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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】光ファイバ形成装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/029 20060101AFI20230627BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C03B37/029
G02B6/02 356A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569204
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 US2021031893
(87)【国際公開番号】W WO2021231511
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/025,522
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,アーリング リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,タミー ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】クラディアス,ニコラオス パンテリス
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,ロバート クラーク
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,クリストファー スコット
(57)【要約】
光ファイバ形成装置は、線引き炉であって、(i)内面を有するマッフルと、(ii)マッフルの下方の軸線方向開口であって、マッフルの内面は、軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、軸線方向開口と、(iii)通路内への上側入口とを備える、線引き炉と、軸線方向開口の上方で線引き炉の通路内に延在する管であって、(i)外面であって、マッフルの内面は、管の外面をマッフルの内面から分離する空間を伴って管の外面を取り囲む、外面と、(ii)管を通って延在する第2の通路を画定する内面と、(iii)管の第2の通路内への入口と、(iv)管の第2の通路からの出口とを有する管とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ形成装置であって、
線引き炉であって、(i)内面を有するマッフルと、(ii)該マッフルの下方の軸線方向開口であって、前記マッフルの前記内面は、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、軸線方向開口と、(iii)前記通路内への上側入口とを備える線引き炉と、
前記軸線方向開口の上方で前記線引き炉の前記通路内に延在する管であって、(i)外面であって、前記マッフルの前記内面は、前記管の前記外面を前記マッフルの前記内面から分離する空間を伴って前記管の前記外面を取り囲む、外面と、(ii)前記管を通って延在する第2の通路を画定する内面と、(iii)前記管の前記第2の通路内への入口と、(iv)前記管の前記第2の通路からの出口とを有する管と
を備える、光ファイバ形成装置。
【請求項2】
前記線引き炉の前記通路内に配置された光ファイバ母材と、
前記光ファイバ母材から線引きされ、前記管の前記第2の通路を通って延在する光ファイバと、
前記光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第1の加熱要素と
をさらに備え、
不活性ガスが、前記線引き炉の前記上側入口を通って前記通路内に流入し、別々の流れを形成し、該流れのうちの1つの流れが、前記線引き炉の前記通路を通って前記マッフルの前記内面と前記管の前記外面との間の前記空間内に流入し、前記線引き炉の前記軸線方向開口から流出し、前記流れのうちの別の流れが、前記管の前記入口に流入し、前記管の前記第2の通路を通って前記管の前記出口から流出し、
前記不活性ガスは、アルゴンまたは窒素の1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含み、
前記管の前記入口は、1.27cm~2.54cmの内径を有する、
請求項1記載の光ファイバ形成装置。
【請求項3】
光ファイバ形成装置用の線引き炉であって、
マッフルであって、内面と前記マッフルの下方の軸線方向開口とを有し、前記マッフルの前記内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、マッフルを備え、前記内面は、
前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、
前記第1の真っ直ぐな部分と前記軸線方向開口との間に配置されたテーパ部分であって、前記第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して前記通路を狭める前記軸線からの半径と、前記テーパ部分の最大の半径よりも少なくとも2倍長い、前記軸線に対して平行な鉛直方向長さとを含むテーパ部分と、
前記テーパ部分と前記軸線方向開口との間に配置され、前記軸線からの半径が、少なくとも75cmの長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分であって、該第2の真っ直ぐな部分の前記半径は、0.635cm~1.27cmである、第2の真っ直ぐな部分と
を備える、線引き炉。
【請求項4】
前記通路内に配置された光ファイバ母材と、
前記光ファイバ母材から線引きされ、前記通路を通って前記軸線方向開口から外向きに延在する光ファイバと、
前記マッフルの前記内面の前記テーパ部分よりも前記第1の真っ直ぐな部分の近くに配置された、前記通路への上側入口と、
前記光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第1の加熱要素と、
前記光ファイバ母材の主体の上方の前記通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第2の加熱要素と
をさらに備え、
不活性ガスが、(i)前記上側入口を通って前記通路内に流入し、(ii)次いで、前記マッフルの前記内面の前記第1の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(iii)次いで、前記テーパ部分に沿って流れ、(iv)次いで、前記第2の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(v)次いで、前記軸線方向開口から流出し、
前記不活性ガスは、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、
請求項3記載の線引き炉。
【請求項5】
光ファイバ形成装置用の線引き炉であって、
マッフルであって、内面と前記マッフルの下方の軸線方向開口とを有し、前記マッフルの前記内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定し、前記内面は、
前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、
前記第1の真っ直ぐな部分と前記軸線方向開口との間に配置された狭幅部分であって、前記第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して前記通路を狭める前記軸線からの半径を含む狭幅部分と、
前記狭幅部分と前記軸線方向開口との間に配置され、前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分と
を備える、マッフルと、
前記第1の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第1の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第1の加熱要素と、
前記第1の範囲の上方の前記第1の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第2の加熱要素と、
前記第2の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第3の範囲全体にわたって100℃~200℃の温度に前記通路を加熱する第3の加熱要素と
を備える、線引き炉。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、米国特許法第119条のもと、2020年5月15日に出願された米国仮特許出願第63/025522号明細書の優先権の利益を主張し、その内容が依拠され、その内容全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、光ファイバの技術分野に関する。
【背景技術】
【0003】
線引き炉を利用して、母材から光ファイバを線引きすることができる。線引き炉は、母材と、最初に線引きされた光ファイバとが配置される通路を含む。通路は、不活性ガスでパージされて、線引き炉の構成要素の酸化を引き起こしうる周囲空気が通路内に流入するのを防止する。不活性ガスは、これまで典型的にはヘリウムであった。しかしながら、ヘリウムは価格上昇しており、容易に再生可能ではない。アルゴンおよび窒素はヘリウムよりも安価で豊富であるため、アルゴンおよび窒素は両方ともヘリウムの代替品となる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルゴンを用いると、ヘリウムに比べて、線引きされた光ファイバの直径のばらつきが大きくなり、線引きされた光ファイバの直径が設計仕様の範囲を超えてしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、こういった問題に複数の方法で対処する。本開示は、こういった問題に、線引きされた光ファイバと、線引き炉内の不活性ガスに対する境界との間の距離を、(i)線引きされた光ファイバが通過する線引き炉のマッフル内に挿入された管であって、線引きされた光ファイバを有する管と管の周りとの両方を通って不活性ガスが流れる管、(ii)テーパ全体にわたるマッフルの直径の減少よりも大きい距離にわたってマッフルの直径を徐々にテーパ付けること、または(iii)線引きされた光ファイバが通って延在するマッフルのより小さい直径部分を加熱すること、を介して減じることによって対処する。最初の2つの例のいずれにおいても、不活性ガス(アルゴンなど)の流れは、線引きされた光ファイバの直径のばらつきに大幅な影響を及ぼさないように十分に均一にされ、それにより、ばらつきが仕様の範囲内となり、ヘリウムを利用した場合の上述した直径と同様になることが可能となる。第3の例では、追加の熱により、線引きされた光ファイバを取り囲むより小さい直径部分における対流不安定性を抑制し、それにより、線引きされた光ファイバの直径のばらつきを設計仕様の範囲内にすることが可能となる。これらの解決手段により、ヘリウムの代わりに、アルゴンおよび窒素などの他の不活性ガスを利用することが可能となる。
【0006】
本開示の第1の態様によれば、光ファイバ形成装置は、(a)線引き炉であって、(i)内面を有するマッフルと、(ii)マッフルの下方の軸線方向開口であって、マッフルの内面は、軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、軸線方向開口と、(iii)通路内への上側入口とを備える線引き炉と、(b)軸線方向開口の上方で線引き炉の通路内に延在する管であって、(i)外面であって、マッフルの内面は、管の外面をマッフルの内面から分離する空間を伴って管の外面を取り囲む、外面と、(ii)管を通って延在する第2の通路を画定する内面と、(iii)管の第2の通路内への入口と、(iv)管の第2の通路からの出口とを有する管とを備える。
【0007】
第2の態様によれば、管の入口の上方の線引き炉の通路の少なくとも一部を包囲する第1の範囲全体にわたって線引き炉の通路を加熱する第1の加熱要素と、第1の範囲の上方の線引き炉の通路の少なくとも一部を包囲する第2の範囲全体にわたって線引き炉の通路を加熱する第2の加熱要素とをさらに備える、第1の態様。
【0008】
第3の態様によれば、管の第2の通路の一部を包囲する第3の範囲全体にわたって線引き炉の通路を加熱する第3の加熱要素をさらに備える、第2の態様。
【0009】
第4の態様によれば、線引き炉の通路内に配置された光ファイバ母材と、光ファイバ母材から線引きされ、管の第2の通路を通って延在する光ファイバと、光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって線引き炉の通路を加熱する第1の加熱要素とをさらに備える、第1の態様。
【0010】
第5の態様によれば、光ファイバ母材の主体の上方の通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって線引き炉の通路を加熱する第2の加熱要素をさらに備える、第4の態様。
【0011】
第6の態様によれば、光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で管の出口を出て、管の出口を出た後、標準偏差(σ)が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの周波数で0.06μm未満である直径を有する、第4または第5の態様。
【0012】
第7の態様によれば、不活性ガスが、線引き炉の上側入口を通って通路内に流入し、別々の流れを形成し、流れのうちの1つの流れが、線引き炉の通路を通ってマッフルの内面と管の外面との間の空間内に流入し、線引き炉の軸線方向開口から流出し、流れのうちの別の流れが、管の入口に流入し、管の第2の通路を通って管の出口から流出する、第1から第6の態様までのいずれか1つの態様。
【0013】
第8の態様によれば、不活性ガスは、アルゴンまたは窒素の1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、第7の態様。
【0014】
第9の態様によれば、管の入口は、1.27cm~2.54cmの内径を有する、第1から第8の態様までのいずれか1つの態様。
【0015】
本開示の第10の態様によれば、光ファイバ形成装置用の線引き炉は、マッフルであって、内面とマッフルの下方の軸線方向開口とを有し、マッフルの内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、マッフルを備え、内面は、(a)軸線からの半径が、軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、(b)第1の真っ直ぐな部分と軸線方向開口との間に配置されたテーパ部分であって、第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して通路を狭める軸線からの半径と、テーパ部分の最大の半径よりも少なくとも2倍長い、軸線に対して平行な鉛直方向長さとを含むテーパ部分と、(c)テーパ部分と軸線方向開口との間に配置され、軸線からの半径が、少なくとも75cmの長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分であって、第2の真っ直ぐな部分の半径は、0.635cm~1.27cmである、第2の真っ直ぐな部分とを備える。
【0016】
第11の態様によれば、マッフルの内面のテーパ部分よりも第1の真っ直ぐな部分の近くに配置された、通路への上側入口をさらに備え、不活性ガスが、(i)上側入口を通って通路内に流入し、(ii)次いで、マッフルの内面の第1の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(iii)次いで、テーパ部分に沿って流れ、(iv)次いで、第2の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(v)次いで、軸線方向開口から流出する、第10の態様。
【0017】
第12の態様によれば、不活性ガスは、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、第11の態様。
【0018】
第13の態様によれば、通路内に配置された光ファイバ母材と、光ファイバ母材から線引きされ、通路を通って軸線方向開口から外向きに延在する光ファイバとをさらに備える、第10から第12の態様までのいずれか1つの態様。
【0019】
第14の態様によれば、光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって通路を加熱する第1の加熱要素と、光ファイバ母材の主体の上方の通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって通路を加熱する第2の加熱要素とをさらに備える、第13の態様。
【0020】
第15の態様によれば、マッフルの内面が画定する第2の真っ直ぐな部分によって画定される通路の一部を包囲する第3の範囲を加熱する第3の加熱要素をさらに備える、第14の態様。
【0021】
第16の態様によれば、光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で軸線方向開口を出て、軸線方向開口を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの周波数で0.6μm未満である直径を有する、第13から第15の態様までのいずれか1つの態様。
【0022】
本開示の第17の態様によれば、光ファイバ形成装置用の線引き炉は、(a)マッフルであって、内面とマッフルの下方の軸線方向開口とを有し、マッフルの内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、軸線方向開口を通って延在する通路を画定し、内面は、(i)軸線からの半径が、軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、(ii)第1の真っ直ぐな部分と軸線方向開口との間に配置された狭幅部分であって、第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して通路を狭める軸線からの半径を含む狭幅部分と、(iii)狭幅部分と軸線方向開口との間に配置され、軸線からの半径が、軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分とを備える、マッフルと、(b)第1の真っ直ぐな部分によって画定される通路の一部を包囲する第1の範囲全体にわたって通路を加熱する第1の加熱要素と、(c)第1の範囲の上方の第1の真っ直ぐな部分によって画定される通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって通路を加熱する第2の加熱要素と、(d)第2の真っ直ぐな部分によって画定される通路の一部を包囲する第3の範囲全体にわたって100℃~200℃の温度に通路を加熱する第3の加熱要素とを備える。
【0023】
第18の態様によれば、通路内に配置された光ファイバ母材と、光ファイバ母材から線引きされ、通路を通って軸線方向開口から外向きに延在する光ファイバとをさらに備え、第1の加熱要素が加熱する第1の範囲は、光ファイバ母材の先端を包囲し、第2の加熱要素が加熱する第2の範囲は、少なくとも部分的に光ファイバ母材の主体の上方にあり、第3の加熱要素が加熱する第3の範囲は、光ファイバ母材から線引きされた光ファイバの一部を包囲する、第17の態様。
【0024】
第19の態様によれば、狭幅部分よりも第1の真っ直ぐな部分の近くに配置された、通路への上側入口をさらに備え、不活性ガスが、(i)上側入口を通って通路内に流入し、(ii)次いで、マッフルの内面の第1の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(iii)次いで、マッフルの内面の狭幅部分に沿って流れ、(iv)次いで、マッフルの内面の第2の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(v)次いで、軸線方向開口から流出し、不活性ガスは、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、第17または第18の態様。
【0025】
第20の態様によれば、光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で軸線方向開口を出て、軸線方向開口を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの測定周波数で0.06μm未満である直径を有する、第18の態様。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】光ファイバ形成装置の一実施形態の概略立面図であり、通路を画定する内面を有するマッフルと、通路内に延在する管とを有する線引き炉を示し、光ファイバ母材から線引きされた光ファイバが管を通って延在している。
図2図1の領域IIの図であり、マッフルの内面から分離された管と、内側流として管の第2の通路を通り、外側流として管とマッフルの内面との間を流れる不活性ガスとを示す。
図3】光ファイバ形成装置の別の実施形態の概略立面図であり、通路を画定するマッフルの内面の第1の真っ直ぐな部分、テーパ部分、次いで第2の真っ直ぐな部分、および通路を通って延在する線引きされた光ファイバを示す。
図4図3の領域IVの図であり、通路を通る軸線から半径だけ離れたテーパ部分を示し、半径は、第1の真っ直ぐな部分から第2の真っ直ぐな部分に向かってテーパ部分に沿って減少している。
図5】光ファイバ形成装置の別の実施形態の概略立面図であり、線引きされた光ファイバが通って延在するマッフルの内面の第2の真っ直ぐな部分によって画定される通路を包囲する範囲を加熱する加熱要素を示す。
図6A】実施例1に関する、不活性ガスとしてのアルゴンがマッフルの内面と管の第2の通路とによって画定された通路を通って流れる管を有する図1の光ファイバ形成装置の計算流体力学シミュレーションによって生成された流れ関数等高線図であり、アルゴンの一方向下向きの流れと、光ファイバを乱す対流セルがないことを示す。
図6B図6Aの流れ関数等高線図の領域VIBの図である。
図6C図6Bの線VICにおけるアルゴンの軸線方向速度のグラフであり、アルゴンの軸線方向速度が全て正の値であり、一方向の下向きの流れであることを示す図である。
図7A】比較例1Aに関する、図1の、ただし、管を有さない光ファイバ形成装置についての流れ関数等高線図であり、不活性ガスとしてのアルゴンが通路の狭幅部の近くで光ファイバを乱す対流セルを形成する。
図7B図7Aの線VIIBにおけるアルゴンの軸線方向速度のグラフであり、通路の軸線の近くで負の値であり、したがって光ファイバを乱すアルゴンの上向きの流れであることを示す図である。
図8】比較例1Bに関する、図1の、ただし、管を有さない光ファイバ形成装置についての流れ関数等高線図であり、不活性ガスとしてのヘリウムは対流セルを形成せず、したがって、通路の狭幅部の近くで光ファイバを乱すことがない。
図9A】実施例1および比較例1Aの両方についての温度変動のグラフであり、管を利用する実施例1の光ファイバ形成装置が、管を利用しない比較例1Aの光ファイバ形成装置よりも、特に低い測定周波数で温度変動が少ないことを示す図である。
図9B】実施例1および比較例1Aの両方についての圧力変動のグラフであり、管を利用する実施例1の光ファイバ形成装置が、管を利用しない比較例1Aの光ファイバ形成装置よりも、特に低い測定周波数で圧力変動が少ないことを示す図である。
図10A】実施例2に関する、管を有する図1の光ファイバ形成装置を用いて形成された光ファイバについての、時間の関数としての平均直径からの偏差のグラフである。
図10B】比較例2Aに関する、図1の、ただし、管を有さない光ファイバ形成装置を用いて形成された光ファイバについての、時間の関数としての平均直径からの偏差のグラフである。
図11】実施例2および比較例2Aについての測定周波数の関数としての平均直径からの標準偏差のグラフであり、実施例2(管を有する図1の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、全ての測定周波数(10Hz、1Hz、および0.1Hz)にわたって0.05μm未満であり、一方で、比較例2A(管を有さない図1の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、その測定周波数全体にわたって約0.15μm以上であったことを示す図である。
図12】実施例3に関する、管を出る光ファイバの温度の関数としての、管を有する図1の光ファイバ形成装置を用いて形成された光ファイバの平均直径からの標準偏差のグラフであり、出口温度が上昇するにつれて標準偏差が増大することを示す図である。
図13】管を有する図1の光ファイバ形成装置(実施例4)および管を有さない光ファイバ形成装置(比較例4A)を用いて形成された光ファイバについての、平均直径からの標準偏差のグラフであり、両方とも、第2の加熱要素を作動させることなく、光ファイバ母材の概ね上方の通路内の第2の範囲を加熱しており、管を使用することで低い標準偏差が得られることを示す図である。
図14A】実施例5に関する、テーパ部分と比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分とによって画定された通路を有する図3の光ファイバ形成装置の流れ関数等高線図であり、光ファイバ母材から線引きされた光ファイバの近くに不活性ガスとしてのアルゴンの対流セルがないことを示す図である。
図14B図14Aの領域XIVBの図である。
図14C図14Bの線XIVCで取られた通路内の位置の関数としての不活性ガスとしてのアルゴンの軸線方向速度のグラフであり、全て正の値であり、したがって光ファイバを乱す対流セルのない一方向の下向きの流れであることを示す図である。
図15A】実施例5および比較例1Aの両方についての温度変動のグラフであり、テーパ部分と比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分とによって画定された通路を利用する実施例5の光ファイバ形成装置が、比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分を利用しない比較例1Aの光ファイバ形成装置よりも、特に低い測定周波数で温度変動が少ないことを示す図である。
図15B】実施例5および比較例1Aの両方についての圧力変動のグラフであり、テーパ部分と比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分とによって画定された通路を利用する実施例5の光ファイバ形成装置が、比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分を利用しない比較例1Aの光ファイバ形成装置よりも、特に低い測定周波数で圧力変動が少ないことを示す図である。
図16】実施例5に関する、テーパ部分と比較的小さい直径の第2の真っ直ぐな部分とによって画定された通路を有する図3の光ファイバ形成装置を用いて形成された光ファイバについての、平均直径からの偏差を時間の関数として示すグラフである。
図17】実施例6および比較例2Aについての測定周波数の関数としての平均直径からの標準偏差のグラフであり、実施例6(図3の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、全ての測定周波数(10Hz、1Hz、および0.1Hz)にわたって0.06μm未満であり、一方で、比較例2A(管を有さない図1の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、その測定周波数全体にわたって約0.15μm以上であったことを示す図である。
図18】実施例7および比較例2Aについての測定周波数の関数としての平均直径からの標準偏差のグラフであり、実施例7(第2の真っ直ぐな部分を加熱する加熱要素を有する図5の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、全ての測定周波数(10Hz、1Hz、および0.1Hz)にわたって0.06μm未満であり、一方で、比較例2A(管を有さず、狭幅部を過ぎた通路の下側を加熱する加熱要素を有さない図1の光ファイバ形成装置)についての標準偏差が、その測定周波数全体にわたって約0.15μm以上であったことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここで図1図2を参照すると、光ファイバ形成装置10の一実施形態が示されている。光ファイバ形成装置10は、線引き炉12および張力調整ステーション14を含む。線引き炉12は、マッフル16と、マッフル16の下方の軸線方向開口18とを含む。マッフル16は内面20を有する。内面20は、軸線方向開口18を通って延在する通路22を画定する。線引き炉12は、通路22への上側入口24をさらに含む。マッフル16はさらに狭幅部26を含み、通路22の直径は、狭幅部26が軸線方向開口18に向かって進むにつれて狭くなる。
【0028】
光ファイバ形成装置10は、管28をさらに含む。管28は線引き炉12の通路22内に延在する。したがって、管28は、軸線方向開口18と通路22への上側入口24との間に少なくとも部分的に配置される。図示の実施形態のような実施形態では、管28は、軸線方向開口18を貫通して延在する。他の実施形態では、管28は、完全に通路22内にあり、軸線方向開口18を通って延在しない。いずれにしても、管28の少なくとも一部は、通路22内の軸線方向開口18の上方に配置される。管28は、狭幅部26の上方に延在する。
【0029】
管28は、外面30と、管28を通って延在する第2の通路34を画定する内面32と、管28の第2の通路34への入口36と、管28の第2の通路34からの出口38とを含む。管28の入口36は、線引き炉12の通路22内の狭幅部26の上方に配置されている。出口38は、線引き炉12の通路22内に配置される必要はないが、そのように配置することも可能である。マッフル16の内面20は、線引き炉12の通路22内に配置された管28の一部に対して管28の外面30を取り囲む。空間40により、管28の外面30はマッフル16の内面20から分離される。すなわち、管28は線引き炉12の通路22内でマッフル16に接触しない。
【0030】
線引き炉12は、マッフル16と熱連通している第1の加熱要素42をさらに含む。第1の加熱要素42は、管28の入口36の上方の線引き炉12の通路22の少なくとも一部を包囲する少なくとも第1の範囲44全体にわたって線引き炉12の通路22を加熱する。光ファイバ形成装置10の動作において、光ファイバ母材46が線引き炉12の通路22内に配置される。第1の加熱要素42は、十分に光ファイバ母材46を加熱して光ファイバ母材46の粘度を低下させ、光ファイバ48を光ファイバ母材46から線引きすることを可能にする。第1の加熱要素42が加熱する第1の範囲44は、光ファイバ母材46の先端50を包囲しており、該先端50は、光ファイバ母材46がそこから線引きされる光ファイバ48に移行する場所である。実施形態では、第1の加熱要素42は、第1の範囲44を1700℃~2000℃、例えば1700℃、1800℃、1900℃、もしくは2000℃、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する任意の範囲の温度に加熱する。第1の範囲44内の線引き炉12の通路22は、通路22の残りの部分と比較して上昇した温度を有することができる。第1の範囲44は、光ファイバ母材46の主体52をさらに包囲することができ、該主体52は、先端50の上方にあり、そこから先端50が下降する。
【0031】
光ファイバ母材46から線引きされた光ファイバ48は、管28の第2の通路34を通って延在する。換言すると、光ファイバ母材46から線引きされた光ファイバ48は、管28の入口36内へと延在し、次いで、管28の第2の通路34を通り、次いで、管28の出口38から出る。実施形態では、管28の入口36に進入する光ファイバ48は、125μmを上回る直径を有する一方で、管28の入口36は、1.27cm~2.54cmの内径を有する。入口36における管28の内径が1.27cmよりも小さいと、光ファイバ48が入口36または管28の内面32に接触する可能性が高くなる。入口36における管28の内径が2.54cmより大きいと、管28の内面32と光ファイバ48との間の距離が十分に大きくなり、不活性ガス54の対流を引き起こし、したがって直径のばらつきに悪影響を及ぼす可能性がある。実施形態では、入口36における管28の内径は、管28の入口36に進入する光ファイバ48の直径よりも100~200倍大きい。張力調整ステーション14は光ファイバ48と接触しており、光ファイバ48を所望の張力に維持する。
【0032】
実施形態では、不活性ガス54は、線引き炉12の上側入口24を通って線引き炉12の通路22内に流入する。次いで、不活性ガス54は、別々の流れ、すなわち、内側流56と外側流58とを形成する。内側流56は、管28の入口36に流入し、管28の第2の通路34を通って、管28の出口38から流出する。外側流58は、線引き炉12の通路22を通って、マッフル16の内面20と管28の外面30との間の空間40内に流入し、次いで線引き炉12の軸線方向開口18から流出する。
【0033】
実施形態では、不活性ガス54は、アルゴンもしくは窒素、またはアルゴンと窒素との組み合わせを含む。実施形態では、不活性ガス54は、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む。実施形態では、不活性ガス54は、意図的に含まれるヘリウムを含まない。実施形態では、不活性ガス54は、本質的に純粋なアルゴン(例えば、99体積%を超えるアルゴン)を含む。
【0034】
実施形態では、管28は、1つ以上の黒鉛、石英、およびステンレス鋼を含む。実施形態では、管28はステンレス鋼である。
【0035】
実施形態では、光ファイバ形成装置10は、第2の加熱要素60をさらに含む。第2の加熱要素60は、第1の加熱要素42の鉛直方向上方に配置されている。第2の加熱要素60は、第1の範囲44の上方の線引き炉12の通路22の少なくとも一部を包囲する少なくとも第2の範囲62全体にわたって線引き炉12の通路22を加熱する。第2の範囲62は、光ファイバ母材46の主体52の上方の通路22の一部を包囲する。実施形態では、第2の範囲62は、光ファイバ母材46を支持するブール64を包囲する。
【0036】
実施形態では、光ファイバ形成装置10は、第3の加熱要素66をさらに含む。第3の加熱要素66は、第1の加熱要素42の鉛直方向下方に配置されている。第3の加熱要素66は、管28の第2の通路34の一部を包囲する第3の範囲68全体にわたって線引き炉12の通路22を加熱する。第3の範囲68は、第1の範囲44の鉛直方向下方に位置している。したがって、第3の加熱要素66は、管28の周りに配置された線引き炉12の通路22の一部と、管28の第2の通路34との両方を加熱する。
【0037】
実施形態では、光ファイバ形成装置10は、冷却要素70をさらに含む。冷却要素70は、第1の加熱要素42の鉛直方向下方に配置されている。冷却要素70は、管28の第2の通路34の一部を包囲する第4の範囲72全体にわたって線引き炉12の通路22を冷却する。第4の範囲72は、第1の範囲44の鉛直方向下方に位置している。冷却要素70は、光ファイバ48が管28の第2の通路34を通って張力調整ステーション14に向かって通過するときに、光ファイバ母材46から線引きされた光ファイバ48を冷却する。
【0038】
以下の実施例でさらに示すように、線引き炉12の通路22の一部にわたって延在する管28を含む光ファイバ形成装置10は、その標準偏差が改善された許容可能な公差内にある直径を有する光ファイバ48を製造する。実施形態では、光ファイバ48は、少なくとも20m/sの速度で管28の出口38を出て、管28の出口38を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hz、および10Hzの周波数で0.1μm未満である直径を有する。実施形態では、光ファイバ48は、少なくとも20m/sの速度で管28の出口38を出て、管28の出口38を出た後、標準偏差が0.06Hz、1Hz、および10Hzの周波数で0.1μm未満である直径を有する。
【0039】
線引き炉12の通路22内の管28の位置は調整可能である。この態様は多くの利点を提供する。管28の入口36は、光ファイバ母材46の先端50に比較的近接して延在させることができ、したがって、光ファイバ48が冷却されている期間の大部分の間、不活性ガス54の流れの乱れから光ファイバ48を保護することができる。同様に、管28の入口36と管28の出口38との間の管28の長さを所望に応じて調整して、光ファイバ48が冷却されている間、不活性ガス54または周囲空気の乱れから光ファイバ48を保護することができる。一部の状況では、管28の長さを、軸線方向開口18を通って通路22から外に延在するようなサイズにして、光ファイバ48と周囲空気との間の温度差によって引き起こされる不安定な流れに曝される前に、光ファイバ48を冷却するための追加の距離および時間を可能にすることが望ましい場合がある。
【0040】
ここで図3図4を参照すると、別の実施形態の光ファイバ形成装置10Aが示されている。図1および図2に現れる番号と同じである図3および図4に現れる番号は、同様の要素を指す。光ファイバ形成装置10Aは、マッフル16Aと、マッフル16Aの下方の軸線方向開口18とを有する線引き炉12Aを含む。マッフル16Aは内面20Aを有する。内面20Aは、軸線74を中心としてセンタリングされた通路22を画定する。通路22は、軸線方向開口18を通って周囲環境76内に延在する。
【0041】
内面20Aは、第1の真っ直ぐな部分78と、第1の真っ直ぐな部分78の下方のテーパ部分80と、テーパ部分80の下方の第2の真っ直ぐな部分82とを含む。換言すると、テーパ部分80は、鉛直方向において第1の真っ直ぐな部分78と第2の真っ直ぐな部分82との間、および鉛直方向において第1の真っ直ぐな部分78と軸線方向開口18との間に配置されている。実施形態では、第1の真っ直ぐな部分78は、光ファイバ母材46を取り囲む。第1の真っ直ぐな部分78は、軸線74から半径84を有する。半径84は、軸線74に対して平行な長さ86に沿って一定(または少なくともほぼ一定、例えば製造公差が許容する限り一定)のままである。
【0042】
テーパ部分80は、軸線74からの半径88を含み、該半径88は、軸線方向開口18に向かって減少し、それにより通路22を狭める。テーパ部分80は、テーパ部分80の最大の半径88よりも少なくとも2倍長い、軸線74に対して平行な鉛直方向長さ90を有する。実施形態では、テーパ部分80は、勾配(すなわち、鉛直方向長さ90に沿った位置の関数としての半径88の変化率)が一定である。他の実施形態では、テーパ部分80の勾配は不規則であり、すなわち、一定ではない。実施形態では、鉛直方向長さ90は、少なくとも40cm、例えば40cm~80cmである。
【0043】
第2の真っ直ぐな部分82は、鉛直方向において、テーパ部分80と軸線方向開口18との間に配置されている。第2の真っ直ぐな部分82は、軸線74からの半径92を含む。半径92は、長さ94に沿って一定(または少なくともほぼ一定)のままである。長さ94は少なくとも75cmである。実施形態では、長さ94は、75cm~200cm、例えば75cm~150cm、100cm~150cm、および125cm~150cmである。実施形態では、第2の真っ直ぐな部分82の直径(すなわち、半径92の2倍)は、1.27cm~2.54cmである。すなわち、実施形態では、第2の真っ直ぐな部分82の半径92は、0.635cm~1.27cmである。この場合も、直径が1.27cmより小さいと、光ファイバ48に接触する危険がある。
【0044】
線引き炉12Aは、通路22への上側入口24をさらに含む。上側入口24は、マッフル16Aの内面20Aのテーパ部分80よりも第1の真っ直ぐな部分78の近くに、例えば第1の真っ直ぐな部分78の上方にまたは第1の真っ直ぐな部分78を貫通して配置される。
【0045】
線引き炉12Aは、第1の加熱要素42をさらに含む。第1の加熱要素42は、テーパ部分80の上方に配置された第1の範囲44全体にわたって通路22を加熱する。実施形態では、線引き炉12Aは、第2の加熱要素60をさらに含む。第2の加熱要素60は、第1の範囲44の上方に配置された第2の範囲62全体にわたって通路22を加熱する。実施形態では、線引き炉12Aは、第3の加熱要素66をさらに含む。第3の加熱要素66は、マッフル16Aの内面20Aの第2の真っ直ぐな部分82が画定する通路22の一部を包囲する第3の範囲68を加熱する。
【0046】
線引き炉12Aの動作中、不活性ガス54は、(i)上側入口24を通って通路22内に流入し、(ii)次いで、マッフル16Aの内面20Aの第1の真っ直ぐな部分78に沿って流れ、(iii)次いで、テーパ部分80に沿って流れ、(iv)次いで、第2の真っ直ぐな部分82に沿って流れ、(v)次いで、軸線方向開口18から流出する。実施形態では、不活性ガス54はアルゴンである。実施形態では、不活性ガス54は窒素である。実施形態では、不活性ガス54はアルゴンおよび窒素を含む。実施形態では、不活性ガス54は、1体積%未満のヘリウムを含み、例えば意図的に添加されたヘリウムがなく、不活性ガス54中のヘリウムは、偶発的な微量のみである。
【0047】
光ファイバ母材46は、通路22内に配置される。第1の加熱要素42が加熱する第1の範囲44は、光ファイバ母材46の先端50を包囲する。含まれる場合、第2の加熱要素60が加熱する第2の範囲62は、光ファイバ母材46の主体52の上方の通路22の一部を包囲する。光ファイバ48は光ファイバ母材46から線引きされ、先端50から下方へと延在する。光ファイバ48は、通路22を通って延在し、軸線方向開口18から出て張力調整ステーション14に至る。実施形態では、マッフル16Aの内面20Aの第2の真っ直ぐな部分82が画定する通路22に進入する光ファイバ48は、125μmより大きい直径を有する。
【0048】
以下の実施例でさらに示すように、テーパ部分80および第2の真っ直ぐな部分82が画定する通路22を含む線引き炉12Aは、その標準偏差が改善された許容可能な公差内にある直径を有する光ファイバ48を製造する。実施形態では、光ファイバ48は、少なくとも20m/sの速度で軸線方向開口18を出る。実施形態では、軸線方向開口18を出た後の光ファイバ48は、標準偏差が0.1Hz、1Hz、および10Hzの測定周波数において0.6μm未満である直径を有する。
【0049】
続いて、図5を参照すると、別の実施形態の光ファイバ形成装置10Bが示されている。図1および図4に現れる番号と同じである図5に現れる番号は、同様の要素を指す。光ファイバ製造装置10Bは、線引き炉12を含む。線引き炉12は、マッフル16と、マッフル16の下方の軸線方向開口18とを含む。マッフル16は内面20を有する。マッフル16の内面20は、軸線74を中心としてセンタリングされた、軸線方向開口18を通って延在する通路22を画定する。
【0050】
マッフル16の内面20は、第1の真っ直ぐな部分78と、狭幅部分96と、第2の真っ直ぐな部分98とを含む。第1の真っ直ぐな部分78は、軸線74からの半径84を有し、該半径84は、軸線74に対して平行な長さ86に沿って少なくともほぼ一定のままである。狭幅部分96は、鉛直方向において第1の真っ直ぐな部分78と第2の真っ直ぐな部分98との間に配置されており、鉛直方向において第1の真っ直ぐな部分78と軸線方向開口18との間に配置されている。狭幅部分96は、軸線74からの半径100を含み、該半径100は、第1の真っ直ぐな部分78から離れるにつれて減少し、それにより通路22を狭める。第2の真っ直ぐな部分98は、狭幅部分96の鉛直方向下方に配置されている。第2の真っ直ぐな部分98は、狭幅部分96と軸線方向開口18との間に配置されている。第2の真っ直ぐな部分98は、軸線74からの半径102を有し、該半径102は、軸線74に対して平行な長さ103に沿って少なくともほぼ一定のままである。
【0051】
線引き炉12は、第1の加熱要素42、第2の加熱要素60、および第3の加熱要素66をさらに含む。第1の加熱要素42は、第1の真っ直ぐな部分78によって画定される通路22の一部を包囲する第1の範囲44全体にわたって通路22を加熱する。第2の加熱要素60は、第1の範囲44の上方の第1の真っ直ぐな部分78によって画定される通路22の一部を包囲する第2の範囲62全体にわたって通路22を加熱する。すなわち、第2の加熱要素60は、第1の加熱要素42の鉛直方向上方に配置されている。第3の加熱要素66は、第2の真っ直ぐな部分98によって画定される通路22の一部を包囲する第3の範囲68全体にわたって通路22を加熱する。すなわち、第3の加熱要素66は、第1の加熱要素42の鉛直方向下方に配置されている。
【0052】
使用中、線引き炉12は、通路22内に配置された光ファイバ母材46をさらに含む。第1の加熱要素42が加熱する第1の範囲44は、光ファイバ母材46の先端50を包囲する。第2の加熱要素60が加熱する第2の範囲62は、少なくとも部分的に光ファイバ母材46の主体52の上方にある。光ファイバ48は、光ファイバ母材46から線引きされ、通路22を通って軸線方向開口18から外向きに延在する。第3の加熱要素66が加熱する第3の範囲68は、光ファイバ母材46から線引きされた光ファイバ48の一部を包囲する。実施形態では、第3の加熱要素66は、第3の範囲68を100℃~200℃、例えば125℃~175℃、約150℃、または150℃の温度に加熱する。
【0053】
線引き炉12は、通路22への上側入口24をさらに含む。上側入口24は、マッフル16の内面20の狭幅部分96よりもマッフル16の内面20の第1の真っ直ぐな部分78の近くに配置されている。実施形態では、上側入口24は、光ファイバ母材46の主体52の鉛直方向上方に配置される。不活性ガス54は、(i)上側入口24を通って通路22内に流入し、(ii)次いで、マッフル16の内面20の第1の真っ直ぐな部分78に沿って流れ、(iii)次いで、マッフル16の内面20の狭幅部分96に沿って流れ、(iv)次いで、マッフル16の内面20の第2の真っ直ぐな部分98に沿って流れ、(v)次いで、軸線方向開口18から流出する。実施形態では、不活性ガス54はアルゴンである。実施形態では、不活性ガスは窒素である。実施形態では、不活性ガス54は、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上である。実施形態では、不活性ガス54は、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含み、例えば、意図的に添加されたヘリウムを含まない。
【0054】
以下の例でより明らかになるように、第3の加熱要素66を利用して第2の真っ直ぐな部分98によって画定された通路22を包囲する第3の範囲68を加熱することにより、非ヘリウム不活性ガスを利用した場合に許容可能なばらつきを有する直径を有する光ファイバ48が得られる。実施形態では、光ファイバ48は、少なくとも20m/sの速度で軸線方向開口18を出て、軸線方向開口18を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hz、および10Hzの測定周波数で0.06μm未満である直径を有する。
【実施例
【0055】
実施例1ならびに比較例1Aおよび1B。これらの実施例では、計算流体力学シミュレーション(ANSYS Fluent v17.2、ANSYS, Inc.社、キャノンズバーグ、ペンシルバニア、米国)を利用して、種々のシナリオの流れ関数等高線図を作成した。実施例1では、管28を有する光ファイバ形成装置10を通って流れる不活性ガス54としてのアルゴンについて、流れ関数等高線図を作成した。管28は、3/4インチ(1.905cm)の内径を有し、グラファイトで形成されていると仮定した。この流れ関数等高線図を図6Aおよび図6Bに再現し、不活性ガス54としてのアルゴンの軸線方向速度プロファイルを図6Cに再現する。比較例1Aでは、不活性ガス54としてのアルゴンについて、同じ流れ関数等高線図を再び作成したが、ここでは管28を有さない光ファイバ形成装置10の変形形態を通って流した。この流れ関数等高線図を図7Aとして再現する。比較例1Bについてのアルゴンの軸線方向速度プロファイルを図7Bに再現する。比較例1Bでは、同じ流れ関数等高線図が生成されたが、ここでは不活性ガス54としてヘリウムを利用し、管28を有さない光ファイバ形成装置10の変形形態を通って流した。この流れ関数等高線図を図8として再現する。全てのシナリオにおいて、第1の加熱要素42および第2の加熱要素60の両方を作動させて、線引き炉12の通路22の第1の範囲44および第2の範囲62内の温度を上昇させた。
【0056】
比較例1Bでは、図8に再現された流れ関数等高線図は、通路22が不活性ガス54としてのヘリウムで充填されたときに、ヘリウムの一方向の一貫した流れが生じることを示している。換言すれば、ヘリウムを不活性ガス54として利用した場合、明確な対流セル104は存在しない。しかしながら、比較例1Aにおいて通路22が不活性ガス54としてのアルゴンで充填された場合、光ファイバ母材46の先端50の近くのマッフル16の内面20の近くと、光ファイバ48の周りの通路22の狭幅部26の上方との両方に対流セル104が生成される。これらの対流セル104が図7Aに示されている。具体的には、閉鎖した線は不活性ガス54の循環を示す。図7Aで特定された点線VIIBにおけるアルゴンの軸線方向速度プロファイルを図7Bのグラフに示している。正の値は、軸線方向開口18に向かう下向きの流れを示し、負の値は上向きの流れを示す。正の値および負の値の両方が存在することは、対流セル104を形成するアルゴンが循環することに対応する。
【0057】
理論に束縛されるものではないが、比較例1Aについて図7Aに示すような対流セル104は、光ファイバ母材46の先端50と通路22の狭幅部26との間の通路22内の熱伝達に十分な影響を与え、光ファイバ48の直径を著しく変化させると考えられる。アルゴンを不活性ガス54として利用した場合、これらの対流セル104が生じる。しかしながら、比較例1Bおよび図8の流れ関数等高線図で示すように、ヘリウムを不活性ガス54として利用した場合、かかる対流セル104は現れず、光ファイバ48の直径のばらつきが回避される。理論に束縛されるものではないが、アルゴンと比較してヘリウムの比較的高い動粘度により、これらの対流セル104の生成が抑制されると考えられる。自然対流の無次元値である、いわゆるグラスホフ数(Gr)は、不活性ガス54の動粘度と自然対流との間の関係を概念化するものである。グラスホフ数(Gr)は、以下の式によって定義される:
Gr=gβL ΔT/v
式中、gは重力加速度であり、βは熱膨張係数であり、Lは特性長さであり(3乗されている)、ΔTは温度差であり、vはガスの動粘度である。この式から明らかなように、アルゴンに対してヘリウムのように不活性ガス54の動粘度が高い場合、グラスホフ数は低く、不活性ガス54の対流が比較的低いことを意味する。他の全てが等しい場合、ヘリウム対アルゴン(または窒素)の動粘度(v)の差は、グラスホフ数(Gr)の70倍の差をもたらす。
【0058】
しかし、管28を実施例1のように利用した場合、不活性ガス54としてのアルゴンは、光ファイバ48に隣接する狭幅部26のすぐ上に対流セル104を形成しない。図6Aおよび図6Bは、比較例1Aに関して図7Aで明らかな狭幅部26のすぐ上の対流セル104がないことを示している。図6Bの線VICで取られた図6Cの軸線方向速度グラフは、管28の第2の通路34内と、マッフル16の内面20と管28の外面30との間の線引き炉12の第1の通路22内との両方のアルゴンの軸線方向速度について、全て正の値であり、これは一方向の下向きの流れであることを示している。管28を設けることにより、光ファイバ母材46から線引きされた光ファイバ48の周りに一貫した一方向のガス流が生じ、これにより直径のばらつきが減少する。理論に束縛されるものではないが、グラスホフ数(Gr)の式に戻って参照すると、管28によって特性長さLの値が低減されて低いグラスホフ数(Gr)が得られ、これはより小さな対流を意味する。管28は不活性ガス54を2つの別々の流れ56、58に分割するので、2つの別々の特性長さLの値を分析することができる。分析可能な第1の特性長さLの値は、マッフル16の内面20と管28の外面30との間の空間40の距離である。この第1の特性長さLが大きい場合であっても、管28は、マッフル16の内面20と管28の外面30との間に生成された如何なる対流セル104からも光ファイバ48を隔離する。分析可能な第2の特性長さLの値は、管28の内面32と管28内の光ファイバ48との間の距離である。この距離を意図的に小さく(例えば、管の内径が2.54cm以下である場合)することで、第2の特性長さLの値を限定している。換言すれば、アルゴンが不活性ガス54である場合であっても、この距離は十分小さいため、対流セルは生成されない。いずれの状況においても、不活性ガス54としてのアルゴンは、光ファイバ48の直径のばらつきに悪影響を及ぼす対流セル104を生成しない。
【0059】
計算流体力学モデルにより、実施例1および比較例1Aの温度変動データおよび圧力変動データをさらに付加的に生成した。このデータは、図9A(温度変動)および図9B(圧力変動)にグラフ形式で再現されている。管28を利用する実施例1の結果は、管28を利用しない比較例1Aと比較して、不活性ガス54としてのアルゴンの温度および圧力の変動がはるかに少ない。管28の使用に起因する温度および圧力の変動の低減により、光ファイバ48の直径の変動が低減する。
【0060】
実施例2および比較例2A。実施例2において、実際の光ファイバ48は、通路22内の管28を利用する光ファイバ形成装置10を用いて光ファイバ母材46から線引きされた。第2の加熱要素60を800℃に設定した。管28の内径は3/4インチ(1.905cm)であった。光ファイバ48は20m/sの速度で線引きされた。不活性ガス54は、本質的に純粋なアルゴン(約100体積%のアルゴン)であった。比較例2Aでは、管28を利用しなかったが、他の全ての条件は実施例2と同じであった。
【0061】
時間の関数としての平均直径からの光ファイバ48の直径の偏差を、実施例2および比較例2Aの両方について測定した。結果を図10A(実施例2)および図10B(比較例2A)にグラフで示している。両方の場合の平均直径は125μmであった。管28を利用する実施例2では、直径の測定期間を通して、光ファイバ48の平均直径からの光ファイバ48の直径の偏差は、平均直径からいずれの方向にも0.2μm未満だけ変化した。対照的に、管28を利用しなかった比較例2Aでは、光ファイバ48の直径の光ファイバ48の平均直径からの偏差は、しばしば0.2μmを超えて、時には0.6μmを超えて変動した。したがって、管28を利用する実施例2により、管28を利用しない比較例2Aよりも一貫した直径(すなわち、直径のばらつきが少ない)を有する光ファイバ48が得られた。
【0062】
実施例2および比較例2Aについての平均直径からの標準偏差を計算し、測定周波数の関数として図11にグラフで示した。20m/sの線引き速度では、実施例2の光ファイバ48の平均直径からの標準偏差は、0.1Hz、1Hz、および10Hzの周波数で0.06μm未満であった。対照的に、比較例2Aの光ファイバ48についての平均直径からの標準偏差は、同じ範囲の周波数で約0.15μm以上であった。
【0063】
実施例3。実施例3では、通路22内の管28を利用した光ファイバ形成装置10を用いて、種々の線引き速度で光ファイバ母材46から光ファイバ48を線引きした。不活性ガス54は、約100%の窒素であった。第2の加熱要素60および第1の加熱要素42を作動させた。平均直径からの光ファイバ48の直径の偏差は、1Hzの周波数で測定した。次いで、平均直径からの標準偏差を計算した。さらに、管28の出口38における光ファイバ48の温度を測定した。結果を図12にグラフで示している。管28の出口38における光ファイバ48の温度が上昇するにつれて、光ファイバ48の平均直径からの標準偏差が増大したことに留意されたい。それにもかかわらず、出口38における光ファイバ48の温度が1650℃以下であった場合、光ファイバ48の平均直径からの標準偏差は、典型的には0.06μm以下であった。他の全てが等しい場合、線引き速度を低下させるか、または管28を長くすることにより、出口38における光ファイバ48の温度が低下するため、光ファイバ48の平均直径からの標準偏差が減少する。
【0064】
実施例4および比較例4A。実施例4では、管28を有する光ファイバ形成装置10を利用して、光ファイバ母材46から光ファイバ48を線引きした。本質的に純粋なアルゴンを不活性ガス54として使用した。第1の加熱要素42を作動させたが、第2の加熱要素60は作動させなかった。比較例4Aでは、同じ設定を利用したが、管28は使用しなかった。両方の場合において、光ファイバ48は20m/sの速度で線引きされた。光ファイバ48の平均直径からの偏差は、0.1Hz、1Hz、および10Hzの周波数で測定した。平均直径からの標準偏差を計算し、図13にグラフで示した。全ての測定周波数にわたって、管28を利用する実施例4は、管28を利用しなかった比較例4Aよりも、線引きされた光ファイバ48についての平均直径からの標準偏差が小さかった。さらに、図13の実施例4に関するデータを図11の実施例2に関するデータと比較すると、管28を利用しながら第2の加熱要素60を作動させると、管28を利用しながら第2の加熱要素60を作動させない場合と比較して、光ファイバ48の平均直径からの標準偏差が小さくなることがわかる。
【0065】
実施例5。実施例5では、ここでも計算流体力学シミュレーションを利用して、通路22がマッフル16Aの内面20Aのテーパ部分80、次いで第2の真っ直ぐな部分82によって画定された状態で光ファイバ形成装置10Aを通って流れる不活性ガス54としてのアルゴンの流れ関数等高線図を作成した。第2の真っ直ぐな部分82は、3/4インチ(1.905cm)の直径(半径92の2倍)を有すると仮定した。第1の加熱要素42および第2の加熱要素60の両方を作動させて、通路22の第1の範囲44および第2の範囲62内の温度を上昇させると仮定した。
【0066】
この流れ関数等高線図を図14Aおよび図14Bに再現する。図示のように、テーパ部分80から第2の真っ直ぐな部分82への移行部には対流セル104が存在しない。むしろ、アルゴンは一貫して下向きに流れる。図14Bの線XIVCにおけるアルゴン流の軸線方向速度プロファイルが、図14Cに再現されている。軸線方向速度プロファイルは正の値であり、一方向の下向きの流れであることを示している。実施例5では不活性ガス54の全てが通路22を通って流れるのに対して、実施例1では不活性ガス54の流れが管28内の内側流56と管28の外側の外側流58とに分割されるので、実施例5の軸線方向速度の値は、管28(図6C参照)を利用する実施例1の値よりも大きい。光ファイバ形成装置10Aから製造された光ファイバ48は、通路22の狭幅部26の上方に対流セル104が生成される比較例1A(図7A図7B)の光ファイバ形成装置から製造された光ファイバ48と比較して、直径のばらつきが改善するはずである。
【0067】
さらに、計算流体力学モデルにより、実施例5対比較例1Aの温度変動データおよび圧力変動データを生成した。このデータは、図15A(温度変動)および図15B(圧力変動)にグラフ形式で再現されている。マッフル16Aの内面20Aのテーパ部分80および第2の真っ直ぐな部分82によって画定された通路22を利用する実施例5の結果は、比較例1Aと比較して、アルゴンの温度および圧力の変動がはるかに少ない。この温度および圧力の変動の減少により、光ファイバ48の直径のばらつきが減少するはずである。
【0068】
理論に束縛されるものではないが、ここでも、光ファイバ形成装置10Aのこの実施形態の第2の真っ直ぐな部分82によって画定される内面20Aの比較的小さい直径により、光ファイバ48と内面20Aとの間の距離(すなわち、特性長さL)が、不活性ガス54の対流を最小限に抑えるのに十分な程度に低減されると考えられる。したがって、第2の真っ直ぐな部分82によって画定される内面20Aの比較的小さい直径により、光ファイバ48の直径のばらつきに著しく悪影響を及ぼすことなく、アルゴンまたは窒素などのヘリウム以外の不活性ガス54を利用することが可能となる。
【0069】
実施例6。実施例6において、実際の光ファイバ48は、真っ直ぐな第2の部分82によって画定された比較的小さい直径の内面20Aを利用する光ファイバ形成装置10Aを用いて、光ファイバ母材46から線引きされた。第2の真っ直ぐな部分82の内面20Aの直径は3/4インチ(1.905cm)であった。光ファイバ48は20m/sの速度で線引きされた。不活性ガス54は、本質的に純粋なアルゴン(約100体積%のアルゴン)であった。第2の加熱要素60を作動させた。
【0070】
時間の関数としての平均直径からの光ファイバ48の直径の偏差を実施例6について測定した。結果を図16にグラフで示している。直径の測定期間を通して、光ファイバ48の直径の光ファイバの平均直径からの偏差は、平均直径からいずれの方向にも0.2μm未満だけ変化した。これは、真っ直ぐな第2の部分82によって画定された比較的小さい直径の内面20Aを利用しなかった図10Bの比較例2Aと比較可能である。比較例2Aでは、光ファイバ48の直径の光ファイバ48の平均直径からの偏差は、しばしば0.2μmを超えて、時には0.6μmを超えて変動した。したがって、真っ直ぐな第2の部分82によって画定された比較的小さい直径の内面20Aを使用する実施例6により、比較例2Aの光ファイバ48と比較して、より一貫した直径(すなわち、直径のばらつきがより少ない)を有する光ファイバ48が得られた。
【0071】
実施例6の光ファイバ48の平均直径からの標準偏差を計算した。結果を、測定周波数の関数として図17にグラフで示している。実施例6の結果を比較例2Aと比較する。グラフが示すように、実施例6の光ファイバ48の平均直径からの標準偏差は、全ての測定周波数(10Hz、1Hzおよび0.1Hz)について0.06μm未満であった。対照的に、比較例2Aについての光ファイバ48の平均直径からの標準偏差は、その測定周波数について約0.15μm以上であった。
【0072】
実施例7。実施例7では、光ファイバ48は、マッフル16の内面20の第2の真っ直ぐな部分98によって画定される通路22の一部を包囲する第3の範囲68全体にわたって通路22を加熱する第3の加熱要素66を有する光ファイバ形成装置10Bを使用して線引きされた。第3の加熱要素66を150℃の温度に設定した。光ファイバ48は20m/sの速度で線引きされた。不活性ガス54は100%アルゴンであった。第1の加熱要素42および第2の加熱要素60をさらに作動させた。
【0073】
光ファイバ48の平均直径からの直径の偏差を、種々の時間周波数(10Hz、1Hz、および0.1Hz)で測定した。平均直径からの標準偏差を計算した。結果を図18に示している。実施例7の結果を、グラフ上で比較例2Aの結果と比較する。比較例2Aでは、第3の加熱要素66を使用しなかったが、その他の設定は実施例7と同じであった。図18のグラフに示すように、第3の加熱要素66を使用すると、第3の加熱要素66を使用しない場合よりも、平均直径からの標準偏差がはるかに小さくなる。実施例7では、平均直径からの標準偏差は、全ての測定時間周波数にわたって0.06μm未満であった。比較例2Aでは、平均直径からの標準偏差は、同じ測定時間周波数で約0.15μm以上であった。理論に束縛されるものではないが、第3の加熱要素66を使用することにより、不活性ガス54の動粘度が増大して、マッフル16の内面20の第2の真っ直ぐな部分98によって画定される通路22の一部における対流の不安定性が抑制されると考えられる。上記のグラスホフ数(Gr)の式を再び参照すると、ガスの動粘度(v)が高いほど、グラスホフ数(Gr)は低くなる。
【0074】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0075】
実施形態1
光ファイバ形成装置であって、
線引き炉であって、(i)内面を有するマッフルと、(ii)該マッフルの下方の軸線方向開口であって、前記マッフルの前記内面は、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、軸線方向開口と、(iii)前記通路内への上側入口とを備える線引き炉と、
前記軸線方向開口の上方で前記線引き炉の前記通路内に延在する管であって、(i)外面であって、前記マッフルの前記内面は、前記管の前記外面を前記マッフルの前記内面から分離する空間を伴って前記管の前記外面を取り囲む、外面と、(ii)前記管を通って延在する第2の通路を画定する内面と、(iii)前記管の前記第2の通路内への入口と、(iv)前記管の前記第2の通路からの出口とを有する管と
を備える、光ファイバ形成装置。
【0076】
実施形態2
不活性ガスが、前記線引き炉の前記上側入口を通って前記通路内に流入し、別々の流れを形成し、該流れのうちの1つの流れが、前記線引き炉の前記通路を通って前記マッフルの前記内面と前記管の前記外面との間の前記空間内に流入し、前記線引き炉の前記軸線方向開口から流出し、前記流れのうちの別の流れが、前記管の前記入口に流入し、前記管の前記第2の通路を通って前記管の前記出口から流出する、実施形態1記載の光ファイバ形成装置。
【0077】
実施形態3
前記不活性ガスは、アルゴンまたは窒素の1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、実施形態2記載の光ファイバ形成装置。
【0078】
実施形態4
前記管の前記入口の上方の前記線引き炉の前記通路の少なくとも一部を包囲する第1の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第1の加熱要素と、
前記第1の範囲の上方の前記線引き炉の前記通路の少なくとも一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第2の加熱要素と
をさらに備える、実施形態1記載の光ファイバ形成装置。
【0079】
実施形態5
前記線引き炉の前記通路内に配置された光ファイバ母材と、
前記光ファイバ母材から線引きされ、前記管の前記第2の通路を通って延在する光ファイバと、
前記光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第1の加熱要素と
をさらに備える、実施形態1記載の光ファイバ形成装置。
【0080】
実施形態6
前記光ファイバ母材の主体の上方の前記通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第2の加熱要素をさらに備える、実施形態5記載の光ファイバ形成装置。
【0081】
実施形態7
前記管の前記第2の通路の一部を包囲する第3の範囲全体にわたって前記線引き炉の前記通路を加熱する第3の加熱要素をさらに備える、実施形態6記載の光ファイバ形成装置。
【0082】
実施形態8
前記光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で前記管の前記出口を出て、前記管の前記出口を出た後、標準偏差(σ)が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの周波数で0.06μm未満である直径を有する、実施形態5記載の光ファイバ形成装置。
【0083】
実施形態9
前記管の前記入口は、1.27cm~2.54cmの内径を有する、実施形態1記載の光ファイバ形成装置。
【0084】
実施形態10
光ファイバ形成装置用の線引き炉であって、
マッフルであって、内面と前記マッフルの下方の軸線方向開口とを有し、前記マッフルの前記内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定する、マッフルを備え、前記内面は、
前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、
前記第1の真っ直ぐな部分と前記軸線方向開口との間に配置されたテーパ部分であって、前記第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して前記通路を狭める前記軸線からの半径と、前記テーパ部分の最大の半径よりも少なくとも2倍長い、前記軸線に対して平行な鉛直方向長さとを含むテーパ部分と、
前記テーパ部分と前記軸線方向開口との間に配置され、前記軸線からの半径が、少なくとも75cmの長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分であって、該第2の真っ直ぐな部分の前記半径は、0.635cm~1.27cmである、第2の真っ直ぐな部分と
を備える、線引き炉。
【0085】
実施形態11
前記マッフルの前記内面の前記テーパ部分よりも前記第1の真っ直ぐな部分の近くに配置された、前記通路への上側入口をさらに備え、
不活性ガスが、(i)前記上側入口を通って前記通路内に流入し、(ii)次いで、前記マッフルの前記内面の前記第1の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(iii)次いで、前記テーパ部分に沿って流れ、(iv)次いで、前記第2の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(v)次いで、前記軸線方向開口から流出する、
実施形態10記載の線引き炉。
【0086】
実施形態12
前記不活性ガスは、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、実施形態11記載の線引き炉。
【0087】
実施形態13
前記通路内に配置された光ファイバ母材と、
前記光ファイバ母材から線引きされ、前記通路を通って前記軸線方向開口から外向きに延在する光ファイバと
をさらに備える、実施形態10記載の線引き炉。
【0088】
実施形態14
前記光ファイバ母材の先端を包囲する第1の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第1の加熱要素と、
前記光ファイバ母材の主体の上方の前記通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第2の加熱要素と
をさらに備える、実施形態13記載の線引き炉。
【0089】
実施形態15
前記マッフルの前記内面が画定する前記第2の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第3の範囲を加熱する第3の加熱要素をさらに備える、実施形態14記載の線引き炉。
【0090】
実施形態16
前記光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で前記軸線方向開口を出て、該軸線方向開口を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの周波数で0.06μm未満である直径を有する、実施形態13記載の線引き炉。
【0091】
実施形態17
光ファイバ形成装置用の線引き炉であって、
マッフルであって、内面と前記マッフルの下方の軸線方向開口とを有し、前記マッフルの前記内面は、軸線を中心としてセンタリングされた、前記軸線方向開口を通って延在する通路を画定し、前記内面は、
前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第1の真っ直ぐな部分と、
前記第1の真っ直ぐな部分と前記軸線方向開口との間に配置された狭幅部分であって、前記第1の真っ直ぐな部分から離れるにつれて減少して前記通路を狭める前記軸線からの半径を含む狭幅部分と、
前記狭幅部分と前記軸線方向開口との間に配置され、前記軸線からの半径が、前記軸線に対して平行な長さに沿って少なくともほぼ一定のままである第2の真っ直ぐな部分と
を備える、マッフルと、
前記第1の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第1の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第1の加熱要素と、
前記第1の範囲の上方の前記第1の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第2の範囲全体にわたって前記通路を加熱する第2の加熱要素と、
前記第2の真っ直ぐな部分によって画定される前記通路の一部を包囲する第3の範囲全体にわたって100℃~200℃の温度に前記通路を加熱する第3の加熱要素と
を備える、線引き炉。
【0092】
実施形態18
前記通路内に配置された光ファイバ母材と、
前記光ファイバ母材から線引きされ、前記通路を通って前記軸線方向開口から外向きに延在する光ファイバと
をさらに備え、
前記第1の加熱要素が加熱する前記第1の範囲は、前記光ファイバ母材の先端を包囲し、
前記第2の加熱要素が加熱する前記第2の範囲は、少なくとも部分的に前記光ファイバ母材の主体の上方にあり、
前記第3の加熱要素が加熱する前記第3の範囲は、前記光ファイバ母材から線引きされた前記光ファイバの一部を包囲する、
実施形態17記載の線引き炉。
【0093】
実施形態19
前記狭幅部分よりも前記第1の真っ直ぐな部分の近くに配置された、前記通路への上側入口をさらに備え、
不活性ガスが、(i)前記上側入口を通って前記通路内に流入し、(ii)次いで、前記マッフルの前記内面の前記第1の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(iii)次いで、前記マッフルの前記内面の前記狭幅部分に沿って流れ、(iv)次いで、前記マッフルの前記内面の前記第2の真っ直ぐな部分に沿って流れ、(v)次いで、前記軸線方向開口から流出し、
前記不活性ガスは、アルゴンおよび窒素のうちの1つ以上と、1体積%未満のヘリウムとを含む、
実施形態17記載の線引き炉。
【0094】
実施形態20
前記光ファイバは、少なくとも20m/秒の速度で前記軸線方向開口を出て、該軸線方向開口を出た後、標準偏差が0.1Hz、1Hzおよび10Hzの測定周波数で0.06μm未満である直径を有する、実施形態18記載の線引き炉。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16
図17
図18
【国際調査報告】