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特表2023-529058カオトロピックイオンを含む性能添加剤の使用からなる、活性化剤、減水ポリマーを含む湿式コンクリートまたはモルタル組成物を促進および流動化する方法、ならびに低炭素の代替結合剤組成物におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(54)【発明の名称】カオトロピックイオンを含む性能添加剤の使用からなる、活性化剤、減水ポリマーを含む湿式コンクリートまたはモルタル組成物を促進および流動化する方法、ならびに低炭素の代替結合剤組成物におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230630BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20230630BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230630BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/14 A
C04B22/08 B
C04B22/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562057
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2021059215
(87)【国際公開番号】W WO2021204962
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/060085
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522395978
【氏名又は名称】エコセム マテリアルズ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521328847
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール パリ-サクレー
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】チャウーチ,モエンド
(72)【発明者】
【氏名】フルアン,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】アルファーニ,ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】クルックシャンク,マシュー
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB07
4G112PB09
4G112PB10
4G112PC03
4G112PC04
(57)【要約】
本発明は、(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、(b)少なくとも1つの減水ポリマー、(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、(d)水および、(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および、(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法であって、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)をコンクリートまたは工業用モルタル組成物に添加するステップを含む、方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含む塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水、および
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法であって、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)を前記コンクリートまたはモルタル組成物に添加するステップを含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の前記促進剤(c)に対する乾燥重量比が0.01~3.0の間に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減水ポリマー(b)が、リグノスルホネートポリマー、メラミンスルホネートポリマー、ナフタレンスルホネートポリマー、ポリカルボン酸エーテルポリマー、ポリオキシエチレンホスホネート、ビニルコポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記促進剤(c)の前記コスモトロピックイオンが、炭酸イオン(CO2-)、硫酸イオン(SO 2-)、水酸化物イオン(OH)、クエン酸イオン(C 3-)、リン酸イオン(PO 3-)、リン酸水素イオン(HPO 2-)、リン酸二水素イオン(HPO )、酒石酸イオン(C 2-)、酢酸イオン(CHCOO)、ギ酸イオン(HCOO)、炭酸水素イオン(HCO )、オルトケイ酸イオン(SiO 4-)、メタケイ酸イオン(SiO 2-)、ピロケイ酸イオン(Si 6-)、ポリリン酸イオン、ポリケイ酸イオンおよびチオ硫酸イオン(S 3-)からなる群からの陰イオンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記促進剤(c)の陽イオンが、ナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩(ch)の前記カオトロピックイオンが、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、硝酸イオン(NO )、塩素酸イオン(ClO )、過塩素酸イオン(ClO )、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、グアニジニウムイオン(C(NH )、トリクロロ酢酸イオン(CClCOO)、ジクロロ酢酸イオン(CHClCOO)、クロロ酢酸イオン(CHClCOO)、トリブロモ酢酸イオン(CBrCOO)またはトリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む前記塩(ch)が、チオシアン酸カリウム(KSCN)、硝酸カリウム(KNO)、塩化カリウム(KCl)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、硝酸ナトリウム(NaNO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、塩化カルシウム(CaCl)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、チオシアン酸カルシウム(CaSCN)、塩化バリウム(BaCl)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、塩化グアニジニウム(CHClN)およびチオシアン酸グアニジニウム(CS)からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水硬性結合剤(a)が、普通ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミン酸カルシウムセメント、ビーライトセメント、水硬性石灰、粉砕高炉スラグ、塩基性酸素炉スラグ、取鍋スラグ、超硫酸化セメント、セメントキルンダスト、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記補助セメント材料(e)がフライアッシュ、活性白土、シリカヒューム、塩基性酸素炉スラグ、天然のポゾラン材料、もみ殻灰、活性再生コンクリート細骨材、またはそれらの混合物からなる群から選択され、かつ/または、前記充填剤材料(f)が、粉砕石灰石、粉砕ドロマイト、大理石の粉末、ケイ質砂、再生コンクリート細骨材またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
水、少なくとも結合剤画分および少なくとも1つの骨材画分を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物のための、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)の、少なくとも1つの減水ポリマー(b)との共流動化剤としての使用であって、前記結合剤画分が、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含む塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、使用。
【請求項11】
前記結合剤画分が、水硬性結合剤(a)、補助セメント材料(e)、および充填剤材料(f)の総重量に対する乾燥重量%で、
- 0.001~10の間、好ましくは0.01~5の間、より好ましくは、0.1~3の間の、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む前記塩(ch)、
- 0.005~5.0の間、好ましくは0.01~3.0の間、より好ましくは0.1~2の間の前記減水ポリマー(b)、および
- 0.1~10の間、好ましくは0.5~5の間、より好ましくは1~3の間の前記促進剤(c)
を含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
湿式コンクリートまたはモルタル組成物を調製するプロセスであって、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水、および
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)、および
少なくとも1つの骨材画分
を同時にまたは同時にではなく、別々にまたは別々にではなく、一緒に混合するステップを含む、湿式コンクリートまたはモルタル組成物を調製するプロセス。
【請求項13】
特に建築構造および土木工事に特化した、生コンクリートまたはプレキャストコンクリート組成物であって、少なくとも1つの骨材画分、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)、および、
(g)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(h)少なくとも1つの減水ポリマー、
(i)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(j)水、および
(k)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(l)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、生コンクリートまたはプレキャストコンクリート組成物。
【請求項14】
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水、および
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法であって、
欧州規格EN206に従って、目標とするコンシステンシークラスでの前記湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を得るために、前記コンクリートまたは工業用モルタル組成物に、成分a、c、d、場合によってはe、および場合によってはfを含むが、成分cを含まない、同じ目標とするコンシステンシークラスの湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物(CEC)と比較して、増加しない量で、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)および少なくとも1つの減水ポリマー(b)を添加するステップを含む、方法。
【請求項15】
少なくとも1つの水硬性結合剤(a)、少なくとも1つの減水ポリマー(b)、少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤(c)を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を、促進および流動化するための、遊離水の含有量が0.5重量%未満の性能添加剤であって、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)を含む、性能添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、促進および流動化効果を提供する鉱物結合剤組成物に関する。
より具体的には、本発明は、コスモトロピックイオンを含む少なくとも1つの活性化剤および少なくとも1つの減水ポリマー(water reducing polymer)を含む湿式コンクリートまたはモルタル組成物を、前記湿式コンクリートまたはモルタル組成物を減水ポリマーと共に共流動化するカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩を添加することによって、促進および流動化する方法に関する。
【0002】
本発明はまた、水硬性結合剤、補助セメント材料、および充填剤材料のいくつかの組合せから構成され、コスモトロピックイオンを含む少なくとも1つの活性化剤および少なくとも1つの減水ポリマーを含むコンクリート業界にわたり、良好な新鮮な状態のレオロジーおよび初期硬化状態の機械的特性を提供するための、カオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
普通ポルトランドセメント生産では大量の二酸化炭素の排出が原因で環境に強い悪影響を及ぼすため、補助セメント材料(SCM)、例えば大量の粉砕高炉スラグ(GGBS)を含有するモルタルおよびコンクリートが次第に使用されつつある。セメントの製造では、石灰石の脱炭酸によるキルンでの非常に高い温度(1450℃)での原材料のか焼中に、本質的にCOが発生する(式(1))。
CaCO(s)→CaO(s)+CO(g) (式(1))
さらに、セメントキルンを加熱するために必要な化石燃料の燃焼の結果、二酸化炭素が放出される。粉砕の追加排出量を上乗せすることで、ポルトランドセメント1トンあたりほぼ1トンのCOが得られる。全体的に見て、セメント業界は世界の二酸化炭素排出の約7~9%を占めている。
【0004】
さらに、所望の初期の機械的性質を有するモルタルまたはコンクリートを製造するために、大量のSCMを含有する前記結合剤に促進剤を添加することが一般に必要である。これらの代替結合剤の強度発現を促進するために、活性化剤がしばしば使用される。活性化剤は、SCM含有結合剤の強度発現に有利なアルカリ条件を誘発する化合物である。活性化剤は、最も一般的には陽イオンとしてナトリウムまたはカリウム、および陰イオンとして水酸化物イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、または炭酸イオンを有する化合物である。しかしながら、これらの塩はポルトランドセメントに悪影響を及ぼす可能性がある。WO2019/077389は、遅延剤をセメント組成物に組み込み、他の成分の混合の少なくとも30秒後に促進剤を添加する、この悪影響を回避する方法を開示している。
【0005】
モルタルおよびコンクリートの流動性および施工性を改善するために、可塑剤または流動化剤としても知られる減水ポリマーを添加することが一般的である。
これらの減水ポリマーは、基本的に普通ポルトランドセメントで作製された結合剤を有するモルタルおよびコンクリートに対しては有効であるが、SCMを含有する結合剤を有するモルタルおよびコンクリートの流動性および施工性を改善する効果は低いことが多い。さらに、上記促進剤は、一般に、減水ポリマーの溶解性を低下させ、その効率を低下させるものである。
【0006】
結果として、所与の減水ポリマーは、結合剤またはコンクリート組成に応じて効果が大きくなったり小さくなったりする。
その結果、SCMおよび活性化剤で作製された代替結合剤組成物では、減水ポリマーはその役割を十分に果たすことができず、コンクリートまたはモルタルは予想通りの流動性および施工性を備えない。
【0007】
この問題を克服するために、SCMおよびアルカリ性の活性化剤で作製された代替結合剤組成物用に設計された減水ポリマーを開発する努力がなされてきた。
この解決策は活性化剤で活性化されたすべての結合剤に適用することができるとは限らない。
【0008】
したがって、わずかなパラメータを適応することでSCMおよび活性化剤で作製されたあらゆる種類の代替結合剤組成物に好適となりうる、上記のものとは異なる解決策があれば有益なはずである。
【0009】
この点に関して、本発明は、以下の目的の少なくとも1つを満たすことにより、上記の問題および/またはニーズの少なくとも1つに対処することを目的としている:
-O1- 水硬性結合剤と場合によっては補助セメント材料および/または充填剤材料とのいくつかの組合せを含む結合剤組成物を流動化し、湿式モルタルおよびコンクリートを流動化する方法を提供すること。
-O2- 硬化前の湿潤状態での適切なレオロジーと、硬化後の良好な機械的特性、特に良好な初期強度を、モルタルおよびコンクリートに提供すること。
-O3- 硬化前に湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化し、前記硬化後の強度発現を促進するための効率的なプロセスであって、前記組成が、少なくとも1つの減水ポリマーおよび少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つのアルカリ性の促進剤を含む、プロセスを提供すること。
-O4- SCMで作製され、活性化剤で活性化され、少なくとも1つの一般的な減水ポリマーで流動化された代替結合剤組成物を含む生コンクリートおよびプレキャストコンクリートを提供すること。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法であって、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)をコンクリートまたは工業用モルタル組成物に添加するステップを含む、方法に関する。
【0011】
本発明はまた、水、少なくとも結合剤画分および少なくとも1つの骨材画分を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物のための、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)の、少なくとも1つの減水ポリマー(b)との共流動化剤としての使用であって、結合剤画分が、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含む塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、使用に関する。
【0012】
本発明は、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含む塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および、
(f)場合によっては、1つまたは複数の充填剤材料
を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法であって、
欧州規格EN206に従って、目標とするコンシステンシークラスでの前記湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を得るために、コンクリートまたは工業用モルタル組成物に、成分a、c、d、場合によってはe、および場合によってはfを含むが、成分cを含まない、同じ目標とするコンシステンシークラスの湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物(CEC)と比較して、増加しない量で、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)および少なくとも1つの減水ポリマー(b)を添加するステップを含む、方法にさらに関する。
【0013】
本発明は、少なくとも1つの水硬性結合剤(a)、少なくとも1つの減水ポリマー(b)、少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤(c)を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を、促進および流動化するための、遊離水の含有量が0.5重量%未満の性能添加剤であって、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)を含む、性能添加剤にさらに関する。
【0014】
活性化剤は通常、減水ポリマーと相溶せず、セメント系を流動化する能力を著しく低下させるが、驚くべきことに、本発明者らは、カオトロピックイオン、特にカオトロピック陰イオンを含む塩を添加すると、減水ポリマーの作用を増強できることを発見した。
【0015】
本発明者らのメリットの1つは、水硬性結合剤、特にGGBS、減水ポリマー、ならびに少なくとも1つのアルカリ陽イオンおよび少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する少なくとも1つの塩の形態の促進剤を含む建築材料システムにおいて、促進剤におけるコスモトロピックイオンの有害な効果、ならびにカオトロピックイオンの導入による前記有害な効果の消滅、または少なくとも緩和を明らかにしたことである。
【0016】
本発明の利点の1つは、強力な流動化効果をもたらす方法を提供することである。
もう一つの利点は、オープンタイムの延長である。所望の流動化効果が最初に存在するだけでなく、本方法により、活性化剤および減水ポリマーの存在下で典型的に可能であるよりも長く流動性を存続することができる。
【0017】
一般的な定義
この文書の用語に従って、以下の非限定的な定義を考慮する必要がある。
- 「結合剤」とは、1つまたは複数の水硬性結合剤、および場合によっては、1つまたは複数の補助セメント材料、および場合によっては1つまたは複数の充填剤材料から構成される材料を表す。
- 「水硬性結合剤」(hydraulic binder)とは、水と反応して硬化する材料を表す。ここで、この用語は、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミン酸カルシウムセメント、ビーライトセメント、粉砕高炉スラグ(ground granulated blast furnace slag)、塩基性酸素炉スラグ、取鍋スラグ(ladle slag)、超硫酸化セメント、水硬性石灰、セメントキルンダスト、またはそれらの混合物で作成された純粋な普通ポルトランドセメントおよび標準化セメントを表す。
- 「補助セメント材料」とは、潜在的な水硬性活性またはポゾラン活性によって結合剤の強度に寄与する材料を表す。ここで、この用語は、粉砕高炉スラグ、フライアッシュ、活性白土、シリカヒューム、塩基性酸素炉スラグ、天然のポゾラン材料、もみ殻灰、活性再生コンクリート細骨材またはそれらの混合物を表す。
- 「充填剤材料」とは、結合剤における主要な役割が化学的ではなく物理的なものである材料を表す。充填剤は細孔スペースを占有し、さほどエネルギー集約的でないため、水硬性結合剤および補助セメント材料の代替として使用される。ここで、この用語は、粉砕石灰石、粉砕ドロマイト、大理石の粉末、ケイ質砂、再生コンクリート細骨材、またはそれらの混合物を表す。
- 「スラグ」とは、鉱石の製錬または精製の過程で金属から分離された石質の廃棄物を指す。
- 「GGBS」または「GGBFS」:高炉スラグ、高炉水砕スラグ(GBFS)、高炉水砕スラグ粉末、および高炉スラグ細骨材と同等である粉砕高炉スラグ。
- 「セメント」とは、モルタルまたはコンクリートの作製に使用するために作製される粉末状の物質を意味すると理解されている。それは無機結合剤であり、場合によっては有機化合物を含まないことがある。それには、普通ポルトランドセメント、ポルトランドスラグセメント、ポルトランドシリカヒュームセメント、ポルトランドポゾランセメント、ポルトランドフライアッシュセメント、ポルトランドバーントシェールセメント、ポルトランド石灰石セメント、ポルトランド複合セメント、高炉スラグセメント、超硫酸化セメント、アルミン酸カルシウムセメント、ポゾラニックセメント、および複合セメントが挙げられる。
- 「モルタル」とは、結合剤および砂などの骨材から構成される材料を表す。
- 「コンクリート」とは、結合剤ならびに砂および(細かい)砂利などの骨材から構成される材料を表す。
- 「乾燥重量」とは、(外部からの水または別の溶液を加えることのない)その自然な状態での材料の重量である。
- 「見かけの粘度」は、流体にかかるせん断応力をせん断速度で割った値であり、粘度がせん断速度に依存する非ニュートン流体の粘度を表すために使用され、国際単位系(IS)単位では、見かけの粘度はパスカル秒(Pa.s)で表される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図2】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図3】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図4】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図5】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図6】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図7】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する降伏応力のグラフである。このグラフは、ペースト試料の降伏応力に対する減水ポリマー(b)、コスモトロピック活性化剤(c)、および少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の影響を示している。
図8】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する熱のグラフである。このグラフは、最初の24時間にわたってペースト試料によって生成された熱に対する本発明の影響を示している。熱は、セメント系の水和の発熱性により、このような結合剤の相対的な初期強度を評価するための代用として使用することができる。
図9】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する熱のグラフである。このグラフは、最初の24時間にわたってペースト試料によって生成された熱に対する本発明の影響を示している。熱は、セメント系の水和の発熱性により、このような結合剤の相対的な初期強度を評価するための代用として使用することができる。
図10】湿潤結合剤組成物試料の混合後の時間に対する熱のグラフである。このグラフは、最初の24時間にわたってペースト試料によって生成された熱に対する本発明の影響を示している。熱は、セメント系の水和の発熱性により、このような結合剤の相対的な初期強度を評価するための代用として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法
(a)1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および、
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物を流動化する方法は、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)をコンクリートまたは工業用モルタル組成物に添加するステップを含む。
【0020】
本明細書で使用される、「コスモトロピックイオン」(kosmotropic ion)は、水の構造を増強し、非極性溶媒分子または粒子の溶解度を低下させるイオンである。
より具体的には、本発明の意味において、イオンは、所与の減水ポリマーの水溶性を低下させる場合、コスモトロピックであるとみなされる。実際、イオンの影響は、使用する減水ポリマーに依存する。
【0021】
本明細書で使用される「カオトロピックイオン」(chaotropic ion)は、水の構造を破壊し、非極性溶媒分子または粒子の溶解度を増加させるイオンである。
より具体的には、本発明の意味において、イオンは、所与の減水ポリマーを可溶化できる場合、カオトロピックであるとみなされる。実際、イオンの影響は、使用する減水ポリマーに依存する。
【0022】
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)の共流動化剤としての使用
上述のように、本発明の1つの目的は、硬化前の湿潤状態で適切なレオロジー、および硬化後の良好な機械的性質、特に良好な初期強度を有するコンクリートおよび工業用モルタルを提供することである。この目的を達成するために、本発明は、水、少なくとも結合剤画分、および少なくとも1つの骨材画分を含む湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物のための、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)の、少なくとも1つの減水ポリマー(b)との共流動化剤としての使用であって、結合剤画分が、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、使用にも関する。
【0023】
結合剤画分中の共流動化剤として少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の量は、結合剤画分の他の成分の性質および量に依存する。したがって、結合剤画分の各成分の含有量は、他の結合剤画分との関係で決定される。
【0024】
好ましい実施形態では、結合剤画分は、水硬性結合剤(a)、補助セメント質材料(e)および充填剤材料(f)の総重量に対する乾燥重量%で、
- 0.001~10の間、好ましくは0.01~5の間、より好ましくは、0.1~3の間の、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む前記塩(ch)、
- 0.005~5.0の間、好ましくは0.01~3.0の間、より好ましくは0.1~2の間の前記減水ポリマー(b)、および
- 0.1~10の間、好ましくは0.5~5の間、より好ましくは1~3の間の前記促進剤(c)
を含む。
【0025】
水硬性結合剤(a)
有利には、水硬性結合剤(a)は、普通ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミン酸カルシウムセメント、ビーライトセメント、水硬性石灰、粉砕高炉スラグ、塩基性酸素炉スラグ、取鍋スラグ、超硫酸化セメント、セメントキルンダスト、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
普通ポルトランドセメントおよび標準化セメントには、硬化調整剤として作用する少量の石膏または代替硫酸カルシウムが含まれていることがよくある。しかしながら、石膏は水硬性結合剤に加えられてもよい。
【0027】
減水ポリマー(b)
好ましい実施形態では、減水ポリマー(b)は、リグノスルホネートポリマー、メラミンスルホネートポリマー、ナフタレンスルホネートポリマー、ポリカルボン酸エーテルポリマー、ポリオキシエチレンホスホネート、ビニルコポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
少なくとも1つのコスモトロピック陰イオン(c)を含有する塩の形態の促進剤
コスモトロピックイオンは、一価または多価である場合がある。
【0029】
好ましい実施形態では、促進剤(c)のコスモトロピックイオンは、炭酸イオン(CO2-)、硫酸イオン(SO 2-)、水酸化物イオン(OH)、クエン酸イオン(C 3-)、リン酸イオン(PO 3-)、リン酸水素イオン(HPO 2-)、リン酸二水素イオン(HPO )、酒石酸イオン(C 2-)、酢酸イオン(CHCOO)、ギ酸イオン(HCOO)、炭酸水素イオン(HCO )、オルトケイ酸イオン(SiO 4-)、メタケイ酸イオン(SiO 2-)、ピロケイ酸イオン(Si 6-)、ポリリン酸イオン、ポリケイ酸イオンおよびチオ硫酸イオン(S 3-)からなる群からの陰イオンである。
【0030】
有利には、塩の形態の促進剤(c)の陽イオンは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される。
【0031】
少なくとも1つのカオトロピックイオン(ch)を含む塩
塩(ch)のカオトロピックイオンは、一価または多価の陰イオンまたは陽イオンである場合がある。
【0032】
好ましい実施形態では、塩(ch)のカオトロピックイオンは、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、硝酸イオン(NO )、塩素酸イオン(ClO )、過塩素酸イオン(ClO )、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、グアニジニウムイオン(C(NH )、トリクロロ酢酸イオン(CClCOO)、ジクロロ酢酸イオン(CHClCOO)、クロロ酢酸イオン(CHClCOO)、トリブロモ酢酸イオン(CBrCOO)またはトリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)からなる群から有利に選択される。
【0033】
有利には、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む前記塩(ch)は、チオシアン酸カリウム(KSCN)、硝酸カリウム(KNO)、塩化カリウム(KCl)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、硝酸ナトリウム(NaNO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、塩化カルシウム(CaCl)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、チオシアン酸カルシウム(CaSCN)、塩化バリウム(BaCl)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、塩化グアニジニウム(CHClN)およびチオシアン酸グアニジニウム(CS)からなる群から選択される。
【0034】
塩(ch)/促進剤(c)比
カオトロピックイオンの効率は、促進剤のタイプ、減水ポリマーのタイプ、結果として得られる湿式コンクリートまたは工業用モルタル組成物中の水/結合剤組成物/骨材/砂利間の比のようないくつかの要因に依存する。当業者は、日常的な実験により、最適な活性化剤(c)/塩(ch)/減水ポリマー比を決定することができる。
【0035】
しかしながら、好ましい実施形態では、本発明による方法において、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む塩(ch)の前記促進剤(c)に対する乾燥重量比(the dry weight ratio of salt (ch) including at least one chaotropic ion to said accelerator (c))は、0.01~3.0の間に含まれる。
【0036】
水(d)
好ましい実施形態では、水の水硬性結合剤に対する重量比(d/a)は、0.08~1.0の間、好ましくは0.25~0.9の間に含まれ、より好ましくは、以下の範囲を含む、有利には以下の範囲からなる群から選択される:[0.25;0.35]、[0.35;0.45]、[0.45;0.6]、[0.6;0.9]。
【0037】
補助セメント材料(e)
補助セメント材料(e)は、好ましくは、フライアッシュか焼粘土および非か焼粘土、シリカヒューム、塩基性酸素炉スラグ、天然のポゾラン材料、もみ殻灰、活性再生コンクリート細骨材、またはその混合物からなる群から選択される。
【0038】
充填剤材料(f)
充填剤材料(f)は、粉砕石灰石、粉砕ドロマイト、大理石の粉末、ケイ質砂、再生コンクリート細骨材またはそれらの混合物から成る群から好ましくは選択される。
【0039】
追加の任意の成分
結合剤組成物は、有利には、成分、特に好ましくは以下のリストで選択される機能的添加剤である1つまたはいくつかの他の成分で富化される。
- 保水剤
保水剤は、硬化前に混合水を保持する能力を有する。水は、湿式ペースト配合物に捕捉されているため、接着が改善される。ある程度、水は支持体によって吸収されにくくなる。
【0040】
保水剤は、好ましくは、改質セルロース、改質グアー、改質セルロースエーテルおよび/またはグアールエーテルおよびそれらの混合物を含む、より好ましくは、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
- レオロジー剤
可能なレオロジー剤(「増粘剤」とも呼ばれる)は、好ましくは、粘土、デンプンエーテル、セルロースエーテルおよび/またはガム(例えば、ウェラン、グアー、キサンタン、スクシノグリカン)、改質多糖類、好ましくは中でも改質デンプンエーテル、ポリビニル系アルコール、ポリアクリルアミド、粘土、海泡石、ベントナイト、およびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群から選択され、またより好ましくは粘土、ベントナイト、モンモリロナイトの群において選択される。
- 消泡剤/泡止め剤
可能な消泡剤は、好ましくは、ポリエーテルポリオールおよびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群において選択される。
- 殺生物剤
可能な殺生物剤は、好ましくは、酸化亜鉛のような無機酸化物およびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群において選択される。
- 顔料
可能な顔料は、好ましくは、TiO、酸化鉄およびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群において選択される。
- 難燃剤
可能な難燃剤(または防炎剤)は、組成物の耐火性を高め、かつ/または火炎伝播速度を縮小することを可能にするものであり、好ましくは、
- 鉱物、好ましくは水酸化アルミニウム[Al(OH)、ATH]、水酸化マグネシウムMDH、水菱苦土石、水和物、赤リンおよびホウ素化合物、好ましくはホウ酸塩、
- 有機ハロゲン化合物、好ましくは有機塩化物(organochlorines)、より好ましくはクロレンド酸誘導体および塩素化パラフィンなど;デカブロモジフェニルエーテル(decaBDE)、デカブロモジフェニルエタンなどの有機臭化物(organoburomines)、
- 高分子臭素化化合物、好ましくは臭素化ポリスチレン、臭素化カーボネートオリゴマー(BCO)、臭素化エポキシオリゴマー(BEO)、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)およびヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、
- アンチモン、好ましくは五酸化物およびアンチモン酸ナトリウム(sodium antimonite)、
- 有機リン化合物、好ましくは有機ホスフェート、TPP、RDP、BPADP、トリ-o-クレジルホスフェート、
- ホスホネート、好ましくはDMMPおよびホスフィネート、
- TMCPおよびTDCPのようなクロロホスフェート、
を含む、より好ましくはこれらからなる群において選択される。
- 空気連行剤
空気連行剤(界面活性剤)は、有利には、天然樹脂、硫酸化化合物またはスルホン化化合物、合成洗剤、有機脂肪酸およびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群、好ましくは、リグノスルホン酸塩、脂肪酸の塩基性石けんおよびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群、より好ましくは、スルホン酸オレフィン、ラウリル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物を含む、より好ましくはこれらからなる群において選択される。
- 遅延剤
遅延剤は、有利には、より好ましくは酒石酸およびその塩:ナトリウム塩またはカリウム塩、クエン酸およびその塩:ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)およびそれらの混合物からなる群において選択される。
- 繊維
- 分散粉末
- 湿潤剤
- 高分子樹脂
- 錯化剤
- ポリオールをベースとした乾燥収縮低減剤(drying shrinkage reducing agent)。
【0041】
これらの任意の他の成分の総含有量は、結合剤画分の総重量の0.001重量%~10重量%の間で好ましくは含まれる。
【0042】
骨材画分
骨材は、砂、砂利、砕石、スラグ(非造粒)、再生コンクリートおよびジオシンセティック骨材を含む建設に使用される粒子状物質の大きな範疇で構成される。骨材は、複合材料全体に強度を付加するための補強材として機能する。
【0043】
コンクリートまたは工業用モルタル組成物はまた、例えば石英、石灰石、または粘土およびそれらの混合物に基づく充填剤、ならびにパーライト、ケイソウ土、膨張雲母(バーミキュライト)および発泡砂、およびそれらの混合物などの軽い充填剤を含むことができる。
【0044】
有利には、前記コンクリートまたは工業用モルタル組成物は、骨材とは別に、1つまたはいくつかの成分、特に機能性混和剤、添加物および繊維を含むこともでき、これらは「追加の任意の成分」の部で上述した他の任意成分と同じであってもよい。
【0045】
コンクリートまたは工業用モルタル組成物中のこれらの任意の他の成分の総含有量は、好ましくは、骨材画分の総重量の0.1重量%~10重量%の間に含まれる。
湿式コンクリートまたはモルタル組成物の調製プロセス
本発明はまた、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料、
少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)、および
少なくとも1つの骨材画分
を同時にまたは同時にではなく、別々にまたは別々にではなく、一緒に混合するステップを含む、湿式コンクリートまたはモルタル組成物を調製するプロセスに関する。
【0046】
本開示によれば、「混合」という用語は、混合の任意の形態として理解されなければならない。
好ましい実施形態では、骨材と混合する前に、結合剤の一部および水の少なくとも一部を一緒に混合する。
【0047】
好ましい実施形態では、本プロセスは、0.08~1.0の間、好ましくは0.25~0.9の間に含まれ、より好ましくは、以下の範囲を含む、有利には以下の範囲からなる群から選択される水の水硬性結合剤に対する重量比(d/a)で実施される:[0.25;0.35]、[0.35;0.45]、[0.45;0.6]、[0.6;0.9]。
【0048】
好ましい実施形態では、所与の量の前記少なくとも1つの促進剤(c)について、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む前記塩(ch)および前記少なくとも1つの減水ポリマー(b)の量は、前記混合工程後の必要な期間の間、用途に応じて、好ましくは前記混合工程後少なくとも2時間の間、湿式コンクリートまたはモルタル組成物の流動性の促進および管理の両方に十分である。
【0049】
生コンクリートまたはプレキャストコンクリート組成物
本発明は、特に建築構造および土木工事に特化した、生コンクリート(ready-mix concrete)またはプレキャストコンクリート組成物であって、少なくとも1つの骨材画分、少なくとも1つのカオトロピックイオンを含む少なくとも1つの塩(ch)、および、
(a)少なくとも1つの水硬性結合剤、
(b)少なくとも1つの減水ポリマー、
(c)少なくとも1つのコスモトロピックイオンを含有する塩の形態の少なくとも1つの促進剤、
(d)水および、
(e)場合によっては1つまたは複数の補助セメント材料、および、
(f)場合によっては1つまたは複数の充填剤材料
を含む、生コンクリートまたはプレキャストコンクリート組成物にも関する。
【0050】
本発明は、生コンクリートまたはプレキャストコンクリートに特に有益である。実際、これらのコンクリートの流動性は、工場での製造、配送、最終使用場所での使用を網羅する期間にわたって維持されなければならない。
【実施例
【0051】
降伏応力は、組成物の永久変形の応力閾値であり、その固有の流動性または施工性を特徴づける。
【0052】
降伏応力の時間発展手順
各成分の性質および含有量を、以下の表1に示す。
1. 水硬性結合剤の成分を秤量し、混合カップに加える。総質量は100gである。存在する場合、カオトロピック塩および活性化剤を、100gを超える乾燥した水硬性結合剤に添加する。得られた結合剤組成物を、プロペラブレードを備えたオーバーヘッドスターラー(IKA Eurostar40)を使用して、150RPMで30秒間混合する。
2. 水道水を所望の質量まで秤量し、混合カップに加える。
3. シリンジを使用して、減水ポリマーを所望の質量まで秤量する。
4. 水道水を、結合剤組成物(すなわち水硬性結合剤および塩および/または活性化剤)が入っている混合カップに加える。得られた混合物を、150RPMで30秒間撹拌し、次いで550RPMで90秒間撹拌し、次いで120秒間静置する。
5. 前記120秒後、秤量した減水ポリマーを添加し、湿式組成物を550RPMでさらに60秒間撹拌する。
6. 次いで、湿式組成物を、AR-2000-exレオメーターの試料カップに、カップがいっぱいになるまで注ぐか、またはすくい取る。レオメーターには、そのジオメトリとしてベーン同心円柱が装備されている。そのジオメトリを、測定位置に降ろす。
7. レオメーターにより、ほぼ20℃で結合剤を安定させる。
8. 湿式組成物は、25/sのせん断速度で30秒間混合して気泡を除去し、均一性を確保する。
9. レオメーターのジオメトリは、0.1/sのせん断速度で回転し始める。このせん断速度での応力の測定値を降伏応力とする。
10. せん断速度を0.1/sから50/sに増加させて、対数測定間隔で15の異なるせん断速度で測定を行う。
11. 50/sでの測定終了後、ステップ8と同様に25/sで30秒間結合剤を混合する。
12. 測定はステップ10と同様に行うが、逆に行う(50/sから開始し、0.1/sまで遅くする)。0.1/sでの測定は、ヒステリシスのため、降伏応力として取り入れない。
13.ステップ8~12を、所望するテスト期間をカバーするために必要な回数だけ繰り返す。
【0053】
【表1】
【0054】
図1は、試料CE1、CE2およびE1の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
図2は、試料CE1、CE2およびE2の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
【0055】
図3は、試料CE1、CE2およびE3の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
図4は、試料CE1、CE2およびE4の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
【0056】
図5は、試料CE3、CE4およびE5の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
図6は、試料CE3、CE4およびE6の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
【0057】
図7は、試料CE5、CE6およびE7の混合後の時間に対する降伏応力を表すグラフである。
これらのグラフから分かるように、促進剤(c)およびカオトロピックイオンを含む塩(ch)が存在しない場合、組成CE1およびCE5の降伏応力はほぼ0Paに等しく、組成CE3の降伏応力は約1であり、これらの降伏応力は時間と共に著しく変化しない。そのような低い降伏応力は、結合剤組成物を流動化する減水ポリマーの存在によるものである。
【0058】
反対に、コスモトロピックイオン(CE2、CE4およびCE6)を含む促進剤(c)の添加は、降伏応力を著しく増加させる。促進剤(c)は、著しくサンプルの流動性を低下させ、減水ポリマーの影響は著しく減少する。
【0059】
本発明によるカオトロピックイオン(E1~E7)を含む塩(ch)の添加のおかげで、降伏応力を減少させることが可能である。
【0060】
熱量測定
試料から放出される総熱量は、初期の水和および/または強度発現の代用として作用可能である。
【0061】
各成分の性質および含有量を、上記の表1に記載する。
1. 結合剤の成分を秤量し、混合カップに加える。総質量は50gである。存在する場合、塩および活性化剤を、50gを超える乾燥した水硬性結合剤に添加する。得られた結合剤組成物を、プロペラブレードを備えたオーバーヘッドスターラー(IKA Eurostar40)を使用して、150RPMで30秒間混合する。
2. 水道水を所望の質量まで秤量し、混合カップに加える。
3. シリンジを使用して、減水ポリマーを所望の質量まで秤量する。
4. 水道水を、結合剤組成物(すなわち水硬性結合剤および塩および/または活性化剤)が入っている混合カップに加える。得られた混合物を、150RPMで30秒間撹拌し、次いで550RPMで90秒間撹拌し、次いで120秒間静置する。
5. 前記120秒後、秤量した減水ポリマーを添加し、湿式組成物を550RPMでさらに60秒間撹拌する。
6. およそ5gの湿式組成物を、プラスチックアンプルの中に入れる。質量を記録し、アンプルを密封する。
7. アンプルを、TAM Air等温マイクロ熱量計の測定セル内に置く。
8. 熱量計は、所定の測定期間にわたって湿式組成物試料から生じる熱流を測定する。
【0062】
図8は、試料CE1およびE1の混合後の最初の24時間にわたって単位質量当たりに生じた熱を表すグラフである。
図9は、試料CE1およびE2の混合後の最初の24時間にわたって単位質量当たりに生じた熱を表すグラフである。
【0063】
図10は、試料CE5およびE7の混合後の最初の24時間にわたって単位質量当たりに生じた熱を表すグラフである。
これらのグラフから分かるように、試料E1およびE2によって生成された熱は、試験期間中に試料CE1よりも大きく、試料E7によって生成された熱は、試験期間中に試料CE5よりも大きい。セメント系の水和は発熱プロセスであるため、ペースト試料によって生成される熱の量は、強度発現の代用として作用可能である。したがって、モルタルおよびコンクリート組成物は、本発明のおかげで、より高い初期強度を達成することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】