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特表2023-528673可塑性に優れた超高張力鋼およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(54)【発明の名称】可塑性に優れた超高張力鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230628BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20230628BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230628BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230628BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/06
C22C38/38
C21D9/46 G
B22D11/00 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575846
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 CN2021099258
(87)【国際公開番号】W WO2021249446
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】202010527353.2
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 濛 ▲シアオ▼
(72)【発明者】
【氏名】鐘 勇
(72)【発明者】
【氏名】陳 孟
(72)【発明者】
【氏名】王 利
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB09
4K037EB12
4K037EC01
4K037FA03
4K037FC04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE06
4K037FF03
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL01
4K037FL02
4K037FL05
4K037JA06
4K037JA07
(57)【要約】
本発明は、化学元素の質量パーセントが、以下の通りである可塑性に優れた超高張力鋼を開示した:C:0.26~0.30wt%;Si:0.8~1.00wt%;Mn:2.80~3.30wt%;Al:0.04~0.08wt%;残りがFeおよびその他の避けられない不純物である。また、本発明は、以下のステップを含む、上記可塑性に優れた超高張力鋼の製造方法を開示した:(1)製錬と薄板スラブの連続鋳造:連続鋳造の出口側の板スラブの厚さを55~60mmとする;(2)加熱;(3)熱間圧延:熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さ≦6μm、且つ熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%とする;(4)酸洗いまたは酸洗い+冷間圧延;(5)連続焼鈍:800~920℃で焼鈍し、3~10℃/sの冷却速度で690~760℃まで徐冷することで、一定の割合のフェライトを得る;さらに250~350℃に急冷し、冷却速度を50~100℃/sとし、オーステナイトの部分をマルテンサイトに転化させる;その後、さらに360~460℃に加熱し、100~400s保温し、最後は室温まで冷却する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学元素の質量パーセントが、以下の通りである、可塑性に優れた超高張力鋼:
C:0.26~0.30wt%;
Si:0.8~1.00wt%;
Mn:2.80~3.30wt%;
Al:0.04~0.08wt%;
残りがFeおよびその他の避けられない不純物である。
【請求項2】
各化学元素の質量パーセントが、下記各項の少なくとも一つを満たす、請求項1に記載の可塑性に優れた超高張力鋼:
C:0.26~0.28wt%;
Si:0.9~1.00wt%;
Mn:2.9~3.1wt%。
【請求項3】
下記各元素の少なくとも一つをさらに含有する、請求項1または2に記載の可塑性に優れた超高張力鋼:
0<Cr≦0.05wt%;
0<Mo≦0.05wt%;
0<Nb≦0.03wt%;
0<Ti≦0.05wt%;
0<V≦0.03wt%;
0<B≦0.001wt%。
【請求項4】
各化学元素が、下記各項の少なくとも一つを満たす、請求項3に記載の可塑性に優れた超高張力鋼:
0<Cr≦0.03wt%;
0<Mo≦0.03wt%;
0<Nb≦0.01wt%;
0<Ti≦0.03wt%;
0<V≦0.01wt%。
【請求項5】
その他の避けられない不純物が、以下の通りである、請求項1に記載の可塑性に優れた超高張力鋼:P≦0.01wt%、S≦0.01wt%、N≦0.006wt%。
【請求項6】
その顕微組織が、20%~40%のフェライト+50%~70%のマルテンサイト+残りのオーステナイトである、請求項1に記載の可塑性に優れた超高張力鋼。
【請求項7】
フェライトにおいて、10μm以下の結晶粒が90%以上を占め、5μm以下の結晶粒が60%以上を占める、請求項6に記載の可塑性に優れた超高張力鋼。
【請求項8】
残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズ≦2μm;及び/または残りのオーステナイト中の平均C含有量≧1.1wt%である、請求項6に記載の可塑性に優れた超高張力鋼。
【請求項9】
その降伏強度が850~1000MPaであり、引張強度が1180~1300MPaであり、均一伸び率≧11%、破断伸び率が15%~20%である、請求項1に記載の可塑性に優れた超高張力鋼。
【請求項10】
以下のステップを含む、請求項1-9のいずれ一項に記載の可塑性に優れた超高張力鋼の製造方法:
(1)製錬と薄板スラブの連続鋳造:連続鋳造の出口側の板スラブの厚さを55~60mmとする;
(2)加熱;
(3)熱間圧延:熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さ≦6μm、且つ熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%とする;
(4)酸洗いまたは酸洗い+冷間圧延;
(5)連続焼鈍:800~920℃で焼鈍し、3~10℃/sの冷却速度で690~760℃まで徐冷することで、一定の割合のフェライトを得る;さらに250~350℃まで急冷し、冷却速度を50~100℃/sとし、オーステナイトの部分をマルテンサイトに転化させる;その後、さらに360~460℃に加熱し、100~400s保温し、最後は室温まで冷却する。
【請求項11】
ステップ(1)では、連続鋳造の引張速度を2~5m/minとする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(2)では、板スラブを1200~1300℃に加熱する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(3)では、仕上げ圧延温度を860~930℃とし、卷取温度を450~600℃とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(4)では、酸洗い+冷間圧延ステップを採用するとき、その歪み量を40%~70%とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
ステップ(5)では、連続焼鈍プロセスが以下各項の少なくとも一つを満たす、請求項10に記載の製造方法:
焼鈍温度を820~870℃とする;
3~10℃/sの冷却速度で700~730℃に徐冷する;
270~330℃に急冷する;
急冷の後にさらに400~430℃に加熱し、150~300s保温する;
連続焼鈍炉内の還元性雰囲気における水素ガスの体積含有量を10~15%とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼種およびその製造方法、特に高張力鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体軽量化の実現、省エネの達成、衝撃安全性の向上および製造コストの削減などの目的のため、自動車用先端高張力鋼が、自動車製造業において広く利用されている。先端高張力鋼は、鋼板強度の向上により鋼板厚さが薄くなると同時に、優れた成形性能が保たれるため、現在では総合的な競争力が最も高い車体軽量化素材である。
【0003】
変態誘起塑性(TRIP)効果に基づく先端高張力鋼は、高強度を保つと同時に、良好な展延性も有する。顕微組織から見ると、TRIP鋼は、フェライト、ベイナイトおよび残りのオーステナイトからなり、このような相構造により、その強度の更なる向上が制限されるが、ベイナイトに替わりマルテンサイトを主要の強化相として使用することで、TRIP鋼の強度をさらに高めることができる。TRIP効果に基づく先端高張力鋼に関し、その展延性を決める主要の要素は鋼中に残るオーステナイトの形態、体積分率および安定性であり、そして残りのオーステナイトの安定性はそのサイズや炭素含有量と密接に関係する。
【0004】
鋼板の強度と展延性能を考慮する上で、従来の先端高張力鋼は、主に基礎である炭素マンガン鋼成分に、Cr、Mo、Nb、Ti、Bなど多くの合金元素が加われるが、材料コストが高いだけでなく、製鋼、熱間圧延および冷間圧延などの製造性には困難性がある。
【0005】
例えば:中国特許文献(特許公開CN104245971A、開示日2014年12月24日、題名「高強度冷間圧延鋼板およびその鋼板の製造方法」)は、高強度鋼板を開示した。この特許文献に開示される技術案において、その成分は:C:0.1%~0.3%、Si:0.4%~1.0%、Mn:2.0%~3.0%、Cr≦0.6%、Si+0.8Al+Cr:1.0%~1.8%、Al:0.2%~0.8%、Nb<0.1%、Mo<0.3%、Ti<0.2%、V<0.1%、Cu<0.5%、Ni<0.5%、S≦0.01%、P≦0.02%、N≦0.02%、B<0.005%、Ca<0.005%、Mg<0.005%、REM<0.005%、残りがFeおよび避けられない不純物である。顕微組織(体積%)は:残りのオーステナイト5%~20%、ベイナイト+ベイナイトフェライト+焼き戻しマルテンサイト≧80%、多角形フェライト≦10%、マルテンサイト-オーステナイト成分≦20%。説明しないといけないが、この技術案による鋼種成分は、一定量のCr、Moを加える必要があり、その引張強度≧980MPaが伸び率が14%程度しかなく、自動車部品用鋼のコストおよび成形性の点から見ると有利だとは言えない。
【0006】
また、例えば:中国特許文献(特許公開CN106574342A、開示日2017年4月19日、題名「高強度鋼板およびその製造方法、および高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法」)は、高強度鋼板を開示した。この特許文献に開示される技術案において、その製造方法は:成分条件を満たす鋼スラブを1100~1300℃に加熱し、仕上げ圧延の出口側温度を800~1000℃とし、平均卷取温度を450~700℃とし、酸洗いの後に、鋼板を450℃~Ac1の温度で900~36000s保持し、30%以上の圧下率で冷間圧延を行い、鋼板を820~950℃に加熱して第一回焼鈍を行い、その後500℃までに平均冷却速度15℃/s以上という条件下でMs温度以下に冷却し、740~840℃に再加熱して第二回焼鈍を行い、1~15℃/sの冷却速度で150~350℃まで冷却し、350~550℃に再加熱して10s以上保温する。この特許文献に開示される技術案では、加熱圧延が必要であり、そして焼鈍処理が二回行われるため、生産工程が複雑で、製造コストが増加するため、自動車分野での応用が大きく制限される。
【0007】
さらに、例えば:国際特許文献(国際公開WO2018/116155、開示日2018年6月28日、題名「HIGH-STRENGTH COLD ROLLED STEEL SHEET HAVING HIGH FORMABILITY AND A METHOD OF MANUFACTURING THEREOF」)は、高成形性を有する高強度冷間圧延鋼板を開示した。この特許文献に開示される技術案において、その成分は:C:0.19%~0.24%、Mn:1.9%~2.2%、Si:1.4%~1.6%、Al:0.01%~0.06%、Cr:0.2%~0.5%、P≦0.02%、S≦0.003%、任意選択的に、一つまたは複数の:Nb:0.0010%~0.06%、Ti:0.001%~0.08%、V:0.001%~0.1%、Ca:0.001%~0.005%、残りがFeおよび避けられない不純物である。説明しないといけないが、この技術案による鋼種の引張強度≧1150MPa、伸び率≧13%、穴広げ率≧30%、その引張強度が高いものの、CrおよびNb、Tiが多く加われるため、コストの制限要求が非常に厳しい自動車用鋼には向いていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、可塑性に優れた超高張力鋼を提供する。この可塑性に優れた超高張力鋼は、鋼板の強度と展延性能を考慮する上で、簡単な成分設計を採用し、材料の相変態に対するC、SiおよびMnの影響法則を十分活用する結果、降伏強度が850~1000MPaであり、引張強度が1180~1300MPaであり、均一伸び率≧11%、破断伸び率が15%~20%であり、良好な応用展望や価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を実現するために、本発明は、化学元素の質量パーセントが以下の通りである、可塑性に優れた超高張力鋼を提供する:
C:0.26~0.30wt%;
Si:0.8~1.00wt%;
Mn:2.80~3.30wt%;
Al:0.04~0.08wt%;
残りがFeおよびその他の避けられない不純物である。
【0010】
本発明による技術案は、普通の炭素ケイ素マンガン鋼の成分設計を採用し、材料の相変態に対するC、Si、Mnの影響法則を十分活用することで、本発明による高張力鋼の高強度と高展延性のバランスを実現し、最終的に優れた性能を有する鋼板製品を得た。具体的に、各化学元素の設計原理は、以下の通りである:
C:本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Cは最も重要な固溶強化元素であり、鋼の強度を有効に維持することができる。鋼中でのCの質量パーセントが高いほど、残りのオーステナイトの分率が多くなり、また配分時に残りのオーステナイト中にCの集まり程度が高いほど、残りのオーステナイトの安定性増強には有利であり、TRIP効果により、材料の展延性が高まる。ただし、注意しなければならないが、鋼中でのC含有量が高すぎると、鋼の溶接性が低くなり、また鋼中でのCの質量パーセントが0.30%を超えると、焼入れ後に多くの双晶が現れやすく、割れ敏感性が増加する。これにより、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Cの質量パーセントは、0.26~0.30wt%とする。
【0011】
好ましい実施形態では、Cの質量パーセントは、0.26~0.28wt%にしてもいい。
【0012】
Si:本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Siは配分処理過程でセメンタイトの形成を強烈に抑制し、炭素が残りのオーステナイト中に集まることを促進し、残りのオーステナイトの安定性を高めることができる。セメンタイトを有効に抑制するには、Siの含有量が少なくとも0.8%である必要がある。注意しなければならないが、鋼中でのSi含有量が高すぎると、鋼の高温可塑性が低減し、熱間圧延での欠陥発生率が増大する。同時に、Si含有量が高すぎると、鋼板表面に安定な酸化物が形成され、後続の酸洗い工程には悪影響をもたらす。これにより、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Siの質量パーセントは、0.8~1.00wt%とする。
【0013】
好ましい実施形態では、Siの質量パーセントは、0.9~1.00wt%にしてもいい。
【0014】
Mn:本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Mnはオーステナイト相領域を拡大し、MsとMf点を下げ、オーステナイトの安定性と鋼の焼入れ性を有効に高め、臨界転化速度を低減させることができるため、残りのオーステナイトの室温までの保存には有利である。同時に、Mnは重要な固溶強化元素である。ただし、注意しなければならないが、鋼中でのMn含有量が高すぎると、耐腐食性能および溶接性能が悪化し、同時に結晶粒が粗面化する傾向があり、鋼の可塑性と靱性が低減する。これにより、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Mnの質量パーセントは、2.80~3.30wt%とする。
【0015】
好ましい実施形態では、Mnの質量パーセントは、2.9~3.1wt%にしてもいい。
【0016】
Al:本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Alは固溶状態で存在する時、積層欠陥エネルギーを増加できるだけでなく、セメンタイトの析出およびγからマルテンサイトへの転化を抑制し、オーステナイトの安定性を高めることができる。また、AlはCやNと微細に分散分布した不溶質点を形成することができ、結晶粒を微細化させることができるが、Alの強化効果はSiより弱く、オーステナイトを安定化させる能力もSiより弱い。鋼中でのAlの質量パーセントが高すぎると、介在の酸化物が大量に形成しやすく、鋼液の清潔度には不利である。したがって、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、Alの質量パーセントは、0.04~0.08wt%とする。
【0017】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、各化学元素の質量パーセントは、以下各項の少なくとも一つを満たす:
C:0.26~0.28wt%;
Si:0.9~1.00wt%;
Mn:2.9~3.1wt%。
【0018】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼は、以下の各元素の少なくとも一つをさらに含有する:
0<Cr≦0.05wt%;
0<Mo≦0.05wt%;
0<Nb≦0.03wt%;
0<Ti≦0.05wt%;
0<V≦0.03wt%;
0<B≦0.001wt%。
【0019】
上記Cr、Mo、Nb、Ti、VおよびBは、いずれも本発明による高張力鋼の性能をさらに高めることができる。例えば:Cr、Moは鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を調節することができるが、Crは鋼板表面で集まり、溶接性能に影響する。そして、Moの質量パーセントが高すぎると、鋼の冷間圧延歪み耐力が増大する。また、たとえば:Nb、Ti、VはCと微細な炭化物を形成し、組織の微細化を促進できるが、このような微細炭化物の形成は、残りのオーステナイトへのCの集まりや残りのオーステナイトの安定化には不利である。そして、Bの主な効果は鋼の焼入れ性の向上である。Bはオーステナイト結晶境界で偏析しやすく、オーステナイトからフェライトへの転化を遅らせ、低い含有量でも明らかな効果があるが、Bの質量パーセントが高すぎると、鋼強度が高まり、良好な成形には不利である。したがって、Bの質量パーセントは、0<B≦0.001%にしてもいい。
【0020】
また、上記元素の添加によって、材料のコストが増加するため、性能とコスト制限を総合的に考慮する上、本発明による技術案は、好ましく、上記元素の少なくとも一つを添加してもいい。
【0021】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、各化学元素は、以下各項の少なくとも一つを満たす:
0<Cr≦0.03wt%;
0<Mo≦0.03wt%;
0<Nb≦0.01wt%;
0<Ti≦0.03wt%;
0<V≦0.01wt%。
【0022】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、その他の避けられない不純物が、以下の通りである:P≦0.01wt%、S≦0.01wt%、N≦0.006wt%。
【0023】
上記技術案において、P、SとNはいずれも不純物元素である。Pは固溶強化の効果があり、炭化物の形成を抑制し、残りのオーステナイトの安定性向上には有利であるものの、Pの質量パーセントが高すぎると、結晶境界が弱化し、材料の脆性が増大し、溶接性能が悪化する。つまり、Pのプラス作用がマイナス作用より弱いため、Pの質量パーセントは、好ましくP≦0.01wt%とする。そしてNに関し、Nの質量パーセントが高すぎると、製鋼や連続鋳造が困難になり、介在物の制限には不利であるため、Nの質量パーセントは、好ましくN≦0.006wt%とする。また、鋼中でのS元素の質量パーセントが高すぎると、材料の可塑性が明らかに悪化するため、Sの質量パーセントは、S≦0.01wt%とする。
【0024】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼の化学元素の質量パーセントは:
C:0.26~0.30wt%、好ましくは0.26~0.28wt%;
Si:0.8~1.00wt%、好ましくは0.9~1.00wt%;
Mn:2.80~3.30wt%、好ましくは2.9~3.1wt%;
Al:0.04~0.08wt%;
Cr:≦0.05wt%、好ましくは0.03wt%;
Mo:≦0.05wt%、好ましくは0.03wt%;
Nb:≦0.03wt%、好ましくは0.01wt%;
Ti:≦0.05wt%、好ましくは0.03wt%;
V:≦0.03wt%、好ましくは0.01wt%;
B:≦0.001wt%;
P:≦0.01wt%;
S:≦0.01wt%;
N≦0.006wt%;
残りがFeおよびその他の避けられない不純物である。
【0025】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、その顕微組織(体積比)は、20%~40%のフェライト+50%~70%のマルテンサイト+残りのオーステナイトである。
【0026】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼では、フェライトにおいて、10μm以下の結晶粒が90%以上を占め、5μm以下の結晶粒が60%以上を占める。
【0027】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズ≦2μm;及び/または残りのオーステナイト中の平均C含有量≧1.1wt%である。一実施形態では、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズが0.6-1.6μmである。一実施形態では、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、残りのオーステナイト中の平均C含有量が1.1-1.35wt%である。
【0028】
さらに、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼において、その降伏強度が850~1000MPaであり、引張強度が1180~1300MPaであり、均一伸び率≧11%、破断伸び率が15%~20%である。
【0029】
また、本発明のもう一つ目的は、上記可塑性に優れた超高張力鋼の製造方法の提供である。この製造方法は、薄板スラブの連続鋳造プロセスと、酸洗いまたは酸圧延プロセスとの配合により、連続焼鈍後に可塑性に優れた超高張力鋼を得ることができる。この製造方法は、生産が簡単であり、同様の強度条件下で、得られる高張力鋼の鋼の伸び率がさらに高まる。
【0030】
上述の目的を実現するために、本発明は、以下のステップを含む上記可塑性に優れた超高張力鋼の製造方法を提供する:
(1)製錬と薄板スラブの連続鋳造:連続鋳造の出口側の板スラブの厚さを55~60mmとする;
(2)加熱;
(3)熱間圧延:熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さ≦6μm、且つ熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%とする;
(4)酸洗いまたは酸洗い+冷間圧延;
(5)連続焼鈍:800~920℃で焼鈍し、3~10℃/sの冷却速度で690~760℃まで徐冷することで、一定の割合のフェライトを得る;さらに250~350℃まで急冷し、冷却速度を50~100℃/sとし、オーステナイトの部分をマルテンサイトに転化させる;その後、360~460℃に再加熱し、100~400s保温し、最後は室温まで冷却する。
【0031】
本発明による技術案において、ステップ(1)では、薄板スラブの連続鋳造が採用されるため、粗圧延工程が省かれ、熱間圧延歪み量が減少し、後続のステップ(4)およびステップ(5)での鋼板性能が保たれる。また、ステップ(1)で採用される薄板スラブの連続鋳造は、板スラブの熱を十分活用し、加熱に用いるエネルギー消費を低減させることができるため、より均一的なフェライトまたはフェライト+パーライト組織が得られ、後続のステップ(5)における完成品の顕微組織中に一定量の微細結晶粒フェライトの保持には有利で、組織均一性が高まり、可塑性の向上には有利である。
【0032】
そして、ステップ(3)では、熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さ≦6μmとし、熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%とすることで、後続のステップ(4)の進行に有利であり、そして連続焼鈍後に得られる鋼板の性能には重要な影響がある。なぜなら:本発明による技術案において、FeO、FeはFeよりも酸洗いされにくいが、本願の熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さを制御し、熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%とすることで、酸洗いの効果が向上し、連続焼鈍に直接使用できる酸洗い板表面が得られる。そして、酸洗い板は連続焼鈍を直接行うことができるため、熱間圧延の組織歪み量を小さくし、鋼板組織を主にフェライトおよびパーライトまたはベイナイトとすることができるため、同じ連続焼鈍条件下で、材料の強度を低減し、組織をより均一にさせ、優れた展延性を得ることができる。
【0033】
そして、ステップ(5)では、焼鈍温度を800~920℃とすることで、均一的なオーステナイト組織またはオーステナイト+フェライト組織が形成できる;その後、3~10℃/sの冷却速度で690~760℃に徐冷することによって、組織中のフェライト含有量をさらに調節し、材料の成形を向上させる;次に、50~100℃/sの速度で250~350℃(つまりMsとMf温度の間)に冷却する。なぜなら:冷却過程で、マルテンサイトの相変態だけが発生するように、臨界冷却速度は50℃/s以上である必要があり、また冷却速度が100℃/sを超えると、生産コストが大幅に上昇する。このとき、オーステナイトが部分的にマルテンサイトに転化するため、鋼は高い強度を保つことができる;360~460℃に再加熱し、100~400s保温することにより、マルテンサイトとオーステナイト中に炭素を配分させ、一定量の高炭素の残りのオーステナイトを形成し、それを室温まで安定に保持することで、TRIP効果によって、鋼の加工硬化能力および成形性を顕著に向上させ、可塑性に優れた超高強度鋼板を得ることができる。上記配分プロセスの設定理由は:再加熱温度が360℃未満もしくは再加熱時間が100s未満であるとき、鋼中に残るオーステナイトの安定化過程が不十分で、最終的に室温下で得られる残りのオーステナイト含有量が不足する;再加熱温度が460℃を超える、もしくは再加熱時間が400sを超えるとき、鋼には明らかな焼き戻し軟化が発生し、最終的に材料の強度が明らかに低減する。
【0034】
本願の超高張力鋼は、高炭素や高マンガンの成分設計およびフェライト結晶粒の微細化メカニズムを利用するため、連続焼鈍過程において、オーステナイトの逆相変態の形核点が増えると同時に、サイズがさらに微細化し、室温まで安定に保てる残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズ≦2μm;残りのオーステナイト中に、平均C含有量≧1.1%。なお、高Si設計を利用するため、急速冷却で形成したマルテンサイトが配分過程において基本的に分解しなく、その結果、組織中のマルテンサイトの含有量が保たれ、鋼の強度が保たれる。
【0035】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(1)では、控制連続鋳造の引張速度を2~5m/minとする。
【0036】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(2)では、板スラブを1200~1300℃まで加熱する。
【0037】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(3)では、仕上げ圧延温度を860~930℃とし、卷取温度を450~600℃とする。
【0038】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(4)では、酸洗い+冷間圧延ステップを採用するとき、その歪み量を40%~70%とする。
【0039】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(5)では、連続焼鈍プロセスを、下記各項の少なくとも一つを満たすようにする:
焼鈍温度を820~870℃とする;
3~10℃/sの冷却速度で700~730℃に徐冷する;
270~330℃に急冷する;
急冷の後にさらに400~430℃に加熱し、150~300s保温する;
連続焼鈍炉内の還元性雰囲気における水素ガスの体積含有量を10~15%とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明による可塑性に優れた超高張力鋼およびその製造方法は、従来技術と比較して、以下の利点及び有益な効果を有する:
本発明による高張力鋼は、炭素ケイ素マンガン鋼を基礎とし、いかなる高額な合金元素も添加しなく、炭素ケイ素マンガンの配合比例を最適化することで、優れた展延性を有する高強度冷間圧延鋼板が得られる。
【0041】
本発明による製造方法は、生産プロセスが独特であり、薄板スラブの連続鋳造技術が採用されるため、組織均一性および偏析制御の面では先天性なメリットがある。得られる超高張力鋼は、同様な強度条件下で、伸び率が顕著に高まることができるため、自動車安全構造品において良好な応用展望を有し、特に複雑な形状を有し、成形性能に高い要求を有する車両構造品や安全品、例えばA/Bピラー、ウエストレインフォース、サイドメンバー、バンパーなどの製造に適す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は実施例4の超高張力鋼の顕微組織の写真を示す。
図2図2は実施例4の超高張力鋼の相組成のEBSD写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、図面および具体的な実施例に基づき、本発明による可塑性に優れた超高張力鋼およびその製造方法をさらに詳しく説明するが、その説明は本発明の技術案を限定するものではない。
【0044】
実施例1-24および比較例1-3
実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼は、以下のステップで作製された:
(1)表1に示される化学成分で、製錬と薄板スラブの連続鋳造を行った:連続鋳造の出口側における板スラブ厚さを55~60mmとし、連続鋳造スラブの引張速度を2~5m/minとした。
【0045】
(2)加熱:板スラブを1200~1300℃に加熱した。
(3)熱間圧延:熱間圧延後の鋼帯表面における酸化皮膜の厚さ≦6μm、且つ熱間圧延後の帯鋼表面における酸化皮膜中の(FeO+Fe)≦40wt%、仕上げ圧延温度を860~930℃とし、卷取温度を450~600℃とした。
【0046】
(4)酸洗いまたは酸洗い+冷間圧延:酸洗い+冷間圧延ステップを採用するとき、その歪み量を40%~70%とした。
【0047】
(5)連続焼鈍:800~920℃で焼鈍し、3~10℃/sの冷却速度で690~760℃まで徐冷することで、一定の割合のフェライトを得た;さらに250~350℃まで急冷し、冷却速度を50~100℃/sとし、オーステナイトの部分をマルテンサイトに転化させた;その後、360~460℃に再加熱し、100~400s保温し、最後は室温まで冷却した。
【0048】
説明しなければならないが、好ましい実施形態において、ステップ(5)では、パラメータをさらに下記各項の少なくとも一つを満たすようにした:
焼鈍温度を820~870℃とした;
3~10℃/sの冷却速度で700~730℃に徐冷した;
270~330℃に急冷した;
急冷の後にさらに400~430℃に加熱し、150~300s保温した;
連続焼鈍炉内の還元性雰囲気における水素ガスの体積含有量を10~15%とした。
【0049】
そして、比較例1-3は、通常プロセスで作製された。
表1は、実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼および比較例1-3の比較鋼の各化学元素の質量パーセント配合比例を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表2-1と表2-2は、実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼および比較例1-3の比較鋼の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0052】
【表2-1】
【0053】
【表2-2】
【0054】
表3は、実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼および比較例1-3の比較鋼の力学性能の測定結果を示す。ISO 6892:1998(金属材料室温引張試験法)、P14(A50)引張標準で測定を行った。
【0055】
【表3】
【0056】
表3から分かるように、本願実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼は、強度が保たれると同時に、展延性能も同様に優れており、その降伏強度YSが850~1000MPaであり、引張強度TSが1180~1300MPaであり、均一伸び率UELがいずれも≧11%、破断伸び率TELが15%~20%であった。
【0057】
表4は、実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼の顕微組織の観察結果を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表3と表4を合わせてみると分かるように、本願実施例1-24の可塑性に優れた超高張力鋼の顕微組織は、20%~40%のフェライト+50%~70%的マルテンサイト+残りのオーステナイトであり、フェライト中において、10μm以下の結晶粒が90%以上を占め、5μm以下の結晶粒が60%以上を占め、残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズ≦2μm;及び/または残りのオーステナイト中において、平均C含有量≧1.1wt%。このため、本発明の様々な実施例における可塑性に優れた超高張力鋼は、一定量の微細結晶粒フェライトを有する、且つ組織均一性が良いであるので、各実施例の超高張力鋼は、超高強度を有すると同時、優れた可塑性も具備している。
【0060】
図1は実施例4の超高張力鋼の顕微組織の写真を示す。
図2は実施例4の超高張力鋼の相組成のEBSD写真を示す。
【0061】
図1図2を合わせてみると分かるように、実施例4の超高張力鋼の顕微組織は、20%~40%のフェライト+50%~70%的マルテンサイト+残りのオーステナイトであり、フェライト中において、10μm以下の結晶粒が90%以上を占め、5μm以下の結晶粒が60%以上を占め、残りのオーステナイトの平均結晶粒サイズ≦2μm;及び/または残りのオーステナイト中において、平均C含有量≧1.1wt%。
【0062】
以上のように、本発明による超高張力鋼は、炭素ケイ素マンガン鋼を基礎とし、いかなる高額な合金元素も添加しなく、炭素ケイ素マンガンの配合比例を最適化し、且つ薄板スラブの連続鋳造技術を採用することで、組織均一性および偏析制御の面において先天性のメリットを有する。
【0063】
本発明による製造方法は、生産プロセスが簡単であり、得られる超高張力鋼では、同様な強度条件下で、伸び率が顕著に高まることができるため、自動車安全構造品において良好な応用展望を有し、特に複雑な形状を有し、成形性能に高い要求を有する車両構造品や安全品、例えばA/Bピラー、ウエストレインフォース、サイドメンバー、バンパーなどの製造に適す。
【0064】
説明しなければならないが、本発明の保護範囲中における従来技術の部分は、本願に提供される実施例に限定するものではなく、先行特許文献、先行開示出版物、先行開示応用などを含むがそれらに限らない本発明の技術案に矛盾しない技術案は、いずれも本発明の保護範囲に収まる。
【0065】
また、本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0066】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、当業者は、その類似変化や変形を、本発明の開示内容から直接得られ、もしくは容易に想到できるため、本発明の保護範囲に属すことは、言うまでもない。
図1
図2
【国際調査報告】