(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】頭蓋顎顔面手術における生体材料組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20230627BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230627BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230627BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230627BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/58
A61L27/52
A61L27/50
A61L27/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573739
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 US2021034404
(87)【国際公開番号】W WO2021247347
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】316011499
【氏名又は名称】ボーン ソリューションズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランキー・エル・モーリス
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー・ディアス
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081BA12
4C081CF021
4C081CF24
4C081DA01
4C081DA12
(57)【要約】
本開示は、頭蓋顎顔面手術において使用する、生体材料組成物及び使用方法を提供する。例示的な方法は、患者の頭部において隣接する骨構造間に画定された空間にアクセスする工程;マグネシア、リン酸二水素カリウム、及びリン酸カルシウムを水溶液と混合して、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;有効量のABFSを、隣接する骨構造間の空間に適用する工程;ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び結合した骨構造への骨の成長を許容し、2つの隣接する骨構造の癒合をもたらす工程を含み、ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための方法であって、
患者の頭部において隣接する骨構造間に画定された空間にアクセスする工程;
マグネシア、リン酸二水素カリウム、及びリン酸カルシウムを水溶液と混合して、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;
有効量の前記ABFSを、隣接する骨構造間の空間に適用する工程;
前記ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び
結合した骨構造への骨の成長を許容し、2つの隣接する骨構造の癒合をもたらす工程
を含み、前記ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する、方法。
【請求項2】
前記ABFSがパテ様のコンシステンシーを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記隣接する骨構造が、頭頂骨、前頭骨、後頭骨、側頭骨を含むがこれらに限定されない、患者の頭蓋骨を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記隣接する骨構造が、上顎骨及び下顎骨を含むがこれらに限定されない、患者の顎を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記隣接する骨構造が、蝶形骨及び頬骨を含むがこれらに限定されない、患者のほお骨を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
適用された前記ABFSが経時的に吸収され、骨に置換される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ABFSが、最初に構造的強度をもたらし、時間の経過とともに、2つの隣接する骨構造を癒合する新たな骨成長で置き換えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させる方法であって、
マグネシア、リン酸二水素カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸二水素カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;
乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合して、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;
有効量の前記ABFSを、患者の頭部の隣接する骨構造間の部位に適用する工程;
前記ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び
結合した骨構造への骨の成長を許容し、隣接する骨構造の癒合をもたらす工程
を含み、前記ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する、方法。
【請求項9】
前記ASFSが、最初に構造的強度をもたらし、時間の経過とともに、椎骨を癒合する新たな骨成長で置き換えられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための方法であって、
マグネシア、リン酸カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;
乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合して、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;
前記ABFSを型に適用する工程;
前記ABFSを型内で硬化させて、剛性構造体を形成する工程;
患者の頭部の隣接する骨構造間に画定される空間にわたって、前記剛性構造体を固定する工程;及び
隣接する骨構造の癒合をもたらす前記剛性構造体への骨の成長を許容する工程
を含み、前記剛性構造体が、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する、方法。
【請求項11】
前記剛性構造体がプレートを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥混合物が、更に糖化合物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記糖化合物が、糖類、糖誘導体、糖代用物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記糖化合物が、糖、糖アルコール、糖酸、アミノ糖、糖ポリマーグリコサミノグリカン、糖脂質、糖代用物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法
【請求項15】
前記糖化合物がスクロースを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記乾燥混合物が、リン酸一ナトリウムを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記第三リン酸カルシウムがCa
10(PO
4)
6(OH)
2である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年6月1日に出願された「頭蓋顎顔面手術における生体材料組成物及びその使用方法(Bio-Material Composition and Methods of Use in Craniomaxillofacial Surgery)」と題する米国仮出願第63/032,843号の優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、頭蓋顎顔面手術における生体材料組成物及びその使用方法に関する。
【0003】
本明細書において特に示さない限り、本項に記載された材料は、本出願の特許請求の範囲に係る先行技術であると認められない。
【背景技術】
【0004】
骨折、関節の磨耗、靭帯損傷のような、スポーツ、加齢、外傷関連の傷害の増加により、整形外科領域の傷害を処置し得る生体材料の需要が高まっている。そこで、骨に様々なものを接着するための骨セメント、及び骨折等の骨欠損を処置し得る骨充填材が企業によって開発されている。また、特に頭蓋顎顔面手術の領域では、骨の形成及び成長を刺激し得る生体材料が求められている。既存の生体材料のほとんどは、著しい新骨形成を促進するリン酸カルシウム、又は生体適合性に劣っており、追加の固定用具を使用しなければ新骨形成を促進しないポリメチルメタクリレート(「PMMA」)のような比較的不活性の硬化性ポリマーで出来ている。
【0005】
Rampらに発行された米国特許第5,968,999号には、整形外科的処置に有用なPMMA系の骨セメント組成物が開示されている。残念なことに、PMMA系の生体材料は、硬化プロセス中に周囲の骨に相当量の熱を放出するため、細胞死を引き起こしてしまう。その結果、硬化中に材料が収縮し、破壊に対する抵抗力が弱くなる。また、PMMA系生体材料は生体吸収速度が遅く、有毒なモノマーが血流に放出されるため生体親和性が低い。PMMA系の材料が重要な新たな骨の形成を促進するという証拠はほとんどない。
【0006】
近年、生体材料として多くのリン酸カルシウム系組成物が開発されている。例えば、Leeらに発行された米国特許第6,331,312号には、骨充填材及びセメントとして有用な注射用リン酸カルシウム系組成物が開示されている。開示された材料は生体吸収性であり、骨組織の修復及び成長促進のため、並びにネジ、プレート及び他の固定用具の取り付けに使用するために設計されている。Leeの組成物は、硬化中に膨張せず、著しい新たな骨の形成を促進するものではない。既存の多くのリン酸カルシウム系充填材及びセメントは、CaのPに対するモル比が高く、吸収性に乏しくなる。
【0007】
一般に、現在のリン酸カルシウムセメントは、頭蓋顎顔面手術において、癒合を成功させる化合物の特性を欠いている。従って、頭蓋顎顔面手術に使用するための改善された生体材料組成物及び方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,968,999号
【特許文献2】米国特許第6,331,312号
【特許文献3】米国特許第6,719,992号
【特許文献4】米国特許第6,485,754号
【特許文献5】米国特許第6,719,993号
【特許文献6】米国特許第6,585,992号
【特許文献7】米国特許第6,544,290号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、頭蓋顎顔面手術における生体材料組成物及びその使用方法であって、形成される1つ又は複数の実施形態が骨伝導性及び骨誘導性であり、それによって骨-インプラント界面に沿った患者の新たな骨成長だけでなく、骨-インプラント界面内の新たな骨成長も可能にする、生体材料組成物及びその使用方法を含む。
【0010】
第1の態様では、本開示は、頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための方法を提供する。本方法は、患者の頭部において隣接する骨構造間に画定された空間にアクセスする工程;マグネシア、リン酸二水素カリウム、及びリン酸カルシウムを水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;有効量のABFSを、隣接する骨構造間の空間に適用する工程;ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び結合した骨構造への骨の成長を許容し、2つの隣接する骨構造の癒合をもたらす工程を含み、ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0011】
第2の態様では、本開示は、頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための別の方法を提供する。本方法は、マグネシア、リン酸二水素カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸二水素カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;有効量のABFSを、患者の頭部の隣接する骨構造間の部位に適用する工程; ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び結合した骨構造への骨の成長を許容し、隣接する骨構造の癒合をもたらす工程を含み、ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0012】
第3の態様では、本開示は、頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための別の方法を提供する。本方法は、マグネシア、リン酸カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;ABFSを型に適用する工程;ABFSを型内で硬化させて剛性構造体を形成する工程;患者の頭部の隣接する骨構造間に画定される空間にわたって剛性構造体を固定する工程;及び隣接する骨構造の癒合をもたらす剛性構造体への骨の成長を許容する工程を含み、剛性構造体が、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0013】
これら、並びに他の態様、利点、及び代替案は、必要に応じて添付図面を参照しながら、以下の詳細な説明を読むことによって、当業者にとって明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書では、例示的な用具及びシステムについて説明する。「例示的」という用語は、本明細書では、「例、実例、又は説明として機能する」という意味で使用されていることを理解されたい。本明細書において「例示的」として説明される任意の実施形態又は特徴は、必ずしも他の実施形態又は特徴よりも好ましい又は有利であると解釈されるものではない。本明細書に記載された例示的な実施形態は、限定することを意図していない。
【0015】
本明細書で使用される場合、測定値に関して、「約」は±5%を意味する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「骨伝導性」とは、骨の成長及び治癒を可能にする足場として機能する材料の能力のことである。
【0017】
本明細書で使用される場合、「骨誘導性」は、骨の成長を刺激又は誘導する能力を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」は、受容者に重大な望ましくない反応を誘発しない材料を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「生体吸収性」とは、生体内で身体過程により吸収される材料の能力として定義される。吸収された材料は、受容者の体内で使用されることもあり、又は排泄されることもある。
【0020】
本明細書で使用される場合、「頭蓋顎顔面手術」とは、頭部、頭蓋骨、顔面、首、顎及び関連構造物におけるあらゆる外科的処置と定義される。
【0021】
I.乾燥混合物の調製/供給
本発明の顕著な態様は、乾燥混合物である。本発明の乾燥混合物は一般に:マグネシア、リン酸二水素カリウム、及びリン酸三カルシウムを含み、リン酸二水素カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比は約3:1~1:1の間である。1つ又は複数の好ましい実施形態では、乾燥混合物は、糖及び/又はリン酸一ナトリウムをも含んでいる。乾燥混合物を予め製造しておくことが好ましい場合がある。調製後、乾燥混合物は、無菌環境、より好ましくは無菌で密封された容器又は包装で保存すべきである。
【0022】
混合物の乾燥成分は、手練り又は機械練りを含む様々な方法を用いて混合することができる。様々な粉末を混合し、サイズ調整し、均質化するための1種の方法は、振動粉砕を介するものである。別の均質化方法は、粒子が細かいサイズに粉砕されるリボンミキサーを利用する。活性化水溶液を添加する前に、現場で乾燥成分を再び混合することが好ましい場合がある。
【0023】
本組成物のマグネシアは、場合により焼成及び熱分解プロセスに付される。MgOの焼成は、鉱石及び他の固体材料に適用される空気又は酸素を供給せず、又は限られた供給における処理プロセスであり、熱分解をもたらすために行われる。熱分解、又は加熱分解とは、熱によって起こる化学分解のことである。物質の分解温度は、物質が化学的に分解する温度である。分解する化合物の化学結合を切断するために熱を必要とするため、反応は、通常、吸熱反応である。言い換えれば、このプロセスは、MgOが分解されて水和物になり、体内に再吸収されることを可能にする。
【0024】
焼成時間及び温度は、所望の最終特性及び設定時間に依存して、経験的に決定される。いくつかの実施形態では、数時間までの約1300℃までの焼成温度が使用されるが、焼成は変化させ得る。類似の骨組成物の調製の当業者であれば、所望の特性を達成するために適切な焼成条件を日常的に決定し得る。
【0025】
水性形態に加え、本発明の組成物は、乾燥混合物を含むゲルであってもよい。
【0026】
一般に、利用可能な場合には、医薬品グレードの化合物が利用される。スラリーの製造及び適用に使用される成分、器具、溶液等の滅菌としては、エチレンオキシドによるガス化等の化学的滅菌技術、及び高エネルギー放射線、通常はγ線又はβ線による滅菌が挙げられるがこれらに限定されない、当技術分野で公知の適切な滅菌技術を用いることが必要とされ得る。
【0027】
以下のセクションIVに記載された製剤及び質量百分率は好ましい比率であるが、乾燥成分の範囲も使用することができる。例えば、リン酸二水素カリウム(すなわち、MKP)の適切な範囲は、一般に約20~70質量%であり、好ましくは約40~65質量%である。いくつかの状況及び/又は実施形態では、リン酸カリウムを約40~50質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0028】
マグネシア(すなわち、MgO)の適切な範囲は、一般に、約10~60質量%であり、好ましくは10~50質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。いくつかの状況及び/又は実施形態では、約35~50質量%で使用することができる。
【0029】
リン酸三カルシウム(好ましくはアパタイト三カルシウム)及び他のリン酸カルシウムは、様々な質量百分率で添加することができる。カルシウム含有化合物は、好ましくは約1~15質量%、より好ましくは約1~10質量%で添加される。特定の状況では、より高い百分率で使用することができる。
【0030】
糖類(及び/又は他の炭水化物含有物質)は、一般に、乾燥組成物の0.5~20質量%、好ましくは約0.5~10質量%で存在する。適切な糖類としては、糖誘導体(すなわち、糖アルコール、天然及び人工甘味料(すなわち、アセスルファム-K、アリテーム、アスパルテーム、シクラメート、ネオヘスペリジン、サッカリン、スクラロース及びソーマチン)、糖酸、アミノ糖、糖ポリマーグリコサミノグリカン、糖脂質、糖ポリマー、スクラロース等の糖代用物を含む糖代用物(すなわち、Splenda(登録商標)、McNeil Nutritionals LLC社、Ft. ペンシルベニア州、ワシントン)、コーンシロップ、蜂蜜、デンプン、及び様々な炭水化物含有物質が挙げられる。
【0031】
典型的には、抗生物質、抗細菌剤又は抗ウイルス剤は、乾燥組成物の約20質量%未満、好ましくは約0.5~10質量%、より好ましくは約1~5質量%の質量パーセントで添加される。関節置換術及び修復手術で典型的に使用されるあらゆる抗生物質を使用することができる。
【0032】
水(又は別の水溶液)は、一般に約15~40質量%、好ましくは約20~35質量%、更に好ましくは約28~32質量%に亘る大きな範囲の質量パーセントで添加することができる。生理食塩水を使用し得ることが見出された。例示的な生理食塩水は、0.9%生理食塩水である。
【0033】
II.活性化骨スラリーの形成
乾燥混合物は、好ましくは、現場で活性化される。活性化は、乾燥組成物を水溶液と混合すること(例えば、無菌混合容器内で活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成すること)を含む。水(例えば、滅菌水(又は他の滅菌水溶液、例えば、微塩水))は、一般に乾燥質量の約40%まで添加されるが、水の量は、粘度が変化する生体材料を形成するように調整することができる。一実施形態では、混合容器及びあらゆる器具は、使用前に滅菌される。滅菌された薬用カップ、ボウル、皿、洗面器又は他の滅菌容器が挙げられるが、これらに限定されない様々な混合容器を使用することができる。
【0034】
混合は、手作業及び電気/自動混合を含む、当技術分野で使用される様々な技術によって達成することができる。好ましい方法の1つは、滅菌スパチュラ又は他の混合器具を用いて手で混合することである。ABFSは、典型的には約1~10分間、手で混合されるが、混合時間は条件及び混合手段に応じて調整することができる。
【0035】
ABFSの混合には、Stryker社(Kalamzoo, Mich)のMixevac IIIのような手動ハンドミキサー、又はExactech社(Gainesville, Fla)のCemex Automatic Mixerのような電動骨ミキサーを使用することが可能である。
【0036】
ABFSは、注射剤、ペースト、パテ及びその他の形態で創製することができる。スラリーはユーザーの現場で製造されるため、乾燥混合物に添加する水の量を変えることで、材料のコンシステンシーを操作することができる。一般に、水の含量を増やすと流動性が増し、一方、水の含量を減らすとスラリーが濃くなる傾向がある。
【0037】
生体材料成分の温度を変えることにより、作業時間を長くしたり短くしたりすることができる。温度の高い成分は、温度のより低い成分よりも反応及び硬化が早くなる傾向がある。したがって、水(又は他の反応物)の温度を調節することは、作業時間を調節する効果的な方法となりうる。
【0038】
水の代わりにリン酸溶液を使用することにより、材料の接着強度を高めることができる。スラリーの最終的なpHが患者にとって危険でないか、治癒に対して禁忌でない限り、リン酸のモル濃度を変化させることができる。
【0039】
III.ABFSの部位への適用
ABFSが形成されると、ABFSは所望の軟骨成長部位に(場合によりその周囲にも)適用される。スラリーは、滅菌スパチュラ、舌刃、ナイフ、又はペースト若しくはパテ様材料を広げるのに有用な他の滅菌器具を使用して、一定量の材料を部位に広げることを含むが、これらに限定されない多くの方法で部位に適用することができる。状況によっては、活性化スラリーを適用する時に、ペースト又はパテのような比較的濃厚な粘稠物を使用することが好ましい場合があり、そのような粘稠物は、希薄なものよりも骨及び他の表面により容易に付着する傾向があるためである。注入可能な組成が望まれる場合は、注射器又は他の同様の用具を使用して適用することができる。
【0040】
IV.乾燥混合物の例示的な処方
乾燥混合物の例示的な処方は以下を含む:
【0041】
【0042】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは約20~35質量%添加される。
【0043】
【0044】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは約20~35質量%添加される。
【0045】
【0046】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは約20~35質量%添加される。
【0047】
【0048】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは約20~35質量%、より好ましくは約28~32質量%添加される。
【0049】
【0050】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは約20~35質量%添加される。
【0051】
【0052】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは20~35質量%添加される。
【0053】
【0054】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは20~35質量%添加される。
【0055】
【0056】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは20~35質量%添加される。
【0057】
【0058】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは20~35質量%添加される。
【0059】
【0060】
血液又は骨髄由来産物(全血、(PRP)血小板を多量に含む血漿、(BMA)骨髄吸引物、(BMC)骨髄濃縮物が挙げられるがこれらに限定されない)、又は修飾溶液(滅菌水及び塩化ナトリウム、又は滅菌水及び塩化ナトリウム/リン酸ナトリウムの混合物が挙げられるがこれらに限定されない)が乾燥製剤の約40質量%まで、好ましくは20~35質量%添加される。
【0061】
いくつかの実施形態(すなわち、式III)については、約37質量%の質量パーセントで水を添加することにより、極めて作業しやすく接着特性が優れ、注射器を通して容易に注入可能なクリーム状の質感の材料が得られることがわかっている。
【0062】
示された範囲は、様々な充填剤、等価物、その他の成分の添加、又はその他の理由により変化する場合がある。
【0063】
MKP(MKP等価物、組み合わせ、及び/又は代替物)と金属酸化物(すなわち、マグネシア)との比は、質量パーセント比に換算して、約4:1~0.5:1、又は約3:1~1:1であってもよい。狭い範囲では、未反応のマグネシウムが生体接着剤のインビボでの膨張性特性に少なくとも部分的に関与していると推測される。
【0064】
特に、金属酸化物(すなわち、酸化マグネシウム)は、水及び血清と、生体組織内及びその周囲で反応して、Mg(OH)2及びマグネシウム塩を産生する。材料のいくつかの実施形態は、一般に、水分中での硬化中に体積の0.15~0.20%まで膨張することがわかっている。材料の膨張は、材料の接着特性を増加させると考えられている。
【0065】
リン酸二水素カリウム(MKP)を使用する場合、潜在的に危険なイオンの放出を制御してマトリックスをより生体適合性にするために、リン酸ナトリウムをマトリックスに添加することもできる。この目的で使用する場合、リン酸ナトリウムは、所望の量のイオン(すなわち、カリウムイオン)を捕捉するのに十分な量で添加することができる。リン酸ナトリウム(すなわち、リン酸一ナトリウム)は、典型的には、約20質量%まで、約10質量%まで、又は約5質量%まで添加される。他のナトリウム化合物もこの点で有用であることを証明し得る。
【0066】
V.第三リン酸カルシウム
第三リン酸カルシウムは、生体材料の生体適合性及び生体吸収性をいずれも高めるので、本発明の組成物に使用することができる。適切なリン酸三カルシウムとしては、α-Ca3(PO4)2、β-Ca3(PO4)2、及びCa10(PO4)6(OH)2が挙げられる。好ましい第三リン酸カルシウムは、Astaris社(ミズーリ州、セントルイス)によって製造されている医薬又は食品グレードのリン酸三カルシウムである。
【0067】
第三リン酸カルシウムに加え、他のカルシウム含有化合物を添加することができる。一般に、適切なカルシウム含有化合物としては、リン酸三カルシウム、二相性リン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、非晶質リン酸カルシウム(「ACP」)、CaSiO3、オキシアパタイト(「OXA」)低結晶アパタイト(「PCA」)、リン酸八カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、メタリン酸カルシウム、メタリン酸ヘプタカルシウム、ピロリン酸カルシウム、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。他のカルシウム含有化合物としては、ACP、リン酸二カルシウム、CaSiO3、リン酸二カルシウム二水和物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0068】
カルシウム含有化合物は、生体接着剤の生体適合性及び生体吸収性を高める。しかし、カルシウム含有化合物は、その生体吸収性及び生体適合性の程度に差がある。また、様々なリン酸三カルシウム化合物の中でさえ特性が変化する。
【0069】
材料の生体適合性及び生体吸収特性を操作するために、様々なカルシウム含有化合物を組み合わせることが有利な場合がある。例えば、Ca10(PO4)6(OH)2(「HA」)は生理的条件下で安定であり、比較的吸収が劣る傾向があるが、β-Ca3(PO4)2はより容易に吸収される。この2種類を組み合わせて(二相性リン酸カルシウム)、HA及びβ-Ca3(PO4)2の間のある特性を有する混合物を形成することができる。
【0070】
VI.糖類、糖代用物、甘味料、炭水化物及び等価物
本発明者らは、いくつかの糖含有生体材料が、接着能力を向上するだけでなく、かなりの骨増殖特性を有することを発見した。スクロースのような糖は、他の糖類及び糖関連化合物と共に使用され、又はそれらで置き換え又は補足され得ると考えられる。
【0071】
適切な糖類又は糖関連化合物としては、糖、糖誘導体(すなわち、糖アルコール、天然及び人工の甘味料(すなわち、アセスルファム-K、アリテーム、アスパルテーム、シクラメート、ネオヘスペリジン、サッカリン、スクラロース及びソーマチン)、糖酸、アミノ糖、糖ポリマー、グリコサミノグリカン、糖脂質、糖ポリマー、スクラロース(すなわち、Splenda(登録商標)、McNeil Nutritionals LLC社, Ft.ペンシルバニア州ワシントン)のような糖代用物を含む糖代用物、コーンシロップ、蜂蜜、デンプン及び種々の炭水化物含有物質等を含む糖質物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
例示的な糖類としては、スクロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、デキストロース、マンノース、アラビノース、ペントース、ヘキソースが挙げられるが、これらに限定されない。糖添加物は、多糖類又はスクロースのような二糖類でもよい。一実施形態では、糖はデンプンのような流動剤と併用される。例示的な添加剤は、約97質量%のスクロース及び約3質量%のデンプンである。
【0073】
糖化合物は、他の成分と同様に、乾燥形態(すなわち、顆粒、粉末等)、水性形態、ペースト、及びゲル等の様々な形態でもよいが、これらに限定されない。粉末形態を使用することが好ましいことが証明される可能性がある。
【0074】
本発明者は、本発明の糖質含有生体材料が驚くほど良好な接着性を有することを示した。糖は、セメントの物体に対する物理的(場合によっては化学的)結合を改善する可能性があると考えられる。他の生体材料の骨増殖特性は、特定の糖類(本明細書に開示)の添加により向上する可能性があると考えられる。PMMA系及び/又はリン酸塩系材料等の先行技術及び将来の生体材料に糖化合物を添加することにより、それらの骨刺激特性を強化し得る。
【0075】
驚くことに、そして予想外に、本開示の組成物及び方法が、追加の物理的固定用具を必要とすることなく、2つの隣接する骨構造の癒合を促進することが発見された。更に、本開示の組成物及び方法は、再吸収性を改善し、多孔性を増大し、凝集力を改善させることが発見された。この結果は、リン酸カルシウムセメントが再吸収され得ないことを示した最近の研究からは特に驚くべきものであった。この組成物のリン酸塩成分は、多孔性を増大させ得る。多孔性が増大することにより、損傷した組織の再生や骨の内部成長のための細胞や成長因子を取り込むのに適した微小環境を提供する足場ができる。足場は一般的に、栄養及び酸素の拡散、老廃物の除去を促進するために、相互に接続された細孔ネットワークを有する高多孔性のものである。この足場は、吸収性を促進することにもなる。組成物の糖成分により、接着性を付与することができる。この生成物の配置は、ある程度の大きさの骨の空隙にあるため、接着性が望まれる。接着性により、この生成物は両面に接着し、細胞が骨を再生するための足場を創製できるようになる。
【0076】
VII.骨補填材
一実施形態では、本発明の組成物は、骨代用材及び骨形成のためのプラットフォームを提供する。この物質の利点は、接触した構造物に対する拒絶又は反応なしに、身体によって緩やかに吸収されることである。本発明の組成物のさらなる利点は、その著しい骨増殖性である。実際、本発明者らは、本発明の組成物が、成長因子を使用しない多目的生体材料としては全く予想外で前例のない、骨誘導性も有すると思われるような驚くべき程度に、骨形成を促進することを実証した研究を実施してきた。また、生体材料は、ミクロ及びマクロの孔を有すると考えられる。意外なことに、初期試験により、本明細書に記載の生体材料組成物は、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造をさせ得ることが示されている。
【0077】
本開示の実施形態は、追加の物理的固定用具を必要とせずに隣接する骨構造を癒合させるためのプレート又は他の構造の成形に使用するのに適した独特の特性を有することも示されている。
【0078】
VIII.さらなる実施形態
本明細書に開示された製剤は、追加の充填剤、添加剤及び補助材料を組み込んでいてもよい。補助材料は、予測される用途により、様々な量及び様々な物理的形態で生体材料に添加してもよい。補助材料は、様々な方法で生体材料を変化させるために使用することができる。
【0079】
補助材料、添加剤、及び充填剤は、好ましくは、生体適合性及び/又は生体吸収性である。場合によっては、材料は、骨伝導性及び/又は骨誘導性であることが望ましい場合もある。適切な生体適合性補助材料としては、生物活性ガラス組成物、硫酸カルシウム、サンゴ藻、ポリアティックポリマー(polyatic polymers)、ペプチド、脂肪酸、コラーゲン、グリコーゲン、キチン、セルロース、デンプン、ケラチン、核酸、グルコサミン、コンドロイチン、並びに変性及び/又は脱灰骨マトリクス、並びに他の材料、薬剤及び移植片(自家移植片、同種移植片、異種移植片)が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な補助材料としては、Leeに発行された米国特許第6,331,312号、及びConstanzに発行された米国特許第6,719,992号に開示されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0080】
本発明の別の実施形態では、生体材料は、生体内の材料の画像化を可能にするX線検査用材料を含む。適切なX線検査用材料としては、酸化バリウム及びチタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
更に別の実施形態では、本発明の生体材料は、組成物の硬化時間を調節するための硬化遅延剤又は促進剤を含む。硬化調整剤は、生体適合性であることが好ましい。適切な遅延剤としては、塩化ナトリウム、フルオロケイ酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ホウ酸塩、ホウ酸、ホウ酸エステル及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
開示された生体材料はまた、様々な程度の多孔性を有するように調製され得る。多孔性の調節は、乾燥反応物の粒径の制御、並びに化学的及び物理的エッチング及び浸出等の、様々な手段によって達成することができる。好ましい実施形態では、1~20質量%、好ましくは約1~5質量%の再吸収剤を添加することによって、生体材料の多孔性が増大する。適切な再吸収剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、重曹、ベーキングパウダー、及びこれらの組合せ等の炭酸塩及び重炭酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
生物学的活性化合物を生体材料(すなわち、抗生物質、成長因子、細胞等)に組み込むことにより、生体材料を送達システムとして使用することができる。多孔質の生体接着剤は、このような送達システムの有効性を高める。
【0084】
様々な抗生物質又は他の抗細菌及び抗ウイルス組成物、並びに薬剤を組成物に添加することができる。本発明の生体材料は、送達デバイスとして機能することができ、又は抗生物質を添加して手術中の細菌感染に対して保護することができる。
【0085】
カチオン性抗生物質、特にアミノグリコシド及び特定のペプチド抗生物質は、薬剤を生体材料に組み込む場合に最も望ましいものである可能性がある。適切なアミノグリコシドとしては、アミカシン、ブチロシン、ジデオキシカナマシン、フォルチマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、リビドマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、リボスタマイシン、サガマイシン、セルドマイシン及びそのエピマー、シソマイシン、ソルビスチン、スペクチノマイシン並びにトブラマイシンが挙げられるが、これらに限定されない。硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩のような無機塩を使用することが好ましい場合があり、硫酸塩が最も好ましい。生体材料中の抗生物質及び成長因子の使用に関するさらなる情報は、Wenzに発行された米国特許第6,485,754号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。成長因子としては、トランスフォーミング成長因子TGF-βのような成長因子が挙げられるが、これに限定されない。バンコマイシン及び同様の抗生物質も使用することができる。
【0086】
開示された生体材料組成物には、様々な生細胞又は細胞株を播種することができる。細胞を採取し、維持し、調製するためのあらゆる既知の方法を使用することができる。Constanzに発行された米国特許6,719,993号、Pughに発行された米国特許第6,585,992号、及びLeeに発行された米国特許第6,544,290号を参照されたい。
【0087】
本発明者らは、本発明の組成物は、硬組織の成長のための足場として極めて有用であり、場合によっては軟組織の成長も可能であることを示した。更に、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、軟骨産生細胞、及び幹細胞を含むが、これらに限定されない組織産生細胞及び組織分解細胞を組成物に添加してもよい。このような細胞を単離し、培養する方法は、当技術分野でよく知られている。
【0088】
本発明の組成物は、乾燥形態の材料(すなわち、MKP、金属酸化物、カルシウム含有化合物等)、活性化剤溶液(水又は他の水溶液)、及び本発明の組成物を使用した手術中に必要な任意の医療機器(すなわち、注射器、ナイフ、混合材料、スパチュラ等)、インプラント、又は他の薬剤を含む整形外科用キットに組み込むことが可能である。材料及び活性化剤溶液は、好ましくは、所定の最適化された比率で存在している。このような整形外科用キットの他の実施形態も想定され得る。生体材料及び他のキット構成要素は、好ましくは、当技術分野でよく知られた技術によって滅菌される。
【0089】
IX.方法例
頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための方法が本明細書に記載されている。この方法は、(a)患者の頭部において隣接する骨構造間に画定された空間にアクセスする工程;(b)マグネシア、リン酸二水素カリウム、及びリン酸カルシウムを水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;(c)有効量のABFSを、隣接する骨構造間の空間に適用する工程;(d)ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び(e)結合した骨構造への骨の成長を許容し、2つの隣接する骨構造の癒合をもたらす工程を含み、ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0090】
このような方法では、ABFSが骨に変化し、骨に改善された骨構造をもたらす。これに対し、従来のカルシウム系骨補填材は、骨が成長するための足場を提供するが、上記組成物のように骨に変化することはない。そのため、従来のカルシウム系骨補填材の骨細胞がなくなり、骨補填材が劣化して体内に再吸収されてしまう。このように、適用されたABFSは、時間の経過とともに骨に吸収され、置き換えられる。ABFSは、最初は構造的強度をもたらし、時間の経過とともに新しい骨の成長に置き換わり、隣接する2つの骨構造を癒合させる。本明細書に記載されるABFSの利点は、ABFSが実際に骨に変化して、それによって骨構造が改善されることである。更に、本明細書に記載のABFSは、ABFSに存在するマグネシウムにより、骨中の骨芽細胞の活性が上昇する。骨芽細胞は、骨の主要な細胞成分である。骨芽細胞は、間葉系幹細胞の特殊な末端分化産物である。ABFSは、骨の有機マトリックスを構成する、高密度で架橋されたコラーゲン、並びにオステオカルシン及びオステオポンチンを含む、非常に少量の特殊なタンパク質を合成する。このように、上記の方法は、頭蓋顎顔面手術において、物理的な固定用具を追加することなく骨を癒合する方法を含む。
【0091】
骨の内部の成長は非常に望ましく、頭蓋顎顔面手術においては特に重要である。頭蓋骨は、脳の外傷から硬膜を保護している。頭蓋顎顔面手術が完了すると、手術の空隙を埋めるために様々な種類の充填材及び金物(ネジ/プレート等)が必要になる。骨代用材又はリン酸カルシウムセメントによる補填材は、存在しないか不完全であり、頭蓋顎顔面手術の特殊な解剖学的構造に必要な結合力及び接着力を欠如している。また、リン酸カルシウムセメントは非常に脆く、取り扱い及び成形が困難であり、複数回破砕すると断片化し、欠落し、液体に溶解し、その後の再吸収が起こる。対照的に、マグネシウム系材料は、結合性及び接着性を有しており、上記のような問題点に抵抗しながら、骨の再構築及び治癒のウィンドウ内で骨誘導及び骨置換を行うことができる。これは頭蓋顎顔面手術の回復において、特に金物を使用する場合、金物材料では手術部位周辺の骨誘導ができないため、非常に有益である。
【0092】
本明細書で使用される場合、「頭蓋顎顔面手術」という用語は、頭部、頭蓋骨、顔面、首、顎及び関連構造物におけるあらゆる外科的処置として定義される。特に、そのような頭蓋顎顔面手術は、顔の再建手術、顔面外傷手術、口腔、頭頸部、口、及び顎、顔の美容整形手術、顎の腫瘍及び嚢胞の除去、構造に関連する顎及び顔の状態を矯正するための他の下顎矯正手術(顎矯正手術又は単に顎手術とも知られる)、成長、睡眠時無呼吸、顎関節症、骨格の不調和による不正咬合問題、又は歯列矯正器で容易に処置できないその他の矯正問題を修正するためのものが挙げられる。
【0093】
このように、一例では、隣接する骨構造は、頭頂骨、前頭骨、後頭骨、側頭骨を含むがこれらに限定されない、患者の頭蓋骨を構成する。別の例では、隣接する骨構造は、上顎骨及び下顎骨を含むがこれらに限定されない、患者の顎を構成する。更に別の例では、隣接する骨構造は、蝶形骨及び頬骨を含むがこれらに限定されない、患者のほお骨を構成する。本明細書に記載の方法の隣接する骨構造は、患者の頭部の他の骨構造を含んでいてもよい。
【0094】
本開示は、頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための別の方法を提供する。この方法は、(a)マグネシア、リン酸二水素カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸二水素カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;(b)乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;(c)有効量のABFSを、患者の頭部の隣接する骨構造間の部位に適用する工程;(d)ABFSを硬化させ、結合した骨構造を形成する工程;及び(e)結合した骨構造への骨の成長を許容し、隣接する骨構造の癒合をもたらす工程を含み、ABFSが、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0095】
本開示は、頭蓋顎顔面手術において骨を癒合させるための更に別の方法を提供する。この方法は、(a)マグネシア、リン酸二水素カリウム、及び第三リン酸カルシウムを含む乾燥マグネシウム含有混合物を供給する工程であって、リン酸二水素カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が約3:1~1:1の間である、工程;(b)乾燥マグネシウム含有混合物を水溶液と混合し、活性化骨癒合スラリー(ABFS)を形成する工程;(c)ABFSを型に適用する工程;(d)ABFSを型内で硬化させて剛性構造体を形成する工程;(e)患者の頭部の隣接する骨構造間に画定される空間にわたって剛性構造体を固定する工程;及び(f)隣接する骨構造の癒合をもたらす剛性構造体への骨の成長を許容する工程を含み、剛性構造体が、追加の物理的固定用具を必要とせずに、2つの隣接する骨構造の癒合を促進する。
【0096】
一例では、ABFSは、半剛性構造体を形成するように型に部分的にのみセットされる。
このような配置により、完全にセットして完全な剛性構造体を形成する前に、半剛性構造体を患者の特定の輪郭に合わせて成形することが可能である。
【0097】
一実施形態では、剛性構造体は、プレートを含む。従来の頭蓋顎顔面手術では、隣接する骨構造を固定するために、チタン又は他の剛性プレートが使用されている。上述したように、剛性構造体は、時間の経過とともに吸収され、骨に置き換えられる。剛性構造体は、最初は構造的強度をもたらし、時間の経過とともに、2つの隣接する骨構造を癒合する新たな骨成長で置き換えられる。本明細書に記載される剛性構造体の利点は、剛性構造体が実際に骨に変化して、それによって骨構造が改善されることである。更に、本明細書に記載される剛性構造体は、混合物中に存在するマグネシウムにより、骨中の骨芽細胞の活性が上昇する。骨芽細胞は、骨の主要な細胞成分である。骨芽細胞は、間葉系幹細胞の特殊な末端分化産物である。骨芽細胞は、骨の有機マトリックスを構成する、高密度で架橋されたコラーゲン、並びにオステオカルシン及びオステオポンチンを含む、非常に少量の特殊なタンパク質を合成する。
【0098】
別の実施形態では、剛性構造体は、追加的又は代替的に、骨構造に固定されるように構成されたねじを含んでいてもよい。そのような例では、型は、プレートに対応する第1の凹部、第1のねじに対応する第2の凹部、及び第2のねじに対応する第2の凹部を含んでいてもよい。プレートは、第1のねじを受け入れるように構成された第1の貫通孔を含んでもよく、プレートは、第2のねじを受け入れるように構成された第2の凹部を更に含んでいてもよい。このように、プレートは、患者の頭部において隣接する骨構造間に画定された空間に及んでいてもよく、プレートは、第1のネジを介して第1の骨構造に固定されていてもよく、プレートは、第2のネジを介して隣接する骨構造に更に固定されていてもよい。プレート、第1のネジ、及び第2のネジの各々は、同じ材料(例えば、マグネシア、リン酸カリウム、及び第三リン酸カルシウムであって、リン酸カリウムのマグネシアに対する質量パーセント比が3:1~1:1であり、水溶液と組み合わされて型内で硬化される)から構成されていてもよい。このように、プレート、第1のネジ、及び第2のネジの各々は、経時的に吸収されて骨に置き換えられる(例えば、骨に変化する)ように構成されていてもよい。
【0099】
X.結論
本発明の基本概念を説明したが、前述の詳細な開示は例示としてのみ提示されることを意図しており、限定するものではないことは当業者には明らかであろう。様々な変更、改良、及び修正が提案されることを意図しており、これらは本発明の範囲及び精神の範囲内である。更に、要素又は配列の列挙された順序、又は数字、文字若しくは他の呼称の使用は、特許請求の範囲に規定され得る以外の任意の順序に特許請求されたプロセスを制限することを意図していない。したがって、本発明は、以下の請求項及びその均等物によってのみ限定される。
【0100】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文書は、個々の刊行物又は特許文書が個別にそのように示されているのと同じ程度に、またそれらが本明細書の明示的教示と矛盾しない程度に、全ての目的のためにそれらの全体が参照により組み込まれる。
【国際調査報告】