(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】湿潤アルコールを燃料として使用し且つ高温支援着火を含むエンジン及びパワートレイン用の均一予混合圧縮着火式(HCCI-TYPE)燃焼システム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20230703BHJP
F02M 53/06 20060101ALI20230703BHJP
F02B 11/00 20060101ALI20230703BHJP
F02M 31/16 20060101ALI20230703BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
F02D19/08 D
F02M53/06
F02B11/00 B
F02M31/16 D
F02M25/00 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556574
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 US2021022310
(87)【国際公開番号】W WO2021188412
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514238582
【氏名又は名称】メイマーン リサーチ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュムエリ、イェフダ
(72)【発明者】
【氏名】シュムエリ、エイタン
(72)【発明者】
【氏名】シュムエリ、ドロン
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AB08
3G023AC06
3G092AB05
3G092AB14
3G092AB17
3G092BA04
3G092DE01S
3G092DE05S
3G092FA01
3G092HB04X
3G092HB06Z
(57)【要約】
シリンダ・ヘッドに取り付けられているシリンダ内で往復運動する、コネクティングロッドを介してクランク・シャフトに接続しているピストンを含み、湿潤アルコール燃料混合物を燃焼させることのできる、内燃式エンジン又はパワートレイン。シリンダ・ヘッド内に形成されている吸気ポート内には吸気カム及びバルブが装着されており、同じくシリンダ・ヘッド内に形成されている排気ポート内には排気カム及びバルブが装着されている。燃料噴射器によって加圧燃料源がシリンダ内に導入され、アルコール/水混合体中の水のパーセンテージは、平均有効圧力(IMEP)を増加させるべくシリンダ圧力を延長するように作用し、エンジンのクランク-アームの好ましいメカニカルアドバンテージの期間中に得られるより長い圧力パルスを介して、エンジンのより高いトルク(改善された正味平均有効圧力-BMEP)をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水成分及びアルコール成分の両方を有する湿潤アルコール燃料を燃焼させることのできる内燃式エンジンであって、
シリンダ・ヘッドに取り付けられたシリンダ内で往復運動するピストンであって、クランク・アームを介してクランク・シャフトに接続しているピストンと、
前記シリンダ・ヘッド内に形成された吸気ポート内に装着される吸気カム及びバルブ、並びに前記シリンダ・ヘッド内に形成された排気ポート内に装着される排気カム及びバルブと、
燃料噴射器によって前記シリンダ内に導入される加圧燃料源と
を有し、
前記燃料中の前記水成分のパーセンテージは、平均有効圧力を増加させるために前記燃料の着火前のシリンダ圧力を延長するように作用し、それにより、前記クランク・アームの好ましいメカニカルアドバンテージの期間中に達成されるより長い圧力パルスを介して前記エンジンのより高いトルクをもたらす、内燃式エンジン。
【請求項2】
改善された燃料噴射及びバルブ・タイミング態様を実現するためのスパーク・プラグ又はグロー・プラグのいずれかを更に有する、請求項1に記載の発明。
【請求項3】
点火コイルを介して前記スパーク・プラグと通信するエンジン制御ユニット(ECU)を更に有する、請求項2に記載の発明。
【請求項4】
燃料混合物全体の20~80体積%の間の逆範囲内で提供される前記水成分及びアルコール成分を更に含む、請求項1に記載の発明。
【請求項5】
内燃エンジンのピストンによって密閉される空間のフル・ストローク圧縮比中の最大容積対最小容積の比が、10:1~25:1の間であることを更に含む、請求項1に記載の発明。
【請求項6】
前記電子制御ユニット(ECU)が前記燃料噴射器及びスパーク・プラグの各々に別個に通信することを更に含む、請求項3に記載の発明。
【請求項7】
高圧燃料ラインを介して加圧燃料を前記噴射器に送達するための高圧燃料ポンプを更に有する、請求項6に記載の発明。
【請求項8】
低温側燃料供給手段を介して熱交換器構成要素と接続している燃料タンクを更に有し、前記熱交換器は、高温側の流入冷媒流体及び低温側の流出冷媒流体を供給され、更に、前記高圧燃料ポンプを介して高温側から前記エンジンへと、前記燃料ラインを介して連絡している、請求項1に記載の発明。
【請求項9】
ECUと通信するマス・エア・フロー・センサ(MAF)、ラムダ・センサのうちのいずれかを含む制御システムによって制御される空燃比を更に含み、前記空燃比は13:1~16:1の間の圧縮比で制御される、請求項5に記載の発明。
【請求項10】
ラムダ・センサが0.95の読取値を有するという過渡的動作条件を更に有する、請求項9に記載の発明。
【請求項11】
前記燃料を摂氏60~80度(C)の間の温度範囲まで加熱するために前記熱交換器構成要素を予熱することを更に含む、請求項8に記載の発明。
【請求項12】
湿潤アルコール燃料を燃焼させる内燃式エンジンを動作させるための方法であって、
前記燃料を加圧して、シリンダ・ヘッドを有するシリンダ内に導入するステップと、
前記シリンダ内で往復するように支持されたピストンを介して前記燃料を加圧するステップであって、前記ピストンはクランク・アームを介してクランク・シャフトに接続している、ステップと、
前記シリンダ・ヘッド内に形成された吸気ポート内に装着される吸気カム及びバルブ、並びに前記シリンダ・ヘッド内に形成された排気ポート内に装着される排気カム及びバルブを提供するステップと、
平均有効圧力を増加させるために前記燃料の着火前に前記シリンダ内の最大達成圧力を延長するステップであって、それにより、前記クランク・アームの好ましいメカニカルアドバンテージの期間中に達成されるより長い圧力パルスを介して前記エンジンのより高いトルクがもたらされる、ステップと
を含む、方法。
【請求項13】
前記燃料の水成分及びアルコール成分の両方のパーセンテージを、燃料混合物全体の20~80体積%の間の逆範囲内で変化させるステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
10:1~25:1の間である、前記シリンダ内の前記ピストンによって密閉される空間の最大容積対最小容積のフル・ストローク圧縮比を変化させるステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ECUと通信するマス・エア・フロー・センサ(MAF)、ラムダ・センサのうちのいずれかを含む制御システムによって制御される空気空燃比を提供するステップを更に含み、前記空燃比は13:1~16:1の間の圧縮比で制御される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ラムダ・センサが0.95の読取値を有するという過渡的動作条件を確立するステップを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記燃料を摂氏60~80度(C)の間の温度範囲まで予熱するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
組合せ内燃式エンジン及び湿潤アルコール燃料混合物であって、
第1のパーセンテージの水成分及び第2のパーセンテージのアルコール成分を有する前記燃料であって、前記成分の相対パーセンテージが前記燃料混合物全体の20~80体積%の間の逆範囲内で提供される、前記燃料と、
シリンダ・ヘッドに取り付けられたシリンダ内で往復運動するピストンであって、クランク・アームを介してクランク・シャフトに接続しているピストンと、
前記シリンダ・ヘッド内に形成された吸気ポート内に装着される吸気カム及びバルブ、並びに前記シリンダ・ヘッド内に形成された排気ポート内に装着される排気カム及びバルブと、
燃料噴射器によって前記シリンダ内に導入される加圧燃料源と
を有し、
前記燃料中の前記水成分のパーセンテージは、平均有効圧力を増加させるために前記燃料の着火前のシリンダ圧力を延長するように作用し、それにより、前記クランク・アームの好ましいメカニカルアドバンテージの期間中に達成されるより長い圧力パルスを介して前記エンジンのより高いトルクをもたらす、組合せ内燃式エンジン及び湿潤アルコール燃料混合物。
【請求項19】
内燃エンジンのピストンによって密閉される空間の、フル・ストローク圧縮比中の最大容積対最小容積の比が、10:1~25:1の間であることを更に含む、請求項18に記載の組合せ。
【請求項20】
ECUと通信するマス・エア・フロー・センサ(MAF)、ラムダ・センサのうちのいずれかを含む制御システムによって制御される空燃比を更に含み、前記空燃比は13:1~16:1の間の圧縮比で制御される、請求項19に記載の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2020年3月16日付けで出願した米国特許出願第62/990,104号、及び2021年3月12日付けで出願した米国特許出願第17/199,800号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は一般に、アルコールに対する水の割合の非常に高い湿潤アルコール燃料(wet-alcohol fuel)を燃焼させることのできる内燃式エンジン又はパワートレインに関する。より詳細には、本発明は、相当量の水を添加された酸素含有炭化水素(アルコール燃料)と組み合わせた、様々な範囲の圧縮比での燃料噴射段階及びバルブ・タイミング調整段階の改善を実現する高温支援(例えばグロー・プラグ又はスパーク・プラグ)着火を用いるHCCI(homogeneous charge compression ignition)エンジン及びパワートレインのためのシステム及び方法を開示する。本発明はまた、正味平均有効圧力(又はBMEP:brake mean effective pressure)とも呼ばれるトルク特性の改善を達成するための、より長い持続時間での(すなわちより大きいクランク角にわたる)シリンダ圧力の最適化も意図している。
【背景技術】
【0003】
先行技術において、均一予混合圧縮着火(HCCI)エンジン技術に関連する様々な先行技術文献が開示されている。この第1の実例がShibataの米国特許第8,038,742号に記載されており、これにはHCCI圧縮用の燃料が教示されている。
【0004】
Simmonsの米国特許出願公開第2011/0209683号には、均一な給気空気-燃料混合物中に混合された少なくとも30体積%の水の水溶性有機化合物を用いて、少なくとも16:1のスパーク着火前圧縮比でスパーク着火エンジンを動作させる方法が教示されている。
【0005】
Brombergの米国特許第8,677,949号には、水素リッチ・ガスの添加によって可能になる超希釈処理を容易にするというメタノールの特殊な特性を使用する、より高効率のターボチャージ式又はスーパーチャージ式スパーク着火エンジンのための燃料管理システムが教示されている。燃料管理制御ユニットは、駆動サイクルの一部においては実質的にストイキメトリな燃料/空気比で、及び駆動サイクルの他の部分においてはリーンな燃料/空気比で、エンジンを動作させる。
【0006】
Shmueliらの米国特許第8,869,755号、米国特許第9,074,555号、及び米国特許第10,436,108号の各々には、水ベースの燃料混合物を使用するICエンジンが開示されている。Blankの米国特許第9,010,293号には、車両の燃焼サイクルのための熱及び酸素濃度に対する必要燃料濃度の低減を制御することが教示されている。
【0007】
最後に、Mulyeの米国特許公開第2015/0300296号には、12:1よりも大きい(及び当該開示によれば最大30:1の)圧縮比を有し、EGRガスに対して水が10重量%~125重量%の範囲内である、EGR:exhaust gas recirculation system(排気ガス再循環システム)が教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8,038,742号
【特許文献2】国特許出願公開第2011/0209683号
【特許文献3】米国特許第8,677,949号
【特許文献4】米国特許第8,869,755号
【特許文献5】米国特許第9,074,555号
【特許文献6】米国特許第10,436,108号
【特許文献7】米国特許第9,010,293号
【特許文献8】米国特許公開第2015/0300296号
【発明の概要】
【0009】
本発明では、水成分と組み合わされた脂肪族系アルコール成分(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、又はブタノール)が開示される。アルコール成分及び水成分の相対パーセンテージは、燃料混合物の体積の20%~80%の間の逆範囲(inverse range;交代的範囲)内で提供され、相当量の水を添加された酸素含有炭化水素(アルコール燃料)と組み合わせた、様々な範囲の圧縮比を達成するための燃料噴射段階及びバルブ・タイミング調整段階の改善を実現するための、典型的にはスパーク又はグロー・プラグの支援を伴う、パワートレイン動作用の任意のタイプのより高い圧縮サイクル(HCCI)において利用される。このように、本発明は、正味平均有効圧力(又はBMEP)とも呼ばれるトルク特性の改善を達成するための、より長い持続時間での(すなわちより大きいクランク角にわたる)シリンダ圧力の最適化も意図している。
【0010】
本明細書に記載するエンジン又はパワートレインの用途は、限定するものではないが典型的な4-サイクル燃焼プロセスを含み得、多様なサイクルを有する類似の燃焼プロセスを有する他のサイクル・プロセス(2サイクル又は多サイクル)を更に企図し得る。
【0011】
本発明のエンジンはまた、限定するものではないが同じくスパーク-プラグ又はグロー-プラグを含む高温開始源を任意の構成で組み込むことのできる、エンジンが燃焼の開始(SOC:Start of Combustion)を始動及び制御する方法も含む。
【0012】
エンジンは、ブースト式の構成(エンジン駆動のスーパーチャージャ若しくは排気ガス駆動のターボチャージャのどちらにも限定されない)を含むことができるか、又は、自然吸気式(NA:normally-aspirated)の構成で提供され得るかのいずれかである。
【0013】
燃焼プロセスはSOCに関して始動デバイスを介して制御され、HCCI式の燃焼で見られるものと同様に非常に低い総NOx排出量をもたらす。アルコール/水混合体中の水のパーセンテージが高いことは、図示平均有効圧力(IMEP:indicated mean effective pressure)の増加をもたらす、シリンダ圧力を延長するような影響を及ぼし、エンジンのクランク-アームの好ましいメカニカルアドバンテージ(機械的利益)の期間中に得られるより長い圧力パルスを介して、エンジンのより高いトルク(改善された正味平均有効圧力-BMEP)をもたらす。
【0014】
上記した利益及び利点は、摩擦平均有効圧力(FMEP:friction mean effective pressure)又はポンプ損失平均有効圧力(PMEP:pumping mean effective pressure)を増加させることなく得られる。このように、達成される高い圧縮比、並びに、適切に選択されたバルブ・タイミング調整イベントと温度、速さ、及び負荷に基づく適切なSOCイベントの変更とを含むことに一部起因して、エンジンの固有の効率が高くなる。排気物質放出に関しては、未燃焼燃料などの他の排気物質構成成分はHCCI式燃焼と同様であり、従来の後処理手段によって制御可能である。
【0015】
続く詳細な説明と組み合わせて読まれるとき、添付の図面が参照されことになり、それらいくつかの図面を通して同様の参照符号は同様の部分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の非限定的な実施例に係るHCCI式燃焼エンジンの図式的な図である。
【
図2】スパーク着火圧縮エンジンの圧力対クランク角の、既知の技術による従来の燃焼圧力曲線対クランク角の、図式的描写の対の一方の図である。
【
図3】スパーク着火圧縮エンジンの圧力対クランク角の、既知の技術による従来の燃焼圧力曲線対クランク角の、図式的描写の対の他方の図であり、
図3にはクランク・アームが最大メカニカルアドバンテージとなる点が描かれている。
【
図4】クランク・アームの最大メカニカルアドバンテージを実現するためにサイクルのより長い期間中維持される(クランク角持続時間とも定義される)筒内圧力を表す、本発明の独自のHCCI燃焼アセンブリが描かれた、
図2及び
図3と相関した図式的描写の対の一方の図である。
【
図5】クランク・アームの最大メカニカルアドバンテージを実現するためにサイクルのより長い期間中維持される(クランク角持続時間とも定義される)筒内圧力を表す、本発明の独自のHCCI燃焼アセンブリが描かれた、
図2及び
図3と相関した図式的描写の対の他方の図である。
【
図6】燃焼、排気、吸気、及び圧縮という部分サイクルの各々に及ぶ内燃プロセスにわたる、バルブ開放及び持ち上げ対クランク角の更なる図式的描写である。
【
図7】完全4ストローク・サイクルを表す720度に基づいて上死点前(圧縮の終了とも定義される)の噴射タイミング/角度を示すための、異なるエンジンRPMに関する吸入マニホールド圧の表形式表現の対の一方であり、
図7は摂氏60°のより低温のエンジン構成を更に表す。
【
図8】完全4ストローク・サイクルを表す720度に基づいて上死点前(圧縮の終了とも定義される)の噴射タイミング/角度を示すための、異なるエンジンRPMに関する吸入マニホールド圧の表形式表現の対の他方であり、
図8は80°Cのより高温のエンジン構成を更に表し、これはより早期の噴射条件に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付した図を参照すると、本発明では、アルコールに対する水の割合の非常に高い湿潤アルコール燃料を燃焼させることのできる内燃式エンジン又はパワートレインが、並びにより詳細には、相当量の水を添加された酸素含有炭化水素(アルコール燃料)と組み合わせた、様々な範囲の圧縮比での改善された燃料噴射段階及びバルブ・タイミング調整段階を実現する、高温支援(例えばグロー・パーク又はスパーク・プラグ)着火を伴うHCCIエンジン及びパワートレインのためのシステム及び方法が開示されている。既に説明したように、本発明はまた、正味平均有効圧力(又はBMEP)とも呼ばれるトルク特性の改善を達成するための、より長い持続時間での(すなわちより大きいクランク角にわたる)シリンダ圧力の最適化も意図している。
【0018】
最初に
図1を参照すると、本発明の非限定的な実施例に係るHCCI式燃焼エンジンの図式的な図が示されている。関連するエンジン構成要素が、シリンダ・ヘッド12取り付けられているシリンダ15によって表され、その中にクランク・シャフト18を介してコネクティングロッド6(クランク・アームとも)によって往復式に駆動されるピストン14が位置付けられている。吸気バルブ15及び排気バルブ16の各々は、それぞれ吸気カム9及び排気カム10によって操作され、更に、対応する吸気ポート7及び排気ポート8内にそれぞれ位置付けられており、着火はスパーク・プラグ11によってトリガされる。
【0019】
シリンダ・ヘッド12内には、シリンダ内の燃焼チャンバに近接して燃料噴射器13が装着されている。電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)は全体的に5で表され、燃料噴射器13と通信しており、一般に、車両中の電気システム又はサブシステムのうちの1つ又は複数を制御する自動車電子部品内の任意の組み込みシステムを構成するように構築される。ECU5はそれとは別個に点火コイル4を介してスパーク・プラグ11と通信している。
【0020】
高圧燃料ポンプ3は、高圧燃料ライン24を介して噴射器13に燃料を提供する。他の要素としては、低温側燃料供給手段19を介して熱交換器構成要素2と接続する、1で描写された燃料タンクが挙げられる。熱交換器2は、20で表される高温側の流入冷媒流体及び更に21で表される低温側の流出冷媒流体を供給され、更に、燃料ライン22を通して、更に、挿置された高圧燃料ポンプ3を介してエンジンから噴射器13へと通信している。
【0021】
図2及び
図3に進むと、図示されているのは全体的に26及び28とした既知の技術による、スパーク着火圧縮エンジンの圧力(Y軸表現において複数の棒線で示されており、0、20、40、60、及び80の刻みである)対クランク角(-360°、180°、0、180°、及び360°の刻みでX軸に描かれている)が描かれる図式的描写の対であって、着火段中の最大メカニカルアドバンテージが
図2に27で示されている。クランク-アームが最大メカニカルアドバンテージとなる点は
図3において30で図式的に表されており、筒内圧力の大幅な低下に対応している。
【0022】
次に
図4及び
図5に進むと、図示されているのは、全体的にそれぞれ32及び34で示されており
図2及び
図3の先行技術の図と相関している対応する図式的描写の更なる対であり、これらには本発明のアルコール-水燃料混合物を利用する、独自のより高い圧縮サイクル(HCCI)燃焼アセンブリが描かれている。
図4では着火段と関連付けられた最大メカニカルアドバンテージが33で表されており、
図5は対応する最大効率を36で更に参照しており、更なる指定37がバルブ開放位置に対応している。既に記載したように、本発明では、水成分を有する任意の脂肪族系アルコール成分(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール又はブタノール)が企図されている。
【0023】
アルコール成分及び水成分の相対パーセンテージは、燃料混合物全体の体積の20%~80%の間の逆範囲内(例えば範囲の一方の境界における20%の水/80%のアルコールから、他方の境界における80%の水/20%のアルコールまで)で提供され、これはやはりパワートレイン動作用の任意のタイプのより高い圧縮サイクル(HCCI)において利用される。いくつかの非限定的な用途では、(特にエタノールと共に使用したときに)20%~60%の範囲の相対アルコール含有量が提供される。
【0024】
示されているように、筒内圧力(Y軸表現)が(クランク角持続時間としても定義され且つX角に沿った類似の描写によって示されるような)サイクルのより長い期間の間維持される場合、これはクランク・アームの最大メカニカルアドバンテージを提供するように示されている(最大圧力が0°のクランク角(上死点位置)に対応している、
図4に更に描かれているのを参照)。
【0025】
更に示されているように、クランク-アームの最大メカニカルアドバンテージの期間中に筒内圧力が大幅により高く示されている。このことは
図5)において36で更に表されており、これは
図3の対応する先行技術の図と比較して、効率上の利益が付随するエンジン・トルクの改善を示している。
【0026】
図6は、燃焼(360°~540°)、排気(540°~0°)、吸気(0°~180°)、及び圧縮(180°~360°)という部分サイクルの各々に及ぶ内燃プロセスにわたる、バルブ開放及び持ち上げ(Y軸表現)対クランク角(X軸表現)の更なる図式的描写である。更に表されているのは、描かれた範囲にわたって無負荷(実線で示す)の曲線と最大負荷(仮想線)の曲線との間に存在するシフトであり、これらはサイクルの吸引段及び排気段の各々に対応している。
【0027】
最後に、
図7及び
図8は、完全4ストローク・サイクルを表す720度に基づいて上死点前(圧縮の終了とも定義される)の噴射タイミング/角度を示すための、異なるエンジンRPMに関する吸入マニホールド圧の表形式表現の対であるこれには、
図7には摂氏60°のより低温のエンジン構成が、及び
図8には80°Cのより高温のエンジン構成が更に描かれていることが含まれ、後者はより早期の噴射条件に対応している。
【0028】
更に示されているように、より高いエンジンRPMはより早期の噴射に対応しており、マニホールド圧が高い(すなわち高負荷-より低い真空度)とき噴射は遅延する。このように、噴射タイミング調整は、あらゆる速さ負荷組合せにおいて高いトルク及び効率を維持するのに、並びに、速さ、負荷、及び温度変数の各々に基づく安定した効率的な燃焼を達成するのに、非常に重要である。
【0029】
本発明と関連付けられた他の及び追加の特徴は、以下の各々を含む。
【0030】
(早期スパーク-着火の開始)
早期着火は「理想的な」圧力対クランク角タイミング同期に重要であり、この場合一般に、着火の開始は上死点前40~45度で始まるべきであり、このことがECUによって常に制御されるべきであるが、その理由は、低RPMと高RPMでは異なるタイミング調整が必要になるからである。
【0031】
(高温吸気空気)
システム内でターボチャージャを使用するときインタクーラは必要なく、これがなくても実際に効率が向上するが、その理由は、吸気空気がターボチャージャによって加熱され、このことがより均一化された燃焼に役立つからであることが分かっている。
【0032】
(ロングストローク)
より持続時間の長い燃焼の性質に起因して、より長いストロークを達成することによって、圧力特性がより良く利用されること、及びより大きな動力が生まれることが分かっており、このことによってまた、TDC位置から下りてくる途中のピストン位置に関して、かなり後期の排気バルブ開放が可能になることになる。
【0033】
(熱の使用)
熱と効率及び性能との間の直接的相関が更に認識されている。このことは他の燃焼方法においても見られるが、燃料デトネーションを遅延させる/引き起こす本発明の能力は、エンジンのノッキング又はラン-オンを発生させることなくエンジンの運転温度を上げる能力をもたらし、この結果、エンジン内の熱の維持を助ける全ての熱障壁が廃熱の変換に寄与して、性能及び効率を向上させることになる。
【0034】
(ホット・プラグ)
実験によって、焼け型スパーク・プラグはスパーク/グロー・プラグの組合せとして振る舞うため、より良好な出力をもたらすことが分かった。
【0035】
(低RPM)
本発明の他の観察によって、同等のサイズの従来のエンジンでは通常見られない、低~中RPMにおいて高トルクを確立する能力が見出されている。そのような例では、エンジンは1000RPMの定格であっても動作し、その最大トルクの約85%を発揮する。
【0036】
上記の説明を前提として、本発明によって達成される目的は、図示平均有効圧力(IMEP)の増加につながる、シリンダ圧力を延長するように作用するアルコール/水混合物中の高パーセンテージの水と関連付けられた、蒸気が誘起する後期サイクル圧の増加を含み、このことはエンジンのより高いトルクをもたらす。後期サイクル圧の増加は、燃焼の開始(SOC)の遅延が高水含有量燃料の蒸気への筒内変換の効果と組み合わされた結果生じ、このことは図示平均有効圧力(IMEP)の改善につながる。この効果はここでも、図面において参照されるようなクランク-アームの好ましいメカニカルアドバンテージの期間中のより長い圧力パルスから得られるが、このことは摩擦平均有効圧力(FMEP)又はポンプ損失平均有効圧力(PMEP)の増加を伴わずに行われ、全体として正味のBMEP利益をもたらす。
【0037】
記載したような湿潤アルコール燃料を用いる内燃プロセスは、構成されているエンジンのタイプによって決定される10:1~25:1の間の比較的高い圧縮比内で動作するように企図されており、その場合この構成は、自然吸気式(NA)又はブースト式のいずれかである。本発明は更に、ブースト式の構成に使用されるより低い圧縮比、及びNAエンジン用のより高い圧縮比を企図している。
【0038】
記載したような湿潤アルコール燃料を用いる内燃プロセスは、a)速さ及びb)エンジン出力トルクの負荷の両方に関して過渡的条件下で動作する能力を含む。このことは、パワートレインが少なくとも多段変速機及び最終駆動装置を任意の構成で含む、本特許において具現化される個々の請求項を含む燃焼プロセスに起因するものである。過渡的動作に関してエンジンを制御する能力は、本特許の全ての請求項の適切な使用において構成される。
【0039】
記載したように、予熱技術は、例えば約摂氏60~80度(60~80度C)の温度まで燃料を加熱することを企図しており、再び
図1を参照すると、限定するものではないが、暖機運転中に燃料に最初に電熱器を通過させること、並びに、動作温度の達成後にエンジン廃熱を利用することを含み得る。
【0040】
他の特徴としては、マス・エア・フロー(MAF:Mass Air Flow)センサ、ラムダ・センサ、又は複数のセンサ、及びデジタル電子制御ユニット(ECU:digital Electronic Control Unit)を含む制御システムを介した、空気/燃料比(AFR:air/fuel ratioとも)の制御が挙げられる。1つの非限定的な変形形態では、AFR値は13:1~16:1の間で制御される。また更に、過渡的動作条件下ではリッチ化はラムダ0.95で行われ得る。
燃料噴射タイミング調整段階は、湿潤アルコール燃料を用いる内燃プロセスがデジタルECUにプログラムされることを含む。暖機運転条件下(典型的には60度C~100度Cの範囲内)では、燃料は後期に、又は吸気サイクルの終了(上死点前(BTDC:Before Top Dead Center)-180度)付近で噴射される。動作温度では、燃料は早期の吸気サイクルの開始時(BTDC-360度)に噴射される。任意のエンジン速さにおける高負荷下では、燃料噴射イベントはBTDC320度~250度の間で行われる。低負荷及び高速においては、噴射イベントは非常に早期のBTDC420度~360度で行われる。アルコールに対する水の過半パーセンテージは、20%のアルコールまでの減少範囲に対応する80%の水までの、任意の相対パーセンテージ範囲を更に含み得る。
【0041】
本発明は、単一のイン-ブロックの機械式カムシャフトから単一又は複数のオーバ-ヘッドの機械式カムシャフトまでの、及び液圧による、空圧による、又は電磁的な完全可変バルブ作動システムなどの高度なバルブ・トレイン作動システムまでの、任意のバルブ・トレイン作動タイプを有するエンジンに燃焼技術を適用できる、バルブ・タイミング調整機構を提供する。機械式カムシャフト作動システムはまた、利用可能時の独立的な吸気及び排気カム位相制御のための、又は単一の機械的カムシャフト・エンジンのための技術も含み、これにはバルブ・タイミング調整及びオーバーラップのための合理的な妥協策が含まれる。
【0042】
特定のバルブ・トレイン作動イベントはまた、速さ及び負荷変数に基づいたバルブ作動も含み得る。高速及び低負荷では、吸気バルブ閉鎖(IVC:intake valve closing)イベントは後期IVCを含み、高速及び高負荷条件の場合は、IVCイベントは早期に又はより従来的なタイミングで行われる。バルブ・オーバーラップ・タイミング調整ではまた、高負荷下でオーバーラップを大きくし、より低負荷ではオーバーラップが存在しないことが企図されている。採用されるバルブ作動技術に応じて、これらのパラメータの制御部は、デジタルECUによって制御されるカム位相制御デバイスを含むか、又は、完全にデジタルECUによって実行されるより洗練された将来的な作動デバイスを有する可能性がある。バルブ・イベントと速さ/負荷の間の典型的な関係を示す
図6を再び参照する。
【0043】
本設計の他の態様はまた、特別な幾何的特殊設計事項を有するエンジン概念も含む。これには、気流の制御を実現するための、変位クラスの等しい通常サイズの燃焼エンジンよりも小さい吸気バルブを呈する吸気システムが含まれるであろう。
【0044】
本発明者の発明について記載してきたが、付属の特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく、他の及び追加の好ましい実施例が、本発明に関連する当業者には明らかになるであろう。詳細な説明及び図面は、特許請求の範囲によってその範囲を規定されている本開示をサポートするものとして更に理解される。特許請求される教示を実行するための最良の形態及び他の実施例のうちのいくつかを詳細に記載してきたが、付属の特許請求の範囲に規定されている本開示を実施するための、様々な代替の設計及び実施例が存在する。
【0045】
上述の開示は、開示される厳密な形態又は特定の使用の分野に本開示を限定することを意図しないものとして更に理解される。したがって、本明細書において明示的に記載されているかそれとも暗示されているかに関わらず、本開示に照らして、本開示に対する様々な代替の実施例及び/又は変形例が可能であることが企図されている。本開示の実施例についてこのように記載してきたが、本開示の範囲から逸脱することなく形態及び詳細の変更を行い得ることを、当業者は認識するであろう。したがって、本開示は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0046】
前述の明細書では、本開示は具体的な実施例を参照して記載されている。しかしながら、当業者は諒解するであろうが、本明細書に開示されている様々な実施例を、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、修正又はそれ例外に様々な他の様式で実施することができる。したがって、この説明は例示的なものと見なされるべきであり、本開示の様々な実施例を製作及び使用する様式を当業者に教示することを目的としている。本明細書に示され記載されている開示の形態は代表的な実施例と解釈すべきであることが理解されるべきである。等価な要素、材料、又はステップのプロセスで、本明細書に代表として図示され記載されているものを置換することができる。また更に、本開示の特定の特徴を他の特徴の使用から独立させて利用することができるが、本開示のこの説明の利益を得た後では当業者には全て明らかであろう。「を含む」、「を備える」、「が組み込まれている」、「から成る」、「を有する」、「である」などの本開示を記述及び特許請求するための表現は、非排他的な様式で解釈されることを意図している、すなわち、明示的に記載されていない事物、構成要素、又は要素が存在することが許容されている。単数への言及は複数に関連しているようにも解釈されるべきである。
【0047】
更に、本明細書に開示されている様々な実施例は例示的且つ説明的な意味で理解されるべきであり、いかなる点でも本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。連結語での言及(例えば取り付けられた、付着された、結合された、接続された、など)は全て、単に本開示に対する読者の理解を助けるために使用されているものであり、特に本明細書に開示されているシステム及び/又は方法の位置、向き、又は使用に関して、限定を生じさせるものではない。したがって、連結語での言及は、存在する場合、広く解釈されるべきである。また更に、そのような連結語での参照は、必ずしも2つの要素が互いに直接接続されていることを推断させるものとは限らない。
【0048】
更に、数に関する用語、例えば限定するものではないが「第1の」、「第2の」、「第3の」、「一次の」、「二次の」、「主要な」、又は何らかの他の通常の及び/又は数に関する用語も同じく、本開示の様々な要素、実施例、変形例、及び/又は修正例についての読者の理解を助けるための識別語としてのみ解釈すべきであり、特に順序に関して、任意の要素、実施例、変形例、及び/若しくは修正例のどのような限定を生じさせるものでもなく、又はそれらにおいて、別の要素、実施例、変形例、及び/又は修正例との相対的な又はより勝る選好を生じさせるものでもない。
【0049】
図面/図に描かれている要素のうちの1つ又は複数を、より分離若しくは統合された様式で実施することが、又は、特定の用途において有用なこととして、削除若しくはある場合には実施不可能であるとすることさえ可能であることもまた、諒解されよう。更に、図面/図における任意のシグナル・ハッチングは、別段で特に明記されていなければ、単に例示的なものであって限定的なものではないと見なすべきである。
【国際調査報告】