(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(54)【発明の名称】遺伝性拡張型心筋症の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230628BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230628BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230628BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230628BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230628BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230628BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230628BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230628BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230628BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20230628BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230628BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P9/00
A61K31/7105
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/02
A61K38/17
C12N15/12
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575814
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2021065424
(87)【国際公開番号】W WO2021250076
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】アリアーヌ・ビカン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA02
4C084BA03
4C084CA18
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZC41
4C085AA13
4C085AA14
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZC41
(57)【要約】
本発明は、Wnt経路又はTGF-β経路の発現可能なモジュレーターを使用する、好ましくは遺伝子導入を使用する遺伝性拡張型心筋症の処置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝性拡張型心筋症の処置における使用のためのWnt又はTGF-β経路の発現可能なモジュレーター。
【請求項2】
前記Wnt又はTGF-β経路の標的タンパク質の活性を調節し、アプタマー、抗体、組換え標的タンパク質、阻害性ペプチド、融合タンパク質、デコイ受容体、可溶性タンパク質及びドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項3】
前記Wnt又はTGF-β経路の標的遺伝子の発現を調節し、干渉RNA分子、リボザイム、ゲノム又はエピゲノム編集酵素複合体及び標的導入遺伝子からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項4】
前記Wnt経路の阻害剤若しくはアクチベーター、又は前記TGF-β経路の阻害剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項5】
CILP-1、CCN5/WISP2、DKK3若しくはSFRP2のアクチベーター、又はLTBP2の阻害剤である、請求項4に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項6】
LTBP2発現を特異的に減少する干渉RNA、好ましくは、配列番号11~14からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むshRNAである、請求項5に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項7】
CILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2タンパク質、又はこれらのバリアントをコードする導入遺伝子である、請求項5に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項8】
前記CILP-1、DKK3、SRFP2、CCN5/WISP2タンパク質又はこれらのバリアントが、配列番号2、4、6及び8の配列、並びに前記配列のいずれか1つに少なくとも85%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含む、請求項7に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項9】
ヒト心筋トロポニンTプロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2vプロモーター(MLC-2v)、ミオシン軽鎖2aプロモーター(MLC-2a)、CARP遺伝子プロモーター、アルファ-心筋アクチンプロモーター、アルファ-トロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター、筋小胞体/小胞体Ca
2+ ATPアーゼ(SERCA)プロモーター、デスミンプロモーター、MHプロモーター、CK8プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群から選択される心筋プロモーターを含む、好ましくはヒト心筋トロポニンTプロモーターを含む核酸構築物の中に挿入される、請求項5から8のいずれか一項に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項10】
前記核酸構築物が遺伝子療法用のベクターに含有される、請求項9に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項11】
前記ベクターがウイルス粒子を含む、請求項10に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項12】
前記ウイルス粒子がアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子である、請求項11に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項13】
前記AAV粒子が、AAV-1、AAV-6、AAV-8、AAV-9及びAAV9.rh74血清型からなる群から選択されるAAV血清型に由来する、好ましくはAAV9.rh74血清型に由来するカプシドタンパク質を含む、請求項12に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項14】
前記遺伝性心筋症が、ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンA/C、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン、デスミン、心筋アクチン、サルコグリカン、タイチン、心筋トロポニン、ミオシン、RNA結合モチーフタンパク質20、BCL2関連アサノジーン3、デスモプラキン、タファジン及びナトリウムチャネルからなる群から選択される遺伝子における突然変異により引き起こされる、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のためのモジュレーター。
【請求項15】
前記遺伝性心筋症が、ジストロフィン又はタイチン遺伝子における突然変異により引き起こされる、請求項14に記載の使用のためのモジュレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WNT経路又はTGF-β経路の発現可能なモジュレーター、好ましくは遺伝子導入を使用する遺伝性拡張型心筋症の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症(DCM又はCMD)は、心筋の運動低下及び心臓腔の拡張によって特徴付けられる。拡張型心筋症の間に起こる心臓リモデリングは、線維症の存在と関連した心筋細胞への傷害からなり、それらは互いから分離できない。心筋細胞への傷害はそれらの収縮能力の低下及びそれらの構造の変化を伴い、それはアポトーシスと、壊死性心筋細胞を置き換える線維症の増大へと導く。線維芽細胞の増殖は、心筋細胞の代償性の肥大を阻止する。これらの症状は、臨床的に心機能の低下に転換する。この重大な合併症は、死の原因となる可能性がある。
【0003】
遺伝性のパターンが、症例の20~30%に存在する。大部分の家族性DCM家系は、通常は人生の10代又は20代に現れる遺伝の常染色体優性パターンを示す(Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18巻: 1160~1165頁に要約される)。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ジストロフィン遺伝子の突然変異による筋肉疾患では、拡張型心筋症はおよそ15歳で臨床的に明らかにされ、20歳の後にほとんど全ての患者に影響を及ぼす。ベッカー筋ジストロフィー(BMD)、DMDの対立遺伝子型の場合、心臓傷害は20歳で起こり、患者の70%は35歳の後に影響を受ける。タイチン、サルコメアの巨大タンパク質によるDCMは、心不全の1/250の症例で関係付けられている(Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898)。
【0004】
遺伝子誘導拡張型心筋症において、関与する遺伝子の大部分は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン)、細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン)、カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RYR2、SERCA2a(ATP2A2)、ホスホランバン)、心筋構造組織化に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C)、細胞骨格完全性及び筋力伝播に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン)、並びに筋力の生成及び伝播に関与する筋節タンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む心筋細胞の構造要素をコードする。
【0005】
治療アプローチは、遺伝性拡張型心筋症、例えばDMD及びチチノパシー(titinopathy)の症例の管理にも有効である後天性拡張型心筋症の処置に使用されるものである。これらの病状のための治療的処置は現在存在しない。後天性拡張型心筋症の処置のために現在利用可能な薬物は、症状を改善することにはなるが、疾患の原因を処置しない。処方される処置は、衛生学的及び食事性の手段、例えばアルコール消費を低減すること、水及び塩分の摂取量を低減すること、並びに適度の及び規則的な運動を伴う、心不全に対するものである。薬学的処置の中で、アンギオテンシンII変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)は、血管収縮及び血圧を低下させるためにアンギオテンシンIIの産生を阻止する。利尿薬は、腎臓ナトリウム再吸収を阻害することによって、体から過剰な塩分及び水を除去する。β-ブロッカー又はβ-アドレナリン作用性受容体アンタゴニストは、拡張型心筋症の間に刺激されるアドレナリン作用系媒介物の作用をブロックし、心拍数を低下させる。電解質コルチコイド受容体アンタゴニストはアルドステロンの結合をブロックし、血圧を低下させる。律動障害が重度である場合、アミオダロン等の抗不整脈薬が処方される。ペースメーカー及び/又は自動除細動器の植え込みを考慮することもできる。最も重症の症例では、患者は心臓移植が有益である可能性がある(Ponikowski等、European Heart Journal、2016、37、2129~2200頁)。
【0006】
DMDで頻繁に処方されるコルチコステロイド処置は、炎症の低減のおかげで中期的に筋肉の表現型の改善を可能にするが、心臓表現型へのその作用は論争下にある。ジストロフィン及びタイチンに関連したDMDの管理は、毎年の系統的な心臓検査(心電図及び超音波)を必要とする。特に、アンギオテンシン変換酵素阻害剤であるペリンドプリルは、小児期から予防的処置としてとられるとき、DMD患者で死亡率を低減させることが示された(Duboc等、Journal of the American College of Cardiology、2005、45、855~857頁)。DMDにおいて心臓障害の処置で試験されている分子は、主に心不全の処置で既に使用されている分子である。他の療法は、線維症を低減させることによって筋肉及び心臓の傷害を処置することを目指す。これは、結合組織増殖因子に向けられるモノクローナル抗体であるパムレブルマブ(フェーズII治験NCT02606136)及び抗エストロゲンであるタモキシフェン(フェーズI治験NCT02835079及びフェーズIII治験NCT03354039)の場合である。
【0007】
したがって、遺伝性拡張型心筋症のために新規の治療戦略を開発する医学的必要性がある。
【0008】
WNT(又はWnt)経路は、様々な生物学的プロセス、例えば、細胞増殖、分化、器官形成、組織再生及び腫瘍形成を編成する。伝統的には、Wntシグナル伝達は、β-カテニン依存性(古典的なWnt/β-カテニン経路)、並びにβ-カテニン非依存性(非古典的なWnt/平面内細胞極性(PCO)及びカルシウム経路)に分けられる。異なる分泌糖タンパク質(Wntリガンド)をフリズルド(frizzled)(FZD)受容体ファミリーに結合して、細胞中のディシェベルド(dishevelled)タンパク質(DVL)からシグナル伝達カスケードを伝達することによって、3つともすべて活性化される。Wnt経路は、内在性アンタゴニスト、例えば、dickkopf(DKK3)、Wnt阻害性シグナル伝達タンパク質、分泌フリズルド関連タンパク質及びケルベロス(cerberus)により調節される。WNTタンパク質の分泌は、主に、ヤマアラシ(PORCN)によるアシル化に依存している。β-カテニンは、Wntシグナル伝達における重要なシグナル伝達トランスデューサーである。大腸腺腫症(APC)、カゼインキナーゼ1(CK1)及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ3α/β(GSK-3α/β)、及びアキシンから構成されるβ-カテニンタンパク質破壊複合体は、リン酸化媒介タンパク質分解を介してβ-カテニンを厳密に制御する。ポリ-ADP-リボシル化酵素のタンキラーゼは、アキシンと相互作用し、ユビキチン媒介性プロテアソーム分解を介してアキシンを分解する。リガンドの非存在下において、細胞質に蓄積したβ-カテニンは、破壊複合体により分解される。分泌されたWntタンパク質のうちの1つがフリズルド受容体(FZD)及びリポタンパク質共受容体(LRP5/6)と結合すると、細胞質β-カテニンは安定化され、核に転位置され、そこで転写因子TCF/LEF及びCBPと相互作用して、標的遺伝子を制御する(Rao等、Circ. Res.、2010、106巻、1798~1806頁;Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/))。
【0009】
WISP2/CCN5又はWNT1誘導性シグナル伝達経路タンパク質2は、伝統的なWNT経路のアクチベーターであり、細胞外マトリックスタンパク質のNCCファミリーのメンバーである。WISP2/CCN5タンパク質は、結合組織成長因子CTGF/CCN2に逆の効果を有し、CCN2は、線維形成の誘導においてTGF-βの補助因子として作用し、一方、WISP2/CCN5は、TGF-βシグナル伝達及び線維芽細胞分化を阻害することにより心臓線維症を阻害する(Yoon等、Journal of molecular and cellular cardiology、2010、49巻、294~303頁)。
【0010】
DKK3は、発育中及び成人の心臓に存在する分泌タンパク質であり、WNT経路のアンタゴニストである。
【0011】
SFRP2は、細胞外Wntリガンド及びフリズルド受容体に結合し、よってシグナル伝達カスケードを調節する、分泌タンパク質である。SFRP2は、主にWNT経路のアンタゴニストであるが、シグナル伝達を増加することもでき、よってSFRP2は心臓線維症に主な役割を有するが、その効果は依然として議論の的であり、一部の研究は線維化促進性であると記載し、一部は、それとは逆に抗線維化性であると記載している(He等、PNAS、2010、107巻、21110~21115頁; Kobayashi等、Nature Cell Biology、2009、11巻、46~55頁; Lin等、American Journal of physiology Cell physiology、2016、311巻、C710~C719頁; Mastri等、American Journal of physiology Cell physiology、2014、306巻、C531~C539頁)。低濃度のSFRP2は、Wnt経路の効果を高め、心筋線維症を促進しうるが、一方、高濃度のSFRP2は、Wnt経路を拮抗し、心筋線維症を阻害しうる(Wu等、International Journal of biological sciences、2020、16巻、730~738頁)。心臓線維芽細胞における作用も、TGF関連線維症β1に関係していると思われる(Ge及びGreenspan、The journal of Cell Biology、2006、175巻、111~120頁)。
【0012】
Wntシグナル伝達の異常な上方制御は、がん、変形性関節症及び多発性嚢胞腎疾患に関連し、一方、Wntシグナル伝達の異常な下方制御は、骨粗鬆症、糖尿病及び神経変性疾患と関係している。Wnt/β-カテニン経路は、ヒトがんの治療標的であり、様々なWnt阻害剤が、様々なヒトがんの前臨床及び臨床試験において検査されてきた:PORCN阻害剤、Wntリガンドアンタゴニスト(FZDデコイ受容体)、FZDアンタゴニスト/モノクローナル抗体、CBP/β-カテニン結合阻害剤及びβ-カテニン標的阻害剤。XAV939、JW-55、RK-287107及びG007-LKを含み、アキシンの安定化によりβ-カテニン安定化を下方制御するタンキラーゼ阻害剤も、開発されている(Jung及びParkによる総説、Experimental & Molecular Medicine、2020、52巻、183~191頁; Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/))。
【0013】
サイトカインTGF-βは、多くの細胞機能、例えば、炎症、細胞増殖及び分化に関与する。TGF-β経路は、構造が類似している3つサイトカイン:TGF-β1、2及び3、並びに膜貫通受容体から構成される。主に、Smadチャネルを活性化するが、Erk、JNK、p38 MAPK及びGTPアーゼチャネルも活性化する(Umbarkar等、JACC Basic Transl. Sci.、2019、4巻、41~53頁)。TGF-βシグナル伝達の異常な上方制御は、がん及び線維症に関連する。TGF-β経路は、ヒトがん及び線維化疾患の治療標的である。TGF-β経路阻害剤は、様々なヒトがん及び線維化疾患、例えば、特発性肺線維症、強皮症、瘢痕等の前臨床及び臨床試験において検査されてきた:抗TGFβ2アンチセンスオリゴヌクレオチド(AP-12009、AP-11014、NovaRx);小分子TGFβRI又はTGFβRI&RIIキナーゼ阻害剤(LY-2157299、SB-431542及び多くの他のもの);抗パンTGFβ抗体(GC-1008;ID11、SR-2F、2G7);TGFβRIIIのペプチド断片(P-144);Smad相互作用ペプチドアプタマー(Trx-xFoxH1b/Trx-Lef1);抗TGFβ2抗体(レルデリムマブ(Lerdelimumab)又はCAT-152);抗TGFβ1抗体(メテリムマブ(Metelimumab)又はCAT-192);安定した可溶性TGFβRII(可溶性TBR2-Fc)(Akhurst,RJによる総説、Current Opinion in Investigational Drugs、2006、7巻、513~521頁; Nagaraj N.S. & Datta P.K.、Expert Opin. Investig Drugs、2010、19巻、77~91頁)。
【0014】
軟骨中間層タンパク質1(CILP-1)は関節軟骨の軟骨細胞に主に見出されるマトリックス-細胞タンパク質であるが、その発現は、ヒト突発性拡張型心筋症及び梗塞において有意に高いことが最近見出された(van Nieuwenhoven等、Scientific Reports、2017、7巻、16042頁; Yung等、Genomics、2004、83巻、281~297頁)。正常なマウスの心臓では、CILPは心筋細胞及び線維芽細胞によって発現され、タンパク質は、細胞質基質、核画分及び細胞外マトリックスに見出される(van Nieuwenhoven等、Scientific Reports、2017、7巻、16042頁; Zhang等、Journal of molecular and cellular cardiology、2018、116巻、135~144頁)。CILP-1タンパク質の発現は、誘導された心臓線維症のマウスモデルで増加し、その発現はTGF-β1によって刺激される(Mori等、Biochemical and biophysical research communications、2006、341巻、121~127頁)。
【0015】
LTBP-2タンパク質は、潜在型TGFβ1-結合タンパク質ファミリーのタンパク質であり、TGF-β経路に関連する細胞外マトリックスタンパク質である。LTBP2はTGF-β1の放出を制御し、TGF-β1はLTBP-2の発現を促進する(Bai等、Biomarkers、2012、17巻、407~415頁; Sinha等、Cardiovascular Research、2002、53巻、971~983頁)。加えて、LTBP-2は、マウス及び心停止後の患者の心筋の線維化領域に高度に発現及び局在化している(Gabrielsen等、Journal of molecular and cellular cardiology、2007、42巻、870~883頁; Park等、Circulation、2018、138巻、1224~1235頁)。
【0016】
Wnt及びTGF-βシグナル伝達はまた、哺乳類多能性幹細胞個体群の分化又は哺乳類分化細胞の再プログラム化を介した再生医療の標的でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,573,099号
【特許文献2】米国特許第6,506,559号
【特許文献3】国際特許出願公開第01/36646号
【特許文献4】国際特許出願公開第99/32619号
【特許文献5】国際特許出願公開第01/68836号
【特許文献6】米国特許第5,173,414号
【特許文献7】米国特許第5,139,941号
【特許文献8】国際特許出願公開第92/01070号
【特許文献9】国際特許出願公開第93/03769号
【特許文献10】国際特許出願公開第2019/193119号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Levitas等、Europ. J. Hum. Genet.、2010、18巻: 1160~1165頁
【非特許文献2】Burke等、JCI Insight. 2016;1(6):e86898
【非特許文献3】Ponikowski等、European Heart Journal、2016、37、2129~2200頁
【非特許文献4】Duboc等、Journal of the American College of Cardiology、2005、45、855~857頁
【非特許文献5】Rao等、Circ. Res.、2010、106巻、1798~1806頁
【非特許文献6】Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/)
【非特許文献7】Yoon等、Journal of molecular and cellular cardiology、2010、49巻、294~303頁
【非特許文献8】He等、PNAS、2010、107巻、21110~21115頁
【非特許文献9】Kobayashi等、Nature Cell Biology、2009、11巻、46~55頁
【非特許文献10】Lin等、American Journal of physiology Cell physiology、2016、311巻、C710~C719頁
【非特許文献11】Mastri等、American Journal of physiology Cell physiology、2014、306巻、C531~C539頁
【非特許文献12】Wu等、International Journal of biological sciences、2020、16巻、730~738頁
【非特許文献13】Ge及びGreenspan、The journal of Cell Biology、2006、175巻、111~120頁
【非特許文献14】Jung及びParkによる総説、Experimental & Molecular Medicine、2020、52巻、183~191頁
【非特許文献15】Umbarkar等、JACC Basic Transl. Sci.、2019、4巻、41~53頁
【非特許文献16】Akhurst, RJによる総説、Current Opinion in Investigational Drugs、2006、7巻、513~521頁
【非特許文献17】Nagaraj N.S. & Datta P.K.、Expert Opin. Investig Drugs、2010、19巻、77~91頁
【非特許文献18】van Nieuwenhoven等、Scientific Reports、2017、7巻、16042頁
【非特許文献19】Yung等、Genomics、2004、83巻、281~297頁
【非特許文献20】Zhang等、Journal of molecular and cellular cardiology、2018、116巻、135~144頁
【非特許文献21】Mori等、Biochemical and biophysical research communications、2006、341巻、121~127頁)
【非特許文献22】Bai等、Biomarkers、2012、17巻、407~415頁
【非特許文献23】Sinha等、Cardiovascular Research、2002、53巻、971~983頁
【非特許文献24】Gabrielsen等、Journal of molecular and cellular cardiology、2007、42巻、870~883頁
【非特許文献25】Park等、Circulation、2018、138巻、1224~1235頁
【非特許文献26】Molenaar等、Cell、1996、86巻、391~399頁
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者は、Wnt経路及びTGF-β経路の両方が、遺伝子誘導拡張型心筋症のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DBA2mdxマウス)及びチチノパシー(DeltaMex5マウス)の2つのモデルにおいて調節不全であり、遺伝子が過剰発現されることを見出した。大部分の過剰発現遺伝子には、Wnt経路のWISP2、DKK3及びSFRP2遺伝子、並びにTGF-β経路のCILP-1及びLTBP-2遺伝子が含まれた。遺伝性拡張型心筋症の重症モデルであるDeltaMex5マウスモデルを使用して、発明者は、DeltaMex5マウスにおけるWISP2、DKK3又はSFRP2の過剰発現によるWnt経路の遺伝子導入媒介調節、及びCILP-1の過剰発現又はLTBP-2の阻害によるTGF-β経路の阻害が、心臓線維症の有意な改善を示したことを示した。
【0020】
これらの結果は、特に、WISP2、DKK3又はSFRP2の過剰発現によるWnt経路の調節、及びCILP-1の過剰発現又はLTBP-2の阻害によるTGF-β経路の調節が、遺伝子誘導心筋症、例えば、遺伝子のサイズのために遺伝子導入アプローチが不可能であるチチノパシーのための治療アプローチを表すことを示している。
【0021】
本発明は、遺伝性拡張型心筋症の処置における使用のための、Wnt又はTGF-β経路の発現可能なモジュレーターに関する。
【0022】
一部の実施形態において、モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の標的タンパク質の活性を調節し、アプタマー;抗体、組換え標的タンパク質、阻害性ペプチド、融合タンパク質、デコイ受容体、可溶性タンパク質及びドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される。
【0023】
一部の実施形態において、モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の標的遺伝子の発現を調節し、干渉RNA分子、リボザイム、ゲノム又はエピゲノム編集酵素複合体及び標的導入遺伝子からなる群から選択される。
【0024】
一部の実施形態において、モジュレーターは、Wnt経路の阻害剤若しくはアクチベーター、又はTGF-β経路の阻害剤である。
【0025】
一部の好ましい実施形態において、モジュレーターは、CILP-1、CCN5/WISP2、DKK3若しくはSFRP2のアクチベーター、又はLTBP2の阻害剤である。
【0026】
一部のより好ましい実施形態において、モジュレーターは、LTBP2発現を特異的に減少する干渉RNA、好ましくは、配列番号11~14からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むshRNAである。
【0027】
一部のより好ましい実施形態において、モジュレーターは、CILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2タンパク質、又はこれらのバリアントをコードする導入遺伝子である。好ましくは、CILP-1、DKK3、SRFP2、CCN5/WISP2タンパク質又はこれらのバリアントは、配列番号2、4、6及び8の配列、並びに前記配列のいずれか1つに少なくとも85%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含む。
【0028】
一部の好ましい実施形態において、モジュレーターは、ヒト心筋トロポニンTプロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2vプロモーター(MLC-2v)、ミオシン軽鎖2aプロモーター(MLC-2a)、CARP遺伝子プロモーター、アルファ-心筋アクチンプロモーター、アルファ-トロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター及び筋小胞体/小胞体Ca2+ ATPアーゼ(SERCA)プロモーターからなる群から選択される心筋プロモーターを含む、好ましくはヒト心筋トロポニンTプロモーターを含む核酸構築物の中に挿入される。
【0029】
一部のより好ましい実施形態において、核酸構築物は、遺伝子療法用のベクターに含有され、前記ベクターは、有利にはウイルス粒子、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む。前記AAV粒子は、好ましくはAAV-1、AAV-6、AAV-8、AAV-9及びAAV9.rh74血清型からなる群から選択されるAAV血清型に由来する、より好ましくはAAV9.rh74に由来するカプシドタンパク質を含む。
【0030】
一部のより好ましい実施形態において、遺伝性心筋症は、ラミニン、エメリン、フクチン、フクチン関連タンパク質、デスモコリン、プラコグロビン、リアノジン受容体2、筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ、ホスホランバン、ラミンA/C、ジストロフィン、テレソニン、アクチニン、デスミン、サルコグリカン、タイチン、心筋トロポニン、ミオシン、心筋アクチン、RNA結合モチーフタンパク質20、BCL2関連アサノジーン3、デスモプラキン、タファジン及びナトリウムチャネルからなる群から選択される遺伝子、好ましくはジストロフィン又はタイチン遺伝子における突然変異により引き起こされる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
モジュレーター
本発明は、遺伝性拡張型心筋症(DCM)の処置のための、Wnt又はTGF-β経路の発現可能なモジュレーターの使用に関する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「モジュレーター」は、アクチベーター又は阻害剤を指す。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「発現可能なモジュレーター」は、組換えDNA技術により産生されうる又は遺伝子導入により送達されうるモジュレーター(アクチベーター又は阻害剤)を指す。したがって、発現可能なモジュレーターは、リボ核酸(RNA)分子又はタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチドからなる。本発明は、特に、RNA分子阻害剤、例えば、干渉RNA(siRNA、shRNA)、CRISPRガイドRNA、リボザイム及びWnt又はTGF-β経路のアプタマー標的化成分を包含する。本発明はまた、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドモジュレーター、例えば、Wnt又はTGF-β経路の成分、これらのバリアント若しくは誘導体(断片、融合タンパク質、デコイ受容体、可溶性タンパク質、ドミナントネガティブ変異体)、並びに断片及び発現可能な誘導体を含むWnt又はTGF-β経路の成分に向けられた抗体も包含する。
【0034】
本明細書で使用されるとき、ペプチド又はポリペプチドは交換可能に使用されて、任意の長さのペプチド又はタンパク質断片を指す。
【0035】
本明細書で使用されるとき、用語「心臓細胞」は、特に、心筋細胞、筋芽細胞及び幹細胞を含む。
【0036】
「a」、「an」及び「the」は、文脈から明白に示されない限り、複数の参照を含む。このように、用語「a」(若しくは「an」)、「1つ又は複数(one or more)」又は「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書において交換可能に使用することができ、特定されない限り、「又は(or)」は「及び/又は(and/or)」を意味する。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「Wnt又はTGF-β(TGFベータ)経路の成分」は、Wnt又はTGF-β経路のリガンド、受容体、シグナル伝達分子又はモジュレーター(アクチベーター若しくはモジュレーター)を含む、この経路の任意の成分を指す。そのような成分は、当該技術に周知である(例えば、Rao等、Circ. Res.、2010、106巻、1798~1806頁及びUmbarkar等、JACC Basic Transl. Sci.、2019、4巻、41~53;Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/)を参照されたい)。
【0038】
「Wnt又はTGF-β経路のモジュレーター」、「Wnt又はTGF-βシグナル伝達のモジュレーター」、又は「Wnt又はTGF-βシグナル伝達経路のモジュレーター」は、Wnt又はTGF-βシグナル伝達を、例えば、Wntリガンド又はTGF-βサイトカインをその同族受容体に結合することにより伝達されるシグナル伝達カスケードを介したWnt又はTGF-β標的遺伝子の転写を活性化又は阻害する化合物又は分子を指す。モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の特定の成分(Wnt又はTGF-β経路標的遺伝子又はタンパク質)に作用する。モジュレーターは、経路の成分の発現又は活性を阻害又は活性化しうる。標的は、Wnt又はTGF-β経路の任意の成分、例えば、Wnt又はTGF-β経路のリガンド、受容体、シグナル伝達分子又はモジュレーターでありうる。アクチベーターは、経路を直接活性化しうる、又は阻害剤の発現若しくは活性を阻害しうる。同様に阻害剤は、経路を直接阻害しうる、又は阻害剤の発現若しくは活性を活性化しうる。調節は、直接的であっても間接的であってもよい。直接的な調節は、標的に特異的に向けられる。間接的な調節は、標的の任意のコエフェクター、例えば、限定されることなく、前記標的のリガンド若しくはコリガンド(co-ligand)、受容体若しくは共受容体、又は補助因子に向けられる。モジュレーター(阻害剤又はアクチベーター)は、Wnt又はTGF-β経路の特定の標的タンパク質に結合し、標的の特定のタンパク質/タンパク質相互作用を妨害若しくは促進しうる、又は標的の活性若しくは機能を調節しうる。或いは、モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の標的遺伝子の発現を阻害又は活性化する。モジュレーターは阻害剤であってもよく、標的遺伝子転写物(mRNA)の特定の配列に結合し、標的遺伝子の発現を阻害する。モジュレーターは、標的遺伝子の導入遺伝子であってもよく、標的遺伝子及びタンパク質又は組換え標的タンパク質の過剰発現(surexpression)を生じて、標的タンパク質の活性を増加する。
【0039】
典型的には、Wnt又はTGF-β経路のモジュレーターは、Wnt又はTGF-βシグナル伝達を、化合物の投与の前又は非存在下のWnt又はTGF-βシグナル伝達と比較して、対象において(又はin vitroの細胞において)少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、好ましくは70%を超えて、更により好ましくは80%を超えて、95%を超えて、99%を超えて、更には100%(検出可能な活性なしに相当する)調節する化合物を指す。
【0040】
Wnt又はTGF-β経路のモジュレーターは、当該技術に周知の様々なアッセイにより、例えば、細胞Wnt又はTGF-βレポーターアッセイにより確認することができる。Wntレポーターアッセイの例は、TOPフラッシュアッセイ(Molenaar等、Cell、1996、86巻、391~399頁)を含み、広く使用されており、TOP-flashの変形が利用可能である。別のアッセイは、APCタンパク質の突然変異を持ち、そのことが構造的活性型の伝統的なWntシグナル伝達につながる、SW480細胞を使用するTCF/LEFレポーターアッセイである(Deshmukh等、Osteoarthritis and Cartilage、2018、26巻、18~27頁)。TGF-βレポーターアッセイの例は、TGF-β/SMADルシフェラーゼレポーター細胞系又はレンチウイルスベクターを含む。
【0041】
典型的には、Wnt又はTGF-β経路のモジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の成分(Wnt又はTGF-βの標的遺伝子又はタンパク質)の発現又は活性を、化合物の投与の前又は非存在下のWnt又はTGF-β経路の成分の発現又は活性と比較して、対象において(又はin vitroの細胞において)少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、好ましくは70%を超えて、更により好ましくは80%を超えて、90%を超えて、95%を超えて、99%を超えて、更には100%(検出可能な活性なしに相当する)調節(増加又は減少)する化合物でありうる。本明細書で使用されるとき、Wnt又はTGF-β経路標的遺伝子発現の調節は、調節が誘導されない状況と比較した、Wnt若しくはTGF-β経路標的遺伝子又は前記Wnt若しくはTGF-β経路標的遺伝子によりコードされたタンパク質の発現又はタンパク質活性又はレベルの任意の増加又は減少を含む。増加又は減少は、調節の標的にならないWnt若しくはTGF-β経路標的遺伝子の発現又はWnt若しくはTGF-β経路標的タンパク質のレベルと比較して、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%でありうる。
【0042】
Wnt又はTGF-β経路標的遺伝子転写物(mRNA)の発現レベルは、当業者に公知の任意の適した方法により決定されうる。例えば、試料に含有される核酸は、標準の方法によって、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を使用して先ず抽出されるか、又は製造業者の使用説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出される。抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット分析)及び/又は増幅(例えば、RT-PCR)によって次に検出される。標的タンパク質の発現レベルも、当業者に公知である任意の好適な方法によって決定することができる。タンパク質の量は、例えば半定量的ウエスタンブロット、酵素標識及び媒介イムノアッセイ、例えばELISA、ビオチン/アビジンタイプのアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、質量分析若しくは免疫沈降によって、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって測定することができる。
【0043】
本発明の文脈において、本発明によるWnt又はTGF-β経路のモジュレーターは、好ましくはその標的タンパク質又は遺伝子に対して選択的である。「選択的」とは、モジュレーターの親和性が、別のタンパク質又は遺伝子への親和性より少なくとも10倍、好ましくは25倍、より好ましくは100倍、なお好ましくは500倍高いことを意味する。
【0044】
Wnt又はTGF-β経路モジュレーターは、遺伝性拡張型心筋症(DCM)を患っている対象において、心臓線維症を改善するために使用される。本出願の実施例に示されているように、Wnt又はTGF-β経路モジュレーターは、遺伝性拡張型心筋症(DCM)、特に遺伝性心筋症を患っている対象において線維症を改善するために必要であり、十分である。線維症の改善は、DCMの動物モデルにおける、例えば、当該技術に周知であり、本出願の実施例に開示されているマウスモデル:タイチン遺伝子の最後から二番目のエクソン(Mex5)の欠失を有するDeltaMex5マウス(タイチンMex5-/ Mex5-;Charton等、Human molecular genetics、2016、25巻、4518~4532頁)及びジストロフィン遺伝子のエクソン23に点変異を有するDBA2mdxマウスにおけるWnt又はTGF-β経路モジュレーターの投与によって決定することができる。心臓の線維症の改善は、未処置対照と比較した処置動物における組織学的分析(シリウスレッド染色)後の心臓の線維化組織の減少、又はRT-PCR若しくは免疫組織学的分析後の心臓における線維症マーカーレベル(フィブロネクチン、ビメンチン、コラーゲン1a1及びコラーゲン3a1)の減少によって決定されうる。正常なマウス(未処置)は、疾患マウスの処置の効率を評価する陽性対照として有利に使用される。
【0045】
本発明によると、Wnt又はTGF-β経路のモジュレーターは、Wnt若しくはTGF-β経路標的遺伝子の遺伝子発現、又はWnt若しくはTGF-β経路標的タンパク質の活性を調節する能力を有する任意の発現可能な化合物のうちから選択されうる。
【0046】
一部の実施形態において、モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の標的タンパク質の活性を調節する。活性のモジュレーターは、アプタマー;標的タンパク質又はそのリガンド、受容体、共受容体に向けられた、抗体断片及びその発現可能な誘導体を含む抗体(アゴニスト及びアンタゴニスト);組換え標的タンパク質、標的タンパク質バリアント又はその誘導体、例えば、融合タンパク質、可溶性タンパク質及びドミナントネガティブ変異体;デコイ受容体、並びに阻害性ペプチドを含む群から選択されうる。
【0047】
アプタマーは、分子認識に関して抗体の代替物を表す分子のクラスである。アプタマーは、高い親和性及び特異性を持って実質的にあらゆるクラスの標的分子を認識する能力を有する、オリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.及びGold L.が1990年に記載したようにランダム配列ライブラリの指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化(SELEX)を介して単離され、任意選択で化学的に修飾されうる。Smad相互作用ペプチドアプタマー(Trx-xFoxH1b/Trx-Lef1)は、TGF-ベータ阻害剤である(Akhurst, RJによる総説、Current Opinion in Investigational Drugs、2006、7巻、513~521頁; Nagaraj N.S. & Datta P.K.、Expert Opin. Investig Drugs、2010、19巻、77~91頁)。
【0048】
本明細書で使用されるとき、用語「抗体」は、免疫グロブリンの少なくとも1つの抗原結合領域を含むタンパク質を指す。抗原結合領域は、1又は2つの可変ドメイン、例えば、VHドメイン及びVLドメイン、又は単一VHH若しくはVNARドメインを含むことができる。用語「抗体」は、任意のアイソタイプの完全長免疫グロブリン、少なくとも抗原結合領域を含むその機能性断片、及びその誘導体を包含する。抗体の抗原結合断片は、例えば、Fv、scFv、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fabc及びsdAb(VHH、V-NAR)を含む。抗体誘導体は、限定されることなく、多特異性(polyspecific)又は多価の抗体、細胞内抗体(intrabody)及びイムノコンジュゲート(immunoconjugate)を含む。細胞内抗体は、同じ細胞で産生された後に抗原に細胞内で結合する抗体である(総説については、例えば、Marschall AL、Duebel S及びBoeldicke T、「Specific in vivo knockdown of protein function by intrabodies」、MAbs. 2015;7(6)巻:1010~35頁を参照されたい)。抗体は、グリコシル化されうる。抗体は、抗体依存性細胞障害性及び/若しくは補体媒介性細胞障害性において機能的でありうる、又はこれらの活性の一方若しくは両方において非機能的でありうる。抗体は、当該技術に周知の標準的な方法によって、例えば、ハイブリドーマ技術、選択的リンパ球抗体方法(SLAM)、遺伝子導入動物、組換え抗体ライブラリ又は合成的産生によって調製される。幾つかの抗TGF-β抗体が、線維化疾患のヒトがんの前臨床及び臨床試験で検査されてきた:抗パンTGFβ抗体(GC-1008;ID11、SR-2F、2G7);抗TGFβ2抗体(レルデリムマブ又はCAT-152);抗TGFβ1抗体(メテリムマブ又はCAT-192)(Akhurst,RJによる総説、Current Opinion in Investigational Drugs、2006、7巻、513~521頁; Nagaraj N.S. & Datta P.K.、Expert Opin. Investig Drugs、2010、19巻、77~91頁)。FZD受容体に結合し、WNTリガンドの結合を遮断するFZDアンタゴニストモノクローナル抗体が開発されている:バンチクツマブ(Vantictumab)(OMP-18R5);OTSA101(Jung及びParkによる総説、Experimental & Molecular Medicine、2020、52巻、183~191頁; Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/))。
【0049】
TGF-β経路の他のペプチド阻害剤は、TGFβRIII(P-144)のペプチド断片及び安定した可溶性TGFβRII(可溶性TBR2-Fc)を含む(Akhurst, RJによる総説、Current Opinion in Investigational Drugs、2006、7巻、513~521頁; Nagaraj N.S. & Datta P.K.、Expert Opin. Investig Drugs、2010、19巻、77~91頁)。WNT経路のペプチド阻害剤は、Dickkopf(Dkk)、アキシン、GSK、SFRP(分泌フリズルド関連タンパク質)及びSRFPペプチドを含み、FZDデコイ受容体のOMP-54F28は、ヒトIg Fcドメインに融合したFZD8のシステインリッチドメイン、ドミナントネガティブディシェベルド又はTCF.OTSA101を含む(Jung及びParkによる総説、Experimental & Molecular Medicine、2020、52巻、183~191頁; Wntホームページ(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/))。
【0050】
一部の実施形態において、モジュレーターは、Wnt又はTGF-β経路の標的遺伝子の発現を調節する。発現のモジュレーターは、干渉RNA分子、リボザイム、及びゲノム又はエピゲノム編集酵素複合体、並びに標的導入遺伝子を含む群から選択されうる。干渉RNA分子は、限定されることなく、siRNA及びshRNAを含む。ゲノム及びエピゲノム編集系は、任意の公知の系、例えば、CRISPR/Cas、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼに基づいていてもよい。干渉RNA分子、リボザイム、ゲノム及びエピゲノム編集酵素は、当該技術に周知であり、本発明によるWNT又はTGF-β経路の標的遺伝子の阻害剤は、当該技術に周知のWNT又はTGF-β経路の遺伝子の配列を使用する技術に基づいて、容易に設計することができる。
【0051】
一部の特定の実施形態において、モジュレーターは、本開示によるWnt経路のアクチベーター若しくは阻害剤、又はTGF-β経路の阻害剤である。一部の特定の実施形態において、モジュレーターは、Wnt経路のアクチベーターである。一部の特定の実施形態において、モジュレーターは、本開示によるWnt又はTGF-β経路の阻害剤である。一部の特定の実施形態において、モジュレーターは、本開示によるWnt経路の阻害剤である。一部の特定の実施形態において、モジュレーターは、本開示によるTGF-β経路の阻害剤である。
【0052】
一部の実施形態において、モジュレーターは、TGF-β経路のCILP-1及びLTBP2から、WNT経路のCCN5/WISP2、DKK3及びSFRP2からなる群から選択される、WNT又はTGF-β経路の遺伝子又はタンパク質を標的にする。一部の好ましい実施形態において、本開示によるモジュレーターは、CILP-1、CCN5/WISP2、DKK3若しくはSFRP2のアクチベーター、又はLTBP2の阻害剤である。
【0053】
軟骨中間層タンパク質の遺伝子(CILP又はCILP-1)(Gene ID:8483)は、CILP-1前タンパク質(2020年4月25日に入手したGenBank/NCBI受入番号:NP_003604.4;配列番号2)をコードする。mRNAは、2020年4月25日に入手したGenBank受入番号NM_003613.4;配列番号1の配列を有する。CILP-1前タンパク質は、シグナルペプチド(1~21位)、前タンパク質(22~1184位)、CILP-1 N末端ドメイン(22~720位)、CILP-1 C末端ドメイン(725~1184位)を含む1184アミノ酸配列を有する。完全長及びN末端ドメインは、IGF-1アンタゴニストとして機能する。2つのCILP-1アイソフォームX1及びX2が開示されている(2020年5月28日に入手したGenBank受入番号XP_016878167.1及びXP_016878168.1)。
【0054】
dickkopf WNTシグナル伝達経路阻害剤3(DKK3)の遺伝子(GeneID:27122)は、DKK3タンパク質前駆体(2020年4月27日に入手したGenBank/NCBI受入番号NP_056965.3;配列番号4)をコードする。mRNA(転写バリアント1)は、2020年4月27日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_015881.5(配列番号3)の配列を有する。DKK3タンパク質前駆体は、シグナルペプチド(1~21位)を含む350アミノ酸を有する。成熟タンパク質は、22~350位のものである。
【0055】
分泌フリズルド関連タンパク質2(SFRP2)の遺伝子(GeneID:6423)は、SRFP2タンパク質前駆体(2020年5月31日に入手したGenBank/NCBI受入番号NP_003004.1;配列番号6)をコードする。mRNAは、2020年5月31日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_003013.3(配列番号5)の配列を有する。SRFP2タンパク質前駆体は、シグナルペプチド(1~19位)を含む295アミノ酸配列を有する。成熟タンパク質は、20~295位のものである。
【0056】
細胞コミュニケーションネットワーク因子5(CCN5)の遺伝子(GeneID:8839)は、CCN5/WISP2タンパク質前駆体(2020年5月3日に入手したGenBank/NCBI受入番号NP_003872.1;配列番号8)をコードする。mRNA(転写バリアント3)は、2020年5月3日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_003881.3(配列番号7)の配列を有する。CCN5/WISP2タンパク質前駆体は、シグナルペプチド(1~23位)を含む250アミノ酸配列を有する。成熟タンパク質は、24~250位のものである。
【0057】
潜在型トランスフォーミング成長因子ベータ結合タンパク質2(LTBPP2)の遺伝子(GeneID:4053)は、LTBP2タンパク質前駆体(2020年5月8日に入手したGenBank/NCBI受入番号NP_000419.1;配列番号10)をコードする。mRNAは、2020年5月8日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_000428.3、mRNA;配列番号9の配列を有する。LTBP2タンパク質前駆体は、シグナルペプチド(1~35位)を含む1821アミノ酸配列を有する。成熟タンパク質は、36~1821位のものである。
【0058】
多数の異なる哺乳類CILP-1、DKK3、SFRP2、CCN5及びLTBP2タンパク質の遺伝子配列は、公知であり、ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ウサギ又はラットが挙げられるが、これらに限定されず、配列データベースで容易に見出すことができる。
【0059】
LTBP2阻害剤
一部の好ましい実施形態において、モジュレーターはLTBP2阻害剤である。特定の実施形態において、前記LTBP2阻害剤は、LTBP2発現を特異的に減少、阻害又は抑制する干渉RNAである。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「iRNA」、「RNAi」、「干渉性核酸」又は「干渉性RNA」は、標的タンパク質の発現を下方制御することが可能である任意のRNAを意味する。核酸分子干渉は、dsRNAが転写後レベルで標的遺伝子の発現を特異的に抑制する現象を指す。正常な状態では、RNA干渉は、数千の塩基対長の二本鎖RNA分子(dsRNA)によって開始される。in vivoで、細胞に導入されるdsRNAは、siRNAと呼ばれる短いdsRNA分子の混合物に切断される。切断を触媒する酵素Dicerは、RNアーゼIIIドメインを含有するエンドRNアーゼである(Bernstein、Caudy等2001。Nature. 2001年1月18日;409(6818):363~6頁)。哺乳動物細胞では、Dicerによって生成されるsiRNAは長さが21~23bpであり、19又は20ヌクレオチドの二重鎖配列、2ヌクレオチドの3'オーバーハング及び5'-三リン酸末端を有する(Zamore、Tuschl等Cell. 2000年3月31日;101(1):25~33頁; Elbashir、Lendeckel等Genes Dev. 2001年1月15日;15(2): 188~200頁; Elbashir、Martinez等EMBO J. 2001年12月3日;20(23):6877~88頁)。
【0061】
前記干渉性RNAは、非限定例として、小さい阻害性RNA(siRNA)又は短いヘアピンRNAであってよい。
【0062】
別の実施形態では、小さい阻害性RNA(siRNA)は、本開示でLTBP2発現レベルを低下させるために使用する。LTBP2遺伝子発現は、LTBP2発現が特異的に阻害されるように、小さい二本鎖RNA(dsRNA)、又は小さい二本鎖RNAの生産を引き起こすベクター若しくは構築物を対象に投与することによって低減させることができる(すなわちRNA干渉又はRNAi)。適当なdsRNA又はdsRNAをコードするベクターを選択する方法は、その配列が公知である遺伝子のために当技術分野で周知である(例えばTuschl, T.等(1999); Elbashir, S. M.等(2001); Hannon, GJ.(2002); McManus, MT.等(2002); Brummelkamp, TR.等(2002);米国特許第6,573,099号及び第6,506,559号;及び国際特許出願公開第01/36646号、99/32619号及び01/68836号を参照)。
【0063】
好ましい実施形態では、短いヘアピンRNA(shRNA)を、本開示でCILP-1発現レベルを低下させるために使用する。短いヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉(RNAi)を通して標的遺伝子発現を静止するために使用することができるタイトなヘアピンターンを形成するRNAの配列である。細胞中のshRNAの発現は、プラスミドの送達によって、又はウイルス若しくは細菌ベクターを通して一般的に達成される。プロモーターの選択は、頑強なshRNA発現を達成するために必須である。第1に、U6及びHI等のポリメラーゼIIIプロモーターを使用した;しかし、これらのプロモーターは時空間制御を欠く。このように、shRNAの発現を調節するためにポリメラーゼIIプロモーターの使用へのシフトがあった。
【0064】
干渉性の核酸は、通常翻訳開始コドンの19~50ヌクレオチド下流の領域に対して設計されるが、5'UTR(非翻訳領域)及び3'UTRは通常回避される。選択された干渉性核酸の標的配列は、所望の遺伝子だけを標的にすることを確実にするために、ESTデータベースに対するBLAST検索にかけるべきである。干渉性核酸の調製及び使用を助けるために、様々な製品が市販されている。
【0065】
特定の実施形態では、干渉性核酸は、長さが少なくとも約10~40ヌクレオチド、好ましくは約15~30塩基ヌクレオチドのsiRNAである。特に、本開示による干渉性核酸は、以下:5’-GGAAGTCTAGTGACCAGAATA-3’ (配列番号11)、5’-GCTGGTGAAGGTGCAAATTCA-3’ (配列番号12)、5’-GCTTCTATGTGGCGCCAAATG-3’ (配列番号13)、及び5’-GCACCAACCACTGTATCAAAC-3’ (配列番号14)からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。
【0066】
より好ましい実施形態では、各々配列番号11~14の配列を含む最高4つの干渉性核酸が同時に使用される。
【0067】
好ましい実施形態では、前記干渉性核酸は、配列番号1~4からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、好ましくは配列番号11~14の全ての配列を含むshRNAである。
【0068】
本開示で使用するための干渉性核酸は、当技術分野で公知である手順を使用して構築され得る。特に、干渉性RNAは、線状(例えばPCR生成物)若しくは環状鋳型(例えば、ウイルス又は非ウイルスベクター)からin vitro転写によって生成され得、又はウイルス若しくは非ウイルスベクターからin vivo転写によって生成され得る。干渉性核酸は、強化された安定性、ヌクレアーゼ抵抗性、標的特異性及び向上した薬理学的特性を有するように改変され得る。例えば、アンチセンス核酸は、アンチセンスとセンス核酸の間で形成される二重鎖の物理的安定性を増加させるように設計されている改変されたヌクレオチド又は/及び主鎖を含み得る。
【0069】
別の特定の実施形態では、LTBP2阻害剤は、LTBP2遺伝子を標的にして不活性化することが可能な特異的ヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼ、TAL-ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又はCas9/CRISPR又はArgonauteのようなRNA/DNAガイドエンドヌクレアーゼ等の、異なる種類のヌクレアーゼを使用することができる。
【0070】
「標的遺伝子を不活性化する」とは、目的の遺伝子が機能的タンパク質の形で発現されないか又はより少なく発現されることを意図している。特定の実施形態では、前記ヌクレアーゼは1つの標的化遺伝子の切断を特異的に触媒し、それによって前記標的化遺伝子を不活性化する。
【0071】
用語「ヌクレアーゼ」は、DNA又はRNA分子、好ましくはDNA分子の中の核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒することが可能である野生型又はバリアント酵素を指す。特定の実施形態では、本開示による前記ヌクレアーゼは、Cas9/CRISPR複合体等のRNAガイドエンドヌクレアーゼである。RNAガイドエンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼがRNA分子と結合するゲノム操作ツールである。この系では、RNA分子ヌクレオチド配列が標的特異性を決定してエンドヌクレアーゼを活性化する(Gasiunas、Barrangou等2012; Jinek、Chylinski等2012; Cong、Ran等2013; Mali、Yang等2013)。Cas9/CRISPRはCas9ヌクレアーゼ及びここで単一のガイドRNAとも呼ばれるガイドRNAを含む。前記単一のガイドRNAは、好ましくはLTBP2遺伝子を標的にすることができる。
【0072】
前記標的遺伝子の不活性化は、例えば早発性終止コドンを導入するか、開始コドンを欠失させるか、又はRNAスプライシングを変更することによって、部位特異的塩基エディターを使用して実行することもできる。塩基編集は、DNA二本鎖切断をもたらすことなくDNAで正確な点突然変異を直接的に起こさせる。特定の実施形態では、塩基編集は、触媒的に障害のあるCasヌクレアーゼと一本鎖DNAの上で作動する塩基修飾酵素の間の融合を含む、DNA塩基エディターを使用して実行される(レビューのために、Rees H.A.等Nat Rev Genet. 2018。19(12):770~788頁を参照)
【0073】
CILP-1、DKK3、SRFP2、CCN5/WISP2アクチベーター
他の好ましい実施形態において、モジュレーターは、CILP-1、DKK3、SRFP2、CCN5/WISP2アクチベーターである。
【0074】
特に、アクチベーターは、組換えCILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2タンパク質、又は前記タンパク質をコードする導入遺伝子である。
【0075】
一部の好ましい実施形態において、アクチベーターは、CILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2、又はこれらのバリアントをコードする導入遺伝子である。
【0076】
本明細書で使用されるとき、用語「導入遺伝子」は、遺伝子産物をコードする外来性DNA又はcDNAを指す。遺伝子産物は、RNA、ペプチド又はタンパク質でありうる。遺伝子産物のコード領域に加えて、導入遺伝子は、発現を推進する又は高める1種又は複数種のエレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、応答エレメント、レポーターエレメント、インスレーターエレメント、ポリアデニル化シグナル、及び/又は他の機能性エレメントを含んでもよい又はこれらに関連しうる。本開示の実施形態は、任意の公知の適したプロモーター、エンハンサー、応答エレメント、レポーターエレメント、インスレーターエレメント、ポリアデニル化シグナル、及び/又は他の機能性エレメントを利用することができる。適したエレメント及び配列は、当業者に周知である。
【0077】
本開示による導入遺伝子は、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質、特に未変性の哺乳類、好ましくはヒトのCILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2タンパク質、又はこれらのバリアントをコードする任意の核酸配列でありうる。ヒトのCILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質は、それぞれ配列番号2、4、6及び8の配列に相当する。多数の異なる哺乳類CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質のコード配列は、公知であり、ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ウサギ又はラットが挙げられるが、これらに限定されず、配列データベースで容易に見出すことができる。或いは、コード配列は、ポリペプチド配列に基づいて当業者によって容易に決定することができる。
【0078】
好ましい実施形態において、前記導入遺伝子は、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質のコード配列を含み、配列番号1、3、5及び7の配列、並びに前記配列のいずれか1つに少なくとも70%、75%、80%、85%、90%又は95%の同一性を有する配列からなる群から選択されうる。
【0079】
特定の実施形態において、本開示による導入遺伝子は、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質バリアントをコードする任意の核酸配列でありうる。
【0080】
本明細書で使用されるとき、用語「バリアント」は、例えば、Wnt又はTGF-β経路を調節することができる機能性バリアントを指す。
【0081】
好ましくは、本明細書で使用されるとき、用語「バリアント」は、未変性配列に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。本明細書で使用されるとき、用語「配列同一性」又は「同一性」は、2つのポリペプチド配列の整列における位置のマッチ(同一アミノ酸残基)の数(%)を指す。配列同一性は、重複及び同一性が最大になり、同時に配列ギャップが最小になるように整列した場合の配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて多数の数学的な全体又は局所整列アルゴリズムのいずれかを使用して決定することができる。類似した長さの配列は、好ましくは、配列を最適には全長にわたって整列させる全体整列アルゴリズム(例えば、Needleman and Wunschアルゴリズム、Needleman and Wunsch、1970年)を使用して整列され、一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、局所整列アルゴリズム(例えば、Smith and Watermanアルゴリズム(Smith and Waterman、1981年)又はAltschulアルゴリズム(Altschul等、1997年; Altschul等、2005年))を使用して整列される。アミノ酸配列の同一性パーセントを決定する目的の整列は、当該技術の技能の範囲内の様々な方法によって、例えば、インターネットウェブサイト、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/から入手可能な公開されているコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、整列を測定するのに適切なパラメータを決定することができ、比較される配列の完全長にわたって最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムが挙げられる。本明細書の目的において、アミノ酸配列の同一性%値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適な全体整列を作り出す対配列整列プログラムのEMBOSS Needleを使用して生成される値を指し、ここではすべての研究パラメータは、デフォルト値に設定されており、即ち、スコアマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップエクステント=0.5、エンドギャップペナルティ=フォールス、エンドギャップオープン=10及びエンドギャップエクステント=0.5である。
【0082】
より好ましくは、用語「バリアント」は、30、25、20、15、10又は5個未満の置換、挿入及び/又は欠失により未変性配列と異なっているアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。好ましい実施形態において、バリアントは、1個又は複数の保存的置換、好ましくは15、10又は5個未満の保存的置換により未変性配列と異なっている。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、並びに小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内である。バリアントのCILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2活性は、上に記載された当業者に公知の任意の方法によって査定されうる。
【0083】
一部の好ましい実施形態において、前記CILP-1、DKK3、SRFP2及びCCN5/WISP2タンパク質又はバリアントは、配列番号2、4、6及び8の配列、並びに前記配列のいずれか1つに少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含む又はからなる。
【0084】
特定の実施形態において、前記導入遺伝子は、最適化された配列、特にコドン最適化配列であり、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2タンパク質又はこれらのバリアントをコードしうる。
【0085】
用語「コドン最適化」は、ヒトへのバイアスを表す(即ち、ヒト遺伝子おいて一般的であるが、他の哺乳類遺伝子又は非哺乳類遺伝子では一般的ではない)コドンが、ヒトへのバイアスを表さない同義コドン(同じアミノ酸をコードするコドン)に変わることを意味する。よって、コドンの変化は、コードされたタンパク質においてアミノ酸変化を何ももたらさない。
【0086】
本発明によると、Wnt及び/又はTGF-β経路の幾つかのモジュレーターは、心筋症(cardiomyopaties)の処置のために同時、別々又は順次に使用されうる。
【0087】
核酸構築物
好ましい実施形態において、前記モジュレーターは、モジュレーターをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に含まれる。
【0088】
本明細書で使用される用語「核酸構築物」は、組換えDNA技術の使用からもたらされる人工核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖又は二本鎖の核酸分子であり、さもなければ天然に存在しないであろう方法で組み合わされ、並置される、核酸配列のセグメントを含有するように改変されている。核酸構築物は、通常「ベクター」、すなわち外因的に作製されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0089】
核酸構築物は、個々の標的細胞又は組織(例えば、心臓を構成する細胞又は心臓細胞)において発現可能なDNA、RNA又は合成若しくは半合成核酸を含みうる、又はからなりうる。
【0090】
好ましくは、核酸構築物は、心臓を構成する細胞中の導入遺伝子の発現を指令する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結しているモジュレーターをコードする、前記配列を含む。そのような当該技術に周知の配列は、特にプロモーターを含み、導入遺伝子の発現を更に制御することができる制御性配列、例えば、限定されることなく、エンハンサー、ターミネーター、イントロン、サイレンサー、特に組織特異的サイレンサー、及びマイクロRNAを更に含む。
【0091】
制御配列は、心臓細胞により認識されるプロモーターを含んでもよい。プロモーターは、宿主細胞への導入時にモジュレーターの発現を媒介する転写制御配列を含有する。プロモーターは、細胞において転写活性を示す任意のポリヌクレオチドであってもよく、変異プロモーター、切断型プロモーター及びハイブリッドプロモーターが挙げられる。プロモーターは、構成的又は誘導的プロモーター、好ましくは構成的プロモーター、より好ましくは強力な構成的プロモーターでありうる。
【0092】
プロモーターはまた、組織特異的であり、特に心臓細胞に特異的でありうる。特定の実施形態において、本開示の核酸構築物は、上に記載されたように、導入遺伝子に作動可能に連結されている心臓特異的プロモーターを更に含む。本開示の文脈において、「心臓特異的プロモーター」とは、身体の任意の他の組織よりも心臓において活性であるプロモーターである。典型的には、心臓特異的プロモーターの活性は、他の組織よりも心臓において顕著に大きい。例えば、そのようなプロモーターは、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍又は少なくとも10倍多くの活性が(例えば、他の細胞又は組織における発現を駆動する能力と比較した、所定の組織における発現を駆動する能力により決定して)ありうる。したがって、心臓特異的プロモーターは、それが連結する遺伝子の心臓における活性な発現を可能にし、他の細胞又は組織における発現を防止する。
【0093】
適したプロモーターの例には、ヒトトロポニンT遺伝子プロモーター(TNNT2)、アルファミオシン重鎖プロモーター(α-MHC)、ミオシン軽鎖2プロモーター(MLC-2)、アルファ-心筋アクチンプロモーター、アルファ-トロポミオシンプロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、心筋ミオシン結合タンパク質Cプロモーター、筋小胞体/小胞体Ca2+ ATPアーゼ(SERCA)プロモーター、デスミンプロモーター、MHプロモーター、CK8プロモーター及びMHCK7プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、プロモーターはヒト心筋トロポニンTプロモーターである。筋肉ハイブリッドプロモーター(MHプロモーター)は、例えば、Piekarowicz等、Molecular Therapy、2019、15巻、157~169頁に開示されている。CK8は、筋肉クレアチンキナーゼプロモーター/エンハンサーエレメントである(Goncalves等、Mol. Ther.、2011、19巻、1331~1341頁)。MHCK7プロモーターは、筋肉クレアチンキナーゼ(CK)及びアルファ-ミオシン重鎖遺伝子のエンハンサー/プロモーター領域に基づいている(Salva等、Mol. Ther.、2007、15巻、320~329頁)。
【0094】
制御配列はまた、適切な転写開始、終止及びエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシング及びポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(即ち、Kozakコンセンサス配列);及び/又はタンパク質安定性を高める配列を含むこともできる。例えば、未変性、構成的、誘導的及び/又は組織特異的である制御配列の発現の大多数は当該技術において公知であり、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2をコードする核酸配列の発現を駆動することに利用されうる。典型的には、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2 TGF-βをコードする導入遺伝子は、転写プロモーター及び転写ターミネーターに作動可能に連結している。
【0095】
特定の実施形態において、核酸構築物は、イントロン、特に、プロモーターとコード配列の間に配置されているイントロンを含む。イントロンは、mRNAの安定性及びタンパク質の産生を増加するために導入される。加えて、前記イントロンに見出される代替オープンリーディングフレーム(ARF)の多数を減少するように、又は完全に除去さえするように設計された修飾イントロンは、導入遺伝子の発現を有意に改善することができる。
【0096】
下記の実施例に具現化されている特定の送達系の他に、様々な送達系が公知であり、上に記載された核酸構築物の投与に使用することができ、例えば、リポソームでのカプセル封入、マイクロ粒子、マイクロカプセル、CILP-1、DKK3、SRFP2又はCCN5/WISP2コード配列を発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス、レトロウイルス又は他のベクターの一部としての治療用の核酸の構築等である。
【0097】
好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、配列番号1~4の配列から選択される少なくとも1つの配列を含む、CILP-1遺伝子発現を抑圧することができる干渉性核酸を含む。より好ましくは、前記核酸構築物は、配列番号1~4の配列の4つの干渉性核酸を含む。
【0098】
別の好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、本開示によると、CILP-1、DKK3、SRFP2若しくはCCN5/WISP2又はこれらのバリアントをコードする導入遺伝子を含む。
【0099】
発現ベクター
前記の核酸構築物は、発現ベクターに含有されてもよい。
【0100】
本発明は、個体の細胞への核酸の送達及び発現に適している、特に遺伝子療法、より特定的には個体の標的組織又は細胞へ向けられる標的化遺伝子療法に適している任意のベクターを使用することができる。そのような当該技術に周知であるベクターには、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターが挙げられ、前記ベクターは、組込型又は非組込型、複製型又は非複製型でありうる。一部の特定の実施形態において、遺伝子療法は心臓細胞又は組織に向けられている。
【0101】
非ウイルスベクターには核酸を個体の細胞に導入すること又は維持することに一般的に使用される様々な(非ウイルス)薬剤が挙げられる。様々な方法により核酸を個体の細胞に導入することに使用される薬剤には、特に、ポリマーベース、粒子ベース、脂質ベース、ペプチドベース送達ビヒクル又はこれらの組み合わせ、例えば、限定されることなく、カチオン性ポリマー、デンドリマー、ミセル、リポソーム、エキソソーム、マイクロ粒子、及び脂質ナノ粒子(LNP)を含むナノ粒子、並びに細胞透過性ペプチド(CPP)が挙げられる。CPPは、特にカチオン性ペプチドであり、例えば、ポリ-L-リジン(PLL)、オリゴアルギニン、Tatペプチド、ペネトラチン又はトランスポータンペプチド及びこれらの誘導体、例えばPipである。核酸を個体の細胞に維持することに使用される薬剤(染色体に組み込まれた形態、そうでなければ染色体外形態)には、特にネイキッド核酸ベクター、例えば、プラスミド、トランスポゾン及びミニサークル、並びに遺伝子編集及びRNA編集系が挙げられる。トランスポゾンには、特に、機能亢進性Sleeping Beauty(SB100X)トランスポゾン系が挙げられる(Mates等、2009年)。遺伝子編集系及びRNA編集系は、任意の部位特異性エンドヌクレアーゼ、例えば、Casヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ等を使用することができる。加えて、これらのアプローチを有利に組み合わせて、本発明の核酸を個体の細胞に導入及び維持することができる。
【0102】
ウイルスベクターは、ウイルス形質導入と呼ばれるプロセスによって、元々細胞に透過して、目的の核酸を細胞に送達する能力がある。
【0103】
本明細書で使用されるとき、用語「ウイルスベクター」は、遺伝子材料を細胞に送達するように改変された非複製型の非病原性ウイルスを指す。ウイルスベクターにおいて、ウイルス遺伝子は複製のために必須であり、病毒性は目的の導入遺伝子の発現カセットに置き換えられる。よって、ウイルスベクターゲノムは、ウイルスベクター産生に必要なウイルス配列に隣接する導入遺伝子発現カセットを含む。
【0104】
本明細書で使用されるとき、用語「組換えウイルス」は、当該技術に公知の標準的組換えDNA技術により産生されるウイルス、特にウイルスベクターを指す。
【0105】
本明細書で使用されるとき、用語「ウイルス粒子(virus particle)」又は「ウイルス粒子(viral particle)」は、非病原性ウイルスの細胞外形態、特に、カプシドと呼ばれるタンパク質コートに囲まれている、一部の場合では宿主細胞膜の一部分に由来し、ウイルス糖タンパク質を含むエンベロープで囲まれているDNA又はRNAから作製される遺伝子材料で構成されるウイルスベクターの細胞外形態を意味することが意図される。
【0106】
本明細書で使用されるとき、ウイルスベクターは、ウイルスベクター粒子を指す。
【0107】
本発明の核酸(核酸構築物)の送達に好ましいベクターは、特に遺伝子療法、より特定的には個体の標的組織又は細胞、例えば心臓細胞又は組織に向けられた遺伝子療法に適したウイルスベクターである。特に、ウイルスベクターは、非病原性パルボウイルス、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、例えばガンマレトロウイルス、スプーマウイルス及びレンチウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、並びにヘルペスウイルスに由来しうる。ウイルスベクターは、好ましくは組込型ベクター、例えば、AAV又はレンチウイルスベクター、好ましくはAAVベクターである。レンチウイルスベクターは、目的の細胞/組織を標的にするため、別のウイルスのエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化されうる。
【0108】
ベクターは、ウイルスベクター産生に必要なウイルス配列、例えば、発現カセットに隣接するレンチウイルスLTR配列又はAAV ITR配列を含む。
【0109】
特定の実施形態において、ベクターは、粒子又は小胞、特に脂質ベースマイクロ又はナノ小胞又は粒子、例えば、リポソーム又は脂質ナノ粒子(LNP)である。より特定的な実施形態において、核酸はRNAであり、ベクターは上に記載された粒子又は小胞である。
【0110】
別の特定の実施形態において、ベクターはAAVベクターである。AAVベクターは、ヒト遺伝子療法のベクターとして相当な関心を集めている。ウイルスの良好な特性には、任意のヒト疾患との関連のその欠如、分裂及び非分裂細胞を感染させるその能力、並びに感染させることができる異なる組織に由来する多様な細胞系がある。
【0111】
AAVゲノムは、4681塩基を含有する、線状の一本鎖DNA分子で構成される(Berns及びBohenzky、1987、Advances in Virus Research (Academic Press社) 32:243~307頁)。ゲノムは各末端に逆方向末端反復(ITR)を含み、それは、ウイルスのためのDNA複製の起点として、及びパッケージングシグナルとしてシスで機能する。ITRは、概ね145bpの長さである。ゲノム内部の非反復部分は、2つの大きなオープンリーディングフレームを含み、それぞれAAV rep及びcap遺伝子として公知である。これらの遺伝子は、ビリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。特に、それらの見かけの分子量によりRep78、Rep68、Rep52及びRep40と呼ばれる少なくとも4つのウイルスタンパク質がAAV rep遺伝子から合成される。AAV cap遺伝子は、少なくとも3つのタンパク質、VP1、VP2及びVP3をコードする。AAVゲノムの詳細な記載のために、例えば、Muzyczka、N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁を参照。
【0112】
したがって、一実施形態では、上記の導入遺伝子を含む核酸構築物又は発現ベクターは、5'ITR及び3'ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5'ITR及び3'ITR配列を更に含む。
【0113】
本明細書で使用される用語「逆方向末端反復(ITR)」は、パリンドローム配列を含有し、折りたたまれてDNA複製の開始の間にプライマーとして機能するT字状のヘアピン構造を形成することができる、ウイルスの5'末端に位置するヌクレオチド配列(5'ITR)及び3'末端に位置するヌクレオチド配列(3'ITR)を指す。それらは、宿主ゲノムへのウイルスゲノムの組入れのため;宿主ゲノムからのレスキューのため;及び成熟したビリオンへのウイルス核酸のカプシド封入のためにも必要とされる。ITRは、ベクターゲノムの複製及びウイルス粒子へのそのパッケージングのためにシスで必要とされる。
【0114】
本開示のウイルスベクターで使用するためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有することができるか、又は挿入、欠失若しくは置換によって変更することができる。AAVの逆方向末端反復(ITR)の血清型は、任意の公知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。具体的な実施形態では、核酸構築物又はウイルスの発現ベクターは、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び現在公知であるか後に発見される任意の他のAAV血清型又は工学操作AAVを含む任意のAAV血清型のITRを使用して達成することができる。
【0115】
一実施形態では、核酸構築物は、対応するカプシドの5'ITR及び3'ITR、又は好ましくは血清型AAV-2の5'ITR及び3'ITRを更に含む。
【0116】
他方、本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、合成5'ITR及び/又は3'ITRを使用して;並びに異なる血清型のウイルス由来の5'ITR及び3'ITRを使用しても達成することができる。ウイルスベクター複製のために必要とされる全ての他のウイルス遺伝子は、下記のように、ウイルス産生細胞(パッケージング細胞)の中でトランスで提供することができる。したがって、ウイルスベクターへのそれらの組入れは任意選択である。
【0117】
一実施形態では、本開示の核酸構築物又はウイルスベクターは、ウイルスの5'ITR、ψパッケージングシグナル及び3'ITRを含む。「ψパッケージングシグナル」は、ウイルスゲノムのシス作用性ヌクレオチド配列であり、それは、一部のウイルス(例えばアデノウイルス、レンチウイルス…)では、複製の間にウイルスカプシドにウイルスゲノムをパッケージするプロセスのために必須である。
【0118】
組換えAAVウイルス粒子の構築は当技術分野で一般的に公知であり、例えば、米国特許第5,173,414号及び第5,139,941号; 国際特許出願公開第92/01070号、国際特許出願公開第93/03769号、Lebkowski等(1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁; Vincent等(1990) Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter、B. J.(1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁; Muzyczka、N.(1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁;及びKotin, R. M.(1994) Human Gene Therapy 5:793~801頁に記載されている。
【0119】
ウイルス粒子
好ましい実施形態では、本開示は、前記の核酸構築物又は発現ベクターをパッケージするウイルス粒子に関する。
【0120】
本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージして「ウイルスベクター粒子」とも呼ばれる「ウイルス粒子」を生成することができる。特定の実施形態では、前記の核酸構築物又は発現ベクターは、AAV由来のカプシドにパッケージされて「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を生成する。本開示は、本開示の核酸構築物又は発現ベクターを含み、好ましくはアデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を含むウイルス粒子に関する。
【0121】
用語AAVベクター粒子は、遺伝子操作された任意の組換えAAVベクター粒子又は突然変異体AAVベクター粒子を包含する。組換えAAV粒子は、特定のAAV血清型に由来するITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターを、同じか異なる血清型のAAVに対応する天然又は突然変異体Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子上でカプシドに封入することによって調製することができる。
【0122】
アデノ随伴ウイルスのウイルスカプシドのタンパク質には、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3が含まれる。様々なAAV血清型のカプシドタンパク質配列の間の差は、細胞侵入のために異なる細胞表面受容体の使用をもたらす。代わりの細胞内プロセシング経路と一緒に、これは各AAV血清型のために異なる組織向性を発生させる。
【0123】
天然に存在するAAVウイルス粒子の構造的及び機能的特性を改変及び向上させるために、いくつかの技術が開発されている(Bunning H等J Gene Med、2008; 10: 717~733頁; Paulk等Mol ther. 2018; 26(1):289~303頁; Wang L等Mol Ther. 2015; 23(12):1877~87頁; Vercauteren等Mol Ther. 2016; 24(6):1042~1049頁; Zinn E等、Cell Rep. 2015; 12(6):1056~68頁)。
【0124】
したがって、本開示によるAAVウイルス粒子では、所与のAAV血清型のITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターは、例えば: a)同じか異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質で作製されるウイルス粒子; b)異なるAAV血清型又は突然変異体からのカプシドタンパク質の混合物で作製されるモザイクウイルス粒子; c)異なるAAV血清型又はバリアントの間のドメインスワッピングによってトランケーションされたカプシドタンパク質で作製されるキメラウイルス粒子にパッケージすることができる。
【0125】
本開示による使用のためのAAVウイルス粒子は、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV2i8、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3B及びAAV9.rh74を含む任意のAAV血清型からのカプシドタンパク質を含むことができることを当業者は理解する(国際特許出願公開第2019/193119号に開示されるように)。
【0126】
ヒト心臓細胞への遺伝子導入のために、AAV血清型1、6、8、9及びAAV9.rh74が好ましい。AAV血清型9及びAAV9.rh74が心筋の細胞/心筋細胞での発現の誘導のために特に適している。具体的な実施形態では、AAVウイルス粒子は本開示の核酸構築物又は発現ベクター、好ましくはAAV9又はAAV9.rh74血清型からのカプシドタンパク質を含む。
【0127】
医薬組成物及び処置
Wnt又はTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子は、好ましくは、治療有効量のWnt又はTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子を含む医薬組成物の形で使用される。
【0128】
核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子、及び本発明に由来する医薬組成物は、遺伝子療法により、特に心臓細胞又は組織に向けられた標的化遺伝子療法により疾患を処置することにも使用されうる。本発明の医薬組成物はまた、細胞療法により、特に心臓細胞又は組織に向けられた細胞療法により疾患を処置することにも使用されうる。
【0129】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子療法」とは、個体の処置を指し、疾患を処置する目的で目的の核酸を個体の細胞に送達することを伴う。核酸の送達は、一般に、ベクターとしても公知である送達ビヒクルを使用して達成される。ウイルス及び非ウイルスベクターは、遺伝子を患者の細胞に送達するために用いることができる。
【0130】
本明細書で使用されるとき、「細胞療法」とは、本発明の核酸又はベクターで修飾されている細胞が、任意の適切な方法により、例えば、静脈内注射(注入)又は目的の組織への注射(植え込み若しくは移植)により、それらを必要とする個体に送達されるプロセスを指す。特定の実施形態において、細胞療法は、個体から細胞を収集すること、個体の細胞を本発明の核酸又はベクターで修飾すること及び修飾された細胞を患者に戻すように投与することを含む。本明細書で使用されるとき、「細胞」とは、単離細胞、天然又は人工細胞凝集体、バイオ人工細胞足場及びバイオ人工臓器又は組織を指す。
【0131】
本発明との関連で、治療有効量は、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を覆すか、緩和するか若しくは阻害するのに、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ又は複数の症状の進行を覆すか、緩和するか、阻害するのに十分な用量を指す。用語「有効用量」又は「有効薬量」は、所望の効果を達成するか又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と規定される。
【0132】
有効用量は、使用する組成物、投与経路、考慮する個体の身体的特性、例えば性別、年齢及び体重、併用医薬品等の因子、並びに医療当事者が認識する他の因子によって決定され、調整される。
【0133】
本発明の様々な実施形態では、医薬組成物は薬学的に許容される担体及び/又はビヒクルを含む。
【0134】
「薬学的に許容される担体」は、哺乳動物、特に適当な場合ヒトに投与されるとき、有害であるか、アレルギー性であるか、他の不都合な反応も起こさないビヒクルを指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤は、任意のタイプの無毒の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材又は製剤助剤を指す。
【0135】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のために薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらは、特に等張性、無菌の塩類溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は、場合によって滅菌水又は生理的食塩水の添加により注射用溶液の構成を可能にする乾燥した、特にフリーズドライ組成物であってよい。
【0136】
注射用の好適な医薬形態には、無菌の水性溶液又は懸濁液が含まれる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターに適合し、標的細胞へのウイルスベクター粒子の侵入を阻止しない添加物を含むことができる。全ての場合に、形態は無菌でなければならず、かつ容易なシリンジ性能が存在するという程度まで流体でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌類等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。適当な溶液の例は、緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル液である。
【0137】
Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子、本発明による医薬組成物は、任意の遺伝性拡張型心筋症(DCM又はCMD)の処置に使用される。
【0138】
遺伝性拡張型心筋症の処置は、好ましくは、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子又は本開示に由来する医薬組成物を使用する遺伝子療法によるものである。
【0139】
遺伝子誘発拡張型心筋症では、関与する大部分の遺伝子は、細胞接着及びシグナル伝達経路に関与する細胞外マトリックス又はゴルジ装置タンパク質(ラミニン、フクチン);細胞接合に関与するデスモソームタンパク質(デスモコリン、プラコグロビン);カルシウム恒常性に関与する筋小胞体タンパク質(RyR2、SERCA2a、ホスホランバン);心筋構造組織に関与する核エンベロープタンパク質(ラミンA/C);細胞骨格完全性及び筋力伝達に関与する細胞骨格タンパク質(ジストロフィン、テレソニン、α-アクチニン、デスミン、サルコグリカン);並びに筋力の発生及び伝達に関与するサルコメアタンパク質(タイチン、トロポニン、ミオシン、アクチン)を含む、心筋細胞の構造エレメントをコードする。
【0140】
多くの遺伝子の突然変異は、異なる形の拡張型心筋症(CMD)を引き起こすことが見出された。これらには、特に以下のものが含まれる:
- CMD1A、染色体1q22の上のラミンA/C遺伝子(LMNA)でのヘテロ接合突然変異(OMIM #150330);又は、ラミニンアルファ2(LAMA2又はMEROSIN)遺伝子でのヘテロ接合突然変異(OMIM #156225; Marques等、Neuromuscul. Disord.、2014、doi.org/10.10106/)によって引き起こされる拡張型心筋症-1A(OMIM #115200);
- 9q13の上のCMD1B(OMIM #600884); FDC遺伝子座と呼ばれる遺伝子は、D9S153とD9S152の間の区間に置かれた。拡張型心筋症と頻繁に関連しているフリートライヒ運動失調(OMIM #229300)は、心臓でカルシウムチャネルイオンコンダクタンスを調節するcAMP依存性プロテインキナーゼ(OMIM #176893)もそうするのと同じ領域へマッピングされる。9q22へマッピングされるTropomodulin(OMIM #190930)は、特に魅力的な候補遺伝子であった。
- 10q23の上のlimドメイン結合性3、LDB3(又は、ZASP)遺伝子(OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされる、左心室非圧縮の有る無しのCMD1C(OMIM #601493);
- 1q32の上のトロポニンT2、心臓(TNNT2)遺伝子(OMIM #191045)での突然変異によって引き起こされるCMD1D(OMIM #601494);
- 3p22の上のSCN5A遺伝子(OMIM #600163)での突然変異によって引き起こされるCMD1E(OMIM #601154);
- CMD1F:記号CMD1Fは、後にデスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)と同じであることが見出された障害のために以前使用された;
- 2q31の上のタイチン(TTN)遺伝子(OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるCMD1G(OMIM #604145);
- 2q14-q22の上のCMD1H(OMIM #604288);
- 2q35の上のデスミン(DES)遺伝子(OMIM #125660)での突然変異によって引き起こされるCMD1I(OMIM #604765);
- 6q23の上のEYA4遺伝子(OMIM #603550)での突然変異によって引き起こされるCMD1J(OMIM #605362);
- 6q12-q16の上のCMD1K(OMIM #605582);
- 5q33の上のサルコグリカンデルタ(SGCD)遺伝子(OMIM #601411)での突然変異によって引き起こされるCMD1L(OMIM #606685);
- 11p15の上のCSRP3遺伝子(OMIM #600824)での突然変異によって引き起こされるCMD1M(OMIM #607482);
- タイチン-CAP(テレソニン又はTCAP)遺伝子(OMIM #604488)での突然変異によって引き起こされるCMD1N;(OMIM #607487)。
- 12p12の上のABCC9遺伝子(OMIM #601439)での突然変異によって引き起こされるCMD1O(OMIM #608569);
- 6q22の上のホスホランバン(PLN)遺伝子(OMIM #172405)での突然変異によって引き起こされるCMD1P(OMIM #609909);
- 7q22.3-q31.1の上のCMD1Q(OMIM #609915);
- 15q14の上のアクチンアルファ、心筋(ACTC1)遺伝子(OMIM #102540)での突然変異によって引き起こされるCMD1R(OMIM #613424);
- 14q12の上のミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)遺伝子(OMIM #160760)での突然変異によって引き起こされるCMD1S(OMIM #613426);
- 14q24の上のPSEN1遺伝子(OMIM #104311)での突然変異によって引き起こされるCMD1U(OMIM #613694);
- 1q42の上のPSEN2遺伝子(OMIM #600759)での突然変異によって引き起こされるCMD1V(OMIM #613697);
- 10q22の上のメタビンキュリンをコードする遺伝子(VCL; OMIM #193065)での突然変異によって引き起こされるCMD1W(OMIM #611407);
- 9q31の上のフクチンをコードする遺伝子(FKTN; OMIM #607440)での突然変異によって引き起こされるCMD1X(OMIM #611615);
- 15q22の上のTPM1遺伝子(OMIM #191010)での突然変異によって引き起こされるCMD1Y(OMIM #611878);
- 3p21の上のトロポニンC(TNNC1)遺伝子(OMIM #191040)での突然変異によって引き起こされるCMD1Z(OMIM #611879);
- 1q43の上のアクチニンアルファ-2(ACTN2)遺伝子(OMIM #102573)での突然変異によって引き起こされるCMD1AA(OMIM #612158);
- 18q12の上のDSG2遺伝子(OMIM #125671)での突然変異によって引き起こされるCMD1BB(OMIM #612877);
- 1p31の上のNEXN遺伝子(OMIM #613121)での突然変異によって引き起こされるCMD1CC(OMIM #613122);
- 10q25の上のRNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20)遺伝子(OMIM #613171)での突然変異によって引き起こされるCMD1DD(OMIM #613172);
- 14q12の上のミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6)遺伝子(OMIM #160710)での突然変異によって引き起こされるCMD1EE(OMIM #613252);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子(OMIM #191044)での突然変異によって引き起こされるCMD1FF(OMIM #613286);
- 5p15の上のSDHA遺伝子(OMIM #600857)での突然変異によって引き起こされるCMD1GG(OMIM #613642);
- 10q26の上のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるCMD1HH(OMIM #613881);
- 6q21の上のCRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるCMD1II(OMIM #615184);
- 6q21の上のラミニンアルファ4(LAMA4)遺伝子(OMIM #600133)での突然変異によって引き起こされるCMD1JJ(OMIM #615235);
- 10q21の上のMYPN遺伝子(OMIM #608517)での突然変異によって引き起こされるCMD1KK(OMIM #615248);
- 1p36の上のPRDM16遺伝子(OMIM #605557)での突然変異によって引き起こされるCMD1LL(OMIM #615373);
- 11p11の上のMYBPC3遺伝子(OMIM #600958)での突然変異によって引き起こされるCMD1MM(OMIM #615396);
- 3p25の上のRAF1遺伝子(OMIM #164760)での突然変異によって引き起こされるCMD1NN(OMIM #615916);
- 19q13の上のトロポニンI、心臓(TNNI3)遺伝子での突然変異によって引き起こされるCMD2A(OMIM #611880);
- 7q21の上のGATAD1遺伝子(OMIM #614518)での突然変異によって引き起こされるCMD2B(OMIM # 614672);
- 1p34の上のPPCS遺伝子(OMIM #609853)での突然変異によって引き起こされるCMD2C(OMIM #618189);
- CMD3A、前に命名されたX連鎖型は、バース症候群(OMIM #302060)と同じであることが見出された;及び
- CMD3B(OMIM # 302045)、ジストロフィン遺伝子(DMD、OMIM #300377)での突然変異によって引き起こされる、CMDのX連鎖型。
【0141】
デスミン関連ミオパシー又はミオパシー、筋原線維(MFM)(OMIM #601419)は、一群の形態学的に均一であるが遺伝子的に不均一な慢性神経筋障害を指す曖昧な用語である。MFMにおける骨格筋の形態学的変化は、サルコメアZ板及び筋原線維の崩壊と、その後のZ板の構造に関与する、デスミン、アルファ-B-クリスタリン(CRYAB; OMIM #123590)、ジストロフィン(OMIM #300377)及びミオチリン(TTID; OMIM #604103)を含む複数のタンパク質の異常な異所性蓄積から生じる。筋原線維ミオパシー-1(MFM1)は、染色体2q35の上のデスミン遺伝子(DES; OMIM #125660)における、ヘテロ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合突然変異によって引き起こされる。MFMの他の形には、CRYAB遺伝子(OMIM #123590)での突然変異によって引き起こされるMFM2(OMIM #608810);MYOT遺伝子(OMIM #604103)での突然変異によって引き起こされるMFM3(OMIM #609200)(OMIM #182920);ZASP遺伝子(LDB3; OMIM #605906)での突然変異によって引き起こされるMFM4(OMIM #609452);FLNC遺伝子(OMIM #102565)での突然変異によって引き起こされるMFM5(OMIM # 609524);BAG3遺伝子(OMIM #603883)での突然変異によって引き起こされるMFM6(OMIM #612954); KY遺伝子(OMIM #605739)での突然変異によって引き起こされるMFM7(OMIM #617114);PYROXD1遺伝子(OMIM #617220)での突然変異によって引き起こされるMFM8(OMIM #617258);及びTTN遺伝子(タイチン; OMIM #188840)での突然変異によって引き起こされるMFM9(OMIM #603689)が含まれる。
【0142】
他の遺伝子の突然変異も、異なる形の拡張型心筋症を引き起こすことが見出された。これらには、以下のものが含まれる:
- 催不整脈性右心室形成異常11(OMIM #610476)及び拡張型心筋症の原因であるデスモコリン2(DSC2、OMIM #125645)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常12(OMIM #611528)及び拡張型心筋症の原因である接合部プラコグロビン(JUP又はプラコグロビン; OMIM #173325)(Elliott等、Circ. Vasc. Genet.、2010、3、314~322頁);
- 催不整脈性右心室形成異常2(OMIM #600996)及び心室頻脈、カテコールアミン作動性多形性1(OMIM #604772)及び拡張型心筋症の原因であるリアノジン受容体2(RYR2; OMIM #180902)(Zahurul、Circulation、2007、116、1569~1576頁);
- ATPアーゼ、Ca(2+)輸送徐収縮(ATP2A2; ATP2B、筋小胞体Ca(2+) ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);及び
- エメリン(EMD);フクチン関連タンパク質(FKRP); タファジン(TAZ);デスモプラキン(DSP);並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル。
【0143】
一部の実施形態では、遺伝的拡張型心筋症は、以下のものからなる群から選択される遺伝子の突然変異によって引き起こされる:ラミニン、特にラミニンアルファ2(LAMA2)及びラミニンアルファ4(LAMA4);エメリン(EMD);フクチン(FKTN);フクチン関連タンパク質(FKRP);デスモコリン、特にデスモコリン2(DSC2);プラコグロビン(JUP);リアノジン受容体2(RYR2);筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);ホスホランバン(PLN);ラミンA/C(LMNA);ジストロフィン(DMD);タイチン-CAP又はテレソニン(TCAP);アクチニン、特にアクチニンアルファ-2(ACTN2);デスミン(DES);アクチン、特に心筋アクチン、アクチンアルファ、心筋(ACTC1);サルコグリカン、特にサルコグリカンデルタ(SGCD);タイチン(TTN);トロポニン、特に心筋トロポニン、トロポニンT2、心臓(TNNT2);トロポニンC(TNNC1)及びトロポニンI、心臓(TNNI3);ミオシン、特にミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)及びミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6);RNA結合性モチーフタンパク質20(RBM20); BCL2関連アサノジーン3(BAG3);デスモプラキン(DSP);タファジン(TAZ)並びにSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A及び他のもの等のナトリウムチャネル。
【0144】
一部の特定の実施形態において、遺伝性拡張型心筋症は、ラミニン、特にラミニンアルファ2(LAMA2)及びラミニンアルファ4(LAMA4);エメリン(EMD);フクチン(FKTN);フクチン関連タンパク質(FKRP);デスモコリン、特にデスモコリン2(DSC2);プラコグロビン(JUP);リアノジン受容体2(RYR2);筋小胞体Ca(2+)ATPアーゼ2アイソフォームアルファ(SERCA2a);ホスホランバン(PLN);ジストロフィン(DMD);TITIN-CAP又はテレソニン(TCAP);アクチニン、特にアクチニンアルファ2(ACTN2);デスミン(DES);アクチン、特に心筋アクチン、アクチンアルファ、心筋(ACTC1);サルコグリカン、特にサルコグリカンデルタ(SGCD);タイチン(TTN);トロポニン、特に心筋トロポニン、トロポニンT2、心筋(TNNT2);トロポニンC(TNNC1)及びトロポニンI、心筋(TNNI3); ミオシン、特にミオシン重鎖7、心筋、ベータ(MYH7)及びミオシン重鎖6、心筋、アルファ(MYH6);RNA結合モチーフタンパク質20(RBM20);BCL2関連 アサノジーン3(BAG3);デスモプラキン(DSP);タファジン(TAZ)及びナトリウムチャネル、例えばSCN1B、SCN2B、SCN3B、SCN4B、SCN4A、SCN5A等からなる群から選択される遺伝子における突然変異によって引き起こされる。好ましくは、ジストロフィン(DMD)又はタイチン(TTN)である。
【0145】
本発明はまた、本開示により遺伝性拡張型心筋症を処置する方法であって、治療有効量のWnt若しくはTGF-βモジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子、若しくはこれらの組み合わせ、又は本開示による医薬組成物を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0146】
本発明の更なる態様は、遺伝性拡張型心筋症の処置のための医薬の製造に使用される、Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子、若しくはこれらの組み合わせ、又は本開示による医薬組成物に関する。
【0147】
本発明の更なる態様は、遺伝性拡張型心筋症の処置のための、Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子、若しくはこれらの組み合わせ、又は本開示による医薬組成物の使用に関する。
【0148】
本発明の更なる態様は、Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子又はこれらの組み合わせを活性化合物として含む、本開示による遺伝性拡張型心筋症の処置のための医薬組成物に関する。
【0149】
本発明の更なる態様は、本開示により遺伝性拡張型心筋症を処置するための、Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子又はこれらの組み合わせを含む本開示による医薬組成物に関する。
【0150】
本明細書で使用されるとき、用語「患者」又は「個体」は、予防処置又は治療処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳類対象を含む。好ましくは、本発明の患者又は個体はヒトである。
【0151】
「処置」又は「処置する」とは、本明細書で使用されるとき、遺伝性拡張型心筋症又は遺伝性拡張型心筋症の任意の症状を治癒する、回復させる、軽減する、緩和する、変化させる、治療する、寛解させる、改善する、又はこれに影響を与える目的で、治療剤若しくは治療剤の組み合わせ(例えば、Wnt経路阻害剤及び/若しくはTGF-β経路阻害剤)を患者に適用若しくは投与すること、又は前記治療剤を、遺伝性拡張型心筋症を有する患者の単離組織若しくは細胞系に適用若しくは投与することが定義される。特に、用語「処置する」又は「処置」は、遺伝性拡張型心筋症に関連する少なくとも1つの有害臨床症状、例えば心拡張、特に左心室拡張及び収縮機能の低減(例えば、駆出率の低減)を低減する又は軽減することを指す。
【0152】
用語「処置」又は「処置する」はまた、治療剤を予防的に投与する文脈で本明細書に使用される。
【0153】
本発明の医薬組成物は、一般に、患者の治療効果を誘導するのに有効な公知の手順、投与量及び時点に従って投与される。医薬組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、非限定的には注入又はボーラス注射により、上皮内層又は粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜及び腸粘膜等)からの吸収により投与されうる。投与は、全身的、局所的、又は局所と組み合わせた全身的なものであってよく、全身的なものには非経口及び経口が挙げられ、局所的なものには、局所及び局所領域が挙げられる。全身投与は、好ましくは非経口的であり、例えば、皮下(SC)、筋肉内(IM)、血管内、例えば、静脈内(IV)又は動脈内;腹腔内(IP);皮内(ID);硬膜外等である。非経口投与は、有利には注射又は灌流によるものである。
【0154】
Wnt若しくはTGF-β経路モジュレーター、核酸構築物、発現ベクター、若しくはウイルス粒子、又は本開示による医薬組成物を、他の治療活性剤と組み合わせて使用することができ、組み合わせた使用は、同時、別々、又は順次投与によるものである。
【0155】
本発明の実施は、特に指示のない限り従来の技術を用い、それらは当該技術の技能の範囲内である。そのような技術は、文献で詳細に説明されている。
【0156】
本発明は、限定するものでない以下の実施例により、添付の図面を参照してこれから例示されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【
図1】RNAseqにおける幾つかの調節解除遺伝子のqPCR分析を示す図である(1群当たりn=4。スチューデント検定)。
【
図2】導入遺伝子の発現を示す図である。A)AAV9-hTnnt2-hCILPベクターが注射された又は注射されなかったDeltaMex5マウスにおけるhCILP導入遺伝子の相対的RT-qPCR存在量である。B)AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPベクターが注射された又は注射されなかったDeltaMex5マウスにおけるGFP導入遺伝子の相対的RT-qPCR存在量である。スチューデント検定及びGFP。n=4。スチューデントの検定。
【
図3】形態学的分析を示す図である。A)マウスの総質量。B)心肥大の測定:心臓質量/マウス総質量(%)
【
図4A】DeltaMex5マウス及びPBSが注射された対照をAAV9-hTnnt2-hCILP又はAAV-shLTBP2で処置した後の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。心臓のHPS染色である。
【
図4B】DeltaMex5マウス及びPBSが注射された対照をAAV9-hTnnt2-hCILP又はAAV-shLTBP2で処置した後の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。心臓のシリウスレッド染色である。スケール、500μm。
【
図4C】DeltaMex5マウス及びPBSが注射された対照をAAV9-hTnnt2-hCILP又はAAV-shLTBP2で処置した後の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。健康組織と比較した線維症タイプの割合の定量化である。スチューデントの検定。
【
図5】C57BL/6マウス、DeltaMex5マウス、並びにCILPベクター及びshLBTP2ベクターが注射されたDeltaMex5マウスにおいて超音波で測定したDCMマーカー(左心室質量)の比較を示す図である。スチューデント検定。
【
図6】心臓障害の異なるRNAマーカーのRT-qPCR測定を示す図である。測定は、C57BL/6マウスに対する比で表した。スチューデントの検定。
【
図7】心臓線維症の様々なRNAマーカーのRT-qPCR測定を示す図である。測定は、C57BL/6マウスに対する比で表した。スチューデントの検定。
【
図8】WISP2、DKK3及びSFRP2導入遺伝子の発現を示す図である。AAV9-hTnnt2-hWISP2、AAV9-hTnnt2-hDKK3及びAAV9-hTnnt2-hSFRP2ベクターがそれぞれ注射された又は注射されなかったDeltaMex5マウスにおける導入遺伝子hWISP2、hDKK3、hSFRP2の相対的RT-qPCR存在量である。測定値をC57BL/マウス6匹に対する比で表す。n=4。スチューデントの検定。
【
図9】DeltaMex5マウスをAAV9-hTnnt2-hWISP2、DKK3又はSFRP2で処置した後の心臓の組織学的特徴付けを示す図である。健康組織と比較した線維症タイプの割合の定量化である。スチューデントの検定。
【
図10-1】WNT研究における心臓及び線維化関与についての異なるRNAマーカーによるRT-qPCR測定を示す図である。測定値をC57BL/マウス6匹に対する比で表す。スチューデントの検定。
【
図10-2】WNT研究における心臓及び線維化関与についての異なるRNAマーカーによるRT-qPCR測定を示す図である。測定値をC57BL/マウス6匹に対する比で表す。スチューデントの検定。
【実施例】
【0158】
1. 材料及び方法
1.1 マウスモデル
この研究で使用されるマウスは、雄のタイチンMex5-/Mex5-(DeltaMex5)及びDBA/2J-mdx(DBA2mdx)系統、並びにそれらのそれぞれの対照系統C57BL/6及びDBA/2であった。DeltaMex5マウスは、タイチン遺伝子の最後から二番目のエクソン(Mex5)の欠失を有する(タイチンMex5-/ Mex5-;Charton等、Human molecular genetics、2016、25巻、4518~4532頁)。DBA2mdxマウスは、ジストロフィン遺伝子の第23エクソンの上の点突然変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルである。DBA2mdxマウスは、LTBP4遺伝子、TGFシグナル伝達経路-βの活性を調節するタンパク質、の上の突然変異を有するDBA/Jバックグラウンドの上にある(Fukada等2010。Am J Pathol 176、2414~2424頁)。全てのマウスは、人間による実験動物のケア及び使用のための欧州指令に従って扱われ、動物実験は、プロジェクト認可申請2015-003-A及び2018-024-Bの番号の下でEvryのEthics Committee for Animal Experimentation C2AE-51に承認された。
【0159】
1.2 筋肉のサンプリング及び冷凍
目的の筋肉を収集し、計量して、アラビアゴムでコーティングした一片のコルクの上に横又は縦方向に置いた後、液体窒素中(分子生物学分析のための試料)又は冷却したイソペンタン中(組織学のための試料)に冷凍する。タイロード中の希釈したブタンジオン溶液(5mM)で冷凍する前に、心臓を拡張期で冷凍する。試料は、その後使用まで-80℃で保存する。全心臓のシリウスレッド線維症観察プロトコールのために、心臓全体をパラフィンに包埋し、室温で保存する。トランスパレンシープロトコールのために、採取した心臓の全体を4%パラホルムアルデヒドに保存し、+4℃に保つ。
【0160】
1.3 RNA抽出及び定量化
冷凍イソペンタン筋肉を-20℃のクリオスタット(ライカCM3050)の上で30μm厚のスライスに切断し、約10~15スライスのエッペンドルフ管に分け、-80℃で保存する。有機溶媒中の核酸の溶解特性に基づく、全RNAの抽出のためのTRIzol(登録商標)方法を使用する。筋肉回収管に、1mLのTRIzol(登録商標)につき0.5μLの速度でグリコーゲン(Roche社)を追加した0.8mLのTRIzol(登録商標)(ThermoFisher社)を再供給する。管は、FastPrep-24(Millipore社)ホモジナイザーに20秒間、4m.s.サイクルで置く。核酸を回収するために、氷上での5分間のインキュベーションの後、0.2mLのクロロホルム(Prolabo社)を加えて、TRIzol(登録商標)と混合する。室温で3分間のインキュベーションの後、2つの相、水性及び有機を、4℃で15分間の12000gでの遠心分離によって分離する。核酸を含有する水性相を取り出し、新規の管に入れる。0.5mLのイソプロパノール(Prolabo社)の追加と、その後の室温で10分間のインキュベーション及び4℃で15分間の12000gでの遠心分離によって、RNAを次に沈殿させる。核酸ペレットを0.5mLの75%エタノール(Prolabo社)で洗浄し、4℃で10分間、12000gで再び遠心分離し、その後空気乾燥させる。核酸を50μLの無ヌクレアーゼ水に取り、20μLをウイルスのDNA分析のために残し、RNAを分解から保存するために30μLを1/50に希釈したRNAsin(Promega社)に加える。残留DNAを除去するために、RNAをTURBODnase(Ambion社)で次に処理する。シークエンシング用の試料のために、二重Dnase処理を実行する。
【0161】
シグナル伝達経路に特異的なトランスクリプトーム分析のために、RT2 Profiler PCRアレイ(Qiagen社)プレートを使用する。スクリーニングプレートは、適合するRNA抽出キット、カラムの上でRNAを抽出するRNeasy Miniキット(Qiagen社)の使用を必要とし、キットは供給業者の使用説明書に従って使用され、RNAは、その後遊離のDNアーゼRNアーゼ(Qiagen社)によって処理される。
【0162】
次にND-8000分光計(Nanodrop社)で2μLのRNAからOD読取値をとり、それらの濃度を決定する。RNAは-80℃で、DNAは-20℃で保存する。
【0163】
1.4 RNA品質の測定
シークエンシングのために調製されるRNAの場合、RNAの品質はバイオアナライザー2100(Agilent社)で測定され、それは、核酸の毛細管電気泳動及び次にそれらの分析を実行する。品質は、電気泳動図の形の試料の保持率及び濃度によって可視化される。各試料について、RIN(RNA整合性番号)で表される品質スコアが、0~10のスケールで計算される。RNAナノチップ(Agilent社)が、供給業者の使用説明書によって使用される。試料中のRNAサイズの評価を可能にするために、サイズマーカー(RNA6000ナノラダー、Agilent社)が最初に通される。マーカーが各試料に加えられ、規定のサイズで現れる。各試料について、1μLのRNAがチップの上に置かれる。RNA電気泳動図の上で、リボソームのRNAピークが観察される: 28S(およそ4000nt)、18S(およそ2000nt)及び5S(およそ100nt)。内部マーカーは、25nt位置で現れる。INRは、18S及び28Sピークの高さ及び位置、5S、18S及び28Sピークの間の比、並びに信号対雑音比の関数として計算される。RNA-seqのために、必要な品質は少なくとも7のINRを必要とする。
【0164】
1.5 リアルタイム定量的PCR
ゲノム及びウイルスのDNAはqPCRによって、遺伝子発現はリアルタイム定量的PCRによって定量化される。RevertAid H Minus First Strand cDNA Synthesisキット(Thermo-Fisher社)を使用して、メッセンジャーRNA全体で逆転写ステップが実行される。2種類のオリゴヌクレオチド:ランダム配列を含有するいわゆる「ランダム」六量体、及び「dT」オリゴヌクレオチド、デオキシ-チミンポリマー、それらはポリA配列へハイブリダイズし、cDNAを完全に生成することを可能にする。使用する混合物を、Table 1(表1)に示す。
【0165】
【0166】
混合物を以下のサイクルのためにサーマルサイクラーに入れる: 25℃で10分間、次に42℃で1時間15分、酵素の作用温度、次に酵素を70℃で10分間不活性化する。cDNAを+4℃で短時間か又は-20℃で長期的に保存する。
【0167】
組織でのベクター滴定及びベクターコピー数の測定のためにゲノム若しくはウイルスのDNAで、又は転写物の定量化のためにRNAから得たcDNAでリアルタイム定量的PCRを実行する。それは、LightCycler 480(登録商標)(Roche社)384ウェルプレートで実行される。ABsolute QPCR ROXミックス(ThermoFisher社)に含有されるThermo-Start DNAポリメラーゼ酵素のヌクレアーゼ活性は、蛍光性レポーターの放出によって、各増幅サイクルにおけるPCR生成物の検出を可能にする。この蛍光性レポーターは、蛍光体(FAM、6-カルボキシフルオレセイン、又はVIC、2'-クロロ-7'フェニル-1,4-ジクロロ-6-カルボキシ-フルオレセイン)であり、3'が失活剤(TAMRA、テトラメチルローダミン)でも標識されているヌクレオチドプローブから5'に位置する。レポーター及び失活剤の分離はレポーターの蛍光をもたらし、それは装置で測定される。目的の各遺伝子の混合物は、0.2mM及び対応する0.1mMプローブの2つのオリゴF(フォワード、センス)及びR(リバース、アンチセンス)で構成される。FAMレポーターを有する定量化されるmRNAに対応する20×Taqman遺伝子発現アッセイ(ThermoFisher社)プライマーの市販混合物が使用される(間違い!参照元が見つかりません。)。異なる条件下で不変であるリボソームタンパク質をコードするリボリンタンパク質酸遺伝子RPLP0が、VICレポーターを使用する標準化遺伝子として選択された。RPLP0の増幅のために使用するプライマー及びTaqmanプローブは、以下の通りである: m181PO.F(5'-CTCCAAGCAGATGCAGCAGA-3';配列番号15)、m267PO.R(5'-ACCATGATGATGCG CAAGGCCAT-3';配列番号16)及びm225PO.P(5'-CCGTGGTGCTGATGGGGGGCAAGA A-3';配列番号17)。DNA試料は、逆転写の後に得られたcDNA試料かウイルスDNAである。PCR反応は384ウェルプレートで起こり、各ウェルはTable 2(表2)に示す量で反復される。
【0168】
【0169】
以下のPCRプログラムが適用される: LightCycler480(Roche社)を使用して95℃で15分のプレインキュベーション、次に95℃で15秒の45増幅サイクル、続いて60℃で1分。
【0170】
【0171】
サイクル定量化は、最大二次導関数方法を使用してLightCycler(登録商標)480 SW 1.5.1ソフトウェア(Roche社)で計算される。定量的PCR結果は、「Cq」、その後に閾値蛍光値に到達するサイクル数、で表される。この値は、次に参照遺伝子RPLP0で得られる値に標準化される。
【0172】
ミトコンドリアPCRキット(PAMM-087Z)及びWNT(PAMM-243Z)及びTGF-B(PAMM-235Z)標的スクリーニングを、製造業者の使用説明書(RT2 Profiler PCRアレイ、Qiagen社)に従って使用する。RNA抽出を、RNasy(登録商標) Micraoarray組織キット(Qiagen社)を使用して凍結組織から実行し、無RNアーゼDNアーゼセット(Qiagen社)で処理する。cDNAはRT2第1鎖キット(Qiagen社)を使用して500ngのRNAから得られ、PCRのための鋳型として使用される。qRT-PCRは、LightCycler480(Roche社、Basel、Switzerland)を使用して実行される。
【0173】
1.6 RNAシークエンシング
1.6.1 RNAseq
シークエンシングのために使用される試料は、TRIzolで抽出され、DNアーゼで二度処理され、INR品質>7.7を有する全RNAである。100ng/μLのRNA試料2μgを、シークエンシングのためにKarolinka Instituteに送った。使用したシークエンシングライブラリーはTruSeq Stranded Total RNA Library Prepキット(Illumina社)で調製され、シークエンシングはIllumina社のプロトコールに従って実行された。リードはFastq-pairを使用して関連付け、STAR alignを使用してマウスゲノム(mm10)に整列させる。リードの数は、試料中の対応するRNAの存在度に比例する。シークエンシングプラットホームは、試料ごとにbamフォーマットのアラインメントファイルを含有するいくつかのファイル、比較した各試料のためのリードの数で同定される遺伝子のリスト、及び100万リードあたりのkbあたりの断片(FPKM)で表される標準化された数値を伴う遺伝子のリストを次に提供する。
【0174】
1.6.2 分析
配列決定をした転写物のリストを含有するファイルを受け取ると、試料を互いに比較することにおける第1のステップは、異なる試料のファイルを併合することであった。目標は、試験で同定される各転写物のために、各試料中のそのリードの数を含有する単一の表を得ることである。次に、Rソフトウェアの下の分析をDESeq2パッケージで実行した:リードの数から試料を標準化し、各試料の差別的遺伝子発現をその対照に対して計算する。発現差値(又は変化倍率)は、二元対数(log2.FC)で表され、それらはそれらの調整されたPvalue padjと関連している。次に、以下を除去するために選別ステップを実行した:全ての条件下で10未満のリードを含有する遺伝子、有意なpadjのない遺伝子、全ての条件で-0.5~0.5のlog2.FCを有する遺伝子。異なる条件の間で有意に差別的に発現された遺伝子を同定するために、最後の表を使用した。
【0175】
1.6.3 グラフィック表示
マウスゲノム(mm10)のリードのアラインメントは、bamファイルをIntegrative Genomic Viewer(IGV)ソフトウェアで表示することによって観察され得る。RNAseq結果のグラフ表示のために、異なるRパッケージを使用する。ベン図のために、VennDiagramパッケージを使用する。Volcanoプロットのために、ggplot2パッケージを使用する。データセット中の調節解除されたシグナル伝達経路を可視化するために、Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(IPA、Qiagen社)及び遺伝子オントロジー分類系PANTHERを使用する。
【0176】
1.7 組織学
凍結イソペンタン筋肉を、クリオスタット(LEICA CM 3050)により-20℃で8μm厚のスライスに切断する。スライスをブレード上に置き、-80℃で保存する。
【0177】
1.7.1 ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン(Safran)染色
ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン(HPS)マーキングは、筋肉の全体的な外観を観察すること、並びに異なる組織及び細胞構造を強調することを可能にする。ヘマトキシリンは、核酸を濃青色に着色し、フロキシンは細胞質をピンク色に着色し、サフランはコラーゲンを赤橙色に着色する。
【0178】
断面を、ハリスヘマトキシリン(Sigma社)で5分間染色する。水で2分間洗浄した後、過剰な染色を除去するために、スライドを0.2%(v/v)塩酸アルコール溶液に10秒間浸漬する。水で1分間再び洗浄した後に、スコット水浴(0.5g/lの重炭酸ナトリウム及び20g/lの硫酸マグネシウム溶液)で1分間青色に染め、その後、水で1分間再びすすぎ、フロキシン1%(v/v)(Sigma)で30秒間染色する。水で1分30秒間すすいだ後、切片を70°エタノールで1分間脱水し、次に無水エタノールで30秒間すすぐ。組織は、次にサフラン1%(無水エタノール中のv/v)で3分間染色し、無水エタノールですすぐ。最後に、切片をキシレン浴中で2分間薄くし、その後Eukitt培地でスライドとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動ステージに連結したZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10で実行される。
【0179】
HPS着色切片から、中心核形成線維数の切片面積mm2に対する比によって中心核形成指数(centronucleation index)を計算する。
【0180】
1.7.2 シリウスレッド着色
この染色は、コラーゲン繊維を赤色に着色し、線維化組織の存在を強調することを可能にする。細胞質は、黄色に染色される。
【0181】
断面を冷凍切片のためにアセトンで1時間脱水するか、又は熱及びトルエン浴でワックスを除去する。それらは、次に4%ホルムアルデヒドで5分間、次にBouin溶液中で10分間固定される。水による2回の洗浄の後、染色のためにスライドをシリウスレッド溶液(100mLピクリン酸溶液あたり0.1gのシリウスレッド)に1時間浸漬する。水で1分30秒間すすいだ後に、スライスを連続したエタノール浴中で脱水する: 70°エタノールで1分間、95°エタノールで1分間、無水エタノールで1分間、次に第2の無水エタノール浴で2分間。最後に、スライスを2回のキシレン浴で1分間薄くし、次にEukitt培地でラメラとマウントする。画像取得は、コンピュータ及び電動式ステージが連結されたZeiss AxioScan白色光顕微鏡の対物10xで実行される。
【0182】
偏光画像は、改変光学(right)LEICA顕微鏡を使用して取得され、偏光子(Polarizer)が光路に沿って試料の前に配置され、別の偏光子(Anlayzer)が試料の後ろに配置され、これらを手動により回転させて、透過光及び偏光の両方を同時に観察することが可能になりうる。偏光子の主軸は、互いに90度に配向されている。偏光マップは、Cartographソフトウェア(Microvision、France)が連結されたRetiga 2000 CCDセンサ(QImaging)を使用して取得した。要約すると、光路は試料に到達する前に第1の偏光子を通過し、コラーゲンは通過する光を複屈折させて、2つの光線に分離し、第2の偏光子を通過すると2つのタイプのシリウスレッド及び残りの心臓組織の差異的観察を可能にする。
【0183】
1.7.3 シリウスレッドの定量化
1.7.3.1 Sirius Quant
Sirius Quantは、内部で開発されたImageJプラグインである(Schneider等、Nature methods、2012、9巻、671~675頁)。それは、赤色に着色した画像のピクセルを単離し、定量化することを可能にする閾値化マクロである。それは、3ステップで作業する:第1のものは、画像を白黒に変換することである。レッドシリウス着色からもたらされる画像は非常に対照的であり、そのため、単純な白黒変換は全ての有益な情報を保つのに十分である。第2のものは、画像の着色したピクセルだけ、換言すると切片全体に属するピクセルを保つために、非常に粗い閾値化である。Analyze Particles機能を適合させたオブジェクトサイズと一緒に使用することは、スライスのアウトライン自動検出を可能にし、それは次に保存される。第3のステップは、赤色に着色したピクセルだけ、マーキングと関連しているものを保つことを可能にする、ユーザーによる手動の閾値化である。手動の修正ツールは、検出されたであろう領域、及びマークのない領域(ダスト、カットフォールド等)を除去すること、又は考慮されなかったであろう領域を加えることを可能にする。閾値化された画像が満足であるならば、閾値化されたピクセルの数及び全切片中のピクセルの総数を次に測定する。これらの2つの数の間の比は、スライスにおける線維症指数を最後に与える。
【0184】
1.7.3.2 WEKA
画像は、WEKAプラグイン(ImageJ社)により人工知能アルゴリズムを使用して処理した。分類される異なる状態を代表する17画像を含有するトレーニングデータセットを使用して、WEKA分類plugginを実行した。クラスは、健全な組織(黄色)に、両種の染色に、及びスライス断裂(白色)に割り当てた。元のマッピングは概ね225メガピクセル(15k×15k)のサイズのモザイク画像であり、それらは400フレーム(20横列、20縦列)に分け、各フレームは概ね750×750ピクセルであった。各フレームは独立して分類され、完全画像が次に再構築される。各クラスのピクセルの数が測定される。心臓に属するピクセルの総数は、健全な組織と2種類の色素の取り込みの合計として計算される。クラスの中のピクセルの数を心臓のピクセルの総数によって割り算することによって、各クラスの比を次に計算する。
【0185】
1.7.3.3 全心臓再構築及び定量化
シリウスレッドによって着色された全心臓の切片は、10×レンズを備えたスキャナ(Axioscan ZI、Zeiss社)でスキャンした。合計483画像が得られた。それらは、ImageJのpluggin: Linear Stack AlignmentをSIFTと使用して整列させた(Lowe等、International Journal of Computer Vision、2004、60、91~110頁)。ソフトウェアが満足なアラインメントを可能にしなかった場合、一部の画像は手動で整列させた。再構築及び3D可視化のために、画像をImaris(BitPlane社、USA)にロードした。画像を整列させたら、Otsu閾値化(Otsu N、Cybernetics、1979、9、62~66頁)を使用した全自動モードのシリウスクワントplugginは、各画像に対応する483の線維症比の値をもたらした。これらの値は、アルゴリズム自動化に固有の誤差を回避するためにシグナル中のノイズを低減する方法であるスライド平均方法を使用してフィルタリングした。移動平均の使用は、画像の各線維症比をそれ自体の平均、その前の画像の比、及びその後の画像の比と置き換えることによって、これらの誤差を制限することを可能にする。
【0186】
1.7.4 蛍光免疫組織学的標識化
スライドをフリーザーから取り出し、室温で10分間乾燥させ、その後切片をDAKOpenで包む。スライスは、次にPBS 1×で5分間再水和させる。目的のタンパク質が核に位置するならば、スライスはPBS 1×中の0.3%トリトン溶液で15分間透過性化し、その後PBSで5分間、3回洗浄した。スライスは、次に湿度室の中において室温で30分間、10%ヤギ血清、10%子ウシ胎児血清、PBS 1×で飽和させる。飽和培地は湿室において4℃で一晩、PBS 1×+10%ブロッキング溶液に希釈させた一次抗体溶液で置き換える。光保護湿室の中で室温で1時間、1×PBS+10%ブロッキング溶液中のAlexa 488又は594(1/1000)蛍光色素結合蛍光色素と結合させた二次抗体溶液とハイブリダイズする前に、1×PBSでの5分間の4連続洗浄を実行する。最終の連続したPBS 1×で5分間の4回の洗浄を実行し、DAPIを含有する蛍光マウントスライドアセンブリを実行する。蛍光顕微鏡(Zeiss AxioScan又はライカTCS-SP8共焦点顕微鏡)を使用して、次に切片を可視化する。
【0187】
【0188】
1.8 心機能の超音波分析
イソフルランの吸入によってマウスに麻酔をかけ、加熱プラットホーム(VisualSonics社)に置く。体温及び心拍数を連続的にモニタリングする。画像を、707Bプローブを備えたVevo 770高周波超音波心臓検査計(VisualSonics社)によってとる。2Dモード及びMモード(モーション)の超音波測定を、左心室の最も広いレベルの大小の傍胸骨軸に沿ってとる。定量的及び定性的測定は、Vevo 770ソフトウェアを使用して実行される。左心室の質量は、以下の式を使用して推定される:
【0189】
左心室の質量(g)=0.85(1.04(((拡張期の終わりの左心室の直径+拡張期の終わりの心室内隔膜の厚さ+拡張期の終わりの後部壁の厚さ)3-拡張期の終わりの心室の直径3)))+0.6。
【0190】
マウス心臓の各超音波では、約5つの測定ポイントがとられる。拡張期左心室の最大サイズに対応する測定ポイントが次に使用されるが、その理由はそれがマウス心臓の到達可能な最大拡張を表すからである。
【0191】
1.9.AAVトランスファープラスミドの構築
2つのAAV2 ITRが隣接した、全候補ヒトタンパク質(CILP、DKK3、SFRP2及びCCN5/WISP2)を発現する発現カセットを含むAAVプラスミドベクターは、Genewizから取り寄せた。発現カセットは、ヒト心筋トロポニンTプロモーター(hTNNT2)及びSV40ポリアデニル化シグナルの制御下にあるキメライントロンが先行しているコード配列を含む。hCILPのコード配列は、2020年4月25日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_003613.4、又は配列番号2のhCILPタンパク質をコードする配列番号1のヌクレオチド配列である。hDKK3のコード配列は、2020年4月27日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_015881.5、又は配列番号4のhDKK3タンパク質をコードする配列番号3のヌクレオチド配列である。hSFRP2のコード配列は、2020年5月31日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_003013.3、又は配列番号6のhSFRP2タンパク質をコードする配列番号5のヌクレオチド配列である。CCN5/WISP2のコード配列は、2020年5月3日に入手したGenBank/NCBI受入番号NM_003881.3、又は配列番号8のhCCN5WISP2タンパク質をコードする配列番号7のヌクレオチド配列である。AAVトランスファーベクターは、2つのAAV2 ITRの間に異なる発現カセットを挿入することによって構築した。
【0192】
LTBP2遺伝子阻害のためのshRNAプラスミド構築物は、Vigene Bioscienceから取り寄せた。構築物は、逆向きのH1及びhU6の2つのプロモーターセット、及びCMVプロモーターの制御下にあるGFPレポーター遺伝子により発現されたヒトLTBP2転写物の異なる配列を標的にする4つの個々のshRNA配列を含む。shRNAプラスミド構築物には、2つのAAV2 ITRが隣接している。LTBP2遺伝子に選択された配列をTable 5(表5)に記載する。
【0193】
【0194】
1.10 プラスミドの生成
プラスミドは45μLのDH10B細菌を2μLのプラスミドで形質転換することによって生成される。熱ショックは、氷中に5分、42℃で30秒、及び氷上で冷却を交互に用いることによって達成される。次に、250μLのSOC(超最適培養液)培地を加え、その後撹拌下37℃で1時間インキュベートする。プラスミドを組み入れた細菌を選択するために、このように形質転換された細菌は、アンピシリンを含有するLB(溶原性培養液)の箱の上で、37℃で一晩、50μL培養によって単離される。クローンは、抗生物質を含有する3mLのLB培地の中で37℃で数時間の前培養のために、その翌日移植される。試料を、冷凍のために50%グリセロールに保つ。次に、500mLの抗生物質含有培地及び1mLの前培養を含有する2Lエルレンマイヤーで一晩の培養を37℃で実行する。次に、プラスミドを精製するためにNucleoBond PC 2000 EF(Macherey Nagel社)キットを供給業者の使用説明書により使用し、それは次に0.22μmでの濾過によって滅菌し、Nanodropで検査する。
【0195】
プラスミドを検査するために、制限酵素SMA1及びNHE1で酵素消化を実行する。無菌水に1μgのDNA、2μLの緩衝液fast digest green 10×、各酵素の1μlを全量20μlで含有する混合物を、37℃で20分間撹拌する。SYBR(商標)Safe DNA Gel Stain(Invitrogen社)を含有するTAE(トリス、酢酸、EDTA)中の1%アガロースゲルを注ぎ、その後消化物生成物及びサイズマーカーO'GeneRuler(商標)DNA Ladderミックスを入れる。
【0196】
1.11 ウイルスベクター生成
組換えウイルスを調製するために、三トランスフェクション方法を使用する。ウイルス粒子を生成するために、HEK293細胞をパッケージング細胞として使用する。3つのプラスミドが必要とされる:目的の遺伝子を提供するベクタープラスミド、Rep及びCapウイルス遺伝子を提供するヘルパープラスミドpAAV2-9_Genethon_Kana(Rep2Cap9)、並びに、アデノウイルス遺伝子を含有し、AAV複製のために必要であるアデノウイルス共感染を置き換えるプラスミドpXX6。細胞を次に溶解し、ウイルス粒子を精製する。ベクターは、懸濁液で生成される。
【0197】
細胞接種(1日目): 1L撹拌フラスコに接種された、集密のHEK293Tクローン17細胞の使用: 400mLのF17培地(Thermo Fisher scientific社)に2E5細胞/mL。撹拌(100rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベーション。
【0198】
細胞トランスフェクション(3日目):細胞を数え、72時間の培養の後Vi-CELLで細胞生存能力を測定する。フラスコ内のその濃度、サイズ及び細胞の量により、各プラスミドのために10mg/mLでトランスフェクションミックスをHepes緩衝液中で調製し、各プラスミドの比は1である。トランスフェクション剤の追加及び溶液のホモジナイゼーションの後に室温で30分間のインキュベーション。トランスフェクション混合物及び3979μLの培地(改変F17 GNT)を、400mLの培養を含有する振盪フラスコに移し、それらを撹拌(130rpm)下の37℃-5% CO2-湿環境でインキュベートする。48時間後、ベンゾナーゼによる細胞の処理: F17培地中にベンゾナーゼの希釈溶液(最終25U/mL)及びMgCl2(2mM最終)、1フラスコに4mLの追加。
【0199】
ウイルスベクター採取(6日目):細胞を数え、細胞生存能力をVi-CELLで測定し、次に2mLのトリトンX-100(Sigma社、1/200の希釈)を加え、その後撹拌下の37℃で2.5時間インキュベートする。エルレンマイヤーをコーニング500mLに移し、4℃で15分間、2000gで遠心分離する。上清を新規のコーニング500mLに移し、その後100mLのPEG 40%+NaClを加えて、4℃で4時間インキュベートする。懸濁液は、4℃で30分間、3500gで遠心分離する。ペレットはpH8の20mLのTMS(50mMのトリスHCl、150mMのNaCl及び2mMのMgCl2、水に希釈)に再懸濁させ、エッペンドルフ50mLに移し、その後8μLのベンゾナーゼを追加する。37℃で30分間のインキュベーションの後、管を4℃で15分間、10,000gで遠心分離する。
【0200】
塩化セシウム勾配精製:勾配を達成するために、1.3グラム/mLの密度の10mLの塩化セシウムを超遠心管に入れる。1.5グラム/mLの密度の塩化セシウムの5mL量を、次にその下に入れる。上清を塩化セシウムの上に静かに置き、管を20℃で24時間、28,000RPMで超遠心分離する。2つのバンドが観察される:上のバンドは空のカプシドを含有し、下のバンドは完全なカプシドに対応する。両方のストリップを収集し、不純物の除去はしなかった。試料を新規の超遠心管の中で1.379g/mlの密度で塩化セシウムと混合し、次に20℃で72時間、38,000RPMで超遠心分離する。中身のあるカプシドのストリップを取り出す。
【0201】
濃縮及び濾過:ウイルス調製物からの塩化セシウムの除去及び濃縮は、Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターで、実行される。Amicon(登録商標)(Merck社)フィルターの上で、ベクターは100kDaのカットオフの限外濾過によって濃縮される。Amicon膜は先ず14mLの20%エタノールで水和され、3000gで2分間遠心分離され、次に14mLのPBSで平衡させられ、3000gで2分間、次に14mLの1,379ClCsで遠心分離される。収集された中身のあるカプシドのストリップはフィルターに載せて、3000gで4分間遠心分離する。15mLのPBS 1×+F68製剤緩衝液を加え、その後1500gで2分間更に濾過する。3つの前のステップを更に6回繰り返して、最後の濃縮液を回収する。試料は、次に0.22μmで濾過する。
【0202】
滴定:ベクターは、次に定量的PCRによって分析する。
【0203】
1.12 マウスの処置
1カ月齢マウスの(DeltaMex5)及びDBA/2J-mdx(DBA2mdx)系統、並びにそれらのそれぞれの対照系統C57BL/6及びDBA/2に、2e11vg/マウス(およそ20gのマウスの1e13vg/kgの用量に等しい)のAAVベクターの用量又はPBSを静脈内注射した。ベクター発現の3カ月後、マウスの心臓を採取する前に超音波検査した。次いで心臓の全体的、組織学的及び機能的な帰結を研究した。この研究に使用したマウスは、雄のタイチンMex5-/Mex5-であった。
【0204】
1.13 統計
全ての統計分析で、差はP<0.05(*)で有意であり、P<0.01(**)で中程度有意であり、P<0.001(***)で高度に有意であるとみなされ、P=確率である。棒グラフは、平均+SEM標準偏差として示す。グラフは、GraphPadソフトウェアを使用して作成される。
【0205】
全心臓の上での線維症の分布の分析:線維症が心臓で均一である(H0仮説)ことを確実にするために、発明者は483の線維症比の値から20値をランダムに抽出した。これらの値は、p値を得るために10対10でウィルコクソン検定(ソフトウェアR)と比較した。この操作を1000回繰り返し、1000のp値をもたらした。これらの値の間で一部は0.05未満であり、一部の場合には、線維症不変性の発明者の仮説が有効でないことを示している。1000件の統計的検定から、発明者は、どれだけ多くが0.05未満の値を与えたかを数えた。発明者は全プロセスを100回繰り返して、発明者のH0仮説が偽であるパーセンテージの平均を得た。この平均は、4%である。これは、発明者の仮説が96%の割合で有効であり、したがって0.04の全体的p値に対応することを意味し、これは統計学的に許容される。
【0206】
超音波分析: パラメータの関係性、及びどのパラメータが研究目的のものであるかを決定するため、統計ソフトウェアRを使用する。scatterplotMatrix機能を使用して、異なる歳での測定値の相関関係を可視化し、研究されるべきパラメータを選択した。統計分析をRcmdrで実施し、グラフをGraphPadソフトウェアで実施した。
【0207】
2. 結果
発明者は共通の遺伝子発現改変が2つの心筋症モデル:DeltaMex5モデル及びDBA/2-mdxモデル、並びにこれらの調節解除が確立される年齢及びそれらの特異性の間にあったかどうかを決定することを望んだ。そうするために、発明者は異なる年齢でトランスクリプトームの比較研究を実行した。
【0208】
2.1 2つの心筋症モデルのRNAseq分析
心臓障害の初期と後期の年齢でDeltaMex5及びDBA/2-mdxマウス並びにそれらの対照からの心臓試料で、全RNAseq(RNAseq)シークエンシング分析を実行した。DeltaMex5マウスの場合1カ月及び4カ月齢を、DBA/2-mdxマウスの場合1カ月及び6カ月齢を選択した。ここでの主な狙いは、両方の心筋症モデルに共通であろう病状が確立されるときに存在する遺伝子を同定することであった。
【0209】
シークエンシングは、Illumina社のプロトコールによって実行した。各試料につき遺伝子の差別的発現を、それらのリード数(>10)からその対照に対して計算する。発現差値(又は変化倍率)は二元対数(log2.FC)で表され、それらの調整されたPvalue padjと関連させる。異なる条件の間で有意に差別的に発現された遺伝子は、log2.FC>|0.5|及びpadj<0.05によって決定される。
【0210】
RNAseqデータのvolcanoプロットは、心臓における遺伝子の分布及び遺伝子調節解除の程度、並びに遺伝子発現の程度の各条件の可視化を可能にする。DeltaMex5モデルの心臓における4カ月時の30個の最も調節解除された(過剰発現した)遺伝子のリストを、Table 6(表6)に提示する。
【0211】
【0212】
DBA/2-mdxモデルに対し、心臓における6カ月時の30個の最も調節解除された(過剰発現した)遺伝子のリストを、Table 7(表7)に提示する。
【0213】
【0214】
DeltaMex5モデルの心臓における4カ月時の上位30個の最も増加した遺伝子は、WNT及びTGF-βシグナル伝達経路の遺伝子を含む。特に、WNTシグナル伝達経路に直接属する2個の遺伝子が過剰発現しており、分泌フリズルド関連タンパク質2をコードするSFRP2(log2FC=3.62、P=2.08E-55)及びDickkopf関連タンパク質3をコードするDKK3(log2FC=3.01、P=2.78E-32)である。TGF-β WNTシグナル伝達経路に直接属する2個の遺伝子も過剰発現しており、TGF-β経路のネガティブレギュレーターである軟骨中間層タンパク質をコードするCILP遺伝子(log2FC=4.77、P=4.70E-278)(Shindo等、Int. Journal of Gerontology、2017、11巻、67~74頁)、及びTGF-β経路のモジュレーターである潜在型トランスフォーミング成長因子ベータ結合タンパク質2をコードするLTBP2(log2FC=4.74、P=2.97E-174)(Sinha等、Cardiovascular Research、2002、53巻、971~983頁)である。6カ月時でのDBA/2-mdxモデルで、発明者は最初の5つの位置でCilp遺伝子を最も調節解除された遺伝子の1つとして見出す。1カ月時、調節解除された遺伝子の数はかなり少なく、調節解除された遺伝子は、最大1のlog2FCの低い程度に調節解除される。
【0215】
RNAseq結果のベン図表示は、モデル又は病期進行における共通の又は特異的な調節解除された遺伝子の数の可視化を可能にする。RNAseq分析に含まれた46,717遺伝子のうち、4,850遺伝子は、心臓障害の初期又は後期の年齢でいずれのモデルでも対照と比較して有意に調節解除されることが見出された(|log2FC|>0.5及びpvalue<0.05)。初期の年齢で、DeltaMex5マウスの心臓は44個の調節解除された遺伝子だけを有するが、DBA/2-mdxマウスの心臓は2,186個を既に有し、両方のモデルで4遺伝子だけが共通である。後期の年齢にはDeltaMex5の心臓は2,621個の調節解除された遺伝子を有し、DBA/2-mdxの心臓は2,202個を有し、そのうち1,175個は両方のモデルで共通し、そのうち708遺伝子は心筋症の進行した年齢に特異的である。9遺伝子だけがDeltaMex5モデルに特異的であるが、232個がDBA/2-mdxモデルに特異的である。全ての調節解除された遺伝子のうち、より大きな割合の遺伝子は過小発現よりは過剰発現される。最も過剰発現された遺伝子の大半は、2つのモデル間で共通している。しかし、4カ月時のDeltaMex5マウスの心臓で調節解除された遺伝子は、6カ月時のDBA/2-mdxマウスの心臓で調節解除された遺伝子より強く調節解除される(4対6.6のlog2FC最大値)。2つのモデル間の心臓障害は異なっていたが、それらと関連した転写調節解除はほとんど後期の同じ遺伝子及びシグナル伝達経路が関与したことも観察された。
【0216】
この分析を完成させるために、データを生物学的機構に解釈するのを助けるために生物学的相互作用及び機能的注解のリポジトリを使用する、Ingenuity Pathway Analysis(IPA、Qiagen社)ソフトウェアを使用した。1カ月齢で、DeltaMex5及びDBA/2-mdxマウスの心臓でシグナル伝達経路の増加は同定されなかった。IPAによる分析は、その遺伝子が進行した相において調節解除される遺伝子の中で最も表される、生物学的機能を強調することを可能にした。両方のモデルでの第1の位置では、心血管疾患に関与した150を超える遺伝子がRNAseq分析で見出された。第2の位置では、150を超える調節解除された遺伝子が、臓器の上の病巣及び異常のファミリーに分類される。最後に、第3の位置では、心血管系の機能及び発達に関連したほぼ200個の遺伝子が見出された。
【0217】
進行した相だけで観察された遺伝子発現の変化と関連した毒性を決定するために、発明者はIPAソフトウェアの別の機能も使用した。多くの調節解除された遺伝子が同定された: DeltaMex5モデルで心臓肥大に関連した86遺伝子及びDBA/2-mdxモデルで85、心臓機能障害を導く可能性のある45/48遺伝子、心臓拡張で38/36遺伝子、心臓線維症で27/28遺伝子及び心臓壊死で35/37。
【0218】
後期のモデルで最も調節解除されたシグナル伝達経路を決定するために、PANTHER遺伝子オントロジー分類系も使用した。両方のモデルで、ベン図の分析で見られるように、混乱は非常に類似しているようである。後期モデルにおいて、WNTシグナル伝達経路は、DeltaMex5マウスの心臓の最も調節解除されたシグナル伝達経路の4位に見出され、DBA/2-mdxマウスの心臓の3位に見出される。この経路に属する40個の遺伝子のすべてが調節解除され(過剰発現し)、SFRP2及びDKK3が含まれる。TGF-β経路は、DeltaMex5及びDBA/2-mdxの心臓の22位及び19位に見出され、15個を超える調節解除遺伝子があり、それには最も過剰発現する遺伝子のうちの2つであるCILP及びLTBP2が属している。
【0219】
2.2 調節解除された遺伝子の検証
最も調節解除された遺伝子のうちの一つであるCILP-1、DKK3、SFRP2、LTBP2の調節解除を、異なる条件下で評価した。Wnt経路のWISP2も選択した。
【0220】
これらの遺伝子は1カ月時にDeltaMex5モデルで過剰発現されないが、一方、DKK33はDBA2-mdxモデルにおいて既に過剰発現されている。すべての遺伝子は、疾患の後期に過剰発現される(Table 8(表8))。
【0221】
【0222】
それらの過剰発現を確認し、それらの改変を経時的に調査するために、個々のqPCRによって異なる年齢(2、4及び6カ月)のDeltaMex5モデルの心臓でRNAseqデータの検証を次に実行した。すべての遺伝子は、DKK3を除き2カ月後からモデルで有意に過剰発現され、遺伝子過剰発現は年齢と共に次第に増加する(
図1)。
【0223】
RNAseq分析は、Wnt及びTGF-β経路が両方とも損なわれ、これらの遺伝子、特にCILP-1、DKK3、SFRP2及びLTBP2が、遺伝子誘導拡張型心筋症であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DBA2mdxマウス)及びチチノパシー(DeltaMex5マウス)の2つのモデルにおいて過剰発現していることを示す。選択された遺伝子(CILP-1、DKK3、SFRP2、LTBP2及びWISP2)の過剰発現をqPCR分析で検証した。これらの結果は、特に遺伝子導入アプローチを使用してCILP-1、DKK3、SFRP2及びLTBP2遺伝子の発現を調節することによって、心臓表現型のモデルにおけるWnt及びTGF-β経路の調節の効果を査定することを発明者に促した。
【0224】
2.3 遺伝子導入アプローチによるWNT及びTGF-β経路の調節
次いで発明者は、心臓表現型のモデルにおけるWnt及びTGF-β経路の調節の影響を査定することを欲した。遺伝子導入戦略を使用して過剰発現によって又は阻害によって、WNT及びTGF-β経路に属する幾つかの遺伝子の調節を研究することを選択した。
【0225】
遺伝子導入アプローチでは、幾つかの候補を最も調節解除された遺伝子から選択し、TGF-β経路に属するCILP及びLTBP2、並びにWNT経路に属するWISP2/CCN5、DKK3及びSFRP2であった。有意な心臓親和性を有すると記載されているので(Zincarelli等、Molecular Therapy、2008、16巻、1073~1080頁)、AAV血清型9を選択した。導入遺伝子発現のために選択されたプロモーターは、心筋芽細胞特異的プロモーターであるヒト心臓トロポニンTnnt2(cTnT)プロモーターである(Wei等、Gene、2016、582巻、1~13頁)。AAV9ベクター構築物は、GFPルシフェラーゼレポーターを使用して検証した。
【0226】
このGFPルシフェラーゼ構築に基づいて、発明者は、GFP及びルシフェラーゼをコードする領域を、キメライントロンが先行する選択導入遺伝子に置き換えた。選択されたコード配列は、以下のヒト配列である:TGF-β経路にはCILP(NCBI/GenBank受入番号NM_003613.4)、並びにWNT経路にはDKK3(NCBI/GenBank受入番号NM_015881.5)、SFRP2(NCBI/GenBank受入番号NM_003013.3)及びWISP2(NCBI/GenBank受入番号NM_003881.3)。
【0227】
LTBP2遺伝子発現を阻害するために選択される戦略は、shRNAを使用するものである。これらは、ヘアピン構造を有する小さいRNAであり、これらの作用は、干渉RNAの原理に基づき、標的のメッセンジャーRNAを中和する。発明者は、導入遺伝子の中和効率の増強のために、4つの個々のsh配列がプラスミドの中で一緒にされる、4-in-1 shRNAを選択した。shRNAは、Thermofisher社のRNAiデザイナーツールを使用して選択した。目的の遺伝子のために最高の特異的回収スコアを有する4つのshRNAを選択した。それらは、次にVigene Bioscience社にH1及びU6ユビキタスプロモーターの制御下で注文した。
【0228】
考慮されるベクターのin vitro及びin vivo検証の後、線維化状態及び心機能へのin vivo遺伝子導入の帰結の評価を、DeltaMex5モデル(2つのうちのより重症のモデル)に実施した。ヒトCILP遺伝子を発現するベクターのTGF-β経路への効果、並びにWNT経路へのWISP2、SFRP2及びDKK3の効果を試験し、LTBP2へのshRNA阻害ベクターの効果も試験した。DeltaMex5モデルに関心が示されたアプローチが、ここでDBA/2-mdxモデルに適用される。
【0229】
2.3.1 TGF-β経路遺伝子(CILP及びLTBP2)の調節
TGF-β経路の調節を、CILP(ベクターAAV9-hTnnt2-hCILP)の過剰発現及びLTBP2(AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFP)の阻害によって試験した。1カ月齢のマウスを、AAVベクターの2e11 vg/マウスの投与量(概ね20gのマウスのための1e13 vg/kgの投与量と同等)で、又はPBSによって静脈内注射した。ベクター発現の3カ月後、収集の前にマウスの心臓を超音波検査した。心臓への全体的な組織学的及び機能的結果を次に試験した。
【0230】
心臓におけるベクター発現を、AAV9-hTnnt2-hCILPが注射されたマウスにおいて、RT-qPCRによるhCILPの相対的存在量をアッセイすることによって検証した。導入遺伝子がヒト導入遺伝子であるので、ベクターが注射されたマウスのみに検出され、PBSが注射されたマウスでは検出されなかった(
図2A)。ベクターAAV9-4in1shRNA- mLTBP2-GFPの発現は、ベクターを注射したマウスだけに存在するGFPレポーター遺伝子を使用して検出する(
図2B)。これらのRT-qPCRアッセイは、ベクター注射の3カ月後に導入遺伝子の存在を確認する。
【0231】
2.3.1.1 形態学的評価
マウス質量は、AAV9-hTnnt2-hCILPベクターで処置したマウスでは3カ月後に有意に減少した(29.38±1.29g、n=4対34.9±1.3g、n=8、P=0.024)。AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPベクターで処置されたマウス質量は類似したままである(32.13±1.76、P>0.05)。値は、C57BL/6マウスの平均質量では有意に異ならない(28.81±0.72、n=11)(
図3A)。AAV9-hTnnt2-hCILPベクターで処置されたマウスにおいて心臓質量の全マウス質量に対する比として測定される心臓肥大は、DeltaMex5マウスに近似したままであるが(0.68±0.04、n=4対0.63±0.02%、n=8、P>0.05)、C57BL/6マウスと比較すると有意に増加した(0.57±0.02%、n=7、P=0.027)。対照的に、AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPベクターで処置されたマウスでは、未処置のDeltaMex5マウスと比較して有意に減少し(0.53±0.048、P=0.03)、C57BL/6マウスと同等になった(
図3B)。
【0232】
マウスの心臓で組織学的分析を次に実行した。HPS染色は、異なるベクターで処置したマウスにおける損傷組織の持続性を明らかにした(
図4A)。シリウスレッド染色は、依然として、2つのベクターで処置されたマウスの心臓に線維化組織が存在することを示したが、DeltaMex5対照マウスと比較して少ない量であることを示した(
図4B)。シリウスレッドで染色されたコラーゲンによる、組織のWEKAによる線維症の定量化は、全体的な線維症率が、AAV9-hTnnt2-hCILPで処置されたDeltaMex5マウスの心臓において、DeltaMex5-PBSマウスの心臓と比較して減少するが(17,59±1.27%対33.31±4.65%、P=0.017、n=4)、C57BL/6マウスの線維症心臓率(7.11±0.77%、P=0.0004、n=4)より依然として高いことを確証する。異なるタイプの線維症に目を向けると、取付済みの線維症は、ほとんど変わらないが(4.14±0.45%対4.95±1.95%、P>0.05)、最近の線維症は、AAV9-hTnnt2-hCILPが与えられたDeltaMex5マウスでは有意に少なく存在することが観察される(12.64±2.04%対29.17±4.24、P=0.0126)(
図4C)。shRNAによるAAV処置試料の定量化は実施していないが、スライスの観察は、減少していることを示す。
【0233】
2.3.1.2 機能評価
心機能の超音波分析は、3カ月のベクター発現の後、4カ月目に実行した(
図5)。評価されたパラメータ(推定左心室質量及び容積、駆出率)のうち、AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPが注射されたマウスの推定左心室質量に有意な変動があり、DeltaMex5対照と比較してほぼ40%の減少であった(133±4.74mg、n=4、P=0.01)。(127±11.05mg、
【0234】
2.3.1.3 分子の評価
心臓に関与する組織RNAマーカー(Nppa、Myh7、Myh6、Timp1、Tgf-β1)を、RT-qPCRで測定した(
図6)。Tgf-β1のみが、AAV9-hTnnt2-hCILPベクターが注射されたマウスにおいて、DeltaMex5-PBSマウスと比較して1に近い比で有意に減少した(1.25±0.25対2.13±0.14、P=0.02)。Timp1のみが、注射マウスにおいてDeltaMex5-PBSマウスと比較して有意に減少した(31.67±6.98、P=0.001)。AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPベクターが注射されたマウスにおいて、Myh6及びβ-カテニンは、非注射マウスに対して増加し(0.77±0.035、P=0.0001及び0.99±0.008、P=0.008)、1に近い比でC57BL/6マウスに正規化される。逆に、TIMP1及びTGF-βは減少し(12.31±3.49、P=0.0001及び1.24±0.11、P=0.002)、TGF-βがC57BL/6マウスに正規化される。
【0235】
線維症RNA組織マーカー(フィブロネクチン、ビメンチン、コラーゲン1a1及びコラーゲン3a1)もRT-qPCRによって測定した(
図7)。AAV9-hTnnt2-hCILPが注射されたマウスでは、線維症の3つの主要マーカーが、PBSが注射されたマウスと比較して有意に減少した:フィブロネクチン(7.72±2.95対15.67±1.4、P=0.05)、ビメンチン(1.77±0.43対3.45±0.27、P=0.016)及びコラーゲン1a1(3.95±1.13対6.92±0.41、P=0.049)。コラーゲン3a1は非有意な減少傾向を有する(5.72±1.68対9.35±0.49、P=0.08)。これらの結果は以前の結果と関連し、処置マウスにおいて心機能に改善はなかったが、線維症には改善があった。興味深いことに、すべてのマーカーでは、C57BL/6マウスと比較して結果の最適な正規化を示すマウスが最高のhCILPレベルを有するマウスであった。AAV9-4in1shRNA-mLTBP2-GFPが注射されたマウスでは、フィブロネクチンとビメンチンの両方が減少した(4.68±1.91、P=0.0035及び1.25±0.10、P=0.0003)。ビメンチンをC57BL/6マウスに正規化した。
【0236】
2.3.2 WNT経路遺伝子(WISP2、DKK3、SFRP2)の調節
WNT経路の調節を、WISP2、DKK3及びSFRP2の過剰発現によって試験した。1カ月齢マウスに2e11vg/マウスの用量又はPBSを静脈内注射した。ベクター発現の3カ月後、マウスの心臓を試料採取する前に超音波検査した。
【0237】
心臓のベクター発現は、AAV9-hTnnt2-hWISP2、AAV9-hTnnt2-hDKK3及びAAV9-hTnnt2-hSFRP2が注射されたマウスで、hWISP2、hDKK3及びhSFRP2それぞれの相対的存在量についてRT-qPCRアッセイによって試験した(
図8)。
【0238】
2.3.2.1 形態学的評価
3つのベクターで処置されたマウス質量は、未処置DeltaMex5マウスと類似したままであり(WISP2:35.7±1.106;DKK3:32.58±1.31g;SFRP2:32.8±1.45g)、並びにマウスの全質量の割合として心臓質量により測定された心臓肥大も同様である(WISP2:0.55±0.02%;DKK3:0.68±0.05%;SFRP2:0.64±0.06%)。
【0239】
組織学的には、HPS染色は、3つのベクターで処置されたマウスにおいて損傷組織が残存していることを明らかにする。シリウスレッド染色は、依然として、処置されたマウスの心臓に線維化組織が存在することを示すが、AAV9-hTnnt2-DKK3及びSFRP2ベクターでは弱く現れる。シリウスレッドコラーゲン染色による、組織のWEKAによる線維症の定量化は、AAV9-hTnnt2-hDKK3及びSFRP2ベクターでは、全体的な線維症率が減少したことを示し(DKK3:17.31±4.79%;SFRP2:18.38±3.69%対33.31±4.65%、P=0.01及びP=0.046、n=4)、このことは、最近の線維症のみが減少したことが原因であることを示す(DKK3:11.5±1.01%;SFRP2:12.18±4.66%対29.17±4.24%、P=0.007及びP>0.035、n=4)(
図9)。
【0240】
2.3.2.2 機能評価
心機能及び心室拡張の超音波分析は、PBSが注射されたマウスと比較して、AAV9-hTnnt2-hWISP2、DKK3及びSFRP2が注射されたマウスのパラメータに変化を示さなかった。左心室質量のみが、AAV9-hTnnt2-DKK3ベクターが注射されたマウスにおいて30%有意に減少した(133.34±8.44mg、n=4対190±12.77mg、n=8、P= 0.01)。
【0241】
2.3.2.3 分子の評価
AAV9-hTnnt2-hWISP2が注射されたマウスの心臓でRT-qPCRにより評価された心臓損傷及び線維症のマーカーは、TGF-β及びコラーゲン1a1でのみ変更され、PBSが注射されたマウスと比較して減少しており(1.64±0.94、P= 0.03及び4.49±0.83、P= 0.04)(
図10)、他のマーカーは変更されない(
図10)。すべてのマーカーでは、C57BL/6マウスに対する比の最適な回復を示すマウスが、最高のhWIPS2レベルを有するマウスであることが興味深く観察される。AAV9-hTnnt2-DKK3が注射されたマウスの心臓において、有意に変更されたマーカーはない。AAV9-hTnnt2-hSFRP2が注射されたマウスの心臓において、観察された唯一の差は、心臓におけるコラーゲン1a1及び3a1の減少であった(4.70±0.77、P=0.043及び6.76±0.77、P=0.048)。ここでも、すべてのマーカーでは、C57BL/6マウスと比較した比の最適な回復を示すマウスが、最高の導入遺伝子レベルを有するマウスであることが観察される。
【0242】
結論
WNT経路遺伝子WISP2、DKK3、SFRP2及びTGF-β経路遺伝子CILP-1の過剰発現による、又はTGF-β経路LTBP2遺伝子の発現の阻害によるWNT又はTGF-β経路の調節は、処置の3カ月後に組織線維症を改善する。処置マウスにおいて心機能に改善はなかったが、線維症には改善があった。
【配列表】
【国際調査報告】