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特表2023-529025抗ウイルス処置としてのアゼラスチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗ウイルス処置としてのアゼラスチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20230629BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230629BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 15/50 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/20
A61P31/16
C12N15/50 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023516644
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2021064338
(87)【国際公開番号】W WO2021239943
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20177451.0
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20184767.0
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20195740.4
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21171333.4
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522465802
【氏名又は名称】ツェビナ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】ナギ,エスター
(72)【発明者】
【氏名】ナギ,ガボール
(72)【発明者】
【氏名】シヤルト,バレリア
(72)【発明者】
【氏名】コンラット,ロベルト
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC41
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA21
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA56
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
抗ウイルス処置を必要とする対象の予防または治療処置において使用するための医薬製剤中の抗ウイルス物質として使用するための抗ウイルス有効量でのアゼラスチン化合物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウイルス処置を必要とする対象の予防または治療処置において使用するための医薬製剤中の抗ウイルス物質として使用するための抗ウイルス有効量でのアゼラスチン化合物。
【請求項2】
a)コロナウイルス科(SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、HCoV-HKU1などのβコロナウイルス;またはHCoV-NL63、HCoV-229EもしくはPEDVなどのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体);
b)アデノウイルス科(アデノウイルスまたはヒトアデノウイルス、例えば、HAdVB、HAdVC、またはHAdVDなどの);
c)パラミクソウイルス科(RSVまたはヒトRSV、例えば、hRSVサブタイプAもしくはBなどの);または
d)オルソミクソウイルス科(インフルエンザウイルスまたはヒトインフルエンザウイルス、好ましくは、H1N1、H3N3、もしくはH5N1などのインフルエンザウイルスA(IVA)、またはインフルエンザウイルスB(IVB)、またはインフルエンザウイルスC(IVC)、またはインフルエンザウイルスD(IVD)などの)
から選択されるウイルスのうちの1つまたは複数により引き起こされるまたはこれによる感染と関連がある疾患状態が処置される、請求項1に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項3】
1つまたは複数の異なるコロナウイルス科ウイルスが、SARS-CoV-2 S-タンパク質の1つまたは複数の突然変異、好ましくは、配列番号4中のK417N、L452R、N501Y、D614G、P681H、P681R、E484K、E484Q、または69/70欠失を含むSARS-CoV-2変異株または変異体などの天然に存在するSARS-CoV-2変異株または変異体であり、好ましくは、SARS-CoV-2変異株または変異体が、B.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ)、P.1(ブラジル)、B.1.617(インド)、B.1.618(ベンガル)変異体からなる群から選択される、請求項2に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項4】
医薬製剤が、アゼラスチン化合物および薬学的に許容される担体を含む医療品または医薬品である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項5】
疾患状態が、感冒、鼻、副鼻腔炎、咽頭および喉頭の感染、細気管支炎、下痢、皮膚の発疹、または肺炎、急性呼吸促拍症候群(ARDS)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項6】
抗ウイルス有効量が、ウイルスによる感受性細胞の感染を予防し、それによって疾患状態を処置するのに効果的である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項7】
抗ウイルス有効量が0.1~500μg/用量である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項8】
医薬製剤が、局所投与用、好ましくは、上下気道、鼻腔、肺、口腔内、眼球、もしくは皮膚使用用、または、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、もしくは経口投与による全身投与用に製剤化される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項9】
医薬製剤が、スプレー、粉末、ゲル、軟膏、クリーム、気泡、もしくは液体溶液、ローション、うがい液、エアロゾル化粉末、エアロゾル化液剤、顆粒、カプセル、ドロップ、錠剤、シロップ、ロゼンジ、点眼、または注入もしくは注射用の製剤として対象に投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項10】
アゼラスチン化合物が、鼻孔当たり1~1000μgの抗ウイルス有効量で対象の鼻中に適用される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項11】
アゼラスチン化合物が、唯一の抗ウイルス物質として投与される、または処置が、好ましくは、抗ウイルス物質、抗炎症物質および抗生物質からなる群から選択される、1つもしくは複数の活性物質を用いたさらなる処置と組み合わされる、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項12】
ウイルスに感染しているまたは感染するリスクがある対象、好ましくは、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、ウシまたはブタが処置される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項13】
ウイルス感染および/またはウイルス拡散から予防するように生体表面を処置するための医療品中の抗ウイルス物質として使用するためのアゼラスチン化合物。
【請求項14】
生体表面が、1つまたは複数の異なるウイルスに感染しているまたは感染するリスクのある粘膜表面である、請求項13に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項15】
1つまたは複数の異なるウイルスが、好ましくは、SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、もしくはHCoV-HKU1などのβコロナウイルス;またはHCoV-NL63、HCoV-229EもしくはPEDVなどのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体からなる群から選択される、コロナウイルス科ウイルスである、請求項14に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項16】
1つまたは複数の異なるコロナウイルス科ウイルスが、SARS-CoV-2 S-タンパク質の1つまたは複数の突然変異、好ましくは、配列番号4中のK417N、L452R、N501Y、D614G、P681H、P681R、E484K、E484Q、または69/70欠失を含むSARS-CoV-2変異株または変異体などの天然に存在するSARS-CoV-2変異株または変異体であり、好ましくは、SARS-CoV-2変異株または変異体が、B.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ)、P.1(ブラジル)、B.1.617(インド)、B.1.618(ベンガル)変異体からなる群から選択される、請求項15に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項17】
医療品が、局所使用用、好ましくは、上下気道、鼻腔、肺、口腔内、眼球、または皮膚投与への適用用に製剤化される、請求項13~16のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項18】
医療品が、溶液、分散液、乾燥粉末、またはエアロゾル化液体もしくは粉末として使用される、請求項13~17のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項19】
アゼラスチン化合物が、好ましくは、量が1ng~1000ng/cmである、抗ウイルス有効量で適用される、請求項13~18のいずれか一項に記載の使用のためのアゼラスチン化合物。
【請求項20】
ウイルス殺菌剤としてのアゼラスチン化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染症を処置するための抗ヒスタミン薬化合物の新規の使用、特に、コロナウイルス科感染症(例えば、SARSウイルスまたはMERSウイルス)、アデノウイルス感染症、ヒト呼吸器多核体ウイルス感染症およびインフルエンザ感染症を処置するための方法および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、直径が約120ナノメートルである。コロナウイルスは、突然変異および組換えの傾向があり、したがって、高度に多様である。約40の異なる変種があり、これらの変種は主にヒトおよび非ヒト哺乳動物およびトリに感染する。これらの変種はコウモリおよび野禽に存在し、他の動物に、したがってヒトに拡散することができる。
【0003】
そのゲノム構造に基づいて4種の主な属(アルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタコロナウイルス)が存在する。アルファ-およびベータコロナウイルスは哺乳動物だけに感染し、通常、ヒトでは呼吸器症状を、他の動物では胃腸炎を引き起こす。2019年の12月まで、ヒトに感染することが知られているのは6種の異なるコロナウイルスだけであった。これらのうちの4種(HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-OC43およびHKU1)は通常、免疫適格性のヒトで軽い風邪タイプの症状を引き起こし、残りの2種はこの20年でパンデミックを引き起こしてきた。2002~2003年では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は10%の死亡率をもたらすSARSエピデミックを引き起こした。同様に、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は2012年に、死亡率は37%のパンデミックを引き起こした。
【0004】
2019年後半および2020年前半に、新規のコロナウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、SARS-CoVと密接な関係があり、大規模で急速に広がった肺炎を含む呼吸器疾患の発生の原因であることが発見された。新規コロナウイルスが認識されて以降、これが引き起こす疾患は、コロナウイルス感染症2019(CoVID-19)と呼ばれた。
【0005】
SARS-関連コロナウイルスは可変的な受容体結合ドメイン(RBD)を含有するスパイクタンパク質により覆われている。このRBDは、心臓、肺、腎臓、および消化管に見出されるアンジオテンシン変換酵素-2(ACE-2)受容体に結合し、こうにして標的細胞中へのウイルス侵入を促進する。
【0006】
武漢から拡散した最初のウイルス株は「野生型」ウイルスと見なされており、このウイルスはすぐに変異株、すなわち、より高い感染力に基づく自然選択を通じて進化した変異体を生じた。2020年3月初旬、スパイクタンパク質にD614G突然変異を有する変異株(B.1変異株)が欧州で同定され、この変異株が世界的に最初の武漢株にすぐに取って代わった。引き続いて、SARS-CoV-2変異株B.1.1.7(20I/501Y.V1、VOC 202012/01としても知られる)およびB.1.351(20H/501Y.V2としても知られる)がそれぞれ英国および南アフリカで同定され、以来多くの国に拡散した。これらの変異株は、スパイクタンパク質をコードする遺伝子に多様な突然変異を有する。これらの突然変異の1つが受容体結合ドメイン(ヒトACE2に結合するRBD)の501位にあり、そこではアミノ酸アスパラギン(N)がチロシン(Y)で置き換えられている(突然変異N501Y)。B.1.1.7変異株も、スパイクタンパク質の立体構造変化をおそらくもたらす69/70欠失、およびS1/S2フューリン切断部位近くのP681Hを含む他のいくつかの突然変異を有する。これらの突然変異の組合せにより、2019年に中国の武漢に出現した最初のバージョンと比べて、より高い受容体結合、より効率的な拡散およびより高度な病原性潜在力が生じている。B.1.351変異株は、N501Yに加えて、E484KおよびK417N突然変異も有するが、69/70欠失はない。幾通りかの証拠により、この変異株が、免疫圧力のせいで、すなわち、自然感染、または受動免疫療法または異なるワクチンを用いた能動免疫獲得から生じるヒト免疫応答からの逃避手段として出現したことが示唆される。E484K突然変異は、減少したワクチン有効性の原因であると思われる。この突然変異(16の他の突然変異N501YおよびK417Tと共に)はブラジル変異株でも検出され、P.1と名付けられた。変異株P.1はブラジルで広範な感染を引き起こし、後に世界中で検出された。この変異体は、比較的若い人でさらに重篤な疾患を引き起こし、さらに高い死亡率をもたらし、以前の変異株およびワクチンの一部により誘導される免疫応答を避けると疑われている。
【0007】
変異体B.1.617は最初インドで検出され拡散した。この変異体は、免疫回避に関して懸念される3種の突然変異:E484Q、L452RおよびP681Rから13の突然変異を有する。系統B.1.618は、西ベンガルで優勢な変異体の1つになり、2種のアミノ酸の欠失(H146delおよびY145del)、ならびにスパイクタンパク質でのE484KおよびD614G突然変異を保有する。この系統は、より高い感染力を有し、天然のまたはワクチン誘導免疫を回避する脅威をもたらすと推測されている。
【0008】
広範囲にわたるワクチン接種は、現在知られている突然変異と新たな突然変異の異なる組合せを有するさらなる変異株の出現を誘導する可能性が極めて高い。
加速された世界的なワクチン接種は、ウイルスの同時的な激しい拡散と共に、回避変異体の出現に巨大な進化的ストレスをかける。すべてのワクチンは、ほぼ例外なく、スパイクタンパク質に対して免疫応答の引き金を引くことに頼っている。さらに、現在の見解に従えば、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対する中和免疫応答は、防御の主な一因であると見なされている。これら2つの事実に基づいて、自然に出現するウイルス変異株の間で、選択優位性(受容体へのより高い結合および/または中和免疫応答の回避)を提供する変異したスパイクタンパク質を発現する変異株が選択される。それに続く変異株は、より高い全体の病原性/感染性を有しおよび/または免疫回避のより高い可能性を有するいくつか連続する突然変異を蓄積することがある。上述のウイルス変異株に加えてさらなる新たなウイルス変異株が出現し、そうした変異株に対する最適な防御のための第2世代のワクチンが潜在的に必要になることが想定されている。
【0009】
したがって、今では優勢なUK(B1.1.7)変異株およびSA(B.1.351)変異株に対して、ならびに大幅に減少したワクチン誘発防御と関連がある他の出現変異株に対して活性である抗ウイルス化合物が、予防のためでも処置のためでも高度に今日的な意味を帯びている。
【0010】
アデノウイルスは、二本鎖DNAゲノムを有する大きな無エンベロープウイルスである。科アデノウイルス科はウイルスの広い宿主特異性を有する6つの属を含有する。7種のヒトアデノウイルス科(A~G)すべてが、マストアデノウイルス属に属する。現在、ヒトウイルスは88の異なる(セロ)タイプに分類され、これらのセロタイプは種々の粘膜感染症を引き起こす原因となっている。科B(HAdV-B)およびC(HAdV-C)内のタイプは上気道感染症の原因であり、HAdV-F(主にタイプ40および41)およびHAdV-G(主にタイプ52)タイプは胃腸炎を引き起こす。結膜炎は、HAdV-BおよびHAdV-Dと関連している。これらの粘膜感染症は通常、自己治癒的であるが、易感染性宿主ではさらに重篤になることがある。アデノウイルスセロタイプ14は、免疫適格性宿主でさえ致命的になるおそれがある重症呼吸器感染症の発生を引き起こす新たに出現した病原体である。
【0011】
アデノウイルスは、240のヘキソンおよび12のペントンタンパク質で構成された古典的な正二十面体カプシドを見せる。ペントンベースは、宿主細胞受容体:CD46(ファミリーB)およびコクサッキー/アデノウイルス受容体(CAR、他のあらゆる科では)に結合する突出した繊維に会合している。この最初の結合に続いてペントンベースウイルス構造体はαVインテグリンと相互作用し、これがウイルス粒子のエンドサイトーシスを刺激する。細胞内では、カプシドは不安定化され、エンドソームは分解され、ウイルスDNAは核膜孔を通じて核に侵入する。ヒストンタンパク質と会合した後、宿主ゲノムにウイルスゲノムが組み込まれることなく宿主転写装置はウイルス遺伝子発現に使用される。ウイルスタンパク質は、ゲノム複製を隔てた初期(主に調節タンパク質)および後期(構造タンパク質)に発現される。最後に、ウイルスゲノムはタンパク質殻内に充填されて、ウイルスにより誘導される溶解工程(procedure)で宿主細胞から放出される。
【0012】
アデノウイルスは、消毒薬および洗浄剤に比較的抵抗性であり(非被包性)、表面上でおよび水中で長く生存する。アデノウイルス感染症を処置することが証明された抗ウイルス薬は存在しないので、処置は大部分症状に向けられる。現在では、一般市民が利用可能であるアデノウイルスワクチンはないが、タイプ4および7について米軍によりワクチンが使用された。最近では、遺伝子治療において異種ワクチン抗原送達のためのウイルスベクターとして操作されたアデノウイルスが使用され成功を収めた(EbolaおよびCovid)。
【0013】
ヒト呼吸器多核体ウイルス(hRSV)は、マイナス鎖一本鎖RNAゲノムを有するエンベロープウイルスである。ゲノムは線状であり、11のタンパク質をコードする10遺伝子を有する。RSVは、2種の抗原性サブタイプ、AおよびBに分割され、それぞれ16および22クレード(または株)を有する。
【0014】
RSVは高度に伝染性であり、地域社会と病院伝染の両方からの発生を引き起こすことがある。毎年、おおよそ3000万人の急性呼吸器疾患および60,000を超える小児死が世界中でRSVにより引き起こされている。伝染は、鼻、口、または目の粘膜表面に遭遇する汚染されたエアロゾル飛沫を通じて起こる。上気道の繊毛細胞の感染に続いて、下気道に広がる。上気道の繊毛細胞の感染は、軽い上気道感染症から細気管支炎を通じてのウイルス性肺炎までに及ぶ種々の重症度の最もありふれた小児感染症のうちの1つであり、ウイルス性肺炎は最も重症な場合、機械的人工呼吸を必要とする場合がある。易感染性の個体(未熟児を含む)のほうが、もっと重症の疾患結果になるより高いリスクを有する。治療選択肢は通常、支持療法に限られているが、リバビリンは小児のRSV感染症用に認可されている。しかし、ワクチンは利用可能ではなく(かなりの開発努力にもかかわらず)、モノクローナル抗体(パリビズマブ)を用いた受動免疫処置が予防用の選択肢として利用可能になった。
【0015】
インフルエンザは、一般に「流感(the flu)」と呼ばれているが、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染性疾患である。それぞれの季節に(北半球では冬月)人口の5~15%がインフルエンザに罹り、おおよそ300万~500万人が重症例である。50万人以上の死亡は、幼児、高齢者、および慢性的な健康状態の人を含む高リスク群の間で毎年起こる。1~4日の潜伏期間に続いて、発熱、悪寒、頭痛、筋痛または疼痛、食欲不振、疲労、および錯乱を含む症状の発現は突然である。肺炎は、一次ウイルス感染によりまたは肺炎球菌もしくは黄色ブドウ球菌によるなどの二次細菌感染により引き起こされる場合がある。インフルエンザの伝播はエアロゾル飛沫により媒介される。一次感染部位は上気道であり、続いて下気道に進み、侵襲性感染が起こる。
【0016】
インフルエンザウイルスには4タイプ(種)、A、B、CおよびDがある。季節的流行は(すなわち、インフルエンザシーズン)は、ヒトインフルエンザA(IAV)およびB(IBV)ウイルスにより引き起こされ、CおよびDは、ヒトでの症候性感染とは稀にしか関連していない。インフルエンザAウイルスはウイルス表面上の2種のタンパク質、ヘマグルチニン(H)およびノイラミニダーゼ(N)に基づいてサブタイプに分けられる。潜在的には198の異なるインフルエンザAサブタイプ組合せがあるが、現在はH1N1およびH3N2タイプが世界中を循環している。インフルエンザBウイルスはサブタイプに分けられていないが、代わりに2種の系統:B/山形およびB/ビクトリアにさらに分類される。これらの系統に基づいて、季節性インフルエンザワクチンは通常、2種のA(H1N1およびH3N2)および1種または2種のB株を組み合わせて含有する。インフルエンザウイルスは、分割されているマイナス鎖一本鎖RNAゲノムを有する。IAVとIBVの両方が8種のセグメントを含有し、このセグメントは同じ細胞の同時感染で他のインフルエンザウイルスのゲノムと結合することができると考えられる。このプロセス(再集合と呼ばれる)は、著しく変更されたウイルス抗原組成を有する子孫を生じる。当該再集合ウイルス変異株はヒト集団には新規であり、パンデミック(例えば、1918年のスペイン風邪、H1N1)を生じる可能性がある。再集合が異なる宿主に特異的であるウイルス間でも生じる場合がある。例えば、2009年の「ブタインフルエンザ」パンデミックは、ブタ-、トリ-およびヒト特異的ウイルス配列の組合せを保有するトリプレット合併結合変異ウイルスにより引き起こされた(H1N1)。同様に、トリインフルエンザ株は、野生の水鳥によく見られるが、時折ヒトに感染する(「トリまたはバードインフルエンザ」、H5N1)。当該トリウイルスがヒトインフルエンザウイルスと再集合すると、ヒト間拡散を可能にする変異株を生じ、したがって、世界的パンデミックを引き起こす可能性を有する場合がある。
【0017】
より低いリスク群の個体の治療は、主に対処療法(発熱)および隔離に集中する。疑われているまたは確認されたインフルエンザウイルス感染に伴う重症のまたは進行性の臨床疾患に罹っている患者は、抗ウイルス薬(例えば、オセルタミビルまたは他のノイラミニダーゼ阻害剤)および支持療法(例えば、抗炎症薬)を用いて処置される。高リスク群(高齢者、妊娠女性、易感染性、関連する慢性疾患)は予防法として毎年季節性インフルエンザワクチンを受けるべきである。
【0018】
フタラジン誘導体であるアゼラスチンは、アレルギーおよび血管運動性鼻炎の処置用の鼻腔内スプレーとしてならびアレルギー性結膜炎の処置用の点眼液として入手可能である抗ヒスタミン薬である。アゼラスチンはラセミ混合物であるが、鏡像異性体間には薬理活性に顕著な違いはなく、1996年に初めてFDA承認を与えられた。
【0019】
Gysiら、(「Network Medicine Framework for Identifying Drug Repurposing Opportunities for COVID-19」、arXiv:2004年.07229[q-bio.MN]日付2020年4月15日)は、COVID-19患者に対するその可能性のある有効性に基づいてある特定の薬物候補に到達するためのCOVID-19に対するネットワークベースのツールセットを開示しており、その中にはアゼラスチンも含まれたが、抗ヒスタミン薬がこの疾患の根底にあるウイルスに直接影響を与えるかどうかについては何も示されていない。
【0020】
Hasanain Abdulhameed Odharら、(Bioinformation 2020年16(3):236~244頁)は、2019新規コロナウイルス由来の主要プロテアーゼとのFDA承認薬の分子ドッキングおよび動力学シミュレーションを記載している。薬物は2019-nCoVの主要プロテアーゼ結晶へのその最小結合活性に従ってランク付けされ、アゼラスチンはコニバプタンほど好ましくないランク付けであった。
【0021】
Xia Xiaoら、(bioRxiv 2020年7月6日、DOI:10.1101/2020.07.06.188953)は、OC43に対する一連の化合物の抗ウイルス活性、中でも抗ヒスタミン薬としてのアゼラスチンを記載している。
【0022】
Fuら、(Cell Prolif.2014年、47:326~335頁)は、B型肝炎ウイルス(HBV)療法でのタウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP)を標的にするアゼラスチン塩酸塩を記載している。NTCPは、胆汁酸の輸送を媒介するヒト肝細胞で高度に発現される膜貫通タンパク質であり、この輸送は肝細胞中へのHBV侵入で重要な役割を果たしている。
【0023】
M.W.Simon(Pediatric Asthma、Allergy&Immunology、2003年、第16巻:275~282頁)は、アゼラスチンを、細胞内接着分子-1(ICAM-1)受容体の発現を下方調節する強力で選択的な第2世代ヒスタミンH1受容体アンタゴニストと評しており、細胞内接着分子-1(ICAM-1)受容体は、ヒトライノウイルス、コクサッキーA型ウイルス、アデノウイルス5型、ヒトパラインフルエンザウイルス2型および3型、ならびに呼吸器多核体ウイルス粘膜付着ならびに免疫エフェクター細胞の動員に重要な役割を果たしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特に、ウイルスに曝露されたもしくは感染した、または感染のリスクがある対象において、ウイルス感染および/またはウイルス拡散から予防するのに使用することができる新たな抗ウイルス処置、医薬製品および製薬品を提供することが本発明の目的である。目的は本特許請求の範囲の主題によりおよび本明細書にさらに記載される通りに解決される。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、抗ウイルス処置を必要とする対象の予防または治療処置において使用するための医薬製剤中の抗ウイルス物質として使用するための抗ウイルス有効量でアゼラスチン化合物を提供する。
【0026】
具体的には、アゼラスチン化合物は、アゼラスチン、またはアゼラスチン塩酸塩などのその薬学的に許容される塩である。
特定の態様によれば、医薬製剤は医療品または医薬品である。具体的には、医薬製剤は、アゼラスチン化合物および薬学的に許容される担体を含む。
【0027】
具体的には、対象は、インフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、コロナウイルスなどの呼吸器ウイルス、またはライノウイルスなどの上気道ウイルスを標的にする抗ウイルス処置を必要とする。
【0028】
呼吸器ウイルスは本明細書では、特に、呼吸器疾患を引き起こすウイルスであると理解されている。本明細書でさらに記載される標的ウイルスの一部は呼吸器疾患を引き起こすだけではなく、他の体の部分も冒すことがあるが、当該ウイルスは本明細書ではそれでも「呼吸器ウイルス」であると理解されている。具体的には、抗ウイルス処置は、1つまたは複数のヒトウイルス、特に、ウイルス科コロナウイルス科、アデノウイルス科、パラミクソウイルス科またはオルトミクソウイルス科から選択されるなどのヒト呼吸器ウイルスを標的にすることである。
【0029】
具体的には、
a)好ましくは、SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、HCoV-HKU1などのβコロナウイルス、およびHCoV-NL63、HCoV-229EもしくはPEDVなどのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体からなる群から選択される、コロナウイルス科ウイルス、
b)アデノウイルス科、好ましくは、HAdVB、HAdVC、もしくはHAdVDなどのヒトアデノウイルス;
c)RSVサブタイプAもしくはBなどのヒト呼吸器多核体ウイルス(RSV);または
d)ヒトインフルエンザウイルスなどのインフルエンザウイルス、好ましくは、H1N1、H3N3、もしくはH5N1などのインフルエンザウイルスA(IVA)、もしくはインフルエンザウイルスB(IVB)、もしくはインフルエンザウイルスC(IVC)、もしくはインフルエンザウイルスD(IVD)、
のうちの1つまたは複数により引き起こされるまたはこれによる感染と関連がある疾患状態が処置される。
【0030】
具体的には、1つまたは複数のコロナウイルス科ウイルス、特に、1つまたは複数の異なるコロナウイルス科ウイルスにより引き起こされるまたはこれによる感染と関連がある疾患状態が処置される。
【0031】
特定の態様によれば、前記コロナウイルス科ウイルスは好ましくは、SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、もしくはHCoV-HKU1などのβコロナウイルス、またはヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63、ニューヘブンコロナウイルス)、HCoV-229Eもしくはブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)などのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体からなる群から選択される。
【0032】
具体的には、本明細書で言及される前記1つまたは複数の異なるコロナウイルス科ウイルスは、天然に存在するSARS-CoV-2変異株または変異体、特に、以下の突然変異:K417N、L452R、N501Y、D614G、P681H、P681R、E484K、E484Q、または69/70欠失のうちのいずれか1つまたは複数などの、スパイクタンパク質(SARS-CoV-2 S-タンパク質)の1つまたは複数の突然変異を含む変異株または変異体である。
【0033】
具体的には、スパイクタンパク質は、配列番号4として同定されるアミノ酸配列(図5に提供される配列、NCBI受託番号QII57161.1、SARS-CoV-2、S-タンパク質)を含むまたはからなる。
【0034】
好ましくは、前記1つまたは複数の異なるコロナウイルス科ウイルスは、英国(B1.1.7)変異株、南アフリカ(B.1.351)変異株、ブラジル(P.1)変異株、インド(B.1.617)変異株およびベンガル(B.1.618)変異株からなる群から選択される天然に存在するSARS-CoV-2変異株または変異体である。
【0035】
本明細書に記載される製剤、方法および使用は、特にアゼラスチン化合物を抗ウイルス有効量で含む。当該抗ウイルス有効量は、1つの特定のウイルスまたは本明細書にさらに記載されるなどの1つよりも多い異なるウイルス、ウイルス変異体もしくはウイルス変異株を標的にしうる。
【0036】
抗ウイルス効果の標的ウイルスは、本明細書に記載される処置、特に、当該標的ウイルスにより引き起こされるまたはこれに他の点で関連する疾患状態または疾患の予防または治療のための処置の適応症に(直接的にまたは間接的に)関係しているウイルスとして特に理解されている。
【0037】
具体的には、本明細書に記載される製剤、方法および使用の標的、特に、本明細書に記載される抗ウイルス効果の標的は、いずれか1つまたは複数の異なるウイルス種、ウイルス変異体またはウイルス変異株、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の異なるウイルス種、変異体または変異株であることが可能である。
【0038】
具体的には、標的は、いずれか2つまたはそれよりも多いウイルス、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の異なるウイルス種、ウイルス変異体またはウイルス変異株であることが可能であり、そのウイルスの少なくとも2、3、または4種は科:
a)コロナウイルス科(SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、HCoV-HKU1などのβコロナウイルス;またはHCoV-NL63、HCoV-229EもしくはPEDVなどのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体);
b)アデノウイルス科(アデノウイルスまたはヒトアデノウイルス、例えば、HAdVB、HAdVC、もしくはHAdVDなどの);
c)パラミクソウイルス科(RSVまたはヒトRSV、例えば、hRSVサブタイプAもしくはBなどの);または
d)オルソミクソウイルス科(インフルエンザウイルスまたはヒトインフルエンザウイルス、好ましくは、H1N1、H3N3、もしくはH5N1などのインフルエンザウイルスA(IVA)、またはインフルエンザウイルスB(IVB)、またはインフルエンザウイルスC(IVC)、またはインフルエンザウイルスD(IVD)などの)
から選択されるなどの異なるウイルス科である。
【0039】
具体的には、上のa)からd)に収載されている当該ウイルスは本明細書では例示的な「呼吸器ウイルス」と呼ばれる。
具体例によれば、標的は、a)から選択される少なくとも1つのウイルスおよびb)、c)、またはd)から選択される少なくとも1つのウイルスであることが可能である。具体的には、標的は、SARSウイルス、特にSARS-CoV-2などの少なくとも1つのβコロナウイルス、および少なくとも1つのインフルエンザウイルスであることが可能である。
【0040】
具体的には、標的は、SARSウイルス、特にSARS-CoV-2などの少なくとも1つのβコロナウイルス、および少なくとも1つのアデノウイルスHAdVB、HAdVC、またはHAdVDであることが可能である。
【0041】
具体的には、標的は、SARSウイルス、特にSARS-CoV-2などの少なくとも1つのβコロナウイルス、および少なくとも1つのhRSVサブタイプAまたはBであることが可能である。
【0042】
具体例によれば、標的は、d)から選択される少なくとも1つのウイルスおよびa)、b)、またはc)から選択される少なくとも1つのウイルスであることが可能である。
具体的には、標的は、少なくとも1つのインフルエンザウイルスまたはヒトインフルエンザウイルス、および少なくとも1つのアデノウイルスHAdVB、HAdVC、またはHAdVDであることが可能である。
【0043】
具体的には、標的は、少なくとも1つのインフルエンザウイルスまたはヒトインフルエンザウイルス、および少なくとも1つのhRSVサブタイプAまたはBであることが可能である。
【0044】
具体例によれば、標的は、b)から選択される少なくとも1つのウイルスおよびa)、c)、またはd)から選択される少なくとも1つのウイルスであることが可能である。
具体的には、標的は、少なくとも1つのアデノウイルスHAdVB、HAdVC、またはHAdVD、および少なくとも1つのhRSVサブタイプAまたはBであることが可能である。
【0045】
具体例によれば、標的は、a)から選択される少なくとも1つのウイルスおよびb)から選択される少なくとも1つのウイルス、および任意選択でc)、またはd)から選択される少なくとも1つのウイルスであることが可能である。具体的には、標的は、SARSウイルス、特にSARS-CoV-2などの少なくとも1つのβコロナウイルス、および少なくとも1つのインフルエンザウイルス、および任意選択で少なくとも1つのアデノウイルスHAdVB、HAdVC、もしくはHAdVD、および/または少なくとも1つのhRSVサブタイプAもしくはBであることが可能である。
【0046】
本発明は、好ましくは、SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43、もしくはHCoV-HKU1などのβコロナウイルス、またはHCoV-NL63、HCoV-229EもしくはPEDVなどのαコロナウイルス、および前述のウイルスのいずれかの天然に存在する変異株または変異体、例えば、好ましくは、UK(B1.1.7)変異株、SA(B.1.351)変異株、ブラジル(P.1)変異株、インド(B.1.617)変異株およびベンガル(B.1.618)変異株からなる群から選択される本明細書で言及される天然に存在するSARS-CoV-2変異株または変異体のうちのいずれか1つまたは複数からなる群から選択されるコロナウイルス科ウイルスである1つまたは複数の異なるウイルスにより引き起こされるまたはこれによる感染に関連する疾患状態の予防的または治療的処置のための医薬製剤中の抗ウイルス物質として使用するための抗ウイルス有効量でのアゼラスチン化合物(本明細書でさらに記載される)をさらに提供する。
【0047】
具体的には、標的ウイルス、または本明細書に記載される呼吸器ウイルスであって、特に、コロナウイルス科、アデノウイルス科、パラミクソウイルス科、またはオルソミクソウイルス科のウイルスである標的ウイルスに関連しているまたはこれにより引き起こされる疾患状態は、感冒、鼻、副鼻腔炎、咽頭および喉頭の感染、細気管支炎、下痢、皮膚の発疹、または肺炎、急性呼吸促拍症候群(ARDS)である。具体的には、疾患状態は、前述のウイルスのいずれか1つまたは複数と関連する症状であることが可能である。具体的には、処置される症状は、咳嗽、咽頭炎、鼻汁、くしゃみ、頭痛および発熱のいずれかが可能である。
【0048】
特定の態様によれば、抗ウイルス有効量は、ウイルスによる感受性細胞の感染を予防し、それによって疾患状態を処置するのに効果的である。具体的には、感受性細胞は、生体表面または対象内にまたは生体表面または対象に存在する。
【0049】
特定の態様によれば、抗ウイルス有効量は、0.1~500μg/用量、好ましくは、100、90、80、70、50、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1または1μg/用量のうちのいずれか1つより下である。具体的には、用量の数は1日当たり1~10までである。
【0050】
特定の態様によれば、抗ウイルス有効量は、用量当たり15μg~150μg、好ましくは、100μg未満、または50μg未満である。
具体的には、抗ウイルス有効量は、15μg~150μgに及ぶ量の50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、または0.1%のうちのいずれか1つ未満などの、はるかに少なくてもよい。当該の比較的少ない量は、コロナウイルス(または科コロナウイルス科のウイルス)、および/または科アデノウイルス科、パラミクソウイルス科、もしくはオルソミクソウイルス科のウイルスなどの、コロナウイルス以外(または科コロナウイルス科のウイルス以外)のウイルスで効果的であることが特に証明されている。
【0051】
例えば、本明細書に記載される標的ウイルスのいずれかを標的にする抗ウイルス効果は、市販のアゼラスチン鼻腔スプレー製剤の0.1%、すなわち、2.39mMおよび5×希釈(0.02%、すなわち、478マイクロM)用量で高度に効果的であり、それによってヒトでのウイルス負荷を減少することが判明している。
【0052】
例えば、抗インフルエンザウイルス効果は、市販のアゼラスチン製剤(0.1%、すなわち、239マイクロMである)の5×希釈(0.02%、すなわち、478マイクロM)および10×希釈(0.01%、すなわち、239マイクロM)で高度に効果的であることが判明している。
【0053】
例えば、抗RSV効果は、in vitroで0.4~6.4マイクロMの範囲から高度に効果的であることが判明している。
特定の態様によれば、前記医薬製剤は、局所投与もしくは局所粘膜投与用、好ましくは、上下気道、鼻腔、肺、口腔内、眼球、もしくは皮膚使用用などの局所投与用、または好ましくは、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、もしくは経口投与による全身投与用に製剤化される。典型的には、非経口投与では、静脈内または経口投与が好ましい。
【0054】
特定の態様によれば、前記医薬製剤は、鼻用スプレーなどのスプレー、インスタント粉末もしくは吸入用粉末などの粉末として、または、例えば、吸入用のアゼラスチン化合物を浸み込ませた表面または生地を含むなどの健康医療器具、ゲル、軟膏、クリーム、気泡、もしくは液体溶液、ローション、うがい液、エアロゾル化粉末、エアロゾル化液剤、顆粒、カプセル、ドロップ、錠剤、シロップ、ロゼンジ、点眼、もしくは注入もしくは注射用の製剤により対象に投与される。
【0055】
具体的には、獣医用およびヒト用などの抗ウイルス製剤および投与形態が提供される。具体的には、製剤は、活性成分として、例えば、粉末もしくは顆粒として;水性もしくは非水液体中の溶液もしくは懸濁液として;または水中油液状乳化剤もしくは油中水液状乳化剤として所定量のアゼラスチン化合物を含む。
【0056】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物は、血液または血漿中でピーク濃度(または最大濃度)を与える抗ウイルス有効量で使用され、その濃度は、約0.01~2μg/mL、または1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、もしくは0.1μg/mLのうちのいずれか1つまでである。
【0057】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物は、製剤中1μM~10mMの濃度で、好ましくは、1mM、100μM、90μM、80μM、70μM、60μM、または50μMのうちのいずれか1つまでで使用される。特定の実施形態によれば、濃度は3~50μMである。
【0058】
具体的には、溶液または分散液は、点鼻液または鼻腔スプレーによるなどの経鼻投与用に使用され、好ましくは、抗ウイルス有効量は、鼻孔当たり1~1000μg、好ましくは、鼻孔当たり1~500μg、または鼻孔当たり200、190、180、170、160、150、140、130、120、110のうちのいずれか1つまで、さらに好ましくは、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、3、2または1μgまでである。
【0059】
具体的には、用量当たり約2~2000μg、好ましくは、用量当たり2~1000μg、または400、380、360、340、320、300、280、260、240、220のうちのいずれか1つまで、さらに好ましくは、用量当たり200、180、160、140、120、100、80、60、40、20、10、5、4、3、または2μgまでである用量を経鼻投与により投与することができる。
【0060】
製剤は、好ましくは、鼻腔スプレー、点鼻液、エアロゾル化された液体または粉末などのエアロゾルとして、例えば、喉スプレーとしてまたは肺内投与用に、または点眼薬として適用される。
【0061】
例示的な製剤は、アゼラスチン化合物を活性成分として、例えば、約0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.15%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%,1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、または2.0%(w/w)などの0.001~2%(w/w)の量で含有してもよい。
【0062】
具体的には、用量当たり100~1000μLの容積は、噴霧可能な製剤で、例えば、500μLの散布液量まで適用することができる。具体例によれば、鼻腔スプレーは、スプレー当たり約100~150μLの容積を送達しうる。典型的には、鼻孔当たり1日1回または2回、2回スプレーが適用される。
【0063】
スプレーを使用する場合、計量スプレーを使用してパフ当たりある特定の散布液量または用量を投与するのが好ましい。
肺内投与に適した製剤は、0.1~500ミクロンの範囲の粒子サイズを有していてよく、この製剤は、肺胞嚢に到達するように、鼻腔を通じた吸入によりまたは口腔を通じた吸入により投与することができる。適切な製剤は、アゼラスチン化合物の水溶液または油性溶液を含む。エアロゾルまたは乾燥粉末投与に適した製剤は従来法に従って調製してもよく、肺炎症または肺疾患の処置または予防で使用される化合物などの他の治療剤と一緒に送達してもよい。
【0064】
具体的には、溶液または分散液は、注入または注射によるなどの非経口投与に使用され、好ましくは、抗ウイルス有効量は約1~500mgの用量を提供する。
具体的には、約1~500mgの単一負荷投与量は非経口的に、続いて約10~200mg、または約100mg、または約200mgの維持量を、例えば、1~10日間、またはある特定の臨床応答に達するまで毎日投与により投与してもよい。
【0065】
具体的には、錠剤、ゲルまたはロゼンジは経口投与用に使用され、好ましくは、抗ウイルス有効量は、用量当たり1μg~12mg、好ましくは、5、4、3、2、または1mgのうちのいずれか1つまで、または用量当たり100μgまでである。
【0066】
具体的には、アゼラスチン化合物を含み1日1回~3回投与することができる錠剤を使用してもよい。
口腔での局所投与に適している製剤は、サクロース、アラビアゴムまたはトラガントなどの風味ベースに活性成分を含むロゼンジ、ゼラチンおよびグリセリン、サクロース、もしくはアラビアゴムなどの不活性ベースにアゼラスチン化合物を含むトローチ、または適切な液体担体にアゼラスチン化合物を含む口腔洗浄薬を含む。
【0067】
局所的に適用されるゲルまたは軟膏で製剤化される場合、活性成分は、パラフィンまたは水混和性軟膏ベースと一緒に用いてもよい。あるいは、活性成分は、水中油クリームベースと一緒にクリームに製剤化してもよい。
【0068】
眼への局所投与に適した製剤は、点眼薬、ゲルまたはクリームを含んでもよく、そこではアゼラスチン化合物は適切な担体、特に、水溶液または油/水エマルジョンに溶解されるまたは懸濁される。
【0069】
具体例によれば、口腔での局所投与用の当該製剤、またはゲルもしくは軟膏などの局所的に適用される製剤は、アゼラスチン化合物を、例えば、約0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.15%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、9、または20%(w/w)などの、0.001~20%(w/w)の濃度で含んでいてもよい。
【0070】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物を用いた処置は、別の投与形態でアゼラスチン化合物(同じまたは異なる化合物であることが可能である)を投与するさらなる処置と組み合わせることができる。例えば、アゼラスチン塩酸塩を含む鼻腔内または喉スプレーを用いた処置は、アゼラスチン化合物(アゼラスチン塩酸塩であるまたはアゼラスチン塩酸塩と異なることが可能である)を含む錠剤と組み合わせることができる。
【0071】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物は唯一の抗ウイルス物質として投与される、またはそこでは処置は、例えば、1つもしくは複数の異なる製剤および/または1つもしくは複数の異なる投与経路による、1つもしくは複数の抗ウイルス物質もしくは薬剤、および/または1つもしくは抗炎症および/または抗生物質もしくは薬剤の投与を含む、追加の抗ウイルス、抗炎症および/または抗生物質処置などのさらなる処置と組み合わされる。
【0072】
具体的には、アゼラスチン化合物は、対象への同時、同時投与または逐次投与のための一体型剤形で1つまたは複数の追加の活性治療薬と組み合わせることができる。併用療法は、例えば、同時、並行または逐次レジメンとして投与してもよい。逐次的に投与される場合、併用は、2回またはそれよりも多い投与で施してもよい。
【0073】
特定の態様によれば、前記ウイルスに感染しているまたは感染するリスクがある対象、好ましくは、ヒト、またはイヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、ウシもしくはブタなどの非ヒト哺乳動物が処置される。
【0074】
具体的には、対象はウイルスに曝露されているまたは曝露された、または他の方法でウイルスに感染するリスクがある。
具体的には、対象は衰えた免疫系を有し、ウイルス疾患を発症するまたはウイルス疾患の重症度が増すより高度なリスクがある。
【0075】
具体的には、対象は、ウイルスに感染していると判定されているまたは診断されている。
特定の実施形態では、COVID19などの病原体に接触することにより、コロナウイルス科ウイルスにより引き起こされる疾患、例えば、SARSウイルスにより引き起こされる疾患、またはCOVID19関連肺炎に罹っている疾患対象または患者である対象が処置される。
【0076】
さらなる特定の実施形態では、インフルエンザウイルスにより引き起こされる疾患、例えば、インフルエンザに罹っている疾患対象または患者である対象が処置される。
本発明は、ウイルス感染および/またはウイルス拡散から予防するように生体表面を処置するため、医療品中の抗ウイルス物質として使用するための本明細書に記載されるアゼラスチン化合物をさらに提供する。
【0077】
特定の態様によれば、前記医療品は、局所使用のために、好ましくは、上下気道、鼻腔、肺、口内、眼球、または皮膚使用への適用のために製剤化される。
局所適用は典型的には、皮膚の表面、創傷、および/または粘膜細胞もしくは組織(例えば、肺胞、頬側、舌、咀嚼、または鼻腔粘膜、等)を指す。
【0078】
特定の態様によれば、前記医療品は、スプレー、溶液、分散液、乾燥粉末、またはエアロゾル化液もしくは粉末などの、局所投与、特に、粘膜投与用に適切に使用される製剤で使用される。
【0079】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物は、抗ウイルス有効量で生体表面に適用され、好ましくは、その量は1cm当たり1ng~1000ng、好ましくは、10~800ng/cm、または800、700、600、500、400、300、200、100、90、80、70、60、50ng/cmのうちのいずれか1つまでである。
【0080】
本明細書に記載される局所処置用に適切に使用される医療品のいずれでも、生体表面を処置するために使用することができる。
特定の態様によれば、生体表面は、前記ウイルスに感染しているまたは感染するリスクのある粘膜表面を含むまたはからなる。
【0081】
本発明は、ウイルス殺菌剤として本明細書に記載される、特に、生体表面、または衛生装置フェイスマスク、等などの非生体表面を処置するのに適したアゼラスチン化合物の使用をさらに提供する。具体的には、生命または非生命表面を殺菌剤を使用して処置することができる。
【0082】
具体的には、ウイルス殺菌剤は、医療品などの抗ウイルス製剤である。
特定の態様によれば、本発明は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物においてコロナウイルス科ウイルス感染、特に、SARSウイルス感染を予防するまたは処置するのに使用するための、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を提供する。
【0083】
特定の態様によれば、本発明は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物においてコロナウイルス科ウイルス感染、特に、SARSウイルス感染を予防するまたは処置するのに使用するための、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を提供する。
【0084】
特定の態様によれば、本発明は、ヒトにおいてアデノウイルス科ウイルス感染、特に、HAdVB、HAdVC、またはHAdVDウイルス感染を予防するまたは処置するのに使用するための、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を提供する。
【0085】
特定の態様によれば、本発明は、ヒトにおいてパラミクソウイルス科ウイルス感染、特に、ヒトRSVウイルス感染を予防するまたは処置するのに使用するための、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を提供する。
【0086】
特定の態様によれば、本発明は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物においてオルソミクソウイルス科ウイルス感染、特に、インフルエンザウイルス感染を予防するまたは処置するのに使用するための、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を提供する。
【0087】
特定の態様によれば、本明細書でさらに記載されるアゼラスチン化合物の1つまたは複数の個々の投薬量単位、およびヒトまたは非ヒト哺乳動物においてコロナウイルス科ウイルス感染またはコロナウイルス科ウイルスにより引き起こされる疾患を処置する際のその使用のための指示書を含むキットが提供される。
【0088】
別の特定の態様によれば、本明細書でさらに記載されるアゼラスチン化合物の1つまたは複数の個々の投薬量単位、およびヒトまたは非ヒト哺乳動物においてアデノウイルス科ウイルス感染、特に、HAdVB、HAdVC、またはHAdVDウイルス感染を処置する際のその使用のための指示書を含むキットが提供される。
【0089】
別の特定の態様によれば、本明細書でさらに記載されるアゼラスチン化合物の1つまたは複数の個々の投薬量単位、およびヒトにおいてパラミクソウイルス科ウイルス感染、特に、ヒトRSVウイルス感染を処置する際のその使用のための指示書を含むキットが提供される。
【0090】
別の特定の態様によれば、本明細書でさらに記載されるアゼラスチン化合物の1つまたは複数の個々の投薬量単位、およびヒトまたは非ヒト哺乳動物においてオルソミクソウイルス科ウイルス感染、特に、インフルエンザウイルス感染を処置する際のその使用のための指示書を含むキットが提供される。
【0091】
特定の態様によれば、本発明は、本明細書でさらに記載されるアゼラスチン化合物および薬学的に許容される担体を含む抗ウイルス医薬製剤を提供する。
具体的には、医薬製剤は、医療用に、特に、COVID19などのコロナウイルス科ウイルスにより引き起こされる疾患状態の予防的または治療的処置において使用するために提供される。
【0092】
具体的には、医薬製剤は、医療用に、特に、コロナウイルス科ウイルスおよび/またはアデノウイルス科ウイルスおよび/またはパラミクソウイルス科ウイルスおよび/またはオルソミクソウイルス科ウイルスにより引き起こされる疾患状態の予防的または治療的処置において使用するために提供される。
【0093】
特定の態様によれば、本発明は、コロナウイルス科ウイルスおよび/またはアデノウイルス科ウイルスおよび/またはパラミクソウイルス科ウイルスおよび/またはオルソミクソウイルス科ウイルスのうちの1つまたは複数などの1つまたは複数の異なるウイルスに感染しているまたは感染するリスクのある対象を処置する方法であって、抗ウイルス有効量のアゼラスチン化合物、および本明細書にさらに記載されるそれぞれの医療品または医薬製剤を投与するステップを含む方法をさらに提供する。
【0094】
さらなる特定の態様によれば、本発明は、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物の抗ウイルス製剤(医療品、医薬製剤または殺菌剤などの)および当該抗ウイルス製剤を作製する方法であって、抗ウイルス有効量のアゼラスチン化合物を薬学的に許容される担体と一緒に製剤化して、抗ウイルス製剤、特に、医療品または医薬製剤を作製するステップを含む方法を提供する。
【0095】
生体表面への本明細書に記載される抗ウイルス製剤(医療品、医薬製剤または殺菌剤などの)のいずれかの局所投与は、好ましくは、例えば、10分~24時間、および/または24、18、12、6、5、4、3、2、もしくは1時間までのある特定の接触時間で、接触により前記表面上のウイルスが少なくとも0.5倍(半分)減少、または1-log、2-log、3-log、4-log、5-log減少するようにする。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1図1は、適合する経路プロファイルを伴う薬物相同体の同定のためのシャノンエントロピーアプローチの図解(A)およびSARS-CoV-2関連経路の図解(B)を示す。経路プロファイルは、明確に規定されたメカニズムおよび作用様式を用いてヒドロキシクロロキンおよびSARSインヒビターについて計算され:SSAA09E2、小分子ACE2インヒビターおよびSSAA09E3、ウイルス宿主膜融合の一般的インヒビター。
図2図2は、位相差顕微鏡写真に基づいて、Vero E6細胞にもたらされるSARS-CoV-2の細胞変性効果の予防を示す。A:感染していない(対照)培養物;B:SARS-CoV-2に感染した細胞;C~F:対照バッファー(0.5%のDMSOを含有する)の存在下でSARS-CoV-2に感染した細胞;D~G:漸増濃度のアゼラスチン-HCl:3.125、6.25、12.5および25μMの存在下でSARS-CoV-2に感染した細胞。細胞は、MOI 0.1 SARS-Co-V2ウイルスを30分間感染させ、次に培養培地を取り除いて、ウイルスのない(しかし、アゼラスチンを含有する)新鮮な培養培地で置き換え、感染48時間後に顕微鏡画像を撮影した。
図3図3は、再構成されたヒト鼻組織(MucilAir)に対するSARS-CoV-2の細胞変性効果の減少を示す。ヒト鼻組織にSARS-CoV-2を感染させ、続いて5倍希釈した0.1%のアゼラスチン-HCl含有鼻腔スプレー液を用いて3日間、24時間ごとに20分間処置した。図は、感染後48および72時間後のヒト鼻組織の低解像度顕微鏡画像を示す。ムチン産生(無傷の組織機能の兆候として)は、組織上の暗い部分の存在として示される。
図4図4(アゼラスチンによるSARS-CoV-2 B.1.351およびB.1.1.7感染のin vitro阻害)は、SARS-CoV-2 B.1.351(A)またはB.1.1.7(B)でのVero-TMPRSS2/ACE2細胞の感染を阻害するアゼラスチンの効果を示す。細胞はMOI 0.01 SARS-CoV-2ウイルスを30分間感染させ、アゼラスチンは、感染直前(予防的設定)または感染30分後(治療的設定)に感染細胞に添加した。感染48時間後ウイルスコピー数は、定量的PCRにより決定した。感染の阻害は、ウイルスだけのウェル(アゼラスチン処置なし)と比べたウイルスコピー数として表される。グラフは、9(A)または6(B)の個々の値から計算された平均および標準偏差を示す。感染の50%を阻害するアゼラスチン濃度(EC50)は、GraphPad Prism 8.4.3を使用して非線形回帰(log(アゴニスト)対正規化された応答-可変傾斜)で計算した。
図5図5は、配列番号4:(NCBI受託番号QII57161.1、SARS-CoV-2、S-タンパク質)を示す。
図6図6は、0.01のMOIでSARS-CoV-2に感染したCalu-3ヒト細胞において判定された場合の2つの異なる濃度でのアゼラスチンの抗ウイルス効果、ならびにウイルス感染なしの同一細胞で測定された同じ濃度の化合物の細胞傷害性を示す。グラフは、1つの代表的な実験からの3通りの平均結果を示す。
図7図7は、指示された最終濃度範囲のアゼラスチン-HClおよび対応する希釈溶媒、DMSOを用いて48時間処置した非感染Hep-2細胞の生存率を示す。平均およびSEMは3つの独立した実験から計算した。統計的有意差の閾値はP<0.05。****P<0.0001
図8A図8は、Hep-2細胞のRSV感染に対する指示された最終濃度範囲でのアゼラスチン-HClの抗ウイルス効果を示す。アゼラスチン-HClは、ウイルス感染に先立って(A)、これと同時に(B)、またはこの後で適用され、複製は、テキスト中に記載されるRSV感染細胞を可視化することにより評価された。DMSOは、アゼラスチン-HC1ストックの溶媒であり、対照としての役割を果たすように対応して希釈された。実験は、二つ組を用いて2度繰り返した。バーは、エラーバーとしての平均標準誤差を用いて平均を表す。
図8B】同上。
図8C】同上。
図9図9は、インフルエンザウイルスH1N1による感染後24時間での再構成された鼻組織の先端洗浄から得られたウイルスコピー数に対するアゼラスチン-HClならびにオセルタミビルの2つの異なる濃度の影響を示す。統計的有意差はアステリスクにより印される。グラフは、1つの代表的な実験からの3通りの平均結果を示す。P<0.05;**P<0.01
図10A図10は、インフルエンザウイルスH1N1が感染している再構成された鼻組織により分泌されるIL-8(パネルA)およびRANTES(パネルB)のレベルに対するアゼラスチンならびにオセルタミビルの2つの異なる濃度の効果を示す。統計的有意差はアステリスクにより印される。グラフは、1つの代表的な実験からの3通りの結果の平均値を示す。**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001
図10B】同上。
【発明を実施するための形態】
【0097】
本明細書で使用される用語「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、「有する(have)」および「含む(include)」は同意語として使用することができ、オープン定義として理解され、さらなるメンバーまたは部分または要素を許すものとする。「なる(consisting)」は最も排他的な定義と見なされ、なる(consisting)定義特色であるさらなる要素がない。したがって、「含む(compriseing)」はもっと広く、「なる(consisting)」定義を含有する。
【0098】
本明細書で使用される用語「約(about)」とは、所与の値と同じ値またはその+/-10%または+/-5%異なる値のことである。
本明細書で使用される用語「アゼラスチン化合物」とは、アゼラスチン、またはその塩を指すものとする。
【0099】
アゼラスチンの分子式はC2224ClNOであり、以下の化学構造を有する。
【0100】
【化1】
【0101】
IUPAC名:4-[(4-クロロフェニル)メチル]-2-(1-メチルアゼパン-4-イル)フタラジン-1-オン
CAS番号:58581-89-8
アゼラスチン塩は、好ましくは、例えば、塩酸塩などの薬学的に許容される塩である。
【0102】
アゼラスチン塩酸塩はアゼラスチンの塩酸塩型であり、鼻腔内投与用の計量スプレー溶液として製剤化される抗ヒスタミン薬化合物として使用される。アゼラスチン塩酸塩を含む市販の製品は、水溶液中0.1%または0.15%のアゼラスチン塩酸塩USPをpH6.8±0.3で含有する鼻腔スプレーとして提供される。
【0103】
アゼラスチン塩酸塩は白色またはほぼ白色の結晶性粉末として存在する。アゼラスチン塩酸塩は水にわずかに可溶性でありエタノールおよびジクロロメタンに可溶性である。
分子式:C2225Cl
IUPAC名:4-[(4-クロロフェニル)メチル]-2-(1-メチルアゼパン-4-イル)フタラジン-1-オン;塩酸塩
CAS番号:58581-89-8;37932-96-0;79307-93-0
アゼラスチン塩の選択は、主に化学物質がどれほど酸性または塩基性か(pH)、電離型の安全性、薬物の用途、薬物がどのようにして与えられるか(例えば、口、注射により、または皮膚上で)、および剤形のタイプ(錠剤、カプセル、または液状などの)により決定される。
【0104】
「薬理学的に許容される」とも呼ばれる用語「薬学的に許容される」は、動物、特に、ヒトの処置に適合する、を意味する。用語薬理学的に許容される塩は、薬理学的に許容される酸付加塩および薬理学的に許容される塩基付加塩を含む。
【0105】
本明細書で使用される用語「薬理学的に許容される酸付加塩」は、本開示の任意の主剤の任意の非毒性有機もしくは無機塩、またはその中間体のいずれかを意味する。酸付加塩を形成することがある本開示の主剤は、例えば、塩基性窒素原子を含有する化合物を含む。適切な塩を形成する実例となる無機酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸、ならびにオルトリン酸一水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウムなどの金属塩を含む。適切な塩を形成する実例となる有機酸は、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、ケイ皮酸およびサリチル酸などのモノ-、ジ-およびトリカルボン酸、ならびにp-トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸誘導体などのスルホン酸を含む。一、二または三酸塩を形成することができ、当該塩は、水和型、溶媒和型または実質的に無水型で存在することがある。一般に、本開示の化合物の酸付加塩は、一般にその遊離塩基型と比べて、水および種々の親水性有機溶媒により可溶性であり、より高い融点を示す。適切な塩の選択は当業者に知られることになる。他の非薬理学的に許容される酸付加塩、例えば、シュウ酸塩は、研究所使用のため、または薬理学的に許容される酸付加塩へのその後の変換のために、本開示の化合物の単離において使用してもよい。
【0106】
本明細書で使用される用語「薬理学的に許容される塩基性塩」は、本発明の任意の酸化合物の非毒性有機もしくは無機塩基付加塩、またはその中間体のいずれかを意味し、これらの塩は、動物、特に、ヒトの処置に適しているまたは適合する。塩基付加塩を形成することがある本発明の酸性化合物は、例えば、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルホンアミド、N-非置換テトラゾール、リン酸エステル、または硫酸エステルを含有する化合物を含む。適切な塩を形成する実例となる無機塩基は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、または水酸化バリウムを含む。適切な塩を形成する実例となる有機塩基は、メチルアミン、トリメチルアミンおよびピコリンなどの脂肪族、脂環式または芳香族有機アミンまたはアンモニアを含む。適切な塩の選択は当業者に知られることになる。他の非薬理学的に許容される塩基付加塩は、研究所使用のため、または薬理学的に許容される塩基付加塩へのその後の変換のために、本開示の化合物の単離において使用してもよい。所望の化合物塩の形成は、標準技法を使用して達成される。例えば、中性化合物は適切な溶媒中の塩基で処理され、形成された塩は濾過、抽出または他の任意の適切な方法により単離される。
【0107】
本明細書で使用される用語「抗ウイルス」とは、ウイルスの生物学をもたらし、ウイルス付着、侵入、複製、排出、潜伏またはその組合せを減弱するまたは阻害して、ウイルス負荷または感染力の低下をもたらす任意の物質、薬物または製剤を指すものとする。用語「減弱する(attenuating)」、「阻害する(inhibiting)」、「減少する(reducing)」または「予防(prevention)」、またはこれらの用語の任意の変動は、特許請求の範囲および/または明細書で使用される場合、所望の結果を得るための任意の測定可能な減少または完全な阻害、例えば、ウイルス感染のリスクの減少(前曝露)、または曝露後ウイルス生存、負荷、または増殖の減少を含む。
【0108】
本明細書に記載される例示的抗ウイルス製剤は、in vivo、ex vivoまたはin vitro使用のための医療品、薬剤、殺菌剤である。
本明細書で使用される用語「生体表面」とは、例えば、表面もしくは上皮もしくは真皮組織(例えば、皮膚)、粘膜組織、または膜組織などの生体組織表面を含む、哺乳動物(ヒトまたは非ヒト動物)細胞などの、生細胞を含む表面を指すものとする。
【0109】
本明細書で使用される抗ウイルス効果に関する用語「有効量」とは、証明された抗ウイルス効果を有する量(特に、所定量)のことを指すものとする。その量は、典型的には、表面に適用されるまたは対象に投与される場合、抗ウイルスまたは臨床結果を含む所望の結果の恩恵をもたらすほど十分な量または活性であり、したがって、有効量またはその同義語はその量が適用されている設定に依存する。
【0110】
薬剤または薬物の有効量とは、疾患、疾患状態または障害を処置する、予防するまたは阻害するのに十分である化合物の量を意味することが意図されている。当該有効用量は特に、本明細書に記載される疾患または障害に関係する状態の治癒、予防または改善をもたらすのに十分である化合物の量のことである。
【0111】
疾患という設定では、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物の有効量(特に、予防的または治療的有効量)は、その抗ウイルス効果から恩恵を受ける疾患または状態を処置する、調節する、減弱する、元に戻す、または影響を与えるのに特に使用される。当該有効量に対応する化合物の量は、所与の薬物または化合物、製剤化、投与経路、疾患または障害の種類、処置を受けている対象または宿主の正体、医学的状況の評価などの種々の要因および他の関連する要因に応じて変動するが、それにもかかわらず当業者であればルーチン的に決定することができる。
【0112】
本明細書に記載されるアゼラスチン化合物の有効量を用いた対象の処置または予防レジメンは、それぞれ単回適用もしくは投与からなる、または代わりに一連の適用および投与を含んでいてもよい。例えば、アゼラスチン化合物は、少なくとも月1回、または少なくとも週1回、または少なくとも1日1回使用してもよい。しかし、急性期のある特定の場合、例えば、ウイルスへの曝露が疑われるもしくは確認されると、またはウイルス感染が確定された後は、アゼラスチン化合物はもっと頻繁に、例えば、1日1~10回使用してもよい。
【0113】
具体的には、本明細書に記載される製剤を用いた処置ならびにコロナウイルス科コロナにより引き起こされる疾患の標準療法および/または他の標的ウイルスのいずれかにより引き起こされる疾患の標準療法を含む併用療法が提供される。
【0114】
用量は、例えば、対象のウイルス拡散リスクがあると、病原体関連反応を予防するために、抗ウイルス剤、抗炎症薬または抗生物質などの他の活性剤と組み合わせて適用してもよい。
【0115】
処置は、抗ウイルス処置、抗炎症処置または抗生物質処置と組み合わせることができ、好ましくは、薬剤は前記抗ウイルス処置、抗炎症処置または抗生物質処置前に、最中に(例えば、同時投与によりまたは並行して)、または後で投与される。
【0116】
具体的には、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物は、追加の抗ウイルス剤と組み合わせることができ、この追加の抗ウイルス剤は、アゼラスチン化合物、例えば、同じまたは異なる化合物が可能である。特定の実施形態は、ACE2インヒビター、ウイルスタンパク質M2イオンチャネルインヒビター、ノイラミニダーゼインヒビター、RNA複製および翻訳インヒビターならびにポリメラーゼインヒビターから選択されるさらなる抗ウイルス剤を指す。抗ウイルス剤は、アマンタジンまたはリマンタジンでもよい。具体的には、抗ウイルス剤は、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、リバビリン、ロピナビル、またはリトナビルでもよい。特定のさらなる抗ウイルス剤例は、カラゲナンなどの生体表面処置用に適切に使用される抗ウイルス剤、または、ヒドロキシクロロキン、もしくはレムデシビルなどのSARS-Cov2感染を処置する目的で現在調査中の抗ウイルス剤である。
【0117】
具体的には、アゼラスチン化合物は、標準ステロイド性抗炎症薬、グルココルチコイドおよび非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの抗炎症剤と組み合わされる。適切なNSAIDは、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸およびセレコキシブを含むがこれらに限定されない。適切なステロイド性抗炎症剤は、合成グルココルチコイドなどの副腎皮質ステロイドを含むがこれらに限定されない。具体例は、フルチカゾン、COX-2インヒビター、イブプロフェン、ヒドロキシクロロキン、ヘパリン、LMWヘパリン、ヒルジン、またはアザチオプリン、シクロスポリンA、もしくはシクロホスファミドなどの免疫抑制剤である。
【0118】
具体的には、アゼラスチン化合物は、βラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、糖ペプチド、リンコサミド、リポペプチド、マクロライド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノンなどの抗生物質、ポリペプチド、スルホンアミド、クロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、サイクロセリン、エタンブトール、エチオナミド、イソニアジド、ピラジナミド、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、ストレプトマイシン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、チアンフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾール、トリメトプリム、テイクソバクチン、マラシジン、ハリシン、クリンダマイシン、バンコマイシン、メトロニダゾール、フシジン酸、チオペプチド、フィダキソマイシン、キノロン、テトラサイクリン、オマダサイクリン、リファマイシン、キブデロマイシン(kibdelomycin)、オキサゾリジノン、ケトライド、チアゾライド(thiazolides)、アミキシサイル(amixicile)、テイコプラニン、ラモプラニン、オリタバンシン、ランチビオティクス、カプラマイシン、スロトマイシン、ツリシン、エンドリシン、アビドシン(avidocin)CD、カダゾリド、ラミゾール、デフェンシン、リジニラゾール、中鎖脂肪酸、ファージ、ベルベリン、ラクトフェリンと組み合わせられる。
【0119】
具体的には、本明細書に記載されるアゼラスチン化合物を用いた処置は、副腎皮質ステロイド、抗炎症性シグナル伝達モジュレーター、2-アドレナリン受容体アゴニスト気管支拡張薬、抗コリン薬、粘液溶解薬、高張食塩水およびコロナウイルス科ウイルス感染および/または本明細書に記載されるその他の標的ウイルスのいずれかによる感染を処置するための他の薬物;またはその混合物からなる群から選択される少なくとも1つの他の治療剤を投与する処置と組み合わせることができる。特定の医薬組成物は、1つもしくは複数の抗炎症剤、および/または鎮痛剤、PPAR-γアゴニストおよび免疫応答モジュレーターを特に含んでいてもよい。
【0120】
処置期間の長さは、疾患の重症度、急性または慢性疾患、患者の年齢、およびアゼラスチン化合物の濃度など、種々の要因に依拠する。処置または予防用に使用される有効薬量は特定の処置または予防レジメンの間に増加しても減少してもよいことも認識されている。薬量の変化が起こり、当技術分野で公知の標準診断アッセイにより明らかになることがある。
【0121】
特定の態様によれば、本明細書に記載される医療品または医薬組成物は、本明細書で定義されるアゼラスチン化合物の有効量を含有する。本明細書に記載される製剤は、単回または複数回投薬量使用に提供してもよい。
【0122】
単回投与または複数回投与容器、例えば、密封アンプルおよびバイアル、または複数回使用スプレーを使用してもよく、液または乾相を含んで、例えば、使用直前に無菌液体担体、例えば、注射用水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管してもよい。好ましい単位投薬量製剤は、アゼラスチン化合物の1日量もしくは単位1日サブ用量、または複数用量を含有する製剤である。
【0123】
本明細書で使用される用語「単一用量」は、以下のように理解される。単一用量または頓用の量は、単独症例/手順/投与についての患者、ヒトまたは動物などの単一対象での使用向けの投与を意図した量である。単一用量を含むパッケージは典型的には、したがって製造業者によってラベルが貼られている。単一投与量は、有効量を提供するために、特に、小児または成人のような個体向けの1日用量として理解される。
【0124】
本明細書に記載される医療品または医薬組成物は、特に、ヒトまたは獣医医療品または医薬組成物として提供される。医療品は、疾患を処置する、苦情を和らげる、または第一に当該疾患もしくは苦情を予防するのに使用される物質として理解される。この定義は、医療品がヒトに投与されるのか動物に投与されるのかに関わらず、当てはまる。その物質は身体の内部または表面の両方で作用することができる。
【0125】
本明細書に記載される医療品または医薬組成物は、好ましくは、1つまたは複数の薬学的に許容される助剤を含有し、活性医薬化合物が高い生物学的利用率で投与されることを可能にする剤型である。適切な助剤は、例えば、シクロデキストリンに基づいていてもよい。適切な製剤は、例えば、アクリレート、メタクリレート、シアノアクリレート、アクリルアミド、ポリラクテート、ポリグリコレート、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ゼラチン、アルブミン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクロレイン、ポリグルタルアルデヒドならびにその誘導体、共重合体および混合物からなる群から選択されるポリマーで形成される合成ポリマーナノ粒子を組み入れている場合もある。
【0126】
本明細書に記載される特定の医療品または医薬組成物は、アゼラスチン化合物および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。「薬学的に許容される担体」とは、活性成分以外の薬用または医療的利用に向けた製剤中の成分のことであり、この成分は対象にとり無毒性である。薬学的に許容される担体は、バッファー、賦形剤、安定化剤、または保存剤、特に、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール、および同類の物を含むがこれらに限定されない。
【0127】
本明細書で使用されるアゼラスチン化合物は、従来の担体および賦形剤と一緒に製剤化することができ、担体および賦形剤は通常の慣行に従って選択される。
薬学的に許容される担体は一般には、本明細書に記載される抗ウイルス小分子化合物または関連する組成物または組合せ製剤と生理的に適合するありとあらゆる適切な溶媒、分散媒、コーティング、抗ウイルス剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤、ならびに同類の物を含む。
【0128】
特定の態様によれば、アゼラスチン化合物は、所望の投与経路に適した1つまたは複数の担体と組み合わせることができる。アゼラスチン化合物は、例えば、ラクトース、サクロース、デンプン、アルカン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウムおよびカルシウム塩、アカシア、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールのいずれかと混合し、および任意選択で、従来の投与に向けてさらに錠剤化するまたはカプセル化してもよい。あるいは、アゼラスチン化合物は、生理食塩水、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、エタノール、トウモロコシ油、ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、トラガアントゴム、および/または種々のバッファー中に分散されるまたは溶解されてもよい。他の担体、アジュバンド、および投与様式は薬剤分野では周知である。担体は、モノステアリン酸グリセリルもしくはジステアリン酸グリセリル単独またはワックスと一緒になどの徐放性材料または時間遅延材料、または、当技術分野で周知の他の材料を含んでもよい。
【0129】
本明細書に記載される化合物は、アゼラスチン化合物の放出がより回数の少ない投与を可能にするまたは所与の活性成分の薬物動態もしくは毒性プロファイルを改善するように制御され調節されている徐放製薬(「徐放製剤」)として提供されてもよい。
【0130】
医薬組成物は、主題の薬剤が消化管の所望の局所適用の近傍で、または所望の作用を延長するために種々の時間に放出されるように、従来の方法により、典型的にはpHまたは時間依存性コーティングを用いて被覆してもよい。当該剤形は典型的には、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ポリビニルアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース、ワックス、およびシェラックを含むがこれらに限定されない。
【0131】
追加の薬学的に許容される担体は当技術分野では公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、改訂第22版、(Allen Jr、LV、編 Pharmaceutical Press、2012年)に記載されている。液体製剤は、溶液、乳濁液、または懸濁液が可能であり、懸濁化剤、可溶化剤、界面活性剤、保存剤、およびキレート剤などの賦形剤を含むことができる。
【0132】
好ましい製剤は、すぐに使える貯蔵安定な形態であり、貯蔵寿命は少なくとも1または2年である。
本明細書で使用される用語「製剤」とは、特定のやり方ですぐに使える製剤のことである。具体的には、本明細書に記載される組成物は、アゼラスチン化合物、および薬学的に許容される希釈剤、担体または賦形剤を含む。
【0133】
特定の態様によれば、経鼻、肺内、経口、局所、粘膜または非経口投与用の薬学的に許容される媒体を含む製剤が提供される。投与は、皮内または経皮でもよい。その上、本開示は、凍結乾燥されており、再構成されて投与用の薬学的に許容される製剤を形成しうるような化合物を含む。
【0134】
本明細書に記載される特定の医療品または医薬組成物は、鼻腔内投与のためにまたは別の局所経路により、例えば、粘膜もしくは皮膚を含む、例えば、生体表面上に製剤化される。当該投与手段を促進するのに適した医薬担体は当技術分野では周知である。
【0135】
具体的には、pH6.8±0.3で水溶液中に0.001%または0.15%(w/w)のアゼラスチン化合物を含有し、任意選択で、クエン酸一水和物、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、エデト酸二ナトリウム、ヒプロメロース、精製水、塩化ナトリウム、および塩化ベンザルコニウムなどの保存剤のうちのいずれか1つまたは複数をさらに含有する鼻腔スプレーを使用してもよい。
【0136】
非経口投与以外のいずれかの経路によりアゼラスチン化合物を投与するためには、活性剤をその非活性化を予防する材料で被覆する、または活性剤をこの材料と同時投与することが必要な場合がある。例えば、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈剤を使用してもよい。薬学的に許容される希釈剤は、生理食塩水および水性緩衝液を含む。
【0137】
アゼラスチン化合物は、例えば、不活性希釈剤または同化可能なもしくは食べられる担体と一緒に経口投与することができる。例えば、製剤は硬いもしくは軟らかい殻ゼラチンカプセルに封入する、または圧縮して錠剤にしてもよい。経口治療投与では、アゼラスチン化合物は、賦形剤と一緒に組み込まれて、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁剤、シロップ、ウエハース、および同類の物の形で使用されうる。組成物および製剤中の化合物のパーセンテージは、当然のことながら、変動しうる。当該治療的に有用な組成物中のアゼラスチン化合物の量は、適切な投薬量が得られる程度である。
【0138】
錠剤は、賦形剤、滑剤、充填剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、香料および同類の物を含有する。顆粒剤は、イソマルトースを使用して製造してもよい。粘膜の部位で、例えば、粘膜部(鼻、口、目、食道、喉、肺などの)、例えば、全身作用なしで局所的に作用するように製剤化された製剤を提供するのはさらに好ましい。水性製剤は無菌の形で調製され、経口投与以外による送達で意図されている場合は、一般に等張性になる。
【0139】
対象を処置するための製剤の投与もしくは適用もしくは他の粘膜使用またはそれぞれの製剤に関して用語「粘膜の」とは、全身または局所投与を含む粘膜経路による投与のことであり、そこでは活性成分は粘膜表面との接触により取り込まれる。これは、鼻腔、肺、経口、または経口的投与および製剤、例えば、液体、シロップ、トローチ、点眼剤、錠剤、スプレー、粉末、インスタント粉末、顆粒、カプセル、クリーム、ゲル、ドロップ、懸濁剤、または乳剤を含む。
【0140】
経口的製剤は、液体溶液、乳濁液、懸濁液、および同類の物を含んでいてもよい。当該組成物の調製に適した薬学的に許容される溶媒は、当技術分野では周知である。シロップ、エリキシル、乳濁剤および懸濁剤用の担体の典型的な構成成分は、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、液体サクロース、ソルビトールおよび水を含む。懸濁液では、典型的な懸濁剤は、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、トラガント、およびアルギン酸ナトリウムを含み;典型的な湿潤剤は、レシチンおよびポリソルベート80を含み;典型的な保存剤は、メチルパラベンおよび安息香酸ナトリウムを含む。経口的液体組成物は、上に開示された甘味料、香味料および着色料などの1つまたは複数の構成成分も含有してよい。
【0141】
アゼラスチン化合物またはそれぞれの製剤の全身送達を達成するのに有用である他の組成物は、舌下、頬側および鼻剤形を含む。当該組成物は典型的には、サクロース、ソルビトールおよびマンニトールなどの可溶性充填物質;ならびにアカシア、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤、または滑剤、潤滑剤、甘味料、着色料、抗酸化剤および香味料のうちの1つまたは複数を含む。
【0142】
アゼラスチン化合物またはそれぞれの製剤は、例えば、前記同一物を含有する組成物を対象の表皮もしくは上皮組織上に直接置くもしくは広げることにより、または「パッチ」を介して経皮的に、対象に局所的に投与することもできる。当該組成物は、例えば、ローション、クリーム、溶液、ゲルおよび固体を含む。これらの局所組成物は、アゼラスチン化合物の有効量、通常は少なくとも約0.001wt%、または約0.1wt%~5%wt%でも、または1wt%~約5wt%を含んでいてもよい。局所投与に適した担体は典型的には、連続被覆として皮膚上の原位置にとどまり、発汗または水中への浸漬による除去に抵抗する。一般的には、担体は事実上有機物であり、その中に治療剤を分散させるまたは溶解していることができる。担体は、薬学的に許容される軟化剤、乳化剤、増粘剤、溶媒および同類の物を含んでいてもよい。
【0143】
注射使用に適した医薬組成物は、無菌水溶液(特に、化合物または薬学的に許容される塩が水溶性である場合)または分散液および無菌注射液もしくは分散液の即座の調剤のための無菌粉末を含む。特に、組成物は、容易な注射針通過性が存在する程度まで特に無菌であり流動的であり、組成物は、製造および貯蔵条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存される。
【0144】
適切な薬学的に許容される溶媒は、限定せずに、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの、経口、非経口、経鼻、粘膜、経皮、血管内(IV)、動脈内(IA)、筋肉内(IM)、および皮下(SC)投与経路に適した任意の非免疫原性製薬アジュバントを含む。
【0145】
本明細書で使用される用語「対象」とは、温血哺乳動物、特に、ヒトまたは例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、およびブタを含む非ヒト動物を指すものとする。特に、本明細書に記載される処置および医療的使用は、コロナウイルス科ウイルス感染および/または本明細書に記載されるその他の標的ウイルスのいずれかの感染と関連する疾患状態の予防または治療を必要とする対象に当てはまる。具体的には、処置は、コロナウイルス科ウイルスおよび/またはアデノウイルス科ウイルスおよび/またはパラミクソウイルスかウイルスおよび/またはオルソミクソウイルス化ウイルスが状態の病因である疾患状態の病態形成を妨げることによるものでもよい。対象は、当該疾患状態のリスクがあるまたは疾患に罹っている患者でよい。具体的には、対象は、弱まった免疫系または疾患のリスクもしくは疾患の重症度を増大させる可能性が他の疾患よりも高い既存の呼吸器もしくは心疾患を有していてもよい。
【0146】
用語、ある特定の疾患状態の「リスクがある」とは、例えば、ある特定の素因、ウイルスもしくはウイルス感染した対象への曝露により、当該疾患状態を潜在的に発症する対象、あるいは、特に、他の原因となる疾患状態またはウイルス感染の結果として後に続く他の状態もしくは合併症に関連する、種々の段階での当該疾患状態に既に罹っている対象のことである。リスク判定は、疾患がまだ診断されていない対象において特に重要である。したがって、このリスク判定は、予防治療を可能にする早期診断を含む。具体的には、アゼラスチン化合物は、ハイリスク、例えば、疾患を発症する高い確率を有する対象で使用される。
【0147】
用語「患者」は、予防処置または治療処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物対象を含む。本明細書で使用される用語「患者」は常に健康な対象を含む。したがって、用語「処置」は予防処置と治療処置の両方を含むことが意図されている。
【0148】
具体的には、用語「予防」とは、病態形成の開始の予防を包含することが意図されている予防措置または病態形成のリスクを減らすための予防措置のことである。
対象を処置することに関する本明細書で使用される用語「治療」とは、個別にもしくは合わせて「疾患状態」として理解されている疾患、病的状態、もしくは障害を治癒する、改善する、安定化する、その発生率を減らすまたは、予防する目的での対象の医療管理のことである。この用語は、特に疾患状態の改善に向けられる動的治療、特に疾患状態の予防に向けられる予防を含み、関連する疾患状態の原因の除去に向けられる原因療法も含む。さらに、この用語は、疾患状態の治癒、およびさらに関連する疾患状態の進展を最小限に抑えるまたは部分的にもしくは完全に阻害することに向けられた疾患状態を治癒することよりもむしろ症状の緩和のための対処療法、ならびに関連する疾患状態の改善に向けられた別の特定の療法を補うために用いられる支持療法を含む。
【0149】
前述の記載は、以下の実施例を参照してさらに完全に理解されることになる。しかし、当該実施例は、本発明の1つまたは複数の実施形態を実施する方法を代表するだけであり、本発明の範囲を限定すると読むべきではない。
【実施例
【0150】
実施例1
抗ウイルス薬物同定
小分子(薬物)の数学的表現の開発は、現代的な薬剤研究にとって計り知れない価値のある研究領域であり、したがって、多数の分子記述子が開発され、化学構造の2Dおよび/または3D特長を有効に活用している。これらの記述子は定量的構造活性関係を評価する際に非常に価値があった。具体的には、原子中心の特長ペアは創薬プログラムに強い関連性のあることが明らかになっている。なぜならば、原子中心の特長ペアは、ハイスループット構造活性関係分析、化合物選択、仮想的化学スクリーニングおよび薬理学的プロファイリングへの費用効果の高いアプローチを提供するからである。一般に使用される化学記述子の1つは、SHEDと呼ばれ、シャノンエントロピー記述子(1)を表す。このアプローチでは、原子中心の特長ペアの位相分布は、情報理論(シャノンエントロピー)に基づいて定量化される。特定の利益は、化学的に異なるが位相学的に関係する化学骨格はSHEDアプローチを使用して同定することができることである。
【0151】
新たな抗ウイルス薬を同定するために、生化学経路ベースの介入戦略に基づいて薬物同定戦略を使用した。予め規定された、メカニズムに関するプロファイル(作用様式)に適合する臨床的に承認された薬物は、小分子(薬物)の固有の化学的特長のシャノンエントロピーベースの記述を使用して候補抗ウイルス薬として同定された。このアプローチの背後にある理論的根拠は、類似するシャノンエントロピーベクトルを有するリガンドは類似するタンパク質標的に結合することである。
【0152】
ここで、承認された薬物およびその実験的に立証されたタンパク質標的のレポジトリーであるDRUGBANKデータベースを使用した。薬物類似性は、ユークリッド距離(0.25がカットオフ値と見なされた)を計算することにより評価した。
【0153】
分析の出発点として、SARS-CoV-2感染に関する入手可能なメカニズムに関する情報は、ある特定のクエリー抗ウイルス化合物の分析とともに最近のバイオインフォマティク分析(3)からに抽出した。既知のSARS-CoV2活性を有するクエリー抗ウイルス化合物の経路プロファイル(ヒドロキシクロロキン(RS)-2-[{4-[(7-クロル-4-シンノリニル)アミノ]フェニル}(エチル)アミノ]エタノール;SSAA09E2{N-[[4-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェニル]メチル]-1,2-オキサゾール-5-カルボキサミド};およびSSAA09E3[N-(9,10-ジオキソ-9,10-ジヒドロアントラセン-2-イル)ベンズアミド])はシャノンエントロピーアプローチを使用して予想され、興味深いことに、著しい相互重複部分を示した。
【0154】
第2に、SARSインヒビターについての経路プロファイルは、よく規定されたメカニズムおよび作用様式を用いて予測された:SSAA09E2、小分子ACE2インヒビター、およびSSAA09E3、ウイルス宿主膜融合の一般的インヒビター(4)。両方のインヒビターはヒドロキシクロロキンと相当数の経路を共有することが見出された。総括すると、分析により、類似の経路がSARS-CoV-2感染に関与しており、ヒドロキシクロロキンにより標的にされ、よく規定されたメカニズムでインヒビターにより対処されることが明らかにされた。したがって、これらの経路は抗ウイルス活性に高度に関連しており、適合する経路プロファイルを伴う、抗ウイルス活性を有することが以前知られていなかった臨床的に承認された薬物を探すことにより、抗ウイルス活性についての新規の薬物再利用の根拠となることができることが結論付けられた。
【0155】
臨床的に承認された薬物を、個々の経路プロファイルに適合するか調査した。異なるクエリー化合物(ヒドロキシクロロキン、SSAA09E2およびSSAA09E3)について得られた予測される経路プロファイルを用いて、承認された(および市販の)薬物のSELLECKCHEMデータベースをスクリーニングした。候補選択の理論的根拠は、異なる(予測される)データセットでの承認された薬物の同時出現に基づいていた。ヒドロキシクロロキンおよびSSAA09E2(ACE2インヒビター)は互いの間でおよびSARS-CoV-2経路プロファイルを用いて得られた薬物と著しい重複部分を示した。化学組成に基づいて薬物を取り除いた後、in vitro SARS-CoV-2感染モデル:アゼラスチンおよびマラビロクでのさらなる試験のために、2つの承認された薬物が候補抗ウイルス剤として選択された。
【0156】
参考文献
(1) Gregori-Puigjane, E. and Mestres, J. SHED: Shannon Entropy Descriptors from Topological Feature Distributions. J.Chem.Inf.Model. 46, 1615-1622 (2006)
(2) Wishart, DS., Knox, C., Guo, AC:, Cheng, D., Shrivastava, S., Tzur, D., Gautam, B. and Hassanali, M. DrugBank: a knowledgebase for drugs, drug action and drug targets. Nucleic Acids Res. D901-D906, (2008)
(3) Zhou, Y, Hou, Y., Shen, J, Huang, Y., Martin, W. and Cheng, F. Network-based drug repurposing for novel coronavirus 2019-nCoV/SARS-CoV-2. Cell Discovery 6,14-32, (2020)
(4) Adedeji, AO., Severson, W., Jonsson, C., Singh, K., Weiss SR. and Sarafanos, SG. Novel Inhibitors of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Entry That Act by Three Distinct Mechanisms. J Virol. 87, 8017-8028, (2013)
【0157】
実施例2
SARS-CoV-2によるVero E6細胞のウイルス感染を予防する
SARS-CoV-2感染に対するアゼラスチン-HClの効果を検出するため、ACE2発現Vero E6(サルの腎臓)細胞にアゼラスチン-HClの非存在または存在下でSARS-CoV-2を感染させ、細胞変性効果を顕微鏡試験により評価した。
【0158】
実験手順:
Vero E6細胞(ATCC CRL-1586)を96ウェルプレート上に播種した。2日後、細胞培養物は培養密度に到達し、均質な単層を形成した。細胞は新鮮な細胞培養培地(DMEM+FBS?)を与えた。アゼラスチン-HCl(Seleckchem カタログ番号S2552、DMSO中に溶解させた10mMの保存液)およびマラビロク(Seleckchem カタログ番号S2003、DMSO中に溶解させた10mMの保存液)、抗HIV抗ウイルス剤を細胞培養培地に50、25、12.5、6.25および3.125μMの最終濃度で添加した(希釈液は培養培地で調製した)。ウイルス感染では、SARS-CoV-2ウイルス(hCoV-19/Hungary/SRC_isolate_2/2020、Accession ID:EPI_ISL_483637)を、培養培地交換直後に(基本的には同時に)MOI 0.1(感染多重度:10細胞に1ウイルス粒子)で上澄みに添加した。ウイルスストックはVero E6細胞での増殖により調製し、感染力価を決定した。ウイルスと一緒の30分間インキュベーション後、培養培地は取り除き、アゼラスチン-HClまたはマラビロクを上記濃度で含有する新鮮な培養培地で置き換えた(同時投与:予防をシミュレートする)。実験は、ある意味では、薬物が、ウイルスとの30分間インキュベーション後にだけ与えられた場合にアゼラスチンも用いて実施され、しかしこの期間(感染後投与:曝露後/治療設定)中ではない。感染48時間後、細胞は顕微鏡観察により評価され、次に、上澄みを収集して、定量的PCR分析用に-80℃で保存した。ウイルスRNAは、Monarch Total RNA Miniprepキット(New England BioLabs、カタログ番号T2010S)を製造業者の説明書に従って用いて、培養上澄み試料から抽出した。手短に言えば、300μlの溶解バッファーを100μlの培養上澄みと混合し、gDNA汚染は専用のカラムで取り除き(DNAは保持する)、RNAを含有する通過画分はRNA結合カラムに注いだ。カラムを洗浄後、RNAは水で溶出し、試料は分析まで-80℃で保存された。逆転写反応後、DNAは、RdRp遺伝子由来のF、RおよびP2プライマーで増幅された。
使用されたプライマーおよびプローブはSARS-CoV-2 RdRp遺伝子に特異的であった:
リバースプライマー:CARATGTTAAASACACTATTAGCATA(配列番号1)
フォワードプライマー:GTGARATGGTCATGTGTGGCGG(配列番号2)
プローブ:FAM-CAGGTGGAACCTCATCAGGAGATGC-BBQ(配列番号3)
ドロプレットPCRキットを使用した(BioRad ddPCR(商標)、Bio-Rad Laboratories GmbH、Germany)。RT-PCR反応の結果は定量化され、ウイルス粒子/μlとして計算された。
【0159】
結果:
細胞の集密的で均質な層(非感染、図2A)は破壊され、ウイルスに起因する細胞死を示す「孔」が現れる(図2B)。すべての試験された濃度でアゼラスチン-HClの存在下では、SARS-CoV-2感染細胞は死亡から有意に防御されており、直接的抗ウイルス効果の証拠を提供する(図2C~F)。マラビロクは低いほうの濃度では全く効果的でなく、高いほうの濃度(12.5~50μM)でもわずかな防御効果しかなく高細胞変性スコアーであった(表1)。驚くべきことに、アゼラスチンは効果的な抗ウイルス物質であることが判明し、この物質はヒドロキシクロロキンと少なくとも同じくらい効果的である。
【0160】
これらのデータにより、アゼラスチン化合物は、細胞に適用されるとすぐにSARS-CoV-2による感染を直ちに止めることができたことが示唆される。ウイルスは増殖し身体中に拡散するためには細胞に侵入する必要があるので、アゼラスチンは、ウイルスがヒト身体に感染するちょうどその場所で、呼吸器の粘膜表面上でCOVID-19を予防すると予想される。
【0161】
【表1】
【0162】
スコアリング:
0:細胞変性効果(CPE)なし、細胞は非感染対照と同じであるように思われた。
1:低レベルのCPEを示したのはごく小領域
2:細胞培養物の小領域でCPEが観察された
3:さらに強いCPEであるが感染対照ほど強くはない
4:CPEは感染対照と同じくらい強い
定量的PCR分析により、アゼラスチンが、同時投与(予防をシミュレートする)で>99%までと感染後(曝露後または治療をシミュレートする)設定で>97%までの両方でウイルス粒子数を減少させるのに高度に効果的であることが明らかになり(表2)、アゼラスチンが、予防設定でも治療設定でも使用できることを示唆している。予想通り、同時投与のほうが効果的であるが、25μmのアゼラスチン濃度での低いウイルス数は、進行中の感染を予防するだけでなく停止できることを実証している。
【0163】
【表2】
【0164】
実施例3
SARS-CoV-2による再構成されたヒト鼻組織のウイルス感染に対する有効性
ヒト細胞上でSARS-CoV-2に対するアゼラスチン-HClの有効性を確かめるため、再構成ヒト鼻3D組織(MucilAir、in vitroで再構成された3Dヒト気道上皮)にSARS-CoV-2を感染させ、アゼラスチンを含有する市販の鼻腔スプレーで処置した。細胞変性効果は組織の顕微鏡観察により評価し、ウイルス粒子数はドロプレットPCRにより決定した。
【0165】
実験手順:
健康なドナーから作製されたMucilAirヒト鼻組織(Epithelix Sarl(Geneva、Switzerland)、カタログ番号:EP02MP)にSARS-CoV-2(SARS-CoV-2ウイルス、hCoV-19/Hungary/SRC_isolate_2/2020、Accession ID:EPI_ISL_483637)を0.01の感染多重度(MOI)で頂端側に感染させた。5%のCO中37℃での20分間インキュベーション後、ウイルス含有培地を完全に取り除いた。次に、Allergodil鼻腔スプレー(0.1%のアゼラスチン-HCl、Mylan)の5倍希釈(MucilAir培養培地中)溶液を頂端側に20分間添加した(200μlの容積で)。処置に続いて、希釈鼻腔スプレーは細胞の表面から完全に取り除いて、液体-空気界面を提供して24時間インキュベートした。希釈Allergodilでの20分間処置は感染後24時間目および48時間目(hpi)に繰り返した。24、48および72hpi後、細胞の頂端側をMucilAir培養培地で15分間洗浄し、溶液は感染性ウイルス粒子の定量化のために収集した。細胞は、48および72hpiで倒立顕微鏡下で詳しく調べた。
【0166】
全RNAは、Monarch Total RNA Miniprepキット(Promega、カタログ番号:T2010S)を製造業者の説明書に従って使用して、頂端側洗浄液(100μl)から抽出した。実施例2に記載される通りに、ウイルスコピー数定量化には、ドロプレットデジタルPCR技術を適用した(Bio-Rad Laboratories Inc.QX200 Droplet Digital PCR System)。
【0167】
結果:
48および72時間目での組織の顕微鏡分析により、対照細胞(ウイルスも薬物処置もない、細胞の上に大量の黒い物質が見える)と比べて、顕微鏡画像で黒い斑点の完全な欠如として見られる、感染細胞でのムチン産生の減少が明らかにされた(図3)。重要なことに、ムチン産生は、顕微鏡画像で黒い物質の存在により示されるが、5倍希釈のAllergodil処置の存在下ではっきり示されており、負の対照(ウイルスも薬物処置もない)で見られる黒い物質に匹敵する。組織形態では、対照とアゼラスチン処置細胞(ウイルス感染なし)では違いは検出されず、繊毛の動きがすべての組織で検出された。
【0168】
ドロプレットデジタルPCR分析により、効果的なSARS-CoV-2感染および迅速なウイルス複製が確認され、組織挿入物の頂端側コンパートメントにおいて感染後72時間までに1マイクロリットル当たり数千コピーに到達した。毎日20分間使用された5倍希釈鼻腔スプレー(0.02%のアゼラスチン-HCl)は、感染後48時間および72時間までにウイルス粒子数を徹底的に減少させた(>99.9%阻害)(表3)。
【0169】
【表3】
【0170】
実施例4
SARS-CoV-2の懸念される変異株B.1.1.7およびB.1.351に対するアゼラスチンのin vitro効力の実証
SARS-CoV-2変異株ウイルスに対するアゼラスチン-HClの抗ウイルス効果を検出するため、アゼラスチン-HClの非存在または存在下で、ACE2およびTMPRSS2発現Vero(サル腎臓)細胞株に懸念されるB.1.1.7およびB.1.351変異株を感染させ、ウイルス増殖に対する効果を定量的PCRにより評価した。
【0171】
実験手順:
Vero-TMPRSS2/ACE2を用いたSARS-CoV-2感染アッセイ
ヒトセリンプロテアーゼTMPRSS2およびACE2受容体を安定的に過剰発現しているVero細胞(Rieplerら、Comparison of Four SARS-CoV-2 Neutralization Assays.Vaccines(Basel)、2020年;9(1):13頁)を感染前日に96ウェルプレートに10/ウェルで播種した。DMSOに10mMの濃度まで溶解させたアゼラスチン塩酸塩(Sigma-Aldrich、PHR1636-1G、ロット番号LRAC4832)を、2%FBSを含有するダルベッコ改変イーグル培地(Merck、Darmstadt、Germany)で、50μM~0.4μMに及ぶ最終濃度まで希釈した(2倍段階希釈)。細胞の感染に先立って、細胞培養上澄みは吸引され、予防(同時投与)設定では50μlのアゼラスチン-HCl希釈液で、感染後設定では50μlの培地で置き換えられた。それぞれのアゼラスチン濃度について、3通りの測定が実施された。引き続いて、細胞に、B.1.1.7またはB.1.351タイプに属するSARS-CoV-2単離株を0.01のMOIで37℃、30分間感染させた。両方の実験設定では、次に、上澄みは吸引され、50μlの新鮮な培地および50μlの以前使用された同じアゼラスチン濃度で置き換えられ、25μM~0.2μMに及ぶアゼラスチン濃度が得られた。感染48時間後、細胞変性効果が評価され、上澄みは1対1比でDLRバッファー(0.5%のIGEPAL、10mMのTris-HClバッファー中25mMのNaClバッファー、15μlのRiboLock RNase Inhibitor(ThermoScientific、40U/μl、DLRバッファー1ml当たりEO0381)と混合されて、ウイルスRNAを単離した。SARS-CoV-2ゲノムコピーは、E遺伝子特異的プライマー(5’ACA GGT ACG TTA ATA GTT AAT AGC GT3’(配列番号5)および5’ATA TTG CAG CAG TAC GCA CAC A3’(配列番号6))、FAM標識プローブ(FAM-ACA CTA GCC ATC CTT ACT GCG CTT CG-BHQ1(配列番号7))およびiTaqユニバーサルプローブOne-Stepキット(BioRad、カタログ番号1725141)を使用してqPCRにより定量化した。社内製in vitro転写RNA標準(SARS-CoV-2のE遺伝子)を使用してqPCR結果を定量化した。アゼラスチン処置なしのウイルスのみのウェルは100%までセットされ、パーセント阻害は、ウイルスのみのウェルと比べてそれぞれの試料について計算した。
【0172】
結果:
定量的PCR分析により、アゼラスチンが、予防(同時投与)と感染後(曝露後または治療をシミュレートする)投与設定の両方でウイルス粒子数を減らすのに高度に効果的であることが明らかにされた(表4および5ならびに図4)。野生型ウイルスでの結果に類似して、同時投与のほうが多少効果的であるが、12.5μmのアゼラスチン濃度での低いウイルス数(90%を超える阻害)は、進行中の感染を予防するだけでなく停止できることを示している。感染の50%を阻害するのに必要な効果的なアゼラスチン濃度は、設定およびウイルス変異体に応じて4~6.5μMであり、これは野生型ウイルスについて観察されるEC50(~6μM)の範囲である。これは、SARS-CoV-2に対するアゼラスチンの有効性が現れる高リスク突然変異とは無関係であることを示している。
【0173】
【表4】
【0174】
【表5】
【0175】
結論:
これらのデータは、アゼラスチン化合物が、細胞に適用されるとすぐに、SARS-CoV-2変異体B.1.351およびB.1.1.7による感染を直ちに停止することができたことを示唆している。ウイルスは増殖し身体中に広がるためには細胞に侵入する必要があるので、アゼラスチンは、ウイルスがヒト身体の呼吸器の粘膜表面上に感染するちょうどその場所でCOVID-19を予防すると予想される。
【0176】
実施例5
SARS-CoV-2によるCalu-3細胞のウイルス感染を予防する
表面プロテアーゼTMPRSS2を発現する細胞に対するアゼラスチン-HClの抗ウイルス効果を確かめるため、アゼラスチン-HClの非存在下または存在下で、ヒト肺腺癌細胞株、Calu-3にSARS-CoV-2を感染させ、48時間後にウイルス粒子数を測定した。
【0177】
実験手順:
Calu-3(ATCC(登録商標)HTB-55(商標))を96ウェルプレート上に播種した。2日後、細胞が培養密度に到達すると、培養物に新鮮な細胞培養培地(EMEM+10%FBS+1%P/S、1%L-グルタミン、1%非必須アミノ酸)を与えた。アゼラスチン-HCl(Seleckchem カタログ番号S2552、DMSO中に溶解された10mMのストック液)および硫酸ヒドロキシクロロキン(TCI カタログ番号H1306、HO中に溶解され無菌濾過された10mMのストック)は、50および25μMの最終濃度で細胞培養培地に添加された(希釈液は培養培地で調製された)。硫酸ヒドロキシクロロキンはVero E6細胞(TMPRSS2を発現していない)に対して強い抗SARS-CoV-2効果を有するが、Calu-3細胞を含む、表面プロテアーゼTMPRSS2を発現する細胞で試験されるとその効力を著しく失う(Hoffmannら、Nature 2020年、585:588~590頁参照)。
【0178】
ウイルスストックはVero E6細胞での増殖により調製し、感染力価を決定した。ウイルス感染では、SARS-CoV-2ウイルスを、培養培地交換後すぐに(基本的には同時に)MOI 0.01(感染多重度:100細胞につき1ウイルス粒子)で上澄みに添加した。ウイルスと一緒の30分間インキュベーション後、培養培地を取り除き、アゼラスチン-HClまたは硫酸ヒドロキシクロロキンを上記濃度で含有する新鮮な培養培地で置き換えた。感染48時間後、上澄みを収集し、定量的PCR分析のために-80℃で保存した。ウイルスRNAは、Monarch Total RNA Miniprepキット(New England BioLabs、カタログ番号T2010S)を製造業者の説明書に従って用いて、培養上澄み試料から抽出した。手短に言えば、300μlの溶解バッファーを100μlの培養上澄みと混合し、gDNA汚染は専用のカラムで取り除き(DNAは保持する)、RNAを含有する通過画分はRNA結合カラムに注いだ。カラムを洗浄後、RNAはHOで溶出し、試料は分析まで-80℃で保存した。逆転写反応後、DNAは、1-Step RT-ddPCR Advanced Kit for Probes(BioRad ddPCRTM、カタログ番号1864021および1864022、https://www.bio-rad.com/de-at/product/1-step-rt-ddpcr-advanced-kit-for-probes?ID=NTGCRI15)を使用して、RdRp遺伝子由来のF、RおよびP2プライマーで増幅された。
【0179】
【表6】
【0180】
RT-PCR反応の結果は定量化され、ウイルスコピー数/μlとして計算され、感染モック処置(バッファー)細胞(正の対照)で測定されたコピー数と比較された。
同時に、細胞生存は、CellTiter-Glo(登録商標)2.0細胞生存率アッセイ(Promega(商標)カタログ番号G9241)を製造業者の説明書に従って用いて、アゼラスチン-HClまたは硫酸ヒドロキシクロロキンで48時間処置された非感染Calu-3細胞上で測定した。手短に言えば、CellTiter-Glo(登録商標)2.0試薬を、培地の容積に等しい容積で細胞に添加し、室温で10分間インキュベートした。発光シグナルを測定し、非処置の細胞(負の対照)で測定したシグナルと比較した。
【0181】
結果:
定量的PCR分析により、アゼラスチン-HClがヒト肺腺癌細胞でのウイルス粒子数を、50μM濃度で>99%まで、および25μM濃度で90%超減少させるのに高度に効果的であることが明らかになり(図6)、アゼラスチンが、表面プロテアーゼTMPRSS2を発現しSARS-CoV-2感染に最も適切であるヒト呼吸上皮細胞に対してその抗SARS-CoV-2効果を発揮することが確認される。
【0182】
実施例6
呼吸器多核体ウイルス(RSV)によるHEp-2細胞感染を予防し処置する
アゼラスチン-HClの広範な抗ウイルス効果を確かめるため、HEp-2細胞(ATCC CCL-23)に、アゼラスチン-HClの非存在下または存在下でRSVを感染させた。アゼラスチン-HClは3種の設定:予防(アゼラスチン-HCl処置続いて感染)、同時投与(細胞は同時に感染しアゼラスチン-HClで処置される)および治療設定(感染細胞は感染1時間後にアゼラスチン-HClで処置される)において試験した。斑点数およびウイルスゲノムコピー数が決定され、バッファーで処置された細胞と比較された。
【0183】
実験手順:
アゼラスチン-HCl(Sigma カタログ番号PHR1636-1G)は、DMSO中で調製された10mMストックを使用して、抗RSV活性について0.4~25μM濃度範囲で試験された。
【0184】
1×10のHEp-2細胞(ATCC CCL-23)を96ウェルプレートに播種し、10%FCSおよび2mMのL-グルタミンを補充した50μl/ウェルのDMEM培地において、37℃、5%COおよび100%湿度で3時間培養した。3時間後、細胞は接着に到達し、RSV Long株(ATCC VR-26、T.Grunwald、Fraunhofer Institute for Cell Therapy and Immunology、Leipzig、Germanyより寄贈された)をMOI 0.01で感染させた。アゼラスチン-HClを、感染の1時間前に、感染と同時にまたは感染1時間後に細胞に添加した。アゼラスチン-HClストックは、目的の最終濃度まで培養培地(DMEM/10%FCS/2mMのL-グルタミン)で段階希釈した。DMSOは同じように希釈し、溶媒対照として細胞に添加した。200μlの全容積で感染させ処置した細胞は、37℃、5%COおよび100%湿度で48時間インキュベートした。RSV感染プラークは、RSVに対するポリクローナルヤギ抗体(抗RSV Gt X(IgG Frac)、Merck)およびHRPコンジュゲートウサギポリクローナル抗ヤギIgG(Novusbio)を用いて免疫細胞化学染色により判定した。3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC、Sigma)を免疫組織化学での色素源として使用してRSV感染細胞を可視化した。斑点は手作業で数えた。ウイルスゲノムコピー数は、Wilmschenら、(Vaccines、2019年、7:59頁)により以前記載されたプライマーRSV-1(5’-AGA TCA ACT TCT GTC ATC CAG CAA-3’、配列番号18)およびRSV-2(5’-GCA CAT CAT AAT TAG GAG TAT CAA T-3’、配列番号19)を使用してRT-PCRにより決定された。アゼラスチン-HCl処置後に得られたCt値は、溶媒処置細胞のみと比較された。溶媒と比べた処置された試料でのウイルスゲノムコピー数を計算するため、本発明者らは、以下の方程式:1Ct増加は50%少ないコピー数に等しいを使用した。
【0185】
HEp-2細胞に対するアゼラスチン-HClの細胞傷害性は、ウイルス色素ヨウ化プロピジウムを使用してフローサイトメトリーベースのアッセイを用いて判定した。
実験は独立して3~4回実施した。
【0186】
結果:
アゼラスチン-HClは、12.8および25.6μM濃度でHEp-2細胞に対して細胞傷害性を示した(図7)。したがって、アゼラスチン-HClの効果は、6.4μMおよびそれよりも低い濃度で評価した。細胞のRSV感染は、斑点数により決定されるが、3種の設定すべてにおいて溶媒(DMSO)処置対象(図8)と比べて3.2および6.4μM濃度で約50%まで減少し、HEp-2細胞のRSV感染に対するアゼラスチン-HClの強力な予防および治療効果を示唆している。ウイルスゲノムコピー数決定により、6.4μMのアゼラスチン-HCl濃度でのこの効果が確かめられた(表6)。
【0187】
【表7】
【0188】
実施例7
インフルエンザAウイルスH1N1によるMucilAir(商標)の感染を予防する
インフルエンザH1N1感染に対する繰り返し投与アゼラスチン-HCl鼻用スプレー(Pollival、UrsaPharm Arzneimittel)の効果を、気相液相界面で培養された完全に分化したヒト鼻上皮細胞(MucilAir(商標)Pool、Epithelix Sarl-14人の異なる正常な鼻ドナーのプール由来の一次細胞)で試験した。
【0189】
実験手順:
インフルエンザH1N1に対するアゼラスチン-HClの抗ウイルス効果を、Bodaら、(Antiviral Research 156(2018)72~79頁)により記載された通りに試験した。手短に言えば、MucilAir(商標)培養培地でのMucilAir(商標)Poolの頂端洗浄(200μlを10分間)に続いて、鼻用スプレーPollival(登録商標)(Ursapharm Arzneimittel GmbH)からそれ独自の希釈液で希釈した0.02または0.01%濃度での10μlのアゼラスチン-HClを、MucilAir(商標)の頂端側に10分間注いだ。その後、100μlのインフルエンザH1N1(ATCC VR-95)、1ml当たり10ゲノムコピー数のストック由来)は頂端側に適用され3時間インキュベートされた。接種材料は、細胞の頂端側を200μlのMucilAir培養培地(20分インキュベーション)で3回洗浄することにより洗い流された。3回目の洗浄後、同じ濃度のアゼラスチン-HClが細胞の頂端側に10μlの容積で添加され、21時間インキュベートされた。24時、48および72時の時点で、MucilAir(商標)細胞洗浄が繰り返され、その後アゼラスチンは以前と同じように頂端側で置き換えられた。ウイルスコピー数は、それぞれの時点で頂端洗浄物から決定された。基本培地も取り除かれ、500μlの新鮮な培養培地で毎日置き換えられた。鼻腔洗浄物からLDH放出が測定され(96時間目に細胞死を評価するため)、ならびにサイトカインレベル(IL-8およびRANTES)は48時および96時の時点で決定された。すべてのインキュベーションステップは34℃、5%COでおよび100%湿度で実行された。ウイルスコピー数は洗浄された頂端から決定され:このためRNAはQIAamp(登録商標)ウイルスRNAキット(Qiagen)を用いて抽出され、ウイルスRNAは、qTOWER3検出システムを備えたRT-PCR(QuantyTect Probe RT-PCR、Qiagen)により定量化された。Ctデータは、標準曲線に合わせて報告され、ゲノムコピー数/mlとして表された。
【0190】
負の対照として、非感染細胞が含まれた。正の対照として、インフルエンザH1N1に感染しているがバッファーだけで処置された細胞が使用された。アゼラスチン-HClの抗ウイルス効果は、感染細胞の基底外側コンパートメントに添加されたオセルタミビルカルボン酸塩(Carbosynth社、Compton、UK製のオセルタミビル、10μMで)の効果と比較された。化合物は3通り試験された。
【0191】
結果:
両方の濃度でのアゼラスチン-HClを用いたMucilAir(商標)細胞処置により、バッファー処置細胞と比べて、感染後24時間目でのウイルスゲノムコピーは統計的に有意に減少した。ウイルスコピーの減少は、0.02%のアゼラスチン-HClで約1.9log(98.74%低下)および0.01%のアゼラスチン-HClで約0.9log(87.4低下)であった(図9)。
【0192】
さらに、アゼラスチン-HClはMucilAir(商標)のH1N1感染中抗炎症効果を示し;IL-8(図10/A)とRANTES(図10/B)レベルの両方が、感染後2日目および4日目にバッファー対照と比べて有意に低下していた。
【0193】
0.02%濃度のアゼラスチン-HClは非感染細胞でわずかな細胞傷害性(6.5%)を示したが、感染細胞ではまたはもっと低い(0.01%)濃度では細胞傷害性を示さなかった。
【0194】
実施例8
アデノウイルスによるA549細胞の感染を予防し処置する
アゼラスチン-HClの広範な抗ウイルス効果を確かめるため、ヒト肺腺癌細胞(A549)に、アゼラスチン-HClの非存在下または存在下で、アデノウイルスを感染させた。アゼラスチン-HClは同時投与と治療設定の両方で試験した。
【0195】
実験手順:
アゼラスチン-HCl(Sigma カタログ番号PHR1636-1G)は、DMSO中で調製した10mMのストックを使用して、抗アデノウイルス活性について0.78~50μM濃度範囲で試験した。
【0196】
3×10A549細胞(ATCC CCL-185(商標))を、96ウェルプレートの100μlの完全増殖培地(DMEM、高グルコース、GlutaMAX(商標)サプリメント、10%FBS、QUALIFIED、HI 500ML、カタログ番号:10500064、ロット番号:08Q6291Kを有する)に播種し、37℃、5%COおよび100%湿度でインキュベートした。24時間後、25μlの新鮮な培地を、アデノウイルスhAdv5(ATCC VR-5)のMOI 0.01 TCID50と一緒に細胞に添加して感染を開始した。同時投与設定では、感染増殖培地に希釈した25μlのアゼラスチン-HClを感染と同時に細胞に添加した。治療設定では、アゼラスチン-HClを感染の6時間後に細胞に添加した。細胞は、感染の48時間後37℃、5%COおよび100%湿度でインキュベートした。その後、プレートは-80℃で凍結させ、ウイルスは3回の凍結融解サイクルで細胞から放出させた。ウイルス力価は、Adeno-X(商標)Rapid Titerキット(ウェル当たり3回繰り返し、Clontech、Takara Bio、カタログ番号PT3651-2)により製造業者の説明書に従って決定した。
【0197】
非感染A549細胞に対するアゼラスチンの細胞傷害性は、細胞にアデノウイルスを感染させなかっただけで、上に記載されるのと同じプロトコルを使用してCellTiter Gloアッセイ(Promega、USA)を用いて判定した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
【配列表】
2023529025000001.app
【国際調査報告】