(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】GLP1Rアゴニスト・NMDARアンタゴニストコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 14/605 20060101AFI20230629BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20230629BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230629BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230629BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230629BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230629BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/55 20060101ALN20230629BHJP
A61K 31/13 20060101ALN20230629BHJP
A61K 38/08 20190101ALN20230629BHJP
A61K 38/10 20060101ALN20230629BHJP
A61K 38/26 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C07K14/605 ZNA
A61K47/55
A61K47/64
A61P1/16
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A61P43/00 111
A61K31/55
A61K31/13
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574779
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2021064930
(87)【国際公開番号】W WO2021245199
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522471836
【氏名又は名称】ケブンハウンス、ウニバーシテート
【氏名又は名称原語表記】KOEBENHAVNS UNIVERSITET
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】クリストファ、クレメンスン
(72)【発明者】
【氏名】アナス、ブーウ、クライン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス、オズゴー、ピーダスン
(72)【発明者】
【氏名】ベンデ、フレンスボー、フレーロン
(72)【発明者】
【氏名】クレスチャン、ストラムゴー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC41
4C076EE59
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4C084BA01
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4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZA75
4C086ZC02
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4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA29
4C206MA01
4C206MA04
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4C206NA14
4H045BA19
4H045BA50
4H045EA20
4H045FA33
4H045FA50
(57)【要約】
本発明は、天然グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示すペプチドと、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含んでなるコンジュゲート分子であって、そのペプチドは、NMDARアンタゴニストに直接的にまたは化学的リンカーを介して共有結合されている、コンジュゲート分子、療法において使用するためのそのコンジュゲート分子、そのコンジュゲート分子を含んでなる医薬組成物、そのコンジュゲート分子を哺乳動物に投与することを含んでなる哺乳動物の体重を減少させる方法、ならびにそのコンジュゲート分子を哺乳動物に経口投与することを含んでなる哺乳動物の体重を減少させる非治療的方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示すペプチドと、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストとを含んでなるコンジュゲート分子であって、前記ペプチドが、前記NMDARアンタゴニストに直接的にまたは化学的リンカーを介して共有結合されている、コンジュゲート分子。
【請求項2】
遊離形態の前記NMDARアンタゴニストが、約0.5nM~1000nMの範囲のNMDA受容体との解離定数K
dを有する、請求項1に記載のコンジュゲート分子。
【請求項3】
前記ペプチドがグルカゴンスーパーファミリーのものである、請求項1または2に記載のコンジュゲート分子。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号1に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項5】
前記ペプチドが、少なくとも10個のアミノ酸で、かつ60個以下のアミノ酸からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項6】
前記NMDARアンタゴニストが、前記ペプチドのC末端領域で共有結合している、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項7】
前記NMDARアンタゴニストが前記ペプチドに切断可能な化学的リンカーを介して共有結合され、該切断可能な化学的リンカーが、酸切断可能なリンカー、酵素切断可能なリンカー、ペプチド切断可能なリンカー、およびジスルフィド基を含むリンカーから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項8】
前記化学的リンカーが式R
1-R
3-S-S-R
4-R
5-O-CO-R
2を有し、式中、R
1は前記ペプチドであり、R
2は前記NMDARアンタゴニストであり、R
3は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、R
4は(CH
2)
nまたはC
6H
4であり、R
5は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、nは、1、2、3または4である、請求項7に記載のコンジュゲート分子。
【請求項9】
前記NMDARアンタゴニストがMK801、ネラメキサンまたはメマンチンである、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項10】
療法において使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項11】
肥満、過食性障害、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、非アルコール性脂肪肝炎、または非アルコール性脂肪肝疾患の処置において使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子またはその薬学上許容可能な塩、および薬学上許容可能な担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項13】
哺乳動物の体重を減少させる方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子または請求項12に記載の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子を哺乳動物に経口投与することを含んでなる、体重を減少させるための哺乳動物の非治療的処置。
【請求項15】
前記哺乳動物が非病原性体格指数(BMI)を有する、請求項14に記載の体重を減少させるための哺乳動物の非治療的処置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、治療用コンジュゲートの分野に関し、より具体的には、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体活性およびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを有するコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、豊かな社会においてヒトとイヌおよびネコなどの飼育動物に最も多く見られる栄養疾患であり、栄養欠乏症の数をはるかに上回っている。肥満外科手術の代替として、肥満処置用の減量薬を生成するための多くの試みがなされてきた。これにより、腸内でリパーゼ阻害剤として作用することによって脂肪の吸収を防ぐことにより、または視床下部での選択的セロトニン受容体2C作動作用を介して食物摂取を阻害することにより作用する薬物がもたらされた。
【0003】
グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)は、プログルカゴンペプチドの組織特異的な翻訳後プロセシングに由来する30または31アミノ酸長のペプチドホルモンである。これは脳の食欲調節中枢で作用するため、GLP-1類似体の最近の適応は重量減少である。GLP-1は、消化管に作用するだけでなく、食欲の調節に関与するCNSに影響を与えるため、食欲および体重維持に関連している。また、ヒトにおける胃内容排出および腸運動性を遅らせ、食物摂取の調節に寄与する可能性がある。代謝性疾患の処置のためのGLP-1に基づいた療法は、先行技術から知られている。Parlevliet et al. (J Pharmacol Exp Ther. 2009 Jan;328(1):240-8)”および関連する特許出願EP1968645 A2、EP2125003 A2、およびEP1843788 A2には、肥満および肥満関連障害を治療するためのGLP-1ペプチドを含んでなるヒトGLP-1ミメティボディ(商標)の使用が記載されている。より具体的には、Parlevliet et al. (2009)には、特定のGLP-1CNTO 736が記載されており、これは、高脂肪摂餌マウスにおいて、体脂肪量の減少により、食物摂取および体重を減少させることができる。
【0004】
NMDARアンタゴニストは、NMDA受容体の作用を阻害することによって作用し、NMDAR拮抗作用が食欲減退および体重維持に関連している可能性を裏付けるいくつかの前臨床的証拠がある。Deng et al. (2019, Frontiers in Psychiatry, 10, Article 15)には、高脂肪食によって誘導された食餌誘発性肥満マウスにおける重量減少を駆動する、NMDARアンタゴニストであるメマンチン塩酸塩の使用が記載されている。Smith et al. (Neuropsychopharmacology (2015) 40, 1163-1171)には、メマンチンは、選択的に、嗜好性の高い高糖食を受けたラットにおいて、用量依存的に過食様摂食を減少させ、食物探索行動および強迫性摂食を完全に妨げることができることが記載されている。また、Popik et al. (Amino Acids (2011) 40:477-485)には、ラットに慢性的に投与されたメマンチン塩酸塩は、標準餌の消費にはあまり影響を与えずに嗜好性の高い食物の消費を選択的に減らすことができること、およびこの効果は処置が中止された後も持続することが記載されている。
【0005】
ヒトの過食性障害の処置におけるメマンチンの効果もまた報告されている。Hermanussen and Tresguerres (Economics and Human Biology 3 (2005) 329-337)には、肥満の若い女性5人を対象とした治験で、メマンチン処置により、最初の24時間以内に食欲が著しく低下し、過食性障害が抑制され、数日以内に体重が減少する可能性があると報告されている。Brennan et al. (Int J Eat Disord 2008; 41:520-526)には、メマンチンを12週間毎日投与すると、ヒト被験者の過食が改善される可能性があることを示す予備研究が記載されている。
【0006】
有効性がより高く、安全性が高く(毒物学的影響が少ない)、便利で安全な投与選択肢も提供する新規な重量減少処置の必要性が高まっている。
【発明の概要】
【0007】
従って、上記の観点から、本発明の目的は、肥満のヒト対象において食物摂取を減少させ、体重を軽減するための効果的かつ安全な治療剤を提供することである。
【0008】
従って、本発明の第1の態様は、天然GLP-1の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示すペプチドと、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含んでなるコンジュゲート分子であって、前記ペプチドは、前記NMDARアンタゴニストに直接的にまたは化学的リンカーを介して共有結合されている、コンジュゲート分子に関する。
【0009】
本発明者らは、意外にも、GLP-1受容体作動作用およびNMDAR拮抗作用を伴うペプチドのコンジュゲーションが、肥満を効果的に逆転させるための新規な医療戦略に相当することを見出した。この戦略に基づくコンジュゲートは、食物摂取の抑制において、
図3~13に示されるように、GLP-1ペプチド、メマンチンまたはMK801単独と比較して優れている。また、GLP-1ペプチドバリアントに基づくコンジュゲート、例えば、GLP-1/胃抑制ポリペプチド(GIP)ペプチド(配列番号9)、および代替NMDARアンタゴニストは、食物摂取および体重減少に対して同様の有益な効果を有することが示されている。これは、それぞれ
図33~34および
図36~38に示されるように、GLP-1/GIP共アゴニストおよびNMDARアンタゴニストのネラメキサンを試験したさらなる発見によって裏付けられている。さらに、これらのコンジュゲートはNMDAR拮抗作用の重量減少に対する効果から恩恵を受けるが、NMDAR拮抗作用の中枢神経系への影響はこの戦略によって回避される。特定の理論に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、この効果は、GLP-1受容体に対する前記ペプチドの親和性により、体内のGLP-1受容体の部位におよび/またはその近くに蓄積するNMDARアンタゴニストによって達成されると推測している。
【0010】
ペプチドには、アミノ末端およびカルボキシル末端がある。本発明の文脈において、アミノ末端およびカルボキシル末端は、それぞれN末端およびC末端、および対応する派生形と呼ばれることもある。
【0011】
ペプチドは、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸からなる場合もあれば、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸と、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、オルニチン、ホスホセリン、D-アラニン(dAla)、およびD-グルタミンなどの遺伝子コードによってコードされない天然アミノ酸を含む場合もある。さらに、ペプチドは、D-アラニン、およびD-ロイシン、またはa-アミノイソ酪酸(Aib)、d-セリン(dSer)、N-メチル-セリンなどの合成アミノ酸を組み込んでいる場合もある。
【0012】
ある好ましい実施形態において、ペプチドの(N末端から数えて)2番目のアミノ酸は、dSer、dAla、Aib、グリシン、N-メチル-Serまたはバリンである。
【0013】
ペプチドはまた、ペプチドの15番目のグルタミン酸と20番目のリジンとの間の環化など、二次構造を安定化するための1以上の修飾を有してもよく、これらの位置はN末端から数えている。
【0014】
ペプチドはいずれの供給源からも得ることができ、または所望によりペプチドを生産することができる。例えば、ペプチドは組織から単離することができ、またはペプチドは、組換えによって生産し、もしくは当業者に周知の方法によって合成することができる。
【0015】
前記コンジュゲート分子は、ペプチドを含んでなり、このペプチドは(遊離形態で)天然GLP-1の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示す。本発明の文脈において、GLP-1受容体活性は、GLP-1活性化(GLP-1R活性)とも呼ばれ、GLP-1受容体を過剰発現するHEK293細胞におけるcAMP誘導を測定することにより、in vitroアッセイで測定することができる。具体的には、GLP-1受容体をコードするDNAとcAMP応答エレメントに連結されたルシフェラーゼ遺伝子とで共トランスフェクトされたHEK293細胞(レポーターアッセイ)を使用し得る。このアッセイは、Bech et al. (J. Med. Chem. 2017, 60, 17, 7434-7446)によって記載されたように、実施し得る。このアッセイを使用して、各コンジュゲートのGLP-1R活性を決定し、同じアッセイで天然GLP-1(配列番号1)ペプチドによって得られた活性と比較して示すことができる。ある実施形態において、前記コンジュゲートのペプチドは、天然GLP-1の少なくとも1%の活性、例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、または30%の活性を示す。
【0016】
NMDARアンタゴニストは、NMDARに結合し、NMDARアンタゴニストは、例えば、NMDARアンタゴニストの遊離形態で、特定のNMDA受容体との解離定数Kdを有すると記載されていることがある。NMDARアンタゴニストは、一般に、ナノモル範囲の解離定数を有し、例えば、異なる種のNMDA受容体とのMK801の解離定数は、ラットの脳膜ではKd=6.3nM、マウスの脳ホモジネートではKd=10nM、ブタの脳ではKd1.3nMである。解離定数の決定は当業者に周知である。一実施形態において、遊離形態の前記NMDARアンタゴニストは、NMDA受容体との解離定数Kdが0.5nM~1000nMの範囲、例えば、0.5nM~100nMの範囲である。そのNMDA受容体は、例えば、ヒトNMDA受容体であり得、例えば、そのNMDARアンタゴニストは、ヒトNMDA受容体とのKdが0.5nM~100nMの範囲である。本発明の文脈において、遊離形態の前記NMDA受容体アンタゴニストは、いかなる化学基にも結合(特に化学的連結)されておらず、従って、その天然の非修飾形態にあるアンタゴニストを指す。当業者は、NMDA受容体間のわずかな種のバリエーションのみが予想されることを理解するであろう。従って、マウスまたはラットなどの齧歯類で測定された、またはブタなどの高等哺乳動物で測定されたKd値は、ヒトNDMA受容体または他の関連する動物または哺乳動物のNMDA受容体で測定されたKd値と同様であると予想される。
【0017】
前記コンジュゲート分子のペプチドは、天然GLP-1の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において有する任意のペプチドであり得る。ある実施形態において、前記コンジュゲートのペプチドは、グルカゴンスーパーファミリーのものである。グルカゴンスーパーファミリーは、N末端領域およびC末端領域の構造が関連するペプチドのグループである(例えば、引用することにより本明細書の一部とされるSherwood et al., Endocrine Reviews 21: 619-670 (2000)を参照)。このグループのメンバーには、総てのグルカゴン関連ペプチド、ならびに成長ホルモン放出ホルモン(配列番号2)、血管作動性腸管ペプチド(配列番号3)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド27(配列番号4)、セクレチン(配列番号5)、胃抑制ポリペプチド(GIP)(配列番号6)、エキセンジン-4(配列番号7)、非修飾GLP-1(配列番号8)、GLP-1/GIP共アゴニスト(配列番号9)およびそれらの天然ペプチドに対して最大1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸修飾を有する類似体、誘導体またはコンジュゲートが含まれる。このようなペプチドは、好ましくは、グルカゴン受容体スーパーファミリーの受容体、好ましくはGLP-1受容体と(アゴニストとして)相互作用する能力を保持する。前記コンジュゲート分子のペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し得る。また、前記コンジュゲート分子のペプチドは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、または配列番号9に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し得る。特定の実施形態において、前記コンジュゲート分子のペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態において、前記コンジュゲート分子のペプチドは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、または配列番号9のアミノ酸配列を有する。ある実施形態において、本発明のペプチドは、エクセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、またはセマグルチドである。
【0018】
グルカゴン受容体スーパーファミリーの異なる受容体に結合する能力を示す共アゴニスト活性を有するペプチドも企図される。一実施形態において、そのような共アゴニストはGLP-1/GIP受容体共アゴニストである。配列番号9の共アゴニストおよびNMDARアンタゴニストに基づくコンジュゲート分子の食物摂取および体重に対する効果は、
図33~34に示している。
【0019】
ある実施形態において、前記コンジュゲートのペプチドは、配列番号1に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する。例えば、そのペプチドは、配列番号1に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約97%超の同一性を有し得る。ある特定の実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有する。そのようなペプチドは、GLP-1受容体における天然GLP-1と比較して、有意に高いGLP-1活性をGLP-1受容体において有し得る。従って、そのペプチドは、NMDARアンタゴニストにコンジュゲートされている場合、GLP-1受容体の部位により高い速度で蓄積し、次に、NMDARアンタゴニストの有効性が高まる可能性がある。配列番号1に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するコンジュゲートのペプチドの一例を
図35に示し、このペプチドの効果は
図33~34によって裏付けられている。GLP-1/GIP Pen40/MK801(配列番号9によるペプチド)とGLP-1 Pen40/MK801(配列番号1によるペプチド)とのアラインメントを以下にさらに示す:
【化1】
【0020】
前記コンジュゲート分子のペプチドは、そのペプチドが(遊離形態で)天然GLP-1の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示すのに十分な長さを有する。一般に、これは、少なくとも10個のアミノ酸を含んでなるペプチドで観察できるが、そのペプチドが60個を超えるアミノ酸を含んでなる場合、その活性が示されない場合がある。従って、ある実施形態において、前記ペプチドは、10~60個のアミノ酸の範囲、例えば、20~50個のアミノ酸の長さを有する。他のペプチドの配列と一定のパーセンテージで同一である本発明のアミノ酸配列は、当業者による配列の手動評価によるか、またはBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)などのアルゴリズムを使用したコンピューターによる自動配列比較および同定による、そのペプチドの推定上の識別を提供するのに十分なペプチドのアミノ酸配列、例えば、少なくとも10個のアミノ酸を十分に含んでなるべきである(総説については、Altschul, et al., Meth Enzymol. 266: 460,1996;およびAltschul, et al., Nature Genet. 6: 119, 1994を参照)。
【0021】
本発明の文脈において、ペプチドは、置換、天然もしくは合成アミノ酸の挿入および/またはアミノ酸欠失を有することにより、%同一性が異なり得る。一実施形態において、前記コンジュゲートのペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有する。
【0022】
ある実施形態において、前記ペプチドは、アセチル化、脂肪酸コンジュゲーション、二酸コンジュゲーション、アルブミンコンジュゲーション、小分子アルブミンバインダー、および/またはPEGコンジュゲーションによって修飾される。抗体などの担体タンパク質に連結することによって修飾されたペプチドも企図される。修飾は、好ましくは、ペプチドの(N末端から数えて)16、17、20、21、24、29、40番目に、C末端領域内に、またはC末端アミノ酸にある。コンジュゲーションは、ジスルフィド、マレイミド、α-ケトン、またはクリックケミストリーに基づくコンジュゲーションによるなど、任意の好適なリンカーによって行うことができる。当業者は、そのようなコンジュゲートを調製する方法を知っている。好ましくは、PEG分子は1kDaよりも大きく、脂肪酸および二酸は12個を超える炭素原子を含み得る。修飾(PEG/脂肪酸/二酸)とペプチドとの間にスペーサーを付加することが一般に好ましく、リンカーは、好ましくは、γ-Gluリンカー、短いPEG鎖である。
【0023】
前記コンジュゲート分子は、NMDARアンタゴニストを含んでなる。任意のNMDARアンタゴニストが、前記コンジュゲートとともに使用され得る。しかしながら、前記NMDARアンタゴニストは、小分子、例えば、最大900kDaであることが好ましい。例えば、一実施形態において、前記NMDARアンタゴニストは、MK801、メマンチン、ケタミン、フェンシクリジン(PCP)、ネラメキサンおよびアマンタジンから選択される。MK801、ネラメキサンおよびメマンチンが好ましい。MK801およびメマンチンも好ましい。ネラメキサンは、メマンチンに関連する化合物の非限定的な例であり、ネラメキサンの効果は
図36~38に示している。
【0024】
本発明のペプチドとNMDARアンタゴニストは、共有結合される。本発明の文脈において、前記コンジュゲート分子は、ペプチド-薬物-コンジュゲート(PDC)とも呼ばれる。前記ペプチドとNMDARアンタゴニストは、直接的に結合され得る。例えば、NMDARアンタゴニストは、アミド結合を介して共有結合することができ、このアミド結合はNMDARアンタゴニストのアミノ基からペプチドのカルボン酸基へのものである。このようなアミド結合は、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、カルボン酸基を有する合成残基、またはC末端のカルボン酸などのカルボン酸基を有するペプチドの任意の残基に対して行うことができる。例えば、NMDARアンタゴニストがMK801である場合、MK801のアミンはペプチドのアミノ酸残基のカルボン酸に結合され得る。それに対応して、NMDARアンタゴニストがメマンチンである場合、メマンチンのアミンはペプチドのアミノ酸残基のカルボン酸に結合され得る。
【0025】
本発明の文脈において、直接的に共有結合しているとは、ペプチドがNMDARアンタゴニストとの共有結合を有すること、例えば、2つの分子の間に、リンカー基などの追加の化学基が存在しないことを意味する。ペプチドとNMDARアンタゴニストは、化学的リンカーを介しても結合され得る。いかなる化学的リンカーも使用し得る。しかしながら、化学的リンカーは最大30個の原子の長さを有することが一般に好ましい。より長い鎖は、ペプチドがGLP-1受容体と相互作用する場合、NMDARアンタゴニストがペプチドに対して立体障害が全くまたはほとんどないように、NMDARアンタゴニストをペプチドから遠ざけるという利点を有し得る。ペプチドの立体障害がないかまたは低いと、GLP-1受容体に対する親和性が高くなる。コンジュゲートのGLP-1受容体に対する親和性が高くなるほど、GLP-1受容体の部位での蓄積が多くなる可能性が高い。化学的リンカーは、好ましくは切断可能なリンカー、例えば、酸切断可能なリンカー、酵素切断可能なリンカー、ペプチド切断可能なリンカー、またはジスルフィドリンカーであり、これらは、ペプチド-薬物コンジュゲートにおける使用に関して当技術分野で一般に周知である。そのような切断可能なリンカーの例は、グルクロニド、β-ガラクトシド、ジスルフィド、ヒドラゾンを含んでなる化合物であり、かつ/またはこれらの化合物は、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、ピロホスファターゼ、ホスファターゼ、アリールスルファターゼ、プロテアーゼ、またはエステラーゼによって切断可能である。例えば、リンカーは、カテプシンによって切断可能なペプチド、例えば、GFLGを含んでなり得る。リンカーは、4-アミノ安息香酸(PAB)をさらに含んでなり得、これは、アミド結合またはカルバメート結合を介してNMDARアンタゴニストのアミノ基に共有結合され得る。リンカーは、好ましくは、遊離形態のNMDARアンタゴニスト(すなわち、天然形態)を放出し、これは、本明細書に開示されるジスルフィドリンカーなどの多くの異なるリンカー化学によって達成され得る。これらのリンカー化学および追加のリンカー化学は、当業者に周知である。
【0026】
一実施形態において、前記NMDARアンタゴニストは、前記ペプチドのC末端領域で共有結合している。本発明の文脈において、C末端領域は、C末端から数えてアミノ酸の最大50%、例えば、C末端から数えてアミノ酸の最大40%、30%、25%、20%、または10%であり得る。例えば、配列番号1のC末端領域は、アミノ酸21~40番、26~40番、または31~40番(N末端から数えた番号)であり得る。従って、NMDARアンタゴニスト、例えば、メマンチンまたはMK801は、C末端から数えて10個のアミノ酸のいずれか1つに、直接的にまたはリンカーを介して結合され得る。例えば、NMDARアンタゴニスト、例えば、メマンチンまたはMK801は、C末端から5アミノ酸以内のアミノ酸に直接的に結合され得る。それによって、NMDARアンタゴニストは、ペプチドのN末端において立体障害をほとんどまたは全く生じない。N末端はGLP-1受容体への結合に関与しているため、N末端の立体障害がないかまたは低いと、GLP-1受容体に対する親和性が高くなり得る。コンジュゲートのGLP-1受容体に対する親和性が高くなるほど、GLP-1受容体の部位での蓄積が多くなる可能性が高い。同じペプチド分子に2つ以上のNMDARアンタゴニストが結合され得ることも企図される。
【0027】
別の非常に好ましい実施形態において、前記NMDARアンタゴニストは、ジスルフィド基を含んでなる化学的リンカーを介して前記ペプチドに共有結合される。ジスルフィド基は、化学的に還元されると、ペプチドからNMDARアンタゴニストを放出させる。ジスルフィド基を含んでなる化学的リンカーは、ジスルフィドリンカーとしても知られ、体循環中、長期間にわたって、前記コンジュゲートのペプチドとNMDARアンタゴニストがコンジュゲートしたままであることを保証する。ジスルフィドリンカーのジスルフィド基は細胞内環境などの還元環境で還元され、コンジュゲートのペプチド部分がコンジュゲートのNMDARアンタゴニスト部分から分離されるように、コンジュゲートが切断され得る。還元は、例えば、グルタチオンなどのチオール、または細胞内タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ酵素などのレダクターゼとのジスルフィド交換によるものであり得る。化学的リンカーは、一般式R’-S-S-R’’(式中、R’およびR’’基は互いに同一であっても異なっていてもよい)を有する当技術分野で公知の化学的リンカーから選択され得る。実験により、ジスルフィド基を含んでなる化学的リンカーを介してコンジュゲートされたペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートは、
図3に見られるように、ヒト血漿切断半減期が約0.5~13時間であることが示された。有利には、前記コンジュゲートはGLP-1受容体に対する前記ペプチドの親和性により、体内のGLP-1受容体の部位におよび/またはその近くに蓄積し得、前記NMDARアンタゴニストは、GLP-1受容体の部位におよび/またはその部位の近くに放出され得る。前記コンジュゲートのペプチド部分がない場合、前記NMDARアンタゴニストは、部位特異的NMDAR結合として好適な効果を有し得る。前記コンジュゲートは、GLP-1受容体を有する細胞に直接的に隣接する細胞外環境で切断され得るか、または前記コンジュゲートは、GLP-1受容体を有する細胞によって内在化され、細胞の還元環境で切断され得ることが本発明者らによって推測される。
【0028】
一実施形態において、前記コンジュゲート分子は化学的リンカーを介してコンジュゲートされ、その化学的リンカーは式R
1-R
3-S-S-R
4-R
5-O-CO-R
2を有し、式中、R
1は前記ペプチドであり、R
2は前記NMDARアンタゴニストであり、R
3は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、R
4は(CH
2)
nまたはC
6H
4であり、R
5は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、nは、1、2、または3である。化学的リンカーが還元されると、前記コンジュゲートの解放されたNMDARアンタゴニスト部分が分子内環化を受け、前記NMDARアンタゴニストが遊離形態で放出される、
図1B参照。
【0029】
一実施形態において、前記化学的リンカーは式R1-R3-S-S-(CH2)n-O-CO-R2を有し、式中、R1は前記ペプチドであり、R2は前記NMDARアンタゴニストであり、R3は、任意選択であり、存在する場合、C(CH3)2、CH2-CH2、またはCH2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、nは1、2、または3である。
【0030】
一実施形態において、前記化学的リンカーは式R1-R4-R3-S-S-(CH2)n-O-CO-R2を有し、式中、R1は前記ペプチドであり、R2は前記NMDARアンタゴニストであり、R3は、任意選択であり、存在する場合、CH(CH3)2、CH2-CH2、またはCH2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、R4は、任意選択であり、存在する場合、CH(CH3)2、CH2-CH2、またはCH2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、nは1、2、または3である。
【0031】
ある実施形態において、第2のラジカル結合は本発明のペプチドの主鎖に対するものである。
【0032】
別の実施形態において、第2のラジカル結合は本発明のペプチドの側鎖に対するものである。
【0033】
本発明の文脈において、R
1が前記ペプチドの主鎖に結合している場合、C(CH
3)
2(L-ペニシラミン)は、Penと呼ばれることがあり、CH
2-CH
2(L-ホモシステイン)は、hCysと呼ばれることがあり、CH
2(L-システイン)は、Cysと呼ばれることがあり、
図1Aを参照されたい。
【0034】
本明細書で使用する場合、第1のおよび第2のラジカル結合は、本明細書に開示される化学的リンカーにおける少なくとも2つの自由な結合の存在を述べるために使用される。
【0035】
本発明は、化学的リンカーを介して付加されたペプチドとNMDARアンタゴニストを含んでなるコンジュゲート分子のライブラリーの設計および合成を容易にする。
図1は、そのようなコンジュゲート分子の設計方法を示している。
図1Aに示されるように、コンジュゲートは、NMDARアンタゴニスト(
図1のMK801)をペプチドに化学的に結合させることによって調製し得る。当業者は、膨大な数の異なる化学的リンカーを本明細書に開示される方法によっても、文献で報告されている他の方法によっても調製し得、これらの化学的リンカーを使用して、本明細書に開示される方法に従って、また公知技術の他の場所で報告されているように、ペプチドおよびNMDARアンタゴニストを付加し得ることを理解するであろう。
【0036】
本発明者らは、意外にも、本発明のペプチドが減量薬および標的薬として二機能の役割を果たし得、そうでない場合、摂食を支配する脳の領域(限定されるものではないが、視床下部核、最後野、孤束核および腹側被蓋野であり得る)への、NMDARアンタゴニストなどの非特異的な小分子の部位選択的送達を可能にすることを見出した。従って、本発明のコンジュゲート分子は、食物摂取を支配する脳領域におけるグルタミン酸作動性シグナル伝達を選択的に調節する手段を提供する一方で、脳全体にわたる自由なシグナル伝達からそれを回避する。本発明のペプチドのターゲティング特性は、NMDARアンタゴニストの、例えば、内分泌の膵臓などの他の部位への送達も容易にし得ることが理解される。
【0037】
本明細書に開示されるコンジュゲート分子は、選択性を提供し、また標的の領域における薬物作用を強める。このコンジュゲート分子によって可能になるこのターゲティングは、治療指数の改善、すなわち、最小有効濃度の低下を可能にする。さらに、カップリングにより、GLP-1受容体を標的とする医薬の有効性に別の代謝薬物作用を追加することが可能である。NMDARの組織選択的ターゲティングは、摂食行動の管理に使用し得、より低い体重設定点でのシナプス可塑性の再固定化の結果として、処置中止後の再発を減少させ得る。
【0038】
本発明者らは、本発明のコンジュゲートの食欲、食物摂取、および体重に対する驚くべき相乗効果を実証しており、これは、ペプチドまたは薬物単独の投与で得られる効果と比較して有意に大きい。
図4~14を参照されたい。本発明のコンジュゲートの驚くべき相乗効果は、
図21~28および
図33~34および
図36~38に示される発見によってさらに裏付けられる。
【0039】
本発明者らは、本発明のコンジュゲートの食物報酬および満腹感に対する驚くべき相乗効果をさらに実証しており、これは、ペプチドまたは薬物単独の投与で得られる効果と比較して有意に大きい。
図31を参照されたい。
【0040】
加えて、本発明のコンジュゲートの相乗効果は、糖尿病患者の処置に関連することが実証されている。
図32を参照されたい。
【0041】
従って、本発明のコンジュゲートの投与は、肥満動物の食物摂取および体重の予想外の減少をもたらす。
【0042】
本発明のある実施形態において、前記コンジュゲート分子は、療法において使用するためのものである。
【0043】
ある実施形態において、本発明のコンジュゲート分子は、肥満、過食性障害、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、非アルコール性脂肪肝炎、または非アルコール性脂肪肝疾患の処置において使用するためのものである。
【0044】
本発明の別の態様は、本発明によるコンジュゲート分子、および薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物に関する。前記コンジュゲート分子の任意の実施形態は、前記医薬組成物において使用し得る。
【0045】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるコンジュゲート分子の、医薬組成物の製造における使用に関する。具体的には、前記医薬組成物は、肥満、過食性障害、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、非アルコール性脂肪肝炎、または非アルコール性脂肪肝疾患の処置において使用するためのものである。前記コンジュゲート分子の任意の実施形態は、前記医薬組成物の製造において使用し得る。
【0046】
本発明において開示されるデータは、マウスの研究で得られたものであるが、エネルギー代謝を支配する主要なホルモン経路は、マウスとヒトの間で、同等の受容体発現プロファイルを示す点で類似しているため、結論はヒトにも同様に関連する。
【0047】
本発明のコンジュゲートは、医薬組成物の形態で投与し得る。従って、本発明は、本発明のコンジュゲートまたはその薬学上許容可能な塩、および薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物をさらに提供する。医薬処方物は、従来の技術によって調製し得る。簡潔には、薬学上許容可能な担体は、固体または液体のいずれかであり得る。固形調製物には、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤、および分散性顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、可溶化剤、滑沢剤、懸濁化剤、結合剤、保存剤、湿潤剤、錠剤崩壊剤または封入材料としても機能し得る1以上の賦形剤であり得る。
【0048】
医薬処方物に含まれるコンジュゲートは、滅菌固体の無菌分離によって、または好適なビヒクル、例えば、滅菌パイロジェンフリー水での使用前の構成のために、溶液からの凍結乾燥によって得られる粉末形態であり得る。
【0049】
一実施形態において、前記医薬組成物は、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与にまたは経口投与に適している。従って、本発明の組成物は、アンプル、プレフィルドシリンジ、少量輸液での単回投与形態でまたは複数回投与用容器で提供し得、場合により、保存剤が添加される。これらの組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの形態をとり得る。
【0050】
本開示に従って、GLP-1R活性を有するペプチドの・および食物摂取を低下させる効果が単一の様式でNMDAR拮抗作用と組み合わされる医薬組成物が提供される。GLP-1R活性を有するペプチドを介した視床下部核、最後野、孤束核および腹側被蓋野および/または内分泌の膵臓への能動的送達は、例えば、解離的、精神病的、行動的影響などの、望ましくない原型的なNMDAR媒介性神経生物学的影響をプラスの代謝効果から分離する。NMDAR拮抗作用によって引き起こされる望ましくない神経生物学的影響には、幻覚、偏執性妄想、精神錯乱、集中困難、動揺、情緒の変化、悪夢、緊張病、運動失調、感覚消失、学習および記憶障害が含まれ得る。NMDARアンタゴニストのプラスの代謝効果には、グルコース代謝の改善、食物摂取の減少および過食性障害の抑制が含まれ得、これは、ヒトまたは哺乳動物における肥満および肥満関連代謝障害の軽減に有益であり得る。
【0051】
従って、本発明のペプチドとNMDARアンタゴニストとの組合せの治療的有用性は、肥満およびその関連代謝障害の処置のための新しいアプローチを提供する。肥満の処置は、ヒトまたは哺乳動物への前記コンジュゲート分子の投与により、食物摂取および食物動機を減少させることによって、および過食エピソードを減少させることによって達成し得、従って、本発明のさらなる態様は、哺乳動物の体重を減少させる方法であって、本発明のコンジュゲート分子または本発明の医薬組成物を投与することを含んでなる、方法に関する。
【0052】
ある実施形態において、体重を軽減する方法は、本発明のコンジュゲート分子または本発明の医薬組成物を哺乳動物に投与することによって、哺乳動物の食物摂取を減少させることを伴う。
【0053】
前記コンジュゲート分子または前記医薬組成物は、皮下、経口、筋肉内、腹腔内、または静脈内に投与し得る。
【0054】
前記コンジュゲート分子、従って、前記医薬組成物も、先行技術と比較して食物摂取の抑制に優れている。そのため、前記コンジュゲート分子および前記医薬組成物は、肥満の処置において任意のレベルで使用し得る。肥満は、体格指数(BMI)として表すことができ、これは、体重を身長の2乗で割ったものとして定義され、例えば、kg/m2の単位で表される。理論に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、病原性肥満と非病原性肥満との間の限界値を規定するためにBMIを使用することができると考えている。例えば、本発明の文脈において、BMI 30kg/m2が、病原性肥満と非病原性肥満との間の限界値と解釈される場合がある。しかしながら、他のBMI値もまた、病原性肥満と非病原性肥満との間の限界値を規定すると考えることができる。従って、例えば、BMI値 24kg/m2、26kg/m2、27kg/m2、28kg/m2、29kg/m2、30kg/m2、31kg/m2、32kg/m2、33kg/m2、34kg/m2、および35kg/m2は、病原性肥満と非病原性肥満との間の限界値を規定すると考えられる。さらなる態様において、本発明は、体重を減少させるための哺乳動物の非治療的処置であって、本発明によるコンジュゲート分子を前記哺乳動物に経口投与することを含んでなる処置に関する。例えば、哺乳動物は、非病原性BMIを有し得る。具体的には、この方法は、非病原性肥満を規定する限界値を下回るBMIを有する対象に前記コンジュゲート分子を経口投与することを含んでなり得る。
【0055】
上記において、本発明は、主にいくつかの実施形態を参照して説明してきた。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、上に開示したもの以外の実施形態も本発明の範囲内で等しく可能である。
【0056】
以下、非限定的な実施例により、本発明の他の態様および有利な特徴を詳細に説明する。
【0057】
一般に、本明細書で使用される総ての用語は、当技術分野での通常の意味に従って解釈されるべきであり、明示的に定義されるかまたは特に断りのない限り、本発明の総ての態様および実施形態に適用可能である。「1つの(a/an)/その(the)[コンジュゲート、分子、リンカー、ペプチドなど]」への総ての言及は、明示的に特に断りのない限り、前記コンジュゲート、薬剤、分子、リンカー、ペプチドなどの少なくとも1つの実例を指すものとしてオープンに解釈されるべきである。
【0058】
本発明の文脈において、用語「GLP1」、「GLP-1」または「GLP1ペプチド」とは、グルカゴンスーパーファミリーのペプチド、特に、インクレチンホルモンであるグルカゴン様ペプチド1を意味する。本発明のペプチドは、食物摂取調節ホルモンペプチドであると考えられ、本発明のコンジュゲート分子の視床下部および/または膵臓への能動的送達因子として機能すると考えられ得る。
【0059】
本発明の文脈において、用語「ペプチド」とは、ペプチド結合によって連結された10~60個のアミノ酸のストレッチから構成される化合物を意味する
【0060】
本発明の文脈において、GLP-1に由来するペプチドは、その起源となる天然GLP-1ペプチド、すなわち、配列番号1とアミノ酸配列同一性を有するペプチドを意味する。
【0061】
ペプチドまたはアミノ酸に関して本明細書で使用される用語「誘導体」とは、化学的に修飾されたペプチドまたはアミノ酸を意味し、少なくとも1つの置換基は非修飾のペプチドまたはアミノ酸またはその類似体に存在しないもの、すなわち、共有結合により修飾されているペプチドまたはアミノ酸を意味する。典型的な修飾は、アミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステルなどである。
【0062】
本発明の文脈において、用語「パーセンテージ同一性」または「%同一性」とは、特に、BLASTアルゴリズムを使用して、比較した2つのペプチド間で同一のアミノ酸の割合%を意味する。
【0063】
本明細書で使用される用語「NMDARアンタゴニスト」とは、NMDA受容体(NMDAR)のアンタゴニストである化合物を意味する。NMDARアンタゴニストの例としては、限定されるものではないが、メマンチン、メマンチン塩酸塩、アマンタジン、ケタミンまたはMK801が挙げられる。NMDARアンタゴニストのさらなる例としては、限定されるものではないが、ノルケタミンおよびネラメキサンが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明の上記ならびに追加の目的、特徴、および利点は、添付の図面を参照して、本発明の実施形態の以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明によってよりよく理解される。
【0065】
【
図1】
図1は、ペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートの一例を示す。
【
図2】
図2は、
図1のコンジュゲートからMK801が放出される機構を示す。
【
図3】
図3は、
図1および2のコンジュゲートの3つの型のin vitroでのヒト血漿安定性を示す。
【
図4】
図4は、配列番号1のペプチドとメマンチンのコンジュゲート(GLP-1 Cys40/メマンチン)の減量効果を示す。
【
図5】
図5は、マウスの累積食物摂取に対するGLP-1 Cys40/メマンチンの効果を示す。
【
図6】
図6は、マウスの1日当たりの食物摂取に対するGLP-1 Cys40/メマンチンの効果を示す。
【
図7】
図7は、マウスの体組成に対するGLP-1 Cys40/メマンチンの効果を示す。
【
図8】
図8は、配列番号1のペプチドとMK801のコンジュゲート(GLP-1 Cys40/MK801)の減量効果を示す。
【
図9】
図9は、マウスの累積食物摂取に対するGLP-1 Cys40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図10】
図10は、マウスの1日当たりの食物摂取に対するGLP-1 Cys40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図11】
図11は、マウスの体組成に対するGLP-1 Cys40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図12】
図12は、配列番号1のペプチドとMK801のコンジュゲート(GLP-1 Pen40/MK801)であって、配列番号1のシステイン残基がL-ペニシラミンで置換されているものの減量効果を示す。
【
図13】
図13は、マウスの1日当たりの食物摂取に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図14】
図14は、マウスの体重に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図15】
図15は、化学的リンカー誘導体化メマンチンの合成経路を示す。
【
図16】
図16は、ペプチドとアミノ基を有する小分子とのコンジュゲーションのための合成経路の例を示す。
【
図17】
図17は、化学的リンカー誘導体化MK801を合成するための合成経路を示す。
【
図18】
図18は、リンカー誘導体化MK801とペプチド(配列番号1によって与えられるアミノ酸配列を有するペプチド)とのコンジュゲーション反応を示す。
【
図19】
図19は、リンカー誘導体化MK801の化学合成のための合成経路を示す。
【
図20】
図20は、配列番号1のアミノ酸配列を有しかつPen40修飾を有するペプチドと、リンカー誘導体化MK801とのコンジュゲーションのための反応を示す。
【
図21】
図21は、マウスの体重に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの異なる用量の効果を示す。
【
図22】
図22は、マウスの1日当たりの食物摂取に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの異なる用量の効果を示す。
【
図23】
図23は、化合物負荷試験後のマウスの血糖に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの異なる用量の効果を示す。
【
図24】
図24は、マウスの体重に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲート中の活性および不活性MK801の効果を示す。
【
図25】
図25は、マウスの累積食物摂取に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲート中の活性および不活性MK801の効果を示す。
【
図26】
図26は、コンジュゲートGLP-1 Pen40/MK801に使用された活性および不活性MK801のin vitroでのヒト血漿安定性を示す。
【
図27】
図27は、マウスの体重に対する、異なるリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図28】
図28は、マウスの累積食物摂取に対する、異なるリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図29】
図29は、1種類のリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲートである。
【
図30】
図30は、1種類のリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲートである。
【
図31】
図31は、マウスのスクロース摂取に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図32】
図32は、化合物負荷試験後のdb/dbマウスの血糖に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図33】
図33は、マウスの体重に対する共アゴニストGIP/GLP-1/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図34】
図34は、マウスの累積食物摂取に対する共アゴニストGIP/GLP-1/MK801コンジュゲートの効果を示す。
【
図35】
図35は、薬物コンジュゲートに使用される配列番号9の共アゴニストGLP-1/GIPと配列番号1のGLP-1ペプチドとのアミノ酸配列アラインメントを示し、式中、X
1はD-アラニン、D-セリン、α-アミノイソ酪酸、N-メチル-セリン、グリシン、またはバリンであり、X
2はシステイン(hCys40/Cys40)またはL-ペニシラミン(Pen40)である。
【
図36】
図36は、マウスの体重に対する、GLP-1 Pen40とコンジュゲートした異なるNDMARアンタゴニストの効果を示す。
【
図37】
図37は、マウスの1日当たりの食物摂取に対する、GLP-1 Pen40とコンジュゲートした異なるNDMARアンタゴニストの効果を示す。
【
図38】
図38は、マウスの累積食物摂取に対する、GLP-1 Pen40とコンジュゲートした異なるNDMARアンタゴニストの効果を示す。
【発明の具体的説明】
【0066】
図1は、化学的リンカー104を介して配列番号1のペプチド103のC末端システイン102に化学的に付加されたMK801 101からなる、化学的リンカー104がジスルフィド基105を含んでなる、ペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲート100の一例を示す。C末端システイン102の側鎖106は、場合により、側鎖106の長さnが1または2個の炭素原子であり、かつ/またはRが水素もしくはメチルであるように、誘導体化されてもよい。側鎖106のhCys40と呼ばれる修飾は、n=2個の炭素原子の長さを有し、R=水素である。側鎖106のhCys40と呼ばれる修飾は、n=1個の炭素原子の長さを有し、R=メチルである。通常のシステインはCys40と呼ばれる。
【0067】
図2は、
図1のコンジュゲート100からMK801が放出される機構を示す。ジスルフィド基105を含んでなる化学的リンカー104は、自壊性であり、細胞内環境などの還元環境(示していない)で還元されてチオール基を生成し、コンジュゲート107のMK801部分108からこのコンジュゲートのペプチド部分を分離し得る。この分子のMK801部分108において、解放された求核性チオール109が自発的分子内環化を受けて、MK801を天然の非修飾MK801薬物(MK801の遊離形態)として放出する。
【0068】
図3は、
図1および2のコンジュゲート100の3つの型のin vitroでのヒト血漿安定性を示し、各型は、異なるシステイン誘導体または残基を有する。第1の型であるGLP-1 Pen40/MK801はシステイン誘導体Pen40を有し、第2の型であるGLP-1 hCys40/MK801はシステイン誘導体hCys40を有し、第3の型であるGLP-1 Cys40/MK801は非修飾のシステインCys40を有する。各型の血漿安定性は、経時的な回復パーセンテージとして示される。LCMS分析(示していない)は、コンジュゲートの分解への主な寄与が、リンカーのジスルフィド交換によるMK801のデコンジュゲーションに起因する可能性が高いことを明らかにした。その結果、C末端システイン102(hCys40/Cys40)のL-ペニシラミン(Pen40)への単一置換は、立体障害の増加によるジスルフィド結合の接近可能性の低下により血漿安定性を劇的に増加させた。
【0069】
図4~14は、実施例8に開示されるin vivoマウス研究の結果を示す。
【0070】
図4は、
図1および2に示されるリンカーを介して化学的に付加された配列番号1のペプチドとメマンチンのコンジュゲートの減量効果を示し、システイン残基は、非修飾のシステイン(GLP-1-Cys40/メマンチン)(40nmol/kg)であり、配列番号1のペプチド(GLP-1 Cys40)またはメマンチンの等モル用量は、8日間処置した食餌誘発性(DIO)マウスの体重パーセンテージ(BW%)で測定している。データは平均±SEMとして表し、各群Nは8である。GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/メマンチンの両方がDIOマウスにおいてBW%の低下をもたらし、後者のコンジュゲートは、処置の8日後におよそ7%のBW%低下をもたらした。
【0071】
図5は、8日間処置したDIOマウスの累積食物摂取(FI累積値、1日当たりのグラム数)に対するGLP-1 Cys40/メマンチンおよび等モル用量のGLP-1 Cys40またはメマンチンの効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。処置の過程で、GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/メマンチンで処置したマウスでは、対照(ビヒクル)およびメマンチンと比較して、累積食物摂取の低下が観察された。
【0072】
図6は、8日間処置したDIOマウスの1日当たりの食物摂取(1日当たりのFI、1日当たりのグラム数)に対するGLP-1 Cys40/メマンチン(40nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはメマンチンの効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。8日の処置の間に、GLP-1 Cys40およびGLP Cys40/メマンチンは、メマンチン処置したマウスおよび対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)と比較して、全体として、1日当たりの食物摂取の低下を示した。研究の終了時に、GLP-1で処置したマウスは、対照群(ビヒクル)と比較して、食物摂取のわずかな減少しか示さなかった。
【0073】
図7は、8日間処置したDIOマウスの体組成(脂肪および除脂肪体重の変化に関する)(Δ変化、g)に対するGLP-1 Cys40/メマンチン(40nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはメマンチンの効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。8日後、メマンチン、GLP-1 Cys40、およびGLP-1 Cys40/メマンチンで処置したマウスは総て、体脂肪量の減少を示したが、除脂肪体重にはほとんど変化が見られなかった。GLP-1 Cys40/メマンチンは、体脂肪量の最大変化をもたらし、このコンジュゲートで処置したマウスにおいておよそ4gの体脂肪量の減少が観察された。
【0074】
図8は、10日間処置したDIOマウスにおけるGLP-1 Cys40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の減量効果(BW%)を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。MK801は、体重(BW)の変化率をほとんど示さなかったが、GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/MK801の両方で、10日の処置後にそれぞれBWがおよそ8および12%減少した。
【0075】
図9は、10日間処置したDIOマウスの累積食物摂取(FI累積値)に対するGLP-1 Cys40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。10日の処置の過程で、GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/MK801で処置したマウスでは、対照(ビヒクル)およびMK801と比較して、累積食物摂取の低下が観察された。GLP-1 Cys40/MK801処置したマウスで最良の結果が観察され、累積食物摂取はおよそ13g/日であり、ビヒクル処置したマウス(およそ23g/日)よりもおよそ10g/日少ない。
【0076】
図10は、10日間処置したDIOマウスの1日当たりの食物摂取(1日当たりのFI)に対するGLP-1 Cys40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。全体として、1日当たりの食物摂取は、10日の処置の間に様々な程度で変動したが、GLP-1 Cys40/MK801で処置したマウスでは、対照群(ビヒクル)と比較して、10日間総てで食物摂取の減少が観察された。
【0077】
図11は、10日間処置したDIOマウスの体組成(脂肪および除脂肪体重の変化に関する)(Δ変化、g)に対するGLP-1 Cys40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。10日の処置後、GLP-1 Cys40/MK801処置したマウスの群は、脂肪および除脂肪体重の両方の減少を示し、体脂肪量の変化(ほぼ5gの減少)は最も顕著であった。
【0078】
図12は、5日間処置したDIOマウスの体重%に対するGLP-1 Pen40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。5日の処置後、GLP-1 Pen40/MK801処置したマウスは、およそ15%の体重減少を示した。比較して、GLP-1 Cys40処置したマウスは、およそ4%の体重減少を示した。
【0079】
図13は、5日間処置したDIOマウスの食物摂取(g/日)に対するGLP-1 Pen40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Cys40またはMK801の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。GLP-1 Pen40/MK801で処置したマウスは、対照群(ビヒクル処置したマウス)と比較して、食物摂取の即時減少を示した。さらに、食物摂取の低下は5日の処置期間中、約0.2~0.7g/日で維持された。
【0080】
図14は、5日間処置したDIOマウスの体重%に対するGLP-1 Pen40/MK801(100nmol/kg)または等モル用量のGLP-1 Pen40またはGLP-1 Cys40の効果を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=7である。GLP-1 Pen40またはGLP-1 Cys40で処置したマウスは、体重%の同様の減少(およそ6%)を示し、GLP-1 Pen40/MK801ではおよそ12%の体重の減少を示した。加えて、処置が延長された場合、GLP-1 Pen40/MK801では、曲線の傾きに基づいて、さらなる体重の減少が期待できるように思われる。
【0081】
図21および22は、5日間処置したDIOマウスの体重(BW%、
図21)および1日当たりの食物摂取(グラム単位の1日当たりのFI、
図22)に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの異なる用量(50nmol/kgおよび100nmol/kg)の効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=5~6である。処置の過程で、両方の用量(50nmol/kgおよび100nmol/kg)で処置したマウスでは、対照群と比較して、体重および1日当たりの食物摂取の低下が観察され、100nmol/kgのコンジュゲートを毎日皮下注射されたマウスで最も有意な減少が観察された。
【0082】
図23は、処置過程の7日目にipGTTを受けたDIOマウスの血糖値(mmol/L)に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートの異なる用量(50nmol/kgおよび100nmol/kg)の効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)との比較を示す。血糖値は120分間にわたって測定した。データは平均±SEMとして表し、各群N=5~6である。全体として、コンジュゲートの両方の用量、すなわち、50nmol/kgおよび100nmol/kgは、対照群と比較して、有意に低い初期上昇と全体的に低い血糖値をもたらす。
【0083】
図24および25は、7日間処置したDIOマウスの体重(%単位のΔ体重、
図24)および累積食物摂取(グラム単位の累積FI、
図25)に対する、GLP-1 Pen40とコンジュゲートした活性および不活性MK801の効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。処置の過程で、活性MK801とコンジュゲートしたGLP-1 Pen40で処置したマウスでは、体重および累積食物摂取の低下が観察された。不活性MK801とのコンジュゲートは、コンジュゲートされていないGLP-1 Pen40と同様の結果を示した。MK801およびGLP-1は、マウスの体重と累積食物摂取の減少において相乗効果があると結論付けられている。
【0084】
図26は、コンジュゲートGLP-1 Pen40/MK801の活性および不活性MK801型のin vitroでのヒト血漿安定性のPBS対照との比較を示す。不活性および活性MK801の血漿安定性は、経時的な回復パーセンテージ(%)(時間)として示される。2つのコンジュゲートは、MK801が活性か不活性かに関係なく、ほぼ同一の血漿安定性を示す。
【0085】
図27および28は、7日間のDIOマウスの体重(%単位のBW、
図27)および累積食物摂取(グラム単位の累積FI、
図28)に対する、異なるリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲート(100nmol/kg)の効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=5~6である。異なるリンカーを有するGLP-1/MK801コンジュゲートの構造は、
図20(GLP-1 Pen40/MK801)、
図29(GLP-1 Lys40-トリアゾール-PEG
4-Val-Cit-PAB-MK801))および
図30(GLP-1 Cys40-mc-Val-Cit-PAB-MK801)に示される。処置の過程で、異なるリンカーを有するGLP-1/MK801のコンジュゲートで処置したマウスは、累積食物摂取の同様の減少を示した。GLP-1 Pen40/MK801コンジュゲートで処置したマウスの群で7日の処置での最も有意な体重の減少(およそ20%減少)が観察された。
【0086】
図31は、8日間処置したDIOマウスのスクロース摂取(%単位)に対するGLP-1 Pen40/MK801(100nmol/kg)および等モル用量のGLP-1 Pen40、MK801またはセマグルチドの効果の対照群(ビヒクル、生理食塩水注射)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。セマグルチドおよびGLP-1/MK801コンジュゲートで処置したマウスで、対照群(ビヒクル)と比較して表されるスクロース摂取の最も有意な減少が観察された。本発明のコンジュゲート分子は、処置したマウスでの食物報酬および満腹効果の誘導に効果的であると結論付けられた。
【0087】
図32は、処置過程の7日目にipGTTを受けたdb/db(糖尿病)マウスの血糖(mmol/L)に対するGLP-1 Pen40/MK801コンジュゲート(100nmol/kg)および等モル用量のMK801またはセマグルチドの効果を示す。血糖値は24時間にわたって測定した。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。セマグルチドまたはコンジュゲートGLP-1 Pen40/MK801のいずれかで処置したマウスは、対照群(ビヒクル)と比較して、全体的に低い血糖値を示し、本発明のコンジュゲート分子は糖尿病マウスの処置に好適であると結論付けられた。
【0088】
図33および34は、7日間処置したDIOマウスの体重(%単位、
図33)および累積食物摂取(グラム単位の累積FI、
図34)に対する共アゴニストGIP/GLP-1 Pen40/MK801コンジュゲート(配列番号9)(50nmol/kg)および等モル用量のGLP-1/GIPの効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水注射)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。GIP/GLP-1/MK801コンジュゲートで処置したマウスで最も有意な効果が観察され、これらのマウスは、対照群と比較しておよそ25%の体重の全体的な減少と、対照群で観察された15gの累積食物摂取に対しておよそ3gの累積食物摂取を示した。
【0089】
図36~38は、5日間処置したDIOマウスの体重(%単位、
図36)、1日当たりの食物摂取(食物摂取、1日当たりのグラム数、
図37)、および累積食物摂取(グラム単位の累積FI、
図38)に対する、GLP-1 Pen40(100nmol/kg)とコンジュゲートした異なるNDMARアンタゴニスト、すなわち、MK-801、メマンチンおよびネラメキサンの効果の対照群(ビヒクル、すなわち、生理食塩水)との比較を示す。データは平均±SEMとして表し、各群N=8である。処置の過程で、MK801、メマンチンまたはネラメキサンのいずれかとコンジュゲートしたGLP-1 Pen40で処置したマウスは総て、対照群と比較して、体重の有意な減少、1日当たりの食物摂取および累積食物摂取の減少を示した。異なるNMDARアンタゴニストを本発明のペプチドとコンジュゲートして、マウスの体重および食物摂取に対して同じ有益な効果を得ることができると結論付けられる。
【0090】
結論
示されたデータは、GLP-1類似体とNMDARアンタゴニストの化学的コンジュゲーションが肥満を効果的に逆転させるための新規な医療戦略を表すことを実証している。この戦略に基づくコンジュゲートは、GLP-1ペプチド対照と比較して、食物摂取の抑制および体重の軽減において優れており、NMDAR拮抗作用による中枢への悪影響という欠点はない。
【実施例】
【0091】
実施例1:ペプチドおよびペプチド-NMDARアンタゴニストコンジュゲートの調製
材料:総ての溶媒および試薬は、商業的供給源から購入し、さらに精製することなく使用した。ペプチドの伸長には、H-Rink amide ChemMatrix(登録商標)樹脂を使用した。特に明記しない限り、Fmoc保護(9-フルオレニルメチルカルバメート)アミノ酸は、Iris-BiotechまたはGyros Protein Technologiesから購入し、H-Rink amide ChemMatrix(登録商標)樹脂、35~100メッシュ;ローディング 0.40~0.60mmol/gはSigma Aldrichから購入した。市販のNα-Fmocアミノ酸ビルディングブロックは、次の側鎖保護類似体として購入した:Arg、Pmc;Asp、OtBu;Cys、Trt;Gln、Trt;His、Trt;Lys、Trt;Ser、tBu;およびTrp、Boc(Pmc=2,2,5,7,8-ペンタメチルコマン-6-スルホニル、OtBu=tert-ブチルエステル、Trt=トリチル、Boc=tert-ブチルオキシカルボニル、およびtBu=tert-ブチルエーテル)。
【0092】
総てのペプチドおよびペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートを、C18カラム(Zorbax Eclipse、XBD-C18、4.6×50mm)使用のAgilent 6410 トリプル四重極マスフィルターと連動した分析用逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP-UPLC)(Waters)およびエレクトロスプレーイオン化液体クロマトグラフィー質量分析(ESI-LCMS)により特性評価した。ESI-LCMSは、H2O:MeCN:TFA(A:95:5:0.1、B:5:95:0.1)で構成される二成分バッファー系を用いた、0.75mL/分の流量での溶出であった。純度は、C18カラム(Acquity UPLC BEH C18、1.7μm、2.1×50mm)を備えたRP-UPLCによって決定し、H2O:MeCN:TFA(A:95:5:0.1、B:5:95:0.1)で構成される二成分バッファー系を用いて、0.45mL/分の流量で溶出した。
【0093】
Fmoc保護スキームの自動ペプチド合成プロトコール:ペプチドは、10mLガラス容器を備えたPrelude X、誘導加熱使用によるペプチド合成装置(Gyros Protein Technologies、トゥーソン、AZ、USA)を使用して、C末端がアミド化された誘導体として調製した。総ての試薬は、DMF中のストック溶液として新たに調製した:Fmoc保護アミノ酸(0.2M)、HCTU(0.5M)、DIPEA(1.0M)およびピペリジン(20%v/v)。ペプチドの伸長は、次のプロトコールを使用した連続合成操作によって達成した:脱保護(2×2分、室温、300rpmでの振盪)およびカップリング(2×5分、75℃、300rpmでの振盪、ArgおよびHisの場合、2×5分、50℃、300rpmでの振盪)。ペプチドは、樹脂と比較して5倍過剰でAA/HCTU/DIPEA(比 1:1.25:2.5)からなるダブルおよびトリプルカップリングを使用して調製した。
【0094】
ペプチド切断:合成されたペプチドは、100mgペプチジル樹脂当たり1.5mLの切断カクテル(TFA中2.5%EDT、2.5%H2O、2.5%TIPS、2.5%チオアニソール)を添加し、続いて、2時間撹拌することにより、ペプチジル樹脂から解放した。粗ペプチドを冷ジエチルエーテルで沈殿させ、4℃、2500×gで10分間遠心分離し、MeCN:H2O:TFA(比 1:1:0.01)に再溶解し、濾過し、凍結乾燥した。
【0095】
精製:粗ペプチドまたはペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートを、精製前にRP-UPLCおよびESI-LCMSまたはMALDI-TOF質量分析法で分析した。精製は、逆相C18カラム(Zorbax、300 SB-C18、21.2×250mm)を備えた、H2O:MeCN:TFA(A:95:5:0.1;B:5:95:0.1)の二成分バッファー系を使用して線形勾配(流量20mL/分)で溶出する逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)システム(Waters)で実行した。画分を0.3分間隔で収集し、ESI-LCMSによる特性評価を行った。純度は、RP-UPLCによって214nmで決定し、純度>95%の画分をプールし、凍結乾燥した。最終凍結乾燥生成物をさらなる実験に使用した。
【0096】
ペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートのアセンブリーのためのコンジュゲーションプロトコール:純粋ペプチドおよび純粋チオピリジル活性化NMDARアンタゴニストコンジュゲートを二成分溶媒系(A:H2O中、DMF;6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール、pH=8)に溶解し(比 7:1)、少なくとも2時間撹拌した。粗反応混合物を分析用RP-UPLCおよびESI-LCMSによって監視した。完了したら、反応混合物をバッファーAおよびバッファーBで希釈し、線形勾配で溶出するRP-HPLCを使用して直接的に精製した。
【0097】
脱塩:総てのペプチドを生物学的実験の前に脱塩した。脱塩は、ペプチドまたはペプチドとNMDARアンタゴニストのコンジュゲートを0.01M希HCl水溶液に連続的に再溶解し、続いて、凍結乾燥することによって行い、3回繰り返した。ペプチドまたはコンジュゲートの純度は、in vivoまたはin vitro実験に使用するまで、RP-UPLCおよびESI-LCMSによって監視した。
【0098】
GLP-1 Cys40/メマンチン(システイン連結)の調製
配列番号1のアミノ酸配列を有するGLP-1ペプチドは、上に記載したFmocプロトコールを使用して合成し、化学的リンカー誘導体化メマンチン類似体にコンジュゲートした。化学的リンカー誘導体化メマンチンの合成は、
図15に示される合成経路を介して行った。合成経路の第1工程は、MeOH中、室温で2時間行った。第2工程は、CH
2Cl
2中、ピリジンの存在下、0℃で2時間実施した。第3工程は、DMF中、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下、55℃で5日間実施した。最終工程(コンジュゲーション)は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾールのバッファー中、室温で2時間行った。
【0099】
2’-ピリジルジチオエタノール。磁気撹拌バーを備えた乾燥丸底フラスコ中、N2雰囲気下で、2’-アルドリチオール(4.71g、21.3mmol、3当量)を乾燥MeOH(20mL)に溶解し、続いて、シリンジによって2-メルカプトエタノール(0.56g、7.1mmol、0.5mL、1当量)の滴下を行った。反応物を周囲温度で2時間放置した後、真空濃縮した。黄色の粗油をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc:CH2Cl2、2:8)によって精製し、2’-ピリジルジチオエタノールを透明な油(1.33g、100%)として得た。Rf = 0.48; 1H NMR (600 MHz, クロロホルム-d) δ 8.49 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.57 (td, J = 7.7, 1.8 Hz, 1H), 7.44 - 7.36 (m, 1H), 7.16 - 7.11 (m, 1H), 5.32 (s, 1H), 3.88 - 3.73 (m, 2H), 3.01 - 2.89 (m, 2H); 13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 159.31, 149.86, 137.00, 122.12, 121.57, 58.37, 42.83.
【0100】
4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル)カーボネート。磁気撹拌バーを備えた乾燥丸底フラスコに、N2雰囲気下で、2’-ピリジルジチオエタノール(1.33g、7.1mmol、1当量)および乾燥ピリジン(0.56g、8.5mmol、0.575mL、1.2当量)を無水CH2Cl2(15mL)で希釈した。反応混合物を0℃に冷却し、クロロギ酸ニトロフェニル(1.72g、8.5mmol、1.2当量)を一度に加えた。反応物を10分間撹拌し、周囲温度に到達させ、撹拌しながら2時間放置した。反応物を50mLに希釈し、3×H2O(30mL)およびブライン(30mL)で抽出し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。粗油をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘプタン:EtOAc、2:1)により精製し、4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル)カーボネートを透明な粘稠油(2.21g、89%)として得た。Rf=0.34;純度>95%(HPLC)、Rt=15.99分;UPLC/MS(ESI):C14H12N2O5S2[M+H]+についてのm/z計算値=353.0、測定値 353.3 m/z;1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.47 (ddd, J = 4.8, 1.9, 0.9 Hz, 1H), 8.35 - 8.26 (m, 2H), 7.84 (td, J = 7.8, 1.8 Hz, 1H), 7.78 (dt, J = 8.1, 1.1 Hz, 1H), 7.58 - 7.48 (m, 2H), 7.26 (ddd, J = 7.3, 4.8, 1.1 Hz, 1H), 4.48 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.24 (t, J = 6.1 Hz, 2H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 158.65, 155.17, 151.75, 149.66, 145.18, 137.80, 125.40, 122.53, 121.40, 119.52, 66.54, 36.42.
【0101】
2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル(3,5-ジメチルアダマンタン-1-イル)カルバメート。磁気撹拌バーを備えた乾燥丸底フラスコ中、N2下で、4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル)カーボネート(707mg、2.00mmol、1当量)およびメマンチン塩酸塩(650mg、3.00mmol、1.5当量)を乾燥DMF(20mL)に溶解し、乾燥DIPEA(260mg、6.00mmol、0.35mL、3当量)をシリンジによって添加した。メマンチンは完全には溶解せず、DIPEAを添加すると、反応物はすぐに黄色に変わった。反応物を5日間放置し、続いて、80℃に加熱した。次いで、反応物をEtOAc(50mL)とともに分液漏斗に移し、5×半飽和ブライン(50mL)およびブライン(50mL)で徹底的に洗浄し、DMFを除去した。続いて、有機層を1M NaOH水溶液(50mL)で5回抽出し(水層の黄色が消えるまで)、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。粗油を勾配(ヘプタン:EtOAc、9:1~3:1)で溶出するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル(3,5-ジメチルアダマンタン-1-イル)カルバメートをガラス状の粘稠油(540mg、54%)として得た。Rf=0.26;純度>95%(HPLC)、Rt=19.36分;UPLC/MS(ESI):C20H28N2O2S2 [M+H]+についてのm/z計算値=393.2、測定値 393.4 m/z;1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.46 (ddd, J = 4.8, 1.9, 0.9 Hz, 1H), 7.85 - 7.75 (m, 2H), 7.25 (ddd, J = 7.2, 4.8, 1.2 Hz, 1H), 6.89 (s, 1H), 4.10 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.05 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 1.69 - 1.63 (m, 2H), 1.54 - 1.43 (m, 4H), 1.31 - 1.20 (m, 5H), 1.07 (s, 2H), 0.80 (s, 6H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 159.04, 153.78, 149.55, 137.79, 121.21, 119.23, 60.80, 51.40, 50.18, 47.07, 42.22, 37.46, 31.84, 30.05, 29.46.
【0102】
GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/メマンチンは、上に記載したプロトコールを使用して調製した。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。
【0103】
GLP-1 Pen40/メマンチン(ペニシラミン連結)の調製。
化学的リンカー誘導体化メマンチンの合成は、
図15に開示される合成経路を使用して行った。GLP-1 Pen40とメマンチンは、
図16に示される化学反応によってコンジュゲートし、これは、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾールのバッファー中、室温で2時間実施した。
【0104】
GLP-1 Cys40/MK801(システイン連結)の調製。
配列番号1の配列を有するペプチドは、上に開示したFmocプロトコールを使用して合成し、化学的リンカー誘導体化MK801類似体とコンジュゲートした。化学的リンカー誘導体化MK801の合成は、
図17に開示される第2の合成経路を介して行った。この化学反応は、DMF中、DIPEAの存在下、55℃で5日間行った。
【0105】
リンカー誘導体化MK801は、
図18に示される化学反応によりGLP-1 Cys40にコンジュゲートした。この反応は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾールのバッファー中、室温で2時間行った。
【0106】
2-(ピリジン-3-イルジスルファンイル)エチル 5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-5,10-エピミノジベンゾ[a,d][7]アヌレン-12-カルボキシレート。磁気撹拌バーを備えた火炎乾燥させた丸底フラスコ中、N2雰囲気下で、MK801塩酸塩 191mg、0.86mmol、1.2当量)を乾燥DMF(10mL)に溶解し、続いて、4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファンイル)エチル)カーボネート(253mg、0.72mmol、1.0当量)を添加した。続いて、乾燥DIPEA(375μL、2.14mmol、3.0当量)を添加すると、溶液は黄色に変わった。反応物を油浴中で55℃に加熱し、UPLC-MSで出発材料が完全に消費されていることが示されるまで4日間撹拌した。反応物をEtOAc(50mL)で希釈し、半飽和ブライン(5×60mL)、0.5M NaOH水溶液(5×60mL)およびブラインで十分に洗浄した。有機層を集め、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。分取HPLC(60%Bで定組成溶出、17mL/分以上)により精製し、続いて、凍結乾燥することにより、11を透明な固体(250.2mg、80.1%)として得た;純度>95%(HPLC)、Rt=18.17分;UPLC/MS(ESI):C24H22N2O2S2 [M+H]+についてのm/z計算値=435.1、測定値 435.4;1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.41 (dt, J = 4.8, 1.4 Hz, 1H), 7.68 (dt, J = 7.9, 4.1 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 7.38 - 7.31 (m, 1H), 7.25 - 7.15 (m, 4H), 7.15 - 7.06 (m, 2H), 7.01 - 6.87 (m, 1H), 5.38 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 4.27 - 4.13 (m, 2H), 3.59 (dd, J = 17.3, 5.7 Hz, 1H), 3.10 (s, 2H), 2.67 - 2.58 (m, 1H), 2.20 (s, 3H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 158.92, 149.56, 143.37, 139.04, 137.70, 131.78, 130.25, 127.42, 127.34, 127.31, 125.88, 122.12, 121.66, 121.20, 119.19, 65.33, 62.21, 59.20, 37.55.
【0107】
GLP-1 Cys40/MK801は、上に開示したプロトコールを使用して、2-(ピリジン-3-イルジスルファンイル)エチル 5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-5,10-エピミノジベンゾ[a,d][7]アヌレン-12-カルボキシレートおよびGLP-1 Cys40から調製した。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、生成物が確認され、純度は>95%であると決定された。
【0108】
GLP-1 hCys40/MK801(ホモシステイン連結)の調製
配列番号1のアミノ酸配列を有しかつhCys40修飾を有するペプチドは、上に開示したFmocプロトコールを使用して合成し、化学的リンカー誘導体化MK801類似体とコンジュゲートした。リンカー誘導体化MK801の化学合成は、
図19に示される合成経路を介して行った。この化学反応は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾールのバッファー中、室温で2時間行った。
【0109】
GLP-1 hCys40:配列番号1のアミノ酸配列を有しかつhCys40修飾を有するペプチドは、上に開示したプロトコールを使用して調製した。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。GLP-1 hCys40/MK801は、上に開示したプロトコールを使用して調製した。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。
【0110】
GLP-1 Pen40/MK801(ペニシラミン連結)の調製
GLP-1ペプチド誘導体は、上に開示したFmocプロトコールを使用して合成し、化学的リンカー誘導体化MK801類似体とコンジュゲートした。化学的リンカー誘導体化MK801の化学合成は、
図16に開示される経路を介して行った。
【0111】
GLP-1 Pen40/MK801:このコンジュゲートは、上に開示したプロトコールを使用して、
図20に示される化学反応により調製し、この化学反応は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾールのバッファー中、室温で2時間行った。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。
【0112】
実施例2:in vitroでのヒト血漿安定性の調査
in vitroヒト血漿安定性アッセイ:ペプチド安定性は、クエン酸リン酸デキストロース(3H Biomedical、ロットP22)を含有する正常ヒト血漿を使用して決定した。ヒト血漿は、37℃で15分間予熱した。続いて、360μLのヒト血漿に40μLのGLP-1 Pen40/MK801、GLP-1 hCys40/MK801、またはGLP-1 Cys40/MK801コンジュゲートストック溶液(1mM、DMSOストック中10mMペプチドからPBSバッファーで希釈することにより調製)を添加し、軽く振盪しながら37℃でインキュベートした。45μLのアリコートをt=0および追加の5時点で(コンジュゲートの安定性に応じて)集め、0℃で、尿素バッファー(50μL、30分)で前処理した後、アセトン中の20%トリクロロ酢酸で処理し、-20℃で一晩インキュベートした。遠心分離(13400rpm、30分)後、上清を濾過し、214nmでのRP-UPLCおよびESI-LCMSにより分析した。曲線下面積(AUC)を決定し、prism 8.0を使用してプロットした。半減期(T1/2)は、データを1フェーズ減衰式に当てはめることによって決定した。データは、3つの個別実験の平均として表される。
【0113】
実施例3:食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおけるin vivo薬理学研究
C57BL6J雄マウス(以下、食餌誘発性肥満(DIO)マウスと呼ぶ)は、高脂肪食(脂肪からのエネルギー58%)で飼育し、各研究について、研究開始前に平均体重は45グラムを超えていた。マウスは個別収容するかまたは二重収容した。マウスは、21~23℃で12時間の明暗サイクルで飼育した。化合物を1日1回(午後2時~午後5時)皮下投与し、食物摂取(FI)および体重(BW)を対応する時間に測定した。体組成については、研究前(研究開始の1~3日前)および研究の最終日に、MRIスキャナー(EchoMRI)を使用して脂肪および除脂肪量の測定を行った。ビヒクル(生理食塩水)を注射したマウス群を対照群とした。
【0114】
実施例4:通常食マウスにおけるスクロース嗜好試験
C57BL6J雄マウスをケージに単独収容し、通常食で飼育した。化合物は、10nmol/kgの用量で投与したセマグルチドを除き、総ての化合物について100nmol/kgの用量で1日1回皮下投与した。ビヒクル(生理食塩水)を注射したマウス群を対照群とした。各処置群に8匹のマウスを含めた。総てのケージには2本の飲用ボトルを設置し、研究開始前に最低5日間マウスを順応させた。研究開始時に、水のボトルを水の入った1本のボトルと10%(w/v)のスクロース水溶液の入った1本のボトルに交換した。左右差を補正するために、スクロースのボトルを左右のボトルに均等に分配した。スクロース水の摂取量と水の摂取量は、24時間後にボトルの重さを量ることによって測定した。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の少なくとも0.1%の活性をGLP-1受容体において示すペプチドと、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストとを含んでなるコンジュゲート分子であって、前記ペプチドが、前記NMDARアンタゴニストに直接的にまたは化学的リンカーを介して共有結合されている、コンジュゲート分子。
【請求項2】
遊離形態の前記NMDARアンタゴニストが、約0.5nM~1000nMの範囲のNMDA受容体との解離定数K
dを有する、請求項1に記載のコンジュゲート分子。
【請求項3】
前記ペプチドがグルカゴンスーパーファミリーのものである、請求項1または2に記載のコンジュゲート分子。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号1に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項5】
前記ペプチドが、少なくとも10個のアミノ酸で、かつ60個以下のアミノ酸からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項6】
前記NMDARアンタゴニストが、前記ペプチドのC末端領域で共有結合している、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項7】
前記NMDARアンタゴニストが前記ペプチドに切断可能な化学的リンカーを介して共有結合され、該切断可能な化学的リンカーが、酸切断可能なリンカー、酵素切断可能なリンカー、ペプチド切断可能なリンカー、およびジスルフィド基を含むリンカーから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項8】
前記化学的リンカーが式R
1-R
3-S-S-R
4-R
5-O-CO-R
2を有し、式中、R
1は前記ペプチドであり、R
2は前記NMDARアンタゴニストであり、R
3は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、前記ペプチドの側鎖にまたは前記ペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、R
4は(CH
2)
nまたはC
6H
4であり、R
5は、任意選択であり、存在する場合、C(CH
3)
2、CH
2-CH
2、またはCH
2から選択され、nは、1、2、3または4である、請求項7に記載のコンジュゲート分子。
【請求項9】
前記NMDARアンタゴニストがMK801、ネラメキサンまたはメマンチンである、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子またはその薬学上許容可能な塩、および薬学上許容可能な担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項11】
肥満、過食性障害、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、非アルコール性脂肪肝炎、または非アルコール性脂肪肝疾患を処置するための、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
体重を減少させる
ための、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
哺乳動物の体重を減少させるための、請求項1~
9のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子を含んでなる
組成物であって、
経口投与のための、組成物。
【請求項14】
前記哺乳動物が非病原性体格指数(BMI)を有する、請求項
13に記載の
組成物。
【国際調査報告】