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特表2023-528475遺伝子挿入用の複数のドックを有している細胞株
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】遺伝子挿入用の複数のドックを有している細胞株
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230627BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20230627BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/13
C12N15/867 Z
C12N15/85 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574570
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 US2021035403
(87)【国際公開番号】W WO2021247671
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】63/033,514
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/033,516
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510337517
【氏名又は名称】キャタレント ファーマ ソリューションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ブレック,グレゴリー,ティー.
(72)【発明者】
【氏名】クラヴィッツ,レイチェル,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ホール,チャド,エイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、核酸コンストラクトを挿入するための複数のドック部位を有している宿主細胞株に関する。核酸コンストラクトは、とりわけ、外来性の目的遺伝子を発現する核酸コンストラクトである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムを有している宿主細胞であって、
上記ゲノムは、1~500個の組込まれたドック部位を有しており、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
宿主細胞。
【請求項2】
上記ゲノムは、5~500個の組込まれたドック部位を有しており、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
上記ゲノムは、5~250個の組込まれたドック部位を有しており、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項4】
上記ゲノムは、5~100個の組込まれたドック部位を有しており、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項5】
上記ゲノムは、5~50個の組込まれたドック部位を有しており、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項6】
上記組込まれたドック部位は、上記ゲノムの中に独立して位置している、請求項1~5のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項7】
上記ドック部位挿入因子は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される酵素によって標的化されている、
請求項1~6のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項8】
上記ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子およびHDRドック部位挿入因子からなる群より選択される、
請求項1~7のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項9】
上記ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子である、
請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、付着部位(att)を有している、
請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
上記付着部位(att)は、attB、attP、attRおよびattLからなる群より選択される、
請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、LoxP配列を有している、
請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項13】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位である、
請求項9に記載の宿主細胞株。
【請求項14】
上記ドック部位挿入因子は、HDRドック部位挿入因子である、
請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項15】
上記HDRドック部位挿入因子は、1個または2個のドック部位ホモロジーアームを有している、
請求項14に記載の宿主細胞株。
【請求項16】
上記HDRドック部位挿入因子は、ガイドRNA配列に相同的な1つ以上の配列をさらに有している、
請求項15に記載の宿主細胞株。
【請求項17】
上記ドック部位ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である、
請求項15または16に記載の宿主細胞株。
【請求項18】
上記インテグラーゼドック部位挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している、
請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項19】
上記ドック部位の各々は、外来性組込みベクター配列と隣接している、
請求項1~18のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項20】
上記外来性組込みベクター配列は、ウイルスベクター配列およびトランスポゾンベクター配列からなる群より選択される、
請求項18に記載の宿主細胞株。
【請求項21】
上記ドック部位の各々は、プロモーターと作動可能に連結されており選択可能なマーカーをコードする配列を有しており、
請求項1~20のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項22】
上記宿主細胞株は、プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列を有しており、
請求項1~21のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項23】
上記プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、上記宿主細胞のゲノムに挿入されている、
請求項1~22のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項24】
上記プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、ドック部位に挿入されている、
請求項23に記載の宿主細胞株。
【請求項25】
上記プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、エピソーム系発現ベクターにおいて提供されるものである、
請求項1~22のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項26】
上記エピソーム系発現ベクターは、プラスミドである、
請求項25に記載の宿主細胞株。
【請求項27】
外来性の上記酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される、
請求項22~26のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項28】
上記ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである、
請求項27に記載の宿主細胞株。
【請求項29】
上記ニッカーゼは、Casニッカーゼである、
請求項27に記載の宿主細胞。
【請求項30】
上記ドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している、
請求項1~29のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項31】
上記ドック部位の各々は、2個のドック部位挿入因子を有している、
請求項1~30のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項32】
上記2個のドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している、
請求項31に記載の宿主細胞株。
【請求項33】
上記2個のドック部位挿入因子は、選択マーカー、酵素またはこれらの組合せをコードする配列と隣接している、
請求項31または32に記載の宿主細胞株。
【請求項34】
上記ドック部位の1つ以上に挿入されている核酸発現コンストラクトをさらに有している、
請求項1~33のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項35】
上記核酸発現コンストラクトは、選択マーカーと作動可能に連結されている第1プロモーターをさらに有している、
請求項34に記載の宿主細胞株。
【請求項36】
上記核酸発現コンストラクトは、目的タンパク質をコードする配列と作動可能に連結されている第2プロモーターをさらに有している、
請求項34に記載の宿主細胞株。
【請求項37】
上記核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有している、請求項34~36のいずれか1項に記載の宿主細胞株:
第1プロモーター配列;
選択マーカー配列;
第2プロモーター配列;
内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列。
【請求項38】
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子を有しており、
上記挿入因子は、上記第1プロモーターよりも5’側、上記ポリAシグナル配列よりも3’側、上記第1プロモーターと上記ポリAシグナル配列との間、上記選択マーカーと上記第2プロモーター配列との間、ならびに、上記第1プロモーターよりも5’および上記ポリAシグナル配列よりも3’側の両方からなる群より選択される1つ以上に位置している、
請求項34~37のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項39】
上記核酸発現コンストラクトは、上記選択マーカーと上記第2プロモーターとの間にポリAシグナル配列を有していない、
請求項34~38のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項40】
上記選択マーカーは、上記第2プロモーターに隣接している、
請求項34~39のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項41】
上記第2プロモーターは、上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列に隣接している、
請求項34~40のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項42】
上記核酸コンストラクトは、上記第1プロモーターと上記選択マーカーとの間に、拡張パッケージング領域(EPR)を有している、
請求項34~41のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項43】
上記EPRは、複数の潜在的なコザック配列および/またはATG翻訳開始部位を有している、
請求項42に記載の宿主細胞株。
【請求項44】
上記第1プロモーター配列は、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される、
請求項34~43のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項45】
上記第1プロモーター配列は、弱いプロモーター配列である、
請求項34~44のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項46】
上記第1プロモーター配列は、レトロウイルスのLTRプロモーターではない、
請求項34~45のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項47】
上記組込まれたドック部位は、外来性プロモーターをさらに有している、
請求項1~34のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項48】
上記外来性プロモーターは、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される、
請求項47に記載の宿主細胞株。
【請求項49】
上記プロモーターは、レトロウイルスのLTRである、
請求項48に記載の宿主細胞株。
【請求項50】
上記レトロウイルスのLTRは、SIN-LTRである、
請求項49に記載の宿主細胞株。
【請求項51】
上記ドック部位の各々は、
上記ドック部位の5’側にSIN-LTR EPRを有しており、
上記ドック部位の3’側にSIN-LTRを有している、
請求項50に記載の宿主細胞株。
【請求項52】
上記ドック部位の1つ以上に挿入されている、核酸発現コンストラクトをさらに有している、
請求項47~51のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項53】
上記核酸発現コンストラクトは、目的タンパク質をコードする配列と作動可能に連結されている第2プロモーターを有している、
請求項52に記載の宿主細胞株。
【請求項54】
上記核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有している、請求項1~34、47~52のいずれか1項に記載の宿主細胞株:
選択マーカー配列;
内在性プロモーター配列;
内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列。
【請求項55】
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、
上記挿入因子は、上記選択マーカー配列よりも5’側、上記ポリAシグナル配列よりも3’側、上記選択マーカー配列と上記ポリAシグナル配列との間、上記選択マーカーと上記内在性プロモーター配列との間、ならびに、上記選択マーカー配列よりも5’側および上記ポリAシグナル配列よりも3’側の両方からなる群より選択される1つ以上に位置している、
請求項52~54のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項56】
上記核酸発現コンストラクトは、上記選択マーカーと上記第2プロモーターとの間にポリAシグナル配列を有していない、
請求項52~55のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項57】
上記選択マーカーは、上記内在性プロモーター配列に隣接している、
請求項54~56のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項58】
上記内在性プロモーター配列は、上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列に隣接している、
請求項54~56のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項59】
上記内在性プロモーター配列は、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される、
請求項54~58のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項60】
上記選択マーカー配列は、グルタミンシンターゼ(GS)配列およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)配列からなる群より選択される増殖可能性に関する選択マーカー配列である、
請求項34~59のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項61】
上記選択マーカー配列は、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)配列、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子配列およびプロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子配列からなる群より選択される抗生物質耐性マーカー配列である、
請求項34~59のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項62】
上記第2プロモーター配列は、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される、
請求項34~61のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項63】
上記目的タンパク質をコードする核酸配列は、重鎖免疫グロブリン配列および軽鎖免疫グロブリン配列からなる群より選択されるタンパク質をコードする、
請求項34~62のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項64】
上記挿入因子は、リコンビナーゼ挿入因子およびHDR挿入因子からなる群より選択される、
請求項34~63のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項65】
上記発現コンストラクト挿入因子は、上記リコンビナーゼドック部位挿入因子に適合するリコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子である、
請求項64に記載の宿主細胞株。
【請求項66】
上記リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、付着部位(att)である、
請求項65に記載の宿主細胞株。
【請求項67】
上記付着部位(att)は、attPおよびattBからなる群より選択される、
請求項66に記載の宿主細胞株。
【請求項68】
上記リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、Flp組換え標的部位(FRT)である、
請求項64に記載の宿主細胞株。
【請求項69】
上記リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、LoxP配列である、
請求項64に記載の宿主細胞株。
【請求項70】
上記発現コンストラクト挿入因子は、上記HDRドック部位挿入因子に適合するHDR発現コンストラクト挿入因子である、
請求項64に記載の宿主細胞株。
【請求項71】
上記HDR発現コンストラクト挿入因子は、1個または2個の上記ドック部位ホモロジーアームに適合するかまたは相同的である、1個または2個の発現コンストラクトホモロジーアームである、
請求項70に記載の宿主細胞株。
【請求項72】
上記ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である、
請求項71に記載の宿主細胞株。
【請求項73】
上記リコンビナーゼ発現コンストラクトは、上記第1プロモーターよりも5’側および上記ポリAシグナル配列よりも3’側に位置している2個のホモロジーアームを有している、
請求項72に記載の宿主細胞株。
【請求項74】
上記HDR発現コンストラクト挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している、
請求項70に記載の宿主細胞株。
【請求項75】
上記核酸発現コンストラクトは、第1RNA輸送因子をさらに有している、
請求項34~74のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項76】
上記第1RNA輸送因子は、上記目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側または5’側に位置している、
請求項75に記載の宿主細胞株。
【請求項77】
上記第1RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である、
請求項76に記載の宿主細胞株。
【請求項78】
上記第1RNA輸送因子は、転写後調節因子(PRE)である、
請求項76に記載の宿主細胞株。
【請求項79】
上記PRE RNA輸送因子は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)である、
請求項78に記載の宿主細胞株。
【請求項80】
上記核酸発現コンストラクトは、第2目的タンパク質をコードする核酸配列をさらに有している、
請求項34~79のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項81】
上記第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている、
請求項80に記載の宿主細胞株。
【請求項82】
上記第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である、
請求項81に記載の宿主細胞株。
【請求項83】
上記第2RNA輸送因子は、転写後調節因子(PRE)である、
請求項82に記載の宿主細胞株。
【請求項84】
上記PRE RNA輸送因子は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)である、
請求項83に記載の宿主細胞株。
【請求項85】
上記第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している、
請求項80~84のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項86】
上記第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択されるIRES配列と作動可能に関連付けられている、
請求項85に記載の宿主細胞株。
【請求項87】
上記核酸発現コンストラクトは、上記第1目的タンパク質と作動可能に連結されているシグナルペプチド配列をさらに有している、
請求項34~86のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項88】
上記シグナルペプチド配列は、組織プラスミノーゲン活性化因子シグナルペプチド配列、ヒト成長ホルモンシグナルペプチド配列、ラクトフェリンシグナルペプチド配列、α-カゼインシグナルペプチド配列およびα-ラクトアルブミンシグナルペプチド配列からなる群より選択される、
請求項87に記載の宿主細胞。
【請求項89】
上記核酸発現コンストラクトは、タンパク質精製マーカー配列をさらに有している、
請求項34~88のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項90】
上記タンパク質精製マーカー配列は、ヘキサヒスチジンタグまたは血球凝集素(HA)タグである、
請求項89に記載の宿主細胞株。
【請求項91】
上記核酸コンストラクトは、ウイルスベクターをコードする、
請求項1~34、47~52のいずれか1項に記載の宿主細胞株。
【請求項92】
上記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターからなる群より選択される、
請求項91に記載の宿主細胞株。
【請求項93】
上記レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである、
請求項92に記載の宿主細胞株。
【請求項94】
上記宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、CAP細胞、ウシ乳腺上皮細胞、SV40で形質転換したサル腎臓CV1細胞株、ベビーハムスター腎細胞、マウスセルトリ細胞、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞、ヒト子宮頚癌細胞、イヌ腎細胞、バッファローラット肝細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝細胞、マウス乳癌、TRI細胞、MRC-5細胞、FS-4細胞、ラット線維芽細胞、MDBK細胞およびヒト肝細胞癌細胞株からなる群より選択される、
請求項1~93のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項95】
上記宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、CAP細胞からなる群より選択される、
請求項94に記載の宿主細胞。
【請求項96】
上記宿主細胞株は、GSノックアウト細胞株である、
請求項94または95に記載の宿主細胞。
【請求項97】
上記宿主細胞株は、DHFRノックアウト細胞株である、
請求項94または95に記載の宿主細胞株。
【請求項98】
上記宿主細胞は、少なくとも第2目的タンパク質をコードしており、それを発現させる第2核酸コンストラクトを少なくともさらに有しており、
上記第2核酸コンストラクトは、選択マーカーを有していない、
請求項34~90、94~97のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項99】
上記宿主細胞は、第2目的タンパク質をコードしており、それを発現させる第2核酸コンストラクトを少なくともさらに有しており、
上記第2核酸コンストラクトは選択マーカーを有しており、当該選択マーカーは上記第1核酸コンストラクトが有している選択マーカーとは異なっている、
請求項34~90、94~97のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項100】
第1ベクターが有している上記第1目的タンパク質は、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖のうち一方であり、
第2ベクターが有している上記第2タンパク質は、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖のうち他方である、
請求項98または99に記載の宿主細胞。
【請求項101】
上記第1目的タンパク質は、免疫グロブリンの重鎖であり、
上記第2目的タンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖である、
請求項100に記載の宿主細胞。
【請求項102】
上記第2核酸コンストラクトは、ドック部位の1つ以上に挿入されている、
請求項99に記載の宿主細胞株。
【請求項103】
上記エピソーム系発現ベクターの挿入された核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:1000)~(1:10)である、
請求項25に記載の宿主細胞株。
【請求項104】
上記エピソーム系発現ベクターの挿入された核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:100)~(1:750)である、
請求項25に記載の宿主細胞株。
【請求項105】
上記エピソーム系発現ベクターの挿入された核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:400)~(1:600)である、
請求項25に記載の宿主細胞株。
【請求項106】
請求項1~105のいずれか1項に記載の宿主細胞を含んでいる、細胞培養物。
【請求項107】
上記細胞培養物は、マスター細胞培養物である、
請求項106に記載の細胞培養物。
【請求項108】
請求項34~90、94~107のいずれか1項に記載の宿主細胞を、目的タンパク質が発現する条件で培養する工程と、
上記宿主細胞の培養物から上記目的タンパク質を精製する工程と、
を有する、目的タンパク質の作製方法。
【請求項109】
上記宿主細胞を、選択マーカーの阻害剤を含んでいる培地で成長させる、
請求項108に記載の作製方法。
【請求項110】
上記選択マーカーは、GSであり、
上記阻害剤は、ホスフィノトリシンまたはメチオニンスルホキシイミン(Msx)である、
請求項109に記載の作製方法。
【請求項111】
上記選択マーカーは、DHFRであり、
上記阻害剤は、メトトレキサートである、
請求項109に記載の作製方法。
【請求項112】
請求項91~93のいずれか1項に記載の宿主細胞を、ウイルスベクターが発現する条件で培養する工程と、
上記宿主細胞の培養物から上記ウイルスベクターを精製する工程と、
を有する、ウイルスベクターの作製方法。
【請求項113】
請求項1~37、47~51、94~97のいずれか1項に記載の宿主細胞と、
1つ以上の核酸発現コンストラクトであって、5’側から3’側の順に作動可能に関連している下記の因子を有している、核酸発現コンストラクトと、
選択マーカー配列;
内在性プロモーター配列;
上記内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列;
を含んでいるシステムであって、
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、
上記発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合して、上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する、
システム。
【請求項114】
上記1つ以上の核酸発現コンストラクトは、上記選択マーカー配列よりも5’側に、5’プロモーター配列をさらに有している、
請求項113に記載のシステム。
【請求項115】
上記核酸発現コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである、
請求項113に記載のシステム。
【請求項116】
上記ベクターは、プラスミドベクターである、
請求項113に記載のシステム。
【請求項117】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトをさらに有している、
請求項113に記載のシステム。
【請求項118】
上記酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される、
請求項117に記載のシステム。
【請求項119】
上記ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである、
請求項118に記載のシステム。
【請求項120】
上記ニッカーゼは、Casニッカーゼである、
請求項118に記載のシステム。
【請求項121】
1つ以上のRNAガイド配列をさらに有している、
請求項119または120に記載のシステム。
【請求項122】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである、
請求項117~121のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項123】
上記ベクターは、上記核酸発現コンストラクトが含まれているベクターとは異なるベクターである、
請求項122に記載のシステム。
【請求項124】
上記ベクターは、上記核酸発現コンストラクトが含まれているベクターと同じベクターである、
請求項122に記載のシステム。
【請求項125】
異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトを有している、
請求項113~124のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項126】
上記第2核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有しており:
選択マーカー配列;
内在性プロモーター配列;
上記内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列;
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子を有しており、
上記発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合して、上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する、
請求項125に記載のシステム。
【請求項127】
上記異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトは、別々のベクターにおいて提供される、
請求項125または126に記載のシステム。
【請求項128】
上記核酸発現コンストラクトは、少なくとも第2目的タンパク質をコードする核酸配列をさらに有している、
請求項113~124のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項129】
上記第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている、
請求項128に記載のシステム。
【請求項130】
上記第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である、
請求項129に記載のシステム。
【請求項131】
上記第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している、
請求項128~130のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項132】
上記IRES配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択される、
請求項129に記載のシステム。
【請求項133】
請求項1~37、47~51、94~97のいずれか1項に記載の宿主細胞を提供する工程と、
核酸発現コンストラクトが上記ドック部位に挿入される条件において、第1目的タンパク質をコードする1つ以上の核酸発現コンストラクトを上記宿主細胞に導入する工程と、
を有する方法であって、
上記核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を少なくともさらに有しており、
選択マーカー配列;
内在性プロモーター配列;
上記内在性プロモーターと作動可能に連結されており上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列;
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、
上記発現コンストラクト挿入因子は、上記ドック部位挿入因子に適合して、上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する、
方法。
【請求項134】
上記1つ以上の核酸発現コンストラクトは、上記選択マーカー配列よりも5’側に、5’プロモーター配列をさらに有している、
請求項133に記載の方法。
【請求項135】
上記核酸発現コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである、
請求項133に記載の方法。
【請求項136】
上記ベクターは、プラスミドベクターである、
請求項127に記載の方法。
【請求項137】
上記ベクターを、上記宿主細胞に一過的に導入する、
請求項135または136に記載の方法。
【請求項138】
上記宿主細胞株は、上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトを有している、
請求項133~137のいずれか1項に記載の方法。
【請求項139】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトを、上記宿主細胞に一過的に導入する工程をさらに有する、
請求項133~137のいずれか1項に記載の方法。
【請求項140】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである、
請求項139に記載の方法。
【請求項141】
上記ベクターは、プラスミドベクターである、
請求項139に記載の方法。
【請求項142】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、上記宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:1000)~(1:10)である、
請求項139~141のいずれか1項に記載の方法。
【請求項143】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、上記宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:100)~(1:750)である、
請求項139~141のいずれか1項に記載の方法。
【請求項144】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、上記宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:400)~(1:600)である、
請求項139~141のいずれか1項に記載の方法。
【請求項145】
上記酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される、
請求項138~144のいずれか1項に記載の方法。
【請求項146】
上記ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである、
請求項145に記載の方法。
【請求項147】
上記ニッカーゼは、Casニッカーゼである、
請求項145に記載の方法。
【請求項148】
1つ以上のRNAガイド配列を上記宿主細胞に導入する工程をさらに有する、
請求項146または147に記載の方法。
【請求項149】
上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである、
請求項138~148のいずれか1項に記載の方法。
【請求項150】
上記ベクターは、上記核酸発現コンストラクトを有するベクターとは異なるベクターである、
請求項149に記載の方法。
【請求項151】
上記ベクターは、上記核酸発現コンストラクトを有するベクターと同じベクターである、
請求項149に記載の方法。
【請求項152】
異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトを上記宿主細胞に導入する工程をさらに有する、
請求項133~151のいずれか1項に記載の方法。
【請求項153】
上記異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトは、別々のベクターにおいて提供される、
請求項152に記載の方法。
【請求項154】
上記第2核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有しており、
選択マーカー配列;
内在性プロモーター配列;
上記内在性プロモーターと作動可能に連結されており、第1目的タンパク質をコードする核酸配列;
ポリAシグナル配列;
上記核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、
上記発現コンストラクト挿入因子は、上記ドック部位挿入因子に適合して、上記ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する、
請求項152または153に記載の方法。
【請求項155】
上記核酸発現コンストラクトは、少なくとも第2目的タンパク質をコードする核酸配列をさらに有している、
請求項133~151のいずれか1項に記載の方法。
【請求項156】
上記第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている、
請求項155に記載の方法。
【請求項157】
上記第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である、
請求項156に記載の方法。
【請求項158】
上記第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、上記第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している、
請求項155または156に記載の方法。
【請求項159】
上記IRES配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択される、
請求項156に記載の方法。
【請求項160】
複数のドック部位を宿主細胞のゲノムに挿入する工程を有する、宿主細胞株の作製方法であって、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
方法。
【請求項161】
上記挿入する工程は、ウイルスベクターおよびトランスポゾンベクターからなる群より選択されるベクターを介してドック部位を挿入する工程を有する、
請求項160に記載の方法。
【請求項162】
上記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターである、
請求項161に記載の方法。
【請求項163】
1~500個の組込まれたドック部位を挿入し、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項160に記載の方法。
【請求項164】
5~500個の組込まれたドック部位を挿入し、
上記ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している、
請求項160に記載の方法。
【請求項165】
上記組込まれたドック部位は、上記ゲノムの中に独立して挿入されている、
請求項160に記載の方法。
【請求項166】
上記ドック部位挿入因子は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される酵素によって標的化されている、
請求項160~165のいずれか1項に記載の方法。
【請求項167】
上記ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子およびHDRドック部位挿入因子からなる群より選択される、
請求項160~166のいずれか1項に記載の方法。
【請求項168】
上記ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子である、
請求項167に記載の方法。
【請求項169】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、付着部位(att)を有している、
請求項168に記載の方法。
【請求項170】
上記付着部位(att)は、attBおよびattPからなる群より選択される、
請求項169に記載の方法。
【請求項171】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、LoxP配列を有している、
請求項169に記載の方法。
【請求項172】
上記リコンビナーゼドック部位挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位である、
請求項169に記載の方法。
【請求項173】
上記ドック部位挿入因子は、HDRドック部位挿入因子である、
請求項167に記載の方法。
【請求項174】
上記HDRドック部位挿入因子は、1個または2個のドック部位ホモロジーアームを有している、
請求項172に記載の方法。
【請求項175】
上記HDRドック部位挿入因子は、ガイドRNA配列に相同的な1つ以上の配列をさらに有している、
請求項174に記載の方法。
【請求項176】
上記ドック部位ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である、
請求項174または175に記載の方法。
【請求項177】
上記インテグラーゼドック部位挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している、
請求項172に記載の方法。
【請求項178】
上記ドック部位の各々は、挿入に伴い、外来性組込みベクター配列に隣接するようになる、
請求項160~176のいずれか1項に記載の方法。
【請求項179】
上記外来性組込みベクター配列は、ウイルスベクター配列およびトランスポゾンベクター配列からなる群より選択される、
請求項178に記載の方法。
【請求項180】
上記ドック部位の各々は、プロモーターと作動可能に連結されている選択可能なマーカーをコードする配列をさらに有している、
請求項160~179のいずれか1項に記載の方法。
【請求項181】
上記ドック部位は、プロモーターを有している、
請求項160~180のいずれか1項に記載の方法。
【請求項182】
上記ドック部位の各々は、2個のドック部位挿入因子を有している、
請求項180または181に記載の方法。
【請求項183】
上記2個のドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している、
請求項182に記載の方法。
【請求項184】
上記2個のドック部位挿入因子は、選択マーカー、酵素またはこれらの組合せをコードする配列と隣接している、
請求項182または183に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、米国仮出願第63/033,516号(出願日:2020年6月2日)の利益を主張する。同出願の内容の全体は、参照により本明細書に組込まれる。
【0002】
本出願は、米国仮出願63/033,514号(出願日:2020年6月2日)の利益を主張する。同出願の内容の全体は、参照により本明細書に組込まれる。
【0003】
〔技術分野〕
本発明は、核酸コンストラクトを挿入するための複数のドック部位を有している宿主細胞株に関する。とりわけ、核酸コンストラクトは、外来性の目的遺伝子を発現する核酸コンストラクトである。
【背景技術】
【0004】
治療タンパク質医薬は、新規な療法が最も必要とされている患者に使用される医薬の重要な一分類である。様々な臨床的徴候(癌、自己免疫/炎症、感染性物質への曝露、遺伝性障害など)を処置するために、組換えタンパク質による療法が開発されている。最新のタンパク質工学技術により、医薬の開発者および製造者は、目的のタンパク質の機能特性を微調整して利用できるようになり、その一方で製品の安全性および/または有効性を維持できる(場合によっては向上できる)ようになった。
【0005】
治療タンパク質の製造および産生は、非常に複雑なプロセスである。例えば、典型的なタンパク質医薬の製造には、5000を超える重要な工程がある。これは、小分子医薬の製造に必要な工数よりも何倍も多い。
【0006】
同様に、タンパク質医薬(モノクローナル抗体、大型タンパク質、融合タンパク質など)の大きさは、小分子医薬よりも数桁大きくなり、分子量が100kDaを超えることがある。さらに、タンパク質医薬には、維持すべき複雑な二次構造および三次構造がある。タンパク質医薬は完全な化学プロセスでは合成できず、生きている細胞または生物において製造する必要がある。したがって、細胞株、起源種および培養条件はいずれも、最終産物の特性に影響を及ぼす。さらに、多くの生物活性を有しているタンパク質には翻訳後修飾が必要であるが、異種発現系を使用する場合には妥結しなければならないこともある。さらに、細胞または生物によって産物を合成するときには、複雑な精製工程が関与する。さらに、フィルタまたは樹脂を用いたウイルス粒子の除去のようなウイルスクリアランス工程や、低pHまたは洗浄剤を用いた不活性化工程を実施して、ウイルスによるタンパク質医薬物質の汚染という重大な安全性問題を防止する。分子サイズが大きく、翻訳後修飾を必要とし、製造において様々な生物材料が関与するという治療タンパク質の複雑性を考慮すると、製品の安全性および有効性を保ったまま、特定の機能をタンパク質工学によって向上させられる戦略が大いに望まれている。
【0007】
新規な戦略およびアプローチを統合してタンパク質医薬産物を改変することは些事ではない。潜在的な治療の利点は、医薬開発におけるこのような戦略の利用の増加に駆動されてきた。今日では、多数のタンパク質工学のプラットフォーム技術を利用して、循環半減期を延長させたり、標的化したり、新規な治療タンパク質医薬に機能を与えたりする他、産物の収率および純度を向上させている。例えば、今日では、タンパク質の複合体化および誘導体化のアプローチを利用して、医薬の循環半減期を延長している(Fc融合化、アルブミン融合化、PEG化など)。
【0008】
タンパク質医薬(生物製剤)の生産には、費用も時間もかかる。この技術分野に必要とされているのは、タンパク質医薬を製造するための、より効率的な道具およびプロセスである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、核酸コンストラクトを挿入するための複数のドック部位を有している宿主細胞株に関する。とりわけ、核酸コンストラクトは、外来性の目的遺伝子を発現させる核酸コンストラクトである。
【0010】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、ゲノムを有している宿主細胞(または宿主細胞集団)を提供する。このゲノムは1~1000個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、ゲノムは1~500個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、ゲノムは5~500個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、ゲノムは5~250個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、ゲノムは5~100個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、ゲノムは5~50個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、組込まれたドック部位は、ゲノムの中に独立して位置している。
【0011】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される酵素によって標的化されている。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子およびHDRドック部位挿入因子からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、付着部位(att)を有している。いくつかの好適な実施形態において、付着部位(att)は、attBおよびattPからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、付着部位(att)は、attRおよびattLからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、LoxP配列を有している。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位を有している。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、HDRドック部位挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、1個または2個のドック部位ホモロジーアームを有している。いくつかの好適な実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、ガイドRNA配列に相同的な1つ以上の配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である。いくつかの好適な実施形態において、インテグラーゼドック部位挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している。
【0012】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位の各々は、外来性組込みベクター配列に隣接している。いくつかの好適な実施形態において、外来性組込みベクター配列は、ウイルスベクター配列およびトランスポゾンベクター配列からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位の各々は、プロモーターと作動可能に連結されており選択可能なマーカーをコードする配列をさらに有している。
【0013】
いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞株は、プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、宿主細胞のゲノムに挿入されている。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、ドック部位に挿入されている。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターと作動可能に連結されており酵素をコードする外来性配列は、エピソーム系発現ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、エピソーム系発現ベクターは、プラスミドである。いくつかの好適な実施形態において、酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである。いくつかの好適な実施形態において、ニッカーゼは、Casニッカーゼである。
【0014】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位の各々は、2個のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、2個のドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している。いくつかの好適な実施形態において、2個のドック部位挿入因子は、選択マーカー、酵素またはこれらの組合せをコードする配列と隣接している。
【0015】
いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、ドック部位の1つ以上に挿入されている核酸発現コンストラクトをさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、目的タンパク質をコードする配列と作動可能に連結されている第2プロモーター(内在性プロモーター)を有している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、選択マーカーよりも5’側に位置しており、当該選択マーカーと作動可能に連結されている5’プロモーター(または、第1プロモーター)をさらに有している。
【0016】
いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有している:第1プロモーター配列(または、5’プロモーター配列);選択マーカー配列;第2プロモーター配列(または、内在性プロモーター配列);内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、当該挿入因子は、第1プロモーターよりも5’側、ポリAシグナル配列よりも3’側、第1プロモーターとポリAシグナル配列との間、選択マーカーと第2プロモーター配列との間、ならびに、第1プロモーターよりも5’側およびポリAシグナル配列よりも3’側の両方からなる群より選択される1つ以上に位置している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、選択マーカーと第2プロモーターとの間にポリAシグナル配列を有していない。いくつかの好適な実施形態において、選択マーカーは、第2プロモーターに隣接している。いくつかの好適な実施形態において、第2プロモーターは、第1目的タンパク質をコードする核酸配列に隣接している。いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、第1プロモーターと選択マーカーとの間に非コーディング領域を有している。いくつかの好適な実施形態において、非コーディング領域は、複数の潜在的なコザック配列および/またはATG翻訳開始部位を有している。いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、第1プロモーターと選択マーカーとの間に拡張パッケージング領域(EPR)を有している。いくつかの好適な実施形態において、EPRは、複数の潜在的なコザック配列および/またはATG翻訳開始部位を有している。
【0017】
いくつかの好適な実施形態において、第1プロモーター配列(5’プロモーター配列)は、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、第1プロモーター配列は、弱いプロモーター配列である。いくつかの好適な実施形態において、第1プロモーター配列は、レトロウイルスのLTRプロモーターではない。
【0018】
いくつかの好適な実施形態において、組込まれたドック部位は、組込まれた外来性プロモーターをさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターは、弱いプロモーターである。いくつかの好適な実施形態において、組込まれた外来性プロモーターは、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、組込まれたプロモーターは、レトロウイルスのLTRである。いくつかの好適な実施形態において、レトロウイルスのLTRは、SIN-LTRである。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位の各々は、ドック部位の5’側にSIN-LTR EPRを有しており、ドック部位の3’側にSIN-LTRを有している。いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、ドック部位の1つ以上に挿入されている核酸発現コンストラクトと、組込まれたプロモーターとを有している。
【0019】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位に組込まれた外来性プロモーターと共に細胞株において使用するための核酸発現コンストラクトは、目的タンパク質をコードする配列と作動可能に連結されている内在性プロモーター配列(第2プロモーター配列)を有している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を有している:選択マーカー配列、内在性プロモーター配列、内在性プロモーターと作動可能に連結されており第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有しており、当該挿入因子は、選択マーカー配列よりも5’側、ポリAシグナル配列よりも3’側、選択マーカー配列とポリAシグナル配列との間、選択マーカーと内在性プロモーター配列との間、ならびに、選択マーカー配列よりも5’側およびポリAシグナル配列よりも3’側の両方からなる群より選択される1つ以上に位置している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、選択マーカーと第2プロモーターとの間にポリAシグナル配列を有していない。いくつかの好適な実施形態において、選択マーカーは、内在性プロモーター配列に隣接している。いくつかの好適な実施形態において、内在性プロモーター配列は、第1目的タンパク質をコードする核酸配列に隣接している。いくつかの好適な実施形態において、内在性プロモーター配列は、SV40プロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される。
【0020】
いくつかの好適な実施形態において、上述のいずれかの発現コンストラクトに含まれている選択マーカー配列は、グルタミンシンターゼ(GS)配列およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)配列からなる群より選択される増殖可能性に関する選択マーカー配列である。いくつかの好適な実施形態において、選択マーカー配列は、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)配列、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子配列およびプロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子配列からなる群より選択される抗生物質耐性マーカー配列である。
【0021】
いくつかの好適な実施形態において、上述のいずれかの発現コンストラクトに含まれている第2プロモーター配列は、SV40プロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列からなる群より選択される。
【0022】
いくつかの好適な実施形態において、目的タンパク質をコードする核酸配列は、重鎖免疫グロブリン配列および軽鎖免疫グロブリン配列からなる群より選択されるタンパク質をコードする。
【0023】
いくつかの好適な実施形態において、上述の発現コンストラクトのいずれかに含まれている挿入因子は、リコンビナーゼ挿入因子およびHDR挿入因子からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子に適合するリコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、付着部位(att)である。いくつかの好適な実施形態において、付着部位(att)は、attPおよびattBからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位である。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼ発現コンストラクト挿入因子は、LoxP配列である。いくつかの好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、HDRドック部位挿入因子に適合するHDR発現コンストラクト挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、HDR発現コンストラクト挿入因子は、1個または2個のドック部位ホモロジーアームに適合するかまたは相同的である、1個または2個の発現コンストラクトホモロジーアームを有している。いくつかの好適な実施形態において、ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼ発現コンストラクトは、第1プロモーターよりも5’側かつポリAシグナル配列よりも3’側に位置している2個のホモロジーアームを有している。いくつかの好適な実施形態において、HDR発現コンストラクト挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している。いくつかの好適な実施形態において。
【0024】
いくつかの好適な実施形態において、上述のいずれかの実施形態における核酸発現コンストラクトは、第1RNA輸送因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、第1RNA輸送因子は、目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側または5’側に位置している。いくつかの好適な実施形態において、第1RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である。いくつかの好適な実施形態において、第1RNA輸送因子は、転写後調節因子(PRE)である。いくつかの好適な実施形態において、PRE RNA輸送因子は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)である。
【0025】
いくつかの好適な実施形態において、上述の実施形態のいずれかにおける核酸発現コンストラクトは、少なくとも第2目的タンパク質(第3目的タンパク質、第4目的タンパク質、第5目的タンパク質なども含まれる)をコードする核酸配列を有している。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列、およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている。いくつかの好適な実施形態において、第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である。いくつかの好適な実施形態において、好適な第3プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、第2RNA輸送因子は、転写後調節因子(PRE)である。いくつかの好適な実施形態において、PRE RNA輸送因子は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)である。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択されるIRES配列と作動可能に関連付けられている。
【0026】
いくつかの好適な実施形態において、上述の実施形態のいずれかにおける核酸発現コンストラクトは、第1目的タンパク質と作動可能に連結されているシグナルペプチド配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、シグナルペプチド配列は、組織プラスミノーゲン活性化因子シグナルペプチド配列、ヒト成長ホルモンシグナルペプチド配列、ラクトフェリンシグナルペプチド配列、α-カゼインシグナルペプチド配列およびα-ラクトアルブミンシグナルペプチド配列からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、タンパク質精製マーカー配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、タンパク質精製マーカー配列は、ヘキサヒスチジンタグまたは血球凝集素(HA)タグである。
【0027】
いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、(目的タンパク質の代わりに)ウイルスベクターをコードする。いくつかの好適な実施形態において、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0028】
いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、CAP細胞、ウシ乳腺上皮細胞、SV40で形質転換したサル腎臓CV1細胞株、ベビーハムスター腎細胞、マウスセルトリ細胞、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞、ヒト子宮頚癌細胞、イヌ腎細胞、バッファローラット肝細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝細胞、マウス乳癌、TRI細胞、MRC-5細胞、FS-4細胞、ラット線維芽細胞、MDBK細胞およびヒト肝細胞癌細胞株からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞およびCAP細胞からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞株は、GSノックアウト細胞株である。いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞株は、DHFRノックアウト細胞株である。
【0029】
いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、少なくとも第2目的タンパク質をコードしており、それを発現させる少なくとも第2核酸コンストラクトをさらに有しており、当該第2核酸コンストラクトは、選択マーカーを有していない。いくつかの好適な実施形態において、宿主細胞は、第2目的タンパク質をコードしており、それを発現させる少なくとも第2核酸コンストラクトをさらに有しており、当該第2核酸コンストラクトは、選択マーカーを有しており、当該選択マーカーは、第1核酸コンストラクトが有している選択マーカーとは異なっている。いくつかの好適な実施形態において、第1ベクターが有している第1目的タンパク質は免疫グロブリンの重鎖または軽鎖のうち一方であり、第2ベクターが有している第2タンパク質は免疫グロブリンの重鎖または軽鎖のうち他方である。いくつかの好適な実施形態において、第1目的タンパク質は免疫グロブリンの重鎖であり、第2目的タンパク質は免疫グロブリンの軽鎖である。いくつかの好適な実施形態において、第2核酸コンストラクトは、ドック部位の1つ以上に挿入されている。
【0030】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、上述の宿主細胞を含んでいる細胞培養物を提供する。いくつかの好適な実施形態において、細胞培養物は、マスター細胞培養物である。
【0031】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、目的タンパク質の作製方法を提供する。この作製方法は、目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトを有している上述の宿主細胞を当該目的タンパク質が発現する条件で培養する工程と、宿主細胞の培養物から目的タンパク質を精製する工程と、を有する。いくつかの好適な実施形態においては、選択マーカーの阻害剤を含んでいる培地で宿主細胞を増殖させる。いくつかの好適な実施形態において、選択マーカーはGSであり、阻害剤はホスフィノトリシンまたはメチオニンスルホキシイミン(Msx)である。いくつかの好適な実施形態において、選択マーカーはDHFRであり、阻害剤はメトトレキサートである。
【0032】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、ウイルスベクターの作製方法を提供する。この作製方法は、上述のウイルスベクターの発現コンストラクトを有している宿主細胞を当該ウイルスベクターが発現する(または、合成される)条件で培養する工程と、宿主細胞の培養物からウイルスベクターを精製する工程と、を有する。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明は、上述の宿主細胞または宿主細胞集団と、1つ以上の核酸発現コンストラクトとを含んでいるシステムを提供する。核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有している:選択マーカー配列;内在性プロモーター配列;内在性プロモーターと作動可能に連結されており、第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有している。発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合して、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する。いくつかの好適な実施形態において、1つ以上の核酸発現コンストラクトは、5’プロモーター配列よりも5’側に、選択マーカー配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、5’プロモーターは、弱いプロモーターである。いくつかの好適な実施形態において、好適な5’プロモーターの例としては、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、プラスミドベクターである。他の好適なベクターの例としては、コスミド、YACおよび小型環状コンストラクトが挙げられる。
【0034】
いくつかの好適な実施形態において、システムは、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトをさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである。いくつかの好適な実施形態において、ニッカーゼは、Casニッカーゼである。いくつかの好適な実施形態において、システムは、1つ以上のRNAガイド配列をさらに有している。
【0035】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、核酸発現コンストラクトが含まれているベクターとは異なるベクターである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、核酸発現コンストラクトが含まれているベクターと同じベクターである。
【0036】
いくつかの好適な実施形態において、システムは、異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトをさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、第2核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子をさらに有している:選択マーカー配列;内在性プロモーター配列;内在性プロモーターと作動可能に連結されており、第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有している。発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合して、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する。いくつかの好適な実施形態において、異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトは、別々のベクターにおいて提供される。いくつかの好適な実施形態において、好適な内在性プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0037】
いくつかの好適な実施形態において、システムに含まれている核酸発現コンストラクトは、少なくとも第2目的タンパク質(第3目的タンパク質、第4目的タンパク質、第5目的タンパク質などが含まれる)をコードする核酸配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列、およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている。いくつかの好適な実施形態において、好適な第3プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している。いくつかの好適な実施形態において、IRES配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択される。
【0038】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、方法を提供する。この方法は、上述の宿主細胞を提供する工程と、第1目的タンパク質をコードする1つ以上の核酸発現コンストラクトを、当該核酸発現コンストラクトがドック部位に挿入される条件において宿主細胞に導入する工程と、を有する。核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を少なくともさらに有している:選択マーカー配列;内在性プロモーター配列;内在性プロモーターと作動可能に連結されており、第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有している。発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合して、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する。いくつかの好適な実施形態において、好適な内在性プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0039】
いくつかの好適な実施形態において、1つ以上の核酸発現コンストラクトは、選択マーカー配列よりも5’側に5’プロモーター配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、プラスミドベクターである。他の好適なベクターの例としては、コスミド、YACおよび小型環状コンストラクトが挙げられる。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、宿主細胞に一過的に導入される。いくつかの好適な実施形態において、5’プロモーターは、弱いプロモーターである。いくつかの好適な実施形態において、好適な5’プロモーターの例としては、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0040】
いくつかの好適な実施形態において、方法において使用される宿主細胞株は、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトを有している。いくつかの好適な実施形態において、方法は、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトを、宿主細胞に一過的に導入する工程を有する。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、プラスミドベクターである。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:1000)~(1:10)である。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:100)~(1:750)である。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトの、宿主細胞株に一過的に導入される第1目的タンパク質をコードする核酸発現コンストラクトに対する比率は、(1:400)~(1:600)である。
【0041】
いくつかの好適な実施形態において、酵素は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼである。いくつかの好適な実施形態において、ニッカーゼは、Casニッカーゼである。いくつかの好適な実施形態において、方法は、1つ以上のRNAガイド配列を宿主細胞に導入する工程をさらに有する。
【0042】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位における核酸発現コンストラクトの挿入を促進する酵素をコードする核酸コンストラクトは、ベクターにおいて提供されるものである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、核酸発現コンストラクトが含まれているベクターとは異なるベクターである。いくつかの好適な実施形態において、ベクターは、核酸発現コンストラクトが含まれているベクターと同じベクターである。
【0043】
いくつかの好適な実施形態において、方法は、異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトを宿主細胞に導入する工程をさらに有する。いくつかの好適な実施形態において、異なる目的タンパク質をコードする少なくとも第2核酸発現コンストラクトは、別々のベクターにおいて提供される。いくつかの好適な実施形態において、第2核酸発現コンストラクトは、5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を有している:選択マーカー配列;内在性プロモーター配列;内在性プロモーターと作動可能に連結されており、第1目的タンパク質をコードする核酸配列;ポリAシグナル配列。核酸コンストラクトは、1つ以上の挿入因子をさらに有している。発現コンストラクト挿入因子は、ドック部位挿入因子に適合し、ドック部位における上記核酸発現コンストラクトの挿入を促進する。いくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、少なくとも第2目的タンパク質をコードする核酸配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、好適な内在性プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0044】
いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする核酸配列は、第3プロモーター、イントロン、第2RNA輸送因子、IRES配列、およびこれらの組合せからなる群より選択されるコンストラクト因子と作動可能に関連付けられている。いくつかの好適な実施形態において、好適な第3プロモーターの例としては、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、第2RNA輸送因子は、pre-mRNAプロセシングエンハンサー(PPE)である。いくつかの好適な実施形態において、第2目的タンパク質をコードする第2核酸配列は、第1目的タンパク質をコードする核酸配列よりも3’側に位置している。いくつかの好適な実施形態において、IRES配列は、口蹄疫ウイルス(FDV)IRES配列、脳心筋炎ウイルスIRES配列およびポリオウイルスIRES配列からなる群より選択される。
【0045】
いくつかの好適な実施形態において、本発明は、宿主細胞株の作製方法を提供する。この作製方法は、複数のドック部位を宿主細胞のゲノムに挿入する工程を有し、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、挿入する工程は、ウイルスベクターおよびトランスポゾンベクターからなる群より選択されるベクターによるドック部位の挿入を有する。いくつかの好適な実施形態において、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターである。いくつかの好適な実施形態においては、1~500個の組込まれたドック部位が挿入され、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態においては、5~500個の組込まれたドック部位が挿入され、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、組込まれたドック部位は、ゲノムの中に独立して挿入されている。
【0046】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼおよびニッカーゼからなる群より選択される酵素によって標的化されている。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子およびHDRドック部位挿入因子からなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、付着部位(att)を有している。いくつかの好適な実施形態において、付着部位(att)は、attBおよびattPからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、付着部位(att)は、attRおよびattLからなる群より選択される。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、LoxP配列を有している。いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位である。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位挿入因子は、HDRドック部位挿入因子である。いくつかの好適な実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、1個または2個のドック部位ホモロジーアームを有している。いくつかの好適な実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、ガイドRNA配列に相同的な1つ以上の配列をさらに有している。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位ホモロジーアームの長さは、約30~1000塩基である。いくつかの好適な実施形態において、インテグラーゼドック部位挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位配列を有している。
【0047】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位は、挿入に伴い、外来性組込みベクター配列に隣接するようになる。いくつかの好適な実施形態において、外来性組込みベクター配列は、ウイルスベクター配列およびトランスポゾンベクター配列からなる群より選択される。
【0048】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位は、プロモーターと作動可能に連結されており、選択可能なマーカーをコードする配列をさらに有している。
【0049】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位は、プロモーターを有している。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターは、弱いプロモーターである。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位に含まれている好適なプロモーターの例としては、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0050】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位の各々は、2個のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、2個のドック部位挿入因子は、カセット交換を促進するように位置している。いくつかの好適な実施形態において、2個のドック部位挿入因子は、選択マーカー、酵素、またはこれらの組合せをコードする配列と隣接している。
【0051】
〔図中の略称〕
AmpR :細菌性アンピシリン耐性遺伝子
attB :細菌の付着部位
attP :ファージの付着部位
attR :組換えた上流の付着部位
Backbone :プラスミド骨格
CDS :コーディング配列
EPR :MMLV拡張パッケージング領域
GCI :遺伝子コピー指数
GS :グルタミン合成酵素
HまたはHC :重鎖
hCMV :ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター
I :イントロン
LまたはLC :軽鎖
MoMuSV5’LTR :モロニーマウス肉腫ウイルス5’長末端反復配列
Neo :ネオマイシン耐性遺伝子
PAまたはpolyA :ポリアデニル化シグナル
ProV SIN-LTR:プロウイルス自己不活性化長末端反復配列
sCMV :サルサイトメガロウイルス前初期プロモーター
SDS-PAGE :ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SIN-3’LTR :自己不活性化3’長末端反復配列
SV40 :シミアンウイルス40
TK :チミジンキナーゼ
UTR :非翻訳領域
WまたはWPRE :ウッドチャック転写後調節因子
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明の特定の実施形態における核酸コンストラクトの設計である。
図2】トランスフェクションおよびグルタミンの欠乏による選抜後における、細胞の生存曲線のグラフである。2組のトランスフェクションの平均を示す。
図3】異なるプラスミドを用いて作出した細胞株プールの、生産性およびコピー数の分析を表す表である。2組のトランスフェクションの平均を示す。
図4】トランスフェクションおよびグルタミンの欠乏による選抜における、細胞の生存曲線のグラフである。2組のトランスフェクションの平均を示す。
図5】PhiC31インテグラーゼ発現プラスミドのマップである。
図6】PhiC31インテグラーゼ発現プラスミドの配列である。
図7】ドックプラスミドのマップである。
図8】ドックプラスミドの配列である。
図9】ドック-WPREプラスミドのマップである。
図10】ドック-WPREプラスミドの配列である。
図11】導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミドのマップである。このプラスミドにおいて、GSの発現は、弱いプロモーターであるモロニーマウス肉腫ウイルスの5’プロウイルス自己不活性化長末端反復配列に駆動されている。
図12】導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミドの配列である。このプラスミドおよび以降の導入遺伝子プラスミドにおいては、GSの発現を駆動するプロモーターは存在しない。
図13】導入遺伝子-Anywayプラスミドのマップである。
図14】導入遺伝子-Anywayプラスミドの配列である。
図15】導入遺伝子-MCSプラスミドのマップである。
図16】導入遺伝子-MCSプラスミドの配列である。
図17】導入遺伝子-MCS-WPRE-イントロン-MCSプラスミドのマップである。
図18】導入遺伝子-MCS-WPRE-イントロン-MCSプラスミドの配列である。
図19】導入遺伝子-MCS-WPRE-MCS-WPREプラスミドのマップである。
図20】導入遺伝子-MCS-WPRE-MCS-WPREプラスミドの配列である。
図21】導入遺伝子-Yourway-HWILプラスミドのマップである。
図22】導入遺伝子-Yourway-HWILプラスミドの配列である。
図23】導入遺伝子-Yourway-LWIHプラスミドのマップである。
図24】導入遺伝子-Yourway-LWIHプラスミドの配列である。
図25】導入遺伝子-Yourway-HWLWプラスミドのマップである。
図26】導入遺伝子-Yourway-HWLWプラスミドの配列である。
図27】導入遺伝子-Yourway-LWHWプラスミドのマップである。
図28】導入遺伝子-Yourway-LWHWプラスミドの配列である。
図29】ドック細胞プールにおける選抜されていないattRの遺伝子コピー指数を表すグラフである。ドッグ細胞プールは、1細胞あたり平均して約36個のドックを有しており、導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミドにより記載の比率でトランスフェクトした。
図30図29に記載したいくつかのプールにおける、選抜中の生細胞の割合のグラフである。
図31図30に記載した全てのプールにおける、attRの遺伝子コピー指数およびコピー数を表す表である。
図32】ドック細胞プールにおける、選抜中の生細胞の割合を表すグラフである。ドッグ細胞プールは、1細胞あたり平均して約135個のドックを有しており、プロモーターを有していない導入遺伝子-Anywayプラスミドとインテグラーゼプラスミドとにより記載の比率でトランスフェクトした。2組のプールの平均を示す。
図33図32に記載のプールの、選抜後におけるattRの遺伝子コピー指数を表す表である。2組のプールの平均を示す。
図34】ドッククローン細胞における、選抜中の生細胞の割合を表すグラフである。ドッグクローン細胞は、1細胞あたり約181コピーのドックを有しており、導入遺伝子-Yourway-LWHWプラスミドとインテグラーゼプラスミドとにより記載の比率でトランスフェクトした。2組のプールの平均を示す。
図35図34に記載のプールの、選抜後におけるattRの遺伝子コピー指数を表す表である。2組のプールの平均を示す。
図36】attR(充填されているドック)およびattP(空のドック)の遺伝子コピー指数、充填されているドックの割合、ならびにドックプールから作製したクローンの流加生産における最終力価表す表である。ドックプールは、1細胞あたり約135コピーのドックを有しており、導入遺伝子-Anywayプラスミドとインテグラーゼプラスミドとによりトランスフェクトした。
図37図36に記載の25種類のクローンの、Excellにおける流加生産の力価に対するattRの遺伝子コピー指数のグラフである。
図38】ドッククローン細胞における、選抜中の生細胞の割合を表すグラフである。ドッグクローン細胞は、1細胞あたり約181コピーのドックを有しており、導入遺伝子-Yourway-LWHWプラスミド、Yourway-HWLWプラスミド、Yourway-HWILプラスミド、Yourway-LWIHプラスミドまたはAnywayプラスミドのいずれかと、インテグラーゼプラスミドとによりトランスフェクトした。
図39図38に記載のドックプールから作製したクローンの流加生産における、attRの遺伝子コピー指数および最終力価を表す表である。2組のプールの平均を示す。
図40】導入遺伝子-Yourwayおよび導入遺伝子-Anywayからの産物のSDS-PAGE分析である。左側が非還元条件における結果であり、右側が還元条件における結果である。
図41】40世代以上にわたる流加生産における最終力価を表すグラフである。2種類の異なる培地/添加戦略と、Anywayを発現している3つのプールとを使用した。
【発明を実施するための形態】
【0053】
〔定義〕
本発明の理解を促すために、下記に数々の用語を定義する。
【0054】
本明細書において、用語「宿主細胞」とは、任意の真核細胞を表す(哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞および昆虫細胞など)。in vitroまたはin vivoのいずれに位置しているかは問わない。
【0055】
本明細書において、用語「細胞培養物」とは、任意のin vitroにおける細胞の培養物を表す。この用語に含まれるものとしては、連続継代性細胞株(不死表現型を有しているものなど)、初代細胞培養物、有限寿命細胞株(形質転換していない細胞など)、およびin vitroにおいて維持されている他の任意の細胞集団(卵母細胞および胚を含む)が挙げられる。
【0056】
本明細書において、用語「ベクター」とは、適当な制御因子と関連付けられたときに複製でき、細胞間において遺伝子配列を移動させられる、任意の遺伝因子を表す(プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなど)。したがって、この用語には、クローニングおよび発現の媒体も、ウイルスベクターも含まれている。
【0057】
本明細書において、用語「ゲノム」とは、生物の遺伝物質を表す(染色体など)。
【0058】
用語「目的ヌクレオチド配列」とは、任意のヌクレオチド配列を表す(RNAまたはDNAなど)。目的ヌクレオチド配列を操作することは、当業者によって、何らかの理由において望ましいと見做されることがある(疾患の処置、質の向上、宿主細胞における目的タンパク質の発現、リボザイムの発現など)。このようなヌクレオチド配列としては、次のものが挙げられるが、これらには限定されない:構造遺伝子のコーディング配列(レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、癌遺伝子、薬物耐性遺伝子、成長因子など)、およびmRNAまたはタンパク質産物をコードしない非コーディング調節配列(プロモーター配列、ポリアデニル化配列、終了配列、エンハンサー配列など)。
【0059】
本明細書において、用語「目的タンパク質」とは、目的核酸によってコードされるタンパク質を表す。
【0060】
本明細書において、用語「~をコードする核酸分子」「~をコードするDNA配列」「~をコードするDNA」「~をコードするRNA配列」および「~をコードするRNA」とは、デオキシリボ核酸またはリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序または配列を表す。これらのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序により、ポリペプチド鎖(タンパク質)に沿ったアミノ酸の順序が決定される。このように、DNA配列またはRNA配列は、アミノ酸配列をコードしている。
【0061】
本明細書において、用語「プロモーター」「プロモーター因子」または「プロモーター配列」とは、目的ヌクレオチド配列と連結された際に、当該目的ヌクレオチド配列からmRNAへの転写を制御できるDNA配列を表す。通常、プロモーターは、それによりmRNAへの転写が制御される目的ヌクレオチド配列の、5’側(上流)に位置している(ただし、必ずではない)。また、通常、プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび転写を開始するための他の転写因子に特異的な結合部位を有している。
【0062】
真核生物の転写制御シグナルには、プロモーター因子およびエンハンサー因子が含まれている。プロモーターおよびエンハンサーは、短いDNA配列からなる。これらは、転写に関わる細胞タンパク質と特異的に相互作用している(Maniatis et al., Science 236:1237 [1987])。プロモーター因子およびエンハンサー因子は、様々な真核生物から単離されている(酵母細胞、昆虫細胞および哺乳動物細胞の遺伝子など)。また、様々なウイルスからも単離されている(制御因子アナログ(プロモーター)は、原核生物においても発見されている)。目的タンパク質の発現にどの細胞型を利用するかに応じて、特定のプロモーターおよびエンハンサーを選択する。いくつかの真核生物のプロモーターおよびエンハンサーは幅広い宿主で利用できるが、限られた細胞型のサブセットでしか機能しないものもある(レヴュー論文としては、Voss et al., Trends Biochem. Sci., 11:287 [1986]; Maniatis et al., supraを参照)。例えば、SV40初期遺伝子エンハンサーは、多くの哺乳動物種に由来する様々な細胞型において非常に活性が高く、哺乳動物細胞におけるタンパク質の発現に幅広く利用されてきた(Dijkema et al., EMBO J. 4:761 [1985])。幅広い哺乳動物細胞において活性であるプロモーターの/エンハンサー因子の他の例を2つ上げると、ヒト伸長因子1α遺伝子に由来するもの(Uetsuki et al., J. Biol. Chem., 264:5791 [1989]; Kim et al., Gene 91:217 [1990]; Mizushima and Nagata, Nuc. Acids. Res., 18:5322 [1990])と、ラウス肉腫ウイルス長末端反復配列に由来するもの(Gorman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:6777 [1982])およびヒトサイトメガロウイルス長末端反復配列に由来するもの(Boshart et al., Cell 41:521 [1985])とが挙げられる。
【0063】
本明細書において、用語「プロモーター/エンハンサー」とは、プロモーター機能およびエンハンサー機能の両方を与えうる配列を有しているDNAの部分を意味する(すなわち、プロモーター因子およびエンハンサー因子によって与えられる機能。これらの機能に関しては上記を参照)。例えば、レトロウイルス長末端反復配列は、プロモーター機能およびエンハンサー機能の両方を有している。エンハンサー/プロモーターは、内在性であってもよいし、外来性であってもよいし、異種であってもよい。内在性のエンハンサー/プロモーターとは、天然においてゲノム中の所与の遺伝子と連結されているエンハンサー/プロモーターである。外来性または異種のエンハンサー/プロモーターとは、遺伝子操作(クローニングおよび組換えなどの分子生物学技術)によって遺伝子付近の近傍に位置に配置されたエンハンサー/プロモーターである。この遺伝子の転写は、連結されたエンハンサー/プロモーターによって導かれるようになる。
【0064】
本明細書において、用語「長末端反復配列」または「LTR」とは、レトロウイルスゲノムの5’または3’のU3領域に位置している(または、そこから単離された)、転写制御因子を表す。本技術分野で周知の通り、長末端反復配列は、レトロウイルスベクターにおける制御因子として使用できる。あるいは、レトロウイルスゲノムから単離して、他の種類のベクターからの発現を制御することもできる。
【0065】
本明細書において、用語「相補的」または「相補性」は、塩基対形成の規則によって関連付けられているポリヌクレオチド(ヌクレオチドの配列)を表すときに用いる。例えば、配列:5’-A-G-T-3’は、配列3’-T-C-A-5’に対して相補的である。相補性は、部分的であってもよい。このとき、核酸の塩基のうち一部のみが塩基対形成の規則に適合している。あるいは、相補性は、核酸間の完全または全体的な相補性であってもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間におけるハイブリダイゼーションの効率および強度に大きな影響を及ぼす。このことは、核酸間の結合に影響される増幅反応および検出方法において、特に重要である。
【0066】
核酸に関連して用いるとき、用語「相同性」および「同一性(%)」とは、相補性の程度を表す。相同性および同一性は、部分的な相同性(部分的な同一性)であってもよいし、完全な相同性(完全な同一性)であってもよい。部分的に相補的な配列とは、完全に相補的な配列と標的核酸配列とのハイブリダイズを、少なくとも部分的に阻害する配列である。このような配列のことを、機能的な用語を用いて、「実質的に相同」と称する。完全に相補的な配列と標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害は、ストリンジェンシーが低い条件下におけるハイブリダイゼーションアッセイにより試験できる(サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、溶液ハイブリダイゼーションなど)。実質的に相同な配列またはプローブ(他の目的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド)は、ストリンジェンシーが低い条件下において、標的配列に対して完全に相同的な配列と競合し、結合(ハイブリダイゼーション)を阻害する。言うまでもなく、ストリンジェンシーが低い条件においては、非特異的な結合が許容されている。ストリンジェンシーが低い条件における2つの配列の相互の結合には、特異的(選択的)な相互作用が必要である。非特異的な結合がないことを、部分的にも相補性を有していない第2の標的(同一性が約30%未満である標的など)によって試験してもよい。非特異的な結合がないならば、プローブは非相補的な第2の標的とハイブリダイズしない。
【0067】
本明細書において、用語「作動可能な組合せで」「作動可能な順序で」および「作動可能に連結されている」とは、核酸分子により所与の遺伝子が転写されうるおよび/または所望のタンパク質分子が合成されうるような、核酸配列の連結を表す。この用語は、機能性のタンパク質となりうるようなアミノ酸配列の連結も表す。
【0068】
本明細書において、用語「選択マーカー」とは、酵素活性(または、必須の栄養を含んでいない培地における増殖能を与える他のタンパク質)をコードする遺伝子を表す。また、選択マーカーとは、当該選択マーカーが発現している細胞における、抗生物質または薬物に対する耐性を表すこともある。
【0069】
本明細書において、用語「レトロウイルス」とは、細胞に侵入でき、宿主細胞のゲノムにレトロウイルスゲノムを(2本鎖のプロウイルスとして)組込めるレトロウイルス粒子を表す。細胞に侵入できるレトロウイルス粒子とは、宿主細胞の表面に結合し当該宿主細胞の細胞質へのウイルス粒子の侵入を促進できる、エンベロープタンパク質またはウイルス性G糖タンパク質などの膜関連タンパク質を有している粒子を表す。用語「レトロウイルス」の例としては、Oncovirinae科(モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)およびマウス乳癌ウイルス(MMTV)など)、Spumavirinae科、およびLentivirinae科(ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルスなど)が挙げられる。Lentivirinae科に関しては、米国特許第5,994,136号および第6,013,516号を参照(いずれの文献も、参照により本明細書に組込まれる)。
【0070】
本明細書において、用語「レトロウイルスベクター」とは、目的遺伝子を発現するように改変されたレトロウイルスを表す。レトロウイルスベクターは、ウイルス感染プロセスを利用することにより、宿主細胞への効果的な遺伝子の移入に使用できる。レトロウイルスゲノムにクローニングした(分子生物学技術により挿入した)外来または異種の遺伝子を、当該レトロウイルスへの感染に感受性がある宿主細胞へと効果的に送達できる。周知の遺伝子操作によって、レトロウイルスゲノムの複製能を破壊してもよい。こうして得られる複製欠損ベクターは、細胞への新規な遺伝物質の導入に使用できるが、レトロウイルスは複製できない。ヘルパーウイルスまたはパッケージング細胞株を使用して、ベクター粒子を組立て、細胞から放出させてもよい。このようなレトロウイルスベクターは、複製欠損レトロウイルスゲノムを有している。この複製欠損レトロウイルスゲノムは、1つ以上の目的遺伝子をコードする核酸配列(ポリシストロン核酸配列は2つ以上の目的遺伝子をコードできる)と、レトロウイルスの5’長末端反復配列(5’LTR)と、レトロウイルスの3’長末端反復配列(3’LTR)と、を有している。
【0071】
本明細書において、用語「レンチウイルスベクター」とは、Lentiviridae科(ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルスおよびヤギ関節炎脳炎ウイルスなど)に由来し、非分裂細胞に組込むことができるレトロウイルスベクターを表す。レンチウイルスベクターに関しては、例えば、米国特許第5,994,136号および第6,013,516号を参照(いずれの文献も、参照により本明細書に組込まれる)。
【0072】
本明細書において、用語「トランスポゾン」とは、ゲノム上のある位置から他の位置へと移動または置換えできる転移因子を表す(Tn5、Tn7およびTn10など)。一般的に、位置の変化はトランスポザーゼによって制御されている。本明細書において、用語「トランスポゾンベクター」とは、トランスポゾンの末端に隣接している、目的核酸をコードするベクターを表す。トランスポゾンベクターの例としては、次の文献に開示されているものが挙げられるが、これらには限定されない:米国特許第6,027,722号、第5,958,775号、第5,968,785号、第5,965,443号および第5,719,055号(全ての文献が、参照により本明細書に組込まれる)。
【0073】
本明細書において、用語「アデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)」とは、アデノ随伴ウイルスに由来するベクターを表す。アデノ随伴ウイルスの血清型の例としては、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAVX7が挙げられるが、これらには限定されない。AAVベクターは、AAVの野生型遺伝子のうち1つ以上の全部または一部を欠失していてもよい。好ましくは、AAVベクターは、rep遺伝子および/またはcap遺伝子を欠失しているが、隣接する機能性のITR配列は保存されている。
【0074】
本技術分野で周知の組換え技術を利用することにより、両方の末端(5’末端および3’末端)において機能性のAAV ITRと隣接している1つ以上の異種ヌクレオチド配列を有しているAAVベクターを構築してもよい。本発明の実施において、AAVベクターは、1つ以上のAAV ITRと、異種ヌクレオチド配列の上流に位置している好適なプロモーター配列と、当該異種配列の下流に位置している1つ以上のAAV ITRと、を有していてもよい。「組換えAAVベクタープラスミド」とは、ベクターにプラスミドが含まれている組換えAAVベクターの一種を表す。一般的に、AAVベクターでは、5’ITRおよび3’ITRが選択された異種ヌクレオチド配列と隣接している。
【0075】
本明細書において、用語「アデノウイルスベクター」とは、アデノウイルス骨格を有している、エンベロープのない2本鎖DNAベクターを表す。
【0076】
本明細書において、用語「精製」とは、通常の環境から取り除かれ、単離または分離された核酸配列またはアミノ酸配列のいずれかの分子を表す。したがって、単離核酸配列とは、精製核酸配列配列である。「実質的に精製された」分子は、当該分子が通常伴っている他の成分を、60%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上含んでいない。
【0077】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、核酸コンストラクトを挿入するための複数のドック部位を有している宿主細胞株に関する。核酸コンストラクトは、とりわけ、外来性の目的遺伝子を発現する核酸コンストラクトである。
【0078】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、複数の組込まれたドック部位を有するように改変された宿主細胞(および、宿主細胞の培養物)を提供する。例えば、いくつかの好適な実施形態において、本発明の宿主細胞のゲノムは、好ましくは、1~1000個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、1~500個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、5~500個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、5~250個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、5~250個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、5~100個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。他の好適な実施形態において、宿主細胞のゲノムは、5~50個の組込まれたドック部位を有しており、ドック部位の各々は、1つ以上のドック部位挿入因子を有している。いくつかの好適な実施形態において、組込まれたドック部位は、独立した組込まれたドック部位であり、互いに分離し、ゲノムの中の独立した部位に位置している。例えば、組込まれたドック部位は、好ましくは、ゲノムの中で異なる染色体に分散していてもよい。他の実施形態において、組込まれたドック部位は、同じDNA配列が複数回連続しているコンカテマーとして存在していてもよい。
【0079】
組込まれたドック部位は、好ましくは、1つ以上の挿入因子を有している。この挿入因子を「ドック部位挿入因子」と称する。ドック部位挿入因子は、好ましくは、ドック部位における目的タンパク質をコードする核酸配列の挿入を促進する核酸配列である。本発明の宿主細胞のドック部位に挿入できる核酸コンストラクトについては、後に詳述する。
【0080】
本発明は、何らかの特定の挿入因子を使用することには限定されない。その代わりに、種々の挿入因子を使用することが意図されている。いくつかの好適な実施形態において、挿入因子は、リコンビナーゼドック部位挿入因子である。リコンビナーゼドック部位挿入因子とは、リコンビナーゼ酵素によって認識・利用される核酸配列である。
【0081】
例えば、いくつかの好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、付着部位(att)を有している。いくつかの特に好適な実施形態において、付着部位は、attPである。この付着部位は、PhiC31インテグラーゼにより利用される。PhiC31インテグラーゼとは、リコンビナーゼ酵素であり、好適な実施形態においてはベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。このドック部位は、attB付着部位を有している核酸コンストラクトを組込むときのアクセプターとして機能する。他の好適な実施形態においては、attR付着部位およびattL付着部位を利用する。
【0082】
他の好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位を有している。この部位は、フリッパーゼ酵素により利用される。フリッパーゼ酵素とは、リコンビナーゼ酵素であり、好適な実施形態においてはベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。このドック部位は、FRT部位を有している核酸コンストラクトを組込むときのアクセプターとして機能する。
【0083】
他の好適な実施形態において、リコンビナーゼドック部位挿入因子は、LoxP部位を有している。この部位は、Creリコンビナーゼにより利用される。好適な実施形態において、Creリコンビナーゼは、ベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。このドック部位は、LoxP部位を有している核酸コンストラクトを組込むときのアクセプターとして機能する。
【0084】
他の好適な実施形態において、挿入因子は、HDR(相同組換え修復)ドック部位挿入因子である。HDRドック部位挿入因子とは、相同な領域(ホモロジーアーム)を与える核酸配列である。この相同な領域は、ドック部位に挿入される核酸コンストラクトに含まれている対応するホモロジーアームと塩基対を形成する。このシステムでは、好ましくは、標的部位を2本鎖切断するエンドヌクレアーゼを利用する。標的部位は、好ましくは、ホモロジーアームに隣接している。いくつかの実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位である。この実施形態において、ドック部位は、Rep78エンドヌクレアーゼ(ニッカーゼ)に利用される。Rep78エンドヌクレアーゼは、ベクターにより宿主細胞に導入されてもよい。Rep78ニッカーゼタンパク質は、AAVS1セーフ・ハーバー部位に対応するホモロジーアームを有している核酸配列の、部位特異的な組込みを促進する。
【0085】
他の好適な実施形態において、HDRドック部位挿入因子は、外来性配列である1つ以上のホモロジーアームを有しており、その長さは長さが30~1000塩基対である。このドック部位は、好ましくは、CRISPR遺伝子編集システムと組合せて用いられる。いくつかの実施形態において、ドック部位は、ガイドRNA配列に相同な1つ以上の配列をさらに有している。この実施形態において、ドック部位に挿入される核酸コンストラクトは、好ましくは、ドック部位に含まれているホモロジーアームに相同であり塩基対を形成するホモロジーアームを有している。CRISPR遺伝子編集システムを利用するためには、CRISPR遺伝子編集システムに適合するヌクレアーゼを宿主細胞に導入する。CRISPR遺伝子編集システムに適合するヌクレアーゼは、ガイドRNAによって決定される(ドック部位内の)位置に2本鎖切断を生じさせる、野生型エンドヌクレアーゼであってもよい。あるいは、2つのガイドRNAによって定義されるドック部位内のずれた位置に1本鎖切断を生じさせる、変異型ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)であってもよい。好適なヌクレアーゼについては、核酸発現コンストラクトに関する説明において後に詳述する。
【0086】
いくつかの好適な実施形態において、ドック部位は、好ましくはは、適当なプロモーターを有していてもよい。これによって、適当な核酸コンストラクトがドック部位に導入されたときに、プロモーター捕捉スキームを利用できるようになる。好適なプロモーターの例としては、SIN-LTRプロモーター配列、SV40プロモーター配列、EF1αプロモーター配列、E. coli lacプロモーター配列、E. coli trpプロモーター配列、ファージλ PLプロモーター配列、ファージλ PRプロモーター配列、T3プロモーター配列、T7プロモーター配列、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター配列、α-ラクトアルブミンプロモーター配列およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーター配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、プロモーター配列は、ドック部位に向けられている。これにより、プロモーターは、挿入された核酸コンストラクトの発現を駆動するようになる。いくつかの好適な実施形態において、プロモーターは、ドック部位の5’側に向けられている。いくつかの特に好適な実施形態において、プロモーターは、SIN-LTRである。この実施形態において、SIN-LTRおよびEPRはドック部位よりも5’側に位置しており、SIN-LTRはドック部位よりも3’側に位置している。
【0087】
ドック部位は、任意の適切な宿主細胞株に導入されうる。好適な宿主細胞株の例としては、次のものが挙げられる(ただし、これらには限定されない):チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1, ATCC CCl-61)、ウシ乳腺上皮細胞(ATCC CRL 10274; bovine mammary epithelial cells)、SV40で形質転換したサル腎臓CV1細胞株(COS-7, ATCC CRL 1651)、ヒト胎児腎細胞株(293細胞または293細胞の懸濁培養用サブクローン;例えば、Graham et al., J. Gen Virol., 36:59 [1977]を参照)、ベビーハムスター腎細胞(BHK, ATCC CCL 10)、マウスセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 [1980])、サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA, ATCC CCL 2)、イヌ腎細胞(MDCK, ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138, ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2, HB 8065)、マウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 [1982])、MRC-5細胞、FS-4細胞、ラット線維芽細胞(208F細胞)、MDBK細胞(ウシ腎細胞)、CAP(CEVEC's Amniocyte Production)細胞およびヒト肝細胞癌株(Hep G2)。
【0088】
いくつかの特に好適な実施形態において、宿主細胞は、選択剤の存在下における細胞の増殖または生存に必要な酵素活性を欠損するように改変されているか、元から欠損しており、これにより選択マーカーが与えられる。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、GSを欠損するように改変されている。ベクターがGS選択マーカーを有しているいくつかの好適な実施形態において、宿主細胞株は、GSを欠損している。いくつかの特に好適な実施形態において、GSを欠損している宿主細胞株は、CHOZN(R) GS-/-細胞株(Merck KGaA)である。例えば選択マーカーがDHFRである他の実施形態において、細胞株は、好ましくは、DHFR活性を欠損していてもよい(DHFRであってもよい)。好適なDHFR細胞株の例としては、CHO-DG44およびその誘導株が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0089】
任意の適切なゲノム改変システムによって、ドック部位配列を宿主細胞に導入できる。いくつかの好適な実施形態においては、組込みベクターを用いてドック部位を宿主細胞に組込む。組込みベクターを用いることにより、大量のコピー数の目的配列(ドック部位など)を導入できる。このことは、米国特許第6,852,510号および第7,332,333に詳述されている。また、米国特許出願公開第20030092882号、第20030224415号、第20040235173号および第20050100952号にも詳述されている。これらの文献は全て、参照によりその全体が本明細書に組込まれる。
【0090】
本発明に係る宿主細胞(上述したものなど)は、ドック部位を有している組込みベクターにより、宿主細胞のゲノムに複数のドック部位が組込まれる条件において形質導入またはトランスフェクトされている。組込みベクターの例としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびトランスポゾンベクターが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。本発明におけるこれらのベクターの設計・産生・使用について、下記に説明する。
【0091】
[レトロウイルスベクター]
レトロウイルス(Retroviridae科)は、次の3つの群に分かれる:スプマウイルス(ヒトフォーミーウイルスなど)、レンチウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、ヒツジビスナウイルスなど)、オンコウイルス(MLV、ラウス肉腫ウイルスなど)。
【0092】
レトロウイルスは、エンベロープを有している(宿主細胞由来の脂質二重膜に囲まれている)1本鎖RNAウイルスで、動物細胞に感染する。レトロウイルスが細胞に感染すると、RNAゲノムは2本鎖線状DNAの形態に変換される(逆転写される)。次に、ウイルスのDNA形態が、プロウイルスとして宿主細胞のゲノムに組込まれる。プロウイルスは、さらなるウイルスゲノムおよびウイルスmRNAを産生するための鋳型として機能する。2組のゲノムRNAを有している成熟したウイルス粒子は、感染した細胞の表面から出芽する。ウイルス粒子は、ウイルスカプシド(ウイルスのgag遺伝子産物を有している)の内部に、ゲノムRNA、逆転写酵素および他のpol遺伝子産物を有している。ウイルスカプシドは、宿主細胞に由来しており、ウイルスエンベロープ糖タンパク質(膜関連タンパク質とも称する)を有している脂質二重膜に囲まれている。
【0093】
多くのレトロウイルスのゲノムの構成は当業者に周知であり、そのため、レトロウイルスゲノムを応用してレトロウイルスベクターを作製できる。上述したドック部位などを有している組換えレトロウイルスベクターは、通常、2段階で作製できる。
【0094】
第1段階では、ドック部位をコードする核酸配列をレトロウイルスベクターに挿入する。レトロウイルスベクターは、効果的な組込みに必要な配列と、ウイルスRNAの感染性ビリオンへの効果的なパッケージングに必要な配列と、ウイルスLTRと、を有している。効果的な組込みに必要な配列の例としては、ウイルス長末端反復配列(LTR)または内在性のプロモーター/エンハンサーによって与えられ、スプライシングシグナルと関連している、プロモーター因子および/またはエンハンサー因子が挙げられる。ウイルスRNAの感染性ビリオンへの効果的なパッケージングに必要な配列の例としては、パッケージングシグナル(Psi)、tRNAプライマー結合部位(-PBS)、逆転写に必要な3’調節配列(+PBS)が挙げられる。LTRはウイルスゲノムRNA、逆転写酵素およびインテグラーゼの機能の協働に必要な配列と、ゲノムRNAを発現させてウイルス粒子内に格納させることの誘導に関与している配列と、を有している。安全性のため、多くの組換えレトロウイルスベクターは、ウイルス複製に必須の遺伝子の機能性コピーを有していない(これら必須の遺伝子は、削除または不活化されている)。そのため、得られるウイルスは複製欠損と呼ばれる。
【0095】
第2段階では、組換えベクターの構築に引続いて、ベクターDNAをパッケージング細胞株に導入する。パッケージング細胞株は、所望の宿主域を有しているウイルス粒子へのウイルスゲノムRNAのパッケージングに必要なタンパク質(ウイルスがコードするgagタンパク質、polタンパク質およびenvタンパク質)を提供する。この段階において、ウイルス粒子の表面に発現しているエンベロープ遺伝子産物の種類によって、宿主域を制御する。パッケージング細胞株は、同種指向性、両指向性または異種指向性のエンベロープ遺伝子産物を発現しうる。あるいは、パッケージング細胞株は、ウイルスエンベロープ(env)タンパク質をコードする配列を有していない。この場合、パッケージング細胞株は、膜関連タンパク質(envタンパク質など)を有していない粒子にウイルスゲノムを格納する。細胞にウイルスを侵入させる膜関連タンパク質(水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質など)を有しているウイルス粒子を作製するために、レトロウイルス配列を有しているパッケージング細胞株に、膜関連タンパク質をコードする配列をトランスフェクトする。すると、トランスフェクトしたパッケージング細胞は、パッケージング細胞株へのトランスフェクトにより発現するようになった膜関連タンパク質を有しているウイルス粒子を産生するようになる。このウイルス粒子では、あるウイルスに由来するウイルスゲノムRNAが、他のウイルスのエンベロープタンパク質に格納されている。これを、シュードタイプウイルス粒子と称する。
【0096】
本発明のレトロウイルスベクターをさらに改変して、さらなる調節配列を有するようにしてもよい。上述の通り、本発明のレトロウイルスベクターは、作動可能に関連している下記の因子を有している:(a)5’LTR;(b)パッケージングシグナル;(c)3’LTR;(d)5’LTRと3’LTRとの間に位置し、ドック部位をコードする核酸。
【0097】
ウイルスベクター(組換えレトロウイルスベクターを含む)により、他の技術(リン酸カルシウム-DNA共沈澱、DEAEデキストランを介したトランスフェクション、核酸のエレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションなど)と比較して、遺伝子を細胞に移植するためのより効果的な手段が提供される。ウイルスによる移植の効率が高いのは、受容体を介して核酸が移植される(感染させる細胞表面の特異的な受容体タンパク質にウイルスが結合する)ためだと考えられている。また、ウイルスによる核酸の移植は、制御された様式で細胞内に一度に組込まれる。これは、ウイルスによらない核酸の移植とは異なる。他の手段(リン酸カルシウム-DNA共沈澱)により移植される核酸は、転位および分解を被る。
【0098】
最も広く使用されている組換えレトロウイルスベクターは、両指向性モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)に由来する(例えば、Miller and Baltimore Mol. Cell. Biol. 6:2895 [1986]を参照)。MoMuLVシステムには、いくつかの利点がある。(1)このレトロウイルスは、多種多様な細胞型に感染できる。(2)組換えMoMuLVウイルス粒子を産生するために、確立されたパッケージング細胞株が利用できる。(3)移植した遺伝子が、標的細胞の染色体に永続的に組込まれる。確立されたMoMuLVベクターシステムには、レトロウイルス配列の小部分(ウイルス長末端反復配列(LTR)、パッケージングシグナル(psi)など)とパッケージング細胞株とを含んでいる、DNAベクターも含まれる。移植する遺伝子は、DNAベクターに挿入されている。DNAベクターに存在するウイルス配列は、ベクターRNAのウイルス粒子への挿入または格納に必要なシグナルと、挿入された遺伝子の発現に必要なシグナルとを与える。パッケージング細胞株は、粒子の形成に必要なタンパク質を提供する(Markowitz et al., J. Virol. 62:1120 [1988])。
【0099】
このような利点にもかかわらず、既存のMoMuLV系レトロウイルスベクターは、いくつかの本質的な問題のために制限されている。(1)このベクターは、おそらく卵母細胞以外の非分裂細胞には感染しない(Miller et al., Mol. Cell. Biol. 10:4239 [1990])。(2)このベクターは、組換えウイルスの力価が低い(Miller and Rosman, BioTechniques 7: 980 [1980]; Miller, Nature 357: 455 [1990])。(3)特定の細胞型(ヒトリンパ球など)では、このベクターの感染効率が低い(Adams et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:8981 [1992])。MoMuLV系ベクターの力価が低いのは、少なくとも部分的には、ウイルスがコードするエンベロープタンパク質が不安定であるからだと考えられてきた。物理的手段によるレトロウイルスの濃縮(超遠心、限外濾過など)によって、幾分かの感染性ウイルスが失われてしまう。
【0100】
特定の細胞型におけるMoMuLV系ベクターの力価および感染効率の低さは、膜関連タンパク質としてVSVのGタンパク質を有しているシュードタイプレトロウイルスベクターを使用することにより解決された。レトロウイルスのエンベロープタンパク質は、特異的な細胞表面タンパク質受容体と結合して、細胞内へと侵入する。これとは異なり、VSVのGタンパク質は、原形質膜のリン脂質成分と相互作用する(Mastromarino et al., J. Gen. Virol. 68:2359 [1977])。VSVの細胞への侵入は特異的なタンパク質受容体の存在に依存しないため、VSVの宿主域は非常に広い。VSVのGタンパク質を有しているシュードタイプレトロウイルスベクターの宿主域は、VSVに特徴的なものにへんっ化している(ほとんど全ての脊椎動物種、無脊椎動物種および昆虫種の細胞に感染できる)。重要なことに、VSV G-シュードタイプレトロウイルスベクターは、超遠心によって2000倍以上に濃縮でき、それによって感染性を大幅に落とすことがない(Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8033)。
【0101】
ウイルス粒子内の異種膜関連タンパク質としてウイルス性Gタンパク質を採用する場合であっても、本発明は、VSVのGタンパク質を使用することには限定されない(例えば、米国特許第5,512,421号を参照。この文献は参照により本明細書に組込まれる)。VSV以外にも、Vesiculovirus属のウイルス(ピリウイルス、チャンディプラウイルスなど)のGタンパク質はVSVのGタンパク質に対する相同的が高く、VSVのGタンパク質と同様にパルミチン酸が共有結合している(Brun et al. Intervirol. 38:274 [1995]; Masters et al., Virol. 171:285 (1990])。したがって、VSVのGタンパク質に代えてピリウイルスおよびチャンディプラウイルスのGタンパク質を使用して、ウイルス粒子をシュードタイプ化させてもよい。また、Lyssavirus属のウイルス(狂犬病ウイルス、モコラウイルスなど)のGタンパク質は、VSVのGタンパク質の保存度が高い(アミノ酸配列および機能性の両方の保存度が高い)。例えば、モコラウイルスのGタンパク質の機能は、VSVのGタンパク質と少ししか変わらない(膜融合を媒介する)。そのため、VSVのGタンパク質の代わりにウイルス粒子のシュードタイプ化に利用できる(Mebatsion et al., J. Virol. 69:1444 [1995])。ピリウイルス、チャンディプラウイルスまたはモコラウイルスのGタンパク質のいずれかを利用して、ウイルス粒子をシュードタイプ化してもよい(実施例2に記載の通り)。ただし、好適なプロモーター因子により転写制御されているピリウイルス、チャンディプラウイルスまたはモコラウイルスのGタンパク質のいずれかをコードする配列を有しているプラスミドが、pHCMV-Gの代わりに利用されている場合は除外する(好適なプロモーター因子としては、例えば、CMV中間体初期プロモーター、CMV IEプロモーターを有している多数の発現ベクター(pcDNA3.1ベクター(Invitrogen)など)が使用できる)。Rhabdoviridae科の他のウイルスに由来するGタンパク質をコードする配列を使用してもよい。数多くのラブドウイルスのGタンパク質をコードする配列は、GenBankデータベースから利用できる。
【0102】
レトロウイルスの大部分は、感染時においてレシピエント細胞が分裂してさえいれば、2本鎖線状形態のウイルス(プロウイルス)をレシピエント細胞のゲノムに移植または組込みできる。分裂細胞のみに感染する(または、分裂細胞の方が効果的に感染できる)レトロウイルスの例としては、MLV、脾臓壊死ウイルス、ラウス肉腫ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス(HIV)が挙げられる(HIVは、分裂細胞の方が効果的に感染できるが、非分裂細胞にも感染できる)。
【0103】
示されているところによると、MLVのウイルスDNAの組込みは、宿主細胞の有糸分裂の進行に依存している。有糸分裂への依存は、ウイルス組込み複合体が核内に侵入するために核エンベロープの崩壊が必要であることに反映されていると考えられている(Roe et al., EMBO J. 12:2099 [1993])。しかし、分裂中期で停止している細胞では組込みが生じないので、核エンベロープの崩壊のみあればウイルスの組込みに充分なわけではない。ゲノムDNAの濃縮状態など、何か他の条件が存在する可能性がある(Roe et al., supra)。
【0104】
[レンチウイルスベクター]
本発明は、レンチウイルスベクターを用いて、多数の組込まれたドック部位を有している細胞株を作製することをも意図している。レンチウイルス(ウマ感染性貧血ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど)とは、レトロウイルスの亜科であり、非分裂細胞に組込むことができる。レンチウイルスのゲノムおよびプロウイルスDNAには、全てのレトロウイルスに見られる3つの遺伝子がある(gag、polおよびenv)。これらの遺伝子は、2つのLTR配列に隣接している。gag遺伝子は、内部の構造タンパク質をコードする(マトリクス、カプシド、ヌクレオカプシドタンパク質など)。pol遺伝子は、逆転写酵素、プロテアーゼおよびインテグラーゼのタンパク質をコードする。pol遺伝子は、ウイルスエンベロープの糖タンパク質をコードする。5’LTRおよび3’LTRは、ウイルスRNAの転写およびポリアデニル化を制御する。レンチウイルスのゲノムに含まれているさらなる遺伝子には、vif、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxがある。
【0105】
様々なレンチウイルスベクターおよびパッケージング細胞株が本技術分野で周知であり、本発明において使用できる(例えば、米国特許第5,994,136号および第6,013,516号を参照。いずれの文献も参照により本明細書に組込まれる)。また、VSVのGタンパク質を用いて、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)系のシュードタイプレトロウイルスベクターとすることもできる(Naldini et al., Science 272:263 [1996])。したがって、VSVのGタンパク質を使用して様々なシュードタイプレトロウイルスベクターを作製してもよい。このようなベクターの例としては、MoMuLV系ベクターが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。レンチウイルスベクターを改変して、上述した様々な調節配列を有しているようにしてもよい(シグナルペプチド配列、RNA輸送因子およびIRESなど)。作製したレンチウイルスベクターは、宿主細胞をトランスフェクトするために使用できる(レトロウイルスベクターに関して上述した通り)。
【0106】
[アデノ随伴ウイルスベクター]
本発明では、アデノ随伴ウイルス(AAVベクター)を用いて、多数の組込まれたドック部位を有している細胞株を作製することも意図されている。AAVは、ヒトDNAパルボウイルスで、Adenovirus属に属する。AAVのゲノムは、線状の1本鎖DNA分子から構成されており、約4680塩基が含まれている。ゲノムの両末端には、逆方向末端反復配列(ITR)が含まれている。ITRは、同じ鎖におけるDNA複製開始点として、またウイルスのパッケージングシグナルとして機能する。ゲノム内部にある非反復領域には2つの大きなオープンリーディングフレームが含まれている。それぞれ、AAV rep領域およびAAV cap領域として知られている。これらの領域は、複製およびビリオンのパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。AAV rep領域では、少なくとも4種類のウイルスタンパク質が合成される。それは、Rep78、Rep68、Rep52およびRep40であり、見掛け上の分子量にちなんで命名されている。AAV cap領域は、少なくとも3種類のタンパク質をコードする。それは、VP1、VP2およびVP3である(AAVゲノムに関する詳細な説明は、例えば、Muzyczka, Current Topics Microbiol. Immunol. 158:97-129 [1992]; Kotin, Human Gene Therapy 5:793-801 [1994]を参照)。
【0107】
AAVは、再生産性のある感染をするために、関連性のないヘルパーウイルス(アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニアなど)の同時感染が必要である。同時感染がない場合、AAVは宿主細胞の染色体にウイルスのゲノムを挿入して、潜伏状態となる。その後、ヘルパーウイルスに感染すると、組込まれたコピーは感染性のウイルスを複製できるようになる。シュードタイプでないレトロウイルスとは異なり、AAVの宿主域は広く、ヘルパーウイルスが同時感染して増殖できる種であるならば、任意の種の細胞において複製できる。例えば、ヒトAAVを、イヌアデノウイルスを同時感染させたイヌ細胞で複製できる。また、レトロウイルスとは異なり、AAVは、ヒトまたは動物に疾患をもたらさず、組込みに伴う宿主細胞の生物学的特性の改変も認められず、非分裂細胞に組込める。また、最近判明したところによると、AAVは、宿主細胞のゲノムに部位特異的に組込める。
【0108】
上述の特性を踏まえて、遺伝子送達用の組換えAAVベクターが数多く開発されている。例えば、米国特許第5,173,414号、第5,139,941号、国際公開第92/01070号および第93/03769号を参照(これらの文献は、参照により本明細書に組込まれる)。また、Lebkowski et al., Molec. Cell. Biol. 8:3988-3996 [1988]; Carter, Current Opinion in Biotechnology 3:533-539 [1992]; Muzyczka, Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97-129 [1992]; Kotin, (1994) Human Gene Therapy 5:793-801; Shelling and Smith, Gene Therapy 1:165-169 [1994]; Zhou et al., J. Exp. Med. 179:1867-1875 [1994]をも参照。
【0109】
組換えAAVビリオンは、AAVヘルパープラスミドおよびAAVベクターの両方でトランスフェクトした、適当な宿主細胞において作製できる。AAVヘルパープラスミドは、一般的に、AAV repおよびAAV capのコーディング領域を有しているが、AAV ITRは有していない。したがって、ヘルパープラスミド自体は、複製もパッケージングもできない。AAVベクターは、一般的に、選択した目的遺伝子をAAV ITRに連結された状態で有している(AAV ITRにより、ウイルスは複製およびパッケージングができるようになる)。ヘルパープラスミドと選択した遺伝子を有しているAAVベクターとを、適当な宿主細胞に、一過性のトランスフェクションで導入する。次に、トランスフェクトした細胞を、ヘルパーウイルス(アデノウイルスなど)に感染させる。ヘルパーウイルスは、ヘルパープラスミドに存在するAAVプロモーターを活性化させる。これにより、AAV rep領域およびAAV cap領域の転写および翻訳が開始される。選択した遺伝子を有している組換えAAVビリオンが形成され、調製物を精製してもよい。作製したAAVベクターは、宿主細胞のトランスフェクトに使用できる。所望の多重感染度で感染させて、コピー数の多い宿主細胞を作製できる。例えば、米国特許第5,843,742を参照(この文献は参照により本明細書に組込まれる)。当業者であれば理解するように、AAVベクターを上述したように改変して、様々な調節配列を有するようにしてもよい。
【0110】
[トランスポゾンベクター]
本発明では、トランスポゾンベクターを用いて多数の組込まれたドック部位を有している細胞株を作製することも意図される。トランスポゾンとは、移動できる遺伝因子であり、ゲノムのある位置から他の位置へと移動または置換えできる。ゲノム内における位置の移動は、トランスポザーゼ酵素によって制御されている。トランスポザーゼ酵素は、トランスポゾンによってコードされる。多くのトランスポゾンが、本技術分野で周知である。その例としては、Tn5(例えば、de la Cruz et al., J. Bact. 175: 6932-38 [1993]を参照)、Tn7(例えば、Craig, Curr. Topics Microbiol. Immunol. 204: 27-48 [1996]を参照)およびTn10(例えば、Morisato and Kleckner, Cell 51:101-111 [1987]を参照)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。ゲノムへの組込みができるというトランスポゾンの能力を利用して、トランスポゾンベクターが作製されている(例えば、米国特許第5,719,055号、第5,968,785号、第5,958,775号および第6,027,722号を参照。これらの文献は全て、参照により本明細書に組込まれる)。トランスポゾンは感染性ではないので、トランスポゾンベクターを宿主細胞に導入するには、本技術分野で周知の方法を用いる(エレクトロポレーション、リポフェクションまたはマイクロインジェクションなど)。したがって、トランスポゾンベクターの宿主細胞に対する比率を調節して、所望の多重感染度とすることができる。これにより、コピー数が多い本発明の宿主細胞を作製できる。
【0111】
本発明において好適に使用されるトランスポゾンベクターは、一般的に、2つのトランスポゾン挿入配列の間に目的タンパク質をコードする核酸を有している。いくつかのベクターは、トランスポザーゼ酵素をコードする核酸配列も有している。このベクターにおいては、一方の挿入配列が、トランスポザーゼ酵素と目的タンパク質をコードする核酸との間に位置している。そのため、この挿入配列は、組換えによって宿主細胞のゲノムには組込まれない。あるいは、適当な方法によってトランスポザーゼ酵素を提供してもよい(リポフェクションまたはマイクロインジェクションなど)。当業者であれば理解するようにトランスポゾンベクターを上述したように改変して、様々な調節配列を有するようにしてもよい。
【0112】
[多重感染度の高いトランスフェクション]
作製したドック部位をコードする組込みベクター(レトロウイルスベクターなど)を用いて、宿主細胞をトランスフェクトまたは形質導入してもよい。好ましくは、宿主細胞を組込みベクターでトランスフェクトまたは形質導入するときの多重感染度は、1つ以上(好ましくは2つ以上)のレトロウイルスベクターが組込まれる充分な程度とする。いくつかの実施形態において、多重感染度は、10~1,000,000であってもよい。これにより、感染した宿主細胞のゲノムには、組込まれたベクターが2~100コピー(好ましくは5~50コピー)含まれるようになる。他の実施形態において、多重感染度は、10~10,000である。シュードタイプでないレトロウイルスベクターを感染させる場合は、レトロウイルスを産生する細胞に由来する培地であって、所望の力価(コロニー形成単位・CFU)の感染性ベクターを含んでいる培地と一緒に宿主細胞をインキュベートする。シュードタイプレトロウイルスベクターを逢使用する場合は、超遠心によりベクターを濃縮して適度な力価とした後に、宿主細胞の培養物に添加する。あるいは濃縮したベクターを細胞型に適した培地内で稀釈してもよい。
【0113】
いずれの場合でも、感染性レトロウイルスベクターを含んでいる培地に、感染に充分な時間だけ宿主細胞を曝露して、ベクターを組込む。一般的に、細胞を浸すのに使用する培地の量はできるだけ少なくして、1細胞あたりの組込みイベントの量が最大になるようにする。一般的な指針として、1mLあたりのコロニー形成単位(cfu)の数は、望まれる組込みイベントの数に応じて、約10~10cfu/mLとすべきである。実際の組込み率は、多重感染度だけではなく、接触時間(宿主細胞が感染性ベクターに曝露されていた時間の長さ)、トランスフェクトする宿主細胞の密度・形状、およびベクターを含んでいる培地の体積にも影響されることが意図される。これらの条件を本明細書に記載の通りに変化させて、組込みベクターが複数コピー組込まれた宿主細胞株を作製することが意図される。
【0114】
いくつかの実施形態においては、トランスフェクションまたは形質導入の後に、細胞を増殖させ、トリプシン処理を施してから再度播種する。次に、個々のコロニーを選抜して、クローンによって選抜した細胞株とする。よりさらなる実施形態においては、クローンによって選抜した細胞株を、サザンブロッティングアッセイまたはINVADERアッセイによりスクリーニングして、所望の数の組込みイベントが発生していることを確認する。クローンによる選抜により、優れたタンパク質産生細胞株が識別できることが意図される。他の実施形態においては、トランスフェクションの後に細胞をクローンにより選抜しない。
【0115】
よりさらなる実施形態においては、同じドック部位をコードするベクターで、細胞株を連続してトランスフェクトする。いくつかの好適な実施形態においては、ドック部位をコードする組込みベクターで宿主細胞をトランスフェクトする(MOIは、例えば約10~100,000であり、好ましくは100~10,000である)。組込みベクターの組込まれたコピーが1または複数個である細胞株を選抜して(例えばクローンにより選抜して)、選抜した細胞株を再びベクターでトランスフェクトする(MOIは、例えば約10~100,000であり、好ましくは100~10,000である)。このプロセスを、所望のタンパク質発現レベルが得られるまで複数回繰返してもよい。また、このプロセスを繰返して、複数の目的タンパク質をコードするベクターを導入してもよい。
【0116】
本発明では、様々な連続したトランスフェクションの手順が意図される。レトロウイルスベクターを使用するいくつかの実施形態においては、連続した形質導入の手順が提供される。好適な実施形態においては、連続した形質導入を、細胞プールに対して行う。この実施形態においては、最初の宿主細胞プールを、レトロウイルスベクターと接触する。このときの多重感染度は、好ましくは、1個の宿主細胞あたり約0.5~約1000ベクターである。次に、適当な培地で細胞を数日間培養する。次に、細胞のアリコートを分取して組込まれたベクターの数を決定し、将来の使用に備えて冷凍する。残る細胞には、レトロウイルスベクターを再度接触させる。このときの多重感染度は、好ましくは、1個の宿主細胞あたり約0.5~約1000ベクターである。このプロセスを、細胞に組込まれたベクターが所望の数になるまで繰返す。例えば、このプロセスを、10回以下、20回以下またはそれ以上繰返してもよい。いくつかの実施形態においては、望まれるならば、任意の具体的な形質導入ステップの後で、細胞をクローンによって選抜してもよい。ただし、形質導入をせずに細胞プールを利用すれば、組込まれたベクターが所望のコピー数になるまでの時間が短くなる。
【0117】
連続した形質導入プロセスの次に、細胞株をクローンにより選抜して、組込まれたベクターのコピー数とタンパク質産生の特性とを分析する。優れた細胞株を選択し、マスター細胞バンクとして保存する。
【0118】
[核酸発現コンストラクト]
いくつかの好適な実施形態においては、目的タンパク質を発現させるための核酸コンストラクトを、複数のドック部位を有している宿主細胞株に導入する。上述の通り、好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、好ましくは、上述のドック部位挿入因子(「発現コンストラクト挿入因子」とも称する)に適合する核酸配列を有している。
【0119】
したがって、いくつかの好適な実施形態において、本発明は、宿主細胞においてタンパク質または目的タンパク質を発現させるための核酸発現コンストラクトを提供する。いくつかの好適な実施形態において、ドック部位はプロモーターを有しておらず、核酸発現コンストラクトは、最も好ましくは5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を有している。
◆第1プロモーター配列-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列
【0120】
ドック部位が外来性プロモーターを有しているいくつかの好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、最も好ましくは5’側から3’側の順に、作動可能に関連している下記の因子を有している。
◆選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列
【0121】
いくつかの好適な実施形態において、本発明のコンストラクトは、選択マーカー配列と第2プロモーター配列との間にポリAシグナル配列を有していない。本発明は、何らかの特定の作用機序には限定されない。そうではなく、作用機序に対する理解は、本発明の実施には必須ではない。とは言うもの、選択マーカーの後ろにポリAシグナル配列を有していないコンストラクトは、選抜が良好であり、宿主細胞の培養物において目的タンパク質をよく産生することが分かっている。さらに他の好適な実施形態において、選択マーカーは、第2プロモーターに隣接している。さらに他の好適な実施形態において、第2プロモーターは、第1目的タンパク質をコードする核酸配列に隣接している。これに関連して、用語「隣接する」とは、他の機能性因子またはイントロンが、列挙されている要素の間に存在しないことを意味する。
【0122】
いくつかの特に好適な実施形態において、核酸発現コンストラクトは、1つ以上の発現コンストラクト挿入因子を有している。1つ以上の発現コンストラクト挿入因子は、第1プロモーターよりも5’側、ポリAシグナル配列よりも3’側、第1プロモーターとポリAシグナル配列との間、選択マーカーと第2プロモーター配列との間、ならびに、第1プロモーターよりも5’側およびポリAシグナル配列よりも3’側の両方からなる群より選択される1つ以上に位置している。好適なコンストラクトの非限定的な例を下記に示す。
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列(内在性プロモーター配列)-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列
◆第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
◆第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-発現コンストラクト挿入因子-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-ポリAシグナル配列
【0123】
いくつかの好適な実施形態において、コンストラクトは、複数の目的タンパク質をコードする核酸配列を有していてもよい。複数の目的タンパク質とは、例えば、2個、3個、4個または5個(またはそれ以上)の目的タンパク質である。2個の目的タンパク質を発現させるための好適なコンストラクトの非限定的な例を、下記に示す。
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列(内在性プロモーター配列)-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列またはIRES-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列
◆第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列-イントロン(任意構成)-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列-イントロン(任意構成)-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
◆第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-発現コンストラクト挿入因子-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列またはIRES-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE-ポリAシグナル配列
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
◆発現コンストラクト挿入因子-第1プロモーター配列(ドック部位が外来性プロモーター配列を既に有しているか否かに応じて任意構成)-選択マーカー配列-第2プロモーター配列-第1目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-第3プロモーター配列-イントロン-第2目的タンパク質をコードする核酸配列-WPRE(任意構成)-ポリAシグナル配列-発現コンストラクト挿入因子
【0124】
いくつかの好適な実施形態において、第1目的タンパク質は抗体の重鎖および軽鎖のうち一方であり、第2目的タンパク質は抗体の重鎖および軽鎖のうち他方である。
【0125】
いくつかの実施形態においては、異なるコンストラクトの混合物を利用する。いくつかの好適な実施形態において、異なるコンストラクトの混合物は、上述のコンストラクトと、内在性プロモーターまたは第2プロモーターから始まるコンストラクト(選択マーカーの後から始まり、選択マーカー自体は有していないコンストラクト)と、を含んでいてもよい。選択マーカーを有していないコンストラクトを含む混合物を用いることにより、挿入率を高めうることが意図される。
【0126】
しかし、本発明の宿主細胞、コンストラクトおよびシステムによって、任意の適切な目的タンパク質を発現させてよい。例示的な目的タンパク質の例としては、免疫グロブリン、単鎖抗体、抗凝固タンパク質、血液因子タンパク質、骨形成タンパク質、改変タンパク質足場、酵素、Fc融合タンパク質、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、抗原および血栓溶解タンパク質が挙げられる。
【0127】
他の好適な実施形態においては、本発明のコンストラクトを利用して、ウイルスベクターを発現させてもよい。この実施形態においては、例示的なベクターにおいて記載されている目的タンパク質配列を、ウイルスベクター骨格をコードする核酸配列に置換える。本発明のコンストラクトに含まれていてもよいウイルスベクター発現配列の例としては、本明細書の他の箇所で記載した通り、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびAAVベクターが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、レトロウイルスベクター自体には、ベクターによって発現される、上述した目的タンパク質をコードする核酸配列が含まれている。いくつかの特に好適な実施形態において、ベクターによって発現される目的タンパク質は、ワクチンに用いられる抗原配列である。
【0128】
いくつかの好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、トランスポゾン、インテグラーゼ、リコンビナーゼまたはCRISPRシステムとともに利用されるか、またはこれらに認識される因子である。好適な挿入因子の例としては、逆方向末端反復配列、インテグラーゼ付着部位(att)および相同組換えアームが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。相同組換えアームは、本明細書に記載のコンストラクトが相同組換え挿入因子として説明できる箇所に関連して利用できる。
【0129】
多種多様なベクターおよびベクターシステムとともに、核酸コンストラクトを利用してもよい。このベクターおよびベクターシステムは、好ましくは、上述した宿主細胞への核酸発現コンストラクトの導入に用いられるものであってよい。好適なベクターおよびベクターシステムの例としては、ウイルスによる遺伝子挿入技術(レトロウイルスシステム、レンチウイルスシステムおよびAAVシステムなど)、ウイルスによらない遺伝子挿入技術(トランスポザーゼ、リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはCRISPRによる遺伝子挿入など)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。本発明の核酸コンストラクトと共に使用できる技術/酵素の具体例としては、piggybackトランスポザーゼシステム、sleeping beautyトランスポザーゼシステム、Mos1トランスポザーゼシステム、Tol2トランスポザーゼシステム、Leapinトランスポザーゼシステム、λリコンビナーゼシステム、Flp/FRTシステム、Cre/Loxシステム、MMLVインテグラーゼシステム、Rep78インテグラーゼシステムおよびCRISPRシステム(ヌクレアーゼまたはニッカーゼとガイド配列とを含んでいてもよい)が挙げられる。いくつかの好適な実施形態において、システムは、レトロウイルスまたはレンチウイルスのLTRを利用するレトロウイルスシステムまたはレンチウイルスシステムではない核酸組込みシステムである。
【0130】
上述の通り、いくつかの好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、付着部位(att)を有している。いくつかの特定の好適な実施形態において、付着部位は、attBである。この付着部位は、PhiC31インテグラーゼによって利用される。PhiC31インテグラーゼは、リコンビナーゼ酵素であり、好適な実施形態においてはベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。この部位は、attP付着部位を有しているドック部位への核酸コンストラクトの組込みを促進する。他の好適な実施形態においては、attR付着部位およびattL付着部位を利用してもよい。
【0131】
他の好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、Flp組換え標的(FRT)部位を有している。この部位は、フリッパーゼ酵素によって利用される。フリッパーゼ酵素は、リコンビナーゼ酵素であり、好適な実施形態においてはベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。この部位は、対応するFRT部位を有しているドック部位への核酸コンストラクトの組込みを促進する。
【0132】
他の好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、LoxP部位を有している。この部位は、Creリコンビナーゼにより利用される。Creリコンビナーゼは、ベクターにより宿主細胞に提供されてもよい。好適な実施形態において、この部位は、対応するLoxP部位を有しているドック部位への核酸コンストラクトの組込みを促進する。
【0133】
他の好適な実施形態において、発現コンストラクト挿入因子は、HDR(相同組換え修復)発現コンストラクト挿入因子である。HDR発現コンストラクト挿入因子は、相同な領域(ホモロジーアーム)を与える核酸配列である。この相同な領域は、ドック部位に含まれている対応するホモロジーアームと塩基対を形成する。このシステムは、好ましくは、標的部位に2本鎖切断を導入するエンドヌクレアーゼと共に使用する。この標的部位は、好ましくは、ホモロジーアームに隣接している。いくつかの実施形態において、HDR発現コンストラクト挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位ホモロジーアームを有している。この実施形態において、発現コンストラクトは、具体的には、AAVS1セーフ・ハーバー部位を有しているドック部位に組込まれている。この組込みは、Rep78エンドヌクレアーゼ(ニッカーゼ)により促進される。Rep78エンドヌクレアーゼ(ニッカーゼ)は、ベクターにより宿主細胞に導入されてもよい。Rep78ニッカーゼタンパク質は、AAVS1セーフ・ハーバー部位に対応するホモロジーアームを有している核酸配列の、部位特異的な組込みを促進する。
【0134】
他の好適な実施形態において、HDR発現コンストラクト挿入因子は、長さが30~1000塩基対の外来性配列である1つ以上のホモロジーアームを有している。この発現コンストラクトは、好ましくは、CRISPR遺伝子編集システムと共に使用する。この実施形態において、核酸コンストラクトは、ホモロジーアームを有しているドック部位に挿入される。このホモロジーアームは、核酸コンストラクトに含まれているホモロジーアームと相同的であり、塩基対を形成する。CRISPR遺伝子編集システムとともに利用するためには、CRISPR遺伝子編集システムに適合するヌクレアーゼを宿主細胞に導入する。CRISPR遺伝子編集システムに適合するヌクレアーゼは、ガイドRNAによって決定される(ドック部位内の)位置に2本鎖切断を生じさせる野生型エンドヌクレアーゼであってもよい。あるいは、2つのガイドRNAによって定義されるドック部位内のずれた位置に1本鎖切断を生じさせる、変異型ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)であってもよい。好適なヌクレアーゼは、核酸発現コンストラクトに関する説明において詳述する。
【0135】
上述の通り、ドック部位への組込みには、一般的に、宿主細胞における外来性の酵素の発現が必要である。好適な酵素の例としては、リコンビナーゼ(インテグラーゼを含む)、エンドヌクレアーゼおよびニッカーゼが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の宿主細胞は、リコンビナーゼ(インテグラーゼを含む)、エンドヌクレアーゼおよびニッカーゼを発現するための外来性核酸配列(または、発現コンストラクト)を有している。いくつかの実施形態において、外来性の酵素を発現させるためのコンストラクトは、宿主細胞のゲノムに安定して組込まれていてもよい。他の実施形態においては、外来性の酵素を発現させるためのベクターを、宿主細胞に一過的に導入する(例えば、プラスミドなどの染色体外ベクターによって)。
【0136】
いくつかの実施形態においては、外来性の酵素を有しているベクターと、目的タンパク質を発現させるための核酸コンストラクトを含んでいるベクターとの両方を、宿主細胞に一過的に導入する(例えば、トランスフェクションによって)。この実施形態において、外来性の酵素をコードするベクターの目的遺伝子ベクターに対する比率は、好ましくは、(1:1000)~(1:10)である。いくつかのより好適な実施形態において、上記の比率は、(1:100)~(1:750)である。いくつかのさらにより好適な実施形態において、上記の比率は、(1:400)~(1:600)である。これは驚くべきことである。というのも、他のインテグラーゼシステムに関する先行文献では、一般的に、外来性の酵素をコードするベクターの目的遺伝子コンストラクトに対する比率はもっと高い必要があるからである。
【0137】
いくつかの好適な実施形態において、インテグラーゼは、phiC31インテグラーゼ(BioCat GmbH, Heidelberg, DE; System Biosciences, Palo Alto, CA)である。phiC31インテグラーゼは、phiC31バクテリオファージのゲノムにコードされている、配列特異的なリコンビナーゼである。phiC31インテグラーゼは、付着部位(att)と呼ばれる34塩基対の配列間の組換えを媒介する。付着部位(att)の一方はファージに含まれており、他方は宿主に含まれている。このセリンインテグラーゼは、哺乳動物細胞を含めた多種多様な細胞型において効果的に機能することが示されている。phiC31インテグラーゼの存在下において、ドナープラスミドに含まれているattBは、天然のattPに類似した配列部位(pseudo-attPと呼ばれる)との組換えによって、一方向的に標的ゲノムに組込まれる。phiC31インテグラーゼは、任意の大きさのプラスミドを1コピーとして組込め、補助因子を必要としない。組込まれた導入遺伝子は、安定的に発現し、遺伝する。
【0138】
他の好適なリコンビナーゼ系システムの例としては、CRISPR遺伝子編集システム、Cre-Loxシステム、Flp-FRTシステムおよびλリコンビナーゼシステムが挙げられる。
【0139】
Cre-Lox組換えとは、部位特異的リコンビナーゼによる技術であり、これを用いて、細胞のDNAの特定の部位に欠失、挿入、転座および逆位を発生させる。このシステムによれば、標的化した特定の細胞型のDNAを改変したり、特定の外部刺激をトリガーとしてDNAを改変したりできる。このシステムは、真核系でも原核系でも実施できる。Cre-Lox組換えシステムは、神経科学における脳の研究に特に有用であった。脳においては、複雑な細胞型と神経回路とが合わさって認知・行動を生み出すからである。このシステムは、1種類の酵素(Creリコンビナーゼ)からなる。Creリコンビナーゼは、Lox配列と呼ばれる1対の短い標的配列を組換える。このシステムの実施には、他の補助タンパク質または補助配列の挿入を必要としない。Cre酵素および元々のLox部位(LoxP配列と呼ぶ)は、P1バクテリオファージに由来する。例えば、Targeted integration of DNA using mutant lox sites in embryonic stem cells. Araki, et al. Nucleic Acids Res, Feb 1997, Vol. 25, Issue 4, pp. 868-872; High-Resolution Labeling and Functional Manipulation of Specific Neuron Types in Mouse Brain by Cre-Activated Viral Gene Expression. Kuhlman, et al. PLos One, Apr 2008, Vol. 3, e2005; When reverse genetics meets physiology: the use of site-specific recombinases in mice. Tronche, et al. FEBS Letters, Aug 2002, Vol. 529, Issue 1, pp. 116-121を参照。
【0140】
Flp-FRT組換えシステムは、他の部位指向性の組換え技術である。概念としてはCreおよびLoxPを含んでいるCre-Loxと非常に類似しており、フリッパーゼ(Flp)および短いフリッパーゼ認識標的(FRT)を含んでいる。例えば、Candice et al., Cre/loxP, Flp/FRT Systems and Pluripotent Stem Cell Lines (2012) Topics in Current Genetics, vol 23を参照。Flp-FRT技術は、効果的にCre-Loxに代わることができる。あるいは、Flp-FRTとCre-Loxとを一緒に使用してもよい。これにより、2つの異なる組換えイベントを並行して制御できる。
【0141】
本発明の核酸コンストラクトを、CRISPR相同組換え(HDR)システムと組合せて使用してもよい。HDRは、DNAに2本鎖切断(DSB)が生じることから始まる。好ましくは、CRISPR/Cas9システムを利用して、ガイドRNA配列により標的化した2本鎖切断を生じさせ、本発明核酸コンストラクトを挿入してもよい。例えば、Zhang et al., Efficient precise knockin with a double cut HDR donor after CRISPR/Cas9-mediated double-stranded DNA cleavage (2017) Genome Biol. 18:35; Mali et al., Cas9 as a versatile tool for engineering biology. Nature Methods10, 957-963 (2013); Mali et al., RNA-Guided Human Genome Engineering via Cas9. Science339(6121), 823-826 (2013); Ran et al., Double nicking by RNA-guided CRISPR Cas9 for enhanced genome editing specificity. Cell, 155(2), 479-480(2013)を参照。適当なガイドRNA配列(gRNA)は、本技術分野で周知の手法で設計できる。いくつかの好適な実施形態において、HDRのためのCRISPRシステムは、1つまたは2つのガイド配列を利用している。1つのガイドRNA配列を利用する場合は、ガイドRNA配列によって1箇所の2本鎖切断を生じさせるヌクレアーゼ(Cas9ヌクレアーゼなど)を用いることが好ましい。2つのガイド配列を利用する場合は、ニッカーゼを用いることが好ましい。ニッカーゼとは、変異型Cas9ヌクレアーゼであり、それぞれのガイドRNA配列がガイドする標的DNA配列に対して1本鎖切断のみを生じさせる。好ましくは、1本鎖切断は、標的DNA配列の異なる鎖(センス鎖およびアンチセンス鎖)のずれた箇所に位置している。このような構成とすることにより、一般的に、HDR効率が向上する。
【0142】
一般的に、「CRISPRシステム」とは、CRISPR関連(Cas)遺伝子の発現または活性の誘導に関与している、転写物および他の因子を総称して表す。その例としては、Cas遺伝子をコードする配列;tracr(トランス活性化型CRISPR)配列(tracrRNAまたはtracrRNAの活性部分など);tracr mate配列(内在性CRISPRシステムににおける、直接反復およびtracrRNAで修飾された部分的直接反復を含む);ガイド配列(内在性CRISPRシステムではスペーサーとも称する);または、CRISPR遺伝子座に由来する他の配列および転写物が挙げられる。いくつかの実施形態において、CRISPRシステムの因子の1つ以上は、タイプI、タイプIIまたはタイプIIIのCRISPRシステムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPRシステムの因子の1つ以上は、内在性CRISPRシステムを有している特定の生物に由来する(Streptococcus pyogenesなど)。一般的に、CRISPRシステムは、標的配列(内在性CRISPRシステムではプロトスペーサーとも称する)部位におけるCRISPR複合体の形成を促進する因子によって特徴づけられる。CRISPR複合体の形成に関連して、「標的配列」とは、それと相補性を有するようにガイド配列が設計される配列を表す。標的配列とガイド配列との間にハイブリダイゼーションが形成されると、CRISPR複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションが生じてCRISPR複合体の形成が促進されるのに充分な相補性があるならば、完全な相補性は必ずしも必要ではない。標的配列は、任意のポリヌクレオチドを含んでいてよい(DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなど)。いくつかの実施形態において、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置している。いくつかの実施形態において、標的配列は、真核細胞の細胞小器官の中に位置している(ミトコンドリアまたは葉緑体など)。標的配列を有している標的遺伝子座に組換えを生じさせるための配列または鋳型のことを、「編集鋳型」「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と称する。本発明の態様においては、外来性の鋳型ポリヌクレオチドを編集鋳型と称することがある。本発明のある態様において、組換えは、相同組換えである。
【0143】
通常、内在性CRISPRシステムにおいては、CRISPR複合体(標的配列とハイブリダイズしたガイド配列と複合体化した1つ以上のCasタンパク質とが含まれる)が形成されると、標的配列の中または近傍(例えば、標的配列から1塩基対以内、2塩基対以内、3塩基対以内、4塩基対以内、5塩基対以内、6塩基対以内、7塩基対以内、8塩基対以内、9塩基対以内、10塩基対以内、20塩基対以内、50塩基対以内またはそれ以上)において、一方または両方の鎖が切断される。理論に拘束されることを望むものではないが、野生型tracr配列の全部または一部(例えば、野生型tracr配列のうち約20ヌクレオチドもしくはそれ以上、約26ヌクレオチドもしくはそれ以上、約32ヌクレオチドもしくはそれ以上、約45ヌクレオチドもしくはそれ以上、約48ヌクレオチドもしくはそれ以上、約54ヌクレオチドもしくはそれ以上、約63ヌクレオチドもしくはそれ以上、約67ヌクレオチドもしくはそれ以上、約85ヌクレオチドもしくはそれ以上、またはそれ以上)を含んでいるか、またはそれからなるtracr配列が、CRISPR複合体の一部を構成していてもよい。例えば、tracr配列の少なくとも一部が、ガイド配列と作動可能に連結されているtracr mate配列の全部または一部とハイブリダイゼーションしていてもよい。いくつかの実施形態において、tracr配列のtracr mate配列に対する相補性は、ハイブリダイズしてCRISPR複合体を形成するのに充分な程度である。標的配列に関しては、充分な機能を有しているならば、完全な相補性は必要ないと考えられている。いくつかの実施形態において、tracr配列のtracr mate配列に対する配列相補性は、最適にアラインメントすると、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または99%以上である。いくつかの実施形態においては、CRISPRシステムの1つ以上の因子の発現を駆動する1つ以上のベクターを、宿主細胞に導入する。これにより、CRISPRシステムの因子が発現すると、1つ以上の標的部位においてCRISPR複合体が形成されるようになる。例えば、Cas酵素、tracr mate配列と連結されているガイド配列およびtracr配列は、それぞれ、別々のベクターの異なる調節因子と作動可能に連結されていてもよい。あるいは、同じまたは異なる調節因子によって発現する2つ以上の因子が、1つのベクターにおいて組合されていてもよい。このとき、CRISPRシステムの任意の要素を提供する1つ以上のさらなるベクターは、第1ベクターには含まれていない。1つのベクターにおいて組合されているCRISPRシステム因子は、任意の適切な方向に配置してよい。例えば、ある因子は、第2の因子に対して5’側(上流)に位置していてもよいし、3’側(下流)に位置していてもよい。ある因子のコーディング配列は、第2の因子コーディング配列と同じ鎖に位置していてもよいし、逆の鎖に位置していてもよい。また、両者の方向は、同じであってもよいし、逆であってもよい。いくつかの実施形態においては、1つのプロモーターが、CRISPR酵素をコードする転写物と、ガイド配列、tracr mate配列(任意構成で、ガイド配列と作動可能に連結されている)およびtracr配列のうち1つ以上とをの発現を駆動する。これらの因子は、1つ以上のイントロン配列の中にある。例えば、因子の各々が異なるイントロンの中にあってもよいし、2つ以上の因子が1つ以上のイントロンの中にあってもよいし、全ての因子が1つのイントロンの中にあってもよい。いくつかの実施形態において、CRISPR酵素、ガイド配列、tracr mate配列およびtracr配列は、同じプロモーターと作動可能に連結されており、当該プロモーターによって発現する。
【0144】
本発明において有用であるCasタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、これらのホモログ、またはこれらの改変体が挙げられる。これらの酵素は、公知である。例えば、S. pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列はSwissProtデータベースに収録されており、アクセッション番号はQ99ZW2である。いくつかの実施形態においては、改変していないCRISPR酵素がDNA切断活性を有している(Cas9など)。いくつかの実施形態において、CRISPR酵素はCas9であり、S. pyogenesまたはS. pneumoniae由来のCas9であってもよい。いくつかの実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の位置において(例えば、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内において)、一方または両方の鎖を切断する。いくつかの実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドから約1塩基対以内、約2塩基対以内、約3塩基対以内、約4塩基対以内、約5塩基対以内、約6塩基対以内、約7塩基対以内、約8塩基対以内、約9塩基対以内、約10塩基対以内、約15塩基対以内、約20塩基対以内、約25塩基対以内、約50塩基対以内、約100塩基対以内、約200塩基対以内、約500塩基対以内、またはそれ以上の箇所において、一方または両方の鎖を切断する。いくつかの実施形態において、ベクターがコードするのは、対応する野生型酵素から変異したCRISPR酵素である。変異型CRISPR酵素は、標的配列を有している標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖の切断能を失っている。例えば、S. pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメインのアスパラギン酸塩をアラニンに置換すると(D10A)、そのCas9は、両方の鎖を切断するヌクレアーゼから、ニッカーゼ(1本鎖を切断する)に変化する。Cas9をニッカーゼにする変異の他の例としては、H840A、N854AおよびN863Aが挙げられる(ただし、これらには制限されない)。本発明の態様においては、相同組換えによるゲノム編集にニッカーゼを用いてもよい。
【0145】
いくつかの好適な実施形態において、HDR挿入因子は、AAVS1セーフ・ハーバー部位ホモロジーアームを有しており、Rep78エンドヌクレアーゼ(ニッカーゼ)と共に使用される。アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)のRep78タンパク質は、ストランド特異的なエンドヌクレアーゼ(ニッカーゼ)である。Rep78タンパク質は、AAVS1セーフ・ハーバー部位に対応するするホモロジーアームを有している導入遺伝子配列の部位特異的な組込みを促進する(例えば、Ramachandra et al., Efficient recombinase-mediated cassette exchange at the AAVS1 locus in human embryonic stem cells using baculoviral vectors (2011) Nucleic Acids Research, 39(16):e107および国際公開第1998027207号を参照)。
【0146】
上述した通り、いくつかの好適な実施形態において、本発明の核酸コンストラクトは、任意構成である第1プロモーター配列および第2プロモーター配列を有している。第1プロモーター配列および第2プロモーター配列は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。好適な第1プロモーター配列および第2プロモーター配列の例としては、MMLV LTRプロモーター、MoMuSV LTRプロモーター、RSV LTRプロモーター、SIN-LTRプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーター、α-ラクトアルブミンプロモーター、マウスメタロチオネイン-Iプロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、EF1αプロモーター配列、およびこれらの組合せが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの好適な実施形態において、第1プロモーター配列は、レトロウイルスのLTRプロモーターではない。すなわち、第1プロモーターは、レトロウイルスのLTRプロモーター配列以外のプロモーター配列である。しかし、プロモーターがレトロウイルスのプロモーター配列である場合には、当該プロモーター配列は、SIN(自己不活性化)LTRプロモーター配列であってもよい。例えば、同時係属中の出願であるPCT/US2019/064423を参照(この文献は、参照によりその全体が本明細書に組込まれる)。好適なSIN-LTRプロモーターは、本技術分野で周知である。LTRからU3領域の全部または一部を取り除くことにより、SIN-LTRプロモーターを作製できる。
【0147】
PCT/US2019/064423に記載の通り、いくつかの好適な実施形態において、選択マーカーを駆動する第1プロモーターは、弱いプロモーターである。いくつかの好適な実施形態において、弱いプロモーターとは、選択可能なマーカー配列と作動可能に連結されたときの活性が、目的宿主(CHO細胞など)におけるSIN-LTRプロモーターの活性以下であるプロモーター(好ましくは構成的プロモーター)である。さらに他の好適な実施形態において、弱いプロモーターは、選択可能なマーカー配列と作動可能に連結されたときの活性が、目的宿主(CHO細胞など)におけるヒトユビキチンCプロモーターの活性以下であるプロモーター(好ましくは構成的プロモーター)である。プロモーターの強さを評価する適切な方法は、本技術分野で周知である。例えば、Dandindorj et al. (2014) A Comparative Analysis of Constitutive Promoters Located in Adeno-Associated Viral Vectors, PLoS One 9(8): e106472; Zhang and Baum (2005) Evaluation of Viral and Mammalian Promoters for Use in Gene Delivery to Salivary Glands Mol. Ther. 12(3):528-536; Qin et al. (2010) Systematic Comparison of Constitutive Promoters and the Doxycycline-Inducible Promoter PLoS 5(5): e10611; Jeyaseelan et al. (2001) Real-time detection of gene promoter activity: quantitation of toxin gene transcription, Nucleic Acids Research. 29 (12): 58e-58を参照。いくつかの実施形態において、弱いプロモーターは、プロモーター活性が減じるように改変されている。したがって、いくつかの好適な実施形態において、本発明は、選択マーカーをコードする核酸配列と、目的タンパク質をコードする核酸配列とを有している、目的タンパク質を発現するためのベクターを提供する。選択マーカーをコードする核酸配列は、弱い第1プロモーター配列か、または改変前の野生型第1プロモーター配列と比較してプロモーター活性が減じるように改変されたプロモーター配列と、作動可能に関連している。目的タンパク質をコードする核酸配列は、第2プロモーター配列と作動可能に連結されている。SIN-LTRプロモーター配列は、その一例である。上述した他のプロモーター配列も、活性が減じるように改変して弱いプロモーターとすることができる。あるいは、弱いプロモーターは、天然の弱いプロモーターであってもよい(UBCプロモーターなど)。
【0148】
いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、選択マーカーを有している。好適な選択マーカーの例としては、グルタミンシンターゼ(GS)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。これらの遺伝子は、米国特許第5,770,359号、第5,827,739号、第4,399,216号、第4,634,665号、第5,149,636号および第6,455,275号に開示されている(これらの文献は全て、参照により本明細書に組込まれる)。いくつかの好適な実施形態において、利用される選択マーカーは、選択マーカー核酸配列によってコードされる酵素の産生が欠損している宿主細胞株に適合する。好適な宿主細胞株については、後に詳述する。他の実施形態において、選択マーカーは、抗生物質耐性マーカーである。すなわち、このタンパク質を発現する細胞が、抗生物質に対する耐性を獲得するようなタンパク質を産生する遺伝子である。好適な抗生物質耐性マーカーの例としては、ネオマイシンに対する耐性を獲得する遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子(neo))、ハイグロマイシンに対する耐性を獲得する遺伝子(ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子)、プロマイシンに対する耐性を獲得する遺伝子(プロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ)が挙げられる。
【0149】
目的タンパク質の分泌が望まれる本発明の他の実施形態において、核酸コンストラクトは、目的タンパク質と作動可能に関連しているシグナルペプチド配列を有している。いくつかの好適なシグナルペプチドの配列は、当業者に周知である。その例としては、組織プラスミノーゲン活性化因子、ヒト成長ホルモン、ラクトフェリン、α-カゼインおよびα-ラクトアルブミンに由来するシグナルペプチド配列が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0150】
本発明の他の実施形態において核酸コンストラクトは、目的タンパク質をコードする核酸配列の3’側または5’側のいずれかに、RNA輸送因子を有している。RNA輸送因子については、例えば、米国特許第5,914,267号、第6,136,597号、第5,686,120号および国際公開第99/14310号を参照(これらの文献は全て、参照により本明細書に組込まれる)。RNA輸送因子を使用することにより、目的タンパク質をコードする核酸配列にスプライスシグナルまたはイントロンを組込むことなく、目的タンパク質を高レベルで発現できることが意図される。
【0151】
さらに他の実施形態において、核酸コンストラクトは、1つ以上の内部リボソーム進入部位(IRES)配列を有している。いくつかの好適なIRESの配列が利用できる。その例としては、口蹄疫ウイルス(FDV)、脳心筋炎ウイルスおよびポリオウイルスに由来するIRESが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。2つの転写ユニットの間にIRES配列を挿入して、ポリシストロン配列を形成させてもよい。例えば、異なる目的タンパク質や、マルチサブユニットタンパク質(抗体など)のサブユニットをコードする核酸の間にIRES配列を挿入してもよい。これにより、2つの転写ユニットが同じプロモーターから転写されるようになる。
【0152】
本発明は、何らかの特定の目的タンパク質の発現には限定されない。いくつかの好適な実施形態において、目的タンパク質は、Fc融合タンパク質、酵素、アルブミン融合、成長因子、タンパク質受容体、単鎖抗体(scFv)、単鎖Fc、ダイアボディ、ミニボディ(scFv-CH3)、Fab、単鎖Fab(scFab)、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリン軽鎖、および他の抗原タンパク質結合からなる群より選択される。一般的に、タンパク質または目的タンパク質は、宿主培養物による発現および産生が望まれている、任意の薬学的価値または産業価値のあるタンパク質でありうる。
【0153】
いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、核酸発現ベクターに組込まれている。ベクターの例としては、次のものが挙げられる(ただし、これらには限定されない):1本鎖、2本鎖または部分的に2本鎖の核酸分子;1つ以上の自由端を有している核酸分子、自由端がない核酸分子(環状核酸分子など);DNA、RNAまたはその両方を含んでいる核酸分子;本技術分野で周知のポリヌクレオチドの他の変化形。ベクターの一例は、プラスミドである。プラスミドとは環状の2本鎖DNAのループを表し、その中に追加のDNA断片を挿入できる(例えば、標準的な分子クローニング技術により)。ベクターの他の例は、ウイルスベクターである。このベクターには、ウイルス由来のDNA配列またはRNA配列が、ウイルス(レトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなど)に格納されて含まれている。ウイルスベクターには、宿主細胞にトランスフェクションするための、ウイルスにより送達されるポリヌクレオチドも含まれている。特定のベクターは、導入された宿主細胞内において、自発的に複製できる(細菌性複製開始点を有している細菌ベクター、哺乳動物のエピソームベクターなど)。他のベクターは、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組込まれ、宿主ゲノムと共に複製される(哺乳動物の非エピソームベクターなど)。また、特定のベクターは、当該ベクターに作動可能に連結している遺伝子の発現を誘導できる。このようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と称する。組換えDNA技術における通常の発現ベクターの利用は、プラスミドの形態をとることが多い。他の好適ななベクターの例としては、コスミドおよび酵母人工染色体が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0154】
したがって、好適な核酸発現ベクターの例としては、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、AAVベクター、ファージベクターなどに加えて、上述のトランスポゾンベクターが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。宿主において複製および生存できる限りにおいて、あらゆるベクターを使用できることが意図される。好適な実施形態において、ベクターは、哺乳動物の発現ベクターである。このベクターは、本明細書に記載の因子の中でも、複製開始点、適当なプロモーターおよびエンハンサーを有しており、さらに、必要に応じて、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位、スプライスアクセプター部位、転写終了配列および5’非転写配列を有している。
【0155】
好本発明の核酸コンストラクトに適用できる適なプラスミドベクターの例としては、トランスポゾンベクター、Flp-FLTシステム、Cre-Loxシステム、CRISPR-Cas9システム、リコンビナーゼシステムおよびインテグラーゼシステムのための、特定のプラスミドシステムが挙げられる。また、pCIneo、pVAX1、pACT、Gatewayプラスミド、pAdvantage、pBIND、pG5luc、pTNT、pTarget、pCat3、pSI、pCMV、pSVなどに由来するプラスミドベクターも例として挙げられる。
【0156】
いくつかの実施形態において、本発明は、宿主細胞および宿主細胞の培養物を提供する。この宿主細胞は、上述した核酸コンストラクトに由来する目的タンパク質を発現している。好適な実施形態において、宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞である。数多の哺乳動物宿主細胞株が本技術分野で周知である。一般的に、この宿主細胞は、適切な栄養および成長因子を含んでいる培地中で単層培養または懸濁培養したときに、増殖・生存できる(詳細は後述する)。通常、細胞は、特定の目的タンパク質を大量に発現し、培地中に分泌できる。好適な哺乳動物宿主細胞の例としては、次のものが挙げられる(ただし、これらには限定されない):チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1, ATCC CCl-61)、ウシ乳腺上皮細胞(ATCC CRL 10274; bovine mammary epithelial cells)、SV40で形質転換したサル腎臓CV1細胞株(COS-7, ATCC CRL 1651)、ヒト胎児腎細胞株(293細胞または293細胞の懸濁培養用サブクローン;例えば、Graham et al., J. Gen Virol., 36:59 [1977]を参照)、ベビーハムスター腎細胞(BHK, ATCC CCL 10)、マウスセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 [1980])、サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA, ATCC CCL 2)、イヌ腎細胞(MDCK, ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138, ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2, HB 8065)、マウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 [1982])、MRC-5細胞、FS-4細胞、ラット線維芽細胞(208F細胞)、MDBK細胞(ウシ腎細胞)、CAP(CEVEC's Amniocyte Production)細胞およびヒト肝細胞癌株(Hep G2)。
【0157】
いくつかの特に好適な実施形態において、宿主細胞は、選択剤の存在下における細胞の増殖または生存に必要な酵素活性を欠損するように改変されているか、元から欠損しており、これにより選択マーカーが与えられる。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、GSを欠損するように改変されている。ベクターがGS選択マーカーを有しているいくつかの好適な実施形態において、宿主細胞株は、GSを欠損している。いくつかの特に好適な実施形態において、GSを欠損している宿主細胞株は、CHOZN(R) GS-/-細胞株(Merck KGaA)である。例えば選択マーカーがDHFRである他の実施形態において、細胞株は、好ましくは、DHFR活性を欠損していてもよい(DHFRであってもよい)。好適なDHFR細胞株の例としては、CHO-DG44およびその誘導株が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0158】
任意の適切な手段によって、本発明の核酸コンストラクトおよびベクターを宿主細胞に導入できる(トランスフェクション、形質転換または形質導入など)。いくつかの実施形態においては、トランスフェクションまたは形質導入の後に細胞を増殖させ、トリプシン処理してから再度播種する。次に、個々のコロニーを選抜して、クローンによって選抜した細胞株とする。よりさらなる実施形態においては、クローンによって選抜した細胞株を、サザンブロッティングアッセイまたはPCRアッセイによりスクリーニングして、所望の数の組込みイベントが発生していることを確認する。クローンによる選抜により、優れたタンパク質産生細胞株が識別できることが意図される。他の実施形態においては、トランスフェクションの後に細胞をクローンにより選抜しない。
【0159】
いくつかの実施形態においては、異なる目的タンパク質をコードする核酸コンストラクトを宿主細胞に導入する(トランスフェクションまたはエレクトロポレーションなどによって)。異なる目的タンパク質をコードする核酸コンストラクトは、宿主細胞に同時に導入してもよいし、順次導入してもよい。例えば、第1目的タンパク質をコードする核酸コンストラクトを導入して、一定期間が経過してから、第2目的タンパク質をコードする核酸コンストラクトを導入してもよい。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態においては、適当な宿主株を形質転換させ、宿主株が適当な細胞密度になるまで培地中で増殖させた後において、宿主細胞の培養に伴い目的タンパク質が分泌される。いくつかの好適な実施形態においては、増殖可能性に関するマーカーを利用する。形質導入した宿主細胞の培養物は、遺伝子の阻害剤を含んでいる培地中にあることが意図される。好適な阻害剤の例としては、DHFRを阻害するメトトレキサート、およびGSを阻害するメチオニンスルホキシイミン(Msx)もしくはホスフィノトリシンが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。細胞培養系における阻害剤の濃度が上昇するほど、増殖可能性に関するマーカーのコピー数が多い細胞(すなわち、遺伝子または目的遺伝子のコピー数が多い細胞)か、または生産性の高い挿入物を有している細胞が選抜されることが意図される。
【0161】
したがって、好ましくは、上述のベクターを含んでいる宿主細胞を本技術分野で周知の方法で培養する。哺乳動物細胞の好適な培養条件は、本技術分野で周知である(例えば、J. Immunol. Methods (1983) 56:221-234 [1983], Animal Cell Culture: A Practical Approach 2nd Ed., Rickwood, D. and Hames, B. D., eds. Oxford University Press, New York [1992]を参照)。
【0162】
本発明の宿主細胞の培養物は、培養される特定の細胞に適した培地の中で調製されている。例示的な栄養溶液としては、ActiPro media(HyClone)、ExCell Advanced Fed Batch Medium(SAFC)、Ham's F10(Sigma, St. Louis, MO)、Minimal Essential Medium(MEM, Sigma)、RPMI-1640(Sigma)およびDulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM, Sigma)などの市販の培地が挙げられる。好適な培地は、米国特許第4,767,704号、第4,657,866号、第4,927,762号、第5,122,469号、第4,560,655号;国際公開第90/03430号および第87/00195号にも開示されている(これらの文献の開示は、参照により本明細書に組込まれる)。これらの培地のいずれにも、必要に応じて、血清、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリンまたは上皮増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシンなど)、微量因子(通常は最終濃度がμMオーダーで存在する無機化合物と定義される)、脂質(リノレン酸または他の脂肪酸)およびその適当なキャリア、グルコースまたは同等のエネルギー源を添加してもよい。GSなどの選択マーカーを利用するいくつかの好適な実施形態においては、例えば、培地にはグルタミンが含まれていない。他の任意の必須添加物を、当業者に知られている適当な濃度にて含ませてもよい。
【0163】
本発明では、トランスフェクトした宿主細胞のための、種々の培養系を使用が意図されている(ペトリ皿、96ウェルプレート、ローラーボトルおよびバイオリアクターなど)。例えば、トランスフェクトした宿主細胞を、潅流系で培養してもよい。潅流培養とは、連続した培地の流れを与えて培養物の細胞密度を高く維持することを表す。細胞は懸濁しており、固体支持体の上で増殖しない。一般的には、新鮮な栄養を連続的に供給するともに、毒性の代謝産物を除去せねばならない。理想的には、死細胞も選択的に除去する。濾過、捕捉およびマイクロカプセル化は、いずれも、培養環境を充分な速度で新鮮に保つ好適な方法である。
【0164】
他の例として、いくつかの実施形態においては、流加培養を採用してもよい。哺乳動物宿主の好適な流加培養においては、最初は培養容器に細胞および培地を供給し、培養の間は追加の培養栄養を培地に添加する。追加の培養栄養は、連続して添加してもよいし、不連続に区切って添加してもよい。また、培養終了までに、定期的に細胞および/または産物を回収してもよいし、回収しなくてもよい。流加培養には、例えば、半連続流加培養も含まれうる。半連続流加培養では、培養物の全て(細胞および培地を含む)を定期的に除去し、新しい培地と交換する。流加培養と単純な回分培養とは、培養プロセスの開始時点において細胞培養のための全ての要素(細胞および全ての培養栄養を含む)が培養容器に供給されているかどうかにより区別できる。また、流加培養と潅流培養とは、培養プロセスにおいて培養容器から上清を除去するかどうかにより区別できる。潅流培養においては、細胞は培養物の中に捕捉されており(例えば、濾過、カプセル化、マイクロキャリアへの固定などによって)、培地は連続的または断続的に培養容器へと導入・除去される。いくつかの特に好適な実施形態においては、ローラーボトルの中で回分培養を行う。
【0165】
さらに、意図される特定の宿主細胞および特定の産生計画に適した様式または手順によって、培養物中の細胞を増殖させてもよい。したがって、本発明は、1または複数のステップの培養手順を意図している。1ステップの培養では、宿主細胞を培養環境に播種して、細胞培養物を1回生産するフェーズにおいて本発明のプロセスを実行する。あるいは、複数のステップの培養も予期されている。複数のステップの培養では、複数のステップまたはフェーズで細胞を増殖させてもよい。例えば、第1ステップまたは増殖フェーズで細胞を増殖させてもよい。このとき、増殖を促進し生存率が高い好適な培地に細胞を播種する(細胞は、保存から取出した細胞でもよい)。増殖フェーズにおいては、宿主細胞の培養物に新しい培地を加えることにより、適当な期間にわたって細胞を維持してもよい。
【0166】
流加培養または連続培養による細胞培養条件は、細胞培養の増殖フェーズにおいては、哺乳動物細胞の増殖を促進するように調節する。増殖フェーズにおいては、増殖を最大化する条件・期間で細胞を増殖させる。培養条件(温度、pH、溶存酸素(dO)など)は、特定の宿主に用いられる条件であり、当業者にとって周知である。一般的に、pHは、酸(COなど)または塩基(NaCOまたはNaOHなど)を使って、約6.5~7.5に調節する。哺乳動物細胞(CHO細胞など)に好適な温度範囲は、約30~38℃である。哺乳動物細胞(CHO細胞など)に好適なdO2は、空気による飽和の5~90%である。
【0167】
ポリペプチド産生フェーズの後に、目的ポリペプチドを培地から回収する。回収方法は、本技術分野で周知である。好ましくは、分泌ポリペプチドとして目的タンパク質を培地から回収する(例えば、目的タンパク質の分泌は、シグナルペプチド配列により誘導される)。しかし、宿主細胞の溶解物から目的タンパク質を回収してもよい。まず、培地または溶解物を遠心分離して、細胞デブリを除去する。次に、ポリペプチドを精製して、可溶性のタンパク質およびポリペプチドを除去する。次の手順が、好適な精製プロセスの例である:免疫アフィニティカラムまたはイオン交換カラムによって分画;エタノール沈澱;逆相HPLC;シリカまたは陽イオン交換樹脂(DEAEなど)によるクロマトグラフィ;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈澱;Sephadex G-75などを用いてゲル濾過;タンパク質AセファロースカラムでIgGなどの混入物を除去。フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)などのプロテアーゼ阻害剤を用いて、精製の際にタンパク質分解を阻害してもよい。さらに、目的タンパク質は、目的タンパク質を精製できるようにするマーカー配列のフレームに融合していてもよい。マーカー配列の非限定的な例としては、ヘキサヒスチジンタグ(このタグは、ベクター(好ましくはpQE-9ベクター)により与えられてもよい)、および血球凝集素(HA)タグが挙げられる。HAタグは、インフルエンザの血球凝集素タンパク質に由来するエピトープに対応している(例えば、Wilson et al., Cell, 37:767 [1984]を参照)。当業者であれば、目的ポリペプチドに適した精製方法には、組換え細胞培養物において発現するポリペプチドの特性のために、変更が必要な場合があることを理解する。
【0168】
いくつかの好適な実施形態において、核酸コンストラクトは、システムと組合されている。いくつかの実施形態において、システムは、上述したように宿主細胞へ導入することが意図されている複数の核酸コンストラクトまたはベクターを、備えている。他の好適な実施形態において、システムは、上述したように宿主細胞に導入することが意図されている複数の核酸コンストラクトまたはベクターの1種類以上と、核酸コンストラクトを宿主細胞のゲノムに組込むのに必要な酵素をコードする核酸またはベクターと、を備えている。例示的な酵素としては、トランスポゾンベクターシステムに使用するトランスポザーゼ、組込み配列を利用するシステム(PhiC31システム、MMLVシステムなど)に使用するインテグラーゼ、ベクターシステム(Cre-Loc、Flp-FRTなど)に使用するリコンビナーゼ、およびCRISPR系システムに使用するCas9ヌクレアーゼが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【実施例
【0169】
本発明が提供する特有の方法は、SIN-LTRレトロウイルス発現カセットとグルタミンシンターゼ(GS)ノックアウトCHO細胞株系とを組合せ、ランダムな組込みを利用して細胞株の開発方法を改良する。これにより、遺伝子のコピー数を増加させ、コピーあたりの生産性を向上させる。この方法は、プールをより厳しく選抜して、滴定量を増加させプールをさらに豊富し、クローンを大量生産するための、改良された予期せぬ方法を提供する。また、この方法は、CHOゲノムにある上述の部位(ドック)に発現カセット(導入遺伝子)を標的化して組込むことにより、生産性の高い細胞株を開発するための、迅速かつ効果的な方法を提供する。
【0170】
〔実施例1〕
5種類の独立したプラスミドで一過的にトランスフェクトすることにより、3つの細胞株プールを作出した(図1)。いずれの細胞株プールも、試験タンパク質であるAnywayを発現するように設計した。これらのプラスミドは、GSの発現を駆動させるのに利用したプロモーターに基づいて命名した。第1プラスミド(SV40)は、従来の細胞株開発方法を表す。このプラスミドは、強力なSV40プロモーターに駆動された選択マーカー遺伝子(GS)を有しており、SV40イントロンおよびポリAシグナルをさらに有していた。第2プラスミド(WT-LTR)は、GSの発現を駆動させるのに野生型のプロウイルスLTRを利用した。GSの発現セットは、GPExベクターを挿入する際に類似した構成とした。WT-LTRは比較的強力なプロモーターと考えられているが、このプロモーターの転写産物はGSで終了せずに、sCMV、AnywayおよびWPREまで続き、TKポリA配列が利用される。第3プラスミド(SIN-LTR)は、短縮されたLTRでありプロモーター活性が低いSIN-LTR(Self Inactivating-LTR)を有している点を除けば、理想的な第2コンストラクトである。第4プラスミド(pSIN)は、GSの発現を駆動する強力なプロモーターの代わりにSIN-LTR由来の弱いプロモーター因子を利用している点を除けば、理想的な第1プラスミドである。第5プラスミドは、GFPを発現するがGS遺伝子を有していない、ネガティヴ・コントロールである。
【0171】
上述のプラスミドをトランスフェクトすることにより作出したプールを、グルタミン欠乏下における生存により選抜した。選抜したプールを通常に流加生産して、Anywayタンパク質の産生能を測定した。
【0172】
[CHOZN細胞株の開発]
CHOZN細胞のトランスフェクション:Expifectamine CHOを用いて上述のプラスミドを細胞にトランスフェクトすることにより、各プラスミドがランダムに組込まれている細胞株プールを作出した。20μgのプラスミドを1mLのOptiPro培地に加えた。80μLのExpifectamine CHOを920μLのOptiProに加えた。これら2つの溶液を1分間混合した。次に、3000万個のCHOZN細胞が含まれている3mLのCHO-Gro培地に混合物を加えた。250rpmで振盪しながら、37℃にて一晩、細胞をインキュベートした。翌朝、6mMのグルタミンを添加した15mLのExcell CD Fusion培地を加えた。トランスフェクションから細胞が回復するまで、この培地中で細胞を継代した。
【0173】
CHOZN細胞の選抜:細胞の生存率が96%超に達した時点において培地を完全に交換して、ClonaCell-CHO ACF(2%)を添加するがグルタミンを添加していないExcell CD Fusion培地中で継代した。定期的に細胞の生存率および生細胞密度をモニタリングした。1mLあたりの細胞数が100万個に達し、定常的に継代するようになるまで、毎週培地を交換した。
【0174】
流加生産:流加生産に先立ち、各プールを3世代以上にわたってActiPro培地に馴化させた。流加生産に際しては、ActiPro培地(HyClone)中の600,000個/mLの細胞を、50mLの遠心チューブに播種した。そして、加湿条件下(70~80%)、250rpm、5%CO存在下、37℃(最初の5日間は34℃)にて、振盪インキュベーターでインキュベートした。生産の間、2種類の異なる栄養サプリメントを用いて、栄養を6回補充した。グルコースを毎日モニタリングして、5g/L未満にレベルが低下したときにはこれを補った。生存率が70%以下になった時点で培養を終了させた。
【0175】
[結果]
図2に示すように、SV40プール、WT-LTRプールおよびSIN-LTRプールは、選抜からの回復プロファイルが顕著に異なっていた。SV40プールは、回復が最も速かった(生存率:90%超)。これが意味するのは、選抜前のプールに含まれる細胞のうち比較的多くの部分が選抜を通過したということである。WT-LTRプールは、回復が遅かった。これが意味するのは、選抜前のプールのうち小部分が選抜を通過したということである。SIN-LTRプールは、回復が顕著に遅かった。これが意味するのは、選抜前のプールのうちごく小部分しか選抜を通過しなかったということである。
【0176】
図3に示すように、SIN-LTRプールの力価は、WT-LTRプールおよびSV40プールの力価よりも顕著に高かった。逆に、遺伝子のコピー数は、同じような傾向を示した。これらのデータが意味するのは、SIN-LTRプラスミドにより、コピー数および挿入部位が多く、活性が高いものが選抜されたということである。
【0177】
別の実験を図4に示す。驚くべきことに、pSINプールの回復時間は、SV40プールまたはWT-LTRプールと同程度であった。つまり、回復時間の違いは、プロモーター活性のみでは説明できない。なぜならば、pSINは非常に弱いプロモーターでありながらも、迅速な回復を見せたからである。SIN-LTRプラスミドに含まれている他の因子が、強力な選択圧の原因であるに違いない。何らかの特定の作用機序に限定するものではないが、弱いプロモーターと長い転写物(これには第2オープンリーディングフレームも含まれている)との組合せが、GSの転写効率または翻訳効率に影響しているのではないかと考えらえっる。同様に、何らかの特定の作用機序に限定するものではないが、EPRに弱いコザック配列が存在すると判明しているものは、翻訳に異常を来し、GSタンパク質の翻訳効率が低下する。
【0178】
〔実施例2〕
GPExブーストの概念は、他の非ウイルス性の遺伝子挿入技術(トランスポザーゼ、リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはCRISPRによる遺伝子挿入)と組合せて利用することもできる。GPEx技術は、ゲノムの中でも活性の高い部位に、非ウイルス性挿入技術のための認識配列を多数配置できる。そして、得られるドック細胞株を、トランスポザーゼ、リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはCas9の発現プラスミドと、同系の認識配列、GS選択マーカーおよび発現させるべき遺伝子産物を有している導入遺伝子プラスミドとで、一時的にコトランスフェクトできる。トランスポザーゼ、リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはCas9は、導入遺伝子プラスミドの一部または全部がドック部位に挿入されるのを仲介する。得られる細胞株は、ゲノム中でも活性が高いドック部位に挿入された導入遺伝子プラスミドを、複数コピー有している。利用できる技術/酵素のいくつかの例としては、piggybackトランスポザーゼ、sleeping beautyトランスポザーゼ、Mos1トランスポザーゼ、Tol2トランスポザーゼ、Leapinトランスポザーゼ、λリコンビナーゼ、Flp/FRT、Cre/Lox、mMLVインテグラーゼ、Rep78インテグラーゼ、Bxb1インテグラーゼ、および種々のCRISPRが挙げられる。本発明者らが最初にこの概念を試験した際には、Phi31インテグラーゼシステムとGPEx技術との組合せを利用した。
【0179】
レトロベクターの産生および形質導入によるドック親細胞株の作出:ドックコンストラクト(図7、8)を、MLV gagタンパク質、proタンパク質およびpolタンパク質を構成的に産出しているHEK293細胞株に導入した。発現プラスミドが格納されているエンベロープと、各遺伝子コンストラクトとをコトランスフェクトした。コトランスフェクションにより、機能不全のレトロベクターが高力価で複製された。これを超遠心により濃縮して、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株への形質導入に利用した(1,2)。5ラウンドの連続する形質導入を実施した。6mMのグルタミンを添加した培地で細胞を定常的に維持した。同じ方法を利用して、第2のドック細胞株プールを首尾よく作出した。このドック細胞株プールは、若干異なるドック遺伝子コンストラクトを使用したものである(図9、10を参照)。
【0180】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、1500万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計1μgのプラスミド導入遺伝子(図11、12)およびインテグラーゼDNA(図5、6)と、4μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は250μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換した。
【0181】
組換えの定量化:Qiagen DNEasy kitを用いて、300万個の細胞からゲノムDNAを単離した。組換えの結果、AttRは、attPとattBとの間に存在することになる。sybr-green dyeを用いた定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、細胞中のattRを定量した。この際、ドックに含まれているattP配列中のフォワードプライマーと、導入遺伝子プラスミドに含まれているattB配列中のリバースプライマーとを使用した。このプライマー対を用いて増幅すると、ドックに組換えられた導入遺伝子プラスミドのみが検出され、遊離状態の導入遺伝子プラスミド、ランダムに組込まれた導入遺伝子プラスミドおよびpseudo attPに組込まれた導入遺伝子プラスミドは検出されない。また、このプライマー対によれば、組換えられていない(空の)ドック配列も検出されない。このプライマーセットおよびCHOに内在するレファレンス遺伝子のプライマーセットについて、蛍光強度閾値を超えるために必要なPCRのサイクル数(Ct値)を決定した。attRプライマーセットのCt値からレファレンス遺伝子のCt値を引いて、遺伝子コピー指数(GCI)を計算した。注意されたいことには、その性質上、GCI値は対数であって線形ではない。それゆえ、スケールの下限における1単位の変化(例えば、GCI=1からGCI=3への変化)は、ごく少数のコピー数の違いを表している。一方、スケールの上限における1単位の変化(例えば、GCI=6からGCI=7への変化)は、大量のコピー数の違いでありうる。いくつかの例では、既知の濃度の所望のアンプリコンを有しているプラスミドをqPCRに課した。このデータを線形回帰分析して、存在するコピー数をより正確に決定した。
【0182】
[結果]
GPEx技術を利用した5ラウンドの連続する形質導入により、PhiC31 attP認識配列(図7、8)を有しているドックをCHOZN細胞のゲノム中に配置した。得られた細胞プールは、1細胞あたり平均して、約36個のドックのコピーを有していた。ドック細胞プールを、導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミド(図11、12)およびインテグラーゼプラスミド(図5、6)でコトランスフェクトした。両者の比率は、(1:50)~(1:1)の範囲で変化させた(この範囲は、既報(Groth, 2000: Andreas, 2002: Farruggio, 2012)において示唆されていた範囲である)。導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミドは、PhiC31 attB認識配列、弱いproviral-SIN-LTR(自己不活性化長末端反復配列)プロモーターに駆動されたグルタミン合成酵素(GS)遺伝子、試験物質であるFc融合タンパク質、強力なプロモーターに駆動されたAnywayを有している。トランスフェクションから3日後かつ選抜前にqPCRを行い、組換えを定量した。しかし、バックグラウンド(遺伝子コピー指数(GCI):約-10)を超えるattR(組換えの上流産物であり、attPおよびattBの間に位置している)のレベルは検出不能であった。トランスフェクトした細胞をグルタミン欠乏選抜にかけると、25日間以上は回復しなかった。これは、組込みおよびGS発現が充分なレベルで発生しなかったことを表している。
【0183】
組換え頻度を向上させる試みの中で本発明者らが推論したところによると、インテグラーゼと導入遺伝子プラスミドとの比率が効率的な組換えにとって重要なパラメータとなる。この可能性を検討するために、ある比率範囲の導入遺伝子-プロモーター-Anywayプラスミドおよびインテグラーゼプラスミドで、ドック細胞プールをコトランスフェクトした。トランスフェクションから3日後かつ選抜前にqPCRを行い、組換えを定量した(図29)。導入遺伝子:インテグラーゼ比率が低いとき(1:20~100)、attRのGCIはバックグラウンドレベルに近い-10であった(この導入遺伝子:インテグラーゼ比率は、先行文献において通常に使われていたものである)。驚くべきことに、本発明者らが見出したところによると、導入遺伝子:インテグラーゼ比率が高いとき(5~100:1)、attRのGCIは-3であった。これは、導入遺伝子:インテグラーゼ比率が低い場合よりも、コピー数が約200倍多いことになる。
【0184】
次に、予備選抜におけるattRのGCIが最も高かったサンプルに対して、グルタミンを欠乏させる選抜を実施した(図30)。このプールでは、選抜から9日目に回復が始まった。完全に回復した後に、qPCRを実施した(図31)。その結果、このプールは、1細胞あたり最大で約28コピーの導入遺伝子を有していることが分かった。このデータが表すところによると、導入遺伝子:インテグラーゼ比率を高くすることにより効率的に組込みを生じさせることができ、平均して約36個のドックを有しているプールにおいて、1細胞あたり平均して28個の導入遺伝子を組込める。さらに、先行文献に見られる導入遺伝子:インテグラーゼ比率が低いときの組換えのレベルよりも、この組換えのレベルは約2桁高い。
【0185】
〔実施例3〕
1細胞あたり約36個のコピーを有しているドックプールのうち約80%が充填されたことを観察した。そこで、本発明者らは次に、36個超のドック有しているドックプールを使用すれば、組込まれる導入遺伝子プラスミドの数をさらに増やせるかどうかを探索することにした。また、本発明者らは、GSプロモーターを有していない導入遺伝子プラスミドでもこのシステムで使用できるかどうかを探索することにした。このようなプラスミドは、ドックに組換えられた場合にのみGSを発現し耐性を確立する。そして、ランダムに組込まれた場合やpseudo attPに組込まれた場合にはGSを発現しない。
【0186】
レトロベクターの産生および形質導入によるドック親細胞株の作出:ドックコンストラクト(図7、8)を、MLV gagタンパク質、proタンパク質およびpolタンパク質を構成的に産出しているHEK293細胞株に導入した。発現プラスミドが格納されているエンベロープと、各遺伝子コンストラクトとをコトランスフェクトした。コトランスフェクションにより、機能不全のレトロベクターが高力価で複製された。これを超遠心により濃縮して、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株への形質導入に利用した(1,2)。9ラウンドの連続する形質導入を実施した。6mMのグルタミンを添加した培地で細胞を定常的に維持した。
【0187】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、300万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計2μgのプラスミド導入遺伝子およびインテグラーゼプラスミドDNAと、8μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は500μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換し、細胞を継代培養した。
【0188】
組換えの定量化:Qiagen DNEasy kitを用いて、300万個の細胞からゲノムDNAを単離した。組換えの結果、AttRは、attPとattBとの間に存在することになる。sybr-green dyeを用いた定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、細胞中のattRを定量した。この際、ドックに含まれているattP配列中のフォワードプライマーと、導入遺伝子に含まれているattB配列中のリバースプライマーとを使用した。このプライマー対を用いて増幅すると、ドックに組換えられた導入遺伝子プラスミドのみが検出され、遊離状態の導入遺伝子プラスミド、ランダムに組込まれた導入遺伝子プラスミドおよびpseudo attPに組込まれた導入遺伝子プラスミドは検出されない。また、このプライマー対によれば、組換えられていない(空の)ドック配列も検出されない。このプライマーセットおよびCHOに内在するレファレンス遺伝子のプライマーセットについて、蛍光強度閾値を超えるために必要なPCRのサイクル数(Ct値)を決定した。attRプライマーセットのCt値からレファレンス遺伝子のCt値を引いて、遺伝子コピー指数(GCI)を計算した。注意されたいことには、その性質上、GCI値は対数であって線形ではない。それゆえ、スケールの下限における1単位の変化(例えば、GCI=1からGCI=3への変化)は、ごく少数のコピー数の違いを表している。一方、スケールの上限における1単位の変化(例えば、GCI=6からGCI=7への変化)は、大量のコピー数の違いでありうる。いくつかの例では、既知の濃度の所望のアンプリコンを有しているプラスミドをqPCRに課した。このデータを線形回帰分析して、存在するコピー数をより正確に決定した。
【0189】
[結果]
GPEx技術を利用した9ラウンドの連続する形質導入により、PhiC31 attP認識配列を有しているドックをCHOZN細胞のゲノム中に配置した。得られた細胞プールにおけるEPRのGCIは6.7であり、1細胞あたり平均して約135個のドックのコピーを有していた。ドック細胞プールを、導入遺伝子-Anywayプラスミド(図13、14)およびインテグラーゼプラスミド(図5、6)でコトランスフェクトした。両者の比率は、(50:1)~(400:1)の範囲で変化させた。次に、グルタミンを欠乏させて選抜した。最低点(最小値)における生存率は、1細胞あたり約36個のコピーを有しているドック株よりも高かった(図32)。AttRのGCIも、約36個のコピーを有しているドック細胞株より高かった(図33)。導入遺伝子:インテグラーゼ比率を高めるとGCIが増加することから示唆されるように、導入遺伝子:インテグラーゼ比率を高めドック数を増やしたならば、組込まれた導入遺伝子の数をさらに増加させられる可能性がある。また、GS用のプロモーターを有していない導入遺伝子-Anywayプラスミド(図13、14)を用いた場合における、選抜からの回復のロバスト性も実証された。この回復は、ドックに含まれている弱いSIN-LTRプロモーターに依っているに違いない。
【0190】
〔実施例4〕
ドック部位をさらに増やし、導入遺伝子:インテグラーゼ比率をさらに高めることにより、組込まれた導入遺伝子の数を増加させることができた。そこで、本発明者らは次に、ドックのコピー数が135個以上であるドックプールから、ドックのコピー数が多いクローンを単離し、導入遺伝子プラスミド:インテグラーゼプラスミド比率をさらに高めるにより、組込まれた導入遺伝子プラスミドの数がさらに増加するかどうかを探索することにした。また、本発明者らは、より大型のプラスミドをこの技術により挿入できるかどうかを探索することにした。
【0191】
ドック親細胞株のクローニング:Beacon instrument(Berkeley Lights)を用いて、9ラウンドの連続する形質導入により作出したドック細胞プールをクローニングした。クローンを増殖させ、qPCRによってスクリーニングした。ドックの挿入数が最も多いクローンを選抜した。
【0192】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、300万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計2μgのプラスミド導入遺伝子およびインテグラーゼDNAと、8μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は500μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換した。
【0193】
組換えの定量化:Qiagen DNEasy kitを用いて、300万個の細胞からゲノムDNAを単離した。組換えの結果、AttRは、attPとattBとの間に存在することになる。sybr-green dyeを用いた定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、細胞中のattRを定量した。この際、ドックに含まれているattP配列中のフォワードプライマーと、導入遺伝子に含まれているattB配列中のリバースプライマーとを使用した。このプライマー対を用いて増幅すると、ドックに組換えられた導入遺伝子プラスミドのみが検出され、遊離状態の導入遺伝子プラスミド、ランダムに組込まれた導入遺伝子プラスミドおよびpseudo attPに組込まれた導入遺伝子プラスミドは検出されない。また、このプライマー対によれば、組換えられていない(空の)ドック配列も検出されない。このプライマーセットおよびCHOに内在するレファレンス遺伝子のプライマーセットについて、蛍光強度閾値を超えるために必要なPCRのサイクル数(Ct値)を決定した。ドックのEPR部位(図5、6)に特異的なプライマーを用いて、EPRのGCIに基づいてクローンをランク付けした。attRプライマーセットのCt値からレファレンス遺伝子のCt値を引いて、遺伝子コピー指数(GCI)を計算した。注意されたいことには、その性質上、GCI値は対数であって線形ではない。それゆえ、スケールの下限における1単位の変化(例えば、GCI=1からGCI=3への変化)は、ごく少数のコピー数の違いを表している。一方、スケールの上限における1単位の変化(例えば、GCI=6からGCI=7への変化)は、大量のコピー数の違いでありうる。いくつかの例では、既知の濃度の所望のアンプリコンを有しているプラスミドをqPCRに課した。このデータを線形回帰分析して、存在するコピー数をより正確に決定した。
【0194】
流加生産:流加生産に際しては、20mLのEx-Cell Advanced CHO Fed-Batch(TM)培地(MilliporeSigma)中の600,000個/mLの細胞を、50mLの遠心チューブに播種した。そして、加湿条件下(70~80%)、250rpm、5%CO存在下、37℃(最初の4日間は34℃)にて、振盪インキュベーターでインキュベートした。第2日以降、培地を1日おきに供給した。供給量は、供給する培地が6.25%(v/v)となる量とした。供給する培地は、66%のEx-cell Advanced CHO Feed 1(TM)と、33%のCellvento 4Feed(MilliporeSigma)とを含んでいた。グルコースを毎日モニタリングして、5g/L未満にレベルが低下したときにはこれを補った。生存率が70%以下になった時点または第20日が終了した時点で培養を終了させた。
【0195】
[結果]
ドックのコピー数が多いクローンを単離するために、Beacon(R) instrument(Berkeley Lights)を用いて、9ラウンドの形質導入により作出したドック細胞プールを1細胞クローニングした。クローンを単離し、増殖させ、ドックのEPR領域に特異的なプライマーを用いてqPCRに課した。クローン1F7は、1細胞あたり約181コピーのドックプラスミドを有しており、これを以降の実験のために選抜した。ドッククローン1F7を、抗体の軽鎖および重鎖を発現している導入遺伝子-Yourway-LWHWプラスミド(図27、28)と、インテグラーゼプラスミド(図5、6)とでコトランスフェクトした。両者の比率は、(50:1)~(8000:1)の範囲で変化させた。得られたプールを、グルタミンを欠乏させて選抜した(図34)。2種類のプラスミドの比率が4000:1または8000:1であったプールは、選抜を通過できなかった。選抜を通過したプールおいて、attRをqPCR分析した(図35)。これが示すように、少なくとも9.8キロ塩基までの大型のプラスミドは、この技術によって効率的に組込める。このサイズにおける導入遺伝子プラスミド:インテグラーゼプラスミド比率の最適値は、500:1である。
【0196】
〔実施例5〕
ドッククローン1F7においては組込み効率が比較的高いことを確認した。そこで、本発明者らは次に、組込まれた導入遺伝子が高レベルであったプールに由来するクローンにより、導入遺伝子の組込みレベルをさらに高められるかどうかを探索することにした。また、これらのクローンの生産能力を決定することにした。
【0197】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、300万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計2μgのプラスミド導入遺伝子(図13、14)およびインテグラーゼDNA(図5、6)と、8μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は500μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換した。
【0198】
組込まれた導入遺伝子を有しているプールのクローニング:Beacon instrument(Berkeley Lights)を用いて、組込まれた導入遺伝子を有しているプールをクローニングした。Spotlight(R) assayにより、クローンの相対的な生産性を測定した。生産性が最も高いクローンを機器から取出して増殖させた。
【0199】
組換えの定量化:Qiagen DNEasy kitを用いて、300万個の細胞からゲノムDNAを単離した。組換えの結果、AttRは、attPとattBとの間に存在することになる。sybr-green dyeを用いた定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、細胞中のattRを定量した。この際、ドックに含まれているattP配列中のフォワードプライマーと、導入遺伝子に含まれているattB配列中のリバースプライマーとを使用した。このプライマー対を用いて増幅すると、ドックに組換えられた導入遺伝子プラスミドのみが検出され、遊離状態の導入遺伝子プラスミド、ランダムに組込まれた導入遺伝子プラスミドおよびpseudo attPに組込まれた導入遺伝子プラスミドは検出されない。また、このプライマー対によれば、組換えられていない(空の)ドック配列も検出されない。このプライマーセットおよびCHOに内在するレファレンス遺伝子のプライマーセットについて、蛍光強度閾値を超えるために必要なPCRのサイクル数(Ct値)を決定した。組込まれていないドックにのみ存在するattPに特異的なプライマーを用いて、ドックの充填率を推定した。attRプライマーセットのCt値からレファレンス遺伝子のCt値を引いて、遺伝子コピー指数(GCI)を計算した。注意されたいことには、その性質上、GCI値は対数であって線形ではない。それゆえ、スケールの下限における1単位の変化(例えば、GCI=1からGCI=3への変化)は、ごく少数のコピー数の違いを表している。一方、スケールの上限における1単位の変化(例えば、GCI=6からGCI=7への変化)は、大量のコピー数の違いでありうる。いくつかの例では、既知の濃度の所望のアンプリコンを有しているプラスミドをqPCRに課した。このデータを線形回帰分析して、存在するコピー数をより正確に決定した。
【0200】
[結果]
ドッククローン1F7に、導入遺伝子-Anywayプラスミド(図13、14)およびインテグラーゼプラスミド(図5、6)をコトランスフェクトした。得られたプールを、グルタミンを欠乏させて選抜した。選抜されたプールにおけるattRのGCIは、6.9であった。Beacon instrument(Berkeley Lights)を用いて、このプールを1細胞クローニングした。Spotlight(R) assayにより、相対的なAnywayの発現に基づいてクローンをランク付けし、取出した。27種類のクローンを増殖させた。これらのクローンにおけるAttRのGCIは、5.2~7.5であった(図36)。また、空のドックを測定するために、これらのクローンにおけるAttPのGCIも測定した。これにより、各クローンにおけるドックの充填率が推定できた(図36)。クローンの平均充填率は、65%であった。つまり、組込まれた導入遺伝子プラスミドは、約118コピーであった。クローン1B7におけるattRのGCIは、7.5であった。これは、親であるドッククローン1F7におけるattP(空のドック)のGCIと同等であった。驚くべきことに、2種類の異なるプライマー対を用いても、このクローンからはattPが検出されなかった。このデータが表すところによると、驚くべきことに、1回のみのトランスフェクション後であっても、導入遺伝子が充填されたドック部位を約181個有しているクローンが得られる。
【0201】
クローンのタンパク質産生能を決定するために、全てのクローンに対して、一般的な流加生産性分析を実施した。最終的な力価を図36に示す。attRのGCIレベルが高いことと、最終力価が高いことの間に関連性が見られた(図37)。このことが示すところによると、予想通り、活性の高いドック部位への導入遺伝子の標的化された組込みが増加すると、細胞株におけるタンパク質産生能も向上する。また、このデータが示唆するところによると、約181コピーが組込まれた状態であっても、細胞の産生能は飽和していない。
【0202】
〔実施例6〕
ドッククローン1F7における組込み効率および融合タンパク質の発現が比較的高いことを確認した。そこで、本発明者らは次に、同じ導入遺伝子プラスミドに重鎖および軽鎖が含まれているモノクローナル抗体の組込みおよび発現に、このシステムを利用できるかどうかを決定した。
【0203】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、300万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計2μgのプラスミド導入遺伝子およびインテグラーゼDNAと、8μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は500μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換した。
【0204】
組換えの定量化:Qiagen DNEasy kitを用いて、300万個の細胞からゲノムDNAを単離した。組換えの結果、AttRおよびattLは、attPとattBとの間に存在することになる。sybr-green dyeを用いた定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、細胞中のattRを定量した。この際、ドックに含まれているattP配列中のフォワードプライマーと、導入遺伝子に含まれているattB配列中のリバースプライマーとを使用した。このプライマー対を用いて増幅すると、ドックに組換えられた導入遺伝子プラスミドのみが検出され、遊離状態の導入遺伝子プラスミド、ランダムに組込まれた導入遺伝子プラスミドおよびpseudo attPに組込まれた導入遺伝子プラスミドは検出されない。また、このプライマー対によれば、組換えられていない(空の)ドック配列も検出されない。このプライマーセットおよびCHOに内在するレファレンス遺伝子のプライマーセットについて、蛍光強度閾値を超えるために必要なPCRのサイクル数(Ct値)を決定した。組込まれていないドックにのみ存在するattPに特異的なプライマーを用いて、ドックの充填率を推定した。attRプライマーセットのCt値からレファレンス遺伝子のCt値を引いて、遺伝子コピー指数(GCI)を計算した。注意されたいことには、その性質上、GCI値は対数であって線形ではない。それゆえ、スケールの下限における1単位の変化(例えば、GCI=1からGCI=3への変化)は、ごく少数のコピー数の違いを表している。一方、スケールの上限における1単位の変化(例えば、GCI=6からGCI=7への変化)は、大量のコピー数の違いでありうる。いくつかの例では、既知の濃度の所望のアンプリコンを有しているプラスミドをqPCRに課した。このデータを線形回帰分析して、存在するコピー数をより正確に決定した。
【0205】
流加生産:20mLのEx-Cell Advanced CHO Fed-Batch(TM)培地(MilliporeSigma)中の600,000個/mLの細胞を、50mLの遠心チューブに播種した。そして、加湿条件下(70~80%)、250rpm、5%CO存在下、37℃(最初の4日間は34℃)にて、振盪インキュベーターでインキュベートした。第2日以降、培地を1日おきに供給した。供給量は、供給する培地が6.25%(v/v)となる量とした。供給する培地は、66%のEx-cell Advanced CHO Feed 1(TM)と、33%のCellvento 4Feed(MilliporeSigma)とを含んでいた。グルコースを毎日モニタリングして、5g/L未満にレベルが低下したときにはこれを補った。生存率が70%以下になった時点または第20日が終了した時点で培養を終了させた。
【0206】
タンパク質のゲル電気泳動:流加生産(上記を参照)の上清を回収して清澄化させた。3μgの各抗体またはFc融合タンパク質をLDSローディングバッファと混合した。このとき、変性剤を加える群と加えない群とを用意した。変性させたサンプルは、電気泳動に先立って、70℃にて10分間加熱した。全てのサンプルをNuPAGE Novex 4-12% Bis-Tris gel(Invitrogen)にロードし、1×MESバッファ中で、60Vにて15分間電気泳動させ、その後100Vにて105分間電気泳動させた。ゲルを脱イオン水でリンスして、SYPRO-Rubyで染色した。染色したゲルを画像化した。そのネガ像(色反転像)を図40に示す。
【0207】
[結果]
モノクローナル抗体の発現および精製は、発現する軽鎖および重鎖の相対量に敏感に反応することがよく知られている。本発明者らのシステムは、軽鎖および重鎖の遺伝子比率が1:1で組込まれるように設計されている。各鎖の相対な発現を最適化するために、遺伝子の順序およびエンハンサー因子が異なる4種類の発現コンストラクトを設計および試験した(図21~28を参照)。試験したコンストラクトは全て、GSのプロモーターを有しておらず、重鎖および軽鎖の遺伝子に対しては強力なプロモーターおよびポリA配列を有していた。第1コンストラクトをHWILと称する(コンストラクト間の違いをハイライトで表している)。HWILにおいて、重鎖コーディング配列(H)は、プロモーターの上流において発現しており、ウッドチャック転写後調節因子(WまたはWPRE)がその後に存在する。軽鎖コーディング配列(L)は、プロモーターの下流において発現しており、その前にイントロン配列(I)がその前に存在する。残る3種類の発現コンストラクトでも、同じ表記法を採用している。ドックのコピーを約181個有しているドッククローン1F7を、4種類の導入遺伝子-Yourwayプラスミド(図21および22、図23および24、図25および26、図27および28)または導入遺伝子-Anywayプラスミド(図13、14)の各々と、インテグラーゼプラスミド(図5、6)とでコトランスフェクトした。得られたプールを、グルタミンを欠乏させて選抜した(図38)。興味深いことに、LWIHプラスミドでトランスフェクトしたプールは、他のプラスミドでトランスフェクトしたプールよりも、選抜からの回復が遅かった。得られたプールをqPCR分析した(図38)。これの示すところによると、高レベルでの導入遺伝子の組込みが達成できた。この点は、プラスミドのサイズが大きくなったにも関わらず、これまでの実施例と同様である。また、流加生産性により、これらのプールのタンパク質産生能を決定した(図39)。4種類の発現プラスミドのうち3種類までにおいて強力な発現が見られ、最も高い力価はHWILおよびLWHWで見られた。得られたタンパク質をSDS-PAGE分析した(図40)。このとき、還元した群と還元しなかった群とを用意した。これにより、重鎖および軽鎖の相対的な発現および成熟抗体への組立てを評価した。4種類の発現プラスミドの全てにおいて、遊離した軽鎖および重鎖よりも、成熟抗体(150kDa)を形成した割合の方が高かった。4種類の抗体発現プラスミドの全てにおいては、軽鎖の発現の方が僅かに過剰であった。このことは、タンパク質Aの精製において遊離重鎖の精製を最小化するためには望ましい。同様に、単鎖の融合タンパク質(Anyway)の発現から分かるように、力価が高く(図39)、予想される大きさの成熟した二量体化タンパク質に大部分がなっていた。
【0208】
〔実施例7〕
本発明者らは次に、この技術により作出したプールの生産安定性を決定しようとした。生産安定性は、工業化に必要な条件である。
【0209】
レトロベクターの産生および形質導入によるドック親細胞株の作出:ドックコンストラクト(図7、8)を、MLV gagタンパク質、proタンパク質およびpolタンパク質を構成的に産出しているHEK293細胞株に導入した。発現プラスミドが格納されているエンベロープと、各遺伝子コンストラクトとをコトランスフェクトした。コトランスフェクションにより、機能不全のレトロベクターが高力価で複製された。これを超遠心により濃縮して、CHOZNチャイニーズハムスター卵巣親細胞株への形質導入に利用した(1,2)。5ラウンドの連続する形質導入を実施した。6mMのグルタミンを添加した培地で細胞を定常的に維持した。
【0210】
トランスフェクションおよびドック細胞株プールの選抜:組込み前混合物により、300万個の細胞をインキュベートした。組込み前混合物には、合計2μgのプラスミド導入遺伝子およびインテグラーゼプラスミドDNAと、8μLのExpiFectamine CHO(TM)(ThermoFisher Scientific)とが含まれており、最終体積は500μLであった。6mMのグルタミンを添加した培地の存在下において、生存率が95%超に戻るまで細胞株プールを回復させた。次に、グルタミンを含んでいない培地に細胞を移植した。選抜した細胞プールの生存率が95%超に戻るまで、生存率をモニタリングし、毎週培地を交換した。
【0211】
流加生産(Ex-Cell):20mLのEx-Cell Advanced CHO Fed-Batch(TM)培地(MilliporeSigma)中の600,000個/mLの細胞を、50mLの遠心チューブに播種した。そして、加湿条件下(70~80%)、250rpm、5%CO存在下、37℃(最初の4日間は34℃)にて、振盪インキュベーターでインキュベートした。第2日以降、培地を1日おきに供給した。供給量は、供給する培地が6.25%(v/v)となる量とした。供給する培地は、66%のEx-cell Advanced CHO Feed 1(TM)と、33%のCellvento 4Feed(MilliporeSigma)とを含んでいた。グルコースを毎日モニタリングして、5g/L未満にレベルが低下したときにはこれを補った。生存率が70%以下になった時点または第20日が終了した時点で培養を終了させた。
【0212】
流加生産(ActiPro):20mLのHyClone ActiPro(TM)培地(Activa Life Sciences)中の600,000個/mLの細胞を、50mLの遠心チューブに播種した。そして、加湿条件下(70~80%)、250rpm、5%CO存在下、37℃(最初の5日間は34℃)にて、振盪インキュベーターでインキュベートした。第2日以降、培地を1日おきに供給した。供給量は、供給する各培地が3%(v/v)となる量とした。供給する培地は、Hyclone Cell Boost 7AおよびHyclone Cell Boost 7b(Activa Life Sciences)とした。グルコースを毎日モニタリングして、5g/L未満にレベルが低下したときにはこれを補った。生存率が70%以下になった時点で培養を終了させた。
【0213】
[結果]
Anyway融合タンパク質を発現しているプールの生産安定性を決定するために、導入遺伝子-Anywayプラスミド(図13、14)およびインテグラーゼプラスミド(図5、6)を、9ラウンドの形質導入により作出したドック細胞プールにコトランスフェクトした。得られたプールを、グルタミンを欠乏させて選抜した。3つのプールを継続的に継代して、40世代以上にわたってアリコートを毎週凍結した。全てのプールが40世代に到達した時点で、過去に凍結した世代のバイアルを解凍した。そして、2種類の異なる培地/添加戦略によって流加生産性を検討した。流加生産における最終力価を図41に示す。同図から分かるように、3つのプールの全てにおいて、40世代以上継代した培養物であってもタンパク質の力価は安定していた。このことは、組込まれた導入遺伝子プラスミドの遺伝的安定性が強固であることと、組込まれた導入遺伝子プラスミドからの発現が安定していることを表している。これらはいずれも、この技術を薬物の生産に利用するためには必要な事項である。
【0214】
上記の明細書において言及した全ての出版物および特許は、参照により本明細書に組込まれる。上記に記載した本発明の方法およびシステムの種々の変更および変形例は、当業者にとって明白である。これらの変更および変形例は、本発明の範囲および趣旨を超え出るものではない。特定の好適な実施形態に絡めて本発明を説明した。しかし、理解すべきことには、特許請求の範囲に記載の発明を、特定の実施形態に過度に限定してはならない。また、本発明を実施するための上述の実施形態の種々の変形例であって、本発明の当業者にとって自明である変形例も、後述する特許請求の範囲に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
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図6-3】
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図6-5】
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【配列表】
2023528475000001.app
【国際調査報告】