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特表2023-528898抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230629BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230629BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230629BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230629BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230629BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/28
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K47/68
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574693
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 CN2021097785
(87)【国際公開番号】W WO2021244554
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】202010487524.3
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522471076
【氏名又は名称】ゼダ・バイオファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヂュー,ヂェンピン
(72)【発明者】
【氏名】フアン,ハオミン
(72)【発明者】
【氏名】グー,チャンリン
(72)【発明者】
【氏名】ヂュー,ハイシャ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体を提供し、実験結果は、当該二重特異性抗体が抗EGFRおよび抗PD-L1モノクローナル抗体の活性をよりよく維持することができ、PD-L1およびEGFRの二つの標的に同時に特異的に結合することができ、さらに重要なことに、この二重抗体は、明らかな細胞レベルでの相乗効果を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体であって、
以下からなる群から選択される二つのポリペプチド鎖および二つの軽鎖を含み、
(a)前記ポリペプチド鎖は、N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3またはVH-PDL1-リンカー1-VL-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3またはEGFR-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1またはEGFR-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VH-PDL1-リンカー1-VL-PDL1を含み、
前記軽鎖は、N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含み、または
(b)前記ポリペプチド鎖は、N末端からC末端までVL-EGFR-リンカー1-VH-EGFR-リンカー2-VH-PDL1-CH1-CH2-CH3またはVH-EGFR-リンカー1-VL-EGFR-リンカー2-VH-PDL1-CH1-CH2-CH3またはPDL1-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VL-EGFR-リンカー1-VH-EGFRまたはPDL1-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VH-EGFR-リンカー1-VL-EGFRを含み、
前記軽鎖は、N末端からC末端までVL-PDL1-CLを含み、
ここで、前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、
前記VH-PDL1は、PD-L1に結合する重鎖可変領域であり、
前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、
前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、
前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
前記リンカー1およびリンカー2は、それぞれ独立して、柔軟なペプチドリンカーであり、
前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、抗PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、
前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成することを特徴とする、前記PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項2】
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖と、(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖とを含み
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖において、
前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、
前記リンカー1およびリンカー2は、それぞれ独立して、柔軟なペプチドリンカーであり、
前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、
前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、および
(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖において、前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
ここで、前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成することを特徴とする
請求項1に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項3】
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖と、(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖とを含み、
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖において、前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、前記リンカー1は、4個または5個のGGGGSであり、前記VH-PDL1は、PD-L1に結合する重鎖可変領域であり、前記リンカー2は、3個または4個のGGGGSであり、前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、および
(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖において、前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
ここで、前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成することを特徴とする
請求項2に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項4】
前記VL-PDL1は、SEQ ID NO:1-3に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖CDRを含み、前記VH-PDL1は、SEQ ID NO:4-6に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖CDRを含み、前記VH-EGFRは、SEQ ID NO:7-9に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖CDRを含み、前記VL-EGFRは、SEQ ID NO:10-12に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖CDRを含むことを特徴とする
請求項3に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項5】
前記VL-PDL1は、SEQ ID NO:13に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VH-PDL1は、SEQ ID NO:14に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VH-EGFRは、SEQ ID NO:15に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VL-EGFRは、SEQ ID NO:16に示されるようなアミノ酸配列を有することを特徴とする
請求項4に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項6】
前記ポリペプチド鎖は、SEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18またはSEQ ID NO:23またはSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:25に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記軽鎖は、SEQ ID NO:19に示されるようなアミノ酸配列を有し、
または前記ポリペプチド鎖は、SEQ ID NO:26またはSEQ ID NO:27またはSEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記軽鎖は、SEQ ID NO:22に示されるようなアミノ酸配列を有することを特徴とする
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項7】
前記重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4重鎖定常領域を含み、前記軽鎖定常領域は、κまたはλ軽鎖定常領域を含むことを特徴とする
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体。
【請求項8】
単離されたヌクレオチドであって、
前記ヌクレオチドは、請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、前記単離されたヌクレオチド。
【請求項9】
発現ベクターであって、
前記発現ベクターは、請求項8に記載のヌクレオチドを含むことを特徴とする、前記発現ベクター。
【請求項10】
宿主細胞であって、
前記宿主細胞は、請求項9に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする、前記宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の調製方法であって、
前記方法は、
(a)発現条件下で、請求項10に記載の宿主細胞を培養することにより、前記二重特異性抗体を発現する段階と、
(b)(a)に記載の二重特異性抗体を分離および精製する段階とを含むことを特徴とする、前記請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の調製方法。
【請求項12】
医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体および薬学的に許容されるベクターを含むことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項13】
癌を治療するための薬物の調製における、請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項10に記載の医薬組成物の使用。
【請求項14】
前記癌は、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、扁平上皮がん、頭頸部がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、乳がん、黒色腫、肺がん、肝臓がん、胃がん、リンパ腫、白血病、前立腺がん、骨髄がんおよび他の腫瘍性悪性疾患からなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
癌の治療法であって、
必要とする被験者に請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、またはそのその免疫コンジュゲート、または請求項12に記載の医薬組成物を投与する段階を含むことを特徴とする、前記癌の治療法。
【請求項16】
前記癌は、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、扁平上皮がん、頭頸部がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、乳がん、黒色腫、肺がん、肝臓がん、胃がん、リンパ腫、白血病、前立腺がん、骨髄がんおよび他の腫瘍性悪性疾患からなる群から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
免疫コンジュゲートであって、
前記免疫コンジュゲートは、
(a)請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体と、および
(b)検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素からなる群から選択されるカップリング部分とを含むことを特徴とする、前記免疫コンジュゲート。
【請求項18】
請求項17に記載の免疫コンジュゲートの使用であって、
腫瘍を治療するための医薬組成物の調製に使用されることを特徴とする、前記請求項17に記載の免疫コンジュゲートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野に関し、より具体的には、本発明は、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体を開示する。
【背景技術】
【0002】
ヒトプログラム細胞死受容体-1(PD-1)は、288個のアミノ酸を有するI型膜タンパク質であり、既知の主な免疫チェックポイント(Immune Checkpoint)の一つである(Blank et al、2005、Cancer Immunotherapy、54:307~314)。PD-1は、活性化されたTリンパ球で発現し、それは、リガンドPD-L1(プログラム細胞死受容体-リガンド1、programmed cell death-Ligand 1)およびPD-L2(プログラム細胞死受容体-リガンド2、programmed cell death-Ligand 2)に結合して、Tリンパ球の活性および関連するインビボ細胞性免疫応答を阻害することができる。PD-L2は、主にマクロファージおよび樹状細胞で発現するが、PD-L1は、Bリンパ球およびTリンパ球ならびに微小血管上皮細胞、肺、肝臓、心臓などの組織細胞等の末梢細胞で広く発現する。多数の研究によると、PD-1とPD-L1との相互作用は、生体内で免疫系の平衡を維持するために必要だけでなく、PD-L1発現陽性の腫瘍細胞が免疫監視を回避する主なメカニズムおよび原因でもあることが示される。PD-1/PD-L1シグナル伝達経路上の癌細胞の負の調節を遮断することにより、免疫系を活性化し、T細胞に関連する腫瘍特異的な細胞性免疫応答を促進することができるため、新しい腫瘍治療法である腫瘍免疫療法への扉が開かれる。
【0003】
PD-1(遺伝子Pdcd1によってコードされる)は、CD28およびCTLA-4に関連する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。研究結果は、PD-1がそのリガンド(PD-L1および/またはPD-L2)に結合すると、抗原受容体シグナル伝達を負に調節することを示す。現在、マウスPD-1の構造、およびマウスPD-1とヒトPD-L1との共結晶構造をすでに解明した(Zhang、X.ら、Immunity、20:337~347(2004)、Linら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、105:3011~6(2008))。PD-1および類似のファミリーのメンバーは、リガンド結合に関与するIg可変型(V-型)ドメインおよびシグナル伝達分子の結合に関与する細胞質テール領域を含む、I型膜貫通糖タンパク質である。PD-1細胞質テール領域は、二つのチロシンに基づくシグナル伝達モチーフITIM(免疫受容体チロシン阻害効果モチーフ)およびITSM(免疫受容体チロシン転換作用モチーフ)を含む。
【0004】
PD-1は、腫瘍の免疫回避メカニズムにおいて重要な役割を果たす。体自身の免疫系を使用して癌を抵抗する腫瘍免疫療法は、画期的な腫瘍治療法であるが、腫瘍微小環境は、効果的な免疫破壊から腫瘍細胞を保護できるため、腫瘍微小環境を破壊する方法は、抗腫瘍研究の焦点となる。既存の研究結果によると、腫瘍の微小環境におけるPD-1の役割が特定され、PD-L1は、多くのマウスおよびヒト腫瘍で発現し(ほとんどのPD-L1陰性腫瘍細胞株でIFN-γによって誘導されることができる)、腫瘍免疫回避を媒介する重要な標的であると推定される(Iwai Y.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、99:12293~12297(2002)、Strome S.E.ら、Cancer Res.、63:6501~6505(2003))。生検の免疫組織化学的評価により、ヒトの多くの原発性腫瘍で腫瘍細胞上のPD-1(腫瘍浸潤リンパ球について)および/またはPD-L1の発現が発見された。このような組織は、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、結腸がん、神経膠腫、膀胱がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、口腔扁平上皮がん、尿路上皮がんおよび膵臓がんならびに頭頸部腫瘍等を含む。これから分かるように、PD-1/PD-L1の相互作用を遮断すると、腫瘍特異的T細胞の免疫活性を向上させ、免疫系の腫瘍細胞の除去を助けることができるため、PD-L1は、腫瘍免疫療法薬の開発の人気な標的となる。
【0005】
EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)は、ErbB受容体ファミリーに属する、表皮成長因子(EGF)の受容体である。EGFRは、受容体型チロシンキナーゼに属する、分子量170KDaの膜貫通糖タンパク質であり、EGFおよびトランスフォーミング増殖因子-α(transforming growth factor α、TGFα)等の関連するリガンドの作用下で、EGFRは、単量体を二量体に変換することによって活性化されることにより、下流シグナル伝達経路をさらに活化下し、細胞の増殖を調節する。多数の研究によると、グリア細胞がん、腎臓がん、肺がん、前立腺がん、膵臓がん、乳がん等のほとんどの腫瘍の組織には、EGFRの高発現または異常発現が存在することが示される。EGFR機能の異常は、腫瘍細胞の増殖、血管新生、腫瘍浸潤、転移およびアポトーシスの阻害に関連する。その機能異常は、主に二つの側面で現れ、一つは、腫瘍組織における過剰な異常発現であり、二つは、腫瘍細胞におけるEGFR突然変異体の継続的な活性化である(リガンド刺激または自己循環刺激経路の形成を必要としない)。結腸がん患者の組織において、EGFRの発現率は、約25~77%である。関連する臨床データは、EGFR発現量の多少が腫瘍の悪性度および腫瘍患者の予後に密接に関連することを示す。
【0006】
Erbitux(Cetuximab、セツキシマブ、IMC-C225)は、EGFRに対するヒトマウスキメラモノクローナル抗体であり、EGFRに特異的に結合し、EFGRとそのリガンドとの結合を競合的に遮断することにより、EGFRシグナル伝達を阻害する。Erbituxは、2004年2月に販売が承認され、イリノテカンと併用してEGFR陽性、イリノテカンによる化学療法が無効な転移性結腸直腸がんの治療および放射線療法と併用して局所領域性早期頭頸部扁平上皮がんの治療に使用される(squamous cell carcinoma of the head and neck、SCCHN)。
【0007】
二重特異性抗体は、様々な炎症性疾患、癌、および他の疾患の治療に使用できる新しいクラスの治療用抗体になっている。
【0008】
当技術分野では、癌等の疾患を治療するための優れた特性を有する二重特異性抗体を開発することが緊急に必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Blank et al、2005、Cancer Immunotherapy、54:307~314
【非特許文献2】Zhang、X.ら、Immunity、20:337~347(2004)
【非特許文献3】Linら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、105:3011~6(2008)
【非特許文献4】Iwai Y.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、99:12293~12297(2002)
【非特許文献5】StromeS.E.ら、Cancer Res.、63:6501~6505(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体およびその適用を提供する。
【0011】
従って、本発明の第1の目的は、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体を提供することである。
【0012】
本発明の第2の目的は、前記二重特異性抗体をコードする単離されたヌクレオチドを提供することである。
【0013】
本発明の第3の目的は、前記ヌクレオチドを含む発現ベクターを提供することである。
【0014】
本発明の第4の目的は、前記発現ベクターを含む宿主細胞を提供することである。
【0015】
本発明の第5の目的は、前記二重特異性抗体の調製方法を提供することである。
【0016】
本発明の第6の目的は、前記二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供することである。
【0017】
本発明の第7の目的は、前記二重特異性抗体または前記医薬組成物癌を治療するための薬物の調製における用途を提供することである。
【0018】
本発明の第8の目的は、前記二重特異性抗体または前記医薬組成物を用いて癌を治療するための方法を提供することである。
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明は、次のような技術的解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様は、以下からなる群から選択される二つのポリペプチド鎖および二つの軽鎖を含む、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体を提供し、
(a)前記ポリペプチド鎖は、N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3またはVH-PDL1-リンカー1-VL-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3またはEGFR-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1またはEGFR-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VH-PDL1-リンカー1-VL-PDL1を含み、
前記軽鎖は、N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含み、または
(b)前記ポリペプチド鎖は、N末端からC末端までVL-EGFR-リンカー1-VH-EGFR-リンカー2-VH-PDL1-CH1-CH2-CH3またはVH-EGFR-リンカー1-VL-EGFR-リンカー2-VH-PDL1-CH1-CH2-CH3またはPDL1-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VL-EGFR-リンカー1-VH-EGFRまたはPDL1-CH1-CH2-CH3-リンカー2-VH-EGFR-リンカー1-VL-EGFRを含み、
前記軽鎖は、N末端からC末端までVL-PDL1-CLを含み、
ここで、前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、
前記VH-PDL1は、PD-L1に結合する重鎖可変領域であり、
前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、
前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、
前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
前記リンカー1およびリンカー2は、それぞれ独立して、柔軟なペプチドリンカーであり、
前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、
前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成する。
【0021】
別の好ましい例において、前記二重特異性抗体は、EGFRへの結合およびPD-L1への結合を同時に行う活性を有する。
【0022】
別の好ましい例において、前記柔軟なペプチドリンカーは、6~30個のアミノ酸、好ましくは10~25個のアミノ酸を含む。
【0023】
別の好ましい例において、前記柔軟なペプチドリンカーは、2~6個のG4Sおよび/またはG3Sを含む。
【0024】
別の好ましい例において、前記リンカー1は、3~5個のG4Sである。
【0025】
別の好ましい例において、前記リンカー2は、2~4個のG4Sである。
【0026】
別の好ましい例において、前記抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体は、
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖と、(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖とを含み、
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖において、
前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、
前記リンカー1およびリンカー2は、それぞれ独立して、柔軟なペプチドリンカーであり、
前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、
前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、および
(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖において
前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
ここで、前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成する。
【0027】
別の好ましい例において、前記抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体は、(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖と、(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖とを含み、
(a)N末端からC末端までVL-PDL1-リンカー1-VH-PDL1-リンカー2-VH-EGFR-CH1-CH2-CH3を含む二つのポリペプチド鎖において、前記VL-PDL1は、PD-L1に結合する軽鎖可変領域であり、前記リンカー1は、4個または5個のGGGGSであり、前記VH-PDL1は、PD-L1に結合する重鎖可変領域であり、前記リンカー2は、3個または4個のGGGGSであり、前記VH-EGFRは、EGFRに結合する重鎖可変領域であり、前記CH1-CH2-CH3は、重鎖定常領域であり、および
(b)N末端からC末端までVL-EGFR-CLを含む二つの軽鎖において、前記VL-EGFRは、EGFRに結合する軽鎖可変領域であり、前記CLは、軽鎖定常領域であり、
ここで、前記VL-PDL1と前記VH-PDL1とは、PD-L1に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、前記VH-EGFRと前記VL-EGFRとは、EGFRに特異的に結合する抗原結合部位を形成する。
【0028】
本発明の好ましい実施例によれば、前記VL-PDL1は、SEQ ID NO:1-3に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖CDRを含み、前記VH-PDL1は、SEQ ID NO:4-6に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖CDRを含み、前記VH-EGFRは、SEQ ID NO:7-9に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖CDRを含み、前記VL-EGFRは、SEQ ID NO:10-12に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖CDRを含む。
【0029】
本発明の好ましい実施例によれば、前記VL-PDL1は、SEQ ID NO:13に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VH-PDL1は、SEQ ID NO:14に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VH-EGFRは、SEQ ID NO:15に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記VL-EGFRは、SEQ ID NO:16に示されるようなアミノ酸配列を有する。
【0030】
本発明の好ましい実施例によれば、前記ポリペプチド鎖は、SEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18またはSEQ ID NO:23またはSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:25に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記軽鎖は、SEQ ID NO:19に示されるようなアミノ酸配列を有し、
または前記ポリペプチド鎖は、SEQ ID NO:26またはSEQ ID NO:27またはSEQ ID NO:28またはSEQ ID NO:29に示されるようなアミノ酸配列を有し、前記軽鎖は、SEQ ID NO:22に示されるようなアミノ酸配列を有する。
【0031】
本発明によれば、前記重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4重鎖定常領域を含み、前記軽鎖定常領域は、κまたはλ軽鎖定常領域を含む。
【0032】
本発明の第2の態様は、単離されたヌクレオチドを含み、前記ヌクレオチドは、前記二重特異性抗体をコードする。
【0033】
本発明の第3の態様は、発現ベクターを提供し、前記発現ベクターは、上記のようなヌクレオチドを含む。
【0034】
本発明の第4の態様は、宿主細胞を提供し、前記宿主細胞は、上記のような発現ベクターを含む。
【0035】
本発明の第5の態様は、前記二重特異性抗体の調製方法を提供し、前記方法は、
(a)発現条件下で、上記のような宿主細胞を培養することにより、前記二重特異性抗体を発現する段階と、
(b)(a)に記載の二重特異性抗体を分離および精製する段階とを含む。
【0036】
本発明の第6の態様は、医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、上記のような二重特異性抗体および薬学的に許容されるベクターを含む。
【0037】
別の好ましい例において、前記医薬組成物には、抗腫瘍剤が含まれる。
【0038】
別の好ましい例において、前記医薬組成物は、単位剤形である。
【0039】
別の好ましい例において、前記抗腫瘍剤は、前記二重特異性抗体単独とは別個のパッケージに存在することができ、または前記抗腫瘍剤は、前記二重特異性抗体にカップリングすることができる。
【0040】
別の好ましい例において、前記医薬組成物の剤形は、胃腸投与剤形または非経口投与剤形を含む。
【0041】
別の好ましい例において、前記非経口投与剤形は、静脈内注射、点滴注射、皮下注射、局所注射、筋肉内注射、腫瘍内注射、腹腔内注射、頭蓋内注射、または腔内注射を含む。
【0042】
本発明の第7の態様は、癌を治療するための薬物の調製における、上記のような二重特異性抗体、またはその免疫コンジュゲート、または上記のような医薬組成物の用途を提供する。
【0043】
本発明によれば、前記癌は、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、扁平上皮がん、頭頸部がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、乳がん、黒色腫、肺がん、肝臓がん、胃がん、リンパ腫、白血病、前立腺がん、骨髄がん及他の腫瘍性悪性疾患等からなる群から選択される。
【0044】
本発明の第8の態様は、必要とする被験者に上記のような二重特異性抗体、またはその免疫コンジュゲート、または上記のような医薬組成物を投与する段階を含む、癌の治療法を提供する。
【0045】
本発明によれば、前記癌は、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、扁平上皮がん、頭頸部がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、乳がん、黒色腫、肺がん、肝臓がん、胃がん、リンパ腫、白血病、前立腺がん、骨髄がん及他の腫瘍性悪性疾患等からなる群から選択される。
【0046】
本発明の第9の態様は、免疫コンジュゲートを提供し、前記免疫コンジュゲートは、
(a)本発明の第1の態様に記載の二重特異性抗体と、および
(b)検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素からなる群から選択されるカップリング部分とを含む。
【0047】
別の好ましい例において、前記コンジュゲート部分は、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューター断層撮影)造影剤、または検出可能な生成物を生成できる酵素、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(例えば、IL-2等)から選択される。
【0048】
別の好ましい例において、前記免疫コンジュゲートは、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を含む。
【0049】
別の好ましい例において、前記免疫コンジュゲートは、腫瘍を治療するための医薬組成物の調製に使用される。
【発明の効果】
【0050】
有益な効果:本発明は、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体を提供し、実験結果は、当該二重抗体が抗EGFRおよび抗PD-L1モノクローナル抗体の活性をより良好に維持できることを示し、PD-L1およびEGFRの二つの標的に同時に特異的に結合することができ、明らかな細胞レベルでの相乗効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の抗PDL1×EGFR二重抗体分子の構造概略図である。
図2A】抗PDL1×EGFR二重抗体のHPLC検出スペクトルおよびSDS-PAGE検出結果であり、ここで、図2Aは、HPLC検出スペクトルであり、図2Bは、SDS-PAGE検出結果である。
図2B】抗PDL1×EGFR二重抗体のHPLC検出スペクトルおよびSDS-PAGE検出結果であり、ここで、図2Aは、HPLC検出スペクトルであり、図2Bは、SDS-PAGE検出結果である。
図3A】抗PDL1×EGFR二重抗体のPD-L1およびEGFRそれぞれへの結合へのELISA検出の結果であり、ここで、図3Aは、PD-L1への結合の結果であり、図3Bは、EGFRへの結合の結果である。
図3B】抗PDL1×EGFR二重抗体のPD-L1およびEGFRそれぞれへの結合へのELISA検出の結果であり、ここで、図3Aは、PD-L1への結合の結果であり、図3Bは、EGFRへの結合の結果である。
図4】抗PDL1×EGFR二重抗体のPD-L1およびEGFRに同時に結合する二重特異性ELISA検出の結果である。
図5A】抗PDL1×EGFR二重抗体のA431およびN87-PDL1細胞それぞれへの結合のFACS検出の結果であり、ここで、図5Aは、A431細胞への結合の結果であり、図5Bは、N87-PDL1細胞への結合の結果である。
図5B】抗PDL1×EGFR二重抗体のA431およびN87-PDL1細胞それぞれへの結合のFACS検出の結果であり、ここで、図5Aは、A431細胞への結合の結果であり、図5Bは、N87-PDL1細胞への結合の結果である。
図6】抗PDL1×EGFR二重抗体によるA431細胞の増殖を阻害する活性結果である。
図7】細胞上のPD1/PD-L1の活性を遮断する抗PDL1×EGFR二重抗体の結果である。
図8】抗PDL1×EGFR二重特異性抗体とEGFR抗原とのアフィニティー検出のフィッティング図である。
図9】抗PDL1×EGFR二重特異性抗体とPD-L1抗原とのアフィニティー検出のフィッティング図である。
図10】抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の細胞レベルでの相乗効果である。
図11】SW48異種移植腫瘍モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗腫瘍効果である。
図12】B-hPD-L1ヒト化マウスMC38-hPD-L1異種移植腫瘍モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗腫瘍効果である。
図13】比較例の抗PDL1×EGFR二重抗体のA431細胞のインビトロでの増殖阻害効果の活性結果である。
図14A】比較例の抗PDL1×EGFR二重抗体の細胞上PD1/PD-L1阻害の活性結果であり、ここで、図14Aは、anti-PDL1×EGFR BsAb rev1、rev2、rev3と陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体との活性比較であり、図14Bは、抗PDL1×EGFR BsAb rev5、rev6、rev7、rev8と陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体との活性比較である。
図14B】比較例の抗PDL1×EGFR二重抗体の細胞上PD1/PD-L1阻害の活性結果であり、ここで、図14Aは、anti-PDL1×EGFR BsAb rev1、rev2、rev3と陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体との活性比較であり、図14Bは、抗PDL1×EGFR BsAb rev5、rev6、rev7、rev8と陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体との活性比較である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明者らは、広範囲かつ綿密な研究および大量のスクリーニングにより、抗EGFR抗体および抗PD-L1抗体からなる二重特異性抗体を得、本発明の二重特異性抗体は、ホモ二量体に属する。本発明の二重特異性抗体は、抗EGFR抗体および抗PDL1抗体の活性を維持するだけでなく、EGFRおよびPD-L1に同時に結合することができ、さらに重要なことに、細胞レベルの実験は、この二重特異性抗体が腫瘍細胞を殺傷する相乗効果を果たすことができることを示し、抗EGFR抗体よりも有意に高く、抗PD-L1抗体よりも高い殺傷活性を示す。従って、本発明の二重特異性抗体は、優れた治療効果を有する抗腫瘍薬物として開発することができる。これに基づいて、本発明者らは本発明を完成させた。
【0053】
用語
本発明において、「抗体(Antibody、略してAb)」および「免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、略してIgG)」という用語は、二つの同一の軽鎖(L)および二つの同一の重鎖(H)からなる同一の構造的特徴を有するヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合され、異なる免疫グロブリンアイソタイプ(isotype)の重鎖間でのジスルフィド結合の数は異なる。各重鎖および軽鎖は、規則的な感覚で配置された鎖内ジスルフィド結合も有する。各重鎖の一端には、可変領域(VH)があり、その後に定常領域が続き、重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の三つのドメインからなる。各軽鎖の一端には、可変領域(VL)があり、他端には定常領域があり、軽鎖定常領域は、一つのドメインCLを含み、軽鎖の定常領域は、重鎖の定常領域のCH1ドメインと対になり、軽鎖の可変領域は、重鎖の可変領域と対になる。定常領域は、抗体と抗原との結合に直接関与しないが、それらは、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性作用(ADCC、antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)に関与する等の、様々なエフェクター機能を示す。重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4サブタイプを含み、軽鎖定常領域は、κ(Kappa)またはλ(Lambda)を含む。抗体の重鎖および軽鎖は、重鎖のCH1ドメインと軽鎖のCLドメインとの間のジスルフィド結合によって共有結合され、抗体の二つの重鎖は、ヒンジ領域簡易形成されたポリペプチド間のジスルフィド結合によって共有結合される。
【0054】
本発明において、「二重特異性抗体(または二重抗体)」という用語は、同時に二つの抗原(標的)または二つのエピトープに特異的に結合できる抗体分子を指す。対称性に基づいて、二重特異性抗体は、構造的に対称な分子および非対称な分子に分けることができる。結合部位の数に応じて、二重特異性抗体は、二価、三価、四価および多価分子に分けることができる。
【0055】
本発明において、「モノクローナル抗体(mAb)」という用語は、実質的に均一な集団から得られる抗体を指し、即ち、当該集団に含まれる個々の抗体は、存在し得る天然に発生する少数の変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対して非常に特異的である。また、従来のポリクローナル抗体製剤(通常は、異なる抗原決定基を有する異なる抗体の混合物)とは異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基にを向けられる。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の利点は、他の免疫ブロブリンによる汚染なしにハイブリドーマ培養によって合成できることである。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特性を示し、これは、抗体産生に特定の方法が必要であると解釈されるべきではない。
【0056】
本発明において、「Fab」および「Fc」という用語は、パパインが抗体を二つの同一のFabセグメントおよび一つのFcセグメントに切断できることを指す。Fabセグメントは、抗体の重鎖のVHおよびCH1ならびに軽鎖のVLおよびCLドメインからなる。Fcセグメントは、抗体のCH2およびCH3ドメインからなる結晶化可能なフラグメント(fragment crystallizable、Fc)である。Fcセグメントは、抗原結合活性を有さず、抗体とエフェクター分子または細胞と相互作用する部位である。
【0057】
本発明において、「scFv」という用語は、抗体の重鎖の可変領域および軽鎖の可変領域とが一般に15~25個のアミノ酸のリンカー(linker)を介して結合されることによって形成される、一本鎖抗体(single chain antibody fragment、scFv)である。
【0058】
本発明において、「可変」という用語は、抗体の可変領域の特定の部分の配列が異なることを指し、それは、特定の抗原に対する様々な特定の結合および特異性を形成する。しかしながら、可変性は、抗体可変領域全体に均等に分されていない。それは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域で相補性決定領域(complementarity-determining region、CDR)または超可変領域と呼ばれる三つのフラグメントに集中する。可変領域のより保存された部分は、フレームワーク領域(frame region、FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ、四つのFR領域を含み、それらは、接続環を形成する三つのCDRによって接続された大抵β-フォールディング構成にあり、場合によっては部分的なβフォールディング構造を形成することができる。各鎖のCDRは、FR領域によって緊密に近接され、かつ別の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位を形成する(Kabatら、NIH Publ.No.91-3242、巻I、647~669ページ(1991)を参照する)。
【0059】
本明細書で使用されるように、「フレームワーク領域」(FR)という用語は、CDR間に挿入されるアミノ酸配列、即ち、単一種の異なる免疫グロブリン間で比較的保存された免疫グロブリンの軽鎖および重鎖可変領域の部分を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖は、それぞれFR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-LおよびFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと呼ばれる四つのFRを有する。対応的に、軽鎖可変ドメインは、(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と呼ばれることができ、かつ重鎖可変ドメインは、(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)-(CDR3-H)-(FR4-H)として表されることができる。好ましくは、本発明のFRは、ヒト抗体FRまたはその誘導物であり、前記ヒト抗体FRの誘導物は、天然に存在するヒト抗体FRと実質的に同一であり、即ち、配列の同一性は、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%に達する。
【0060】
CDRのアミノ酸配列を知っている当業者は、フレームワーク領域FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-Lおよび/またはFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hを容易に決定することができる。
【0061】
本明細書で使用されるように、「ヒトフレームワーク領域」という用語は、天然に存在するヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一(約85%またはそれ以上、具体的には90%、95%、97%、99%または100%)であるフレームワーク領域である。
【0062】
本明細書で使用されるように、「リンカー」という用語は、軽鎖および重鎖のドメインが交換された二重可変領域免疫グロブリンにフォールディングされるのに十分な可動性を提供するために、免疫グロブリンドメインに挿入された一つまたは複数のアミノ酸基を指す。本発明において、好ましいリンカーとは、リンカー1およびリンカー2を指し、ここで、リンカー1は、一本鎖抗体(scFv)のVHおよびVLに結合し、リンカー2は、scFvを別の抗体の重鎖に結合するために使用される。
【0063】
適切なリンカーの例としては、モノグリシン(Gly)、またはセリン(Ser)残基を含み、リンカー中のアミノ酸残基の標識および配列は、リンカー中で達成する必要がある二次構造要素のタイプによって異なる。
【0064】
二重特異性抗体
本発明の二重特異性抗体は、抗PDL1抗体部分および抗EGFR抗体部分を含む、抗PDL1×EGFRの二重特異性抗体である。
【0065】
好ましくは、本発明の抗PD-L1抗体の配列は、特許出願PCT/CN2020/090442に記載されたとおりであり、当業者は、本発明の抗PD-L1抗体を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の付加、欠失および/または置換等の当技術分野で周知の技術によって修飾または形質転換されることができることにより、抗PD-L1のアフィニティーまたは構造安定性をさらに増加させ、従来の測定方法によって修飾または改変された結果を得ることができる。
【0066】
本発明において、「本発明の二重特異性抗体の保存的変異体」とは、本発明の二重特異性抗体のアミノ酸配列と比較して、最大10個、好ましくは最大8個、より好ましくは最大5個、最も好ましくは最大3個のアミノ酸が同様または類似の性質を有するアミノ酸によって置き換えられてポリペプチドを形成することを指す。これらの保存的変種ポリペプチドは、好ましくは、表Aによるアミノ酸の置き換えによって産生される。
【0067】
【表1】
【0068】
本発明において、「抗」、「結合」、「特異的結合」という用語は、抗体とその対応する抗原との間の反応等、二つの分子間のランダムでない結合反応を指す。通常、抗体は、約10-7M、例えば、約10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、10-11M未満またはそれ以下の平衡解離定数(KD)で抗原に結合する。本発明において、「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指し、抗体と抗原との間の結合アフィニティーを説明するために使用される。平衡解離定数が小さいほど、抗体-抗原の結合が強くなり、抗体と抗原との間のアフィニティーが高くなる。例えば、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、略してSPR)を使用してBIACORE機器で抗体と抗原との結合アフィニティーを測定するか、またはELISAを使用して抗体と抗原結合との相対的アフィニティーを測定する。
【0069】
本発明において、「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合するポリペプチド決定基を言う。本発明のエピトープは、抗体が結合する抗原の領域である。
【0070】
本発明の二重特異性抗体は、単独で使用することができるか、検出可能なマーカー(診断目的で)、治療剤、または任意のこれらの物質の組み合わせと結合またはカップリングされることができる。
【0071】
核酸および発現ベクターのコード化
本発明は、上記の抗体またはそのフラグメントまたはその融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子をさらに提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態またはRNA形態であり得る。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは人口構成DNAを含む。DNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。DNAは、コード鎖または非コード鎖であり得る。
【0072】
本発明において、「発現ベクター」という用語は、プラスミド、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、ファージ、酵母プラスミド、または他のベクター等、特定の標的タンパク質または他の物質を発現されるための発現カセットを担持するベクターを指す。代表的な例としては、pTT5、pSECtagシリーズ、pCGS3シリーズ、pcDNAシリーズのベクター等、ならびに哺乳動物の発現系で使用される他のベクター等を含むが、これらに限定されない。発現ベクターには、適切な転写および翻訳調節配列に結合された結合DNA配列が含まれる。
【0073】
関連する配列を得られたら、組換え法を使用して、関連する配列を大領に得ることができる。通常、これは、それをベクターにクローニングし、次に細胞に形質転換し、次に従来の方法によって増殖した宿主細胞から関連する配列を単離することによって得られる。
【0074】
本発明は、前記適切なDNA配列および適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターにさらに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現できるように適切な宿主細胞に形質転換するために使用されることができる。
【0075】
本発明において、「宿主細胞」という用語は、上記の発現ベクターを発現するのに適した細胞を指し、本発明の融合タンパク質の発現のために使用できる哺乳動物または昆虫の宿主細胞培養系等の真核細胞であり得、CHO(中国ハムスター卵巣、Chinese Hamster Ovary)、HEK293、COS、BHKおよび上記の細胞の派生細胞は、本発明に適用されることができる。
【0076】
医薬組成物および適用
本発明は、組成物をさらに提供する。好ましくは、前記組成物は、上記の抗体またはその活性フラグメントまたはその融合タンパク質、ならびに薬学的に許容されるベクターを含む医薬組成物である。一般に、これらの物質を、毒性がなく、不活性で、薬学的に許容される水性ベクター媒体で処方することができ、ここで、pHは、通常、約5~8、好ましくは、約6~8であり、pH値は、処方される物質の性質および治療される病症によって異なる。処方された医薬組成物は、従来の経路で投与されることができ、ここで、静脈内注射、静脈内点滴、皮下注射、局所注射、筋肉内注射、腫瘍内注射、腹腔内注射(腹膜内等)、頭蓋内注射、または腔内注射をふくむ(これらに限定されない)。
【0077】
本発明において、「医薬組成物」という用語は、本発明の二重特異性抗体を薬学的に許容されるベクターと共に医薬製剤組成物を形成することによりより安定した治療効果を発揮できることを指し、これらの製剤は、本発明で開示された二重特異性抗体のアミノ酸コア配列のコンフォメーションの完全性を確保し、同時にタンパク質の多官能基を分解から保護することができる(凝縮、脱アミノ化または酸化を含むがこれらに限定されない)。
【0078】
本発明の医薬組成物は、安全かつ有効な量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは、0.01~90wt%、より好ましくは、0.1~80wt%)の本発明の上記の二重特異性抗体(またはそのコンジュゲート)および薬学的に許容されるベクターまたは賦形剤を含む。このようなベクターは、生理食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。薬物製剤は、投与方法と一致する必要がある。本発明の医薬組成物は、例えば、生理食塩水またはグルコースと他のアジュバントとを含む水溶液を使用して、従来の方法によって注射の形態で調製することができる。注射剤および溶液等の医薬組成物は、無菌条件下で調製する必要がある。有効成分の投与量は、治療有效量であり、例えば、毎日の約10μg/kg体重~約50mg/kg体重である。さらに、本発明の二重特異性抗体は、他の治療剤とともに使用することもできる。
【0079】
医薬組成物を使用する場合、安全かつ有効な量の二重特異性抗体またはその免疫コンジュゲートが哺乳動物に陽よされ、ここで、当該安全かつ有効な量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重であり、ほとんどの場合、約50mg/kg体重を超えなく、好ましくは、当該投与量は、約10μg/kg体重~約10mg/kg体重である。もちろん,具体的な投与量は、投与経路および患者の健康状態等の要因を考慮する必要があり、これらは、すべて熟練した医師のスキル範囲内にある。
【0080】
以下の実施例で使用される実験材料の説明は、次のように記載されたとおりである。
【0081】
pcDNATM 3.4 TOPO(登録商標) vector :Thermo fisher会社から購入され、カタログ番号A14697、
CHO細胞:Thermo fisher会社から購入され、カタログ番号A29133、
293E細胞:NRC biotechnology Research Instituteから購入され、
PD-1/PD-L1 Blockade Bioassay,Propagation model:Promega会社から購入され、カタログ番号J1252、
ヒト胃がん細胞株NCI-N87:アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から購入され、
ヒト表皮がん細胞A431:ATCCから購入され、
SDラット:上海霊暢生物科学技術株式会社から購入され、
SW48細胞:中国科学院上海生物化学研究院から購入され、
MC38細胞:広州ジェネオバイオテクノロジー株式会社から購入され、
B-hPD-L1ヒト化マウス:Biocytogen江蘇遺伝子バイオテクノロジー株式会社から購入される。
【0082】
以下の実施例で使用される実験試薬の説明は、次のように記載されたとおりである。
【0083】
抗PD-L1モノクローナル抗体:PCT/CN2020/090442中の配列に従って調製され、
抗EGFRモノクローナル抗体:セツキシマブの配列に従って調製され、
HRP標識羊抗ヒトFc抗体:sigmaから購入され、カタログ番号A0170、
HRP標識マウス抗ヒトFab抗体:sigmaから購入され、カタログ番号A0293、
HRP標識anti-6×His抗体:abcamから購入され、カタログ番号ab178563、
ヤギ抗ヒトIgG-FITC:sigmaから購入され、カタログ番号F4143、
PBS:Sangonバイオエンジニアリング(上海)株式会社から購入され、カタログ番号B548117、
PBST:PBS+0.05%Tween 20、
BSA:Sangonバイオエンジニアリング(上海)株式会社から購入され、カタログ番号A60332、
FBS:Gibcoから購入され、カタログ番号10099、
TMB:BD会社から購入され、カタログ番号555214;
RPMI 1640培地:Gibcoから購入され、カタログ番号22400-089、
Bio-Glo Luciferase Assay System:Promegaから購入され、カタログ番号G7940、
Cell Counting Kit-8:日本同仁化学研究所(Dojindo)から購入され、カタログ番号CK04、
DMEM培地:Cellgroから購入され、カタログ番号10-013-CV。
【0084】
以下の実施例で使用される実験機器の説明は、次のように記載されたとおりである。
【0085】
PCR装置:BioRadから購入され、カタログ番号C1000 Touch Thermal Cycler、
HiTrap MabSelectSuReカラム:GE会社から購入され、カタログ番号11-0034-95、
Beckman Coulter CytoFLEXフローサイトメーター:Beckman会社から購入され、
SpectraMax i3xマイクロプレートリーダー:Molecular Devices会社から購入され、
SpectraMaxM5マイクロプレートリーダー:Molecular Devices会社から購入される。
【0086】
以下の実施例、実験例は、本発明をさらに説明するためのものであり、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。実施例は、ベクターおよびプラスミドを構築するそれらの方法、タンパク質をコードする遺伝子をそのようなベクターおよびプラスミドに挿入する方法またはプラスミドに宿主細胞を導入する方法等の、従来の方法の詳細な説明を含まない。そのような方法は、当業者に周知であり、Sambrook、J.、Fritsch、E.F.and Maniais、T.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2nd edition、Cold spring Harbor Laboratory Press等の、多くの出版物に記載されている。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法については、通常、従来の条件または製造業者によって提案された条件に従う。特に明記しない限り、パーセンテージおよび部数は、重量パーセンテージおよび重量部数である。
【0087】
実施例1.抗PDL1×EGFR二重抗体分子の構築
本発明は、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体M8(配列は、PCT/CN2020/090442に由来する)のscFv(VL-リンカー1-VH、リンカー1は、4個または5個のGGGGSである)を、リンカー2(3個または4個のGGGGSである)を介して、抗ヒトEGFRモノクローナル抗体(セツキシマブの配列に従って調製され、配列は、Magdelaine-Beuzelin C、Kaas Q、Wehbi V、et al.Structure-function relationships of the variable domains of monoclonal antibodies approved for cancer treatment[J].Critical reviews in oncology/hematology、2007、64(3):210-225に由来する)の重鎖のN-末端に直列に接続して、抗PDL1×EGFR二重特異性抗体を構築する。ここで、リンカー1が4個のGGGGSであり且つリンカー2が3個のGGGGSである二重抗体は、anti-PDL1×EGFR BsAb1と命名され、リンカー1が5個のGGGGSであり且つリンカー2が3個のGGGGSである二重抗体は、anti-PDL1×EGFR BsAb2と命名される。構造は、図1に示されたとおりである。
【0088】
本発明は、抗PDL1×EGFR二重抗体分子を構築するためにいくつかの他の結合方法を使用し、以下に示されたとおりである。
【0089】
anti-PDL1×EGFR BsAb rev1:抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVL-リンカー1-VHであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVLをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトEGFRモノクローナル抗体の重鎖C-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev2:抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVH-リンカー1-VLであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVHをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトEGFRモノクローナル抗体の重鎖C-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev3:抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVH-リンカー1-VLであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVLをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトEGFRモノクローナル抗体の重鎖N-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev5:抗ヒトEGFRモノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVL-リンカー1-VHであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVLをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体の重鎖C-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev6:抗ヒトEGFRモノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVH-リンカー1-VLであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVHをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体の重鎖C-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev7:抗ヒトEGFRモノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVH-リンカー1-VLであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVLをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体の重鎖N-末端に直列に構築され、
anti-PDL1×EGFR BsAb rev8:抗ヒトEGFRモノクローナル抗体のscFv(N末端からC末端までVL-リンカー1-VHであり、リンカー1は、4個のGGGGSである)を使用し、scFvのVHをリンカー2(3個のGGGGSである)を介して、抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体の重鎖N-末端に直列に構築される。
【0090】
遺伝子合成および従来の分子クローニング法によって、二重特異性抗体およびその対応するモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖発現ベクターを得、その対応するアミノ酸配列は、表1に示されたとおりであり、ここで、CDRは、Kabatの規則に従ってコードされる。
【0091】
【表2】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
実施例2.抗PDL1×EGFR二重抗体の発現および精製
抗PDL1×EGFR二重抗体の重鎖および軽鎖のDNAフラグメントを、それぞれpcDNA3.4ベクターにサブクローニングし、組換えプラスミドを抽出し、CHO細胞および/または293E細胞にコトランスフェクトし、細胞を5~7日培養した後、培養液を高速遠心分離および、微多ウェル膜で吸引ろ過した後、サンプルをHiTrap MabSelectSuReカラムにロードし、100mMのクエン酸、pH3.5を含む溶離液でタンパク質を溶出し、pH7.4のPBSに透析する。
【0097】
精製後のタンパク質をHPLCで検出し、抗PDL1×EGFR二重抗体のHPLC-SEC検出スペクトルは、図2Aに示されたとおりである。anti-PDL1×EGFR BsAb1およびanti-PDL1×EGFR BsAb2の二つの二重抗体の単量体の純度は、92%以上に達し、ここで、anti-PDL1×EGFR BsAb2の単量体の純度は、anti-PDL1×EGFR BsAb1よりわずかに高い。
【0098】
SDS-PAGEの検出結果は、図2Bに示されたとおりであり、レーン1および2は、抗PDL1×EGFR二重抗体の非還元および還元SDS-PAGEであり、レーン3および4は、抗EGFRモノクローナル抗体の非還元および還元SDS-PAGEである。二重抗体の理論上の分子量は、198KDである。
【0099】
実施例3.抗原に対する抗PDL1×EGFR二重抗体のアフィニティーを検出するための酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
3.1.PD-L1抗原によるアフィニティー検出
抗PDL1×EGFR二重抗体およびPD-L1抗原のアフィニティーを検出するために、pH7.4のPBS緩衝液で、PDL1-ECD-Hisタンパク質(NCBIによって提供された配列(NCBI登録番号は、NP_054862.1である)に従って、PD-L1細胞外ドメイン遺伝子を合成し、且つそのN末端にシグナルペプチド配列を付加し、C末端に6×Hisタグを付加し、EcoRIおよびHindIIIの二つの制限部位によってそれぞれ発現ベクターに構築され、HEK-293E細胞にトランスフェクトされ、発現および精製されて得られる)を1000ng/mlに希釈し、次いで100μl/ウェルをELISAプレートに加え、4℃下で一晩インキュベートし、翌日、PBSTでプレートを2回洗浄し、各ウェルにPBST+1%BSAを加えてブロックし、37℃下で1時間ブロックし、PBSTでプレートを2回洗浄し、次いでPBS+1%BSAの勾配で希釈した検出する抗体を加え、抗PD-L1モノクローナル抗体は、陽性対照として使用され、初期濃度は、100nMであり、12個の勾配を3倍に段階希釈する。37℃下で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを2回洗浄し、二次抗体HRP標識ヤギ抗ヒトFc抗体を加え、37℃下で40分間さらにインキュベートし、PBSTでプレートを3回洗浄し、且つ軽くたたいて乾かし、各ウェルに100μlのTMBを加え、室温(20±5℃)の暗所で5分間置き、各ウェルに50μlの2M HSO停止液を加えて基質反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmでのOD値を読み取り、GraphPad Prismでデータを分析し、プロットし、EC50を計算する。
【0100】
実験結果は、図3Aに示されたとおりであり、抗PD-L1モノクローナル抗体、anti-PDL1×EGFR BsAb1およびanti-PDL1×EGFR BsAb2のEC50は、すべて0.11nMであり、三つのアフィニティーは、類似する。
【0101】
3.2.EGFR抗原によるアフィニティー検出
抗PDL1×EGFR二重抗体およびEGFR抗原のアフィニティーを検出するために、pH7.4のPBS緩衝液でEGFR-ECD-hFcタンパク質(UniProtによって提供された配列(シリアル番号P00533)に従って、細胞外ドメイン遺伝子を合成し、且つそのN末端にシグナルペプチド配列を付加し、C末端にhFcタグを付加し、EcoRIおよびHindIIIの二つの制限部位によってそれぞれ発現ベクターに構築され、HEK-293E細胞にトランスフェクトされ、発現および精製されて得られる)を1000ng/mlに希釈し、次いで100μl/ウェルをELISAプレートに加え、4℃下で一晩インキュベートし、翌日PBSTでプレートを2回洗浄し、各ウェルにPBST+1%BSAを加えてブロックし、37℃下で1時間ブロックし、PBSTでプレートを2回洗浄し、次いでPBS+1%BSAの勾配で希釈した検出する抗体を加え、抗EGFRモノクローナル抗体を陽性対照として使用され、初期濃度は、100nMであり、12個の勾配を3倍に段階希釈する。37℃下で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを2回洗浄し、二次抗体HRP-anti-Fab抗体を加え、37℃下で40分間さらにインキュベートし、PBSTでプレートを3回洗浄し、且つ軽くたたいて乾かし、各ウェルに100μlのTMBを加え、室温(20±5℃)の暗所で5分間置き、各ウェルに50μlの2M HSO停止液を加えて基質反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmでのOD値を読み取り、GraphPad Prism6でデータを分析し、プロットし、EC50を計算する。
【0102】
実験結果は、図3Bに示されたとおりであり、抗EGFRモノクローナル抗体のEC50は、0.15nMであり、anti-PDL1×EGFR BsAb1のEC50は、0.15nMであり、anti-PDL1×EGFR BsAb2のEC50は、0.21nMであり、三つのアフィニティーは、類似する。
【0103】
実施例4.抗PDL1×EGFR二重抗体が二つの抗原に同時に結合する能力を検出するための二重特異性ELISA
抗PDL1×EGFR二重抗体がEGFR抗原およびPD-L1抗原に同時に結合する能力を検出するために、pH7.4のPBS緩衝液でPDL1-ECD-hFcタンパク質(PDL1-ECD-Hisタンパク質のC末端をhFcタグに置き換える)を1μg/mlに希釈し、次いで100μl/ウェルをELISAプレートに加え、4℃下で一晩インキュベートし、翌日PBSTでプレートを2回洗浄し、各ウェルにPBST+1%BSAを加えてブロックし、37℃下で1時間ブロックし、PBSTでプレートを2回洗浄し、次いでPBS+1%BSAの勾配で希釈した検出する抗体を加え、初期濃度は、300nMであり、12個の勾配を3倍に段階希釈する。37℃下で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを2回洗浄し、pH7.4のPBSで希釈した1μg/mlのEGFR-ECD-His抗原(EGFR-ECD-hFcタンパク質のC末端を6×Hisタグに置き換える)をさらに加え、100μl/ウェルをELISAプレートに加える。37℃下で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを2回洗浄し、二次抗体HRP-anti-Hisを加え、37℃下で40分間さらにインキュベートし、PBSTでプレートを3回洗浄し、且つ軽くたたいて乾かし、各ウェルに100μlのTMBを加え、室温(20±5℃)の暗所で5分間置き、各ウェルに50μlの2M HSO停止液を加えて基質反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmでのOD値を読み取り、GraphPad Prismでデータを分析し、プロットし、EC50を計算する。
【0104】
実験結果は、図4に示されたとおりであり、anti-PDL1×EGFR BsAb1およびanti-PDL1×EGFR BsAb2のEC50は、それぞれ0.66nMおよび0.63nMであり、モノクローナル抗体は、両方の抗原に同時に結合する能力はない。
【0105】
実施例5.標的細胞に対する抗PDL1×EGFR二重抗体の結合アフィニティーのFACS検出
本実験では、細胞表面にEGFRを高発現するヒト表皮がん細胞A431を標的細胞として使用し、0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、毎回300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄する。0.5%BSAのPBSで細胞を再懸濁し、細胞密度は、1×10細胞/mLであり、100μL/ウェルを96ウェルプレートに加える。抗PDL1×EGFR二重抗体および陽性対照抗EGFRモノクローナル抗体を600nMに希釈し、11個の勾配を段階希釈し、100μL/ウェルを96ウェルプレートに加え、A431細胞と均等に混合する。4℃下で1時間インキュベートする。PBSで細胞を2回洗浄して、結合しない検出する抗体を除去する。100μL/ウェルのヤギ抗ヒトIgG-FITCを皿に加えて、4℃下で30分間インキュベートする。300gで5分間遠心分離し、PBSで細胞を2回洗浄して、結合しない二次抗体を除去する。最後に、細胞を200μlのPBSに再懸濁し、Beckman Coulter CytoFLEXフローサイトメーターによって当該細胞に対する二重抗体の結合アフィニティーを測定する。得られたデータは、GraphPad Prism7ソフトウェアによってフィッティングおよび分析される。
【0106】
実験結果は、図5Aに示されたとおりであり、抗EGFRモノクローナル抗体、anti-PDL1×EGFR BsAb1およびanti-PDL1×EGFR BsAb2の三者のEC50は、すべて1.56nMであり、三つのアフィニティーは、類似する。
【0107】
N87-PDL1は、本実験室でレンチウイルストランスフェクション法を用いてNCI-N87にPD-L1をトランスフェクトすることによって構築された安定細胞株である。対数増殖期のN87-PDL1をトリプシンで消化した後、0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、毎回300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄する。0.5%BSAのPBSで細胞を再懸濁し、細胞密度は、1×106細胞/mLであり、100μL/ウェルを96ウェルプレートに加える。抗PDL1×EGFR二重抗体および陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体を120nMに希釈し、11個の勾配を段階希釈し、100μL/ウェルを96ウェルプレートに加え、N87-PDL1細胞と均等に混合する。残りの方法は、上記と同じである。
【0108】
実験結果は、図5Bに示されたとおりであり、抗PD-L1モノクローナル抗体のEC50は、0.11nMであり、anti-PDL1×EGFR BsAb1のEC50は、0.16nMであり、anti-PDL1×EGFR BsAb2のEC50は、0.22nMであり、三つのアフィニティーは、類似する。
【0109】
実施例6.インビトロでのA431細胞増殖に対する抗PDL1×EGFR二重抗体の阻害効果
ヒト表皮がん細胞A431の表面にEGFRを高発現し、抗EGFR抗体は、インビトロでA431細胞の増殖を効果的に阻害することができる。対数増殖期のA431細胞を、1%FBSを含むRPMI1640培地で5×10/mLに希釈し、100μL/ウェルで96ウェル培養プレートに接種し、24時間接着成長した後、1%FBSのRPMI1640培地で希釈した異なる濃度の検出する抗体を加える。検出する抗体の初期作業濃度は、50nMであり、合計10個の異なる濃度を3倍に段階希釈し、濃度ごとに二重デュープリケートウェルを設定する。37℃下で、5%CO条件下で細胞を72時間培養した後、20μl/ウェルのCCK-8発色液を加え、室温下で1.5時間インキュベートする。SpectraMaxM5マイクロプレートリーダーで、検出波長として450nm、参照波長として650nmを使用して読み取り、GraphPad Prismでデータを分析し、プロットし、IC50を計算する。
【0110】
実験結果は、図6に示されたとおりであり、A431の増殖を阻害するanti-PDL1×EGFR BsAb1、anti-PDL1×EGFR BsAb2、抗EGFRモノクローナル抗体のIC50は、それぞれ6.63nM、7.17nM、5.23nMである。三つの阻害活性は、相当である。
【0111】
anti-PDL1×EGFR BsAb rev1、rev2、rev3、rev5、rev6、rev7およびrev8等の七つの二重特異性抗体は、インビトロでA431細胞の増殖に対する阻害効果実験において、結果は、図13に示されたとおりである。anti-PDL1×EGFR BsAb rev2、rev7およびrev8の三つの二重特異性抗体の活性は、陽性対照抗EGFRモノクローナル抗体より有意に悪く、anti-PDL1×EGFR rev5は、陽性対照よりわずかに弱く、anti-PDL1×EGFR rev3の活性は、陽性対照抗EGFRモノクローナル抗体と有意な差はない。
【0112】
さらに、anti-PDL1×EGFR rev6の発現量は、低い。
【0113】
実施例7.細胞上のPD1/PD-L1の活性を遮断する抗PDL1×EGFR二重抗体
本実験では、PromegaのPD-1/PD-L1 Blockade Bioassay、Propagation modelおよび方法を使用する。
【0114】
対数増殖期のPD-L1 aAPC/CHO-K1を取り、トリプシンで単一の細胞に消化した後に白色底透明96ウェルプレートに転移し、100μL/ウェル、40000細胞/ウェル、37℃、5%COに置き、一晩インキュベートする。抗PDL1×EGFR二重抗体および抗PD-L1モノクローナル抗体を取り、2×作業液濃度に希釈し、初期濃度は、24nMであり、3倍に段階希釈する。密度が1.4~2×10細胞/mLで、細胞生存率が95%以上であるPD1エフェクター細胞を取り、トリプシンで1.25×10細胞/mLの単一細胞懸濁液に消化する。前日にプレーティングしたPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を取り、上清を廃棄し、段階希釈した40μlの二重抗体/PD-L1モノクローナル抗体作業液を加え、等量のPD1エフェクター細胞を加える。37℃、5%COに置き、6時間インキュベートする。各ウェルに80μlの検出試薬Bio-Gloを加え、室温下で10分間インキュベートした後、spectramax i3でluminescenceを読み取る。プレートを読み取る前に、遮光膜でプレートの底をシールする。GraphPad Prismでデータを分析し、プロットし、IC50を計算する。
【0115】
実験結果は、図7に示されたとおりであり、anti-PDL1×EGFR BsAb1、anti-PDL1×EGFR BsAb2、抗PD-L1モノクローナル抗体のIC50は、それぞれ1.06nM、1.21nM、0.78nMであり、三つの効果は相当である。
【0116】
anti-PDL1×EGFR BsAb rev1、rev2、rev3、rev5、rev6、rev7、およびrev8等の七つの二重特異性抗体は、細胞上のPD1/PD-L1シグナル伝達経路の活性を遮断し、結果は、図14に示されたとおりである。anti-PDL1×EGFR BsAb rev1、rev2、rev3、rev7の四つの二重特異性抗体は、陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体より有意に悪く(図14A)、anti-PDL1×EGFR BsAb rev5、rev6およびrev8の活性は、陽性対照抗PD-L1モノクローナル抗体と有意な差はない(図14B)。
【0117】
実施例6および7の実験結果に基づいて、総合的な性能の順序は、anti-PDL1×EGFR BsAb1≧anti-PDL1×EGFR BsAb2>他の二重特異性抗体である。
【0118】
実施例8.抗PDL1×EGFR二重抗体の薬物動態学研究
体重約200gの各群に5匹のSDラットを取り、各ラットに尾静脈から3mgの抗体anti-PDL1×EGFR BsAb2を注射する。投与後の採決の時点は、0時間、3時間、24時間、48時間、96時間、168時間、336時間である。眼窩より採血し、自然凝固後、8000rpm/minで遠心分離し、血清を得る。
【0119】
anti-PDL1×EGFR BsAb2の血清中の薬物濃度は、以下の方法で検出する。
【0120】
1)プロテインAをELISAプレートにコーティングし、抗体Fabセグメントを検出する。プロテインAでコーティングし、コーティング量は、100ng/ウェルであり、4℃下で一晩コーティングし、翌日PBSTでプレートを2回洗浄し、次いでPBS+2%BSAで37℃下で2時間ブロッキングする。PBSTでプレートを2回洗浄する。anti-PDL1×EGFR BsAb2の標準品は、1000ng/mLから開始し、12個の勾配で2倍に段階希釈する。ラット血清サンプルを1000~4000倍に希釈する。上記の二つのグループのサンプルを密封したELISAプレートに加え、1時間インキュベートし、PBSTでプレートを2回洗浄した後にHRP標識マウス抗ヒトFab抗体を加え、37℃下で30分間静置し、PBSTでプレートを3回洗浄した後、吸収紙に残った液滴をできるだけパッティングして乾かし、各ウェルに100μlのTMBを加え、室温(20±5℃)の暗所で5分間置き、各ウェルに50μlの2MHSO停止液を加えて基質反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmでのOD値を読み取る。計算して得られた半減期は、304時間である。
【0121】
2)EGFR-ECD-hFcコーティングELISAプレート、50ng/ウェル。残りの方法は、上記と同じである。計算して得られた半減期は、275時間である。
【0122】
3)PDL1-ECD-hFcコーティングELISAプレート、100ng/ウェル。残りの方法は、上記と同じである。計算して得られた半減期は、232時間である。
【0123】
表1~3に示されたとおりであり、上記の三つのグループのELISA結果から、計算された半減期の結果は、類似しており、分析データが信頼できることを示す。
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
実施例9.抗原に対する抗PDL1×EGFR二重特異性抗体のアフィニティーのBiacore8K測定
プロテインA捕捉法を用いて抗PDL1×EGFR二重特異性抗体および抗原PDL1-ECD-hisに結合する動態学パラメーターを測定する。濃度が2μg/mlである二重特異性抗体をプロテインAチップに結合し、抗原PDL1-ECD-hisを1×HBS-EP作業液で50nMから2倍に段階希釈し、抗体に結合する七つの濃度勾配を設定し、HBS-EP作業液で解離する(図9に示されたとおりである)。
【0128】
プロテインA捕捉法を用いて抗PDL1×EGFR二重特異性抗体および抗原EGFR-ECD-hisに結合する動態学パラメーターを測定する。濃度が2μg/mlである二重抗体をプロテインAチップに結合し、抗原EGFR-ECD-hisを1×HBS-EP作業液で25nMから2倍に段階希釈し、抗体に結合する七つの濃度勾配を設定し、HBS-EP作業液で解離する(例えば、図8に示されたとおりである)。
【0129】
抗PDL1×EGFR BsAb1および対照モノクローナル抗体、ならびにEGFR-his、PDL1-ECD-hisに結合する動態学パラメーターは、以下の表(表4、表5)に示される。
【0130】
データ結果は、陽性対照と比較して、抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の親和性解離定数には有意差がないことを示す。
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
実施例10.細胞レベルでの抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の相乗効果
96ウェルプレートでの細胞プレーティング:対数増殖期に培養したSW48細胞を、問プシンで消化した後、5%FBSを加えたRPMI1640培地に交換し、細胞密度を100000個/mLに調整する。100μL/ウェルを使用して96ウェルプレート、即ち10000個/ウェルにプレーティングする。37℃、5%COインキュベーターで一晩インキュベートする。
【0134】
翌日投与:各抗体の濃度は、200nMであり、ヒトPBMCは、50000個/ウェルであり、最終体積は、200μL/ウェルである。37℃、5%COインキュベーターで7日間培養し続ける。
【0135】
プレートの読み取り:7日間投与した後、ピペットで150μLの上清を取り出した後、残りを50μL/ウェルのcell titer Gloに加え、10分間インキュベートした後にLuminescenceを読み取り、GraphPad Prism7でデータを分析し、ブロットする。
【0136】
実験結果は、図10に示されたとおりであり、抗PDL1×EGFR BsAb1の殺傷活性は、抗PD-L1モノクローナル抗体よりも有意に大きく、抗EGFRモノクローナル抗体よりも有意に大きい。抗PDL1×EGFR BsAb1が相乗的な殺傷効果を発揮したことを示す。
【0137】
実施例11.マウス異種移植腫瘍モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗腫瘍効果
1.SW48異種移植腫瘍モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗腫瘍効果
本実験は、動物モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗EGFR活性を評価するために使用される。SW48結腸がん細胞の表面にEGFRを発現し、抗EGFR抗体は、SW48細胞の増殖を効果的に阻害することができる。
【0138】
インビトロで培養した結腸がんSW48細胞を収集し、無血清培地で細胞濃度を3×10細胞/mLに調整する。無菌条件下で、100μLの細胞懸濁液をBALB/Cヌードマウスの脇腹に皮下接種する。ノギスで異種移植腫瘍の長さおよび幅を測定し、腫瘍の体積を計算し、腫瘍が100~200mmに成長した後、動物をランダムにグループに分ける。
【0139】
被験サンプルの抗PDL1×EGFR BsAb1の投与量は、13.3mg/kgであり、陽性対照薬の抗EGFRモノクローナル抗体の投与量は、10mg/kgである。対照群には、同量のPBSを投与する。投与方法は、腹腔内投与であり、投与体積は、0.2mL/マウス(20g)であり、週2回、3週間連続投与する。
【0140】
異種移植腫瘍の体積を週2回測定し、同時にマウスの体重を測定し、記録する。腫瘍体積(tumor volume、TV)の計算式は、TV=1/2×長さ×幅である。測定した結果に基づいて、相対腫瘍体積(relative tumor volume、RTV)を計算し、計算式は、RTV=Vt/V0である。ここで、V0は、グループ分けて投与時(即ち、d0)に測定された腫瘍体積であり、Vtは、各測定時の腫瘍体積である。抗腫瘍活性の評価指標は、相対腫瘍増殖率T/C(%)であり、計算式は、T/C(%)=(TRTV/CRTV)×100(TRTV:治療群RTV、CRTV:陰性対照群RTV)であり、腫瘍阻害率=1-T/C(%)である。有効性評価標準:T/C(%)>40%は、無効であり、T/C(%)≦40、且つ統計処理後のp≦0.05は、有効である。
【0141】
実験結果は、図11に示されたとおりであり、抗PDL1×EGFR BsAb1と陽性対照抗EGFRモノクローナル抗体との間には有意差はない。
【0142】
2.B-hPD-L1ヒト化マウスMC38-hPD-L1異種移植腫瘍モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗腫瘍効果
本実験は、動物モデルにおける抗PDL1×EGFR二重特異性抗体の抗PD-L1活性を評価するために使用される。
【0143】
マウス結腸がんMC38細胞を37℃、5%COのインキュベーターで培養し、培地成分は、10%不活性化ウシ胎児血清を含むDuLbecco’s Modified Eagle’s(DMEM)培地を使用する。MC38-hPDL1細胞(Biocytogenによって遺伝子改変される)は、ヒトPD-L1を過剰発現し、同時にマウスPD-L1をノックアウトする。PBSに懸濁したMC38-hPDL1結腸がん細胞を、5×10個/0.1mLの濃度、0.1mL/匹の体積で、B-hPD-L1ヒト化マウス(Biocytogen、種類C57BL/6)の右側に皮下接種する。平均腫瘍体積が約138mmに達する場合、実験のために適切な個体の腫瘍体積を有する8匹のマウスを選択する。
【0144】
抗PDL1×EGFR BsAb1の投与量は、27mg/kgであり、陽性対照薬抗EGFRモノクローナル抗体の投与量は、20mg/kgである。対照群には、同量のPBSを投与する。投与方法は、腹腔内投与であり、週2回、3週間連続投与する。異種移植腫瘍の体積を週2回測定し、同時にマウスの体重を測定し、記録する。
【0145】
実験結果は、図12に示されたとおりであり、本実験の薬効モデルにおいて、対照群(PBS)と比較して、被験品の抗PDL1×EGFR BsAb1は、測定投与量下で、MC38-hPD-L1細胞移植B-hPD-L1ヒト化マウスの皮下腫瘍の増殖に対して有意な阻害効果を有し、陽性対照抗EGFRモノクローナル抗体と比較して、有意差はない。
【0146】
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、本出願の添付の請求範囲によって定義される範囲に含まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
【配列表】
2023528898000001.app
【国際調査報告】