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特表2023-529081皮膚がんまたは皮膚前がんの予防または処置のための化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(54)【発明の名称】皮膚がんまたは皮膚前がんの予防または処置のための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20230630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230630BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230630BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230630BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P35/00
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P37/06
A61K31/436
A61K9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573177
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 AU2021050582
(87)【国際公開番号】W WO2021248189
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2020901895
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518155122
【氏名又は名称】ユニクエスト ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ダイモック ブライアン ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ハーヴェイ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】コック テリー-アン
(72)【発明者】
【氏名】パウワー レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】ボーモント キンバリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076BB31
4C076CC07
4C076CC27
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA28
4C084MA63
4C084NA05
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB082
4C084ZB261
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA04
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明はとりわけ、皮膚がんまたは皮膚前がんを予防または処置する方法であって、前記方法が、その必要がある対象の皮膚へ有効量の式(I)の化合物またはそのプロドラッグを局所投与する工程を含み、ここで、前記対象に、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている、前記方法に関する。FKBP12へ結合する前記免疫抑制剤はタクロリムスであり得る。本発明はまた、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患を予防または処置する方法に関し、かつ、皮膚がんもしくは皮膚前がん、またはFKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、もしくは疾患の処置における式(I)の化合物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚がんまたは皮膚前がんを予防または処置する方法であって、
前記方法が、その必要がある対象の皮膚へ有効量の式(I):
の化合物またはそのプロドラッグを局所投与する工程を含み、ここで、前記対象に、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている、前記方法。
【請求項2】
式(I)の化合物が化合物1:
である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象の皮膚への局所投与後に式(I)の化合物もそのプロドラッグも血流に実質的に入らない、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記対象がヒトである、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
FKBP12へ結合する前記免疫抑制剤が、FKBP12およびさらなる分子と複合体を形成する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
FKBP12へ結合する前記免疫抑制剤が、タクロリムス、シロリムス、およびエベロリムスからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
FKBP12へ結合する前記免疫抑制剤がタクロリムスである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記対象が臓器移植レシピエントである、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記対象の皮膚への式(I)の化合物の局所投与もそのプロドラッグの局所投与も臓器移植拒絶反応をもたらさない、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記臓器移植レシピエントに、タクロリムスを含む免疫抑制剤の組み合わせが投与されている、請求項8または請求項9記載の方法。
【請求項11】
移植臓器が、肝臓、腎臓、膵臓、心臓、気管、肺、顔面、腸、眼、四肢、角膜、骨、および骨髄からなる群より選択される、請求項8~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
皮膚がんもしくは皮膚前がんのサイズもしくは体積の減少をもたらすか、または皮膚がんもしくは皮膚前がんの根絶もしくは排除をもたらす、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記皮膚がんが皮膚扁平上皮がん(cSCC)である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記皮膚前がんが光線角化症(AK)である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記皮膚前がんが表皮内がんまたはカポジ肉腫である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
式(I)の化合物またはそのプロドラッグが表皮へ投与される、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
式(I)の化合物またはそのプロドラッグを含有するクリーム、軟膏、または膏薬を前記皮膚上へ擦り込むかまたは前記皮膚上でマッサージすることによって、式(I)の化合物またはそのプロドラッグが局所的に投与される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
皮内注射によって式(I)の化合物またはそのプロドラッグが前記皮膚へ局所投与される、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
皮膚がんまたは皮膚前がんの予防または処置における使用のための式(I):
の化合物またはそのプロドラッグであって、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている対象の皮膚へ局所投与される、前記式(I)の化合物またはそのプロドラッグ。
【請求項20】
FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患を予防または処置する方法であって、
前記方法が、その必要がある対象の皮膚へ有効量の式(I):
の化合物またはそのプロドラッグを局所投与する工程を含み、ここで、前記対象に、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている、前記方法。
【請求項21】
前記皮膚の状態、障害、または疾患が、皮膚がん、皮膚前がん、真菌感染症、寄生虫感染症、イースト菌感染症、ウイルス感染症、細菌感染症、炎症性皮膚状態、血管性皮膚状態、および良性皮膚病変からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記皮膚の状態、障害、または疾患が、そう痒症、毛包炎、爪障害、病変または傷、創傷治癒不良、発疹、浮腫、口内炎、脱毛、および多毛症からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はとりわけ、皮膚がん、皮膚前がん、ならびに他の皮膚の状態、疾患、および障害の予防または処置のための、対象の皮膚への化合物の局所投与を含む方法であって、化合物が投与される対象にはまた、免疫抑制薬も投与されている、方法に関する。本発明はまた、化合物の使用、および化合物を含む皮膚への局所投与用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の刊行物が本明細書で参照される場合、この参照は、その刊行物がオーストラリアまたは他の任意の国における当技術分野における共通の一般知識の一部を形成するという承認を構成するものではないことが明確に理解されよう。
【0003】
臓器移植レシピエントは、それらの免疫系がそれらの移植臓器を拒絶するのを予防するために生涯にわたる免疫抑制を必要とする。典型的に、臓器拒絶反応を予防するために、薬物の組み合わせが患者によって服用される。カルシニューリン阻害物質、例えば、タクロリムスおよびシクロスポリンA;抗増殖剤、例えば、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸ナトリウムおよびアザチオプリン;mTOR阻害物質、例えば、シロリムスおよびエベロリムス;ステロイド、例えば、プレドニゾン;ならびに抗体、例えば、バシリキシマブを含む、典型的に組み合わせて服用される様々なクラスの免疫抑制維持薬がある。タクロリムスは、大部分の臓器移植患者において現在使用されている主要な免疫抑制剤であり、ほとんどの場合、他の免疫抑制薬と組み合わせて使用される。
【0004】
免疫系の抑制は、がんの有病率の増加を含む様々な副作用をもたらし得る。全体として、すべてのがんの標準化罹患比(SIR)は、一般集団における年齢適合対照と比較して、臓器移植レシピエントにおいて2~10である。皮膚がんは臓器移植レシピエントにおいて見られる最も一般的な悪性腫瘍であり、特に皮膚扁平上皮がん(cSCC)は、一般集団と比較して臓器移植レシピエントにおいて最大198のSIRを有する。正常集団における他の頻繁に発生するがん - 気管支、前立腺、結腸、直腸および乳房のがんは、臓器移植レシピエントにおいてわずかに増加するだけである。
【0005】
より具体的には、免疫抑制剤を服用する患者は、光線角化症(AK)および皮膚悪性腫瘍(例えば、皮膚扁平上皮がん(cSCC))を発症するリスクが高い。さらに、臓器移植レシピエントにおけるAKは、免疫正常患者よりも侵襲性cSCCに発展する可能性が高い(Heppt et al 2019)。
【0006】
個々のcSCCについての現在の標準治療は凍結手術または切除である。cSCCを除去するために月に最大10回の手術を必要とする長期免疫抑制療法を受けている臓器移植レシピエントの報告があり、毎年120個の原発腫瘍が除去される腎臓移植患者もいる。このような手術は時間がかかり、患者にとってリスクを伴い(例えば、すべてのがんを切除できない)、患者が高齢の場合、手術からの回復がより困難になる可能性がある。さらに、多くのcSCCは、反復切除が困難であり制限されている顔面などの場所にあり、したがって、新しい非外科的治療に対する明確で満たされていない医学的必要性がある。
【0007】
皮膚がん(例えば、cSCC)は典型的に正常な皮膚から様々な前駆体を経て発展する。例えば、がん前駆体には光線角化症(AK)および表皮内がん(IEC)が含まれ得、これらはcSCCに発展し得る。さらに、良性がんは悪性になる可能性がある。免疫抑制患者は、典型的に、cSCCを発症する最初のステップとしてそのようながん前駆体を最初に発症し、これらの疾患の初期段階での治療が望ましい。AKについての現在の治療法には、凍結手術(ただし、これは周囲の皮膚にも損傷を与える)、ならびに5-フルオロウラシルおよびイミキモド(アルダラクリーム)などの局所療法(ただし、これらは低クリアランス率およびかなりの副作用を有し得、このためにそれらの使用は大幅に制限される)が含まれる。局所療法は、特にフィールドキャンサライゼーションのリスクがある臓器移植レシピエントに使用される。しかし、5-フルオロウラシルについてのAKの完全なクリアランス率は11%であり、イミキモドについては27.5~62.1%である(Heppt et al. 2019)。
【0008】
前述の記載は、特に皮膚がんおよび皮膚前がん、特にAKおよびSCCの予防および処置について議論しているが、本発明はこの使用に限定されると見なされるべきではない。
【発明の概要】
【0009】
本発明はとりわけ、免疫抑制患者における皮膚がんまたは皮膚前がんを処置または予防するための方法、または消費者に有用なまたは商業的な選択肢を提供し得る方法を対象としている。
【0010】
前述を考慮して、本発明は、いくつかの形態において、免疫抑制剤での処置から生じ得る、皮膚がん、または他の皮膚(爪もしくは毛髪を含む)の状態、障害、もしくは疾患を処置または予防するための方法に広く存する。
【0011】
第1局面において、本発明は、皮膚がんまたは皮膚前がんを予防または処置する方法であって、方法が、その必要がある対象の皮膚へ有効量の式(I):
の化合物またはそのプロドラッグを局所投与する工程を含み、ここで、対象に、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている、方法を提供する。
【0012】
有利なことに、本出願の発明者らは、驚くべきことに、タクロリムスなどのFKBP12へ結合する免疫抑制剤の使用によって引き起こされる皮膚がんを予防または処置するために、式(I)の化合物を局所投与することができることを見出した。
【0013】
本発明の第1局面の一態様において、皮膚がんは、皮膚悪性腫瘍、例えば、皮膚扁平上皮がん(cSCC)、悪性黒色腫、メルケル細胞がん(MCC)である。皮膚がんは、皮膚悪性腫瘍、例えば、皮膚扁平上皮がん(cSCC)、悪性黒色腫、メルケル細胞がん(MCC)、または基底細胞がん(BCC)であり得る。皮膚前がんは、前がん性皮膚病変であり得る。皮膚がんまたは皮膚前がんの予防は、皮膚フィールドキャンサライゼーション、または皮膚がんもしくは皮膚前がんを発症するリスクのある領域における予防を含み得る。皮膚前がんは、光線角化症(AK)、表皮内がん(IEC、例えばボーエン病)、またはカポジ肉腫などの皮膚悪性腫瘍であり得る。予防または処置される皮膚がんは、悪性または良性のがんであり得る。一態様において、皮膚がんは、特に、皮膚扁平上皮がん(cSCC)である。一態様において、皮膚前がんは光線角化症(AK)である。
【0014】
一態様において、投与される化合物は、式(I)の化合物である。式(I)の化合物はキラル炭素原子を含み、式(I)の化合物は、全ての可能な立体異性体対(すなわち、各キラル炭素原子でのRおよびS立体化学)を含む。式(I)の化合物はまた、2つのC=C二重結合を含み、これらの結合のZまたはE配置は式(I)の化合物において示される通りである。一態様において、式(I)の化合物は、以下に示される化合物1:
である。
【0015】
一態様において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤はタクロリムスである。タクロリムス(FK506)は、その細胞標的(タンパク質FKBP12)へ結合することによって作用し、この複合体は、図1に示されるように、カルシニューリンへ結合してこれを不活性化する。式(I)の化合物はタクロリムスと構造が類似しているが、重要な違いはC-20におけるヒドロキシ基の存在であり、このヒドロキシ基がカルシニューリンへの結合を妨げるという実験的観察と一致する。以下に、種々の環炭素数が示されている化合物1を提供する。
【0016】
化合物1はEP0463690に開示されており、これは、FK506型免疫抑制剤のアンタゴニストとして有用である種々のマクロライドに関する。EP0463690は、タクロリムス(FK506)の広範囲の構造的に類似した類似体を特許請求している。様々な投与経路がこの文書において議論されているが、全身作用を提供すると考えられる非経口または経口投与が好ましい。C57B1/6マウスから採取された脾臓から単離されたTリンパ球を用いる単一のアッセイが、EP0463690において議論されている。化合物の希釈物が1.2 nMの濃度(T細胞増殖を100%阻害する濃度)のタクロリムスと共に培養された。T細胞のトリチウム化チミジン取り込みを50%阻害するために必要な化合物の濃度が決定され、試験化合物は<5 × 10-5 MのED50を有すると報告された。しかし、EP043690は潜在的に高濃度(<5 × 10-5 M)でのT細胞に対する化合物1の効果を議論しているに過ぎず、これは、以下にさらに概説するように本発明の主題とは異なる。
【0017】
さらに、以下に概説するように、皮膚への式(I)の化合物の局所適用を通じて皮膚がんまたは皮膚前がんの処置または予防をもたらすと考えられる生物学的相互作用は、非常に複雑であり、予測することが極めて困難である。以下の議論の多くは、免疫抑制剤としてのタクロリムスの使用に関するものであるが、シロリムス(ラパマイシン)およびエベロリムスの両方もまたFKBP12へ結合することを考慮すると、本発明者らは、これらの免疫抑制剤(およびFKBP12へ結合する他のもの)が使用される場合にも本発明が適用可能であると考える。
【0018】
cSCCの初発変化および進行
臓器移植レシピエントにおける皮膚扁平上皮がん(cSCC)の初発変化および進行の正確な原因は不明であり、臓器移植レシピエントにおけるcSCCの特に高い発生率は予想外であり、免疫抑制だけでは完全に説明することができない。全体として、すべてのがんの標準化罹患比(SIR)は、一般集団における年齢適合対照と比較して、臓器移植レシピエントにおいて2~10である(Villeneuve et al. 2007; Engels et al. 2011; Piselli et al. 2013; Tessari et al. 2013; Krynitz et al. 2013; Ekstroem, Riise, and Tanash 2017; Collett et al. 2010; Vajdic et al. 2006; Cheung et al. 2012; Li et al. 2012; K.-F. Lee et al. 2016)。正常集団における他の頻繁に発生するがん、つまり、気管支、前立腺、結腸、直腸、および乳房のがんは、臓器移植レシピエントにおいてわずかに増加するだけである(Penn 2000)。皮膚がんは臓器移植レシピエントにおいて見られる最も一般的な悪性腫瘍であり、特にcSCCは、一般集団と比較して臓器移植レシピエントにおいて最大198のSIRを有する(Krynitz et al. 2013; Moloney et al. 2006; Rizvi et al. 2017; Tessari et al. 2013)。cSCCへ進行し得る形質転換ケラチノサイトである光線角化症(AK)(Berman and Cockerell 2013)も、一般集団と比較して臓器移植レシピエントにおいて非常に高い有病率を有し、腎臓および肝臓移植患者で有病率は80%を超える(Flohil et al. 2013; Iannacone et al. 2016)。
【0019】
HIV患者または慢性リンパ性白血病(CLL)患者などの他の免疫抑制患者もまたcSCCの中程度に増加した発生率を有するため(Engels 2019)、免疫抑制および免疫監視喪失は、臓器移植レシピエントにおいてcSCC発症に寄与する可能性が高い。しかし、cSCCの発生率は、免疫不全HIV患者(4のSIR(Wheless et al. 2014; Engels 2019))またはCLL患者(2~8のSIR(Levi et al. 1996;Ishdorj et al. 2019))よりも臓器移植レシピエント(最大198のSIR)において遥かに高い。他の免疫抑制障害と比較しての臓器移植レシピエントにおけるcSCCの遥かに高い発生率は、臓器移植レシピエントにおけるcSCCに寄与する、単なる免疫監視の低下以外のメカニズムがあることを示唆している。
【0020】
免疫抑制に加えて、発がん性ウイルス感染(J. Wang et al. 2014)、UV光曝露、皮膚色素沈着(Euvrard, Kanitakis, and Claudy 2003)、およびケラチノサイトに対するタクロリムスの腫瘍形成効果(Ming et al. 2015; Canning et al. 2006; Wu et al. 2010; Lan et al. 2007)は、臓器移植レシピエントにおけるcSCCの発症に相乗的に寄与し得るが、これらの補因子の相互依存および相対的寄与は依然として不明であり、治療選択肢の開発を妨げている(Harwood et al. 2017)。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が臓器移植レシピエントからのSCCの最大90%において見られ、臓器移植レシピエントがcSCCを発症するリスクに寄与し得るが、証拠は決定的ではない(J. Wang et al. 2014; Aldabagh et al. 2013)。異なる補因子の相互依存および相対的寄与は不明であるため、cSCCおよびAKに対する局所タクロリムス拮抗作用の効果を予測することは非常に困難である。さらに、T細胞に対するタクロリムスの効果は可逆的であるが(Laskin et al. 2017)、臓器移植レシピエントにおけるcSCCの複数のドライバーに対するタクロリムスの効果も可逆的であるかどうかは不明である。したがって、局所タクロリムス拮抗作用がAKおよびcSCCの治療法となり得ることは驚くべきことである。
【0021】
タクロリムスは複数の細胞型に対する複雑な腫瘍形成促進効果および抗腫瘍形成効果を有する
タクロリムスは、従来のT細胞に対してだけでなく、他の免疫細胞型および非免疫細胞型に対しても効果を有し、これらはcSCCの発生および進行に対する腫瘍形成促進効果および抗腫瘍形成効果を有し得る。T細胞において、タクロリムスは、T細胞の、IL-2、IL-3、IL-4、TNFα、およびIFNγ産生、活性化、ならびに増殖を阻害することによってその免疫抑制効果を媒介する(Thomson, Bonham, and Zeevi 1995; Sigal and Dumont 1992; Ruzicka, Assmann, and Homey 1999)。制御性T細胞(Treg)に対するタクロリムスの効果は、増殖を誘導することが大抵は報告された(Kogina et al. 2009; Z. Wang et al. 2009)が、しかし、制御性T細胞の増殖を阻害するかまたはこれに影響を与えないことも報告されたため(Calvo-Turrubiartes et al. 2009; Z. Wang et al. 2009)、あまり明確ではなかった。Tregはエフェクター免疫応答を阻害し、したがって腫瘍のクリアランスを阻害する(Bottomley et al. 2019)。したがって、特に制御性T細胞に対するタクロリムスの効果の相反する証拠に照らして、タクロリムス拮抗作用が腫瘍の除去に役立ち得ることは驚くべきことである。
【0022】
タクロリムスによって影響され、腫瘍生物学に関与することが知られている他の免疫細胞には、B細胞(Chung et al. 2014; Traitanon et al. 2015; Glynne et al. 2000)、表皮樹状細胞、およびランゲルハンス細胞(Panhans-Gross et al. 2001; Wollenberg et al. 2001)が含まれる。
【0023】
B細胞において、タクロリムスは、例えば、細胞増殖(Glynne et al. 2000)およびIL-10産生(Chung et al. 2014)を阻害する。B細胞によって産生されるIL-10は、皮膚発がんの腫瘍プロモーターであることが示唆されており(Schioppa et al. 2011)、これは、B細胞におけるIL-10産生を減少させることによるタクロリムスの腫瘍抑制効果(tumour-supressing effect)を示唆し得る。B細胞は主に抗腫瘍効果があると長い間考えられていたが、B細胞の腫瘍促進役割が最近明らかにされた(Sarvaria et al. 2017)。したがって、cSCCにおけるB細胞に対するタクロリムスの効果が腫瘍促進または抑制であるかどうかは不明である。
【0024】
表皮において、タクロリムスは、T細胞に対する表皮樹状細胞およびランゲルハンス細胞の刺激活性を低下させることが示された(Panhans-Gross et al. 2001; Wollenberg et al. 2001)。表皮樹状細胞およびランゲルハンス細胞は、cSCCにおいて腫瘍進行を促進することが示された(Modi et al. 2012; Lewis, Buergler, Fraser, et al. 2015; Lewis, Buergler, Freudzon, et al. 2015; Ravindran et al. 2014)が、しかし、ランゲルハンス細胞は腫瘍成長を減少させることも示された(Ortner et al. 2017)。したがって、表皮樹状細胞およびランゲルハンス細胞に対するタクロリムスの効果が腫瘍促進または抑制であるかどうかは明らかではない。
【0025】
タクロリムスは、腫瘍促進または腫瘍抑制であり得る非免疫細胞型に対しても効果を有する。例えば、タクロリムスはケラチノサイト腫瘍形成を促進することが示唆されたが(Wu et al. 2010)、G0/G1期で細胞周期を停止することによりケラチノサイト増殖を阻害することも示され、これは、ケラチノサイトに対するタクロリムスの抗腫瘍形成効果を示唆している(Karashima et al. 1996)。しかし、他の2つの研究では、タクロリムスはケラチノサイトの増殖に影響を及ぼさないことが示された(Duncan 1994; Kaplan et al. 1995)。タクロリムスは、UV誘発性アポトーシスおよびDNA損傷修復を損なうことも示された(Ming et al. 2015; Canning et al. 2006)。したがって、特にタクロリムスがcSCCにも存在するさまざまな免疫細胞に対して有する腫瘍促進効果および腫瘍抑制効果の文脈において、局所タクロリムス拮抗作用がAKにおけるケラチノサイトに対しておよび臓器移植レシピエントにおけるcSCC細胞に対してどのような効果を有するかは明らかではない。T細胞に対するタクロリムスの効果は可逆的であるが(Laskin et al. 2017)、他の細胞型に対するタクロリムスの腫瘍促進および抑制効果も可逆的であるかどうかは不明である。
【0026】
タクロリムスは、Treg、B細胞、表皮樹状細胞、ケラチノサイト、およびランゲルハンス細胞に対して腫瘍促進効果および腫瘍抑制効果を潜在的に有するため、局所タクロリムス拮抗作用がAKおよびcSCCにどのような効果を有するかは明らかではなかった。
【0027】
腫瘍免疫微小環境の複雑さ
腫瘍免疫微小環境は複雑であり、患者の転帰または免疫療法に対する反応を変える可能性がある。移植関連cSCCは多数の抑制性免疫細胞亜集団を有しており、式(I)の化合物による皮膚への局所処置は言うまでもなく、タクロリムスの拮抗作用がこの免疫抑制性腫瘍微小環境を克服して腫瘍クリアランスを誘導することができるかどうかは不明であった。
【0028】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、多くの異なる亜集団を含む免疫細胞であり、これらのうちのいくつかは腫瘍細胞を直接殺滅することによって腫瘍を除去するのに役立つことができるが、いくつかはまた腫瘍形成を促進することができる。TILの存在は、一般に、がんの陽性転帰と相関している。しかし、特定の亜集団の予後価値については矛盾や論争が残っている(Shang et al. 2015)。腫瘍の種類、腫瘍の病期、存在する特定のTILの位置、種類および密度、ならびにそれらの活性化状態は、予後研究間の不一致のいくつかを説明し得る(Barnes and Amir 2017)。
【0029】
TIL亜集団の違いは、免疫療法が、同じがんを有する異なる個人において失敗または成功する理由を説明し得る(Gnjatic et al. 2017; Binnewies et al. 2018; Badalamenti et al. 2019)。驚くべきことに、一部のがん患者は、チェックポイント阻害物質免疫療法治療後に腫瘍成長の加速(超進行性疾患)に気づくことさえある(Champiat et al. 2017)。制御性T細胞(Treg)の数の増加は、免疫療法の失敗(Taylor et al. 2017)および超進行性疾患(Kamada et al. 2019)に関連付けられた。イミキモドの作用機序についてはほとんど知られていない(Hanna, Abadi, and Abbas 2016)が、免疫微小環境の違いは、一部のAK患者における免疫調節剤イミキモドの初期有効性の欠如、および初期クリアランス後のAK再発の根底にあり得る(P. K. Lee et al. 2005)。
【0030】
免疫正常患者におけるcSCCにおいて、いくつかのTIL亜集団が、抗腫瘍機能および腫瘍促進機能の両方を有することが記載された。CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)は、細胞傷害性顆粒およびサイトカインを介して腫瘍細胞を直接殺滅することができる。CD8+ T細胞は、cSCC動物モデルにおいて抗腫瘍役割を有する(Black et al. 2005; Freeman et al. 2014; Nasti et al. 2011; Yusuf et al. 2008)が、しかし、腫瘍形成促進効果も有し得る(Daniel et al. 2003)。これらの不一致は、腫瘍微小環境におけるCD8+ T細胞の改変された亜集団に起因する可能性がある(Maimela, Liu, and Zhang 2018)。例えば、特定のCD8+ T細胞サブセット(T-pro)は、マウスモデルにおいてcSCC腫瘍促進効果を有することが同定された(Roberts et al. 2007)。さらに、CD4+制御性T細胞(Treg)は、CD8+ T細胞活性を抑制し、cSCCを含む腫瘍においてCD8+ T細胞疲弊に寄与することが公知である[(Lai et al. 2016)およびCrispin and Tsokos 2020でレビューされている]。腫瘍クリアランスのためにCD8+ T細胞が存在するだけでは十分ではなく、CD8+亜集団が存在し、CD8+ T細胞:Tregの比率が重要である。高CD8+ T細胞:Treg比は抗腫瘍反応に有利であり、その逆はcSCCを含む多くのがんにおいて腫瘍成長および転帰不良に有利である(Quezada et al. 2011; Azzimonti et al. 2015)。
【0031】
移植関連cSCCは、免疫適格性cSCCと比較してTIL亜集団を変化させた。移植関連cSCCでは、大多数の研究が免疫適格性cSCCと比較してCD8+:Treg比の低下があることを示している(Strobel et al. 2018; Carroll et al. 2010; Zhang et al. 2013)。抗腫瘍機能が低下した(Crispin and Tsokos 2020)、疲弊したCD8+ T細胞のマーカー(Feldmeyer et al. 2016)が移植cSCCにおいて同定された。さらに、臓器移植レシピエントの末梢血中の老化した(不可逆的な細胞周期停止)、最終分化CD8+ T細胞が、臓器移植レシピエントにおけるcSCCリスクの増加に関連付けられた(Bottomley, Harden, and Wood 2016)。特に、T細胞が疲弊の閾値レベルに達すると、それらはレスキューできないことが示された(Philip et al. 2017)。これは、移植関連cSCC CD8+ T細胞が機能不全であり得、この表現型が可逆的ではない可能性があることを示している。
【0032】
cSCCにおいて記載されるいくつかの他のTIL亜集団がある。CD4+ T細胞は、抗腫瘍反応を促進または阻害することができる(Kim and Cantor 2014)。CD4+ Tregは免疫抑制機能を有することが公知であり、より侵攻性のcSCC腫瘍と関連している(Lai et al. 2016; Kambayashi, Fujimura, and Aiba 2013; Azzimonti et al. 2015)。Th9、Th17、TfhなどのcSCCにおけるCD4+細胞のいくつかの亜集団の具体的な役割についてはほとんど知られていない(Bottomley et al. 2019でレビューされている)。B細胞、樹状細胞、マクロファージ、骨髄由来サプレッサー細胞、ナチュラルキラー、または自然リンパ球系細胞もcSCC生物学に影響を与える可能性がある(Bottomley et al. 2019でレビューされている)。さらに、移植cSCCにおけるこれらのTIL亜集団の役割は知られていない。cSCC生物学におけるTIL亜集団および機能の多様性、ならびにいくつかのTILの未知の機能および移植cSCCにおけるそれらの役割は、腫瘍免疫応答に対するタクロリムス拮抗作用の影響を予測することを困難にする。
【0033】
移植cSCCにおける他の変化には、IFNγ+ CD4+ Th1細胞の減少(Zhang et al. 2013)、抗原提示形質細胞様樹状細胞の減少(Muehleisen et al. 2009)、B細胞の減少(Strobel et al. 2018)、ならびに循環骨髄由来サプレッサー細胞頻度の有意な増加(Hock et al. 2012)が含まれる。さらに、移植患者の腫瘍周囲皮膚における免疫微小環境が異常であることが示唆された(Kosmidis et al. 2010)。これらの変化はまた、潜在的にcSCCの発生または進行に関連し得、これらの変化に対するタクロリムス拮抗作用の効果も知られていない。
【0034】
タクロリムス拮抗作用は、従来のT細胞の増殖および活性化の回復を可能にすることが期待できたが(Laskin et al. 2017)、これが老化または疲弊したCD8+ T細胞を正常な細胞傷害機能に戻すのに十分であるかどうか、または腫瘍クリアランスを可能にするために移植cSCC中に存在する多数のTregの免疫抑制力を克服するのに十分であるかどうかは明らかではなかった。
【0035】
カルシニューリン(タクロリムスの標的)は腫瘍促進機能および腫瘍抑制機能の両方を有する
タクロリムスは、免疫応答中のサイトカイン発現の重要な調節因子である、転写因子、活性化T細胞の核因子(Nuclear factor of activated T-cells)(NFAT)のカルシニューリン媒介活性化を阻害することにより、T細胞活性を阻害する(Ruzicka, Assmann, and Homey 1999)。タクロリムス-FKBP12複合体の標的であるカルシニューリンは、結腸直腸がん(Peuker et al. 2016; Masuo et al. 2009)、乳がん(Jauliac et al. 2002; Tran Quang et al. 2015; Siamakpour-Reihani et al. 2011)、膠芽腫(Brun et al. 2013; Urso et al. 2019; Tie et al. 2013)、リンパ芽球性白血病(Gachet et al. 2013; Medyouf et al. 2007)、黒色腫(Shoshan et al. 2016)、肺転移(Minami et al. 2013)、卵巣がん(Xu et al. 2016)、肝細胞がん(S. Wang et al. 2012)、前立腺がん(Manda et al. 2016)、膵臓がん(Buchholz et al. 2006)および子宮頸がん(Huang et al. 2008)を含む多くの異なるがん種においてよく研究された腫瘍プロモーターである。
【0036】
カルシニューリンは、腫瘍血管新生(Baek et al. 2009; Siamakpour-Reihani et al. 2011)、腫瘍浸潤(Jauliac et al. 2002; Tran Quang et al. 2015; Tie et al. 2013)、転移(Shoshan et al. 2016; Minami et al. 2013)、および腫瘍細胞増殖(Buchholz et al. 2006; S. Wang et al. 2012; Urso et al. 2019)を促進することによって腫瘍を促進する。
【0037】
シクロスポリンAおよびタクロリムスのようなカルシニューリン阻害物質は、腫瘍細胞増殖を減少させ(Masuo et al. 2009; Buchholz et al. 2006; Siamakpour-Reihani et al. 2011)、浸潤を減少させ(Tie et al. 2013)、さらにはアポトーシスおよび腫瘍クリアランスを誘導する(Medyouf et al. 2007)ことが示され、したがって、例えば、乳がん(Siamakpour-Reihani et al. 2011)、膀胱がん(Kawahara et al. 2015)、多形性膠芽腫(Tie et al. 2013)、および白血病(Medyouf et al. 2007)に対する潜在的な治療法として提案された。
【0038】
多くの異なるがんにおけるカルシニューリンの腫瘍促進役割を考慮すると、多くがカルシニューリン阻害物質を服用している臓器移植レシピエントにおけるcSCCの発生率の増加は驚くべきことである。cSCCマウスモデルにおいて、カルシニューリンが腫瘍の発生を抑制することが示された(Wu et al. 2010; 2018; Horsley et al. 2008)が、しかし、その下流の標的NFAT1はcSCCを促進することも示され(Goldstein et al. 2015; Tripathi et al. 2014)、これはカルシニューリンがまたcSCCにおいて腫瘍プロモーターであり得ることを示唆している。
【0039】
カルシニューリンの腫瘍促進効果および腫瘍抑制効果のために、cSCCにおける局所タクロリムス拮抗作用(したがってカルシニューリンの再活性化)の抗腫瘍形成効果は驚くべきことであった。さらに、シクロスポリンA処置マウスからの腫瘍細胞は、シクロスポリンA処置を中止した後でも悪性表現型を保持することが示された(Walsh et al. 2011)。したがって、局所タクロリムス拮抗作用が既に発生したcSCCの進行に影響を与えることができることは驚くべきことであり、カルシニューリンを再活性化するための式(I)の化合物による拮抗作用からのcSCCに対する抗腫瘍形成効果は驚くべきことであった。
【0040】
局所的タクロリムスは腫瘍形成促進性ではない
局所的タクロリムスは腫瘍形成促進性ではないため、皮膚がんの発生率とタクロリムス使用との関連が公知であったとしても、皮膚がんの発生率(特にcSCC)の増加は全身性タクロリムス曝露によって引き起こされるようである。その結果、局所タクロリムス拮抗作用が、臓器移植レシピエントにおけるAKおよびcSCCに対する全身性タクロリムス効果を打ち消し得ることは直感に反する。
【0041】
臓器移植レシピエント患者におけるがん発生の促進におけるタクロリムスの役割を示す証拠にもかかわらず、驚くべきことに、症例対照研究は、局所的カルシニューリン阻害物質(タクロリムスまたはピメクロリムス)が成人におけるcSCCのリスク増加と関連していないことを明らかにした(Margolis, Hoffstad, and Bilker 2007; Naylor et al. 2005)。
【0042】
マウスモデルにおいて、局所的タクロリムス適用は、驚くべきことに、化学的に(TPA+DMBA)誘発された腫瘍形成を80%劇的に減少させたが(Jiang et al. 1993)、別の研究は、局所的タクロリムスは皮膚乳頭腫の数を増加させるが、cSCCは増加させないことを示した(Niwa, Terashima, and Sumi 2003)。
【0043】
マウスにおける104週間の表皮発がん性試験は、皮膚腫瘍と、推奨されるヒト用量(Protopic(登録商標)処方情報)の260倍までの毎日の局所的タクロリムス用量との関連を示さなかった。
【0044】
これは、全身性タクロリムス曝露が臓器移植レシピエントにおいてcSCCを引き起こしていることを示唆しており、したがって、皮膚への式(I)の化合物の局所適用による局所タクロリムス拮抗作用は言うまでもなく、局所タクロリムス拮抗作用が、臓器移植レシピエントにおける皮膚がん(特にAKおよびcSCC)に対する全身性タクロリムス効果を打ち消し得ることは直感に反すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の第1局面のさらなる特徴を以下に議論する。
【0046】
式(I)の化合物は、不斉中心を有し、したがって、2つ以上の立体異性体で存在し得る。したがって、式(I)の化合物は、1つまたは複数の不斉中心において実質的に純粋な異性体であってもよく、それらのラセミ混合物を含む、混合物であってもよい。このような異性体は、キラル試薬、キラル出発物質もしくは中間体(天然物を含む)を用いて、またはキラル分割によって調製することができる。式(I)の化合物は、それに応じてラセミ体であってもよいか、または鏡像体過剰率(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、もしくは99%を超える)またはジアステレオマー過剰率(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、もしくは99%を超える)で投与されてもよい。
【0047】
用語「プロドラッグ」は、その最も広い意味で使用され、インビボで式(I)の化合物へ変換されるそれらの誘導体を包含する。プロドラッグは、式(I)の化合物の官能基のうちの1つまたは複数に対する修飾を含み得る。プロドラッグは、酸性または塩基性塩を形成する可能性を有し得、用語「プロドラッグ」は、プロドラッグの薬学的に許容される塩を含み得る。
【0048】
別の官能基に関連して使用されるようにインビボで変換され得る誘導体は、哺乳動物(例えばヒト)への投与時に記載された官能基へ変換され得る全てのそれらの官能基または誘導体を含む。当業者は、日常的な酵素または動物研究を用いて、基がインビボで別の官能基へ変換され得るかどうかを容易に判定し得る。式(I)の化合物のプロドラッグは、例えば、式(I)の化合物の-OH基のエステルまたはエーテル;特に、置換されていてもよいアルキルエステルまたは置換されていてもよいアルキルエーテル;より特には、置換されていてもよいC1~12アルキルエステルまたは置換されていてもよいC1~12アルキルエーテルを含み得る。このような任意選択の置換基は、例えば、-NH2、-NH-アルキル -N(アルキル)2、-COOH、スルホニル、ニトロ、ハロ、アリール、シクロアルキル、アルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、および-OHのうちの1つまたは複数を含み得る。
【0049】
用語「シクロアルキル」は、飽和または部分的に不飽和の非芳香族環状炭化水素を指す。シクロアルキル環は、指定された数の炭素原子を含んでもよい。例えば、3~8員のシクロアルキル基は、3、4、5、6、7、または8個の炭素原子を含む。シクロアルキル基は、単環式、二環式、または三環式であり得る。適切な場合、シクロアルキル基は、指定された数の炭素原子を有してもよく、例えば、C3~C6シクロアルキルは、3、4、5または6個の炭素原子を有する炭素環式基である。非限定的な例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニルなどを挙げることができる。シクロアルキル基はカルボニル基を含んでもよく、ここで、カルボニル基の炭素が環の一部を形成する。
【0050】
用語「アリール」は、当技術分野において一般的に理解されるように、芳香族炭素環式置換基を指す。アリールという用語は、ヒュッケルの法則に従って、平面状でありかつ4n+2個のπ電子を含む環状置換基に適用されることが理解される。アリール基は、単環式、二環式、または三環式であり得る。アリール基の例としては、フェニルおよびナフチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
用語「複素環式」または「ヘテロシクリル」は、本明細書で使用される場合、N、S、およびOから独立して選択されるヘテロ原子によって1つまたは複数の炭素原子が置き換えられているシクロアルキル基を指す。例えば、各環における1~4個の炭素原子は、N、SおよびOから独立して選択されるヘテロ原子によって置き換えられてもよい。ヘテロシクリル基は、単環式、二環式、または三環式であり得、ここで、少なくとも1つの環はヘテロ原子を含む。ヘテロシクリル基はカルボニル基を含んでもよく、ここで、カルボニル基の炭素が環の一部を形成する。ヘテロシクリル基の環の各々は、例えば、5~7個の原子を含み得る。ヘテロシクリル基の例には、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ピロリジニル、2-ピロリドニル、ピロリニル、ジチオリル、1,3-ジオキサニル、ジオキシニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピラニル、1,4-ジチアン、ピペラジン-2,5-ジオン、およびデカヒドロイソキノリンが含まれる。二環式または三環式ヘテロシクリル基において、環の1つは芳香族であってもよいが、全ての環が芳香族であるわけではない。
【0052】
用語「ヘテロアリール」は、本明細書で使用される場合、各環において最大7原子の単環式、二環式、または三環式環を指し、ここで、全ての環は芳香族であり、少なくとも1つの環は、O、N、およびSからなる群より選択される1~4個のヘテロ原子を含有する。2つ以上の環が存在する場合、環は縮合される。ヘテロアリール基はまたカルボニル基を含んでもよく、ここで、カルボニル基の炭素が環の一部を形成する。カルボニル基を含有するヘテロ原子含有環系の互変異性体については、例えば環がヘテロシクリル環であるかヘテロアリール環であるかを判定する場合に、考慮されなければならない。ヘテロアリールの例としては、チオフェン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、フラン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドール、イソインドール、1H-インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、シンノリン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナジン、チアゾール、イソチアゾール、フェノチアジン、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、およびフェノキサジンが挙げられる。
【0053】
用語「アルキル」は、例えば、1~約12個の炭素原子、好ましくは1~約8個の炭素原子、より好ましくは1~約6個の炭素原子、さらにより好ましくは1~約4個の炭素原子を含む、直鎖状または分枝状のアルキル置換基を指す。好適なアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソアミル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ヘキシル、ヘプチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、2-エチルブチル、3-エチルブチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。参照される炭素数は、炭素骨格および炭素分岐に関するが、しかし、いかなる置換基に属する炭素原子も含まず、例えば、炭素主鎖から分岐したアルコキシ置換基の炭素原子を含まない。
【0054】
本明細書で使用される場合、「ハロ」は、ハロゲン原子、特に、F、ClまたはBr;より特にはFまたはCl;最も特にはFを指す。
【0055】
そのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩は、皮膚への局所投与について毒物学的に安全である塩、例えば、無機または有機塩基および無機または有機酸を含む薬学的に許容される非毒性塩基または酸から調製される塩を含む。薬学的に許容される塩は、アルカリおよびアルカリ土類、アンモニウム、アルミニウム、鉄、アミン、グルコサミン、塩化物、硫酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、ビタレート(bitarate)、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、ナプシル酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、テレフタル酸塩、パルモエート(palmoate)、ピペラジン、ペクチン酸塩およびS-メチルメチオニン塩などを含む群より選択することができる。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「処置」(または「処置する」)および「予防」(または「予防する」)は、それらの最も広い文脈において考慮されるべきである。例えば、用語「処置」は、患者が完全に回復するまで処置されることを必ずしも暗示するわけではない。用語「処置」は、疾患、障害、もしくは状態の症状の改善、または疾患、障害、もしくは状態の重症度の低下を含む。同様に、「予防」は、対象が疾患、障害、または状態にかかることは決してないことを必ずしも暗示するわけではない。「予防」は、疾患、障害もしくは状態の発症の可能性を低下させること、または疾患、障害、もしくは状態を発症するリスクを予防するかもしくはそうでなければ低下させることとみなされ得る。例えば、皮膚がんおよび皮膚前がんの文脈における「予防」は、皮膚がんまたは皮膚前がんを発症するリスクを減少させることを含み得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「対象」または「個体」または「患者」は、治療が望まれる任意の対象、特に脊椎動物対象、さらにより特には哺乳動物対象を指し得る。好適な脊椎動物としては、霊長類、鳥類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、実験室試験動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、伴侶動物(例えば、ネコ、イヌ)および捕獲野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい対象はヒトである。
【0058】
FKBP12へ結合する免疫抑制剤は、FKBP12およびさらなる分子(例えば、カルシニューリンまたはmTOR)と複合体を形成し得る。タクロリムスは、FKBP12およびカルシニューリンと複合体を形成する。シロリムスおよびエベロリムスは、FKBP12およびmTORと複合体を形成する。FKBP12へ結合する免疫抑制剤は、タクロリムス、シロリムスまたはエベロリムス、特にタクロリムスであり得る。別の態様において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤は、タクロリムス、エベロリムス、シロリムス(ラパマイシン)、テムシロリムスまたはゾタロリムス;特にタクロリムスまたはシロリムス;より特にはタクロリムスである。式(I)の化合物は、FKBP12と複合体を形成することによってタクロリムスを阻害するタクロリムスアンタゴニストであるため、本発明者らは、式(I)の化合物が、同様に、シロリムスおよびエベロリムスなどの他のFKBP12結合性免疫抑制剤のアンタゴニストとして作用することができると考える。
【0059】
対象は臓器移植レシピエントであり得る。対象へ投与される唯一の免疫抑制剤が、FKBP12へ結合する免疫抑制剤(特にタクロリムス)であり得る。対象には、FKBP12へ結合する免疫抑制剤(特にタクロリムス)を含む免疫抑制剤の組み合わせが投与されていてもよい。例示的な免疫抑制剤は、カルシニューリン阻害物質、例えば、シクロスポリンAおよびタクロリムス;抗増殖剤、例えば、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸ナトリウムおよびアザチオプリン;mTOR阻害物質、例えば、シロリムス;ステロイド、例えば、プレドニゾンもしくはプレドニゾロン;ならびに/または抗体、例えば、バシリキシマブを含み得る。移植臓器は、肝臓、腎臓、膵臓、心臓、肺、気管、腸、眼、角膜、顔面、四肢(例えば、腕、脚、足および手)、骨、ならびに骨髄からなる群より選択され得る。FKBP12へ結合する免疫抑制剤は、対象へ全身投与され得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、所望の応答を少なくとも部分的に達成するために、または処置される疾患、障害、もしくは状態の症状の発生を予防するために、または症状の悪化の停止をもたらすために、または症状を処置および緩和するかもしくは少なくともその重症度を低下させるために十分な量の式(I)の化合物またはそのプロドラッグの投与を指す。量は、化合物が投与される個体の健康状態および身体状態、化合物が投与される個体の分類群、望まれる処置/予防の程度、組成物の処方、および医学的状況の評価などの要因に応じて変動し得る。「有効量」は、日常的な試験で決定できる広い範囲内に入ることが期待される。ヒト患者に関する有効量は、例えば、1投薬当たり皮膚1cm2当たり約0.1 ng~皮膚1cm2当たり1 gの範囲内、または1投薬当たり皮膚1cm2当たり約1 ng~100 mgの範囲内、または1投薬当たり皮膚1cm2当たり約100 ng~10 mgの範囲内にあり得る。投与計画は、最適な治療応答を提供するように調整され得る。例えば、数回の用量を毎日、週2回もしくは毎週、または他の好適な時間間隔で投与してもよいか、または状況によって示されるように用量を比例的に減少させてもよい。投与量などの決定は、患者のケアを担当する医師または獣医師の技能の範囲内である。
【0061】
一態様において、第1局面の方法は、皮膚がんまたは皮膚前がんのサイズまたは体積を減少させることによって皮膚がんを予防または処置するか、または皮膚がんまたは皮膚前がんを根絶または排除する。別の態様において、第1局面の方法は、皮膚がんまたは皮膚前がんが成長するのを防ぐことによって、または皮膚前がんの場合には皮膚がんに発展するのを防ぐことによって、皮膚がんを予防または処置する。
【0062】
第1局面において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは皮膚へ局所投与される。式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)はニートケミカルとして投与され得るが、それはまた、少なくとも1つの担体または賦形剤を含む薬学的組成物の一部として投与され得る。一態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは表皮へ投与される。
【0063】
前記薬学的組成物および担体または賦形剤の性質は、処置される疾患、障害、または状態ならびに患者の性質に依存する。特定の担体、賦形剤または送達システム、および投与経路の選択は、当業者によって容易に決定することができ、当業者は好適な製剤を調製することができるであろう。薬学的組成物は、採用される意図された投与量範囲に見合った任意の好適な有効量の活性物質を含み得る。
【0064】
前記薬学的組成物は、固体、液体またはペースト;特に、液体またはペーストの形態であり得る。例示的な液体またはペーストには、溶液、懸濁液、シロップ、エマルジョン、コロイド、エリキシル剤、クリーム、ゲルおよびフォームが含まれる。薬学的組成物は、ローションまたは軟膏であり得る。一態様において、軟膏は、少なくとも80:20の油:水の比率を有する。一態様において、ローションは、50:50未満の油:水の比率を有する。
【0065】
式(I)の化合物は対象の皮膚へ局所的に投与され得る。一態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグを含有するクリーム、軟膏、または膏薬(またはローション)を皮膚上へ配置するか、皮膚上へ擦り込むか、または皮膚上でマッサージすることによって、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは局所的に投与される。別の態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは、包帯、ガーゼまたは接着剤(adhesive)(または同様のもの)上に分散されるかまたはその中に埋め込まれ、皮膚上に配置され得る。別の態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは、皮内注射によって皮膚へ、特に皮膚がんまたは皮膚前がん中へ、局所投与される。
【0066】
前記薬学的に許容される担体または賦形剤は、組成物中の他の成分と適合性でありかつ患者に有害ではないという意味で、許容されなければならない。薬学的に許容される担体または賦形剤は、固体または液体のいずれであってもよい。担体または賦形剤は、希釈剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、可溶化剤、滑沢剤、懸濁化剤、結合剤、保存剤または封入材料として作用し得る。好適な担体および賦形剤は当業者に公知であろう。緩衝剤に関して、水性組成物は、組成物を生理的pH近くに、または少なくとも約pH 6.0~9.0の範囲内で維持するために緩衝剤を含み得る。
【0067】
前記薬学的組成物が粉末である場合、活性物質(式(I)の化合物またはそのプロドラッグ)および担体または賦形剤は両方とも、一緒に混合されている微粉であり得る。
【0068】
液体形態調製物は、例えば、水、生理食塩水、水-デキストロース、水-プロピレングリコール、石油、または油(動物、植物 鉱物または合成油を含む)溶液を含み得る。
【0069】
液体薬学的組成物は単位用量形態で製剤化することができる。例えば、組成物は、アンプル、プレフィルドシリンジ、小容量注入または複数回投与容器で提供され得る。このような組成物は、保存剤を含んでもよい。組成物はまた、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤を含み得る。組成物はまた、使用前に好適なビヒクル(例えば滅菌水)で構成するための粉末形態であってもよい。液体担体および賦形剤は、着色剤、香料、安定剤、緩衝剤、人工および天然甘味料、分散剤、増粘剤、溶解補助剤、懸濁化剤などを含み得る。
【0070】
表皮への局所投与のために、化合物は、軟膏、クリームもしくはローションとして、または経皮パッチとして製剤化することができる。
【0071】
前記薬学的組成物は単位剤形であり得る。このような形態では、薬学的組成物は、適量の活性物質を含有する単位用量として調製され得る。単位剤形は、パッケージ化された調製物であってよく、パッケージは別個の量の調製物を含有する。
【0072】
式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)はさらなる活性物質と共に投与され得る。例えば、表皮へ投与するための式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)は、保湿剤またはUV保護剤と共に投与されてもよい。
【0073】
一態様において、式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)の10%未満(特に、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%未満)が、対象の皮膚への局所投与後に真皮を越えて浸透する。別の態様において、式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)が、対象の皮膚への局所投与後に真皮を越えて実質的に浸透しない(特に、浸透しない)。さらなる態様において、式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)の10%未満(特に、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%未満)が、対象の皮膚への局所投与後に血流に入る。別の態様において、式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)が、対象の皮膚への局所投与後に血流に実質的に入らない(特に、入らない)。
【0074】
一態様において、対象が臓器移植レシピエントである場合、対象の皮膚への式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)の局所投与は、臓器移植拒絶反応をもたらしてはならない。
【0075】
別の態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグの局所投与は、対象において全身作用をもたらしてはならない。
【0076】
一態様において、対象の皮膚への投与は、対象の皮膚の表面への投与、特に対象の表皮への投与である。
【0077】
第2局面において、本発明は、皮膚がんまたは皮膚前がんを予防または処置するための医薬の製造における式(I):
の化合物またはそのプロドラッグの使用であって、医薬が、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている対象の皮膚へ局所投与される、使用を提供する。
【0078】
第3局面において、本発明は、皮膚がんまたは皮膚前がんの予防または処置における使用のための式(I):
の化合物またはそのプロドラッグであって、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている対象の皮膚へ局所投与される、式(I)の化合物またはそのプロドラッグを提供する。
【0079】
本発明の第2および第3局面の特徴は、本発明の第1局面について記載される通りであり得る。
【0080】
第4局面において、本発明は、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患を予防または処置する方法であって、方法が、その必要がある対象の皮膚へ有効量の式(I):
の化合物またはそのプロドラッグ
を局所投与する工程を含み、ここで、対象に、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている、方法を提供する。
【0081】
第5局面において、本発明は、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患の予防または処置のための医薬の製造における式(I):
の化合物またはそのプロドラッグの使用であって、医薬が、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている対象の皮膚へ局所投与される、使用を提供する。
【0082】
第6局面において、本発明は、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患の予防または処置における使用のための式(I):
の化合物またはそのプロドラッグであって、FKBP12へ結合する免疫抑制剤が投与されている対象の皮膚へ局所投与される、式(I)の化合物またはそのプロドラッグを提供する。
【0083】
本発明の第4~第6局面の特徴は、本発明の第1~第3局面について記載される通りであり得る。
【0084】
本発明の第4~第6局面の一態様において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤は、タクロリムスである。本発明の第4~第6局の一態様において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患は、皮膚がんまたは皮膚前がん(上記で概説した通り)である。別の局面において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患は、免疫抑制(特に、タクロリム媒介免疫抑制、またはシロリムス(ラパマイシン)媒介免疫抑制)によって引き起こされる皮膚の状態、障害、または疾患である。皮膚の状態、障害、または疾患は、傷(開放創を含む)、病変、発疹、潰瘍、いぼ、炎症、感染症など;特に、傷(開放創を含む)、病変、発疹、潰瘍、いぼ、炎症などを含み得る。
【0085】
対象は、抑制された免疫系、または皮膚内の細胞に対するFKBP12へ結合する免疫抑制剤の他の直接的な効果を有する結果として、皮膚の状態、障害、または疾患を有し得る。一態様において、皮膚の状態、障害、または疾患は、毛髪または爪の状態、障害、または疾患であり得る。皮膚の状態、障害、または疾患は、表皮、真皮、皮下組織、または粘膜(口腔、鼻、胃腸、陰茎、膣、および結膜組織を含む)に関連している場合がある。皮膚の状態、障害、または疾患は、毛包、または爪に関連する皮膚(爪床を含む)に関連している場合がある。対象は、抑制された免疫系、または皮膚内の細胞に対するFKBP12へ結合する免疫抑制剤の他の直接的な効果を有する結果として、皮膚の状態、障害、または疾患を有し得る。このような皮膚の状態、障害、または疾患は、皮膚感染症(例えば、真菌、寄生虫、酵母菌、ウイルスまたは細菌感染症)を含み得る。式(I)の化合物(またはそのプロドラッグ)による皮膚への局所処置(特に局所的処置)は、皮膚における免疫機能を回復させ、状態、障害、または疾患の処置をもたらし得る。
【0086】
皮膚の状態、障害、または疾患は、皮膚がん(cSCCなどの悪性皮膚がんを含む)、皮膚前がん、真菌感染症、寄生虫感染症、イースト菌感染症、ウイルス感染症、細菌感染症、炎症性皮膚状態(皮膚炎、にきび、および酒さを含む)、血管性皮膚状態(潰瘍および壊疽を含む)、ならびに良性皮膚病変(HPV関連いぼおよび光線角化症を含む)からなる群より選択され得る。一態様において、皮膚の状態、障害、または疾患は、皮膚がん(cSCCなどの悪性皮膚がんを含む)、皮膚前がん(光線角化症(AK)を含む)、表皮内がん(IEC、例えばボーエン病)またはカポジ肉腫)、真菌感染症、寄生虫感染症、イースト菌感染症、ウイルス感染症(いぼ(伝染性軟属腫を含む)、およびヘルペスウイルス(難治性ヘルペスウイルスを含む)、細菌感染症、炎症性皮膚状態(皮膚炎(例えばざ瘡様皮膚炎)、にきび、および酒さを含む)、血管性皮膚状態(潰瘍および壊疽を含む)、そう痒症(かゆみ)、毛包炎、爪障害(爪甲剥離症、壊れやすい爪または隆起した爪を含む)、病変または傷(潰瘍(口腔潰瘍を含む)、良性皮膚病変(HPV関連いぼおよび光線角化症を含む)を含む)、創傷治癒不良(または遅い創傷治癒)、発疹(斑状丘疹状皮疹などの皮疹を含む)、浮腫(血管浮腫を含む)、口内炎、脱毛、および多毛症からなる群より選択され得る。一態様において、皮膚の状態、障害、または疾患は、そう痒症、毛包炎、爪障害、病変または傷、創傷治癒不良、発疹、浮腫、口内炎、脱毛、および多毛症からなる群より選択される。一態様において、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患は、FKBP12へ結合する免疫抑制剤の全身投与に関連する皮膚の状態、障害、または疾患である。
【0087】
本発明の第4~第6局面の一態様において、式(I)の化合物は、対象の皮膚へ(または対象の皮膚、爪もしくは毛髪へ)、特に皮膚へ、局所的に投与され得る。一態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグを含有するクリーム、軟膏、または膏薬を皮膚上へ(または皮膚、爪、もしくは毛髪上へ)配置するか、皮膚上へ(または皮膚、爪、もしくは毛髪上へ)擦り込むか、または、皮膚上で(または皮膚、爪、もしくは毛髪上で)マッサージすることによって、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは局所的に投与される。別の態様において、式(I)の化合物またはそのプロドラッグは、包帯、ガーゼまたは接着剤(または同様のもの)上に分散されるかまたはその中に埋め込まれ、皮膚(または皮膚もしくは爪)上に配置され得る。一態様において、対象の皮膚への投与は、対象の皮膚の表面への投与、特に、対象の表皮への投与である。別の態様において、対象の皮膚への投与は、対象の爪への投与である(式(I)の化合物は、爪を通過して下にある皮膚へ移動し得る)。
【0088】
第7局面において、本発明は、有効量の式(I):
の化合物またはそのプロドラッグを含む皮膚への局所投与用の薬学的組成物を提供する。
【0089】
第7局面の一態様において、組成物は、FKBP12へ結合する免疫抑制剤、特にタクロリムスが投与されている対象への投与用であり得る。組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤をさらに含み得る。組成物は、皮膚(または爪)、特に表皮への投与用であり得る。
【0090】
本発明の第7局面の特徴は、第1~第6局面について記載される通りであり得る。本発明の第2および第5局面の医薬は、上記に記載される薬学的組成物であり得る。
【0091】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるであろうものと同じ意味を有する。
【0092】
本明細書全体を通して「一態様」または「態様」への言及は、態様に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも1つの態様に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所における「一態様において」または「態様において」という句の出現は、必ずしも全てが同じ態様を指しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の組み合わせにおいて任意の好適な様式で組み合わされ得る。
【0093】
本明細書および特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprise)」を包含するその派生語は、記載された整数の各々を包含するが、1つまたは複数のさらなる整数の包含を排除するものではない。
【0094】
本明細書に記載される特徴のいずれも、本発明の範囲内で本明細書に記載される他の特徴のうちのいずれか1つまたは複数と任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
本発明の実施例を、次に、添付の図を参照して例として説明する。
図1】その細胞標的(タンパク質FKBP12)およびカルシニューリンへのタクロリムス(FK506)結合の図である。
図2】時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)アッセイ結果を示す。図2Aは、FKBP12酵素へ結合するタクロリムス(FK506)についての時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)アッセイの結果を示す。図2Bは、タクロリムスと同じ濃度範囲におけるFKBP12酵素へ強力に結合する化合物1についての時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)アッセイの結果を示す;データはN=2を代表する。
図3】マウスT細胞増殖アッセイの結果を示す。図3Aは、タクロリムスの存在下での化合物1(Cmpd 1)によるCD8+ T細胞増殖の用量依存的レスキューを示す。図3Bは、タクロリムスの非存在下で化合物1(Cmpd 1)がCD8+ T細胞増殖に対して有意な効果を有さなかったことを示す。図3Cは、タクロリムスの非存在下で化合物1(Cpmd 1)がCD8+ T細胞生存率に対して有意な効果を有さなかったことを示す。
図4】ヒトT細胞増殖アッセイの結果を示す。図4Aは、タクロリムスおよび化合物1(Cmpd 1)有りのヒトT細胞の増殖を示す。図4Bは、化合物1(Cmpd 1)のみ有りのヒトT細胞の増殖を示す。
図5】ヒトT細胞増殖アッセイの結果を示す。図5Aは、ラパマイシンおよび化合物1(Cmpd 1)有りのヒトT細胞の増殖を示す。図5Bは、シクロスポリンAおよび化合物1(Cmpd 1)有りのヒトT細胞の増殖を示す。
図6】マウスcSCC腫瘍モデルからの結果を示す。図6Aは、ビヒクル対照と比較してのタクロリムス依存性腫瘍成長に対する化合物1(Cmpd 1)の効果を示す。図6Bは、マウス腫瘍からのタクロリムス抑制CD8 T細胞の活性化に対する化合物1(Cmpd1)の効果を示す。図6Cおよび6Dは、マウス腫瘍からのタクロリムス抑制CD8 T細胞によるインターフェロンγまたはTNFαサイトカイン産生に対する化合物1(Cmpd 1)の効果を示す。
図7】マウス腫瘍モデルからの結果を示す。図7Aは、アイソタイプ対照と比較してのCD8b抗体でのCD8 T細胞枯渇後のタクロリムス依存性腫瘍成長に対する化合物1(Cmpd 1)の効果を示し、これは、化合物1の抗腫瘍効果がCD8 T細胞を介したものであることを示唆している。
図8】マウス紡錘細胞肉腫腫瘍モデル(カポジ肉腫)からの結果を示す。図8Aは、ビヒクル対照と比較してのタクロリムス依存性腫瘍成長に対する化合物1(Cmpd 1)の効果を示す。図8Bおよび8Cは、マウス腫瘍からのタクロリムス抑制CD8 T細胞によるインターフェロンγまたはTNFαサイトカイン産生に対する化合物1(Cmpd 1)の効果を示す。
【実施例
【0096】
本発明の好ましい特徴、態様、および変形は、当業者が本発明を実施するのに十分な情報を提供する以下の実施例から識別され得る。以下の実施例は、決して前述の発明の概要の範囲を限定するとみなされるべきではない。
【0097】
実施例
本発明の実施例を、次に、図1~8を参照して説明する。
【0098】
実施例1:17-エチル-1,14,20-トリヒドロキシ-12-[2’-(4’’-ヒドロキシ-3’’-メトキシシクロヘキシル)-1’-メチルビニル]-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ-[22.3.1.04,9]オクタコサ-18-エン-2,3,10,16-テトラオン(化合物1)の合成
反応は5つの並列バッチとして実施し、精製のために合わせた。酢酸(32 mL)および水(32 mL)の混合物中の17-エチル-1,14-ジヒドロキシ-12-[2’-(4’’-ヒドロキシ-3’’-メトキシシクロヘキシル)-1’-メチルビニル]-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ-[22.3.1.04,9]オクタコサ-18-エン-2,3,10,16-テトラオン(2.0 g, 2.5 mmol)(アスコマイシン、Angene Chemicalから購入)の撹拌溶液へ、二酸化セレン(0.42 g, 3.79 mmol)を周囲温度で添加した。反応混合物を16時間撹拌し、次いでさらなる部分の二酸化セレン(0.42 g, 3.79 mmol)を添加し、撹拌を24時間継続した。反応混合物を、飽和炭酸水素ナトリウム溶液の添加によって中和し、次いで酢酸エチルによって抽出した。合わせた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール)、次いで逆相カラムクロマトグラフィー(C18 80 gカラム、PrepChrom C-700精製システム、水/アセトニトリル中0.1%ギ酸)によって精製し、17-エチル-1,14,20-トリヒドロキシ-12-[2’-(4’’-ヒドロキシ-3’’-メトキシシクロヘキシル)-1’-メチルビニル]-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ-[22.3.1.04,9]オクタコサ-18-エン-2,3,10,16-テトラオン(3.1 g、5つの合わせた並列反応について収率30.4%)が白色固体として得られた。以下の条件を用いて材料の一部を分取HPLCによってさらに精製した:Shimadzu UFLC XR、カラム: Xterra Prep MS C18 OBD, 19 × 150 mm, 10ミクロン、カラム温度: 周囲温度、移動相A : H2O+0.05%ギ酸、移動相B : アセトニトリル、流量: 15 mL/分, 移動相勾配詳細: T = 0分(95% A, 5% B); T = 1分(95% A, 5% B); T = 9分(50% A, 50% B); T = 13.5分(50% A, 50% B); T = 13.6分(5% A, 95% B)、分析時間15.5分。
1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d) (選択されたシグナル) δ 5.64 (br d, J = 9.0 Hz, 1H), 4.11 (br d, J = 3.9 Hz, 1H)。
LCMS: Rt = 2.76分, [M+Na]+ = 830, [M+NH4]+ = 825, [M+H]+ = 808。以下の条件を用いて試料を分析した:Shimadzu LCMS-2020 Nexera UHPLC、カラム: Xterra MS-C18, 2.1 × 50 mm, 3.5ミクロン、カラム温度: 40℃, 移動相A : H2O+0.05%ギ酸、移動相B : アセトニトリル、移動相勾配詳細: T = 0分(95% A, 5% B); T = 0.3分(95% A, 5% B); T = 3分への勾配(5% A, 95% B); T = 4分で実行終了(5% A, 95% B)、流量: 0.5 mL/分、分析時間5.5分。
【0099】
実施例2:TR-FRETアッセイ(Selcia Discovery, UKによって行われた)
384ウェルプレート時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)アッセイを用いて、FKBP12酵素へ結合するタクロリムス(FK506)と競合する阻害物質の効果を判定した。アッセイに使用されたFKBP12酵素は、ポリヒスチジン配列でタグ付けされる。蛍光ドナーF(d)で標識された抗6×His抗体は、タグ付けされた酵素に結合する。酵素リガンドFK506は蛍光アクセプターF(a)でタグ付けされ、酵素に結合する。抗体/酵素/リガンド複合体の成分が近接している場合、特定の波長AでのF(d)標識抗体の励起は、非放射エネルギー移動により波長BでのF(a)発光を生じさせる。FK506と競合する試験阻害物質の存在下では、複合体は破壊され、もはや近接しなくなり、F(d)に起因して波長Aでの発光を生じさせる。
【0100】
FKBP12酵素への化合物1の結合の判定についてのアッセイプロトコール
化合物1および非標識タクロリムス(FK506 - 対照として使用)について、0.001 nM~10μMの濃度範囲にわたって8点希釈系列を実施した。阻害物質を、最終界面活性剤濃度0.005%で、酵素/抗体/リガンド複合体を含有するアッセイプレート中のマスターミックスへ添加した。反応物を室温で30分間インキュベートし、次いで、波長A(615 nm)およびB(665 nm)でSpectraMax M5 (Molecular Devices)において読み取った。発光間の比(波長B/A)を計算し、ブランク減算値をLog10モルの阻害物質濃度に対してプロットし、1サイトKi非線形回帰を使用してフィッティングして、結合した試験阻害物質のKdを決定した。
【0101】
結果:参照化合物のKdは1.078 nMであると決定され、化合物1のKdは2.801 nMであると決定された。図2Aはタクロリムス(FK506)についてのアッセイの結果を示し、図2Bは化合物1についてのアッセイの結果を示す。
【0102】
実施例3:マウスT細胞増殖アッセイ
化合物調製:タクロリムス5 mg/mLストック(FK506 - LC Labs)を80%エタノール中に溶解し、化合物1 10 mMストックをDMSO中に溶解した。
【0103】
手順:
脾臓、鼠径、および上腕リンパ節を無菌条件で2匹のC57BL/6マウスから採取し、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、次いで、70μm細胞ストレーナーを通して全ての器官を穏やかに粉砕することによって、細胞を単個細胞浮遊液に解離させた。細胞を、5 mLの滅菌ACK溶解バッファー(0.15 M NH4Cl, 1 mM KHCO3 pH 7.3)を含む50 mLのファルコンチューブ中へストレーナーを通して洗浄した。細胞を室温で3分間インキュベートし、赤血球を溶解した。5 mLの滅菌PBSを細胞懸濁液へ添加し、細胞を室温にて10分間350 gで遠心分離した。上清を除去し、細胞ペレットを10 mL滅菌PBS中に再懸濁した。細胞を室温にて10分間350 gで再度遠心分離した。上清を除去し、細胞を1 mLの滅菌PBS中に再懸濁した。
【0104】
1μLの5 mM CellTrace Violet (Thermo Fisher)を細胞懸濁液へ添加し、混合物を回転させて、色素の均一な分散を確保した。細胞を室温にて暗所で20分間インキュベートした。5mLの予熱した完全RPMI培地[(RPMI 1640 (Gibco)、10%熱不活化FBS (Gibco)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン、100μM 2-メルカプトエタノール]を細胞懸濁液へ添加し、室温にて暗所で5分間インキュベートした。細胞を室温にて5分間350 gで遠心分離した。細胞ペレットを破壊することなく上清を除去した。細胞を1 mL完全RPMI培地中に再懸濁した。
【0105】
血球計を用いて細胞を計数し、完全RPMI培地を用いて細胞を2 × 106細胞/mLへ調節した。500μLの細胞懸濁液を48ウェルプレート(Nunc)中のウェルへ添加し、したがって、1ウェル当たりの最終的な細胞数は1 × 106であった。
【0106】
DynabeadsマウスTアクチベーターCD3/CD28ビーズのバイアル(4 × 107ビーズ/mL)を30秒間ボルテックスし、625μLのビーズを5 mLポリプロピレンFACSチューブ(Sarstedt)に分注した。1 mLの完全RPMI培地をビーズへ添加し、ピペッティングにより混合した。FACSチューブをStemCell Technologies EasySep磁石中に1分間置き、上清を廃棄した。チューブを磁石から取り出し、洗浄されたビーズを625μLの完全RPMI培地中に再懸濁した。12.5μLのビーズ懸濁液(5 × 105ビーズ)を、T細胞活性化を誘導するために、細胞懸濁液を含む48ウェルプレートの適切なウェル中へ添加した。
【0107】
タクロリムスまたはビヒクル対照を完全RPMI培地中に希釈し、最終濃度0.6 ng/mLについて、細胞懸濁液を含む適切なウェルへ添加した。細胞を5% CO2で37℃にて加湿インキュベーター内で1時間インキュベートし、その後、化合物1(またはビヒクルのみ)を完全RPMI培地中に希釈し、必要な濃度で適切なウェルへ添加した。全てのウェル中の最終体積は1 mLであった。細胞を、5% CO2で37℃にて加湿インキュベーター内で3日間インキュベートした。
【0108】
細胞をピペットで再懸濁してポリプロピレンFACSチューブへ移すことによって、細胞を各ウェルから採取した。残りの細胞は、追加の1 mL FACSバッファーを使用してウェルから洗い流し、適切なFACSチューブへ移した。細胞を上下にピペッティングし、付着した細胞をCD3/CD28ビーズから除去した。細胞を含むFACSチューブをStemCell Technologies EasySep磁石中に1~2分間置き、磁気CD3/CD28ビーズを溶液から分離した。細胞を含む上清を適切なポリスチレンFACSチューブに移した。5 mL FACSバッファーをFACSチューブへ添加し、細胞を4℃にて5分間350 gで遠心分離した。上清を除去し、細胞を5 mLのFACSバッファー(PBS中の2%FBS)中に再懸濁し、4℃にて5分間350 gで再度遠心分離した。細胞ペレットを残して上清を除去した。
【0109】
マウスFCブロック(Biolegend)をFACSバッファー中で1:200に希釈した。50μLの希釈マウスFCブロックを、細胞を含む各チューブへ添加した。チューブを氷上において暗所で15分間インキュベートした。CD45.2-PE-Cy7、TCRb-FITCおよびCD8b-APC(すべてBiolegend)を含む蛍光抗体の混合物を、FACSバッファー中にて1:200希釈で調製した。FCブロック中で15分間インキュベートした後、50μLの希釈抗体溶液を各チューブへ添加した。チューブを氷上において暗所で30分間インキュベートした。5 mLのFACSバッファーを各チューブへ添加し、チューブを4℃にて5分間350 gで遠心分離した。上清を除去し、細胞ペレットを500μLのFACSバッファー中に再懸濁した。LSR Fortessa X20で試料を取得する15分前に、5μLの7AAD生/死識別色素(Thermo Fisher)を各試料へ添加した。データはFlowJoソフトウェアを使用して分析した。
【0110】
化合物1(Cmpd 1)はタクロリムスの存在下にてインビトロでマウスCD8+ T細胞増殖をレスキューする:マウス脾臓およびリンパ節からのリンパ球をCell Trace Violetで染色し、次いで、0.6 ng/mLタクロリムス(Tac)またはビヒクル対照(図3Bおよび3Cにおいてタクロリムス使用無し)と共に1時間プレインキュベートし、その後、化合物1を、示されように、濃度0、0.3μM、1μMまたは3μMで添加した。T細胞をDynabeadsマウスTアクチベーターCD3/CD28ビーズで刺激し、加湿インキュベーター内で5% CO2で37℃にて3日間増殖させた。CD8+ T細胞の増殖を、フローサイトメトリーによるCell Trace Violet希釈によって評価した。生存率を、フローサイトメトリーによる7AAD生/死識別色素によって評価した。生細胞中のCell Trace Violet色素の増殖ピークを解析して、増殖細胞による平均して完了された平均細胞分裂数を算出することによって、Y軸の増殖指数を算出した。
【0111】
図3Aに図示された結果は、0.6 ng/mLタクロリムスがビヒクル対照(薬物無し)と比較してCD8+ T細胞増殖を阻害し、一方、0.3μM、1μMおよび3μM化合物1が、タクロリムスの存在下でCD8 + T細胞増殖を用量依存的にかつ有意にレスキューしたことを示す。タクロリムスの非存在下での化合物1は、CD8+ T細胞増殖(図3B)または生存率(図3C)に対して有意な効果を有さなかった。試料をトリプリケートでアッセイし、エラーバーはSEMである。n=2実験を代表する。有意性を分散分析によって判定した。
【0112】
実施例4:ヒトT細胞増殖アッセイ
化合物調製:タクロリムス5 mg/mLストック(FK506 - LC Labs)を80%エタノール中に溶解し、化合物1(Cmpd 1) 10 mMストックをDMSO中に溶解した。シクロスポリンA 1 mg/mLストック(CsA - Sigma)をDMSO中に溶解し、ラパマイシン5 mg/mLストック(LC Labs)をエタノール中に溶解した。
【0113】
手順:
無菌条件下で、白色不透明壁を有する96ウェル平底プレート(Perkin Elmer)を、滅菌PBS中1ウェル当たり50μLの体積で、10μg/ウェルの精製ヒト抗CD3抗体(クローンOKT-3; Biolegend)をコーティングした。プレートをパラフィルムで覆い、4℃で一晩インキュベートした。末梢血単核細胞(PBMC)を添加する直前に、抗体溶液を除去し、マルチチャンネルピペットを用いて廃棄した。各ウェルへ200μLの滅菌PBSを添加し、2分間インキュベートすることによって、ウェルを洗浄した。インキュベーション後に、PBS洗浄溶液を除去し、廃棄した。合計2回のPBS洗浄のために、洗浄工程を1回繰り返した。
【0114】
同意した健常ボランティアからの20 mLの血液をリチウムヘパリンバキュエット容器(Greiner Bio-One)中へ集めた。無菌条件下で、各容器からの血液を単一のチューブ中へプールし、20 mL FACSバッファー(1×PBS中の2%FBS)と徹底的に混合した。15 mL Ficoll-Paque (GE Healthcare)を2つの50 mL Falconチューブへ添加し、その後、20 mLの全血/FACSバッファー混合物をFicoll層の上に注意深くかつ徐々に分配した。チューブは、ブレーキオフ状態で室温にて20分間800 gで遠心分離した。遠心分離後、得られた血漿層とFicoll層の間のPBMC層を注意深く取り出し、新しい50 mL Falconチューブへ移した。チューブをFACSバッファーで45 mLまで覆い、次いで、500 gで15分間遠心分離した。細胞ペレットを乱すことなく上清を注意深く除去し、次いで、両方のチューブからPBMCをプールした。30 mLの予熱した完全RPMI培地[RPMI 1640 (Gibco)、10%熱不活化FBS (Gibco)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン(Gibco)、100μM 2-メルカプトエタノール(Sigma)]をPBMCへ添加し、その後、室温にて15分間500 gで遠心分離した。細胞ペレットを乱すことなく上清を注意深く除去した。PBMCを1 mLの完全RPMI培地中に再懸濁した。
【0115】
血球計を用いてPBMCを手動で計数し、完全RPMI培地を用いて細胞濃度を1.5 × 106細胞/mLへ調節した。50μLの細胞懸濁液を、ヒト抗CD3でプレコートされた白色不透明壁を有する96ウェル平底プレートの適切なウェルへ添加した。1ウェル当たりの最終的な細胞数は7.5 × 104であった。
【0116】
タクロリムス、シクロスポリンA、ラパマイシン(シロリムス)、またはビヒクル対照を完全RPMI培地中に希釈し、PBMC懸濁液を含む適切なウェルへ必要な濃度で添加した。細胞を5% CO2で37℃にて加湿インキュベーター内で1時間インキュベートし、その後、化合物1(またはビヒクルのみ)を完全RPMI培地中に希釈し、必要な濃度で適切なウェルへ添加した。全てのウェル中の最終体積は100μLであった。細胞を、5% CO2で37℃にて加湿インキュベーター内で5日間インキュベートした。
【0117】
CellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイ(Promega)を、ATP定量に基づいて1ウェル当たりの代謝活性細胞のレベルを決定するために実施した。CellTiter-Gloバッファーおよび凍結乾燥されたCellTiter-Glo基質を室温へ平衡化した。CellTiter-Glo基質を10 mL CellTiter-Gloバッファーで再構成し、1分間穏やかにボルテックスしてCellTiter-Glo試薬を作製した。PBMCを含有する96ウェルプレートを室温へ30分間平衡化した。室温になったら、100μLのCellTiter-Glo試薬を、マルチチャンネルピペットを使用して、100μLの細胞および培地を含有する各ウェルへ分配した。プレートをオービタルシェーカー上で室温にて2分間混合して、細胞溶解を誘導した。次いで、プレートを暗所にて室温で10分間インキュベートして、発光シグナルを安定化させた。発光シグナルを、CLARIOstar Plusプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して記録した。
【0118】
化合物1(Cmpd 1)はタクロリムスの存在下にてインビトロでヒトT細胞増殖をレスキューする:ヒト血液から単離されたPBMCを、0.6 ng/mLのタクロリムス(Tac)またはビヒクル対照(図4Bにおいてタクロリムス使用無し)と共に1時間プレインキュベートし、その後、化合物1(Cmpd 1)を、示されるように、濃度0、0.3μM、1μMまたは3μMで添加した。PBMCをヒト抗CD3抗体で刺激し、T細胞を、加湿インキュベーター内で5% CO2で37℃にて5日間増殖させた。増殖/生存率をCellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイを介して評価し、発光をCLARIOstar Plusプレートリーダーを使用して読み取った。
【0119】
図4Aに図示された結果は、0.6 ng/mLタクロリムス(Tac)がビヒクル対照(薬物無し)と比較してT細胞増殖を阻害し、一方、1μMおよび3μM化合物1が、タクロリムスの存在下でT細胞増殖を用量依存的にかつ有意にレスキューしたことを示す。図4Bは、化合物1単独はT細胞の増殖/生存率を有意に変化させなかったことを示す。試料をトリプリケートでアッセイし、エラーバーはSEMである。有意性を分散分析によって判定した。n=2実験を代表する。
【0120】
化合物1(Cmpd 1)はシクロフィリン結合性シクロスポリンAではなくFKBP12結合性ラパマイシンの存在下にてインビトロでヒトT細胞増殖をレスキューする:
ヒト血液から単離されたPBMCを、1 ng/mLラパマイシン(Rapa)、50 ng/mLシクロスポリンA(CsA)またはビヒクル対照と共に1時間プレインキュベートし、その後、化合物1(Cmpd 1)を、示されるように、濃度0、0.3μM、1μMまたは3μMで添加した。PBMCをヒト抗CD3抗体で刺激し、T細胞を、加湿インキュベーター内で5% CO2で37℃にて5日間増殖させた。増殖/生存率をCellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイを介して評価し、発光をCLARIOstar Plusプレートリーダーを使用して読み取った。
【0121】
図5Aに図示された結果は、1 ng/mLラパマイシン(Rapa)がビヒクル対照(薬物無し)と比較してT細胞増殖を阻害し、一方、0.3μM、1μMおよび3μM化合物1がラパマイシンの存在下でT細胞増殖を有意にレスキューしたことを示す。図5Bにおいて、50 ng/mLシクロスポリンA(CsA)はビヒクル対照(薬物無し)と比較してT細胞増殖を阻害し、0.3μM、1μM、および3μM化合物1は、予想通り、シクロスポリンAの存在下でT細胞増殖をレスキューすることができなかった。試料をトリプリケートでアッセイし、エラーバーはSEMである。有意性を分散分析によって判定した。
【0122】
実施例5:マウス腫瘍モデル
マウス:すべての動物手順は、University of Queensland Animal Ethics Committee (承認番号UQDI/512/17)によって承認された。ケラチン14プロモーターの制御下でヒトパピローマウイルス(HPV)38型E6およびE7遺伝子を発現する、K14HPV38E6/E7マウス(Viarisio et al., “E6 and E7 from Beta HPV38 Cooperate with Ultraviolet Light in the Development of Actinic Keratosis-like Lesions and Squamous Cell Carcinoma in Mice.” PLoS Pathog. 2011 e1002125)は、Translational Research Institute Biological Research Facility (Brisbane, Australia)において地元で飼育および維持された。使用したすべてのマウスは12~20週齢であり、特定病原体除去条件下で収容された。
【0123】
タクロリムス食餌:全てのカスタマイズされたマウス食餌は、Specialty Feeds (Perth, WA)によって製造された。簡単に説明すると、タクロリムス(MedChemExpress)を上白糖と混合し、次いで、標準的なマウス食餌中へ組み入れた。1.5 gのタクロリムスを100 gの上白糖および9.9 kgの標準的なマウス食餌と混合して、タクロリムス食餌(150 ppm)を得た。薬物を区別するために食品着色料を添加した。製造プロセス中、適用される熱量を最小限に抑えるために、ペレットをオーブンで乾燥するのではなく、一晩風乾した。最終製品を気密バッグに密封し、劣化を最小限に抑えるために光から保護された状態で4℃にて保管した。供給ホッパー内のペレット量を最小限に維持し、実験期間中は3~4日ごとに補充した。
【0124】
化合物1調製:化合物1(Cmpd 1)を、4%エタノール/0.2%Tween-80/PBS中で必要に応じて1または2 mg/mL溶液として、各投与週の初めに調製した。化合物1溶液を4℃で最大1週間保存した。
【0125】
マウス背部cSCC腫瘍モデル:K14-HPV38-E6/E7マウスを、体重および年齢に基づいて群に無作為化し、タクロリムス(食餌中150 ppm)を腫瘍細胞注入前の7日間および研究全体にわたって与えた。HPV38-E6/E7細胞(上記のマウス系統からのUV誘発腫瘍に由来するcSCC細胞株)を培養し、完全F-12培地[5%熱不活化FBS (Gibco)、0.4μg/mLヒドロコルチゾン(Sigma)、5μg/mLインスリン(Sigma)、8.4 ng/mLコレラ毒素(Sigma)、10 ng/mLヒトrEGF (Invitrogen)、24μg/mLアデニン(Sigma)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン(Gibco)が補われた、3:1 v/v F-12 (Gibco)およびDMEM高グルコース(Gibco)培地]中に、注入前の1週間、培養および継代した。細胞を注入前にPBS中で2回洗浄した。マウスに、PBS中の1 × 106 HPV38-E6/E7 SCC細胞を、30Gシリンジを使用して100μLの体積で剃毛した腰背部の中央に皮下注射した。腫瘍サイズは、デジタルキャリパーを使用して研究全体にわたって週3回モニターした。腫瘍がおよそ0.05~0.1 cm3に達すると、マウスを、化合物1またはビヒクルを用いる腫瘍内注射(40μL)で1日2回(必要に応じて)、最大4週間、または安楽死基準が満たされるまで処置した。腫瘍が1 cm3に達すると、マウスを安楽死させた。
【0126】
マウス背部5117-RE腫瘍モデル:以下の変更を伴う、上記のセクション(マウス背部cSCC腫瘍モデル)による方法;BALBcマウスを使用し、5117-RE細胞を、10%熱不活化FBS (Gibco)および1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン(Gibco)が補われたRPMI培地(Gibco)中に、腫瘍細胞注入前の1週間、培養および継代した。
【0127】
CD8 T細胞枯渇:CD8b枯渇抗体(BioXCell; クローン53-5.8)またはアイソタイプ対照抗体(BioXCell; クローンHRPN)をSCCチャレンジ後8、15、および22日目に腹腔内注射により投与した。200μL PBS中1マウス当たり250μgを8および15日目に投与した。200μL PBS中1マウス当たり100μgを22日目に投与した。マウスからcSCCチャレンジ後10日目に採血して、FACSを介して枯渇効率をチェックした。
【0128】
FACS分析のための腫瘍細胞の解離:腫瘍から細胞を放出するために、採取した組織を小断片に切断し、2% FBS、3 mg/mLコラゲナーゼDおよび5 ug/mL DNアーゼIを含有するRPMI培地中で37℃にて60分間消化した。次いで、組織を70μm細胞ストレーナーを通して穏やかにプレスして、単個細胞浮遊液を作った。各腫瘍からの細胞を、10% FCS、1×ペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミン(Gibco)、100μM 2-メルカプトエタノール(Sigma)を含む300μLのRPMI培地中に再懸濁し、その後、以下に説明するように適切な抗体で染色した。
【0129】
サイトカイン検出のためのエクスビボ刺激および染色プロトコール:腫瘍解離細胞の各懸濁液100μLを、CD3抗体(クローン145-2C11- Biolegend)でコーティングされた96ウェル細胞培養プレート中で、可溶性CD28抗体(2.5μg/ml - クローン37.51, Biolegend)と共に37℃で30分間インキュベートした。対照(刺激無し)として、腫瘍解離細胞の各懸濁液100μLも、可溶性CD28抗体無しで、コーティングされていない96ウェル細胞培養プレート中でインキュベートし、37℃で30分間インキュベートした。30分間のインキュベーション後、5μg/mLのブレフェルジンAをすべてのウェルへ添加し、細胞を37℃でさらに3.5時間インキュベートした。合計4時間のインキュベーション後、細胞を5μg/mLのブレフェルジンA(eBioscience) + Fcブロック(精製ラット抗マウスCD16/CD32:アイソタイプラットIgG2a、クローン:93、Biolegend)を含むFACSバッファー中に氷上で20分間再懸濁して、非特異的抗体染色をブロックした。続いて、表面染色用のモノクローナル抗体(CD45.1-PE-Dazzle、TCRb-FITC、CD8a-PE-Cy7、CD4-Ax700)を添加し、生細胞集団を明らかにするために、Live/Dead Aqua Stain (Biolegend)と協力して氷上で30~40分間インキュベートした。次いで、細胞を固定バッファー(eBioscience)中に再懸濁し、室温にて暗所で20分間インキュベートした。細胞を洗浄し、1×透過処理バッファー(eBioscience) + インターフェロンγ(IFNg-APCクローンXMG1.2 - eBioscience)およびTNFα(TNFa-BV785クローンMP6-XT22 - Biolegend)を含む細胞内抗体中に再懸濁した。細胞を室温にて暗所で20分間インキュベートした。
【0130】
CD69染色プロトコール:100μLの腫瘍解離細胞をFACSバッファー中に再懸濁し、Fcブロック(精製ラット抗マウスCD16/CD32:アイソタイプラットIgG2a、クローン:93、Biolegend)と共に氷上で20分間インキュベートして、非特異的抗体染色をブロックした。続いて、表面染色用のモノクローナル抗体(CD45.1-PE-Dazzle、TCRb-FITC、CD8a-PE-Cy7、CD4-Ax700、CD69-APC; Biolegend)を添加し、生細胞集団を明らかにするために、Live/Dead Aqua Stain (Biolegend)と協力して氷上で30分間インキュベートした。次いで、細胞を固定バッファー中に再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。
【0131】
FACS分析:染色された腫瘍解離細胞を次いで2回洗浄し、FACSバッファー中に再懸濁し、フローサイトメトリー分析を、FACSDivaソフトウェア(Becton Dickinson, Sparks, MD, USA)と共にLSR Fortessa X20 (BD Biosciences)フローサイトメーターを用いて実施した。データは、FlowJoソフトウェア(Treestar Inc., Ashland, OR, USA)を使用してエクスポートおよび分析した。
【0132】
化合物1(Cmpd 1)の腫瘍内注射はタクロリムス依存性皮膚扁平上皮がん(cSCC)腫瘍成長を有意に減少させた:K14-HPV38-E6/E7マウスに、腫瘍細胞注入の7日前に開始して、実験全体にわたってタクロリムス(食餌中150 ppm)を与えた。マウスに1 × 106 HPV38-E6/E7 SCC細胞を腰背部に皮下注射し、腫瘍サイズを実験全体にわたって週3回モニターした。腫瘍がおよそ0.06 cm3(8日目)に達したとき、BID腫瘍内(IT)注射を40μLの2 mg/mL化合物1またはビヒクル対照で12日間実施した。図6Aに図示された結果は、化合物1が、8日間の処置後、ビヒクル対照と比較してタクロリムス依存性腫瘍成長を有意に減少させ、ピーク腫瘍体積からの退縮が観察されたことを示している。エラーバーはSEM(n=10~11)を表し、統計的有意性を二元配置分散分析によって判定した。
【0133】
化合物1(Cmpd 1)の腫瘍内注射はcSCC腫瘍浸潤CD8 T細胞活性化ならびに細胞内インターフェロンγおよびTNFαを有意に増加させた:2mg/mL化合物1またはビヒクル対照の12日間のBID IT注射後、1処置群当たり10匹のマウスを安楽死させ、腫瘍を採取し、単一細胞に解離させ、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析のために染色した。図6Bに図示された結果は、化合物1が、腫瘍から単離されたCD69+(活性化)CD8 T細胞の割合を有意に増加させたことを示している。図6Cおよび6Dは、化合物1が、12日間の処置後(CD3/CD28によるエクスビボ刺激後)、腫瘍から単離されたIFNγ+およびTNFα+ CD8 T細胞の割合を有意に増加させたことを示している。エラーバーはSEM(n=10)を表し、統計的有意性を必要に応じてt検定または二元配置分散分析によって判定した。
【0134】
CD8 T細胞の枯渇はタクロリムス依存性cSCC腫瘍の化合物1媒介退縮を妨げる:K14-HPV38-E6/E7マウスに、腫瘍細胞注入の7日前に開始して、実験全体にわたってタクロリムス(食餌中150 ppm)を与えた。マウスに1 × 106 HPV38-E6/E7 SCC細胞を腰背部に皮下注射し、腫瘍サイズを実験全体にわたって週3回モニターした。CD8 T細胞を、CD8b枯渇抗体(CD8b)の腹腔内注射によって8日目に枯渇させ、SCCチャレンジ後15および22日目に再び枯渇させた。腫瘍がおよそ0.1 cm3(11日目)に達したとき、BID腫瘍内(IT)注射を、40μLの2 mg/mL化合物1またはビヒクル対照で、3週間、または安楽死基準(腫瘍サイズ1 cm3 - 倫理的限界)に達するまで実施した。図7に図示された結果は、CD8枯渇がない場合(アイソタイプ抗体対照)、化合物1は、予想通り、ビヒクル対照と比較してタクロリムス依存性腫瘍成長を有意に減少させ、ピーク腫瘍体積からの退縮が観察されたことを示している。CD8枯渇(CD8b)後、化合物1(Cmpd 1)はもはや腫瘍退縮を引き起こすことができなくなり、化合物1 + CD8bは14日間の処置後に化合物1 + アイソタイプ抗体対照とは有意に異なる。エラーバーはSEM(n=12~16)を表し、統計的有意性を二元配置分散分析によって判定した。
【0135】
化合物1(Cmpd 1)の腫瘍内注射はタクロリムス依存性紡錘細胞肉腫(5117-RE)腫瘍成長を有意に減少させた:BALBcマウスに、腫瘍細胞注入の7日前に開始して、実験全体にわたってタクロリムス(食餌中150 ppm)を与えた。マウスに1 × 106 5117-RE(紡錘細胞肉腫)細胞を腰背部に皮下注射し、腫瘍サイズを実験全体にわたって週3回モニターした。この細胞株はカポジ肉腫(KS)のモデルと見なすことができ、何故ならばKSは紡錘細胞系列起源の腫瘍であると一般的に考えられているためである(Duman, Nephrology Dialysis Transplantation, 2002 https://doi.org/10.1093/ndt/17.5.892)。腫瘍がおよそ0.1 cm3(11日目)に達したとき、BID腫瘍内(IT)注射を40μLの2 mg/mL化合物1またはビヒクル対照で13日間実施した。図8Aに図示された結果は、化合物1が、10日間の処置後、ビヒクル対照と比較してタクロリムス依存性腫瘍成長を有意に減少させたことを示している。エラーバーはSEM(n=19~20)を表し、統計的有意性を二元配置分散分析によって判定した。
【0136】
化合物1(Cmpd 1)の腫瘍内注射はサイトカインTNFαおよびインターフェロンγを産生する5117-RE腫瘍浸潤CD8T細胞を有意に増加させた:化合物1またはビヒクル対照による13日間のBID IT注射の後、1処置群当たり10匹のマウスを安楽死させ、5117-RE腫瘍を採取し、単一細胞に解離させ、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析のために染色した。図8Bに図示された結果は、化合物1が、13日間の処置後(CD3/CD28によるエクスビボ刺激後)、腫瘍から単離されたIFNγ+ CD8 T細胞の割合を有意に増加させたことを示している。図8Cは、化合物1が、13日間の処置後、腫瘍から単離されたTNFα+ CD8 T細胞の割合を有意に増加させたことを示している。エラーバーはSEM(n=10)を表し、統計的有意性を二元配置分散分析によって判定した。
【0137】
化合物1(Cmpd 1)の腫瘍内注射およびcSCC腫瘍薬物動態は腫瘍中の高レベルの化合物1を示す:
マウス背部腫瘍モデルの別の研究において、SCC腫瘍中の化合物1およびタクロリムスの濃度を、最終投与後1、6、および18時間で評価した。以下の表1は、化合物1の平均腫瘍濃度が18時間にわたってタクロリムスの2000倍以上であったことを実証するデータを表としている。
【0138】
腫瘍処理:腫瘍全体をマウスから除去した。腫瘍の重量を記録し、腫瘍をドライアイス上で適切なクライオバイアル中へ置き、次いで-80℃の冷凍庫に移した。1時点当たり3つの腫瘍を評価した。
【0139】
試料処理:マウス腫瘍中の化合物1およびタクロリムスの同時検出および定量のために、LC/MS/MSベースの生物分析法を開発した。較正基準および品質管理試料は、異なる濃度の試験化合物のストック溶液2.5μLを25μLのナイーブマウス血液または皮膚ホモジネートへ添加することによって調製した。対照試料は、2.5μLの水またはアセトニトリルを25μLのナイーブマウス血液または皮膚ホモジネートへスパイクすることによって調製した。腫瘍試料を1 mLのPBS中にホモジナイズし、次いで、ポリプロピレン製エッペンドルフチューブ中へ移した。100μLの0.1 M硫酸亜鉛をチューブへ添加し、10秒間ボルテックスし、内部標準(ピメクロリムス)を含有するHPLC等級アセトニトリル250μLを添加し、2分間ボルテックスし、800 × gで3分間遠心分離した。20~40μLの上清をLCMS/MSによって分析した。機器: Acquity UPLC, Waters。カラム: Acquity BEH C18 100 × 2.1 mm, 1.7ミクロン; 移動相A: メタノール; 移動相B: 0.1%ギ酸を含む5 mM酢酸アンモニウム; 移動相勾配詳細: T = 0分(10% A, 90% B); T = 0.01分(10% A, 90% B); T = 1.5分への勾配(95% A, 5% B); T = 3.2分(95% A, 5% B)。流量: 0.3 mL/分、実行時間: 4.5分; イオン化モード: エレクトロスプレーイオン化(ポジティブ)。
【0140】
(表1)腫瘍中の化合物1およびタクロリムスの濃度
【0141】
実施例6:化合物1の局所的適用
化合物1(Cmpd 1)の単回投与薬物動態を、8週齢のC57BL/6雌性マウスの片耳のみへ1日1回(QD)適用されるプロピレングリコール(3%濃度)中の製剤としての化合物の局所的投与によって評価した(1時点当たりN=2または3;試料を化合物1の投与後1、6および24時間で採取した)。
【0142】
耳への化合物1の単回局所的投与(プロピレングリコール中の3%溶液10μL)の後、マウス耳中の化合物1の測定濃度は、24時間にわたって22.8~30.7μg/gである。化合物1の血中濃度はすべて、すべての試料について定量限界(LOQ)(<3.5 ng/mL)を下回っていた。
【0143】
以下の表2は、プロピレングリコール中の化合物1の3%溶液の単回局所的投与に続いてマウス耳中の定量化された化合物1の平均濃度を示す表形式のデータを提供する。化合物1の平均濃度は24時間にわたって22.8~30.7μg/mLであり、マウス血液中には定量限界(LOQ)(3.5 ng/mL)へ至るまでの化合物は検出されなかった。
【0144】
(表2)マウス耳中の定量された化合物1
定量限界(LOQ): 3.5 ng/mL; BLQ: 血液中で定量限界未満
【0145】
方法:
化合物適用:化合物1(プロピレングリコール中の3%溶液10μL)を、シリコーンブラシを用いてマウス耳に塗布した。ブラシは、塗布間で蒸留水およびエタノールで洗浄した。ビヒクル溶液は100%プロピレングリコールであった。
【0146】
血液処理:10μL 0.5M EDTAを含有するクライオバイアルを調製し、適切に標識した。心臓採血をマウスに対して行い、血液をエッペンドルフチューブ中へ移した。血液(110μL)をEDTAを含むクライオバイアルへ直ちに移し、凝固を防ぐためによく混合した。クライオバイアルをドライアイス上に置き、-80℃の冷凍庫に移した。
【0147】
耳処理:薬物動態のために耳を採取する前に、皮膚を蒸留水で洗浄し、綿球/綿棒で乾燥させ、その後、2本のテープストリップ(1ストリップ当たり1枚のテープ)を行った。耳全体をマウスから除去した。耳全体の重量を記録し、ドライアイス上に置いた適切なクライオバイアル中へ置き、次いで-80℃の冷凍庫に移した。
【0148】
試料処理:マウス血液および耳中の化合物1の検出および定量のために、LC/MS/MSベースの生物分析法を開発した。較正基準および品質管理試料は、異なる濃度の試験化合物のストック溶液2.5μLを25μLのナイーブマウス血液または耳ホモジネートへ添加することによって調製した。対照試料は、2.5μLの水またはアセトニトリルを25μLのナイーブマウス血液または耳ホモジネートへスパイクすることによって調製した。血液または耳試料をポリプロピレン製エッペンドルフチューブ中へ移した。100μLの0.1 M硫酸亜鉛をチューブへ添加し、10秒間ボルテックスし、内部標準(ピメクロリムス)を含有するHPLC等級アセトニトリル250μLを添加し、2分間ボルテックスし、800 × gで3分間遠心分離した。20~40μLの上清を、腫瘍試料処理のために上記で概説したのと同じ機器、カラム、移動相A、移動相B、勾配およびその他のパラメーターを用いてLCMS/MSによって分析した。
【0149】
法令に準拠して、本発明は、多かれ少なかれ構造的または方法的特徴に特有の言語で記載されている。本明細書に記載される手段は本発明を有効とする好ましい形態を含むため、本発明は表示または記載された特定の特徴に限定されないことが理解されるべきである。したがって、本発明は、当業者によって適切に解釈される添付の特許請求の範囲の適切な範囲内でその形態または改変物のいずれかで特許請求される。
【0150】
引用
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】