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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(54)【発明の名称】水溶性ポリマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/02 20060101AFI20230628BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230628BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230628BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230628BHJP
   B29B 7/82 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B29B9/02
C08L29/04 A
C08K5/05
C08J3/20 Z CER
C08J3/20 CEZ
B29B7/82
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573506
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 GB2021051124
(87)【国際公開番号】W WO2021240130
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】2007826.7
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】16/882,794
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522462616
【氏名又は名称】ピーター・モリス・リサーチ・アンド・デベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139778
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 潔
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・モリス
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA26
4F070AB13
4F070AC12
4F070AC36
4F070AC42
4F070AC43
4F070AE02
4F070AE03
4F070AE09
4F070FC05
4F201AA19
4F201AB07
4F201AB16
4F201AR06
4F201BA01
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC37
4F201BD05
4F201BK70
4F201BK73
4F201BL05
4F201BL06
4F201BL12
4F201BL43
4J002BE021
4J002DD057
4J002DD067
4J002DE227
4J002DF007
4J002DG047
4J002EC036
4J002EC046
4J002EH058
4J002EP018
4J002FD026
4J002FD178
4J002FD207
4J002GB01
4J002GC00
4J002GD03
4J002GG00
4J002GK00
(57)【要約】
加工可能な水溶性ポリマーを作成する方法を開示する。本方法は以下のステップから成る。不規則な形状のポリマー押出材を製造するために、ダイを使用せずに水溶性ポリマー組成物を押出機バレルから押し出すステップ(ここで、押出機バレルは、その押出機出口を介する以外に通気されない)と、不規則な形状のポリマー押出材を摂氏60度以下で冷却するために、チルドコンベアに誘導するステップと、不定形ポリマー押出物を造粒して粒状物を形成するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマー組成物を、ダイを使用せずに押出機バレルから押し出し、不定形ポリマー押出物を生成するステップと、
前記不定形ポリマー押出物をチルドコンベア上に誘導し、前記不定形ポリマー押出物を摂氏60度以下まで急冷するステップと、
前記不定形ポリマー押出物を造粒して粒状物を形成するステップとを含み、
前記押出機バレルはその押出機出口を経由する以外に通気されない、
水溶性ポリマーを作成する方法。
【請求項2】
前記不定形ポリマー押出物の造粒は、前期チルドコンベアの直後に行われ、さらなる乾燥工程を含まない、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記造粒物を水溶性ポリマー製品に形成するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマーに、ポリマーを押し出し可能および/または成形可能にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩を組成物の全重量に対して少なくとも15重量パーセント含み、かつ、溶媒ポリマー可塑剤を含むものであり、
前記溶媒ポリマー可塑剤は、モノプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールであり、
前記水溶性ポリマー組成物の含水量が組成物の全重量に対して10重量パーセント未満である、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記吸湿性塩は、前記溶媒ポリマー可塑剤よりも多い量で提供される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記吸湿性塩は、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸アンモニウムから成る群より選択される無水塩または水和塩である、
請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記吸湿性塩は、摂氏90度の水に10分間で10重量パーセント以上溶解する水溶性塩である、
請求項4から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記吸湿性塩は、前記水溶性ポリマー組成物の全重量に対して10重量パーセント未満の水分含量を有する、
請求項4から請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記吸湿性塩が、前記水溶性ポリマー組成物の全重量に対して少なくとも25重量パーセントの量で含まれる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記吸湿性塩が、前記水溶性ポリマー組成物の全重量に対して少なくとも30重量パーセントの量で含まれる、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記吸湿性塩が無水状態である、
請求項4から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記水溶性ポリマーと前記吸湿性塩とは、固体の形態で提供される、
請求項4から請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーは、ポリビニルアルコールポリマーを含む、
請求項1から請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記チルドコンベアが、摂氏10度以上、摂氏30度下の温度である、
請求項1から請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記水溶性ポリマー組成物をチルドコンベアの直後に造粒するステップを含み、
さらなる乾燥ステップを含まない、
請求項1から請求項14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記水溶性ポリマー組成物が、耐湿性を向上させるためのワックスを含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれかに記載の方法により生産された水溶性ポリマー製品。
【請求項18】
水溶性ポリマーとポリマーを押出しおよび/または成形可能にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩のブレンドと、
溶媒ポリマー可塑剤と、
ワックスとを含み、
組成物のワックス含有量は、該組成物の全重量に対して少なくとも0.3重量パーセントであり、
前記組成物の水含有量は、該組成物の全重量に対して10重量パーセント未満であり、
前記吸湿性塩が、前記組成物の全重量に対して少なくとも15重量パーセントの量で組成物に含まれる、
溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物。
【請求項19】
前期ワックスの含有量は、前期組成物の全重量に対して少なくとも1.0重量パーセントである、
請求項18に記載の溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物。
【請求項20】
前記ワックスは、グリセロールモノステアレートまたはステアリン酸アミドである、
請求項18または請求項19に記載の溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物(特に、ポリビニルアルコールポリマーだがこれに限定されない)、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市場に相当量出回っている非生分解性ポリマーに代わって、水溶性の生分解性ポリマーの需要が高まっている。生分解性のないポリマーは、埋立処分や焼却処分が必要であり、資源を大量に消費するためである。
【0003】
ポリビニルアルコール(PVA)は、水に溶ける数少ないビニルポリマーであり、適切に馴化された微生物の存在下で最終的に生分解されることが可能であると認識されている。そのため、さまざまな用途に向けた、環境適合性の高いPVA系材料の調製に注目が集まっている。PVAはフィルムや薄肉容器のための成形性に優れ、多くのガスに対して高い不透過性を示すため、水の多い環境で扱われる製品の包装に非常に適する。また、粘着力が高く、無害であることも特徴である。しかし、ポリマーが水を吸収すると、その引張強度は低下するが、伸びと引裂強度は増加するため、これらの特徴は湿度に依存することになる。また、PVAやPVA含有組成物は、うまく押し出し成形することが難しいため、その用途がさらに制限される。特に、低い水温(典型的には2分以内で摂氏5度以下)で製品に使用するために必要な最小限の厚み(200マイクロメートル以下)に容易に成形できる配合物は、現在のところ存在しない。このようなフィルムは、低温で短い洗濯サイクルで洗濯洗剤を放出する必要がある洗濯製品の包装などの用途に好ましい。
【0004】
改善が期待されるポリマーの特性の1つにメルトフローインデックス(MFI)がある。この数値は、ポリマーの溶融物の流れやすさを表し、様々な所定の温度で所定の重量分銅で加圧された時に、所定の直径と長さの毛管を通して10分間に流れるポリマーの質量(グラム)として定義される。そのような方法の一つが、ISO1133規格に定められている。薄肉の成形品を提供するためには、より高いMFIが必要である。
【0005】
PVAのメルトフローインデックスを高めるために、PVA内に内部潤滑剤を使用することが、当技術分野で知られている。たとえば、EP1112316 B1(PVAXX Technologies Limited)は、5重量パーセントまでの量の脂肪酸アミドを含ませることを開示している。脂肪酸は、ポリマー鎖間に潤滑性を与え、ポリマーのメルトフローを増加する。しかし、これらは不溶性であり、加工時に溶けてポリマーをコーティングし、ポリマーの溶解を阻害する可能性がある。さらに、過剰な潤滑剤(一般にPVAの5重量パーセント以上)が混合物から分離するため、使用できる潤滑剤の量が制限され、ポリマーのMFIを改善する能力が制限される。
【0006】
ポリマーは、酢酸ビニルを重合し、その後に生成されたポリ酢酸ビニル(PVAc)を加水分解することにより製造される。PVAおよびPVA由来のポリマーは水に溶けやすく、その溶解度はポリマーの分子量と加水分解の程度(出発ポリマー(PVAc)の酢酸基がOH基で置換されている割合)によって決定される。程度が高いほど溶解度は低くなり、溶解速度も遅くなる。ポリマー内に結晶ゾーンが形成されるため、この違いは溶解温度が高い場合よりも低い場合の方がより顕著に現れる。
【0007】
また、PVAの溶融加工前に組成物から揮発分を除去する必要があることも、当業者には知られている。それは、そのような除去を行わないと蒸気の形成とそれに続くポリマーの発泡により加工が困難になるからである。乾燥は、メーカー、モデル、配合にもよるが、一般的な乾燥装置を用いて、摂氏90度の温度で4時間から9時間行うのが一般的である。
【0008】
PVAまたはPVA由来の組成物から成形品を成形する試みが行われているにもかかわらず、所望の時間枠内で水溶液に溶解する薄肉成形品を成形するのに必要な溶融流動性がないことにより、所望の溶解度特性が達成できていなかった。
【0009】
本発明の目的は、先行技術のポリマー組成物で経験される前述の問題に対処するか、または少なくとも問題を緩和する、水溶性ポリマー組成物(特にポリビニルアルコール組成物だが、これに限定されるものではない)を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、水溶性ポリマー組成物の製造方法、および、押出成形や成型の方法を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
本発明によれば、水溶性ポリマーを作成する方法が提供され、該方法は、以下のステップを含む:不規則な形状のポリマー押出材を製造するために、水溶性ポリマー組成物を、ダイを使用せずに押出機バレルから押し出すこと(ここで、押出機バレルは、その押出機出口を介する以外に通気されない)、不定形ポリマー押出物をチルドコンベア上に誘導し、不定形ポリマー押出物を摂氏60度急冷すること、不定形ポリマー押出物を造粒して粒状物を形成すること。
【0012】
任意で、不定形ポリマー押出物の造粒は、さらなる乾燥工程なしに、チルドコンベアの直後に行われてもよい。
【0013】
好ましくは、本方法は、造粒物を水溶性ポリマー製品に形成する工程をさらに含んでもよい。
【0014】
好ましくは、水溶性ポリマーは、ポリマーを押出成形可能にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩を組成物の全重量に対して少なくとも15重量パーセント含み、溶媒ポリマー可塑剤を有する水溶性ポリマー組成物で構成されてもよい。ここで、溶媒ポリマー可塑剤はモノプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールであり、組成物の含水率は組成物の全重量に対して10重量パーセント未満である。
【0015】
好ましくは、吸湿性塩は、溶媒ポリマー可塑剤よりも高い重量で提供されてもよい。
【0016】
好ましくは、吸湿性塩は、以下から成る群から選択される無水塩または水和塩であってもよい:塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム。
【0017】
好ましくは、吸湿性塩は、摂氏90度の水に10分間で少なくとも10重量パーセントの割合で溶解する水溶性塩であってよい。
【0018】
好ましくは、吸湿性塩は、組成物の全重量に対して10重量パーセント未満の水分含量を有していてもよい。
【0019】
好ましくは、吸湿性塩は、組成物の全重量に対して少なくとも25重量パーセントの量で含まれてもよい。
【0020】
好ましくは、吸湿性塩は、組成物の全重量に対して少なくとも30重量パーセントの量で含有されてもよい。
【0021】
好ましくは、吸湿性塩は、無水形態であってもよい。
【0022】
好ましくは、水溶性ポリマーおよび吸湿性塩は、固体の形態で提供されてもよい。
【0023】
好ましくは、ポリマーは、ポリビニルアルコールポリマーを含んでいてもよい。
【0024】
好ましくは、本方法は、ダイを使用せずに水溶性ポリマー組成物を押し出す工程をさらに含んでいてもよい。
【0025】
好ましくは、本方法は、水溶性ポリマー組成物をチルドコンベア上に押し出す工程をさらに含んでいてもよい。
【0026】
好ましくは、チルドコンベアは、摂氏10度上30度下の温度であってもよい。
【0027】
好ましくは、本方法は、さらなる乾燥工程を行わずに、チルドコンベアの直後に水溶性ポリマー組成物を造粒する工程をさらに含んでいてもよい。
【0028】
好ましくは、水溶性ポリマーは、耐湿性を向上させるために、ワックスを含んでいてもよい。
【0029】
したがって、本発明は、水溶性ポリマーに、ポリマーを押出し可能、成形可能、またはその両方にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩を組成物の全重量に対して少なくとも15重量パーセント配合して成る溶融加工可能な、水含有量が10重量パーセント未満である水溶性ポリマー組成物を提供するものである。
【0030】
好ましくは、組成物の全重量に対して少なくとも20重量パーセントの吸湿性塩が提供される。さらに、水溶性ポリマーは、常温で固体であってもよい。より好ましくは、ポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマーから成る。本発明に用いられるPVAの加水分解の程度は特に限定されない。本発明では、部分加水分解または完全加水分解したPVAを使用することができる。同様に、PVAも特定の分子量に限定されるものではない。PVAは、分子量20,000前後から分子量150,000までの比較的低い分子量を有していてもよい。
【0031】
PVAは、好ましくは、5重量パーセントの最大水含有量を有する。吸湿性塩がPVAから水分を奪うだけでなく、PVAの内部潤滑剤として働き、メルトフローインデックスを増加させるという驚くべき結果が得られている。
【0032】
好ましくは、吸湿性塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から選択される無水塩または水和塩である。組成物の最終用途によっては、食品や医薬用途として認可されている塩、水軟化剤のような最終製品にさらなる利点を付与し得る他の特性を有する塩、または、その両方を使用することが有益である場合がある。より好ましくは、塩は、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸アンモニウムからなる群から選択されたものであり、特に、塩化ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムである。
【0033】
本発明の第1の側面の好ましい実施形態は、水溶性ポリマーと、ブレンドを押出し可能にするのに有効な量の塩化ナトリウムとのブレンドから成るものである。
【0034】
塩は、10重量パーセント以下、好ましくは1重量パーセント以下、より好ましくは0.5重量パーセント以下、特に0.2重量パーセント以下の水分含有量を有する。理想的には、塩は無水の状態である。塩は微粉化されてもよく、例えば、100マイクロメートル未満の平均サイズを有する粒子であってよく、サイズは好ましくは0.03から75マイクロメートル、特に60から70マイクロメートルの範囲である。また、塩は、特性を改善するためにコーティングされてよい。たとえば、アルミノケイ酸ナトリウム、二酸化ケイ素、ヘキサシアノ鉄酸ナトリウム、または、それらの組み合わせでコーティングされてよい。そのような例として、Custom Powders社(www.custompowders.co.uk)から入手可能な、アルミノケイ酸ナトリウム0.5%(E554)、二酸化ケイ素0.75%(E551)、および、固化防止剤としてヘキサシアノ鉄ナトリウム(E535)で被覆した塩化ナトリウム塩がある。
【0035】
塩は、配合物の全重量に対して75重量パーセントまでの量で組成物中に含まれてもよい。塩は、配合物の総重量に対して少なくとも15重量パーセント、好ましくは少なくとも20重量パーセント、より好ましくは少なくとも25重量パーセント、より好ましくは少なくとも30重量パーセント、より好ましくは少なくとも35重量、より好ましくは少なくとも40重量パーセント、より好ましくは45重量パーセント、特に少なくとも50重量パーセントの量で含有される。
【0036】
組成物の加工性を向上させるために、柔軟性を高め、押出成形時のポリマーの溶融温度を下げるための可塑剤、耐熱性を高めるための安定剤、色を付けるための顔料など、任意の添加剤を配合してよい。好ましくは、金属ステアリン酸塩のような熱安定剤が、0.5重量パーセントまでの量、好ましくは0.3重量パーセントまでの量で含まれる。ただし、本組成物は、脂肪酸アミドまたはエステルを含まないことが好ましい。
【0037】
本発明の一態様では、(ポリマー自体などの)組成物表面内の他の構成要素から内部に向かう水(inbound water)が、内部潤滑剤として作用することを可能にするために塩を扱う。この「内部」潤滑剤は、ポリマー鎖間の潤滑性を向上させる機能を持つ。塩を潤滑剤として使用することで、脂肪酸アミドやエステルなど、他の従来技術の内部潤滑剤を使用する必要がなくなる。
【0038】
溶剤系可塑剤を含まない組成物の例としては、以下がある:
ポリビニルアルコール(PVOH) (80% 加水分解) 69.7%
ソルビトール 10.0%
塩化ナトリウム 20.0%
熱安定剤 0.3%
合計 100%
摂氏190度、2.16kgのグラムウェイトで10分間テストされたメルトフローインデックス = 21.5
塩化ナトリウムは、ポリマーよりも水に溶けやすいが、熱可塑性樹脂ではない。したがって、塩の角張った結晶構造はポリマーと混ざり合わず、むしろメルトフローを阻害することが予想される。しかし、意外なことに、そうではないことが判明している。
【0039】
好ましくは、塩は、溶媒ポリマー可塑剤よりも高い重量パーセントで提供される。より好ましくは、塩と溶媒ポリマー可塑剤の比率は、1.25から12:1、特に1.25から7:1、理想的には4から5:1である。
【0040】
あるいは、組成物は、溶媒ポリマー可塑剤を含んでもよい。溶媒ポリマー可塑剤は、好ましくは吸湿性有機溶媒であり、より好ましくはグリセリン(グリセリンまたはグリセロールとしても知られる)、および、プロピレングリコールから選択される。好ましくは、溶媒ポリマー可塑剤は、モノプロピレングリコールであり、さらに好ましい実施形態では、溶媒ポリマー可塑剤はジプロピレングリコールである。
【0041】
本発明によれば、水溶性ポリマーに、ポリマーを押出し可能や成形可能にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩を少なくとも15重量パーセント配合した、溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物が提供される。
【0042】
本発明の別の態様によれば、吸湿性塩とその塩の溶媒ポリマー可塑剤のブレンドからなる可溶性ポリマー内部潤滑剤が提供される。
【0043】
本発明に係る潤滑剤は、その加工のために、水溶性ポリマーを配合してもよい。この点に関して、本発明のさらなる態様は、水溶性ポリマーと、ポリマーを押出し可能や成形可能にするための内部潤滑剤とのブレンドを含む溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物を提供する。ここで、潤滑剤は、溶媒ポリマー可塑剤とブレンドした吸湿性塩、好ましくは無水金属塩または水和金属塩を含む。好ましくは、潤滑剤は、本発明の前記態様に係るものである。
【0044】
塩の水分含量は最小限であることが好ましく、10重量パーセント未満の水分含量を有する塩が好ましい。ここで、塩は配合物の総重量の少なくとも15重量パーセント、より好ましくは少なくとも40重量パーセント、特に好ましくは少なくとも50重量パーセントを構成する。
【0045】
本発明による潤滑剤は、水溶性ポリマーと混合したときに、好ましくは少なくとも20g(10mins/190℃/2.16kg、ISO1133準拠)、より好ましくは少なくとも40g、特に60gのメルトフローインデックスを有する。
【0046】
本発明に係る組成物は、食品や医薬品に使用することができる。したがって、可能な場合には、組成物の潤滑剤などの構成要素は、食品や医薬品での使用について認可されているものであることを理解されたい
【0047】
本発明による組成物は、さらなる処理のために任意の適切な形態で提供され得るが、好ましくは、可溶性ポリマーを含む押出フィラメントなどの押出や成形品の押出は、成形に使用するための粉末、タブレット、または、ペレットなどの形態で提供されてよい。本組成物は、溶融混練や冷間加工など、従来の任意の方法で製造することができる。この場合、カレンダー成形、適応カレンダー成形、圧縮、または、それらの1つ以上を含んでよい。コールドプレス、より好ましくは適応カレンダー成形を好ましい手法として選択してよい。
【0048】
本発明の組成物は、押出成形や成形下でのポリマーの溶融温度を下げるための可塑剤をさらに含んでもよい。可塑剤は、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール及び低分子量アミドからなる群から選択してよい。好ましい可塑剤はグリセリンであり、より好ましくはモンプロピレングリコール、最も好ましくはジプロピレングリコールである。また、可塑剤は、塩系内部潤滑剤の溶媒ポリマー可塑剤として機能してもよい。
【0049】
本発明のさらなる態様は、水溶性ポリマーを、ポリマーを押出し可能や成形可能にするための潤滑剤として作用する吸湿性塩を組成物の全重量の少なくとも15重量パーセント配合することを含む、水溶性ポリマー組成物の製造方法を提供するものである。ここで、組成物の水含有量は10重量パーセント未満であり、該方法は、任意に、溶媒ポリマー可塑剤を添加することを含む。
【0050】
本発明のさらなる側面は、本発明の先行する側面による組成物を軟化させて溶融流を形成することを含む、水溶性ポリマー組成物の押出成形、成型方法、または、その両方を提供するものである。好ましくは、熱や圧力によって組成物を軟化させ、溶融流動を生じさせる。
【0051】
メルトフローについては、好ましくはメルトフローインデックスが20g以上(10mins/190℃/2.16kg、ISO1133に基づく)、より好ましくは40g以上、特に好ましくは60g以上である。好ましくは、ポリマー組成物は、200マイクロメートル未満、好ましくは100マイクロメートル未満の厚さを有する形態に成形され、それによって、形態が水溶液中で摂氏5度において80秒以内に溶解することを可能にする。成形体は、容器やフィルムなどの任意の薄肉成形体であってよい。また、押出成形も可能であるが、本発明の組成物は成形品(moulding)に特に有利である。
【0052】
本発明のさらなる態様は、本発明の先の態様に従って形成された水溶性ポリマー製品を提供する。
【0053】
本発明のさらなる側面は、以下を含む溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物を提供する:水溶性ポリマーと、ポリマーを押出成形可能にするための潤滑剤として働く吸湿性塩と、溶媒ポリマー可塑剤との混合物、および、ワックス。ここで、組成物のワックス含有量は、組成物の全重量に対して少なくとも0.3重量パーセントであり、組成物の水分含有量は、組成物の全重量に対して10重量パーセント未満であり、吸湿性塩は、組成物の全重量に対して少なくとも15重量パーセントの量で組成物に含まれる。
【0054】
好ましくは、溶融加工可能な水溶性ポリマー組成物は、組成物の総重量に対して少なくとも1.0重量パーセントのワックス含量を有していてもよい。
【0055】
好ましくは、ワックスは、モノステアリン酸グリセロールであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の溶融加工可能な組成物は、公知の任意の熱処理方法(射出成形、圧縮成形、回転成形、フィルム押出し成形を含み、これらに限定されない)によって加工できる。当該組成物は、特に薄肉成形品に好適である。
【0057】
本発明に係る溶融加工可能な組成物は、フィルム、容器、ボトルなど、現在押出し可能なポリマー、成形可能なポリマー、または、その両方から作られているあらゆる物品の製造に適している。この組成物は、スパンボンド、不織布、メルトブロー用途に使用するフィラメントおよび繊維の製造に適する。また、本組成物は、洗剤や農薬の小袋や容器、マルチフィルム、植木鉢、家庭用バッグ、おむつ、ストロー、介護用品、ハンガー、尿パッド、小袋、シックスパックリング、使い捨て衣類、発泡体、手袋、フィルム容器、ゴルフティー、ショットガンカートリッジ、ベッドパン、瓶、ボウル、綿棒、病院のカーテン、使い捨ての滅菌製品、包装材料などの製造に適している。
【0058】
一般に、PVAは最大5重量パーセントの水分を含む。発泡の原因となる揮発性物質の発生など、標準的な熱可塑性プラスチック装置での加工上の問題を避けるためには、この数値を1パーセント以下にする必要がある。従来は、ポリマーは一般的なポリマー乾燥機を使用して摂氏90度で4から8時間乾燥されていた。好ましくは低含水率であるか無水である吸湿性塩を特定量添加することで、周囲のPVAから水分を除去できることが判明している。さらに驚くべきことに、塩が水を吸収することで、塩に自己潤滑性コーティングが形成され、これがPVAの内部潤滑剤として機能するようになる。塩の乾燥効果により、乾燥時間が2から4時間に短縮され、ポリマー製造の大幅な省エネルギーが可能になる。さらに、塩によってもたらされる潤滑性が、組成物のメルトフローインデックスを大幅に増加し、PVAを製品のために容易に押し出しや成型できるようになる。特に200マイクロメートル以下の薄い形状に適しており、短時間(2分以内)に摂氏5度程度の低温でフィルムの溶解や成形の必要がある用途に適している。自己潤滑効果は、1パーセント以下の低水分レベルでも(すなわち、乾燥過程においても)有効である。さらに温度を下げて摂氏0度に近づけることも可能であり、時間を短くすることも可能である。
【0059】
塩化ナトリウムなどの吸湿性塩は、グリセリンやプロピレングリコールを含む吸湿性塩溶媒、特にモノプロピレングリコール、または、最も好ましくはジプロピレングリコールなどのポリマー可塑剤が組成物に含まれていると、潤滑効果が高まることが分かっている。塩による水の吸収は表面処理として作用し、必要であれば溶媒でない可塑剤を配合することができるようである。無水塩は、通常、水溶性ポリマーの内部潤滑に適しているとは考えられていない。この点では、少量(2~3%)の沈殿炭酸カルシウム(PCC)が使われてきた。アルコール系可塑剤はPCCの溶媒ではなく、PVAがPCC粒子の周りにカプセル化されるため、高いメルトフローを提供し、非常に延性の高い製品を得るためには高い添加量が必要となる。アルコール系可塑剤はPCCの溶媒ではないため、高いメルトフローを得るためには高い添加量が必要となり、PVAがPCC粒子の周りにカプセル化されるため、非常に延性の高い製品になる。メルトフローインデックスも好ましくない。これに対し、本発明では、無水塩化ナトリウムの溶媒であるグリセリン、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコールを用いて、塩化ナトリウムの外表面を一部溶解させ、ポリマー鎖内に潤滑性を持たせている。これにより、比較的高いMFI(メルトフローインデックス)が得られ、ポリマーの溶解性が高まる一方で、延性が低下する(これは、望ましい特性である)。
【0060】
吸湿性塩としては、塩化ナトリウムが考えられる。さらに、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウムのほか、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなどが代替として考えられる。本発明に用いる吸湿性塩の必要な特性は、水溶性であり、大気中の水分を吸収する能力を有し、摂氏90度の水への溶解率が10分で10重量パーセント以上となること、または、これらの組み合わせである。
【0061】
吸湿性塩を用いても、(可塑剤またはバインダーのいずれかとして)組成物中に高レベルの水が含まれると、本発明の利点が達成されないことを理解されたい。この水によって、存在する塩の一部または全部が可逆的に溶解することになる。さらに、加工を成功させるために水分を減らすと、自己潤滑層が除去され、予測できない大きさや形の塩の結晶が形成されてしまう。これは、メルトフローの妨げになり、乾燥時間を長くすることになる。したがって、組成物を構成するPVAなどの各種構成成分に含まれる低い水分量以上に、配合物に水を添加しないことが本発明の好ましい態様である。
【0062】
次に、本発明を以下の非限定的な実施例を参照して説明する。実施例は、本発明による組成物で達成される高いメルトフローインデックス、および、それらの乾燥時間の短縮を説明し、保護範囲から外れる組成物とこれらの特性を比較するものである。
【0063】
(製造方法)
PVA(ポリマー)、塩化ナトリウム(潤滑剤)、グリセリン(可塑剤)、熱可塑剤をベルバス、低せん断ミキサーで3分間混合した。この混合物をスクリューでコンパウンダーに供給し、適合するカレンダー工程を経てペレットに成形した。適合するカレンダー処理により、PVAが、ローラーとダイの間を通過する際の摩擦剪断の結果、部分的または完全に溶融し、ダイを通して押出す前に凝集を引き起こす。予備押出し物の温度は摂氏110度から摂氏140度までであり、形成されたペレットはその後、摂氏90度で3時間の間トレイ式ポリマー乾燥機に入れられた。
【0064】
(メルトフロー分析)
本発明に従って調製した配合物の5グラムの試料を、2.16キログラムの重りを用いて摂氏190度におけるMFIを試験した。各サンプルは、ISO1133に従ってMFIを試験し、比較された。テストを数10回繰り返し、その平均結果を記録した。
【0065】
サンプルは、ホット・ランナー・システムを備えた金型を使用し、50トンの成形プレスを自動モードで、サイクルタイム7から10秒で摂氏180度から摂氏200度の温度で成形された。ホッパーから先端までのスクリュー温度のプロファイル(単位:摂氏)は、160、170、180、180-190であった。部品壁面の断面は600~350マイクロメートルと測定された。
【0066】
(実施例1)
下記表1に示す成分を所定の重量割合で混合し、上記の方法に従って配合物を作製した。各配合物には88パーセント加水分解PVAが使用され、熱安定剤はステアリン酸カルシウムであった。メルトフローインデックス(MFI)は、上記の分析に従って決定された。
【表1】
上記表1に示す配合物2は、白色/クリーム色であり、以下の特性を有することがわかった:
密度 1.68g/cm
溶融密度 1.52g/cm (摂氏200度において)(ISO 1183に従う)
【0067】
これらの結果は、所望される高いMFIを達成するためには、配合物中の塩と可塑剤の比率を高くすることの重要性を示しているが、塩と可塑剤の比率が3.5~5:1、より好ましくは4~4.4:1である上記の配合物でMFIのピーク値が得られることを説明している。
【0068】
実施例2
下記表2に示す成分を所定の重量割合で混合し、上記の方法に従って配合物を製造した。各配合物には88パーセント加水分解PVAが使用された。メルトフローインデックス(MFI)は、上記の分析に従って決定された。成形されたパーツ外壁部は600マイクロメートルから100マイクロメートルと測定された。
【表2】
表2より、可塑剤の種類は、達成されるMFIに大きな影響を与えないことがわかる。
【0069】
(実施例3)
次の表3に示す原料を有する配合物を、上記方法に従って所与の重量百分率で混合して製造した。配合物10から13には98パーセント加水分解PVAを、配合物14から16には80パーセント加水分解PVAを使用した。配合物は、20秒のサイクル時間の自動モードのBoy50トン成形プロセスを使用し、コールドランナーシステムを有する型を使用して成形した。ホッパーからチップまでのスクリュー温度プロファイル(摂氏)は160,170,180,180,220であった。パーツ外壁部は600から2000マイクロメートルと測定された。
【表3】
【0070】
(実施例4)
配合物17は、実施例1の配合物2と同様のブレンドとして調製したが、以下のように塩化ナトリウムの代わりにクエン酸ナトリウムを有する:
PVA (88%加水分解) 39.0 重量パーセント
クエン酸ナトリウム 51.0 重量パーセント
グリセロール 9.70 重量パーセント
ステアリン酸カルシウム 0.3%重量パーセント
この配合物は、以下の性質を有することがわかった:
密度 1.67 g/cm
溶融密度 1.40-1.42 g/cm (190℃において) (ISO 1183)
MFI 38g.
加工温度は、最大30 分の滞留時間を有する摂氏190-200度 であった。乾燥時間は摂氏90度で4時間であった。やはり、塩が組成物中に含まれると、MFIは実質的により高くなる。
【0071】
この配合物および配合物2を、Boy、Demag、および、Arburgによって製造された射出成形機での押出性について検査した。押出加工は一定ピッチを有する単軸フルフライト型スクリューを使用して実行した。バレル温度は、摂氏160-200度のプロファイルを有し、スクリュー回転数は通常20-150rpm の間で変えた。装置の休止は、スクリュー回転を止め摂氏100度に温度を維持することにより実行した。次いで、機械のスイッチを切ることにより全面的休止を実行した。
【0072】
配合物2および17は様々な寸法および色の範囲の容器に成形することができ、射出成形に適していた。ポリマー潤滑剤としてのクエン酸ナトリウムの使用は、ランドリー製品を包装するために使用される場合、それが軟水剤として働くので追加の利点を与える。
【0073】
(実施例5)
本発明に係る配合物において、低水分であることの要件を検討するための試験を実施した。
以下の表4は、配合物の組成とMFIおよび乾燥時間との関連を示したものである。
【表4】
表4は、乾燥時間およびMFIに及ぼす配合物中の塩および水の量の重要性を明確に示している。この配合物では、塩の割合が高く(少なくとも15パーセント、好ましくは少なくとも20パーセント、より好ましくは少なくとも40パーセント)、水の含有量は最小限またはゼロである。CとDはそれぞれ13パーセントと17パーセントの水を含んでおり、非常に粘着性があり、流動性がなく、調合に適さない配合物である。さらに、乾燥時間が長すぎると、グリセリンの蒸発の点でも好ましくない。
【0074】
(実施例6)
純水の平衡蒸気圧に対する環境中の水蒸気分圧の比率(通常は百分率で表される)を相対湿度(RH)という。ある材料が潮解し始める、つまり材料に吸着した水が材料の分子を溶かし始めるRHを、材料の潮解点(RHo)と呼ぶ(臨界相対湿度とも呼ぶ)。これは、ポリマー材料の構造安定性を特徴付ける重要なパラメータである。RHoは温度依存性があり、通常、所定の温度でのRHo値で表される。例えば、摂氏20度における結晶性NaClのRHoは約77%RHであるが、これは、周囲温度が摂氏20度のとき、周囲RHが77パーセント以上であれば、大気中の水蒸気がNaCl結晶に自発的に吸着し、溶媒和する。
【0075】
RHo値が低い素材は吸湿しやすいので、乾燥剤としての役割も期待できる。一方、RHoが高い材料は、水分を吸収しにくい傾向がある。ポリマー組成物の場合、高いRHoを有することの有利な効果として、二次包装の必要性が減少し、無防備な環境で開封した場合、より構造的に安定した製品が提供できる。
【0076】
水溶性ポリマーからなる製品は、吸湿性があり、RH(相対湿度)の高い環境では構造的に不安定になりやすいという課題がある。例えば、周囲温度摂氏20度の場合、PVAはRHが50パーセント以上になると潮解が始まる。
【0077】
上述のように、PVA、塩化ナトリウム、グリセリンからなる配合物は、グリセリンと塩の組み合わせによる潤滑効果で溶融加工はしやすくなるが、成形品は水分を含みやすく、水分や気体への耐性が高い特性を持つ二次的包装が必要になるという課題がある。
【0078】
グリセリン,モノプロピレングリコール,ジプロピレングリコールの3種類の溶媒ポリマー可塑剤を用いて,88%加水分解ポリビニルアルコール(PVA)とNaClからなる種々の水溶性ポリマー組成物を製造した。以下の表5は、9種類の配合物の配合を示す。配合物1~3はグリセリン、配合物4~6はモノプロピレングリコール、配合物7~9はジプロピレングリコールを含む。
【表5】
表5に示すように、溶媒ポリマー可塑剤としてプロピレングリコールを使用すると、意外にも、溶媒ポリマー可塑剤としてグリセリンを使用した比較配合物に比べて、吸水性が低く、したがってより安定したPVA系ポリマー製品が得られることが判明した。グリセリンを用いた配合物7から9では摂氏2度におけるRHoが62~66パーセントであったのに対し、プロピレングリコールを用いた配合物はいずれも摂氏20度におけるRHoが76~83パーセントと大幅に高くなっている。
【0079】
さらに、ジプロピレングリコールを用いた配合物は、モノプロピレングリコールを用いた同等配合物よりもさらに安定していることが判明した。ジプロピレングリコールを用いた配合物1から3の摂氏20度におけるRHoは80から83パーセントであったが、モノプロピレングリコールを用いた配合物4から6の摂氏20度におけるRHoは76から77パーセントと低くなっている。
【0080】
塩化ナトリウムの潮解点は摂氏20度77パーセントRHo程度だが、PVA、塩化ナトリウム、グリセリンを含む処方で作られた成形品は摂氏20度で60RHo以上潮解する傾向がある。
【0081】
ジプロピレングリコールをグリセリンに置き換えたことによる驚くべき効果は、塩化ナトリウムの潮解点が摂氏20度82RHo以上に上昇することである。これにより、二次包装の仕様要件が軽減されるとともに、無防備な状態で開封した場合の寸法安定性も向上する。
【0082】
(実施例7)
ジプロピレングリコールと塩化ナトリウムを配合した配合物のメルトフローインデックスを比較した。
【表6】
吸湿性塩の濃度が高くなるにつれて、メルトフローインデックスが顕著に改善されることが実証された。
【0083】
(さらなる製造方法)
従来、当技術分野では、PVA樹脂を製造するために、スロットダイまたはストランドダイを介して押出成形が行われていた。スロットダイもストランドダイも、押出機から押出物を冷却する場所までポリマーメルトの流れを均一にするために十分な背圧を与える。これは、通常、水への浸漬、または常温もしくは冷風による冷却によって行われる。
【0084】
水浸の場合の問題は、PVAが水溶性であるため、浸漬後にさらに乾燥させる必要があることである。
【0085】
外気で冷却する場合、押出成形品が摂氏60度以下に冷却されるまで、処方物から可塑剤が失われることが問題となる。
【0086】
本発明に係る方法に従って生産された潤滑用吸湿性塩を配合したPVAは、溶解性が高く、より脆いため、ストランド押出しや水冷には不向きである。水中で冷却すると、ペレットが溶解によりぬめりを持ち、互いにくっつくので、さらに乾燥が必要になる。また、ポリマーの減少や塩分の多さ、空冷時の可塑剤の損失(最大0.75%)により、ストランドはもろくなる。ストランドの切れや材料のロスが発生により、プロセスが不安定になり、プロセスダウンが発生する。可塑剤の揮発損失は、周囲条件や冷却に要する時間に依存して、製品の一貫性に悪影響をもたらす。メルトフローインデックスが大きく変化することもある。
【0087】
スロット・ダイは押出し用のテープを作るものであり、再加工用のペレットを作るものではない。
【0088】
前述のとおり、空冷方式は従来のウォーターバスより好ましい。しかし、移動するコンベアに支持されたファンがアシストする空気で押出材を冷却することは可能もある。押出されたストランドは、摂氏165度から摂氏200度のストランド・ダイを出て、最高温度摂氏60度スタンド・ペレタイザーに到達する。この移動するコンベア上で前述の可塑剤の蒸発が起きる。この質量減少は、メルトフローインデックスに悪影響を与えるだけでなく、経済的損失にもつながる。
【0089】
そこで、改良されたポリマー組成物に対応するために、押出成形品の冷却方法を新たに開発した。表示の便宜上、この新方式はチルドローラー方式と呼ばれることがある。
【0090】
チルドローラー法では、バレル内に追加のベントを設けることなく、またスロット・ダイやストランド・ダイを用いることなくポリマーを押し出すことができる。背圧がない場合、バレルは蒸気を排出し、(1)不規則でサイズと形状が一定しない、かつ、(2)非常に低い含水率、好ましくは1パーセント(v/v)未満の押出材を生成する。これは、ポリマーがスロットやストランド・ダイに押し出される従来のプロセスとは大きく異なる点である。スロット・ダイやストランド・ダイ方式では、押出材が規則正しく一定のサイズと形状でなければ、動作できない。バレル内の蒸気の存在がムラの原因となるため、スロット・ダイ方式やストランド・ダイ方式の場合は、バレルへのガス抜きを追加する必要がある。
【0091】
不規則な押出材が、冷却ローラーやコンベア上に落下することを許容されると、そこで、摂氏100度以下、摂氏10度以上、好ましくは摂氏60度下の温度で押出材は急速に冷却される。冷却プロセスはほぼ瞬時に行われ、30秒未満、より好ましくは20秒未満、さらに好ましくは10秒未満、一般的には5秒未満で行われる。チルドローラーは、可塑剤の損失を防ぐため、瞬時に冷却されるように設定されている。実際には、押出材が瞬間的に冷却されると、冷却ローラーを通過するのに十分な可塑性がなくなってしまうため、冷却前に少し冷却することが必要である。実際には、押出成形品を少し冷ましてから瞬時に冷却する場合には、となると、冷却されたローラーを通過するのに十分な可塑性がなくなってしまう。圧延のための十分な可鍛性を維持するために、すぐに通過させる必要がある。冷却された不規則な押出物は、市販のポリマー・グラインダーに導かれ、粒状にされる。これは、次の処理に備え、通常は密閉された真空バッグに封入して保存することができる。
【0092】
不均一な押出材に対応するために、好ましくは水冷式のチルドローラーを用いたカレンダー処理を適用すると、押出材を摂氏60度以下まで急速に冷却することができる。さらに、吸湿性塩を15重量パーセント以上含むPVAの高い熱伝導性により、このシステムを介した冷却はさらに改善される。
【0093】
塩を配合しない場合は、より低温のローラーが必要になる。つまり、可塑剤の損失を防ぐために同じ冷却速度を得るためには、摂氏10度以下であることが必要になる。これが、冷却されたローラーに結露を発生させ、プロセス上の問題やローラーへの押出材の付着の原因となることがある。これにより、プロセス全体が非効率的になる。水温は摂氏10度から30度の間がPVAと塩の組成に最も適していることが分かっている。一方、塩を含まない組成物では摂氏10度以下が要求されるが、その場合には結露が問題となる。
【0094】
摂氏60度以下では、可塑剤がポリマー組成物に固定され、可塑剤蒸発温度以下となり、蒸発によるポリマー組成物の総重量の損失が0.75パーセントから1.25パーセントの範囲で防止される。また、存在する水のほとんどが押出工程で水蒸気として失われる得られたポリマーは含水率が非常に低くなる。そして、含水率を1重量パーセント以下に維持することができる。これは、不規則な押出材の再加工を成功させるために必要な最大可能水分量である。これにより、さらにポリマーを乾燥させる工程が不要になる。
【0095】
上述のチルドローラー法の実施形態の製品と、従来のチルド・エアー・スタンド・ラインの工程(通常の押出材を直接ストランドに押し出し、空冷する工程)による製品との比較を以下の表7と表8に示す。
(チルドローラー製法)
【表7】
(押し出し機とスタンドライン)
【表8】
このように、チルドローラー法では、他の条件が同じであっても、より高いメルトフローインデックスを持つ押出成形品が得られることがわかる。さらに、チルドローラー法の実施形態では、造粒機に到達する時点の押出物温度は常に低く、可塑剤の蒸発が抑えられる。
【0096】
冷却された不規則な押出物は、市販のポリマーグラインダーや造粒機に誘導されてよい。そこで、ポリマーが粉砕され、粒子がふるい板を通過し、最大粒子径が決定される。しかし、押出成形品の不規則性により、ポリマーの粒径は通常2ミリメートルから4ミリメートルの範囲で変化する。
【0097】
意外なことに、この特定のサイズの不均一性は、その後の再加工の際にポリマーメルトを助ける。これにより、チルドローラー方式は造粒機との組み合わせに非常に適する。粒子が小さいと溶融が速いため、消費エネルギーが少なくて済む。ストランド・ダイ・ペレット・プロセスと比較すると、バレルゾーンの温度が摂氏10度低下していることが確認されている。また、処理温度が低いと、可塑剤の損失率も低くなる。可塑剤は、通常、射出成形や押出成形による再加工の際に、ガスしてガスを発生させる可能性がある。ガスが発生すると、成形時の焼け焦げや、加工時の部品不良や金型汚れの原因となるため、ガスの発生を抑えることは顕著な改善である。
【0098】
一般的に、植物性ワックスが、ポリマーに耐湿性を付与するために使用される。一般的には、グリセロールモノステアレートまたはステアリン酸アミドの0.3パーセントから1.0パーセントが植物性であるとして使用されるであろう。しかし、溶融時に植物性ワックスを使用することには、「スクリュースリップ」を引き起こすという欠点もある。スクリュースリップとは、溶融工程で、バレルに塗布された植物性ワックスが潤滑剤になり、ポリマーメルトが滑りやすくなり、押出機や射出成形機が溶融物を搬送できなくなることである。
【0099】
塩を含まないPVAでは、スクリューの滑りの関係から、通常0.3パーセントのワックス含有量が最大許容量となるが、少量の塩を含む場合は、2から3パーセントの高いワックス含有量を提供することが可能である。これらの植物性ワックスの添加により、モノおよびジプロピレングリコールを含むPVOH配合物の吸水率が、塩を含まない配合物と比較して最大50パーセント低下することが確認された。
【0100】
驚くべきことに、微粒子形状の不規則性はまた、典型的にスクリュースリップをもたらすと予想される量の植物性ワックスを含むポリマー組成物を配合する際に、有利にも、スクリュースリップの減少をもたらす。
【0101】
溶融前の不規則なサイズと形状の顆粒は、本発明ではより緩やかに混合物を形成し、スクリューを介したポリマー移送時の接着を良好にすることができる。これにより、ワックス成分をより多く添加することができる。
【0102】
したがって、本発明に係る組成物は、典型的には他の押出し可能なポリマーと同様の曲げ弾性率を有する溶融加工可能なPVA含有ポリマーを提供する。これにより、可溶性かつ生分解性のポリマーを、熱劣化や高温での架橋といった先行技術で経験された加工上の問題なしに、多種多様な物品の加工に使用することが可能になる。PVAの高い引張強度や良好なバリア性などの既知の有利な特性は、溶融加工可能な組成物にも維持されており、現行の押出ライン、ブロー成形機、射出成形機でそのまま押し出し加工することができる。
【国際調査報告】