(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】強誘電体層を含む層状固体素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20230629BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20230629BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20230629BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20230629BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20230629BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/079
H10N30/076
H10N30/88
H03H3/02 B
H03H9/17 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574254
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2021064393
(87)【国際公開番号】W WO2021244978
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513288470
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・フランシュ・コンテ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アウシュリネ・バールタシテ
(72)【発明者】
【氏名】サビーナ・クプレナート
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・アスティエ
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB08
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108KK01
5J108MM11
(57)【要約】
層状固体素子(100)は、層状固体素子の基板(10)に対してX又は33°Y配向を有する結晶材料Li1-x(Nb1-yTay)1+xO3+2x-zの強誘電体層(2)を含む。強誘電体層は、化学式LkNirO1.5・(k+r)+w又はLn+1NinO3n+1+δ(Lはランタニド元素)のうちの1つを有するバッファ層(1)からエピタキシャル成長される。このような層状固体素子は、薄膜バルク音響共振器を形成することができ、RFフィルタなどの集積電子回路、又は集積光変調器などの誘導光デバイスに有用であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)と、前記基板の面(S)に支持された積層体とを備える層状固体素子(100)であって、前記積層体は、エピタキシャル界面(ES)に沿って互いに直接接触する第1の結晶材料のバッファ層(1)と、第2の結晶材料の強誘電体層(2)とを備え、前記バッファ層は、前記強誘電体層よりも前記基板に近く、
前記第1の結晶材料は、化学式L
kNi
rO
1.5・(k+r)+wを有する第1の化合物に基づき、Lはランタニド元素又は前記第1の結晶材料内で互いに置換されたいくつかのランタニド元素であり、Niはニッケルであり、Oは酸素であり、kは0.7と1.3との間に含まれる第1の係数であり、rは0.7と1.3との間に含まれる第2の係数であり、wは-0.5と+0.5との間に含まれる第3の係数である、
又は、前記第1の結晶材料は、式L
n+1Ni
nO
3n+1+δを有する別の第1の化合物に基づいており、nは0ではない整数であり、δは-0.5と+0.5との間に含まれる係数であり、
前記第2の結晶材料は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、又は化学式Li
1-x(Nb
1-yTa
y)
1+xO
3+2x-z(式中、Liはリチウムであり、Nbはニオブであり、Taはタンタルであり、xは0と0.08との間に含まれる別の第1の係数であり、yは0と1との間に含まれる別の第2の係数であり、zは0と+0.5との間に含まれる別の第3の係数である)を有する第2の化合物に基づく、層状固体素子(100)。
【請求項2】
前記第2の結晶材料が、三方晶構造を有するイルメナイト構造であり、
前記第1の結晶材料の前記バッファ層(1)は、三方晶構造を有するL
kNi
rO
1.5・(k+r)+wに基づき、前記エピタキシャル界面(ES)に平行な六方晶設定における結晶面(0,1,-1,2)を有し、前記強誘電体層(2)内の前記第2の結晶材料は、前記エピタキシャル界面に対してIEEE規則において33°±5°Yに配向している、又は、
前記第1の結晶材料の前記バッファ層(1)は、三方晶構造を有するL
kNi
rO
1.5・(k+r)+wに基づき、前記エピタキシャル界面(ES)に対して平行な六方晶設定における結晶面(1,1,-2,0)を有し、前記強誘電体層(2)内の前記第2の結晶材料は、IEEE規則において前記エピタキシャル界面に対して垂直に配向した結晶学的X軸を有する、又は、
前記第1の結晶材料の前記バッファ層(1)は、正方晶又は斜方晶構造を有するL
n+1Ni
nO
3n+1+δに基づき、前記エピタキシャル界面(ES)に平行な結晶面(0,0,1)を有し、前記強誘電体層(2)内の前記第2の結晶材料は、前記エピタキシャル界面に対してIEEE規則において33°±5°Yに配向している、又は、
前記第1の結晶材料の前記バッファ層(1)は、正方晶又は斜方晶構造を有するL
n+1Ni
nO
3n+1+δに基づき、前記エピタキシャル界面(ES)に平行な結晶面(1,1,0)を有し、前記強誘電体層(2)内の前記第2の結晶材料は、IEEE規則において前記エピタキシャル界面に対して垂直に配向した結晶学的なX軸を有する、請求項1に記載の層状固体素子(100)。
【請求項3】
前記バッファ層(1)は、1nm~1000nmの第1の厚さを有し、前記強誘電体層(2)は、10nm~2000nmの第2の厚さを有し、前記第1及び第2の厚さは、前記エピタキシャル界面(ES)に垂直に測定された、請求項1又は2に記載の層状固体素子(100)。
【請求項4】
前記基板(10)が、シリコン系基板、又は集積光学若しくは音響デバイス用に設計された基板である、請求項1から3のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)。
【請求項5】
前記積層体は、前記基板(10)と前記バッファ層(1)との間に、シリカ層(3)、チタン層、チタニア層、タンタル層、酸化タンタル層、クロム層、酸化クロム層、電極層(4)、選択的にエッチングされる犠牲層及びブラッグミラー(5)のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)。
【請求項6】
前記基板(10)を含む前記層状固体素子の第1の部分と、前記バッファ層(1)及び前記強誘電体層(2)を含む前記層状固体素子の第2の部分との間に空洞(13)が配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)。
【請求項7】
前記強誘電体層(2)は、前記積層体内の2つの電極層(4,7)の間に、前記層に垂直な方向に沿って配置されており、前記層状固体素子は、前記電極層間に印加される時間変化する電圧によって前記強誘電体層内に発生するバルク音響波又は光学的変化を実装するように適応される、請求項1から6のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)。
【請求項8】
集積電子回路、集積音響デバイス、集積誘導フォトニックデバイス又は焦電デバイスの一部を形成する、請求項1から7のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)。
【請求項9】
前記第2の結晶材料は、前記強誘電体層(2)を形成するために、前記第1の結晶材料又は前記別の第1の結晶材料のバッファ層(1)からエピタキシャル成長される、請求項1から8のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)を製造するための方法。
【請求項10】
前記第1の結晶材料は、前記バッファ層(1)を形成するために、RFスパッタリング堆積法又は化学気相成長法を用いて堆積される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の結晶材料は、前記強誘電体層(2)を形成するために、化学気相成長法、好ましくは、直接液体注入化学気相成長法又はパルス注入化学気相成長法を用いて堆積される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の結晶材料が前記強誘電体層(2)を形成するために堆積されているときに、又は前記第2の結晶材料が堆積された後に、前記第2の結晶材料に電場を印加するステップをさらに含み、前記電場が、前記強誘電体層内のドメイン内に存在する強誘電体配向を整列させるのに適している、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載の層状固体素子(100)を含む集積回路であって、前記集積回路が、電子デバイスの少なくとも一部、音響デバイスの、特に微小音響デバイスの少なくとも一部、電気光学デバイスの少なくとも一部、焦電デバイスの少なくとも一部、又は誘導フォトニックデバイスの少なくとも一部を形成する、集積回路。
【請求項14】
RFフィルタ、導波路又は光変調器を形成する、請求項13に記載の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体層を含む層状固体素子及びこのような素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LiNbO3又はLiTaO3としてそれぞれ簡略化された式でしばしば記載される、それぞれの化学式Li1-xNb1+xO3+2x及びLi1-xTa1+xO3+2xを有するニオブ酸リチウム及びタンタル酸リチウムは、マイクロエレクトロニクス、マイクロアコースティックス、焦電デバイス、及び誘導フォトニクスにおける多くの用途に有用な強誘電体材料である。特に、それらは、通信端末に実装されるようなRFフィルタを製造するために使用される。しかし、LiNbO3又はLiTaO3の層は、これまで主に誘電体サファイア基板上に製造されていたため、表面音響波(SAW)の実装のためにしか使用できない。そして、これらのLiNbO3又はLiTaO3膜がバルク音響波(BAW)を実装するために使用できるように、下部電極上に、及び/又は特に犠牲層又は音響ミラーを含み且つシリコン(Si)基板に基づく構造上に、LiNbO3又はLiTaO3の膜を低コストで製造するという課題がある。実際、BAWに基づくRFフィルタは、高い電力密度に耐えるより良い能力を有する。したがって、それらはSAWフィルタよりも高周波数での動作により適している。このようなLiNbO3又はLiTaO3膜を使用するBAWフィルタは、高い電気機械結合を提供し、標準的な窒化アルミニウム(AlN)膜に基づくフィルタよりも高い周波数で動作させることができ、又は、広帯域若しくは周波数同調可能フィルタを構成することができる。
【0003】
LiNbO3単結晶ウエハのスライスを切断し、そのようなスライスを適切な回路構造に結合することによって、LiNbO3ベースの共振器を製造することが報告されている。スライス厚は、LiNbO3スライス内で生成されたバルク音響波に基づく共振器を得るためのそのような方法を使用して十分に薄くすることができる。しかし、約6GHz(ギガヘルツ)で動作するRFフィルタの実現には、約200nm(ナノメートル)の厚さを有する非常に薄い膜が必要であり、これは、このウエハ切断方法によって製造することが困難である。さらに、このような方法は、スライス転送をさらに含むため、コストが高く、低コストでの大量生産を実装することが不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この状況から出発して、本発明の1つの目的は、バルク音響波を実装するのに適した低コストの高結合強誘電体膜を提供することにある。
【0005】
本発明の別の目的は、十分に制御された厚さ値を有する、及び/又はクラック及び剥離のような欠陥のない強誘電体膜を製造することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、0.2mol%以上の精度で、十分に制御された化学組成値を有する強誘電体膜を製造することにある。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、電子回路、音響デバイス、電気光学デバイス、焦電デバイス、又は誘導フォトニックデバイスと一体化することができる形態の強誘電体膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的又はその他の目的のうちの少なくとも1つを満たすために、本発明の第1の態様は、基板と、基板の面によって支持される積層体とを含む層状固体素子を提案する。積層体は、エピタキシャル界面に沿って互いに直接接触している第1の結晶材料のバッファ層と第2の結晶材料の強誘電体層とを含む。バッファ層は強誘電体層よりも基板に近い。
【0009】
第1の結晶材料は、化学式LkNirO1.5・(k+r)+wを有する第1の化合物に基づいており、ここで、Lは第1の結晶材料内で互いに置換されたランタニド元素又は複数のランタニド元素であり、Niはニッケルであり、Oは酸素である。kは0.7と1.3との間に含まれる第1の係数であり、rは0.7と1.3との間に含まれる第2の係数である。wは、(格子間)酸素原子の欠損量又は過剰量を定量化する第3の係数であり、-0.5と+0.5との間に含まれる。値k=1、r=1及びw=0は、ランタニドの化学量論的ニッケル酸塩、すなわちLNiO3に対応する。
【0010】
化学式LkNirO1.5・(k+r)-wを有する第1の結晶材料は、三方晶結晶系である。
【0011】
あるいは、本発明に含まれるが、第1の結晶材料は、化合物化学式Ln+1NinO3n+1+δを有する別の第1の結晶材料に基づくものであってもよく、nは0でない整数であり、δは-0.5と+0.5との間に含まれる係数である。ここでも、Lはいわゆる別の第1の結晶材料内で互いに置換されたランタニド元素又は複数のランタニド元素であり、Niはニッケルであり、Oは酸素である。
【0012】
化学式Ln+1NinO3n+1+δを有する別の第1の結晶材料は、正方晶又は斜方晶の結晶系であり、その格子寸法は、三方晶LkNirO1.5・(k+r)+wの六方晶セルの格子寸法に類似している。このような結晶Ln+1NinO3n+1+δ材料はルドルスデン-ポッパー(Ruddlesden-Popper)相である。
【0013】
第2の結晶材料は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、又は化学式Li1-x(Nb1-yTay)1+xO3+2x-z(式中、Liはリチウムであり、Nbはニオブであり、Taはタンタルであり、xは0と0.08との間に含まれる別の第1の係数であり、yは0と1との間に含まれる別の第2の係数であり、zは0と+0.5との間に含まれる別の第3の係数である)を有する第2の化合物に基づく。x=0、y=0及びz=0の値は、化学量論的なニオブ酸リチウムLiNbO3に対応し、x=0、y=1及びz=0の値は、化学量論的なタンタル酸リチウムLiTaO3に対応し、より一般的には、yは、ニオブ酸リチウムLiNbO3に関してタンタルカチオンに置換されるニオブカチオンの比を示す。xは、組成LiNb1-yTayO3に関して不足している酸化リチウムLi2Oの量を定量化するが、この後者の結晶構造はほとんど同一に維持する。2xは、Li+イオンをNb5+又はTa5+イオンで置換することによって生じた欠陥の正電荷を補償するために使用される補足的な酸素原子を定量化し、zは、不足する酸素原子の量を定量化する。
【0014】
さらに、第1の結晶材料、別の第1の結晶材料及び第2の結晶材料は、ドーピング量の別の化学元素を、上記の化学式から含有することが可能であり、この場合も、結晶構造を大幅に変更することなく含有することが可能である。
【0015】
本発明の元素の層状構造のおかげで、材料は、工業製造業者、特にマイクロエレクトロニクス、マイクロアコースティックス又は誘導フォトニクスで活動する集積回路製造業者に利用可能な堆積プロセスを使用して基板上に堆積することができる。このようなプロセスは、膜厚並びに材料組成及び品質の良好な又は非常に良好な制御を可能にし、その結果、これらのプロセスを用いて得られる膜は、良好に結晶化され、ほとんど欠陥がなく、積層体全体にわたって良好な接着性を有し得る。特に、これらのプロセスを使用して達成することができる低い厚さ値は、高周波数、特に5GHz超のバルク音響波を実装するために強誘電体層を使用することを可能にする。
【0016】
本発明の層状固体素子は、RFフィルタなどの集積電子回路の一部、又は集積音響デバイスの一部、又は集積誘導フォトニックデバイスの一部、又は焦電デバイスの一部を形成することができる。このようにして得られたRFフィルタは、標準的なフィルタよりも高い共鳴周波数と広い帯域幅を有することができる。それは工業レベルで製造することができ、表面音響波に基づく又はバルク音響波に基づくことができる。また、新世代の通信端末に有用な、広帯域フィルタタイプ又は周波数可変フィルタタイプであってもよい。
【0017】
また、バッファ層と強誘電体層との間にエピタキシャル界面を有することにより、基板に対する強誘電体層に関する所望の結晶配向を選択することができ、強誘電体結合効率を向上させる又は最大化させることができる。バッファ層用の化学式LkNirO1.5・(k+r)+wを有する化合物は、R-3c空間群の結晶構造を有し、結晶配向が制御されたものを製造するのに適している。バッファ層用の化学式Ln+1NinO3n+1+δを有する化合物は、合成条件及び材料中の酸素含有量に依存して、ルドルスデン-ポッパー(Ruddlesden-Popper)相の結晶構造、すなわち、正方晶(I4/mmm又はF4/mmm空間群)又は斜方晶(Bmab又はF/mmm空間群)構造を有し、かつ制御された結晶配向を有するように製造するのに適している。文献では、この材料の相図及び存在する相に関する一般的な一致はなく、Ln+1NinO3n+1+δ化合物の単斜晶構造さえも報告されていることに留意されたい。そして、バッファ層のこのような結晶配向により、強誘電体層の材料は、堆積されたままの状態で、バッファ層の結晶配向によって設定されるこの強誘電体層の所望の結晶配向を有する結晶性となる。
【0018】
強誘電体層の第2の結晶材料は、三方晶構造を有するイルメナイト構造であってもよい。この場合、三方晶構造を有するLkNirO1.5・(k+r)+wに基づく場合第1の結晶材料のバッファ層は、エピタキシャル界面に対して平行な六方晶設定における結晶面(0,1,-1,2)を有し得、強誘電体層内の第2の結晶材料は、エピタキシャル界面に対して(0,1,-1,2)に配向していてもよい。固体材料の当業者には知られているように、結晶LkNirO1.5・(k+r)+wに対する六方晶設定における結晶面(0,1,-1,2)は、IEEE規則における36°±5°Y配向に対応する。同様に、エピタキシャル界面が六方晶設定における強誘電体層の(0,1,-1,2)R面に対して平行であることは、この強誘電体層がIEEE規則で33°±5°Yに配向していることを意味する。
【0019】
また、強誘電体層の第2の結晶材料が三方晶構造を有するイルメナイト構造である場合には、第1の結晶材料のバッファ層は、三方晶構造を有するLkNirO1.5・(k+r)+wに基づくときに、エピタキシャル界面に平行な六方晶設定の結晶面(1,1,-2,0)を有し得、強誘電体層内の第2の結晶材料は、IEEE規則ではエピタキシャル界面に垂直に配向した結晶学的X軸を有してもよい。六方晶設定における結晶面(1,1,-2,0)は、IEEEの規則ではX軸に垂直である。同様に、強誘電体層内の第2の結晶材料であって、その結晶学的X軸が、IEEE規則におけるエピタキシャル界面に対して垂直に配向されているものは、エピタキシャル界面が六方晶設定における(2,-1,-1,0)A面に平行であることを意味する。
【0020】
また、強誘電体層の第2の結晶材料が、三方晶構造を有するイルメナイト構造である場合、正方晶又は斜方晶構造を有するLn+1NinO3n+1+δに基づく場合の第1の結晶材料のバッファ層は、エピタキシャル界面に平行な結晶面(0,0,1)を有してもよく、強誘電体層内の第2の結晶材料は、エピタキシャル界面に対して(0,1,-1,2)に配向されてもよく、すなわち、前記エピタキシャル界面に対してIEEE規則で33°±5°Yに配向されてもよい。
【0021】
あるいは、強誘電体層の第2の結晶材料が三方晶構造を有するイルメナイト構造である場合には、正方晶又は斜方晶構造を有するLn+1NinO3n+1+δに基づくときに、第1の結晶材料のバッファ層は、エピタキシャル界面に対して平行な結晶面(1,1,0)を有し得、強誘電体層内の第2の結晶材料は、IEEE規則ではエピタキシャル界面に対して垂直に配向した結晶学的X軸を有してもよい。
【0022】
本発明の様々な実施形態において、本発明の要素のより良い品質又は信頼性などのさらなる利点のために、又はこの要素の意図された用途のために、以下のさらなる特徴のうちの1つ又は複数をさらに再現することができる。
【0023】
-バッファ層は、この第1の厚さがエピタキシャル界面に対して垂直に測定される場合、1nm(ナノメートル)と1000nmとの間の第1の厚さを有することができる。
【0024】
-強誘電体層は、第2の厚さがエピタキシャル界面に対して垂直にも測定される場合、10nmから2000nmの間の第2の厚さを有することができる。
【0025】
-基板は、シリコン系基板であってもよく、又は集積光学デバイス若しくは音響デバイス用に設計された基板であってもよい。特に、基板は、(100)配向を有する単結晶シリコンであってもよい。
【0026】
-積層体は、基板とバッファ層との間に、シリカ層、チタン層、チタニア層、タンタル層、酸化タンタル層、クロム層、酸化クロム層、電極層、例えばウェット又はドライエッチングによって選択的にエッチングされるように適応された犠牲層、及びブラッグミラーのうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。電極層が下部電極層である場合、このような下部電極層の材料は、白金、イリジウム、ルテニウム又は導電性酸化物から選択することができる。電極層が上部電極層である場合、このような上部電極層の材料は、任意の金属であってもよい。
【0027】
-基板を含む層状固体素子の第1の部分と、バッファ層及び強誘電体層を含む層状固体素子の第2の部分との間に、空洞を配置することができ、
-強誘電体層は、積層体内の2つの電極層の間に、層に垂直な方向に沿って配置されてもよく、その結果、層状固体素子は、これらの電極層間に印加される時間変化する電圧によって強誘電体層内に生成されるバルク音響波又は光学的変化を実装するように適応される。
【0028】
一般に、層状固体素子は、一般にHBARと表される高倍音バルク音響共振器を形成するように適応されてもよい。
【0029】
あるいは、層状固体素子は、一般にTFBARと表される自立型の薄膜バルク音響共振器を形成するように適応されてもよい。
【0030】
あるいはまた、層状固体素子は、SMRとして知られる、固体実装された共振器型であってもよい。
【0031】
本発明の第2の態様は、第1の発明態様に係る層状固体素子の製造方法を提案する。このような製造方法によれば、強誘電体層を形成するために、第1の結晶材料の又はいわゆる別の第1の結晶材料のバッファ層から第2の結晶材料をエピタキシャル成長させる。
【0032】
第1の結晶材料は、化学プロセス、ゾル-ゲルプロセス、パルスレーザ堆積又は原子層堆積などの物理的堆積プロセスを含む、任意の既知の堆積プロセスを使用して堆積されてもよい。しかし、バッファ層を形成するためにRFスパッタリング堆積プロセス又は化学気相成長法を使用することが有利であり得る。特に、RFスパッタリングは、基板面に平行な結晶面(0,1,-1,2)を有するLkNirO1.5・(k+r)+wに直接基づいて、又は基板面に平行な結晶面(0,0,1)を有するLn+1NinO3n+1+δに基づいて、第1の結晶材料、バッファ層の第1の結晶材料を得ることを可能にする。次に、第2の結晶材料、強誘電体層の第2の結晶材料が、バッファ層上に33°Y配向でエピタキシャル成長する。あるいは、化学気相成長法を用いてバッファ層を形成することにより、基板面に平行な結晶面(1,1,-2,0)を有するLkNirO1.5・(k+r)+wに基づく、又は基板面に平行な結晶面(1,1,0)を有するLn+1NinO3n+1+δに基づく第1の結晶材料を得ることにつながる。次に、第2の結晶材料、強誘電体層の第2の結晶材料が、バッファ層上で、エピタキシャル界面に垂直なその結晶学的なX軸を有して、エピタキシャル成長する。
【0033】
第2の結晶材料はまた、上に列挙した任意の既知の堆積プロセスを使用して堆積されてもよい。しかし、強誘電体層を形成するために化学気相成長法、特に、直接液体注入化学気相成長法又はパルス注入化学気相成長法を使用することが有利であり得る。
【0034】
場合によっては、本発明のプロセスは、強誘電体層を形成するためにこの第2の結晶材料が堆積されているとき、又は第2の結晶材料が堆積された後に、第2の結晶材料に電場を印加するステップをさらに含むことができる。このような電場は、強誘電体層内のドメイン内に存在する強誘電体配向を整列させるのに適していることがある。
【0035】
本発明の第3の態様は、第1の発明の態様による層状固体素子を含む集積回路を提案する。集積回路は、電子デバイスの少なくとも一部、又は音響デバイスの、特にマイクロ音響デバイスの少なくとも一部、電気光学デバイスの少なくとも一部、焦電デバイスの少なくとも一部、又は誘導フォトニックデバイスの少なくとも一部を形成することができる。特に、それは、RFフィルタ、導波路又は光変調器を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】
図1の層状固体素子の強誘電体層を堆積するために使用することができる材料堆積アセンブリを図式的に表す。
【
図3a】それぞれSMR及びTFBAR構造を有する、本発明による2つの層状固体素子の断面図である。
【
図3b】それぞれSMR及びTFBAR構造を有する、本発明による2つの層状固体素子の断面図である。
【
図4】本発明による層状固体素子のバッファ層に使用することができる化合物の結晶構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
明確にするために、これらの図に示される要素サイズは、実際の寸法又は寸法比に対応しない。また、これらの図に示された同一の参照番号は、同一の機能を有する同一の要素を示している。
【0038】
図1を参照すると、層状固体素子100は、上面Sを有する基板10と、この上面S上に配置された積層体とを備える。したがって、積層体の積層方向Dは、上部基板面Sに対して垂直である。例えば、基板10は、(100)単結晶シリコンウエハの一部であってもよい。
【0039】
この積層体は、中間エピタキシャル界面ESに沿って互いに直接接触しているバッファ層1及び強誘電体層2を含む。層2の配向は、層1の配向によって定義される。両方の層1及び2は、それぞれR-3c及びR3c空間群の結晶構造を有する結晶である。層1は、正方晶又は斜方晶構造を有するルドルスデン-ポッパー(Ruddlesden-Popper)相であってもよい。エピタキシャル界面ESは、積層方向Dに垂直であり、上部基板面Sに平行である。例えば、バッファ層1の厚さは15nmであり得、強誘電体層2の厚さは250nmであり得、これらの厚さは積層方向Dに平行に測定される。バッファ層1は、化学式LaNiO3を有する結晶ニッケル酸ランタンであってもよく、強誘電体層2は、化学式LiNbO3を有するニオブ酸リチウム、又は化学式LiTaO3を有するタンタル酸リチウムであってもよい。しかし、強誘電体層2のLi含有量はある程度変化してもよく、また、強誘電体層2の材料は、結晶構造を乱すことなく、ニオブカチオンの一部をタンタルカチオンで置換したLiNbO3であってもよい。また、バッファ層1及び強誘電体層2中の酸素量もある程度変化してもよい。
【0040】
積層体は、上部基板面Sとバッファ層1との間に位置する下部積層部11と、強誘電体層2の基板10とは反対側に位置する上部積層部12とをさらに備えていてもよい。
【0041】
下部積層部11の第1の層3は、例えば基板10がシリコンである場合に熱酸化されて形成されるシリカ(SiO
2)層であってもよい。下部積層部11は、例えば、白金、イリジウム又はルテニウムベースの材料、ルテニア(RuO
2)又は酸化セリウム(CeO
2)などの酸化物層、酸化インジウムスズ(ITO)の下部電極層4と、音響ブラッグミラー又は光学ブラッグミラーを形成するのに適した層サブセット5とを例えば含む多数の個々の層をさらに含むことができる。既知の方法で、このようなブラッグミラーは、強誘電体層2内に生成されたバルク音響波又は光波を反射するように設計される。場合によっては、下部積層部11は、犠牲層を含むこともでき、犠牲層は、一般にTFBARとして示される薄膜バルク音響共振器を形成するために、製造プロセスにおいて後でエッチングされることが意図されている。本発明の層状固体素子と適応するこのような構造は、特に[
図3a]及び[
図3b]を参照して、以下にさらに説明される。下部積層部11は、クロム、酸化クロム、チタン、酸化チタン、タンタル、酸化タンタル、金属合金等をベースとすることができる1つ又は複数の接着層をさらに含むことができる。このような接着層の実装は当技術分野で既知であるため、ここでそれらをさらに説明する必要はない。
図1では、2つの接着層6a及び6bが下部電極層4の両側に示されているが、通常は層6aのみで十分である。層6bは、バッファ層1又は強誘電体層2からの拡散、特に酸化リチウムの電極層4への拡散、又は一般に層サブセット5への拡散を防止するために使用されてもよい。
【0042】
上部積層部12はまた、上部電極層7、他の接着層8a及び8b、並びに保護層又は温度補償層9を含む、1つ又は複数の個々の層を含んでもよい。上部電極7は、下部電極層4と同じ材料であってもよく、あるいはアルミニウム、タングステン、モリブデン又は金をベースとする材料であってもよく、又は他の金属をベースとするものであってもよい。層9は、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又は他の誘電体材料であってもよい。
【0043】
バッファ層1及び強誘電体層2以外の層は、本発明に直接関係しないので、ここではさらなる説明をしない。層状固体素子100の実際の組成は、その用途に応じて、上記で列挙した組成とは異なる場合がある。特に、エネルギーハーベスティングなどのRFフィルタ及び光変調器以外の用途に関して、ドープされた酸化物を含む導電性酸化物を電極層材料として使用することができる。
【0044】
層状固体素子100は、集積電子デバイスなどの集積回路の一部、集積音響デバイスの一部、又は集積誘導フォトニックデバイスの一部であってもよい。集積電子デバイスの場合、基板10は、既知の方法で電気部品及び接続を組み込むか又は支持することができ、[
図1]に示されるような構成を有する層状固体素子100は、一般にSMRと表される、固体実装された共振器を構成することができる。あるいは、集積誘導フォトニックデバイスに関して、基板10は、強誘電体層2に放射線を注入し、そこから出る放射線を収集するのに適した方法で配置された導波路セグメント(図示せず)を組み込むか、又は支持する。例えば、そのような光学用途に関して、層状固体素子100は、光変調器を構成してもよい。
【0045】
ここで
図2を参照すると、少なくとも強誘電体層2、又はバッファ層1と強誘電体層2とを連続して堆積するのに適したCVD反応器が説明されている。このCVD反応器は、直接液体注入化学気相成長のためのDLI-CVDとして一般に知られているタイプのものであるが、例えば、パルス注入化学気相成長のためのPI-CVDのような他のタイプを代わりに使用することができる。DLI-CVD反応器は、低圧温度制御容器20を備え、この容器は、間にガス通路20cを有する2つのチャンバ20a及び20bを含むことができる。チャンバ20aは、化学前駆体を蒸発させるように設計され、チャンバ20bは、所望の層を形成するために、これらの前駆体を基板10上で化学的に反応させるように設計される。強誘電体層2を堆積する際に、2つのダブルインジェクタ21a及び21bを設けて、チャンバ20aに以下の各混合物を供給することができる:インジェクタ21aのために、リチウム(Li)前駆体としての第1の金属有機化合物と、酸素(O
2)、窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)のガス混合物とを含む液体有機溶液、及びインジェクタ21aと同じガス混合物でインジェクタ21bのために、ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)前駆体としての別の金属有機化合物とを含む別の液体有機溶液。リチウム-(Li)、ニオブ-(Nb)又はタンタル-(Ta)前駆体を形成する全ての金属有機化合物と、酸素(O
2)、窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)のガス混合物との混合物を含む液体有機溶液の場合には、代わりに単一のインジェクタを使用してもよい。符号23aは、Li前駆体、例えば(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン)Liを、メシチレンとも呼ばれる3,3,5-トリメチルベンゼン及びN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)に溶解させ、パイプ24を通してアルゴン又は窒素ガスで加圧したものを含む密閉タンクを示す。ダブルインジェクタ21aは、パイプ25aを介してタンク23aに接続され、パイプ26aを介して酸素-窒素-アルゴン混合物が供給される。同様に、符号23bは、Nb-又はTa-前駆体、例えば、メシチレン及びTMEDAに溶解された(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン)
4Nb又は(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン)
4Taを含む別の密閉タンクを示す。そして、ダブルインジェクタ21bは、パイプ25bを介してAr加圧タンク23bに接続され、パイプ26bを介して酸素-窒素-アルゴン混合物が供給される。適切な加熱モジュール(図示せず)は、所望の温度値を生成するために、チャンバ20a及び20bの壁及び基板支持体22の内部に組み込まれ、チャンバ20bの排気27は、ポンプ装置(図示せず)に接続される。
【0046】
チャンバ20bは、基板10が固定される基板支持体22を囲む。支持体22は、大きな有用な堆積領域にわたって改善された厚さの均一性を有する堆積層を生成するために、スピン機構を任意に備えることができる。特に、この方法では、後で別々の集積回路に切断されることを意図した大面積基板を処理することが可能である。
【0047】
本発明の第1の実施形態によれば、基板10は、CVD処理される前に、もしあれば下部積層部11及びバッファ層1が既に設けられている。結晶LaNiO3のバッファ層1は、既知のRFスパッタリングプロセスを使用して堆積されてもよく、上部基板面Sに平行な六方晶設定の結晶学的R面(0,1,-1,2)を有する結晶配向をもたらし、これはIEEE規則では36°Y結晶配向とも呼ばれる。このようなバッファ層1の堆積のための適切なスパッタリング条件は:焼結ターゲット材料としてのLaNiO3、350℃(摂氏)と600℃との間の堆積温度、50W(ワット)と200Wとの間のターゲットパワー、3・10-3Torrと6・10-3Torrとの間のチャンバ圧力、及び50%未満の間の酸素/アルゴン比である。Lan+1NinO3n+1+δターゲットを使用すると、同じ堆積条件によって、上部基板面Sに平行な結晶面(0,0,1)を有するLan+1NinO3n+1+δ層の成長が可能になるであろう。
【0048】
これらの第1の実施形態に関して、強誘電体層2は、
図2のDLI-CVD反応器を使用してバッファ層1上に直接堆積することができ、堆積パラメータは、250℃と270℃との間の蒸発チャンバ20a内部の温度、600℃と700℃との間の堆積チャンバ20b内部の温度が、2Torrと10Torrとの間の堆積チャンバ20b内部の圧力、及び30%と50%との間の比O
2/(O
2+N
2+Ar)。これらの堆積パラメータは、積層方向Dに平行な0,5nm/分(1分当たりナノメートル)と2nm/分との間の強誘電体層2に関する成長速度を生成する。強誘電体層2を形成するためにこのようにして堆積されたLiNbO
3材料は結晶性であり、バッファ層1中のLaNiO
3材料の36°Y配向によって、エピタキシーによって33°Y配向が誘起される。
【0049】
強誘電体層2において、ニオブの一部又は全部に代えてタンタルを使用する場合には、CVD容器に化学的化合物を供給する際に、タンタル前駆体とニオブ前駆体とを組み合わせるか、タンタル前駆体でニオブ前駆体を置き換えるべきである。LiNbO3組成物について上述した堆積パラメータはLiTaO3組成物にも適応するので、このような適応は、材料堆積に熟練した者によって容易に行うことができる。
【0050】
本発明の第2の実施形態によれば、
図2に示すように、DLI-CVD反応器を用いて、バッファ層1及び強誘電体層2の両方を連続的に堆積させることができる。バッファ層1専用のCVD反応器におけるバッファ層1のLaNiO
3材料のために使用される堆積条件は、以下のようにすることができる:(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン)
3Laは、ランタン前駆体としてメシチレン-TMEDAをタンク21aに溶解し、(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン)
2Niは、ニッケル前駆体としてメシチレン-TMEDAをタンク21bに溶解し、蒸発チャンバ20a内部の温度は185℃と215℃との間、堆積チャンバ20b内部の温度は650℃と775℃との間、酸素、窒素及びアルゴンのガス混合物の比はO
2/(O
2+N
2+Ar)が30%と50%との間、堆積チャンバ20b内部の圧力は2Torr~10Torrとの間である。同じ堆積条件で溶液中のLaとNiの前駆体比を調整することにより、上部基板面Sに平行な結晶面(1,1,0)を有するLa
n+1Ni
nO
3n+1+δ層の成長が可能になる。これらの堆積条件は、0,5nm/分と1nm/分との間のバッファ層1に関する成長速度を生成する。バッファ層1を形成するためにこのように堆積されたLaNiO
3材料は結晶性であり、X配向を有し、La
n+1Ni
nO
3n+1+δ層は(1,1,0)配向を有する。これは、LaNiO
3の結晶構造のX軸が基板面Sに対して垂直であることを意味する。
【0051】
このような第2の実施形態に関して、このようにして得られたバッファ層1上に、強誘電体層2を直接CVD堆積する。第1の実施形態におけるLiNbO3材料に対して上述したCVD堆積パラメータは、第2の実施形態に対して再度使用することができる。しかし、ここで、バッファ層1のLaNiO3材料のX配向により、強誘電体層2のLiNbO3材料は、結晶配向Xによるエピタキシーによって得られ、LiNbO3の結晶構造のX軸は、エピタキシー界面ESに対して垂直であり、また、LiNbO3の(2,-1,-1,0)A面はエピタキシャル界面ESに平行である。
【0052】
あるいは、基板10又は下部積層部11が、LaNiO3の(0,1,-1,2)面をエピタキシャル界面に平行にエピタキシャル成長させる場合、バッファ層1を形成するために堆積されるLaNiO3材料は、36°Y配向を有する結晶性であってもよい。
【0053】
また場合によっては、基板10又は下部積層部11が、LaNiO3の(2,-1,-1,0)面をエピタキシャル界面に平行にエピタキシャル成長させる場合、バッファ層1を形成するために堆積されるLaNiO3材料は、X配向を有する結晶性であってもよい。
【0054】
バッファ層1を形成するためにLn+1NinO3n+1+δ材料を堆積する場合、基板10又は下部積層部11が、Ln+1NinO3n+1+δの(0,0,1)面をエピタキシャル界面に平行にエピタキシャル成長させるのであれば、(0,0,1)配向の結晶材料であってもよい。バッファ層1を形成するために堆積されるLn+1NinO3n+1+δ材料は、基板10又は下部積層部11がエピタキシャル界面に平行なLn+1NinO3n+1+δのこれらの面をエピタキシャル成長させる場合、(1,1,0)配向を有する結晶性であってもよい。
【0055】
このような第1の及び第2の実施形態で得られた強誘電体層2は、それらの33°Y配向又はX配向に起因して、大きな圧電効率及び電気光学効率を示す。このような圧電効率及び電気光学効率のおかげで、層状固体素子100を組み込んだ集積デバイスは、このデバイスの用途、特にRFフィルタリング及び光変調にかかわらず、改善された動作及び/又はより大きな周波数動作帯域を可能にする。
【0056】
本発明の全ての実施形態に関して、堆積されたままの強誘電体層2内のドメイン内に存在することがある様々な分極を整列するために、電気的なポーリング工程が必要であり得る。このようなポーリングは、抗電場よりも高い電場を層2に印加することによって達成することができる。このような電場は、この後者の堆積中に強誘電体層2に印加することができ、その結果、堆積されたままの強誘電体材料は、層2全体にわたって1つの単一の分極を有する。あるいは、強誘電体層2又は層状固体素子100全体が完成した後に、電気的なポーリングを行ってもよい。このようなポーリングを実施するために、電極層4及び7の一方又は両方が、外部電圧源への電気的接続のために使用されてもよい。例えば、層2の強誘電体材料の抗電場が85kV/cm(1センチメートル当たりのキロボルト)に等しい場合、使用されるポーリング電場は85kV/cmより大きくてもよい。
【0057】
本発明の層状固体素子100は、高倍音バルク音響共振器、すなわちHBAR、バルク音響波固体搭載共振器、すなわちSMR、又はTFBARで示される自立型の薄膜バルク音響共振器を含む様々な素子構造と組み合わせることができる。
【0058】
HBAR構造に関して、下部積層部11には音響ブラッグミラー5がなく、基板10が音響波の伝搬媒体を形成する。
【0059】
[
図3a]に示すSMR構造に関して、下部積層部11が音響ブラッグミラー5を含むので、音響波の伝搬媒体は、基板10と反対のブラッグミラー5の上方に配置される積層部に限定される。この伝搬媒体は、下部電極4、バッファ層1、強誘電体層2及び上部電極7によってこのように構成され、音響ブラッグミラー5によって基板10から分離されている。[
図3a]はまた、RF源などの電気信号源に接続されることが意図された電極接続4e及び7eを示す。
【0060】
[
図3b]に示されるようなTFBAR構造に関して、下部積層部11は最初に犠牲材料の層を含む。この犠牲材料はその後、下部電極4、バッファ層1、強誘電体層2及び上部電極7が堆積された後、開口部Oを通してエッチングされる。参照番号10’は、シリカであり得る周囲の材料部分を示す。他の材料に対して犠牲材料を選択的に引き出すために、乾式又は湿式エッチングプロセスを実施することができる。これにより、下部電極4と基板10との間に空洞13が生成される。音響伝搬媒体は、下部電極4、バッファ層1、強誘電体層2及び上部電極7によって再び形成されているが、音響ブラッグミラー5の代わりに空洞13によって基板10から分離されている。
【0061】
本発明の層状固体素子100が誘導フォトニックデバイスを形成することを意図する場合、それは、層サブセット5を欠くか、又は層サブセット5が光学ブラッグミラーであってもよい。
【0062】
バッファ層1は、化学組成L
kNi
rO
1.5・(k+r)+wのうちの1つを有してよく、Lはランタニド元素又は互いに置換されたいくつかのランタニド元素であり、0.7≦k≦1.3、0.7≦r≦1.3及び-0.5≦w≦+0.5である。しかし、代替的に、他の化学組成L
n+1Ni
nO
3n+1+δのうちの1つを有してもよく、nは0でない整数であり、-0.5≦δ≦+0.5である。n=1に関して、化合物はK
2NiF
4構造を有するLa
2NiO
4であり、非常に大きいnに関して、ペロブスカイト構造を有するLaNiO
3に近い。このような他の組成はルドルスデン-ポッパー(Ruddlesden-Popper)相として知られており、L
2NiO
4結晶構造は、正方晶セルの底面において45°回転したLNiO
3ペロブスカイトブロック及びLaO層の001結晶学的方向に沿って交互にすることによって誘導することができる。[
図4]は、La
2NiO
4からのLa
n+1Ni
nO
3n+1+δ組成のそのような導出を示す。組成L
kNi
rO
1.5・(k+r)+w及びL
n+1Ni
nO
3n+1+δのうちのそれぞれにおいて、Lは、いくつかのランタニド元素の混合物を示してもよい。ただし、このようにしてバッファ層用に得られた組成物は、バッファ層からのエピタキシーによってX又は≒33°Y配向を有する強誘電体材料のその後の堆積を可能にする結晶形態で堆積することができる。
【0063】
強誘電体材料は、その強誘電効率及びバッファ層からのそのエピタキシャル成長能力の両方を維持しながら、化学組成を大幅に変化させることができることにも留意されたい。このため、本発明により実装される強誘電体層2の一般的な組成は、Li1-x(Nb1-yTay)1+xO3+2x-zと表すことができ、0≦x≦0.08、0≦y≦1、0≦z≦0.5である。
【0064】
最後に、提供されたCVD反応器の設計における全ての詳細及び全ての引用された数値は、単に例示目的のためであり、実際に使用される反応器、実装される正確な化学組成並びに所望の成長速度及び層の厚さに依存して適応され得る。
【国際調査報告】