(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】非侵襲的脳神経治療
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230627BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572739
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 US2021034918
(87)【国際公開番号】W WO2021243247
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519342839
【氏名又は名称】エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】バッシャール バッドラン
(72)【発明者】
【氏名】マーク ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ドー ジェンキンズ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル クック
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053BB23
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ21
4C053JJ24
4C053JJ40
(57)【要約】
本発明は、非侵襲的脳神経刺激を提供するシステムと、このシステムを使用する方法に関する。本発明は、対象の脳神経の1つ又は複数に非侵襲的に取り付けられる電極を介して治療を施す。このシステムは、神経可塑性を改善すると共に筋肉の訓練にフィードバックを組み合わせることで、機能回復訓練及び回復を強化するのに使用することができる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔運動能力を高める方法であって、
活性化を引き起こす少なくとも1つの手段と少なくとも1つの刺激電極とを備える脳神経刺激システムを提供するステップと、
前記少なくとも1つの刺激電極を対象の脳神経に隣接させて固定するステップと、
前記対象に食物源を提供するステップと、
活性化のトリガーにより摂食を開始させるステップと、
前記活性化のトリガーに応答して前記少なくとも1つの刺激電極を用いて前記脳神経へ刺激を与えるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記活性化を引き起こす少なくとも1つの手段は、対象の頬又は顎の筋肉に隣接して非侵襲的に固定された検出電極、摂食時に使用される乳首又は哺乳瓶に組み込まれた検出機構、及び手動スイッチからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性化のトリガーは、最小閾値を超える筋活性を検出する検出電極、食料のいくらかの移動を検出する検出電極、及び作動されている手動スイッチからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記測定するステップと前記与えるステップは閉ループで繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記与えるステップは、開ループで手動で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの刺激電極は、前記対象の外耳道、耳珠、耳甲介舟、耳たぶ、耳輪、対耳輪、乳様突起、又は首に非侵襲的に固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、及び約50mVからなる群より選択される絶対値である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、及び約50mVからなる群より選択される、安静時に測定される基礎測定値からの変化である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記最小閾値は、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、及び約95%からなる群より選択される前記筋肉の最大電位の割合である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記刺激は、約0.01mA、約0.05mA、約0.1mA、約0.2mA、約0.3mA、約0.4mA、約0.5mA、約0.6mA、約0.7mA、約0.8mA、約0.9mA、約1mA、約1.5mA、約2mA、約2.5mA、約3mA、約3.5mA、約4mA、約4.5mA、約5mA、約6mA、約7mA、約8mA、約9mA、及び約10mAからなる群より選択される強度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記刺激は、約1Hz、約2Hz、約3Hz、約4Hz、約5Hz、約6Hz、約7Hz、約8Hz、約9Hz、約10Hz、約15Hz、約20Hz、約25Hz、約30Hz、約35Hz、約40Hz、約45Hz、及び約50Hzからなる群より選択される周波数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記刺激は、約10μs、約20μs、約30μs、約40μs、約50μs、約60μs、約70μs、約80μs、約90μs、約100μs、約150μs、約200μs、約250μs、約300μs、約350μs、約400μs、約450μs、約500μs、約550μs、約600μs、約650μs、約700μs、約750μs、約800μs、約850μs、約900μs、約950μs、及び約1msからなる群より選択されるパルス幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記刺激は、約0.1秒、約0.5秒、約1.5秒、約2秒、約2.5秒、約3秒、約3.5秒、約4秒、約4.5秒、約5秒、約10秒、約20秒、約30秒、約40秒、約50秒、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約45分、約50分、及び約1時間からなる群よりそれぞれ選択されるオン期間及びオフ期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、増加した組織異方性により測定される白質の神経可塑性を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
組織異方性は、内包前脚、下前頭後頭束、外包、及び上縦束からなる群より選択される白質路において増加する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
脳神経に隣接して取り付けられるよう構成されている少なくとも1つの刺激電極と、
前記少なくとも1つの刺激電極に電気的に接続された少なくとも1つのスイッチと、
前記少なくとも1つの刺激電極及び前記少なくとも1つのスイッチに電子的に接続された少なくとも1つの刺激ユニットと、
を備え、
前記少なくとも1つのスイッチは前記少なくとも1つの刺激電極を作動させて前記脳神経を刺激するよう構成され、前記少なくとも1つの刺激ユニットは少なくとも1つの刺激パラメータを調節するよう構成される、
脳神経刺激システム。
【請求項18】
前記少なくとも1つの脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記少なくとも1つの刺激ユニットが患者と良好に接触しているか、ほぼ良好に接触しているか、又は接触不良か、をユーザへ示すインピーダンスセンサをさらに備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
少なくとも1つの筋肉に隣接して取り付けられるよう構成されている検出電極と、電源と、送信機と、命令が記憶される非一時的コンピュータ可読メモリに通信可能に接続されたプロセッサとをさらに備え、前記命令は前記プロセッサにより実行されると、前記少なくとも1つの検出電極が前記少なくとも1つの筋肉において最小閾値を超える電気エネルギーを測定した際に、前記少なくとも1つの刺激電極の作動と停止との間の閉ループ同期を開始する、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
少なくとも1つのセンサを備える哺乳瓶と、電源と、送信機とをさらに備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項22】
前記少なくとも1つのセンサは、流量センサ、圧力センサ、吸引センサ、ジャイロスコープ、加速度計、温度センサ、及び体積センサからなる群より選択される、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記刺激電極はイヤーピースと導体素子とを備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項24】
前記イヤーピースは、耳のある領域に直接接触するよう配置される、少なくとも1つの外面導電性領域を備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記イヤーピースは陽極であり、前記導体素子は陰極である、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
筋肉の機能回復訓練を強化する方法であって、
脳神経刺激システムと、少なくとも1つの刺激電極と、前記少なくとも1つの刺激電極に電気的に接続された少なくとも1つのスイッチと、前記少なくとも1つの刺激電極及び前記少なくとも1つのスイッチに電子的に接続された少なくとも1つの刺激ユニットと、を提供するステップと、
前記少なくとも1つの刺激電極を対象の脳神経に固定するステップと、
前記少なくとも1つの刺激電極を用いて少なくとも1つの刺激パラメータを設定するステップと、
前記少なくとも1つの刺激電極を用いて前記脳神経へ刺激を与えるステップと、
を含む、方法。
【請求項27】
前記脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記与えるステップは、前記少なくとも1つのスイッチを作動させることにより開ループで手動で行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの刺激ユニットが患者と良好に接触しているか、ほぼ良好に接触しているか、又は接触不良か、をユーザへ示すステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記システムは少なくとも1つの検出電極をさらに備え、前記方法は、前記少なくとも1つの検出電極を対象の注目する筋群に隣接させて固定するステップと、前記少なくとも1つの検出電極を用いて最小閾値を超える筋群の活性化を測定するステップと、をさらに含み、前記測定するステップと前記与えるステップは、前記最小閾値を超える筋群の活性化の測定に応答して閉ループで繰り返される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年5月28日に出願された米国仮特許出願第63/031,522号の優先権を主張し、当該出願の内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府に支援された研究又は開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所(National Institute of Health)により授与された認可番号P2HCD086844の下で政府の支援を得てなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
低酸素性虚血性脳症(HIE)を患う早期産児及び正期産児は、新生児期の入院中に主に摂食(feeding)の遅れとして現れる運動障害のリスクが高い。口腔運動協調不全は、これら両方のグループの乳児で非常に一般的であり、乳児が退院するのに充分な成長を維持するために母乳又は粉ミルクを充分に摂取できるようになるまでには、病院内で経口摂食を行うのに典型的には3~6週間を要することがある。乳首の選択や経口摂食の頻度などの摂食に関する詳細が乳児の生理に過度の負担を与えることがないように、またこの運動能力の学習を指導するために、通常は1日に1回、乳児に対して作業療法が行われる。摂食困難は、早期産児やHIE乳児の退院が延期される主な理由である。こうした乳児の多くは正期期間(妊娠40~42週)より前にこの運動能力を習得することはできず、乳児が最終的に病院から自宅へ退院できるように、直接的な経胃栄養補給のための胃瘻管(Gチューブ)が与えられる。新生児用集中治療室(NICU)は、1年あたり平均で40のGチューブを取り付けている。この治療では挿入及び最終的に取り出す際にも全身麻酔が必要とされ、上腹部に傷跡を残す。また、gチューブは、子供が正常ではなく、子供が「正常な」子供よりも制限された発達能力しか持たないという親の認識を強めてしまう。
【0004】
重大な脳損傷があったとしても、乳児の神経可塑性は改善されえて、さらにほぼ正常な転帰に至りうることが知られている。この神経可塑性には、新生仔動物モデル及び脳卒中後の大人において、神経発生を刺激し、ニューロン間接続を修復して、運動能力を改善することが関係する。加えて、様々なモダリティを用いての脳への刺激によりリハビリ訓練を強化しうることが知られている。
【0005】
新生児における摂食には、気管支及び心臓の有髄性の迷走神経の調節による顔、頭、及び首の筋肉の協調を必要とする、連続する吸引、嚥下、及び呼吸が必要となる。早期産の新生児では摂食に必要な筋肉は未発達であり、このため、摂食パターンを「学習する」ためにOT機能回復訓練が必要になる。早期産の新生児が効果的に摂食できないことが、入院期間が長期化する主な理由である。HIEを患う新生児では、皮質及び大脳基底核の発達は中断されており、その重症度に応じて、正常な発達可塑性が妨げられて、これがさらに新生児が摂食できない一因となる。両方の種類の摂食困難には、感覚経路と運動神経路の統合を必要とする複雑運動の学習が関係する。
【0006】
したがって、当技術分野において、神経可塑性を高めて筋肉を訓練するために神経刺激を与える、改善されたシステム及び方法が必要とされている。本発明はこの必要性に応える。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は口腔運動能力を高める方法を提供し、この方法は、活性化(activation)を引き起こす少なくとも1つの手段と少なくとも1つの刺激電極とを備える脳神経刺激システムを提供するステップと、少なくとも1つの刺激電極を対象の脳神経に隣接させて固定するステップと、対象に食物源を与えるステップと、活性化のトリガーにより摂食を開始させるステップと、活性化のトリガーに応答して少なくとも1つの刺激電極を用いて脳神経へ刺激を与えるステップと、を含む。
【0008】
一実施形態では、活性化を引き起こす少なくとも1つの手段は、対象の頬又は顎の筋肉に隣接して非侵襲的に固定された検出電極、摂食時に使用される乳首又は哺乳瓶(bottle)に組み込まれた検出機構、及び手動スイッチからなる群より選択される。一実施形態では、活性化のトリガーは、最小閾値を超える筋活性(muscle activation)を検出する検出電極、食料のいくらかの移動を検出する検出電極、及び作動されている手動スイッチからなる群より選択される。
【0009】
一実施形態では、脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される。一実施形態では、測定するステップと与えるステップが閉ループで繰り返される。一実施形態では、与えるステップは、開ループで手動で行われる。一実施形態では、少なくとも1つの刺激電極は対象の外耳道、耳珠、耳甲介舟、耳たぶ、耳輪(helix)、対耳輪(anti-helix)、乳様突起、又は首に非侵襲的に固定される。
【0010】
一実施形態では、最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、約50mVからなる群より選択される絶対値である。一実施形態では、最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、及び約50mVからなる群より選択される、安静時に測定される基礎測定値からの変化である。一実施形態では、最小閾値は、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、及び約95%からなる群より選択される筋肉の最大電位(maximum potential)の割合である。
【0011】
一実施形態では、刺激は、約0.01mA、約0.05mA、約0.1mA、約0.2mA、約0.3mA、約0.4mA、約0.5mA、約0.6mA、約0.7mA、約0.8mA、約0.9mA、約1mA、約1.5mA、約2mA、約2.5mA、約3mA、約3.5mA、約4mA、約4.5mA、約5mA、約6mA、約7mA、約8mA、約9mA、及び約10mAからなる群より選択される強度を有する。一実施形態では、刺激は、約1Hz、約2Hz、約3Hz、約4Hz、約5Hz、約6Hz、約7Hz、約8Hz、約9Hz、約10Hz、約15Hz、約20Hz、約25Hz、約30Hz、約35Hz、約40Hz、約45Hz、及び約50Hzからなる群より選択される周波数を有する。一実施形態では、刺激は、約10μs、約20μs、約30μs、約40μs、約50μs、約60μs、約70μs、約80μs、約90μs、約100μs、約150μs、約200μs、約250μs、約300μs、約350μs、約400μs、約450μs、約500μs、約550μs、約600μs、約650μs、約700μs、約750μs、約800μs、約850μs、約900μs、約950μs、及び約1msからなる群より選択されるパルス幅を有する。一実施形態では、刺激は、約0.1秒、約0.5秒、約1.5秒、約2秒、約2.5秒、約3秒、約3.5秒、約4秒、約4.5秒、約5秒、約10秒、約20秒、約30秒、約40秒、約50秒、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約45分、約50分、及び約1時間からなる群よりそれぞれ選択されるオン期間及びオフ期間を有する。
【0012】
一実施形態では、方法は、増加した組織異方性により測定される白質の神経可塑性を増加させる。一実施形態では、組織異方性は、内包前脚、下前頭後頭束、外包、及び上縦束からなる群より選択される白質路において増加する。
【0013】
一態様では、本発明は脳神経刺激システムを提供し、このシステムは、脳神経に隣接して取り付けられるよう構成されている少なくとも1つの刺激電極と、少なくとも1つの刺激電極に電気的に(electrically)接続された少なくとも1つのスイッチと、少なくとも1つの刺激電極及び少なくとも1つのスイッチに電子的に(electronically)接続された少なくとも1つの刺激ユニットと、を備え、少なくとも1つのスイッチは少なくとも1つの刺激電極を作動させて脳神経を刺激するよう構成され、少なくとも1つの刺激ユニットは少なくとも1つの刺激パラメータを調節するよう構成される。
【0014】
一実施形態では、少なくとも1つの脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される。
【0015】
一実施形態では、システムは、少なくとも1つの刺激ユニットが患者と良好に(good)接触しているか、ほぼ良好に(fair)接触しているか、又は接触不良(poor)か、をユーザへ示すインピーダンスセンサをさらに備える。
【0016】
一実施形態では、システムは、少なくとも1つの筋肉に隣接して取り付けられるよう構成されている検出電極と、電源と、送信機と、命令が記憶される非一時的コンピュータ可読メモリに通信可能に接続されたプロセッサとをさらに備え、命令はプロセッサにより実行されると、少なくとも1つの検出電極が少なくとも1つの筋肉において最小閾値を超える電気エネルギーを測定した際に、少なくとも1つの刺激電極の作動と停止との間の閉ループ同期を開始する。
【0017】
一実施形態では、システムは、少なくとも1つのセンサを備える哺乳瓶(feeding bottle)と、電源と、送信機とをさらに備える。一実施形態では、少なくとも1つのセンサは、流量センサ、圧力センサ、吸引センサ、ジャイロスコープ、加速度計、温度センサ、及び体積センサからなる群より選択される。
【0018】
一実施形態では、刺激電極はイヤーピース(earpiece)と導体素子とを備える。一実施形態では、イヤーピースは、耳のある領域に直接接触するよう配置される、少なくとも1つの外面導電性領域を備える。一実施形態では、イヤーピースは陽極(anode)であり、導体素子は陰極(cathode)である。
【0019】
一実施形態では、本発明は筋肉の機能回復訓練を強化する方法を提供し、この方法は、脳神経刺激システムと、少なくとも1つの刺激電極と、少なくとも1つの刺激電極に電気的に(electrically)接続された少なくとも1つのスイッチと、少なくとも1つの刺激電極及び少なくとも1つのスイッチに電子的に(electronically)接続された少なくとも1つの刺激ユニットと、を提供するステップと、少なくとも1つの刺激電極を対象の脳神経に固定するステップと、少なくとも1つの刺激電極を用いて少なくとも1つの刺激パラメータを設定するステップと、少なくとも1つの刺激電極を用いて脳神経へ刺激を与えるステップと、を含む。
【0020】
一実施形態では、脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、及び迷走神経主束からなる群より選択される。一実施形態では、与えるステップは、少なくとも1つのスイッチを作動させることにより開ループで手動で行われる。
【0021】
一実施形態では、本発明は、少なくとも1つの刺激ユニットが患者と良好に接触しているか、ほぼ良好に接触しているか、又は接触不良か、をユーザへ示す方法を提供する。
【0022】
一実施形態では、システムは少なくとも1つの検出電極をさらに備え、方法は、少なくとも1つの検出電極を対象の注目する筋群に隣接させて固定するステップと、少なくとも1つの検出電極を用いて最小閾値を超える筋群の活性化を測定するステップと、をさらに含み、測定するステップと与えるステップは、最小閾値を超える筋群の活性化の測定に応答して閉ループで繰り返される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読んだ場合により良く理解されるであろう。ただし、本発明は図面で示される実施形態の正確な配置及び手段に制限されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1A及び
図1Bは、非侵襲的脳神経刺激をスマート哺乳瓶を用いた新生児の摂食と組み合わせるための例示のシステムを示す図を表している。
【
図1B】
図1A及び
図1Bは、非侵襲的脳神経刺激をスマート哺乳瓶を用いた新生児の摂食と組み合わせるための例示のシステムを示す図を表している。
【
図1C】
図1C及び
図1Dは、非侵襲的脳神経刺激を手動トリガースイッチ(有線及び無線で作動)を用いた新生児の哺乳と組み合わせるための例示のシステムを示す図を表している。
【
図1D】
図1C及び
図1Dは、非侵襲的脳神経刺激を手動トリガースイッチ(有線及び無線で作動)を用いた新生児の摂食と組み合わせるための例示のシステムを示す図を表している。
【
図1F】
図1Fは、非侵襲的脳神経刺激のための好ましいウェアラブル機器を表している。
【
図2】
図2は、新生児の摂食時に脳神経刺激を引き起こす例示のシステムを示す図を表している。
【
図3】
図3は、新生児の摂食時に脳神経刺激を手動で引き起こす例示のシステムを示す図を表している。
【
図4】
図4は、筋肉の機能回復訓練において脳神経刺激を引き起こす例示のシステムを示す図を表している。
【
図5】
図5は、新生児の摂食を訓練する好ましい方法のフローチャートを表している。
【
図6】
図6は、筋肉の機能回復訓練を訓練する好ましい方法のフローチャートを表している。
【
図7】
図7は、筋活性を測定するために刺激を活性化する手段として検出電極を利用する場合に、筋活性の検出、及び新生児の摂食行動を訓練する際の刺激のための好ましい筋電図検査の電極配置を表している。
【
図8】
図8は、新生児の摂食における目に見える吸引(visual suck)により誘発される、最も確実な刺激トリガーを伝達する最適な電極配置を調査する実験の結果を表している。
【
図9】
図9は、新生児の摂食において目に見える吸引が記録された際の、最も大きな刺激を伝達する最適な電極配置を調査する実験の結果を表している。
【
図10】
図10は、摂食困難を抱える乳児のサンプルにおける摂食データの履歴を表している。
【
図11A】
図11Aは、摂食困難を抱える14人の赤ちゃんへ脳神経治療を施した結果を表している。
【
図11B】
図11Bは、脳神経治療を1日あたり1回施した場合と1日あたり2回施した場合の結果の比較を示している。
【
図12】
図12は、
図11Aで示される治療群の8人のレスポンダー(反応を示す患者)に対する統計的分析の結果を表現しており、レスポンダーには、その経口摂食行動において、線形回帰直線の傾きの有意な変化で示される、有意な変化があった。
【
図13】
図13は、
図10で示される治療群の6人のノンレスポンダー(あまり反応を示さない患者)に対する統計的分析の結果を表現しており、ノンレスポンダーは、改善されていないことを示す、ゼロとは有意に異ならない線形回帰の傾きを有する。
【
図14A】
図14A及び
図14Bは、乳児における脳白質路の完全性に対する脳神経治療の効果を調査する実験の結果を表している。
図14Aは、レスポンダー(完全摂食(full feed))とノンレスポンダー(Gチューブ)とで運動の統合で重要な注目する2つの白質領域である左の外包と右の脳梁における1週間あたりの異方性比率(FA)の変化を示す。
【
図14B】
図14A及び
図14Bは、乳児における脳白質路の完全性に対する脳神経治療の効果を調査する実験の結果を表している。
図14Bは、レスポンダー(完全摂食)とノンレスポンダー(Gチューブ)とで感覚運動統合で重要な注目する2つの白質領域である左の後視床放線(PTR)と右の下前頭後頭束(IFOF)における1週間あたりの軸方向尖度(K
||)の変化を示す。
【
図15】
図15は、taVNSを哺乳瓶での摂食と組み合わせることの実現可能性を評価する研究の実験概要を表している。
【
図16】
図16は、taVNS治療がなされたレスポンダーとGチューブを与えられたノンレスポンダーとで完全経口摂食の実現を調査する実験の結果を表している。
【
図17】
図17は、1X(1回)のレスポンダーと2X(2回)のレスポンダーとで用量反応を調査する実験の結果を表している。
【
図18】
図18は、レスポンダーとノンレスポンダーでの脳梁及び外包における1週あたりの発達を調査する実験の結果を表している。
【
図19】
図19は、右脳及び左脳の脳梁におけるGチューブ給餌を調査する実験の結果を表している。
【
図20】
図20は、頭頸部の制御及び機能運動全般での改善を表している。赤で強調表示されている領域では腕による回転(Rolling by Arm)をうまく行った乳児でFAが有意に高くなっており、これらの領域は主要な白質路(WM)の左側の部分、すなわち、画像の第1列での内包前脚(ALIC)及び下前頭後頭束(IFOF)、第2列での外包(EC)及びALIC、並びに第3列での上縦束(SLF)に対応する。この図は、成績の良い乳児では成績の低い乳児よりも急激に組織異方性が増すことを示しており、特定の白質路(WM)での白質の成熟度が増すことはtaVNSを組み合わせた哺乳瓶での摂食により誘発される神経可塑性を反映している可能性が高いことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の図及び説明では、本発明の明確な理解に関連する要素を示すために簡略化されており、一方で明確化のため、当技術分野で典型的に見られる多くの他の要素は排除していることを理解されたい。本発明を実施する際に、他の要素及び/又はステップが望ましい及び/又は必要となることを当業者は認識しうる。しかし、そのような要素及びステップは当技術分野で周知であるため、またそのような要素及びステップは本発明のより良い理解を促進するわけではないため、そのような要素及びステップの説明は本明細書では提供されない。本明細書の開示は、当業者には既知であるそのような要素及び方法に対するすべてのそのような変形及び改良を対象としている。
【0026】
他の場所で規定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものに類似する、又は相当する、任意の方法及び材料を本発明を実践又はテストするのに使用することができるが、好ましい方法及び材料が記載される。
【0027】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、本章でのそれぞれの用語に関連する意味を有する。
【0028】
本明細書では、冠詞「a」及び「an」は、1つ又は2つ以上(つまり、少なくとも1つ)の、冠詞の文法上の目的語を指すために使用される。例として、「an element」は、1つ又は2つ以上の要素を意味する。
【0029】
量や時間的な期間、及び同種のものなどの測定可能な値について言及する場合の「約(about)」は、本明細書で使用される場合、指定された値から±20%、±10%、±5%、±1%、及び±0.1%の変化量を、そのような変化量は適切であるため、包含することが意図されている。
【0030】
本開示の全体にわたり、本発明の様々な態様が範囲形式で提示されうる。範囲形式での記述は、単に便宜上及び簡潔化のためであると理解されるべきであり、本発明の範囲に対する変更できない制限と解釈されるべきではない。したがって、範囲の記述は、具体的に開示された取り得る部分的範囲のすべて、及びその範囲内の個々の数値を含むと考えられるべきである。例えば、1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分的な範囲、及びその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、6、並びにその範囲内の全体的及び部分的な増分を含むと考えられるべきである。これは、その範囲の広さに関わらず当てはまる。
【0031】
脳神経刺激システム
本発明は、部分的には非侵襲的脳神経刺激を提供するシステムに基づいている。このシステムは、対象の脳神経の1つ又は複数に非侵襲的に取り付けられる電極を介して治療を施す。このシステムは、神経可塑性を改善すると共に筋肉及び反射神経の訓練にフィードバックを組み合わせることで、機能回復訓練及び回復を強化するのに使用することができる。
【0032】
刺激は、任意の適切な脳神経へ非侵襲的に与えることができる。非限定の例には、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、迷走神経主束、及び同種のものが含まれる。迷走神経耳介枝は、限定しないが、外耳道、耳珠、耳甲介舟、外耳、乳様突起、及びこれらの組み合わせを含む様々な方法でアクセスすることができる。様々な実施形態では、耳の任意の部分を神経刺激に使用することができる。他の実施形態では、顔及び頭の耳を囲む領域を神経刺激に使用することができる。迷走神経主束は、首に沿った任意の適切な場所でアクセスすることができる。様々な実施形態では、刺激は経皮的に与えられる。刺激は、脳神経に隣接して固定された1つ又は複数の電極を用いて、限定しないが、接着剤、クリップ、パッチ、耳栓、ヘッドバンド、頸椎カラー、襟、頭への被り物、及び同種のものを用いることを含む任意の適切な方法で与えることができる。
【0033】
一部の実施形態では、本発明は、新生児における学習された摂食行動を改善して速めることを目的とした治療手段を提供する。提供されるシステムは、早期産の新生児に対して機能回復訓練が行われる方法を変更し、これはより早い退院、より低い病院費、自分たちの乳児の発達能力に関する親の認識の改善につながり、ストレスを軽減して病院の内外で親との絆を改善する。システムは、新生児が完全経口摂食(約120mL/kg/日で体重増加を伴う)を実現できるように摂食行動を訓練することで、新生児が胃腸管による摂食を回避するのを助けることができる。システムは、摂食技術を習得する発育期間を逃してしまった回復期にある重病の乳児、及び経口摂食を困難にしてしまう先天性症候群を患う乳児のための持ち帰り用の摂食補助器具として機能することができる。
【0034】
学習した摂食作業中に可塑性を促進する非侵襲的脳刺激を用いて口腔運動困難を治療することは、経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)の非常に斬新な適用を提示している。大前提は、運動障害のリスクが高い赤ちゃんでは、taVNSにより同時に伝達される脳刺激により学習した摂食作業に関与する運動皮質の可塑性が高められる、ということであり、これはより良い摂食につながる。以前の取り組みは外科的に埋め込まれたVNSを必要とし、新生児では試されなかった。本発明は、(外科的に埋め込むのではなく)非侵襲的な迷走神経刺激(nVNS)を摂食と組み合わせた斬新な形式を利用して、新生児における摂食の学習を速めると共に強化する。
【0035】
ここで
図1A及び
図1Bを参照すると、例示のシステム100が描かれている。様々な実施形態では、システム100は、乳児における摂食行動を訓練するために、単独で、又は組み合わせて使用して脳神経刺激をフィードバックと組み合わせることができるいくつかの構成要素を備える。例えば、一部の実施形態では、システム100は哺乳瓶102と、ウェアラブル機器122と、コンピュータプラットフォーム134とを備える。
【0036】
哺乳瓶102は、典型的には乳児にミルクを与えるのに使用される、乳児の口を係合するのに適した乳首又は他の開口を有するマウスピースに接続された容器を有する任意の所望の哺乳瓶を備えることができて、さらに少なくとも1つの流量センサ104、少なくとも1つの圧力センサ106、少なくとも1つのジャイロスコープ108、少なくとも1つの加速度計110、少なくとも1つの温度センサ112、少なくとも1つの体積センサ114、及びこれらの組み合わせを追加することができる。少なくとも1つの流量センサ104及び圧力センサ106は、摂食の間に乳児が得られる食料のタイミング及び量を検出及び測定するのに使用することができる。少なくとも1つのジャイロスコープ108及び少なくとも1つの加速度計110は、哺乳瓶102の位置を検出及び測定し、摂食行動を哺乳瓶102の移動の関数として経時的に観察するのに使用することができる。少なくとも1つの温度センサ112は、哺乳瓶102の温度を観察して、内容物が適切な温度にあるかどうか、内容物が摂取するのに冷たすぎないか、又は熱すぎないかを示すのに使用することができる。少なくとも1つの体積センサ114は、哺乳瓶102に残っている食料の量を検出及び測定するのに使用することができる。フロートセンサ、超音波水位センサ、レーザー水位センサ、及び同種のものを含む、任意の適切な体積センサ114を使用することができる。また、吸引センサ、血圧センサ、パルスオキシメータ用センサ、グルコースセンサ、及び同種のものなどの更なるセンサも検討される。一部の実施形態では、哺乳瓶102は電源116(バッテリや電源プラグなど)により給電することができる。一部の実施形態では、哺乳瓶102は様々なセンサにより収集されたデータを送信する有線又は無線の送信機118と、様々なセンサにより収集されたデータを記憶するためのプロセッサに接続された非一時的コンピュータ可読媒体120とをさらに備えることができる。一部の実施形態では、哺乳瓶102は上記の構成要素を手動で作動及び停止するための1つ又は複数のスイッチを備える。
【0037】
ここで
図1C及び
図1Dを参照すると、例示のシステム100の変形が描かれている。様々な実施形態では、システム100の構成要素は、乳児における摂食行動を訓練するために、脳神経刺激をフィードバックと組み合わせるよう変更することができる。例えば、一部の実施形態では、刺激を活性化する手段は哺乳瓶へ固定可能なスリーブ103又は他の被覆物に組み込まれたユーザにより作動されるトリガースイッチ121とすることができる。場合によっては、スイッチ121は哺乳瓶102自体に組み込まれる。他の実施形態では、トリガースイッチ121は任意の作動可能な無線スイッチとすることができる。スイッチ121は、対象へのそれぞれの授乳に対して人間工学的に適切な位置に設置することができる。また、スイッチ121は、刺激ユニット133との有線又は無線通信の範囲内である限り、対象へのそれぞれの授乳又は摂食を観察するのに都合の良い位置に設置することもできる。スイッチ121は、ユーザにより作動された場合に刺激を活性化及び無効化させることができる任意の形態とすることができる。様々な実施形態では、スイッチ121は遠隔で、又はネットワークを介して作動させることができる。スイッチ121の作動はセンサの作動には依存しないため、スイッチ121は任意の場所から、及び任意の期間にわたって脳神経刺激と摂食行動を増進するために作動させることができる。また、スイッチ121は摂食しない場合でも、新生児の神経可塑性を全体的に改善するためのツールとして作動させることもできる。
【0038】
一部の実施形態では、スイッチ121は、スイッチが作動された場合のみ刺激を加えるデッドマンスイッチである。一部の実施形態では、スイッチ121は、作動されたら規定の時間に達する、あるいはユーザがまたスイッチを作動させて停止するまでの規定の時間にわたって刺激を引き起こすトリガースイッチである。一部の実施形態では、スイッチ121は、作動されたらユーザがまたトリガースイッチを作動させるまで刺激を続けるトリガースイッチである。
【0039】
ウェアラブル機器122は、各種の検出用構成要素及び刺激用構成要素を備え、検出及び刺激の対象である領域に隣接させて構成要素を設置するために対象により着用可能な衣類又はハーネスの形態とすることができる。ウェアラブル機器122は、少なくとも1つの電極124を備える。少なくとも1つの電極124は刺激電極を含み、検出電極も含むことができる。刺激電極は電気的刺激を与えるよう構成され、検出電極は生理反応を測定するよう構成される。例えば、検出電極は、心電図検査法の電極、筋電図検査の電極、脳波検査の電極、及び同種のものを含みうる。一部の実施形態では、刺激電極は電気的に検出電極に接合されている。様々な実施形態では、ウェアラブル機器122は、温度センサ、血圧センサ、パルスオキシメータ用センサ、グルコースセンサ、及び同種のものなどの1つ又は複数の追加のセンサをさらに含むことができる。一部の実施形態では、ウェアラブル機器122は上記の構成要素を手動で作動及び停止するための1つ又は複数のスイッチを備える。ウェアラブル機器122はさらに、電源126(バッテリや電源プラグなど)により給電することができる。一部の実施形態では、ウェアラブル機器122は様々な電極及びセンサにより収集されたデータを送信する有線又は無線の送信機128と、刺激電極を作動させる命令を受信する有線又は無線の受信機130と、様々な電極及びセンサにより収集されたデータを記憶するためのプロセッサに接続された非一時的コンピュータ可読媒体132とをさらに備えることができる。
【0040】
ここで
図1Wを参照すると、例示の着用可能なイヤーピース150が描かれている。イヤーピース150は、任意の適切な形状及び取り付け具を持ちうる。例えば、イヤーピース150はインイヤー式カナル型部品、耳甲介腔用部品、及び耳甲介舟用フィンを有するものとして描かれているが、イヤーピース150は、インイヤー式カナル型部品、耳甲介腔用部品、耳甲介舟用フィン、耳掛型ループ、オンイヤー式クリップ、及び同種のもののうちの1つ又は複数を備えることができると理解されたい。イヤーピース150は、少なくとも1つの導電性領域を有する外面を備える。一部の実施形態では、外面の全体が導電性である。一部の実施形態では、外面の特定の部分は意図的に非導電性であり、外面の他の特定の部分は意図的に導電性である。イヤーピース150は、少なくとも1つの陽極152と少なくとも1つの陰極154とを備える。一部の実施形態では、陽極152及び陰極154は、(
図1Fに示されるように)別々の着用可能な構成要素として提供される。例えば、
図1Fは、陽極152として機能する導電性領域と、陰極154としての1つ又は複数の追加の電極若しくは導体素子を有するものとして、イヤーピース150を表している。ただし、イヤーピース150は、陰極154として機能する導電性領域及び陽極152として機能する1つ又は複数の追加の導体素子、並びにそれらの任意のすべての組み合わせを有しうることを理解されたい。他の実施形態では、陽極152及び陰極154はいずれもイヤーピース150へ組み込まれ、少なくとも1つの第1導電性領域は陽極152として機能し、少なくとも1つの第2導電性領域は陰極154として機能する。導電性領域は、耳の特定の場所に直接接触するようにイヤーピース150上に配置することができる。追加の電極又は導体素子は、対象の耳、例えば耳珠や任意の他の部分に配置することができる。様々な実施形態では、イヤーピース150は有線又は無線とすることができる。
【0041】
コンピュータプラットフォーム134は、ウェアラブル機器122へ命令を送信する有線又は無線の送信機138を備え、哺乳瓶102、ウェアラブル機器122、又はその両方からデータを収集するための有線又は無線の受信機140と、命令及び収集されたデータを記憶するためのプロセッサに接続された非一時的コンピュータ可読媒体142も備えることができて、電源136(バッテリや電源プラグなど)により給電することができる。
【0042】
上述したように、システム100の様々な構成要素は、脳神経刺激をフィードバックと共に、又はフィードバックなしで与えるために単独で、又は組み合わせて使用することができる。非限定の第1例では、哺乳瓶102はウェアラブル機器122と結合される。哺乳瓶102は、送信機118を介してウェアラブル機器122と通信して、哺乳瓶102が哺乳に適切な場所にあることを受信機130へ伝えることができる。
図2に示されるように、哺乳瓶102は、閾値を超えてトリガーを引き起こす体積、流量、及び/又は圧力の最小限の変化を検出することができる。哺乳瓶102は、脳神経に隣接する電極124を作動させることで摂食行動を補うためにウェアラブル機器122と通信を行い、脳神経を刺激する。摂食行動は、哺乳瓶102により観察及びさらに確認することができる。また、摂食行動は、頬と顎の筋活性を検出する電極124により観察及び確認することができる。哺乳瓶102からの哺乳開始の検出とウェアラブル機器122からの刺激のタイミングを調整して同期させることで、摂食を続けることができる。
図3に示されるように、電極124は、手動で作動されるスイッチ121を用いるなどにより手動で作動させることができる。本明細書の他の場所で記載されるように、スイッチ121は、例えば携帯型無線装置の中や、哺乳瓶102又はスリーブ形被覆物に組み込まれて、ユーザにとって都合の良い任意の場所に設置することができる。
【0043】
非限定の第2例では、ウェアラブル機器122は閉ループシステムとして単独で使用することができる。1つ又は複数の頬及び顎の筋肉に隣接する検出電極124を、閾値を超えてトリガーを引き起こす筋活性の最小限の変化により摂食開始を検出するのに使用することができる。トリガーに応答して、ウェアラブル機器122は脳神経に隣接する刺激電極124を作動させることで摂食行動を補う。検出電極124からの摂食開始の検出と刺激電極124からの刺激のタイミングを調整して同期させることで、摂食を続けることができる。このようにして、ウェアラブル機器122は、摂食開始を示す最小限の頬及び顎の筋活性を検出することと脳神経刺激を与えることの間の閉ループのシステムとして機能する。
【0044】
他の実施形態では、電極124の作動は開ループ構成で手動で行うことができる。例えば、哺乳瓶102、ウェアラブル機器122、又はその両方は、それぞれが
図1C及び
図1Dに示されるように1つ又は複数のスイッチ121を備えることができて、少なくとも1つのスイッチは手動での作動のために電極124に電気的に接続されている、又は電極124に接続されている刺激ユニット133に(
図1Cに示されるように無線で、又は
図1Dに示されるように有線接続により)接続されている。これにより、ユーザは、少なくとも1つのスイッチを手動で押すことで電極124の作動とその後の摂食を開始し、その速度を調節する。
【0045】
刺激ユニット133は、ユーザに初期化、プログラミング、監視、状態の報告などを提供するよう構成される。一実施形態では、刺激ユニット133は、キーパッドを有するユーザインタフェースと、表示・処理ユニットとを備えることがある(例えば、
図1E)。刺激ユニット133は、キーパッドのキーを操作するなどのユーザ入力を受信するよう構成される。一実施形態では、刺激ユニット133は当業者には既知の任意の他の手段、例えば音声入力などにより、入力を受信することができる。一実施形態では、刺激ユニット133は、表示ユニット上での文字及び図形での提示、及び/又は音声による聴覚での出力によりユーザへ出力を提供することができる。一実施形態では、電流操作はキーパッドのキーを用いて手動で行うことができる。一実施形態では、キーパッドは0~9の番号付けされたキーを備える。電流は、用量漸増法により適切な治療電流を決定するために、刺激している間に手動でウェアラブル機器の表面にある番号付けされたボタンにより0.1mAずつインクリメントして変更することができて、治療中に調整することもできる。電流刺激設定の好ましい一例が以下に表1で示される。
【表1】
【0046】
一実施形態では、表示ユニットはテキスト文字の表示に適切なものとすることができる。一実施形態では、表示ユニットはグレースケール表示、例えば4ビット又は8ビットのグレースケールを提供するよう構成されることがある、及び/又は、カラー表示、例えば16ビットカラーを提供することができる。一実施形態では、表示ユニットは、多くの光条件下での閲覧を容易にするためにバックライトを備えることがある。
【0047】
一実施形態では、表示ユニットは、当業者には既知の任意の手段により刺激がオンの状態であることをユーザへ知らせることができる。
【0048】
一実施形態では、刺激ユニット133は、電源スイッチと、電源がオンであることを示すインジケータとをさらに備えることがある。一実施形態では、刺激ユニット133は、内部電源と、内部電源の状態を示すインジケータとをさらに備えることがある。電源スイッチがオンになると、キーパッド上のキーを押すことで、電流を増加させる、又は減少させることができる。これにより、患者の閾値を規定することができる。
【0049】
一実施形態では、システム100はインピーダンスセンサをさらに備える。一実施形態では、インピーダンスは表示ユニット上で観察及び表示することができる。一実施形態では、処理ユニットは予め設定されたインピーダンス限度で警報を鳴らすことができる。一実施形態では、処理ユニットは、インピーダンスがユーザにより補正されていない場合はシステムを停止させるよう構成することができる。一実施形態では、処理ユニットは、停止へと進む前にインピーダンスが補正されるのを約30秒待つように構成することができる。一実施形態では、待機期間はユーザにより調整される任意の時間とすることができる。一実施形態では、インピーダンスセンサは、刺激ユニット133が患者と良好に接触しているか、ほぼ良好に接触しているか、又は接触不良か、をユーザへ知らせるよう構成することができる。
【0050】
処理ユニットは、パルス特性を調整するのに使用することができる。一実施形態では、処理ユニットはパルス波形の選択を可能としうる。一実施形態では、パルス波形は、限定しないが、方形波や単一パルスなどを含むグループから選択することができる。一実施形態では、処理ユニットはパルス幅の選択を可能としうる。一実施形態では、パルス幅はおよそ20マイクロ秒~およそ500マイクロ秒に及びうる。一実施形態では、パルス幅は10マイクロ秒~1000マイクロ秒の範囲でありうる。本発明の実施形態により利用可能なパルス幅の範囲は、実装される特定の種類の刺激に基づいて調整することができる。一実施形態では、パルス幅は500マイクロ秒とすることができる。一実施形態では、パルス幅は、公称値、500マイクロ秒、250マイクロ秒~500マイクロ秒の範囲から設定可能、からなる群より選択することができる。一実施形態では、処理ユニットは電圧を設定するのに使用することができる。一実施形態では、電圧は最大で40Vとすることができて、定電流を供給する。一実施形態では、処理ユニットは電流を設定するのに使用することができる。一実施形態では、電流は0mA~およそ4mAとすることができる。一実施形態では、電流は0mA~2mAで0.1mA単位で調整することができる。一実施形態では、電流は0.1mAより大きな単位で調整することができる。一実施形態では、電流は工場出荷時のソフトウェアで最大4mAで調整可能とすることができる。一実施形態では、システムは2mAを超える刺激を防ぐよう構成される。一実施形態では、システムは、患者ごとに校正された刺激レベルを記憶するメモリを有する。一実施形態では、システムは、患者ごとに校正された刺激レベルを記憶するメモリを有し、そのレベルを超える刺激を許可しない。一実施形態では、処理ユニットは繰り返し率を設定するのに使用することができる。一実施形態では、繰り返し率は25Hzとすることができる。一実施形態では、繰り返し率は25Hz未満とすることができる。一実施形態では、繰り返し率は25Hzより大きくすることができる。
【0051】
一実施形態では、刺激ユニット133は、このユニット上のどこかに配置される追加のポートをさらに備えることができる。一実施形態では、追加のポートは外部トリガースイッチに接続することができる。一実施形態では、外部トリガースイッチが押された場合、トリガースイッチは、規定された時間間隔内に再び押されてパルス列を停止させない限りは、規定された時間にわたってパルス列を継続させることができる。一実施形態では、外部トリガースイッチは、刺激のパルス列を規定された期間にわたって手動で作動させることができて、再び押された場合は、規定された時間で自動的に終了させる前に、パルス列を停止させることができる。一実施形態では、この規定された時間は30秒から30分とすることができる。一実施形態では、この規定された時間は30秒、60秒、120秒、5分、10分、15分、20分、又は30分である。このスイッチにより、操作者がトリガー機能を制御できて、また必要であれば操作者がパルス列を速やかに停止させることもできる。あるいは、哺乳瓶に取り付け可能な2つのスイッチをトリガーに使用することもできて、一方のスイッチは他方のスイッチにより手動で中止されない限りは継続するパルス列を作動させる。
【0052】
一実施形態では、パルス列が発生すると、パルス列は速やかに表示ユニット上の電流レベルを供給する。一実施形態では、刺激ユニット133はウェアラブル機器が刺激電流を提供していることをユーザに警告するための表示灯(又は他の通知)を備えることがある。
【0053】
様々な実施形態では、システム100は閉ループと開ループのハイブリッドのシステムとして動作することができる。例えば、システム100を前述のように始動させて、閉ループシステムとして動作を開始することができて、ユーザは手動で電極124を作動させて閉ループ動作を無効にして開ループシステムへと動作を移行させることができる。開ループ動作における任意の点において、ユーザは手動による作動を中止することができて、システムは自動的に閉ループ動作へと戻ることができる。同様に、システム100は、直接的なユーザによる作動により始動して、開ループシステムとして動作を始めることができる。少なくとも1回の手動による神経刺激とその後の摂食開始を繰り返すことで、ユーザは手動による作動を中止することが可能となり、閉ループ動作へ進むことができる。一部の実施形態では、システム100は開ループ及び閉ループの両方の機能を有することができる。他の実施形態では、システム100は開ループと閉ループのどちらか一方の機能のみを有する。
【0054】
コンピュータプラットフォーム134は、哺乳瓶102及びウェアラブル機器122との間の通信を補うために使用することができる。コンピュータプラットフォーム134は、哺乳瓶102、ウェアラブル機器122、又はその両方に対する操作、監視、及びデータ収集/保管を容易にするために使用することもできる。一部の実施形態では、コンピュータプラットフォーム134は、ウェアラブル機器122での電極刺激のタイミング及び強度を、哺乳瓶102、ウェアラブル機器122、又はその両方から受信したデータに従って調整するのに使用することができる。一部の実施形態では、ウェアラブル機器122での電極刺激のタイミング及び強度は自動的に調整されて、測定可能なパラメータをコンピュータプラットフォーム134により設定された閾値以内に維持する。測定可能なパラメータには、限定しないが、心拍数、血圧、筋活性率、神経パターン、哺乳瓶の容積、哺乳瓶の位置、及び同種のものが含まれる。本発明の一部の態様では、本明細書で提供される命令を実行するソフトウェアは非一時的コンピュータ可読媒体上に記憶することができて、ソフトウェアは、プロセッサ上で実行されると、本発明のステップの一部又はすべてを実行する。
【0055】
本発明の態様は、コンピュータソフトウェア内の実行されるアルゴリズムに関連する。特定の実施形態は特定のプログラミング言語で書かれている、又は特定のオペレーティングシステム若しくはコンピューティングプラットフォーム上で実行されると記載されていることがあるが、本発明のシステム及び方法は、特定のコンピューティング言語、若しくはプラットフォーム、又はこれらの組み合わせに限定されないことが理解される。本明細書で説明されるアルゴリズムを実行するソフトウェアは、当技術分野で既知の、限定しないが、C、C++、C#、Objective-C、Java(登録商標)、JavaScript(登録商標)、Python、PHP、Perl、Ruby、又はVisual Basicを含む、任意のプログラミング言語で書く、コンパイルする、又は解釈することができる。本発明の要素は、限定しないが、サーバ、クラウドインスタンス、ワークステーション、シンクライアント、携帯機器、組み込み型マイクロコントローラ、テレビ、又は当技術分野で既知の他の適切なコンピュータデバイスを含む、任意の許容可能なコンピューティングプラットフォーム上で実行可能であることがさらに理解される。
【0056】
本発明の一部はコンピュータデバイス上で動作するソフトウェアとして説明される。本明細書で説明されるソフトウェアは一つの特定のコンピュータデバイス(例えば、専用サーバやワークステーション)上で動作するものとして開示されうるが、ソフトウェアは本質的に移植可能であり、専用サーバ上で動作するほとんどのソフトウェアは本発明の目的で、デスクトップ機器若しくは携帯機器、ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、時計、着用可能な電子機器若しくは他の無線デジタル/セルラー式電話、テレビ、クラウドインスタンス、組み込み型マイクロコントローラ、シンクライアント機器、又は当技術分野で既知の任意の他の適切なコンピュータデバイスを含む幅広い機器のいずれかでも動作しうることが当技術分野では理解される。
【0057】
同様に、本発明の一部は様々な無線又は有線のコンピュータネットワークを介して通信するものとして説明される。本発明の目的では、「ネットワーク」、「ネットワーク化される(networked)」、及び「ネットワークの(networking)」という単語は、有線イーサネット、光ファイバー接続、様々な802.11標準のいずれかを含む無線接続、3G若しくは4G/LTEネットワークなどのセルラー式WANインフラストラクチャ、Bluetooth(登録商標)、Bluetooth(登録商標)Low Energy (BLE)若しくはZigbee(登録商標)通信リンク、又は一台の電子機器が別の機器と通信を行うことができる任意の他の方法を網羅すると理解される。一部の実施形態では、本発明のネットワーク化される部分の要素は、仮想プライベートネットワーク(VPN)を介して実現されうる。
【0058】
システム100の構成要素は摂食行動の訓練での使用に限定されず、様々な方法で乳児の発育を増進するのに使用することができることを理解されたい。一部の実施形態では、脳神経刺激は、脳の白質の完全性と脳の様々な領域間での領域間通信を増加させることにより、神経発達及び神経の機能回復訓練において効果的である。例えば、治療は、異方性比率で測定される白質可塑性を増加させるなどの神経可塑的効果を有しうる。一部の実施形態では、組織の増加、充填、皮膜の完全性などの白質中の微細構造の変化は乳児の口腔運動機能が改善されたことを反映している。一部の実施形態では、治療後に組織異方性が増加する白質路には、限定しないが、内包前脚、下前頭後頭束、外包、上縦束が含まれる。一部の実施形態では、脳神経刺激は運動機能を高めるのに効果的であり、その結果、頭を上げること、回転すること、座位でいること、掴むこと、持ち上げること、投げること、這うこと、歩くこと、登ること、及び降りることを含む活動を訓練して改善することができる。一部の実施形態では、脳神経刺激は行動を調節するのに効果的である。行動調節には、良い行動に対する肯定的な強化、悪い行動に対する否定的な強化、神経学的疾患及び精神的疾患又は精神的損傷の軽減又は治療が含まれうる。
【0059】
システム100の構成要素は乳児での使用に限定されず、小児、大人、及び高齢者でも使用することができることを理解されたい。様々な実施形態では、システム100の構成要素はさらに、哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類、及び同種のものを含む動物に適用可能である。一部の実施形態では、脳神経刺激は筋肉関連の障害や機能回復訓練に対処する際、例えば脳卒中後の上肢及び下肢の運動機能回復訓練の規範(paradigm)などで効果的であり、特定の機能回復訓練の規範に関与する筋群が対象である。例えば、ここで
図4を参照すると、システム100の構成要素(例えば、ウェアラブル機器122上の検出電極124)は、1つ又は複数の注目する筋群における、最小閾値を超えてトリガーを引き起こす筋活性を測定することができる。ウェアラブル機器122は、脳神経に隣接する刺激電極124を作動させることにより筋活性を補うことができて、これにより脳神経が刺激される。1つ又は複数の注目する筋群の更なる活性化は、検出電極124により観察及び確認することができる。閉ループシステムなどでは、検出電極124からの筋活性開始の検出と刺激電極124からの刺激のタイミングを調整して同期させることで、筋活性を続けることができる。一部の実施形態では、脳神経刺激は、限定しないが、パーキンソン病、運動障害、及び同種のものを含む筋肉又は神経の疾患若しくは障害を調節するのに効果的である。
【0060】
脳神経刺激方法
本発明は、部分的には非侵襲的脳神経刺激を与える方法にも基づいている。本明細書の他の場所に記載されるように、この方法は、神経可塑性を改善すると共に筋肉の訓練にフィードバックを組み合わせることで、機能回復訓練及び回復を強化するのに効果的である。
【0061】
一部の実施形態では、方法は、口腔運動能力を高めることに関連する。ここで
図5を参照すると、好ましい方法200が描かれている。方法200はステップ202で始まり、このステップでは脳神経刺激システムが提供され、システムは活性化を引き起こす少なくとも1つの手段と、少なくとも1つの刺激電極とを備える。活性化を引き起こす少なくとも1つの手段は、限定しないが、対象の頬又は顎の筋肉に隣接して非侵襲的に固定された検出電極、摂食時に使用される乳首又は哺乳瓶に組み込まれた検出機構、又は手動スイッチのうちの一つとすることができる。ステップ204では、少なくとも1つの刺激電極が対象の脳神経に隣接して非侵襲的に固定される。ステップ206では、対象に食物源が提供される。ステップ208では、活性化のトリガーにより摂食が開始される。活性化のトリガーは、提供された活性化を引き起こす少なくとも1つの手段により決まることがあり、検出電極が最小閾値を超える筋活性を検出した場合、検出電極が食料のいくらかの移動を検出した場合、又は手動スイッチが作動された場合に活性化が引き起こされうる。ステップ210では、活性化のトリガーに応答して少なくとも1つの刺激電極を用いて脳神経へ刺激が与えられる。
【0062】
一部の実施形態では、対象は乳児であり、口腔運動能力は乳を飲むことに関連する。様々な実施形態では、脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、迷走神経主束、及び同種のものからなる群より選択することができる。様々な実施形態では、電極は接着剤、クリップ、パッチ、耳栓、ヘッドバンド、頸椎カラー、襟、頭への被り物、及び同種のものを用いて非侵襲的に固定される。一部の実施形態では、ステップは記載された順序で行われる。様々な実施形態では、ステップ208及びステップ210は閉ループシステムでは繰り返される。一部の実施形態では、ステップ210は開ループシステムではユーザにより開始される。開ループシステムでは、脳神経の刺激は手動で行われる。
【0063】
一部の実施形態では、方法は筋肉の機能回復訓練に関連する。ここで
図6を参照すると、好ましい方法300が描かれている。方法300はステップ302で始まり、このステップでは脳神経刺激システムが提供され、システムは少なくとも1つの検出電極と、少なくとも1つの刺激電極とを備える。ステップ304では、少なくとも1つの検出電極が対象の注目する筋群に隣接して非侵襲的に固定され、少なくとも1つの刺激電極が対象の脳神経に隣接して非侵襲的に固定される。ステップ306では、最小閾値を超える筋群の活性化が少なくとも1つの検出電極を用いて測定される。ステップ308では、最小閾値を超える筋群の活性化の測定に応答して、少なくとも1つの刺激電極を用いて脳神経へ刺激が与えられる。
【0064】
様々な実施形態では、脳神経は、三叉神経、顔面神経、副神経、舌下神経、迷走神経耳介枝、迷走神経主束、及び同種のものからなる群より選択することができる。様々な実施形態では、電極は接着剤、クリップ、パッチ、耳栓、ヘッドバンド、腕章、支持具、襟、包装紙、及び同種のものを用いて非侵襲的に固定される。一部の実施形態では、ステップは記載された順序で行われる。様々な実施形態では、ステップ306及びステップ308は閉ループシステムでは繰り返される。一部の実施形態では、ステップ308は開ループシステムではユーザにより開始される。開ループシステムでは、脳神経の刺激は手動で行われるので、ステップ306は任意選択となりうる。
【0065】
様々な実施形態では、本発明の方法は筋活性の特定の最小閾値を選択する。一部の実施形態では、方法は、絶対測定により決定される、筋活性の最小閾値を選択する。例えば、筋活性の最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、及び約50mVの絶対値から選択することができる。一部の実施形態では、方法は、安静時に測定された基礎測定値からの変化により決定される、筋活性の最小閾値を選択する。例えば、筋活性の最小閾値は、約0.1μV、約0.5μV、約1μV、約5μV、約10μV、約50μV、約100μV、約200μV、約300μV、約400μV、約500μV、約1mV、約5mV、約10mV、約20mV、約30mV、約40mV、及び約50mVの増加又は減少から選択することができる。一部の実施形態では、方法は、筋肉の通常の最大電位の割合により決定される、筋活性の最小閾値を選択する。例えば、筋活性の最小閾値は、通常の筋肉の最大電位の約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、及び約95%から選択することができる。
【0066】
様々な実施形態では、本発明の方法は脳神経刺激に対する特定のパラメータを選択する。一部の実施形態では、方法は刺激の強度を選択する。例えば、刺激の強度は、約0.01mA、約0.05mA、約0.1mA、約0.2mA、約0.3mA、約0.4mA、約0.5mA、約0.6mA、約0.7mA、約0.8mA、約0.9mA、約1mA、約1.5mA、約2mA、約2.5mA、約3mA、約3.5mA、約4mA、約4.5mA、約5mA、約6mA、約7mA、約8mA、約9mA、及び約10mAから選択することができる。一部の実施形態では、方法は、超過することのできない最大刺激強度に対するハードリミットを持つことができる。一部の実施形態では、最大刺激強度に対するハードリミットは、0.1mA、0.2mA、0.3mA、0.4mA、0.5mA、0.6mA、約0.7mA、約0.8mA、約0.9mA、約1mA、約1.5mA、約2mA、2.5mA、3mA、3.5mA、4mA、4.5mA、5mA、6mA、7mA、8mA、9mA、又は10mAである。一部の実施形態では、方法は刺激の周波数を選択する。例えば、刺激の周波数は、約1Hz、約2Hz、約3Hz、約4Hz、約5Hz、約6Hz、約7Hz、約8Hz、約9Hz、約10Hz、約15Hz、約20Hz、約25Hz、約30Hz、約35Hz、約40Hz、約45Hz、及び約50Hzから選択することができる。一部の実施形態では、方法は刺激のパルス幅を選択する。例えば、刺激のパルス幅は、約10μs、約20μs、約30μs、約40μs、約50μs、約60μs、約70μs、約80μs、約90μs、約100μs、約150μs、約200μs、約250μs、約300μs、約350μs、約400μs、約450μs、約500μs、約550μs、約600μs、約650μs、約700μs、約750μs、約800μs、約850μs、約900μs、約950μs、及び約1msから選択することができる。一部の実施形態では、方法は刺激がオンである期間及びオフである期間を選択する。例えば、刺激の期間は、約0.1秒、約0.5秒、約1.5秒、約2秒、約2.5秒、約3秒、約3.5秒、約4秒、約4.5秒、約5秒、約10秒、約20秒、約30秒、約40秒、約50秒、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約45分、約50分、及び約1時間から選択することができる。オンである期間及びオフである期間は、同じ期間、又は異なる期間でありうる。
【実施例】
【0067】
本発明は、以下の実験例を参照してさらに詳細に説明される。これらの例は例証の目的のためだけに提供され、特に指定がない限り、限定することは意図していない。したがって、本発明は決して以下の例に制限されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかとなる任意のすべての変形を本発明は網羅すると解釈されるべきである。
【0068】
更なる説明がなくとも、当業者は、前述の説明及び以下の実例を用いることで、本発明の複合物を作成及び利用して特許請求される方法を実践することができると考えられる。それゆえ、以下の実施例は本発明の好ましい実施形態を具体的に挙げているが、決して本開示の残りの部分を制限すると解釈されるべきではない。
【0069】
実施例1:赤ちゃんの吸引をどうやって測定するか?障害のある乳児の口腔運動の発達を増進するために経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)のループを閉じる。どの電極が最も良いか?
口腔運動協調不全に起因する摂食困難は、早期産児、又は低酸素性虚血性脳症(HIE)を患う乳児では一番の関心事である。迷走神経刺激療法(VNS)は、神経可塑性を増加させることができて、機能回復訓練と組み合わせた場合、運動学習を増進することができる。最近、経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)と呼ばれる新しい方法を用いて迷走神経の耳介枝を電気的に刺激することで非侵襲的VNSを実現できることが示された。本研究の目標は、筋電図検査(EMG)をトリガーとして用いて、taVNSを吸引の筋活性と組み合わせる閉ループ自動システムを開発することである。このシステムはより良い吸引と刺激の組み合わせを可能とすることができて、またそれほど労働集約的ではない。
【0070】
これらの調査は、基準電極配置の最も良好な場所と吸引と組み合わせられる刺激の忠実度をテストすることを目的としている。自動化システムの特異度及び感度を最適化するために、大きなパイロット試験(
図7で示されている例)に登録された2人の早期産の新生児で3つの異なるEMG電極の配置(A、B、C)が比較された。引き起こされた刺激が、3.5秒のパルス列に対して知覚閾値より下の0.1mA、25Hzの周波数、500μsのパルス幅で左耳の電極を用いて伝達された。この研究の主要な成果は、特異度(
図8、目に見える吸引と正しく対を成す刺激)と感度(
図9、刺激されている間に引き起こされた、又は発生した、目に見える吸引)であった。
【0071】
場所A、B、及びCは、それぞれ、49.3±31.8(n=3)、37.9±13.4(n=7)、及び58.3±18.5(n=6)の平均特異度を有した。場所A、B、及びCは、それぞれ、77±15.9(n=3)、82±13.8(n=7)、及び75.2±16.2(n=6)の平均感度を有した。電極配置Cは実現可能であり、より受け入れられやすかった。この配置では、実際の目に見える吸引により誘発された刺激の割合の平均が最も高く(60%)、一方で目に見えない吸引(non-visual suck)により引き起こされた刺激は最小限に抑えられた(40%)。すべての配置で、目に見える吸引により誘発されて約77~81%で同様にトリガーが行われたようであった。
【0072】
これらの結果は、EMG電極位置Cが、目に見える吸引に対して良好な感度を維持しながらも目に見える吸引と正しく組み合わせられた刺激列が58%となって最も効率的であったことを示している。閉ループのtaVNSシステムでEMGを用いるのは、乳児でtaVNS刺激を誘発するのに安全で効果的な方法である。
【0073】
実施例2:新生児を脳神経刺激で治療する
脳の成熟異常がある早期産児、又は低酸素性虚血性脳症(HIE)を患う正期産児では、摂食困難は退院が延期される主な理由である。完全経口摂食を実現できないのは、非常に重要な神経可塑性の発達期間が終わってしまったため、又はHIE乳児での顕性脳損傷のためでありうる。現在の治療法は、1日に1回の作業療法士又は言語療法士による授乳と胃瘻管(gチューブ)の設置に限定されている。
【0074】
本研究では経口(PO)摂食開始後20日の乳児の摂取量(intake)を観察した。平均で49日間摂食に失敗している乳児は、gチューブの対象であると判断され、脳神経刺激の試験に登録された(
図10)。14人の赤ちゃんが中間分析において分析された(
図11A)。すべての赤ちゃんがgチューブの対象となり、登録前に平均で49日間経口での摂食が試みられた。治療は従来のプロトコル(3.5秒のパルス列に対して知覚閾値より下の0.1mA、25Hzの周波数、500μsのパルス幅で左耳の電極を用いて刺激が伝達された)に基づいて行われた。赤ちゃんの57%(14人のうち8人)が、gチューブなしで退院するのに臨床的に必要とされる適切なPO摂取量(完全経口摂食)に到達した。この結果は、過半数の赤ちゃんにおいて、脳神経刺激が彼らの機能回復訓練を容易にし、神経可塑性を高めて、運動学習を容易にしたことを示している。
図11Bはさらに、1日あたりのPO摂食量の傾きが有意に大きく増加する(
図11Bの左側でF、8.05、p=0.01)潜在的な用量反応を示しており、1日あたりの治療が2回の場合は1日あたり1回よりも完全PO摂食までより短い時間(
図11Bの右側でp<0.05)であることを示している。
【0075】
図12及び
図13は、レスポンダー群とノンレスポンダー群の統計的分析を表している。
図12は、刺激治療前と刺激治療中のレスポンダーの線形回帰を比較すると有意に異なっており、傾きは治療後に大きくなっていることを示している。
図13は、刺激治療前と刺激治療中のノンレスポンダーの線形回帰を比較すると有意に異ならないことを示している。
【0076】
治療対象は、脳の発達への治療の効果を観察するために撮影された。赤ちゃんはMRIを用いてスキャンされ、2~4週間にわたって治療を受け、白質路内の変化を調査するために再びスキャンされた。
図14A及び
図14Bは、異方性比率(FA)及び軸方向尖度(K
||)により示されるように、脳の白質路の完全性に対して、脳神経刺激はレスポンダー群(完全摂食)においてノンレスポンダー群(gチューブ)よりも大きな効果があったことを示している。運動と感覚運動の統合に関連する特定の白質路はすっかり強化された。さらに、レスポンダーとノンレスポンダーの両者におけるFAの変化は、正常な発達(
図14A)で予想されるよりも大きく、脳路を横断するより多くの領域間通信があることを示している。
【0077】
実施例3:口腔運動摂食機能回復訓練と組み合わせたtaVNS
材料及び方法をここで説明する。
【0078】
研究計画
パイロット試験が、taVNSを哺乳瓶での摂食と組み合わせることの実現可能性を評価するために、親の同意を得て前向き(prospective)の、新生児/乳児に対する初回のフェーズ0の非盲検試験として行われた(
図15)。IRBの承認は重大なリスクのない医療機器を指定することで得られた。パイロット試験は90%の同意率を得た。
【0079】
適格性基準
妊娠満33週以下で生まれた乳児、又は任意の在胎期間でHIE、脳損傷を患う乳児、大きな呼吸補助がなくとも臨床的に安定している乳児、臨床計画を立ててGチューブに関して両親と話し合った上での通常の介入では摂食が上達しない乳児。
【0080】
除外基準
心筋症、大きな呼吸補助がある、毎回の摂食を口からできない。
【0081】
主要有効性の結果
治療前及び治療中の1日あたりの経口(口から、以下では「po」)摂食の量で測定される、対象の運動学習、完全経口摂食(120ml/kg/日より多く、体重増加を伴う)の実現、Gチューブの回避。
【0082】
副次的有効性の結果
2週間にわたるtaVNSを組み合わせた摂食の前後での白質路(WM)内の拡散画像(DKI)での改善された完全性により測定される、発達週数で正規化された脳の変化、taVNSを組み合わせた口腔運動摂食治療の前後での頭頸部の制御及び機能運動全般における、STEP初期発育テストによる改善。
【0083】
主要安全性の結果
徐脈(5秒間でのHRが80bpm未満)、背側核及び遠心性心臓迷走神経に対するtaVNSの潜在的影響、皮膚炎、新生児・乳児痛みスケール(NIPS)により測定される不快感が採血に伴う痛みに相当する3ポイントの変化より大きい。
【0084】
副次的安全性の結果
ビデオ嚥下造影(VFSS):taVNSを組み合わせた哺乳瓶での摂食の開始前、及び治療期間後にVFSSが行われた。この試験の間、ブロックランダム化に基づいて、taVNSはVFSSの間に10回の嚥下に対して作動され、別の10回の嚥下に対してオフとされた。これまでに採点された8人の乳児は、典型的には3回の試験で各条件(薄くて遅い(Thin-slow)、薄くて速い(Thin-fast)、濃い(Thick))で20回の嚥下を行った。
【0085】
治療プロトコル
・25Hzの周波数、500マイクロ秒のパルス幅のtaVNSパルスが左耳の電極を介して伝達される。
・不快感の兆候まで電流を0.1mAずつ増加させることで知覚閾値(PT)が決定される。
・2~3週間にわたり1日に1回(n=14)又は2回(n=13)の30分の経口摂食の間に吸引-嚥下と組み合わせた、PTよりも0.1mA低いtaVNSが伝達される。
【0086】
結果がこれより記載される。
【0087】
主要有効性の結果
1.完全経口摂食(120ml/kg/日で体重増加を伴う)の実現、Gチューブの回避
・Gチューブ利用予定だった乳児の54%、すなわち19人/35人(レスポンダー)がtaVNSを組み合わせた摂食で完全経口摂食を実現し、16人/35人(ノンレスポンダー)がGチューブ摂取で自宅へ退院した。
・taVNS治療を受けたレスポンダーは、1日あたりの平均po量(口からの、ml/kg/日)でGチューブを与えられたノンレスポンダー(
図16でp<0.05)に対して有意な増加を示した。退院に必要とされる摂食量は、体重増加を伴ってpoで120ml/kg/日を超えることである。
・1日あたりのpo摂食量(
図16でF、8.05、p=0.01)の傾きが有意に大きく増加する用量反応が示され、完全po摂食までの時間は1日あたり2回の治療では1日あたり1回の治療よりも有意に短い(
図17でp<0.05)。1日あたり1回のtaVNSを組み合わせた摂食を受けたレスポンダーは、完全経口摂食を平均で15.5±7.8日(n=8、95% CI:9.0、22.0)で実現し、一方で1日あたり2回のtaVNSを組み合わせた摂食を受けたレスポンダー乳児は、完全経口摂食を9.6±7.8日(n=11、95% CI:4.4、14.9)で実現した。
【0088】
副次的有効性の結果
1.taVNSを組み合わせた摂食による拡散MRIでの変化:拡散画像はtaVNSレスポンダーとノンレスポンダーで有意に異なる神経可塑性効果を示している。
・taVNS治療の前と後とで比較される拡散MRIは、脳梁及び外包において、白質の可塑性の発達週数に対する異方性比率(FA)の変化は、レスポンダーではノンレスポンダーに対して有意に大きいことを示している(
図18、n=16)。両方の群は、公表されているこれらの路での正常な発達変化(破線により示される)と比べて、正常よりも大きなFAの増加を示した。
・
図19では、taVNSの前と後での平均拡散率の変化は、両半球の脳梁において、完全po摂食を実現した乳児(n=9)ではGチューブを必要とした乳児(n=9)よりも有意に低かった(n=18、p<0.05)。FAは軸索束に沿った水分の方向性を示し、髄鞘形成されていないとしても組織、充填、及び皮膜の完全性の増加という点で、その白質路の頑健性を示す。平均拡散率は皮膜からのすべての方向への水分の移動の程度を示し、脳損傷、神経炎症、及び白質成熟異常がある場合は概してより高くなる。
【0089】
このように、摂食の口腔運動作業と組み合わせたtaVNSにより、乳児の改善された口腔運動機能に対応する、白質の微細構造の変化がもたらされる。これにより、年少の乳児において運動学習と組み合わせたtaVNSは安全であり、口での感覚運動の協調に関与する特定の白質路における神経可塑的な変化を引き起こして機能する、という概念実証がもたらされる。
【0090】
2.頭頸部の制御及び機能運動全般での改善
初期の運動能力は、正期期間相当又は3カ月の補正年齢で行われる緊張と運動性の10分間の評価である、乳児の初期運動能力の特異的テスト(Specific Test of Early Infant Motor Performance(STEP))により測定され、12カ月での運動及び認知の転帰を予測することが示されている。STEPは、taVNS介入を開始する前(STEP前)、及び介入が完了した際に(STEP後)、合計で7人のレスポンダーと12人のノンレスポンダーに対して同じ訓練された小児作業療法士により行われ、taVNSを組み合わせた摂食の前後でのSTEPスコアが得られた。
・レスポンダーであった乳児はtaVNS治療前後での週ごとの総合STEPスコアにおいて、ノンレスポンダーでGチューブを必要とした乳児(0.0±0.85、p=0.04、対応のあるt検定)よりも有意に大きく向上した(平均1.7で±2.1)。発達に伴うSTEPスコアにおける予想される変化は、0.5ポイント/週である。それゆえ、taVNSを組み合わせた口腔運動摂食訓練により、これらの危険な状態にある乳児で運動機能が総合的に改善される。
・taVNSを組み合わせた摂食治療の前後でどのような種類の動きがより異なっていたかを解析したところ、我々は、ノンレスポンダーと比較して、レスポンダーでは頭頸部の動きに直接関連する4つの特定のSTEP項目において有意に大きな上昇があったことを発見した。これらの項目には以下が含まれる:仰臥位での視覚的刺激に伴う頭の動き(p=0.01)、仰臥位での視覚的刺激がない場合の頭の動き(p=0.03)、腕により引き起こされる回転(p=0.04)、補助を受けて座っている際の頭の動き(p=0.01)。それゆえ、2~3週間にわたる哺乳瓶での摂食と組み合わせたtaVNSは主に頭頸部の運動に影響を与えているように思われる。哺乳瓶での摂食で、うまく摂取するためには22の口腔及び顔面の筋肉の協調が必要とされ、頭頸部の筋肉は摂食の間にも動かされる。これらの筋肉により、乳児が視覚的な観点及び感覚運動的な観点の両方で自分の世界を探検できるようになるので、これらの筋肉は発達において非常に重要である。これらのデータは、哺乳瓶での摂食の活動と組み合わせたtaVNSによってそれらの筋肉の機能を増強しうることを示している。
・一つの特定の頭頚部制御に関する項目である腕による回転で成績が良かった乳児では、成績が良くなかった乳児と比較して、taVNS治療の後に多数のWM領域内での異方性比率で有意に大きな変化が見られた(p<0.05)(
図20)。
【0091】
STEPの総合スコア及び回転の項目のスコアは、taVNSを組み合わせた哺乳瓶での摂食の前では有意に異ならなかったので、哺乳瓶での摂食と組み合わせたtaVNSが運動回路の統合を促進した可能性が高い。この研究は、危険な状態にある乳児において、摂食という運動課題と組み合わせた早期の神経調節が頭頸部の制御に必要とされる運動に好影響を与えうる、という概念実証を与える。
【0092】
3.ビデオ嚥下造影(VFSS)における改善
VFSSは、taVNSを組み合わせた哺乳瓶での摂食の開始前、及び治療期間後に行われた。これらの試験の間、taVNSはVFSSの間は作動され、ブロックランダム化に基づいて、乳首流量が遅い又は速くて薄いミルクを与える間、及び流れを可能とする大きな乳首の穴で濃いミルクを与える間はオフにされた。これまでに採点された8人の乳児は、典型的には3回の試験で20回の嚥下(薄くて遅い、薄くて速い、濃い)を行った。VFSSを行い、修正バリウム嚥下障害プロファイルで採点を行う医療言語聴覚士(SLP)は、taVNSのオン/オフ条件がわからないようにされた。2人のSPLは、試験の時期に関してはわからない状態でそれぞれの試験を個別に採点し、一緒にVFSSを見直して採点の相違を調整した。
・taVNSは乳児に喉頭機能障害や咽頭機能障害を引き起こすことはなく、むしろ、摂食と組み合わせたtaVNSは嚥下の仕組みを改善した。測定可能な改善が、2~3週間のtaVNSを組み合わせた摂食治療の前後の修正バリウム嚥下試験において、検証済みの修正バリウム嚥下障害プロファイルを用いて喉頭侵入・誤嚥スコア(Penetration and Aspiration Scores(PAS))で示された。
・また、taVNSがVFSSの3条件と組み合わせて「オン」又は「オフ」されると急性の嚥下障害が減ることも示された。具体的には、taVNS治療が開始される前には、taVNSがVFSSの21条件のうちの15条件(71%)で「オン」にされた場合には、PASスコアは向上したか、変化しなかった。taVNS治療の後では、taVNSがVFSSの17条件のうちの15条件(88%)で「オン」にされた場合には、PASスコアは向上したか変化せず、2人の乳児でのみ悪化した(ANOVAによって、F=6.03、p=0.026)。それゆえ、一連のtaVNSを組み合わせた摂食を開始する前、及び開始した後の乳児では、刺激が「オン」にされた場合にtaVNSは嚥下をすぐには減少させなかったが、taVNS治療によって治療が終わるまでに咽頭機能障害がすべての患者で改善した。このデータは、taVNSを与えることは安全であり、経口摂食を実現できない乳児での嚥下に好影響を与えるという証拠をかなり増やす。
【0093】
このデータは、乳児の摂食、神経可塑性、運動能力障害、及び、周産期の虚血性脳卒中及び出血性脳卒中を含む脳の成熟異常又は脳損傷に起因する口腔咽頭嚥下障害に対して、taVNSを組み合わせた摂食を用いて非侵襲的に脳を刺激することで、有意に影響を与え得ることを示している。
【0094】
本明細書で引用されるあらゆる特許、特許出願、及び出版物の開示はその全体が参照により本明細書に援用される。本発明は特定の実施形態を参照して開示されているが、本発明の他の実施形態及び変形が本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく当業者により考案されうることは明らかである。添付の請求項はすべてのそのような実施形態及び同等の変形を含むと解釈されることを意図している。
【国際調査報告】