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特表2023-528951水溶性グリセリン系のポリアルキレングリコールを含む水溶性の組成物及び当該組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】水溶性グリセリン系のポリアルキレングリコールを含む水溶性の組成物及び当該組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20230629BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20230629BHJP
   C10M 133/08 20060101ALI20230629BHJP
   C10M 133/06 20060101ALI20230629BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 30/18 20060101ALN20230629BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C10M173/02
C10M107/34
C10M133/08
C10M133/06
C10N10:02
C10N20:02
C10N20:04
C10N20:00 A
C10N20:00 Z
C10N40:20 Z
C10N30:18
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575862
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2021065715
(87)【国際公開番号】W WO2021250210
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】202010523890.X
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515227316
【氏名又は名称】サソール ケミカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ファンボー
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,チーション
(72)【発明者】
【氏名】ラオ,ジン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB41A
4H104BE02C
4H104BE04C
4H104CB14A
4H104EA01A
4H104EA02A
4H104EA03A
4H104EA04A
4H104EA21A
4H104FA01
4H104LA03
4H104LA09
4H104LA20
4H104PA21
(57)【要約】
本開示は、合成基油として水溶性グリセリン系のポリアルキレングリコールを含む水溶性の組成物、並びに金属加工流体としての、又は金属加工流体における当該組成物及びグリセリン系のポリアルキレングリコールの使用に関し、グリセリンは、最初にプロピレンオキシド、次いでエチレンオキシド、最後にプロピレンオキシドの順で連続的にアルコキシル化されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
式(I):
【化1】
の1以上の水溶性ポリアルキレングリコールと
を含み、
相互に独立して、
は、-(CO)x1-(CO)y1-(CO)z1-Hであり、
は、-(CO)x2-(CO)y2-(CO)z2-Hであり、
は、-(CO)x3-(CO)y3-(CO)z3-Hであり、
x1、x2、及びx3の数は、相互に独立して、0~6であり、
y1、y2、及びy3の数は、相互に独立して、0~40であり、
z1、z2、及びz3の数は、相互に独立して、0~32であり、
x1+x2+x3の平均値は、1~4であり、
y1+y2+y3の平均値は、2~30であり、
z1+z2+z3の平均値は、1~25である
組成物。
【請求項2】
相互に独立して、
x1+x2+x3の平均値は、1.8~2.2であり、
y1+y2+y3の平均値は、2~10、好適には6.5~7.5であり、
z1+z2+z3の平均値は、1~20、好適には2~12、更に好適には3~10である
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の前記水溶性ポリアルキレングリコールは、相互に独立して、
GB/T 3535に従った流動点は、-30℃未満であるとの特性、
GB/T 7383に従ったヒドロキシル価は、100~300mg KOH/g、好適には、150~270mg KOH/gであるとの特性、
GB/T 265に従った25℃での動粘度は、1500cSt以下、好適には、300cSt未満であるとの特性、
GB/T 265に従った40℃での動粘度は、100cSt以下であるとの特性、
GB/T 265に従った100℃での動粘度は、10cSt以下であるとの特性、
含水量は、0.5重量パーセント以下であるとの特性、及び
分子量は、600~1200g/mol(数平均)であるとの特性
のうちの1以上を有する
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
30~85重量パーセントの水を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
5~30重量パーセントの式(I)の前記水溶性ポリアルキレングリコールを含む
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
好適には、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びモノイソプロパノールアミンからなる群から選択される1以上のアルカノールアミン、更に好適には、5~25重量パーセントの1以上のアルカノールアミンを更に含む
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
カルボン酸を含み、好適には、炭素数が6~16のモノカルボン酸又はジカルボン酸を含み、最も好適には、イソノナン酸、2-ブチルオクタン酸、ネオデカン酸、及びそれとは別個に、0.1~15重量パーセント、好適には、0.5~10重量パーセントのカルボン酸を含む
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、炭素数が6~16のモノカルボン酸又はジカルボン酸を含まない
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
0.1~0.5重量パーセントのアミノ酢酸のナトリウム塩、好適には、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)四ナトリウム、及び/又は0.1~0.5重量パーセントの1以上の殺生物剤、特に1以上の殺真菌剤を含む
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の25℃でのpH値は、7~10であり、好適には8~10である
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の表面張力は、60mN/m以下である
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の金属表面上での接触角は、90度以下である
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物の金属加工流体としての使用。
【請求項14】
式(I):
【化2】
の水溶性ポリアルキレングリコールの、金属加工流体における基油としての使用であって、
相互に独立して、
は、-(CO)x1-(CO)y1-(CO)z1-Hであり、
は、-(CO)x2-(CO)y2-(CO)z2-Hであり、
は、-(CO)x3-(CO)y3-(CO)z3-Hであり、
x1、x2、及びx3の数は、相互に独立して、0~6であり、
y1、y2、及びy3の数は、相互に独立して、0~40であり、
z1、z2、及びz3の数は、相互に独立して、0~32であり、
x1+x2+x3の平均値は、1~4であり、
y1+y2+y3の平均値は、2~30であり、
z1+z2+z3の平均値は、1~25である
使用。
【請求項15】
前記基油は、前記金属加工流体の表面張力を60mN/m以下に低減させ、かつ/あるい、は金属表面上での接触角を90度以下に低減させる
請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[本開示の分野]
本開示は、水溶性グリセリン系のトリブロック型のポリアルキレングリコールを含む水溶性の組成物、及び金属加工流体としての当該組成物の使用に関し、グリセリンは、最初にプロピレンオキシドでアルコキシル化され、次いでエチレンオキシドでアルコキシル化され、最後にプロピレンオキシドでアルコキシル化される。
【背景技術】
【0002】
[本開示の背景及び先行技術の説明]
基油は一般的には、蒸留を介して原油を精製することによって生成される。軽質油は燃料に用いられる一方、重質油は基油として好適である。水素化処理によって、基油の精製物を取得すべく、硫黄及び芳香族化合物は高圧下で水素を用いて除去され、要求品質が特に厳格な場合には所望される。特性及び精製方法に応じて、基油は、米国石油協会(API:American Petroleum Institute)に従った5のクループに分類できる。
【0003】
合成基油は、グループIII又はグループIVに割り当てられ、既存の石油の未精製物又は植物油から精製されるのではなく、多くの場合、明確に規定された石油系の化学化合物の反応によって、合成的に生成された油成分から構成される。合成の工程により、油の特性を精密に調節可能である。合成潤滑油は、極端な温度又は広範な温度範囲で機能させる場合の石油精製油の代替物として用いられる。例えば、航空機のジェットエンジンは、合成基油を用いることが求められる一方、航空機のピストンエンジンは求められない。合成基油は更に、金属加工において用いられて、従来の石油系及び動物性脂肪系の生成物と比較して、環境上の利益及びその他の利益を提供する。
【0004】
《グループIII》
当該等級は、原油の水素化分解によって全てが生成された油を含み、当該油は更に高純度となる。APIは、グループIIIを、「基油(base stock)の飽和分は90パーセント以上であり、基油の硫黄分は0.03パーセント以下であり、基油の粘度指数は120以上である」と定義している。上述のグループは、合成技術による油又は合成油の水素化分解物として記載できる。
【0005】
《グループIV》
当該グループは、ポリαオレフィン(PAO)で生成された合成油からなる。PAO油は、極端な温度において安定性があり、(北ヨーロッパにおいて見られるような)極端に寒冷な気候及び(中東に見られるような)極端に暑い気候において用いるのに同等に好適である。
【0006】
《グループV》
前に定義したグループにおいて記載した以外の任意の形式の基油は、グループVの基油として定義される。グループVの基油は特に、ナフテン油及びエステルが含まれる。
【0007】
エステルは、グループVにおいて最も著名な合成油である。エステルは、選択的に置換されたカルボン酸を、アルコール又はフェノールなどのヒドロキシル化合物と反応させることによって得られる。
【0008】
別の重要な型式のグループVの油は、ポリアルキレングリコール(PAG)である。ポリアルキレングリコール及びポリグリコールという用語は、互換的に用いられる。ポリアルキレングリコールの基油は、水又はアルコールを1以上のアルキレンオキシドと反応させることによって形成され、プロピレンオキシドは水不溶性を供し、エチレンオキシドは水溶性を供する。
【0009】
工業用のエトキシル化は、非イオン性界面活性剤(例えば、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)の一般的な形態である脂肪アルコールエトキシレート(FAE)を生成すべく、脂肪アルコールにおいて主に行われる。脂肪アルコールは、種子油からの脂肪酸の水素化によって、又はシェル高級オレフィン法におけるヒドロホルミル化によって得ることができる。当該反応は、例えば、エチレンオキシドを、180℃などの高温で、一般的には1~2バールの圧力下で、水酸化カリウム(KOH)などの触媒を用いて、アルコールを通して吹き込むことによって行われる。
【0010】
出発物質は、第二級アルコールよりも約10~30倍速く反応するので、通常第一級アルコールである。一般的には、5~10単位のエチレンオキシドは、各々のアルコール分子に添加されるが、エトキシル化アルコールは、出発アルコールよりも更にエトキシル化されやすい傾向にでき、反応の制御が困難となり、アルコキシル化の度合いに関する分布が広範となる生成物が形成される。更に良好な制御は、更に洗練された触媒を用いることによって確立でき、狭い範囲のエトキシレートを生成するために用いることができる。
【0011】
エトキシル化は、プロポキシル化と組み合わせ可能であり、当該反応は、単量体としてプロピレンオキシドを用いたエトキシル化に類似している。双方の反応は通常、同一の反応器において行われ、無秩序な重合体を得るべく同時に行うことが可能であり、あるいは、ブロック共重合体を取得すべく交互に又は連続的に行うことが可能である。プロピレンオキシドは、エチレンオキシドよりも疎水性であり、低濃度でプロピレンオキシドを含有することにより、界面活性剤の特性に著しい影響を与えることができる。具体的には、1以上のプロピレンオキシド単位でアルコキシル化されたエトキシル化脂肪アルコールは、消泡剤として大規模に市販されている。
【0012】
エチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)との混合比、及び化学構造中において結合した酸素の型式は、ポリグリコールの特性に重大な影響を与える。変速機においては、EO/PO比が50:50~60:40のポリグリコールが、一般的に用いられる。当該型式のポリグリコールの組成物は、一般的には水溶性ポリグリコールと更に称される。
【0013】
水溶性ポリグリコールは現在、合成潤滑油の市場の約24%であるが、合成潤滑油は全体として、潤滑剤の市場全体の4%を占める。水溶性は、PAGの特徴であり、ポリアルファオレフィン(PAO)などの他の合成潤滑油によっては一般的には供されない。
【0014】
PAGは、金属加工流体、歯車油、チェーンオイル、食品機械用(food-grade)潤滑油などの多数の潤滑用途において用いられ、かつ、HFC型式の油圧機器及びガス圧縮機器における潤滑剤として用いられる。金属加工流体は、金属片の切削、研削、及び打抜きなどのせん断速度の大きな工程に用いられる。上述は例えば、シリコンウェハの切削を更に含む。
【0015】
せん断速度を大きくすること、及び/又は水を用いることにより、金属加工流体は、潤滑性を高くかつ発泡性を低くする必要があり、金属加工の工程中における冷却(急冷)性能及び水洗性能を良好にする必要がある。
【0016】
上述の状況においては、急冷とは、基油を含む油組成物における加工品の急速冷却のことである。歯車油、チェーンオイル、及び/又は作動油においては多くの場合、水は必要とされないため、水不溶性のPAGを用いることができる。発泡性は重要な懸念ではない。
【0017】
EO及びPOを水と反応させることによって得られるエチレンオキシド-プロピレンオキシドのブロック共重合体に基づく非イオン性界面活性剤は例えば、BASF社によってPLURONIC(登録商標)及びSYNATIVE(登録商標)の名称の下で販売されている。上述は、EO-PO-EOの共重合体(PE)又はPO-EO-POの共重合体(RPE)として入手可能である。SYNATIVE(登録商標)RPE 1720及びSYNATIVE(登録商標)RPE 1740は、金属洗浄における消泡剤及び湿潤剤として一般的に用いられている。
【0018】
グリセリンなどのポリオールに基づくPAGは更に周知である。
【0019】
特許文献1は、水溶性の潤滑剤、金属加工流体、及び作動油を開示しており、高い機械的せん断において、低い発泡性と低い樹脂の生成を呈したことが示されている。開示の組成物は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドと反応させた出発材料のアルコールからなる重合体の混合物に基づいている。好適には、重合体は、統計的に分布したエチレンオキシド及びプロピレンオキシド単位の相対的に大きい方の混合ブロック、次いで純粋なエチレンオキシド又はプロピレンオキシド単位の相対的に小さいブロックを含む。一例はグリセリン系のポリアルキレングリコールであり、最初にエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合物でアルコキシル化され、次に更なるプロピレンオキシドのブロックが供される。上述により、第1ブロックにおいて60重量パーセントのエチレンオキシドと30重量パーセントのプロピレンオキシドとを有し、更なるブロックにおいて、別の10重量パーセントのプロピレンオキシドを有するポリエーテルが得られる。グリセロール(glycerol)は、イギリス英語においてはグリセリンと更に称され、アメリカ英語におけるグリセリンは、CHOH-CHOH-CHOHの簡素な化学式のポリオール化合物である。
【0020】
多数の先行技術文献は、潤滑剤の組成物における基剤の流体として用いるための、グリセリンに添加されたエチレンプロピレンオキシド及びプロピレンオキシド単位が統計的に分布した混合物(例えば、特許文献2~6)を開示している。
【0021】
エチレンオキシドのみでアルコキシル化されたグリセリンは、公知の界面活性剤であるが(特許文献7)、油における溶解性が低く、多くの場合は、金属加工流体における一成分として用いられている。
【0022】
プロピレンオキシドでアルコキシル化されたのみのグリセリンは、タイヤの潤滑剤として(特許文献8)、水溶性の切削油剤における成分として(特許文献9)、あるいは貯蔵耐久性の潤滑油における消泡剤として(特許文献10)、周知である。
【0023】
特許文献11は、メタノール系ディーゼル燃料用のメタノール可溶性の着火促進剤として、0~4のプロポキシ単位でアルコキシル化され、次いで、0~4のプロポキシ単位でエンドキャッピングされた6~22のエトキシ単位でアルコキシル化されたグリセリンを開示している。
【0024】
市販のグリセリン系のPAGは、エトキシル化したグリセリン及びエトキシル化/プロポキシル化したグリセリンを含む、GLICERODAC(登録商標)の名称の下で取引されているSASOL社の製品である。他の供給元は、DOW Chemical社のVORANOL(登録商標)の商品の範囲、Carpenter社のCARPOL(登録商標)の商品の範囲、又はCovestro社のARCOL(登録商標)/ACCLAIM(登録商標)の商品の範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】西独国特許出願公開第2220338号明細書(DE 2220338 A1)
【特許文献2】米国特許第3954639号明細書
【特許文献3】旧東ドイツ国経済特許第250634号明細書(DD 250634 A3)
【特許文献4】米国特許第5334322号明細書
【特許文献5】国際公開第2015/069509号
【特許文献6】米国特許出願公開第2016/0186085号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2016/0340625号明細書
【特許文献8】米国特許第4034924号明細書
【特許文献9】特開2014-105232号公報
【特許文献10】中国特許第108456587号明細書
【特許文献11】国際公開第2015/049184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
[本開示の目的]
従来技術は、多数の化学的に異なる基油を提供している。PAGを含む利用可能な異なる基油を試験する一方で、基油が低い発泡の傾向を示し、かつ/あるいは迅速に消泡し、潤滑性及び湿潤性の特性が良好であり、沈降又は沈降特性が効率的であり、容易に再循環可能な水溶性の基油を提供する必要のあることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0027】
[本開示の概要]
驚くべきことに、式(I)のポリアルキレングリコールは、同時に良好な水溶性(高い曇点)を示し、更に、水性の環境において、潤滑性が良好となり、発泡形成傾向が低く、湿潤性が良好となることが見出された。
【0028】
【化1】
【0029】
式(I)においては、相互に独立して、
は、-(CO)x1-(CO)y1-(CO)z1-Hであり、
は、-(CO)x2-(CO)y2-(CO)z2-Hであり、
は、-(CO)x3-(CO)y3-(CO)z3-Hであり、
x1、x2、及びx3の数は、相互に独立して、0~6であり、
y1、y2、及びy3の数は、相互に独立して、0~40であり、
z1、z2、及びz3の数は、相互に独立して、0~32であり、
x1+x2+x3の平均値は、1~4であり、
y1+y2+y3の平均値は、2~30であり、
z1+z2+z3の平均値は、1~25である。
【0030】
上述の式(I)のポリアルキレングリコールは、水を更に含む組成物の一部である。換言すると、本願の組成物は、上述の式(I)による水溶性グリセリン系のトリブロック型のポリアルキレングリコールと水とを含む。更に、本願は、金属加工流体における基油としての当該組成物の使用である。
【0031】
好適な実施形態において、相互に独立して、y及びzの値は、個別に、あるいは一括して、
y1+y2+y3の平均値は、2~10であり、
z1+z2+z3の平均値は、1~20である
と更に定義できる。
【0032】
更に好適な実施形態において、相互に独立して、x、y及びzの値は、個別に、あるいは一括して、
x1+x2+x3の平均値は、1.8~2.2であり、
y1+y2+y3の平均値は、6.5~7.5であり、
z1+z2+z3の平均値は、2~12、更に好適には3~10である
と更に定義できる。
【0033】
上述の平均値は、例えば、用いたアルキレンオキシドの消費量を測定することによる、アルコキシル化反応の化学量論に由来するような数値平均である。
【0034】
代替的には、グリセリン系のポリアルキレングリコールは、製造方法によって記載できる。グリセリンは後に、最初にプロピレンオキシド(PO)でのアルコキシル化、次いでエチレンオキシド(EO)でのアルコキシル化、最後にプロピレンオキシド(PO)でのアルコキシル化の順でアルコキシ化され、第1工程は、1~4のPO当量、好適には1.8~2.2のPO当量が消費されて行われ、第2工程は。2~30のEO当量、好適には2~10以上のEO当量、更に好適には6.5~7.5のEO当量が消費されて行われ、第3工程は1~25のPO当量、好適には2~12のPO当量、更に好適には3~10のPO当量が消費されて行われる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[本開示の詳細な説明]
アルコキシル化は、好適には塩基触媒の存在下において、120℃~180℃の温度及び1~10バールの圧力で、撹拌型又はループ型の反応器において行われる。出発材料であるグリセリンとのアルキレンオキシドの反応後、当量モル比の有機酸を用いて、塩基触媒を0~0.3mg KOH/gの範囲の酸価まで中和できる。好適な塩基触媒は、触媒を含む最終生成物の重量に対して、好適には0.1~0.4重量パーセントの範囲の触媒の投与量での水酸化カリウム及び/又はメチル化カリウムである。
【0036】
最も好適には、有機酸は、氷酢酸及び乳酸からの1以上である。最終的に中和された塩は、生成物において保持、又は当該分野の当業者によって公知の吸着技術及び濾過技術によって除去ができる。
【0037】
代替的には、グリセリンアルコキシレートは、好適なアルコキシル化触媒上でアルキレンオキシドとの反応によって生成できる。好適な触媒は、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムを含むIA族金属及びIIA族金属から得られるものであり、一般的には、金属は、塩基性の塩、特にその水酸化物として存在する。
【0038】
特定の触媒種は、多分散度が低減した狭い範囲のアルコキシレートを生成する能力があると認識されている。アルコキシル化されたグリセリンの多分散度(PDI)は、数平均に対するEOの重量平均分子量の比として定義される。IIA族金属、特にカルシウム又はマグネシウムから誘導される触媒の使用は、典型的には狭い範囲のエトキシル化触媒であると認識されている。対して、IA族金属から得られる水酸化カリウムなどの触媒は、一般的には多分散度が1.37以上にすることができ、広範なエトキシル化されたアルコールを提供すると認識されている。
【0039】
一実施形態によれば、グリセリンアルコキシレートは、狭い範囲のアルコキシル化触媒上での反応、更に好適には、多分散度が、1.35以下、好適には1.3以下、更に好適には1.25以下のアルコキシル化されたグリセリンを提供する、カルシウムを含有するエトキシル化触媒上での反応によって生成される。好適なカルシウムを含有するアルコキシル化触媒の例は、Sasol社(米国)によって独自に開発されたNOVEL触媒である。
【0040】
当該理論に束縛されるものではないが、グリセリンに直接結合したPOを構成するブロックは、グリセリンの第一級アルコール基及び第二級アルコール基の-OHの間のEOに対するそれぞれの反応性の差を均等化するので、更なるEO付加の分布が更に平衡化されると推定される。
【0041】
式(I)の前記水溶性ポリアルキレングリコールは、相互に独立して、
GB/T 3535に従った流動点は、-30℃未満であるとの特性、
GB/T 7383に従ったヒドロキシル価は、100~300mg KOH/g、好適には、150~270mg KOH/gであるとの特性、
GB/T 265に従った25℃での動粘度は、1500cSt以下、好適には、300cSt未満であるとの特性、
GB/T 265に従った40℃での動粘度は、100cSt以下であるとの特性、
GB/T 265に従った100℃での動粘度は、10cSt以下であるとの特性、
含水量は、0.5重量パーセント以下であるとの特性、及び
分子量は、600~1200g/mol(数平均)であるとの特性
のうちの1以上を有する。
【0042】
好適な実施形態においては、組成物は、5~30重量パーセントの式(I)の水溶性ポリアルキレングリコールを含む。
【0043】
組成物は、1以上のアルカノールアミン、好適には5~25重量パーセントの1以上のアルカノールアミンを更に含むことができる。アルカノールアミンは、好適には、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、及び/又はモノイソプロパノールアミンの群から選択される。
【0044】
組成物は、ホウ酸、トリアジントリカルボン酸、及び/又はリン酸、並びにそれらの任意の塩、例えばナトリウム塩を含むことができ、好適には0.1~10重量パーセントにできる。
【0045】
組成物は、1以上のカルボン酸を更に含むことができ、一実施形態によれば、0.1~15重量パーセント、好適には0.5~10重量パーセントにできる。本開示の一実施形態によれば、組成物は、カルボン酸を含まない。カルボン酸は、イソノナン酸、2-ブチルオクタン酸、ネオデカン酸、1,12-ドデカン二酸などの炭素数が6~14のモノカルボン酸又はジカルボン酸を含むことができる。酸は通常、溶液が透明になるまでの含量で添加され、組成物のpH値は、25℃で測定して、7~10であり、好適には8~10である。
【0046】
組成物は、0.1~0.5重量パーセントのアミノ酢酸ナトリウム塩、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)四ナトリウム、及び/又は0.1~0.5重量パーセントの1以上の殺生物剤、例えばBUSAN(登録商標)77(ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)-エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド])を更に含むことができる。
【0047】
用いられる水の含量は、好適には30~85重量パーセントである。一実施形態によれば、残りの組成物は、脱塩水である。
【0048】
更に、組成物のpH値は、各々が25℃で、好適には7~10であり、好適には8~10である。
【0049】
好適には、組成物の表面張力は、60mN/m以下であり、かつ/あるいは、組成物の金属表面上での接触角は、90度以下である。
【0050】
水を含む金属加工流体の組成物における、1重量パーセントの式(I)の水溶性ポリアルキレングリコールのGB/T 5559に従った曇点は、好適には80℃を超える。
【0051】
当該曇点の高さは、水において式(I)のポリアルキレングリコールを可溶化するのに必要な低量の一塩基酸(例えば、イソノナン酸)に関連し、好適には、ノナン酸などのカルボン酸は、酸として存在しない。
【0052】
本開示による組成物の別の利点は、多くの場合、酸の添加により特に金属加工流体の組成物の使用時間が延びた間に、臭気及び泡が生じることである。上述は、回避できるか、あるいは少なくとも最小化できる。酸の使用を控えるのが好適である。
【0053】
組成物は、金属加工流体として用いることができ、金属表面上での発泡性の低減、低い表面張力、及び低い接触角を呈する。
【0054】
更に、式(I)のアルコキシル化グリセリンは、タップ加工のトルクを低減させ、組成物の曇点を増加させる。また、用いられるカルボン酸の含量が少なくなるため、組成物の臭気は更に好適となる。
【0055】
更に好適には、ポリアルキレングリコールは、組成物の表面張力を60mN/m以下二低減させ、かつ/あるいは、金属表面上での接触角を90°以下に低減させるために用いられる。
【0056】
本開示の水溶性のPAGは、金属加工流体の組成物における完全型の合成基油として用いることができる。PAG及び水とは別に、組成物は、金属加工流体として用いる場合、上述の酸、アミン、及び他の添加剤を含むことができる。
【0057】
本開示の金属加工流体は、例えば、金属片の切削、研削、及び打抜きなどのせん断速度の大きな工程に用いられる。上述は、例えば、シリコンウェハの切削を更に含む。
【0058】
更なる用途は、金属加工における急冷流体としてのものである。上述の状況においては、急冷とは、本開示によるPAGを基油として含む油組成物における加工品の急速冷却のことである。
【0059】
本願は更に、金属加工流体としての組成物の使用、並びに金属加工流体及び/又は金属加工工程における式(I)のポリアルキレングリコールの使用である。
【0060】
本開示による金属加工流体を適用する金属加工工程において用いられる一般的な金属合金は、型式7075、6061、5053、及びLY12のアルミニウム合金、赤銅、鋳鉄、及びステンレス鋼などの鉄合金である。
【0061】
[測定技術]
流動点は、GB/T 3535(中国においてASTM D 97と等価)に従って決定され、様々な温度(例えば、25、40、及び100℃)での動粘度は、GB/T 265(ISO 3104と等価)に従って決定され、1重量パーセント水溶液の曇点は、GB/T 5559(ISO 1065と等価)に従って決定され、ヒドロキシル価(mg KOH/g)は、GB/T 7383(ISO 4326と等価)に従って決定される。
【0062】
発泡特性、表面張力、金属表面上での接触角、沈降、及び潤滑性などの金属加工流体の更なる特性は、以下の方法に従って測定できる。
【0063】
発泡特性は、50mlの希釈した(通常、3~5重量パーセントまで)金属加工流体を100mlのメスシリンダに入れ、シリンダーを片手で100~110回、1分間振とうした後、形成された発泡体の体積をml単位で測定し、発泡体が再度完全に崩壊するまでに要する時間を測定することによって試験できる。
【0064】
発泡体は、可視性に影響を与え、液体の体積を拡大するため、金属加工において好適ではない。したがって、発泡体形成(上述したように測定される)は、20ml以下であるべきであり、発泡体の崩壊は10秒以下であるべきである。
【0065】
発泡性を決定するための広範に認識された方法は、CNOMO発泡体試験であるD 65 5212であり、実験用の希釈された金属加工流体は、2000mlのメスシリンダにおいて、最大1000mlの目盛りまで添加され、250l/h±10l/hで5時間±5分間循環され、一方、液体の温度は、水循環を用いて23℃±2℃に維持される。その後、試験中に形成された発泡体の体積及び15分後に残った静止時の発泡体の体積の両方(ml単位)が決定され、液体の外観の格付け(0(変化なし)~5(一般的な装置の汚れ))が決定され、試験終了時の流動(l/h単位)が定量された。
【0066】
格付けは、時間/発泡体の体積/15分後の発泡体の体積/液体の外観/試験終了時の流動、といった方法で報告される。例えば、格付け「300/500/0/0/250」は、5時間(300分)試験後に発泡体の体積が500mlであり、試験終了後から15分後の発泡体がなく、初期の外観は変わらず、試験終了時の流れは250l/hであったことを示している。
【0067】
希釈した金属加工流体の表面張力は、ASTM D 3825に従って定量できる。
【0068】
鋳鉄などの金属表面上での接触角は、ASTM D 5725に従って定量できる。表面張力は、好適には60mN/m未満であり、鋳鉄上での接触角は、90度未満である。
【0069】
金属加工に由来する摩耗物は、金属加工流体から可能な限り迅速に分離すべきであって、研磨摩耗物は、金属加工流体を更に用いるべく再循環できるように、金属加工流体から効果的に除去できる。 用いられる金属加工流体の当該特性を試験する方法は、5重量パーセントの炭素粉末を規定体積の金属加工流体又は希釈した金属加工流体に添加し、混合物を5分間撹拌し、経時的に(例えば、60分後に)メスシリンダの底部で炭素粉末の沈降を観察することである。
【0070】
炭素粉末と混合した、希釈した流体組成物の相の体積が小さいほど、沈降が良好であり、分離が更に効果的となる。分離を効果的にすることにより、更に効果的に、金属加工において水を再循環させることが可能となる。
【0071】
希釈した金属加工流体の潤滑性は、ASTM D 5619(タッピングトルク試験機を用いた金属除去流体の比較)に従ったいわゆるタッピングトルク試験を用いて、又は当該試験に基づいて決定できる。油組成物で潤滑されている間にブランク試料のナットにねじ山を形成するのに必要なトルクが測定され、基準流体で潤滑されている間にブランク試料のナットにねじ山を形成するのに必要なトルクと比較される。同一のタップ加工を用いた場合、試験した油組成物に対する基準油の平均トルク値の比は、百分率の流体の効率として表される。更に、最大トルクの平均値を比較できる。
【0072】
トルクが低くなると、流体の効率が高くなる。報告されたトルク値については、用いた金属合金、試験速度、及び流体濃度を開示する必要がある。
【実施例
【0073】
アルコールとしてのグリセリンに基づく様々なポリアルキレングリコールを生成し(表1参照)、BASF社の市販のエチレンオキシド-プロピレンオキシドのブロック共重合体(SYNATIVE(登録商標)RPE 1720及びRPE 1740、表2参照)と比較した。
【0074】
グリセリンのアルコキシル化は、触媒としてKOHを用いて行い、適用可能であれば、プロポキシル化及びエトキシル化を次いで行い、所定の構成ブロックをトリオールに結合させた。プロピレンオキシド及びエチレンオキシドは、等量(例えば、2モルのPOについては2モル当量、5モルのEOについては5モル当量)で連続的に投入されたが、当然ながら、反応は統計的な方法で行われており、現実に、構成ブロックの各々についての分子のアルコキシル化の度合は、統計学的に分布していることを示している。上述が、様々な生成物について与えられた構造ブロックの最終的な数が、単に、生成されたすべての分子にわたる平均となりうる理由である。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2のポリアルキレングリコールは、以下の表3の配合(全て重量パーセント)によって、金属加工流体の組成物に用いた。
【0078】
【表3】
【0079】
本開示による組成物は、特に金属加工流体の加工中に、発泡体の形成だけでなく、更に臭気の形成を低減させる、イソノナン酸の添加をごくわずかな量で必要とするか、あるいは全く必要としなかった。
【0080】
金属加工流体は、カルシウム及びマグネシウムの含有量が100ppmであり、蒸留水において3重量パーセントに希釈し、当該配合物の特性を、上述の測定技術に従って決定した(表4参照)。
【0081】
CNOMOに従った発泡体生成の格付けは、試験5時間後すぐの発泡体の体積を除いて、全ての事例において同一であった。したがって、当該発泡体の体積の数値(X)のみを表4において報告した。その他の数値は、300/X/0/0/125であった。
【0082】
グリセリン系のポリアルキレングリコール6、7、及び8を用いて生成された本開示による金属加工流体は、市販のEO/POブロック共重合体(1740、1720)、グリセリン-EO(1)、グリセリン-EO-PO(2、3)、グリセリン-PO(4)、グリセリンPO-EO(5)及び本開示の範囲外のグリセリンPO-EO-PO(9)と比較して、顕著に低い発泡体形成、更に速い発泡体崩壊、更に低いタップ加工のトルク、同等の表面張力及び接触角、並びに、更に低い沈降体積を示したことが明確に理解できる。上述の特性は、金属加工の用途のための効率の高いPAGの組成物として適切である。
【0083】
本開示による組成物は、金属加工流体として用いる場合、沈降又は沈降特性を効率的にし、容易に再循環できる。
【0084】
【表4】
【0085】
更に、本開示による組成物において用いられる水溶性ポリアルキレングリコールは高い曇点を示し、金属加工流体の技術分野において十分に求められている特性である。当該曇点の更なる高さは、アルカリ性の金属加工流体の組成物における基油の溶解度の増加を示す。上述により、モノカルボン酸の可溶化剤の含量を有意に低減でき、本開示の好適な実施形態によれば、モノカルボン酸は、本開示による組成物又は金属加工流体において全く用いられていない。上述は、モノカルボン酸に関連する金属加工流体の組成物における発泡性の問題を低減するだけでなく、更に、モノカルボン酸によって生じる臭気の問題を低減し、金属加工流体の実用的な用途において特に重要である。
【国際調査報告】