(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】環境に優しい前駆体及びリチウムイオン電池の正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230703BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230703BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230703BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573494
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2021083212
(87)【国際公開番号】W WO2022027981
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】202010771705.9
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522462580
【氏名又は名称】エックスティーシー ニュー エナジー マテリアルズ (シアメン) シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】馬躍飛
(72)【発明者】
【氏名】林予舒
(72)【発明者】
【氏名】余康杰
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA17
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
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5H050GA15
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は材料分野に属し、環境に優しい前駆体及びリチウムイオン電池の正極材料及びその製造方法に関する。本発明の提供する環境に優しい前駆体の製造方法は、金属及び/又は金属酸化物、酸化剤、水及び錯化剤を導電率≧200uS/cm、酸化還元電位ORP値≦100mv、錯化剤の濃度が3~50g/Lの条件で化学的腐食結晶化反応を行い、反応が終了した後に得られた反応生成物を磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、さらにスラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、その後に固体粒子を洗浄し乾燥することを含む。本発明の提供する方法を採用して前駆体を製造し、溶解結晶化過程において廃水を生成せず、かつ水を絶えず消費し、それにより環境に優しい目的を達成することができ、かつ得られた前駆体はリチウムイオン電池の初回充放電効率を効果的に向上させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属及び/又は金属酸化物、酸化剤、水及び錯化剤を導電率≧200uS/cm、酸化還元電位ORP値≦100mv、錯化剤の濃度が3~50g/Lの条件で化学的腐食結晶化反応を行い、前記金属及び/又は金属酸化物はニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン、マグネシウム、ストロンチウム、イットリウムの金属単体及びその金属酸化物から選択される少なくとも一種であり、反応が終了した後に得られた反応生成物を磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、さらに前記スラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、その後に前記固体粒子を洗浄し乾燥した後に前駆体を得ることを含むことを特徴とする、環境に優しい前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤及び水の使用量は金属及び/又は金属酸化物を対応する金属水酸化物に変換し、
前記酸化剤は硝酸、酸素、空気、塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム及び過酸化水素水から選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1に記載の環境に優しい前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記金属及び/又は金属酸化物はNi-Co-Mn-Zr-W、Ni-Mg-Zr-W、Co-Al-Mg-Ti又はNi-Co-Al-Zr-Tiであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の環境に優しい前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記導電率は200~50000uS/cmであり、
前記導電率は反応系に塩を加えることにより制御され、前記塩はナトリウム及び/又はリチウムの硫酸塩、塩化塩及び硝酸塩から選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1に記載の環境に優しい前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記化学的腐食結晶化反応は連続式反応又はバッチ式反応であり、
前記錯化剤はアンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸及び硝酸アンモニウムから選択される少なくとも一種であり、
前記化学的腐食結晶化反応過程において、撹拌強度は入力電力0.1~1.0kw/m
2・hであり、反応系中の金属イオン濃度は1~30g/Lであり、錯化剤の濃度は3~50g/Lであり、pH値は6~12であり、反応温度は20~90℃であり、反応時間は10~150hであることを特徴とする、請求項1又は4に記載の環境に優しい前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記磁選はバッチ式磁選又は連続式磁選であり、磁選強度は100~5000Gasであり、
前記環境に優しい前駆体の製造方法は磁性粒子、濾液及び洗浄水をいずれも化学的腐食結晶化反応系に戻し、結晶化過程で消費された水を補充することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の環境に優しい前駆体の製造方法。
。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造された環境に優しい前駆体。
【請求項8】
(1)請求項1に記載の方法で環境に優しい前駆体を製造することと、
(2)前記環境に優しい前駆体とリチウム源を混合した後に焼成して、リチウムイオン電池の正極材料を得ることとを含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項9】
ステップ(2)において、前記環境に優しい前駆体とリチウム源のLi/Meモル比が(0.9~1.3):1であり、
ステップ(2)において、前記焼成の条件は温度が600~1100℃であり、時間が5~40hであり、焼成雰囲気が空気雰囲気又は酸素雰囲気であり、
ステップ(2)において、前記リチウム源が水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム及び炭酸水素リチウムから選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項8に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法で製造されたリチウムイオン電池の正極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料分野に属し、環境に優しい前駆体及びリチウムイオン電池の正極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の電気自動車における応用に伴い、リチウムイオン電池の正極材料が広く注目され、リチウムイオン電池の正極材料の性能が電気自動車の使用と普及に直接的に影響し、高容量、高安全性、長寿命、低コスト、環境に優しいリチウムイオン電池の正極材料を開発することは将来の発展の主要な方向である。車載正極材料に対して、現在多種類の材料が共存する状態を呈し、リン酸鉄リチウム、多元材料、マンガン酸リチウムは現在いずれもEV分野に応用され、ここで、日本パナソニック、韓国LGは既に高ニッケル材料を電気自動車に大量に適用することに成功したが、多元材料自体の欠点により、安全性能、高容量、高倍率、長いサイクル性能等の面に、まだ改善の余地がある。
【0003】
リチウムイオン電池の急速な発展に伴い、電池材料への要求が増加し、特に材料の成分及び物相構造の均一性に対してより高い要求を提供する。電池材料の性能は電池の電気的性能に直接的に影響し、材料の性能を向上させるために、現在では前駆体の構造性能を改善することにより材料の構造欠陥を解決することが研究される。pH値が6~12の条件下で、溶液中のH+濃度が一般的に低く、金属単体及び/又は金属酸化物を原料としてプロトン伝導の方式で酸化還元反応を行うことができないため、従来のプロセスは金属単体及び/又は金属酸化物を原料として金属水酸化物前駆体を製造することができない。目的に応じて前駆体を製造する方法は一般的に共沈結晶化技術を採用し、具体的には、金属塩溶液及び水酸化物を並流で撹拌反応器に添加して混合沈殿を行い、共沈結晶後の大量の硫酸塩を母液に残し、アンモニア水を錯化剤として沈殿系に添加し、アンモニアは最終的にアンモニウム塩の形式で反応系に保持され、固液分離を経た後に固体前駆体中のアンモニア、アンモニウム塩及び硫酸塩を含有する母液部分を除去し、一部の重金属及び小固体粒子も母液に溶解し、従って、従来の共沈結晶技術は大量の水酸化物、アンモニアなどの材料を消費する必要があるだけでなく、大量の排気ガス、廃水及び廃棄物を生成し、それにより環境に大きな負担をもたらす。また、従来の共沈結晶化技術を採用して得られた前駆体に対応するリチウムイオン電池の初回充放電効率が低く、依然として改善の余地がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は従来の共沈結晶化法を採用して得られた前駆体に対応するリチウムイオン電池の初回充放電効率が低くかつ環境に大きな負担をもたらすという欠陥を克服するために、リチウムイオン電池の初回充放電効率を向上させかつ環境に負担を与えない環境に優しい前駆体及びリチウムイオン電池の正極材料及びその製造方法を提供することである。
【0005】
前記のように、pH値が6~12の条件下で、溶液中のH+濃度が一般的に低く、金属単体及び/又は金属酸化物を原料としてプロトン伝導の方式で酸化還元反応を行うことができないため、従来のプロセスは金属単体及び/又は金属酸化物を原料として前駆体を製造することができない。本発明の発明者は鋭意研究した後に、金属及び/又は金属酸化物、酸化剤、水及び錯化剤を導電率≧200uS/cm、酸化還元電位ORP値≦100mv、錯化剤の濃度が3~50g/Lの条件で置いて溶液の物質移動速度を加速することができ、H+は金属及び/又は金属酸化物の表面に形成された界面膜を破壊することができ、それにより液固界面膜が電子伝導を実現して固体金属及び/又は金属酸化物の表面に電気化学的腐食を発生させ、従来の化学反応が実現できない酸化還元反応を解決し、かつ粒子の一次粒子形態を微細化することができ、得られた前駆体の内部構造がより均一であり、リチウムイオン電池の正極材料に焼結した後に初回充放電効率がより高いことを発見する。これに基づいて、本発明を完了する。
【0006】
具体的には、本発明は環境に優しい前駆体の製造方法を提供し、該方法は、金属及び/又は金属酸化物、酸化剤、水及び錯化剤を導電率≧200uS/cm、酸化還元電位ORP値≦100mv、錯化剤の濃度が3~50g/Lの条件で化学的腐食結晶化反応を行い、反応が終了した後に得られた反応生成物を磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、さらにスラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、その後に固体粒子を洗浄し乾燥した後に前駆体を得ることを含む。
【0007】
本発明において、前記金属及び/又は金属酸化物は化学的腐食結晶化反応を経た後に対応する金属水酸化物に変換され、即ち、Me→Men++ne、MexOy→Men++(n-2x/y)eである。前記酸化剤及び水は原料として金属及び/又は金属酸化物の酸化反応に関与し、両者の使用量は金属及び/又は金属酸化物を対応する金属水酸化物に変換すればよい。前記酸化剤の添加は金属及び/又は金属酸化物の溶解及び共沈に条件を創造し、前記金属及び/又は金属酸化物は溶解結晶を実現して金属水酸化物を得る。化学的腐食結晶化反応過程において、水は原料として反応に関与することにより、金属及び/又は金属酸化物を水酸化物に変換し、結晶化過程において水を絶えず消費し、余分な廃水を生成せず、それにより結晶化過程において環境に優しい目的を達成する。
【0008】
前記金属及び/又は金属酸化物の具体的な実施例は以下を含むがそれらに限定されない:ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン、マグネシウム、ストロンチウム、イットリウムの金属単体及びその金属酸化物のうちの少なくとも一種であり、以上の金属及び/又は金属酸化物は実際の需要に応じて0~100%に任意に調整することができる。また、前記金属及び/又は金属酸化物は好ましくは無定形、疎な粉体の形式で使用され、このように反応速度を向上させ、反応時間を短縮することができる。
【0009】
好ましい実施形態において、前記金属及び/又は金属酸化物は以下の形式で配合して使用する:Ni-Co-Mn-Zr-W、Ni-Mg-Zr-W、Co-Al-Mg-Ti又はNi-Co-Al-Zr-Ti。ここで、Ni-Co-Mn-Zr-WにおけるNi、Co、Mn、Zr及びWのモル比は1:(0.05~1):(0.1~1):(0~0.2):(0~0.2)である。Ni-Mg-Zr-WにおけるNi、Mg、Zr及びWのモル比は1:(0.001~0.1):(0.001~0.1):(0.001~0.1)である。Co-Al-Mg-TiにおけるCo、Al、Mg及びTiのモル比は1:(0.001~0.1):(0.001~0.1):(0~0.1)である。Ni-Co-Al-Zr-TiにおけるNi、Co、Al、Zr及びTiのモル比は1:(0.001~0.5):(0.001~0.1):(0~0.1):(0~0.1)である。Ni-Co-Mn-Zr-W又はNi-Mg-Zr-Wを採用する場合、得られた前駆体に対応するリチウムイオン電池はより高い高温サイクル性能及び初回充放電効率を有する。Co-Al-Mg-Tiを採用する場合、得られた前駆体に対応するリチウムイオン電池はより高い電圧サイクル性能を有する。Ni-Co-Al-Zr-Tiを採用する場合、得られた前駆体に対応するリチウムイオン電池はより高い高温サイクル性能及び高い安全性能を有する。また、上記組み合わせにおいて、各金属は金属単体の形式で使用してもよく、金属酸化物の形式で使用してもよく、さらに両者の混合状態の形式で使用してもよい。
【0010】
前記酸化剤の具体的な実施例は以下を含むがそれらに限定されない:硝酸、酸素、空気、塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム及び過酸化水素水のうちの少なくとも一種であり、好ましくは硝酸である。硝酸を酸化剤として採用する場合、反応生成物にアンモニアガスを生成し、この時に錯化剤を追加する必要がなく又は少量の錯化剤を添加して濃度の需要が満たされればよい。
【0011】
前記錯化剤の作用は化学的腐食結晶化反応により形成された金属イオンを錯体化し、体系の過飽和係数を低下させることである。前記錯化剤の具体的な実施例は以下を含むがそれらに限定されない:アンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸及び硝酸アンモニウムのうちの少なくとも一種である。前記錯化剤の濃度は3~50g/Lであり、例えば、3g/L、5g/L、10g/L、15g/L、20g/L、25g/L、30g/L、35g/L、40g/L、45g/L、50g/L等であってもよい。
【0012】
前記化学的腐食結晶化反応は導電率≧200uS/cm、好ましくは200~50000uS/cmの条件で行われる。前記導電率は、例えば、200uS/cm、300uS/cm、400uS/cm、500uS/cm、600uS/cm、700uS/cm、800uS/cm、900uS/cm、1000uS/cm、1100uS/cm、1200uS/cm、1300uS/cm、1400uS/cm、1500uS/cm、1600uS/cm、1700uS/cm、1800uS/cm、1900uS/cm、2000uS/cm、3000uS/cm、4000uS/cm、5000uS/cm、10000uS/cm、15000uS/cm、20000uS/cm、25000uS/cm、30000uS/cm、35000uS/cm、45000uS/cm、50000uS/cm等であってもよい。化学的腐食結晶化反応の導電率を以上の範囲内に制御して行う場合、物質移動速度が加速され、H+は金属及び/又は金属酸化物の表面に形成された界面膜を破壊することができ、それにより酸化還元反応がスムーズに進行し、金属及び/又は金属酸化物が対応する金属水酸化物に変換される。また、前記導電率は反応系に塩を加えることにより制御することができる。前記塩の具体的な実施例は以下を含むがそれらに限定されない:ナトリウム及び/又はリチウムの硫酸塩、塩化塩及び硝酸塩のうちの少なくとも一種であり、具体的には硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸リチウム、塩化リチウム及び硝酸リチウムから選択される少なくとも一種である。
【0013】
前記化学的腐食結晶化反応は、酸化還元電位ORP値≦100mv、好ましくは-1000mv~100mvの条件で行われる。前記酸化還元電位ORP値は、例えば、-1000mv、-900mv、-800mv、-700mv、-600mv、-500mv、-400mv、-300mv、-200mv、-100mv、0mv、100mv等であってもよい。酸化還元電位ORP値を以上の範囲内に制御すると、液固界面膜の電気化学的腐食を実現し、金属水酸化物の結晶を促進することができる。前記酸化還元電位ORP値は反応系中の導電率及びアンモニア及び/又はアンモニウム濃度等の組み合わせにより制御することができる。本発明において、前記酸化還元電位ORP値はメトラー・トレドS220マルチパラメータテスターにより測定する。
【0014】
前記化学的腐食結晶化反応は連続式反応であってもよく、バッチ式反応であってもよい。好ましい実施形態において、前記化学的腐食結晶化反応過程において、撹拌強度は入力電力0.1~1.0kw/m2・hであり、反応系中の金属イオン濃度は1~30g/Lであり、錯化剤の濃度は3~50g/Lであり、pH値は6~12であり、反応温度は20~90℃であり、反応時間は10~150hである。ここで、撹拌強度、反応系中の金属イオン濃度、錯化剤の濃度、pH値、反応温度等を制御することにより前駆体の粒度が2~30μmの間の制御可能な調節を実現することができる。
【0015】
前記磁選はバッチ式磁選であってもよく、連続式磁選であってもよい。前記磁選の強度は好ましくは、100~5000Gasである。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明の提供する環境に優しい前駆体の製造方法はさらに磁性粒子、濾液及び洗浄水を全て化学的腐食結晶化反応系に戻し、結晶化過程で消費された水を補充することを含み、この時に循環密閉で材料を全て使用することを実現することができ、結晶化過程で廃水を排出せず、それにより環境に優しいことを実現する。
【0017】
本発明はさらに上記方法で製造された環境に優しい前駆体を提供する。
【0018】
本発明はさらにリチウムイオン電池の正極材料の製造方法を提供し、該方法は、
(1)上記方法を採用して環境に優しい前駆体を製造することと、
(2)前記環境に優しい前駆体とリチウム源を混合した後に焼成して、リチウムイオン電池の正極材料を得ることとを含む。
【0019】
好ましい実施形態において、ステップ(2)において、前記環境に優しい前駆体とリチウム源のLi/Meモル比は(0.9~1.3):1である。
【0020】
好ましい実施形態において、ステップ(2)において、前記焼成の条件は温度が600~1100℃であり、時間が5~40hであり、焼成雰囲気が空気雰囲気又は酸素雰囲気であることを含む。
【0021】
好ましい実施形態において、ステップ(2)において、前記リチウム源が水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム及び炭酸水素リチウムから選択される少なくとも一種である。
【0022】
本発明はさらに上記方法で製造されたリチウムイオン電池の正極材料を提供する。
【0023】
本発明は従来の金属塩溶液及び水酸化物の共沈結晶化技術を打破し、金属及び/又は金属酸化物、酸化剤、水及び錯化剤により特定の導電率、酸化還元電位ORP値及び錯化剤の濃度で化学的腐食結晶化反応を行って前駆体を製造し、該前駆体が備える微細化粒子形態及び均一な内部構造はリチウムイオン電池の初回充放電効率の向上に良好な基礎を定める。また、本発明の提供する方法を採用して前駆体を製造し、溶解結晶化過程において廃水を生成せず、かつ水を絶えず消費し、それにより環境に優しい目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は実施例1で得られた環境に優しい前駆体の走査型電子顕微鏡写真図である。
【
図2】
図2は実施例1で得られた複合酸化物粉体の走査型電子顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
(1)金属混合物(Ni、Co、Mn、Zr及びWの五種金属を1:1:1:0.03:0.05のモル比で混合する)、硝酸、高純水、硫酸ナトリウムを10:1:1:1のモル比で並流で反応器に同時に添加して化学的腐食結晶化反応を行い、同時に10g/Lの硫酸アンモニウムを添加し、常圧条件下で、酸化還元電位ORP値を-1000mvに制御し、導電率を200uS/cmに制御し、撹拌入力電力を1kw/m
3・hに制御し、金属イオン濃度を5g/Lに制御し、pH値を6~8に制御し、反応温度を20℃に制御し、材料の反応器における滞留時間を30hに制御し、結晶化過程において水を絶えず消費し、余分な廃水を生成せず、十分に反応した後に100Gasの磁選強度で磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、スラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、固体粒子を洗浄し乾燥させて前駆体を得て、磁性粒子、濾液及び洗浄水を反応釜に戻して続いて反応し、結晶化過程で消費された水を補充する。該前駆体の走査型電子顕微鏡写真図(SEM図)は
図1に示すように、
図1から分かるように、該前駆体粒子が均一に分布し、形態が球状であり、かつ表面が疎な多孔質である。
【0027】
(2)前駆体とリチウム源のLi/Meモル比が1.08:1で均一に混合し、その後740℃で12h焼成し、最終的にLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得て、QL-1と記す。該複合酸化物粉体のSEM図は
図2に示すように、
図2から分かるように、焼結後に得られた複合酸化物粉体は単結晶製品である。
【実施例2】
【0028】
(1)金属混合物(NiO、MgO、ZrO及びWO3の四種の金属酸化物を1:0.005:0.006:0.004のモル比で混合する)、硝酸、高純水、塩化ナトリウムを10:1:1:2のモル比で、並流で反応器に同時に添加して化学的腐食結晶化反応を行い、同時に50g/Lのエチレンジアミン四酢酸を添加し、常圧条件下で、酸化還元電位ORP値を100mvに制御し、導電率を500uS/cmに制御し、撹拌入力電力を0.7kw/m3・hに制御し、金属イオン濃度を5g/Lに制御し、pH値を8~10に制御し、反応温度を60℃に制御し、材料の反応器における滞留時間を15hに制御し、結晶化過程において水を絶えず消費し、余分な廃水を生成せず、十分に反応した後に5000Gasの磁選強度で磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、スラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、固体粒子を洗浄し乾燥させて前駆体を得て、磁性粒子、濾液及び洗浄水を反応釜に戻して続いて反応し、結晶化過程で消費された水を補充する。
【0029】
(2)前駆体とリチウム源のLi/Meモル比が1.06:1で均一に混合し、その後740℃で20h焼成し、最終的にLi/Me=1.06の複合酸化物粉体を得て、QL-2と記す。
【実施例3】
【0030】
(1)金属混合物(Co、Al、Mn及びTiの四種金属を1:0.01:0.004:0.005のモル比で混合する)、硝酸、高純水、硝酸ナトリウムを10:1:1:4のモル比で、並流で反応器に同時に添加して化学的腐食結晶化反応を行い、同時に30g/Lの硝酸アンモニウムを添加し、常圧条件下で、酸化還元電位ORP値を-200mvに制御し、導電率を1000uS/cmに制御し、撹拌入力電力を0.1kw/m3・hに制御し、金属イオン濃度を5g/Lに制御し、pH値を10~12に制御し、反応温度を90℃に制御し、材料の反応器における滞留時間を10hに制御し、結晶化過程において水を絶えず消費し、余分な廃水を生成せず、十分に反応した後に2000Gasの磁選強度で磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、スラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、固体粒子を洗浄し乾燥させて前駆体を得て、磁性粒子、濾液及び洗浄水を反応釜に戻して続いて反応し、結晶化過程で消費された水を補充する。
【0031】
(2)前駆体とリチウム源のLi/Meモル比が1.06:1で均一に混合し、その後960℃で20h焼成し、最終的にLi/Me=1.06の複合酸化物粉体を得て、QL-3と記す。
【実施例4】
【0032】
(1)金属混合物(Ni、Co、Al、Zr及びTiの五種金属を1:0.12:0.15:0.01:0.012のモル比で混合する)、硝酸、高純水、硫酸ナトリウムを10:1:1:1のモル比で並流で反応器に同時に添加して化学的腐食結晶化反応を行い、同時に30g/Lの塩化アンモニウムを添加し、常圧条件下で、酸化還元電位ORP値を100mvに制御し、導電率を5000uS/cmに制御し、撹拌入力電力を0.7kw/m3・hに制御し、金属イオン濃度を5g/Lに制御し、pH値を6~8に制御し、反応温度を60℃に制御し、材料の反応器における滞留時間を15hに制御し、結晶化過程において水を絶えず消費し、余分な廃水を生成せず、十分に反応した後に2000Gasの磁選強度で磁選して磁性粒子及びスラリーを得て、スラリーを固液分離して固体粒子及び濾液を得て、固体粒子を洗浄し乾燥させて前駆体を得て、磁性粒子、濾液及び洗浄水を反応釜に戻して続いて反応し、結晶化過程で消費された水を補充する。
【0033】
(2)前駆体とリチウム源のLi/Meモル比が1.05:1で均一に混合し、その後790℃で24h焼成し、最終的にLi/Me=1.05の複合酸化物粉体を得て、QL-4と記す。
【実施例5】
【0034】
実施例1の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属原料をNi、Co、Mn、Zr及びWの五種金属の混合物から1:1:1のモル比でのNi、Co、Mnの混合物に置き換えることであり、他の条件は実施例1と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得る。該複合酸化物粉体をQL-5とした。
【実施例6】
【0035】
実施例1の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属原料をNi、Co、Mn、Zr及びWの五種金属の混合物から5:2:3のモル比でのNi、Co、Mnの混合物に置き換えることであり、他の条件は実施例1と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得る。該複合酸化物粉体をQL-6とした。
【実施例7】
【0036】
実施例1の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属原料をNi、Co、Mn、Zr及びWの五種金属の混合物から10:1:1.5のモル比でのNi、Co、Mnの混合物に置き換えることであり、他の条件は実施例1と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得る。該複合酸化物粉体をQL-7とした。
【実施例8】
【0037】
実施例1の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属原料をNi、Co、Mn、Zr及びWの五種金属の混合物から4:1のモル比でのNiとCoの混合物に置き換えることであり、他の条件は実施例1と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得る。該複合酸化物粉体をQL-8とした。
【実施例9】
【0038】
実施例1の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属原料をNi、Co、Mn、Zr及びWの五種金属の混合物から9.5:0.5のモル比でのNiとMgの混合物に置き換えることであり、他の条件は実施例1と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の複合酸化物粉体を得る。該複合酸化物粉体をQL-9とした。
【比較例1】
【0039】
実施例5の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、硫酸アンモニウムの添加量が1g/Lであることであり、他の条件は実施例5と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の参照複合酸化物粉体を得る。該参照複合酸化物粉体をDQL-1と記す。
【比較例2】
【0040】
実施例5の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、金属混合物、硝酸、高純水、硫酸ナトリウムのモル比を10:1:1:1から10:1:1:0.5に調整して体系の導電率を100uS/cmに制御することであり、他の条件は実施例5と同様であり、前駆体及びLi/Me=1.08の参照複合酸化物粉体を得る。該参照複合酸化物粉体をDQL-2と記す。
【比較例3】
【0041】
実施例5の方法で前駆体及び複合酸化物粉体を製造し、異なることは、酸化還元電位ORP値を150mvに制御することであり、前駆体及びLi/Me=1.08の参照複合酸化物粉体を得る。該参照複合酸化物粉体をDQL-3と記す。
【試験例】
【0042】
(1)前駆体の性能:
粒径、タップ密度及び一致性結果は表1に示すとおり、ここで、粒径及び一致性はいずれもマルバーンレーザー粒度計を用いて測定する。
【0043】
(2)リチウムイオン電池の電気化学的性能:
実施例1~9で得られた複合酸化物粉体及び比較例1~3で得られた複合酸化物粉体を正極材料とし、正極材料、導電性カーボンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を80:10:10の質量比で真空条件下でNMP溶媒に溶解して固形分含有量が70重量%の正極スラリーに調製する。正極スラリーを集電体アルミニウム箔に塗布し、真空120℃で12 h乾燥させ、シートを打ち抜き、直径が19mmの正極ウェハを製造する。複合改質黒鉛、CMC及びSBRを90:5:5の質量比で真空条件下で脱イオン水に溶解して固形分含有量が40重量%の負極スラリーを調製する。負極スラリーを集電体銅箔に塗布し、真空100℃で12h乾燥させ、シートを打ち抜き、直径が19mmの負極ウェハを製造し、負極容量:正極容量=1.1:1である。電池はアルゴンガスで充填されたグローブボックス内に組み立てられ、組立順序は順に正極ケース-正極片-セパレータ-負極片-ステンレス鋼片-バネ片-負極ケースであり、電解液は10%(体積分率)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加した1mol/LのLiPF6/EC:DMC(体積比が1:1である)であり、セパレータはポリプロピレン微多孔膜であり、リチウムイオン電池C1-C9及び参照リチウムイオン電池DC1-DC3を得る。リチウムイオン電池C1-C9及び参照リチウムイオン電池DC1-DC3の初回放電性能を試験し、得られた結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0044】
以上は本発明の実施例を示しかつ説明したが、理解されるように、上記実施例は例示的なものであり、本発明を限定するものと理解すべきではなく、当業者は本発明の原理及び精神から逸脱することなく、本発明の範囲内で上記実施例に変化、修正、置換及び変形を行うことができる。
【国際調査報告】