(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】コロナウイルスが引き起こす急性呼吸窮迫症候群(ARDS)および炎症性障害を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/215 20060101AFI20230629BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230629BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230629BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K31/215
A61P11/00
A61P31/14
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 M
A61K31/341
A61K39/00 G
A61K35/17
A61K35/28
A61K39/395 Y
A61K38/21
A61K31/454
A61K31/137
A61K31/4706
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573211
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 US2021034494
(87)【国際公開番号】W WO2021243007
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522461066
【氏名又は名称】フォー-メッド インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522461077
【氏名又は名称】チャン リチャード エル.
(71)【出願人】
【識別番号】522461088
【氏名又は名称】チャン ベン ワイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン リチャード エル.
(72)【発明者】
【氏名】チャン ベン ワイ.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084CA53
4C084DA21
4C084NA05
4C084ZA591
4C084ZB112
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC202
4C084ZC751
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA33
4C085BA71
4C085BB31
4C085BB41
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BC22
4C086BC28
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA05
4C087ZA59
4C087ZB33
4C087ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB06
4C206DB56
4C206FA08
4C206KA05
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZB33
4C206ZC75
(57)【要約】
ホルボールエステルまたはホルボールエステルの誘導体を含有する方法および組成物が、SARS-CoV-2感染および関連するCOVID-19疾患を含む突発性急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス感染の防止または処置のために提供される。重症SARS-CoV-2/COVID-19症例に見られる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)およびサイトカインストーム症候群(CSS)を含む急性炎症性状態および関連する病原性傷害を防止および処置するための方法および組成物も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象における突発性急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス感染を処置または防止するための方法であって、
SARSウイルス感染を防止もしくは低減しかつ/または対象中に検出されうるSARSウイルス量を低減もしくは除去するのに十分な、臨床上治療的または予防的である有意な抗ウイルス応答を対象において誘発するために、SARSコロナウイルス感染のリスクが高まっている対象または活動性SARSコロナウイルス感染を呈する対象に、抗ウイルス有効量のTPA化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
SARSコロナウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスから選択されるヒトSARS(hSARS)コロナウイルスである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
hSARSコロナウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
抗ウイルスTPA化合物が、SARS-CoV-2ウイルス感染を防止もしくは低減しかつ/またはSARSウイルス量化合物を低減もしくは除去し、同時にCOVID-19疾患の1つまたは複数の臨床症状を防止または低減するのに十分な抗ウイルス応答を、対象において誘発するのに有効である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
TPA化合物が、
(1)対象の上部または下部呼吸器の細胞、組織または試料におけるウイルスの量または力価;
(2)対象の非呼吸器のACE-2陽性細胞、組織または試料における、または対象の血漿における、ウイルスの量または力価;
(3)肺または他の組織/細胞へのウイルスの付着および/または侵入;
(4)対象の肺または他のACE-2陽性細胞、組織または器官におけるウイルス複製;および/または
(5)感染した対象の上気道組織または試料からのウイルス排出
から選択されるSARSコロナウイルス感染の重症度の1つまたは複数の徴候を低減または除去するのに有効な量および剤形で投与され、
該インデックスのそれぞれは、1つまたは複数のTPA処置対象における対象インデックスの発生または値を、1つまたは複数の相当するプラセボ処置対照対象における同じインデックスの発生または値と比較して観察または測定することによって決定されうる、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
SARSコロナウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスから選択されるヒトSARS(hSARS)コロナウイルスであり、
TPA化合物が、対象の上気道および/または下気道におけるhSARSウイルスの量または力価を低減するのに有効である、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
SARSウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスから選択されるヒトSARS(hSARS)コロナウイルスであり、
TPA化合物が、対象の非呼吸器のACE-2陽性細胞、組織または器官におけるhSARSウイルスの量または力価を低減するのに有効である、
請求項1記載の方法。
【請求項8】
SARSウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)であり、
抗ウイルスTPA化合物が、SARS-CoV-2ウイルス感染を防止もしくは低減し、かつ/または感染対象から処置前および処置後に採取された鼻咽頭スワブ試料中のSARS-CoV-2 DNAもしくはSARS-CoV-2レベルの他の定量的尺度によってもしくは適切な試験試料と対照試料との比較によって決定されるSARSウイルス量を低減もしくは除去する抗ウイルス応答を、対象において誘発するのに有効である、
請求項1記載の方法。
【請求項9】
鼻咽頭スワブ試料中のSARS-CoV-2 DNAまたはSARS-CoV-2ウイルス量の他の定量的尺度によって決定されるウイルス量が、個々の処置患者もしくは処置患者の群からの処置前試料と処置後試料の間、または処置対象とプラセボ処置対照対象の間で比較して、処置対象では平均25~50%またはそれ以上減少する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
鼻咽頭スワブ試料中のSARS-CoV-2 DNAまたはSARS-CoV-2ウイルス量の他の定量的尺度によって決定されるウイルス量が、個々の処置患者もしくは処置患者の群からの処置前試料と処置後試料の間、または処置対象とプラセボ処置対照対象の間で比較して、処置対象では平均75~95%またはそれ以上減少する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
TPA処置前にSARS-CoV-2感染について陽性として選別された対象からの鼻咽頭スワブ試料中のSARS-CoV-2 DNAまたはSARS-CoV-2量の他の定量的尺度によって決定されるウイルス量が、TPA処置後2週間以内に、TPA処置対象の少なくとも50%において、100%減少する(上気道における検出可能なSARS-CoV-2ウイルスの完全な排除に対応し、非伝染性状態を示す)、請求項8記載の方法。
【請求項12】
抗ウイルスTPA化合物が、以下の式Iの化合物:
、ならびにその抗ウイルス活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択され、
式中、
R
1およびR
2が、
水素;
アルキル基が1~15個の炭素原子を含有する
;
およびその置換誘導体からなる群より選択され、
R
3が、水素、
またはその置換誘導体であってよく、
上記式中、「低級アルキル」または「低級アルケニル」が、1~7個の炭素を含有することができ、直鎖または分岐鎖であってよく、無置換であるか、または塩素、フッ素もしくは他のハロゲン、もしくはニトロ、アミノもしくは他の活性官能基で置換されていてもよい、
請求項1記載の方法。
【請求項13】
抗ウイルスTPA化合物が、以下の式I:
、ならびにその抗ウイルス活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
抗ウイルスTPA化合物が、ホルボール13-ブチレート;ホルボール12-デカノエート;ホルボール13-デカノエート;ホルボール12,13-ジアセテート;ホルボール13,20-ジアセテート;ホルボール12,13-ジベンゾエート;ホルボール12,13-ジブチレート;ホルボール12,13-ジデカノエート;ホルボール12,13-ジヘキサノエート;ホルボール12,13-ジプロピオネート;ホルボール12-ミリステート;ホルボール13-ミリステート;ホルボール12,13,20-トリアセテート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート-20-アセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート;ホルボール12-チグリエート13-デカノエート;12-デオキシホルボール13-アセテート;ホルボール12-アセテート;ホルボール13-アセテート; ならびにその抗ウイルス活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択されるホルボールエステルである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
抗ウイルスTPA化合物が、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテートである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
SARSウイルスがSARS-CoV-2(COVID-19)であり、対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断されてから2週間以内に、抗ウイルスTPA化合物が初めて投与される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
SARSウイルスがSARS-CoV-2(COVID-19)であり、対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断された7~10日後に、抗ウイルスTPA化合物が初めて投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
SARSウイルスがSARS-CoV-2(COVID-19)であり、リスクが高まっている対象または感染したことがわかっている対象が、(1)2日以上持続する発熱; (2)肺うっ血、胸苦しさ、息切れおよび/または低酸素血症の下部呼吸器症状; (3)サイトカインストーム症候群(CSS);肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)を含む、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と関連する状態または症状;および/または(4)小児炎症性多系統症候群(PIMS)、血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、および/または血小板減少症を含む、対象における重度の過剰免疫または過剰炎症応答と関連する他の状態または症状、から選択される重症COVID-19疾患の1つまたは複数のインデックスを示す前に、抗ウイルスTPA化合物が投与される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
抗ウイルスTPA化合物が、(1)従来の抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質; (2)抗ARDS薬物もしくは作用物質; (3)抗CSS薬物もしくは作用物質; (4)抗PIMS薬物もしくは作用物質; (5)抗ESHS薬物もしくは作用物質; (6)抗DAD薬物もしくは作用物質;ならびに/または(7)抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/もしくはアポトーシス促進性の薬物もしくは作用物質;ならびにその組み合わせ、から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と、製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
抗SARS-CoV2 TPA化合物が、二次的な抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質と製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項21】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプリジェン、アンプレナビル(Agenerase)、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル、バロキサビルマルボキシル(Xofluza)、ビクタルビ、ボセプレビル(Victrelis)、シドフォビル、コビシスタット(Tybost)、コンビビル、ダクラタスビル(Daklinza)、ダルナビル、デラビルジン、デシコビ、ジダノシン、ドコサノール、ドルテグラビル、ドラビリン(Pifeltro)、エコリーバー、エドクスジン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エトラビリン(Intelence)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害因子、ガンシクロビル(Cytovene)、イバシタビン、イバリズマブ(Trogarzo)、イドクスウリジン、イミキモド、イムノビル、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害因子、インターフェロンI型、インターフェロンII型、インターフェロンIII型、ラミブジン、レテルモビル(Prevymis)、ロピナビル、ロビリド、マラビロク、メチサゾン、モロキシジン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル、ニタゾキサニド、ノービア、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Tamiflu)、ペグインターフェロン・アルファ-2a、ペグインターフェロン・アルファ-2b、ペンシクロビル、ペラミビル(Rapivab)、プレコナリル、ポドフィロトキシン、ピラミジン、ラルテグラビル、レムデシビル、逆転写酵素阻害因子、リバビリン、リルピビリン(Edurant)、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、シメプレビル(Olysio)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テルビブジン(Tyzeka)、テノホビルアラフェナミド、テノホビルジソプロキシル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル(Valtrex)、バルガンシクロビル、ビクリビロック、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル(Relenza)、およびジドブジン、ならびにその組み合わせから選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、抗ACE2薬物または作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、抗炎症性の薬物または作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
抗炎症性の薬物または作用物質が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
NSAIDが、アスピリン、セレコキシブ(Celebrex)、ジクロフェナク(Cambia、Cataflam、Voltaren-XR、Zipsor、Zorvolex)、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェン(Motrin、Advil)、インドメタシン(Indocin)、セレコキシブ(Celebrex)、ピロキシカム(Feldene)、インドメタシン(Indocin)、メロキシカム(Mobic Vivlodex)、ケトプロフェン(Orudis、ケトプロフェンER、Oruvail、Actron)、スリンダク(Clinoril)、ジフルニサル(Dolobid)、ナブメトン(Relafen)、オキサプロジン(Daypro)、トルメチン(トルメチンナトリウム、Tolectin)、サルサラート(Disalcid)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン(Ansaid)、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナメート、メフェナム酸(Ponstel)、およびその混合物を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、サイトカイン阻害薬物または作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項27】
サイトカイン阻害薬物または作用物質が、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを阻害するまたは低下させるのに有効である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
TPA化合物とサイトカイン阻害薬とによる協調的多剤治療が、SARS-CoV-2感染、COVID-19疾患、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DAD、またはSARS-CoV-2感染によって媒介されるまたは悪化する他の過剰炎症状態と関連して過剰に上昇した1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを低減するために、(同じ投薬量のいずれかの薬物/作用物質のみによって与えられる利益と比べて)改良された、相加的な、相乗的な、および/または増強的な治療利益を与えるのに、組み合わせとして有効である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、抗IL-6薬物または生物学的作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項30】
抗IL-6薬物または生物学的作用物質が、抗IL-6モノクローナル抗体もしくはFabフラグメント、可溶性IL-6受容体もしくは受容体類似物、またはそのコグネイト抗IL-6特異的結合もしくは不活化ドメインである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
抗IL-6薬物または生物製剤が、シルツキシマブ、サリルマブ(Kevzara)およびトシリズマブ(TCZ)から選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
抗IL-6薬物または生物製剤が、IL-6を直接的に遮断もしくは阻害するか、またはIL-6の炎症誘発活性を間接的に阻害し、低下させもしくは変化させる抗IL-6薬物である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
抗IL-6薬物が、アンドログラフォリドである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、キナーゼ調節性の薬物または作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項35】
キナーゼ阻害因子が、炎症応答の媒介もしくは抑制、またはリンパ球、単球/マクロファージ細胞および/もしくは好中球を含む免疫および/もしくは炎症エフェクター細胞の分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成および/もしくはアポトーシス活性の制御に関与する、1つまたは複数のキナーゼの免疫または炎症活性を、直接的または間接的に阻害し、低下させ、活性化し、または変化させる、キナーゼ調節性の薬物または作用物質である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記キナーゼ調節薬物が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/またはプロテインキナーゼC(PKC)を調節する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記TPA化合物と前記キナーゼ調節薬物とによるCOVID-19疾患対象の協調的処置が、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHSおよびDADと関連する1つまたは複数の状態または症状を含む、重症SARS-CoV-2感染と関連する1つまたは複数の疾患状態または症状を臨床的に低減する、請求項36記載の方法。
【請求項38】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、抗SARS-CoV-2ワクチン剤である、請求項20記載の方法。
【請求項39】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、条件付けされたナチュラルキラー(NK)細胞を含む組成物である、請求項20記載の方法。
【請求項40】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、条件付けされた間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物である、請求項20記載の方法。
【請求項41】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、組換えインターフェロンである、請求項20記載の方法。
【請求項42】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、静注用に製剤化された免疫グロブリンである、請求項20記載の方法。
【請求項43】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、SARS-CoV-2特異的な中和抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項20記載の方法。
【請求項44】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、C5a特異的な抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項20記載の方法。
【請求項45】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、サリドマイド、フィンゴリモド、抗血管新生薬、ヒドロキシクロロキンおよびグルココルチコイドから選択される、請求項20記載の方法。
(1)上気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(2)下気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(3)非呼吸器のACE-2陽性細胞および組織におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(4)肺、および他のACE-2陽性細胞および組織への、ウイルスの付着および侵入を防止または低減すること;
(5)肺、および他のACE2陽性細胞および組織における、ウイルス複製を防止または低減すること;および/または
(7)感染対象の上気道からのウイルス排出を防止または低減すること
から選択される、SARS-CoV-2ウイルス感染の防止および/または処置に関係する1つまたは複数の有意な臨床的利益を媒介するのに抗ウイルス的に有効である、請求項1記載の方法。
【請求項46】
哺乳動物対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置するための方法であって、
処置対象における、(1)呼吸困難; (2)肺における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの過剰な上昇; (3)肺実質および/または肺胞コンパートメントにおける単球/マクロファージ細胞および/または好中球のレベルの過剰な上昇; (4)肺の内皮バリアおよび/または上皮バリアの劣化または破壊; (5)肺における活性酸素種(ROS)のレベルの上昇によって決定されうる、肺組織における酸化ストレスの徴候の上昇; および/または(6)過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、肺実質へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、肺毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、肺の間質または実質における広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺および/または冠血管血栓症および血管炎から選択される肺傷害の1つまたは複数の病原性症状、から選択される1つまたは複数のARDS疾患状態および/または症状を、相当するプラセボ処置対照対象において測定され決定される同じARDS疾患指標/値と比較して、防止し、低減または除去するのに十分な、抗ARDS有効量のTPA組成物を、該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項47】
ARDSが、呼吸器のウイルスもしくは細菌感染、肺の熱傷もしくは化学熱傷傷害、肺外傷、または広範な肺の傷害および機能障害を媒介する免疫機能障害もしくは過剰炎症応答を惹起する他の疾患もしくは傷害によって引き起こされる、請求項46記載の方法。
【請求項48】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスによって引き起こされる、請求項46記載の方法。
【請求項49】
SARSコロナウイルスが、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスから選択されるヒトSARS(hSARS)コロナウイルスである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象における呼吸困難(努力呼吸、息切れまたは不十分な呼吸)、低酸素血症および/または人工呼吸器による補助の必要性の発生または重症度を防止または低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項51】
抗ARDS TPA化合物が、肺、血漿、またはARDS関連過剰炎症に関連づけられる他の細胞、組織もしくはコンパートメントにおける1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルおよび/または活性の過剰な上昇を防止または低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項52】
1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインが、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される、請求項46記載の方法。
【請求項53】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象において、肺実質および/または肺胞コンパートメントにおける単球/マクロファージ細胞および/または好中球のレベルの過剰な上昇を防止または低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項54】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象において、肺実質、肺胞コンパートメントおよび/または肺血管における好中球および関連する好中球細胞外トラップ(NET)の沈着のレベルの過剰な上昇を防止または低減するのに有効である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象における肺の内皮バリアおよび/または上皮バリアの劣化または破壊を防止または低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項56】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象の肺組織における酸化ストレスを、肺中の活性酸素種(ROS)を低減することなどによって、防止または低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項57】
抗ARDS TPA化合物が、ARDSに罹患した対象において、過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、肺実質へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、肺毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、肺の間質または実質における広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺血管および/または冠血管の血栓症、および血管炎から選択される肺傷害を防止するまたは前記肺傷害の程度を低減するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項58】
抗ARDS TPA化合物が、以下の式I:
、ならびにその抗ARDS活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択される、請求項46記載の方法。
【請求項59】
抗ARDS TPA化合物が、ホルボール13-ブチレート;ホルボール12-デカノエート;ホルボール13-デカノエート:ホルボール12,13-ジアセテート;ホルボール13,20-ジアセテート;ホルボール12,13-ジベンゾエート;ホルボール12,13-ジブチレート;ホルボール12,13-ジデカノエート;ホルボール12,13-ジヘキサノエート;ホルボール12,13-ジプロピオネート;ホルボール12-ミリステート;ホルボール13-ミリステート;ホルボール12,13,20-トリアセテート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート-20-アセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート;ホルボール12-チグリエート13-デカノエート;12-デオキシホルボール13-アセテート;ホルボール12-アセテート;ホルボール13-アセテート;ならびにその抗ARDS活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択されるホルボールエステルである、請求項46記載の方法。
【請求項60】
抗ARDS TPA化合物が、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテートである、請求項46記載の方法。
【請求項61】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断されてから2週間以内に、抗ARDS TPA化合物が初めて投与される、請求項46記載の方法。
【請求項62】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断された7~10日後に、抗ARDS TPA化合物が初めて投与される、請求項46記載の方法。
【請求項63】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、リスクが高まっている対象または感染したことがわかっている対象が、(1)2日以上持続する発熱; (2)肺うっ血、胸苦しさ、息切れおよび/または低酸素血症の下部呼吸器症状; (3)サイトカインストーム症候群(CSS);肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)から選択されるARDSと関連する状態または症状;および/または(4)小児炎症性多系統症候群(PIMS)、血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、および/または血小板減少症を含む、対象における重度の過剰免疫または過剰炎症応答によって媒介される他の任意の状態または症状、から選択される重症COVID-19疾患の1つまたは複数のインデックスを示す前に、抗ARDS TPA化合物が投与される、請求項46記載の方法。
【請求項64】
抗ARDS TPA化合物が、(1)肺うっ血、胸苦しさ、息切れおよび/または低酸素血症の下部呼吸器症状; (2)サイトカインストーム症候群(CSS); (3)肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS); および/または(4)小児炎症性多系統症候群(PIMS)、血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、および/または血小板減少症を含む、対象における重度の過剰免疫または過剰炎症応答によって媒介される他の状態または症状、から選択される(ARDS)と関連する1つまたは複数の疾患状態または症状を処置するのに有効である、請求項46記載の方法。
【請求項65】
抗ARDS TPA化合物が、(1)従来の抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質; (2)二次的な抗ARDS薬物もしくは作用物質; (3)抗CSS薬物もしくは作用物質; (4)抗PIMS薬物もしくは作用物質; (5)抗ESHS薬物もしくは作用物質; (6)抗DAD薬物もしくは作用物質;ならびに/または(7)抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/もしくはアポトーシス促進性の薬物もしくは作用物質;ならびにその組み合わせ、から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と、製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項46記載の方法。
【請求項66】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、抗ARDS TPA化合物が、二次的な抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質と製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプリジェン、アンプレナビル(Agenerase)、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル、バロキサビルマルボキシル(Xofluza)、ビクタルビ、ボセプレビル(Victrelis)、シドフォビル、コビシスタット(Tybost)、コンビビル、ダクラタスビル(Daklinza)、ダルナビル、デラビルジン、デシコビ、ジダノシン、ドコサノール、ドルテグラビル、ドラビリン(Pifeltro)、エコリーバー、エドクスジン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エトラビリン(Intelence)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害因子、ガンシクロビル(Cytovene)、イバシタビン、イバリズマブ(Trogarzo)、イドクスウリジン、イミキモド、イムノビル、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害因子、インターフェロンI型、インターフェロンII型、インターフェロンIII型、ラミブジン、レテルモビル(Prevymis)、ロピナビル、ロビリド、マラビロク、メチサゾン、モロキシジン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル、ニタゾキサニド、ノービア、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Tamiflu)、ペグインターフェロン・アルファ-2a、ペグインターフェロン・アルファ-2b、ペンシクロビル、ペラミビル(Rapivab)、プレコナリル、ポドフィロトキシン、ピラミジン、ラルテグラビル、レムデシビル、逆転写酵素阻害因子、リバビリン、リルピビリン(Edurant)、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、シメプレビル(Olysio)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テルビブジン(Tyzeka)、テノホビルアラフェナミド、テノホビルジソプロキシル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル(Valtrex)、バルガンシクロビル、ビクリビロック、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル(Relenza)、およびジドブジン、ならびにその組み合わせから選択される、請求項66記載の方法。
【請求項68】
二次的な薬物または作用物質が、抗ACE2薬物または作用物質である、請求項65記載の方法。
【請求項69】
二次的な薬物または作用物質が、抗炎症性の薬物または作用物質である、請求項65記載の方法。
【請求項70】
抗炎症性の薬物または作用物質が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から選択される、請求項69記載の方法。
【請求項71】
NSAIDが、アスピリン、セレコキシブ(Celebrex)、ジクロフェナク(Cambia、Cataflam、Voltaren-XR、Zipsor、Zorvolex)、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェン(Motrin、Advil)、インドメタシン(Indocin)、セレコキシブ(Celebrex)、ピロキシカム(Feldene)、インドメタシン(Indocin)、メロキシカム(Mobic Vivlodex)、ケトプロフェン(Orudis、ケトプロフェンER、Oruvail、Actron)、スリンダク(Clinoril)、ジフルニサル(Dolobid)、ナブメトン(Relafen)、オキサプロジン(Daypro)、トルメチン(トルメチンナトリウム、Tolectin)、サルサラート(Disalcid)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン(Ansaid)、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナメート、メフェナム酸(Ponstel)、およびその混合物を含む、請求項70記載の方法。
【請求項72】
二次的な薬物または作用物質が、サイトカイン阻害薬物または作用物質である、請求項65記載の方法。
【請求項73】
サイトカイン阻害薬物または作用物質が、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを阻害するまたは低下させるのに有効である、請求項72記載の方法。
【請求項74】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、TPA化合物とサイトカイン阻害薬とによる協調的多剤治療が、SARS-CoV-2感染、COVID-19疾患、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DAD、またはSARS-CoV-2感染によって媒介されるまたは悪化する他の過剰炎症状態と関連して過剰に上昇した1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを低減するために、(同じ投薬量のいずれかの薬物/作用物質のみによって与えられる利益と比べて)改良された、相加的な、相乗的な、および/または増強的な治療利益を与えるのに、組み合わせとして有効である、請求項72記載の方法。
【請求項75】
二次的な薬物または作用物質が、抗IL-6薬物または生物学的作用物質である、請求項65記載の方法。
【請求項76】
抗IL-6薬物または生物学的作用物質が、抗IL-6モノクローナル抗体もしくはFabフラグメント、可溶性IL-6受容体もしくは受容体類似物、またはそのコグネイト抗IL-6特異的結合もしくは不活化ドメインである、請求項75記載の方法。
【請求項77】
抗IL-6薬物または生物製剤が、シルツキシマブ、サリルマブ(Kevzara)およびトシリズマブ(TCZ)から選択される、請求項75記載の方法。
【請求項78】
抗IL-6薬物または生物製剤が、IL-6を直接的に遮断もしくは阻害するか、またはIL-6の炎症誘発活性を間接的に阻害し、低下させもしくは変化させる抗IL-6薬物である、請求項75記載の方法。
【請求項79】
抗IL-6薬物が、アンドログラフォリドである、請求項78記載の方法。
【請求項80】
二次的な薬物または作用物質が、キナーゼ調節性の薬物または作用物質である、請求項65記載の方法。
【請求項81】
キナーゼ調節性の薬物または作用物質が、炎症応答の媒介もしくは抑制、またはリンパ球、単球/マクロファージ細胞および/もしくは好中球を含む免疫および/もしくは炎症エフェクター細胞の分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成および/もしくはアポトーシス活性の制御に関与する、1つまたは複数のキナーゼの免疫または炎症活性を、直接的または間接的に阻害し、低下させ、活性化し、または変化させる、請求項80記載の方法。
【請求項82】
前記キナーゼ調節薬物または作用物質が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/またはプロテインキナーゼC(PKC)を調節する、請求項81記載の方法。
【請求項83】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、前記TPA化合物と前記キナーゼ調節薬物とによるCOVID-19疾患対象の協調的処置が、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHSおよびDADと関連する1つまたは複数の状態または症状を含む、重症SARS-CoV-2感染と関連する1つまたは複数の疾患状態または症状を臨床的に低減する、請求項65記載の方法。
【請求項84】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、二次的な薬物または作用物質が抗SARS-CoV-2ワクチン剤である、請求項65記載の方法。
【請求項85】
二次的な薬物または作用物質が、条件付けされたナチュラルキラー(NK)細胞を含む組成物である、請求項65記載の方法。
【請求項86】
二次的な薬物または作用物質が、条件付けされた間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物である、請求項65記載の方法。
【請求項87】
二次的な薬物または作用物質が、組換えインターフェロンである、請求項65記載の方法。
【請求項88】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、二次的な薬物または作用物質が、静注用に製剤化された免疫グロブリンである、請求項65記載の方法。
【請求項89】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、二次的な薬物または作用物質が、SARS-CoV-2特異的な中和抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項65記載の方法。
【請求項90】
二次的な薬物または作用物質が、C5a特異的な抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項65記載の方法。
【請求項91】
二次的な薬物または作用物質が、サリドマイド、フィンゴリモド、抗血管新生薬、ヒドロキシクロロキンおよびグルココルチコイドから選択される、請求項65記載の方法。
【請求項92】
ARDSが、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによって引き起こされ、抗ARDS TPA化合物および二次的な薬物または作用物質が、
(1)上気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(2)下気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(3)非呼吸器のACE-2陽性細胞および組織におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(4)肺、および他のACE-2陽性細胞および組織への、ウイルスの付着および侵入を防止または低減すること;
(5)肺、および他のACE2陽性細胞および組織における、ウイルス複製を防止または低減すること;および/または
(7)感染対象の上気道からのウイルス排出を防止または低減すること
から選択される、SARS-CoV-2ウイルス感染およびCOVID-19疾患の防止および/または処置に関係する1つまたは複数の有意な臨床的利益を媒介するのに、組み合わせとして有効である、請求項65記載の方法。
【請求項93】
サイトカインストーム症候群(CSS)、小児炎症性多系統症候群(PIMS)、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)全般、または、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および/もしくは壊疽を含む、過剰炎症が引き起こす血管のうっ血もしくは血栓状態を患っている哺乳動物対象における免疫機能障害または過剰炎症を処置するための方法であって、抗炎症有効量のTPA化合物を対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項94】
対象が、突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスによる感染のリスクが高まっているか、または突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスに感染しており、抗炎症性TPA化合物が、対象における抗CSS応答を媒介するのに有効である、請求項93記載の方法。
【請求項95】
抗CSS応答が、処置対照における、(1)過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの過剰な上昇; (2)過剰炎症を起こしている肺実質、肺胞コンパートメントまたは他の組織もしくは器官部位における単球/マクロファージ細胞および/または好中球のレベルの過剰な上昇; (3)過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位における内皮バリアおよび/または上皮バリアの劣化または破壊; (4)活性酸素種(ROS)のレベルの上昇によって決定されうる、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位における酸化ストレスの徴候の上昇;および/または(5)過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、過剰炎症を起こしている肺実質または他の組織もしくは器官部位へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位の毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺の間質もしくは実質または他の組織もしくは器官部位における広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺血管および/または冠血管の血栓症、および/または血管炎、から選択される組織または器官傷害の1つまたは複数の病原性症状、から選択される1つまたは複数のCSS関連状態または症状の防止または低減を含む、請求項94記載の方法。
【請求項96】
対象がCSSを呈し、TPA化合物が、処置対象において、(1)CSSに罹患した細胞または組織における炎症誘発性サイトカインの活性化、発現および/またはレベルの過剰な上昇; (2)肺実質、肺胞気腔、またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官におけるマクロファージおよび/または好中球の浸潤の増加および/または数の上昇; (3)リンパ球数の低下を特徴とするリンパ球減少症; (4)酸化ストレスマーカーの上昇; (5)肺、またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官における内皮バリアおよび/または上皮バリアの炎症性傷害; (6)肺またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官/器官の病原性線維症または他の病的炎症性傷害; (7)リンパ節の炎症性傷害、喪失または萎縮; (8)脾臓の炎症性傷害または萎縮; (9)敗血症; (10)毒素性ショック症候群(TSS); (11)酸化ストレス症状;および/または(12)過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、過剰炎症を起こしている肺実質または他の組織もしくは器官部位へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位の毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺の間質もしくは実質または他の組織もしくは器官部位における広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺血管および/または冠血管の血栓症、および/または血管炎から選択される、組織または器官傷害の1つまたは複数の病原性症状、から選択されるCSSと関連する1つまたは複数の状態、症状または診断インデックスの少なくとも25%の低減を誘発する抗CSS効果のあるTPA化合物である(各指標/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)、請求項93記載の方法。
【請求項97】
抗CSS TPA化合物が、CSSと関連する炎症誘発性サイトカインの制御異常および過剰上昇を防止または低減するのに有効であり、処置対象が、1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの過剰な上昇の少なくとも25%の低減を示す、請求項96記載の方法。
【請求項98】
抗炎症性TPA化合物が、肺、血漿、またはARDS関連過剰炎症に関連づけられる他の細胞、組織もしくはコンパートメントにおける1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルおよび/または活性の過剰な上昇を防止または低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項99】
1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインが、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される、請求項98記載の方法。
【請求項100】
抗炎症性TPA化合物が、CSSに罹患した対象において、過剰炎症を起こしている肺実質、肺胞コンパートメント、または他の組織もしくは器官部位における単球/マクロファージ細胞および/または好中球のレベルの過剰な上昇を防止または低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項101】
抗炎症性TPA化合物が、CSSに罹患した対象において、過剰炎症を起こしている肺実質、肺胞コンパートメント、肺血管、または他の組織もしくは器官部位における好中球のレベルの過剰な上昇および関連する好中球細胞外トラップ(NET)の沈着を防止または低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項102】
抗炎症性TPA化合物が、CSSに罹患した対象において、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位における内皮バリアおよび/または上皮バリアの劣化または破壊を防止または低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項103】
抗炎症性TPA化合物が、CSSに罹患した対象において、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位における酸化ストレスを防止または低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項104】
抗炎症性TPA化合物が、CSSに罹患した対象において、過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、過剰炎症を起こしている肺実質または他の組織もしくは器官部位へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺または他の組織もしくは器官部位の毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、過剰炎症を起こしている肺の間質もしくは実質または他の組織もしくは器官部位における広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺血管および/または冠血管の血栓症、および血管炎から選択される過剰炎症組織または器官傷害を防止するまたはその程度を低減するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項105】
抗炎症性TPA化合物が、以下の式I:
、ならびにその抗炎症活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択される、請求項94記載の方法。
【請求項106】
抗炎症性TPA化合物が、ホルボール13-ブチレート;ホルボール12-デカノエート;ホルボール13-デカノエート;ホルボール12,13-ジアセテート;ホルボール13,20-ジアセテート;ホルボール12,13-ジベンゾエート;ホルボール12,13-ジブチレート;ホルボール12,13-ジデカノエート;ホルボール12,13-ジヘキサノエート;ホルボール12,13-ジプロピオネート;ホルボール12-ミリステート;ホルボール13-ミリステート;ホルボール12,13,20-トリアセテート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート-20-アセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート;ホルボール12-チグリエート13-デカノエート;12-デオキシホルボール13-アセテート;ホルボール12-アセテート;ホルボール13-アセテート;ならびにその抗炎症活性類似体、誘導体、複合体、コンジュゲート、塩、エナンチオマーおよび混合物から選択されるホルボールエステルである、請求項94記載の方法。
【請求項107】
抗炎症性TPA化合物が、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテートである、請求項94記載の方法。
【請求項108】
対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断されてから2週間以内に、抗炎症性TPA化合物が初めて投与される、請求項94記載の方法。
【請求項109】
対象が最初にSARS-CoV-2感染と診断された7~10日後に、抗炎症性TPA化合物が初めて投与される、請求項94記載の方法。
【請求項110】
リスクが高まっている対象または感染したことがわかっている対象が、(1)2日以上持続する発熱; (2)肺うっ血、胸苦しさ、息切れおよび/または低酸素血症の下部呼吸器症状; (3)サイトカインストーム症候群(CSS);肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)から選択されるARDSと関連する状態または症状;および/または(4)小児炎症性多系統症候群(PIMS)、血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、および/または血小板減少症を含む、対象における重度の過剰免疫または過剰炎症応答によって媒介される他の任意の状態または症状、から選択される重症COVID-19疾患の1つまたは複数のインデックスを示す前に、抗炎症性TPA化合物が投与される、請求項94記載の方法。
【請求項111】
抗炎症性TPA化合物が、(1)肺うっ血、胸苦しさ、息切れおよび/または低酸素血症の下部呼吸器症状; (2)肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS);および/または(3)小児炎症性多系統症候群(PIMS)、血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、および/または血小板減少症を含む、対象における重度の過剰免疫または過剰炎症応答によって媒介される他の状態または症状、から選択される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と関連する1つまたは複数の疾患状態または症状を処置するのに有効である、請求項94記載の方法。
【請求項112】
抗炎症性TPA化合物が、(1)従来の抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質; (2)二次的な抗CSS薬物もしくは作用物質; (3)抗ARDS薬物もしくは作用物質; (4)抗PIMS薬物もしくは作用物質; (5)抗ESHS薬物もしくは作用物質; (6)抗DAD薬物もしくは作用物質;ならびに/または(7)抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/もしくはアポトーシス促進性の薬物もしくは作用物質;ならびにその組み合わせ、から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と、製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項94記載の方法。
【請求項113】
抗炎症性TPA化合物が、二次的な抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質と製剤化され、同時に投与されるか、または協調的多剤予防もしくは処置プロトコールで同時にもしくは逐次的に協調的に投与される、請求項94記載の方法。
【請求項114】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプリジェン、アンプレナビル(Agenerase)、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル、バロキサビルマルボキシル(Xofluza)、ビクタルビ、ボセプレビル(Victrelis)、シドフォビル、コビシスタット(Tybost)、コンビビル、ダクラタスビル(Daklinza)、ダルナビル、デラビルジン、デシコビ、ジダノシン、ドコサノール、ドルテグラビル、ドラビリン(Pifeltro)、エコリーバー、エドクスジン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エトラビリン(Intelence)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害因子、ガンシクロビル(Cytovene)、イバシタビン、イバリズマブ(Trogarzo)、イドクスウリジン、イミキモド、イムノビル、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害因子、インターフェロンI型、インターフェロンII型、インターフェロンIII型、ラミブジン、レテルモビル(Prevymis)、ロピナビル、ロビリド、マラビロク、メチサゾン、モロキシジン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル、ニタゾキサニド、ノービア、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Tamiflu)、ペグインターフェロン・アルファ-2a、ペグインターフェロン・アルファ-2b、ペンシクロビル、ペラミビル(Rapivab)、プレコナリル、ポドフィロトキシン、ピラミジン、ラルテグラビル、レムデシビル、逆転写酵素阻害因子、リバビリン、リルピビリン(Edurant)、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、シメプレビル(Olysio)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テルビブジン(Tyzeka)、テノホビルアラフェナミド、テノホビルジソプロキシル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル(Valtrex)、バルガンシクロビル、ビクリビロック、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル(Relenza)、およびジドブジン、ならびにその組み合わせから選択される、請求項113記載の方法。
【請求項115】
二次的な薬物または作用物質が、抗ACE2薬物または作用物質である、請求項112記載の方法。
【請求項116】
二次的な薬物または作用物質が、抗炎症性の薬物または作用物質である、請求項112記載の方法。
【請求項117】
抗炎症性の薬物または作用物質が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から選択される、請求項116記載の方法。
【請求項118】
NSAIDが、アスピリン、セレコキシブ(Celebrex)、ジクロフェナク(Cambia、Cataflam、Voltaren-XR、Zipsor、Zorvolex)、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェン(Motrin、Advil)、インドメタシン(Indocin)、セレコキシブ(Celebrex)、ピロキシカム(Feldene)、インドメタシン(Indocin)、メロキシカム(Mobic Vivlodex)、ケトプロフェン(Orudis、ケトプロフェンER、Oruvail、Actron)、スリンダク(Clinoril)、ジフルニサル(Dolobid)、ナブメトン(Relafen)、オキサプロジン(Daypro)、トルメチン(トルメチンナトリウム、Tolectin)、サルサラート(Disalcid)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン(Ansaid)、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナメート、メフェナム酸(Ponstel)、およびその混合物を含む、請求項117記載の方法。
【請求項119】
二次的な薬物または作用物質が、サイトカイン阻害薬物または作用物質である、請求項112記載の方法。
【請求項120】
サイトカイン阻害薬物または作用物質が、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを阻害するまたは低下させるのに有効である、請求項119記載の方法。
【請求項121】
TPA化合物とサイトカイン阻害薬とによる協調的多剤治療が、SARS-CoV-2感染、COVID-19疾患、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DAD、またはSARS-CoV-2感染によって媒介されるまたは悪化する他の過剰炎症状態と関連して過剰に上昇した1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを低減するために、(同じ投薬量のいずれかの薬物/作用物質のみによって与えられる利益と比べて)改良された、相加的な、相乗的な、および/または増強的な治療利益を与えるのに、組み合わせとして有効である、請求項112記載の方法。
【請求項122】
二次的な薬物または作用物質が、抗IL-6薬物または生物学的作用物質である、請求項112記載の方法。
【請求項123】
抗IL-6薬物または生物学的作用物質が、抗IL-6モノクローナル抗体もしくはFabフラグメント、可溶性IL-6受容体もしくは受容体類似物、またはそのコグネイト抗IL-6特異的結合もしくは不活化ドメインである、請求項122記載の方法。
【請求項124】
抗IL-6薬物または生物製剤が、シルツキシマブ、サリルマブ(Kevzara)およびトシリズマブ(TCZ)から選択される、請求項122記載の方法。
【請求項125】
抗IL-6薬物または生物製剤が、IL-6を直接的に遮断もしくは阻害するか、またはIL-6の炎症誘発活性を間接的に阻害し、低下させもしくは変化させる抗IL-6薬物である、請求項122記載の方法。
【請求項126】
抗IL-6薬物が、アンドログラフォリドである、請求項125記載の方法。
【請求項127】
二次的な薬物または作用物質が、キナーゼ調節性の薬物または作用物質である、請求項112記載の方法。
【請求項128】
キナーゼ調節性の薬物または作用物質が、炎症応答の媒介もしくは抑制、またはリンパ球、単球/マクロファージ細胞および/もしくは好中球を含む免疫および/もしくは炎症エフェクター細胞の分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成および/もしくはアポトーシス活性の制御に関与する、1つまたは複数のキナーゼの免疫または炎症活性を、直接的または間接的に阻害し、低下させ、活性化し、または変化させる、請求項127記載の方法。
【請求項129】
前記キナーゼ調節薬物または作用物質が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/またはプロテインキナーゼC(PKC)を調節する、請求項127記載の方法。
【請求項130】
前記TPA化合物と前記キナーゼ調節薬物とによるCOVID-19疾患対象の協調的処置が、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHSおよびDADと関連する1つまたは複数の状態または症状を含む、重症SARS-CoV-2感染と関連する1つまたは複数の疾患状態または症状を臨床的に低減する、請求項127記載の方法。
【請求項131】
二次的な薬物または作用物質が、抗SARS-CoV-2ワクチン剤である、請求項112記載の方法。
【請求項132】
二次的な薬物または作用物質が、条件付けされたナチュラルキラー(NK)細胞を含む組成物である、請求項112記載の方法。
【請求項133】
二次的な薬物または作用物質が、条件付けされた間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物である、請求項112記載の方法。
【請求項134】
二次的な薬物または作用物質が、組換えインターフェロンである、請求項112記載の方法。
【請求項135】
二次的な薬物または作用物質が、静注用に製剤化された免疫グロブリンである、請求項112記載の方法。
【請求項136】
二次的な薬物または作用物質が、SARS-CoV-2特異的な中和抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項112記載の方法。
【請求項137】
二次的な薬物または作用物質が、C5a特異的な抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメインを含む、請求項112記載の方法。
【請求項138】
二次的な薬物または作用物質が、サリドマイド、フィンゴリモド、抗血管新生薬、ヒドロキシクロロキンおよびグルココルチコイドから選択される、請求項112記載の方法。
【請求項139】
抗炎症性TPA化合物および二次的な薬物または作用物質が、
(1)上気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(2)下気道におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(3)非呼吸器のACE-2陽性細胞および組織におけるウイルス感染またはウイルス力価を防止または低減すること;
(4)肺、および他のACE-2陽性細胞および組織への、ウイルスの付着および侵入を防止または低減すること;
(5)肺、および他のACE2陽性細胞および組織における、ウイルス複製を防止または低減すること;および/または
(7)感染対象の上気道からのウイルス排出を防止または低減すること
から選択される、SARS-CoV-2ウイルス感染およびCOVID-19疾患の防止および/または処置に関係する1つまたは複数の有意な臨床的利益を媒介するのに、組み合わせとして有効である、請求項112記載の方法。
【請求項140】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ウイルス効果のあるTPA化合物を含む、SARS-CoV-2ウイルスが媒介するCOVID-19疾患に関する医学的リスク因子を呈するヒト対象またはSARS-CoV-2ウイルスによる感染に関して陽性の診断結果を呈する患者において使用するための抗ウイルス組成物またはキット。
【請求項141】
二次的な抗ウイルス性の薬物または作用物質が、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプリジェン、アンプレナビル(Agenerase)、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル、バロキサビルマルボキシル(Xofluza)、ビクタルビ、ボセプレビル(Victrelis)、シドフォビル、コビシスタット(Tybost)、コンビビル、ダクラタスビル(Daklinza)、ダルナビル、デラビルジン、デシコビ、ジダノシン、ドコサノール、ドルテグラビル、ドラビリン(Pifeltro)、エコリーバー、エドクスジン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エトラビリン(Intelence)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害因子、ガンシクロビル(Cytovene)、イバシタビン、イバリズマブ(Trogarzo)、イドクスウリジン、イミキモド、イムノビル、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害因子、インターフェロンI型、インターフェロンII型、インターフェロンIII型、ラミブジン、レテルモビル(Prevymis)、ロピナビル、ロビリド、マラビロク、メチサゾン、モロキシジン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル、ニタゾキサニド、ノービア、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Tamiflu)、ペグインターフェロン・アルファ-2a、ペグインターフェロン・アルファ-2b、ペンシクロビル、ペラミビル(Rapivab)、プレコナリル、ポドフィロトキシン、ピラミジン、ラルテグラビル、レムデシビル、逆転写酵素阻害因子、リバビリン、リルピビリン(Edurant)、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、シメプレビル(Olysio)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テルビブジン(Tyzeka)、テノホビルアラフェナミド、テノホビルジソプロキシル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル(Valtrex)、バルガンシクロビル、ビクリビロック、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル(Relenza)、およびジドブジン、ならびにその組み合わせから選択される、請求項140記載の抗ウイルス薬学的組成物またはキット。
【請求項142】
(1)従来の抗ウイルス性の薬物もしくは作用物質; (2)二次的な抗ARDS薬物もしくは作用物質; (3)抗CSS薬物もしくは作用物質、(4)抗PIMS薬物もしくは作用物質; (5)抗ESHS薬物もしくは作用物質; (6)抗DAD薬物もしくは作用物質;ならびに/または(7)抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/もしくはアポトーシス促進性の薬物もしくは作用物質;ならびにその組み合わせ、から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための薬学的組成物またはキット。
【請求項143】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための、薬学的組成物またはキット。
【請求項144】
NSAIDが、アスピリン、セレコキシブ(Celebrex)、ジクロフェナク(Cambia、Cataflam、Voltaren-XR、Zipsor、Zorvolex)、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェン(Motrin、Advil)、インドメタシン(Indocin)、セレコキシブ(Celebrex)、ピロキシカム(Feldene)、インドメタシン(Indocin)、メロキシカム(Mobic Vivlodex)、ケトプロフェン(Orudis、ケトプロフェンER、Oruvail、Actron)、スリンダク(Clinoril)、ジフルニサル(Dolobid)、ナブメトン(Relafen)、オキサプロジン(Daypro)、トルメチン(トルメチンナトリウム、Tolectin)、サルサラート(Disalcid)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン(Ansaid)、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナメート、メフェナム酸(Ponstel)、およびその混合物を含む、請求項143記載の薬学的組成物。
【請求項145】
サイトカイン阻害薬物および作用物質から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための、薬学的組成物またはキット。
【請求項146】
サイトカイン阻害薬物または作用物質が、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)、ならびにその組み合わせから選択される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを阻害しまたは低下させるのに有効である、請求項145記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項147】
抗IL-6薬物および生物学的作用物質から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための、薬学的組成物またはキット。
【請求項148】
抗IL-6薬物または生物学的作用物質が、抗IL-6モノクローナル抗体もしくはFabフラグメント、可溶性IL-6受容体もしくは受容体類似物、またはそのコグネイト抗IL-6特異的結合もしくは不活化ドメインである、請求項147記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項149】
抗IL-6薬物または生物製剤が、シルツキシマブ、サリルマブ(Kevzara)およびトシリズマブ(TCZ)から選択される、請求項147記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項150】
抗IL-6薬物または生物製剤が、IL-6を直接的に遮断もしくは阻害するか、またはIL-6の炎症誘発活性を間接的に阻害し、低下させもしくは変化させる抗IL-6薬物である、請求項147記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項151】
抗IL-6薬物が、アンドログラフォリドである、請求項150記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項152】
キナーゼ調節性の薬物および作用物質から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための、薬学的組成物またはキット。
【請求項153】
キナーゼ調節性の薬物または作用物質が、炎症応答の媒介もしくは抑制、またはリンパ球、単球/マクロファージ細胞および/もしくは好中球を含む免疫および/もしくは炎症エフェクター細胞の分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成および/もしくはアポトーシス活性の制御に関与する、1つまたは複数のキナーゼの免疫または炎症活性を、直接的または間接的に阻害し、低下させ、活性化し、または変化させる、請求項152記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項154】
前記キナーゼ調節薬物または作用物質が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/またはプロテインキナーゼC(PKC)を調節する、請求項152記載の薬学的組成物またはキット。
【請求項155】
突発性急性呼吸器症候群(SARS)-2(SARS-CoV-2またはCOVID-19)コロナウイルスワクチン剤から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための、薬学的組成物またはキット。
【請求項156】
インターフェロン薬物または作用物質; 静注用に製剤化された免疫グロブリン;SARS-CoV-2特異的な中和抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメイン;C5a特異的な抗体、Fabフラグメントまたは抗体結合ドメイン;サリドマイド;フィンゴリモド;抗血管新生薬;ヒドロキシクロロキン;およびグルココルチコイド、ならびにその組み合わせ、から選択される二次的な治療用または予防用の薬物または作用物質と共に製剤化または包装された抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む、哺乳動物対象における急性呼吸器症候群(ARDS)の防止または処置に使用するための薬学的組成物またはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染および他の作用物質が媒介する肺ウイルス感染ならび関連する肺および他の器官の炎症性および免疫疾患状態を処置するための治療的および予防的組成物および方法に関する。一定の態様において、本発明は、ウイルス病原体、細菌病原体、腐食剤、外傷、熱傷、または肺傷害もしくは免疫系傷害の他の発生源、または炎症性傷害もしくは炎症性刺激の他の発生源が引き起こす、急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)または重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)を処置するための方法および組成物に関する。より具体的な態様において、本発明は、SARSコロナウイルスまたは他の呼吸器ウイルスが引き起こす、肺ウイルス感染ならびに付随する肺疾患症状および炎症性疾患症状、ARDS/SARSを処置および防止するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(別名「成人呼吸窮迫症候群」)は、結果的に肺不全、入院加療および救命治療に至ることが多い重篤な病態である。ARDSは、肺および肺以外のさまざまな原因、例えばウイルス性または細菌性の肺炎、胃内容物の吸引、高温気体または腐食剤の吸入、肺挫傷または他の肺外傷、敗血症、急性膵炎その他の原因によって惹起されうる。現在最も注目を集めているARDSの原因は、SARSコロナウイルスSARS-CoV-2が引き起こす進行中のCOVID-19疾患パンデミックから出現している。
【0003】
コロナウイルスはエンベロープを持つ一本鎖プラス鎖(positive-sense single-stranded)RNAウイルスである。これらは公知のRNAウイルスの中で最も大きなゲノム(26~32kb)を有する。コロナウイルスは、広範な鳥類種およびヒトを含む哺乳動物種に感染する。公知である6つのヒトコロナウイルスのうち、4つ(HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1およびHCoV-NL63)は、各国のヒト集団内で毎年循環しており、乳児、高齢者および免疫不全状態の人々では重症度が高くなる場合もあるものの、一般的には軽度の呼吸器疾患を引き起こす。
【0004】
対照的に、最近のいくつかのコロナウイルス大流行(outbreak)は、人々に苛酷な健康上および経済上の影響をもたらしている。これらの「新規」コロナウイルスはいずれも重症例ではARDSを誘発した(コロナウイルス疾患との関連では特に「重症急性呼吸器症候群」(SARS)と呼ばれる。ARDS/SARSを引き起こすことができるコロナウイルスには、2002年に中国広東省において出現した最初の「SARS」ウイルス(SARS-CoV)、および武漢市に出現して初めて同定されたCOVID-19(SARS-CoV-2)コロナウイルス(別名「COVID-19ウイルス」)、ならびに中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス(MERS-CoV)が含まれる。SARS/MERSコロナウイルスはすべて、消耗性の気道感染を伴う最重症例の至近要因として、ARDSを誘発する。
【0005】
各SARSコロナウイルス(SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2)は過去20年間以内に人畜共通感染によって他の哺乳動物種からヒトに伝達され、致死率の高い大流行を引き起こした。キクガシラコウモリがこれらの新規コロナウイルスの一次病原体保有体であると考えられるが、このウイルスをヒトに伝染させた中間宿主は、SARS-CoVの場合はハクビシン、MERS-CoVの場合はヒトコブラクダであると同定されている。SARS-CoV-2の場合、この最も新しいSARSコロナウイルスは、華南生鮮市場における密輸/取引対象としてのマレーセンザンコウ(学名Manis javanica)からヒト集団に伝染したことを、最近のメタゲノム研究は強く示している[Lam et al.,2020)。SARS-CoVおよびMERS-CoVの高い病原性と空気伝染性から、新たなコロナウイルスパンデミックが起こる可能性が何年にもわたって懸念されていたが、その末の、目下のCOVID-19パンデミックである。
【0006】
2019年12月以降、COVID-19の大流行は世界中の人口に急速に伝播し続けている。COVID-19ウイルスは、空気伝染(呼気中の飛沫)および接触伝染による伝染性が高く、症状出現前の保有者および無症状保有者による伝染も起こりうることが、現在公知である。2020年3月11日に世界保健機関(WHO)はCOVID-19の大流行をパンデミックであると言明した。2020年5月17日時点で、475万例を超えるCOVID-19例が同定され、およそ213カ国で314,000例の死を引き起こしている。
【0007】
COVID-19肺炎の臨床経過は、広スペクトルの重症度および進行パターンを呈する。一部の患者では発病後、中央値で8日(5~13日の範囲)以内に、呼吸困難(息切れ)が発生する一方、別の患者では呼吸窮迫がないこともある。患者のおおよそ3~30%が集中治療のための入院を必要とする。重症患者が多臓器機能障害への急速な進行を呈して、死に至ることもある。息切れおよび低酸素血症を呈する患者は、ほんの数日以内に、通常は約1週間以内に、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、ショックを伴う重症敗血症、さらには多臓器機能障害へと、迅速に進行する場合がある。ARDSは、COVID-19入院患者のおおよそ15~30%において記述されており、症状発現後、平均8日目に現われる(Tu et al.,2020)。
【0008】
COVID-19疾患は、大半の人々では中等度であるか、または無症候性でさえありうるが、感染した対象の約20%は重度の症状を生じる。COVID-19の罹病率および死亡率は、高齢者および肺疾患、心臓疾患、糖尿病、がんまたは他の深刻な健康状態を基礎に持つ対象の間では、とりわけ高い。ARDS/SARSを呈する患者のうち少数は致死的症例となり、結果的に、しばしば敗血症性ショックを伴う呼吸不全および多臓器不全に至る。
【0009】
ARDS/SARSの病理発生は、肺実質の炎症、肺胞気腔への好中球の浸潤、酸化ストレス、内皮バリアおよび上皮バリアの破壊、上皮被覆層(epithelial lining)の損傷とそれに続く肺線維症を初めとする、炎症性、免疫学的、組織/器官傷害を伴う。
【0010】
ARDSの機序および病理発生に関する知識が我々にはかなりあるにも関わらず、20年を超える広範な臨床研究でも、ARDSを防止しまたはその死亡率を実質的に低減するための有効な処置を得ることはできていない(Fanelli et al.,2013)。第一選択ARDS処置は、依然として、主として支持的であり、患者への酸素投与または人工呼吸および患者の体液平衡の厳格な管理からなる。
【0011】
COVID-19疾患の場合は、本発明者らの研究および他の研究者らの研究が、重症COVID-19患者においてARDSを引き起こす決定的炎症機序を指摘している。重症COVID-19疾患の一般的症状には、(1)1~2週間後の疾患の急速な悪化、(2)血中のリンパ球、とりわけナチュラルキラー(NK)細胞の有意な低下、(3)炎症誘発性サイトカイン(IL-6、TNFα、IL-8その他)および他の炎症性因子、例えばC反応性タンパク質(CRP)の上昇、ならびに(4)脾臓およびリンパ節の萎縮、およびリンパ器官中のリンパ球の低下を特徴とする重度の免疫障害が含まれる。重症COVID-19患者によく観察される他の続発症には、肺病変への単球およびマクロファージの浸潤とごくわずかなリンパ球浸潤、ならびに凝固亢進および多臓器損傷を伴う血管炎の一形態が含まれる。
【0012】
現在では、過剰炎症状態の出現がCOVID-19に感染した小児の小さな部分集団において確認されており、これは現在、小児炎症性多系統症候群(Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome:PIMS)と呼ばれている。この川崎様疾患は、イタリアにおける第一報と、ニューヨーク、ニュージャージー、マサチューセッツおよび英国における類例の並行した報告によって明らかにされたように、世界的なCOVID-19パンデミックの真っ只中で出現している。稀ではあるが、PIMSの影響は苛酷であり、生命にかかわる可能性がある。
【0013】
集まりつつあるデータは、PIMSがSARS-CoV-2感染に対する異常免疫応答であって、遺伝的素因を有する小児患者において川崎病様疾患を引き起こすことを明らかにしている。COVID-19関連PIMSの一般的症状には、発熱、発疹、眼の充血、口の乾燥またはひび割れ(dry or cracked mouth,)、手掌および足底における発赤、および腺の腫大が含まれる。小児の約4分の1が心臓合併症を有する。COVID-19関連PIMSにおける異常免疫反応は、血管の炎症および腫大をもたらし、時には冠動脈瘤を伴う。
【0014】
イタリアにおける最初の観察コホート研究(2020年5月13日にVerdoniらによりLancetにおいて公表された)によれば、2020年3月17日~4月14日の間にPIMSと診断された10人の小児のうち8人が、COVID-19陽性の検査結果を示した(残り2人の被験者についてはSARS-CoV-2検査が偽陰性であった可能性が強い)。このイタリアでの研究は、このCOVID-19コホートに関するデータを、パンデミック前に過去5年間にわたって川崎病と診断された19人の小児に関するデータと比較した。パンデミック前は、平均すると、同じ管轄集団において3ヶ月ごとに1人の川崎病患者が同定されていたことから、COVID0-19大流行中のこの研究期間についてはPIMSが30倍増加したことになる。
【0015】
COVID-19パンデミック中に診断されたイタリアの研究におけるPIMSを持つ小児は、過去5年間に古典的な川崎病について処置された小児達よりも重度な症状を呈した。10人の新しい患者のうち6人(60%)が心臓合併症を呈したが、これに比して、以前に処置された川崎病対象では、19人中2人(11%)でしかなかった。COVID-19パンデミック中に診断されたイタリアの研究における小児10人中5人(50%)は毒素性ショック症候群(TSS)の症状を呈し、低血圧を矯正するために輸液蘇生を必要としたのに対し、COVID-19大流行前に診断された19人の川崎病対象にこの合併症を起こした者はいなかった。TSSは、高熱、低血圧および発疹を特徴とし、通常は細菌感染によって引き起こされる、生命にかかわる稀な疾病である。
【0016】
イタリアの研究におけるPIMS患者の処置では免疫グロブリン治療が行われ、10人中8人の患者にはステロイド処置も必要だった(これに比して、COVID-19前の川崎病研究群では19人中3人でしかなかった)。イタリアにおいてパンデミック中に入院した小児は、それ以前に診断された小児より年長でもあった(平均年齢7.5歳対3歳)。10人中7人の小児は男児だった。
【0017】
米国疾病管理予防センター(CDC)は、現在、PIMSとCOVID-19との関連を認めている。ニューヨーク市衛生局は現在までに145例のPIMS(小児多系統炎症性症候群(multi-system inflammatory syndrome in children:MISC)とも呼ばれる)小児を同定している。
【0018】
PIMSに関与する機序を理解することは、ヒトSARS-CoV-2免疫応答を、成人についても小児についても、より広く解明して、両方の群における多様なCOVID-19疾患症状を緩和するのに役立つ抗炎症処置のツールおよび方法の研究および開発に指針を与える助けになるだろう。
【0019】
COVID-19疾患の重症例において誘発される炎症誘発性サイトカインの過剰な活性は一般に「サイトカインストーム」と呼ばれている。「サイトカインストーム症候群」(CSS)(「サイトカイン放出症候群」(cytokine release syndrome)、すなわちCRSとも呼ばれる)は、一般に、潜在的に生命にかかわる過剰な炎症につながる、炎症誘発性サイトカインおよび他の炎症性因子の、抑制のない過剰な放出を示す。CSSは、さまざまな感染性疾患、リウマチ性疾患、自己免疫障害と、また腫瘍免疫治療を受けている一部の対象において、相互関係が示されている。
【0020】
感染性疾患の場合、CSSは通常、限局的な感染領域から生じるが、身体全体に急速に伝播しうる。COVID-19および他のSARSコロナウイルス(SARS-CoVおよびMERS)は、重症例では、ARDS/SARS(結果的に、最も重い症例では肺不全および死に至る、急性の肺の炎症および傷害)につながる、急速なウイルス複製、広範な炎症細胞浸潤、およびCSSを伴って顕在化する。COVID-19疾患と関連するCSSは、全身性炎症、血管炎、多臓器不全、および重症例では潜在的に卒中につながる凝固亢進をもたらす場合もある。
【0021】
重症COVID-19患者は、以前にSARS-CoV対象およびMERS対象において観察されたCSS症状に類似する上昇した炎症誘発性サイトカインプロファイルを呈する。Huangら(2020)は、重篤なCOVID-19疾患を持つ患者では、一連の多様な炎症誘発性サイトカインおよび他の炎症性因子が上昇していることを報告した。Huangとその同僚は、41人のCOVID-19入院患者(ICUが13人、非ICUが28人)において、インターロイキン(IL)-1B、IL-1RA、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、線維芽細胞増殖因子(FGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、IFNγ、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10)、単球化学誘引物質タンパク質(MCP1)、マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子(TNFα)および血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルの増加を報告した。Huangとその共同研究者は、より重症なICU患者では、IL-2、IL-7、IL-10、G-CSF、IP10、MCP1、MIP1A、TNFαが、非ICU患者よりも高いことを報告した(Huang et al,2020、Conti et al,2020]。注目すべきことに、Huangらの研究では、血清中IL-6レベルについては、ICU患者と非ICU患者との間で差が報告されていない。
【0022】
インターロイキン-1(IL-1)などの炎症誘発性サイトカインは、限局性炎症および全身性炎症の重要な媒介因子である。ウイルス感染によって刺激されると、IL-1は、組織炎症、発熱および線維症に根本的な役割を果たす。IL-1はマクロファージを活性化し、マクロファージは感染細胞および死細胞に対して貪食活動を行うと共に、他の炎症性因子を放出する。したがって、サイトカインによって誘導されたマクロファージは、COVID-19の過剰な炎症と、それに付随する肺の病理発生において、中心的役割を果たす。
【0023】
他の炎症誘発性サイトカインは、CSSが媒介するSARS-CoVおよびCOVID-19疾患の臨床的進行に関係づけられる。これらのサイトカインのうち、インターフェロン-アルファ(IFNα)、腫瘍壊死因子(TNF)およびIL-1は、長い間、重要な役割を果たすとみなされてきた(Ho et al,2003、Auyeung et al,2005、Chousterman et al,2017)2,18~19)。SARS関連CSSの媒介に関与する可能性があると示唆された他の炎症誘発性サイトカインには、IL-8、IL-6その他がある。
【0024】
IL-1は、最も徹底して研究されたサイトカインであり、その性質は炎症性疾患、例えばウイルス感染によって引き起こされるものと関連している。Toll様受容体(TLR)へのCoV-19の結合後は、IL-1の管理された合成と放出が起こる。この受容体の活性化は炎症誘発性「カスケード」を引き起こす。このカスケードは、プロ-IL-1の合成で始まり、次にそれがカスパーゼ-1によって切断され、続いてインフラマソーム活性化が起こる(Chen et al,2006)。高レベルのアデノシン三リン酸(ATP)は、インフラマソーム活性化を媒介するP2X7受容体(プリン2受容体(purigenic 2 receptor))の活性化と相関する。プロ-カスパーゼ-1および他の因子は、リソソームにおけるIL-1bの合成を推進し、次にIL-1bがマクロファージの外に分泌されて、感受性COVID-19患者における重度の呼吸困難と関連する肺の炎症、発熱および線維症を媒介する。免疫細胞は、炎症部位で生成するケモカインIL-8によって感染部位に誘引され、重症例におけるサイトカイン「ストーム」をさらに悪化させる。
【0025】
炎症は、通常は、傷害と戦い、体内に導入された異物および病原体から防御するために発達した適応応答である。これに対し、COVID-19疾患および他の炎症状態と関連するCSSの症例における過剰炎症は、管理されなければ極めて有害である。炎症誘発性サイトカインレベルとCOVID-19およびSARS-CoVのウイルス複製および疾患重症度との間の関連が記述されたことで、多くの研究者は、抗炎症性サイトカインがこれらの疾患および状態と戦うための有用な治療作用物質になるかもしれないとの学説を立てることになった。この文脈で想定される主な「抗炎症性サイトカイン」には、インターロイキン(IL)-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)、IL-4、IL-10、IL-11およびIL-13が含まれる。IL-1に対する特異的サイトカイン受容体、腫瘍壊死因子-アルファおよびIL-18は、炎症誘発性サイトカインの阻害因子として機能する「抗炎症性」因子とも特徴づけられる。したがって、IL-1Ra、IL-37またはIL-13は、重症COVID-19疾患における肺の炎症と全身性の炎症の両方および発熱を緩和するための候補として提案されている。
【0026】
致死率が高く、病因および疫学が複雑であり、コロナウイルスに対するワクチンまたは治療ツールがないことから、これらの病原体によって媒介される感染および疾患を防止および処置するための効果的な予防および治療ツール、ワクチンならびに関連する治療作用物質の差し迫った必要が生じている。
【0027】
COVID-19疾患を防止または処置するための有用な薬物および方法を開発しようとする努力は、一つには、SARSウイルスゲノムの複雑さと、その込み入った疾患原因とによって、挫折させられてきた。SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2は、6~10個の遺伝子をコードする大きな一本鎖プラス鎖(single-stranded,positive-sense)RNAゲノム(27~32kb)を有する。遺伝子の順序は通常、高度に保存されており、最初は複製および転写関連遺伝子であり、残りの遺伝子は構造遺伝子である。複製および転写関連遺伝子は、リボソームフレームシフトによって翻訳されるオーバーラップしたオープンリーディングフレーム(ORF)により、2つの大きな非構造ポリプロテインに翻訳される。ウイルスコートを構成するスパイク(S)、エンベロープ(E)および膜(M)タンパク質、ならびにウイルスゲノムをパッケージするヌクレオカプシド(N)タンパク質を含む構造遺伝子はいずれも、サブゲノムRNAウイルから翻訳される。これらのタンパク質の一部は宿主のゴルジ装置においてグリコシル化を受けて、糖タンパク質を形成する。
【0028】
SARSコロナウイルススパイク(S)糖タンパク質は、宿主細胞へのウイルスの結合を媒介することで細胞内定着(intracellular colonization)を可能にする。Sタンパク質は宿主細胞プロテアーゼによってプライミングされ、細胞受容体によって認識される。ヒトセリンプロテアーゼTMPRSS2がSARS-CoVとSARS-CoV-2の両方のSタンパク質のプライミングを担っており、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は両ウイルスが侵入するための受容体として関与する。MERS-CoVの場合、これは、別の受容体ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)に特異的に結合する。
【0029】
SARSコロナウイルスの変化に富んだ病因および疫学は、一つには、ACE2発現レベルに関する個体間および集団間の相違に関係し、そしておそらくは個体間のACE-2の構造的相違にも関係する。小児および若年者の方が一般にACE-2の発現レベルは低く、それが重症COVID-19疾患に対する彼らの相対的耐性の一因になりうる。ヒト集団ではいくつかのACE-2遺伝子変異体が同定されており、それらはウイルスの感染および病原性にさらに影響を及ぼしうるが、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質結合に関係づけられたACE-2残基には、不均一性は見いだされていない。これは、ウイルスがおそらくは高度に保存された付着/侵入部位を利用することを示しており、それは、大陸および異なるヒト集団を越えたSARS-CoV-2の急速な伝播と相関する(Cao et al,2020)。これらの報告に照らして、ACE-2は、抗COVID-19防止および処置ツールの開発において、介入のための潜在的標的であると広く考えられてきた。ただし、この創薬経路(discovery path)に沿った成功には、まだ大きな障害が残っている。
【0030】
COVID-19管理に向けた技術革新のためのもう一つの挑戦的経路は、COVID-19患者においてウイルスが媒介するARDSおよびCSSを処置するための、抗炎症性サイトカインおよび関連阻害因子ならびに免疫調節因子の使用に関する。これらの目的は、有益な抗ウイルス免疫および炎症機能を阻害することに対する懸念によって複雑になる。SARS-CoVの感染および病理発生と戦うための手段としてのサイトカイン調節については、数多くの標的が考えられてきた。ごく最近の研究により、重症COVID-19患者は高いエリテマトーデス沈降速度(erythematosus sedimentation rate:ESR)と持続的に高いレベルのC反応性タンパク質(CRP)、IL-6、TNFα、IL-1b、IL-8、IL2Rを呈することが確認されている(Tu et al)。これらのおよび他の炎症誘発性マーカーは、ARDS、凝固亢進および播種性血管内血液凝固(DIC)(重症例では血栓症、血小板減少症、および四肢の壊疽として顕在化する)と、臨床的に関連する。CSSのこれらのおよび他の続発症は肺損傷を悪化させ、「肺外全身性過剰炎症症候群」(extrapulmonary systemic hyperinflammation syndrome:ESHS)と呼ばれる全身性のCSS関連疾病を引き起こす場合があり、妊娠中の対象ではこれが致命的合併症の原因になることもある。
【0031】
抗炎症治療を媒介するためにCSSをいつどのように遮断するかという問いは、COVID-19対象の死亡率を低減させるには、極めて重要である。この点において、SARSコロナウイルスによって媒介される基礎免疫障害を考慮することが重要である。リンパ球減少はCOVID-19の最も顕著な診断マーカーの一つである。COVID-19を持つ患者におけるT細胞とNK細胞はどちらも実質的に低減し、一方、白血球数は上昇する。危篤状態の患者では、NK細胞が極めて低く、検出できないことさえあり、メモリーヘルパーT細胞および制御性T細胞は甚だしく減少する(Hui et al,2019)。目を引くCOVID-19剖検所見により、重症例では二次リンパ組織も破壊されることが明らかになるが、これは典型的なCSS疾患とは著しい相違である。脾臓萎縮はよく観察され、脾臓におけるリンパ球の減少、著しい細胞変性、巣状出血性壊死、マクロファージ増殖およびマクロファージ貪食と相関する。同様に、リンパ節萎縮およびリンパ節数の低減、ならびに脾臓およびリンパ節におけるCD4+T細胞数およびCD8+T細胞数の減少も観察される[Hui et al.,2019]。加えて、特徴的なびまん性肺胞損傷(diffused alveolar damage:DAD)を持つ肺では、主要な浸潤細胞が、単球およびマクロファージ、中等度の多核巨細胞であり、リンパ球は極めて少なかった。浸潤リンパ球の大半はCD4+T細胞だった。重要なことに、血液または咽頭スワブではPCR検査が陰性である場合でさえ、ウイルス封入体は、II型肺胞上皮およびマクロファージに、依然として検出される(Zu et al.,2020、De Wit et al.,2016、Chan et al.,2015B)。この所見は、ウイルス感染の後期において、またはT細胞エンゲージング治療(T cell-engaging therapy)の合併症において、活性化Tリンパ球の異なるサブセットによって誘導される「二次サイトカインストーム」ではなく、むしろウイルス感染によって誘導され、主に肺胞マクロファージ、上皮細胞および内皮細胞によって誘発される、いわゆる「一次サイトカインストーム」と合致する(Chan et al.,2012、Kanne et al.,2020)。
【0032】
一般にARDS重症度と相関する重症COVID-19疾患のさらにもう一つの合併症は、最近公表されたいくつかのCOVID-19剖検において同定された、好中球細胞外トラップ(NET)の形成を伴う肺毛細血管への好中球浸潤という現象である。好中球は、血流における最も一般的なタイプの白血球(WBC)であり、炎症の急性期に血液から傷害または感染の部位に移動する食細胞である。好中球は、活性化された内皮、肥満細胞およびマクロファージによって発現されるサイトカイン(例えばインターロイキン-8(IL-8)、C5a、fMLP、ロイコトリエンB4およびH2O2)によって誘引されて、走化性により、感染の発端から血管および間質性コンパートメントに、またそれらを通って、自由に移動する。ひとたび局在化すると、好中球自体がサイトカインを発現して放出し、それらが、他の細胞タイプの動員および活性化によって炎症反応を増幅するように働く。好中球の数は単球/マクロファージ食細胞の数をかなり上回り、一般的には初期急性炎症の顕著な特徴とみなされる。
【0033】
免疫系の他の細胞を動員し活性化することに加えて、好中球は、病原体に対する第一線防御において重要な役割を果たす。好中球には、ウイルス病原体および細菌病原体を直接攻撃するための方法が3つある。すなわち、貪食(摂取)、脱顆粒(可溶性抗微生物因子の放出)および好中球細胞外トラップ(NET)の生成である。一般的にはARDS、より具体的にはSARS-CoV感染の場合、通常は有益なこれら好中球の免疫/炎症機能の少なくとも一部が、破壊的に暴走しまたは過活性化(overactivate)される可能性が増しているようである。
【0034】
好中球の脱顆粒は、通常、タイプが異なる3種の顆粒からタンパク質の取り合わせを放出する。アズール顆粒(または「一次顆粒」)は、ミエロペルオキシダーゼ、殺菌性透過性増強タンパク質(bactericidal/permeability-increasing protein:BPI)、ディフェンシン、ならびにセリンプロテアーゼである好中球エラスターゼおよびカテプシンGを放出する。特殊顆粒(または「二次顆粒」)は、アルカリホスファターゼ、リゾチーム、NADPHオキシダーゼ、コラゲナーゼ、ラクトフェリン、ヒスタミナーゼおよびカテリシジンを放出する。三次顆粒は、カテプシン、ゼラチナーゼおよびコラゲナーゼを放出する。これらのさまざまな酵素および抗微生物作用物質は、異常に過発現(overexpress)されるかまたは過活性化されると、組織および細胞外構成要素に対して深刻な有害作用(血管、肺および腎臓に存在してそれらの構造的完全性、病原体抵抗性および機能を保全する不可欠な「バリア」構成要素の破壊によるものを含む)を有しうる。
【0035】
COVID-19疾患における好中球の過剰な数、浸潤および活性化の、より重大な病原性結果には、好中球細胞外トラップ(NET)の生成が関わっていると思われる。NETは、感染を抑制するために通常は好中球によって放出されるクロマチン、殺微生物性タンパク質、酸化性酵素およびサイトカインの網である。しかし適正に制御されない場合、NETは炎症を広げ、微小血管血栓症を引き起こすようであり、CSSおよびPMISを呈するCOVID-19患者では、それがおそらくは肺不全/ARDSの一因になり、血管炎および続発性臓器不全でも同様の役割を果たす。NETを原因とすることが公知である他のさまざまな疾患も、ARDS/SARSに見られるような、気道における濃厚な粘液分泌物および凝血塊の発生を含む類似の症状を呈する。
【0036】
血中好中球レベルの上昇はCOVID-19におけるアウトカムを悪化させ、NETの役割が最も重要であると思われる。最近の研究において、Zuoとその共同研究者(2020)は、肺の毛細血管への好中球の浸潤の増加およびNETの過発現が、COVID-19患者におけるウイルス性肺炎/ARDSの重症度と強く相関することを報告した。重症COVID-19患者からの血清は、無細胞DNA、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)-DNAおよびシトルリン化ヒストンH3(Cit-H3)のレベルの上昇を呈し、これらはNETレベルの上昇を示す。無細胞DNAレベルは、C反応性タンパク質、D-ダイマーおよび乳酸デヒドロゲナーゼを含む急性炎症期反応物質とも強く相関した。MPO-DNAは無細胞DNAおよび絶対好中球数のどちらとも関連し、一方、Cit-H3は、血小板レベルおよび観察されたNETの血栓形成促進(prothrombic)(血餅形成)効果と関連した。重要なことに、無細胞DNAとMPO-DNAはどちらも、機械的人工呼吸を受けている入院患者では、自力呼吸が可能な入院患者より高かった。最後に、COVID-19を持つ個体からの血清は、インビトロで対照好中球からのNET放出を惹起した。これらのデータは、重症COVID-19患者における高レベルの好中球およびNETが、これらの患者におけるCSS、ARDS、血管炎および血栓形成の重要な一因である可能性が高いことを明らかにしている。他の研究では、NETの上昇が、重症SARS-CoV感染に関するこれらの所見に匹敵するARDSと、より広く、明確に結びつけられている。
【0037】
好中球が、ウイルス感染またはウイルス性疾患のある期間には有益に働き、その後、暴走または過活性化が起こる別の期間には破壊的に働くことに注目することは重要である。アルファ1-アンチトリプシン欠損の疾患では、病理発生を管理するのに通常は有益である重要な好中球酵素エラスターゼが、アルファ1-アンチトリプシンによって適切に阻害されず、(肺気腫において起こるように)正常に適応した炎症応答中に、過剰な組織損傷を引き起こす。別の状況では、明らかにCOVID-19疾患の状況を含めて、好中球の過剰な活性化がエラスターゼおよび他の破壊酵素を細胞外コンパートメントに放出し、肺バリア破壊および急性肺傷害の一因になる。この制御された機能と制御されない機能の二重性は、うまくいかなかった適応プロセスを反映しており、そのプロセスが、問題の病原体によって、または進行性疾患プロセスの新規な変動する病因ゆえに、乗っ取られ、または暴走させられていることを、ほぼ間違いなく示している。
【0038】
病原体の利益になるように、宿主の免疫および炎症プロセスを無効にし、間違った方向に導き、または流用さえするために、ウイルスおよび細菌が遂行する、宿主を標的とする分子戦略の例は数多くある。好中球の重要な例では、これらの重要なエフェクター細胞とそれらの標的病原体との間の分子相互作用は、好中球の増殖および寿命を甚だしく変化させうる。ウイルス病原体と細菌病原体はどちらも、好中球の寿命を延長できること、または貪食後の好中球溶解を加速できることがわかっている。肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)および淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は、どちらも好中球アポトーシスを阻害することが示されている。他の病原体は、自発的アポトーシスを妨害すること、および貪食誘導性細胞死(PICD)を阻害することの両方によって、好中球の寿命を延ばすことが知られている。その対極において、いくつかの病原体は、貪食後の好中球の運命を、細胞溶解および/またはアポトーシスを加速することによって、直接変化させることができる(組織壊死を引き起こす好中球「過活性化」(overactivation)の一タイプ)。
【0039】
ウイルスおよび細菌は、宿主免疫系または炎症管理機構の要素を直接攻撃して破壊する場合もある。上述のように、重症COVID-19疾患は、リンパ球数の大幅な低減を特徴とし、この疾患で失われるNK細胞および他の極めて重要なリンパ球が、SARS-CoVウイルスによって直接的に侵入され、破壊されうる可能性は十分にある。一方、これらの細胞の破壊は、CSSに付随する結果として、間接的であるかもしれない。COVID-19ウイルスは主にアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して標的細胞に感染すると思われ、ACE2発現はリンパ球上にはないので、これらの特定細胞はおそらくCSS破壊機序の犠牲になるのだろう。
【0040】
これらの機序に関連して、内皮損傷を伴う血管炎および血栓症は、重症COVID-19患者における顕著な特徴である。多くの危篤COVID-19患者は、血管炎様症状発現を有し、しばしば四肢に壊疽を伴う。剖検により、肺血管(肺胞中隔に付随するもの)はうっ血し、浮腫状であり、血管内および血管周囲に単球およびそれらのマクロファージ子孫の浸潤を伴うことが明らかになっている。小血管は、過形成、血管壁肥厚、内腔狭窄、閉塞および限局性出血を示す。重症例では微小血管のヒアリン血栓が見つかる(Zu et al.,2020、Hui et al,2019、Chan et al.,2015B)。血管損傷の基礎をなす機序には、ウイルスによる内皮細胞の直接的傷害、またはDIC、抗リン脂質症候群(APS)および血管炎類似の状態(mimicry of vasculitis)につながる下流CSS効果が関与しうる。抗ウイルス免疫によって誘発される病的「自己免疫」応答も関与しうる。
【0041】
凝固亢進状態を呈するCOVID-19患者にはPIMS対象が含まれる。これらの合併症の一般的な続発症には、プロトロンビン時間延長、D-ダイマーおよびフィブリノゲンのレベルの上昇、ならびに正常に近い活性化部分トロンボプラスチン時間が含まれる。少数の患者は顕性播種性血管内血液凝固(DIC)に進行する。Tangら(2020)は、COVID-19の非生残者のうちの71.4%および生残者のうちの0.6%が顕性DICの証拠を示したことを報告している。さらに多くの非生残患者が、死後検査において、凝固性亢進状態を特徴とする不顕性DIC(フィブリン血栓形成によって示されるもの)を呈した。悪化しつつあるCOVID-19患者では、顕性DICが発症する前の凝固性亢進状態を示す先端虚血(acro-ischemia)も高い比率で観察された。
【0042】
いくつかの因子がCOVID-19患者における凝固障害の一因になりうる。重症および重体COVID-19患者における持続的炎症状態は、凝固カスケードの重要なトリガーとして作用する。IL-6を含む一定のサイトカインは凝固系を活性化し、線維素溶解系を抑制することができる。COVID-19の状況下では、ウイルスの直接的な攻撃による肺および末梢の内皮傷害が、凝固亢進の重要な誘導因子になりうる。内皮細胞傷害は、組織因子の曝露および他の経路によって、凝固系を強く活性化する。攻撃的な免疫および炎症応答が、今度は、機能障害性の凝固によって増悪され、これら2つのプロセスが、抑制のないエンドポイントに向かって一種のフィードバックループで作用しうる。最後に、抗カルジオリピン抗体と抗β2GP1抗体がCOVID-19患者では検出されているので、COVID-19患者における抗リン脂質抗体の出現がその凝血異常を激化させうる(Zhang et al,2020)。
【0043】
抗ウイルス処置および支持処置はCOVID-19疾患管理の重要な構成要素であるが、抗炎症治療を使ったCSSの遮断は、COVID-19疾患の処置および管理にとって極めて重要な、実現されていない目的に相当する。当技術分野では、例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、グルココルチコイドおよびクロロキン/ヒドロキシクロロキンを初めとして、COVID-19処置に役立ちうるさまざまな抗炎症薬が周知である。肺の炎症および全身性の炎症を低減するために、免疫抑制薬、炎症誘発性サイトカインアンタゴニスト(例えばIL-6Rモノクローナル抗体、TNF阻害因子、IL-1アンタゴニスト、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害因子など)および他の免疫調節剤も、広く考えられる。
【0044】
利用可能な抗炎症性作用物質はこのように豊富に用意されているにも関わらず、これらはいずれも、ARDSおよびCOVID-19疾患との関連においては、それらの効力と有害な副作用の可能性に関して不透明である。COVID-19疾患患者の抗炎症治療には、ある抗炎症レジメンで対象を処置すべきかどうか、そしていつ処置すべきかに関して、根本的なリスク/利益懸念がある。これらの根本的問題については、今なお、激しい議論がなされており、共通認識は得られていない。主たる懸念は、コルチコステロイドなどの抗炎症薬が、有益な抗ウイルス防御を遅延させまたは損ない、および/または同時に、既存の免疫系障害またはウイルスそのものによって媒介される障害に直面している対象の場合は特に、二次感染のリスクを増加させるかもしれないことである。炎症誘発性サイトカインを標的とする生物学的作用物質(biological agent)の場合には別の問題が生じ、それらは、1つの特異的炎症性因子を阻害するに過ぎず、その結果、CSS全般に歯止めをかけることはできないかもしれない。あるいは、ステロイドの場合と同様に、抗炎症薬は、有益な免疫機能を損ないうる。例えばJAK阻害因子は強力な抗炎症効果を発揮するが、同時に、INF-aによって媒介される重要な免疫機序も損なう。さらにもう一つの根本的な込み入った問題は、抗炎症処置のための最適な時間域に関し、これはCOVID-19疾患の場合は極めて重要であると思われる。重症患者は、典型的には、長期間にわたって初期中等度症状を示した後、発症の1~2週間後に急激な悪化を起こし、その後の抗炎症治療は好ましい処置応答を達成することができなくなりうる。
【0045】
SARSウイルスの病因をさらに詳しく検討すると、SARS-CoV-2は、上気道組織に対する指向性を示し、上気道組織において活発に複製する。SARS-CoVのようにSARS-CoV-2も、血管内皮、呼吸上皮、肺胞単球およびマクロファージにおいて広く発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を、その主要受容体として、細胞侵入のために利用する(Lu et al.,2020)。主要伝染経路は直接的または間接的気道曝露による(咽頭スワブからの生ウイルス分離および上衣同細胞におけるサブゲノムメッセンジャーRNA(sgRNA)の検出によって実証される)(Wolfel et al.,2020)。上気道組織に対する指向性は、症状が最小限であり上気道に制限されている時でさえ、ウイルスの継続的な咽頭排出によって、SARS-CoV-2のより高い接触伝染を助長する。疾患経過の後期では、SARS-CoV-2は、ウイルス複製が下気道まで進み、その後、重症例では、肺およびACE2を発現する他の標的臓器(心臓、腎臓、消化管および遠位脈管構造を含む)に対する広範な攻撃を起こす点で、SARS-CoVに似ている。このウイルス伝播の程度と持続時間は、主に疾患発症後第2週中に起こる臨床的悪化と相関する。しかし、重症例における後期を通した疾患の悪化は、直接的なウイルス損傷だけに起因するとはいえず、それに加えて、SARS-CoV-2が誘導する免疫媒介性傷害も関与する。COVID-19疾患のこの段階における重症および重体患者の2つの弁別的特徴は、炎症の漸進的増加と、異常な凝固亢進傾向である。
【0046】
SARS-CoVの症例でもそうであったように、重症COVID-19病理発生のこの後期段階では、免疫媒介性炎症が重要な役割を果たすことは疑いがない。COVID-19の進行には、リンパ球数の継続的減少が、炎症マーカー(C反応性タンパク質、フェリチン、インターロイキン(IL)-6、IP-10、MCP1、MIP1AおよびTNFαを含む)の幅広い上昇を伴う好中球の有意な上昇、浸潤および過剰活性化と共に関与する。リンパ球数の低減ならびにフェリチン、IL-6およびD-ダイマーのレベルの上昇は、さまざまな研究において、COVID-19患者の死亡率の増加と直接関連することが報告されている。重症および重体のCOVID-19患者における漸進的リンパ球減少の基礎にある機序はまだ明らかでないが、B細胞、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の減少はすべて、重症例では、より顕著である。他の研究は、CD8+T細胞数の減少にもかかわらず、CD8+T細胞活性化(CD38発現とHLA-DR発現の比率によって測定される)のレベルの増加を報告している。リンパ球減少はSARS-CoV疾患進行の重要な特徴でもあり、CD4+Tリンパ球とCD8+Tリンパ球の両方の低下は、しばしば病原性のX線像変化と相関する。SARS-CoVによるマクロファージおよびリンパ球の直接感染が、ある研究によって示されているものの、SARS-COV-1におけるリンパ球数の急速な低減はさらに2つの機序、循環リンパ球の再分布、またはアポトーシスもしくはピロトーシスによるリンパ球の枯渇に起因すると考えられた。COVID-19患者の末梢血単核球(PBMC)においてウイルス遺伝子発現は観察されず、通常のウイルス輸送体ACE2はリンパ球上には発現しない。しかしWangら(2020)は、Tリンパ球が、スパイクタンパク質によって惹起されるエンドサイトーシスにより、SARS-CoVよりもSARS-CoV-2に対して、より許容的でありうることを示唆している。他の報告は、COVID-19患者のPBMCでは、アポトーシス、オートファジーおよびp53経路のアップレギュレーションがあることを示しており(Xiong et al.,2020)、また他の研究者らは、NK細胞およびCD8+T細胞が、COVID-19患者では、NKG2Aの過発現により、機能的に疲弊していることを報告している(Zheng et al.,2020)。
【0047】
上記の総合的知見は、免疫撹乱が、直接的効果とバイスタンダー効果の複合的結果として、COVID-19疾患の初期に始まることを示している。COVID-19の漸進的な病原性変化(pathogenic change)は、特に軽度および中等度の症例では、時宜を得た介入によって可逆的でありうるが、この疾患の複雑さおよび難治性が、多くの支障をきたす。SARS-CoV-2感染の臨床経過は、概念上、3つの時期、すなわちウイルス血症期、急性期(肺炎期)および重症期または回復期に分割しうる。コンピテントな免疫機能を持ち、重大なリスク因子(老齢、大きな共存疾患など)のない患者は、効果的かつ妥当な免疫応答を生成して、CSS、ARDSまたはPIMSの過剰免疫/過剰炎症症状を示すことなく、第1期または第2期にウイルスを抑制しうる。対照的に、免疫機能障害を持つ患者は、初期段階で失敗して、罹病率および死亡率の高い重症または重体型になる、より高いリスクを有しうる。したがってCOVID-19の処置は、潜在的に、臨床的悪化の観察(例えば急激な過剰炎症、閾レベルのリンパ球減少、凝固亢進状態などを検出することによる)に頼って、第1期と第2期の間での高リスク対象の処置を実現するために、細心の患者選別(triaging)と患者のステージ分類を含むべきである。
【0048】
上記に照らして、当技術分野では、コロナウイルスが媒介する重症急性呼吸器症候群(SARS)を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム症候群(CSS)および他の過剰炎症性疾患、例えば小児炎症性多系統症候群(PIMS)、川崎病、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、ならびにそれらと関連する血管のうっ血および血栓状態、例えば播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および壊疽、ならびにこれらの状態に伴う広範な細胞、組織および器官傷害と戦うための、より有効なツールおよび方法が、緊急に必要とされている。
【0049】
COVID-19、および過去20年間に3回、新規病原体として出現し、再び出現する可能性が高いであろう類縁SARSコロナウイルスが媒介する、激しい破壊と戦うための関連する必要は、危機的に未充足なままである。COVID-19疾患を処置し管理するための実現されていない目的は数多く、複雑であり、重症例におけるARDS/SARS、CSS、PIMS、ESHS、DICを含む、COVID-19が媒介する膨大な範囲の病原性、免疫学的および炎症性侵襲にまたがる。
【0050】
これらの必要に対処し、付随する障害を克服するには、多重活性および多重標的の薬物および治療、例えば宿主の有益な免疫および炎症性の能力および応答を強化し、または少なくとも損なうことなく、ウイルスの機能を損ない、過剰免疫および過剰炎症応答を制御することができる薬物を含む、強力で革新的なツールの発見および開発が必要だろう。加えて、これらの目的は、複数の標的に同様に到達し、複数の(例えば抗ウイルス、免疫促進(pro-immune)および抗炎症)効果を誘発する、補完的な薬物および処置方法の新規な組み合わせを開発することによって、最も有益に満たされるだろう。COVID-19およびその多様な病原性続発症(pathogenic sequelae)と戦うための好結果のアプローチは、患者特異的に提示される疾患原因のばらばらな徴候(indicia)に対して、処置形態、投薬量およびモダリティのタイミングをはかり、計量して提供することにより、個々の患者に合わせてさらに最適化されるだろう。
【発明の概要】
【0051】
本発明の例示的態様の要約
本発明は、COVID-19および他のSARSコロナウイルスが媒介するヒトにおける重症急性呼吸器症候群(SARS)を含む、哺乳動物対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置および/または防止するための、「TPA」化合物ならびに関連する組成物および方法の新規で強力な使用によって、上述の目標を達成し、さらなる目標および利点を満たす。本発明の関連する局面は、「サイトカインストーム症候群」(CSS)全般、および多数の他の過剰炎症性疾患、例えば限定するわけではないが、COVID-19疾患と関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS)、川崎病として公知の関連する小児病態、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、ならびに過剰炎症が引き起こす血管のうっ血および血栓状態、例えば播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および壊疽を含む、過剰免疫および過剰炎症状態を防止および/または処置するために、臨床的に有効なTPA化合物、組成物および方法を利用する。
【0052】
本発明のさらなる局面は、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DIC、ならびにこれらの状態に伴いうる他の免疫および炎症性傷害または疾患状態に伴う、広範囲にわたる細胞、組織および器官傷害を、効果的に制限しまたは処置するために、TPA化合物、組成物および方法を利用する。
【0053】
本発明のさらなる局面は、COVID-19疾患、ならびにSARSコロナウイルス(例えばSARS-CoV、SARS-CoV-2(COVID-19)、および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV))が引き起こすヒトにおける関連する有害な状態および症状を、処置および/または防止するための、TPA化合物を利用する組成物および方法に向けられる。例示的な態様において、本発明は、重症COVID-19疾患対象におけるARDS/SARSを防止および/または処置する臨床的に有効なTPA化合物、組成物および方法を提供する。別の例示的態様において、本発明の組成物および方法は、重症COVID-19疾患に伴う過剰免疫および過剰炎症状態、ならびに関連する細胞、組織および器官の傷害および機能障害、例えばCSS、PIMS、ESHS、DIC、ならびにこれらの状態に伴いうる他の免疫および炎症性傷害または疾患状態、例えば血管のうっ血および血栓状態、例えば限定するわけではないが、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症および壊疽を、効果的に処置および/または防止するためにTPA化合物または組成物を利用する。
【0054】
本発明の方法および組成物において有効なTPA化合物には、以下の式I:
に従うホルボールエステルおよび誘導体が含まれ、式中、
R
1およびR
2は、
水素;
ヒドロキシル;
アルキル基が1~15個の炭素原子を含有する
;
低級アルケニル基が1~7個の炭素原子を含有する
;
であってよく、
R
3は、水素または
であってよい。
【0055】
いくつかの態様において、R
1およびR
2の少なくとも一方は水素以外であり、R
3は水素または
およびその置換誘導体である。別の態様において、R
1またはR
2のどちらか一方は
であり、残りのR
1またはR
2は
であって、ここで、低級アルキルは1~7炭素であり、R
3は水素である。
【0056】
本明細書におけるアルキル、アルケニル、フェニルおよびベンジル基は、無置換であるか、またはハロゲン、好ましくは、塩素、フッ素もしくは臭素、ニトロ、アミノおよび/または類似するタイプの基で置換されていてよい。
【0057】
別の態様において、本発明は、以下の式II:
の例示的なホルボールエステルを利用する。
【0058】
本発明の組成物および方法において使用するためのホルボールエステルは、式Iおよび式IIの化合物の薬学的に許容される活性類似体および誘導体、例えば官能基の選択された置換、欠失または付加が式Iまたは式II内の親化合物構造に適用されている合理設計による化学的類似体および誘導体、ならびに該化合物の塩、異性体、エナンチオマー、多形、溶媒和物、水和物および/またはプロドラッグを包含すると理解されるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の例示的態様の詳細な説明
以下の記載は、例示的な態様の説明によって、本発明の根本的手段および原理を例証するために提供される。この記載による本発明の限定は意図されていない。本明細書記載の目標、材料および原理の改変、変更、置換、改良およびさらなる応用が本開示の発明の範囲内および添付の特許請求の範囲内に含まれることは、当業者には理解されるだろう。
【0060】
本発明は、新規で、多様で、しばしば多機能である治療効果を媒介するために、医薬作用物質としての、ならびに薬物組み合わせおよび方法において使用するための、「TPA化合物」を提供する。本発明のTPA化合物ならびに関連する組成物および方法は、ヒトおよび他の哺乳動物において異常な過剰免疫および過剰炎症応答によって媒介される一連の多様な難治性疾患状態を処置および防止するのに有効である。TPA化合物、本発明の組成物および方法は、通常は有益な免疫および炎症機序の有害な障害、誤った誘導またはエスカレーションを惹起するウイルス感染および細菌感染、熱傷、外傷ならびに他の侵襲が引き起こす免疫機能障害性および過剰炎症性の疾患および状態を改善するために、抗ウイルス、抗炎症、および免疫制御活性を含む1つまたは複数の有効な活性を強力に発揮する。
【0061】
本明細書に記載するTPA化合物の新規で強力な使用のうち、本発明は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)として知られる、以前は難治性であった状態を防止および処置するための有効な臨床的ツールおよび方法を提供する。ARDSは、複雑な病原性因子および病原性機序によって媒介される複雑な免疫機能障害性および過剰炎症性の疾患である。ARDSは、肺の熱傷もしくは化学的傷害、肺の外傷性傷害、またはウイルス性もしくは細菌性因子による肺の重症感染などといった原因によって引き起こされうる。ARDSの統一的特徴には、肺実質の激しい炎症、肺組織および肺胞腔への過剰な数の破壊的好中球およびマクロファージの浸潤、酸化ストレス、内皮バリアおよび上皮バリアの破壊、肺上皮被覆層の損傷および肺線維症が含まれる。患者に対するこれらの病原性発症の影響は、制限された努力呼吸、低酸素血症および最終的な肺不全、長期線維症および他の病的傷害、ならびに重症例における死亡につながる。本発明の関連する局面では、TPA法およびTPA組成物が、重症急性呼吸器症候群(SARS)と呼ばれる、COVID-19ウイルスを含むSARSコロナウイルスが媒介するARDSを処置するために利用される。
【0062】
本発明の別の局面では、有効なTPA化合物、組成物および方法が、「サイトカインストーム症候群」(CSS)全般、COVID-19疾患と関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS)、川崎病、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)全般、ならびに過剰炎症が引き起こす血管のうっ血および血栓状態、例えば播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症および壊疽を含む過剰炎症状態を防止および処置するために使用される。
【0063】
本発明のさらなる局面は、コロナウイルス、特にSARSコロナウイルスによる増殖性感染を直接的に防止または阻害するために、TPA化合物および方法を利用する。本発明のTPA化合物は、COVID-19疾患対象において抗SARS-CoV-2免疫制御性、免疫強化性および/または抗炎症性応答を誘発するTPAの能力によって明示されるとおり、ヒト対象においてSARS-CoV-2感染および疾患を処置および防止するのに有効である。本明細書記載のTPA化合物の複数の抗ウイルス活性は、上気道および下気道におけるウイルス量を低減すること;非呼吸器のACE-2陽性細胞および組織におけるウイルス力価を低下させること;肺、および他のACE-2陽性細胞および組織への、ウイルスの付着と侵入を防止または低減すること;肺、および他のACE-2陽性細胞および組織における、ウイルス複製を防止または低減すること;ならびに/または感染対象の上気道からのウイルス排出を防止もしくは低減することによって、SARS-CoV-2感染を防止または低減するのに有効である。これらの抗ウイルス効果は直接的であっても間接的であってもよいが、その抗ウイルスアウトカムは、処置された対象におけるウイルスの感染、複製、病原性、伝染性および関連するCOVID-19疾患重症度を防止または制限することに特異的である。
【0064】
本発明のさらに詳細な局面は、COVID-19疾患ならびに/またはSARSコロナウイルス(SARS-CoV、SARS-CoV-2(COVID-19)または中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV))が引き起こす関連する有害な状態および症状を、処置および/または防止するための、TPA化合物、組成物または方法を利用する組成物および方法に向けられる。
【0065】
例示的な態様において、本発明は、「抗ウイルス」薬として機能する臨床的に有効なTPA化合物を提供する。本明細書にいう抗ウイルス活性には、例えば標的となる細胞、組織またはコンパートメントにおけるウイルス量/力価を低減すること、またはウイルスの機能(例えばウイルスの付着、細胞へのウイルスの侵入、ウイルスの複製、ウイルスの排出、宿主の抗ウイルス機序に対するウイルスの防御、宿主の細胞完全性、生理機能、遺伝子発現、免疫活性、炎症活性、ライフサイクル/最長寿命に対するウイルスの病原性の影響など)を損ない、もしくは他の形で制限することが含まれる。これらのおよび関連する抗ウイルス方法および組成物は、リスクのある、ウイルスに曝露された対象における、COVID-19感染および/または付随する疾患症状を防止および/または処置するだろう。別の例示的態様において、本発明の組成物および方法は、重症COVID-19疾患に伴う過剰免疫および過剰炎症状態、ならびに関連する細胞、組織および器官の傷害および機能障害、例えばCSS、PIMS、ESHS、DIC、ならびにこれらの状態に伴いうる他の免疫および炎症性傷害または疾患状態、例えば血管のうっ血および血栓状
態、例えば限定するわけではないが、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症および壊疽を、効果的に処置および/または防止するためにTPA化合物または組成物を利用する。
【0066】
一定の態様において、本発明は、1つまたは複数のTPAまたはTPA様化合物、親TPA化合物(12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA);ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)としても公知である)、またはこの親TPA化合物の構造的に関連する機能的類似体、誘導体、塩もしくは他の誘導体型のいずれかを利用する。本発明において利用されるTPA化合物は、抗ウイルス、抗ARDs、抗CSS、抗炎症、抗細胞変性、免疫促進およびアポトーシス制御効果、その他の臨床関連活性を媒介するために対象に投与される組成物および方法において、有用である。これらの活性は、ばらばらな疾患背景において、ある範囲のARDSおよびSARSウイルス(例えばCOVID-19)疾患、状態、症状ならびに付随する免疫学的、細胞、組織および器官傷害および機能障害の防止および/または処置を媒介するのに、個別にまたは協同的に有効である。
【0067】
本発明において使用するためのTPA化合物には、本明細書に記載されるように標的となるウイルス感染、疾患、状態または症状を防止および/または処置するために有効に投与される、1つまたは複数の、式Iおよび/または式IIのホルボールエステル化合物が含まれる。例示的な態様では、例示を目的として、親またはプロトタイプTPA化合物、ホルボール12-ミリステート-13-アセテート(「PMA」、本明細書では12-O-テトラデカノイル-ホルボール-13-アセテート「TPA」ともいう))が、本発明の薬学的組成物および方法において、臨床的に有効な作用物質として利用される。しかし本開示が、他にも数多くの薬学的に許容されるホルボールエステル化合物を、以下に式Iおよび式IIの化合物について記載する構造的基礎に従う化合物の、天然または合成の化合物、複合体、類似体、誘導体、塩、溶媒和物、異性体、エナンチオマー、多形、およびプロドラッグの形態で、提供することはわかるだろう。
【0068】
ホルボールは、チグリアン(tigliane)ファミリーのジテルペンの天然植物由来多環式アルコールである。これは、ハズ(Croton tiglium)の種子に由来するハズ油の加水分解産物として、1934年に初めて単離された。これはほとんどの極性有機溶媒と水によく溶解する。ホルボールのエステルは、以下の式I:
の一般構造を有し、式中、
R
1およびR
2は、
水素;
アルキル基が1~15個の炭素原子を含有する
;
およびその置換誘導体からなる群より選択され、
R
3は、水素、
またはその置換誘導体であってよい。
【0069】
本明細書において使用される「低級アルキル」または「低級アルケニル」という用語は、1~7個の炭素原子を含有する部分を意味する。式Iの化合物において、アルキルまたはアルケニル基は直鎖または分岐鎖であってよい。いくつかの態様において、R1またはR2のどちらか一方または両方は長鎖炭素部分である(すなわち式Iはデカノエートまたはミリステートである)。
【0070】
本明細書における式のアルキル、アルケニル、フェニルおよびベンジル基は、無置換であるか、または例えばハロゲン(例えば塩素、フッ素または臭素)、ニトロ、アミノおよび他の官能基で置換されていてよい。
【0071】
有機型および合成型のホルボールエステルは、ハズなどの草本供給源からの任意の調製物または抽出物を含めて、本明細書の態様において使用するためのホルボールエステル(またはホルボールエステル類似体、関連化合物および/または誘導体)を含む有用な組成物と考えられる。本発明において使用するための有用なホルボールエステルおよび/または関連化合物は、典型的には、式Iに従う構造を有するだろう。ただし、そのような化合物の機能的に等価な類似体、複合体、コンジュゲートおよび誘導体も、当業者には、本発明の範囲内にあると理解されるだろう。
【0072】
より詳細な態様において、上記式Iに従う例示的構造修飾は、COVID-19感染または疾患、ARDS全般、SARS、CSS、PIMS、ならびに本明細書記載の他の標的となる感染、疾患、状態および症状を処置および/または防止するための有用な候補化合物が得られるように選択されるだろう。ここで考えられる式Iの化合物の多様な修飾のうち、R
1およびR
2の少なくとも一方は水素ではなく、R
3が水素、
およびその置換誘導体からなる群より選択される例示的な類似体および誘導体は、常法によって構築し、試験することができる。別の一態様において、R
1またはR
2のどちらか一方は
であり、残りのR
1またはR
2は
であり、R
3は水素である。
【0073】
あるいは、式IIに従う一定の合理的に設計された類似体および誘導体であって、
R
1およびR
2は、
水素;
ヒドロキシル;
アルキル基が1~15個の炭素原子を含有する
;
低級アルケニル基が1~7個の炭素原子を含有する
;
およびその置換誘導体であってよく、
R
3は、水素または
であってよい、類似体および誘導体を構築することができる。
【0074】
本明細書において例示される本発明の他の例示的な組成物および方法は、以下の式II:
に従うホルボール12-ミリステート-13-アセテート(TPA)を利用し、その薬学的に許容される活性な塩、活性な異性体、エナンチオマー、多形、グリコシル化誘導体、溶媒和物、水和物、および/またはプロドラッグを含む。
【0075】
本組成物において使用するためのさらなる例示的ホルボールエステルには、ホルボール13-ブチレート;ホルボール12-デカノエート;ホルボール13-デカノエート;ホルボール12,13-ジアセテート;ホルボール13,20-ジアセテート;ホルボール12,13-ジベンゾエート;ホルボール12,13-ジブチレート;ホルボール12,13-ジデカノエート;ホルボール12,13-ジヘキサノエート;ホルボール12,13-ジプロピオネート;ホルボール12-ミリステート;ホルボール13-ミリステート;ホルボール12,13,20-トリアセテート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート-20-アセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート;ホルボール12-チグリエート13-デカノエート;12-デオキシホルボール13-アセテート;ホルボール12-アセテート;およびホルボール13-アセテートがあるが、それらに限定されるわけではない。
【0076】
本発明の抗ウイルス、抗ARDS、抗CSSおよび他の主要治療組成物および治療方法において使用するために、溶解性、親油性、バイオアベイラビリティ、インビボでの半減期、内在性酵素に対する耐性または感受性、特定の送達形態、モダリティおよび送達標的/コンパートメントのための製剤へのなじみやすさ、貯蔵寿命安定性などといった関連する薬理学的性質を改良するための合理設計化学に従って遂行される構造修飾によって、さらなるTPA化合物を作ってもよい。本発明の製剤および方法において有用なさらなるホルボールエステルならびに関連化合物および誘導体には、該化合物の他の薬学的に許容される活性な塩、ならびに該化合物の活性な異性体、エナンチオマー、多形、グリコシル化誘導体、溶媒和物、水和物および/またはプロドラッグが含まれるが、それらに限定されるわけではない。本発明の組成物および方法において使用するためのホルボールエステルのさらなる例示的形態には、ホルボール13-ブチレート;ホルボール12-デカノエート;ホルボール13-デカノエート;ホルボール12,13-ジアセテート;ホルボール13,20-ジアセテート;ホルボール12,13-ジベンゾエート;ホルボール12,13-ジブチレート;ホルボール12,13-ジデカノエート;ホルボール12,13-ジヘキサノエート;ホルボール12,13-ジプロピオネート;ホルボール12-ミリステート;ホルボール13-ミリステート;ホルボール12,13,20-トリアセテート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート;12-デオキシホルボール13-アンゲレート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート;12-デオキシホルボール13-イソブチレート-20-アセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート;12-デオキシホルボール13-フェニルアセテート20-アセテート;12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート;ホルボール12-チグリエート13-デカノエート;12-デオキシホルボール13-アセテート;ホルボール12-アセテート;およびホルボール13-アセテートがあるが、それらに限定されるわけではない。表1に示す構造は、親ホルボールエステル化合物の合理設計化学修飾のためのこれらの多様な標的を例示している。
【0077】
【0078】
抗ウイルス組成物および方法
本発明は、SARS-CoV-2感染および付随するCOVID-19疾患の処置および防止を含む、ウイルス感染および関連疾患の処置および防止のための新規なツールおよび方法を提供する。例示的な態様では、SARS-CoV-2に感染するリスクがある対象、およびウイルス検査で陽性である感染した対象に、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス応答を誘発しおよび/またはCOVID-19疾患の1つもしくは複数の臨床症状を防止もしくは低減するのに十分な抗ウイルス有効量のTPA化合物が投与される。一定の態様では、TPA化合物が、(1)対象の上部または下部呼吸器の細胞、組織または試料におけるウイルス量/力価; (2)対象の非呼吸器のACE-2陽性細胞、組織または試料における、または対象の血漿における、ウイルス量/力価; (3)肺または他の組織/細胞へのウイルスの付着および/または侵入; (4)対象の肺または他のACE-2陽性細胞、組織または器官におけるウイルス複製;および/または(5)感染した対象の上気道組織または試料からのウイルス排出から選択されるウイルス感染の重症度の1つまたは複数の徴候を低減または除去するのに有効な量および剤形で投与される(各指標(indicator)/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)。
【0079】
対象におけるウイルス「量」を決定するための処置された対象および対照対象の臨床評価によるTPAの抗ウイルス効力を実証する工程では、試験および対照生物学的試料(例えば鼻咽頭スワブ試料)におけるSARS-CoV-2ビリオンの数または推定「力価」、DNAまたはSARS-CoV-2レベルの他の定量的尺度を比較する。この目的のために、さまざまなアッセイ方法および材料が公表され、広く公知であり、日常的に遂行されている。本明細書における教示によれば、本発明の抗ウイルスTPA組成物および方法で処置された患者は、同様にリスクがあるかまたはSARS-CoV-2に感染したプラセボ処置対照対象と比較して、検出可能なウイルス量/力価の少なくとも20%の低減、しばしば25~50%の低減、多くの場合、75~95%またはそれ以上の低減、最大100%の除去を示すだろう。ヒト対照においてARDS、CSSもしくはPIMSを引き起こすかまたはその一因になる他のSARSコロナウイルス(SARS-CoVおよびMERS)ならびに他のウイルスおよび病原体についても、同等の臨床効力が同じように提供される。
【0080】
SARS-CoV-2陽性患者の抗ウイルス処置に向けられた本発明の関連する組成物および方法、治療TPA組成物は、処置後1~2週間以内に、ウイルスを少なくとも上気道から除去または排除することができる。特に、TPA処置前にSARS-CoV-2感染について陽性として選別された対象からの鼻咽頭スワブ試料中のDNAまたはSARS-CoV-2レベルの他の定量的尺度は、TPA処置後2週間以内に、TPA処置対象の少なくとも25~50%、50~75%、最大90%またはそれ以上において、100%減少するだろう(上気道における検出可能なSARS-CoV-2ウイルスの完全な排除に対応し、非伝染性状態を示す)。
【0081】
関連する態様では、(1)2日以上持続する発熱; (2)肺うっ血、胸苦しさ(tightness)、息切れおよび/または低酸素血症を含む深刻な下部呼吸器症状;および/または(3)急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム症候群(CSS);小児炎症性多系統症候群(PIMS);肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、および/または対象における過剰免疫過剰炎症応答と関連する他の任意の状態もしくは症状、例えば血管のうっ血および血栓状態、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中および/または血小板減少症の任意の症状から選択される、重症COVID-19疾患の1つまたは複数のインデックスを対象が発生させる前に(または発生させた後、可能な限り早く)、抗COVID-19 TPA処置が開始されることを確実にするために、SARS-CoV-2検査で陽性であるかまたはCOVID-19疾患に関するリスク因子が上昇していることがわかっている患者を(例えばサイトカインに関する血液検査、肺機能および低酸素血症検査、肺の病原性病巣の走査などによって)注意深く監視する。
【0082】
理論に束縛されることは望まないが、本発明のTPA化合物は、処置された対象における予防的(すなわち現実の感染の発生を防止しまたはその程度を低減すること)および治療的(ウイルス量を低減または除去し、それによって疾患重症度を低下させること)影響および応答をどちらも媒介するのに有効な、複数の抗ウイルス活性を、処置された対象において直接的にも間接的にも、発揮する。
【0083】
TPA化合物の一定の抗ウイルス効果には、それらの、プロテインキナーゼとの免疫促進性および抗炎症性相互作用が関与する。プロテインキナーゼは、ウイルスおよび他の病原体に対する免疫および炎症応答を「制御」する生物学的シグナル-応答経路の主要構成要素である。本発明の一局面では、TPA化合物と、免疫制御および炎症に関与する1つまたは複数のプロテインキナーゼとの間の相互作用が、SARS-CoV-2感染を防止および処置するための強力な抗ウイルス効果を媒介する。
【0084】
プロテインキナーゼC(PKC)は、ヒトにおける免疫機能と炎症を制御するための重要なキナーゼである。本明細書にいう「制御する」とは、特異的な免疫または炎症シグナルまたはトリガー(例えばサイトカインまたは化学誘引物質シグナル)、細胞、機序または経路の活性化、抑制および/または選択によって、有益に管理することを意味する。PKCとの関連において、本発明のTPA化合物はPKCに結合してPKCを活性化し、SARS-CoV-2患者におけるこの結合と活性化は、免疫促進シグナリングおよび下流での免疫エフェクター機能の活性化に関与するインターフェロン活性化遺伝子(interferon-stimulated gene:ISG)の転写活性化を媒介する。例示的な態様において、TPAによって活性化されたPKCは、細胞代謝を遅くし適応免疫を活性化することなどによってウイルスの複製と伝播を妨害することができる産物をコードするISGを刺激する。TPAによって活性化されうる他のISGには、病原体に対して細胞をさらに感作するパターン認識受容体(pattern recognition receptor:PRR)、膜の流動性および透過性を減少させるタンパク質(膜融合を阻害し、ウイルスの侵入と放出を損なう)、およびウイルスの細胞侵入、複製および放出/排出サイクルに関与する特異的標的を阻害する他の抗ウイルス因子が含まれる(Schneider et al,2014、Totura et al.)。
【0085】
ヒトインターフェロンは、免疫系の活性を制御するのに役立つタンパク質の大きな一群を構成する。一般に、1型インターフェロン(IFN-1)は強力な抗ウイルス効果を与える。COVID-19感染において、IFN-1は、ウイルス感染に対する初期の応答として、免疫細胞、上皮細胞および内皮細胞によって産生される。COVID-19処置のための1型インターフェロン(IFN-I)の考えうる使用は、ごく最近になって、Sallardら(2020)によって概観されている。パターン認識受容体(PRR)によるウイルス構成要素の認識後、IFN-1は、大半のウイルス感染中に産生される最初の免疫エフェクター分子に含まれる。IFN-1は、多様な細胞タイプ中の形質膜に存在するIFNAR受容体によって認識される。IFN-1とIFNARの結合は、STAT1およびSTAT2などの転写因子のリン酸化を誘導して、それらの核への局在化を指示し、核ではそれらがインターフェロン刺激遺伝子(ISG)を活性化する。
【0086】
ISGは、炎症、サイトカインシグナリングおよび免疫調節を含む多様な免疫応答の調節を担う、一連の重要な分子をコードしている。一定のISGは、さまざまな機序によってウイルスの複製と伝播を妨害する(Schneider et al.,2014、Totura et al.)。同時に、IFN-1は下流の炎症誘発性サイトカインを刺激するが、それは、IFNがサイトカインストーム症候群(CSS)を誘発しまたはその一因になる可能性に関して、いくつかの懸念を生じさせる。
【0087】
本発明は、(PKCのTPA活性化によって)IFN-1活性化を制御し、安全で離散的な抗ウイルス効果を与える。具体的には、本TPA組成物および方法は、炎症を増加させることも、他の有益な免疫機能を抑制することもなく、IFNによって媒介される抗ウイルス防御を強化する。
【0088】
IFN-I処置は、MERS-CoVおよびSARS-CoVに対して、単独で、およびロピナビル/リトナビル(Chan et al.,2015、Sheal an et al.,2020)、リバビリン(Chen et al.,2004、Morgenstern et al.,2005、Omrani et al.,2014)、レムデシビル、コルチコステロイド(Loutfy et al.,2003)またはIFNγ(Sainz et al.,2004、Scagnolari et al.,2004)との組み合わせで、調べられている(Stockman et al.,2006に総説がある)。IFNαおよびβは、インビトロと一定の動物モデルで抗ウイルス活性を示したと報告されているが(Chan et al.,2015)、ヒトでは疾患を有意に改善させることはできなかった(Stockman et al.,2006)。MERS-CoVに対するIFNβとロピナビル/リトナビルの組み合わせは肺機能を改善したが、ウイルス複製と肺病理発生はどちらも有意には低減しなかった(Sheal an et al.,2020)。IFNα2aとリバビリンの組み合わせは死亡を遅らせたが、最終死亡率を有意に低減しなかった(Omrani et al.,2014)。IFNα2bとリバビリンの組み合わせはアカゲザルではプラスの結果を与えたが(Falzarano et al.,2013)、ヒトでは結論が出なかった(Arabi et al.,2017)。
【0089】
これらの先行研究においてIFN-I処置による実質的な疾患の改善を実証できなかったことは、MERS-CoVおよびSARS-CoVによるIFNシグナリング経路のウイルス阻害に関係しているか、または研究に用いられた被験者の数が限られていたこと、もしくは他の薬物と組み合わせて使用した場合にIFN-Iの個別の効果を識別することの難しさによるのかもしれない(Sallard et al.,2020)。併存疾患(comorbidity)のない患者の方がIFNは有効であるということもありうる(Al-Tawfiq et al.,2014、Shalhoub et al.,2015)。IFNサブタイプの多様性は、これらの研究の間に見られる矛盾のもう一つの説明になりうる。IFNβがコロナウイルスの阻害薬としてIFNαより強力であることは、繰返し示されている(Scagnolari et al.,2004、Stockman et al.,2006)。このサブタイプ優位性は、IFNβ1が肺内皮細胞において分化抗原群73(cluster of differentiation 73:CD73)をアップレギュレートして、抗炎症性であるアデノシンの分泌を促進し、内皮バリアの維持を支えるという、肺におけるIFNβ1の防御活性に関係しうる。これらの有益な効果は、IFNβ1aで処置されたARDS患者の間で観察された血管漏出の低減と相関する(Bellingan et al,2014)。ただし、この効果だけでは、ARDS死亡率を減少させるには不十分であった(Ranieri et al,2020)。
【0090】
最近の研究により、SARSコロナウイルス疾患発症中のIFN-I投与のタイミングは、治療アウトカムの決定に重大な役割を果たしうることが、示唆されている。ある研究では、IFN-Iを感染後まもなく投与した場合にはプラスの効果が観察されたが、それより遅く投与した場合、IFN-Iはウイルス複製を阻害することができず、マイナスの副作用を誘発した(Channappanavar et al,2019)。
【0091】
本発明者らによるパイロット研究は、TPAの早期投与が、SARS-CoV-2に対して臨床的に有益な抗ウイルス効果をもたらすことを示している。通常、TPA処置は患者が陽性と診断され、処置のために紹介されたら直ちに開始されるだろう。しかし、診断と紹介が極めて早期に行われた場合には、目立った症状が生じるまでは処置を差し控えることが望ましいだろう。例えば、患者が上気道においてウイルス陽性だが、重症感染の兆候(例えば発熱、努力呼吸/低酸素血症)を有しないなら、処置は、そのような兆候が初めて現われるまで(通常は症状の開始から7~8日目あたり)遅延させてよい。免疫機構、特にリンパ球リザーブ(lymphocyte reserve)を時期尚早に疲弊させることなく疾患のエスカレーションに対抗するのに最適な処置のタイミングをはかるために、この遅延は有益でありうる。
【0092】
PKCおよびIFN-1を刺激するための本明細書記載のTPA化合物の使用は、この機序がSARSウイルスの対免疫戦略を回避するはずであることから、特に有望である。SARS-CoVは、その宿主中の一定の免疫シグナリング経路を途絶させることができると報告されている。例えば、SARS-CoVのOrf6タンパク質はカリオフェリン輸送を途絶させ、その結果、STAT1を含む転写因子の核への移入を阻害し、よってSTAT-1が媒介するインターフェロン応答を損なう。同様に、SARS-CoVのOrf3bタンパク質は、IFN活性化に関与するもう一つの因子であるIRF3のリン酸化を阻害する(Frieman et al,2007、Kopecky-Bromberg et al,2007)。しかし、SARS-CoV-2のOrf6およびOrf3bタンパク質は切断型であり、それが、SARS-CoV-2がインビトロでIFNαに対してかなりの感受性を呈する理由の説明になりうる(Lokugamage et al,2020)。SARS-CoV-2は、IFN-Iに対して、SARS-CoVよりもかなり感受性が高く、IFN-I処置は、COVID-19疾患に対しては、より有効でありうることが示唆される。この仮説を裏づけるように、IFNα2bスプレーはSARS-CoV-2の感染率を低減できることが報告されている(Shen and Yang,2020)。SARS-CoV-2に対するIFN-I予防のこの報告は、SARS-CoV-2ウイルスに対するインターフェロン前処置のインビトロ効力について報告されたデータと合致している(Lokugamage et al,2020)。
【0093】
SARS-CoV-2の早期TPA処置に有利なこととして、本発明者らは、COVID-19の病態が重症例において広範な肺病変を伴うことを重視している。一部の研究者らは、これらの病変を(例えば多発性硬化症患者における)IFN薬物治療の過剰な使用と関連する一定の「インターフェロン症」と比較した。さらに、SARS-CoV-2ウイルスが、より一般的な「サイトカインストーム」応答内で過剰なIFN応答を誘導し、それによって、重症例におけるCSSおよび肺傷害の一因になりうることも考えられる(Siddiqi and Mehra,2020、Zhang et al,2020)。したがって、本発明のTPA処置は、サイトカインをCSS、ARDSおよびPIMSと関連するレベルまで過剰に(過剰炎症性に)刺激することなくIFN-1およびISGを活性化すると考えられ、TPA処置は、多くの場合、SARS-CoV-2感染の初期段階に向けられるだろう。典型的には、TPA処置は、診断後7~10日以内に開始されるだろう。ARDSおよびCSSのリスクが上昇しているかまたは症状が観察される一定の例では、TPA処置は、それと同時にまたはその後すぐに(例えば炎症誘発性サイトカインレベルの実質的な上昇が観察された時点および/または実質的なARDS症状が観察された時点で)、終わらせうる。本発明の別の局面では、TPA化合物が、SARS-CoV-2感染の第1段階中の選択された時点で(例えば上気道症状を認め、鼻咽頭SARS-CoV-2陽性によって確認された3~7日後に)投与され、1~5日間にわたって維持され、次に、症状開始の10~12日後に(または炎症誘発性サイトカインレベルの実質的な上昇が観察された時および/または実質的なARDS症状が観察された時から)抗インターフェロン薬と併用される。
【0094】
本発明の新規TPA組成物および方法は、免疫促進活性化およびSARS-CoV-2および他のSARSコロナウイルスによって媒介される危険なリンパ球減少を低減するためのリンパ球の救出による、間接的な抗ウイルス効果も媒介する。おそらく、COVID-19疾患対象に観察される最も有害な影響は、T細胞、B細胞およびNK細胞を含むリンパ球の急な激減(crashing)である。最も重症のCOVID-19患者では、NK細胞は極めて少ないかまたは存在せず、メモリーヘルパーT細胞および制御性T細胞は甚だしく減少する(Hui et al,2019)。これは、致命的COVID-19症例では二次リンパ組織が破壊され脾臓萎縮が観察されるという、剖検からの証拠と相関する。これらの発症に加えて、重症COVID-19患者は、脾臓における出血性壊死、マクロファージ増殖およびマクロファージ貪食の証拠と共に、リンパ球の激減を示す。同様の病原性変化は、肺実質における極めて少数のリンパ球、顕著なマクロファージおよび好中球の浸潤、上皮バリアおよび内皮バリアの破壊、ならびにびまん性肺胞損傷(DAD)を特徴とするARDSを呈する重症COVID-19患者の肺にも見られる。これは、血液または咽頭スワブではPCR検査が陰性である場合でさえ、ウイルス封入体が肺上皮に依然として検出される間に起こる(Zu et al.,2020、De Wit et al,2016、Chan et al,2015B)。これらの病原性徴候(pathogenic indicia)はサイトカインレベルの上昇とも相関し、全体として、「サイトカインストーム症候群」(CSS)として公知の状態を示す。
【0095】
マクロファージおよび好中球の過剰炎症性活性を最小限に抑えることに加えて、本発明のTPA組成物および方法は、リンパ球の保護(寿命の延長)を媒介すると共に、リンパ球の増殖および分化を直接刺激する。本発明者らのパイロット研究は、末梢血リンパ球(主にT細胞)に対するTPAの直接的で臨床上有効な細胞分裂促進効果を示している。SARS-CoV-2はT、BおよびNK細胞を圧倒し疲弊させると思われるので、この証拠は、TPA化合物および方法がCOVID-19患者におけるリンパ球減少を、効果的に低減または防止するであろうことを示している。この活性はリンパ球を保護し、リンパ球数を増大することになり、それがひいては、強力な抗ウイルス効果を媒介するだろう。
【0096】
上記に鑑み、本発明は、SARS-CoV-2および他のウイルスのリスクがあるかまたはそれらを呈する対象において、臨床上、抗ウイルス的利益を媒介する、新規TPA組成物および方法を提供する。本組成物および方法は、上気道または下気道中のウイルス量/力価を低減することによって、総ウイルス数を実質的に低減し、処置対象における付随する有害効果を減らし;(例えば複数の臓器を冒すCSSまたはPIMSを呈する対象において)非呼吸器組織および非呼吸器器官中のウイルス量/力価を低減し;細胞へのウイルスの付着と侵入を低減または防止し;感染細胞におけるウイルス複製を損ない、および/または5)気道からのウイルス排出を阻害または遮断するだろう。
【0097】
抗ARDS組成物および方法
本発明の別の局面では、ヒトSARS(hSARS)コロナウイルスが媒介する重症急性呼吸器症候群(SARS)を呈する対象を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈する対象において抗ARDS応答を誘発するために、哺乳動物対象に、抗ARDS有効量のTPA化合物が投与される。例示的な態様において、TPA抗ARDS処置に適する対象は、活動性SARS-CoV-2感染を示す陽性のSARS-CoV-2鼻咽頭その他の検査結果を呈し、処置は初期COVID-19疾患症状(咳、くしゃみ、のどの痛みもしくは痒みなどの上気道症状、および/または発熱)後、最初の1~8日以内、かつ重症下部呼吸器COVID-19疾患が発症する前に開始されるだろう。本組成物および方法は、(1)呼吸困難(息切れ); (2)低酸素血症; (3)肺実質(肺実質とは、ガス移動に関与する肺の部分-肺胞、肺胞管および呼吸細気管支組織である)における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインまたは他の炎症性因子のレベルの上昇、または(2)肺実質および/または肺胞気腔における単球、マクロファージおよび/または好中球の浸潤の増加および/またはレベルの上昇; (3)肺の内皮バリアおよび/または上皮バリアの破壊; (4)肺における病原性線維症(pathogenic fibrosis)および/または免疫原性もしくは過剰炎症性疾患傷害の他の組織病理学的徴候; (5)肺組織または他の組織、器官または対象からの生物学的試料における酸化ストレスの徴候の上昇、から選択されるARDSの1つまたは複数の徴候を、対照対象と比較して、処置された対象において低減または除去するのに有効である(各指標/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)。
【0098】
本発明の一定の態様において、本明細書におけるTPA化合物および方法は、活性化B細胞の核内因子カッパ軽鎖エンハンサー(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)(NFκB)の活性化により、COVID-19、ARDSおよびCSSに対して抗ウイルス活性ならびに他の予防的および治療的活性を発揮する。NFκBは、DNA転写を制御するタンパク質複合体であり、免疫および炎症機能の決定的制御因子である。NFκB経路は、ストレス応答、炎症、ならびに適応免疫および先天免疫などの、重要な細胞プロセスを媒介する。NFκBの異常な転写制御は、がんおよび自己免疫疾患に関連づけられている。重要な免疫および炎症エフェクター細胞のバランスのとれた活性化、細胞決定(免疫細胞分化のタイミングおよび経過、細胞運命、細胞プログラミング、シグナル応答能、例えば受容体の発現および機能、細胞寿命およびアポトーシス)を決定することなどによる、全体として健康でバランスのとれた免疫および炎症機能にとって、NFκBの適正な制御が不可欠であることは、今では明らかである。
【0099】
ほとんどの細胞のサイトゾルには常時、潜在型の不活性なNFκBが存在する。これは、NFκBがウイルスおよび他の刺激に応答する一次転写因子であること、そしてインフラマソームカスケードにおける重要な構成要素であることを可能にしている(Oeckinghaus et al,2009)。活性化されると、NFκBは、IL-1ベータおよびNLRP3発現を誘導することによって、NLRP3-インフラマソームを活性化のためにプライミングする。NFκB活性化によるシグナリングアダプターp62/SQSTM1は、Ras誘導性の炎症および腫瘍形成の正の媒介因子として同定されており(Duran et al,2008)、そのことがこれをがん治療の興味深い標的にしている(Zhang et al,2016)。研究者らは、NFκBが、p62/SQSTM1が媒介するマイトファジープロセスによって、過剰な炎症を警戒していることも、現在、見いだしつつある。具体的には、NFκBは、マクロファージにおける自分自身の炎症促進活性を、損傷したミトコンドリアのp62/SQSTM1媒介除去を促進することによって、制限する(Zhong et al,2016)。これは、炎症反応を管理し、組織損傷を防ぐための負のフィードバックループとして、役立つ可能性が高い。
【0100】
本明細書における教示によれば、TPA化合物は、COVID-19、ARDSおよびCSS処置対象における過剰炎症効果をダウンレギュレートしつつ、下流の抗ウイルス効果を維持する新規な様式で、NFκBの活性化因子として機能する。NFκBは、最初は炎症の初期プライマーとして機能するが、過剰炎症の非可逆的段階に先立つ時点(すなわちCSSの開始前)におけるTPAによる時宜を得た介入は、NFκBを「活性化」することで、新規マイトファジー経路により、マクロファージおよび好中球における過剰炎症をダウンレギュレートする。NFκBは、この能力において、損傷したミトコンドリアのp62/SQSTM1媒介除去を促進することにより、マクロファージにおける自分自身の炎症誘発活性をフィードバック制限するように作動する(Zhong et al,2016)。ここでのパイロット研究は、TPAによって媒介されるNFκB活性化が、COVID-19およびARDSにおける適正な段階で(例えばマクロファージおよび好中球は活性化されているが、まだ過剰活性化はされていない時に、かつマクロファージおよび好中球によって媒介されるCOVID-19およびARDS関連組織損傷が起こる前に)適用された場合に、この制御がCSSを含む過剰炎症および付随する組織損傷を臨床的に低減または遮断するであろうことを示している。
【0101】
ヒトSARSウイルス感染、ARDS、CSS、PIMSおよびウイルス誘導性の他の過剰炎症および病原性状態(pathogenic condition)(例えばCOVID-19対象におけるもの)を処置する際のTPA効力のもう一つの重要な局面は、免疫および炎症を制御するキナーゼの活性化、シグナリングならびに下流の炎症および発病機序に対するTPAの効果に関係する。ACE2はSARS-CoV-2の付着によってダウンレギュレートされ、それは、NFκBおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナリング経路が過剰活性化されて、肺の炎症および傷害をもたらすことにつながる。ウイルスと宿主の間のこれらのおよび他の相互作用は、MAPK活性化およびMAPK炎症誘発性シグナルカスケードのもう一つの制御因子であるPKCの異常制御と相関する。一般論として、TPAは、PKCと相互作用しPKCを活性化して、MAPK炎症カスケードに関与するシグナルを伝搬するための基質リン酸化をもたらすことができる。
【0102】
MAPK経路に対する、TPAの、より複雑な効果は、免疫細胞の分化およびアポトーシスのTPA制御を伴う。本発明者らの研究は、例示的なTPA化合物12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテートは、PKCを活性化するだけでなく、PKCを安定化して、MAPK過剰刺激の臨床的に有益な低減(下流のMAPK媒介性炎症誘発シグナリングを減弱する、MAPK活性化およびリン酸化活性の低減)を達成することを示している。
【0103】
本発明の一定の局面において、TPA化合物のアポトーシス促進効果は、MAPKによって刺激される標的細胞(マクロファージおよび好中球を含む)におけるアポトーシスの増加を媒介し、これらの標的細胞のMAPK媒介性過剰炎症活性をさらに制限する。
【0104】
関連態様において、TPA化合物のアポトーシス促進効果は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)のウイルス性制御異常によって過剰刺激され再プログラミングされた病原性炎症細胞におけるアポトーシスの増加を媒介する。TGF-βは、3つの哺乳動物アイソフォーム(TGF-β1~3、HGNCシンボルTGFB1、TGFB2、TGFB3)および他の多くのシグナリングタンパク質が含まれるトランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーに属する多機能サイトカインである。TGF-βタンパク質はすべての白血球細胞系譜によって産生される。ウイルス感染が存在する場合、活性化されたTGF-βは、他の免疫/炎症性補因子とのセリン/スレオニンキナーゼ複合体を形成し、その複合体がTGF-β受容体に結合する。TGF-β受容体は、1型および2型受容体サブユニットの両方で構成される。TGF-βの受容体結合後に、2型受容体キナーゼは1型受容体キナーゼをリン酸化し活性化して、免疫/炎症性シグナルカスケードを活性化する。これは、免疫細胞および炎症細胞の分化、走化性、増殖、活性化、プログラミングおよびアポトーシスにおいて機能する多様な標的遺伝子および遺伝子産物の合成および/または活性化を増強する。
【0105】
TGF-βは、マクロファージを含む多くの細胞タイプにより、他の2つのポリペプチド(潜在型TGF-ベータ結合タンパク質(latent TGF-beta binding protein:LTBP)および潜在性関連ペプチド(LAP))との複合体を形成した潜在型で分泌される。プラスミンなどの血清プロテイナーゼは、この複合体からの活性TGF-βの放出を触媒する。これは、潜在型TGF-β複合体がCD36にそのリガンド・トロンボスポンジン-1(TSP-1)を介して結合しているマクロファージの表面で起こる。マクロファージを活性化するウイルス感染などの炎症性刺激は、プラスミンの活性化を促進することによって、活性TGF-βの放出を強化する。また、マクロファージは、形質細胞によって分泌されるIgG結合潜在型TGF-β複合体をエンドサイトーシスによって取り込み、次に活性TGF-βを細胞外に放出する。
【0106】
それゆえにTGF-βの主な機能は炎症誘発性サイトカインとしての機能である。しかしTGF-βは、免疫細胞および炎症細胞の決定および分化にも、異なる役割を果たす。現在公知のTGF-β活性化経路はわずかしかなく、TGF-β活性化の背景にあるさらに幅広い機序は、まだよくわかっていない。TGF-βの公知の活性化因子には、プロテアーゼ、インテグリン、pHおよび活性酸素種(ROS)が含まれる。
【0107】
TGF-βの活性化およびシグナリングの制御異常を引き起こす摂動が、過剰炎症、自己免疫障害、線維症およびがんを媒介しうることは、周知である。これは、TGF-βヌルトランスジェニックマウスにおける激しい過剰炎症によってよく実証される。上述のように、COVID-19疾患および他のSARSウイルス感染は、重症例では、激しい肺の炎症、線維症およびびまん性肺胞損傷(diffuse alveolar damage:DAD)を引き起こす。マクロファージおよび好中球は、重症COVID-19患者におけるARDSと相関して、肺実質および肺胞腔に多数浸潤する。この病変はしばしば、肺線維症、血栓症および血管炎に関連づけられる肺毛細血管への好中球浸潤、広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着を含むようになる。CSSとして顕在化する過剰炎症の同様の機序は、CSS過剰炎症および病理発生が複数の器官の関与および不全につながりうるPIMSおよび後期COVID-19では明らかである。
【0108】
Zhaoら(2008)は、最初のSARS-CoVコロナウイルスを研究して、SARS-CoVヌクレオカプシド(N)タンパク質がTGF-βを実際に増強して、一定の経路によって過剰炎症を媒介し、同時に、成熟免疫/炎症細胞におけるアポトーシスの誘導に関与するTGF-βの決定的経路/活性を無効にすることを報告した。SARS Nタンパク質はプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1の発現を特異的に誘導し、同時に、ヒト末梢肺上皮(HPL)細胞のSmad3/Smad4媒介性アポトーシスを減弱する。TGF-β炎症カスケードに対するSARS Nタンパク質の過剰活性化効果はSmad3特異的である。Nタンパク質はSmad3と会合して、Smad3-p300複合体形成を促進する一方、Smad3とSmad4の間の複合体形成は妨害する(Zhao et al,2008)。これらの知見は、SARSウイルスNタンパク質が、(TGF-βが媒介する過剰炎症の他の機序を並行して活性化しつつ)TGF-β活性化およびシグナリングの一特異的経路を途絶し、乗っ取って、SARS-CoVに感染した病原性炎症性宿主細胞の正常なアポトーシスを有害に遮断し、その寿命を延ばすという、驚くべき機序を含意している。
【0109】
本発明の重要な目標は、重症例において肺実質および肺胞腔への活性化マクロファージおよび好中球の大量流入によって媒介される、COVID-19対象における肺の線維症および他の傷害を防止し、短縮することである。本発明のTPA組成物および方法は、この臨床目的を、一つには、TGF-β媒介アポトーシスのSARS Nタンパク質遮断を反転させることによって達成する。このウイルス性「リプログラミング」機序は、重症CSSおよびARDS症状を持つCOVID-19対象における活性化マクロファージおよび好中球の数の極端な上昇の説明になると考えられる。これらの炎症/免疫細胞は、それぞれの抗ウイルス機能(貪食および脱顆粒)を果たした後、通常はアポトーシスを起こすが、COVID-19はこれらの細胞を、それらの寿命を(TGF-β誘導アポトーシスのNタンパク質抑制によって)延ばすことによって動員し、それによって、継続的過剰炎症ならびに強化されたウイルスの複製および伝播を誤制御する。SARSコロナウイルスによる病原性マクロファージおよび好中球のこの動員および保護は、明らかに、ウイルスの病原戦略および進化戦略の一部である。循環リンパ球(T、BおよびNK細胞)は明らかにACE-2受容体を欠くが、ACE2を発現するCD68+CD169+マクロファージは、COVID-19患者の、特に脾辺縁帯およびリンパ節の辺縁洞に検出されており、これらのマクロファージはSARS-CoV-2ヌクレオタンパク質抗原を含有し、IL-6のアップレギュレーションを示した(Feng et al.,2020)。これは、マクロファージがCOVID-19によって「トロイの木馬」的に感染されて、脆弱な組織および器官にウイルスを運び、SARS-CoV-2感染時の過剰な炎症および活性化が誘導するリンパ球の細胞死に根本的に寄与しうることを示している。
【0110】
好中球がACE-2受容体を発現して、hSARSウイルスによって直接感染されうるかどうかは不明だが、SARS-CoV-2過剰炎症活性化および好中球の増強におけるACE-2の役割は明らかである。Liら(2020)の研究は、ACE2は、SARS-CoV-2の細胞侵入と複製を助長する受容体であるだけでなく、感染後にウイルスが媒介する宿主免疫応答、サイトカイン発現および炎症の制御異常にも関与することを示している。感染した細胞および組織におけるACE-2レベルは、SARS-CoV-2によって誘導されるARDSの重症度と相関し、CSSおよびARDSを媒介する炎症誘発性サイトカインの過剰上昇と直接関連する。より具体的には、Liとその同僚は、ACE2の高発現が、先天性免疫応答、適応免疫応答、B細胞制御およびサイトカイン分泌の強さ、ならびにIL-1、IL-10、IL-6およびIL-8によって誘導される過剰炎症応答と関連することを報告している。言い換えると、CSSを媒介する免疫系機能障害は、ACE2の高発現と広く関連づけられる。加えて、ACE2の高発現は、ウイルス複製に関与する遺伝子発現の増加、ならびにウイルスの侵入、複製およびアセンブリを強化するSARS-CoV-2感染上皮細胞のトランスクリプトームの変化と相関する。T細胞の活性化およびT細胞が媒介する炎症応答は、感染細胞におけるトランスクリプトームのSARS-CoV-2変化によっても誘導される。SARS-CoV-2に感染した患者におけるIL-1β、IFN-γ、IP10およびMCP1のレベルの増加は、T-ヘルパー-1(Th1)細胞応答の過剰活性化と関連づけられるようである。ACE2は、好中球、NK細胞、Th17細胞、Th2細胞、Th1細胞、樹状細胞およびTNFα分泌細胞の活性化も媒介し、重度の過剰炎症応答につながる。肺組織における高いACE2発現 特異的に マクロファージの細胞傷害性活性化、好中球炎症およびTh2優位の免疫応答(Li et al,2020)。興味深いことに、ACE2発現は、SARS-CoV感染後は時間依存的に変化する。
【0111】
SARS-CoV-2ウイルスによる宿主マクロファージおよび好中球の「動員およびリプログラミング」の帰結として、乗っ取られて「不死化」された炎症エフェクター細胞は、宿主の循環をうっ血させて損ない、間質および肺胞コンパートメントを(肺線維症、NET沈着、上皮バリアおよび内皮バリアの破壊、血管炎および血栓症などによって)劣化、うっ血させ、免疫応答をうまく開始させる宿主の能力を(例えば免疫エフェクター細胞および分泌抗体が肺および他の器官におけるウイルスの温床(nursery site)に到達するのを妨げることにより)根本的に制限する。乗っ取られて制御異常を起こしたこれらのプロセスによる影響の頂点が、極端な肺炎症性病理発生、循環およびガス交換の遮断、低酸素血症および最終的な肺/心不全を伴う、ARDS/SARSである。これらは、その宿主と長く共進化してきた特殊化したウイルスの微調整された弱毒化した影響ではなく、新規な(例えば人畜共通感染症の)万能ウイルスの特徴的影響である。
【0112】
本発明のTPA組成物および方法を使用することにより、SARS-CoV-2の感染機序および発病機序は効果的に遮断されるか、または実質的に低減される。例示的な態様において、TPA化合物を利用する抗炎症方法は、SARS-CoV-2が誘導する過剰炎症、CSS、ARDS、PIMS、ならびにこれらの病原性状態に伴う関連する組織および器官の傷害を低減する。一定の態様において、本発明のTPA化合物は、宿主マクロファージおよび好中球におけるSARS-CoV-2による活性化および寿命延長(正常なアポトーシスのNタンパク質による途絶)を防止または低減し、それによってCSS、ARDS、DAD、PIMSおよびESHSの発病効果を制限し、結果として、ウイルス複製、宿主内でのウイルス伝播、ウイルス排出およびウイルス伝染を制限する。理論に束縛されることは望まないが、本発明のTPA化合物および方法のこれらの抗炎症および「アポトーシス促進」効果は、PKC、MAPK、NFκBおよび/またはTGF-β標的、機序および経路に、直接的または間接的に関連づけることができ、またはそれらとは完全に独立でありうる。
【0113】
本明細書における教示によれば、本発明の抗ARDS組成物および方法で処置された患者は、例えば呼吸困難、肺における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの上昇、肺実質および/または肺胞気腔における単球、マクロファージおよび/または好中球のレベルの上昇、肺の内皮バリアおよび/または上皮バリアの破壊、肺組織における酸化ストレスの徴候の上昇(例えば肺における活性酸素種(ROS)のレベルの上昇、および/または1つもしくは複数の肺傷害の病原性症状(pathogenic symptom)(例えば過剰炎症、線維症、びまん性肺胞損傷(DAD)、肺実質へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、肺毛細血管へのマクロファージおよび/または好中球の浸潤、広範な好中球細胞外トラップ(NET)の沈着、肺間質、肺および/または冠血管の血栓症、および血管炎、その他のARDS傷害と関連する病的徴候)から選択される、ARDS重症度と相関する1つまたは複数のインデックス、状態または症状の少なくとも20%の低減、しばしば25~50%の低減、多くの場合、75~95%またはそれ以上の低減、最大100%の除去を示すだろう。請求項に係る組成物および方法の効力は、前述したARDSの指標のそれぞれについて、処置対象における当該指標の臨床的診断値を、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値と比較して、測定し決定することによって、決定される。
【0114】
本明細書記載の抗ARDS組成物方法および組成物は、ウイルス病原体(例えばSARS)、細菌病原体、腐食剤、肺の傷害または外傷、熱傷その他の原因が引き起こすARDSを含む、ある範囲の処置されたARDS対象における、1つまたは複数のARDS症状を処置または防止するのに有効である。
【0115】
抗CSS組成物および方法
さらなる例示的態様では、SARSウイルスに感染した対象、COVID-19疾患を呈する対象、その他サイトカインストーム症候群(CSS)の症状を呈する対象において抗CSS応答を誘発するために、哺乳動物対象に、抗CSS有効量のTPA化合物が投与される。COVID-19疾患および他の過剰炎症状態におけるCSSを処置および防止するためにTPA化合物を使用することの理論的根拠、戦略および活性の機序は、抗ARDS組成物および方法に関する上記の説明に、概して従う。
【0116】
本発明のこれらの局面によれば、本発明の抗CSS組成物および方法で処置された患者は、CSSの発生および/または重症度と相関する1つまたは複数のインデックス、状態または症状、例えばCSSに罹患した細胞または組織における炎症誘発性サイトカインの活性化、発現および/またはレベルの過剰な上昇;肺実質、肺胞気腔、またはCSSに罹患した別の組織もしくは器官におけるマクロファージおよび/または好中球の浸潤の増加および/または数の上昇;リンパ球減少(リンパ球(T、BおよびNK細胞)数の激減);酸化ストレスマーカーの上昇;肺またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官における内皮バリアおよび/または上皮バリアの炎症性傷害;病原性線維症および肺またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官/器官の他の病原性炎症性傷害;リンパ節の炎症性傷害、喪失または萎縮;脾臓の炎症性傷害または萎縮;敗血症;毒素性ショック症候群(TSS);および/または酸化ストレス症状の、少なくとも20%の低減、しばしば25~50%の低減、多くの場合、75~95%またはそれ以上の低減、最大100%の除去を示すだろう(各指標/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)。
【0117】
より詳細な局面において、本発明の抗CSS方法および組成物は、CSSにおける主要な原因因子、すなわち有益な炎症応答に通常付随するレベルを超える炎症誘発性サイトカインの制御異常および過剰な上昇を低減するか、または除去するのに、驚くほど有効である。本明細書における教示によれば、本発明の抗CSS組成物および方法で処置された患者は、CSSと関連する1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの過剰な上昇の、少なくとも20%の低減、しばしば25~50%の低減、多くの場合、75~95%またはそれ以上の低減、最大100%の除去を示すだろう。
【0118】
例示的な態様において、TPAで処置された対象では、COVID-19によって誘導されるCSSと関連する重要な炎症誘発性サイトカインIL-6が、実質的に低減したレベルを呈するだろう。例示的実施例では、処置の着手時に炎症誘発性サイトカイン上昇および本明細書記載の他のCSS症状を伴うCOVID-19疾患を呈したTPA処置対象におけるIL-6のレベルが、同等のサイトカインレベルおよびCSS症状を呈するプラセボ処置対照対象と比較して、標的組織または試料(例えば循環血試料、または生検もしくは剖検からの肺組織)におけるIL-6レベルの少なくとも20%の低減、25~50%の低減、最大75~95%の低減に対応するIL-6の治療的ダウンレギュレーションを示すだろう。予防効力の実証には、CSSリスク因子が同等になるように試験群および対照群の患者が選択され(例えば全員が早期診断されたCOVID-19疾患を有し)、処置の完了後は、CSS陽性プラセボ処置対照対象におけるCSSの発生率および重症度ならびに過剰刺激されたIL-6レベルと比較して、TPA処置群では、IL-6レベルの上昇を含むCSS症状を発症する患者の数が少なく、CSS症状を発症した患者でも、IL-6レベルは実質的に低いなど、症状の重症度は低くなるだろう。
【0119】
CSSと関連する炎症誘発性サイトカインレベルの過剰な上昇を防止および低減する同等の効力は、IL-6だけでなく、広範囲にわたる炎症誘発性サイトカイン標的、例えば限定するわけではないが、(IL)-1B;IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)の、標的血漿、細胞または組織における発現またはレベルの低減を媒介するために、TPA治療を使用した場合にも達成されるだろう。TPAによって媒介される減弱に関するこれらの炎症誘発性サイトカイン標的のそれぞれは、重篤なCOVID-19疾患を持つ患者では異常に上昇していることが、Huangら(2020)によって報告されている。Huangとその共同研究者は、重症ICU患者では、IL-2、IL-7、IL-10、G-CSF、IP10、MCP1、MIP1A、TNFαが、非ICU患者よりも高かったことを報告している(Huang et al,2020、Conti et al,2020)。本発明の例示的態様では、TPA治療の標的が、IL-10(単球/マクロファージおよび好中球による炎症誘発性サイトカイン産生を阻害し、TH1型リンパ球応答を阻害する);IL-11(単球/マクロファージによる炎症誘発性サイトカイン応答を阻害し、さらにTh2リンパ球応答を促進する);IL-13(単球/マクロファージ機能を減弱する)、IL-37、ならびにCSSに関係づけられる他の炎症誘発性サイトカインおよびケモカイン、から選択される1つまたは複数のCSS関連炎症誘発性サイトカインの発現、活性化、半減期および/またはレベルを低減することに向けられる。
【0120】
理論に束縛されることは望まないが、本発明のTPA組成物および方法は、CSSに間接的に伴う炎症誘発性サイトカインの過剰活性化および過剰発現を、細胞レベルで(例えば正常なT、BおよびNK細胞機能の減弱をもたらす活性化誘導性リンパ球減少の低減によって)、そしてまたPKC、MAPK、NFκB、TGF-β、ならびに正常な免疫および炎症制御と関連する他の標的、機序および経路が関与する上述のシグナル応答経路によって、強力に減弱する。
【0121】
別の例示的態様において、TPA処置を受けた対象は、抗炎症性サイトカインレベルの実質的上昇を呈するだろう。この新規な効果は次に、COVID-19疾患対象などにおける、CSSの症状および病態のさらなる低減を媒介する。例示的実施例では、処置の着手時にCOVID-19疾患ならびに関連する炎症誘発性サイトカインの上昇および本明細書記載の他のCSS症状を呈したTPA処置対照における抗炎症性サイトカインのレベルが、同等の炎症誘発性サイトカインレベルおよびCSS症状を呈するプラセボ処置対照対象と比較して、標的組織または試料(例えば循環血試料、または生検もしくは剖検からの肺組織)におけるサイトカインレベルの20%の増加、25~50%の増加、最大75~95%の増加に対応する、1つまたは複数の抗炎症性サイトカインの治療的アップレギュレーションを示すだろう。予防効力の実証には、CSSリスク因子が同等になるように試験群および対照群の患者が選択され(例えば全員が早期診断されたCOVID-19疾患を有し)、その後は、プラセボ処置対照対象におけるCSSの発生および重症度ならびに抗炎症性および炎症誘発性サイトカインプロファイル値と比較して、TPA処置群では、炎症誘発性サイトカインレベルの上昇を含むCSS症状を発症する患者の数が少なく、CSS症状を発症した患者でも、実質的に上昇した抗炎症性サイトカインレベルおよび実質的に低減した炎症誘発性サイトカインレベルと相関して、症状の重症度は低くなるだろう。
【0122】
炎症誘発性サイトカインレベルの過剰な上昇を含むCSS症状を防止および低減するために抗炎症性サイトカインをアップレギュレートする同等の効力は、広範囲にわたる抗炎症性サイトカイン標的、例えば限定するわけではないが、IL-1RA(免疫促進細胞(pro-immune cell)および上皮細胞によって分泌されるインターロイキンであり、IL1βの炎症誘発効果を阻害し、さまざまなインターロイキン1関連免疫および炎症応答を調節する);sTNFR1(膜結合型TNFR1(mTNFR1)の循環対応物であり、循環中でTNF三量体に結合して、膜結合型TNF受容体-TNFリガンド相互作用を防止する)およびsTNFR2(mTNFR2の対応物であり、循環中でTNF三量体に結合して、膜結合型TNF受容体-TNFリガンド相互作用を防止する)を含む、可溶性TNF受容体(sTNFR);可溶性IL-1受容体2型(sIL-1RII)(血漿中で循環IL-1リガンドに結合して、IL-1βがIL-1受容体1型に結合するのを防止する);膜結合型IL-1受容体2型(mIL-1RII)(細胞内シグナリング機能を欠くが、細胞膜においてIL-1リガンド結合に関して1型IL-1Rと競合する、「デコイ」受容体として機能する);IL-10(IL-2およびIFN-gを含むTh1サイトカインを阻害し、単球/マクロファージ炎症誘発性サイトカイン合成を不活化し、単球/マクロファージ由来のTNF-a、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、顆粒球コロニー刺激因子、MIP-1a、MIP-2a、IL-18BPをダウンレギュレートまたは阻害する);IL-11(NF-κBの核移行を遮断し、よって炎症誘発性サイトカインの転写活性化を損なう、阻害性NF-κB(阻害性NF-κB)をアップレギュレートすることによって、マクロファージにおけるIL-1およびTNF合成を減弱し、CD41 T細胞によるIFN-gおよびIL-2の合成を阻害し、Th2型サイトカインとして機能し、Th1リンパ球によるサイトカイン発現を阻害する);IL-13(単球/マクロファージ細胞によるTNF、IL-1、IL-8およびMIP-1αの産生をダウンレギュレートする);およびTGF-β(炎症誘発効果と抗炎症効果の両方を有し、他のサイトカインおよび増殖因子の作用を拮抗し、増強し、または修飾するための生物学的スイッチとして役立ち、炎症の活性部位を消散と修復によって支配される部位に変換することができ、局所的には免疫強化因子として、また体循環では免疫抑制因子として機能することができ、T細胞およびB細胞の増殖と分化を抑制し;IL-2、IFN-gおよびTNFをダウンレギュレートし;IL-10と同様に単球/マクロファージ不活化因子として役立ち、成熟免疫/炎症細胞におけるアポトーシスを誘導する)についても、TPA治療を使って達成されるだろう。
【0123】
CSSの処置および防止に向けられる本発明の関連態様において、本明細書記載のTPA組成物および方法は、肺実質、肺胞気腔またはCSSに罹患した別の組織または器官におけるマクロファージおよび/または好中球の浸潤および数の増加を、効果的に遮断または低減する。TPA化合物のこれらの効果には、マクロファージおよび/または好中球の炎症誘発性サイトカインおよび/またはケモカインシグナリングの遮断または低減(それらの活性化、遊走/浸潤を遮断または低減すること、マクロファージおよび/または好中球炎症誘発性サイトカイン発現、細胞傷害性、上皮細胞および内皮細胞ならびに構造構成要素の破壊を遮断または低減すること、活性化好中球によるNET沈着を遮断または低減すること、ならびにマクロファージおよび/または好中球の血栓形成誘発活性および関連する病原性効果を遮断または低減することを含む、さまざまな機序が関与しうる。加えて、本発明のTPA組成物および方法は、マクロファージおよび好中球に対するアポトーシス誘発効果であって、それらの正常な炎症活性および時宜を得たアポトーシスを正に制御する(そして、COVID-19疾患の場合は、正常なアポトーシスを病原性に損なうことでこれらの細胞の寿命および過剰炎症効果を引き延ばすTGF-βに対するSARS Nタンパク質の効果によって媒介されるSARS-CoV-2による動員およびこれらの細胞におけるリプログラミングを破壊する)効果を媒介する。
【0124】
CSSの処置および防止に関する本発明のさらなる局面において、本発明のTPA化合物および方法は、Tリンパ球減少を処置または防止するためにも、臨床的に有効である。リンパ球減少は、少なくとも一つには活性化が誘導するリンパ球の細胞死によって媒介される、重症CSS例(すなわち組織/器官の病理発生、傷害および機能障害に進行する症例)において観察される血液、脾臓および/またはリンパ節におけるリンパ球(T、BおよびNK細胞)数の大幅な低減である。
【0125】
他の態様において、本発明のTPA組成物および方法は、例えば肺組織またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官における酸化ストレスマーカー(例えば上昇/ROSレベル)の低減によって決定される、CSSと関連する酸化ストレスを処置または防止するのに有効である。
【0126】
CSSと関連する本発明の他の処置標的には、肺またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官における内皮バリアおよび/または上皮バリアへの炎症性傷害の防止または低減が含まれる。これらの実施例における効力の診断的徴候には、生検および/または剖検結果をCSS対象の処置群と対照群の間で評価する公知の組織学的検査および組織化学的アッセイが含まれる。
【0127】
本発明の関連するTPA処置方法おび組成物は、肺またはCSSに罹患した他の組織もしくは器官/器官における病原性線維症および/または免疫原性もしくは過剰炎症性疾患傷害の他の組織病理学的徴候、リンパ節の消失および/または萎縮、ならびに脾臓の炎症および/または萎縮の防止および処置に向けられ、これらはすべて、従来の病理学検査、組織学的および組織化学的方法を利用して、効力について評価される。
【0128】
本発明のさらなる態様は、CSSと関連する敗血症、毒素性ショック症候群(TSS)および/または酸化ストレス症状の低減または遮断を伴うCSSの防止および処置に向けられる。ここでも、処置/予防効力、症状の評価のための診断パラメータを測定するための従来のアッセイ方法は、当技術分野において広く公知である。
【0129】
抗炎症および免疫制御組成物および方法
本発明のさらなる態様は、過剰免疫または過剰炎症状態、例えば限定するわけではないが、COVID-19疾患と関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS)、川崎病、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、または過剰炎症が引き起こす血管のうっ血または血栓状態を、防止または処置するTPA組成物および方法。血管のうっ血または血栓状態は、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および/または壊疽を含みうるが、それらに限定されるわけではない。これらの組成物および方法を、過剰免疫または過剰炎症状態または障害のリスクが高まっているか、またはそのような状態または障害を呈しているヒト対象に投与した場合、臨床効力は、(1)対象の患部組織、器官または血漿における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインまたは他の炎症性因子のレベルの上昇; (2)対象の患部組織、器官またはコンパートメント(例えば肺胞、腎臓または血管の内腔)における単球/マクロファージおよび/または好中球の浸潤の増加および/またはレベルの上昇; (3)対象の患部組織または器官の内皮バリアおよび/または上皮バリアの破壊; (4)対象の患部組織または器官における病原性線維症および/または免疫原性または過剰炎症性疾患傷害の他の組織病理学的徴候; (5)毒素性ショック症候群(TSS)症状; (6)患部組織、器官または対象からの生物学的試料における酸化ストレスの徴候の上昇;および/または(7)突然の発熱、発疹、眼の充血、口の乾燥またはひび割れ、手掌および足底における発赤、腺の腫大、血管の腫大、および/または冠動脈瘤から選択される、1つまたは複数の小児炎症性多系統症候群(PIMS)関連症状、から選択される1つまたは複数の標的となる過剰免疫または過剰炎症状態または症状の実質的な低減(すなわち少なくとも20%の低減、25~50%の低減、75~95%の低減、最大100%の防止/排除)によって実証されるだろう(各指標/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)。
【0130】
本発明の関連する局面では、過剰免疫または過剰炎症状態、例えば限定するわけではないが、COVID-19疾患と関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS)、川崎病、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、または過剰炎症が引き起こす血管のうっ血または血栓状態を、防止または処置するために、TPAがヒト対象に投与される。血管のうっ血または血栓状態は、播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および/または壊疽を含みうるが、それらに限定されるわけではない。これらの局面によれば、過剰免疫または過剰炎症状態または障害のリスクが高まっているか、またはそのような状態または障害を呈しているヒト対象には、(1)対象の患部組織、器官または血漿における1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインまたは他の炎症性因子のレベルの上昇; (2)対象の患部組織、器官またはコンパートメント(例えば肺胞、腎臓または血管の内腔)における単球/マクロファージおよび/または好中球の浸潤の増加および/またはレベルの上昇; (3)対象の患部組織または器官の内皮バリアおよび/または上皮バリアの破壊; (4)対象の患部組織または器官における病原性線維症および/または免疫原性または過剰炎症性疾患傷害の他の組織病理学的徴候; (5)毒素性ショック症候群(TSS)症状; (6)患部組織、器官または対象からの生物学的試料における酸化ストレスの徴候の上昇;および/または(7)発疹、眼の充血、口の乾燥またはひび割れ、手掌および足底における発赤、腺の腫大、血管の腫大、および/または冠動脈瘤から選択される、1つまたは複数の小児炎症性多系統症候群(PIMS)関連症状、から選択される標的となる過剰免疫または過剰炎症状態または症状を低減または防止するのに十分な、免疫調節有効量または抗炎症有効量のTPA化合物が投与される(各指標/値は、類似するプラセボ処置対照対象において測定され決定された同じ指標/値との比較で、処置された対象において測定され決定される)。
【0131】
複合薬(combination drug)治療および協調的処置(coordinate treatment)方法
本発明のさらなる局面では、有効量のTPA化合物と1つまたは複数の「二次的作用物質とを利用する組み合わせ製剤(combinatorial formulation)および協調的処置方法が提供される。二次的作用物質は「二次的治療作用物質」または「二次的予防作用物質」であってよく、TPA化合物と共製剤化されるか、またはTPA化合物と協調的に投与されることで、標的となるCOVID-19感染または疾患、ARDS全般、SARS、CSS、PIMSまたは本明細書記載の他の標的となる感染、疾患、状態および/または症状を処置または防止するのに有効な複合製剤(combined formulation)、複合薬治療または協調的処置または予防方法を与えることができる。例えば、ARDSのための例示的な組み合わせ製剤および協調的処置/防止方法は、ARDS、または標的とする併存疾患、状態または症状を処置および/または防止するのに有効な1つまたは複数の二次的または補助的処置または予防作用物質と組み合わされた、抗ARDS効果のあるTPA化合物を含む。これに代わる局面において、二次的作用物質は、標的となるまたは併存する状態を処置および/または防止するために、TPA化合物と同じ、類似するまたは異なる薬理学的活性を有することができる。
【0132】
関連する態様では、本明細書において開示される任意のTPA化合物を、本明細書記載の任意の感染、疾患、状態および/または症状を処置および/または防止するために、1つまたは複数の二次的治療または予防作用物質と共に、薬物組み合わせまたは併用治療において利用することができる。例示的態様では、抗ウイルス効果のあるTPA化合物が、従来の抗ウイルス薬と組み合わされるか、または協調的に投与される。別の例示的態様では、抗ARDS、抗CSS、抗PIMS、抗ESHS、抗DAD、抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/またはアポトーシス促進TPA化合物が、処置対象におけるウイルス感染、過剰炎症、ARDs、CSS、PIMS、ESHS、DAD、細胞変性活性の上昇、免疫抑制、免疫および/または炎症細胞の正常なアポトーシス活性の機能障害、および/または本明細書記載の他の任意の標的症状、状態もしくはインデックスと、選択された患者において関連するか、またはそれと併存する、任意の疾患、状態、症状の防止または処置に対して有意な臨床的利益を媒介する二次的作用物質と組み合わされ、または協調的に投与される。
【0133】
本発明のTPA化合物は、二次的作用物質と同時に、または逐次的に投与することができ、二次的作用物質は、相加的、相乗的または個別的に作用して、TPA化合物を投与する目的である疾患、状態または症状と同じまたは異なる疾患、状態もしくは症状を処置および/または防止するだろう。TPA化合物および二次的作用物質は、単一の製剤に組み合わされてもよいし、同時にまたは異なる時点で別々に投与されてもよい。したがって、TPA化合物と二次的作用物質の投与は同時に行うか、またはいずれかの順序で逐次的に行うことができ、治療間隔には、TPA化合物と二次的治療作用物質の一方だけまたは両方(またはすべて)が個別におよび/または全体としてそれらの治療効果を発揮する時間が含まれうる。そのような協調的処置方法のすべての特徴的な局面は、選択されたTPA化合物が、本明細書記載の標的となる疾患、状態または症状の緩和または防止に向けて少なくとも何らかの検出可能な治療活性を発揮して、好ましい臨床的応答を引き出し、それが、二次的治療作用物質によって媒介される別個のまたは強化された臨床的応答を伴っても伴わなくてもよいことである。別の例示的態様では、TPA化合物と二次的治療作用物質の協調的投与が、典型的には、同じ投薬量のTPA化合物または二次的作用物質のどちらか一方を単独で投与した後に観察される臨床的応答と比べて、より強い治療応答をもたらし、副作用は低減するだろう。例えば、従来の抗ウイルス薬と組み合わされた抗ウイルス効果のあるTPA化合物を使用する協調的処置は、TPA化合物と従来の抗ウイルス薬の両方を個別に治療用量未満の用量で投与した場合でさえ、実質的治療効果をもたらし、関連する副作用を回避しまたは(治療用量に等しい用量のTPA化合物または従来の抗ウイルス薬を単独で使用した場合に観察される副作用との比較で)減らしうる。このようにして、TPA化合物および従来の抗ウイルス薬は、互いにとって「増強性」であり、どちらの薬物も単独では検出可能な治療利益をもたらさない投薬量で、組み合わせ治療効力を誘発する。TPAと、通常なら(すなわち単独で投与する時には)治療用量未満である用量の、補完性または増強性の二次的治療薬との驚くべき組み合わせ効力には、完全に治療用量であるTPAまたは二次的治療薬の個別投与に伴いうる有害副作用が除去されまたは実質的に低減されるという点で、重要な利点がある。ここで利用されるこれらの協調的投薬レジメンは、例えば周知の臨床パラメータおよび患者特異的パラメータに応じてさまざまであるだろうが、「治療用量」および「治療用量未満の用量」という用語は、当業者にとっては通常の明確な意味を有する(また、ここでは、標的となる疾患、状態および症状と関連する症状の任意の1つまたは組み合わせに適用可能である。
【0134】
抗ウイルス薬とTPAの組み合わせ
二次的作用物質が抗ウイルス薬である本発明の協調的治療において、二次的作用物質は従来の抗ウイルス薬でありうる。例えば、抗ウイルス薬は、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプリジェン、アンプレナビル(Agenerase)、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル(Balavir)、バロキサビルマルボキシル(Xofluza)、ビクタルビ、ボセプレビル(Victrelis)、シドフォビル、コビシスタット(Tybost)、コンビビル、ダクラタスビル(Daklinza)、ダルナビル、デラビルジン、デシコビ、ジダノシン、ドコサノール、ドルテグラビル、ドラビリン(Pifeltro)、エコリーバー(Ecoliever)、エドクスジン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エトラビリン(Intelence)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害因子、ガンシクロビル(Cytovene)、イバシタビン、イバリズマブ(Trogarzo)、イドクスウリジン、イミキモド、イムノビル(Imunovir)、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害因子、インターフェロンI型、インターフェロンII型、インターフェロンIII型、ラミブジン、レテルモビル(Prevymis)、ロピナビル、ロビリド、マラビロク、メチサゾン、モロキシジン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル(Nexavir)、ニタゾキサニド、ノービア、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Tamiflu)、ペグインターフェロン・アルファ-2a、ペグインターフェロン・アルファ-2b、ペンシクロビル、ペラミビル(Rapivab)、プレコナリル、ポドフィロトキシン、ピラミジン(Pyramidine)、ラルテグラビル、レムデシビル、逆転写酵素阻害因子、リバビリン、リルピビリン(Edurant)、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、シメプレビル(Olysio)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テルビブジン(Tyzeka)、テノホビルアラフェナミド、テノホビルジソプロキシル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル(Valtrex)、バルガンシクロビル、ビクリビロック、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル(Relenza)、および/またはジドブジン、公知であり臨床使用のために容易に入手できるその他多くの安全で有効な抗ウイルス薬のうちの任意の1つまたは組み合わせから選択されうる。抗ウイルス作用物質は、標的ウイルスに免疫特異的に結合するかまたは他の形で標的ウイルスを無効にするモノクローナル抗体および他の生物製剤、ならびにステロイドおよびコルチコステロイド、例えばプレドニゾン、コルチゾン、フルチカゾンおよびグルココルチコイドから選択してもよい。
【0135】
例示的な本発明の組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物が、レムデシビルと共製剤化されて一緒に(例えば多剤iv注入で)送達されるか、またはレムデシビルと同時にもしくは逐次的に共投与される。レムデシビル(GS-5734)は現在、有望な抗COVID-19薬であり、RNAウイルスに対して広域スペクトルの抗ウイルス活性を呈する。これはアデノシンに似た構造を持つプロドラッグである。レムデシビルは、新生ウイルスRNAに組み込まれ、RNA依存的RNAポリメラーゼの阻害もする。これは、ウイルスRNA鎖の時期尚早な終結をもたらし、結果としてウイルスゲノムの複製を停止させる。レムデシビルは、元々はエボラウイルスに対してGilead Sciences(米国)によって開発され、コンゴ民主共和国における最近のエボラ大流行中に臨床試験が行われた。この試験中にエボラに対して有効であることは判明しなかったが、ヒトに対するその安全性は確立されたため、COVID-19疾患に対するレムデシビルの効力を決定するための、進行中の臨床試験へのそのエントリーが可能になった。重要なことに、レムデシビルは、SARS-CoVおよびMERS-CoVを含む異なるコロナウイルスに対してインビトロおよびインビボで抗ウイルス活性を呈することが、以前に示されている。最近のインビトロ研究では、レムデシビルがSARS-CoV-2を阻害することも報告された(Wang et al.,2020)。レムデシビルは現在、中国における2つのランダム化第III相試験(NCT04252664およびNCT04257656)を含む、異なる国における複数の試験で試験されている。
【0136】
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物がファビピラビルと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはファビピラビルと同時にもしくは逐次的に共投与される。レムデシビルと同様にファビピラビルは、内在するグアニンを構造的に模倣することにより、ウイルスのRNA依存的RNAポリメラーゼを阻害する。競合阻害により、ウイルス複製の効力は実質的に損なわれうる。ファビピラビルはインフルエンザの治療薬として承認されているが、SARS-CoV-2の処置については、前臨床試験による裏づけが、ファビピラビルにはレムデシビルほどない。中国における臨床研究では、SARS-CoV-2を処置するためにファビピラビル+インターフェロン-αの効力が評価され(ChiCTR2000029600)、2020年3月にファビピラビルは、最初の安全で有効な抗COVID-19薬として、中国国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration of China)に承認された。
【0137】
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物がイベルメクチンと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはイベルメクチンと同時にもしくは逐次的に共投与される。イベルメクチンは、FDAに承認された抗寄生虫薬であり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とデングウイルスの両方に対して抗ウイルス活性を発揮することが判明している。イベルメクチンは、ウイルスタンパク質カーゴの核輸送を担う予め形成されたIMRα/β1ヘテロ二量体を解離させることができる。ウイルスタンパク質の核輸送は、複製サイクルと宿主の抗ウイルス応答の阻害にとって不可欠であるから、核輸送プロセスを標的とすることは、RNAウイルスに対する実行可能な治療アプローチでありうる。最近、インビボ研究により、SARS-CoV-2による感染の48時間後に、ウイルスRNAを最大5000分の1まで低減するイベルメクチンの能力が判明した(Caly et al.,2020)。抗寄生虫使用についての安全性プロファイルは確立されているので、COVID-19の処置についてイベルメクチンの効力を証明するための次の段階は、最適な投薬を決定するための試験を伴うだろう。
【0138】
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物がロピナビルおよびリトナビルと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはロピナビルおよびリトナビルと同時にもしくは逐次的に共投与される。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロテアーゼ阻害物質ロピナビルおよびリトナビルは、COVID-19対象の抗ウイルス処置のための本発明のTPA方法および組成物における、有望な候補である。アスパルチルプロテアーゼは、HIVにおいて前駆体ポリペプチドを切断する、HIVのpol遺伝子がコードする酵素であり、それゆえにその複製サイクルでは不可欠な役割を果たす。コロナウイルスは異なる酵素クラスのプロテアーゼ(システインプロテアーゼ)をコードするが、ロピナビルとリトナビルはコロナウイルス3CL1proプロテアーゼも阻害するであろうことを示唆する証拠がある。SARSおよびMERSに対して行われたいくつかの臨床研究、動物研究およびインビトロモデル研究により、プロテアーゼ阻害物質のロピナビル/リトナビル合剤は、これらの各ウイルスに対抗することが確証された。ロピナビル/リトナビル合剤は現在、COVID-19患者における使用について臨床試験中であるが(NCT04252885;ChiCTR2000029308)、Clayの標準的治療を上回る明確な利益は、まだ報告されていない。
【0139】
抗ACE2薬とTPAの組み合わせ
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物が組換えヒトアンジオテンシン変換酵素2(APN01)と共製剤化されて一緒に送達されるか、または組換えヒトアンジオテンシン変換酵素2(APN01)と同時にもしくは逐次的に共投与される。可溶性組換えヒトアンジオテンシン変換酵素2(rhACE2)は、Sタンパク質が細胞のACE2と相互作用するのを遮断することによって、SARS-CoV-2の侵入を遮断すると予想される。実際、最近の研究では、rhACE2は、細胞および胚性幹細胞由来のオルガノイドにおいて、SARS-CoV-2複製を1,000~5,000分の1に阻害することができたと報告されている(Monteil et al,2020)。rhACE2は、基質を類縁酵素ACEから遠ざけることにより、おそらく血清中アンジオテンシンIIを減少させる。これは、ACE2受容体のさらなる活性化を防止し、それによって肺血管の完全性を保全し、ARDSを防止しうる。元々はApeiron Biologicsによって開発されたAPN01は、ARDSについて既に第II相試験を受けている。中国における小さなパイロット研究(NCT04287686)が、特にARDSの処置として、COVID-19肺炎におけるrhACE2の生物学的および生理学的役割を、現在、評価している。Apeiron Biologicsは、静注用APN01の安全性および忍容性を評価するために、プラセボ対照二重盲用量漸増研究も開始している。アンジオテンシンIIおよびアンジオテンシン1~7の血清中レベルを測定することにより、この薬物によって妨害される生体産物、ならびにCOVID-19肺炎におけるrhACE2の生物学的および生理学的役割が、さらに解明されるだろう。
【0140】
ウイルス侵入阻害因子
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物がアルビドールと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはアルビドールと同時にもしくは逐次的に共投与される。アルビドールは、インフルエンザおよびアルボウイルスに対して開発されたウイルス侵入阻害因子である。この薬物は、インフルエンザウイルスの表面上の主要糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)を標的とする。アルビドールは、エンドサイトーシス後にウイルス膜とエンドソームの融合を防止する。現在これは、SARS-CoV-2に対する単剤として、試験が行われている(NCT04260594、NCT04255017)。もう一つの臨床試験は、SARS-CoV-2に対してアルビドールをファビピラビルと比較することに向けられている(ChiCTR2000030254)。
【0141】
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物がインターフェロンと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはインターフェロンと同時にもしくは逐次的に共投与される。COVID-19を処置するためにロピナビル/リトナビルとIFNα2bとの組み合わせ(ChiCTR2000029387)またはロピナビル/リトナビルとリバビリンと皮下投与されるIFNβ1bの組み合わせ(NCT04276688)を評価するための臨床試験が最近登録された。蒸気吸入によるIFN投与は現在、中国では標準治療的COVID-19処置の一部になっており、これには気道を特異的に標的とするという利点がある。静脈内モードおよび皮下モードのIFN投与は詳述されており、いくつかの臨床試験で安全であると判明している。IFN-Iとロピナビル/リトナビル、リバビリンまたはレムデシビルの組み合わせは、他のコロナウイルスについて報告されたこれらの組み合わせの強化された効力に基づいて、その効力を改良しうる(Sheal an et al,2020)。III型IFNも、気道における保護効果が知られているので、COVID-19の処置の候補である(Lokugamage et al,2020)。ロピナビル/リトナビルと組み合わされた皮下IFNβ1aは、WHO連帯臨床試験コンソーシアム(WHO Solidarity consortium of clinical trials)の最初の臨床試験であるDisCoVeRy試験(NCT04315948)において、ロピナビル/リトナビル単独、ヒドロキシクロロキン、およびレムデシビルと比較されている。
【0142】
抗炎症薬とTPAの組み合わせ
抗ウイルス薬との組み合わせおよび協調的処置方法に加えて、TPA化合物は、治療的介入の標的として本明細書記載の他のすべての疾患、状態および症状を処置および/または防止するために、二次的治療および/または予防作用物質と有益に組み合わされるだろう。例えば、処置される患者において、ウイルス感染、過剰炎症、ARDs、CSS、PIMS、ESHS、DAD、細胞変性活性の上昇、免疫抑制、免疫および/または炎症細胞の正常なアポトーシス活性の機能障害、および/または本明細書記載の他の任意の標的症状、状態またはインデックスと関連する、またはそれと併存する、1つまたは複数の疾患、状態または症状を協調的に処置するのに、組み合わせとして有効(例えば補完的、相加的、相乗的、増強的)である場合には、「抗炎症」薬および生物製剤が、抗ARDS、抗CSS、抗PIMS、抗ESHS、抗DAD、抗炎症、免疫促進、抗細胞変性および/またはアポトーシス促進薬混合物、協調的投与プロトコール、および補完的多剤処置方法において、TPA化合物と有益に組み合わされる。
【0143】
本発明のさまざまな態様では、例えば限定するわけではないが、抗炎症性サイトカイン、ステロイド、コルチコステロイド、グルココルチコイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗酸化物質、プロスタグランジン、および抗生物質、その他の抗炎症性作用物質など、多種多様な抗炎症性作用物質が役立つだろう。
【0144】
本発明の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗炎症効果のあるTPA化合物が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と共製剤化されて一緒に送達されるか、または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と同時にもしくは逐次的に共投与される。これらの態様において使用するための例示的NSAID候補には、アスピリン、セレコキシブ(Celebrex)、ジクロフェナク(Cambia、Cataflam、Voltaren-XR、Zipsor、Zorvolex)、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェン(Motrin、Advil)、インドメタシン(Indocin)、セレコキシブ(Celebrex)、ピロキシカム(Feldene)、インドメタシン(Indocin)、メロキシカム(Mobic Vivlodex)、ケトプロフェン(Orudis、ケトプロフェンER、Oruvail、Actron)、スリンダク(Clinoril)、ジフルニサル(Dolobid)、ナブメトン(Relafen)、オキサプロジン(Daypro)、トルメチン(トルメチンナトリウム、Tolectin)、サルサラート(Disalcid)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン(Ansaid)、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナメート、メフェナム酸(Ponstel)、その他、広く公知であり臨床使用に利用することができる安全で有効なNSAID抗炎症薬などがあるが、それらに限定されるわけではない。
【0145】
サイトカイン阻害薬とTPAの組み合わせ
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗炎症効果のあるTPA化合物が、SARS-CoV-2感染、COVID-19疾患、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DADまたは本明細書記載の他の任意の過剰炎症状態もしくは症状と関連して過剰に上昇する1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを直接的または間接的に阻害する/低下させる抗炎症性の薬物または作用物質と共製剤化されて一緒に送達されるか、またはそのような抗炎症性の薬物もしくは作用物質と同時にもしくは逐次的に共投与される。例示的な態様において、抗炎症効果のあるTPA化合物は、(IL)-1B;IL-2;IL-6、IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;線維芽細胞増殖因子(FGF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);IFNγ;顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);インターフェロン-γ誘導性タンパク質(IP10);単球化学誘引物質タンパク質(MCP1);マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1A);血小板由来増殖因子(PDGF);腫瘍壊死因子(TNFα);および血管内皮増殖因子(VEGF)から選択される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカイン標的の、誘導、合成、活性化および/または循環レベルを阻害する/低下させる1つまたは複数の二次的治療作用物質と共製剤化されるか、またはそのような二次的治療作用物質と協調的に投与されるだろう。本発明のこれらの局面では、TPA化合物と二次的治療作用物質とが、組み合わせとして、前記1つまたは複数の標的となる炎症誘発性サイトカインの発現、活性化、半減期および/またはレベルを低減するのに、個々の薬物の同等に治療効果がある用量の投与と比べて多くの場合少ない副作用で有効である。
【0146】
これらの態様において二次的治療作用物質として使用するための例示的抗炎症薬候補には、上述の抗炎症性サイトカイン、ならびに1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインの合成または活性を特異的、直接的または間接的に、標的とし、結合し、遮断し、不活化し、および/または阻害するさまざまな薬物および生物学的作用物質が含まれる。
【0147】
抗IL-6生物製剤および薬物とTPAの組み合わせ
本発明のこれらの局面の例示として、TPA化合物は、抗IL-6薬物または生物製剤と併用した場合に、IL-6の誘導、合成、活性化および/または循環レベルを実質的に低減するのに、組み合わせとして有効である。IL-6は、治療上、長らく、TNF-aおよびIL-1と共に、炎症誘発カスケードに関与する中心的(keystone)炎症誘発性サイトカインとみなされてきた。IL-6の場合、このサイトカインは、炎症エフェクターの全身性活性化のマーカーとみなされている。他の多くのサイトカインと同様に、IL-6も炎症誘発性と抗炎症性の両方を有する。特に重要であることに、IL-6は急性期炎症応答の強力な誘導因子であり、IL-6レベルの上昇は、ARDSを持つCOVID-19患者における予後不良と強く相関する(IL-6の過剰な上昇は機械的人工呼吸の必要と強く関連する)。IL-6シグナリングの古典経路は、好中球、単球、マクロファージおよび他の白血球集団上に発現するIL-6受容体を介して起こる。膜結合型IL-6受容体(mIL-6R、CD126)への結合の他に、IL-6は、mIL-6Rのタンパク質加水分解的切断またはmRNAの選択的スプライシングによって生成する可溶型のIL-6受容体にも結合することができる。循環IL-6のレベルの上昇は、より速い肺弾性の低下およびより重度の気管支肺胞炎症と関連する。したがって、IL-6が制御するシグナリング経路の特異的遮断は、COVID-19疾患対象における肺損傷と関連する急性炎症を減弱するための有望なアプローチになる。
【0148】
多剤TPA戦略でIL-6を標的とする例示的一態様では、TPA化合物が抗IL阻害物質、結合作用物質または不活化作用物質、例えば特異的IL-6モノクローナル抗体もしくはFabフラグメントまたは可溶性IL-6受容体もしくは受容体類似物、およびそれらのコグネイト抗IL-6結合または不活化ドメインを含む関連生物製剤と、協調的に投与される。
【0149】
一定の態様では、EUSA Pharmaが製造する抗IL-6モノクローナル抗体シルツキシマブが、TPA化合物との協調的抗炎症処置方法において利用される。シルツキシマブは、ARDSを持つCOVID-19患者の処置における使用について、現在臨床研究下にある。
【0150】
別の態様では、COVID-19、ARDS、CSSおよび他の過剰炎症状態を持つ対象において、IL-6活性を無効にしまたは損ない、それによって臨床的利益を媒介するために、IL-6受容体アンタゴニストであるサリルマブ(Kevzara)が、抗炎症性TPA化合物と共に利用される。Kevzaraは関節炎の処置における効力が判明している。Regeneron PharmaceuticalsおよびSanofiは、現在、Kevzaraについて重症および重体のCOVID-19患者で第II相および第III相試験を行っている(NCT04315298)。
【0151】
別の態様では、COVID-19、ARDS、CSSおよび他の過剰炎症状態を持つ対象において、IL-6活性を無効にしまたは損なって臨床的利益を達成するために、組換えヒト抗IL-6モノクローナル抗体トシリズマブ(TCZ)が、抗炎症性TPA化合物と共に利用される。TCZは、可溶性および膜結合型IL-6受容体(IL-6R)に特異的に結合し、よってIL-6シグナリングおよびIL-6媒介性炎症応答を遮断する。TCZは、関節リウマチなどのリウマチ性疾患において広く使用されてきた。2017年に、TCZは、キメラ抗原受容体T細胞(CART)免疫治療が引き起こす生命にかかわる重度のCSSに関して、米国において承認された。最新の研究では、重症および重体のCOVID-19患者の処置におけるTCZの効果が評価されている。予備報告では、TCZが発熱および他のARDS症状を低減し、処置された対象の75.0%が酸素化の改良を示したことが示されている。CTスキャン上の不透明な肺病変は90.5%の患者で吸収された。加えて、末梢リンパ球レベルは52.6%の患者で正常に戻った。成人入院患者での重症COVID-19肺炎の処置におけるトシリズマブの安全性と効力を評価するために、現在、新型コロナ肺炎(NCP)患者におけるトシリズマブの効力および安全性に関する多施設ランダム化対照試験(ChiCTR2000029765)、トシリズマブに関するシングルアームオープン多施設研究(ChiCTR2000030796)および抗ウイルス薬と組み合わされたトシリズマブに関す研究(ChiCTR2000030442およびChiCTR2000030894)を含むいくつかの臨床試験が登録されている。
【0152】
関連する態様では、抗炎症効果のあるTPA化合物が、IL-6を直接的に遮断もしくは阻害するか、またはIL-6の炎症誘発活性を間接的に阻害し、低下させ、もしくは変化させる抗IL-6薬物と共製剤化されて一緒に送達されるか、またはそのような抗IL-6薬物と同時にもしくは逐次的に共投与される。そのような薬物の一つは、元々は植物センシンレン(Andrographis paniculata)中に同定されたアンドログラフォリドである。アンドログラフォリドは、ジテルペノイド・ラブダン化合物であり、これは、インドおよび中国において感染、炎症、風邪、発熱、肺炎その他の状態、および下痢を処置するために中国およびインドで広く使用される伝統的薬用植物センシンレンに見いだされる主要生物活性成分である。アンドログラフォリドは、抗細菌、抗炎症、抗マラリアおよび抗がん活性を含む、治療上重要な幅広い生物学的活性を呈することが記録されている。アンドログラフォリドは、NF-κBシグナリングの阻害によるものを含む強い抗炎症活性を呈する。アンドログラフォリドは、過剰炎症と関連する誘導性一酸化窒素シンターゼおよび活性酸素種の産生も抑制する。アンドログラフォリドはさらに、p27の発現を増加させ、サイクリン依存性キナーゼの発現を減少させることによって、細胞周期停止を誘導すること、およびカスパーゼ-8依存的経路によるアポトーシスを惹起することもできる。マウス腹腔マクロファージでは、アンドログラフォリドが、ERK1/2シグナリングの抑制によって、TNF-αおよびインターロイキン-12の産生を阻害する。
【0153】
TPAと組み合わされたアンドログラフォリド薬
IL-6媒介性炎症に関して、アンドログラフォリドは、IL-6が媒介する過剰炎症機序および経路に影響を及ぼす強力な抗炎症活性を有することも示されている。アンドログラフォリドは、インビトロでもインビボでも、用量依存的に、IL-6産生を阻害し、IL-6過剰炎症シグナリングを抑制する(Stat3、AktおよびERK1/2経路内を含む)(Chun,2010)。本発明の例示的態様によれば、抗炎症効果のあるTPA化合物とアンドログラフォリドの協調的投与は、IL-6活性を、多くの場合、複数の経路および/または機序によって、遮断または阻害するのに、組み合わせとして有効であり、IL-6の炎症誘発活性を直接的または間接的に阻害し、低下させ、もしくは変化させ、またはIL-6の過剰炎症効果もしくは免疫制御異常効果(例えば分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成、ならびに/または免疫および/もしくは炎症エフェクター細胞の、例えばリンパ球、単球/マクロファージ細胞および好中球の、アポトーシス活性の制御異常)を矯正する。
【0154】
キナーゼ調節薬とTPAの組み合わせ
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗炎症効果のあるTPA化合物が、過剰炎症応答の媒介もしくは抑制、または免疫および/もしくは炎症性エフェクター細胞(例えばリンパ球、単球/マクロファージ細胞および好中球)の分化、増殖、活性化、炎症性サイトカイン合成および/もしくはアポトーシス活性の制御に関与する、1つまたは複数のキナーゼの免疫または炎症活性を直接的または間接的に阻害し、低下させ、活性化しまたは変化させる、キナーゼ調節薬物または作用物質と共製剤化されて一緒に送達されるか、またはそのようなキナーゼ調節薬物もしくは作用物質と同時にもしくは逐次的に共投与される。本発明のこれらの局面における例示的な標的キナーゼには、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびヤヌスキナーゼ(JAK)が含まれる。例示的な態様において、TPAとJAK阻害因子とによるCOVID-19疾患対象の協調的処置は、ARDS、SARS、CSS、PIMS、ESHS、DADと関連する1つもしくは複数の疾患状態もしくは症状または本明細書記載の他の過剰炎症状態もしくは症状を臨床的に低減する。ある実施例では、抗炎症効果のあるTPA化合物が、JAK阻害物質ヤコチニブ塩酸塩(Jakotinib hydrochloride)または別のJAK阻害物質バリシチニブと共製剤化されるか、またはそれらJAK阻害物質と協調的に投与される。
【0155】
本明細書におけるJAK阻害物質抗COVID-19処置戦略は、上に詳述したSARS-CoV-2の病因におけるACE2の役割に基づいている。ACE2は、心臓、腎臓、血管、そして特に肺胞上皮に広く発現する細胞表面タンパク質である。SARS-CoV-2は明らかにACE2に結合し、ACE2媒介エンドサイトーシスによって細胞に侵入する。エンドサイトーシスの公知の制御因子の一つはAP2関連プロテインキナーゼ1(AAK1)である。AAK1阻害因子は細胞内へのウイルスの通過を遮ることにより、ウイルスの感染と複製を損なうことができる。バリシチニブは、JAK阻害物質であると共にAAK1阻害物質でもあり、COVID-19対象において安全であることが既に判明している。1日あたり2mgまたは4mgいずれかのバリシチニブの治療的投薬は、測定可能なSARS-CoV2阻害を誘発するには十分であった。JAK阻害物質の使用に関する懸念は、JAKが、抗ウイルス免疫応答を媒介するさまざまなサイトカイン、例えばINF-aを阻害するという報告に基づく。JAK阻害因子ヤコチニブ塩酸塩については現在臨床試験が行われている(「新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の重症および急性増悪患者の処置おけるヤコチニブ塩酸塩錠剤の安全性および効力に関する研究」(Study for safety and efficacy of Jakotinib hydrochloride tablets in the treatment severe and acute exacerbation patients of novel coronavirus pneumonia(COVID-19))(ChiCTR2000030170)および「間葉系幹細胞と組み合わされたルキソリチニブで処置された数人の新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)患者:前向き単盲検ランダム化対照臨床試験」(Severe novel coronavirus pneumonia(COVID-19)patients treated with ruxolitinib in combination with mesenchymal stem cells:a prospective,single blind,randomized controlled clinical trial)(ChiCTR2000029580))。
【0156】
抗SARS-CoV-2ワクチンとTPAの組み合わせ
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、ウイルス感染を防止または低減し、それによってCOVID-19疾患状態および症状を防止または低減するために、抗ウイルスまたは抗炎症効果のあるTPA化合物が、抗SARS-CoV-2ワクチン剤と共製剤化されて一緒に送達されるか、または抗SARS-CoV-2ワクチン剤と同時にもしくは逐次的に共投与される。これらの協調的処置方法において使用するための例示的な候補ワクチンは、全世界がSARS-CoV-2および他の過去のおよび潜在的将来のhSARSウイルスに対する効果的な予防を求めて先を争っているので、現在では非常に数が多い。一定の態様において、抗hSARSウイルスワクチンの形態にある二次的治療作用物質は、生弱毒化組換えhSARSウイルスまたは組換えキメラhSARSウイルス、不活化または非働化(killed)hSARSウイルス、hSARSウイルスの免疫原性サブユニット、例えばhSARSスパイク(S)タンパク質の全部または一部で構成されるサブユニットワクチンを含むことができ、他にも多くの多様な抗hSARSワクチンツールが現在研究されている。ワクチンは、本発明の組み合わせTPA処置方法および組成物では、特に重要である。なぜなら、一つには、何らかの既存抗ウイルス薬(単剤療法として投与されるもの)によってCOVID-19肺炎が効率よく処置されるという証拠が、現時点ではまだ不十分だからである。
【0157】
ワクチン開発は、将来再びCOVID-19が大流行するのを防止するための、重要な長期戦略である。SARS-CoV-2ゲノムの配列決定により、複数の核酸ベースのワクチン候補が提案されており、それらの多くはSタンパク質コード配列に基づいている。
【0158】
mRNA-1273ワクチン
2020年1月初旬、COVID-19肺炎の大流行直後に、SARS-CoV-2のゲノムが配列決定された。ModernaのmRNA-1273ワクチン候補は、灌流安定化ウイルススパイク(S)タンパク質をコードするmRNAの合成鎖である。これは、人体への筋肉内注射後に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を特異的に指向する抗ウイルス免疫応答を誘発すると予想される。不活化されたまたは死んだ病原体から作られる従来のワクチン、生弱毒化ウイルスまたは小さな免疫原性ウイルスサブユニットとは異なり、Modernaの脂質ナノ粒子封入mRNAワクチンは、SARS-CoV-2ウイルスの使用、取扱いまたはSARS-CoV-2ウイルスへの患者の曝露を一切、必要としない。それゆえに、これは比較的安全で、すぐに試験に供することができる。mRNA-1273がヒトにとって安全であることが判明し、第I相試験を通過すれば、引き続いてその効力の評価が直ちに実行されるだろう(NCT04283461)。このワクチン候補は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0159】
INO-4800
INO-4800は、Inovio Pharmaceuticalsによって創製されたDNAワクチン候補である。ModernaのmRNA-1273と同様に、INO-4800も、ヒト細胞に送達され、タンパク質に翻訳されて免疫応答を誘発することができる遺伝子ワクチンである。従来のワクチンと比べて、遺伝子ワクチンは、生産コストが低く、生産および投与が容易で安全である。核酸は構造が単純なので、組換えタンパク質ベースのワクチンで起こりうる不正なフォールディングのリスクもない。しかし、送達されるプラスミドの量ならびに妥当な投与間隔および投与経路は、遺伝子ワクチンの免疫原性に影響を及ぼしうる不確定要素である。このワクチン候補は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0160】
ChAdOx1 nCoV-19
オックスフォード大学によって創製されたChAdOx1 nCoV-19ワクチンは、非複製アデノウイルスベクターと、SARS-CoV-2のSタンパク質の遺伝子配列とで構成され、現在、第I/II相臨床試験中である(NCT04324606)。アデノウイルスは宿主内で非複製性であるため、小児および基礎疾患を持つ個体でも、比較的安全である。アデノウイルスベースのベクターは、SARS-CoV-2のACE-2受容体を発現する主要な2つの部位である呼吸器上皮と胃腸上皮をどちらもカバーする広範な組織指向性を特徴とする。このワクチン候補は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0161】
安定化サブユニットワクチン
エンベロープウイルスは感染のためにウイルス膜と宿主細胞膜の融合を必要とする。このプロセスは、融合前(pre-fusion)型から融合後(post-fusion)型へのウイルス糖タンパク質のコンフォメーション変化を伴う。融合前糖タンパク質は比較的不安定であるが、それでもなお、それらは強い免疫応答を誘発することができる。クイーンズランド大学は、組換えウイルスタンパク質がその融合前型に安定に留まることを可能にするであろう分子クランプ技術に基づいて、SARS-CoV-2に対する安定化サブユニットワクチンを開発している。分子クランプワクチンは以前にインフルエンザウイルスおよびエボラウイルスに応用されて、中和抗体の産生を誘導するその能力を証明している。37℃で2週間後に効力があるとも報告されている。このワクチン候補は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0162】
ナノ粒子ベースのワクチン
ナノ粒子ベースのワクチンは、リスクがある対象にワクチン接種をするために、抗原を組み込んで防止する代替的戦略である。封入または共有結合での官能基化により、ナノ粒子は、抗原エピトープとコンジュゲートされ、ウイルスを模倣し、抗原特異的リンパ球増殖およびサイトカイン産生を誘発することができる。加えて、鼻腔内または口腔スプレーによる粘膜ワクチン接種は、粘膜表面での免疫反応を刺激するだけでなく、全身性の応答も誘発することができる。これは、ナノ粒子ベースのワクチンの、全身症状を引き起こす呼吸器ウイルスからヒトを保護する能力を実証している。Novavax,Inc.は、ウイルスのSタンパク質に由来する抗原を使ったナノ粒子ベースの抗SARS-CoV-2ワクチンを生産している。このタンパク質はバキュロウイルス系において安定に発現され、この製品は今夏には第I相試験に入ると予期される。このワクチン候補は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0163】
病原体特異的人工抗原提示細胞
抗原特異的T細胞はがん細胞およびウイルス感染を根絶することができるという知識に基づけば、ウイルス抗原特異性を持つT細胞を大量に生成させることで、SARS-CoV-2感染に対する抵抗性を強化しうる。大量のT細胞を産生するための効率のよい方法には、エフェクターT細胞を活性化することができる適当な抗原提示細胞、ならびに対応するエフェクター細胞傷害性T細胞の分化および増殖が含まれる。レンチウイルスベクターによって送達されるウイルス構造タンパク質の保存されたドメインを発現する遺伝子改変人工抗原提示細胞(aAPC)は、ナイーブT細胞の分化と増殖を誘導することができる。aAPCの安全性と免疫原性を単独でおよび抗原特異的細胞傷害性T細胞との組み合わせで評価する複数の試験が進行中である(NCT04299724、NCT04276896)。aAPCは、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0164】
ナチュラルキラー細胞
COVID-19が与える最も高い死亡率は高齢患者に観察され、その原因は、少なくとも一つには、加齢による免疫系の衰えにあると考えられる。SARS-CoV-2に対する自然抗ウイルス免疫応答を後押しすることを目指すアプローチには、大きな可能性がある。ナチュラルキラー(NK)細胞は、ウイルス感染に対する迅速な応答を媒介する自然免疫系の重要な一成分を構成している。これまでの研究により、NK細胞およびマクロファージの肺遊走は、SARS-CoVの排除に重要な役割を果たすことが示されている(Chen et al.,2009)。自然応答そのものが、CD8+T細胞および抗体の助けを借りることなく、サイトカインおよびケモカインの産生を増加させることにより、SARS-CoV感染を抑制することができる。NK細胞の添加がCOVID-19肺炎におけるウイルス排除を媒介できるかどうかは、中国における第I相試験下にあり(NCT04280224)、2020年末までには完了すると見積もられている。いくつかの企業が、それぞれのNKベースの抗がん製品をCOVID-19の処置に用途変更することを目指している。それらの中には、韓国のGreen Cross LabCellと米国のKleo Pharmaceuticalsとの共同開発製品がある。また、米国を拠点とする企業Celularityは、胎盤造血幹細胞由来のNK細胞CYNK-001を開発した。NK細胞ブースト方法および組成物は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0165】
組換えインターフェロン
I型インターフェロンはウイルスに感染した細胞によって分泌される。単独で使用するか、または他の薬物と組み合わせて使用した場合、それらは、HCV、呼吸器合胞体ウイルス、SARS-CoVおよびMERS-CoVに対して、広域スペクトルの抗ウイルス効果を発揮する。試験は、現在、COVID-19肺炎の処置におけるそれらの安全性と効力に焦点が絞られている(NCT04293887)。I型インターフェロンは、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0166】
間葉系幹細胞
間葉系幹細胞(MSC)は、炎症誘発性サイトカインを減少させ、組織を修復するためのパラクリン因子を産生することによって、抗炎症機能を発揮することが証明されている。MSCが内皮透過性を回復するだけでなく、炎症性浸潤物を低減することもできることは、前臨床証拠によって示されている。MSCの免疫調節効果はトリインフルエンザウイルスで証明されており、COVID-19肺炎の処置におけるそれらの役割は有望である。現在、臍帯および歯髄からのMSCがCOVID-19研究において臨床的に試験されている(NCT04293692、NCT04269525、NCT04288102、NCT04302519)。MSCは、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0167】
静注用免疫グロブリン
静注用免疫グロブリン(IVIG)は、神経内科、皮フ科およびリウマチ科の分野で広く応用されてきた。IVIGは免疫系に対して多様な用量依存的効果を発揮する。低用量(0.2~0.4g/kg)のIVIGは、抗体欠乏症の補充療法として有用である。より高い用量(最大2g/kg)のIVIGは、炎症細胞増殖を抑制し、貪食を阻害し、抗体依存的細胞傷害性を妨害することなどによって、強力な免疫調節機能を呈する(Jolles et al,2005)。最新の試験では、COVID-19対象におけるIVIGの安全性および効力が評価されている(NCT04261426)。IVIG組成物は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0168】
SARS-CoV-2特異的中和抗体
抗体によって媒介される体液性免疫応答はウイルス感染の予防にとって極めて重要である。ウイルス表面エピトープを標的とする特異的中和抗体の開発は、COVID-19を標的とするための有望なアプローチである。AbCellera(カナダ)およびEli Lilly and Company(米国)は、感染患者におけるSARS-CoV-2を中和しうる機能的抗体を共同開発している。この目的のために、COVID-19から回復した最初の米国人患者の一人からの500万個を超える免疫細胞をスクリーニングして、500を超える有望な抗SARS-CoV-2抗体配列を同定し、現在それらは最も有効なものを見いだすためのスクリーニングを受けている。このアプローチは、ウエストナイルウイルスに対する機能的な特異的抗体を製造するために適用されて成功を収めている。Vir Biotechnology,Inc.、ImmunoPrecise、Mount Sinai Health SystemおよびHarbour BioMed(HBM)は、SARS-CoV-2に結合してそれを中和するであろうモノクローナル抗体を見つけるために、スクリーニングを行っている。これらのおよび他のSARS-CoV-2特異的中和抗体は、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0169】
抗C5aモノクローナル抗体
補体活性化は急性肺傷害と相関し、サイトカインC5a(C5から切断される生物活性分子)が、組織傷害を媒介する重要なエフェクターとして関連づけられている。C5aの役割には、好中球およびTリンパ球の動員と、肺血管透過性を増加させることとが含まれる。抗C5a処置は、血管漏出ならびに肺間質および肺胞腔への好中球流入を減少させることによって、肺傷害を低減することが示されている(Guo et al,2005)。TPAを用いる組み合わせ製剤および協調的処置方法において二次的作用物質として使用するための抗C5a薬の例には、Beijing Defengrei Biotechnology Co.によって発売されたBDB-1、およびBeijing Staidson Biopharma and InflaRxによって生産されるIFX-1がある。
【0170】
サリドマイド
最近、サリドマイドが、多様な治療用途のための抗血管新生、抗炎症および抗線維症医薬作用物質として再浮上している。サリドマイドは、TNF-アルファの合成を減少させることにより、クローン病およびベーチェット病などのさまざまな過剰炎症性疾患のための処置として利用されてきた。サリドマイドは、炎症細胞の浸潤を低減し炎症誘発性サイトカインの産生を阻害または遮断することにより、H1N1感染マウスの処置において有効である(Zhu et al,2014)。SARS-CoV-2に対する過剰な免疫/炎症応答が引き起こす肺傷害を減らすためのサリドマイドの免疫調節効果を調べるために、現在、試験が行われている(NCT04273529、NCT04273581)。サリドマイドは、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0171】
フィンゴリモド
フィンゴリモドは、主として難治性多発硬化症を処置するために使用される経口免疫調節作用物質である。これは、構造上、脂質スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)に似ていて、リンパ節T細胞中のS1P1受容体の極めて強力なアンタゴニストとして作用することができる。効果的な結合によってS1P1受容体は内在化し、続いてリンパ節T細胞は隔離される。Tリンパ球の肺流入の減少は、抑制のない免疫病理発生を減弱するためのもう一つのアプローチであり、現在、臨床試験で試験されている(NCT04280588)。フィンゴリモドは、本明細書記載のTPAとの一定の組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質である。
【0172】
抗血管新生薬とTPAの組み合わせ
急性呼吸窮迫症候群を持つ患者では血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルの上昇が観察される。VEGFは、内皮傷害を誘導し血管透過性を増加させることができる炎症性メディエーターとして機能する(Thickett et al.,2001)。さまざまな抗VEGF薬物および生物製剤が臨床使用のために開発されている。これらのうち、ベバシズマブは、VEGFに結合し、その機能を中和すること、例えば血管新生を遮断することができる、組換えヒト化モノクローナル抗体であり、現在、承認されて、複数タイプのがんを処置するために、米国において広く使用されている。進行中の試験では、SARS-CoV-2感染を処置するためのベバシズマブの有効性が現在、評価されている(NCT04275414)。抗血管新生性の薬物および生物製剤は、抗VEGF薬物および生物製剤を含めて、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0173】
ヒドロキシクロロキン
本発明の他の例示的な組み合わせ組成物および方法では、抗SARS-CoV-2効果のあるTPA化合物が、クロロキンまたはヒドロキシクロロキンと共製剤化されて一緒に送達されるか、またはクロロキンもしくはヒドロキシクロロキンと同時にもしくは逐次的に共投与される。従来、抗マラリア薬および抗自己免疫薬として長く使用されてきたヒドロキシクロロキンは、ウイルスと宿主細胞の間の膜融合に必要なエンドソームpHを増大させることによって、ウイルスの感染性を制限するようでもある。ある研究において、ヒドロキシクロロキンは、SARS-CoVの複製を、その細胞受容体ACE2のグリコシル化を妨害することによって、特異的に阻害すると報告されている。最近のインビトロ研究は、ヒドロキシクロロキンが、COVID-19対象におけるSARS-CoV-2のウイルス量/力価を、効果的に低減することを示唆している(Lan et al.,2020)。いくつかの臨床試験が中国において迅速に行われ、ヒドロキシクロロキンはCOVID-19関連肺炎の処置において、さまざまな程度に有効であることが報告された。フランスでの小規模なオープンラベル非ランダム化臨床試験では、ヒドロキシクロロキンは、アジスロマイシンとの併用により、正の効果を有すると報告された。米国FDAは、米国においてCOVID-19を処置するためのヒドロキシクロロキンに、緊急使用認可を発行し、以来、この薬物は、この目的のために国内では広く適応外使用されてきた。さらに最近の研究では、COVID-19疾患の処置に関してヒドロキシクロロキンの実質的な臨床的利益を示す証拠は限定的であることが見いだされており、この薬物の心臓安全性の懸念から、少なくとも1つの大規模な臨床試験が、早期中止に至っている。
【0174】
グルココルチコイド
数多くの臨床試験が、コロナウイルス肺炎およびインフルエンザ肺炎の処置に関するグルココルチコイドの効力を報告している。2003年のSARS流行中はグルココルチコイドが免疫調節治療の主要薬であった。グルココルチコイドの時宜を得た使用は、早期発熱を改善し、肺炎と関連する低酸素症の重症度を低減しうる。しかし、いくつかの研究では、グルココルチコイドによる有益な効果は見いだされず、免疫抑制、ウイルス排除の遅延および有害反応の報告がいくつかなされている。敗血症および敗血症性ショックの管理に関する国際的ガイドラインによると、グルココルチコイドを使用する場合には、十分な体液および昇圧剤治療でも血行動態の安定が回復しない患者にのみ、低投薬量の短期間適用が適用されるべきである。
【0175】
全身性グルココルチコイド投与は、ARDS、急性心臓傷害、急性腎臓合併症を含むCOVID-19を持つ患者、および血栓形成と関連するD-ダイマーレベルが上昇している患者における、CSS症状発現を抑制するために、重症合併症に使用されてきた。さらなる証拠がなければ、WHOの暫定ガイドラインは、COVID-19疾患と関連するウイルス性肺炎およびARDSを処置するための全身性コルチコステロイドの使用を支持しない。
【0176】
SARS-CoV-2処置における全身性グルココルチコイドの有益性は(ウイルス排除を長引かせる潜在的免疫抑制効果に基づいて)現時点では疑わしいが、それでもなお、これらの薬物については、COVID-19疾患の一定の局面の処置における将来の治療的使用がありうる。COVID-19肺炎の基礎にある病理発生は、ウイルスが引き起こす直接的損傷と、宿主の過剰免疫および過剰炎症応答が引き起こす実質的な病原性の影響との両方で構成される。過剰な免疫および炎症反応を抑制するのを助けるための例示的グルココルチコイドとして、メチルプレドニゾロン投与が考えられ、COVID-19対象におけるその有効性および安全性を探究するための研究が進行中である(NCT04273321、NCT04263402)。一定のCOVID-19およびARDS処置において、また標的(targeted)および段階的(staged)処置プロトコールにおいて、グルココルチコイドは、本明細書記載のTPAとの組み合わせ製剤および協調的処置において、将来的に有用な二次的作用物質になるだろう。
【0177】
薬学的組成物、投与、送達および製剤
上述した本発明の例示的局面のそれぞれに関して、一定の態様では、1つまたは複数のTPAまたはTPA様化合物、例えば上記式Iまたは式IIの親TPA化合物、例えば12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(公式には「TPA」;ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)としても公知である)、または親TPA化合物の構造上関連する機能的類似体、コンジュゲート、プロドラッグ、塩、もしくは他の修飾型もしくは誘導体型が利用されるだろう。本発明において利用されるTPA化合物は、抗ウイルス(例えば抗SARS-CoV-2)、抗抗炎症、抗ARDs、抗CSS、抗PIMS、抗ESHS、抗DAD、抗細胞変性、免疫促進および/またはアポトーシス促進効果その他の臨床関連活性を媒介するために対象に投与される組成物および方法において有用である。これらの組成物および方法の強力で多様な臨床効果は、ARDSおよびCOVID-19疾患の多様な一連の状態、症状ならびに付随する免疫学的な、細胞の、組織のおよび器官の傷害および機能障害を処置および/または防止するのに、個別におよび全体として、有効である。
【0178】
一般に、抗ウイルス、抗抗炎症、抗ARDs、抗CSS、抗PIMS、抗ESHS、抗DAD、抗細胞変性、免疫促進および/またはアポトーシス促進応答を処置対照において効果的に誘発するために、式Iまたは式IIのTPA化合物の臨床的有効量または臨床有効用量が、TPA処置に適する対象に投与される。上述のように、臨床効力は、試験対象およびプラセボ処置対照対象における処置前および処置後の治療インデックス(therapeutic indices)を比較することによって実証される。例示的態様において、活性TPA化合物の有効量は、処置対象において、ウイルス感染、過剰炎症、ARDs、CSS、PIMS、ESHS、DAD、細胞変性活性の上昇、免疫抑制、免疫および/または炎症細胞の正常なアポトーシス活性の機能障害の1つまたは複数の症状、および/または本明細書記載の他の任意の標的症状、状態もしくはインデックスを緩和するために、1つまたは複数の単位剤形中、ある投与頻度で、選択された治療的介入期間にわたって、定量的または定性的に有意な治療利益を与えるだろう。
【0179】
本発明の組成物は、典型的には、安定性、送達、吸収、半減期、効力、薬物動態および/または薬力学を強化し、有害副作用を低減し、または薬学的使用にとって他の利点を提供しうる1つまたは複数の薬学的に許容される担体、賦形剤、媒体、乳化剤、安定剤、保存剤、緩衝剤および/または他の添加剤と共に製剤化された、有効量または単位投薬量の式Iまたは式IIのTPA化合物を含む。有効な投薬は、標的となる状態ならびに臨床的および患者特異的要因に応じて、臨床家により、容易に決定されるだろう。ヒトを含む哺乳動物対象への投与に関して、活性TPA化合物の適切な有効単位投薬量は、約10~約1500μg、約20~約1000μg、約25~約750μg、約50~約500μg、約150~約500μg、約125μg~約500μg、約180~約500μg、約190~約500μg、約220~約500μg、約240~約500μg、約260~約500μg、約290~約500μgの範囲に及びうる。一定の態様において、疾患処置有効投薬量の、式Iのホルボールエステル化合物または関連もしくは誘導体化合物は、例えば10~25μg、30~50μg、75~100μg、100~300μgまたは150~500μgなどの、より狭い範囲内で選択されうる。これらのおよび他の有効単位投薬量は、単回投与で、または複数回の毎日、毎週または毎月の投与の形態で、例えば1日あたり、1週間あたり、または1ヶ月あたり、1~5回、または2~3回の投与を含む投与レジメンで、投与されうる。例示的一態様では、10~30μg、30~50μg、50~100μg、100~300μgまたは300~500μgの投薬量が、1日に1回、2回、3回、4回または5回投与される。より詳細な態様では、50~100μg、100~300μg、300~400μgまたは400~600μgが1日1回または2回投与される。さらなる一態様では、50~100μg、100~300μg、300~400μgまたは400~600μgの投薬量が、1日おきに投薬される。代替態様において、投薬量は体重に基づいて算出され、例えば1日あたり約0.5μg/m2~約300μg/m2、1日あたり約1μg/m2~約200μg/m2、約1μg/m2~約187.5μg/m2、1日あたり約1μg/m2~1日あたり約175μg/m2、1日あたり約1μg/m2~1日あたり約157μg/m2、1日あたり約1μg/m2~約125μg/m2、1日あたり約1μg/m2~約75μg/m2、1日あたり1μg/m2~約50μg/m2、1日あたり2μg/m2~約50μg/m2、1日あたり2μg/m2~約30μg/m2、または1日あたり3μg/m2~約30μg/m2の量で投与されうる。
【0180】
別の態様において、投薬量は、さらに低頻度に、例えば1日おきに0.5μg/m2~約300μg/m2、1日おきに約1μg/m2~約200μg/m2、約1μg/m2~約187.5μg/m2、1日おきに約1μg/m2~約175μg/m2、1日あたり約1μg/m2~1日おきに約157μg/m2、1日おきに約1μg/m2~約125μg/m2、1日おきに約1μg/m2~約75μg/m2、1日おきに1μg/m2~約50μg/m2、1日おきに2μg/m2~約50μg/m2、1日あたり2μg/m2~約30μg/m2、または1日あたり3μg/m2~約30μg/m2、投与されうる。さらなる態様では、投薬量は、3回/週、4回/週、5回/週、平日のみ、他の処置レジメンと呼応する時のみ、連日、または臨床的および患者特異的要因に応じて任意の適当な投薬レジメンで、投与されうる。
【0181】
本発明の治療組成物の量、タイミングおよび送達モードは、体重、年齢、性別および個体の状態、標的となる疾患または状態の急性度および重症度、投与が予防的であるか治療的であるかなどの因子に応じて、ならびに薬物の送達、吸収、薬物動態および効力を達成することが公知の他の因子に基づいて、個別的に、日常的に調節されるだろう。有効な投薬量および投与プロトコールには、多くの場合、数日、1週間もしくはそれ以上、1ヶ月もしくはそれ以上、さらには1年もしくはそれ以上にわたる反復投与が含まれるだろう。有効な処置レジメンは、数日、数週間、数ヶ月または数年にわたって継続される1日ごとにまたは1日あたり複数回投与される予防的投薬も伴いうる。
【0182】
本発明の薬学的組成物は、意図した治療目的または予防目的を達成する任意の臨床的に許容される経路および手段によって投与されうる。適切な投与経路には、従来の送達経路、デバイスおよび方法がすべて含まれる。現在実施されている送達方法には、静脈内注射および注入、筋肉内、腹腔内、脊髄内、髄腔内、脳室内、動脈内および皮下注射などの注射可能な方法が含まれる。経口および粘膜固形物および液状剤形ならびに鼻腔内および肺内エアロゾル送達も考えられる。
【0183】
本発明の有効な剤形は、多くの場合、薬学的化合物の技術分野で投薬単位の調製に適すると認識されている賦形剤を含むだろう。そのような賦形剤には、結合剤、充填剤、潤滑剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味料、フレーバー、保存剤、緩衝剤、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、ならびに他の従来の賦形剤および添加剤などがあるが、それらに限定されるわけではない。本発明の治療組成物はさらに、例えば遅放性の担体もしくは賦形剤または徐放性、遅延放出性もしくは制御放出性のポリマーを使用するなどして、持続放出形態、遅延放出形態または他の制御放出形態で投与することができる。
【0184】
本発明の一定のTPA組成物は、静脈内、筋肉内、皮下または腹腔内などの非経口投与によって、有利に送達される。これらの剤形は、典型的には、任意で酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤および/または製剤を哺乳動物対象の血液と等張にする溶質のような添加剤を含有する、水性または非水性無菌注射可能溶液の形態で提供されるだろう。水性および非水性の無菌懸濁液は、懸濁化剤および/または増粘剤を含みうる。本製剤は、単位用量容器または多数回用量容器に入れて提示されうる。本発明のさらなる組成物および製剤は、ポリマー、リポソーム、ミセル、コンジュゲートおよび特異的標的(例えば肺)におけるバイオアベイラビリティを改良しおよび/または非経口投与後の放出を延長させる他の作用物質を含みうる。有用な非経口調製物は、そのような投与に適した溶液、分散系またはエマルションでありうる。即席の注射および注入溶液、エマルションおよび懸濁液は、無菌粉末、顆粒および錠剤または他の出発形態から、従来の慣例に従って調製されうる。有用な単位剤形は、1日用量また単位、部分1日用量、または複数日にわたって有効な治療用量を含有するだろう。
【0185】
一定の態様において、本発明の組成物は、送達のために、例えばコアセルベーション技法または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、マイクロ粒子、またはマイクロスフェア、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入されるか、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)に封入されるか、またはマクロエマルションに封入された、式Iまたは式IIのTPA化合物を含みうる。マイクロカプセル化プロセスは周知であり、本明細書記載の活性アンパカイン(ampakine)を含有するマイクロ粒子を調製するために、日常的に遂行することができる。
【0186】
上述のように、一定の態様において、本発明の方法および組成物は、溶解性、バイオアベイラビリティまたは他の性能基準を強化するために、薬学的に許容される塩、例えば上述したTPA化合物の酸付加塩または塩基塩を利用する。薬学的に許容される付加塩の例には、無機酸および有機酸付加塩が含まれる。適切な酸付加塩は、非毒性塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、リン酸塩およびリン酸水素塩などを形成する酸から形成される。さらなる薬学的に許容される塩には、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩などの金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属;トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩などの有機アミン塩;酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、酢酸塩、ジクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、シュウ酸塩およびギ酸塩などの有機酸塩;ベンゼンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩;ならびにアルギン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、酒石酸塩およびグルコン酸塩になどのアミノ酸塩などがあるが、それらに限定されるわけではない。適切な塩基塩は、非毒性塩、例えばアルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩およびジエタノールアミン塩を形成する塩基から形成される。
【0187】
別の態様において、本発明の方法および組成物は、式Iまたは式IIのホルボールエステルのプロドラッグを利用する。プロドラッグは、インビボで活性な親薬物を放出する、共有結合で結合された任意の担体とみなされる。本発明において有用なプロドラッグの例としては、置換基としてのヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルとのエステルまたはアミドが挙げられ、これらは、上述のような化合物を無水コハク酸などの無水物と反応させることによって調製されうる。また、本発明の関連する局面は、(当該前駆体化合物の投与後にインビボで生成するか、または代謝産物そのものの形態で直接投与される)該化合物のインビボ代謝産物を使った、式Iまたは式IIのホルボールエステルを含む方法および組成物を包含するとも理解されるだろう。そのような産物は、前駆体薬物または投与される化合物の、主として酵素的プロセスによる、例えば酸化、還元、加水分解、アミド化、エステル化などによってもたらされうる。したがって本発明は、式Iまたは式IIのホルボールエステル化合物を哺乳動物の体液、細胞、組織試料または対象と、TPA化合物の代謝産物を得るのに十分な期間にわたって接触させる(例えば検出可能な用量で非経口的に投与された放射標識化合物から出発して、代謝作用によって尿、血液または他の生物学的試料から標識化合物の転化産物が現われ単離されるのに十分な時間を置く)ことを含むプロセスによって生成する、TPA化合物、誘導体および代謝産物を作り、使用するための方法および組成物を含む。
【0188】
また、本明細書において開示される発明は、哺乳動物対象において、例えば限定するわけではないが、ウイルス感染、過剰炎症、ARDs、CSS、PIMS、ESHS、DAD、細胞変性活性の上昇、免疫抑制、免疫および/または炎症細胞の正常なアポトーシス活性の機能障害などの疾患、および/または本明細書記載の他の任意の標的症状、状態またはインデックスの、リスクレベル、存在、重症度または処置徴候を診断し、またはそれらを他の形で管理するための、診断組成物を包含するとも理解されるだろう。例示的診断方法は、標識(例えば従来の方法を使った標識化合物の検出が可能になるように、同位体標識、蛍光標識、または他の形で標識された)式Iまたは式IIのTPA化合物を、リスクがあるまたは1つもしくは複数の標的となる症状を呈する哺乳動物対象(例えば細胞、組織、血漿、器官または個体)に接触させた後、標識TPA化合物の存在、場所、代謝および/または結合状態を、広範な一連の公知アッセイおよび標識/検出方法のいずれかを使って検出する工程を含む。一定の態様において、TPA化合物は、1つまたは複数の原子を、異なる原子質量または質量数を有する原子で置き換えることによって同位体標識される。開示される化合物に組み込むことができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素および塩素の同位体、例えばそれぞれ2H、3H、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18Fおよび36Clが挙げられる。次に、同位体標識化合物は、個体または他の対象に投与され、次に、上述のように検出されることで、従来の技法に従って、有用な診断および/または治療管理データを与える。
【0189】
当業者には理解されるとおり、本発明は、本明細書において上に開示される特定の化合物、製剤、プロセス工程および材料に限定されず、これらは例示を目的として提供されるにすぎない。本発明の発見および教示全体に従うことで、これらの化合物、製剤、プロセス工程および材料を、甚だしい実験を行うことなく、等価な形態および目的で、変更し、拡張し、置換することができる。また、本明細書において利用される術語は、例示的態様を記載するための例示でしかなく、本発明の範囲を限定しようとするものではない。以下の実施例は、同じく限定でない例示を目的として提供される。
【実施例】
【0190】
実施例I
TPA化合物は、重症COVID-19ウイルス疾患に伴う突発性急性呼吸器症候群(sudden acute respiratory syndrome:SARS)を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を防止および処置するのに有効である
本発明者らは、ARDS、COVID-19疾患、ならびに上に詳述した他の過剰炎症および免疫調節不全状態を患う患者における、新規で著明な抗ウイルス性、免疫制御性および抗過剰炎症性の臨床利益を媒介するために、本発明の活性TPA化合物によって影響され、達成される、ばらばらな細胞、分子、遺伝子調節、生化学、生理学的および病原性エフェクター、機能、標的、経路および応答を詳述した。この広範囲にわたる臨床的有用性内のTPAのすべての標的および活性を例示しようと試みることは、当業者の実用的な必要と予想を超えるだろう。無駄がなく明解な説明のために、本発明者らは、本明細書において開示されるTPA化合物および方法の活性および臨床的機序の全範囲の実用的な遂行に関係する細胞、分子、遺伝子調節、生化学、生理学および病理学研究ならびに診断アッセイ技術、ツールおよび方法のあらゆる手法および形態を、参照によって組み入れた。
【0191】
ARDSに関係する本発明の一定の態様は、TPA化合物全般の、広範囲にわたる活性および臨床利益を例示する。ヒトSARSコロナウイルスSARS-CoV-2(COVID-19)が引き起こすARDSの特定例において、ARDSの処置および防止のためのTPAの関連する組成物および方法は、幅広いそのような活性および利益を利用し、誘発する。例えば、ARDSを処置するためのTPS化合物および方法の臨床的最適化を調べるための本発明者らのパイロット研究により、多数の極めて重要な免疫促進および抗炎症標的、機序および経路が明らかになり、それにより、TPA化合物は、免疫機能障害および過剰炎症を引き起こす異常なエフェクター細胞、分子および生化学的エフェクター、ならびに下流の影響を標的とし、除去または低減し、別の局面では、本発明のTPA化合物および方法は、有益な免疫制御細胞ならびにそれらの関連分子および生化学的エフェクターと相互作用し、それらを誘導または促進して、それらの下流の影響を有益に改変することがわかる。同様にTPA化合物は、関連する免疫機能障害および過剰炎症状態、例えばサイトカインストーム症候群(CSS)、小児炎症性多系統症候群(PIMS)、肺外全身性過剰炎症症候群(ESHS)、ならびに重症COVID-19関連ARDSに伴う血管のうっ血および血栓状態(例えば播種性血管内血液凝固(DIC)、血栓症、卒中、血小板減少症、および壊疽、その他、これらの状態に伴う他の細胞、組織および器官傷害)を媒介することが公知の他の免疫および炎症標的を、阻害し、防止し、促進しおよび/または改変する。
【0192】
本開示は、本発明者らによる進行中のパイロット研究と合わせて、ARDS状態および症状、ならびに重症COVID-19疾患と関連する他の病原性状態および症状の低減および/または防止を協力に媒介するであろうTPAの広範囲にわたる免疫促進および抗炎症効果を例示する。この文脈において、TPA化合物は、重要な免疫および炎症制御細胞、遺伝子標的ならびに分子および生化学的標的、例えばサイトカイン、ケモカインおよびキナーゼによって媒介される複数の実証された免疫促進および抗炎症活性を有する。例示的なパイロット研究により、TPA化合物は、これらの化合物が、リンパ球の活性化、増殖および生存に関係するあらゆる免疫促進効果を促進することによって、リンパ球減少を効果的に処置および防止するであろうことが示された。さらなる教示によれば、ARDSを呈するSARS-CoV-2対象に投与されたTPA化合物は、リンパ球(重症COVID-19/ARDS症例において危機的に損なわれ、数が低減することが公知であるT細胞、B細胞、およびNK細胞を含む)の正常な健康、機能および生存を臨床的にサポートする。関連する局面において、TPAは、重症COVID-19疾患と関連する病因またはARDS、CSS、PIMS、ESHSおよび他の状態において、重要なエフェクターとして関係づけられる好中球の異常なプログラミングおよび活性化を強力に矯正するであろうMAPKおよびJAKなどの免疫制御キナーゼとの相互作用によってアポトーシス促進効果を発揮することが示された。好中球は、SARS-CoV-2タンパク質(および COVID-19疾患発生の経過において出現する他の新興炎症誘発性因子)によって明らかに「乗っ取られ」、リプログラムされ、それが、好中球の免疫および炎症活性の甚だしい制御異常につながる。これには、好中球ならびにその上流調節因子細胞およびシグナルの一連の過剰炎症活性、例えば炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの上昇;肺および肺胞コンパートメントへの好中球およびマクロファージ遊走(血管外漏出)の増加(血管および内皮バリアの破壊によって助長される);病原性好中球およびマクロファージ活性の過剰上昇(組織および細胞外マトリックス破壊的脱顆粒、細胞および組織の酸化ストレスの増加(例えば過酸化物および他のROSの過剰遊離による)、過剰貪食、および肺胞と関連する好中球細胞外トラップ(NET)、ならびに血管のうっ血および血栓形成を含む);ならびに好中球およびマクロファージの寿命を異常に延長し、炎症活性を拡張しおよび他の形で制御不全にすることでCOVID-19組織および器官病理発生に甚だしく寄与する、正常な好中球およびマクロファージアポトーシスの制御異常(おそらく、一つには、SARS-CoV-2 Nタンパク質によって媒介される自発的アポトーシスの途絶、および貪食誘導性細胞死(PICD)の阻害による)が含まれる。
【0193】
本発明者らのパイロット調査によって確証されたTPAのさらにもう一つの活性は、重症COVID-19疾患に伴うCSSおよびARDSと決定的に関連する炎症誘発性サイトカイン活性化の過剰な上昇を遮断し低減するTPAの著明な活性を明示する。TPA化合物は、記載のとおりさまざまな標的、機序および経路を介してCSSおよびARDSに直接関係づけられる炎症誘発性サイトカインの過剰誘導、過剰合成および過剰活性を遮断しまたは損なう。これらの活性により、本発明者らの証拠は、本発明の抗炎症性TPA化合物および方法が、さらに、リンパ球減少(例えばT、BおよびNKリンパ球の炎症誘発性過剰活性化を遮断または阻害し、それによって活性化誘導リンパ球細胞死を低減することなどによる)、ならびに肺実質、肺胞気腔およびCSSに罹患した他の組織および器官における破壊的マクロファージおよび好中球の過剰浸潤、過剰活性化および数の上昇などといった、SARS-CoV-2感染の過剰炎症続発症を遮断し、損なうであろうことを示す。炎症誘発性サイトカインの発現および活性を制限するTPAのこれらの抗炎症効果は、結果として、酸化ストレス;内皮バリアおよび上皮バリアの破壊;肺ならびにCSSに罹患した他の組織および器官の線維症および他の炎症性傷害;リンパ節の炎症性傷害、喪失および萎縮;脾臓の炎症性傷害および萎縮;敗血症;毒素性ショック症候群(TSS)および他の病変を含むCOVID-19/CSS/ARDS関連病原性状態の低減を媒介するだろう。
【0194】
説明の無駄を省くという本発明者らの目的に沿って、本発明者らは、本明細書の全体を通して、代表的な科学的例、説明および分析を、公知の利用可能な研究および診断アッセイツールおよび方法(あらゆるインビトロ細胞ベースの生化学的分子および遺伝子制御アッセイ、ならびにインビボ研究および診断臨床アッセイを含む)についての追加の技術的説明を与える刊行物を読者に紹介する引用と共に提供した。これらの研究アッセイおよび臨床診断ツールおよび方法は、本明細書における詳細な説明および裏づけとなる学術的記事への相互参照的引用に従う。本明細書において引用された刊行物のそれぞれは、当技術分野において公知であり容易に実施される研究および臨床プロトコールならびに目的に向けられる技術的材料および方法を本明細書に補足することを含めて、あらゆる目的のために組み入れられる。
【0195】
本明細書における発明の理解および実施をさらに明確にするために、本発明者らは、現在、そのパイロット研究を、SARS-CoV-2感染と関連するARDSおよびCSSを低減または防止するための抗ウイルスおよび抗炎症性TPA化合物の臨床使用に焦点を絞った動物およびヒト対象における前臨床試験および臨床試験に向けて、拡張している。
【0196】
ARDSを処置および防止するためのTPA化合物の前臨床試験
ARDSを処置および防止するための複数の幅広い免疫促進および抗炎症効果を媒介する本発明のTPA化合物および方法の効力は、ARDSの周知のエンドトキシン誘導マウスモデルを利用する研究によって、さらに明示されるだろう。このモデルを利用することにより、TPA化合物は肺の組織病理学的変化(好中球の血管外漏出、肺実質および肺胞腔における血管外漏出して凝固した赤血球を特徴とする血栓症、および肺胞壁の肥厚を含む)を縮小することが示されるだろう。TPA化合物は、研究対象の気管支肺胞洗浄(BALF)試料中に見いだされるタンパク質含量のエンドトキシン誘導性の増加も阻害して、内皮バリアおよび上皮バリアの破壊に対するTPAの防御機能が確認されるだろう。炎症誘発性サイトカインのエンドトキシン誘導性放出も、例えば立証されている腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα)のエンドトキシン誘導性過剰刺激によって確認されるように、TPAで処置される研究対象では低減されるだろう。これらの研究では、TPA処置対象から洗い出される好中球が、低下したレベルの活性酸素種(ROS)を生成することも示し、好中球制御および本明細書記載の他の免疫達成(immune-effecting)シグナルカスケード標的および経路によって媒介されるTPA化合物の抗炎症、免疫促進(リンパ球の保護を含む)およびバリア保護効果を、さらに明示するだろう。本明細書において提供される広範な参考文献に従う関連するアッセイにより、過酸化物が誘導するバリア機能障害に抵抗するインビトロ内皮単層の能力に対するTPA化合物の保護効果が確認されるだろう。これらのデータにより、TPAは、免疫促進機能を広く制御し、過剰炎症機能、特に重症COVID-19/ARDS病理発生において重要な役割を果たすものとして関係づけられる免疫および炎症エフェクター細胞(T、BおよびNKリンパ球、単球/マクロファージ細胞、ならびに好中球)、ならびにそれらの分化、活性化、サイトカインおよび受容体合成/応答活性、遊走および最長寿命/アポトーシスをプログラムし駆動する上流のシグナル(サイトカインおよびケモカイン)および分子/遺伝子制御および「スイッチ」エフェクター(例えばMAPKおよびJAKキナーゼ)に対する直接的効果によるものを、阻害または「リプログラム」することが確認されるだろう。
【0197】
エンドトキシン誘導性ARDSのマウスモデルにおいて、肺へのエンドトキシン滴下の4時間後に、TPA iv組成物をマウスの尾静脈に注射する。この時点で、マウスは低体温ショックを呈し、肺は既に好中球浸潤(炎症)の徴候を示す。したがってこのモデルにより、進行中のARDS病原発生に対するTPAの効果が実証される。TPA化合物を投与されたマウスでは、注射の24時間後にも48時間後にも、肺の組織病理学的変化が著しく抑制されているだろう。48時間時点で、BALF試料におけるタンパク質血管外漏出の低減(これらの試料におけるTNFα含量の低減を含む)により、TPAの免疫促進および抗炎症効果が、さらに実証されるだろう。TPAを投与された研究マウスの気管支肺胞コンパートメントから洗い出される好中球は48時間後にROS生成の有意な低減を示し、TPAと共にプレインキュベートされた内皮単層も過酸化物が誘導するバリア機能障害に対する抵抗性の増加を呈するだろう。
【0198】
研究デザイン エンドトキシン誘導性肺傷害に対するTPA効果を評価するために、既述のように(Zhang et al,2013)、LPSエンドトキシンまたは食塩水を、イソフルラン麻酔した20~25gのC57Bl/6マウスに送達する。用量依存的な安全性および効力を評価するために、異なる研究群について上記に説明に従って、入れ子状になった複数のTPA投薬量範囲が選択され、LPS投与の4時間後に尾静脈に注射される。動物の体温を2時間おきに決定する。24~48時間後に動物を分析のために屠殺する。
【0199】
血管漏出および肺炎症を評価するために、実験終結の1時間前に、エバンスブルー色素(Evans Blue Dye:EBD)-アルブミンコンジュゲート(4%BSA溶液中の0.5%EBD)を尾静脈に投与する(30mg/kg)。麻酔された動物で、胸腔を開き、循環EBDのレベルを決定するために、心臓穿刺によって血液を採取する。肉眼的病理検査、組織病理学的検査および洗浄試料の収集のために、肺を洗浄する。
【0200】
この研究デザインにより、ARDSの最初の徴候後に治療的介入を開始した場合の、TPA効力の追跡が可能になる。検討項目をヒトARDSの状態および応答とさらに相関させるために、動物の体温およびBALF中の好中球浸潤を密にモニタリングする。マウスはLPS投与の4~6時間後にピークに達する低体温応答を起こす。食塩水またはLPSを投与した後のBALF中の白血球(WBC)および好中球の総細胞数が測定される。LPS投与から4時間以内に、TPA処置対照からのBALF中の好中球の存在は、食塩水を注射した対照対象と比較して、既に有意に低減しているだろう。
【0201】
このモデルにおけるARDS病理発生をさらに評価するために、肺切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色により、過剰炎症肺病理発生のTPA阻害も実証されるだろう。LPSが惹起する肺炎症は、48時間の時点では、より重症な段階に進行するので、TPA処置対象は、肺間質腔および肺胞気腔への好中球およびRBCの著しい低減、ならびに肺胞壁の腫大の低減を示すだろう。
【0202】
肺の透過性および好中球浸潤に対するTPAの効果は、LPS誘導性EBD血管外漏出のTPA抑制によって示される処置対象における血管外漏出タンパク質およびサイトカインのレベルの低減、ならびにBALFと肺間質および肺胞気腔の組織学的試料とにおける単球/マクロファージおよび好中球数の低減とも相関するだろう。TPA処置マウスからのBALFにおけるマクロファージ、リンパ球および好中球間のバランスも、リンパ球に対するTPAの有意な保護活性(ARDSに見られるリンパ球減少を改善するため)ならびにマクロファージおよび好中球集団の過剰刺激の抑制およびアポトーシス促進制御(これにより、これらの細胞の総数およびWBCに対する比が低減するだろう)を示すだろう。
【0203】
ARDSに対するTPAの効力をさらに特徴づけるために、TPAマウスおよび対象マウスからのBALF WBCのROS産生能が測定される。WBC ROS産生はTPAを投与されたマウスの方が有意に低いだろう。
【0204】
このモデルは、さらに、ARDS疾患の発生および防御と関連する炎症誘発性、免疫促進性、抗炎症性および他のサイトカイン効果に対するTPA効果の解明にも役立つ。このモデルにおけるエンドトキシン誘導性ARDS対象は、IL-10を含む炎症誘発性サイトカインの甚だしい過剰炎症性増加を呈する。TPAは、これらの対象からのBALFおよび組織学的試料中に測定されるIL-6、IL-10、TNFα、MIP2および他の炎症誘発性サイトカインの過剰上昇を遮断または低減するだろう。
【0205】
内皮バリアおよび上皮バリアの完全性および酸化ストレスからの防御に対するTPAの保護効果を評価するために、内皮単層および上皮単層のバリア機能が直接評価される。あるプロトコールでは、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)を、下部チャンバ中のTPAの存在下、コラーゲン処理したポリエステルインサート上で、単層として成長させる。分析に先立って、直接的なROS捕捉を避けるために、インサートを新鮮なウェルに映す。上部チャンバにFITC-デキストランを負荷し、単層を好中球酸化バーストの浮腫形成性産物250mM H202で刺激する。対照対象ではH2O2に応答して著しいHPAECバリア機能障害(経内皮電気抵抗(TER)研究によって明示される)が観察されるが、それは、ASCのTPA処置によって有意に減弱されるかまたは遮断されるだろう。
【0206】
以下の例示的なプロトコールおよび材料は、本発明の例示的局面を前進させるために、現在実施中である。
【0207】
インライフ(in-life)での作業範囲:マウスにおけるTPA/ARDS研究
1. 目的
1.1. 成人呼吸窮迫症候群(ARDS)のマウスモデルにおける肺の過剰炎症を防止するための炎症制御薬12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)の効力を決定すること。
2. 材料および方法
2.1. すぐに投与ができる形式のまたは保存液濃度の試験および対照物品/細胞
2.2. 細胞製品の融解および希釈についての説明書;貯蔵および安定性情報
2.3. 研究プロトコールは、研究の開始に先立って依頼者によって承認されなければならない。
標的データ/提出物
3.1. 全研究データを含むインライフドラフトレポート
・個別に表にされQCを行った生の動物観察データ、インライフ観察、用量群割り当て、体重および有害事象。
・剖検所見および肉眼的評価
3.2. 組織病理学的検査レポート
【0208】
TPA処置が免疫/炎症応答を、これらの応答をTh2活性化と比べてTh1活性化に偏らせることによるなどして、制御し減弱することの実証
TPAは、CSSを含む、ウイルス誘導性の過剰免疫および過剰炎症活性化を、制御および減弱することによって(炎症シグナリングおよび細胞性応答の過剰活性化と関連する炎症誘発性サイトカインの過発現を遮断または低減することによって)、重症Covid-19疾患の可能性を最小限に抑えるだろう。一定の態様において、TPAは、過剰免疫および過剰炎症活性と関連するTh2 T細胞応答の減弱された免疫選択的鈍化を媒介すると共に、有益なTh1偏向Tヘルパー細胞分化およびマーカー発現に対する中立的効果または増強効果を媒介する。動物またはヒト対象へのTPA投与が、制御/減弱された免疫応答、典型的にはTh2特異的サイトカイン/ケモカイン/増殖因子発現パターンと比較してTh1特異的サイトカイン/ケモカイン/増殖因子発現パターンに偏っているものを媒介することを実証するには、さまざまなアッセイが役立つだろう(非処置対照対象間で決定されたパターンとの比較)。例示的アッセイの一つでは、TPAで処置された試料と非処置対照試料におけるマーカー発現、組織学的検査、組織化学的検査、および免疫細胞の分化を評価するために、TPA処置(すなわち、ARDS誘導の、またはウイルスもしくはシュードウイルス曝露/活性化の前、誘導中もしくは誘導後の処置)を受けた、または受けていない、ARDSが誘導された、SARS-CoV-2に感染した、またはhCoVシュードウイルスに曝露された対象(細胞および/または組織を含む)からの末梢血単核球が、分析される。一定のアッセイにおいて、PBMC試料は、ウイルスの存在なしで、ARDS誘導(例えばエンドトキシン誘導を使用)後の動物対象から単離され、一方、別の有用なアッセイでは、Th1に偏ったT細胞分化またはマーカー発現を、Th2に偏ったT細胞分化およびマーカー発現との対比で評価するために、hCoV-2に曝露された対象からの試料またはCoVシュードウイルスに曝露された動物またはヒト対象からの試料を利用するだろう。例示的な研究において、TPA処置試験対象および非処置対照モデル対象における細胞性免疫応答は、多色T細胞ELISpot(例えばCTL Laboratoriesが提供しているもの)を使って評価されうる。CD4+Th1応答は、例えばIFN-γを測定することによって識別され、一方、CD4+Th2応答は、数ある有用な活性化/分化マーカーの中でもとりわけIL-5を測定することによって同定することができる。TPAは、Th1 T細胞活性化/分化に偏っていて、対照と比べて鈍化したTh2活性化/分化を特徴とする、制御され減弱された免疫/炎症応答を媒介し、CSSおよびARDSと関連する過剰免疫および過剰炎症活性化を低下させるだろう。
【0209】
酵素結合免疫吸着スポット(enzyme-linked immune absorbent spot:ELISpot)は、単一の細胞によるサイトカインまたは免疫グロブリン分泌の頻度を定量的に測定する高感度かつ高特異性アッセイである。ELISpotは、感染、がん、アレルギーおよび自己免疫疾患における特異的免疫応答を調べるために、広く応用されてきた。検出レベルは100,000中わずか1細胞と低く、ELISpotは現在利用することができる最も高感度な細胞アッセイの一つである。フルオロスポット(FluoroSpot)アッセイは、ELISpotアッセイの一変形であり、単一ウェルで複数のサイトカインを分析するために蛍光を使用する。ELISpotアッセイは96ウェルプレートで実行され、分析には自動ELISpotリーダーが使用される。それゆえにこのアッセイはロバストであり、実行が容易で、大規模試験に適している。T細胞ELISpotは、感染性疾患、がん、アレルギーおよび自己免疫疾患における特異的免疫応答の研究において、広く応用されてきた。本発明において、T細胞ELISpotアッセイは、ARDSおよび本明細書記載の他の関連状態(例えば肺炎、血管炎、血栓形成など)のリスクおよび発生率を低下させるために、SARS-CoV-2および他の呼吸器ウイルス感染に対する健康で、均衡のとれた、減弱された免疫および炎症応答を媒介する、TPAおよび関連化合物の開発を導き、その効力および安全性をモニターするのに、特に有用である。
【0210】
CSSアッセイ
追加のアッセイにより、COVID-19患者におけるARDSの一因となるCSSおよび関連する有害な過剰免疫および/または過剰炎症応答を防止するTPAの強力な活性が解明されるだろう。SARS-CoV-2感染およびCOVID-19疾患に伴う複雑で不確定な免疫および炎症相互作用は、完全な理解がまだ今後の課題であることから、これらのアッセイの標的は根本的であり、CSSと関連する炎症誘発性サイトカインの発現を誘導するIi-Key-SARS-CoV-2ペプチドの潜在能力に焦点を合わせる。
【0211】
例示的なサイトカインアッセイでは、例えば細胞培養上清(SN)中または血清もしくは血漿などの生体液中の複数のサイトカインを同時に定量するように適合させたフローサイトメトリーシステムを使用する改変サイトメトリックビーズアレイ(cytometric bead array:CBA)スクリーンを利用する。CBAシステムは、フローサイトメトリーによって提供されるダイナミックレンジの広い蛍光検出を、分析物を効率よく捕捉するための抗体被覆ビーズと共に使用する。アレイ中の各ビーズはユニークな蛍光強度を有するので、異なる分析物を捕捉するビーズを混合して、単一のチューブで同時に実行することができる。この方法は、伝統的なELISAおよびウェスタンブロット技法と比較して、試料体積と結果を得るまでの時間を大幅に低減する。
【0212】
簡単に述べると、標的サイトカインは溶解物、血清または上清からビーズにコンジュゲートされた捕捉抗体によって捕捉される。蛍光色素で標識された検出抗体は、さまざまな捕捉されたサイトカインに結合し、フローサイトメーターによる試料取得中に蛍光シグナルが記録される。シグナルの強度は各サイトカインの濃度に依存し、タンパク質標準曲線を使った特定サイトカイン濃度の計算に使用することができる。異なるサイトカインを捕捉するためにサイズと蛍光が異なるビーズを使用することにより、異なるサイトカインについて記録されるシグナルを、1つの試験試料中の複数の分析物について、フローサイトメトリー分析によって識別することができる。
【0213】
抗体被覆ビーズによって捕捉された各サイトカインが与える蛍光シグナルは、平均蛍光強度(MFI)として定義される。この値は、標準(所与の分析物の濃度既知の試料)からのMFIを測定することによって作成される標準曲線を使って、試験試料中の各サイトカインの濃度に変換することができる。ARDS誘導後またはウイルスもしくはシュードウイルスばく露後に細胞がサイトカインを分泌した場合は、サイトカイン濃度の増加が細胞培養上清中に検出され、(例えばARDS誘導および/または天然もしくは人工ウイルス感染に応答して本来であれば(対照対象/試料では)活性化または上昇する複数の炎症誘発性サイトカインの活性化/発現をTPAが実質的に低減することを実証するために、TPA処置値を対照値と比較することが可能になる。
【0214】
TPA化合物の効力および最適な投与を実証するためのこれらのスクリーニングアッセイの有用性は、ヒトにおけるSARS-CoV-2および他のウイルス感染に対する過剰免疫および過剰炎症応答を防止または低減するための定期的な予防および治療処置を可能にするであろう。これらのアッセイは、TPAが、SARS-CoVワクチン接種プログラムとの併用により、ワクチンが誘導する過剰免疫または炎症応答のリスクを低減するのに、有用であるだろうことを、さらに明示すると予想される。特にTPAは、SARS-CoV-2ワクチン被接種者における「抗体依存性増強」(Antigen Dependent Enhancement:ADE)を低減するのに有効だろう。ADEは、ワクチン未接種対象と比較してワクチン被接種者では、その後、ワクチンの標的ウイルスに自然曝露した時に、過剰免疫および過剰炎症応答性のリスクが増大する一因になることが示されている。これは、デングウイルスその他のウイルスについて、ワクチン被接種者の間で実証されており、コロナウイルスワクチンプログラムについても考えられる合併症であることが予想される。より重症なCOVID-19症例が、事前の局地流行性hCoVウイルス感染(SARS-CoV-2と交差反応することで、年長で曝露量が多い成人におけるADEの一因となる可能性がある、普通感冒を引き起こす4種の局地流行性hCoVのいずれかによる成人の定期的な2~3年周期の感染を含む)が多いことと関連することが、注目されている。後に野生型ウイルスの攻撃を受けた時の過剰免疫および過剰炎症応答性に対する同じ傾向は、Covid-19ワクチンの接種後、ワクチンの効力が弱くなった後に(ワクチン被接種者において予想される中和抗SARS-CoV-2抗体の低下に続いて)起こる可能性があり、それはブースターワクチン接種にも伴いうる。TPA処置は、これらの異常なADE応答を減弱し、免疫の縮小を示し天然SARS-CoV-2感染のリスクがあるワクチン被接種者において、またブースターワクチン接種時にも、ADEのリスクまたは重症度を緩和するだろう。
【0215】
炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの増加しアップレギュレートされた発現(CSS)が、重症COVID-19疾患に伴うものを含むARDSにおける器官および組織の過剰な損傷を媒介することは、十分に確証されている。CSSは、炎症および感染性疾患の急性期にしばしば観察される。重症COVID-19疾患患者においてアップレギュレートされ、臓器損傷および組織損傷の一因となる可能性が高いサイトカインには、なかんずくIL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、CCL2(MCP-1)、CXCL9(Mig)およびCXCL10(IP-10)が含まれると報告されている。CSSおよび組織/器官損傷における炎症誘発性サイトカインの機能的役割には、例えば以下に挙げるものがある:
IL-6、IL-8、CCL2-好中球および単球の活性化/動員
IL-17-自己免疫疾患(MS、IBD)における組織炎症
CXCLケモカイン(例えばMig、IP-10)-器官/組織へのNKおよびT細胞の動員。
【0216】
本発明において(例えばCSSの可能性を低減するためにTPAの効力および投薬量を解明し微調整するために)使用するためにCBAアッセイの結果を較正し、明確にするには、重症COVID-19患者においてCSSおよびARDSと関連することが公知である炎症誘発性サイトカインのパネルについて発現レベルが試験され、記載のとおり試験対象と対照対象(例えばARDSが誘導された動物またはSARS-CoV-2もしくはシュードウイルスに感染した動物もしくはヒトの細胞または個々の対象)の間で比較される。試験される炎症誘発性サイトカインのパネルは、例えばヒトIL-6、IL-8、IL-10、IL-17、IFN-γ、TNF、MCP-1(CCL2)およびMig(CXCL9)を含むだろう。アッセイは、周知の公表された方法に従って行われ、多くの場合、健常対照試料において測定される炎症誘発性サイトカインについてのベースラインおよび無処置の試験対象において測定される対象炎症性サイトカインのそれぞれについて上昇した発現レベルの例示的プロファイルの確立が含まれる。
【0217】
ヒトにおけるARDSを処置および防止するためのTPA化合物の臨床研究
ヒトにおけるTPA組成物および方法の抗ウイルスおよび抗ARDS効力に関する臨床研究では、上述のように過剰炎症、CSSおよび/またはARDSの1つまたは複数の症状のリスクが上昇しているか、または研究の開始時点でそれらを呈しているSARS-CoV-2陽性対照に、直接的に焦点が当てられるだろう。米国疾病管理予防センター(CDC)は、上気道(例えば鼻咽頭または口咽頭スワブ拭き取り検査の使用)と下気道(気管内チューブまたは気管支肺胞洗浄のいずれか)の両方からの検体を使ってSARS-CoV-2感染を診断することを勧告している。COVID-19関連ARDSの診断は、主として、検体のRT-PCR分析に基づくだろう。RT-PCRを利用できない場合は、血清学的検査が使用されるだろう。現在、米国食品医薬品局(FDA)は、RocheのSARS-CoV-2市販検査システム(cobas(登録商標)SARS-CoV-2)を承認している。この定性検査は、鼻咽頭または口咽頭スワブからの試料を必要とし、結果を得るまでに3.5時間を要する。RT-PCR法に基づくcobas SARS-CoV-2検査は、特異的SARS-CoV-2 RNAと、サルベコウイルス亜属のすべてのメンバーにおいて不変のE遺伝子の高度に保存されたフラグメントとをどちらも検出する、二重標的アッセイである。このアッセイは、特異度および正確度を確保するために、フルプロセス陰性対照、陽性対照および内部対照を有する。2020年3月21日にFDAは、Cepheid Inc(米国)のXpert(登録商標)Xpress SARS-CoV-2にもう一つの緊急使用認可を与えた。これは45分以内に結果を与えることができる定性検査である。この検査は、鼻咽頭スワブ、鼻腔洗浄液または吸引検体からの試料を利用することができ、手作業が不要な自動試料処理を特徴とする。結果は、標的となる2つ以上の遺伝子が存在して検出されるのであれば、陽性とみなされるべきである。
【0218】
現在のSARS-CoV-2スクリーニング方法は、試料中の豊富なウイルスゲノムに頼っているが、発病の5日後は、症候性患者でも無症候性患者でもIgM抗体レベルが高いことを、研究は示している。したがって、IgM ELISAアッセイをPCRと併用することにより、検出感度を強化し、本明細書記載の研究方法と実用的臨床方法をどちらも、(例えばTPA投与を患者ごとに最適化する目的で決定を精密化するために)改良することができる。
【0219】
本発明者らのヒトTPA臨床研究プロトコールでの患者管理基準は、合併症および院内感染を防止するために、支持療法の重要性を強調している。患者が呼吸窮迫を起こした時は、酸素または人工呼吸器による補助を直ちに施す。組織低灌流の兆候がある場合を除き、肺水腫および低酸素血症の悪化を避けるために、輸液蘇生は制限される。呼吸器および眼の保護を含む標準的注意がすべての研究スタッフに推奨される。これらの注意の解除は、特定の研究対象が、少なくとも24時間を隔てたRT-PCR検査で2回連続して陰性を示した場合(これは臨床的回復/SARS-CoV-2ウイルスの排除を示す)にのみ許される。
【0220】
SARS-2によって媒介されるARDSにおけるTPAについてヒト臨床試験の初期の焦点は、COVID-19疾患重症度と相関する放射線特徴を含む、一貫していて容易に評価できる診断インデックスに絞られるだろう。COVID-19/ARDS重症度を評価するための放射線検査手順および解釈プロトコールは、胸部X線(CXR)および胸部コンピュータ断層撮影(CT)スキャンを含めて周知であり、COVID-19、SARS-CoVおよびMERS-CoV関連肺炎に関する画像所見を含めて、広く公表されている。SARS-CoV-2 ARDS対象の多数(最大75%)は両側性肺炎を示し、残りは一側性である。患者の約14%は複数の斑点形成およびすりガラス様陰影を示す。これらの異常の主要パターンは末梢性であるが(54%)、下葉に現われることまたは不明確である場合もある。より重症な例では、通常、両側性の複数のコンソリデーションが見られる。
【0221】
胸部CTでは、COVID-19の初期段階における肺炎が、より効率よく検出される。胸部CTスキャンでのCOVID-19の最も一般的なパターンには、複数のGGO病変(56.4%)および両側性の斑点陰影(51.8%)が含まれる。他のパターンは、限局性斑点陰影(28.1%)および間質異常(4.4%)からなる。重症例は、胸部CTスキャンで、より顕著な放射線所見、例えば非重症例と比べて、より多くの両側性斑点陰影(82%)、より多くの複数のGGO病変(60%)およびより多くの限局性斑点陰影(55.1%)を与える。CXRまたは胸部CT異常は、非重症例の17.9%および重症例の2.9%では確認されなかった。ピュア(pure)GGO病変は初期段階に認めることができる。巣状または多巣状GGO病変は、疾患進行中にクレージー・ペービング・パターン(crazy-paving pattern)として重ね合わされた小葉間/小葉内中隔肥厚を伴うコンソリデーションまたはGGO病変に進行する場合があり、コンソリデーションの拡張が疾患進行を表した。ピュアコンソリデーション病変は比較的少ない。稀ではあるが、肺空洞形成病変、胸水およびリンパ節腫脹も報告されている。
【0222】
追加のヒト臨床研究が前進するにつれて、これらの肺病原性データが、TPA処置COVID-19/ARDS対象および対照COVID-19/ARDS対象について、上述したCOVID-19/ARDS重症度の徴候およびTPA効率のそれぞれに関する並行データと共に収集されるだろう。
【0223】
明解に理解できるように例を挙げて、前述の発明を詳しく説明したが、限定ではなく例示として提供される本願請求項の範囲内で一定の変更および改変を実施できることは、当業者には明らかだろう。これに関連して、上記の開示では、説明に無駄がないように、さまざまな刊行物および他の参考文献に言及した。これらの参考文献のそれぞれは、あらゆる目的のために、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0224】
【国際調査報告】