(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】SARS関連コロナウイルスに対する中和抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230629BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230629BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230629BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230629BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230629BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230629BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230629BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P31/14
A61K39/00 H
A61P37/04
A61K9/72
A61K9/12
A61P11/00
C07K16/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K14/165
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573673
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2021064326
(87)【国際公開番号】W WO2021239935
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】308027710
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート・ツー・ケルン
(71)【出願人】
【識別番号】522464481
【氏名又は名称】フィリップス-ウニヴェルジテート マールブルク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】グリュル ヘニング
(72)【発明者】
【氏名】クライン フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】クレーア クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ゼーナー マティアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
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4B065AA72X
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4B065BA02
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4C076AA24
4C076AA93
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4C076BB25
4C076BB27
4C076CC15
4C076CC35
4C076FF70
4C085AA03
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4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、SARS関連コロナウイルスに対する抗体又はその結合断片、かかる抗体又はその結合断片を含む医薬組成物、かかる抗体又はその結合断片を備えるキット、並びに薬剤として、及びSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防において使用されるモノクローナル抗体又はその結合断片及び医薬組成物及びキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS関連コロナウイルスに対して指向された抗体又はその結合断片であって、前記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含み、好ましくは、前記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群から選択される抗体のうちの1つ、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含む、抗体又はその結合断片。
【請求項2】
前記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群から選択される1つの抗体、好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群からの1つの抗体、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列の組み合わせを含む、請求項1に記載の抗体又は結合断片。
【請求項3】
前記SARS関連コロナウイルス株が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項1又は2に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項4】
前記抗体又はその結合断片が、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の外部ドメインに対して、好ましくは、Wrapp et al.,Science (2020) doi:10.1126/science.Abb2507に記載されているウイルス分離株Wuhan-Hu-1の融合前安定化バリアントにおけるSARS-CoV-2のスパイク(S)ホモ三量体の外部ドメイン(配列番号57)に対して、より好ましくは、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)(配列番号58)に対して指向される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその結合断片が、Koch et al., Lancet Infect. Dis. (2020) doi:10.1016/s1473-3099(20)30248-6に従って、ウイルス及び抗体の37℃で1時間の共インキュベーション後にVeroE6細胞に適用された100TCID
50のSARS-CoV-2を使用してウイルス中和試験で試験される場合に、VeroE6細胞上の本物のSARS-CoV-2分離株であるBavPat1/2020の10μg/ml未満の中和能(IC
100;細胞変性効果の完全な欠如をもたらす抗体の最低用量)を示す、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項6】
前記抗体又はその結合断片が1μg/ml未満の中和能を示す、請求項5に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項7】
前記抗体又はその結合断片が0.5μg/ml未満の中和能を示す、請求項5に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項8】
前記抗体又はその結合断片が0.25μg/ml以下の中和能を示す、請求項5に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項9】
前記抗体又はその結合断片が、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の外部ドメインの領域1及び領域2の両方に結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項10】
前記抗体又はその結合断片が、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して、100μg/mlの前記抗体又はその結合断片の濃度で、透過処理されたHEp-2細胞に対して試験される場合の検出可能な結合として定義される自己反応性を示さない、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片。
【請求項11】
前記抗体の重鎖が配列番号229のアミノ酸配列を有し、前記抗体の軽鎖が配列番号230のアミノ酸配列を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物がヒト対象用のワクチン組成物である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体又はその結合断片と容器とを備えるキット。
【請求項15】
薬剤として使用される、好ましくは、ワクチンとして使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体若しくはその結合断片、請求項12若しくは13に記載の医薬組成物、又は請求項14に記載のキット。
【請求項16】
ヒト対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、好ましくは、ヒト対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)により引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体若しくはその結合断片、請求項12若しくは13に記載の医薬組成物、又は請求項14に記載のキット。
【請求項17】
ヒト対象のSARS関連コロナウイルス感染、好ましくは、ヒト対象の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の予防に使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体若しくはその結合断片、請求項12若しくは13に記載の医薬組成物、又は請求項14に記載のキット。
【請求項18】
ヒト及び/又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスを処置する方法であって、治療上有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体及び/又はその結合断片を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記SARS関連コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ヒト及び/又は動物対象のSARS関連コロナウイルス感染を予防する方法であって、治療上有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項21】
ヒト及び/又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによる疾患の重症度を低減する方法であって、治療上有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項22】
前記抗体が静脈内注入により投与される、請求項15~17のいずれか1項に記載の使用のための抗体、又は請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が1mg/患者の体重1kg~100mg/患者の体重1kgの用量で投与される、請求項22に記載の使用のための抗体又は請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体が、2.5mg/患者の体重1kg、5mg/患者の体重1kg、10mg/患者の体重1kg、20mg/患者の体重1kg、25mg/患者の体重1kg、30mg/患者の体重1kg、40mg/患者の体重1kg、50mg/患者の体重1kg、又は100mg/患者の体重1kgの用量で投与される、請求項23に記載の使用のための抗体又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体が吸入適用により投与される、請求項15~17のいずれか1項に記載の使用のための抗体、又は請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が投与前にメッシュ式ネブライザー又はジェット式ネブライザーにより噴霧化される液体医薬組成物中に提供される、請求項25に記載の使用のための抗体又は請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、50mg、100mg、200mg、250mg、300mg、400mg、500mg、750mg、又は1000mgの用量で投与される、請求項25若しくは26に記載の使用のための抗体又は請求項25若しくは26に記載の方法。
【請求項28】
SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して指向された抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号119のCDR1、配列番号120のCDR2、及び配列番号121のCDR3を含む重鎖可変領域を含み、配列番号122のCDR1、配列番号123のCDR2、及び配列番号124のCDR3を含む軽鎖可変領域を更に含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項29】
配列番号21の重鎖可変領域及び配列番号22の軽鎖可変領域を含む、請求項28に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項30】
配列番号229の重鎖及び配列番号230の軽鎖を含む、請求項28又は29に記載の抗体。
【請求項31】
配列番号229の2つの重鎖及び配列番号230の2つの軽鎖のみからなる、請求項28~30のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項32】
請求項1~11又は28~31のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項33】
発現制御配列と機能的に結合している請求項32に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項34】
請求項32に記載の核酸又は請求項33に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項35】
請求項1~11又は28~31のいずれか1項に記載の抗体を生成する方法であって、
(a)前記抗体の発現を可能にする条件下で請求項34に記載の宿主細胞を培養することと、
(b)前記抗体を回収することと、
を含む、方法。
【請求項36】
異なる結合特異性を有する、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して指向された少なくとも1種の更なる抗体と組み合わせて医薬品に使用される、請求項1~11又は28~31のいずれか1項に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS関連コロナウイルスに対する抗体又はその結合断片、かかる抗体又はその結合断片を含む医薬組成物、かかる抗体又はその結合断片を含むキット、並びに薬剤として、及びSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防において使用される該抗体又はその結合断片及び該医薬組成物及び該キットに関する。
【背景技術】
【0002】
新規かつ高病原性のコロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、SARS-CoV-2)の出現及びその急速な国際的蔓延は、世界的な公衆衛生上の重大な緊急事態をもたらす。2003年に発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)又は2012年に発生した中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)等の他の高病原性コロナウイルス株に感染した個体と同様に、SARS-CoV-2に感染した患者は、乾性咳、熱、頭痛、呼吸困難、及び肺炎が挙げられる様々な症状を示し得て、その推定死亡率は、3%~5%の範囲である。
【0003】
2019年12月の最初の大流行以来、SARS-CoV-2は、世界全体で217ヵ所の国、地域、及び領土に広がっている。2020年5月27日時点で、このウイルスによる548万8825人の感染が全世界で確認されており、34万9095人の感染患者の死亡が確認されている(https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019)。
【0004】
2020年に世界的大流行になり、WHOによりそのように宣言されたウイルスの蔓延に対応して、世界中の様々な都市及び国が蔓延の継続を最小限にするために、様々な程度でロックダウン下にある。2020年のSARS-CoV-2の世界的流行は、公衆衛生、社会生活、及び世界経済への前例のない影響をもたらした。
【0005】
この大流行に対処するために利用可能な承認された薬物及びワクチンがないため、COVID-19の処置及び予防のための新規な選択肢が大いに必要とされている。したがって、ワクチン及び強力な抗ウイルス薬を開発するために、SARS-CoV-2免疫を解読する差し迫った保健上の必要性がある。
【0006】
モノクローナル抗体(mAb)は、エボラウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)等のウイルスを効果的に標的とし、中和することが実証されている。抗体により媒介される応答のためのSARS-CoV-2ビリオン表面上の最も優れた標的は、ホモ三量体スパイク(S)タンパク質である。Sタンパク質は、受容体結合ドメイン(RBD)のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との相互作用により細胞への侵入を促進する。したがって、Sタンパク質を標的とするモノクローナルヒト抗体は、COVID-19を予防及び処置するために重要である。
【0007】
近年、異なる実験設定においてSARS-CoV-2に対する中和活性を示す少数の抗体について(主に、正式な査読を受けていないプレプリントの形態で)有望なデータが発表されたが、これらのデータには、試験された抗体のアミノ酸配列の公衆の利用可能性の欠如、生きているウイルスに対する中和活性の実験的証拠の欠如、上記抗体の自己反応性(autoreactivity or self-reactivity)、又は生きているSARS-CoV-2ウイルスに対する比較的低い中和能のいずれかの欠点がある。
【0008】
上述の欠点のため、自己反応性を示さず、十分詳細に公開された一般に入手可能な抗体と比較して生きているウイルスに対して優れた中和能を有する、SARS関連コロナウイルスに対して指向されたヒト抗体が依然として必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、自己反応性を示さず、生きているウイルスに対する優れた中和能を有する、SARS関連コロナウイルスに対する新規のモノクローナル抗体を提供することである。本発明の更なる目的は、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防、及びヒト又は動物対象のSARS関連コロナウイルス感染の予防に使用され得るSARS関連コロナウイルスに対する新規のモノクローナル抗体を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
これらの目的は、以下に明記される本発明の態様により達成された。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、SARS関連コロナウイルスに対して指向された抗体又はその結合断片が提供され、上記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含み、好ましくは、上記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群から選択される抗体のうちの1つ、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含む。
【0012】
本発明の第1の態様の一実施の形態において、上記抗体又はその結合断片は、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群から選択される1つの抗体、好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群からの1つの抗体、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列の組み合わせを含む。
【0013】
本発明の第1の態様の別の実施の形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。
【0014】
本発明の第1の態様の更に別の実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の外部ドメインに対して、好ましくは、Wrapp et al., Science (2020) doi:10.1126/science.abb2507に記載されているウイルス分離株Wuhan-Hu-1の融合前安定化バリアントにおけるSARS-CoV-2のスパイク(S)ホモ三量体の外部ドメイン(配列番号57)に対して、より好ましくは、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対して、更により好ましくは、配列番号58の配列を有するRBDに対して指向される。
【0015】
中和能に関する本発明の第1の態様の一実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、Koch et al., Lancet Infect. Dis. (2020) doi:10.1016/s1473-3099(20)30248-6に記載されたアッセイに基づいて、ウイルス及び抗体の37℃で1時間の共インキュベーション後にVeroE6細胞に適用された100TCID50のSARS-CoV-2を使用してウイルス中和試験で試験される場合に、VeroE6細胞上の本物のSARS-CoV-2分離株であるBavPat1/2020に対する10μg/ml未満の中和能(IC100;細胞変性効果の完全な欠如をもたらす抗体の最低用量)を示す。
【0016】
中和能に関する本発明の第1の態様の更なる実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、1μg/ml未満の中和能を示す。
【0017】
中和能に関する本発明の第1の態様の更なる実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、0.5μg/ml未満の中和能を示す。
【0018】
中和能に関する本発明の第1の態様の更なる実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、0.25μg/ml以下の中和能を示す。
【0019】
本発明の更なる実施の形態によれば、上記抗体又はその結合断片は、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して、100μg/mlの上記抗体又はその結合断片の濃度で、透過処理されたHEp-2細胞に対して試験される場合の検出可能な結合として定義される自己反応性を示さない。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体又はその結合断片と、少なくとも1つの薬学的に許容され得る賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明の第2の態様の一実施の形態によれば、医薬組成物はヒト又は動物対象用のワクチン接種組成物である。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体又はその結合断片と容器とを備えるキットが提供される。
【0023】
本発明の第4の態様によれば、医薬として使用される、好ましくはワクチンとして使用される本発明の第1の態様による抗体若しくはその結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、又は本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0024】
本発明の第5の態様によれば、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、好ましくは、ヒト又は動物対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)により引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、本発明の第1の態様による抗体若しくはその結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、又は本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0025】
本発明の第6の態様によれば、ヒト又は動物対象のSARS関連コロナウイルス感染、好ましくは、ヒト又は動物対象の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の予防に使用される、本発明の第1の態様による抗体若しくはその結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、又は本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0026】
本発明の第4の態様、第5の態様、又は第6の態様の一実施の形態によれば、抗体は静脈内注入により投与され、ここで、抗体は、1mg/患者の体重1kg~100mg/患者の体重1kgの用量で投与され得て、抗体は、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、又は100mg/kgの用量で投与され得る。
【0027】
本発明の第4の態様、第5の態様、又は第6の態様の他の実施の形態によれば、抗体は、吸入適用により投与され、ここで、抗体は、投与前にメッシュ式ネブライザー又はジェット式ネブライザーにより噴霧化される液体医薬組成物中に提供され得て、及び/又は抗体は、50mg、100mg、200mg、250mg、300mg、400mg、500mg、750mg、又は1000mgの用量で投与され得る。
【0028】
別の実施の形態において、本発明の抗体は、初回量として吸入により投与され、続いて、全身投与により、例えば、限定されるものではないが、静脈内及び/又は腹腔内に投与される。
【0029】
別の実施の形態によれば、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスを処置する方法であって、治療上有効量の本発明の少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片、又は少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を上記ヒト又は動物対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0030】
別の実施の形態によれば、ヒト又は動物対象のSARS関連コロナウイルス感染を予防する方法であって、治療上有効量の本発明の少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片、又は少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を上記ヒト又は動物対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0031】
更に別の実施の形態において、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによる疾患の重症度を低減する方法であって、治療上有効量の本発明の少なくとも1種の抗体及び/又はその抗原結合断片、又は少なくとも1種の抗体及び/又は抗原結合断片を含む医薬組成物を上記ヒト又は動物対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0032】
一実施の形態において、SARS関連コロナウイルスは、SARS-CoV-2である。別の実施の形態において、対象は、ヒト対象である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(a)ELISAにより特定される255種の単離されたヒトモノクローナル抗体のSARS-CoV-2 S外部ドメインとの相互作用(EC
50<30μg/ml及びOD
415~695>0.25(図示せず)のカットオフ値を定義することにより79種の結合抗体(黒色から濃い灰色)が同定された)を示す図である。(b)抗体が単離された個々の患者毎の、SARS-CoV-2 S外部ドメインと相互作用する抗体のEC
50値(二重反復の平均)(中和抗体はそれらのIC
100値に応じて異なる濃淡の灰色でラベル付けされている)を示す図である。(c)28種の抗体が100μg/mlのIC
100のカットオフ値以上の中和活性を有することを示す、S外部ドメイン特異的抗体の本物のSARS-CoV-2の中和活性(VeroE6細胞感染の完全な阻害、IC
100、四重反復)を示す図である。
【
図2】μg/mlでのIC
100で表現される本物のSARS-CoV-2に対する中和効率を示す図である。バーは最も低いmAbの中和濃度を示す。
【
図3】ELISAにより測定されるSARS-CoV-2 S外部ドメイン結合(EC
50)と本物のSARS-CoV-2に対する中和能(IC
100)との間の相関を示す図である。相関係数r
S及び近似p値は、スピアマンの順位相関により算出された。
【
図4】HEp-2細胞をSARS-CoV-2 S外部ドメイン抗体で染色し、蛍光顕微鏡法(Leica DMI6000顕微鏡)により解析することにより試験される、SARS-CoV-2に結合し、これを中和する選択された抗体の自己反応性を示す図である。評価法の代表画像を示す。
【
図5】SARS-CoV-2と相互作用する単離された抗体の特性の要約を示す拡張されたデータ表を示す図である。
【
図6】SARS-CoV-2に曝露された、ACE2が形質導入されたBALB/cマウスにおけるDZIF-10cの治療有効性を示す図である。(A)実験日を示す数値を示す実験スキーム。(B)4日目の肺組織中の1ナノグラムのRNA当たりのSARS-CoV-2ゲノムコピー。(C)25mgの肺組織ホモジェネートからのウイルス単離により決定されるVero E6細胞に対するTCID
50力価。i.n.:鼻腔内。i.p.:腹腔内。
【
図7】SARS-CoV-2に曝露されたゴールデンシリアンハムスターにおけるDZIF-10cの治療有効性を示す図である。(A)実験日を示す数値を示す実験スキーム。(B)鼻スワブのqRT-PCRにより決定されるSARS-CoV-2力価。(C)肺ホモジェネートのqRT-PCRにより決定されるSARS-CoV-2力価。(D)異なる肺葉からのウイルス単離により決定される感染性SARS-CoV-2力価。
【
図8】(A)DZIF-10c又はアイソタイプ対照抗体との1時間の共インキュベーション後にSARS-CoV-2に曝露されたCD14
+ヒトマクロファージ、又はMERS-CoVに曝露された後のCD14
+ヒトマクロファージの細胞培養上澄みの感染性(TCID
50)を示す図である。(B)DZIF-10c又はアイソタイプ対照抗体との1時間の共インキュベーション後にCD14
+ヒトマクロファージをSARS-CoV-2に曝露した後のSARS-CoV-2ゲノムコピーを示す図である。ウイルス曝露後に細胞を4日間インキュベートした。LLOD:検出下限。
【
図9】1mg/kg用量の気管内投与後のWistarラットのELF及び血漿中のDZIF-10c濃度を示す図である。
【
図10】1mg/kgの気管内適用の2時間若しくは24時間後、又は10mg/kg用量の2回目の静脈内適用の24時間後のWistarラットの調査された全ての組織中のDZIF-10c(この図においてEX14870と称される)濃度を示す図である。Bro及びTra:気管支及び気管。
【
図11】製剤F5~F8中のDZIF-10cの意図される保存条件(5℃)での(A)高分子量種(HMW)の百分率(%)及び(B)単量体の百分率の観点での安定性データを示す図である。
【
図12】感染前にDZIF-10c又はビヒクルで事前に処置された動物の鼻咽頭スワブにおけるSARS-CoV-2量を示す図である。LOD=検出限界。
【
図13】感染前にDZIF-10c又はビヒクルで事前に処置された動物の気管支肺胞洗浄液(BAL)におけるSARS-CoV-2量を示す図である。LOD=検出限界。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明がより容易に理解され得るように、幾つかの用語を初めに定義する。付加的な定義は発明を実施するための形態の全体にわたって説明する。
【0035】
用語「或る(a or an)」を付された物は、その物のうちの1つ以上を指すことに留意されたい。例えば、「ヌクレオチド配列(a nucleotide sequence)」は、1つ以上のヌクレオチド配列を表すと理解される。したがって、用語「或る("a" (or "an"))」、「1つ以上(one or more)」、及び「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書において互換的に使用され得る。
【0036】
さらに、本明細書において使用される場合、「及び/又は」の用語は、2つの指定される特徴又は成分の各々ともう一方とを含む、又はもう一方を含まない具体的な開示として理解される。したがって、本明細書において「A及び/又はB」等の句で使用される「及び/又は」の用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A(単独)」、及び「B(単独)」を含むことが意図される。同様に、「A、B、及び/又はC」等の句において使用される「及び/又は」の用語は、A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)の態様の各々を包含することが意図される。
【0037】
本明細書において「含む、含んでいる」の言葉と共に態様が記載される時はいかなる場合でも、「のみからなる」及び/又は「のみから本質的になる」の用語で記載される別の類似する態様も提供されることが理解される。
【0038】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、この開示が関係する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 2nd ed., 2002, CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 3rd ed., 1999, Academic Press、及びthe Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology, Revised, 2000, Oxford University Pressは、この開示で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。
【0039】
単位、接頭辞及び記号は、それらの国際単位系(SI:Systeme International d'Unites)で容認される形態で表示される。数値範囲は、その範囲を規定する数値を含む。他に指定のない限り、ヌクレオチド配列は左から右に5’→3’方向で記載される。アミノ酸配列は左から右にアミノ→カルボキシ方向で記載される。本明細書で提供される標題は、本開示の様々な態様を限定するものではなく、全体として本明細書を参照することによって理解され得る。したがって、すぐ下に定義される用語は、本明細書全体を参照することによってより完全に定義される。
【0040】
用語「約」は、「ほぼ」、「大まかに」、「およそ」、又は「の範囲で」を意味するように本明細書において使用される。用語「約」が数値の範囲と共に使用される場合、この用語は、記載される数値の上限及び下限を広げることによりその範囲を修正する。一般に、用語「約」は、例えば、10パーセントの上昇又は下降(より高い又はより低い)の変動により、明示される値の上方及び下方に数値を修正し得る。
【0041】
用語「抗体」は、免疫グロブリン様ドメインを有する分子(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE)を指すように本明細書において最も広義に使用され、モノクローナル抗体、組換え抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体が挙げられる多重特異性抗体、及びヘテロコンジュゲート抗体;単一可変ドメイン(例えば、VH、VHH、VL、ドメイン抗体)、抗原結合抗体断片、Fab、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、単鎖Fv、ジスルフィド結合scFv、ダイアボディ等、並びに上述のうちのいずれかの改変型を包含する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、抗原に特異的に結合することができる、生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来するタンパク質又はその抗原結合部分を指す。この用語は、任意のクラス又はアイソタイプの全長抗体(すなわち、IgA、IgE、IgG、IgM、及び/又はIgY)及びそれらの任意の単鎖又は断片を包含する。抗原又はその抗原結合部分に特異的に結合する抗体は、その抗原若しくはその一部に排他的に結合し得るか、又は限られた数の対応抗原若しくはその一部に結合し得る。全長抗体は、通常、以下の少なくとも4つのポリペプチド鎖を含む:ジスルフィド結合により相互に連結されている2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖。
【0043】
医薬品として特に関心対象となる1つの免疫グロブリンサブクラスは、IgGファミリーである。ヒトにおいて、IgGクラスは、それらの重鎖定常領域の配列に基づいて以下の4つのサブクラスに細分され得る:IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4。軽鎖は、それらの配列組成の差異に基づいて、κ及びλの2つの種類に分類され得る。IgG分子は、2つ以上のジスルフィド結合により連結された2つの重鎖、及び各々がジスルフィド結合により重鎖に結合された2つの軽鎖から構成される。重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び以下の3つまでの重鎖定常領域(CH)を含み得る:CH1、CH2、及びCH3。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含み得る。
【0044】
VH領域及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に更に細分され得て、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存的な領域が間に置かれている。VH領域及びVL領域は、通常、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置される3つのCDRと4つのFRから構成される。重鎖及び軽鎖の超可変領域は、抗原と相互作用することができる結合ドメインを形成する一方で、抗体の定常領域は、限定されるものではないが、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞)、Fc受容体、及び古典的補体系の第1成分(C1q)が挙げられる宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。本発明の抗体は、単離されていてもよい。
【0045】
用語「単離抗体」は、それが産生された環境における他の(別の)成分(複数の場合もある)から分離及び/又は回収され、及び/又はそれが産生された環境に存在する成分の混合物から精製された抗体を指す。抗体の或る特定の抗原結合断片は、抗体の抗原結合機能が全長抗体の断片により果たされ得ることが示されているため、本発明の文脈において好適であり得る。
【0046】
抗体の「抗原結合部分」、「結合断片」、又は「抗原結合断片」という用語は、抗原、例えば、本明細書に記載されるようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1種以上の断片(複数の場合もある)を指す。
【0047】
抗原結合断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2、F(ab)S、Fv(通常、抗体の単一アームのVL及びVHドメイン)、単鎖Fv(scFv;例えば、Bird et al., Science 242:42S-426 (1988)、Huston et al., PNAS 85:5879-5883 (1988)を参照のこと)、dsFv、Fd(通常、VH及びCH1ドメイン)、及びdAb(通常、VHドメイン)断片;VH、VL、VHH、及びV-NARドメイン;単一のVH鎖及び単一のVL鎖を含む一価分子;ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及びκボディ(例えば、Ill et al., Protein Eng 10:949-57 (1997)を参照のこと);ラクダIgG;IgNAR;並びに1種以上の単離されたCDR又は機能的パラトープが挙げられ、ここで、単離されたCDR又は抗原結合残基又はポリペプチドは、機能的抗体断片を形成するように、互いに会合していてもよく、又は互いに連結されていてもよい。
【0048】
例えば、様々な種類の抗体断片が、Holliger and Hudson, Nat Biotechnol 2S:1126-1136 (2005);国際公開第2005/040219号、並びに米国特許出願公開第2005/0238646号及び同第2002/0161201号に記載又は概説されている。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来技術を使用して取得され得て、その断片は、インタクトな抗体と同様に有用性についてスクリーニングされ得る。
【0049】
「ヒト」抗体(HuMAb)は、フレームワーク及びCDR領域の両方がヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を指す。さらに、抗体が定常領域を含有する場合、該定常領域もヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する。本明細書に記載されるSARS-CoV-2抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダム若しくは部位特異的変異誘発、又はin vivoでの体細胞変異により導入された変異)を含み得る。しかしながら、本明細書で使用する場合、用語「ヒト抗体」は、マウス等の別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列に移植された抗体を包含することを意図しない。用語「ヒト」抗体及び「完全ヒト」抗体は、同義的に使用される。
【0050】
「ヒト化」抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する1つ以上の配列(CDR領域又はその一部)を含有するヒト/非ヒトキメラ抗体を指す。したがって、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、レシピエントの超可変領域由来の最小限の残基が、所望の特異性、親和性、配列組成、及び機能を有する、非ヒト種、例えば、マウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類由来の抗体(ドナー抗体)の超可変領域の残基で置き換えられている、ヒト免疫グロブリンである。幾つかの例では、ヒト免疫グロブリンのFR残基が対応する非ヒト残基で置き換えられている。このような改変の例は、通常、ドナー抗体に由来するアミノ酸残基である1つ以上のいわゆる逆変異の導入である。
【0051】
抗体のヒト化は、当業者に既知の組換え技術を使用して実施され得る(例えば、Molecular Biology, vol. 248, Benny K.C.Lo編におけるAntibody Engineering, Methodsを参照のこと)。軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方に好適なヒトレシピエントフレームワークは、例えば、配列相同性又は構造的相同性により同定され得る。あるいは、例えば、構造、生物物理学的特性、及び生化学的特性の知見に基づいて、固定のレシピエントフレームワークが使用され得る。レシピエントフレームワークは、生殖細胞系列由来であるか、又は成熟した抗体の配列に由来する。ドナー抗体由来のCDR領域は、CDR移植により移植され得る。
【0052】
CDR移植されたヒト化抗体は、ドナー抗体由来のアミノ酸残基の再導入(逆変異)がヒト化抗体の特性に有益な影響を及ぼす重要なフレームワークの位置を同定することにより、例えば、親和性、機能性、及び生物物理学的特性について更に最適化され得る。ドナー抗体由来の逆変異に加えて、ヒト化抗体は、CDR領域又はフレームワーク領域への生殖細胞系列残基の導入、免疫原性エピトープの除去、部位特異的変異誘発、親和性成熟等により遺伝子操作され得る。
【0053】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体において見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体性能を更に改良するために実行される。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全て又はほぼ全てが非ヒト免疫グロブリンのものに相当し、FR残基の全て又はほぼ全てがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つの、通常2つの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常はヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含み得る。用語「ヒト化抗体誘導体」は、ヒト化抗体の任意の改変型、例えば、抗体及び別の薬剤又は抗体のコンジュゲートを意味する。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段により調製、発現、作製、又は単離される全てのヒト抗体、例えば、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニック又はトランスクロモソーマル(transchromosomal)な動物(例えばマウス)、又はその動物から調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するよう形質転換された宿主細胞、例えば、トランスフェクトーマ(transfectoma)から単離された抗体、(c)組換えヒト抗体ライブラリーの組み合わせから単離された抗体、及び(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む任意の他の手段により調製、発現、作製、又は単離された抗体を包含する。
【0055】
かかる組換えヒト抗体は、生殖細胞系列遺伝子によりコードされる特定のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列を利用する可変領域及び定常領域を含むが、例えば、抗体成熟の間に生じるその後の再構成及び変異も含む。当該技術分野において既知のように(例えば、Lonberg Nature Biotech. 23 (9):1117-1125 (2005)を参照のこと)、可変領域は抗原結合ドメインを含み、これは、外来抗原に特異的な抗体を形成するために再構成を起こす様々な遺伝子によりコードされる。再構成に加えて、可変領域は、外来性抗原に対する抗体の親和性を増加させるために、複数の単一アミノ酸変化(体細胞変異又は過剰変異と称される)により更に改変され得る。定常領域は抗原に対する更なる反応で変化する(すなわち、アイソタイプスイッチ)。
【0056】
したがって、抗原に応じた軽鎖免疫グロブリンポリペプチド及び重鎖免疫グロブリンポリペプチドをコードする、再構成され、体細胞変異した核酸分子は、元の核酸分子との配列同一性を有するはずがないが、その代わりに実質的に同一であるか、又は類似する(すなわち、少なくとも80%の同一性を有する)。
【0057】
「キメラ抗体」は、可変領域が1つの種に由来し、定常領域が別の種に由来する抗体、例えば、可変領域がマウス抗体に由来し、定常領域がヒト抗体に由来する抗体を指す。
【0058】
代替的な抗体フォーマットとしては、抗原結合部分の1つ以上のCDRが好適な非免疫グロブリンタンパク質足場又は骨格、例えば、アフィボディ、SpA足場、LDL受容体クラスAドメイン、アビマー、又はEGFドメインに配置され得る代替足場が挙げられる。
【0059】
用語「ドメイン」は、タンパク質の残部とは関係なくその三次構造を保持する折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般に、ドメインは、タンパク質の別々の機能特性を担い、多くの場合、タンパク質及び/又はドメインの残部の機能を喪失することなく付加され得るか、除去され得るか、又は他のタンパク質に移され得る。
【0060】
用語「単一可変ドメイン」は、抗体の可変ドメインに特徴的な配列を含む折り畳まれたポリペプチドドメインを指す。したがって、この用語は、VH、VHH、及びVL等の完全な抗体可変ドメイン、並びに例えば、1つ以上のループが、抗体可変ドメインに特徴的ではない配列で置き換えられた改変型抗体可変ドメイン、又は短縮されたか、若しくはN末端若しくはC末端延長を含む抗体可変ドメイン、並びに全長ドメインの少なくとも結合活性及び特異性を保持する可変ドメインの折り畳まれた断片を包含する。
【0061】
単一可変ドメインは、異なる可変領域又はドメインとは独立に抗原又はエピトープと結合することができる。「ドメイン抗体」又は「dAb(商標)」は、「単一可変ドメイン」と同じと見なされ得る。単一可変ドメインは、ヒト単一可変ドメインであり得るが、齧歯類、テンジクザメ、及びラクダ科動物のVHH dAb(商標)等の他の種由来の単一可変ドメインも挙げられる。ラクダ科動物VHHは、軽鎖を天然に欠く重鎖抗体を産生する、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、及びグアナコが挙げられる種に由来する免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。かかるVHHドメインは、当該技術分野において利用可能な標準的技術によりヒト化され得て、かかるドメインも「単一可変ドメイン」と見なされる。本明細書で使用する場合、VHは、ラクダ科動物VHHドメインを包含する。
【0062】
抗原結合断片は、非抗体タンパク質足場に1つ以上のCDRを配置する手段により提供され得る。本明細書で使用する場合、「タンパク質足場」としては、限定されるものではないが、4本鎖抗体若しくは2本鎖抗体であってもよく、又は抗体のFc領域のみを含んでいてもよく、又は抗体由来の1つ以上の定常領域を含んでいてもよく、その定常領域はヒト若しくは霊長類起源のものであってもよく、又はヒト及び霊長類の定常領域の人工キメラであってもよい、免疫グロブリン(Ig)足場、例えば、IgG足場が挙げられる。
【0063】
本明細書で使用する場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及びIgE抗体)を指す。
【0064】
「アロタイプ」は、特定のアイソタイプ群内に天然に存在するバリアントを指し、そのバリアントは少数のアミノ酸が異なる(例えば、Jefferis et al., mAbs 1:1 (2009)を参照のこと)。
【0065】
語句「抗原を認識する抗体」及び「抗原に特異的な抗体」は、本明細書において用語「抗原に特異的に結合する抗体」と互換的に使用される。
【0066】
用語「処置する」、「処置すること」、又は「処置」(又は文法的に等価な用語)は、対象の状態の重症度が低減されるか、若しくは少なくとも部分的に改善若しくは緩和されること、及び/又は少なくとも1つの臨床症状の幾らかの軽減、緩和、若しくは低減が達成され、及び/又は状態の進行の遅延が生じることを意味する。
【0067】
本明細書で使用する場合、用語「予防する("prevent", "prevents")」、又は「予防」、及び「阻害する("inhibit", "inhibits")」、又は「阻害」(及びそれらの文法的等価物)は、疾患の完全な消滅を意味することを意図せず、状態の発生率を低減し、状態の発症を遅延させ、及び/又は発症後の状態に関連する症状を低減する任意の種類の予防処置を包含する。
【0068】
本明細書で使用する場合、「有効」量、「予防上有効」量、又は「治療上有効」量は、対象に幾らかの改善又は恩恵をもたらすのに十分な量である。別の言い方をすれば、「有効」量、「予防上有効」量、又は「治療上有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状の幾らかの遅延、軽減、緩和、又は低減を提供する量である。当業者は、幾らかの恩恵が対象にもたらされる限り、効果が完全又は治癒的である必要はないことを理解するであろう。
【0069】
本明細書で使用する場合、「中和抗体」は、病原体に結合し、該病原体の、細胞に感染し、及び/又は対象における疾患を引き起こす能力を妨害する任意の抗体又はその抗原結合断片である。
【0070】
本明細書で使用する場合、「ペプチド」は、本明細書で具体的に例示されるペプチドの保存的変異であるペプチドを包含する。「保存的変異」及び「保存的アミノ酸置換」は、本明細書で使用する場合、アミノ酸残基の生物学的に類似する別の残基での置換を意味する。保存的変異の例としては、限定されるものではないが、1つの疎水性残基、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、システイン、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、ノルロイシン、若しくはメチオニンの別の疎水性残基との置換、又は1つの極性残基の別の極性残基との置換、例えば、アルギニンのリジンとの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸との置換、若しくはグルタミンのアスパラギンとの置換等が挙げられる。互いに置換され得る中性親水性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、及びトレオニンが挙げられる。
【0071】
「保存的変異」は、非置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を使用することも包含し、ただし、置換ポリペプチドに対して産生された抗体は、非置換ポリペプチドとも免疫反応する。かかる保存的置換は、本発明のペプチドのクラスの定義内である。ペプチドの生物活性は、当業者に既知であり、本明細書に記載される標準的方法により決定され得る。
【0072】
核酸に関し、用語「実質的相同性」は、2つの核酸又はそれらの指定される配列が、最適にアライメントされ、比較される場合に、適切なヌクレオチドの挿入又は欠失を伴い、少なくとも約80%のヌクレオチド、少なくとも約90%~95%、又は少なくとも約98%~99.5%のヌクレオチドにおいて同一であることを示す。あるいは、実質的相同性は、セグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件下でその鎖の相補鎖にハイブリダイズする場合、存在する。
【0073】
ポリペプチドに関し、用語「実質的相同性」は、2つのポリペプチド又はそれらの指定される配列が、最適にアライメントされ、比較される場合に、適切なアミノ酸の挿入又は欠失を伴い、少なくとも約80%のアミノ酸、少なくとも約90%~95%のアミノ酸、又は少なくとも約98%~99.5%のアミノ酸において同一であることを示す。
【0074】
2つの配列間の同一性パーセントは、配列により共有される同一な位置の数の関数であり(すなわち、相同性%=同一な位置の数/位置の総数×100)、2つの配列の最適アライメントのために導入される必要があるギャップの数、及び各ギャップの長さを考慮する。配列の比較、及び2つの配列間の同一性パーセントの決定は、下記の非限定的な例に記載されるような数学的アルゴリズムを使用して実施され得る。
【0075】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを使用して、NWSgapdna.CMPマトリクス、及び40、50、60、70、又は80のギャップの重み、及び1、2、3、4、5、又は6の長さの重みを使用して決定され得る。また2つのヌクレオチド配列間又はアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれた、E. Meyers及びW. Miller(CABIOS, 4:11-17 (1989))のアルゴリズムを使用して、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティ及び4のギャップペナルティを使用して決定され得る。
【0076】
さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman及びWunsch(J. Mol. Biol. (48):444-453 (1970))のアルゴリズムを使用して、Blossum 62マトリクス又はPAM250マトリクスのいずれか、及び16、14、12、10、8、6、又は4のギャップの重み、及び1、2、3、4、5、又は6の長さ重みを使用して決定され得る。
【0077】
本明細書に記載される核酸配列及びタンパク質配列は、更に、例えば、関連する配列を同定するために、公共データベースに対する検索を実行するための「クエリー配列」として使用され得る。かかる検索は、Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して実行され得る。本明細書に記載される核酸分子に相同なヌクレオチド配列を取得するために、BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行され得る。
【0078】
本明細書に記載されるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を取得するために、BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行され得る。比較目的でギャップ付きアライメントを取得するために、Gapped BLASTが、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25 (17):3389-3402に記載されるように利用され得る。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る。www.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと。
【0079】
核酸は、全細胞に存在してもよく、細胞溶解物中に存在してもよく、又は部分的に精製された形態、若しくは実質的に純粋な形態で存在してもよい。核酸は、他の細胞成分又は他の夾雑物、例えば、他の細胞核酸(例えば、染色体の他の部分)又はタンパク質から、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当該技術分野において既知の他のものが挙げられる、標準的な技術により精製された場合、「単離」されているか、又は「実質的に純粋」となる。F. Ausubel, et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照のこと。
【0080】
核酸、例えば、cDNAは、遺伝子配列を得るために、標準的な技術によって変異され得る。コード配列に関し、これらの変異はアミノ酸配列に所望される影響を及ぼし得る。特に、天然のV配列、D配列、J配列、定常配列、スイッチ配列に対し実質的に相同であるか、又はそれらに由来するDNA配列、及び本明細書に記載される他のかかる配列が意図される(ここで、「由来する」は、配列が別の配列と同一であるか、又は別の配列から改変されていることを示す)。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことを意図する。ベクターの一種は「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得るウイルスベクターである。或る特定のベクターは、それらが導入された宿主細胞内で自己複製が可能である(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。
【0082】
他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入の際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ得て、これにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、或る特定のベクターは、それらが作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導することができる。かかるベクターは、本明細書において「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多くの場合プラスミドの形態である。プラスミドが最も一般的に用いられるベクターの形態であるため、本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は互換的に使用され得る。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)等の同等の機能を果たす他の形態の発現ベクターも挙げられる。
【0083】
本明細書で使用する場合、用語「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)は、細胞に天然に存在しない核酸を含む細胞を指すことを意図し、組換え発現ベクターが導入された細胞であり得る。かかる用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫も指すことを意図することを理解すべきである。変異又は環境の影響のいずれかに起因して或る特定の改変がその後の世代に発生する場合があるため、かかる子孫は実際には親細胞と同一であるはずはないが、本明細書で使用する場合、それでも用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「連結された」は、2つ以上の分子の会合を指す。連結は、共有結合性又は非共有結合性であり得る。また連結は、遺伝子的であってもよい(すなわち、組換え的に融合されていてもよい)。かかる連結は、当該技術分野において認められた多種多様な技術、例えば、化学的コンジュゲーション及び組換えタンパク質生成を使用して達成され得る。
【0085】
「エフェクター機能」は、抗体Fc領域のFc受容体若しくはFcリガンドとの相互作用、又はそれにより生じる生化学的事象を指す。例示的な「エフェクター機能」としては、C1q結合、補体依存性細胞障害(CDC)、Fc受容体結合、ADCC及び抗体依存性細胞貪食(ADCP)等のFcγRにより媒介されるエフェクター機能、並びに細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方調節が挙げられる。かかるエフェクター機能は、通常、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする。
【0086】
「Fc受容体」又は「FcR」は、免疫グロブリンのFc領域に結合する受容体である。IgG抗体に結合するFcRとしては、FcγRファミリーの受容体のアレルバリアント及び選択的にスプライシングされた形態を包含する、FcγRファミリーの受容体が挙げられる。FcγRファミリーは、3つの活性化受容体(マウスにおけるFcγRI、FcγRIII、及びFcRIV;ヒトにおけるFcγRIA、FcγRIIA、及びFcγRIIIA)及び1つの抑制性受容体(FcγRIIB)からなる。ヒトFcγRの様々な特性が当該技術分野において既知である。大部分の自然エフェクター細胞種が、1つ以上の活性化FcγR及び抑制性FcγRIIBを共発現する一方で、ナチュラルキラー(NK)細胞は、マウス及びヒトにおいて1つの活性化Fc受容体(マウスにおけるFcγRIII及びヒトにおけるFcγRIIIA)を選択的に発現するが、抑制性FcγRIIBを発現しない。ヒトIgG1は、殆どのヒトFc受容体に結合し、それが結合する活性化Fc受容体の種類に関してマウスIgG2aと同等であると考えられる。
【0087】
「Fc領域」(結晶化可能領域)又は「Fcドメイン」又は「Fc」は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)上に存在するFc受容体への結合、又は古典的補体系の第1成分(C1q)への結合が挙げられる、免疫グロブリンと宿主組織又は因子との結合を媒介する抗体の重鎖のC末端領域を指す。したがって、Fc領域は、第1定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1又はCL)を除く抗体の定常領域を含む。
【0088】
IgGにおいて、Fc領域は、免疫グロブリンドメインCH2及びCH3並びにCH1ドメインとCH2ドメインとの間のヒンジを含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界の定義は様々であり得るが、本明細書で定義されるように、ヒトIgG重鎖Fc領域は、IgG1についてD221、IgG2についてV222、IgG3についてL221、及びIgG4についてP224のアミノ酸残基から重鎖のカルボキシ末端までの区間と定義され、ここで、番号付けは、KabatにおけるようなEUインデックスに従う。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは、アミノ酸237からアミノ酸340に及び、Fc領域のCH3ドメインは、CH2ドメインのC末端側に位置する。すなわち、CH3ドメインは、IgGのアミノ酸341からアミノ酸447又はアミノ酸446(C末端リジン残基が存在しない場合)又はアミノ酸445(C末端グリシン及びリジン残基が存在しない場合)に及ぶ。本明細書で使用する場合、Fc領域は、任意のアロタイプのバリアントを包含する天然配列Fc、又はバリアントFc(例えば、非天然Fc)であり得る。Fcは、単離されたこの領域、又はFcを含むタンパク質ポリペプチド、例えば、「Fc融合タンパク質」とも称される「Fc領域を含む結合タンパク質」(例えば、抗体又はイムノアドヘシン)の文脈におけるこの領域も指し得る。
【0089】
「天然配列Fc領域」又は「天然配列Fc」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFc領域としては、天然配列ヒトIgG1 Fc領域、天然配列ヒトIgG2 Fc領域、天然配列ヒトIgG3 Fc領域、及び天然配列ヒトIgG4 Fc領域、並びに天然に存在するそれらのバリアントが挙げられる。天然配列Fcは、種々のアロタイプのFcを包含する(例えば、Jefferis et al., mAbs 1:1 (2009)を参照のこと)。
【0090】
「バリアント配列Fc領域」又は「非天然Fc」は、典型的に、その機能特性、例えば、とりわけ血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、タンパク質安定性、及び/又は抗原依存性細胞傷害活性、又はそれらの欠如のうちの1つ以上を変化させるための改変を含む。幾つかの実施形態において、本開示の抗体は、同様に抗体の1つ以上の機能特性を変化させるために、化学修飾され得る(例えば、1つ以上の化学部分が抗体に結合され得る)か、又はそのグリコシル化を変化させるように修飾され得る。
【0091】
用語「ヒンジ」、「ヒンジドメイン」、「ヒンジ領域」、及び「抗体ヒンジ領域」は、CH1ドメインをCH2ドメインに連結し、ヒンジの上部、中部、及び下部を含む重鎖定常領域のドメインを指す(Roux et al., J Immunol 161:4083 (1998))。ヒンジは、抗体の結合領域とエフェクター領域との間の様々なレベルの柔軟性をもたらし、2つの重鎖定常領域間での分子間ジスルフィド結合のための部位も提供する。本明細書で使用する場合、ヒンジは、全てのIgGアイソタイプについて、Glu216から始まり、Gly237で終わる(Roux et al., J Immunol 161:4083 (1998))。野生型IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のヒンジの配列は、当該技術分野において既知である(例えば、PCT出願である国際公開第2017/087678号)。一実施形態において、抗体のCH1のヒンジ領域は、ヒンジ領域におけるシステイン残基の数が変化するように、例えば、増加又は減少するように改変される。このアプローチは、例えば、米国特許第5,677,425号に更に記載されている。
【0092】
定常領域は、抗体を安定化するために、例えば、二価抗体が2つの一価のVH-VL断片に分離するリスクを低減するために改変され得る。例えば、IgG4定常領域における残基S228(EUインデックスによる残基の番号付け)は、ヒンジでの重鎖間ジスルフィド架橋形成を安定化するために、プロリン(P)残基に変異され得る(例えば、Angal et al., Mol Immunol. 30:105-8 (1995)を参照のこと)。抗体又はその断片は、それらの相補性決定領域(CDR)の観点から定義されてもよい。
【0093】
本明細書で使用する場合、用語「相補性決定領域」又は「超可変領域」は、抗原結合に関与するアミノ酸残基が存在する抗体の領域を指す。超可変領域又はCDRは、抗体可変ドメインのアミノ酸アラインメントにおいて最も高い多様性を有する領域として同定され得る。Kabatデータベース等のデータベースが、CDR同定に使用され得て、例えば、CDRは、軽鎖可変ドメインのアミノ酸残基24~34(CDR1)、50~59(CDR2)及び89~97(CDR3)、並びに重鎖可変ドメインの31~35(CDR1)、50~65(CDR2)及び95~102(CDR3)を含むと定義される(Kabat et al. 1991; Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242)。代替的に、CDRは、「超可変ループ」由来の残基(軽鎖可変ドメインの残基26~33(L1)、50~52(L2)、及び91~96(L3)、並びに重鎖可変ドメインの残基26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol 196:901-917 (1987))として定義され得る。本明細書に記載される抗体配列のCDR領域は、好ましくは、Chothiaの番号付けスキームの改変物であるIMGTの番号付けスキームにより定義される(ImMunoGeneTics information system(商標);Lefranc, M.-P. et al. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res 27, 209-212 (1999);http://imgt.cines.fr)。
【0094】
用語「エピトープ」又は「抗原決定基」は、例えば、これを同定するために使用される特定の方法により定義される、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続アミノ酸(通常、直鎖状エピトープ)又はタンパク質の三次折りたたみにより並置された非連続アミノ酸(通常、立体構造エピトープ)の両方により形成され得る。連続アミノ酸により形成されたエピトープは、通常、変性溶媒への曝露に際して保持されるがそうでない場合もある一方で、三次折りたたみにより形成されたエピトープは、通常、変性溶媒で処理されると消失する。
【0095】
エピトープは、通常、固有の空間的立体配置の少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、又は15個のアミノ酸を含む。どのエピトープが所与の抗体により結合されるかを決定する方法(すなわち、エピトープマッピング)は、当該技術分野において既知であり、例えば、(例えば、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質由来の)重複ペプチド又は連続ペプチドが所与の抗体との反応性について試験される、免疫ブロット法及び免疫沈降アッセイが挙げられる。エピトープの空間的立体配置を決定する方法としては、当該技術分野における技術及び本明細書に記載されるもの、例えば、X線結晶構造解析、抗原変異解析、二次元核磁気共鳴、及びHDX-MSが挙げられる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G. E. Morris, Ed. (1996)を参照のこと)。
【0096】
2種以上の抗体に関して、用語「同一のエピトープに結合する」は、所与の方法により決定されるように、これらの抗体がアミノ酸残基の同じセグメントに結合することを意味する。抗体が本明細書に記載される抗体と「同一のエピトープ」に結合するかどうかを決定するための技術としては、例えば、エピトープの原子分解能を提供する抗原:抗体複合体の結晶のX線解析及び水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)等のエピトープマッピング方法が挙げられる。
【0097】
他の方法は、抗体の抗原断片又は変異型の抗原への結合をモニタリングし、ここで、抗原配列内のアミノ酸残基の改変に起因する結合の喪失が、多くの場合、エピトープ成分の指標と考えられる。加えて、エピトープマッピングのためのコンピュータによる組み合わせの方法も使用され得る。これらの方法は、ファージディスプレイペプチドライブラリーの組み合わせから特異的な短ペプチドを親和性により単離する関心対象の抗体の能力に依存する。同じVH及びVL、又は同じCDR1、CDR2、及びCDR3配列を有する抗体は、同一のエピトープに結合すると予想される。
【0098】
「標的への結合について別の抗体と競合する」抗体は、他の抗体の標的への結合を(部分的又は完全に)阻害する抗体を指す。2種の抗体が標的への結合について互いに競合するかどうか、すなわち、一方の抗体が他方の抗体の標的への結合を阻害するかどうか、及びどの程度阻害するかは、既知の競合実験、例えば、BIACORE(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)解析を使用して決定され得る。或る特定の実施形態において、抗体は、別の抗体と競合し、別の抗体の標的への結合を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は100%阻害する。阻害又は競合のレベルは、どの抗体が「遮断抗体」(すなわち、標的と最初にインキュベートされる寒冷抗体)であるかに応じて異なり得る。
【0099】
競合アッセイは、例えば、Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harb Protoc; 2006; doi:10.1101/pdb.prot4277又はEd Harlow及びDavid Laneによる"Using Antibodies"(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA 1999)の第11章に記載されるように実施され得る。両方の方法で、すなわち、どちらの抗体が競合実験において抗原と最初に接触されるかどうかにかかわらず、抗体が互いを少なくとも50%阻害する場合、2種の抗体は「交差競合」する。
【0100】
本明細書で使用する場合、用語「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」、及び「特異的に結合する」は、所定の抗原上のエピトープに結合する抗体を指す。典型的には、抗体は、(i)例えば、分析物として所定の抗原及びリガンドとして抗体を使用したBIACORE(商標) 2000機器での表面プラズモン共鳴(SPR)技術又は抗体の抗原陽性細胞への結合のスキャッチャード解析により決定される場合に、約10-7M未満、例えば、約10-8M未満、10-9M未満、若しくは10-10M未満の平衡解離定数(KD)又は更に低い平衡解離定数で結合し、(ii)所定の抗原又は密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合の親和性よりも少なくとも2倍高い親和性で所定の抗原に結合する。
【0101】
本明細書において、用語「結合親和性」は、2つの分子間、例えば、抗体又はその断片と抗原との間の非共有結合性相互作用の強さの測定値を指す。用語「結合親和性」は、一価相互作用(内因活性)を表現するために使用される。
【0102】
一価相互作用による2つの分子間、例えば、抗体又はその断片と抗原との間の結合親和性は、平衡解離定数(KD)を決定することにより定量化され得る。そしてまたKDは、例えば、SPR法による複合体形成及び解離の動態の測定により決定され得る。一価複合体の会合及び解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数ka(又はkon)及び解離速度定数kd(又はkoff)と称される。KDは、式KD=kd/kaによりka及びkdと関連する。上記の定義に従って、異なる分子相互作用に関連する結合親和性、例えば、所与の抗原に対する異なる抗体の結合親和性の比較は、個々の抗体/抗原複合体のKD値の比較により比較され得る。
【0103】
本明細書で使用する場合、IgG抗体に関する用語「高親和性」は、標的抗原に対する10-8M、10-9M、若しくは10-10MのKD、又は更に低いKDを有する抗体を指す。しかしながら、「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプでは異なり得る。例えば、IgMアイソタイプの「高親和性」結合は、10-8M、10-9M、若しくは10-10MのKD、又は更に低いKDを有する抗体を指す。
【0104】
本明細書において、用語「結合特異性」は、抗体又はその断片等の分子の、唯一の排他的抗原との、又は限られた数の相同性の高い抗原(又はエピトープ)との相互作用を指す。対照的に、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に特異的に結合することができる抗体は、異なる分子に結合することができない。
【0105】
相互作用の特異性及び平衡結合定数の値は、既知の方法により直接決定され得る。リガンド(例えば、抗体)がそれらの標的に結合する能力を評価するための標準的なアッセイは、当該技術分野において既知であり、例えば、ELISA、ウェスタンブロット、RIA、及びフローサイトメトリー解析が挙げられる。抗体の結合動態及び結合親和性は、SPR等の当該技術分野において既知の標準的なアッセイによっても評価され得る。
【0106】
本明細書で使用する場合、用語「ビン(bin)」は、参照抗体を使用して定義される。第2の抗体が参照抗体と同時に抗原に結合できない場合、この第2の抗体は、参照抗体と同じ「ビン」に属すると言われる。この場合、参照抗体及び第2の抗体は、抗原の同じ部分に競合的に結合し、作られた「競合抗体」である。第2の抗体が参照抗体と同時に抗原に結合することができる場合、この第2の抗体は、別個の「ビン」に属すると言われる。この場合、参照抗体及び第2の抗体は、抗原の同じ部分に競合的に結合せず、作られた「非競合抗体」である。
【0107】
抗体「ビニング」は、エピトープに関する直接的な情報は提供しない。競合抗体、すなわち同じ「ビン」に属する抗体は、同一のエピトープ、重複するエピトープ、又は更には異なるエピトープを有し得る。後者は、抗原上のエピトープに結合した参照抗体が、第2の抗体が抗原上のそのエピトープに接触するために必要とされる空間を占めている場合である(「立体障害」)。非競合抗体は、一般に異なるエピトープを有する。
【0108】
抗体又はその抗原結合断片を使用するin vitro又はin vivoアッセイの文脈において、用語「EC50」は、最大応答の50%、すなわち、最大応答とベースラインとの間の中間の応答を誘導する抗体又はその抗原結合部分の濃度を指す。
【0109】
本明細書で使用する場合、対象に適用される用語「天然に存在する」は、対象が天然に見出され得るという事実を指す。例えば、自然の供給源から単離することができ、研究室の人によって意図的に改変されていない、生物(ウイルスを包含する)中に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0110】
「ポリペプチド」は、少なくとも2個の連続的に連結されたアミノ酸残基を含む鎖を指し、鎖の長さに上限はない。タンパク質中の1個以上のアミノ酸残基は、限定されるものではないが、グリコシル化、リン酸化、又はジスルフィド結合形成等の修飾を含有し得る。「タンパク質」は、1つ以上のポリペプチドを含み得る。
【0111】
用語「核酸分子」は、本明細書で使用する場合、DNA分子及びRNA分子を包含することを意図する。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖であり得て、cDNAであり得る。
【0112】
用語「対象」は、予防的処置又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物対象を包含する。本明細書で使用する場合、用語「対象」は、任意のヒト又は非ヒト動物を包含する。用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物及び非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等を包含する。
【0113】
本明細書で使用する場合、用語「ug」及び「uM」は、それぞれ、「μg」及び「μM」と互換的に使用される。
【0114】
「Fc受容体」又は「FcR」は、免疫グロブリンのFc領域に結合する受容体である。IgG抗体に結合するFcRとしては、FcγRファミリーの受容体のアレルバリアント及び選択的にスプライシングされた形態を包含する、FcγRファミリーの受容体が挙げられる。FcγRファミリーは、3つの活性化受容体(マウスにおけるFcγRI、FcγRIII、及びFcγRIV;ヒトにおけるFcγRIA、FcγRIIA、及びFcγRIIIA)及び1つの抑制性受容体(FcγRIIB)からなる。ヒトFcγRの様々な特性が当該技術分野において既知である。大部分の自然エフェクター細胞種が、1つ以上の活性化FcγR及び抑制性FcγRIIBを共発現する一方で、ナチュラルキラー(NK)細胞は、マウス及びヒトにおいて1つの活性化Fc受容体(マウスにおけるFcγRIII及びヒトにおけるFcγRIIIA)を選択的に発現するが、抑制性FcγRIIBを発現しない。ヒトIgG1は、殆どのヒトFc受容体に結合し、それが結合する活性化Fc受容体の種類に関してマウスIgG2aと同等であると考えられる。
【0115】
「Fc領域」(結晶化可能領域)又は「Fcドメイン」又は「Fc」は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)上に存在するFc受容体への結合、又は古典的補体系の第1成分(C1q)への結合が挙げられる、免疫グロブリンと宿主組織又は因子との結合を媒介する抗体の重鎖のC末端領域を指す。したがって、Fc領域は、第1定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1又はCL)を除く抗体の定常領域を含む。
【0116】
IgGにおいて、Fc領域は、免疫グロブリンドメインCH2及びCH3並びにCH1ドメインとCH2ドメインとの間のヒンジを含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界の定義は様々であり得るが、本明細書で定義されるように、ヒトIgG重鎖Fc領域は、IgG1についてD221、IgG2についてV222、IgG3についてL221、及びIgG4についてP224のアミノ酸残基から重鎖のカルボキシ末端までの区間と定義され、ここで、番号付けは、KabatにおけるようなEUインデックスに従う。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは、アミノ酸237からアミノ酸340に及び、Fc領域のCH3ドメインは、CH2ドメインのC末端側に位置する。すなわち、CH3ドメインは、IgGのアミノ酸341からアミノ酸447又はアミノ酸446(C末端リジン残基が存在しない場合)又はアミノ酸445(C末端グリシン及びリジン残基が存在しない場合)に及ぶ。
【0117】
本明細書で使用する場合、Fc領域は、任意のアロタイプのバリアントを包含する天然配列Fc、又はバリアントFc(例えば、非天然Fc)であり得る。Fcは、単離されたこの領域、又はFcを含むタンパク質ポリペプチド、例えば、「Fc融合タンパク質」とも称される「Fc領域を含む結合タンパク質」(例えば、抗体又はイムノアドヘシン)の文脈におけるこの領域も指し得る。
【0118】
本明細書で使用する場合、「投与する」は、当業者に既知の種々の方法及び送達系のいずれかを使用した、治療薬を含む組成物の対象への物理的導入を指す。本明細書に記載される抗体の種々の投与経路としては、例えば、注射又は注入による、静脈内投与経路、腹腔内投与経路、筋肉内投与経路、皮下投与経路、脊髄投与経路、又は他の非経口投与経路が挙げられる。
【0119】
本明細書で使用する場合、語句「非経口投与」は、通常、注射による、経腸投与及び局所投与以外の投与様式を意味し、限定されるものではないが、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、クモ膜下腔内、リンパ腺内、病巣内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外、及び胸骨内注射及び注入、並びにin vivoエレクトロポレーションが挙げられる。
【0120】
あるいは、本明細書に記載される抗体は、局所投与経路、表皮投与経路、又は粘膜投与経路等の非経静脈経路により、例えば、鼻腔内に、経口的に、経膣的に、直腸に、舌下的に、又は局所的に投与され得る。投与はまた、例えば、1回、複数回、及び/又は1つ以上の長期間にわたり実行され得る。
【0121】
用語「Cmax」は、薬剤の投与後に対象において観察される薬剤の最大若しくはピーク血清濃度又は最大若しくはピーク血漿濃度を指す。
【0122】
本明細書で使用する場合、「ワクチン接種組成物」は、能動免疫及び/又は受動免疫をもたらすことができる本発明の少なくとも1種の抗体又はその抗原結合部分を含む医薬組成物を意味する。本明細書で使用する場合、「能動免疫」は、抗原に対する対象の免疫反応を誘発又は増強することを意味する。「受動免疫」は、本明細書で使用する場合、抗原を中和する抗体及び/又はその抗原結合部分を提供することにより、抗原又は病原体に対する対象の免疫反応を補うことを意味する。
【0123】
一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、静脈内投与され、約5μg/mL~約235μg/mLの最高血清濃度(Cmax);約5μg/mL~約8μg/mLのピーク濃度(Cmax);約5μg/mL~約10μg/mLのCmax;約55μg/mL~約90μg/mLのピーク濃度(Cmax);約185μg/mL~約250μg/mLのピーク濃度(Cmax);約190μg/mL~約235μg/mLのCmaxを示す。別の実施形態において、Cmaxは、約5μg/mL~約50μg/mL、約50μg/mL~約75μg/mL、約75μg/mL~約100μg/mL、約100μg/mL~約125μg/mL、約125μg/mL~約150μg/mL、約150μg/mL~約175μg/mL、約175μg/mL~約200μg/mL、又は約200μg/mL~約235μg/mLである。
【0124】
用語「Tmax」は、Cmaxが発生した時間を指す。一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、静脈内又は皮下に投与され、約1日~約5日のTmax;約3日~約5日のTmax;約5日以下のTmax;約1日のTmax、約2日のTmax、約3日のTmax、約4日のTmax、約5日のTmax、約6日のTmax、約7日のTmax、約8日のTmax、約9日のTmax、又は約10日のTmaxを示す。
【0125】
用語「バイオアベイラビリティ」又は「F%」は、所与の剤形の投与後に吸収され、体循環に入る用量の比率又はパーセントを指す。別の実施形態において、抗体又はその抗原結合部分は、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約100%のバイオアベイラビリティを示す。
【0126】
用語「AUC」又は「曲線下面積」は、クリアランスに関連する。より高いクリアランス率は、より低いAUC値に関連し、より低いクリアランス率は、より高いAUC値に関連する。より高いAUC値は、より遅いクリアランス率を示す。
【0127】
本発明の発明者らは、本発明の問題を解決することに専念し、既知の抗体の不利な点及び欠点を克服する、SARS関連コロナウイルスに対する新規かつ有用なヒトモノクローナル抗体を発見することに成功した。
【0128】
本明細書において、本発明者らは、自己反応性を示さず、従来技術の同様の抗体の中和能を上回る、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対して指向されるヒト起源の新規モノクローナル抗体を記載する。
【0129】
したがって、本発明の抗体は、SARS関連コロナウイルス感染及びこのような感染により引き起こされる疾患症状を効果的に処置及び予防するための抗体による戦略のための非常に有望な候補である。
【0130】
したがって、本発明は、SARS関連コロナウイルスに対して指向された抗体又はその結合断片を提供し、上記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含み、好ましくは、上記抗体又はその結合断片が、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群から選択される抗体のうちの1つ、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列を含む。
【0131】
本発明の文脈において、作製され、本明細書に記載された抗体は、モノクローナル完全ヒト抗体として、又はその任意の機能的断片若しくは結合断片として使用され得て、特許請求され得る。好ましくは、抗体又はその任意の種類の機能的断片若しくは結合断片は、少なくとも抗体の重鎖の相補性決定領域(CDR)1~3及び軽鎖のCDR1~3を含まなければならない。
【0132】
本明細書に記載される抗体配列のCDR領域は、好ましくは、Chothiaの番号付けスキームの改変物であるIMGTの番号付けスキームにより定義される(ImMunoGeneTics information system(商標);Lefranc, M.-P. et al. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res 27, 209-212 (1999); http://imgt.cines.fr)。
【0133】
一般的知識並びに本発明の抗体の重鎖可変領域アミノ酸配列及び軽鎖可変領域アミノ酸配列に関して本明細書において提供される情報に基づいて、CDRは、容易かつ明白に当業者により決定され得る。
【0134】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本明細書に記載される抗体の軽鎖配列及び重鎖配列のCDR配列は、以下の通りである。
【0135】
【0136】
好ましくは、本発明は、配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列並びに配列番号113~配列番号118のCDRアミノ酸配列を有する本明細書に記載される抗体CnC2t1p1_B4の派生物を更に含み、ここで、派生物は、配列番号227の重鎖のCDR2配列を有し、及び/又は派生物は、配列番号228の軽鎖のCDR3配列を有する。
【0137】
別の実施形態において、本発明は、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して、特にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して指向された抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号119のCDR1、配列番号120のCDR2、及び配列番号121のCDR3を含む重鎖可変領域を含み、配列番号122のCDR1、配列番号123のCDR2、及び配列番号124のCDR3を含む軽鎖可変領域を更に含む、抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0138】
別の実施形態において、本発明は、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して、特にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して指向された、配列番号21の重鎖可変領域及び配列番号22の軽鎖可変領域を含む抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0139】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、抗体は、配列番号229の重鎖アミノ酸配列及び配列番号230の軽鎖アミノ酸配列を有する。この抗体は、重鎖定常ドメインの末端リジンが除去された、HbnC3t1p1_F4のバリアントである(本明細書において、DZIF-10cと称され、代替的に、HbnC3t1p1_F4(-K)と称される)。本発明の異なる実施形態において、抗体は、配列番号21の重鎖アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖アミノ酸配列を含む。この実施形態において、抗体HbnC3t1p1_F4(-K)の重鎖定常領域の末端リジンは、依然として存在する。
【0140】
別の実施形態において、抗体は、配列番号229の2つの重鎖、及び配列番号230の2つの軽鎖からなる。
【0141】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される抗体をコードする核酸に関する。別の実施形態において、核酸は、発現制御配列と機能的に結合している本明細書に記載される核酸を含む発現ベクターである。
【0142】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される核酸を含む宿主細胞に関する。別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0143】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される抗体を生成する方法であって、
(a)抗体の発現を可能にする条件下で記載される宿主細胞を培養することと、
(b)抗体を回収することと、
を含む、方法に関する。
【0144】
別の実施形態において、本発明は、異なる結合特異性を有する、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して指向された少なくとも1種の更なる抗体と組み合わせて医薬品に使用される、本明細書に記載されるSARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗体に関する。
【0145】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、抗体又はその結合断片であって、HbnC3t1p1_C6(配列番号1の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_G4(配列番号3の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号4の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_B10(配列番号5の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号6の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t2p1_C11(配列番号7の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_D4(配列番号9の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号10の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t2p1_G5(配列番号11の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p2_C6(配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号14の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_B3(配列番号15の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号16の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_A3(配列番号17の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号18の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B4(配列番号19の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号20の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC3t1p1_F4(配列番号21の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC2t1p2_D9(配列番号23の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号24の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC5t2p1_G1(配列番号25の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号26の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E12(配列番号27の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号28の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_D6(配列番号29の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC2t1p1_C5(配列番号31の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号32の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_E8(配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号34の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC1t3p1_G9(配列番号35の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号36の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、HbnC4t1p1_D5(配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号38の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_B10(配列番号39の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号40の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、CnC2t1p1_G6(配列番号41の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号42の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、FnC1t1p2_A5(配列番号43の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号44の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_D10(配列番号45の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号46の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p2_A4(配列番号47の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号48の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A10(配列番号49の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号50の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t2p1_E6(配列番号51の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号52の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、MnC4t1p1_A11(配列番号53の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号54の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)、及びMnC4t2p1_F5(配列番号55の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号56の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する)を含む群から選択される1つの抗体、好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、FnC1t2p1_D4、FnC1t2p1_G5、HbnC3t1p2_C6、MnC4t2p1_B3、MnC2t1p1_A3、CnC2t1p1_B4、HbnC3t1p1_F4、及びHbnC2t1p2_D9を含む群からの1つの抗体、より好ましくは、HbnC3t1p1_C6、HbnC3t1p1_G4、HbnC3t1p2_B10、MnC2t2p1_C11、及びFnC1t2p1_D4を含む群からの1つの抗体の重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列の組み合わせを含む、抗体又はその結合断片も提供する。
【0146】
一般に、本明細書に記載される抗体又はその結合断片は、それらが依然として配列番号57のようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対して指向される限り、好ましくは、それらが依然として配列番号58のようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対して指向される限り、上記に定義した配列と少なくとも80%同一である抗体アミノ酸配列を更に含む。
【0147】
このことは、構造の折り畳みに干渉せず、抗体のスパイク(S)タンパク質に対する親和性を損なわない、抗体アミノ酸配列の些細な変異、すなわち、保存的変異を有する配列を含むことを意味する。好ましくは、本明細書において明示的に開示される個別の配列に対する少なくとも80%、85%、90%、又は95%の全体的同一性をもたらすアミノ酸配列の逸脱は、本発明による抗体のCDR領域の外側に排他的に存在する。特に、本発明は、抗体の定常領域内に1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの変異を有する抗体アミノ酸配列を包含する。
【0148】
本発明による抗体は、好ましくはヒト起源である。したがって、少なくともCDRの外側の配列、例えば、抗体のフレームワーク及び定常領域は、好ましくは、ヒト起源のものであるか、又はヒト起源のものとみなされ得る。さらに、本発明の抗体は、好ましくはモノクローナルである。
【0149】
好ましい一実施形態において、抗体は、結合特異性及び感染性病原体を中和する能力を保持するモノクローナル抗体又はその断片である。好ましい一実施形態において、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4抗体である。例えば、抗体は、任意のヒトIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFcドメインを含む抗体であり得る。
【0150】
所望により、抗原結合性化合物は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab)2、Fv、ダイアボディ、単鎖抗体断片、又は複数の異なる抗体断片を含む多特異性抗体のみからなるか、又はそれらを含む。
【0151】
本発明において、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対して指向された抗体又は結合断片は、無関係なエピトープ、タンパク質、又はタンパク質領域と比較して少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも50倍、特に好ましくは少なくとも100倍に増加した親和性でSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に結合する抗体を意味する。
【0152】
上記の知識又は一般的知識に基づいて、特定の同一性の程度を示す抗体がSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対して指向されるかどうかを決定することは、当業者にとって些細な作業である。
【0153】
2つの配列間の同一性パーセントの決定は、本発明に従って、Karlin及びAltschulの数学アルゴリズムを使用することにより達成される(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90:5873-5877)。かかるアルゴリズムは、Altschulら(J. Mol. Biol. (1990) 215:403-410)のBLASTN及びBLASTPプログラムの基礎である。BLASTヌクレオチド検索は、BLASTNプログラムにより実行される。比較目的でギャップ付きアライメントを取得するために、Altschulら(Nucleic Acids Res. (1997) 25:3389-3402)により記載されるように、Gapped BLASTが利用される。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラムのデフォルトのパラメータが使用される。
【0154】
本発明の好適な実施形態によれば、上記に定義され、本明細書において開示される配列と少なくとも85%同一であり、より好ましくは、少なくとも90%同一であり、さらにより好ましくは、少なくとも95%同一である核酸配列のみからなるか、又はそれを含む抗体アミノ酸配列は、本発明の一部をなすものである。
【0155】
本発明の好適な実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、当該技術分野においてSARS関連コロナウイルス2と代替的に称され得る重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。本発明の別の好ましい実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV又はSARS-CoV-1)である。
【0156】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の外部ドメインに対して指向される。
【0157】
本発明のより好ましい実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、Wrapp et al., Science (2020) doi:10.1126/science.abb2507に記載されているウイルス分離株Wuhan-Hu-1の融合前安定化バリアントにおけるSARS-CoV-2のスパイク(S)ホモ三量体の外部ドメイン(配列番号57)に対して指向される。このウイルス分離株は、集中的に研究されており、出願時に最もよく理解されているウイルス分離株である。
【0158】
しかしながら、好ましくは、抗体又はその結合断片は、他のウイルスバリアントの同等の配列に対しても指向されるはずである。特定の一実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)(配列番号58)に対して指向される。
【0159】
本発明の好ましい一実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)(配列番号58)の外側の、Wrapp et al., Science (2020) doi:10.1126/science.abb2507に記載されているウイルス分離株Wuhan-Hu-1の融合前安定化バリアントにおけるSARS-CoV-2のスパイク(S)ホモ三量体の外部ドメイン(配列番号57)の配列に対して指向される。
【0160】
本発明の好ましい一実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、Koch et al., Lancet Infect. Dis. (2020) doi:10.1016/s1473-3099(20)30248-6に従って、ウイルス及び抗体の37℃で1時間の共インキュベーション後にVeroE6細胞に適用された100TCID50のSARS-CoV-2を使用してウイルス中和試験で試験される場合に、VeroE6細胞上の本物のSARS-CoV-2分離株であるBavPat1/2020の10μg/ml未満の中和能(IC100;細胞変性効果の完全な欠如をもたらす抗体の最低用量)を示す。
【0161】
一態様では、上記に記載される中和能は、以下の実施例セクションに開示される「ウイルス中和試験」のプロトコルに従って試験される。本発明の好ましい実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、1μg/ml未満、より好ましくは、0.5μg/ml未満、さらにより好ましくは、0.25μg/ml以下、特に好ましくは、0.12μg/ml以下の中和能を示す。
【0162】
本発明の好ましい一実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、表面プラズモン共鳴により決定されるように、配列番号58のRBDに対する20nM以下、好ましくは、5nM以下、より好ましくは、1nM以下、さらにより好ましくは、0.2nM以下、特に好ましくは0.1nM以下の結合定数(KD)を示す。
【0163】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体又はその結合断片は、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して、100μg/mlの抗体又はその結合断片の濃度で、透過処理されたHEp-2細胞に対して試験される場合の検出可能な結合として定義される、ヒト細胞に対する自己反応性を示さない。好ましくは、代替的に当該技術分野において既知の他のアッセイが、抗体又はその結合断片の自己反応性を決定又は除外するために使用され得る。
【0164】
本出願の記載において、抗体の名称が使用され得る。抗体は重鎖及び軽鎖からなり、これらは同様に本発明の説明の一部をなすことに注意されたい。名称による抗体への参照又は配列番号への参照がなされる場合、これらの参照方法は互換的であることを理解すべきである。
【0165】
さらに本発明は、本明細書において定義され、更に記載される本発明による抗体又はその結合断片と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。一態様では、医薬組成物は、ヒト及び/又は動物対象用のワクチン接種組成物である。本発明は、本明細書において定義され、更に記載される本発明による抗体又はその結合断片と容器とを備えるキットも包含する。
【0166】
一態様では、本発明は、薬剤として使用される、好ましくは、ワクチンとして使用される、本明細書において定義され、更に記載される本発明による抗体又はその結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、及びキットにも関する。
【0167】
別の態様では、本発明は、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、好ましくは、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)により引き起こされる疾患の処置又は予防に使用される、本明細書において定義され、更に記載される本発明による抗体又はその結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、及びキットにも関する。
【0168】
一態様では、本発明は、ヒト及び/又は動物対象のSARS関連コロナウイルス感染、好ましくは、ヒト及び/又は動物対象のSARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の予防に使用される、本明細書において定義され、更に記載される本発明による抗体又はその結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、及びキットに関する。
【0169】
本発明の他の態様では、本発明による抗体は、静脈内注射又は注入により投与が必要とされる患者に投与される。好ましい実施形態において、抗体は、1mg/患者の体重1kg~100mg/患者の体重1kgの用量で静脈内注入により投与される。好ましい実施形態において、抗体は、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、又は100mg/kgの用量で投与される。対象に投与される本発明の抗体の投与量は、示される症状の重症度並びに対象の年齢、性別、及び健康状態等に応じて更に異なり得る。
【0170】
本発明の他の態様では、本発明による抗体は、吸入適用により投与が必要とされる患者に投与される。好ましい実施形態において、抗体は、吸入適用により投与され、ここで、抗体は、投与前にメッシュ式ネブライザー又はジェット式ネブライザーにより噴霧化される液体医薬組成物中に提供される。好ましい実施形態において、抗体は、50mg、100mg、200mg、250mg、300mg、400mg、500mg、750mg、又は1000mgの用量で吸入適用により投与される。別の実施形態において、抗体は、吸入適用により投与され、その後に、静脈内注射又は注入により投与される2回目投与が続く。
【0171】
本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路と適合可能となるように製剤化される。投与経路の例としては、限定されるものではないが、非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与、鼻腔内投与(例えば、吸入及び口腔を通した吸入)、経皮投与(例えば、局所投与)、経粘膜投与、及び直腸投与が挙げられる。
【0172】
特定の実施形態において、組成物は、ヒトへの静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与、鼻腔内投与、又は局所投与に適した医薬組成物として定型的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は、溶解剤及び注射部位の痛みを緩和するためのリグノカイン等の局所麻酔薬も含み得る。
【0173】
本発明の方法は、例えば、吸入器又はネブライザーを使用することによる、エアロゾル化剤と共に製剤化された組成物の肺投与を含み得る。例えば、米国特許第6,019,968号、同5,985,320号、同5,985,309号、同5,934,272号、同5,874,064号、同5,855,913号、同5,290,540号、及び同4,880,078号;並びにPCT出願である国際公開第92/19244号、国際公開第97/32572号、国際公開第97/44013号、国際公開第98/31346号、及び国際公開第99/66903号(これらの各々はそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照のこと。特定の実施形態において、本発明の抗体、併用療法、及び/又は本発明の組成物は、Alkermes AIR(商標)肺薬物送達技術(Alkermes, Inc.、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)を使用して投与される。別の特定の実施形態において、本発明の抗体、併用療法、及び/又は本発明の組成物は、Aerogen Solo(商標)肺薬物送達技術(Aerogen GmbH、ドイツ国ラティンゲン)を使用して投与される。
【0174】
本発明の方法は、非経口投与用に製剤化された組成物の注射による(例えば、ボーラス注射又は持続注入による)投与を含み得る。
【0175】
本発明の医薬製剤は、液体形態で提供され得るか、又は凍結乾燥形態で提供され得る。
【0176】
本発明による医薬製剤は、緩衝剤を含み得る。緩衝剤としては、限定されるものではないが、クエン酸、HEPES、ヒスチジン、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウム(KH2PO4)、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(NaH2PO4)、Tris塩基、及びTris-HClが挙げられる。
【0177】
本明細書で使用する場合、用語「約5.0~約7.0のpHをもたらす緩衝剤」は、それを含む溶液が、その共役酸/塩基成分の作用によりpHの変化に抵抗することをもたらす薬剤を指す。本発明による製剤で使用される緩衝液は、約5.5~約7.5又は約5.8~約7.0の範囲のpHを有し得る。一実施形態において、pHは、約6.0である。一実施形態において、pHは、約7.0である。この範囲でpHを制御する緩衝剤の例としては、酢酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩、グリシルグリシン、及び他の有機酸緩衝剤が挙げられる。
【0178】
本発明による医薬製剤は、等張化剤を含み得る。等張化剤としては、限定されるものではないが、デキストロース、グリセリン、マンニトール、塩化カリウム、及び塩化ナトリウムが挙げられる。一実施形態において、等張化剤は、塩化ナトリウムである。一実施形態において、塩化ナトリウム濃度は、約70mM~170mM;約90mM~150mM;又は約115±10mMである。
【0179】
「等張」とは、製剤がヒト血液とほぼ同じ浸透圧を有すること意味する。等張製剤は、一般に約250mOsm~350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、蒸気圧式浸透圧計又は氷点降下方式浸透圧計を使用して測定され得る。
【0180】
或る特定の実施形態において、本発明による医薬製剤は、安定剤を含む。安定剤としては、限定されるものではないが、ヒト血清アルブミン(hsa)、ウシ血清アルブミン(bsa)、α-カゼイン、グロブリン、α-ラクトアルブミン、LDH、リゾチーム、ミオグロビン、オボアルブミン、及びRNアーゼAが挙げられる。安定剤としては、アミノ酸及びそれらの代謝産物、例えば、グリシン、アラニン(α-アラニン、β-アラニン)、アルギニン、ベタイン、ロイシン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、サルコシン、γ-アミノ酪酸(GABA)、オパイン(アラノピン、オクトピン、ストロンビン)、及びトリメチルアミンN-オキシド(TMAO)も挙げられる。一実施形態において、安定剤は、アミノ酸である。
【0181】
或る特定の実施形態において、本発明による医薬製剤は、非イオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤としては、限定されるものではないが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80)、ポリエチレン-ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレン-ポリプロピレングリコール、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(トリトンX)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(ポロキサマー、Pluronic)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。一実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20又はポリソルベート80である。一実施形態において、ポリソルベート濃度は、約0.005%~0.02%(w/v)である。一実施形態において、ポリソルベート濃度は、約0.01%(w/v)である。一実施形態において、ポリソルベート濃度は、約0.02%(w/v)である。
【0182】
或る特定の実施形態において、本発明による医薬製剤は、金属キレート剤を含む。金属キレート剤としては、限定されるものではないが、EDTA及びEGTAが挙げられる。一実施形態において、金属キレート剤は、EDTAである。一実施形態において、EDTA濃度は、約0.01mM~約0.02mMである。一実施形態において、EDTA濃度は、約0.05mMである。
【0183】
他の一態様では、本発明は、好ましくは、ヒト又は動物対象におけるCOVID-19の処置又は予防に使用される、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患に罹患している患者を処置する方法であって、患者に、有効量の本発明による抗体若しくはその結合断片又は本発明の医薬組成物が投与される、方法にも関する。
【0184】
別の態様では、本発明は、ヒト又は動物対象におけるSARS関連コロナウイルスにより引き起こされる疾患の処置のための、好ましくは、ヒト又は動物対象におけるCOVID-19の処置又は予防のための薬剤の製造における、本発明による抗体若しくはその結合断片又は本発明の医薬組成物の使用にも関する。
【0185】
本明細書に記載される本発明の全ての実施形態は、任意の組み合わせで組み合わせ可能であると、当業者がこのような組み合わせの技術的意味を理解できないとみなさない限り、みなされる。
【実施例】
【0186】
SARS-CoV-2感染個体及び試料収集
ケルン大学の施設内倫理委員会により承認された研究プロトコル下で試料を採取した。全ての参加者は、署名されたインフォームドコンセントを提出し、病院で募集されたか、又は外来患者として募集された。
【0187】
全血からの末梢血単核細胞(PBMC)、血漿、及び全IgGの単離
ヘパリンが予め充填されたEDTAチューブ及び/又はシリンジを使用して採血を実行した。到着後直ちに密度勾配分離媒体(Histopaque;Sigma-Aldrich)が予め充填されたLeucosep遠心チューブ(Greiner Bio-one)を製造者の使用説明書に従って使用してPBMC単離を実行した。血漿を収集し、別々に保存した。
【0188】
IgG単離のために、1mlの収集した血漿を加熱不活性化し(56℃で40分間)、プロテインGセファロース(GE Life Sciences)と共に4℃で一晩インキュベートした。懸濁液をクロマトグラフィーカラムに移し、PBSで洗浄した。IgGを0.1Mのグリシン(pH=3.0)を使用してプロテインGから溶出させ、1MのTris(pH=8.0)で緩衝処理した。PBSへの緩衝液交換のために、30kDaのAmicon遠心メンブレン(Millipore)を使用した。精製したIgGの濃度を、Nanodrop(A280)を用いて測定し、試料を4℃で保存した。
【0189】
SARS-CoV-2 Sタンパク質発現及び精製
融合前安定化SARS-CoV-2 S外部ドメイン(SARS-CoV-2 Sのアミノ酸1~1208;GenBank:MN908947)をコードする構築物は、Jason McLellan(米国テキサス州)より譲り受けた。この構築物は以前に説明されている(Wrapp, D. et al. Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Science(80-. ). (2020) doi:10.1126/science.aax0902.)。
【0190】
詳細には、融合前状態安定化のための残基986及び987での2つのプロリン置換が導入され、フューリン切断部位及びC末端T4フィブリチン三量体形成モチーフを除去するための残基682~685での「GSAS」置換が導入された。精製のために、このタンパク質は、C末端がTwinStrepタグ及び8×Hisタグに融合されている。タンパク質生成を、ポリエチレンイミン(PEI、Sigma-Aldrich)及び1mLの細胞培養培地当たり1μgのDNAを用いたHEK293-6E細胞での一過性形質移入により、FreeStyle 293培地(Thermo Fisher Scientific)中の0.8×106個細胞/mLの細胞密度で行った。37℃及び5%CO2での7日間の培養後に、上澄みを採取し、0.45μmのポリエーテルスルホン(PES)フィルター(Thermo Fisher Scientific)により濾過した。
【0191】
組換えタンパク質を、Strep-Tactinアフィニティークロマトグラフィー(IBA lifescience、ドイツ国ゲッティンゲン)によりStrep-Tactin XTマニュアルに従って精製した。要約すると、100mLの10×Buffer W(1MのTris/HCl(pH8.0)、1.5MのNaCl、10mMのEDTA、IBA lifescience)を添加することにより、濾過した培地をpH8に調整し、低圧ポンプを用いて1mL/分で5mLベッドボリュームのStrep-Tactin樹脂にロードした。カラムを、15カラム容量(CV)の1×Buffer W(IBA lifescience)で洗浄し、6×2.5mLの1×Buffer BXT(IBA lifescience)で溶出させた。溶出分画をプールし、100kDaカットオフのセルロース遠心フィルター(Merck)を通して4回濾過することにより緩衝液をPBS(pH7.4)(Thermo Fisher Scientific)に交換した。
【0192】
異なるSARS-CoV-2 Sタンパク質サブユニット及びエボラ表面糖タンパク質のクローニング及び発現
SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBD(MN908947;AA:319~541)をFlorian Krammerより譲り受けたプラスミドから293T細胞で発現させ、以前に公開されたように、Ni-NTAアガロース(Macherey-Nagel)を使用して精製した(Stadlbauer, D. et al. SARS-CoV-2 Seroconversion in Humans: A Detailed Protocol for a Serological Assay, Antigen Production, and Test Setup. Curr. Protoc. Microbiol. 57, (2020))。
【0193】
スパイクDNAの三量体形成ドメイン(MN908947;AA:1~1207)を有さないSARS-CoV-2 S外部ドメイン「単量体」領域及びS1サブユニット領域(MN908947;AA:14~529)を合成遺伝子プラスミド(フューリン部位が変異している;Wrapp, D. et al. Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Science (80-. ). (2020) doi:10.1126/science.aax0902)からPCRにより増幅した。PCR産物を、C末端トロンビン切断タグ及びダブルStrep II精製タグを含有する改変されたSleeping Beautyトランスポゾン発現ベクターにクローニングした。S1サブユニットについては、タグを5’末端に付加し、BM40シグナルペプチドが含まれた。
【0194】
組換えタンパク質生成のために、Sleeping Beautyトランスポゾンシステムを用いてHEK293 EBNA安定細胞株を作成した(Kowarz, E., Loescher, D. & Marschalek, R. Optimized Sleeping Beauty transposons rapidly generate stable transgenic cell lines. Biotechnol. J. 10, 647-653 (2015))。
【0195】
要約すると、FuGENE HD形質移入試薬(Promega)を使用して発現構築物をHEK293 EBNA細胞に形質移入した。ピューロマイシンによる選択後、細胞をドキシサイクリンにより誘導した。上澄みを濾過し、組換えタンパク質をStrep-Tactin(商標)XT(IBA Lifescience)樹脂により精製した。次いで、ビオチンを含有するTBS緩衝液(IBA Lifescience)によりタンパク質を溶出させ、TBS緩衝液に対して透析した。エボラ表面糖タンパク質(膜貫通ドメイン(Δ651~676)を欠くEBOV Makona(GenBank KJ660347))及び同様に膜貫通ドメインを欠くHIV-gp140(YU2株)(両方がGCN4三量体形成ドメインを含有する)を以前に記載されたように生成させ、精製した(Ehrhardt, S. A. et al. Polyclonal and convergent antibody response to Ebola virus vaccine rVSV-ZEBOV. Nat. Med. 25, 1589-1600(2019))。
【0196】
SARS-CoV-S外部ドメインに特異的なIgG+B細胞の単離
CD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を製造者の使用説明書に従って使用してB細胞をPBMCから単離した。MACS LSカラム(Miltenyi Biotec)を使用してCD19標識細胞を分離した。単離したB細胞を、4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール(DAPI;Thermo Fisher Scientific)、抗ヒトCD20-Alexa Fluor 700(BD)、抗ヒトIgG-APC(BD)、抗ヒトCD27-PE(BD)、及びDyLight488標識SARS-CoV-2スパイクタンパク質(10μg/mL)を含有する蛍光染色ミックスで氷上にて20分間染色した。
【0197】
Dapi-、CD20+、IgG+、SARC-CoV-2スパイクタンパク質陽性の細胞を、FACSAria Fusion(Becton Dickinson)を使用して単一細胞方式で96ウェルプレートに選別した。全てのウェルは、4μlの溶解緩衝液を含有していた(0.5×PBS、0.5U/μlのRNAsin(Promega)、0.5U/μlのRNaseOUT(Thermo Fisher Scientific)、及び10mMのDTT(Thermo Fisher Scientific)。選別後、直ちにプレートを更に処理するまで-80℃で保存した。
【0198】
抗体重鎖/軽鎖の増幅及び配列解析
抗体重鎖及び軽鎖の単一細胞増幅を、概して以前に記載されたように実行した(Schommers, P. et al. Restriction of HIV-1 Escape by a Highly Broad and Potent Neutralizing Antibody. Cell 180, 471-489. e22 (2020))。
【0199】
要約すると、RNアーゼ阻害剤であるRNaseOUT(Thermo Fisher Sicentific)及びRNasin(Promega)の存在下で、ランダムヘキサマー(Invitrogen)及びSuperscript IV(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写を実行した。PlatinumTaq HotStartポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific)を、6%のKB Extender及び最適化されたV遺伝子特異的プライマーミックス(Schommers, P. et al. Restriction of HIV-1 Escape by a Highly Broad and Potent Neutralizing Antibody. Cell 180, 471-489. e22 (2020))と共に使用して、スループットを増加させるために軽微な変更を加えた逐次的セミネステッド法で重鎖及び軽鎖を増幅するために、cDNAを用いた。PCR産物を正確なサイズについてゲル電気泳動により分析し、サンガーシーケンシングに供した。
【0200】
配列解析のために、クロマトグラムを28の平均Phredスコア及び240ntの最小長でフィルタリングした。IgBLASTで配列を注釈付けし、トリミングして、FWR1からJ遺伝子の末端までの可変領域のみを抽出した。16未満のPhredスコアを有する可変領域内のベースコールをマスクし、15個超のマスクされたヌクレオチド、終止コドン、又はフレームシフトを有する配列を更なる解析から除外した。
【0201】
クローン解析を各患者について別々に実行した。全ての生産的重鎖配列を同一のVH/JH遺伝子対毎に分類し、それらのCDRH3についてペアワイズレーベンシュタイン距離を決定した。ランダム配列から始めて、クローン群を(最も短いCDRH3に対して)少なくとも75%の最小のCDRH3アミノ酸同一性を有する4つの配列に割り当てた。100回の入力配列のランダム化及びクローン割り当てを実行し、最も少数の割り当てられない(非クローン)配列が残存する結果を後続の解析のために選択した。
【0202】
共有される変異も考慮して、全てのクローンが研究者により交差検証された。全ての入力配列について、更にまとめることなく、全てのクローン配列でのV遺伝子の使用、CDRH3の長さ、及び生殖細胞系列V遺伝子同一性分布を決定した。CDRH3疎水性をEisenbergスケールに基づいて計算した(Eisenberg, D., Schwarz, E., Komaromy, M. & Wall, R. Analysis of membrane and surface protein sequences with the hydrophobic moment plot. J. Mol. Biol. 179, 125-142 (1984))。中和性抗体及び非中和性抗体について、V遺伝子統計量をまとめられたクローン配列から計算した。
【0203】
繰り返し出現したクローンの変異頻度の経時的解析のために、B細胞配列の多重配列アラインメントをClustal Omegaにより標準パラメータを使用して算出した(バージョン1.2.3;Sievers, F. et al. Fast, scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega. Mol. Syst. Biol. 7, (2011))。
【0204】
モノクローナル抗体のクローニング及び生成
最初のPCR産物からの抗体クローニングを以前に記載されたように(Schommers, P. et al. Restriction of HIV-1 Escape by a Highly Broad and Potent Neutralizing Antibody. Cell 180, 471-489. e22 (2020))、軽微な変更を加えた配列及びライゲーション非依存的クローニング(SLIC;Von Boehmer, L. et al. Sequencing and cloning of antigen-specific antibodies from mouse memory B cells. Nat. Protoc. 11, 1908-1923 (2016))により実行した。
【0205】
公開されたプロトコルとは対照的に、全ての重鎖V遺伝子及び軽鎖V遺伝子の内因性リーダー配列を完全に網羅することに基づいて、延長したプライマーを用いてSLIC構築のためのPCR増幅を実行した(Kreer, C. et al. openPrimeR for multiplex amplification of highly diverse templates. J. Immunol. Methods 480 (2020))。
【0206】
IgH、IgK、及びIgLについて、内因性リーダー配列を有する可変領域を哺乳動物発現ベクターに連結し、発現のためにHEK293-6E細胞に形質移入し、モノクローナル抗体のプロテインG精製を以前に記載されたように行った(Schommers, P. et al. Restriction of HIV-1 Escape by a Highly Broad and Potent Neutralizing Antibody. Cell 180, 471-489. e22 (2020))。
【0207】
SARS-CoV-2 Sへの抗体結合活性及びサブユニット結合を測定するためのELISA解析
ELISAプレート(Corning #3369)を、PBS中(SARS-CoV-2スパイク外部ドメイン、RBD、又はN末端が切断されたS1)又は2Mの尿素中(三量体形成ドメインを欠くSARS-CoV-2スパイク外部ドメイン「単量体」)2μg/mlのタンパク質で4℃にて一晩コーティングした。SARS-CoV-2スパイク外部ドメインのELISAのために、プレートをPBS中5%のBSAで室温にて60分間ブロッキングし、PBS中1%のBSA中の一次抗体と90分間インキュベートし、続いて、PBS中1%のBSA中に1:2500で希釈した抗ヒトIgG-HRP(Southern Biotech、2040-05)と室温で60分間インキュベートした。
【0208】
SARS-CoV-2スパイクサブユニットのELISAを公開されたプロトコルに従って実行した(Stadlbauer, D. et al. SARS-CoV-2 Seroconversion in Humans: A Detailed Protocol for a Serological Assay, Antigen Production, and Test Setup. Curr. Protoc. Microbiol. 57, (2020))。
【0209】
ELISAの発色をABTS溶液(Thermo Fisher、002024)を用いて行い、吸光度を415nm~695nmで測定した。陽性結合をOD>0.25かつEC
50<30μg/mlと定義した(
図1を参照のこと)。免疫グロブリンクラスG用の市販の抗SARS-CoV-2 ELISAキットは、Euroimmun(Euroimmun Diagnostik、ドイツ国リューベック)により提供された。抗体検出を製造者の使用説明書に従って実行し、50μg/mlの抗体濃度を使用した。試料は、自動化プラットフォームであるEuroimmun Analyzer 1を使用して試験した。
【0210】
表面プラズモン共鳴(SPR)測定
SPR測定のために、配列番号58のようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をSuperdex200 10/300カラム(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)精製により更に精製した。RBDの様々なmAbへの結合を、Biacore T200機器(GE Healthcare)を用いてシングルサイクルキネティクス実験を使用して測定した。
【0211】
最初に精製したmAbをPBS及び0.02%アジ化ナトリウムの緩衝液中でSeries Sセンサーチップ プロテインA(GE Healthcare)上に800~1200レスポンスユニット(RU)の結合密度で固定化した。センサーチップ上の4つのフローセルのうちの1つは、ブランクの役割をするために空であった。次いで、可溶性のRBDを、PBS中の一連の濃度(すなわち、0.8nM、4nM、20nM、100nM、及び500nM)で60μL/分の流速にて注入した。センサーチップを10mMのグリシン-HCl緩衝液(pH1.5)を使用して再生させた。
【0212】
1:1結合モデルを使用して、実験データを表現し、動態パラメータを導出した。一部のmAbについて、1:1結合モデルは、結合の適切な説明をもたらさなかった。これらの場合、本発明者らは、構造変化による2つの結合定数を仮定する2状態結合モデルにフィッティングした。これらの場合では、本発明者らは、最初の結合定数(KD
1)を報告する。
【0213】
本発明の以下の抗体について、結合定数をKD値として決定した。
FnC1t2p1_D4 0.20nM
FnC1t2p1_G5 0.10nM
MnC2t1p1_A3 0.70nM
MnC2t2p1_C11 0.02nM
MnC4t2p1_B3 0.09nM
MnC4t2p2_A4 14nM
MnC5t2p1_G1 17nM
【0214】
ウイルス中和試験
ポリIgG試料又はヒトモノクローナル抗体のSARS-CoV-2中和活性を、MERS-CoVについて以前に公開されたプロトコルに基づいて調べた(Koch, T. et al. Safety and immunogenicity of a modified vaccinia virus Ankara vector vaccine candidate for Middle East respiratory syndrome: an open-label, phase 1 trial. Lancet Infect. Dis. (2020) doi:10.1016/s1473-3099 (20) 30248-6)。
【0215】
要約すると、モノクローナル抗体について試料を100μg/mlの濃度から始めて96ウェルプレートで連続希釈した。試料を100 50%組織培養感染量(TCID50)のSARS-CoV-2(BavPat1/2020分離株、European Virus Archive Global、#026V-03883)と共に37℃で1時間インキュベートした。
【0216】
感染の4日後にVeroE6細胞に対する細胞変性効果(CPE)を分析した。中和をウイルス対照と比較したCPEの非存在と定義した。各試験について、陽性対照(COVID-19患者の血漿を中和する)をアッセイ間の中和標準物質として二重反復で使用した。結果を
図1~
図3及び
図5の表に示す。
【0217】
HEp-2細胞アッセイ
NOVA Lite HEp-2 ANA Kit(Inova Diagnostics)を、各基質スライドガラス上のキットの陽性及び陰性対照を含め、製造者の使用説明書に従って使用して、モノクローナル抗体をPBS中100μg/mlの濃度で試験した。既知の反応性プロファイルを有するHIV-1反応性抗体を追加の対照として含めた。画像を顕微鏡DMI3000 B(Leica)並びに3.5秒の露光時間、100%の強度、及び10のゲインを使用して取得した。自己反応性アッセイの結果を
図4に示す。
【0218】
定量化及び統計
フローサイトメトリー解析及び定量化を、FlowJo10、GraphPad Prism(v7)、及びマッキントッシュ版Microsoft Excel(v14.7.3)により実行した。スピアマン相関係数rS及び近似した両側p値をGraphPad Prism(v7)で算出した。
【0219】
本発明の抗体により得られた結果の概要を
図5の表に示す。
【0220】
DZIF-10cのin vivoでの治療有効性を、SARS-CoV-2受容体であるヒトアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を発現するように遺伝子改変されたBALB/cマウスで調査した。DZIF-10cは、重鎖定常ドメインの末端リジンが除去されたHbnC3t1p1_F4のバリアントである(HbnC3t1p1_F4(-K);配列番号229の重鎖配列及び配列番号230の軽鎖配列)。この実験のために、hACE2をコードする複製欠損性組換えアデノウイルスを気管内に点滴した。このモデルでは、アデノウイルスにより媒介されるhACE2の形質導入、これに続く3日後のSARS-CoV-2(1.5×104TCID50のSARS-CoV-2 BavPat1/2020)への曝露により、肺でのウイルス複製及びSARS-CoV-2への曝露の4日後にピークに達する間質性肺炎の発症がもたらされる。
【0221】
SARS-CoV-2に曝露された、ACE2が形質導入されたマウスのDZIF-10c治療のin vivoでの効果を調査するために、DZIF-10cをSARS-CoV-2への曝露の1日及び3日後に40mg/kgの用量で腹腔内又は鼻腔内のいずれかに投与した(
図6Aを参照のこと)。
【0222】
DZIF-10c治療は、IgG1アイソタイプ対照抗体(
図6B)と比較される場合、qRT-PCRにより決定される4日目の肺組織におけるSARS-CoV-2 RNA総濃度の限定的な変化しかもたらさなかったが、ウイルス単離により決定される場合、いずれの経路によるDZIF-10c処置も検出不可能なウイルス価をもたらした(
図6C)。
【0223】
SARS-CoV-2感染の別の小動物モデルでは、ゴールデンシリアンハムスターを、1×10
5プラーク形成単位のSARS-CoV-2に鼻腔内曝露した。2日後、動物に、40mg/kg用量のDZIF-10c若しくはアイソタイプ対照での腹腔内処置、又は3.6mg/kg用量のDZIF-10c若しくはアイソタイプ対照での鼻腔内処置のいずれかを行った。ウイルスへの曝露(
図7A)の3日又は5日後に、スワブ試料及び/又は肺組織におけるウイルスRNA及び感染性ウイルス価を得た。
【0224】
hACE2が形質導入されたマウスでの観察と同様に、SARS-CoV-2に曝露されたハムスターの気道スワブ及び肺ホモジェネートにおけるSARS-CoV-2 RNAレベルの変化は、検出されなかった(
図7B~
図7C)。しかしながら、アイソタイプ対照で処置されたハムスターと比較した場合、DZIF-10cを鼻腔内又は腹腔内のいずれかに投与されたハムスターの肺組織における感染性SARS-CoV-2の力価の減少を検出することができた(
図7D)。
【0225】
抗体が結合したウイルス粒子のFcにより媒介される取り込みが感染及び疾患の増加をもたらすことは、デング熱ウイルスにおいて、特に中和抗体力価なし又は低レベルの中和抗体力価で観察される現象である。DZIF-10cがFc受容体を発現する細胞の感染を増強し得るかどうかを調査するために、1人のドナー由来のヒトCD14+末梢血由来マクロファージの感染に対するSARS-CoV-2/DZIF-10cの共インキュベーションの効果を調査した。ウイルスに曝露された細胞のqRT-PCR分析は、VeroE6細胞と同様に、これらのマクロファージがヒトコロナウイルスに効果的に感染し得ることを示す。
【0226】
中和的濃度(1μg/ml)又は非中和的濃度(0.01μg/ml)のいずれかのIgG1アイソタイプ対照抗体又はDZIF-10cとウイルスとの共インキュベーション後のCD14
+ヒトマクロファージのSARS-CoV-2感染を調査した。MERS-CoV感染を感染性ウイルスの単離により検出することができたが、試験された濃度のいずれでもSARS-CoV-2を単離することができなかった(
図8A)。さらに、異なる条件で試験されたCD14
+マクロファージにおいて測定されたSARS-CoV-2ゲノムコピーは、DZIF-10cの非存在下又は存在下での実質的な差を示さなかった(
図8B)。
【0227】
CD14+ヒトマクロファージのSARS-CoV-2に対する感受性が制限され得る一方で、これらの観察は、DZIF-10cにより引き起こされる、関連するFc受容体により媒介されるSARS-CoV-2感染の増強を示さない。
【0228】
DZIF-10cの薬物動態プロファイルを決定するために、ラット(Rattus norvegicus Wistar)の静脈内又は気管内のいずれかにDZIF-10cを投与した。血漿及び気管支肺胞洗浄液(BALF)中のDZIF-10cの濃度を、ヒトIgG1を標的とするリガンド結合アッセイを使用して決定した。BALF希釈倍率は血清及びBALF中の尿素の比率として決定されると見なすことにより、気道上皮被覆液濃度をBALF測定値から導出した(尿素が身体内に均一に分布していると仮定する)。
【0229】
4匹のラットへのDZIF-10cの10mg/kg体重の用量での静脈内注射後、0.083時間後、0.5時間後、2時間後、8時間後、24時間後、48時間後、72時間後、168時間後、240時間後、312時間後、及び336時間後に血液試料を採取した。全ての動物におけるDZIF-10c血漿濃度は、十分一致していた。抗体濃度曲線の直線部分は、抗体の低クリアランス、小さい分布容積、及び長い終末相半減期(190時間又は7.9日の平均t1/2)を明らかにした(以下の表を参照のこと)。
【0230】
【0231】
加えて、13日目の2回目の10mg/kg用量の静脈内投与は、115±6.4nMから662±44nMへの血漿濃度増加をもたらした。このことは、抗薬物抗体(ADA)が生じなかったことを示唆する。
【0232】
静脈内投与後の気道上皮被覆液中のDZIF-10c濃度を決定するために、2回目の10mg/kgの静脈内適用の1日後の14日目に、気管支肺胞洗浄を実行した。BALFの分析により、血漿/ELF比を33.2と決定した。これは、DZIF-10cのELF濃度が血漿において見出される濃度の3%であったことを示す。
【0233】
1mg/kg用量の気管内(i.t.)適用後のDZIF-10cの薬物動態プロファイルを調査するために、2時間後(n=4)又は24時間(n=4)後のいずれかの後に、異なるコホートのラットの気管支肺胞洗浄を実行した。
【0234】
気管内投与後、DZIF-10cの平均ELF濃度は、2時間後及び24時間後の血漿と比較して、それぞれ、約1000倍及び約250倍の高さであった。ELF中のDZIF-10cの平均半減期は、約21時間であると決定された。2.5nM~5.0nMの濃度で定常に達した血漿濃度の時間依存的増加は、4時間後に到達した(
図9)。
【0235】
全ての投薬群(10mg/kgの静脈内投与、1mg/kgの気管内投与)における下気道組織及び上気道組織における同様の抗体濃度を決定した(
図10)。
【0236】
全体として、Wistarラットにおける異なる投与経路でのDZIF-10cの血漿濃度及びELF濃度の分析は、気管内適用が、静脈内適用の2時間後及び24時間後と比較して、それぞれ、約1300倍及び約650倍高いDZIF-10cの(用量で正規化した)ELF濃度をもたらしたことを明らかにした。
【0237】
ヒト新生児Fc受容体(huFcRn)は、ヒトIgGのリソソーム分解を低減し、抗体半減期において重要な役割を果たす。したがって、ヒト新生児Fc受容体を発現するように遺伝子操作されたマウスは、ヒトにおける薬物動態プロファイルとより酷似したヒト抗体の薬物動態を示し得る。
【0238】
DZIF-10cを、遺伝子導入によりヒト新生児Fc受容体を発現する免疫不全のscidマウス(B6.Cg-Fcgrttm1Dcr Prkdcscid Tg(FCGRT)32Dcr/DcrJ)で調査した。これらのマウスにおいて、DZIF-10cは、マウス1匹当たり0.5mgの単回静脈内注射後に好ましい薬物動態プロファイルを示し、この薬物動態プロファイルは、ヒトにおける2週間~3週間の半減期を有する2つのヒトIgG1抗体と同程度であった。
【0239】
加えて、Il2受容体共通γ鎖を発現せず、Rag1遺伝子のノックアウト変異を保有し、マウスリンパ球又はNK細胞を生じない免疫不全NRGマウスにおけるDZIF-10cの薬物動態プロファイルを調査した。同様に、DZIF-10cは、好ましい薬物動態プロファイルを実証し、この薬物動態プロファイルは、臨床試験におけるIgG1抗体と比較して同程度であるか、又はより延長された。
【0240】
2つの比較抗体に対するDZIF-10cのより高い親和性及び代替的結合様式
DZIF-10cの様々な特性をJ. Hansen et al., Science 10.1126/science.abd0827 (2020)により再合成された2つの抗体(REGN10987、REGN10933)と比較した。DZIF-10cは、比較抗体より顕著に高い結合親和性及び抗原のより大きな領域を網羅する結合様式を示したため、単一の化合物治療薬としての使用するのにより適している。
【0241】
【0242】
処置方法
本発明の抗体の例として、DZIF-10cが、SARS-CoV-2-感染の処置に、SARS-CoV-2-感染の予防に、又はSARS-CoV-2に最近曝露された個体における曝露後の予防として使用され得る。
【0243】
DZIF-10cは、50mg/mL濃度の1回使用の滅菌溶液として提供され得る。DZIF-10c製剤の各バイアルは、酢酸、酢酸ナトリウム、グリシン、トレハロース、及びポリソルベート20(表を参照のこと)から構成される20mLの緩衝液を含有し得る。
【0244】
【0245】
好ましい実施形態において、DZIF-10cは、pH5.5の20mMの酢酸塩、220mMのグリシン、20mMのトレハロース、0.4g/Lのポリソルベート20中に50mg/mlで製剤化される。
【0246】
DZIF-10cは、静脈内注入又はネブライザーを使用したエアロゾル化後に吸入投与により適用され得る。
【0247】
DZIF-10cは、製剤緩衝液中に希釈された静脈内注入液により2.5mg/kg、10mg/kg、又は40mg/kgの用量で、0.2μmナイロン製インラインフィルターを使用して60分(+/-10分)かけて静脈内投与され得る。上記で例示された製剤は、製剤緩衝液で適切な容量に希釈され得る。
【0248】
吸入投与では、個体は、1回の処置当たり50mg、100mg、又は250mgの用量で、メッシュ式ネブライザー又はジェット式ネブライザーを使用したエアロゾル生成後にマウスピースにより処置され得る。上記で例示された製剤は、製剤緩衝液で適切な容量に希釈され得る。
【0249】
単回の吸入後に単回の静脈内注入が続いてもよい。
【0250】
製剤
本発明に関連して、幾つかの利点を有する製剤が開発された。重要なことに、これは、複数の目的、例えば、静脈内(i.v.)投与、経口及び経鼻による吸入(inh.)投与、及び皮下(s.c.)投与に使用され得る溶液である。加えて、これは小児への投与に使用され得る。特に、これは注射による提供及び例えば、ジェット式ネブライザーによる吸入のための提供の両方に使用され得る。
【0251】
さらに、記載される製剤は、特に、一般的に使用される賦形剤が、多くの場合、患者に対する1日の最大曝露レベルを超過し、したがって、臨界毒性レベルに達する、世界的に流行している状況又は腫瘍学において必要とされる高用量(患者1人1日当たり1g超)の投与に適用可能である。加えて、例えば、静脈内及び皮下適用のために重要であることが既知である溶液の等張性を維持するために、糖及びポリオールが一般的に使用される。しかしながら、高用量投与では、糖又はポリオールが、多くの場合、患者の1日の最大曝露レベルを超過する。
【0252】
この製剤で使用される賦形剤の特定の組み合わせは、患者の1日の最大曝露レベル及び100kgの患者集団を考慮した患者1人1日当たり5gまでの高用量投与で評価される溶液の浸透圧での1日の最大曝露レベルの両方を満たす。
【0253】
したがって、一般に、水溶液中10mg/mL~260mg/mLの濃度の抗体又はその抗原結合断片、10mM~25mMの酢酸塩、172.7mM~259.1mMのグリシン、17.3mM~25.9mMのトレハロース、0.2g/L~0.6g/Lのポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を含み、240mOsmol/kg~340mOsmol/kgの重量オスモル濃度及び5.2~5.8のpHを有する医薬組成物が本明細書において提供される。提供される製剤は、異なる抗体でも機能することが示された。
【0254】
一実施形態において、水溶液中10mg/mL~260mg/mLの濃度の配列番号229の重鎖及び配列番号230の軽鎖を含む抗体又はその抗原結合断片、10mM~25mMの酢酸塩、172.7mM~259.1mMのグリシン、17.3mM~25.9mMのトレハロース、0.2g/L~0.6g/Lのポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を含み、240mOsmol/kg~340mOsmol/kgの重量オスモル濃度及び5.2~5.8のpHを有する医薬組成物が提供される。
【0255】
別の実施形態において、抗体、好ましくは、配列番号229の重鎖及び配列番号230の軽鎖を含む抗体又はその抗原結合断片を、pH5.5の20mMの酢酸塩、220mMのグリシン、20mMのトレハロース、0.4g/Lのポリソルベート20中に50mg/mlで含む医薬組成物が提供される。
【0256】
製剤は、著しく小さい容量(最高1.5mL~2.0mL)のシリンジを通した患者への注射による高用量皮下投与に適合するために重要である高濃度液体製剤(HLCF)として適用可能であることが示された。活性成分(抗体)を含有しない上述の溶液は、専用の希釈剤、希釈のための溶媒、及びプラセボとして使用され得る。さらにこれは、市販の臨床用希釈媒体と互換性があることが示された。
【0257】
記載される医薬組成物は、(i)種々のネブライザーシステム(例えば、メッシュ式ネブライザー、ジェット式ネブライザー)、(ii)希釈された製剤及び希釈されていない製剤(異なるAPI濃度)、並びに(iii)種々のマスク(経口及び経鼻)を使用した吸入投与のために、DZIF-10c及び他の抗体を効率的に安定化することを実証することができた。
【0258】
製剤は、広範囲の技術的パラメータ(例えば、表面積対体積比)を網羅する種々の容器栓システム(20mL及び6mLのタイプIガラスバイアル)中で安定していることが示された。
【0259】
【0260】
製剤F5は、異なる市販のネブライザーシステム(メッシュ式及びジェット式ネブライザー)で試験される場合に、安定化効果を示した。表2を参照のこと。
【0261】
【0262】
希釈されていない製剤及び希釈された製剤での表1による異なる製剤をAerogen Solo(商標)ネブライザーで試験した。
【0263】
【0264】
【0265】
意図される保存条件(5℃)でのF5~F8製剤の安定性データは、24週間までの貯蔵時間にわたる高分子量種の百分率(A中のHMW(%))により、又は単量体の百分率(B中の単量体(%))により測定した。この測定の結果を
図11に示す。
【0266】
カニクイザルにおける抗体DZIF-10cの2つの予防的噴霧療法の抗ウイルス効力の評価
抗体DZIF-10cの2つの予防的噴霧療法の抗ウイルス効力をSARS-CoV-2感染前の6匹のカニクイザルで評価した。試験のために、6匹のカニクイザル(マカカ・ファシキュラリス(Macaca fascicularis))を2つの処置群に分割した。4匹の動物が感染前に抗体を投与された処置群に含まれた一方で、2匹の動物が感染前にビヒクルのみを投与された。
【0267】
処置群の動物には、感染の4日前(D-4)及び2日前(D-2)に、10mlのDZIF-10c抗体(20mMの酢酸塩、220mMのグリシン、20mMのトレハロース、0.04%(w/v)のポリソルベート20(pH5.5)中の50mg/mL)の2つの適用が施された。Aerogen Solo(商標)ネブライザー(Aerogen GmbH、ドイツ国ラティンゲン)及び好適なフェイスマスク(Laerdal Medical GmbH、ドイツ国プッフハイム、Sサイズ)を用いて適用を行った。
【0268】
感染日(D0)に、1mLのルアーロック付きセーフティシリンジに接続されたMicroSprayer器具(モデルIA-1B、PennCentury(商標))を用いて各鼻腔に500μLを鼻腔内(IN)適用することにより、及び1mLのルアーロック付きセーフティシリンジに接続されたMicroSprayer器具(モデルIA-1B、PennCentury(商標))を使用して1mLの接種物を気管に噴霧することによる気管内(IT)感染により、107TCID50のSARS-CoV-2株hCoV-19/France/OCC-NRC02765/2020(GISAIDアクセッション番号:EPI_ISL_640002、スパイク置換D614G、K1073N)を全ての動物に接種した。
【0269】
血液試料及び唾液試料、鼻咽頭スワブ及び口咽頭スワブを分析のために毎日収集した。気管支肺胞洗浄液をD2、D4、及びD6に採取した。臨床モニタリングには、体温、摂食量、及び体重が含まれた。D6の剖検には、肺の組織病理診断並びに肺、鼻粘膜、口腔咽頭、及び腎臓のウイルス量アッセイが含まれた。
【0270】
感染後に両方の対照動物において、鼻咽頭スワブ及び気管支肺胞洗浄液(BAL)中にウイルスのコピーを見出すことができた。対照的に、処置された動物は、検出限界(LOD)未満の結果又は対照動物の結果より数対数下回るレベルの結果のいずれかを示した。全ての動物の鼻咽頭スワブ分析の結果を
図12に示すと共に、気管支肺胞洗浄液の分析の結果を
図13に示す。
【0271】
体温:両方の対照動物がSARS-CoV-2感染後に明白なかつ長期間の高熱を示した。DZIF-10cによる予防処置は、高熱の発生を遅延したか、その期間を短縮し、その程度を減少させたか、又はその発症を完全に予防したかのいずれかであった。
【0272】
肺の肉眼的所見及び顕微鏡的所見:両方の対照動物の肺が、多数の刊行物において肺硬化と記載されている領域と同様の硬化した暗赤色の領域を示した。4匹の処置された動物の肺は、なんらの肺損傷の徴候もなく健康であるように見えた。全てのこれらの所見を顕微鏡観察により確認した:両方の対照動物の殆どのスライドガラスにおいて顕著な広範囲の亜急性気管支間質性炎症が見られ、群2の動物では極めて限定的な気管支間質性炎症が見られたか、又は気管支間質性炎症が見られなかった。
【0273】
要約すると、これらの結果は、吸入適用によるDZIF-10cでの予防処置が、ウイルスコピー及び感染性ウイルスの観点でウイルス量を減少させ、臨床症状(高熱)を低減又は予防し、肺症状を予防したことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】