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特表2023-528324第一級アルコールのカルボン酸への酸化方法
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  • 特表-第一級アルコールのカルボン酸への酸化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】第一級アルコールのカルボン酸への酸化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/235 20060101AFI20230627BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20230627BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C07C51/235
C07C53/08
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572409
(86)(22)【出願日】2021-05-22
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2021063731
(87)【国際公開番号】W WO2021239641
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20386026.7
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506110634
【氏名又は名称】イーティーエイチ・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソティリア・モストロウ-モーザー
(72)【発明者】
【氏名】マキシミリアン・カール-ルドルフ・クリスティアン・ヴェルナー・モーザー
(72)【発明者】
【氏名】イェルン・アントン・ファン・ボクホーフェン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006BA23
4H006BA30
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE30
4H006BS10
4H039CA65
(57)【要約】
本発明は、触媒としての二酸化ルテニウムの存在下、液相中で第一級アルコールを酸化することによってカルボン酸を調製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
R-COOH (I)
(式中、Rは、アリール、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、アルコキシ又はアリールオキシによって1回、2回、又は3回以上任意選択でさらに置換されていてもよい、アルキルを表す。)
のカルボン酸を調製するための方法であって、
式(II):
R-CH-OH (II)
(式中、Rは、上で定義した意味を有する。)
のアルコールを、
分子状酸素、好ましくは二酸素(O)を含むガスと、
二酸化ルテニウム(RuO)の存在下、液相中で反応させる工程を少なくとも含む、方法。
【請求項2】
式(I)及び(II)において、Rが、アルコキシで1回置換されているか又は置換されていないC~Cアルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)及び(II)において、Rが、メチル、n-プロピル又はイソプロピル、好ましくはメチルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
用いる式(II)の化合物が、再生可能な資源から調製され、好ましくは酵母及び細菌による単糖類の発酵によって調製される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式(II)の化合物が、水混和性であり、0.5~95体積%、好ましくは1~90体積%、より好ましくは2~50体積%、さらに好ましくは5~20体積%の濃度で水性溶液として用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
分子状酸素、好ましくは二酸素(O)を含むガスが、それぞれ乾燥されているか又は乾燥されていないかに関わらず、純粋な二酸素、二酸素と少なくとも1つの不活性ガスとの混合物、又は空気から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分子状酸素、好ましくは二酸素(O)の分圧が、典型的には10hPa~10MPa、好ましくは200hPa~1MPa、より好ましくは0.1MPa~5MPa、さらに好ましくは0.5MPa~5MPaである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
二酸化ルテニウムが、BET法(ISO 9277:2010)に準拠してガス吸着法によって測定して、少なくとも1m/g、好ましくは1~300m/g、より好ましくは2~200m/g、さらに好ましくは10~200m/gの比表面積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
二酸化ルテニウムが、粉末X線回折によって測定して、0.5nm~200nm、好ましくは1nm~50nm、さらに好ましくは1nm~30nmの結晶サイズを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
二酸化ルテニウムが、不活性固体材料で希釈されているか又は不活性固体材料に担持されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
バッチ式で又は連続的に、好ましくは連続的に実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1分~3時間の滞留時間で連続的に実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
用いる式(II)の化合物の質量の少なくとも20%、好ましくは20~100%、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは30~60%、さらにより好ましくは35~50%が転化されるように実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
三相固定床反応器、トリクルフロー反応器、流動床反応器、懸濁反応器、又はガス注入口を有する攪拌槽が、反応を行うために使用される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
反応温度が、75~250℃、好ましくは100~220℃、より好ましくは130~220℃、さらにより好ましくは140~200℃である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒としての二酸化ルテニウム(RuO)の存在下、液相中で第一級アルコールを酸化することによってカルボン酸を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸、特に酢酸は、非常に大きい工業的規模で生産される重要なプラットフォーム化学製品である。例えば、酢酸の年間生産量は2018年に1800万トンを超え、主に無水酢酸、エステル系溶剤(例えば酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n-ブチル及び酢酸イソブチルなど)の生産に消費され、さらには酢酸ビニルの生産に消費される。酢酸ビニルは、それ自体が、例えば接着剤、コーティング剤又は塗料に適用される汎用性の高いポリマーであるポリビニル酢酸の製造に主として使用される。
【0003】
現在、世界の酢酸生産の75%は、その豊富さと低コストから、化石メタノールをヨウ化水素添加剤の存在下の均一系触媒でカルボニル化することによって行われている。
【0004】
エタノールなどの第一級アルコールの不均一系触媒による酸化は、第一級アルコールを対応するカルボン酸に変換するための高選択的でコスト効率の高い経路を提供する。このようなプロセスでバイオエタノールなどのバイオベースの第一級アルコールを利用すれば、世界的な化学製品の価値連鎖に非化石の原料及び化学品を導入する新たなルートが可能となり、多くの大規模工業製品のエコ・フットプリントが低減され得る。
【0005】
しかし、これまでに報告された不均一系触媒による酸化の収率や選択性は、現在用いられている技術と競合するにはまだ十分ではない。
B. Jorgensen, S. Egholm Christiansen, M. L. Dahl Thomsen, C. H. Christensen, J. Catal. 2007, 251, 332-337、及びS. Mostrou, T. Sipoecz, A. Nagl, B. Foedi, F. Darvas, K. Foettinger, J. A. Van Bokhoven, React. Chem. Eng. 2018, 3, 781-789; S. Mostrou, A. Nagl, M. Ranocchiari, K. Foettinger, J. A. van Bokhoven, Chem. Commun. 2019, 55, 11833-11836には、二酸化チタンに担持された金ベース触媒が、エタノールから酢酸への酸化のために開示されている。気相中でアセトアルデヒドへの高い選択性を示す一方で、I. Sobolev, K. Y. Koltunov, O. A. Simakova, A.-R. Leino, D. Y. Murzin, Appl. Catal. A Gen. 2012, 433-434, 88-95に見られるように、このような触媒系をカルボン酸製造のために液相中で適用すると、様々な欠点に悩まされる。副産物として二酸化炭素が大量に発生し、触媒系が極めて急速に失活するため、全体の変換コストが許容できないほど高くなる。ルテニウムベースの触媒は、よりコスト効率が高く、安定した触媒であることが示されている。
【0006】
S. Muthusamiら、Tetrahedron Letters、57、2016、5551~5559は、とりわけ第一級及び第二級アルコールの酸化について、「ルテニウム触媒を用いた好気性酸化における最近の進歩」をまとめている。
【0007】
A. B. Laursen, Y. Y. Gorbanev, F. Cavalca, P. Malacrida, A. Kleiman-Schwarstein, S. Kegnaes, A. Riisager, I. Chorkendorff, S. Dahl, Appl. Catal. A Gen. 2012, 433-434, 243-250には、様々な担体上のナノ粒子混合酸化ルテニウム(RuO)触媒について報告がされており、その中で、二酸化セリウムが、試験された中で最も優れていることが判明している。しかし、選択性が低く、特に高温では望ましくない副生成物が大量に発生するため、工業的に使用すること極めて困難である。さらに、触媒の調製が難しく、最終的な活性は、調製条件、粒子径、及び選択した担体上での分布に強く依存する。ルテニウム(VI)からルテニウム(IV)への変換に伴って、触媒が容易に失活することが報告されている。
【0008】
同じことが、特に酸化セリウム上の混合水酸化ルテニウム触媒(Ru(OH))についての、Yury Y. Gorbanev, Soren Kegnaes, Christopher W. Hanning, Thomas W. Hansen, and Anders Riisager, ACS Catal. 2012, 2, 604-612の開示にも当てはまる。二酸化セリウム上に水酸化ルテニウムを2.4質量%含む触媒は、液相中での酸化において、0.23モル%の触媒を装填した状態で150℃にて3時間後に92%のエタノールの転化率及び78%の酢酸の収率を可能にするが(表2、エントリー8をご参照)、ニートの水酸化ルテニウム(表2、エントリー10)は、同じ条件下でほとんど活性を示さない。
【0009】
US 3,997,578では、三塩化ルテニウム水和物(RuClxHO)が、液相中での炭素原子数4以上の高級第一級アルコールの酸化に採用されている。しかし、この酸化は、酸化剤として化学量論量の過酸を必要とする。二酸化ルテニウムが、請求項6において代替触媒として挙げられているが、詳細については何らの言及もない。
【0010】
US 4,225,694には、エチレン性不飽和第一級及び第二級アルコールを、アルカリ性媒体中のアルカリ金属ルテナートによって酸化するプロセスが開示されている。このプロセスでは、二酸化ルテニウム(RuO)、並びにアルカリ金属の(過)ハロゲン化物及びハイポハロゲン化物を反応の間中添加して、活性なアルカリ金属ルテネートを再生する必要があるため、大規模な応用には不利である。
【0011】
H. Liu, E. Iglesia, J. Phys. B 2005, 109, 2155-2163には、気相中、担持された二酸化ルテニウム(ルテニウム4.1~4.3質量%)上での、メタノール及びエタノールのそれぞれホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドへの酸化を開示している。しかし、気相中では酢酸の生成は全く見られなかった。
【0012】
Z. Opre、J.-D. Grunwaldt, M. Maciejewski, D. Ferri, T. Mallat, A. Baiker, J. Catal. 2005, 230, 406-419には、有機溶媒中、分子状酸素によってアルコールを酸化するためのルテニウム含有ヒドロキシアパタイト(RuHAp)触媒について報告がされている。高められたRuHAp触媒の活性は、担持された白金及びパラジウムの活性に対して劣っているが、相当するアルデヒドに対するより高い選択性を提供する。この研究では、芳香族アルコールに焦点が当てられており、カルボン酸はRuHAp上では生成していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US 3,997,578
【特許文献2】US 4,225,694
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Catal. 2007, 251, 332-337
【非特許文献2】React. Chem. Eng. 2018, 3, 781-789
【非特許文献3】Chem. Commun. 2019, 55, 11833-11836
【非特許文献4】Appl. Catal. A Gen. 2012, 433-434, 88-95
【非特許文献5】Tetrahedron Letters、57、2016、5551~5559
【非特許文献6】Appl. Catal. A Gen. 2012, 433-434, 243-250
【非特許文献7】ACS Catal. 2012, 2, 604-612
【非特許文献8】J. Phys. B 2005, 109, 2155-2163
【非特許文献9】J. Catal. 2005, 230, 406-419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術、及びそこで選択された触媒及びプロセス条件に関連する個々の欠点を考慮すると、高い選択性を持ち、堅牢(robust)で耐久性のある触媒を使用した、高い空間-時間-収率を有する方法が依然として必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
式(I):
R-COOH (I)
(式中、Rは、アリール、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、アルコキシ又はアリールオキシによって1回、2回、又は3回以上任意選択でさらに置換されていてもよい、アルキルを表す。)
のカルボン酸を調製するための方法であって、
式(II):
R-CH-OH (II)
(式中、Rは、上で定義した意味を有する。)
のアルコールを、
分子状酸素、好ましくは二酸素(O)を含むガスと、
二酸化ルテニウム(RuO)の存在下、液相中で反応させる工程を少なくとも含む、方法が今や見いだされた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で使用したトリクルフロー型リアクターの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の範囲は、一般的な記載範囲内、又は好ましい記載範囲若しくは好ましい実施態様の範囲で、特定の範囲と好ましい範囲との組み合わせをも含めて、上述した及び以下に示す置換基の定義、パラメータ及び例示のすべての組合せを互いに包含する。
本明細書で使用される場合、用語「含む」、「例えば」、及び「例えば、・・・等」は、それぞれ、「含むが限定されない」又は「例えば、・・・であるが限定されない」という意味で意味される。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「液相中」は、式(II)のアルコールが、ニートで使用されるか、希釈剤又は溶媒中で使用されるかにかかわらず、二酸化ルテニウム(RuO)との接触時に選択される反応条件下で液体に維持されることを意味する。これにより、高められた温度及び高められた圧力下での実施が必要とされる場合があることは当業者には明らかである。
【0020】
本明細書で使用される場合、特に断らない限り、アルキルは直鎖状であっても、一部又は全体が環状であっても、分岐又状は非分岐状であってもよい。
【0021】
~Cアルキルという用語は、直鎖状であるか、一部又は全体が環状であるか、分岐状若しくは非分岐状であるアルキル置換基が、そのC~Cアルキル置換基に任意に存在する置換基の炭素原子を除いて1~8個の炭素原子を含むことを示す。C~Cアルキルの具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、シクロヘキシル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチルである。
【0022】
本明細書で使用される場合、特に断らない限り、アリール及びアリールオキシは、炭素環式芳香族置換基又は炭素環式アリールオキシ置換基を指し、ここで、前記炭素環式芳香族置換基又は炭素環式アリールオキシ置換基は、無置換であるか、(さらに)環当たり最大3つまでの同一又は異なる置換基で置換されている。例えば、優先的には、置換基は、フッ素、臭素、塩素、ニトロ、シアノ、C~Cアルキル、C~Cハロアルキル、C~Cアルコキシ、C~Cハロアルコキシ、C~C14アリール、特にフェニル及びナフチル、ジ(C~Cアルキル)アミノ、(C~Cアルキル)アミノ、CO(C~Cアルキル)、OCO(C~Cアルキル)、NHCO(C~Cアルキル)、N(C~Cアルキル)CO(C~Cアルキル)、CO(C~C14アリール)、OCO(C~C14アリール)、NHCO(C~C14アリール)、N(C~Cアルキル)CO(C~C14アリール)、COO-(C~Cアルキル)、COO-(C~C14-アリール)、CON(C~Cアルキル)又はCONH(C~Cアルキル)、CONH、SONH、SON(C~Cアルキル)、SO3M、及びPO(Mはアルカリ金属である)から成る群から選択される。が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用される場合、特に断らない限り、アルキルは、直鎖状であっても、一部又は全体が環状であっても、分岐状又は非分岐状であってもよい。アルコキシについても同様である。
【0024】
~Cアルキルという用語は、直鎖状であるか、一部又は全体が環状であるか、分岐状又は非分岐状であるアルキル置換基が、そのC~Cアルキル置換基に任意に存在する置換基の炭素原子を除いて1~8個の炭素原子を含むことを示す。C~Cアルキルの具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、シクロヘキシル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチルである。
【0025】
~Cアルコキシ置換基の具体例は、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ、及びtert-ブトキシである。C~Cアルコキシについての追加の例は、シクロヘキシルオキシである。
【0026】
本明細書でこれまで使用されてきたように、C~Cハロアルキル及びC~Cハロアルコキシは、ハロゲン原子によって置換されたC~Cアルキル置換基を含む。フッ素によって完全に置換されている置換基は、それぞれC~Cパーフルオロアルキル及びC~Cパーフルオロアルコキシと称される。
【0027】
好ましい実施態様において、Rは、アルコキシで1回置換されているか又は置換されていないC~Cアルキルを表す。
さらなる好ましい実施態様において、Rはメチル、n-プロピル又はイソプロピルであり、式(I)の好ましい化合物は、酢酸、酪酸及びイソ酪酸であり、それぞれエタノール、n-ブタノール及びイソ-ブタノールから調製されることを意味する。
【0028】
1つの実施態様では、式(II)の出発化合物としてのエタノール、n-ブタノール及びイソ-ブタノールは、再生可能な供給源、例えば酵母及び細菌による単糖類の発酵から調製される。
【0029】
式(II)の非常に好ましい化合物は、エタノールであり、エタノールは酢酸に変換される。
所望の反応温度で液体である限りにおいて、式(II)の化合物は、ニートの形態で適用されても、酸化され難いか又は実質的に酸化され難い溶媒中の形態で適用されてもよい。
【0030】
より詳細には、エタノール等の式(II)の水混和性化合物を用いる場合、それらは0.5~95体積%、好ましくは1~90体積%、より好ましくは2~50体積%、さらに好ましくは5~20体積%の濃度で水性溶液として使用することができる。
【0031】
再生可能な資源、例えば酵母及び細菌による単糖類の発酵から調製される化合物であるエタノール、n-ブタノール又はiso-ブタノールを用いる場合、発酵から固体成分を除去した後の粗濾過物を使用することもできる。エタノールの場合、そのような濾過物は、典型的には、10~18体積%のエタノールを含んでいる。
【0032】
式(II)の化合物は、分子状酸素、好ましくは二酸素(dioxygen)(O)を含むガス(gas)と反応させる。1つの実施態様では、ガスには、純粋な二酸素、二酸素と窒素又は希ガスなどの少なくとも1つの不活性ガスとの混合物、又は空気が、それぞれが乾燥されているか否かにかかわらず含まれる。非常に好ましい実施態様では、分子状酸素を含むガスとして、空気を用いる。
【0033】
分子状酸素、好ましくは二酸素(O)の分圧は、典型的には、10hPa~10MPa、好ましくは200hPa~1MPa、より好ましくは0.1MPa~5MPa、さらに好ましくは0.5MPa~5MPaである。より高い圧力も可能であるが、出願人の知る限りでは、何らの利点も追加されない。
【0034】
本発明による方法は、二酸化ルテニウムの存在下で実施される。
二酸化ルテニウムは、非晶質材料又は結晶性材料として採用することができ、ここで、結晶性材料は、典型的には、粉末X線回折において、約28.5°2θに最も強い反射を有しかつ約35.5°2θ及び54.5°2θにさらに二つの特徴的な反射を有するルチル構造を示す。
【0035】
有利には、二酸化ルテニウムは、ガス吸着-BET法(ISO 9277:2010)によって測定して、少なくとも1m/g、好ましくは1~300m/g、より好ましくは2~200m/g、さらに好ましくは10~200m/gの比表面積を有する。
【0036】
有利には、二酸化ルテニウムは、実験部における所与の手順に従って粉末X線回折によって測定される、0.5nm~200nm、好ましくは1nm~50nm、さらに好ましくは1nm~30nmの結晶サイズを有する。
【0037】
フローリアクターにおいて用いられる場合、二酸化ルテニウムは、炭化ケイ素(SiC)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、二酸化ジルコニウム、ゼオライト、チタン複合酸化物、ジルコニウム複合酸化物、アルミニウム複合酸化物、又は他の不活性固体希釈剤若しくは担体材料などの材料で希釈(すなわち物理的に混合)されていても、それらの材料上に担持されていてもよい。
【0038】
二酸化ルテニウムが担体材料上で使用される場合、二酸化ルテニウムの含有量は、特に触媒材料の高い機械的安定性が要求される場合、20質量%未満、例えば1~20質量%、好ましくは1~5質量%であることが望ましい。別の実施態様では、さらなる触媒活性成分を添加することもでき、そのようなさらなる成分の例としては、パラジウム化合物、銅化合物、クロム化合物、バナジウム化合物、アルカリ金属化合物、希土類化合物、マンガン化合物、及びアルカリ土類化合物が挙げられる。このようなさらなる成分の量は、通常、担体材料を基準として0.1~10質量%である。
【0039】
二酸化ルテニウムは、例えば、RuC1の水性溶液に水酸化アルカリを加え、それによって水酸化ルテニウムを沈殿させ、沈殿物を洗浄し、次いで大気中で焼成することによって調製することができる。
担体材料は、例えば、粒径0.001~0.1mmの粉末の形態、粒径0.05~5mmの粉砕物及び篩い分け物の形態で使用することができる。
【0040】
この場合、触媒材料中の二酸化ルテニウムの量は、例えば0.1~35質量%、好ましくは1~10質量%であってよい。
【0041】
本明細書に記載の方法における二酸化ルテニウムの使用は、これまで報告されていない。したがって、本発明は、分子状酸素、好ましくは二酸素(O)を含むガスを用いて式(II)の化合物を液相中で酸化することによって式(I)の化合物を製造するための、二酸化ルテニウムの使用をも包含する。
【0042】
本発明による方法は、バッチ式で、あるいは連続的に行うことができ、連続的に行うことが好ましい。
【0043】
バッチ式の方法では、式(II)の化合物の二酸化ルテニウムに対する質量比は、典型的には、250~4000、好ましくは500~1500である。反応時間は、典型的には、15分~24時間、好ましくは1時間~12時間である。
【0044】
連続的な方法では、処理量は、典型的には、式(II)の化合物の二酸化ルテニウムに対する質量比が、1時間当たり典型的には50から4000、好ましくは100から1500になるように選択される。
【0045】
滞留時間は、例えば1分~3時間、好ましくは3分~60分である。
【0046】
連続的方法における二酸化ルテニウムの耐用年数は、1時間~2000時間又はそれ以上である。著しい劣化や不活性化は観察されなかった。
【0047】
反応は、最初の対応するアルデヒドへの酸化、その後の式(I)の所望のカルボン酸への酸化の2段階を経て進行するため、式(I)のカルボン酸へのより高い選択性は、実験部で見ることができるように、いくらかより多い時間を必要とし、温度に強く依存する。
【0048】
1つの実施態様では、反応は、採用した式(II)の化合物の質量の少なくとも20%、好ましくは20~100%、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは30~60%、さらにより好ましくは35~50%が転化されるように行われる。
【0049】
1つの実施態様では、反応は、二酸化ルテニウム1g及び1時間当たり0.5~20.0g、好ましくは0.5~5.0g、より好ましくは0.5~3.0gの酢酸が生成されるように実施される。本発明による方法は、例えば、当業者に公知の三相反応を可能にする任意の反応器、すなわち三相固定床反応器、トリクルフロー反応器(例えばトリクル層又はトリクルベッド反応器)、流動床反応器、又は懸濁反応器(例えば気泡塔反応器)、又はガス注入口を有する撹拌タンクで実施することができる。好ましい実施態様では、反応はトリクルフロー反応器内で行われる。
【0050】
本発明による方法は、例えば、75~250℃、好ましくは100~220℃、より好ましくは130~220℃、さらにより好ましくは140~200℃の反応温度で実施される。
【0051】
本発明の利点は、液相中で二酸化ルテニウムを触媒として用いる本発明による方法により、高い選択性、高い質量時間空間速度、したがって良好な空間時間収率で、式(I)の所望のカルボン酸を得ることが可能になり、かつ、長期の反応時間後でも高いロバスト性(robustness)を示すことである。
【0052】
以下の実施例は、本発明を例示するためのものであるが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0053】
実験部-実施例
一般的事項
A)RuO触媒
ここで使用したRuO触媒は、商業的に入手した以下のもの:
1)Acros Organics社製、純度99.5+%、X線回折により測定した結晶サイズtが27.0nm、比表面積SBETが17m/gのもの(以下RuO-タイプ1と称する)、
2)Alfa Aesar社製、純度99.95%、X線回折により測定した結晶サイズtが1.5nm、比表面積SBETが107m/gのもの(以下RuO-タイプ2と称する)、又は、
3)前述の2)のRuO触媒から、
RuO-タイプ2を823Kの温度で5時間焼成して、X線回折により測定した結晶サイズtが31.3nm、比表面積SBETが2.8m/gの二酸化ルテニウムを製造すること、
によって導出したもの(以下、RuO-タイプ3と称する)、
である。
【0054】
注釈:
比表面積は、ガス吸着-BET法(ISO 9277:2010)によって測定した。
結晶サイズtは、ソフトウェアTOPAS 6を用いてブラッグ反射をガウス関数及びローレンツ関数にフィッティングした後、X線回折の約54.5°2θの反射により評価した[A. A. Coelho, J. Appl. Crystallogr. 2018, 51, 210-218]。半値全幅を、これらのフィッティングからデコンボリューションし、P. Scherrer, Kolloidchem. Ein Lehrbuch (Ed.: R. Zsigmondy), Springer Berlin Heidelberg, Berlin, Heidelberg, 1912, pp.387-409に開示されている方法に従って、Scherrer方程式を用いて結晶サイズを計算した。X線回折パターンは、Cu(Kα)線放射で作動するPANalytical X´Pert PRO-MPD回折計で取得した。データは、10-70°2θの範囲で、0.050°の角度ステップサイズ及び1ステップあたり2秒の計数時間で記録した。
【0055】
B) 反応器
実験を、特注のトリクルフロー型リアクターで行った。
図1は、その簡略図である。数字は以下を示す。
1 反応器
2 金属板ヒーター
3 触媒層
4 酸素ボンベ
5 エタノール供給装置
6a 高圧液体クロマトグラフィー用ポンプ
6b マスフローコントローラ
7 背圧レギュレータ
8 生成物回収装置
【0056】
反応器を以下のように操作した。
酸素(PanGas、99.999%)は、20barで酸素流量用に校正されたBronkhorst社製のマスフローコントローラ6bを介して酸素ボトル4から供給した(4)。液体流(5±0.3質量%のエタノール溶液(Fluka、>99.8%))は、チタン製10mlポンプヘッド6aを備えたKNAUER AZURA(登録商標)P 4.1S高圧液体クロマトグラフポンプによってエタノールリザーバー5から導入した。これらの2つの相を、Swagelok 1/8”ステンレス鋼チューブを介して反応器1へ合わせて導入した。反応器1に入る前に、反応物流を約120℃に予熱した。触媒層3(SiCで1:1に希釈した150±0.1mgの触媒)を、内径4mmのステンレス鋼チューブ(反応器)内に石英ウールで固定した。触媒層は、外径約1.5の中空ステンレス鋼ロッドによって加熱領域の中央で安定化し、一定の高さと最小の背圧(最高で0.2barまで)を確保した。特注の金属製プレートヒーター2によって反応器を加熱し、温度コントローラー(TC)によって制御した。PTFEガラスラミネートダイアフラムを備えたEquilibar(登録商標)U3Lシリーズ精密背圧レギュレータ7によって、反応系の圧力を維持した。背圧レギュレータ7はBronkhorst社のプロセス圧力コントローラEL-PRESS P-802CV(PC)によって制御した。流量,ヒーター温度,及び背圧制御装置の圧力は全て、特注のLabVIEW(登録商標)プログラムで記録及び制御した。触媒層の温度は、K型熱電対で記録した。反応系の圧力は、KellerデジタルマノメーターdV-2 PSを使用して反応器の前で記録した。生成物の流れを生成物回収装置8に集め、ドライアイス-水浴によって280K未満に冷却し、サンプリングに備えた。
【0057】
特に断りのない限り、プロセス条件は以下の通りであった。
反応圧力 17±1.0
温度(℃) 150±3
二酸化ルテニウムの質量(mg) 150±2
二酸化ルテニウムのSiCとの希釈比 1:1
エタノール濃度(質量%) 5±0.3
酸素純度(体積%) 100
液体流量(mL/分) 0.3
ガス流量(mL/分) 5
滞留時間(分) 5.5
製品冷却温度(K) 288±2
【0058】
C) 製品の分析
液体生成物は、炎イオン化検出器(FID)を備えたAgilent 7890Aガスクロマトグラフ装置によって分析した。0.5μLの試料を343Kで注入し,2mL/分のヘリウム流でカラムDB-WAXに流した。カラムの温度は2分間313Kで一定とし、その後8K/分で409Kまで加熱した。FIDには、573Kで400mL/分の空気中に30mL/分の水素を混合して供給した。各化合物のシグナルを較正し、定量に用いる較正線は、線形回帰で決定した。
【0059】
化合物の定量値を使用して、エタノールの転化率(X)、及び生成物の選択性(S)を求めた。式中、EtOHはエタノールであり、AcOHは酢酸である。
X(%)=EtOHin (EtOHmol/l)in-EtOH(mol/lout) (mol/l) x 100%
SAcOH (%)=EtOHin (AcOHmol/lout)-EtOH(mol/lout) (mol/l) x 100%
【0060】
実施例1~8
実施例1~8は、触媒としてSiCで希釈(1:1)したRuO-タイプ1を用い、上述したセットアップを使用して、様々な温度で実施した。
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
これらの結果から、酢酸への選択性は、この実験セットアップで170℃の温度で達成されるエタノールの約35%以上の転化率で、ほぼ定量的であることが分かる。
【0063】
実施例9~11
実施例9から11は、SiCで希釈(1:1)した様々な種類の二酸化ルテニウムを用い、上述のセットアップを使用して、150℃で実施した。
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例12
実施例12は、SiCで希釈(1:1)した二酸化ルテニウム-タイプ1を用い、上述のセットアップを使用して、150℃で24時間以上の間実施した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3から、この触媒は経時的に安定しており、実質的に失活しないことが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・反応器
2・・・金属板ヒーター
3・・・触媒層
4・・・酸素ボンベ
5・・・エタノール供給装置
6a・・・高圧液体クロマトグラフィー用ポンプ
6b・・・マスフローコントローラ
7・・・背圧レギュレータ
8・・・生成物回収装置
図1
【国際調査報告】