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特表2023-529293ペプチド核酸ベースの作用物質を使用してSARS-CoV-2感染症を治療するための方法及び組成物
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  • 特表-ペプチド核酸ベースの作用物質を使用してSARS-CoV-2感染症を治療するための方法及び組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ペプチド核酸ベースの作用物質を使用してSARS-CoV-2感染症を治療するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230703BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230703BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20230703BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230703BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230703BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230703BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230703BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C12N15/113 100Z
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/70
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12Q1/68
A61P31/14
A61K38/10
A61K45/00
A61K31/706
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570480
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 US2021032790
(87)【国際公開番号】W WO2021236532
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】63/026,601
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522450152
【氏名又は名称】オンコジェニュイティ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ロス アーサー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロゼンワルド リンジー
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR79
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA10
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA32
4C084NA14
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、全体として、ウイルス感染に関し、より具体的には、SARS-CoV-2(2019-nCoV)による感染症を治療するための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、SARS-CoV-2遺伝子を標的とする配列を有するPNA部分と、前記PNA部分のN末端にある第1のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、前記第1のペプチドがリジン残基を含み、リジン残基のうちの少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、前記第1のカチオン性及び疎水性ペプチドと、前記PNA部分のC末端にある第2のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、前記第2のペプチドがリジン残基を含み、リジン残基のうちの少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、前記第2のカチオン性及び疎水性ペプチドとを含む、PNA作用物質を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2核酸配列を標的とする核酸配列を含むPNA部分と、
前記PNA部分のN末端にある第1のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、前記第1のペプチドがリジン残基を含む、前記第1のカチオン性及び疎水性ペプチドと、
前記PNA部分のC末端にある第2のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、前記第2のペプチドがリジン残基を含む、前記第2のカチオン性及び疎水性ペプチドと
を含む、PNA作用物質。
【請求項2】
前記リジン残基のうちの少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項3】
ヘアピンループを形成する最小限の傾向を有する配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項4】
60%未満のプリンを含有する配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項5】
前記PNA部分が、SARS-CoV-2ウイルスのRNA配列を標的とする配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項6】
前記RNA配列が、前記SARS-CoV-2ウイルスのプラス又はマイナスのRNA鎖である、請求項5に記載のPNA作用物質。
【請求項7】
前記PNA部分が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項8】
前記PNA部分が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項9】
前記PNA部分が、ターゲティング部分に対して約75%以上の相補性を有する13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項10】
前記PNA部分が、完全な相補性を有する13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を含む、請求項1に記載のPNA作用物質。
【請求項11】
前記核酸配列が、構造タンパク質又はオープンリーディングフレーム(orf)タンパク質をコードするSARS-CoV-2核酸配列である、請求項5に記載のPNA作用物質。
【請求項12】
前記SARS-CoV-2核酸配列が、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、又は膜(M)タンパク質から選択される構造タンパク質をコードする、請求項11に記載のPNA作用物質。
【請求項13】
前記Sタンパク質をコードする核酸配列を標的とする、請求項12に記載のPNA作用物質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のPNA作用物質と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
SARS-CoV-2感染症を治療するか又はそのリスクを低減するための方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載のPNA作用物質、又は請求項14に記載の薬学的組成物を、SARS-CoV-2感染症に罹りやすいか又はそれを有する対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記対象がCOVID-19を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記PNA作用物質が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含むPNA部分を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記PNA作用物質が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む部分を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記PNA作用物質が、前記対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞の生存率を増加させる、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記PNA作用物質が、前記対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞におけるSARS-CoV-2関連細胞変性効果を低減する、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記PNA作用物質が、約5μM未満であるIC50で、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を阻害する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記PNA作用物質が、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を少なくとも50%阻害する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
抗ウイルス剤を投与することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記抗ウイルス剤がレムデシビルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
細胞におけるSARS-CoV-2標的核酸配列の発現を低減する方法であって、
前記標的を発現する細胞を、請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、
前記PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的レベル又は活性と比較して、前記PNA作用物質が存在するときの前記細胞における前記標的のレベル又は活性を決定することと、
前記PNA作用物質が存在するときに前記標的の前記レベル又は活性が、前記PNA作用物質の不在下での前記標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、前記SARS-CoV-2標的核酸配列の発現が低減する場合に、前記PNA作用物質を標的阻害物質として分類することと
を含む、前記方法。
【請求項26】
SARS-CoV-2のウイルス量を検出することを更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記標的核酸配列が、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、又は膜(M)タンパク質から選択されるタンパク質をコードする、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記PNA作用物質が、前記Sタンパク質をコードする核酸配列を標的とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記PNA作用物質が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含むPNA部分を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記PNA作用物質が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む部分を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記PNA作用物質が、前記対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞の生存率を増加させる、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記PNA作用物質が、前記対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞におけるSARS-CoV-2関連細胞変性効果を低減する、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記PNA作用物質が、約5μM未満であるIC50で、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を阻害する、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記PNA作用物質が、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を少なくとも50%阻害する、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
標的核酸配列の阻害物質としてPNA作用物質を同定及び/又は特徴決定するための方法であって、
SARS-CoV-2標的核酸配列を少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、
前記PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下の標的参照レベル又は活性と比較して、前記PNA作用物質が存在するときのシステムにおける前記標的配列のレベル又は活性を決定することと、
前記PNA作用物質が存在するときに前記標的の前記レベル又は活性が、前記PNA作用物質が存在しないときの前記標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、前記PNA作用物質を阻害物質又は標的核酸配列として同定及び/又は特徴決定する場合に、前記PNA作用物質を標的阻害物質として分類することと
を含む、前記方法。
【請求項36】
前記標的の前記レベル又は活性を決定することが、発現の標的RNAレベルを決定することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標的の前記レベル又は活性を決定することが、標的タンパク質レベルを決定することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記標的核酸配列が、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、又は膜(M)タンパク質から選択されるタンパク質をコードする、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記システムがインビトロシステムを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記システムがインビボシステムを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記システムが細胞を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記標的の前記レベル又は活性が細胞生存率に対応する、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記標的の前記レベル又は活性の低減が、細胞生存率の約90%超の増加に対応する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞がSARS-CoV-2ウイルスを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記システムが細胞培養物中の細胞を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記システムが組織を含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項47】
前記システムが生物を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
前記標的の前記レベル又は活性が前記生物の生存に対応する、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記標的の前記レベル又は活性の低減が、前記生物の生存の50%超の増加を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記生物が非ヒト哺乳類又はヒトを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記標的の前記レベル又は活性の低減が、標的活性の50~100%超の低減を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項52】
前記標的の前記レベル又は活性の低減が、標的レベルの30%超の低減を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項53】
配列番号1~10から選択される、単離された核酸配列。
【請求項54】
前記配列がベクター内に存在する、請求項53に記載の単離された核酸配列。
【請求項55】
前記ベクターがプラスミド又はウイルスベクターである、請求項54に記載の単離された核酸配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2020年5月18日に出願された米国特許仮出願第63/026,601号の優先権の利益を主張する。先行出願の内容は、本出願の開示の一部とみなされ、参照により組み込まれる。
【0002】
配列表の援用
添付の配列表の資料は、本明細書において、参照により本出願に援用される。付属の配列表テキストファイルは、OG1100_1WO_SL.txtと名付けられ、2021年5月17日に作成され、11kbである。ファイルは、Windows OSを使用するコンピュータのMicrosoft Wordを使用して評価され得る。
【0003】
発明の分野
本発明は、全体として、ウイルス感染に関し、より具体的には、SARS-CoV-2による感染症を治療するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景情報
コロナウイルス(CoV)は、一般に、多くの異なる種の動物に由来するウイルスの大きな群である。いくつかのコロナウイルスは、動物からヒトへと飛び移り、軽度で風邪のような症状を含む呼吸器感染症を引き起こす可能性がある。中東呼吸器症候群(MERS)及び重症急性呼吸器症候群(SARS)を含むいくつかのコロナウイルスは、はるかに重症であり、数千人が死亡している。
【0005】
正式にはSARS-CoV-2と命名された2019-nCoVは、人々に感染し、呼吸器疾患(COVID-19)の大流行を引き起こす可能性のある、別の伝染性の新型コロナウイルスである。それは、2019年12月に中国の武漢で初めて検出され、国際的な場所で増え続けていることが報告されている。SARS-CoV-2の急速な個人間の蔓延は、世界の公衆衛生に差し迫った脅威をもたらす。それは、2020年3月11日にWHOからパンデミックとして宣言された。2021年4月30日現在、世界で150,751,023件を超えるSARS-CoV-2によるCOVID-19の症例が報告されており、3,170,271人超が死亡していると報告されている。
【0006】
中国保健当局は、武漢海鮮市場肺炎ウイルス分離株Wuhan-Hu-1であるSARS-CoV-2を初めて単離し、SARS-CoV-2(2019-nCoV)の全ゲノム配列を発表した。この配列は、SARS様コロナウイルス群と約90%のヌクレオチドが類似する。タンパク質配列分析により、2019-nCoVは、SARS-CoVに対して約80%の配列同一性を共有し、全ゲノムレベルでコウモリコロナウイルスに対して96%の同一性を有することが明らかになった。US CDCはまた、米国患者で検出されたSARS-CoV-2ウイルスの全ゲノムを掲載し、中国が最初に掲載した配列のものと同様の配列を米国患者から見出した。
【0007】
MERS及びSARSと同様に、SARS-CoV-2もまた、大きく、エンベロープの、プラスセンスの一本鎖RNAウイルスである。コロナウイルスのゲノムは、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、及び膜(M)タンパク質、並びにいくつかのアクセサリーオープンリーディングフレーム(ORF)タンパク質を含む4つの主要な構造タンパク質をコードする。
【0008】
コロナウイルスヌクレオカプシド(N)は、多機能の構造タンパク質である。CoVのNタンパク質は、プラス鎖ウイルスゲノムRNAと螺旋状リボヌクレオカプシド複合体を形成し、ビリオンの組み立て中にウイルス膜タンパク質と相互作用し、ウイルスの複製、転写、及び組み立ての効率の向上に重要な役割を果たす。
【0009】
コロナウイルススパイクタンパク質(S)は、宿主細胞へのコロナウイルス侵入を媒介する大きなオリゴマー膜貫通タンパク質である。これはS1及びS2の2つのサブユニットを含む。スパイクS1は主に、様々な宿主細胞表面受容体を認識する受容体結合ドメイン(RBD)を含む。S2は、膜融合に関与する基本的な要素を含む。コロナウイルスは最初に、スパイクS1サブユニットを介して宿主細胞表面の受容体に結合し、次に、スパイクS2サブユニットを介してウイルスと宿主膜とを融合する。
【0010】
SARS-CoV-2及びSARS-CoVからのスパイクタンパク質の構造モデル化研究は、SARS-CoV-2 Sタンパク質が細胞アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)タンパク質に対して十分な親和性を保持し、細胞侵入のための受容体としてACE2タンパク質を使用する可能性が高いことを示唆している。最近の研究では、ACE2に結合する2019-nCoV Sの親和性は、SARS-CoV Sのものよりも10~20倍高いことが示されている。
【0011】
SARS-CoV-2ビリオンは、直径約50~200ナノメートルである。他のコロナウイルスと同様に、SARS-CoV-2は、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(膜)、及びN(ヌクレオカプシド)タンパク質として知られる4つの構造タンパク質を有し、Nタンパク質はRNAゲノムを保持し、S、E、及びMタンパク質は一緒に完全なウイルスエンベロープを作り出す。低温電子顕微鏡法を使用して原子レベルで撮像されたスパイクタンパク質Sは、ウイルスが宿主細胞の膜に付着して融合することを可能にすることに関与するタンパク質である。本明細書で使用される場合、SARS-CoV-2構造「タンパク質S、N、M、及び/又はE」という語句は、それぞれ、スパイク(S)、ヌクレオカプシド(N)、膜(M)、及び/又はエンベロープ(E)タンパク質を指す。核酸配列は、各タンパク質を個々にコードするコドン最適化オリゴヌクレオチド配列、又は2若しくは3つのタンパク質の任意の組み合わせ、又は4つ全てのタンパク質の組み合わせを含み得る。2つ以上の核酸配列が単一のベクター又は構築物に含まれる場合、それらは、2、3、又は4つのSARS-CoV-2構造タンパク質の各々が、適切にコードされ、発現されるように、作動可能な結合にある。(Zhou,P.et al.A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin.Nature doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7(2020)(非特許文献1)、Wu,F.et al.A new coronavirus associated with human respiratory disease in China.Nature doi.org/10.1038/s41586-020-2008-3(2020)(非特許文献2)、Letko,Michael;Munster,Vincent (22 January 2020).”Functional assessment of cell entry and receptor usage for lineage B β-coronaviruses,including 2019-nCoV”.BiorXiv:2020.01.22.915660. doi:10.1101/2020.01.22.915660(非特許文献3)、Wrapp,D.;Wang,N.et al.(19 Feb 2020).”Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation”.Science science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507(02/19/2020)(非特許文献4))。
【0012】
コロナウイルスRNA依存性RNA合成は、ゲノムRNA(gRNA)の複数のコピーを産生するゲノム複製、及びウイルス構造タンパク質及びアクセサリータンパク質をコードするsgmRNAの集合の転写、の2つの分化プロセスを含む(Enjuanes L,Almazan F,Sola I,Zuniga S. Biochemical aspects of coronavirus replication and virus-host interaction.Annu Rev Microbiol.2006;60:211-30(非特許文献5)、Lai MMC,Cavanagh D.The molecular biology of coronaviruses.Adv Virus Res.1997;48:1-100(非特許文献6))。
【0013】
他のプラス鎖RNAウイルスと同様に、コロナウイルスゲノム複製は、子孫ウイルスゲノムの産生のための鋳型として全長相補的マイナス鎖RNAを利用する連続合成プロセスである。マイナス鎖合成の開始は、3’末端RNA配列及び構造によって促進される、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のゲノムの3’末端へのアクセスを伴う。5’末端及び3’末端の両方のRNA要素が、中間体マイナス鎖RNAからの子孫プラス鎖RNAの産生に必要であるという証拠があり、ゲノムの5’末端と3’末端との間の相互作用が複製に寄与することが示唆されている(Sola I,Mateos-Gomez PA,Almazan F,Zuniga S,Enjuanes L.RNA-RNA and RNA-protein interactions in coronavirus replication and transcription.RNA Biol.2011;8:237-48(非特許文献7))。臨床試験には多くの抗ウイルス薬及びワクチンがあるが、これまでにワクチン接種の他にSARS-CoV-2による感染症に対して有効な療法はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Zhou,P.et al.A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin.Nature doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7(2020)
【非特許文献2】Wu,F.et al.A new coronavirus associated with human respiratory disease in China.Nature doi.org/10.1038/s41586-020-2008-3(2020)
【非特許文献3】Letko,Michael;Munster,Vincent (22 January 2020).”Functional assessment of cell entry and receptor usage for lineage B β-coronaviruses,including 2019-nCoV”.BiorXiv:2020.01.22.915660. doi:10.1101/2020.01.22.915660
【非特許文献4】Wrapp,D.;Wang,N.et al.(19 Feb 2020).”Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation”.Science science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507(02/19/2020)
【非特許文献5】Enjuanes L,Almazan F,Sola I,Zuniga S. Biochemical aspects of coronavirus replication and virus-host interaction.Annu Rev Microbiol.2006;60:211-30
【非特許文献6】Lai MMC,Cavanagh D.The molecular biology of coronaviruses.Adv Virus Res.1997;48:1-100
【非特許文献7】Sola I,Mateos-Gomez PA,Almazan F,Zuniga S,Enjuanes L.RNA-RNA and RNA-protein interactions in coronavirus replication and transcription.RNA Biol.2011;8:237-48
【発明の概要】
【0015】
本発明は、コロナウイルス、特に呼吸器疾患、COVID-19に関与するSARS-CoV-2の感染症を治療するための組成物に関する。とりわけ、本発明は、従来の抗ウイルス治療における問題の発生源を認識し、本明細書に記載されるように、特定のウイルス遺伝子発現を標的とする化合物が、SARS-CoV-2感染症を治療するための様々な状況で特に有用であるという見識を提供する。
【0016】
とりわけ、本開示は、遺伝子を特異的に標的とすることができるペプチド核酸(PNA)作用物質が、SARS-CoV-2感染症に対する改善された治療を可能にすることができることを実証する。いくつかの実施形態では、ペプチド核酸作用物質の使用は、臨床設定内のSARS-CoV-2感染症を抑制及び治療するための方法の改善を可能にする。更に、細胞膜内の溶解性を改善する末端カチオン性及び/又は疎水性部分を有するペプチド核酸は、従来のPNA型作用物質よりも細胞膜の交差に効果的であり、アニオン性染色体標的に対して安定化をもたらし得る。米国特許第10,113,169号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)は、本発明に有用なPNA分子の背景を提供する。
【0017】
PNA作用物質は、SARS-CoV-2感染症などの疾患を治療するための新薬の研究及び開発において有望なツールである。本開示は、改善されたPNA作用物質、並びにそれらを設計、同定、特徴決定、及び/又は使用するための技術、並びにそれらを含む組成物を提供する。
【0018】
とりわけ、本発明は、利用可能なPNAベースの薬物の使用における1つの満たされていない必要性が、標的遺伝子への、細胞膜を横断する作用物質の送達の成功であるという認識を包含する。例えば、細胞膜を横断する能力は、カチオン性/疎水性送達ペプチドによって媒介される。とりわけ、本発明は、生理化学的特性が(例えば、利用可能なPNA作用物質に対して)細胞膜を横断する薬物送達の改善に寄与するPNA作用物質を開示する。
【0019】
例えば、本開示は、PNA作用物質上のカチオン性荷電末端が、プロモーター領域と比較して開放性が低く、曝露されにくい遺伝子の非プロモーター領域を標的とする能力を改善することを実証する。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示は、カチオン性荷電リジン誘導体化PNA末端をアニオン性DNAに対して安定化することが、標的に対するPNAの結合動態を改善することを提案する。これらの末端修飾は、カチオン性-アニオン性相互作用による染色体アニオン性リン酸エステルに対するコンジュゲート末端の安定化を可能にする。これは、PNAの鎖侵入特性を補助し、そのSARS-CoV-2遺伝子標的の相補鎖を置換することを可能にする。
【0020】
本開示のPNA作用物質は、カチオン性/疎水性ペプチドの使用を通じて、従来のPNA作用物質に対して修飾され、いくつかの実施形態では、そのような修飾されたPNA作用物質は、そのようなカチオン性/疎水性ペプチドを含まないその他は同等のPNA作用物質で観察されるものに対して、細胞膜を横断する送達の改善を示す。再び、いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示は、疎水性及びカチオン性末端ペプチドが一緒に、膜を横断する本発明のPNA作用物質の受動輸送を容易にすることを提案する。例えば、いくつかの特定の実施形態では、疎水性e-パルミトイルリジン末端は、溶媒排除によって一緒に駆動され、PNA-ペプチドコンジュゲートは、pi相互作用ヌクレオシド塩基によって分子内で更に安定化される。いくつかの実施形態では、PNA-ペプチド鎖は、そのような相互作用を通じて凝縮され(すなわち、回転半径の減少を示す)、それが膜(例えば、脂質二重層)をより容易に浸透することを可能にする。更に、本発明のPNA作用物質とリン脂質細胞膜との間のカチオン性-アニオン性相互作用もまた、PNA作用物質の膜への挿入を容易にすると仮定される。
【0021】
PNA作用物質に関して、細胞膜内での安定した結合と膜からの解離との間に熱力学的平衡が存在する。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明のPNA作用物質の修飾が、前述の平衡がより迅速に達成されるように、PNA作用物質の膜挿入のための速度障壁を緩和することが想定される。これは次いで、膜貫通輸送を加速する。
【0022】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明のPNA作用物質が、折り畳まれた状態と開放状態との間の平衡状態で存在することが企図される。折り畳まれた状態は、細胞膜の挿入に十分であり、開放コイル状態は、螺旋コイル遷移をより容易にするための染色体標的との螺旋会合に十分である。
【0023】
当該技術分野では、細胞膜を横断してオリゴヌクレオチドを輸送するための様々な戦略が開発されている。本発明は、改善されたシステムを提供し、提供されるPNA誘導体の細胞膜を横断する輸送及び細胞内送達の向上を可能にし、更にDNAの曝露の少ない領域へのPNA作用物質の結合及びターゲティングを容易にする。
【0024】
本発明の実施形態は、本明細書に記載の修飾末端を有するペプチド核酸作用物質が、細胞膜をより良好に横断し、標的遺伝子に結合することができるという驚くべき発見を包含する。本発明のいくつかの実施形態によると、S、N、M、又はEなどのRNAコードSARS-CoV-2構造タンパク質の領域に特異的な修飾されたペプチド核酸作用物質は、これらのウイルスタンパク質の転写及び最終的には翻訳を抑制することができ、また、タンパク質を発現する細胞、例えば、ウイルス感染細胞の生存率を低減することができる。
【0025】
本発明の実施形態は、ペプチド核酸作用物質がウイルス感染と関連する遺伝子に結合することができるという驚くべき発見を包含する。
【0026】
一実施形態では、本発明は、配列番号1~10から選択される核酸配列を提供する。一態様では、配列は、配列番号1~5から選択されるターゲティング配列である。そのような核酸配列は、プラスミド若しくはウイルスベクター、又は本発明のPNAを含む、送達のためのベクターに組み込むことができる。
【0027】
一実施形態では、本発明は、SARS-CoV-2核酸配列を標的とする核酸配列を含むPNA部分と、PNA部分のN末端にある第1のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、第1のペプチドがリジン残基を含む、第1のカチオン性及び疎水性ペプチドと、PNA部分のC末端にある第2のカチオン性及び疎水性ペプチドであって、第2のペプチドがリジン残基を含む、第2のカチオン性及び疎水性ペプチドとを含む、PNA作用物質を提供する。
【0028】
一態様では、リジン残基のうちの少なくとも1つは、パルミトイル側鎖部分を含む。別の態様では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成する最小限の傾向を有する配列を含む。いくつかの態様では、PNA作用物質は、60%未満のプリンを含有する配列を含む。他の態様では、PNA部分は、SARS-CoV-2ウイルスのRNA配列を標的とする配列を含む。一態様では、RNA配列は、SARS-CoV-2ウイルスのプラス又はマイナスのRNA鎖である。いくつかの態様では、PNA部分は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含む。他の態様では、PNA部分は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む。一態様では、PNA部分は、ターゲティング部分に対して約75%以上の相補性を有する13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を含む。別の態様では、PNA部分は、完全な相補性を有する13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を含む。一態様では、核酸配列は、構造タンパク質又はオープンリーディングフレーム(orf)タンパク質をコードするSARS-CoV-2核酸配列である。別の態様では、SARS-CoV-2核酸配列は、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、又は膜(M)タンパク質から選択される構造タンパク質をコードする。いくつかの態様では、PNA作用物質は、Sタンパク質をコードする核酸配列を標的とする。
【0029】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のPNA作用物質のうちのいずれか1つと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0030】
更なる実施形態では、本発明は、本明細書に記載のPNA作用物質のうちのいずれか1つ又は本明細書に記載の薬学的組成物のうちのいずれか1つを、SARS-CoV-2感染症に罹りやすいか又はそれを有する対象に投与することを含む、SARS-CoV-2感染症を治療するか又はそのリスクを低減するための方法を提供する。
【0031】
一態様では、対象は、COVID-19を有する。別の態様では、PNA作用物質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含むPNA部分を含む。いくつかの態様では、PNA作用物質は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む部分を含む。他の態様では、PNA作用物質は、対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞の生存率を増加させる。いくつかの態様では、PNA作用物質は、対象におけるSARS-CoV-2に感染した細胞におけるSARS-CoV-2関連細胞変性効果を低減する。他の態様では、PNA作用物質は、約5μM未満であるIC50で、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を阻害する。一態様では、PNA作用物質は、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を少なくとも50%阻害する。他の態様では、方法は、抗ウイルス剤を投与することを更に含む。いくつかの態様では、抗ウイルス剤は、レムデシビルである。
【0032】
一実施形態では、本発明は、細胞におけるSARS-CoV-2標的核酸配列の発現を低減する方法を提供し、これには、標的を発現する細胞を、本明細書に記載のPNA作用物質のうちの少なくとも1つと接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときの細胞における標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、PNA作用物質の不在下での標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、SARS-CoV-2標的核酸配列の発現が低減する場合に、PNA作用物質を標的阻害物質として分類することとが含まれる。
【0033】
一態様では、方法は、SARS-CoV-2のウイルス量を検出することを更に含む。
【0034】
別の実施形態では、本発明は、標的核酸配列の阻害物質としてPNA作用物質を同定及び/又は特徴決定するための方法を提供し、これには、SARS-CoV-2標的核酸配列を少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下の標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときのシステムにおける標的配列のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、PNA作用物質が存在しないときの標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、PNA作用物質を阻害物質又は標的核酸配列として同定及び/又は特徴決定する場合に、PNA作用物質を標的阻害物質として分類することとが含まれる。
【0035】
一態様では、標的のレベル又は活性を決定することは、発現の標的RNAレベルを決定することを含む。別の態様では、標的のレベル又は活性を決定することは、標的タンパク質レベルを決定することを含む。一態様では、システムは、インビトロシステムを含む。別の態様では、システムは、インビボシステムを含む。いくつかの態様では、システムは細胞を含む。一態様では、標的のレベル又は活性は、細胞生存率に対応する。いくつかの態様では、標的のレベル又は活性の低減は、細胞生存率の約90%超の増加に対応する。様々な態様では、細胞は、SARS-CoV-2ウイルスを含む。他の態様では、システムは、細胞培養物中の細胞を含む。いくつかの態様では、システムは、組織を含む。他の態様では、システムは、生物を含む。別の態様では、標的のレベル又は活性は、生物の生存に対応する。いくつかの態様では、標的のレベル又は活性の低減は、細胞又は生物の生存の50%超の増加を含む。一態様では、生物は、非ヒト哺乳類又はヒトを含む。別の態様では、標的のレベル又は活性の低減は、標的活性の50~100%超の低減を含む。様々な態様では、標的のレベル又は活性の低減は、標的レベルの30%超の低減を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明は、PNA部分と、PNA部分の第1の末端にある第1のカチオン性又は疎水性部分と、PNA部分の第2の末端にある第2のカチオン性又は疎水性部分とを含む、PNA作用物質を提供する。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性部分は、ペプチドであるか、又はペプチドを含む。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性ペプチドは、リジン残基を含むか、又はリジン残基からなる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのリジン残基は、パルミトイル側鎖部分を含む。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性ペプチドは、アミンを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は、PNA部分と、PNA部分の第1の末端にある第1のカチオン性部分及び第1の疎水性部分と、PNA部分の第2の末端にある第2のカチオン性部分及び第2の疎水性部分とを含む、PNA作用物質を提供する。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性及び/又は疎水性部分は、ペプチドであるか、又はペプチドを含む。いくつかの実施形態では、第2のカチオン性及び/又は疎水性部分は、ペプチドであるか、又はペプチドを含む。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性ペプチドは、1つ以上のリジン残基を含む。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2の疎水性ペプチドは、1つ以上のリジン残基を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのリジン残基は、パルミトイル側鎖部分を含む。いくつかの実施形態では、PNA部分のいずれかの末端にある少なくとも1つのリジン残基は、パルミトイル側鎖部分を含む。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性ペプチドは、アミンを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、パルミトイルリジンは、PNA部分に直接結合するのではなく、1つ以上の追加のアミノ酸を介して結合する。
【0039】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成しない配列を有する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成しない傾向がある配列を有する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、60%未満のプリンを含有する配列を有する。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性部分は、末端カチオン性部分がDNAアニオン性ホスホリボースとより効果的に整列しているという点でターゲティング部分である。これにより、それらが標的とされる配列を有する核酸を見出す統計的可能性がより大きくなる。末端疎水性/カチオン性残基は、細胞膜を通してPNA誘導体をより効果的に緩和する。末端は、「疎水性溶媒排除」によって分子内で会合する可能性が高く、したがって、末端が互いに近接している可能性が統計的に高くなる。いくつかの実施形態では、第2のカチオン性又は疎水性部分は、カチオン性及び/又は疎水性ペプチドであるか、又はそれを含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、ターゲティング部分は、PNA作用物質のN末端にある。いくつかの実施形態では、カチオン性ペプチドは、PNA作用物質のC末端にある。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性又は疎水性部分は、末端カチオン性部分がDNAアニオン性ホスホリボースとより効果的に整列し、それらを標的にし、PNA作用物質のN末端で結合する配列を有する核酸を見出す統計的可能性をより大きくすることを可能にするという点でターゲティング部分であり、第2のカチオン性又は疎水性部分は、PNA作用物質のC末端で結合されているカチオン性ペプチドであるか、又はカチオン性ペプチドを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、核酸配列を標的とする配列を含む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、75%以上の相補性を有する核酸配列、例えば、SARS-CoV-2核酸配列の13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を含む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、長さが少なくとも14、15、16、17、若しくは18ヌクレオチドであり、かつ/又は相補性が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%である、核酸を含む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子の非プロモーター領域を標的とする配列を有する。いくつかの実施形態では、遺伝子は、SARS-CoV-2ウイルスのRNA配列、例えば、SARS-CoV-2ウイルスのプラス若しくはマイナスのRNA鎖、又は構造タンパク質若しくはオープンリーディングフレーム(orf)タンパク質をコードする核酸配列などの、SARS-CoV-2核酸配列である。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2遺伝子は、変異型又は変異体配列を含み、PNA作用物質は、変異型又は変異体配列(例えば、SARS-CoV-2の異なる株)を含むか、又はそれからなる部位を標的とする配列を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、PNA構成要素は、標的遺伝子のセンス(mRNA)配列を組み込む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、構造タンパク質S、N、M、又はEなどのSARS-CoV-2構造タンパク質をコードする遺伝子の領域を標的とする。これらの構造タンパク質の配列は、当該技術分野で既知であり、以下のように公的に入手可能である。
スパイク(S):www.uniprot.org/uniprot/P0DTC2
核タンパク質(N):www.uniprot.org/uniprot/P0DTC9
エンベロープ(E):www.uniprot.org/uniprot/P0DTC4
膜(M):www.uniprot.org/uniprot/P0DTC5
【0043】
当業者は、SARS-CoV-2のS、N、E、及びMタンパク質のうちの1つ以上をコードする核酸配列を推定し、適切なターゲティング核酸配列を設計することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子内の部位を標的とする配列を有し、このPNA作用物質は、遺伝子を発現する細胞を含むシステムがPNA作用物質に曝露されると、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件と比較して、PNA作用物質が存在するときに正常な活性の20%~90%抑制の範囲内の量だけ遺伝子の発現が低減されるという点で特徴付けられる。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子内の部位を標的とする配列を有し、このPNA作用物質は、遺伝子を発現する細胞を含むシステムがPNA作用物質に曝露されると、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件と比較して、PNA作用物質が存在するときに20%~90%の範囲内の量だけ遺伝子の発現が低減されるという点で特徴付けられる。いくつかの実施形態では、タンパク質産物は、発現が50%未満に低減される。いくつかの実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態では、システムは、例えば、マウス、レート(rate)、又は非ヒト霊長類などの動物であるか、又はそれを含む。いくつかの実施形態では、システムは、霊長類であるか、又は霊長類を含む。いくつかの実施形態では、システムは、ヒトであるか、又はヒトを含む。いくつかの実施形態では、システムは、非ヒト霊長類であるか、又は非ヒト霊長類を含む。いくつかの実施形態では、システムは、培養物中の細胞であるか、又は培養物中の細胞を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、PNA部分は、13~18ヌクレオチドの範囲内の長さを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、末端に結合したパルミトイルリジンを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、N末端及びC末端の両方に結合したパルミトイルリジンを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、8~12アミノ酸の範囲内の送達ペプチド長を有する。いくつかの実施形態では、PNA-ペプチドコンジュゲートは、pi相互作用ヌクレオシド塩基によって分子内安定化される。いくつかの実施形態では、PNA作用物質の回転半径は、25%~50%の範囲内で減少する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、細胞膜と接触すると、一方又は両方の末端疎水性/カチオン性部分を欠く参照PNA作用物質の10倍も膜を横断する。いくつかの実施形態では、遺伝子抑制は、標準的な送達ペプチド-PNAモチーフと比較して、両方の末端にカチオン性/疎水性Lys(パルミトイル)-Lys-Lys残基を用いることによって、およそ1桁分より効果的である。本発明の特定の実施形態では、標的遺伝子は、SARS-CoV-2ウイルスのゲノムRNAである。
【0046】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、若しくは状態になりやすい対象にPNA作用物質を投与することを含む、疾患、障害、若しくは状態を治療するか又はそのリスクを低減するための方法が提供される。いくつかの実施形態では、対象は、SARS-CoV-2感染症に罹患しているか、又はそれに罹りやすい。いくつかの態様では、PNA作用物質は、感染の前に対象に提供される。いくつかの態様では、PNA作用物質は、SARS-CoV-2による感染の後に対象に提供される。
【0047】
いくつかの実施形態では、標的を発現する細胞を少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときの細胞における標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、標的参照レベル又は活性と比較して大幅に低減される場合に、少なくとも1つのPNA作用物質を標的阻害物質として分類することとを含む、細胞における標的遺伝子の発現を低減する方法が提供される。
【0048】
いくつかの実施形態では、標的を発現するシステムを少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときのシステムにおける標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、標的参照レベル又は活性と比較して大幅に低減される場合に、少なくとも1つのPNA作用物質を標的阻害物質として分類することとを含む、標的阻害についてPNA作用物質を同定及び/又は特徴決定するための方法が提供される。
【0049】
本明細書に開示される方法のうちのいずれかは、本明細書に開示されるPNA作用物質のうちのいずれかを投与又は使用することを含み得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、標的mRNAレベルを含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、標的タンパク質レベルを含む。いくつかの実施形態では、システムは、インビトロシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、インビボシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、細胞であるか、又は細胞を含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、細胞生存率に対応する。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、ウイルス又はウイルス感染細胞生存率の90%超の減少に対応する。
【0052】
いくつかの実施形態では、システムは、組織であるか、又は組織を含む。いくつかの実施形態では、システムは、生物であるか、又は生物を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、生物の生存に対応する。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、生物の生存の50%超の増加を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、標的活性の30%超の低減を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、標的レベルの10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%超の低減を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、15分、20分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、200分、300分、400分、500分、600分、700分、800分、900分、1000分、2000分、3000分、4000分、5000分、6000分、7000分、8000分、9000分、10000分の1超、又はそれ以上を含む。いくつかの実施形態では、参照レベルは、歴史的参照である。いくつかの実施形態では、歴史的参照は、有形及び/又はコンピュータ可読媒体に記録される。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のPNA作用物質と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、標的組織への直接投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、経口投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、非経口投与、例えば、注射用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、皮内投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、経皮投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、吸入による投与用に製剤化される。
【0055】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、液体であるか、又は液体を含む。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、固体であるか、又は固体を含む。
【0056】
本発明の追加の特徴及び利点は、以下の図面、定義、発明を実施するための形態、及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1A~1Eは、Vero E6細胞におけるPNA作用物質によるCPE阻害を図示するグラフである。図1Aは、AB01971749によるCPE阻害を図示するグラフである。図1Bは、AB01971744によるCPE阻害を図示するグラフである。図1Cは、AB01971754によるCPE阻害を図示するグラフである。図1Dは、AB01971748によるCPE阻害を図示するグラフである。図1Eは、AB01971753によるCPE阻害を図示するグラフである。
図2図2A~2Eは、Vero E6細胞におけるPNA作用物質による化合物細胞傷害性を図示するグラフである。図2Aは、AB01971749によるCPE阻害を図示するグラフである。図2Bは、AB01971744によるCPE阻害を図示するグラフである。図2Cは、AB01971754によるCPE阻害を図示するグラフである。図2Dは、AB01971748によるCPE阻害を図示するグラフである。図2Eは、AB01971753によるCPE阻害を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
発明の詳細な説明
本発明は、一部、細胞膜を効率的に横断し、遺伝子を特異的に標的とし、かつ抑制するペプチド核酸(PNA)作用物質を産生することが可能であるという発見に基づいている。PNA作用物質に対する修飾は、特定の配列を有する標的遺伝子の膜貫通性、標的結合安定性、溶解性、及び特異性を改善する。
【0059】
当業者であれば、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、又は確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記の説明に限定されることを意図するものではない。同様に、当業者は、上記が単に本発明のある特定の好ましい実施形態を表すことを容易に理解するであろう。上述の手順及び組成物に対する様々な変更及び修正は、以下の特許請求の範囲に記載されているように、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく行うことができる。
【0060】
特許請求の範囲では、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」などの冠詞は、特段の記載がない限り、又はさもなければ文脈から明らかでない限り、1つ以上を意味し得る。したがって、例えば、「抗体」への参照は、複数のそのような抗体を含み、「細胞」への参照は、当業者に既知の1つ以上の細胞などを含む。群の1つ以上のメンバー間の「又は」を含む請求項又は説明は、1つ、1つより多く、又は全ての群のメンバーが、特段の記載がない限り、又はさもなければ文脈から明らかでない限り、所与の産物又はプロセスに存在するか、用いられるか、又はさもなければ関連する場合に満たされるとみなされる。本発明は、群の正確に1つのメンバーが、所与の産物又はプロセスに存在するか、用いられるか、又はさもなければ関連する実施形態を含む。本発明は、群のメンバーの1つより多く又は全てが、所与の産物又はプロセスに存在しているか、用いられるか、又はさもなければ関連する実施形態を含む。更に、本発明は、列挙された請求項のうちの1つ以上からの1つ以上の限定、要素、条項、記述用語などが、別の請求項に導入される全ての変形、組み合わせ、及び順列を包含することを理解されたい。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項は、同じ基本請求項に従属する任意の他の請求項に見出される1つ以上の制限を含むように修正され得る。更に、請求項が組成物を列挙する場合、本明細書に開示される目的のヒトのために組成物を使用する方法が含まれ、本明細書に開示される作製方法、又は特段の記載がない限り、若しくはさもなければ矛盾若しくは不一致が生じると当業者に明らかでない限り、当該技術分野で既知の他の方法のいずれかにより組成物を作製する方法が含まれることを理解されたい。
【0061】
要素がリストとして、例えば、マーカッシュ群形式で提示される場合、要素の各サブグループも開示され、任意の要素を群から除外することができることを理解されたい。一般に、本発明又は本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むと称される場合、本発明のある特定の実施形態又は本発明の態様は、そのような要素、特徴などからなるか、又は本質的にそれらからなることを理解されたい。簡潔さのために、それらの実施形態は本明細書にこれらの言葉で具体的に記載されていない。「含む」という用語は、包括的であることが意図されており、追加の要素又はステップの包含を可能にすることに留意されたい。
【0062】
範囲が指定されている場合、エンドポイントは含まれる。更に、特段の記載がない限り、又はさもなければ文脈若しくは当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、本発明の異なる実施形態における記載範囲内の任意の特定の値又は部分範囲を、文脈上明確に別段の指示のない限り、範囲の下限の単位の10分の1まで想定することができることを理解されたい。
【0063】
加えて、従来技術に含まれる本発明の任意の特定の実施形態は、請求項の任意の1つ以上から明示的に除外され得ることが理解されるべきである。そのような実施形態は、当業者に既知であるとみなされるため、除外が本明細書に明示的に記載されていない場合でも、それらを除外することができる。本発明の組成物の任意の特定の実施形態は、従来技術の存在に関連するかどうかにかかわらず、いかなる理由でも、任意の1つ以上の請求項から除外することができる。
【0064】
上記及びテキスト全体において論じられる刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書のいかなる内容も、本発明者が、先行開示のためにそのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0065】
作用物質:本明細書で使用される場合、「作用物質」という用語は、例えば、ポリペプチド、核酸、糖、脂質、小分子、金属、又はそれらの組み合わせを含む、任意の化学クラスの化合物又は実体を指し得る。文脈から明らかなように、いくつかの実施形態では、作用物質は、細胞若しくは生物、又はその画分、抽出物、若しくはその構成要素であり得るか、又はそれらを含み得る。いくつかの実施形態では、作用物質は、天然に見出され、かつ/又は天然から得られるという点で、天然産物であるか、又は天然産物を含む。いくつかの実施形態では、作用物質は、ヒトの手の作用を通じて設計、操作、及び/又は産生され、かつ/又は天然に見出されないという点で、人工である1つ以上の実体であるか、又は実体を含む。いくつかの実施形態では、作用物質は、単離された形態又は純粋な形態で利用することができ、いくつかの実施形態では、作用物質は、粗製形態で利用することができる。いくつかの実施形態では、潜在的な作用物質は、例えば、集合又はライブラリ内の活性剤を同定又は特徴決定するためにスクリーニングされ得る集合又はライブラリとして提供される。本発明により利用され得る作用物質のいくつかの特定の実施形態は、小分子、抗体、抗体断片、アプタマー、siRNA、shRNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、ペプチド、ペプチド模倣物、ペプチド核酸、小分子などを含む。いくつかの実施形態では、作用物質は、ポリマーであるか、又はポリマーを含む。いくつかの実施形態では、作用物質は、ポリマーではなく、かつ/又は任意のポリマーを実質的に含まない。いくつかの実施形態では、作用物質は、少なくとも1つのポリマー部分を含有する。いくつかの実施形態では、作用物質は、任意のポリマー部分を欠いているか、又は実質的に含まない。
【0066】
親和性:当該技術分野で既知であるように、「親和性」は、パートナー(例えば、HA受容体)に結合する特定のリガンド(例えば、HAポリペプチド)との堅固さの尺度である。親和性は、異なる方法で測定することができる。いくつかの実施形態では、親和性は、定量アッセイ(例えば、グリカン結合アッセイ)によって測定される。いくつかのそのような実施形態では、結合パートナーの濃度(例えば、HA受容体、グリカンなど)は、生理学的条件(例えば、細胞表面グリカンへのウイルスHA結合)を模倣するように、過剰のリガンド(例えば、HAポリペプチド)濃度であるように固定され得る。代替的に又は追加的に、いくつかの実施形態では、結合パートナー(例えば、HA受容体、グリカンなど)の濃度及び/又はリガンド(例えば、HAポリペプチド)の濃度は、変化し得る。いくつかのそのような実施形態では、親和性(例えば、結合親和性)は、同等の条件(例えば、濃度)下で参照(例えば、ヒトの感染を媒介する野生型HA)と比較され得る。
【0067】
アミノ酸:本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、その最も広い意味において、ポリペプチド鎖に組み込むことができる任意の化合物及び/又は物質を指す。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造H2N-C(H)(R)-COOHを有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は合成アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸はd-アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸は1-アミノ酸である。「標準アミノ酸」とは、天然に存在するペプチドに一般的に見出される20の標準1-アミノ酸のうちのいずれかを指す。「非標準アミノ酸」は、合成的に調製されるか、又は天然源から得られるかにかかわらず、標準アミノ酸以外の任意のアミノ酸を指す。本明細書で使用される場合、「合成アミノ酸」は、塩、アミノ酸誘導体(アミドなど)、及び/又は置換を含むが、これらに限定されない化学修飾アミノ酸を包含する。ペプチド中のカルボキシ及び/又はアミノ末端アミノ酸を含むアミノ酸は、それらの活性に悪影響を及ぼすことなく、メチル化、アミド化、アセチル化、保護基、及び/又はペプチドの循環半減期を変化させることができる他の化学基との置換によって修飾され得る。アミノ酸は、ジスルフィド結合に関与し得る。アミノ酸は、1つ以上の化学物質(例えば、メチル基、酢酸基、アセチル基、リン酸基、ホルミル部分、イソプレノイド基、硫酸基、ポリエチレングリコール部分、脂質部分、炭水化物部分、ビオチン部分など)との会合などの1つ以上の翻訳後修飾を含み得る。「アミノ酸」という用語は、「アミノ酸残基」と交換可能に使用され、遊離アミノ酸及び/又はペプチドのアミノ酸残基を指し得る。この用語が遊離アミノ酸又はペプチドの残基を指すかどうかは、この用語が使用される文脈から明らかであろう。
【0068】
動物:本明細書で使用される場合、「動物」という用語は、動物界の任意のメンバーを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、いずれかの性別、及び発生の任意の段階のヒトを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、任意の発生段階での非ヒト動物を指す。いくつかの実施形態では、非ヒト動物は、哺乳類(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/又はブタ)である。一部の実施形態では、動物としては、限定されないが、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、及び/又は寄生虫が挙げられる。いくつかの実施形態では、動物は、SARS-CoV-2による感染症に罹りやすい。一部の実施形態では、動物は、トランスジェニック動物、遺伝子操作動物、及び/又はクローンであってもよい。
【0069】
アンタゴニスト:本明細書で使用される場合、「アンタゴニスト」という用語は、i)例えば、核酸を不活性化する別の作用物質の効果を阻害する、減少させる、若しくは低減する作用物質、及び/又はii)1つ以上の生物学的事象、例えば、1つ以上の核酸の発現若しくは1つ以上の生物学的経路の刺激を阻害する、減少させる、低減する、若しくは遅延させる作用物質を指す。アンタゴニストは、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属、及び/又は関連する阻害活性を示す任意の他の実体を含む、任意の化学クラスの作用物質であり得るか、又は作用物質を含み得る。アンタゴニストは、直接的(その場合、受容体に直接的な影響を及ぼす)又は間接的(その場合、受容体への結合以外、例えば、受容体の発現若しくは翻訳を変化させる、受容体によって直接的に活性化されるシグナル伝達経路を変化させる、受容体のアゴニストの発現、翻訳、若しくは活性を変化させることにより影響を及ぼす)であってもよい。
【0070】
抗体ポリペプチド:本明細書で使用される場合、「抗体ポリペプチド」又は「抗体」、又は「その抗原結合断片」という用語は、交換可能に使用され得、エピトープに結合することができるポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、抗体ポリペプチドは、全長抗体であり、いくつかの実施形態では、全長未満であるが、少なくとも1つの結合部位(抗体「可変領域」の構造を有する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの配列を含む)を含む。いくつかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」という用語は、免疫グロブリン結合ドメインに相同又は大部分が相同である結合ドメインを有する任意のタンパク質を包含する。いくつかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、免疫グロブリン結合ドメインと少なくとも99%の同一性を示す結合ドメインを有するポリペプチドを包含する。いくつかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、免疫グロブリン結合ドメイン、例えば、参照免疫グロブリン結合ドメインと少なくとも70%、80%、85%、90%、又は95%の同一性を示す結合ドメインを有する任意のタンパク質である。含まれる「抗体ポリペプチド」は、天然源に見出される抗体のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有し得る。本発明による抗体ポリペプチドは、例えば、天然源若しくは抗体ライブラリからの単離、宿主システムにおける若しくは宿主システムとの組換え産生、化学合成など、又はそれらの組み合わせを含む任意の利用可能な手段により調製され得る。抗体ポリペプチドは、モノクローナル又はポリクローナルであり得る。抗体ポリペプチドは、以下のヒトクラスのうちのいずれかを含む、任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る:IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgE。いくつかの実施形態では、抗体は、IgG免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る。本明細書で使用される場合、「抗体ポリペプチド」又は「抗体の特徴的な部分」という用語は、交換可能に使用され、関心のエピトープに結合する能力を有する抗体の任意の誘導体を指す。いくつかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、全長抗体の特異的結合能の少なくともかなりの部分を保持する抗体断片である。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、dsFvダイアボディ、及びFd断片を含むが、これらに限定されない。代替的に又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド連結によって一緒に連結される複数の鎖を含み得る。いくつかの実施形態では、抗体ポリペプチドは、ヒト抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体ポリペプチドは、ヒト化され得る。ヒト化抗体ポリペプチドには、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖若しくは抗体ポリペプチド(Fv、Fab、Fab′、F(ab′)2、又は抗体の他の抗原結合部分配列)を含み得るであり得る。一般に、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
【0071】
抗原:「抗原」は、抗体が結合する分子又は実体である。いくつかの実施形態では、抗原は、ポリペプチド若しくはその部分であるか、又はポリペプチド若しくはその部分を含む。いくつかの実施形態では、抗原は、抗体によって認識される感染体の一部である。いくつかの実施形態では、抗原は、免疫応答を誘発する作用物質であり、かつ/又は(ii)T細胞受容体(例えば、MHC分子によって提示される場合)、又は生物に曝露若しくは投与される場合、抗体(例えば、B細胞によって産生される)によって結合される作用物質である。いくつかの実施形態では、抗原は、生物内で体液応答(例えば、抗原特異的抗体の産生を含む)を誘発し、代替的に又は追加的に、いくつかの実施形態では、抗原は、生物内で細胞応答(例えば、その受容体が抗原と特異的に相互作用するT細胞を伴う)を誘発する。特定の抗原は、標的生物種(例えば、マウス、ウサギ、霊長類、ヒト)の1又は複数のメンバーにおいてであるが、標的生物種の全メンバーにおいてではない免疫応答を誘発し得ることが、当業者によって理解されるであろう。いくつかの実施形態では、抗原は、標的生物種のメンバーの少なくとも約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%において免疫応答を誘発する。いくつかの実施形態では、抗原は、抗体及び/又はT細胞受容体に結合し、生物における特定の生理学的応答を誘導してもしなくてもよい。いくつかの実施形態では、例えば、抗原は、そのような相互作用がインビボで発生するか否かにかかわらず、インビトロで抗体及び/又はT細胞受容体に結合し得る。一般に、抗原は、例えば、小分子、核酸、ポリペプチド、炭水化物、脂質、生物学的ポリマー以外のポリマー(例えば、核酸又はアミノ酸ポリマー以外)などの任意の化学物質であり得るか、又は化学物質を含み得る。いくつかの実施形態では、抗原は、ポリペプチドであるか、又はポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、抗原は、グリカンであるか、又はグリカンを含む。当業者は、一般に、抗原が、単離若しくは純粋な形態で提供され得るか、又は代替的に、粗製形態(例えば、他の材料と一緒に、例えば、細胞抽出物又は抗原含有源の他の比較的粗製調製物などの抽出物において)で提供され得ることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、本発明により利用される抗原は、粗製形態で提供される。いくつかの実施形態では、抗原は、組換え抗原であるか、又は組換え抗原を含む。
【0072】
およそ:本明細書で使用される場合、「およそ」又は「約」という用語は、1つ以上の関心の値に適用される場合、記載の基準値に類似する値を指す。いくつかの実施形態では、「およそ」又は「約」という用語は、特に明記しない限り、又はさもなければ文脈から明らかでない限り(そのような数が可能値の100%を超える場合を除く)、記載の基準値のいずれかの方向(より大きい又はより小さい)の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ未満に入る値の範囲を指す。
【0073】
生物学的活性:本明細書で使用される場合、「生物学的に活性な」という語句は、生物学的系(例えば、細胞培養、生物など)において活性を有する任意の物質の特徴を指す。例えば、生物に投与される場合、その生物に対して生物学的効果を有する物質は、生物学的活性であるとみなされる。タンパク質又はポリペプチドが生物学的に活性であるいくつかの実施形態では、タンパク質又はポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を共有するそのタンパク質又はポリペプチドの一部は、典型的には、「生物学的に活性な」部分と称される。
【0074】
特徴的な部分:本明細書で使用される場合、最も広い意味において、物質の「特徴的な部分」という用語は、物質全体に関してある程度の配列又は構造同一性を共有する部分である。いくつかの実施形態では、特徴的な部分は、無傷の物質と少なくとも1つの機能的特徴を共有する。例えば、タンパク質又はポリペプチドの「特徴的な部分」は、一緒にタンパク質又はポリペプチドの特徴である連続的なアミノ酸伸長、又は連続的なアミノ酸伸長の集合を含有する部分である。いくつかの実施形態では、各そのような連続した伸長は、一般に、少なくとも2、5、10、15、20、50個、又はそれ以上のアミノ酸を含有する。一般に、物質(例えば、タンパク質、抗体など)の特徴的な部分は、上記に指定された配列及び/又は構造同一性に加えて、関連する無傷の物質と少なくとも1つの機能的特徴を共有する部分であり、エピトープ結合特異性は、一例である。いくつかの実施形態では、特徴的な部分は、生物学的に活性であり得る。
【0075】
組み合わせ療法:「組み合わせ療法」という用語は、本明細書で使用される場合、対象が少なくとも2つの薬剤に同時に曝露されるように、疾患の治療のための2つ以上の異なる剤が重複するレジメンで投与される状況を指す。いくつかの実施形態では、異なる剤は、同時に投与される。いくつかの実施形態では、1つの剤の投与は、少なくとも1つの他の剤の投与と重複する。いくつかの実施形態では、異なる剤は、剤が対象内で同時に生物学的活性を有するように順次投与される。例えば、本発明は、PNA作用物質の投与の前、投与と同時、又は投与の後のいずれかで、PNA作用物質及び別の抗ウイルス剤を投与することを含み得る。
【0076】
検出実体:検出実体本明細書で使用される場合、「検出実体」という用語は、それが連結される作用物質(例えば、抗体)の検出を容易にする任意の元素、分子、官能基、化合物、それらの断片、又は部分を指す。検出実体の例としては、様々なリガンド、放射性核種(例えば、3H、14C、18F、19F、32P、35S、135I、125I、123I、64Cu、187Re、111In、90Y、99mTc、177Lu、89Zrなど)、蛍光色素(特定の例示的な蛍光色素については、以下を参照されたい)、化学発光剤(例えば、アクリジニウムエステル、安定化ジオキセタンなど)、生物発光剤、スペクトル分解可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(すなわち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば、金、銀、銅、白金など)ナノクラスター、常磁性金属イオン、酵素(酵素の特定の例については、以下を参照されたい)、比色標識(例えば、色素、コロイド金など)、ビオキシン、ジオキシゲニン、ハプテン、及び抗血清又はモノクローナル抗体が利用可能であるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
診断情報:本明細書で使用される場合、診断情報又は診断で使用するための情報は、患者が疾患若しくは状態を有するかどうかを決定する、及び/あるいは疾患若しくは状態の予後、又は疾患若しくは状態の治療(一般的な治療又は任意の特定の治療のいずれか)に対する可能性のある応答に関して有意性を有する表現型カテゴリ又は任意のカテゴリに疾患又は状態を分類する際に有用である任意の情報である。同様に、診断は、対象が疾患又は状態(ウイルス感染症又はがんなど)を有する可能性が高いかどうか、対象において現れる疾患若しくは状態の状況、病期分類、若しくは特徴、腫瘍の性質若しくは分類に関する情報、予後に関する情報、及び/又は適切な治療を選択する際に有用な情報を含むが、これらに限定されない任意の種類の診断情報を提供することを指す。治療の選択は、特定の治療剤(例えば、化学療法剤)又は手術、放射線などの他の治療様式の選択、療法を控えるか、又は送達するかどうかに関する選択、投与レジメンに関連する選択(例えば、特定の治療剤の1つ以上の投与の頻度若しくはレベル、又は治療剤の組み合わせ)などを含み得る。
【0078】
剤形:本明細書で使用される場合、「剤形」及び「単位剤形」という用語は、対象に投与される治療用組成物の物理的に別個の単位を指す。各単位は、所定の量の活性材料(例えば、治療剤)を含有する。いくつかの実施形態では、所定の量は、投与レジメンにおいて用量として投与されるときに、所望の治療効果と相関している量である。当業者であれば、特定の対象に投与される治療用組成物又は治療剤の総量が1人以上の主治医によって決定され、複数の剤形の投与を伴い得ることを理解する。
【0079】
投与レジメン:本明細書で使用される場合、「投与レジメン」(又は「治療レジメン」)は、対象に個別に、典型的には、期間で区切られて投与される一連の単位用量(典型的には、1つより多い)である。いくつかの実施形態では、所与の治療剤は、1つ以上の用量を伴い得る、推奨される投与レジメンを有する。いくつかの実施形態では、投与レジメンは、複数の用量を含み、その各々は、同じ長さの期間によって互いに分離され、いくつかの実施形態では、投与レジメンは、複数の用量を含み、少なくとも2つの異なる期間が個々の用量を分離する。いくつかの実施形態では、投与レジメンは、患者集団にわたって投与される場合、所望の治療転帰と相関するか、又は相関している。
【0080】
発現:本明細書で使用される場合、核酸配列の「発現」は、以下の事象のうちの1つ以上を指す:(1)DNA配列からのRNA鋳型の産生(例えば、転写による)、(2)RNA転写産物のプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/又は3’末端形成による)、(3)RNAのポリペプチド若しくはタンパク質への翻訳、及び/又は(4)ポリペプチド若しくはタンパク質の翻訳後修飾。
【0081】
機能的:本明細書で使用される場合、「機能的」な生体分子は、それが特徴とする性質及び/又は活性を示す形態の生体分子である。生体分子は、2つの機能(すなわち、二機能性)又は多くの機能(すなわち、多機能性)を有し得る。
【0082】
遺伝子:本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、当技術分野で理解されるその意味を有する。いくつかの実施形態では、「遺伝子」という用語は、遺伝子調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)及び/又はイントロン配列を含み得る。いくつかの実施形態では、用語は、タンパク質をコードしないが、むしろtRNA、RNAi誘導剤などの機能的RNA分子をコードする核酸を指す。代替的に又は追加的に、いくつかの実施形態では、本出願で使用される場合、「遺伝子」という用語は、タンパク質をコードする核酸の一部を指す。用語が他の配列(例えば、非コード配列、調節配列など)を包含するかどうかは、文脈から当業者には明らかであろう。
【0083】
遺伝子産物又は発現産物:本明細書で使用される場合、「遺伝子産物」又は「発現産物」という用語は、一般に、遺伝子から転写されたRNA(プロセシング前及び/又はプロセシング後)又は遺伝子から転写されたRNAによってコードされるポリペプチド(修飾前及び/又は修飾後)を指す。
【0084】
相同性:本明細書で使用される場合、「相同性」という用語は、高分子間、例えば、ポリペプチド分子間の全体的な関連性を指す。いくつかの実施形態では、抗体などの高分子は、それらの配列が少なくとも80%、85%、90%、95%、又は99%同一である場合、互いに「相同である」とみなされる。いくつかの実施形態では、高分子は、それらの配列が少なくとも80%、85%、90%、95%、又は99%類似する場合、互いに「相同である」とみなされる。
【0085】
リジン又はリジン残基:本明細書で使用される場合、「リジン」又は「リジン残基」という用語は、塩基性アミノ酸残基及びその誘導体を指す。そのような誘導体としては、側鎖修飾を有するリジン残基が挙げられる。リジン誘導体としては、e-パルミトイルリジン又はLys(パルミトイル-(dLys)2が挙げられる。マーカー:本明細書で使用される場合、マーカーは、存在又はレベルが特定の腫瘍又はその転移性疾患の特徴である作用物質を指す。例えば、いくつかの実施形態では、用語は、特定の腫瘍、腫瘍サブクラス、腫瘍の病期などの特徴である遺伝子発現産物を指す。代替的に又は追加的に、いくつかの実施形態では、特定のマーカーの存在又はレベルは、例えば、特定のクラスの腫瘍の特徴であり得る、特定のシグナル伝達経路の活性(又は活性レベル)と相関する。マーカーの存在又は不在の統計的有意性は、特定のマーカーに応じて変化し得る。いくつかの実施形態では、マーカーの検出は、腫瘍が特定のサブクラスのものである可能性が高いことを反映するという点で非常に特異的である。そのような特異性は、感度を犠牲にして生じ得る(すなわち、腫瘍がマーカーを発現すると予想される腫瘍である場合でも、陰性結果が生じ得る)。逆に、感度の高いマーカーは、感度の低いマーカーよりも特異性が低い場合がある。本発明によれば、有用なマーカーは、特定のサブクラスの腫瘍を100%の精度で区別する必要はない。
【0086】
SARS-CoV-2遺伝子:本明細書で使用される場合、「SARS-CoV-2遺伝子」という用語は、その産物が、S、M、N、及びE遺伝子並びに遺伝子産物を含むがこれらに限定されない、コロナウイルスSARS-CoV-2によって産生される遺伝子を指す。
【0087】
患者:本明細書で使用される場合、「患者」又は「対象」という用語は、提供される組成物が、例えば、実験、診断、予防、美容、及び/若しくは治療目的で投与されるか、又は投与され得る任意の生物を指す。典型的な患者としては、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及び/又はヒトなどの哺乳類)が挙げられる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。いくつかの実施形態では、患者は、1つ以上の障害又は状態に罹患しているか、又はそれになりやすい。いくつかの実施形態では、患者は、障害又は状態の1つ以上の症状を示す。いくつかの実施形態では、患者は、1つ以上の障害又は状態と診断されている。いくつかの実施形態では、障害又は状態は、SARS-CoV-2による感染症又はそのリスクにあるか、又はそれを含む。
【0088】
ペプチド:「ペプチド」という用語は、ペプチド結合又は修飾ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を指す。いくつかの実施形態では、「ペプチド」は、約100未満のアミノ酸、約50未満のアミノ酸、20未満のアミノ酸、又は10未満のアミノ酸の長さを有するポリペプチドを指す。
【0089】
ペプチド核酸:「ペプチド核酸」という用語は、DNA又はRNAに類似するが、それぞれデオキシリボース及びリボース糖骨格を欠く合成ポリマーを指す。ペプチド核酸は、ペプチド結合によって連結された反復N-(2-アミノエチル)-グリシン単位からなる骨格を有する。プリン及びピリミジン塩基は、メチレン架橋及びカルボニル基によりその骨格に連結されている。
【0090】
薬学的に許容される:「薬学的に許容される」という用語は、本明細書で使用される場合、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症なく、妥当な利益/リスク比に見合った、ヒト及び動物の組織との接触での使用に好適な物質を指す。
【0091】
薬学的組成物:薬学的組成物本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」という用語は、1つ以上の薬学的に許容される担体と一緒に製剤化される活性剤を指す。いくつかの実施形態では、活性剤は、関連集団に投与したときに所定の治療効果を達成する統計的に有意な確率を示す治療レジメンにおける投与に適切な単位用量で存在する。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、固体又は液体形態での投与用に具体的に製剤化されてもよく、以下のために適合されるものを含む:経口投与、例えば、水薬(水性若しくは非水性溶液又は懸濁液)、錠剤、例えば、頬側、舌下、及び全身吸収を目的としたもの、ボーラス、粉末、顆粒、舌に適用するためのペースト;非経口投与、例えば、滅菌溶液若しくは懸濁液としての、例えば、皮下、筋肉内、静脈内、若しくは硬膜外注射、又は徐放性製剤により;局所投与、例えば、クリーム、軟膏、又は皮膚、肺、若しくは口腔に適用される制御放出パッチ若しくはスプレーとして;膣内又は直腸内、例えば、ペッサリー、クリーム、又は発泡体として;舌下;眼;経皮的;あるいは鼻腔、肺、及び他の粘膜表面。
【0092】
ポリペプチド:本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」は、一般的に言えば、ペプチド結合によって互いに結合した一連の少なくとも2つのアミノ酸である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも3~5のアミノ酸を含み得、それらの各々は、少なくとも1つのペプチド結合によって他のアミノ酸に結合される。当業者は、ポリペプチドが、場合によっては、「非天然の」アミノ酸、又は任意選択で、それにもかかわらず、ポリペプチド鎖に組み込むことができる他の実体を含むことを理解するであろう。
【0093】
予後及び予測情報:本明細書で使用される場合、予後及び予測情報という用語は、交換可能に、治療の不在下又は存在下のいずれかで、疾患又は状態の経過の任意の態様を示すために使用され得る任意の情報を指すために使用される。そのような情報には、患者の平均余命、患者が所与の期間(例えば、6ヶ月、1年、5年など)生存する可能性、患者の疾患が治癒される可能性、患者の疾患が特定の療法に応答する可能性(応答は、様々な方法のうちのいずれかで定義され得る)が含まれ得るが、これらに限定されない。予後及び予測情報は、診断情報の広範なカテゴリ内に含まれる。
【0094】
プロモーター:本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、特定の遺伝子の転写のための開始部位として機能するDNAの領域を指す。プロモーター配列は、多くの場合、開放/曝されず、他の要素への結合を待つ。
【0095】
タンパク質:本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、ポリペプチド(すなわち、ペプチド結合によって互いに連結された一連の少なくとも3~5のアミノ酸)を指す。タンパク質は、アミノ酸以外の部分を含んでもよく(例えば、糖タンパク質、プロテオグリカンなどであってもよい)、かつ/又はさもなければ処理又は修飾されてもよい。いくつかの実施形態では、「タンパク質」は、細胞によって産生され、かつ/又は細胞において活性である、完全なポリペプチドであり得(シグナル配列を伴う又は伴わない)、いくつかの実施形態では、「タンパク質」は、細胞によって産生され、かつ/又は細胞において活性である、ポリペプチドなどの特徴的な部分であるか、又は特徴的な部分を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質は、1つより多いポリペプチド鎖を含む。例えば、ポリペプチド鎖は、1つ以上のジスルフィド結合によって連結されるか、又は他の手段によって会合され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質又はポリペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はその両方を含有し得、かつ/又は当該技術分野で既知の様々なアミノ酸修飾若しくは類似体のいずれかを含有し得る。有用な修飾としては、例えば、末端アセチル化、アミド化、メチル化などが挙げられる。いくつかの実施形態では、タンパク質又はポリペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸、及び/又はそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、タンパク質は、抗体、抗体ポリペプチド、抗体断片、それらの生物学的に活性な部分、及び/若しくはそれらの特徴的な部分であるか、又はそれらを含む。
【0096】
応答:本明細書で使用される場合、治療に対する応答は、治療の結果として生じる、又は治療と相関する対象の状態における任意の有益な変化を指し得る。そのような変化は、状態の安定化(例えば、治療の不在下で起こるであろう悪化の予防)、状態の症状の回復、及び/又は状態の治癒の見通しの改善などを含み得る。これは、対象の応答又はウイルス感染応答を指し得る。ウイルス、ウイルス感染細胞、又は対象応答は、臨床基準及び客観的基準を含む多種多様な基準により測定され得る。応答を評価するための技法としては、臨床検査、陽電子放出断層撮影、胸部X線CTスキャン、MRI、超音波検査、内視鏡検査、腹腔鏡検査、対象から得られた試料中のウイルス量若しくは抗ウイルス抗体の存在若しくはレベル、細胞診、及び/又は組織学が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、適切な基準を選択することができるであろう。
【0097】
試料:本明細書で使用される場合、対象から得られる試料としては、以下:1つ又は複数の細胞、組織の一部、血液、血清、腹水、尿、唾液、及び他の体液、分泌物、又は排泄物のうちのいずれか又は全てを挙げることができるが、これらに限定されない。「試料」という用語は、そのような試料を処理することによって生成される任意の材料も含む。生成された試料は、試料から抽出された、又は試料を核酸の増幅などの技法に供することによって得られたヌクレオチド分子又はポリペプチドを含み得る。典型的には、本発明は、血液、血漿、唾液、又は鼻腔スワブ試料を含む。
【0098】
特異的結合:本明細書で使用される場合、「特異的結合」又は「に特異的な」又は「に対して特異的な」という用語は、標的実体(例えば、標的タンパク質又はポリペプチド)と結合剤(例えば、提供される抗体などの抗体)との間の相互作用(典型的には、非共有結合性)を指す。当業者によって理解されるように、相互作用は、代替的相互作用の存在下で好ましい場合、「特異的」とみなされる。いくつかの実施形態では、相互作用は、典型的には、結合分子によって認識される抗原決定基又はエピトープなどの標的分子の特定の構造的特徴の存在に依存する。例えば、抗体がエピトープAに特異的である場合、遊離標識A及びそれに対する抗体の両方を含有する反応物における、エピトープAを含有するポリペプチドの存在又は遊離非標識Aの存在は、抗体に結合する標識Aの量を低減する。特異性が絶対的である必要はないことを理解されたい。例えば、多数の抗体が、標的分子に存在するものに加えて、他のエピトープと交差反応することは、当該技術分野において周知である。そのような交差反応性は、抗体が使用される用途に応じて許容され得る。当業者は、任意の所与の用途(例えば、標的分子の検出、治療目的など)において適切に実施するのに十分な程度の特異性を有する抗体を選択することができるであろう。特異性は、標的分子に対する結合分子の親和性対他の標的に対する結合分子の親和性(例えば、競合体)などの追加の因子との関連で評価され得る。結合分子が、検出することが所望される標的分子に対して高い親和性及び非標的分子に対して低い親和性を示す場合、抗体は、免疫診断目的のための許容可能な試薬である可能性が高い。結合分子の特異性が1つ以上の関連で確立されると、その特異性を再評価する必要なく、他の、好ましくは類似する関連で用いることができる。
【0099】
実質的に:本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、目的の特徴又は性質の全体若しくはほぼ全体の程度又は度合いを示す定性的な状態を指す。生物学の当業者は、生物学的現象及び化学的現象が、完全に終了すること、及び/又は完全に終了することに向けて進むこと、又は絶対的な結果を達成するか、又は回避することは、もしあるとしてもまれであることを理解するだろう。したがって、「実質的に」という用語は、多くの生物学的現象及び化学的現象に内在する潜在的に完全に終了することはないことを捕捉するために本明細書で使用される。
【0100】
罹患している:疾患、障害、又は状態(がん、ウイルス感染症、又は他の病原体感染症)に「罹患している」個体は、疾患、障害、又は状態の1つ以上の症状と診断され、かつ/又はそれを示す。
【0101】
症状が低減される:本発明によれば、特定の疾患、障害、又は状態の1つ以上の症状が、大きさ(例えば、強度、重症度など)及び/又は頻度で低減される場合、「症状が低減される」。明確化の目的のために、特定の症状の発症の遅延は、その症状の頻度を低減する1つの形態とみなされる。多くのCOVID-19患者は、症状を有せず、無症候性である。本発明は、症状が排除される場合にのみ限定されることを意図するものではない。本発明は、例えば、ウイルス量の低減など、完全に排除されなくても、1つ以上の症状が低減される(及び対象の状態がそれによって「改善される」)ような治療を具体的に企図する。
【0102】
治療剤:本明細書で使用される場合、「治療剤」という用語は、対象に投与される場合、治療効果を有し、かつ/又は所望の生物学的及び/若しくは薬理学的効果を誘発する任意の剤を指す。
【0103】
治療有効量:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、任意の医学的治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で治療対象に治療効果を与える治療用タンパク質の量を指す。治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験又はマーカーによって測定可能)又は主観的(すなわち、対象が効果の指標を与えるか、又は効果を感じる)であり得る。特に、「治療有効量」は、疾患に関連する症状を回復させること、疾患を予防する若しくはその発症を遅延させること、及び/又は疾患の症状の重症度若しくは頻度も軽減することなどによって、所望の疾患若しくは状態を治療する、回復させる、若しくは予防すること、又は検出可能な治療若しくは予防効果を示すのに有効な治療用タンパク質又は組成物の量を指す。治療有効量は、一般に、複数の単位用量を含み得る投与レジメンで投与される。任意の特定の治療用タンパク質に関して、治療有効量(及び/又は有効投与レジメン内の適切な単位用量)は、例えば、投与経路に応じて、他の治療剤との組み合わせに応じて変化し得る。また、任意の特定の患者に対する特定の治療有効量(及び/又は単位用量)は、治療される障害及び障害の重症度、用いられる特定の治療剤の活性、用いられる特定の組成物、患者の年齢、体重、全般的な健康、性別、及び食生活、用いられる特定の融合タンパク質の投与時間、投与経路、及び/又は排泄若しくは代謝速度、治療期間、並びに医学分野で周知である同様の因子を含む様々な因子に依存し得る。
【0104】
治療:本明細書で使用される場合、「治療」(また「治療する」又は「治療すること」)という用語は、特定の疾患、障害、及び/又は状態(例えば、ウイルス感染症、がん)の1つ以上の症状、特徴、及び/又は原因を部分的又は完全に緩和する、回復させる、軽減する、阻害する、その発症を遅延させる、その重症度を低減する、及び/又はその発生率を低減する物質の任意の投与を指す。そのような治療は、関連する疾患、障害、及び/若しくは状態の兆候を示さない対象、並びに/又は疾患、障害、若しくは状態の初期兆候のみを示す対象のものであってよい。代替的に又は追加的に、そのような治療は、関連する疾患、障害、及び/又は状態の1つ以上の確立された兆候を示す対象のものであってもよい。いくつかの実施形態では、治療は、関連する疾患、障害、及び/又は状態に罹患していると診断された対象のものであってよい。いくつかの実施形態では、治療は、関連する疾患、障害、及び/又は状態の発達のリスクの増加と統計的に相関する1つ以上の感受性因子を有することが知られている対象のものであってよい。
【0105】
PNA及びPNA部分という用語は、本明細書において交換可能に使用される。PNA作用物質及びPNA誘導体という用語は、本明細書において交換可能に使用される。
【0106】
いくつかの実施形態では、PNA部分と、PNA部分の第1の末端にある第1のカチオン性及び/又は疎水性部分と、PNA部分の第2の末端にある第2のカチオン性及び/又は疎水性部分とを含む、PNA作用物質が提供される。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性部分がペプチドであるか、又はペプチドを含むPNA作用物質が提供される。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性ペプチドは、リジン残基を含むか、又はリジン残基からなる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのリジン残基は、パルミトイル側鎖部分を含む。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性ペプチドは、アミンを含む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成しない配列を有する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成しない配列を有する必要がある。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、60%未満のプリンを含有する配列を有する必要がある。
【0107】
いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のカチオン性及び/又は疎水性部分は、細胞膜を通るPNAの送達を補助するターゲティング及び送達部分であり、一方、カチオン性部分は、標的リン酸骨格に対するPNAの安定性を誘導する。いくつかの実施形態では、第2のカチオン性及び/又は疎水性部分は、第1のカチオン性/疎水性部分と同じ能力で機能する第2のカチオン性ペプチドであるか、又は第2のカチオン性ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、カチオン性及び/又は疎水性部分は、PNA作用物質のN末端にある。いくつかの実施形態では、ターゲティング、又は疎水性及び/若しくはカチオン性部分は、PNA作用物質のC末端にある。いくつかの実施形態では、第1のカチオン性及び/又は疎水性部分は、細胞膜を通るPNAの送達を補助し、PNA作用物質のN末端で結合するターゲティング部分であり、第2のカチオン性及び/又は疎水性部分は、PNA作用物質のC末端で結合し、標的リン酸骨格に対するPNAの安定性を誘導するカチオン性ペプチドであるか、又はカチオン性ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、PNAペプチドに対してN末端、及びターゲティング部分に対してC末端の第2のカチオン性ペプチドが提供される。
【0108】
いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2核酸配列を標的とする配列を有するPNA作用物質が提供される。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、75%以上の相補性を有する遺伝子の13~20ヌクレオチド配列を標的とする配列を有する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、長さが少なくとも14、15、16、17、若しくは18ヌクレオチドでありかつ/又は相補性が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%である核酸を標的とする、配列を有する。
【0109】
いくつかの実施形態では、PNA構成要素は、標的遺伝子のセンス(mRNA)配列を組み込む。
【0110】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子の非プロモーター領域を標的とする配列を有する。いくつかの実施形態では、遺伝子は、SARS-CoV-2遺伝子である。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2遺伝子は、変異体又は変異型配列要素を含み、PNA作用物質は、変異体配列要素を含むか、又は変異体配列要素からなる部位を標的とする配列を有する。例えば、SARS-CoV-2のいくつかの株は、現在、それぞれが核酸配列の特定の領域において変異を有することが同定されている。
【0111】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子内の部位を標的とする配列を有し、このPNA作用物質は、遺伝子を発現する細胞を含むシステムがPNA作用物質に曝露されると、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件と比較して、PNA作用物質が存在するときに50%~100%の範囲内の量だけ遺伝子の発現が低減されるという点で特徴付けられる。いくつかの実施形態では、理想的な範囲は、細胞増殖の減少によって測定される応答に依存する。いくつかの実施形態にでは、細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態では、システムは、動物であるか、又は動物を含む。いくつかの実施形態では、システムは、霊長類であるか、又は霊長類を含む。いくつかの実施形態では、システムは、ヒトであるか、又はヒトを含む。いくつかの実施形態では、システムは、培養物中の細胞であるか、又は培養物中の細胞を含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、PNA部分は、13~18ヌクレオチドの範囲内の長さを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、末端に結合したパルミトイルリジンを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、N末端及びC末端の両方に結合したパルミトイルリジンを有する。いくつかの実施形態では、PNA部分は、8~12アミノ酸の範囲内の送達ペプチド長を有する。いくつかの実施形態では、PNA-ペプチドコンジュゲートは、pi相互作用ヌクレオシド塩基によって分子内安定化される。いくつかの実施形態では、PNA作用物質の回転半径は、N末端及びC末端パルミトイルリジンを互いに近位に駆動する疎水性溶媒排除によって、25%~50%の範囲内で減少する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、細胞膜と接触すると、一方又は両方の末端疎水性/カチオン性部分を欠く参照PNA作用物質の10倍速く膜を横断する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、末端パルミトイルリジンの有無で比較した細胞増殖実験の結果に基づいて、1桁分より容易に膜を横断する。
【0113】
いくつかの実施形態では、PNA部分は、第1の末端にある第1のカチオン性部分及び第1の疎水性部分と、第2の末端にある第2のカチオン性部分及び第2の疎水性部分とを有し、第1の末端にある第1のカチオン性部分及び第1の疎水性部分は、1つのアミノ酸の一部であり、第2の末端にある第2のカチオン性部分及び第2の疎水性部分は、1つのアミノ酸の一部である。
【0114】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、若しくは状態になりやすい対象にPNA作用物質を投与することを含む、疾患、障害、若しくは状態を治療するか又はそのリスクを低減するための方法が提供される。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2によるウイルス感染症に罹患しているか又はそれに罹りやすい対象が提供される。
【0115】
いくつかの実施形態では、標的を発現する細胞を少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときの細胞における標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、標的参照レベル又は活性と比較して大幅に低減される場合に、少なくとも1つのPNA作用物質を標的阻害物質として分類することとを含む、細胞における標的遺伝子の発現を低減する方法が提供される。
【0116】
いくつかの実施形態では、標的を発現するシステムを少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときのシステムにおける標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、標的参照レベル又は活性と比較して大幅に低減される場合に、少なくとも1つのPNA作用物質を標的阻害物質として分類することとを含む、標的阻害についてPNA作用物質を同定及び/又は特徴決定するための方法が提供される。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2遺伝子の抑制は、細胞増殖の抑制、SARS-CoV-2遺伝子mRNAの抑制、及びSARS-CoV-2遺伝子タンパク質産物の抑制の量による活性レベルを決定することによって測定される。任意の末端(d)リジン-(d)リジンパルミトイルリジンを有しないPNA、一方の末端(d)リジン-(d)リジンパルミトイルリジンを有するPNA、及び両方の末端(d)リジン-(d)リジンパルミトイルリジンを有するPNAが評価されている。いくつかの実施形態では、両方の末端(d)リジン-(d)リジン-パルミトイルリジンを組み込むNLS、TAT、又は任意の他の送達ペプチドにコンジュゲートされたPNAは、単一の末端のみが誘導体化されたか、又は末端が誘導体化されなかったものよりも大幅に優れた遺伝子抑制を示す。
【0117】
いくつかの実施形態では、以下のPNA作用物質のうちの1つ以上が、本発明に関連して使用することができる:4置換アンモニウム又は3置換スルホニウム部分を含む末端ペプチドを有するPNA。
【0118】
いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、標的mRNAレベルを含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、標的タンパク質レベルを含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、細胞生存率に対応する。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、細胞生存率の約50%超の増加に対応する。いくつかの実施形態では、遺伝子発現の完全な抑制は、細胞増殖の大幅な抑制/細胞生存率の減少に必要ではない。
【0119】
いくつかの実施形態では、システムは、インビトロシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、インビボシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、細胞であるか、又は細胞を含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、システムは、組織であるか、又は組織を含む。いくつかの実施形態では、システムは、生物であるか、又は生物を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性は、生物の生存に対応する。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、生物の生存の50%超の増加を含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、標的活性の30~50%超の低減を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、標的活性の50~100%超の低減を含む。いくつかの実施形態では、標的のレベル又は活性の大幅な低減は、標的活性の50%超の低減を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子標的発現を30~50%低減することは、細胞培養における細胞増殖又はウイルスレベルを大幅に低減する。ウイルスレベル及びウイルス複製を決定するための例示的なアッセイは、Rumlova and Ruml,Biotechnology Advances 36(218)557-576(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、及び本明細書の実施例に示されている。
【0122】
いくつかの実施形態では、参照レベルは、歴史的参照である。いくつかの実施形態では、歴史的参照は、有形及び/又はコンピュータ可読媒体に記録される。
【0123】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、標的組織への直接投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、経口投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、非経口投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、皮内投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、経皮投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、吸入による投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、液体であるか、又は液体を含む。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、固体であるか、又は固体を含む。
【0124】
ペプチド核酸(PNA)作用物質構造
ペプチド核酸は、DNA及びRNAと類似している合成ポリマーである。PNAは、ペプチド結合によって連結される反復N-(2-アミノエチル)-グリシン単位の骨格を有する。PNAは、本明細書ではPNA部分とも称される。これは、それぞれデオキシリボース及びリボース糖骨格から構成されるDNA及びRNAの骨格とは異なる。更に、ピリミジン及びプリン塩基は、カルボニル基及びメチレン架橋によりPNA骨格に連結されている。PNA骨格は荷電リン酸基を含有しない。したがって、静電反発の欠如により、PNA配列とDNA(又はRNA)鎖との間の結合は、2つのDNA(又はRNA)鎖との間の結合よりも強い。より高い結合強度のため、20~25塩基より長いPNAオリゴマーは通常、必要ではない。PNA鎖の長さを増大させることは、標的DNA(又はRNA)配列に対する特異性を低減することができる。PNA/DNAミスマッチは、DNA/DNAミスマッチよりも大きな不安定性を有し、PNAは、相補的配列に結合する場合、DNAよりも大きな特異性を示す。荷電リン酸基の欠如は、いくつかの修飾なしに細胞膜を横断することができないPNAの疎水性にも寄与する。これらの修飾には、細胞透過性ペプチドを共有結合すること、及び/又はカチオン性/疎水性ペプチドを付加することが含まれ得るが、これらに限定されない。PNAはまた、広範なpH範囲にわたって安定であり、プロテアーゼ又はヌクレアーゼのいずれによって認識されないため、酵素分解に耐性がある。
【0125】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、標的配列に相補的である。いくつかの実施形態では、それらは、関心の遺伝子によって発現されるmRNA配列の正確なコピーである。いくつかの実施形態では、これはまた、遺伝子のセンス鎖配列でもある。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、関心の任意の遺伝子、例えば、SARS-CoV-2のS遺伝子に相補的に作製され得る。
【0126】
本発明の実施形態は、細胞膜を横断するPNA作用物質の能力を改善する方法に注目する。いくつかの実施形態では、PNA作用物質の物理化学的特性は、カチオン性/疎水性送達ペプチドを付加することによって細胞膜を横断する送達を改善するように修飾されている。いくつかの実施形態では、疎水性及びカチオン性末端ペプチドは一緒に、膜を横断する受動輸送を容易にする。末端にある疎水性e-パルミトイルリジンから構成されるPNA作用物質は、標準的なPNA-ペプチドコンジュゲートと比較して、細胞膜を横断するための改善された能力を有する。いくつかの実施形態では、この設計における末端疎水性部分はまた、末端が、疎水的に駆動され、一緒にポリマーの回転半径を減少させることを可能にする。小さなサイズにより、より良い輸送が可能となる。いくつかの実施形態では、PNAポリマーの両末端が誘導体化されることにより、この大きな分子の送達機能化がより完全に付与される。疎水性e-パルミトイルリジン末端は、溶媒排除によって一緒に駆動され、PNA-ペプチドコンジュゲートは、pi相互作用ヌクレオシド塩基によって分子内で更に安定化される。PNA-ペプチドコンジュゲートは、回転半径の減少によりコンパクトになり、それにより、脂質二重層をより容易に透過することを可能にする。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、N末端及びC末端にあるLys(パルミトイル-(dLys)2から構成され、約10アミノ酸長の送達ペプチド及び約15~18量体のPNAを挟む。いくつかの実施形態では、PNA作用物質の典型的な構造は、約10アミノ酸長の送達ペプチドと、d-リジンによって結合された2つのLys(パルミトイル)-(dLys)2末端の境界内に位置する約15~18量体のPNAとを含む。例えば、以下である:
Lys(パルミトイル)-(dLys)2-送達ペプチド-PNA-(dLys)2-Lys(パルミトイル)。
【0127】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、修飾NLS送達ペプチドを用いる。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、修飾TAT送達ペプチドを用いる。
【0128】
いくつかの実施形態では、BRAF V600E標的に対して使用されるPNA作用物質としては、
AcNH-Lys(パルミトイル)-dLys-dLys-CCTCAAGAGTAATAATAT-dLys-dPro-dLys-dLys-dLys-dArg-dLys-dVal-dLys-dLys-Lys(パルミトイル)-CONH2[I-292-3 L2LP(NLS送達ペプチドを用いる)]及びAcNH-Lys(パルミトイル)-dLys-dLys-CCTCAAGAGTAATAATAT-dLys-dArg3-dGln-dArg2-dLys2-dArg-Gly-dTyr-dLys-dLys-Lys(パルミトイル)-CONH2
が挙げられる。[I-292-9 L2(修飾TAT送達ペプチドを用いる)]
【0129】
核酸ターゲティング
いくつかの実施形態では、カチオン性荷電末端は、特定の核酸配列を標的とするPNAの能力を改善する。カチオン性荷電リジン誘導体化末端をアニオン性DNAに対して安定化することは、Zimm-Bragg統計モデルに従って、末端核形成による動力学的により速い結合をもたらす。これにより、PNAが改善された様式で非プロモーター配列を標的とすることが可能になり、これは、プロモーター配列が通常開放/曝されており、結合を待っている一方で、遺伝子の非プロモーター領域がアクセスしにくいことを考えると、特に予想外である。PNAは、単に反発性アニオン性リン酸塩-リン酸塩反発力(エンタルピーの利点)を欠くために、DNA標的に対して安定化される。PNA-ペプチドのカチオン性末端は、PNA-ペプチドのより構成的に自由な末端を標的に対して安定化することによって、結合のエントロピー構成要素を改善する。
【0130】
いくつかの実施形態では、PNA-ペプチドコンジュゲートのPNAは、標準設計のものであり、長さの範囲は、通常、13~18塩基である。13塩基未満の長さについては、結合は、結合のエンタルピーの減少により、熱力学的にはるかに好ましくなくなる。18塩基を超える長さについては、エンタルピー結合エネルギーの獲得が、そのような長い鎖を適切に配置することの動力学的欠点によって相殺されるため、より多くの熱力学的利点をもたらさない(より多くの分子内基質が結合状態と競合し得る)。いくつかの実施形態では、PNA部分は、RNA配列を標的とする配列を有する。本明細書に記載のPNA作用物質は、SARS-CoV-2遺伝子を標的とする配列を有するPNA部分を含む。
【0131】
コロナウイルスは、宿主mRNAと同様に、プラスセンスRNAの一本鎖を含有する球状のエンベロープウイルスである。受容体結合後、ウイルスは次に、宿主細胞の細胞質基質へのアクセスを獲得する必要がある。これは、一般に、カテプシン、TMPRRS2、又は別のプロテアーゼによるSタンパク質の酸依存性タンパク質分解切断、続いてウイルス及び細胞膜の融合によって達成され、最終的に細胞質へのウイルスゲノムの放出をもたらす。コロナウイルス生活環の次のステップは、ビリオンゲノムRNAからのレプリカーゼ遺伝子の翻訳である。コロナウイルスは単一のプラス鎖RNAゲノムを有するため、それらは宿主細胞の細胞質においてタンパク質及び新しいゲノムを直接産生することができる。第1のステップは、ウイルスがそのRNAポリメラーゼを合成することであり、これは、ウイルスRNAを認識し、産生するのみである。この酵素は、プラス鎖を鋳型として使用して、マイナス鎖RNAを産生する。次いで、マイナス鎖は、(1)他の全てのウイルスタンパク質を合成するために使用される小さなサブゲノムプラスRNAを転写するための鋳型、及び(2)新しいプラス鎖RNAゲノムの複製のための鋳型として機能する。新しく合成されたヌクレオカプシド(N)タンパク質及び新しく合成された膜(M)タンパク質に結合する新しく複製されたプラス鎖RNAゲノムは、新しく合成されたスパイク(S)及びエンベロープ(E)タンパク質とともに宿主細胞小胞体膜に組み込まれる。結合後、小胞体内腔への螺旋状にねじれたRNAを有するヌクレオカプシドを組み立て、その膜(membraned)で包む。次いで、新たに形成されたビリオンは、ゴルジ小胞によって細胞膜に輸送され、細胞外空間にエキソサイトーシスされる。
【0132】
本明細書で使用される場合、「RNA配列」を標的とする配列を有するPNA部分は、その鎖の種類に関係なくSARS-CoV-2ウイルスRNA分子を標的とするPNA部分を指す、つまり、本明細書に記載のPNA作用物質は、ウイルスの複製サイクルの任意の段階でSARS-CoV-2ウイルスRNAを標的とすることができる。したがって、本明細書に記載のPNA作用物質は、SARS-CoV-2ウイルスのプラスRNA鎖又はマイナスRNA鎖を標的とすることができる配列を有する。
【0133】
いくつかの態様では、PNA部分は、配列番号1~5のうちのいずれか1つを含む配列を有する。他の態様では、PNA部分は、配列番号6~10のうちのいずれか1つを含むRNA配列を標的とする配列を有する。
【0134】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、特定の遺伝子又は遺伝子配列を標的とする。PNA作用物質は、既知の変異配列を有する遺伝子、並びに遺伝子転座の部位を標的とするように設計され得る。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、SARS-CoV-2遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、変異体又は変異型SARS-CoV-2遺伝子を標的とすることができる。
【0135】
一態様では、PNA作用物質は、構造タンパク質又はオープンリーディングフレーム(orf)タンパク質をコードするSARS-CoV-2核酸配列を標的とする。別の態様では、SARS-CoV-2核酸配列は、スパイク(S)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、又は膜(M)タンパク質から選択される構造タンパク質をコードする。いくつかの態様では、PNA作用物質は、Sタンパク質を含む核酸配列を標的とする。
【0136】
PNA作用物質の用途
PNA作用物質によるターゲティング及び結合は、研究ツール、医学的診断、及び薬学的治療として使用されるであろう。いくつかの実施形態では、PNA作用物質を使用して、特定の遺伝子配列を標的とし、それに結合することができる。いくつかの実施形態では、PNA作用物質を使用して、遺伝子配列の発現を抑制することができる。特定の遺伝子を標的とするPNA作用物質は、それらの遺伝子の機能を理解する際の貴重な研究ツールとして機能し得る。特定の遺伝子産物の発現を抑制することは、異なる生物学的経路におけるそれらの産物の役割を明らかにし、発見するのに役立つであろう。
【0137】
PNA作用物質は、変異又は変異型遺伝子配列を標的とし、それに結合し、変異体SARS-CoV-2遺伝子の発現を抑制し、それによってウイルス感染症を抑制及び/又は治療することができる。いくつかの実施形態では、PNA作用物質を使用して、ウイルスの株のうちのいずれかによるSARS-CoV-2感染症を治療する。
【0138】
薬学的組成物
本発明はまた、1つ以上の提供されるPNA作用物質を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、少なくとも1つのPNAコンジュゲート及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を提供する。そのような薬学的組成物は、任意選択で、1つ以上の追加の治療的に活性な物質若しくは生物学的に活性な物質を含み、かつ/又は1つ以上の追加の治療的に活性な物質若しくは生物学的に活性な物質と組み合わせて投与され得る。いくつかの実施形態では、提供される薬学的組成物は、薬物又は医薬の製造に有用である。いくつかの実施形態では、提供される薬学的組成物は、病原体感染症、例えば、それに関連するウイルス及び呼吸器感染症、がん、並びに神経変性障害の治療又は予防における予防剤(すなわち、ワクチン)として有用である。いくつかの実施形態では、提供される薬学的組成物は、治療用途、例えば、疾患に罹患している個体において、例えば、異常な細胞シグナル伝達を遮断する細胞傷害性剤又は化合物を特異的に標的とすることができる送達ビヒクルとして有用である。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、診断用途及び治療用途において同時に有用である。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、ヒトへの投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、本明細書に定義される治療剤若しくは他の治療剤と組み合わせるか、又はそれにコンジュゲートされるPNA作用物質を含む。
【0139】
例えば、薬学的組成物は、滅菌注射形態(例えば、皮下注射又は静脈内注入に好適である形態)で提供され得る。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、注射に好適である液体剤形で提供される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、注射の前に水性希釈剤(例えば、水、緩衝液、塩溶液など)で再構成される、任意選択で真空下で、粉末(例えば、凍結乾燥及び/又は滅菌)として提供される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、水、塩化ナトリウム溶液、酢酸ナトリウム溶液、ベンジルアルコール溶液、リン酸緩衝食塩水などにおいて希釈及び/又は再構成される。いくつかの実施形態では、粉末は、水性希釈剤と穏やかに混合されなければならない(例えば、振とうされない)。
【0140】
いくつかの実施形態では、提供される薬学的組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤(例えば、防腐剤、不活性希釈剤、分散剤、表面活性剤、及び/又は乳化剤、緩衝剤など)を含む。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、1つ以上の防腐剤を含む。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は防腐剤を含まない。
【0141】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、冷蔵及び/又は凍結することができる形態で提供される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、冷蔵及び/又は凍結することができない形態で提供される。いくつかの実施形態では、再構築された溶液及び/又は液体剤形は、再構築後のある特定の期間(例えば、2時間、12時間、24時間、2日、5日、7日、10日、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、又はそれ以上)保管することができる。いくつかの実施形態では、指定された時間より長いPNA組成物の保存は、PNA分解をもたらす。
【0142】
液体剤形及び/又は再構成された溶液は、投与前に粒子状物質及び/又は変色があってもよい。いくつかの実施形態では、溶液は、変色若しくは濁っている場合、及び/又は濾過後に粒子状物質が残る場合、使用されるべきではない。
【0143】
本明細書に記載の薬学的組成物は、薬理学の分野で既知の、又は今後開発される任意の方法によって調製され得る。いくつかの実施形態では、そのような調製方法は、活性成分を1つ以上の賦形剤及び/又は1つ以上の他の補助成分と会合させ、次いで、必要及び/又は望ましい場合、製品を所望の単回用量又は複数回用量単位に成形及び/又は包装するステップを含む。
【0144】
本発明による薬学的組成物は、単一単位用量として、及び/又は複数の単一単位用量として、バルクで調製、包装、及び/又は販売され得る。本明細書で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分、例えば、ペプチド核酸作用物質を含む薬学的組成物の別個の量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう用量、及び/又はそのような用量の都合の良い一部、例えば、そのような用量の2分の1又は3分の1などに等しい。
【0145】
本発明による薬学的組成物中の活性成分、薬学的に許容される賦形剤、及び/又は任意の追加成分の相対量は、治療される対象の同一性、サイズ、及び/若しくは状態に応じて、かつ/又は組成物が投与される経路に応じて変化し得る。例として、組成物は、0.1%~100%(w/w)の活性成分を含み得る。
【0146】
本発明の薬学的組成物は、本明細書で使用される場合、所望の特定の剤形に好適なように、溶媒、分散媒、希釈剤、若しくは他の液体ビヒクル、分散助剤若しくは懸濁助剤、表面活性剤、等張剤、増粘剤若しくは乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤などであり得るか、又はそれらを含み得る薬学的に許容される賦形剤を追加で含むことができる。Remington’s The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,A.R.Gennaro,(Lippincott, Williams & Wilkins,Baltimore,Md.,2006)は、薬学的組成物の製剤化に使用される様々な賦形剤及びその調製のための既知の技法を開示している。任意の従来の賦形剤培地が、任意の望ましくない生物学的作用をもたらすことによって、又はさもなければ薬学的組成物の任意の他の構成要素と有害な様式で相互作用することなどによって、物質又はその誘導体と不適合である場合を除いて、その使用は、本発明の範囲内であると企図される。
【0147】
一般的なコンジュゲート
本明細書に記載の多機能性剤は、各々が少なくとも1つの機能を有する複数の実体を含む。企図される多機能性剤のある特定の実施形態は、ターゲティング実体及び以下の実体:検出実体、治療実体、及び診断実体のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、本発明の多機能性剤は、ターゲティング実体、治療実体、及び検出実体を含有する。いくつかの実施形態では、剤の実体は、互いにコンジュゲートされ得る。多機能性剤を形成するための様々な実体のコンジュゲーションは、特定のコンジュゲーション様式に限定されない。例えば、2つの実体は、互いに共有結合的に直接コンジュゲートされてもよい。代替的に、2つの実体は、リンカー実体を介してなど、互いに間接的にコンジュゲートされ得る。いくつかの実施形態では、多機能性剤は、剤内に異なる種類のコンジュゲーションを含んでもよく、その結果、剤のうちのいくつかの実体は、直接コンジュゲーションを介してコンジュゲートされ、一方、剤の他の実体は、1つ以上のリンカーを介して間接的にコンジュゲートされる。いくつかの実施形態では、本発明の多機能性剤は、1種類のリンカー実体を含む。いくつかの実施形態では、本発明の多機能性剤は、2種類以上のリンカー実体を含む。いくつかの実施形態では、多機能性剤は、1種類のリンカー実体を含むが、長さは様々のものである。
【0148】
いくつかの実施形態では、多機能性剤に含有される実体間又はそれらの中に共有結合的会合が存在する。当業者によって理解されるように、部分は、直接的又は間接的(例えば、以下に記載されるように、リンカーを介して)のいずれかで互いに結合され得る。
【0149】
いくつかの実施形態では、1つの実体(ターゲティング実体など)及び多機能性剤の第2の実体が互いに直接的に共有結合している場合、そのような直接的な共有結合は、アミド、エステル、炭素-炭素、ジスルフィド、カルバメート、エーテル、チオエーテル、尿素、チオ尿素、イソチオ尿素、アミン、又はカーボネート連結などの連結(例えば、リンカー又は連結実体)を介してであり得る。共有結合は、多機能性剤の第1の実体及び/又は第2の実体上に存在する官能基を利用することによって達成することができる。代替的に、重要でないアミノ酸は、カップリング目的に有用な基(アミノ、カルボキシ、又はスルフヒドリルなど)を導入する別のアミノ酸によって置き換えられてもよい。代替的に、追加のアミノ酸を多機能性剤の実体のうちの少なくとも1つに付加して、カップリング目的に有用な基(アミノ、カルボキシ、又はスルフヒドリルなど)を導入してもよい。部分を一緒に結合するために使用することができる好適な官能基としては、限定されないが、アミン、無水物、ヒドロキシル基、カルボキシ基、チオールなどが挙げられる。活性化剤、例えば、カルボジイミドを使用して直接結合を形成することができる。多種多様な活性化剤が当該技術分野で既知であり、1つの実体を第2の実体にコンジュゲートするのに好適である。
【0150】
いくつかの実施形態では、本発明によって包含される多機能性剤の実体は、リンカー基を介して互いに間接的に共有結合される。そのようなリンカー基は、リンカー又は連結実体とも称され得る。これは、ホモ機能性剤及びヘテロ機能性剤を含む、当該技術分野で周知の任意の数の安定した二機能性剤を使用することによって達成され得る(そのような剤の例については、例えば、Pierce Catalog and Handbookを参照されたい)。二機能性リンカーの使用は、活性化剤の使用とは異なり、前者は結果として得られるコンジュゲート(剤)中に連結部分の存在をもたらし、一方、後者は反応に関与する2つの部分間の直接的なカップリングをもたらす。二機能性リンカーの役割は、さもなければ不活性の2つの部分間の反応を可能にすることであり得る。代替的に又は追加的に、反応産物の一部となる二機能性リンカーは、それが剤にある程度の立体構造的柔軟性を付与するように選択されてもよい(例えば、二機能性リンカーは、いくつかの原子を含有する直鎖アルキル鎖を含み、例えば、直鎖アルキル鎖は、2~10の炭素原子を含有する)。代替的に又は追加的に、二機能性リンカーは、提供される抗体と治療剤との間に形成される連結が切断可能であるように、例えば、加水分解性であるように選択され得る(そのようなリンカーの例については、例えば、米国特許第5,773,001号、同第5,739,116号、及び同第5,877,296号を参照されたく、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。そのようなリンカーは、例えば、ターゲティング剤などのある特定の実体及び/又は治療実体のより高い活性が、コンジュゲートの加水分解後に観察されるときに使用され得る。実体が多機能性剤から切断され得る例示的な機構としては、リソソーム(ヒドラゾン、アセタール、及びシス-アコニット酸様アミド)の酸性pHにおける加水分解、リソソーム酵素(カプテプシン及び他のリソソーム酵素)によるペプチド切断、及びジスルフィドの還元が挙げられる)。そのような実体が多機能性剤から切断される別の機構には、生理的pHの細胞外又は細胞内での加水分解が含まれる。この機構は、ある実体を別の実体にカップリングするために使用される架橋剤が、ポリデキストランなどの生分解性/生体侵食食性構成要素である場合に適用される。
【0151】
例えば、ヒドラゾン含有多機能性剤は、所望の放出特性を提供する導入されたカルボニル基で作製することができる。多機能性剤は、一方の末端にジスルフィド基を有するアルキル鎖及び他方の末端にヒドラジン誘導体を含むリンカーで作製することもできる。ヒドラゾン以外の官能基を含有するリンカーはまた、リソソームの酸性環境において切断される可能性を有する。例えば、多機能性剤は、エステル、アミド、及びアセタール/ケタールなどの細胞内で切断可能であるヒドラゾン以外の基を含有するチオール反応性リンカーから作製することができる。
【0152】
pH感受性リンカーのクラスの別の例は、アミド基に並置されたカルボン酸基を有する、シス-アコニット酸である。カルボン酸は、酸性リソソームにおけるアミド加水分解を加速させる。他のいくつかの種類の構造と同様の種類の加水分解速度加速を達成するリンカーもまた使用することができる。
【0153】
治療剤のコンジュゲートの別の潜在的な放出方法は、リソソーム酵素によるペプチドの酵素加水分解である。一例では、提供される抗体は、アミド結合を介してパラ-アミノベンジルアルコールに結合され、次いで、カルバメート又はカーボネートは、ベンジルアルコールと治療剤との間で作製される。ペプチドの切断は、アミノベンジルカルバメート又はカーボネートの崩壊、及び治療剤の放出をもたらす。別の例では、フェノールは、カルバメートの代わりにリンカーの崩壊によって切断することができる。別の変形では、ジスルフィド還元を使用して、パラ-メルカプトベンジルカルバメート又はカーボネートの崩壊を開始させる。
【0154】
本明細書に提供される多機能性剤の連結実体として使用され得る有用なリンカーとしては、限定されないが、ポリエチレングリコール、エチレングリコールのコポリマー、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/マレイン酸無水物コポリマー、ポリアミノ酸、デキストランn-ビニルピロリドン、ポリn-ビニルピロリドン、プロピレングリコールホモポリマー、プロピレンオキシドポリマー、エチレンオキシドポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、直鎖状又は分枝状グリコシル化鎖、ポリアセタール、長鎖脂肪酸、長鎖疎水性脂肪族基が挙げられる。
【0155】
本発明のいくつかの実施形態は、少なくとも1つの非共有結合的に会合した実体を含む多機能性剤を利用する。非共有結合性相互作用の例としては、限定されないが、疎水性相互作用、静電相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用、及び水素結合が挙げられる。結合、相互作用、又はカップリングの性質にかかわらず、第1の実体と第2の実体との間の会合は、いくつかの実施形態では、選択的であり、特異的であり、十分に強力であるため、剤に含有される第2の実体が、標的への輸送/送達の前又はその間に、第1の実体から解離しない。したがって、多機能性剤の複数の実体の間での会合は、当業者に既知の任意の化学的、生化学的、酵素的、又は遺伝的カップリングを使用して達成され得る。
【0156】
治療的コンジュゲート
本明細書に記載される場合、PNA作用物質は、ウイルス感染に関連する治療的有用性を有する多機能性剤の一部を含み得る。本開示の文脈における治療的有用性の例としては、限定されないが、ターゲティングに関連する有用性(例えば、結合特異的遺伝子配列)、治療的効果に関連する有用性(例えば、細胞傷害性及び/又は細胞増殖抑制効果、抗増殖効果、抗血管新生効果、症状の低減など)、及び診断、検出、又は標識に関連する有用性などが挙げられる。
【0157】
ターゲティング実体は、関心の標的と特異的に相互作用するか、又は関心の標的に親和性を有することによって作用部位に影響を及ぼすか、又は作用部位を制御する作用物質に含有され得る分子構造である。一例として、標的は、細胞表面、例えば、ある特定の細胞型、組織上などに存在する分子又は分子複合体であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、標的はウイルス関連であり、ターゲティング実体はPNA作用物質である。治療剤などの作用物質に対するターゲティング部分の使用は、当該技術分野で既知である。
【0158】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質は、1つ以上の治療剤、例えば、抗ウイルス剤、例えば、レムデシビルにコンジュゲートされたPNA作用物質から本質的になる遺伝子ターゲティング実体を含む多機能性剤である。ウイルス感染症又は他の障害の診断、若しくはその評価、その治療、及びそのための製造に使用され得るPNA作用物質の有用なコンジュゲートの非限定的な実施形態は、以下に提供される。
【0159】
PNA作用物質は、例えば、抗ウイルス剤又は他の治療剤、プローブ、プライマーなどとしての使用を含む、様々な使用のいずれかを有し得る。核酸作用物質は、酵素活性(例えば、リボザイム活性)、遺伝子発現阻害活性(例えば、アンチセンス又はsiRNA剤などとして)、及び/又は他の活性を有し得る。核酸作用物質は、それ自体が活性であり得るか、又は活性核酸作用物質を送達する(例えば、送達された核酸の複製及び/又は転写を介して)ベクターであり得る。本明細書の目的のために、そのようなベクター核酸は、それら自身が治療活性を有さない場合でも、治療的に活性な剤をコードするか、又はさもなければ送達する場合、「治療剤」とみなされる。
【0160】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、リボザイムである核酸治療剤を含む。本明細書で使用される場合、「リボザイム」という用語は、標的特異的様式で他のRNA又はDNA分子を切断することができる触媒RNA分子を指す。リボザイムを使用して、関心の遺伝子の任意の望ましくない産物の発現を下方調節することができる。本発明の実施に使用することができるリボザイムの例には、SARS-CoV-2遺伝子RNAに特異的なものが含まれるが、これに限定されない。
【0161】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲート内の実体又は部分は、光線力学療法(PDT)で使用される光増感剤を含む。PDTでは、光増感剤の患者への局所又は全身投与の後、治療される組織又は臓器内の光増感剤によって吸収される光を照射する。光増感剤による光吸収は、細胞に有害である反応性種(例えば、ラジカル)を生成する。最大限の有効性のために、光増感剤は、典型的には、投与に好適な形態であり、また、標的部位で容易に細胞内在化を受けることができる形態であり、多くの場合、正常組織よりもある程度の選択性を有する。
【0162】
光増感剤に関連するPNA作用物質のコンジュゲートは、PDTにおける新しい送達システムとして使用され得る。光増感剤凝集を低減することに加えて、本発明による光増感剤の送達は、標的組織/臓器に対する特異性の増加、及び光増感剤の細胞内在化などの他の利点を示す。
【0163】
本発明での使用に好適な光増感剤は、PDTで有用な光増感特性を有する様々な合成分子及び天然に存在する分子のうちのいずれかを含む。いくつかの実施形態では、光増感剤の吸収スペクトルは、可視範囲内にあり、典型的には、350nm~1200nm、好ましくは、400nm~900nm、例えば、600nm~900nmである。本発明により毒素にカップリングされ得る好適な光増感剤としては、限定されないが、ポルフィリン及びポルフィリン誘導体(例えば、クロリン、バクテリオクロリン、イソバクテリオクロリン、フタロシアニン、及びナフタロシアニン)、メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン、アンジェリシン、カルコゲナピリウム色素、クロロフィル、クマリン、フラビン及び関連化合物、例えば、アロキサジン及びリボフラビン、フラーレン、フェオホルビド、ピロフェオホルビド、シアニン(例えば、メロシアニン540)、フェオフィチン、サッフィリン、テキサフィリン、プルプリン、ポルフィセン、フェノチアジニウム、メチレンブルー誘導体、ナフタルイミド、ナイルブルー誘導体、キノン、ペリレンキノン(例えば、ヒペリシン、ヒポクレリン、及びセルコスポリン)、ソラレン、キノン、レチノイド、ローダミン、チオフェン、ベルジン、キサンテン色素(例えば、エオシン、エリスロシン、及びローズベンガル)、ポルフィリンの二量体及びオリゴマー形態、並びに5-アミノレブリン酸などのプロドラッグが挙げられる(R.W.Redmond and J.N.Gamlin,Photochem.Photobiol.,1999,70:391-475)。
【0164】
本発明での使用に好適な例示的な光増感剤としては、米国特許第5,171,741号、同第5,171,749号、同第5,173,504号、同第5,308,608号、同第5,405,957号、同第5,512,675号、同第5,726,304号、同第5,831,088号、同第5,929,105号、及び同第5,880,145号(各々の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるものが挙げられる。
【0165】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、放射線増感剤を含む。本明細書で使用される場合、「放射線増感剤」という用語は、腫瘍細胞を放射線療法により感受性が高いものにする分子、化合物、又は作用物質を指す。放射線療法を受ける患者への放射線増感剤の投与は、一般に、放射線療法の効果の増強をもたらす。放射線増感剤をターゲティング実体(例えば、腫瘍内遺伝子配列を標的とすることができるPNA作用物質)にカップリングする利点は、放射線増感剤が標的細胞にのみ効果を及ぼすことである。使用を容易にするために、放射線増感剤はまた、それが全身的に投与されても、標的細胞を見つけることができるべきである。しかしながら、現在利用可能な放射線増感剤は、典型的には、腫瘍に対して選択的ではなく、哺乳類体内での拡散によって分布する。本発明のPNA作用物質コンジュゲートを、放射線増感剤のための新しい送達システムとして使用することができる。
【0166】
いくつかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、指向性酵素プロドラッグ療法において使用され得る。指向性酵素プロドラッグ療法アプローチにおいて、指向性/ターゲティング酵素及びプロドラッグは、対象に投与され、ターゲティング酵素は、プロドラッグを活性薬物に変換する対象の身体の一部に特異的に局在する。プロドラッグは、1ステップで(ターゲティング酵素によって)、又は1つより多いステップで活性薬物に変換され得る。例えば、プロドラッグは、ターゲティング酵素によって活性薬物の前駆体に変換され得る。次いで、前駆体は、例えば、1つ以上の追加のターゲティング酵素、対象に投与される1つ以上の非ターゲティング酵素、対象に若しくは対象内の標的部位に天然に存在する1つ以上の酵素(例えば、プロテアーゼ、ホスファターゼ、キナーゼ、又はポリメラーゼ)の触媒活性によって、対象に投与される作用物質によって、及び/又は酵素的に触媒されない化学プロセス(例えば、酸化、加水分解、異性化、エピマー化など)によって活性薬物に変換され得る。
【0167】
本発明のいくつかの実施形態は、PNA作用物質指向性酵素プロドラッグ療法を利用し、PNA作用物質は、酵素に連結され、対象に注射され、腫瘍関連又は転移性遺伝子への酵素の選択的結合をもたらす。続いて、プロドラッグが対象に投与される。プロドラッグは、細胞内又はその近くでのみ、酵素によってその活性形態に変換される。選択性は、PNA作用物質の特異性によって、及びウイルス感染細胞と正常組織酵素レベルとの間に大きな差があるまでプロドラッグ投与を遅延させることによって達成される。ウイルス感染細胞はまた、プロドラッグ活性化酵素をコードする遺伝子により標的にされ得る。このアプローチは、ウイルス指向性酵素プロドラッグ療法(VDEPT)、又はより一般的にはGDEPT(遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法と呼ばれ、実験系において良好な結果を示している。指向性酵素プロドラッグ療法の他のバージョンとしては、PDEPT(ポリマー指向性酵素プロドラッグ療法)、LEAPT(レクチン指向酵素活性化プロドラッグ療法)、及びCDEPT(クロストリジウム指向酵素プロドラッグ療法)が挙げられる。
【0168】
プロドラッグ活性化酵素の例としては、ニトロレダクターゼ、シトクロムP450、プリン-ヌクレオシドホスホリラーゼ、チミジンキナーゼ、アルカリホスファターゼ、β-グルクロニダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ペニシリンアミダーゼ、β-ラクタマーゼ、シトシンデアミナーゼ、及びメチオニンγ-リアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0169】
いくつかの実施形態では、治療(例えば、抗ウイルス)剤は、1つ以上のPNA作用物質と抗ウイルス剤とのコンジュゲートを含む。
【0170】
投与
本発明によるPNA作用物質及び本発明の薬学的組成物は、任意の適切な経路及びレジメンに従って投与され得る。いくつかの実施形態では、経路又はレジメンは、プラスの治療的利益と相関しているものである。
【0171】
いくつかの実施形態では、投与される正確な量は、医学分野で周知である1つ以上の因子に応じて、対象によって異なり得る。そのような因子には、例えば、対象の種、年齢、全般的な状態、投与される特定の組成物、その投与様式、その活性様式;疾患の重症度、用いられる特定のPNA作用物質の活性;投与される特定の薬学的組成物;投与後の組成物の半減期;対象の年齢、体重、全般的な健康、性別、及び食生活;用いられる特定の化合物の投与時間、投与経路、及び排泄速度;治療期間;用いられる特定の化合物と組み合わせて又は同時に使用される薬物などのうちの1つ以上が含まれ得る。薬学的組成物は、投与の容易さ及び投与量の均一性のために単位剤形に製剤化され得る。しかしながら、本発明の組成物の総1日使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。
【0172】
本発明の組成物は、当業者に理解されるように、任意の経路によって投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、経口(PO)、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、動脈内、髄内、髄腔内、皮下(SQ)、脳室内、経皮、皮間、皮内、直腸(PR)、膣、腹腔内(IP)、胃内(IG)、局所(例えば、粉末、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、及び/又はドロップ)、粘膜、鼻腔内、頬側、腸内、硝子体、舌下により、気管内注入、気管支注入、及び/若しくは吸入により、経口スプレー、鼻腔スプレー、及び/若しくはエアゾールとして、並びに/又は門脈カテーテルを介して投与される。
【0173】
いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物は、例えば、静脈内注入により静脈内投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物は、筋肉内注射により投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物は、皮下注射により投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物は、門脈カテーテルを介して投与され得る。しかしながら、本発明は、薬物送達の科学における可能性のある進歩を考慮した任意の適切な経路による、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物の送達を包含する。
【0174】
いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質及び/又はその薬学的組成物は、所望の治療効果を得るために、1日当たり対象体重の約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約50mg/kg、約0.1mg/kg~約40mg/kg、約0.5mg/kg~約30mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、又は約1mg/kg~約25mg/kgを送達するのに十分な投与量レベルで投与され得る。所望の投与量は、1日に3回超、1日に3回、1日に2回、1日に1回、隔日、3日毎、毎週、2週間毎、3週間毎、4週間毎、2ヶ月毎、6ヶ月毎、又は12ヶ月毎に送達され得る。いくつかの実施形態では、所望の投与量は、複数の投与(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14回、又はそれ以上の投与)を使用して送達され得る。
【0175】
予防的用途
いくつかの実施形態では、本発明によるPNA作用物質は、予防的用途に利用され得る。いくつかの実施形態では、予防的用途は、COVID-19に罹りやすく、かつ/又はその症状を示す個体における、ウイルス感染症及び/又は任意の他の遺伝子関連状態の発症を予防、阻害、及び/又は遅延させるためのシステム及び方法を伴う。
【0176】
組み合わせ療法
本発明によるPNA作用物質及びその治療的に活性なコンジュゲート並びに/又はそれらの薬学的組成物は、診断及び/又は治療を補助するための組み合わせ療法に用いることができることが理解されるであろう。「組み合わせて」は、剤が同時に投与され、かつ/又は一緒に送達するために製剤化されなければならないことを暗示することを意図するものではないが、これらの送達方法は本発明の範囲内である。組成物は、1つ以上の他の所望の治療薬又は医療手順と同時に、その前に、又はその後に投与することができる。組み合わせて利用される治療的に活性な剤は、単一の組成物で一緒に投与され得るか、又は異なる組成物で別個に投与され得ることが理解される。一般に、各剤は、その剤について決定された用量及び/又は時間スケジュールで投与される。
【0177】
組み合わせレジメンで用いる療法(例えば、治療薬又は手順)の特定の組み合わせは、所望の治療薬及び/又は手順と、達成されるべき所望の治療効果との適合性を考慮に入れる。本明細書に開示されるPNA作用物質の薬学的組成物は、組み合わせ療法(例えば、組み合わせ抗ウイルス療法)に用いることができる、つまり、薬学的組成物は、1つ以上の他の所望の治療手順と同時に、その前に、又はその後に投与することができることも理解されたい。
【0178】
組み合わせレジメンで用いる療法の特定の組み合わせは、一般に、所望の治療薬及び/又は手順と、達成されるべき所望の治療効果との適合性を考慮する。用いられる療法は、同じ障害に対して所望の効果を達成し得る(例えば、本発明の抗原は、別の抗ウイルス薬と同時に投与され得る)か、又はそれらは、異なる効果を達成し得ることも理解されたい。用いられる療法は、同じ目的のために所望の効果を達成し得る(例えば、ウイルス感染症又は他の障害を治療する、予防する、かつ/又はその発症を遅延させるために有用なPNA作用物質は、ウイルス感染症又は障害を治療する、予防する、かつ/又はその発症を遅延させるために有用な別の剤と同時に投与され得る)か、又は異なる効果(例えば、任意の有害な効果の制御)を達成し得ることが理解される。本発明は、それらのバイオアベイラビリティを改善し、それらの代謝を低減及び/若しくは修正し、それらの排泄を阻害し、かつ/又は体内でのそれらの分布を修正し得る剤と組み合わせた薬学的組成物の送達を包含する。
【0179】
いくつかの実施形態では、組み合わせて利用される剤は、それらが個々に利用されるレベルを超えないレベルで利用される。いくつかの実施形態では、組み合わせて利用されるレベルは、個々に利用されるレベルよりも低い。
【0180】
いくつかの実施形態では、組み合わせ療法は、単一の遺伝子に向けられた複数のPNA作用物質の投与を伴い得る。いくつかの実施形態では、組み合わせ療法は、異なる遺伝子配列を認識する複数のPNA作用物質を含むことができる。
【0181】
キット
本発明は、本発明による方法を便宜的にかつ/又は効果的に実行するための様々なキットを提供する。キットは、典型的には、1つ以上のPNA作用物質を含む。
【0182】
いくつかの実施形態では、本発明により使用するためのキットは、1つ以上の参照試料、説明書(例えば、試料を処理するため、試験を実施するため、結果を解釈するため、PNA作用物質を投与するため、PNA作用物質を保管するためのなど)、緩衝液、及び/又は試験を実施するために必要な他の試薬を含み得る。いくつかの実施形態では、キットは、PNA作用物質のパネルを含み得る。キットの他の構成要素は、細胞、細胞培養培地、組織、及び/又は組織培養培地を含み得る。
【0183】
いくつかの実施形態では、キットは、PNA作用物質を含む薬学的組成物のいくつかの単位用量を含む。記憶補助は、例えば、数値、文字、及び/若しくは他のマーキングの形態で、並びに/又は投与量が投与され得る治療スケジュールの日時を指定するカレンダーインサートとともに提供され得る。薬学的組成物の投与量に類似する形態又は異なる形態のいずれかでのプラセボ投与量、及び/又はカルシウム栄養補助剤は、投与量が毎日摂取されるキットを提供するために含まれ得る。
【0184】
キットは、ある特定の個々の構成要素又は試薬が別個に収容され得るように、1つ以上の入れ物又は容器を含み得る。キットは、個々の容器を商業的販売のために比較的密閉された密閉状態で入れるための手段、例えば、プラスチックボックスを含み得、説明書、発泡スチロールなどの包装材料を入れてもよい。
【0185】
いくつかの実施形態では、キットは、SARS-CoV-2による感染症に罹患し、かつ/又はそれに罹りやすい対象の治療、診断、及び/又は予防に使用される。いくつかの実施形態では、そのようなキットは、(i)少なくとも1つのPNA作用物質、(ii)対象に少なくとも1つのPNA作用物質を投与するための、注射器、針、アプリケーターなど、及び(iii)使用説明書を含む。
【0186】
使用方法
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載のPNA作用物質のうちのいずれか1つ又は本明細書に記載の薬学的組成物のうちのいずれか1つを、SARS-CoV-2感染症に罹りやすいか又はそれを有する対象に投与することを含む、SARS-CoV-2感染症を治療するか又はそのリスクを低減するための方法を提供する。
【0187】
「罹りやすい」とは、対象がSARS-CoV-2感染症を有するリスクにあることを意味する。例えば、ウイルスに曝露される対象、又は感染した対象に曝露される対象を含み得る。様々な態様では、対象は、COVID-19を有する。
【0188】
多くの態様では、PNA作用物質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5から選択される配列を含むPNA部分を含む。いくつかの態様では、PNA作用物質は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択されるRNA配列を標的とする核酸配列を含む部分を含む。
【0189】
本明細書に記載のPNA作用物質は、SARS-CoV-2に感染した細胞におけるSARS-CoV-2関連細胞変性効果を低減することができる。本明細書で使用される場合、「細胞変性効果」又は「CPE」という用語は、細胞で起こり得る、及びウイルス侵入によって引き起こされる任意の形態学的及び構造的変化を含むことを意味する。CPEは、例えば、細胞腫脹、細胞溶解、及び細胞死を含み得る。様々な態様では、本明細書に記載のPNA作用物質は、SARS-CoV-2感染に起因する細胞死を低減し、したがって、対象のSARS-CoV-2に感染した細胞の生存率を増加させる。
【0190】
一態様では、PNA作用物質は、SARS-CoV-2関連細胞変性効果を少なくとも50%阻害する。例えば、PNA作用物質は、SARS-CoV-2関連CPEを、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上阻害することができる。
【0191】
SARS-CoV-2関連CPEを阻害するPNA作用物質の有効性は、SARS-CoV-2関連CPEの50%を阻害するのに十分なPNA作用物質の量(すなわち、PNA作用物質のIC50)によって評価することができる。
【0192】
いくつかの態様では、PNA作用物質は、約5μM未満であるIC50で、SARS-CoV-2関連CPEを阻害する。例えば、PNA作用物質のIC50は、約5μM、4、μM、3μM、2μM、1μM、750nM、500nM、250nM、100nM、50nM、10nM未満、又はそれ未満であり得る。
【0193】
本明細書に記載のPNA作用物質は、単独で、又はCOVID19の治療に効率的な別の治療と組み合わせて投与することができる。例えば、PNA作用物質は、抗ウイルス剤と組み合わせて投与することができる。いくつかの態様では、抗ウイルス剤は、レムデシビルである。
【0194】
別の実施形態では、本発明は、細胞におけるSARS-CoV-2標的核酸配列の発現を低減する方法を提供し、これには、標的を発現する細胞を、本明細書に記載のPNA作用物質のうちの少なくとも1つと接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下で観察される標的レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときの細胞における標的のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、PNA作用物質の不在下での標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、SARS-CoV-2標的核酸配列の発現が低減する場合に、PNA作用物質を標的阻害物質として分類することとが含まれる。
【0195】
一態様では、方法は、SARS-CoV-2のウイルス量を検出することを更に含む。
【0196】
別の実施形態では、本発明は、標的核酸配列の阻害物質としてPNA作用物質を同定及び/又は特徴決定するための方法を提供し、これには、SARS-CoV-2標的核酸配列を少なくとも1つのPNA作用物質と接触させることと、PNA作用物質が存在しないときの、その他は同等の条件下の標的参照レベル又は活性と比較して、PNA作用物質が存在するときのシステムにおける標的配列のレベル又は活性を決定することと、PNA作用物質が存在するときに標的のレベル又は活性が、PNA作用物質が存在しないときの標的レベル又は活性と比較して低減し、それにより、PNA作用物質を阻害物質又は標的核酸配列として同定及び/又は特徴決定する場合に、PNA作用物質を標的阻害物質として分類することとが含まれる。
【0197】
一態様では、標的のレベル又は活性を決定することは、発現の標的RNAレベルを決定することを含む。別の態様では、標的のレベル又は活性を決定することは、標的タンパク質レベルを決定することを含む。
【0198】
標的RNAレベル及び/又は標的タンパク質レベルを決定することは、RNA及び/又はタンパク質レベルを決定するための当該技術分野で既知の方法のいずれかを含み得る。標的RNAレベルを決定するための方法の非限定的な例としては、ノーザンブロット分析、ヌクレアーゼ保護アッセイ(NPA)、インサイツハイブリダイゼーション、及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が挙げられる。標的タンパク質レベルを決定するための方法の非限定的な例としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び関連アッセイ、ウエスタンブロット分析、並びに質量分析が挙げられる。
【0199】
いくつかの態様では、標的のレベル又は活性の低減は、標的活性の50~100%超の低減を含む。例えば、標的のレベル又は活性の低減は、標的活性の40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の低減を含む。
【0200】
他の態様では、標的のレベル又は活性の低減は、標的レベルの30%超の低減を含む。例えば、標的のレベル又は活性の低減は、標的レベルの20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の低減を含む。
【0201】
標的RNA又はタンパク質のレベル又は活性を決定することにより、当該標的発現及び/又は活性を阻害するPNA作用物質の有効性を示すことができる。本明細書に記載のPNA作用物質は、SARS-CoV-2核酸を標的とする。阻害物質PNA作用物質におけるSARS-CoV-2標的RNA又はタンパク質のレベル及び/又は活性を低減するAPNA作用物質。SARS-CoV-2標的RNA又はタンパク質のレベル及び/又は活性を低減することによって、PNA作用物質は、SARS-CoV-2感染に関連する細胞死を低減することができ、したがって、標的RNA又はタンパク質のレベル又は活性を決定することにより、PNAが細胞生存率に及ぼす効果を示すことができる。いくつかの態様では、阻害物質PNA作用物質は、細胞における標的RNA又はタンパク質のレベル又は活性を低減し、細胞生存率を増加させる。
【0202】
いくつかの態様では、標的のレベル又は活性の低減は、細胞生存率の約90%超の増加に対応する。例えば、標的のレベル又は活性の低減は、約70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の細胞生存率の増加に対応し得る。
【0203】
感染し、かつSARS-CoV-2感染症によって死亡する組織又は生物における細胞の数に応じて、SARS-CoV-2感染症は、組織及び/又は生物の死につながる可能性がある。標的RNA及び/又はタンパク質のレベル又は活性を低減することによって、PNA作用物質は細胞生存率を増加させることができる。したがって、いくつかの態様では、標的のレベル又は活性は、生物の生存に対応する。いくつかの態様では、阻害物質PNA作用物質は、細胞における標的RNA又はタンパク質のレベル又は活性を低減し、細胞生存率を増加させ、組織又は生物の生存を増加させる。
【0204】
いくつかの態様では、標的のレベル又は活性の低減は、生物の生存の50%超の増加を含む。例えば、標的のレベル又は活性の低減は、約40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の生物生存の増加に対応し得る。
【0205】
本明細書で使用される場合、「システム」という用語は、PNA作用物質の阻害効果を評価するために標的RNA及び/又はタンパク質のレベルを決定することができる任意の支持体を含むことを意味する。システムは、培養物中の細胞などのインビトロシステム、又は細胞、組織、若しくは生物(非ヒト哺乳類及びヒトを含む)などのインビボシステムを含み得る。様々な態様では、システムが組織又は生物であるとき、それは、細胞を含む組織又は生物を意味する。様々な態様では、細胞は、SARS-CoV-2ウイルスを含む。
【0206】
本発明のこれら及び他の態様は、本発明のある特定の特定の実施形態を例示することを意図するが、特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の範囲を限定することを意図するものではない、以下の実施例を考慮することにより更に理解されるであろう。
【実施例
【0207】
実施例1
インビトロ抗ウイルス試験
創薬の重要なステップは、抗ウイルス活性を評価するためのスクリーニングである。適切な化合物及び機構を決定した後、次のステップは、有効性データが有意義であり、妥当な治療域内であることを確認するために、化合物の細胞傷害性分析を行うことである。ここでは、本発明においてSARS-CoV-2 PNAの評価に有用な抗ウイルスアッセイ及びウイルス複製アッセイの短いリストを示す。
【0208】
当業者は、好適なウイルス複製及び感染アッセイを同定することができるであろう。例えば、以下の公表文献は、そのようなアッセイを提供し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:
https://www.essenbioscience.com/en/communications/immunology/viral-replication-and-infection-assays/。
【0209】
更に、Rumlova and Ruml,Biotechnology Advances 36(218)557-576(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)は、抗ウイルス薬、特にSARS-CoV-2感染症に有効な薬物の試験方法の開示を提供する。
【0210】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるタンパク質配列へのリンク。当業者は、提供されるタンパク質配列に基づいて、本発明のPNAで使用するのに好適な配列を決定することができる。当該技術分野では、ウイルスは一本鎖プラスRNAゲノムを有し、それによって標的同定を可能にすることが既知である。
スパイク(S):uniprot.org/uniprot/P0DTC2
核タンパク質(N):uniprot.org/uniprot/P0DTC9
エンベロープ(E):uniprot.org/uniprot/P0DTC4
膜(M):uniprot.org/uniprot/P0DTC5
【0211】
限定されないが、例として、以下を含む、様々なウイルス複製アッセイが、当該技術分野で既知である。
【0212】
細胞変性効果(CPE)阻害アッセイ。CPEは、細胞病原性ウイルス感染によって引き起こされる細胞の形態変化である。CPEアッセイは、CPEを阻害する被験物質の能力を評価するために使用される。これは、全体的な抗ウイルス活性の高スループットスクリーニングのために提供される最も費用対効果が高く、時間効率の良いアッセイである。非細胞変性ウイルスについては、細胞ベースの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを提供する。
【0213】
細胞ベースのELISA。細胞ベースのELISAは、抗ウイルスモノクローナル抗体を使用して、感染細胞におけるウイルス抗原の低減を測定する。抗ウイルス活性の尺度として、未治療対照と比較して、被験物質で治療された感染細胞におけるウイルスタンパク質の存在量を使用する。
【0214】
qPCRアッセイ。qPCRアッセイは、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブ増幅ウイルス特異的標的配列を使用して、ウイルス核酸の存在を検出する。感染細胞におけるウイルス核酸の低減は、被験物質の抗ウイルス有効性の指標として使用される。
【0215】
プラーク低減アッセイ。感染性のウイルス粒子は細胞において増殖し、感染領域の環状ゾーン、プラークをもたらす。プラーク低減アッセイは、異なる濃度の被験物質の存在下でのウイルスのプラーク形成効率を測定する。このアッセイのバリエーションであるプラーク低減中和試験(PRNT)は、ある特定のウイルス(すなわち、フラビウイルス)に対する中和抗体を検出するための絶対的基準とみなされる。
【0216】
収率低減アッセイ。収率低減アッセイは、化合物の抗ウイルス有効性を評価するための、労働集約的であるが強力な技法である。3ステップアッセイは、異なる濃度の被験物質の存在下で細胞を感染させること、ウイルス複製のサイクル後に細胞又は細胞培養上清を収集すること、及びプラークアッセイ、TCID50、又は定量的リアルタイムPCRによってウイルス力価を決定することを伴う。
【0217】
抗体依存性増強(ADE)アッセイ。ADEは、非中和又は部分中和抗ウイルスタンパク質がウイルスの宿主細胞への侵入を容易にし、感染性を向上させるときに生じる。デング熱及びインフルエンザなどのウイルスで観察されているADEは、ワクチン開発における課題である。フローサイトメトリー、プラークアッセイ、又はqPCRを使用して、このアッセイは、Fc受容体担持細胞におけるウイルス感染症に対する被験物質のADE効果を評価する。
【0218】
定量的懸濁試験。この試験は、懸濁液中の所与の接触時間内の化学殺菌剤の殺ウイルス活性を評価するために使用される。一般に、ウイルス力価の4log10低減(99.9%不活性化)が、試験条件下で検出される殺菌剤の殺ウイルス特性の指標である。
【0219】
実施例2
材料及び方法
スクリーニング戦略
細胞ベースのアッセイを用いて、Vero E6宿主細胞に感染するウイルスの細胞変性効果(CPE)を測定した。CPE低減アッセイは、高スループットスクリーニング(HTS)での使用が容易であるため、抗ウイルス剤をスクリーニングするために広く使用されているアッセイ形式である。このアッセイでは、ウイルスに感染した宿主細胞は、ウイルスがゲノム複製のための細胞機構をハイジャックした結果として死滅する。CPE低減アッセイは、ウイルス接種の3日後に宿主細胞の生存率を測定することによって、様々な分子機構を介して作用する抗ウイルス剤の効果を間接的に監視する。抗ウイルス化合物は、ウイルスの細胞変性効果から宿主細胞を保護し、それによって生存率を増加させるものとして同定される。
【0220】
化合物の調製
化合物原液(80μLの150μM水溶液)を空のECHOプレート(原液プレート)のウェルに移した。40μLの各原液試料を、40μLの水を含有する隣接するウェルに移し、混合することによって、化合物を2倍希釈した。このプロセスを繰り返して、各ウェルが前のウェルの2倍希釈試料を含有する連続希釈試料を更に8ウェル作製した。各希釈した試料の600nLのアリコートを、ECHO555音響液体処理システムを使用して、アッセイ準備のできたプレートの対応するウェルに分配した。最終アッセイ濃度範囲は、3.0~0.006μMであった。
【0221】
化合物の抗ウイルス効果の測定のための方法
SARS CoV受容体(ACE2;アンジオテンシン変換酵素2)の発現のために選択されたVero E6細胞を、CPEアッセイに使用した。細胞を、10%HI FBSを補充したMEM中で成長させ、採取し、アッセイ日に2%HI FBSを補充したMEM(1%Pen/Strep)に懸濁した。試験化合物で事前に薬物を入れたアッセイ準備のできたプレートを、各ウェルに5μLのアッセイ培地を添加することによって、BSL-2ラボで調製した。次いで、プレート及び細胞をBSL-3施設に渡した。細胞を、SARS CoV-2(USA_WA1/2020;M.O.I.約0.002)でバッチ接種し、これにより感染の72時間後に細胞生存率が5%となった。25μLのウイルス接種細胞(4,000 Vero E6細胞/ウェル)のアリコートを、アッセイプレートの3~24カラムの各ウェルに添加した。23~24カラムのウェルは、0%CPE低減対照のためにウイルス感染細胞のみを含有した。ウイルス接種の前に、100%CPE低減対照のみの細胞のために、25μLの細胞アリコートを各プレートのカラム1~2に添加した。37℃/5%CO及び90%湿度で72時間プレートをインキュベートした後、30μLのCell Titer-Glo(Promega)を各ウェルに添加した。室温で10分間インキュベートした後、BMG CLARIOstarプレートリーダーを使用して発光を読み取り、細胞生存率を測定した。発光読み取りの前に、透明なカバーでプレートを密封し、表面を除染した。
【0222】
化合物の細胞傷害性効果の測定のための方法
化合物細胞傷害性を、BSL-2カウンタースクリーニングにおいて評価した。培地中の宿主細胞を、25μlのアリコート(4,000細胞/ウェル)で、上記のように試験化合物で調製したアッセイ準備のできたプレートの各ウェルに添加した。細胞のみ(100%生存率)及び100μMの最終濃度(0%生存率)でハイアミン(hyamine)で処理した細胞は、それぞれ、アッセイにおける細胞傷害性効果のための高シグナル対照及び低シグナル対照として機能する。DMSOは、ストック試験化合物濃度の希釈係数によって指示されるように、全てのウェルについて一定の濃度に維持された。37℃/5%CO2及び90%湿度で72時間プレートをインキュベートした後、30μlのCell Titer-Glo(Promega)を各ウェルに添加した。室温で10分間インキュベートした後、BMG PHERAstarプレートリーダーを使用して発光を読み取り、細胞生存率を測定した。
【0223】
データ分析
全てのアッセイについて、プレートリーダーからの生データをActivityBaseにインポートし、値を化合物ID及び試験濃度に関連付けた。
【0224】
抗ウイルスCPE低減アッセイについて、生のシグナル値を、以下の式によってCPE低減%に変換する:
CPE低減%=100×(試験cmpd値-平均値感染細胞対照)/(平均値未感染細胞対照-平均値感染細胞対照)。
【0225】
化合物の細胞傷害性を測定する細胞生存率アッセイについて、細胞生存率%を以下のように計算する:
生存率%=100*(試験化合物値-平均低シグナル対照)/(平均高シグナル対照-平均低シグナル対照)。
【0226】
ActivityBaseのXlfitモジュールを使用して、データの4パラメータロジスティック適合からEC50及びCC50値を計算した。
【0227】
実施例3
抗SARS-CoV-2 PNA作用物質の有効性の評価
表1に示すように、PNA配列及び標的配列を有する5つの異なる抗SARS-CoV-2 PNA(AB01971749、AB01971744、AB01971754、AB01971748、及びAB01971753)の有効性を、実施例2に記載されるCPE低減%及び細胞生存率を測定することによってVero E6細胞で評価した。
【0228】
図1A~1Eに示され、表2に更に詳述されるように、PNAは、53~97%の範囲のCPE阻害パーセントを示し、一方、0.37~0.95μMの範囲のIC50を示した。最大阻害パーセントは、PNAと関連する限定された毒性に翻訳された、IC50に近い範囲内のPNAの濃度で観察された(図2A~2Eを参照されたい)。更に、標的配列は、標的が、特異的に翻訳のためのウイルスゲノム又はmRNAの阻害に限定されないことを図示するために、プラス(配列番号8及び10)及びマイナス(配列番号6、7、9)の両方の鎖標的を含んだ。
【0229】
(表1)抗SARS-CoV-2 PNA配列及び標的配列
【0230】
(表2)抗SARS-CoV-2 PNA有効性の要約
【0231】
本発明は、上記の実施例を参照して記載されてきたが、修正及び変形が本発明の趣旨及び範囲内に包含されることを理解されたい。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0232】
配列
図1
図2
【配列表】
2023529293000001.app
【国際調査報告】