(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(54)【発明の名称】アウトサイドイン透析用途のための中空繊維
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20230630BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20230630BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230630BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230630BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230630BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230630BHJP
B01D 71/44 20060101ALI20230630BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20230630BHJP
B01D 61/28 20060101ALI20230630BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20230630BHJP
A61M 1/18 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D71/68
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/44
B01D71/52
B01D61/28
B01D63/02
A61M1/18 500
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574812
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021035945
(87)【国際公開番号】W WO2021248028
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519114867
【氏名又は名称】ノヴァフラックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イラリア・ジェレミア
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリオス・スタマティアリス
(72)【発明者】
【氏名】モハメド・ラビブ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・マテルナ
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC03
4C077EE01
4C077KK11
4C077MM07
4C077PP15
4D006GA13
4D006HA02
4D006JA25A
4D006MA01
4D006MA09
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4D006MB09
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4D006MC63
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA12
4D006NA16
4D006NA45
4D006PA01
4D006PB09
4D006PB52
(57)【要約】
開示されるのは、アウトサイドイン構成での透析における使用に適した中空繊維である。そのような繊維については、繊維が、低いアルブミンふるい係数を有し、且つハイフラックス透析器とみなされるのに十分高い透過率を有することが望ましく、外(血液に面する)面が、十分に小さい粗さを有し、且つ親水性であることが望ましい。選択性層が外面に存在し、且つその内部に、細長いマクロボイドを含んでよい多孔質の構造的に支持性の領域が存在することが望ましい。そのような繊維は、シャワーに取り囲まれたドープに取り囲まれたボア液体を生産する三重同心円状紡糸口金を通じて紡糸されてよい。シャワー及び凝固浴は純水でよく、それは非溶媒である。プロセスは室温で実施されてよい。紡糸パラメータが論じられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質中空繊維であって、
(a)壁領域を含み、且つ前記壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体、及び
(b)外面、内面を含み、前記外面から前記内面まで径方向に延びている前記壁領域であって、前記内面は前記内腔を画定し、前記外面及び前記内面は概して互いに同心であり、前記壁領域及び前記内腔は軸方向に延びる、前記壁領域
を含み、
(i)前記壁領域は、ポリスルホンポリマー及び親水性ポリマーの混合物を含む多孔質繊維組成物を含み、
(ii)前記壁領域は、前記内面から前記外面までの約20μm~約40μmの壁厚を有し、前記多孔質中空繊維は、約200μm~約300μmの外径を有し、
(iii)前記壁領域は、バルク層及び選択性層を含み、前記バルク層は前記選択性層を支持し、前記選択性層は、前記バルク層から外に放射状に位置し、前記選択性層は、前記多孔質中空繊維がおよそ0.01未満のアルブミンふるい係数を有するようにその内部を通るアルブミンの通過の排除に対する選択性があり、
(iv)前記壁領域は、前記バルク層内に位置する複数の放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、
(v)前記壁領域を通る水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m
2)の透過率を有する、多孔質中空繊維。
【請求項2】
前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドが、前記径方向に対して横の寸法であるボイド幅寸法を有し、それが、前記バルク層内の、且つ前記複数の細長いマクロボイドを除く細孔の平均細孔サイズの少なくとも5倍大きい、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項3】
前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドが、前記壁領域の壁厚の少なくとも50%である放射状に延びている寸法を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項4】
前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドが、前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドに沿った中間点において測定され、前記径方向に対して横の寸法である、ボイド幅寸法の少なくとも2倍である放射状に延びている寸法を有する形状を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項5】
前記バルク層の一部が、前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドと前記選択性層との間に位置する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項6】
前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドの少なくとも一部が前記内腔に対して開いている、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項7】
前記壁領域が、前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドと前記内腔との間に位置する内側選択性層を更に含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項8】
前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドが、約10μm~約30μmの径寸法、及び前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドに沿った中間点において測定され、前記径方向に対して横の約2μm~約10μmの寸法を含む形状を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項9】
前記壁領域が、前記多孔質中空繊維の断面の周あたり少なくとも50個のマクロボイドである、前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドの周密度を含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項10】
前記壁領域が、およそ10~20μmの範囲内の、前記マクロボイドのうちの1つの中心から近隣のマクロボイドの中心までの、前記複数の放射状に延びている細長いマクロボイドの間隔を含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項11】
前記選択性層が1μm未満の厚さを有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項12】
前記選択性層が約66Kダルトン未満の分子量カットオフを実現するように前記選択性層が十分に小さい細孔を含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項13】
前記選択性層が約5ナノメートル未満の平均細孔サイズを有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項14】
前記外面から前記内面までの方向の流れについて測定されるときおよそ0.99超の血液アルブミン保持係数を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項15】
前記外面がおよそ20ナノメートル未満の二乗平均平方根表面粗さを有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項16】
前記ポリスルホンポリマーがポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリアリールエーテルスルホンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項17】
前記ポリスルホンポリマーがポリエーテルスルホンを含み、前記多孔質繊維組成物が約4:1~約1:2の前記ポリエーテルスルホン対前記親水性ポリマーの質量比を含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項18】
前記ポリスルホンポリマーがポリエーテルスルホンを含み、前記多孔質繊維組成物が約3:1~約1:1の前記ポリエーテルスルホン対前記親水性ポリマーの質量比を含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項19】
前記ポリスルホンポリマーがポリエーテルスルホンを含み、前記親水性ポリマーがポリビニルピロリドンを含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項20】
前記選択性層が、前記バルク層内の前記ポリビニルピロリドンの濃度を超える前記ポリビニルピロリドンの濃度を含む、請求項19に記載の多孔質中空繊維。
【請求項21】
前記多孔質繊維組成物が少なくとも40wt.%の前記ポリエーテルスルホン及び少なくとも20wt.%の前記ポリビニルピロリドンを含む、請求項19に記載の多孔質中空繊維。
【請求項22】
前記外面が少なくとも3.6%のポリビニルピロリドン濃度を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項23】
前記親水性ポリマーがポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項24】
前記親水性ポリマーがポリエチレングリコールを更に含む、請求項19に記載の多孔質中空繊維。
【請求項25】
前記ポリエーテルスルホンがポリエーテルスルホンの誘導体を含む、請求項16に記載の多孔質中空繊維。
【請求項26】
少なくともおよそ0.7のベータ-2-ミクログロブリンふるい係数を有する、請求項1に記載の多孔質中空繊維。
【請求項27】
請求項1に記載の繊維を複数含む透析器カートリッジであって、
ハウジング中央部内部領域を含むハウジング内部、ハウジング血液供給ポート、ハウジング血液排出ポートを有するハウジング;
前記繊維の第1の端部において前記繊維と連結し、且つ前記ハウジングの前記ハウジング内部と連結し、且つ第1の端部プレナムの境界となり、且つ前記ハウジング中央部内部領域から前記第1の端部プレナムを分離する第1の端部バリア;
前記繊維の第2の端部において前記繊維と連結し、且つ前記ハウジング内部と連結し、且つ第2の端部プレナムの境界となり、且つ前記ハウジング中央部内部領域から前記第2の端部プレナムを分離する第2の端部バリア
を更に含み、
血流コンパートメントは、前記繊維外部並びに前記ハウジング中央部内部領域、前記ハウジング血液供給ポート及び前記ハウジング血液排出ポートに沿った内部ハウジング表面により画定される繊維間空間を含み、前記繊維間空間、前記ハウジング供給ポート、及び前記ハウジング排出ポートは互いに流体連通しており、
流体流コンパートメントは、前記第1の端部プレナム、前記繊維内部、及び前記第2の端部プレナムを含み、前記第1の端部プレナム、前記繊維内部、及び前記第2の端部プレナムは互いに流体連通している、透析器カートリッジ。
【請求項28】
多孔質中空繊維であって、
(a)壁領域を含み、且つ前記壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体、及び
(b)外面、内面を含み、前記外面から前記内面まで径方向に延びている前記壁領域であって、前記内面は前記内腔を画定し、前記外面及び前記内面は概して互いに同心であり、前記壁領域及び前記内腔は軸方向に延びる、前記壁領域
を含み、
(i)前記壁領域は、ポリスルホンポリマー及び親水性ポリマーの混合物を含む多孔質繊維組成物を含み、
(ii)前記壁領域は、バルク層及び選択性層を含み、前記バルク層は前記選択性層を支持し、前記選択性層は、前記バルク層から外に放射状に位置し、前記選択性層は、前記多孔質中空繊維がおよそ0.01未満のアルブミンふるい係数を有するようにその内部を通るアルブミンの通過の排除に対する選択性があり、
(iii)前記壁領域は、前記バルク層内に位置する複数の放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、
(iv)前記壁領域を通る水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m
2)の透過率を有する、多孔質中空繊維。
【請求項29】
中空繊維を生産する方法であって、
ボア液体チャネル、前記ボア液体チャネルを環状に取り囲むドープチャネル、及び前記ドープチャネルを環状に取り囲むシャワーチャネルを有する三重同心円状紡糸口金から、前記ボア液体チャネルを通じてボア液体を流し、前記ドープチャネルを通じてドープ液体を流し、且つ前記シャワーチャネルを通じてシャワー液体を流すことにより新生繊維を生成する工程;並びに
前記新生繊維が巻取速度で引っ張られながら凝固浴を通過するように前記新生繊維を延伸する工程
を含み、
前記三重同心円状紡糸口金、前記ボア液体、前記ドープ、前記シャワー液体、及び前記凝固浴は、互いに5℃範囲内の温度で提供され、
前記ボア液体は、有機溶媒を含む繊維生成ポリマー組成物を含み、
前記シャワー液体及び前記凝固浴は、前記ボア液体と比較してそれぞれのより高濃度の非溶媒を含む、方法。
【請求項30】
前記延伸する工程が、前記新生繊維を1~4の間の繊維延伸比まで延伸する工程を含み、合わせた体積流量が、前記ボア液体の体積流量に前記ドープ液体の体積流量を加えたものとして計算され、幾何学的押出速度が、前記合わせた体積流量を前記ドープチャネルの断面積に前記紡糸口金の前記ボアチャネルの断面積を加えたもので割ったものとして計算され、前記繊維延伸比が、前記巻取速度を前記幾何学的押出速度で割ったものと定義される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、PCT国際出願として2021年6月4日に出願され、且つ2020年6月4日に米国特許商標庁に出願した米国仮出願第63/034790号の利益及び優先権を主張するものである。米国仮出願第63/034790号の開示全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
多孔質壁の中空繊維膜は、透析等の分離及び濾過用途のために広く使用されている。通常そのような繊維は、結果として所望の孔を生じる相分離技法を使用しながら、紡糸口金を通じてポリマー材料を押出又は紡糸することにより製造される。透析において、血液透析又は関連療法の間に患者の血液から尿毒症性毒素を除去するように透析溶液が繊維の外側を流れる一方、繊維の内腔を通じて流れる血液に対してそのような中空繊維がほとんど常に使用される。これはインサイドアウト構成と呼ばれる。アウトサイドイン構成と呼ばれる、血液透析において使用されない別の流れ構成が存在し、そこでは血液が繊維の外側を流れ、透析液が内腔内を流れる。アウトサイドイン構成は、標準的なインサイドアウト構成と比較して一定の利点を有する。例えば、アウトサイドイン構成で運転される透析器は、可能性のある血餅形成による影響がより少ない可能性があり、したがって長期間又は連続使用により適している可能性がある。したがって、アウトサイドイン構成で血液透析を実施することができる中空繊維が依然として必要とされている。そのような繊維は、血液適合性がある外部表面を有するべきであり、それは、親水性であり、且つ血液に面する外部表面の十分に小さい表面粗さを有する。理想的なアウトサイドイン中空繊維は、繊維壁内の水並びに小及び中分子量尿毒症性毒素の通過を可能にするハイフラックス特性又は高い限外濾過係数(KUF)を有するべきであり、又は言い換えればそのような繊維は、尿毒症性毒素の拡散及び対流クリアランスの両方を達成すべきである。同時に、理想的な繊維は、透析中の血液からのアルブミン損失をごくわずかに生じるべきである。高いKUF及び低いアルブミンふるい係数のこれらの2つの目標は互いに矛盾し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10,369,263号
【特許文献2】米国特許第10,399,040号
【特許文献3】欧州特許第2083939(B1)号
【特許文献4】米国特許第8596467号
【特許文献5】米国特許第7,585,412号
【特許文献6】米国特許第8136675号
【特許文献7】国際公開第2004056460号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Claudio Ronco及びWilliam R. Clark、Haemodialysis membranes Nature Reviews | Nephrology、2018年6月、第14巻、394~410頁
【非特許文献2】Alenazi等、Modified polyether-sulfone membrane: a mini review、Designed Monomers and Polymers、20:1、532~546頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高いKUF(又は透過率)及び血液中のアルブミンの本質的に完全な保持の両方を達成するアウトサイドイン繊維を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態では、多孔質中空繊維であって、壁領域を含み、且つ壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体、並びに外面、内面、及び外面から内面まで径方向に延びている厚さを含む壁領域であって、内面は内腔を画定し、外面及び内面は概して互いに同心であり、壁領域及び内腔は軸方向に延びる、壁領域を含み、壁領域は、ポリスルホンファミリーのメンバー、及びポリビニルピロリドンの混合物を含む多孔質繊維組成物を含み、壁領域は、外面に沿って選択性層を含み、選択性層は選択性があり、且つ多孔質中空繊維が外面から内面までの方向に測定されるとき0.99超の血液アルブミン保持係数を有するようにその内部を通るアルブミンの通過を排除しながら尿素等の小分子及び中分子、例えばβ2ミクログロブリンの通過を可能にし、壁領域は、選択性層と内面との間の壁領域の一部内に位置する複数の放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m2)の透過率を有する、多孔質中空繊維が提供されてよい。
【0007】
本発明の一実施形態では、多孔質中空繊維であって、壁領域を含み、且つ壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体であって、内腔は入口端部及び出口端部を有し、壁領域は、ポリスルホンファミリーのメンバー、及びポリビニルピロリドンの混合物を含む、管状体を含み、壁領域及び内腔は入口端部から出口端部まで軸方向に延び、壁領域は、外面、内面、及び外面から内面まで径方向に延びている厚さを画定し、内面は内腔を画定し、外面及び内面は概して互いに同心であり、壁領域は、外面に沿って第1の選択性層を含み、第1の選択性層は、多孔質中空繊維が外面から内面までの方向に測定されるときおよそ0.05未満のアルブミンふるい係数を有するようにその内部を通るアルブミンの通過の排除に対する選択性があり、壁領域は、内面に沿って第2の選択性層を含み、壁領域は、第1の選択性層と第2の選択性層との間に延びている複数の概して放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m2)の透過率を有する、多孔質中空繊維が提供されてよい。
【0008】
本発明の一実施形態では、多孔質中空繊維であって、壁領域を含み、且つ壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体であって、壁領域は、ポリスルホンファミリーのメンバー、及びポリビニルピロリドンの混合物を含む、管状体を含み、壁領域及び内腔は軸方向に延び、壁領域は、外面、内面、及び外面から内面まで径方向に延びている厚さを画定し、内面は内腔を画定し、外面及び内面は概して互いに同心であり、壁領域は、外面に沿って第1の選択性層を含み、第1の選択性層は、約5ナノメートル未満の平均細孔サイズを有し、壁領域は、内面に沿って第2の選択性層を含み、第2の選択性層は、約10ナノメートル未満の平均細孔サイズを有し、壁領域は、複数の概して放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、複数の放射状に延びている細長いマクロボイドの少なくとも一部は内面まで延び、水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m2)の透過率を有する、多孔質中空繊維が提供されてよい。
【0009】
本発明の一実施形態では、中空繊維を生産する方法であって、ボア液体、ドープ、シャワー液体及び凝固浴を提供する工程;ボア液体チャネル及びボア液体チャネルを環状に取り囲むドープチャネル及びドープチャネルを環状に取り囲むシャワーチャネルを有する三重同心円状紡糸口金を提供する工程;新生繊維を生成するために紡糸口金のそれぞれのチャネルを通じてボア液体及びドープ及びシャワー液体を流れさせる工程;並びに新生繊維が巻取速度で引っ張られながら凝固浴を通過するように新生繊維を延伸する工程を含み、三重同心円状紡糸口金及びボア液体及びドープ及びシャワー液体及び凝固浴は全て、互いに実質的に同一であるか、又は互いに2~10℃以内であるそれぞれの温度であり、シャワー液体及び凝固浴は、ボア液体が含むよりもそれぞれ高濃度の非溶媒を含む、方法が存在してよい。
【0010】
本発明の一実施形態では、多孔質中空繊維を生産する方法であって、ボア液体チャネル、ボア液体チャネルを環状に取り囲むドープチャネル、及びドープチャネルを環状に取り囲むシャワーチャネルを有する三重同心円状紡糸口金から、ボア液体チャネルを通じてボア液体を流し、ドープチャネルを通じてドープ液体を流し、且つシャワーチャネルを通じてシャワー液体を流すことにより新生繊維を生成する工程;並びに新生繊維が巻取速度で引っ張られながら凝固浴を通過するように新生繊維を延伸する工程を含み、三重同心円状紡糸口金、ボア液体、ドープ、シャワー液体、及び凝固浴は、互いに5℃範囲内の温度で提供され、ドープ液体は、ポリスルホンファミリーのメンバー、親水性ポリマー、及び第1の有機溶媒を含み、ボア液体は、第2の有機溶媒及び第1の非溶媒を含み、シャワー液体は、第3の有機溶媒及び第2の非溶媒を含み、凝固液体は、第4の有機溶媒及び水でよい第3の非溶媒を含み、第1の有機溶媒、第2の有機溶媒、第3の有機溶媒、第4の有機溶媒は同じか又は異なり、第1の非溶媒、第2の非溶媒、及び第3の非溶媒は同じか又は異なり、シャワー液体及び凝固浴は、ボア液体と比較してそれぞれのより高濃度の非溶媒を含む、方法が存在してよい。
【0011】
本発明の一実施形態では、多孔質中空繊維であって、壁領域を含み、且つ壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体、並びに外面、内面、及び外面から内面まで径方向に延びている厚さを含む壁領域であって、内面は内腔を画定し、外面及び内面は概して互いに同心であり、壁領域及び内腔は軸方向に延びる、壁領域を含み、アスペクト比は、繊維の外径を繊維の内径で割ったものと定義され、アスペクト比は1.5未満であり、壁領域は、ポリスルホンファミリーのメンバー、及び親水性ポリマーの混合物を含む多孔質繊維組成物を含み、壁領域は、外面に沿って選択性層を含み、選択性層は、多孔質中空繊維が外面から内面までの方向に測定されるときおよそ0.95超の血液アルブミン保持係数を有するようにその内部を通るアルブミンの通過の排除に対する選択性があり、壁領域は、選択性層と内面との間の壁領域の一部内に位置する複数の放射状に延びている細長いマクロボイドを含み、水に対して少なくともおよそ6mL/(h・mmHg・m2)の透過率を有する、多孔質中空繊維が提供されてよい。
【0012】
本発明の実施形態は更に記載されるが、以下の説明によって限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来のインサイドアウト構成を本発明の一実施形態のアウトサイドイン構成と比較する模式図である。
【
図2A】外側に選択性層を有する、本発明の一実施形態の中空糸の模式的な断面実例を示す図である。
【
図2B】外側に選択性層、及び内腔面に別の選択性層を有する、本発明の別の実施形態の中空糸の模式的な断面実例を示す図である。
【
図2C】
図2Aと同様に、外側に選択性層を有する、本発明の一実施形態の中空糸の模式的な断面実例を示す図であるが、追加的に、細長いマクロボイドの2種類が示される。
【
図2C-1】中空糸のバルク層における平均細孔サイズを説明する図である。
【
図2D】操作のアウトサイドインモードで使用するための、複数の、上記の中空多孔質壁繊維を含む透析器カートリッジを示す断面図である。
【
図3】本明細書に記載の中空糸を製造するのに使用される、三重同心円状紡糸口金を示す図である。
【
図4】本明細書に記載の中空糸を生産するための、紡糸口金、ポンプ、浴、及び巻取ホイールの全体の配置を示す図である。
【
図5】本明細書で報告された、全ての16個の実験条件について製造された繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6】本明細書で報告された、全ての16個の実験条件について製造された繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図7】本明細書で報告された、全ての16個の実験条件について製造された繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図8】本明細書で報告された、全ての16個の実験条件について製造された繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図9】製造された繊維の全てについて、ドープ流量の関数としてプロットされた、測定された繊維外径のプロットを示す図である。
【
図10】製造された繊維の全てについて、ドープ及びボア液体の全流量の関数としてプロットされた、測定された繊維外径のプロットを示す図である。
【
図11】製造された繊維の全てについて、ドープ及びボア液体の全流量並びに巻取ホイールの速度も考慮して、幾何学的に計算された外径の関数として、測定された外径のプロットを示す図である。
【
図12】延伸比の関数として、良好な外観又は不規則な外観の相関を示す図である。
【
図13】ボア流量のみの関数として、測定された繊維内径のプロットを示す図である。
【
図14】製造された繊維の全てについて、ボア流量を使用して幾何学的に計算された内径の関数として、測定された内径のプロットを示す図である。
【
図15A】ドープ流量のシャワー流量に対する比の関数として、不規則なもの/剥離されたもの、又は正常なものとしての繊維の分類を説明する図である。
【
図15B】速度比と関連付けた、不規則なもの/剥離されたもの、又は正常なものとしての繊維の分類を示す図である。
【
図17】クレアチニンの除去について実験結果を示す図である。
【
図18A】純粋なPES材料及び純粋なPVP材料について、繊維F16のATR-FTIR結果及び繊維F8HPSとの比較を示す図である。
【
図18B】XPSによって測定された、繊維F16及び繊維F8HPSの元素モルパーセント結果を示す図である。
【
図19】実験の繊維の機械試験結果、及び市販の繊維についての機械試験結果を説明する図である。
図19Aはヤング率を説明する;
図19Bは破断前の最大強度を説明する;
図19Cは破断前の最大伸びを説明する。
【
図20】繊維F15のバッチ1、バッチ2、及びバッチ3の走査型電子顕微鏡画像である。画像a、画像d、画像gは断面を示す;画像b、画像e、画像hは外層の拡大像を示す;画像c、画像f、画像iは内層の拡大像を示す。
【
図21】繊維F16のバッチ1、バッチ2、及びバッチ3の走査型電子顕微鏡画像である。画像a、画像d、画像gは断面を示す;画像b、画像e、画像hは外層の拡大像を示す;画像c、画像f、画像iは内層の拡大像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
有効な血液透析処置は、尿素、クレアチニン及び塩等の小分子量溶質、並びにβ2ミクログロブリン及びタンパク質結合溶質等の中分子の除去を必要とする。言い換えれば、有効な処置を実現するために小分子(拡散クリアランスによる)及び中分子(対流クリアランスによる)の両方の除去を達成することが望ましく、それは、ハイフラックス透析器の範囲内で運転することにより通常達成される。同時に、中空繊維透析膜は、より大きい必須の分子、特にアルブミン及び他のタンパク質の通過を実質的に阻止する分子量カットオフを有するべきである。全体的に繊維壁又は選択性膜層が十分に高い透過率(例えば水に対して)を有することも望ましい。これらの性能パラメータの全てが選択性膜層の細孔サイズ及び細孔サイズ分布に影響され、且つ選択性膜層以外の膜壁の残りの厚さを構成する支持層又は構造にも影響される。透析という用語は、本明細書において血液透析を含む血液処理療法、並びに血液透析濾過、血液濾過、持続緩徐式限外濾過、及び他の体外療法を大まかに指すことが意図される。
【0015】
米国特許第10,369,263号及び米国特許第10,399,040号は、透析のためのフィルターカートリッジを記載しており、且つ本出願の譲受人であるNovaflux Inc.社に譲渡されている。米国特許第10,369,263号及び米国特許第10,399,040号の開示は、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0016】
物質移動において、ふるい係数は、膜により分離される2つの物質流の濃度間の平衡の尺度である。それは、物質受容流の濃度を物質供与流の濃度で割ったものと定義される。
S=Cr/Cd
(式中、
Sはふるい係数であり
Crは、物質受容流中の平均濃度であり
Cdは、物質供与流中の平均濃度である)
【0017】
1のふるい係数は、受容及び供与流の濃度が互いに平衡化することを意味する。1よりも著しく小さいふるい係数は、物質が膜をほとんど通過しない状況を表す。
【0018】
尿毒症性廃棄物又は毒素は、1000ダルトン未満又は500ダルトン未満の範囲内等、比較的低い分子量により特徴付けられ、それは小分子とみなされる。これの例は尿素及びクレアチニンである。β2ミクログロブリン(およそ11kDaの分子量を有する)が、同じく透析中に血液から除去される必要がある中分子量物質の一例である。透析処置が血液から望ましくない小及び中分子を除去することが意図される。
【0019】
アルブミン(タンパク質であり、且つ約67,000ダルトンの分子量を有する)が血液中に保持され、且つ透析処置により除去されることが望ましい。したがって、アルブミンふるい係数が小さい、好ましくは約0.01ほどに小さいことが望ましい。アルブミンが膜を通過しない、又は膜に付着することが望ましい。アルブミンと同様に、血液中に保持することが望ましい、同様の分子量の範囲内の他の物質が存在してもよい。これらの様々な基準は、分子量カットオフ(MWCO)によって記載することができる。MWCOは、血液から膜を通じて受容流体へと変わる、又は変わらない物質間の分子量によるおおよその境界である。
【0020】
わずかにより詳細には、一般に、血液中に残ることが望ましいアルブミン等の物質を失う2つの可能性のある方法が存在することを理解することができる。そのような物質の損失の第1の機構又はモードは、そのような物質が血液から透析液中へ多孔質膜の細孔を通過することであり、それは、ふるい係数によって記載されたばかりのことである。しかし、その機構に加えて、活性であり得る別の可能性のある機構、すなわちアルブミン又は類似物質の膜の表面への吸着も存在する。吸着される物質は、受容流体中に現れないであろうし、したがって、記載されたばかりのように測定されたふるい係数は、その材料を表さないであろう。それでも、吸着された物質は依然として血液から失われ、患者に使用できないであろう。アルブミン等の物質のふるい分け及び吸着のいずれも望ましくない。この状況を十分に記述するために、αsを細孔を通過する(ふるい分けされる)目的の物質の割合と、αaを吸着される割合と、αrを血液中に残る割合と定義することが可能である。これらの間の関係はαs+αa+αr=1である。血液アルブミン保持係数と呼ばれることがある新しいパラメータを定義することが可能であり、それは、ふるい分け又は吸着のいずれかの結果生じるアルブミン損失後に血液中に残るアルブミンの割合を記述する。繊維の壁の内側でアルブミンの吸着が存在しない場合は、血液アルブミン保持係数αrは単に1-アルブミンふるい係数(アルブミンふるい係数の補数)である。しかし、より一般的には、血液アルブミン保持係数αrはαr=1-αs-αaである。ふるい分けは、小細孔を実現する等の戦略により最小化される。吸着は、親水性であり、且つ血液適合性があるより滑らかな表面を実現する等の戦略により、及び必要以上に大きくない壁厚を実現することにより最小化されると考えられる。本明細書に記載される実験法において、実験的に測定されるパラメータはアルブミンふるい係数である。
【0021】
透過率は、単位膜面積あたり及び流れを駆動する単位圧力降下あたりの膜を通る液体の流量を記述する。KUFは、ある特定の透析器について、流れを駆動する単位圧力降下あたりの膜を通る液体の流量である。透析器は、通常、ハイフラックス又はローフラックスのいずれかとして分類される。現在、血液透析の大部分は、ハイフラックス透析器を使用して実施される。米国食品医薬品局は、ハイフラックス透析器を少なくとも12mL/(h・mmHg)のKUFを有する透析器とみなす。(これは、膜自体よりもむしろある特定の透析器の性能を記述する。)提案されているより新しい定義は、ハイフラックス透析器が、β2ミクログロブリンのクリアランスに関するある一定の要求と併せて14mL/(h・mmHg)超のKUFを有することと報告されている。成人血液透析に典型的な透析器は1.5m2~2.0m2の範囲の表面積を有し、したがって、単位膜面積に基づいて、これは、6~8mL/(h・mmHg・m2)の透過率に対応する。European Dialysis(EUDIAL)ワーキンググループは、ハイフラックス透析器を20mL/(h・mmHg・m2)超の透過率を有すると定義している。(Claudio Ronco及びWilliam R. Clark、Haemodialysis membranes Nature Reviews | Nephrology、2018年6月、第14巻、394~410頁参照)
【0022】
従来のハイフラックス透析器は、繊維壁を通る二方向性対流を有する状況においてしばしば使用される。二方向性対流は、血液透析中に繊維透析器にわたって加えられた膜間圧力により起こる。繊維の長さに沿ったある部分において、膜間圧力(TMP)、すなわち、繊維にわたる圧力降下は、液体を血液から繊維壁を通じて透析液中へ外に対流的に駆動するようなものである。繊維の長さに沿った何らかの他の部分において、TMPの方向は反転され、且つ液体を透析液から繊維壁を通じて血液中へ内に対流的に駆動するようなものである(逆濾過と呼ばれる)。このプロセスは、血液透析において既知のように内部濾過とも呼ばれる。膜間圧力(対流)のために繊維壁を通って外に輸送される水性液体の組成は、膜間圧力差のために反対方向に繊維壁を通って内に輸送される水性液体の組成と異なる。膜間圧力下で膜を通る液体の流れは、対流輸送の駆動力であり、それは、いわゆる対流クリアランスによる透析中の中分子のクリアランスに役立つ。対流輸送が起こる両方向の物質移動中、拡散輸送は濃度勾配のみに依存するため、常により高濃度からより低濃度の方向である。
【0023】
対照的に、ローフラックス透析器において、対流輸送は制限され、小さい細孔サイズのために、中分子の対流クリアランスはほとんど存在しない。ローフラックス透析器において、物質輸送は、ほぼ完全に拡散による小分子の輸送である。ここで、好ましい透析療法はハイフラックス透析器を使用することであり、それは尿毒症性毒素に有効な拡散及び対流クリアランスを同時に実現する。
【0024】
一般に、高い透過率を有することと、血液中の分子の一定のサイズを保持することの目標の間には何らかのトレードオフが存在する。アルブミン等の分子の良好な血液保持の達成は、小細孔を有するより滑らかな選択性層の実現に関連する。更なる詳細は、選択性層の厚さ及び中空繊維の壁の残りの(非選択性)部分の構造に関係する。選択性層が本質的にインタクトであり、且つ物理的に堅牢であり、したがって選択性層内にひび割れ又は穴が存在しないことが更に重要である。同時に、小細孔は、それらを一般に通る液体の通過に対して高い流れ抵抗又は低い透過率を有する傾向がある。透過率は、選択性層の厚さ等のパラメータ、及び選択性層の支持構造として働く繊維壁の非選択性部分の構造にも影響される。一般に、選択性層の分子量選択性特性を実現する小細孔も流れ抵抗を生み出し、ハイフラックス又は高透過率膜の達成をより困難にする。一般に、繊維壁を通る液体の流れに対して高い透過率を達成するために、選択性層はできるだけ薄いことが望ましく、繊維壁(支持構造)の残りがより開いており、且つ高い透過率を有することが望ましい。厚さ、細孔サイズ、及び他のパラメータ等、選択性層及び支持層の特性は、構成材料により、及び組み合わせて作用する製造プロセスの様々なパラメータにより決定される。外部表面の血液適合性は、小さい細孔サイズ及び外面の小さい表面粗さ、及びPVP等の親水性ポリマー化学成分の存在の組合せにより決定され、それは、本明細書の他の場所で論じられる。
【0025】
現在の臨床診療において、繊維はインサイドアウト構成で使用され、そこでは血液が繊維の内腔の内側を流れる一方、透析液が繊維の外側を流れる。この従来のインサイドアウト構成のために設計された繊維は通常選択性膜層を有し、それはより小さい細孔のより高密度の層であり、それは内部面又は内腔面にあり、それは血液に面する表面である。そのような表面特性は有利に、繊維内腔の内側で血餅形成につながるであろう補体系の活性化又は血栓症の促進を抑止するために滑らか且つ親水性にされる。
【0026】
本質的に全ての現在の血液透析治療において、中空繊維膜はインサイドアウト構成で運転され、選択性膜層は繊維の内腔面に位置している。
【0027】
従来の繊維とは対照的に、本発明の実施形態は、アウトサイドイン構成での運転に有用である。アウトサイドイン濾過については、繊維の外側表面が選択性層を有すること及び血液適合性の特性(それは親水性及び小さい表面粗さである)を有することが望ましいか、又は必要でさえある。
【0028】
アウトサイドイン構成に関して、アウトサイドイン濾過のために開発された繊維の数例のうちの1つは、Krause及びGohlの特許欧州特許第2083939(B1)号、及び同様にKrause及びGohl等の米国特許第8596467号である。Krause及びGohlの特許の電子顕微鏡の画像に示されるように、最も小さい細孔は、Krause及びGohlに示された全ての示された例の繊維について外側選択性層に存在する。アルブミンのふるい分けに関して、Krause及びGohlの特許の段落0013に、Krause及びGohlの繊維が「分子サイズに関して広範囲(最大100000ダルトン)の高拡散輸送」を示すことが記載されている。したがって、アルブミン(それは約67,000ダルトンの分子量を有する)は明確にそのような繊維の壁を通過することができるであろうし、それは望ましくない。
【0029】
透過率に関して、Krause及びGohlの繊維の透過率の範囲は、米国特許第8596467号に「更なる実施形態では、中空繊維膜は、1×10-4~100×10-4[cm3/cm2×bar×s]の範囲内、好ましくは1×10-4~70×10-4[cm3/cm2*bar*s]の範囲内、最も好ましくは1×10-4~27×10-4[cm3/cm2*bar*s]の範囲内の水力学的透過率を有する。この水力学的透過率に対して、膜壁を通る対流輸送は、広範囲の高拡散輸送を同時に有しながら最小化される…」と記載されている。他の単位で表されたこれらの透過率値は、[4.7~474mL/(m2*mmHg*h)];好ましくは[4.7~331mL/(m2*mmHg*h)];最も好ましくは[4.7~331mL/(m2*mmHg*h)]である。この定量的記述は、Krause及びGohlの透過率が、繊維がハイフラックス透析器の範囲をほんのわずかに下回り得る、又は十分にハイフラックス透析器の範囲内であり得るようなものであることを示す。それでも、特にそのアルブミン漏出のために、Krause及びGohlの繊維は、本発明の実施形態の目標を満たさない。
【0030】
Krause及びGohlのアウトサイドイン繊維が、Krause及びGohlの繊維のうちの典型的な1つについてKrause及びGohlの
図2Bに示されている。繊維は、5つの連続層を含むと記載されており、各層は異なる密度を有し、最外層は最高密度層である。その外側表面に、Krause及びGohlの繊維は、より高密度の多孔質材料の比較的薄い層を有し、壁領域の残りには、より低密度の多孔質材料を有する。より高密度の層の厚さは、それらの写真中の寸法のスケールバーを用いて繊維の断面の走査電子顕微鏡写真の外観から推定することができる。Krause及びGohlの様々な写真から、彼の高密度層の厚さがおよそ2~4ミクロンであることを推定することができる。多くのハイフラックス繊維に見出される細長いマクロボイドをKrause及びGohlの繊維が含まないことも認めることができる。
【0031】
アウトサイドイン繊維に関する別の特許はGorsuch 20070023353(米国特許第7,585,412号として発行された)であり、それは、プラスマフェレーシス(血漿分離)及び限外濾過への適用に関する。開示された繊維は、Krause及びGohlに開示されたものと同様の外側の選択性層を有する。アルブミン保持及びMWCOは具体的に記載されていないが、その特許には、限外濾過(プラスマフェレーシスよりも選択性が高い膜を使用する)について、高密度層内の細孔サイズが3~6ナノメートルほどに小さい可能性があり、それはアルブミンを引き止めるのに適切であろうことが記載されている。透過率データは、ハイフラックス範囲内の性能を示す。細長いマクロボイドの開示はない。
【0032】
更に他の用途において、アウトサイドイン繊維は水濾過の用途が既知であるが、加えてそれらは通常、アルブミンを引き止めるのに十分に選択的ではない。
【0033】
繊維は商業的な水濾過用途が意図されるのかそれとも透析用途が意図されるのかによって、ある特定の設計パラメータの範囲に違いがあることを理解することができる。水濾過が意図される繊維は典型的には、繊維壁を通るアウトサイドイン流が著しく大きい外部圧力、例えば、高気圧により駆動される環境中で働く。対照的に、血液処理用途において、そのような大きい圧力は許容されない。透析等の血液処理状況において、透析のための繊維は小さい外部圧力(実質的に1気圧未満)(それらが外部圧力を全く受けない場合)しか受けないというのが実際的な考察である。
【0034】
外部圧力を受ける繊維については、壁内の圧縮応力を考慮しなければならず、外部圧力による座屈に抵抗するのに適切な弾性安定も考慮しなければならない。本目的の状況において、弾性安定がより支配的な考慮であると考えられる。外部から加圧された管の弾性安定限界は、壁厚の繊維半径に対する比にかなり強く影響される。単純な状況における弾性安定限界の式は、p=0.25*(E/(1-ν2))*(t/r)3(式中、Eはヤング率であり、νはポアソン比であり、tは壁の厚さであり、rは壁の平均半径であり、pは弾性安定限界に対応する外部圧力である)である。壁の平均半径は、しばしば内側半径及び外側半径の平均であるとみなされる。この式は、それらの端部において制約を有さない薄壁の管に適用可能である。この式によれば、ヤング率及びポアソン比等の材料特性以外、弾性安定限界に影響する唯一のパラメータは比t/rであり、依存性は3乗である。パラメータt/rは本質的にアスペクト比(外径の内径に対する比)に関係する。
【0035】
この式により記述されるように、壁厚が外部加圧弾性安定を考慮して決定される限り、水濾過繊維は透析繊維よりも壁が厚い。透析繊維については、外部圧力に耐えるために壁が非常に厚い必要はないことを考えると、壁を通過する液体により大きい透過率を与えるために壁厚を減少させる動機が存在する。したがって、透析繊維壁厚は、水濾過繊維の場合よりも特に薄くなる傾向がある。透析繊維については、典型的な外径は250ミクロンであり、典型的な壁厚は20~40ミクロンである(170~210ミクロンの内径を与える)。これらの寸法の組合せは、結果として1.19~1.47のアスペクト比を生じる。
【0036】
水濾過繊維と透析繊維との間で異なる外径等のある特定の全体の繊維寸法も存在する。絶対寸法において、水濾過繊維は、透析のための繊維よりも大きい外径を有する傾向がある。透析繊維の場合、透析繊維のより小さい外径は、透析器カートリッジの合理的な組の全体寸法において大きい総繊維表面積を達成するのに好都合である。透析のための繊維は一般に、約300ミクロン超の外径を有さない。
【0037】
水濾過に典型的な繊維は、本発明の実施形態の繊維よりも選択性が低いことが更に考えられる。すなわち、それらは相当量のアルブミンの通過を可能にするであろう。
【0038】
既知の透析繊維の別の例は、Buck及びGoehlの米国特許第8136675号及び国際公開第2004056460号に記載された従来の繊維であり、それは従来のインサイドアウト繊維である。それらの特許は「使用中の中空繊維を取り囲む透析液」に言及し、それらは「中空繊維の最内層内に、0.5μm未満の厚さを有し、細孔チャネルを含み、15~60nm、好ましくは20~40nmの細孔サイズを有する分離層が存在する」ことを記載している。この繊維は内腔側に選択性層を有し、その選択性層から外に放射状に位置するのは細長いマクロボイドである。選択性膜層は0.5ミクロン未満の厚さを有すると開示されている。この繊維は、最大45000ダルトンの分子の通過を可能にし、且つ約200,000ダルトンの排除限界を有し、それは、全血の存在下0.05を下回るアルブミンのふるい係数を有すると記載されている。その発明の様々な繊維の水力学的透過率は、218又は190又は54*10-4cm/s/barと記載されている(1032又は900又は256mL/m2*mmHg*hに換算され、それはハイフラックスとみなされるであろう)。やはり、これはインサイドアウト繊維(従来の向きである)であり、その主な選択性層を内腔面に有する。
【0039】
透析において使用される多孔質壁の中空繊維については、ポリスルホンファミリーのメンバーを使用するのが一般的である。ポリスルホンファミリーは、より好都合にポリスルホンポリマーと呼ばれることがあることが理解されるべきである。ポリスルホンファミリーは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリアリールエーテルスルホン、並びにより好都合にポリスルホン誘導体と呼ばれることがあるそれらの誘導体を含む。しばしばそのような材料は、ポリビニルピロリドン等の別のより親水性の材料と組み合わせられる。別の可能性のある親水性材料又は添加剤はポリエチレングリコール(PEG)である。材料の一般に使用される組合せのうちの1つは、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリビニルピロリドン(PVP)の組合せである。ポリエーテルスルホンは、全体構造及び所望の機械的特性の原因となるベースポリマーとして働き、ポリビニルピロリドン添加剤は、親水性薬剤として働き、且つ支持多孔質層の孔及びミクロ構造の形成において役割を有する。これら2種のポリマー物質はいずれも、n-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒又は同様の有機溶媒に可溶である。典型的には、溶媒中に2種のポリマーを含む組成物は、紡糸口金を通じて押出又は紡糸するのに適した粘性又は粘弾性液体である。この液体は「ドープ」と呼ばれる。代替的に、他のポリマー若しくは他のポリマーファミリー又はポリマーの他の組合せ、或いは他の溶媒が使用され得ることを理解することができる。ポリスルホン誘導体は、親水性特性を増加又は向上させるために修飾されたポリスルホンポリマーを含む。例示的な修飾は、例えば化学基をポリマーに付加することによる表面修飾及び化学修飾を含む。例示的な誘導体及び技法は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれている、Alenazi等、Modified polyether-sulfone membrane: a mini review、Designed Monomers and Polymers、20:1、532~546頁に記載されている。
【0040】
親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドンのコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、他の親水性ポリマー、及びそれらの混合物のいずれかを含んでよい。これらの挙げられたタイプのポリマーに加えて、親水性特性を有する他のポリマーをポリスルホンファミリー又はポリスルホンポリマーと組み合わせて親水性ポリマーとして使用することができる。
【0041】
製造方法に関して、押出又は紡糸中、ドープの表面は、有機溶媒若しくは水又は両方の混合物のいずれかを含む別の物質に曝露されることが一般的である。典型的には、ドープを生成するために、ポリマーはn-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒又は同様の有機溶媒に溶解される。非溶媒と呼ばれる他の物質が存在し、そこではポリマー又はその重要な成分は大きい溶解度を有さない。最も一般的な非溶媒は水であり得るが、他の例には、イソプロパノール、グリセロール、及びこれらの非溶媒物質のいずれかの混合物が含まれる。溶媒及び非溶媒は互いに混和してよい。新生する繊維の表面、又は新生する繊維の特定の表面を所望の通りの溶媒及び非溶媒の様々な溶液に、又は空気に曝露して、相分離プロセス及び得られる繊維のモルフォロジーに影響を与えることができる。曝露は、内腔内で、新生する繊維の外部で、エアギャップ内で、及び凝固浴中で起こり得る。
【0042】
プロセス詳細に応じて、小細孔を有する高密度層、高密度層内のものよりも大きい細孔を有する海綿状領域、及び細長く、且つ依然として他のどの細孔よりも大きい細長いマクロボイドの様々な組合せが形成され得ることが既知である。一般に、押出されたドープの表面を有機溶媒に富む組成物に曝露すると、紡糸ドープと凝固液体との間の相分離速度が遅れ、したがって、開いた、又はより大きい細孔の形成が促進し、結果として、その物質に曝露される中空繊維膜の表面近くでより大きい内部細孔サイズを生じることが既知である。対照的に、高濃度の水を有する組成物(又はより一般的には高濃度の非溶媒を有する組成物)及びほとんど又は全くない有機溶媒への曝露は、急速固化、及びより小さい、より密度の高い細孔の形成を促進する。
【0043】
細長いマクロボイドの形成に関して、そのようなマクロボイドの形成は、新生する繊維の表面に接触している液体の溶媒及び非溶媒の濃度、並びに紡糸プロセスの速度、並びに温度等の変数に影響されると考えられる。膜生産中の細長いマクロボイドの形成は、同時に起こるいくつかの異なる機構を伴う。マクロボイド形成に影響する機構/パラメータのうちの1つは相分離の速度である。(溶媒/非溶媒交換が速いとき)即座の液-液デミキシング(demixing)を受ける膜はマクロボイドを示す傾向があるのに対し、遅れたデミキシングを受ける膜は海綿様構造を示す傾向がある(通常、溶媒及び非溶媒の混合物がある特定の表面と接触しているとき)。したがって、細長いマクロボイドは、一般に速い相分離の結果である。他のパラメータに関して、通常、マクロボイドは、膜壁厚の増加と共に徐々に現れる。エアギャップ内の繊維外部が大気に曝露される場合、エアギャップ領域内の水分は、マクロボイドの形成を促進し得る。ドープ溶液の粘度が上昇する場合、ドープ溶液の粘度のその上昇は、マクロボイドの形成を減少させ得る。また、ドープ中に存在するポリビニルピロリドンの量及び分子量は、これに影響し得る。
【0044】
本発明の実施形態
本発明の一実施形態は、アウトサイドイン構成で血液透析において使用され得る繊維であり得、そこでは血液が中空繊維の外側を流れ、透析液が中空繊維の内側を流れる。
図1において、アウトサイドイン濾過を実施するために運転される透析カートリッジが示されており、且つインサイドアウト濾過を実施するために運転される従来の透析カートリッジと対比されている。本発明の実施形態では、繊維の外面は血液に面する。この構成は、血塊が形成した場合に繊維間空間内で代替の流路を見出す血液の能力に関して利点を提供し、これは、個々の透析カートリッジの運転時間の大幅な増加の見通しを与える。
【0045】
本発明の一実施形態では、多孔質壁の中空繊維は、壁領域を含み、且つ壁領域に取り囲まれた内腔を画定する管状体を含んでよい。内腔は入口端部及び出口端部を有してよく、壁領域及び内腔は入口端部から出口端部まで軸方向に延びてよい。壁領域は、外面、内面、及び外面から内面まで径方向に延びている壁厚を画定してよい。内面は内腔を画定してよい。管状体は、一般に円形の断面形状のものでよく、外面及び内面は概して互いに同心でよい。壁領域は、外面に沿って第1の選択性層、又は外側選択性層を含んでよく、第1の選択性層は、多孔質中空繊維が外面から内面までの方向に測定されるとき本明細書に記載される血液アルブミン保持係数を有し得るようにその内部を通るアルブミンの通過の排除に対する選択性がある。いくつかの実施形態では、壁領域は、内面に沿って第2の選択性層、又は内側選択性層を含んでよい。第1の若しくは外側選択性層又は第2の若しくは内側選択性層ではない壁領域の部分はバルク層と呼ばれることがある。加えて、壁領域が内側選択性層を含むという要求は存在しない。実際、壁領域は、その内部を通るアルブミンの通過の排除に対する著しい選択性又はスクリーニング特性を持たない内面に沿ったフィルム又は層を含んでよい。
【0046】
ここで
図2Aを参照すると、本発明の一実施形態では、多孔質壁の中空繊維は、中空繊維の外面にある高密度小細孔多孔質選択性層(第1の選択性層)を有することができる。本発明の一実施形態では、中空繊維の内(内腔)面は、より高い多孔度を持ってよく、且つ高密度多孔質選択性層がなくてよい。本発明の一実施形態では、外層である選択性層は、およそ1ミクロン(μm)未満の厚さを有する高密度多孔質層でよい。一実施形態では、中空繊維の外面は血液適合性があってよく、それは、それが、血栓症を活性化しない、又は補体活性化を誘導しない安全なポリマーから作られる、親水性であり、軟らかく、水和され、且つ10ナノメートルよりも小さい又は20ナノメートルよりも小さい二乗平均平方根である血液に面する表面の表面粗さを有する特性を有することを意味する。粗さは、例えば原子間力顕微鏡により測定することができる。親水性は、この目的のために、60度未満、又は50度未満、又は40度未満である純水に対する表面接触角を有することを意味するとみなしてよい。
【0047】
ここで
図2Bを参照すると、繊維の内腔面に追加的に第2の高密度層が存在することを除いて
図2Aに示されているものと同様の多孔質壁の中空繊維が示されている。第2の高密度層は、
図2Aに示された選択性層とは一般に異なり得る。それは、細孔サイズ、細孔サイズ分布、層の厚さ、又は望まれ得るような他の任意のパラメータ等のパラメータが異なり得る。代替的に、希望するならば、第2の層は、外部表面の層と同じであり得る。例えば、壁領域は、外面に沿って、約5ナノメートル未満の平均細孔サイズを有する第1の選択性層を含んでよく、且つ内(内腔)面に沿って、約10ナノメートル未満の平均細孔サイズを有する第2の選択性層を含んでよい。第2の高密度層は、透析プロセスの逆濾過部分の間等の患者の血液へのエンドトキシンの侵入に対する二次防御として有用であり得ると考えられる。選択性層を含まない多孔質層はバルク層と呼ばれることがあることが指摘される。
【0048】
内腔面に高密度層を有することも、
図2Bに示されるように、患者の血液に入る逆濾過流体の清浄度を保証するのに有用であり得ることを更に認めることができる。その上更に、そのような繊維を使用して、インサイドアウト濾過又はアウトサイドイン濾過のいずれかにおいて使用され得る単一透析器設計をすることが可能であることさえあり得る。
【0049】
ここで、それが追加的に壁の多孔質領域内の細長いマクロボイドを示すことを除いて
図2Aと同様である
図2Cを参照することができる。マクロボイドは、実質的に空の空間である領域であるとみなしてよく、それは、壁の他の部分を構成する細孔よりも大きい。例えば、マクロボイドは、それに隣接している細孔の平均寸法の少なくとも5倍大きい、又は10倍大きい寸法を有してよい。マクロ細孔は、他の方向と比較して一方向に細長くてよい。細長いマクロボイドは、概して径方向に延びてよく、それは壁の内面から壁の外面までの方向である。1つのそのような細長いマクロボイドは、壁内に完全に含まれており、且つ選択性層に触れていないように示されている。多孔質又は海綿状領域が細長いマクロボイドと選択性層との間に存在することが
図2Cに示されている。多孔質又は海綿状領域は、細長いマクロボイドと繊維の内腔面との間にも存在する。同じく
図2Cに示されているのは、繊維の内腔面まで突破し、したがって細長いマクロボイドが繊維の内腔空間と連通している細長いマクロボイドである。両方の示されたタイプの細長いマクロボイドについて、細長いマクロボイドは選択性層に触れない;むしろそれは、海綿状領域により選択性層から分離されている。いずれのタイプのそのような細長いマクロボイドも、放射状に延びている寸法及び径寸法に対して垂直である横寸法により画定される形状を有してよい。内腔壁と交差しない細長いマクロボイドについて、放射状に延びている寸法は、細長いマクロボイドの一端から細長いマクロボイドの他端まで延びてよい。内腔壁と交差する細長いマクロボイドについて、放射状に延びている寸法は、細長いマクロボイドの一端から内腔面まで延びてよい。細長いマクロボイドの横寸法は、径寸法に沿った様々な場所における横寸法の中で見出される最大横寸法であり得る。細長いマクロボイドの横寸法は、径寸法に沿った中間点において測定される横寸法であり得る。マクロボイドは、多孔質層又はバルク層内の平均細孔サイズが確認される
図2C-1の多孔質層又はバルク層内の細孔とは対照的に示される。この平均細孔サイズは、マクロボイドを含まない細孔の平均に基づいている。また、
図2Cは、バルク層の少なくとも一部により内腔及び選択性層の両方から分離されている例示的なマクロボイドを示し、更に、内腔に対して開いているが、バルク層の少なくとも一部により選択性層から分離されている例示的なマクロボイドも示す。バルク層は、選択性層を支持するのを助け、繊維が内側選択性層を含む場合、バルク層は、内側選択性層を支持するために提供され得ることが理解されるべきである。
【0050】
本発明の一実施形態では、細長いマクロボイドは、繊維壁の壁厚の約30%~90%である径寸法を有してよい。例えば、40ミクロンであり得る繊維壁の典型的な壁厚について、細長いマクロボイドの放射状に延びている寸法は12ミクロン~約36ミクロンの範囲であり得る。本発明の実施形態では、細長いマクロボイドの放射状に延びている寸法は、横寸法の少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍でよい。本発明の一実施形態では、本明細書の他の場所の実施例のマイクロ写真から分かるように、繊維の周の周りを進むと、全周の周りに間隔をおいておよそ50~100個の細長いマクロボイドが存在するように、壁領域は、ある密度の細長いマクロボイドを含んでよい。繊維径(300ミクロンの範囲内の外径等)及び本明細書の実施例に記載される他の寸法を考えると、これは、1つの細長いマクロボイドの中心線から近隣の細長いマクロボイドの中心線までの約5~10ミクロンのおおよそのマクロボイド間隔に対応する。いくらかの壁厚を考慮して、細長いマクロボイドの横寸法は、3~8ミクロンの範囲内でよい。論じられ、且つ推定されたばかりのこのマクロボイド間間隔は周方向の間隔である。軸方向に関して、細長いマクロボイドは、軸方向に沿って同様に間隔をおいて同様の繰返し単位を形成すると考えられる。しかし、これは明確に知られておらず、軸方向に沿った構造繰返しの性質は、周方向に沿った構造繰返しの性質と全く同じではない可能性がある。
【0051】
本発明の一実施形態では、中空繊維は、ポリスルホンファミリーのメンバーを含んでよい。ファミリーは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリアリールエーテルスルホンを含む。ポリマー系は、ポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーを含んでもよく、それは任意の所望の多分散性又は分子量分布の任意の所望の分子量のものでよく、分子量分布は単峰性又は二峰性のいずれかであり得る。このポリマー系において、より大きい比率で存在してよいポリエーテルスルホンが構造を提供してよく、ポリビニルピロリドン(PVP)が、特に中空繊維の血液に面する表面(外面)において、ポリマー組合せをより親水性にする働きをしてよい。PVPは、ポリマーの溶媒からの相分離のプロセスにも影響し得る。PVPと同じ目的を果たすことができる別の物質はポリエチレングリコール(PEG)である。他の親水性ポリマーも可能である。
【0052】
血液透析用途のための中空繊維において、典型的な寸法は、200~300ミクロンの範囲内の外径及び20~40ミクロンでよい繊維壁厚である。外径の内径に対する典型的な比は約1.25でよい。これは、中空繊維の外側表面の表面積が中空繊維の内腔の表面積の約1.25倍であることを意味する。これは、選択性層が繊維の外側表面にある場合、透析、ふるい分け及び濾過に関与する表面積は、選択性層が繊維の内腔表面にあった場合に選択性層面積になるであろう表面積の約1.25倍であることを意味する。この特徴は、それに応じて、インサイドアウト構成に利用可能であるものと比較して、同じ繊維寸法及び繊維の量及びカートリッジ寸法に対してより高い濾過性能を実現する。一実施形態では、選択性膜層を繊維の外部に置くと、膜の総表面積を増加させることができ、それは、その同じ数及び寸法の繊維を使用して透析器を作るとき、より有効な透析療法を提供するであろう。
【0053】
本発明の一実施形態は、複数の記載された中空多孔質壁の繊維を含む透析カートリッジであって、ハウジング中央部内部領域を含むハウジング内部、ハウジング血液供給ポート、ハウジング血液排出ポートを有するハウジング;繊維の第1の端部において繊維と連結し、且つハウジングのハウジング内部と連結し、且つ第1の端部プレナムの境界となり、且つハウジング中央部内部領域から第1の端部プレナムを分離する第1の端部バリア;繊維の第2の端部において繊維と連結し、且つハウジング内部と連結し、且つ第2の端部プレナムの境界となり、且つハウジング中央部内部領域から第2の端部プレナムを分離する第2の端部バリアを更に含み、血流コンパートメントは、繊維外部並びにハウジング中央部内部領域、ハウジング血液供給ポート及びハウジング血液排出ポートに沿った内部ハウジング表面により画定される繊維間空間を含み、繊維間空間、ハウジング供給ポート、及びハウジング排出ポートは互いに流体連通しており、流体流コンパートメントは、第1の端部プレナム、繊維内部、及び第2の端部プレナムを含み、第1の端部プレナム、繊維内部、及び第2の端部プレナムは互いに流体連通している、透析カートリッジを更に含んでよい。そのようなカートリッジが
図2Dに概略的に示されている。
【0054】
本発明の一実施形態では、繊維の外側表面に位置する選択性膜層を有する多孔質壁の中空繊維は、0.97以上の血液アルブミン保持係数(吸着がない場合0.03未満のアルブミンふるい係数に対応する)好ましくは0.98以上の血液アルブミン保持係数(吸着がない場合0.02未満のアルブミンふるい係数に対応する)、より好ましくは0.99以上の血液アルブミン保持係数(吸着がない場合0.01未満のアルブミンふるい係数に対応する)を有することができる。更により好ましくは、繊維は、0.997以上の血液アルブミン保持係数(吸着がない場合0.003未満のアルブミンふるい係数に対応する)を有し得、又は0.999以上の血液アルブミン保持係数(吸着がない場合0.001未満のアルブミンふるい係数に対応する)を有し得る。本発明の一実施形態では、多孔質壁の中空繊維は、6mL/hr mmHg m2超、又は20mL/hr mmHg m2超の透過率を有することができる。本発明の一実施形態では、繊維の内腔側に向かって開いている一方、外(外側)選択性層を中断しない細長いマクロボイドを含む支持構造を繊維は有することができる。一実施形態では、支持多孔質層は選択性膜層と共に、繊維に破断時の少なくともおよそ5MPaの機械的強度、又は破断時の少なくともおよそ10%の伸び歪み、又はおよそ160MPaのヤング率を与えることができる。
【0055】
本明細書の実験において使用される紡糸口金が
図3に示されている。紡糸口金は一般に、第1の環状領域に取り囲まれている中心ボア又はノズルを含む。示された紡糸口金等の紡糸口金において、追加的に第1の環状領域は、ひいては、第2の環状領域である更に別の環状領域に更に取り囲まれてよい。押出又は紡糸中、第1の環状領域は、中空繊維の壁を最終的に形成するものでよく、それはドープから形成されてよい。ボア内にドープと共に共押出されたボア液体が存在してよく、それは、ドープの内面と接触しており、且つボア空間を占め、且つ画定して、内腔のサイズ及び形状を維持するのを助け、更に、紡糸プロセス中に起こる物理化学的プロセスにも影響し得る。ボア材料は、熱的若しくは化学的に、又はその両方でドープと相互作用してよく、相分離プロセスに影響しても、影響しなくてもよい。第1の環状領域の外側に、中空繊維の新生する壁のドープの外面と接触して、第2の環状領域から押出される「シャワー」が存在してよい。「シャワー」は、押出された材料の全てが凝固浴に達するまで新生する繊維を取り囲んでよい。シャワーは、熱的若しくは化学的に、又はその両方でドープと相互作用してよく、更に、重要なことに、所望のミクロ構造及び孔を形成するように相分離プロセスに影響し得る。
【0056】
紡糸プロセス中の様々な加工パラメータが、製造される繊維のモルフォロジー及び寸法に影響し得る。温度差を伴う製造状況において、押出又は紡糸された材料は、高温の紡糸口金出口から新生してよく、且つ時間が経過するにつれて、及び材料が前進するにつれて冷却又は固化してよい。これが「クエンチ」という用語を使用する元であろう。また、繊維は、紡糸口金と巻取ホイールとの間の液体の凝固浴を通過してよい。凝固浴は、熱的若しくは化学的に、又はその両方でドープと相互作用してよく、且つ所望のミクロ構造及び孔を形成するように相分離プロセスに影響し得る。更に他の調整可能なパラメータは、ドープ流量及びボア流量及びシャワー流量である。これらのパラメータ並びにそれらの相互関係及び比は、本明細書の他の場所で論じられる。
【0057】
典型的には紡糸口金出口と凝固浴中の液体との間にある距離が存在し、この空間はしばしばエアギャップと呼ばれる。紡糸口金がボア及びドープ領域のみを含む場合は、押出された紡糸繊維の外側表面は、それが紡糸口金出口と凝固浴との間の距離、すなわち、エアギャップを横切るときに空気に曝露される可能性がある。本明細書に記載されるように、本発明の一実施形態では、紡糸口金は、第1の環状領域を取り囲む第2の環状領域を含んでよく、その第2の環状領域は液体を含んでよく、且つシャワーと呼ばれることがある。そのような状況において、繊維は、それが紡糸口金出口を離れるとき、シャワー液体に短時間取り囲まれてよく、その後、繊維は凝固浴中に移動し、浸漬される。したがって、この状況において、紡糸口金を離れた繊維は、空気に実際に曝露されない可能性があり、むしろシャワーに取り囲まれ、後に凝固浴中に浸漬されてよい。それでも、繊維紡糸の分野の他の文献との対応のために、エアギャップという用語がここで依然として使用される。シャワー中の水は外側選択性スキン層の形成を促進する非溶媒として作用するため、シャワーはアウトサイドイン繊維の製造にとって重要であるように見受けられる。繊維の外側の所望の選択性(スキン)層の形成においてシャワー及び凝固浴の組合せが重要である可能性がある。新生する繊維がエアギャップを通過する間、それは最大の重力を受ける可能性がある。これは、繊維が周囲の凝固浴液体の浮力効果により少なくとも部分的に支持される繊維が凝固浴中に浸漬されるときの状況と異なる。紡糸口金と凝固浴間の距離が本発明者らのスキン層の形成に重要であり得る。
【0058】
紡糸プロセス中に繊維の任意の表面と接触している物質は、起こる過渡的な物理化学的プロセスに影響し得る。ボア中に位置を保持する流体として部分的に働くボア液体が存在してよく、それはまた、押出又は紡糸された材料が紡糸口金出口から新生した後、環状壁内の、特に繊維の環状形壁の内腔に面する又は内部領域内の相分離現象に適切に影響するように選ばれてよい。シャワーが存在する場合、シャワー物質は、押出又は紡糸された材料が紡糸口金出口から新生した後、それが凝固浴に入る前の短時間の間に繊維の環状形壁、特に繊維の環状形壁の外に面する又は外部領域内の相分離現象に適切に影響するように選ばれる組成物でよい。凝固浴組成物は、押出又は紡糸された材料が凝固浴中に沈んでいる時間の間に繊維の環状形壁、特に壁の外に面する又は外部領域内の相分離現象に適切に影響するように選ばれてよい。一般に、ドープの表面に隣接する組成物中の水等の非溶媒の存在又は著しい濃度は、その接触面又はその近くにおいて迅速な相分離又はスキン層の形成を促進し、ドープの表面に隣接する組成物中の有機溶媒の存在又は著しい濃度は、その接触面又はその近くにおいて相分離を遅くすると考えられる。実施形態では、凝固浴の組成物は典型的には非溶媒を含み、これらの実験において凝固浴は水である。しかし、選択性スキン層のふるい係数及び分子量カットオフに影響するように何らかの有機溶媒を水と混合することができることが代替的に可能である。例えば、シャワー中若しくは凝固浴中のいずれか又はその両方のいくつかの濃度(約10~20%又は更に最大50%等)のNMP又は同様の溶媒を使用して、繊維の外側表面の選択性スキン層の透過率及びふるい分け特性を更に調整することができることが可能である。従来のインサイドアウト繊維の製造における実行は、その中で繊維が事実上空気(又はガス)に曝露され、且つボア液体中により高濃度の非溶媒が存在するエアギャップを使用すると考えられる。
【0059】
繊維が紡糸口金から新生し、凝固浴を通過した後、紡糸又は押出された繊維は、巻取ホイール上で収集されてよい。巻取ホイールの速度は、繊維が紡糸口金出口と巻取ホイールとの間を進行する間に繊維を延伸するようなものでよい。延伸は、本明細書の他の場所に論じられるように、繊維の長さを変化させることに加えて他の繊維寸法を変化させる可能性がある。
【0060】
これらのパラメータの全てが外側選択性層内の細孔の得られる量及び寸法及びモルフォロジーに対して効果を有する。一般に、その非溶媒分等のボア液体の組成物、及びその非溶媒分等のシャワーの組成物、及びその非溶媒分等の凝固浴の組成物は、変化して、相分離プロセス及び繊維のモルフォロジーに影響し得るパラメータを与える。
【0061】
血液のアルブミン分を維持する膜を達成するために、望ましい1つの特徴は、これらの繊維を使用したカートリッジを出る血液中にこれらの分子が残るようにアルブミン等の分子が膜を横断するのを防ぐために適切に小さい寸法のものである細孔を有する選択性層を有することであると考えられる。
【0062】
適切な選択性を有する膜を達成するために、ある一定の小さいサイズ(数ナノメートル等)の細孔及びそのような細孔のある一定の密度(局所壁領域の単位体積あたりの細孔数)が、ある特定の物質に一定の保持又はふるい係数を与えるために望まれ得ると考えられる。例えば、5ナノメートルの有効細孔サイズは、望ましく小さいアルブミンふるい係数を与えることができる。ハイフラックス又は高い透過率を達成するために、選択性層がその絶対寸法において薄いことが助けになることが更に考えられる。例えば、選択性層は1ミクロン未満、又は0.5ミクロン未満でよい。また、この選択性層は、その完全性を保持すべきであり、且つ製造中に過度にひび割れしてはならない。小さい寸法の細孔は本質的に高い水力学的抵抗を有し、したがって、できるだけ薄い(構造的完全性と一貫した)選択性層を有すると、流体が高い抵抗を通って流れなければならない距離が最小化され、したがって、輸送に必要とされる流れ抵抗及び膜間圧力が最小化される。
【0063】
壁断面内の位置に応じた孔の所望の分布及びモルフォロジーを達成するために、ボア液体中の溶媒の適した組成物及び濃度(相分離を遅くするのに役立つであろう)、並びに使用される場合はシャワーの適した組成物、並びに非溶媒を含む適した浴組成物と組み合わせたポリマードープ濃度の適した組合せを見出すことが望ましいと考えられる。温度及び巻取速度及び紡糸口金寸法等、紡糸プロセスにおける他のパラメータの適した値も選ぶことができる。選択性層を作り出すために望まれるものは、薄層内に集中したより小さい細孔、及び他の場所のより大きい細孔であろう。これらの様々な目標を同時に達成することは困難であり得る。
【0064】
紡糸中に起こるいくつかの同時のプロセス、及びそれらがアウトサイドイン繊維紡糸とインサイドアウト繊維紡糸との間でどのように異なるかをここで記載することは有用である。従来のインサイドアウト透析のための繊維の製造において、繊維の内側(内腔)表面に選択性層を作り出すのが典型的である。これは典型的には、ドープ及びボア液体を共押出することにより行われ、ボア液体は、水又は高濃度の水を含む溶液等の非溶媒である。非溶媒は、内腔面の相の分離を加速し、結果として、典型的には密充填された小細孔を有する選択性層につながる。
【0065】
相分離が起こると同時に、繊維は、典型的には紡糸プロセス中に延伸されている。延伸は、延伸されている材料の体積を保存する、すなわち、繊維の長さと局所領域の断面積の積を保存するプロセスに近いことがある。例えば、この仮定の下、長さを4倍に伸ばすと、それに伴って繊維の断面積は4分の1に減少し、又は繊維の外径は2分の1に減少するであろう。環の中心領域内の環状ドープ及びボア液体の場合、この目的のために、それらの合わせた体積が新生する繊維を表すとみなすことが可能である。これがそうである理由は、連続紡糸プロセス中、その他に比べてそれらの物質のうちの1つの巨視的な長手方向の流れの機会が本質的にないからである。透析のための従来のインサイドアウト構成及び従来の繊維幾何形状の場合、且つ内腔面が非溶媒の作用のために比較的速やかに固化する一方、外側がより長期間比較的より軟らかいままであることを仮定して、これは、繊維長が延伸のために増加するにつれて繊維の外側表面が比較的自由に内に収縮することを意味する。
【0066】
本発明の実施形態では、アウトサイドイン濾過のための繊維を作り出す目標に対して、中空繊維は、環状の幾何形状のドープ及び環の内部を占めるボア液体を含むように押出されるが、新生する繊維の外部表面は、繊維内部表面(内腔面)よりも更に非溶媒に曝露される。これは、繊維の外部表面に選択性層を生産する。環状形繊維の外側表面が紡糸プロセスにおいて比較的早く固化する一方、繊維壁の内部部分がより軟らかいままであるという同様の仮定で、且つ繊維の延伸が相分離又は硬化プロセスと同時に起こることを仮定して、そのような繊維の延伸は、処理中の繊維の外部スキンを内に引っ張ろうと又は収縮させようとしながら繊維の半径又は直径の収縮を引き起こす可能性を有することを理解することができる。これが起ころうとしているとき繊維外面が既に比較的硬い場合、この内への引張りは、外部スキンを非円形の形状に座屈させる、又は壁のより内側の部分を繊維の外部スキン層から分離させる可能性を有する。したがって、外側にその選択性層を有するアウトサイドイン構成は、結果として従来のインサイドアウト繊維の紡糸において存在しない、又はまったく顕著ではない潜在的な困難をもたらす。
【0067】
実験的調査
本発明の実施形態が一連の実験の実施を通じて更に記載される。
【0068】
様々な繊維が
図3に示されるような三重同心円状紡糸口金を使用して製造された。
図4は、紡糸口金、ポンプ、浴及び巻取ホイールの全体の配置を示す。
【0069】
本発明の実施形態のための実験作業の過程で、異なる16組の条件下で実験用繊維を生産するために繊維紡糸が実施された。これらは繊維F1~F16と名付けられる。繊維の全てについて、寸法の測定、及び写真記録、及び全体の外観の観察等、特定の基本測定が行われた。流れ抵抗又は特定の分子量溶質の通過又は機械的特性等の別の特性を測定するためにそれらの繊維のサブセットが更に特徴付けられた。
【0070】
一連の実験の実験条件がTable 1(表1)に記載されている。
【0071】
【0072】
中空繊維が非溶媒誘導相分離により生産された。Ultrason E6020 PES(BASF社、Ludwigshafen、ドイツ)(ポリエーテルスルホン)(分子量=75000g/mol.多分散指数(分散度)(Mw/Mn)=3.4)及びPVP K90(分子量≒360kDa、Sigma-Aldrich Chemie GmbH社、Munchen、ドイツ)(ポリビニルピロリドン)を超高純度N-メチルピロリドン(NMP)(Acros Organics社、Geel、ベルギー)に溶解させることによりポリマードープ溶液が調製された。全てのドープポリマー溶液(Table 1(表1))がローラーベンチで3日間混合され、次いで、それらがBekipor ST AL3 15μmフィルター(Bekaert社、Kortrijk、ベルギー)を使用して濾過された。それらがステンレス鋼製シリンジに移され、少なくとも24時間脱気させた。この後、ドープ溶液を含むシリンジが高圧シリンジポンプ及び繊維の製造のための紡糸口金に接続された。超純水がシャワー液体として使用され、それがポンプで0.3mL/minの流量で紡糸口金に通された。全ての実験のシャワー流量が0.3mL/minに設定された。「シャワー」という用語は、紡糸口金の最外環状オリフィスにポンプで通される外部凝固剤液体を指す(
図3)。ボア液体は、Table 1(表1)に記載されているような様々な濃度で調製された超純水及びNMPの混合物であった。凝固浴は、室温(約20℃)の脱塩水からなっていた。紡糸後、作製された中空繊維が全ての残留溶媒を除去するために脱塩水で数回洗浄され、次いで、それらが更なる使用のために保管された。
【0073】
ここで報告される全ての繊維が0.3mL/minのシャワー流量を使用して紡糸された。この流量は、それが形態学的不規則性なく規則的な高密度外側層の生産を可能にするため選択された。これは、アウトサイドイン繊維を作るために重要なパラメータである。ここで報告される繊維F1~F16ではない実験を含む開発作業の組全体において、以下のシャワー流量が使用された:0.04mL/min;0.3mL/min;0.6mL/min;1.2mL/min;2.4mL/min;4.8mL/min。より高いシャワー流量では、繊維のモルフォロジーはかなり不規則であり、外層の剥離が観察され、一方、より低いシャワー流量では、所望の高密度の外層を得ることが可能ではなく、外層の剥離も観察された。したがって、繊維F1~F16の全てについて、使用されたシャワー流量は0.3mL/minであった。
【0074】
凝固浴は、室温(およそ20℃)の脱塩水からなっており、それは他の繊維紡糸流体及び設備自体と同じ温度であった。紡糸手順の多くのパラメータ(すなわちボア液体組成物、ドープ組成物、ドープ及びボア流量、巻取ホイール速度、エアギャップ長並びにポリマードープ濃度)の効果が様々な組合せで調査された。
【0075】
これらの実験においてシャワー及び凝固浴及び回収浴の全てに純水を使用することにより非溶媒の特性がそれらに与えられるが、それらの流体のいずれかが低濃度の有機溶媒を高濃度の水と共に有し得、且つ実質的な非溶媒特性を依然として有することが代替的に可能である。有機溶媒は、ドープ中で使用されるようなn-メチルピロリドン、又は何らかの他の有機溶媒であり得る。任意のそのような変形が外側選択性層の特定の特性を達成するために使用され得る。例えば、シャワー及び凝固浴及び回収浴は、ポリマー材料のための溶媒である1%濃度未満の有機溶媒又は2%濃度未満の有機溶媒を有し得る。非溶媒は、その中でドープ中に含まれるポリマー材料があまり溶けない物質を指す。水が一例である。他の例には、イソプロパノール、グリセロール、及びこれらの非溶媒物質のいずれかの混合物が含まれる。
【0076】
紡糸口金と凝固浴との間のエアギャップが、どの実験が実施されているかによって0.6cm又は1.2cmのいずれかに調整された(Table 1(表1)にも記載)。繊維が紡糸口金を離れた後、巻取ホイールがそれらの収集のために使用された。Table 1(表1)に記載されているように、ドープ及びボア液体の様々な異なる流量並びに巻取ホイールの様々な異なる速度が様々な繊維の作製のために使用された。
【0077】
一般に、フィード溶液及び浴及び紡糸口金の全てが同一温度であり、それは室温(およそ20℃)であった。様々な温度は、互いに本質的に同一、又は互いに2℃以内、又は互いに5℃以内、又は互いに10℃以内であり得る。様々な温度は、およそ20℃、又はおよそ18~22℃、又はおよそ20~25℃、又はおよそ20~30℃、又は同様の範囲内の他の値でよい。希望するならば、フィード溶液及び浴及び紡糸口金の全てが何らかの他の温度において同一温度のものであるか、又は様々なフィード溶液及び浴及び紡糸口金が互いに異なる温度である他の温度を使用して繊維製造を実施することが代替的に可能であろう。
【0078】
測定技法及びプロトコル
これらの実施例に記載される繊維については、モルフォロジーが走査電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製JSM-IT 100、東京、日本)により分析された。断面の画像化のために、膜が空気中で乾燥され、液体窒素中で破砕された。SEM画像化の前に、Cressington 108 auto sputter (Cressington Scientific Instruments社、Watford、英国)を使用して試料に金スパッタが行われた。
【0079】
選択された繊維の外面化学の分析が減衰反射-フーリエ透過赤外(ATR-FTIR)分光法(Spectrum Two、PerkinElmer社)及びSpectrum Quantソフトウェアにより実施された。全てのスキャンが4cm-1の分解能で膜表面の様々な部分に対して三つ組で室温で実施され、純粋なPES、純粋なPVP材料のFTIRスキャン、及び商業的な中空繊維Fresenius社製F8HPSと比較された。
【0080】
QuanteraスキャニングXPSマイクロプローブ(Physical Electronics社、Chanhassen、MN、米国)及びAl Kα励起放射(hν=1486.6eV)を使用してX線光電子分光法(XPS)を使用して、選択された繊維の分析が実施された。所与の元素原子百分率が繊維F16について測定され、比較のために、Fresenius社製の商業的な繊維F8HPSについても測定された。データ解析がCompass for XPS control、Multipak v 9.4.0.7を使用して実施された。
【0081】
分子量に応じた膜を通る溶質の通過の特性を決定するために、それぞれの分子量を有する物質を含むいくつかの異なる試験液体を使用して実験が実施された。変化させた分子量を有するこれらのいくつかの流体を用いた実験が、カットオフ特性を大まかに記述するようにそれぞれの分子量におけるデータポイントを与えることができる限り、分子量カットオフが特徴付けられた。純水、モデルアルブミン及びビタミンB12水性溶液、並びにヒト血漿流体中クレアチニンを使用して、繊維の輸送特性が実験的に測定された。これらの試験が小さいサブセットの繊維についてのみ実施された。
【0082】
水輸送/透過率実験のために、選択された繊維が空気中で乾燥され、既知の表面積(繊維F3、n=3、4.1±0.8cm2;繊維F4、n=2、4.1±0.0cm2;繊維F8、n=2、2.6±0.0cm2;繊維F15、n=3、2.8±0.1cm2;繊維F16、n=3、4.8±2.9cm2)を有する膜モジュールが二成分エポキシ接着剤(Griffon Combi Snel-Rapide、Bison International社、Goes、オランダ)を使用して用意された。水輸送実験の前に、繊維モジュールが1Barの膜間圧力(TMP)でエタノールで30分間あらかじめ濡らされ、1BarのTMPで超純水で少なくとも30分間予備充填された。その後、透過した水の量が0.6、0.8及び1BarのTMPで経時的に測定された。TMP(Bar単位)に対するフラックス(L/(m2・h))の線形あてはめの傾きとして、得られる水透過率が計算された。輸送特性の測定を実現するのに加えて、繊維が機械的に強く、且つ1barの圧力差に耐えることができることを実証するためにこの実験手順が使用された。
【0083】
アルブミン濾過実験も膜モジュールを使用して実施された。膜モジュールは、二成分エポキシ接着剤を使用して用意され、且つ既知の有効膜表面積を有していた。それらは、本明細書において開発されたいくつかの異なる繊維を使用してデッドエンド構成で用意された(繊維F3、n=2、3.6±0.6m2;繊維F4、n=2、4.1±0.0m2;繊維F8、n=2、2.6±0.0m2;繊維F15、n=3、2.8±0.1m2;繊維F16、n=2、5.8±3.1m2)。モジュールが1Barでエタノールで少なくとも30分間あらかじめ濡らされ、1Barで水で少なくとも30分間予備加圧された。これらの濾過実験のために、ウシ血清アルブミン(BSA)(66.5KDa)が使用された(Sigma-Aldrich Chemie GmbH社、Munchen、ドイツ)。pH 7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中0.6±0.0g/Lの濃度のBSA溶液が1Barの圧力で外側コンパートメントから繊維の内腔コンパートメントまでアウトサイドイン構成で加圧された。30分後に透過液が収集され、透過液中のアルブミン濃度がUV分光光度計(NanoDrop Technologies社、ウィルミントン、DE)を使用して測定された。本明細書の他の場所に記載された式を使用してふるい係数(SC)が計算された。
【0084】
F16と名付けられたアウトサイドイン繊維の膜モジュールでデッドエンド構成でビタミンB12濾過実験が実施された(n=3、9.9±0.3m2)。モジュールが1Barでエタノールで少なくとも30分間あらかじめ濡らされ、1Barで水で少なくとも30分間予備加圧された。リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中0.1g/Lの濃度のビタミンB12溶液が1Barの圧力で透析液コンパートメントから繊維の内腔コンパートメントまでアウトサイドイン構成で加圧された。30分後に透過液が収集され、ビタミンB12の濃度がUV分光光度計(NanoDrop Technologies社、ウィルミントン、DE)を使用して測定された。本明細書の他の場所に記載された式を使用してふるい係数が計算された。
【0085】
F16と名付けられたアウトサイドイン繊維によるヒト血漿からのクレアチニンの除去が専用のセットアップ(Convergence社、Enschede、オランダ)を使用して拡散モード(膜間圧力(TMP)=0)及び向流構成で調査された。50mLのヒト血漿(現地の倫理指針に従って健常ドナーから得られた-Sanquin、Amsterdam、オランダ)にクレアチニン(Sigma-Aldrich Chemie GmbH社、Schnelldorf、ドイツ)(0.1g/L)がスパイクされ、繊維の外側の空間内を10mL/minの流量で再循環された。50mLの透析流体が内腔内空間内を1mL/minの流量で再循環された。透析流体を調製するために、2mM KCl、140mM NaCl、1.5mM CaCl2、0.25mM MgCl2、35mM NaHCO3(全てSigma-Aldrich Chemie GmbH社、Schnelldorf、ドイツ製)及び5.5mMグルコース(Life Technologies Europe BV社、Bleiswijk、オランダ)がMilli-Q水精製システムを使用して調製された水に溶解された。2.9±0.1cm2の総外面面積を有する3種の繊維から構成される膜モジュールが使用された。実験が三つ組で24時間実施され、クレアチニンの定量化のために血漿及び透析液コンパートメントから試料が最初の4時間は1時間毎に、及び24時間で採取された。クレアチニン濃度が逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用してUV検出により分析された。クレアチニン濃度が血漿(30kDaフィルター、Amicon Ultracel-30 K、Merck Millipore Ltd社を通じた濾過後)中及び透析液中の両方で分析された。透析液に見出されたクレアチニン濃度によりクレアチニン拡散除去が計算された。全ての除去結果が繊維モジュールの外面面積に規格化された。
【0086】
実験用繊維F16及び商業的な繊維F8HPS(Fresenius社)中空繊維の機械的試験が500Nロードセルを備えたZwick Z020引張試験機を使用して室温で実施された。最大引張強度、ヤング率及び極限強度時の伸びが得られた。
【0087】
全てのデータが平均±SD(標準偏差)として提示されている。統計解析がGraphPad Prismバージョン5.02(GraphPad Prism Software、La Jolla、CA、米国)を使用して実施された。機械的試験の統計的差が対応のないスチューデントのt検定を使用して決定された。開発された繊維の選択性層の厚さの統計的差を決定するために、異なる群間の多重比較が一元配置分散分析(ANOVA)及びボンフェローニ事後検定を使用して実施された。差がp<0.05で有意とみなされた。
【0088】
いくつかの分析及び比較については、商業的に入手可能な繊維F8HPS(Fresenius社)が表面化学及び機械的特性の比較のために使用された。
【0089】
実験結果
以下の非限定的な実施例は、この情報の更なる分析の様々な形態を表す。
【実施例1】
【0090】
図5~8は、製造された全ての繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を表す。各繊維について、画像は、断面、外部領域の拡大像、及び内部(内腔)領域の拡大像で表される。これらより、初めに、いくつかの一般的な観察を視覚的外観に基づいて行うことができる。
【0091】
一般に、本発明の一実施形態の繊維は、外側に選択性層及びより内部に位置する支持多孔質領域を含むことができる。本発明の目的のために、繊維が、外面に選択性スキン層を有することが望ましい。説明された繊維の全ては、その特質を有するが、繊維を作るのに使用された条件に基づいて、様々な繊維の間で違いがある。繊維の一部はまた、内面に高密度層も有し、それは、本出願にとって望ましくないことがある。一部の繊維において、多孔質支持領域は、海綿状であり、凡そ等方性である。他の繊維において、多孔質支持領域は、細長いマクロボイドを含有し、それらは、全体的に放射状に配向される。繊維の一部において、中空糸の壁内で剥離がある。一部の繊維において、繊維の外側は、非円形の不規則な形状、例えば多角形を有する。
【0092】
このデータの全てを、Table 1(表1)の拡張であるTable 2(表2)にまとめる。Table 2(表2)は、全ての16個の繊維について、生産された繊維の様々な測定の形態の追加の情報を表す。
【0093】
【実施例2】
【0094】
ドープ流量の関数としての繊維外径
条件を満たした透析器を製作するのに好適であるために、透析繊維が、外径約200~300ミクロンを有するべきという理由で、目的の基本的な寸法パラメータは、繊維の外径である。一般に、このパラメータは、少なくとも、紡糸口金のボアチャネルを通したドープ流量の関数であることが予測され得る。ドープは、最後に中空糸の壁になるポリマー材料(PESとPVPとの混合物)を含有する。したがって、
図9は、製造された繊維の全てについて、ドープ流量の関数としてプロットされた、測定された繊維外径のプロットである。
【0095】
図9は、製造された繊維の16個全てについてのデータを示し、それにより、データが、他の生産パラメータのうちのいくつかにおいてばらつきを含むことを意味し、ばらつきは、16個の実験中の、多様な方法及び組合せにおいて様々であった。それゆえに、
図9のプロットは、完全な相関を示唆すると予測されるべきではない;むしろ、
図9は、外径について一般的な指標又は相関をもたらすことが予測され得る。
図9は、一般に、より多いドープ流量が、より大きな繊維外径と概ね関連付けられることを示唆する。繊維外径>350ミクロンは、本出願にとって望ましくない。外径>350ミクロンを有する繊維は全て、ドープ流量少なくとも0.4ml/minを有した。より小さな外径を有する繊維は、大抵、より少ないドープ流量を有した。(この相関は、繊維が紡糸口金を離れた後の、繊維の延伸を考慮しない。巻取ホイールの速度による、この延伸は、外径に影響を及ぼし、巻取ホイールの速度は、ここで報告される実験の一部の間の、異なる値の間でも変化した。)
【0096】
とりわけ小さい外径を有する繊維を製造する試みにおいて、繊維F8~F11について、ドープ流量を一定のボア流量0.1mL/minで段階的に更に減らした(ドープ流量はそれぞれ、0.4mL/min、0.35mL/min、0.3mL/min、及び0.25mL/minである)。様々な繊維寸法の減少が生じた(壁厚及び内部直径の両方を低減させた)としても、繊維F9、繊維F10、及び繊維F11のモルフォロジーは不規則であり、内部層/内腔層の剥離を観測することがあり、内周及び外周が非円形であることを観測し得る(
図4、Table 2(表2))ことが見出された。結果によれば、この紡糸口金で、極めて低いボア流量0.1mL/minを使用するとき、規則的な外部形状を有する繊維を製造するのに使用され得る、最小のドープ流量は0.4mL/minである。
【実施例3】
【0097】
ドープ及びボア液体の合わせた流量の関数としての繊維外径
全体の意味において、繊維が生産工程の段階を進行するとき、繊維の体積を作り上げるものは、ドープの体積、及び環状形状のドープ領域内に含有されるボア液体の体積であると更に考えられ得る。したがって、繊維外径は、ドープ及びボアの合わせた全流量に関連付けられ得ると考えてもよい。したがって、
図10は、共に加えられたドープ及びボア溶液の全流量の関数としての繊維外径のプロットを示す。
図9と同様に、
図10のデータは、他の生産パラメータのうちのいくつかにおいてばらつきを含み、ばらつきは、16個の実験中の、多様な方法及び組合せにおいて様々であった。また、
図9又は
図10のいずれも、場合により、様々な実験の間で変化する、生産工程の後半部分の間の繊維の延伸を考慮していないことも留意され得る。それゆえに、再度、完全な相関があり得ると予測するべきではない。しかし、
図10は、
図9と比較して、プロットされた流量と繊維外径との間の、より良好な相関を示すと確認される。
【0098】
ボア液体及びドープの合わせた全流量を考慮する理論的解釈は、ダイスウェルの現象に気付くことによって更に見出され得る。一般に、紡糸中に、ボア液体の体積流量及びドープの体積流量は、それぞれが、専用の、別々に制御可能な容積式ポンプによって注入されるゆえに、別々に制御され、与えられ得る。ボア液体は、ボア液体の体積流量を最内部の円形放出の面積で割ったもので表され得るボア液体線速度で紡糸口金を離れる。同様に、ドープは、ドープの体積流量をドープが通流する環状領域の面積で割ったもので表され得るドープ線速度で紡糸口金を離れる。2つの流量の独立した制御ゆえに、紡糸口金出口でのボア液体線速度及びドープ線速度が互いに異なることが可能である。しかし、2つの速度は、互いに迅速に均衡を保つことが物理的に予測され得る。繊維紡糸工程は、連続的工程であるゆえに、本質的に、繊維の長さに沿った他方の流体に対する一方の流体が相対的に長さ方向の流れである見込みはない。一般に、ボア液体は、典型的には、相当に低粘度及びニュートン性である液体である。典型的には、従来のインサイドアウト繊維を生産するために、ボア液体は、大抵、水であり、本発明の実施形態について、ボア液体は、大抵、有機溶媒である。水は、低粘度ニュートン流体であり、典型的な有機溶媒、例えばn-メチルピロリドンは、水の特性(10mPa-s未満の範囲の粘度)と全体的に同様の特性を有する。したがって、ボア液体の体積の保存に基づいて、全体の繊維が長手方向に延伸されない場合、ボアは、その断面積又は寸法(直径)をあまり変えないと予測され得る(本明細書において他の箇所で議論される)。ドープについて、状況は幾分異なり得る。ポリマー(複数可)の有機溶媒中溶液であるドープは、典型的には、水よりも有意により高い粘度を有し、粘弾性特性も有する。こうしたドープの繊維を押出成形する方法は、ダイスウェルの現象を呈示することが知られており、その方法において、材料は、ダイを流出すると、その弾性特性ゆえに、その断面において幾分膨張する。公称ボア液体線速度と公称ドープ線速度との間に不整合がある場合、この現象は、流出するポリマーが、その外向きのダイスウェル膨張を調節することによって、ボア液体線速度をより良好に整合させる機会をもたらすことになり、その結果、得られたドープ速度は、ボア液体線速度により良好に整合する。ボア液体とドープとの間の局所的な速度の整合を実現することが必要な場合、ドープは、部分的に内向きに、且つ部分的に外向きにダイスウェルを受けることがある。内向き指向のダイスウェル及び外向き指向のダイスウェルの相対的な量は、特定の繊維紡糸条件について、必要に応じて自動調節され得る。
【0099】
これまでに、本実施例における議論のいずれも、巻取ホイールによって与えられるものと同様に、延伸の現象を考慮せず、次の実施例において初めて考慮される。延伸は、環状形状のドープがその寸法及び速度を調節する、更なる機会をもたらすが、その一方で、延伸後のボア液体線速度及び延伸後のボア液体直径を同等にするように延伸される。
【実施例4】
【0100】
巻取ホイール速度の影響
一般に、本明細書に記載の実験一式の間、巻取ホイール速度は、紡糸口金出口と巻取ホイールとの間の繊維の通過中に、繊維を延伸し、その断面寸法を減らすようなものであった。延伸の係数は1をわずかに超えるもの(いずれの延伸もほとんど表さない)から、およそ9もの大きさまでの範囲であった。けん引作用及び延伸作用ゆえに、より速い巻取速度が、断面における繊維の全体の寸法を減少させることになると予測される。巻取ホイール速度は、実験の一部において変化した。本発明で製造された繊維の大部分は、巻取ホイール速度9±1m/minを使用して紡がれ、但し、繊維F12及び繊維F13は、巻取ホイール速度14±1m/min及び18±1m/minのそれぞれで紡がれた。他の繊維よりもより速い巻取速度で紡がれた2つの繊維について、予測されたように、増加した巻取速度により、繊維寸法の全体的な減少がもたらされた。しかし、その2つの繊維F12及び繊維F13は、外部スキン層から内部の剥離によって特徴付けられる不規則なモルフォロジーを有し、形状において不規則である外周及び内周も有する(
図7、
図8、Table 2(表2))。より通常の巻取ホイール速度を使用して紡がれた、いくつかの他の繊維、繊維F9~F11もあり、それらもまた、不規則なモルフォロジー及び剥離を呈した。
【実施例5】
【0101】
繊維外径に関して巻取ホイール速度を含む体積計算
一部の上記の実施例で行われ、但し、巻取ホイールの速度も考慮された、体積に基づいた繊維寸法計算を実施することが更に可能である。本質的に、所与の時間量で押出されたドープ流プラスボア液体流の全体積を計算し、その量を、同じ所与の時間量の、巻取ホイールの直線距離で割ることが可能である。これにより、計算された断面積がもたらされ、ゆえにドープ及びボア液体の全量の考察に基づいた、繊維の外径がもたらされる。計算された外径を横軸として
図11にプロットする。
図11の縦軸は、同じ繊維の測定された外径である。合理的に良好な相関がある。破線は、理論的に予測される1:1の関係を示す。
図11にプロットされたデータは、依然として、他の生産パラメータのうちのいくつかにおいてばらつきを含み、ばらつきは、16個の実験中の、多様な方法及び組合せにおいて様々であったことが理解され得る。この相関より、繊維の直径を凡そ予想することが可能である。この手法を使用して、実験に先立って、繊維外径を予想するか、又は見積もることができる。
【0102】
更なる考察によれば、一般に、ドープによって占められる空間が、固化した繊維によって最終的に占められる空間に関連付けられると確認されるものの、確かに、ドープは、実際にポリマーを含有するよりもより多くの溶媒を含有する(質量で)。溶媒は、いくつかの他の方法において、最終的に蒸発するか、又は洗い流されるか、又は消失することが予測され得る。一般には、ドープの溶媒は細孔空間と置き換わると確認される。ボア流体もまた、蒸発するか、又は消失し、以前にボア液体によって占められた空間である内腔を後に残す。
【実施例6】
【0103】
延伸比に関連付けた剥離及び不規則な形状
16個の実験的繊維の間でも、繊維F9から繊維F13までは、剥離及び不規則な外部形状を呈示したが、他の繊維は、正常な状態及び正常な外部形状を呈示した。これに関連付けるために、延伸比を、各繊維の生産条件について計算した。これは
図12に説明される。
【0104】
延伸比の計算は、最終的な繊維のエンベロープ内に位置する、紡糸口金を流出する流体の線速度を計算することで始まる。それゆえに、紡糸口金からの出口及び繊維の初期形成の時間で、これらの液体の両方が、最終的に繊維になるものの境界内に含有されるゆえに、この計算は、ドープ流量プラスボア流量の合計に基づいて実施される。紡糸口金からの直接の出口の観点から、ボア液体の体積流量を紡糸口金のボア領域の面積で割るとき、ボア液体の実際の線速度を計算することが可能である。同様に、ドープの体積流量を、それを通じてドープが分配される紡糸口金の環状領域の断面積で割るとき、ドープの実際の線速度を計算することが可能である。一般に、例えば実質的な意味合いにおいて、ドープ流量及びボア液体流量が、独立して操作可能な、別々のポンプによって供給されるゆえに、紡糸口金出口から流出する時点で、ドープの実際の線速度及びボア液体の実際の線速度は、互いに等しくある必要はない。これらの2つの線速度が互いに異なる場合、これらの2つの速度は、ドープとボア液体との間の密接な接触ゆえに、互いに同等になる傾向があることが予測され得る。また、流体である、ドープとボア液体との両方は共に、状況に適応するように、その断面寸法を調節する機能を有する。紡糸工程が連続的であるゆえに、他の液体に対して、繊維の長さ方向に沿った一方の液体の相対的な流れがないことが仮定される。ドープとボア液体との両方は、紡糸中に(巻取ホイールのけん引作用ゆえに)延伸されると確認され、延伸の相対的な量はそれ自体、ボア液体の線速度及びドープの線速度が互いに同等になるように調節することが予測され得る。それゆえに、繊維の境界内の全流量、すなわち、ドープの体積流量及びボア液体の体積流量の合計を使用して計算される、代表的な線速度を考察することが適切である。この全流量は、この場合、直径500ミクロンを有する円である、ドープ流の紡糸口金出口の断面積で割られる。次いで、この線速度を巻取ホイール速度と比較する。延伸比は、紡糸口金の出口の繊維線速度で割られた巻取ホイール線速度である。
【0105】
この延伸比パラメータは以下の式によって更に説明される。
Q(ボア+ドープ)=Qボア+Qドープ
面積(ボア+ドープ)=面積(ボア)+面積(ドープ)
出口速度(ボア+ドープ)=Q(ボア+ドープ)/面積(ボア+ドープ)
巻取速度(TakeupVel)=巻取ホイールの線速度
延伸比=巻取速度/出口速度(ボア+ドープ)
【0106】
データは、全ての16個の実験用繊維について
図12にプロットされた。実験結果から、4より大きい延伸比は、完成した繊維の剥離及び不規則な外部形状と一貫して関係し、その一方で、4未満の延伸比は、完成した繊維の正常な、所望の外観及び状態と一貫して関係することが分かり得る。勿論、実験中に、一部の他の生産変数も様々に変わり得るが、ここで定めた延伸比は、一部の他の生産の詳細にかかわらず、剥離及び不規則な断面形状の可能性の有用な識別子であると思われる。この基準を使用して、剥離及び不規則な断面形状を回避する生産条件を選択することができる。
【0107】
この説明に限定されることを望まないものの、剥離及び不規則な断面形状と、大きな延伸比の状況との関係が、紡糸工程中のいくつかの固化動力学と組み合わせた、体積の保存の影響であってもよく、それはまた、ポアソン比と同様の影響としても考えられ得ると提案される。ポアソン比は、横ひずみの縦ひずみに対する比の負の値である。ポリマー材料及び多くの他の固体について、弾性変形の条件の下、ポアソン比の典型的な値は、0.3~0.5の範囲である。ポアソン比0.5は、変形中の体積の保存に対応する。ポアソン比は、弾性変形の状況において最も一般的に用いられる。大きな塑性変形及び塑性流れの本発明の状況において、大きな塑性変形及び非圧縮性液体流は、体積の保存の状況として、おそらく最大限説明される。とにかく、全体的な結論では、紡糸中に繊維がある縦ひずみまで長手方向に延伸される場合、繊維は縦ひずみのおよそ50%のひずみ量により横方向に収縮しようとする。この収縮は、繊維が出現するか、又は形成するとき、繊維の外径の低減を意味し、可能性として、その壁厚の低減も意味する。
【0108】
本発明の実施形態では、ある種の繊維について、観測された剥離及び形状現象は、繊維紡糸工程のある種の動力学に関連させて、繊維の外部スキン層又は外側の選択性層が、内層と比較して、相対的に迅速に形成するか、又は固化する場合に理解され得る。本発明の実施形態では、細孔構造の形成が、一般に、速い工程と関係付けられるゆえに、外部のシャワーにおいて、且つ凝固浴において、非溶媒の存在は、細孔構造を形成するために、相対的に速い相分離を促進することができる。対照的に、本発明の実施形態では、相対的により大きな細孔及び他の構造の形成を可能にするか、又は促進するために、内腔は、内向きに面する表面を相対的により柔らかく保つように配合される、溶媒に富んだ溶液に、相対的に長い時間長で曝露される。次いで、外部スキンが、相対的に早期に形成し、繊維の外周が、相当に早く整えられ、硬化され、次いで繊維が、紡糸口金と巻取ホイールとの間の凝固浴を通って進むとき、繊維が延伸し続ける場合、延伸に対応した体積の保存ゆえの、周辺の収縮又は繊維壁の相対的に内向きの動きの傾向があると予測され得る。外部スキンが、既に形成されるか、又は固化されるか、又はほぼ固化されている場合、外部スキンは、径方向に内向きの動きに加わることができず、ゆえに座屈によって、又は内部材料からの剥離によって、又は両方によって対応するかもしれない。繊維のこうした長手方向の延伸中に、内部の内腔面は、内腔が、圧縮性又は膨張性でもない液体、すなわちボア液体で満たされるゆえに束縛され、内腔の径方向の膨張を可能にするために、長さ方向に沿って流れる追加のボア液体の自由がない。したがって、中空糸の内部(内腔の)表面は、延伸が進行するとき、径方向に内向きに動くと予測することができ、それによって、やはり繊維壁の残部を内向きにけん引しようとする。
【0109】
この説明は、不規則な形状及び剥離が最大の延伸比のみで生じた事実と整合性がある。対照的に、内部(内腔の)表面に高密度層を有する、従来のインサイドアウト繊維の紡糸中に、とりわけ、選択性層の異なる設置ゆえに、対応する剥離のリスクが存在しないことが更に確認される。それらの従来の繊維において、高密度層が、外層で生じるよりも内部(内腔の)表面でより早く硬化し、次いで更に延伸が生じる場合、体積又はポアソン比の保存の影響は、単純に、繊維の外部直径を減らすことであり、例えば、その外部の表面を径方向の動きに対して拘束するための、繊維の外側の幾何学的束縛又は物理的束縛はない。したがって、従来の繊維の外部は、紡糸及び延伸の間にその寸法を自由に調節する。これにより、従来のインサイドアウト繊維を紡ぐ場合で確認されるよりも、アウトサイドイン繊維を紡ぐことについてより重大な問題となる、剥離の問題が説明されるであろう。
【0110】
図12にプロットされた結果は、剥離された繊維/多角形の繊維の全てが、ある値を超える延伸比で生じ、正常な繊維の全てがその値未満の延伸比で生じることを示す。その値はおよそ4である。このパターンは、様々な他の生産パラメータが16個の繊維生産実行の間で様々に変わりながらも、一貫したパターンであることが分かる。したがって、延伸比は、成功したアウトサイドイン繊維を製作することにおいて、有意な案内パラメータとして使用され得る。例えば、延伸比をおよそ4未満、又は3未満の値で保つことができる。しかし、この説明に限定されることを望まない。
【実施例7】
【0111】
ボア流量と繊維内径との関係
ここで、繊維の内径に関して、ボア流量の繊維内径への影響もまた研究された。ボア液体及び繊維内腔は、空間に関して、互いに緊密に関係すると予測され得る。一般に、より低いボア流量は、繊維のより小さい内部直径をもたらすと予測される。予測されるように、繊維F1及び繊維F2について、0.9mL/minから0.4mL/minまでのボア流量の減少はそれぞれ、564μmから368μmまでの内部直径の有意な減少をもたらす(
図3、Table 2(表2))。別の比較において、ボア流量が、繊維F6(0.4mL/min)、F7(0.2mL/min)、及び繊維F8(0.1mL/min)について、一定のドープ流量0.4mL/minで更に減少した場合、繊維の内部直径は、約369μm(繊維F6)から276μm(繊維F7)及び191μm(繊維F8)まで著しく減少し;しかし、壁厚は、34μm(繊維F6)から72μm(繊維F8)まで増加した(
図4、Table 2(表2))。繊維F14及び繊維F15の場合、0.1mL/min(F14)から0.2mL/min(F15)までのボア流量の増加の結果として、繊維F15の内部直径がおよそ40μm増加した(
図6、Table 2(表2))。残念ながら、繊維F14は、繊維の一部のセグメントが完全に円形ではない、内周及び外周を有するゆえに、再現性のある所望のモルフォロジーを有さない。繊維F15は、紡いだ繊維の長さ全体に沿って、規則的な、再現性のあるモルフォロジーを有する。
図13は、実験用繊維の全てについて、ボア流量のみの関数として、測定された繊維内径のプロットを示す。
【実施例8】
【0112】
測定された内径対体積計算された内径の相関
繊維内径が、分配されたボア流体の体積によって表されることを表記し、巻取ホイールによって引き起こされた延伸を考慮した体積計算を実施することが可能である。この目的のために、流出するボア液体の速度は、ボア液体の既知の流量を使用して、200ミクロンであった、ボア液体を押出すオリフィスの直径を使用して計算された。所与の時間量の、ボア液体流の全体積を計算し、同じ所与の時間量の、巻取ホイールの直線距離で割って、ボア液体の計算された断面積、ゆえに体積計算及び体積の保存に基づいた、繊維の内径の計算を得ることができる。
図14において、この体積計算された内径を横軸としてプロットする。縦軸は、特定の繊維の、測定された内径である。勾配が、予測されたように(破線で説明される)1ではないことを除いて、一貫したパターンがある。
図14のデータは、他の生産パラメータのうちのいくつかにおいてばらつきを含み、ばらつきは、16個の実験中の、多様な方法及び組合せにおいて様々であったことが理解され得る。
【0113】
関係式:
Vボア=Qボア/Aボア
繊維内腔の断面積=Aボア×Vボア/V巻取
繊維の計算された内径=sqrt(繊維の断面積×4/π)
【実施例9】
【0114】
シャワー流量の影響
シャワーに関して、最終的に、シャワーは凝固浴に接合し、本発明の実施形態では、繊維を形成する外部は、シャワーにおいて、且つ凝固浴において同じ組成物に曝露される。本発明の実験において、シャワーと凝固浴との両方は純水である。全ての繊維は、流量0.3mL/minの超純水のシャワーを使用して紡がれた。この流量は、モルフォロジーの不規則性のない、規則的な高密度外層を得ることを可能にするゆえに選択された。より高い流量のシャワーで、繊維のモルフォロジーは完全に不規則であり、その一方でより低い流量では、高密度な外部の選択性層を得ることは不可能であることが見出される(ここで報告されていない他の実験において)。結果は、紡糸手順の多くのパラメータ(すなわち、ボア液体組成物、ドープ組成物、ドープ流量及びボア液体流量、巻取ホイール速度、エアギャップ長及びポリマードープ濃度)の影響を説明する。
【0115】
剥離/不規則性をシャワー流量と関連付けることができる一方法は、流量比Qドープ/Qシャワーの関数としてのものである。
図15Aにおいて、データはそのようにプロットされる。剥離/不規則性は、Qドープ/Qシャワー>1.2で生じ、Qドープ/Qシャワー>1.2で生じないことが分かり得る。
【0116】
図15Bは、速度比と称され得るパラメータに関連付けた、不規則なもの/剥離されたもの、又は正常なものとしての繊維の分類を説明する。速度比は、紡糸口金出口でのドープの線速度の、紡糸口金出口でのシャワーの線速度に対する比である。速度比は、エアギャップが極めて短いゆえに、ボアとドープとの間の速度平衡が実際に生じ得ない可能性に基づいてこの比較を行う。
Vシャワー=Qシャワー/Aシャワー
Vドープ=Qドープ/Aドープ
速度比=Vシャワー/Vドープ
式中、Qシャワーは、シャワーの体積流量であり、Qドープは、ドープの体積流量であり、Aシャワーは、環状形状のシャワーチャネルの断面積であり、Aドープは、環状形状のドープチャネルの断面積である。
【0117】
本明細書で使用された紡糸口金について、ドープチャネルAドープの面積及びシャワーチャネルAシャワーの面積は、偶然にも互いに極めて同等に近い。したがって、2つのプロット
図15A及び
図15Bの縦座標は、偶然にも大きさにおいて互いにかなり類似している。
【0118】
先の実施例で議論されたように、従来の限定された実験データ一式は、延伸比の関数としての、繊維外部形状/剥離の相関も示すと認識され得る。繊維は、約1.5よりも大きい速度比で許容され、約1.5未満の速度比で不規則であり/剥離する。データは、速度比又は流量比Qドープ/Qシャワーの相関が、おそらく延伸比によって既に呈示された傾向を表す、別の方法であるかどうか見定めるほど十分に詳細ではなく、多様でない可能性がある。
【実施例10】
【0119】
エアギャップ長の影響
16個の実験条件一式において、16個の実験用繊維のうちの15個は、同一のエアギャップ0.6cmを使用して生産された。繊維F16のみが、1.2cmである、異なるエアギャップを使用して生産された。したがって、エアギャップの影響について結論づける能力は限定される。繊維F16と他の繊維との直接の比較は、エアギャップだけよりもより多くのパラメータが同時に調節されたゆえに行うことができなかった。一部の比較は、繊維F15で行うことができ、それについて、より短いエアギャップの他に、より低いドープ流量(0.5mL/minではなく0.4mL/min)を使用した。繊維のサイズ(とりわけ、壁厚)を増加させることが予測される、相対的に大きなドープ流量を有するにもかかわらず、繊維F16の寸法は、繊維F15の寸法と比較して、わずかにより小さい(
図6、Table 2(表2))。この小さい収縮の影響は、より長いエアギャップによるものと確認され、紡糸口金から現れる繊維の重さゆえに、延伸的な応力を導入する。一般に、本発明の実施形態では、シャワー液体がドープを取り囲むギャップの長さは、シャワーチャネルの直径の約80~約200倍の、紡糸口金出口と凝固浴との間の距離であることができる。
【実施例11】
【0120】
選択性層の位置及び厚さ
血液透析用途に使用される、本発明の実施形態の繊維は、選択性外層を有することが重要である。この層は、アルブミン及び他の血液タンパク質を引き止めるはずであり、ゆえに透析液への、その輸送を妨げる。
【0121】
密な選択性層の形成は、所望の表面を非溶媒又は高濃度の非溶媒を含む液体に曝露することによって促進される。この場合において、選択性層の所望の位置は、中空糸の外部表面である。これらの実験において、非溶媒は純水であり、水をシャワーとして、且つ凝固浴として適用する。シャワーは、紡糸口金出口と凝固浴との間に現れるドープを取り囲む。次いで、シャワーは凝固浴と統合し、現れた繊維は、凝固浴液体によって取り囲まれ続ける。
【0122】
内腔側の選択性層の形成を避けるために、ボア液体中の、有機溶媒(NMP)の濃度の影響が調べられた。ボア液体中の、高濃度の有機溶媒の存在は、相分離過程を遅らせ、結果として、内腔側のより開いた膜構造を得ることに寄与し得ると確認される。ボア液体中の、3つの異なるNMP濃度(50wt%、75wt%、及び90wt%)を使用した(Table 1(表1))。50%NMP濃度は、外面の高密度層に加えて、高密度層が内腔面で形成されたことが分かった、2つの早期の実験(繊維F1及び繊維F2)でのみ使用された。高密度な内(内腔の)層は、本出願には望ましくないと考えられる。それゆえに、ボア液体中NMP濃度は、全てのその後の実験で増加させた。NMP濃度75%は、90%濃度が使用された繊維4を除いて、後期の実験の全てで使用された。NMPの濃度が、75wt%(繊維F3)又は90wt%(繊維F4)のいずれかのより高い値を有する場合、開いた内腔面が得られ、その一方で、繊維の外側表面の層は高密度なままである(
図2)。
【0123】
SEM写真を使用した、繊維の外部表面での高密度選択性層の実際の厚さに関して、ソフトウェアImageJを使用して高密度選択性層の厚さが測定された。ImageJは、科学的な多次元の画像用に設計された、オープン・ソースの画像処理プログラムである。
【0124】
Table 2(表2)は、繊維の全てについて、外部選択性層の測定された厚さを示す。ボア流量は、繊維の外面での選択性層の厚さについて、いずれの有意な影響も有さないことが分かる。実際に、繊維F1(選択性層厚さ2.4±0.3μm)と繊維F2(選択性層厚さ2.6±0.4μm)との間、並びに繊維F6(選択性層厚さ1.3±0.4μm)、繊維F7(選択性層厚さ1.3±0.0μm)、及び繊維F8(選択性層厚さ1.5±0.1μm)の間、並びに繊維F14(選択性層厚さ0.9±0.0μm)と繊維F15(選択性層厚さ0.7±0.1μm)との間で有意な差は認められない。
【0125】
選択性層の厚さとドープ流量との間に、いくつかの相関があることが分かる。繊維F3(1mL/min)、繊維F5(0.6mL/min)、及び繊維F6(0.4mL/min)の作製に適用されたドープ流量は、多い順で、やはり、より遅くなるドープ流量ゆえに減る、減少する選択性層の厚さ(繊維F3:6.9±0.2μm、繊維F5:1.4±0.0μm、及び繊維F6:1.3±0.4μm)と相関する。
【0126】
しかし、繊維F2(2.6±0.6μm)及び繊維F4(2.1±0.0μm)の外部表面の選択性層の厚さは同様であり;しかし、繊維F2及び繊維F4の選択性層と比較して、繊維F3の選択性層は更により厚い(6.9±0.2μm) (p<0.0001について統計的に有意な差である)。
【0127】
繊維F15及び繊維F16について、繊維F16の選択性層の3つの異なるSEM画像を測定に使用した。各繊維について3回の測定が行われた(全部で9回の測定)。それらの測定の平均は0.6ミクロンである。本出願について、選択性層の厚さについて、選択性層が依然として、無傷かつ機械的に堅牢である限り、1ミクロン未満等、可能な限り小さいことが有用であると考えられる。選択性層の厚さと共に、選択性層の孔が強く影響する。これは、高い透過率及び低いアルブミンふるい係数の両方を有する膜の実現に寄与すると確認される。更にこれに満たない、例えば<0.5ミクロンの選択性層厚さが、高流束特性を実現するために望ましい。例えば、選択性層が内腔面にある、一部の市販の透析器(Buck及びGohl)は選択性層厚さ0.3~0.5ミクロンを有すると分かる。
【0128】
本発明の実施形態では、内腔面で選択性層又は高密度層を有することも可能である。これは、繊維F1及び繊維F2において生じた。
【実施例12】
【0129】
細長いマクロボイドの有無
細長いマクロボイドは、16個の実験生産条件のうちの10個において、完全に又は部分的に観測され、但し、これらの10個の繊維のうちの一部は、好ましくない、剥離又は不規則な形状を呈示した。
【0130】
いずれのマクロボイドも含まない、海綿状構造を表す繊維は、繊維F1~F4及び繊維F6及び繊維F7である。マクロボイドの部分的なパターンを呈示する繊維は、繊維F5、繊維F8、繊維F11、繊維F12、繊維F13である。マクロボイド構造を完全に呈示する繊維は、繊維F9、繊維F10、繊維F13、繊維F14、繊維F15である。完全なパターンではないものの、海綿状構造繊維が、ドープ流量の相対的により大きい値、又はドーププラスボア液体の合わせた流量の相対的により大きい値を使用して生産された、ある程度のパターンがある。マクロボイドを呈示した繊維は、それらのパラメータの相対的により小さい値を使用して生産された。これは、Table 2(表2)及び
図5~8において説明される。
【0131】
SEM写真の一部において、径内方向又は径外方向のいずれかに先を尖らせる、先細の、又は涙滴形状のマクロボイドであることが観測され得る。
図16は、マクロボイドの詳細を説明する、様々な写真を含有する。
【実施例13】
【0132】
様々なパラメータによる好ましい繊維の特性決定
16個の異なる繊維生産条件を包含する、上記の実験一式の後、それらの繊維のサブセットのより詳細な特性決定に集中することが決断された。更なる評価のための繊維の選択は、繊維寸法特性、繊維モルフォロジー特性、及び輸送特性に基づいて行われた。繊維F15及び繊維F16は、所望の特性を示し、これらの繊維は、最も詳しく研究された。これらは、本発明の好ましい一実施形態を表した。
【0133】
本発明の一実施形態の繊維の特質は、繊維の外部直径及び選択性層の寸法厚さである。選択性層は、繊維の長手方向に垂直に切り出された、繊維壁の断面の顕微鏡写真、例えば、走査型電子顕微鏡写真において視覚的に観測され得る。選択性層は繊維の外部表面である。定性的に、より大きく、より開いた細孔を有する(場合により、マクロボイドも有する)繊維の断面の残部とは対照的に、選択性層は、相対的に小さく、密に充填された細孔を有することが分かる。
【0134】
一般に、
図2に図式的に説明されたように、本発明の一実施形態の繊維は、外側に選択性層、より内部に支持多孔質層と称され得る支持多孔質領域を含むことができる。支持多孔質領域の一部又は全ては、本来、選択性層の細孔よりもより大きい細孔の、ある程度均一な分布を有する、海綿状であることができる。本発明の一部の実施形態では、支持多孔質領域内の更なる特質は、繊維の内部に開いた、又はほぼ開いた、細長いマクロボイドの存在であり得る。こうした繊維において、外部の高密度選択性層は、溶質の分子量に応じて選択的濾過を実施する、連続的な境界を形成する。この説明に限定されることを望まないものの、外部の高密度層と繊維の内腔との間に位置し、繊維内腔と流体連通している、細長いマクロボイドの存在が、それによって液体が通過するための低抵抗流路をもたらし、その一方で、支持多孔質領域は、依然として、選択性層のための妥当な構造支持体を提供すると確認される。特質のこの組合せは、更に、高流束である膜の分類及び性能に寄与することができる。
【0135】
本発明の一実施形態について、走査型電子顕微鏡で撮られた断面写真を
図16に示す。外側表面で、繊維は、より高密度な多孔質材料の相対的に薄い層を有し、壁領域の残部において、繊維は、あまり高密度でない多孔質材料を有する。ある特定の実施形態では、内腔と通じた細長いマクロボイドが形成されることも見出される。内腔と通じた細長いマクロボイドは、選択性層を既に通過するアウトサイドイン流のための低抵抗流路をもたらすゆえに、所望される透過率を実現するために有用であり、その一方で、同時に選択性層の構造的支持体をもたらすと確認される。図に示されるように、細長いマクロボイドの一部は、先細であることができる。
【0136】
繊維のふるい特性は、主に選択性層によって決定されることが確認される。細長いマクロボイドの存在は、壁の多孔質支持領域の流れ抵抗を、多孔質支持領域全体が均一に多孔質であった場合よりもより小さくする(本発明の目的に望ましい)ことが確認される。しかし、細長いマクロボイドが膜の機械的性質を損なわないことが望ましい。本発明の機械試験実験において、細長いマクロボイドが存在しても、繊維16は良好な機械的性質を有することが分かった。
【実施例14】
【0137】
スキンの厚さ
ソフトウェアImageJを使用して高密度層の厚さが測定された。ImageJは科学的な多次元の画像用に設計された、オープン・ソースの画像処理プログラムである。繊維F16の選択性層の、3つの異なるSEM画像を測定に使用した。各繊維について3回の測定が行われた(全部で9回の測定)。それらの測定の平均は0.6±0.1ミクロンである。実験用繊維の全てのスキン層厚さをTable 2(表2)に示す。対照的に、Krause及びGohlにおいて、高密度層の厚さは、2~4ミクロンであると見積もられる。更に、Krause及びGohlにおいて、多孔質支持領域は、細長いマクロボイドを有さない海綿状である。
【実施例15】
【0138】
ドープ中ポリマー濃度の繊維寸法への影響
3つの繊維を除いた繊維の全ては、組成物PES15wt%、PVP7wt%、NMP78wt%を有したドープを使用して紡がれた。3つの繊維(F14、F15、及びF16)は、より低いポリマー濃度(PES12wt%、PVP5.6wt%、NMP82.4wt%)を含有したドープを使用して紡がれた。両方のドープ組成物について、PESの相対濃度はPVP濃度の2.14倍であったことに留意されたい。したがって、実験全体を通して、PES/PVPの同じ比が常にあり、2つのドープ組成物の唯一の違いは、一方において、ポリマー全体が、他方においてよりも、わずかにより希釈されていたことであった。ドープ中の、より低いポリマー濃度を用いて予測できることには、繊維の一部の寸法がより小さいことがあり(とりわけ、より薄い壁を有する)、及び/又は壁がより多孔質になることがあり、限外濾過係数(KUf)がより高く予測され得る(透析用途においてしばしば望ましい)。この影響を切り離すために、繊維F14及び繊維F15のモルフォロジーを、繊維F8及び繊維F7のモルフォロジーとそれぞれ比較することができる。繊維F14を繊維F8と同じパラメータで紡ぎ、繊維F15を繊維F7と同じ紡糸パラメータで紡いだ。唯一の違いはポリマードープ濃度である(Table 1(表1))。繊維F14及び繊維F8が均一な構造をもたなくても、繊維F14の平均壁厚は、繊維F8のものと比較して、およそ20μmより薄い。繊維F15の作製に使用される、ドープ中のより低いポリマー濃度により、壁厚の低減ではなく、内部直径が約30μm低減することが確認される。これらの理由で、寸法パラメータがポリマードープ濃度の変化によって最も影響を受けたことを明確に結論付けられないが、一般に、他の生産パラメータが一定に保たれれば、ポリマー濃度の低減により、繊維寸法の少なくとも一部の低減がもたらされることが分かる。
【実施例16】
【0139】
ドープ中ポリマー濃度の選択性層の厚さ及び透過率への影響
ドープ中ポリマー濃度を減少させることによって、選択性層の厚さが低減することが分かる。実験において、有機溶媒中の、ポリマーの2つの異なる濃度が使用された。繊維F14及び繊維F15について、ドープは、より希釈されたポリマーの有機溶媒中溶液であり、繊維F14(0.9±0.1μm)及び繊維F15(0.7±0.1μm)の選択性層の厚さは、相対的により薄かった。比較のために、繊維F7及び繊維F8について、ドープは、より濃縮されたポリマーの有機溶媒中溶液であり、選択性層の厚さは、繊維F8(1.5±0.1μm)及び繊維F7(1.3±0.0μm)において、有意により厚かった。
【実施例17】
【0140】
水透過率
本明細書で製造された繊維の一部について、流束又は透過率の記述として、繊維F3、繊維F4、繊維F8、繊維F14、繊維F15、及び繊維F16の水輸送特性がTable 3(表3)に表される。その特性は、単位(mL/(mmHg・h・2m2))を有するように、表面積2m2を有する透析器について外挿され、計算された限外濾過係数(KUf)として1つの列に表される。Table 3(表3)の別の列において、透過率は、より普遍的な単位mL/(mmHg・h m2)で表される。
【0141】
【0142】
ボア液体の2つの異なる組成で、他のパラメータを変えずに製造された実験用繊維を比較することが可能であり、繊維F3(ボア液体中NMP濃度75%)と繊維F4(ボア液体中NMP濃度90%から)を比較することによって、ボア液体中NMP濃度の75%(繊維F3)から90%(繊維F4)までの増加により、透過率の9.8±0.1mL/(mmHg・h m2)(繊維F3)から238±45mL/(mmHg・h m2)(繊維F4)までの増加がもたらされ、それは、有意な増加であることが見出される。繊維F3の選択性層(6.9±0.2μm)は、繊維F4の選択性層(2.1±0.0μm)よりも更により厚い。ボア液体中のNMPの存在は、相分離の過程を遅らせ、ゆえに、その内面でより開いた繊維の形成に寄与すると確認される。これは、支持多孔質層が、繊維壁の全体の水透過性の役割も果たすことも提案する。
【0143】
ポリマードープ濃度の膜輸送特性への影響は、繊維F14と繊維F8を比較することによって観測され得る。繊維F14は、より低いポリマードープ濃度を使用したことを除いて、繊維F8と同じ紡糸パラメータで紡がれた(Table 1(表1)及びTable 2(表2))。繊維F14は、繊維F8と比較して有意により高い透過率を表し(それぞれ31mL/(mmHg・h m2)対11mL/(mmHg・h m2))、この結果は、繊維F14が、より薄い選択性層及びより薄い壁厚を有することと一致する。より薄い選択性層及びより薄い壁は、一般に、より低い質量輸送抵抗、又はより高い透過率と関係付けられる。
【実施例18】
【0144】
ウシ血清アルブミン(BSA)濾過実験
アルブミン濾過実験を、繊維F3、繊維F4、繊維F8、繊維F15、繊維F16について実施した。アルブミンふるい係数(本明細書の他の箇所で記載されたように計算された)をTable 4(表4)に示す。値は平均±標準偏差で示される。
【0145】
【0146】
BSA SC濾過結果は、測定された透過率、及び本明細書の他の箇所で報告されたモルフォロジー特性と一致する。実際に、繊維F3、繊維F8、及び繊維F15のアルブミンふるい係数は低く、その相対的に低い透過率の値と一致する(Table 3(表3)参照)。繊維F4の場合、繊維F4の高いアルブミンふるい係数(アルブミンの通過を許容する)は、極めて高い透過率も有する事実に容易に関連付けられ得る。この高いアルブミン漏出ゆえに、繊維F4は、望ましいものとして考えられない。繊維F16は、繊維F3、繊維F8、及び繊維F15と比較して、わずかにより高いアルブミンふるい係数を有するが、まだ血液透析用途で許容される。この発見は、繊維F16の透過率が、繊維F3、繊維F8、及び繊維F15の透過率と比較してわずかにより高い、透過率の結果と一致する。
【実施例19】
【0147】
ビタミンB12濾過
ビタミンB12(MW1355Da)は、透析膜のふるい特性を見積もるのにしばしば使用される、中性の有機溶質である。繊維F16は、ビタミンB12を用いた、更なる輸送研究用に選択された。研究された全ての繊維F16(n=3)について、ビタミンB12のふるい係数は、1.00±0.00に等しかった。これは、繊維F16がビタミンB12に対して完全に透過性であることを示唆する。
【実施例20】
【0148】
クレアチニン輸送実験
ここで
図17を参照すると、繊維F16にわたるヒト血漿からのクレアチニン輸送の実験結果(n=3)が示される。これらの実験について、膜にわたるゼロ膜貫通圧力を実現するために、血漿用の固定流量及び透析液用の固定流量(繊維の外側の空間の血漿流量:10mL/min及び内腔内部の空間の透析液流量1mL/min)が使用された。膜は、4時間でクレアチニンおよそ2000mg/m
2及び24時間でクレアチニン4700mg/m
2を除去する。初めの4時間の間に、除去の動力学は、線形傾向に従うが、その後、除去はより遅くなり、それは、実験中に再循環する流体の限定された量ゆえの、人工的な影響であり得る。
【0149】
比較として、市販のフレゼニウスF8HPS繊維(内腔でその選択性層を有するインサイドアウト繊維である)は、インサイドアウト濾過を介して、リン酸緩衝生理食塩水から4時間でクレアチニンおよそ3400mg/m2を除去することができるが、その後、除去速度は低下する。
【0150】
低い流量で、保持された血液タンパク質は、流れる血液中に十分に分散されるのではなく、膜の表面に吸着することが可能である。膜の表面に堆積した血液タンパク質の「層」は、膜の濾過機能を低下させることがあり、その吸着が起こらなかった場合のものよりも、流れる血液中のタンパク質の測定濃度を低くする可能性がある。
【実施例21】
【0151】
分子量の関数としてのふるい性能
実験は、以下の物質:アルブミン(分子量およそ67KDaを有する);ビタミンB12(分子量およそ1.4KDaを有する);クレアチニン(分子量およそ113Daを有する);及び当然ながら水の膜通過の測定を含んだ。
【0152】
この実験から、繊維F16は、アルブミン(分子量およそ67KDaを有する)を保持し、本明細書の他の箇所で示されたアルブミンふるい係数を有するものとして定量化され、この繊維は、ビタミンB12(分子量およそ1.4KDaを有する)に対して完全に透過性であることが見出された。勿論、膜がビタミンB12に対して完全に透過性である場合、更により低い分子量の分子、例えばクレアチニンに対しても完全に透過性である。このデータから、繊維F16の分子量カットオフが67kDa未満であることが推測され得るが、カットオフは、おそらく67kDaに近く、ビタミンB12の分子量に対するものよりも、67kDaにより近いと確認される。
【0153】
クレアチニンと関係する実験は、ゼロ膜貫通圧力(TMP)の状況で実施された。他の実験は、行き詰まりの構成で繊維に膜貫通圧力(TMP)1バールを加えることによって実施された。このTMPは、臨床使用で典型的に加えられる圧力(通常50~100mbarの範囲である)よりも更により高い。
【実施例22】
【0154】
表面化学特性決定
本明細書に記載の繊維は、膜形成ポリマーとしてポリエーテルスルホン(PES)を使用して作られた。PESは、一方で、優れた濾過特性、熱安定性、機械的強度、及び化学的不活性を有し、全ての、典型的な殺菌技術に耐えることができる。他方で、その疎水性性質は、膜へのタンパク質の付着を好み、それは、膜性能に影響を及ぼすだけでなく、凝固カスケード反応、血液凝固反応、補体反応、及び線維素溶解反応の活性化等の、一連の他の反応のトリガーとなり得る。それゆえに、PESを親水性添加剤とブレンドすることにより、タンパク質付着の低減及び血液適合性の改善に関して改良される。この研究において、ポリビニルピロリドン(PVP)をPESに対する親水性添加剤として使用した。PVPの、繊維F16の膜表面への分布は、ATR-FTIR及びXPSによって研究された。アウトサイドイン濾過に関係する本出願について、繊維の外部表面は、血液に接触する表面であり、それゆえに、外部表面が十分なPVP濃度を含有する場合が望ましい。
【0155】
図18Aは、繊維F16の外部表面のATR-FTIRスペクトル及び繊維F8HPS(フレゼニウス)の外部表面のATR-FTIRスペクトルを比較する。
図18Aはまた、PES及びPVPの純粋な粉末のスペクトルを示す。PVPのカルボニル基に対応する、1677cm
-1のピークは、繊維F8HPSでの強度と比較して、繊維F16で顕著により高い強度を有する。これは、F8HPS繊維の外部表面のPVP濃度と比較して、繊維F16の外部表面でのより高いPVP濃度を示唆する。
【0156】
図18Bに示された別の技術を使用して、XPS測定を、繊維F16の外部表面及び内部表面、並びに繊維F8HPSの外部表面及び内部表面で実施した。これらの測定は、いくつかの元素の元素モルパーセントを与える。このポリマー系において、PVPがいくらかの窒素を含有する、唯一の物質であるゆえに、窒素濃度が強調される。結果によれば、PVPは繊維F16内で十分に分布している。繊維F16の外部表面の窒素濃度は、繊維F8HPSの内部表面で見出される濃度と同様である。F8HPS繊維は、(その内腔面での)その良好な血液適合性特性ゆえに、血液透析用に、商業上、広く使用される繊維である。
【実施例23】
【0157】
機械試験
図19A~19Cを参照すると、機械試験は、繊維F16の13個の試料、及び比較用に市販の繊維F8HPSの5個の試料を使用して実施した。F8HPS繊維は、内腔面にその選択性層を有するインサイドアウト繊維であり、従来の透析器において使用される。長さ>5cmを有する繊維試料は、両端部を締め具で留められ、破断するまで、一定の伸長速度50mm/minで引っ張られた。最終の引張強度、ヤング率、及び最終強度での伸長が測定された。
【0158】
図19Aは、繊維F16のヤング率(E)(応力/ひずみの比)を市販の繊維F8HPSのヤング率と比較する。ヤング率に関して、弾性変形に関わる、2つの繊維の間に統計的に有意な差はない。
図19Bは、破断での最大強度を示す。
図19Cは、破断での最大伸長を示す。
図19B及び
図19Cに示すように、破断前の最大強度及び最大伸長は、市販の繊維と比較して、本発明の一実施形態の繊維でより低く、その差は、p<0.05で統計的有意性を有する。
【0159】
ヤング率の値が、血液透析用途に最も関連するパラメータであることが確認され、これに基づき、繊維F16が、血液透析で発生する、圧力及び典型的な応力に耐え得ると結論付けられ、繊維F16の機械的強度及び破断でのその伸長が妥当であることが確認される。
【実施例24】
【0160】
再現性研究
再現性試験は、繊維F15及び繊維F16を使用して実施された。再現性試験は、最初のバッチの後、最初のバッチと同じ条件の下、これらの繊維の各々の2つの追加のバッチを製造することを含んだ。繊維F15及び繊維F16は、それらの繊維の特性が最適であると考えられたゆえに選択された。様々なバッチからの繊維のモルフォロジー及び輸送特性を、互いに、且つ最初のバッチと比較した。厳密には、2つの追加のバッチで、SEM画像化、水輸送実験、及びアルブミン濾過実験が実施された。
【0161】
最初の調査用のバッチは、バッチ1と称され、本明細書の他の箇所、例えば、Table 1(表1)及びTable 2(表2)において表される。2つの追加のバッチ(バッチ2及びバッチ3と称される)は、紡がれ、第1のバッチと比較された。
図20及び
図21は、繊維F15及び繊維F16の3つの異なるバッチの、断面、内層、及び外層の典型的なSEM画像を表す。繊維F15について、
図20は、バッチ1、バッチ2、及びバッチ3のSEM画像を示す。画像a、画像d、画像g)は、断面であり;画像b、画像e、画像h)は、外層の拡大像であり;画像c、画像f、画像i)は、内層の拡大像である。繊維F16について、
図21は、バッチ1、バッチ2、及びバッチ3のSEM画像を示す。画像a、画像d、画像g)は、断面であり;画像b、画像e、画像h)は、外層の拡大像であり;画像c、画像f、画像i)は、内層の拡大像である。Table 5(表5)は、繊維F15及び繊維F16の3つのバッチの寸法及び性能の詳細を表す。厳密には、Table 5(表5)は、外径;内径;壁厚;ウシ血清アルブミン(BSA)の限外濾過係数(KUF)及びふるい係数(SC)を表す。後者の2つの量は、平均±標準偏差で表される。
【0162】
【0163】
バッチ2で調製された繊維について、繊維F15及び繊維F16の両方について、繊維の内腔は、十分に中心にあるわけではなく、この理由のために、壁の一方の側が他方よりもより厚い。このずれは、可能性として、紡糸口金と凝固浴とのアラインメントの欠如によって引き起こされる。繊維F15の様々なバッチの断面の画像は、細長いマクロボイド及び同等の内部直径及び壁厚について極めて類似している。更に、外層及び内層の、同じモルフォロジーを観測することができる。繊維F16についても、モルフォロジー再現性に関して同じく結論付けることができる。繊維F15について、繊維F15の3つのバッチの平均KUFは、2m2で34±11mL/(h・mmHg)であった。繊維F16について、平均KUFは、2m2で30±7mL/(h・mmHg)であった。繊維F15及び繊維F16の全てのバッチについて、BSA SC(ウシ血清アルブミンふるい係数)は極めて小さい。
【0164】
一般に、繊維F15と繊維F16を比較して、繊維F15及び繊維F16の構造は、同等であり、その輸送特性は同様であり、両方の繊維は、アウトサイドイン濾過に好適であり得る。繊維F16の製造に使用されたエアギャップがわずかにより長い(高品質用に適用するのにより容易である)ことが確認され、繊維F16を製造することがいくらか好ましい。
【0165】
追加コメント
透析用の繊維に関係した実施形態が開示されたが、同様の構築物が他の用途で使用されることも可能である。一般に、本明細書に記載の、開示された特質、成分、及び方法の任意の組合せが可能である。方法のステップは、物理的に可能である、任意の順序で実施することができる。
【0166】
本発明の実施形態は、有機溶媒中に溶解させたポリマーを含むドープを使用する。本発明の実施形態は、ポリエーテルスルホン及びポリビニルピロリドンのポリマー類を使用するが、他のポリマーも使用され得る。
【0167】
全ての引用された参照文献は、本明細書において参照によって組み込まれている。
【0168】
実施形態が開示されたが、それによって限定されることは望まない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定されるべきである。
【国際調査報告】