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特表2023-529257光線力学療法におけるスケレトネマ(Skeletonema)の極性抽出物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】光線力学療法におけるスケレトネマ(Skeletonema)の極性抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/02 20060101AFI20230703BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20230703BHJP
【FI】
A61K36/02
A61P31/04
A61P17/00 101
A61P17/10
A61P43/00 123
A61P43/00 121
A61K41/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560986
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2021059545
(87)【国際公開番号】W WO2021209441
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】2003712
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522391833
【氏名又は名称】インスティテュート フランセス デ ルシェルシェ プル レクスプロイテーション デ ラ メール (イフレメー)
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】510184715
【氏名又は名称】セントレ ホスピタリエ ユニヴェルシタイレ デ ナント
(71)【出願人】
【識別番号】517032277
【氏名又は名称】ユニベルシテ ド リモージュ
(71)【出願人】
【識別番号】516247281
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ラ ロシェル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA ROCHELLE
【住所又は居所原語表記】Technoforum-23, avenue Albert Einstein, BP 33060, F-17031 La Rochelle, France
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ベラルド ジャン-バプティステ
(72)【発明者】
【氏名】レフロン ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ピコ ローレン
(72)【発明者】
【氏名】オウク タン-ソテア
(72)【発明者】
【氏名】サード ナイマ
(72)【発明者】
【氏名】ランドルト コーネリア
(72)【発明者】
【氏名】グレニエ カリン
(72)【発明者】
【氏名】ソル ヴィンセント
【テーマコード(参考)】
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084MA16
4C084MA63
4C084NA14
4C084NA15
4C084NA20
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA901
4C084ZA902
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC541
4C084ZC542
4C084ZC751
4C084ZC752
4C088AA12
4C088CA06
4C088MA16
4C088MA63
4C088NA14
4C088NA15
4C088NA20
4C088ZA89
4C088ZA90
4C088ZB35
4C088ZC54
(57)【要約】
本発明は、ニキビ又は細菌感染症の治療のための、スケレトネマ(Skeletonema)属の藻類又はそれに由来する光増感剤の少なくとも1つの極性抽出物を含む皮膚科用組成物に関する。さらに、スケレトネマ属の藻類の極性抽出物又はそれに由来する光増感剤を用いて表面を汚染除去する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケレトネマ(Skeletonema)属藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれに由来する光増感剤を含む、光線力学的治療(PDT)のための皮膚科用組成物であって、光増感剤の活性化を可能にするために皮膚表面の光曝露と組み合わせて、被験者の前記皮膚表面への組成物の局所適用によって、被験者におけるニキビ又は細菌感染の予防又は治療を目的とすることを特徴とする、
光線力学的治療(PDT)のための皮膚科用組成物。
【請求項2】
ニキビ治療を目的とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スケレトネマ(Skeletonema)属藻類は、スケレトネマ アーデンス(Skeletonema ardens)、スケレトネマ バルバデンセ(Skeletonema barbadense)、スケレトネマ コスタータム(Skeletonema costatum)、スケレトネマ シリンドラセウム(Skeletonema cylindraceum)、スケレトネマ デンティキュラータム(Skeletonema denticulatum)、スケレトネマ ドルニ(Skeletonema dohrnii)、スケレトネマ グレタエ(Skeletonema grethae)、スケレトネマ グレビレイ(Skeletonema grevillei)、スケレトネマ ジャポニカム(Skeletonema japonicum)、スケレトネマ マリノイ(Skeletonema marinoi但し、marinoiの2番目のiはウムラウト付きi)、スケレトネマ メディタラネウム(Skeletonema mediterraneum)、スケレトネマ メンゼリリ(Skeletonema menzelii)、スケレトネマ ミラビレ(Skeletonema mirabile)、スケレトネマ ポタモス(Skeletonema potamos)、スケレトネマ プロバビレ(Skeletonema probabile)、スケレトネマ シュードコスタータム(Skeletonema pseudocostatum)、スケレトネマ シンビスキアヌム(Skeletonema simbirskianum) スケレトネマ サブサルサム(Skeletonema subsalsum)、スケレトネマ トロピカム(Skeletonema tropicum)、スケレトネマ ウトリクロサ(Skeletonema utriculosa)及びスケレトネマ ベントリコスム(Skeletonema ventricosum)を含む群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記スケレトネマ(Skeletonema)属藻類は、スケレトネマ コスタータム(Skeletonema costatum)、スケレトネマ グレーテ(Skeletonema grethae)、スケレトネマ マリノイ(Skeletonema marinoi)、スケレトネマ メンゼリリ(Skeletonema menzellii)及びスケレトネマ サブサルサム(Skeletonema subsalsum)を含む群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記スケレトネマ(Skeletonema)属藻類の前記極性抽出物は、アルコール、好ましくはエタノール又はイソプロパノールを用いて行われる抽出によって得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ニキビ治療のための皮膚科用組成物における前記スケレトネマ(Skeletonema)属藻類の抽出物含量は、組成物の総重量に対して抽出物乾燥重量で0.001%~5%、好ましくは0.01%~1%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記極性抽出物中に存在する光増感剤の活性化を可能にするために処置される領域の前記光曝露は、400~800nm、好ましくは450~700nmの長波を有する光波への曝露に相当する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記極性抽出物中に存在する前記光増感剤の活性化を可能にするために処置される前記領域の前記光曝露は、1J/cm~100J/cmの間、好ましくは1~10J/cmの間に含まれる強度(フルエンス)を有する光波への曝露に相当する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
a)スケレトネマ属の藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれに由来する光増感剤を含む組成物の有効量を被験者の上皮表面へ局所適用するステップと、
b)光増感剤の活性化を可能にするために、前記上皮表面に光曝露を行うステップと、を含む、
ブラックヘッドを除去するための美容方法。
【請求項10】
a) スケレトネマ属の藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれに由来する光増感剤を含む組成物及び、
b) 光源
を含む、光線力学的治療を目的とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、フランス特許出願FR20/03712(2020年4月14日)の優先権を主張し、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、特にニキビなどの皮膚障害を治療するための、光線力学療法(PDT)における使用のための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ニキビは、皮脂腺の過剰分泌により毛穴が詰まることで発生する。この病変は炎症を合併することがあり、これは、キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、化膿性ブドウ球菌(Staphylococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)又はアカラス・フォリキュロラム(Acarus folliculorum)に関連する皮脂における細菌増殖に起因する。
【0004】
思春期中、ニキビは、皮脂腺がアンドロゲンによるホルモン刺激により成熟したときに始まる。成人では、ニキビは、化粧による皮脂分泌の低下又はストレスによる副腎皮質ホルモンの合成の増加が並行して皮脂腺を刺激することで生じる。
【0005】
光線力学療法(Photodynamic therapy、PDT)の基本的な概念は、光増感剤の光曝露により一重項酸素(singlet oxygen)及び他の活性酸素種(R.O.S)を発生させ、近くの生物(ニキビの炎症を引き起こすバクテリア)を死滅させるというものである。
【0006】
このニキビ関連PDTでは、光増感剤は皮膚表面に局所的に適用される。次いで、皮脂腺のレベルで吸収される。次いで、処置される領域は、レーザー又はパルス光によって照射され、この照射によって光増感剤の活性化ならびに一重項酸素及びR.O.Sの発生を可能にする。反応性の高い化学種である一重項酸素の存在により、皮膚の毛穴で増殖する細菌が死滅し、詰まった毛穴を解放することを可能にする皮膚の局所的な剥離をもたらす。
【0007】
光線力学療法によるニキビ治療の例は、欧州特許EP1755676B1、EP2152259B1、又はEP3082788B1に開示されている。
【0008】
光増感剤が効果を発揮するためには、光刺激を受けていない状態では活性化されず、インビボで安定で、光照射後に強い光反応性を示す必要がある。
【0009】
ここで、光増感剤は、皮膚細胞を可能な限り保持しつつ、ニキビに起因する炎症を増大させないことが重要である。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、スケレトネマ・マリノイ(Skeletonema marinoi、但し、marinoiの2番目のiはウムラウト付きi)の極性抽出物が光増感剤、抗炎症剤及び脂質生成抑制剤の特徴を同時に示すことを今や実証した。
【0011】
藻類は、成長及び繁殖に光を必要とする。それらの光合成を行うために、葉緑体に存在する色素を利用して光を吸収する。その結果、二酸素を生産し、光エネルギーを物質に変換している。
【0012】
明らかに、光合成に関与するスケレトネマ マリノイの化合物は、特にニキビの治療のために、特に興味深い特性を有する。
【0013】
したがって、第1の目的は、スケレトネマ(Skeletonema)属藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれに由来する光増感剤を含む、光線力学的治療(PDT)用組成物に関する。
【0014】
好ましくは、この組成物は皮膚科用組成物である。
【0015】
有利なことに、この組成物はまた、光増感剤活性化を可能にするためのこの皮膚表面の光曝露と組み合わせて、被験者の皮膚表面への組成物の局所適用によって、被験者のニキビを予防及び/又は治療することを目的とし得る。
【0016】
より広義には、この組成物は、光増感剤活性化を可能にするためのこの上皮表面の光曝露と組み合わせて、被験者の上皮表面への組成物の局所適用によって、被験者の細菌感染を予防及び/又は治療することを目的とし得る。
【0017】
第2の目的は、以下のステップを含む光線力学的治療方法に関する。
【0018】
1)治療有効量の上記組成物を被験者の上皮表面へ局所適用するステップと、
2)光増感剤活性化を可能にするために、この上皮表面に光を曝露するステップ。
【0019】
有利なことに、光線力学的治療は、被験者のニキビを予防及び/又は処置することを目的とする。
【0020】
さらに有利なことに、光線力学的治療は、被験者における細菌感染を予防及び/又は処置することを目的とする。
【0021】
本発明の第3の目的は、ブラックヘッド(黒ずみ)などの皮膚の欠陥をなくすことを目的とした化粧方法であって、以下のステップを含む。
【0022】
1)有効量の上記組成物を被験者の上皮表面へ局所適用するステップと、
2)光増感剤活性化を可能にするために、この上皮表面に光を曝露するステップ。
【0023】
本発明の第4の目的は、光線力学的治療を目的とするキットに関するものであって、以下を含む。
【0024】
1)前述の組成物、及び
2)光源
【0025】
本発明の第5の目的は、表面を汚染除去する方法に関し、この方法は少なくとも以下のステップを含む。
【0026】
1)有効量のスケレトネマ属藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれらに由来する光増感剤を適用するステップと、
2)光増感剤活性化を可能にするために、この表面に光を曝露するステップ。
【0027】
有利なことに、この方法は、病院衛生において使用される。この文脈において、汚染除去されるべき表面は、医療デバイス、人工器官又はインプラント表面である。
【0028】
さらに有利なことには、この方法は、食品産業において使用され、汚染除去される表面は、食品表面(肉、魚など)、金属表面(機械、作業表面など)、床又は壁であってもよい。
【0029】
本発明の第6の目的は、被験者創傷の光凝固のための方法に関し、この方法は少なくとも以下のステップを含む。
【0030】
1)有効量のスケレトネマ属藻類の少なくとも1つの極性抽出物又はそれらに由来する光増感剤を被験者創傷表面に適用するステップと、
2)光増感剤活性化を可能にするために、この表面に光を曝露するステップ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
スケレトネマ属藻類は、単細胞の藻類で、珪藻類(珪藻門(Bacillariophyta))でもある。
【0032】
このような藻類の例としては、特に、スケレトネマ アーデンス(Skeletonema ardens)、スケレトネマ バルバデンセ(Skeletonema barbadense)、スケレトネマ コスタータム(Skeletonema costatum)、スケレトネマ シリンドラセウム(Skeletonema cylindraceum)、スケレトネマ デンティキュラータム(Skeletonema denticulatum)、スケレトネマ ドルニ(Skeletonema dohrnii)、スケレトネマ グレタエ(Skeletonema grethae)、スケレトネマ グレビレイ(Skeletonema grevillei)、スケレトネマ ジャポニカム(Skeletonema japonicum)、スケレトネマ マリノイ(Skeletonema marinoi但し、marinoiの2番目のiはウムラウト付きi)、スケレトネマ メディタラネウム(Skeletonema mediterraneum)、スケレトネマ メンゼリリ(Skeletonema menzelii)、スケレトネマ ミラビレ(Skeletonema mirabile)、スケレトネマ ポタモス(Skeletonema potamos)、スケレトネマ プロバビレ(Skeletonema probabile)、スケレトネマ シュードコスタータム(Skeletonema pseudocostatum)、スケレトネマ シンビスキアヌム(Skeletonema simbirskianum)、スケレトネマ サブサルサム(Skeletonema subsalsum)、スケレトネマ トロピカム(Skeletonema tropicum)、スケレトネマ ウトリクロサ(Skeletonema utriculosa)及びスケレトネマ ベントリコスム(Skeletonema ventricosum)が挙げられる。
【0033】
好ましくは、スケレトネマ(Skeletonema)属藻類は、スケレトネマ コスタータム(Skeletonema costatum)、スケレトネマ グレタエ(Skeletonema grethae)、スケレトネマ マリノイ(Skeletonema marinoi)、スケレトネマ メンゼリリ(Skeletonema menzellii)及びスケレトネマ サブサルサム(Skeletonema subsalsum)を含む群から選択される。
【0034】
特に好ましい実施形態では、スケレトネマ属藻類は、スケレトネマ マリノイ又はスケレトネマ グレタエであり、より具体的には、大西洋で比較的よく見られる種であるスケレトネマ マリノイである(大西洋の沿岸水域の主要種であることが多い)。この種の細胞は、細胞分裂後も互いに結合したままである。また、この種の藻類は、3~15個の細胞からなる鎖状の形態をしている。
【0035】
「スケレトネマ属藻類の極性抽出物」とは、スケレトネマ属藻類を極性溶媒で抽出して得られる組成物をいう。
【0036】
「極性溶媒」とは、双極子モーメントを有する分子からなる溶媒を意味する。この極性溶媒は、酸性Hイオンを放出できるかどうかで、プロトン性又は非プロトン性にもなり得る。
【0037】
極性非プロトン性溶媒の例としては、ケトン(例えばアセトン又はブタノン)、スルホキシド(例えばDMSO)、N,N二置換アミド(N,Nジメチルホルムアミド)、ニトリル(例えばアセトニトリル)、エステル(例えば酢酸エチル)、第三級アミン(例えばトリエチルアミン)、窒素複素環(例えばピリジン)が挙げられる。
【0038】
極性プロトン性溶媒の例としては、水、アルコール、カルボン酸(例えばギ酸及び酢酸)又は第一級及び第二級アミンが挙げられる。
【0039】
好ましくは、使用される極性溶媒はプロトン性極性溶媒であり、中でもアルコールを使用することが好ましい。
【0040】
使用できるアルコールの中でも、メタノール、エタノール、又はさらにはイソプロパノールが挙げられ、エタノール及びイソプロパノールが好ましい。
【0041】
使用されるスケレトネマ属藻類の極性抽出物は、好ましくは、事前の細胞溶解工程を経た微細藻類から得られる極性抽出物である。
【0042】
このような細胞溶解工程は、この藻類を、単に凍結/解凍(好ましくは-20℃未満の温度で)、マイクロ波処理、又は超音波処理によって、行うことができる。
【0043】
スケレトネマ属藻類の極性抽出物は、この藻類を極性溶媒中で、少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間の浸軟(maceration、細胞解離)をすることによって得られる。典型的には、この浸軟時間は、24時間未満、好ましくは12時間未満、又は更には6時間未満である。例として、スケレトネマ属藻類のそのような極性抽出物は、10~60分間、好ましくは20~40分間の期間にわたる極性溶媒中でのこの藻類の浸軟によって得られる。理想的には、得られた極性抽出物の光増感剤をできるだけ多く保存するために、室温以下で極性溶媒を用いてこの浸軟を行う。
【0044】
さらにスケレトネマ属藻類のこの極性抽出物に関しては、微細藻類1グラム当たり少なくとも1mLの極性溶媒(乾燥重量で表される)、好ましくは微細藻類1グラム当たり少なくとも10mLの極性溶媒、特に好ましくは微細藻類1グラム当たり少なくとも20mLの極性溶媒を用いて抽出した結果、得られるものである。例として、スケレトネマ属藻類の極性抽出物は、微細藻類1グラム当たり1~200mLの極性溶媒(乾燥重量で表される)、好ましくは微細藻類1グラム当たり10~100mLの極性溶媒、特に好ましくは微細藻類1グラム当たり20~50mLの極性溶媒(乾燥重量で表される)を使用して得られる。
【0045】
有利なことには、スケレトネマ属藻類の極性抽出物は、抽出後に少なくとも1回の濾過(例えば、0.2μm、0.4μm又は他のフィルタ)及び/又は少なくとも1回の遠心分離(上清のみの回収を伴う)を受ける。
【0046】
「スケレトネマ属藻類の極性抽出物に由来する光増感剤」は、スケレトネマ属藻類の極性抽出物から(例えばHPLCによって)精製された化合物、又はスケレトネマ属藻類の極性抽出物中に存在し、光によって活性化されると一重項酸素及びR.O.Sの生成を可能にする化合物を指す。
【0047】
光線力学的治療のための組成物中のスケレトネマ属藻類の抽出物含量は、0.001%~5%(組成物の総重量に対する抽出物の乾燥重量)、好ましくは0.01%~2%、特に好ましくは0.1%~1%である。
【0048】
本発明の組成物の調製中における極性抽出物の組み込みは、好ましくは、不活性雰囲気(例えば、窒素又はアルゴン)下及び/又は暗所で行われる。このような組み込み条件は、抽出物の活性分子を最良に保護することを可能にする。
【0049】
組成物の形態に関しては、所望の投与様式に応じて任意の所望の形態をとることができる。ここで、組成物は、好ましくは、皮膚のような上皮表面に適用される。また、好ましくは、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤又はゲル剤などの皮膚科用組成物の形態をとる。
【0050】
好ましくは、組成物はまた、少なくとも1種の抗酸化剤を含んでもよい。そのような組成物に使用することができる抗酸化剤の例として、プロビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール又はリコピンを挙げることができる。好ましくは、プロビタミンA、ビタミンC又はビタミンEを選択する。
【0051】
現在及び一般的に、この組成物は、脂肪物質、有機溶媒、増粘剤、ゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、乳白剤、安定剤、発泡界面活性剤及び/又は界面活性剤、皮膚軟化剤、高脂肪化剤、香料、イオン性又は非イオン性乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート剤、保存剤、精油、着色剤、顔料、親水性又は親油性活性剤、保湿剤などの医薬又は化粧品の製剤、好ましくは皮膚科用製剤において使用される多くのタイプのアジュバント又は活性成分を含むことができ、例えば、グリセリン又はグリコールなど、防腐剤、染料、化粧品活性剤、鉱物及び/又は有機日焼け止め剤、鉱物充填剤、合成充填剤、シリコーンエラストマー、又は植物抽出物又は脂質小胞、又は化粧品に通常使用される任意の他の成分などが挙げられる。
【0052】
油の例としては、パラフィン、イソパラフィン、白色鉱油、植物油(花、果実、野菜、樹木、穀物、油料種子由来)、動物油、合成油、シリコーン油及びフッ素化油などが挙げられ、より詳細には、植物由来の油としては、例えば、スイートアーモンド油、ココナッツ油、ヒマシ油、ホホバ油、オリーブ油、ナタネ油、ピーナッツ油、ヒマワリ油、コムギ胚芽油、トウモロコシ胚芽油、大豆油、綿実油、アルファルファ油、ポピーシード油、カボチャ油、ユーニングプリムロース油、キビ油、オオムギ油、ライムギ油、ベニバナ油、バングルリア(bankoulier)油、パッションフラワー油。ヘーゼルナッツ油、パーム油、シアバター、アプリコットカーネル油、カロフィルム油、シードワート(seedwort)油、アボカド油、カレンデュラ油、花又は野菜からの油、エトキシル化植物油などであり、動物由来の油としては、例えば、スクアレン、スクアランなどであり、ミネラルオイルとしては、例えば、パラフィン油、ワセリン及びイソパラフィンである。また、合成油としては、特に脂肪酸エステルが挙げられ、例えば、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸セチル、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキサデシルステアレート、ステアリン酸イソプロピル、オクチルステアレート、イソセチルステアレート、ドデシルオレエート、ヘキシルラウレート、ジカプリル酸プロピレングリコールなど、ラノリン酸から誘導されるエステル、例えば、ラノリン酸イソプロピル、ラノリン酸イソセチルなど、脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドとしては、例えば、グリセロールトリヘプタノエート、アルキルベンゾエート、ポリアルファオレフィン、ポリオレフィン、例えば、ポリイソブテン、合成イソアルカン、例えば、イソヘキサデカン、イソドデカン、過フッ素化油及びシリコーン油などが挙げられる。後者の中でも特に、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミンで修飾されたシリコーン、脂肪酸で修飾されたシリコーン、アルコールで修飾されたシリコーン、アルコール及び脂肪酸で修飾されたシリコーン、ポリエーテル基で修飾されたシリコーン、修飾されたエポキシシリコーン、フッ素化基で修飾されたシリコーン、環状シリコーン及びアルキル基で修飾されたシリコーンを挙げることができる。
【0053】
他の脂肪としては、直鎖又は分枝鎖の飽和又は不飽和の脂肪アルコール、直鎖及び/又は分枝鎖の飽和及び/又は不飽和の脂肪アルコールの混合物、あるいは直鎖又は分枝鎖の飽和又は不飽和の脂肪酸、直鎖又は分枝鎖の飽和又は不飽和の脂肪酸の混合物、を挙げることができる。
【0054】
使用することができる増粘剤及び/又は乳化剤ポリマーとしては、例えば、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のホモポリマー又はコポリマー、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体のホモポリマー又はコポリマー、アクリルアミドのホモポリマー又はコポリマー、アクリルアミド誘導体のホモポリマー又はコポリマー、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸のホモポリマー又はコポリマー、ビニルモノマーのホモポリマー又はコポリマー、トリメチルアミノエチルアクリレートのホモポリマー又はコポリマー、植物又は生合成由来の親水コロイド、例えばキサンタンガム、カラヤガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ケイ酸塩、セルロース及びその誘導体、デンプン及びその親水性誘導体、ポリウレタンがある。
【0055】
W/Oエマルジョン、O/Wエマルジョン、W/O/Wエマルジョン又はO/W/Oエマルジョンの調製における使用に適したゲル化水性相、又はSEPIBIO(登録商標)POTENTILLA 217を含む水性ゲルの製造において使用することができる高分子電解質型ポリマーとしては、例えば、アクリル酸及び2-メチル-[(l-オキソ-2-プロペニル)アミノ酸、1-プロパンスルホン酸(AMPS)のコポリマー、アクリルアミド及び2-メチル-[(l-オキソ-2-プロペニル)アミノ]1-プロパンスルホン酸のコポリマー、2-酸コポリマー-メチル-[(l-オキソ-2-プロペニル)アミノ]1-プロパンスルホン酸及び(2-ヒドロキシエチル)アクリル酸塩、2-メチル-[(l-オキソ-2-プロペニル)アミノ]1-プロパンスルホン酸のホモポリマー、アクリル酸のホモポリマー、アクリロイルエチルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリルアミドのコポリマー、AMPSとビニルピロリドンのコポリマー、1’AMPSとN,N-ジメチルアクリルアミドのコポリマー、AMPS、アクリル酸及びN,N-ジメチルアクリルアミドのターポリマー(三元重合体)、炭素鎖が10~30個の炭素原子を含むアクリル酸とアルキルアクリレートのコポリマー、炭素鎖が10~30個の炭素原子を含むAMPSとアルキルアクリレートのコポリマーなどが挙げられる。
【0056】
本発明による組成物に使用することができるワックスとしては、例えば、蜜蝋、カルナウバワックス、カンデリラワックス、オーリコリーワックス、日本ワックス、中国、米ぬかワックス、モンタンワックス、コルク繊維又はサトウキビワックス、パラフィンワックス、リグナイトワックス、微結晶ワックス、ラノリンワックス、オゾケライト、ポリエチレンワックス、水素化油、シリコーンワックス、アルケノンワックス、植物性ワックス、室温で固体の脂肪アルコール及び脂肪酸、室温で固体のグリセリドなどが挙げられる。
【0057】
本発明による組成物に使用することができる乳化剤としては、
- 任意にアルコキシル化されるアルキルポリグリコシド脂肪酸エステル
- アルコキシル化脂肪酸エステル
- 脂肪鎖を有するポリアルキレングリコールカルバメート
- 脂肪酸、エトキシル化脂肪酸、脂肪酸ソルビトールエステル、エトキシル化脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセロールエステル、エトキシル化脂肪アルコール、スクロースエステル、アルキルポリグリコシド、アルコール硫酸化及びリン酸化脂肪又はアルキルポリグリコシドと脂肪アルコールとの混合物
- アルキルポリグリコシドから選択される乳化界面活性剤の組み合わせ
- アルキルポリグリコシドと脂肪アルコール、ポリグリセロールポリグリコール又はポリオールのエステルとの会合体を挙げることができる。
【0058】
本発明による組成物において使用され得る界面活性剤の中でも、この活性分野において通常使用される局所的に許容されるアニオン性、カチオン性、両性又は非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0059】
本発明による組成物に使用することができるアニオン性界面活性剤としては、特に、以下の化合物、アルキルエーテルサルフェート、アルキルサルフェート、アルキルアミドエーテルサルフェート、アルキルアリールポリエーテルサルフェート、モノグリセリドサルフェート、アルファ-オレフィンスルホネート、パラフィンスルホネート、アルキルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルスルホネート、アルキルアミドスルホネート、アルキルアリールスルホネート、アルキルカルボキシレート、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホコハク酸塩、アルキルアミドスルホコハク酸塩、アルキルスルホアセテート、アルキルサルコシネート、アシルセチオネート、N-アシルタウレート、アシルラクチレートなどの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミノ酸塩、アミノアルコール塩が挙げられる。
【0060】
本発明による組成物に使用することができる両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、スルタイン、アルキルアミドアルキルスルホベタイン、イミダゾリン誘導体、ホスホベタイン、アンホポリアセテート及びアンホプロピオネートを挙げることができる。
【0061】
本発明による組成物によって得られる活性をさらに増強するために、他の活性成分、特に老化防止、引き締め、再構築、刺激、活力(energizing)、しわ防止、保湿、抗菌、皮脂調節、浄化、鎮静、リラックス、鎮痛(decontracting)、ストレス防止、肌を明るくすること、免疫調節、細胞再生刺激、リフトアップ、膨化、顔の輝きを改善(improving the radiance of the complexion)、等について公知の活性成分と組み合わせることができる。
【0062】
この抽出物中に存在する光増感剤の活性化を可能にする処理領域の光曝露に関して、それは、400~800nmの間、好ましくは450~700nmの間で構成される波長及び1J/cm~100J/cmの間、好ましくは1~10J/cmの間の強度(フルエンス)を有する光波への暴露である。
【0063】
そのような光波は、レーザー、パルス光、又はLEDによっても得ることができる。治療的及び特に皮膚科的使用の文脈では、真皮及び表皮が被る損傷を制限するために、被験者の細胞が加熱を受けないことを考慮すると、LEDの使用が好ましい。ここで、そのような光波は、場合によっては昼光に相当することもある。
【0064】
曝露時間は、1分~2時間、好ましくは1~30分、又はさらに1~10分、特に好ましくは2~5分で構成される。
【0065】
スケレトネマの極性抽出物に関連する光増感活性があることが示されたことで、あらゆるタイプの光線力学的治療(PDT)に使用することが可能になった。
【0066】
「光線力学的治療」は、スケレトネマ属藻類の極性抽出物中に存在する光増感剤の活性化を可能にするために、組成物の適用後の光曝露による処置を行うことを意味する。
【0067】
複数の光線力学的治療が可能であって、例えば、ニキビの治療、皮膚又は歯茎の細菌感染症の治療、毛根の破壊による多毛症の治療、脱毛部位の頭皮への刺激による脱毛症の治療、炎症性角化症の治療、前黒色腫真皮領域の治療、乾癬の治療、ポートワインステイン、いぼなどの良性皮膚状態の治療、化膿性汗腺炎、ベルヌーイ病などの異なる形態の汗腺炎の治療、又は抗血管新生治療、特にロゼットの治療などである。
【0068】
好ましくは、皮膚科用組成物は、抽出物中に存在する光増感剤の活性化を可能にするための、この皮膚表面の光曝露と組み合わせた、被験者の皮膚表面への組成物の局所適用による、被験者のニキビ治療を目的とする。
【0069】
ニキビに関連して、これは、尋常性ニキビ、多形性ニキビ、結節性嚢胞性ニキビ、二次性ニキビ(例えば、日光性ニキビ又は治療に伴うニキビ)と同様に、コングロバタ(conglobata)ニキビにも対応することができる。
【0070】
ここで、本発明による組成物はまた、抽出物中に存在する光増感剤の活性化を可能にするための、この上皮表面の光曝露と組み合わせた被験者の上皮表面への組成物の局所適用によって、被験者の細菌感染の予防及び/又は治療を目的とすることができる。
【0071】
例として、本発明者らは、歯肉炎(細菌感染後の歯茎の炎症)又は歯周炎(細菌炎症後の歯周組織の炎症)の予防又は治療、パーレッシュ(perleche)、間擦疹、丹毒、膿痂疹、ひょう疽(felon)などの皮膚細菌感染の予防を特に挙げることができる。
【0072】
好ましくは、細菌感染症は、グラム陽性細菌感染症である。
【0073】
皮膚科用組成物が適用される上皮表面は、歯肉(歯肉炎又は歯周炎)又はさらには皮膚表面であってもよく、例えば顔、体幹、脚、背中又は指などであり、好ましくは顔を指す。
【0074】
被験者としては、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0075】
ニキビ治療の場合、被験者は、典型的には10~20歳である。今日、ニキビの出現は7~8歳頃で、20歳以降も持続することもあり、被験者は10歳より若いことも、20歳より年齢が上であることもある。
【0076】
本発明による組成物は、罹患した上皮表面(皮膚、歯茎など)に少なくとも1日1回適用される。
【0077】
本発明による組成物の適用と光曝露との組合せは、最良の有効性を得るために少なくとも1週間、好ましくは4~12週間からなる期間にわたって行われる。
【0078】
本発明による光線力学的治療方法に関連して、後者は、上述の組成物を当然に使用する。
【0079】
光線力学的治療は、上記で検討した治療のうちの1つに対応する。
【0080】
有利なことには、本発明による方法は、被験者におけるニキビを予防及び/又は治療することを目的とする。
【0081】
さらに有利なことには、本発明による方法は、被験者における細菌感染の予防及び/又は治療を目的とする。
【0082】
「治療有効量」は、所望の生物学的効果を達成するのに充分な量を意味する。
【0083】
ここで、本発明による美容処置方法に関連して、後者もまた、上述の組成物を使用する。
【0084】
この点について、被験者は、以前に想定された通りである。
【0085】
有利なことには、これは、ブラックヘッドを除去することを目的とする。
【0086】
ここで、本発明によるキットに関して、これは、上記の組成物に加えて、藻類抽出物中に存在する光増感剤の活性化を誘導することができる光源を含む。
【0087】
典型的には、このような光源は、400~800nm、好ましくは450~700nmで構成される波長を有する光放射を、1J/cm~100J/cmの間、好ましくは1~10J/cmの間に含まれる強度(フルエンス)で放射するものである。
【0088】
このような光源は、典型的には、レーザー、パルス光、又はLEDから選択され、好ましくはパルス光かLEDの間で選択される。
【0089】
ここで表面を汚染除去するための方法に目を向けると、これは食品(農業食品)又は病院での使用を目的とすることができる。医療分野では、医療デバイス、プロテーゼ(prostheses)、インプラントなどの滅菌に使用することが可能である。次いで、食品産業において、食品表面(肉、魚など)の汚染除去に使用することができ、次いで、保存分野では、金属表面(機械、作業面など)の汚染除去、又は床又は壁の汚染除去に使用できる。
【0090】
本発明による方法の場合、汚染除去すべき表面上で蒸発させることができる抽出物の製剤を使用することが好ましい。したがって、スプレータイプの製剤は、特に好適な製剤である。
【0091】
本発明は、以下の実施例に照らしてより良く理解されるであろう。これらの実施例は、純粋に例示の目的のために示されたものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0092】
[実施例]
実施例1 スケレトネマ属の藻類の極性抽出物の取得
好ましくは、全ての抽出は、活性分子の顕著な分解を回避するために、不活性雰囲気(窒素飽和)下で行われる。
【0093】
この抽出のために、10グラムのバイオマス(スケレトネマ マリノイ、スケレトネマ グレーテ、スケレトネマ サブサルサム又はスケレトネマ メンゼリリ)を使用する。
【0094】
好ましくは、藻類を-20℃で凍結した後、400mLのエタノールに室温で少なくとも1時間(典型的には4時間)撹拌しながら浸軟する。
【0095】
この浸軟ステップの後、抽出物を遠心分離し、特にシリカを含有するペレットを除去し、上清を濾過する(例えば0.2μmフィルター)。
【0096】
最終的に、原料1グラム当たり約40mlの抽出物を得る。
【0097】
次いで、このようにして得られた極性抽出物を、C18カラムを用いたHPLCクロマトグラフィー(UV-DAD)によって分析する。1mL/分の流速で使用した溶出勾配を以下の表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
溶出画分の吸光度分析では、多数の吸光度ピークが確認された。
【0100】
実施例2 スケレトネマ属藻類の極性抽出物の抗菌作用
得られたスケレトネマ マリノイ極性抽出物の抗菌活性を、以下の菌株、キューティバクテリウム・アクネス(CIP53.117T)、黄色ブドウ球菌(CIP76.25)、表皮ブドウ球菌(CIP109.562)に対する寒天拡散試験により評価した。
【0101】
各菌株について、指数関数的増殖期に採取した菌懸濁液を10倍に希釈したものを使用する。1mLの希釈細菌懸濁液を、ペトリ皿中の栄養寒天培地に接種し、次いで、寒天培地に沈殿ゾーンを形成させる。
【0102】
これらのドロップゾーンは、以下、
- 50μlの極性抽出物20倍希釈液
- 50μlの極性抽出物2倍希釈液
- 50μlのゲンタマイシンは、試験が正常に行われることの証明として、試験菌株に対する生物学的活性が証明された抗生物質
- 溶媒対照としてエタノールを添加した50μlの栄養培地(「Et5%」と記す)で満たされる。
【0103】
溶液を堆積させた後、ペトリ皿は、白色光(25J/cmの総フルエンス)又は赤色光(37.5J/cmの総フルエンス)のいずれかを送達する光源による照明に供されるか、又は供されない。無照明条件は、照明の非存在下で抽出物が抗菌活性(毒性)を有するか否かを判断するために実施される。
【0104】
抗菌活性は、試料沈殿領域の周囲に増殖阻害ゾーンが存在することによって明らかになる。
【0105】
白色光下での結果を以下の表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
赤色光下での結果を以下の表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
その結果、予想通り、照明なしであろうと白色光又は赤色光での照明ありであろうと、ゲンタマイシンによる各菌株についての細菌増殖阻害ゾーンが確認された。同様に、陰性対照に関連しては、照明の有無にかかわらず、細菌増殖の阻害は観察されない。藻類スケレトネマ マリノイの極性抽出物に関しては、照明の非存在下では細菌増殖の阻害はほとんど又は全く観察されない。他方では、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌及びC.アクネスの細菌増殖の阻害が観察され、これは、希釈されていないほど強くなる。
【0110】
結論として、極性抽出物が、暗所への細菌モデルに対する抗生物質活性又は毒性を有さないことを示す。他方、抽出物は、白色光及び赤色光の両方において増殖阻害領域を形成するので、この抽出物は光活性化される。さらに、1/2に希釈された抽出物と比較して1/20に希釈された抽出物でより大きい増殖阻害ゾーンが観察されるため、用量効果があることがわかった。
【0111】
実施例3 スケレトネマ属の藻類の極性抽出物のMIC(最小阻害濃度)及びMBC(最小殺菌濃度)の決定
【0112】
スケレトネマ マリノイ、スケレトネマ グレーテ、スケレトネマ サブサルサム及びスケレトネマ メンゼリリの極性抽出物のMIC及びMBCを、96ウェルプレートでマイクロメソッドにより決定した。抽出物のMIC(最小阻害濃度)は、細菌株の増殖を阻害するのに充分な極性抽出物の最小濃度に相当する。抽出物のMBC(最小殺菌濃度)は、最初の接種材料中の細菌の99.99%を殺すのに充分な抽出物の最低濃度に相当する。指数関数的増殖期の細菌(C.アクネス、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)を、異なる濃度の極性抽出物の存在下でインキュベートする。次いで、極性抽出物の存在下の細菌を、白色光(25J/cmの総フルエンス)又は赤色光(37.5J/cmの総フルエンス)のいずれかの照射に供する。照明なしの条件を実施して、照明なし(暗黒)条件下で、試験した極性抽出物が抗菌活性(毒性)を有するか否かを決定する。照射期間の後、96ウェルプレートを、細菌増殖に最適な条件を考慮してオーブン中でインキュベートする。
【0113】
白色光下でのMIC及びMBCの結果を、それぞれ以下の表4及び表5に示す。MIC及びMBC値は、極性抽出物のμg/mLで表される。
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
赤色光下でのMIC及びMBCの結果を、それぞれ以下の表6及び表7に示す。MIC及びMBC値は、極性抽出物のμg/mlで表される。
【0117】
【表6】
【0118】
【表7】
【0119】
照明なしのMIC及びMBCの結果を以下の表8及び表9に示す。MIC及びMBC値は、極性抽出物のμg/mLで表される。
【0120】
【表8】
【0121】
【表9】
【0122】
結果は、スケレトネマの極性抽出物の光増感剤が、観察された細菌増殖の阻害、また、特にスケレトネマ マリノイの抽出物で観察された細菌溶解の原因であることを確認した(表4及び表5対表8及び表9)。しかし、現在では、これらの抽出物中の他の化合物も、わずかにではあるが、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖の阻害に寄与していると思われる([表8]参照)。
【0123】
実施例4 スケレトネマ マリノイの極性藻類抽出物の抗炎症効果のインビトロ評価
【0124】
4.1 方法
スケレトネマ マリノイ極性藻類抽出物の抗炎症特性を、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK、normal human epidermal keratinocytes)で評価した。
【0125】
これらのNHEKヒト表皮角化細胞を、96ウェルプレート中で0.25ng/mLのEGF(Epidermal Growth Factor)、25μg/mLの下垂体抽出物及び25μg/mLのゲンタマイシンを補充したK-SFM培地に播種し、次いで5%COを含む雰囲気下で37℃でインキュベートした。培養の少なくとも1日後、NHEK細胞を、異なる濃度のスケレトネマ マリノイ極性抽出物の存在下又は非存在下で24時間プレインキュベートする。抗炎症活性の陽性対照として、NHEK細胞もバフィロマイシン(100nM)の存在下でもプレインキュベートした。このプレインキュベーションの後、処理を新たに行い、次いで、炎症を誘導するために、NHEK細胞をポリ(I:C)の存在下で24時間インキュベートした。炎症誘導物質を含まない対照条件(非刺激対照)を並行して行った。
【0126】
インキュベーション後、培養上清を採取し、分泌されたIL-6の量を測定することにより、ケラチノサイトの炎症レベルをELISA法で測定した。
【0127】
4.2 結果
【0128】
【表10】
【0129】
4.3 解釈及び結論
【0130】
予想通り、NHEK細胞を1μg/mLのPoly(I:C)で刺激すると、非刺激細胞と比較して、炎症誘発性サイトカインIL-6の強力な産生が誘導される(IL6:1495対<9)。100nMのバフィロマイシンの存在下では、NHEK細胞に対するPoly(I:C)の効果は完全に阻害される(陽性参照)。
【0131】
藻類スケレトネマ マリノイの極性抽出物は、刺激されたNHEK細胞を10μg/mLの濃度でNHEK細胞を刺激すると、ポリ(I:C)によって誘導された炎症誘発性サイトカインIL-6の放出を弱い抑制(17%)ながらも有意に抑制することがわかった。
【0132】
実施例5 スケレトネマ マリノイの極性藻類抽出物の抗脂質生成効果のインビトロ評価
【0133】
5.1 方法
【0134】
スケレトネマ マリノイ極性藻類抽出物が脂質の過剰生産に及ぼす影響を、脂質生成因子及びアンドロゲン因子で刺激したSEBO662AR株(BIOALTERNATIVES株)のヒト脂腺細胞について研究した。
【0135】
SEBO662ARヒト脂腺細胞を、まず、専用培養培地中、5%CO及び抗生物質の存在下、37℃で培養した。少なくとも1日培養した後、SEBO662AR細胞を、脂質生成因子及びアンドロゲン因子の存在下でインキュベーションすることにより、脂質生成を誘導する。次いで、細胞を、3つの異なる濃度の極性抽出物の存在下又は非存在下でインキュベートする。脂質生成阻害活性の陽性対照として、SEBO662AR細胞をセルレニンの存在下でインキュベートする。インキュベーション期間の終わりに、総脂質を蛍光標識し、各条件について脂質生成の阻害を測定する。
【0136】
5.2 結果
【0137】
【表11】
【0138】
5.3 解釈及び結論
【0139】
予想通り、アンドロゲンを含有する脂質生成混合物でSEBO662AR脂肪細胞を刺激すると、非刺激脂肪細胞と比較して脂質滴が形成・蓄積された(蛍光強度/核数:298525対7895)。
【0140】
表11に記録された測定値は、刺激細胞を10μg/mLのスケレトネマ マリノイ極性藻類抽出物で処理することにより、刺激細胞及び未処理細胞と比較して脂質の産生を、51%阻害することができることを示す。比較として、セルレニン(陽性対照)でこれらの同じ細胞を処理すると、刺激細胞及び未処理細胞と比較して脂質産生をわずか38%阻害する。表11に記録された測定値は、スケレトネマ マリノイ極性藻類抽出物によって誘導される脂質生成阻害効果が用量依存的であることを示す。抽出物濃度を2分の1に減らすと38%の阻害を生じ、そして、10分の1に減らすと21%の阻害を生じる。
【0141】
最後に、スケレトネマ マリノイの極性藻類抽出物は細胞生存率に影響を及ぼさないことに留意すべきである。実際、視野当たりの核数を計数すると、試験した全ての条件において、全体的に同等の核数を示す。さらに、インキュベーション終了時に行った顕微鏡観察においても、形態的な変化は観察されなかった。その結果、脂質生成に対するスケレトネマ マリノイ極性藻類抽出物の阻害効果は特異的であり、関連する部分的細胞毒性現象とは関連しないことがわかった。
【国際調査報告】