(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染に伴う呼吸困難およびサイトカインストーム症候群の治療のための多機能性リガンドの使用
(51)【国際特許分類】
C07D 491/056 20060101AFI20230629BHJP
A61K 31/4741 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230629BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230629BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C07D491/056 CSP
A61K31/4741
A61P31/14
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/06
A61P37/02
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022567133
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2021065045
(87)【国際公開番号】W WO2021245254
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521532592
【氏名又は名称】エイチフォー オーファン ファーマ
【氏名又は名称原語表記】H4 ORPHAN PHARMA
(71)【出願人】
【識別番号】522413696
【氏名又は名称】ガエタン テラス
【氏名又は名称原語表記】Gaetan TERRASSE
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ガエタン テラス
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン ビュール
【テーマコード(参考)】
4C050
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB07
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4C076FF70
4C086AA01
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4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB07
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、コロナウイルス感染におけるサイトカインストームおよび呼吸困難を予防および治療することができる、アミノ-7トリエトキシン-4、5,6オキソ-1ジヒドロ-1,3イソベンゾフラニル-3)-1メトキシ-8メチル-2メチレンジオキシ-6,7テトラヒドロ-2,3,4イソキノリンまたはトリトクアリンのエナンチオマーおよびそれらの重水素化誘導体の使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス感染に関連するサイトカインストームの治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体。
【請求項2】
コロナウイルス感染に関連するサイトカインストームの予防に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体。
【請求項3】
コロナウイルス感染に関連する呼吸困難の治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体。
【請求項4】
コロナウイルス感染に関連する呼吸困難の予防に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体。
【請求項5】
ソフトゼラチンカプセル、錠剤、カプセル、シロップまたはゲルの形態でパッケージングされることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス感染に関連するサイトカインストームおよび肺の合併症の治療のための、化学物質、すなわち1-(7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-3-イソベンゾフラニル)-8-メトキシ-2-メチル-6,7-メチレンジオキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリンの左旋性(levorotatory)および右旋性(dextrorotatory)のエナンチオマーならびにその重水素化誘導体に基づく多機能性リガンドの使用に関する。
【0002】
多機能性リガンドは、10ナノモル濃度~1マイクロモル濃度の治療用量で、複数の薬理学的標的に対する親和性を有する治療分子である。多機能性リガンドと呼ぶには、これらの薬理学的標的は相乗効果を有する必要がある。この相乗効果により、ほとんどあるいは全く副作用なしで、非常に高い活性を得ることができる。本発明者らは、1-(7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-3-イソベンゾフラニル)-8-メトキシ-2-メチル-6,7-メチレンジオキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリンが新規クラスの多機能性リガンドであることを実証している。
【背景技術】
【0003】
2019新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎は、2019年12月上旬に中国の武漢で最初に発生し、2カ月で全国に拡大した。中国国内では、COVID-19の感染拡大は沈静化しつつあるが、中国国外では指数関数的に勢いを増している。ヨーロッパ諸国(イタリア、スペイン、ドイツ、フランス)、アメリカ合衆国、イラン、韓国は、COVID-19への対処に多大な困難に直面しており、2020年3月11日に世界保健機関によって正式にパンデミックと宣言された
【0004】
コロナウイルス感染症2019またはCovid-19(元は2019-nCoVとして知られている)は、SARS-CoV-2コロナウイルス株による新興感染症動物由来ウイルス性疾患である。
【0005】
その最も一般的な症状は、発熱、咳、呼吸困難であり、まれに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こし、特に年齢や併存疾患のために虚弱な人では、死に至ることもある。もう1つの致命的な合併症は自然免疫系の過剰反応(サイトカインストーム)である。
【0006】
高い割合の無症状形態が存在する。
【0007】
ヒトからヒトへの感染は、主に季節性インフルエンザと同様に呼吸器系の飛沫、つばを介し、特に咳やくしゃみの際に、あるいは汚染された表面への手の接触の後に顔(口、鼻、目、皮膚ではない)を触ることによって起こる。潜伏期間は通常2~14日、あるいは20日(平均5日)である。
【0008】
子どもを含む感染者のかなりの割合が、しばしば、症状を示さないがこの病気を感染させ、その伝染力を高める。2020年3月27日に発表されたフランスの研究は、3つのタイプの病人について記載している:
- 臨床兆候はほとんどないが、鼻腔内のウイルス量が多く、感染力が強い患者;
- 発症当初は症状が軽いが、10日目頃から悪化し、ウイルス量が減少しているにもかかわらず、重症急性呼吸器症候群を発症する患者。肺の免疫反応性が無秩序になると言われている;
- 鼻や喉に持続的に高いウイルス量を有して急性呼吸器症候群に急激に悪化し、SARS-Cov-2血中ウイルス血症が出現して多臓器不全を引き起こし、死に至る患者。この第3のタイプの病人は、特に高齢者に多い。
【0009】
入院患者の主な合併症は、30%の症例における急性呼吸困難、50%の症例におけるサイトカインストームの特殊な形態である二次性血球貪食症候群の原因となるサイトカインの著しい放出である。
【0010】
10%の症例で細菌による肺の重複感染。10%の症例で心筋炎。
【0011】
ウイルス量が減少して低くなった瞬間に、サイトカインストームのリスクが最も高くなることを理解することが非常に重要である。
【0012】
このことは、ストームがウイルスの増殖に関係するのではなく、感染の結果としての免疫系の反応に関連することを証明している。
【0013】
このサイトカインストームは、アレルギーにおけるアナフィラキシーショックと似ている:非常に低いウイルス量でも致命的な反応を引き起こすのに十分であり、その主な原因は肺の好塩基球の局所的な脱顆粒である。実際、喘息の致死的な症例は好塩基球によるものであることが証明されている(非特許文献1)。一方、コロナウイルス感染に相当する二本鎖RNAは、好塩基球の脱顆粒を活性化することが示されている(非特許文献2)。
【0014】
コロナウイルス感染症では、サイトカインストームが死亡の重要な原因であるが、急性または慢性の線維化などの肺合併症も見過ごしてはならない。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大の生存者の多くが残存肺の線維化を発症し、高齢患者で重症度が高くなることが観察された。SARSで死亡した患者の剖検は、様々な程度の線維化を示した。肺線維症は、いくつかの呼吸器系ウイルス感染の結果として見られることがあるが、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)の感染後にその頻度は遥かに高いものである。このように、コロナウイルスは肺線維症の発生に頻繁に関与しているようである。
【0015】
現在、サイトカインストームの治療法はなく、肺線維症を予防する治療法もない。
【0016】
現在登録されている薬剤の中で、有効性が確認されているものはない。
【0017】
臨床試験が行われているが、最終的な結果は得られていない。さらに、ウイルスの変異が多いため、ワクチンの可能性はほとんどない。
【0018】
フランスで新型コロナウイルス(COVID-19)の臨床研究が増大し続けている。2020年4月10日に、フランス医薬品安全庁(フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)は、フランスでCOVID-19に罹患する患者の管理を目的とした35件の臨床試験を認可し、そのうち78%はアカデミックなスポンサーにより実施された。
【0019】
さらに、フランスは現在進行中の10の主要な国際試験のうち7つに関与している。認可された、あるいは調査中の治療的あるいは非治療的な介入はすべて厚生省によってリストされている。
【0020】
WHOの国際登録には現在1100件以上の臨床試験が登録されており、そのうち654件が介入試験であり、261件が無作為化試験である。すなわち、約3週間で500件近くが新たに登録されたことになる。研究はかつてないほど活発かつ迅速に行われているが、確かなデータはまだ少なく、そのため治療法の見通しはまだ不透明である。最近の知見のまとめとして、疫病および生物学的リスクに関する運用調整(COREB;“Coordination Opeurationnelle Risque Epideumique et Biologique)は、Covid-19の患者の管理に有効であると期待される治療に関する現在のデータが不足しており(フランスHCSP(Haut Conseil de la Santeu Publique)の見解)、したがって臨床試験での評価に留めるべきであることを述べている。
【0021】
3月に発表されたロピナビル・リトナビル(lopinavir(登録商標)-ritonavir(登録商標))の非盲検無作為化臨床試験の初期データは、否定的(ネガティブ)であることが判明した。しかしながら、重症患者を対象としたDISCOVERYやフランスの介護者向けの予防におけるCOVIDAXISなど、他の臨床試験も進行中である。
【0022】
REMDESIVIR(登録商標)に関する唯一のデータは、集中治療室に入院した重症例の小規模な観察コホートによるもので、酸素要求量の改善について述べている。これらのデータは、対照群がないことから疑問視されている。
【0023】
OSELTAMIVIR(登録商標)は、COVID-19の管理において、in vitroおよび臨床の両方で効果がないことが示されている。UMIFENOVIR(登録商標)(またはArbidol)は、現在ロシアおよび中国でインフルエンザの治療薬として登録されているが、より強力な理論的根拠(ACE2受容体に結合した際のウイルスとの相互作用)をもって研究が続けられている。当面の間、既存のデータはまだ観察研究に基づいており、その結論は比較データによって確認されなければならないが、最新のデータ(上記参照)は否定的である。抗ウイルス治療経路は有望ではないようである。ワクチンルートはワクチンにつながる可能性があるが、おそらく予防効果は低い。さらに、コロナウイルスの蔓延を抑えるためには、ワクチンの接種率を80%以上にすることが必要であろう。この可能性は低いと思われる。抗IL6経路はサイトカインストームの一部をカバーするに過ぎない。コロナウイルスの後遺症である誘発性線維症に対しては、治療法はあるが、多くの副作用がある。現在、特発性肺線維症の治療薬として2種類の薬が発売されている。ピルフェニドン(Pirfenidone)とニンテダニブ(Nintedanib)である。
【0024】
フランス保健省高等医療局(Haute Autoriteu de Santeu)によると、ピルフェニドンの有効性は、肺機能を評価して疾患進行のマーカーとなる中間評価基準にしたがって評価されている。この基準に基づき観察された差は、プラセボと比較してピルフェニドンで有利であるが、この差は小さく、臨床的有意性は不明であり、試験ごとに不均一である。
【0025】
特定の機能的エンドポイント(FVC≧50%、およびDLco≧35%)を有する患者における、ESBRIET(登録商標)て観察される肺機能の低下に対する効果は小さい。特発性肺線維症の患者に対する臨床的有用性は、臨床的に関連するエンドポイント(クオリティ・オブ・ライフ(QOL)、全生存期間など)が探索的かつ非ロバストな解析の対象となっているため、評価が困難である。しかしながら、患者プーリング試験は、一部の患者プロファイルにおける生存期間の有意な改善を明らかにした。
【0026】
ピルフェニドンの主な副作用は、消化器障害(悪心、下痢、消化不良)、皮膚障害(光線過敏症、発疹)、代謝および栄養障害(食欲不振)である。このような副作用を考慮すると、COVID19誘発性線維症にこの製品が使用される可能性は低いと思われる。
【0027】
一方、OFEV(登録商標)の製品名で知られるニンテダニブ(Nintedanib)は、特発性肺線維症の治療薬として米国および欧州で承認されている。ニンテダニブの作用機構は、チロシンキナーゼ阻害剤である。この製品は、200~400mg/日の用量で使用される。多くの、特に消化器系の副作用が観察されている。
【0028】
HASによると、OFEV(登録商標)による「医学的利益(medical benefit)」は適度である。
【0029】
中間基準に従って評価されるニンテダニブの有効性はプラセボと比較して適度の効果を示し、さらに死亡率の比較分析には方法論的限界があることを考えると、OFEV(登録商標)は、ESBRIET(登録商標)と同様に、臨床的、放射線学的および/または組織病理学的パラメーターに基づいて確認された特発性肺線維症患者における医学的利益(「医療上の利益の改善」(ASMR IV “Ameulior du Service Medical Rendu”)の軽微な改善をもたらし、その呼吸機能基準は以下の通りである:FVCp≧50%およびDLco≧30%。OFEV(登録商標)の副作用は、ESBRIEST(登録商標)よりもさらに多い。HASは、ほぼ92%の副作用に注目する。これらの理由により、これら2つの薬剤によるCOVID19後の線維症の治療は、今日使用されている治療用量では可能性が低いと思われる。
【0030】
現在、特発性肺線維症の治療のために多くの製品が研究されている。
【0031】
PLIANT Therapeutics社のPLN-74809は、特発性肺線維症(IPF)および原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療のために開発されたav86およびav81インテグリン選択的デュアル阻害剤である。PLN-74809は、健康なボランティアの肺胞マクロファージにおいて、用量および曝露量に依存して、TGF-βの活性化を最大70%抑制することが示されている。本剤は経口剤である。この製品についてヒトでの有効な結果は確認されていない。第II相試験が進行中であるが、結果は公表されていない。
【0032】
特発性肺線維症の治療のために臨床開発中の強力なオートタキシン阻害剤であるBRIDGEBIO THERAPEUTICS社のBBT-877は、無作為化二重盲検プラセボ対照第I相臨床試験から薬物動態、薬力学および安全性に関する結果を提供している。本製品は第II相試験段階にあるが、有効性に関するデータはない。動物における前臨床試験結果のみが利用可能である。
【0033】
Galecto社のリード候補は、ガレクチン-3選択的阻害剤であるTD139である。TD139は、IPF患者が吸入すると、ガレクチン3を遮断し、したがって、ガラクトシド結合レクチンがマクロファージおよび筋線維芽細胞を活性化する経路を誘発するのを防ぐように設計されている。
【0034】
MEDICINOVA社のMN-001(Tipelukast(登録商標))は、ロイコトリエン(LT)受容体拮抗薬およびホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(主に3および4)および5-リポキシゲナーゼ(5-L0)阻害剤である。この薬剤は、現在第II相試験中であるが、結果は、線維症の改善が見られず、有効性に乏しいことが報告されている。GALAPAGOS社のGLPG1690は、1日1回投与の経口オートタキシン阻害剤であり、現在、第3相試験中である。その結果は、疾患進行は停止したが、肺線維症の改善はないことを明らかにした。ノバルティスのVAY736は、直接的なADCC媒介B細胞枯渇のために設計された完全ヒトIgGlモノクローナル抗B細胞活性化因子(BAFF)受容体抗体であり、2つの作用機構を提供する。現在、第II相試験中である。有効性が確認されなかったため、販売中止となった。
【0035】
KD025(SLX-2119としても知られる)は、バイオ医薬品企業であるKadmon社が特発性肺線維症(IPF)の治療薬として試験中のキナーゼ2阻害剤である。現在、この製品は第II相臨床試験で停止している。
【0036】
結論として、現在進行中の多くの臨床試験にもかかわらず、線維症(または線維化)を治療する製品は現在なく、コロナウイルス感染患者における線維症の発生を予防する製品はさらにない。
【0037】
トリトクアリン(tritoqualine)は、古くから知られている化学物質であり、抗ヒスタミン剤として使用されている。その製造方法は、仏国特許FR1.295.309に記載されている。
【0038】
トリトクアリンは、7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドである。市販されている医薬品形態では、エナンチオマーの混合物の形態である。トリトクアリンは、ヒスチジン脱炭酸酵素の阻害作用による抗アレルギー活性で知られている。しかしながら、この活性は非常に弱く、様々な臨床症状、鼻炎、蕁麻疹、皮膚炎、肥満細胞症に対する多くの特性を説明するものではない。
【0039】
トリトクアリンの活性は嚢胞性線維症で実証されている(特許文献1および2)。それは線維症と呼ばれているが、実際には遺伝性疾患であり、その病態は異常なCFTRを介した電解質輸送の欠損に起因する。線維化は見られないが、水分輸送の欠損による粘膜分泌物の増粘が見られる。
【0040】
トリトクアリンの活性は、特発性肺線維症においても記載されている(特許文献3)。
【0041】
また、トリトクアリンが肝臓やコラーゲン分泌に及ぼす作用についての記述もある(非特許文献3)。
【0042】
好塩基球は、末梢血白血球の1%未満を占める最も存在量の少ない顆粒球である。このため、ならびに表現型や形態学的な特徴が乏しくまた動物モデルもないことから、免疫反応中の生理的特異性は最近まで無視されてきた。気管支喘息では、肥満細胞(マスト細胞)と好塩基球の両方が主要なエフェクター細胞であるが、それらが喘息の発症時および経過中に異なる機能を発揮することの免疫学的、生化学的および薬学的証明が示されている(karasumaya 2011)。好塩基球は、アレルギー反応の開始および維持に不可欠なIL-4およびIL-13の最初の主要産生者である(Casolaro 1990)。さらに、その想定されるエフェクターと一致して、好塩基球は明らかに致死的な喘息と関連している(Kepley 2001およびKoshino 1993);好塩基球は、アレルギー性鼻炎患者における誘発試験後の鼻洗浄液に検出される(Iliopoulos 1992)。この考え方は、IL-4Rの機能獲得変異とアレルギー疾患の増悪との間の相関によって支持される。
【0043】
最近の研究は、好塩基球の活性化は遺伝子特異的IgEの架橋によってのみ促進されるのではなく、寄生虫抗原、レクチンおよび超抗原性ウイルスによっても、FcεRIの直接架橋または非特異的IgE抗体への結合により、非感作個体によって促進されることを示している(Falcone 2006)。
【0044】
ウイルス性呼吸器感染症、特にライノウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)による感染症は、成人および小児における喘息の急性増悪の最も一般的かつ重要な原因であり、世界的な健康負担となっている(Jackson 2010、Stensballe 2009)。これらの感染症は、健常者よりも喘息患者においてより高い罹患率をもたらすという仮説を支持する証拠が増えてきている。
【0045】
コロナウイルスが呼吸機能に対してより高い毒性効果を有し、喘息は最も重要な因子ではない可能性が高い。英国の研究では、年齢が死亡の主な危険因子であることが示された(80歳以上の死亡リスクは160倍高い)。ウイルス誘発性気道炎症を担うメカニズムを理解することは、適応される治療応答を見つけるのに役立つであろう。
【0046】
本発明者らは、コロナウイルスがTLR4、TLR3、TLR7経路を刺激し、好塩基球を介してサイトカインストームを誘導すると仮定する。活性化された好塩基球は、次に好酸球およびマクロファージを刺激して免疫反応を増幅し、ウイルス感染患者の呼吸困難および死亡につながる。TLR4を刺激するのは、おそらくウイルスのタンパク質であろう。その後、MyD88を通過するカスケードが、サイトカインTH2、IL6、IL4、およびIL13の分泌を引き起こすであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2854947号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2844253号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3429587号明細書
【非特許文献】
【0048】
【非特許文献1】Kepley 2001 Immunohistochemical detection of human basophils in postmortem cases of fatal asthma
【非特許文献2】Ramadan 2013 Activation of basophils by the double-stranded RNA poly(A:U) exacerbates allergic inflammation
【非特許文献3】Omezu. 1986 suppressive effect of tritoqualine on cell growth and collagen secretion in fibroblast
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0049】
本発明はまた、コロナウイルス感染に関連するサイトカインストームの治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドに関する。
【0050】
本発明はまた、コロナウイルス感染に関連するサイトカインストームの予防に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドに関する。
【0051】
本発明はまた、コロナウイルス感染に関連する呼吸困難の治療に用いるための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体に関する。
【0052】
本発明はまた、コロナウイルス感染に関連する呼吸困難の予防に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドおよびその重水素化誘導体に関する。
【0053】
本発明の好ましい一実施形態によれば、サイトカインストームの治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドは、0.1mg/kg/日~10mg/Kg/日の用量で使用されるという点において注目すべきである。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態によれば、サイトカインストームの予防に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドは、0.1mg/kg/日~10mg/Kg/日の用量で使用されるという点において注目すべきである。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態によれば、サイトカインストームの治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドは、5~700mg/日の用量で使用されるという点において注目すべきである。
【0056】
本発明の好ましい一実施形態によれば、サイトカインストームの治療に使用するための7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドは、ソフトゼラチンカプセル、錠剤、カプセル、シロップまたはゲルの形態でパッケージングされるという点において注目すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】AおよびBと表記された不斉炭素の存在を示す。
【
図4】トリトクアリンにおいて重水素化できるメチルを示す。
【
図5】処置マウスおよび未処置マウスにおける抵抗値の変化を示す。
【
図10】好塩基球の脱顆粒を抑制するトリトクアリンの効果。
【実施例】
【0058】
トリトクアリンが好塩基球を介して呼吸窮迫症候群を抑制することを実証するために、Ramadan 2013の出版物に記載されたモデルを使用する。
【0059】
本発明者らは、C57/B16Jマウスモデル(以下、BL6と略す)を使用した。
【0060】
二本鎖RNAウイルス感染を模倣したプロトコルを、15匹のマウス(8週齢の雌マウス)の2群で実施した。生理食塩水のみを投与した対照群を陰性対照とした。
【0061】
下記のプロトコルに従ってBL6マウスを処置する。0、2、4日目に100mgのOVA(オバルブミン)を腹腔内注射することによりBL6マウスを感作する。その後、10日目から15日目まで、超音波ネブライザー(Ultra-Neb99)を用いて、20mg/mlの濃度のエアロゾル化OVAまたは生理食塩水での20分間の毎日の処置をマウスに行った。1時間後、マウスに50mgのPoly(A:U)または生理食塩水を経鼻投与した。
【0062】
3つの群を試験した:
群1(陰性対照):生理食塩水のみを投与する。
群2:OVAで感作し、上記のプロトコルに従って二本鎖RNA(Poly U(ポリU)/Poly A(ポリA))も投与する。
群3:OVAで感作し、上記のプロトコルに従って二本鎖RNA(Poly U/Poly A)を投与し、さらにトリトクアリン10mg/kgも投与する。
【0063】
各群を全身プレチスモグラフィーにより分析し、測定値をPenHで表す。測定は、二本鎖RNA導入後10分まで、1分ごとに行う。トリトクアリン処置は、Poly U/Poly A(二本鎖RNA)導入の1時間前に行う。
【0064】
陰性対照群である群1における、1分から10分までの時間におけるPenH単位で表された15匹のマウスで平均した結果は下記のとおりである:
【表1】
【0065】
陽性対照群である群2(オバルブミン感作後にウイルス感染させたマウス)について、1分から10分(TlからT10)までの時間におけるPenH単位で表された15匹のマウスで平均した結果は下記のとおりである:
【表2】
【0066】
10mg/kgの用量のトリトクアリンで処置した群(同様にオバルブミン感作後にウイルス感染させたマウス)である群3における、1分から10分までの時間におけるPenH単位で表された15匹のマウスで平均した結果は下記のとおりである:
【表3】
【0067】
異なる群を比較すると、トリトクアリンで処置した群はその気道抵抗の上昇を示すが、未処置群と比較して適度(moderately)である。トリトクアリン処置群と未処置群との間でこの差はT6分で最大となる。この差はT10分でも非常に有意である。
【0068】
統計解析の結果、この2群の差は極めて有意であった(p<0.001)。
【0069】
結論は、二本鎖RNAウイルス感染の等価物で重感染させたオバルブミンによる呼吸器炎症モデルにおいて、トリトクアリンが驚くべき有効性を示すということである。このモデルでは、呼吸器系の炎症を駆動するのは好塩基球であることが実証されている(Ramadan 2013)。
【0070】
したがって、トリトクアリンは、コロナウイルス感染に関連する呼吸困難を治療することが可能である。
【0071】
本発明者らはまた、トリトクアリンを好塩基球で直接試験した。この目的のために、本発明者らは、Buelhmann社のFlow Castと呼ばれる市販の試験を使用した。
【0072】
この試験はCD63マーカーを使用する。CD63マーカーは、好塩基球および肥満細胞の活性化のマーカーと考えられている。安静時(resting)の好塩基球は、CD63抗原が細胞質内の顆粒に結合しているため、CD63抗原をほとんど発現しない。
【0073】
好塩基球および肥満細胞の活性化は、顆粒と細胞膜との融合をもたらし、その結果、細胞表面にCD63が発現される。
【0074】
したがって、CD63は、CD63が活性化されたときにのみに好塩基球および肥満細胞の表面に現れる。
【0075】
好塩基球および肥満細胞の活性化は、アレルゲンによるものと抗IgE(抗IgE受容体である抗FcεRI)によるもののいずれであってもよい。
【0076】
好塩基球の活性化とは、好塩基球が脱顆粒を起こし、肺に有害な多くのサイトカインを放出することを意味する。実際、好塩基球の毒性作用が最も大きいのは肺である。したがって、毒性ショック(toxic shock)を避けるためには、好塩基球の脱顆粒を阻止することが必須である。コロナウイルス感染の場合、この毒性ショックは患者の死につながる。
【0077】
ヒトの肥満細胞および好塩基球は、CD34+造血幹細胞に由来し、その形態は比較的類似している。
【0078】
それらは異なるサイトカインの影響を受けて分化するが、主なものは、肥満細胞では幹細胞因子(SCF)、好塩基球ではインターロイキン-3である。肥満細胞が組織常在性要素であるのに対し、好塩基球は循環細胞である。肥満細胞は組織内の位置によって不均一な集団を表すが、好塩基球はそうではないことに注意すべきである。
【0079】
どちらの細胞も高親和性IgE受容体を発現しているため、IgE依存性アレルギー反応に関与している。しかしながら、この活性化の際にこれらの細胞から放出されるメディエーターは異なる場合もある。さらに、好塩基球および特に肥満細胞は、自然免疫に関与する。好塩基球がコロナウイルス感染に関与するのは自然免疫の文脈におけるものである。実際、サイトカインストームはコロナウイルス感染開始後6~10日以内に出現する。これは獲得免疫が起こるにはあまりに短い時間である。
【0080】
好塩基球および肥満細胞は、多くのインターロイキンの分泌を通して多くの疾患に関与している。
【0081】
肥満細胞および好塩基球は、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL9、IL13、IL15などの共通のサイトカインを分泌する。これらのインターロイキンの一部はIL-4のようにアレルギーに関与し、他の一部はIL-13のように肺線維症に関与し、また他の一部はIL6のようにサイトカインストームに関与する。好塩基球はまた、活性化されると炎症反応の原因となる。それらは脱顆粒を起こして、ヒスタミン、ヘパリンやコンドロイチンなどのプロテオグリカン、プロテアーゼ、エラスターゼやリゾホスホリパーゼなどを放出する。また、ロイコトリエンなどの脂質メディエーターや様々なサイトカインも分泌する。
【0082】
本発明者らは、CD63、ひいては好塩基球の脱顆粒を調節するトリトクアリンの驚くべき役割を強調した。本発明者らは、CD63調節のヒト細胞モデルにおけるトリトクアリンの信じがたく驚くべき特性を強調した。
【0083】
このトリトクアリンによるCD63の調節作用を調べるために、本発明者らは、好塩基球と、改良した市販の試験であるBULHMANN Laboratories AG(スイス)のFlow CAST(登録商標)キットを使用し、その試験は、好塩基球の脱顆粒のin vitro検出ならびに即時型アレルギー反応および過敏症の研究に使用できる好塩基球活性化試験(BAT)である。
【0084】
この試験は、活性化好塩基球の表面マーカーであるCD63の発現のin vitro診断用に設計されている。この試験は全血で行われ、フローサイトメトリーにより活性化好塩基球の表面でのCD63の発現を定量化する。
【0085】
この試験による好塩基球の活性化(または脱顆粒)は、3つの異なるやり方で行うことができる:
- アレルゲンによる、または
- 「抗IgE」(抗IgE受容体である抗FcεRI)による、または
- fMLPと呼ばれる細菌のリポ多糖抗原による。
【0086】
アレルゲンでの刺激後のフローサイトメトリーによる全血でのCD63発現をin vitroで診断することを目的としたものである。
【0087】
安静時の好塩基球は、CD63抗原が細胞質内の顆粒に結合しているため、CD63抗原をほとんど発現しない。
【0088】
好塩基球の活性化(例えばIgE(免疫学的活性化)またはfMLP(非免疫学的活性化)による)は、顆粒と細胞膜との融合をもたらし、その結果、細胞表面にCD63が発現される。
【0089】
CD63の発現を介した脱顆粒を評価するために、Flow CAST(登録商標)キットを部分的に使用した。この試験は抗IgE受容体を含む。本発明者らは、後者の活性化剤のみを使用している。
【0090】
一方、Flow Cast試験は、第2の膜マーカーであるCCR3を使用する。この遺伝子によりコードされるタンパク質は、C-C型ケモカイン受容体である。それはGタンパク質共役型受容体ファミリー1に属する。
【0091】
それは、好酸球、好塩基球に高発現し、かつTH1およびTH2細胞や気道上皮細胞でも検出される。この受容体は、アレルギー性気道における好酸球、好塩基球およびその他の炎症性細胞の蓄積および活性化に寄与し得る。この受容体と細胞の大きさとを組み合わせることで、好塩基球の特異的な特徴づけが可能になる。これら2つの受容体の解析により、フローサイトメトリーで好塩基球およびその脱顆粒を極めて特異的に特徴づけることができる。
【0092】
フローサイトメトリーを使用して、様々な血液細胞を特徴づけることができる。
【0093】
レーザー光線は、様々な細胞パラメータの評価および測定を可能にする:
- レーザー光線の回折光を正面から測定することで、細胞の大きさを評価することができる:これが前方散乱光(Forward SCatter)(FSC)である。
- 垂直方向の回折光を測定することで、細胞の顆粒性(granularity)を評価することができる:これが側方散乱光(Side SCatter)(SSC)である。
【0094】
この顆粒性は、細胞内部や表面の不規則性、あるいは構成する小器官の密度によるものであり得る。
【0095】
その後、蛍光マーカーを使用して、異なる細胞亜集団をより良好に特徴づける(これらのマーカーを分化抗原群(CD)と結合させる)。
【0096】
これらの実験を通して使用した装置は、2つのレーザーを備えたBD FACS Cantoフローサイトメーターである:
564~606nm、515~545nm、750~810nmの3つの周波数が可能な青色レーザー。
750~810nmおよび650~670nmの2つの周波数が可能な赤色レーザー。
【0097】
いくつかの蛍光色素を使用する:APC Cy7(APC-Cy(商標)7はAPCとシアニン色素を組み合わせた蛍光色素)およびFITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ならびにPE(フィコエリトリン)。
【0098】
これらの異なるカップリングにより、細胞を別々に、特に好塩基球を特徴づけることが可能になる。
【0099】
これらの異なるカップリングにより、細胞を別々に、特に好塩基球を特徴付けることが可能になる。CD63標識が観察されるか否かとCCR3標識が観察されるか否かにより、4つのウィンドウゾーンが区別される:
- CD63+およびCCR3-:脱顆粒非好塩基球性細胞を特徴づける。
- CD63+およびCCR3+:脱顆粒好塩基球を特徴づける。
- CD63-およびCCR3-:非脱顆粒非好塩基性細胞を特徴づける。
- CD63-およびCCR3+:非脱顆粒好塩基球を特徴づける。
【0100】
このように、この解析では、脱顆粒を起こした好塩基球(脱顆粒好塩基球)と脱顆粒を起こしていない好塩基球(非脱顆粒好塩基球)を分けて解析することが可能である。従って、治療目的の分子を相互作用させることで、脱顆粒に作用する能力の有無を知ることが可能である。
【0101】
脱顆粒プロトコルは、Flow CASTを使用して実施する。
【0102】
Flow CASTキットは、以下のもので構成される:
- IL-3を含む中性刺激バッファー。
- 抗FcεRI抗体陽性対照を含む刺激バッファー(刺激対照)。
- fMLP陽性対照を含む刺激バッファー(fMLP)。
【0103】
このプロトコルでは使用しない。
- 染色試薬。
- 洗浄バッファー。
- 溶解試薬(Lysing Reagent)。
【0104】
リマインダー:好塩基球の活性化中に、細胞質内顆粒に結合したCD63マーカーは細胞膜と融合する。その後、それらマーカーは細胞表面に発現する:したがって、活性化された好塩基球はCD63+となる。CD63の他に、好塩基球に特異的なマーカーとしてCCR3(ケモカイン受容体3)がある。
- 活性化して脱顆粒を起こした好塩基球はCD63+およびCCR3+である。
- 脱顆粒を起こしていない好塩基球はCD63-およびCCR3+である。
【0105】
最終的なプロトコルを規定および改良するために、3つの試験を行った。まず、刺激なしでしたがって脱顆粒を起こしていない場合に予想される結果を観察するために、中性バッファーのみを含む「陰性対照」試料を分析した。
【0106】
4つのゾーンを有する
図8において、CD63-CCR3+ゾーンのみが、非脱顆粒好塩基球に対応する散布図を含むことに気づくことができる。刺激がない場合、細胞は活性化されず、脱顆粒も起こさない。
【0107】
第2の試験は、FcεRI抗体を用いた「陽性対照」試料を含む。フローサイトメトリーにおける4つのウィンドウゾーンにおいて、FcεRI抗体ウィンドウを用いた陽性対照サンプルは、CD63+CCR3+ゾーンの散布図の観察を可能にする。これは、
図9の右上にあるゾーンである。これは、抗FcsRI抗体が好塩基球の脱顆粒を引き起こしていることを示す。しかしながら、CCR3+およびCD63-のウィンドウにも、非脱顆粒好塩基球に対応するスポットがいくつか含まれているため、すべての好塩基球が脱顆粒を起こしているわけではない。
【0108】
最後に、第3の試験は、異なる濃度のトリトクアリンと事前にインキュベートすると共に、好塩基球を脱顆粒させる目的で抗FcεRI抗体を使用することを含む。本発明者らがCD63調節に対するトリトクアリンの活性を実証できたのは、この最後の分析によるものである。
【0109】
最後に、好塩基球は血球数において非常に小さな集団であり、1%未満であることが多い。分析のために少なくとも500個の好塩基球を得ることを目標とすると、フローサイトメーターの前に1回の通過ごとに5万個以上の白血球を選別しなければならない。
【0110】
次に、各サンプルに抗FcεRI抗体とともにトリトクアリンを添加した。トリトクアリンが脱顆粒を抑制することができれば、非脱顆粒好塩基球の数が増加するはずである。
【0111】
使用したトリトクアリンの濃度はlμM~10μMでの範囲であり、平均体重70kgの男性で1日あたり100mg~1gの治療用量に相当する。
【0112】
実験は以下のように行った:
まず、患者から試料を採取し、5本のチューブを準備した。1本の陰性対照チューブ:トリトクアリンとインキュベートせず、抗FcεRI抗体(脱顆粒産物)を含まない。4本の「陽性対照」チューブ:トリトクアリンとインキュベートせず、好塩基球脱顆粒剤(抗FcεRI抗体)を含む。
【0113】
これらの実験の目的は、脱顆粒した好塩基球と脱顆粒していない好塩基球を区別するための試験の妥当性を実証することであった。
【0114】
実験の結果、一連の抗FcεRI抗体を含むもの(陽性対照)では、ほぼ85%の好塩基球が脱顆粒しており、抗FcεRI抗体が好塩基球の脱顆粒を引き起こすことが確認された。陰性対照試料では、脱顆粒した細胞はほとんどない(17%未満)。
【0115】
GraphPad Prism 7.0を用いて統計解析を行った。
【0116】
陰性対照と陽性対照のStudentのt検定もp値が0.0001未満であることを示す。これは、フローサイトメトリーにおいて、脱顆粒した好塩基球と脱顆粒していない好塩基球が高度に識別可能であることを意味する。
【0117】
したがって、2.5μmol~10μmolの範囲の用量で4人の患者で試験フェーズを実施した。
図10は、好塩基球の脱顆粒の抑制およびひいてはCD63の発現調節に対する1μmol~10μmolのトリトクアリンの用量効果を示す。
【0118】
5μmolでは、CD63はまだ約40%の細胞に発現しているが、10μmolでは、この発現は2%未満に減少する。統計解析は、2.5μmol~10μmolの用量で0.001より大きいP値を示す。トリトクアリンは、好塩基球でのCD63発現を驚くほど漸進的に調節している。このCD63の調節は、呼吸窮迫症候群およびコロナウイルス感染関連サイトカインストームの治療のための、トリトクアリンに基づく治療法を考えることを可能にする。また、この強力な脱顆粒抑制作用は、サイトカインストームならびにコロナウイルス感染に関連する呼吸困難の予防も考えることを可能にする。
【0119】
これらの病態の治療は、5mg/日~700mg/日の治療用量で行うことができる。
【0120】
トリトクアリンは、その有効性を変更することなく、その「圧縮」形態とは別に、例えばソフトゼラチンカプセル、シロップまたはゲルの形態など、様々な形態で使用することができる。7-アミノ-4,5,6-トリエトキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-4-メトキシ-6-メチル-1,3-ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル)フタリドは、ニンテダニブ(Nintedanib)およびピルフェニドン(Pirfenidone)などの補完薬剤と併用して使用してもよい。異なる作用機序で作用するこれらの薬剤は、より低用量を可能にし、したがって副作用や毒性も少なくなる。ニンテダニブは10mg/日~50mg/日の用量で使用することができる。
【0121】
また、ピルフェニドンは100~200mg/日などの低用量で使用することができる。
【0122】
市販のトリトクアリンは白色の粉末であり、光に非常に敏感であり、コタルニンとフタル酸に分解される。
【0123】
トリトクアリンは2つの不斉炭素を有するが、旧来の市販品を分析した結果、トリトクアリンは2つのエナンチオマー(R-RとS-S)のラセミ混合物であり、4つのジアステレオマーの混合物ではないことが判明した。
【0124】
トリトクアリンは分子量500のベンジルイソキノリンである。この化合物は、炭素14または重水素化化合物のいずれを含む化合物で修飾または置換することができる。
【0125】
同位体標識された化合物および塩は、様々な方法で使用することができる。これらは、薬物および/または基質上での組織分布試験などの様々な種類の試験に適している場合がある。例えば、トリチウムおよび/または炭素14で標識された化合物は、比較的簡単に調製でき、また検出性にも優れているため、基質上での組織分布試験などの様々な種類の試験に特に有用である。例えば、重水素標識製品は治療上有用であり、非重水素標識化合物を超える潜在的な治療上の利点を有する。一般に、重水素標識化合物および塩は、速度論的同位体効果により、非重水素標識化合物よりも高い代謝安定性を有することができる。高い代謝安定性は、生体内(in vivo)での半減期の延長や低用量化に直結し、それが望ましい場合がある。同位体標識化合物および塩は、一般に、例えばconcert pharmaceuticals社が出願した特許EP3352757のような既知の合成スキームに記載された手順に従って調製することができる。非重水素化メチルを重水素化メチルに置き換えることは容易である。したがって、重水素化メチルの5つの置換をトリトクアリンで行うことができた。コタルニン環に2つ、ニトロフタリド環に3つである。
【0126】
したがって、これらの重水素化化合物を用いて、トリトクアリンのバイオアベイラビリティを向上させ、サイトカインストームやコロナウイルス感染に関連する呼吸困難の治療有効性を高めることを可能にする。
【図】
【図】
【国際調査報告】