(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】架橋性双性イオンポリマーおよび膜フィルターにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
C08F 220/38 20060101AFI20230627BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230627BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230627BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230627BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230627BHJP
B01D 71/80 20060101ALI20230627BHJP
C08F 220/60 20060101ALI20230627BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20230627BHJP
C08F 226/06 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08F220/38
B01D69/02
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/10
B01D71/80
C08F220/60
C08F220/36
C08F226/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569150
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(85)【翻訳文提出日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 US2021032793
(87)【国際公開番号】W WO2021232018
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ロウンダー,サミュエル ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】アレクシーウ,アイシェ アサテキン
【テーマコード(参考)】
4D006
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA31
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4J100AB02Q
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4J100HC59
4J100HE01
4J100HE32
4J100HE41
4J100JA15
4J100JA24
(57)【要約】
複数の双性イオン繰り返し単位と、複数の疎水性繰り返し単位とを含み、疎水性繰り返し単位の少なくとも一部が各々独立して架橋性部分を含むコポリマー;そのようなコポリマーを含む架橋コポリマーネットワーク;ならびに、そのような架橋コポリマーネットワークを含む薄膜複合膜が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コポリマーであって、複数の双性イオン繰り返し単位と、複数の疎水性繰り返し単位とを含み、前記疎水性繰り返し単位の少なくとも一部は各々独立して架橋性部分を含む、コポリマー。
【請求項2】
前記双性イオン繰り返し単位の各々は独立して、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ホスホリルコリン、イミダゾリウムアルキルスルホネート、またはピリジニウムアルキルスルホネートを含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記双性イオン繰り返し単位の各々は独立して、スルホベタインアクリレート、スルホベタインアクリルアミド、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、アクリロキシホスホリルコリン、ホスホリルコリンアクリルアミド、ホスホリルコリンメタクリルアミド、カルボキシベタインアクリルアミド、3-(2-ビニルピリジニウム-1-イル)プロパン-1-スルホネート、3-(4-ビニルピリジニウム-1-イル)プロパン-1-スルホネート、またはスルホベタインメタクリレートから形成される、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項4】
前記疎水性繰り返し単位の各々は独立して、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記架橋性部分は炭素-炭素二重結合を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記架橋性部分は、アリル(CH
2-CH=CH
2)、ビニル(-CH=CH
2または-CH=CH-)、ビニルエーテル(-O-CH=CH
2)、またはビニルエステル(-CO-O-CH=CH
2)を含む、請求項5に記載のコポリマー。
【請求項7】
ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))またはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))である、請求項1~6のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項8】
複数の第2の種類の疎水性繰り返し単位をさらに含み、該第2の種類の疎水性繰り返し単位は、それぞれ独立して、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記第2の種類の疎水性繰り返し単位は、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートから形成される、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項10】
ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-トリフルオロエチルメタクリレート-ランダム-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)である、請求項9に記載のコポリマー。
【請求項11】
約10,000~約10,000,000ダルトンの分子量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項12】
約20,000~約500,000ダルトンの分子量を有する、請求項11に記載のコポリマー。
【請求項13】
前記双性イオン繰り返し単位および前記疎水性繰り返し単位がそれぞれ、コポリマーの20~80重量%を構成する、請求項1~12のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項14】
前記双性イオン繰り返し単位がコポリマーの25~75重量%を構成し、前記疎水性繰り返し単位がコポリマーの25~75重量%を構成する、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項15】
ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))であり、前記双性イオン繰り返し単位がコポリマーの25~75重量%を構成し、約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のコポリマーを含む、架橋コポリマーネットワーク。
【請求項17】
薄膜複合膜であって、多孔質基材と、請求項16に記載の架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含み、前記多孔質基材の平均有効孔径は前記選択層の平均有効孔径よりも大きく、選択層が多孔質基材の上に配置される、薄膜複合膜。
【請求項18】
前記選択層は、約0.1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項19】
前記選択層は、約0.1nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項20】
前記選択層は、約0.5nm~約1.0nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項21】
前記選択層は、約10nm~約10μmの厚さを有する、請求項17~20のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項22】
前記選択層は、約100nm~約2μmの厚さを有する、請求項21に記載の薄膜複合膜。
【請求項23】
荷電溶質および塩を阻止する、請求項17~22のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項24】
前記選択層は、99%超の硫酸イオン(SO
4
2-)の阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項25】
前記選択層は、50超の硫酸イオン(SO
4
2-)/塩化物イオン(Cl
-)分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項26】
前記選択層は、約75の硫酸イオン(SO
4
2-)/塩化物イオン(Cl
-)分離係数を示す、請求項25に記載の薄膜複合膜。
【請求項27】
前記選択層は、同じカチオンを有する塩に対して異なるアニオン阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項28】
前記選択層は、NaF、NaCl、NaBr、NaI、およびNaClO
4から選択される塩に対して異なるアニオン阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項29】
前記選択層は、5超のフッ化物イオン(F
-)/塩化物イオン(Cl
-)分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項30】
前記選択層は、約8のフッ化物イオン(F
-)/塩化物イオン(Cl
-)分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項31】
前記選択層は、単糖類と二糖類に対して異なる阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項32】
前記選択層は、10超のグルコース/スクロース分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項33】
前記選択層は、18超のキシロース/スクロース分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項34】
前記選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す、請求項17~33のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項35】
前記選択層は、塩素漂白剤(例えば、pH4)に曝したときに安定である、請求項17~33のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項36】
前記選択層は、非荷電有機分子間でサイズに基づく選択性を示す、請求項17~35のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項37】
前記選択層は、約1nm以上の水和径を有する中性分子に対して>99%の阻止率を示す、請求項36に記載の薄膜複合膜。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年5月15日に出願された米国仮出願第63/025,559号に対する優先権の利益を主張する;その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【政府の支援】
【0002】
本発明は、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)によって承認された許可番号第1843847号および第1553661号の下、政府の支援により行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
膜フィルターは、水の精製、再生および再利用の重要かつ有望な方法である。様々な孔径の膜を、単純に病原微生物を除去することから逆浸透(RO)による脱塩まで広範囲の目的のために使用することができる。膜はまた、食品、飲料、乳製品、およびバイオ/医薬品産業などの様々な産業において、効率的で単純なスケーラブルな分離方法として役立つ。
【0004】
改善された選択性またはより良好な精度で溶質を分離する能力を有する膜は、いくつかの他のプロセスの経済的実行可能性およびエネルギー効率の改善をもたらす。例えば、硫酸アニオンと塩化物アニオンとの間の選択性が改善された膜は、より低い印加圧力で動作しながら、海洋油井における掘削流体として使用するための海水および廃水の組成を変更することができる。極めて小さい孔径を有するが塩阻止率が低い膜は、困難な廃水流、特に、食品産業からのものなどの有機物含有量が高い廃水流に対して、非常に改善された流出物品質をもたらすことができる。
【0005】
上述の膜プロセスの全ては、しばしば、膜表面上の供給成分の吸着および蓄積による膜性能の劣化として定義されるファウリングによって深刻な影響を受ける。膜透過性の重度の低下および膜選択性の変化が一般的である。ファウリングの管理は、膜システムに関連するコストの重要な要素であり、エネルギー使用の増大、ダウンタイム(休止時間)、メンテナンスおよび化学物質の使用を伴う定期的なクリーニング、並びにより複雑なプロセスを必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において提供されるのは、改善された選択性および耐ファウリング性(fouling resistance)を有する膜を作るために設計されたポリマー材料であって、<1nmに低減することができる調整可能な有効孔径、格別な耐ファウリング性、改善された耐薬品性および熱安定性、ならびにイオン選択性を含む潜在的な能力を有するポリマー材料である。
【0007】
一態様では、複数の双性イオン繰り返し単位および複数の疎水性繰り返し単位を含み、疎水性繰り返し単位の少なくともいくつかが各々独立して架橋性部分を含むコポリマーが開示される。特定の実施形態において、複数の疎水性繰り返し単位は、(i)架橋性部分を含む疎水性繰り返し単位と、(ii)架橋性部分を含まない疎水性繰り返し単位とを含む。
【0008】
別の態様では、本明細書に開示されるコポリマーを含む架橋コポリマー(cross-linked copolymer)ネットワークが開示される。
【0009】
さらに別の態様では、多孔質基材と、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含む薄膜複合膜(thin film composite membrane)であって、多孔質基材の平均有効孔径が選択層の平均有効孔径よりも大きく、かつ選択層が多孔質基材の上に配置された薄膜複合膜が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】共重合の成功を示すP(AMA-r-SBMA)の
1H-NMRスペクトルである。d、e
1、およびe
2位における広いピークの存在は、コポリマーが豊富なアリル基を有することを示す。
【
図2】共重合の成功を示すP(AMA-r-MPC)の
1H-NMRスペクトルである。d、、e
1、およびe
2位における広いピークの存在は、コポリマーが豊富なアリル基を有することを示す。
【
図3A】支持膜のSEM断面画像である。スケールバーは3μmである。
【
図3B】実施例2Aに記載される第1の析出技術を用いて調製されたTFC膜の1つのSEM断面画像である。
【
図4A】支持膜のSEM断面画像である。スケールバーは3μmである。
【
図4B】実施例2Bに記載の方法によって調製されたTFCの1つのSEM断面画像である。
【
図5】実施例1Aに記載のコポリマーのDSCサーモグラムである。186℃を中心とする発熱ピークは、コポリマーが熱架橋されたことを意味する。
【
図6A】5分および20分の硬化時間について、架橋前のパーミアンスにより正規化した架橋膜のパーミアンス(L
P)対光開始剤濃度を示すグラフである。実施例3Aの方法1に記載のように膜を架橋した。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。
【
図6B】実施例3Aに記載のように調製され、方法2に記載のように架橋された膜のパーミアンス対時間を示すグラフである。
【
図7A】硫酸ナトリウムに対する選択性増強(左軸)および阻止率(右軸)対パーミアンス/初期パーミアンスを示すグラフである。光開始剤濃度は0.3~4重量%(wt%)の範囲であり、硬化時間は5~20分の範囲であった(
図6(a)を参照)。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。
【
図7B】塩化マグネシウムに対する選択性増強(左軸)および阻止率(右軸)対パーミアンス/初期パーミアンスを示すグラフである。光開始剤濃度は0.3~4重量%の範囲であり、硬化時間は5~20分の範囲であった(
図6A参照)。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。
【
図7C】スクロースに対する選択性増強(左軸)および阻止率(右軸)対パーミアンス/初期パーミアンスを示すグラフである。光開始剤濃度は0.3~4重量%の範囲であり、硬化時間は5~20分の範囲であった(
図6A参照)。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。
【
図7D】リボフラビンに対する選択性増強(左軸)および阻止率(右軸)対パーミアンス/初期パーミアンスを示すグラフである。光開始剤濃度は0.3~4重量%の範囲であり、硬化時間は5~20分の範囲であった(
図6A参照)。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。
【
図8A】有機物(50ppmのフミン酸、50ppmのアルギン酸ナトリウム、10mMのNaCl、1mMのCaCl
2)によるファウリングを示すグラフである。実施例2に記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法1に記載のように架橋した。光開始剤濃度3w/v%、硬化時間20分である。
【
図8B】タンパク質(10mMリン酸緩衝生理食塩水での1000ppmウシ血清アルブミン)によるファウリングを示すグラフである。実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法2に記載のように架橋した。光開始剤濃度3w/v%、硬化時間5分である。
【
図9】架橋P(AMA-r-SBMA)膜の有機溶媒パーミアンスを示す棒グラフである。実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法2に記載のように架橋した。光開始剤濃度3w/v%、硬化時間5~20分である。
【
図10A】UE50支持膜の断面SEM画像である。
【
図10B】非架橋TFC膜の断面SEM画像である。
【
図10D】メタノールに浸漬した後の非架橋TFC膜の断面SEM画像であり、選択層が完全に溶解していることを示す。
【
図10E】メタノールに浸漬した後の架橋TFC膜の断面SEM画像であり、選択層が溶解していないことを示す。膜は、実施例3Bに記載のように調製した。
【
図11】ポリ(アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))の合成を示すスキームである。
【
図12】架橋前後の含水率(water uptake)を示すグラフである。
【
図13】架橋前後のコポリマーのFTIRスペクトルである。
【
図14】架橋セットアップを描写する図および画像である。
【
図15A】異なる時間でのパーミアンス変化対開始剤パーセンテージを示すグラフである。
【
図15B】架橋前後のNa
2SO
4に対する選択性増強を示すグラフである。
【
図15C】架橋前後のMgCl
2に対する選択性増強を示すグラフである。
【
図15D】架橋前後のスクロースに対する選択性増強を示すグラフである。
【
図15E】架橋前後のリボフラビンに対する選択性増強を示すグラフである。
【
図16】中性有機分子に対する架橋コポリマーの選択層のサイズに基づく選択性を示すグラフである。
【
図17】MgSO
4のろ過におけるイオン選択性を示すグラフである。
【
図18】架橋コポリマーの選択層が50ppmのフミン酸、50ppmのアルギン酸ナトリウム、1mMのCaCl
2、pH7.5、J
0=8Lm
-2hr
-1bar
-1に供された場合の耐ファウリング性を示すグラフである。
【
図19】
図19Aは、架橋性r-ZAC、ポリ(アリルメタクリレート-r-スルホベタインメタクリレート)(P(AMA-r-SBMA))の化学構造(上)およびTFC膜の電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)の断面画像である。緻密な最上層は、支持体(ボトム)上の架橋性r-ZACである。
図19Bは、架橋r-ZACナノ構造の図である。疎水性ドメイン(赤色)が、水および特定のイオンを透過させる双性イオンナノチャネル(青色)を取り囲む。疎水性ドメインは化学的に架橋されて、有効細孔径を<1.0nmに減少させる。
図19Cは、双性イオンナノチャネル内での圧力駆動ろ過中に生じるZI-イオン相互作用を示すスキームである。好都合なZI-アニオン相互作用は、より速い拡散速度を可能にする。これらの膜は、高度にスケーラブルな動作モードである圧力駆動ろ過中における選択的分離を可能にする。
【
図20】
図20Aは、250psiの圧力での様々なアニオン(陰イオン)を有するNaXの阻止率を示す棒グラフである。阻止率は、アニオン水和強度(hydration strength)の増大(左から右)とともに上昇し、これはSB-アニオン相互作用傾向と密接に相関する。
図20Bは、250psiの圧力での様々なカチオン(陽イオン)を有するMClの阻止率を示す棒グラフである。阻止率は、カチオン水和強度(左から右に増大する)によって決定されない。二価カチオンでは一価カチオンよりも高い阻止率が観察される。
【
図21】20mMの供給液濃度でのNaClO
4、NaI、NaBr、NaCl、NaF、およびNa
2SO
4についての正規化塩流束(N
sw
mδ/ΔC
s)対水流速(u
w)を示すグラフである。モデルフィット(式1)は、拡散および対流の両方から重要な寄与を受けたNa
2SO
4を除くすべての塩について対流が無視できることを明らかにする。
【
図22】
図22A~22Cは、ナトリウム塩の分配係数(K
s、
図22A)、透過性(P
s、
図22B)、および拡散率(D
s、
図22C)である。吸水係数(water sorption coefficient)(K
w)も
図22Aに含まれる。より大きな分配および透過性は、概して、より好都合なZI-アニオン相互作用に対応するが、拡散率は、相互作用強度ならびにアニオンサイズに依存した。
【
図23】
図23Aは、NaF溶液およびNaCl/NaFの等モル混合物の正規化フッ化物流束(N
Fw
mδ/ΔC
F、左軸)およびフッ化物阻止率(右軸)対イオン強度(I)を示すグラフである。圧力を調整して、6~7Lm
-2hr
-1bar
1の動作流束を維持した。
図23Bは、ZAC-X、市販のNF、および交互吸着膜(layer-by-layer membrane)についてのCl
-/F
-選択性対Cl
-透過率(passage)を示すグラフである。塩化物の透過率は、飲料水からフッ化物を除去するための重要な性能パラメータである。ZAC-Xは、最先端の膜技術によって設定された最も高いCl
-/F
-選択性をほぼ倍にした。
【
図24】
図24Aは、架橋性r-ZAC TFC膜およびその選択性の調整を示すスキームである。赤色の細孔壁は疎水性/架橋性ドメインを表し、青色のチャネルは水および小さな溶質が浸透する親水性/双性イオンドメインを表す。アリル二重結合を介して疎水性ドメインを架橋し、双性イオンナノチャネルを限られた膨潤の状態で停止させることによって、選択性が調整される。これにより、細孔サイズが小さくなり、サブナノメートルの溶質を阻止(除去)することが可能になる。
図24Bは、高度に架橋されたr-ZAC膜(ZAC-X)と、ナノ構造コポリマー選択層(星形記号、金領域でマークされている)、ポリアミドTFN、ポリアミドTFC、および無機選択層を特徴とする最新技術の膜との性能比較を示すグラフである。ZAC-Xは、格別なCl
-/SO
4
2-選択性を示し、人工海水でチャレンジした場合でさえ、他の膜技術の性能を超えた。
【
図25】
図25Aは、ARGET-ATRPを介したP(AMA-r-SBMA)の合成スキームを示す。
図25Bは、6.2~5.1ppmのコポリマーH-NMRスペクトル(500MHz、d
6-DMSO)であり、AMA単位の保存を示す広いアリルピークを示す。
図25Cは、コポリマー(3重量%)および光開始剤(5重量%)の溶液をUV光に曝露することによって形成されたゲル(上)、およびTFEに数週間浸漬した後の架橋コポリマーフィルム(下)の画像のセットである。臭い、色、または不透明度の識別可能な変化は観察されなかったが、架橋されていないポリマーフィルムはTFEに容易に溶解する。
図25Dは、非架橋コポリマーのDSCサーモグラムである(セコンドラン、30℃/分の加熱速度)。
図25Eは、疎水性相(明)によって囲まれた双性イオンナノチャネルの共連続(bicontinuous)ネットワーク(暗)を示す非架橋コポリマーのTEM明視野画像である。挿入図は、画像のFFTを示し、暗い輪は双性イオンドメインの空間周波数に対応する。
【
図26】
図26Aは、支持体を覆う約300~500nmのP(AMA-r-SBMA)選択層を特徴とするTFC膜の断面の電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)画像を示す画像である。
図26Bは、架橋のために調製された膜ディスクを示す図である。
図26Cは、光重合によるP(AMA-r-SBMA)の疎水性ドメインの架橋を示すスキームである。
図26Dは、P(AMA-r-SBMA)のアズキャスト(鋳放し)フィルムおよび架橋フィルム(3.0w/v%の光開始剤を用いた20分間のUV硬化)のATR-FTIRスペクトルである。
図26Eは、P(AMA-r-SBMA)の良溶媒であるTFEに数週間浸漬した架橋TFC膜の断面SEM画像である。選択層は溶解せず、架橋していることが確認された。
図26Fは、P(AMA-r-SBMA)の非架橋(アズキャスト)フィルムおよび架橋フィルム(UV、5分間の硬化時間、3.0w/v%の光開始剤)の含水率(water uptake)を示すグラフである。
【
図27】
図27Aは、異なる硬化時間について光開始剤濃度に対するL
p(左軸)およびL
p
*(右軸)を示すグラフである。
図27Bは、異なる程度まで架橋された膜についての中性溶質の阻止率対ストークス径を示すグラフである。パーミアンスのより大きな減少は、漸進的により小さい細孔をもたらした。実線は、L
p
*=0.23、L
p
*=0.45、L
p
*=0.64、およびアズキャスト(As Cast)についてそれぞれ、0.94nm、1.06nm、1.17nm、および1.36nmの均一な細孔径のDSPMに対するフィッティングである(表S3)。
図27C~27Fは、Na
2SO
4(
図27C)、スクロース(
図27D)、MgCl
2(
図27E)、およびNaCl(
図27F)についての、阻止率(左軸、●)および1/C
P
*(右軸、▲)対LP
*を示すグラフである。阻止率および1/C
P
*は、L
p
*の減少に伴って増加し、漸進的により小さい細孔であることを示した。さらなる研究のために選択された最も高度に架橋された膜ZAC-Xの性能は、赤い丸で囲まれている。圧力は250psiであった。
【
図28】
図28Aは、表流水(surface water)中に一般的な汚染物質を含有する溶液(50ppmのフミン酸、50ppmのアルギン酸ナトリウム、1mMのCaCl
2、10mMのNaCl、pH=7、J
0=8.7Lm
-2hr
-1)によるファウリングを示すグラフである。
図28Bは、タンパク質溶液(1,000ppmのウシ血清アルブミン(BSA)、10mMのCaCl
2、pH=6.3、J
0=10.0Lm
-2hr
-1)によるファウリングを示すグラフである。初期流束は、単純な水でのすすぎ後に完全に回復した。
【
図29】
図29Aは、ZAC-XおよびNF90による単一塩(20mM)の阻止率を示す棒グラフである。作動流束は6.3~6.9Lm
-2hr
-1であった。
図29Bは、ZAC-XおよびNF90による人工海水からの種々のイオンの阻止率を示す棒グラフである。組成はC
SO4=28.2mmol/kg、C
Mg=63.1mmol/kg、C
Cl=549mmol/kg、およびC
Na=479mmol/kgであった。作動流束は6Lm
-2hr
-1であった。
【
図30】P-40、P-60、およびP-70についての含水率対双性イオン含有量を示すグラフである。
【
図31】異なる双性イオン組成の架橋r-ZAC膜の耐ファウリング性を示すグラフである。
【
図32】架橋r-ZAC膜のパーミアンス対双性イオン含有量を示すグラフである。
【
図33】架橋r-ZAC膜についての中性有機物の阻止率対ストークス径を示すグラフである。
【
図34】異なる塩溶液を用いた水のパーミアンス(透水性)の調整を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
少なくとも2種類の繰り返し単位:
1.膜選択層に透水性および耐ファウリング性を付与する役割を果たす双性イオン繰り返し単位;および
2.追加の処理によりにさらに重合することができる官能基を含む相対的に疎水性の繰り返し単位;
を含むポリマー材料のファミリーが開示される。この繰り返し単位は、水中でのコーティングの溶解を防止し、また自己組織化によって形成される双性イオン含有ナノドメインの膨潤を防ぐことによって選択性を付与し、かつラジカル重合を含む方法によってさらに修飾することができる。典型的な架橋性部分はC=C二重結合であり、これは、紫外線(UV)光によって活性化されるものを含むフリーラジカル光開始剤に曝露されると重合することができる。熱法を使用して(すなわち、より高い温度で活性化される開始剤を使用して)、または酸化還元反応を通して、これを行うことも可能である。また、光開始剤がない場合でさえ、UV光への曝露によってこれらの基を重合することも可能であり得る。
【0012】
材料は、架橋性でない追加の疎水性繰り返し単位も含むことができる。
【0013】
これらのコポリマーは、ポリマー科学において周知の方法によって合成される。架橋性基がビニル基またはアリル基などのC=C二重結合を含む場合、このコポリマーは、より反応性の重合性基とのみ相互作用する制御フリーラジカル法、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)、および電子移動により活性化剤が再生するATRP(ARGET-ATRP)などのその修飾バージョン、ニトロキシド媒介重合(NMP)または可逆的付加-開裂連鎖移動(reversible addition fragmentation transfer)(RAFT)重合を使用して合成することができる。重合条件(例えば、高希釈溶液、低転化率)を注意深く制御しながら、通常のフリーラジカル重合を使用してこれらのポリマーを調製することも可能である。
【0014】
コポリマーは統計コポリマーである。コポリマーは、これら2種類の繰り返し単位をほぼランダムな順序で(ブロックとは対照的に)組み込むことが好ましい。
【0015】
コポリマーは、ほとんどが線状構造のものであることが好ましい。
【0016】
特定の実施形態において、コポリマーは、5,000g/mol超、好ましくは30,000g/mol超、さらにより好ましくは100,000g/mol超の分子量を有することが好ましい。
【0017】
これらのコポリマーは、双性イオン繰り返し単位を10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、さらにより好ましくは25~75重量%の濃度で含むことが好ましい。
【0018】
一実施形態では、全ての疎水性繰り返し単位が架橋性である。別の実施形態では、3つのモノマーが使用される:架橋性モノマー、非架橋性疎水性モノマー、および双性イオンモノマー。
【0019】
本発明者らは、架橋性モノマーとしてアリルメタクリレート(AMA)を使用した。アリル(CH2-CH=CH2)、ビニル(-CH=CH2または-CH=CH-)、ビニルエーテル(-O-CH=CH2)、およびビニルエステル(-CO-O-CH=CH2)基を側基に含む、他のアクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびスチレンの誘導体も同様の処理に適している。これらの官能基は、フリーラジカル重合によって重合可能であるが、特に記載される制御フリーラジカル重合法において、上に列挙されるアクリレート、メタクリレート、スチレン、アクリルアミドおよびメタクリルアミド基よりも有意に反応性が低い。いくつかの可能な架橋性モノマーとしては、以下が挙げられる(ただし、これらに限定されない):アリルアクリレート、アリルアクリルアミド、アリルメタクリルアミド、ビニルメタクリレート、ビニルメタクリルアミド、ビニルアクリルアミド、アリルビニルベンゼン(スチレン誘導体)、他のアルケニルアクリレート/メタクリレート/アクリルアミド/スチレン(例えば、ウンデセニルアクリレート)、および他の二重結合含有側基を有するモノマー(例えば、エチレングリコールジシクロペンテニルエーテルメタクリレート、エチレングリコールジシクロペンテニルエーテルアクリレート)。
【0020】
今日までの研究は、双性イオンモノマーとしてのスルホベタインメタクリレート(SBMA)およびメタクリロキシホスホリルコリン(methacryloxy phosphorylcholine)(MPC)に焦点を当ててきた。しかしながら、実行可能な幅広い双性イオンモノマーがある。アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ならびに多くの他の重合性基に結合したスルホベタイン、ホスホリルコリン、およびカルボキシベタイン基を含むモノマーは、実行可能な選択肢である。
【0021】
使用される場合、非架橋性疎水性モノマーは広範囲から選択することができる。好ましいモノマーから形成されるホモポリマーは、操作条件下で水に不溶性である。フルオロアルキルおよびアルキル-、ならびにフルオロアリールおよびアリール-置換アクリレート、メタクリレート、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、スチレンおよびその誘導体、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルはすべて、この疎水性モノマーのための実行可能な選択肢である。いくつかの実施形態では、この疎水性モノマーのホモポリマーは、0℃より高いガラス転移温度を有するが、これは必須ではない。本発明者らは、この目的のためにトリフルオロメチルメタクリレート(TTEMA)を使用した。
【0022】
次いで、これらのコポリマーは、膜産業においてよく理解されている方法(例えば、ドクターブレードコーティング、スプレーコーティング)によって多孔質支持体上にコーティングされる。堆積の際、双性イオン基は、クーロン相互作用によりクラスターを形成すると予想される。
【0023】
この膜が形成された後、コポリマー鎖上の架橋性基が活性化されて、それらの間にさらなる結合を形成する。好ましい一実施形態では、これは、最初にフリーラジカル光刺激剤を含有する溶媒に膜を浸漬し、次いで膜を紫外線に曝露することによって行われる。これは、コポリマー上の二重結合を活性化し、ポリマー鎖間に結合を作り出す。このアプローチを詳細に記載しているが(部分的には、以下に記載する溶媒使用からの利点を活用するために)、他の可能な架橋アプローチとして以下のものが挙げられる:
-架橋中に溶媒を使用しない。光刺激剤は、コポリマーが支持体上にコーティングされる溶液に添加することができる。次いで、コーティングされた膜をUV光に曝露することができる。
-光開始剤の代わりに熱フリーラジカル開始剤を使用し、高温に曝露することにより架橋する。
-光開始剤なしで高強度のUVを使用する。
-開始剤なしで熱架橋する。
-光開始剤の代わりにレドックス開始剤を使用する。
【0024】
架橋すると、膜選択層は、増強された化学的および物理的安定性を有する。層の性能は、より広い操作ウィンドウを通して安定なままであることが予想され、より高い温度での使用および/またはより高い塩濃度やいくつかの溶媒などを含有するより複雑な供給液での使用を可能にする。
【0025】
架橋プロセスを使用して、膜の選択性を調節および改善することができる。具体的には、架橋中に、双性イオンドメインとは対照的に疎水性ドメインを優先的に膨潤させる溶媒に膜が曝露される場合、本発明者らのデータは、膜の有効孔径が、糖分子阻止率を用いて測定される本発明者らの実験によって0.74nmという低い(および場合によってはさらに低い)、<1nmまで低減され得ることを示す。これは、高度に調整可能な選択性を有する膜をもたらし、これは、各用途に対して所望の値に調整することができる。
【0026】
具体的には、最もタイトな細孔を有する膜は、小分子有機化合物(糖、染料などを含む)の非常に優れた阻止率、およびSO4
2-イオンとCl-イオンとの間の顕著な選択性を有する。これらの特徴は、海洋油抽出における硫酸塩除去、高濃度の糖などの低分子有機物を含む廃水を処理すること、および他の要求の厳しい水処理プロセスを含む用途に非常に有望である。
【0027】
全ての場合において、これらの膜は、タンパク質および油を含有する水試料のろ過中にそれらの性能を保持しながら、格別な耐ファウリング性を示す。この性質は、双性イオン官能基の選択に起因する。
【0028】
一態様では、複数の双性イオン繰り返し単位および複数の疎水性繰り返し単位を含むコポリマーであって、疎水性繰り返し単位の少なくとも一部が各々独立して架橋性部分を含むコポリマーが開示される。特定の実施形態では、複数の疎水性繰り返し単位は、(i)架橋性部分を含む疎水性繰り返し単位と、(ii)架橋性部分を含まない疎水性繰り返し単位とを含む。
【0029】
特定の実施形態において、双性イオン繰り返し単位の各々は、独立して、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ホスホリルコリン、イミダゾリウムアルキルスルホネート、またはピリジニウムアルキルスルホネートを含む。
【0030】
特定の実施形態では、双性イオン繰り返し単位の各々は独立して、スルホベタインアクリレート、スルホベタインアクリルアミド、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、アクリロキシホスホリルコリン、ホスホリルコリンアクリルアミド、ホスホリルコリンメタクリルアミド、カルボキシベタインアクリルアミド、3-(2-ビニルピリジニウム-1-イル)プロパン-1-スルホネート、3-(4-ビニルピリジニウム-1-イル)プロパン-1-スルホネート、またはスルホベタインメタクリレートから形成される。
【0031】
特定の実施形態では、疎水性繰り返し単位の各々は独立して、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される。
【0032】
特定の実施形態において、架橋性部分は、炭素-炭素二重結合を含む。特定の実施形態では、架橋可能部分は、アリル(CH2-CH=CH2)、ビニル(-CH=CH2または-CH=CH-)、ビニルエーテル(-O-CH=CH2)、またはビニルエステル(-CO-O-CH=CH2)を含む。
【0033】
特定の実施形態では、コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))またはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))である。
【0034】
特定の実施形態では、本明細書に開示されるコポリマーは、複数の第2の種類の疎水性繰り返し単位をさらに含み、第2の種類の疎水性繰り返し単位は、それぞれ独立して、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される。
【0035】
特定の実施形態では、第2の種類の疎水性繰り返し単位は、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートから形成される。
【0036】
特定の実施形態において、コポリマーは、ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-トリフルオロエチルメタクリレート-ランダム-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)である。
【0037】
特定の実施形態では、コポリマーは、約10,000~約10,000,000ダルトンの分子量を有する。特定の実施形態では、コポリマーは、約20,000~約500,000ダルトンの分子量を有する。
【0038】
特定の実施形態では、双性イオン繰り返し単位および疎水性繰り返し単位は各々、コポリマーの20~80重量%を構成する。特定の実施形態では、双性イオン繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、疎水性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成する。
【0039】
特定の実施形態において、コポリマーはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))であり、双性イオン繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、コポリマーは約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する。
【0040】
別の態様では、本明細書に開示されるコポリマーを含む架橋コポリマーネットワークが開示される。
【0041】
さらに別の態様では、多孔質基材と、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含む薄膜複合膜であって、多孔質基材の平均有効孔径は選択層の平均有効孔径よりも大きく、選択層が多孔質基材の上に配置される薄膜複合膜が開示される。
【0042】
ある実施形態では、選択層は、約0.1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する。ある実施形態では、選択層は、約0.1nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する。ある実施形態では、選択層は、約0.5nm~約1.0nmの平均有効孔径を有する。
【0043】
ある実施形態では、選択層は、約10nm~約10μmの厚さを有する。ある実施形態では、選択層は、約100nm~約2μmの厚さを有する。
【0044】
ある実施形態では、薄膜複合膜は、荷電溶質および塩を阻止する。ある実施形態では、選択層は、>99%超の硫酸イオン(SO4
2-)の阻止率を示す。
【0045】
特定の実施形態において、選択層は、>50超の硫酸イオン(SO4
2-)/塩化物イオン(Cl-)分離係数を示す。特定の実施形態において、選択層は、約75の硫酸イオン(SO4
2-)/塩化物イオン(Cl-)分離係数を示す。分離係数は、Cl-の流束をSO4
2-の流束で割ったものとして定義される。
【0046】
特定の実施形態では、薄膜複合体は、同じ電荷のアニオンの塩を異なる程度に阻止し、ろ過プロセスによるそれらの分離または濃縮を可能にする。例えば、膜は、同じ試験条件下で異なる程度まで、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaClO4、NaNO3などに対して異なる阻止率を示す。同様の方法において、2つ以上のそのような塩の混合物がこの薄膜複合膜を通してろ過される場合、対応するアニオンの比率は、供給液と透過液とで著しく異なる。
【0047】
ある実施形態では、選択層は、5超のフッ化物イオン(F-)/塩化物イオン(Cl-)分離係数を示す。特定の実施形態において、選択層は、約8のF-/Cl-分離係数を示す。分離係数は、Cl-の流束をF-の流束で割ったものとして定義される。
【0048】
ある実施形態では、選択層は中性溶質(例えば、糖)をそのサイズに基づき異なる程度に阻止し、分画を可能にする。
【0049】
ある実施形態では、選択層は、単糖類(例えば、グルコース、キシロース)と二糖類(例えば、スクロース)との間の選択性を示し、それらの分離を可能にする。ある実施形態では、選択層は、10超のグルコース/スクロース分離係数、および15超のキシロース/スクロース分離係数を示す。
【0050】
特定の実施形態では、選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す。
【0051】
ある実施形態では、選択層は、塩素漂白剤(例えば、pH4)に曝したときに安定である。
【0052】
特定の実施形態では、選択層は、非荷電有機分子間でサイズに基づく選択性を示す。ある実施形態では、選択層は、約1nmまたは1nm超の水和径(hydrated diameter)を有する中性分子に対して>99%の阻止率を示す。
【実施例】
【0053】
本明細書に記載の本発明をより完全に理解できるように、以下の実施例が記載される。本出願に記載される実施例は、本明細書に提供される化合物、組成物、材料、デバイス、および方法を例示するために提供され、その範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0054】
実施例1.架橋性ランダム双性イオン両親媒性コポリマー(r-ZAC)の合成
実施例1A:ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-スルホベタインメタクリレート)、P(AMA-r-SBMA)の合成
この実施例では、P(AMA-r-SBMA)の合成を電子移動により活性化剤が再生する原子移動ラジカル重合(Atom ReGEnration Transfer Atom Transfer Radical Polymerization)(ARGET-ATRP)により行った。最初に、スルホベタインメタクリレート(SBMA、12.40g)、アリルメタクリレート(AMA、18.4g)、エチルα-ブロモイソブチレート(EBIB;70.4μL)、メタノール(124mL)およびアセトニトリル(124mLの溶媒)を500mL丸底(RB)フラスコに添加した。次いで、フラスコをラバーセプタムで密封し、窒素で30分間パージした。別個の容器において、メタノール(25.0mL)とアセトニトリル(25.1mL)の混合物中に臭化銅(II)(0.0211g)、アスコルビン酸(0.170g)、およびN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA;200μL)を溶解させた。次いで、この触媒溶液の小部分(8.01g)を25mLのRBフラスコに添加し、ラバーセプタムで密封し、窒素で15分間パージした。
【0055】
ARGET-ATRPを開始するために、カニューレおよび加圧窒素を使用して、25mLのRBフラスコの内容物を500mLのRBフラスコに排出した。反応を室温で20時間、撹拌下で行った。ゲル化はほとんどまたは全く起こらず、これは、アリル基が反応中に保存されたことを示す。終了するために、500mLフラスコからラバーセプタムを取り除くことによって、溶液を酸素に曝した。次いで、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した(測定は行わなかったが、溶液が約3~4倍濃縮されたと推定される)。ヘキサンとエタノールの混合物(体積比5:3)700mLに溶液をゆっくりと注ぐことによって、コポリマーを析出させた。コポリマーを一晩放置し、次いで純粋なヘキサン中で複数回洗浄した。粉末生成物を分液漏斗および濾紙で収集し、次いで真空下において35℃で3日間乾燥させた。回収した生成物の重量は4.45gであり、収率は14.4%であった。ピーク積分により、全てのアリル基が保存されていることが確認された。
【0056】
架橋性r-ZACのより広い組成範囲、ここでは47~81重量%の双性イオンを調査した。これらの膜は、以前の架橋r-ZAC膜よりも高いパーミアンスを有する。それらのパーミアンスおよび選択性は、UF用途において使用され得ることを示唆する。それらは非常にファウリング耐性である。それらはまた、有機小分子(例えば、微量汚染物質(micropollutant))を潜在的にろ過することができる。
【0057】
P-40.上に記載した。
R-60.4.1gのSBMA、6.0gのAMA、および19.5μLのα-ブロモイソ酪酸エチルを75mLのメタノール:アセトニトリル(50:50)に溶解した。混合物を窒素でパージした後、3.4gのメタノール:アセトニトリル(50:50)に溶解した、5.3μmolのCuBr
2、53μmolのアスコルビン酸、および53μmolのN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を添加することによってARGET-ATRPを開始した。反応を30~50℃で20時間行い、空気に曝すことによって終了させた。コポリマーを析出させ、洗浄した後、室温で真空乾燥した。
P-70.14gのSBMA、6.0gのAMA、および35.8μLのα-ブロモイソ酪酸エチルを150mLのメタノール:アセトニトリル(50:50)に溶解した。混合物を窒素でパージした後、6.3gのメタノール:アセトニトリル(50:50)に溶解した、9.7μmolのCuBr
2、98μmolのアスコルビン酸、および98μmolのN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を添加することによってARGET-ATRPを開始した。反応を30~50℃で20時間行い、空気に曝すことによって終了させた。コポリマーを析出させ、洗浄した後、室温で真空乾燥した。
【0058】
P-40、P-60、およびP-70の含水率対双性イオン含有量
コポリマー/トリフルオロエタノール溶液をポリマー基材(多くの場合、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、またはポリプロピレン)上にドロップキャストすることによって、約300μmの厚さのコポリマーフィルムを調製した。溶媒を空気乾燥させた。次いで、コポリマーフィルムを2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン/イソプロパノールの3重量%溶液で6~18時間平衡化した後、UV光を20分間照射した。次いで、フィルムをイソプロピルアルコール中で洗浄し、蒸留水で終夜平衡化した。含水率(w
up)を測定するために、水膨潤コポリマーフィルムを取り出し、キムワイプで外側を乾燥させ、次いで水膨潤質量(m
wet)を測定した。フィルムを数時間空中乾燥させた後、乾燥質量(m
dry)を測定した。式w
up=100%*(m
wet-m
dry)/m
dryを使用した。
図30を参照されたい。
【0059】
結果は、双性イオン含有量を変化させることにより、架橋性r-ZACの物理的特性の容易な調整が可能になることを示す。物理的観点から、より高い含水率(water uptake)は、より大きい細孔を示す。
【0060】
異なる双性イオン組成の架橋r-MAC膜の耐ファウリング性。
P(AMA-r-SBMA)の3重量%溶液を多孔質支持体(PS35)上にコーティングすることによって膜を調製した。次いで、対流空気流を使用して溶媒を迅速に乾燥させ、緻密な選択層を残した。水への溶解を防ぐために架橋前にP-60およびP-70膜をイソプロピルアルコール中に保存した。架橋は、3w/v%の2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン/イソプロパノール溶液で>20分間平衡化し、次いで20分間UV光を照射することによって行った。溶液は、ウシ血清アルブミン(BSA)/CaCl
2(1,000ppm/10mM)であった。初期流束は10Lm
-2hr
-1であった。NP030は市販のNF対照である。
図31を参照されたい。
【0061】
これは、高双性イオン含量の架橋r-ZAC膜は高ファウリング耐性であることを示す。
【0062】
架橋r-ZAC膜のパーミアンス対双性イオン含量
水流束対時間を既知の圧力で追跡して、パーミアンスを計算した。膜はP(AMA-r-SBMA)の3重量%溶液を多孔質支持体(PS35)上にコーティングすることによって調製した。次いで、対流空気流を使用して溶媒を迅速に乾燥させ、緻密な選択層を残した。水への溶解を防ぐために架橋前にP-60およびP-70膜をイソプロピルアルコール中に保存した。架橋は、3w/v%の2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン/イソプロパノール溶液で>20分間平衡化し、次いで20分間UV光を照射することによって行った。
図32を参照されたい。
【0063】
架橋性r-ZAC膜のパーミアンスは、双性イオン含有量を増加させることによって大幅に増強させることができる。
【0064】
架橋r-MAC膜の中性有機物阻止率対ストークス径
膜を6~7Lm
-2hr
-1流束で操作した。各膜でろ過された溶質は、サイズが大きい順に以下の通りであった。F-40X:グリセロール、キシロース、グルコース、およびスクロース;P-60X:グルコース、スクロース、ラフィノース、α-シクロデキストリン、およびビタミンB12;P-70X:グルコース、スクロース、ラフィノース、α-シクロデキストリン、およびビタミンB12。膜はP(AMA-r-SBMA)の3重量%溶液を多孔質支持体(PS35)上にコーティングすることによって調製した。次いで、対流空気流を使用して溶媒を迅速に乾燥させ、緻密な選択層を残した。水への溶解を防ぐために架橋前にP-60およびP-70膜をイソプロピルアルコール中に保存した。架橋は、3w/v%の2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン/イソプロパノール溶液で>20分間平衡化し、次いで20分間UV光を照射することによって行った。
図33を参照されたい。
【0065】
パーミアンスに加えて、有効孔径も双性イオン含有量を変化させることによって調整することができる。膜はまた、異なる有機物に対して良好な選択性を示す。
【0066】
異なる塩溶液を用いた水パーミアンスの調整(tuning)
撹拌ステンレス鋼セル中で数時間異なる塩溶液をろ過しながらパーミアンスを測定した。膜はP(AMA-r-SBMA)の3重量%溶液を多孔質支持体(PS35)上にコーティングすることによって調製した。次いで、対流空気流を使用して溶媒を迅速に乾燥させ、緻密な選択層を残した。水への溶解を防ぐために架橋前にP-60およびP-70膜をイソプロピルアルコール中に保存した。架橋は、3w/v%の2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン/イソプロパノール溶液で>20分間平衡化し、次いで20分間UV光を照射することによって行った。
図34を参照されたい。
【0067】
P-60XおよびP-70X膜を用いて様々な塩濃度の塩溶液をろ過することによって、パーミアンスを調整することができる。これは、従来のr-ZAC膜または架橋r-ZAC膜と異なり、ZI含有量が高いためである。
【0068】
実施例1B:ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-メタクリロキシホスホリルコリン)、P(AMA-r-MPC)の合成
本実施例では、ARGET-ATRPによりP(AMA-r-MPC)の合成を行った。まず、MPC(8.00g)、AMA(12.0g)、EBIB(44.8μL)およびメタノール(150.6mL)を250mLのKBフラスコに添加した。次いで、フラスコをラバーセプタムで密封し、窒素で25分間パージした。別の容器において、臭化銅(II)(0.0229g)、アスコルビン酸(0.182g)およびPMDETA(215μL)をメタノール(100mL)に溶解させた。次いで、この触媒溶液の小部分(9.38)を25mLのRBフラスコに添加し、ラバーセプタムで密封し、窒素で15分間パージした。
【0069】
ARGET-ATRPを開始するために、カニューレおよび加圧窒素を使用して、25mLのRBフラスコの内容物を250mLのRBフラスコに排出した。反応は室温で24時間撹拌しながら行った。ゲル化はほとんどまたは全く起こらず、これは、アリル基が反応中に保存されたことを示す。終了するために、500mLフラスコからラバーセプタムを取り除くことによって、溶液を酸素に曝した。溶液をヘキサンとイソプロピルアルコール(体積比5:3)の混合物1600mLにゆっくりと注ぐことによって、コポリマーを析出させた。次いで、コポリマーを150mLのメタノールに溶解させ、新鮮な1600mLのヘキサンとイソプロピルアルコールの混合物(体積比5:3)に再析出させた。コポリマー片を純粋なヘキサン中で4時間撹拌しながら洗浄した。次いで、コポリマーを濾紙で回収し、真空下、室温で20時間乾燥させた。回収した生成物の重量は6.35gであり、収率は31.8%であった。ピーク積分により、全てのアリル基が保存されていることが確認された。
【0070】
実施例1C:ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-トリフルオロエチル-メタクリレート-ランダム-メタクリロキシホスホリルコリン)、P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)の合成
本実施例では、ARGET-ATRPによりP(AMA-r-TFEMA-r-MPC)の合成を行った。まず、MFC(11.8g)、AMA(11.0g)、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、11.1g)、EBIB(70.6μL)、およびメタノール(260mL)を500mLのRBフラスコに添加した。次いで、フラスコをラバーセプタムで密封し、窒素で25分間パージした。別の容器において、臭化銅(II)(0.0212g)、アスコルビン酸(0.170g)およびPMDETA(200.4mE)をメタノール50mLに溶解させた。次いで、この触媒溶液の小部分(7.92g)を25mLのRBフラスコに加え、ラバーセプタムで密封し、窒素で15分間パージした。
【0071】
ARGET-ATRPを開始するために、カニューレおよび加圧窒素を使用して、25mLのRBフラスコの内容物を500mLのRBフラスコに排出した。反応は室温で20時間撹拌しながら行った。ゲル化はほとんどまたは全く起こらず、これは、アリル基が反応中に保存されたことを示す。終了するために、500mLフラスコからラバーセプタムを除去することによって、溶液を酸素に曝した。溶液をヘキサンとイソプロピルアルコールの混合物(体積比1:1)2800mLにゆっくりと注ぐことによって、コポリマーを析出させた。次いで、コポリマーを500mLのエタノールに溶解し、新鮮な3600mLの新鮮なヘキサンに再析出させた。次いでコポリマーを24時間の複数回のヘキサン洗浄によって精製し、濾紙で収集し、真空下、室温で3日間乾燥させた。回収した生成物の重量は8.22gであり、収率は24.2%であった。ピーク積分により、全てのアリル基が保存されたことが確認された。
【0072】
実施例2.架橋性双性イオン両親媒性コポリマー(ZAC)からの薄膜複合体(TFC)膜の形成
実施例2A:P(AMA-r-SBMA)からのTFC膜の形成
この実施例では、実施例1Aに記載のポリマーを用いて膜を調製した。コポリマーを最初にトリフルオロエタノール(TEE)に3~10w/v%で溶解した。脱気後、ワイヤー巻きコーティングロッド(wire-wound coating rod)(ワイヤーサイズ10;Gardeo)を用いてPS限外ろ過支持膜(PS35;Nanostone)上に溶液をキャストした。次に、以下の4つの析出技術(precipitation technique)のうちの1つを使用して、コポリマーを支持膜上に析出させた:(1)コーティングされた膜をイソプロピルアルコールの非溶媒浴に浸漬する;(2)コーティングされた膜を化学フード内に10~60分間放置して、TFEを蒸発させる;(3)コーティングされた膜を80℃の真空オーブンに入れて迅速なTFE蒸発を達成する;(4)ヒートガンで30秒間、コーティングされた膜表面全体に熱風を吹き付けて迅速なTFE蒸発を達成する。全ての析出技術について、さらなる試験の前に膜を脱イオン水(DIW)中に保存した。
【0073】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、得られたTFC膜の断面画像を収集する。5kV設定でPhenom G2 pure卓上SEMを使用して画像を収集した。試料は、液体窒素中で凍結破砕することによって調製し、帯電およびビーム損傷を防止するためにAu/Pd合金でスパッタコーティングした。
図3(a)は、支持膜の断面顕微鏡写真を示し、
図3(b)は、実施例2Aに記載の第1の析出技術によって調製されたTFC膜の断面顕微鏡写真を示し、ここでは、イソプロパノール浴を使用して、コーティング後にコポリマーを析出させた。選択層は、非多孔性であり、厚さが約1μmであることが観察される。
【0074】
実施例2B:光開始剤を含有するP(AMA-r-MPC)からのTFC膜の形成
この実施例では、後で架橋のために使用される光開始剤とブレンドされた、実施例1Bに記載のポリマーを使用して膜を調製した。コポリマーを最初にメタノールに10w/v%で溶解させた。次に、光開始剤(2-ヒドロキシメチルプロピオフェノン、HOME)を1gの光開始剤/10gのコポリマーの比で添加した。これは、製造直後にTFCを架橋するために行った(説明については実施例3Bを参照)。脱気後、本発明者らは、ワイヤー巻きロッド(ワイヤーサイズ10;Gardeo)を用いてPES限外ろ過支持膜(UE50;Trisep)上に溶液をコーティングした。次いで、コーティングされた膜を10~15分間そのままにしてメタノールを蒸発させ、それによってコポリマーを支持膜上に析出させた。次いで、膜を脱イオン水中で保存するか、または実施例3Bに記載のように架橋した。
【0075】
走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用し、実施例2Aに記載の方法と同様の方法を用いて、得られたTFC膜の断面画像を収集した。
図4(a)は支持膜を示し、
図4(b)はこの実施例に記載のように調製されたTFCを示す。選択層は、非多孔性であり、厚さが約2μmであることが観察される。
【0076】
実施例2C:P(AMA-r-TFEMA-r-SBMA)からのTFC膜の形成
この実施例では、実施例1Cに記載のポリマーを用いて膜を調製した。コポリマーをまずTFEまたはメタノールのいずれかに10w/v%で溶解させた。脱気後、ワイヤー巻きロッド(ワイヤーサイズ10:Gardeo)を用いてPS限外ろ過支持膜(PS35;Nanostone)上に溶液をキャストした。次に、コーティングされた膜を80℃の真空オーブンに入れて溶媒を急速に蒸発させ、それによってコポリマーを支持膜上に析出させる。さらなる試験の前に膜を脱イオン水中で保存した。
【0077】
実施例3.コポリマーを架橋するための様々な方法
実施例3A:P(AMA-r-SBMA)膜またはコポリマーの架橋
アリル基を架橋するために以下の6つの架橋方法が開発された。実施例2Aに記載のように調製した膜の選択層を架橋するために方法1~5を使用し、実施例1Aに記載のコポリマーを架橋するために方法6を使用した。
【0078】
・方法1:選択的溶媒-1の存在下での光開始ラジカル架橋
膜シートから切り出された膜ディスク(直径4.3cm)を、まずイソプロピルアルコール中の0.3~4重量%の範囲の濃度の光開始剤(HOMP)の溶液に20分間浸漬した。次いで、膜の上部を上向きにし、膜の底部をガラスプレートと接触させた状態で、膜ディスクをガラスプレート(8cm×8cm×0.5cm)上に平らに押し付けた。次いで、追加のイソプロピルアルコール中の光開始剤の溶液8mLを添加して、膜およびプレートを覆い、表面張力によって一緒に保持した。次いで、同じサイズの第2のガラスプレートを押し付けることで、2枚のガラスプレートの間に膜を封じ込めた。薄い液体フィルムが膜の上部と第2のガラスプレートとの間に残った。次いで、膜の上部が入射UV光に面するように、膜およびガラスプレートをUV光硬化チャンバー(365nm、9W/バルブ、4つのバルブ)の内側に配置した。次いで、膜を5~30分間硬化させた。膜をUVチャンバーから取り出し、イソプロパノールですすぎ、後の使用まで脱イオン水中に保存した。
【0079】
・方法2:選択的溶媒-2の存在下での光開始ラジカル架橋
膜シートから切り出された膜ディスク(直径4.3cm)を最初に純粋なイソプロピルアルコールに20分間浸漬した。次いで、膜の上部を上向きにし、膜の底部をガラスプレートと接触させた状態で、膜をガラスプレート(8cm×8cm×0.5cm)上に平らに押し付けた。次いで、特注のテフロン(登録商標)ワッシャー(外径4.3cm、内径4.2cm、高さ0.5cm)を膜の上部に配置し、それによって膜の外縁を覆った。この構成は、7.3mLに等しい体積を有する、膜の上部とテフロン(登録商標)ワッシャーの内面との間に空の空間を残した。次いで、この空の空間を、7.3mLよりわずかに多いイソプロピルアルコール中の光開始剤(HOMP)(1~14重量%の範囲の濃度)で満たした。これが膜を光開始剤/イソプロピルアルコール溶液と接触させた初めてであり、膜選択層の最上部のみを架橋することを意図した。次いで、第2のガラスプレートをワッシャーの上に置き、それによって7.3mLのHOMP/イソプロピルアルコールを外気から密閉した。次いで、膜、テフロン(登録商標)ウォッシャー、およびガラスプレートを、膜の上部が入射UV光に面する状態で、UV光硬化ランプ(365nm、9W/バルブ、1つのバルブ)の下に置いた。次いで、膜を6~60分間硬化させた。膜をUVチャンバーから取り出し、イソプロパノールですすぎ、後の使用まで脱イオン水中に保存した。
【0080】
・方法3:熱開始ラジカル架橋
膜シートから切り出された膜ディスク(直径4.3cm)を、密封容器の内側のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)/イソプロピルアルコール(0.01g/80mL)の溶液にまず浸漬した。温度を70℃に一晩上昇させた。さらなる試験の前に膜を脱イオン水中で保存した。
【0081】
・方法4:レドックス開始ラジカル架橋
【0082】
膜シートから切り出された膜ディスク(直径4.3cm)を、ステンレス鋼ろ過セル(Sterlitech HP 4750)に最初に装填した。ステンレス鋼セルは便利な反応容器としてのみ使用され、系は加圧されなかったことに留意されたい。次に、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED;3.9重量%)の水溶液75gをステンレス鋼セルに添加した。次いで、セルを窒素で2分間パージした。次いで、セルを短時間開いて、75gの過硫酸アンモニウム水溶液(APS;3.9重量%)を素早く添加した。APS溶液の添加時に混合を行った。次いで、ステンレス鋼セルを素早く閉じ、さらに2分間N2でフラッシュした。レドックス開始ラジカル架橋反応を16分間行った。次いで、TEMED/APS溶液を空にし、さらなる試験の前に膜を脱イオン水ですすいだ。
【0083】
・方法5:開始剤を含む選択層の熱開始ラジカル架橋
実施例1Aに記載のコポリマーを、最初にトリフルオロエタノール(TEE)に0.05gコポリマー/mL TFEで溶解した。次に、AIBNをコポリマー溶液に添加した(100gのポリマー/1gのAIBN)。脱気後、ワイヤー巻きロッド(ワイヤーサイズ10;Gardco)を使用して、コポリマー溶液をPS限外ろ過支持膜(Nanostone PS35)上にコーティングした。コーティング後、コーティングされた膜を80℃の真空オーブンに入れてTFEの溶媒を急速に蒸発させることによって、コポリマーを支持膜上に析出させた。また、オーブン内の高温はラジカル重合を開始させ、この方法を用いて疎水性ドメインを架橋した。さらなる試験の前に膜を脱イオン水中で保存した。
【0084】
・
方法6:開始剤を添加しない熱架橋
実施例1Aに記載のコポリマーをアルミニウム示差走査熱量測定(DSC)パンに入れ、20℃/分の直線勾配により-80℃から210℃まで加熱した。このような加熱サイクルを合計2回行った。DSCサーモグラム(
図5)は、第1のランプ(ラン1)では186℃を中心とする発熱ピークを示すが、第2のランプ(ラン2)では示さない。この発熱事象は、アリルドメインの熱架橋に起因するものである。コポリマーはこの実験の前にはTFEに可溶性であったが、その後はTFEに不溶性であり、これは架橋が起こったことを確認する。この手順は、熱架橋を開始するのに充分に高い温度まで膜選択層を加熱することによってTFC膜に適合させることができる。
【0085】
実施例3B.光開始剤と共にキャストしたP(AMA-r-MPC)膜の架橋
以下の架橋方法は、実施例2Bに記載されるように調製された、光開始剤としてのHOMPとブレンドされたP(AMA-r-MPC)を含有する膜選択層を架橋するために開発された。その実施例で述べたように、本発明者らは、光開始剤をキャスティング溶液に添加し、その結果、光開始剤は、TFC膜の形成後に選択層中に依然として存在した。TFC膜が形成された直後に、膜シートから膜ディスク(直径4.3cm)を切り出し、膜上部が入射UV光に面するように、手持ち式UV光硬化ランプ(365nm、9W/バルブ、1つのバルブ)の下にディスクを置いた。膜を15~60分間硬化させ、さらなる使用まで脱イオン水中で保存した。
【0086】
実施例4.架橋によるパーミアンスの変化
この実施例において、本発明者らは、架橋によるパーミアンスの変化を決定した。実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法1または方法2のいずれかに記載のように架橋した。膜ディスク(直径4.3cm)を、脱イオン水を充填したステンレス鋼撹拌セル(HP4750;Sterlitech)を用いて試験した。圧縮窒素ガスを使用してセルを加圧した(250~400psi)。膜面積および脱イオン水のろ過中の印加圧力差によって正規化された体積透過流速として定義される水のパーミアンスL
Pは、透過流速対時間を追跡し、得られた膜流束を計算することによって決定した。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1である。
図6は、方法1を使用した場合(
図6a)および方法2を使用した場合(
図6b)の両方で、架橋するとパーミアンスが著しく低下することを示す。これは、細孔径が減少した膜で予想されることである。
【0087】
実施例5.選択性-パーミアンストレードオフ
本実施例では、架橋P(AMA-r-SBMA)膜の選択性とパーミアンスとの間の関係を調査する。また、所望の用途に対する膜の分離特性の同調性(tunability)が実証される。膜を実施例2Aに記載のように調製し、実施例3Aの方法1に記載のように架橋した。膜ディスク(直径4.3cm)を、100~125mLの供給溶液を装填したステンレス鋼撹拌セル(HP4750;Sterlitech)を使用して試験した。圧縮窒素ガスを用いて圧力(250psi~400psi)を加えた。濃度分極は、テフロン(登録商標)撹拌機を用いて1000rpmでセルを撹拌することによって最小限に抑えた。パーミアンスは、透過流速対時間を追跡し、得られた膜流束を計算することによって決定した。平均初期パーミアンスは1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。溶質濃度は、紫外可視分光、導電率、あるいは化学的酸素要求量(COD)のいずれかによって測定した。選択性への変化は、以下の定義によって与えられる「阻止率(rejection)」および「選択性増強(selectivity enhancement)」によって決定した:
【数1】
【数2】
ここで、C
p=透過液濃度であり、C
F=供給液濃度である。
図7は、硫酸ナトリウム(7a)、塩化マグネシウム(7b)、スクロース(7c)、およびリボフラビン(7d)に対するパーミアンスの減少に伴って、阻止率が増加し、かつ選択性増強が指数関数的に増加することを示す。これらの結果は、架橋が有効孔径の減少をもたらすことを示す。各溶質の阻止によって証明されるように、膜の選択性は、架橋の程度を変更することによって、使用される光開始剤濃度を変更することによって、および/または硬化時間を変更することによって、合理的に広い範囲にわたって調整することができる。有効孔径の減少(または所与の溶質の阻止率の増加)は、ほとんどの膜システムに典型的であるように、膜パーミアンスの減少を伴う。
【0088】
実施例6.高架橋膜の単一溶質選択性
この実施例では、単一溶質溶液に対する高度に架橋されたP(AMA-r-SBMA)膜の選択性を評価した。実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法2に記載のように架橋した。膜ディスクを実施例5に記載のように試験した。表1は、試験した様々な溶質の供給液濃度および阻止率を示す。糖および硫酸塩の高い保持が認められる。
【表1】
【0089】
実施例7.高架橋膜の人工海水選択性
本実施例では、人工海水に対する高度に架橋されたP(AMA-r-SBMA)膜の選択性を評価した。実施例6に記載されているように、実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法2に記載のように架橋した。膜ディスクを実施例5に記載のように試験した。溶質濃度は、TNTPlusキット(Sulfaver and Water Hardness;Hack)および導電率測定を使用して測定した。表2は、試験した様々な溶質の供給液濃度および阻止率を示す。硫酸イオンの高い保持、カルシウムイオンの中程度の保持、および一価イオンの低い保持が注目される。
【表2】
実施例8.架橋P(AMA-r-SBMA)膜の耐ファウリング性
この実施例では、高度に架橋されたP(AMA-r-SBMA)膜の耐ファウリング性を評価した。実施例2Aに記載のように膜を調製し、実施例3Aの方法1および2に記載のように架橋した。ステンレス鋼撹拌セル(HP4750;Sterlitech)を用いて膜ディスク(直径4.3cm)を試験した。脱イオン水におけるパーミアンスを実施例4に記載のように決定した。その後、セルに300mLの汚染物質溶液を充填し、圧縮窒素ガスを用いて250psi~400psiに加圧した。テフロン(登録商標)撹拌機を用いて1000rpmでセルを撹拌することによって濃度分極を最小限に抑えた。透過流速対時間を追跡し、得られた膜流束を計算することによってパーミアンスを決定した。12時間(
図8a)または24時間(
図8b)のいずれかの後、セルを空にし、短時間すすぎ、実施例4に記載のように再度パーミアンスを測定した。耐ファウリング性は、ファウリング実験中の正規化流束対時間を追跡することにより決定し、正規化された流束は以下の式により定義される:
【数3】
式中、L
p(t)は時間tにおけるパーミアンスであり、L
p,DIWは架橋膜が汚染物質溶液と接触する前の架橋膜の脱イオン水(DIW)におけるパーミアンスである。膜を有機汚染物質(
図8a)およびタンパク質汚染物質(
図8b)でチャレンジした。両方の場合において、膜は、不可逆的なファウリング(膜を汚染物質と接触させた後の脱イオン水についての1.0の正規化パーミアンスによって定義される)を示さないことにより、格別な耐ファウリング性を示した。
【0090】
実施例9.架橋P(AMA-r-SBMA)膜の有機溶媒パーミアンス
本実施例では、架橋P(AMA-r-SBMA)膜の有機溶媒パーミアンスを評価した。実施例2Aに記載されるように膜を調製し、実施例3Aの方法2に記載されるように架橋した。膜ディスクを実施例4に記載したように試験したが、脱イオン水の代わりに有機溶媒(メタノールおよびエタノール)を用いた。
図9は、メタノールの方がエタノールよりも大きいパーミアンスを示す。より極性の高い溶媒は、将来の研究において調査される。データは、この膜が有機溶媒ナノろ過用途に潜在的に役立ち得ることを示す。
【0091】
実施例10.P(AMA-r-MPC)膜架橋のSEMの証拠
この実施例では、P(AMA-r-MPC)膜を実施例2Bに記載のように調製し、実施例3Bに記載のように架橋した。キャスティング溶液は、10gのコポリマーあたり1gのHOMPを含むメタノール中の10w/v%のコポリマーであった。硬化時間は10~15分であった。この実験の目的は、P(AMA-r-MPC)膜が実施例3Bに記載される架橋方法を使用して首尾よく架橋され得ることを証明することであった。
【0092】
これを行うために、TFC膜のP(AMA-r-MPC)選択層が架橋後にメタノールに不溶性になることが示された。架橋されていないP(AMA-r-MPC)はメタノールに可溶性であるため、これは架橋の証拠である。
【0093】
本発明者らは、支持体10(a)、メタノールで処理されていない非架橋TFC膜(10b)、架橋されてメタノールで処理されていない架橋TFC膜(10c)、メタノールで処理された非架橋TFC膜(10d)、架橋されてメタノールで処理された架橋TFC膜(10e)のSEM画像を収集した。画像は、架橋されていないTFCの選択層はメタノールに溶解したが、架橋されたTFCの選択層はメタノールに溶解しなかったことを示す。これは、P(AMA-r-MPC)膜が、実施例3Bに記載される手順を使用して首尾よく架橋されることを証明する。
【0094】
実施例11.自己組織化(Self-Assembled)した架橋双性イオンコポリマー膜によって示される相互作用に基づくイオン選択性
ポリマー合成および膜製造
47重量%のSBMAを含有する架橋性r-ZAC、ポリ(アリルメタクリレート-r-スルホベタインメタクリレート)(P(AMA-r-SBMA))(
図19A)を、電子移動により活性化剤が再生する原子移動ラジカル重合(Activators ReGenerated by Electron Transfer Atom Transfer Radical Polymerization)(ARGET-ATRP)を使用して合成した。このコポリマー組成は、高透過性であるが安定な選択層をもたらす共連続形態にミクロ相分離することが予想されたため選択した。コポリマー組成は、反応が約10%の転化率で停止されるにもかかわらず、反応混合物中のモノマー比に密接に適合し、これは、モノマーのほぼランダムな配列を意味する。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して、数平均分子量は1.8×10
5Daであり、分散度は5.4であることが決定された。このコポリマーを市販の限外ろ過膜支持体(PS35、Solecta)上にロッドコーティングし、ヒートガンを使用して乾燥させ、厚さ約450nmの選択層を有するTFC膜を得た(
図19A)。次いで、TFC膜を、イソプロピルアルコール中の光開始剤の溶液に浸漬し、これは疎水性ナノドメインを膨潤させるが、双性イオンナノチャネルは膨潤させなかった。20分間のUV光への曝露は、AMAのアリル基の架橋をもたらし、ナノチャネルの直径を<1.0nmに減少させた。得られた膜ZAC-Xは、0.37Lm
-2hr
-1bar
-1の水のパーミアンスを示した。
【0095】
ナトリウムおよび塩化物の阻止率
水および小さな溶質は、自己組織化双性イオンナノチャネルのネットワークを通ってr-ZAC TFC膜を透過する(
図19B)。しかしながら、従来のr-ZAC膜とは異なり、ZAC-Xは非常に狭いナノチャネル(<1.0nm)を有する。この閉じ込めにより、透過イオンは、ZAC-Xのナノチャネル壁に並ぶZI基と密接に相互作用せざるを得なくなることが期待される。相互作用は分配および拡散性に同時に影響を及ぼすことが知られているので、これは相互作用に基づく選択性を達成するための明確なメカニズムを提供する。実験およびシミュレーション研究は、SB基が、強水和アニオン(例えば、SO
4
2-)よりも弱水和アニオン(例えば、ClO
4
-)と優先的に結合することを示す。SB-カチオン相互作用は比較的弱いが、それらは依然としてZI-ZI対を破壊することができる。
【0096】
膜選択性に対するSB-アニオンおよびSB-カチオン相互作用の効果を研究するために、様々なナトリウム塩(NaX)および塩化物塩(MCl)の阻止率を、20mMの供給液濃度および250psiの操作圧力で測定した(
図20A~20B)。阻止率は、異なるアニオンを有するナトリウム塩(NaX)の間で広く変動した。その変動は、同じ価数を有するアニオンの間で、NaClO
4の21%からNaFの91%まで、異常に広かった。これは、その化学構造に基づいてイオンを分離する架橋r-ZAC膜の異常な能力を明らかに実証する。阻止順序は、NaClO
4~NaI<NaBr< NaCl<NaF<Na
2SO
4に従った(
図20A)。この順序はZI-アニオン相互作用に密接に従い、より低い塩阻止率はより好都合(favorable)なZI-アニオン相互作用に対応する。おそらくSB-SO
4
2-相互作用は非常に不都合(unfavorable)であるため、Na
2SO
4の保持は極めて高かった(99.4%)。
【0097】
対照的に、異なるカチオンを有する塩化物塩(MCl)の阻止率は、カチオンの電荷およびサイズによって最も大きく影響されるようであり、より大きい二価カチオンBa
2+およびMg
2+は、一価カチオンCs
+、Na
+、およびLi
+よりも多く阻止された(
図20B)。Ba
2+およびMg
2+の阻止率は、同様のサイズの中性溶質の阻止率(約90%)に匹敵し、サイズ排除機構を意味する。これはまた、Cs
+、Na
+、およびLi
+が同様の保持であることを説明し、なぜなら、非相互作用膜もこれらのカチオンを含む塩の同様の阻止率を示すからである。
【0098】
収着および選択透過性
観察された選択性のメカニズムを決定するために、塩取り込み実験(salt uptake experiment)によるナトリウム塩の塩分配係数(K
s)を測定した(
図22A)。K
sはZI-アニオン相互作用傾向の順序に正確に従い、好都合なZI-アニオン相互作用が塩分配の増強をもたらすことを示す。この結果は、より好都合なZI-アニオン相互作用を有する塩について、より低い保持/より早い透過速度が観察される理由を説明する(
図20、
図21)。特に、このコポリマーは、水よりもNaClO
4およびNaIの好ましい吸着を示し、K
NaClO4およびK
NaIは類似に定義された吸水係数(water sorption coefficient)(K
w、
図22A)を上回っている。このように、水よりも塩が優先的に収着されることは、膜システムではほとんど観察されず、広範な相互作用を示唆していると思われる。さらに、水と対比して塩の分配率が高いのは、分配されたイオンの大部分がZIと好都合に相互作用している場合のみ可能であろう。実際、NaClO
4は広範囲に吸収され、バルク溶液と対比してコポリマー相に濃縮された(K
NaClO4=1.45)。
【0099】
選択性をさらに調査するために、広範囲の供給液濃度にわたるNaClO
4、NaI、NaBr、NaCl、NaF、およびNa
2SO
4の透過性(P
s)を測定した(
図22B)。より低い塩濃度(20~60mM)では、P
NaClO4 ≒ P
NaI > P
NaBr > P
NaCl > P
NaF>> P
Na2SO4が観察された。P
NaCIO4≒P
NaIを除いて、この傾向は、ZI-アニオン相互作用傾向の順序に正確に従う。サイズ排除の効果は単離するのが困難であるが、この結果は、優れた相互作用に基づく選択透過性が達成されたことを示す。例えば、NaClO
4の透過性は、ClO
4
-とF
-との間の<0.2Åのサイズ差にもかかわらず、20mMの供給液濃度でのNaFの透過性よりも39倍高かった
【0100】
塩の透過性は、NaClO
4を除く全ての塩について供給液濃度と共に増加するように見えた(
図22B)。分配係数は20~500mMの外部塩濃度で一定のままであったため、これは塩拡散率(diffusivity)のわずかな増加を反映する。非荷電ポリマーの場合、塩拡散率は一般に供給液濃度に対して一定である。しかしながら、ポリ(ZI)は塩応答性であることが知られており、抗高分子電解質効果(antipolyelectrolyte effect)によって立体構造変化(コンフォメーション変化)を受ける。この現象は、ナノチャネル内で小さな分子再配列をもたらし、塩拡散率および透過性を供給液濃度とともにわずかに増加させ得る。しかしながら、より強いZI-アニオン相互作用は、供給液濃度に対するP
sのより大きな依存性に対応しなかったので、この再編成の根底にある正確なメカニズムは依然として不明である。興味深いことに、供給液濃度に対するP
sの依存性が比較的弱いにもかかわらず、透過性の順序は、最高供給液濃度(500mM)でP
NaI > P
NaClO4 ≒ P
NaBr > P
NaCl > P
NaF >> P
Na2SO4に変化した。NaClO
4を除く全ての塩についてP
sが増加したため、P
sの順序におけるこの変化が生じた。
【0101】
塩の拡散率(D
s)は、K
sおよびP
sの測定値を使用して計算した(式2、
図22C)。分配とは対照的に、拡散率は、好都合な相互作用によって増強されるとは予想されない。ZI錯体化イオンがホップ拡散を実行するためには、最初にZIとの一時的な結合を切断しなければならない。このプロセスは、拡散エネルギー障壁に寄与する。ZI-アニオン相互作用傾向に対するK
sおよびP
sの強い依存性は、広範なZI-イオン相互作用がナノチャネル内で生じることを示唆する。したがって、好都合なZI-アニオン相互作用は、より低い拡散率をもたらすと予想された。興味深いことに、D
NaBr ~ D
NaCl > D
NaI > D
NaClO4 ~ D
NaF >> D
Na2SO4が、供給液濃度の全範囲にわたって観察された(
図22C)。この順序における最初の4つの塩のアニオンであるI
-、Br
-、Cl
-およびClO
4
-は、同様のサイズである。したがって、この結果は、Br
-およびCl
-が同様の結合強度を有し、I
-がBr
-およびCl
-よりもわずかに強い結合を有し、ClO
4
-がI
-よりも強い結合を有していたことを示唆している。K
NaIおよび特にK
NaClO4の高い値は、広範で好都合なZI-アニオン相互作用を示唆するから、この結果は塩分配係数(K
s)とよく一致する。NaFのより低い拡散率は、おそらくClO
4
-、I
-、Br
-、Cl
-と比較してより大きいサイズのF
-によるものであった。
【0102】
最も大きくかつ最小の相互作用のアニオンを有する塩であるNa
2SO
4の拡散率は、他の塩の拡散率よりもかなり低かった(
図22C)。より大きなサイズのSO
4
2-は、そのより遅い拡散に寄与する可能性が高いが、これはまた、SO
4
2-が他のアニオンよりも細孔内でSBによりタイトに結合することを示唆し得る。これは、SO
4
2-がナノチャネルではなくバルク溶液を好んで占有することを単に意味するNa
2SO
4の低いK
sによって示唆されるネット不都合な(net-unfavorable)SB-SO
4
2-相互作用と矛盾しない。ナノ細孔に入り、SB基と接触すると、SO
4
2-の-2電荷は、より強いクーロン相互作用をもたらし得る。加えて、SO
4
2-のより大きなサイズは、アニオンにその第2の水和シェルおよび場合によっては第1の水和シェルから水分子を脱離させて、ナノチャネルの中に押し込む。このため、SO
4
2-は、脱水を補うためにタイトなZI-アニオン結合を形成せざるを得ないと考えられる。この現象は、かなり低い程度ではあるが、おそらくF
-にも当てはまる可能性がある。
【0103】
塩化物-フッ化物分離
Cl
-およびF
-は同様のサイズおよび等しい電荷にもかかわらず、NaClは、好都合なZI-Cl
-相互作用のために、ZAC-Xを通してNaFよりもはるかに速く透過した(
図22A~22C)。この選択性は、理想的には、飲料水からのフッ化物の除去に適している。過剰なNaClの阻止は再ミネラル化を必要とし、分離コストおよび複雑さを追加する。ZAO-Xはまた、膜ファウリングに対して高耐性である。実際、ZAC-Xは、他のr-ZACベースの膜と同様に、様々な汚染物質に曝露された場合に測定可能な不可逆的ファウリング示さず、困難な供給液であってもその性能を完全に保持する。
【0104】
これらの結果は有望であるが、膜選択性は複雑な供給液でしばしば低下する。NaCl/NaFの等モル混合物をろ過して(
図23A)、NaClが単一塩ろ過実験から推測されるCl
-/F
-選択性を低下させないことを確認した。
図23Aは、NaFのみ(単一)および等モルNaCl/NaF(混合)溶液についての正規化フッ化物流束(N
Fw
mδ/ΔC
F)およびフッ化物阻止率対イオン強度(I)を示す。正規化フッ化物流束およびフッ化物阻止率は、釣り合うIの単一塩溶液と混合塩溶液について同一であり、塩化物は、全イオン強度に寄与する以上には、フッ化物輸送に対して限定された見かけ上の影響しか及ぼさないことが示された。供給溶液の総塩分濃度は、わずかに塩気のある(slightly brackish)(500ppm)から塩辛い(heavily brackish)(3,000ppm)までの範囲であり、ZAC-Xが妥当な作動流束(6~7Lm
-2hr
-1)で現実的な飲料水源からフッ化物をうまくろ過できることを実証した。フッ化物阻止率は92.5~88.1%の範囲であり、米国、トルコ、ドイツ、中国、およびおそらくインドからの問題のある水源について、フッ化物含有量をWHO制限(1.5ppm)未満に低下させるのに充分に高かった。
【0105】
ZAC-Xは、この点に関してその性能を最適化する試みなしに、最先端の市販のNF(3、47~50)および交互吸着膜(layer-by-layer membrane)の最高Cl
-/F
-選択性の>2倍示す(
図23B)。比較すると、架橋されていないr-ZAC膜は、NaClおよびNaFの両方の低い保持のために低いCl
-/F
-選択性を示した(
図23B)。
【0106】
実施例12.調整可能なサブナノメートル孔および優れた耐ファウリング性を有する双性イオンイオン選択膜
架橋性r-ZACの合成および特徴付け
架橋性アリルメタクリレート(AMA)および双性イオンスルホベタインメタクリレート(SBMA)を、再生された活性化剤を介して共重合することによる架橋性r-ZACを、電子移動により活性化剤が再生する原子移動ラジカル重合(ARGET-ATRP)によって合成した(
図25A)。AMAは2つの反応性部位を含むが、メタクリル二重結合はアリル二重結合よりも反応性が高い。ほとんどのアリル基は、ARGET-ATRPなどの制御ラジカル重合技術を使用する場合、特に反応条件、すなわち周囲温度、低い転化率、および低いモノマー濃度が慎重に選択される場合、保存される。このアプローチを用いて、広範なアリル官能性を有する線状r-ZACを得た(
図25B)。コポリマー組成(53重量%のAMA)は、約10%の転化率で、反応混合物の組成(60重量%のAMA)と非常に一致し、ほぼランダムな繰り返し単位配列を示唆した。この低い転化率および使用された穏やかな反応条件にもかかわらず、コポリマー鎖は、動的光散乱(DLS)測定に基づき、適度に大きかった(45~60nm、ジメチルホルムアミド中のポリアクリロニトリル標準に基づいて2.0×10
6~2.6×10
6g/molに相当する)。
lH-NMRスペクトルのピーク積分は、本質的に全てのアリル基が保存されたことを示し、合成中にゲル形成がないことによって裏付けられた。
【0107】
豊富なアリル基により、UV照射による光重合で容易に架橋することができた(
図25C)。1つのデモンストレーションでは、コポリマー(3重量%)と光開始剤(5重量%)の溶液をUV光に暴露するとゲルが形成された。別のデモンストレーションでは、光開始剤/イソプロピルアルコールの3w/v%溶液で平衡化した自立型コポリマーフィルムをUV光に暴露した。この処理により、コポリマーフィルムはトリフルオロエタノール(TFE)に不溶性となり、架橋が確認された。
【0108】
コポリマー中のミクロ相分離を示差走査熱量測定(DSC、
図25D)によって確認し、これは154℃の単一ガラス転移温度(T
g)を示した。P(AMA)のT
gである約54℃あたりに転移は観察されなかった。測定されたT
gは、コポリマーがFoxの式(式S1)を用いて均質に混合された単相である場合に予測される値である115℃よりも有意に高い。これは、測定されたT
gが双性イオンに富むドメインに関連することを意味する。このドメインは、高度の相互接続性により、境界のAMAに富む疎水性ドメインにおけるポリマーセグメントの移動性を制限し、それにより、その低温ガラス転移を不明瞭にすると考えられる。これは、ミクロ相分離して、約1~2nmの疎水性ドメインと双性イオンに富むドメインの共連続ネットワークを形成する他のr-ZACの挙動と一致する。自己組織化形態を透過型電子顕微鏡によって特徴付けた(TEM、
図25E)。双性イオンドメインは、2%CuCl
2への浸漬によって陽性染色され、スルホベタイン-銅複合体の形成をもたらした。以前に報告されたr-ZACと一致して、疎水性/架橋性相(明るい領域)によって囲まれた浸透双性イオンナノチャネル(暗い領域)の共連続ネットワークが観察された。TEM画像の高速フーリエ変換(FFT)は、方向特徴を欠き(
図25Eの挿入図)、無秩序なネットワークを示した。平均ナノチャネル幅(D)を決定するために、FFTからの周期強度を、対応する空間周波数の逆数に対してプロットした。FFTの外側リングによって与えられる特徴的な長さスケールは、乾燥状態の双性イオンドメイン幅に対応するD=1.4μmの平均ナノチャネル幅に対応するd=2.8nmであった。
【0109】
膜製造および架橋
TFE中のP(AMA-r-SBMA)の溶液を、多孔性支持体としての市販の限外ろ過(UF)膜(PS35、Solecta)上にコーティングすることによって、ZAC-0と呼ばれる非架橋r-ZAC TFCを調製した。得られた選択層は、約300~500nmの厚さであった(
図26A)。膜の形態はやや不規則であったが、これは溶媒が急速に蒸発したためと思われる。動作圧力によって正規化された水流束として定義される平均パーミアンスは、1.5Lm
-2hr
-1bar
-1であった。このパーミアンスはほとんどのNF膜では比較的低いが、コーティングの厚さを減少させ、双性イオンドメインの相互接続性を高める改良された製造方法によって大幅に向上させることができる。例えば、r-ZAC膜を作製するために使用されるコーティング溶液におけるイオン液体添加剤の使用は、選択性を損なうことなく最大50倍までパーミアンスを増加させた。
【0110】
ZAC-0の有効孔径は、Donnan Steric Pore Modelへのフィッティングに基づいて1.36nmであると推定された。ZAC-0は、Na2SO4(67%)、MgCl2(32%)およびNaCl(9.1%)の比較的低い保持を示し、それは、以前に報告されたr-ZAC膜のものと同様であり、以前のデータと一致しており、疎水性ドメインの化学的性質が細孔サイズに及ぼす影響は限定的であることを示している。
【0111】
コポリマー選択層を架橋し、それによってナノチャネル直径を調整するために、まず、ZAC-0または同等のP(AMA-r-SBMA)膜を、イソプロパノール中の光開始剤(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン)の溶液で平衡化した(
図26B)。次いで、UV照射が疎水性相中のアリル二重結合のラジカル重合を開始し、膜選択層を架橋した(
図26C)。P(AMA-r-SBMA)フィルムの減衰全反射フーリエ変換赤外(ATR-FTIR)分光法は、硬化した際に-CH=Cアリルピーク強度の低下を示し(
図26D)、アリル基の大部分が反応したことを確認した。UV硬化はまた、TFC膜のP(AMA-r-SBMA)選択層をTFEに不溶性にし(
図26E)、架橋のさらなる証拠を提供する。
【0112】
含水率(water uptake)測定は、架橋がP(AMA-r-SBMA)フィルムの水性膨潤を減少させることを示した(
図26F)。水などの極性溶媒は、ミクロ相分離したr-ZACの双性イオンドメインを優先的に膨潤させるので、これは、架橋が、ナノチャネルが水中で膨張するのを防ぐことを意味し、細孔径の減少のための明確なメカニズムを提供する。双性イオンナノチャネルは、イソプロパノール/光開始剤溶液で平衡化した場合に、水で平衡化した場合よりも膨潤しなかった。疎水性可塑剤は、ミクロ相分離r-ZACの疎水性ドメインを優先的に膨潤させ、不都合な相互作用のせいで双性イオンドメインに最小限に浸透する;SBMAおよびポリ(SBMA)は両方ともイソプロパノールに不溶性である。架橋すると、膜は低膨潤状態になり、その後の水性膨潤が低減し、その結果、有効孔径が小さくなる。架橋度が高いほど膨潤がより制限され、孔径がより小さくなる。架橋フィルムの含水率は24%であり、これはポリアミドNF膜の選択層について典型的な範囲内である。
【0113】
膜選択性の調整
架橋が膜性能にどのように影響を及ぼすかを決定するために、架橋による膜を通る水流束の減少を定量化する正規化パーミアンス(L
p
*)を定義した:
【数4】
式中、L
PおよびL
P,初期は、それぞれ架橋膜およびZAC-0のパーミアンスである。パーミアンスは架橋すると減少し、L
p
*<1となった(
図27A)。より高い架橋度をもたらすと予想される反応条件、具体的にはより長い硬化時間(5~20分)およびより高い光開始剤濃度(0.30~4.0w/v%)は、パーミアンスのより大きな低下をもたらした(
図27A)。
【0114】
架橋によるパーミアンスの低下が有効孔径の調整可能なシフトをもたらすことを明確に実証するために、ZAC-0および架橋された膜を用いて一連の中性溶質を様々な程度にろ過した(
図27B、表3)。各膜の有効孔径を、Donnan Stericpore Modelを用いて単一の細孔径にフィッティングさせた。より低いパーミアンスは、より小さい細孔に対応し、有効孔径は、ZAC-0についての1.36nmから最も高度に架橋された膜についての0.94nmの範囲であった。この結果は、膜の細孔径が架橋の程度によって調整されたことを明確に示している。興味深いことに、単一の細孔径が各膜にうまくフィットし、これらの膜の細孔径分布が比較的狭い可能性が高く、細孔収縮プロセスが均一で良好に制御されたことを示唆した。
【表3】
【0115】
取得されたデータはまた、これらの膜が、サイズに基づいて糖を分離するため、および単糖(例えば、グルコース、キシロース)を二糖(例えば、スクロース)から分離するために潜在的に使用できることを示す。例えば、0.45および0.64のLP
*を有する膜は>98%のスクロース阻止率を示し、それぞれ12.8および15.1のグルコース/スクロース分離係数に相当する。キシロース阻止率は約70%および約58%であり、それぞれ22.5および24.8のキシロース/スクロース分離係数に相当する。これは、効果的な単糖/二糖分離のためのこれらの膜の使用の可能性を示す。
【0116】
選択性の調整をさらに特徴付けるために、逆正規化透過液濃度(1/C
P
*)を定義して、架橋により溶質と水との間の選択性がどのように変化するかを定量化した:
【数5】
式中、C
PおよびC
P,初期は透過液濃度であり、J
溶質およびJ
溶質,初期は溶質流束であり、J
水およびJ
水,初期はそれぞれ架橋膜およびZAC-0を通る水流束である。高い1/CP
*は、おそらくは細孔径の縮小による、水/溶質の選択性の向上を意味する。
【0117】
中性溶質(スクロース、リボフラビン)および塩(Na
2SO
4、MgCl
2)の両方について、1/C
P
*はL
p
*の減少と共に指数関数的に増加し、架橋条件の全範囲が各溶質について単一のマスターカーブ上に収まる(
図27C~27E)。これは、架橋が細孔径の減少をもたらすことをさらに確認する。1/C
P
*の増加は、NaClについてはるかに少ない(
図27F)。そのような正確かつ単純な調整は、最先端のNF膜化学では実現可能ではない。
【0118】
高架橋膜の耐ファウリング性
ファウリングは、高有機物含有流の膜処理にとって大きな課題であり、運転コストを支配し、膜処理の経済的および技術的実現可能性に著しく影響を及ぼす。格別な耐ファウリング性は、双性イオンナノチャネルの親水性により汚染物吸着に抵抗する以前のr-ZAC膜の重要な特徴を表す。
【0119】
この抗ファウリング特性(防汚性)が、サブナノメートルの細孔を有する高度に架橋されたr-ZAC膜において観察されるかどうかを決定するために、本発明者らは、ZAC-Xと呼ばれる最も高度に架橋された膜で、2つのファウリング実験に挑戦した(
図28A~28B)。ZAC-Xは、フミン酸、アルギン酸ナトリウム、およびCaCl
2を含む、表流水、海水、および廃水流中の主要な汚染物質を含有する溶液に対して、格別な耐ファウリング性を実証した(
図28A)。膜は、おそらくケーキ堆積に起因して、実験中にわずかな流束低下のみを示した。簡単な水でのすすぎ後に流束回復は完了し、不可逆的ファウリングに対する完全な耐性を示した。対照として試験した市販のPA-TFC膜であるNF90は、ファウリング実験中により大きな流束低下を示し、不可逆的な流束損失を被った。
【0120】
ZAC-Xはまた、ウシ血清アルブミン(BSA)および10mMのCaCl
2の溶液(その高いファウリング傾向について知られているタンパク質システム)によるファウリングに対する優れた耐性を示した(
図28B)。最小限の流束低下およびわずか4%の不可逆的流束損失が観察され、これはスルホベタインベースのr-ZAC膜の以前の検討と一致した。対照として試験した市販のPES-TFC NF膜であるNP030は、45%の不可逆的流束損失を被った。これらの結果を総合すると、r-ZAC膜の優れた耐ファウリング性は、ナノチャネル径を1.0nm未満(<1.0nm)に小さくしても損なわれないことがわかる。
【0121】
高架橋膜の選択性
ZAC-Xと呼ばれる最も高度に架橋された膜(
図27A~27F、
図28A~28B)は、極めて小さい単分散の細孔を示した(
図27B)。低分子保持と分子分離のために設計された高機能BCP膜を自由に通過する約1nmの中性溶質のスクロース(ショ糖)の>99%の保持が観察された(
図27Bおよび27D)。
【0122】
サブナノメートルの有効孔径は、ZAC-Xが一価イオンと二価イオンとの間で高い選択性を示すことができることを示唆するが、これは、いくつかの二価イオン(SO4
2-およびMg2+)の水和径がこのサイズ範囲にあるのに対し、Na+およびCl-はより小さいからである。このような膜は、塩水からの二価イオンのエネルギー効率的除去に極めて有用であり、水軟化、油回収、およびクロールアルカリプロセスに適用性を有する。例えば、海洋石油生産設備(offshore oil production rig)では、石油増進回収のために1日あたり数十億ガロンの処理水を必要とする。石油およびガスと共に回収される大量の随伴水をさらに管理し、それらを排出または再利用のために充分な品質に処理する必要がある。硫酸イオンは、スケーリングの原因となるため、また多くのボーリング孔でそれを毒性で腐食性のあるH2Sに変換する硫酸還元細菌の存在のため、これらの流体に望ましくない。ROおよびNF膜は高い硫酸塩除去が可能であるが、それらはまた、供給液として使用される海水および破砕水中にはるかに高濃度で存在するCl-も阻止する。その結果、浸透圧差が大きくなり、高圧運転とエネルギー集約的なプロセスが必要となる。硫酸イオンを選択的に阻止し、一価イオンを通過させる膜があれば、より低い圧力でエネルギー効率のよい運転が可能になる。
【0123】
イオン選択性を調べるために、まず様々な塩の阻止率を測定した。20mMの溶液を、ZAC-Xおよび最先端の市販のNF膜であるNF90を通して、一貫した流束(6.3~6.9Lm
―2hr
-1)でろ過した(
図6a)。ZAC-Xは、NF90(Na
2SO
4については98.8%、MgSO
4については99.2%)よりも高いNa
2SO
4およびMgSO
4の99.4%の阻止率を示した。塩化物塩の阻止率は、NF90の阻止率よりも低かった。これは、ZAC-Xが優れた選択性を有し、1価イオンを通過させながら2価イオンを効果的にふるい分けることを示している。低いNaCl保持は、操作中の浸透圧差を大幅に減少させ、より低い膜間差圧(trans-membrane pressure)を可能にする。
【0124】
単一塩ろ過実験(
図29A)において、ZAC-XはS(NaCl/Na
2SO
4)=101を達成した。この選択性は、最先端のポリアミドTFCやTFNを含む、これまでに報告されたほぼすべてのろ過膜の選択性を超える(
図24B)。他の自己組織化コポリマー膜は、比較的無視できる程度のCl
-/SO
4
2-選択性を示し(
図24B)、架橋r-ZAC膜の性能をさらに際立たせる。この正確なCl
-/SO
4
2-分離は、我々の新しい架橋アプローチを用いて得られた非常に小さなナノ細孔によって可能になった。興味深いことに、ZAC-Xはカチオンに対してはるかに低い選択性を示した(例えば、S(NaCl/MgCl
2)=7.9)。
【0125】
次に、適量のNa
+、Mg
2+、Cl
-、SO
4
2-を含む高塩分濃度の人工海水に挑戦し、単一塩溶液に用いたのと同じ水流束で各イオンの保持を測定した。ZAC-Xによる各イオンの阻止率は、単一塩溶液で得られた阻止率とほぼ一致した(
図29B)。ZAC-Xは人工海水でS(Cl
-/SO
4
2-)=75を達成し、架橋r-ZAC膜は困難で複雑な供給原料でも高選択的に分離できることが確認された(
図24B)。一方、NF90は、SO
4
2-の保持率が低く、Cl
-の保持率が高いため、S(Cl
-/SO
4
2-)=18に留まった。
【0126】
人工海水をろ過している間、ZAC-Xのこの実験中の有効浸透圧差は、約170psiと計算された。この値は、NF90ではNaCl阻止率が高いため、270~290psi程度であった。その結果、ZAC-Xのパーミアンス(0.40Lm-2hr-1bar-1)がNF90のパーミアンス(7.0Lm-2hr-1bar-1)よりも大幅に低いにもかかわらず、6Lm-2hr-1で人工海水をろ過するのにこの2つの膜は比較的同様の圧力を必要とした(400psi:ZAC-X、300psi:NF90)。
【0127】
参照による組み込み
本明細書に引用される米国特許、ならびに米国およびPCT公開特許出願の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0128】
等価物
前述の明細書は、当業者が本発明を実施するのに充分なものであると考えられる。実施例は、本発明の一態様の単なる例示として意図されており、他の機能的に等価な実施形態は本発明の範囲内にあるので、本発明は、提供された実施例によって範囲を限定されるものではない。本明細書に示され、説明されたものに加えて、本発明の様々な変更が、前述の説明から当業者に明らかとなり、添付の特許請求の範囲内に入る。本発明の利点および目的は、必ずしも本発明の各実施形態に包含されるわけではない。
【国際調査報告】