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特表2023-528825血栓の予防、処置および診断のための化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】血栓の予防、処置および診断のための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230629BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/585 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/095 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20230629BHJP
   A61L 33/04 20060101ALI20230629BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20230629BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P7/02
A61K31/585
A61K31/40
A61K31/496
A61K31/5415
A61K31/4178
A61K31/404
A61K31/192
A61K31/4706
A61K31/473
A61K31/405
A61K31/343
A61K31/165
A61K31/166
A61K31/095
A61K31/4184
A61L33/04
A61L31/08
A61L31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573666
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2021064257
(87)【国際公開番号】W WO2021239905
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/000507
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】505429360
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ 13 パリ ノール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS 13 - PARIS NORD
【住所又は居所原語表記】99,avenue Jean-Baptiste Clement,F-93430 Villetaneuse,FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】522464469
【氏名又は名称】カプト・メディカル・ソシエテ・パール・アクシオン・サンプリフィエ
【氏名又は名称原語表記】Kapto Medical SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】カリジューリ,ジュゼッピーナ
(72)【発明者】
【氏名】ニコレッティ,アントニーノ
(72)【発明者】
【氏名】アントヌッチ,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】スカルベック,シャルル
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC10
4C081BA01
4C081CE03
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA541
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086BC05
4C086BC13
4C086BC14
4C086BC28
4C086BC30
4C086BC38
4C086BC39
4C086BC50
4C086BC89
4C086DA13
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA54
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA16
4C206GA16
4C206GA26
4C206JA06
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA54
(57)【要約】
本発明は、動脈性または静脈性血栓塞栓症の処置、予防または診断における医学的使用のための化合物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈性または静脈性血栓塞栓症の処置または予防または診断における医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンドであって、インターベンショナル神経放射線学のためのジゴキシゲニンおよびジスタマイシンを含まない、リガンド。
【請求項2】
該好中球細胞外トラップ(NET)が血栓内にある、請求項1のリガンド。
【請求項3】
該リガンドが:
- DNAリガンド、
- トポイソメラーゼ、および
- ヒストンリガンド
から選択される、請求項1または2の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項4】
該DNAリガンドが:
- 挿入リガンド、
- 溝結合リガンド、および
- DNAアルキル化剤
を含む、請求項3の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項5】
該挿入リガンドがシプロフロキサシン、メチレンブルー、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシンおよびサリドマイドを含む群から選択される、請求項3の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項6】
該溝結合リガンドがスリンダク、ネトロプシン、タリムスチン、ヘアピンポリアミド、ビス(ベンゾイミダゾール)、オーレオリン酸およびビス4級アンモニウムヘテロ環を含む群から選択される副溝結合リガンドまたは主溝結合リガンドであり得る、請求項3の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項7】
該DNAアルキル化剤が次の一般的構造:
I) ω-アジドポリエチレングリコールメタンスルホネート誘導体
【化1】
(式中、nは1~6である);
II) カルボキサミドスペーサーでω-アジドポリエチレングリコール鎖に結合した4-(ビス(2-ハロエチル)アミノ)フェニル部分
【化2】
(式中、nは1~6であり、mは0~6であり、
XはCl、Br、Iから選択されるハロゲンである);
III) 5位にビス(2-ハロエチル)アミノ)部分を有し、カルボキサミド基によりω-アジドポリエチレングリコールスペーサーに結合した、ベンゾ[b]フラン、インドール、N-アルキルインドール、インダゾール、ベンゾ[b]チオフェンなどのベンゾヘテロ環
【化3】
(式中、mは1~6であり、
XはCl、Br、Iから選択されるハロゲンであり、
Zは-CH-または-N-であり、
Yは-O-、-S-、-NHまたはN-C1-6アルキルアルキル鎖である)
の1個を有する、請求項3の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項8】
該DNAアルキル化剤がクロラムブシル、ノルクロラムブシル、ベンダムスチン、ブロモ安息香酸マスタードまたはメルファラン、ブスルファン、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-5-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)ベンゾフラン-2-カルボキサミド(MBF)および4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸などの全ビス-クロロエチルアミンまたはビス-ブロモエチルアミン誘導体を含む群から選択される、請求項3の医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項9】
該リガンドがジゴキシゲニン、ジスタマイシン、シプロフロキサシン、チオリダジン、ネトロプシン、トラベクテジン、スリンダク、ピペラキン、アテブリン(メパクリン)、ミトナフィド、クロロキン、アムサクリン、インドメタシン、メチレンブルー、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、サリドマイド、タリムスチン、ヘアピンポリアミド、ビス(ベンゾイミダゾール)、オーレオリン酸およびビス4級アンモニウムヘテロ環)および上記の何れかの誘導体を含む群から選択される、請求項1~8の何れかの医学的使用のための細胞外クロマチンのリガンド。
【請求項10】
該処置が閉塞性血管状態を含む群から選択される状態の処置を含む、請求項1~9の何れかの医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド。
【請求項11】
該閉塞性血管状態が急性臓器虚血に至る、請求項10の医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド。
【請求項12】
該予防が遠位塞栓および肺塞栓症を含む群から選択される状態の予防を含む、請求項1~9の何れかの医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド。
【請求項13】
血栓への付着または血栓の除去に使用するための、好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド。
【請求項14】
該リガンドが基質である、請求項1~13の何れかの医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド。
【請求項15】
請求項1~14の何れかのリガンドの1個以上を含む、基質。
【請求項16】
コーティングの形である、請求項1~8の何れかのリガンドの1個以上を含む、基質。
【請求項17】
該コーティングがポリマーまたはコポリマーの1以上の層を含む、請求項16の基質。
【請求項18】
該ポリマーがポリドーパミン、PEG-ビス-アミンおよびポリドーパミンとPEG-ビス-アミンのコポリマーを含む群から選択される、請求項17の基質。
【請求項19】
二次コーティングを含む、請求項16~18の何れかの基質。
【請求項20】
該二次コーティンが単糖類または多糖類基質であるかまたはポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)またはポリビニルアルコール(PVA)基質である、請求項19の基質。
【請求項21】
該二次コーティングがマンニトールを含む、請求項20の基質。
【請求項22】
適当な基で誘導体化されている、請求項1~14の何れかのリガンド。
【請求項23】
適当なリンカーを介して適当な誘導体化基で誘導体化されている、請求項1~14の何れかのリガンド。
【請求項24】
該リンカーが次の構造:
-(O-CH-CH)
(ここで、nは3~5である)
-(CH)-O-(CH)
(ここで、mおよびnは独立して3~7である)または
-[(-CH)-O-]-(CH)-N
(ここで、nは1~10、好ましくは2~6およびより好ましくは2~4であり、zは1~6、好ましくは1~4およびより好ましくは1~3であり、mは1~10および好ましくは2~5である)
の一つを有するリンカーの群から選択される、請求項23のリガンド。
【請求項25】
該適当な誘導体化基がアジド(-N)である、請求項22~24の何れかのリガンド。
【請求項26】
リンカーが次の構造:
【化4】
の一つを有する、請求項25のリガンド。
【請求項27】
N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-5-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)ベンゾフラン-2-カルボキサミド(ベンゾフランアジドマスタード、MBF)、4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸(BBM)、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-3-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)プロパンアミド(PPM、ノルクロラムブシル-アジド)、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-4-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)ブタンアミド(クロラムブシル-アジド)、4-(4-(4-((5-アジドペンチル)オキシ)ブチル)ピペラジン-l-イル)-7-クロロキノリン(ピペラキン-アジド)、4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸(アゾベンゼン-アジド、BBM)、ブスルファン-アジド(MsA)を含む群から選択される、請求項22~25の何れかのリガンド。
【請求項28】
基質の溶液または懸濁液の調製の第一工程を含む、請求項15~21の何れかの基質の1以上を含む、デバイスのコーティングを製造する方法。
【請求項29】
請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の1個以上で被覆された部分を含む、デバイス。
【請求項30】
血栓切除デバイス、フローリトリーバー、フィルター、塞栓症保護デバイス、バルーン血管形成術を含む遠位保護デバイス、下大静脈フィルターを含む群から選択される、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の1個以上で被覆された部分を含む、デバイス。
【請求項31】
インターベンショナル神経放射線学の分野で使用するための、請求項29または30のデバイス。
【請求項32】
インターベンショナル神経放射線学以外の分野で使用するための、請求項29~31の何れかのデバイス。
【請求項33】
対象における静脈性または動脈性血栓塞栓症を処置する方法であって、好中球細胞外トラップ(NET)を含む血栓と、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質と接触させることを含む、方法。
【請求項34】
対象における静脈性または動脈性血栓塞栓症を診断する方法であって、好中球細胞外トラップ(NET)を含む血栓と、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質と接触させることを含む、方法。
【請求項35】
好中球細胞外トラップ(NET)を含む血栓に付着するための、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の使用。
【請求項36】
好中球細胞外トラップ(NET)を含む血栓に付着しかつ除去するための、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の使用。
【請求項37】
好中球細胞外トラップ(NET)を含むインターベンショナル神経放射線学の分野における、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の使用。
【請求項38】
インターベンショナル神経放射線学以外の分野における、請求項1~14の何れかのリガンドまたは請求項15~21の何れかの基質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医療分野および特に血栓の予防、処置および診断に応用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管内血栓(凝血塊)は、罹患臓器への血流を可能な限り短時間で回復させるために、迅速かつ有効に除去する必要がある。
【0003】
血栓溶解薬物は、好中球細胞外トラップ(NET)である細胞外クロマチンからなる足場がフィブリンマトリクスを修飾し、供給するため、NETの局所産生により一般に作用が緩慢であり、しばしば失敗する。
【0004】
機械的血栓切除デバイスは数分で凝血塊を除去でき、費用対効果が良いことが示されている。しかしながら、血栓切除デバイスの金属支柱は、動脈壁に付着する凝血塊をつかめず、動脈を損傷させるリスクを伴う通過の反復が必要となり得る。
【0005】
さらに、デバイスは小さな凝血塊破片を保持できず、機械的除去の試みの間に凝血塊から離れて、本処置の二次塞栓および劇的な合併症状に至り得る。
【0006】
Zandleh M. et al. (「Interfacing DNA and Polydopamine Nanoparticles and its Applications」, 9th September 2020, https://doi.org/10.1002/ppsc.202000208)の文献は、低pHおよび多価金属イオンの存在の特定の条件下、アミノまたはチオ修飾DNAとの共有結合を介する、ポリドーパミン-DNAコンジュゲートの調製を記載する。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本特許出願の発明者らは、血栓内の好中球細胞外トラップ(NET)に結合する分子を驚くべきことに発見した。特に、本発明は特許請求の範囲により定義される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な記載
第一の目的により、動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防、処置または診断における医薬として使用するための、好中球細胞外トラップ(NET)のリガンドが開示される。
【0009】
第二の目的により、本発明のリガンドを含む基質が開示される。
【0010】
ある実施態様によると、該基質はコーティングの形である。
【0011】
本発明の第三の目的により、開示するリガンドを含むコーティングを製造する方法が開示される。
【0012】
第四の目的により、本発明の分子またはコーティングで被覆された部分を含むデバイスが開示される。
【0013】
第五の目的により、本発明のリガンドの使用を含む、動脈性または静脈性血栓塞栓症を予防、処置または診断する方法が開示される。
【0014】
さらに別の目的により、血栓、より具体的に好中球細胞外トラップの密集した網を構成するクロマチンへの付着のための本発明のリガンドの使用が開示される。
【0015】
ある実施態様によると、血栓に付着しかつ除去するための本発明のリガンドの使用が開示される。
【0016】
さらなる目的によると、インターベンショナル神経放射線学の分野における本発明のリガンドの使用が開示される。
【0017】
なおさらなる目的によると、経皮的冠動脈インターベンションの分野における本発明のリガンドの使用が開示される。
【0018】
本発明の目的で、「リガンド」は、標的に結合できる分子として意図される。
【0019】
本発明の目的で、「リガンド」の「標的」は、好中球細胞外トラップ(NET)により代表される。
【0020】
動脈性および静脈性血栓物質における好中球細胞外トラップ(NET)の存在は、既に記載されている(J Thromb Haemost. 2014 Jun;12(6):860-70; Ann Neurol. 2017 Aug;82(2):223-232; Semin Thromb Hemost. 2019 Feb;45(l):86-93;およびいくつかの他の公開された文献)。
【0021】
NETは、DNAおよびシトルリン化ヒストンを担持する関連タンパク質および主にミエロペルオキシダーゼ、好中球エラスターゼおよびカテプシンGにより表される好中球顆粒状タンパク質の強力結合からなる脱凝縮クロマチンからなる細胞外メッシュにより表される。
【0022】
本発明の特定の実施態様において、NET内で、リガンドはクロマチン(DNAおよびトポイソメラーゼなどの関連タンパク質)を標的とする。
【0023】
本発明の他の実施態様において、NET内で、リガンドはシトルリン化ヒストンを標的とする。
【0024】
本発明のさらなる実施態様において、NET内で、リガンドは好中球顆粒タンパク質を標的とする。
【0025】
より一般的には、本特許出願の目的で、本発明リガンドの標的は、血栓内に見られるが、通常の状態で白血球内に見られる、他の化合物を表し得る。
【0026】
の記載において、白血球由来核-細胞質化合物として称される。
【0027】
該化合物は、一般に上記クロマチンなどの核化合物または顆粒およびプロテアーゼ顆粒などの細胞質化合物により表され得る。
【0028】
本発明の目的で、上記標的は血流になく、血管血栓内にある。
【0029】
本発明の第一の目的によると、開示するリガンドは、動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防、処置および診断における医学的用途について記載される。
【0030】
本発明の範囲内で、該リガンドは、インターベンショナル神経放射線学のためのジゴキシゲニンおよびジスタマイシンを含まない。
【0031】
本発明の目的で、該リガンドは、インターベンショナル神経放射線学のためのジゴキシゲニンおよびジスタマイシンを含まず、ここで、インターベンショナル神経放射線学における使用は前大脳動脈、中大脳動脈および後大脳動脈における血栓切除的インターベンションを含む。
【0032】
ここで使用する用語「診断」は、疾患または症状の分類、疾患重症度の決定、疾患進行のモニタリング、疾患アウトカムおよび/または回復見込みの予測をいう。
【0033】
ここで使用する用語「処置する」または「処置」は、動脈性もしくは静脈性血栓塞栓症を有するリスクのあるまたは動脈性もしくは静脈性血栓塞栓症を有することが疑われる対象ならびに病気であるまたは動脈性もしくは静脈性血栓塞栓症または医学的状態を有すると診断されている対象の処置を含む予防または防止処置ならびに治癒または疾患修飾処置両者をいい、臨床的再発の抑制を含む。処置は、動脈性または静脈性血栓塞栓症または再発動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防、治癒、発症遅延、重症度低減または1以上の症状軽減のためにまたはこのような処置の非存在下で予測される余命を超えて対象の生存を延長するために、医学的障害を有する対象または最終的に障害を獲得し得る対象に投与し得る。
【0034】
ここで使用する用語「血栓塞栓症」は、血管における、破壊されて緩まり、血流により運搬されて他の血管を塞ぐ、凝血塊(血栓)の形成をいう。本発明の状況において、凝血塊は、肺(肺塞栓症)、脳(卒中)、消化管、腎臓または脚における血管を塞ぎ得る。
【0035】
ここで使用する用語「静脈性血栓塞栓症」は、静脈内に形成される血液凝血塊(血栓)をいう。一般的なタイプの静脈性血栓症は、脚の深部静脈における血液凝血塊である深部静脈血栓症(DVT)である。血栓が破壊され(塞栓形成)、肺に向かって流れたら、肺における血液凝血塊である肺塞栓症(PE)となり得る。種々の他の形態の静脈性血栓症も存在する;そのいくつかも肺塞栓症に至り得る。
【0036】
ここで使用する用語「動脈性血栓塞栓症」は、動脈内の血栓の形成をいう。ほとんどの場合、動脈性血栓症はアテローム(血管壁の脂肪に富む沈着物)の破壊が続き、故に、アテローム血栓症とも称される。動脈性塞栓症は、凝血塊がその後下流に移動したとき生じ、あらゆる臓器に影響し得る。
【0037】
本発明の目的で、二次塞栓症と称される状態も同様に含まれる。
【0038】
特に、該状態は、塞栓/塞栓症に二次的な状態および血栓切除の処置中に生ずる遠位塞栓両者を含むとして意図される。
【0039】
本発明の範囲内で、動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防は、遠位塞栓および肺塞栓症を含む群から選択される状態の予防を含む。
【0040】
限定しないが、該遠位塞栓状態は、例えば、流体力学的/回転性血栓切除処置ならびに心臓弁移植、頸動脈ステント留置術および末梢動脈血管形成術/ステント留置術などの経皮処置の間に生じ得る。
【0041】
さらなる実施態様において、本発明による医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド(または白血球由来核-細胞質化合物)の使用は、該処置が閉塞性血管状態を含む群から選択される状態の処置を含む。
【0042】
ここで使用する用語「閉塞性血管状態」は、臓器の血管障害が関与する遮断をいう。特定の実施態様において、閉塞性血管状態は、頸動脈または末梢動脈性閉塞性状態としても知られる腸骨動脈を含む大腿動脈の遮断であり得る。
【0043】
他の実施態様において、本発明による医学的使用のための好中球細胞外トラップ(NET)のリガンド(または白血球由来核-細胞質化合物)であって、ここで、閉塞性血管状態は急性臓器虚血に至る。
【0044】
虚血は、1以上の臓器への血流の減少または中断をいう。
【0045】
ここで使用する用語「急性臓器虚血」は、数日または数週間で急速に生ずる臓器機能低下をいう。
【0046】
限定しないが、該肺塞栓症状態は、例えば、深部静脈血栓症で起こり得る。
【0047】
本発明の目的で、開示する動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防および処置は、特に血栓破片が剥離することの予防に関して、開示するリガンドが血栓または血栓破片の除去におけるデバイスの性能を改善する全ての状態を包含することを意図する。
【0048】
本発明の範囲内で、動脈性または静脈性血栓塞栓症の処置は、臓器梗塞、透析シャント閉塞、静脈移植片閉塞、ステント内血栓症、静脈性血栓塞栓症を含む群から選択される状態の処置を含む。
【0049】
本発明の範囲内で、動脈性または静脈性血栓塞栓症の診断は、本発明のリガンドに適切に連結された造影剤の使用を含む。
【0050】
適当な造影剤は、例えばヨード化合物またはガドリニウム化合物を含み得る。
【0051】
本発明の目的で、リガンドは、
- DNAリガンド、
- トポイソメラーゼ、および
- ヒストンリガンド
を含み得る。
【0052】
特に、DNAリガンドは、
- 挿入リガンド、
- 溝結合リガンド、および
- DNAアルキル化剤
を含み得る。
【0053】
挿入リガンドは、シプロフロキサシン、メチレンブルー、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシンおよびサリドマイドを含む群から選択され得る。
【0054】
溝結合リガンドは、スリンダク、ネトロプシン、タリムスチン、ヘアピンポリアミド、ビス(ベンゾイミダゾール)、オーレオリン酸およびビス4級アンモニウムヘテロ環を含む群から選択される、副溝結合リガンドまたは主溝結合リガンドであり得る。
【0055】
DNAアルキル化剤は、クロラムブシル、ノルクロラムブシル、ベンダムスチン、ブロモ安息香酸マスタードまたはメルファランなどの全ビス-クロロエチルアミンまたはビス-ブロモエチルアミン誘導体を含む群から選択され得る。
【0056】
ブスルファン、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-5-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)ベンゾフラン-2-カルボキサミド(MBF)および4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸も、DNAアルキル化剤として選択され得る。
【0057】
本発明の目的で、次の一般的構造の1個を有するDNAアルキル化活性を有するリガンドが開示される:
I) ω-アジドポリエチレングリコールメタンスルホネート誘導体
【化1】
(式中、nは1~6である)。
【0058】
II) カルボキサミドスペーサーでω-アジドポリエチレングリコール鎖に結合した4-(ビス(2-ハロエチル)アミノ)フェニル部分
【化2】
(式中、nは1~6であり、mは0~6であり、
XはCl、Br、Iから選択されるハロゲンである)。
【0059】
III) 5位にビス(2-ハロエチル)アミノ)部分を有し、カルボキサミド基によりω-アジドポリエチレングリコールスペーサーに結合した、ベンゾ[b]フラン、インドール、N-アルキルインドール、インダゾール、ベンゾ[b]チオフェンなどのベンゾヘテロ環
【化3】
(式中、mは1~6であり、
XはCl、Br、Iから選択されるハロゲンであり、
Zは-CH-または-N-であり、
Yは-O-、-S-、-NHまたはN-C1-6アルキルアルキル鎖である)。
【0060】
ヒストンリガンドは、抗ヒストン抗体または例えばFab、F(ab’)2、Fab2、scFvなどのそのフラグメントであり得る。
【0061】
好ましい実施態様において、リガンドはジゴキシゲニン、ジスタマイシン、シプロフロキサシン、チオリダジン、ネトロプシン、トラベクテジン、スリンダク、ピペラキン、アテブリン(メパクリン)、ミトナフィド、クロロキン、アムサクリン、インドメタシン、メチレンブルー、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、サリドマイド、タリムスチン、ヘアピンポリアミド、ビス(ベンゾイミダゾール)、オーレオリン酸およびビス4級アンモニウムヘテロ環)および上記の何れかの誘導体を含む群から選択される。
【0062】
なお好ましい実施態様において、リガンドは、ジゴキシゲニンおよびジスタマイシンにより代表される。
【0063】
さらなる実施態様において、ジゴキシゲニンおよびジスタマイシンは、インターベンショナル神経放射線学のドメインにおける血栓切除処置以外、臓器梗塞、透析シャント閉塞、静脈移植片閉塞、ステント内血栓症、動脈性および静脈性血栓塞栓症を含むが、これらに限定されない群から選択される状態の処置に使用される。
【0064】
本発明の目的で、上記化合物の誘導体も同様にリガンドとして意図される。
【0065】
誘導体は、異性体、エナンチオマー、アジド-誘導体化化合物を含む。
【0066】
誘導体はエステルも含む。
【0067】
可撓性および剛性スペーサーを、リガンドの血栓内の標的への到達性を増加させるために、リガンドと誘導体化基の間に含めてよい。
【0068】
本発明の実施態様によると、上記リガンドは基質内である。
【0069】
本発明の目的で、リガンドを該基質と連結させ得る。
【0070】
特に、結合は、下記に詳述するとおり、リンカーを介して行い得る。
【0071】
本発明の実施態様において、基質はコーティングの形であってよく、すなわち、表面にコーティングを形成できる。
【0072】
本発明の他の実施態様において、二次コーティングが提供され得る。
【0073】
該二次コーティングはオーバーコーティングであってよく、その下のコーティングに対する保護効果を有し得る。
【0074】
本発明の目的で、二次コーティングまたはオーバーコーティングは、単糖類または多糖類または単糖類または多糖類の混合物であり得る。
【0075】
好ましい実施態様において、オーバーコーティングは、マンニトールオーバーコーティングである。
【0076】
本発明の目的内で適するならば、他の二次コーティングを使用し得る。
【0077】
本発明のリガンドを含む該基質および該コーティングは、本発明の第二の目的である。
【0078】
本発明の第三の目的によると、本発明のリガンドを含むコーティングを製造する方法が開示される。
【0079】
特に、該方法は、基質の溶液または懸濁液の調製の第一工程を含む。基質は、適当なポリマーまたはコポリマーにより代表され得る。
【0080】
基質の非限定的例は、ポリドーパミン、PEG-ビス-アミンおよびポリドーパミンとPEG-ビス-アミンのコポリマーにより表される。
【0081】
適当な基質のさらなる例は、例えば、互いに独立したポリマーおよび/コポリマーの逐次的重層である;基質の非限定的例は、ポリドーパミンおよびPEG-ビス-アミンの逐次的重層により表される。
【0082】
次の工程で、コーティングは、デバイスまたはデバイス部分の基質溶液または懸濁液への浸漬被覆によりデバイスまたはデバイスの一部の上に形成される。
【0083】
コーティングと連結させるために、本発明のリガンドを、好都合に誘導体化させる。
【0084】
誘導体化技術はリガンドの観点から適切に選択され:
- NHS(N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル)誘導体化(NHS誘導体化はPEG-ビス-アミン基質に特に適する);
- アジド誘導体化(アジド誘導体化は適当なリンカーを介するアジド基の挿入を含む)
を含み得る。
【0085】
他の例は:
- 続く抗体およびFcフラグメントなどの抗体フラグメントへの連結のためのEDC/SNHS(N-エチル-N’-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミド反応のためのメトキシPEGアミン(NH-PEG-COOH);および
- DBCO-PEG4-アミンなどの適当な二官能性剤を介するクリック化学
を含む。
【0086】
本発明の好ましい実施態様において、アジド誘導体化は、適当なリンカーを介するアジド基の挿入を含む。
【0087】
本発明の目的で、リンカーは、
- ポリエチレンリンカー、
- ポリエーテルリンカー
であり得る。
【0088】
特に、図18Aに示すとおり、ポリエチレンリンカーは次の構造を有し得る:
-(O-CH-CH)
(ここで、nは3~5である)。特に、図18Bに示すとおり、ポリエーテルリンカーは次の構造を有し得る:
-(CH)-O-(CH)
(ここで、mおよびnは独立して3~7である)。
【0089】
特定の実施態様において、図19に示すとおり、リンカーは次の一般的式(I)を有し得る:
-[(-CH)-O-]-(CH)-N
(ここで、nは1~10、好ましくは2~6およびより好ましくは2~4であり、zは1~6、好ましくは1~4およびより好ましくは1~3であり、mは1~10および好ましくは2~5である)。
【0090】
本発明の好ましいリンカーは次のものである。
【表1】
【0091】
本発明の好ましい実施態様によると、本発明のリガンドのアジド誘導体は、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-5-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)ベンゾフラン-2-カルボキサミド(ベンゾフランアジドマスタード、MBF)、4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸(BBM)、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-3-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)プロパンアミド(PPM、ノルクロラムブシル-アジド)、N-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル)-4-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)ブタンアミド(クロラムブシル-アジド)、4-(4-(4-((5-アジドペンチル)オキシ)ブチル)ピペラジン-l-イル)-7-クロロキノリン(ピペラキン-アジド)、4-[ビス-(2-ブロモエチル)アミノ]安息香酸(アゾベンゼン-アジド、BBM)、ブスルファン-アジド(MsA)を含む。
【0092】
本発明の特定の実施態様によると、ポリドーパミンはリガンドとしても作用し得る;それ故に、ポリドーパミンを含む基質は、さらなるリガンドを含む必要があるかもしれずまたはないかもしれない。
【0093】
本発明の実施態様において、二次コーティングがあり得る。
【0094】
該二次コーティングはオーバーコーティングであり得る。
【0095】
該二次コーティングは、基質がクロマチンにあまり選択的ではないリガンドを含むとき、特に有用であり得る。
【0096】
該二次コーティングは、ポリドーパミンがコーティングを形成する基質またはリガンドとして使用されるとき、特に有用であり得る。
【0097】
本発明の目的で、オーバーコーティングは、デバイスまたはデバイス部分の二次コーティングの溶液または懸濁液への浸漬被覆によりデバイスまたはデバイスの一部の上に形成される。
【0098】
あるいは、オーバーコーティングを、二次コーティングの溶液または懸濁液の適用により、デバイスまたはデバイスの一部に適用し得る。
【0099】
二次コーティングの溶液または懸濁液は、当分野で知られる方法により調製され得る。
【0100】
第四の目的によると、本発明のリガンドで被覆されたデバイスが開示される。
【0101】
好ましい実施態様において、該リガンドは、上記のとおり、基質またはコーティング内にある。
【0102】
本発明の目的で、デバイスは、開示するコーティングで完全にまたは部分的に被覆され得る。
【0103】
本発明の目的で、デバイスは、本発明の二次コーティングでさらに完全にまたは部分的に被覆され得る。
【0104】
該二次コーティングは、水可溶性または生分解性オーバーコーティングであり得る。
【0105】
ある実施態様によると、デバイスは、
- 血栓切除デバイス、
- フローリトリーバー、
- フィルター、
- 塞栓症保護デバイス、
- バルーン血管形成術を含む遠位保護デバイス、および
- 下大静脈フィルター
を含み得る。
【0106】
他の実施態様によると、デバイスは、冠血管血栓切除、心臓弁移植、頸動脈ステント留置術、末梢動脈血管形成術/ステント留置術、下大静脈フィルター、静脈性血栓塞栓症、経皮心血管処置などの流体力学的/回転性血栓切除処置、経皮処置のためのデバイスを含み得る。
【0107】
本発明の第五の目的によると、対象における静脈性または動脈性血栓塞栓症を予防および処置する方法が開示される。
【0108】
特に、該状態は塞栓/塞栓症に二次性の状態および血栓切除の処置中に生ずる遠位塞栓両者を含むとして意図される。
【0109】
本発明の範囲内で、動脈性または静脈性血栓塞栓症の予防は、遠位塞栓および肺塞栓症を含む群から選択される状態の予防を含む。
【0110】
限定しないが、該遠位塞栓状態は、例えば流体力学的/回転性血栓切除処置ならびに心臓弁移植、頸動脈ステント留置術および末梢動脈血管形成術/ステント留置術などの経皮処置中に生じ得る。
【0111】
限定しないが、該肺塞栓症状態は例えば深部静脈血栓症で生じ得る。
【0112】
特に、本発明の方法は、血栓またはその破片と本発明の基質またはコーティングを接触させる工程を含む。
【0113】
特に、該コーティングは、本発明のデバイスの一部またはデバイスを被覆する。
【0114】
二次コーティングを開示する実施態様によると、該二次コーティングは、その下のコーティングが血栓またはその破片と接触できるように、溶解されている。
【0115】
本発明の好ましい実施態様において、重篤な卒中、肺塞栓症、心筋梗塞、腸梗塞、急性肢虚血の処置または予防が開示される。
【0116】
本発明のある実施態様によると、対象における静脈性または動脈性血栓塞栓症の診断方法が開示される。特に、該方法は、本発明のリガンドに適切に連結された適当な造影剤の投与を含む。
【0117】
適当な造影剤はヨード化合物またはガドリニウム化合物を含み得る。
【0118】
他の目的によると、血栓、より具体的に好中球細胞外トラップに付着するための本発明のリガンドの使用が開示される。
【0119】
ある実施態様によると、より特に、リガンドの細胞外クロマチンへの結合を介する、血栓に付着しかつ除去するための本発明のリガンドの使用が開示される。
【0120】
さらなる目的によると、インターベンショナル神経放射線学の分野における本発明のリガンドの使用が開示される。
【0121】
上記のとおり、インターベンショナル神経放射線学の分野におけるジゴキシゲニンおよびジスタマイシンの使用は開示されない。
【0122】
特に、インターベンショナル神経放射線学における使用は、前大脳動脈、中大脳動脈および後大脳動脈への介入を含む。
【0123】
ある実施態様によると、経皮的冠動脈インターベンションの分野などの、インターベンショナル神経放射線学以外の分野における、本発明のリガンドの使用が開示される。
【0124】
特に、該非インターベンショナル神経放射線学分野における使用は、例えば冠血管アテローム血栓症、頸動脈アテローム血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、腸梗塞、急性肢虚血を含む。
【0125】
本発明を、次の図および実施例によりさらに説明する。しかしながら、これらの実施例および図は、本発明の範囲をいかなる方法によっても限定すると解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0126】
図1】本発明のリガンドの構造を示す。
図2】本発明のリガンドの構造を示す。
図3】本発明のリガンドの構造を示す。
図4】本発明のリガンドの構造を示す。
図5】本発明のリガンドの構造を示す。
図6】本発明のリガンドの構造を示す。
図7】本発明のリガンドの構造を示す。
図8】本発明のリガンドの構造を示す。
図9】本発明のリガンドの構造を示す。
図10】本発明のリガンドの構造を示す。
図11】本発明のリガンドの構造を示す。
図12】本発明のリガンドの構造を示す。
図13】本発明のリガンドの構造を示す。
図14】蛍光顕微鏡法により得た実施例1の処理で得た結果を示す。
図15】輝度の総和(平均シグナル輝度×面積)のデータをグラフで示す。
図16】実施例2における好中球細胞外トラップ(NET)と比較した本発明のリガンドのいくつかの血小板およびクロマチン結合性に対する比較アッセイの結果を示す。
図17】実施例2における好中球細胞外トラップ(NET)と比較した本発明のリガンドのいくつかの血小板およびクロマチン結合性に対する比較アッセイの結果を示す。
図18】本発明のリンカーの構造を示す。
図19】本発明のリンカーの構造を示す。
図20】リガンドとしてピペラキンを使用したリンカーのいくつかの血小板およびクロマチン結合性に対する比較アッセイの結果を示す。
図21】実施例3の実験の工程を示す。
図22】本発明のリガンドの構造を示す。
図23】本発明のリガンドの構造を示す。
図24】本発明のリガンドの構造を示す。
図25】本発明のリガンドの構造を示す。
図26】本発明のリガンドの構造を示す。
図27】本発明のリガンドの構造を示す。
図28】本発明のリガンドの構造を示す。
図29】ポリドーパミンの構造を示す。
【実施例
【0127】
実施例1:
表面に捕捉された塞栓子の分析
ニチノールディスクを、
1. ポリドーパミン(tris緩衝液中1mg/ml、pH8.5、22±2時間)
2. DBCO-PEG4-アミン
3. アジド-誘導体化DNA結合化合物(シプロフロキサシン-Nまたはチオリダジン-N)
からなる3連続浴で浸漬被覆した。
新鮮血栓を、血栓内の細胞外クロマチンの有利に至る、強白血球活性化を促進するため、PMA 100nMおよびイオノマイシン1mMを加えたヒト全血で調製した。同血栓の薄片を、48ウェルプレートのウェル内の被覆およびベアメタルディスクに重層し、ヒト血漿で覆い、37℃でオービタルシェーカーで5分間インキュベートした。血栓薄片をピンセットを使用して機械的に除き、ディスクをPBSで洗浄し、PBS中のHoechst 33342(1pg/ml、DNA染色のため)およびエバンスブルー(3%、タンパク質染色のため)からなる溶液で5分間染色した。注意深く洗浄後、実験的表面に捕捉された塞栓子 - DNA(DAPIチャネル)およびタンパク質(ローダミンチャネル) - の存在を蛍光顕微鏡法で確認した。2チャネルで観察されたディスクの代表図を図12に示す。画像分析を、Image Jオープンソフトウェアを使用して実施した。輝度の総和(平均シグナル輝度×面積)分析は、シプロフロキサシンおよびチオリダジン被覆表面が一貫して血栓からのより多くのDNAおよびタンパク質に付着し、捕捉することを示した。
【0128】
実施例2:
クロマチンおよび血小板結合の評価
図16は、細胞外クロマチン(NET)と比較して、血液血小板上の種々のコーティングにより発揮される選択的結合性をアッセイするために実施した実験結果を報告する。
【0129】
実験設定
ニチノールディスクをそのまま(ベアメタル)またはポリドーパミン、DBCO-PEG4-アミンおよびアジド誘導体リガンド逐次的浸漬被覆重層処理により試験クロマチンリガンド被覆した。血小板付着(左パネル)を、PPAK(一過性抗凝血を提供するトロンビン阻害剤)中に採血した血液中、10分間ディスクを浸漬した後、AlexaFluor(登録商標)488(緑色蛍光)に結合したファロイジンで染色後、表面の画像分析により評価した。
ベアメタルへの高結合(下部)と比較して、低血小板結合(MBFコーティング、上部)を示すディスクの一例を示す。
【0130】
細胞外クロマチン結合を、好中球細胞外トラップ(NET)の形成を促進するため、新鮮ヒト好中球をニゲリシンで4時間刺激した(PMID: 28574339; doi: 10.7554/eLife.24437)ウェルの底にディスクを3分間適用することにより評価した。ディスク表面に付着した細胞外クロマチンを、細胞非透過性核色素Sytox Greenで染色した。ベアメタル(下部)クロマチン結合への低結合と比較して、高(MBFコーティング、上部)を示すディスクの一例を示す。
【0131】
図17は、細胞外クロマチン(NET)と比較して、血液血小板上の種々のコーティングにより発揮される結合性をアッセイするために実施した実験の結果を示す。
細胞外クロマチン(NET)と比較して、液血小板の種々のコーティング(N=6/コーティング)により発揮される結合性の例。
【0132】
二元ドットプロット:
各ドットはクロマチン(X軸)および血小板(Y軸)の平均結合(最大の%、平均±SEM)を、各軸に平行の標準誤差バーと共に示す。
最良の化合物は右下四分円のものであり、コーティングはクロマチンに対する高結合および血液血小板に対する低結合を示す。逆に、最悪の状況、例えば、高血小板および低クロマチン結合性が左上四分円(ベアメタル表面)に示される。
得られた結果を図17および20に示し、下表に示す。
【表2】
【0133】
実施例3:
ピペラキンに対するあるリガンドの結合性に対するリンカーの効果の評価
図19は、ピペラキンに対するあるリガンドの結合性に対するリンカーの効果の評価のために実施した実験の結果を示す。
【0134】
実験設定
種々のリンカーをピペラキンと合わせ、得られたアジド誘導体を記載する3工程浸漬被覆処理による、ニチノールディスク(各化合物N=6)のコーティングに使用した。血小板付着(左パネル)を、PPAK(一過性抗凝血を提供するトロンビン阻害剤)中に採血した血液中、10分間ディスク(N=6/コーティング)を浸漬した後、ファロイジン染色(緑色蛍光)の表面および強度の分析により評価した。細胞外クロマチンの結合を、好中球細胞外トラップ(NET)の形成を促進するために、新鮮ヒト好中球がニゲリシンで4時間刺激されたウェルの底にディスクを3分間適用することにより評価した。細胞外クロマチンを細胞非透過性核色素Sytox Greenで染色した。
【0135】
この図の「ミラー」バーは、示すコーティングの各々のクロマチン(右)結合(最大の%、平均±SEM)結合と比較した血小板(左)を示し、クロマチンを捕獲する各化合物の能力により並べた(上から下)(最良結合プロファイルは上)。
【0136】
実施例4:
凝血塊-デバイス剥離時間の評価
図21は、ステントレトリーバーから捕捉された凝血塊の剥離に必要な時間を評価するために実施した実験の工程を示す。このアッセイの目的で、いくつかの同一人工凝血塊を、先に記載のとおり新鮮ヒト血液を使用して調製し(PMID: 29695602; doi: 10.1136/neurintsurg-2017-013675)、ニゲリシンを凝血塊内でNETを濃縮するために付加した(PMID: 28574339; doi: 10.7554/eLife.24437)。凝血塊を、個々の小ポリプロピレンチューブの底に配置する。
【0137】
実験は次の相を含む:
1) 層状臨床グレード血栓切除デバイス(ベアメタルまたは逐次的浸漬被覆重層処理により示すリガンドでの被覆)を凝血塊とチューブの壁の間を通し、チューブの底に達したら配置させる。凝血塊を捕捉する能力を直接ビデオ録画によりモニターする(A)。
2) デバイスをチューブから抜き取り、凝血塊への強い付着をビデオ録画する(B)。
3) 付着凝血塊を有するデバイスを食塩水(PBS)を含む50mlチューブに移す(C)。
4) デバイス+付着凝血塊を液中で激しく撹拌する(D)。
5) 凝血塊の剥離を連続ビデオ録画により直接モニターする(E)。
【0138】
凝血塊がデバイスから剥離するのに必要な時間を、録画したビデオから盲検のオペレーターが定量し(実験はデュプリケート)データは次のとおりである。
【表3】
【0139】
上記から、本発明の利点は当業者には明らかである。
【0140】
最先端技術戦略は、有効な医薬的血栓溶解を可能とするために細胞外クロマチンを溶解することを目的とする。
【0141】
よって、本発明は、むしろ、付着血管壁からの除去を容易とし、二次塞栓予防のためにその破片を安定に保持するための、血栓物質を固着するためのクロマチン線維の存在を探索することを企図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
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図26
図27
図28
図29
【国際調査報告】