(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】網膜色素上皮及び光受容体の二重細胞凝集体、並びにその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/30 20150101AFI20230627BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230627BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20230627BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230627BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230627BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230627BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230627BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20230627BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
A61K35/30
C12Q1/02
A61K35/545
A61P27/02
A61K47/36
A61K47/02
C12N5/071
C12N5/0735
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573161
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 US2021034930
(87)【国際公開番号】W WO2021243256
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510003830
【氏名又は名称】フジフィルム セルラー ダイナミクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ディアス アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】バーント エリック
(72)【発明者】
【氏名】チェイス ルーカス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
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4C087AA01
4C087AA02
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4C087BB64
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本願で提供されるのは、研究ツール、例えば、化合物のスクリーニング又は網膜疾患の研究モデルとしての使用のための、網膜上皮細胞及び光受容体の二重細胞凝集体培養物、並びに眼の疾患を処置するための治療薬である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜色素上皮細胞(RPE)と、光受容体及び/又は光受容体前駆細胞(PR/PRP)とを含む二重細胞凝集体組成物。
【請求項2】
前記組成物は、異種成分フリーであり、フィーダーフリーであり、及び定義されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記RPEは、ベストロフィン-1(BEST1)及び/又はZO-1を発現する成熟RPEである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記RPEは、BEST1及び/又はZO-1が本質的に発現されない未成熟RPEである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記RPEは、極性化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記RPEは、極性化されていない、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、生体吸収性足場及び/又は細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を本質的に含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
PR/PRP対RPEの比は、前記二重細胞凝集体組成物の構築時に約2:1~約500:1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
PR/PRP対RPEの比は、前記二重細胞凝集体組成物の構築時に約1:1~約100:1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記RPE及び/又は前記PR/PRPは、多能性幹細胞(PSC)に由来している、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
PSCは、人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記iPSCは、ヒトiPSC(hiPSC)である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
PR/PRPは、オルガノイドに由来していなかった、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記RPE及び/又は前記PR/PRPは、事前に凍結保存されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記凍結保存されたRPE及び/又はPR/PRPは、解凍されており、且つ少なくとも1週間にわたり培養されている、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記RPE及びPR/PRPは、約100万個の細胞/mL~約1,000万個の細胞/mLの密度で形成されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記RPE及びPR/PRPは、約500万個の細胞/mLの密度で形成されている、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記RPE及び/又は前記PR/PRPは、同一のドナー由来である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記PR/PRPは、杆体性である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記PR/PRPは、錐体性である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物を含む医薬組成物。
【請求項22】
ヒアルロン酸塩をさらに含む請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記ヒアルロン酸塩は、約0.5%未満の濃度で添加されている、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、一塩基性リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、及び/又は二塩基性リン酸ナトリウムをさらに含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記二重細胞凝集体組成物は、凍結保存されている、請求項21~24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記二重細胞凝集体組成物は、200,000~3,000,000個の細胞を含む、請求項21~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記二重細胞凝集体組成物は、約700,000個の細胞を含む、請求項21~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
請求項1~24のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物を製造する方法であって、ROCK阻害剤を含む培養培地に、RPE及びPR/PRPを播種すること、並びに前記二重細胞凝集体組成物を製造するのに十分な期間にわたり培養することを含む方法。
【請求項29】
前記RPE及び前記PR/PRPを、本質的に単一細胞の懸濁液として播種する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記RPEを、本質的に単一細胞の懸濁液として播種し、前記PR/PRPを、凝集体として播種する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ROCK阻害剤は、Y-27632である、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記Y-27632は、10μMの濃度で添加されている、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
PR/PRP対RPEの比は、前記二重細胞凝集体組成物の構築時に約2:1~約500:1である、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
PR/PRP対RPEの比は、前記二重細胞凝集体組成物の構築時に約100:1である、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記培養培地は、プロスタグランジンE2(PGE-2)をさらに含む、請求項28~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記RPEは、PGE-2の存在下で事前に培養されていた、請求項28~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記PR/PRPは、PRPH2を発現する、請求項28~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記PR/PRPは、杆体性である、請求項28~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記PR/PRPは、錐体性である、請求項28~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記RPE及びPR/PRPを、約100万個の細胞/mL~約1,000万個の細胞/mLの密度で播種する、請求項28~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記RPE及びPR/PRPを、約500万個の細胞/mLの密度で播種する、請求項28~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記RPE及び/又はPR/PRPは、事前に凍結保存されている、請求項28~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記培養培地は、タウリン及びヒドロコルチゾンをさらに含む、請求項28~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記培養培地は、トリヨードチロニンをさらに含む、請求項28~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記培養培地は、限定培地又は血清フリー培地である、請求項28~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記培養培地は、血清代替物を含む、請求項28~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記培養培地は、RPE-MM培地である、請求項28~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記培養することは、少なくとも10日にわたる、請求項28~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記培養することは、2週間~1ヶ月にわたる、請求項28~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記培養することは、少なくとも2ヶ月にわたる、請求項28~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記培養培地を、少なくとも5日に1回交換する、請求項28~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記培養培地を、少なくとも3日に1回交換する、請求項28~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記培養培地を、少なくとも1日置きに1回交換する、請求項28~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記二重細胞凝集体組成物を凍結保存することをさらに含む、請求項28~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
対象の眼の損傷又は障害を処置する方法であって、前記対象の眼に、請求項1~27のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物の有効な量を移植することを含む方法。
【請求項56】
前記対象に、前記RPE及びPR/PRP細胞の200,000~3,000,000個の用量を投与する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記対象に、前記RPE及びPR/PRP細胞の約700,000個の用量を投与する、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記組成物を、前記眼の網膜下腔に移植する、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
前記眼の障害は、RPE機能障害又は光受容体機能障害に起因している、請求項55又は58に記載の方法。
【請求項60】
前記眼の障害は、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症、錐体-杆体ジストロフィー、又はレーバー先天黒内障である、請求項55~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記二重細胞凝集体組成物により、前記対象の眼中において、杆体光受容体及び錐体光受容体の両方が生成される、請求項55~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
モデル網膜としての請求項1~20のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物の使用。
【請求項63】
化合物をスクリーニングする方法であって、1種又は複数種の候補化合物と、請求項1~20のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物とを接触させること、及びRPE-PRP二重細胞凝集体に対する効果を検出することを含む方法。
【請求項64】
前記1種又は複数種の候補化合物は、化学化合物、低分子、ポリペプチド、増殖因子、溶媒、オリゴヌクレオチド、及びサイトカインからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
効果を検出することは、細胞増殖、細胞生存率、細胞死、薬物毒性、又は網膜組織の維持若しくは修復を測定することを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記方法は、インビボである、請求項63~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記方法は、インビトロである、請求項63~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記方法を、ハイスループットで実施する、請求項63~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記二重細胞凝集体組成物は、マルチウェル培養プレートに入っている、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
請求項1~20のいずれか一項に記載の二重細胞凝集体組成物を含む、インビトロ網膜モデル。
【請求項71】
前記RPE及び/又はPR/PRRは、疾患細胞系統から得られる、請求項70に記載のモデル。
【請求項72】
前記疾患は、眼の疾患である、請求項71に記載のモデル。
【請求項73】
前記眼の障害は、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症、錐体-杆体ジストロフィー、又はレーバー先天黒内障である、請求項72に記載のモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2020年5月29日に出願された米国仮特許出願第63/032,368号明細書に対する優先権の利益を主張しており、この明細書の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、全体として、幹細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本開示は、網膜上皮細胞(RPE)と、光受容体細胞(PR)及び/又は光受容体前駆細胞(PRP)(本明細書では、PR/PRPと称される)との二重細胞凝集体組成物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
加齢黄斑変性症(AMD)は、2016年時点にて米国で1,100万人及び世界で1億7,000万人に影響を及ぼしている衰弱した状態であり、2020年には世界での有病率が1億9600万人に達すると予想されている(Pennington and DeAngelis,2016;Wong et al.,2014)。この原因は、網膜色素上皮(RPE)の機能障害と推定されており、この機能障害により、光受容体の死滅及び機能障害が引き起こされる(Bhutto and Lutty,2012)。RPEを使用する細胞療法は、AMD、近視性黄斑変性症、又は遺伝性黄斑変性症のより稀な形態の処置に有効であり得、現在、視覚機能を回復させるための幹細胞ベースの臨床試験がいくつか進行中であるか計画されている(Oner,2018)。AMDは、失明の最も一般的な原因の一つであるが、網膜色素変性症、錐体杆体ジストロフィー、及びレーバー先天黒内障等の他の機能障害は、光受容体の機能障害により主に引き起こされており、光受容体(PR)移植により対処され得る(Barnea-Cramer et al.,2016;Zhou et al.,2015;Zhao et al.,2017)。
【0004】
光受容体は、光感知に関与する外節を伸ばしている。RPE細胞は、脱落した外節及び他の光受容体の残骸の再利用を支持して、光受容体の全般的な健康を支持する(Strauss,2005)。従って、二重層培養療法としてのRPEとPR及び/又はPRP(本明細書ではPR/PRPと称される)との両方の送達は、RPE又は光受容体のいずれかの機能障害の状態を処置する潜在的な可能性があり、関連する用途は、いずれかの細胞型のみの送達と比べて広い。さらに、RPEとPR/PRPとの共生関係により、そのような処置がより有効になり得る。そのため、これらの疾患の処置のための、PR/PRP細胞及びRPE細胞で構成された二重細胞療法の満たされてないニーズが存在している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある特定の実施形態では、本開示は、網膜色素上皮細胞(RPE)と、光受容体及び/又は光受容体前駆細胞(PR/PRP)とを含む二重細胞凝集体組成物を提供する。特定の態様では、この組成物は、異種成分フリーであり、フィーダーフリーであり、且つ定義されている。
【0006】
一部の態様では、RPEは、ベストロフィン-1(BEST1)及び/又はZO-1を発現する成熟RPEである。ある特定の態様では、RPEは、BEST1及び/又はZO-1が本質的に発現されない未成熟RPEである。ある特定の態様では、RPEは、極性化されている。他の態様では、RPEは、極性化されていない。
【0007】
ある特定の態様では、本組成物は、生体吸収性足場及び/又は細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を本質的に含まない。一部の態様では、PR/PRP対RPEの比は、二重細胞凝集体組成物の構築時に約2:1~約500:1であり、例えば、約2:1~約10:1、約10:1~50:1、約50:1~約100:1、又は約100:1~約500:1である。ある特定の態様では、PR/PRP対RPEの比は、二重細胞凝集体組成物の構築時に約1:1~約100:1である。
【0008】
一部の態様では、RPE及び/又はPR/PRPは、多能性幹細胞(PSC)に由来している。特定の態様では、PSCは、人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)である。例えば、iPSCは、ヒトiPSC(hiPSC)である。ある特定の態様では、PR/PRPは、オルガノイドに由来していなかった。一部の態様では、RPE及び/又はPR/PRPは、事前に凍結保存されている。具体的な態様では、凍結保存されたRPE及び/又はPR/PRPは、解凍されており、且つ少なくとも1週間にわたり培養されている。
【0009】
特定の態様では、RPE及びPR/PRPは、約100万個の細胞/mL~約1,000万個の細胞/mLの密度で形成されており、例えば、約100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、又は1,000万個の細胞/mLの密度で形成されている。具体的な態様では、RPE及びPR/PRPは、約500万個の細胞/mLの密度で形成されている。
【0010】
一部の態様では、RPE及び/又はPR/PRPは、同一のドナー由来である。特定の態様では、PR/PRPは、杆体性(rod-predisposed)である。一部の態様では、PR/PRPは、錐体性(cone-predisposed)である。
【0011】
さらなる実施形態は、本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)を含む医薬組成物を提供する。一部の態様では、この二重細胞凝集体組成物は、200,000~3,000,000個の細胞を含み、例えば、300,000~2,000,000個の細胞、400,000~1,500,000個の細胞、500,000~1,000,000個の細胞、600,000~750,000個の細胞、又は675,000~725,000個の細胞を含む。特定の態様では、この二重細胞凝集体組成物は、約700,000個の細胞を含む。具体的な態様では、この二重細胞凝集体組成物は、700,000個の細胞を含む。
【0012】
追加の態様では、本組成物は、ヒアルロン酸塩をさらに含む。一部の態様では、このヒアルロン酸塩は、約0.5%未満の濃度で添加されており、例えば、約0.4%、0.3%、0.2%、又は約0.1%未満の濃度で添加されている。
【0013】
さらなる態様では、本組成物は、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、一塩基性リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、及び/又は二塩基性リン酸ナトリウムをさらに含む。一部の態様では、二重細胞凝集体組成物は、凍結保存されている。
【0014】
別の実施形態は、本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)を製造する方法であって、ROCK阻害剤を含む培養培地に、RPE及びPR/PRPを播種すること、並びに二重細胞凝集体組成物を製造するのに十分な期間にわたり培養することを含む方法を提供する。
【0015】
一部の態様では、RPE及びPR/PRPを、本質的に単一細胞の懸濁液として播種する。他の態様では、RPEを、本質的に単一細胞の懸濁液として播種し、PR/PRPを、凝集体として播種する。
【0016】
特定の態様では、ROCK阻害剤は、Y-27632である。具体的な態様では、Y-27632は、10μMの濃度で添加されている。
【0017】
一部の態様では、PR/PRP対RPEの比は、二重細胞凝集体組成物の構築時に約2:1~約500:1であり、例えば、約2:1~約10:1、約10:1~50:1、約50:1~約100:1、又は約100:1~約500:1である。具体的な態様では、PR/PRP対RPEの比は、二重細胞凝集体組成物の構築時に約100:1である。
【0018】
さらなる態様では、培養培地は、プロスタグランジンE2(PGE-2)をさらに含む。一部の態様では、RPEは、PGE-2の存在下で事前に培養されていた。
【0019】
一部の態様では、PR/PRPは、PRPH2を発現する。ある特定の態様では、PR/PRPは、杆体性である。一部の態様では、PR/PRPは、錐体性である。
【0020】
ある特定の態様では、RPE及びPR/PRPを、約100万個の細胞/mL~約1,000万個の細胞/mLの密度で播種し、例えば、約100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、又は1,000万個の細胞/mLの密度で播種する。特定の態様では、RPE及びPR/PRPを、約500万個の細胞/mLの密度で播種する。一部の態様では、RPE及び/又はPR/PRPは、事前に凍結保存されている。
【0021】
追加の態様では、培養培地は、タウリン及びヒドロコルチゾンをさらに含む。一部の態様では、培養培地は、トリヨードチロニンをさらに含む。特定の態様では、培養培地は、限定培地又は血清フリー培地である。具体的な態様では、培養培地は、血清代替物を含む。一部の態様では、培養培地は、RPE-MM培地である。
【0022】
一部の態様では、培養することは、少なくとも10日にわたり、例えば、少なくとも2週間、3週間、1ヶ月、又は2ヶ月にわたる。ある特定の態様では、培養培地を、少なくとも5日に1回交換し、例えば、少なくとも4日、3日、又は1日置きに1回交換する。
【0023】
さらなる態様では、この方法は、二重細胞凝集体組成物を凍結保存することをさらに含む。
【0024】
別の実施形態は、対象の眼の損傷又は障害を処置する方法であって、この対象の眼に、本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)の有効な量を移植することを含む方法を提供する。
【0025】
一部の態様では、二重細胞凝集体組成物を、200,000~3,000,000個の細胞の用量で投与し、例えば、300,000~2,000,000個の細胞、400,000~1,500,000個の細胞、500,000~1,000,000個の細胞、600,000~750,000個の細胞、又は675,000~725,000個の細胞の用量で投与する。特定の態様では、二重細胞凝集体組成物を、約700,000個の細胞の用量で投与する。具体的な態様では、二重細胞凝集体組成物を、700,000個の細胞の用量で投与する。一部の態様では、この対象に、二重細胞凝集体を複数回投与する。
【0026】
一部の態様では、本組成物を、眼の網膜下腔に移植する。ある特定の態様では、眼の障害は、RPE機能障害又は光受容体機能障害に起因している。例えば、眼の障害は、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症、錐体-杆体ジストロフィー、又はレーバー先天黒内障である。特定の態様では、二重細胞凝集体組成物により、対象の眼中において、杆体光受容体及び錐体光受容体の両方が生成される。
【0027】
本明細書でさらに提供されるのは、モデル網膜としての本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)の使用である。
【0028】
さらなる実施形態は、化合物をスクリーニングする方法であって、1種又は複数種の候補化合物と、本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)とを接触させること、及びRPE-PRP二重細胞凝集体への効果を検出することを含む方法を提供する。
【0029】
一部の態様では、1種又は複数種の候補化合物は、化学化合物、低分子、ポリペプチド、増殖因子、溶媒、オリゴヌクレオチド、及びサイトカインからなる群から選択される。ある特定の態様では、効果を検出することは、細胞増殖、細胞生存率、細胞死、薬物毒性、又は網膜組織の維持若しくは修復を測定することを含む。一部の態様では、この方法は、インビボである。他の態様では、この方法は、インビトロである。一部の態様では、この方法を、高スループットで実施する。特定の態様では、二重細胞凝集体組成物は、マルチウェル培養プレートに入っている。
【0030】
さらに別の実施形態では、本実施形態又はその態様の二重細胞凝集体組成物(例えば、RPE及びPR/PRPを含む二重細胞凝集体組成物)を含むインビトロ網膜モデルが提供される。
【0031】
一部の態様では、RPE及び/又はPR/PRPは、疾患細胞系統から得られる。特定の態様では、疾患は、眼の疾患であり、例えば、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症、錐体-杆体ジストロフィー、又はレーバー先天黒内障である。
【0032】
本開示の他の目的、特徴、及び利点は、下記の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、詳細な説明及び具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しつつ、実例としてのみ与えられていることを理解すべきであり、なぜならば、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び改変が、この詳細な説明から当業者に明らかになるからである。
【0033】
下記の図面は、本明細書の一部を形成し、且つ本発明のある特定の態様をさらに示すことが意図されている。本発明は、本明細書で提示されている特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の内の1つ又は複数を参照することにより、より理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A-C】1 RPE:3 PRPの比での、Y-27632を含まないRPE-MM中における凝集体形成後(
図1A)2日での、(
図1B)21日での、及び(
図1C)69日での二重細胞凝集体。
【0035】
【
図2A-C】1 RPE:8 PRPの比での、Y-27632を含むRPE-MM中における凝集体形成後(
図2A)1日での、(
図2B)3日での、及び(
図2C)45日での二重細胞凝集体。
【0036】
【
図3】PGE2が添加されている、及び添加されていない、凝集体形成(初期比1 RPE:8 PRP)後1ヶ月での二重細胞凝集体。PRP組織化の差違は明らかであり、おそらく、PGE2がないと、より多くのPRPが凝集体周辺へと制限されるだろう。
【0037】
【
図4】PGE2が添加されている、及び添加されていない、1ヶ月間の二重細胞凝集体培養では、RPE組織化又は杆体形成において顕著な差違は示されず、この時点で、PRPH2発現は、低いか又は存在してないように見えた。
【0038】
【
図5】凝集体形成後1、2、及び3ヶ月での、PGE2が添加されている二重細胞凝集体培養の比較。2ヶ月後のPRPH2の存在は、外節の形成及び光受容体の成熟を示す。
【0039】
【
図6】凝集体形成後2日での二重細胞凝集体のフローサイトメトリー評価。凝集体は、1 RPE:30 PRPの投入比で形成された。RPEマーカーであるPMEL及びTYRP1、及びPRPマーカーであるリカバリンを使用して測定した2日後でのRPE:PRP比は、約1:20である。
【0040】
【
図7】インビトロでの長時間培養における二重細胞凝集体の位相コントラスト画像。着色されたRPEは9日後に可視化され、RPE領域は、経時的に成長しているように見えた。
【0041】
【
図8】Hoechst 33342により全ての細胞を示す、2日での二重細胞凝集体の免疫細胞化学。この時点で、RPE(PMEL、TYRP1)は、凝集体のごく一部を占めており、PRP(NRL、CRX)は、凝集体の大部分を占めている。
【0042】
【
図9A-F】インビトロでの1ヶ月間の培養後の二重細胞凝集体の免疫細胞化学。RPE((
図9A~9B)ZO-1、(
図9C~9D)PMEL、(
図9E~9F)TYRP1)は、2日と比べて凝集体の大きい割合として現れるが、PRP(リカバリン、M/Lオプシン、NRL、CRX、ARR3)は、依然として優勢な割合である。錐体(M/Lオプシン、ARR3)及び杆体(NRL)の両方のマーカーの存在により、PRPが両方の細胞型を形成し得ることが確認され、PRPH2の初期の存在は、外節マーカーの開始を示しており、且つPRPが成熟し始めていることを示唆する。
【0043】
【
図10A-D】凝集体形成時に1:30 RPE:PRP比である凝集体形成後3ヶ月でのRPE/PRP共重合体。PRP及びRPEは、(
図10A~10B)RPEを示すZO-1(緑色)及びPRPを示すRCVRN(赤色)で示される凝集体において、異なるセグメントを形成する。増殖性細胞(紫色)は概して、3ヶ月で消失したように見える。B)は、A)での挿入図の拡大を示す。RPEの成熟(
図10C)は、PMEL陽性(赤色)RPEの領域中においてRPE65(緑色)により示されており、杆体が運命付けられたPRPがNRL(紫色)により示されている。(
図10D)は、(
図10C)中の拡大された挿入図を示す。
【0044】
【
図11】凝集体形成時に1:30 RPE:PRP比である凝集体形成後3ヶ月でのRPE/PRP共重合体のフローサイトメトリープロット。RPE(PMEL)及びPRP(RCVRN)の両方のプロットから、この時点では、PRP細胞と比べてRPEがほぼ2:1の比で多いことが分かる。
【0045】
【
図12A-B】二重細胞凝集体注射後1ヶ月でのラットの網膜の切片(条件A;単一細胞の懸濁液として組み合わされており且つ凝集体を形成可能なPRP及びRPE)。着色されたヒト細胞(黒色/赤色)は、インビボでRPE層へと移動するように見え、移植された細胞からの(
図12A)錐体光受容体(M/Lオプシン)及び(
図12B)杆体光受容体(ロドプシン、NRL)の両方の証拠が存在している。PRP層内には、着色された細胞のいくつかの小さいクラスタが明らかである。
【0046】
【
図13A-C】二重細胞凝集体注射後2ヶ月でのラットの網膜の切片(条件A)。移植された細胞からの光受容体中において、(
図13A)NRL、(
図13B)M/Lオプシン、及び(
図13C)ロドプシンにより示される、杆体及び錐体の両方の成熟の証拠が存在している。PRP層内には、着色された細胞のいくつかの小さいクラスタが明らかである。
【0047】
【
図14A-C】二重細胞凝集体注射後2ヶ月でのラットの網膜の切片(条件B)。移植された細胞からの光受容体中において、(
図14A)NRL、(
図14B)M/Lオプシン、及び(
図14C)ロドプシンにより示される、杆体及び錐体の両方の成熟の証拠が存在している。PRP層内には、着色された細胞のいくつかの小さいクラスタが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
I.例示的実施形態の説明
RPE及び神経網膜は、インビボで、秩序のある層状に発達して存在している。治療では、本来のRPE:PR/PRPの構造関係の再現が必須な場合がある。さらに、RPE:PR/PRP構造のインビトロでの再現は、薬物又は細胞性疾患モデルを試験するためのプラットフォームとして実行可能であり得る。そのため、ある特定の実施形態では、本開示は、「二重療法」共重合体培養で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来RPE(iRPE)及びhiPSC由来PRP(iPRP)を培養する方法を提供する。
【0049】
RPEは、例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2016/050543号及びPCT/US2016/050554号で開示されている方法により、hiPSCに由来し得る。PRPも、例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2019/028557号で開示されている方法により、hiPSCに由来し得る。RPE、PR、又はPRPは、PSC(例えば胚性幹細胞)に由来し得る。杆体及び錐体へと成熟する能力を有する未成熟のPRPを、単一細胞又は凝集体のいずれかとしてRPEに添加する。PR/PRPを、解凍してRPEと共に直接播種してもよいし、RPEと共に播種する前に一定期間にわたり培養してもよい。一部の態様では、ROCK阻害剤(例えばY-27632)等の因子を培養系に添加して、RPE-PRP凝集体の形成を補い得る。
【0050】
本明細書で提供されるRPE-PR/PRP二重細胞凝集体を、様々なインビボ方法及びインビトロ方法で使用し得る。このRPE-PR/PRP二重細胞凝集体を、スクリーニングアッセイにおいてインビトロで使用して、推定上の治療処置又は予防処置の候補を同定し得る。RPE-PR/PRP二重細胞凝集体をインビボで使用して、網膜の状態を処置し得、この状態として下記が挙げられるが、これらに限定されない:加齢性の若しくは遺伝性の黄斑変性症及び網膜色素変性、又は他の遺伝性の外網膜変性疾患、又はRPE及び/若しくはPR/PRPの機能障害及び/若しくは喪失を引き起こす損傷。本開示のさらなる実施形態及び利点を、下記で説明する。
【0051】
I.定義
「精製された」という用語は、絶対的な純度を求めるものではなく、相対的な用語として意図されている。そのため、精製された細胞集団は、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超えて純粋であるか、又は100純粋であり、最も好ましくは、他の細胞型を本質的に含まない。
【0052】
本明細書で使用される場合、「a」又は「an」は、1又は複数を意味し得る。特許請求の範囲で使用される場合、「含む」という単語と共に使用される際には、「a」又は「an」という用語は、1又は複数を意味し得る。
【0053】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すように明確に指示されない限り、又は代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するように使用されるが、本開示は、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも2つ目以上を意味し得る。
【0054】
「本質的に」という用語は、方法又は組成物が、指定の工程又は材料と、これらの方法及び組成物の基本的で新規の特性に実質的に影響を及ぼさないものとのみを含むと理解しなければならない。
【0055】
本明細書で使用される場合、特定の物質又は材料を「実質的に含まない」組成物又は培地は、この物質又は材料を30%以下、20%以下、15%以下含み、より好ましくは10%以下含み、さらにより好ましくは5%以下含み、最も好ましくは1%以下含む。
【0056】
「実質的に」又は「約(approximately)」という用語は、本明細書で使用される場合、関連する基本的な機能に変化をもたらすことなく、許容範囲内で変動する可能性があるあらゆる定量的比較、値、測定値、又は他の表現を修飾するために適用され得る。
【0057】
「約(about)」という用語は、一般に、規定値を測定するための標準的な分析技術を使用して決定した場合の規定値の標準偏差内を意味する。この用語はまた、規定値の±5%を参照しても使用され得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、特性の成分に関する「本質的に含まない」は、本明細書では、この特定の成分が組成物中に意図的に配合されていない及び/又は汚染物質としてのみ存在するか若しくは微量で存在することを意味するために使用される。従って、組成物のあらゆる意図しない汚染によるこの特定の成分の総量は、0.05%をはるかに下回り、好ましくは0.01%未満である。最も好ましいのは、この特定の成分の量が標準的な分析方法により検出され得ない組成物である。
【0059】
「細胞集団」という用語は、本明細書では、細胞(典型的には共通の型)の群を指すために使用される。細胞集団は、共通の前駆細胞に由来し得るか、又は複数種の細胞型を含んでもよい。「富化」細胞集団は、出発細胞集団に由来する細胞集団(例えば、分画されていない異種細胞集団)であって、特定の細胞型の割合が出発集団中のこの細胞型の割合と比べて高い細胞集団を指す。細胞集団は、1種又は複数種の細胞型が富化され且つ1種又は複数種の細胞型が枯渇され得る。
【0060】
「幹細胞」という用語は、本明細書では、適切な条件下では多様な特定の細胞型に分化し得るが、他の適切な条件下では自己複製し且つ本質的には未分化の多能性状態に留まり得る細胞を指す。「幹細胞」という用語はまた、多能性細胞、多分化能細胞、前駆体細胞、及び前駆細胞も包含する。例示的なヒト幹細胞を、骨髄組織から得られる造血幹細胞又は間葉幹細胞、胚組織から得られる胚性幹細胞、又は胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖細胞から得ることができる。例示的な多能性幹細胞を、多能性と関連するある特定の転写因子の発現により多能性状態に体細胞をリプログラムすることにより、体細胞からも製造し得、この細胞は、「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」と呼ばれる。
【0061】
「多能性」という用語は、胚外細胞又は胎盤細胞を除いて生物の全ての他の細胞型に分化する細胞の性質を指す。多能性幹細胞は、長期の培養後であっても、3つ全ての胚葉の細胞型(例えば、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉の細胞型)に分化し得る。ある多能性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚性幹細胞である。他の実施形態では、多能性幹細胞は、体細胞をリプログラムすることにより得られる人工多能性幹細胞である。
【0062】
「分化」という用語は、未分化の細胞が、構造的特性及び/又は機能的特性の変化を伴って、より分化した型になるプロセスを指す。成熟細胞は、典型的には、変更された細胞構造及び組織特異的タンパク質を有する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「未分化」は、未分化細胞の特徴的なマーカー及び形態学的特徴であって、この未分化細胞を、胚起源又は成体起源の末期分化細胞と明確に区別する特徴的なマーカー及び形態学的特徴を示す細胞を指す。
【0064】
「胚様体(EB)」は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉の細胞への分化を受け得る多能性幹細胞の凝集体である。スフェロイド構造は、多能性幹細胞が非付着性培養条件下で凝集した場合に生じ、そのため、懸濁液中でEBを形成する。
【0065】
「単離」細胞は、生物中の又は培養物中の他の細胞から実施的に分離されているか、又は精製されている。単離細胞は、例えば、少なくとも99%、少なくとも98%純粋、少なくとも95%純粋、又は少なくとも90%純粋であり得る。
【0066】
「胚」は、人工的にリプログラムされた核を有する接合体又は活性化された卵母細胞の1回又は複数回の分裂により得られる細胞塊を指す。
【0067】
「胚性幹(ES)細胞」は、胚盤胞期での内部細胞塊等の初期段階の胚から得られる未分化多能性細胞であるか、又は人工的な手段(例えば核移植)より製造される未分化多能性細胞であり、生殖細胞(例えば、精子及び卵子)等の胚又は成体のあらゆる分化細胞型を生じ得る。
【0068】
「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、因子(本明細書では、リプログラミング因子と称される)の組み合わせを発現させることによって、又はこの発現を誘発することによって、体細胞をリプログラミングすることにより、生成される細胞である。iPSCを、胎児の、出生後の、新生児の、若年の、又は成体の体細胞を使用して生成し得る。ある特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞にリプログラムするために使用され得る因子として、例えば、Oct4(Oct 3/4と称される場合もある)、Sox2、c-Myc、及びKlf4、Nanog、及びLin28が挙げられる。一部の実施形態では、少なくても2種のリプログラミング因子、少なくとも3種のリプログラミング因子、又は4種のリプログラミング因子を発現させて、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングすることにより、体細胞をリプログラミングする。
【0069】
「対立遺伝子」は、遺伝子の2つ以上の形態の内の1つを指す。ヒト等の二倍体生物は、各染色体の2つのコピーを含み、そのため、それぞれで1つの対立遺伝子を保有する。
【0070】
「ホモ接合性」という用語は、特定の遺伝子座で同一の対立遺伝子の内の2つを含むと定義される。「ヘテロ接合性」という用語は、特定の遺伝子座で2つの異なる対立遺伝子を含むことを指す。
【0071】
「ハプロタイプ」は、単一の染色体に沿った複数の遺伝子座での対立遺伝子の組み合わせを指す。ハプロタイプは、単一の染色体上の一塩基多型(SNP)のセット及び/又は主要組織適合性複合体での対立遺伝子に基づき得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「ハプロタイプ適合」という用語は、細胞(例えばiPS細胞)及び処置される対象が1つ又は複数の主要組織適合性遺伝子座ハプロタイプを共有すると定義される。対象のハプロタイプを、当該技術分野で公知のアッセイを使用して容易に決定し得る。ハプロタイプ適合iPS細胞は、自家性であり得るか、又は同種であり得る。組織培養で増殖してPRP細胞に分化した自家細胞は、本質的に対象にハプロタイプが適合している。
【0073】
「実質的に同一のHLA型」は、ドナーの体細胞に由来するiPSCの分化を誘発することにより得られている移植細胞が、患者に移植された場合に生着し得る程度まで、ドナーのヒト白血球抗原(HLA)型と患者のHLA型とが一致することを示す。
【0074】
「スーパードナー」は、本明細書では、ある特定のMHCクラスI及びIIの遺伝子に対してホモ接合性である個体を指す。これらのホモ接合性個体は、スーパードナーとして機能し得、これらの細胞(この細胞を含む組織又は他の物質を含む)を、このハプロタイプに対してホモ接合性であるか又はヘテロ接合性である個体に移植し得る。スーパードナーは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、又はHLA-DQ遺伝子座/遺伝子座対立遺伝子それぞれに対してホモ接合性であり得る。
【0075】
「フィーダーフリー」又は「フィーダー非依存性」は、本明細書では、フィーダー細胞層の代替としてサイトカイン及び増殖因子(例えば、TGFβ、bFGF、LIF)が補充されている培養物を指すために使用される。そのため、「フィーダーフリー」又はフィーダー非依存性の培養システム及び培地を使用して、未分化の増殖状態で多能性細胞を培養して維持し得る。場合によっては、フィーダーフリー培養物は、動物ベースのマトリックス(例えばMATRIGEL(商標))を利用するか、又はフィブロネクチン、コラーゲン、若しくはビトロネクチン等の基材上で増殖する。これらのアプローチにより、ヒト幹細胞を、マウス線維芽細胞「フィーダー層」を必要とすることなく本質的に未分化状態で維持することが可能になる。
【0076】
「フィーダー層」は、本明細書では、例えば培養皿の底部上の細胞のコーティング層として定義される。フィーダー細胞は、培養培地中に栄養素を放出し得、且つ多能性幹細胞等の他の細胞が付着し得る表面を提供し得る。
【0077】
「定義されている」又は「完全に定義されている」という用語は、培地、細胞外マトリックス、又は培養条件との関連で使用される場合には、ほぼ全ての成分の化学組成及び量が既知である培地、細胞外マトリックス、又は培養条件を指す。例えば、定義されている培地は、ウシ胎仔血清、ウシ血清アルブミン、又はヒト血清アルブミン等の定義されていない因子を含まない。一般に、定義されている培地は、組換えアルブミン、化学的に明確な脂質、及び組換えインスリンが補充されている基本培地(例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、バッファー、抗酸化剤、及びエネルギー源を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、F12、又はロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640)を含む。完全に定義されている培地の一例は、Essential 8(商標)培地である。
【0078】
ヒト細胞により使用される培地、細胞外マトリックス、又は培養システムに関して、「異種成分(Xeno)フリー(XF)」という用語は、使用される物質が非ヒト動物起源ではない状態を指す。
【0079】
「プレコンフルエント」は、細胞培養物であって、細胞で覆われているこの培養物の表面の割合が約60~80%である細胞培養物を指す。通常、プレコンフルエントは、培養物であって、この培養物の表面の約70%が細胞で覆われている培養物を指す。
【0080】
「網膜前駆細胞」という用語は、「網膜前駆体細胞」又は「RPC」とも呼ばれ、網膜の全ての細胞型を生成する能力を有する細胞(例えば、神経網膜細胞(例えば、杆体、錐体、光受容体前駆体細胞)、及びRPEに分化し得る細胞)を包含する。
【0081】
「神経網膜前駆細胞」又は「NRP」という用語は、神経網膜細胞型への分化能が制限されている細胞を指す。
【0082】
「光受容体」又は「PR」細胞という用語は、ロドプシン(杆体)、又は3つの錐体オプシン(錐体)内のいずれかの発現の上方制御の前後両方で光受容体系統(即ち成熟)経路内である細胞を指しており、光受容体細胞(杆体、錐体、又は両方)の初期マーカー及び後期マーカーの両方を包含する。
【0083】
「光受容体前駆細胞」又は「PRP」という用語は、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から分化した細胞であって、細胞マーカーであるロドプシン、又は3つの錐体オプシンの内のいずれかを発現する光受容体細胞へと分化し得る細胞を指す。光受容体は、杆体光受容体及び/又は錐体光受容体であり得る。
【0084】
「網膜色素上皮」は、血管で満たされた層である脈絡膜と、神経網膜との間の色素細胞の層を指す。
【0085】
「網膜変性関連疾患」という用語は、生得的な又は出生後の網膜変性又は網膜異常に起因するあらゆる疾患を指すことが意図されている。網膜変性関連疾患の例として、下記が挙げられる:網膜異形成、網膜変性症、加齢性黄斑変性症、シュタルガルト病、ベスト病、全脈絡膜萎縮、遺伝性黄斑変性症、近視性変性、RPE断裂、黄斑円孔、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、遺伝性の網膜疾患又は網膜変性症、遺伝性黄斑変性症、錐体-状体ジストロフィー、杆体-錐体ジストロフィー、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、及び網膜外傷。
【0086】
本明細書で使用される「治療上有効な量」は、疾患又は状態の処置のために対象に投与された場合に、そのような処置に影響を及ぼすのに十分な化合物の量を指す。
【0087】
「成熟」RPE細胞は、本明細書では、Pax6等の未成熟RPEマーカーの発現が下方制御されており且つRPE65等の成熟RPEマーカーの発現が上方制御されているRPE細胞と称される。
【0088】
RPE細胞の「成熟」は、本明細書では、RPE発生経路が調節されて成熟RPE細胞が生成されるプロセスを指す。例えば、線毛機能の調節により、RPE成熟がもたらされ得る。
【0089】
「誘導因子」は、本明細書では、細胞内の遺伝子の活性化等の遺伝子発現を調節する分子と定義される。誘導因子は、抑制因子又は活性化因子に結合し得る。誘導因子は、抑制因子を無効にすることにより機能する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「生分解性」という用語は、送達される細胞に初期の構造的支持を与えるが、移植宿主に対して毒性ではなく且つドナー部位の病的状態の一因とならない生成物へと経時的に分解する物質を指す。
【0091】
II.人工多能性幹細胞
多能性の誘発は、多能性と関連している転写因子の導入により体細胞をリプログラミングすることによって、マウス細胞を使用して2006年に(Yamanakaら、2006年)、及びヒト細胞を使用して2007年に(Yuら、2007年;Takahashiら、2007年)、初めて達成された。多能性幹細胞は未分化状態で維持され得、且つあらゆる成体細胞型に分化し得る。
【0092】
生殖細胞を除いて、あらゆる体細胞を、iPSCの出発点として使用し得る。例えば、細胞型は、ケラチノサイト、線維芽細胞、造血細胞、間葉系細胞、肝細胞、又は胃細胞の可能性がある。リプログラミングのための体細胞の供給源として、T細胞も使用し得る(米国特許第8,741,648号明細書)。細胞分化の程度又は細胞を採取する動物の年齢は制限されず、未分化前駆細胞(例えば体性幹細胞)及び最終的に分化した成熟細胞であっても、本明細書で開示されている方法において、体細胞の供給源として使用し得る。一実施形態では、体細胞は、それ自体がRPE又はPR/PRP細胞(例えばヒトRPE又はPR/PRP細胞)である。このRPE又はPR/PRP細胞は、成体PR/PRP細胞若しくはRPE細胞、又は胎児PR/PRP細胞若しくはRPE細胞であり得る。iPSCは、特定の細胞型にヒトES細胞を分化させることが知られている条件下で増殖され得、且つヒトES細胞マーカー(例えば、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、及びTRA-1-81)を発現し得る。
【0093】
A.開始細胞のHLA
主要組織適合性複合体(MHC)は、同種臓器移植の免疫拒絶の主な原因である。3つの主要なクラスI MHCハプロタイプ(A、B、及びC)、並びに3つの主要なMHCクラスIIハプロタイプ(DR、DP、及びDQ)が存在している。
【0094】
ドナーとレシピエントの間のMHC適合性は、ドナー細胞がHLAホモ接合性である(即ち、各抗原提示タンパク質に同一の対立遺伝子を含む)場合に有意に増加する。ほとんどの個体は、MHCクラスI遺伝子及びMHCクラスII遺伝子に対してヘテロ接合性であるが、ある特定の個体は、これらの遺伝子に対してホモ接合性である。これらのホモ接合性個体は、スーパードナーとして機能し得、この細胞から生成された移植片を、このハプロタイプに対してホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかである全て個体で移植し得る。さらに、ホモ接合性ドナー細胞が、集団の中で高い頻度で見られるハプロタイプを有する場合には、この細胞は、多数の個体に対する移植治療で応用を有する可能性がある。
【0095】
従って、iPSCを、処置する対象の体細胞から製造し得るか、又はこの患者のHLA型と同一の若しくは実質的に同一のHLA型を有する別の対象の体細胞から製造し得る。ある場合では、ドナーの主要なHLA(例えば、HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRという3つの主要な遺伝子座)は、レシピエントの主要なHLAと同一である。場合によっては、体細胞ドナーは、スーパードナーであり得、そのため、MHCホモ接合性スーパードナー由来のiPSCを使用して、RPE細胞又はPR/PRP細胞を生成し得る。そのため、スーパードナー由来のiPSCを、このハプロタイプに対してホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかである対象で移植し得る。例えば、iPSCは、HLA-A及びHLA-B等の2種のHLA対立遺伝子でホモ接合性であり得る。従って、スーパードナーから製造されたiPSCを、本明細書で開示されている方法で使用して、多数の潜在的なレシピエントに潜在的に「適合」し得るRPE細胞又はPR/PRP細胞を製造し得る。
【0096】
B.リプログラミング因子
当業者に既知の方法を使用し、体細胞をリプログラミングして人工多能性幹細胞(iPSC)を製造し得る。当業者は人工多能性幹細胞を容易に製造し得、例えば、米国特許出願公開第20090246875号明細書、同第2010/0210014号明細書;同第20120276636号明細書;米国特許第8,058,065号明細書;同第8,129,187号明細書;同第8,278,620号明細書;PCT国際公開第2007/069666A1号パンフレット、及び米国特許第8,268,620号明細書(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一般に、核リプログラミング因子を使用して、体細胞から多能性幹細胞を製造する。一部の実施形態では、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28の内の少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つを利用する。他の実施形態では、Oct3/4、Sox2、c-Myc、及びKlf4を利用する。
【0097】
この細胞を、核リプログラミング物質で処理し、この核リプログラミング物質は、一般に、体細胞からiPSCを誘導し得る1種若しくは複数種の因子であるか、又はこれらの物質をコードする核酸(例えば、ベクターに組み込まれている形態)である。この核リプログラミング物質として、一般に、少なくともOct3/4、Klf4、及びSox2が挙げられるか、又はこれらの分子をコードする核酸が挙げられる。追加の核リプログラミング物質として、p53の機能的阻害剤、L-myc又はL-mycをコードする核酸、及びLin28若しくはLin28b又はLin28若しくはLin28bをコードする核酸を利用し得る。核リプログラミングにNanogも利用し得る。米国特許出願公開第20120196360号明細書で開示されているように、iPSCの製造のための例示的なリプログラミング因子として、下記が挙げられる:(1)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc(Sox2は、Soxl、Sox3、Soxl5、Soxl7、若しくはSoxl8に置き換えられ得、Klf4は、Klfl、Klf2、若しくはKlf5に置き換え可能である);(2)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、SV40大型T抗原(SV40LT);(3)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、ヒトパピローマウイルス(HPV)16 E6;(4)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E7;(5)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(6)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、Bmil;(7)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28;(8)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、SV40LT;(9)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、TERT、SV40LT;(10)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、SV40LT;(11)Oct3/4、Esrrb、Sox2、L-Myc(Esrrbは、Esrrgに置き換え可能である);(12)Oct3/4、Klf4、Sox2;(13)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、SV40LT;(14)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HP VI 6 E6;(15)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E7;(16)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(17)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、Bmil;(18)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28;(19)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、SV40LT;(20)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、TERT、SV40LT;(21)Oct3/4、Klf4、Sox2、SV40LT;又は(22)Oct3/4、Esrrb、Sox2(Esrrbは、Esrrgに置き換え可能である)。非限定的な一例では、Oct3/4、Klf4、Sox2、及びc-Mycを利用する。他の実施形態では、Oct4、Nanog、及びSox2を利用し、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,682,828号明細書を参照されたい。この因子として、Oct3/4、Klf4、及びSox2が挙げられるが、これらに限定されない。他の例では、この因子として、Oct 3/4、Klf4、及びMycが挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な一部の例では、Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を利用する。非限定的な他の例では、Oct3/4、Klf4、Sox2、及びSal 4を利用する。Nanog、Lin28、Klf4、又はc-Mycのような因子は、リプログラミング効率を高め得、且ついくつかの異なる発現ベクターから発現され得る。例えば、EBVエレメントベースのシステム等の組込みベクターを使用し得る(米国特許第8,546,140号明細書)。さらなる態様では、リプログラミングタンパク質は、タンパク質形質導入により体細胞に直接導入される可能性がある。リプログラミングは、細胞と、1種又は複数種のシグナル伝達受容体とを接触させることをさらに含み得、このシグナル伝達受容体として、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、形質転換増殖因子ベータ(TGF-β)受容体阻害剤又はシグナル伝達阻害剤、白血病抑制因子(LIF)、p53阻害剤、NF-カッパB阻害剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。この制御因子として、低分子、阻害性ヌクレオチド、発現カセット、又はタンパク質因子が挙げられ得る。実質的にあらゆるiPS細胞又は細胞系統が使用され得ることが予想される。
【0098】
この核リプログラミング物質のマウスcDNA配列及びヒトcDNA配列は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/069666号パンフレットで言及されているNCBIアクセッション番号を参照して入手可能である。1種若しくは複数種のリプログラミング物質又はこのリプログラミング物質をコードする核酸を導入する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許出願公開第2012/0196360号明細書及び米国特許第8,071,369号明細書(これらは両方とも、参照により本明細書に組み込まれる)で開示されている。
【0099】
一旦誘導されると、iPSCを、多能性を維持するのに十分な培地で培養し得る。米国特許第7,442,548号明細書及び米国特許出願公開第2003/0211603号明細書で説明されているように、iPSCを、多能性幹細胞(より具体的には、胚性幹細胞)を培養するために開発された様々な培地及び技術と共に使用し得る。マウス細胞の場合では、通常の培地に分化抑制因子として白血病抑制因子(LIF)を添加して培養を実行する。ヒト細胞の場合では、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加することが望ましい。当業者に既知であるようなiPSCの培養及び維持のための他の方法を使用してもよい。
【0100】
ある特定の実施形態では、定義されていない条件を使用し得、例えば、未分化状態で幹細胞を維持するために、多能性細胞を、線維芽細胞フィーダー細胞上で又は線維芽細胞フィーダー細胞に暴露されている培地上で培養し得る。一部の実施形態では、この細胞を、フィーダー細胞としての、細胞分裂を終了させるために放射線又は抗生物質で処理したマウス胚性線維芽細胞の共存在下で培養する。或いは、定義されたフィーダー非依存性培養システム(例えば、TESR(商標)培地(Ludwigら、2006a;Ludwigら、2006b)又はE8(商標)培地(Chenら、2011年))を使用して、多能性細胞を本質的に未分化の状態で培養して維持してもよい。
【0101】
C.プラスミド
一部の実施形態では、iPSCを、外来性核酸を発現するように改変し得、例えば、プロモーターに作動可能に連結されているエンハンサー及び第1のマーカーをコードする核酸配列を含むように改変し得る。適切なプロモーターとして、光受容体細胞中で発現される任意のプロモーター(例えばロドプシンキナーゼプロモーター)が挙げられるが、これに限定されない。この構築物はまた、他のエレメント(例えば、翻訳開始のためのリボソーム結合部位(内部リボソーム結合配列)、及び転写/翻訳ターミネーター)も含み得る。一般に、この構築物で細胞をトランスフェクトすることが有利である。安定したトランスフェクションに適したベクターとして、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びSendaiウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
一部の実施形態では、マーカーをコードするプラスミドは、下記で構成されている:(1)高コピー数複製起点、(2)カナマイシンによる抗生物質選択のための選択マーカー(例えば、限定されないが、ネオ遺伝子)、(3)転写終結配列(例えば、チロシナーゼエンハンサー)、及び(4)様々な核酸カセットの組込み用のマルチクローニング部位、及び(5)チロシナーゼプロモーターに作動可能に連結されているマーカーをコードする核酸配列。タンパク質をコードする核酸を誘導するための多数のプラスミドベクターが、当技術分野で既知である。これらとして、米国特許第6,103,470号明細書;同第7,598,364号明細書;同第7,989,425号明細書;及び同第6,416,998号明細書(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)で開示されているベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
ウイルス遺伝子送達システムは、RNAベースの又はDNAベースのウイルスベクターであり得る。エピソーム遺伝子送達システムは、プラスミド、エプスタイン-バーウイルス(EBV)ベースのエピソームベクター、酵母ベースのベクター、アデノウイルスベースのベクター、サルウイルス40(SV40)ベースのエピソームベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)ベースのベクター、又はレンチウイルスベクターであり得る。
【0104】
マーカーとして、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質若しくは赤色蛍光タンパク質)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、若しくはアルカリホスファターゼ、若しくはホタル/ウミシイタケルシフェラーゼ、若しくはナノルック(nanoluc))、又は他のタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。マーカーは、タンパク質(例えば、分泌された細胞表面タンパク質若しくは内部タンパク質;細胞により合成されたか若しくは取り込まれている);核酸(例えば、mRNA、若しくは酵素的に活性な核酸分子)、又は多糖類であり得る。含まれるのは、目的の細胞型のマーカーに特異的な抗体、レクチン、プローブ、又は核酸増幅反応により検出可能である任意のそのような細胞成分の決定因子である。マーカーを、遺伝子産物の機能に依存する生化学的アッセイ若しくは酵素アッセイ又は生物学的反応によっても同定し得る。これらのマーカーをコードする核酸配列は、チロシナーゼエンハンサーに作動可能に連結され得る。加えて、他の遺伝子(例えば、PRP分化、又は光受容体機能、又は生理、又は病理に対して幹細胞に影響を及ぼし得る遺伝子)が含まれ得る。
【0105】
D.送達システム
本開示によりRPE又はPRPにプログラムされる多能性幹細胞への核酸(例えば、DNA又はRNA)の導入では、本明細書で説明されているか又は当業者に既知であるだろう、細胞の形質転換のための核酸送達に好適な任意の方法を使用し得る。そのような方法として下記が挙げられるが、これらに限定されない:例えば下記によるDNAの直接送達:エクスビボでのトランスフェクションによる(Wilson et al.,1989,Nabel et al,1989)、注入による(米国特許第5,994,624号明細書、同第5,981,274号明細書、同第5,945,100号明細書、同第5,780,448号明細書、同第5,736,524号明細書、同第5,702,932号明細書、同第5,656,610号明細書、同第5,589,466号明細書、及び同第5,580,859号明細書(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる))、例えば、微量注入による(Harland and Weintraub,1985;米国特許第5,789,215号明細書(参照により本明細書に組み込まれる));エレクトロポレーションによる(米国特許第5,384,253号明細書(参照により本明細書に組み込まれる);Tur-Kaspa et al.,1986;Potter et al.,1984);リン酸カルシウム沈殿による(Graham and Van Der Eb,1973;Chen and Okayama,1987;Rippe et al.,1990);DEAE-デキストラン、その後にポリエチレングルコールを使用することによる(Gopal,1985);直接音波充填による(Fechheimer et al.,1987);リポソーム媒介トランスフェクション(Nicolau and Sene,1982;Fraley et al.,1979;Nicolau et al.,1987;Wong et al.,1980;Kaneda et al.,1989;Kato et al.,1991)及び受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu,1987;Wu and Wu,1988)による;微粒子銃による(国際公開第94/09699号パンフレット及び同第95/06128号パンフレット;米国特許第5,610,042号明細書;同第5,322,783号明細書、同第5,563,055号明細書、同第5,550,318号明細書、同第5,538,877号明細書、及び同第5,538,880(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる));炭化ケイ素繊維による撹拌による(Kaeppler et al.,1990;米国特許第5,302,523号明細書及び同第5,464,765号明細書(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる));Agrobacterium(アグロバクテリウム)媒介トランスフェクションによる(米国特許第5,591,616号明細書及び同第5,563,055号明細書(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる);乾燥/阻害媒介DNA取込みによる(Potrykus et al.,1985)、並びにそのような方法の任意の組み合わせ。このような技術の適用により、オルガネラ、細胞、組織、又は生物を安定的に形質転換させ得るか、又は過度的に形質転換させ得る。
【0106】
1.ウイルスベクター
本開示のある特定の態様では、ウイルスベクターを提供し得る。組換えウイルスベクターの生成では、非必須遺伝子を、典型的には、異種(又は非天然)タンパク質の遺伝子又はコード配列に置き換える。ウイルスベクターは、ウイルス配列を利用して核酸及び場合によってはタンパク質を細胞に導入する発現構築物の一種である。ある特定のウイルスの、受容体媒介エンドサイトーシスを介して細胞に感染するか又は細胞に侵入する能力、及び宿主細胞のゲノムに統合してウイルス遺伝子を安定的に且つ効率的に発現する能力により、このウイルスは、細胞(例えば哺乳類細胞)への外来核酸の導入のための魅力的な候補となっている。本開示のある特定の態様の核酸を送達するために使用され得るウイルスベクターの非限定的な例を、下記で説明する。
【0107】
レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノムに組み込む能力、多量の外来遺伝物質の導入、幅広い種及び細胞型への感染、並びに特殊な細胞系統でのパッケージングに起因して、遺伝子送達ベクターとして有望視されている(Miller,1992)。
【0108】
レトロウイルスベクターを構築するために、ある特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに核酸を挿入して、複製不能なウイルスを製造する。ビリアンを製造するために、gag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子を含むがLTR及びパッケージング成分を含まないパッケージング細胞系統を構築する(Mann et al.,1983)。cDNAを含む組換えプラスミドを、レトロウイルスLTR及びパッケージング配列と共に、(例えばリン酸カルシウム沈殿により)特殊な細胞系統に導入する場合には、このパッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子にパッケージングされ得、次いで、このウイルス粒子は、培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein,1988;Temin,1986;Mann et al.,1983)。次いで、この組換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意選択的に濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、幅広い細胞型に感染し得る。しかしながら、統合及び安定的な発現には、宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al.,1975)。
【0109】
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、及びenvに加えて、調節機能又は構造機能を有する他の遺伝子を含む複合レトロウイルスである。レンチウイルスベクターは、当該技術分野で公知である(例えば、Naldini et al.,1996;Zufferey et al.,1997;Blomer et al.,1997;米国特許第6,013,516号明細書及び同第5,994,136号明細書を参照されたい)。
【0110】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染する能力を持ち、インビボ及びエクスビボの両方での遺伝子導入、並びに核酸配列の発現に使用され得る。例えば、非分裂細胞に感染する能力を有する組換えレンチウイルス(好適な宿主細胞は、パッケージング機能(即ち、gag、pol、及びenv、並びにrev及びtat)を担持する2種以上のベクターでトランスフェクトされている)は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,994,136号明細書で説明されている。
【0111】
2.エピソームベクター
本開示のある特定の態様では、プラスミドベース又はリポソームベースの染色体外(即ちエピソーム)ベクターの使用も提供され得る。そのようなエピソームベクターとして、例えば、oriPベースのベクター及び/又はEBNA-1の誘導体をコードするベクターが挙げられ得る。これらのベクターにより、DNAの大きい断片が、細胞内に導入されて染色体外的に維持され、細胞周期毎に1回複製され、娘細胞に効率よく分配され、及び免疫反応を実質的に誘発しないことが可能である。
【0112】
特に、oriPベースの発現ベクターの複製に必要な唯一のウイルスタンパク質であるEBNA-1は、細胞性免疫反応を誘発せず、なぜならば、EBNA-1は、その抗原のMHCクラスI分子への提示に必要なプロセシングを迂回するために効率的な機序を発生させているからである(Levitskaya et al.,1997)。さらに、EBNA-1は、トランスで作用して、クローニングされた遺伝子の発現を増強し得、一部の細胞系統では、クローニングされた遺伝子の発現が100倍まで誘導される(Langle-Rouault et al.,1998;Evans et al.,1997)。最後に、そのようなoriPベースの発現ベクターの製造は、安価である。
【0113】
ある特定の態様では、リプログラミング因子は、1種又は複数種の外来性エピソーム遺伝子エレメントに含まれている発現カセットから発現される(参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0003757号明細書を参照されたい)。そのため、iPSCは、外来性遺伝子エレメント(例えば、レトロウイルスベクターエレメント又はレンチウイルスベクターエレメントに由来する)を本質的に含み得ない。このiPSCは、染色体外複製ベクター(即ちエピソームベクター)の使用により調製され、このベクターは、外来性のベクターエレメント又はウイルスエレメントを本質的に含まないiPSCを作製するためにエピソーム的に複製し得るベクターである(米国特許第8,546,140号明細書(参照により本明細書に組み込まれる);Yuら、2009年を参照されたい)。多くのDNAウイルス(例えば、アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、若しくはウシパピローマウイルス(BPV))又は出芽酵母ARS(自律複製配列)含有プラスミドは、哺乳動物細胞中で染色体外的に又はエピソーム的に複製する。このエピソームプラスミドは、ベクターの組込みと関連するこれらの欠点全てを本質的に含まない(Bodeら、2001年)。例えば、上記で定義されているリンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)ベースの包含又はエプスタイン・バーウイルス(EBV)は、染色体外で複製してリプログラミング遺伝子の体細胞への送達を促進し得る。有用なEBVエレメントは、OriP及びEBNA-1であるか、又はこれらのバリアント若しくは機能的等価物である。エピソームベクターのさらなる利点は、外来性エレメントが、細胞に導入された後に時間と共に失われ、このエレメントを本質的に含まない自己持続性iPSCがもたらされるということである。
【0114】
他の染色体外ベクターとして、他のリンパ指向性ヘルペスウイルスベースのベクターが挙げられる。リンパ指向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えばヒトBリンパ芽球)中で複製し、自然なライフサイクルの一部でプラスミドとなるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ指向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ指向性ヘルペスウイルスとして、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、及びマレック病ウイルス(MDV)が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、エピソームベースのベクターの他の供給源(例えば、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、又はBPV)が企図される。
【0115】
当業者は、標準的な組換え技術によりベクターを構築するのに十分な能力があるだろう(例えば、Maniatis et al.,1988及びAusubel et al.,1994(両方とも、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0116】
ベクターはまた、遺伝子送達及び/若しくは遺伝子発現をさらに調節するか又は他の方法で標的細胞に有益な特性を提供する他の成分又は機能性も含み得る。そのような他の成分として、例えば下記が挙げられる:細胞への結合又はターゲティングに影響を及ぼす成分(例えば、細胞型又は組織に特異的な結合を媒介する成分);細胞によるベクター核酸の取込みに影響を及ぼす成分;取込み後の細胞内でのポリヌクレオチドの局在に影響を及ぼす成分(例えば、核局在を媒介する因子);及びポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分。
【0117】
そのような成分として、マーカーも挙げられ得、例えば、ベクターにより送達された核酸を取り込んで発現している細胞を検出するか又は選択するために使用され得る検出可能なマーカー及び/又は選択マーカーも挙げられ得る。そのような成分は、ベクターの天然な特徴として提供され得る(例えば、結合及び取込みを媒介する成分若しくは機能性を有するある特定のウイルスベクターの使用)か、又はベクターは、改変されてそのような機能性を提供し得る。多種多様なそのようなベクターは、当該技術分野で既知であり、且つ一般に入手可能である。ベクターが宿主細胞中で維持される場合には、このベクターは、自律的な構造として有糸分裂中に細胞により安定的に複製され得るか、宿主細胞のゲノム内に組み込まれ得るか、又は宿主細胞の核若しくは細胞質内で維持され得る。
【0118】
3.調節エレメント
本開示で有用なリプログラミングベクターに含まれる発現カセットは、好ましくは、タンパク質コード配列に作動可能に連結された真核細胞転写プロモーター、介在配列等のスプライスシグナル、及び転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方法で)含む。
【0119】
b.プロモーター/エンハンサー
本明細書で提供される発現構築物は、プログラミング遺伝子の発現を駆動するためにプロモーターを含む。プロモーターは、一般に、RNA合成の開始部位を配置するように機能する配列を含む。これの最も既知の例は、TATAボックスであるが、TATAボックを欠いている一部のプロモーター(例えば、哺乳類の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター、及びSV40後期遺伝子のプロモーター)では、開始部位自体に重複する別個のエレメントが、開始場所の固定に役立つ。さらなるプロモーターエレメントが、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは、開始部位の30~110bp上流の領域に位置しているが、多くのプロモーターは、開始部位の下流でも機能エレメントを含むことが示されている。コード配列をプロモーターの「制御下に」置くために、転写読み枠の転写開始部位の5’末端を、選択されたプロモーターの「下流」(即ち3’)に位置させる。「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0120】
プロモーターエレメント間の間隔は柔軟であることが多く、そのため、エレメントが互いに対して反転しているか又は移動している場合にプロモーター機能が保持される。tkプロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで広げ得る。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、転写を活性化するために協力的に又は独立的に機能し得ると思われる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を指す「エンハンサー」と共に使用されてもよいし使用されなくてもよい。
【0121】
プロモーターは、コードセグメント及び/又はエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することにより得られるように、核酸配列と天然に関連するものであり得る。そのようなプロモーターは、「内在性」と称され得る。同様に、エンハンサーは、核酸配列と天然に関連するものであり得、この配列の上流又は下流に位置している。或いは、コード核酸セグメントを組換えプロモーター又は異種プロモーターの制御下に置くことにより、ある特定の利点が得られ、このプロモーターは、その天然環境において核酸配列と通常は関連していないプロモーターを指す。組換えエンハンサー又は異種エンハンサーは、その天然環境において核酸配列を通常は関連していないエンハンサーも指す。そのようなプロモーター又はエンハンサーとして、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、及び任意の他のウイルス、又は原核細胞若しくは真核細胞から単離されたプロモーター又はエンハンサー、及び「天然には存在しない」(即ち、異なる転写調節領域の異なるエレメントを含む)プロモーター又はエンハンサー、及び/又は発現を変更する変異が挙げられ得る。例えば、組換えDNA構築で最も一般に使用されるプロモーターとして、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、及びトリプトファン(trp)プロモーター系が挙げられる。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列を合成による製造に加えて、本明細書で開示されている組成物に関連して、組換えクローニング及び/又は核酸増幅技術(例えばPCR(商標))を使用して配列を合成し得る(米国特許第4,683,202号明細書及び同第5,928,906号明細書(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。さらに、非核オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体、及び同類のもの)内の配列の転写及び/又は発現を指示する調節配列も利用され得ることが企図される。
【0122】
当然のことながら、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、臓器、又は生物においてDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーター及び/又はエンハンサーを利用することが重要であるだろう。分子生物学の当業者には、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、及び細胞型の組み合わせの使用が既知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれるSambrook et al.1989を参照されたい)。利用されるプロモーターは、構成的であり得、組織特異的であり得、誘導的であり得、及び/又は導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指示するのに適切な条件下で有用であり得る(例えば、組換えタンパク質及び/又はペプチドの大規模製造で有利である)。プロモーターは、異種であってもよいし、内在性であってもよい。
【0123】
加えて、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、Eukaryotic Promoter Data Base EPDBによる)も使用して、発現を駆動させる可能性がある。T3、T7、又はSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施形態である。真核細胞は、適切な細菌ポリメラーゼが送達複合体の一部として提供されるか又は追加の遺伝子発現構築物として提供される場合に、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持し得る。
【0124】
プロモーターの非限定的な例として、下記が挙げられる:初期又は後期のウイルスプロモーター、例えば、SV40初期又は後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター;真核細胞プロモーター、例えば、ベータアクチンプロモーター(Ng,1989;Quitsche et al.,1989)、GADPHプロモーター(Alexander et al.,1988、Ercolani et al.,1988)、メタロチオネインプロモーター(Karin et al.,1989;Richards et al.,1984);並びに連結反応エレメントプロモーター、例えば、サイクリックAMP反応エレメントプロモーター(cre)、血清反応エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)、及び最小TATAボックス付近の反応エレメントプロモーター(tre)。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbank、アクセッション番号X05244で説明されているヒト成長ホルモン最小プロモーター、ヌクレオチド283~341)又はマウス乳房腫瘍プロモーター(ATCC、カタログ番号ATCC 45007で入手可能)を使用することも可能である。
【0125】
組織特異的な導入遺伝子の発現(特に、プログラミングに由来する造血細胞及び造血細胞の前駆体におけるレポーター遺伝子の発現)は、由来する造血細胞及び前駆体を特定するための方法として望ましい場合がある。特異性及び活性の両方を高めるために、シス作用性調節エレメントの使用が企図されている。例えば、造血細胞特異的プロモーターを使用し得る。多くのそのような造血細胞特異的プロモーターが、当該技術分野で既知である。
【0126】
ある特定の態様では、本開示の方法はまた、エンハンサー配列(即ち、プロモーターの活性を増加させ、且つ比較的長距離(標的プロモーターから最大数キロベース離れている)であっても、シスで及びその向きに関係なく作用する可能性を有する核酸配列)にも関する。しかしながら、エンハンサーの機能は、所与のプロモーターに近接しても機能し得ることから、必ずしもそのような長距離に限定されるわけではない。
【0127】
多くの造血細胞のプロモーター及びエンハンサーの配列が同定されており、本方法において有用であり得る。例えば、米国特許第5,556,954号明細書;米国特許出願公開第20020055144号明細書;同第20090148425号明細書を参照されたい。
【0128】
c.開始シグナル及び連結された発現
コード配列の効率的な翻訳のために、本開示で提供される発現構築物では、特定の開始シグナルも使用し得る。このシグナルとして、ATG開始コドン又は隣接配列が挙げられる。ATG開始コドン等の外来性翻訳制御シグナルを提供する必要がある場合がある。当業者は、このことを判定して必要なシグナルを提供することを容易に行い得るだろう。挿入物全体を確実に翻訳するためには、開始コドンは、所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことが公知である。外来性の翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然又は合成のいずれかであり得る。適切な転写エンハンサーエレメントの含有により、発現効率を高め得る。
【0129】
ある特定の実施形態では、内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントを使用して、多重遺伝子(即ち多シストロン性)メッセージを作製する。IRESエレメントは、5’メチル化Cap依存性翻訳のリボソーム走査モデルを迂回して、内部部位にて翻訳を開始し得る(Pelletier and Sonenberg,1988)。ピコルナウイルスファミリの2種のメンバー(ポリオ及び脳心筋炎)由来のIRESエレメントが説明されており(Pelletier and Sonenberg,1988)、哺乳類メッセージ由来のIRESも説明されている(Macejak and Sarnow,1991)。IRESエレメントは、異種オープンリーディングフレームに連結され得る。IRESによりそれぞれ分離された複数のオープンリーディングフレームが一緒に転写され得、多シストロン性メッセージが作製される。IRESエレメントにより、各オープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームに利用可能である。複数の遺伝子が単一のプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現されて、単一のメッセージが転写され得る(米国特許第5,925,565号明細書及び同第5,935,819号明細書((それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0130】
加えて、ある特定の2A配列エレメントを使用して、本開示で提供される構築物中のプログラミング遺伝子の連結された発現又は共発現が生じる可能性がある。例えば、単一のシストロンを形成するためにオープンリーディングフレームを連結させることにより、開裂配列を使用して遺伝子が共発現される可能性がある。例示的な開裂配列は、F2A(口蹄疫ウイルス2A)又は「2A様」配列(例えば、トセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス2A;T2A)である(Minskaia and Ryan,2013)。特定の実施形態では、F2A開裂ペプチドを使用して、多系統構築物中の遺伝子の発現を連結する。
【0131】
d.複製起点
宿主細胞中でベクターを増殖させるために、宿主細胞は、1つ又は複数の複製起点部位(「ori」と称されることが多い)を含み得、例えば、上記のEBVのoriPに対応する核酸配列、又はプログラミングにおいて類似の若しくは向上した機能を有する遺伝子操作されたoriPに対応する核酸配列を含み得、これは、複製が開始される特定の核酸配列である。或いは、上記の他の染色体外複製ウイルス又は自律複製配列(ARS)の複製起点を用い得る。
【0132】
e.選択マーカー及びスクリーニング可能マーカー
ある特定の実施形態では、核酸構築物を含む細胞を、発現ベクター中にマーカーを含有させることにより、インビトロ又はインビボで同定し得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にする同定可能な変化を、細胞に付与するだろう。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択マーカーは、このマーカーの存在が、その選択を可能にするものであり、陰性選択マーカーは、その存在がその選択を防ぐものである。陽性選択マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0133】
通常、薬物選択マーカーの含有により、形質転換体のクローニング及び同定が補助され、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、及びヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択マーカーである。条件の履行に基づいて形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色分析に基づくGFP等のスクリーニング可能マーカー等の他のタイプのマーカーも企図される。或いは、陰性選択マーカーとしてのスクリーニング可能マーカー(例えば、ヘルペスシンプレックスウイルスチミジンキナーゼ(tk)又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))を利用し得る。当業者には、場合によりFACS分析と組み合わせて免疫学的マーカーを用いる方法も既知であるだろう。遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限りにおいて、使用されるマーカーは重要ではないと考えられる。選択マーカー及びスクリーニング可能マーカーのさらなる例は、当業者に公知である。
【0134】
III.網膜色素上皮細胞、光受容体又は光受容体前駆細胞へのiPSCの分化
A.RPE分化
一部の態様では、RPE細胞はiPSCから、本明細書で開示されている方法で製造される。光を直接感じる、網膜中の細胞は、光受容体細胞である。光受容体は、網膜の外側部分での感光性神経細胞であり、杆体又は錐体のいずれかであり得る。光伝達のプロセスでは、光受容体細胞は、角膜及び水晶体により集束された入射光エネルギーを電気信号へと変換し、この電気信号は、最終的には視神経により脳へと送られる。脊椎動物は、錐体及び桿体を含む2種の光受容体細胞を有する。錐体は、細かいディテール、中心視及び色覚を検出するように適応され、明るい光で十分に機能する。桿体は、周辺視野及び薄暗い視野に関与する。桿体及び錐体からの神経シグナルは、網膜の他の神経細胞によるプロセシングを受ける。
【0135】
網膜色素上皮は、血流と網膜との間の障壁として機能し、視覚機能の維持において、光受容体と密接に相互作用する。網膜色素上皮は、網膜に届いた光エネルギーを吸収するメラニンの顆粒が密集している六角形細胞の単一層で構成されている。この特殊なRPE細胞の主な機能として、下記が挙げられる:血液から光受容体への栄養素(例えば、グルコース、レチノール、及び脂肪酸)の輸送;網膜下腔から血液への水、代謝最終産物、及びイオンの輸送;光の吸収、及び光酸化からの保護;11-シス-レチノールへの全トランス-レチノールの再異性化;脱落した光受容体膜の食作用;並びに網膜の構造的完全性に必須の様々な因子の分泌。
【0136】
網膜色素上皮は、細胞性レチナールデヒド結合タンパク質(CRALBP)、RPE65、ベスト卵黄様黄斑ジストロフィー遺伝子(VMD2)、及び色素上皮由来因子(PEDF)等のマーカーを発現する。網膜色素上皮の機能不全は、多くの視覚変化条件と関連しており、例えば、網膜色素上皮剥離、異形成、萎縮、網膜症、網膜色素変性症、黄斑ジストロフィー、又は加齢黄斑変性症等の変性症と関連している。
【0137】
網膜色素上皮(RPE)細胞は、その色素沈着、上皮形態、及び頂端-基底極性に基づいて特徴付けられ得る。分化したRPE細胞は、このRPE細胞の石畳状の形態、及び色素の初期外観により視覚的に認識され得る。加えて、分化したRPE細胞は、単層全体にわたり、経上皮抵抗/TER及びトランス上皮電位/TEPを有し(TER>100オーム.cm2;TEP>2mV)、頂端側から基底側へと、液体及びCO2を輸送し、且つサイトカインの極性分泌を制御する。
【0138】
RPE細胞は、免疫細胞化学、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー、及び酵素結合イムノアッセイ(ELISA)等の方法論の使用により検出するためのマーカーとして機能し得るいくつかのタンパク質を発現する。例えば、RPE特異的マーカーとして、下記が挙げられ得る:細胞性レチナールデヒド結合タンパク質(CRALBP)、小眼球症関連転写因子(MITF)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP-1)、網膜色素上皮特異的65kDaタンパク質(RPE65)、プレメラノソームタンパク質(PMEL17)、ベストロフィン1(BEST1)、及びc-mer癌原遺伝子チロシンキナーゼ(MERTK)。RPE細胞は、胚性幹細胞マーカーOct-4、nanog、又はRex-1を(任意の検出可能なレベルでは)発現しない。具体的には、これらの遺伝子の発現は、定量的RT-PCRにより評価した場合に、ES細胞又はiPSC細胞と比べてRPE細胞において約100~1000倍低い。
【0139】
例えば、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロット分析、又は公的に利用可能な配列データ(GENBANK(登録商標))を使用する標準的な増幅方法で配列特異的プライマーを使用するドットブロットハイブリダイゼーション分析により、RPE細胞マーカーをmRNAレベルで検出し得る。タンパク質レベル又はmRNAレベルで検出された組織特異的マーカーの発現は、このレベルが少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、又は9倍である場合に陽性と見なされ、より具体的には、未分化多能性幹細胞又は他の無関係の細胞型等のコントロール細胞の場合よりも10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、又はより高い場合に陽性と見なされる。
【0140】
RPE細胞の機能障害、傷害、及び喪失は、多くの眼の疾患及び障害の原因であり、例えば、加齢黄斑変性症(AMD)、遺伝性黄斑変性症、例えば、ベスト病、シュタルガルト病、及び全脈絡膜萎縮、並びに遺伝性網膜疾患の他の形態、並びに後天性の網膜の機能障害、疾患、及び傷害、例えば、限定されないが、RPE涙/裂傷の原因である。そのような疾患の潜在的な処置は、そのような処置が必要な者の網膜へのRPE細胞の移植である。この移植によるRPE細胞の補充により、分解を遅延させ得るか、停止させ得るか、又は反転させ得、網膜機能を改善させ得、且つそのような状態に起因する失明を予防し得ると推測される。しかしながら、ヒトドナー及び胚からRPE細胞を直接得ることは困難である。
【0141】
2.PSCの胚様体からのRPE細胞の誘導
公知のリプログラミング因子を使用してリプログラミングされたiPSCは、RPE細胞等の神経系統の眼細胞を生じさせ得る(Hirami et al.,2009)。全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT公報第2014/121077号では、iPSCから製造された胚様体(EB)を懸濁培養物中でWntアンタゴニスト及びNodalアンタゴニストで処理して網膜前駆細胞のマーカーの発現を誘導する方法が開示されている。この公報では、RPE細胞が高度に富化された培養物へのiPSCのEBの分化のプロセスを通してRPE細胞がiPSCから誘導される方法が開示されている。例えば、rho関連コイルド-コイルキナーゼ(ROCK)阻害剤の添加により、iPSCから胚様体を製造し、2種のWNT経路阻害剤、及びNodal経路阻害剤を含む第1の培地で培養する。さらに、このEBを、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含まないが、Nodal経路阻害剤、約20ng~約90ngのNoggin、及び約1~約5%のノックアウト血清代替品を含む第2の培地中において、MATRIGEL(商標)でコーティングされた組織培養物上で播種して、分化しているRPE細胞を形成する。分化しているRPE細胞を、ACTIVIN及びWNT3aを含む第3の培地で培養する。次いで、RPE細胞を、約5%の胎児血清、基準WNT阻害剤、非基準WNT阻害剤、並びにSonic Hedgehog経路及びFGF経路の阻害剤を含むRPE培地で培養して、ヒトRPE細胞を製造する。
【0142】
分化した細胞型の製造のためのEBの使用には、いくつかの欠点がある。例えば、iPSCからのEBの製造は、効率が変化し且つEBのサイズ又は形状が変化することから、一貫性及び再現性がないプロセスである。本開示は、EBに依存しない、臨床用途、研究途、又は治療用途に必要なiPSC又はESに由来する細胞の大規模製造を可能にする方法を提供する。
【0143】
3.本質的に単一細胞のPSCからのRPE細胞の誘導
一部の実施形態では、ヒトiPSC等の多能性幹細胞(PSC)の本質的に単一細胞の懸濁液からRPE細胞を製造する方法が提供される。一部の実施形態では、PSCを、いかなる細胞凝集も防止するために、プレコンフルエンスまで培養する。ある特定の態様では、PSCを、例えばTRYPSIN又はTRYPLE(商標)等の細胞解離酵素と共にインキュベートすることにより解離させる。PSCをまた、ピペッティングによっても、本質的に単一細胞の懸濁液に解離させ得る。加えて、細胞を培養容器に付着させることなく、単一細胞への解離後に、PSCの生存率を高めるために、培地にブレビスタチン(例えば約2.5μM)を添加し得る。或いは、ブレビスタチンの代わりにROCK阻害剤を使用して、単一細胞への解離後にPSCの生存率を高め得る。
【0144】
PSCの単一細胞懸濁液を得ると、細胞を、一般には、組織培養プレート(例えば、フラスコ、6ウェルプレート、24ウェルプレート、又は96ウェルプレート)等の適切な培養容器に播種する。この細胞を培養するために使用される培養容器として下記が挙げられ得るが、これらに特に限定されない:内部で幹細胞を培養し得る限り、フラスコ、組織培養用のフラスコ、シャーレ、ペトリ皿、組織培養用のシャーレ、マルチシャーレ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、及びローラーボトル。この細胞を、培養の必要性に応じて、下記の体積で培養し得る:少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲。ある特定の実施形態では、培養容器はバイオリアクタであり得、このバイオリアクタは、細胞を増殖させ得るように生物学的に活性な環境を支持するエクスビボでのあらゆるデバイス又はシステムを指し得る。バイオリアクタは、少なくとも又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲の容積であり得る。
【0145】
ある特定の態様では、iPSC等のPSCを、効率的な分化に適した細胞密度で播種する。一般には、この細胞を、約1,000~約75,000個の細胞/cm2(例えば、約5,000~約40,000個の細胞/cm2)の細胞密度で播種する。6ウェルプレートでは、この細胞を、1つのウェル当たり約50,000~約400,000個の細胞の細胞密度で播種し得る。例示的な方法では、この細胞を、1つのウェル当たり約100,000、約150,000、約200,000、約250,000、約300,000、又は約350,000個の細胞(例えば、1つのウェル当たり約200,000個の細胞)の細胞密度で播種する。
【0146】
iPSC等のPSCを、一般には、1種又は複数種の細胞付着タンパク質によりコーティングされている培養プレート上で培養して、細胞生存率を維持しつつ細胞付着を促進する。例えば、好ましい細胞付着タンパク質として、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、及び/又はフィブロネクチン)が挙げられ、この細胞外マトリックスタンパク質を使用して、多能性細胞の増殖のための固体支持体を提供する手段として培養表面をコーティングし得る。「細胞外マトリックス」という用語は、当該技術分野で認識されている。ECMの成分として、下記のタンパク質の内の1つ又は複数が挙げられる:フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、結合タンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、ウンデュリン(undulin)、エピリグリン、及びカリニン。例示的な方法では、PSCを、ビトロネクチン又はフィブロネクチンでコーティングされている培養プレート上で増殖させる。一部の実施形態では、細胞付着タンパク質は、ヒトタンパク質である。
【0147】
細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、天然起源であり且つヒト若しくは動物の組織から精製されてもよく、或いは、ECMタンパク質は、遺伝子操作されている組換えタンパク質であってもよいし、天然での合成であってもよい。ECMタンパク質は、全タンパク質であってもよいし、天然の又は操作されたペプチド断片の形態であってもよい。細胞培養のためにマトリックスで有用であり得るECMタンパク質の例として、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、及びビトロネクチンが挙げられる。一部の実施形態では、マトリックス組成物は、フィブロネクチン又は組換えフィブロネクチンの合成により生成されたペプチド断片を含む。一部の実施形態では、マトリックス組成物は異種成分フリーである。例えば、ヒト細胞を培養するための異種成分フリーマトリックスでは、ヒト起源のマトリックス成分を使用し得、あらゆる非ヒト動物成分を除外し得る。
【0148】
一部の態様では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1ng/mL~約1mg/mLであり得る。一部の好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1μg/mL~約300μg/mLである。より好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約5μg/mL~約200μg/mLである。
【0149】
RPE細胞又はPSC等の細胞を、細胞の各特定の集団の増殖を支持するのに必要な栄養素と共に培養し得る。一般に、細胞を、炭素源、窒素源、及びpHを維持するためのバッファーを含む増殖培地で培養する。この培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、ピルビン酸、緩衝剤、及び無機塩も含み得る。例示的な増殖培地は、幹細胞の増殖を増強するために様々な栄養素(例えば、非必須アミノ酸及びビタミン)が補充されている最少必須培地(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)又はESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地)を含む。最少必須培地の例として、最少必須培地イーグル(MEM)、アルファMEM、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、RPMI-1640培地、199培地、及びF12培地が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、最少必須培地は、添加剤(例えば、ウマ、子ウシ、又はウシ胎仔の血清)が補充され得る。或いは、この培地は血清フリーであり得る。他の場合では、増殖培地は、培養中に未分化細胞(例えば幹細胞)を増殖させて維持するのに最適化されている血清フリー製剤と本明細書で称される「ノックアウト血清代替物」を含み得る。KNOCKOUT(商標)血清代替物は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2002/0076747号明細書で開示されている。好ましくは、PSCを、完全に定義されており且つフィーダーフリーの培地で培養する。
【0150】
従って、単一細胞PSCを、一般に、播種後に、完全に定義されている培養培地で培養する。ある特定の態様では、播種の約18~24時間後に、培地を吸引し、新鮮な培地(例えばE8(商標)培地)を培養物に添加する。ある特定の態様では、単一細胞PSCを、播種後に約1、2、又は3日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。好ましくは、単一細胞PSCを、分化プロセスを進める前に約2日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。
【0151】
一部の実施形態では、培地は、血清の任意の代替物を含んでもよいし含まなくてもよい。血清の代替物として、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン、アルブミン代用物(例えば組換えアルブミン)、植物デンプン、デキストラン、及びタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1’-チオグリセロール、又はこれらの等価物を適切に含む物質が挙げられ得る。血清の代替物を、例えば国際公開第98/30679号パンフレットで開示されている方法により調製し得る。或いは、任意の市販の材料をより便利に使用し得る。市販の材料として、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KSR)、化学的に定義されている脂質濃縮物(Gibco)、及びGLUTAMAX(商標)(Gibco)が挙げられる。
【0152】
他の培養条件を適切に定義し得る。例えば、培養温度は、約30~40℃であり得、例えば、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、これらに特に限定されない。一実施形態では、細胞を37℃で培養する。CO2濃度は、約1~10%(例えば約2~5%)であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも、最大で、又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。
【0153】
4.分化培地
網膜誘導培地
単一細胞のPSCが培養プレートに付着した後、この細胞を、好ましくは、網膜誘導培地で培養して、網膜系統細胞への分化プロセスを開始させる。この網膜誘導培地(RIM)は、WNT経路阻害剤を含み、網膜系統細胞へのPSCの分化をもたらし得る。RIMは、TGFβ経路阻害剤と、BMP経路阻害剤とをさらに含む。
【0154】
RIMは、DMEM及びF12を約1:1の比で含み得る。例示的な方法では、RIMには、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)が含まれており、BMP経路阻害剤(例えばLDN193189)が含まれており、且つTGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)が含まれている。例えば、RIMは、約5nM~約50nM(例えば約10nM)のLDN193189、約0.1μM~約5μM(例えば約0.5μM)のCKI-7、及び約0.5μM~約10μM(例えば約1μM)のSB431542を含む。加えて、RIMは、ノックアウト血清代替物(例えば約1%~約5%)、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸、及びインスリン増殖因子1(IGF1)を含み得る。好ましくは、IGF1は、動物フリーIGF1(AF-IGF1)であり、RIMに、約0.1ng/mL~約10ng/mL(例えば約1ng/mL)で含まれる。この培地を、毎日吸引して新鮮なRIMと交換する。細胞を、一般に、約1~約5日(例えば、約1、2、3、4、又は5日、例えば約2日)にわたりRIMで培養して、網膜系統細胞を製造する。
【0155】
網膜分化培地
次いで、この網膜系統細胞を、さらなる分化のために網膜分化培地(RDM)で培養し得る。RDMは、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、及びMEK阻害剤を含む。一実施形態では、RDMは、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)、BMP経路阻害剤(例えばLDN193189)、TGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)、及びMEK阻害剤(例えばPD0325901)を含む。或いは、RDMは、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、及びbFGF阻害剤を含み得る。一般に、Wnt経路阻害剤、BMP経路阻害剤、及びTGFβ経路阻害剤の濃度は、RIMと比較してRDMにおいて高く、例えば約9~約11倍高く、例えば約10倍高い。例示的な方法では、RDMは、約50nM~約200nM(例えば約100nM)のLDN193189、約1μM~約10μM(例えば約5μM)のCKI-7、約1μM~約50μM(例えば約10μM)のSB431542、及び約0.1μM~約10μM(例えば約1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、又は9μM)のPD0325901を含む。
【0156】
一般に、RDMは、約1:1の比のDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物(約1%~約5%、例えば約1.5%)、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸、並びにIGF1(例えば約1ng/mL~約50ng/mL、例えば約10ng/mL)を含む。特定の方法では、細胞に、前日からの培地の吸引後に、毎日、新鮮なRDMを与える。一般に、細胞を、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16日(例えば約7日)にわたりRDMで培養して、分化した網膜細胞を誘導する。
【0157】
網膜培地
次に、この分化した網膜細胞を網膜培地(RM)で培養することにより、この細胞をさらに分化させ得る。網膜培地は、アクチビンAを含み、ニコチンアミドをさらに含み得る。RMは、約50~約200ng/mL(例えば約100ng/mL)のアクチビンA、及び約1mM~約50mM(例えば約10mM)のニコチンアミドを含み得る。或いは、RMは、他のTGF-β経路活性剤(例えばGDF1)、及び/又はWNT経路活性剤(例えば、CHIR99021、WAY-316606、IQ1、QS11、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、若しくは2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン)を含み得る。或いは、RMは、WNT3aをさらに含み得る。
【0158】
RMは、約1:1の比のDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)のノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、並びにアスコルビン酸を含み得る。この培地を、室温のRMで毎日交換し得る。細胞を、一般に、約8、9、10、11、12、13、14、15、16、17日(例えば約10日)にわたりRMで培養して、分化しているRPE細胞を誘導する。
【0159】
RPE成熟培地
RPE細胞のさらなる分化のために、この細胞を、好ましくは、RPE成熟培地(RPE-MM)で培養する。例示的なRPE-MM培地を、表3に示す。RPE-成熟培地は、約100μg/mL~約300μg/mL(例えば約250μg/mL)のタウリン、約10μg/L~約30μg/L(例えば約20μg/L)のヒドロコルチゾン、及び約0.001μg/L~約0.1μg/L(例えば約0.013μg/L)のトリヨードチロニンを含み得る。加えて、RPE-MMは、MEMアルファ、N-2サプリメント、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、及びピルビン酸ナトリウム、及びウシ胎仔血清(又はKnockOut(商標)血清代替物)(例えば約0.5%~約10%、例えば約1%~約5%)を含み得る。この培地を、室温のRPE-MMで1日置きに交換し得る。この細胞を、一般に、約5~約10日(例えば約5日)にわたり、RPE-MMで培養する。次いで、この細胞を、例えば細胞解離酵素で解離させ、再播種し、さらなる期間(例えば、さらに約5~約30日、例えば約15~20日)にわたり培養して、RPE細胞へとさらに分化させ得る。さらなる実施形態では、RPE-MMは、WNT経路阻害剤を含まない。RPE細胞を、この段階で凍結保存し得る。
【0160】
b.RPE細胞の成熟
次いで、RPE細胞を、RPE-MM中で継続的に培養して成熟させ得る。一部の実施形態では、RPE細胞を、ウェル(例えば、フラスコ、マルチレイヤーフラスコ、6ウェル、12ウェル、24ウェル、又は10cmプレート)中で増殖させ得る。RPE細胞を、約4~約10週間(例えば約6~8週間、例えば、6、7又は8週間)にわたり、RPE培地中で維持し得る。RPE細胞の継続的な成熟のための例示的な方法では、この細胞を、TRYPLE(商標)等の細胞解離酵素で解離させ、RPE-MM中で、約1~10週間(例えば5週間)にわたり、特殊なSNAPWELL(商標)デザイン等の分解性足場アセンブリに再播種し得る。RPE-MMは、bFGF阻害剤又はMEK阻害剤を含み得る。分解性足場上でRPE細胞を培養する方法は、国際公開第2014/121077号パンフレットで教示されており且つ説明されており、このパンフレットは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡潔に述べると、この方法の主な構成要素は、CORNING(登録商標)COSTAR(登録商標)SNAPWELL(商標)プレート、バイオイナートOリング、及び生分解性足場である。SNAPWELL(商標)プレートは、生分解性足場の構造及びプラットフォームを提供する。頂端側及び基底側を形成する微孔性膜は、足場の支持体を提供するだけでなく、細胞の極性化層の異なる側部を単離するのに理想的である。膜を引き離すというSNAPWELL(商標)インサートの能力により、このインサートの支持リングを足場用のアンカーとして使用することが可能になる。得られた、分化しており、極性化されており、且つコンフルエントな単層の機能性RPE細胞を、この段階で(例えば異種成分フリーCS10培地中で)凍結保存し得る。
【0161】
一部の実施形態では、RPE成熟を促進する追加の化学物質又は小分子と共にRPE-MM中で連続的に培養することにより、成熟RPE細胞を、インタクトなRPE組織として機能する機能性RPE細胞の単層へとさらに発達させ得る。例えば、この小分子は、プロスタグランジンE2(PGE2)又はアフィディコリン等の一次繊毛誘導物質である。PGE2を、約25μM~約250μM(例えば約50μM~約100μM)の濃度で培地に添加し得る。或いは、RPE-MMは、カノニカルWNT経路阻害剤を含み得る。例示的なカノニカルWNT経路阻害剤は、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP2)、又は4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(エンド-IWR1)である。細胞を、成熟しており且つ機能的なRPE細胞の単層を得るために、さらなる期間(例えばさらに約1週間~約5週間、例えばさらに約2~4週間)にわたり、この培地で培養し得る。そのため、本開示の方法は、臨床用途のための、大規模で一貫して複製され得る多能性細胞の単一細胞懸濁液から成熟RPE細胞を提供する。
【0162】
B.光受容体細胞
一部の実施形態では、本明細書で開示されている方法では、PR又はPRPが製造される。光を直接感じる、網膜中の細胞は、光受容体細胞である。光受容体は、網膜の外側部分での感光性神経細胞であり、杆体又は錐体のいずれかであり得る。光伝達のプロセスでは、光受容体細胞は、角膜及び水晶体により集束された入射光エネルギーを電気信号へと変換し、この電気信号は、最終的には視神経により脳へと送られる。脊椎動物は、錐体及び桿体を含む2種の光受容体細胞を有する。錐体は、細かいディテール、中心視及び色覚を検出するように適応され、明るい光で十分に機能する。桿体は、周辺視野及び薄暗い視野に関与する。桿体及び錐体からの神経シグナルは、網膜の他の神経細胞によるプロセシングを受ける。
【0163】
光受容体は、OTX2、CRX、PRDM1(BLIMP1)、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びL1CAM(CD171)等のマーカーを発現し得る。光受容体は、免疫細胞化学、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー、及び酵素結合イムノアッセイ(ELISA)等の方法論の使用により検出するためのマーカーとして機能し得るいくつかのタンパク質を発現する。例えば、特徴的なPRPマーカーの一つは、RCVRNである。PRP細胞は、胚性幹細胞マーカーOCT-4、NANOG、又はREX-1を(任意の検出可能なレベルで)発現し得ない。具体的には、これらの遺伝子の発現は、定量的RT-PCRにより評価した場合に、ES細胞又はiPSC細胞と比べて、PR/PRP細胞において約100~1000倍低い。
【0164】
例えば、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロット分析、マイクロアレイ、又は公的に利用可能な配列データ(GENBANK(登録商標))を使用する標準的な増幅方法で配列特異的プライマーを使用する単一細胞RNA配列決定ドットブロットハイブリダイゼーション分析等のRNA配列決定により、光受容体細胞マーカーをmRNAレベルで検出し得る。タンパク質レベル又はmRNAレベルで検出された組織特異的マーカーの発現は、このレベルが少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、又は9倍である場合に陽性と見なされ、より具体的には、未分化多能性幹細胞又は他の無関係の細胞型等のコントロール細胞の場合よりも10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、又はより高い場合に陽性と見なされる。
【0165】
光受容体細胞の機能障害、傷害、及び喪失は、多くの眼の疾患及び障害の原因であり、例えば、加齢黄斑変性症(AMD)、遺伝性黄斑変性症、例えば、ベスト病、シュタルガルト病、及び全脈絡膜萎縮、網膜色素変性症、並びに遺伝性網膜疾患の他の形態、並びに後天性の網膜の機能障害、疾患、及び傷害の原因である。そのような疾患の潜在的な処置は、そのような処置が必要な者の網膜へのPRP又は光感受性細胞の移植である。この移植によるPRP又はPRの補充により、分解を遅延させ得るか、停止させ得るか、又は反転させ得、網膜機能を改善させ得、且つそのような状態に起因する失明を予防し得ると推測される。しかしながら、ヒトドナー及び胚からPRP又はPRを直接得ることは、困難である。
【0166】
一部の実施形態では、ヒトiPSC等のPSCの本質的に単一細胞の懸濁液からPR/PRP細胞を製造する方法が提供される。一部の実施形態では、PSCを、プレコンフルエンスまで培養する。ある特定の態様では、PSCを、Versene、Trypsin、ACCUTASE(商標)、又はTRYPLE(商標)等の細胞解離溶液又は酵素と共にインキュベートすることにより解離させる。PSCをまた、ピペッティングによっても、本質的に単一細胞の懸濁液に解離させ得る。
【0167】
加えて、細胞を培養容器に付着させることなく、単一細胞への解離後に、PSCの生存率を高めるために、培地にブレビスタチン(例えば約2.5μM)を添加し得る。或いは、ブレビスタチンの代わりにROCK阻害剤を使用して、単一細胞への解離後にPSCの生存率を高め得る。
【0168】
PSCの単一細胞懸濁液を得ると、細胞を、一般には、組織培養プレート(例えば、フラスコ、マルチレイヤーフラスコ、6ウェル、12ウェル、24ウェル、96ウェル、又は10cmプレート)等の適切な培養容器に播種する。この細胞を培養するために使用される培養容器として下記が挙げられ得るが、これらに特に限定されない:内部で幹細胞を培養し得る限り、フラスコ、組織培養用のフラスコ、シャーレ、ペトリ皿、組織培養用のシャーレ、マルチシャーレ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、及びローラーボトル。この細胞を、培養の必要性に応じて、下記の体積で培養し得る:少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲。ある特定の実施形態では、培養容器はバイオリアクタであり得、このバイオリアクタは、細胞を増殖させ得るように生物学的に活性な環境を支持するエクスビボでのあらゆるデバイス又はシステムを指し得る。バイオリアクタは、少なくとも又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲の容積であり得る。
【0169】
ある特定の態様では、iPSC等のPSCを、効率的な分化に適した細胞密度で播種する。一般には、この細胞を、約1,000~約75,000個の細胞/cm2(例えば、約5,000~約40,000個の細胞/cm2)の細胞密度で播種する。6ウェルプレートでは、この細胞を、1つのウェル当たり約50,000~約400,000個の細胞の細胞密度で播種し得る。例示的な方法では、この細胞を、1つのウェル当たり約100,000、約150,000、約200,000、約250,000、約300,000、又は約350,000個の細胞(例えば、1つのウェル当たり約50,000個の細胞)の細胞密度で播種する。
【0170】
iPSC等のPSCを、一般には、1種又は複数種の細胞付着タンパク質によりコーティングされている培養プレート上で培養して、細胞生存率を維持しつつ細胞付着を促進する。例えば、好ましい細胞付着タンパク質として、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、及び/又はフィブロネクチン)が挙げられ、この細胞外マトリックスタンパク質を使用して、多能性細胞の増殖のための固体支持体を提供する手段として培養表面をコーティングし得る。「細胞外マトリックス(ECM)」という用語は、当該技術分野で認識されている。ECMの成分として、下記のタンパク質の内の1つ又は複数が挙げられ得るが、これらに限定されない:フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、結合タンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、ウンデュリン(undulin)、エピリグリン、及びカリニン。他のECM成分として、付着用の合成ペプチド(例えば、RGDモチーフ若しくはIKVAVモチーフ)、合成ヒドロゲル(例えば、PEG、PLGA等)、又は天然ヒドロゲル(例えばアルギネート)が挙げられ得る。例示的な方法では、PSCを、ビトロネクチンでコーティングされている培養プレート上で増殖させる。一部の実施形態では、細胞付着タンパク質は、ヒトタンパク質である。
【0171】
細胞外マトリックスタンパク質は、天然起源であり且つヒト若しくは動物の組織から精製されてもよく、或いは、ECMタンパク質は、遺伝子操作されている組換えタンパク質であってもよいし、天然での合成であってもよい。ECMタンパク質は、全タンパク質であってもよいし、天然の又は操作されたペプチド断片の形態であってもよい。細胞培養のためにマトリックスで有用であり得るECMタンパク質の例として、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、及びビトロネクチンが挙げられる。一部の実施形態では、マトリックス組成物は異種成分フリーである。例えば、ヒト細胞を培養するための異種成分フリーマトリックスでは、ヒト起源のマトリックス成分を使用し得、あらゆる非ヒト動物成分を除外し得る。
【0172】
一部の態様では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1ng/mL~約1mg/mLであり得る。一部の好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1μg/mL~約300μg/mLである。より好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約5μg/mL~約200μg/mLである。
【0173】
PR/PRP細胞又はPSC等の細胞を、細胞の各特定の集団の増殖を支持するのに必要な栄養素と共に培養し得る。一般に、細胞を、炭素源、窒素源、及びpHを維持するためのバッファーを含む増殖培地で培養する。この培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、ピルビン酸、緩衝剤、pH指示薬、及び無機塩も含み得る。例示的な増殖培地は、幹細胞の増殖を増強するために様々な栄養素(例えば、非必須アミノ酸及びビタミン)が補充されている最少必須培地(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)又はESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地)を含む。最少必須培地の例として、最少必須培地イーグル(MEM)アルファ培地、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、RPMI-1640培地、199培地、及びF12培地が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、最少必須培地は、添加剤(例えば、ウマ、子ウシ、又はウシ胎仔の血清)が補充され得る。或いは、この培地は血清フリーであり得る。他の場合では、増殖培地は、培養中に未分化細胞(例えば幹細胞)を増殖させて維持するのに最適化されている血清フリー製剤と本明細書で称される「ノックアウト血清代替物」を含み得る。KNOCKOUT(商標)血清代替物は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第2002/0076747号明細書で開示されている。好ましくは、PSCを、完全に定義されており且つフィーダーフリーの培地で培養する。
【0174】
従って、単一細胞PSCを、一般に、播種後に、完全に定義されている培養培地で培養する。ある特定の態様では、播種の約18~24時間後に、培地を吸引し、新鮮な培地(例えばE8(商標)培地)を培養物に添加する。ある特定の態様では、単一細胞PSCを、播種後に約1、2、又は3日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。好ましくは、単一細胞PSCを、分化プロセスを進める前に約2日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。
【0175】
一部の実施形態では、培地は、血清の任意の代替物を含んでもよいし含まなくてもよい。血清の代替物として、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン、アルブミン代用物(例えば組換えアルブミン)、植物デンプン、デキストラン、及びタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロール、又はこれらの等価物を適切に含む物質が挙げられ得る。血清の代替物を、例えば国際公開第98/30679号パンフレットで開示されている方法により調製し得る。或いは、任意の市販の材料をより便利に使用し得る。市販の材料として、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KSR)、化学的に定義されている脂質濃縮物(Gibco)、及びGLUTAMAX(商標)(Gibco)が挙げられる。
【0176】
他の培養条件を適切に定義し得る。例えば、培養温度は、約30~40℃であり得、例えば、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、これらに特に限定されない。一実施形態では、細胞を37℃で培養する。CO2濃度は、約1~10%(例えば約2~5%)であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも、最大で、又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。
【0177】
2.分化培地
網膜成熟培地
上記のRDMで培養された分化網膜細胞を、この細胞を網膜成熟培地(RM)で培養してRPCを製造することにより、さらに分化させて拡大させ得る。RMは、ニコチンアミドを含み得る。RMは、約1mM~約50mM(例えば約10mM)のニコチンアミドを含み得る。RMは、アスコルビン酸(例えば50~500μm、特に約100~300μm、例えば約200μm)をさらに含み得る。好ましくは、RMは、アクチビンAを含まないか、又は本質的に含まない。例示的なRM培地を、表1に示す。RM(例えばRM2)は、γ-セクレターゼ阻害剤(例えば、DAPT、塩基性FGF)、及び/又はTGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)をさらに含んでもよい。
【0178】
RMは、約1:1の比でのDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)でのノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含み得る。この培地を、室温のRMと毎日交換し得る。この細胞を、一般に、約8、9、10、11、12、13、14、15、16、又は17日(例えば約10日)にわたりRMで培養して、拡大されたRPCを誘導する。
【0179】
PRP成熟培地(PM)
PRPを、PRP成熟培地(PM)で成熟させ得る。例示的なPM培地を表1に示す。PM培地は、アスコルビン酸、ニコチンアミド、及びγ-セクレターゼ阻害剤(例えばDAPT(例えば、約1μM~約10μM(例えば約5μM)のDAPT))を含む。PM(例えばPM2)はまた、CDK阻害剤も含んでもよく、例えばCDK4/6阻害剤を含んでもよく、例えばPD0332991(例えば、約1μM~約50μM、例えば約10μMのPD0332991)も含んでもよい。
【0180】
PM培地は、約1:1の比でのDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)でのノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含み得る。この培地を、室温のPM培地と毎日交換し得る。この細胞を、一般に、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日(例えば約10日)にわたりRM培地で培養して、成熟PRP細胞を誘導する。
【表1】
【0181】
加えて、培地にブレビスタチン(例えば約2.5μM)を添加して、凝集体形成を促進することにより、PR/PRP生存率を増加させ得、且つ純度を維持し得る。或いは、ブレビスタチンの代わりのROCK阻害剤を使用して、例えばTRYPLE(商標)を使用することにより、単一細胞への解離後にPR/PRP生存率を増加させてもよい。
【0182】
C.細胞の冷凍保存
本明細書で開示されている方法により製造されたRPE又はPR/PRP細胞を凍結保存し得、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT国際公開第2012/149484A2号パンフレットを参照されたい。この細胞を、基材と共に又は基材なしで凍結保存し得る。いくつかの実施形態では、保存温度は、約-50℃~約-60℃、約-60℃~約-70℃、約-70℃~約-80℃、約-80℃~約-90℃、約-90℃~約-100℃、及びこれらの重複範囲の範囲である。一部の実施形態では、凍結保存された細胞の保存(例えば維持)のために、より低い温度を使用する。いくつかの実施形態では、液体窒素(又は他の同様の冷却液)を使用して細胞を保存する。さらなる実施形態では、この細胞を、約6時間超にわたり保存する。追加の実施形態では、この細胞を約72時間保存する。いくつかの実施形態では、この細胞を、48時間から約1週間保存する。さらに他の実施形態では、この細胞を、約1、2、3、4、5、6、7、又は8週間にわたり保存する。さらなる実施形態では、この細胞を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月にわたり保存する。この細胞を、より長い時間にわたっても保存し得る。この細胞を、別々に凍結保存し得るか、又は本明細書で開示されている基材のいずれか等の基材上で凍結保存し得る。
【0183】
一部の実施形態では、追加の抗凍結剤を使用し得る。例えば、この細胞を、1種又は複数種の抗凍結剤(例えば、DM80、血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン若しくはウシ血清アルブミン))を含む凍結保存溶液中で凍結保存し得る。ある特定の実施形態では、この溶液は、約1%、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%のDMSOを含む。他の実施形態では、この溶液は、約1%~約3%、約2%~約4%、約3%~約5%、約4%~約6%、約5%~約7%、約6%~約8%、約7%~約9%、又は約8%~約10%のジメチルスルホキシド(DMSO)又はアルブミンを含む。ある特定の実施形態では、この溶液は2.5%のDMSOを含む。別の特定の実施形態では、この溶液は10%のDMSOを含む。
【0184】
細胞を、例えば凍結保存中に約1℃/分で冷却し得る。一部の実施形態では、凍結保存温度は、約-80℃~約-180℃又は約-125℃~約-140℃である。一部の実施形態では、細胞を、4℃まで冷却した後に、約1℃/分で冷却する。凍結保存された細胞を、使用のために解凍する前に、液体窒素の蒸気相に移し得る。一部の実施形態では、例えば、この細胞が約-80℃に達すると、この細胞を液体窒素保存領域に移す。凍結保存を、速度が制御された冷凍庫を使用しても行い得る。凍結保存された細胞を、例えば約25℃~約40℃の温度で、典型的には約37℃の温度で、解凍し得る。
【0185】
D.阻害剤
WNT経路阻害剤
WNTは、細胞間相互作用を調節する高度に保存されている分泌シグナル伝達分子のファミリであり、ショウジョウバエ属(Drosophila)セグメント極性遺伝子ウイングレス(wingless)と関連している。ヒトでは、遺伝子のWNTファミリは、38~43kDaのシステインリッチ糖タンパク質をコードする。WNTタンパク質は、疎水性シグナル配列、保存されているアスパラギン結合オリゴ糖コンセンサス配列(例えば、Shimizuら Cell Growth Differ 8:1349-1358(1997)を参照されたい)、及び22個の保存されているシステイン残基を有する。WNTタンパク質は、細胞質ベータ-カテニンの安定化を促進する能力のために、転写活性化因子として働いてアポトーシスを阻害し得る。特定のWNTタンパク質の過剰発現は、ある種の癌と関連していることが示されている。
【0186】
本明細書におけるWNT阻害剤(WNT経路阻害剤とも称される)は、一般に、WNT阻害剤を指す。そのため、WNT阻害剤は、WNTファミリタンパク質のメンバー(例えば、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt4、Wnt5A、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt9A、Wnt10a、Wnt11、及びWnt16)の任意の阻害剤を指す。本方法のある特定の実施形態は、分化培地中のWNT阻害剤に関する。当該技術分野で既知である適切なWNT阻害剤の例として、下記が挙げられる:N-(2-アミノエチル)-5-クロロイソキノリン-8-スルホンアミド二塩酸塩(CKI-7)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP2)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-3-(2-メトキシフェニル)-4-オキソチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP4)、2-フェノキシ安息香酸-[(5-メチル-2-フラニル)メチレン]ヒドラジド(PNU74654)2,4-ジアミノ-キナゾリン、ケルセチン、3,5,7,8-テトラヒドロ-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4-オン(XAV939)、2,5-ジクロロ-N-(2-メチル-4-ニトロフェニル)ベンゼンスルホンアミド(FH535)、N-[4-[2-エチル-4-(3-メチルフェニル)-5-チアゾリル]-2-ピリジニル]ベンズアミド(TAK715)、ジクコフ(Dickkopf)関連タンパク質1(DKK1)、及び分泌フリズルド関連タンパク質(SFRP1)1。加えて、WNTの阻害剤として、WNTに対する抗体、WNTのドミナントネガティブバリアント、並びにWNTの発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸が挙げられ得る。RNA媒介性干渉(RNAi)を使用しても、WNTの阻害を達成し得る。
【0187】
BMP経路阻害剤
骨形態形成タンパク質(BMP)は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリに属する多機能性増殖因子である。BMPは、重要な形態形成シグナルの一群を構成すると見なされており、身体全体にわたり構造を組織化する。生理におけるBMPシグナルの重要な機能は、病理プロセスにおけるBMPシグナル伝達の調節不全に関する多数の役割により強調される。
【0188】
BMP経路阻害剤(本明細書ではBMP阻害剤とも称される)は、一般にはBMPシグナル伝達の阻害剤を含み得るか、又はBMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP10、若しくはBMP15に特異的な阻害剤を含み得る。例示的なBMP阻害剤として、下記が挙げられる:4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン塩酸塩(LDN193189)、6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン二塩酸塩(ドルソモルフィン)、4-[6-(4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン(DMH1)、4-[6-[4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(DMH-2)、及び5-[6-(4-メトキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(ML347)。
【0189】
TGFβ経路阻害剤
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)は、ほとんどの細胞において、増殖、細胞分化、及び他の機能を制御する分泌タンパク質である。TGFβは、免疫、癌、気管支喘息、肺線維症、心疾患、糖尿病、及び多発性硬化症で役割を果たすサイトカインの一種である。TGF-βには、TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3と呼ばれる少なくとも3つのアイソフォームが存在する。TGF-βファミリは、トランスフォーミング増殖因子ベータスーパーファミリとして既知のタンパク質のスーパーファミリの一部(例えば、インヒビン、アクチビン、抗ミュラー管ホルモン、骨形成タンパク質、デカペンタプレジック、及びVg-1)である。
【0190】
TGFβ経路阻害剤(本明細書ではTGFβ阻害剤とも称される)は、一般に、TGFβシグナル伝達のあらゆる阻害剤を含み得る。例えば、TGFβ阻害剤は、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(SB431542)、6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン(SB525334)、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-イエリ(ieri)-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物(SB-505124)、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、左右決定因子(レフティ)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(A83-01)、4-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(D4476)、4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド(GW788388)、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン(LY364847)、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(R268712)、又は2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(RepSox)である。
【0191】
MEK阻害剤
MEK阻害剤は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素MEK1又はMEK2を阻害する化学物質又は薬物である。この化学物質及び薬物を使用して、MAPK/ERK経路に影響を及ぼし得る。例えば、MEK阻害剤として、下記が挙げられる:N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミド(PD0325901)、N-[3-[3-シクロプロピル-5-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6,8-ジメチル-2,4,7-トリオキソピリド[4,3-d]ピリミジン-1-イル]フェニル]アセトアミド(GSK1120212)、6-(4-ブロモ-2-フルオロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(MEK162)、N-[3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6-メトキシフェニル]-1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)シクロプロパン-1-スルホンアミド(RDEA119)、及び6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(AZD6244)。
【0192】
ガンマ-セクレターゼ阻害剤
ガンマセクレターゼは、膜貫通ドメイン内の残基でシングルパス膜貫通タンパク質を開裂するマルチサブユニットプロテアーゼ複合体(これ自体が膜内在性タンパク質である)である。このタイプのプロテアーゼは、膜内プロテアーゼとして知られている。ガンマセクレターゼの最も公知の基質は、大きい膜内在性タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質であり、この膜内在性タンパク質は、ガンマセクレターゼ及びベータセクレターゼの両方により開裂されると、アミロイドベータと呼ばれる短いアミノ酸ペプチドを生じ、このアミノ酸ペプチドの異常に折り畳まれたフィブリル形態は、アルツハイマー病患者の脳中で見出されるアミロイド斑の主要な構成要素である。
【0193】
本明細書のガンマセクレターゼ阻害剤は、一般に、γ-セクレターゼ阻害剤を指す。例えば、γ-セクレターゼ阻害剤として下記が挙げられるが、これらに限定されない:N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン-1,1-ジメチルエチルエステル(DAPT)、5-クロロ-N-[(1S)-3,3,3-トリフルオロ-1-(ヒドロキシメチル)-2-(トリフルオロメチル)プロピル]-2-チオフェンスルホンアミド(ベガスエステイト)、MDL-28170、3,5-ビス(4-ニトロフェノキシ)安息香酸(コンパウンドW)、7-アミノ-4-クロロ-3-メトキシ-1H-2-ベンゾピラン(JLK6)、(5S)-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-6-フェニル-(4R)-ヒドロキシ-(2R)-ベンジルヘキサノイル)-L-ロイシ-L-フェニルアラニンアミド(L-685,485)、(R)-2-フルオロ-α-メチル[1,1’-ビフェニル]-4-酢酸((R)-フルルビプロフェン;フルリザン)、N-[(1S)-2-[[(7S)-6,7-ジヒドロ-5-メチル-6-オキソ-5H-ジベンゾ[b,d]アゼピン-7-イル]アミノ]-1-メチル-2-オキソエチル]-3,5-ジフルオロベンゼンアセトアミド(ジベンザゼピン;DBZ)、N-[cis-4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-4-(2,5-ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]-1,1,1-トリフルオロメタンスルホンアミド(MRK560)、(2S)-2-[[(2S)-6,8-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-ナフタレニル]アミノ]-N-[1-[2-[(2,2-ジメチルプロピル)アミノ]-1,1-ジメチルエチル]-1H-イミダゾール-4-イル]ペンタンアミド二臭化水素酸塩(PF3084014臭化水素酸塩)、及び2-[(1R)-1-[[(4-クロロフェニル)スルホニル](2,5-ジフルオロフェニル)アミノ]エチル-5-フルオロベンゼンブタン酸(BMS299897)。
【0194】
サイクリン依存性キナーゼ阻害剤
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、細胞周期の制御における役割に関して最初に発見された糖キナーゼのファミリである。CDKはまた、神経細胞の転写、mRNAプロセシング、及び分化の制御にも関与している。多くのヒト癌では、CDKが過剰に活性であるか、又はCDK阻害タンパク質が機能していない。CDK阻害剤は、CDK1阻害剤、CDK2阻害剤、CDK3阻害剤、CDK4阻害剤、CDK5阻害剤、CDK6阻害剤、CDK7阻害剤、CDK8阻害剤、及び/又はCDK9阻害剤であり得る。特定の態様では、CDK阻害剤は、CDK4/6阻害剤である。
【0195】
CDK阻害剤として下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:パルボシクリブ(PD-0332991)HCl、ロスコビチン(セリシクリブ、CYC202)、SNS-032(BMS-387032)、ディナシクリブ(Dinaciclib)(SCH727965)、フラボピリドール(アルボシジブ)、MSC2530818、JNJ-7706621、AZD5438、MK-8776(SCH 900776)、PHA-793887、BS-181 HCl、A-674563、アベマシクリブ(LY2835219)、BMS-265246、PHA-767491、又はミルシクリブ(Milciclib)(PHA-848125)。
【0196】
bFGF阻害剤
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF2、又はFGF-βとしても既知である)は、線維芽細胞増殖因子ファミリのメンバーである。bFGFは、血管の基底膜及び内皮下細胞外マトリックス中に存在している。加えて、bFGFは、細胞が未分化状態を保つのに必要なヒトESC培養培地の一般的な成分である。
【0197】
bFGF阻害剤は、本明細書では、bFGF阻害剤全体を指す。例えば、bFGF阻害剤として下記が挙げられるが、これらに限定されない:N-[2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(l,l-ジメチルエチル)ウレア(PD173074)、2-(2-アミノ-3-メトキシフェニル)-4H-l-ベンゾピラン-4-オン(PD98059)、l-tert-ブチル-3-[6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ]ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]ウレア(PD161570)、6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[[4-[2-(ジエチルアミノ)エトキシ]フェニル]アミノ]-8-メチル-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オン二塩酸塩水和物(PD166285)、N-[2-アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(1,1-ジメチルエチル)-ウレア(PD166866)、及びMK-2206。
【0198】
IV.RPE-PR/PRP二重細胞凝集体培養物
特定の態様では、RPEは、極性化されていてもよいし、極性化されていなくてもよいし、成熟していてもよいし、未成熟であってもよいし、これらの組合せであってもよい。RPEを、タウリン、ヒドロコルチゾン、及びタウリンを含む培地で培養し得、例えば、本明細書で説明されているRPE-MM培地で培養し得る。特定の態様では、この培地は、血清フリー培地又は限定培地であり、ノックアウト血清代替物を含み得る。
【0199】
一部の態様では、RPEを培養して、ベストロフィン及び/又はZO1に対して陽性である極性化RPEを生成し得る。この極性化RPEは、PRE65及び/又はエズリンに対して陽性であり得る。このRPEは、hiPSCに由来し得、且つ成熟であり得る(例えば、PMEL17、TYRP1、及びCRALBPに対して陽性のRPE)。成熟RPE(例えば、上記の方法による42日目のRPE)を、直接培養してもよいし、事前に凍結保存されている場合には解凍してもよい。次いで、RPEを、RPEを極性化させるのに十分な期間(例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、又はより長い)にわたり培養し得る。具体的には、RPEを、極性化させるために、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30日にわたり培養し得る。
【0200】
PRPは、杆体又は錐体のいずれかになる運命であり得る未成熟PRPであり得る。具体的には、PR/PRPを、本明細書で説明されているハイブリッド分化方法により得ることができる。PR/PRPを、培養又は冷凍保存からRPE培地に直接添加してもよいし、このRPEと播種する前に再播種して培養してもよい。特定の実施形態では、PR/PRPは、hiPSCに由来しており、オルガノイドの選別に由来するものではない。播種されるPR/PRPは、凝集体を含まない本質的に単一の細胞であり得る。他の態様では、PR/PRPを、凝集体として添加し得る。特定の態様では、培地は、血清フリー培地又は限定培地であり、ノックアウト血清代替物を含み得る。
【0201】
RPEを、RPE-MM中で解凍し、ViCELL XRを使用して計数し得る。PR/PRPを、RMN中で解凍し得る。凝集体として解凍される場合には、PR/PRPは、TrypLEにより解離され得る。RPE及びPR/PRPを、RPE-MM中において所望の細胞比及び細胞数で組み合わせ、例えば、16~18RPMでのベリーダンサー(belly dancer)上のULA T-75フラスコに入れて凝集体形成を可能にすることにより、凝集体を形成させ得る。或いは、PBSミニ容器中で凝集体を形成することが可能である。凝集体形成のために、培養物に、Y-27632等のROCK阻害剤を添加し得る。RPEを、約100万個の細胞/m~約1,000万個の細胞/mLの密度で培養し得、例えば、200万個の細胞/mL、300万個の細胞/mL、400万個の細胞/mL、500万個の細胞/mL、600万個の細胞/mL、700万個の細胞/mL、800万個の細胞/mL、900万個の細胞/mL、又はより高い密度で培養し得る。二重培養物中における解凍されたPRP対RPEの比は、500:1、450:1、400:1、350:1、300:1、250:1、200:1、150:1、100:1、又は50:1であり得る。
【0202】
ある方法では、PR/PRP及びRPEを、単一細胞懸濁液として組み合わせて、Y-27632を含むRPE-MM中において凝集体を形成させ得る。別の方法では、RPEの単一細胞懸濁液を、Y-27632を含むRPE-MM中においてPR/PRP凝集体と組み合わせ得る。
【0203】
一部の態様では、PRPの添加前に、RPE培養物に、ROCK阻害剤、ECMタンパク質、及び/又はプロスタグランジンE2(PGE2)を添加し得る。ROCK阻害剤は、Y-27632であり得る。ECMタンパク質は、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、又はビトロネクチンであり得、特にラミニン-521であり得る。ROCK阻害剤、ECMタンパク質、又はPGE2を、PRPの添加前に、少なくとも10分間添加し得、例えば、30分間、60分間、又は90分間添加し得る。
【0204】
V.PRP:RPE二重細胞凝集体の使用
ある特定の態様は、多くの重要な研究目的に使用され得るPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を提供する。凍結保存された二重細胞凝集体培養物を、細胞置換療法等の治療薬として使用し得る。この二重細胞凝集体培養物を、インビトロモデルとして薬物若しくは毒素の試験に使用して網膜の生物学を研究し得るか、又はハイスループット薬物スクリーニングに使用される可能性がある疾患細胞系統とのモデルとして使用し得る。本モデルシステムは、RPE/光受容体相互作用に関連する動物研究の代わりに、ハイスループット実験に使用される可能性がある。
【0205】
PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、細胞救出療法(cell rescue therapy)又は全組織置換療法等の移植に使用し得る。ある特定の実施形態は、網膜変性症又は重大な傷害等の必要な任意の状態のために眼組織の維持及び修復を増強するためのPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物の使用を提供する。網膜変性症は、加齢黄斑変性症(AMD)、遺伝性黄斑変性症、スターガルト黄斑ジストロフィー、ベスト病、全脈絡膜萎縮、遺伝性網膜変性症(例えば、網膜色素変性症、錐体/杆体及び杆体/錐体ジストロフィー)、糖尿病性網膜症、網膜血管病、未熟児網膜症(ROP)により引き起こされる損傷、眼のウイルス感染、並びに他の網膜/眼の疾患又は損傷/外傷と関連し得る。
【0206】
別の態様では、本開示は、必要な個体の処置方法であって、前記個体に、本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を含む組成物を移植することを含む方法を提供する。前記組成物を、眼、網膜下腔、又は静脈内に投与し得る。そのような個体は、加齢性黄斑変性症等の黄斑変性症を有し得、そのような黄斑変性症は、初期段階又は後期段階であり得る。そのような個体は、遺伝性の黄斑変性症又は網膜変性症を有し得、例えば、網膜色素変性症、錐体/杆体又は杆体/錐体ジストロフィー、スターガルト病、ベスト病、全脈絡膜萎縮、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、未熟児網膜症(ROP)により引き起こされる損傷、又は他の網膜の外傷若しくは傷害を有し得る。
【0207】
本明細書で開示されている方法により製造されたPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、RPE又は光受容体細胞に関して当該技術分野で現在既知である任意の方法及び用途で使用し得る。例えば、化合物をアッセイする方法であって、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物に対するこの化合物の薬理学的特性又は毒性学的特性をアッセイすることを含む方法が提供され得る。PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物に対する効果に関して化合物を評価する方法であって、a)本明細書で提供されるPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物と、この化合物とを接触させること;及びb)このPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物に対するこの化合物の効果をアッセイすることを含む方法も提供され得る。本実施形態の二重細胞凝集体を使用して、病態生理を研究するための網膜疾患モデル、及び薬物スクリーニング用の網膜疾患モデルも作製し得る。
【0208】
本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を商業的に使用して、そのような細胞及びその様々な子孫の特性に影響を及ぼす因子(例えば、溶媒、低分子薬物、ペプチド、オリゴヌクレオチド)又は環境条件(例えば、培養の条件若しくは操作)に関してスクリーニングし得る。例えば、試験化合物は、化学化合物、低分子、ポリペプチド、増殖因子、サイトカイン、又は他の生物学的薬剤であり得る。このPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を使用して、毒性、レチノイド再利用、食作用、酸化ストレスマーカー、又は細胞死を検出する可能性があるか、又はスクリーニングする可能性がある。
【0209】
一実施形態では、方法は、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物と試験薬とを接触させること、及び試験薬が個体群内でRPE細胞又はPRP細胞の活性又は機能と調節するかどうかを決定することを含む。一部の用途では、スクリーニングアッセイは、細胞増殖を調節するか、細胞分化を変更するか、又は細胞生存率に影響を及ぼす薬剤の同定に使用される。スクリーニングアッセイを、インビトロで実施してもよいし、インビボで実施してもよい。眼用薬剤又はRPE:PR/PRP薬剤をスクリーニングして同定する方法として、ハイスループットスクリーニングに好適なものが挙げられる。例えば、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、潜在的な治療用分子の同定のために、任意選択的に定義された位置で、培養シャーレ、フラスコ、ローラーボトル、又はプレート(例えば、単一のマルチウェルシャーレ又はシャーレ、例えば、8、16、32、64、96、384、及び1536マルチウェルプレート又はシャーレ)に配置し得るか、又は設置し得る。スクリーニングされ得るライブラリとして、例えば、低分子ライブラリ、siRNAライブラリ、及びアデノウイルストランスフェクションベクターライブラリが挙げられる。
【0210】
他のスクリーニング用途は、網膜組織の維持又は修復に対する効果に関する医薬化合物の試験に関する。この化合物は、細胞に対する薬理学的効果を有するように設計されているか、又は他の場所で効果を有するように設計された化合物は、この組織型の細胞に対して意図されていない副作用を有する場合があることから、スクリーニングを行ない得る。
【0211】
治療投与に対する細胞組成物の適合性を決定するために、細胞を、ブタ等の好適な動物モデルで最初に試験し得る。一態様では、本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、インビボでの生存能力及び表現型を維持する能力に関して評価する。この組成物を、免疫不全動物(例えば、ヌードマウス若しくはヌードラット、又は化学的に免疫不全となったか若しくは放射線照射により免疫不全となった動物)に移植する。増殖期間後に組織を採取し、多能性幹細胞由来の細胞が依然として存在しているかどうかを評価する。
【0212】
本明細書で説明されているPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物、又はその培養物を含む医薬組成物を、必要な患者の状態を処置するための医薬品の製造に使用し得る。PR/PRP又はRPE細胞を、事前に冷凍保存し得る。ある特定の態様では、本開示のPR/PRP又はRPE細胞は、iPSCに由来しており、そのため、眼疾患の患者に「個別化医療」を提供するために使用され得る。一部の実施形態では、患者から得られた体細胞を遺伝子操作して、疾患の原因となる変異を修正し得、PR/PRP又はRPEに分化させ得、且つ操作してPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を形成し得る。この組織を使用して、同一患者の内在性の変性PR/PRP及びRPEを置き換え得る。或いは、健康なドナー又はHLAホモ接合「スーパードナー」から生成されたiPSCを使用し得る。
【0213】
本明細書で開示されている方法を使用して得られたPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物の導入により、様々な眼の状態を処置し得るか、又は予防し得る。この状態として、網膜の機能障害若しくは劣化、網膜損傷、並びに/又は網膜色素上皮及び/若しくは光受容体の喪失と一般に関連する網膜の疾患又は障害が挙げられる。処置され得る状態として下記が挙げられるが、これらに限定されない:網膜の変性疾患、例えば、スターガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性症、杆体/錐体及び錐体/杆体ジストロフィー、黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症、近視性黄斑変性症、又は他の後天性若しくは遺伝性の黄斑変性症)、未熟児網膜症(ROP)により引き起こされる網膜損傷、並びに糖尿病性網膜症。さらなる状態として、下記が挙げられる:レーバー先天黒内障、遺伝性又は後天性の黄斑変性症又は網膜変性症、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮症、全脈絡膜萎縮、パターンジストロフィー、光受容細胞の他のジストロフィー、及び光、レーザー、炎症、感染、放射線、新生血管、又は外傷による傷害の内のいずれか1つにより引き起こされる損傷に起因する網膜損傷。ある特定の実施形態では、網膜変性症を特徴とする状態を処置するか又は予防する方法であって、本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を含む組成物の有効な量を、必要な対象に投与することを含む方法が提供される。この方法は、この状態の内の1つ又は複数を有する対象を選択すること、並びにこの状態を処置するのに及び/又はこの状態の症状を寛解させるのに十分な、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物の治療上有効な量を投与することを含み得る。PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、様々な形式で移植し得る。例えば、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、マトリックス、細胞外マトリックス、又は生分解ポリマー等の基材上に付着した標的部位に導入し得る。
【0214】
有利には、本開示の医薬品を使用して、RPE及び/又は光受容体細胞機能の欠如又は低下を補償し得る。本発明の網膜細胞集団及び方法により処置され得る網膜機能障害の例として、下記が挙げられるが、これらに限定されない:光受容体変性(例えば、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体-杆体及び/又は杆体-錐体ジストロフィー、並びに遺伝子及び加齢性の又は近視性の黄斑変性症で起こるもの);網膜剥離及び網膜外傷;レーザー又は太陽光により引き起こされる光損傷;黄斑円孔;黄斑浮腫;夜盲症及び色覚異常;糖尿病又は血管閉塞により引き起こされるような虚血性網膜症;早産児/早産に起因する網膜症/網膜損傷;感染性状態、例えば、CMV、網膜炎、及びトキソプラズマ症;炎症性状態、例えばぶどう膜炎;腫瘍、例えば網膜芽細胞腫及び眼内黒色腫により引き起こされる網膜の傷害。
【0215】
一態様では、本細胞は、処置が必要な患者の遺伝性網膜変性症(例えば、網膜色素変性症、錐体/杆体若しくは杆体/錐体ジストロフィー、レーバー先天黒内障、又は網膜の傷害/外傷/損傷)の症状を処置し得るか、又は緩和し得る。別の態様では、本細胞は、この処置が必要な患者の後天性又は遺伝性の黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症(湿式又は環式)、シュタルガルト病、ベスト病、近視性黄斑変性症、又は同類のもの)の症状を処置し得るか、又は緩和し得る。これらの処置の全てのために、本細胞は、患者に対して、自家性であり得るか、又は同種であり得る。さらなる態様では、本開示の細胞を、他の処置と組み合わせて投与し得る。
【0216】
一部の実施形態では、本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、再生医療を受けるのに適した対象に対する自家性移植片に使用し得る。このPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、他の網膜細胞と組み合わせて移植し得る。本開示の方法により製造されたPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物の移植を、当該技術分野で既知の様々な技術により実施し得る。一実施形態によれば、毛様体扁平部への外科的アプローチ、及びその後の網膜下腔への小さい網膜開口を介した細胞の送達により、又は直接注射により、移植を実施する。このPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を、細胞外マトリックス等のマトリックス上に付着したか又は分解性ポリマー等の基材上に設けられた標的部位に導入し得る。
【0217】
本PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を使用して、神経感覚網膜構造体を生成し得る。この構造体を、薬物スクリーニングに使用し得るか、疾患のモデルとして使用し得るか、又は医薬品として若しくは医薬品で使用し得る。後者の場合には、この医薬品はRPE-光受容体移植片であり得、このRPE-光受容体移植片は、「パッチ」のように移植され得る生体適合性の固体支持体又はマトリックス(好ましくは、生体適合性のマトリックス又は支持体)上に配置され得る。
【0218】
さらに説明するために、細胞の生体適合性支持体は、RPEの生分解性合成(例えばポリエステル)フィルム支持体であり得る。生分解性ポリエステルは、網膜前駆体細胞の増殖及び分化を支持する基材又は足場としての使用に適した任意の生分解性ポリエステルであり得る。ポリエステルは、薄膜(好ましくは微細な模様が表面に付いた膜)を形成し得るべきであり、且つ組織又は細胞の移植に使用される場合には生分解性であるべきである。本発明での使用に適した生分解性ポリエステルとして、下記が挙げられる:ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチド、ポリヒドロキシアルカノエート、ホモポリマー及びコポリマーの両方、例えば、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシバリレート(PHBV)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシヘキサノート(PHBHx)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクトノアート(PHBO)及びポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクタデカノエート(PHBOd)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステルアミド(PEA)、脂肪族コポリエステル、例えば、ポリブチレンスクシネート(PBS)及びポリブチレンスクシネート/アジペート(PBSA)、芳香族コポリエステル。高分子量ポリエステル及び低分子量ポリエステルの両方、置換ポリエステル及び非置換ポリエステル、ブロック、分枝又はランダム、並びにポリエステルの混合物及びブレンドを使用し得る。
【0219】
本明細書で開示されている方法により製造されたPR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物の医薬組成物も提供される。この組成物は、少なくとも約1×103個の細胞、約1×104個の細胞、約1×105個の細胞、約1×106個の細胞、約1×107個の細胞、約1×108個の細胞、又は約1×109個の細胞を含み得る。ある特定の実施形態では、この組成物は、本明細書で開示されている方法により製造された分化PR/PRP:RPE細胞を含む、(非PR/PRP:RPE細胞に関して)実質的に精製された調製物である。足場(例えば、ポリマー担体及び/又は細胞外マトリックス)、並びに本明細書で開示されている方法により製造されたPR/PRP:RPE細胞の有効な量を含む組成物も提供される。マトリックス材料は、一般には生理学的に許容され、インビボでの用途での使用に適している。例えば、生理学的に許容される材料として、下記が挙げられるが、これらに限定されない:吸収性である及び/又は非吸収性である固体マトリックス材料、例えば、小腸粘膜下組織(SIS)、架橋アルギネート又は非架橋アルギネート、親水コロイド、発泡体、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ、ポリグリコール酸(PGA)メッシュ、フリース、及び生体接着剤。
【0220】
適切なポリマー担体として、合成ポリマー又は天然ポリマー、及びポリマー溶液で形成された多孔質のメッシュ又はスポンジも挙げられる。例えば、マトリックスは、ポリマーのメッシュ若しくはスポンジであるか、又は高分子ヒドロゲルである。使用され得る天然ポリマーとして、タンパク質、例えば、コラーゲン、アルブミン、及びフィブリン;並びに多糖類、例えば、アルギン酸塩、及びヒアルロン酸のポリマーが挙げられる。合成ポリマーとして、生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーの両方が挙げられる。例えば、生分解性ポリマーとしてヒドロキシ酸のポリマーが挙げられ、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びポリ乳酸-グリコール酸(PGLA)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。非生分解性ポリマーとして、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エチレンビニルアセテート、及びポリビニルアルコールが挙げられる。
【0221】
可鍛性であるイオン的に又は共有結合的に架橋されたヒドロゲルを形成し得るポリマーを使用し得る。ヒドロゲルは、有機ポリマー(天然又は合成)が、共有結合、イオン結合、又は水素結合を介して架橋されて、水分子を捕捉してゲルを形成する三次元開格子構造を作る際に形成される物質である。ヒドロゲルを形成するために使用され得る材料の例として、イオン的に架橋されている多糖類(例えば、アルギネート、ポリホスファゼン、及びポリアクリレート)、又はブロックコポリマー(例えば、PLURON1CS(商標)若しくはTETRON1CS(商標)、温度若しくはHそれぞれにより架橋されているポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマー)が挙げられる。他の材料として、フィブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等のポリマー、ヒアルロン酸、及びコラーゲンが挙げられる。
【0222】
本医薬組成物を、所望の目的(例えば、網膜組織の疾患又は異常を改善するためのPR/PRP細胞機能の再構成)のための書面による指示と共に、適切な容器に任意選択的に包装され得る。一部の実施形態では、本開示の方法により製造されたPR/PRP細胞を使用して、必要な対象の変性光受容体細胞を置き換え得る。
【0223】
VI.キット
一部の実施形態では、例えば、PR/PRP:RPE二重細胞凝集体培養物を製造するための1種又は複数種の培地及び成分を含み得るキットが提供される。そのような製剤は、光受容体前駆体又は光受容体細胞と組み合わせるのに適した形態で、網膜分化因子及び/又は栄養因子のカクテルを含み得る。この試薬システムは、必要に応じて、水性媒体で凍結乾燥の形態で包装され得る。このキットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、又は他の容器手段を含み、この中に成分が入れられ得、好ましくは適切に分注され得る。このキットに複数種の成分が含まれる場合には、このキットはまた、一般に、第2、第3、又は他の追加の容器を含み、これらの中に追加の成分が別々に入れられ得る。しかしながら、1つのバイアルに、成分の様々な組み合わせが含まれてもよい。このキットの成分は、乾燥粉末として提供され得る。試薬及び/又は成分が乾燥粉末として提供される場合には、この粉末を、適切な溶媒の添加により再構成し得る。この溶媒を別の容器手段で提供し得ることも想定される。このキットはまた、典型的には、商用販売のための厳重な閉じ込めでキット成分を含むための手段を含む。そのような容器として、所望のバイアルが保持される射出成形プラスチック容器又はブロー成形プラスチック容器が挙げられ得る。このキットはまた、例えば印刷形式又はデジタル形式等の電子形式の使用説明書も含み得る。
【実施例】
【0224】
VII.実施例
下記の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれている。下記の実施例で開示されている技術が、本発明の実施において良好に機能するように本発明者らにより発見されている技術を表し、そのため、本発明の実施のための好ましいモデルを構成すると見なされ得ることを当業者は認識すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な実施形態において多くの変更がなされて類似の又は同様の結果が依然として得られ得ることを認識すべきである。
【0225】
実施例1-二重細胞凝集体培養物
二重細胞凝集体培養物の特徴を明らかにするために、RPEをRPE-MM中で解凍し、PRPをRMN中で解凍した。PRPが凝集体として解凍した場合には、全ての凝集体又は凝集体のサンプルを、TrypLEにより解離させた。両方の細胞型を、ViCELL XRを使用して計数した。RPE及びPRPを、RPE-MM中において所望の細胞比及び細胞数で組み合わせ、16~18RPMでのベリーダンサー上のULA T-75フラスコに入れて凝集体形成を可能にした。或いは、PBSミニ容器中で凝集体を形成し得た。インビボでの機能を調べるために、凝集体形成の2日後に、一部の凝集体をラットの網膜の網膜下腔に移植した。手術を実施して、この網膜を分析した。凝集体又はラットの網膜を、凍結切片化して、免疫細胞化学により分析した。
【0226】
解凍培地中におけるY-27632を含まない二重細胞凝集体形成:凝集体としてRPE及びPRPを共培養する最初の試みとして、RPE及びPRPを、1 RPE:3 PRPの比での単一細胞として解凍した。位相コントラスト画像を、様々な時点で取得した(
図1)。解凍の2日後、凝集体に組み込まれなかったいくつかの単一細胞が存在しており、細胞サイズの定性的評価に基づいて、この細胞はRPEであるように見えた。しかしながら、21日後及び69日後では、凝集体が形成されており、かなり規則的であるように見えたが、PRPと比較して高いRPE比へと偏っていた。この実験に基づいて、今後の全ての実験では、RPEを解凍する際にはROCK阻害剤であるY-27632を使用し、より低いRPE:PRP比を維持した。
【0227】
Y-27632による二重細胞凝集体形成:次に、RPE及びPRPを、Y-27632を含むRPE-MM中において、1 RPE:8 PRPの比で解凍した。この解凍培地中では、凝集体は、より均一に且つ効率的に形成されるように見えた(
図2)。解凍培地中のY-27632により、凝集体形成が質的により効率的であった。しかしながら、RPEは、45日目に凝集体を過成長させるように見えた。
【0228】
長期にわたる二重細胞凝集体培養物に対するPGE-2の効果:RPE培養中において、分化の54日目~68日目に、培養培地にプロスタグランジンE2(PGE-2)を添加する。PGE-2は、RPE一次繊毛形成及び極性化を刺激するホルモンであり、二重細胞凝集体に対する効果を調べた(
図3~5)。RPE及びPRPのこの配合により、RPEは概して、培養の1ヶ月後であっても、凝集体の大部分を形成しているように見えた。PRPは、2ヶ月後に成熟するように見えており、このことは、外節マーカーであるPRPH2の存在により示された。
【0229】
インビトロでの長期にわたる二重細胞凝集体評価:次の研究のために、1:30のRPE:PRP比を使用して凝集体を形成した。この研究を始めるために、2種の配合を使用した。最初に、PRP及びRPEを単一細胞懸濁液として組み合わせ、Y-27632を含むRPE-MM中で凝集体を形成させた(条件A)。次に、Y-27632を含むRPE-MM中において、RPEの単一細胞懸濁液を、PRP凝集体を組み合わせた(条件B)。条件Aを、インビトロで詳細に研究し、条件A及び条件Bの両方を、インビボ研究のためにラットに移植した。
【0230】
フローサイトメトリーによる二重細胞凝集体評価:最初に、凝集体の組成を、フローサイトメトリーにより2日後に評価した。RPE及びPRPマーカーの比較に基づいて、2日間での凝集体の大部分はPRPであったが、RPEの測定された割合は凝集体形成から増加していた(
図6)。RPE:PRP比は、条件A及び条件Bでほぼ等しいように見えた。
【0231】
免疫細胞化学による二重細胞凝集体評価:条件A(RPE及びPRPの単一細胞懸濁液による凝集体形成)を、インビトロでさらに評価した。位相差顕微鏡により、凝集体は比較的均一であったが、着色されたRPEは共培養の約9日後にのみ可視化されることが示された(
図7)。凝集体は、長時間培養後に融合するように見えた。凝集体形成の2日後の凝集体の免疫細胞化学から、RPEは、最初は共培養物のごく一部であることが確認された(
図8)。1ヶ月後、RPE及びPRPの両方が存在しており、RPEクラスタのポケットが明らかであった(
図9)。複数の凝集体が互いに融合して、単一の凝集体中に複数のRPEポケットが生じた可能性が高い。インビトロでの3ヶ月間の培養後、RPE及びPRPの明確な領域が明らかであり、RPEのポケットが成熟しており、且つRPE65が発現された(
図10)。免疫細胞化学の結果を、フローサイトメトリーにより確認し、RPEは、PRP細胞と比べて多く、未成熟RPEであるように見える少数のKi67陽性増殖細胞が認められた(
図11)。
【0232】
ラットモデルへの二重細胞凝集体の移植:二重細胞凝集体の2種の配合を、Royal College of Surgeons(RCS)ラットにおいてインビボで評価した。このラットは、RPE遺伝子MERTKで変異を有しており、この変異により、RPE機能障害及びその後の光受容体死が引き起こされる。PRP及びRPEを、単一細胞懸濁液として組み合わせ、Y-27632を含むRPE-MM中で凝集体を形成させた(条件A)。別に、RPEの単一細胞懸濁液を、Y-27632を含むRPE-MM中でPRP凝集体と組み合わせた(条件B)。凝集体形成の2日後、二重細胞凝集体(条件A及び条件Bの両方)を、ラットモデルに移植した。移植前の凝集体の形態を、
図7において位相差顕微鏡により示し、
図8において免疫細胞化学により示す。
【0233】
1ヶ月間のインビボでの結果:手術の1ヶ月後、RPE及びPRPは概して、正しい網膜層に移動しているように見えたが、全体として、神経網膜層中にいくつかの小さいクラスタを形成しているいくつかのRPEが存在していた。条件Aでは、杆体及び錐体の両方の光受容体が明らかであった。条件Bでは、光受容体中に同様の杆体及び錐体分布が示された。
【0234】
2ヶ月間のインビボでの結果:条件Aでの2ヶ月後、杆体及び錐体の成熟が明らかであり、光受容体層は全体的に一貫しているように見える。しかしながら、この光受容体層中にはRPEの小さいクラスが残っており、いくつかの増殖細胞も存在している(
図13)。条件Bでは、杆体及び錐体の成熟も明らかであり、いくつかのKi67陽性細胞及びPax6陽性細胞も存在している(
図14)。そのため、RPE及びPRP細胞は、凝集体形態で成功裏に組み合わされた。反復実験により、RPEは経時的に増殖すること、及び低いRPE:PRP比が望ましい場合があることが示される。免疫細胞化学により、複雑なRPE:PRP相互作用が明らかとなり、インビトロデータから、シャーレ中で網膜をモデル化することの実現可能性が示される。二重細胞凝集体がラットの網膜の網膜下腔に送達されると、RPE及びPRPは、大部分が正しい網膜層へと統合されているように見えた。しかしながら、光受容体層中には明らかなRPEのいくつかのクラスタが一貫して存在しており、増殖細胞が存在していた。これらの研究をまとめると、二重細胞凝集体が、網膜のインビトロでのモデル化及び治療法としての可能性の両方に適していることが示唆される。
【0235】
本明細書で開示されており且つ特許請求されている全ての方法は、本開示を考慮して、過度の実験を行なうことなく組み立てられて実行され得る。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態に関して説明されているが、本発明の概念、趣旨、及び範囲から逸脱することなく、この方法に変更を適用し得ること、及び本明細書で説明されている方法の工程又は工程の順序で変更を適用し得ることが、当業者が明らかであるだろう。より具体的には、本明細書で説明されている薬剤を、化学的に及び生理学的に関連するある特定の薬剤に置き換え得、さらに同一の又は類似の結果が達成されるであろうことが明らかであるだろう。当業者に明らかな全てのそのような類似の置き換え及び改変は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、及び概念の範囲内であると見なされる。
参考文献
下記の参考文献は、本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順又は他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
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