(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】非経口栄養製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20230629BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230629BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230629BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230629BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20230629BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20230629BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/70 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20230629BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230629BHJP
A61J 15/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P3/02
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K45/00
A61K47/22
A61P37/02
A61P1/00
A61K9/08
A61K9/10
A61K31/185
A61P11/00
A61K38/05
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/24
A61K47/16
A61K45/06
A61K31/70
A61K31/7004
A61K31/7016
A61P29/00
A61J15/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022574153
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 US2021034497
(87)【国際公開番号】W WO2021247360
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(71)【出願人】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャンナン, ローラン クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン, メアリー ハイズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘック, ジュリアン アンドレ ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ザロガ, ゲイリー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】タッペンデン, ケリー
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C047NN13
4C076AA11
4C076AA16
4C076BB17
4C076BB19
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC21
4C076DD22
4C076DD26
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4C076DD59S
4C076DD66
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4C086MA16
4C086MA66
4C086NA10
4C086NA14
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4C086ZB11
4C086ZC21
4C086ZC75
4C206AA01
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4C206MA02
4C206MA03
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4C206ZA66
4C206ZB07
4C206ZB11
4C206ZC51
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、マルチチャンバ容器およびアミノ酸製剤から再構成されるすぐに使用可能な非経口栄養製剤をはじめとする非経口栄養製剤に関する。より詳細には、本開示は、成人または小児患者で使用するための、酪酸塩誘導体、具体的には酪酸アルギニンを含む製剤に関する。本開示はさらに、非経口栄養を受けている患者の全身および局所炎症を軽減または予防する方法、ならびにその全身性免疫および局所免疫、ならびに患者の腸バリア機能を維持または改善する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経口投与用のマルチチャンバ容器であって、
(i)第1のチャンバ内に存在する糖質製剤と、
(ii)第2のチャンバ内に存在するアミノ酸製剤と
を含み、
少なくとも前記第1のチャンバまたは前記第2のチャンバが酪酸アルギニンを含む、マルチチャンバ容器。
【請求項2】
(iii)第3のチャンバ内に存在する脂質製剤をさらに含み、少なくとも前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、または前記第3のチャンバが酪酸アルギニンを含む、請求項1に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項3】
前記酪酸アルギニンが、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で存在する、請求項1または2に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項4】
前記酪酸アルギニンが、前記第2のチャンバのアミノ酸製剤中に存在する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項5】
前記アミノ酸製剤が、1つもしくはそれを超えるアミノ酸、ジペプチドおよび/またはオリゴペプチドの水溶液と、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩化合物を含む電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含み、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノグルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩からなる有機酸、または硫酸塩、塩化物からなる無機酸の多価アニオンを含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のマルチチャンバ容器。
【請求項6】
前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項7】
前記酪酸アルギニンが、前記第1チャンバの前記炭水化物製剤中に存在する、請求項1から3および5から6までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項8】
前記炭水化物製剤が、炭水化物製剤100mL当たり1g~100gのグルコースおよび/またはマルトースおよび/またはトレハロースと、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩またはグリセロリン酸塩からなる電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項9】
前記酪酸アルギニンが、前記第3のチャンバの前記脂質製剤中に存在する、請求項2、3、5、6および8のいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項10】
前記脂質製剤が、脂質製剤100ml当たり1g~40gの油の量で水相および油相を含む、請求項2から9までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項11】
前記脂質製剤が、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、トコトリエノール、パルミチン酸アスコルビルおよびアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの薬学的に許容され得る酸化防止剤を含む、請求項2から10までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項12】
前記油相が、オリーブ油、ダイズ油、ベニバナ油、ヤシ油、魚油、魚油エキス、クリル油、中鎖トリグリセリド(MCT)、藻類油、真菌油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム核油、およびナタネ油からなる群から選択される1つまたはそれを超える油を含む、請求項10または11に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項13】
前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、および前記第3のチャンバのうちの少なくとも1つが、ビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、請求項1から12までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項14】
前記マルチチャンバ容器が、ビタミンおよび/または微量元素製剤を含有する少なくとも1つの更なるチャンバを含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項15】
酪酸アルギニンが、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり2mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、請求項1から14までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項16】
前記第3のチャンバ内の前記脂質製剤が、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度のトリブチリンを含み、酪酸当量の総濃度が再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない、請求項2から15までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項17】
前記酪酸アルギニンが、前記アミノ酸チャンバ内に存在する、請求項16に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項18】
前記再構成されたマルチチャンバ容器の前記製剤のpHが4.5~8.0である、請求項1から17までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項19】
非経口投与用のアミノ酸製剤であって、前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で酪酸アルギニンを含む、アミノ酸製剤。
【請求項20】
酪酸アルギニンが、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.5mmol~600mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~500mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~300mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり2mmol~250mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~150mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~75mmol、または前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、請求項19に記載のアミノ酸製剤。
【請求項21】
前記アミノ酸製剤が、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、システイン(Cys)、オルニチン(Orn)、タウリン、アスパラギン(Asn)、アセチル-システイン(Ac-Cys)、およびアセチル-チロシン(Ac-Tyr)からなる群から選択される1つもしくはそれを超えるアミノ酸溶液を含み、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩およびグリセロリン酸塩からなる群から選択される1つもしくはそれを超える電解質を必要に応じてさらに含む、請求項19または20に記載のアミノ酸製剤。
【請求項22】
前記製剤が、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)、グリシル-グルタミン(Gly-Gln)、グリシル-チロシン(Gly-Tyr)およびアラニル-チロシン(Ala-Tyr)からなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸および/またはジペプチドからなる1つもしくはそれを超えるオリゴペプチドを含む、請求項19から21までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項23】
前記製剤が、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノ-グルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩から選択される有機酸、ならびに/または硫酸塩および塩化物から選択される無機酸の1つもしくはそれを超えるアニオンを含む、請求項19から22までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項24】
前記製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、請求項19から23までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項25】
前記製剤が、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)塩およびグリセロホスホコリン(GPC)からなる群から選択される、アミノ酸製剤1リットル当たり20mg~25gのコリン当量を含む、請求項19から24までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項26】
前記アミノ酸製剤がビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、請求項19から25までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項27】
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者に非経口投与するための、請求項1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器から再構成された組成物または請求項19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項28】
前記患者が小児または成人患者である、請求項27に記載の非経口投与用組成物。
【請求項29】
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、請求項27または28に記載の非経口投与用組成物。
【請求項30】
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項31】
患者の腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するための、請求項27から30までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項32】
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者を、請求項1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器または請求項19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤から再構成された組成物で処置する方法。
【請求項33】
前記患者が小児または成人患者である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、請求項32または33に記載の非経口投与用組成物。
【請求項35】
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項36】
前記患者が、腸における全身性炎症および/または局所炎症に罹患している、請求項32から34までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
腸および/または肺における局所免疫を維持または改善するための、請求項32から35までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、2mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項32から36までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物が、100mg/kg/日~2.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項32から36までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術の分野
本開示は、マルチチャンバ容器およびアミノ酸製剤から再構成されるすぐに使用可能な非経口栄養製剤をはじめとする非経口栄養製剤に関する。より詳細には、本開示は、小児または成人患者で使用するための、酪酸誘導体、具体的には酪酸アルギニンを含む製剤に関する。本開示はさらに、非経口栄養を受けている患者の全身および局所炎症を軽減または予防する方法、ならびにその全身性免疫および局所免疫、ならびに患者の腸バリア機能を維持または改善する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
非経口栄養(PN)は、進行性の栄養失調を予防し、胃腸障害を有する多くの患者に救命治療を提供する。しかしながら、PNは、経口または経腸からのいかなる栄養摂取も不可能である長期の非経口栄養を受けている重症患者において、局所および全身の両方で感染および炎症の発生率の上昇と関連しているようである。研究によりまた、腸管バリア機能の低下が少なくとも部分的に原因となり得ることが示唆されている(Fukatsu and Kudsk,Surg Clin North Am.2011;91(4):755-770)。したがって、腸管のバリア(本明細書で互換的に使用される「腸管バリア」、「腸バリア」または単に「バリア」)、局所および全身性炎症ならびに局所および全身(非特異的)免疫は、長年にわたって調査の対象であった。
【0003】
腸管は、単層の円柱上皮細胞で覆われており、栄養素の選択的吸収を可能にする一方、病原体および食物由来の抗原へのアクセスを制限する前述の腸バリアを形成している。したがって、上皮バリア機能の正確な調節が、粘膜ホメオスタシスを維持するために必要であり、部分的には、上皮内のバリア形成要素および粘膜における炎症促進因子と抗炎症因子との間のバランスに依存している。炎症性腸疾患などの病態は、上皮バリアの漏出を伴い、微生物抗原への過剰な曝露、白血球の動員、可溶性メディエーターの放出、および最終的には粘膜損傷をもたらす。炎症性微小環境(本明細書では「局所炎症」と呼ばれる)は、直接的および間接的な機構を介して上皮細胞間ジャンクションの構造および機能を変化させることによって上皮バリア特性および粘膜恒常性に影響を及ぼす(Luissintら、Inflammation and the Intestinal Barrier:Leukocyte-Epithelial Cell Interactions,Cell Junction Remodeling,and Mucosal Repair.Gastroenterology 2016;151(4):616-632)。
【0004】
腸によって構築される防御の別の重要な態様は、免疫系に関する。特に、粘膜免疫系は、身体の全免疫の約50%~60%を提供し、人体によって作られる抗体の約7%を産生する。例えば、それは分泌型IgA(sIgA)の形態で管腔内細菌に対する特異的抗体を産生し、これは炎症を介してではなく、接着および細菌排除を介して機能する。本発明の文脈において、これは腸の「局所免疫」と呼ばれる。分泌型IgAの保護的役割は、一般に粘膜感染との関連で評価されており、IgAが、免疫排除として知られるプロセスである、上皮へのまたは上皮の下への微生物の付着を阻止し、アクセスを制限することにより、防御の第一線として作用することが示された。しかしながら、IgAはまた、共生生物、上皮および免疫系の間の複雑な相互作用を維持するのに重要な役割を果たすようである(Katoら、Immunological Reviews,2014;260:76-75)。
【0005】
経口摂取における短い休止は粘膜/微生物界面の変化を最小限にとどめるが、付随するアシドーシス、長期の消化管飢餓、外因性抗生物質、および粘膜防御能の破壊を伴う重篤な疾患は、宿主を細菌攻撃に対してますます脆弱にする可能性がある。したがって、上述のように腸への長期PNの影響を回避または低減する改善された非経口栄養製剤の開発における新しい化学的実体およびそれらの潜在的な役割を評価するために多くの研究がすでに行われており、「長期PN」という表現は、本明細書で使用される場合、7日間を超える、特に10日間を超える全非経口栄養を指し、非経口栄養からそれらのエネルギー必要量の約95%~100%を受け取り、「完全非経口栄養」(TPN)は、非経口栄養が患者が受けている唯一の栄養源であることを意味する。
【0006】
また、栄養経路は、自然免疫および適応免疫の両方によって生じる炎症応答に影響を及ぼすことも知られている。経腸栄養動物は、管腔内の細菌を中和するのに役立ち得る腸管IgAのレベルが上昇していることが見出された。上述のように、非経口栄養法による腸飢餓では、腸(または肺)IgAは上昇せず、先天性および獲得粘膜免疫の両方の欠如を示した。
【0007】
上記の問題は、小児患者および成人患者をはじめとするPNを受けているすべての患者に関連する。例えば、早期産児は、腸が一過性で未熟のため、多くの場合、生後数週間は非経口栄養を必要とする。腸不全(IF)に罹患している小児は、長期間の非経口栄養を必要とすることさえある。長期PNに関連する胃腸障害に加えて、成長および神経発達を維持するのに十分なタンパク質およびエネルギーを提供することが課題である。生後1日目から2.5g/kg/日超のアミノ酸および少なくとも40kcal/kg/日のエネルギーを含む早期非経口栄養(PN)が、早期産児の栄養不足および出生後の成長制限の発生を抑えるのに十分な栄養摂取量を提供することが過去に示されたことを示すことができる(Rigo and Senterre,The Journal of Nutrition 143(12),2913,2066S-2070S)。
【0008】
したがって、非経口栄養が腸管バリア機能、免疫細胞および炎症性メディエーターにどのように影響するか、そしてTPN製剤の組成物がバリア機能、局所炎症および全身性免疫ならびに局所炎症および全身性炎症に対する悪影響をどのように低減することができるかを理解することは非常に重要である。その際に、腸管バリアの重要な構造的形成成分、具体的には小腸に典型的な絨毛および陰窩と呼ばれる管腔構造も調査される。特に短鎖脂肪酸は、腸バリア機能に影響を及ぼす能力、およびある程度はIgAの産生にも影響を及ぼす能力について研究されてきた。
【0009】
短鎖脂肪酸(SCFA)は、大腸に豊富に存在する管腔内溶質であり、結腸上皮の主要なエネルギー源である。SCFAは、未消化の複合炭水化物の嫌気性発酵によって産生され、酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩がSCFAの中で最も豊富である。生理学的および臨床的研究により、SFCA全般および具体的に酪酸が、小腸および大腸の両方に対して栄養効果を有し得、いくつかの急性および慢性症状の予防および処置に有用であり得、ならびにSCFAのIV投与が粘膜の萎縮を改善し、酪酸補充PN(Bu-PN)が腸切除モデルにおいて腸管粘膜タンパク質合成を増加させ、空腸および回腸細胞の増殖を刺激したことが示されている(Murakoshiら、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2011;35(4):465-472)。酪酸を補充したPNは、標準PNと比較して、PP(パイエル板)リンパ球数、ならびに腸管および気管支肺胞IgAレベルを中程度であるが有意に回復させることが分かった。小腸の絨毛高さおよび陰窩深さは、対照群に対して標準PN群で有意に減少したが、Bu-PNは腸形態を回復するようであった。
【0010】
別の研究では、ラットに対する酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムの効果を比較し、前述のSCFAの盲腸間および静脈内注入の両方が粘膜萎縮を減少させることが見出された(Korudaら、Am J Clin Nutr 1990;51:685-689)。
【0011】
Prattら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutritionでは、ラットの腸管切除後の非特異的免疫が改善される。Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 1996;20(4):264-271では、短脂肪酸の酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムが非特異的免疫応答の成分を改善すること、および大手術後のTPN関連免疫抑制のある側面を軽減するのに有益であり得ることが企図されている。
【0012】
Tappendenら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition Enhances Functional Adaptation to Intestinal Resection in Rats.Gastroenterology 1997;112:792-802には、静脈内SCFAが、基底外側の腸管栄養輸送を増加させることによって切除後の腸管適応を促進すること、および消化管の機能的特徴を改善するために、現在のTPN製剤へのSCFAの添加が許可され得ることも記載されている。また、この研究では、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムを栄養溶液に使用した。
【0013】
Miloら、Effects of Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition on Intestinal Pro-Inflammatory Cytokine Abundance Digestive Diseases and Sciences 2002;47:2049-2055には、短鎖脂肪酸の酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩が、全非経口栄養投与中に小腸のIL-1βおよびIL-6の存在量を有益に増加させるが、これらのサイトカインの全身産生または腸管炎症に影響を及ぼさないことが議論されている。
【0014】
Bartholomeら、Supplementation of Total Parenteral Nutrition With Butyrate Acutely Increases Structural Aspects of Intestinal Adaptation After an 80% Jejunoileal Resection in Neonatal Piglets.Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2004;28(4):210-223には、SCFA(酢酸、プロピオン酸およびn-酪酸)を補充したTPNまたは酪酸単独の投与が、増殖を増加させ、アポトーシスを減少させることによって、広範囲の小腸切除後の新生仔ブタにおける腸管適応の構造的指標を向上させることが記載されている。
【0015】
Jirsovaら、The Effect of Butyrate-Supplemented Parenteral Nutrition on Intestinal Defence Mechanisms and the Parenteral Nutrition-Induced Shift in the Gut Microbiota in the Rat Model.BioMed Research International 2019;2019:1-14では、要約すると、これらの知見は、酪酸塩がタイトジャンクションタンパク質発現の刺激を介して腸管透過性に対するPNの有害な影響を緩和するという仮説を裏付けるという結論に達した。
【0016】
米国特許第5,919,822号は、腸内細菌叢が危険にさらされている患者の胃腸の完全性および機能を維持するための非経口または経腸栄養のための脂質中の遊離脂肪酸、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質またはコレステロールエステルの形態の短鎖脂肪酸の使用方法を開示している。言及される遊離脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびカプロン酸が挙げられる。そこでは、組成物が耐病性および免疫能を補助し得ることが言及されている。
【0017】
米国特許第7,947,303号は、腸管内の消化および吸収を改善し、患者の免疫状態を改善するための経口製剤における酪酸塩、特にトリブチリンの使用を開示している。
【0018】
国際公開第95/11699号は、異なる疾患の処置を伴う特定の酪酸誘導体を記載している。例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む胃腸障害を処置または予防するために、酪酸塩、酪酸誘導体およびそれらの組み合わせを含む生理学的に安定で安全な化合物を使用することが示唆されている。具体的には、そのような組成物を経口もしくは浣腸製剤によって、または直腸洗浄によって投与して、胃腸系との接触および胃腸系に対する有効性を最大化することが提案されている。酪酸アルギニンもまた、たとえ非経口栄養製剤の成分としてではなく、腸の上記症状のいずれにも関連しないとしても、一般的に言及される。
【0019】
米国特許出願公開第2010/222271号は、タンパク質、多価不飽和脂肪酸、短鎖脂肪酸およびグルタミンを含む経口投与用製剤を記載しており、短鎖脂肪酸は酪酸塩であり、製剤はアルギニンをさらに含み得る。本発明はさらに、そのような製剤を患者に経口投与することによって胃腸の健康を促進する方法を開示している。
【0020】
国際公開第2019/211605号は、12%(w/v)よりも高いアルギニンを含む新生児用の非経口栄養製剤、ならびに低アルギニン血症、高アンモニア血症、負の窒素バランスおよび体重減少の予防の処置におけるそれらの使用を開示している。
【0021】
したがって、腸の健康に対するSCFA、特に酪酸誘導体の有益な効果は十分に実証されている。これまでの研究は、主に酪酸ナトリウムの投与に焦点を当てており、ある程度トリブチリンにも焦点を当てている。ナトリウムの負荷は必然的に患者の不利益が増すので、特に酪酸ナトリウムはPN製剤の理想的な候補ではない。一方、トリブチリンは、非経口栄養のための脂質エマルジョンのみと会合することができ、これは、特に非常に若い乳児のように末梢投与が好ましいかまたはそれが指示されている場合には、必ずしも最適な製剤であるとは限らないことがある。現在、酪酸誘導体を含むそのようなTPN製品は入手できない。したがって、腸管バリア機能を維持または改善することができ、局所炎症イベント、好ましくはまた全身性炎症イベントを減少させ、局所免疫、好ましくはまた全身性免疫を維持または改善することができ、同時に成人および特に乳児へも中枢または末梢投与に対して安定かつ安全である、酪酸誘導体を含む非経口栄養製剤を提供する必要がある。
【0022】
アミノ酸アルギニンの酪酸塩である酪酸アルギニン(L-アルギニン、ブタン酸塩(3:4))は、先行技術にある程度詳細に記載されている。しかしながら、それは上記のような腸管疾患に関連して企図されておらず、非経口栄養製剤の補助成分または有効成分と考えられていない。Vianello S,Yu H,Voisin Vら、Arginine butyrate:a therapeutic candidate for Duchenne muscular dystrophy.FASEB J.2013;27(6):2256-2269では、酪酸アルギニン(AB)が、2つの薬理学的活性:一酸化窒素経路活性化およびヒストン脱アセチル化酵素阻害を併せ持つ、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを処置するための潜在的な薬物として議論されている。ここでは、アルギニンを水溶液として提供し、その際、アルギニンを水中で調製し、n-酪酸を添加して、連続慢性注射用の26%溶液(1Mアルギニン/1M酪酸塩、pH7)および間欠注射用の12.5%溶液(0.76Mアルギニン/1M酪酸塩、pH5.5)を提供した。
【0023】
先行技術はまた、EBV関連リンパ腫において、酪酸アルギニンがEBVチミジンキナーゼ転写を誘導し、抗ウイルス剤ガンシクロビルと相乗的に作用して細胞増殖を阻害し、細胞生存率を低下させ得ることにも言及している。さらに、酪酸塩部分はヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、ヒストンH3およびH4の高アセチル化をもたらす。アセチル化ヒストンは、クロマチンに対する親和性が低下している;このヒストン-クロマチン親和性の低下は、染色体アンフォールディングを可能にし得、腫瘍細胞増殖停止およびアポトーシスに関連する遺伝子の発現を潜在的に高める。
【0024】
McMahonら、A randomized phase II trial of Arginine Butyrate with standard local therapy in refractory sickle cell leg ulcers.bjh 2010;151(5):516-524には、難治性鎌状赤血球下肢潰瘍の処置のための酪酸アルギニンの使用が記載されている。
【0025】
ここで、酪酸アルギニンは、非経口栄養組成物、例えば、例えば、アミノ酸製剤や、アミノ酸製剤、炭水化物製剤および必要に応じて脂質製剤も含むマルチチャンババッグなどに安定かつ安全に製剤化できることが見出され、酪酸アルギニンは、再構成後に安全かつ安定に投与できることが見出された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
概要
こうして本発明者らは、酪酸アルギニンが、例えば、局所免疫の維持または改善、局所炎症の維持または改善、局所炎症の軽減、ならびに腸管バリア機能の維持または改善など、非経口栄養患者の腸管の健康を改善することができることを見出した。酪酸アルギニンは、腸の健康に有益であると知られている酪酸誘導体、具体的には酪酸ナトリウムおよびトリブチリンよりも驚くほど優れていることが見出された。酪酸アルギニン(AB)は、局所炎症の軽減ならびに局所免疫の増加に特に有効であることが見出された。第1の結果はまた、ABが全身性炎症を軽減し、全身性免疫を増加させることができることを示している。それは腸管バリア特性および細胞構造をさらに改善する。同時に、酪酸アルギニンは、例えば、非経口栄養のためのアミノ酸製剤に製剤化された場合に安定かつ安全であることが見出され、したがって、非経口栄養製品の末梢投与を必要とする患者にも利用可能である。
【0027】
本明細書の開示に照らして、決して本発明の範囲を限定するものではないが、特に明記しない限り、本明細書に列挙する任意の他の態様と組み合わせることができる本発明の第1の態様では、非経口投与用のマルチチャンバ容器(MCB)が、第1のチャンバ内に存在する炭水化物製剤と、第2のチャンバ内に存在するアミノ酸製剤とを含み、少なくとも第1または第2のチャンバが酪酸アルギニンを含む。
【0028】
本発明の第2の態様によれば、マルチチャンバ容器は、第3のチャンバ内に存在する脂質製剤をさらに含み、MCBの少なくとも第1、第2のチャンバまたは第3のチャンバが酪酸アルギニンを含む。
【0029】
本発明の第3の態様によれば、マルチチャンバ容器は、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、特に好ましくは、投与を必要とする患者への投与用の再構成製剤1リットル当たり1mmol~300mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む。
【0030】
本発明の第4の態様によれば、酪酸アルギニンは、マルチチャンバ容器のアミノ酸チャンバ内に存在する。
【0031】
本発明の第5の態様によれば、MCBのアミノ酸製剤は、1つもしくはそれを超えるアミノ酸、ジペプチドおよび/またはオリゴペプチドの水溶液と、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩化合物を含む電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含み、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノグルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩からなる有機酸、または硫酸塩、塩化物からなる無機酸の多価アニオンを含有する。
【0032】
本発明の第6の態様によれば、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む。
【0033】
本発明の第7の態様によれば、酪酸アルギニンは、マルチチャンバ容器の炭水化物製剤中に存在する。あるいは酪酸アルギニンは、非経口投与用の炭水化物製剤中に、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、特に好ましくは1mmol~300mmolの濃度で存在し、炭水化物製剤はMCBの成分ではない。
【0034】
本発明の第8の態様によれば、炭水化物製剤は、炭水化物製剤100mL当たり1g~100gのグルコースおよび/またはマルトースおよび/またはトレハロースと、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩またはグリセロリン酸塩からなる電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含む。
【0035】
本発明の第9の態様によれば、酪酸アルギニンは、第3のチャンバの脂質製剤中に存在する。あるいは酪酸アルギニンは、非経口投与用の脂質製剤中に、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、特に好ましくは1mmol~300mmolの濃度で存在し、脂質製剤はMCBの成分ではない。
【0036】
本発明の第10の態様によれば、脂質製剤は、脂質製剤100ml当たり1g~40gの油の量で水相および油相を含む。
【0037】
本発明の第11の態様によれば、脂質製剤は、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、トコトリエノールおよびアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの薬学的に許容され得る酸化防止剤を含む。好ましくは、脂質製剤はα-トコフェロールを含む。
【0038】
本発明の第12の態様によれば、脂質製剤の油相は、オリーブ油、ダイズ油、ベニバナ油、ヤシ油、魚油、魚油エキス、クリル油、中鎖トリグリセリド(MCT)、藻類油、真菌油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム核油およびナタネ油からなる群から選択される1つまたはそれを超える油、好ましくはオリーブ油、ダイズ油、魚油、魚油エキス、MCT、藻類油および真菌油からなる群から選択される1つまたはそれを超える油を含む。
【0039】
本発明の第13の態様によれば、マルチチャンバ容器の第1のチャンバ、第2のチャンバおよび第3のチャンバのうちの少なくとも1つは、ビタミンおよび/または微量元素をさらに含む。
【0040】
本発明の第14の態様によれば、マルチチャンバ容器は、第1、第2および/または第3のチャンバに加えて、ビタミンおよび/または微量元素製剤を含有する少なくとも1つの更なるチャンバ、例えば4、5または6つのチャンバを含む。
【0041】
本発明の第15の態様によれば、酪酸アルギニンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する。
【0042】
本発明の第16の態様によれば、MCBの第3のチャンバ内の脂質製剤は、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは1mmol~300mmolの濃度のトリブチリンを含み、酪酸当量の総濃度は、マルチチャンバ容器から再構成された製剤1リットル当たり301mmolを超えない。
【0043】
本発明の第17の態様によれば、マルチチャンバ容器から再構成された製剤のpHは4.5~8.0である。
【0044】
本発明の第18の更なる態様によれば、非経口投与用のアミノ酸製剤であって、アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~300mmolの濃度の酪酸アルギニンを含むアミノ酸製剤が提供される。
【0045】
本発明の第19の態様によれば、酪酸アルギニンは、アミノ酸製剤1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり0.5mmol~600mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~500mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~300mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり2mmol~250mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~150mmol、アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~75mmol、またはアミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度でアミノ酸製剤中に存在する。
【0046】
本発明の第20の態様によれば、アミノ酸製剤は、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、システイン(Cys)、オルニチン(Orn)、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)、アセチル-システイン(Ac-Cys)、タウリンおよびアスパラギン(Asn)からなる群から選択される1つもしくはそれを超えるアミノ酸の水溶液を含み、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩およびグリセロリン酸塩からなる群から選択される1つもしくはそれを超える電解質を必要に応じてさらに含む。
【0047】
本発明の第21の態様によれば、アミノ酸製剤は、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)、グリシル-グルタミン(Gly-Gln)、アラニル-チロシン(Ala-Tyr)およびグリシル-チロシン(Gly-Tyr)からなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸および/またはジペプチドからなる1つもしくはそれを超えるオリゴペプチドを含む。
【0048】
本発明の第23の態様によれば、アミノ酸製剤は、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノ-グルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩から選択される有機酸、ならびに/または硫酸塩および塩化物から選択される無機酸の1つもしくはそれを超えるアニオンを含む。
【0049】
本発明の第24の態様によれば、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む。
【0050】
本発明の第25の態様によれば、アミノ酸製剤は、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)塩およびグリセロホスホコリン(GPC)からなる群から選択されるコリン化合物20mg~25g/リットルを含む。
【0051】
本発明の第26の態様によれば、アミノ酸製剤は、ビタミンおよび/または微量元素をさらに含む。
【0052】
本発明のさらに別の第27の態様によれば、経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者への非経口投与のために、本発明によるマルチチャンバ容器またはアミノ酸製剤から再構成された組成物が提供される。
【0053】
本発明の第28の態様によれば、非経口投与用組成物は、小児または成人患者に提供され、それぞれの組成物は、それぞれ構成される。
【0054】
本発明の第29の態様によれば、非経口投与用組成物は、集中治療患者、重症患者、短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、または腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、極端な短腸患者ならびに/または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者に提供される。本組成物は、例えば、集中治療患者、重症患者、短腸患者、腸不全患者に特に有益である。
【0055】
本発明の第30の態様によれば、非経口投与用組成物は、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある患者に提供される。
【0056】
本発明の第31の態様によれば、非経口投与用組成物は、患者の腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するために提供される。
【0057】
本発明のさらに別の態様および第32の態様によれば、経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者を処置する方法が提供され、前述の患者は、本発明によるマルチチャンバ容器またはアミノ酸製剤から再構成された組成物で処置される。
【0058】
本発明の第33の態様によれば、小児または成人患者を処置する方法が提供される。
【0059】
本発明の第34の態様によれば、集中治療患者、重症患者、短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、ならびに/または腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、極端な短腸患者ならびに/または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者を処置する方法が提供される。
【0060】
本発明の第34の態様によれば、腸内の全身性炎症および/または局所炎症に罹患している患者を処置する方法が提供される。
【0061】
本発明の第35の態様によれば、患者を処置する方法は、腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するために提供される。
【0062】
本発明の第36の態様によれば、患者を処置する方法は、2mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように本発明による組成物を投与するステップを含む。
【0063】
本発明の第37の態様によれば、患者を処置する方法は、2mg/kg/日~10g/kg/日または100mg/kg/日~2.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように本発明による組成物を投与するステップを含む。
【0064】
開示される製剤の更なる特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面に記載され、それらから明らかになるであろう。本明細書に記載の特徴および利点は、すべてを含むものではなく、特に、多くの追加の特徴および利点が、図面および説明を考慮すると当業者には明らかであろう。また、任意の特定の実施形態は、本明細書に列挙された利点のすべてを必ずしも有する必要はない。さらに、本明細書で使用される言い回しは、主に読みやすさおよび説明目的のために選択されており、本発明の主題の範囲を限定するものではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図面は本発明の特定の実施形態のみを示しており、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではないと理解し、本開示は、添付の図面を使用することによって更なる具体性および詳細性をもって記載および説明される。
【0066】
【
図1】
図1は、10日間(D1からD10)にわたって、kcal/kg(体重)/日でA、B、C、D、EまたはP群(表1参照)の仔ブタに送達された平均エネルギーを示す。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。エネルギー摂取は、S-PNまたはSCFA-PNではすべての仔ブタについて同等であった。
【0067】
【
図2】
図2は、10日間(D1~D10)にわたって、A、B、C、D、EまたはP群(表1参照)の仔ブタに送達された平均タンパク質をg(タンパク質)/kg(体重)/日で示す。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。送達されたタンパク質の量は、S-PNまたはSCFA-PNではすべての仔ブタについて同等であった。
【0068】
【
図3】
図3は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの試験期間(中心カテーテル留置日であるD0から10日間)にわたる体重の平均推移をkgで示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。体重はすべての群で同様に推移した。
【0069】
【
図4】
図4は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの研究期間(10日間、D1~D10)にわたる腹囲の平均推移をcm/kg(体重)で示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。腹囲はすべての群で同様に推移した。
【0070】
【
図5】
図5は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの試験期間(中心カテーテル留置日であるD0から10日間)にわたるg/cm(結腸)での平均結腸重量を示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。FisherのLSD検定を使用して、群分け情報に基づいて転帰を評価した。文字を共有しない群は有意に異なる。
【0071】
【
図6】
図6は、空腸(A)および回腸(B)の腸管組織形態学における効果を評価するために調製された切片の例示的な例を示す。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。切片を使用して、十二指腸絨毛長さおよび十二指腸陰窩長さを決定した(
図7および
図8)。
【0072】
【
図7】
図7は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図7で「PN」と名付けた群Pの平均十二指腸絨毛長さを示す。E群は示されていない。E群の平均十二指腸絨毛長さは810μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、有意差がPN群(S-PN)について見出され、これによれば絨毛長さが有意に減少し、B群(トリブチリン補充、30mmol/L TPN、TB-PN)およびD群(1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール補充、10mmol/L TPN,DPBG-PN)は他の研究群と比較して、特にPN(S-PN)群と比較して増加した絨毛長さを示す。A群およびC群はほぼ同じ結果を示し、B群およびD群について決定された平均値をわずかに下回るだけであった。
【0073】
【
図8】
図8は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図8で「PN」と名付けた群Pの平均十二指腸陰窩長さを示す。E群は示されていない。E群の平均十二指腸陰窩深さは152μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、PN(S-PN)群について有意差がここでも見出され、これは陰窩深さの最低値を示す。A群(トリブチリン補充、10mmol/L TPN、TB-PN)、C群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)およびD群(DPBG補充、10mmol/L TPN、DPBG-PN)は最良の結果を与え、C群はAおよびD群よりもわずかに良好であった。B群(トリブチリン補充、30mmol/L TPN、TB-PN)は、S-PNよりも良好な陰窩深さを示すが、A、CおよびD群ほど良好ではない。
【0074】
【
図9】
図9は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図9で「PN」と名付けた群Pの平均空腸絨毛長さを示す。E群は示されていない。E群の平均空腸絨毛長さは152μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、特にC群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)で有意差が見出され、最良の結果が得られた。空腸絨毛長さはB群で比較的低く(TB-PN、10mmol/L TPN)、D群(DPBG-PN)も比較的良好な結果を与えた。
【0075】
【
図10】
図10は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図10で「PN」と名付けた群Pの平均空腸陰窩長さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深さを比較のために水平の列によって示す。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、特にC群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)について有意差がここでも見出され、最良の結果が得られた。空腸陰窩深さはA、B、D群でより低く、P群で最も低かった(「PN」)。
【0076】
【
図11】
図11は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図11で「PN」と名付けた群Pの平均回腸陰窩深さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深さは155μである。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、有意差がA群(トリブチリン補充、10mmol/L TPN、TB-PN)およびD群(1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール補充、10mmol/L TPN,DPBG-PN)について見出され、C群がすぐ後に続いた。空腸陰窩深さは、ここでもP群で最も低かった(「PN」)。
【0077】
【
図12】
図12は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図12で「PN」と名付けた群Pの平均結腸陰窩深さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深度は76μである。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、C群について有意差がここでも見出された(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)。空腸陰窩深さは、ここでもP群で最も低かった(「PN」)。
【0078】
【
図13】
図13は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図13で「PN」と名付けたP群の平均空腸sIgA濃度を示す。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、C群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)について有意差が再び見出され、これはE群よりもさらに顕著であり、P群(「PN」)よりもさらに顕著であった。
【0079】
【
図14A】
図14は、認知機能の評価に使用される、それぞれの群からの仔ブタのCS応答時間を提供する。
図14Aは、研究の5日間にわたる無条件刺激(US-CS)応答時間を指し、
図14Bは、研究の5日間にわたる条件刺激(CS)応答時間を指す。群間で認知機能の有意差を認めることはできなかった。
【
図14B】
図14は、認知機能の評価に使用される、それぞれの群からの仔ブタのCS応答時間を提供する。
図14Aは、研究の5日間にわたる無条件刺激(US-CS)応答時間を指し、
図14Bは、研究の5日間にわたる条件刺激(CS)応答時間を指す。群間で認知機能の有意差を認めることはできなかった。
【0080】
【
図15】
図15は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けた群Pで見出される血清1ml当たりpg単位のIl-6の血清レベルを示す。E群が最も低いが、C群の平均Il-6濃度は標準PN群よりも有意に低く、他の研究(または介入)群と比較しても低いことが分かる。
【0081】
【
図16】
図16は、それぞれの試験群A群、B、C、DおよびE(表Iを参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群において見出される、血清1ml当たりpg単位のIl1-ベータ(「Il1-b」)の血清レベルを示す。E群が最も低いが、C群の平均Il1-β濃度は、ここでも標準PN群よりも有意に低く、他の研究(または介入)群と比較しても低いことが分かる。
【0082】
【
図17】
図17は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群で見出される、血清1ml当たりpg単位のTNF-アルファ(「TNF-a」)の血清レベルを示す。試験群CのTNF-α濃度は、ここでも他の試験(または介入)群よりも低く、E群とほぼ同じ値をもたらす。
【0083】
【
図18】
図18は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群で見出される血清1ml当たりpg単位のIl-10の血清レベルを示す。試験群EのTNF-α濃度は、ここでも他の試験(または介入)群よりも低い。Il-a0濃度は、試験(または介入)群Dではほとんどまたはほぼ同じくらい低い。試験群A、BおよびCはすべて、標準PN群Pよりも低いIl-10濃度を有する。
【0084】
【
図19】
図19は、小腸壁のいくつかの特徴の概略図であり、そのいくつかは本発明の文脈においても調査されている。管腔側に微絨毛を持つ細胞(5)を含む単層上皮(3)は、腸管の管腔側の外層を形成する。腸管は、突出した絨毛(1)および陰窩(2)を特徴とする。絨毛は、吸収された生成物の迅速な輸送を可能にする血管(4)と交絡している。乳び管(6)は、腸管からリンパ系に脂質を吸収する。
【発明を実施するための形態】
【0085】
詳細な説明
本明細書に記載される特定の実施形態は、一般に、非経口栄養の分野に関する。より詳細には、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、非経口投与用のアミノ酸または炭水化物製剤であって、アミノ酸製剤は酪酸アルギニンを含む。本明細書に記載される関連する実施形態は、非経口投与用のマルチチャンバ容器であって、該容器は、第1のチャンバ内に炭水化物製剤を含み、第2のチャンバ内にアミノ酸製剤を含み、必要に応じて第3のチャンバ内に脂質製剤を含み、酪酸アルギニンが前述のチャンバのいずれかに含まれる、マルチチャンバ容器に関する。
【0086】
したがって、再構成製剤1リットル当たり1~300mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む非経口栄養のための医療用製品が提供される。例えば、そのような製剤は、マルチチャンバ容器から再構成される。PN製品は、3チャンババッグに並べて提供されることが多く、脂質、炭水化物およびアミノ酸は、それぞれのチャンバの間の非永久剥離シールを破壊することによって投与前に混合することができる。電解質はまた、栄養溶液に含まれ得る。微量元素およびビタミンは、患者への投与前に非経口栄養溶液に添加されるか、または非経口栄養とは別に投与されることが多い。脂質は、水中油型エマルジョンとして提供される濃縮エネルギー源である。しかしながら、脂質は、特に患者が高いタンパク質および/または最小限の流体を必要とし、エネルギー必要量が増加していない場合に、別個に注入することができる。
【0087】
したがって、本発明の一態様は、好ましくはさらに電解質も含み得るアミノ酸製剤と、好ましくはグルコースおよび必要に応じてカルシウムを含む炭水化物製剤とから構成される中央または末梢投与用の製品を提供することであり、酪酸アルギニンは、製品のアミノ酸チャンバまたは炭水化物チャンバまたは両方のチャンバに含まれる。本発明の別の態様によれば、製品は脂質製剤を含まず、したがって2チャンバ容器からなる。一実施形態によれば、チャンバは、再構成時に0.8~2.2Lの容積をもたらす製剤を含有するように設計される。しかしながら、バッグは3.0Lまでの容積を有することができるか、または300mL~650mLという小さい容積を有することができる。好ましくは、再構成後に得られる容積は、1.0~2.0L、例えば1.0、1.5または2.0Lである。明らかに、第1および第2のチャンバの容積は、上記で開示された最終的な再構成容積をもたらすように変化し得る。しかしながら、脂質製剤は、投与前に添加することができるか、または本発明による医療用製品の投与とは別に提供することができる。
【0088】
本発明の別の態様によれば、そのような脂質製剤は、製品中のアミノ酸および炭水化物製剤と組み合わせることができる(そのとき3つのチャンバを含む)。この場合、酪酸アルギニンは、アミノ酸チャンバ、炭水化物チャンバまたは脂質チャンバの3つのチャンバのいずれかに存在することができる。好ましくは、酪酸アルギニンはアミノ酸チャンバ内に存在する。本発明の様々な代替形態および実施形態を以下でさらに詳細に説明する。
【0089】
本明細書で使用される「小児」という表現は、月齢1カ月までの未熟(早期)、満期および成熟後の新生児を含む新生児;1ヶ月~1歳の乳児;1歳から12歳までの小児、および13歳から21歳までの青年を指す。本発明による製剤は、早期新生児、満期新生児および成熟後新生児を含む新生児に特に適している。本製剤は、2500g未満、2000g未満、1800g未満、1500g未満、1200g未満、1100g未満、または1000g未満の出生時体重を有し得る早期新生児に特に適している。
【0090】
本明細書で使用される「短鎖脂肪酸」または「SCFA」という表現は、6個未満の炭素原子を有する脂肪酸を指す。表1は、短鎖脂肪酸、それらの一般名、体系名ならびにそれらの式のリストを提供する。
【表1】
表1:短鎖脂肪酸およびそのそれぞれの名称および式のリスト
【0091】
短鎖脂肪酸は室温で液体であり、一般に刺激臭または悪臭を有し、非経口栄養溶液に使用することを困難にする。それらのアルカリ金属塩は水溶液中で加水分解される。それらは、Schoenfeld and Wojtczak,Short-and medium-chain fatty acids in energy metabolism:the cellular perspective.J Lipid Res 2016;75(6):943-954にある程度詳細に記載されている。本発明によれば、「短鎖脂肪酸」という表現は、トリブチリンを含むがこれに限定されない上記SCFAのグリセロールエステルを包含する。
【0092】
本明細書で使用される「非経口栄養」(PN)という表現は、良好な栄養状態を維持するためにチューブ(経腸)栄養法によって十分な食物を摂取または吸収することができない患者への、タンパク質、炭水化物、脂肪、ミネラルおよび電解質、ビタミンおよび微量元素を含み得る栄養成分の静脈内投与を指す。PNが適応される疾患および症状としては、短腸症候群、消化管瘻孔、腸閉塞、重症患者および重症急性膵炎が挙げられるが、これらに限定されない。PNを受けている患者としては、早産児または新生児、乳児、小児および成人が挙げられる。
【0093】
本明細書で使用される「非経口栄養溶液」という表現は、一般に、非経口栄養に適し、静脈内(IV)カテーテルを介して患者の血流中に直接投与される滅菌液体化学式を指す。例えば、マルチチャンバ容器内に提供される非経口栄養溶液は、医療用製品と考えられる。
【0094】
本明細書で使用される「完全非経口栄養(TPN)」という表現は、患者のすべての多量栄養素(炭水化物、窒素および脂質)ならびに微量栄養素(ビタミン、微量元素およびミネラル)ならびに流体要件が静脈内栄養溶液によって満たされ、他の供給源から有意な栄養が得られないことを意味する。
【0095】
本明細書で使用される「腸」という表現は、腸管を指す。これらの表現は、本明細書では互換可能に使用される。腸管は、小腸、結腸(大腸)および直腸からなる。小腸は、十二指腸、空腸および回腸に分けられる。
【0096】
本明細書で使用される「再構成」という表現は、チャンバとそこに含まれる流体とを分離する1つもしくはそれを超える非恒久的(剥離)シールを開くかまたは破壊することによって、マルチチャンババッグ内の別個のチャンバに含まれる流体の混合を指す。したがって、「再構成された」流体は、マルチチャンババッグの異なるチャンバに位置する2つまたはそれを超える流体を混合することによって得られる流体である。そのような再構成は、一般に、再構成された流体を患者に投与する直前に行われる。
【0097】
本明細書で使用される「全身性炎症」という表現は、単一の器官または身体部分ではなく(これは本明細書では「局所炎症」と呼ばれる)、全身に影響を及ぼす炎症を指す。本明細書で使用される「炎症」という表現は、傷害細胞または感染細胞によって放出されるエイコサノイドおよびサイトカインの産生を含む有害刺激に対する体組織の応答を指す。
【0098】
本明細書で使用される「全身性免疫」という表現は、感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入と戦うのに十分な生物学的防御能を有するヒトの状態を指す。本明細書で使用される「局所免疫」または「局所免疫」は、感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入と戦う身体部分または器官の能力を指す。本発明の文脈において、「局所免疫」は、そのような感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入に効果的に応答する腸の能力に関する。
【0099】
本発明によるマルチチャンバ容器(MCB)は、患者への非経口投与用の栄養製剤を含む。例えば、容器は、複数のコンパートメントまたはチャンバを有するバッグの形態であってもよい。容器は、少なくとも2つのチャンバを含むが、3つ、4つ、5つまたはそれを超えるチャンバを含むこともできる。バッグを含む適切な容器は、典型的には、無菌、非発熱性、使い捨て、および/またはすぐに使用できる製品である。マルチチャンバ容器は、非経口栄養製品を保持するのに特に有用であり、一般に、本明細書に開示される炭水化物製剤を第1のチャンバ内に、本明細書に開示されるアミノ酸製剤を第2のチャンバ内に、および必要に応じて本明細書に開示される脂質製剤を容器の第3のチャンバ内に提供する。マルチチャンバ容器はまた、例えば、安定性の理由で、またはそれらの添加が任意であることが意図されているために、炭水化物、アミノ酸または脂質製剤に混合することができない選択されたビタミンおよび/または微量元素を含む第4のチャンバまたは第5のチャンバを提供し得る。
【0100】
本明細書で使用される「末梢非経口栄養(PPN)」という表現は、末梢静脈に挿入されたカニューレを介したPN溶液の投与を指す。「末梢」という用語は、表在静脈、ほとんどの場合は上肢を指す。PPNは、例えば、カテーテル敗血症または菌血症の場合に、中心静脈のカテーテル留置が禁忌または不可能である場合、短期PNに適応される。対照的に、「中心非経口栄養」は、中心静脈を介して与えられる非経口栄養(PN)を指す。中心アクセスは、高度に濃縮された高張性溶液の使用を可能にし、2週間を超えるPNを必要とする患者にしばしば使用される。一時的な中心静脈カテーテル(CVC)、またはトンネル型カテーテル、植え込み型ポートもしくは末梢から挿入された中心カテーテル(PICC)などの長期CVCのいずれかを使用することができる。CVCはカテーテル関連血流感染を増加させる可能性があるので、末梢非経口栄養法(PPN)が適応される場合に使用される。
【0101】
例えば3チャンババッグなどの本発明のマルチチャンバ容器は、垂直チャンバを含むことができる。適切なマルチチャンバ容器は、米国特許出願公開第2007/0092579号に開示されている。例えば、マルチチャンバ容器は、2つまたは3つの隣接するチャンバまたはコンパートメントを含むバッグとして構成されてもよい。必要に応じて、脆弱な障壁または開閉可能なシール(例えば、剥離シールまたは脆弱シール)が、マルチチャンバ容器のチャンバを分離するために使用される。マルチチャンバ容器はまた、脂質エマルジョン、炭水化物製剤およびアミノ酸製剤を収容するための3つのチャンバを含んでもよく、さらに、例えばビタミン製剤および/または微量元素製剤を含有する少なくとも1つ、特定の実施形態では2つもしくは3つのより小さいチャンバを含んでもよい。1つの具体的な実施形態では、本発明のマルチチャンバ容器は、本発明による脂質エマルジョンを収容する第1のチャンバと、アミノ酸製剤を収容する第2のチャンバと、炭水化物製剤を収容する第3のチャンバと、ビタミン製剤を収容する第4のチャンバと、微量元素製剤を収容する第5のチャンバとを有する。前述のマルチチャンバ容器の開閉可能なシールは、投与直前に製剤を別個に貯蔵し、混合/再構成することを可能にし、それによって混合物として長期間貯蔵すべきではない製剤の単一の容器への貯蔵を可能にする。シールの開放は、チャンバ間の連通およびそれぞれのチャンバの内容物の混合を可能にする。マルチチャンバ容器の外側シールは、チャンバ間の弱い剥離シールまたは脆弱なシールを開くために供給される流体圧力下で開かない強力なシールである。いくつかの実施形態では、マルチチャンバ容器の開閉可能なシールは、マルチチャンバ容器の選択されたチャンバのみの混合または再構成、例えば、必要に応じて、脂質エマルジョンとビタミンチャンバおよびアミノ酸チャンバとの混合を可能にするように設計されてもよい。
【0102】
本発明によるマルチチャンバ容器には、構成流体が所望の順序で混合されるように、剥離シールを開く所望の順序を説明する説明書が設けられてもよい。2つまたはそれを超える剥離シールの開封強度は、所望の順序でシールの開放を促進するために変更することができる。例えば、最初に開封する剥離シールの開封強度は、次に開封する剥離シールを開封するのに必要な開封強度の1/3~1/2であってもよい。
【0103】
容器は、主に可撓性ポリマー材料から作製することができるが、容器は、本開示から逸脱することなく金属箔などの非ポリマー材料を含むことができる。容器で使用するための多数のポリマーフィルムが開発されている。適切なフィルムは、単層構造または多層構造であり得る。単層構造は、単一のポリマーから、またはポリマーブレンドから作製することができる。多層構造は、溶液接触層、耐擦傷層、ガスの透過を防止するためのバリア層(二酸化炭素、酸素もしくは水蒸気など)、結合層、または他の層などの層を含むことができる。一方または両方の側壁に2つまたはそれを超えるフィルムのウェブを使用することも企図される。適切なポリマー材料は、一般に、数例を挙げると、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリブタジエン、スチレンおよび炭化水素コポリマー、ポリイミド、ポリエステル-ポリエーテル、ポリアミド-ポリエーテルのホモポリマーおよびコポリマーから選択される。フィルムおよびポートチューブならびにねじ切りプロテクタを含む一次包装に非PVC材料を使用することが好ましい。本発明の一実施形態によれば、本発明の医療用製品の一次包装のフィルムは、ポリ(シクロヘキシレンジメチレン)シクロヘキサンジカルボキシレートコポリマー(PCCE)(外層)、無水マレイン酸変性ポリ(エチレン酢酸ビニル)(結合層)、ポリ(エチレン酢酸ビニル)(EVA)(内層)、およびポリ(エチレン-プロピレン)コポリマー(PP/PE)およびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックポリマー(SEBS)(シーラント層)から調製された4層共押出フィルムである。別の実施形態によれば、ポートチューブは、PVCを含まないポリオレフィン系の3層共押出部品である。外層はPP/PEとSEBSとのブレンドから調製され、中間層はSEBS、EVA、PPおよびPEのブレンドから調製され、内層はEVAから調製される。中間層は任意であり、基本的に外層と同じ材料からなる仮想層と置き換えることができる。本発明のさらに別の態様によれば、TOPは、PP、EVA SEBSのブレンドから作製することができ、例えばPolybatch(登録商標)Blueなどの色を必要に応じて含むことができる。TOPは、好ましくはPVC不含である。
【0104】
本発明の製品の容器用のシール層は、バイモーダル挙動を示すべきである。バイモーダル挙動とは、材料が1セットのシールまたは製造条件の下で永久シールを形成することができ、2セット目のシールまたは製造条件で剥離可能シールを形成できることを意味する。シール層は、ホモ相ポリマーまたはマトリックス相ポリマー系であり得る。適切なホモ相ポリマーとしては、ポリオレフィンおよびポリプロピレン、具体的にはプロピレンおよびエチレンコポリマーが挙げられる。
【0105】
上述のように、非経口栄養のための製剤を提供するためのマルチチャンバ容器の典型的な成分は、アミノ酸および/または炭水化物製剤である。炭水化物製剤は、典型的にはグルコースの形態でカロリーの供給を提供する。マルトースまたはトレハロースも使用することができる。グルコースとマルトースおよび/またはトレハロースとの混合物も可能である。特に、炭水化物製剤は、非経口栄養を受けている患者で観察された高血糖症などの有害作用を回避するのに十分な量の炭水化物を提供する。典型的には、炭水化物製剤は、グルコース、マルトース、トレハロースまたはそれらの混合物100ml当たり1~100グラムを含む。本発明の特定の実施形態では、糖質製剤は、糖質製剤100mL当たり20~50グラムもしくは15~30グラムのグルコース、マルトース、トレハロースまたはそれらの混合物を含む。
【0106】
一実施形態によれば、グルコースは、炭水化物製剤100ml当たり30~40グラムの量で含有される。別の実施形態によれば、グルコースは、グルコース100ml当たり24~30グラムの量で含有される。例えば、米国特許出願第16/562014号に記載されているようなグルコース組成物に、本発明による酪酸アルギニンを補充することができる。
【0107】
炭水化物製剤は、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)コリン塩およびグリセロホスホコリンからなる群から選択される水溶性形態のコリンをさらに含み得る。好ましい実施形態では、水溶性形態のコリンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり20mg~25gのコリン当量、例えば再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり約30mg~20g、約30mg~15g、約30mg~約10g、約30mg~5g、約30mg~1g、約30mg~800mg、約100mg~1g、約500mg~1g、約800mg~10gまたは約1g~10gのコリン当量の濃度で存在する。炭水化物製剤は、0.1mmol~10mmolの濃度のカルシウムを含み得る。そのような場合、カルシウムは、塩化カルシウム2・H2Oまたはグルコン酸カルシウムの形態で提供され得る。
【0108】
本発明によるアミノ酸製剤は、前述のマルチチャンバ容器の構成要素であってもよく、または非経口栄養および投与を必要とする患者への非経口栄養および投与用の別個の製品であってもよい。アミノ酸製剤は、1つもしくはそれを超えるアミノ酸、ジペプチドおよび/またはオリゴペプチド、ならびに必要に応じて1つもしくはそれを超える電解質の滅菌水溶液を含む。別途具体的に示されない場合、「アミノ酸」または「複数のアミノ酸」という表現は、本明細書では一般的に使用され、アミノ酸、ジペプチドおよびオリゴペプチドを包含する。
【0109】
典型的には、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mL当たり約1グラム~約30グラム、例えばアミノ酸製剤100mL当たり約3グラム~約25グラム、約4グラム~約20グラム、約5グラム~約15グラムおよび約5グラム~約10グラムのアミノ酸を含む。アミノ酸製剤は、一般に、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、システイン(Cys)、オルニチン(Orn)、タウリンおよびアスパラギン(Asn)からなる群から選択される1つまたはそれを超えるアミノ酸を含む。本発明によるアミノ酸製剤は、アセチル-システイン(Ac-Cys)、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)、グリシル-グルタミン(Gly-Gln)およびグリシル-チロシン(Gly-Tyr)からなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸および/またはジペプチドからなるオリゴペプチドをさらに含むことができる。さらに、例えば、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)を添加することにより、チロシンの含有量を増加させることができる。
【0110】
本発明によるアミノ酸製剤は、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノ-グルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩から選択される有機酸、および/または硫酸塩および塩化物から選択される無機酸のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび/またはリン酸イオンおよび/またはアニオンなどの電解質をさらに含み得る。例えば、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mL当たり約0.1mmol~約10mmolのナトリウム(例えば、約3.75mmol~約10mmolのナトリウム)、約0.1mmol~約10mmolのカリウム(例えば、約3.75mmol~約6.90mmolのカリウム)、約0.05mmol~約1.0mmolのマグネシウム(例えば、約0.05mmol~約0.11mmolおよび/または約0.38mmol~約0.65mmolのマグネシウム)、約0.1mmol~約10mmolのカルシウム(例えば、約1.13mmol~約5.10mmolのカルシウム)、約0.1mmol~約10mmolのリン酸塩(例えば、約0.94mmol~約5.10mmolのリン酸塩)および10mmol以下の塩化物(例えば、5.6mmol以下の塩化物)を含むことができる。カルシウムおよびリンが同じ加熱滅菌溶液中に一緒に存在する場合、不溶性リン酸カルシウム沈殿が起こり得る。グリセロリン酸ナトリウム5・H2Oまたはグリセロリン酸カルシウムなどのリンの有機塩を使用すると、溶解性の問題なしに、かつ過剰なナトリウムまたは塩化物を提供することなく、カルシウムおよびリン酸塩の量を増加させることができる。アミノ酸製剤において、ナトリウムは塩化ナトリウムまたは酢酸ナトリウムの形態で提供され得、カルシウムは塩化カルシウム2・H2Oまたはグルコン酸カルシウムの形態で提供され得、マグネシウムは酢酸マグネシウム4・H2O、硫酸マグネシウム5・H2Oまたは塩化マグネシウムの形態で提供され得、カリウムは酢酸カリウムまたは塩化カリウムの形態で提供され得る。
【0111】
アミノ酸製剤は、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)コリン塩およびグリセロホスホコリンからなる群から選択される水溶性形態のコリンをさらに含み得る。好ましい実施形態では、水溶性形態のコリンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり20mg~25gのコリン当量、例えば再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり約30mg~20g、約30mg~15g、約30mg~約10g、約30mg~5g、約30mg~1g、約30mg~800mg、約100mg~1g、約500mg~1g、約800mg~10gまたは約1g~10gのコリン当量の濃度で存在する。
【0112】
本発明によるマルチチャンバ容器はまた、第3のチャンバ内に脂質製剤を含むことができる。そのような脂質製剤は、油相、水相、および2つの相を混和性にする乳化剤のエマルジョンである。非経口栄養のための注射用エマルジョンとして使用される脂質エマルジョンの場合、エマルジョンは水中油型(o/w)エマルジョンでなければならない。これは、エマルジョンが血液と混和性でなければならないため、油が内部(または分散)相に存在しなければならず、水が外部(または連続)相であることを意味する。したがって、本明細書に開示される脂質エマルジョンは、懸濁固体を実質的に含まないことが必要である。もちろん、脂質エマルジョンは、酸化防止剤、pH調整剤、等張剤、ビタミン、微量元素およびそれらの様々な組み合わせを含むがこれらに限定されない更なる成分を含有し得る。脂質エマルジョン、それらの組成および使用に関する概要は、例えば、Driscoll,Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2017,41,125-134に提供されている。集中治療患者の非経口栄養における脂質エマルジョンの使用に関する更なる情報は、例えば、Calderら、Intensive Care Medicine,2010,36(5),735-749に提供されている。
【0113】
典型的には、脂質製剤は、脂質製剤100ml当たり約1g~40gの油を含有する。例えば、脂質製剤は、脂質製剤100ml当たり約1g~35g、約5g~35g、約5g~30g、約10g~30g、約10g~25g、約15g~20g、または約12g~18gの油を含有する。
【0114】
本発明によるマルチチャンバの一方のチャンバに含まれる脂質エマルジョンは、0.1g~15.0g/リットルの濃度のグリセロホスホコリン(GPC)を含有し得る。いくつかの実施形態では、そのようなマルチチャンバ容器内のGPC濃度は、脂質エマルジョン1リットル当たり1.0g~12g、脂質エマルジョン1リットル当たり1.0g~10.0g、脂質エマルジョン1リットル当たり2g~9.0g、脂質エマルジョン1リットル当たり1.0g~5.0g、または脂質エマルジョン1リットル当たり2.0g~4.0gであり得る。GPCを含む脂質エマルジョンは、その全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2019/0232054号にさらに記載されている。単独でまたはGPCともしくは互いに組み合わせて脂質エマルジョンに添加することもできる他の水溶性形態は、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリンおよびコリンシチジン二リン酸コリン(CDP)塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、または内部塩)からなる群から選択され得る。好ましい実施形態では、GPCまたは塩化コリンは、脂質エマルジョン1リットル当たりコリン当量0.1g~12gの濃度で存在する。
【0115】
本発明によるアミノ酸およびグルコース製剤と組み合わせることができる脂質エマルジョンの油相は、一般に、遊離酸として、遊離酸のイオン化形態もしくは塩形態として、および/またはエステル形態で存在し得る、長鎖多価不飽和脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸を含む。多価不飽和脂肪酸/長鎖多価不飽和脂肪酸の適切なエステルとしては、アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、またはそれらの組み合わせ)およびトリグリセリドエステルが挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、長鎖多価不飽和脂肪酸は、構造R(C=O)OR’を有し、式中、Rは、少なくとも17個の炭素原子、少なくとも19個の炭素原子、少なくとも21個の炭素原子、または少なくとも23個の炭素原子を有するアルケニル基であり、R’は存在せず、H、対イオン、アルキル基(例えば、メチル、エチルもしくはプロピル)、またはグリセリル基(例えば、R(C=O)OR’は、モノグリセリド、ジグリセリド、もしくはトリグリセリドである)である。本明細書に開示される脂質製剤に使用するための多価不飽和脂肪酸としては、リノール酸(LA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ステアリドン酸(SDA)、γ-リノレン酸(GLA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DPA)、およびドコサペンタエン酸(DPA)、特にDHA、ARA、およびEPAが挙げられるが、これらに限定されず、これらは各々遊離酸形態、イオン化または塩形態、アルキルエステル形態、および/またはトリグリセリド形態で存在してもよい。場合によっては、多価不飽和脂肪酸および/または長鎖脂肪酸はトリグリセリド形態で存在する。
【0116】
油相およびその成分は、単一の供給源または異なる供給源(例えば、Fell et al,Advances in Nutrition,2015,6(5),600-610を参照されたい)から得ることができる。植物油のうち、現在使用されている供給源としては、ダイズ油およびオリーブ油、ならびにベニバナ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、菜種油、ココナッツ油またはパーム核油が挙げられるが、これらに限定されない。油相は、中鎖トリグリセリド(MCT)をさらに含み得る。別の供給源は藻類であり、例えば、Crypthecodinium cohniiおよびSchizochytrium sp.などの微細藻類が含まれる。非経口脂質エマルジョンで使用される場合、海洋油、一般に魚油または魚油エキスは、主に冷水中に見られ、ニシン、シャッドおよびイワシを含むがこれらに限定されない油性魚から加工される。しかしながら、他の海洋生物、例えば、オキアミ、例えば南極オキアミ(Euphausia superba Dana)などを油源として使用することができる。本発明による脂質製剤に使用される油は、上記供給源の1つまたはそれを超えるものであり得る。好ましい組み合わせは、例えば、ダイズおよびオリーブ油の組み合わせ、ダイズ油、オリーブ油、MCTおよび魚油または魚エキスの組み合わせ、ダイズ油、オリーブ油、MCT、魚油または魚エキスおよびクリル油の組み合わせである。好ましくは、本発明による脂質製剤は、油相100g当たり175mg、150mg、120mg未満、好ましくは100mg未満、特に好ましくは70mg未満のファイトステロール含有量を有する。そのような脂質製剤およびそれらを製造する方法は、国際公開第2019/232044号および国際公開第2020/007758号に記載されている。
【0117】
本明細書に開示される脂質製剤は、界面活性剤(乳化剤とも呼ばれる)、共界面活性剤、等張剤、pH調整剤、および酸化防止剤などの追加の成分をさらに含み得る。一般に、界面活性剤は、油相と水相との間の界面張力を低下させることによってエマルジョンを安定化させるために添加される。界面活性剤は、典型的には、疎水性部分および親水性部分を含み、製剤に含まれる界面活性剤/乳化剤の量は、エマルジョンの所望のレベルの安定化を達成するために必要な量に基づいて決定される。典型的には、脂質製剤中の界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量に基づいて約0.01%~約3%(重量基準)、例えば、約0.01%~約2.5%、約0.01%~約2.3%、約0.02%~約2.2%、約0.02%~約2.1%、約0.02%~約2%、および/または約0.05%~約1.8%(重量基準)である。
【0118】
適切な界面活性剤および共界面活性剤としては、非経口使用が承認されている界面活性剤が挙げられ、リン脂質(例えば、卵ホスファチドおよびダイズレシチン)、オレイン酸塩、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。クリル油は、脂質エマルジョン中の乳化剤として使用することもでき、脂質エマルジョンは、エマルジョンの総重量に基づいて約0.5~2.2重量%のクリル油を含み、エマルジョンは卵黄レシチンを含まない(米国特許出願公開第2018/0000732号)。別の例示的な界面活性剤はレシチンであり、天然レシチンおよび合成レシチンの両方を含み、例えば、卵、トウモロコシもしくはダイズまたはそれらの混合物に由来するレシチンである。場合によっては、レシチンは、脂質製剤の総重量に基づいて約1.2%の量で含まれる。
【0119】
場合によっては、脂質エマルジョン製剤は共界面活性剤を含む。典型的には、脂質製剤中の共界面活性剤の量は界面活性剤の量よりも少なく、典型的には、製剤中の共界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量に基づいて約0.001%~約0.6%(重量基準)、例えば、約0.001%~約0.55%、約0.001%~約0.525%、約0.001%~約0.5%および/または約0.05%~約0.08%である。例示的な共界面活性剤は、オレイン酸ナトリウムなどのオレイン酸塩である。場合によっては、脂質製剤は、界面活性剤および共界面活性剤としてレシチンおよびオレイン酸塩、例えば1.2%レシチンおよび0.03%オレイン酸塩の量を含む。場合によっては、オレイン酸ナトリウムは、脂質製剤の総重量に基づいて約0.03%(重量基準)の量で含まれる。
【0120】
等張剤を脂質エマルジョンに添加して、脂質エマルジョンのオスモル濃度を所望のレベル、例えば生理学的に許容され得るレベルに調整することができる。適切な等張剤には、グリセロールが含まれるが、これに限定されない。典型的には、脂質エマルジョン製剤は、約180~約300ミリモル/リットル、例えば約190~約280ミリモル/リットル、および/または約200~約250ミリモル/リットルのオスモル濃度を有する。場合によっては、脂質エマルジョンは、脂質製剤の総重量に基づいて約1%~約10%(重量基準)、例えば約1%~約5%、約1%~約4%および/または約2%~約3%の量の等張剤を含む。場合によっては、脂質エマルジョン製剤は、約2%~約3%(重量基準)のグリセロールを含む。
【0121】
pH調整剤を脂質エマルジョンに添加して、pHを所望のレベル、例えば非経口使用のための生理学的に許容され得るpHに調整することができる。適切なpH調整剤としては、水酸化ナトリウムおよび塩酸が挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、脂質エマルジョン製剤は、約6~約9、例えば約6.1~約8.9、約6.2~約8.8、約6.3~約8.7、約6.4~約8.6、約6.5~約8.5、約6.6~約8.4、約6.7~約8.3、約6.8~約8.2、約6.9~約8.1、約7~約8、約7.1~約7.9、約7.2~約7.8、約7.3~約7.7、約7.4~約7.6、約7、約7.5および/または約8のpHを有する。
【0122】
脂質製剤は、酸化防止剤をさらに含み得る。適切な酸化防止剤は、薬学的に許容され得る酸化防止剤であってもよく、トコフェロール(例えば、アルファトコフェロール、ベータトコフェロール、ガンマトコフェロール、デルタトコフェロール)、トコトリエノール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、脂質エマルジョン製剤は、約0~約300mg/L、例えば約10~約250mg/L、約40~約180mg/L、約50~約120mg/L、約75~約100mg/Lの量の酸化防止剤、例えば好ましくはアルファ-トコフェロールを含む。
【0123】
アミノ酸、炭水化物および脂質エマルジョンを含むすべての静脈内製剤の水性(または水)相は、それを注射に適したものにする薬理学的要件に適合しなければならず、すなわち水は注射用の滅菌水でなければならない。
【0124】
本発明によるマルチチャンバ容器からの非経口投与用の再構成製剤は、1~300mmol/リットルの濃度の酪酸アルギニンを含む。したがって、マルチチャンバ容器(2、3、4、5またはそれを超えるチャンバ)の構成およびチャンバのそれぞれの容積に応じて、例えばアミノ酸チャンバに添加される酪酸アルギニンの量は、マルチチャンバ容器の再構成溶液の最終容積に基づいて計算されなければならない。
【0125】
酪酸アルギニン補充アミノ酸製剤および酪酸アルギニン補充製剤は、酪酸アルギニンの濃縮液を注射用水に溶解して調製することができる。その濃縮溶液から、所望の最終濃度を生成するのに必要な量をそれぞれアミノ酸製剤または炭水化物製剤に添加する。
【0126】
例えば、酪酸アルギニン補充アミノ酸製剤は、洗浄および窒素フラッシュ混合タンクに第1のバッチの注射用水を充填することによって調製することができる。必要な温度に達したら、アミノ酸、酪酸アルギニン、必要に応じて電解質、および例えば氷酢酸またはリンゴ酸をタンクに添加する。撹拌を開始し、溶液を注射用水で最終容量に調整する。溶液のpHを測定し、必要に応じて氷酢酸またはリンゴ酸で必要なpHに調整する。溶液は、透明な溶液であることを確保するために視覚的にチェックされる。溶存酸素および溶液の密度を測定する。
【0127】
酪酸アルギニン補充炭水化物製剤は、例えば、洗浄および窒素フラッシュ混合タンクに注射用水を充填することによって調製することができる。必要な温度に達したら、トレハロースおよび/またはマルトース、および必要に応じて塩化カルシウムをタンクに添加する。撹拌を開始する。溶液のpHを測定し、必要に応じて、例えば25%塩酸で必要なpHに調整する。溶液は、透明な溶液であることを確保するために視覚的にチェックされる。溶存酸素および溶液の密度を測定する。
【0128】
充填プロセスの間、補充されたアミノ酸または炭水化物溶液は、0.45μmの濾過膜を通してオンラインで濾過される。充填容積は重量測定で決定され、バッチ全体の均一性を確保するために充填プロセス中に定期的にチェックされる。さらに、第1の充填容器で溶存酸素が測定される。次いで、容器を密封する。充填および密封された各容器は、1つの酸素吸収剤と共にオーバーパウチ内に配置される。オーバーパウチの内部空間を窒素で洗い流して酸素レベルを低下させ、オーバーパウチをヒートシールする。過剰包装されたバッグは、湿熱滅菌のために滅菌トレイ上に配置される。製品は、容器の選択されたサイズ/容積に適合した湿熱滅菌プロセスを使用して、121℃および2.2barで最終的に滅菌することができる。例えば、蒸気-空気混合プロセスを利用することができる。暴露時間は、容器のサイズに合わせて設定される。
【0129】
酪酸アルギニンの濃度は、開示された範囲にわたって比較的広く変化させることができる。これは、アミノ酸製剤中、25℃および40%相対湿度(RH)で、生成、滅菌中および少なくとも12ヶ月の貯蔵寿命にわたって安定であることが分かった(実施例1および表5も参照)。
【0130】
例えば、酪酸アルギニンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり2mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在することができる。
【0131】
例えば、容器サイズおよび/または患者集団(例えば小児もしくは成人)に依存する酪酸アルギニンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~0.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.45mmol~5.0mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1.0mmol~15mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり4.0mmol~50mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり10mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり40mmol~500mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり120mmol~1400mmol、例えば0.05mmol/L、0.1mmol/L、0.5mmol/L、1.0mmol/L、2mmol/L、3mmol/L、4mmol/L、5mmol/L、8mmol/L、10mmol/L 15mmol/L、20mmol/L、25mmol/L、30mmol/L、35mmol/L、40mmol/L、45mmol/L、50mmol/L、100mmol/L、150mmol/L、200mmol/L、300mmol/L、400mmol/L、500mmol/L、750mmol/L、1000mmol/L、1200mmol/Lまたは1400mmol/Lなどの濃度で存在することができる。
【0132】
本発明の別の態様によれば、本発明によるマルチチャンバ容器の脂質チャンバは、例えば、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、例えば、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~0.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.45mmol~5.0mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1.0mmol~15mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり4.0mmol~50mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり10mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり40mmol~500mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり120mmol~1400mmolなどの濃度のトリブチリンをさらに含み、酪酸当量の総濃度は、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない。換言すれば、本発明によるマルチチャンバ容器は、アミノ酸または炭水化物製剤(またはその両方)中に酪酸アルギニンを含んでもよく、脂質製剤はトリブチリンを含む。しかしながら、酪酸当量の最終濃度は、再構成されたマルチチャンバ容器の1401mmol/Lを超えてはならない。したがって、1分子のトリブチリンが3当量の酪酸を提供することに留意して、それぞれの濃度をそれぞれ調整するように注意すべきである。トリブチリン含有脂質製剤を調製する方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第5,919,822号に記載されている。
【0133】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明によるマルチチャンバ容器の脂質チャンバは、上記でさらに詳述したように、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で、例えばジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール(DPBG)などの、1または2当量の酪酸を含有する構造化脂質を含み、当量の酪酸の総濃度は、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない。本発明に従って使用することができる構造化脂質の他の例としては、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロールおよび1-オレオイル-2-パルミトイル-3-ブチリルグリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。換言すれば、本発明によるマルチチャンバ容器は、アミノ酸または炭水化物製剤(またはその両方)中に酪酸アルギニンを含み、脂質製剤は、1または2当量の酪酸を含有する構造化脂質、例えばジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロールおよび/または1-オレオイル-2-パルミトイル-3-ブチリルグリセロールなどを含む。しかしながら、再構成されたマルチチャンバ容器内の酪酸当量の最終濃度は、ここでも前述の1401mmol/Lを超えてはならない。
【0134】
本発明の更なる態様によれば、本発明によるマルチチャンバ容器の脂質チャンバは、ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール(DPBG)およびトリブチリンを含み、酪酸当量の総濃度は、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない。換言すれば、本発明によるマルチチャンバ容器は、アミノ酸または炭水化物製剤(またはその両方)中に酪酸アルギニンを含み、脂質製剤はジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを含む。しかしながら、酪酸当量の最終濃度は、再構成されたマルチチャンバ容器の1401mmol/Lを超えてはならない。
【0135】
本発明のさらに別の態様では、ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールは、マルチチャンバ容器内に存在する唯一の酪酸誘導体として脂質チャンバ内に存在することができる。したがって、本発明はまた、炭水化物製剤、アミノ酸製剤および脂質製剤をそれぞれ含有する少なくとも3つのチャンバを含むマルチチャンバ容器を提供し、脂質製剤は、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度のDPBGを含む。容器ならびにアミノ酸製剤、炭水化物製剤および脂質製剤は、本明細書に記載されているとおりである。そのようなマルチチャンバ容器はまた、追加のチャンバ、例えばビタミンおよび/または微量元素を含む第4または第5のチャンバを含んでもよい。
【0136】
マルチチャンバ容器製剤のpHは、好ましくは、再構成されたマルチチャンバ容器溶液中で4.5~8.oの値、例えば5.0、5.5、6.0、6.5、7.0または7.5のpHに達するように調整される。
【0137】
本開示はまた、経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者を処置する方法を提供する。本方法は、本明細書に開示されるマルチチャンバ容器およびアミノ酸製剤を使用するステップを含む。特に、本方法は、本明細書に開示されるマルチチャンバ容器および/またはアミノ酸製剤の内容物を患者に非経口投与するステップを含む。
【0138】
小児患者において、本発明による製剤は、2mg/kg/日~10g/kg/日、例えば2mg/kg/日~100mg/kg/日、100mg/kg/日~1000mg/kg/日または750mg/kg/日~7.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように投与される。用量は、小児患者の年齢および/または非経口経路以外による栄養摂取に応じて適合させる必要があり得る。例えば、小児患者が経腸栄養をさらに受ける場合、用量を適合または減少させなければならない場合がある。
【0139】
初期用量は低くてもよく(例えば、2mg/kg/日または3mg/kg/日)、徐々に増加させてもよく(例えば、5mg/kg/日、10mg/kg/日、50mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、500mg/kg/日、800mg/kg/日、1g/kg/日、2g/kg/日、5g/kg/日、7.5g/kg/日または10g/kg/日まで)、用量は、例えば乳児に乳児用調製粉乳および/または母乳をさらに与える非経口経路以外を介した栄養摂取に応じて適合させる必要があり得ることを理解されたい。必要な用量は、例えば、TPNを投与する流量を調整することによって投与することができる。例えば、NUMETA G13EなどのPN製品は、127.9ml/kg/日もの高い流量で投与することができる。転移性結腸直腸癌患者を対象とした第I相臨床試験中、水溶液としてpH7.7の酪酸アルギニンは、3g/kg/日の用量で忍容性があったことが知られている(Douillardら、Phase I trial of interleukin-2 and high-dose arginine butyrate in metastatic colorectal cancer.Cancer Immunology Immunotherapy 2000;49:56-61)。
【0140】
成人患者では、本発明による製剤は、2mg/kg/日~10g/kg/日、例えば10mg/kg/日~8g/kg/日、または500mg/kg/日~1g/kg/日、または1g/kg/日~10g/kg/日などの酪酸アルギニン用量に達するように投与される。用量は、例えば患者が経腸栄養をさらに受ける場合、非経口経路以外による栄養摂取に応じて適合させなければならない場合がある。必要な用量は、例えば、TPNを投与する流量を調整することによって投与することができる。例えば、Olimel N9E(実施例も参照)などのPN製品は、20ml/kg/日という低い流量で投与することができる。Pedsについては、最大流量127.9ml/kg/日のNumeta G13を投与することができる。
【0141】
好ましくは、酪酸アルギニンの最大用量は10g/kg/日であり、特に好ましくは1g/kg/日である。
【0142】
小腸は、十二指腸、空腸および回腸の3つの異なる領域を有する。最も短い十二指腸は、絨毛と呼ばれる小さな指状突起を介した化合物の吸収が準備される場所であり、そこから吸収が始まる。空腸は、腸細胞によるその内層を通じた吸収に特化している:十二指腸内の酵素によって予め消化された小さな栄養粒子が取り込まれる。回腸の主な機能は、ビタミンB12、胆汁酸塩、および空腸によって吸収されなかった他の消化産物などの化合物を吸収することである。絨毛は、主に上述の成熟した吸収性腸細胞で覆われた管腔内への突起であり、時折粘液を分泌する杯細胞を伴う。各絨毛は、(ヒトでは)長さが約0.5~1.6mmであり、その上皮の腸細胞から突出する多くの微絨毛を有し、これらは集合的に線条縁または刷子縁を形成する。これらの微絨毛の各々は、単一の絨毛よりもはるかに小さい。腸管絨毛は、この場合も腸内の円形の襞のいずれよりもはるかに小さい。陰窩は、絨毛の周囲の上皮の堀様の陥入であり、主に分泌に関与する若齢の上皮細胞で大部分が覆われている。重要なことに、陰窩の基部に向かって、幹細胞が連続的に分裂し、陰窩および絨毛上のすべての上皮細胞の供給源を提供する。
【0143】
健康な絨毛および陰窩は、それらの細胞内層と共に(
図19)、機能的小腸の重要なマーカーである。絨毛は、効率的な吸収のために腸管壁の内部表面積を増加させる。吸収面積の増加は、消化された栄養素(例えば、アミノ酸を含む)が拡散を介して半透性の絨毛に入り、これは短い距離でしか有効でないため有用である。換言すれば、(管腔内の流体と接触する)表面積の増加は、栄養素分子が移動する平均距離を縮め、次に拡散および栄養摂取の有効性を増加させる。絨毛は血管に接続され、それによって栄養素を運び去ることができる。萎縮した絨毛は、より短くなる傾向があり、陰窩は、より顕著でなくなる傾向があり、深さがより浅くなる。したがって、小腸の様々な部分、すなわち十二指腸、空腸および回腸の絨毛の長さならびに陰窩の深さを評価することにより、小腸の健康に関する関連情報が提供される(Burrinら、Translational Advances in Pediatric Nutrition and Gastroenterology:New Insights from Pig Models.Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。総PNは、より短い絨毛および陰窩、より多くの杯細胞、炎症および免疫細胞の増加、細胞間透過性の増加および血流の減少に関連する。
【0144】
実施例3.2にさらに記載するように、腸管の完全性および機能性に対する様々な短鎖脂肪酸の影響を理解すべく、それに応じて絨毛高さ、中間絨毛幅および陰窩深さを測定した。
【0145】
腸管上皮の完全性と腸管の健康状態との間に関係があることも知られている(Thomsonら、The Ussing chamber system for measuring intestinal permeability in health and disease,BMC Gastroenterology 2019;19:98)。バリア機能の障害は、腸管疾患、例えば潰瘍性大腸炎およびクローン病などに関連している。いわゆるUssingシステムは、透過性または十二指腸粘膜抵抗のエクスビボ測定を提供する。このシステムは、前述の十二指腸粘膜(経上皮)抵抗(TER)を測定することを可能にし、これは腸の完全性の全体的な測定値を与えるように決定することができる。低いTER値は、透過性の増加を示す。以前の研究では、炎症条件下でのTERの減少が、「封止」タイトジャンクションタンパク質のダウンレギュレーションに関連することが示されている。したがって、Ussingチャンバを用いて上皮の完全性を決定することは、腸の健康、特に局所炎症イベントに対する様々な栄養オプション(例えば、EN対PN)および様々なPN組成物(実施例3.5を参照)の影響を評価するための1つの選択肢を構成した。
【0146】
本発明の文脈におけるデータは、ブタを用いた研究から得られた。ブタは、ヒト小児栄養および胃腸病学をモデル化し、げっ歯類における機構研究を補完するためのますます重要な動物になっている。新生児ブタのサイズおよび生理学における比較優位性は、未熟児における消化管および肝臓の重要な疾患の新しい並進的かつ臨床的に関連するモデルをもたらした(Burrinら、Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。したがって、PN中の異なるSCFAならびにSCFA-PNの、腸バリア特性、局所および全身性の炎症および免疫ならびに腸細胞構造に対する標準PNおよび栄養の正常な摂取に対する有効性を評価するための比較データが、ブタモデルに基づいて得られた(非切除モデル、新生豚)。実験は、実施例1にさらに記載されるように行った。
【0147】
酪酸アルギニンを標準的な非経口栄養および他の酪酸誘導体、具体的にはトリブチリンおよびジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールと比較して評価するための前述の研究では、腸バリア機能に対する効果ならびに炎症および免疫に対する関連する局所および全身性の効果が決定された(実施例を参照)。表2は、研究の高レベルの結果をまとめたものであり、すべての介入群(酪酸誘導体補充製剤を用いてPNを受けた群)が、腸構造、全身性および局所炎症ならびに全身性および局所免疫に関して、標準PNを得た群よりも良好な結果を示したことを示している。これらの効果のいくつかは、主に酪酸ナトリウムまたはトリブチリンとして提供される酪酸塩の効果に焦点を当てた同様の研究において以前に記載されている。驚くべきことに、これまで非経口栄養組成物に使用されていない酪酸アルギニン誘導体を含む製剤について有意差が見出された。酪酸アルギニンは、絨毛高さ、陰窩深さおよびタイトジャンクション(十二指腸粘膜抵抗性)分析;炎症促進性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの決定によって示される局所および全身性の炎症、ならびにsIgAによって証明される局所免疫の改善によって証明されるように、腸構造に関して特に有益であることが証明された。それぞれの介入群について、認知効果または脳発達の差は見られなかった。
【表2】
表2:異なる酪酸誘導体でPNを受けた介入群に見出される効果のまとめ。+は(標準PNと比較して)プラスの効果を示し、++は非常にプラスの効果を示す。-は差異がないことを示す。結果は、「合計」として記載された絨毛高さおよび陰窩深さであり、これは、検討したすべてのセクションの結果を網羅する(十二指腸、空腸、回腸、結腸)。
【0148】
酪酸アルギニンを投与した介入群C、ならびに腸の健康に良い影響を及ぼす可能性があることが知られているトリブチリンを投与した介入群AおよびBの結果と、標準PNおよび経腸栄養(EN)との即時の高レベル比較は、酪酸アルギニン含有製剤が、腸バリア機能、局所炎症、局所免疫、腸構造および全身性炎症について試験したマーカーに対して予想外の優れた効果を有するという知見を裏付けている(表3)。全身性炎症について表3に示す傾向をさらに調査する。
【表3】
表3:腸バリア機能、局所炎症、局所免疫、腸構造および全身性炎症についての選択されたマーカーに対する酪酸アルギニンおよびトリブチリンの効果の高レベル比較。+++はP<0.01を示す;++はP<0.05を示す;+は正の傾向を示す;=は有意でないP値を示す;-は負の傾向を示す。(
1)標準PN(s-PN)と比較して。(
2)経腸栄養と同程度に良好;(
3)経腸よりも良好;(
4)炎症促進性サイトカインの減少、抗炎症性分泌のダウンレギュレーション;(
5)経腸に近い;(
6)局所炎症と同じ傾向、さらに確認を要する。
【0149】
したがって、小児患者、特に満期産児および早期産児において、本開示による製剤は、健康な腸の形態および/または成長および/または身体組成の発達を支持するために使用することができる。さらに、それらは免疫応答および腸内細菌叢を支持することができる。それらはまた、炎症の消散に有用であり、栄養利用を改善する。それらはまた、敗血症、慢性肺疾患、悪液質、炎症性疾患および/または壊死性腸炎の予防もしくは処置に使用することができる。
【0150】
本開示による製剤は、乳児、特に早期新生児に非経口栄養を提供するのに特に有用であるが、成人に完全または部分的な非経口栄養を提供するために使用することもできる。
【0151】
本発明による製剤は、成人患者の局所および全身性の免疫応答、腸内細菌叢を特異的に支持し、局所炎症を軽減する。したがって、それらは、炎症の消散のために、および炎症のリスクがある患者または既に炎症を発症した患者における栄養利用を改善するために使用することができる。さらに、それらは敗血症、慢性肺疾患、悪液質または炎症性疾患の予防もしくは処置に使用することができる。例えば、本発明による製剤は、癌患者における悪液質および/または免疫応答の低下、重症患者における敗血症、代謝ストレスを受けた患者、または短腸症候群もしくは腸不全を有する患者における非経口栄養関連の問題の処置もしくは予防に使用され得る。それらはまた、重症患者の免疫応答を支持するため、癌患者の免疫応答を支持するため、免疫不全患者の免疫応答を支持するため、代謝ストレスを受けた患者の腸内細菌叢を支持するため、および栄養失調患者の栄養利用を改善するために使用することができる。
【0152】
コリン誘導体を含む脂質エマルジョンが、肝代謝機能障害、炎症および進行型の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)をもたらし得、特に非経口栄養において、特に小児患者の処置においてだけでなく成人患者においても問題となる肝脂肪症を回避および/または処置する可能性を有することが知られている(国際公開第2019/0232054号、国際公開第2019/232044号)。NAFLDには、単純脂肪症から、肝硬変および肝細胞癌に進行し得る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)までの一連の疾患が含まれる。したがって、第3のチャンバ内に脂質エマルジョンを含み、コリン誘導体、好ましくは塩化コリンまたはGPCをさらに含む本発明によるマルチチャンバ容器は、患者、特に小児患者の完全非経口栄養において生じる2つの主要な問題に対処することができる。したがって、本開示はまた、小児および/または成人患者における肝脂肪症、肝代謝機能障害、炎症および進行型の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を処置する方法を提供する。具体的には、マルチチャンバ容器およびそれに含まれる製剤を使用して、肝脂肪症、肝代謝機能障害、炎症、および進行型の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と、腸構造の分解である腸バリアの低下との両方を発症しているかもしくは発症するリスクがあり、慢性または急性炎症(局所および全身性)の発生に苦しんでおり、局所および全身性の免疫の低下を発症しているかもしくは発症するリスクがある長期TPN患者を処置することができる。
【0153】
本発明による製剤は、当該技術分野で公知の方法に従って、例えば、中心または末梢カテーテルを通して投与することができるか、または皮下投与することができる。
【実施例】
【0154】
実施例1:材料および方法
ブタモデルを選択して、経腸、標準的な非経口、および非経口栄養の効果を評価し、標準的なPN製剤に様々な酪酸塩誘導体を補充した(表4を参照)。現在、妊娠90%で生まれた早産ブタは、妊娠75%(30週~32週)のヒト早産児と同等と推定されている(Burrinら、Translational Advances in Pediatric Nutrition and Gastroenterology:New Insights from Pig Models.Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。
1.1 研究設計
【0155】
新生ヨークシャー/ランドレース交配仔ブタ(n=72;同じ同腹仔から一度に6回、12回繰り返す)は、初乳摂取および鉄補充のために雌ブタを48時間飼育した後にOak Hill Genetics社(イリノイ州ユーイング在)から入手した。仔ブタを群(12匹の仔ブタ/群)に無作為に分けて、表4に示すように10日間の栄養を与えた。
【表4】
表4:10日間にわたって仔ブタの群に提供された栄養。
【0156】
使用した製剤はすべてOlimel N9Eに基づくものであった(表4参照)。トリブチリンおよび1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールの補充を3CB製品Olimel N9Eの脂質チャンバに提供し、酪酸アルギニンをアミノ酸チャンバに添加した。与えられたすべての濃度は、最終的な再構成溶液(TPN)に関する。したがって、投与された製剤および濃度は、サプリメントが添加された最初のチャンバに関係なく、完全に同等である。投与されたOlimel N9Eの各バッグに、希釈後の静脈内注入のためのビタミンを含むバルクパッケージInfuvite Pediatric(Baxter Healthcare社)を1つ添加した。微量元素を含むMICRO+6 Pediatric Injection(Baxter Healtchare Corp.社)1バイアルをOlimel N9Eの各バッグに添加した。
【表5】
表5:本研究で使用した組成物。LEは脂質エマルジョンを意味する。下線が引かれた値は、サプリメントの添加により、Olimel N9Eのどの成分が変化したかを示す。Olimel N9E単独:アミノ酸チャンバ:14.2%;炭水化物チャンバ27.5%;脂質エマルジョンチャンバ20.0%。
【0157】
酪酸塩濃度を、同様に構造化された研究(Bartholomeら、J Parent Nutr 2014;28(4):210-223)において良好に忍容され得ることが知られている範囲で選択した。253Kcal/kg/日の1日注入速度で、12.9g/kg/日の1日アミノ酸含有量を達成するように提供した。栄養不良のリスクを最小限に抑えるために手術直後の1日目にのみ、注入速度は307Kcal/kg/日であった。ターンオーバー周期を完全に把握するため、5~7日間の典型的な腸管上皮細胞のターンオーバー時間に基づき10日間の試験期間を選択した。
1.2 外科手技
【0158】
到着したら(1日目)、仔ブタに中心静脈ラインを留置した。右鎖骨領域に3cmの切開を行い、カテーテル挿入のために外部頸静脈を分離した(3.5フレンチポリ塩化ビニルカテーテル)。鈍的切開後、頸静脈を、中心静脈ライン挿入部位に対して頭蓋(解剖学的に頭部に近い)および心臓(解剖学的に心臓に近い)に留置された2本の3-0絹縫合糸で結紮した。頭蓋結紮が結紮されたら、頸静脈に小さな切開を行って、事前に測定した中心静脈ライン(3.5フレンチPVCカテーテル)を挿入し、PN注入のために上大静脈の外頸静脈を通して6cm(事前に測定し、6cmでマークした)挿入した。中心静脈ラインを留置した後、ラインを固定するために心臓縫合糸を結紮し、末端は皮下トンネルで肩甲骨の間から出た。留置したら、PNポンプに付着するまで、中心静脈ラインをヘパリン化生理食塩水で洗い流した。切開部位を、連続する皮下縫合パターンでバイクリルを使用して単層閉鎖で閉じた。縫合部位を監視し、Transporeテープで固定した滅菌ガーゼを被せたワセリンで覆った。
1.3 動物の管理および収容
【0159】
動物を一定の管理下で回復させ、呼吸数、心拍数、疼痛の徴候について監視し、意識の回復を確実にした。回復後、仔ブタに、カテーテルおよび注入ラインを保護して自由な移動を可能にするために取り付けられたスイベルテザー(Lomir Biomedical Inc.社(カナダケベック州在))を取り付けたジャケットを装着する。若年であり、栄養および水分補給を伴わない時間を最小限にする必要があるため、術前のジャケットの馴致は行わなかった。PNは、栄養失調のリスクを最小限に抑えるために、手術直後に307Kcal/kg/日を提供するように投与した。PNの投与量は、外科的ストレスを補うために、この年齢とサイズの仔ブタの栄養要求量(200Kcal/kg/日)の120%(20%高い)であった。毎日、動物は、研究目的および動物の健康目的の両方のために臨床評価を受けた。完全な臨床評価:体重(グラム)、胴回り(cm)、体温、呼吸数、心拍数、活動レベル、カテーテル挿入部位の治癒、ならびに動物の行動および疼痛スコアを毎日行った。部分的な臨床評価(体重および胴回りの測定値を差し引いたもの)を夕方ごとに実施して、仔ブタの健康を再評価した。
1.4 栄養介入
【0160】
代用乳(OptiLac Baby Pig Milk Replacer;Hubbard Feeds社(アメリカ合衆国ミネソタ州マンケイト在)を、製造元の推奨に従って毎日新しく調製した。1日の朝の体重に基づいて代用乳の容量を計算して、253kcal/kgを提供した。調製した量の代用乳をE群に提供し、自由に摂取させた。
【0161】
すべてのPN溶液は、3イン1溶液(バッグ容量:1000mL)として製造元(Baxter Healthcare Corp.社)によって配合され、各実験サイクルの開始時に送達され、投与中は40℃に保たれた。各PN溶液は、使用するまで別個のコンパートメントにデキストロース、アミノ酸および脂質エマルジョンを含有していた。PN溶液はまた、割り当てられたビタミン、ミネラルおよび実験量の酪酸誘導体を含有していた(表4および5)。すべてのPN溶液を、AVA 6000CMS MultiTherapy注入ポンプ(AVA Biomedical社(イリノイ州ウィルメット在))を使用して連続的に注入して、253kcal/kg/日および12.8グラムのアミノ酸/kg/日を提供した。すべての仔ブタの等カロリー供給を確実にするために、すべての代用乳の供給およびPN注入を行った。平均エネルギー送達(
図1)および平均タンパク質送達(
図2)を記録した。図は、試験群が同じ条件下で調査されたことを実証している。
1.5 認知評価
【0162】
瞬目反射条件づけは、学習および記憶に不可欠な海馬の関与を伴う小脳および関連する脳幹回路を評価するための確立されたパブロフ法である。瞬目反射条件づけ手順は、消音チャンバ内で行われた。ファンをチャンバの内部に配置し、周囲のノイズ(70dB)について実験全体を実行した。チャンバの壁に取り付けられたスピーカは、トーン条件刺激(CS)を送達した。小型プラスチック製空気パフ送達ノズル(San Diego Instruments社(カリフォルニア州サンディエゴ在)をブタの左眼から約2cmのところに固定して、無条件刺激(US)を送達した。試験3日目にコンディショニング装置に適合させた後、試験4~8日後に合計5回のCS-US調整セッションを行った。各コンディショニングセッションは、合計100回の試行/セッションについて、90回のCS-USペアリング試行および10回のCS単独試行からなった。第10試験ごとにCS単独試験を行った。CS-US対試験には、500msの聴覚CS(1kHz、85dBトーン)、400msの刺激間間隔(ISI)、続いて100msの角膜エアパフUS(10psi)が含まれた。CSとUSの両方を全く同時に終了させた。CS単独試行は、500ms聴覚CS(1 kHz、85dBトーン)のみからなった。各セッションを通して20秒のランダムな試行間間隔があった。各コンディショニングセッションは、35分以下継続した。コンディショニングセッションの瞬間的な赤外線反射データの記録には、San Diego Instruments社の瞬目ソフトウェアを使用した。結果を
図14に示す。群間で有意差は検出されなかった。
1.6 脳構造発達および身体組成の評価
【0163】
研究9日目に、仔ブタを、Agilent 9.4 TeslaMRIシステム(カリフォルニア州サンタクララ在)を使用して磁気共鳴画像法(MRI)に供して、脳構造の発達および身体組成を評価した。心拍数および呼吸をMRIスキャン全体の間監視した。海馬を標的とする脳の解剖学的評価のために、3D T1強調磁化調製勾配-エコーシーケンス:反復時間=1,900 msを使用して画像を得た:エコー時間=2.48ms;反転時間=900ms、フリップ角=9°、行列=256×256(512×512に補間)、スライス厚=1.0mm。身体組成評価のために、マルチスライス、スピンエコー技術を使用して、体幹領域(最長筋脂肪/筋肉)を撮像した:エコー時間=20ms;回復時間=400ms、4信号平均化。各画像のスライス厚は4.9mmで、画像間に隙間はなかった。総画像化時間は仔ブタ1匹当たり1時間を超えなかった。脳および身体組成物走査の両方を含むために、総走査時間は約60分であった。OsiriX(スイス国ベルネックス在)を用いてMRI画像を解析した。脳構造は、試験群間で有意差を示さないことが見出された。試験群の仔ブタの平均体重および腹囲も監視した。
図3は、すべての試験群で体重が同様に発達したことを示す。
図4は、平均腹囲も試験群で同様に発達したことを示す。
1.7 研究サンプルの収集
【0164】
研究期間が完了したら、動物を、中心静脈ラインを介して送達される致死的注射(1mL/10ポンド;致命的なプラス;Veterinary Laboratories,Inc.社(カンザス州レネックサ在))によって安楽死させた。化学、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)測定のために尿および血液サンプルを収集した。組織形態学、電気生理学、栄養素輸送およびELISA試験のために、消化管を取り出し、異なる解剖学的セグメントに分離した。組織学的評価および化学的評価のために、各仔ブタから腎臓、肝臓、脾臓および筋肉サンプルも採取した。便サンプルを収集し、微生物叢分析のために保存した。試験群の平均結腸重量を決定した(
図5)。ここで、PNを補充した酪酸誘導体を得たA群~D群および経腸栄養を受けた群は、標準PNを得た群よりも優れていた。
実施例2:PN組成物
【0165】
使用した組成物を表4および表5に記載する。各酪酸塩誘導体をバッグの各チャンバに配合し、滅菌後、脂質チャンバ内(トリブチリンおよびDPBG組成物用)で遊離酪酸を測定し、アミノ酸チャンバ内の酪酸塩含有量を求めた。表5に示すように、非常に限られた量の酪酸のみがバッグの滅菌中に放出された。アミノ酸チャンバの場合、滅菌後の酪酸塩の回収は、導入されたものに対応する。したがって、滅菌中または滅菌後に塩の劣化は生じなかった。また、経時的な組成物の安定性(12ヶ月、25℃、40% RH)を確認した。遊離酪酸は、脂質エマルジョンの液液抽出によるサンプル調製後、またはアミノ酸溶液から直接、GC-FIDによって定量することができる。これらの方法は当該技術分野で公知である。
実施例3:試験エンドポイントを評価する方法
3.1 フィッシャーの最小有意差(LSD)検定
【0166】
フィッシャーの最小有意差(LSD)検定の方法は、例えば、WilliamsおよびAbdiによって、Neil Salkind(Ed.),Encyclopedia of Research Design.Thousand Oaks,CA:Sage.2010に記載されている。フィッシャーのLSD検定は、基本的に個々の検定のセットである。これは、ANOVAに対するフォローアップとしてのみ使用される。一元(または二元)分散分析(ANOVA)の後、ある群の平均を別の群の平均と比較することが可能である。これを行う1つの方法は、フィッシャー最小有意差(LSD)検定を使用することである。この検定は、2つの手段の間の最小有意差(すなわち、LSD)を、あたかもこれらの手段が比較される唯一の手段(すなわち、t検定を用いて)であるかのように計算し、LSDよりも大きい有意差を宣言する原則に従っている。
3.2 回腸および空腸切片の組織形態学および調製
【0167】
ホルマリン固定腸サンプルをパラフィンに包埋し、ミクロトームで約5μmの厚さにスライスし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した(
図6)。絨毛高さ、中間絨毛幅、および陰窩深さを、Nikon Optiphot-2顕微鏡(Nikon社(ニューヨーク州メルヴィル在)Melville,NY)およびImage-Pro Expressソフトウェア(バージョン4.5;Media Cybernetics,Inc(メリーランド州シルバースプリング))を使用して、8~10個の良好に配向した絨毛および陰窩において測定した。絨毛表面積(絨毛高さ×絨毛中央幅)も計算した。また、腸管周囲長を測定し、腸管表面積を推定した。結果を
図7~12に示す(詳細についてはそこを参照)。表6は、試験群の組織形態学的分析の結果を示す。表は、腸の異なる部分、すなわち十二指腸、空腸、回腸および結腸における絨毛高さおよび陰窩深さの平均差(各介入群(A、B、C、D)対PN群の%)をまとめたものである。介入群は、s-PN群と比較して改善された絨毛高さを示す。全体で、C群は、腸構造の最も顕著な改善を示す。
【表6】
表6:介入群の組織形態学的結果は、腸の異なる部分における絨毛高さおよび陰窩深さの平均差(各介入群(A、B、C、D)対PN群の%)を提供する。
3.3 血漿グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)濃度
【0168】
血漿サンプルを75%エタノールで抽出し、4℃で30分間3000xgで遠心分離することによって、血漿GLP-2濃度を定量する。上清をデカントし、凍結乾燥し、アッセイ緩衝液(80mmol/L Na3PO4
-、0.01mmol/Lバリン-ピロリジド、0.1%(w/v)ヒト血清アルブミン、10mmol/L EDTA、0.6mmol/Lチメロサール、pH7.5)中で元の血漿容量に再構成した。約300μLの抽出サンプルおよびヒトGLP-2標準を100μLのウサギGLP-2抗血清(最終希釈1:25,000)と共に4℃で24時間インキュベートし、その後、遊離および結合ペプチドを血漿被覆チャコール(使用される標準規格についてBartholomeら、J Parent Nutr 2004;28(4):210-223も参照)への吸収によって分離する。この抗血清は、ヒトGLP-2のNH2末端断片に対して産生され、ヒトGLP-2およびブタGLP-2の両方のNH2末端領域を特異的に認識する。
3.4 IgA定量
【0169】
IgAレベル測定用の小腸プローブは、冷却したHBSS(ハンクス平衡塩類溶液)で小腸を洗い流すことによって得た。気道IgAレベルを測定するための鼻および気管支肺胞洗浄を、麻酔下での1mLのリン酸緩衝生理食塩水による洗浄によって得た。洗浄液をIgA分析まで-80℃の冷凍庫で保存した。IgAを、プレートをコーティングするためのポリクローナルヤギ抗マウスIgA(Sigma社)、標準としての精製マウスIgA(Zymed Laboratories社(カリフォルニア州サンフランシスコ在))、およびホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgA(Sigma社)を使用するサンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイによって小腸および気道洗浄液で測定した。結果を
図13に示す。
3.5 十二指腸粘膜抵抗
【0170】
十二指腸粘膜抵抗性を、公知の方法に従って、また、Tappendenら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition Enhances Functional Adaptation to Intestinal Resection in Rats.Gastroenterology 1997;112:792-802に従って決定した。腸片(1cm2)を切り出し、37℃の酸素化クレブス重炭酸緩衝液(pH7.4)を含むインキュベーションチャンバに、組織を平らなシートとして装着した。組織ディスクをこの緩衝液中で15分間プレインキュベートして、この温度で平衡化させた。プレインキュベーション後、チャンバを、[3H]イヌリンおよび酸素化クレブス重炭酸塩(pH7.4および37℃)中の様々な14Cプローブ分子を含有する他のビーカーに移した。溶質の濃度は、D-グルコースでは4、8、16、32または64mmol/L、L-グルコースでは16mmol/Lであった。プレインキュベーション溶液およびインキュベーション溶液を同一の撹拌速度で円形磁気バーと混合し、撹拌速度をストロボによって調整した。600rpmの撹拌速度を選択して、腸管非撹拌水の低い有効抵抗を達成した。チャンバを除去し、冷たい生理食塩水で組織を約5秒間素早くすすいで実験を終了した。次いで、露出した粘膜組織を円形鋼パンチでチャンバから切り出した。すべてのプローブについて、組織を55℃のオーブンで一晩乾燥させた。組織の乾燥重量を決定し、サンプルを0.75N NaOHで鹸化し、シンチレーション液を加え(Beckman Ready Solv HP;Beckman社(オンタリオ州ミシサガ)、2つの同位体の可変消光を補正するために外部標準化技術の容積によって放射能を決定した。粘膜重量は、摂取研究に使用しなかった隣接サンプルから腸を掻き取った後に決定した。摂取量を測定するために使用されるサンプル中の粘膜の重量は、腸管サンプルの乾燥重量に粘膜からなる腸壁のパーセンテージを掛けることによって決定した。全群の測定結果を表7に示す。
【0171】
介入群A、B、CおよびDは、十二指腸粘膜抵抗に関してP(S-PN)参照群と有意に異なることが見出された(表2参照)。さらに、すべての介入群は、E群(経腸栄養)よりも劣っていなかったか、または統計学的に異なっていなかった。介入群Dは、E群(経腸)とほぼ同じくらい良好な十二指腸抵抗をもたらした。注目すべきことに、C群は、他の介入群と比較して有意に低い粘膜抵抗性の喪失を示し、経腸E群よりもさらに良好であり、酪酸アルギニンの添加が、局所炎症に対する低い感受性を含む、十二指腸粘膜抵抗性の維持または支持および腸の健康の改善に驚くほど有効であることを示している。
【表7】
表7:フィッシャーの最小有意差(LSD)検定によって判定した、S-PN(標準PN)およびEN(経腸栄養)と比較した、それぞれの介入A群~Dの平均十二指腸粘膜抵抗。C群(AB-PN)は、他の介入群および経腸栄養群Eと比較して有意に良好な耐性を示す。
3.6 サイトカインの定量
【0172】
Miloら、Effects of Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition on Intestinal Pro-Inflammatory Cytokine Abundance.Digestive Diseases and Sciences 2002;47:2049-2055に従って、ENおよびPNと比較した介入群のIl-6、Il-1β、TNF-αおよびIl-10血清レベルを決定することによって、全身性炎症に対するそれぞれのサプリメントの影響を調査した。空腸および回腸サンプルを二重蒸留水中でホモジナイズし、ホモジネートおよび血漿サンプルに対してBradfordタンパク質アッセイ(Biorad社(アメリカ合衆国カリフォルニア州ハーキュリーズ在))を実施した。各サンプルからのタンパク質(30μg)を煮沸により変性させ、12.5%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてサイズごとに分離した。分離したタンパク質を、セミドライ式転写装置(Biorad社)を用いてポリフッ化ビニリデン膜(Biorad社)に転写した。TNF-α、IL-1β、Il-10およびIL-6についてのウエスタンブロット分析を、ブタ特異的ポリクローナル抗体(Endogen社(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウーバン在)を使用して行った。マウス抗ブタモノクローナルTNF-α抗体を使用して、TNF-α(17,000kDa)を検出した。IL-1βおよびIL-6に特異的なウサギ抗ブタポリクローナル抗体を使用して、IL-1β(17,500kDa)、Il-10(18,600kDa)およびIL-6(26,000kDa)を検出した。Opti-4 CNキット(Biorad社)を使用して膜を現像し、FOTO/Analyst Image Analysis System(Fotodyne,Inc.社(アメリカ合衆国ウィスコンシン州ハートランド在)を用いて写真撮影した。TNF-α、IL-1β、IL-6およびIl-10の濃度測定は、Collage Image Analysis Software 4.0(Fotodyne,Inc社)を用いて行った。結果を
図15(Il-6)、
図16(Il1-β)、
図17(TNF-α)および
図18(Il-10)に示す。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経口投与用のマルチチャンバ容器であって、
(i)第1のチャンバ内に存在する糖質製剤と、
(ii)第2のチャンバ内に存在するアミノ酸製剤と
を含み、
少なくとも前記第1のチャンバまたは前記第2のチャンバが酪酸アルギニンを含む、マルチチャンバ容器。
【請求項2】
(iii)第3のチャンバ内に存在する脂質製剤をさらに含み、少なくとも前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、または前記第3のチャンバが酪酸アルギニンを含む、請求項1に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項3】
前記酪酸アルギニンが、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で存在する、請求項1または2に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項4】
前記酪酸アルギニンが、前記第2のチャンバのアミノ酸製剤中に存在する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項5】
前記アミノ酸製剤が、1つもしくはそれを超えるアミノ酸、ジペプチドおよび/またはオリゴペプチドの水溶液と、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩化合物を含む電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含み、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノグルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩からなる有機酸、または硫酸塩、塩化物からなる無機酸の多価アニオンを含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のマルチチャンバ容器。
【請求項6】
前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項7】
前記酪酸アルギニンが、前記第1チャンバの前記炭水化物製剤中に存在する、請求項1から3および5から6までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項8】
前記炭水化物製剤が、炭水化物製剤100mL当たり1g~100gのグルコースおよび/またはマルトースおよび/またはトレハロースと、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩またはグリセロリン酸塩からなる電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項9】
前記酪酸アルギニンが、前記第3のチャンバの前記脂質製剤中に存在する、請求項2、3、5、6および8のいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項10】
前記脂質製剤が、脂質製剤100ml当たり1g~40gの油の量で水相および油相を含む、請求項2から9までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項11】
前記脂質製剤が、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、トコトリエノール、パルミチン酸アスコルビルおよびアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの薬学的に許容され得る酸化防止剤を含む、請求項2から10までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項12】
前記油相が、オリーブ油、ダイズ油、ベニバナ油、ヤシ油、魚油、魚油エキス、クリル油、中鎖トリグリセリド(MCT)、藻類油、真菌油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム核油、およびナタネ油からなる群から選択される1つまたはそれを超える油を含む、請求項10または11に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項13】
前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、および前記第3のチャンバのうちの少なくとも1つが、ビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、請求項1から12までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項14】
前記マルチチャンバ容器が、ビタミンおよび/または微量元素製剤を含有する少なくとも1つの更なるチャンバを含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項15】
酪酸アルギニンが、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり2mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、請求項1から14までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項16】
前記第3のチャンバ内の前記脂質製剤が、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度のトリブチリンを含み、酪酸当量の総濃度が再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない、請求項2から15までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項17】
前記酪酸アルギニンが、前記アミノ酸チャンバ内に存在する、請求項16に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項18】
前記再構成されたマルチチャンバ容器の前記製剤のpHが4.5~8.0である、請求項1から17までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
【請求項19】
非経口投与
における使用のためのアミノ酸製剤であって、前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で酪酸アルギニンを含む、アミノ酸製剤。
【請求項20】
酪酸アルギニンが、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.5mmol~600mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~500mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~300mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり2mmol~250mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~150mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~75mmol、または前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、請求項19に記載のアミノ酸製剤。
【請求項21】
前記アミノ酸製剤が、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、システイン(Cys)、オルニチン(Orn)、タウリン、アスパラギン(Asn)、アセチル-システイン(Ac-Cys)、およびアセチル-チロシン(Ac-Tyr)からなる群から選択される1つもしくはそれを超えるアミノ酸溶液を含み、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩およびグリセロリン酸塩からなる群から選択される1つもしくはそれを超える電解質を必要に応じてさらに含む、請求項19または20に記載のアミノ酸製剤。
【請求項22】
前記製剤が、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)、グリシル-グルタミン(Gly-Gln)、グリシル-チロシン(Gly-Tyr)およびアラニル-チロシン(Ala-Tyr)からなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸および/またはジペプチドからなる1つもしくはそれを超えるオリゴペプチドを含む、請求項19から21までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項23】
前記製剤が、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノ-グルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩から選択される有機酸、ならびに/または硫酸塩および塩化物から選択される無機酸の1つもしくはそれを超えるアニオンを含む、請求項19から22までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項24】
前記製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、請求項19から23までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項25】
前記製剤が、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)塩およびグリセロホスホコリン(GPC)からなる群から選択される、アミノ酸製剤1リットル当たり20mg~25gのコリン当量を含む、請求項19から24までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項26】
前記アミノ酸製剤がビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、請求項19から25までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項27】
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者に非経口投与するための、請求項1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器から再構成された組成物または請求項19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
【請求項28】
前記患者が小児または成人患者である、請求項27に記載の非経口投与用組成物。
【請求項29】
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、請求項27または28に記載の非経口投与用組成物。
【請求項30】
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項31】
患者の腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するための、請求項27から30までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項32】
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者を
処置するための、請求項1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器または請求項19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤から再構成された組成物。
【請求項33】
前記患者が小児または成人患者である、請求項32に記載の
組成物。
【請求項34】
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、請求項32または33に記載
の組成物。
【請求項35】
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
【請求項36】
前記患者が、腸における全身性炎症および/または局所炎症に罹患している、請求項32から34までのいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項37】
腸および/または肺における局所免疫を維持または改善するための、請求項32から35までのいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項38】
前記組成物が、2mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項32から36までのいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項39】
前記組成物が、100mg/kg/日~2.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項32から36までのいずれか1項に記載の
組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0172
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0172】
Miloら、Effects of Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition on Intestinal Pro-Inflammatory Cytokine Abundance.Digestive Diseases and Sciences 2002;47:2049-2055に従って、ENおよびPNと比較した介入群のIl-6、Il-1β、TNF-αおよびIl-10血清レベルを決定することによって、全身性炎症に対するそれぞれのサプリメントの影響を調査した。空腸および回腸サンプルを二重蒸留水中でホモジナイズし、ホモジネートおよび血漿サンプルに対してBradfordタンパク質アッセイ(Biorad社(アメリカ合衆国カリフォルニア州ハーキュリーズ在))を実施した。各サンプルからのタンパク質(30μg)を煮沸により変性させ、12.5%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてサイズごとに分離した。分離したタンパク質を、セミドライ式転写装置(Biorad社)を用いてポリフッ化ビニリデン膜(Biorad社)に転写した。TNF-α、IL-1β、Il-10およびIL-6についてのウエスタンブロット分析を、ブタ特異的ポリクローナル抗体(Endogen社(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウーバン在)を使用して行った。マウス抗ブタモノクローナルTNF-α抗体を使用して、TNF-α(17,000kDa)を検出した。IL-1βおよびIL-6に特異的なウサギ抗ブタポリクローナル抗体を使用して、IL-1β(17,500kDa)、Il-10(18,600kDa)およびIL-6(26,000kDa)を検出した。Opti-4 CNキット(Biorad社)を使用して膜を現像し、FOTO/Analyst Image Analysis System(Fotodyne,Inc.社(アメリカ合衆国ウィスコンシン州ハートランド在)を用いて写真撮影した。TNF-α、IL-1β、IL-6およびIl-10の濃度測定は、Collage Image Analysis Software 4.0(Fotodyne,Inc社)を用いて行った。結果を
図15(Il-6)、
図16(Il1-β)、
図17(TNF-α)および
図18(Il-10)に示す。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
非経口投与用のマルチチャンバ容器であって、
(i)第1のチャンバ内に存在する糖質製剤と、
(ii)第2のチャンバ内に存在するアミノ酸製剤と
を含み、
少なくとも前記第1のチャンバまたは前記第2のチャンバが酪酸アルギニンを含む、マルチチャンバ容器。
(項目2)
(iii)第3のチャンバ内に存在する脂質製剤をさらに含み、少なくとも前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、または前記第3のチャンバが酪酸アルギニンを含む、項目1に記載のマルチチャンバ容器。
(項目3)
前記酪酸アルギニンが、再構成されたマルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で存在する、項目1または2に記載のマルチチャンバ容器。
(項目4)
前記酪酸アルギニンが、前記第2のチャンバのアミノ酸製剤中に存在する、項目1から3までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目5)
前記アミノ酸製剤が、1つもしくはそれを超えるアミノ酸、ジペプチドおよび/またはオリゴペプチドの水溶液と、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩化合物を含む電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含み、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノグルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩からなる有機酸、または硫酸塩、塩化物からなる無機酸の多価アニオンを含有する、項目1から4までのいずれか1項記載のマルチチャンバ容器。
(項目6)
前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、項目1から5までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目7)
前記酪酸アルギニンが、前記第1チャンバの前記炭水化物製剤中に存在する、項目1から3および5から6までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目8)
前記炭水化物製剤が、炭水化物製剤100mL当たり1g~100gのグルコースおよび/またはマルトースおよび/またはトレハロースと、必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩またはグリセロリン酸塩からなる電解質の群から選択される1つもしくはそれを超える電解質とを含む、項目1から7までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目9)
前記酪酸アルギニンが、前記第3のチャンバの前記脂質製剤中に存在する、項目2、3、5、6および8のいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目10)
前記脂質製剤が、脂質製剤100ml当たり1g~40gの油の量で水相および油相を含む、項目2から9までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目11)
前記脂質製剤が、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、トコトリエノール、パルミチン酸アスコルビルおよびアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの薬学的に許容され得る酸化防止剤を含む、項目2から10までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目12)
前記油相が、オリーブ油、ダイズ油、ベニバナ油、ヤシ油、魚油、魚油エキス、クリル油、中鎖トリグリセリド(MCT)、藻類油、真菌油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム核油、およびナタネ油からなる群から選択される1つまたはそれを超える油を含む、項目10または11に記載のマルチチャンバ容器。
(項目13)
前記第1のチャンバ、前記第2のチャンバ、および前記第3のチャンバのうちの少なくとも1つが、ビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、項目1から12までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目14)
前記マルチチャンバ容器が、ビタミンおよび/または微量元素製剤を含有する少なくとも1つの更なるチャンバを含む、項目1から13までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目15)
酪酸アルギニンが、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり2mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、項目1から14までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目16)
前記第3のチャンバ内の前記脂質製剤が、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度のトリブチリンを含み、酪酸当量の総濃度が再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1401mmolを超えない、項目2から15までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目17)
前記酪酸アルギニンが、前記アミノ酸チャンバ内に存在する、項目16に記載のマルチチャンバ容器。
(項目18)
前記再構成されたマルチチャンバ容器の前記製剤のpHが4.5~8.0である、項目1から17までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器。
(項目19)
非経口投与用のアミノ酸製剤であって、前記アミノ酸製剤が、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.05mmol~1400mmolの濃度で酪酸アルギニンを含む、アミノ酸製剤。
(項目20)
酪酸アルギニンが、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり0.5mmol~600mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~500mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり1mmol~300mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり2mmol~250mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~150mmol、前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~75mmol、または前記アミノ酸製剤1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在する、項目19に記載のアミノ酸製剤。
(項目21)
前記アミノ酸製剤が、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、システイン(Cys)、オルニチン(Orn)、タウリン、アスパラギン(Asn)、アセチル-システイン(Ac-Cys)、およびアセチル-チロシン(Ac-Tyr)からなる群から選択される1つもしくはそれを超えるアミノ酸溶液を含み、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン酸塩およびグリセロリン酸塩からなる群から選択される1つもしくはそれを超える電解質を必要に応じてさらに含む、項目19または20に記載のアミノ酸製剤。
(項目22)
前記製剤が、アセチル-チロシン(Ac-Tyr)、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)、グリシル-グルタミン(Gly-Gln)、グリシル-チロシン(Gly-Tyr)およびアラニル-チロシン(Ala-Tyr)からなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸および/またはジペプチドからなる1つもしくはそれを超えるオリゴペプチドを含む、項目19から21までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目23)
前記製剤が、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコノ-グルコヘプトン酸塩、グルコース-リン酸塩から選択される有機酸、ならびに/または硫酸塩および塩化物から選択される無機酸の1つもしくはそれを超えるアニオンを含む、項目19から22までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目24)
前記製剤が、前記アミノ酸製剤100mL当たり約1g~30gのアミノ酸を含む、項目19から23までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目25)
前記製剤が、塩化コリン、重酒石酸コリン、クエン酸コリン、グルコン酸コリン、リンゴ酸コリン、シチジン二リン酸コリン(CDP)塩およびグリセロホスホコリン(GPC)からなる群から選択される、アミノ酸製剤1リットル当たり20mg~25gのコリン当量を含む、項目19から24までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目26)
前記アミノ酸製剤がビタミンおよび/または微量元素をさらに含む、項目19から25までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目27)
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者に非経口投与するための、項目1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器から再構成された組成物または項目19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤。
(項目28)
前記患者が小児または成人患者である、項目27に記載の非経口投与用組成物。
(項目29)
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、項目27または28に記載の非経口投与用組成物。
(項目30)
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、項目27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
(項目31)
患者の腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するための、項目27から30までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
(項目32)
経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を必要とする患者を、項目1から18までのいずれか1項に記載のマルチチャンバ容器または項目19から26までのいずれか1項に記載のアミノ酸製剤から再構成された組成物で処置する方法。
(項目33)
前記患者が小児または成人患者である、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記患者が、集中治療患者、重症患者、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者である、項目32または33に記載の非経口投与用組成物。
(項目35)
前記患者が、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、項目27から29までのいずれか1項に記載の非経口投与用組成物。
(項目36)
前記患者が、腸における全身性炎症および/または局所炎症に罹患している、項目32から34までのいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
腸および/または肺における局所免疫を維持または改善するための、項目32から35までのいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記組成物が、2mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目32から36までのいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
前記組成物が、100mg/kg/日~2.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目32から36までのいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】