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特表2023-529298血液から血漿を分離するための中空繊維膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】血液から血漿を分離するための中空繊維膜
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230703BHJP
   A61M 1/38 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A61M1/36 119
A61M1/38
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/06
B01D71/68
B01D71/44
B01D65/02 500
B01D69/02
B01D69/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572357
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2021064666
(87)【国際公開番号】W WO2021245075
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】102020206867.4
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ハンゼル ディートマー
(72)【発明者】
【氏名】パウル ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA12
4C077BB10
4C077CC06
4C077EE01
4C077LL05
4C077NN03
4C077PP15
4D006GA02
4D006KC03
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA33
4D006MB09
4D006MB10
4D006MB20
4D006MC07X
4D006MC24
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC40X
4D006MC45
4D006MC49
4D006MC53
4D006MC58
4D006MC59
4D006MC59X
4D006MC62X
4D006MC63
4D006NA04
4D006NA45
4D006NA75
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB09
4D006PB42
4D006PC41
(57)【要約】
本発明は、血液接触層及び支持層を備えて各々が疎水性ポリマー、親水性ポリマー、及びビタミンEを有する血液から血漿を分離するための中空繊維膜にかつ中空繊維膜を提供するためにこの中空繊維膜を生成する方法に関する。中空繊維膜は、中空繊維膜を血漿交換方法に有利に使用することができるような溶血作用の低下によって特徴付けられる。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液接触層及び支持層を備え、各々が疎水性ポリマー、親水性ポリマー、及びビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを含み、前記ビタミンE、特に前記α-トコフェロール又は前記トコトリエノールが、中空繊維膜の総重量に対して0.005~0.25重量%の量で存在する、血液から血漿を分離するための中空繊維膜であって、
50~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定されるアルブミンに対するふるい係数を有することを特徴とし、又は
50~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定される免疫グロブリンMに対するふるい係数を有することを特徴とし、又は
80~100%、好ましくは90~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定される低密度リポタンパク質に対するふるい係数を有する、
ことを特徴とする、前記中空繊維膜。
【請求項2】
中空繊維膜が、少なくとも2つの共押し出し層からなり、前記少なくとも2つの共押し出し層のうちの1つが、前記血液接触層を形成し、前記少なくとも2つの共押し出し層のうちの他方が、前記支持層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の中空繊維膜。
【請求項3】
前記疎水性ポリマーが、ポリスルホンを含むか又はポリスルホンからなり、及び/又は
前記親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなる、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空繊維膜。
【請求項4】
ポリビニルピロリドン含有量が、中空繊維膜の総重量に基づいて、4~9重量%、好ましくは5~8%、より好ましくは5~7%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項5】
250~400μmの直径を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項6】
40~80μmの壁厚を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項7】
表面近傍層における前記血液接触層が、30~60重量%、好ましくは35~55重量%、より好ましは40~50重量%の、XPS測定によって決定されるポリビニルピロリドン含有量を有することを特徴とする、請求項3~6のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項8】
前記血液接触層は、中空繊維膜の内層を形成することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項9】
前記血液接触層の厚みが、1~15μmであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項10】
請求項2~9のいずれか1項に記載の中空繊維膜を生成する方法であって、
15~25重量%の疎水性ポリマー、4~8重量%の親水性ポリマー、0.2~2重量%の極性プロトン性物質、及び0.001~0.05重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、80.799~64.95重量%の極性非プロトン性溶媒を含む紡糸塊Aを提供する工程と、
8~12重量%の疎水性ポリマー、3~7.5重量%の親水性ポリマー、0.001~0.05重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、88.999~81.95重量%の極性非プロトン性溶媒を含む紡糸塊Bを提供する工程と、
70~90重量%の極性非プロトン性溶媒及び10~30重量%の極性プロトン性混合液体を含む内部沈殿剤を提供する工程と、
紡糸ノズルを通して紡糸塊A、紡糸塊B、及び前記内部沈殿剤を共押し出しして紡績糸を形成する工程であって、前記内部沈殿剤が、前記紡糸ノズルの中心ボアを通して押し出され、紡糸塊Bが、前記中心ボアを取り囲む第1の同心環状スリット通して押し出され、紡糸塊Aが、前記第1の同心環状スリットと前記紡糸ノズルの前記中心ボアとを取り囲む第2の同心環状スリットを通して押し出される前記形成する工程と
前記紡績糸を紡糸間隙に通す工程と、
前記紡績糸を沈殿浴の中に導入する工程と、
前記紡績糸を沈殿させて中空繊維膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項11】
前記紡糸塊A及びBは、60~80℃まで焼き戻され、及び/又は前記内部沈殿剤は、50~60℃まで焼き戻されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記紡糸間隙は、5~80mmであり、及び/又は紡糸速度が、300~500mm/sであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
紡糸塊Aの前記疎水性ポリマーは、ポリスルホンを含むか又はポリスルホンからなり、及び/又は
紡糸塊Aの前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなり、及び/又は
紡糸塊Aの前記極性プロトン性物質は、水を含むか又は水からなり、及び/又は
紡糸塊Aの前記極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はこれらの混合物を含むか若しくはこれらの混合物からなり、及び/又は
紡糸塊Bの前記疎水性ポリマーは、ポリスルホンを含むか又はポリスルホンからなり、及び/又は
紡糸塊Bの前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなり、及び/又は
紡糸塊Bの前記極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はこれらの混合物を含むか若しくはこれらの混合物からなり、及び/又は
内部沈殿水の前記極性プロトン性混合液体は、水を有するか又は水からなり、
ことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記内部沈殿剤は、親水性ポリマーを含まないことを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
滅菌中空繊維膜フィルタであって、
請求項1~9のいずれか1項に記載の又は請求項10~14のいずれか1項に従って製造される複数の中空繊維膜のフィルタ、
を備え、
前記中空繊維膜フィルタは、蒸気滅菌方法によって予め滅菌されたものである、
ことを特徴とする、前記滅菌中空繊維膜フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、血液から血漿を分離するための中空繊維膜に関する。そのような中空繊維膜は、患者の体外血液処置治療に使用される。更に、本発明は、そのような中空繊維膜を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空繊維膜は、とりわけ、患者の血液から血漿を分離してそれを適切な形態の処置を用いて処理する体外血液処置の治療に使用されている。そのような中空繊維膜は、従って、血漿膜とも呼ばれる。血液から血漿を分離するための治療法は、血漿交換と呼ばれる。用語「血漿交換」は、血液から血漿を抽出する医療手順を意味する。
【0003】
いくつかの血漿交換方法の間で区別が為される。非特異的血漿交換では、完全な血漿が細胞血液成分から分離される。治療の観点からは、血液から血漿の非特異的分離は、体液均衡、例えば、手順中の血漿増量剤による置換及び/又は患者への新鮮な血漿添加を必要とする。
【0004】
選択的血漿交換は、例えば、自己免疫疾患の治療に使用される。血漿中の血漿タンパク質の一部のみを分離する選択的中空繊維膜がこの目的に対して使用される。治療手順に使用されるカスケード濾過もこの関連で言及されなければならない。ここで血漿は、最初に第1の濾過工程で血液から非特異的に及び次に第2の濾過工程でこの分離血漿から選択的に分離することができる。
【0005】
一般的に、用語「血漿」は、血液の非細胞部分を指す。ヒト血漿は、約90%の水及び10%のそれに溶解された物質、特に同じくコロイド状に含有された血漿タンパク質(例えば、アルブミン、リポタンパク質、免疫グロブリン、フィブリノーゲン)から構成される。血漿は、血漿タンパク質の含有量に起因して水よりも粘性である。血漿粘性は、高分子タンパク質免疫グロブリン及びフィブリノーゲンによって主として決定される。血液体積中の血漿の量は、約55体積%であり、血液細胞成分の量は、相応に約45体積%である。
【0006】
適用される血漿交換手順では、血液は、体外血液処置の過程で患者から採取され、体外血液回路を通じて中空繊維膜フィルタを通過する。血漿分離は、濾過を通じて適切な中空繊維膜上の中空繊維膜フィルタ内で達成される。血漿は、中空繊維膜の膜壁を横切って対流搬送によって(すなわち、圧力差によって)搬送され、かつ分離される。この目的に対して、血液は、中空繊維膜フィルタの中に導入され、かつ通常は中空繊維膜の内腔を通過する。装置によって調節される膜間圧力差は、膜壁の上で血漿を搬送し、それにより、血液の細胞成分が膜壁によって保持される。
【0007】
血漿分離を意図する中空繊維膜は、従って、ここで説明するように治療的血漿分離を可能にするために特定の要件を満足しなければならない。血漿膜の孔隙は、血漿の成分、すなわち、血漿タンパク質が膜を通過することができるようなものである。特に、ある一定の種類の治療は、約2.7MDaの分子量を有する「低密度リポタンパク質」(LDL)のような高分子血漿タンパク質も中空繊維膜の膜壁を通過することができなければならないが、血液細胞は孔隙サイズに起因して保持されることになることを要求する。特定の血漿交換手順に対しては、血漿の全ての血漿タンパク質が膜壁を通過することはできないが、より低い分子量範囲にある血漿タンパク質の一部のみが通過することが要求される場合もある。
【0008】
血液からの血漿分離のための中空繊維膜は、従って、それらの孔隙サイズによって血液透析に使用される公知の中空繊維膜とは異なる。体外血液透析の治療では、患者の血液から低及び中分子量代謝生成物を分離することが特に必要である。しかし、体外血液処置のためのこれらの中空繊維膜は、約66kDaの分子量を有するアルブミンが中空繊維膜によってほとんど完全に保持されるようなものである。対照的に、血漿分離は、細胞成分が膜通過から除外されるが血漿タンパク質が膜壁を通過することができるように、膜の選択層の孔隙サイズが血液の細胞成分と比較してできるだけ大きいことを要求する。
【0009】
中空繊維膜による血液からの血漿の分離は、通常は溶血の有害な発生を伴う。中空繊維膜の大きい孔隙によって引き起こされる膜構造は、濾過に必要な膜間圧力差と組み合わされて血液細胞に機械的に作用し、細胞損傷を引き起こして赤血球を破壊すると疑われている。血漿分離中の溶血反応の発生は、治療の観点から問題である。その場合に、分離された血漿は、ヘモグロビン及び細胞片で汚染され、従ってこの場合は分離された血漿は、更に別の治療段階に使用することはできない。
【0010】
DE 10 2007 019 051 B3は、2つの回転する塊体からの共押し出しによって生成された血液からの血漿の分離のための2層中空繊維膜を明らかにしている。中空繊維膜は、粗メッシュ選択的血液接触層及び多孔質支持層によって特徴付けられる。
【0011】
DE 10 2017 201 630 A1は、紡糸塊が、ある量のビタミンEを含有し、内部沈殿剤が、ある割合の親水性ポリマーを含有する紡糸塊の押し出しによる血液処置のための中空繊維膜の生成を説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE 10 2007 019 051 B3
【特許文献2】DE 10 2017 201 630 A1
【特許文献3】DE 102016224627 A1
【特許文献4】DE10211051
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の問題を考慮し、第1の態様により、溶血作用の低下を示す血液からの血漿の分離のための中空繊維膜を提供する。
【0014】
第2の態様では、血漿分離のための上述の中空繊維膜を生成する方法を見出すことが目的である。
【0015】
根本的な問題の第3の態様は、血漿交換手順に有利に使用することができるような低い溶血作用を有する血液からの血漿の分離のための滅菌中空繊維膜フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様では、根本的な問題は、請求項1の特徴を有する中空繊維膜によって解決される。従属請求項2~9は、有利な実施形態を表している。
【0017】
本発明の第2の態様では、根本的な問題は、請求項10による特徴を有する方法によって解決される。従属請求項11~14は、処理の有利な実施形態を表している。
【0018】
本発明の第3の態様では、根本的な問題は、請求項15による特徴を有する滅菌中空繊維膜フィルタによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、装置の概略図である。
図2図2は、LDLふるい係数の測定用の装置の概略図である。
図3図3は、溶血試験を受けた比較例による中空繊維膜の断面である。
図4図4は、実施例により製造されて溶血試験を受けた中空繊維膜の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の態様は、血液接触層及び支持層を備え、各々が疎水性及び親水性ポリマー及びビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを含む血液から血漿を分離するための中空繊維膜に関連し、ビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールは、中空繊維膜の総重量に基づいて0.005~0.25重量%の割合で存在し、中空繊維膜が、50~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定されるアルブミンに対するふるい係数を有することを特徴とし、又は中空繊維膜が、50~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定される免疫グロブリンMに対するふるい係数を有することを特徴とし、又は中空繊維膜が、80~100%のDIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定される低密度リポタンパク質に対するふるい係数を有することを特徴とする。
【0021】
本発明による中空繊維膜は、有益により低い溶血作用を有し、従って、ビタミンEを含有しない同等の中空繊維膜よりも優れている。これに加えて、本発明による中空繊維膜は、血液凝固の減少傾向及びトリグリセリド濃度の低下の改善された特質も示し、従って、ビタミンEのない同等の中空繊維膜よりも優れてもいる。トリグリセリドは、不十分な親水性の面上に優先的に吸収され、すなわち、治療の過程でフィルタの透過及び選択特質を恒久的に悪化させる。
【0022】
中空繊維膜内のビタミンEの量が、膜面でポリビニルピロリドンの固定を引き起こし、従って、血液からの血漿の分離を意図した大型気孔式中空繊維膜内の溶血作用の改善、すなわち、低下に至ると仮定する。これに関連して、用語「大型気孔」は、アルブミン又は免疫グロブリンM(IgM)又は低密度リポタンパク質(LDL)に関して上述したふるい係数を有する中空繊維膜を指す。好ましくは、血液接触層の面の開口部は、血液から血漿を実質的に分離するために0.1~10μmの幅を有することができる。従来技術で公知の実施形態では、これらの開口部は非常に大きいので、血液からの血漿の分離処理中に血液細胞は、中空繊維膜の膜面の開口部の中に浸透し、処理関連の膜間圧力差によって破裂させる可能性がある。走査電子顕微鏡によって決定されるように、より少ない血液細胞は、本発明による中空繊維膜の膜面で開口部を浸透し、その結果、中空繊維膜の溶血作用の低下が観察されるようになる。有利な実施形態では、中空繊維膜内のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールの割合は、中空繊維膜の総重量に基づいて0.01~0.15重量%、より好ましくは0.03~0.1重量%である。
【0023】
本出願の目的に対して、「アルブミンに対するふるい係数」は、DIN EN ISO 8637-3:2018に従って決定されるアルブミンに対する中空繊維膜の透過率を意味する。アルブミンは、66kDaの分子量を有する血漿タンパク質である。この実施形態により、血液から血漿タンパク質の一部分又はカスケード濾過の過程では血漿から血漿タンパク質の選択的範囲を分離することが可能である。中空繊維膜は、好ましくは、60~100%、より好ましく70~100%のアルブミンに対するふるい係数を有する。
【0024】
本出願の意味内では、用語「免疫グロブリンMに対するふるい係数」は、DIN EN ISO 8637-3:2018の方法に従って決定される免疫グロブリンM(IgM)に対する中空繊維膜の透過率として理解されるものとする。IgMは、950kDaの分子量を有する血漿タンパク質である。この実施形態により、血液から又はカスケード濾過の場合に血漿タンパク質のより大きい特定の分子量範囲を有する血漿から血漿タンパク質の画分を分離することができる。この実施形態によって提供される中空繊維膜は、定められた分子量範囲による血漿の分離を必要とする治療に、例えば、特定の血漿交換に使用することができる。中空繊維膜は、好ましくは、60~100%、より好ましは70~100%のIgMに対するふるい係数を有する。
【0025】
本出願の意味内では、用語「低密度リポタンパク質に対するふるい係数」は、DIN EN ISO 8637-3:2018の方法に従って決定される低密度リポタンパク質(LDL)に対する中空繊維膜の透過率として理解されるものとする。LDLは、2,700kDaの分子量を有する血漿タンパク質である。この実施形態により、分離処理、例えば、非特異的血漿交換で血液から血漿タンパク質の全体を分離することができる。この実施形態によって提供される中空繊維膜は、血液からの血漿の完全な分離を必要とする治療に使用することができる。中空繊維膜は、好ましくは、80~100%、より好ましは90~100%のLDLに対するふるい係数を有する。
【0026】
本出願の意味内では、「血液接触層」は、体外血液処置で患者の血液に露出される層を構成する中空繊維膜のうちの1つの層として理解される。有利なことに、血液接触層は、1μm~15μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは3~6μmの厚みを有し、その多孔質構造は、血液からの血漿の有効な分離を可能にするように設計される。好ましくは、血液接触層内の孔隙のサイズは、0.1~10μmとすることができる。本出願の範囲では、「支持層」は、中空繊維膜フィルタに更に加工される中空繊維膜に対して及び滅菌処理において必要な機械的安定性を提供する層として理解されるものとする。支持層の厚みは、好ましくは、25~79μm、又は30~77μm、又は34~74μmである。好ましくは、血液接触層及び支持層の孔隙構造は異なる。血液接触層の孔隙はまた、好ましくは、支持層のものよりも小さい。異なる孔隙構造は、非溶媒誘起式位相反転処理での中空繊維膜の製造工程により、例えば、「乾湿」紡糸工程によって選択的に調節することができる。温度誘起式位相反転処理も考えられる。
【0027】
本出願の意味内では、「疎水性ポリマー」は、0.1g/l未満の水中溶解度を有するポリマーとして理解されるものとする。本発明の目的に対して、使用することができる疎水性ポリマーは、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン、スルホン基を含有するコポリマー、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、及びポリウレタン(PU)である。本出願の意味内では、「親水性ポリマー」は、少なくとも1g/lの水中溶解度を有するポリマーであるとして理解される。本発明の目的に対して、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレングリコール及びこれらのコポリマーは、親水性ポリマーとして使用することができる。本出願の関連では、用語「水中溶解度」は、疎水性/親水性ポリマーが水に溶解していずれの濁度、ゾルゲル形成、凝集、又は沈殿の発生もなしに光の可視波長範囲の目視観察によって光学透明溶液をもたらすことを意味する。
【0028】
本出願の意味内では、用語「ビタミンE」は、抗酸化作用を有する脂溶性物質に対する一般用語として理解されるものとする。特に、この用語は、頻繁に生じるビタミンE形態のトコフェロール、トコトリエノール、トコモノエノール(T1)、及びMDT(海洋からのトコフェロール)を包含する。
【0029】
第1の態様による実施形態では、本発明は、中空繊維膜が、少なくとも2つの共押し出し層から構成され、少なくとも2つの共押し出し層のうちの1つが血液接触層を形成し、少なくとも2つの共押し出し層の他方が支持層を形成することを特徴とする。この実施形態により、中空繊維膜に2つの層を提供し、従って、これらの機能に関して個々の層を血液接触層として及び支持層として改善することができる。特に、血液接触層及び支持層の層厚、組成、及び孔隙構造は、機能が異なることができる。実施形態は、血液接触層が溶血作用に関して最適化されるという利点を提供するが、支持層は、機械的安定性、特に中空繊維膜の滅菌耐性に関して有利に設計される。
【0030】
第1の態様による実施形態及び上述の実施形態では、本発明は、血液接触層が中空繊維膜の内層であり、支持層が外側層であることを特徴とする。そのような実施形態により、血液接触層は、分離挙動に関して特に正確に設計することができる。
【0031】
第1の態様による更に別の実施形態では、本発明は、疎水性ポリマーがポリスルホンを含むか又はポリスルホンからなること、及び/又は親水性ポリマーがポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなることを特徴とする。用語「ポリスルホン」は、ポリマーの主鎖又は側鎖にスルホン基を有するポリマーとして理解される。本出願の意味内では、用語「ポリスルホン(PSU)」は、スルホン基を含有する全てのポリマーに対する一般用語であるとして理解される。ポリスルホンベースの材料の典型的な代表は、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン、及びスルホン基を含有するコポリマーである。ポリスルホン材料は、これらが蒸気滅菌可能であり、良好な血液適合性を有し、従って、血液処置膜の製造で他の材料よりも優れていることが証明されている。
【0032】
【化1】
【0033】
第1の態様による更に別のバージョンでは、中空繊維膜は、中空繊維膜内のポリビニルピロリドン含有量が4~9重量%、好ましくは5-8%、より好ましくは5-7%であることを特徴とする。ポリビニルピロリドン含有量により、中空繊維膜は、血液に対する親水性の特徴を有する。これに関連して、用語「親水性中空繊維膜」は、中空繊維膜が事前親水化処理、例えば、水による中空繊維膜の圧力濯ぎを必要とせず、血液によって完全に湿らすことができることを意味する。血液による中空繊維膜の容易な濡れ性は、血漿分離処理で血漿又は血漿の一部の有効な分離を可能にする。
【0034】
用語「ポリビニルピロルドン」は、ビニルピロリドン又はその誘導体の反復単位を含有するポリマーを定める。PVPは、水溶性ポリマーであり、それが疎水性ポリスルホン材料を親水化し、従って、それを血液に対してより濡れ性にし、従って、ポリスルホンで作られた中空繊維膜の血液適合性を改善する。他のコモノマーは、ビニルピロリドン、例えば、酢酸ビニルポリマーに添加とすることができる。これらのコポリマーは、これらが特に安定なヒドロゲルを形成するという利点を有する。驚くべきことに、溶血の傾向は、PVP含有量が非常に高く設定される時に特に減少することが見出されている。
【0035】
【化2】
【0036】
第1の態様による更に別の実施形態では、中空繊維膜は、250~400μm、好ましくは280~380μm、より好ましくは300~360μmの内径を示すことを特徴とする。内径が小さすぎる場合に、膜間圧力は上昇し、従って、溶血傾向は増大し、内径が大き過ぎる場合に濾過性能は低下する。
【0037】
第1の態様又は第1の態様の上述の実施形態のうちの1つによる更に別の実施形態では、中空繊維膜は、壁厚が40~80μmに及ぶことを特徴とする。壁厚は、中空繊維膜の好ましい強度を引き起こす。約80μmよりも大きい壁厚は、中空繊維膜の濾過特性への悪影響を有する。有利な壁厚は、50~70μm、より好ましくは60~70μmである。
【0038】
第1の態様の上述の実施形態のうちの少なくとも1つによる更に別の実施形態では、中空繊維膜は、XPS測定によって決定される表面近傍層での血液接触層が30~60重量%、好ましくは35~55重量%、より好ましは40~50重量%のポリビニルピロリドン含有量を有する。血液接触層の表面近傍層でのポリビニルピロリドン含有量は、紡糸塊内の疎水性ポリマー、好ましくはPSUと親水性ポリマー、好ましくはPVPとの事前設定比によって中空繊維膜の生成中に調節することができる。一実施形態では、血液接触層が得られる紡糸塊の組成は、より高い割合のPVPが支持層と比較して存在するように選択される。中空繊維膜の血液接触層を形成する紡糸塊内のビタミンEのこの割合は、中空繊維膜の製造工程中に表面近傍層にPVPを固定し、従って、血液接触層、特に血液接触層の面近傍に高い割合のPVPをもたらすと仮定する。図4及び図5による電子顕微鏡画像は、より少ない血液細胞が、ビタミンEを含有しない同等の中空繊維膜内よりも、本発明による中空繊維膜内の血液接触層の開口部を浸透することを示している。驚くべきことに異なる知見は、基準中空繊維膜と比較して、本発明による中空繊維膜について観察された、より低い溶血作用と相関している。明らかに、血液接触層の開口部の中への血液細胞の浸透は、血液から血漿を分離するための中空繊維膜上で観察される溶血の決定的な原因である。
【0039】
第1の態様の上述の実施形態のうちの少なくとも1つによる更に別の実施形態では、中空繊維膜は、血液接触層の反対側の中空繊維膜の表面近傍層がXPS測定によって決定される25~50重量%、好ましくは30~45重量%、より好ましは30~40重量%のポリビニルピロリドン含量を有することを特徴とする。この実施形態は、血液接触側の反対側の面でも血漿成分の低い吸着を保証する。
【0040】
第1の態様の上述の実施形態のうちの少なくとも1つに従った更に別の実施形態では、中空繊維膜は、XPS測定によって決定される血液接触側の表面近傍層と血液接触側の反対側の中空繊維膜の面の表面近傍層との間の重量%でのPVP含有量の差が少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも7重量%、より好ましくは少なくとも10重量%の値を有することを特徴とする。この実施形態は、特に血液及び血漿成分の低い全吸着を有する。
【0041】
別の実施形態では、中空繊維膜は、血液接触層が中空繊維膜の内層を形成することを特徴とする。この実施形態は、従って、血液接触層が中空繊維膜の外側層を形成する実施形態に比べて溶血傾向を軽減する。更に、そのような実施形態は、治療終了後にフィルタ内の残留血液の量を蓄積しにくくする。
【0042】
第1の態様による更に別のバージョンでは、中空繊維膜は、血液接触層の厚みが1~15μmであることを特徴とする。血液接触層の層厚は、その高い孔隙率により中空繊維膜の機械的安定性にほとんど寄与しない。血液接触層の層厚は、中空繊維膜の強度を損なわないために支持層に比べて大き過ぎないようにすべきある。
【0043】
第2の態様では、本発明は、本発明による中空繊維膜を生成する方法に関連し、本方法は、以下の処理工程を含む:
15~25重量%の疎水性ポリマー、4~8重量%の親水性ポリマー、0.2~2%の極性プロトン性物質、及び0.001~0.05重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、83.799~64.95重量%の極性非プロトン性溶媒を含む紡糸塊Aを提供する工程、
8~12重量%の疎水性ポリマー、3~7.5重量%の親水性ポリマー、0.001~0.05重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、88.999~81.95重量%の極性非プロトン性溶媒を含む紡糸塊Bを提供する工程、
70~90重量%の極性非プロトン性溶媒及び10~30重量%の極性プロトン性混合液体を含む内部沈殿剤を提供する工程、
紡績糸を形成するのに紡糸ノズルを通して内部沈殿剤が紡糸ノズルの中心ボアを通して押し出され、紡糸塊Bが中心ボアを取り囲む第1の同心環状スリット通して押し出され、紡糸塊Aが第1の同心環状スリットを取り囲む第2の同心環状スリット及び紡糸ノズルの中心ボアを通して押し出される紡糸塊A、紡糸塊B、及び内部沈殿剤を共押し出しする工程、
紡績糸を紡糸間隙に通す工程、
沈殿浴の中に紡績糸を導入する工程、及び
中空繊維膜を形成するのに紡績糸を沈殿させる工程。
【0044】
製造工程は、いわゆる「乾湿」紡糸工程に基づいている。「乾湿」工程では、紡糸塊は、紡糸ノズルを通して押し出され、乾式紡糸間隙を通過し、その後に沈殿浴の中に導入される。「紡糸間隙」は、紡糸ノズルの出口開口部と沈殿浴の間の垂直セクションを指し、それを通じて、押し出された紡績糸は、それが沈殿浴の中に導入される前に通り過ぎる。「紡糸塊」は、均質ポリマー溶液である。「紡績糸」は、最終的な膜構造をまだ形成していないノズルから押し出された紡糸塊であることは理解される。中空繊維膜を生成する本方法では、紡糸工程は、2つの紡糸塊及び内部沈殿剤の共押し出しによって行われる。紡糸塊Aは、中空繊維膜の支持層を形成する。紡糸塊Bは、中空繊維膜の血液接触層を形成する。紡糸塊A及びBの組成及び内部沈殿剤の組成、並びに紡糸塊の温度制御、紡糸ノズルの温度制御、紡糸速度、紡糸間隙の高さのような回転パラメータの選択は、中空繊維膜の多孔質特性をもたらす。これに関連して「極性非プロトン性」溶媒は、紡糸塊内の疎水性及び親水性ポリマーを溶解するが、低いCH酸性度を有するに過ぎない溶媒として理解される。極性非プロトン性溶媒の典型的な代表は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN-メチルピロリドン(NMP)である。「極性プロトン性物質」は、CH酸性物質として理解される。好ましい代表は、水、エタノール、又はメタノールである。
【0045】
沈殿浴の温度は、50~80℃、特に60~70℃に調節される。沈殿浴の温度制御は、紡糸間隙内の大気湿度の調節を可能にし、その結果、紡績糸の外側の孔隙形成がサポートされるようになる。沈殿浴は、好ましくは、水溶液からなり、特に適切なものは、5重量%未満の言及した非プロトン性極性溶媒のうちの1つを含有する水である。
【0046】
紡糸塊内の個々の成分の割合は、紡糸塊の粘性に対して決定的である。紡糸塊溶液Aの粘性は、7000~18000mPa・s、特に9000~14000mPa・sである。紡糸溶液Aは、典型的には、15~25重量%、好ましくは18~23重量%、より好ましくは19~21重量%の疎水性ポリマー、特にポリスルホン(PSU)、4~8重量%、好ましくは5~7重量%、より好ましくは5~6重量%の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドン(PVP)、0.02~2重量%、好ましくは0.5~1.5重量%、より好ましくは0.8~1.2重量%の極性プロトン性物質、好ましくは、水、0.001~0.05重量%、好ましくは0.005~0.03重量%、より好ましくは0.008~0.02重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、及び80.799~64.95重量%、又は76.495~64.95重量%、又は75.192~64.95重量%の極性非プロトン性溶媒、好ましくはDMAcを含有する。好ましいのは、例えば、17.5~22.5重量%のPSU、5~8重量%のPVP、0.008~0.02重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールであり、100重量%までの残余はDMAcである。
【0047】
紡糸塊溶液Aの粘性は、Haakeからの回転体「MV1(MV-DIN)」(剪断速度7.7/s)を用いてステップr.2(6rpm)において40℃で回転粘度計(ドイツのHaakeからのVT 550)を使用して決定された。
【0048】
紡糸塊溶液Bの粘性は、好ましくは、1000mPa-s未満であり、8~12重量%、好ましくは9~11重量%、より好ましくは9.5~10.5重量%の疎水性ポリマー、好ましくはPSU、3~7.5重量%、好ましくは4.5~7重量%、より好ましくは5~6重量%の親水性ポリマー、好ましくはPVP、0.001~0.05重量%、好ましくは0.005~0.03重量%、より好ましくは0.008~0.02重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノール、及び88.999~81.95重量%、又は86.495重量%、又は85.492重量%の極性非プロトン性溶媒、好ましくはDMAcを含有する。好ましくは9~10重量%のPSU、5~6重量%のPVP、0.008~0.02重量%のビタミンE、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールであり、100重量%までの残余はDMACである。
【0049】
紡糸塊溶液Bの粘性は、Haakeからの回転体「MV1(MV-DIN)」(剪断速度38.7/s)を用いてステップr.3(30rpm)において40℃で回転粘度計(ドイツのHaakeからのVT 550)に従って決定された。
【0050】
2つの紡糸塊A及びBの異なる粘性は、2つの共押し出し層で異なる孔隙率を生じる。紡糸塊Aは、中空繊維膜の支持層をもたらし、紡糸塊Bは、中空繊維膜の血液接触層をもたらす。
【0051】
紡糸塊溶液Bの粘性に関して、これは、典型的には、300mPa-sを下回わらないはずであり、そうでなければ、紡糸塊Bは、もはや均一に押し出されない可能性がある。
【0052】
本発明の関連では、膜壁の厚み及び中空繊維膜の内径は異なる可能性がある。本発明による中空繊維膜の膜壁の厚みは、典型的には、40~80μm、好ましくは50~70μm、より好ましくは60~70μmである。
【0053】
70~90重量%、好ましくは75~85重量%、より好ましくは78~82重量%の極性非プロトン性溶媒、好ましくはDMAc、及び10~30重量%、好ましくは25~15重量%、より好ましくは22~18重量%の極性混合液体、好ましくは水を含むか又は水からなる内部沈殿剤により、層Bの望ましい多孔質構造は、本発明による処理によって形成される。本発明の目的に対して、「極性プロトン性混合液体」は、CH酸性液体、好ましくは、水、エタノール、又はメタノールである。
【0054】
第2の態様によるバージョンでは、処理は、紡糸塊A及びBが、60~80℃、好ましくは65~75℃まで焼き戻され、及び/又は内部沈殿剤が、50~70℃、好ましくは55~65℃まで焼き戻されることを特徴とする。
【0055】
紡糸工程での膜形成の速度は、紡糸速度に影響を受ける。紡糸速度は、毎秒300~500mm、好ましくは毎秒350~480mm、より好ましくは毎秒380~430mmである。「紡糸速度」は、紡績糸が紡糸間隙を通過する速度を示す。更に、紡糸間隙の高さは、紡糸工程での膜形成に影響を与える。本発明による工程では、紡糸間隙は、5~80mm、好ましくは10~50mm、より好ましくは15~40mmである。
【0056】
更に、中空繊維膜の洗浄工程は、紡糸工程に組み合わされる。沈殿した中空繊維膜は、いくつかの濯ぎ浴を通過し、工程中に濯がれる。濯ぎ浴の温度は、典型的には、60~80℃の範囲にある。濯ぎ浴では、中空繊維膜は、沈殿後に中空繊維膜に固定されない溶媒及び過剰なPVPから遊離される。中空繊維膜は、ポリビニルピロリドンのこの部分から可能な限り多く遊離され、その理由は、そうでなければ中空繊維膜から溶出される可能性があるPVPが治療処置で血流に入る可能性があるからである。
【0057】
濯ぎ工程後に、中空繊維膜は乾燥させられる。これは、好ましくは90~160℃、好ましくは100~150℃、より好ましくは120~140℃で行われる。
【0058】
第2の態様による更に別の実施形態では、本方法は、以下を特徴とする:
紡糸塊Aの疎水性ポリマーが、ポリスルホンを含むか又はポリスルホンからなること、及び/又は
紡糸塊Aの親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなること、及び/又は
紡糸塊Aの極性プロトン性物質が、水を含むか又は水からなること、及び/又は
紡糸塊Aの極性非プロトン性溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はこれらの混合物を含むか若しくはこれらの混合物からなること、及び/又は
紡糸塊Bの疎水性ポリマーが、ポリスルホンを含有するか又はポリスルホンからなること、及び/又は
紡糸塊Bの親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドンを含むか又はポリビニルピロリドンからなること、及び/又は
紡糸塊Bの極性非プロトン性溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はこれらの混合物を含むか若しくはこれらの混合物からなること、及び/又は
内部沈殿水の極性プロトン性混合液体が、水を有するか又は水からなること。
【0059】
第2の態様による更に別のバージョンでは、工程は、内部沈殿剤が親水性ポリマーを含有しないことを特徴とする。驚くべきことに、PVPのような高濃度の親水性ポリマーは、PVPのような対応する親水性ポリマーを内部沈殿剤に添加する必要なく本発明の方法により血液接触層の表面近傍層に生成することができることが見出された。
【0060】
中空繊維膜は、これらの生成に続いて滅菌される。中空繊維膜は、中空繊維膜フィルタの製造に最初に使用される。中空繊維膜フィルタの製造は、熟練者に公知であり、ここでは詳細に説明しない。これに関連して、実験的な中空繊維膜フィルタの製造を説明する本明細書に含まれるこの方法の説明も参照されたい。
【0061】
本発明による中空繊維膜フィルタを滅菌する方法は、同じく当該技術で公知である。本明細書に説明する中空繊維膜の滅菌は、DE 102016224627 A1に詳細に説明された方法に従って行われたものである。
【0062】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による複数の中空繊維膜を備えた又は本発明の第2の態様による方法によって生成された滅菌中空繊維膜フィルタに関連し、中空繊維膜フィルタは、蒸気滅菌工程によって予め滅菌されている。
【0063】
図面に基づく本発明の説明
方法
以下では、本発明による中空繊維膜を特徴付ける方法及び比較中空繊維膜を説明する。
【0064】
1.中空繊維膜フィルタの製造
中空繊維膜フィルタの製造には、330μmの内径及び65μmの壁厚を有する中空繊維膜が使用される。中空繊維膜は、中空繊維膜の内部を封入する第1の空間(「血液側」)が形成され、かつ中空繊維膜の間の空間を封入する第2の空間(「濾液側」)が形成されるように、硬化性埋め込み塊体材料で中空繊維膜フィルタのハウジングの端部で束ねられて密封される。使用する埋め込み材料は、BASF(elastogran)(ポリオールC6947及びイソシアネート136 20)からのポリウレタンである。ハウジング直径、バンドル端部の埋め込み高さ、及び中空繊維膜の有効長は、ドイツのバートホンブルク所在のFresenius Medical Careから市販の血漿フィルタ「plasmaFlux P1」及び「plasmaFlux P2」に対応する。中空繊維膜の有効長は、埋め込みなしの中空繊維膜の長さであり、これは、ふるい係数、血液適合性データ、及び限外濾過係数のような透過特性の決定に利用することができる。調査した中空繊維膜フィルタの活性中空繊維膜長から得られる有効膜面積は、2つの異なる実施形態では0.3及び0.6m2である。フィルタは、DE 102016224627により蒸気滅菌される。
【0065】
2.中空繊維膜内のポリビニルピロリドン含有量を決定するための測定方法
方法1に説明するような滅菌中空繊維膜フィルタから膜の1gが取り出され、等温発生器(ドイツのPorotec、Hofheim/Ts)に置かれる。測定は、0%相対湿度で開始され、重量が一定になるまで待つ。その後に、湿度は10%ステップで増加し、60%相対湿度に達するまで重量が一定になるまで待つ。測定は、25℃及び40℃で行われる。
【0066】
PVP含有量の決定のために、実施形態に使用するようなポリスルホンの顆粒及びPVPの粉末の吸水率が、比較のために決定された。結果は、以下の表に示されている。

25℃の試験温度で検査された中空繊維膜サンプルのPVP含有量の決定は、式1により行われる:
式1
40℃の試験温度で検査された中空繊維膜サンプルのPVP含有量の決定は、式2により行われる:
式2
【0067】
3.試験血液の露出(溶血試験)
調査中の空繊維膜の血液適合性の決定のために、ヒト試験血液が中空繊維膜と接触状態にされる。これに関連して血液適合性は、中空繊維膜の溶血及び吸着特性(トリグリセリド及び血小板吸着)を表している。この目的に対して、ヒト全血の500mlが、血液凝固又は血小板特性に影響を与える可能性があるいずれの薬剤も服用していない健康な献血者から17G(1.5mm)の針で採取される。採取した血液は、以下に説明するようにヘパリン化される。生理食塩水の50mlで希釈された750IUのヘパリンが血液バッグに入れられる。全血は、提供するヘパリン溶液に添加され、混合されて混合物の1ml当たり1.5IUのヘパリン濃度を与える。献血後30分以内に中空繊維膜の血液適合性を決定する方法が開始される。
【0068】
調査すべき中空繊維膜は、図1に概略的に示す装置内の中空繊維膜フィルタ内で検査される。図1に示すように、装置1-1は、方法1に説明されているような構成で血漿分離1-2に対して調査すべき中空繊維膜フィルタを含む。装置は、配管システム1-3、蠕動ポンプ1-4、採血部位1-5、血液のためのリザーバ1-6、中空繊維膜フィルタ1-2の血液出口1-8にある圧力センサ1-7、及び中空繊維膜フィルタ1-2の血液入口1-10にある圧力センサ1-9を更に備える。本明細書に説明するようなヘパリン化血液の113mlがこの決定のために使用された。血液は、装置1-1を通じて蠕動ポンプ1-4(製造業者:ドイツのFresenius Medical Care)の支援により中空繊維膜フィルタ1-2を通じて配管システム1-3(材料:PVC、製造業者はドイツのFresenius Medical Care)を通してポンピングされた。新しいホースシステムが各測定に使用された。装置1-1全体は、測定前に30分にわたって0.9%(w/v)の生理食塩水で濯がれた。装置を血液で充填するために、濯ぎ液は、装置の中に導入された血液によって低ポンプ速度で置換され、装置が純血液で充填されるまで又は中空繊維膜フィルタの濾液側が血漿で充填されるまで排出される。血液の充填量は113mlであった。置換された溶液は廃棄された。
【0069】
濾過された血漿は、中空繊維膜フィルタから吐出され、中空繊維膜フィルタ1-2の血液排出口1-8の下流の血液の中に再導入される。露出実験は、例えばインキュベータ(ドイツのMemmert)内で予め決められた期間にわたって37℃で行われる。測定開始時に及び予め決められた時間後に、サンプルは、採血部位1-5で採取される。血液出口1-8及び血液入口1-10での圧力が測定され、決定中に一定の条件を保証する。有意な圧力変化の場合に、測定を廃棄しなければならない。血液は、200ml/minの流量で装置を通してポンピングされた。
【0070】
4.濾過試験中に膜間圧力を測定するための測定方法
膜間圧力(TMP)は、図1に示す圧力計P1、P2、及びP3に従って決定される。式3が適用される:
式3
【0071】
5.血液中の血小板濃度の決定のための測定方法
血液中の血小板濃度の決定のために、露出試験前後の予め決められた時間に採取された血液サンプルが評価される。解析データは、電気抵抗測定原理によりSymex(血球数決定)からK-4500デバイスで決定される。赤血球及び血小板に適する毛細管が、デバイスの測定ユニットに使用される。測定トランス及び電極は、一定の電流が内側及び外側電極の間を流れることができるように導電性液体に浸される。非導電性血小板は、測定変換器の開口部を通して引き出される。細胞が通過する場合に、それは、希釈液を置換する。細胞の電気抵抗は希釈液のそれよりも高いので、抵抗変化に比例する電圧変化が生じる。電圧上昇は細胞体積に比例し、その結果、赤血球と血小板の区別も可能である。決定された血小板数は、中空繊維膜の血液接触層で生じる血液凝固の尺度である。血小板の高い吸着損失は、凝固する傾向及び従ってフィルタに閉塞を形成する傾向を高める。
【0072】
6.ヘモグロビン値(HGB)の決定のための測定方法
露出実験の前及び後の予め決められた時間に採取された血漿サンプルが評価される。HGBは、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)法を使用して測定される。ヘモグロビン濃度は、HGBキュベットで555nmの波長で決定される。7倍のセルホルダを備えた分光光度計EVOLUTION 210(ドイツのドライアイヒのThermo Fisher Scientific)は、「遊離ヘモグロビン」測定法でこの目的に対して使用される。ドイツのギーセンのBrandからの使い捨て細胞1.5mlのセミミクロPMMAが使用される。ヘモグロビンは、血漿の分離中に破壊された血液細胞、特に赤血球に由来する。決定されたヘモグロビン値は、調査中の空繊維膜の溶血作用の尺度である。決定されたヘモグロビン値が低いほど、中空繊維膜の溶血作用は低くなる。遊離ヘモグロビンは、赤血球の破壊の尺度である。
【0073】
7.トリグリセリド濃度のための測定方法
露出試験の前及び後の予め決められた時間に採取された血液サンプルが評価され、血液中のトリグリセリド濃度が決定される。トリグリセリドのパーセント損失は、この差から決定される。トリグリセリド濃度は、以下の方法によって決定される:全血液サンプルは、1.2mlのLi-Heparin モノベット(ドイツのニュームブレヒトのSarstedt companyのRef.No.06.1666.001)の中に引き込まれ、4000rpmで10分間遠心分離される。血漿は、サンプル容器の中に移送される。トリグリセリドは、変換されて呈色反応に利用される。Wahlefeldによる方法は、グリセロールへの完全な加水分解、続いてジヒドロキシアセトンリン酸及び過酸化水素への酸化にリポタンパク質リパーゼを使用する。得られる過酸化水素は、トリンダーによる終点反応において4-アミノフェナゾン及び4-クロロフェノールとペルオキシダーゼの触媒作用下で赤色色素を形成し、これは、トリグリセリドに比例して測光的に決定することができる。「TRIGL」法を備えたCobas INTEGRA 400プラスアナライザ(ドイツのマンハイムのRoche Diagnostic)が、この目的に対して使用される。この方法を使用して、露出時間後にmg/dlでトリグリセリド濃度の低下を計算することができる。
【0074】
8.走査電子顕微鏡による膜面上の赤血球の決定のための測定方法
露出実験の終了時に、ポンプ速度は、望ましい膜間圧力(TMP)に達するまで増加される。後述する中空繊維膜の比較例の場合に、130mmHgのTMPが設定され、後述する実施例の場合に、183mmHgのTMPが設定された。次に、実験は中断され、フィルタは、等張生理食塩水で洗浄される。個々の中空繊維膜が、中空繊維膜フィルタから採取される。取り出された中空繊維膜は、中空繊維膜の内面が露出されるように開かれ、走査電子顕微鏡で検査することができる。走査電子顕微鏡は、5kVの加速電圧及び3000倍の倍率で行われる。膜の中への赤血球の浸透挙動の定性的説明が行われる。
【0075】
9.表面近傍層内のポリビニルピロリドンの決定のための測定方法(XPS)
血液接触層の表面近傍層でのポリビニルピロリドンの含有量は、光電子分光法(XPS又はESCA)によって測定された。この方法は、中空繊維膜の血液接触層の面に隣接する5~10nmの層内のポリビニルピロリドンの量を決定するのに使用される。XPS法によって検査されるこの層は、本出願の目的に対して「表面近傍層」と呼ぶ。表面近傍層を検査するために、予め決められた測定条件がこの目的に対して設定される。
【0076】
この方法を以下に説明する。中空繊維膜は、この場合に血液接触層の面を表す中空繊維膜の内面が露出されるように、外科用メスで長手方向に切断される。このサンプルは、サンプルプレート上に固定されてサンプルチャンバに置かれる。以下の測定条件が設定される:
-装置:Thermo VG Scientific,Type K-Alpha
-励起放射:単色のX線放射、Al Kα、75W
-サンプルスポットの直径:200μm
-通過エネルギ:30eV
-ソースとアナライザの間の角度:54°
-Ag3d信号に対するスペクトル分解能:0.48eV
-真空:10-8mbar
-電荷は、フラッドガンの支援により補償された。
XPS測定は、ドイツのミュンスターのNanoanalyticsで行われた。表面近傍層でのPVPの含有量は、式4により窒素(N)及び硫黄(S)の原子%で決定された値を使用して決定された。PVP及びポリスルホン内の反復単位の公知の分子量が使用される。
式4
式4は、ビスフェノールAベースのポリスルホンの使用に有効である。
他のポリスルホンに対して、硫黄を含有する反復単位の分子量を使用しなければならない。コポリマーの場合に、コポリマー内の硫黄含有反復単位の割合を考察に入れなければならない。
表面近傍層内のPVP含有量は、3つの中空繊維膜サンプルを使用して実施され、これらの測定値の平均値が計算される。
【0077】
10.アルブミン、IgM、LDL-ふるい係数の決定のための方法
方法1に説明されているような中空繊維膜フィルタが、LDLふるい係数を決定するのに使用される。ヒト全血が、規格DIN EN ISO 8637-3:2018に従って測定に使用される。LDLふるい係数の測定のために、図2に説明されているような装置が使用される。測定を開始する前に、システムは、完全な換気の下で2lの生理食塩水で充填され、かつ濯がれる。中空繊維膜フィルタ2-2は、濯ぎ工程後に濾液側を空にされ、それにより、血液出口2-3を閉じる必要がある。濾液は、測定モードで下側濾液出口2-4で収集される。以下の組成を有するヒト全血が測定に使用される:
%でのヘマトクリット値(HKT):40±2
%での総タンパク質(TP):6±0.5
トリグリセリド(mg/dl):200-300
以下の測定条件が設定される:
【0078】
濯ぎ工程後に、中空繊維膜フィルタ2-2の血液側は、ヒト全血で充填される。希釈効果を回避するために、最初の200mlは廃棄される。次に、全血は、装置2-1内で循環される。10分後に、濾液ポンプ2-5は、血漿が濾液側に移送されるように開始される。濾液蓄積下で30分の更に別の循環時間の後に、圧力値が記録され、サンプルは、サンプリング部位で2-10(血液入口)及び2-20(濾液)を採取され、LDL及びIgM、並びにアルブミンの各々の濃度が決定される。この目的に対して、「Roche Diagnostic」からの自動アナライザ「Cobas Integra 400 plus」が、対応する特定の方法と共に使用される。
ふるい係数Sは、式5により計算される:
式5
F=濾液中の検体の濃度
in=フィルタ入口での血液中の検体の濃度
膜間圧力(TMP)は、式6に従って決定される:
式6
【0079】

実施例:本発明による中空繊維膜を生成する方法
紡糸塊A、紡糸塊B、及び内部沈殿剤媒体が、本発明による中空繊維膜の生成のために提供される。紡糸塊Aは、20重量%ポリスルホン(Solvay Udel 3500,LCD)、6重量%ポリビニルピロリドン(ISP、PVP K90)、1重量%水、0.01重量%ビタミンE、及び72.99重量%ジメチルアセトアミド(DMAc)を混合することによって調製される。紡糸塊Bは、10重量%のポリスルホン、5.5重量%のポリビニルピロリドン、0.01重量%のビタミンE、及び84.49重量%のDMAcを混合することによって調製される。紡糸塊は、一定になるまでこれらを注意深く脱気しながら72℃まで焼き戻される。稠度は、1時間の期間にわたってそれ以上気泡が出現しなくなる時に達成される。紡糸工程に対して、紡糸塊は、70℃まで焼き戻される。
内部沈殿剤は、80重量%のDMAc及び20重量%の水からなる。紡糸工程に対して、沈殿剤は60℃まで焼き戻される。
DE10211051に説明されているような紡糸ノズルが使用された。紡糸工程に対して、内部沈殿剤、紡糸塊A、及び紡糸塊Bは、紡糸ノズルを通して共押し出しされて紡績糸を形成した。沈殿剤は、紡糸ノズルの中心ボアを通して押し出された。紡糸塊Bは、紡糸ノズルの中心ボアを取り囲む第1の同心環状スリットを通じて押し出された。紡糸塊Aは、第1の同心環状スリットと紡糸ノズルの中心ボアとを取り囲む第2の同心環状スリットを通じて押し出された。環状スリットのスリット幅及び中心ボアの直径は、本明細書に説明する幾何学的寸法を有する中空繊維膜が得られるように選択される。
紡糸ブロック及び従って紡糸ノズルは、紡糸工程に対して60℃まで焼き戻された。押し出された紡績糸は、毎秒400mmの紡糸速度で20mmの紡糸間隙を通過した。沈殿浴(水)の温度は65℃であった。
沈殿浴内で沈殿によって得られる中空繊維膜は、6つの水浴内で濯がれて10分にわたって130℃で乾燥させた。中空繊維膜は、330μmの内径を有し、壁厚は65μmであり、血液接触層である紡糸塊Bから得られる選択的内層の層厚は、4μmであった。中空繊維膜は、巻き上げられて束ねられ、1296又は2592個の中空繊維膜を有する中空繊維膜バンドルに加工される。
【0080】
比較例:中空繊維膜の生成
実施例の生成と比較して、紡糸塊A及び紡糸塊Bは、ビタミンEなしで提供された。結果的に、紡糸塊A内のDMAcの割合は、73重量%であり、紡糸塊B内のDMAcの割合は、85重量%であった。紡糸塊A及びB内のPSU、PVP、及び水の各々の割合は維持された。実施例の中空繊維膜生成の全ての他のパラメータも維持された。
例1及び比較例1からの中空繊維膜は、方法1に説明する構成を用いて中空繊維膜フィルタに加工され、同じく実施例と同様に蒸気滅菌によって滅菌された。
【0081】
結果
例及び比較例の中空繊維膜は、上述の方法により検査された。結果は表1に示されている:
表1

【0082】
実施例の中空繊維膜内のPVPの総含有量は、比較例に比べて有意に増加する。更に、トリグリセリド濃度、溶血試験での血小板濃度、及び実施例での遊離ヘモグロビンの低下に関する値は、比較例に比べて有意に改善されている。結果に基づいて、実施例に従って実施した中空繊維膜は、比較例に従って実施した中空繊維膜よりも溶血作用が低く、血小板及びトリグリセリド吸着傾向が低いことは明らかである。
【0083】
これらの結果は、それぞれ実施例及び比較例の中空繊維膜に対する溶血実験後に撮影された走査電子顕微画像によっても確認される。図3は、溶血試験を受けた比較例による中空繊維膜の断面を示している。図は、支持層3-1及び血液接触層3-2を示している。溶血試験から付着した血液細胞は、血液接触層に見ることができる。認識される血液細胞は赤血球である。図3はまた、血液細胞の一部が血液接触層に浸透していることを示している。
【0084】
図4は、実施例により製造されて溶血試験を受けた中空繊維膜の断面を示している。図4は、支持層4-1及び血液接触層4-2を示している。更に、図4におけるように、溶血試験から血液接触層の面に付着した血液細胞を見ることができる。しかし、図3とは対照的に、血液接触層4-2を浸透した血液細胞は、図4で可視ではない。明らかに、血液接触層の中への血液細胞の浸透の過程は、比較例の中空繊維膜のようには本発明による中空繊維膜では同じ程度に起こらない。血液接触層の中への血液細胞の浸透のこの過程は、血液細胞の破壊に決定的であること、及び血漿交換に使用されるような大型気孔式中空繊維膜の溶血作用は、有意な程度までこの過程に基づいていることが仮定されている。
【符号の説明】
【0085】
4-1 支持層
4-2 血液接触層
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】