(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(54)【発明の名称】拡張型心筋症の処置における使用のためのCILP-1阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230628BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230628BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230628BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230628BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230628BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230628BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230628BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/00
A61K31/7088
A61K35/76
A61K48/00
A61P43/00 111
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575813
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2021065428
(87)【国際公開番号】W WO2021250079
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】アリアネ・ビカン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZC41
(57)【要約】
本開示は、拡張型心筋症の処置、特にCILP-1の阻害剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張型心筋症の処置における使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項2】
CILP-1発現に干渉する核酸である、請求項1に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項3】
前記干渉する核酸分子がshRNAである、請求項2に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項4】
核酸構築物によってコードされる、請求項3に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項5】
前記核酸構築物が配列番号1~4からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項4に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項6】
前記核酸構築物が配列番号1~4の配列を含む、請求項4に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項7】
前記核酸構築物がウイルス粒子にパッケージされる、請求項4から6のいずれか一項に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項8】
前記ウイルス粒子がアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子である、請求項7に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項9】
前記AAV粒子にパッケージされる前記核酸構築物がAAV-2血清型の5'-ITR及び3'-ITR又は選択されるAAV粒子の血清型に対応する5'ITR及び3'ITRを含む、請求項8に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項10】
前記AAVのカプシドタンパク質が:AAV血清型1、6、8、9及びAAV9.rh74からなる群から選択されるAAV血清型に由来する、請求項8又は9に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項11】
前記AAVカプシドタンパク質がAAV-9.rh74血清型に由来する、請求項10に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項12】
前記ウイルス粒子が静脈内投与される、請求項7から11のいずれか一項に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項13】
前記拡張型心筋症が:ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンa/c、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン;デスミン、サルコグリカン、タイチン、ミオシン、RNA結合性モチーフタンパク質20、BCL-2関連アサノジーン3、デスモプラキン、ナトリウムチャネル、心筋アクチン、心筋トロポニン及びタファジンからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる遺伝子誘導心筋症である、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項14】
前記遺伝子誘導拡張型心筋症がタイチン又はジストロフィン遺伝子の突然変異によって引き起こされる、請求項13に記載の使用のためのCILP-1阻害剤。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のためのCILP-1阻害剤及び医薬賦形剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、拡張型心筋症の処置、特にCILP-1の阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋症及び心不全は、管理にもかかわらず、全世界で罹患率及び死亡率の主因の1つのままである。拡張型心筋症(DCM又はCMD)は、心筋の運動低下及び心臓腔の拡張によって特徴付けられる。拡張型心筋症の間に起こる心臓リモデリングは、線維症の存在と関連した心筋細胞への傷害からなり、それらは互いから分離できない。心筋細胞への傷害はそれらの収縮能力の低下及びそれらの構造の変化を伴い、それはアポトーシスと、壊死性心筋細胞を置き換える線維症の増大へと導く。線維芽細胞の増殖は、心筋細胞の代償性の肥大を阻止する。これらの症状は、臨床的に心機能の低下に転換する。この重大な合併症は、死の原因となる可能性がある。
【0003】
原因には特に遺伝学、及び様々な毒性、代謝性又は感染性の因子が含まれる。冠状動脈疾患及び高血圧は一役担い得るが、主因でない。多くの場合、原因は不明なままである。心筋細胞関与の正確な機構は、疾患の病因に依存する。遺伝子誘導拡張型心筋症では、関与する遺伝子の大部分は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン)、細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン)、カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RYR2、ATP2A2、ホスホランバン)、心筋構造組織化に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C)、細胞骨格完全性及び筋力伝播に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン)、並びに筋力の生成及び伝播に関与する筋節タンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む心筋細胞の構造要素をコードする。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ジストロフィン遺伝子の突然変異による筋肉疾患では、拡張型心筋症はおよそ15歳で臨床的に明らかにされ、20歳の後にほとんど全ての患者に影響を及ぼす。ベッカー筋ジストロフィー(BMD)、DMDの対立遺伝子型の場合、心臓傷害は20歳で起こり、患者の70%は35歳の後に影響を受ける。タイチン、サルコメアの巨大タンパク質によるDMCは、心不全の1/250の症例で関係付けられている(Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898)。
【0004】
拡張型心筋症の処置のために現在利用可能な薬物は症状を改善することにはなるが、疾患の原因を処置しない。処方される処置は、衛生学的及び食事性の手段、例えばアルコール消費を低減すること、水及び塩分の摂取量を低減すること、並びに適度の及び規則的な運動を伴う、心不全に対するものである。薬学的処置の中で、アンギオテンシンII変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)は、血管収縮及び血圧を低下させるためにアンギオテンシンIIの産生を阻止する。利尿薬は、腎臓ナトリウム再吸収を阻害することによって、体から過剰な塩分及び水を除去する。β-ブロッカー又はβ-アドレナリン作用性受容体アンタゴニストは、拡張型心筋症の間に刺激されるアドレナリン作用系媒介物の作用をブロックし、心拍数を低下させる。電解質コルチコイド受容体アンタゴニストはアルドステロンの結合をブロックし、血圧を低下させる。律動障害が重度である場合、アミオダロン等の抗不整脈薬が処方される。ペースメーカー及び/又は自動除細動器の植え込みを考慮することもできる。最も重症の症例では、患者は心臓移植が有益である可能性がある(Ponikowski等2016、European Heart Journal、37、2129~2200頁)。
【0005】
したがって、これらのアプローチはDMD及びチチノパシー(titinopathy)の症例における拡張型心筋症の管理にも有効である。これらの病状のための治療的処置は現在存在しない。DMDで頻繁に処方されるコルチコステロイド処置は、炎症の低減のおかげで中期的に筋肉の表現型の改善を可能にするが、心臓表現型へのその作用は論争下にある。ジストロフィン及びタイチンに関連したDMDの管理は、毎年の系統的な心臓検査(心電図及び超音波)を必要とする。特に、アンギオテンシン変換酵素阻害剤であるペリンドプリルは、小児期から予防的処置としてとられるとき、DMD患者で死亡率を低減させることが示された(Duboc, D.等2005。Journal of the American College of Cardiology 45、855~857頁)。
【0006】
DMDにおいて心臓障害の処置で試験されている分子は、主に心不全の処置で既に使用されている分子である。他の療法は、線維症を低減させることによって筋肉及び心臓の傷害を処置することを目指す。これは、結合組織増殖因子に向けられるモノクローナル抗体であるパムレブルマブ(フェーズII治験NCT02606136)及び抗エストロゲンであるタモキシフェン(フェーズI治験NCT02835079及びフェーズIII治験NCT03354039)の場合である。したがって、拡張型心筋症のために新規の治療戦略を開発する医学的必要性がある。
【0007】
CILP-1は関節軟骨の軟骨細胞に主に見出されるマトリックス-細胞タンパク質であるが、その発現は、ヒト特発性拡張型心筋症及び梗塞において有意により高いことが近年見出された(Yung, C.K.等2004。Genomics、83、281~297頁;van Nieuwenhoven等2017。Scientific Reports、7、16042)。
【0008】
正常なマウスの心臓では、CILP-1は心筋細胞及び線維芽細胞によって発現され、タンパク質は細胞質基質、核分画及び細胞外マトリックスに見出される(Zhang, C.-L等2018。Journal of molecular and cellular cardiology 116、135~144頁;van Nieuwenhoven等2017。Scientific Reports、7、16042)。CILP-1タンパク質の発現は、誘導された心臓線維症のマウスモデルで増加し、その発現はTGF-β1によって刺激される(Mori, M.等2006。Biochemical and biophysical research communications、341、121~127頁)。CILP-1は、特にTGF-β1への結合による細胞中のSMADシグナル伝達経路を経たTGF-β活性へのその阻害作用を通して、心臓リモデリングに正の作用を有するように見受けられる(Zhang, C.-L,等2018、Journal of molecular and cellular cardiology、116、135~144頁、van Nieuwenhoven等2017。Scientific Reports、7、16042、Shindo、K.等2017、International Journal of Gerontology、11、67~74頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,566,135号
【特許文献2】米国特許第6,566,131号
【特許文献3】米国特許第6,365,354号
【特許文献4】米国特許第6,410,323号
【特許文献5】米国特許第6,107,091号
【特許文献6】米国特許第6,046,321号
【特許文献7】米国特許第5,981,732号
【特許文献8】米国特許第6,573,099号
【特許文献9】米国特許第6,506,559号
【特許文献10】国際特許出願公開第01/36646号
【特許文献11】国際特許出願公開第99/32619号
【特許文献12】国際特許出願公開第01/68836号
【特許文献13】米国特許第5,173,414号
【特許文献14】米国特許第5,139,941号
【特許文献15】国際特許出願公開第92/01070号
【特許文献16】国際特許出願公開第93/03769号
【特許文献17】国際特許出願公開第2019/193119号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898
【非特許文献2】Ponikowski等2016、European Heart Journal、37、2129~2200頁
【非特許文献3】Duboc, D.等2005。Journal of the American College of Cardiology 45、855~857頁
【非特許文献4】Yung, C.K.等2004。Genomics、83、281~297頁
【非特許文献5】van Nieuwenhoven等2017。Scientific Reports、7、16042
【非特許文献6】Zhang, C.-L等2018。Journal of molecular and cellular cardiology 116、135~144頁
【非特許文献7】Mori, M.等2006。Biochemical and biophysical research communications、341、121~127頁
【非特許文献8】Shindo、K.等2017、International Journal of Gerontology、11、67~74頁
【非特許文献9】Bernstein、Caudy等2001。Nature. 2001年1月18日;409(6818):363~6頁
【非特許文献10】Zamore、Tuschl等Cell. 2000年3月31日;101(1):25~33頁
【非特許文献11】Elbashir、Lendeckel等Genes Dev. 2001年1月15日;15(2): 188~200頁
【非特許文献12】Elbashir、Martinez等EMBO J. 2001年12月3日;20(23):6877~88頁
【非特許文献13】Rees H.A.等Nat Rev Genet. 2018。19(12):770~788頁
【非特許文献14】Berns及びBohenzky、1987、Advances in Virus Research (Academic Press社) 32:243~307頁
【非特許文献15】Muzyczka、N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁
【非特許文献16】Lebkowski等(1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁
【非特許文献17】Vincent等(1990) Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【非特許文献18】Carter、B. J.(1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁
【非特許文献19】Kotin, R. M.(1994) Human Gene Therapy 5:793~801頁
【非特許文献20】Bunning H等J Gene Med、2008; 10: 717~733頁
【非特許文献21】Paulk等Mol ther. 2018; 26(1):289~303頁
【非特許文献22】Wang L等Mol Ther. 2015; 23(12):1877~87頁
【非特許文献23】Vercauteren等Mol Ther. 2016; 24(6):1042~1049頁
【非特許文献24】Zinn E等、Cell Rep. 2015; 12(6):1056~68頁
【非特許文献25】Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18: 1160~1165頁
【非特許文献26】Marques等、Neuromuscul. Disord.、2014、doi.org/10.10106/
【非特許文献27】Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁
【非特許文献28】Zahurul、Circulation、2007、116、1569~1576頁
【非特許文献29】Charton、K.、等2016、Human molecular genetics 25、4518~4532頁
【非特許文献30】Fukada等2010。Am J Pathol 176、2414~2424頁
【非特許文献31】Lowe等、International Journal of Computer Vision、2004、60、91~110頁
【非特許文献32】Otsu N、Cybernetics、1979、9、62~66頁、67~74頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、CILP-1発現が遺伝子誘導拡張型心筋症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DBA2mdxマウス)及びチチノパシー(DeltaMex5マウス)の2つの開発モデルにおいて過剰発現されることを見出した。拡張型心筋症の重症モデルであるDeltaMex5マウスモデルを使用して、及び以前の研究に反して、発明者は、DeltaMex5マウスにおけるCILP-1発現の阻害が心臓線維症の有意な改善及び心臓肥大の減少を示したことを意外にも示した。これらの結果は、CILP-1の阻害が拡張型心筋症、特に遺伝子のサイズのために遺伝子導入アプローチが不可能であるチチノパシー等の遺伝子誘導心筋症のための治療アプローチに相当することを示した。
【0012】
本発明は、拡張型心筋症の処置における使用のためのCILP-1阻害剤に関する。特定の実施形態では、CILP-1阻害剤はCILP-1発現に干渉する核酸、好ましくはshRNAである。前記shRNAは、好ましくは配列番号1~4からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む核酸構築物によってコードされ得る。
【0013】
好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、ウイルス粒子に、より好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子にパッケージされる。特定の実施形態では、AAV粒子にパッケージされる前記核酸構築物は、AAV-2血清型の5'-ITR及び3'-ITRを含む。別の特定の実施形態では、前記AAVのカプシドタンパク質は:AAV血清型1、6、8、9及びAAV9.rh74からなる群から選択されるAAV血清型、好ましくはAAV-9.rh74血清型に由来する。特定の実施形態では、前記ウイルス粒子は静脈内投与される。
【0014】
本発明による拡張型心筋症は、好ましくは:ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンa/c、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン、デスミン、サルコグリカン、タイチン、ミオシン、RNA結合性モチーフタンパク質20、BCL2関連アサノジーン3、デスモプラキン、ナトリウムチャネル、心筋アクチン、心筋トロポニン及びタファジンからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる、好ましくはタイチン又はジストロフィンの突然変異によって引き起こされる遺伝子誘導心筋症である。
【0015】
別の態様では、本発明は、拡張型心筋症の処置における使用のためのCILP-1阻害剤及び医薬賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、それを必要とする対象での拡張型心筋症の処置における使用のためのCILP-1阻害剤に関する。
【0017】
遺伝子軟骨中間層タンパク質(CILP-1)(遺伝子ID:8483)は、2つの異なるタンパク質CILP-1(受託番号:XP_016878168.1又はXP_016878167.1)のためのCILP-1タンパク質前駆体(受託番号:NP_003604.4)、及びNTPPHaseのC末端ホモログをコードする。ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ウサギ又はラットを限定されずに含む、いくつかの異なる哺乳動物CILP-1タンパク質の遺伝子配列が公知であり、配列データベースで容易に見出され得る。
【0018】
「CILP-1阻害剤」は、CILP-1発現及び/又は生物学的活性を特異的に減少させることができる、特にTGFβの阻害をもたらす任意の薬剤を意味する。
【0019】
CILP-1の発現及び/又は活性は、化学物質、遺伝子発現を改変することが公知である化合物、改変されたか未改変のポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチドを含む)、ポリペプチド、ペプチド、小さいRNA分子及び干渉性の核酸分子を限定されずに含む薬剤によって減少させることができる。
【0020】
CILP-1阻害剤は、CILP-1活性の低下を測定することによって、特に前記CILP-1阻害剤で処置される細胞でTGF-βの発現レベルを測定することによって同定することができる。TGFβの発現レベルが無処置細胞より少なくとも1.5分の1低いか、又は2、3、4、5分の1低い場合、CILP-1活性は細胞で減少する。
【0021】
CILP-1阻害剤は、細胞中のCILP-1の発現レベルを測定することによって同定することができる。CILP-1発現レベルは、CILP-1の発現レベルが無処置細胞より少なくとも1.5倍高いか又は2、3、4、5分の1低い場合、前記CILP-1阻害剤で処置される細胞で低下する。CILP-1のmRNA又はタンパク質の発現レベルは、前記のように当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。
【0022】
CILP-1のmRNAの発現レベルは、当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。例えば、試料に含有される核酸は、標準の方法によって、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を使用して先ず抽出されるか、又は製造業者の使用説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出される。抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット分析)及び/又は増幅(例えば、RT-PCR)によって次に検出される。CILP-1のタンパク質の発現レベルも、当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。タンパク質の量は、例えば半定量的ウエスタンブロット、酵素標識及び媒介イムノアッセイ、例えばELISA、ビオチン/アビジンタイプのアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、質量分析若しくは免疫沈降によって、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって測定することができる。
【0023】
干渉性の核酸
特定の実施形態では、前記CILP-1阻害剤は、CILP-1発現を特異的に減少させる干渉性の核酸であってよい。
【0024】
用語「核酸配列」及び「ヌクレオチド配列」は、単量体のヌクレオチドで構成されるか又はそれを含む、任意の分子を指すために互換的に使用することができる。核酸は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドであってよい。ヌクレオチド配列は、DNA又はRNAであってよい。ヌクレオチド配列は化学改変されてもよいか、人工であってもよい。ヌクレオチド配列には、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロック核酸(LNA)、並びにグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が含まれる。これらの配列の各々は、分子の主鎖への変更によって天然に存在するDNA又はRNAから区別される。更に、ホスホロチオエートヌクレオチドを使用することができる。他のデオキシヌクレオチド類似体には、本開示のヌクレオチドで使用することができる、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、ホスホロジチオエート、N3'P5'-ホスホロアミデート及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエート及びそれらの2'-O-アリル類似体及び2'-O-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが含まれる。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「iRNA」、「RNAi」、「干渉性核酸」又は「干渉性RNA」は、標的タンパク質の発現を下方制御することが可能である任意の核酸、好ましくはRNAを意味する。核酸分子干渉は、dsRNAが転写後レベルで標的遺伝子の発現を特異的に抑制する現象を指す。正常な状態では、RNA干渉は、数千の塩基対長の二本鎖RNA分子(dsRNA)によって開始される。in vivoで、細胞に導入されるdsRNAは、siRNAと呼ばれる短いdsRNA分子の混合物に切断される。切断を触媒する酵素Dicerは、RNアーゼIIIドメインを含有するエンドRNアーゼである(Bernstein、Caudy等2001。Nature. 2001年1月18日;409(6818):363~6頁)。哺乳動物細胞では、Dicerによって生成されるsiRNAは長さが21~23bpであり、19又は20ヌクレオチドの二重鎖配列、2ヌクレオチドの3'オーバーハング及び5'-三リン酸末端を有する(Zamore、Tuschl等Cell. 2000年3月31日;101(1):25~33頁; Elbashir、Lendeckel等Genes Dev. 2001年1月15日;15(2): 188~200頁; Elbashir、Martinez等EMBO J. 2001年12月3日;20(23):6877~88頁)。
【0026】
前記干渉性核酸は、非限定例として、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、小さい阻害性RNA(siRNA)又は短いヘアピンRNAであってよい。
【0027】
アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、それに結合することによってCILP-1 mRNAの翻訳を直接的にブロックする作用をし、したがってタンパク質翻訳を阻止するかmRNA分解を増加させ、したがって細胞中のCILP-1のレベルを、したがって活性を減少させる。例えば、少なくとも約15塩基の、及びmRNA転写物配列の特異な領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば従来のホスホジエステル技術によって合成することができ、例えば静脈内注射又は注入によって投与することができる。その配列が公知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術を使用する方法は、当技術分野で周知である(例えば米国特許第6,566,135号;第6,566,131号;第6,365,354号;第6,410,323号;第6,107,091号;第6,046,321号;及び第5,981,732号を参照)。
【0028】
別の実施形態では、小さい阻害性RNA(siRNA)は、本開示でCILP-1発現レベルを低下させるために使用することもできる。CILP-1遺伝子発現は、CILP-1発現が特異的に阻害されるように、小さい二本鎖RNA(dsRNA)、又は小さい二本鎖RNAの生産を引き起こすベクター若しくは構築物を対象に投与することによって低減させることができる(すなわちRNA干渉又はRNAi)。適当なdsRNA又はdsRNAをコードするベクターを選択する方法は、その配列が公知である遺伝子のために当技術分野で周知である(例えばTuschl, T.等(1999); Elbashir, S. M.等(2001); Hannon, GJ.(2002); McManus, MT.等(2002); Brummelkamp, TR.等(2002);米国特許第6,573,099号及び第6,506,559号;及び国際特許出願公開第01/36646号、99/32619号及び01/68836号を参照)。
【0029】
好ましい実施形態では、短いヘアピンRNA(shRNA)を、本開示でCILP-1発現レベルを低下させるために使用することもできる。短いヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉(RNAi)を通して標的遺伝子発現を静止するために使用することができるタイトなヘアピンターンを形成するRNAの配列である。細胞中のshRNAの発現は、プラスミドの送達によって、又はウイルス若しくは細菌ベクターを通して一般的に達成される。プロモーターの選択は、頑強なshRNA発現を達成するために必須である。第1に、U6及びHI等のポリメラーゼIIIプロモーターを使用した;しかし、これらのプロモーターは時空間制御を欠く。このように、shRNAの発現を調節するためにポリメラーゼIIプロモーターの使用へのシフトがあった。
【0030】
干渉性の核酸は、通常翻訳開始コドンの19~50ヌクレオチド下流の領域に対して設計されるが、5'UTR(非翻訳領域)及び3'UTRは通常回避される。選択された干渉性核酸の標的配列は、所望の遺伝子だけを標的にすることを確実にするために、ESTデータベースに対するBLAST検索にかけるべきである。干渉性核酸の調製及び使用を助けるために、様々な製品が市販されている。
【0031】
特定の実施形態では、干渉性核酸は、長さが少なくとも約10~40ヌクレオチド、好ましくは約15~30塩基ヌクレオチドのsiRNAである。特に、本開示による干渉性核酸は、以下:
- 5'-GCATGTGCCAGGACTTCATGC-3'(配列番号1)
- 5'-GGTTCCGAGTTCCTGGCTTGT-3'(配列番号2)
- 5'-GCCTGAAGTCAGCTACCATCA-3'(配列番号3)
- 5'-GCTGGATCCCTCCCTCTATAA-3'(配列番号4)
からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。
【0032】
より好ましい実施形態では、各々配列番号1~4の配列を含む最高4つの干渉性核酸が同時に使用される。
【0033】
好ましい実施形態では、前記干渉性核酸は、配列番号1~4からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、好ましくは配列番号1~4の全ての配列を含むshRNAである。
【0034】
本開示で使用するための干渉性核酸は、当技術分野で公知である手順を使用して化学的合成及び酵素的ライゲーション反応を使用して構築され得る。特に、干渉性RNAは化学的に合成され得、線状(例えばPCR生成物)若しくは環状鋳型(例えば、ウイルス又は非ウイルスベクター)からin vitro転写によって生成され得、又はウイルス若しくは非ウイルスベクターからin vivo転写によって生成され得る。干渉性核酸は、強化された安定性、ヌクレアーゼ抵抗性、標的特異性及び向上した薬理学的特性を有するように改変され得る。例えば、アンチセンス核酸は、アンチセンスとセンス核酸の間で形成される二重鎖の物理的安定性を増加させるように設計されている改変されたヌクレオチド又は/及び主鎖を含み得る。
【0035】
小分子
別の特定の実施形態では、CILP-1阻害剤は、CILP-1の発現、活性又は機能を阻害する小分子であってよい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「CILP-1の活性、発現又は機能を阻害する小分子」という用語は、CILP-1タンパク質の活性、発現又は機能を阻害又は低減する能力を有する、通常1000ダルトン未満の有機又は無機の化合物であってもよい小分子を指す。この小さい分子は、任意の既知の生物体(動物、植物、細菌、真菌類及びウイルスを含むがこれに限らず)から、又は、合成分子のライブラリーに由来し得る。
【0037】
CILP-1の活性、発現又は機能を阻害する小分子は、前記のようにTGF-βの発現レベルを測定することによって、又はCILP-1の発現レベルを測定することによって同定することができる。
【0038】
ヌクレアーゼ
別の特定の実施形態では、CILP-1阻害剤は、CILP-1遺伝子を標的にして不活性化することが可能な特異的ヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼ、TAL-ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又はCas9/CRISPR又はArgonauteのようなRNA/DNAガイドエンドヌクレアーゼ等の、異なる種類のヌクレアーゼを使用することができる。
【0039】
「標的遺伝子を不活性化する」とは、目的の遺伝子が機能的タンパク質の形で発現されないか又はより少なく発現されることを意図している。特定の実施形態では、前記ヌクレアーゼは1つの標的化遺伝子の切断を特異的に触媒し、それによって前記標的化遺伝子を不活性化する。
【0040】
用語「ヌクレアーゼ」は、DNA又はRNA分子、好ましくはDNA分子の中の核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒することが可能である野生型又はバリアント酵素を指す。特定の実施形態では、本開示による前記ヌクレアーゼは、Cas9/CRISPR複合体等のRNAガイドエンドヌクレアーゼである。RNAガイドエンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼがRNA分子と結合するゲノム操作ツールである。この系では、RNA分子ヌクレオチド配列が標的特異性を決定してエンドヌクレアーゼを活性化する(Gasiunas、Barrangou等2012; Jinek、Chylinski等2012; Cong、Ran等2013; Mali、Yang等2013)。Cas9/CRISPRはCas9ヌクレアーゼ及びここで単一のガイドRNAとも呼ばれるガイドRNAを含む。前記単一のガイドRNAは、好ましくはCILP-1遺伝子を標的にすることができる。
【0041】
前記標的遺伝子の不活性化は、例えば早発性終止コドンを導入するか、開始コドンを欠失させるか、又はRNAスプライシングを変更することによって、部位特異的塩基エディターを使用して実行することもできる。塩基編集は、DNA二本鎖切断をもたらすことなくDNAで正確な点突然変異を直接的に起こさせる。特定の実施形態では、塩基編集は、触媒的に障害のあるCasヌクレアーゼと一本鎖DNAの上で作動する塩基修飾酵素の間の融合を含む、DNA塩基エディターを使用して実行される(レビューのために、Rees H.A.等Nat Rev Genet. 2018。19(12):770~788頁を参照)
【0042】
核酸構築物
好ましい実施形態において、前記ヌクレアーゼ、ガイドRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、小さい阻害性RNA(siRNA)又は短いヘアピンRNAは、それらをコードする核酸構築物に含まれる。
【0043】
本明細書で使用される用語「核酸構築物」は、組換えDNA技術の使用からもたらされる人工核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖又は二本鎖の核酸分子であり、さもなければ天然に存在しないであろう方法で組み合わされ、並置される、核酸配列のセグメントを含有するように改変されている。核酸構築物は、通常「ベクター」、すなわち外因的に作製されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0044】
好ましくは、核酸構築物は、心臓細胞での発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結される前記ヌクレアーゼ、ガイドRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、小さい阻害性RNA(siRNA)又は短いヘアピンRNAを含む。
【0045】
好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、配列番号1~4の配列から選択される少なくとも1つの配列を含む、CILP-1遺伝子発現を抑圧することができる干渉性核酸を含む。より好ましくは、前記核酸構築物は、配列番号1~4の配列の4つの干渉性核酸を含む。
【0046】
発現ベクター
前記の核酸構築物は、発現ベクターに含有されてもよい。ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、その複製は染色体複製から独立している染色体外の実体、例えば、プラスミド、染色体外のエレメント、ミニクロモゾーム又は人工染色体として存在するベクターであってよい。ベクターは、自己複製を担保するための任意の手段を含有することができる。或いは、ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、ゲノムに組み入れられて、それが組み入れられた染色体と一緒に複製されるものであってよい。
【0047】
適当なベクターの例には、組換えで組み入れるか組み入れないウイルスベクター、及び組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAに由来するベクターが限定されずに含まれる。好ましくは、ベクターは、組換えで組み入れるか組み入れないウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例には、限定されずに、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス又はウシ乳頭腫ウイルスに由来するベクターが含まれる。
【0048】
AAVは、ヒト遺伝子療法のための可能性のあるベクターとしてかなりの関心を引き起こした。ウイルスの良好な特性には、任意のヒト疾患との関連のその欠如、分裂及び非分裂細胞を感染させるその能力、並びに感染させることができる異なる組織に由来する多様な細胞系がある。
【0049】
AAVゲノムは、4681塩基を含有する、線状の一本鎖DNA分子で構成される(Berns及びBohenzky、1987、Advances in Virus Research (Academic Press社) 32:243~307頁)。ゲノムは各末端に逆方向末端反復(ITR)を含み、それは、ウイルスのためのDNA複製の起点として、及びパッケージングシグナルとしてシスで機能する。ITRは、概ね145bpの長さである。ゲノム内部の非反復部分は、2つの大きなオープンリーディングフレームを含み、それぞれAAV rep及びcap遺伝子として公知である。これらの遺伝子は、ビリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。特に、それらの見かけの分子量によりRep78、Rep68、Rep52及びRep40と呼ばれる少なくとも4つのウイルスタンパク質がAAV rep遺伝子から合成される。AAV cap遺伝子は、少なくとも3つのタンパク質、VP1、VP2及びVP3をコードする。AAVゲノムの詳細な記載のために、例えば、Muzyczka、N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁を参照。
【0050】
したがって、一実施形態では、上記の導入遺伝子を含む核酸構築物又は発現ベクターは、5'ITR及び3'ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5'ITR及び3'ITR配列を更に含む。
【0051】
本明細書で使用される用語「逆方向末端反復(ITR)」は、パリンドローム配列を含有し、折りたたまれてDNA複製の開始の間にプライマーとして機能するT字状のヘアピン構造を形成することができる、ウイルスの5'末端に位置するヌクレオチド配列(5'ITR)及び3'末端に位置するヌクレオチド配列(3'ITR)を指す。それらは、宿主ゲノムへのウイルスゲノムの組入れのため;宿主ゲノムからのレスキューのため;及び成熟したビリオンへのウイルス核酸のカプシド封入のためにも必要とされる。ITRは、ベクターゲノムの複製及びウイルス粒子へのそのパッケージングのためにシスで必要とされる。
【0052】
本開示のウイルスベクターで使用するためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有することができるか、又は挿入、欠失若しくは置換によって変更することができる。AAVの逆方向末端反復(ITR)の血清型は、任意の公知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。具体的な実施形態では、核酸構築物又はウイルスの発現ベクターは、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び現在公知であるか後に発見される任意の他のAAV血清型又は工学操作AAVを含む任意のAAV血清型のITRを使用して達成することができる。
【0053】
一実施形態では、核酸構築物は、対応するカプシドの5'ITR及び3'ITR、又は好ましくは血清型AAV-2の5'ITR及び3'ITRを更に含む。
【0054】
他方、本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、合成5'ITR及び/又は3'ITRを使用して;並びに異なる血清型のウイルス由来の5'ITR及び3'ITRを使用しても達成することができる。ウイルスベクター複製のために必要とされる全ての他のウイルス遺伝子は、下記のように、ウイルス産生細胞(パッケージング細胞)の中でトランスで提供することができる。したがって、ウイルスベクターへのそれらの組入れは任意選択である。
【0055】
一実施形態では、本開示の核酸構築物又はウイルスベクターは、ウイルスの5'ITR、ψパッケージングシグナル及び3'ITRを含む。「ψパッケージングシグナル」は、ウイルスゲノムのシス作用性ヌクレオチド配列であり、それは、一部のウイルス(例えばアデノウイルス、レンチウイルス…)では、複製の間にウイルスカプシドにウイルスゲノムをパッケージするプロセスのために必須である。
【0056】
組換えAAVウイルス粒子の構築は当技術分野で一般的に公知であり、例えば、米国特許第5,173,414号及び第5,139,941号; 国際特許出願公開第92/01070号、国際特許出願公開第93/03769号、Lebkowski等(1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁; Vincent等(1990) Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter、B. J.(1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁; Muzyczka、N.(1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁;及びKotin, R. M.(1994) Human Gene Therapy 5:793~801頁に記載されている。
【0057】
ウイルス粒子
好ましい実施形態では、本開示は、前記の核酸構築物又は発現ベクターを含むウイルス粒子に関する。
【0058】
本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージして「ウイルスベクター粒子」とも呼ばれる「ウイルス粒子」を生成することができる。特定の実施形態では、前記の核酸構築物又は発現ベクターは、AAV由来のカプシドにパッケージされて「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を生成する。本開示は、本開示の核酸構築物又は発現ベクターを含み、好ましくはアデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を含むウイルス粒子に関する。
【0059】
用語AAVベクター粒子は、遺伝子操作された任意の組換えAAVベクター粒子又は突然変異体AAVベクター粒子を包含する。組換えAAV粒子は、特定のAAV血清型に由来するITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターを、同じか異なる血清型のAAVに対応する天然又は突然変異体Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子上でカプシドに封入することによって調製することができる。
【0060】
アデノ随伴ウイルスのウイルスカプシドのタンパク質には、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3が含まれる。様々なAAV血清型のカプシドタンパク質配列の間の差は、細胞侵入のために異なる細胞表面受容体の使用をもたらす。代わりの細胞内プロセシング経路と一緒に、これは各AAV血清型のために異なる組織向性を発生させる。
【0061】
天然に存在するAAVウイルス粒子の構造的及び機能的特性を改変及び向上させるために、いくつかの技術が開発されている(Bunning H等J Gene Med、2008; 10: 717~733頁; Paulk等Mol ther. 2018; 26(1):289~303頁; Wang L等Mol Ther. 2015; 23(12):1877~87頁; Vercauteren等Mol Ther. 2016; 24(6):1042~1049頁; Zinn E等、Cell Rep. 2015; 12(6):1056~68頁)。
【0062】
したがって、本開示によるAAVウイルス粒子では、所与のAAV血清型のITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターは、例えば: a)同じか異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質で構成されるウイルス粒子; b)異なるAAV血清型又は突然変異体からのカプシドタンパク質の混合物で構成されるモザイクウイルス粒子; c)異なるAAV血清型又はバリアントの間のドメインスワッピングによってトランケーションされたカプシドタンパク質で構成されるキメラウイルス粒子にパッケージすることができる。
【0063】
本開示による使用のためのAAVウイルス粒子は、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV2i8、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3B及びAAV9.rh74を含む任意のAAV血清型からのカプシドタンパク質を含むことができることを当業者は理解する(国際特許出願公開第2019/193119号に開示されるように)。
【0064】
ヒト心臓細胞への遺伝子導入のために、AAV血清型1、6、8、9及びAAV9.rh74が好ましい。AAV血清型9及びAAV9.rh74が心筋の細胞/心筋細胞での発現の誘導のために特に適している。具体的な実施形態では、AAVウイルス粒子は本開示の核酸構築物又は発現ベクター、好ましくはAAV9又はAAV9.rh74血清型からのカプシドタンパク質を含む。
【0065】
医薬組成物
本開示によるCILP-1阻害剤、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子は、好ましくは、治療有効量のCILP-1阻害剤、核酸構築物、発現ベクター又は本開示によるウイルス粒子を含む医薬組成物の形で使用される。
【0066】
本開示との関連で、治療有効量は、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を覆すか、緩和するか若しくは阻害するのに、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を覆すか、緩和するか、阻害するのに十分な用量を指す。
【0067】
用語「有効用量」又は「有効薬量」は、所望の効果を達成するか又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と規定される。
【0068】
有効用量は、使用する組成物、投与経路、考慮する個体の身体的特性、例えば性別、年齢及び体重、併用医薬品等の因子、並びに医療当事者が認識する他の因子によって決定され、調整される。
【0069】
本開示の様々な実施形態では、医薬組成物は薬学的に許容される担体及び/又はビヒクルを含む。
【0070】
「薬学的に許容される担体」は、哺乳動物、特に適当な場合ヒトに投与されるとき、有害であるか、アレルギー性であるか、他の不都合な反応も起こさないビヒクルを指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤は、任意のタイプの無毒の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材又は製剤助剤を指す。
【0071】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のために薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらは、特に等張性、無菌の塩類溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は、場合によって滅菌水又は生理的食塩水の添加により注射用溶液の構成を可能にする乾燥した、特にフリーズドライ組成物であってよい。
【0072】
注射用の好適な医薬形態には、無菌の水性溶液又は懸濁液が含まれる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターに適合し、標的細胞へのウイルスベクター粒子の侵入を阻止しない添加物を含むことができる。全ての場合に、形態は無菌でなければならず、かつ容易なシリンジ性能が存在するという程度まで流体でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌類等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。適当な溶液の例は、緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル液である。
【0073】
拡張型心筋症の処置
本開示によるCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子は、任意の拡張型心筋症(DCM)の処置のために使用される。
【0074】
拡張型心筋症(CMD)は、心臓拡張及び低下した収縮期機能によって特徴付けられる。CMDは心筋症の最も頻繁な型であり、1歳から10歳の患者で実施される全ての心臓移植の半数以上を占める。DCMの原因には、特に遺伝子、及び様々な毒性、代謝性又は感染性の因子が含まれる。毒性又は代謝性の因子には、特にアルコール及びコカイン乱用並びに化学療法剤、例えばドキソルビシン及びコバルト;甲状腺疾患;サルコイドーシス及び結合組織疾患等の炎症性疾患;心頻拍誘発心筋症;自己免疫性機構;妊娠合併症;並びにチアミン欠乏症が含まれる。感染性因子には、特にトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)によるシャガス病、並びに例えばコクサッキーBウイルス及び他のエンテロウイルスによる急性ウイルス心筋炎の後遺症が含まれる。遺伝性のパターンが、症例の20~30%に存在する。大部分の家族性DCM家系は、通常は人生の10代又は20代に現れる遺伝の常染色体優性パターンを示す(Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18: 1160~1165頁に要約される)。
【0075】
遺伝子誘発拡張型心筋症では、関与する大部分の遺伝子は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン);細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン);カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RyR2、SERCA2a、ホスホランバン);心筋構造組織に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C);細胞骨格完全性及び筋力伝達に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン);並びに筋力の発生及び伝達に関与するサルコメアタンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む、心筋細胞の構造エレメントをコードする。
【0076】
多くの遺伝子の突然変異は、異なる形の拡張型心筋症(CMD)を引き起こすことが見出された。これらには、特に以下のものが含まれる:
- CMD1A、染色体1q22の上のラミンA/C遺伝子(LMNA)でのヘテロ接合突然変異(OMIM #150330);又は、ラミニンアルファ2(LAMA2又はMEROSIN)遺伝子でのヘテロ接合突然変異(OMIM #156225; Marques等、Neuromuscul. Disord.、2014、doi.org/10.10106/)によって引き起こされる拡張型心筋症-1A(OMIM #115200);
- 9q13の上のCMD1B(OMIM #600884); FDC遺伝子座と呼ばれる遺伝子は、D9S153とD9S152の間の区間に置かれた。拡張型心筋症と頻繁に関連しているフリートライヒ運動失調(OMIM #229300)は、心臓でカルシウムチャネルイオンコンダクタンスを調節するcAMP依存性プロテインキナーゼ(OMIM #176893)もそうするのと同じ領域へマッピングされる。9q22へマッピングされるTropomodulin(OMIM #190930)は、特に魅力的な候補遺伝子であった。
- 10q23の上のlimドメイン結合性3、LDB3(又は、ZASP)遺伝子(OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされる、左心室非圧縮の有る無しのCMD1C(OMIM #601493);
- 1q32の上のトロポニンT2、心臓(TNNT2)遺伝子(OMIM #191045)での突然変異によって引き起こされるCMD1D(OMIM #601494);
- 3p22の上のSCN5A遺伝子(OMIM #600163)での突然変異によって引き起こされるCMD1E(OMIM #601154);
- CMD1F:記号CMD1Fは、後にデスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)と同じであることが見出された障害のために以前使用された;
- 2q31の上のタイチン(TTN)遺伝子(OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるCMD1G(OMIM #604145);
- 2q14-q22の上のCMD1H(OMIM #604288);
- 2q35の上のデスミン(DES)遺伝子(OMIM #125660)での突然変異によって引き起こされるCMD1I(OMIM #604765);
- 6q23の上のEYA4遺伝子(OMIM #603550)での突然変異によって引き起こされるCMD1J(OMIM #605362);
- 6q12-q16の上のCMD1K(OMIM #605582);
- 5q33の上のサルコグリカンデルタ(SGCD)遺伝子(OMIM #601411)での突然変異によって引き起こされるCMD1L(OMIM #606685);
- 11p15の上のCSRP3遺伝子(OMIM #600824)での突然変異によって引き起こされるCMD1M(OMIM #607482);
- タイチン-CAP(テレソニン又はTCAP)遺伝子(OMIM #604488)での突然変異によって引き起こされるCMD1N;(OMIM #607487)。
- 12p12の上のABCC9遺伝子(OMIM #601439)での突然変異によって引き起こされるCMD1O(OMIM #608569);
- 6q22の上のホスホランバン(PLN)遺伝子(OMIM #172405)での突然変異によって引き起こされるCMD1P(OMIM #609909);
- 7q22.3-q31.1の上のCMD1Q(OMIM #609915);
- 15q14の上のアクチンアルファ、心筋(ACTC1)遺伝子(OMIM #102540)での突然変異によって引き起こされるCMD1R(OMIM #613424);
- 14q12の上のミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)遺伝子(OMIM #160760)での突然変異によって引き起こされるCMD1S(OMIM #613426);
- 14q24の上のPSEN1遺伝子(OMIM #104311)での突然変異によって引き起こされるCMD1U(OMIM #613694);
- 1q42の上のPSEN2遺伝子(OMIM #600759)での突然変異によって引き起こされるCMD1V(OMIM #613697);
- 10q22の上のメタビンキュリンをコードする遺伝子(VCL; OMIM #193065)での突然変異によって引き起こされるCMD1W(OMIM #611407);
- 9q31の上のフクチンをコードする遺伝子(FKTN; OMIM #607440)での突然変異によって引き起こされるCMD1X(OMIM #611615);
- 15q22の上のTPM1遺伝子(OMIM #191010)での突然変異によって引き起こされるCMD1Y(OMIM #611878);
- 3p21の上のトロポニンC(TNNC1)遺伝子(OMIM #191040)での突然変異によって引き起こされるCMD1Z(OMIM #611879);
- 1q43の上のアクチニンアルファ-2(ACTN2)遺伝子(OMIM #102573)での突然変異によって引き起こされるCMD1AA(OMIM #612158);
- 18q12の上のDSG2遺伝子(OMIM #125671)での突然変異によって引き起こされるCMD1BB(OMIM #612877);
- 1p31の上のNEXN遺伝子(OMIM #613121)での突然変異によって引き起こされるCMD1CC(OMIM #613122);
- 10q25の上のRNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20)遺伝子(OMIM #613171)での突然変異によって引き起こされるCMD1DD(OMIM #613172);
- 14q12の上のミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6)遺伝子(OMIM #160710)での突然変異によって引き起こされるCMD1EE(OMIM #613252);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子(OMIM #191044)での突然変異によって引き起こされるCMD1FF(OMIM #613286);
- 5p15の上のSDHA遺伝子(OMIM #600857)での突然変異によって引き起こされるCMD1GG(OMIM #613642);
- 10q26の上のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるCMD1HH(OMIM #613881);
- 6q21の上のCRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるCMD1II(OMIM #615184);
- 6q21の上のラミニンアルファ4(LAMA4)遺伝子(OMIM #600133)での突然変異によって引き起こされるCMD1JJ(OMIM #615235);
- 10q21の上のMYPN遺伝子(OMIM #608517)での突然変異によって引き起こされるCMD1KK(OMIM #615248);
- 1p36の上のPRDM16遺伝子(OMIM #605557)での突然変異によって引き起こされるCMD1LL(OMIM #615373);
- 11p11の上のMYBPC3遺伝子(OMIM #600958)での突然変異によって引き起こされるCMD1MM(OMIM #615396);
- 3p25の上のRAF1遺伝子(OMIM #164760)での突然変異によって引き起こされるCMD1NN(OMIM #615916);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子での突然変異によって引き起こされるCMD2A(OMIM #611880);
- 7q21の上のGATAD1遺伝子(OMIM #614518)での突然変異によって引き起こされるCMD2B(OMIM # 614672);
- 1p34の上のPPCS遺伝子(OMIM #609853)での突然変異によって引き起こされるCMD2C(OMIM #618189);
- CMD3A、前に命名されたX連鎖型は、バース症候群(OMIM #302060)と同じであることが見出された;及び
- CMD3B(OMIM # 302045)、ジストロフィン遺伝子(DMD、OMIM #300377)での突然変異によって引き起こされる、CMDのX連鎖型。
【0077】
デスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)は、一群の形態学的に均一であるが遺伝子的に不均一な慢性神経筋障害を指す曖昧な用語である。MFMにおける骨格筋の形態学的変化は、サルコメアZ板及び筋原線維の崩壊と、その後のZ板の構造に関与する、デスミン、アルファ-B-クリスタリン(CRYAB; OMIM #123590)、ジストロフィン(OMIM #300377)及びミオチリン(TTID; OMIM #604103)を含む複数のタンパク質の異常な異所性蓄積から生じる。筋原線維ミオパシー-1(MFM1)は、染色体2q35の上のデスミン遺伝子(DES; OMIM #125660)における、ヘテロ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合突然変異によって引き起こされる。MFMの他の形には、CRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるMFM2(OMIM #608810);MYOT遺伝子(OMIM #604103)での突然変異によって引き起こされるMFM3(OMIM #609200)(OMIM #182920);ZASP遺伝子(LDB3; OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされるMFM4(OMIM #609452);FLNC遺伝子(OMIM #102565)での突然変異によって引き起こされるMFM5(OMIM # 609524);BAG3遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるMFM6(OMIM #612954); KY遺伝子(OMIM #605739)での突然変異によって引き起こされるMFM7(OMIM #617114);PYROXD1遺伝子(OMIM #617220)での突然変異によって引き起こされるMFM8(OMIM #617258);及びTTN遺伝子(タイチン; OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるMFM9(OMIM #603689)が含まれる。
【0078】
他の遺伝子の突然変異も、異なる形の拡張型心筋症を引き起こすことが見出された。これらには、以下のものが含まれる:
- 催不整脈性右心室形成異常11(OMIM #610476)及び拡張型心筋症の原因であるデスモコリン2(DSC2、OMIM #125645)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常12(OMIM #611528)及び拡張型心筋症の原因である接合部プラコグロビン(JUP又はプラコグロビン; OMIM #173325)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常2(OMIM #600996)及び心室頻脈、カテコールアミン作動性多形性1(OMIM #604772)及び拡張型心筋症の原因であるリアノジン受容体2(RYR2; OMIM #180902)(Zahurul、Circulation、2007、116、1569~1576頁);
- ATPアーゼ、Ca(2+)輸送徐収縮(ATP2A2; ATP2B、筋小胞体Ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);及び
- エメリン(EMD);フクチン関連タンパク質(FKRP); タファジン(TAZ);デスモプラキン(DSP);並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル。
【0079】
一部の実施形態では、拡張型心筋症は後天性の拡張型心筋症であり;例えば、本開示による毒性、代謝性又は感染性の因子によって引き起こされる。拡張型心筋症の原因は未知であってもよい(特発性の拡張型心筋症)。
【0080】
一部の好ましい実施形態では、拡張型心筋症は遺伝的拡張型心筋症であり;好ましくは以下のものからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる:ラミニン、特にラミニンアルファ2(LAMA2)及びラミニンアルファ4(LAMA4);エメリン(EMD);フクチン(FKTN);フクチン関連タンパク質(FKRP);デスモコリン、特にデスモコリン2(DSC2);プラコグロビン(JUP);リアノジン受容体2(RYR2);筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);ホスホランバン(PLN);ラミンA/C(LMNA);ジストロフィン(DMD);タイチン-CAP又はテレソニン(TCAP);アクチニン、特にアクチニンアルファ-2(ACTN2);デスミン(DES);アクチン、特に心筋アクチン、アクチンアルファ、心筋(ACTC1);サルコグリカン、特にサルコグリカンデルタ(SGCD);タイチン(TTN);トロポニン、特に心筋トロポニン、トロポニンT2、心臓(TNNT2);トロポニンC(TNNC1)及びトロポニンI、心臓(TNNI3);ミオシン、特にミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)及びミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6);RNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20); BCL2関連アサノジーン3(BAG3);デスモプラキン(DSP);タファジン(TAZ)並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル、好ましくはジストロフィン(DMD)又はタイチン(TTN)。
【0081】
本開示は本開示による拡張型心筋症を処置する方法であって、治療有効量のCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は前記のような医薬組成物を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0082】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、上記のCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は医薬組成物の使用も提供する。
【0083】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための医薬の製造における、上記のCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子又は医薬組成物の使用も提供する。
【0084】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、上記のCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子を含む医薬組成物も提供する。
【0085】
本開示は、本開示による拡張型心筋症の処置のための、上記のCILP-1阻害剤、核酸構築物又はウイルス粒子を活性成分として含む医薬組成物も提供する。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「患者」又は「個体」は哺乳動物を指す。好ましくは、本開示による患者又は個体はヒトである。
【0087】
本開示との関連で、本明細書で使用される用語「処置する」又は「処置」は、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を覆すか、緩和するか阻害すること、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を覆すか、緩和するか、阻害することを意味する。
【0088】
本開示の医薬組成物は、一般に、患者の治療効果を誘導するのに有効な公知の手順、投薬量及び期間に従って投与される。
【0089】
投与は、全身性、局所、又は局所と組み合わせた全身性であってよい。全身性投与は、好ましくは非経口、例えば皮下(SC)、筋肉内(IM)、静脈内(IV)若しくは動脈内等の血管内;腹腔内(IP);皮内(ID)、又はその他である。局所投与は、好ましくは脳内、脳室内、大槽内及び/又はクモ膜下投与である。投与は、例えば注射又は潅流によることができる。一部の好ましい実施形態では、投与は非経口であり、好ましくは静脈内(IV)又は動脈内等の血管内である。一部の他の好ましい実施形態では、投与は、単独の又は非経口投与、好ましくは血管内投与と組み合わせた、脳内、脳室内、大槽内及び/又はクモ膜下投与である。一部の他の好ましい実施形態では、投与は、単独の又は脳内、脳室内、大槽内及び/又はクモ膜下投与と組み合わせた非経口、好ましくは血管内である。本開示の実施では、別途指示がない限り、当分野の技術の範囲内である従来の技術を用いる。そのような技術は、文献で詳細に説明されている。
【0090】
本発明は、限定するものでない以下の実施例により、添付の図面を参照してこれから例示されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】shRNA 4in1 mCILP-GFPプラスミドのマップである。
【
図2】RNAseqのCLP-1遺伝子のqPCR分析を示す図である。群ごとにn=4。スチューデント検定。
【
図3】導入遺伝子の発現を示す図である。ベクターAAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPを注射したか注射しなかったDeltaMex5マウスにおけるGFP導入遺伝子の相対的なRT-qPCR存在度。n=4。スチューデントの検定。
【
図4】形態学的分析を示す図である。A)マウスの総質量。B)心肥大の測定:心臓質量/マウス総質量(%)。
【
図5】DeltaMex5マウスにおけるAAV9-shCILPの注射の後の及びPBSを注射した対照の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。A)心臓のHPS染色。B)心臓のシリウスレッド染色。スケール、500μm。
【
図6】C57BL/6マウス、DeltaMex5マウス及びshCILPベクターを注射したDeltaMex5マウスの間の、超音波で測定した1つのDCMマーカー(左心室質量)の比較を示す図である。スチューデント検定。
【
図7】心臓障害の異なるRNAマーカーのRT-qPCR測定を示す図である。測定は、C57BL/6マウスに対する比で表した。スチューデントの検定。
【
図8】心臓線維症の様々なRNAマーカーのRT-qPCR測定を示す図である。測定は、C57BL/6マウスに対する比で表した。スチューデントの検定。
【実施例】
【0092】
1. 材料及び方法
1.1 マウスモデル
この試験で使用したマウスは、雄のタイチンMex5-/Mex5-(DeltaMex5)及びDBA/2J-mdx(DBA2mdx)系統、並びにそれらのそれぞれの対照系統C57BL/6及びDBA/2であった。DeltaMex5マウスは、タイチンの最後から2番目のエクソンがCRISPR-Cas9技術(Charton、K.、等2016、Human molecular genetics 25、4518~4532頁)によって欠失したマウスである。DBA2mdxマウスは、ジストロフィン遺伝子の第23エクソンの上の点突然変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルである。DBA2mdxマウスは、LTBP4遺伝子、TGFシグナル伝達経路-βの活性を調節するタンパク質、の上の突然変異を有するDBA/Jバックグラウンドの上にある(Fukada等2010。Am J Pathol 176、2414~2424頁)。全てのマウスは、人間による実験動物のケア及び使用のための欧州指令に従って扱われ、動物実験は、プロジェクト認可申請2015-003-A及び2018-024-Bの番号の下でEvryのEthics Committee for Animal Experimentation C2AE-51に承認された。
【0093】
1.2 筋肉のサンプリング及び冷凍
目的の筋肉を収集し、計量して、アラビアゴムでコーティングした一片のコルクの上に横又は縦方向に置いた後、液体窒素中(分子生物学分析のための試料)又は冷却したイソペンタン中(組織学のための試料)に冷凍する。タイロード中の希釈したブタンジオン溶液(5mM)で冷凍する前に、心臓を拡張期で冷凍する。試料は、その後使用まで-80℃で保存する。全心臓のシリウスレッド線維症観察プロトコールのために、心臓全体をパラフィンに包埋し、室温で保存する。トランスパレンシープロトコールのために、採取した心臓の全体を4%パラホルムアルデヒドに保存し、+4℃に保つ。
【0094】
1.3 ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン染色
ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン(HPS)マーキングは、筋肉の全般的外観を観察して、異なる組織及び細胞構造を強調することを可能にする。ヘマトキシリンは核酸を濃青色に着色し、フロキシンは細胞質をピンク色に、サフランはコラーゲンを赤色~オレンジ色に着色する。断面を、ハリスヘマトキシリン(Sigma社)で5分間染色する。水で2分間洗浄した後、過剰な染色剤を除去するために、スライドを0.2%(v/v)塩酸アルコール溶液に10秒間浸漬する。水で1分間再び洗浄した後に、組織をスコット水浴(0.5g/lの重炭酸ナトリウム及び20g/lの硫酸マグネシウム溶液)の中で1分間青色に染め、その後、水で1分間再びすすぎ、フロキシン1%(w/v)(Sigma社)で30秒間染色する。水で1分30秒間すすいだ後、切片を70°エタノールで1分間脱水し、次に無水エタノールで30秒間すすぐ。組織は、次にサフラン1%(無水エタノール中のv/v)で3分間染色し、無水エタノールですすぐ。最後に、切片をキシレン浴中で2分間薄くし、その後Eukitt培地でスライドとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動ステージに連結したZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10で実行される。
【0095】
HPS着色切片から、中心核生成線維の数の切片のmm2面積に対する比によって中心核生成指数を計算する。
【0096】
1.4 シリウスレッド着色
シリウスレッド染色は、コラーゲン繊維を赤色に着色し、線維症組織の存在を強調することを可能にする。細胞質は、黄色に染色される。断面を冷凍切片のためにアセトンで1時間脱水するか、又は熱及びトルエン浴でワックスを除去する。それらは、次に4%ホルムアルデヒドで5分間、次にBouin溶液中で10分間固定される。水による2回の洗浄の後、染色のためにスライドをシリウスレッド溶液(100mLピクリン酸溶液あたり0.1gのシリウスレッド)に1時間浸漬する。水で1分30秒間すすいだ後に、スライスを連続したエタノール浴中で脱水する: 70°エタノールで1分間、95°エタノールで1分間、無水エタノールで1分間、次に第2の無水エタノール浴で2分間。最後に、スライスを2回のキシレン浴で1分間薄くし、次にEukitt培地でラメラとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動ステージが連結されたZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10xで実行される。偏光画像は、改変光学LEICA顕微鏡を使用して取得される。
【0097】
1.5 シリウスレッドの定量化
Sirius Quant
Sirius Quantは、内部で開発されたImageJプラグイン(Schneider等、2012)である。それは、赤色に着色した画像のピクセルを単離し、定量化することを可能にする閾値化マクロである。それは、3ステップで作業する:第1のものは、画像を白黒に変換することである。レッドシリウス着色からもたらされる画像は非常に対照的であり、そのため、単純な白黒変換は全ての有益な情報を保つのに十分である。第2のものは、画像の着色したピクセルだけ、換言すると切片全体に属するピクセルを保つために、非常に粗い閾値化である。Analyze Particles機能を適合させたオブジェクトサイズと一緒に使用することは、スライスのアウトライン自動検出を可能にし、それは次に保存される。第3のステップは、赤色に着色したピクセルだけ、マーキングと関連しているものを保つことを可能にする、ユーザーによる手動の閾値化である。手動の修正ツールは、検出されたであろう領域、及びマークのない領域(ダスト、カットフォールド等)を除去すること、又は考慮されなかったであろう領域を加えることを可能にする。閾値化された画像が満足であるならば、閾値化されたピクセルの数及び全切片中のピクセルの総数を次に測定する。これらの2つの数の間の比は、スライスにおける線維症指数を最後に与える。
【0098】
WEKA
画像は、WEKAプラグイン(ImageJ社)により人工知能アルゴリズムを使用して処理した。分類される異なる状態を代表する17画像を含有するトレーニングデータセットを使用して、WEKA分類plugginを実行した。クラスは、健全な組織(黄色)に、両種の染色に、及びスライス断裂(白色)に割り当てた。元のマッピングは概ね225メガピクセル(15k×15k)のサイズのモザイク画像であり、それらは400フレーム(20横列、20縦列)に分け、各フレームは概ね750×750ピクセルであった。各フレームは独立して分類され、完全画像が次に再構築される。各クラスのピクセルの数が測定される。心臓に属するピクセルの総数は、健全な組織と2種類の色素の取り込みの合計として計算される。クラスの中のピクセルの数を心臓のピクセルの総数によって割り算することによって、各クラスの比を次に計算する。
【0099】
全心臓再構築及び定量化
シリウスレッドによって着色された全心臓の切片は、10×レンズを備えたスキャナ(Axioscan ZI、Zeiss社)でスキャンした。合計483画像が得られた。それらは、ImageJのpluggin: Linear Stack AlignmentをSIFTと使用して整列させた(Lowe等、International Journal of Computer Vision、2004、60、91~110頁)。ソフトウェアが満足なアラインメントを可能にしなかった場合、一部の画像は手動で整列させた。再構築及び3D可視化のために、画像をImaris(BitPlane社、USA)にロードした。画像を整列させたら、Otsu閾値化(Otsu N、Cybernetics、1979、9、62~66頁)を使用した全自動モードのシリウスクワントplugginは、各画像に対応する483の線維症比の値をもたらした。これらの値は、アルゴリズム自動化に固有の誤差を回避するためにシグナル中のノイズを低減する方法であるスライド平均方法を使用してフィルタリングした。移動平均の使用は、画像の各線維症比をそれ自体の平均、その前の画像の比、及びその後の画像の比と置き換えることによって、これらの誤差を制限することを可能にする。
【0100】
1.6 蛍光免疫組織標識化
スライドをフリーザーから取り出し、室温で10分間乾燥させ、その後切片をDAKOpenで包む。スライスは、次にPBS 1×で5分間再水和させる。目的のタンパク質が核に位置するならば、スライスはPBS 1×中の0.3%トリトン溶液で15分間透過性化し、その後PBSで5分間、3回洗浄した。スライスは、次に湿度室の中において室温で30分間、10%ヤギ血清、10%子ウシ胎児血清、PBS 1×で飽和させる。飽和培地は湿室において4℃で一晩、PBS 1×+10%ブロッキング溶液に希釈させた一次抗体溶液で置き換える。光保護湿室の中で室温で1時間、1×PBS+10%ブロッキング溶液中のAlexa 488又は594(1/1000)蛍光色素結合蛍光色素と結合させた二次抗体溶液とハイブリダイズする前に、1×PBSでの5分間の4連続洗浄を実行する。最終の連続したPBS 1×で5分間の4回の洗浄を実行し、DAPIを含有する蛍光マウントスライドアセンブリを実行する。蛍光顕微鏡(Zeiss AxioScan又はライカTCS-SP8共焦点顕微鏡)を使用して、次に切片を可視化する。
【0101】
【0102】
1.7 RNA抽出及び定量化
冷凍イソペンタン筋肉を-20℃のクリオスタット(ライカCM3050)の上で30μm厚のスライスに切断し、約10~15スライスのエッペンドルフ管に分け、-80℃で保存する。有機溶媒中の核酸の溶解特性に基づく、全RNAの抽出のためのTRIzol(登録商標)方法を使用する。
【0103】
筋肉回収管に、1mLのTRIzol(登録商標)につき0.5μLの速度でグリコーゲン(Roche社)を追加した0.8mLのTRIzol(登録商標)(ThermoFisher社)を再供給する。管は、FastPrep-24(Millipore社)ホモジナイザーに20秒間、4m.s.サイクルで置く。核酸を回収するために、氷上での5分間のインキュベーションの後、0.2mLのクロロホルム(Prolabo社)を加えて、TRIzol(登録商標)と混合する。室温で3分間のインキュベーションの後、2つの相、水性及び有機を、4℃で15分間の12000gでの遠心分離によって分離する。核酸を含有する水性相を取り出し、新規の管に入れる。0.5mLのイソプロパノール(Prolabo社)の追加と、その後の室温で10分間のインキュベーション及び4℃で15分間の12000gでの遠心分離によって、RNAを次に沈殿させる。核酸ペレットを0.5mLの75%エタノール(Prolabo社)で洗浄し、4℃で10分間、12000gで再び遠心分離し、その後空気乾燥させる。核酸を50μLの無ヌクレアーゼ水に取り、20μLをウイルスのDNA分析のために残し、RNAを分解から保存するために30μLを1/50に希釈したRNAsin(Promega社)に加える。残留DNAを除去するために、RNAをTURBODnase(Ambion社)で次に処理する。シークエンシング用の試料のために、二重Dnase処理を実行する。
【0104】
シグナル伝達経路に特異的なトランスクリプトーム分析のために、RT2 Profiler PCRアレイ(Qiagen社)プレートを使用する。スクリーニングプレートは、適合するRNA抽出キット、カラムの上でRNAを抽出するRNeasy Miniキット(Qiagen社)の使用を必要とし、キットは供給業者の使用説明書に従って使用され、RNAは、その後遊離のDNアーゼRNアーゼ(Qiagen社)によって処理される。
【0105】
次にND-8000分光計(Nanodrop社)で2μLのRNAからOD読取値をとり、それらの濃度を決定する。RNAは-80℃で、DNAは-20℃で保存する。
【0106】
1.8 RNA品質の測定
シークエンシングのために調製されるRNAの場合、RNAの品質はバイオアナライザー2100(Agilent社)で測定され、それは、核酸の毛細管電気泳動及び次にそれらの分析を実行する。品質は、電気泳動図の形の試料の保持率及び濃度によって可視化される。各試料について、RIN(RNA整合性番号)で表される品質スコアが、0~10のスケールで計算される。RNAナノチップ(Agilent社)が、供給業者の使用説明書によって使用される。試料中のRNAサイズの評価を可能にするために、サイズマーカー(RNA6000ナノラダー、Agilent社)が最初に通される。マーカーが各試料に加えられ、規定のサイズで現れる。各試料について、1μLのRNAがチップの上に置かれる。RNA電気泳動図の上で、リボソームのRNAピークが観察される: 28S(およそ4000nt)、18S(およそ2000nt)及び5S(およそ100nt)。内部マーカーは、25nt位置で現れる。INRは、18S及び28Sピークの高さ及び位置、5S、18S及び28Sピークの間の比、並びに信号対雑音比の関数として計算される。RNA-seqのために、必要な品質は少なくとも7のINRを必要とする。
【0107】
1.9 リアルタイム定量的PCR
ゲノム及びウイルスのDNAはqPCRによって、遺伝子発現はリアルタイム定量的PCRによって定量化される。RevertAid H Minus First Strand cDNA Synthesisキット(Thermo-Fisher社)を使用して、メッセンジャーRNA全体で逆転写ステップが実行される。2種類のオリゴヌクレオチド:ランダム配列を含有するいわゆる「ランダム」六量体、及び「dT」オリゴヌクレオチド、デオキシ-チミンポリマー、それらはポリA配列へハイブリダイズし、cDNAを完全に生成することを可能にする。使用する混合物を、Table 2(表2)に示す。
【0108】
【0109】
混合物を以下のサイクルのためにサーマルサイクラーに入れる: 25℃で10分間、次に42℃で1時間15分、酵素の作用温度、次に酵素を70℃で10分間不活性化する。cDNAを+4℃で短時間か又は-20℃で長期的に保存する。
【0110】
組織でのベクター滴定及びベクターコピー数の測定のためにゲノム若しくはウイルスのDNAで、又は転写物の定量化のためにRNAから得たcDNAでリアルタイム定量的PCRを実行する。それは、LightCycler 480(登録商標)(Roche社)384ウェルプレートで実行される。ABsolute QPCR ROXミックス(ThermoFisher社)に含有されるThermo-Start DNAポリメラーゼ酵素のヌクレアーゼ活性は、蛍光性レポーターの放出によって、各増幅サイクルにおけるPCR生成物の検出を可能にする。この蛍光性レポーターは、蛍光体(FAM、6-カルボキシフルオレセイン、又はVIC、2'-クロロ-7'フェニル-1,4-ジクロロ-6-カルボキシ-フルオレセイン)であり、3'が失活剤(TAMRA、テトラメチルローダミン)でも標識されているヌクレオチドプローブから5'に位置する。レポーター及び失活剤の分離はレポーターの蛍光をもたらし、それは装置で測定される。目的の各遺伝子の混合物は、0.2mM及び対応する0.1mMプローブの2つのオリゴF(フォワード、センス)及びR(リバース、アンチセンス)で構成される。FAMレポーターを有する定量化されるmRNAに対応する20×Taqman遺伝子発現アッセイ(ThermoFisher社)プライマーの市販混合物が使用される(Table 7(表7))。異なる条件下で不変であるリボソームタンパク質をコードするリボリンタンパク質酸遺伝子RPLP0が、VICレポーターを使用する標準化遺伝子として選択された。RPLP0の増幅のために使用するプライマー及びTaqmanプローブは、以下の通りである: m181PO.F(5'-CTCCAAGCAGATGCAGCAGA-3'(配列番号7))、m267PO.R(5'-ACCATGATGATGCG CAAGGCCAT-3'(配列番号8))及びm225PO.P(5'-CCGTGGTGCTGATGGGGGGCAAGA A-3'(配列番号9))。DNA試料は、逆転写の後に得られたcDNA試料かウイルスDNAである。PCR反応は384ウェルプレートで起こり、各ウェルはTable 3(表3)に示す量で反復される。
【0111】
【0112】
以下のPCRプログラムが適用される: LightCycler480(Roche社)を使用して95℃で15分のプレインキュベーション、次に95℃で15秒の45増幅サイクル、続いて60℃で1分。
【0113】
【0114】
サイクル定量化は、最大二次導関数方法を使用してLightCycler(登録商標)480 SW 1.5.1ソフトウェア(Roche社)で計算される。定量的PCR結果は、「Cq」、その後に閾値蛍光値に到達するサイクル数、で表される。この値は、次に参照遺伝子RPLP0で得られる値に標準化される。
【0115】
ミトコンドリアPCRキット(PAMM-087Z)及びWNT(PAMM-243Z)及びTGF-B(PAMM-235Z)標的スクリーニングを、製造業者の使用説明書(RT2 Profiler PCRアレイ、Qiagen社)に従って使用する。RNA抽出を、RNasy(登録商標) Micraoarray組織キット(Qiagen社)を使用して凍結組織から実行し、無RNアーゼDNアーゼセット(Qiagen社)で処理する。cDNAはRT2第1鎖キット(Qiagen社)を使用して500ngのRNAから得られ、PCRのための鋳型として使用される。qRT-PCRは、LightCycler480(Roche社、Basel、Switzerland)を使用して実行される。
【0116】
1.10 RNAシークエンシング
シークエンシングのために使用される試料は、TRIzolで抽出され、DNアーゼで二度処理され、INR品質>7.7を有する全RNAである。100ng/μLのRNA試料2μgを、シークエンシングのためにKarolinka Institutetに送った。使用したシークエンシングライブラリーはTruSeq Stranded Total RNA Library Prepキット(Illumina社)で調製され、シークエンシングはIllumina社のプロトコールに従って実行された。リードはFastq-pairを使用して関連付け、STAR alignを使用してマウスゲノム(mm10)に整列させる。リードの数は、試料中の対応するRNAの存在度に比例する。シークエンシングプラットホームは、試料ごとにbamフォーマットのアラインメントファイルを含有するいくつかのファイル、比較した各試料のためのリードの数で同定される遺伝子のリスト、及び100万リードあたりのkbあたりの断片(FPKM)で表される標準化された数値を伴う遺伝子のリストを次に提供する。
【0117】
配列決定をした転写物のリストを含有するファイルを受け取ると、試料を互いに比較することにおける第1のステップは、異なる試料のファイルを併合することであった。目標は、試験で同定される各転写物のために、各試料中のそのリードの数を含有する単一の表を得ることである。次に、Rソフトウェアの下の分析をDESeq2パッケージで実行した:リードの数から試料を標準化し、各試料の差別的遺伝子発現をその対照に対して計算する。発現差値(又は変化倍率)は、二元対数(log2.FC)で表され、それらはそれらの調整されたPvalue padjと関連している。次に、以下を除去するために選別ステップを実行した:全ての条件下で10未満のリードを含有する遺伝子、有意なpadjのない遺伝子、全ての条件で-0.5~0.5のlog2.FCを有する遺伝子。異なる条件の間で有意に差別的に発現された遺伝子を同定するために、最後の表を使用した。
【0118】
マウスゲノム(mm10)のリードのアラインメントは、bamファイルをIntegrative Genomic Viewer(IGV)ソフトウェアで表示することによって観察され得る。RNAseq結果のグラフ表示のために、異なるRパッケージを使用する。ベン図のために、ベン図パッケージを使用する。Volcanoプロットのために、ggplot2パッケージを使用する。データセット中の調節解除されたシグナル伝達経路を可視化するために、Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(IPA、Qiagen社)及び遺伝子オントロジー分類系PANTHERを使用する。
【0119】
1.11 心機能分析:超音波
イソフルランの吸入によってマウスに麻酔をかけ、加熱プラットホーム(VisualSonics社)に置く。体温及び心拍数を連続的にモニタリングする。画像を、707Bプローブを備えたVevo 770高周波超音波心臓検査計(VisualSonics社)によってとる。2Dモード及びMモード(モーション)の超音波測定を、左心室の最も広いレベルの大小の傍胸骨軸に沿ってとる。定量的及び定性的測定は、Vevo 770ソフトウェアを使用して実行される。左心室の質量は、以下の式を使用して推定される:
【0120】
左心室の質量(g)=0.85(1.04(((拡張期の終わりの左心室の直径+拡張期の終わりの心室内隔膜の厚さ+拡張期の終わりの後部壁の厚さ)3-拡張期の終わりの心室の直径3)))+0.6
【0121】
マウス心臓の各超音波では、約5つの測定ポイントがとられる。拡張期左心室の最大サイズに対応する測定ポイントが次に使用されるが、その理由はそれがマウス心臓の到達可能な最大拡張を表すからである。
【0122】
1.12 ウイルスベクター
導入遺伝子阻害のためのshRNAプラスミド構築物は、Vigene Bioscience社に注文した。それらは、4つの個々のshRNA配列及びGFPレポーター遺伝子を含む構築物である。各遺伝子のために選択された配列は、Table 5(表5)に記載される。プラスミドは、
図1のモデルによって構築される。
【0123】
【0124】
1.13 プラスミドの生成
プラスミドは45μLのDH10B細菌を2μLのプラスミドで形質転換することによって生成される。熱ショックは、氷中に5分、42℃で30秒、及び氷上で冷却を交互に用いることによって達成される。次に、250μLのSOC(超最適培養液)培地を加え、その後撹拌下37℃で1時間インキュベートする。プラスミドを組み入れた細菌を選択するために、このように形質転換された細菌は、アンピシリンを含有するLB(溶原性培養液)の箱の上で、37℃で一晩、50μL培養によって単離される。クローンは、抗生物質を含有する3mLのLB培地の中で37℃で数時間の前培養のために、その翌日移植される。試料を、冷凍のために50%グリセロールに保つ。次に、500mLの抗生物質含有培地及び1mLの前培養を含有する2Lエルレンマイヤーで一晩の培養を37℃で実行する。次に、プラスミドを精製するためにNucleoBond PC 2000 EF(Macherey Nagel社)キットを供給業者の使用説明書により使用し、それは次に0.22μmでの濾過によって滅菌し、Nanodropで検査する。
【0125】
プラスミドを検査するために、制限酵素SMA1及びNHE1で酵素消化を実行する。無菌水に1μgのDNA、2μLの緩衝液fast digest green 10×、各酵素の1μlを全量20μlで含有する混合物を、37℃で20分間撹拌する。SYBR(商標)Safe DNA Gel Stain(Invitrogen社)を含有するTAE(トリス、酢酸、EDTA)中の1%アガロースゲルを注ぎ、その後消化物生成物及びサイズマーカーO'GeneRuler(商標)DNA Ladderミックスを入れる。
【0126】
1.14 ベクター生成
組換えウイルスを調製するために、三トランスフェクション方法を使用する。ウイルス粒子を生成するために、HEK293細胞をパッケージング細胞として使用する。3つのプラスミドが必要とされる:目的の遺伝子を提供するベクタープラスミド、Rep及びCapウイルス遺伝子を提供するヘルパープラスミドpAAV2-9_Genethon_Kana(Rep2Cap9)、並びに、アデノウイルス遺伝子を含有し、AAV複製のために必要であるアデノウイルス共感染を置き換えるプラスミドpXX6。細胞を次に溶解し、ウイルス粒子を精製する。ベクターは、懸濁液で生成される。
【0127】
細胞接種(1日目): 1L撹拌フラスコに接種された、集密のHEK293Tクローン17細胞の使用: 400mLのF17培地(Thermo Fisher scientific社)に2E5細胞/mL。撹拌(100rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベーション。
【0128】
細胞トランスフェクション(3日目):細胞を数え、72時間の培養の後Vi-CELLで細胞生存能力を測定する。フラスコ内のその濃度、サイズ及び細胞の量により、各プラスミドのために10mg/mLでトランスフェクションミックスをHepes緩衝液中で調製し、各プラスミドの比は1である。トランスフェクション剤の追加及び溶液のホモジナイゼーションの後に室温で30分間のインキュベーション。トランスフェクション混合物及び3979μLの培地(改変F17 GNT)を、400mLの培養を含有する振盪フラスコに移し、それらを撹拌(130rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベートする。48時間後、ベンゾナーゼによる細胞の処理: F17培地中にベンゾナーゼの希釈溶液(最終25U/mL)及びMgCl2(2mM最終)、1フラスコに4mLの追加。
【0129】
ウイルスベクター採取(6日目):細胞を数え、細胞生存能力をVi-CELLで測定し、次に2mLのトリトンX-100(Sigma社、1/200の希釈)を加え、その後撹拌下の37℃で2.5時間インキュベートする。エルレンマイヤーをコーニング500mLに移し、4℃で15分間、2000gで遠心分離する。上清を新規のコーニング500mLに移し、その後100mLのPEG 40%+NaClを加えて、4℃で4時間インキュベートする。懸濁液は、4℃で30分間、3500gで遠心分離する。ペレットはpH8の20mLのTMS(50mMのトリスHCl、150mMのNaCl及び2mMのMgCl2、水に希釈)に再懸濁させ、エッペンドルフ50mLに移し、その後8μLのベンゾナーゼを追加する。37℃で30分間のインキュベーションの後、管を4℃で15分間、10,000gで遠心分離する。
【0130】
塩化セシウム勾配精製:勾配を達成するために、1.3グラム/mLの密度の10mLの塩化セシウムを超遠心管に入れる。1.5グラム/mLの密度の塩化セシウムの5mL量を、次にその下に入れる。上清を塩化セシウムの上に静かに置き、管を20℃で24時間、28,000RPMで超遠心分離する。2つのバンドが観察される:上のバンドは空のカプシドを含有し、下のバンドは完全なカプシドに対応する。両方のストリップを収集し、不純物の除去はしなかった。試料を新規の超遠心管の中で1.379g/mlの密度で塩化セシウムと混合し、次に20℃で72時間、38,000RPMで超遠心分離する。中身のあるカプシドのストリップを取り出す。
【0131】
濃縮及び濾過:ウイルス調製物からの塩化セシウムの除去及び濃縮は、Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターで、実行される。Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターの上で、ベクターは100kDaのカットオフの限外濾過によって濃縮される。Amicon膜は先ず14mLの20%エタノールで水和され、3000gで2分間遠心分離され、次に14mLのPBSで平衡させられ、3000gで2分間、次に14mLの1,379ClCsで遠心分離される。収集された中身のあるカプシドのストリップはフィルターに載せて、3000gで4分間遠心分離する。15mLのPBS 1×+F68製剤緩衝液を加え、その後1500gで2分間更に濾過する。3つの前のステップを更に6回繰り返して、最後の濃縮液を回収する。試料は、次に0.22μmで濾過する。
【0132】
滴定:ベクターは、次に定量的PCRによって分析する。
【0133】
1.15 統計
全ての統計分析で、差はP<0.05(*)で有意であり、P<0.01(**)で中程度有意であり、P<0.001(***)で高度に有意であるとみなされ、P=確率である。棒グラフは、平均+SEM標準偏差として示す。グラフは、GraphPadソフトウェアを使用して作成される。
【0134】
全心臓の上での線維症の分布の分析:線維症が心臓で均一である(H0仮説)ことを確実にするために、発明者は483の線維症比の値から20値をランダムに抽出した。これらの値は、p値を得るために10対10でウィルコクソン検定(ソフトウェアR)と比較した。この操作を1000回繰り返し、1000のp値をもたらした。これらの値の間で一部は0.05未満であり、一部の場合には、線維症不変性の発明者の仮説が有効でないことを示している。1000件の統計的検定から、発明者は、どれだけ多くが0.05未満の値を与えたかを数えた。発明者は全プロセスを100回繰り返して、発明者のH0仮説が偽であるパーセンテージの平均を得た。この平均は、4%である。これは、発明者の仮説が96%の割合で有効であり、したがって0.04の全体的p値に対応することを意味し、これは統計学的に許容される。
【0135】
2. 結果
発明者は共通の遺伝子発現改変が2つの心筋症モデル:DeltaMex5モデル及びDBA/2-mdxモデル、並びにこれらの調節解除が確立される年齢及びそれらの特異性の間にあったかどうかを決定することを望んだ。そうするために、発明者は異なる年齢でトランスクリプトームの比較研究を実行した。
【0136】
2.1 2つの心筋症モデルのRNAseq分析
心臓障害の初期と後期の年齢でDeltaMex5及びDBA/2-mdxマウス並びにそれらの対照からの心臓試料で、全RNAseq(RNAseq)シークエンシング分析を実行した。DeltaMex5マウスの場合1カ月及び4カ月齢を、DBA/2-mdxマウスの場合1カ月及び6カ月齢を選択した。ここでの主な狙いは、両方の心筋症モデルに共通であろう病状が確立されるときに存在する遺伝子を同定することであった。
【0137】
シークエンシングは、Illumina社のプロトコールによって実行した。各試料につき遺伝子の差別的発現を、それらのリード数(>10)からその対照に対して計算する。発現差値(又は変化倍率)は二元対数(log2.FC)で表され、それらの調整されたPvalue padjと関連させる。異なる条件の間で有意に差別的に発現された遺伝子は、log2.FC>|0.5|及びpadj<0.05によって決定される。
【0138】
RNAseqデータのvolcanoプロットは、心臓における遺伝子の分布及び遺伝子調節解除の程度、並びに遺伝子発現の程度の各条件の可視化を可能にする。4カ月時の30個の最も調節解除された遺伝子のリストを、Table 6(表6)に示す。
【0139】
【0140】
4カ月時のDeltaMex5モデルの心臓において最も増加した遺伝子の1つはCilp遺伝子であり、軟骨中間層タンパク質(log2FC=4.77、P=4.70E-278)、TGF-β経路の負の調節因子をコードする(Shindo, K.等2017。International Journal of Gerontology 11、67~74頁)。1カ月時、調節解除された遺伝子の数は更により小さく、調節解除された遺伝子は1の最大log2FCであり、より少ない程度で調節解除される。
【0141】
DBA/2-mdxモデルに対し、30個の最も調節解除された遺伝子のリストをTable 7(表7)に示す。
【0142】
【0143】
6カ月時でのDBA/2-mdxモデルで、発明者は最初の5つの位置でCilp遺伝子を最も調節解除された遺伝子の1つとして見出す。1カ月時、調節解除された遺伝子の数は既に高く、最も調節解除された遺伝子は3のlog2FCを超える。
【0144】
RNAseq結果のベン図表示は、モデル又は病期進行における共通の又は特異的な調節解除された遺伝子の数の可視化を可能にする。RNAseq分析に含まれた46,717遺伝子のうち、4,850遺伝子は、心臓障害の初期又は後期の年齢でいずれのモデルでも対照と比較して有意に調節解除されることが見出された(|log2FC|>0.5及びpvalue<0.05)。初期の年齢で、DeltaMex5マウスの心臓は44個の調節解除された遺伝子だけを有するが、DBA/2-mdxマウスの心臓は2,186個を既に有し、両方のモデルで4遺伝子だけが共通である。後期の年齢にはDeltaMex5の心臓は2,621個の調節解除された遺伝子を有し、DBA/2-mdxの心臓は2,202個を有し、そのうち1,175個は両方のモデルで共通し、そのうち708遺伝子は心筋症の進行した年齢に特異的である。9遺伝子だけがDeltaMex5モデルに特異的であるが、232個がDBA/2-mdxモデルに特異的である。全ての調節解除された遺伝子のうち、より大きな割合の遺伝子は過小発現よりは過剰発現される。
【0145】
最も過剰発現された遺伝子の大半は、2つのモデル間で共通している。しかし、4カ月時のDeltaMex5マウスの心臓で調節解除された遺伝子は、6カ月時のDBA/2-mdxマウスの心臓で調節解除された遺伝子より強く調節解除される(4対6.6のlog2FC最大値)。2つのモデル間の心臓障害は異なっていたが、それらと関連した転写調節解除はほとんど後期の同じ遺伝子及びシグナル伝達経路が関与したことも観察された。
【0146】
この分析を完成させるために、データを生物学的機構に解釈するのを助けるために生物学的相互作用及び機能的注解のリポジトリを使用する、Ingenuity Pathway Analysis(IPA、Qiagen社)ソフトウェアを使用した。1カ月齢で、DeltaMex5及びDBA/2-mdxマウスの心臓でシグナル伝達経路の増加は同定されなかった。IPAによる分析は、その遺伝子が進行した相において調節解除される遺伝子の中で最も表される、生物学的機能を強調することを可能にした。両方のモデルでの第1の位置では、心血管疾患に関与した150を超える遺伝子がRNAseq分析で見出された。第2の位置では、150を超える調節解除された遺伝子が、臓器の上の病巣及び異常のファミリーに分類される。最後に、第3の位置では、心血管系の機能及び発達に関連したほぼ200個の遺伝子が見出された。
【0147】
進行した相だけで観察された遺伝子発現の変化と関連した毒性を決定するために、発明者はIPAソフトウェアの別の機能も使用した。多くの調節解除された遺伝子が同定された: DeltaMex5モデルで心臓肥大に関連した86遺伝子及びDBA/2-mdxモデルで85、心臓機能障害を導く可能性のある45/48遺伝子、心臓拡張で38/36遺伝子、心臓線維症で27/28遺伝子及び心臓壊死で35/37。
【0148】
後期のモデルで最も調節解除されたシグナル伝達経路を決定するために、PANTHER遺伝子オントロジー分類系も使用した。両方のモデルで、ベン図の分析で見られるように、混乱は非常に類似しているようである。見出された最初の2つの経路は両モデルで類似し、ほぼ70遺伝子が関与したケモカイン及びサイトカイン媒介炎症シグナル伝達経路、並びに50を超える遺伝子が関与したインテグリン経路が含まれる。炎症は、おそらく心筋症と関連した細胞性傷害の結果である。インテグリンは、心筋細胞における膜の間での機械的力の伝達及びこれらの力への適応において主要な役割を演ずる。興味深いことに、TGF-β経路は、15を超える調節解除された遺伝子で、第22及び第19の位置で見出され、それには最も過剰発現される遺伝子の1つであるCilpが属する。グラフに表されない他の正規の経路の中で、モデルにおいて最も減少した経路は、酸化的リン酸化及びミトコンドリア機能であり、呼吸鎖の5つのミトコンドリア複合体の各々で因子が減少した。ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体経路(PPARγ)もあり、それは心臓代謝における役割を有する。
【0149】
2.2 調節解除された遺伝子の検証
最も調節解除された遺伝子の1つであるCILP-1の調節解除を、異なる条件下で評価した。CILP-1は1カ月時にDeltaMex5モデルで過剰発現されないが、疾患の後期に過剰発現される(Table 8(表8))。
【0150】
【0151】
それらの過剰発現を確認し、それらの改変を経時的に調査するために、個々のqPCRによって異なる年齢(2、4及び6カ月)のDeltaMex5モデルのコアでRNAseqデータの検証を次に実行した。CILP-1遺伝子は2カ月後からモデルで有意に過剰発現され、遺伝子過剰発現は年齢と共に次第に増加する(
図2)。
【0152】
2.3 CILP-1遺伝子発現のモジュレーション
発明者は、次にモデルの心臓表現型に及ぼすCILP-1のモジュレーションの影響を調査することを望んだ。shRNA-CILP-1のin vivo遺伝子導入の線維症状態及び心機能に及ぼす結果の評価を、DeltaMex5モデルで実行した。DeltaMex5モデルで関心を示したアプローチは、現在DBA/2-mdxに適用されている。
【0153】
2.4 遺伝子導入アプローチ
CILP-1発現を阻害するために選択される戦略は、shRNAの使用である。shRNAは、ヘアピン構造を有する小さいRNAである。これらの作用は干渉性RNAの原理に基づき、標的のメッセンジャーRNAを中和する。発明者は、導入遺伝子の中和効率の増強のために、4つの個々のshRNA配列がプラスミドの中で一緒にされる、4-in-1 shRNAを選択した。shRNAは、Thermofisher社のRNAiデザイナーツールを使用して選択した。目的の遺伝子のために最高の特異的回収スコアを有する4つのshRNAを選択した。それらは、次にVigene Bioscience社にH1及びU6ユビキタスプロモーターの制御下で注文した。
【0154】
1カ月齢のマウスを、2e11 vg/マウスの投与量(概ね20gのマウスのための1e13 vg/kgの投与量と同等)で、又はPBSによって静脈内注射した。ベクター発現の3カ月後、収集の前にマウスの心臓を超音波検査した。心臓への全体的な組織学的及び機能的結果を次に試験した。
【0155】
ベクターAAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPの発現は、ベクターを注射したマウスだけに存在するGFPレポーター遺伝子を使用して検出する(
図3)。これらのRT-qPCRアッセイは、ベクター注射の3カ月後に導入遺伝子の存在を確認する。
【0156】
2.4.1 形態学的評価
マウス質量は、AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPベクターで処置したマウスでは有意に減少した(29.5±1.31g、n=4、P=0.027)(
図4A)。AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPベクターで処置したマウスにおける、心臓質量の全マウス質量に対する比によって測定した心臓肥大は、未処置のDeltaMex5マウスと比較して有意に減少し(0.51±0.05、n=4、P=0.022)、C57BL/6マウスと同等になった(
図4B)。
【0157】
マウスの心臓で組織学的分析を次に実行した。HPS染色は、AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPで処置したマウスにおける傷害組織の持続性を明らかにした(
図5A)。スライスの観察は、shRNAを有するAAV処理試料でのシリウスレッドによるコラーゲン染色によって可視化させた組織の線維症が、DeltaMex5対照マウスと比較して減少することを示す(
図5B)。
【0158】
2.4.2 機能評価
心機能の超音波分析は、3カ月のベクター発現の後、4カ月目に実行した(
図6)。AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPで注射したマウスにおいて、推定された左心室質量の有意な変動が観察され、DeltaMex5対照と比較してほぼ40%の減少であった(127±11.05mg、n=4、対190±12.77mg、n=8、P=0.01)。
【0159】
2.4.3 分子の評価
AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPベクターで注射したマウスでは、Myh7はPBSマウスと比較して有意に増加し(24.59±2.35、P<0.001)、Myh6も増加した(0.62±0.05、P=0.003)。DeltaMex5とC57BL/6マウスの間で不変であったβ-カテニンは、わずかに増加した(1.21±0.06、P<0.001)。DeltaMex5-PBSマウスと比較して、注射したマウスではTimp1だけが有意に減少した(31.67±6.98、P=0.001)(
図7)。
【0160】
線維症RNA組織マーカー(フィブロネクチン、ビメンチン、コラーゲン1a1及びコラーゲン3a1)も、RT-qPCRによって測定した。AAV9-4in1shRNA-mCILP-GFPベクターで注射したマウスでは、線維症のマーカーであるビメンチンは有意に減少した(2.35±0.25、P=0.02)(
図8)。ビメンチンは、C57BL/6マウスに標準化した。
【配列表】
【国際調査報告】