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特表2023-528243薬剤の組織送達を容易にするためのデバイス、システム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】薬剤の組織送達を容易にするためのデバイス、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20230627BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20230627BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61N 1/30 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61N1/32
A61N1/04
A61M37/00 510
A61M37/00 520
A61M37/00 516
A61M37/00 514
A61N1/30
A61K47/02
A61K9/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570113
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 US2021034959
(87)【国際公開番号】W WO2021243270
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/031,767
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505477235
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラムラ,モハメド サード
(72)【発明者】
【氏名】ビャガスバリ,ガウラブ
(72)【発明者】
【氏名】シア,デンニン
(72)【発明者】
【氏名】プラウスニツ,マーク,アール.
【テーマコード(参考)】
4C053
4C076
4C267
【Fターム(参考)】
4C053AA06
4C053BB13
4C053BB31
4C053BB32
4C053JJ02
4C053JJ13
4C053JJ32
4C076AA95
4C076AA99
4C076BB31
4C076DD21
4C076DD22
4C076FF70
4C267AA71
4C267BB06
4C267BB08
4C267BB31
4C267BB37
4C267BB39
4C267BB42
4C267CC01
4C267GG22
4C267GG26
(57)【要約】
細胞内送達及び/又は真皮送達によって等、患者の生体組織に薬剤を投与するためのデバイス及び方法が提供される。デバイスは、圧電パルス発生器と、圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極アレイと、を含み、デバイスは、マイクロニードル電極を生体組織中に挿入した後、生体組織中の細胞を電気穿孔し、電気穿孔された細胞内への薬剤の送達を可能にするのに有効なマイクロニードル電極を通して、1つ以上の電気パルスを生成して送達するように構成されている。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生体組織内に又は生体組織にわたって薬剤を投与する際に使用するためのデバイスであって、
圧電パルス発生器と、
前記圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極のアレイと、
を備え、
前記デバイスは、前記マイクロニードル電極を前記生体組織中に挿入した後に、前記生体組織中の細胞を電気穿孔し、前記電気穿孔された細胞内への薬剤の送達を可能にするのに有効な前記マイクロニードル電極を通して、1つ以上の電気パルスを生成して送達するように構成されている、
デバイス。
【請求項2】
(i)前記マイクロニードル電極の前記アレイが延在する基部と、
(ii)前記基部に接続され、前記圧電パルス発生器を収納しているハウジングと、
をさらに備える、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスは、前記薬剤をさらに含み、かつ、前記薬剤を前記生体組織に放出するように構成されている、
請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記薬剤は、前記マイクロニードル電極上にコーティングされる、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記薬剤は、前記デバイス内の1つ以上のリザーバに貯蔵され、
前記マイクロニードル電極のうちの少なくとも一部は、各々の表面上にある中空孔又は溝を含み、
前記デバイスは、前記1つ以上のリザーバに流体連通している1つ以上の導管と、前記薬剤の通過のための前記マイクロニードル電極の前記中空ボア又は溝と、を含む、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記薬剤は、前記薬剤を含有する粒子の形態であり、
前記薬物は、薬剤封入脂質ナノ粒子又は薬剤封入ポリマーナノ粒子である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記薬剤は、核酸を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記薬剤は、ワクチンである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ワクチンは、RNAワクチン又はDNAワクチンである、
請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記マイクロニードル電極は、ステンレス鋼から作製されている、
請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記マイクロニードル電極は、前記圧電パルス発生器から前記マイクロニードル電極に前記電気パルスを伝導するように構成されている1つ以上の金属プレートから延在する、
請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記マイクロニードル電極の線形アレイは、前記金属プレートの各々の1つの縁から延在している、
請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記プレートは、互いに平行であり、かつ、互いに離間している、
請求項11又は12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記マイクロニードル電極は、単一の金属プレートから延在し、
前記アレイは、二次元アレイである、
請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記マイクロニードル電極は、少なくとも1つの非導電性プレートから延在し、
前記マイクロニードル電極の間に、電気接続部が設けられており、前記電気接続部は、前記圧電パルス発生器から前記マイクロニードル電極に前記1つ以上の電気パルスを伝導するように構成されている、
請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記電気接続部は、前記少なくとも1つの非導電性プレートの表面上に位置している、
請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記電気接続部が、前記少なくとも1つの非導電性プレートの第1の側部から前記プレートの対向する第2の側部まで前記少なくとも1つの非導電性プレートの孔を通って交差している、請求項15又は16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記マイクロニードル電極の各々は、非導電性コアと、前記マイクロニードルコアの表面の少なくとも一部を覆う導電性電極材料と、を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記圧電パルス発生器は、
圧電結晶と、
前記電気パルスを生成するのに有効な前記圧電結晶の表面を打撃するように構成されたスプリングラッチ-ハンマ機構と、
前記マイクロニードル電極に前記電気パルスを伝導するための電気接続部と、
を備える、
請求項1~18のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記圧電結晶は、ジルコン酸チタン酸塩鉛(PZT)、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、石英、酸化亜鉛、又はタングステン酸ナトリウムを含む、
請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
スプリングの減圧によって駆動されるハンマを解放するように構成されたウェッジ制御ラッチを有するトグルスイッチをさらに備える、
請求項19又は20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記ハンマと前記圧電結晶との間に配設された金属ピンをさらに備える、
請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記圧電結晶のためのケーシングをさらに備え、
前記電気接続部は、下部電極と、前記ケーシングから延在する側部電極とからなる、
請求項19~22のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項24】
カートリッジをさらに備え、
前記カートリッジは、前記マイクロニードル電極アレイを収納し、かつ、前記下部電極と嵌合係合するための第1のレセプタクルと、前記側部電極と嵌合係合するための第2のレセプタクルと、を含み、
前記第1のレセプタクル及び前記第2のレセプタクルは、前記マイクロニードル電極と電気的に連通している、
請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
前記マイクロニードル電極アレイは、1mm~10cmの組織領域に挿入されるように配列されている、
請求項1~24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
2~1000個のマイクロニードル電極を有する、
請求項1~25のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
前記マイクロニードル電極は、10μm~2mmの長さを有する、
請求項1~26のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項28】
前記マイクロニードル電極アレイは、交換可能かつ使い捨てであるように構成され、
前記圧電パルス発生器は、一連の前記アレイと共に再利用可能であるように構成されている、
請求項1~27のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項29】
10V~10,000V、50V~5,000V、100V~1,000V、又は200V~500Vのピーク電圧絶対値を有する1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、
請求項1~28のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項30】
0.1~10、0.3~5、又は0.5~2のピーク電圧の絶対値とピークピーク電圧の絶対値の比を有する1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、請求項1~29のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項31】
1A~1000A、5A~500A、10A~100A、又は20A~50Aのピーク電流絶対値を有する1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、
請求項1~30のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項32】
100V~35,000V、1,000V~30,000V、又は15,000V~27,500Vのピーク静電圧絶対値を有する1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、
請求項1~31のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項33】
100V/cm~30,000V/cm、200V/cm~10,000V/cm、300V/cm~5,000V/cm、又は500V/cm~3,500V/cmの公称電場強度を生じさせるように構成されている、
請求項1~32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項34】
1μs~1,000μs、3μs~100μs、5μs~50μs、又は10μs~30μsの初期パルス長を有する1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、
請求項1~33のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項35】
総パルス長に対する初期パルス長の比が1.5~100、2~50、又は3~20である1つ以上の電気パルスを生じさせるように構成されている、
請求項1~34のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項36】
前記マイクロニードル電極は、0.1mm~10mm、0.2mm~5mm、0.3mm~2mm、又は0.5mm~1.5mmのアレイ内の間隔を有する、
請求項1~35のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項37】
生体組織内又は生体組織にわたって薬剤を送達する方法であって、
請求項1~36のいずれか一項に記載のデバイスを生体組織中の標的組織部位に隣接して位置決めすることと、
前記マイクロニードル電極を前記標的組織部位に挿入することと、
前記デバイスを作動させて、前記マイクロニードル電極を通して、前記標的組織部位で細胞を電気穿孔するのに有効な前記標的組織部位内に前記1つ以上の電気パルスを送達することと、
前記薬剤を前記標的組織部位の組織内に送達すること、
を含む、
方法。
【請求項38】
前記生体組織は、哺乳動物の皮膚を含む、
請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記生体組織は、粘膜を含む、
請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記標的組織部位は、真皮又は表皮を含む、
請求項37又は38に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤は、前記電気パルスの送達前に前記標的組織部位に投与される、
請求項37~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤は、前記電気パルスの送達と同時に前記標的組織部位に投与される、
請求項37~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記薬剤は、前記マイクロニードル電極から、又は前記マイクロニードル電極を通して、前記標的組織部位に投与される、
請求項37~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記薬剤は、皮下注射針、ジェット注射針、マイクロニードルデバイス、又はイオントフォレシスによって前記標的組織部位に投与される、
請求項37~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記1つ以上の電気パルスは、200V~500Vのピーク電圧絶対値、20A~50Aのピーク電流絶対値、15,000V~27,500Vのピーク静電圧絶対値、10μs~30μsの初期パルス長、又はそれらの組み合わせを有する、
請求項37~44のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月29日に出願された米国特許出願第63/031,767号の利益を主張するものであり、当該特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府支援の研究又は開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって付与された助成金番号R01AI143844の下で政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、概して、治療剤及び予防剤を、それを必要とする人に投与するためのデバイス及び方法の分野に関し、より具体的には、特に薬剤作用部位が細胞中に位置する場合に、治療剤、ワクチン、核酸等を生体組織内及び/又は組織関門にわたって導入するための方法及びデバイスに関する。
【0004】
多数の製剤及びデバイスが、薬剤、核酸、ワクチン及び治療用タンパク質等の生物製剤を、皮膚を通して細胞内に送達するために研究されてきた。哺乳動物の皮膚の角質層は、穿通促進剤、超音波、電気穿孔、又はマイクロニードルを使用する場合でも、特に500ダルトンより大きい分子に対して有効な関門である。超音波及び電気穿孔を使用する従来のデバイスは、通常、高価な技術を必要とし、全ての場合において、AC電源コンセント又は電池等の連続的な電源へのアクセスを必要とする。
【0005】
原形質膜は、特に、ナノ粒子、脂質、ポリマー、及び他の製剤が使用される場合でも、能動輸送プロセスによって通常取り込まれない分子に対する別の有効な関門である。これは、DNA及びRNA等の遺伝物質に基づく薬剤にとって特に重要である。DNAベースの薬剤の作用部位は、典型的には、細胞核中にある。RNAベースの薬剤の作用部位は、典型的には、細胞サイトソル中にある。
【0006】
したがって、超音波発生器等の補助的な技術及びAC電源コンセント又は電池等の連続的な電力源を必要とせず、かつ有害な副作用を有することがある化学製剤を必要としない、真皮及び細胞内の薬剤送達のための安価なデバイスに対する極めて強い必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
患者に薬剤を投与するための従来のデバイス及び方法と関連する前述の問題のうちの1つ以上を克服し得る、電気穿孔ベースの薬剤送達デバイス及び方法が提供される。
【0008】
一態様では、患者の生体組織内に又は生体組織にわたって薬剤を投与する際に使用するためのデバイスが提供される。実施形態では、デバイスは、(i)圧電パルス発生器と、(ii)圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極アレイとを含み、デバイスは、マイクロニードル電極を生体組織中に挿入した後に、生体組織中の細胞を電気穿孔し、電気穿孔された細胞内への薬剤の送達を可能にするのに有効なマイクロニードル電極を通して、1つ以上の電気パルス、これは圧電パルス発生器によって生成されるが、を生成して送達するように構成されている。いくつかの実施形態では、デバイスは、薬剤を含み、薬剤を生体組織に放出するように構成されている。いくつかの他の実施形態では、薬剤は、デバイスの一部として提供されず、薬剤は、別個の供給源から生体組織に投与される。薬剤は、核酸を含むもの等、500ダルトンより大きい治療用分子又は予防用分子であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、RNAワクチン等のワクチンである。
【0009】
別の態様では、薬剤を生体組織に送達するための方法が提供される。複数の実施形態では、本方法は、(i)圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極アレイを含むデバイスを、生体組織中の標的組織部位に隣接して位置決めすることと、(ii)マイクロニードル電極を標的組織部位に挿入することと、(iii)デバイスを作動させて、マイクロニードル電極を通して、標的組織部位で細胞を電気穿孔するのに有効な標的組織部位内に1つ以上の電気的パルスを送達することと、(iv)薬剤を標的組織部位の組織内に送達することと、を含む。いくつかの実施形態では、生体組織は、哺乳動物の皮膚又は粘膜である。いくつかの実施形態では、標的組織部位は、真皮又は表皮を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、電気パルスの送達の前に、又はそれと同時に、標的組織部位に投与される。いくつかの実施形態では、薬剤は、マイクロニードル電極から、又はマイクロニードル電極を通して標的組織部位に投与される。いくつかの他の実施形態では、薬剤は、デバイスの別の部分から、又は別個の供給源から生体組織に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本開示の一実施形態による、薬剤送達システムのハウジング及び圧電パルス発生器の平面図である。
図1B】本開示の一実施形態による、圧電パルス発生器の分解図である。
図2A】本開示の実施形態による、マイクロニードル電極及びそれらの関連金属プレートのアレイの斜視図であり、それらのためのカートリッジケーシング中に収容された状態を示す。
図2B】本開示の実施形態による、マイクロニードル電極及びそれらの関連金属プレートのアレイの斜視図であり、それらのためのカートリッジケーシング中に収容されていない状態を示す。
図3】本開示の実施形態による、(i)圧電パルス発生器を収納しているハウジング、及び(ii)マイクロニードル電極アレイを備えるカートリッジを備える薬剤送達システムの斜視図である。
図4】本開示の一実施形態による、中実マイクロニードル電極アレイを有するカートリッジの概略図である。
図5】本開示の別の実施形態による、中空マイクロニードル電極アレイを有するカートリッジの概略図である。
図6A】本開示のいくつかの実施形態による、マイクロニードル電極アレイの電気接続部の概略図である。
図6B】本開示のいくつかの実施形態による、マイクロニードル電極アレイの電気接続部の概略図である。
図6C】本開示のいくつかの実施形態による、マイクロニードル電極アレイの電気接続部の概略図である。
図6D】本開示のいくつかの実施形態による、マイクロニードル電極アレイの電気接続部の概略図である。
図7A】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図7B】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図7C】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図7D】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図7E】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図7F】本開示の一実施形態による、エレクトロポレータの概略図である。
図8A】本開示の一実施形態による、電気穿孔に使用される圧電パルサの代表的な電気出力プロファイルのグラフである。
図8B】本開示の一実施形態による、電気穿孔に使用される圧電パルサの代表的な電気出力プロファイルのグラフである。
図8C】本開示の一実施形態による、電気穿孔に使用される圧電パルサの代表的な電気出力プロファイルのグラフである。
図9】マイクロニードル電極アレイ(MEA)又はクランプ電極を使用した電気穿孔後のラット皮膚におけるGFP発現を示すグラフである。
図10A】マウスにおけるSARS-CoV-2DNAワクチン接種後の体液性免疫応答を示すグラフである。
図10B】マウスにおけるSARS-CoV-2DNAワクチン接種後のウイルス中和を示すグラフである。
図11A】本開示の実施形態による、電気パルスの投与中の電圧の測定を示す。電気穿孔中の電圧を測定するために使用される電気回路の概略図を示す。
図11B】本開示の実施形態による、電気パルスの投与中の電流の測定を示す。電気穿孔中の電流を測定するために使用される電気回路の概略図を示す。
図11C】本開示の実施形態による、電気パルスの投与中の電圧の測定を示す。電圧の市販の卓上エレクトロポレータでパルスした後の代表的なプロファイルである。
図11D】本開示の実施形態による、電気パルスの投与中の電流の測定を示す。電流の市販の卓上エレクトロポレータでパルスした後の代表的なプロファイルである。
図12】本明細書に記載の電気穿孔デバイスの一実施形態によって生じた皮膚における電場強度分布を示すコンピュータシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
新規かつ改良された電気穿孔デバイス及び患者への薬剤の投与方法が開発されている。本方法及びデバイスは、核酸を含むもの又は他の生物学的製剤等、500Daより大きい薬剤の送達に特に有用である。
【0012】
本明細書で使用されるとき、用語「ピーク電圧」は、生体組織に印加されたときに電極間で達成される最大電圧降下を指し、用語「ピークピーク電圧」は、生体組織に印加されたときのピーク正電圧とピーク負電圧との間の電圧差を指し、用語「ピーク静電圧」は、電極がオシロスコープのリード線に直接印加されたときに電極間で達成される最大電圧降下を指し、用語「ピークピーク静電圧」は、電極がオシロスコープのリード線に直接印加されたときのピーク正電圧とピーク負電圧との間の電圧差を指し、用語「ピーク電流」は、生体組織を通る最大電流を指し、用語「公称電場強度」は、電極間の電圧を、反対方向に帯電した電極間の間隔で除したものを指し、用語「初期パルス長」は、パルスの開始と、電圧が生体組織に印加されたときにパルスの開始前の電圧に最初に戻る時間との間の時間を指し、用語「総パルス長」は、パルスの開始と、電圧が生体組織に印加されたときにピーク電圧の絶対値の10%より大きい絶対値をもはや達成しない時間との間の時間を指す。
【0013】
デバイス及び方法
デバイスは、圧電パルス発生器と、圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極アレイとを含み、デバイスは、マイクロニードル電極を生体組織中に挿入した後に、生体組織中の細胞を電気穿孔し、電気穿孔された細胞への薬剤の送達を可能にするのに有効なマイクロニードル電極を通して、電気パルスを生成して送達するように構成されている。好ましい実施形態では、デバイスは、手持ち式であり、好ましくは同じ手で、手動で操作可能であるようにサイズ決めされ、形作られている。いくつかの実施形態では、デバイスは、マイクロニードル電極アレイが延在している基部をさらに含む。電極の基部及びアレイは、圧電パルス発生器を収納するハウジングに解放可能に結合されるように構成されたカートリッジの一部であり得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、デバイスは、投与される薬剤をさらに含み、薬剤を貯蔵し、生体組織部位に放出するための任意の好適な手段を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、マイクロニードル電極上のコーティングの形態である。いくつかの実施形態では、薬剤は、デバイス中に、例えば、カートリッジ内の1つ以上のリザーバ中に貯蔵され、及び/又はマイクロニードル電極の少なくとも一部分は各々、中空ボアと、1つ以上リザーバと流体連通する導管とを含み、それにより、マイクロニードル電極の中空ボアは、マイクロニードル電極の生体組織内への挿入の前、後、又はそれと同時に、リザーバから生体組織内への薬剤の通過を可能にする。別の変形例では、カートリッジ本体は、中実であり得る、すなわち、中空ボアを伴わない、マイクロニードル電極に隣接する開口部を含み、開口部は、リザーバと流体連通し、生体組織及びカートリッジ本体の界面における開口部を通したリザーバからの薬剤の放出を提供し、それによって、薬剤は、マイクロニードル電極によって生じた穿刺部中に流入し得る。別の実施形態では、マイクロニードルは、マイクロニードル表面に沿った流体流の経路を(すなわち、マイクロニードルの内部で流体の流れを可能にする中空孔とは対照的に)提供する溝又は他の非平面表面特徴を有し得、それによって、生体組織内への薬剤送達を容易にする。
【0015】
いくつかの実施形態では、薬剤は、デバイスとは別個に提供される。例えば、デバイスは、皮下注射針、ジェット注射、イオン導入、又は別個のマイクロニードルデバイス等の従来の手段によって、生体組織の標的組織部位に投与され得る。薬剤を投与するためのマイクロニードルは、電気穿孔デバイスの一部であってもよく、又は別個のデバイスであってもよい。
【0016】
実施形態では、生体組織内に又は生体組織にわたって薬剤を送達するための本明細書で提供される方法は、(i)生体組織中の標的組織部位にエレクトロポレータデバイスを位置決めすることと、マイクロニードル電極を標的組織部位に挿入することと、(ii)デバイスを作動させて、マイクロニードル電極を通して、標的組織部位で細胞を電気穿孔するのに有効な標的組織部位に1つ以上の電気パルスを送達することと、(iii)薬剤を標的組織部位の組織内に送達することと、を含む。薬剤は、電気パルスの送達の前、電気パルスの送達の後、電気パルスの送達と同時に、又はそれらのいくつかの組み合わせで、標的組織部位に投与されてもよい。薬剤は、マイクロニードル電極から若しくはマイクロニードル電極を介して、又は別個の送達手段から標的組織部位に投与されてもよい。
【0017】
本方法は、マイクロニードル電極アレイで組織表面を穿通するのに有効な力をエレクトロポレータデバイスに手動で印加することと、次いで、圧電体上に機械的力を誘発するデバイス上のボタン又はスイッチを手動で押下し、それによって、細胞内の細孔形成を誘導するのに有効な電気パルスを生じさせることと、を含み得る。同じボタン若しくはスイッチ、又は異なるボタン若しくはスイッチを押し下げることは、例えば、オンボードリザーバからの薬剤放出を作動させ得る。
【0018】
好ましい実施形態では、エレクトロポレータデバイスは、貯蔵された電気エネルギーを有さず(例えば、電池を有さず)、エネルギー源への有線又は無線の取り付けを有さない(例えば、電気コンセントに差し込まれない)。デバイスの電極間に電圧を生成するエネルギーは、デバイスのユーザの機械的作用によって提供される。例えば、デバイス上のボタン又はスイッチを手動で押下することと関連付けられたエネルギーは、電極間に電圧を生成したエネルギーを提供する。圧電部品は、ユーザによって入力された機械的エネルギーを、電圧を生成する電気エネルギーに変換し得る。
【0019】
有利には、本デバイス及び方法は、単回使用のために十分に安価であり、所望に応じて、繰り返し使用のために十分に堅牢である、超低コスト(2米ドル未満、例えば、約1米ドル未満)の手持ち式、電池不要の電気穿孔システムを提供する。いくつかの実施形態では、デバイス及び薬剤/マイクロニードル電極アレイカートリッジのブリスタパックからなるシステム又はキットが提供される。加えて、本発明のデバイスは、容易に持ち運び可能であり、手持ち操作に好適である。例えば、デバイスは、300g未満、好ましくは150g未満、好ましくは100グラム未満、好ましくは、50グラム未満)の重量であってもよく、100cm未満、好ましくは50cm未満、好ましくは20cm未満のサイズを有してもよく、圧電結晶を超える電池又は電源を必要とせず、圧電結晶は、次いで、ユーザによる機械的入力によって電力供給されてもよい。
【0020】
本デバイス及び方法は、患者の任意の好適な生体組織に適用することができる。すなわち、電気パルス及び薬剤は、患者の身体の物理的にアクセス可能な部分にあるか又はその付近にある細胞に送達され得る。患者は、ヒト又は他の哺乳動物であってもよい。電気パルス及び薬剤の送達は、皮膚中の細胞、身体の上皮層中の細胞、又は例えば腹腔鏡下で若しくは外科的介入に起因してアクセス可能である身体の内部中の細胞であり得る。いくつかの実施形態では、生体組織は、哺乳動物の皮膚を含む。いくつかの好ましい実施形態では、標的組織部位は、真皮又は表皮を含む。いくつかの他の実施形態では、生体組織は、粘膜を含む。いくつかの実施形態では、標的組織部位は、口、鼻、眼、消化管、又は膣中にあり得る。
【0021】
特定の方法では、本方法は、有利には、皮膚への送達を標的化するためにマイクロニードル電極を使用し、これは、筋肉内に送達されるワクチンと比較して、DNA、RNA、及び他のワクチンに対してより高い免疫原性を提供することが示されている。マイクロニードルは短く、いくつかの実施形態では、わずか650μmの長さであってもよく、これは、表皮、並びに、場合によっては真皮に電場を集中させることができる。表皮は、抗原提示細胞が特に豊富であり、したがって、送達のための望ましい場所である。加えて、表皮への送達は、有益には、真皮、皮下又は下の筋肉組織内のより深部の知覚神経及び運動神経を刺激することから電場を遠ざける。
【0022】
本デバイス及び方法は、任意の好適な薬剤、特に電気穿孔が細胞の薬剤取り込みを促進し得る薬剤を投与するために使用され得る。薬剤は、本質的に、当該技術分野において既知であるか、又は開発された任意の治療剤又は予防剤であり得る。複数の実施形態では、薬剤は、小分子、生物製剤、又はワクチンである。非限定的な例としては、治療用タンパク質(抗体、酵素、増殖因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、改変タンパク質、及びワクチン等)、RNA(メッセンジャRNA(mRNA)等)、低分子干渉RNA(siRNA)及びマイクロRNA(miRNA)を含むRNA干渉(RNAi)、アンチセンスRNA(asRNA)又は低分子ヘアピンRNA(shRNA)又はRNAアプタマー)、DNA(プラスミド、オリゴヌクレオチド、DNAアプタマー、DNAザイム等)、抗がん薬、抗菌薬、(例えば、タンパク質合成、細胞壁合成、酵素活性、生化学的経路の)阻害剤、細胞内又は細胞間シグナリングに影響を及ぼす薬剤、遺伝子調節に影響を及ぼす薬剤が挙げられる。本デバイス及び方法は、2つ以上の異なる薬剤を送達するために使用され得る。好ましい実施形態では、薬剤は、核酸を含む。好ましい実施形態では、薬剤はワクチンである。様々な実施形態では、薬剤は、mRNAワクチン等のRNA又はDNAワクチンである。ワクチンは、SARS-CoV-2、エボラ、インフルエンザ等を含むが、これらに限定されない、様々なウイルス、細菌、又は他の病原体のいずれかに対して効果的であるように選択されたものであってもよい。ワクチンは、1つ以上の抗原を符号化するmRNA及び/又はDNAから構成されてもよく、又は疾患の複数の変異体に対して有効なワクチンであってもよい。
【0023】
上記のように、デバイスは、圧電パルス発生器と、圧電パルス発生器に電気的に結合されたマイクロニードル電極アレイとを含む。圧電パルス発生器及び結合されたマイクロニードル電極アレイは、本明細書において「ePatch」デバイス又は電気穿孔デバイスと称されることがある。マイクロニードル電極アレイは、本明細書において「マイクロニードル電極アレイ」又はMEAと称されることがある。圧電パルス発生器は、圧電結晶から好適な電気パルスを生成するのに有効な任意の機構を含み得る。いくつかの実施形態では、圧電パルス発生器は、(i)圧電結晶、(ii)電気パルスを生成するのに有効な圧電結晶の表面を打撃するように構成されたスプリングラッチ-ハンマ機構、及び(iii)電気パルスをマイクロニードル電極に伝導するための電気接続部を含む。
【0024】
デバイスは、任意の好適な圧電結晶を含み得る。いくつかの実施形態では、圧電結晶は、ジルコン酸チタン酸塩鉛(PZT)を含む。それは、当該技術分野において知られている様々等パントを含み得る。いくつかの実施形態では、圧電結晶は、チタン酸ジルコン酸塩鉛、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、石英、酸化亜鉛、及び/又はタングステン酸ナトリウムを含む。圧電結晶は、大きな強度の圧電効果、すなわち電場を生じさせ、それによって、パルスの形態で短い時定数で大きな電圧を出力することを示す材料である。これは、結晶の表面に対して及ぼされる機械的な力、圧力、又は圧縮を通じて生じ得、一時的な変形を生じさせ、その結果、電荷が形成され、次いで電気パルスとして放出される。
【0025】
デバイスは、パルスをマイクロニードル電極に中継するための電気接続部を含む、圧電結晶のためのケーシングを含み得る。ケーシングは、下部電極と、ケーシングから延在する側部電極とを含み得る。デバイスは、マイクロニードル電極アレイを収納し、下部電極と嵌合係合するための第1のレセプタクルと、側部電極と嵌合係合するための第2のレセプタクルとを含むカートリッジを含み得、第1のレセプタクル及び第2のレセプタクルは、マイクロニードル電極と電気的に連通している。
【0026】
デバイスは、スプリングの減圧によって駆動されるハンマを解放するように構成されたウェッジ制御ラッチを有するトグルスイッチを含み得る。金属ピン等のピンが、ハンマと圧電結晶との間に配設され得る。一実施形態におけるデバイスは、以下のように動作し得る。マイクロニードル電極が皮膚、粘膜、又は他の生体組織中に挿入された後、ユーザは、サムトグルスイッチ等のトグルスイッチに対して力を加え、これが下部スプリングを圧縮し、ラッチにロックされたハンマに向かってウェッジを押す。ユーザが最後まで押すと、ウェッジはハンマをラッチから強制的に押し出し、ハンマは続いて、力を集中させるために結晶に対して着座するピンを打撃する。電圧出力は、次いで、デバイス上の電極に向けられ得る。上部スプリングは、次いで、ハンマ及びラッチを元のロック状態にリセットするために圧縮解除され得る。ユーザは、薬剤を細胞に送達するのに有効な組織の電気穿孔を提供するために、必要に応じて追加のパルスを生成するように動作を繰り返し得る。
【0027】
マイクロニードル電極は、標的組織中に(例えば、角質層を通して)穿通し、圧電結晶によって生成された電気パルスで細胞の電気穿孔を達成するのに有効な様式で、アレイ内で、サイズ決めされ、形作られ、離間される。マイクロニードルは、マイクロニードルの挿入又は引き抜き中にマイクロニードル電極が剪断される又は損傷を受けるのを防止するために機械的に堅牢である。マイクロニードル電極は、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、又は他の金属若しくは合金、又は他の好適な導電性生体適合性材料から作製されてもよい。マイクロニードル電極は、円筒形又は正方形であってもよい直線状又はテーパ状の本体を含み得、テーパ状の先端部分を含んでもよい。マイクロニードル電極は、当該技術分野において知られている任意の好適な方法、例えば、リトグラフエッチング技術、3D印刷、マイクロモルディング、及びレーザ切断を使用して製造されてもよい。マイクロニードル電極は、中実であってもよく、基部から先端に延在する中空ボアを有してもよく、又はマイクロニードルの側面に1つ以上の溝を有してもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極は、圧電パルス発生器からマイクロニードル電極に電気パルスを伝導するように構成されている一連の金属プレートから延在している。いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極の線形アレイは、金属プレートの各々の一方の側部から延在している。プレート上で、マイクロニードル電極のいくつかは正であってもよく、いくつかは負であってもよいことが理解される。プレート上のマイクロニードル電極の全てが互いに接続されていなくてもよい。接続は、電極間で選択的であってもよく、複数の接続/電極グループが存在してもよい。いくつかの実施形態では、プレートは、互いに平行であり、互いに離間している。いくつかの実施形態では、プレートは、絶縁ホルダ、例えば、ポリマー材料で作製されたホルダに固定されている。例えば、絶縁ホルダは、中にプレートが固定され得る一連のスロットを有し、カートリッジ本体の表面からマイクロニードル電極が延在している、カートリッジ本体であってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、同じ極性(すなわち、カソード又はアノード)を有する2つ以上のマイクロニードルは、同じ導電性材料片(例えば、金属)の一部であり、例えば、単一の材料片から形成され、切断、エッチング、又はそれ以外の方法で加工されて、マイクロニードルアレイの形状を達成する。材料は、シートであってもよく、マイクロニードルは、シートと同じ平面内にあってもよく、又はシートの平面から約90度等の非ゼロ角にあってもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極は、アノードの全てが電気的に接続され、カソードの全てが電気的に接続されるが、アノード及びカソードがマイクロニードルアレイ上で互いに電気的に絶縁されるように、マイクロニードルアレイの表面にパターン化された導電材料(例えば、金属)を有する非導電性マイクロニードルアレイを含み得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極は、導電性材料で作製され、導電性ではない基板に接続されている(すなわち、マイクロニードル電極及び基板がマイクロニードルアレイを含む)。マイクロニードルアレイ電極は、基板の表面のうちの1つ以上の上の導電性材料をパターン化することによって、及び/又はマイクロニードルアレイ以外のePatchの部分に位置しており、マイクロニードルアレイ表面を介して及び/又は基板内の孔を通してマイクロニードル電極に電気的に接続されたワイヤを伴い得る電気接続部によって、互いに電気的に接続されている。
【0032】
いくつかの実施形態では、同じ極性のマイクロニードル電極は全て、マイクロニードルアレイ上で互いに電気的に接続されるか、又は他の場合では、マイクロニードル電極は全て、マイクロニードルアレイ上で互いに電気的に接続されるわけではないが、マイクロニードルアレイ上ではなくePatchデバイス内の他の場所に位置する電気接続部を通して互いに接続されている。
【0033】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極アレイは、SO Choi、YC Kim、JW Lee、JH Park、MR Prausnitz、MG Allen「Intracellular protein delivery and gene transfection by electroporation using a microneedle array」Small、8:1081-1091(2012)に記載される方法によって作製され、当該記述は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極アレイは、1mm~10cmの組織領域中に挿入されるように配列されている。
【0035】
マイクロニードル電極アレイは、任意の好適な数のマイクロニードル電極を有することができる。いくつかの実施形態では、アレイは、2~10,000個のマイクロニードル電極、例えば、50~5000個、100~1000個、又は20~200個のマイクロニードル電極を有する。デバイス中のアレイ当たりの他の数のマイクロニードルが想定される。マイクロニードル電極は、様々なパターンで配列され得る。カソード及びアノードは、交互の列であってもよく、チェッカーボードパターンであってもよく、又は他のパターンで配列されていてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極は、10μm~2mmの長さを有する。いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極は、50μm~1.5mm、又は100μm~1mmの長さを有する。いくつかの好ましい実施形態では、長さは、10μm~1mmの範囲内、例えば650μm又は750μmの範囲である。いくつかの実施形態では、マイクロニードルは、50μm~600μmの基部幅又は直径を有し得る。他のマイクロニードル電極寸法が想定される。
【0037】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル電極アレイのカートリッジは、交換可能かつ使い捨てであるように構成され、圧電パルス発生器は、一連のそのようなカートリッジと共に再使用可能であるように構成されている。
【0038】
本明細書に記載のデバイスの電気穿孔部分は、細胞への分子の送達を増加させることが可能な電気パルスを提供する。圧電結晶を電気パルスの供給源として使用すると、高電圧の短い時定数パルス(例えば、マイクロ秒)を通して膜透過化処理が誘発され、これは、電気パルス中にマイクロニードル電極によって生成された電場中において細胞の細胞膜の一時的変化を誘発すると考えられ、これは、マイクロニードル電極と接触する又はその近傍にある細胞を含み、分子が細胞に進入し、意図された効果を生じさせることを可能にする。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、圧電パルス発生器は、従来の単極パルス又は指数関数的減衰パルス又は方形波パルスと比較して細胞をより効果的に電気穿孔し得る、双極振動パルスを生成する。
【0040】
近接して離間したマイクロニードル電極は、生体組織中の細胞を電気穿孔するのに効果的に作用するためにマイクロ秒パルスに必要とされる高い電場強度を達成するために必要である。圧電パルスはマイクロ秒の持続時間であるため、500V/cmを超える電場強度から効果的な電気穿孔が得られる。このような高い電場強度を達成するために、マイクロニードル電極は、好適に近接して、例えば、互いに、すなわち、アレイ内の最も近い隣接電極から、1mm未満離間される必要がある。この狭い間隔により、数百ボルトの圧電パルスが非常に大きな必要とされる電場強度を達成することを可能にする。対照的に、多くのミリメートル又はセンチメートルの間隔を有する従来のクランプ電極が使用される場合、この電場強度を達成するためにはるかに大きな電圧が必要であろう。いくつかの実施形態では、本発明のデバイス及び方法のマイクロニードル電極アレイは、アレイ内の間隔が0.1mm~10mm、好ましくは0.2mm~5mm、より好ましくは0.3mm~2mmである。いくつかの実施形態では、間隔は、0.5mm~1.5mmの範囲である。
【0041】
従来のエレクトロポレータは、ミリ秒パルスを生成する。対照的に、本発明のデバイス及び方法は、典型的には、マイクロ秒ほど、例えば、約10μs等の100μs未満のより短いパルスを生成する。パルス長が短くなるにつれて、電場をより強くする必要がある。電圧が大きくなり、電極間の間隔が短くなると、より大きな電場強度が可能になる。従来のエレクトロポレータは、長い中電圧パルスを使用するが、これらは、熱傷及び/又は刺青を頻繁に引き起こす可能性がある。本開示におけるシステムの短い持続時間パルスは、強化された安全性プロファイルの追加の利点を提供する。電場強度は、マイクロニードルアレイ内の位置の関数として一定でなくてもよい。しかしながら、一般に、電場強度は、電極間隔で除算された電圧を使用して決定することができる。これにより、組織を電気穿孔するのに十分な電場は、本明細書に記載するように、電極間隔が小さいときにマイクロ秒パルスのみを使用して生成され得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、デバイスは、100V/cm~30,000V/cm、好ましくは200V/cm~10,000V/cm、より好ましくは300V/cm~5,000V/cmの公称電場強度を生じさせるように構成されている。例えば、公称電場強度は、500V/cm~3,500V/cmの範囲であってもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、10V~10,000V、好ましくは50V~5,000V、より好ましくは100V~1,000Vのピーク電圧絶対値を有する。例えば、ピーク電圧絶対値は、200V~500Vの範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、100V~35,000V、好ましくは1,000V~30,000Vのピーク静電圧絶対値を有する。例えば、15,000V~27,500Vの範囲である。
【0044】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、20V~20,000V、好ましくは100V~10,000V、及びより好ましくは200V~2,000Vのピークピーク電圧絶対値を有する。例えば、ピークピーク電圧絶対値は、400V~1,000Vの範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、200V~70,000V、好ましくは2,000V~60,000V、及びより好ましくは25,000V~50,000Vのピークピーク静電圧絶対値を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、0.1~10、好ましくは0.3~5、より好ましくは0.5~2のピークピーク電圧の絶対値に対するピーク電圧の絶対値の比を有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、2より大きい、又は5より大きい、又は10より大きい、又は100より大きいピーク電圧の絶対値に対するピーク静電圧の絶対値の比を有する。
【0047】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは、1A~1000A、より好ましくは5A~500A、より好ましくは10A~100Aのピーク電流絶対値を有する。例えば、ピーク電流絶対値は、20A~50Aの範囲であってもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは各々、1μs~1,000μs、好ましくは3μs~100μs、より好ましくは5μs~50μsの初期パルス長を有する。例えば、初期パルス長は、10μs~30μsの範囲であってもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは各々、5μs~5,000μs、好ましくは10μs~1,000μs、より好ましくは20μs~500μsの総パルス長を有する。例えば、総パルス長は、30μs~200μsの範囲であってもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、1つ以上の電気パルスは各々、1.5~100、好ましくは2~50、より好ましくは3~20の総パルス長に対する初期パルス長の比を有する。
【0051】
前述のパルス値は、それらが静電圧(すなわち、ピーク静電圧、ピークピーク静電圧)として識別されない限り、皮膚等の生体組織におけるパルスを指す。同様の従来の圧電デバイスは、空気中でスパークを発生させるように設計されていることに留意されたい。対照的に、本明細書に記載の圧電デバイスは、マイクロニードル電極と結合され、導電性媒体を通して電流を通過させるために使用される(すなわち、スパークがない)。
【0052】
本デバイス及び方法の好ましい実施形態では、双極振動パルスが、多くの場合、電気穿孔のために従来使用される指数関数的減衰又は方形波パルスの形態で、単極パルスの代わりに電気穿孔のために使用される。この双極発振パルスは、圧電結晶を収納するケース内のスプリング衝撃によって誘発される圧電結晶の圧縮及び伸長の自然な結果であり得る。従来の単極パルスと比較して、双極振動パルスは、細胞膜の絶縁破壊を生じさせることができるだけでなく、細胞膜内で超音波処理運動を生じさせ、より効果的な細胞穿孔を誘発することもできる。さらに、振動パルスは、長期間にわたって臨界電位を超えて細胞膜を分極させることを回避し、したがって、細胞膜の不可逆的な破裂を防止することによって、より良い細胞生存率を提供し得る。
【0053】
電気穿孔デバイスの一実施形態を図7A図7Bに示す。本システムは、ハンドトグル、圧電結晶、結晶を取り囲むケース、銅線、及びMEAを含む。
【0054】
実施形態では、マイクロニードル電極は、正方形又は長方形配列で基部上に配列され、行又は列は、正電極及び負電極として交互に機能する。代替的に、正電極及び負電極は、チェッカーボードパターンであってもよい。実施形態では、カートリッジは、マイクロニードルアレイを備える。円形配列等の他の配列も可能であり、マイクロニードルは任意の好適な形状で配列することができる。
【0055】
一実施形態では、MEAは、電場を表皮に局在化させる反対に帯電した電極の列の間に0.9mmの間隔を有する長さ650μmの54個のマイクロニードル電極アレイを有する。電気穿孔は、10V/cmほどの強力な電場を必要とし、より短いパルスはより大きな電場強度を必要とする。これは、より近接に離間した電極が、より低い電圧で電気穿孔することができることを意味する。近接した電極間隔はまた、皮膚内への電場穿通深さを減少させ、これにより、表皮標的化を容易にし、神経刺激を低減させる。
【0056】
パルス長(又は減衰定数)は、利用される圧電結晶に応じて、マイクロ秒(例えば、1~1000マイクロ秒)、場合によってはナノ秒(例えば、1~1000ナノ秒)ほどである。パルス長は、例えば、結晶製造プロセスにおいて利用される異なるドーパントを選択することと、異なるドーパント、異なる圧電材料、及び当該技術分野において知られている他の方法を選択することと、を通して操作することができる。パルス長は、1ns~1msの範囲、好ましくは1~100μsの範囲であってもよい。
【0057】
非振動パルスの場合、初期パルス長及び総パルス長は同じであるが、本明細書に記載のデバイス及び方法のパルスは、振動型であってもよく、それにより、初期パルス長及び総パルス長は同じでなくてもよい。さらに、従来のエレクトロポレータが実質的に単極パルスを生成するが、本明細書に記載のデバイス及び方法は、好ましくは双極パルスを使用し、各パルスは、正と負の間で交互する。
【0058】
図1A図1Bは、本明細書に記載の電気穿孔デバイスのハウジング及び圧電パルス発生器の一例を図示している。ここで、ユーザトグルスイッチ2は、圧縮され得、それによって、上部スプリング4を圧縮し、スプリング4をハンマ6に近づける。トグルスイッチ2が完全に押し込まれると、取り付けられたウェッジ126がハンマ6をそのラッチから押し出し、上部スプリング4が圧縮解除する。トグルスイッチ2が押下されると、このスプリング4も圧縮されて弾性位置エネルギーを貯蔵する。ウェッジ126がハンマ6をそのラッチから押し出すと、このスプリング4は圧縮解除してハンマ6を突出させる。金属材料で作製され得るハンマ6は、圧電結晶12と接触している金属ピン10上に突出して、機械的変形を誘発し、電気パルスを生じさせる。トグルスイッチ2が圧縮されると、このスプリング8(下部圧縮スプリング)もハンマ6の下方及び周囲で圧縮される。ラッチ解放フェーズの後、ハンマ6が金属ピン10上に突出し、それによって結晶12上に突出すると、このスプリング8は圧縮解除されて、トグルスイッチ2、ハンマ6、及び上部圧縮スプリング4を復元する。このピン10は、圧電結晶12の上部に載っており、ハンマ6が突出した後にハンマ6と接触する。金属ピン10は、結晶12に力を集中させる。結晶12は、ハンマ6によって金属ピン10上に打撃されると、電気パルスを生成する。デバイスはまた、電極接点を有する結晶ケーシング14を備える。このケーシング14は、圧電結晶12を収容し、第1の電気接続部16を形成する底部から延在するピンを有し、さらに、側面18上の第2の電気接続部まで延在する導電性片を有する。結晶ケーシング14から突出する金属片は、電気的接続部として機能し、ここでは下部電気的接続部16である。側面機構ケーシング24から突出する金属片はまた、電極としての役割を果たし、ここでは側面電極18である。ねじ山を使用して、頂部に任意選択のケーシングをねじ込み得る。下部ねじ山20及び上部ねじ山22の両方を使用してもよい。スプリングラッチ-ハンマ機構ケーシング24は、その機構の要素を収容する。トグルスイッチ2に取り付けられているウェッジ片126は、ハンマ6をラッチから押し出し、金属ピン10及び結晶12上に突出させるために使用される。
【0059】
図2A図2Bは、マイクロニードル電極アレイ及びそのホルダ又はカートリッジの一実施形態を図示している。図2Aは、図2A及び図2Bの両方に示される一連の6つの金属プレート36のハウジングとしての役割を果たすマイクロニードル電極ケーシング(カートリッジケーシング)30を示し、これは、ケーシング30の表面32に隣接するプレート36の1つの縁部表面34から延在する線形マイクロニードル電極アレイを有する。ワイヤ端子26、28は、ケーシング内の金属プレート36に直接的に又は間接的に接続され、圧電パルス発生器に接続するためにケーシング30から延在している。第1のワイヤ38及び第2のワイヤ40は、金属導電プレート36を接続して、電気パルスを圧電パルス発生器からマイクロニードル電極に伝送する。ワイヤ38、40は、例えば、それぞれ、正の電気接続部及び負の電気接続部としての役割を果たし得る。
【0060】
図3は、(i)圧電パルス発生器を収納するハウジング、及び(ii)マイクロニードル電極アレイを備えるカートリッジを含む、デバイスの一実施形態を図示している。圧電パルス発生器42は、図1A図1Bに示すものと同様であってもよい。図3に示すように、デバイスは、カートリッジ48から延在するマイクロニードル電極アレイ50をさらに含む。カートリッジは、ここではスロットとして本明細書に図示される電極挿入点56及び58を含み、圧電パルス発生器42からの電気接続部と嵌合して、金属導体52、54と電気的に接続し、金属導体52、54は、順に、マイクロニードル電極50に電気的に接続されている。デバイスは、任意選択の支持ハンドル44をさらに含み得、支持ハンドル44は、ユーザが圧電パルス発生器42上のトグルスイッチを押し下げるのを支援し得る。支持ハンドル44は、圧電パルス発生器42のハウジング上のねじ山と嵌合するためのねじ山付き開口部46を含み得る。
【0061】
図4図5は、マイクロニードル電極アレイ及びケーシング/カートリッジの2つの実施形態を示している。図4に示すように、デバイス、例えば、カートリッジの端部は、中実マイクロニードル電極アレイ62を含む。マイクロニードル62は、ケーシング60に接続される/ケーシング60中に収納されている。ここで、薬剤64は、1つ以上のマイクロニードル電極62の表面にコーティングされる。図5に示すように、デバイス66、例えば、カートリッジの端部は、中空マイクロニードル電極アレイ68、及び流体薬剤配合物74を収納する複数のリザーバ72を含む。他の実施形態(図示せず)では、カートリッジは、中空マイクロニードル電極に薬剤を供給する単一の共有リザーバを有してもよい。導管70は、リザーバ72と中空マイクロニードル電極68のボアとの間に流体連通を提供する。リザーバ74は、放出前に流体薬剤製剤74を貯蔵するのに有用であり、中実マイクロニードル上のコーティングに含有され得るよりも多くの薬剤を含み得る。
【0062】
図6A図6Dは、マイクロニードルアレイの電気接続部の4つの実施形態を示している。図6Aに示すように、導電性マイクロニードル電極200は、非導電性基板202に接続されている。基板202の上部表面(すなわち、マイクロニードル電極200が接続されている基板202の同じ側)上の電気接続部204(例えば、ワイヤ)は、同じ極性のマイクロニードル電極200間に選択的に電気接続を提供する。
【0063】
図6Bに示すように、導電性マイクロニードル電極200は、非導電性基板202に接続されている。基板202の下部表面(すなわち、マイクロニードル電極200が接続される基板202の反対側)上の電気接続部206は、同じ極性のマイクロニードル電極200間に選択的に電気接続を提供する。
【0064】
図6Cに示すように、導電性マイクロニードル電極200は、非導電性基板202に接続されている。電気接続部208は、基板202の上部表面(すなわち、マイクロニードル電極200が接続されている基板202の同じ側)から基板202の下部表面まで延びている。電気接続部210は、同じ極性のマイクロニードル電極200間に選択的に電気接続を提供する。
【0065】
図6Dに示すように、非導電性マイクロニードル214は、非導電性基板202に接続されている。導電性材料212は、マイクロニードル214の表面を少なくとも部分的に被覆して、マイクロニードル電極を形成している。基板202の上部表面(すなわち、マイクロニードル214が接続される基板202の同じ側)上の電気接続部216は、同じ極性の電極を形成する導電性材料212の間に選択的に電気接続を提供する。
【0066】
本デバイス及び方法の用途
本明細書に記載の方法は、作用物質、典型的には薬剤を、電気穿孔の助けを借りて患者に投与するために使用される。本明細書で使用される場合、用語「電気穿孔」は、電気融合等、当該技術分野において知られている関連現象を含み、ウイルス、ウイルス様粒子、リポソーム、及び脂質二重膜を含有する任意の他の粒子状物体を含み得る。患者は、それを必要とするヒト又は他の哺乳動物であり得る。
【0067】
本方法は、有利には、電池、コンデンサ、又は他の従来の電力貯蔵デバイスを使用することなく、かつ外部源からの電気を使用することなく(例えば、電気コンセントにプラグ接続されない)、電気穿孔を使用して患者の身体組織内に大分子薬剤を送達するために使用され得る。しかしながら、小分子、タンパク質、核酸ベースの化合物、及び生物薬剤を含む多種多様な薬剤は、それらの送達を容易にし得る。薬剤の範囲には、核酸若しくはタンパク質の形態で合成的に合成された、又は関連する供給源から天然に得られる抗原(外来物質に由来するか又は外来物質を模倣して、導入時に免疫応答を誘導する物質)、DNA、RNA、又はプラスミド又は線状形態の他のポリヌクレオチド化合物等の核酸、ペプチド(アミノ酸配列)、ウイルスベクター若しくはウイルス、任意のタイプのワクチン、がんを治療するためのCAR-T細胞療法等の遺伝子療法、免疫療法、化学的若しくは生物学的に合成されたタンパク質、及び/又はこれらの任意の組み合わせ、又は脂質ナノ粒子、ポリマーナノ粒子等の薬剤封入粒子が含まれ得る生物製剤が含まれる。
【0068】
いくつかの実施形態では、電場は、皮膚、特に表皮に局在化され、表皮への局在化は、電気穿孔状態を受ける細胞の大部分が、表皮に位置し、真皮又はより深い組織には位置しないことを意味する。この局在化は、より深い組織への電場の穿通を制限することと、生存表皮中の細胞密度が真皮中よりもはるかに大きいという事実との組み合わせによって促進される。電場を標的とすることと、皮膚、特に表皮への電気穿孔を引き起こすこととにより、免疫原性を改善し、副作用の低減が可能になる。大部分が無細胞である真皮とは異なり、表皮は、ケラチノサイトを含む細胞、並びにランゲルハンス細胞を含む樹状細胞等の強力な抗原提示細胞が高密度で存在している。これらの表皮細胞に対して抗原を標的化することは、IM注射と比較して免疫応答を改善することが示されている。真皮の電気穿孔はあまり価値がないが、真皮樹状細胞の存在及びリンパ節への排液を可能にする豊富な脈管構造に起因して、表皮細胞において産生される抗原の上部真皮への拡散は有益であり、これはまた免疫原性を増加させる。さらに、電場を表皮に局在化させることは、神経刺激を低減させ、それによって、電気穿孔をより許容可能にすることができる。特に懸念されるのは、皮膚の下の運動神経及び筋細胞の刺激であり、これは、他の状況において皮膚又は筋電気穿孔について報告されている激しい痙攣を引き起こす可能性がある。実際、これは、本明細書に開示の実施例に示したが、クランプ電極による従来の電気穿孔は、各パルスの印加時に電気穿孔の部位で強力な筋収縮を引き起こした。動物を麻酔したが、これは、筋細胞及び/又は運動神経における活動電位の直接刺激を示している。これらの収縮は、電場を筋肉から遠く離れて表面的に局在化させたMEAで電気穿孔したときには見られなかった。
【0069】
電場局在化の方法は、いくつかの点で他の方法と異なる。他のアプローチは、本発明のマイクロニードル電極よりもはるかに長い穿通電極を使用する。これらの他の穿通電極は、表皮及び真皮を完全に横切り、真皮下組織に、多くの場合、さらに深く穿通する。本発明のマイクロニードル電極は、表皮及び真皮の可能な限り一部分に穿通するため、マイクロニードル電極は、真皮を完全に横切らず、真皮の下の組織に接触しない。これらのマイクロニードル電極をパルスするときに生じる電場は、反対側に帯電した電極間の組織において最も強いため、マイクロニードル電極の穿通深さよりも深い組織は、電気穿孔を引き起こす可能性が低いより弱い電場を受ける。
【0070】
組織を電気穿孔するための別のアプローチは、皮膚表面に接触するが皮膚内に穿通しない表面電極の使用を伴う。それらは、導電性ゲル若しくは他の材料の適用、又はサンドペーパー若しくは他の方法を使用した角質層の少なくとも部分的な除去等、接触を容易にするための皮膚表面の処理を伴い得る。この場合、電場は、電極間の間隔に類似する深さまで皮膚内に穿通する。典型的なシステムにおけるこの間隔は、少なくともミリメートル以上である。その結果、電場は真皮には集中せず、確かに表皮には集中しないが、真皮の下の組織に到達する。真皮下組織の電場への曝露をより良好に制限する、非常に近接して離間された表面電極(例えば、1mm未満)を有することが可能である。しかしながら、それらは、穿通マイクロニードル電極アレイと比較して、より不均一な電場強度を皮膚内に生成する。
【0071】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解され得る。
【実施例
【0072】
本明細書に記載のデバイス及び方法を市販のデバイス及び方法と比較するために実験を行った。
【0073】
以下の実施例に記載するマイクロニードル電極アレイ(MEA)は、ポリ乳酸で作製された3Dプリント絶縁ホルダに取り付けられた鋭い先端に向かってテーパ状になる、長さ650μm、断面200μm×50μmの6列のステンレス鋼マイクロニードル(電極)を組み付けることによって組み立てた。同じ電気極性を有する電極の各列は、各列内で、各々0.8mm間隔で分離された9つのマイクロニードル(すなわち、同じ極性のマイクロニードル電極)からなり、列は0.9mm間隔で分離されている(すなわち、反対の極性を有するマイクロニードル電極と分離している)。図7E(右)は、一実施形態による電極列の拡大図である。この近接した間隔は、マイクロ秒パルスを使用する電気穿孔に必要とされる大きな電場強度を可能にする役割を果たす。正端子及び負端子のためのワイヤを使用して、圧電パルス発生器をMEAに接続した(例えば、図7Dを参照)。使用時、MEAは、マイクロニードルが皮膚の角質層関門を横切って穿通して、生存表皮及び表在性真皮に進入するように皮膚に押し付け、その後、親指トグルを押下してパルスを投与した(図7A)。図7Aは、作動前に手82によって所定の位置に保持されているエレクトロポレータ80を示している。エレクトロポレータ80は、例えば、ユーザの親指によって作動され得るトグルスイッチ84を有するハウジング86を備える。エレクトロポレータ80は、MEAカートリッジ88をさらに備える。図7Bは、圧電パルス発生器と、ePatchとして知られる金属MEAとを備えるエレクトロポレータ90の分解図である。圧電パルス発生器は、圧電結晶94を収容する結晶ケース96を備える。マイクロニードル100を備えるMEAカートリッジ102は、銅線98を介して圧電パルス発生器に接続される。エレクトロポレータ90は、ハンドトグル92をさらに備える。図7Cは、マイクロニードル電極の列(左)及び単一電極120(右)を示し、図7Dは、MEAの一実施形態における電極の構成を示す図であり、図7Eは、指132に対するMEAの断面の拡大図である。図7Eでは、MEAカートリッジ130が、マイクロニードル134を保持している。図7Fは、スロット112を介してホルダ110に接続され得るマイクロニードル電極のプレートのポリマーホルダ/ケーシング110の平面図である。
【0074】
本明細書における実施例は、圧電パルス発生器及び金属MEAを含む方法及びシステムが、皮膚への有意な損傷の証拠なしに、マイクロ秒パルスを使用して表皮中の細胞に分子を選択的に送達することができることを実証する。対照的に、従来の電気穿孔デバイスからのミリ秒パルスを使用した電気穿孔は、皮膚内の各マイクロニードル電極穿通部位において有意な損傷を呈することがある。本発明の方法及びシステムは、DNAワクチンを送達し、堅牢な体液性免疫応答及びウイルス中和を生じさせることができ、電気穿孔を伴わない皮内(ID)又は筋肉内(IM)注射と比較して、少なくとも10倍の用量節約を実証する。
【0075】
実施例1-圧電パルス発生器及びマイクロニードル電極アレイを使用した、動物における電気穿孔試験
動物及びプラスミド
全ての動物実験は、エモリー大学及びジョージア工科大学の施設内動物管理使用委員会(IACUC)ガイドラインに準拠して実施した。成体雌ウィスターラット(250~300g)及び5~6週齢の雌BALB/cマウスを使用した。動物を、動物飼育施設で12時間/12時間の明/暗サイクルに維持し、食事及び水を自由に摂取させ、実験前に少なくとも7日間順応させた。高発現レポータプラスミドgWiz-GFPを使用した。膜貫通ドメインを有さないSARS-CoV-2表面糖タンパク質のDNAを、融合クローニング技術を用いてpCAGGSベクターにクローニングした。
【0076】
圧電パルス発生器及びマイクロニードル電極アレイの設計
圧電パルス発生器及び電気的に結合されたMEAを備えるデバイスは、本明細書において「ePatch」と称される。電気パルスは、一般的な家庭用圧電ストーブライタに由来するデバイスによって生成された(図7B)。市販のライタから採取した圧電結晶を収容するために、円筒形チャンバを3Dプリントした。チャンバは、圧電結晶に接続され、その基部を通ってチャンバを出たワイヤを有していた。ハンドトグルを頂部に取り付けて、従来のライタを下向きに押下したときに利用されるのと同等の力を提供した。ホルダにポリ(乳酸)を3Dプリンタで3Dプリントした。
【0077】
MEAは、絶縁ホルダ中に6列の中実金属マイクロニードルを組み付けることによって組み立てた。各列は、9個のマイクロニードルを有し、各々は、先端から先端まで測定して、0.79mm離間していた。反対の電気極性を有するマイクロニードルを、列間0.90mmの距離で互いに隣接して位置決めした。ePatchデバイスからのパルスプロファイルを(図11A図11Bに示す電気回路に従って)オシロスコープによって測定した。
【0078】
電気穿孔のための電場の数値シミュレーション
電場強度分布は、市販のモデリングソフトウェアを使用して数値モデリングにより解析した。皮膚内の電場の数値シミュレーションのためのパラメータを以下の表1に示す。
【表1】
【0079】
モデルを単純化するために、電気穿孔中の透過処理された組織の導電性変化を考慮せず、それによって、以前に治療されていない皮膚に印加されたパルスの開始時のピーク電場強度を取得した。電場シミュレーションは、静電モードで行い、金属ニードル電極の列は、隣接する列間の電圧が目標電圧値を満たすように、静的高電位及び静的低電位に交互に設定した。マイクロニードルが皮膚を穿通するときのシナリオを模倣するために、皮膚パラメータを使用して、ニードル先端部間に媒質を設定した。このモデルを使用した結果を実施例5及び7に示す。
【0080】
共焦点顕微鏡による非生存細胞及び電気穿孔された細胞の識別
皮膚における細胞生存度及び細胞透過性に対する電気穿孔の効果を研究するために、細胞不透過性プローブ、SYTOX Greenを使用して、電気穿孔によって引き起こされる一過性細胞膜透過性による取り込みを同定した。SYTOX Greenを電気穿孔の前にマイクロニードルにコーティングし、電気穿孔によって引き起こされる一過性透過性の指標として使用した。別の細胞不透過性プローブである臭化エチジウム(EB)を、電気穿孔によって引き起こされる非生存細胞の指標として使用した。BALB/cマウス皮膚を組織モデルとして使用した。
【0081】
麻酔下、シェーバで背部真皮毛を除去し、次いで、脱毛クリームを3分間塗布した。湿ったガーゼで皮膚を清拭して脱毛剤を除去した。脱毛の3日後、マウスをイソフルランで麻酔し、MEAを皮膚に押し込み、5又は20の圧電パルスを印加した。皮膚を電気穿孔した10分後に、マウスを二酸化炭素で安楽死させた。皮膚を採取し、EB(50μg/ml)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬し、4℃でインキュベートし、1.5時間振盪した。皮膚を新鮮なPBSで3回洗浄し、レーザ走査共焦点顕微鏡(20×対物レンズ)を使用して画像化した(図示せず)。SYTOX Green及びEBを、アルゴンレーザを使用して、それぞれ488nm及び514nmで順次励起した。共焦点顕微鏡下で、非生存細胞はEBからの赤色蛍光を有し、電気穿孔された細胞はSYTOX Greenからの緑色蛍光を有した(図示せず)。
【0082】
GFP発現のライブイメージング及び皮膚の組織学的検査
ラットを、DNA送達試験の1日前に麻酔下で、クリッパを使用して背部皮膚上の毛を除去することによって準備し、その後、脱毛クリームを4分間塗布し、水できれいに拭いた。動物を、イソフルラン気化器によってO中5%のイソフルランを充填した誘導チャンバ中で麻酔し、次いで、標準的なげっ歯類マスクを装着し、処置中、全身麻酔を維持した。
【0083】
GFPプラスミド(2.5μg/μl)を含有する20マイクロリットルのPBSをIDに注射して、皮膚内に目に見えるブレブを形成した。電気穿孔パルスを、DNAの注射の1分後に、MEA又はクランプ電極のいずれかで注射部位に印加した。特定数のマイクロ秒パルス(1、5、10、20パルス)をePatchデバイスによって生成し、遺伝子発現に及ぼすパルス数の影響を調査した。プログラマブルパルス電圧を有する市販の卓上エレクトロポレータもまた、遺伝子発現に対するミリ秒パルス電圧の効果を研究するために使用した。皮膚中のGFPの蛍光強度を、異なる日にIVIS Spectrum CT In Vivo Imaging Systemによってモニタリングした。
【0084】
組織学的検査研究のために、生体内のマウス皮膚をePatchデバイスによって20パルスで電気穿孔し、電気穿孔の直後に及び再び3時間後に実体顕微鏡下で撮像した。電気穿孔の12時間後に皮膚を採取した後、組織をTissue-Plus O.C.T.に包埋した。化合物を-20℃で一晩凍結した後、凍結ミクロトームを使用して厚さ20μmで切片化した。組織切片をレーザ走査共焦点顕微鏡(図示せず)によって撮像した。H&E染色のために、組織を10%ホルマリン緩衝液中で一晩固定し、次いで、自動組織脱水システムによって脱水した。脱水した組織をパラフィン中に包埋し、回転ミクロトームによって厚さ5μmに切片化し、染色した。組織を倒立顕微鏡によって画像化した(図示せず)。
【0085】
マウスにおける免疫研究
マウス免疫研究では、ラットにおいて使用されたのと同じ電気穿孔パラメータが、マウス皮膚において強力なGFP発現を同様に生じさせたことが確認された。BALB/cマウスを、PBS中のSARS-CoV-2Sタンパク質DNAワクチンを含有する10μl溶液の注射を受けた5つの群(1群当たりn=5マウス)、すなわち、(i)IM注射による10μgのDNAワクチン、(ii)IM注射による100μgのDNAワクチン、(iii)ID注射による10μgのDNAワクチン、(iv)ID注射とそれに続くePatchデバイスによる20パルスによる10μgのDNAワクチン、及び(v)陰性対照としてのID注射によるPBSに無作為に分けた。マウスを、処置中に、イソフルランによって麻酔した。各動物は、4週間後、第1の用量と同じ処置で第2の用量を投与した。7週目に眼窩穿刺により採血し、血清を分離した。
【0086】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体分析のためのELISA
マウス血清中のSARS-CoV-2のスパイク表面タンパク質に対するIgGの力価を測定するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用した。ELISAプレートを精製されたスパイクタンパク質でコーティングし、次いで5%ウシ血清アルブミンでブロックした。血清試料を、0.1%Tween20(PBST)を含有するPBSで80倍希釈し、次いでELISAプレートに添加し、室温(20~25℃)で1時間インキュベートし、続いてPBSTで3回洗浄した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗マウス抗体を添加し、1時間インキュベートした。プレートを再度洗浄した後、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン基質を添加して発色させた。反応を市販の停止溶液によって停止させた。吸光度を、ELISAプレートリーダーによって450nmで読み取った。光学濃度(OD)値を記録し、マウスにおける相対的な抗体発現レベルとして使用した。
【0087】
疑似ウイルス中和アッセイ
SARS-COV-2スパイクタンパク質疑似型ウイルスを、中和アッセイに使用した。疑似ウイルスを、env欠損HIVー1骨格プラスミドDNA、及び完全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現して確立されたプロトコルを流すDNAプラスミドを用いた293T細胞の同時トランスフェクションによって産生した。疑似ウイルスを産生し、293T細胞に自己パッケージ化した。293T細胞の上清に分泌された疑似ウイルスを回収した。
【0088】
血清中和活性の分析のために、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を発現する293T細胞を96ウェルプレートに播種し、一晩増殖させた。マウス血清試料を、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)で100倍、300倍、及び900倍に希釈した。各希釈試料(50μl)を等容積のウイルス懸濁液(50μl)と混合した後、37℃で1時間インキュベーションした。次いで、血清-疑似ウイルス混合物を含有する試料を、50%コンフルエンシーまで増殖させたACE2発現293T細胞を播種した96ウェルプレートのウェルに3回に分けて添加した。感染の6時間後、懸濁液を1500×gで5分間遠心分離し、上清を除去し、5%ウシ胎仔血清を含有するDMEMと置換した。48時間後、各ウェル内の細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を判定した。免疫血清の中和活性は、以下の式によって判定した。[(疑似ウイルス単独)-(疑似ウイルス+血清)]/[疑似ウイルス単独]×100%。
【0089】
実施例2-予備的ブタ皮膚試験
最初に、ブタ皮膚を使用した予備的な蛍光研究を使用して、従来のマイクロニードル注射プラットフォームを、マイクロニードル電極アレイに動作可能に結合された圧電パルス発生器からなる送達システムと比較した。特に、SYTOX Greenを使用して発現をモニタリングした。赤色色素である臭化エチジウムもまた、注射によって死滅した細胞を示すために使用した。ブタ皮膚に従来のマイクロニードルプラットフォームを使用して注射し、細胞を撮像した(図示せず)。ブタ皮膚はまた、マイクロニードル電極アレイを有する圧電パルス発生器の新しい送達系を使用して注射した。0パルス、5パルス及び10パルスで画像を撮影した(図示せず)。従来のマイクロニードルプラットフォームと比較して、新たな送達システムを使用すると、発現が有意に高かっただけでなく、注射による細胞生存率の有意な損失もなかった。
【0090】
実施例3-表皮における遺伝子トランスフェクション
表皮への遺伝子トランスフェクションの標的化を評価するために、DNA送達の1日後に組織学的解析を行った。圧電パルス発生器及び金属MEAからなる「ePatch」デバイスからのマイクロ秒パルス、及び市販のベンチトップエレクトロポレータ(BTX Electro Cell Manipulator 600, Harvard Apparatus, Cambridge, MA)からのミリ秒パルスのいずれかを使用したMEAでの電気穿孔は、皮膚表面上で正面から見たときにMEAに曝露された皮膚表面にわたって、及び生存表皮全体にわたって強力な緑色蛍光を生じ、凍結組織切片として見たときに真皮又は角質層におけるGFP発現の証拠はほとんどなかった。画像は、トランスフェクトされた細胞が、角質層の下の表皮層内でほぼ排他的に同定されたことを示した(図示せず)。対照的に、クランプ電極を使用して電気穿孔を行った場合、GFP蛍光はあまり強くなかった(図9に示す定量的な知見と一致する)。さらに、トランスフェクトされた細胞は大部分が表皮内にあったが、深部真皮層、特に毛包内でGFPトランスフェクションの証拠が見られた。これらの知見は、表皮に電気穿孔を局在化するMEAの能力を確証させる。
【0091】
実施例4-高電圧パルス及び電場の分析
高圧プローブとオシロスコープを使用して、皮膚穿通を伴わないePatchスルーエアスパークからの電圧出力を判定した。図8A図8Cは、電気穿孔に使用される圧電パルサの代表的な電気出力プロファイルを示している。圧電パルサを、電極リードをオシロスコーププローブに直接取り付けることによって(aは電圧プロファイル)、及び生体外のブタ皮膚にパルスすることによって(図8Bは電圧プロファイル、図8Cは電流プロファイル)、作動させた。図8Aでは、複数の複製電圧プロファイルが示されている(n=20)。出力は、ピーク正静電圧及びピーク負静電圧がそれぞれ24.4±1.3kV及び-7.0±0.8kVであるパルスを生成した(図8A)。電極間隔が0.9mmであるとすると、これは、1200kV/cmのピーク正静電場強度に対応し、空気の絶縁耐力(すなわち、約30kV/cm)よりも高い。ピーク正静電圧は、10.6±0.7μs後に達成され、その後の振動電圧出力は、約100μs以内に減衰した(図8A)。この極めて高い静電圧は、非常に高い電気インピーダンスと電流の欠如によって可能になった。
【0092】
MEAを電極として使用して生体外のブタ皮膚に印加している間、ピーク正電圧出力及び負電圧出力は、それぞれ283±49V及び-345±54Vであった(図8B)。電圧測定は、図11Aに示す設定を使用して行った。ピーク電圧までの時間は、12.6±1.1μsであった。ここでは、電圧は、パルス持続時間全体にわたって電流の通過を可能にしたオシロスコープへの接続と比較して、皮膚のより低いインピーダンスに起因してはるかに低かった。電気パルスは、圧電パルスの特徴である双極振動衰退波形の形態であった。比較分析のために、実験室トランスフェクションに一般的に使用される市販の卓上エレクトロポレータを使用して電気パルスも生成し、生体外のブタ皮膚中のMEAに結合させた。このパルサは、それぞれ、59.2±7.8ミリ秒又は55.4±2.3ミリ秒のパルス持続時間(すなわち、指数関数的減衰時間定数)を有する31±3V又は100±5Vの単極指数関数的減衰パルスを生成した(図11C)。これらのミリ秒単極パルスは、従来の電気穿孔に使用されるものよりも典型的なものであり、これは、ePatchによって生成されるマイクロ秒の振動パルスと対照的である。
【0093】
ePatchデバイスからのパルスの間に皮膚を通る電流も測定し、これは、電圧波形と形状が類似した振動衰退波形を示し、24.8±1.1Aのピーク正電流を達成した(図8C)。電流測定は、図11Bに示す設定を使用して行った。市販の卓上エレクトロポレータでは、32±3V及び105±4Vのパルスを印加した場合、皮膚を通る最大電流はそれぞれ0.28±0.03A及び1.33±0.16Aであった(図11D)。見かけの電気インピーダンス(すなわち、ピーク電圧をピーク電流で除したものとして特徴付けられる)は、ePatchパルス中に11.4Ωであり、従来のエレクトロポレータによるパルス中に114Ω又は78.9Ωであった(それぞれ32V又は105Vで)。従来のパルサからのミリ秒パルスに対して、ePatchからのマイクロ秒パルスを使用して測定された非常に低い見かけの電気インピーダンスは、高周波数成分を有する複雑な波形を有する電場に曝露された皮膚及び他の組織において生じることが知られている低下したインピーダンスによって説明され得る。
【0094】
MEAを使用してパルスを印加する際の皮膚内の電場分布をより良く理解するために、図12に示すように、電気穿孔中の皮膚内の電場強度をモデル化した。図12は、コンピュータシミュレーションにより求めた皮膚内の電場強度分布を示している。ピーク電場強度は、(a)MEA又は(b)クランプ電極を使用して、ePatchからの300Vパルスのようなパルスを印加したときに示される。電場強度分布は、MEAの上から(上部左)及び側面図(底部及び右)に示されている。真皮-表皮接合部は、破線で示している。スケールバーは1mmである。
【0095】
MEAでは、電場強度は、各マイクロニードル電極の周囲で、特に、電極の曲率が電場強度を増加させることが知られている先端付近で最も高かった(図12)。電場強度は、同じ極性の電極間で最も弱かった。電場はまた、電極の下の組織に深く穿通せず、数百ミクロンの長さのスケールで低下した。このようにして、電場は、表皮ランゲルハンス細胞及び真皮樹状細胞等の豊富な抗原提示細胞を収納し、リンパ節への効率的な排液を有し、これらの全てがワクチンの免疫原性を増強することができる、表皮及び真皮の上層に局在化された。
【0096】
可逆的電気穿孔の閾値は、電場への曝露の持続時間に依存する。ミリ秒長さのパルスでは、電気穿孔閾値は400~600V/cmほどであると予想されるが、マイクロ秒長さのパルス持続時間では、閾値は1.0~1.5kV/cmに増加する。圧電エレクトロポレータを使用して300Vパルスを印加する場合、組織内の最も高い電場強度は電極のすぐ隣で15kV/cmであるが、組織の大部分は2~3kV/cmの電場強度を経験し、これは電気穿孔を成功させるために必要な閾値よりも高いが、広範な細胞死滅を回避するのに十分な低電場強度である。このようにして、電極に隣接する高度に局在化した細胞死、並びに同じ極性の電極間で電気穿孔されない小さい領域が予想され得るが、ほとんどの組織は、可逆的な電気穿孔を引き起こすと予想される電場強度を経験する。
【0097】
これらの知見を、同じ電圧(300V)で従来のクランプ電極を使用して生成された皮膚内の電場強度とさらに比較した。クランプ電極の大きな間隔(すなわち、3.9mm)は、MEAと比較してはるかに弱い電場強度を生じさせることが見出された。電場強度は、電極間の空間の一部分では1kV/cmを超えただけであり、電極の最縁部では1.5kV/cmを超えただけであった。
【0098】
クランプ電極又はMEAを使用した従来のエレクトロポレータ(30V及び100V)からの代表的なパルスの印加中の皮膚内の磁場強度も調査した。クランプ電極を用いた30Vパルスは、大部分が300V/cm未満の非常に低い電場強度を生じ、これは、ミリ秒パルスの予想される電気穿孔閾値を達成しない。近接して離間したMEAを用いた30Vパルスの印加は、電極に直接隣接する組織が400~600V/cmに達することを可能にしたが、組織の大部分は、はるかに弱い電場を経験した。100Vパルスを使用した場合、クランプ電極は、組織の一部において電気穿孔することが予想される電場強度を達成し、MEAは、組織の大部分において電気穿孔するのに十分な強度の電場を生じさせた。
【0099】
実施例5-ePatchによる堅牢なレポータ遺伝子トランスフェクション
プラスミド送達及びトランスフェクションに対するePatchデバイスの効果を評価するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)を符号化するDNAプラスミドを生体内のラット皮膚に送達した。遺伝子発現のレベルを、経時的なGFP蛍光の生体内撮像によって測定した。
【0100】
ePatchを使用して、高電場強度マイクロ秒パルスの効果を試験し、単一パルスが目に見えるGFP発現を生成することができることが見出された(図9)。図9は、図8Bに示すような波形を有する約300Vの1~20パルスを与えるePatchを使用するか、又は減衰時定数(tau=49~57ms)を有する制御されたピーク電圧(10~100V)での従来の指数関数的減衰電気穿孔パルサを使用する電気穿孔によるGFPレポータプラスミドの送達後の異なる日の皮膚におけるGFP蛍光の放射効率を示している。マイクロニードル電極アレイ(MEA)又はクランプ電極を使用してパルスを印加した。データは、平均±標準偏差を表す(条件ごとにn=5~6反復)。(***p<0.001)。
【0101】
より多くのパルスは、10パルスまでGFP発現を増加させ(p=0.001)、20パルスまで増加させても、GFP発現はさらに増加しなかった(p>0.05)。電気穿孔後3日間、GFPの発現は経時的に減少した(p=0.002)。5日後、GFP蛍光は検出不可であったが、これはおそらく皮膚におけるGFPタンパク質の分解に起因するものである。
【0102】
陰性対照として、GFPプラスミドの皮膚へのID注射を電気穿孔なしで実施したところ、GFPトランスフェクションはほとんど検出できなかった(図9)。ePatchは、GFP発現をID注射単独と比較して416倍増加させた(p<0.001)。
【0103】
これらの結果をより良く解釈するため、透過性細胞を同定するために電気穿孔中に存在する細胞不透過性緑色マーカ化合物(SYTOX Green)を用いて追加の実験を行い、その後、非生存細胞を同定するために赤色生存染色を加えた。顕微鏡による皮膚の検査は、赤色蛍光細胞の存在によって示されるように(図示せず)、電気穿孔とは無関係に、皮膚へのマイクロニードル穿刺部位に細胞生存率の損失があったことを示した。これは、おそらくマイクロニードルによる機械的な穿刺からの損傷によるものであった。ePatchからの5又は10の電気穿孔パルスの印加は、細胞生存率損失を増加させるようには見えなかったが、各マイクロニードル穿通部位の非生存コアを取り囲む生存細胞への緑色マーカ化合物の取り込みによる細胞透過性の増加を引き起こした。皮膚表面の顕微鏡検査は、以下で考察するように、各マイクロニードル電極穿通部位における皮膚損傷のわずかで一過性の証拠のみを示した。
【0104】
次に、市販のエレクトロポレータと結合したMEAを使用して、中程度の電場強度、ミリ秒パルスの効果を試験した。これらの条件下での電気穿孔は、30Vでピークに達したGFP発現を生じた(p=0.02)(図9)。30VでのピークGFP発現は、10パルスでePatchによって生成されたピーク値と有意に異ならなかった(p=0.055)が、他の電圧でのGFP発現は有意に低かった(p<0.05)。ePatchと同様に、ミリ秒パルスを使用した電気穿孔によってトランスフェクトした細胞もまた、電気穿孔後3日間、GFP蛍光の減衰を有した(p=0.008)。
【0105】
電圧に対するGFP発現の依存性は、30Vに対して10Vでの電気穿孔の程度がより低く、トランスフェクションがより少なくなることによって説明することができる。30Vを超えると、細胞内へのDNA送達の増加の可能性は、高い電場強度へのミリ秒長さの曝露中の不可逆的な電気穿孔及び組織加熱によって引き起こされる細胞生存率の損失の増加によって相殺された可能性が高い。この解釈は、緑色マーカ化合物の送達及び赤色生存率染色剤の適用後の追加の皮膚撮像によって支持される(図示せず)。細胞生存率の損失の増加が、電圧の増加と共に見られ、マイクロニードル電極配置の部位での組織加熱も同様に増加し、50℃までのピーク値に達した。皮膚表面の顕微鏡検査は、ミリ秒パルスを使用したより高い電圧での広範な細胞死の観察と一致して、少なくとも2日間持続した各マイクロニードル電極穿通部位で変色を示した(図示せず)。
【0106】
皮膚電気穿孔の現在の方法に対処するために、MEAの代わりにクランプ電極(3.9mm間隔)を用いた。マイクロ秒圧電パルス発生器を用いてパルスする場合、単一パルスは検出可能なGFP発現をもたらさなかったが、10、20、又は30パルスを印加すると、パルスの数に依存しないGFP発現が生じた(p>0.05)。市販のエレクトロポレータからのミリ秒パルスでクランプ電極を使用して、検出可能なGFP発現が60Vで見出され、電圧が100Vに上昇したときにわずかに増加した(p>0.05)。GFP発現は、ePatch又は市販のエレクトロポレータのいずれかと共にMEAを使用した場合よりも、クランプ電極で有意に低かった(p<0.001)。
【0107】
まとめると、これらの結果は、(i)高いレベルのDNAトランスフェクション及び発現が、ePatchによって達成することができること、(ii)MEAを使用することが、圧電パルサからのマイクロ秒パルスを有効にするのに十分な高い電場強度を生じさせたこと、(iii)従来のエレクトロポレータが、クランプ電極と比較してはるかに低い電圧で有効であることを可能にしたこと、及び(iv)マイクロ秒パルスが、ミリ秒パルスを使用するときに組織を損傷するようである組織加熱を最小限に抑えたこと、を実証する。
【0108】
実施例6-マウスにおけるSARS-CoV-2DNAワクチン接種後の堅牢な免疫応答及びウイルス中和
ePatchが生体内で遺伝子発現を有意に増大させることができることを確認した後、ePatchによって送達されたSARS-CoV-2DNAワクチン、電気穿孔を伴わないID注射、及びIMワクチン接種を含む電気穿孔を伴わないIM注射の免疫原性を、2つの異なる用量(10μg及び100μgのDNA)で評価した。IMワクチン接種は、抗原特異的IgG力価(p=0.04)及びウイルス中和アッセイ(p<0.001)によって測定したように、10μg用量よりも100μg用量で高い体液性免疫応答を生じさせた(図10A図10B)。具体的には、マウスを0週目及び4週目に免疫化し、血液試料を7週目に採取した。マウス血清中のSARS-CoV-2スパイク表面タンパク質に対するIgG力価を450nmでの吸光度として表した(図10A)。疑似ウイルスに対するIgGの中和を、血清の異なる希釈で分析し、各希釈について中和パーセントとして表した(図10B)。対照として、マウスをPBSによって免疫化した。IM_10μg及びIM_100μg:それぞれ、IM注射によって10μg及び100μgのDNAワクチンを免疫したマウス。ID_10μg:ID注射によって10μgのDNAワクチンで免疫したマウス。ID_10μg_ePatch:ID注射によって10μgのDNAワクチンで免疫した後、ePatchによって20パルスを使用して電気穿孔したマウス。1群当たりn=5匹。(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0109】
10μgのDNAワクチンのID注射は、同じ用量でのIMワクチン接種と同様の結果を得た(p>0.05)。IDワクチン接種をePatchによる電気穿孔と共に実施したとき、免疫応答は、電気穿孔を伴わないIDワクチン接種又はIMワクチン接種よりも、同じDNA用量で有意に高かった(それぞれp=0.01及び0.004)。さらに、10μgのDNAのよるePatchワクチン接種は、100μgのDNAによるIMワクチン接種と有意に異ならず(p=0.47)、少なくとも10倍の用量節約がePatchワクチン接種によって可能となったことを実証した。最後に、血清の100倍希釈で、SARS-CoV-2疑似ウイルスに対する抗体の90%中和が低用量ePatch及び高用量IM注射群で見出されたが、電気穿孔を伴わない低用量IM及びID注射群では、20%の中和しか見出されなかったことは注目に価する(図10B)。まとめると、この研究は、ePatchが、IM又はID注射単独と比較して、SARS-CoV-2に対する免疫応答を有意に改善したことを実証する。
【0110】
臨床及び組織学的検査は、ePatchを使用したワクチン接種が非常に良好に耐容されたことを示唆している。電気穿孔直後の皮膚表面の撮像は、拡大して観察した場合、マイクロニードル穿刺及び/又は局所化した電気穿孔の証拠を示した(図示せず)。3時間後のその後の撮像は、ワクチン接種処置の残存する証拠を示さなかった。ePatchワクチン接種12時間後の皮膚の組織学的検査は、炎症マーカを示さなかった。対照的に、高電圧(100V)ミリ秒パルスは、電気穿孔の12時間後に皮膚に見られる炎症細胞の広範な浸潤を引き起こした。ワクチン接種後数週間にわたる動物の臨床検査では、有意な所見は得られなかった。これらのデータは、ePatchワクチン接種が、安全シグナルを生じさせない軽度の一過性の影響のみを皮膚に引き起こしたことを示唆している。
【0111】
全体として、本開示の送達システム及び方法は、2つの革新、すなわち、電気穿孔のための圧電ベースの電源、及び表皮を標的とする大きな電場を生成するMEA、これらの組み合わせから利益を得るDNAワクチン接種方法を提供することができた。ePatchの形態のこの組み合わせは、COVID-19及び将来のパンデミックに対するワクチン接種の範囲及び速度を拡大することができる単純で超低コストなシステムを使用してDNAワクチン接種を可能にすることが示された。
【0112】
本開示の送達システム及び方法は、電気穿孔を伴わない従来の注射よりも数桁大きい発現レベルを提供することができた。
【0113】
本明細書に記載の方法及びシステムの改変及び変形は、前述の詳細な記載から当業者には明らかであろう。そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
【国際調査報告】