(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】生分解性ポリイミダゾリウムおよびオリゴイミダゾリウム
(51)【国際特許分類】
C07D 233/61 20060101AFI20230627BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230627BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230627BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230627BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230627BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20230627BHJP
A61K 31/787 20060101ALI20230627BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20230627BHJP
A61K 8/90 20060101ALI20230627BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230627BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230627BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20230627BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20230627BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20230627BHJP
C08L 79/04 20060101ALI20230627BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230627BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230627BHJP
A01N 43/50 20060101ALI20230627BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C07D233/61 103
C07D233/61 CSP
A61P31/00
A61P17/02
A61P43/00 105
A61P31/04
A61K31/4178
A61K31/787
A61K8/49
A61K8/90
A61K47/22
A61K47/34
A61L29/08
A61L29/08 100
A61L29/16
C08G73/06
C08L79/04 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N43/50 F
A01N61/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572733
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 SG2021050290
(87)【国際公開番号】W WO2021242174
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】10202004902P
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504161939
【氏名又は名称】ナンヤン・テクノロジカル・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ビー イン メアリー
(72)【発明者】
【氏名】マハデベゴウダ,スレンドラ ヒッタナホール
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】ランブ,マリカルジュナ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】リィ,ジャンホア
(72)【発明者】
【氏名】シ,ジャンヨン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C083
4C086
4H011
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4C076DD60R
4C076EE24R
4C076EE26R
4C076FF39
4C081AC08
4C081BA14
4C081BA16
4C081CA202
4C081CA212
4C081CC02
4C081CE01
4C081DA03
4C081DC03
4C083AD131
4C083CC01
4C083EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC38
4C086FA03
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB21
4C086ZB31
4C086ZB35
4H011AA02
4H011BB09
4H011BB19
4H011DH06
4J002CM021
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD070
4J002FD186
4J002FD310
4J002GB00
4J043PA02
4J043PA04
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4J043PB08
4J043PC016
4J043QB15
4J043QB44
4J043RA41
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4J043SB01
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4J043TA09
4J043TB02
4J043UA761
4J043UA762
4J043UA771
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4J043UA782
4J043UA791
4J043XA15
4J043XA19
4J043XB03
4J043XB27
4J043XB35
4J043YA30
4J043YB18
4J043YB21
4J043YB31
4J043ZA60
4J043ZB60
(57)【要約】
本明細書に開示されるのは、イミダゾリウム基から形成される繰返し単位と、隣接する繰返し単位に結合する生分解性鎖とをすべて組み込む繰返し単位を有する、ポリマー、オリゴマーおよび定義された分子の形態の化合物である。本明細書に開示される化合物は、抗菌活性を有し得るため、微生物感染を治療するために、および/または微生物感染症を防止するために表面を処理するために使用し得る。化合物を形成する方法も本明細書に開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾリウム基を含む第1繰返し単位と、隣接する繰返し単位に結合する生分解性鎖とを含んで成る、ポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物。
【請求項2】
前記繰返し単位のみが前記第1繰返し単位である、請求項1に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項3】
前記ポリマーまたはオリゴマーは、イミダゾリウム基および非生分解性アルキル鎖または隣接する繰返し単位に結合するさらなる生分解性アルキル鎖を含む第2繰返し単位をさらに含んで成り、任意に、前記ポリマーまたはオリゴマーは、イミダゾリウム基および隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖を含む第2繰返し単位をさらに含んで成る、請求項1に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項4】
以下:
(a)前記ポリマーまたはオリゴマーは、例えば、5~60モル%のような、例えば、10~50モル%のような、例えば、20~30モル%のような1~75モル%の前記第1繰返し単位を含んで成り、ならびに
(b)前記ポリマーまたはオリゴマーの前記繰返し単位は、ランダムに分布しているか、または前記繰返し単位がブロックとして形成されており、任意に、前記ポリマーまたはオリゴマーの前記繰返し単位がランダムに分布している、
の1または複数にあてはまる、請求項3に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項5】
前記第1繰返し単位における前記生分解性鎖は、1または複数の生分解性官能基を含んで成り、前記1または複数の生分解性官能基は、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1または複数より選択され、任意に、
(ai)前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(aii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(aiii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドである、
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項6】
前記数平均分子量は、例えば、900~5,000ダルトンのような、例えば、1,000~3,000ダルトンのような、例えば、1,000~2,000ダルトンのような800~10,000ダルトンである、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項7】
前記ポリマーまたはオリゴマーは、式I:
【化1】
[前記式I中、
xは、0.01~1.0であり、
Y
-は、カウンターイオンであり、
oは、0~10であり、
pは、1~12であり、
qは、0~14であり、
rは、0~12であり、
Dは、生分解性官能基であり、
D’は、生分解性官能基または結合であり、
各R
1は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体であり、
各tは、0、1または2であり、
各t’は、0、1または2であり、
各R
2は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体である]
を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物。
【請求項8】
以下:
(bi) 各Dは、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され、任意に、
(aa) 各Dは、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物、およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ab) 各Dは、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(ac) 各Dは、カーボネートエステルおよびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され(例えば、各Dはアミドである)、
(bii) 各D’は、結合、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され、任意に
(ad) 各D’は、結合、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物、およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ae) 各D’は、結合、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(af) 各D’は、結合およびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ag) 各D’は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ah) 各D’は、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ai) 各D’は、アミドであり、
(biii) Y
-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、任意に、Y
-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、
(biv) xは、例えば、0.025~0.75のような、例えば、0.05~0.6のような、例えば、0.1~0.5のような、例えば、0.2~0.3のような0.01~1.0であり、
(bv) tおよびt’は、0であり、
(bvi) pは、1~6であり、ならびに
(bvii) rは、1~6である、
の1または複数があてはまる、請求項7に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項9】
前記ポリマーは、
【化2】
から成る群より選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【請求項10】
オリゴマーの繰返し単位の第1ブロック、ここで、各繰返し単位は、イミダゾリウム基と、隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、
オリゴマーの繰返し単位の第2ブロック、ここで、各繰返し単位は、イミダゾリウム基と、隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックとともに結合する連結基、ここで前記連結基は1もしくは複数の生分解性官能基を含む、
を含んで成る、分子またはその薬学的に許容される溶媒和物。
【請求項11】
前記1または複数の生分解性官能基は、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1または複数より選択され、任意に
(ci) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(cii) 前記1または複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ciii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドおよびカーボネートエステルの一方もしくは両方より選択され、または
(civ) 前記1もしくは複数の生分解性官能基はアミドである
、請求項10に記載の分子。
【請求項12】
前記分子量は、1,000ダルトン~5,000ダルトンであり、任意に前記分子量は1,000ダルトン~4,000ダルトンである、請求項10または請求項11に記載の分子。
【請求項13】
前記分子は、式II:
【化3】
[前記式II中、
各mは、独立に、1~8であり、
各Y
-は、カウンターイオンであり、
n’は、0~12であり、
各o’は、独立に、0~20より選択され、
各p’は、独立に、0~12より選択され、
各p’’は、独立に、0~12より選択され、
各Tは、独立に、アミン、アンモニウム、グアニジニウム、ビスグアニジニウム、アルキルおよびアリールより選択される末端官能基であり、
各Dは、生分解性官能基もしくはその薬学的に許容される溶媒和物である]
を有する、請求項10~12のいずれか1項に記載の分子。
【請求項14】
以下:
(di) 各Dは、独立に、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群より選択され、任意に、
(ba) 各Dは、独立に、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(bb) 各Dは、独立に、カルバメートもしくは、より具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(bc) 各Dは、アミドであり、
(dii) Y
-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、任意にY
-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、
(dii) p’’は、0~6である、
の1または複数があてはまる、請求項13に記載の分子。
【請求項15】
前記分子が、
【化4】
から成る群より選択される、請求項10~14のいずれか1項に記載の分子。
【請求項16】
医療での使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物、および/または請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物。
【請求項17】
微生物感染症を含んで成る疾患を治療するための医薬品の製造における、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物および/または請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物の使用。
【請求項18】
微生物感染症を含んで成る疾患の治療に使用するための、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物および/または請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物。
【請求項19】
微生物感染症を含んで成る疾患の治療方法であって、治療的に有効な量の請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物ならびに/または治療的な有効な量の請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物を、必要とする対象に投与するステップを含んで成る方法。
【請求項20】
請求項17に記載のポリマーまたはオリゴマーまたは分子、請求項18に記載の使用のための前記ポリマーまたはオリゴマーまたは分子、および請求項19に記載の方法の使用であって、
前記微生物感染症が感染した傷または嚢胞性線維症である、使用。
【請求項21】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物、ならびに/または請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物を含んで成る、防腐配合物。
【請求項22】
表面を有する物品であって、前記表面が、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物ならびに/または請求項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物でコートされ、抗菌特性を有する前記物品の前記表面を付与し、任意に前記物品は尿道カテーテルである、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ポリイミダゾリウムおよびオリゴイミダゾリウム、ならびに同様の特徴を有する定義された分子の分野に関する。これらの分子はすべて、生体内での分解を可能にする分解性(特に生分解性)部分を含んでいる。これらの分子は、微生物感染の治療に有用であるか、または(例えば、パーソナルケア製品または表面上で)抗菌剤として作用する可能性がある。
【背景技術】
【0002】
本明細書における以前に公開された文書のリストまたは考察は、必ずしもその文書が最新技術の一部であること、または一般的な知識であることを認めていると見なされるべきではない。
【0003】
多剤耐性(MDR)病原体の出現および拡散は、世界にとって大きな懸念事項である。最近、世界保健機関(WHO)は、カルバペネム耐性アシネトバクター バウマニ(CRE-AB)、カルバペネム耐性緑膿菌(CRE-PA)、および拡張スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)-産生カルバペネム耐性腸内細菌(CRE-EB)を含む最も問題のあるスーパーバグに対する新しい抗菌剤の開発を呼びかけた(世界保健機関(WHO)新しい抗生物質の研究、発見、開発を導くための抗生物質耐性菌の世界的な優先リスト2017)。
【0004】
抗菌ペプチド(AMP)は、多剤耐性(MDR)細菌の治療に有望な候補であると考えられている。AMPの基本的な設計要素には、疎水性と、細菌の細胞膜を破壊するための荷電残基(通常、細菌細胞表面との相互作用を可能にするカチオン性残基)の領域が含まれる(Ganewatta,M.S.et al.,Polymer c2015,63,A1-A29)。しかしながら、AMPの開発は、薬物動態特性が低い、体液中での安定性が低い、選択性が低いことによる哺乳動物細胞への毒性、および従来の抗生物質と比較して一般に最小発育阻止濃度(MIC)が一般に高いことによって妨げられることがよくある。それにもかかわらず、例えば、環状リポペプチド(例えば、ポリミキシン)のような天然の複合AMPは、治療が困難なグラム陰性菌感染症に対して臨床的に使用されている。しかしながら、それらの高いコストおよび毒性により、最後に頼りになる代替手段としての使用が大幅に制限される。抗菌ペプチドの1つであるコリスチンは、膜の完全性を破壊する能力によって細菌を殺すと考えられているため、最後に頼りになる代替手段の抗生物質としての使用が最近増加している(Velkov,T.et al., J.Med.Chem.2010,53,1898-1916)。しかしながら、コリスチンは静脈内投与を必要とし、腎毒性がある(Javan,A.O.et al.,Eur.J.Clin.Pharmacol. 2015,71,801-810)。
【0005】
ペプチドに加えて、合成ポリマーは、その高い抗菌力により消毒剤として広く使用されている。これらのポリマーのほとんどは、フリーラジカル重合(FRP)、開環重合(ROP)、および後官能基化によって合成され、これらには、多くの場合、複数のステップ、困難な精製、有機溶媒の使用が含まれ、スケールアップが困難である。これらの抗菌ポリマーは、通常、限られた範囲の抗菌効果で高度の毒性を示す。
【0006】
したがって、特性が改善された新しいAMP様類似体を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】世界保健機関(WHO)新しい抗生物質の研究、発見、開発を導くための抗生物質耐性菌の世界的な優先リスト2017
【非特許文献2】Ganewatta,M.S.et al.,Polymer 2015,63,A1-A29
【非特許文献3】Velkov,T.et al., J.Med.Chem.2010,53,1898-1916
【非特許文献4】Javan,A.O.et al.,Eur.J.Clin.Pharmacol. 2015,71,801-810
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
ここで、本発明の態様および実施形態を、以下の番号付きの項を参照して説明する。
【0009】
項1.
イミダゾリウム基を含む第1繰返し単位と、隣接する繰返し単位に結合する生分解性鎖とを含んで成る、ポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物。
【0010】
項2.
前記繰返し単位のみが前記第1繰返し単位である、項1に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0011】
項3.
前記ポリマーまたはオリゴマーは、イミダゾリウム基および非生分解性アルキル鎖または隣接する繰返し単位に結合するさらなる生分解性アルキル鎖を含む第2繰返し単位をさらに含んで成り、任意に、前記ポリマーまたはオリゴマーは、イミダゾリウム基および隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖を含む第2繰返し単位をさらに含んで成る、項1に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0012】
項4.
以下:
(a)前記ポリマーまたはオリゴマーは、例えば、5~60モル%のような、例えば、10~50モル%のような、例えば、20~30モル%のような1~75モル%の前記第1繰返し単位を含んで成り、ならびに
(b)前記ポリマーまたはオリゴマーの前記繰返し単位は、ランダムに分布しているか、または前記繰返し単位がブロックとして形成されており、任意に、前記ポリマーまたはオリゴマーの前記繰返し単位がランダムに分布している、
の1または複数にあてはまる、項3に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0013】
項5.
前記第1繰返し単位における前記生分解性鎖は、1または複数の生分解性官能基を含んで成り、前記1または複数の生分解性官能基は、尿素(ユリア)、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル(炭酸エステル)、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1または複数より選択され、任意に、
(ai) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(aii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(aiii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドである、
項1~4のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0014】
項6.
前記数平均分子量は、例えば、900~5,000ダルトンのような、例えば、1,000~3,000ダルトンのような、例えば、1,000~2,000ダルトンのような800~10,000ダルトンである、項1~5のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0015】
項7.
前記ポリマーまたはオリゴマーは、式I:
【化1】
[前記式I中、
xは、0.01~1.0であり、
Y
-は、カウンターイオン(対イオン)であり、
oは、0~10(例えば、1~5のような0~6)であり、
pは、1~12であり、
qは、0~14(例えば、0~6)であり、
rは、0~12であり、
Dは、生分解性官能基であり、
D’は、生分解性官能基または結合であり、
各R
1は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体であり、
各tは、0、1または2であり(例えば、tは、0または1であり)、
各t’は、0、1または2であり(例えば、t’は、0または1であり)、
各R
2は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体である]
を有する、項1~6のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物。
【0016】
項8.
以下:
(bi)各Dは、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され、任意に、
(aa) 各Dは、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ab) 各Dは、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(ac) 各Dは、カーボネートエステルおよびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され(例えば、各Dはアミドである)、
(bii) 各D’は、結合、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され、任意に
(ad) 各D’は、結合、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ae) 各D’は、結合、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(af) 各D’は、結合およびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ag) 各D’は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ah) 各D’は、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ai) 各D’は、アミドであり、
(biii) Y-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、任意に、Y-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、
(biv) xは、例えば、0.025~0.75のような、例えば、0.05~0.6のような、例えば、0.1~0.5のような、例えば、0.2~0.3のような0.01~1.0であり、
(bv) tおよびt’は、0であり、
(bvi) pは、1~6であり、ならびに
(bvii) rは、1~6である、
の1または複数があてはまる、項7に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0017】
項9.
前記ポリマーは、
【化2】
から成る群より選択される、項1~8のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマー。
【0018】
項10.
オリゴマーの繰返し単位の第1ブロック、ここで、各繰返し単位は、イミダゾリウム基と、隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、
オリゴマーの繰返し単位の第2ブロック、ここで、各繰返し単位は、イミダゾリウム基と、隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックとともに結合する連結基、ここで前記連結基は1もしくは複数の生分解性官能基を含む、
を含んで成る、分子またはその薬学的に許容される溶媒和物。
【0019】
項11.
前記1または複数の生分解性官能基は、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1または複数より選択され、任意に
(ci) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(cii) 前記1または複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、
(ciii) 前記1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドおよびカーボネートエステルの一方もしくは両方より選択され、または
(civ) 前記1もしくは複数の生分解性官能基はアミドである
、項10に記載の分子。
【0020】
項12.
前記分子量は、1,000ダルトン~5,000ダルトンであり、任意に前記分子量は1,000ダルトン~4,000ダルトンである、項10または項11に記載の分子。
【0021】
項13.
前記分子は、式II:
【化3】
[前記式II中、
各mは、独立に、1~8(例えば、1~6)であり、
各Y
-は、カウンターイオンであり、
n’は、0~12であり、
各o’は、独立に、0~20より選択され、
各p’は、独立に、0~12(例えば、0~6)より選択され、
各p’’は、独立に、0~12(例えば、0~6)より選択され、
各Tは、独立に、アミン、アンモニウム、グアニジニウム、ビスグアニジニウム、アルキルおよびアリールより選択される末端官能基であり、
各Dは、生分解性官能基もしくはその薬学的に許容される溶媒和物である]
を有する、項10~12のいずれか1項に記載の分子。
【0022】
項14.
以下:
(di) 各Dは、独立に、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群より選択され、任意に、
(ba) 各Dは、独立に、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され、
(bb) 各Dは、独立に、カルバメートもしくは、より具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され、または
(bc) 各Dは、アミドであり、
(dii) Y-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、任意にY-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、
(dii) p’’は、0~6である(p’’は、0である)、
の1または複数があてはまる、項13に記載の分子。
【0023】
項15.
前記分子が、
【化4】
から成る群より選択される、項10~14のいずれか1項に記載の分子。
【0024】
項16.
医療での使用のための、項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物、および/または項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物。
【0025】
項17.
微生物感染症を含んで成る疾患を治療するための医薬品の製造における、項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物および/または項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物の使用。
【0026】
項18.
微生物感染症を含んで成る疾患の治療に使用するための、項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物および/または項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物。
【0027】
項19.
微生物感染症を含んで成る疾患の治療方法であって、治療的に有効な量の項1~9のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物ならびに/または治療的な有効な量の項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはその薬学的に許容される溶媒和物を、必要とする対象に投与するステップを含んで成る方法。
【0028】
項20.
項17に記載のポリマーまたはオリゴマーまたは分子、項18に記載の使用のための前記ポリマーまたはオリゴマーまたは分子、および項19に記載の方法の使用であって、
前記微生物感染症が感染した傷または嚢胞性線維症である、使用。
【0029】
項21.
項1~9のいずれか1項に記載のポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物、ならびに/または項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物を含んで成る、防腐配合物。
【0030】
項22.
表面を有する物品であって、前記表面が、項1~9のいずれか1項に記載のポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物ならびに/または項10~15のいずれか1項に記載の分子もしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物でコートされ、抗菌特性を有する前記物品の前記表面を付与し、任意に前記物品は尿道カテーテルである、物品。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図面
【
図1】実験で合成および使用されたポリイミダゾリウム(PIM)の化学構造。各PIMの繰返しサブ単位の数は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって見積もられた。
【
図2】
図2は、(A)緑膿菌PAO1、ならびに(B)PIM1を添加しなかった対照(コントロール)群と比較して、PIM1で処理(治療)したMRSA LAC
*(各細菌種のMICの0.5~4倍)の生存能力(増殖能力)を示している。細胞をMHBにおいて37℃でインキュベートし、示された時間にサンプリングした。細胞数は、プレート計数により、mLあたりのコロニー形成単位(CFU)として決定した。
【
図3】
図3は、緑膿菌PAO1細胞のヨウ化プロピジウム(PI)染色を示している。(A)対照細胞(抗生物質なし)、(B)コリスチン(MICの1倍)で処理した細胞、(C)PIM1(MICの1倍)で処理した細胞、ならびに(D)フローサイトメトリーによって決定されたように示された濃度で、PIM1(青、左のバー)またはコリスチン(オレンジ、右のバー)に曝露されたヨウ化プロピジウム(PI)陽性細胞の百分率、の蛍光顕微鏡画像。細胞は、顕微鏡検査またはフローサイトメトリーの前に、示された抗生物質の存在下で1時間インキュベートした。
【
図4】
図4は、増加する濃度のPIM1、イオノフォア グラミシジンまたは抗生物質ゲンタマイシンにさらされた緑膿菌PAO1細胞の細胞膜電位(ΔΨ)の相対レベルを示している。相対膜電位は、ΔΨ感受性蛍光膜プローブDiS-C3-(5)を使用して評価した。DiS-C3-(5)蛍光の増加は、ΔΨの散逸に対応する。イオノフォアグラミシジンはΔΨを崩壊させることが知られている制御剤であり、抗生物質ゲンタマイシンは取り込みにΔΨを必要とするが、ΔΨを散逸させない。試験化合物の添加から30分後に示された相対色素蛍光値は、(小さな)標準偏差を有する4つの試験(それぞれ2回の実行から)の平均であった。
【
図5】
図5は、緑膿菌PAO1によるPIM1-FTICコンジュゲートの取り込みならびに、PIM1活性および膜電位の関係を示している。(A)メンブレン色素FMTM4-64FXで染色した対照細胞(PIM1なし)の蛍光顕微鏡像、(B)PIM1-FITC(MICの1倍)で処理し、FMTM4-64FXで染色した細胞の蛍光顕微鏡画像、(C)さまざまなpHを調整したMHBにおける緑膿菌に対するPIM1のMIC
90(μg/mL)、ならびに(D)バリノマイシン(左のバー)またはニゲリシン(右のバー)の存在下での緑膿菌PAO1に対するPIM1のMIC
90(μg/mL)。
【
図6】
図6は、PIM1による緑膿菌PAO1殺菌に対する代謝状態の影響を示している;(A)PIM1、CSTまたはGENへの4時間の曝露後の静止期(または定常期;stationary-phase)(Sta)細菌および対数期(Log)細菌の生存、ならびに(B)静止期細菌の生存に対するフマル酸(15mM)の影響。Sta-PIM1、Sta-CST、およびSta-GENの同じ結果がAおよびBで使用した。
【
図7】
図7は、(A)緑膿菌PAO1および(B)MRSA LAC
*における抗生物質耐性の進化を示している。緑膿菌は、異なる濃度のPIM1またはシプロフロキサシンを含むMHBおよびMRSAで増殖させた。最高濃度の抗生物質で目に見える増殖を示す細菌を毎日移した。データは、増殖が観察された最高の抗生物質濃度として報告され、1日目のMIC
90に対する濃度の増加倍数として示された。
【
図8】
図8は、皮膚創傷感染症のPIM1治療を示している。創傷は、汎抗生物質耐性の緑膿菌PAERに感染し、5mg/kgのイミペネム(緑膿菌PAERはイミペネム耐性)、または0.1、1、5または10mg/kgのPIM1で4時間治療された。細菌数はプレート計数によって決定され、個々のマウスのデータが報告された。水平線は平均値を示し、バーは±SDを示す。
*P<0.05、
**P<0.01、およびnsはP>0.05を示す。
【
図9】
図9は、PIM1DではなくPIM1に明らかな毒性があることを示す;(A)単回6mg/kgのPIM1(0日目)または15mg/kgのPIM1Dを1週間(0~6日目)腹腔内(IP)注射で投与して治療したマウスの体重。各群には5匹のマウスが存在した。(B)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、(C)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、(D)15mg/kgのPIM1Dを毎日7日間投与して治療したマウスの血液中の血中窒素尿素(BUN)レベル。生理食塩水溶液のモック注射を与えられたマウスの血液は、最初の注射の直前および1日後に採取された。PIM1D治療マウスの血液は、最初の注射の投与から1、3および7日後に採取された。各群には5匹のマウスが存在しており、個々のマウスのデータならびに平均値および標準偏差が示されている。
【
図10】
図10は、アミド組み込み分解性PIM1D合成の概略図を示す:(A)分解性ジアミンAの合成スキーム、ならびに(B)アミドを組み込み分解性PIM1Dの合成スキーム(nは実際の数平均重合度であり、xは分解性繰返し単位のモル分率であり、nは約10であり、xは20~30%である)。
【
図11】
図11は、PIM1Dが、緑膿菌PAO1、MDR緑膿菌(PAER)、MDR A.バウマニおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300によって誘発されるIP敗血症モデルで有効であることを示している。敗血症モデルにおける肝臓のコロニー形成単位(CFU)計数は、(A)緑膿菌PAO1、(B)MDR緑膿菌(PAER)、(C)MDR A.バウマニ(AB-1)ならびに(D)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300によって誘発された。敗血症モデルにおけるマウスの生存率を表すカプラン-マイヤー曲線は、(E)PAO1、(F)PAER、(G)AB-1、(H)MRSA USA300によって誘発された。幾何平均±標準偏差、n=5。一元配置分散分析、nsは有意ではない、
*P<0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001。
【
図12】
図12は、敗血症モデルにおける腎臓、脾臓およびIP液のCFU計数を示す。(A~C)緑膿菌PAO1、(D~F)MDR緑膿菌(PAER)、(G-I)MDR A.バウマニ(AB-1)ならびに(J~L)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300によって誘発された。敗血症モデルにおける(A)腎臓、(B)脾臓および(C)IP液のCFUカウントは、PAO1によって誘発された。敗血症モデルにおける(D)腎臓、(E)脾臓および(F)IP液のCFU計数は、PAERによって誘発された。敗血症モデルにおける(G)腎臓、(H)脾臓および(I)IP液のCFU計数AB-1により誘発された。敗血症モデルにおける(J)腎臓、(K)脾臓および(L)IP液のCFU計数は、MRSA USA300によって誘発された。
*P<0.05、
**P≦0.01、およびnsは有意ではない(両側スチューデントt検定)。
【
図13】
図13は、IP注射によりPIM1D(15mg/kg)の1回投与、3回連続投与、および7回連続投与をそれぞれ受けた1日目、3日目および7日目の血液生化学分析を示す。(A)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、(B)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、(C)血中尿素窒素(BUN)、(D)クレアチニン(CRE)、(E)総ビリルビン(TBIL)、(F)総タンパク質(TP)、(G)グロブリン(GLO)および(H)グルコース(GLU)。各マウスからの血液生化学的パラメータは、各実験群の偏差を表すエラーバーを有する個々の点として示されている。
【
図14】
図14は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300および肺炎桿菌ATCC 13883を使用した好中球減少肺モデルでPIM1Dが有効であることを示している。好中球減少肺モデルにおける肺のCFU計数は、(A)MRSA USA300および(B)肺炎桿菌によって誘発された。好中球減少肺モデルにおけるマウスの生存率を表すカプラン-マイヤー曲線は、(C)MRSA USA300および(D)肺炎桿菌によって誘発された。幾何平均±標準偏差一元配置分散分析、nsは有意ではない、
*P<0.05、
**P<0.01。
【
図15】
図15は、PIM1ブロマイドモノマーの合成を示している。
【
図17】
図17は、非分解性主鎖カチオン性PIMの一般的な合成を示している。
【
図18】
図18は、ジアミドジアミン(n=4、6、8、10および12)モノマーのTFA塩の合成を示している。
【
図19】
図19は、(a)分解性および非分解性ジアミンの共重合ならびに(b)分解性ジアミンの単独重合による分解性主鎖カチオン性PIMの一般的な合成を示している。
【
図20】
図20は、一連のPIM(P1~P6)の化学構造を示している。
【
図21】
図21は、最小バイオフィルム根絶濃度(MBEC)アッセイによって測定されたPIMおよび塩化ベンザルコニウム(BAC、参照)の抗バイオフィルム特性を示している。PIMまたはBACで4時間処理した後の各マイクロタイタープレートペグ上のMRSA BAA39の生菌数。
【
図22】
図22は、MBECアッセイによって測定されたPIMおよびBAC(参照)の抗バイオフィルム特性を示している。PIMまたはBACで4時間処理した後の各マイクロタイタープレートペグ上のPAO1の生菌数。
【
図23】
図23は、2+2カーボネートモノマーの合成を示している。
【
図24】
図24は、(a)カーボネートモノマーおよび(b)カーボネート組み込み生分解性PIM D2の合成スキームを示している。
【
図25】
図25は、OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8の合成スキームを示している。
【
図26】
図26は、(A)多剤耐性肺炎桿菌、(B)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって誘発された好中球減少性肺感染モデルにおけるOIM1D-3C-8の有効性、(C)鼻腔内送達による20mg/kg化合物の添加後のマウスの体重変化、(D)多剤耐性肺炎桿菌によって誘発された好中球減少性肺感染モデルにおけるOIM1D-3C-8/OIM1D-3C-6(2:1質量%および1:1質量%)の有効性を示している。
【
図27】
図27は、生分解性PIM合成のための分解性リンカーを有する様々なジアミンの模式図を示している(p=1~12、q=0~10)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
説明
本明細書に開示されるのは、一連のポリ(アルキル化イミダゾリウム)(PIM)塩であり、これはアルキル鎖に1または複数の分解性部分を含む。驚くべきことに、これらのPIM塩は、臨床的に重要な一連のESKAPE(エンテロコッカス・フェシウム、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクアター・バウマニ、緑膿菌および エンテロバクター)細菌種に対して優れた広域(broad-spectrum)抗菌特性を示し、哺乳動物細胞に対する毒性は低い。実際、分解性リンカー部分のモル分率が高いPIMは、より高い生体適合性を示した。さらに、本明細書に開示されるポリマーは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して活性であることが見出された。
【0033】
「グラム陽性菌(Gram-positive bacteria)」という用語は、多量のペプチドグリカンを含む細胞壁を有する細菌をいう。グラム陽性菌は、クリスタルバイオレットを保持し、グラム染色プロトコルにおいてダークブルーまたはバイオレットに染色する傾向によって識別される。
【0034】
「グラム陰性菌(Gram-negative bacteria)」という用語は、グラム染色プロトコルにおいてクリスタルバイオレット染色を保持せず、代わりに対比染色、典型的にはサフラニンを保持する、より薄いペプチドグリカン層を有する細菌をいう。グラム陰性菌は、グラム染色プロトコールにおいて赤またはピンクに染まる。
【0035】
よって、本発明の第1態様では、イミダゾリウム基を含む第1繰返し単位と、隣接する繰返し単位に結合する生分解性鎖とを含む、ポリマーまたはオリゴマーまたはそれらの薬学的に許容される溶媒和物が開示される。
【0036】
本明細書の実施形態において、「含んで成る(または含む;comprising)」という言葉は、言及された特徴を必要とするが、他の特徴の存在を限定しないと解釈され得る。あるいは、「含む」という言葉はまた、列挙された構成/特徴のみが存在することが意図されている状況に関連し得る(例えば、「含んで成る」という言葉は、「からなる(consisting of)」または「から本質的になる(consists essentially of)」という語句に置き換え得る)。より広い解釈およびより狭い解釈の両方が、本発明のすべての態様および実施形態に適用できることが明確に企図される。換言すれば、「含んで成る」という単語およびその同義語は、「からなる」という語句または「から本質になる」という語句またはその同義語に置き換え得、その逆も可能である。
【0037】
「から本質的になる」という語句およびその仮名(pseudonym)は、本明細書では、少量の不純物が存在し得る材料をいうと解釈し得る。例えば、材料は、例えば純度95%以上、例えば純度97%以上、例えば純度99%以上、例えば純度99.9%以上、例えば純度99.99%以上、例えば純度99.999%以上、例えば純度100%のような純度90%以上であり得る。
【0038】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。よって、例えば、「組成物」への言及は、2つ以上のそのような組成物の混合物を含み、「第1繰返し単位」への言及は、複数の前記繰返し単位を含み、さらなる(異なる)繰返し単位が存在する可能性等を排除するものではない。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「生分解性鎖(biodegradeable chain)」は、1つのイミダゾリウム基を別のイミダゾリウム基に結合する結合基をいう。この生分解性鎖は、1または複数の生分解性官能基を含み得る。
【0040】
本明細書では、任意の適切な生分解性官能基を使用し得る。本明細書で使用される場合、生分解性官能基(biodegradable functional group)という用語は、本発明のオリゴマー、ポリマーまたは分子がそれ自身を見つける周囲環境に存在する化学物質または生物学的物質によって環境および/またはインビボで切断され得る官能基をいうことを意図している。本明細書で言及し得る生分解性官能基の非限定的な例としては、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾン挙げられる。前記官能基は、周囲環境中の化学物質または生物学的物質による切断を受けやすい可能性がある(例えば、エステルは、その環境の酸性または塩基性の条件により、または酵素の存在により切断され得る)。この切断は、本明細書に開示される材料が使用および/または廃棄される方法に応じて、インビボまたはエクスビボで起こり得る。生分解性でない可能性がある官能基の例には、エーテル結合が含まれる。
【0041】
本発明の第1態様のポリマーまたはオリゴマーについて言及した実施形態では、繰返し単位のみが第1繰返し単位であってもよい。ただし、本発明の第1態様の代替の実施形態では、ポリマーまたはオリゴマーは、イミダゾリウム基および非生分解性アルキル鎖または隣接する繰返し単位に結合するさらなる生分解性アルキル鎖を含む第2繰返し単位をさらに含んで成ってもよい。特定の実施形態において、ポリマーまたはオリゴマーが第2の繰返し単位をさらに含み得る場合、以下の1または複数が適用され得る:
(a)ポリマーまたはオリゴマーは、例えば5~60モル%のような、例えば10~50モル%のような、例えば20~30モル%のような1~75モル%の第1繰返し単位を含んで成り得、ならびに
(b)ポリマーまたはオリゴマーの繰返し単位はランダムに分布していてもよく、繰返し単位はブロックとして形成されていてもよく、より具体的にはポリマーまたはオリゴマーの繰返し単位はランダムに分布していてもよい。上記の特定の実施形態では、第2の繰返し単位は、イミダゾリウム基および非生分解性アルキル鎖を含む第2の繰返し単位であり得る。
【0042】
本明細書で言及され得る本発明の第1態様の実施形態では、第1繰返し単位における生分解性鎖は、1または複数の生分解性官能基を含んで成り、1または複数の生分解性官能基は、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンからなる群の1つまたは複数から選択され、任意に、
(ai)1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(aii)1もしくは複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、または
(aiii)1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドであり得る。
【0043】
本明細書で言及され得る本発明の第1態様の実施形態において、数平均分子量は、例えば900~5,000ダルトンのような、例えば1,000~3,000ダルトンのような、例えば1,000~2,000ダルトンのような800~10,000ダルトンであり得る。
【0044】
本明細書で言及され得る本発明の第1態様の特定の実施形態では、ポリマーまたはオリゴマーは、式I:
【化5】
[式I中、
xは、0.01~1.0であり、
Y
-は、カウンターイオンであり、
oは、0~10(例えば、1~5のような0~6)であり、
pは、1~12であり、
qは、0~14(例えば、0~6)であり、
rは、0~12であり、
Dは、生分解性官能基であり、
D’は、生分解性官能基または結合であり、
各R
1は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体であり、
各tは、0、1または2であり、
各t’は、0、1または2であり、
各R
2は、分枝状または非分枝状のC
1-3アルキルまたはそれらの誘導体である]
を有し得、またはそれらの薬学的に許容された溶媒和物。
【0045】
本明細書で使用される場合、「C1-3アルキル」という用語は、例えば、エチル、プロピル(例えば、n-プロピルまたはイソプロピル)、またはより好ましくはメチルを指し得る。C1-3アルキルの誘導体は、置換されたC1-3アルキル基をいう場合がある。本明細書で言及し得る置換C1-3アルキル基の例としては、これらに限定されないが、ハロ(例えば、Br、Clまたはより具体的にはF)が挙げられる。本明細書で言及され得る特定の誘導体はCF3である。
【0046】
式Iに係るポリマーまたはオリゴマーに関する本発明の実施形態では、以下の1または複数が適用される:
(bi) 各Dは、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され得、任意に、
(aa) 各Dは、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ab) 各Dは、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、または
(ac) 各Dは、カーボネートエステルおよびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され得(例えば、各Dはアミドである)、
(bii) 各D’は、結合、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから選択され得、任意に
(ad) 各D’は、結合、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ae) 各D’は、結合、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(af) 各D’は、結合およびアミドから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ag) 各D’は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ah) 各D’は、アミド、エステル、カルバメートおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ai) 各D’は、アミドであり得、
(biii) Y-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され得、任意に、Y-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され得、
(biv) xは、例えば、0.025~0.75のような、例えば、0.05~0.6のような、例えば、0.1~0.5のような、例えば、0.2~0.3のような0.01~1.0であり得、
(bv) tおよびt’は、0であり得、
(bvi) pは、1~6であり得、ならびに
(bvii) rは、1~6であり得る。
【0047】
理解されるように、上記の変数の任意の組み合わせが想定される。
【0048】
DおよびD’が同じであっても異なっていてもよいことは理解されるであろう。本発明の特定の実施形態では、生分解性鎖が2つの生分解性官能基を有するように、D’は生分解性官能基であってもよい。ただし、他の実施形態(例えば、Dがカルバメートである場合)では、D’は結合であり得る。
【0049】
言及し得る本発明の実施形態には、本発明の第1態様のポリマーまたはオリゴマー(式Iのポリマーまたはオリゴマーなど)が、リスト:
【化6】
から選択される化合物であるものが含まれる。
【0050】
ポリマーまたはオリゴマーが2つの繰返し単位を含む場合、1または複数の生分解性官能基を含む繰返し単位の量は、例えば5~95モル%のような、例えば10~90モル%のような、例えば20~80モル%のような、例えば25~75モル%のような、例えば50モル%のような1~99モル%であり得る。本明細書で言及され得る特定の実施形態では、1または複数の生分解性官能基を含む繰返し単位の量は、20~30モル%であり得る。
【0051】
疑義を避けるために、同じ特徴に関連する多数の数値範囲が本明細書で引用されていることが明確に意図されており、各範囲の終点は、任意の順序で組み合わせて、さらに熟考された(暗黙のうちに開示された)範囲を提供することを意図している。よって、上に挙げた範囲について(および一般に第1繰返し単位について)、以下の範囲が企図される:
1~5モル%、1~10モル%、1~20モル%、1~25モル%、1~30モル%、1~50モル%、1~60モル%、1~75モル%、1~80モル%、1~95モル%、1~99モル%、
5~10モル%、5~20モル%、5~25モル%、5~30モル%、5~50モル%、5~60モル%、5~75モル%、5~80モル%、5~95モル%、5~99モル%、
10~20モル%、10~25モル%、10~30モル%、10~50モル%、10~60モル%、10~75モル%、10~80モル%、10~95モル%、10~99モル%、
20~25モル%、20~30モル%、20~50モル%、20~60モル%、20~75モル%、20~80モル%、20~95モル%、20~99モル%、
25~30モル%、25~50モル%、25~60モル%、25~75モル%、25~80モル%、25~95モル%、25~99モル%、
30~50モル%、30~60モル%、30~75モル%、30~80モル%、30~95モル%、30~99モル%、
50~60モル%、50~75モル%、50~80モル%、50~95モル%、50~99モル%、
60~75モル%、60~80モル%、60~95モル%、60~99モル%、
75~80モル%、75~95モル%、75~99モル%、
80~95モル%、80~99モル%、ならびに
95~99モル%。
【0052】
上記表における(b)および(c)の特定の実施形態では、1または複数の生分解性官能基を含む繰返し単位は、50モル%の量で存在し得る。
【0053】
本明細書で言及され得る本発明の実施形態では、上記表におけるポリマーおよびオリゴマーは、例えば966~2,800ダルトンのような960~3,000ダルトンの数平均分子量を有し得る。
【0054】
本発明の第2態様では、以下を含む分子またはその薬学的に許容される溶媒和物が開示されている:
オリゴマー繰返し単位の第1ブロック、ここで、各繰返し単位がイミダゾリウム基と隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、
オリゴマー繰返し単位の第2ブロック、ここで、各繰返し単位がイミダゾリウム基と隣接する繰返し単位に結合する非生分解性アルキル鎖とを含み、ならびに
第1ブロックおよび第2ブロックをともに結合する連結基、ここで、連結基が1または複数の生分解性官能基を含む。
【0055】
本明細書で言及され得る本発明の第2態様の実施形態では、1または複数の生分解性官能基は、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンからなる群のうちの1または複数より選択され得、任意に
(ci) 1もしくは複数の生分解性官能基は、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(cii) 1もしくは複数の生分解性官能基は、カルバメートもしくはより具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(ciii) 1もしくは複数の生分解性官能基は、アミドおよびカーボネートエステルの一方もしくは両方より選択され得、または
(civ) 1もしくは複数の生分解性官能基はアミドであり得る。
【0056】
本発明の第2態様の実施形態では、分子の分子量は、1,000ダルトン~5,000ダルトンであり得、任意に当該分子量は1,000ダルトン~4,000ダルトンである。
【0057】
本明細書で言及され得る本発明の第2態様の特定の実施形態では、分子は式II:
【化7】
[式II中、
各mは、独立に、1~8(例えば、1~6)であり、
各Y
-は、カウンターイオンであり、
n’は、0~12であり、
各o’は、独立に、0~20より選択され、
各p’は、独立に、0~12(例えば、0~6)より選択され、
各p’’は、独立に、0~12(例えば、0~6)より選択され、
各Tは、独立に、アミン、アンモニウム、グアニジニウム、ビスグアニジニウム、アルキルおよびアリールより選択される末端官能基であり、
各Dは、生分解性官能基である]
を有し得、またはその薬学的に許容される溶媒和物。
【0058】
式IIに係るポリマーまたはオリゴマーに関する本発明の実施形態では、以下の1または複数が適用され得る:
(di) 各Dは、独立に、尿素、カルバメート、アセタール、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群より選択され得、任意に、
(ba) 各Dは、独立に、アミド、エステル、カーボネートエステル、ウレタン、ジスルフィド、無水物およびヒドラゾンから成る群の1もしくは複数より選択され得、
(bb) 各Dは、独立に、カルバメートもしくは、より具体的には、アミド、エステルおよびカーボネートエステルから成る群の1もしくは複数より選択され得、または
(bc) 各Dはアミドであり得、
(dii) Y-は、ハロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され、任意にY-は、クロロ、アセテート、ホスフェート、スルホネートおよびビス((トリスフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)2
-)から成る群の1もしくは複数より選択され得、ならびに
(dii) p’’は、0~6であり得る。
【0059】
言及し得る本発明の実施形態では、本発明の第2態様の分子が以下のリストから選択されるものが含まれる:
【0060】
【0061】
(本発明の任意の態様または実施形態における)本明細書の、本明細書における(式Iのポリマーもしくはオリゴマーまたは式IIの分子を含む)ポリマー、オリゴマーおよび分子(式Iのポリマーもしくはオリゴマーまたは式IIの分子を含む)への言及は、これらは、そのような化合物自体、そのような化合物の互変異性体、ならびにそのような化合物の薬学的に許容される塩または溶媒和物、またはそのような化合物の薬学的に機能的な誘導体への言及を含む。
【0062】
言及し得る薬学的に許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。このような塩は、従来の手段によって、例えば、式Iまたは式IIの化合物の遊離酸または遊離塩基の形態と、1当量以上の適切な酸または塩基との反応によって形成され得、任意に、塩が不溶性の溶媒または媒体において、その後、標準的な技術を使用して(例えば、真空中、凍結乾燥または濾過により)前記溶媒または前記媒体を除去する。塩はまた、例えば適切なイオン交換樹脂を使用して、塩の形態の式Iまたは式IIの化合物のカウンターイオンを別のカウンターイオンと交換することによって調製され得る。
【0063】
薬学的に許容される塩の例としては、鉱酸および有機酸に由来する酸付加塩、ならびに例えば、ナトリウム、マグネシウム、または好ましくはカリウムおよびカルシウムのような金属に由来する塩が挙げられる。
【0064】
酸付加塩の例としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)樟脳酸、樟脳スルホン酸、(+)-(1S)-樟脳-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、桂皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸(例えば、D-グルコン酸)、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸および(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸 (例えば、(-)-L-リンゴ酸)、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタリン酸、メタンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロット酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、 4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸 (例えば、(+)-L-酒石酸)、チオシアン酸、ウンデシレン酸、吉草酸で形成される酸付加塩が挙げられる。
【0065】
塩の特定の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸および硫酸のような鉱酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、アリールスルホン酸のような有機酸、ならびにナトリウム、マグネシウム、または好ましくはカリウムおよびカルシウムのような金属に由来する塩である。
【0066】
理解されるように、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子は、すでにカウンターイオンを含んでいてもよいが、このカウンターイオンは、必要に応じて別のイオンと交換し得る。例えば、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子は、あるカウンターイオンを別のカウンターイオンに置換するために、イオン交換カラムに付し得る。
【0067】
上述のように、化合物の任意の溶媒和物およびそれらの塩も、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子に包含される。好ましい溶媒和物は、分子の非毒性の薬学的に許容される溶媒(以下、溶媒和溶媒と称する)の分子の本発明の化合物の固体構造(例えば、結晶構造)への組み込みによって形成される溶媒和物である。そのような溶媒の例としては、水、(例えば、エタノール、イソプロパノールおよびブタノールのような)アルコールおよびジメチルスルホキシドが挙げられる。溶媒和物は、本発明の化合物を、溶媒和溶媒を含む溶媒または溶媒混合物で再結晶することによって調製することができる。任意の例で溶媒和物が形成されたかどうかは、化合物の結晶を、例えば、熱重量分析(TGE)、示差走査熱量測定(DSC)およびX線結晶構造解析のようなよく知られた標準的な手法を使用して分析することによって決定できる。
【0068】
溶媒和物は、化学量論的または非化学量論的な溶媒和物であり得る。特に好ましい溶媒和物は水和物であり、水和物の例としては、半水和物、一水和物および二水和物が挙げられる。
【0069】
溶媒和物およびそれらの作製および特徴付けに使用される方法の詳細な説明については、Brynら, Solid-State Chemistry of Drugs, 2版, 発行者 SSCI, Inc of West Lafayette, IN, USA, 1999, ISBN 0-967-06710-3を参照されたい。
【0070】
本明細書に定義される本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子の「薬学的に機能的な誘導体」には、本発明の任意の関連化合物と同じ生物学的機能および/または活性を有する、または提供するエステル誘導体および/または誘導体が含まれる。したがって、本発明の目的のために、この用語には、本明細書に記載のポリマー、オリゴマー、および分子のプロドラッグも含まれる。
【0071】
本明細書に記載の関連するポリマー、オリゴマー、または分子の「プロドラッグ(prodrug)」という用語には、経口または非経口投与後、インビボで代謝されて、実験的に検出可能な量で、所定の時間内(例えば、6時間~24時間の投与間隔(つまり、1日1回~4回)に活性剤を形成する任意の化合物が含まれる。
【0072】
本明細書に記載のプロドラッグポリマー、オリゴマーおよび分子は、そのようなプロドラッグが哺乳動物被験体に投与されたときに修飾がインビボで切断されるように、化合物に存在する官能基を修飾することによって調製され得る。修飾は、典型的には、親化合物をプロドラッグ置換基で合成することによって達成される。プロドラッグには、式Iまたは式IIの化合物中のヒドロキシル、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシルまたはカルボニル基が、インビボで切断されて遊離のヒドロキシル、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシルまたはカルボニル基をそれぞれ再生し得る任意の基に結合している、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子が含まれる。
【0073】
プロドラッグの例としては、これらに限定されないが、ヒドロキシル官能基のエステルおよびカルバメート、カルボキシル官能基のエステル基、N-アシル誘導体およびN-マンニッヒ塩基が挙げられる。プロドラッグに関する一般的な情報は、例えば、Bundegaard, H. “Design of Prodrugs” p. I-92, Elsevier, New York-Oxford (1985) において見つけ得る。
【0074】
本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子は、二重結合を含み得、それゆえ、個々の二重結合について、E(entgegen)およびZ(zusammen)幾何異性体として存在し得る。そのような異性体およびその混合物はすべて、本発明の範囲内に含まれる。
【0075】
本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子は、位置異性体として存在し得、互変異性も示し得る。すべての互変異性形態およびその混合物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0076】
本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子は、1または複数の不斉炭素原子を含み得、それゆえ、光学異性および/またはジアステレオ異性を示し得る。ジアステレオ異性体は、従来の技術、例えば、クロマトグラフィーまたは分別結晶化を使用して分離し得る。種々の立体異性体は、従来の方法、例えば、分別結晶化またはHPLC、技術を使用して、化合物のラセミ混合物または他の混合物の分離により、単離され得る。あるいは、所望の光学異性体は、ラセミ化またはエピマー化を引き起こさない条件下での適切な光学活性出発物質の反応(すなわち、「キラルプール」法)により、適切な出発物質とその後適切な段階で除去できる「キラル補助剤」との反応、続いて、例えばホモキラル酸を用いた誘導体化(すなわち、動的分割を含む分割)により、例えば、クロマトグラフィーのような従来の手段によるジアステレオマー誘導体の分離により、または、すべて当業者に知られている条件下での適切なキラル試薬もしくはキラル触媒との反応により、作製され得る。すべての立体異性体およびその混合物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0077】
疑義を避けるために、本発明の文脈において、「治療」という用語は、そのような治療を必要とする患者の治療的または緩和的治療、ならびに関連する疾患状態に陥りやすい患者の予防的治療および/または診断への言及を含む。
【0078】
「患者(patient)」および「患者(patients)」という用語は、哺乳動物(例えば、人間)の患者への言及を含む。本明細書で使用される「対象(または被験者;subject)」または「患者」という用語は、当技術分野で十分に認識されているため、本明細書では互換的に使用され、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、豚、ラクダ、そして最も好ましくは人間を含む哺乳動物をいう。いくつかの実施形態では、対象は、治療を必要とする対象、または疾患もしくは障害を有する対象である。ただし、他の実施形態では、対象は正常な対象であり得る。この用語は、特定の年齢および性別を示すものではありません。よって、男性または女性かを問わず、成人および新生児の被験者がカバーされることを意図している。
【0079】
「有効な量(または有効量;effective amount)」という用語は、治療を受ける患者に治療効果を与える(例えば、疾患を治療または予防するのに十分な)化合物の量をいう。効果は、客観的(すなわち、何らかのテストまたはマーカーによって測定可能)または主観的(すなわち、被験者が効果を示すか、または効果を感じる)であり得る。
【0080】
「ハロ(halo)」という用語は、本明細書で使用される場合、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードへの言及を含む。
【0081】
別段の記載がない限り、本明細書で使用される場合「アリール(aryl)」という用語は、C6-14(例えば、C6-10)アリール基を含む。そのような基は、単環式、二環式または三環式であり得、少なくとも1つの環が芳香族である6~14個の環炭素原子を有する。アリール基の結合点は、環系の任意の原子を介することができる。ただし、アリール基が二環式または三環式である場合、それらは芳香環を介して分子の残りの部分に結合している。C6-14アリール基には、例えば、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルおよびフルオレニルのようなフェニルおよびナフチルなどが含まれる。言及し得る本発明の実施形態には、アリールがフェニルであるものが含まれる。
【0082】
別段の記載がない限り、用語「アルキル(alkyl)」は、非分枝状のまたは分枝状の、非環式の、飽和のまたは不飽和(そのように形成する、例えば、アルケニルまたはアルキニル)の炭化水素ラジカルをいい、それは(例えば、1または複数のハロ原子で)置換され得または非置換であり得る。「アルキル」という用語が非環式基をいう場合、それは好ましくはC1-10アルキルであり、より好ましくはC1-6アルキル(例えば、エチル、プロピル(例えばn-プロピルまたはイソプロピル)、ブチル(例えば分枝状のまたは非分枝状のブチル)、ペンチル、またはより好ましくはメチル)。「アルキル」という用語が環状基をいう場合(基「シクロアルキル」が特定されている場合もある)、それは好ましくはC3-12シクロアルキルであり、より好ましくはC5-10(例えばC5-7)シクロアルキルである。
【0083】
言及し得る本発明のさらなる実施形態には、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子が同位体標識されているものが含まれる。ただし、言及し得る本発明の他の特定の実施形態には、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子が同位体標識されていないものが含まれる。
【0084】
「同位体標識された(isotopically labelled)」という用語は、本明細書で使用される場合、化合物の1つまたは複数の位置に非天然同位体(または同位体の非天然分布)が存在する、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子への言及を含む。本明細書における「化合物中の1または複数の位置」への言及は、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子の1または複数の原子をいうと当業者に理解されるであろう。よって、用語「同位体標識」は、化合物中の1または複数の位置で同位体が濃縮(enriched)されている、本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子への言及を含む。
【0085】
本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子の同位体標識または濃縮は、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄、フッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のいずれかの放射性または非放射性同位体によるものであり得る。この点で言及され得る特定の同位体には、2H、3H、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、35S、18F、37Cl、77Br、82Brおよび125Iが含まれる。
【0086】
本明細書に記載のポリマー、オリゴマーおよび分子が放射性同位体または非放射性同位体で標識または濃縮されている場合、本明細書に記載の言及され得るポリマー、オリゴマーおよび分子には、化合物中の少なくとも1つの原子が同位体分布を示すものが含まれ、その分布では、問題の原子の放射性同位体または非放射性同位体が、その放射性同位体または非放射性同位体の自然レベルを超える少なくとも10%(例えば、10%~5000%、特に50%~1000%、より具体的には100%~500%)のレベルで存在している。
【0087】
本明細書に開示される化合物は、微生物感染症の治療において特に有用であり得る。よって、本発明の第3の態様では、本発明の第1態様に係るポリマーもしくはオリゴマーもしくははそれらの薬学的に許容される溶媒和物およびその実施形態の技術的に任意の妥当な組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係るポリマーもしくはオリゴマーもしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物および医療での使用のためのその実施形態の技術的に任意の妥当な組み合わせが提供される。
【0088】
さらに、本発明の第4の態様では、以下が提供される:
(AAA)微生物感染症を含む疾患を治療するための医薬品の製造における、本発明の第1態様に係るポリマーまたはオリゴマーまたはその薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係る分子またはその薬学的に許容される溶媒和物およびその実施形態の技術的に妥当な組み合わせの使用、
(AAB)微生物感染症を含む疾患の治療に使用するための、本発明の第1態様に係るポリマーもしくはオリゴマーまたはその薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係る分子またはその薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに
(AAC)微生物感染を含む疾患の治療方法であって、それを必要とする対象に、治療に有効な量の本発明の第1態様に係るポリマーもしくはオリゴマーもしくはその薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに/または治療に有効な量の本発明の第2態様に係る分子またはその薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせを投与するステップを含んで成る方法。
【0089】
本発明の第4態様の実施形態では、微生物感染症は、感染創傷または嚢胞性線維症に関連し得る。
【0090】
「微生物感染症(または微生物感染;microbial infection)」という用語は、対象内または対象上の微生物によって引き起こされる任意の疾患または状態を網羅する。微生物感染症の例としては、これらに限定されないが、マイコバクテリアによる結核、シュードモナス属などによる熱傷感染、黄色ブドウ球菌による皮膚感染症、シュードモナス属およびバウマニ菌による創傷感染症、ならびに敗血症が挙げられる。「真菌感染症(fungal infection)」という用語は、対象内または対象上の微生物によって引き起こされる任意の疾患または状態を網羅する。微生物感染症の例としては、これらに限定されないが水虫、白癬、イースト菌感染症およびいんきんが挙げられる。
【0091】
本発明のポリマーおよびコポリマーに感受性であり得る細菌の非限定的なリストには、:アシドテルムス・セルロリチカス、アクチノマイセス・オドントリティカス、アルカリフィルス・メタリレヂゲンス、アルカリフィルス・オレムランヂ(oremlandii)、アシネトバクター・アウレスセンス(aurescens)、バシラス・アミロリクエファシエンス、バシラス・クラウジイ、バシラス・ハロデュランス、バシラス・リケニホルミス、バシラス・ピュミルス、バシラス・ズブチルス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム、カルディセルロシルプター・アッカロリティカス(Caldicellulosiruptor saccharolyticus)、カルボキシドセムス(Carboxydothermus)・ヒドロジェノフォルマンス(hydrogenoformans)、クロストリジウム・アセトブチリクム、クロストリジウム・ベイジリンキ、ボツリヌス菌、クロストリジウム・セルロリティカム、クロストリジウム・ディフィシレ、クロストリジウム・クルイベリ、クロストリジウム・レプタム、クロストリジウム・ノビー、クロストリジウム・パーフリンゲンス、クロストリジウム・テタニ、クロストリジウム・サーモセラム、コリネバクテリウム・ジフテリア、コリネバクテリウム・エフィシェンス(efficiens)、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・イェイケイム(jeikeium)、コリネバクテリウム・ウレアリカム(urealyticum)、デスルフィトバクテリウム・ハフニエンス(hafniense)、デスルホトマキュラム・レデュセンス(reducens)、ユーバクテリウム・ベントリオスム(ventriosum)、イグジォバクテリウム・シビリカム(sibiricum)、フィンゴルディア・マグナ(Fingoldia magna)、ゲオバチルス・カウストピラス(kaustophilus)、ゲオバチルス・ルモデニトリフィカンス(the rmodenitrificans)、ヤニバクター・sp.(Janibacter sp.)、キネオコッカス(Kineococcus)・ラディオトレランス、ラクトバシラス・ファーメンタム、リステリア・モノサイトゲネス、リステリア・イノキュア、リステリア・ウェルシメリ、ムーレラ・サーモアセチカ、マイコバクテリウム・アビウム、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・ギルバム、マイコバクテリウム・レプラエ、マイコバクテリウム・パラ結核、マイコバクテリウム・スメグマティス、マイコバクテリウム・結核、マイコバクテリウム・ウルセランス、マイコバクテリウム・バンバレニ、ノカルジオイデス種、ノカルジア・ファルシニカ、オセアノバチルス・イヘオマエンシス、サッカロポリスポラ・エリスラエア、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、表皮ブドウ球菌、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)、ストレプトコッカス・アガラクチェ、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・ミチス、ストレプトコッカス・オラーシス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・サンギニス(sanguinis)、ストレプトコッカス・スイス、ストレプトマイセス・アベルミティリス、ストレプトマイセス・セリカラー、サーモアナエロバクター・エサノリカス(ethanolicus)、サーモアナエロバクター・テンコンエンシス(tengcongensis)およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0092】
上記のように、本発明のポリマー、オリゴマーおよび分子は、微生物感染症および真菌感染症の治療に使用し得る。よって、本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子および薬学的に許容される担体を含んで成る薬学的組成物も提供される。
【0093】
本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、薬学的に許容される剤形で化合物を含む薬学的調製物の形態で、任意の適切な経路によって投与し得るが、特に、経口、静脈内、筋肉内、皮膚、皮下、経粘膜(例えば、舌下または頬)、直腸、経皮、経鼻、肺(例えば、気管または気管支)、局所、その他の非経口経路によって投与し得る。言及し得る特定の投与様式は、経口、静脈内、皮膚、皮下、経鼻、筋肉内または腹腔内投与を含み得る。
【0094】
本明細書で使用される場合、本発明のポリマーおよびオリゴマーへの言及は、本発明の第1態様のポリマーおよびオリゴマー(およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ)に関する一方、本発明の分子への言及は、本発明の第2態様のポリマーおよびオリゴマー(およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ)に関する。
【0095】
本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、一般に、意図する投与経路および標準的な薬務を考慮して選択され得る、薬学的に許容される補助剤、希釈剤または担体と混合された薬学的製剤として投与される。そのような薬学的に許容される担体は、活性化合物に対して化学的に不活性であり得、使用条件下で有害な副作用または毒性を有し得ない。適切な医薬製剤は、例えば、Remington The Science and Practice of Pharmacy,第19版, Mack Printing Company, Easton, Pennsylvania (1995)に見つけ得る。非経口投与の場合、発熱物質を含まず、必要なpH、等張性および安定性を有する、非経口的に許容される水溶液を使用し得る。適切な解決策は当業者に周知であり、文献には多数の方法が記載されている。薬物送達の方法の簡単なレビューはまた、例えば、Langer, Science (1990) 249, 1527に見つけ得る。
【0096】
そうでなければ、適切な製剤の調製は、当業者によって日常的な技術を使用して、および/または標準的および/または容認された薬務によって日常的に達成され得る。
【0097】
本発明に従って使用される任意の医薬製剤における本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子の量は、例えば、治療される状態の重症度、治療される特定の患者ならびに使用される化合物のような様々な要因に依存する。いずれにせよ、製剤における本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子の量は、当業者によって日常的に決定され得る。
【0098】
例えば、錠剤またはカプセルのような固形経口組成物は、1~99%(w/w)の活性成分を含み得:0~99%(w/w)の希釈剤または充填剤、0~20%(w/w)の崩壊剤、0~5%(w/w)の潤滑剤、0~5%(w/w)の流動補助剤、0~50%(w/w)の造粒剤または結合剤、0~5%(w/w)の酸化防止剤、および0~5%(w/w)の顔料。加えて、放出制御錠剤は、0~90%(w/w)の制御放出ポリマーを含み得る。
【0099】
非経口製剤(例えば、注射用の溶液または懸濁液、または注入用の溶液)は、1~50%(w/w)の活性成分、ならびに50%(w/w)~99%(w/w)の液体または半固体の担体またはビヒクル(例えば、水のような溶媒)、ならびに0~20%(w/w)の例えば、緩衝剤、酸化防止剤、懸濁安定剤、等張化剤および防腐剤のような1または複数の他の賦形剤を含むことができる。
【0100】
疾患および治療される患者ならびに投与経路に応じて、本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、それを必要とする患者に様々な治療に有効な量で投与され得る。
【0101】
ただし、本発明の文脈において哺乳動物、特にヒトに投与される用量(dose)は、妥当な時間枠にわたって哺乳動物において治療応答をもたらすのに十分であるべきである。当業者は、正確な用量および組成物ならびに最も適切な送達計画の選択が、とりわけ製剤の薬理学的特性、治療される状態の性質および重症度、ならびに身体的状態、受容者の精神的鋭敏さ、ならびに特定の化合物の効力、治療を受ける患者の年齢、状態、体重、性別および反応、および疾患のステージ/重症度によっても影響を受けることを認識するであろう。
【0102】
投与は、連続的または間欠的(例えば、ボーラス注射による)であり得る。投薬量はまた、投与のタイミングおよび頻度によって決定され得る。経口または非経口投与の場合、投与量は、本発明のポリマーまたはコポリマーの1日当たり約0.01mg~約1000mgまで変動し得る。
【0103】
いずれにせよ、開業医または他の当業者は、個々の患者に最も適した実際の投与量を日常的に決定することができるであろう。上述の投与量は、平均的なケースの例であり、もちろん、より高い用量範囲またはより低い用量範囲が得られる個々の例があり得、そのようなものは本発明の範囲内である。
【0104】
本明細書に記載の本発明の態様(例えば、上述のポリマー、オリゴマーおよび分子、方法および使用)は、本明細書に記載の状態の治療において、以下の利点を有し得、それらの状態またはその他の治療における使用のための先行技術において知られている類似の化合物、組み合わせ、方法(治療)または使用よりも、医師および/または患者にとって便利であり、よりも効果的であり、より毒性が低く、より優れた選択性を有し、より広い範囲の活性を有し、より強力であり、副作用が少なく、またはよりも他の有用な薬理学的特性を有する。
【0105】
本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、当業者に周知の技術に従って、例えば以下の実施例のセクションに記載されているように調製され得る。
【0106】
本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、従来の技術(例えば、再結晶化、カラムクロマトグラフィー、分取HPLCなど)を使用してそれらの反応混合物から単離され得る。
【0107】
本発明の第5態様では、本発明の第1態様に係るポリマーもしくはオリゴマーまたはその薬学的に許容される溶媒和物、ならびにその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係る分子もしくは薬学的に許容される溶媒和物、およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせが提供される。
【0108】
上記を考慮すると、本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、パーソナルケア調製物、例えば、防腐剤、シャンプー、入浴剤、ヘアケア製品、液体および固体の石鹸(合成界面活性剤ならびに飽和および/または不飽和の脂肪酸の塩に基づく)、ローションおよびクリーム、およびその他の水性またはアルコールの溶液、肌のクレンジング溶液における抗菌活性成分として使用し得る。よって、上で言及した消毒製剤は、本段落に挙げた製剤のいずれかをいい得る。
【0109】
単純な消毒剤組成物として使用する場合(すなわち、消毒剤としてのみ使用することを目的とする)、消毒剤配合組成物は、例えば0.5~10質量%のような0.01~20質量%のポリマー、オリゴマーまたは分子を含み得る。本発明の2つ以上のポリマー、オリゴマーまたは分子が消毒組成物の一部を形成し得ることが理解されるであろう。
【0110】
本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子は、特に病原性グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して顕著な抗菌作用を示すため、皮膚フローラの細菌、例えば、コリネバクテリウム ゼロシース(体臭の原因となる細菌)に対しても、ならびに酵母およびカビに対しても作用する可能性がある。したがって、それらは皮膚および粘膜、さらに外皮付属物(毛髪)の消毒にも適しており、手および傷の消毒にも適し得る。
【0111】
したがって、本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子および界面活性剤を含む抗菌および/または抗真菌の洗剤組成物も提供される。組成物はまた、追加の美容上許容される担体および/または補助剤を含み得ることが理解されるであろう。前記組成物は、特にシャンプーの形態、または固体もしくは液体の石鹸の形態であり得るが、上記の他の組成物も考えられる(例えば、他のヘアケア製品、ローションおよびクリームなど)。
【0112】
洗剤組成物は、例えば、0.5~10質量%のような0.01~15質量%の本発明のポリマーまたはコポリマーを含み得る。本発明の2つ以上のポリマーおよびコポリマーが洗剤組成物の一部を形成し得ることは理解されるであろう。
【0113】
洗剤組成物の形態により、それは、本発明のポリマーまたはコポリマーに加えて、さらなる成分、例えば金属イオン封鎖剤、着色剤、香油、増粘剤または固化剤(コンシステンシー調整剤)、皮膚軟化剤、紫外線吸収剤、皮膚保護剤、酸化防止剤、添加剤、例えば、ジカルボン酸および/またはC14~C22脂肪酸のAl、Zn、CaおよびMg塩のような機械的特性を改善する付加剤、および任意の防腐剤を含んで成るであろう。
【0114】
洗剤組成物は、油中水または水中油のエマルションとして、アルコールまたはアルコール含有製剤として、イオン性または非イオン性の両親媒性脂質の小胞分散物として、ゲルとして、固体として、スティックまたはエアロゾル製剤として製剤化し得る。
【0115】
油中水または水中油のエマルションとして、洗剤組成物は、5~50質量%の油相、5~20質量%の乳化剤、および30~90質量%の水を含み得る。油相は、化粧品の調合に適した任意の油、例えば、1または複数の炭化水素油、ワックス、天然油、シリコーン油、脂肪酸エステルまたは脂肪アルコールを含み得る。好ましいモノオールまたはポリオールは、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロールおよびソルビトールである。
【0116】
洗剤組成物は、多種多様な調剤で提供され得る。適切な組成物の例としては、これらに限定されないが、スキンケア製品(例えば、タブレット型または液体石鹸の形態のスキンウォッシュおよびクレンジング製品、ソープレス洗剤またはウォッシングペースト)、バス製品(例えば、フォームバス、ミルク、シャワー製品または固形バス製品のような液体組成物)、シェービング剤(例えば、シェービングソープ、泡立つシェービングクリーム、泡立たないシェービングクリーム、フォームおよびジェル、ドライシェービング用のプレシェーブ剤、アフターシェーブまたはアフターシェーブローション)、化粧用ヘアトリートメント剤(例えば、シャンプーおよびコンディショナーの形態のヘアケア調製品、例えば前処理調剤、ヘアトニック、スタイリングクリーム、スタイリングジェル、ポマード、ヘアリンス、トリートメントパック、集中ヘアトリートメント、ヘア構造調剤、例えばパーマネントウェーブ用ヘアウェーブ調製品(ホットウェーブ、マイルドウェーブ、コールドウェーブ)、縮毛矯正剤、液体整髪剤、フォーム、ヘアスプレー、ブリーチ剤、例えば、過酸化水素水、ライトニングシャンプー、ブリーチクリーム、ブリーチパウダー、ブリーチペーストまたはオイル、一時的、半永久的もしくは永久的なヘアカラー剤、自己酸化染料を含む製剤、または例えば、ヘナおよびカモミールのような天然ヘアカラー剤)が挙げられる。
【0117】
抗菌石鹸は、例えば、以下の組成を有し得:
0.01~5質量%の本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子と、
0.3~1質量%の二酸化チタンと、
1~10質量%のステアリン酸と、
残りは、例えば、獣脂脂肪酸およびココナッツ脂肪酸のナトリウム塩またはグリセロールのようなソープベースである。
【0118】
シャンプーは、例えば、以下の組成を有し得:
0.01~5質量%の本発明のポリマー、オリゴマーまたは分子、
12.0質量%のラウレス-2-硫酸ナトリウム、
4.0質量%のコカミドプロピルベタイン、
3.0質量%のNaCl、ならびに
100wt%までの水。
【0119】
本発明の第6態様では、表面を有する物品が提供され、この表面は、本発明の第1態様に係るポリマーまたはオリゴマーまたは薬学的に許容されるそれらの溶媒和物およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係る分子またはその薬学的に許容される溶媒和物およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせで被覆され得、物品の前記表面に抗菌特性を提供し、任意に物品が尿道カテーテルである。
【0120】
例えば、本発明に係る物品は、その表面が、本発明の第1態様に係るポリマーまたはオリゴマーまたはその薬学的に許容される溶媒和物およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせ、ならびに/または本発明の第2態様に係る分子またはその薬学的に許容される溶媒和物およびその実施形態の技術的に妥当な任意の組み合わせで被覆される尿道カテーテルであり得る。尿路感染症は、大腸菌のような病原性細菌によって引き起こされ得、これを治療せずに放置すると、感染症が全身感染症に発展し、死に至ることさえある。本明細書に開示される化合物を尿道カテーテルに被覆することにより、細菌感染を防ぐことができる。理解されるように、追加の成分を被覆に添加して追加の特性を提供し得る(例えば、抗炎症剤を表面に被覆して炎症を防止するなど)。理解されるように、本明細書に開示される抗菌化合物は、他の医療器具にも同様に被覆することができる。
【0121】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の番号付きステートメントで説明される。
1.以下の一般構造:
【化9】
[一般構造式中、
Dは、アミド、エステル、カーボネート、ウレタン、ジスルフィド、無水物、ヒドラゾンであり得る生分解性フラグメントであり、
Y
-は、クロリド、アセテート、ホスフェート、スルホネート、ビス((トリフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)であり得るカウンターイオンであり、、
0≦o≦6、
1≦p≦6、
0≦q≦6
を有するランダム共重合体。
【0122】
2.xが0.10~0.50である、ステートメント1に記載のランダム共重合体。
【0123】
3.ランダム共重合体の分子量分布が1KDa~5KDaである、ステートメント1または2に記載のランダム共重合体。
【0124】
4.以下の一般構造:
【化10】
[一般構造中、
Dは、アミド、エステル、カーボネート、ウレタン、ジスルフィド、無水物、ヒドラゾンであり得る生分解性フラグメントであり、
Y
-は、クロリド、アセテート、ホスフェート、スルホネート、ビス((トリフルオロメチル)スルホニル)イミド(N(Tf)
2
-)であり得るカウンターイオンであり、
Tは、アミン、アンモニウム、グアニジウム、ビスグアニジウム、アルキル、アリールであり得る末端基であり、
1≦m≦6、
0≦n≦12、
0≦o≦20、
0≦p≦6]
を有する分子。
【0125】
5.ステートメント1~3のいずれかに記載のランダム共重合体、またはステートメント4に記載の分子の医療での使用。
【0126】
6.微生物感染症の治療に使用するための、ステートメント1~3のいずれか1つに記載のランダム共重合体、またはステートメント4に記載の分子の使用。
【0127】
7.それを必要とする対象における微生物感染症を治療するための医薬の製造における、ステートメント1~3のいずれか1つに記載のランダム共重合体、またはステートメント4に記載の分子の使用。
【0128】
8.微生物感染症に罹患している対象を治療する方法であって、微生物感染症を治療するために、ステートメント1~3のいずれか1つに記載のランダム共重合体またはステートメント4に記載の分子を対象に治療に有効な量で投与する工程を含む方法。
【0129】
本発明の化合物として本明細書でまとめて議論される抗菌生分解性ポリイミダゾールおよびオリゴイミダゾール(および定義された分子)は、インビトロでグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して良好な抗菌活性を示す(例えば、ポリマーPIM1DおよびオリゴマーOIM1D-mC-6(m=3,8)-詳細については、以下の実験セクションを参照されたい)。さらに、本発明の化合物は、良好なインビボ生体適合性を示す。例えば、ポリマーPIM1Dの単回腹腔内注射は、MDR緑膿菌およびアシネトバクター・バウマンニによって誘発されたマウス敗血症モデルでマウスを救うことができる一方で、7日間にわたるPIM1Dの累積腹腔内注射は無視できる毒性を引き起こした。これらの知見は、本発明の分解性化合物が、現在出現しつつある薬剤耐性の危機に対処するための有望な抗菌剤候補であることを示している。
【0130】
新興の多剤耐性細菌性病原体は、人間の公衆衛生を深刻に脅かしている。抗菌ポリマーは、代替治療薬として広く調査されたが、生体適合性が低く、MIC値が高いため、ほとんど失敗に終わった。驚くべきことに、本発明の化合物は高い抗菌活性を保持すると同時に、インビボで生分解性でもあり、それによって、非分解性化合物の生体内での長期滞在によって引き起こされるまたは悪化する、体内の非分解性化合物の毒性に関連する問題を軽減または排除する。例えば、ポリマーPIM1Dは、WHOの重要病原体リストの上位にある多剤耐性緑膿菌、A.バウマニおよび肺炎桿菌に対しても高い抗菌活性を示した。また、コリスチン治療に不活性な多剤耐性グラム陽性菌およびマイコバクテリアに対してさえ有効であり、幅広い抗菌効果を示している。これは、その優れた生体適合性とともに、PIM1Dを優れた抗菌候補にする。本発明の他の化合物についても同様の特性が見出された。
【0131】
細菌性敗血症は、治療しないと非常に致命的である。多剤耐性細菌性病原体の関与は、ほとんどの抗生物質で治療できないため、治療をさらに問題にする。上記および下記の実施例に示すように、PIM1Dの単回注射は、MDR緑膿菌PAERおよびMDR A.バウマニAB-1によって引き起こされる敗血症に苦しむマウスを救う優れた効力を示した。PIM1Dは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされるマウスの敗血症の治療にも効果的であった。遠位肺感染症は治療が難しく、通常、臨床研究に移行する前に抗菌薬の有効性を評価するために使用される。PIM1Dは、肺炎桿菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされる肺感染症の治療に優れた効果を示した。さらに、治療用量15mg/kg、累積用量105mg/kgでPIM1Dを7回連続して腹腔内注射した後、ごくわずかな毒性しか観察されなかった。上記は、抗菌用途におけるPIM1D(および本発明の他の化合物)の可能性を強調している。
【0132】
ここで、本発明のさらなる態様および実施形態を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0133】
実施例
材料
合成に使用されるすべての化学物質は、Sigma-Aldrich Co. LLC(米国セントルイス州)から購入し、特に指定のない限り反応に直接使用された。市販のARグレードの溶媒は、さらに蒸留することなく、Merckから受け取ったまま使用した。カラムクロマトグラフィーでは、SG Labware Pte Ltd(シンガポール)から入手した工業グレードの溶媒を蒸留せずにそのまま使用した。1,4-ジアミノブタン(ジアミンB)、ムチン、シリカゲル(35~70メッシュ)、シリカゲル60(100~200メッシュ)、Amberlyst(登録商標)A-26OH樹脂、および陽イオン調整ミューラーヒントン培養液(または肉汁;broth)(CAMHB)を米国Merckから購入した。L-リジンおよびヨウ化3,3’-ジプロピルチアジカルボシアニン(DiS-C3-(5))は、Combi-Blocks,Inc.(米国カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC.HCl)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)は、GL Biochem Ltd.(上海、中国)から購入した。シクロホスファミドは、MedChemExpress LLC(上海、中国)から購入した。ヨウ化プロピジウム(PI)染色キット、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、ストレプトマイシン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)およびFM(商標)4-64FXは、Thermo Fisher Scientific(米国マサチューセッツ州)から購入した。3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)は、Alfa Aesar(マサチューセッツ州、米国)から購入した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)は、Biotium, Inc.(米国カリフォルニア州)から購入した。プルラン標準は、Polymer Standards Service(米国ペンシルベニア州)から購入した。1Kダルトン カットオフSpectra/Por(登録商標)6透析膜は、米国のRepligenから購入した。ミューラーヒルトン培養液(MHB)、Trypticaseソイ培養液(TSB)、Lysogeny培養液(LB)、および寒天(LB agar)は、米国Becton Dicksonから購入した。バンコマイシンおよびコリスチンは、米国Chem-Impex International Inc.から購入した。Middlebrook7H9ブイヨン培地はBD Difcoから購入した。ウシ血清アルブミン画分VはRocheから購入した。
【0134】
細菌および増殖条件
緑膿菌PAO1は、南洋理工大学のScott Riceから提供された。エンテロコッカスフェカーリスVRE583および大腸菌EC958は、Singapore Center for Environmental and Life Sciences(SCELSE)から入手した。汎耐性緑膿菌PAER、汎感受性アシネトバクターバウマニACBAS、多剤耐性A.バウマニAB-1、汎感受性肺炎桿菌 KPNS、カルバペネム耐性肺炎桿菌KPNR、汎感受性大腸菌ECOS、MDR大腸菌ECOR、パン感受性のエンテロバクタークロアカECLOSおよびカルバペネム耐性E.クロアカCREは、シンガポール タントクセン病院(TTSH)から入手した。MRSA USA300 LAC、LAC誘導体である黄色ブドウ球菌LAC*、およびLAC menD変異体は以前に記載されている(Pader, V. et al., Infect. Immun. 2014, 82, 4337-4347)。肺炎桿菌SGH10、肺炎桿菌BAK085、肺炎桿菌M7、肺炎桿菌SGH4、多剤耐性A.バウマニX26、広範な薬剤耐性A.バウマニX39、A.バウマニX40はYunn-Hwen Gan博士、シンガポール国立大学から提供された。コリスチン耐性緑膿菌(PAK pmrB12)およびバークホルデリアタイランデンシス(thailandensis)700388は、ワシントン大学医学部のSamuel I. Millerから提供された。マイコバクテリウムアブセサス(粗面および平滑面)およびマイコバクテリウムスメグマティス mc2155 は、リーコンチアン医科大学のケビンピートの研究室で培養およびテストされた。ウシ型結核菌バシラスカルメットーゲランは我々のコレクションである。他のすべての細菌は、American Type Culture Collectionから購入した。特に明記しない限り、細菌は振盪しながら37℃でミューラーヒルトン培養液(MHB)(Wiegand, I. et al., Nat. Protoc. 2008, 3, 163-175)で増殖させた。黄色ブドウ球菌は、Trypticaseソイ培養液(TSB)で増殖させた。マイコバクテリアは、0.2%グリセロール、0.05%Tween80、および10%ADSサプリメント(ウシ血清アルブミン画分V(25g)、D-デキストロース(10g)、および水(500mL)中の塩化ナトリウム(4.05g)を溶解して作製)を添加したMiddlebrook7H9ブイヨン培地で増殖させた。グリセロールは、マイコバクテリア増殖阻害アッセイのために補充されなかった。プレーティングのために、溶原性培養液(LB)を1.5%寒天(LB寒天)で凝固させ、プレートを37でインキュベートした。
【0135】
分析技術
すべてのサンプルは、1H 核磁気共鳴(NMR)、1H-1H等核相関分光法(COSY)、異核多重量子コヒーレンス(HMQC)、13C NMR、およびブルカーアドバンスDPX 300MHz NMR装置を使用した分極移動(DEPT-135)分析による歪みのない増強(distortionless enhancement)の前に、重水素化溶媒CDCl3、D2O、MeOD、またはDMSO-d6に溶解した。。1H NMRスペクトルでは、溶媒残留ピークの化学シフト(δ)は、D2Oでは4.79、DMSO-d6では2.50に設定され、プロトン分離13C NMRスペクトルでは、DMSO-d6の溶媒残留ピークの中央のピークが39.52に設定された。質量分析は、MALDI-ToF ABI4800で記録した。分子量および数平均分子量分布(Mw/Mn)は、直列の2つのウルトラヒドロゲルカラムと、溶離液として0.5M酢酸ナトリウムを含む水/メタノール(MeOH)/0.5M酢酸(AcOH混合物(54/23/23v/v)を使用するRI検出器とを備えたGPCによって決定した(pH=4.5、流速=0.5mL/分)。すべてのサンプルを約1mg/mLで酢酸緩衝液に溶解し、サンプル分析の前に0.22μmマイクロフィルターでろ過した。メルクシリカゲル60(100~200メッシュ)を、粗混合物のカラムクロマトグラフィー分離のための固定相として使用した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、メルク60F254プレコートシリカゲルプレートを使用して実行され、プレートは、UVランプ、ニンヒドリンによる化学染色または塩基性KMnO4溶液を使用して可視化された。
【0136】
透析用酸性水の調製
透析用酸性化水は、ミリポア水(5L)に1M塩酸(HCl、3mL)を加えて調製した。
【0137】
塩化物陰イオンをロードしたカラムの手順
溶出液のpHが元の溶液と同じになるまで、10%HCl水溶液をAmberlyst(登録商標)A-26(OH-型)を充填したガラスカラムに通した。次に、樹脂を中性pHになるまで水で洗浄した。このプロセスは、重力を駆動力として使用して、室温で実行した。
【0138】
ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)の手順
Sephadex(商標)-G25粉末を脱イオン(DI)水に溶解し、一晩浸すと、粉末が膨張してスラリーになった。Sephadex(商標)スラリーを、脱イオン(DI)水を溶離剤として使用してガラスカラムに充填し、重力溶離を行った。
【0139】
比較例1.主鎖アルキル化ポリイミダゾリウム(PIM)塩化物塩、PIM0~5の合成
以下のリストから選択したジアミンの酸性水溶液(合計100mmol)は、ジアミンを水(25mL)に加え、反応混合物を氷水浴で冷却することにより調製した。その後、反応混合物に37%HCl溶液(200mmol)を加えて酸性ジアミン溶液を得た。ジアミンの酸性水溶液を氷水浴中に30分間維持した。その後、ホルムアルデヒド(8.12g、100mmol)およびグリオキサール(14.51g、100mmol)の混合物を反応混合物に滴下した。反応混合物を80℃で4.5時間還流した。還流中、溶液は無色から黄色がかった色に変化した。溶媒および未反応のモノマーをロータリーエバポレーターで除去して、黄色の粘稠油を得た。その油を水で希釈し、pH3~4の酸性水(1-KDa-カットオフSpectra/Por(登録商標)6透析膜、Repligen、米国)に対して1日透析し、酸性水を3回交換して水溶性PIM0~5を得た(
図1)。
【0140】
PIM0~5合成に使用したジアミンのリスト
1,3-ジアミノプロパン-PIM0
1,4-ジアミノブタン(ジアミンB)-PIM1
1,6-ジアミノヘキサン-PIM2
1,8-ジアミノオクタン-PIM3
1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン-PIM4
L-リシン-PIM5
PIM0
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ8.98(s,1H,イミダゾール-H),7.61(s,2H,イミダゾール-H),4.36(t,4H,-CH2-),2.54(m,2H,-CH2-).
【0141】
PIM1
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ8.84(s,1H,イミダゾール-H),7.51(s,2H,イミダゾール-H),4.24(t,4H,-CH2-),1.91(m,4H,-CH2-).
【0142】
PIM2
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ8.77(s,1H,イミダゾール-H),7.47(s,2H,イミダゾール-H),4.16(t,4H,-CH2-),1.85(m,4H,-CH2-),1.33(m,4H,-CH2-).
【0143】
PIM3
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ8.76(s,1H,イミダゾール-H),7.47(s,2H,イミダゾール-H),4.16(t,4H,-CH2-),1.84(m,4H,-CH2-),1.29(m,8H,-CH2-).
【0144】
PIM4
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ8.82(s,1H,イミダゾール-H),7.50(s,2H,イミダゾール-H),4.19(t,2H,-CH2-),3.98(m,1H,-CH-),2.15-1.78(m,4H,-CH2-),1,46-1.15(m,2H,-CH2-),0.84(s,3H,-CH3).
【0145】
PIM5
1H NMR(300MHz,D2O,25℃[ppm]):δ9.12-8.78(m,1H,イミダゾール-H),7.65-7.47(m,2H,イミダゾール-H),5.13(m,1H,-N-CH-),4.21(m,2H,-CH2-),2.33-2.18(m,2H,-CH2-),1.95(m,2H,-CH2-);1.26(m,2H,-CH2-).
【0146】
比較例2.PIM1-フルオレセインイソチオシアネート(FITC)複合体(FITC-接合PIM1)の合成
PIM1(1当量)を水(1mL)中の0.1M重炭酸ナトリウム(NaHCO3)に溶解し、反応混合物を30分間攪拌した。その後、FITC(1当量)を反応混合物に添加し、暗所で一晩攪拌した。次いで、PIM1-FITC複合体を酸性水(500~1000Daカットオフ透析膜)に対して2日間透析して、塩および未反応色素を除去し、酸性水を1日3回交換した。得られた複合体を凍結乾燥して、最終的な PIM1-FITC複合体を得た。PBS中の493nmでのPIM1-FITCの吸光度を使用して検量線を作成し、得られた結果から、PIM1に対するFITCのモル比は約15%であると見積もった。
【0147】
比較例3.PIM0~5のインビトロ抗菌効果および細胞傷害効果
細菌増殖阻害および殺菌アッセイ
最小発育阻止濃度(MIC)は、培養液微量希釈法をわずかに変更して決定した(Wiegand, I. et al., Nat. Protoc. 2008, 3,163)。細菌株の一晩培養物を継代培養し、中間対数(Log)期まで増殖させた後、光学密度(OD)をチェックし、接種材料として使用するために1mLあたり1×106コロニー形成単位(CFU)に希釈した。試験化合物は、DI水中で10.24mg/mLの最終濃度で調製し、新鮮なMHBで1.024mg/mLに希釈した。試験化合物の2倍希釈系列を96ウェルプレートのMHB培地で調製し(ウェルあたりの最終容量50μL)、512μg/mL~1μg/mLまでの濃度勾配を達成し、50μLの細菌懸濁液を各ウェルに接種する前に、ポジティブ対照(MHBメディアおよびポリマーなしの細菌懸濁液)を用いて、37℃で10分間振って(毎分225回転(rpm)でオービタルシェーカー)インキュベートし、対照(MHBのみ)メディア)を滅菌した。プレートをシェーカーインキュベーターで10分間混合した後、37℃で18時間静的にインキュベートした。その後、600nmにおけるOD(OD600)を測定した。マイコバクテリアを含むアッセイでは、化合物を2倍ステップで連続希釈し、この希釈系列の2μLを96ウェルプレートにスポットし、OD600が0.005(約5×105CFU/mL)の対数期の細菌200μLが加えた。これらのプレートを、スメグマ菌については37℃で48時間インキュベートし、M.ボビス バチルスカルメットーゲランについては37℃で5日間インキュベートした。MICは、細菌増殖を少なくとも90%阻害した化合物の濃度(MIC90)として報告された。播種菌濃度を確認するために寒天平板培養を行った。各化合物について3つの独立した実験を行い、各細菌株を試験し、各化合物についてMIC値の範囲を報告した。
【0148】
哺乳類細胞の細胞毒性アッセイ
マウス胚線維芽細胞3T3細胞株を使用して、PIM0~5の毒性をテストした。細胞毒性は、標準的な方法(国際標準化機構(2009)ISO10993-5:医療機器の生物学的評価-パート5:インビトロ細胞毒性の試験(ISOジュネーブ)、1~34)。3T3細胞は、89%DMEM、10%FBSおよび1%抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を含む培地で最初に培養された。顕微鏡で培養フラスコのコンフルエンスが80%になったことを確認したら、細胞をトリプシンで処理し、濃縮し、血球計で計数した。1×104個の細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種した。96ウェルプレートを24時間インキュベートした後、128μg/mL~4μg/mLの範囲の濃度の試験化合物を96ウェルプレートの各ウェルに加えた。さらに24時間のインキュベーション後、細胞生存率を顕微鏡で定性的に評価し、MTTアッセイで定量化した。細胞生存率は、抗菌剤を添加したウェル中のホルマザンの吸光度を、未処理細胞を含むウェル中のホルマザンの吸光度と比較することによって評価した。IC50値は、生存細胞数を50%減少させた試験化合物レベルとして報告された。提示されたデータは3回の測定の平均値であり、標準偏差は10%以下である。
【0149】
LB寒天プレートのカウント
細菌溶液をPBSで10倍に段階希釈した。希釈した溶液を固化寒天プレートに1滴あたり5μLずつ滴下した。バイオセーフティフードで乾燥させた後、プレートを37℃のインキュベーターで18時間インキュベートし、続いて細菌コロニーを数え、それぞれの希釈ファクターを記録した。最後に、細菌濃度を逆算した。
【0150】
結果および考察
表1は、緑膿菌PAER、A.バウマニAB-1(MDR)、および黄色ブドウ球菌USA300(MRSA)におけるPIM1のさまざまなバッチの物理的および生物学的特性を示す。PIM5を除くすべてのPIM塩化物塩は、有意な抗菌活性を示した(表2)。これは、PIM5のカルボキシル化アルキル鎖がシリーズの中で最も疎水性が低く、PIM5がカチオン性ではなく両性イオンであるためである可能性がある。PIM0は、その短いアルキル鎖がPIM1よりも疎水性が低いため、活性の低下を示した。
【0151】
表1.緑膿菌PAER、A.バウマニAB-1(MDR)および黄色ブドウ球菌USA300(MRSA)におけるPIM1のさまざまなバッチの物理的および生物学的特性
【表1】
【0152】
表2.PIM0-5の抗菌効果および細胞毒性効果
【表2】
1細菌の増殖を少なくとも90%(MIC
90)または3T3細胞の生存率の最大阻害の半分(IC
50)まで阻害するのに必要な最小PIM濃度。値は、3つの独立した実験の範囲である。
2グラム陽性菌株は、黄色ブドウ球菌ATCC29213、E.フェシウムATCC19434、グラム陰性菌株は肺炎桿菌ATCC13883、A.バウマニATCC19606、緑膿菌 PAO1、大腸菌ATCC8739、およびE.クロアカATCC13047である。
3マウス線維芽細胞3T3細胞
【0153】
PIM2およびPIM3とは異なり、PIM1は3T3細胞に対して毒性を示さなかった(表2)。これは、PIM2およびPIM3がそれぞれPIM1よりも炭素数が2つまたは4つ長いアルキル鎖を有するからであろう。これらの結果は、アルキル鎖のわずかな違いが哺乳動物細胞の毒性に劇的な影響を与える可能性があることを示している。
【0154】
したがって、PIM1は、病原性細菌のスペクトル全体にわたる強力な抗菌活性、およびPIMのスクリーニングで測定可能な急性哺乳類細胞毒性を示さなかったという事実により、さらなる研究のために選択された(表2)。
【0155】
比較例4.PIM1のインビトロ抗菌活性および細胞毒性
PIM1は、比較例3のプロトコールに従うことにより、より広範な細菌性病原体における抗菌活性をスクリーニングするために使用された。HEK293、HepG2およびA549細胞におけるPIM1の細胞傷害性も、15%FBSを添加したDMEMをHepG2、HEK293およびA549細胞の培養に使用したことを除き、比較例3に記載のように測定した。さらに、PIM1の抗菌活性は、市販の抗生物質であるコリスチンおよびポリミキシンBと比較された。
【0156】
結果および考察
PIM1は、コリスチン耐性バークホルデリアタイランデンシスおよび緑膿菌変異体を含む、さまざまな汎抗生物質耐性グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を示すことがわかった。PIM1は強力な抗マイコバクテリア化合物でもあることに注目した。比較すると、PIM1は、グラム陽性菌に対して特に効果的な抗生物質ではないコリスチンおよびポリミキシンBよりも広い活性スペクトルを有していた(表3)。これらの知見は、PIM1がコリスチンとは異なる作用機序を有していることを示唆している。最後に、4つの異なる哺乳動物細胞株でテストした場合、最高のPIM1レベルでも毒性は明らかではなかった(表4)。
【0157】
表3.汎耐性菌および天然の抗生物質耐性菌のパネルに対するコリスチンの活性と比較したPIM1の抗菌効果
【表3】
1細菌の増殖を少なくとも90%阻害する抗菌剤の濃度。値は3つの独立した実験の範囲である。
2MRSA、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌;VRE、バンコマイシン耐性腸球菌;MDR、多剤耐性;緑膿菌PAKpmrB-12は、緑膿菌PAK由来のコリスチン耐性変異体である(Moskowitz, S. M. et al., J. Bacteriol. 2004, 186, 575-579);XDR、広範な薬剤耐性(Magiorakos, A. P. et al., Clin. Microbiol. Infect. 2012, 18, 268-281);B.タイランデンシス700388は、新興病原体バークホルデリアpseudomalleiの自然なコリスチン耐性近縁種である(B. pseudomallei is also コリスチン resistant)(Olaitan, A. O. et al., Front. Microbiol. 2014, 5, 643)。
3ND,未実施。
【0158】
表4.PIM1、コリスチン、ポリミキシンBの細胞毒性の比較
【表4】
1哺乳動物細胞の生存率の最大半分の阻害を誘発した抗菌剤の濃度。値は、標準偏差が10%未満の3つの平均である。
2ND,未実施.
【0159】
比較例5.PIM1の殺菌特性
PIM1が殺菌性または静菌性であるかどうかを判断するために、対数期培養物からモデルグラム陰性病原体緑膿菌PAO1でMHBをまたはグラム陽性病原体メチシリン耐性MRSA黄色ブドウ球菌LAC*でTSBを接種し、LB寒天上でカウントするプレートによって接種が決定された後、異なる濃度のPIM1の存在下で、サンプル中の総CFUを経時的に決定した。2つの独立した実験が行われ、結果は平均値±SDである。
【0160】
結果および考察
細菌の増殖は、PIM1の非存在下またはMICの半分のレベルのPIM1の存在下で明らかであった(
図2)。MICの2倍では、緑膿菌および黄色ブドウ球菌の両方がPIM1によって殺菌された。これらの実験から、PIM1は殺菌性であると結論付けた。
【0161】
比較例6.抗菌PIM1の新規作用機序
ヨウ化プロピジウム(PI)染色
緑膿菌PAO1は、PI実験で使用された。MHBで増殖した細胞を対数期中期に回収し、新鮮なMHBに再懸濁した。PIM1またはコリスチン(ポジティブ対照)は、示された濃度で追加された。抗菌剤との1時間のインキュベーション後、細胞懸濁液をサンプリングして、プレートカウントによって細胞数を決定した。残りの細胞をPBSで洗浄し、製造元のプロトコルに従ってPI(15μg/mL)で染色した。Attune NxTフローサイトメトリー(Thermo Fisher Scientific, 米国)を使用して、PI(死細胞)を取り込んだ細胞の割合を決定した。Zeiss LSM800共焦点顕微鏡を使用して、ポリリジン
被覆ペトリ皿(MatTek Corporation, 米国)上の細胞を画像化した。
【0162】
膜電位のモニタリング
膜電位感受性色素、ヨウ化3,3’-ジプロピルチアジカルボシアニン(DiS-C3-(5))を使用して、以前に報告された手順(Zhang, L. et al., Antimicrob. Agents Chemother. 2000, 44, 3317-3321)を使用することで、緑膿菌において膜電位(ΔΨ)をモニタ―した。緑膿菌PAO1細胞は、遠心分離および100mMKClおよび0.2mM EDTAを含有する5mM HEPES緩衝液中での懸濁によって中期対数期培養物から回収され、DiS-C3-(5)侵入のために外膜を透過処理した。次に、細菌懸濁液をOD600が0.02になるように調整し、DiS-C3-(5)を加えた(最終濃度1μM)。次いで、細胞懸濁液(180μL)を96ウェルプレートの各ウェルに添加し、試験化合物を示されているようにウェルに添加して、最終混合物を200μLにした。Spark 10Mマイクロタイタープレートリーダー(Tecan、スイス)で622nmの励起および670nmの発光で各ウェルの蛍光を2分ごとに測定した。試験化合物の添加後30分でデータを収集した。2つの独立した実験が行われ、ここでのデータは平均値±SDである。
【0163】
細胞取り込みプロトコル
PIM1-FITCの細胞内取り込みは、他の場所で説明されているように(Radlinski, L. C. et al., Cell Chem. Biol. 2019, 26, 1355-1364)、若干の変更を加えてモニターした。簡単に説明すると、MHBで増殖した細胞を対数期中期に回収し、PIM1-FITCを含む新鮮なMHBに1MIC(PIM1-FITCのMICはPIM1と同じ)で30分間懸濁した。次いで、細胞を遠心分離によって回収し、PBSで1回洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した。固定した細胞を PBS で 2 回洗浄した後、5μg/mL FMTM 4-64FX(invitrogen(商標)、Thermo Fisher Scientific、米国)とともに氷上で10分間インキュベートした。細胞をPBSで再度2回洗浄し、次いでFluoromount(商標)水性封入剤(Merck&Co.、米国)を使用してスライドに密封し、続いてLSM 800システムを備えたZeiss Super Resolution System ELYRA PS.1を使用して画像化した。
【0164】
結果および考察
PIMsは、カチオン性イミダゾリウム部分を有する適度に疎水性のアルキル鎖を有するように設計された。したがって、抗菌ペプチド(Velkov, T. et al., J. Med. Chem. 2010, 53, 1898-1916)のように、PIMの活性には細胞膜の透過性が関与している可能性がある。また、比較例6に見られるように、PIM1はコリスチンとは異なる作用機序を有する。この仮説を検証するために、蛍光色素PIのPIM1処理緑膿菌およびコリスチン処理緑膿菌への取り込みを比較した。無傷の細胞膜を有する生存細胞はPIを除外する。膜が透過処理されている場合、PIは細胞に入ることができる。予想どおり、コリスチンで処理されたほとんどすべての細胞が染色されたが、高濃度のPIM1で処理されたほとんどの細胞でPIが排除された(
図3)。これらの結果は、コリスチンのようにPIM1活性が膜破壊を伴わないという見解を支持している。この見解をさらに支持するために、親油性蛍光色素DiS-C3-(5)を使用して緑膿菌のΔΨをモニターした。プロトン イオノフォア グラミシジンで処理すると、ΔΨ散逸を示すDiS-C3-(5)蛍光が劇的に増加したが、PIM1はそのような効果を示さなかった(
図4)。
【0165】
PIM1は膜を破壊せず、ΔΨを消散しないため、PIM1が細胞に取り込まれる可能性があると推測した。したがって、PIM1の蛍光誘導体であるPIM1-FITCの細胞取り込みは、比較例2で合成され、緑膿菌を治療するために使用された。
図5A~Bに示すように、PIM1-FITCは細胞に入った。カチオン性抗生物質(ゲンタマイシン(GEN)など)の場合と同様に、細胞との関連およびPIM1の抗菌活性はΔΨに依存する可能性があるという仮説を立てた。もしそうであるならば、緑膿菌はアルカリ性環境にある場合に当該活性が高く、酸性環境にあると当該活性が低下するはずである。緑膿菌のような細菌では、プロトン駆動力(PMF)は、細胞質pH(弱塩基性)と同様に、外部pH値の範囲にわたって比較的一定のままである。総PMFは、ΔΨおよび細胞膜全体のpH勾配(ΔpH)で構成されている。したがって、弱アルカリ性環境では、細胞質と外部のpH値は類似しており、PMFは主にΔΨの形(形態)をしている。酸性環境では、外側のpHは細胞質のpHよりも低く、PMFは主にΔpHの形(形態)をしている。実際、PIM1のMICは外部pHに依存しており、PIM1はpH5で低い抗菌活性を示した(
図5C)。これらの発見は、PIM1の取り込みがΔΨ依存であることを示唆している。
【0166】
比較例7.緑膿菌に対するPIM1のMICに対するバリノマイシンおよびナイゲリシンの影響
バリノマイシン、ニゲリシン、およびPIM1をMHBに溶解した。原液をマイクロタイタープレートのウェルに加えて50μLとし、対数期の緑膿菌培養液50μLを加えた。MIC90は、比較例3に記載されるように決定された。
【0167】
結果および考察
PIM1の作用機序についてさらに洞察を得るために、PIM1活性に対するカリウムイオノフォア(バリノマイシン)およびナトリウム-カリウム交換体(ニゲリシン)の影響を調査した。中性pHでは、バリノマイシンはΔΨを減少させ、ニゲリシンはΔpHを崩壊させる(Farha, M. A. et al., Chem. Biol. 2013, 20, 1168-1178)。得られた結果は、我々の仮説と一致していた。緑膿菌のPIM1のMICは、バリノマイシン処理によって増加したが、ニゲリシンの影響を大きく受けなかった(
図5D)。ここで得られた結果と比較例6で得られた結果を組み合わせると、PIM1はΔΨ依存的に細胞に取り込まれると結論付けられるが、細胞膜または細胞質で抗菌効果を発揮しているかどうかを識別することはできない。
【0168】
比較例8.PIM1による緑膿菌PAO1の死滅に対する代謝状態の影響
以前に報告された方法(S. Meylan et al., Cell Chem. Biol. 2017, 24, 195‐206)を使用して、緑膿菌PAO1の生存に対するPIM1および他の抗生物質の効果を決定し、ただし、静止期の細胞はMHBで一晩増殖させることによって得られ、PIM1およびGENを比較した。結果は、中期対数増殖期のMHB培養から採取された緑膿菌PAO1の結果と比較された。さらに、静止期の細胞にフマル酸(15mM)を添加することにより、静止期の緑膿菌のPIM1による死滅を増強するエネルギー源の能力をテストした。
【0169】
結果および考察
一般に、抗生物質は、成長していない細菌に対する活性が限られている。緑膿菌の場合、これは、エネルギー源の存在下および非存在下でインキュベートした静止期細胞に対する、例えば、GENのような抗生物質の殺菌活性を比較すると明らかである(S. Meylan et al., Cell Chem. Biol. 2017, 24, 195‐206; K. R. Allison et al., Nature 2011, 473, 216-220)。PIM1は膜の完全性を破壊するようには見えず、GENと同様に、活性にはΔΨが必要であるという我々の発見に基づいて、栄養不足の細菌に対するその殺菌活性は制限されている可能性があると仮定した。実際、静止期の細胞は、コリスチンによる細胞死よりもPIM1細胞の死滅(または対照としてのGEN死滅)の影響を受けにくくなっている(
図6A)。フマル酸がエネルギー源として静止期細胞に供給されると、PIM1およびGENの両方の殺菌活性が回復した(
図6B)。GENおよび他の多くの抗生物質に当てはまるように、PIM1は成長していない細菌に対する殺菌剤としての有用性は限られていると、我々は結論付けている。また、これらの実験は、PIM1が細胞膜を破壊することによって作用せず、活性にΔΨが必要であるという結論と一致していることにも注意されたい。
【0170】
比較例9.PIM1耐性の実験室進化
実験室進化突然変異アッセイ
自然発生的なPIM1耐性およびシプロフロキサシン耐性の進化に関する実験には、他の場所で説明されているように連続継代が含まれていた(Ling, L. L. et al., Nature 2015, 517, 455-459)。MHBで成長した緑膿菌PAO1またはTSBで成長したMRSA LAC*のいずれかを使用した。最初の移植の接種材料は107細胞/mLで、1mLまたは100μLのさまざまな量の抗生物質を使用して、緑膿菌とMRSAのそれぞれに2mL試験管および96ウェルプレートを使用した。緑膿菌を用いた実験の容量を大きくすると、この種の培養容量が小さくなると抵抗性が出現しなかったため、細胞数が増加した。細菌の増殖は24時間間隔でモニターされた。移植は毎日行い、移植用の接種材料(100倍希釈)は、少なくとも0.2のOD600までの増殖を可能にする最高レベルの抗生物質を含む培養物からのものであった。緑膿菌の場合、実験は30日間であった。MRSA LAC*については、実験は15日で終了した。MRSA LAC*の分離株は、最後の転送から取得され、さらなる研究で使用するために-80℃でグリセロールストックとして保存された。
【0171】
全ゲノムシーケンシング
標準的な手順を使用して、PIM1耐性黄色ブドウ球菌変異体からゲノムDNAを分離し、イルミナNextera DNAライブラリ調製キットを使用してシーケンス用にDNAを調製した。DNAはイルミミナMiSeq装置(ペアエンド シーケンス)でシーケンスされた。親株MRSA LAC*(Bowman, L. et al., J. Biol. Chem. 2016, 291, 26970-26986)のゲノムに配列をマッピングし、CLC Genomics Workbenchソフトウェアを使用して単一のヌクレオチド変異、小さな欠失および挿入を特定した。大規模な欠失(delections)は、手動のシーケンス比較によって識別された。DNA配列はEuropean Nucleotide Archive(ENA)に寄託されており、受託番号はPRJEB37791である。
【0172】
結果および考察
治療薬として有名なPIMの可能性を評価し、おそらくPIMの作用機序についてさらに洞察を得るために、緑膿菌とMRSAに対してPIM1またはシプロフロキサシン(対照)の濃度を上げて反復継代実験を行った。緑膿菌では、シプロフロキサシン耐性変異体が出現したが、PIM1耐性変異体は出現しなかった(
図7)。PIM1耐性MRSA は、シプロフロキサシン耐性変異体の出現と同様の速度で出現した。
【0173】
進化したMRSA集団におけるPIM耐性表現型の性質についての洞察を得るため、最終継代からバクテリアを分離した。特徴付けられた21の分離株のうち、それらのすべてが小さなコロニーバリアント(SCV)表現型を示し、15は初期株の128倍以上のPIM1 MICを有し、他の6つは親株の64~128倍のPIM1 MICを有していた。進化していない株よりも128倍以上のMICを示す15の分離株のゲノムの配列を決定した(Shi, Z. et al., Polymer resistance ブドウ球菌 aureus strains. European Nucleotide Archive. Deposited 14 April 2020.)。1を除く全部が、メナキノン生合成に必要な遺伝子(menA-FオペロンまたはispDのいずれかの遺伝子)に変異を有していた。いくつかの分離株はまた、カチオン性ペプチド、具体的にはvraGまたはvraF、graRまたはgraS、またはfmtCに対する耐性を付与することが知られている遺伝子に変異を有していた(Falord, M. et al., PloS One 2011, 6, e21323; Joo, H.-S . et al., Biochim. Biophys. Acta 2015, 1848, 3055-3061; Yang, S.-J. et al.,Infect. Immun.2012,80, 74-81)(表5)。メナキノン合成をコードする遺伝子は特に興味深いものであった。なぜなら、メナキノンとPIM1活性との間の関係が、PIM1活性のモードについての手がかりを提供する可能性があるからである。したがって、menD欠失変異体のPIM1感受性をその親と比較した。
【0174】
このmenD変異体はメナキノンを作ることができず(Lannergard,J.et al.,Antimicrob.Agents Chemother.2008, 52, 4017)、発酵に対して増殖制限される。我々の進化したPIM1耐性分離株のように、この突然変異体はSCV表現型を有している。これは、メナキノン合成変異体の特徴的な表現型である(Von Eiff,C.et al.,J.Bacteriol.2006,188,687)。menD変異体は、その親よりもPIM1耐性の8倍の増加を示した(親の2μg/mLに対して16μg/mLのMIC)。したがって、メナキノンまたは機能的な電子伝達システムがMRSAのPIM1に対する感受性に関与していると考えているが、進化した分離株の非常に高いPIM1耐性には他の要因も関与しているに違いない。我々は、PIM1が有毒な活性酸素種の生成につながる電子伝達系を直接妨害するか、発酵増殖中にPIM1の取り込みが妨げられ、その抗菌活性が低下すると推論した。
【0175】
表5.実験室で進化したPIM1耐性黄色ブドウ球菌LAC
*変異体における一般的な関連変異のリスト
【表5】
1塩基置換はすべて、アミノ酸置換または終止コドンのいずれかをコードする非同義変異であった。
2変異体5114は、メナキノン生合成遺伝子の変異を特定できなかった唯一のPIM1耐性変異体である。
【0176】
比較例10.動物感染症におけるPIM1治療の有効性
マウスは、感染前に室温で12時間の明暗サイクルで1週間収容された。我々の皮膚感染モデルは次の通りであった:雌C57B/6マウス(8~9週齢)の剃った背部皮膚の傷(直径約5mm)をパンチ生検によって作製し、緑膿菌PAERの対数期細胞を作製した。ピペッティングによって傷に導入された(10μLPBS中約106CFU)。感染した傷は、直ちにテガダーム(3M、米国)で覆われた。感染後4時間で、抗菌薬(PIM1およびイミペネム(Imp))治療は、テガダームを介した注射によって開始された。その後、テガダームの別の層が適用された。さらに24時間後、創傷の中心から1cm2四方の組織サンプルを取り出し、サンプルをホモジナイズし、プレートカウントによって細胞数を決定した。我々のプロトコルは、南陽理工大学の制度的ケアおよび使用委員会(NTU IACUC,プロトコルA0362)によって承認された。
【0177】
結果および考察
カルバペネム耐性緑膿菌マウス創傷感染症を制御するPIM1の能力を評価した。予想通り、緑膿菌のImp耐性株は、未処理またはImp処理の創傷で次の24時間にわたって数が増加した。未治療またはImp治療の創傷と比較して、緑膿菌の数は、0.1mg/kgのPIM1で1回治療するとわずかに減少し、1mg/kg以上の用量のPIM1で1回治療すると約4対数減少した(
図8)。
【0178】
比較例11.動物感染におけるPIM1処置の毒性
全身感染モデルでは、最初に、14日間にわたって体重を追跡することにより、雌の BALB/cマウス(8~9週齢)におけるPIM1(IP注射、6mg/kg)の毒性を評価した。体重は5日間毎日記録した。
【0179】
結果および考察
IP注射によってマウスに送達されたときのPIM1の安全性がテストされ、急性毒性の証拠が見つかった。単回投与後、5日間にわたって体重の減少が観察された(
図9A)。
【0180】
実施例1.分解性PIM1Dの前駆体(N,N’-(プロパン-1,3-ジイル)ビス(2-アミノアセトアミド))(ジアミンA)の合成(
図10A)
EDC.HCl(14.58g,76.1mmol)およびHOBt(10.70g,79.14mmol)をBoc-Gly-OH(8.0g,45.66mmol)の無水DMF(25mL)溶液に0℃(氷水)で30分間攪拌した。0℃(氷水)に保った反応混合物に、室温に保った1,3-ジアミノプロパン(1.28mL、15.22mmol)を10分かけて滴下した。次に、反応混合物を室温にし、48時間連続的に攪拌した。次に、水(50mL)を加え、生成物を酢酸エチル(EtOAc)またはDCM(150mL)で3回抽出した。抽出物を水(50mL)で3回洗浄し、次いで、ブライン(50mL)で1回洗浄した。EtOAcまたはDCMの層を無水Na
2SO
4(約50g)で乾燥させた。次に、Na
2SO
4を濾別し、濾液をロータリーエバポレーター(50℃で20分間、120rpm)で濃縮した。残留物を真空下、室温で一晩乾燥させた。乾燥した残留物を無水DCM(30mL)に溶解し、次いで0℃(氷水)に保ち、トリフルオロ酢酸(TFA、8mL)を10分かけて滴下した。その後、反応混合物を室温で12時間攪拌した。粗生成物を、120rpmで10分間、50℃でロータリーエバポレーターにより濃縮した。次に、トルエン(50mL)を加え、溶液を50℃で30分間、120rpmでさらにロータリーエバポレーターにかけた。残留物を、(i)30%メタノール(MeOH)のジクロロメタン溶液(DCM、500mL)、続いて(ii)2%TFAのMeOH溶液(1000mL)の連続溶離液を用いてシリカゲル60カラムクロマトグラフィーによって精製して不純物を除去し、分解可能なジアンモニウムTFA塩A(3.0g、7.20mmol)を生成する。
【0181】
1H NMR(300MHz,DMSO-d6,25℃[ppm]):δ 8.55(t,J=5.4Hz,2H),8.18(brs,6H),3.53(s,4H),3.14(q,J=6.3Hz,4H),1.54-1.63(m,2H).13C NMR(75MHz,DMSO-d6,25℃[ppm]):δ 166.14,159.58(-CO-CF3),159.16(-CO-CF3),158.74(-CO-CF3),158.32(-CO-CF3),123.24(-CF3),119.29(-CF3),115.33(-CF3),111.38(-CF3),40.26,36.73,28.86.
【0182】
実施例2.分解性PIM1Dの合成
ジアミンAを得るために、Et3N(1mL)を、0℃(氷水)に維持したMeOH(4ml)中のジアンモニウムTFA塩A(400mg、0.96mmol)の攪拌溶液に加えた。反応混合物を室温で30分間攪拌した後、揮発性物質をロータリーエバポレーターで蒸発させ、室温で20分間真空乾燥して、分解性ジアミンAを得た。得られたジアミンAは、生分解性PIM1Dを形成するジアミンBとのpoly-Radziszewski 反応に直ちに使用された。
【0183】
PIM1Dの合成は、
図10Bに示すように実行された。氷酢酸およびテトラヒドロフラン(THF)(3:1.25mL)中のグリオキサール(40wt%,349mg,2.4mmol)およびホルムアルデヒド(37wt%,195mg,2.4mmol)の0℃(氷水)での第1混合物を調製した。0℃(氷水)のAcOHおよびTHF(3:1.25mL)中の分解性ジアミンA(181mg、0.96mmol)および非分解性ジアミンB(127mg、1.44mmol)を含む第2の溶液も調製した。第1混合物を、0℃(氷水)で10分かけて第2の混合物に滴下した。次に、反応混合物(黄色がかった色)を室温まで温めると、反応混合物は茶色に変わった。反応混合物を室温で24時間放置した後、最終反応混合物(約10mL)を1Kダルトン カットオフSpectra/Por(登録商標)6透析膜(Repligen、米国)に直接移し、5Lの酸性化水(pH=3~4)に対して透析し、酸性化水を24時間にわたって3回交換した。透析バッグ内のポリマー溶液を丸底フラスコに移し、ロータリーエバポレーターで水を蒸発させ(70℃、1時間、120rpm)、丸底フラスコ内に固体のPIM1Dを得た。凍結乾燥のためにPIM1Dを移すために、水(5mL)をポリマー溶液に加え、濃縮されたPIM1D溶液を小さなファルコン管(15mL)にデカントし、-80℃で凍結乾燥して純粋なPIM1Dを得た。PIM1Dの分子量および化学構造を確認するために、GPCおよびNMRによるキャラクタリゼーションを行った。
【0184】
キャラクタリゼーション
GPCは、最終的なPIM1D化合物の狭い分布を示した。DMSO-d6中の1H NMRスペクトルの9.62ppmおよび7.81ppmでの化学シフトは、イミダゾリウム環の形成を確認し、1.59~5.06ppmでのシグナルはPIM1Dにおけるアルキル鎖に対応する。MSO-d6中の13C NMRスペクトルにより、ピークの帰属がさらに確認された:121.06~136.53ppmのシグナルはイミダゾリウム環の形成を示し、25.78~52.77ppmのシグナルはアルキル鎖の存在を示し、164.99および167.05ppmのシグナルはアミドカルボニルの存在を示す。これらの帰属は、DEPT-135、COZY、およびHMQC分析によってさらに確認された。DEPTスペクトルでは、13C NMRで167.05および164.99ppmに現れたアミドのカルボニル基シグナルが消失し、イミダゾリウム環のC2-H、C4-HおよびC5-Hプロトンに対応するシグナルが正の位相を示した一方で、ポリマー鎖のCH2基の他のシグナルは負の位相を示した。COSYスペクトルでは、ポリマー鎖のアルキル鎖の相関が観察され、それらの隣接位置を示した。ただし、5.07ppmおよび4.57ppmのシグナルには相関関係が見られず、2つの非等価な-CH2-CO-基には隣接するプロトンがないことが確認され、これらの基の-CH2-炭素がイミダゾリウム環のN原子に結合していることを示している。HMQCスペクトルは、PIM1Dのイミダゾリウム環およびアルキル鎖の両方でプロトンおよび炭素の相関関係を示すことにより、帰属をさらに裏付けている。
【0185】
実施例3.PIM1D合成の反応条件の最適化
PIM1Dの生物学的プロファイルに対する反応条件の影響を最適化するために、ジアミンAとジアミンBの供給比、反応温度、反応時間などを含む、実施例2の特定の反応パラメータを変更した。比較例3に記載されているように、その抗菌活性および細胞生存率によって、PIM1Dの生物学的プロファイルを決定した。
【0186】
結果および考察
ジアミンAとジアミンBのモル比(表6、エントリ1~3)を変化させて、分解性部分(ジアミンA)のパーセンテージを最適化した。結果は、エントリ3(飼料中のジアミンAとジアミンBのモル比が2:3である場合)が、優れた抗菌効果および最低の哺乳類細胞毒性を備えた最適化されたPIM1Dを生成したことを示している(表7~8、エントリ3)。表6、エントリ1~2(および対応するエントリ1~2、表7~8)は、分解性ジアミン供給比率が低いため、毒性がはるかに高いPIM1Dが得られたが、優れた抗菌効果が示された。
【0187】
表6.ジアミンAおよびジアミンBからのPIM1D合成の反応条件の最適化
【表6】
*異なる条件下での反応および精製(表1に詳述)は、PIM1D合成に与えられた典型的な実験手順に従って実行された。
a反応はより大きなスケール(4.8mmolアルデヒドスケール)で行われた。
b反応は高希釈で行った(2.4mmolのアルデヒドに対してAcOH(10mL)).
c透析中にHClを使用せずにアセテートカウンターイオンを含むポリマーが得られた。
【0188】
表7.さまざまな反応条件で合成されたPIM1Dの抗菌活性
【表7】
【0189】
表8.さまざまな反応条件下で合成されたPIM1Dの細胞生存率
【表8】
【0190】
溶媒比、温度、重合反応の時間、透析膜および透析時間を変化させることにより、さらなる反応条件の最適化を行った(表6、エントリ4~17)。得られた化合物は、狭い分子量分布で1KDa~2KDaの範囲のMnを示し、(生成物中の)分解性ジアミンAの最終的な割合は17%~30%の範囲であった(表6、エントリ4~17)。これらの化合物はすべて良好な抗菌活性を示し、MIC90は多剤耐性緑膿菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の両方に対してほとんど4~16μg/mLの範囲であった(表7、エントリ4~17)。生体適合性は、3T3線維芽細胞および肝臓HepG2細胞を使用してテストされ、テストされた化合物(表8、エントリ4~17)は、4つの濃度(128μg/mL~1024μg/mL)すべてで50%を超える細胞生存率を示した。これらの結果は、PIM1D合成における反応条件のわずかな変更はその生物学的特性に大きな影響を与えず(表6~8、エントリ4~17)、PIM1Dの生物学的プロファイルは1KDa~2KDaの範囲の分子量に影響されないことを示している。反応条件の変動に対するこの耐性により、化合物の商品化が容易になり、さまざまな抗菌剤用途に大きな可能性を秘めている。
【0191】
実施例4.PIM1Dのインビトロ抗菌活性と生体適合性
PIM1Dおよびコリスチンは、比較例3のプロトコルに従って、MDRグラム陽性菌およびグラム陰性菌のより大きなパネルに対して試験された。PIM1Dおよびコリスチンのインビトロ生体適合性は、比較例3のプロトコルに従って、3T3、HEK293、HepG2およびA549細胞を使用するMTT試験によって評価された。
【0192】
結果および考察
表9は、緑膿菌PAER、A.バウマニAB-1(MDR)、および黄色ブドウ球菌USA300(MRSA)におけるPIM1Dのさまざまなバッチの物理的および生物学的特性を示している。驚くべきことに、PIM1Dは、WHOが新しい抗生物質を要求する重要な病原体である(世界保健機関(WHO)新しい抗生物質の研究、発見、開発を導くための抗生物質耐性菌の世界的な優先リスト 2017)コリスチン耐性のB.タイランデンシス700388 (表10)、MDR A.バウマニ、緑膿菌および肺炎桿菌を本来含むMDRグラム陽性菌およびグラム陰性菌のより大きなパネルに対して強力な抗菌活性を示した。PIM1Dは、強力な抗マイコバクテリウム化合物でもあることに注意されたい。全体として、PIM1Dが効果的な抗菌剤であり、コリスチンよりも広いスペクトル活性を有していることを実証した。
【0193】
表9.緑膿菌PAER、A.バウマニAB-1(MDR)および黄色ブドウ球菌USA300(MRSA)におけるPIM1Dのさまざまなバッチの物理的および生物学的特性
【表9】
【0194】
表10 病原体、マイコバクテリア、およびヒト細胞株に対するPIM1DのMIC
90および細胞毒性
【表10】
【0195】
PIM1Dは1024μg/mLより大きいIC50値を示し、これは抗生物質対照であるコリスチンと同様の範囲である(表10)。ほとんどの細菌株に対するPIM1DのMIC90値が8~16μg/mLの範囲にあったことを考慮すると、50を超える大きな治療ウィンドウが得られる。したがって、PIM1Dは抗菌剤に開発される可能性がある。
【0196】
実施例5.分解性PIM1Dのインビボ毒性および抗菌効力
インビボ毒性試験
PIM1Dのインビボ毒性は、マウスの体重および血液バイオマーカーを14日間にわたってモニタリングすることによって評価された。BALB/cメスのマウス(8~9週齢)を無作為に2つの群に分けた:生理食塩水対照群およびPIM1D処理群。PIM1D投与群の各マウスは、IP注射(累積投与量105mg/kg)を介して、連続7日間、毎日PIM1D(15mg/kg)を投与された。生理食塩水対照群には同量の生理食塩水を腹腔内注射した。1日目、3日目、7日目に、マウスの血液を顎下静脈から採取し、Pointcare V3 Blood Chemistry Analyzer(MNCHIP、天津、中国)を用いて、製造元のプロトコル(Zhang,K.et al.,Nat.Commun.2019,10,4792)に従って、血液生化学アッセイを実行した。同様に、生理食塩水対照群のマウスの血液を採取し、比較のために定量化した。最初の注射から14日後まで、マウスの状態を綿密にモニターした。当該プロトコルは、寧波大学の動物倫理福祉委員会(AEWC、プロトコル AEWC-2018-07)によって承認された。
【0197】
インビボ 有効性試験
マウス敗血症モデルを使用して、PIM1Dのインビボ有効性を評価した。MDR緑膿菌PAERおよびMDR A.バウマニAB-1のマウス敗血症感染モデルの実験は、南陽工科大学(NTU IACUC)の制度的ケアおよび使用委員会によって承認されたプロトコルのガイダンス内で実施された。野生型緑膿菌PAO1およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300のマウス敗血症感染モデルの実験は、寧波大学の動物倫理福祉委員会(AEWC)によってレビューおよび承認されたプロトコルに従って実施された。BALB/cメスマウス(8~9週齢)を使用して、すべてのマウス感染モデルの敗血症性ショック保護効果をテストした。指数増殖期の細菌を生理食塩水で2回洗浄し、同量の生理食塩水に再懸濁した。5%ムチン中のさまざまな濃度の細菌懸濁液300μLをIP注射で各マウスに導入して、最初に致死細菌量を決定し、決定した濃度を次の研究で使用した。ムチンの使用は、入院患者と同様に、免疫不全のマウスに与えることです。感染後2時間で、マウス(1群あたり5匹)を単回用量の試験化合物で処置した。マウスの陽性対照群および陰性対照群には、それぞれ同用量の抗生物質および同量の生理食塩水を同じ時点で注射した。マウスの生存を7日間監視した。マウスの別のセットでは、感染後26時間ですべてのマウスを安楽死させた。次いで、PBS(2.0mL)をIPキャビティに注入することによって腹膜洗浄を行い、続いて1分間の腹部マッサージを行った。その後、約0.5mLの腹水をCFU分析用に回収した。細菌負荷は、動物の脾臓、肝臓、および腎臓でも評価された。感染後2時間で細菌感染が確立されているかどうかを確認するために、同じ細菌接種を受けたマウスを犠牲にし、IP液およびすべての臓器(腎臓、肝臓、脾臓を含む)を採取してCFUを決定した。MRSAによって引き起こされた敗血症に関する実験は、4日目および1日目に150mg/kgおよび100mg/kgのシクロホスファミドを腹腔内注射することによってマウスが免疫抑制されたことを除いて、緑膿菌の実験と同様であった(Chin,W.et al.,Nat.Commun.2018,9,917)。治療は、感染後2時間と26時間の2回行った。細菌負荷は、感染の50時間後に犠牲になったマウスの器官からのものであった。非治療群では、感染後26時間または50時間のうち、死亡時間に近い方でマウスを屠殺した。前処置群では、感染の2時間後にマウスを屠殺した。細菌レベルは、一元配置分散分析(ANOVA)および両側スチューデントt検定(Graphpad Prism for Windows,version7)で分析された。
【0198】
結果および考察
7日間毎日PIM1Dで処理されたマウスは、有意な体重減少を示さず(
図9A)、苦痛の兆候も観察されなかった。IP注射によって送達された場合のPIM1D毒性の可能性に関する詳細情報を得るために、血液化学を分析したところ、薬物毒性に敏感な多くのマーカーが初回投与まで、またはPIM1Dの最後の投与が送達された後でも変化していないことがわかった(
図9B~D)。これは、動物が前記化合物の投与後に顕著な体重減少および毒性効果を示したPIM1よりも有意な改善である。したがって、毒性の低減と相まって、広域スペクトル活性の保持により、PIM1Dは有望な抗菌化合物になる。
【0199】
異なる細菌株を有するすべての敗血症モデルでは、細菌細胞は、治療が開始された感染後2時間で、腎臓、肝臓、脾臓を含むすべての臓器に広がった(
図11A~Dの「治療前」グループの細菌CFUカウントを参照されたい。緑膿菌PAO1誘発性敗血症ショックの場合、PIM1D処理により、未処理の対照と比較して、採取されたすべての臓器(腎臓、肝臓、脾臓)で細菌負荷が3Logオーダー以上減少し(
図12Aおよび
図12A~C)、ほぼ完全な細菌クリアランスは腹腔内で観察され、Imp抗生物質対照と同様のインビボ有効性を示した(
図12C)。さらに、ImpまたはPIM1Dのいずれかで処置されたすべてのマウスは、7日間のモニタリング期間中に苦痛の徴候なしに生存したが、処置なしのマウスはすべて死亡した(
図11E)。
【0200】
次に、多剤耐性緑膿菌(PAER)誘発腹膜ショックにおけるPIM1Dのインビボ有効性を評価した。PIM1D(15mg/kg)の単回投与治療を受けたマウスは、感染後2時間で100%生存したが、未処理の対照または同じ用量のImp治療を受けたマウスでは生存がゼロであった(
図11F)。また、未処理の対照またはImp対照と比較して、収穫されたすべての臓器(腎臓、肝臓、脾臓を含む)で99.9%以上の細菌の減少が見られ、腹腔内でほぼ完全な細菌の根絶が示された(
図11Bおよび
図12D~F)。
【0201】
MDR A.バウマニ(AB-1)によって誘発された敗血症モデルでは、Imp対照(15mg/kg)よりもPIM1D(15mg/kg)の単回投与で処理されたマウスの方が優れた細菌減少が観察された。約99.9%の細菌の除去は、PIM1Dで処理されたマウスの採取された器官で未処理の対照と比較して見られ、99.999%を超える細菌の減少が腹腔内で観察された(
図11Cおよび
図12G~I)。さらに、PIM1D処理を受けたマウスは、Imp処理群における80%の生存、および処理なしのマウス群における0%の生存と比較して、100%の生存を示した(
図11G)。
【0202】
1日目、3日目、7日目に顎下静脈から採取したマウスの血液を獣医化学分析装置を用いて分析し、ALT、AST、BUNレベルなどを評価した。IP注射により生理食塩水を毎日受けたマウスを対照として使用した。7日間にわたって、肝臓の毒性を表すALTおよびASTレベルに有意な変化は見られず、腎臓毒性を表すBUNレベルには無視できる変化が観察された(
図13A~H)。これらの結果は、分解性部分の導入により、PIMシリーズのインビボ毒性が正常に減少し、インビボでの抗菌力が維持されていることを示している。
【0203】
実施例6.免疫抑制マウスにおけるPIM1Dのインビボ有効性
免疫抑制は、感染が導入される前に、4日目にシクロホスファミド(150mg/kg)および1日目にシクロホスファミド(100mg/kg)をBALB/c雌マウス(8~9週齢)にIP注射することによって誘導した。動物研究プロトコルは、寧波大学の動物倫理および福祉委員会によって承認された。実施例5のプロトコールに従って、マウスにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA USA300を感染させた。15mg/kgの抗生物質(PIM1Dおよびバンコマイシン)の2つの別々のIP注射を、感染の2時間後および26時間後に行った。マウス器官の採取および腹腔洗浄は、細菌負荷を決定するために感染の50時間後に適用された。
【0204】
結果および考察
免疫抑制マウスのMRSA誘発性敗血症におけるPIM1Dの有効性を評価し、PIM1Dの広域スペクトル抗菌活性をさらに示した。未処理の対照と比較して、PIM1Dで処理したマウスのすべての採取臓器で99%を超える細菌の減少が観察され、バンコマイシン処理と比較して優れた細菌クリアランスを示した(
図11Dおよび
図12J~L)。腹腔内では、バンコマイシン処理対照と同様に、99.99%を超える細菌の減少が示された(
図12L)。PIM1Dまたはバンコマイシン処置のいずれかを受けたマウスでは、未処置群の0%のマウス生存とは対照的に、すべてのマウスが生存した(
図11H)。したがって、PIM1Dは、MRSA USA300に感染した免疫抑制マウスを病気から守り、影響を受けた臓器の細菌負荷を低下させた。
【0205】
実施例7.好中球減少性肺感染モデルにおけるPIM1Dのインビボ有効性
遠位感染症の治療におけるインビボでの有効性を実証するために、PIM1Dを使用して、MRSA USA300および肺炎桿菌(#13883)によって引き起こされる好中球減少性肺感染モデルを治療した。
【0206】
好中球減少肺感染モデル
免疫抑制は、感染が導入される前に、4日目にシクロホスファミド(150mg/kg)および1日目にシクロホスファミド(100mg/kg)をBALB/c雌マウス(8~9週齢)にIP注射することによって誘導した。肺感染症は、MRSA USA300または肺炎桿菌(#13883)の気管内送達によって確立された。感染したマウスは、20mg/kgのPIM1D-CA(PIM1Dとクエン酸の混合物、1:1wt%、付随する毒性を最小限に抑えるためにクエン酸を追加)または抗生物質(バンコマイシンまたはコリスタン)を気管内送達で感染後2時間処理し、一方、非処理群のマウスはPBSのみを受けた。マウスの生存を1週間監視した。別の実験では、感染の26時間後にマウスの肺を採取し、ホモジナイズした後、プレーティングして細菌量を確認した。動物研究プロトコルは、寧波大学の動物倫理および福祉委員会によって承認された。
【0207】
結果および考察
MRSAによって誘発された好中球減少性肺感染症では、気管内送達による20mg/kgPIM1D-CA(PIM1Dおよびクエン酸の1:1wt.%混合物)の単回処理により、細菌負荷が無かったマウスと比較して99.9%以上の効率で減少した(
図14A)。さらに、PIM1D-CA処理は、同じ処理用量でバンコマイシンよりも優れていた。これに加えて、PIM1D-CA処理を施した感染マウスは、感染対照群(infection control group)の生存ゼロと比較して100%の生存率を示し、バンコマイシン処理を受けたマウスの40%の生存率を示し(
図14B)、MRSAによって引き起こされる好中球減少性肺感染症の処理におけるPIM1Dの優れた活性を示している。
【0208】
PIM1Dの広域抗菌活性を考慮して、肺炎桿菌(#13883)による好中球減少性肺感染症におけるその有効性も評価した。PIM1D-CA(20mg/kg)の単一の気管内送達は、コリスチン処理マウスと同様に、感染対照と比較して、マウスの肺で肺炎桿菌を99.9%以上減少させた(
図14C)。また、PIM1D-CAおよびコリスチンで処理したマウスはいずれも、監視した1週間以内に生存したが、処理を行わなかったマウスは生存しなかった(
図14D)。
【0209】
PIM1に対するPIM1Dの利点
実施例1~7の結果は驚くべきことに、PIM1Dが毒性の証拠を示さなかっただけでなく、有意な抗菌活性も保持し、インビボでマウス敗血症感染を治療する有効性を示したことを示している。したがって、その優れた生体適合性とともに、PIM1DはPIM1の優れた抗菌候補である。
【0210】
比較例12.PIM1臭化物(PIM1-Br)モノマーの合成
イミダゾール(10.0g、146.9mmol)をTHFに溶解した。NaH(10.6g、440.7mmоl)を0℃で溶液に少しずつ加え、反応混合物を室温で1時間攪拌した。1,4-ジブロモブタン(63.5g、294.11mmol)(2.0当量)を添加し、反応混合物を還流下(50℃)で5時間加熱して(
図15)、PIM1-Brモノマーをオレンジ色の油(15.1g、46%)として得た。
【0211】
1H NMR(CDCl3,300MHz):δ 3.10-1.23(m,4H,-CH2),3.43(t,2H,-CH2),4.06(t,2H,-CH2),6.90(s,2H,イミダゾールH),7.04(s,2H,イミダゾールH)、7.49(s,1H,イミダゾールC2-H).
【0212】
比較例13.PIM1-Brを調製するための自己重合経路、および自己重合反応に対する反応条件の影響
比較例12で調製したPIM1-Brモノマーを、水、NMPおよびDMFから選択されるそれぞれの溶媒に、体積比(モノマー:溶媒)1:3で溶解した。重合反応は激しく攪拌しながら行い、反応フラスコをオイルバスに浸して加熱した。所定の反応時間の後、反応混合物を脱イオン水で希釈し、脱イオン水で3日間透析(MWCO1000Da)し、凍結乾燥してGPC(表11)で特徴づけられたPIM-Br化合物(
図16)を得た、。
【0213】
結果および考察
PIM1-Brの自己重合反応に対するさまざまな反応条件の影響を、GPCを使用して調査した。GPC結果の概要を表11に示す。
【0214】
表11.異なる反応条件下でのPIM1-Brの自己重合
【表11】
【0215】
比較例14.PIM1-Brの抗菌効果
PIM1-Brの抗菌効果は、比較例3のプロトコルに従って調査され、異なる細菌に対する化合物のMICを測定した。
【0216】
結果および考察
表12.PIM1-Brの抗菌効果のまとめ
【表12】
【0217】
比較例15.非分解性主鎖カチオン性PIM、P(ImC6)およびP(ImC8)の合成(
図17)
水(30mL)中の1,6-ジアミノヘキサンまたは1,8-ジアミノオクタン(合計100mmol)から選択された化合物を、攪拌棒を備えた三口フラスコに導入した。反応混合物にHCl(16.7mL)をゆっくりと加えた。室温で30分間攪拌した後、37%ホルムアルデヒド(100mmоl)および40%グリオキサール(100mmоl)の混合物を導入した。反応物を100℃で12時間還流すると、反応混合物の色が無色から黄色がかった色に徐々に変化した。溶媒の一部および未反応モノマーをロータリーエバポレーターで除去した後、粗生成物を酸性水、pH3~4(1-KDaカットオフSpectra/Por(登録商標)6透析膜、Repligen、米国)に対して1日透析した。P(ImC6)およびP(ImC8)は、
1H NMRおよびGPC分析によって特徴付けられた(表13)。
【0218】
P(ImC6)
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.77(s,1H,イミダゾール-H),7.48(s,2H,イミダゾール-H),4.18(t,4H),1.76(m,4H),1.30(m,8H).
【0219】
P(ImC8)
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.77(s,1H,イミダゾール-H),7.48(s,2H,イミダゾール-H),4.17(t,4H),1.74(m,4H),1.25(m,4H).
【0220】
非分解性PIMの略語リスト
P(ImC6)-P1
P(ImC8)-P2
【0221】
実施例8.ジアミドジアミン(n=4、6、8、10および12)モノマーのTFA塩の合成(
図18)
ジアミドジアミン(n=4)TFA塩
ジアミドジアミン(n=4)TFA塩は、実施例1のプロトコルに従って、ジアミンB(5.00g,56.72mmol)から調製した。白色固体を回収し、乾燥して、ジアミドジアミンのTFA塩(n=4)(48.1%,11.73g)を得た。
【0222】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 3.24(s,4H),2.68(s,4H),0.96(s,4H).
【0223】
ジアミドジアミン(n=6)TFA塩
ジアミドジアミン(n=6)TFA塩を、1,6-ジアミノヘキサン(5.00g,43.10mmol)から実施例1のプロトコルに従って調製し、ジアミドジアミン(n=6)のTFA塩を白色固体(41%,4.80g)として得た。
【0224】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 8.35(t,J=5.4Hz,2H),8.05(brs,6H),3.53(s,4H),3.14(q,J=6.3Hz,4H),1.54-1.63(m,2H).
【0225】
ジアミドジアミン(n=8)TFA塩
ジアミドジアミン(n=8)TFA塩を、1,8-ジアミノオクタン(2.50g,21.55mmol)から実施例1のプロトコルに従って調製し、ジアミドジアミン(n=8)のTFA塩を白色固体(58.3%,3.50g)として得た。
【0226】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 8.34(t,J=5.4Hz,2H),8.04(brs,6H),3.52(s,4H),3.14(q,J=6.3Hz,4H),1.42-1.26(m,12H).
【0227】
ジアミドジアミン(n=10)TFA塩
ジアミドジアミン(n=10)TFA塩は、実施例1のプロトコルに従って1,10-ジアミノデカン(2.50g,21.55mmol)から調製して、ジアミドジアミン(n=10)のTFA塩をオレンジ色の固体(46%,3.80g)として得た。
【0228】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 8.39(t,J=5.4Hz,2H),8.12(brs,6H),3.52(s,4H),3.10(q,J=6.3Hz,4H),1.40-1.24(m,16H).
【0229】
ジアミドジアミン(n=12)TFA塩
ジアミドジアミン(n=12)TFA塩は、実施例1のプロトコルに従って1,12-ジアミノドデカン(5.00g,43.10mmol)から調製して、ジアミドジアミン(n=12)のTFA塩を白色固体として得た(45.3%,5.50g)。
【0230】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 8.35(t,J=5.4Hz,2H),8.05(brs,6H),3.51(s,4H),3.10(q,J=6.3Hz,4H),1.39-1.23(m,22H).
【0231】
実施例9.分解可能な主鎖カチオン性PIM(P(ImC6-コ-ImC6D)-50、P(ImC8-コ-ImC8D)-50%)、P(ImC6D)およびP(ImC8D))の合成
P(ImC6-コ-ImC6D)-50%およびP(ImC8-コ-ImC8D)-50%は共重合によって合成された一方で(
図19a)、P(ImC6D)およびP(ImC8D)は単独重合によって合成された(
図19b)。
【0232】
P(ImC6-コ-ImC6D)-50%
P(ImC6-コ-ImC6D)-50%は、ジアミドジアミン(n=6)TFA塩および1,6-ジアミノヘキサンから、分解性ジアミンのモル分率50%で実施例2のプロトコルに従って調製し、P(ImC6-コ-ImC6D)-50%を得た。
【0233】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.85(m,1H,イミダゾール-H),7.50(m,2H,イミダゾール-H),5.00(t,2H),4.22(t,2H),3.23(s,2H),1.88(s,2H),1.49(m,4H).
【0234】
P(ImC8-コ-ImC8D)-50%
P(ImC8-コ-ImC8D)-50%は、ジアミドジアミン(n=8)TFA塩および1,8-ジアミノオクタンから、分解性アミンのモル分率50%で実施例2のプロトコルに従って調製し、P(ImC8-コ-ImC8D)-50%を得た。
【0235】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.85(m,1H,イミダゾール-H),7.51(m,2H,イミダゾール-H),5.04(d,2H),4.19(m,2H),3.19(m,2H),1.90(s,2H),1.63-1.39(m,8H).
【0236】
P(ImC6D)
P(ImC6D)は、ジアミドジアミン(n=6)TFA塩から、非分解性アミンを添加しなかった以外は実施例2のプロトコルに従って調製した。透析後、P(ImC6D)が得られた。
【0237】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.93(s,1H,イミダゾール-H),7.54(s,2H,イミダゾール-H),5.08(s,4H),3.24(s,4H),1.56-1.43(m,8H).
【0238】
P(ImC8D)
P(ImC8D)は、ジアミドジアミン(n=8)TFA塩から、非分解性アミンを添加しなかった以外は実施例2のプロトコルに従って調製した。透析後、P(ImC8D)が得られた。
【0239】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.93(s,1H,イミダゾール-H),7.53(s,2H,イミダゾール-H),5.00(s,4H),3.24(s,4H),1.51-1.28(m,12H).
【0240】
分解性PIMの略語リスト
P(ImC6-コ-ImC6D)-50%-P3
P(ImC6D)-P4
P(ImC8-コ-ImC8D)-50%-P5
P(ImC8D)-P6
【0241】
ここでおよび比較例15(
図20)で調製されたPIMはすべて、
1H NMRおよびGPCによって特徴付けられた(表13)。
【0242】
表13.PIMの分解性ジアミンの実際のモル分率、Mn、Mw、および多分散性(Mn/Mw)
【表13】
【0243】
実施例10.P1~P6のインビトロ抗菌活性および細胞毒性
調製した3種類のPIM(
図20)の浮遊性細菌に対する抗菌活性を、比較例3のプロトコールに従って評価し、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌BAA39および黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌株、緑膿菌O1および大腸菌に対するMIC値を測定した。。参照として塩化ベンザルコニウム(BAC)を使用した。PIMSの細胞毒性は、比較例3のMTTアッセイプロトコールに従って、マウス胚線維芽細胞3T3細胞に対して試験された。
【0244】
結果および考察
表14に示すように、分解性リンカーのモル分率が高い(100%)PIMは、非分解性PIM(分解性リンカーのモル分率が0%)よりも殺菌力が低かった。ただし、この傾向は、より長いアルキルリンカー(P4、P5およびP6)を有するPIMでは明らかではなかった。分解性リンカーの異なるモル分率(0%、50%、100%)でPIMで処理された細胞の生存率を比較すると、分率の増加に伴う生体適合性の増加傾向が見られる。これは、浮遊性細菌に対する抗菌活性とは逆の傾向である。
【0245】
表14.細菌のパネルに対するPIMおよびBAC(参照)のMIC(μg/mL)値
【表14】
【0246】
実施例11.P1~P6のインビトロ抗バイオフィルム活性
MBEC
MBECは、マイクロタイタープレートベースの技術を使用して測定された。簡単に説明すると、160μLのMRSA BAA39または緑膿菌O1の懸濁液(約107CFU/mLの細胞密度)を、MBECペグを含む蓋で覆われた96ウェル成長プレートに加えた。37℃で24~48時間インキュベートした後、ペグの蓋でバイオフィルムを成長させた。PBSで2回洗浄して浮遊性細菌を除去した後、バイオフィルム付きの蓋を、各ウェルの総量が200μLのP1~P6溶液の1つの2倍連続希釈を含むチャレンジプレートに移した。処理は室温で4時間行った。その後、ペグの蓋をPBSで再度洗浄し、各ウェルにPBS(200μL)を含む回収プレートに移した。生き残ったバイオフィルム細菌は30±5分間の超音波処理によってペグの蓋から取り除かれ、分離された細菌は滅菌PBSで10倍連続希釈され、寒天プレートに広げられた。37℃で24時間インキュベートした後、コロニーを数えた。
【0247】
結果および考察
図21に示すように、MRSA BAA39に対する全体的な抗バイオフィルムの有効性は、次のようにランク付けできる:P(ImC8)>P(ImC8-コ-ImC8D)-50%~P(ImC6)>BAC。同様に、緑膿菌O1(
図22)の場合、抗バイオフィルム効力の順序は、P(ImC8)>P(ImC8-コ-ImC8D)-50%>P(ImC6)>BACであった。
【0248】
実施例12.分解性2+2カーボネートモノマー(化合物4)の合成
カーボネートモノマー(化合物4)の合成には、化合物1~3および3つのステップが含まれていた(
図23)。CDIをアルコール(化合物1)と反応させてイミダゾールカーボネートエステル(化合物2)を合成し、化合物2を高収率で得た。その後のカルボニル形成は、触媒量のNaOHの存在下で化合物2をCDIおよび化合物1で処理することにより達成され、所望のboc保護カーボネート(化合物3)が高収率で得られた。Boc脱保護をDCM中のTFAで行い、所望の化合物4を高収率で得た。
【0249】
2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル1H-イミダゾール-1-カルボキシレート(化合物2)
乾燥N2注入口およびマグネチックスターラーを備えた丸底フラスコ250mLに、乾燥トルエン(150mL)および1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI,10.0g,0.0310mol)を加え、続いてtert-ブチル(2-ヒドロキシエチル)カルバメート(化合物1,5.0g,0.0198mol)およびKOH(5.2mg、0.003mol)を加えた。混合物を攪拌しながら60℃で4時間加熱した。透明な溶液の形成が観察された。反応混合物を室温まで冷却した。溶液を真空中で濃縮し、DCM(200mL)に溶解し、次いで水(3×50mL)で3回洗浄した。溶液を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮して、化合物2を白色固体(5.1g,62.1%)として得た。
【0250】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 8.15(s,1H),7.44(s,1H),7.07(s,1H),4.91(brs,1H),4.47(t,J=5.2Hz,2H),3.52(q,J=6.3Hz,2H),1.44(s,9H).
【0251】
ジ-tert-ブチル((カルボニルビス(オキシ)ビス(エタン-2,1-ジイル)ジカルバメート(化合物3)
乾燥N2注入口およびマグネチックスターラーを備えた丸底フラスコ250mLに、乾燥トルエン(150mL)およびCDI(6.3g,0.0389mol)を加え、続いて化合物2(5.0g、0.019mol)、化合物1(3.17g,0.0195mol)、KOH(5.17mg、0.003mol)を加えた。混合物を攪拌しながら60℃で18時間加熱した。透明な溶液の形成が観察された。反応混合物を室温まで冷却した。溶液を真空濃縮し、DCM(200mL)に溶解し、水(3×50mL)で3回洗浄した。溶液を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン 3:7)により精製して、化合物3を白色固体(4.80g,58.8%)として得た。
【0252】
1H NMR(300MHz,DMSO-D6):δ 5.21(brs,2H),4.29(t,J=5.1Hz,4H)3.33(s,4H),1.25(s,18H).
【0253】
2,2’-(カルボニルビス(オキシ)ジエタナミニウム2,2,2-トリフルオロアセテート(化合物4)
乾燥N2注入口およびマグネチックスターラーを備えた丸底フラスコ100mLで、化合物3(4.0g,0.0389mol)を乾燥DCM(50mL)に溶解し、TFA(6mL,過剰)を加えた。反応混合物を室温で18時間攪拌した。次に、反応混合物を減圧下で濃縮して、カーボネートモノマー4を白色固体(3.60g,75%)として得た。
【0254】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 4.34(t,J=5.1Hz,4H),3.27-3.24(m,4H).13C NMR(75MHz,D2O):δ 166.14,159.58(-CO-CF3),159.16(-CO-CF3),158.74(-CO-CF3),158.32(-CO-CF3),154.56(CO-O),123.24(-CF3),119.29(-CF3),115.33(-CF3),111.38(-CF3),64.26,38.23.
【0255】
実施例13.カーボネートリンカーを有する生分解性PIM D2の合成
PIM D2-1-8は、化合物4(
図24)から、実施例2のプロトコルに従って、出発物質の化学量論比および濃度を制御することによって調製した(表15)。
【0256】
1H NMR(300MHz,D2O):δ 8.85(m,1H,イミダゾール-H),7.50(m,2H,イミダゾール-H),4.47(s,4H).13C NMR(75MHz,D2O):δ 154.29,136.64,122.96,66.25,48.31.
【0257】
表15.カーボネートが組み込まれた生分解性PIM(PIM D2)の重合条件および分子量のまとめ
【表15】
aモル比はジアミンとアルデヒドの比である。
b濃度はアルデヒドの濃度である。
c黄色ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌29213である
【0258】
表15から、ジアミンの濃度はポリマーの分子量にわずかな影響しか及ぼさなかったが、ジアミン対アルデヒドの化学量論比はポリマーの分子量に有意な影響を示したことが分かる。得られた最も高い分子量は、1522g/molの分子量と1.08の狭い多分散性を有するPIMD2-5である。カーボネートが組み込まれた生分解性PIMの化学構造は、1H NMRスペクトルと13C NMRスペクトルの両方でさらに検証された。
【0259】
実施例14.分解性ヘキサイミダゾリウム(OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8)の段階的合成
PIM1Dの優れた抗菌活性と生体適合性を考慮して、生分解性アミドリンカーと明確に定義された分子量を備えたオリゴイミダゾリウムを作成するための段階的合成が調査された3つの繰返し単位を有するイミダゾリウムは、段階的な方法で調製され、N,N’-(アルカン-1,3-ジイル)ビス(2-クロロアセトアミド)リンカーを使用して結合され、最終的な分解性化合物が得られた。は、アルキル鎖にそれぞれ3つの炭素と8つの炭素を有する分解性リンカーのOIM1D-3C-6とOIM1D-3C-8と呼ばれる。合成は6段階で達成され(
図25)、最終的な分解性オリゴイミダゾリウム(OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8)を得るには8つの中間体化合物(化合物5~12)が必要であった。化合物は、該当する場合、NMRおよびMALDI-TOFによって特徴付けられた。
【0260】
1,4-ジ(1H-イミダゾル-1-イル)ブタン(化合物5)
反応混合物を還流下(70℃)で一晩加熱し、生成物をMeOHで抽出して精製したことを除き、比較例12のプロトコルに従って、イミダゾール(4.00g,0.058モル11当量)から化合物5を調製した。MeOH相をヘキサンで3回洗浄し、ロータリーエバポレーターにより化合物5の白色固体結晶(10.2g,92%)を得た。
【0261】
1H NMR(300MHz,DMSO-d6)δ 7.61(s,2H),7.14(brs,2H),6.89(brs,2H),3.98-3.73(m,4H),1.64-1.59(m,4H).MALDI-TOF(CHCA matrix,Reflector mode)C10H14N4:calc.190.1218(M);found 191.1296(M+H).
【0262】
化合物6
トリエチルアミン(Et3N)(1.2当量、10.6g、0.105mol)を、DCM(110mL)中のアミノプロピルイミダゾール(1.0当量、11.0g、0.088mol)の攪拌溶液に0℃で加えた。CBzCl(1.1当量、16.5g、0.096mol)を注射器を介して10分間かけてゆっくりと添加した。反応混合物を攪拌し、室温まで一晩温めた。反応物を分液漏斗に移し、有機層を0.2M HCl(100mL)で抽出し、続いて水(100mL)で4回連続抽出した。有機層を無水Na2SO4 で乾燥させ、ロータリーエバポレーターにより濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーにかけて、化合物6(20.5g、90%)を得た。
【0263】
1H NMR(300MHz,DMSO-d6)δ 7.63(s,1H),7.50-7.24(m,6H),7.17(s,1H),6.90(s,1H),5.04(s,2H),3.97(t,J=6.9Hz,2H),2.98(q,J=6.3Hz,2H),1.84(p,J=6.7Hz,2H).13C NMR(75MHz,DMSO-d6)δ 156.1,137.2,137.1,128.3,127.7,119.3,65.3,43.4,37.4,31.0.
【0264】
化合物7
1,4-ジブロモブタン(4.5mL、0.0375mol、2.5当量)を、乾燥ACN(10mL)中の化合物6(3.00g,0.0115mol、1.0当量)の攪拌溶液に、アルゴン雰囲気下で添加した。反応混合物を70℃で14時間加熱し、次いで室温まで冷却した。溶媒を真空下でロータリーエバポレーターにより除去し、EtOAcから15%MeOH/EtOAcで溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにかけて、化合物7を白色シロップ(4.10g,76%)として得た。
【0265】
1H NMR(300MHz,DMSO-d6)δ 9.39(s,1H),7.88(d,J=3.4Hz,2H),7.58-7.21(m,6H),5.02(s,2H),4.24(q,J=7.2Hz,4H),3.56(t,J=6.4Hz,2H),3.02(q,J=6.0Hz,2H),2.05-1.86(m,4H),1.86-1.72(m,2H).13C NMR(75MHz,DMSO-d6)δ 156.2,137.0,136.2,128.3,127.76,127.70,122.45,122.40,65.3,47.9,46.5,36.9,34.1,29.7,28.7,28.1.MALDI-TOF(CHCA matrix,Reflector mode)C18H25Br2N3O2:calc.473.0314(M);found 394.1405(M-Br).
【0266】
化合物8
化合物5(1.80g,0.009mol,1.5当量)を、乾燥ACN(10mL)中の化合物7(3.0g,0.006mol,1.0当量)の攪拌溶液に加え、得られた混合物を70℃アルゴン雰囲気下、一晩で加熱した。反応の完了をTLCでモニターした後、溶媒を真空下で除去し、得られた混合物をフラッシュシリカゲル(100-200メッシュ)カラムクロマトグラフィー(移動相EtOAcからMeOH;10から50%)にかけ、化合物8を吸湿性の白色固体(3.00g,72%)として得た。
【0267】
1H NMR(300MHz,DMSO-d6)δ 9.35(t,J=24.3Hz,2H),7.88-7.78(m,4H),7.72(s,1H),7.48-7.28(m,6H),7.20(s,1H),6.92(s,1H),5.02(s,2H),4.20(t,J=6.9Hz,8H),4.02(t,J=6.5Hz,2H),3.05-2.99(m,2H),2.02-1.88(m,2H),1.80-1.72(m,8H).13C NMR(75MHz,DMSO-d6)δ 155.0,136.0,135.8,135.1,134.7,127.2,127.0,126.68,126.60,121.3,121.2,118.1,64.0,47.0,46.9,45.4,44.0,43.8,35.7,28.5,26.0,25.3,24.8.MALDI-TOF(CHCA matrix,Reflector mode)C28H39Br2N7O2 calc.663.1532(M);found (M-2Br-H)504.3814.
【0268】
化合物9
K2CO3(33mmol、3.3当量)の水/DCM(1:3,18mL)溶液に0℃で、1,3-ジアミノプロパン(10.0g、1当量)を加えた。得られた混合物を放冷した後、塩化クロロアセチル(22mmol、2.2当量)を0℃で1時間かけて滴下した。添加が完了した後、氷浴を取り外し、混合物を室温で一晩攪拌した。所望の生成物をDCMで3回抽出した。続いて、有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、化合物9(82%,24.5g)を得た。
【0269】
1H NMR(DMSO-d6)δ 8.59(s,2H),4.05(s,4H),3.09(t,4H),1.55-1.62(m,2H).
【0270】
化合物10
化合物10は、化合物9のプロトコルに基づいて、1,8-ジアミノオクタン(1当量)から調製した。
【0271】
化合物11
化合物8(1.0当量)のACN:DMF(9:1)溶液を室温で攪拌しながら、化合物9(0.5当量)を加え、80℃で48時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、得られた沈殿物を濾過し、吸湿性ガム状化合物として収集し、これをさらにACNで3回洗浄し、凍結乾燥して、化合物11と不純物の粗混合物を得た。
【0272】
1H NMR δ(D2O)8.79(s,2H),8.72(s,2H),8.62(s,2H),7.46-7.31(m,24H),4.96(s,8H),4.24-4.11(m,20H),3.08-3.05(m,H),3.05-3.03(m,4H),1.82-1.64(m,22H).13C NMR(75MHz,DMSO-d6)δ 165.5,156.8,132.5,131.9,127.1,126.3,122.4,121.15,121.12,65.4,48.1,47.4,46.8,35.7,27.5,26.4,2.8.
【0273】
化合物12
化合物12は、化合物11のプロトコルに基づいて、化合物8および10から調製された。
【0274】
1H NMR δ(DMSO-d6)9.56(s,2H),9.47(s,2H),9.37(s,2H),8.65(s,2H),7.88-7.84(brs,12H),7.49(s,2H),7.10-7.32(m,10H),5.05(s,4H),5.02(s,H),4.08-4.06(m,20H),3.04-3.01(m,8H),1.97-1.82(m,20H),1.26-1.15(m,14H).
【0275】
OIM1D-3C-6
化合物11をHBrのAcOH溶液(33%)に溶解し、得られた混合物を室温で3時間攪拌した。EtOAc(2mL)を添加すると、アミン塩が沈殿した。溶媒を除去し、得られた残留物を保持した。得られた化合物を水(50~60mM)に溶解し、塩化物をロードしたAmberlyst(登録商標)A-26(OH-型)を含むカラムに通した。カラムを化合物が完全に単離されるまで水でさらに洗浄し、次いで真空下で濃縮した。得られた物質を水で希釈し、酸性化水(1mL)に対して1日間透析し(Mw-CO 500~1000D)、酸性化水を6~7回交換した。透析バッグ中の溶液をファルコンチューブにデカントし、凍結乾燥して、OIM1D-3C-6(約30%)を得た。
【0276】
1H NMR δ (D2O)8.79(s,4H),8.74(s,2H),7.46-7.41(m,12H),4.96(s,4H),4.19-4.15(m,20H),3.17(s,4H),2.90(s,4H),2.18(m,4H),1.88-1.65(m,18H).
【0277】
OIM1D-3C-8
IM1D-3C-8は、OIM1D-3C-6のプロトコルに基づいて、化合物12から調製した。
【0278】
1H NMR δ(D2O)8.80(s,4H),8.75(s,2H),7.47-7.40(m,12H),4.94(s,4H),4.24-4.16(m,20H),3.03(t,4H),2.90(t,4H),2.19-2.16(m,4H),1.83(brs,16H),1.42-1.40(m,4H),1.48-1.46(m,8H).
【0279】
実施例15.分解性OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8のインビトロ生物学的プロファイル
OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8のインビトロ生物学的プロファイルは、比較例3に記載のMICおよびMTT実験を使用して評価した。
【0280】
結果および考察
OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8は、黄色ブドウ球菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の両方、ならびに大腸菌に対して良好な抗菌活性を示し、MIC90は2~16μg/mLの範囲であった(表16)。IM1D-3C-6は緑膿菌PAO1に対する抗菌力の低下を示し、MIC90は128μg/mLであった。OIM1D-3C-6およびの両方は、3T3線維芽細胞を用いたMTT試験で決定されたIC50が1024μg/mLを超える良好な生体適合性を示した。
【0281】
表16.病原体およびヒト細胞株に対するOIM1D-3C-6およびOMI1D-3C-8のMIC
90
【表16】
【0282】
したがって、分解性リンカー鎖、分解性官能基、イミダゾリウム繰返し単位および末端基を調整することにより、汎用機能を備えた生分解性オリゴイミダゾリウムのライブラリを構築できる。これは、動物モデルにおける機構研究、分解速度研究、薬物動態および薬力学研究の良い候補となるであろう。
【0283】
実施例16.分解性OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8のインビボ試験
OIM1D-3C-6およびOIM1D-3C-8のインビボ有効性は、実施例7に記載の好中球減少性肺感染モデルを使用して評価され、一方、それらのインビボ鼻腔内毒性は以下に記載のように決定された。
【0284】
インビボ鼻腔内毒性
20mg/kgのOIM1D-3C-8およびOIM1D-3C-8/OIM1D-3C-6混合物を、ランダムにグループ化したマウス(ICR、メス)に鼻腔内送達した。マウスの体重および状態を、化合物送達後7日まで毎日モニターした。
【0285】
結果および考察
その結果、10mg/kgのOIM1D-3C-8では細菌量が60%減少し、一方、20mg/kgのOIM1D-3C-8では細菌量が約2Logオーダー減少したことが示され(
図26A)、肺感染モデルにおける細菌量の減少におけるOIM1D-3C-8の有効性を実証した。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって誘発された好中球減少性肺感染では、細菌負荷の約2Logオーダーの減少も観察され(
図26B)、グラム陽性細菌感染との闘いにおけるOIM1D-3C-8の有効性が実証された。次に、OIM1D-3C-8の鼻腔内送達(20mg/kg)とそれに続く体重モニタリングにより、OIM1D-3C-8の毒性を調査した。結果は、これが時間の経過とともに徐々に体重が減少することを示した(
図26C)。
【0286】
OIM1D-3C-8のインビボ毒性を低減するために、OIM1D-3C-8およびOIM1D-3C-6を2:1および1:1の重量比で混合した。この混合物を使用すると、毒性が首尾よく減少し、経時的に無視できるほどの体重減少が観察された(
図26C)。次に、これら2つの混合物の有効性を評価したところ、OIM1D-3C-8/OIM1D-3C-6(2:1wt.%)混合物では、OIM1D-3C-8に類似するMDR K.Pneumoniaによって誘導される肺感染症で細菌負荷の約2Logオーダーの減少が観察されたことがわかった。(
図26D)。まとめると、OIM1D-3C-8/OIM1D-3C-6(2:1 wt.%)混合物は毒性が限定された良好なインビボ有効性を有し、MDR細菌感染症の治療薬としての可能性を示唆していることが実証された。
【国際調査報告】