(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】FGFR3関連の認知欠損の処置のための方法及び医薬組成物。
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P19/00
A61K31/506
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575888
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2021065696
(87)【国際公開番号】W WO2021250198
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ルジェ-マル,ロランス
(72)【発明者】
【氏名】ウーリー,フランク
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA96
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、FGFR3関連の認知欠損を処置するための方法及び医薬組成物に関する。本発明者らは、脳において発現されるFGFR3機能獲得変異によって、頭蓋骨異常とは無関係に、認知欠損及び行動欠損が誘発されるという強力なエビデンスを提供する。FGFR3の構成的活性化がこれらの行動障害に関与するというエビデンスを提供するために、本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウスを、BGJ398の脳室内注射を7日間にわたり使用してチロシンキナーゼ阻害剤で処置した。処置によって、短期学習における及び対処戦略における異常がレスキューされる。
本発明は、治療有効量のFGFR3阻害剤を対象に投与することを含む、それを必要とするFGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象において、FGFR3関連の認知欠損を処置する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のFGFR3阻害剤を対象に投与することを含む、それを必要とするFGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象において、FGFR3関連の認知欠損を処置する方法。
【請求項2】
FGFR3阻害剤がチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
FGFR3阻害剤がBGJ398である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
FGFR3関連の骨格疾患が、軟骨低形成症(HCH)、軟骨無形成症(ACH)、致死性骨異形成症(TD)、頭蓋骨癒合症、又は低身長症である、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
FGFR3関連の骨格疾患が軟骨低形成症(HCH)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
FGFR3関連の骨格疾患が軟骨無形成症(ACH)である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
FGFR3関連の骨格疾患が頭蓋癒合症である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
頭蓋骨癒合症が、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
FGFR3関連の骨格疾患が、対象における構成的に活性なFGFR3受容体変異体の発現により起こされる、請求項1~3に記載の方法。
【請求項10】
構成的に活性なFGFR3変異体が、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S、又はN540T変異体である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
構成的に活性なFGFR3変異体がA391E変異体である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
【0002】
本発明は、FGFR3関連の認知欠損を処置するための方法及び医薬組成物に関する。
【0003】
発明の背景:
【0004】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)ファミリーは、骨発生及び骨格疾患において重要な役割を果たす。FGFR1、FGFR2、及びFGFR3のミスセンス変異は、頭蓋縫合の早期癒合により特徴付けられる一連の症候性頭蓋骨癒合症に関与している(Robin et al.,1993;Twigg and Wilkie,2015)。2つの特定のFGFR3優性変異が、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN[MIM 612247])、稀な症候性頭蓋骨癒合症、及び最も一般的な症候性頭蓋骨癒合症であるMuenke症候群(MS[MIM 602849])の原因となっている(Wilkie et al.,2010)。CAN患者は黒色表皮腫を呈するが、しかし、それ以外はFGFR2関連のクルーゾン症候群患者に似ている:彼らは頭蓋骨の冠状縫合の早期癒合、短頭症、顔面中心部の低形成、及び頭蓋頚椎移行部病変により特徴付けられる(Arnaud-Lepez et al.,2007;Di Rocco et al.,2011;Meyers et al.,1995;Mir A et al.,2013)。CANは、FGFR3の膜貫通ドメイン中に局在化される単一の点変異(p.Ala391Glu)により定義される(Li et al.,2006;Meyers et al.,1995)。異常な頭蓋冠、頭蓋底、及び顔面成長の潜在的な転帰は、増加した頭蓋内圧、聴覚及び視覚障害、障害性の脳血流、後脳奇形、脊髄空洞症、睡眠時無呼吸、及び多因子性発達遅延を含む。いくつかの試験によって、記憶力、注意、不安、及び感情制御の障害により特徴付けられる、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症における認知欠損が報告されている(Kruszka et al.,1993;Maliepaard et al.,2014;Yarnell et al.,2015)。FGFR3は、軟骨内骨化の重要な調節因子として広く認識されている。しかし、縫合成長生物学及び膜骨化におけるその役割はあまり知られていない。p.Ala391Glu CAN変異の役割は未探索のままである。本発明者らは、優性p.Ala385Glu変異を発現する最初のCANマウスモデル(Fgfr3A385E/+)を作製した。Fgfr3A385E/+マウスは、頭蓋骨癒合症の非存在及び正常な頭蓋脳比率を示した。中枢神経系では、FGFR3は、認知機構のために必須の脳構造である海馬において高度に発現している。本発明者らは、p.Ala385Glu変異が成体の神経発生及び認知能力に影響を及ぼしうるとの仮説を立てた。この仮説をテストし、行動におけるFGFR3機能獲得変異の影響を定義するために、本発明者らは、海馬における神経発生を検証し、Fgfr3A385E/+マウスの歯状回における顆粒層の減少したサイズに関連付けられる、減少した増殖を示した。さらに、Fgfr3A385E/+マウスは、海馬依存の学習及び記憶障害ならびに回避不能なストレスに対する異常な対処戦略を示した。
【0005】
本発明者らはまた、FGFR3チロシンキナーゼIドメイン中に局在化する最も一般的なHCH変異であるp.Asn540Lysを発現するHchマウスモデルFgfr3N534Ks/+を試験した。この仮説をテストし、行動におけるFGFR3機能獲得変異の影響を定義するために、本発明者らは、Fgfr3N534K/+マウス及びそのコントロール同腹仔に対して一連の行動テストを実施した。その結果、彼らは、Fgfr3N534Ks/+マウスが海馬依存的な記憶障害及び回避不能なストレスに対する異常な対処戦略を示すことを見出した。
【0006】
本明細書では、本発明者らは、脳において発現されるFGFR3機能獲得変異が、頭蓋骨異常とは無関係に認知欠損及び行動欠損を誘発するという強力なエビデンスを提供する。FGFR3の構成的活性化がこれらの行動障害に関与するというエビデンスを提供するために、本発明者らは、BGJ398の脳室内注射を7日間にわたり使用して、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfrN53Ks/+マウスをチロシンキナーゼ阻害剤で処置した。この処置によって、学習及び記憶における、ならびに対処戦略における異常がレスキューされる。このように、FGFR3を標的化することによって、軟骨異形成症及び頭蓋骨癒合症における認知障害を処置するための新規の効率的な治療の展望が与えられる。
【0007】
発明の概要:
【0008】
本発明は、FGFR3関連の認知欠損の処置のための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明を特許請求の範囲により定義する。
【0009】
発明の詳細な説明:
【0010】
線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)機能獲得型変異(p.Ala391Glu)は、稀な形態の頭蓋骨癒合症に関与している:黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)。CANを伴う患者は、頭蓋骨の冠状縫合の早期癒合、顔面中心部の低形成、黒色表皮腫、及び神経障害により特徴付けられる。FGFR3は、長骨成長の負の調節因子として定義される。しかし、頭蓋骨の縫合成長生物学におけるp.Ala391Glu CAN 変異の役割は未探索のままである。本発明者らは、CAN変異がリガンドとは無関係に受容体の過剰活性化を誘発し、タンパク質の成熟を妨げることを観察した。本発明者らは、優性p.Ala385Glu変異を発現する最初のCANマウスモデル(Fgfr3A385E/+)及び優性p.Asn540Lys変異を発現するHCHマウスモデル(Fgfr3Asn534Lys/+)を作製した。Fgfr3A385E/+マウスは、頭蓋骨癒合症の非存在及び正常な頭蓋脳比率を示した。しかし、これらのマウスの成体海馬を分析し、本発明者らは、FGFR3過剰活性化が、減少した歯状回前駆細胞の増殖及び神経発生に関連付けられることを示した。結果的に、行動テストをFgfr3A385E/+マウスにおいて実施し、海馬依存的な記憶障害及び異常な対処戦略が観察された。最後に、特定のFGFR3阻害剤(BGJ398)を使用し、本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウスの脳におけるFGFR3過剰活性化を阻害し、このように、行動障害及び認知障害を回復させた。これによって、脳におけるFgfr3過剰活性化に関連付けられる初めての行動異常が強調される。それによって、頭蓋骨癒合症での学習過程及び感情的応答においてFGFR3が果たす役割のより良い理解が可能になる。
【0011】
従って、本発明は、治療有効量のFGFR3阻害剤を対象に投与することを含む、それを必要とする、FGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象においてFGFR3関連の認知欠損を処置する方法に関する。
【0012】
本発明はまた、FGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象における、FGFR3関連の認知欠損の処置における使用のためのFGFR3阻害剤に関する。
【0013】
本明細書中で使用するように、用語「対象」は、哺乳動物、例えば齧歯類、ネコ、イヌ、及び霊長類などを表す。特に、本発明による対象はヒトである。本明細書中で使用するように、用語「対象」は「患者」を包含する。
【0014】
一部の実施形態では、本発明の対象は、認知欠損に罹患している、又は罹患するであろう。
【0015】
一部の実施形態では、本発明の対象は、認知欠損及び行動欠損を誘発する、脳において発現されるFGFR3機能獲得変異に罹患する、又は罹患するであろう。
【0016】
一部の実施形態では、本発明の対象は、エピソード記憶欠損、抗うつ効果、学習における異常、及びストレス応答を有する、又は有するであろう。
【0017】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3」、「FGFR3チロシンキナーゼ受容体」、及び「FGFR3受容体」は、本明細書を通して互換的に使用され、FGFR3の天然アイソフォームの全てを指す。FGFR3の例示的なヒトアミノ酸配列が、配列番号1により表されている。
【化1】
【0018】
本明細書中で使用するように、表現「構成的に活性なFGFR3受容体バリアント」、「FGFR3の構成的に活性な変異体」、又は「構成的活性を呈する変異体FGFR3」は互換的に使用され、生物学的活性(即ち、下流のシグナル伝達を誘発する)を示す前記受容体の変異体を指し、及び/又はFGFリガンドの存在において、対応する野生型受容体の生物学的活性よりも高い生物学的活性を示す。本発明による構成的に活性なFGFR3バリアントは、特に、以下からなる群より選択される(残基は、線維芽細胞増殖因子受容体3アイソフォーム1~806アミノ酸長の前駆体におけるそれらの位置に従って番号付けされている):位置84のセリン残基はリジンで置換されている変異体(本明細書中では以下でS84Lと名付けられている);位置200のアルギニン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でR200Cと名付けられている);位置248のアルギニン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でR248Cと名付けられている);位置249のセリン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でS249Cと名付けられている);位置250のプロリン残基がアルギニンで置換されている変異体(本明細書中では以下でP250Rと名付けられている);位置262のアスパラギン残基がヒスチジンで置換されている変異体(本明細書中では以下でN262Hと名付けられている);位置268のグリシン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でG268Cと名付けられている);位置278のチロシン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でY278Cと名付けられている);位置279のセリン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でS279Cと名付けられている);位置370位のグリシン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でG370Cと名付けられている);位置371のセリン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でS371Cと名付けられている);位置373のチロシン残基がシステインで置換されている変異体(本明細書中では以下でY373Cと名付けられている);位置380のグリシン残基がアルギニンで置換されている変異体(本明細書中では以下でG380Rと名付けられている);位置381のバリン残基がグルタミン酸で置換されている変異体(本明細書中では以下でV381Eと名付けられている);位置391のアラニン残基がグルタミン酸で置換されている変異体(本明細書中では以下でA391Eと名付けられている);位置540のアスパラギン残基がリジンで置換されている変異体(本明細書中では以下でN540Kと名付けられている);終結コドンが塩基置換に起因して除去された変異体、特に終結コドンがアルギニン、システイン、グリシン、セリン、又はトリプトファンコドンにおいて変異している変異体(本明細書中では以下で、それぞれX807R、X807C、X807G、X807S、及びX807Wと名付けられている);位置650のリジン残基が別の残基、特にメチオニン、グルタミン酸、アスパラギン、又はグルタミンで置換されている変異体(本明細書中では以下でK650M、K650E、K650N及びK650Qと名付けられている);位置528のメチオニン残基がイソロイシンで置換されている変異体(本明細書中では以下でM528Iと名付けられている);位置538のイソロイシン残基がバリンで置換されている変異体(本明細書中では以下でI538Vと名付けられている);位置540のアスパラギン残基がセリンで置換されている変異体(本明細書中では以下でN540Sと名付けられている);位置540のアスパラギン残基がスレオニンで置換されている変異体(本明細書中では以下でN540Tと名付けられている)。典型的には、本発明による構成的に活性なFGFR3バリアントは、N540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S、N540T、又はA391E変異体である。
【0019】
本明細書中で使用するように、用語「認知欠損」は、一連の症状(抑うつ、記憶、知覚、緩慢さ、及び問題解決の困難を含む)に関連する。認知欠損は、一部の精神障害(精神病、気分障害、不安障害)における症状として存在しうるが、しかし、それらは主に脳損傷と同義である。
【0020】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3関連の認知欠損」は、特にFGFR3受容体の構成的に活性な変異体、特に上に記載するFGFR3受容体の構成的に活性な変異体の発現により、脳におけるFGFR3の異常な過剰活性化により起こされる認知欠損を意味することを意図する。
【0021】
一部の実施形態では、FGFR3関連の認知欠損を有する対象は、FGFR3関連の骨格疾患に罹患している。
【0022】
本明細書中で使用するように、用語「神経発生」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、新たなニューロンが脳において形成される過程に関連する。神経発生は、胚が発生する際に重要であるが、しかし、また、出生後及び生涯を通じて特定の脳領域において継続する。成熟した脳は、多くの特殊な機能領域、ならびに構造及び接続において異なるニューロンを有する。海馬は、例えば、記憶及び空間ナビゲーションにおいて重要な役割を果たす脳領域であり、それ単独で、少なくとも27種類のニューロンを有する。脳におけるニューロンの信じられないほどの多様性は、胚発生の間での調節された神経発生に起因する。その過程の間に、神経幹細胞は分化する、すなわち、それらは、脳における特定の時間及び領域で、多数の特殊な細胞型のいずれか1つになる。
【0023】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3関連の骨格疾患」は、FGFR3の異常な活性化の増加によって、特にFGFR3受容体の構成的に活性な変異体、特に上に記載するようにFGFR3受容体の構成的に活性な変異体の発現により起こされる骨格疾患を意味することを意図している。
【0024】
一部の実施形態では、FGFR3関連の骨格疾患は、好ましくは、FGFR3関連の軟骨異形成症及びFGFR3関連の頭蓋骨癒合症である。
【0025】
本明細書中で使用するように、「FGFR3関連の軟骨異形成症」は、低身長症、例えば軟骨低形成症(HCH)、タナトフォリック骨異形成症(TD)I型、タナトフォリック骨異形成症II型、軟骨無形成症(ACH)、及びSADDAN(発達遅延及び黒色表皮腫を伴う重度の軟骨無形成症)などを含むが、これらに限定しない。
【0026】
特に、FGFR3関連の骨格疾患は低身長症である。
【0027】
本明細書中で使用するように、用語「低身長症」は、当技術分野における一般的な意味を有し、遺伝的又は医学的な状態に起因する低身長を指す。低身長症は一般的に、147cm又はそれ以下の成人の身長として定義される。
【0028】
特に、FGFR3関連の骨格疾患は軟骨形成不全症(HCH)である。
【0029】
本明細書中で使用するように、用語「軟骨形成不全症」(HCH)は、当技術分野における一般的な意味を有し、不釣合いに低い身長、小肢症、及び身体の未発達部分と比較して大きく見える頭部に関連する。
【0030】
一部の実施形態では、FGFR3関連の軟骨異形成は、FGFR3受容体のN540K、K650N、K650Q、M528I、I538V、N540S、又はN540Tの構成的に活性な変異体の発現により起こされる軟骨低形成症である。
【0031】
特に、FGFR3関連の骨格疾患は軟骨無形成症(ACH)である。
【0032】
本明細書中で使用するように、用語「軟骨無形成症」(ACH)は、当技術分野における一般的な意味を有し、腕及び脚が短く、胴体が典型的には正常な長さであり、ならびに大きくなった頭部及び突出した額を伴う遺伝的欠損に関連する。
【0033】
特に、FGFR3関連の骨格疾患はタナトフォリック骨異形成症(TD)である。
【0034】
本明細書中で使用するように、用語「タナトフォリック骨異形成症」(TD)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、不釣り合いに小さい胸郭、極端に短い四肢、ならびに腕及び脚での余分な皮膚の襞により特徴付けられる重度の骨格欠損に関連する。
【0035】
一部の実施形態では、FGFR3関連の骨格疾患は、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症である。一部の実施形態では、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症は、遺伝性又は散発性疾患に対応する。
【0036】
特に、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症は、FGFR3受容体のP250Rの構成的に活性な変異体の発現により起こされるムエンケ(Muenke)症候群である。
【0037】
特に、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症は、FGFR3受容体のA391Eの構成的に活性な変異体の発現により起こされる黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)である。
【0038】
本明細書中で使用するように、用語「頭蓋骨癒合症」は、当技術分野における一般的な意味を有し、対象の頭蓋骨の1つ以上の線維性縫合糸が、骨に変わる(骨化)ことにより未熟に癒合し、それにより、頭蓋骨の成長パターンが変化する状態に関連する。「黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群」(CAN)は、非常に稀な頭蓋骨癒合症である。
【0039】
本明細書中で使用するように、用語「黒色表皮腫」は、皮膚の褐色から黒色の、不十分に明確化されている、ビロードのような色素沈着過剰に関連する。
【0040】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3Y367C/+」は、ヒトACH表現型を再現するマウスモデルに関連する。ACHの臨床的特徴(例、低身長症、大後頭孔の低下サイズ、下顎骨の形成不全、難聴、椎間板の異常に関連付けられる)(Pannier et al. 2009, 2010、Mugniery et al 2012、Di Rocco et al 2014、Komla Ebri et al 2016)。
【0041】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3N534K/+」はHCHマウスモデルに関連する。変異マウスは、成長障害、成長板異常、軟骨結合の部分的喪失、及び脊柱前弯を伴うHCHの臨床的特徴を呈する。
【0042】
本明細書中で使用するように、用語「FGFR3A385E/+」は、欠損した記憶が観察されたCANマウスモデルに関連する。
【0043】
本明細書中で使用するように、用語「処置」又は「処置する」は、予防的又は予防処置、ならびに治療的な、患者の状態を改善する、疾患改善処置(疾患に罹るリスクがある、又は疾患に罹った疑いのある患者、ならびに病気である、又は疾患もしくは医学的状態に罹患しているとして診断された患者の処置を含む)を指し、臨床的再発の抑制を含む。この処置は、欠損又は再発性欠損の1つ以上の症状を予防する、治癒させる、その発症を遅らせる、その重症度を減少させる、又は寛解するために、あるいは、そのような処置の非存在における予想を超えて対象の生存を延長させるために、医学的欠損を有する、又は最終的に欠損を獲得しうる対象に投与してもよい。「治療レジメン」により、病気の処置のパターン、例えば、治療の間に使用される投薬のパターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含みうる。語句「導入レジメン」又は「導入期間」は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間の間に高レベルの薬物を患者に提供することである。導入レジメンでは、(部分的又は全体的に)「負荷レジメン」を用いてもよく、それは、医師が維持レジメンの間に用いうるよりも多くの用量の薬物を投与すること、医師が維持レジメンの間に薬物を投与しうるよりも頻繁に薬物を投与すること、又はそれらの両方を含みうる。語句「維持レジメン」又は「維持期間」は、病気の処置の間に患者の維持のために、例えば、患者を長期間(月又は年)にわたり寛解状態に保つために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンでは、継続的治療(定期的な間隔で、例えば、毎日、毎週、毎月、毎年などで薬物を投与する)又は間欠的治療(例、中断された処置、間欠的な処置、再発時の処置、又は特定の所定の基準[例、疾患の発現など]の達成時の処置)を用いうる。
【0044】
本明細書中で使用するように、用語「予防する」は、そのような用語が適用される欠損又は状態の発症を遅延させる又は予防することを目的とする予防方法又は過程を特徴付けることを意図する。
【0045】
遺伝子又は核酸の発現の文脈において使用される場合の用語「発現」は、遺伝子産物への、遺伝子中に含まれる情報の変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子(例、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA、又は任意の他の種類のRNA)の直接転写産物又はmRNAの翻訳により産生されるタンパク質(即ち、FGFR3)でありうる。
【0046】
本明細書中で使用するように、本明細書中で使用する用語「阻害剤」は、標的分子の活性を阻害するための薬物だけでなく、また、標的分子の発現を阻害するための薬物も含む。
【0047】
本発明による阻害剤は、インビボ及び/又はインビトロでFGFR3受容体の機能的活性化を阻害又は排除することが可能である。阻害剤は、FGFR3受容体の機能的活性化を少なくとも約10%、好ましくは20、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70、75、又は80%、さらに好ましくは85、90、95、又は100%阻害しうる。
【0048】
本発明による阻害剤は、FGFR3受容体に特異的に結合し、それによりシグナル伝達を低下又は遮断する阻害剤を含む。この種類のアンタゴニストは、FGFR3に結合する抗体(特に上に開示する抗体)又はアプタマー、FGFR3に結合する融合ポリペプチド、ペプチド、小さな化学分子、及びペプチドミメティックを含む。
【0049】
本明細書中で使用するように、用語「ポリペプチド」は、長さ又は翻訳後修飾に関係なく、ペプチド結合により連結されたアミノ酸の任意の鎖を指す。ポリペプチドは、天然タンパク質、合成又は組換えポリペプチド及びペプチド(即ち、50アミノ酸未満のポリペプチド)ならびにハイブリッド、翻訳後修飾ポリペプチド、及びペプチドミメティックを含む。
【0050】
本明細書中で使用するように、用語「アミノ酸」は、20の標準的なアルファ-アミノ酸ならびに天然及び合成誘導体を指す。ポリペプチドは、LもしくはDアミノ酸又はそれらの組み合わせを含みうる。
【0051】
本明細書中で使用するように、用語「ペプチドミメティック」は、置換された非アミノ酸構造を有するが、しかし、ペプチドの化学構造を模倣するペプチド様構造を指す。
【0052】
用語「抗体」は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、即ち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。そのようなものとして、用語「抗体」は、抗体分子全体だけでなく、抗体フラグメント、ならびに抗体及び抗体フラグメントのバリアント(誘導体を含む)を包含する。
【0053】
特に、本発明による抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(例、キメラ、ヒト化、又はヒト抗体)、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体のフラグメント又はダイアボディに対応しうる。「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の一部、好ましくはインタクトな抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例は、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fd、dAb、dsFv、scFv、sc(Fv)2、CDR、ダイアボディ、及び抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体を含む。
【0054】
本発明による抗体は、当技術分野において公知の任意の技術、例えば、限定しないが、任意の化学的、生物学的、遺伝子的、又は酵素的技術などにより、単独で又は組み合わせのいずれかで産生してもよい。本発明の抗体は、ハイブリドーマを産生及び培養することにより得ることができる。
【0055】
「アプタマー」は、分子認識に関して抗体に対する代替物を表す分子のクラスである。アプタマーは、実質的に任意のクラスの標的分子を高い親和性及び特異性で認識するための能力を伴うオリゴヌクレオチド配列又はオリゴペプチド配列ある。そのようなリガンドは、Tuerk C. and Gold L., Science,1990,249(4968):505-10に記載されているように、ランダム配列ライブラリーの指数関数的濃縮(SELEX)によるリガンドの系統的進化を通じて単離されうる。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成により入手可能である。このライブラリーでは、各々のメンバーは、最終的に化学的に修飾され、固有の配列の線形オリゴマーである。このクラスの分子の可能な修飾、使用、及び利点が、Jayasena S.D., Clin. Chem.,1999,45(9):1628-50においてレビューされている。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法によりコンビナトリアルライブラリーから選択されるプラットフォームタンパク質、例えば大腸菌チオレドキシン A などにより呈示される立体構造的に拘束された抗体可変領域からなる(Colas et al., Nature,1996,380,548-50)。
【0056】
用語「小化学分子」は、好ましくは1,000ダルトン未満の分子、特に有機又は無機化合物を指す。化学における構造設計は、そのような分子を見出すのに役立つはずである。
【0057】
一部の実施形態では、FGFR3阻害剤はチロシンキナーゼ阻害剤である。
【0058】
本発明は、治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)を対象に投与することを含む、それを必要とする、FGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象においてFGFR3関連の認知欠損を処置する方法に関する。
【0059】
本発明はまた、FGFR3関連の骨格疾患に罹患している対象においてFGFR3関連の認知欠損の処置又は予防における使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤に関する。
【0060】
本明細書中で使用するように、用語「チロシンキナーゼ阻害剤」(TKI)は、チロシンキナーゼ活性を阻害するのに有効である化合物(天然又は合成)を指す。また、チロシンキナーゼに対して特異的な活性を伴う阻害剤が好ましいであろう。
【0061】
チロシンキナーゼ阻害剤の例は、PD173074(CAS No.219580-11-7)、AZD4547(CAS No.1035270-39-3)、BGJ398(CAS No.872511-34-7)、AP24534(CAS No.943319-70-8)、BIBF1120(CAS No.656247-17-5)、JNJ-42756493(CAS No.1346242-81-6)、TKI-258(CAS No.405169-16-6)、PHA- 739358(CAS No.827318-97-8)、BMS-540215(CAS No.649735-46-6)、TKI-258二乳酸(CAS No.852433-84-2)、MK-2461(CAS No.917879-39-1)、BMS-582664(CAS No.649735-63-7)、SSR128129E(CAS No.848318-25-2)、PRN1371(CAS No.1802929-43-6)、PD166866(CAS No.192705-79-6)、BLU554(CAS No.1707289-21-1)、S49076(CAS No.1265965-22-7)、SU5402(CAS No.215543-92-3)、BLU9931(CAS No.1538604-68-0)、FIN-2(CAS No.1633044-56-0)、TKI-258乳酸(CAS No.915769-50-5)、CH5183284(CAS No.1265229-25-1)、LY2874455(CAS No.1254473-64-7)、又はASP5878(CAS No.1453208-66-6)を含むが、これらに限定しない。十分に認識しているように、各々の分子に割り当てられた CAS(Chemical Abstracts Service)番号は、各々の化合物についての固有の識別子である。
【0062】
特定の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はBGJ398(FGFRファミリーの強力な阻害剤)である。本明細書中で使用するように、用語「BGJ398」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、3-(2,6-ジクロロ-3,5-ジメトキシフェニル)-1-[6-[4-(4-エチルピペラジン-1-イル)アニリノ]ピリミジン-4-イル]-1-メチル尿素を指す。この用語はまた、インフィグラチニブ、NVP-BGJ398、又はBGJ-398として公知である。
【0063】
本明細書中で使用するように、用語「投与する」又は「投与」は、例えば脳室内、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達及び/又は本明細書中に記載する、もしくは当技術分野において公知の物理的送達の任意の他の方法などにより、体外に存在する物質(例、FGFR3阻害剤)を対象に注射する、又はそうでなければ物理的に送達する行為を指す。疾患、又はその症状が処置されている場合、物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発症後に起こる。疾患又はその症状が予防されている場合、物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発症前に起こる。
【0064】
「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために必要な投与量での、及び期間にわたる有効な量を指す。薬物の治療有効量は、要因、例えば個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重、ならびに個体において所望の応答を誘発する薬物の能力などの要因で変動しうる。治療有効量はまた、FGFR3阻害剤の任意の毒性又は有害効果よりも、治療的に有益な効果が上回っている量である。薬物についての効率的な投与量及び投薬レジメンは、処置される疾患又は状態に依存し、当業者により決定されうる。当技術分野における通常の技術を有する医師は、要求される医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方しうる。例えば、医師は、所望の治療効果を達成するために要求されるレベルよりも低いレベルで、医薬組成物中で用いられる薬物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができる。一般的に、本発明の組成物の適切な用量は、特定の投薬レジメンに従って治療効果を産生するのに有効な最も低い用量である化合物の量である。そのような有効用量は、一般的に、上に記載する要因に依存する。例えば、治療的な使用のための治療有効量は、疾患の進行を安定化させるその能力により計測されうる。当業者は、対象の大きさ、対象の症状の重症度、及び特定の組成物又は選択された投与経路などの要因に基づき、そのような量を決定することができるであろう。薬物の治療有効量についての例示的で、非限定的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば約0.1~50mg/kgなど、例えば、約0.1~20mg/kg、例えば約0.1~10mg/kgなど、例えば、約0.5、約0.3、約1、約3mg/kg、約5mg/kg、又は約8mg/kgなどである。投与は、例えば、脳室内、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下であり、例えば、標的部位の近位に投与されうる。上の処置の方法及び使用における投薬レジメンは、最適な所望の応答(例、治療応答)を提供するように調整される。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、いくつかの分割用量で経時的に投与してもよく、又は用量を、治療状況の緊急性により示されるように、比例的に低下又は増加させてもよい。一部の実施形態では、処置の有効性は、治療の間に、例えば、事前定義された時間点でモニターされる。非限定的な例として、本発明による処置は、本発明の薬剤の1日投与量として、1日当たり、約0.1~100mg/kg、例えば0.2、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90、又は100mg/kgなどの量で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40日目の少なくとも1つに、あるいは、代わりに、処置の開始後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20週の少なくとも1つ、あるいはそれらの任意の組み合わせに、24時間、12時間、8時間、6時間、4時間、又は2時間、あるいはそれらの任意の組み合わせ毎に、単一又は分割用量を使用して提供してもよい。
【0065】
したがって、対象は、活性成分としてのFGFR3阻害剤及び少なくとも1つの医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を用いて投与される。本明細書中で使用するように、用語「活性成分」又は「活性成分」は互換的に使用される。活性成分は、医学的状態又は疾患を軽減、処置、又は予防するために使用される。本明細書中の用語「医薬的に許容可能な賦形剤」により、活性成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、それが投与された濃度で宿主に対して過剰な毒性のない担体媒体を意味する。前記賦形剤は、医薬形態及び所望の投与方法に依存して、当業者により公知の通常の賦形剤から選択される。一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、第2の活性成分を含まない。
【0066】
本発明はまた、本発明のFGFR3阻害剤が、例えば、認知欠損を処置するために、少なくとも1つのさらなる治療薬剤との組み合わせにおいて使用される治療適用を提供する。そのような投与は、同時、別々、又は連続的でありうる。同時投与のために、薬剤は、適宜、1つの組成物として、又は別々の組成物として投与されうる。さらなる治療薬剤は、典型的には、処置される欠損について関連している。
【0067】
本明細書中で使用するように、用語「組み合わせ」は、第1の薬物をさらなる(第2、第3…)薬物と一緒に提供する全ての形態の投与を指すことを意図している。薬物は、同時に、別々に、又は連続的に、任意の順序で投与してもよい。本発明によれば、薬物は、薬物が脳に到達することを可能にする任意の適切な方法を使用して対象に投与される。一部の実施形態では、薬物は対象に全身的に(即ち、全身投与を介して)投与される。このように、一部の実施形態では、薬物は、循環系に入り、身体全体に分布するように対象に投与される。一部の実施形態では、薬物は、局所投与により、例えば、視床下部への局所投与により対象に投与される。
【0068】
本明細書中で使用するように、用語「組み合わせ処置」、「組み合わせ治療」、又は「治療の組み合わせ」は、1を上回る医薬を使用する処置を指す。組み合わせ治療は、二重治療又は二治療でありうる。
【0069】
本明細書中で使用するように、用語「同時投与」は、同じ経路による、同時での又は実質的に同時での2つの活性成分の投与を指す。用語「別々の投与」は、異なる経路による、同時での又は実質的に同時での2つの活性成分の投与を指す。用語「連続的な投与」は、異なる時間での2つの活性成分の投与を指し、投与経路は同一である又は異なる。
【0070】
本発明は、以下の図及び実施例によりさらに例証される。しかし、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を限定するような任意の方法で解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】CAN モデルにおける学習障害及び抗うつ様の動作。A.4ヶ月齢の雄の動物において実施された新規物体認識(NOR)。識別指標を、Fgfr3
A385E/+及びそれらのコントロールについて同腹仔の記憶能力を評価するために、トレーニング段階後の24時間に測定した。NORを、Fgfr3
A385E/+の2つの独立した群(n=17)及びそれらのコントロール(n=14)で実施した。B.4ヶ月齢の雄の動物(Fgfr3
+/+、n=13;Fgfr3
A385E/+ n=12)で実施された文脈的恐怖条件付け(CFC)。パーセントフリージング時間を、トレーニング段階(基礎レベルについてのコントロールとして)及びテスト段階(記憶能力を評価するため)について記録した。C.2つの独立した群における4ヶ月齢の雄の動物において実施された強制水泳テスト(FST)。FSTを連続2日間にわたり実施した。不動期間を1日目及び2日目の両方にわたり評価した(Fgfr3
+/+、n=17;Fgfr3
A385E/+、n=14)。D.尾懸垂テスト(TST)を連続2日間に4ヶ月齢の雄の動物で実施し、不動期間を両方について評価した。(Fgfr3
+/+、n=17;Fgfr3
A385E/+ n=14)。全ての行動分析を、マウスの2つの独立したコホート及び各々の群についての2つの独立した実験で実施した。
【
図2】海馬におけるFgfr3
A385E/+リン酸化の下方調節によって、記憶欠損及び抗うつ様行動が回復した。A.BGJ398又は賦形剤のいずれかでの7日間、4ヶ月齢の雄の動物への局所での1日1回の脳室内注射。NORトレーニングセッションは、最後の注射後の1時間に起こった。B.賦形剤又はBGJ398で注射された群で実施されたNOR。注射及びNORを、各々の3つの条件で2つの独立した群で実施した(Fgfr3
+/++賦形剤、n=15;Fgfr3
A385E/++賦形剤、n=14;Fgfr3
A385E/++BGJ398、n=14)。C.7日間での4ヶ月齢の雄の動物におけるBGJ398又は賦形剤のいずれかの局所での1日1回の脳室内注射。最後の注射後の1時間に起こる1つのFSTテストセッション。不動期間をテストの間に評価した。D.賦形剤又はBGJ398で注射された群で実施されたFST。注射及びFSTを、各々の3つの条件を伴う2つの独立した群で実施した(Fgfr3
+/++賦形剤、n=15;Fgfr3
A385E/++賦形剤、n=14;Fgfr3
A385E/++BGJ398、n=14)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。NS:Tukeyの多重比較事後検定及びスチューデントの対応のないt検定を用いたANOVAにより有意ではない。
【
図3】学習障害は、BGJ398のFGFR3チロシンキナーゼ阻害剤の1日1回の皮下注射により逆転される。A.新規物体位置特定(NOL)を、4ヶ月齢の雄の動物において実施した。識別指標をトレーニング段階後の24時間に測定して、Fgfr3
Asn534Lys/+及びそれらのコントロール同腹仔の記憶能力を評価した。B.新規物体認識(NOR)を、4ヶ月齢の雄の動物において実施した。識別指標をトレーニング段階後の24時間に測定して、Fgfr3
Asn534Lys/++BGJ398、Fgfr3
Asn534Lys/+及びそれらのコントロール同腹仔の記憶能力を評価した。NOR及びNOLを、Fgfr3
Asn534Lys/+(n=12)Fgfr3
Asn534Lys/++BGJ398(n=14)の2つの独立した群及びそれらのコントロール(n=14)で実施した。
【0072】
材料及び方法。
【0073】
全ての手順が、フランス動物管理使用委員会により承認された。ゲノムDNAを、NucleoSpin Tissueキット(Macherey-Nagel)を製造元の指示に従って使用し、尾から単離した。マウスを、以下のプライマーを使用して遺伝子型を同定した:5’-GTGGGGGTTCTGCGGTTGG-3’(配列番号2)及び5’-TGACAGGCTTGGCAGTACGG-3’(配列番号3)(WTマウス及び変異マウスを単離するため)。全ての分析について、野生型の同腹仔をコントロールとして使用した。
【0074】
脳MRI。
【0075】
マウス脳MRIを、小動物用4.7-T MRイメージングユニット(Biospec47/40;Bruker、米国マサチューセッツ州ビレリカ)を使用して100μmの解像度で取得した。Fgfr3A385E/+マウスならびに5匹のFgfr3Asn534Lys/+雄マウス及び4ヶ月齢の5匹のコントロール同腹仔を、取得の間にイソフルランガス吸入で麻酔した。三次元再構成及び測定を、Imaris(Bitplane)を使用して実施した。
【0076】
手術及び薬物処置。
【0077】
BGJ398は、米国マサチューセッツ州ウォバーンのLC Laboratoriesから購入した。BGJ398注射のために、4ヶ月齢のFgfr3Asn534Lys/+マウス及びFgfr3A385E/+マウスは、6日間にわたるBGJ398(2mg/kg)又は賦形剤(HcL3.5mM、DMSO2%)の皮下投与を毎日受けた。馴化ならびにNOR及びNOLをテストするために、注射をテスト段階前の1時間に実施した。
【0078】
行動テスト(Commons et al.2017;Glatigny et al.2019)。
【0079】
3フットショックの文脈的恐怖条件付け(CFC)。
【0080】
マウスは、マウス飼育施設からテストルームまで、それらのホームケージ中で短距離移動されて、テストの開始前に少なくとも1時間にわたりそのまま放置された。コンディショニングチャンバーをBioseb(フランス)から得たが、内寸25×25×25cmであった。各々のチャンバーを、外部の光及び騒音からの保護を提供される、より大きな断熱プラスチックキャビネット(67×55×50cm、Bioseb、フランス)内に設置して、マウスをコンディショニングボックス中で個別にテストした。チャンバーの床は、フットショックの送達のための、スクランブラーを伴うショック発生器に配線された27本のステンレス鋼棒からなった。マウスの動きにより生成されたシグナルを記録し、高感度重量トランスデューサーシステムを通じて分析した。アナログシグナルが、記録の目的のために、ロードセルユニットを通じてフリージングソフトウェアモジュールに伝送され、活動時間/不動時間(フリージング)の分析が実施された。CFC手順は連続2日間にわたり行われた。1日目に、マウスが条件付けチャンバー中に置かれて、3回のフットショック(1.5秒、0.5mA)を受けたが、それらは、動物をチャンバー中に置いた後の60、120、及び180秒に施された。それらを、最後のショックの60秒後に、それらのホームケージに戻した。文脈的恐怖記憶を、条件付け後の24時間に、マウスをコンディショニングチェンバーに戻し、4分間の保持テストの間にフリージング行動を測定することにより評価した。フリージングを、Packwin2.0ソフトウェア(Bioseb、フランス)を使用して自動的にスコア化し分析した。フリージング行動は、動物が少なくとも2秒間にわたりフリージングした場合に、発生したと考えた。行動をフリージングソフトウェアによりスコア化した。
【0081】
新規物体認識パラダイム(NOR)。
【0082】
本発明者らは、Glatigny et al.,2019において記載されているように、NORタスクの修正バージョンを使用した。マウスは、マウス飼育施設から、それらのホームケージ中のテストルームまで短距離で輸送されて、テストの開始前に少なくとも1時間にわたりそのまま放置された。テストルームは2つの60W電球で照らされ、行動セッションが、テストアリーナ(灰色プラスチックボックス(60×40×32cm))の上からカメラで記録された。マウスは照射の間に、互いに接触する、又は見ることはできなかった。光強度は、アリーナの全ての部分において等しかった(約20lx)。2つの異なる物体が使用され、3通りで入手可能であった。物体は、青色セラミック ポット(直径6.5cm、最大高さ7.5cm)及び透明なプラスチック製漏斗(直径8.5cm、最大高さ8.5cm)であった。新規物体としての役割を果たす物体、ならびに物体の左/右局在化は、各々の群内で平衡化された。物体によって、パイロット実験及びトレーニング段階で決定されたのと同じレベルの探索が誘発された。曝露の間に、マウスは標準的なケージ中で個別に飼育され、物体及びアリーナをファゴスフォアで洗浄し、寝床を交換した。
【0083】
NORパラダイムは、3つの段階(3日間を上回る)からなる:馴化段階、トレーニング段階、及びテスト段階。マウスは、各々の曝露の開始時に、常にアリーナの中央に置かれた。1日目:馴化段階、マウスは、任意の物体を伴うことなく、アリーナを探索するための5分間を与えられ、次に、それらのホームケージに戻された。2日目、トレーニング段階では、マウスは10分間にわたりアリーナの中央から対称的な反対側の位置に配置された2つの同一の物体を探索し、次にそれらのホームケージに輸送された。3日目、テスト段階では、マウスは、2つの物体を探索するための15分間を与えられた:見慣れた物体及び新規物体が同じアリーナ中にあり、同じ物体局在化が保たれている。
【0084】
以下の行動は、物体の探索と考えられた:鼻で又は前足で物体を嗅ぐ、舐める、又は触れる、あるいは物体に≦1cmの距離で鼻を向ける。調査は、マウスが物体の上にいる、又は完全に不動である場合にはスコア化されなかった。識別指標を(新たな物体の探索に費やされた時間-見慣れた物体の探索に費やされた時間)/(両方の物体の探索に費やされた合計時間)として算出した。コントロールとして、新規物体認識(NOR)のトレーニング段階の間での(右/左)物体位置について又は物体A対B についての選好指標を、テストに曝露されたマウスの全ての群において測定した。本発明者らは本明細書で、任意の曝露された物体(AもしくはB)又は任意の方向(右/左)についての初期選好が、任意の群において観察されなかったことを確認している。移動運動を各々のマウスについて評価した。行動は、処置について盲検化された2人の観察者によりビデオでスコア化され、物体の合計探索時間がテスト段階中に定量化された。
【0085】
新規物体位置(NOL)。
【0086】
新規物体位置タスクについて、テスト段階の間に、新規物体を提示するのではなく、マウスが両方の見慣れた物体に遭遇し、1つの物体がアリーナ中の異なる場所に位置付けられたことを除き、全ての手順が、新規物体認識タスクと同一であった。新規の/再配置された物体の探索の時間及び頻度を、記憶の指標として測定する。行動は、処置について盲検化された2人の観察者によりビデオでスコア化され、物体の合計探索時間がテスト段階中に定量化された。
【0087】
明暗移行テスト(D/LT)。
【0088】
このテストは、明るく照射された領域に対する齧歯類の生来的な嫌悪及び光が表すストレッサーに応答したそれらの自発的な探索行動に基づいている。テスト装置は、暗い安全なコンパートメント及び照明された嫌悪コンパートメントからなる。点灯コンパートメントは、8W蛍光管(1000lx)で明るく照射された。未処置マウスを、明るいコンパートメントに対する出入り口から離れて面した暗い領域の中央にあるテストチャンバー中に個別に配置した。マウスを10分間にわたりテストし、2つのパラメーターを記録した:点灯コンパートメントにおいて費やされた時間及びコンパートメント間の移行の数、不安関連の行動及び探索活動の指標。行動を、actiMot2Software(PhenoMaster Software、TSE)を使用した赤外光線活動モニターを使用してスコア化した。
【0089】
オープンフィールドテスト(OFT)。
【0090】
このテストは、明るい領域に対する齧歯類の嫌悪を利用している。各々のマウスを OFTチャンバー(43×43cmチャンバー)の中央に置き、30分間にわたり探索させる。マウスを、actiMot2Software(PhenoMaster Software、TSE)を使用した赤外光ビーム活動モニターにより、各々のテストセッションを通してモニターした。全体的な運動活動を総移動距離(歩行運動)として定量化した。不安を、オープンフィールドチャンバーの中央対周辺において費やされた時間及び距離を測定することにより定量化した。
【0091】
尾懸垂テスト(TST)。
【0092】
このテストは、齧歯類が、最初の脱出志向の動き後、回避不能なストレス性の状況に置かれた場合に不動の姿勢を発生させるという観察に基づいている。各々のマウスを、床から25cmの上の位置でそれらの尻尾により制御不能な様式で吊るす。マウスを5分間にわたりテストして、不動で費やされた時間を定量化した。
【0093】
強制水泳テスト(FST)。
【0094】
このテストは、TSTと同様の観察に基づいている。各々のマウスを、水(23~25℃)で満たされたシリンダー(高さ:25cm、直径:10cm)中に置く。マウスを5分間にわたりテストして、不動(行動の絶望)で費やされた時間を定量化した。
【0095】
実施例1:CANモデル。
【0096】
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群の臨床的特徴。
【0097】
CAN症候群は、FGFR3変異に関連し、FGFR2変異に起因するクルーゾン症候群[MIM123500]に類似した骨格表現型を示す(Coll et al.,2018,2016;Di Rocco et al.,2011):眼窩不均衡、下顎前突症、顔面中心部の低形成(データは示さず)、及び冠状縫合と矢状縫合の早期癒合(種々の程度で)に続発する短頭症(データは示さず)。頭蓋冠異常によって、脳に機械的圧力が加えられて、頭蓋内圧上昇についてのリスクが増加する(Al-Namnam et al.,2019)(データは示さず)。加えて、脳MRIによって、3人の無関係のCAN患者において軽度の一時的な異常が明らかになった。罹患症例は、肥厚した海馬傍溝を呈し、構造の角度の変容を伴った(データは示さず)。クローバー型の頭蓋骨を呈する1例は解釈できなかった。
【0098】
クルーゾン症候群患者における頭蓋底異常は、FGFR2及びFGFR3の両方が関連し、前方では顔面中心部の低形成に寄与し、後方では頭蓋椎間接合部異常に寄与する。蝶形後頭軟骨結合の早期癒合は、短縮した頭蓋底に関連付けられる一方で、後頭内軟骨結合の早期癒合は、CAN患者における狭小化した大後頭孔に関連付けられる(データは示さず)。
【0099】
骨格表現型は、CANマウスモデルFgfr3A385E/+において軽度に影響される。
【0100】
骨格に対するCAN変異の影響を評価するために、本発明者らは、p.Ala391Gluヒト変異に対応する遍在性のp.Ala385Gluミスセンス変異を発現するマウスモデルを作製した(データは示さず)。FGFR3p.Ala385Glu転写物は、線維芽細胞及び頭蓋冠骨芽細胞において検出された(データは示さず)。ヒト疾患と同様に、明らかな四肢短縮表現型は、出生前段階及び新生児段階(データは示さず)から成体段階までのFgfr3A385E/+マウスにおいて観察されなかった(データは示さず)。体重、鼻-肛門及び大腿骨ならびに脛骨の長さは、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3+/+マウスにおいて類似していた(データは示さず)。正常な大腿骨成長が、Fgfr3A385E/+における軟骨評価により確認され、X型コラーゲン染色で明らかになった肥大ゾーンの異常を伴わない、十分に組織化された成長板を示した(データは示さず)。異常な表現型の非存在を確認するために、骨構造パラメーターを評価した。3ヶ月齢の大腿骨でのマイクロCT画像によって、Fgfr3A385E/+マウスにおける海綿骨及び皮質骨の正常な構造が明らかになった(データは示さず)。
【0101】
頭蓋顔面の表現型を、マイクロCT頭蓋骨取得を使用して評価した。Fgfr3A385E/+マウスは、正常な頭蓋顔面特徴を示した(データは示さず);冠状縫合及び頭蓋底軟骨結合は、コントロールマウスと同様に、出生後21日目に開存していた(データは示さず)。Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3+/+マウスの目印に基づく幾何学的形態計測(Heuze et al.,2010)によって、頭蓋骨形状においていかなる違いも示されなかった(d=0.0148;p=0.0940)。しかし、下顎骨の形状は、マウスの2群間で有意に異なっていた(d=0.0159;P<0.01)(データは示さず)。前頭-頭頂縫合の早期閉鎖の非存在を確認するために、本発明者らは、頭蓋冠Fgfr3A385E/+骨芽細胞のインビトロ機能を評価した。ミネラル化能力、増殖、及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)活性化における有意差は、コントロールと比較して、Fgfr3A385E/+マウスの骨芽細胞において観察されなかった(データは示さず)。全てのこれらのデータによって、本発明者らは、骨芽細胞中で発現したp.Ala385Glu変異は活性ではなく、結果的に、頭蓋顔面発生に影響を及ぼさなかったと結論付けることが可能になった(データは示さず)。これらのデータによって、Fgfr3A385E/+マウスにおける頭蓋骨癒合症の表現型の非存在が説明される。皮膚に関しては、角化症の徴候又は表皮の厚さ及び色素沈着における変化は、Fgfr3A385E/+マウスにおいて検出されなかった(データは示さず)。
【0102】
Fgfr3A385E/+マウスモデルは、歯状回が神経発生を減少させることを示す。
【0103】
構造的な脳異常が、CAN患者(Gurbuz et al.,2016)(データは示さず)及びMuenke患者(Abdel-Salam et al.,2011;Grosso et al.,2003;Okubo et al.,2017)において記載されている。これらの異常は、海馬及び側頭葉の異常な形態を含む。頭蓋縫合糸の早期癒合によって頭蓋骨の形状が変化し、正常な脳成長が損なわれ、機能的な問題、例えば増加した頭蓋内圧、視覚障害、難聴、及び認知障害などを起こすことが周知である(Di Rocco et al.,2011)。以前の試験によって、MSを伴う患者が、適応機能及び実行機能において欠損を呈することが示された。この行動表現型は、作業記憶欠損、注意欠損多動性障害、感情制御、及び不安を含んだ(Yarnell et al.,2015)。これらの神経学的障害は、認知機能の制御についての、脳におけるFGFR3の影響を示唆する。それ故に、本発明者らは、4ヶ月齢のFgfr3A385E/+マウスにおいて磁気共鳴画像法(MRI)を実施し、種々の脳領域の体積を測定した。
【0104】
体積の変化及び任意の圧縮は、Fgfr3A385E/+マウスの種々の脳領域において観察されず、正常な胚脳発生が示唆された(データは示さず)。しかし、FGF及びFGFR は、中枢神経系における神経幹細胞及び神経前駆細胞の増殖及び分化に含まれることが公知である(Huang et al.,2017;Kang and Hebert,2015、Moldrich et al.,2011;Ohkubo et al. .,2004;Stevens et al.,2012)。従って、本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウスの脳において発現されるFgfr3A385E変異が、成体の神経発生に影響を及ぼしうるという仮説を立てた。頭蓋顔面異常の非存在は、具体的には成体期の間に神経発生を評価するための良い機会である。成体神経発生におけるFgfr3の役割を探索し、本発明者らは、免疫蛍光(データは示さず)及びウェスタンブロッティング(データは示さず)によりFgfr3A385E/+及びFgfr3+/+マウス海馬におけるFGFR3の同様の発現を観察した。しかし、FGFR3により活性化される正規のMAPK経路は、Fgfr3ノックインマウスモデル(Komla-Ebri et al.,2016)及びFGFR3ノックアウトマウスモデル(Zhou et al.,2015)両方において調節不全であることが見出されている。実際に、本発明者らは、成体海馬ライセート中でのリン酸化Erk1/2の有意な増加発現を観察しており(データは示さず)、このように、脳におけるFgfr3A385E変異によって、MAPK経路が活性化されることを確認した。FGFR3は、歯状回における前駆細胞の増殖及びニューロン分化において重要な役割を果たす(Inglis-Broadgate et al.,2005;Kang and Hebert,2015;Moldrich et al.,2011;Thomson et al.,2009)。4ヶ月齢のFgfr3A385E海馬では、NeuNマーカーを使用し、本発明者らは、歯状回顆粒層の成熟ニューロン領域が、コントロールと比較して有意に減少していることを示した(データは示さず)。本発明者らは、この減少したニューロン集団が、減少した前駆細胞増殖により起こされたか否かを評価した。細胞周期KI67マーカーについての陽性細胞数は、Fgfr3A385E/+マウスにおける歯状回顆粒細胞下帯で有意に低下した(データは示さず)。顆粒帯では、ダブルコルチン(DCX)免疫標識により明らかにされたニューロンの分化率は、わずかに減少する(データは示さず)。まとめると、これらのデータは、Fgfr3機能獲得変異が主に増殖に影響を及ぼし、このように、歯状回におけるニューロンの成熟分化に影響することを強く示唆した。
【0105】
Fgfr3A385E/+マウスモデルは、減少した学習能力及び抗うつ効果を示す。
【0106】
海馬構造の低下したサイズ及び低下した増殖は、ヒト及びマウスにおける記憶及び認知の変化に関連付けられることが示された(Kitamura and Inokuchi,2014)。従って、本発明者らは、4ヶ月齢のFgfr3
A385E/+マウス及びそれらのコントロール同腹仔を一連の行動テストに供したが、これは、海馬に関連する行動機能を反映すると考えられ、連想(1試行の文脈的恐怖条件付け、CFC)及びエピソード(新規物体認識テスト、NOR)、ならびに空間(モリス水迷路、MWM)学習及び記憶を測定している(
図1A~1D)。CFCでは、変異マウスは、ベースラインのフリージング時間において差を示さなかった。しかし、Fgfr3機能獲得変異は、それらのコントロール同腹仔と比較し、テスト段階の間に減少した文脈誘発フリージング時間をもたらしたが、文脈的恐怖記憶が変異マウスにおいて損なわれていることを示す(
図1B)。
【0107】
次に、本発明者らは、NORパラダイムの修正バージョン(Denny et al.,2012;Ennaceur and Delacour,1988)を使用し、それによって、環境において新たな物体を認識する齧歯類の能力が測定される。野生型マウスは、見慣れた物体から新規物体を区別することが可能であり、新規物体をより長い時間にわたり探索する傾向がある。(
図1A)に示すように、4ヶ月齢のFgfr3
A385E/+マウスは、コントロールよりも有意に少なく新規物体を探索した。しかし、障害は、記憶を、MWMタスク(齧歯類における空間学習及び記憶を評価する)を通じて分析した場合には観察されなかった。注目すべきことに、Fgfr3
A385E/+マウス及びコントロールは、オープンフィールドテスト(OFT)及び明/暗パラダイム(L/DT)において同等の成績を有したが(データは示さず)、それらの移動運動及び不安状態がインタクトであったことを示す。
【0108】
次に、本発明者らは、強制水泳テスト(FST)及び尾懸垂テスト(TST)を使用し、回避不能なストレスに対する対処戦略を評価した。(
図1C)において示すように、4ヶ月齢のFgfr3
A385E/+マウスは、FSTの間にコントロールマウスよりも有意に少ない時間を不動で費やす。同じ障害がTSTの間に観察された。実際に、変異マウスは、コントロール同腹仔よりも有意に少ない時間を不動で費やす(
図1D)。
【0109】
まとめると、これらのデータによって、Fgfr3機能獲得変異が、海馬依存的なエピソード記憶及び連想恐怖記憶の獲得に有意に影響し、回避不能なストレスに対する対処戦略に影響を及ぼすことが実証される。
【0110】
重要なことに、これらのデータは、マウスにおけるFgfr3A385E変異によって、作業記憶欠損、ならびに感情制御障害及び注意欠損多動性障害を含む、以前にヒト患者において記載された行動欠損が再現されたことを示す(Yarnell et al.,2015)。
【0111】
BGJ398脳室内注射によって、Fgfr3A385E/+マウスの認知障害がレスキューされる。
【0112】
Fgfr3
A385E/+マウスにおける認知障害が、受容体の増加したリン酸化に起因することを確認するために、本発明者らは、特定のチロシンキナーゼ阻害剤BGJ398(インフィグラチニブ)でマウスを処置することを決めた(Gudernova et al.,2015;Komla-Ebri et al.,2016)。4ヶ月齢のFgfr3
A385E/+マウス及びそれらのコントロール同腹仔は、BGJ398又は賦形剤溶液を用いた7日間にわたる脳室内注射を受け、2つの行動テスト(NOR及びFST;
図2Aから2C)に供された。BGJ398の注射によって、コントロール同腹仔と比較して、Fgfr3
A385E/+マウスについてのNORパラダイムにおいて観察された記憶欠損が逆転されて(
図2B)、FSTにおいて観察された回避不能なストレスに対する対処戦略が再確立された(
図2D)。Fgfr3
A385E/+マウスにおける頭蓋脳の不均衡の非存在、及び、このように、潜在的に増加した頭蓋内圧の欠如によって、本発明者らは、観察された、報告された行動異常が、脳に対するFgfr3
A385E変異の直接的な影響に起因したと結論付けることが可能である。Fgfr3阻害剤BGJ398を用いたこれらの行動異常のレスキューによって、本発明者らの仮説が確認され、FGFR3過剰活性化が、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症を伴う患者の認知表現型において含まれるという事実が支持された。
【0113】
実施例2:HCHモデル。
【0114】
Fgfr3Asn534Lys/+マウスは脳の形態学的異常を示す。
【0115】
本発明者らは、Fgfr3Asn534Lys/+マウスは、大きな頭蓋骨及び頭蓋底軟骨結合の早期癒合を伴う頭蓋骨異常を示すことを以前に記載した(Loisay et al、原稿準備中)。脳異常及び葉形成不全が、Fgfr3機能獲得変異マウスモデルの特徴であることが報告された。従って、本発明者らは、Fgfr3Asn534Lys/+マウス及びそれらのコントロール同腹仔脳のMRI及び3D再構成を実施した。本発明者らは、Hchマウスにおいて海馬(p=0,6905)及び総脳体積(p=0,3810)の任意の有意な異常を観察しなかった一方で(データは示さず)、MRI分析によって、コントロールと比較された場合に、脳形状の変化が示された(データは示さず)。
【0116】
Fgfr3Asn534Lys/+マウスにおける学習欠損及び記憶欠損。
【0117】
成体神経発生は、海馬の記憶能力の維持において重要な役割を果たすことが公知である。本発明者らは、4ヶ月齢の雄Fgfr3Asn534Lys/+マウス及びそれらのコントロール同腹仔を、空間(新規物体位置、NOL)及びエピソード(新規物体認識、NOR)学習及び記憶を測定する一連の行動テストに供した。NORでは、本発明者らは、Hch変異マウスは、テスト段階の間に、コントロール同腹仔よりも有意に少なく新規物体を探索した(p<<0,0001)ことを見出した(データは示さず)。同じ障害が、空間記憶がNOLテストを通じて分析された場合に観察された。実際に、本発明者らは、Fgfr3Asn534Lys/+マウスが、テスト段階の間に、コントロール同腹仔よりも有意に少なく、再配置された物体を探索したことを見出した(p<0,0001)(データは示さず)。
【0118】
FGFR3チロシンキナーゼ阻害剤処置は、Fgfr3Asn534Lys/+マウスにおいて観察された認知障害を逆転させるのに十分である。
【0119】
チロシンキナーゼ阻害剤であるBGJ398(インフィグラチニブ)の皮下注射は、FGFR3過剰活性化を無効にし、軟骨異形成表現型をレスキューするのに十分である(Komla-Ebri et al.2016)。学習障害におけるFGFR3機能獲得の影響を確認するために、本発明者らは、BGJ398を用いてFgfr3
Asn534Lys/+マウスを6日間処置した。その結果、本発明者らは、BGJ398の注射が、Fgfr3
Asn534Lys/+マウスにおいて観察された空間(NOL)(
図3A)及びエピソード記憶欠損(NOR)(
図3B)を回復するのに十分であることを見出した。実際に、注射された変異マウスは、再配置された物体(NOL)(p=0,9538)及び新規物体(NOR)(p=0,8697)をコントロール同腹仔(p=0,9538)と同じレベルまで探索することができた(
図3A及び3B)。まとめると、これらの結果によって、学習及び記憶の調節におけるFGFR3の重要性が確認される。
【0120】
ストレス及び記憶行動テスト。
【0121】
本発明者らは次に、連想記憶を評価するために、4ヶ月齢の雄マウスで1回の試行的文脈的恐怖条件付け(CFC)を実施する。一方で、Fgfr3Asn534Lys/+マウスは、ベースラインのフリージング時間において任意の障害を示さなかったが(p=0,2303)、驚くべきことに、変異マウスは、テスト段階の間に、コントロールマウスと比較し、文脈的誘発フリージング時間における有意な増加を示した(p=0,0466)。この結果は、文脈的恐怖記憶が変異マウスにおいて悪化していることを強く示唆する。
【0122】
FGFR3の抗うつ効果。
【0123】
FGF経路は、抑うつ障害において含まれうる。従って、本発明者らは、Fgfr3Asn534Lys/+マウスにおいて尾懸垂テスト(TST)及び強制水泳テスト(FST)を実施した(データは示さず)。それらの尾により吊るされる、又は強制的に泳がされたりする短期的で回避不能なストレスに供された動物は、抑うつに関連する行動に特徴的な不動姿勢を発生し、それがスコア化される。これらのテストを実施し、本発明者らは、TST又はFSTのいずれかにおいて、Fgfr3Asn534Lys/+マウスが不動姿勢における減少を呈することを見出し、FGFR3における機能獲得変異が抗うつ効果を有しうることを示唆している。
【0124】
Fgfr3Asn534Lys/+マウスでの不安行動における無効果。
【0125】
変異マウス及びWTマウスは、オープンフィールドテスト(OFT)(データは示さず)及び明/暗パラダイム(L/DT)(データは示さず)において同等の成績を有したが、それらの移動運動及び不安状態が影響されなかったことを示している。注目すべきことに、Fgfr3Asn534Lys/+マウスの矮化表現型に起因して、変異マウスはコントロール同腹仔よりも動きが遅く(p=0,0003)、OFの間での総移動距離が低下していた(p=0,0003)。結果的に、OFTデータ分析を、距離の%(中央における距離/総距離×100)を考慮して実施した。まとめると、これらの結果によって、FGFR3が不安において重要な役割を果たしていないことが示され、本発明者らの変異マウスにおける学習及び記憶について観察された認知欠損が、任意の不安又は探索関連の行動欠損とは無関係であることが確認される。
【0126】
考察。
【0127】
CAN症候群は、FGFR3における特定のp.Ala391Glu 機能獲得変異に関連付けられる非常に稀な症候性頭蓋骨癒合症である(Meyers et al.,1995)。p.Ala391Glu変異の効果は、FGFR3の過剰活性化を起こすとして以前に記載された(Chen et al.,2013,2011;Li et al.,2006)。
【0128】
マウスFgfr3A385E/+CAN モデルは、主要な頭蓋顔面骨格表現型の非存在を示した。興味深いことに、Fgfr3A385E/+の表現型は、Muenke症候群についてのマウスモデルであるFgfr3P244R/P244Rマウスにおいて観察された表現型と同等であった。縫合及び軟骨結合が、Muenke Fgfr3P244R/P244R変異体において軽度に影響されていることが見出され、少数の個体において癒合した冠状縫合を伴った(Laurita et al.,2011;Twigg et al.,2008)。
【0129】
CAN及びMuenkeでは、大後頭孔の狭小化に関連付けられる頭蓋底軟骨結合の早期癒合と組み合わされた頭蓋冠縫合の早期癒合は、患者における増加した頭蓋内圧に導く(Di Rocco et al.,2011)。頭蓋冠の早期癒合はまた、異常な海馬発生を含む脳構造異常に関連付けられる(Grosso et al.,2003;Gurbuz et al.,2016;Okubo et al.,2017)。
【0130】
HCH患者(14600MIM)は、近位肢節型低身長症、軽度大頭症、顔面中心部の低形成、短く四角い腸骨、及び、一部の場合では、黒色表皮腫により特徴付けられる(Blomberg et al.2010)。最も一般的なHCH変異(p.Asn540Lys)は、FGFR3のチロシンキナーゼ1ドメイン中に局在化している(Bonaventure et al.1996;Rousseau et al.1994)。
【0131】
HCH患者は、葉形成不全(Kannu et al.2005)及び異常な海馬構成(Linnankivi et al.2012)を呈する。さらに、HCH患者は、学習障害、軽度知的障害、全体的な発育遅延、ならびに時折の発作及びてんかんを呈する(Linnankivi et al.2012)。
【0132】
Fgfr3マウスモデルでは、タナトフォリック骨異形成症に関連付けられ、遍在的に及びネスチンプロモーター下の両方での、マウスモデルFgfr3+/K644E変異に関する以前の試験によって、大脳及び皮質の重度の過成長が呈された一方で、Fgfr3-/-マウスは未発達の新皮質を呈した(Inglis-Broadgate et al .,2005;Moldrich et al.,2011;Thomson et al.,2009,2007)。頭蓋骨癒合症において観察される頭蓋縫合の早期癒合が、脳形態を変化させ、頭蓋内圧における慢性的な増加を介した認知障害と関連付けられることが一般に受け入れられている(Aldridge et al.,2010;Arnaud-Lepez et al.,2007;Gurbuz et al. .,2016;Martinez-Abadias et al.,2011)。ここでは、Fgfr3A385E/+マウスにおける異常な頭蓋骨表現型の非存在を利用し、本発明者らは、脳においてFgfr3機能獲得変異を活性化することの役割を分析した。Fgfr3A385E/+マウスの脳は、重度の形態学的変化を呈さなかったが、このように、Fgfr3A385E変異が、脳の胚神経発生に対して中程度の影響を有したことを示している。対照的に、成体海馬神経発生の分析によって、歯状回における減少した前駆細胞増殖が示され、歯状回の減少した顆粒帯により裏付けられた。
【0133】
興味深いことに、以前の試験によって、FGFR1、2、3機能喪失変異における減少した前駆細胞増殖が報告された一方で、FGFR3(Fgfr3TDIIK650E)の過剰活性化によって、歯状回における増加した前駆細胞分化が促進される(Kang and Hebert,2015)。本発明者らの結果は、これらの観察とは対照的である。本発明者らは、FGFR3の過剰活性化が、Fgfr3A385E/+マウスにおける減少した細胞増殖に導いたことを観察した。受容体のリン酸化のレベルが、神経発生を妨げたように見えた:Fgfr3TDIIK650E変異は過剰な受容体活性化レベルに導いたのに対し、Fgfr3A385E変異はより中程度の過剰活性化に導いた。これらのデータは、海馬神経発生のFGFR調節が、FGFR3活性化のレベルに関連していることを示唆する。
【0134】
本発明者らは次に、脳の認知機能に対するFgfr3A385E変異の及びFgfr3N534K変異の影響を分析した。本発明者らは、Fgfr3A385E/+マウスFgfr3N534K/+マウスが、任意の移動運動、不安関連の行動、又は空間記憶表現型を伴わずに重度の作業障害及びエピソード記憶機能を示すことを観察した。一方で、記憶に対するFGFR シグナルの効果は不明であるが、今日まで、本発明者らの試験は、Fgfr3変異をマウスにおける認知異常と関連付けた最初のものである。機械的には、学習及び記憶の成績における欠損は、少なくとも部分的には、本発明者らの変異マウスにおいて観察された減少した海馬神経発生に関連しうる。興味深いことに、胚及び成体マウスにおけるFgfr2の欠失は、歯状回における減少した前駆細胞増殖及び分化を示し、連想記憶及び空間記憶容量に対する特定の負の効果を伴った(Stevens et al.,2012)。まとめると、本発明者らのデータは、Fgfr3機能獲得変異が、重度の学習欠損及び記憶欠損ならびに海馬におけるより低い成体神経発生に導くことを実証する。
【0135】
また、回避不能なストレス(以前は「抑うつ様行動」と名付けられた)に対する減少した対処戦略が、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスにおいて観察された。FGFR3のこの役割は、受容体の下方調節に関連付けられるヒトにおける大うつ障害において以前に報告された(Evans et al.,2004)。さらに、FGFR3関連の頭蓋骨癒合症症候群を伴う患者は、感情制御及び不安行動の障害を示した(de Jong et al.,2010;Maliepaard et al.,2014;Yarnell et al.,2015)。今日、頭蓋骨癒合症の症例における抑うつ障害又は気分障害を報告した試験はない。動物モデル試験は、また、FGF2ノックアウト又は外因性FGF2注射におけるFGF2の抗うつ効果及び抗不安効果を実証した(Elsayed et al.,2012;Salmaso et al.,2016)。FGF2とは対照的に、FGF9はマウスにおいて抑うつ性効果を発揮する(Aurbach et al.,2015)。FGF2及びFGF9の両方が、主要なFGFR3リガンドの間にあり、また、他のFGFRと結合することができる。これらの観察は本発明者らのデータと一致しており、異なるFGF及びFGFR1、2、3結合の複雑な組み合わせを含みうる。しかし、Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスにおいて観察された抗うつ表現型が、ヒトの状態においてどのように置き換えられうるかは不明である。
【0136】
Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスで観察された認知障害における脳FGFR3の直接的な関与を確認するために、本発明者らは、選択的な脳注射に続いて、チロシンキナーゼ阻害剤であるBGJ398でマウスを処置することに決めた。BGJ398は、FGFR3についてのその最も高い結合特異性のために選択され、以前の研究によって、FGFR3関連の軟骨無形成症マウスモデルでの骨格異常におけるBGJ398の有効性が示された(Komla-Ebri et al.,2016)。ここで、成体Fgfr3A385E/+マウス及びFgfr3N534K/+マウスにおけるBGJ398の脳室内注射によって、作業記憶欠損及びエピソード記憶欠損のレスキューならびに抗うつ効果が示された。これらのデータによって、認知能力に対する、脳におけるFgfr3機能獲得変異の直接的な影響が実証される。本発明者らはまた、FGFR3が海馬の成体神経発生において主要な役割を果たすことを実証した、ならびに本発明者らは、海馬異常と学習及びストレス応答の間での直接的な関連を立証した。
【0137】
これらの結果によって、Fgfr3機能獲得変異を発現するマウスモデルにおける頭蓋骨癒合症の表現型を伴わない認知障害の存在が強調された。本発明者らのデータによって、FGFR関連の頭蓋骨癒合症を伴う患者の脳が、頭蓋骨異常とは無関係に、この変異により影響されうることが示唆される。
【0138】
参考文献:
【0139】
本出願を通して、種々の参考文献によって、本発明が関係する最新技術が記載されている。これらの参考文献の開示は、本明細書により、参照により本開示中に組み入れられる。
【表1】
【配列表】
【国際調査報告】