(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(54)【発明の名称】拡張型心筋症の処置における使用のためのNRF2活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230628BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230628BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230628BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230628BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230628BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230628BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20230628BHJP
C07K 14/015 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/00
A61P7/00
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/12
C12N7/01
C07K14/015
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575810
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2021065430
(87)【国際公開番号】W WO2021250081
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA17
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4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
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4C084ZA511
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4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA44
4C087MA55
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA51
4H045AA10
4H045CA01
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、拡張型心筋症の処置、特にNRF2の活性化剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張型心筋症の処置における使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項2】
ヒトNRF2又はそのバリアントをコードする導入遺伝子を含む核酸構築物である、請求項1に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項3】
前記核酸構築物が:ヒト心筋トロポニンTプロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2vプロモーター(MLC-2v)、ミオシン軽鎖2aプロモーター(MLC-2a)、CARP遺伝子プロモーター、アルファ心筋アクチンプロモーター、アルファトロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター、筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)プロモーター、デスミンプロモーター、MHプロモーター、CK8プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群から選択される心臓プロモーターを含む、好ましくはヒト心筋トロポニンTプロモーターを含む、請求項2に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項4】
前記プロモーターがヒト心筋トロポニンTプロモーターである、請求項3に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項5】
前記核酸構築物がウイルス粒子にパッケージされる、請求項2から4のいずれか一項に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項6】
前記ウイルス粒子がアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子である、請求項5に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項7】
AAV粒子にパッケージされる前記核酸構築物がAAV-2血清型の5'-ITR及び3'-ITR又は選択されるAAV粒子の血清型に対応する5'ITR及び3'ITRを含む、請求項6に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項8】
前記AAV粒子が、AAV-1、6、8、9及びAAV9.rh74血清型からなる群から選択されるAAV血清型に由来するAAVカプシドタンパク質を含む、請求項6又は7に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項9】
前記AAVカプシドタンパク質がAAV-9血清型又はAAV-9.rh74に由来する、請求項8に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項10】
前記ウイルス粒子が静脈内投与される、請求項5から9のいずれか一項に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項11】
前記拡張型心筋症が:ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンa/c、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン;デスミン、サルコグリカン、タイチン、ミオシンRNA結合性モチーフタンパク質20、BCL-2関連アサノジーン3、デスモプラキン、ナトリウムチャネル、心筋アクチン、心筋トロポニン及びタファジンからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる遺伝子誘導心筋症である、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項12】
前記遺伝子誘導拡張型心筋症がタイチン又はジストロフィン遺伝子の突然変異によって引き起こされる、請求項11に記載の使用のためのNRF2活性化剤。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのNRF2活性化剤及び医薬賦形剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張型心筋症の処置、特にNRF2の活性化剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋症及び心不全は、管理にもかかわらず、全世界で罹患率及び死亡率の主因の1つのままである。拡張型心筋症(DCM又はCMD)は、心筋の運動低下及び心臓腔の拡張によって特徴付けられる。拡張型心筋症の間に起こる心臓リモデリングは、線維症の存在と関連した心筋細胞への傷害からなり、それらは互いから分離できない。心筋細胞への傷害はそれらの収縮能力の低下及びそれらの構造の変化を伴い、それはアポトーシスと、壊死性心筋細胞を置き換える線維症の増大へと導く。線維芽細胞の増殖は、心筋細胞の代償性の肥大を阻止する。これらの症状は、臨床的に心機能の低下に転換する。この重大な合併症は、死の原因となる可能性がある。
【0003】
原因には特に遺伝学、及び様々な毒性、代謝性又は感染性の因子が含まれる。冠状動脈疾患及び高血圧は一役担い得るが、主因でない。多くの場合、原因は不明なままである。心筋細胞関与の正確な機構は、疾患の病因に依存する。遺伝子誘導拡張型心筋症では、関与する遺伝子の大部分は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン)、細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン)、カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RYR2、ATP2A2、ホスホランバン)、心筋構造組織化に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C)、細胞骨格完全性及び筋力伝播に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン)、並びに筋力の生成及び伝播に関与する筋節タンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む心筋細胞の構造要素をコードする。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ジストロフィン遺伝子の突然変異による筋肉疾患では、拡張型心筋症はおよそ15歳で臨床的に明らかにされ、20歳の後にほとんど全ての患者に影響を及ぼす。ベッカー筋ジストロフィー(BMD)、DMDの対立遺伝子型の場合、心臓傷害は20歳で起こり、患者の70%は35歳の後に影響を受ける。タイチン、サルコメアの巨大タンパク質によるDMCは、心不全の1/250の症例で関係付けられている(Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898)。
【0004】
拡張型心筋症の処置のために現在利用可能な薬物は症状を改善することにはなるが、疾患の原因機構を処置しない。処方される処置は、衛生学的及び食事性の手段、例えばアルコール消費を低減すること、水及び塩分の摂取量を低減すること、並びに適度の及び規則的な運動を伴う、心不全に対するものである。薬学的処置の中で、アンギオテンシンII変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)は、血管収縮及び血圧を低下させるためにアンギオテンシンIIの産生を阻止する。利尿薬は、腎臓ナトリウム再吸収を阻害することによって、体から過剰な塩分及び水を除去する。β-ブロッカー又はβ-アドレナリン作用性受容体アンタゴニストは、拡張型心筋症の間に刺激されるアドレナリン作用系媒介物の作用をブロックし、心拍数を低下させる。電解質コルチコイド受容体アンタゴニストはアルドステロンの結合をブロックし、血圧を低下させる。律動障害が重度である場合、アミオダロン等の抗不整脈薬が処方される。ペースメーカー及び/又は自動除細動器の植え込みを考慮することもできる。最も重症の症例では、患者は心臓移植が有益である可能性がある(Ponikowski等2016、European Heart Journal、37、2129~2200頁)。
【0005】
したがって、これらのアプローチはDMD及びチチノパシー(titinopathy)の症例における拡張型心筋症の管理にも有効である。これらの病状のための治療的処置は現在存在しない。DMDで頻繁に処方されるコルチコステロイド処置は、炎症の低減のおかげで中期的に筋肉の表現型の改善を可能にするが、心臓表現型へのその作用は論争下にある。ジストロフィン及びタイチンに関連したDMDの管理は、毎年の系統的な心臓検査(心電図及び超音波)を必要とする。特に、アンギオテンシン変換酵素阻害剤であるペリンドプリルは、小児期から予防的処置としてとられるとき、DMD患者で死亡率を低減させることが示された(Duboc, D.等2005。Journal of the American College of Cardiology 45、855~857頁)。
【0006】
DMDにおいて心臓障害の処置で試験されている分子は、主に心不全の処置で既に使用されている分子である。他の療法は、線維症を低減させることによって筋肉及び心臓の傷害を処置することを目指す。これは、結合組織増殖因子に向けられるモノクローナル抗体であるパムレブルマブ(フェーズII治験NCT02606136)及び抗エストロゲンであるタモキシフェン(フェーズI治験NCT02835079及びフェーズIII治験NCT03354039)の場合である。したがって、拡張型心筋症のために新規の治療戦略を開発する医学的必要性がある。
【0007】
核因子赤血球由来2様2としても知られる核因子赤血球関連因子2(NRF2)は、NFE2L2遺伝子によってコードされる転写因子である。NRF2は、損傷及び炎症によって誘発される酸化的傷害から保護する抗酸化タンパク質の発現を調節する、塩基性のロイシンジッパータンパク質である(Baird, L.及びDinkova-Kostova, A.T、2011、Arch Toxicol 85、241~272頁)。正常な条件下で、NRF2はKeap1及びcullin 3(Cul3)によって細胞質に保たれ、それはプロテアソーム中でのユビキチン化によってNRF2を分解する。酸化的ストレス又は求電子ストレスは、Keap1で決定的なシステイン残基を破壊し、それはKeap1-Cul3ユビキチン化系の破壊につながる。NRF2がユビキチン化されない場合、それは核に転位し、そこでそれは小さいMafタンパク質(MAFF、MAFG、MAFK)の1つと合併することができ、多くの抗酸化性遺伝子の上流プロモーター領域でAREに結合して、抗酸化性遺伝子の転写を刺激する(Zhi-Dong Ge等2019、Int Heart J; 60(3):512~520頁)。
【0008】
NRF2活性は多くの機構によって調節され、正常な細胞機能のためにタイトな制御が必要であることを示唆し、NRF2の低活性化及び過活性化の両方が心血管疾患の異なる態様で役割を果たすことが示されている。特に、いくつかの研究は、特にROS/TGFβ1/Smad2/3経路を阻害することによって、NRF2活性化が線維症を低減する可能性を示している(Cai, S.A.等2018、Frontiers in pharmacology 9; Chen, R.-R.等2019、Chemico-Biological Interactions 302、11~21頁; Xian, S.等2020。Exp Ther Med 19、2067~2074頁)。NRF2分解は、マウスにおいて拡張型心筋症表現型に関連していることが示唆されている(Jiang, X.等2018。Redox Biol、19、134~146頁)。しかし、拡張型心筋症を特異的に処置するためのNRF2活性化剤の使用は、これまで開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,173,414号
【特許文献2】米国特許第5,139,941号
【特許文献3】国際特許出願公開第92/01070号
【特許文献4】国際特許出願公開第93/03769号
【特許文献5】国際特許出願公開第2019/193119号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898
【非特許文献2】Ponikowski等2016、European Heart Journal、37、2129~2200頁
【非特許文献3】Duboc, D.等2005。Journal of the American College of Cardiol
【非特許文献4】Baird, L.及びDinkova-Kostova, A.T、2011、Arch Toxicol 85、241~272頁
【非特許文献5】Zhi-Dong Ge等2019、Int Heart J; 60(3):512~520頁
【非特許文献6】Cai, S.A.等2018、Frontiers in pharmacology 9
【非特許文献7】Chen, R.-R.等2019、Chemico-Biological Interactions 302、11~21頁
【非特許文献8】Xian, S.等2020。Exp Ther Med 19、2067~2074頁
【非特許文献9】Jiang, X.等2018。Redox Biol、19、134~146頁
【非特許文献10】http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/
【非特許文献11】http://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/
【非特許文献12】Piekarowicz等、Molecular Therapy、2019、15、157~169頁
【非特許文献13】Goncalves等、Mol. Ther.、2011、19、1331~1341頁
【非特許文献14】Salva等、Mol. Ther.、2007、15、320~329頁
【非特許文献15】Berns及びBohenzky、1987、Advances in Virus Research (Academic Press社) 32:243~307頁
【非特許文献16】Muzyczka, N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁
【非特許文献17】Lebkowski等(1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁
【非特許文献18】Vincent等(1990) Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【非特許文献19】Carter, B. J.(1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁
【非特許文献20】Kotin, R. M.(1994) Human Gene Therapy 5:793~801頁
【非特許文献21】Bunning H等J Gene Med、2008; 10: 717~733頁
【非特許文献22】Paulk等Mol ther. 2018; 26(1):289~303頁
【非特許文献23】Wang L等Mol Ther. 2015; 23(12):1877~87頁
【非特許文献24】Vercauteren等Mol Ther. 2016; 24(6):1042~1049頁
【非特許文献25】Zinn E等、Cell Rep. 2015; 12(6):1056~68頁
【非特許文献26】Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18: 1160~1165頁
【非特許文献27】Marques等、Neuromuscul. Disord.、2014、doi.org/10.10106/
【非特許文献28】Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁
【非特許文献29】Zahurul、Circulation、2007、116、1569~1576頁
【非特許文献30】Charton, K.等2016、Human molecular genetics 25、4518~4532頁
【非特許文献31】Fukada等2010。Am J Pathol 176、2414~2424頁
【非特許文献32】Lowe等、International Journal of Computer Vision、2004、60、91~110頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、タイチンの最後から2番目のエクソンが欠失する遺伝子誘導拡張型心筋症のマウスモデルDeltaMex5を開発し、特徴付けた。拡張型心筋症の重症モデルであるDeltaMex5マウスモデルを使用して、発明者は、NRF2の過剰発現が心臓線維症及び心臓肥大の有意な改善を誘導することは、NRF2の活性化が拡張型心筋症、特に遺伝子のサイズのために遺伝子導入アプローチが不可能であるチチノパシーなどの遺伝子誘導心筋症のための治療アプローチに相当することを示すことを示した。
【0012】
本発明は、拡張型心筋症の処置における使用のためのNRF2活性化剤、好ましくは、ヒトNRF2又はバリアントをコードする導入遺伝子を含む核酸構築物に関する。好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、以下からなる群から選択される心臓プロモーターを含む:ヒト心筋トロポニンTプロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2vプロモーター(MLC-2v)、ミオシン軽鎖2aプロモーター(MLC-2a)、CARP遺伝子プロモーター、アルファ心筋アクチンプロモーター、アルファトロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター、筋小胞体/小胞体Ca2+ ATPアーゼ(SERCA)プロモーター、デスミンプロモーター、MHプロモーター、CK8プロモーター及びMHCK7プロモーター、好ましくはヒト心筋トロポニンTプロモーター。特定の実施形態では、前記核酸構築物は、ウイルス粒子に、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子にパッケージされる。AAV粒子にパッケージされる前記核酸構築物は、好ましくは、AAV-2血清型の5'-ITR及び3'-ITR、又は選択されるAAV粒子の血清型に対応する5'ITR及び3'ITRを含む。特定の実施形態では、前記AAV粒子は、好ましくは、以下からなる群から選択されるAAV血清型に由来するAAVカプシドタンパク質を含む: AAV-1、6、8、9及びAAV9.rh74血清型、より好ましくはAAV-9.rh74血清型。特定の実施形態では、前記ウイルス粒子は、静脈内投与される。
【0013】
本発明により、前記拡張型心筋症は:ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンa/c、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン、デスミン、サルコグリカン、タイチン、ミオシン、RNA結合性モチーフタンパク質20、BCL-2関連アサノジーン3、デスモプラキン、ナトリウムチャネル、心筋アクチン、心筋トロポニン及びタファジン、からなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされ、好ましくはタイチン又はジストロフィン遺伝子の突然変異によって引き起こされる遺伝子誘導心筋症である。
【0014】
別の態様では、本発明は、前記のNRF2活性化剤及び医薬賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、それを必要とする対象での拡張型心筋症の処置における使用のためのNRF2活性化剤に関する。
【0016】
「NRF2活性化剤」は、NRF2の発現及び/又は生物学的活性を増加させる任意の薬剤、特に、NRF2タンパク質の刺激された及び/又は増加した核転位をもたらし、NAD(P)Hキノン酸化還元酵素1(Nqo1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)、スルフィレドキシン1(SRXN1)、チオレドキシンレダクターゼ1(TXNRD1)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HMOX-1)、グルタチオンS-転移酵素(GST)、UDP-グルコロノシルトランスフェラーゼ(UGT)などの標的遺伝子の以降の増加を引き起こすものを意味する。特に、前記NRF2活性化剤は、KEAP1阻害剤に対応する。
【0017】
NRF2の発現及び/又は活性は、化学物質、遺伝子発現を改変することが公知である化合物、改変されたか未改変のポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチドを含む)、ポリペプチド、ペプチド、小さいRNA分子及びmiRNAを限定されずに含む薬剤によって増加させることができる。これらの薬剤は、当技術分野で周知である。
【0018】
NRF2活性の増加は、前記薬剤で処置した細胞中のNRF2核転位を、免疫組織化学又はウエスタンブロットなどの当技術分野の任意の都合の良い方法によって検出することによって決定することができる。NRF2活性の増加は、前記NRF2活性化剤で処置した細胞でNRF2の標的遺伝子の発現レベルを測定することによっても決定することができる。より詳細な実施形態では、標的遺伝子は、NAD(P)Hキノン酸化還元酵素1(Nqo1)、グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)、スルフィレドキシン1(SRXN1)、チオレドキシンレダクターゼ1(TXNRD1)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HMOX-1)、グルタチオンS-転移酵素(GST)、UDP-グルコロノシルトランスフェラーゼ(UGT)からなる群から選択される。標的遺伝子の発現レベルが無処置細胞より少なくとも1.5分の1低いか、又は2、3、4、5分の1低い場合、NRF2活性は細胞で増加する。
【0019】
mRNAの発現レベルは、当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。例えば、試料に含有される核酸は、標準の方法によって、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を使用して先ず抽出されるか、又は製造業者の使用説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出される。抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット分析)及び/又は増幅(例えば、RT-PCR)によって次に検出される。
【0020】
標的遺伝子タンパク質のレベルも、当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。タンパク質の量は、例えば半定量的ウエスタンブロット、酵素標識及び媒介イムノアッセイ、例えばELISA、ビオチン/アビジンタイプのアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、質量分析若しくは免疫沈降によって、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって測定することができる。
【0021】
別の特定の実施形態では、NRF2活性の増加は、NRF2の発現レベルを測定することによって決定することができる。NRF2の発現レベルが無処置細胞より少なくとも1.5倍高いか、又は2、3、4、5倍高い場合、NRF2の調節活性は細胞で増加する。NRF2の発現レベルは、前記のように当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。
【0022】
NRF2活性化剤は当技術分野で周知であり、求電子化合物、タンパク質間相互作用(PPI)阻害剤、及び多標的薬物からなる群から選択することができる。特定の実施形態では、前記NRF2活性化剤は、以下からなる群から非限定例として選択することができる求電子化合物である:バルドロキソン-メチル(CDDO-Me)、RTA-408(オマベロキソロン)、フマル酸ジメチル、ALKS-8700、オルチプラズ、ウルソジオール、スルフォラファン、スルフォラデックス(SFX-01)、ITH12674、クルクミン、レズベラトロル、ケルセチン、ゲニステイン、アンデオグラフォリド及びCXA-10。NRF2活性化剤は、以下からなる群から非限定例として選択されるタンパク質間相互作用阻害剤であってもよい:ペプチド、RS-5、ベンゼンスルホニル-ピリミドン2,N-フェニル-ベンゼンスルホンアミド及び1,4-ジフェニル-1,2,3-トリアゾール、又はスルフォラファン(SFN)及びtert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)からなる群から選択される正規のNRF2活性化剤。
【0023】
導入遺伝子
好ましい実施形態では、本開示は、遺伝子療法による拡張型心筋症の処置に関する。用語「遺伝子療法」は、疾患の処置のために個体の細胞に遺伝子/核酸を送達することを含む、対象の処置を指す。遺伝子の送達は、ベクターとしても知られる送達ビヒクルを使用して一般的に達成される。患者の細胞に遺伝子を送達するために、ウイルス性及び非ウイルス性のベクターを用いることができる。
【0024】
したがって、特定の実施形態では、NRF2活性化剤は、対象におけるNRF2又はそのバリアントをコードする導入遺伝子である。
【0025】
本明細書で使用されるように、用語「導入遺伝子」は、遺伝子産物をコードする外因性DNA又はcDNAを指す。遺伝子産物は、RNA、ペプチド又はタンパク質であってよい。遺伝子産物のためのコード領域に加えて、導入遺伝子は、発現を促進するか増強するために1つ又は複数のエレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、応答エレメント、レポーターエレメント、インシュレータエレメント、ポリアデニル化シグナル及び/又は他の機能的エレメントを含むことができるか又は関連していてもよい。本開示の実施形態は、任意の公知の好適なプロモーター、エンハンサー、応答エレメント、レポーターエレメント、インシュレータエレメント、ポリアデニル化シグナル及び/又は他の機能的エレメントを利用することができる。好適なエレメント及び配列は、当業者に周知であろう。
【0026】
用語「核酸配列」及び「ヌクレオチド配列」は、単量体のヌクレオチドで構成されるか又はそれを含む、任意の分子を指すために互換的に使用することができる。核酸は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドであってよい。ヌクレオチド配列は、DNA又はRNAであってよい。ヌクレオチド配列は化学改変されてもよいか、人工であってもよい。ヌクレオチド配列には、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロック核酸(LNA)、並びにグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が含まれる。これらの配列の各々は、分子の主鎖への変更によって天然に存在するDNA又はRNAから区別される。更に、ホスホロチオエートヌクレオチドを使用することができる。他のデオキシヌクレオチド類似体には、本開示のヌクレオチドで使用することができる、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、ホスホロジチオエート、N3'P5'-ホスホロアミデート及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエート及びそれらの2'-O-アリル類似体及び2'-O-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが含まれる。
【0027】
本開示による導入遺伝子は、NFR2タンパク質、特に天然の哺乳動物、好ましくはヒトのNFR2タンパク質又はそのバリアントをコードする任意の核酸配列であってよい。
【0028】
遺伝子核因子、赤血球2様2(NFE2L2)(遺伝子ID:4780)、別名NRF2、HEBP1は、6つのヒトNRF2タンパク質アイソフォーム、アイソフォーム1(受託番号:NP_006155.2)、アイソフォーム2(受託番号:NP_001138885.1)、アイソフォーム3(受託番号:NP_001138885.1)、アイソフォーム4(受託番号:NP_001300831.1)、アイソフォーム5(受託番号:NP_001300832.1)及びアイソフォーム6(受託番号:NP_001300833.1)をコードする。好ましくは、ヒトNRF2タンパク質は、アイソフォーム1又はAのアミノ酸配列を含むかそれからなる。
【0029】
ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ウサギ又はラットを限定されずに含む、いくつかの異なる哺乳動物NRF2タンパク質のコード配列が公知であり、配列データベースで容易に見出すことができる。或いは、コード配列は、ポリペプチド配列に基づいて当業者が容易に決定することができる。
【0030】
好ましい実施形態では、前記導入遺伝子は、NRF2タンパク質のコード配列を含み、それらは、ヒト核因子の参照配列、赤血球2様2(NFE2L2)転写物バリアント1(受託番号:NM_006164.5)、転写物バリアント2(受託番号:NM_001145412.3)、転写物バリアント3(受託番号:NM_001145413.3)、転写物バリアント4(受託番号:NM_001313900.1)、転写物バリアント5(受託番号:NM_001313901.1)、転写物バリアント6(受託番号:NM_001313902.1)、転写物バリアント7(受託番号:NM_001313903.1)及び転写物バリアント8(受託番号:NM_001313904.1)からなる群から選択することができる。
【0031】
特定の実施形態では、本開示による導入遺伝子は、NFR2タンパク質バリアントをコードする任意の核酸配列であってよい。
【0032】
好ましくは、本明細書で使用されるように、用語「バリアント」は、天然の配列と少なくとも70、75、80、85、90、95又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。本明細書で使用されるように、用語「配列同一性」又は「同一性」は、2つのポリペプチド配列のアラインメントからの位置における一致(同一のアミノ酸残基)の数(%)を指す。配列同一性は、配列ギャップを最小にしつつ重複及び同一性を最大にするように整列させたときの配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さによっていくつかの数学的グローバル又はローカルアラインメントアルゴリズムのいずれかを使用して決定することができる。類似の長さの配列は、好ましくは、全長にわたって最適に配列を整列させるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman及びWunschアルゴリズム; Needleman及びWunsch、1970)を使用して整列させられ、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えば、Smith及びWatermanアルゴリズム(Smith及びWaterman、1981)又はAltschulアルゴリズム(Altschul等、1997; Altschul等、2005)を使用して整列させられる。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内である様々な方法で、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/等のインターネットウェブサイトで利用可能な公開コンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適当なパラメータを決定することができる。本明細書での目的のために、%アミノ酸配列同一性値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なグローバルアラインメントを形成する、ペアワイズ配列アラインメントプログラムEMBOSS Needleを使用して生成される値を指し、ここでは、全ての検索パラメータはデフォルト値に設定される、すなわちスコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップ伸長=0.5、末端ギャップペナルティ=偽、末端ギャップオープン=10及び末端ギャップ伸長=0.5。
【0033】
より好ましくは、用語「バリアント」は、30、25、20、15、10又は5つ未満の置換、挿入及び/又は欠失によって天然の配列と異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。好ましい実施形態では、バリアントは、1つ又は複数の保存的置換、好ましくは15、10又は5つ未満の保存的置換によって天然の配列と異なる。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)及び小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内である。バリアントのNRF2活性は、前記のように当業者に公知である任意の方法によって調査することができる。
【0034】
特定の実施形態では、前記導入遺伝子は、NRF2タンパク質又はそのバリアントをコードする最適化された配列であってよい。
【0035】
用語「最適化されたコドン」は、ヒトへのバイアスを発現する(すなわち、ヒト遺伝子では普通であるが、他の哺乳動物の遺伝子又は非哺乳動物の遺伝子では普通でない)コドンが、ヒトへのバイアスを発現しない同義コドン(同じアミノ酸をコードするコドン)に変更されることを意味する。したがって、コドンの変化は、コードされるタンパク質中のいかなるアミノ酸変化ももたらさない。
【0036】
核酸構築物
特定の実施形態では、前記導入遺伝子は、核酸構築物に含まれる。
【0037】
本明細書で使用される用語「核酸構築物」は、組換えDNA技術の使用からもたらされる人工核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖又は二本鎖の核酸分子であり、さもなければ天然に存在しないであろう方法で組み合わされ、並置される、核酸配列のセグメントを含有するように改変されている。核酸構築物は、通常「ベクター」、すなわち外因的に作製されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0038】
好ましくは、核酸構築物は、心臓細胞での導入遺伝子の発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結される導入遺伝子を含む。
【0039】
制御配列は、心臓細胞によって認識されるプロモーターを含むことができる。プロモーターは、宿主細胞への導入後にNRF2タンパク質の発現を媒介する転写制御配列を含有する。プロモーターは、突然変異体、トランケーション体及びハイブリッドのプロモーターを含む、細胞で転写活性を示す任意のポリヌクレオチドであってよい。プロモーターは、構成的又は誘導可能なプロモーター、好ましくは構成的プロモーター、より好ましくは強力な構成的プロモーターであってよい。
【0040】
プロモーターは、組織特異的、特に心臓細胞特異的であってもよい。特定の実施形態では、本開示の核酸構築物は、前記のように導入遺伝子に作動可能に連結される心臓特異的プロモーターを更に含む。この開示との関連で、「心臓特異的プロモーター」は、体のいかなる他の組織より心臓において活性であるプロモーターである。一般的に、心臓特異的プロモーターの活性は、他の組織より心臓でかなり大きい。例えば、そのようなプロモーターは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5又は少なくとも10倍より活性であってもよい(例えば、他の細胞又は組織での発現を促進するその能力と比較して、所与の組織で発現を促進するその能力によって決定されるように)。したがって、心臓特異的プロモーターは、それに連結される遺伝子の心臓における活発な発現を可能にし、他の細胞又は組織におけるその発現を阻止する。
【0041】
好適なプロモーターの例には、限定されずに、ヒトトロポニンT遺伝子プロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2プロモーター(MLC-2)、アルファ心筋アクチンプロモーター、アルファトロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター、筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)プロモーター、デスミンプロモーター、MHプロモーター、CK8プロモーター及びMHCK7プロモーターが含まれる。好ましくは、プロモーターはヒト心筋トロポニンTプロモーターである。筋肉ハイブリッドプロモーター(MHプロモーター)は、例えば、Piekarowicz等、Molecular Therapy、2019、15、157~169頁に開示される。CK8は、筋肉クレアチンキナーゼプロモーター/エンハンサーエレメントである(Goncalves等、Mol. Ther.、2011、19、1331~1341頁)。MHCK7プロモーターは、筋肉クレアチンキナーゼ(CK)及びアルファミオシン重鎖遺伝子のエンハンサー/プロモーター領域に基づく(Salva等、Mol. Ther.、2007、15、320~329頁)。
【0042】
制御配列は、適当な転写開始、終結及びエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシング及びポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定させる配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);及び/又はタンパク質安定性を増強する配列を含むこともできる。多数の発現制御配列、例えば、天然の、構成的、誘導可能な及び/又は組織特異的なものが当技術分野で公知であり、NRF2をコードする核酸配列の発現を促進するために利用することができる。一般的に、NRF2をコードする導入遺伝子は、転写プロモーター及び転写ターミネーターに作動可能に連結される。
【0043】
下の実施例で具体化される具体的な送達系とは別に、様々な送達系が公知であり、核酸構築物を前記のように投与するために使用することができる、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへのカプセル化、NRF-2コード配列を発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス、レトロウイルス又は他のベクター等の一部としての治療的核酸の構築。
【0044】
発現ベクター
前記の核酸構築物は、発現ベクターに含有されてもよい。ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、その複製は染色体複製から独立している染色体外の実体、例えば、プラスミド、染色体外のエレメント、ミニクロモゾーム又は人工染色体として存在するベクターであってよい。ベクターは、自己複製を担保するための任意の手段を含有することができる。或いは、ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、ゲノムに組み入れられて、それが組み入れられた染色体と一緒に複製されるものであってよい。
【0045】
適当なベクターの例には、組換えで組み入れるか組み入れないウイルスベクター、及び組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAに由来するベクターが限定されずに含まれる。好ましくは、ベクターは、組換えで組み入れるか組み入れないウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例には、限定されずに、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス又はウシ乳頭腫ウイルスに由来するベクターが含まれる。
【0046】
AAVは、ヒト遺伝子療法のための可能性のあるベクターとしてかなりの関心を引き起こした。ウイルスの良好な特性には、任意のヒト疾患との関連のその欠如、分裂及び非分裂細胞を感染させるその能力、並びに感染させることができる異なる組織に由来する多様な細胞系がある。
【0047】
AAVゲノムは、4681塩基を含有する、線状の一本鎖DNA分子で構成される(Berns及びBohenzky、1987、Advances in Virus Research (Academic Press社) 32:243~307頁)。ゲノムは各末端に逆方向末端反復(ITR)を含み、それは、ウイルスのためのDNA複製の起点として、及びパッケージングシグナルとしてシスで機能する。ITRは、概ね145bpの長さである。ゲノム内部の非反復部分は、2つの大きなオープンリーディングフレームを含み、それぞれAAV rep及びcap遺伝子として公知である。これらの遺伝子は、ビリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。特に、それらの見かけの分子量によりRep78、Rep68、Rep52及びRep40と呼ばれる少なくとも4つのウイルスタンパク質がAAV rep遺伝子から合成される。AAV cap遺伝子は、少なくとも3つのタンパク質、VP1、VP2及びVP3をコードする。AAVゲノムの詳細な記載のために、例えば、Muzyczka, N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁を参照。
【0048】
したがって、一実施形態では、上記の導入遺伝子を含む核酸構築物は、5'ITR及び3'ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5'ITR及び3'ITR配列を更に含む。
【0049】
本明細書で使用される用語「逆方向末端反復(ITR)」は、パリンドローム配列を含有し、折りたたまれてDNA複製の開始の間にプライマーとして機能するT字状のヘアピン構造を形成することができる、ウイルスの5'末端に位置するヌクレオチド配列(5'ITR)及び3'末端に位置するヌクレオチド配列(3'ITR)を指す。それらは、宿主ゲノムへのウイルスゲノムの組入れのため;宿主ゲノムからのレスキューのため;及び成熟したビリオンへのウイルス核酸のカプシド封入のためにも必要とされる。ITRは、ベクターゲノムの複製及びウイルス粒子へのそのパッケージングのためにシスで必要とされる。
【0050】
本開示の核酸構築物で使用するためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有することができるか、又は挿入、欠失若しくは置換によって変更することができる。AAVの逆方向末端反復(ITR)の血清型は、任意の公知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。具体的な実施形態では、核酸構築物は、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び現在公知であるか後に発見される任意の他のAAV血清型又は工学操作AAVを含む任意のAAV血清型のITRを使用して達成することができる。
【0051】
一実施形態では、核酸構築物は、AAV-2血清型の5'ITR及び3'ITR、又は選択されるAAV粒子の血清型に対応する5'ITR及び3'ITRを更に含む。
【0052】
他方、上記の核酸構築物は、合成5'ITR及び/又は3'ITRを使用して;並びに異なる血清型のウイルス由来の5'ITR及び3'ITRを使用しても達成することができる。ウイルスベクター複製のために必要とされる全ての他のウイルス遺伝子は、下記のように、ウイルス産生細胞(パッケージング細胞)の中でトランスで提供することができる。したがって、ウイルスベクターへのそれらの組入れは任意選択である。
【0053】
一実施形態では、本開示の核酸構築物又はウイルスベクターは、ウイルスの5'ITR、ψパッケージングシグナル及び3'ITRを含む。「ψパッケージングシグナル」は、ウイルスゲノムのシス作用性ヌクレオチド配列であり、それは、一部のウイルス(例えばアデノウイルス、レンチウイルス…)では、複製の間にウイルスカプシドにウイルスゲノムをパッケージするプロセスのために必須である。
【0054】
組換えAAVウイルス粒子の構築は当技術分野で一般的に公知であり、例えば、米国特許第5,173,414号及び第5,139,941号; 国際特許出願公開第92/01070号、国際特許出願公開第93/03769号、Lebkowski等(1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁; Vincent等(1990) Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter, B. J.(1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁; Muzyczka, N.(1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁;及びKotin, R. M.(1994) Human Gene Therapy 5:793~801頁に記載されている。
【0055】
ウイルス粒子
特定の実施形態では、本開示は、前記の核酸構築物又は発現ベクターを含むウイルス粒子に関する。
【0056】
本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージして「ウイルスベクター粒子」とも呼ばれる「ウイルス粒子」を生成することができる。特定の実施形態では、前記の核酸構築物又は発現ベクターは、AAV由来のカプシドにパッケージされて「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を生成する。本開示は、本開示の核酸構築物又は発現ベクターを含み、好ましくはアデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を含むウイルス粒子に関する。
【0057】
用語AAVベクター粒子は、遺伝子操作された任意の組換えAAVベクター粒子又は突然変異体AAVベクター粒子を包含する。組換えAAV粒子は、特定のAAV血清型に由来するITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターを、同じか異なる血清型のAAVに対応する天然又は突然変異体Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子上でカプシドに封入することによって調製することができる。
【0058】
アデノ随伴ウイルスのウイルスカプシドのタンパク質には、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3が含まれる。様々なAAV血清型のカプシドタンパク質配列の間の差は、細胞侵入のために異なる細胞表面受容体の使用をもたらす。代わりの細胞内プロセシング経路と一緒に、これは各AAV血清型のために異なる組織向性を発生させる。
【0059】
天然に存在するAAVウイルス粒子の構造的及び機能的特性を改変及び向上させるために、いくつかの技術が開発されている(Bunning H等J Gene Med、2008; 10: 717~733頁; Paulk等Mol ther. 2018; 26(1):289~303頁; Wang L等Mol Ther. 2015; 23(12):1877~87頁; Vercauteren等Mol Ther. 2016; 24(6):1042~1049頁; Zinn E等、Cell Rep. 2015; 12(6):1056~68頁)。
【0060】
したがって、本開示によるAAVウイルス粒子では、所与のAAV血清型のITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターは、例えば: a)同じか異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質で構成されるウイルス粒子; b)異なるAAV血清型又は突然変異体からのカプシドタンパク質の混合物で構成されるモザイクウイルス粒子; c)異なるAAV血清型又はバリアントの間のドメインスワッピングによってトランケーションされたカプシドタンパク質で構成されるキメラウイルス粒子にパッケージすることができる。
【0061】
本開示による使用のためのAAVウイルス粒子は、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV2i8、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3B及びAAV9.rh74を含む任意のAAV血清型からのカプシドタンパク質を含むことができることを当業者は理解する(国際特許出願公開第2019/193119号に開示されるように)。
【0062】
ヒト心臓細胞への遺伝子導入のために、AAV血清型1、6、8、9及びAAV9.rh74が好ましい。AAV血清型9及びAAV9.rh74が心筋の細胞/心筋細胞での発現の誘導のために特に適している。具体的な実施形態では、AAVウイルス粒子は本開示の核酸構築物又は発現ベクター、好ましくはAAV9又はAAV9.rh74血清型からのカプシドタンパク質を含む。
【0063】
医薬組成物
本開示によるNRF2活性化剤、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子は、好ましくは、治療有効量のNRF2活性化剤、核酸構築物、発現ベクター又は本開示によるウイルス粒子を含む医薬組成物の形で使用される。
【0064】
本開示との関連で、治療有効量は、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を覆すか、緩和するか若しくは阻害するのに、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を覆すか、緩和するか、阻害するのに十分な用量を指す。
【0065】
有効用量は、使用する組成物、投与経路、考慮する個体の身体的特性、例えば性別、年齢及び体重、併用医薬品等の因子、並びに医療当事者が認識する他の因子によって決定され、調整される。
【0066】
本開示の様々な実施形態では、医薬組成物は薬学的に許容される担体及び/又はビヒクルを含む。
【0067】
「薬学的に許容される担体」は、哺乳動物、特に適当な場合ヒトに投与されるとき、有害であるか、アレルギー性であるか、他の不都合な反応も起こさないビヒクルを指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤は、任意のタイプの無毒の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材又は製剤助剤を指す。
【0068】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のために薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらは、特に等張性、無菌の塩類溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は、場合によって滅菌水又は生理的食塩水の添加により注射用溶液の構成を可能にする乾燥した、特にフリーズドライ組成物であってよい。
【0069】
注射用の好適な医薬形態には、無菌の水性溶液又は懸濁液が含まれる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターに適合し、標的細胞へのウイルスベクター粒子の侵入を阻止しない添加物を含むことができる。全ての場合に、形態は無菌でなければならず、かつ容易なシリンジ性能が存在するという程度まで流体でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌類等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。適当な溶液の例は、緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル液である。
【0070】
拡張型心筋症の処置
本開示によるNRF2活性化剤、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子は、任意の拡張型心筋症(DCM)の処置のために使用される。
【0071】
拡張型心筋症(CMD)は、心臓拡張及び低下した収縮期機能によって特徴付けられる。CMDは心筋症の最も頻繁な型であり、1歳から10歳の患者で実施される全ての心臓移植の半数以上を占める。DCMの原因には、特に遺伝子、及び様々な毒性、代謝性又は感染性の因子が含まれる。毒性又は代謝性の因子には、特にアルコール及びコカイン乱用並びに化学療法剤、例えばドキソルビシン及びコバルト;甲状腺疾患;サルコイドーシス及び結合組織疾患等の炎症性疾患;心頻拍誘発心筋症;自己免疫性機構;妊娠合併症;並びにチアミン欠乏症が含まれる。感染性因子には、特にトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)によるシャガス病、並びに例えばコクサッキーBウイルス及び他のエンテロウイルスによる急性ウイルス心筋炎の後遺症が含まれる。遺伝性のパターンが、症例の20~30%に存在する。大部分の家族性DCM家系は、通常は人生の10代又は20代に現れる遺伝の常染色体優性パターンを示す(Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18: 1160~1165頁に要約される)。
【0072】
遺伝子誘発拡張型心筋症では、関与する大部分の遺伝子は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン);細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン);カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RyR2、SERCA2a、ホスホランバン);心筋構造組織に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C);細胞骨格完全性及び筋力伝達に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン);並びに筋力の発生及び伝達に関与するサルコメアタンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む、心筋細胞の構造エレメントをコードする。
【0073】
多くの遺伝子の突然変異は、異なる形の拡張型心筋症(CMD)を引き起こすことが見出された。これらには、特に以下のものが含まれる:
- CMD1A、染色体1q22の上のラミンA/C遺伝子(LMNA)でのヘテロ接合突然変異(OMIM #150330);又は、ラミニンアルファ2(LAMA2又はMEROSIN)遺伝子でのヘテロ接合突然変異(OMIM #156225; Marques等、Neuromuscul. Disord.、2014、doi.org/10.10106/)によって引き起こされる拡張型心筋症-1A(OMIM #115200);
- 9q13の上のCMD1B(OMIM #600884); FDC遺伝子座と呼ばれる遺伝子は、D9S153とD9S152の間の区間に置かれた。拡張型心筋症と頻繁に関連しているフリートライヒ運動失調(OMIM #229300)は、心臓でカルシウムチャネルイオンコンダクタンスを調節するcAMP依存性プロテインキナーゼ(OMIM #176893)もそうするのと同じ領域へマッピングされる。9q22へマッピングされるTropomodulin(OMIM #190930)は、特に魅力的な候補遺伝子であった。
- 10q23の上のlimドメイン結合性3、LDB3(又は、ZASP)遺伝子(OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされる、左心室非圧縮の有る無しのCMD1C(OMIM #601493);
- 1q32の上のトロポニンT2、心臓(TNNT2)遺伝子(OMIM #191045)での突然変異によって引き起こされるCMD1D(OMIM #601494);
- 3p22の上のSCN5A遺伝子(OMIM #600163)での突然変異によって引き起こされるCMD1E(OMIM #601154);
- CMD1F:記号CMD1Fは、後にデスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)と同じであることが見出された障害のために以前使用された;
- 2q31の上のタイチン(TTN)遺伝子(OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるCMD1G(OMIM #604145);
- 2q14-q22の上のCMD1H(OMIM #604288);
- 2q35の上のデスミン(DES)遺伝子(OMIM #125660)での突然変異によって引き起こされるCMD1I(OMIM #604765);
- 6q23の上のEYA4遺伝子(OMIM #603550)での突然変異によって引き起こされるCMD1J(OMIM #605362);
- 6q12-q16の上のCMD1K(OMIM #605582);
- 5q33の上のサルコグリカンデルタ(SGCD)遺伝子(OMIM #601411)での突然変異によって引き起こされるCMD1L(OMIM #606685);
- 11p15の上のCSRP3遺伝子(OMIM #600824)での突然変異によって引き起こされるCMD1M(OMIM #607482);
- タイチン-CAP(テレソニン又はTCAP)遺伝子(OMIM #604488)での突然変異によって引き起こされるCMD1N;(OMIM #607487)。
- 12p12の上のABCC9遺伝子(OMIM #601439)での突然変異によって引き起こされるCMD1O(OMIM #608569);
- 6q22の上のホスホランバン(PLN)遺伝子(OMIM #172405)での突然変異によって引き起こされるCMD1P(OMIM #609909);
- 7q22.3-q31.1の上のCMD1Q(OMIM #609915);
- 15q14の上のアクチンアルファ、心筋(ACTC1)遺伝子(OMIM #102540)での突然変異によって引き起こされるCMD1R(OMIM #613424);
- 14q12の上のミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)遺伝子(OMIM #160760)での突然変異によって引き起こされるCMD1S(OMIM #613426);
- 14q24の上のPSEN1遺伝子(OMIM #104311)での突然変異によって引き起こされるCMD1U(OMIM #613694);
- 1q42の上のPSEN2遺伝子(OMIM #600759)での突然変異によって引き起こされるCMD1V(OMIM #613697);
- 10q22の上のメタビンキュリンをコードする遺伝子(VCL; OMIM #193065)での突然変異によって引き起こされるCMD1W(OMIM #611407);
- 9q31の上のフクチンをコードする遺伝子(FKTN; OMIM #607440)での突然変異によって引き起こされるCMD1X(OMIM #611615);
- 15q22の上のTPM1遺伝子(OMIM #191010)での突然変異によって引き起こされるCMD1Y(OMIM #611878);
- 3p21の上のトロポニンC(TNNC1)遺伝子(OMIM #191040)での突然変異によって引き起こされるCMD1Z(OMIM #611879);
- 1q43の上のアクチニンアルファ-2(ACTN2)遺伝子(OMIM #102573)での突然変異によって引き起こされるCMD1AA(OMIM #612158);
- 18q12の上のDSG2遺伝子(OMIM #125671)での突然変異によって引き起こされるCMD1BB(OMIM #612877);
- 1p31の上のNEXN遺伝子(OMIM #613121)での突然変異によって引き起こされるCMD1CC(OMIM #613122);
- 10q25の上のRNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20)遺伝子(OMIM #613171)での突然変異によって引き起こされるCMD1DD(OMIM #613172);
- 14q12の上のミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6)遺伝子(OMIM #160710)での突然変異によって引き起こされるCMD1EE(OMIM #613252);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子(OMIM #191044)での突然変異によって引き起こされるCMD1FF(OMIM #613286);
- 5p15の上のSDHA遺伝子(OMIM #600857)での突然変異によって引き起こされるCMD1GG(OMIM #613642);
- 10q26の上のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるCMD1HH(OMIM #613881);
- 6q21の上のCRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるCMD1II(OMIM #615184);
- 6q21の上のラミニンアルファ4(LAMA4)遺伝子(OMIM #600133)での突然変異によって引き起こされるCMD1JJ(OMIM #615235);
- 10q21の上のMYPN遺伝子(OMIM #608517)での突然変異によって引き起こされるCMD1KK(OMIM #615248);
- 1p36の上のPRDM16遺伝子(OMIM #605557)での突然変異によって引き起こされるCMD1LL(OMIM #615373);
- 11p11の上のMYBPC3遺伝子(OMIM #600958)での突然変異によって引き起こされるCMD1MM(OMIM #615396);
- 3p25の上のRAF1遺伝子(OMIM #164760)での突然変異によって引き起こされるCMD1NN(OMIM #615916);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子での突然変異によって引き起こされるCMD2A(OMIM #611880);
- 7q21の上のGATAD1遺伝子(OMIM #614518)での突然変異によって引き起こされるCMD2B(OMIM # 614672);
- 1p34の上のPPCS遺伝子(OMIM #609853)での突然変異によって引き起こされるCMD2C(OMIM #618189);
- CMD3A、前に命名されたX連鎖型は、バース症候群(OMIM #302060)と同じであることが見出された;及び
- CMD3B(OMIM # 302045)、ジストロフィン遺伝子(DMD、OMIM #300377)での突然変異によって引き起こされる、CMDのX連鎖型。
【0074】
デスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)は、一群の形態学的に均一であるが遺伝子的に不均一な慢性神経筋障害を指す曖昧な用語である。MFMにおける骨格筋の形態学的変化は、サルコメアZ板及び筋原線維の崩壊と、その後のZ板の構造に関与する、デスミン、アルファ-B-クリスタリン(CRYAB; OMIM #123590)、ジストロフィン(OMIM #300377)及びミオチリン(TTID; OMIM #604103)を含む複数のタンパク質の異常な異所性蓄積から生じる。筋原線維ミオパシー-1(MFM1)は、染色体2q35の上のデスミン遺伝子(DES; OMIM #125660)における、ヘテロ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合突然変異によって引き起こされる。MFMの他の形には、CRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるMFM2(OMIM #608810);MYOT遺伝子(OMIM #604103)での突然変異によって引き起こされるMFM3(OMIM #609200)(OMIM #182920);ZASP遺伝子(LDB3; OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされるMFM4(OMIM #609452);FLNC遺伝子(OMIM #102565)での突然変異によって引き起こされるMFM5(OMIM # 609524);BAG3遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるMFM6(OMIM #612954); KY遺伝子(OMIM #605739)での突然変異によって引き起こされるMFM7(OMIM #617114);PYROXD1遺伝子(OMIM #617220)での突然変異によって引き起こされるMFM8(OMIM #617258);及びTTN遺伝子(タイチン; OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるMFM9(OMIM #603689)が含まれる。
【0075】
他の遺伝子の突然変異も、異なる形の拡張型心筋症を引き起こすことが見出された。これらには、以下のものが含まれる:
- 催不整脈性右心室形成異常11(OMIM #610476)及び拡張型心筋症の原因であるデスモコリン2(DSC2、OMIM #125645)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常12(OMIM #611528)及び拡張型心筋症の原因である接合部プラコグロビン(JUP又はプラコグロビン; OMIM #173325)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常2(OMIM #600996)及び心室頻脈、カテコールアミン作動性多形性1(OMIM #604772)及び拡張型心筋症の原因であるリアノジン受容体2(RYR2; OMIM #180902)(Zahurul、Circulation、2007、116、1569~1576頁);
- ATPアーゼ、Ca(2+)輸送徐収縮(ATP2A2; ATP2B、筋小胞体Ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);及び
- エメリン(EMD);フクチン関連タンパク質(FKRP); タファジン(TAZ);デスモプラキン(DSP);並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル。
【0076】
一部の実施形態では、拡張型心筋症は後天性の拡張型心筋症であり;例えば、本開示による毒性、代謝性又は感染性の因子によって引き起こされる。拡張型心筋症の原因は未知であってもよい(特発性の拡張型心筋症)。
【0077】
一部の好ましい実施形態では、拡張型心筋症は遺伝的拡張型心筋症であり;好ましくは以下のものからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる:ラミニン、特にラミニンアルファ2(LAMA2)及びラミニンアルファ4(LAMA4);エメリン(EMD);フクチン(FKTN);フクチン関連タンパク質(FKRP);デスモコリン、特にデスモコリン2(DSC2);プラコグロビン(JUP);リアノジン受容体2(RYR2);筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);ホスホランバン(PLN);ラミンA/C(LMNA);ジストロフィン(DMD);タイチン-CAP又はテレソニン(TCAP);アクチニン、特にアクチニンアルファ-2(ACTN2);デスミン(DES);アクチン、特に心筋アクチン、アクチンアルファ、心筋(ACTC1);サルコグリカン、特にサルコグリカンデルタ(SGCD);タイチン(TTN);トロポニン、特に心筋トロポニン、トロポニンT2、心臓(TNNT2);トロポニンC(TNNC1)及びトロポニンI、心臓(TNNI3);ミオシン、特にミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)及びミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6);RNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20); BCL2関連アサノジーン3(BAG3);デスモプラキン(DSP);タファジン(TAZ)並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル、好ましくはジストロフィン(DMD)又はタイチン(TTN)。
【0078】
本開示は本開示による拡張型心筋症を処置する方法であって、治療有効量のNRF2活性化剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は前記のような医薬組成物を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0079】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、上記のNRF2活性化剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は医薬組成物の使用も提供する。
【0080】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための医薬の製造における、上記のNRF2活性化剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は医薬組成物の使用も提供する。
【0081】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、上記のNRF2活性化剤、核酸構築物又はウイルス粒子を活性成分として含む医薬組成物も提供する。
【0082】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、前記のNRF2活性化剤、核酸構築物又はウイルス粒子を含む医薬組成物も提供する。
【0083】
「治療有効量」は、心臓線維症の低減及び/又は心機能の向上などの所望の治療結果を達成するのに必要な投薬量及び期間で有効な量を指す。本開示の生産物又はそれを含む医薬組成物の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重などの因子、並びに個体で所望の応答を導き出す生産物又は医薬組成物の能力に応じて異なることがある。投薬レジメンは、最適な治療応答を提供するように調整することができる。治療有効量は、一般に、生産物又は医薬組成物のいかなる毒性又は有害作用よりも治療的に有益な作用が上回るものでもある。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「患者」又は「個体」は哺乳動物を指す。好ましくは、本開示による患者又は個体はヒトである。
【0085】
本開示との関連で、本明細書で使用される用語「処置する」又は「処置」は、そのような用語が適用される拡張型心筋症若しくは状態の進行を覆すか、緩和するか阻害すること、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を覆すか、緩和するか、阻害すること、特に、心臓線維症の低減及び/又は心機能の向上を意味する。
【0086】
本開示の医薬組成物は、一般に、患者の治療効果を誘導するのに有効な公知の手順、投薬量及び期間に従って投与される。
【0087】
投与は、全身性、又は局所であってよい。全身性投与は、好ましくは非経口、例えば皮下(SC)、筋肉内(IM)、静脈内(IV)若しくは動脈内等の血管内;腹腔内(IP);皮内(ID)、間質、又はその他である。投与は、例えば注射又は潅流によることができる。一部の好ましい実施形態では、投与は非経口であり、好ましくは静脈内(IV)又は動脈内等の血管内である。本開示の実施では、別途指示がない限り、当分野の技術の範囲内である従来の技術を用いる。そのような技術は、文献で詳細に説明されている。
【0088】
本発明は、限定するものでない以下の実施例により、添付の図面を参照してこれから例示されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【
図1】形態学的分析を示す図である。A)マウスの総質量。B)心肥大の測定:心臓質量/マウス総質量(%)。
【
図2】DeltaMex5マウスにおけるAAV9-tnnt2-NRF2の注射の後の及びPBSを注射した対照の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。A)心臓のHPS染色。B)心臓のシリウスレッド染色、スケール、500μm。C)シリウス定量化。スチューデントの検定。
【実施例】
【0090】
1.1 マウスモデル
この試験で使用したマウスは、雄のタイチンMex5-/Mex5-(DeltaMex5)及びDBA/2J-mdx(DBA2mdx)系統、並びにそれらのそれぞれの対照系統C57BL/6及びDBA/2であった。DeltaMex5マウスは、タイチンの最後から2番目のエクソンがCRISPR-Cas9技術(Charton, K.等2016、Human molecular genetics 25、4518~4532頁)によって欠失したマウスである。DBA2mdxマウスは、ジストロフィン遺伝子の第23エクソンの上の点突然変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルである。DBA2mdxマウスは、LTBP4遺伝子、TGFシグナル伝達経路-βの活性を調節するタンパク質、の上の突然変異を有するDBA/Jバックグラウンドの上にある(Fukada等2010。Am J Pathol 176、2414~2424頁)。全てのマウスは、人間による実験動物のケア及び使用のための欧州指令に従って扱われ、動物実験は、プロジェクト認可申請2015-003-A及び2018-024-Bの番号の下でEvryのEthics Committee for Animal Experimentation C2AE-51に承認された。
【0091】
1.2 筋肉のサンプリング及び冷凍
目的の筋肉を収集し、計量して、アラビアゴムでコーティングした一片のコルクの上に横又は縦方向に置いた後、液体窒素中(分子生物学分析のための試料)又は冷却したイソペンタン中(組織学のための試料)に冷凍する。タイロード中の希釈したブタンジオン溶液(5mM)で冷凍する前に、心臓を拡張期で冷凍する。試料は、その後使用まで-80℃で保存する。全心臓のシリウスレッド線維症観察プロトコールのために、心臓全体をパラフィンに包埋し、室温で保存する。トランスパレンシープロトコールのために、採取した心臓の全体を4%パラホルムアルデヒドに保存し、+4℃に保つ。
【0092】
1.3 ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン染色
ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン(HPS)マーキングは、筋肉の全般的外観を観察して、異なる組織及び細胞構造を強調することを可能にする。ヘマトキシリンは核酸を濃青色に着色し、フロキシンは細胞質をピンク色に、サフランはコラーゲンを赤色~オレンジ色に着色する。断面を、ハリスヘマトキシリン(Sigma社)で5分間染色する。水で2分間洗浄した後、過剰な染色剤を除去するために、スライドを0.2%(v/v)塩酸アルコール溶液に10秒間浸漬する。水で1分間再び洗浄した後に、組織をスコット水浴(0.5g/lの重炭酸ナトリウム及び20g/lの硫酸マグネシウム溶液)の中で1分間青色に染め、その後、水で1分間再びすすぎ、フロキシン1%(w/v)(Sigma社)で30秒間染色する。水で1分30秒間すすいだ後、切片を70°エタノールで1分間脱水し、次に無水エタノールで30秒間すすぐ。組織は、次にサフラン1%(無水エタノール中のv/v)で3分間染色し、無水エタノールですすぐ。最後に、切片をキシレン浴中で2分間薄くし、その後Eukitt培地でスライドとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動ステージに連結したZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10で実行される。
【0093】
HPS着色切片から、中心核生成線維の数の切片のmm2面積に対する比によって中心核生成指数を計算する。
【0094】
1.4 シリウスレッド着色
シリウスレッド染色は、コラーゲン繊維を赤色に着色し、線維症組織の存在を強調することを可能にする。細胞質は、黄色に染色される。断面を冷凍切片のためにアセトンで1時間脱水するか、又は熱及びトルエン浴でワックスを除去する。それらは、次に4%ホルムアルデヒドで5分間、次にBouin溶液中で10分間固定される。水による2回の洗浄の後、染色のためにスライドをシリウスレッド溶液(100mLピクリン酸溶液あたり0.1gのシリウスレッド)に1時間浸漬する。水で1分30秒間すすいだ後に、スライスを連続したエタノール浴中で脱水する: 70°エタノールで1分間、95°エタノールで1分間、無水エタノールで1分間、次に第2の無水エタノール浴で2分間。最後に、スライスを2回のキシレン浴で1分間薄くし、次にEukitt培地でラメラとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動ステージが連結されたZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10xで実行される。偏光像は、光の経路に沿って試料の前に置かれた偏光器(偏光器);及び試料の後に置かれた別の偏光器(Anlayzer)を備えた改変された光学LEICA顕微鏡を使用して取得され、それは手動で回転させることができ、透過及び偏光した光を両方とも同時に観察する可能性を与える。偏光器の主軸は、互いに90度で配向される。偏光マップは、Cartographソフトウェア(Microvision社、France)に連結されたRetiga 2000 CCDセンサー(QImaging社)を使用して取得した。要約すると、光は試料に到達する前に第1の偏光器を通過し、コラーゲンは複屈折性であり、それを通過する光は2つの光線に分離され、それは、第2の偏光器を通過すると、2種類のシリウスレッド及び残りの心臓組織の差別的観察を可能にする。
【0095】
1.5 シリウスレッドの定量化
Sirius Quant
Sirius Quantは、内部で開発されたImageJプラグイン(Schneider等、2012)である。それは、赤色に着色した画像のピクセルを単離し、定量化することを可能にする閾値化マクロである。それは、3ステップで作業する:第1のものは、画像を白黒に変換することである。レッドシリウス着色からもたらされる画像は非常に対照的であり、そのため、単純な白黒変換は全ての有益な情報を保つのに十分である。第2のものは、画像の着色したピクセルだけ、換言すると切片全体に属するピクセルを保つために、非常に粗い閾値化である。Analyze Particles機能を適合させたオブジェクトサイズと一緒に使用することは、スライスのアウトライン自動検出を可能にし、それは次に保存される。第3のステップは、赤色に着色したピクセルだけ、マーキングと関連しているものを保つことを可能にする、ユーザーによる手動の閾値化である。手動の修正ツールは、検出されたであろう領域、及びマークのない領域(ダスト、カットフォールド等)を除去すること、又は考慮されなかったであろう領域を加えることを可能にする。閾値化された画像が満足であるならば、閾値化されたピクセルの数及び全切片中のピクセルの総数を次に測定する。これらの2つの数の間の比は、スライスにおける線維症指数を最後に与える。
【0096】
WEKA
画像は、WEKAプラグイン(ImageJ社)により人工知能アルゴリズムを使用して処理した。分類される異なる状態を代表する17画像を含有するトレーニングデータセットを使用して、WEKA分類plugginを実行した。クラスは、健全な組織(黄色)に、両種の染色に、及びスライス断裂(白色)に割り当てた。元のマッピングは概ね225メガピクセル(15k×15k)のサイズのモザイク画像であり、それらは400フレーム(20横列、20縦列)に分け、各フレームは概ね750×750ピクセルであった。各フレームは独立して分類され、完全画像が次に再構築される。各クラスのピクセルの数が測定される。心臓に属するピクセルの総数は、健全な組織と2種類の色素の取り込みの合計として計算される。クラスの中のピクセルの数を心臓のピクセルの総数によって割り算することによって、各クラスの比を次に計算する。
【0097】
全心臓再構築及び定量化
シリウスレッドによって着色された全心臓の切片は、10×レンズを備えたスキャナ(Axioscan ZI、Zeiss社)でスキャンした。合計483画像が得られた。それらは、ImageJのpluggin: Linear Stack AlignmentをSIFTと使用して整列させた(Lowe等、International Journal of Computer Vision、2004、60、91~110頁)。ソフトウェアが満足なアラインメントを可能にしなかった場合、一部の画像は手動で整列させた。再構築及び3D可視化のために、画像をImaris(BitPlane社、USA)にロードした。画像を整列させたら、Otsu閾値化(Otsu N、Cybernetics、1979、9、62~66頁)を使用した全自動モードのシリウスクワントplugginは、各画像に対応する483の線維症比の値をもたらした。これらの値は、アルゴリズム自動化に固有の誤差を回避するためにシグナル中のノイズを低減する方法であるスライド平均方法を使用してフィルタリングした。移動平均の使用は、画像の各線維症比をそれ自体の平均、その前の画像の比、及びその後の画像の比と置き換えることによって、これらの誤差を制限することを可能にする。
【0098】
1.6 ウイルスベクター
心臓トロポニンプロモーターを有し、Nrf2をコードするマウスの導入遺伝子を有するベクターAAV9(AAV9-tnnt2-mNRF2)は、Vectrobiolabs社に注文した。
【0099】
1.7 プラスミドの生成
プラスミドは45μLのDH10B細菌を2μLのプラスミドで形質転換することによって生成される。熱ショックは、氷中に5分、42℃で30秒、及び氷上で冷却を交互に用いることによって達成される。次に、250μLのSOC(超最適培養液)培地を加え、その後撹拌下37℃で1時間インキュベートする。プラスミドを組み入れた細菌を選択するために、このように形質転換された細菌は、アンピシリンを含有するLB(溶原性培養液)の箱の上で、37℃で一晩、50μL培養によって単離される。クローンは、抗生物質を含有する3mLのLB培地の中で37℃で数時間の前培養のために、その翌日移植される。試料を、冷凍のために50%グリセロールに保つ。次に、500mLの抗生物質含有培地及び1mLの前培養を含有する2Lエルレンマイヤーで一晩の培養を37℃で実行する。次に、プラスミドを精製するためにNucleoBond PC 2000 EF(Macherey Nagel社)キットを供給業者の使用説明書により使用し、それは次に0.22μmでの濾過によって滅菌し、Nanodropで検査する。
【0100】
プラスミドを検査するために、制限酵素SMA1及びNHE1で酵素消化を実行する。無菌水に1μgのDNA、2μLの緩衝液fast digest green 10×、各酵素の1μlを全量20μlで含有する混合物を、37℃で20分間撹拌する。SYBR(商標)Safe DNA Gel Stain(Invitrogen社)を含有するTAE(トリス、酢酸、EDTA)中の1%アガロースゲルを注ぎ、その後消化物生成物及びサイズマーカーO'GeneRuler(商標)DNA Ladderミックスを入れる。
【0101】
1.8 ベクター生成
組換えウイルスを調製するために、三トランスフェクション方法を使用する。ウイルス粒子を生成するために、HEK293細胞をパッケージング細胞として使用する。3つのプラスミドが必要とされる:目的の遺伝子を提供するベクタープラスミド、Rep及びCapウイルス遺伝子を提供するヘルパープラスミドpAAV2-9_Genethon_Kana(Rep2Cap9)、並びに、アデノウイルス遺伝子を含有し、AAV複製のために必要であるアデノウイルス共感染を置き換えるプラスミドpXX6。細胞を次に溶解し、ウイルス粒子を精製する。ベクターは、懸濁液で生成される。
【0102】
細胞接種(1日目): 1L撹拌フラスコに接種された、集密のHEK293Tクローン17細胞の使用: 400mLのF17培地(Thermo Fisher scientific社)に2E5細胞/mL。撹拌(100rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベーション。
【0103】
細胞トランスフェクション(3日目):細胞を数え、72時間の培養の後Vi-CELLで細胞生存能力を測定する。フラスコ内のその濃度、サイズ及び細胞の量により、各プラスミドのために10mg/mLでトランスフェクションミックスをHepes緩衝液中で調製し、各プラスミドの比は1である。トランスフェクション剤の追加及び溶液のホモジナイゼーションの後に室温で30分間のインキュベーション。トランスフェクション混合物及び3979μLの培地(改変F17 GNT)を、400mLの培養を含有する振盪フラスコに移し、それらを撹拌(130rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベートする。48時間後、ベンゾナーゼによる細胞の処理: F17培地中にベンゾナーゼの希釈溶液(最終25U/mL)及びMgCl2(2mM最終)、1フラスコに4mLの追加。
【0104】
ウイルスベクター採取(6日目):細胞を数え、細胞生存能力をVi-CELLで測定し、次に2mLのトリトンX-100(Sigma社、1/200の希釈)を加え、その後撹拌下の37℃で2.5時間インキュベートする。エルレンマイヤーをコーニング500mLに移し、4℃で15分間、2000gで遠心分離する。上清を新規のコーニング500mLに移し、その後100mLのPEG 40%+NaClを加えて、4℃で4時間インキュベートする。懸濁液は、4℃で30分間、3500gで遠心分離する。ペレットはpH8の20mLのTMS(50mMのトリスHCl、150mMのNaCl及び2mMのMgCl2、水に希釈)に再懸濁させ、エッペンドルフ50mLに移し、その後8μLのベンゾナーゼを追加する。37℃で30分間のインキュベーションの後、管を4℃で15分間、10,000gで遠心分離する。
【0105】
塩化セシウム勾配精製:勾配を達成するために、1.3グラム/mLの密度の10mLの塩化セシウムを超遠心管に入れる。1.5グラム/mLの密度の塩化セシウムの5mL量を、次にその下に入れる。上清を塩化セシウムの上に静かに置き、管を20℃で24時間、28,000RPMで超遠心分離する。2つのバンドが観察される:上のバンドは空のカプシドを含有し、下のバンドは完全なカプシドに対応する。両方のストリップを収集し、不純物の除去はしなかった。試料を新規の超遠心管の中で1.379g/mlの密度で塩化セシウムと混合し、次に20℃で72時間、38,000RPMで超遠心分離する。中身のあるカプシドのストリップを取り出す。
【0106】
濃縮及び濾過:ウイルス調製物からの塩化セシウムの除去及び濃縮は、Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターで、実行される。Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターの上で、ベクターは100kDaのカットオフの限外濾過によって濃縮される。Amicon膜は先ず14mLの20%エタノールで水和され、3000gで2分間遠心分離され、次に14mLのPBSで平衡させられ、3000gで2分間、次に14mLの1,379ClCsで遠心分離される。収集された中身のあるカプシドのストリップはフィルターに載せて、3000gで4分間遠心分離する。15mLのPBS 1×+F68製剤緩衝液を加え、その後1500gで2分間更に濾過する。3つの前のステップを更に6回繰り返して、最後の濃縮液を回収する。試料は、次に0.22μmで濾過する。
【0107】
滴定:ベクターは、次に定量的PCRによって分析する。
【0108】
1.9 統計
全ての統計分析で、差はP<0.05(*)で有意であり、P<0.01(**)で中程度有意であり、P<0.001(***)で高度に有意であるとみなされ、P=確率である。棒グラフは、平均+SEM標準偏差として示す。グラフは、GraphPadソフトウェアを使用して作成される。
【0109】
全心臓の上での線維症の分布の分析:線維症が心臓で均一である(H0仮説)ことを確実にするために、発明者は483の線維症比の値から20値をランダムに抽出した。これらの値は、p値を得るために10対10でウィルコクソン検定(ソフトウェアR)と比較した。この操作を1000回繰り返し、1000のp値をもたらした。これらの値の間で一部は0.05未満であり、一部の場合には、線維症不変性の発明者の仮説が有効でないことを示している。1000件の統計的検定から、発明者は、どれだけ多くが0.05未満の値を与えたかを数えた。発明者は全プロセスを100回繰り返して、発明者のH0仮説が偽であるパーセンテージの平均を得た。この平均は、4%である。これは、発明者の仮説が96%の割合で有効であり、したがって0.04の全体的p値に対応することを意味し、これは統計学的に許容される。
【0110】
2. 結果
形態学的評価
NRF2の過剰発現を、DeltaMex5マウスにAAV9-Tnnt2-mNRF2ベクターを注射することによって試験した。1カ月齢のマウスを、2e11 vg/マウスの投与量(概ね20gのマウスのための1e13 vg/kgの投与量と同等)で、又はPBSによって静脈内注射した。ベクター発現の3カ月後、収集の前にマウスの心臓を超音波検査した。心臓への全体的な組織学的及び機能的結果を次に試験した。
【0111】
マウス質量は、NRF2ベクター処置マウスで3カ月後有意に減少せず(33.13±2.15g対34.9±1.3g、n=8)、C57BL/6対照マウスのそれより大きいままであった(28.81±0.72、n=11、P=0.03)。他方、心臓肥大は減少した。実際、心臓質量の全マウス質量に対する比は、未処置のDeltaMex5マウスと比較してNrf2処置DeltaMex5マウスで有意に減少した(0.51±0.02、n=4対0.63±0.02%、n=8、P=0.005)(
図1)。
【0112】
マウスの心臓で実行した組織学的分析は、HPS染色が処置マウスの傷害組織の明白な減少を明らかにしていることを示す。シリウスレッド染色は、処置マウスの心臓における線維症組織の存在をなお示すが、量はより少ない。シリウスレッドコラーゲン染色による全組織線維症の定量化は、線維症率が未処置のDeltaMex5マウスと比較して処置DeltaMex5マウスの心臓で減少する(8.74±1.85%対18.68±1.74%、P=0.0078、n=4)が、それはC57BL/6マウスの心臓での線維症率よりなお高いこと(2.08±0.17%、P=0.0115、n=4)を確認する(
図2)。
【0113】
AAV9ウイルスベクター及び心臓プロモーターを使用して発明者が開発したDeltaMex5モデルにおけるNrf2遺伝子の過剰発現は、心臓線維症及び肥大した心臓の有意な改善を示した。
【国際調査報告】