficientFeedTM A plus AGTTM、CD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM、CD CHO EfficientFeedTM C plus AGTTM(以上、Gibco社、米国)、BalanCD(商標登録) CHO Feed 4(Irvine Scientific社、米国)、EX-CELL(商標登録) Advanced CHO Feed(Sigma-Aldrich社、米国)、CHO-U Feed Mix U1B7/CHO-U Feed Mix U2B13(Kerry社、米国)などをフィード培地として使用することもできるが、これに限定されない。
【0057】
本発明で使用された「フィード培地」及び「濃縮栄養物培地」という用語は、アミノ酸、ビタミン、塩、微量元素、脂質及びブドウ糖などの特定の栄養素又は複数の栄養素で構成された培地であって、基本培地の濃縮産物を意味することができ、培養する細胞によってフィード培地の構成成分及び濃度を多様にして使用することができる。また、商業的に利用可能なフィード培地、例えば、Cell Boostシリーズサプリメント(Series supplement)培地(Hyclone社、米国)、EfficientFeedサプリメント(Supplement)培地、GlycanTuneフィード培地(以上、Gibco社、米国)、BalanCD CHOフィード培地(Irvine Scientific社、米国)、Cellvento(商標登録)CHO細胞培養(Cell Culture)フィード培地(Merck社、米国)、EX-CELL(商標登録)Advanced CHOフィード培地(Sigma-Aldrich社、米国)などをフィード培地として使用することもできるが、これに限定されない。
【0058】
本発明で使用された植物由来の加水分解物は、動物由来の成分は含有しないと共に、エンドウ、綿の種子、小麦グルテン、大豆などから抽出された産物を言い、アミノ酸、ペプチド、ビタミン、炭水化物、ヌクレオシド、ミネラル、その他の成分が豊富に含有されている補充剤であって、これも、培養する細胞によって植物由来の加水分解物の構成成分及び成分濃度を多様にして使用可能である。また、商業的に利用可能な植物由来の加水分解物、例えば、HyPepTM 7404、UltraPepTM cotton、HyPepTM 7504、HyPepTM 4601N(以上、Kerry社、米国)、cotton 100、cotton 200、PhytoneTM、Soy 100(以上、Gibco社、米国)などを補充剤として使用することもできるが、これに限定されない。
【0059】
本発明で使用される糖タンパク質のN-糖鎖の含量を増加又は減少させるために使用した添加物は、一般に、タンパク質の糖化に関与すると知られている成分を言う。特に、シアリル化の含量を制限するためには、ガラクトース残基へのシアル酸の伝達が制限されたり、脱シアリル化されたり、ガラクトシル化の含量が制限されなければならないが、このような添加物としては、細胞を培養するときに、培地に所定濃度のN-アセチル-D-マンノサミン、グルコース、マンノース、グルタミン及びガラクトース、アンモニア、酪酸などの糖化前駆体になる構成成分などがある。
【0060】
ほとんどの動物細胞の培養では、主に血清が含まれた培地を使用しているが、血清が含まれた培地は、化学的に成分が明確でない複合構成物であるので、タンパク質の生産に適した培地を設計するのに困難を伴う。血清を使用するときは、費用や再現性確保の問題のみならず、分離及び精製にも否定的な影響を与え得るので、無血清培地や低血清培地を主に使用する。無血清培地では、炭素源であるグルコースの濃度が著しく低いので、細胞の成長を維持し、高い濃度の目的タンパク質を生産するためには、培地に追加的に主炭素源であるグルコースを添加して培養し、追加的にグルタミンを添加して培養することもできる。特に、タンパク質医薬品の生産で体内半減期を増加させるためには、シアリル化の含量を増加させなければならならない。このためには、培地内のグルコース及びグルタミンを枯渇させずに一定濃度以上に維持しなければならなく、培養液のpHも特定の値に維持しなければならない。培養液で測定されたグルコース及びグルタミンの濃度は、細胞が使用してから残っているそれぞれの残留濃度を意味する。また、シアリル化の含量を増加させるのに関連した各酵素の活性促進剤を使用したり、脱シアリル化を抑制する抑制剤を使用する。また、N-糖鎖の前駆体を添加したり、関連した酵素の活性促進剤や培養条件を調節することによって、ガラクトシル化の含量を増加させ、シアリル化の含量を増加させることもある。
【0061】
しかし、ヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産では、上記のような方法ではN-糖鎖の含量を調節できないが、本発明に係る生産方法によって生産する場合は、目的とするヒアルロニダーゼPH20又はその変異体のN-糖鎖の含量特性及びこれによる高い酵素活性を有するヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の生産が可能である。
【0062】
本発明に係る生産方法には、追加的に生産されたヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の分離・精製段階が含まれ得る。
【0063】
本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の分離・精製は、親和力結合特性を用いることなく、ヒアルロニダーゼPH20又はその変異体のイオン結合特性及び/又は疎水性相互作用特性を用いて行われることが好ましいが、これに限定されない。
【0064】
具体的には、本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の分離・精製は、親和クロマトグラフィー(affinity chromatography)を用いることなく、陽イオン交換クロマトグラフィー(cation exchange chromatography)及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィー(anion exchange chromatography)などのイオン交換クロマトグラフィー(ion exchange chromatography)と疎水性作用クロマトグラフィー(hydrophobic interaction chromatography)を用いて行われ得るが、これに限定されない。
【0065】
また、本発明に係るヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の分離・精製段階では、酵素活性が低い酸性を帯びるヒアルロニダーゼPH20又はその変異体が除去されることを特徴とし、好ましくは、前記酸性を帯びるヒアルロニダーゼPH20又はその変異体の除去は、イオン交換クロマトグラフィーを用いて行われることを特徴とする。
【0066】
酵素の産業的な利用可能性を確認するためには、酵素の触媒反応速度に対する分析が必要である。酵素反応は、固定された反応性の活性部位を有する酵素反応と、多様な反応性を有する様々な活性部位を有する酵素反応とに分けられ得る。ヒアルロニダーゼのように固定された反応性の単一活性部位を有する酵素の触媒反応の速度は、ミカエリス・メンテン (Michaelis-Menten)の速度公式によるものと知られている。
【0067】
ミカエリス・メンテンの酵素反応速度論は、次の式のように酵素(E)-基質(S)の複合体[ES]形成段階での可逆反応段階と、ES複合体の解離による生成物(P)が生成される非可逆反応段階の2段階反応体系として酵素反応を仮定することを前提とする。この場合、kf、kr、kcatは、各方向への反応の速度定数である(Alan Fersht(1977)Enzyme structure and mechanism)。
【0068】
【0069】
酵素反応は、酵素と基質との反応によってES複合体を形成する過程が迅速に平衡状態に到逹すると仮定したり、十分に高い基質の濃度を維持する反応を行うことによって酵素の濃度を十分に低下させ、d[ES]/dt≒0と仮定し得る見掛けの定常状態であると言える。速い平衡を仮定したり、見掛けの定常状態を仮定する速度式はいずれも同一に誘導されるので、ほとんどの実験は、初期に酵素の濃度に比べて高い基質の濃度を維持する見掛けの定常状態であると仮定する。
【0070】
このような仮定下で、「酵素の量は反応前後で一定である。」と「化学反応で化学平衡点に到逹する場合、生成物が作られる反応速度と、この物質が再び分解される速度とは同じである。」という条件を用いると、最終生成物の反応速度は、次のようなミカエリス・メンテン速度公式で表現することができる。このとき、KM=(kr+kcat)/kfで、Vmax=kcat[E]0である。
【0071】
【0072】
このようなミカエリス・メンテン速度公式を用いて酵素反応速度の分析を実験的に行うために、ラインウィーバー・バーク(Lineweaver-Burk)方程式を用いる。この方程式は、実験で与えられた基質の濃度の逆数1/[S]と、実験的に測定した反応速度の逆数1/Vの値との関係を示す方程式である。この方程式が1次方程式であることを統計的に確認すると、酵素反応がミカエリス・メンテンの速度公式による反応であることを確認することができ、この方程式を用いてKMとVmaxを求めることができる。
【0073】
酵素は、化学反応を触媒するにおいて、活性部位で基質と結合した後、遷移状態を有するようになるが、高いエネルギーを有する遷移状態に到逹するための活性化エネルギーは、基質との多くの結合を通じて低くなる。このような遷移状態に到逹するための平衡定数は、kcat/KMに比例するようになる。ここで、1/KMは、酵素と基質との結合によって酵素-基質複合体を作る程度と、酵素-基質複合体が分解されずに維持される程度とを合わせた指標であって、kcatは、酵素-基質複合体から生成物が得られる平衡定数であるので、kcat/KMは、基質と酵素からどれほどの生産物が得られるのかに対する指標、すなわち、酵素の触媒効率を示すものであると言える。
【0074】
ヒアルロニダーゼの産業的な利用可能性は、酵素触媒効率と比例する。特に、単クローン抗体などの高分子薬理活性物質と共に皮下に注射する場合は、ヒアルロニダーゼの酵素触媒効率が重要な役割をする。本発明に係る変異体が天然型PH20より高いkcat/KMを有する場合は、高分子薬理活性物質に含まれたヒアルロニダーゼが皮下に投与されるとき、皮下内に存在するヒアルロン酸をさらに速く分解することによって、薬理活性物質が速く分散できるようにする優れた効果を与える。また、本発明に係る変異体が野生型PH20より大きいkcatを有する場合は、同一の酵素の濃度では最大反応速度であるVmaxが増加し、同一の時間にさらに多い量のヒアルロン酸を分解するようになり、より広い範囲に薬理活性物質を分散できるようにする優れた効果を与える。
【0075】
したがって、本発明に係るPH20変異体の酵素学的特性を確認するために、各変異体の酵素反応速度を分析し、そのKM(50%Vmax条件での基質の濃度)、kcat(基質転換率)、kcat/KM(酵素触媒効率)の結果を実施例4で比較した。この結果を見ると、野生型PH20に比べて、本発明に係るPH20変異体が優秀であることを立証することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例を通じてさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されることはない。
【0077】
実施例1.ヒアルロニダーゼの活性、N-糖鎖、及び等電点の関係
【0078】
天然型ヒトヒアルロニダーゼPH20とその変異体HM46に対して、活性、等電点、及びN-糖鎖の含量を分析した結果を
図1に提示した。二つのヒアルロニダーゼの活性単位の差が2倍以上であるが、等電点の範囲とN-糖鎖の含量は特に異なっていなかった。
【0079】
ヒアルロニダーゼPH20でのN-糖鎖含量、等電点、及び活性の関係に対して確認する実験を行った。ヒアルロニダーゼPH20変異体を精製する過程で塩基性分画(Fraction 1)と酸性分画(Fraction 2)とを分離できた。また、これらの各分画を試料としてPNGase Fで処理し、N-糖鎖を全て除去した試料と、シアリダーゼAで処理し、末端のシアル酸を除去した試料と、シアリダーゼA及びガラクトシダーゼを処理し、末端のシアル酸とガラクトースを除去した試料に対して等電点及び酵素活性を分析した結果を
図2に提示した。二つの分画は、等電点の範囲において差を有しており、酸性分画で酵素活性が減少する結果を示した。PNGase F処理時には、二つの分画の活性が全てなくなり、等電点の範囲は類似する範囲になった。このような結果を通じて、N-糖鎖の含量が酵素活性と密接な関係を有することが分かった。さらに、末端のシアル酸を除去する場合は、酸性分画の等電点の範囲や酵素活性が塩基性分画のものと類似になる現象を通じて末端のシアル酸の含量と酵素活性とが関連していることが分かった。しかし、末端のシアル酸の含量が低い塩基性分画は、シアル酸の含量が高い酸性分画に比べてヒアルロニダーゼの酵素活性が増加した結果を示した。
【0080】
このような酵素活性とN-糖鎖の含量との関係は、培養のためのセルソース(Cell source)を異ならせた天然型や多様な変異体での調査結果(表1)によって関連性をさらに確認できた。
【0081】
【表1】
相対活性:(試料の活性)/(天然型ヒトPH20の活性)を百分率で表示した活性
ガラクトシル化%含量:N-糖鎖のうちG1、G1F、G1F'、G2、G2F、A1、A1F、A2、A2Fなどの末端にガラクトースを含むものの%含量を合算する。
シアリル化%含量:N-糖鎖のうちA1、A1F、A2、A2Fなどの末端にシアル酸を含むものの%含量を合算する。
マンノシル化%含量:N-糖鎖のうちM4G0F、M5、M5G0、M6、M7、M8、M9などの末端にマンノースを含むものの%含量を合算する。
天然型ヒトPH20とHM46は、国際公開特許第2020/022791号に配列が提示されている。
羊PH20、ボノボPH20は、実施例10に提示された方法で製造した試料であり、配列は表3に提示されている。
【0082】
表1のように、多様なヒアルロニダーゼPH20及び変異体タンパク質を製造し、N-糖鎖の含量を調査した。このために、組換え遺伝子を、ExpiFectamine CHO試薬(Reagent)(Gibco社、米国)を用いてExpiCHO細胞に培養時ごとに形質導入して生産する臨時発現培養、組換え遺伝子を用いて製造した細胞株クローンを用いた細胞株クローン培養、及び生産性の高い単一クローンを選別して用いた細胞株培養などの多様なセルソースを使用した培養を行った。ここで、細胞株クローン培養とは、組換え遺伝子を形質導入した動物細胞のクローンで選択マーカー(Selective Marker)を使用して選別した、生産性が高い細胞株クローンを用いた培養を言い、これは、多クローン細胞株を用いて行われ、単一クローン細胞株を生産するためのものである。細胞株は、研究用細胞株(RCB)、生産用マスター細胞株(MCB)、及び生産用細胞株(WCB)で構成されている。また、培養方法にも、生産の最適化のために多様な組み合わせの試験培養を試みており、この場合にも、活性とN-糖鎖の含量に対して差が発生したことを発見した。
【0083】
細胞株クローン培養#1は、HycellCHO培地(Hyclone社、米国)を使用し、2L規模で培養温度を変更せずに37℃で回分培養した条件である。細胞株クローン培養#2 精製分画#1と細胞株クローン培養#2 精製分画#2は、8L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 100UF(Gibco社、米国)を添加した後、BalanCD(商標登録)CHO Feed 4(Irvine Scientific社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、温度を変更せずに37℃で培養した培養液を対象にして陰イオン交換クロマトグラフィー精製分画を区分したもので、精製分画#1は低塩溶出(Low Salt Elution)分画で、精製分画#2は高塩溶出(High Salt Elution)分画で、細胞株試験培養#1は、2L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 100UF(Gibco社、米国)を添加した後、BalanCD(商標登録)CHO Feed 4(Irvine Scientific社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、培養温度37℃で培養した後、一定の累積細胞濃度に到逹するときに32℃に変更した条件である。細胞株試験培養#2は、10L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 200UF(Gibco社、米国)を添加した後、CD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM(Gibco社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、培養温度37℃で培養した後、一定の累積細胞濃度に到逹するときに32℃に変更し、12日培養した条件である。細胞株試験培養#3は、50L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 200UF(Gibco社、米国)を添加した後、CD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM(Gibco社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、培養温度37℃で培養した後、一定の累積細胞濃度に到逹するときに32℃に変更した条件であって、細胞株試験培養#4は、10L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 200UF(Gibco社、米国)を添加した後、CD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM(Gibco社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、培養温度37℃で培養した後、一定の累積細胞濃度に到逹するときに32℃に変更し、13日培養した条件である。細胞株培養#1、細胞株培養#2、細胞株培養#3、及び細胞株培養#4は、それぞれ研究用細胞株(RCB)、生産用マスター細胞株(MCB)、及び生産用細胞株(WCB)を対象にして、200L規模でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 200UF(Gibco社、米国)を添加した後、CD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM(Gibco社、米国)を添加する流加培養方法を用いて、培養温度37℃で培養した後、一定の累積細胞濃度に到逹するときに32℃に変更し、12日培養した条件である。このような内容に基づいて実施例2~5の培養条件に対する実験を行い、N-糖鎖の含量を維持する培養方法を確立した。
【0084】
表1の天然型ヒトヒアルロニダーゼPH20及び変異体、そして、哺乳動物のヒアルロニダーゼPH20のN-糖鎖の含量は、ガラクトシル化:15%~50%、シアリル化:2.5%~28%、マンノシル化:47%~60%の範囲を有しており、各試験結果の95%信頼区間を適用すると、ガラクトシル化:1%~68%、シアリル化:1%~38%、マンノシル化:40%~63%の範囲を有したときに、産業的に有用なヒアルロニダーゼの活性を有し得ることが分かった。産業的に有用なヒアルロニダーゼの活性は、天然型ヒトPH20の活性の50%以上を意味する。前記数値は10%の誤差を含むことができる。その理由は、タンパク質の糖含量を測定する場合、実験に使用する機器、酵素反応時間、試験温度、試験者の業務熟達程度などの条件によって実験室ごとに偏差が発生するので、本発明で測定する糖含量は、制限された意味よりは、実験室の間の偏差を考慮してさらに広範囲な意味で解釈しなければならないためである。
【0085】
そして、特に、活性とシアリル化との関係を見ると、シアリル化は、約30%以下に制限されたときに、天然型ヒトPH20の活性以上に産業的な効率が高いヒアルロニダーゼを生産できることが分かる。前記数値は、実験結果から導出された数値であって、10%の誤差を含むことができる。
【0086】
このようなN-糖鎖の含量を維持する高品質のヒアルロニダーゼは、臨時発現培養を通じて確認し、これに対する安定的な商業生産のために生産性が高い単一クローン菌株を選定することによって細胞株を製造した。このような細胞株を使用し、実施例2、3、4、5の結果を適用した培養方法によって得られた表1の細胞株試験培養#2、#3、#4、細胞株培養#1、#2、#3、#4の場合は、いずれも10,000unit/mL以上の酵素発現量を示したので、高品質のヒアルロニダーゼを低費用で生産できるという効率を証明した。
【0087】
実施例2.添加物の調整培養
ヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase)PH20変異体は、EX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)にcotton 200UF(Gibco社、米国)を添加した後、20mM N-アセチル-D-マンノサミン(NZP社、オランダ)又は50mMガラクトース(Pfanstiehl社、米国)を追加的に添加したり又は添加していない培地が入っている3個の125mL三角フラスコ(Erlenmeyer flask)に同一に2×10
6cells/mLで接種し、37℃、8%CO
2インキュベーター(incubator)で回分培養で成長させた後、累積生存細胞濃度(integral viable cell density、IVCD)が変更範囲に到逹したとき、32℃に温度を下げて流加培養した。フィード培地であるCD CHO EfficientFeed
TM B plus AGT
TM培地(Gibco社、米国)は、フラスコ内の培養開始体積の1.88%で毎日供給した。細胞サンプルは、培養液から毎日採取し、生存細胞数、細胞生存率、pH、及びラクテートのレベルを測定し、培養の終了後、2,000rpmで10分間遠心分離することによって培養上清液を確保した。前記条件で培養された試料は、HPLC及び濁度分析で活性を確認し、等電点電気泳動及び糖化分析を行うことによってタンパク質パターン及びN-糖鎖のレベルを確認した。50mMガラクトースを添加した培地は、未添加の培地に比べてガラクトシル化が24%増加した一方で、活性は2%減少し、20mM N-アセチル-D-マンノサミンを添加した培地は、未添加の培地に比べてシアリル化が35%増加した一方で、活性は20%減少したことが確認された(
図3、
図4、
図5、
図6)。
【0088】
実施例3.培養日条件培養
ヒアルロニダーゼPH20変異体を過剰発現する細胞を、ザルトリウス(Sartorius)200L生物反応器(bioreactor)内でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)に2×10
6cells/mLで接種した。培養2日目にcotton 200UF(Gibco社、米国)及び濃縮栄養物培地であるCD CHOEfficientFeed
TM B plus AGT
TM培地(Gibco社、米国)を供給物培地として使用する流加培養(fed-batch culture)を行い、pH7.2±0.4及びDO40%に設定し、47rpmの速度で撹拌した。37℃条件で初期培養を行った後、累積生存細胞濃度が変更範囲に到逹すると、温度を32℃に変化させて流加培養した。フィード培地であるCD CHO EfficientFeed
TM B plus AGT
TM培地(Gibco社、米国)は、生物反応器内の培養開始体積の1.88%で毎日供給した。細胞生存率が40%以下になる条件まで培養を行い、培養19日に終了し、細胞の多様な状態は、培養液から毎日採取し、生存細胞数、細胞生存率、累積生存細胞濃度、及びアンモニウムイオンのレベルを測定し、培養の終了後、デプスフィルター(Depth filter)を使用して培養液を回収した。前記条件で培養された試料は、HPLC及び濁度分析で活性を確認し、等電点電気泳動及び糖化分析を行うことによってタンパク質パターン及びN-糖鎖のレベルを確認した。培養日が増加するほどガラクトシル化及びシアリル化の含量が減少し、活性は増加する傾向を確認した(
図7、
図8、
図9、
図10)。
【0089】
実施例4.培養液グルコースの濃度調節培養
ヒアルロニダーゼPH20変異体を過剰発現する細胞を、ザルトリウス2L生物反応器内でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)に2×106cells/mLで接種した。培養2日目にcotton 200UF(Gibco社、米国)及び濃縮栄養物培地であるCD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM培地(Gibco社、米国)を供給物培地として流加培養(fed-batch culture)を行い、pH7.2±0.4及びDO40%に設定し、120rpmの速度で撹拌した。37℃条件で初期培養を行った後、累積生存細胞濃度が変更範囲に到逹すると、温度を32℃に変化させて流加培養した。フィード培地であるCD CHO EfficientFeedTM B plus AGTTM培地(Gibco社、米国)は、生物反応器内の培養開始体積の1.88%で毎日供給した。細胞の多様な状態は、培養液から毎日採取し、生存細胞数、細胞生存率、pH、浸透圧、グルコース、及びラクテートのレベルを測定した。
【0090】
グルコースの濃度調節は、培養液内のグルコースの濃度を毎日測定し、培地に含まれたグルコースの濃度が細胞成長によって消耗され、基準濃度である2g/L、4g/L又は6g/L以下で測定された時点から濃度を調節した。測定されたグルコースの濃度がそれぞれの基準濃度である2g/L、4g/L又は6g/L以下であるとき、200g/Lグルコースストック溶液を基準濃度に達する量で3時間以内に添加し、基準濃度以上に測定されると添加しない方式でそれぞれの濃度条件を維持した。一般に、動物細胞培養において、3時間以内には、グルコースの含量の変化が細胞成長に及ぼす影響が微々たるものとなる。
【0091】
この場合、2g/Lを基準濃度として維持する条件を1g/L(±1g/L)濃度条件と言い、4g/Lを基準濃度として維持する条件を3g/L(±1g/L)濃度条件と言い、6g/Lを基準濃度として維持する条件を5g/L(±1g/L)濃度条件と言う。例えば、グルコースの濃度維持条件である1g/L(±1g/L)濃度は、グルコースの濃度調節範囲の下限線を0g/Lに設定し、グルコースの濃度調節範囲の上限線を2g/Lに設定することを意味し、実際の培養では、培養液の測定されたグルコースの濃度が下限線である0g/Lに到逹するとき、最大2g/Lのグルコースの濃度になるように追加的に200g/Lのグルコースストック溶液を添加し、培養液内のグルコースの濃度が上限線である2g/Lに到逹するとき、200g/Lのグルコースストック溶液を添加しないことを意味する。よって、1g/L(±1g/L)の濃度と3g/L(±1g/L)の濃度の2つの濃度条件において、2g/Lの濃度条件は、1g/L(±1g/L)の濃度では上限線条件を言い、3g/L(±1g/L)の濃度では下限線条件を言うので、全く異なる作用が働く条件であって、重複した条件であるとは見なされない。
【0092】
培養の終了後、4℃及び10,000rpmで60分間遠心分離することによって培養上清液を確保した。前記条件で培養された試料は、HPLC及び濁度分析で活性を確認し、等電点電気泳動及び糖化分析を行うことによってタンパク質パターン及びN-糖鎖のレベルを確認した。培養液内のグルコースの濃度が増加するほど、ガラクトシル化及びシアリル化の含量が増加し、活性は減少する結果を確認した(
図11、
図12、
図13、
図14)。
【0093】
実施例5.培養pH調節培養
ヒアルロニダーゼPH20変異体を過剰発現する細胞を、ザルトリウス2Lの生物反応器内でEX-CELL(商標登録) Advanced CHOフェドバッチ培地(Sigma-Aldrich社、米国)に2×10
6cells/mLで接種した。培養2日目にcotton 200UF(Gibco社、米国)及び濃縮栄養物培地であるCD CHO EfficientFeed
TM B plus AGT
TM培地(Gibco社、米国)を使用する流加培養(fed-batch culture)を行い、DO40%に設定し、120rpmの速度で撹拌した。37℃条件で初期培養を行った後、累積生存細胞濃度が変更範囲に到逹すると、温度を32℃に変化させて流加培養した。フィード培地であるCD CHO EfficientFeed
TM B plus AGT
TM培地(Gibco社、米国)は、生物反応器内の培養開始体積の1.88%で毎日供給した。培養温度の変更後、既存の条件であるpH7.2±0.4より改善された条件を探すために、培養pHをpH6.8±0.1、pH7.0±0.1、pH7.2±0.1、pH7.4±0.1の4つの条件に分けて行った。このような4つの条件は、pHの調節機能が含まれた通常の培養器を使用した培養のpHの調節範囲を設定したものであって、例えば、pH7.0±0.1は、pHの調節範囲の下限線をpH6.9に設定し、pHの調節範囲の上限線をpH7.1に設定することを意味し、実際の培養では、培養液のpHが下限線であるpH6.9に到逹するとき、pHを上昇させる塩基が追加され、培養液のpHが上限線であるpH7.1に到逹するとき、pHを減少させる二酸化炭素が追加されることを意味する。よって、pH6.8±0.1とpH7. 0±0.1の2つの条件において、pH6.9の条件は、pH6.8±0.1では上限線条件を言い、pH7.0±0.1では下限線条件を言うので、全く異なる作用が働く条件であって、重複した条件であるとは見なされない。細胞生存率が40%以下になる条件まで培養を行い、細胞の多様な状態は、培養液から毎日採取し、生存細胞数、細胞生存率、pH、及び累積生存細胞濃度のレベルを測定し、培養の終了後、4℃及び10,000rpmで60分間遠心分離することによって培養上清液を確保した。前記条件で培養された試料は、HPLC及び濁度分析で活性を確認し、等電点電気泳動分析を行うことによってタンパク質パターンを確認した。培養液pHによって活性が変化する様相が観察され、既存の条件より改善された条件であるpH7.0±0.1で最も高い活性及び最も低いシアリル化の含量が観察された。(表2、
図15、
図16、
図17)
【0094】
【0095】
実施例6.動物細胞培養上清液を用いたヒアルロニダーゼ精製
段階1:培養上清液の緩衝液交換/界面活性剤処理
培養液は、第1次陰イオン交換カラム平衡化条件まで調整されるように、30kDa MWCO膜フィルターを使用したUF/DFによってpH及び伝導度の調整で再調整された。再調整された溶液にウイルス不活性化のために溶媒/界面活性剤を適切な濃度で処理し、室温の条件下で約60分間反応した。
【0096】
段階2:第1次陰イオン交換(Q Sepharose Fast Flow)カラムクロマトグラフィー
ろ過したタンパク質溶液は、陰イオン交換樹脂によってヒアルロニダーゼを捕獲するように第1次陰イオン交換カラムに通過させ、引き続いて、高い塩濃度でそのカラムから溶出させた。ローディング前に、そのカラムは、30mMの塩濃度でpH8.0のトロメタミン緩衝液を用いて平衡化された。ローディング後、そのカラムを同一の緩衝液(第1洗浄)を用いて洗浄した。第1洗浄段階の次に、そのカラムは、pH8.0の同一の緩衝液で、しかし、伝導度が第1洗浄段階の塩濃度より高い60mMの塩濃度で洗浄した。第2洗浄段階後に、所望のタンパク質であるヒアルロニダーゼの溶出を、
図18に示したように200mMの塩濃度でpH8.0の適切な緩衝剤を用いて行った。
【0097】
段階3:第2次陰イオン交換(Capto Q)カラムクロマトグラフィー
ろ過したタンパク質溶液は、陰イオン交換樹脂によってヒアルロニダーゼの酸性変異体(acidic variant)を除去するために第2次陰イオン交換カラムに通過させ、引き続いて、高い塩濃度でそのカラムから溶出させた。ローディング前に、カラムは、塩のないpH6.0のビストリス緩衝液を用いて平衡化された。ローディング後、そのカラムを同一のpH6.0のビストリス緩衝液(第1洗浄)を用いて洗浄した。第1洗浄段階の次に、そのカラムは、ビストリス緩衝液で、しかし、伝導度が第1洗浄段階の塩濃度より高い20mMの塩濃度で洗浄した。第2洗浄段階後に、所望のタンパク質であるヒアルロニダーゼの溶出を、
図19に示したように塩濃度でビストリス緩衝液を用いて行った。
【0098】
段階4:陽イオン交換(Capto MMC)カラムクロマトグラフィー
再調整したタンパク質溶液は、陽イオン交換樹脂によってヒアルロニダーゼの酸性変異体を除去するためにカラムに通過させ、引き続いて、高いpH及び塩濃度でそのカラムから溶出させた。ローディング前に、カラムは、80mMの塩濃度でpH5.5のクエン酸緩衝液を用いて平衡化された。ローディング後、そのカラムを同一の緩衝液(第1洗浄)を用いて洗浄した。第1洗浄段階の次に、そのカラムをpH7.5の適切なビストリス緩衝液で洗浄した。第2洗浄段階後に、所望のタンパク質であるヒアルロニダーゼの溶出を、
図20に示したように400mMの塩濃度でpH8.0のビストリス緩衝液を用いて行った。
【0099】
段階5:ナノ-ろ過/製剤(Formulation)
陽イオン交換カラム段階後に、所望のヒアルロニダーゼを含むタンパク質溶液は1μmフィルターでろ過し、ナノ-ろ過段階を行った。ナノろ過を通過したタンパク質溶液は、10mg/mLの高濃度で濃縮し、145mMの塩が含有されたpH7.0のヒスチジン緩衝剤に交換するために8kDa MWCO膜フィルターを使用したUF/DFによって再調整した。
【0100】
実施例7.ヒアルロニダーゼの酵素活性分析
ヒアルロニダーゼPH20及びその他のヒアルロニダーゼの酵素活性は、次のような濁度アッセイ(Turbidimetric assay)を用いて測定した。
【0101】
濁度アッセイは、ヒアルロン酸とアルブミン(BSA)との混合時に生成される沈澱を吸光度を用いて測定する方法であって、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンとの混合時に吸光度が減少する。一般には次のように行った。ヒアルロニダーゼPH20(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60units/mLになるように希釈した後、各チューブに準備した。精製されたタンパク質サンプルを酵素希釈緩衝液(enzyme diluent buffer)(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin))に溶解し、100X、300X、600X、1200X、2400Xになるように希釈した後、各チューブに準備した。新しいチューブに、3mg/mLであるヒアルロン酸溶液の濃度が0.3mg/mLになるように10倍希釈し、各チューブの体積が180μlになるようにした。希釈したヒアルロン酸溶液に酵素を60μl入れて混合し、これを37℃で45分間反応させた。反応が終了すると、96-ウェルプレートに反応させた酵素50μlと酸性アルブミン溶液(acidic albumin solution)250μlを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計を用いて吸光度を測定した。この活性単位を知っている標準品の試験結果と試料の試験結果を用いて試料の活性単位を求めた。
【0102】
実施例8.ヒアルロニダーゼの等電点電気泳動分析
ヒアルロニダーゼの等電点電気泳動は、Invitrogen社のプレキャストゲル(Precast Gel)(pH3-7)と等電点電気泳動用緩衝溶液を使用して分析した。プレキャストゲルに、精製したヒアルロニダーゼ試料をローディングした後、Novex社の電気泳動装置を用いて100Vで1時間、200Vで1時間、500Vで30分間展開した。展開の完了したゲルは精製水で洗浄し、12%TCA溶液でタンパク質を固定した後、クマシーブルー(Coomassie Blue)R-250染色溶液で染色した後、酢酸-メタノール溶液で脱色し、ゲルに表れたタンパク質バンドを分析した。
【0103】
実施例9.ヒアルロニダーゼのN-糖鎖含量分析
ヒアルロニダーゼのN-糖鎖の含量は、ヒアルロニダーゼをPNGase F(N-グリコシダーゼ(glycosidase)Fで処理して分離したN-糖鎖試料を2-AB(2-アミノベンズアミド)で標識し、ACQUITY UPLCグリカン(Glycan)BEHアミドカラム(Amide column)(Waters社)を用いてUPLC(Ultra High Performance Liquid Chromatography)を実施して分析した。精製したヒアルロニダーゼ試料は、脱塩した後、PNGase Fで37℃で16時間~18時間にわたって反応することによってN-糖鎖を分離した。また、これを乾燥した後、2-AB標識(Labelling)を65℃で3時間反応し、過量の2-ABを除去した。標識されたN-糖鎖試料は、72%-20%アセトニトリル勾配(Acetonitrile gradient)でHPLCを行って分離した。分離された試料は、FLD(Flourescence detector)で検出し、N-糖鎖の含量を分析した。分離された各N-糖鎖を分類し、N-糖鎖の末端にガラクトースを含むN-糖鎖(G1、G1F、G1F'、G2、G2F、A1、A1F、A2、A2Fなど)の各含量を全て合わせることによってガラクトシル化%含量を求め、N-糖鎖の末端にシアル酸を含むN-糖鎖(A1、A1F、A2、A2Fなど)の各含量を全て合わせることによってシアリル化%含量を求め、N-糖鎖の末端にマンノースを含むN-糖鎖(M4G0F、M5、M5G0、M6、M7、M8、M9など)の各含量を全て合わせることによってマンノシル化%含量を求めた。
【0104】
実施例10.動物由来のヒアルロニダーゼの製造及びN-糖鎖の含量分析
(1)ボノボと羊のヒアルロニダーゼPH20の遺伝子製造
動物由来、すなわち、類人猿であるボノボと偶蹄類である羊のヒアルロニダーゼPH20の活性及びN-糖鎖の含量を調査するために、次のようにそれぞれヒアルロニダーゼPH20を製造した。それぞれの天然型遺伝子からcDNAを合成し、pcDNA3.4-TOPOベクターのXho IとNot I制限酵素サイトに挿入した。ExpiCHO細胞での発現のために、PH20の固有の信号ペプチドの代わりに、ヒト成長ホルモン、ヒト血清アルブミン、及びヒトHyal1の信号ペプチドのうち一つを信号ペプチドとして使用した。HisTrapカラムを用いたタンパク質の精製のために、PH20 cDNAの3'-末端にHis-タグのDNA配列を位置させた。各配列の確認にはDNAシーケンシングを用いた。表3は、動物由来のヒアルロニダーゼの配列を提示した。
【0105】
【0106】
(2)ボノボと羊のヒアルロニダーゼPH20の発現
発現は、ExpiCHO発現システムを使用して行った。ExpiCHO細胞の細胞数が6×106cells/mLになったとき、ヒアルロニダーゼPH20のcDNAがpcDNA3.4-TOPOベクターに挿入されたプラスミドでExpiFectamine CHO試薬を用いてExpiCHO細胞を形質導入させた。細胞培養液としては、ExpiCHO発現媒体(Expression Medium)(100mL~500mL)を用いた。形質導入後、ExpiCHO細胞を合計6日間130rpmで振盪・培養し、この期間の間に37℃で1日培養し、温度を32℃に下げてから5日間さらに培養した。培養の完了時、10,000rpmで30分間遠心分離することによって細胞上清液を回収した。
【0107】
(3)ボノボと羊のヒアルロニダーゼPH20の精製
ExpiCHO細胞で生産したC-末端His-タグが付いた動物由来のヒアルロニダーゼPH20の組換えタンパク質は、AKTAプライム装備(GE Healthcare社)を用いて2段階のカラムクロマトグラフィーで精製したが、このボノボPH20の場合は、pIが6であるので、陰イオン交換クロマトグラフィーであるQセファロース(Sepharose)を使用し、羊PH20の場合は、pIが8以上であるので、陽イオン交換クロマトグラフィーであるCapto Sカラムを使用して1段階の精製を実施し、各タンパク質は、His-タグ親和クロマトグラフィーであるHisTrap HPカラムで2段階の精製を実施した。
【0108】
Qセファロースカラムを用いたタンパク質の精製のためにバッファーA(20mMリン酸ナトリウム(sodium phosphate)、pH7.5)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、pH7.5、0.5M NaCl)を製造した。タンパク質をQセファロースカラムに結合させ、バッファーAを5CVで流すことによって非特異的に結合したタンパク質を除去した後、0%~100%の濃度勾配でバッファーBを5CVで流すことによってタンパク質を溶出した。
【0109】
Capto Sカラムを用いたタンパク質の精製のために、バッファーA(20mMリン酸ナトリウム、15mM NaCl、pH6.0)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH6.0)をそれぞれ製造した。培養液のpH及び伝導度(conductivity)をバッファーAと同一に合わせ、0.22μmのポアサイズの膜(membrane)に培養液をろ過した。次に、Capto Sカラムにタンパク質を結合させた後、バッファーAを3CV(column volume)で流し、非特異的(non-specific)に結合したタンパク質を除去した。バッファーBを4CVで順次流し、ターゲットタンパク質を溶出した。
【0110】
HisTrap HPカラムを用いたタンパク質の精製のために、バッファーA(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.5)とバッファーB(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、500mMイミダゾール、pH7.5)をそれぞれ製造した。タンパク質試料をHisTrap HPカラムに結合させた後、非特異的に結合されたタンパク質を除去するために7%バッファーBを7CVで流し、ターゲットタンパク質の溶出のために40%バッファーBを3CVで流した。カラム溶出液は、透析バッファー(Dialysis buffer)(20mMリン酸ナトリウム、100mM NaCl、pH7.0)を用いて透析した。
【0111】
(4)ボノボと羊のPH-20ヒアルロニダーゼの分析
活性分析は、実施例7と同一の方法で測定し、N-糖鎖の含量分析は、実施例9と同一の方法で測定した。結果は表1に提示した。
【0112】
実施例11.N-糖鎖の含量による変異体の酵素反応速度(Enzyme kinetics)分析
本発明に係る変異体の酵素反応速度を分析するために、モルガン・エルソン(Morgan-Elson)方法(Takahashi,T.et al(2003)Anal Biochem 322:257-263)で酵素活性を測定した。モルガン・エルソン方法は、ヒアルロン酸がヒアルロニダーゼによって加水分解されたとき、生成されたN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)の還元末端と エールリッヒ試薬(Ehrlich’s Reagent)であるパラ-ジメチルアミノベンズアルデヒド(para-dimetylaminobenzaldehyde(DMAB))との反応によって生成される赤色物質を定量(545nm)する比色分析法である。N-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc、Sigma)を希釈緩衝溶液(0.1M NaPi、0.1M NaCl、1.5mMサッカリン酸(Saccharic Acid)1,4-ラクトン(lactone)、pH5.35)で0.25mM、0.50mM、0.75mM、1.00mM、1.25mMになるように希釈し、準備した各試験管に四ホウ酸(Tetraborate)を処理して還元した後、DMABを添加して発色反応させた。反応後、545nmで吸光度を測定し、GlcNAcの標準反応曲線を作成した。基質であるヒアルロン酸を希釈緩衝溶液で0.54μM、0.65μM、0.87μM、1.23μM、2.17μMになるように希釈し、準備した各試験管にヒアルロニダーゼを添加した後で37℃で5分間反応させ、100℃で5分間加熱することによって酵素反応を終了させ、四ホウ酸を処理して還元した後、DMABを添加して発色反応させた。反応後、545nmで吸光度を測定し、上記のGlcNAcの標準反応曲線を用いて酵素活性を測定した。この方法を使用して配列番号1の野生型PH20及び本発明に係るPH20変異体の酵素反応速度を分析すると、ラインウィーバー・バーク曲線の直線性が確認され、本発明に係るPH20変異体は、ミカエリス・メンテン酵素反応の中も公式によることを確認した。
【0113】
表4は、実施例1の表1の試料のうち細胞株クローン試験培養#2で製造して得られた分画#1、#2の酵素反応速度を分析した。その結果、ガラクトシル化の含量とマンノシル化の含量が類似する範囲にあると共に、シアリル化の含量が低い場合は、酵素の触媒効率(kcat/Km)が大きいので、組換えヒアルロニダーゼの酵素活性が増加することが分かる。
【0114】
この実験結果は、同一のアミノ酸の構造を有する酵素の場合にも、糖化の変化、さらに、シアリル化の含量の変化によっても酵素の活性が影響を受けることを確認できることを証明する。よって、組換え方法で天然型PH20或いは天然型PH20の変異体ヒアルロニダーゼを大量生産し、産業的に有用なヒアルロニダーゼを生産しようとする場合、シアル化の含量を調整することによって、産業上の利用可能性がさらに大きい酵素を開発できることを確認した。
【0115】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係る組換えヒアルロニダーゼPH20タンパク質又はその変異体の生産方法によると、高い生産性と共に、高い酵素活性を有する組換えヒアルロニダーゼPH20タンパク質又はその変異体の生産が可能であり、組換えヒアルロニダーゼPH20タンパク質又はその変異体の大量製造及び供給が可能である。
【0117】
以上で記述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解できるだろう。そのため、以上で記述した各実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【0118】
参考文献
1.L. H. Bookbinder, A. Hofer, M. F. Haller, M. L. Zepeda, G-A. Keller, J. E. Lim, T. S. Edgington, H. M. Shepard, J. S. Patton, G. I. Frost. (2006). A recombinant human enzyme for enhanced interstitial transport of therapeutics. J. Control. Release. 114, 230-241.
2.Douglas B. Muchmore, M.D., and Daniel E. Vaughn, Ph.D. (2012). Accelerating and Improving the Consistency of Rapid-Acting Analog Insulin Absorption and Action for Both Subcutaneous Injection and Continuous Subcutaneous Infusion Using Recombinant Human Hyaluronidase. J. Diabetes Sci. and Technol. 6(4): 764-72
3.E. M. Krantz. (1980). Low-dose intramuscular ketamine and hyaluronidase for induction of anaesthesia in non-premedicated children. S. Afr. Med. J. 58(4):161-2.
4.W. A. Clement, S. H. Vyas, J. N. Marshall, J. H. Dempster. (2003). The use of hyaluronidase in nasal infiltration: prospective randomized controlled pilot study. J. Laryngol. Otol. 117(8):614-8.
5.Thomas J. R., Wallace M. S., Yocum R. C., Vaughn D. E., Haller M. F., Flament J. (2009). The INFUSE-Morphine study: use of recombinant human hyaluronidase (rHuPH20) to enhance the absorption of subcutaneously administered morphine in patients with advanced illness. J. Pain and Symptom Manag. 38(5):663-672.
6.George Harb, Francois Lebel, Jean Battikha, Jeffrey W Thackara. (2010). Safety and pharmacokinetics of subcutaneous ceftriaxone administered with or without recombinant human hyaluronidase (rHuPH20) versus intravenous ceftriaxone administration in adult volunteers. Curr. Med. Res. Opin. 26(2):279-88.
7.Richard L. Wasserman. (2014). Overview of recombinant human hyaluronidase-facilitated subcutaneous infusion of IgG in primary immunodeficiencies. Immunotherapy. 6(5):553-67.
8.Harris R. J., Shire S. J., Winter C. (2004). Commercial manufacturing scale formulation and analytical characterization of therapeutic recombinant antibodies. Drug. Dev. Res. 61:137-154.
9.Stephan Schilling, Torsten Hoffmann, Fred Rosche, Susanne Manhart, Claus Wasternack, and Hans-Ulrich Demuth. (2002). Heterologous Expression and Characterization of Human Glutaminyl Cyclase: Evidence for a Disulfide Bond with Importance for Catalytic Activity. Biochemistry, 35, 10849-10857.
10.H. Tachibana 1, K. Taniguchi, Y. Ushio, K. Teruya, K. Osada, H. Murakami. (1994). Changes of monosaccharide availability of human hybridoma lead to alteration of biological properties of human monoclonal antibody. Cytotechnology. 16(3):151-7.
11.Veronica Restelli, Ming-Dong Wang, Norman Huzel, Martin Ethier, Helene Perreault, Michael Butler. (2006). The effect of dissolved oxygen on the production and the glycosylation profile of recombinant human erythropoietin produced from CHO cells. Biotechnol. Bioeng. 94:481-494.
12.M. C. Borys, D. I. Linzer, E. T. Papoutsakis. (1993). Culture pH affects expression rates and glycosylation of recombinant mouse placental lactogen proteins by Chinese hamster ovary (CHO) cells. Biotechnology (NY). 11:720-724.
13.M. C. Borys, D. I. Linzer, E. T. Papoutsakis. (1994). Ammonia affects the glycosylation patterns of recombinant mouse placental lactogen-I by Chinese hamster ovary cells in a pH-dependent manner. Biotechnol. Bioeng. 43:505-514.
14.Clark K. J., Chaplin F. W., Harcum S. W. (2004). Temperature effects on product quality-related enzymes in batch CHO cell cultures producing recombinant tPA. Biotechnol. Prog. 20:1888-1892.
15.Arming S., Strobl B., Wechselberger C., Kreil G. (1997) In-vitro mutagenesis of PH-20 hyaluronidase from human sperm. Eur J. Biochem. 247:810-814
【国際調査報告】