(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】リプログラミングされたtracrRNAを用いたRNA検出及び転写依存性編集
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230629BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230629BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20230629BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230629BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230629BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20230629BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12Q1/02
C12Q1/6816 Z
C12N15/09 110
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6883 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551605
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(85)【翻訳文提出日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2021055060
(87)【国際公開番号】W WO2021170877
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591081310
【氏名又は名称】ヘルムホルツ-ツェントルム フュア インフェクツィオンスフォルシュンク ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】506261534
【氏名又は名称】ユリウス-マクシミリアンズ-ウニヴェルジテート ウュルツブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ベイゼル,チェイス
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,チュンレイ
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ,シンシア,ミラ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥグル,ガウラヴ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
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(57)【要約】
本発明は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを、上記被検知RNAと特異的にハイブリダイズする少なくとも1つの非天然産生型tracrRNA、及び少なくとも1つの標的核酸に結合する少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素を使用して検出する方法、並びにそれぞれのシステム、並びにその診断的使用及び治療的使用に関する。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する複合体の形成を通じて予め選択された被検知RNA配列に特異的にハイブリダイズするように設計されているアンチリピート領域配列を含む部分を含む、非天然産生型tracrRNA核酸分子。
【請求項2】
請求項1に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素と、少なくとも1つの被検知RNAとを含む複合体。
【請求項3】
少なくとも1つの被検知RNA配列に基づく配列、又は該被検知RNA配列に基づいて設計された配列を含む標的DNA核酸分子に更に結合される、請求項2に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子。
【請求項4】
細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)前記試料と、前記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、前記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、前記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等の少なくとも1つのRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で前記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)前記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の前記少なくとも1つの標的核酸への結合を検出することと、
を含み、
c)ここで、結合により、前記細胞、組織、及び/又は試料中の前記少なくとも1つの被検知RNAが検出され、かつ、
好ましくは、前記ヌクレアーゼは、その切断活性及び/又はニッキング活性が不活性化されている、方法。
【請求項5】
細胞及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)前記試料と、前記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、前記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、前記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等の少なくとも1つのRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で前記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)前記試料中の前記少なくとも1つの標的核酸の前記ヌクレアーゼ酵素による切断を検出することと、
を含み、
c)ここで、少なくとも1つの標的核酸の前記切断の検出により、前記細胞、組織、及び/又は試料中の前記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法。
【請求項6】
前記結合された及び/又は切断された少なくとも1つの標的核酸の検出は、色素、蛍光体等の適切な標識のシグナル、又は導電率における変化を検出すること、及び/又は前記切断された少なくとも1つの標的核酸断片自体を検出することを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)前記試料と、前記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、前記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、前記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等の少なくとも1つのRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で前記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)前記試料中の前記少なくとも1つの標的核酸を前記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)例えば、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、塩基編集、プライム編集、又はRNA編集を含む、前記少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集することと、
d)例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、前記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は前記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、前記少なくとも1つの標的核酸の前記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、前記少なくとも1つの標的核酸の前記編集の検出により、前記細胞、組織、及び/又は試料中の前記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法。
【請求項8】
細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの標的DNAの転写を記録する方法であって、
a)前記試料、細胞、又は組織と、被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、前記被検知RNAの第2の部分は、前記少なくとも1つの標的DNAと特異的にハイブリダイズし、前記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等の少なくとも1つのRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で前記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)前記試料中の前記少なくとも1つの標的核酸を前記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、検出可能なマーカー、検出可能な改変、塩基編集、プライム編集、又はRNA編集を含む、前記少なくとも1つの標的DNAを検出可能に編集することと、
d)任意に、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、前記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は前記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、前記少なくとも1つの標的DNAの前記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、前記少なくとも1つの標的DNAの前記編集の検出により、前記細胞、組織、及び/又は試料中の前記少なくとも1つの被検知RNAの転写が記録される、方法。
【請求項9】
1つ以上の試料、組織、及び/又は細胞において、幾つかの又は多数の被検知RNAが検出される、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの被検知RNAは、環境、種、株、疾患、細胞、及び/又は組織に特異的であるか、又はウイルス感染症、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)の前に前記細胞、組織、及び/又は試料に前記少なくとも1つの被検知RNAを加え、及び/又は工程a)の前にDNAを被検知RNAに転写する工程を更に含む、請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素は、II型のCas9及びV型のCas12のヌクレアーゼ酵素、II-A、II-B、及びII-Cからなる群から選択されるII型のCas9ヌクレアーゼ、並びにV-B型、V-C型、V-D型、V-E型、V-F型、V-G型、及びV-K型からなる群から選択される型のCas12ヌクレアーゼから選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子又は方法。
【請求項13】
前記被検知RNAの前記第1の部分と特異的にハイブリダイズする前記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAの前記部分は、10ヌクレオチド以上、11ヌクレオチド以上、若しくは12ヌクレオチド以上とハイブリダイズし、かつ好ましくは前記被検知RNAの前記第1の部分は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子又は方法。
【請求項14】
前記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする前記tracrRNAの前記少なくとも1つの部分のヌクレオチド配列は、前記被検知RNAについての前記第1の部分に対して少なくとも80%まで相補的であり、90%超まで相補的であり、95%超まで相補的であり、若しくは100%相補的であるように生産及び/又は改変される、請求項1~13のいずれか一項に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子又は方法。
【請求項15】
それぞれ前記被検知RNAの異なる部分と特異的にハイブリダイズする2個以上の非天然産生型tracrRNAが作製され、使用される、請求項1~14のいずれか一項に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子又は方法。
【請求項16】
前記試料、組織、及び/又は細胞中の前記少なくとも1つの標的核酸及び/又は前記少なくとも1つの被検知mRNAの量、好ましくは試料、組織、及び/又は細胞当たりの量を検出することを更に含み、かつ好ましくは前記試料、組織、及び/又は細胞中の前記少なくとも1つの標的核酸及び/又は前記少なくとも1つの被検知mRNAの量の、コントロールと比較した変化を検出することを更に含む、請求項4~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連する哺乳動物における医学的病態を発見する方法であって、請求項4~16のいずれか一項に記載の方法を実施することと、検出される前記少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に基づいて前記医学的病態を発見することとを含み、ここで、好ましくは、前記少なくとも1つの被検知RNAは、環境、種、株、疾患、細胞、及び/又は組織に特異的であるか、又はウイルス感染症、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連し、ここで、任意に、工程a)の前に前記細胞、組織、及び/又は試料に前記少なくとも1つの被検知RNAを加え、及び/又は工程a)の前にDNAを被検知RNAに転写する工程を更に含む、方法。
【請求項18】
a)標的DNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を更に含む前記被検知RNAの少なくとも1つの部分に結合するように設計された非天然産生型tracrRNAと、b)少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素とを含み、好ましくは、c)前記標的核酸の切断を検出する標識を含む少なくとも1つの標的核酸分子を更に含み、かつ任意に、d)RNase III酵素等の少なくとも1つのRNA切断酵素を更に含む、被検知RNA検出システム。
【請求項19】
請求項4~17のいずれか一項に記載の方法を実施するための、特に被検知RNA、ウイルス性被検知RNA、疾患マーカーから転写された被検知RNAを検出するための、又は1つ以上の被検知RNAに関する発現プロファイルを生成するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子、又は請求項18に記載の被検知RNA検出システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを、上記被検知RNAと特異的にハイブリダイズする少なくとも1つの非天然産生型tracrRNA、及び少なくとも1つの標的核酸に結合する少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素を使用して検出する方法、並びにそれぞれのシステム、並びにその診断的使用及び治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
殆ど全ての古細菌及び約半分の細菌は、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)-CRISPR関連遺伝子(Cas)適応免疫システムを有しており、これにより、原核生物はウイルス及び核酸ゲノムを有する他の外来侵入者から保護されている。CRISPR-Casシステムは、エフェクター複合体の組成に従ってクラス1とクラス2とに機能的に分類される。クラス2はシングルエフェクターヌクレアーゼからなり、II型、V型、及びVI型のCRISPR-Casシステムを含むクラス2のCRISPR-Casシステムの活用によって、ゲノム編集の慣行が実現されている。II型及びV型は、DNA又はRNAの標的化に使用され得るのに対して、VI型は、RNAの標的化に使用される(例えば、非特許文献1を参照)。II型及びV型のCasエフェクターヌクレアーゼは、通常、標的DNA認識における最初の工程としてプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に依存し、エフェクターヌクレアーゼは、タンパク質-DNA相互作用を介してPAM配列に直接的に結合した後に、下流のDNA配列をアンジッピングする。次に、エフェクタータンパク質は、DNA標的の一方の鎖とCRISPR RNA(crRNA)のガイド部分との間の塩基対合の程度を照合する。2つの間の相補性が十分であると、標的の切断が駆動される。PAM配列は、システム間だけでなくそれ以外は類似のヌクレアーゼ間でもかなり異なることが知られており、Casタンパク質を操作してPAM認識を変化させることができることが示された(非特許文献2)。DNAの標的化に加えて、C.ジェジュニ(C. jejuni)のCas9、N.メニンギティディス(N. meningitidis)のCas9、S.アウレウス(S. aureus)のCas9、及び難培養古細菌由来のCas12f1等の一部のII型及びV型のシングルエフェクターヌクレアーゼは、ssDNA及び/又はRNAを標的化することも示されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。これらの場合に、PAMは必要とされなかった。S.ピオゲネス(S. pyogenes)のCas9(SpyCas9)等の一部のヌクレアーゼは、ssDNA又はRNAを直ちに標的化することができなかったが、オリゴヌクレオチドを供給して二本鎖PAM領域を生成することで、SpyCas9が一本鎖標的に結合してそれを切断することができた(非特許文献6)。
【0003】
成熟crRNAは、侵入ゲノムに対するCRISPR-Cas防御における重要な要素である。これらの短いRNAは、同種の侵入核酸にCasタンパク質(複数の場合もある)を導いてそれらを破壊する特有のガイド配列を含む。CRISPR RNA(crRNA)は、保存された交互のリピート及びスペーサーを含むCRISPRアレイにおいて天然にコードされている。このアレイは、長いpre-crRNAに転写されることが多く、次にこのRNAは、リピート-スペーサー単位の部分から構成される個々のcrRNAへとプロセシングされる。様々な種類のCRISPR-Casシステムは、別個のcrRNA成熟メカニズムを進化させてきた。多数のサブタイプ(II-A、II-B、II-C、V-B、V-C等)は、独自のcrRNA生合成経路を進化させており、そこでは、トランス活性化型CRISPR RNA(CRISPR-Cas遺伝子座内にコードされたtracrRNA)がpre-crRNAの各リピート配列と塩基対合して、二本鎖のRNA二重鎖を形成する(非特許文献7)。crRNA-tracrRNA二重鎖は、ハウスキーピングエンドリボヌクレアーゼRNase IIIによって切断され、システムに特異的なシングルエフェクターヌクレアーゼが結合する。次に、このヌクレアーゼは、RNA二重鎖内のcrRNAを使用して、DNA標的化、場合によってはRNA標的化に導く。これまでに、Cas9、Cas12b1/C2c1、Cas12b2、Cas12e/CasX、Cas12f1/Cas14a、Cas12g、及びCas12kを含む多数のtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼが報告されている。一連のトランスポゾン遺伝子と連携して機能してDNAテンプレートのRNA指令型挿入を行うため、Cas12kヌクレアーゼは独特である(非特許文献8)。これらの各場合において、tracrRNA:crRNA二重鎖は、シングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる単一のRNAキメラとして操作された場合に、Cas9及びその他のtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼによる配列特異的なdsDNA切断も誘導する(非特許文献9、非特許文献10を参照)。
【0004】
フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)のCRISPR-Cas9システムは、Cas9とその内因性DNA標的とのPAM依存性相互作用を示し、これは、非正規の低分子CRISPR関連RNA(scaRNA)及びtracrRNAに依存している。本来、scaRNAは、Cas9を部分的な相補性を有するゲノムDNA標的に誘導し、転写抑制をもたらすと思われる。scaRNAを、他の遺伝子を抑制するようにリプログラミングすることができ、外因性標的に対する操作による相補性の拡張により、DNA切断を誘導することもできる(非特許文献11)。scaRNAがcrRNAと同様にCRISPR-Casシステム内にコードされていることを考慮すると、CRISPRヌクレアーゼをその意図された標的に導くことができるRNAの事前に知られた唯一の供給源は、CRISPR-Casシステム内にしか由来しないこととなる。
【0005】
発明者らの最近の出版物(非特許文献12)において、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)のCas9ヌクレアーゼ(CjeCas9)と共免疫沈降されたRNAがシーケンシングされ、それにより、crRNAのガイド部分に相補性を示すRNAのサブセットがこの細菌のCRISPR遺伝子座内にコードされることが明らかになった。本発明者らは、C.ジェジュニの別個の菌株において同様の共免疫沈降実験を行った。得られた未発表のデータセットには、crRNAとの相補性を示さず、その代わりにtracrRNAのアンチリピート部分との相補性を共有するRNAのセットが含まれていた(
図1)。これらのRNAの組成及びサイズは、crRNAの組成及びサイズと似ていた。これらの洞察から、成熟crRNA(Cas9をそれらの標的に導く)が、CRISPRアレイによってコードされたもの以外に、メッセンジャーRNA及び他のRNA(例えば、リボソームRNA、トランスファーRNA、低分子RNA、アンチセンスRNA、核小体低分子RNA、マイクロRNA、piwiRNA、長鎖ノンコーディングRNA、スプライシングされたイントロン、環状RNA)に由来する可能性があることが示唆された。本発明の文脈においては、これらのRNAを、非正規crRNA(ncrRNA)として指定及び/又は呼称する。
【0006】
CRISPRリピートとtracrRNAアンチリピートとの間の塩基対合により、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼにより結合されるRNA二重鎖が形成される。二重鎖の正確な二次構造は様々であり、二重鎖が完全な相補性を示す場合もあれば、特徴的なバルジを含む場合もある。正確な二次構造にかかわらず、この二次構造をストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9のためのsgRNAの部分として維持して、sgRNAのこの領域の配列を改変することができた(非特許文献13)。したがって、本発明者らは、tracrRNAのアンチリピート部分の配列を他のRNAに相補的となるように変化させることにより、各RNAのこの部分が成熟crRNAになり得ると仮定した(
図2)。
【0007】
tracrRNAのアンチリピート領域を変化させて、特に任意のRNAをncrRNAに変換するという着想はまだ調査されていない。アンチリピート領域の下流にある領域は、sgRNAの点で改変されており、sgRNAの機能を破壊することなく幾つかの変化に対応することが示されている(非特許文献13)。さらに、Scott, T et al.(非特許文献14)により、アンチリピート領域の外側にある領域を変化させて、Cas9のRNPが示す全体的な編集活性を改善することができることが示されたが、そのメカニズムは不明であった。しかしながら、これらの領域はCas9による認識に関与しており、crRNA又は任意の他のRNAとの対合には関与していない。
【0008】
特許文献1は、tracrRNA配列の少なくとも1つのウラシルヌクレオチドがウラシル以外のヌクレオチドで置き換えられた、遺伝子改変されたトランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列を有する核酸配列を利用する組成物及び方法、及び/又はガイドRNA(gRNA)配列を有し、上記gRNA配列の1つ以上のシトシンヌクレオチド及び/又は1つ以上のウラシルヌクレオチドが修飾ヌクレオチドである核酸配列に関する。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ酵素、例えば、Cas9又はCpfl又はクラスIIのCRISPRエンドヌクレアーゼ又はそれらの変異体、例えば、不活性化型Cas9(dCas9)又は突然変異型Cas9ニッカーゼ(D10A)を更に含む組成物が開示されている。
【0009】
特許文献2は、合成2パートアプタマー含有ガイドRNAを含む組成物、及び上記合成2パートアプタマー含有ガイドRNAをCRISPR/Casアクチベーターシステムで使用する方法に関する。真核細胞における標的化転写活性化、標的化転写抑制、標的化エピゲノム改変、標的化ゲノム改変、又は標的化ゲノム遺伝子座視覚化の方法が特許請求の範囲に記載されている。
【0010】
特許文献3は、化学的に改変されたcrRNA及びtracrRNA、5'及び/又は3'にコンジュゲートされた部分を有するcrRNA及びtracrRNA、並びにcrRNAのリピート領域又はtracrRNAのアンチリピート領域に改変を有するcrRNA及びtracrRNAを開示している。CRISPRヌクレアーゼを用いるゲノム編集のためにcrRNA及びtracrRNAを使用する方法、並びに上記方法を実施するキットも提供されている。crRNA及びtracrRNAは、培養されたヒト細胞におけるSpyCas9ベースのゲノム編集の有効性を保持しつつ化学的に改変された。
【0011】
Tautvydas Karvelis et al.(非特許文献15における)は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)DGCC7710のCRISPR3-CasシステムのCas9-crRNA複合体が、crRNA指令型の標的配列認識及びタンパク質媒介性DNA切断を伴うRNA誘導型エンドヌクレアーゼとして機能することを開示している。追加のRNA分子であるtracrRNA(トランス活性化型CRISPR RNA)は、S.サーモフィルス(S. thermophilus)DGCC7710のCRISPR3-Casシステムを有する異種E.コリ(E. coli)菌株から分離されたCas9タンパク質と共精製される。tracrRNAは、in vitro及びin vivoの両方でCas9媒介型DNA干渉に必要であり、Cas9は、前駆crRNA(pre-crRNA)転写産物とtracrRNAとの間の二重鎖形成をin vitroで特異的に促進する。さらに、ハウスキーピングRNase IIIは、成熟crRNA生合成のための主たるpre-crRNA-tracrRNA二重鎖切断に寄与する。しかしながら、RNase IIIは、単一のスペーサーを含む最小限のCRISPRアレイから転写された短いpre-crRNAのプロセシングにおいては必要とされない。in vitroでアセンブリされた三元のCas9-crRNA-tracrRNA複合体はDNAを切断する。この参考文献は、高精度のゲノム手術のために任意の標的DNA配列を特異的に切断するCas9のcrRNAベースのリプログラミングに関する分子的基盤を更に特定している。開示されたcrRNA成熟及びエフェクター複合体アセンブリの過程は、ゲノム編集用途のCas9リプログラミング可能なシステムの更なる開発に寄与すると言われている。
【0012】
それにもかかわらず、特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び非特許文献15の全ては、DNA標的化に使用される標準的なcrRNA:tracrRNA二重鎖の部分としてのtracrRNAを改変している。これらの参考文献は、欠損したcrRNA及びtracrRNAを表す既存の二重鎖を改良することを試みているが、本発明は、crRNAではない天然産生型RNAにハイブリダイズするよう改変された非天然産生型tracrRNAを使用する。
【0013】
任意のRNAからncrRNAを生成することができることにより、RNAの存在は、ncrRNAによって特定の標的に導かれる活性型tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼに結びつく。したがって、tracrRNAのリプログラミングは、配列特異的な標的化活性を通じて特定のRNA転写産物を検知する可能性を有している。この関係は、Cas12a及びCas13に基づく核酸検出に使用される他の2つのCRISPR技術とは異なる。具体的には、Chen et al.(非特許文献16)は、RNA誘導型DNA結合が、完全にssDNA分子を分解するCas12aによる無差別な一本鎖DNA(ssDNA)切断活性を引き起こすことを開示している。Cas12aのssDNase活性化と等温増幅とを組み合わせることで、「DNA endonuclease-targeted CRISPR trans reporter:DNAエンドヌクレアーゼ標的化CRISPRトランスレポーター」(DETECTR)と呼ばれる方法が作り出された。別個に、Abudayyeh et al.(非特許文献17)により、推定上のVI型のCRISPRエフェクターLshC2c2(現在のCas13a)のRNA誘導型RNase活性が実証された。Gootenberg et al.(非特許文献18)は、この「コラテラル効果」を使用して、CRISPRベースの診断(CRISPR-Dx)を確立することで、アトモル感度及び一塩基ミスマッチ特異性を有する迅速なDNA又はRNAの検出を提供し得ることを更に開示している。このCas13aベースの分子検出プラットフォームは、特異的高感度酵素レポーターアンロッキング(Specific High-Sensitivity Enzymatic Reporter UnLOCKing)(SHERLOCK)と呼ばれ、これを使用して、ジカウイルス及びデングウイルスの特定の株を検出し、病原性細菌、ヒトDNAの遺伝子型を識別し、無細胞腫瘍DNAの突然変異を特定している。どちらの技術も検出された核酸の存在を出力することができるが、これらはどちらも出力として非特異的ヌクレアーゼ活性に依存する。それに対して、本発明は、被検知RNAによって決定づけられる配列特異的ヌクレアーゼ活性に依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2019/126037号
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/032053号
【特許文献3】国際公開第2019/183000号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Koonin EV and Makarova KS Origins and evolution of CRISPR-Cas systems Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2019 May 13;374(1772):20180087
【非特許文献2】Leenay and Beisel Deciphering, Communicating, and Engineering the CRISPR PAM. J Mol Biol. 2017 Jan 20;429(2):177-191
【非特許文献3】RNA-dependent RNA targeting by CRISPR-Cas9. Elife. 2018;7:e32724
【非特許文献4】DNase H Activity of Neisseria meningitidis Cas9. Mol Cell. 2015;60(2):242-255
【非特許文献5】Programmed DNA destruction by miniature CRISPR-Cas14 enzymes
【非特許文献6】Programmable RNA recognition and cleavage by CRISPR/Cas9. Nature. 2014;516(7530):263-266
【非特許文献7】Evolutionary classification of CRISPR-Cas systems: a burst of class 2 and derived variants. Nat Rev Microbiol. 2020;18(2):67-83
【非特許文献8】RNA-guided DNA insertion with CRISPR-associated transposases. Science. 2019;365(6448):48-53
【非特許文献9】Jinek, M. et al. A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337, 816-821 (2012)
【非特許文献10】Engineering of CRISPR-Cas12b for human genome editing. Nat Commun. 2019;10(1):212
【非特許文献11】Catalytically Active Cas9 Mediates Transcriptional Interference to Facilitate Bacterial Virulence Mol Cell. 2019 Aug 8;75(3):498-510.e5
【非特許文献12】CRISPR RNA-Dependent Binding and Cleavage of Endogenous RNAs by the Campylobacter jejuni Cas9. Mol Cell. 2018;69(5):893-905.e7
【非特許文献13】Guide RNA functional modules direct Cas9 activity and orthogonality. Mol Cell. 2014;56(2):333-339
【非特許文献14】Improved Cas9 activity by specific modifications of the tracrRNA. Sci Rep. 2019;9(1):16104
【非特許文献15】crRNA and tracrRNA guide Cas9-mediated DNA interference in Streptococcus thermophiles. RNA BIOLOGY, vol. 10, no. 5, 27 March 2013, pages 841-851, DOI: 10.4161/rna24203
【非特許文献16】CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single-stranded DNase activity. Science. 2018;360(6387):436-439
【非特許文献17】C2c2 is a single-component programmable RNA-guided RNA-targeting CRISPR effector. Science. 2016;353(6299):aaf5573
【非特許文献18】Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2c2. Science. 2017 Apr 28;356(6336):438-442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、CRISPRにおける上記進展を、分子診断の分野において、特に或る特定のRNAを検出するために適用することである。他の課題及び利点は、添付の実施例を参照して本明細書を更に検討することによって明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
その第1の態様においては、本発明の課題は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の上記少なくとも1つの標的核酸への結合を検出することと、
を含み、
c)ここで、上記結合により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0018】
その第2の態様においては、本発明の課題は、細胞及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸の上記ヌクレアーゼ酵素による切断を検出することと、
を含み、
c)ここで、少なくとも1つの標的核酸の上記切断の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0019】
その第3の態様においては、本発明の課題は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸を上記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)例えば、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、プライム編集、塩基編集、又はRNA編集を含む、上記少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集することと、
d)例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、上記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は上記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、少なくとも1つの標的核酸の編集の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記方法を組み合わせることができ、例えば、上記細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを、上記少なくとも1つの核酸DNAの結合、切断、及び/又は編集に基づいて検出することができる。
【0021】
その第4の態様においては、本発明の課題は、少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連している、哺乳動物における医学的病態を発見する方法であって、上記の態様のいずれかによる方法を実施することと、検出された上記少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に基づき上記医学的病態を発見することとを含む、方法を提供することによって解決される。
【0022】
その第5の態様においては、本発明の課題は、被検知RNA用の検出システムであって、a)標的核酸の第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を更に含む上記被検知RNAの少なくとも1つの部分に結合するように設計された非天然産生型tracrRNAと、b)少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素とを含む、検出システムを提供することによって解決される。
【0023】
その第6の態様においては、本発明の課題は、天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する複合体の形成を通じて予め選択された被検知RNA配列に特異的にハイブリダイズするように設計されているアンチリピート領域配列を含む部分を含む、非天然産生型tracrRNA核酸分子を提供することによって解決される。非天然産生型tracrRNA核酸分子は、本発明による非天然産生型tracrRNA核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素と、少なくとも1つの被検知RNAとを含む複合体の部分であり得て、少なくとも1つの被検知RNA配列に基づく配列、又はそれに基づいて設計された配列を含む標的DNA核酸分子に更に結合され得る。
【0024】
その第7の態様においては、本発明の課題は、上記の態様のいずれかによる方法を実施するための、特に被検知RNA、ウイルス性被検知RNA、疾患マーカーから転写された被検知RNAを検出するための、又は1つ以上の被検知RNAに関する発現プロファイルを生成するための、上記の態様による非天然産生型tracrRNA核酸分子又は被検知RNA検出システムの使用を提供することによって解決される。
【0025】
その第1の態様においては、本発明の課題は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等のRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の上記少なくとも1つの標的核酸への結合を検出することと、
を含み、
c)ここで、上記結合により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0026】
本発明のこの第1の態様においては、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAの検出は、上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の上記少なくとも1つの標的核酸への結合の検出に依存する。Cas酵素は、標的核酸を切断するそれらの能力とは無関係に標的核酸に結合し、この自由度を使用して、上記結合活性に基づき上記少なくとも1つの被検知RNAを検出する。
【0027】
上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の上記少なくとも1つの標的核酸への結合を、当業者に知られるあらゆる適切な検出方法によって検出することができ、方法としては、該ヌクレアーゼに対する抗体及び対象DNA配列のためのPCRプライマーを使用したクロマチン免疫沈降(ChIP)方法が挙げられ得る。抗体を使用して、タンパク質-DNA複合体を他のゲノムDNA断片及びタンパク質-DNA複合体から選択的に沈降させる。PCRプライマーは、標的核酸配列の特異的な増幅及び検出を可能にする。定量的PCR(qPCR)技術により、標的核酸配列の量を定量化することが可能である。ChIPアッセイは、アレイベースの形式(ChIP-on-chip)又は免疫沈降されるタンパク質によって捕捉されたDNAの直接的シーケンシング(ChIP-seq)に変更可能である。
【0028】
他の方法は、試料からタンパク質-DNA複合体を選択的に抽出するのに使用されるDNA電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)又はプルダウンアッセイを含む。典型的には、プルダウンアッセイは、ビオチン等の高親和性タグで標識されたDNAプローブを使用し、それによりプローブを回収し又は固定化することができる。ビオチン化されたDNAプローブを、EMSAにおいて使用されるのと同様の反応で細胞溶解物からのタンパク質と複合体形成させた後に、アガロース又は磁気ビーズを用いて複合体を精製するのに使用することができる。次に、タンパク質をDNAから溶出させ、ウエスタンブロットによって検出するか、又は質量分析によって特定する。代替的に、タンパク質を、アフィニティータグで標識することができ、又はDNA-タンパク質複合体を、対象タンパク質に対する抗体を使用して単離することができる(スーパーシフトアッセイと同様)。この場合に、タンパク質が結合する未知のDNA配列は、サザンブロッティング、PCR分析、又はシーケンス分析によって検出される。DNAプルダウンアッセイと酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)とのハイブリッドである、固定化されたDNAプローブを含むマイクロプレートキャプチャアッセイを使用して、特定のタンパク質-DNA相互作用を捕捉し、タンパク質の個性及び相対量を標的特異的な抗体を用いて確認することができる。また、ヌクレアーゼの結合によって遮断又は誘導され得る対象プロモーターについての翻訳活性のリアルタイムのin vivoでのリードアウトを提供するレポーターアッセイを使用することもできる。レポーター遺伝子は、標的プロモーターのDNA配列と、レポーター遺伝子のDNA配列との融合物である。プロモーターのDNA配列は、研究者によってカスタマイズされ、レポーター遺伝子のDNA配列は、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、又は緑色蛍光タンパク質等の検出可能な特性を有するタンパク質をコードしている。これらの遺伝子は、対象プロモーターが活性化された場合にのみ酵素を産生する。続いて、酵素は、蛍光を発するか、又は基質を触媒して、光、変色、若しくは分光計器により検出され得るその他の反応を生ずる。レポーター遺伝子からのシグナルは、同じプロモーターから駆動される内因性タンパク質の転写又は翻訳についての間接的な決定要因として使用される。
【0029】
本発明のこの態様の実施の形態においては、好ましくは、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素は、その切断活性が少なくとも実質的に不活性化されている。例えば、RuvC及びHNHのヌクレアーゼドメインを両者とも、点突然変異(例えば、S.ピオゲネス(S. pyogenes)のCas9(SpCas9)におけるD10A及びH840A)によって不活性化させることができ、その結果、標的核酸を切断することができないヌクレアーゼ活性を伴わないCas9(dCas9)分子が生ずる。それにもかかわらず、dCas9分子は、sgRNA標的化配列に基づいて標的DNAに結合する能力を保持する。一本鎖標的の場合に、HNHドメインの破壊は切断を防ぐのに十分であるが、結合を防ぐには十分ではない(非特許文献12)。標的配列が、特に標的のPAM遠位領域においてミスマッチを含む場合にも、ヌクレアーゼによる切断は回避される(Cas9 gRNA engineering for genome editing, activation and repression. Nat Methods. 2015;12(11):1051-1054)。Cas9と同様に、Cas12ヌクレアーゼに関するRuvCドメインを突然変異させて、ヌクレアーゼをプログラミング可能なDNA結合タンパク質に変換することができ(Identifying and Visualizing Functional PAM Diversity across CRISPR-Cas Systems. Mol Cell. 2016;62(1):137-147)、ミスマッチの導入により、切断を防ぐことができるが、標的結合を保つことができる(Multiplexed genome engineering by Cas12a and CRISPR arrays encoded on single transcripts. Nat Methods. 2019;16(9):887-893)。
【0030】
本発明による方法は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する。本発明の文脈において、被検知RNAは、本発明による方法を使用して検出されるあらゆる対象RNAである。通常、好ましくは、被検知RNAは、一本鎖RNA分子、例えば、メッセンジャーRNA、リボソームRNA、トランスファーRNA、低分子RNA、アンチセンスRNA、核小体低分子RNA、マイクロRNA、piwiRNA、長鎖ノンコーディングRNA、スプライシングされたイントロン、及び環状RNAである。RNAは、天然由来の場合も、又は人工的に生産される場合もある。一本鎖の被検知RNAは、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、癌細胞、感染細胞、又は罹患細胞に由来する場合があり、及び/又はウイルス、寄生虫、蠕虫、真菌、原生動物、細菌、又は病原性細菌に由来する場合がある。被検知RNAは、本発明の方法において作製され使用される非天然産生型tracrRNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする第1の部分と、少なくとも1つの核酸分子と特異的にハイブリダイズする第2の部分とを含む。
【0031】
被検知RNAは、2つ以上の第1の部分及び第2の部分を含む場合があり、非天然産生型tracrRNAは、相応して設計される。本発明の文脈においては、標的核酸は、あらゆる適切な標的核酸であり得るが、好ましくは、標的DNA、又は標的RNA若しくは標的ssDNAを含む。それというのも、一部のCas9及びCas12のヌクレアーゼはこれらの核酸を標的化することができるからである。
【0032】
被検知RNAは、上記第1の部分から延びるとともに、被検知RNAと、非天然産生型tracrRNAと、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素との間で形成される複合体の外側に延びる5'末端及び/又は3'末端を更に含む場合があり(
図2を参照)、dsRNA切断酵素によって認識される部分、及び/又は他の酵素によって切断又は消化される5'末端を含む場合がある(
図2を参照)。3'末端は、これらが複合体におけるハイブリダイズする部分に伸長をもたらすことができ、それにより分子(複数の場合もある)が更に安定化されるため、好ましい。
【0033】
被検知RNAは、少なくとも1つの標的核酸の少なくとも1つの部分と特異的にハイブリダイズするその少なくとも1つの第2の部分を含む。本発明による方法の第1の態様の文脈においては、被検知RNAと、非天然産生型tracrRNAと、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素との間の複合体の形(
図2を参照)における上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素が上記少なくとも1つの標的核酸に結合すると、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される。上記のように、複合体の検出は、直接的(例えば、抗体による)又は記載された適切なアッセイを使用した間接的なものであり得る。複合体の検出としては、定量的検出が挙げられる場合もあり、すなわち、検出された複合体の量を使用して、上記細胞、組織、及び/又は試料中の被検知RNAの量が決定される。
【0034】
被検知RNAは、3'末端及び/又は5'末端のいずれかで、及び/又はRNA分子/鎖内にマーカーを含めることによって標識され得る。それぞれの方法は当業者に知られている。被検知RNAは、RNAと、DNA及び/又はPNAの部分との組合せである場合もある。
【0035】
本発明による方法において使用される核酸分子の或る特定の部分は、他の分子における相補的部分と特異的にハイブリダイズすることが見出され、及び/又はそのように設計される。当業者に知られているように、このためには、ハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件が重要である。配列が100%相補的である場合に、高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションを行うことができる。それにもかかわらず、本発明によれば、ハイブリダイズする及び/又は特異的にハイブリダイズする部分は、少なくとも80%まで相補的であり、好ましくは90%超まで、より好ましくは95%超まで相補的であり、最も好ましくは100%相補的である。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション温度及びハイブリダイゼーションバッファーにおける塩濃度によって決定され、高い温度及び低い塩はよりストリンジェントである。一般的に使用される洗浄溶液は、SSC(生理食塩水クエン酸ナトリウム(Saline Sodium Citrate)、クエン酸NaとNaClとの混合物)である。ハイブリダイゼーションは溶液中で行うことができ、より一般的には、少なくとも1つの成分が固相支持体、例えばニトロセルロース紙上にある場合もある。使用されることが多いプロトコルでは、脱脂粉乳からのカゼイン又はウシ血清アルブミン等のブロッキング試薬が、変性された断片化サケ精子DNA(又はその他の非常に複雑な異種DNA)及びSDS等の界面活性剤としばしば組み合わせて使用される。しばしば、非常に高濃度のSDSがブロッキング剤として使用される。温度は42℃から65℃の間又はそれ以上である場合があり、バッファーは3×SSC、25 mMのHEPES(pH 7.0)、0.25%のSDS(最終)である場合がある。
【0036】
RNA切断酵素は、被検知RNAの第1の部分と、非天然型tracrRNAのアンチリピート部分との間で形成されたハイブリダイズ領域を切断するか、又はncrRNAの他の一本鎖末端をプロセシングする。この酵素は、好ましくはE.コリ由来のRNase IIIであるが、他の細菌又は古細菌由来のRNase IIIだけでなく、Drosha、Dicer、DCL1、Rntp1、又はPac1p等の他のdsRNA切断酵素である場合もある。RNase A等のRNA切断酵素はssRNAを切断することもできる。
【0037】
次に、本発明の別の態様は、in vitro又はin vivoでの、特に多重化された構成における転写記録の方法に関する(例えば、
図13及び
図19~
図22を参照)。in vivoでの転写記録においては、本明細書において記載される本発明の方法を使用して、存在する(それぞれの)被検知RNAは、読み取り可能なシグナル又は改変に変換される。各例において、被検知RNAは、非天然型tracrRNAを介してncrRNAに変換され、次にncrRNAは、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼを標的「レポーター」DNAに誘導する。この「レポーター」DNAは編集を受け、結果として、検出可能なマーカー、改変、又は「編集」が引き起こされ、これはDNA内に維持(「保存」)される。例は、インデル、HDRを介して導入されたマーカー、塩基編集、プライム編集、又はRNA編集である。1つのリードアウトとして、レポーター遺伝子の発現が調節され得る。dCas9と転写活性化ドメインVP16との間の融合を
図13Bに示すが、他の多くの形式の発現調節が可能である(例えば、他の制御ドメインのヌクレアーゼへの融合、触媒活性を伴わないヌクレアーゼ又は触媒活性のあるヌクレアーゼと部分的に突然変異されたガイド配列とのペアの使用、制御ドメインを動員する足場sgRNAの使用)。本明細書において開示される他の方法についての設計の頑健性と一致して、驚くべきことに、転写記録の方法は、高G/C含有量及び非正規配列に関してかなり頑健であることも見出された(例えば、
図20~
図22、そしてまた以下の実施例も参照のこと)。
【0038】
転写記録の以前の例は、環境シグナルを検知するか、又は細胞の転写プロファイルを非特異的に記録する。環境的記録は、CRISPR獲得タンパク質を発現する誘導性プロモーター又は編集を駆動するガイドRNAに依存する。対照的に、非天然型tracrRNAによる転写記録は、細胞内の1つ又は多数の特定の転写産物を記録することができる。この記録は誘導性プロモーターを必要とせず、非天然型tracrRNAにより、どの転写産物が記録されるかが決定づけられる。多数の非天然型tracrRNAを対応するDNA標的と合わせて、多重化された記録を行うこともできる。
【0039】
Perli SD(Continuous genetic recording with self-targeting CRISPR-Cas in human cells. Science. 2016 Sep 9;353(6304):aag0511. doi: 10.1126/science.aag0511. Epub 2016 Aug 18. PMID: 27540006における)は、ヒト細胞において分子刺激をDNA突然変異へと長手記録(longitudinal recording)する自己完結型アナログメモリデバイスを開示している。このデバイスは自己標的化ガイドRNA(stgRNA)からなり、これは、ストレプトコッカス・ピオゲネスのCas9ヌクレアーゼ活性を、stgRNAをコードするDNAに向けて繰り返し誘導することで、stgRNA発現に応じて局所的で連続的なDNA突然変異誘発を可能にする。in vitro及びin vivoの両方で、外因性誘導因子又は炎症によって惹起されるヒト細胞におけるプログラミング可能で多重化されたメモリストレージが実証される。このツールである生物学的事象を統合する哺乳動物合成細胞レコーダー(Mammalian Synthetic Cellular Recorder Integrating Biological Events)(mSCRIBE)は、in vivoで細胞生物学を調査するための明確な戦略をもたらし、標的化されたDNA配列の継続的な進展を可能にする。
【0040】
Farzadfard F, et al.(Single-Nucleotide-Resolution Computing and Memory in Living Cells. Mol Cell. 2019 Aug 22;75(4):769-780.e4. doi: 10.1016/j.molcel.2019.07.011. PMID: 31442423; PMCID: PMC7001763における)は、細菌細胞及び真核細胞においてロジック及びメモリをエンコードするための頑健で拡張可能なプラットフォームであるDOMINOを開示している。DOMINOは、DNA操作に効率的な単一ヌクレオチド分解能の読み取り-書き込みヘッドを使用して、生細胞のDNAを、演算及び記憶のためのアドレス可能で、読み取り可能で、かつ書き込み可能な媒体に変換する。DOMINO演算子は、シグナル伝達動態及び細胞事象の長期監視のためのアナログ及びデジタル分子記録を可能にする。さらに、多数の演算子を階層化し、相互接続して、順序に依存しない順序論理及び時相論理をエンコードすることができることから、細胞内の分子事象の組合せ、順序、及びタイミングを記録及び制御することができる。彼らは、DOMINOが、多数の生物工学用途及び生物医学用途に向けた頑健で洗練された演算及び記憶遺伝子回路を構築するための基盤を築くと考えている。
【0041】
Tang W及びLiu DR.(Rewritable multi-event analog recording in bacterial and mammalian cells. Science. 2018 Apr 13;360(6385):eaap8992. doi: 10.1126/science.aap8992. Epub 2018 Feb 15. PMID: 29449507; PMCID: PMC5898985において)は、Cas9ヌクレアーゼ及び塩基エディターを使用して、刺激の振幅、持続時間、及び順序を、ゲノムDNA及び染色体外DNAの両方の含有量における安定した変化として記録することができることを開示している(Ho及びBennettによるパースペクティブを参照)。抗生物質、栄養素、ウイルス、及び光への曝露だけでなく、Wntシグナル伝達も含む多数の刺激の記録が、生きている細菌細胞及びヒト細胞において達成された。記録されたメモリは、多数のサイクルにわたって消去及び再記録され得る。
【0042】
最後に、Schmidt, F. et al.(Transcriptional recording by CRISPR spacer acquisition from RNA. Nature 562, 380-385 (2018). https://doi.org/10.1038/s41586-018-0569-1において)は、CRISPRスペーサー取得を使用して、細胞内RNAを捕捉してDNAに変換することで、転写情報のDNAベースの記憶を可能にしている。エシェリキア・コリ(Escherichia coli)において、RNAウイルス又は任意の配列等の規定の刺激、及び酸化ストレス等の複雑な刺激が、細胞集団内に記憶される定量化可能な転写記録をもたらすことが示される。彼らは、転写記録により、複雑な細胞挙動の分類及び記述、並びに様々な細胞応答を指揮する正確な遺伝子の特定が可能となったことを示している。将来的には、CRISPRスペーサー取得を介したRNAの記録とそれに続くディープシーケンシング(Record-seq)を使用して、複雑な細胞挙動又は病的状態を説明する転写履歴を再構築することができるかもしれない。
【0043】
転写記録の方法、特に多重化された構成における、in vitro又はin vivoでの、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの標的DNAの転写記録の方法であり、
a)上記試料、細胞、又は組織と、被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、上記少なくとも1つの標的DNAと特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等のdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸を上記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)例えば、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、検出可能なマーカー、検出可能な改変、塩基編集、プライム編集、又はRNA編集を含む、上記少なくとも1つの標的DNAを検出可能に編集することと、
d)任意に、例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、上記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は上記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、上記少なくとも1つの標的DNAの上記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、上記少なくとも1つの標的DNAの上記編集の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAの転写が記録される、方法が好ましい。好ましい実施の形態及び構成要素は、本明細書において記載される他の方法と同様である。
【0044】
本発明による転写記録の好ましい使用は、微生物叢及び/又は微生物センチネル(すなわち、非侵襲的測定用のレポーターとして機能する共生細菌、例えば、Stewart JR, et al. The coastal environment and human health: microbial indicators, pathogens, sentinels and reservoirs. Environ Health. 2008 Nov 7;7 Suppl 2(Suppl 2):S3. doi: 10.1186/1476-069X-7-S2-S3. PMID: 19025674; PMCID: PMC2586716を参照)の分析、及び生物全体のようなin vivoでの、又は例えば環境から採取された試料に基づくウイルス又は細菌の拡散(例えば、廃水試料中で検出されたウイルス又は耐性細菌の拡散等)の追跡に関する。
【0045】
カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(Cje)の84-21株を使用する本発明の文脈における研究の間に、本発明者らは、CjeCas9とともに共免疫沈降したRNAを評価した。一方のセットはその菌株におけるcrRNA2に対する相補性を共有していたが、もう一方のセットは、crRNA成熟を担うトランス作用型CRISPR RNA(tracrRNA)のアンチリピート部分に対する相補性を共有していた。この結合は、tracrRNAがリピートからcrRNAをプロセシングして、成熟crRNAを形成する方法と類似していた。これらの洞察から、成熟crRNA(Cas9をそれらの標的に誘導する)が、CRISPRアレイによってコードされたもの以外のmRNA及び他のRNAに由来し得るという初めての指摘が与えられたが、crRNAは、CRISPRアレイ及びCRISPR-Casシステム内のみに由来し得ると考えられた。
【0046】
驚くべきことに、本発明の文脈において、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素システムを或る特定の様式で設計して、汎用性が高く特異的な診断ツールを提供し得ることが判明した。このツールの必須の要素は、非天然産生型tracrRNAの設計である。tracrRNAの特定の改変、したがって「リプログラミング」により、目的に特化したncrRNAの作製が可能となる。興味深いことに、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素システムは、tracrRNAのリプログラミングがCas9の認識及び活性を混乱させる可能性があると予想されるにもかかわらず、依然として機能的であることが判明した。
【0047】
本発明の文脈において、tracrRNAアンチリピートに対して相補的なモチーフを用いて特定されたRNAは、プロセシングされたcrRNAのおおよそのサイズ(36ヌクレオチド~37ヌクレオチド)を有していた。1つの特定の例(fliF遺伝子に由来)においては、ncrRNAは、crRNAの構造と一致していた(約24ヌクレオチドのガイド+約12ヌクレオチドのプロセシングされたリピート)。上記被検知RNAの上記第1の部分と特異的にハイブリダイズする上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAの上記部分が、10ヌクレオチド以上、好ましくは11ヌクレオチド以上、より好ましくは約12ヌクレオチド以上とハイブリダイズする、本発明による方法が好ましい。9ヌクレオチドから15ヌクレオチドの間が好ましい範囲であり、10ヌクレオチド~14ヌクレオチドがより好ましく、12ヌクレオチドが最も好ましい。上述のように、複合体におけるハイブリダイズする部分に対する伸長(tracrRNAの5'伸長、ncrRNAへの5'伸長)が可能であり好ましく、より安定した形成という利点を複合体にもたらす。
【0048】
本発明において使用される非天然産生型tracrRNAは、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズして、crRNAとtracrRNAとの間で形成される本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造を形成する配列を含む。上記被検知RNAの上記第1の部分と特異的にハイブリダイズする上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAの上記部分が、10ヌクレオチド以上、好ましくは11ヌクレオチド以上、より好ましくは約12ヌクレオチド以上とハイブリダイズする、本発明による方法が好ましい。
【0049】
上記被検知RNAの上記第1の部分がPAMを含む、本発明による方法が好ましい(
図14を参照)。一例として、Cas12ヌクレアーゼの場合に、PAMは得られたncrRNAのガイド部分の上流にあるリピート部分内に存在するが、Cas9の場合には、PAMはncrRNAのガイド部分の下流にあるリピート部分において存在する。適切なPAMを有する標的を選択することにより、生成されるcrRNAはそれ自体のDNA部位を標的化することができ、すなわち、ncrRNAは、ncrRNAの元となるDNAを標的化することができる。これにより、遺伝子が転写されている場合にのみ編集が可能となる。この戦略を使用して、例えば特定の組織だけで、遺伝子の発現プロファイルに応じて、編集を大幅に限定することができる。
【0050】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、例えば、Cas9のPAM相互作用(PI)ドメインにおける主要な領域を、関連する一連のCas9オルソログにおける対応する領域と置き換えることによって、ヌクレアーゼを、より広範な一連のPAM部位を認識するように改変することができる(例えば、Ma et al., Engineer chimeric Cas9 to expand PAM recognition based on evolutionary information. Nat Commun. 2019 Feb 4;10(1):560. doi: 10.1038/s41467-019-08395-8を参照)。これにより、細胞内のゲノム標的の可能性が広がる。
【0051】
上述のように、本発明において使用される非天然産生型tracrRNAは、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズして、本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造を形成する配列を含む。本発明による方法の好ましい実施の形態においては、このステム様二次構造を(すなわち、mRNAに対する3'で、及び非天然産生型tracrRNAに対する5'で)伸長させて、dsRNA、したがってRNase III認識部位又はドメインを作ることができる。例えば、RNase活性によって切断され得るステム伸長に検出可能な基を取り付ける場合に、この構造を、或る特定のアッセイにおいて使用することができる。本発明者らは、RNase IIIによって認識され切断されるリピート-アンチリピートステムにおけるミスマッチを評価した。ncrRNA変異体をtracrRNAとともに発現させた。ncrRNAにおいて突然変異を加えて、tracrRNAを保存した。全体として、大規模な突然変異であっても許容され得る。理論に縛られることを望むものではないが、これは、RNase IIIがCas9活性に必ずしも必要でない可能性があることを示唆している。
【0052】
本発明者らは、ncrRNAが従来のcrRNAからどの程度外れることができるかを更に分析したところ、天然の二重鎖における本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造に関するシステムの「頑健性」が示された(上記参照)。Cas9によって結合されるベースステム(base stem)に特に着目した。リピートを突然変異させることによってバルジを作り、それによってtracrRNAを保存した。結果は、特にバルジがより小さい場合か、ステムのベースから離れている場合か、又はリピート側にある場合に、バルジはかなりの程度まで許容され得ることを示している。ステム内の幾つかのミスマッチに適応させた場合に、非常に類似した結果が見られた。裏付けデータについては、
図5~
図9を参照のこと。
【0053】
本発明者らは、ncrRNAが従来のcrRNAからどの程度外れることができるかを更に分析したところ、天然の二重鎖における本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造に関するシステムの「頑健性」が示された(上記参照)。Cas12によって結合されるベースステムに次に特に着目した。リピートを突然変異させることによってバルジを作り、それによってtracrRNAを保存した。結果は、特にバルジがより小さい場合か、ステムのベースから離れている場合か、又はリピート側にある場合に、バルジはかなりの程度まで許容され得ることを示している。ステム内の幾つかのミスマッチに適応させた場合に、非常に類似した結果が見られた。裏付けデータについては、
図23~
図25を参照のこと。
【0054】
したがって、Cas9及びCas12の2つの例で示されるように、ncrRNAは、従来のcrRNAから外れることができ、これは、天然の二重鎖における本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造に関するシステムの「頑健性」を示している(上記参照)。
【0055】
さらに、tracrRNAをリプログラミングして、様々なRNAをcrRNAへと変換する効果を試験した。TXTLにおいてsgRNA及びCjeCas9を使用したリピート:アンチリピート二重鎖に対する変化を評価したところ、標的の切断に殆ど影響を与えずに全ての変化に適応し得ることが分かった(
図4を参照)。特に、リピートとアンチリピートとの間の二重鎖は、CjeCas9による標的化活性に殆ど影響を与えずに、様々な配列に適応することができる(
図4)。突然変異は、標的切断までの時間に対して限られた影響しか及ぼさないことが分かった。また、リピートとアンチリピートとの間の二重鎖は、CjeCas9によるDNA標的化の部分としてどちらの側の幾つかのバルジにも適応することができ(
図5)、リピートとアンチリピートとの間の二重鎖は、同様にCjeCas9によるDNA標的化の部分としてミスマッチに適応することもできる(
図6)。二重鎖の殆どは、バルジの存在にもかかわらず、標的化活性を維持した。RNase IIIプロセシングに関与するリピート:アンチリピート二重鎖の領域は、同様にCjeCas9によるDNA標的化の部分としてミスマッチ及びバルジに適応することもできる(
図7)。
図8は、crRNAの5'末端又は3'末端に対する伸長が、CjeCas9による標的化活性に対して限られた影響を及ぼすことを示している。本明細書において開示されるように、Cas12及び他の酵素にも同様の規則が当てはまる(
図22~
図25を参照)。
【0056】
さらに、被検知RNAを活性型crRNAへと変換する非天然型tracrRNAは、CjeCas9(
図9)、SpyCas9(
図10)、及びSth1Cas9(
図11)とともにうまく機能することが示された。本発明によれば、非天然型tracrRNAは、被検知RNAからのCjeCas9によって使用される活性型ncrRNAの形成を誘導するように設計され得る(
図9)。設計後に、TXTLの結果により、被検知RNA及び非天然型tracrRNAによって誘導されたDNA標的化が示される。各非天然型tracrRNAは、試験されるRNAの特定の領域にハイブリダイズするように設計されている。全体として、試験された5個全ての非天然型tracrRNAは、強い切断活性を生じた。別の態様においては、非天然型tracrRNAは、被検知RNAからのSpyCas9によって使用される活性型ncrRNAの形成を誘導するように設計され得る(
図10)。改めて、試験された5つの全ての非天然型tracrRNAは、強い切断活性を生じた。したがって、CjeCas9とは異なる他のCas9(SpyCas9、Sth1Cas9)をリプログラミングされたtracrRNAとともに使用して、被検知RNAを活性型crRNAへと変換することができる。改めて、本明細書において開示されるように、Cas12及び他の酵素にも同様の規則が当てはまる。
【0057】
被検知RNAの第2の部分は、Casタンパク質の核酸標的を規定する少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、crRNA様ncrRNAを生ずる。少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はそれとハイブリダイズすることができる。
【0058】
非天然産生型tracrRNAを、標準的な方法に従って生産し、例えば合成により生産し、in vitro転写によって作製し、及び/又はプラスミド中にクローニングすることができる。tracrRNAは、天然産生型の配列に由来する場合があり、その後、これらを改変して、分子内の配列を望み通りに作製する。tracrRNAは、標識又は修飾ヌクレオチド、例えばイノシン等のような追加の修飾を更に含み得る。
【0059】
その第2の態様においては、本発明の課題は、細胞及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III酵素等のssRNA及び/又はdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸の上記ヌクレアーゼ酵素による切断を検出することと、
を含み、
c)ここで、少なくとも1つの標的核酸の上記切断の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0060】
使用される構成要素に関するこの第2の態様の基本原理は上記の通りであるが、本発明の態様においては、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAの検出は、上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸の上記ヌクレアーゼ酵素による切断の検出に依存し、上記少なくとも1つの標的核酸の上記切断の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される。
【0061】
標的核酸に基づく結合産物及び/又は切断産物の検出は、直接的(例えば、切断された核酸のサイズ変化の検出)又は適切な蛍光体を使用してクエンチャーを用いる若しくは用いない間接的なものであり得る。核酸の切断により、検出可能な蛍光体が放出され、切断された核酸をナノポアシーケンサーに通すことで変化が検出され、蛍光標識されたヌクレアーゼが局在化され得て、及び/又は切断が検出可能な電流に影響を及ぼす。切断された産物の検出としては、定量的検出が挙げられる場合もあり、すなわち、検出された断片(複数の場合もある)の量を使用して、上記細胞、組織、及び/又は試料中の被検知RNAの量が決定される。
【0062】
結合の検出は、レポーター遺伝子の発現の調節に基づく間接的なものであり得る。少なくとも1つの触媒活性を伴わないヌクレアーゼは、レポーター遺伝子のプロモーター領域又はコーディング領域に結合することによって転写を直接的に抑制することができる。代替的に、ヌクレアーゼは、発現を上方制御するドメイン(例えば、VP16、VPR)又は発現を下方制御するドメイン(例えば、KRAB)等の遺伝子発現の局所的な調節を担う制御ドメインを動員することができる。これらのドメインは、少なくとも1つの触媒活性を伴わないヌクレアーゼに作動可能に連結され得る。これらのドメインは、少なくとも1つの触媒活性を伴わないヌクレアーゼ及び/又はtracrRNAに融合された結合ドメインとの相互作用を通じて動員され得る。
【0063】
その第3の態様においては、本発明の課題は、細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III酵素等のssRNA及び/又dsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの標的核酸を上記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)例えば、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、プライム編集、塩基編集、又はRNA編集を含む、上記少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集することと、
d)例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、上記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は上記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、少なくとも1つの標的核酸の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法を提供することによって解決される。
【0064】
使用される構成要素に関するこの第3の態様の基本原理は上記の通りであるが、本発明のこの態様においては、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAの検出は、上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸の上記ヌクレアーゼ酵素による切断を検出し、上記切断された少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集し、更に適宜、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集を検出することに依存し、ここで、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される。したがって、この態様は、被検知RNAにより制御される又は引き起こされる(「駆動される」)標的核酸への変化の検出に依存する。
【0065】
上記切断された少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集することは、好ましくは、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、及び/又は塩基編集を含み得る。例えば、細胞又は単細胞接合子は、通常、誤りがちな非相同末端結合(NHEJ)修復経路を使用して、Cas9で切断されたDNAを修復し、これは、DNA塩基を無作為に挿入又は欠失して、二本鎖破断を修復する。NHEJ修復による最も一般的なインデルは、1ヌクレオチド~15ヌクレオチド、好ましくは1ヌクレオチド~9ヌクレオチドの範囲である。細胞型及び条件に応じて採用され得る当業者に既知の多数の修復経路がある。
【0066】
上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集の検出は、例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、上記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制、及び/又は塩基編集の、例えば、標的核酸のシーケンシング、制限消化、及び/又は長さ変化の検出による検出から選択される少なくとも1つの方法を含み得る。上記のように、標的核酸に基づく切断産物の検出は、直接的(例えば、切断された核酸のサイズ変化の検出)又は適切な蛍光体を使用した間接的なものであり得る。核酸の切断により、検出可能な蛍光体が放出され、切断された核酸をナノポアシーケンサーに通すことで変化が検出され、蛍光標識されたヌクレアーゼが局在化され得て、及び/又は切断が検出可能な電流に影響を及ぼす。切断産物の検出としては、定量的検出が挙げられる場合もあり、すなわち、検出された断片(複数の場合もある)の量を使用して、上記細胞、組織、及び/又は試料中の被検知RNAの量が決定される。
【0067】
検出される上記インデルの長さが、約1ヌクレオチドから15ヌクレオチドの間、より好ましくは約1ヌクレオチドから9ヌクレオチドの間であり、任意に上記インデルが、標的核酸のシーケンシング、制限消化、及び/又は長さ変化の検出、並びにqPCRによって検出され得る、本発明による方法が好ましい。好ましい一態様においては、これにより、いわゆる反復的自己標的化(iterative self-targeting)による遺伝子編集の効率を改善することができることになる。インデルが存在すると、殆どの場合に、配列の再標的化が可能となるため、再アタックにつながる。一部のインデルは上記の再アタックを妨害しないため、このアプローチは、その際、より大きなサイズのインデル及び/又はより高い相同組換え頻度につながる場合がある。実際には、このアプローチは、有利には系譜追跡のフォローアップを可能にする。
【0068】
検出可能な塩基編集は、別個の編集手段に相当する。一般に、塩基エディターには、シトシン塩基エディター(CBE)及びアデニン塩基エディター(ABE)の2つのクラスがある。シトシン塩基エディターは、Cas9ニッカーゼ又は触媒的に不活性な「不活性型」Cas9(dCas9)をAPOBECのようなシチジンデアミナーゼに融合させることによって作られる。塩基エディターは、本システムによって特定の遺伝子座に標的化され、これらは、PAM部位近くの小さな編集ウィンドウ内で、シチジンをウリジンに変換することができる。その後、ウリジンは塩基除去修復によってチミジンに変換され、CからTへの変化(又は対向鎖上でGからAへ)がもたらされる。アデノシン塩基エディターは、アデノシンを、細胞によりグアノシンと同様に扱われるイノシンに変換するように操作されており、こうしてAからG(又はTからC)への変化がもたらされる。アデニンDNAデアミナーゼは、自然界には存在しないが、tRNAアデニンデアミナーゼであるエシェリキア・コリのTadAの指向性進化によって作られた。シトシン塩基エディターと同様に、進化したTadAドメインをCas9タンパク質に融合させて、アデニン塩基エディターが作られる。
【0069】
どちらの型の塩基エディターも、忠実度の高いCas9を含む多数のCas9変異体とともに利用可能である(以下を参照)。融合物の発現を最適化すること、Cas変異体とデアミナーゼとの間のリンカー領域を改変して編集ウィンドウを調整すること、又はDNAグリコシラーゼ阻害剤(UGI)若しくはバクテリオファージMu由来のGamタンパク質(Mu-GAM)等の産物純度を高める融合物を加えることによって、更なる進展がなされてきた。多くの塩基エディターは、PAM配列に近位の非常に狭いウィンドウにおいて機能するように設計されているが、一部の有用な塩基編集システムは、より広い編集ウィンドウにおいて幅広い範囲の単一ヌクレオチド変異体(体細胞超変異)をもたらすため、指向性進化用途によく適している。これらの塩基編集システムの例としては、標的化AID媒介突然変異誘発(TAM)及びCRISPR-Xが挙げられ、ここでは、Cas9は、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)に融合されている。
【0070】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記方法は、in vivoで、例えば、細胞、組織、又は細菌、真菌、植物、若しくは動物において、又はin vitroで試料において実施される。試料は、固体試料又は液体試料である場合があり、細胞を含む試料、及び無細胞のin vitro試料から選択され得る。細胞は、好ましくは植物細胞又は動物細胞、例えば哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。
【0071】
試料は、生体試料、好ましくは組織試料、唾液、血液、血漿、血清、便、尿、喀痰、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、腹水、胸水、漿液腫、膿、又は皮膚表面若しくは粘膜表面のスワブから得られる生体試料であり得る。一態様においては、細胞、組織、及び/又は試料は、粗製試料である場合があり、及び/又は方法の適用前に1つ以上の核酸分子は試料から精製又は増幅されない。別の態様においては、細胞、組織、及び/又は試料は、精製された又は部分的に精製(濃縮)された試料である場合があり、及び/又は方法の適用前に1つ以上の核酸分子は試料から精製又は増幅される。別の態様においては、細胞は、空気、自然水域(例えば、川、湖、海洋)、廃水、又は土壌等の環境試料の部分である場合がある。
【0072】
本発明による方法は、部分的に又は完全に自動化されている場合があり、例えば、完全に又は部分的にロボットによって実行され得る。本発明による方法は、得られた結果を実行及び/又は分析するコンピュータ及びそれぞれのデータベースの使用を必要とし得る。
【0073】
一態様においては、1つ以上の試料、組織、及び/又は細胞、好ましくは多数の試料、組織、及び/又は細胞において、幾つかの又は更に多数の標的核酸が分析される。一態様においては、1つ以上の試料、組織、及び/又は細胞、好ましくは幾つかの又は更に多数の試料、組織、及び/又は細胞において、幾つかの又は更に多数の被検知RNAが検出される。
【0074】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、それぞれ1つ以上の試料、組織、及び/又は細胞において、好ましくは幾つかの又は更に多数の試料、組織、及び/又は細胞において、上記被検知RNAの様々な部分と特異的にハイブリダイズする2つ以上の非天然産生型tracrRNAが選択され、設計され、作製され(生産され、上記を参照)、使用される。
【0075】
本システムは、例えば、多数のtracrRNAを単一のプラスミドにクローニングすることにより、2個~7個の遺伝子座のどこかを標的化することができる。これらの多重tracrRNAベクターを、適宜、上述のCRISPRヌクレアーゼのいずれかと組み合わせて、本発明の態様において使用することができると考えられる。
【0076】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記少なくとも1つの被検知RNAは、一本鎖であるか、又は最初は二本鎖である。本発明の文脈において、被検知RNAは、本発明による方法を使用して検出されるあらゆる対象RNAである。通常、好ましくは、被検知RNAは、mRNA又は非コーディングRNA等の一本鎖RNA分子である。このRNAは、天然由来の場合も、又は人工的に生産される場合もある。一本鎖の被検知RNAは、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、免疫細胞、癌細胞、感染細胞、又は罹患細胞に由来する場合があり、及び/又はウイルス、寄生虫、蠕虫、真菌、原生動物、細菌、又は病原性細菌に由来する場合がある。
【0077】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記少なくとも1つの被検知RNAは、ジカウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、インフルエンザ、単純ヘルペスウイルスI型、単純ヘルペスウイルスII型、パピローマウイルス、狂犬病ウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト血清パルボ様ウイルス(human serum parvo-like virus)、呼吸器多核体ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、エプスタイン-バーウイルス、マウス白血病ウイルス、ムンプスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、シンドビスウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、疣贅ウイルス、ブルータングウイルス、センダイウイルス、ネコ白血病ウイルス、レオウイルス、ポリオウイルス、シミアンウイルス40、マウス乳腺腫瘍ウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、ウエストナイルウイルス、及び黄熱ウイルスから選択されるウイルスに由来する。
【0078】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記少なくとも1つの被検知RNAは、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、ストレプトコッカス・ピオゲネス、エシェリキア・コリ、ナイセリア・ゴノロエ(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、ニューモコッカス(Pneumococcus)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、ライム病スピロヘータ(Lyme disease spirochetes)、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)、及びブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)から選択される病原性細菌に由来する。
【0079】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、少なくとも1つの被検知RNAは、その転写及び/又は発現が、例えば代謝因子又はシグナル、ホルモン、病原体、毒素、薬物、加齢、及び/又は生物的ストレス若しくは非生物的ストレス等の外的因子に応答して改変される遺伝子に由来する。
【0080】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、被検知RNAは、環境、種、株、疾患、細胞、及び/又は組織に特異的であるように選択される。この態様においては、本発明の方法は、選択された被検知RNAに基づいて、細胞又は生物を特定する及び/又は群分けするのに役立つ。少なくとも1つの被検知RNAは、好ましくは、ウイルス感染症、例えば、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する。
【0081】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、工程a)の前に、少なくとも1つの被検知RNAを上記細胞、組織、及び/又は試料に加えることができ、及び/又は上記方法は、DNAからRNAへのin vitroでの転写、RNAからDNAへの逆転写、及び最適には、その後の上記DNAからRNAへのin vitroでの転写から選択される少なくとも1つの工程を更に含む。これを行って、適切な又は所望のシグナル増幅をもたらすことができる。通常、上記細胞、組織、又は試料中の被検知RNAは、約500 fM~約1 μM、例えば約500 fM~約1 nMの範囲で存在し、好ましくは、約1 pM~約1 nMの範囲で存在する。最適には、この方法は、細胞、組織、及び/又は試料当たりの単一の分子を検出することができる。
【0082】
本発明による方法の別の好ましい実施の形態においては、例えば、非特許文献7において列記されるように(その列記は、引用することにより本明細書の一部をなす)、tracrRNAがその結合機能のために必要とされる限り、あらゆるtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素を使用することができる。好ましくは、ヌクレアーゼは、II型のCas9及びV型のCas12のヌクレアーゼ酵素、並びに最近同定されたCasX(現在はV-E型)から選択される(Liu et al. CasX enzymes comprise a distinct family of RNA-guided genome editors. Nature, 2019 Feb; 566(7743): 218-223)。例は、II-A、II-B、及びII-Cからなる群から選択されるII型のCas9ヌクレアーゼ、並びにV-B型、V-C型、V-D型、V-E型、V-F型、V-G型、及びV-K型からなる群から選択される型のCas12ヌクレアーゼである。通常、適切なプラスミドシステムを使用して、Casヌクレアーゼを導入して発現させる。2013年にヒト病原性細菌のフランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)において初めて知られたV型におけるシステムとして特定されたV-A型は、特徴的なエフェクタータンパク質Cas12a(以前はCpf1と呼ばれていた)を有する。V-B型及びV-C型は2015年にShmakov et al.により特定され、V-F型は2018年にHarrington et al.により特定され、V-G型、V-H型、及びV-I型は2019年にYan et al.により特定された。ゲノム分解メタゲノミクス(genome-resolved metagenomics)を介して地下水及び堆積物試料中の難培養細菌を照会することにより、Bursteinと同僚により、2017年にV-D型及びV-E型が特定された(Tong B, et al. The Versatile Type V CRISPR Effectors and Their Application Prospects. Front Cell Dev Biol. 2021 Feb 4;8:622103. doi: 10.3389/fcell.2020.622103. PMID: 33614630; PMCID: PMC7889808)。
【0083】
Deltcheva et al.(CRISPR RNA maturation by trans-encoded small RNA and host factor RNase III. Nature. 2011; 471(7340):602-607. doi:10.1038/nature09886における)は、ヒト病原体ストレプトコッカス・ピオゲネスのディファレンシャルRNAシーケンシング(differential RNA sequencing)により、crRNA前駆体転写産物のリピート領域に対して24ヌクレオチドの相補性を有するトランスにコードされた低分子RNAであるtracrRNAを探し出したと報告している。彼らは、広範に保存された内因性エンドリボヌクレアーゼRNase III及びCRISPR関連Cas9(Csn1)タンパク質の活性によって、tracrRNAがcrRNAの成熟を誘導することを示しており、これらの全ての構成要素は、S.ピオゲネスをプロファージ由来のDNAから保護するために不可欠であることが分かっている。tracrRNAはリピート領域と対合して、RNase IIIについての基質が提供される。sgRNAを使用するV-B/C/E/F/G/K型のヌクレアーゼの全ての例は、tracrRNAに効果的に依存している。次に、切断されたRNA二重鎖はCas9により結合され、crRNA部分はDNA標的化を誘導する。また、tracrRNAはサブタイプV-B系において特定されているが、この場合に、切断酵素は未だに特徴付けられていない(Liu L, Chen P, Wang M, Li X, Wang J, Yin M, Wang Y. 2017C2c1-sgRNA complex structure reveals RNA-guided DNA cleavage mechanism. Mol. Cell 65, 310-322)。
【0084】
本発明による方法の更に別の好ましい実施の形態においては、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素は、改変されており、例えば突然変異されており、及び/又は組換え融合タンパク質である。所与のRNA標的化配列は、部分的な相同性が存在する追加の部位をゲノム全体に有することになるか、又は例えばin vitro診断の部分として、互いに似ている多数の標的核酸が存在し得る。これらの部位はオフターゲットと呼ばれ、ncrRNAを設計する際に考慮する必要がある。RNA設計の最適化に加えて、CRISPRの特異性を、Cas9への改変によって高めることもできる。高い特異性が重要である場合に、二重ニック誘導性の二本鎖破断をもたらすデュアルニッカーゼアプローチを使用することができ、これを、特定の遺伝子編集のためにHDR媒介遺伝子編集と組み合わせることもできる。別のアプローチは、高忠実度酵素と呼ばれる突然変異型Casヌクレアーゼの使用である。例えば、ファージ支援連続進化(phage-assisted continuous evolution)(PACE)法は、REC2、REC3、及びPAMの相互作用ドメインにおいて見られる7個の突然変異を有するxCas9 3.7をもたらし、PAM認識の拡大だけでなく、特異性の増加及びオフターゲット活性の低下も可能にする。したがって、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素をPAM相互作用ドメインにおいて突然変異させて、PAM認識を変化させることができる。別の例として、SpCas9変異体のプールされたライブラリーで形質転換されたE.コリ細胞をスクリーニングすることにより、野生型Cas9よりもオフターゲット活性が少ない、いわゆるSniper-Casのような突然変異した変異体を特定することができる(Directed evolution of CRISPR-Cas9 to increase its specificity. Nat Commun. 2018 Aug 6;9(1):3048、Lee, J., Jung, M. h., Jeong, E., Lee, J. K. Using Sniper-Cas9 to Minimize Off-target Effects of CRISPR-Cas9 Without the Loss of On-target Activity Via Directed Evolution. J. Vis. Exp. (144), e59202, doi:10.3791/59202 (2019))。
【0085】
例えば、Cas9を、転写抑制因子又は活性化因子と融合させることができ、これらのdCas9融合タンパク質をプロモーター領域に標的化すると、下流の標的遺伝子の頑健な転写抑制(CRISPR干渉、すなわちCRISPRi)又は活性化(CRISPRa)が引き起こされる。最も単純なdCas9ベースの活性化因子及び抑制因子は、単一の転写活性化因子(例えば、VP64)又は抑制因子(例えば、KRAB)に直接融合されたdCas9からなる。さらに、哺乳動物細胞における標的遺伝子のより強力な活性化のために、エピトープタグ付きdCas9及び抗体-活性化因子エフェクタータンパク質の同時発現(例えば、SunTag(商標)システム)、幾つかの異なる活性化ドメインに順次融合されたdCas9(例えば、dCas9-VPR)、又はdCas9-VP64と改変された足場sgRNA及び追加のRNA結合性ヘルパー活性化因子(例えば、SAM活性化因子)との同時発現等の活性化戦略が開発された。重要なことには、Cas9又はCas9ニッカーゼによって誘導されるゲノム改変とは異なり、dCas9に媒介される遺伝子の活性化又は抑制は、ゲノムDNAを永続的に改変しないため可逆的である。dCas9は、マウス細胞及びヒト細胞における遺伝子発現を活性化又は抑制するゲノムワイドスクリーニングにも使用されている。合成CRISPR-Cas遺伝子活性化因子は、gRNAを含む足場RNA及びRNAヘアピンを使用して活性化タンパク質を動員することにより、細菌用に開発された。CRISPRiは、Mobile-CRISPRiと呼ばれるモジュラーシステムを使用して、多様な細菌種に適合されている場合もある。このシステムにおいて、CRISPRiは、接合を使用して細菌内に導入され、染色体へと安定的に組み込まれる。
【0086】
本発明による方法の別の態様においては、上記被検知RNAの上記第1の部分は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む。一例として、Cas12ヌクレアーゼの場合に、PAMは得られたncrRNAのガイド部分の上流にあるリピート部分内に存在するが、Cas9の場合には、PAMはncrRNAのガイド部分の下流にあるリピート部分において存在する。適切なPAMを有する標的を選択することにより、生成されるcrRNAはそれ自体の部位を標的化することができる。これにより、遺伝子が転写されている場合にのみ編集が可能となる。この戦略は、標的化される遺伝子の発現プロファイルに応じて、例えば特定の組織に対する編集を大幅に制限する。
【0087】
上述のように、本発明による方法の好ましい実施の形態においては、被検知RNA及び非天然産生型tracrRNAは、dsRNA、したがってdsRNA切断酵素、例えばRNase III酵素の認識部位又はドメインを生ずる。RNase A等のssRNA切断酵素を適用して、更なるプロセシングを促進するか、又はncrRNAに変換されていないRNAを除去することもできる。好ましくは、上記被検知RNAにおける上記dsRNA切断酵素の基質は、10ヌクレオチド以上、例えば最大約50ヌクレオチド又は更に多くのヌクレオチド、好ましくは11ヌクレオチド以上、より好ましくは約12ヌクレオチド以上の長さを有する。9ヌクレオチドから15ヌクレオチドの間が好ましい範囲であり、10ヌクレオチド~14ヌクレオチドがより好ましく、12ヌクレオチドが最も好ましい。
【0088】
別の態様においては、本発明の方法において使用される核酸分子のハイブリダイズする部分は、少なくとも80%まで相補的であり、好ましくは90%超まで、より好ましくは95%超まで相補的であり、最も好ましくは互いに100%相補的である。上記で論じられたように、驚くべきことに、ncrRNAが従来のcrRNAから外れることができることが分かったことから、本来のリピート:アンチリピートステムを基本的に模倣するステム様二次構造に関するシステムの「頑健性」が示され、Cas9及びCas12によって結合されるベースステムに特に着目した(
図20~
図25を参照)。結果は、特にバルジがより小さい場合か、ステムのベースから離れている場合か、又はリピート側にある場合に、バルジはかなりの程度まで許容され得ることを示している。ステム内の幾つかのミスマッチに適応させた場合に、非常に類似した結果が見られた。したがって、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする上記tracrRNAの上記少なくとも1つの部分のヌクレオチド配列は、上記被検知RNAについての上記第1の部分に対して少なくとも80%まで相補的であり、好ましくは90%超まで相補的であり、より好ましくは95%超まで相補的であり、最も好ましくは100%相補的であるように生産及び/又は改変され得る。
【0089】
本発明による方法の別の態様においては、上記方法は、少なくとも部分的に、定量的分析を含む。したがって、上記試料、組織、及び/又は細胞中の改変された少なくとも1つの標的核酸、例えば、切断及び/又は編集された産物及び/又は上記少なくとも1つの被検知RNA、並びに結合された標的核酸の量を検出することを含む工程が好ましい。好ましくは、試料、組織、及び/又は細胞当たりの量は、コントロールと比較して決定される。定量アッセイは当業者に知られており、吸光度(例えば、UV分光光度法)及び/又は蛍光アッセイ、及びリアルタイムPCRを含み得る。アッセイは、定量化される核酸(複数の場合もある)(改変された少なくとも1つの標的核酸及び/又は上記少なくとも1つの被検知RNA)の量(複数の場合もある)及び/又は比率を単一の値として(例えば、使用されるアッセイの結果として又はその「終わり」に)定量化することができ、又は核酸における経時的な変化を監視することができ、すなわち、好ましくは、上記試料、組織、及び/又は細胞中の上記少なくとも1つの標的核酸(例えば、切断及び/又は編集された産物)及び/又は上記少なくとも1つの被検知RNAの上記改変の量の、特にコントロールと比較した変化を検出することを更に含む。
【0090】
本発明による方法の更に別の態様においては、多数の標識及び/又はマーカーが使用される。マーカーは、アッセイの部分を形成する核酸分子とタンパク質構成要素(例えば、ヌクレアーゼ及び/又は融合物)の両方に使用され得る。標識及びマーカーは、アッセイの構成要素(特に核酸及び/又はタンパク質)に含まれ得るだけでなく、共有結合又は非共有結合のいずれかで取り付けられる部分を構成することもできる。
【0091】
次に、本発明の別の態様は、細胞、組織、又は生物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトにおける医学的病態を発見する方法であって、上記病態が、少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連する、方法に関する。この方法は、上記の本発明による方法を実施し、検出された少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に基づいて上記医学的病態を発見することを含む。
【0092】
本発明を使用して発見することができる医学的病態は、少なくとも1つの被検知RNA分子に関連するものである。上記で説明したように、被検知RNAは、例えば、試験される細胞、組織、及び/又は試料の感染症、例えばコロナウイルス感染症等のウイルス感染症、細菌感染症、及び/又は真菌感染症の場合において、それ自体が病態又は疾患の起源を構成し得る。他の病態は、例えば、異常に転写(存在又は発見)され、発現され、プロセシング(例えば、スプライシング)され、及び/又は突然変異されたRNAの場合において、少なくとも1つの被検知RNA分子により間接的に関連する場合がある。被検知RNA分子は、健康なコントロール(例えば、健康な試料又は罹患した試料の群に基づくコントロール)と比較して増加又は減少した量で存在し得る。
【0093】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記少なくとも1つの被検知RNAは、一本鎖であるか、又は最初は二本鎖である。一本鎖の被検知RNAは、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、免疫細胞、癌細胞、感染細胞、又は罹患細胞に由来する/それらに関連する場合があり、及び/又はウイルス(上記参照)、寄生虫、蠕虫、真菌、原生動物、細菌、又は病原性細菌(上記参照)に由来する場合がある。本発明による方法の好ましい実施の形態においては、少なくとも1つの被検知RNAは、その転写及び/又は発現が、例えば代謝因子又はシグナル、ホルモン、病原体、毒素、薬物、加齢、及び/又は生物的ストレス若しくは非生物的ストレス等の外的因子に応答して改変される遺伝子に由来する/それらに関連する。したがって、少なくとも1つの被検知RNAは、好ましくは、ウイルス感染症、例えば、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する。通常、被検知RNAの存在、又はその量の増加若しくは減少は、上記疾患又は病態の存在についての指標となる。本方法の別の態様は、上記個体、患者、又は生物、特に細胞、組織、及び/又は試料が得られた元となる個体、患者、又は生物の治療の間に上記被検知RNAの量又は存在を監視することに関する。
【0094】
本発明の更に別の態様においては、本発明の方法は、上記1つ以上の被検知RNAを、遺伝子シグネチャを構成するRNAのセット(すなわち、生物、細胞、及び/又は組織に特異的な被検知RNAのセット)の(部分)として検出する工程を含む。したがって、この方法は、1つ以上の遺伝子シグネチャを検出し、ここで、各遺伝子シグネチャは、植物、動物、又は微生物種等の生物、細胞、及び/又は組織、1つ以上の植物、動物、若しくは微生物の表現型、又はその両方を特定する。続いて、本発明の方法を使用して、遺伝子シグネチャを構成するRNAのセット、1つ以上の被検知RNAに関する発現プロファイルを特定することができ、ここで、上記シグネチャは、植物、動物、又は微生物種等の生物、細胞、及び/又は組織、1つ以上の植物、動物、若しくは微生物の表現型、又はその両方に特異的である(転写記録については上記も参照のこと)。
【0095】
本発明の方法に好ましいin vitroでの診断形式の例は、マイクロアレイ、特に一度に多くのDNAを監視する二本鎖DNAを用いたマイクロアレイ、及びラテラルフローアッセイである。ラテラルフローアッセイは当業者に知られており、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)と同じ原理で動作する。本質的に、これらの試験では、視覚的な陽性又は陰性の結果を示す反応性分子を含むパッドの表面に沿って液体試料が流れる。
【0096】
上述のように、本発明による方法の好ましい実施の形態においては、工程a)の前に、少なくとも1つの被検知RNAを上記細胞、組織、及び/又は試料に加えることができ、及び/又は上記方法は、DNAからRNAへのin vitroでの転写、RNAからDNAへの逆転写、及び最適には、その後の上記DNAからRNAへのin vitroでの転写から選択される少なくとも1つの工程を更に含む。これを行って、適切な又は所望のシグナル増幅をもたらすことができる。通常、上記細胞、組織、又は試料中の被検知RNAは、約500 fM~約1 μM、例えば約500 fM~約1 nMの範囲において存在し、好ましくは、約1 pM~約1 nMの範囲において存在する。最適には、この方法は、細胞、組織、及び/又は試料当たりの単一の分子を検出することができる。
【0097】
次に、本発明の更に別の態様は、細胞、組織、又は生物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトにおける疾患又は医学的病態を治療する方法であって、上記病態が、少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連する、方法に関する。この方法は、上記細胞、組織、又は生物に適切な治療、特に特定の薬物治療を提供し、上記の本発明による方法を実施し、検出された上記少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に基づいて上記疾患又は医学的病態の上記治療を変更することを含む。本発明を使用して発見することができる医学的病態は、少なくとも1つの被検知RNA分子に関連するものである。上記で説明したように、被検知RNAは、例えば、試験される細胞、組織、及び/又は試料の感染症、例えばコロナウイルス感染症等のウイルス感染症、細菌感染症、及び/又は真菌感染症の場合において、それ自体が病態又は疾患の起源を構成し得る。他の病態は、例えば、異常に転写(存在又は発見)され、発現され、プロセシングされ、及び/又は突然変異されたRNAの場合において、少なくとも1つの被検知RNA分子により間接的に関連する場合がある。被検知RNA分子は、健康なコントロール(例えば、健康な試料又は罹患した試料の群に基づくコントロール)と比較して増加又は減少した量で存在し得る。
【0098】
本発明による方法の好ましい実施の形態においては、上記少なくとも1つの被検知RNAは、一本鎖であるか、又は最初は二本鎖である。一本鎖の被検知RNAは、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、免疫細胞、癌細胞、感染細胞、又は罹患細胞に由来する/それらに関連する場合があり、及び/又はウイルス(上記参照)、寄生虫、蠕虫、真菌、原生動物、細菌、又は病原性細菌(上記参照)に由来する場合がある。本発明による方法の好ましい実施の形態においては、少なくとも1つの被検知RNAは、その転写及び/又は発現が、例えば代謝因子又はシグナル、ホルモン、病原体、毒素、薬物、加齢、及び/又は生物的ストレス若しくは非生物的ストレス等の外的因子に応答して改変される遺伝子に由来する/それらに関連する。したがって、少なくとも1つの被検知RNAは、好ましくは、ウイルス感染症、例えば、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する。通常、被検知RNAの存在、又はその量の増加若しくは減少は、上記疾患又は病態の存在についての指標となる。本方法の別の態様は、上記個体、患者、又は生物、特に細胞、組織、及び/又は試料が得られた元の個体、患者、又は生物の治療の間に上記被検知RNAの量又は存在を監視することに関する。
【0099】
薬物治療の場合に、リプログラミングされたtracrRNAは、治療の経過を直接知らせる患者試料中の特定の対象RNAの定量的なリードアウトをもたらすこととなる。例えば、リプログラミングされたtracrRNAを使用して、採血又は喀痰中のウイルス性配列を検出して、例えばコロナウイルス感染症等の患者に感染する特定のウイルスを特定することができる。特定されたウイルスは、治療の経過を直接知らせることとなる。例えば、ライノウイルスが特定されると、流動物及び休息を含むより控えめな治療計画がもたらされることとなるが、コロナウイルスが特定されると、綿密な監視及び封じ込めが必要となり、一方で、エボラが特定されると、即時の医療介入が必要とされることとなる。同様に、リプログラミングされたtracrRNAを使用して、癌生検において特定のRNAを検出して、癌の進行及び薬物感受性の重要なマーカーを特定することができる。続いて、この情報により、医師は治療の経過をどのように進めるかを知ることとなる。最後に、リプログラミングされたtracrRNAは、感染性細菌又は真菌病原体(例えば、糞便試料中のクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)、喀痰試料中のシュードモナス・エルギノーザ)を含む試料とともに使用して、抗生物質耐性の特定のマーカーを特定し、患者に投与する抗生物質の最良の様式を決定することができる。
【0100】
細胞、組織、又は生物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトにおける疾患又は医学的病態を治療する上記の方法であって、上記病態が、少なくとも1つの被検知RNA、特にウイルス性RNA又はDNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連する、方法の一実施の形態において、本発明によるリプログラミングされた(例えば、ウイルス標的核酸に特異的な)tracrRNAを使用して、採血又は喀痰中のウイルス性配列を検出し、例えば患者に感染するコロナウイルス等の特定のウイルスを特定する。次に、主治医は、検出されたウイルス感染症を抗ウイルス性化学療法薬及び/又は生物製剤で治療する。治療の経過において、リプログラミングされたtracrRNAは、治療の経過及び効果/成功について直接知らせる患者試料中の特定の対象RNAの定量的なリードアウトをもたらす。次に、主治医は、相応して治療を調節する、すなわち、必要に応じてより多くの抗ウイルス性化学療法薬及び/又は生物製剤を与えることになる。必要に応じて、この治療スケジュールを繰り返すことができる。
【0101】
また、ライノウイルスのようなウイルスが特定されると、流動物及び休息を含むより控えめな治療計画がもたらされる場合があるが、コロナウイルスが特定されると、綿密な監視及び封じ込めが必要となり、一方で、エボラが特定されると、即時の医療介入が必要とされることとなる。
【0102】
同様に、上記と同様に、リプログラミングされた(例えば、癌標的核酸に特異的な)tracrRNAを使用して、癌生検において特定のRNAを検出し、癌の進行及び薬物感受性の重要なマーカーを特定することができる。続いて、この情報により、医師は治療の経過をどのように進めるかを知ることとなる。
【0103】
最後に、またしても上記と同様に、リプログラミングされた(例えば、細菌又は真菌の標的核酸に特異的な)tracrRNAは、感染性細菌又は真菌病原体(例えば、糞便試料中のクロストリジオイデス・ディフィシル、喀痰試料中のシュードモナス・エルギノーザ)を含む試料とともに使用して、抗生物質耐性の特定のマーカーを特定し、患者に投与する抗生物質の最良の様式を決定することができる。
【0104】
その別の好ましい態様においては、本発明の課題は、天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する複合体の形成を通じて予め選択された被検知RNA配列に特異的にハイブリダイズするように設計されているアンチリピート領域配列を含む、非天然産生型tracrRNA核酸分子を提供することによって解決される。非天然産生型tracrRNA核酸分子は、本発明による非天然産生型tracrRNA核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素と、少なくとも1つの被検知RNAとを含む複合体の部分であり得て、少なくとも1つの被検知RNA配列に基づく配列、又はそれに基づいて設計された配列を含む標的DNA核酸分子に更に結合され得る。
【0105】
したがって、非天然産生型tracrRNA核酸分子は、本発明による非天然産生型tracrRNA核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素と、少なくとも1つの被検知RNAとを含む複合体の部分であり得て、少なくとも1つの被検知RNA配列に基づく配列、又はそれに基づいて設計された配列を含む標的DNA核酸分子に更に結合され得る。
【0106】
本発明の文脈においては、非天然産生型tracrRNA核酸分子は、天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する複合体の形成を通じて予め選択された被検知RNA配列に特異的にハイブリダイズするように設計されているアンチリピート領域配列を含む。これは、非天然産生型tracrRNA核酸分子及び予め選択された被検知RNA配列分子が、文献に開示されるcrRNA:tracrRNA二重鎖のコンセンサス構造に構造的に類似する二重鎖を形成することを意味するものとする。例えば、crRNA:tracrRNA二重鎖は、Cas9の場合は下部ステム、バルジ、及び上部ステムモジュールを形成し、Cas12bの場合は下部ステム及び上部ステムモジュールを形成し、Cas12eの場合はステム及び三重ヘリックスを形成し得る。crRNAはスペーサーモジュールを含み、tracrRNAはネクサス及び末端ヘアピンを含む(例えば、Briner AE, et al. Guide RNA functional modules direct Cas9 activity and orthogonality. Mol Cell. 2014 Oct 23;56(2):333-339. doi: 10.1016/j.molcel.2014.09.019. Epub 2014 Oct 16. PMID: 25373540、又はCrawley, A.B., Henriksen, E.D., Stout, E. et al. Characterizing the activity of abundant, diverse and active CRISPR-Cas systems in lactobacilli. Sci Rep 8, 11544 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-29746-3を参照)。
【0107】
その別の好ましい態様においては、本発明の課題は、被検知RNA用の検出システムであって、a)標的核酸の第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を更に含む上記被検知RNAの少なくとも1つの部分に結合するように設計された非天然産生型tracrRNAと、b)少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素とを含む、検出システムを提供することによって解決される。並行する幾つかの被検知RNAを並列に検出する検出システムであって、上記幾つかの被検知RNAに対する幾つかの非天然産生型tracrRNAのセットを含む、検出システムが好ましい。別の検出システムは、1つの被検知RNA上の幾つかの位置でハイブリダイズする幾つかの非天然産生型tracrRNAを含む。
【0108】
本発明のこの態様は、本発明による方法を検出システムとして、例えば診断キットの部分として実施する構成要素、例えば本発明による上記の非天然産生型tracrRNA核酸分子を提供する。好ましくは、上記検出システムは、1つ以上の容器において提供され、適切な酵素、バッファー、及び添加剤、並び使用説明書を含む。これらの構成要素は、少なくとも部分的に、基材上に固定化されている場合があり、ここで、上記基材は、上記細胞、組織、及び/又は試料に曝露され得る。検出システムは、フレキシブルな材料の基材、例えばチップ等の上記基材上の多数の別個の位置に適用され得る。フレキシブルな材料の基材は、紙基材、布地基材、又はフレキシブルなポリマーベースの基材であり得る。
【0109】
本発明の方法に好ましいin vitroでの診断形式の例は、マイクロアレイ、特に一度に多くのDNAを監視する二本鎖DNAを用いたマイクロアレイ、及びラテラルフローアッセイである。ラテラルフローアッセイは当業者に知られており、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)と同じ原理で動作する。本質的に、これらの試験では、視覚的な陽性又は陰性の結果を示す反応性分子を含むパッドの表面に沿って液体試料が流れる。
【0110】
その別の好ましい態様においては、本発明の課題は、上記の態様のいずれか1つによる方法を実施するための、特に被検知RNA、ウイルス性被検知RNA、疾患マーカーから転写された被検知RNAを検出するための、及び/又は上述の1つ以上の被検知RNAに関する発現プロファイルを生成するための、上記の態様による非天然産生型tracrRNA核酸分子又は被検知RNA検出システムの使用を提供することによって解決される。
【0111】
本明細書において記載される例は、医学的病態を診断して治療の経過を知らせること、健康転帰若しくは急性敗血症等の疾患と関連するSNPを特定すること、病原体の個性、病原性因子、耐性マーカー、SNP、ウイルス検出、すなわち個性、及び/又はウイルス変異体(例えば、本明細書において開示されるSARS CoV-2を参照)を決定すること、生検等の癌試料における癌診断、突然変異及び/又はSNPを決定すること、飲用水中の汚染微生物を特定すること、発酵物若しくは細胞培養物における汚染ウイルス若しくは汚染微生物を特定すること、植物若しくは昆虫の変異体を特定すること、又は混成群落(例えば、腸内、土壌、水)における主要な微生物成員を特定すること、例えば、微生物叢及び/又は微生物センチネル(すなわち、非侵襲的測定用のレポーターとして機能する共生細菌)、特に個性、相対存在量、耐性マーカー、代謝遺伝子、門/属/種/株に特異的な遺伝子等の分析、並びにin vivoでの、例えば生物全体における、又は例えば環境から採取された試料に基づくウイルス又は細菌の拡散(例えば、廃水試料等において検出されるウイルス又は耐性細菌の拡散)の追跡等の広範囲の用途に使用され得る。
【0112】
本発明の文脈においては、特段明示的に言及しない限り、「約」という用語は、所与の±10%の値を意味するものとする。
【0113】
細菌性病原体のC.ジェジュニにおける本来のCRISPR-Cas9システムの特徴付けから出発して、本発明者らは、tracrRNAとのハイブリダイゼーションを通じて細胞転写産物が非正規crRNAに変換され得ることを見出した。この発見により、crRNA、tracrRNAアンチリピートと同様に対合する低分子CRISPR-Cas関連RNA(scaRNA)、及びtracrRNAの上流での転写によって形成される「天然の」sgRNAを含む自然界に見られるRNAガイドのリストにncrRNAが追加される。重要なことには、これらの以前の例は全て、CRISPR-Cas遺伝子座内にコードされている。
【0114】
本発明者らは更に、非天然型tracrRNAにより、対象RNAの存在を、Cas9による配列特異的なDNA標的化と結びつけることができることを実証した。対象RNAは、それ以外の点で、Cas9又はCRISPR-Casシステムとは関連性を有しなかった。これにより、非天然型tracrRNAは、多重化された転写記録又は転写依存的な編集等のCas9を用いたin vivo用途を可能にする。最も直接的な用途は、本明細書において開示されるように、LEOPARDによるin vitroでの多重化されたRNA検出を含む。好ましい実施の形態においては、LEOPARDは、Cas12a又はCas13に基づく既存のCRISPR診断プラットフォームを追加すると同時に、単一の反応における拡張可能な多重化及びCas9を含む初めての診断プラットフォームを提供する。
【0115】
本発明者らのゲル電気泳動への依存により、多重化された検出の原理実証がもたらされた。しかし、マイクロアレイに基づく既存の技術等のより高度な実装も可能であり、又は次世代シーケンシングチップは、DNA配列を特定の空間位置に関連付けて、数百万個の標的の並行した監視まで拡張することが可能である。所与のクラスター内のDNA分子の数が限られているため、いずれのアプローチもアッセイ感度を高めることになり、ここで、被検知RNAの検出は、例示的なゲルベースのアッセイにおいて使用される40 nMを十分に下回る。異なるスペクトルを有する蛍光体及び切断可能なクエンチャーに連結されたDNA標的を、配列特異的で拡張可能なリードアウトとして使用することもできる。
【0116】
既存のCRISPR診断と同様の等温予備増幅を組み込むことによって、感度を高める手段も提供されることになる。更なる開発により、LEOPARDは、本明細書においても論じられるように、ウイルス検出だけでなく、癌突然変異のスクリーニング、病原体及び抗生物質耐性マーカーの特定、又は薬物感受性についての遺伝子発現プロファイルの決定等の多重化されたリードアウトを必要とする他の用途のためにも強力な診断ツールになることになる。
【0117】
本明細書において、非天然型tracrRNAは、Cas9及びCas12のこれまたtracrRNAに依存するヌクレアーゼとともに例示的に確立された(
図9~
図11、及び
図22~
図25も参照)。tracrRNAリプログラミングを、当業者に知られており、かつ本明細書において記載されるこれらのヌクレアーゼ及びその他のヌクレアーゼに拡張することにより、ヌクレアーゼの利用可能なレパートリーが広がり、シグナル増幅又はプログラミング可能な転移等のそれらの特有の属性が盛り込まれる。
【0118】
標準的なcrRNA:tracrRNA二重鎖を体系的にかき乱すうちに、発明者らは、特にリピートの5'末端の外側の多くの逸脱がCas9及びCas12によって許容され、それにもかかわらず設計されたDNA標的の標的化につながることを見出した。しかしながら、この乱雑性にもかかわらず、標的化は依然として上流のガイド配列及び隣接するPAMへの要件によって決定される。したがって、アンチリピートハイブリダイゼーション及びガイド依存性DNA標的化はどちらも、オフターゲティングの可能性を制限する。相応して、本発明者らは、LEOPARDを用いて多数のウイルスRNAを評価する際に又は酵母総RNAを導入する際に、検出可能なオフターゲティングを一切観察しなかった(
図18B、
図18D)。潜在的なオフターゲティング及びオンターゲット活性を説明する非天然型tracrRNAについての設計規則は、既存のsgRNA設計アルゴリズムと同様に、CRISPR技術についての配列特異的なガイドへの任意のRNAの変換を進めるのに役立つ。
【0119】
本明細書において述べられるように、本発明は、特に以下の項目に関する。
【0120】
項目1.天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する複合体の形成を通じて予め選択された被検知RNA配列に特異的にハイブリダイズするように設計されているアンチリピート領域配列を含む部分を含む、非天然産生型tracrRNA核酸分子。
【0121】
項目2.項目1に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素と、少なくとも1つの被検知RNAとを含む複合体。
【0122】
項目3.少なくとも1つの被検知RNA配列に基づく配列、又は該被検知RNA配列に基づいて設計された配列を含む標的DNA核酸分子に更に結合される、項目2に記載の非天然産生型tracrRNA核酸分子。
【0123】
項目4.細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸、特にDNA、RNA、又はssDNAと特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等のdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の上記少なくとも1つの核酸DNAへの結合を検出することと、
を含み、
c)ここで、結合により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法。
【0124】
項目5.上記ヌクレアーゼは、その切断活性及び/又はニッキング活性が不活性化されている、項目4に記載の方法。
【0125】
項目6.細胞及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等のdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸の上記ヌクレアーゼ酵素による切断を検出することと、
を含み、
c)ここで、少なくとも1つの標的核酸の上記切断の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法。
【0126】
項目7.上記結合された及び/又は切断された少なくとも1つの標的核酸の検出は、色素、蛍光体等の適切な標識のシグナル、又は導電率における変化を検出すること、及び/又は上記切断された少なくとも1つの標的核酸断片自体を検出することを含む、項目4~6のいずれか一つに記載の方法。
【0127】
項目8.細胞、組織、及び/又は試料中の少なくとも1つの被検知RNAを検出する方法であって、
a)上記試料と、上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を含む少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAとを接触させることと、
ここで、上記被検知RNAの第2の部分は、少なくとも1つの標的核酸と特異的にハイブリダイズし、上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAは、任意にRNase III等のdsRNA切断酵素の存在を更に含む少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素の存在下で上記被検知RNAとハイブリダイズするか、又はハイブリダイズすることができ、
b)上記試料中の上記少なくとも1つの標的核酸を上記ヌクレアーゼによりニッキング又は切断することと、
c)例えば、非相同末端結合(NHEJ)修復、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同配列依存的修復(HDR)、塩基編集、又はプライム編集を含む、上記少なくとも1つの標的核酸を検出可能に編集することと、
d)例えば、インデル又は遺伝子編集の存在及び/又は長さ、上記少なくとも1つの標的核酸によってコードされる遺伝子又は他の遺伝要素の活性化/抑制の検出、及び/又は上記プライム編集又は塩基編集の検出から選択される少なくとも1つの方法を含む、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集を適切に検出することと、
を含み、
e)ここで、上記少なくとも1つの標的核酸の上記編集の検出により、上記細胞、組織、及び/又は試料中の上記少なくとも1つの被検知RNAが検出される、方法。
【0128】
項目9.上記方法が、in vivo又はin vitroで行われる、項目4~8のいずれか一つに記載の方法。
【0129】
項目10.上記試料が、細胞を含む試料、及び無細胞のin vitroの試料から選択され、ここで、上記細胞が、好ましくは植物細胞又は動物細胞、例えば哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である、項目4~9のいずれか一つに記載の方法。
【0130】
項目11.1つ以上の試料、組織、及び/又は細胞において、幾つかの又は多数の被検知RNAが検出される、項目4~10のいずれか一つに記載の方法。
【0131】
項目12.上記少なくとも1つの被検知RNAが、一本鎖である、項目4~11のいずれか一つに記載の方法。
【0132】
項目13.上記少なくとも1つの被検知RNAは、環境、種、株、疾患、細胞、及び/又は組織に特異的であるか、又はウイルス感染症、例えば、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する、項目4~12のいずれか一つに記載の方法。
【0133】
項目14.工程a)の前に上記細胞、組織、及び/又は試料に上記少なくとも1つの被検知RNAを加え、及び/又は工程a)の前にDNAを被検知RNAに転写する工程を更に含む、項目4~13のいずれか一つに記載の方法。
【0134】
項目15.上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素は、II型のCas9及びV型のCas12のヌクレアーゼ酵素、例えば、II-A、II-B、及びII-Cからなる群から選択されるII型のCas9ヌクレアーゼ、並びにV-B型、V-C型、V-D型、V-E型、V-F型、V-G型、及びV-K型からなる群から選択される型のCas12ヌクレアーゼから選択される、項目4~14のいずれか一つに記載の方法。
【0135】
項目16.上記少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素が、組換え融合タンパク質である、項目4~15のいずれか一つに記載の方法。
【0136】
項目17.上記被検知RNAの上記第1の部分と特異的にハイブリダイズする上記少なくとも1つの非天然産生型tracrRNAの上記部分は、10ヌクレオチド以上、好ましくは11ヌクレオチド以上、より好ましくは約12ヌクレオチド以上とハイブリダイズする、項目4~16のいずれか一つに記載の方法。
【0137】
項目18.上記被検知RNAの上記第1の部分は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む、項目4~17のいずれか一つに記載の方法。
【0138】
項目19.上記非天然産生型tracrRNAが、上記被検知RNAとハイブリダイズしてdsRNA切断酵素の基質をもたらす少なくとも1つの部分を更に含む、項目4~18のいずれか一つに記載の方法。
【0139】
項目20.上記被検知RNAにおけるdsRNA切断酵素の上記基質が、10ヌクレオチド以上、好ましくは11ヌクレオチド以上、より好ましくは約12ヌクレオチド以上の長さを有する、項目19に記載の方法。
【0140】
項目21.ハイブリダイズする上記部分が、少なくとも80%まで相補的であり、好ましくは90%超まで相補的であり、より好ましくは95%超まで相補的であり、最も好ましくは100%相補的である、項目4~20のいずれか一つに記載の方法。
【0141】
項目22.上記被検知RNAの第1の部分と特異的にハイブリダイズする上記tracrRNAの上記少なくとも1つの部分のヌクレオチド配列は、上記被検知RNAについての上記第1の部分に対して少なくとも80%まで相補的であり、好ましくは90%超まで相補的であり、より好ましくは95%超まで相補的であり、最も好ましくは100%相補的であるように生産及び/又は改変される、項目4~21のいずれか一つに記載の方法。
【0142】
項目23.それぞれ上記被検知RNAの異なる部分と特異的にハイブリダイズする2個以上の非天然産生型tracrRNAが作製され、使用される、項目4~22のいずれか一つに記載の方法。
【0143】
項目24.上記試料、組織、及び/又は細胞中の上記少なくとも1つの標的核酸及び/又は上記少なくとも1つの被検知mRNAの量、好ましくは試料、組織、及び/又は細胞当たりの量を検出することを更に含む、項目4~23のいずれか一つに記載の方法。
【0144】
項目25.上記試料、組織、及び/又は細胞中の上記少なくとも1つの標的核酸及び/又は上記少なくとも1つの被検知mRNAの量の、コントロールと比較した変化を検出することを更に含む、項目24に記載の方法。
【0145】
項目26.検出される上記インデルの長さが、1ヌクレオチドから14ヌクレオチドの間、より好ましくは5ヌクレオチドから9ヌクレオチドの間であり、任意に上記インデルは、シーケンシング及び/又はqPCRによって検出され得る、項目8~25のいずれか一つに記載の方法。
【0146】
項目27.多数の標識及び/又はマーカーが使用される、項目4~26のいずれか一つに記載の方法。
【0147】
項目28.少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に関連する哺乳動物における医学的病態を発見する方法であって、項目4~27のいずれか一つに記載の方法を実施することと、検出される上記少なくとも1つの被検知RNAの存在、該被検知RNAの発現、及び/又は該被検知RNAにおける突然変異(複数の場合もある)に基づいて上記医学的病態を発見することとを含む、方法。
【0148】
項目29.上記少なくとも1つの被検知RNAは、環境、種、株、疾患、細胞、及び/又は組織に特異的であるか、又はウイルス感染症、例えば、コロナウイルス感染症、病原体による感染症、代謝疾患、癌、神経変性疾患、加齢、薬物、及び生物的ストレス又は非生物的ストレスから選択される病態に関連する、項目25に記載の方法。
【0149】
項目27.工程a)の前に上記細胞、組織、及び/又は試料に上記少なくとも1つの被検知RNAを加え、及び/又は工程a)の前にDNAを被検知RNAに転写する工程を更に含む、項目25又は26に記載の方法。
【0150】
項目28.a)標的核酸の第1の部分と特異的にハイブリダイズする部分を更に含む上記被検知RNAの少なくとも1つの部分に結合するように設計された非天然産生型tracrRNAと、b)少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素とを含む、被検知RNA検出システム。
【0151】
項目29.c)上記標的核酸の切断を検出する標識を含む少なくとも1つの標的核酸分子を更に含む、項目28に記載の被検知RNA検出システム。
【0152】
項目30.d)RNase III酵素等の少なくとも1つのdsRNA切断酵素を更に含む、項目28又は29に記載の被検知RNA検出システム。
【0153】
項目31.上記構成要素a)~構成要素d)の少なくとも1つが、核酸ベクターシステム上にコードされている、項目28~30のいずれか一つに記載の被検知RNA検出システム。
【0154】
項目32.項目1~26のいずれか一つに記載の方法を実施するための、特に被検知RNA、ウイルス性被検知RNA、疾患マーカーから転写された被検知RNAを検出するための、又は1つ以上の被検知RNAに関する発現プロファイルを生成するための、項目28~31のいずれか一つに記載の被検知RNA検出システムの使用。
【0155】
ここで、本発明を、添付の図面を参照して以下の実施例において更に説明するが、それに限定されることを望むものではない。本発明のために、本明細書において引用される全ての参考文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。本開示は、詳細な説明の部分として配列番号1~配列番号128を含む配列表を含み、これも引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0156】
図中で、本発明による非天然産生型tracrRNAは、「rptr」と呼称されることがある。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【
図1-1】非正規crRNAの発見を示す図である。A)カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)CG8421におけるCas9と共免疫沈降するRNAを特定する描写。B)共免疫沈降の部分として濃縮された47個のRNAのセットは、tracrRNAのアンチリピート部分に相補的なモチーフを共有していた。結果としてのRNAはcrRNAに似ていたが、CRISPR-Casシステムの外側でコードされたRNAに由来していた。C)非正規crRNA(ncrRNA)が生成するメカニズムの解明。このメカニズムは、あらゆるtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼに当てはまるはずである。示されるtracrRNAは、配列番号97である。
【
図2】少なくとも1つの非天然産生型tracrRNA及び少なくとも1つのtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ酵素による被検知RNAのncrRNAへの変換の概略図を示す図である。Cas9は代表的なヌクレアーゼとして機能するが、他のCRISPRヌクレアーゼは、crRNAの生合成及び機能に関してtracrRNAに依存している。
【
図3】本発明の文脈において使用され、かつ以下の実施例において記載される無細胞転写-翻訳システム(TXTL)を含むin vitroのDNA切断アッセイの概略図を示す図である。アッセイの部分として、ヌクレアーゼ(例えば、CjeCas9)をコードするプラスミドDNA又は線状DNA、天然型又は非天然型のtracrRNA、crRNA又は被検知RNA、及びcrRNA又はncrRNAによって標的化されるTXTL発現用に最適化されたGFPレポーター(deGFP)を合わせて反応させる。GamSを加えて、RecBCDによる線状DNAの分解を防ぐ。次に、GFP蛍光を経時的に測定する。crRNA:tracrRNA:CRISPRヌクレアーゼ複合体がレポーターDNA内の標的に結合してそれを切断することによりGFP産生が停止すると、蛍光の減少又は損失が発生する。
【
図4-1】リピートとアンチリピートとの間の二重鎖が、CjeCas9による標的化活性に殆ど影響を与えずに、様々な配列に適応することができることを示す図である。A)CjeCas9により使用されるsgRNAのリピート:アンチリピート二重鎖に加えられた様々な突然変異。突然変異を加えて、二重鎖の配列をその二次構造を維持しながら変化させた。リピート及びアンチリピートをsgRNAの形で融合させて、結果として得られる標的化活性に対するcrRNA又はtracrRNAによるミスフォールディングの考えられる影響を切り離した。B)TXTLアッセイからの結果。これらの突然変異は、標的切断までの時間に対して限られた影響しか及ぼさなかった。NT:非標的化sgRNAコントロール。関連する配列番号18~21、sgRNAは、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。NT:非標的化sgRNAコントロール(配列番号16)、T:野生型の標的化sgRNA(配列番号17)、標的DNA(配列番号15)。
【
図5-1】リピートとアンチリピートとの間の二重鎖が、CjeCas9によるDNA標的化の部分としてどちらの側の幾つかのバルジにも適応することができることを示す図である。A)融合されたリピート:アンチリピート二重鎖の突然変異された領域を黒色のボックスで囲った。リピート及びアンチリピートをsgRNAの形で融合させて、結果として得られる標的化活性に対するcrRNA又はtracrRNAによるミスフォールディングの考えられる影響を切り離した。sgRNAの転写は、黄色で示されているrho非依存性ターミネーターで終結される。B)二重鎖のアンチリピート部分に1ヌクレオチド又は2ヌクレオチドのバルジを導入した後のTXTLアッセイの結果。C)二重鎖のリピート部分に1ヌクレオチド又は2ヌクレオチドのバルジを導入した後のTXTLアッセイの結果。NT:非標的化sgRNAコントロール。ボックスで囲った二重鎖は、バルジの存在にもかかわらず、標的化活性を維持した。関連する配列番号23~33、sgRNAは、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。NT:非標的化sgRNAコントロール(配列番号16)、T:野生型の標的化sgRNA(配列番号17)、標的DNA(配列番号15)。
【
図6-1】リピートとアンチリピートとの間の二重鎖が、CjeCas9によるDNA標的化の部分としてミスマッチに適応することができることを示す図である。A)融合されたリピート:アンチリピート二重鎖の突然変異された領域を黒色のボックスで囲った。リピート及びアンチリピートをsgRNAの形で融合させて、結果として得られる標的化活性に対するcrRNA又はtracrRNAによるミスフォールディングの考えられる影響を切り離した。sgRNAの転写は、黄色で示されているrho非依存性ターミネーターで終結される。B)二重鎖に1ヌクレオチド又は2ヌクレオチドのミスマッチ又はG:Uゆらぎペアを導入した後のTXTLアッセイの結果。NT:非標的化sgRNAコントロール。ボックスで囲った二重鎖は、バルジの存在にもかかわらず、標的化活性を維持した。関連する配列番号34~42、sgRNAは、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。NT:非標的化sgRNAコントロール(配列番号16)、T:野生型の標的化sgRNA(配列番号17)、標的DNA(配列番号15)。
【
図7-1】RNase IIIプロセシングに関与するリピート:アンチリピート二重鎖の領域が、CjeCas9によるDNA標的化の部分としてミスマッチ及びバルジに適応することができることを示す図である。A)リピート:アンチリピート二重鎖内の突然変異された領域を灰色のボックスで囲った。改変されたcrRNA及びtracrRNAを別々に発現させた。B)ミスマッチについてのTXTLの結果。C)バルジについてのTXTLの結果。NT:非標的化sgRNAコントロール。関連する配列番号48~54。tracrRNA(配列番号45)は、OR2-OR1プロモーターから転写され(配列番号43)、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。crRNA変異体は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。NT:非標的化crRNAコントロール(配列番号46)、T:3'に300のオーバーハングを有する野生型の標的化crRNA(配列番号47)、標的DNA(配列番号15)。
【
図8-1】crRNAの5'末端又は3'末端に対する伸長が、CjeCas9による標的化活性に対して限定的な影響を及ぼすことを示している。A)5'伸長についてのTXTLの結果。B)3'伸長についてのTXTLの結果。関連する配列番号:56~60。tracrRNA(配列番号45)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。crRNA変異体は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。NT:非標的化crRNAコントロール(配列番号46)、WT:fliF標的化crRNA(配列番号55)、標的DNA(配列番号15)。
【
図9-1】非天然型tracrRNAが、被検知RNAからのCjeCas9によって使用される活性型ncrRNAの形成を誘導するように設計することができることを示す図である。A)CjeCas9に関する非天然型tracrRNA及び付随するDNA標的についての一般的な設計アプローチ。左:天然型tracrRNAにハイブリダイズされたcrRNAの配列及び二次構造。crRNAのガイド配列は複数のNによって示されている。右:被検知RNAと対合した非天然型tracrRNAの配列及び二次構造。非天然型tracrRNAのアンチリピート部分は、被検知RNAの一部とハイブリダイズし、一方で、被検知RNAの上流部分は、結果として生じるncrRNAのガイド配列となる。DNA標的は、このヌクレアーゼによって認識されるPAMに隣接するncrRNAのガイド配列をコードするように設計されている。B)被検知RNA及び非天然型tracrRNAによって誘導されたDNA標的化を示すTXTLの結果。各非天然型tracrRNAは、試験されるRNAの特定の領域にハイブリダイズするように設計されている。試験されるRNAは、C.ジェジュニ84-21株を使用して本発明者らによって行われたCjeCas9共免疫沈降実験からのピーク113に関連するmRNAである。このmRNAは、遺伝子CJ8421_04970及びCJ8421_04975及びCJ8421_04980に由来する。T:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の存在。NT:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の不存在。全体として、試験される非天然型tracrRNAは、一般的に強い切断活性を生じた。関連する配列番号:62~71。ピーク113に含まれるmRNA(配列番号61)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。リプログラミングされたtracrRNAは、OR2-OR1プロモーター(配列番号43)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。
【
図10-1】非天然型tracrRNAが、被検知RNAからのSpyCas9によって使用される活性型ncrRNAの形成を誘導するように設計することができることを示す図である。A)SpyCas9に関する非天然型tracrRNA及び付随するDNA標的についての一般的な設計アプローチ。左:天然型tracrRNAにハイブリダイズされたcrRNAの配列及び二次構造。crRNAのガイド配列は複数のNによって示されている。右:被検知RNAと対合した非天然型tracrRNAの配列及び二次構造。非天然型tracrRNAのアンチリピート部分は、被検知RNAの一部とハイブリダイズし、一方で、上流部分は、結果として生じるncrRNAのガイド配列となる。DNA標的は、このヌクレアーゼによって認識されるPAMに隣接するncrRNAのガイド配列をコードするように設計されている。B)被検知RNA及び非天然型tracrRNAによって誘導されたDNA標的化を示すTXTLの結果。各非天然型tracrRNAは、試験されるRNAの特定の領域にハイブリダイズするように設計されている。試験されるRNAは、共免疫沈降実験からのピーク113に関連するmRNAである。このmRNAは、遺伝子CJ8421_04970及びCJ8421_04975及びCJ8421_04980に由来する。T:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の存在。NT:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の不存在。全体として、試験された5個全ての非天然型tracrRNAは、強い切断活性を生じた。関連する配列番号:72~81。ピーク113に含まれるmRNA(配列番号61)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。リプログラミングされたtracrRNAは、OR2-OR1プロモーター(配列番号43)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。
【
図11-1】非天然型tracrRNAが、被検知RNAからのSth1Cas9によって使用される活性型ncrRNAの形成を誘導するように設計することができることを示す図である。A)Sth1Cas9に関する非天然型tracrRNA及び付随するDNA標的についての一般的な設計アプローチ。左:天然型tracrRNAにハイブリダイズされたcrRNAの配列及び二次構造。crRNAのガイド配列は複数のNによって示されている。右:被検知RNAと対合した非天然型tracrRNAの配列及び二次構造。非天然型tracrRNAのアンチリピート部分は、被検知RNAの一部とハイブリダイズし、一方で、上流部分は、結果として生じるncrRNAのガイド配列となる。DNA標的は、このヌクレアーゼによって認識されるPAMに隣接するncrRNAのガイド配列をコードするように設計されている。B)被検知RNA及び非天然型tracrRNAによって誘導されたDNA標的化を示すTXTLの結果。各非天然型tracrRNAは、試験されるRNAの特定の領域にハイブリダイズするように設計されている。試験されるRNAは、共免疫沈降実験からのピーク113に関連するmRNAである。このmRNAは、遺伝子CJ8421_04970及びCJ8421_04975及びCJ8421_04980に由来する。T:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の存在。NT:GFPレポーターコンストラクトにおける標的配列の不存在。全体として、試験された5個全ての非天然型tracrRNAは、強い切断活性を生じた。関連する配列番号:82~91。ピーク113に含まれるmRNA(配列番号61)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。リプログラミングされたtracrRNAは、OR2-OR1プロモーター(配列番号43)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。
【
図12】試料中の被検知RNAの存在を報告するin vitro診断「レポーター」機能の例を示す図である。2つの示された例において、被検知RNAは、非天然型tracrRNAを介してncrRNAに変換され、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼと複合体を形成する。ncrRNAに特化したDNA標的を認識すると、検出可能なシグナルが得られる。A)DNA認識及びその後の切断により、蛍光シグナルが得られる。標的核酸は、一方の末端で蛍光体(F)に、そしてもう一方の末端でクエンチャー(Q)に共有結合により連結されている。2つの分子は、クエンチャーが蛍光体を遮断するのに十分近くにある。しかしながら、標的の切断により、2つのDNA断片が分離され、結果として、蛍光シグナルが生ずる。B)DNA認識及びその後のニッキングにより、蛍光シグナルが得られる。標的核酸は、それぞれ標的鎖及び非標的鎖の同じ末端で蛍光体及びクエンチャーに共有結合により連結されている。非標的鎖のみをニッキングするように突然変異されたtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9n)による標的化は、クエンチャーに連結された非標的鎖の解放をもたらす。この鎖が拡散して離れると、蛍光シグナルが生成される。C)DNA結合により蛍光シグナルが局在化される。触媒活性を伴わないtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ(例えば、dCas9)は、蛍光シグナルに機能的に連結されている。
【
図13-1】被検知RNAが読み取り可能なシグナルに変換されるin vivoでの転写記録の例を示す図である。各例において、被検知RNAは、非天然型tracrRNAを介してncrRNAに変換され、ncrRNAは、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼを標的「レポーター」DNAに誘導する。A)この「レポーター」DNAは編集を受け、結果として、DNA中に保存される検出可能な編集が引き起こされる。インデルが示されているが、他の多くの種類の編集が可能である(例えば、HDR、塩基編集、プライム編集、又はRNA編集による)。B)レポーター遺伝子の発現が調節される。dCas9と転写活性化ドメインVP16との間の融合を示すが、他の多くの形式の発現調節が可能である(例えば、他の調節ドメインのヌクレアーゼへの融合、触媒活性を伴わないヌクレアーゼ又は触媒活性のあるヌクレアーゼと部分的に突然変異されたガイド配列とのペアの使用、制御ドメインを動員する足場sgRNAの使用)。
【
図14】転写依存性標的化を駆動するのに非天然型tracrRNAをどのように使用することができるかを示す図である。非天然型tracrRNAは、PAMをコードする被検知RNA内の領域にハイブリダイズするように設計されている。結果としてのncrRNAは、被検知RNAをコードする遺伝子座の標的化を駆動する。その結果、遺伝子座が転写されたときにのみ標的化が起こる。標的化がより小さなインデル(例えば、1ヌクレオチドの欠失)をもたらす場合に、転写された被検知RNAは突然変異をコードするが、依然として標的化を駆動することになる。実際の効果は、インデルの拡大、又は代替的な修復経路(例えば、HDR)の機会の増加である。
【
図15-1】PAMを含む被検知RNAにハイブリダイズする非天然型tracrRNAを用いて転写依存性標的化を達成することができることを示す図である。A)転写依存性標的化を検出するTXTL構成。この構成の部分として、被検知RNAは、異なるプロモーター下でGFPレポーター(配列番号96)を更にコードするプラスミドから発現される。プラスミドDNAの切断により、TXTLミックス中に存在するRecBCDによる急速な分解を介してGFP発現の損失がもたらされる。被検知RNA及びPAMを欠いた相補的な非天然型tracrRNAが、ネガティブコントロールとして用いられる。B)CjeCas9によって利用される非天然型tracrRNAがハイブリダイズするように設計されるピーク113のmRNA内の位置。mRNA及び非天然型tracrRNAは両者とも、CjeCas9によって認識されるPAMをコードするように突然変異された。C)PAMの存在下での蛍光レベルの低下を示すTXTLの結果は、CjeCas9による自身のDNA配列の切断を駆動する被検知RNAと一致している。ピーク113に含まれるmRNA及びPAMを含むその変異体(配列番号61、配列番号93、配列番号95)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。リプログラミングされたtracrRNA及びPAMを含むそれらの変異体(配列番号64、配列番号92、配列番号68、配列番号94)は、OR2-OR1プロモーター(配列番号43)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。
【
図16-1】非天然型tracrRNAを用いてin vivoでRNA検出を達成することができることを示す図である。A)被検知RNAの存在を、対応する標的配列をコードするプラスミドの切断に結びつけるE.コリにおける実験構成。CjeCas9と、被検知RNA(ピーク113に由来する)の部分を活性型ncrRNAに変換するように設計された非天然型tracrRNAとを用いて、アッセイを行った。B)プラスミド除去(plasmid clearance)の結果。被検知RNA、リプログラミングされたtracrRNA、及びCjeCas9を発現するプラスミドを有するE.コリ細胞を、標的を含む(標的化)又は標的を含まない(非標的化)プラスミドで形質転換し、次に撒種して、全てのプラスミドを有するコロニーを選択した。被検知RNA及び標的配列の存在により、非標的化コントロールと比較して、形質転換されたコロニーの数の大幅な減少がもたらされた。被検知mRNA(配列番号61)は、J23119プロモーター(配列番号13)から転写され、rho非依存性T7ターミネーター(配列番号44)で終結された。リプログラミングされたtracrRNA(配列番号66)は、OR2-OR1プロモーター(配列番号43)から転写され、rho非依存性T500ターミネーター(配列番号14)で終結された。標的DNA(配列番号67)。
【
図17-1】リプログラミングされたtracrRNAがRNA転写産物を選んで、様々なCas9オルソログを誘導することを示す図である。A)CjeCas9によって利用されるリプログラミングされたtracrRNA(非天然型tracrRNA)の設計。RpT-RNAは、対象RNAをncrRNAに変換し、これがCas9をそのPAMに隣接したDNA標的に誘導する。W=A又はT。PAM:黄色の円。B)TXTLにおいて二次構造を保持するsgRNAのRNA二重鎖に対する突然変異の耐性。この二重鎖は、tracrRNAと対合する細胞性RNAの最初の12ヌクレオチドを表している。C)TXTLにおいてtracrRNAを非天然型tracrRNAへと変換することによる、機能性の低い又は非機能的なncrRNAによるDNA標的化の強化。D)3つの異なるCas9ヌクレアーゼと適合性の非天然型tracrRNAを使用したTXTLにおける配列特異的なDNA標的化。B~Dにおける値は、TXTLにおける4回の反復からの平均及び標準偏差を表す。
*:p<0.01。
**:p<0.001、n.s.:非有意。示される配列は、GUUUUAGUCCCU(配列番号98)、AGGGACUAAAAU(配列番号99)、GCGCCGAGUUAG(配列番号100)、及びCUAACUCGGCGC(配列番号101)である。
【
図18-1】リプログラミングされたtracrRNAが、in vitroで一塩基分解能にて多重化可能なRNA検出を可能にすることを示す図である。A)多重化された診断プラットフォームLEOPARDの概要。B)in vitroでのCas9による標的DNAの高特異的なncrRNA媒介性の切断。C)DNA標的の多重化された監視。Cy5蛍光色素を、各DNA標的の一方の末端に付加し、各標的に隣接する配列の長さを、ゲル上で分離された場合にサイズに基づいて全ての産物が確実に可視化され得るように変化させる。D)変性PAGEによる呼吸器ウイルスに関連する9個の異なるRNA断片の並列検出。D及びEにおける塗りつぶされたドットは、右側に列記された構成要素が存在することを示している。(E)SARS-CoV-2のスパイクタンパク質内のD614G点突然変異の特異的検出。B、D、及びEにおける検出されたそれぞれのT7転写RNAは、いずれかの末端に50ヌクレオチドの伸長を有する目的のncrRNA配列を含んでいた。
【
図19-1】本発明による転写記録の方法を示す図である。この実施形態において、Sth1nCas9塩基エディターは、転写事象を記録することができる。被検知RNAとともに非天然型tracrRNAを発現させると、E.コリにおけるプラスミド上で標的DNAの塩基編集がもたらされる。編集は、設計されたcrRNA:tracrRNAと同じくらい効率的であった。A)試験されたコンストラクト。チェックマークは、行の上にあるコンストラクトの使用を示している。NT:非標的;mRNA(mut):ガイドの推定上の「シード」領域において点突然変異を有するncrRNAをコードするmRNA;tracrRNA(scr):スクランブル化されたアンチリピート配列を有するtracrRNA。標的プラスミド中の青色の四角形、標的配列;黄色の円、Cas9のPAM。B)試験されたコンストラクトに基づくE.コリにおける編集効率。示される配列は、taagttcaatgtttttacattgagaaa(配列番号102)である。
【
図20】編集領域においてCを欠くRNAが記録される本発明による転写記録の方法を示す図である。これらの場合に、標的は当初はCを含まなかったが、編集の評価のために様々な位置にCを挿入した。この場合に、ガイドと標的との間にミスマッチが生じたにもかかわらず、Cが様々な位置に挿入されたときに編集が観察された。編集を、
図19と同様に評価した。示される配列は、agaauuuaugugaauuuuauug(配列番号103)、及びagaatttatgtgaattttattgtgagaaa(配列番号104)である。
【
図21】非天然型tracrRNA及び高GC含有量のmRNAを用いた効率的な転写記録を示す図である。非天然型tracrRNAは、deGFPのmRNA内のより高いGC含有量の領域にハイブリダイズするように設計され、その際、プラスミド内の標的配列を使用して塩基編集を評価した。これらの結果は、被検知mRNAの非天然型tracrRNAハイブリダイズ領域内の低GC含有量が転写記録の要件ではないことを示している。編集を、
図19と同様に評価した。tracrRNA(scr):スクランブル化されたアンチリピート配列を有するtracrRNA。示される配列は、cgtccaggagcgcaccatcttgagaaa(配列番号105)、ctaccagcagaacacccccatgagaaa(配列番号106)、ucuucaaggacgacggcaacuacaagacccgcgccg(配列番号107)、及びucggcgacggccccgugcugcugcccgacaaccacu(配列番号108)である。
【
図22】E.コリにおける内因性遺伝子の転写記録を示す図である。ここで、非天然型tracrRNAは、D-キシロースが培地に加えられたときに誘導されるxylAの発現を検知するように設計されている。この場合に、D-キシロースを加えると、Sth1nCas9塩基エディターを使用した転写記録が増加した。これらの実験を
図19と同様に行った。示される配列は、ttatcgaaccgaaaccgcaatgagaaa(配列番号109)及びggcggtcgtgaaggttacgatgagaaa(配列番号110)である。
【
図23】CasX/Cas12eに関するcrRNA:tracrRNA二重鎖を、標的活性を依然として維持しつつ、改変(リプログラミング)することができることを示す図である。このために、体系的な突然変異分析を行った。sgRNAとしてコードされた非天然産生型tracrRNAが、依然としてCasX/12eについての配列特異的なDNA切断を導くことが確認された。示される配列は、配列番号111~配列番号119である。
【
図24】crRNA:tracrRNA二重鎖を、標的活性を依然として維持しつつ、改変(リプログラミング)することができることを示す図である。このために、BhCas12bのtracrRNA/crRNAの体系的な突然変異分析を行った。非天然産生型tracrRNAが、依然としてBhCas12bについての配列特異的なDNA切断を導くことが確認された。示される配列は、配列番号120~配列番号128である。
【
図25】被検知RNAが存在する場合にDNA切断を誘導するリプログラミング/改変された非天然産生型tracrRNAの実証を示す図である。非天然産生型tracrRNAは、依然としてCas12b及びCas12eについての配列特異的なDNA切断を導く。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0158】
C.ジェジュニ突然変異株の構築及び成長
C.ジェジュニ突然変異株(欠失、染色体3xFLAGタグ付け)を、二重交差相同組換えを使用して構築した(High-resolution transcriptome maps reveal strain-specific regulatory features of multiple Campylobacter jejuni isolates. PLoS Genet. 2013;9(5):e1003495)。簡潔に言えば、500 bpの相同末端を有するPCR産物又は所望の突然変異を伴うゲノムDNAを、以前に記載されたように、それぞれエレクトロポレーション又は自然形質転換を使用してC.ジェジュニに導入した(High-resolution transcriptome maps reveal strain-specific regulatory features of multiple Campylobacter jejuni isolates. PLoS Genet. 2013;9(5):e1003495)。C.ジェジュニ株を、両者とも10 μg/mlのバンコマイシンが補充されたミューラー-ヒントン寒天プレート上、又は振盪しながらブルセラブロス(BB)中において微好気的(10%のCO2、5%のO2)条件下で37℃にて慣例的に成長させた。
【0159】
C.ジェジュニのCas9-3xFLAGのRIP-seq
C.ジェジュニにおけるCas9-3xFLAGの直接的なRNA結合相手を特定するRNA-seqと組み合わせた共免疫沈降(Co-IP)(RIP-seq)を、本質的に以前に記載されたように実施した(非特許文献12)。
【0160】
簡潔に言えば、37℃で対数増殖期中期(mid-exponential phase)(OD600=0.6)まで成長させたC.ジェジュニCG8421 cas9-3xFLAG及びWT(タグ付けなし、コントロール)株の溶解物から、抗FLAG抗体及びプロテインA-セファロースビーズを使用して、染色体にタグ付けされたCas9-3xFLAGのCo-IPを行った。細胞を遠心分離によって回収し、ペレットを1 mLのバッファーA(20 mMのTris-HCl(pH 8.0)、150 mMのKCl、1 mMのMgCl2、1 mMのDTT)中に再懸濁し、続いて遠心分離(3分間、11000×g、4℃)した。ペレットを液体窒素中で瞬間凍結させ、-80℃で貯蔵した。凍結したペレットを氷上で解凍し、0.8 mLのバッファーA中に再懸濁した。次に、等容量のガラスビーズを細胞懸濁液に加えた。RetschのMM40ボールミル(30 s-1、10分)を使用して予冷したブロック(4℃)内で細胞を溶解させ、15200×gで4℃にて2分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、更に0.4 mLのバッファーAを、ビーズを含む残りの未溶解の細胞に加えた。30 s-1で5分間の2回目の溶解によって、残りの細胞の溶解を達成した。遠心分離を繰り返し、この2回目の上清を1回目の上清と合わせた。合わせた上清を、15200×gで4℃にて30分間再度遠心分離して、清澄化し、得られた上清(溶解物画分)を新しいチューブに移した。溶解物を、35 μLの抗FLAG抗体(モノクローナル抗FLAG M2、Sigma、番号F 1804、RRID:AB_262044)とともにロッカー上で4℃にて30分間インキュベートした。次に、バッファーAで予備洗浄された75 μLのプロテインA-セファロース(Sigma、番号P6649)を加え、混合物を4℃で更に30分間揺り動かした。遠心分離後に、上清を除去し、ペレット化したビーズを0.5 mLのバッファーAで5回洗浄した。最後に、500 μLのバッファーAをビーズに加え、フェノール-クロロホルム-イソアミルアルコールを使用してRNAとタンパク質とを分離した。各CoIPから、約1000 ngのRNAが水相から回収された。100 μLの1×タンパク質ローディングバッファーを、ビーズとともに沈降した最終タンパク質試料(CoIP試料)に加えた。CoIPの成功を検証するために、coIPの様々な段階(培養物、溶解物、上清、洗浄、及びCoIP)の間に得られたタンパク質試料を、ウエスタンブロットを使用して分析した。
【0161】
cDNAライブラリーの調製及びディープシーケンシング
上記で得られたcoIP RNAに対するDNase I処理を使用して、残りのgDNAを除去した。Illuminaシーケンシング用のcDNAライブラリーは、ドイツのvertis Biotechnologie AG(http://www.vertis-biotech.com)によって、以前に記載された鎖特異的な様式で構築された(High-resolution transcriptome maps reveal strain-specific regulatory features of multiple Campylobacter jejuni isolates. PLoS Genet. 2013;9(5):e1003495)。簡潔に言えば、RNA試料に、ポリ(A)ポリメラーゼを使用してポリ(A)テールを付けた。次に、タバコ酸ピロホスファターゼ(TAP)を使用して5'-三リン酸を除去した後に、得られた5'-一リン酸にRNAアダプターをライゲーションした。第1鎖cDNAを、オリゴ(dT)アダプタープライマーを用いてM-MLV逆転写酵素を使用して合成した。高忠実度DNAポリメラーゼを使用したPCRベースの増幅工程において、cDNA濃度を10 ng/μL~20 ng/μLに高めた。全てのライブラリーについて、Agencourt AMPure XPキット(Beckman Coulter Genomics)を使用してDNAを精製し、これを引き続きキャピラリー電気泳動により分析した。
【0162】
マルチプレックスシーケンシング用のライブラリー特異的なバーコードが、3'シーケンシングアダプターの部分として含まれていた。cDNAインサートには、TruSeq_センス_プライマー(配列番号1)及びTruSeq_アンチセンス_NNNNNN_プライマー(NNNNNN=多重化用の6ヌクレオチドのバーコード)(配列番号2)が隣接していた。試料をIlluminaのHiSeq機器において約100サイクルでシングルリードモードにて実行した。
【0163】
RIP-seqシーケンシングデータの分析
高い配列品質を保証するために、FASTQにおけるIlluminaリードを、FASTXツールキットのバージョン0.0.13からのプログラムfastq_quality_trimmerによって20のカットオフphredスコアでトリミングした。トリミング後に、以下の分析工程のためにパイプラインREADemptionのバージョン0.4.3を適用した:ポリ(A)テール配列をリードの3'末端から切り取り、サイズフィルタリングを適用して、12ヌクレオチドより短いリード配列を排除し、残りのリードのコレクションを、segemehlのバージョン0.2.0を使用して95%の精度カットオフで自己キュレートされた(self-curated)C.ジェジュニCG8421のゲノムにマッピングした。
【0164】
READemptionを使用して、1ヌクレオチド当たりのマッピングされたリードの数に相当するカバレッジプロットを生成した。多数の位置にマッピングされたリードは、カバレッジ値に僅かに寄与した。10ヌクレオチドの最小オーバーラップを有する各リードは、リードがマッピングされた位置の数に基づく値で計数された。リードが2つ以上のアノテーションと重複する場合に、値を領域の数により除算し、各領域ごとに個別に計数した(例えば、3つの位置にマッピングされたリードについては1/3)。
【0165】
Integrated Genome Browser(IGB)において視覚化するために、カバレッジファイルを、それぞれのライブラリーからマッピングされ得たリードの数に正規化した。当初のデータ範囲を復元するために、次に各グラフに、2つのライブラリーにわたってマッピングされたリードの最小数を乗じた。
【0166】
ピーク検出及び結合モチーフ分析
Cas9-3xFLAGのcoIPデータセットからCas9に結合されるRNA領域又はピークを自動的に規定するために、独自開発されたスライディングウィンドウアプローチに基づく社内ツール「sliding_window_peak_calling_script」を適用して、C.ジェジュニにおけるCsrAの結合領域を検出した(The CsrA-FliW network controls polar localization of the dual-function flagellin mRNA in Campylobacter jejuni. Nat Commun. 2016;7:11667)。スクリプトは、https://doi.org/10.5281/zenodo.49292にてZenodoに寄託されている。このスクリプトはPython 3で記述されており、実行するにはPython 3パッケージのnumpy及びscipyをインストールする必要がある。
【0167】
簡潔に言えば、「sliding_window_peak_calling_script」ソフトウェアは、Cas9-3xFLAG及びコントロールのcoIPライブラリーのrRNA正規化されたwiggleファイルを入力として使用して、コントロールと比較したCas9-3xFLAGタグ付きライブラリーの連続的な濃縮を示す部位を決定する。濃縮された領域の特定は、濃縮に必要な最小倍数変化(FC)、タグ付きライブラリーにおける最小必要発現(MRE)を反映するwiggleグラフの90パーセンタイルを乗じた係数、前の2つの値がスライディングウィンドウアプローチにおいて計算されるヌクレオチド単位のウィンドウサイズ(WS)、及びウィンドウがゲノム軸に沿って移動するステップを規定するヌクレオチドステップサイズ(SS)の4つのパラメーターに基づいている。濃縮要件を満たす全ての連続したウィンドウは、単一のピーク領域へと集められている。ピーク検出は、各レプリコンのフォワード鎖及びリバース鎖に対して別々に行われる。Cas9-3xFLAGのcoIPデータセットの場合に、以下のパラメーター:FC=5、MRE=3、WS=25、及びSS=5を使用した。次に、ピーク配列に基づくコンセンサスモチーフの予測にMEMEを使用した。次に、2つの大幅に濃縮されたモチーフをcrRNA及びtracrRNAの配列と比較して、それらの有望な結合モードを推定した。
【0168】
ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析のために、DNaseIで処理された100 μgの総RNA試料を各レーンにロードした。7 Mの尿素を含む6%のポリアクリルアミド(PAA)ゲル上で分離した後に、エレクトロブロッティングによってRNAをHybond-XLメンブレン(GE-Healthcare)に転写した。ブロッティング後に、RNAをメンブレンにUV架橋させ、γ32P-ATP末端標識されたDNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた。
【0169】
プラスミド構築
この研究において使用される全てのプライマーgBlocksは、Integrated DNA Technologies(IDT、コーラルビル、米国)から注文された。NEBuilder(商標)HiFi DNAアセンブリークローニングキット(Assembly Cloning Kit)を、ギブソンアセンブリー(Gibson assembly)によるプラスミド構築に使用した。関連する配列番号(配列番号1~配列番号96)は添付の配列表において見出すことができ、これは、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。Q5部位特異的突然変異誘発キットを使用して、小さな挿入及びヌクレオチド置換を行った。特段の指定がない限り、使用される全てのヌクレアーゼを、Cm選択的マーカー及びp15Aの複製起点(ORI)を有するプラスミドにおいて発現させた。全てのsgRNA又はtracrRNA-crRNA又はtracrRNA-ncrRNAのプラスミドを、Amp選択マーカー及びColE1のORIを有するプラスミドにおいて発現させ、全ての標的化プラスミドを、Kan選択的マーカー及びpSC101のORIを有するプラスミドにおいて発現させた。
【0170】
Cas9及びCas12のプラスミドの構築のために、SpyCas9及びE.コリのコドン最適化CjeCas9遺伝子を、プラスミドpCB843及びpCB588からPCR増幅させた後に、それぞれギブソンアセンブリーによりPCR線状化ベクターpCBS583中に入れた。
【0171】
様々な長さの5'オーバーハングを有するsgRNAをコードするプラスミドを構築するために、様々な5'オーバーハングを有するfliF又は1093を標的化するsgRNA及びそれらの変異体をコードするgBlocksを、それぞれギブソンアセンブリーによりPCR線状化ベクターpCSM180中に入れた。デュアルRNAガイド(tracrRNA/crRNA)システムにおける5'オーバーハングを有するcrRNAの場合に、gBlockのCJfr0018のテンプレート及びCJpr0304/CJpr0305のプライマー対(配列番号3~配列番号4)を用いたPCR増幅によって、tracrRNA発現カセットを得て、ベクター及びcrRNAカセットを用いて相同アームを導入した。fliF標的化crRNA及びその5'オーバーハング変異体を発現するカセットを、CJfr0022、CJfr0070、及びCJfr0071のテンプレート並びにCJpr0110/CJpr0291のプライマー対(配列番号5~配列番号9)を用いたPCR増幅によって得て、ベクター及びtracrRNAカセットを用いて相同アームを導入した。tracrRNA発現カセット及び5'オーバーハングを有するcrRNAを発現するカセットを、それぞれギブソンアセンブリーによりPCR線状化ベクターpCSM180中に入れた。
【0172】
デュアルRNAシステムにおける3'オーバーハングを有するcrRNAをコードするプラスミドを構築するために、同様の方法を実施した。唯一の違いは、CJfr0080、CJfr0081、及びCJfr0176(配列番号10~配列番号12)のテンプレートを用いたPCR増幅によって、fliF標的化crRNA及びその3'オーバーハング変異体を発現するカセットを得ることであった。
【0173】
CjeCas9、SpyCas9、及びSth1Cas9についてのリプログラミングされたncrRNAプラスミドを構築するために、mRNAを含むピーク113(遺伝子CJ8421_04970及びCJ8421_04975及びCJ8421_04980にまたがる)を、標的化するよう改変されたtracrRNA用のテンプレートとして使用した。このピークは、CjeCas9共免疫沈降の部分として大幅に濃縮されていることが確認されたRNAの1つであった。改変されたtracrRNA、及びピーク113に含まれるmRNAをコードするgBlocksを、プラスミドpCJ174からPCR増幅し、ギブソンアセンブリーによりPCR線状化ベクターpCSM180中に入れた。
【0174】
CjeCas9についての自己標的化ncrRNAを構築するために、ピーク113に含まれるmRNA及びレポーター遺伝子GFPを一方のプラスミド上に配置し、改変されたtracrRNAをもう一方のプラスミド上に配置した。PAM配列を、Q5部位特異的突然変異誘発を使用して、tracrRNA-ncrRNAのリピート-アンチリピートステムのベースに導入した。
【0175】
全ての標的化されたプラスミド構築のために、pCSM168のテンプレートを用いたQ5部位特異的突然変異誘発を使用して、プロモーターOR2-OR1の上流又はプロモーターOR2-OR1とGFPのCDSとの間に標的配列を挿入した。
【0176】
TXTLを使用したin vitroでのDNA切断アッセイ
TXTLシステムを使用して、ncrRNAを特徴付け、tracrRNAをどのようにリプログラミング/改変することができるかを特徴付けた。このシステムは、各構成要素をコードする線状DNA又はプラスミドDNAをE.コリに導入することによって機能する。次に、E.コリ溶解物は、これらの構成要素をE.コリシグナル(例えば、プロモーター、RBS)に基づいて転写及び翻訳する。crRNA(又はncrRNA)のPAMに隣接した標的を含むGFPレポーターを使用することにより、crRNA/ncrRNAの生合成及び活性を経時的に監視することができる。このアッセイを、以前に記載されたように実施した(Rapid and Scalable Characterization of CRISPR Technologies Using an E. coli Cell-Free Transcription-Translation System. Mol Cell. 2018;69(1):146-157.e3)。アッセイにおいて使用される全てのDNA断片又はプラスミドは、TXTL機構のヌクレアーゼ(DNase、RNase)及び阻害剤を含むべきでない。Cas9、sgRNA/dual-RNA、及びdeGFPをコードするレポータープラスミドを、それぞれ1.5 nM、0.5 nM、及び1 nMの最終濃度でmyTXTL Sigma 70マスターミックス(Master Mix)(Arbor Biosciences)中に加えた。線状断片を発現させる場合に、GamS(Arbor Biosciences)を5 μMの最終濃度で補充し、プロモーターとdeGFPのコーディング配列との間に挿入された標的配列を有するfliF標的化されたプラスミド(pCJ002)を使用した。T7プロモーターに駆動される遺伝子を発現する場合に、0.5 nMの最終濃度のT7 RNAポリメラーゼをコードするプラスミドを補充した。485 nmの励起フィルター及び528 nmの発光フィルターを備えた96ウェルのV底プレート(Corning Costar 3357)を使用して、BioTek Synergy Neo2プレートリーダーにおいて蛍光を測定した。タイムコース測定を、読み取りの間に3分の間隔を設けて29℃で16時間実行した。
【0177】
tracrRNAのリプログラミング
ピーク113に含まれるmRNAを、tracrRNAを標的に対してリプログラミングするためのテンプレートとして使用した。E.コリのRnase IIIによって優先的に認識されるATリッチな配列を含む領域を、リプログラミングされたtracrRNAについての標的として選択した(In vivo cleavage rules and target repertoire of RNase III in Escherichia coli. Nucleic Acids Res. 2018;46(19):10380-10394)。これらの領域は、ATリッチなモチーフを含み、CjeCas9については25塩基対の長さ、SpyCas9及びSth1Cas9については38塩基対の長さであった。CjeCas9の場合に、本来のtracrRNAのアンチリピート部分を、それぞれ選択された標的に相補的な配列に置き換えた。SpyCas9及びSth1Cas9の場合に、tracrRNAのアンチリピート部分における6番目のヌクレオチドと7番目のヌクレオチドとの間に又は9番目のヌクレオチドと10番目のヌクレオチドとの間に(二重鎖において下から上に数える)、4つ又は3つの余分なヌクレオチドを導入して、SpyCas9及びSth1Cas9の活性を維持するために必要なバルジを形成した(非特許文献13)。相応して、これらの塩基対合領域の上流の20塩基対~24塩基対の配列をスペーサーとして扱った。
【0178】
E.コリにおけるプラスミド除去アッセイ
プラスミド除去アッセイを、以前に記載されたように実施した(非特許文献12)。40 nMのsgRNA、ncrRNAプラスミドを、Cas9及び標的化プラスミド又は非標的化プラスミドを含むE.コリ株にエレクトロポレーションした。SOC培地中で1時間回復させた後に、これらの形質転換体の3 μlの10倍連続希釈液を、Cm+Amp+Kan抗生物質を含むLBプレート上にスポットし、37℃で一晩インキュベートした。計数可能なスポットからのコロニーを使用して、非標的化のCFUを標的化のCFUにより除算することによって、形質転換効率の倍数減少を計算した。
【0179】
T7 RNAポリメラーゼによるin vitroでのRNA転写
HiScribe(商標)T7高収率RNA合成キット(High Yield RNA Synthesis Kit)(New England Biolabs)を使用して、製品のマニュアルに従って、RNAを37℃で4時間にわたりin vitroで転写させた。転写されたRNAを、RNA Clean & Concentrator-25(Zymo Research)を使用して精製し、残留したDNAを、製品のマニュアルに従ってカラム内でのDNase I処理によって除去した。
【0180】
LEOPARDを使用したin vitroでのRNAの転写及び検出
被検知RNA及び非天然型tracrRNAは、T7プロモーターで始まる合成gBlockにおいてコードされており、HiScribe T7 in vitro転写キット(New England Biolabs、カタログ番号E2040S)を使用して転写した。転写されたRNAを、RNA Clean & Concentrator-25(Zymo Research)を使用して精製し、残留したDNAを、カラム内でのDNase I処理によって除去した。様々なリバースプライマーと対合したCy5標識されたフォワードプライマーを使用して、標的化プラスミドから関連するDNA標的をPCR増幅した。
【0181】
被検知RNA及びそれらの関連する非天然型tracrRNAを、1×NEB3.1バッファー(New England Biolabs、カタログ番号B7203S)中で1:1のモル比にて、サーモサイクラーを使用して95℃にて2分間加熱し、45分間かけて徐々に25℃まで冷却することによってアニーリングした。次に、SpyCas9(New England Biolabs、カタログ番号M0386M)を加え、混合物を室温で25分間インキュベートして、RNPのアセンブリを促進した。次に、DNA標的を加え、反応物を37℃で1時間インキュベートして、DNA切断を促進した。
【0182】
ncrRNAに対するRNaseの添加の影響を調査するために、DNA切断工程の前又はその間に、ShortCut(商標)RNase III(New England Biolabs、カタログ番号M0245L)を33.3 U/mlの最終濃度で、及び/又はRNase A(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号EN0531)を166.7 μg/mlの最終濃度で加えた。次に、プロテイナーゼK(New England Biolabs、カタログ番号P8107S)を25.8 U/mlの最終濃度で加え、反応物を室温で15分間インキュベートして、Cas9を消化した。非標識DNAとの反応の場合に、DNA標的の最終濃度は10 nMであったが、被検知RNA、非天然型tracrRNA、及びSpyCas9の最終濃度は全て200 nMであった。非標識DNA産物を2%のアガロースゲル上で分離し、IntasのGelStickイメージャーにより可視化した。Cy5標識されたDNAとの反応の場合に、DNA標的の最終濃度は2 nMであったが、各被検知RNA及び非天然型tracrRNAの最終濃度は40 nMであった。SpyCas9の最終濃度は、個々のRNA検出の場合に40 nMであり、多重化されたRNA検出の場合には360 nMであった。多重化されたRNA検出の場合に、ウイルスRNAを個別に又は3つ若しくは5つのセットで検出するために、9つの全ての非天然型tracrRNA及びDNA標的は単一の反応チューブ内に存在していた。
【0183】
個々の又は多重化されたRNA検出の場合に得られた産物を、トラッキング色素を含まないNovex(商標)TBE HiDensityバッファーとともにロードし、4%~20%のNovex(商標)TBEゲル(Invitrogen、カタログ番号EC6225BOX)上で分離した。
【0184】
1つの試験における様々な呼吸器ウイルスからのRNAの同時の検出、並びにLEOPARDを使用した単一塩基の分解能でのSARS-CoV-2及びその優性のD614G変異体の識別
LEOPARDを使用したin vitroでのRNAの転写及び検出を、上記で示したように実施した。多重化されたRNA検出の場合に、ウイルスRNAを個別に又は3つ若しくは5つのセットで検出するために、全ての非天然型tracrRNA及びDNA標的は単一の反応チューブ内に存在していた。個々の又は多重化されたRNA検出の場合に得られた産物を、トラッキング色素を含まないNovex(商標)TBE HiDensityバッファーとともにロードし、4%~20%のNovex(商標)TBEゲル(Invitrogen、カタログ番号EC6225BOX)上で分離した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質におけるD614G突然変異の特異的検出、及び酵母総RNAを用いた実験の場合の個々の産物を2%のアガロースゲル上にロードした。Cy5標識を有するゲルについての画像を、AmershamのTyphoon(商標)生体分子イメージャー(Biomolecular Imager)(GE Healthcare)においてキャプチャーした。
図18Eは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質内のD614G点突然変異の特異的検出を示している。検出されたそれぞれのT7転写RNAは、いずれかの末端に50ヌクレオチドの伸長を有する目的のncrRNA配列を含んでいた。
【0185】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質におけるD614G突然変異は、この突然変異が単一のヌクレオチド変化(A23403G)に起因し、感染性の増加及びその世界的な広がりに関連しているため、機能例の証明として役立つ。このヌクレオチド変化を標的のシード領域内に配置することにより、本発明者らは、1つの非天然型tracrRNAをWT又はD614G標的のいずれかと組み合わせて使用して、WT又はD614GのRNAを検出することができた(
図18E)。本発明者らは、各標的を個別に試験した場合に、一致するDNA標的が優先的に切断されることを見出した。しかしながら、単一の反応において2つの標的を組み合わせると、恐らくCas9による完全な標的の優先的な結合及び切断により、一致する標的に対してのみ識別可能な切断が得られた。したがって、LEOPARDは、単一の反応における単一塩基の分解能での多重化されたRNA検出をもたらすことができる。
【0186】
様々なtracrRNAについてのアンチリピート領域の特定
非天然型tracrRNAの設計の部分として、tracrRNAのアンチリピート領域の配列を、被検知RNAの領域に相補的であるように変化させる。これらの領域の特定は比較的簡単であり、NUPACK又はmfold等の一般的なRNAフォールディングアルゴリズムを使用する等によって、CRISPRアレイ内のリピートの1つとのtracrRNAの塩基対合能を評価することによって達成され得る。代替的に、この領域を、精製されたリピートと精製されたtracrRNAとをハイブリダイズさせた後に、一般的なプロービングアプローチ(例えば、DMS、SHAPEを使用する)を通じてRNA構造を評価することにより、実験的に決定することができる。アンチリピート領域は、部分的に又は完全にリピート領域と塩基対合される領域であり、tracrRNA配列の5'末端付近から開始するはずである。例えば、
図9~
図11を参照。
【0187】
in vitroでのRNA検出のための非天然型tracrRNAの使用
Sigma-Aldrichにより販売されるGenEasy RNA抽出キット又はQiagenにより販売されるRNeasy RNA抽出キット等のRNAを精製する一般的なアプローチを使用して、試料からRNAのコレクションを抽出する。試料は、ヒト又は動物(例えば、血液、喀痰、生検)、植物(例えば、切り取った根、切り取った葉)、土壌、水、又は空気に由来し得る。
【0188】
各試料内で検出されるRNAのセットは、利用者の特定の要求に基づいて選択される。非天然型tracrRNAの付随するセットは、tracrRNAのアンチリピート部分の配列を、RNAの部分に相補的であるように変化させることによって設計される。
図9~
図11は、CjeCas9、SpyCas9、又はSth1Cas9を使用する場合の変化させるtracrRNAの領域を示しているが、同様のアプローチを他のtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼに拡張することもできる。E.コリのRNase IIIを使用する場合に、A/Tリッチな配列が一般的に好ましいが、RNase IIIの他の変異体又は他のdsRNA切断酵素(例えば、Rntp1、Pac1p、DCL1、Dicer、Drosha)を、それらの配列優先性に基づいて使用することもできた。RNA:RNAハイブリダイゼーション及び酵素切断をより良好に促進するために、相補性の領域を拡張又は縮小させることもできる。多数の非天然型tracrRNAを、被検知RNAの様々な領域を認識するように設計することもでき、それによって単一の転写産物から多数のncrRNAが生成される。非天然型RNAと対合する被検知RNA中の領域の上流部分は、DNA標的化用のガイド配列となる。この領域の長さは、ヌクレアーゼに基づき様々である(例えば、
図9~
図11において示されるように、CjeCas9、SpyCas9、及びSth1Cas9にわたって20ヌクレオチド~24ヌクレオチド)。これらのRNAは、DNAテンプレートからのin vitroでの転写によって、又は標準的な商業的供給業者(例えば、IDT)による受託合成によって作製される。
【0189】
次に、各ncrRNAごとにdsDNA標的を設計する。標的は、CRISPRヌクレアーゼによって認識される適切なPAMが隣接するncrRNAのガイド配列を含む(例えば、CjeCas9の場合はNNNNACAC、SpyCas9の場合はNGG、Sth1Cas9の場合はNNAGAA)。特にCjeCas9、SpyCas9、及びSth1Cas9に関する視覚的描写については、
図9~
図11を参照のこと。dsDNA標的を、受託合成されたDNAオリゴヌクレオチド(例えば、IDTから)又は受託合成されたdsDNA(例えば、IDTからのgBlocks)をアニーリングすることによって作製する。合成過程の部分として、様々な化学的部分を付加して、蛍光体及びクエンチャー等のin vitroでのRNA検出の部分として、又は他の部分を付加する若しくはDNAを表面に共有結合により連結するクリックケミストリー用のタグとしてDNA標的を使用することができる。
【0190】
この反応はまた、精製されたtracrRNA依存性ヌクレアーゼ(例えば、SpyCas9)、及び任意にdsRNA切断酵素(例えば、RNase III)を必要とする。ヌクレアーゼは、検出工程が標的核酸の結合又は切断を必要とするかどうかに応じて、触媒作用を伴わない又は触媒的に活性である場合もある。
【0191】
代表的な検出アッセイの部分として、試料から精製されたRNAを、RNAハイブリダイゼーションを促進する結合バッファー(例えば、50 mMのTris-HCl、150 mMのNaCl、10 mMのMgCl2、及び0.05%のTween-20(pH 7.8))中で非天然型tracrRNAのセットと混合し、37℃で10分間インキュベートして、RNA間で二重鎖を形成する。次に、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ及びdsRNA切断酵素を加え、混合物を同じ温度で更に20分間インキュベートする。この工程の間に、dsRNA切断酵素は、被検知RNAと非天然型tracrRNAとの間で形成されるRNA二重鎖等のRNA二重鎖を切断し、tracrRNA依存性ヌクレアーゼと切断されたRNA二重鎖との間にリボ核タンパク質複合体が形成する。次に、得られた混合物をDNA標的に曝露することで、リボ核タンパク質複合体はそれぞれのDNA標的を標的化することできる。DNA標的を可溶性分子として加えることができ、又はこれらを固体表面(例えば、磁性ビーズ、シリコンチップ上)に固定することができる。次に、洗浄工程を追加して(例えば、結合バッファーを用いる)、RNA、dsRNA切断酵素、非結合リボ核タンパク質複合体、及びDNA標的のあらゆる切断された固定されていない部分を除去することができる。
【0192】
最後に、DNA標的を評価して、これらがリボ核タンパク質複合体によって認識された程度を測定する(様々な代表例については
図12を参照)。ここでは様々な形式を使用することができる。例えば、DNA標的は、一方の末端に融合された蛍光体と、もう一方の末端又は別の表面上の近く(例えば、DNA標的をシリコンチップに固定する場合)に融合されたクエンチャーとを含む場合がある。次に、標的の切断により、クエンチャーに融合されたDNAの一部が放出され、それにより蛍光シグナルが生成される。DNAのサイズの変化は、蛍光シグナルの変化を必要とせずに、サイズによりDNAを分離することによっても(例えば、キャピラリー電気泳動、ゲル電気泳動)測定され得る。別の例として、蛍光体及びクエンチャーを、同じ側のいずれかの鎖に取り付けることができる。突然変異された形式のtracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9n)による非標的鎖のニッキングは、クエンチャーに融合された鎖を放出し、それによってクエンチャーが拡散して離れることで、蛍光シグナルを生成することが可能となる。最後の例として、蛍光体又は色素(例えば、FITC、Texas Red)を、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ又はtracrRNAに融合させることができ、その際、ヌクレアーゼは、そのDNA標的を切断しない(例えば、エンドヌクレアーゼドメインへの突然変異又は標的内のPAMに遠位のミスマッチのコーディングによる)。標的を特定の場所(例えば、シリコンチップ上)に局在化することにより、その位置での蛍光/比色強度は、その標的についての結合されたリボ核タンパク質複合体を反映する。この局在化は、カメラ又はフォトダイオードアレイを用いる等、様々なアプローチを使用して空間的に検出され得る。
【0193】
これらの例の全てにおいて、測定された出力は特定のDNA標的に結びつけられるため、被検知RNAの存在の間接的なリードアウトとして機能する。リードアウトを定量的に与えて、蛍光強度に基づき、試料中の各被検知RNAの濃度を特定することができる。例えば、同じDNA標的配列をコードする分子のクラスターが存在する場合に、蛍光強度は、適切なncrRNAをコードするリボ核タンパク質複合体によって認識されるDNA分子の数、したがってncrRNAを生成した被検知RNA分子の数に対応することとなる。
【0194】
dsDNA標的を使用する以外に、ssDNA及びRNA標的を診断プラットフォームの部分として使用することもできる。多数のCas9及びCas12のヌクレアーゼ(例えば、CjeCas9、NmeCas9、SauCas9)は、ssDNA及びRNAを認識することが示されており、ここで、認識は、ガイドRNAのガイド領域への塩基対合を必要とするが、PAMを必要としない。標的の一方の末端に蛍光体が取り付けられ、もう一方の末端にクエンチャーが取り付けられているため、標的の切断によりクエンチャーが放出される同様の検出の構成を使用することができ、又は蛍光体がコンジュゲートされたヌクレアーゼは、標的結合に際して蛍光を局在化することができる。
【0195】
一部のCas9ヌクレアーゼ(例えば、SpyCas9)は、標的の隣に二本鎖PAM配列が存在しない限り、ssDNA又はRNAを認識することができない。これは、PAMについての固定配列及び隣接配列を有するssDNA標的を使用することにより、標的の設計に組み込むことができた。次に、別のssDNAオリゴを固定された配列にハイブリダイズさせて、二本鎖PAM及び一本鎖標的を有する隣接配列を提供することができる。
【0196】
本明細書において記載される例は、医学的病態を診断して治療の経過を知らせること、健康転帰若しくは疾患に関連するSNPを特定すること、飲用水中の汚染微生物を特定すること、発酵物若しくは細胞培養物中の汚染ウイルス若しくは汚染微生物を特定すること、植物若しくは昆虫の変異体を特定すること、又は混成群落(例えば、腸内、土壌、水)における主要な微生物成員を特定すること等の広範囲の用途に使用され得る。
【0197】
in vivoでのRNA記録のための非天然型tracrRNAの使用
この用途に関しては、非天然型tracrRNAを使用して、DNAの編集又は測定可能なレポーター遺伝子の発現の変化の形で、細胞内の1つ又は多数の被検知RNAの存在を記録する。
【0198】
tracrRNA依存性ヌクレアーゼ及び非天然型tracrRNAは、送達及び細胞発現のために線状DNA、プラスミド、又はウイルス性コンストラクトにおいてコードされる。tracrRNAは、個々の発現コンストラクトとして別々に、又は介在するRNA切断配列(例えば、tRNA、リボザイム)を有する単一のコンストラクトにおいて発現され得る。
【0199】
生成されたncrRNAの標的に相当するDNAは、同じベクター又は別個のベクターにおいてコードされる場合があり、ここで、その組成は、検出されるRNAを記録するのにヌクレアーゼがどのように使用されるかに依存することになる。代表的な例については、
図13及び
図19~
図22を参照のこと。1つの例では、DNA編集(例えば、インデル形成、塩基編集)がリードアウトとして機能し、各非天然型tracrRNAにつき唯一のDNA標的だけをコードする必要があるにすぎない。相同配列依存的修復又は相同組換えの場合に、リコンビニアリングテンプレートは、相同性アームが隣接する目的の編集を含む細胞においても、オリゴヌクレオチド、線状dsDNA、又は環状DNAの形で存在する。代替的に、ヌクレアーゼは、蛍光RNAアプタマー(例えば、RNAスピナッチ(RNA spinach))、蛍光タンパク質(例えば、GFP)、又は視覚的出力を生ずる酵素(例えば、X-galとカップリングされるLacZ)等のレポーター遺伝子の発現を駆動することができる。次に、ヌクレアーゼは、レポーターの発現を調節する(例えば、プロモーター又はコーディング領域を標的化することによる転写の遮断、細菌におけるSoxS又は真核細胞におけるVP16等の融合又は動員された活性化ドメインによるRNAポリメラーゼの動員)。
【0200】
このコンストラクトは、ncrRNA生合成のためのdsRNA切断酵素(例えば、E.コリのRNase III)を発現することができる。しかしながら、事実上全ての細胞は、代わりに使用され得るdsRNA切断酵素を発現する。dsRNA切断酵素が全く必要とされない場合もある。
【0201】
検出及び記録を行うために、DNAコンストラクトは、標準的な手段(例えば、エレクトロポレーション、化学的形質転換、接合、トランスフェクション、ウイルス送達)によって細胞に導入され、DNAは一過性にのみ(例えば、一過性トランスフェクションによって)存在し得るか、又は安定的に維持され得る(例えば、選択下、又は染色体DNAに組み込まれている)。次に、構成要素がコンストラクトから発現されて、被検知RNAの存在が活発に検出される。RNAが存在する場合に、これはncrRNAに変換され、tracrRNA依存性ヌクレアーゼを標的DNAレポーターに誘導する。発現に依存するレポーターの場合に、標準的な技術を使用して、レポーター活性を測定することができる(例えば、フローサイトメトリー又は蛍光マイクロタイタープレートリーダーによる蛍光)。DNA編集に依存するレポーターの場合に、直接的又は間接的にDNA配列を出力する標準的なアプローチ(例えば、サンガーシーケンシング、次世代シーケンシング)を介して標的を探ることができた。
【0202】
1つの例として、非天然型tracrRNAを、SpyCas9に由来する塩基エディター(例えば、BE3)と組み合わせて、E.コリにおける多剤耐性遺伝子(例えば、NMD-1をコードする)又はストレス応答遺伝子(例えば、鉄飢餓に誘発されるsRNAのRyhBをコードする)の発現を検知した。非天然型tracrRNAを、
図10において示されるように被検知RNAの部分にハイブリダイズするように設計した。ncrRNAの付随するガイド配列は、標的DNAの設計に使用され、BE3による編集を受けることができる内部の複数のCを含むように選択された。次に、この標的DNAは、BE3及び非天然型tracrRNAについての発現コンストラクトとともにプラスミド(例えば、pBAD18)においてコードされた。次に、このプラスミドをE.コリ株へと形質転換し、NMD-1をコードする別のプラスミドを用いて若しくは用いずに、又は鉄キレート剤の存在下で培養した。次に、プラスミドを単離し、標的DNAを増幅させて、サンガーシーケンシング分析を行った。NMD-1をコードするプラスミドを除去するか、又は成長培地に追加の鉄を加えることによって被検知RNAがもはや発現されなくなったとしても、標的部位では、発現された被検知RNAを有する株において複数のCから複数のTへの予想される変換がコードされた。また、2つの非天然型tracrRNAと標的部位との間にクロストークは見られず、非天然型tracrRNA及び標的によってコードし、細胞をNMD-1プラスミド及び鉄キレート剤の両方に曝すことによって検出を多重化した。この例を、塩基編集が機能することが示されている他の細菌だけでなく、酵母、動物細胞、ヒト細胞、又は植物細胞等の真核細胞にも容易に拡張することができる。
【0203】
上記の例と並行して、非天然型tracrRNAを、Cas12kに基づくCRISPRトランスポゾンと組み合わせて、転写依存性の記録を行うことができる。Cas12k、トランスポゾン構成要素(TnsB、TnsC、TnsQ)、トランスポゾンリピートが隣接する挿入テンプレート(例えば、レポーター遺伝子又は抗生物質耐性マーカーをコードする)、及び非天然型tracrRNAを、対応する標的部位をコードするプラスミドDNAとともに発現プラスミド内にコードすることができた。この構成を使用すると、被検知RNAの存在により、標的配列の近位でテンプレートの挿入が駆動されることとなる。次に、PCR又はシーケンシングによって挿入を検出することができた。
【0204】
転写依存性標的化のための非天然型tracrRNAの使用
非天然型tracrRNAの別の用途は、遺伝子が活発に転写されている場合にのみ、細胞内のDNA標的の編集を必要とする。この用途の部分として、非天然型tracrRNAは、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼによって認識されるPAM配列をコードする被検知RNAの領域にハイブリダイズするように設計される。PAMは、具体的にはそれぞれII型又はV型のCRISPRヌクレアーゼについての被検知RNAのハイブリダイズする部分の5'末端又は3'末端に位置する。PAMをこの位置にコードすることにより、結果として得られるncrRNAは、tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼを、被検知RNAをコードするDNA遺伝子座に誘導することができる。被検知RNAはこの過程において必須の構成要素であるため、DNA遺伝子座は、被検知RNAが存在する場合、したがってDNA遺伝子座が転写される場合にのみ標的化を受けることとなる。
図14はこの概念を例示しており、一方で、
図15は、TXTLを使用した原理実証を示している。
【0205】
細胞における転写依存性標的化を達成するために、tracrRNA依存性ヌクレアーゼ及び非天然型tracrRNAは、送達及び細胞発現のためにプラスミド、又はウイルス性コンストラクトにおいてコードされる。tracrRNAは、個々の発現コンストラクトとして別々に、又は介在するRNA切断配列(例えば、tRNA、リボザイム)を有する単一のコンストラクトにおいて発現され得る。ヌクレアーゼは、DNA修復テンプレートの存在下でインデル形成若しくは相同組換えを駆動することができ、又はヌクレアーゼは、塩基エディター若しくはプライムエディターとして機能するように改変された場合に、他の編集を生成することができる。代替的には、触媒活性を伴わないヌクレアーゼは、転写を遮断するように、又はKRABを動員して転写抑制を駆動することによって、被検知遺伝子の発現を調節することができる。
【0206】
このコンストラクトは、ncrRNA生合成のためのdsRNA切断酵素(例えば、E.コリのRNase III)を発現することができる。しかしながら、事実上全ての細胞は、代わりに使用され得るdsRNA切断酵素を発現する。
【0207】
例えば、標的遺伝子座が活発に転写される場合にのみ、蚊における遺伝子ドライブの状況において転写依存性の編集を実装することができた。非天然型tracrRNAは、関連する標的遺伝子座(例えば、doublesex遺伝子)からncrRNAを生成するように設計されており、被検知RNAにおけるハイブリダイズする領域は、PAM(例えば、SpyCas9を使用する場合に、この領域の5'末端にあるNGG)をコードしている。tracrRNA依存性CRISPRヌクレアーゼ、非天然型tracrRNA、及び任意の遺伝子カーゴは、蚊について標準的な遺伝子操作技術を介して標的遺伝子座に挿入される発現コンストラクトにおいてコードされる。結果として得られた蚊が交尾して子孫を産むと、遺伝子ドライブは、遺伝子座が活発に転写される細胞にのみ伝達されると予想される。最終効果は、遺伝子ドライブが伝達される組織型に限定され、遺伝子座の発現プロファイルに応じて追加の制御レイヤーが導入される。
【0208】
多数の非天然型tracrRNAをdoublesex遺伝子に対して設計することができ、遺伝子ドライブ遺伝子座内にコードして、伝達の頻度を改善し、標的部位での破壊的なインデルの形成によるドライブ障害の頻度を減らすことができる。
【0209】
tracrRNAをリプログラミングして、対象RNAによるCas9活性を誘導することができる。
細胞性RNAのncrRNAへの変換は、crRNAの天然の生合成と同様に、tracrRNAアンチリピートに対して広範な相補性を有する配列に基づくものであった。tracrRNAのアンチリピート配列を、Cas9認識に適した構造を維持しながら他のRNAにハイブリダイズするように変化させることができれば、結果として得られる非天然型tracrRNAは、あらゆる発現された細胞性RNAのncrRNAへの変換を駆動することができ、それにより一致するDNA標的にCas9を導くことができる(
図17A)。
【0210】
本来、CjeCas9は、crRNAリピートとtracrRNAアンチリピートの間に形成された完全なRNA二重鎖を認識する。crRNAリピートの突然変異分析に基づいて、発明者らは、crRNAリピート:tracrRNAアンチリピート二重鎖が幾つかの突然変異に適応し得ることを既に観察した。したがって、本発明者らは、二次構造を保存しながら、fliFのsgRNAにおける二重鎖の両側を突然変異させた後に、TXTLにおいてGFPサイレンシングを評価した(s26~s31、
図17B)。GFPサイレンシングは、二重鎖全体の配列を交換した場合でも維持された(s31、
図17B)。次に、本発明者らは、tracrRNAアンチリピートを、TXTLにおいて最も控えめなGFPサイレンシングを示す3つの推定ncrRNA(fliF、CJ8421_04280、CJ8421_04970に由来)を有する完全な25塩基対の二重鎖を形成するようにリプログラミングした。3つの全ての場合に、GFP抑制は、抑制が正規crRNA:tracrRNAペアによるほど強力でないにしても、WTのtracrRNAよりも非天然型tracrRNAによって有意に増強された(p=1×10
-6~0.0011)(
図17C)。最後に、本発明者らは、mRNAの全く新しい領域と塩基対合するようにtracrRNAアンチリピートをリプログラミングした(
図17D)。CJ8421_04970のCDSをコードするmRNAから出発して、本発明者らは、mRNAにおける様々な位置(n1~n5)にハイブリダイズする5つの異なるCjeCas9の非天然型tracrRNAを設計した(
図17D)。これらの非天然型tracrRNAのうち、4つは、非標的型crRNAコントロールと比較してGFPレベルの有意な減少をもたらした(p=6×10
-7~0.002)。重要なことには、予測されたシード領域の突然変異、tracrRNAアンチリピートのスクランブル化、又はCjeCas9のFnCas12aによる置き換えにより、GFP発現が回復した(
図17D)。したがって、非天然型tracrRNAを使用して、対象RNAに関するCjeCas9によるDNA標的化を誘導することができる。
【0211】
CjeCas9の非天然型tracrRNAの機能性を考慮して、本発明者らは、他のCas9相同体についてのtracrRNAを同様にリプログラミングすることができるかどうかを問うた。本発明者らは、十分に特徴付けられたストレプトコッカス・ピオゲネスのCas9(SpyCas9)及びストレプトコッカス・サーモフィルスのCRISPR1 Cas9(Sth1Cas9)を例として選択した。両方の場合において、本発明者らは、crRNA:tracrRNA二重鎖の既知の二次構造、及びATリッチな配列を有する二本鎖RNAを切断するRNase IIIの優先性に基づいて、非天然型tracrRNAについての設計規則を案出した。試験された10個全ての非天然型tracrRNAは、非標的型crRNAコントロールと比較してGFPレベルを有意に減少させた(p=1×10
-7~1×10
-4)。これまでのように、ncrRNAガイドにおけるシード配列を破壊するか、tracrRNAアンチリピートをスクランブル化するか、又はCas9のいずれかをFnCas12aに交換することにより、GFP発現が回復した。多くの場合に、GFPサイレンシングの程度は、標的化crRNAコントロールの程度に近づいた(
図17D)。本発明者らはまた、3個全てのCas9オルソログについて、E.コリにおける非天然型tracrRNAによる標的化プラスミド除去を評価したところ、それぞれが少なくとも1つの試験された非天然型tracrRNAに対して効率的なプラスミド除去を誘発し得ることを見出した(
図S8B)。全体として、様々なCas9オルソログについてのtracrRNAを非天然型tracrRNAに変換して、選択された細胞RNAの存在に基づいてDNA標的化を誘発することができる。
【0212】
リプログラミングされたtracrRNAは、Cas9による配列特異的な多重化されたRNA検出を可能にする。
DNA標的化を対象RNAに結びつけることによって、非天然型tracrRNAは、RNA検出についての固有の機会、及びCRISPR診断についての様々なパラダイムを提供する。現在のCRISPR診断は、試料中の二本鎖のDNA又はRNAの標的を探すCas12a又はCas13に依存しており、ここで、標的の認識は、蛍光レポーターの非特異的な一本鎖のDNA又はRNAの切断を誘発する。非特異的なリードアウトは、1つの試験を事実上1つの標的配列に限定する。対照的に、非天然型tracrRNAは、被検知RNAをncrRNAに変換し、ncrRNAはCas9を誘導して、一致するDNAに結合し、又はこれを切断する。DNA配列のCas9結合又は切断は、関連するRNAが試料中に存在するかどうかを示すこととなる。各DNA標的の配列は一意であるため、1つの試験において多数の標的配列を並行して監視することができた。本発明者らは、結果として得られた診断プラットフォームを、LEOPARD(並列RNA検出のための操作されたtracrRNA及びオンターゲットDNAの活用:Leveraging Engineering tracrRNAs and On-target DNAs for PArallel RNA Detection)と命名した(
図18A)。
【0213】
LEOPARDの評価を開始するために、本発明者らは、T7転写されたRNA、市販のCas9タンパク質、及び線状DNA標的を使用して、単純化されたin vitro反応を行った。本発明者らは、CJ8421_04970内の合成ncrRNA遺伝子座の1つに対応するRNAから出発し(
図17D)、ゲル電気泳動を使用してサイズによって切断DNA標的と非切断DNA標的とを分離した。非天然型tracrRNAをT7転写されたncrRNAにハイブリダイズするアニーリング工程を導入すると、ncrRNA配列がいずれかの末端で伸長された場合でも、DNA標的の切断が生じることが見出された。また、アニーリング工程では、RNase III又はRNase Aを加える必要がないどころか、見かけのDNA切断を部分的に妨げることさえも確かめられた。効率的な切断は、100倍過剰の酵母の総RNAでも起こり得たが、ncrRNAが存在する場合に限られた(
図4B)。したがって、LEOPARDにより、DNA標的の切断に基づいて、特定の対象RNAの存在が報告される。
【0214】
LEOPARDの多重化の可能性を十分に実現するには、多くのDNA標的を一度に監視する必要がある。したがって、本発明者らは、ゲル電気泳動によって、プールされたDNA標的から別個の切断産物を分離することに基づく読み取りスキームを案出した(
図18C)。各標的は、一方の末端で蛍光体により標識されており、切断されたもの及び切断されていないものの2つの可視化可能な産物のみを生ずる。次に、このスキームを適用して、SARS-CoV-2コロナウイルス(COVID-19の病原体)からの2つ、他のコロナウイルスからの6つ、及びインフルエンザH1N1からの1つを含む、呼吸器ウイルスに関連する9つの約150ヌクレオチドのRNA断片が特異的に検出された(
図18B、
図18D)。本発明者らは、各DNA標的が、対応するRNAの存在下でのみCas9によって切断されることを見出した。さらに、このスキームにより、同じ反応において3つ又は5つのRNA断片を特異的に検出することができたことから、多重化された検出に対するLEOPARDの能力が裏付けられる。最後に、ウイルスRNA配列を選択して相同性を最小限に抑えた場合に、LEOPARDが単一ヌクレオチドの違いさえ検出し得るかどうかを問うた。
【符号の説明】
【0215】
図面訳
図1
Campylobacter jejuni 84-21 カンピロバクター・ジェジュニ84-21
Pull down CjCas9 CjCas9のプルダウン
Sequence RNAs enriched from pull down プルダウンから濃縮されたRNA配列
motif モチーフ
cellular RNA 細胞性RNA
RNase III cleavage site RNase III切断部位
processed tracrRNA プロセシングされたtracrRNA
図2
Sensed RNA 被検知RNA
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
processed non-natural tracrRNA プロセシングされた非天然型tracrRNA
図3
non-targeting 非標的化
targeting 標的化
reaction time 反応時間
Targeting site 標的化部位
図4
Top 頂部
Upper center 上部中央
lower center 下部中央
Bottom 底部
Reaction time (h) 反応時間(時)
図5
terminator ターミネーター
1 nt Bulge in anti-repeat strand アンチリピート鎖における1ヌクレオチドのバルジ
2 nt Bulge in anti repeat strand アンチリピート鎖における2ヌクレオチドのバルジ
Reaction time (h) 反応時間(時)
1 nt Bulge in repeat strand リピート鎖における1ヌクレオチドのバルジ
2 nt Bulge in repeat strand リピート鎖における2ヌクレオチドのバルジ
図6
terminator ターミネーター
1 bp mismatch 1塩基対のミスマッチ
Reaction time (h) 反応時間(時)
2 bp mismatch 2塩基対のミスマッチ
G:U wobble base pair G:Uゆらぎ塩基対
図7
mutated crRNA 突然変異型crRNA
1 mismatch 1つのミスマッチ
300 nt overhang 300ヌクレオチドのオーバーハング
2 mismatches and 2 GU wobble base pairing 2つのミスマッチ及び2つのGUゆらぎ塩基対合
Multiple mismatches 多数のミスマッチ
2 mismatches & 2 GU base pairing 2つのミスマッチ及び2つのGU塩基対合
Reaction time (h) 反応時間(時)
tracrRNA-strand bulge in cutting site 切断部位におけるtracrRNA鎖のバルジ
crRNA-strand bulge in cutting site 切断部位におけるcrRNA鎖のバルジ
spacer-proximal tracrRNA-strand bulge in recognition site 認識部位におけるスペーサーに近位のtracrRNA鎖のバルジ
spacer-proximal crRNA-strand bulge in recognition site 認識部位におけるスペーサーに近位のcrRNA鎖のバルジ
tracrRNA-strand bulge tracrRNA鎖のバルジ
crRNA-strand bulge crRNA鎖のバルジ
図8
Overhang オーバーハング
Terminator ターミネーター
Reaction time (h) 反応時間(時)
+1,000 nts +1000ヌクレオチド
+150 nts +150ヌクレオチド
+50 nts +50ヌクレオチド
+300 nts +300ヌクレオチド
図9
sensed RNA 被検知RNA
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
DNA target DNA標的
target 標的
non-target strand 非標的鎖
target strand 標的鎖
mRNA associated with peak 113 ピーク113に関連するmRNA
loci targeted by non-natural tracrRNA 非天然型tracrRNAによって標的化される遺伝子座
Locus 1 遺伝子座1
Locus 2 遺伝子座2
Locus 3 遺伝子座3
Locus 4 遺伝子座4
Locus 5 遺伝子座5
Reaction time (h) 反応時間(時)
図10
sensed RNA 被検知RNA
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
DNA target DNA標的
target 標的
non-target strand 非標的鎖
target strand 標的鎖
mRNA associated with peak 113 ピーク113に関連するmRNA
loci targeted by non-natural tracrRNA 非天然型tracrRNAによって標的化される遺伝子座
Locus 1 遺伝子座1
Locus 2 遺伝子座2
Locus 3 遺伝子座3
Locus 4 遺伝子座4
Locus 5 遺伝子座5
Reaction time (h) 反応時間(時)
図11
sensed RNA 被検知RNA
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
DNA target DNA標的
target 標的
non-target strand 非標的鎖
target strand 標的鎖
mRNA associated with peak 113 ピーク113に関連するmRNA
loci targeted by non-natural tracrRNA 非天然型tracrRNAによって標的化される遺伝子座
Locus 1 遺伝子座1
Locus 2 遺伝子座2
Locus 3 遺伝子座3
Locus 4 遺伝子座4
Locus 5 遺伝子座5
Reaction time (h) 反応時間(時)
図12
target DNA 標的DNA
processed non-natural tracrRNA プロセシングされた非天然型tracrRNA
図13
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
Sensed RNA 被検知RNA
Reporter DNA レポーターDNA
Reporter editing (e.g. through indel formation) レポーター編集(例えば、インデル形成による)
Reporter expression レポーター発現
図14
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
Target DNA 標的DNA
Transcription-dependent editing (e.g. through indel formation) 転写依存性編集(例えば、インデル形成による)
図15
Cas9 cleavage Cas9切断
RecBCD degradation RecBCD分解
non-targeting 非標的化
targeting 標的化
reaction time 反応時間
mRNA associated with peak 113 ピーク113に関連するmRNA
loci targeted by non-natural tracrRNA 非天然型tracrRNAによって標的化される遺伝子座
Locus 2 遺伝子座2
Locus 4 遺伝子座4
locus 2 without PAM PAMを含まない遺伝子座2
locus 2 with PAM PAMを含む遺伝子座2
Reaction time (h) 反応時間(時)
locus 4 without PAM PAMを含まない遺伝子座4
locus 4 with PAM PAMを含む遺伝子座4
図16
Non-natural tracrRNA with reprogrammed anti-repeat リプログラミングされたアンチリピートを有する非天然型tracrRNA
Sensed RNA 被検知RNA
Target plasmid 標的プラスミド
Loss of antibiotic resistance 抗生物質耐性の喪失
E. coli E.コリ
Transformation efficiency 形質転換効率
Non-targeting 非標的化
Targeting 標的化
図17
RNA-of-interest 対象RNA
Reprogrammed tracrRNA (Rptr) リプログラミングされたtracrRNA(Rptr)
tracrRNA anti-repeat tracrRNAアンチリピート
cellular RNA 細胞性RNA
DNA target DNA標的
natural ncrRNA 天然型ncrRNA
CJ8421_04970 mRNA (1,189 nts) CJ8421_04970のmRNA(1189ヌクレオチド)
predicted ncrRNAs derived from Rptrs Rptrに由来する推定ncrRNA
図18
LEOPARD - Leveraging Engineered tracrRNAs and On-target DNAs for PArallel RNA Detection LEOPARD - 並列RNA検出のための操作されたtracrRNA及びオンターゲットDNAの活用
Pool of RNAs from sample 試料からのRNAのプール
Cas9, Rptrs, DNA targets Cas9、Rptr、DNA標的
Detection by monitoring each DNA target 各DNA標的の監視による検出
DNA target DNA標的
n4 ncrRNA (50-nt overhangs) n4のncrRNA(50ヌクレオチドのオーバーハング)
yeast total RNA 酵母総RNA
Mass ratio (yeast RNA:n4 ncrRNA + Rptr) 質量比(酵母RNA:n4のncrRNA+Rptr)
DNA targets DNA標的
Resolved DNA products 分離されたDNA産物
Uncleaved products 切断されていない産物
RNA source RNA源
SARS-CoV-2 (locus1) SARS-CoV-2(遺伝子座1)
SARS-CoV-2 (locus2) SARS-CoV-2(遺伝子座2)
Influenza H1N1 インフルエンザH1N1
Uncleaved DNA 切断されていないDNA
Cleaved DNA 切断されたDNA
RNA genome RNAゲノム
D614G (S protein) D614G(Sタンパク質)
Sensed RNA 被検知RNA
図19
Sth1nCas9 base editor Sth1nCas9塩基エディター
target 標的
target plasmid 標的プラスミド
Peak 113 mRNA locus2 ピーク113のmRNAの遺伝子座2
Percentage of base editing(%) 塩基編集のパーセンテージ(%)
図20
Preferred preceding base T 好ましい先行塩基T
percentage of base editing(%) 塩基編集のパーセンテージ(%)
guide:target ガイド:標的
Non-preferred preceding base A 好ましくない先行塩基A
Guide ガイド
Target 標的
図21
Percentage of base editing(%) 塩基編集のパーセンテージ(%)
Region hybridizing with the Rptr Rptrとハイブリダイズする領域
図22
percentage of base editing(%) 塩基編集のパーセンテージ(%)
without xlyose キシロース(xlyose)なし
with xlyose キシロース(xlyose)あり
図23
Spacer スペーサー
Triplex region 三重鎖領域
Antirepeat アンチリピート
Repeat リピート
Joint loop ジョイントループ
図24
Spacer スペーサー
Duplex region 二重鎖領域
Lower stem 下部ステム
Bulge バルジ
Repeat-antirepeat duplex リピート-アンチリピート二重鎖
Upper stem 上部ステム
Bulge removed バルジの除去
図25
Triplex region 三重鎖領域
cellular RNA 細胞性RNA
DNA target DNA標的
CJ8421_04970 mRNA (1,189 nts) CJ8421_04970のmRNA(1189ヌクレオチド)
predicted ncrRNAs derived from Rptrs Rptrに由来する推定ncrRNA
Duplex region 二重鎖領域
【配列表】
【国際調査報告】