(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】シヌクレイノパチーの処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230703BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230703BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230703BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230703BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230703BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230703BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230703BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230703BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230703BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230703BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230703BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230703BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20230703BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230703BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C07K19/00
C07K14/47
A61K38/16
A61K35/12
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K35/765
A61P25/16
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574541
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 US2021035958
(87)【国際公開番号】W WO2021248038
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516127178
【氏名又は名称】ソラ・バイオサイエンシズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 彰徳
(72)【発明者】
【氏名】コヤ,ケイゾウ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA02
4C084CA53
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA15
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
(57)【要約】
αシヌクレイン媒介性タンパク質凝集および関連したプロテオパチーを特異的に低下させるために、細胞の生得的なシャペロン機構、具体的にはHsp70媒介性システムを動員する新規なクラスの融合タンパク質が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Jタンパク質のJドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む単離された融合タンパク質。
【請求項2】
Jタンパク質のJドメインが真核生物起源である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
Jタンパク質のJドメインがヒト起源である、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
Jタンパク質のJドメインが細胞質に局在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
Jタンパク質のJドメインが、配列番号1~50からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
Jドメインが、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択される配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
Jドメインが配列番号5の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
Jドメインが配列番号10の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
Jドメインが配列番号16の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
Jドメインが配列番号25の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
Jドメインが配列番号31の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
αシヌクレイン結合性ドメインが、ELISAアッセイを用いて測定された場合、1μM以下、例えば、300nM以下、100nM以下、30nM以下、10nM以下の、αシヌクレインに対するK
Dを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
αシヌクレイン結合性ドメインが、配列番号51~64からなる群から選択される配列を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
αシヌクレイン結合性ドメインが、配列番号51の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号52の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号63の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号64の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
複数のαシヌクレイン結合性ドメインを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
2つのαシヌクレイン結合性ドメインからなる、請求項1~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
3つのαシヌクレイン結合性ドメインからなる、請求項1~19のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の融合タンパク質であって、
以下の構築物:
i. DNAJ-X-S、
ii. DNAJ-X-S-X-S、
iii. DNAJ-X-S-X-S-X-S、
iv. S-X-DNAJ、
v. S-X-S-X-DNAJ、
vi. S-X-S-X-S-X-DNAJ、
vii. S-X-DNAJ-X-S、
viii. S-X-DNAJ-X-S-X-S、
ix. S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
x. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S、
xi. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S、
xii. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
xiii. DnaJ-X-DnaJ-X-S-X-S、
xiv. S-X-DnaJ-X-DnaJ、および
xv. S-X-S-X-DnaJ-X-DnaJ、
のうちの1つを含み、
ここで、
Sはαシヌクレイン結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである、前記融合タンパク質。
【請求項22】
配列番号5のJドメイン配列および配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメイン配列を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項23】
配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメイン配列の2個のコピー、および配列番号5のJドメイン配列を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項24】
配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項25】
配列番号88の配列を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項26】
配列番号90の配列を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項27】
配列番号99の配列を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
配列番号100の配列を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項29】
標的化試薬をさらに含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項30】
エピトープをさらに含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項31】
エピトープが、配列番号77~83からなる群から選択されるポリペプチドである、請求項30に記載の融合タンパク質。
【請求項32】
細胞透過剤をさらに含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項33】
細胞透過剤が、配列番号84~87からなる群から選択されるペプチド配列を含む、請求項32に記載の融合タンパク質。
【請求項34】
シグナル配列をさらに含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項35】
シグナル配列が、配列番号102~104からなる群から選択されるペプチド配列を含む、請求項34に記載の融合タンパク質。
【請求項36】
細胞においてαシヌクレインタンパク質のミスフォールディングを低下させる能力がある、請求項1~35のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項37】
細胞においてリン酸化αシヌクレインタンパク質を低下させる能力がある、請求項1~36のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項38】
αシヌクレインタンパク質の分泌を低下させる能力がある、請求項1~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項39】
αシヌクレイン媒介性細胞毒性を低下させる能力がある、請求項1~38のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項40】
請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項41】
前記核酸がDNAである、請求項40に記載の核酸配列。
【請求項42】
前記核酸がRNAである、請求項41に記載の核酸配列。
【請求項43】
前記核酸が少なくとも1個の修飾核酸を含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項44】
プロモーター領域、5’UTR、ポリ(A)シグナルなどの3’UTRをさらに含む、請求項40~43のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項45】
プロモーター領域が、CMVエンハンサー配列、CMVプロモーター、CBAプロモーター、UBCプロモーター、GUSBプロモーター、NSEプロモーター、シナプシンプロモーター、MeCP2プロモーター、およびGFAPプロモーターからなる群から選択される配列を含む、請求項44に記載の核酸配列。
【請求項46】
請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項47】
アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアまたは粘液腫)、パラミクソウイルス(麻疹、RSV、またはニューキャッスル病ウイルス)、バキュロウイルス、レオウイルス、アルファウイルス、およびフラビウイルスからなる群から選択される、請求項46に記載のベクター。
【請求項48】
カプシドおよび請求項46または請求項47に記載のベクターを含む、ウイルス粒子。
【請求項49】
カプシドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、偽型AAV、アカゲザル由来AAV、AAVrh8、AAVrh10、およびAAV-DJan AAVカプシド変異体、AAVハイブリッドセロタイプ、臓器向性AAV、心臓向性AAV、および心臓向性AAVM41変異体からなる群から選択される、請求項48に記載のウイルス粒子。
【請求項50】
カプシドが、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAVrh10からなる群から選択される、請求項48または請求項49に記載のウイルス粒子。
【請求項51】
カプシドがAAV2である、請求項48~50のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項52】
カプシドがAAV5である、請求項48~50のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項53】
カプシドがAAV8である、請求項48~50のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項54】
カプシドがAAV9である、請求項48~50のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項55】
カプシドがAAV rh10である、請求項48~50のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項56】
請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~47のいずれか一項に記載のベクター、請求項48~55のいずれか一項に記載のウイルス粒子からなる群から選択される作用物質、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項57】
細胞においてαシヌクレインタンパク質の毒性を低下させる方法であって、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~47のいずれか一項に記載のベクター、請求項48~55のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項56に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量と前記細胞を接触させるステップを含む、前記方法。
【請求項58】
細胞が対象内にある、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
対象がヒトである、請求項57~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
細胞が中枢神経系の細胞である、請求項57~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
対象がαシヌクレイン疾患を有すると同定されている、請求項57~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
αシヌクレイン疾患が、PD、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)からなる群から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
αシヌクレイン疾患がPDである、請求項61または請求項62に記載の方法。
【請求項64】
対照細胞と比較した場合、細胞において、ミスフォールドしたαシヌクレインタンパク質の量の低下がある、請求項57~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
αシヌクレイン疾患の処置、防止、またはその進行の遅延を必要とする対象において、αシヌクレイン疾患を処置する、防止する、またはその進行を遅延させる方法であって、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~47のいずれか一項に記載のベクター、請求項48~55のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項56に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量を投与するステップを含む、前記方法。
【請求項66】
αシヌクレイン疾患が、PD、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)からなる群から選択される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
αシヌクレイン疾患がPDである、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
対象においてαシヌクレイン疾患を防止するまたはその進行を遅延させることにおける、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~47のいずれか一項に記載のベクター、請求項48~55のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項56に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
【請求項69】
対象におけるαシヌクレイン疾患の処置または防止のための薬物の医薬における、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~47のいずれか一項に記載のベクター、請求項48~55のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項56に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
【請求項70】
αシヌクレイン疾患がPDである、請求項68または請求項69に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、35 U.S.C. §119(e)による、2020年6月5日に出願された米国仮特許出願第63/035,297号の優先権を主張する。前述の出願の全内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
配列表
この出願は、2021年6月4日1:09PMに作成され、かつ本明細書と共に電子提出された、「269548-493385_ST25.txt」というファイル名の配列表(68KB)を全体として参照により組み入れている。
【0003】
技術分野
Jドメイン、αシヌクレイン結合性ドメイン、リンカー、標的化試薬、エピトープ、細胞透過剤、およびそれらの組合せの1つまたは複数を含む新しい融合タンパク質が記載され、特許請求される。加えて、本開示は、これらの新規な融合タンパク質の使用を記載し、αシヌクレイン媒介性タンパク質凝集および関連したプロテオパチーを特異的に低下させるための、生得的なシャペロン機構、例えばb、Hsp70媒介性システムのそれらによる動員が同様に記載され、特許請求される。
【背景技術】
【0004】
細胞内で発現した全てのタンパク質は、適切に機能するためにそれらの意図された構造へ正しくフォールドされる必要がある。増え続ける疾患および障害が、タンパク質の不適切なフォールディングならびに/またはタンパク質およびリポタンパク質、加えて感染性タンパク質性物質の不適切な沈着および凝集と関連づけられることが示されている。コンフォメーション病またはプロテオパチーとしても知られている、ミスフォールディングにより引き起こされる疾患の例には、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および前頭側頭葉型認知症(FTLD)が挙げられる。変異タンパク質は、細胞において凝集し、典型的な細胞毒性細胞封入体をもたらす。
【0005】
様々な神経変性疾患は、アミロイド線維で構成される細胞内または細胞外のタンパク質凝集物の蓄積により病理学的に特徴づけられる(Formanら、(2004)Nat Med. 10:1055~1063)。例えば、アルツハイマー病(AD)の病態は、βアミロイドおよび微小管結合タンパク質タウ、それぞれで構成される老人斑および神経原線維濃縮体により定義される。
【0006】
パーキンソン病(PD)は、アルツハイマー病(AD)に次いで、2番目に多い神経変性障害である。60歳を超える人々の1%より多くが、その疾患を患っており、米国だけでも100万人を超える患者がいる。PD患者は、PD患者の約40%において、動作緩慢、強剛、振戦、バランスの障害、および認知症の変動的な顕在化を経験し、その患者の一部は、その疾患の後期においてAD様認知症を発症する。PDの主要な病理学的特徴は、PD脳における、黒質内のドーパミン作動性ニューロンの喪失、およびレビー小体(LB)またはレビー神経突起(神経線維)(LN)と名付けられた、ニューロン細胞質において線維状封入体を形成する異常なタンパク質凝集物の存在である(Galvinら、(2001)Arch Neurol 58、186~190;LangおよびLozano、(1998)N Engl J Med 339、1044~1053;LangおよびLozano、(1998)N Engl J Med 339、1130~1143)。PDの大部分は孤発性である。PDの家族型は、全症例の約10%に当たり、常染色体潜性かまたは常染色体顕性のいずれかであり得、その障害の複雑な原因を示唆している(LangおよびLozanoにより概説されている)(LangおよびLozano、(1998)N Engl J Med 339、1044~1053;LangおよびLozano、(1998)N Engl J Med 339、1130~1143)。加えて、環境因子もまた、PDの発症において重要な役割を果たす(Di Monte、2003により概説されている)(Di Monteら、(2003)Lancet Neurol 2、531~538)。
【0007】
いくつかの遺伝子座へのPDについての遺伝連鎖の発見は、その疾患の発生に寄与する遺伝因子を同定する見込みを与える。イタリア南部が起源である家族においてPDのまれな顕性遺伝性のバリアントを有する患者の研究により、その障害が、αシヌクレイン(SNCA)と呼ばれる以前に同定された遺伝子が位置する染色体4q21-23上の遺伝子座(park 1)へ関連づけられた(Jakesら、(1994)FEBS Lett 345、27~32;Shibazakiら、(1995)Cytogenet Cell Genet 71、54~55;Polymeropoulosら、(1996)Science 274、1197~1199)。家族性PDにおけるαシヌクレインの関与についての直接的証拠は、このイタリア系アメリカ人家族およびその後の3つの血縁関係のないギリシャ人家族におけるアミノ酸53におけるA-T置換をもたらす遺伝子におけるミスセンス変異の同定により提供された(Polymeropoulosら、(1997)Science 276、2045~2047)。その後、ドイツ人家族におけるアラニンからプロリンへ変化したαシヌクレイン遺伝子の位置30における第2の変異が同定された(Krugerら、(1998)Nat Genet 18、106~108)。LBの免疫組織化学的試験は、LBが、多くの異なるタンパク質を含有することを示した。最も多く一貫して記載されたタンパク質は、神経フィラメント、ユビキチン、およびアルファシヌクレイン(αシヌクレイン)である(Takedaら、(1998)Am J Pathol 152、367~372;Gaiら、Brain 118(Pt 6)、1447~1459)。ミスフォールドしたαシヌクレインの大きな核近傍凝集物は、PD脳のレビー小体、加えてジストロフィー性レビー神経突起(LN)に主に存在し(Dickson、(2012)Cold Spring Harb Perspect Med 2;Stefanis、(2012)Cold Spring Harb Perspect Med 2、a009399;Lashuelら、(2013)Nat Rev Neurosci 14、38~48)、αシヌクレインのミスフォールディングを、凝集αシヌクレイン蓄積に関連した神経変性疾患の発生における主要な犯人と示唆する(Babaら、(1998)Am J Pathol 152、879~884;Kaliaら、(2013)Ann Neurol 73、155~169)。
【0008】
αシヌクレイン遺伝子は、約19kDaの140アミノ酸のタンパク質をコードする。αシヌクレインの機能はまだ完全には明らかではないが、αシヌクレインが神経伝達物質放出において役割をもつことを示唆する証拠がある(Liuら、(2004)EMBO J 23、4506~4516;Chandraら、(2005)Cell 123、383~396;Fortinら、(2005)J Neurosci 25、10913~10921)。αシヌクレインは、哺乳動物の脳中に高度に発現するが、シナプス前神経終末において濃縮されており、膜および小胞構造に会合している。マウスは、αシヌクレインの機能的相同体を有する。マウスαシヌクレイン遺伝子のホモ接合型ノックアウトは、生存可能で、繁殖性で、ほとんど正常である(Abeliovichら、(2000)Neuron 25、239~252)。αシヌクレイン-/-マウスは、二連発刺激でのDA放出の増加、線条体DAの低下、およびアンフェタミンに対するDA依存性歩行運動応答の減弱を示し、αシヌクレインが、DA神経伝達の制御因子であることを示唆している。αシヌクレイン過剰発現を有するマウスは、見かけ上は正常であったが、高発現のヒトαシヌクレインを有するマウス系統においてDA神経終末の有意な変性があり、しかし、DAニューロンの喪失は観察されなかった(MasliahおよびRockenstein、(2000)J Neural Transm Suppl 59、175~183)。A53T αシヌクレイン変異体の過剰発現は、実質的な神経変性を誘導した(Leeら、(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99、8968~8973;Giassonら、(2002)Neuron 34、521~533;Dawsonら、(2002)Neuron 35、219~222)。アデノ随伴ウイルス(AAV)で媒介された野生型および変異体αシヌクレインを過剰発現するラットにおけるDAニューロンの進行性喪失は、PDモデルが、PD処置を試験するために用いられ得ることを示唆する(Kirikら(2002)Neuron 35、219~222)。
【0009】
現在、PDについての防止も治癒もなく、薬物療法および外科的治療などの対症療法のみがある。ドーパミン作動性黒質ニューロンの変性は、線条体へのドーパミン作動性投射の喪失をもたらし、それは、PDにおける神経化学的経路の一次欠陥を表す。したがって、PDについての1つの処置は、ドーパミン(DA)の補充であり、その場合、患者は、薬物レボドパを服用する。レボドパは、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)によりドーパミンへ変換される。しかしながら、その利益は、多数の副作用のため、一時的である(Nutt 2003により概説されている)(Nutt、(2003)Exp Neurol 184、9~13)。加えて、疾患が進行して、その結果、患者がこわばり感、強剛、および筋痙攣などのオフタイムの増加を経験し得る場合、AADCをより少なくすることが利用可能である。したがって、この壊滅的な疾患についての新しい処置の開発の実質的な必要性が存在する。
【0010】
熱ショック70kDaタンパク質(本明細書では「Hsp70s」と呼ぶ)は、様々な種の細胞においてシャペロンタンパク質の遍在性クラスを構成する(Tavariaら、(1996) Cell Stress Chaperones 1、23~28)。Hsp70は、機能するために、Jドメインタンパク質およびヌクレオチド交換因子(NEF)などのコシャペロンタンパク質と呼ばれるアシスタントタンパク質を必要とする(Hartlら、(2009)Nat Struct Mol Biol 16、574~581)。タンパク質をフォールドするためのHsp70シャペロン機構の最新モデルにおいて、Hsp70は、ATP結合状態とADP結合状態との間を循環し、Jドメインタンパク質は、フォールディングまたはリフォールディングを必要とする別のタンパク質(「クライアントタンパク質」と呼ばれる)と結合して、Hsp70のATP結合型(Hsp70-ATP)と相互作用する(Young(2010)Biochem Cell Biol 88、291~300;Mayer、(2010)Mol Cell 39、321~331)。Jドメインタンパク質-クライアントタンパク質複合体のHsp70-ATPとの結合は、ATP加水分解を刺激し、それは、Hsp70タンパク質において立体構造変化を引き起こし、ヘリックスの蓋を閉じ、それにより、クライアントタンパク質とHsp70-ADPとの間の相互作用を安定化し、加えて、Jドメインタンパク質の放出を誘発し、その後、そのJドメインタンパク質は、別のクライアントタンパク質と自由に結合できる。
【0011】
したがって、このモデルにより、Jドメインタンパク質は、架橋として働き、かつ様々なクライアントタンパク質の捕獲およびそのHsp70機構への提出を促進して、適切な立体構造へのフォールディングまたはリフォールディングを促すことにより、Hsp70機構内で重要な部分を果たす(Kampinga & Craig(2010)Nat Rev Mol Cell Biol 11、579~592)。Jドメインファミリーは、原核生物(DnaJタンパク質)から真核生物(Hsp40タンパク質ファミリー)にわたる種において広く保存されている。Jドメイン(約60~80aa)は、4つのヘリックス:I、II、III、およびIVで構成されている。ヘリックスIIおよびIIIは、「HPDモチーフ」を含有する可動性ループを介して接続されており、そのHPDモチーフは、Jドメインにわたって高度に保存されており、活性にとって重要な意味をもつと考えられる(Tsai & Douglas、(1996)J Biol Chem 271、9347~9354)。HPD配列内の変異は、Jドメイン機能を消失させることが見出されている。
【0012】
PDなどのプロテオパチーについて上記で提供された背景を考えると、ミスフォールドされたタンパク質のレベルを低下させることが、これらの壊滅的な障害の症状を処置する、防止する、または別様に改善するための手段として役に立ち得ること、およびタンパク質ミスフォールディングを修復する細胞の生得的な能力の動員が、追求するべき当然の選択であろうことは明らかなように思われる。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、αシヌクレイン媒介性タンパク質ミスフォールディングを特異的に低下させるために、細胞の生得的なシャペロン機構、具体的にはHsp70媒介性システムを動員する新規なクラスの融合タンパク質を開発している。タンパク質分泌および発現を増強するために、Hsp70と相互作用するコシャペロンである、Hsp40タンパク質(Jタンパク質とも呼ばれる)の断片を含む融合タンパク質を用いる、本発明者らによる以前の研究においてとは違って、本研究は、タンパク質ミスフォールディング、およびαシヌクレインタンパク質により引き起こされる細胞毒性を低下させることを目的として、Jドメイン含有融合タンパク質を用いる。この関連において、本発明者らは、機能に必要とされるJドメインのエレメントが、タンパク質発現および分泌を増強することにおけるJドメインの使用とは全く異なるという驚くべき発見をし、本融合タンパク質の作用様式について別個の機構を実証した。本明細書に記載された融合タンパク質は、Jドメイン、およびαシヌクレインに対する親和性を有するドメインを含む。融合タンパク質内のαシヌクレイン結合性ドメインの存在は、結果として、αシヌクレインタンパク質のミスフォールディングの特異的低下を生じる。
【0014】
E1. したがって、第1の態様において、Jタンパク質のJドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む単離された融合タンパク質が本明細書で開示される。
E2. Jタンパク質のJドメインが真核生物起源である、E1に記載の融合タンパク質。
E3. Jタンパク質のJドメインがヒト起源である、E1~E2のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E4. Jタンパク質のJドメインが細胞質に局在する、E1~E3のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E5. Jタンパク質のJドメインが、配列番号1~50からなる群から選択される、E1~E4のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E6. Jドメインが、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択される配列を含む、E1~E5のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E7. Jドメインが配列番号5の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E8. Jドメインが配列番号10の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E9. Jドメインが配列番号16の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E10. Jドメインが配列番号25の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E11. Jドメインが配列番号31の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E12. αシヌクレイン結合性ドメインが、ELISAアッセイを用いて測定された場合、1μM以下、例えば、300nM以下、100nM以下、30nM以下、10nM以下の、αシヌクレインに対するKDを有する、E1~E11のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E13. αシヌクレイン結合性ドメインが、配列番号51~65からなる群から選択される配列を含む、E1~E12のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E14. αシヌクレイン結合性ドメインが、配列番号51の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E15. αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号52の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E16. αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号63の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E17. αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号64の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E18. 複数のαシヌクレイン結合性ドメインを含む、E1~E17のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E19. 2つのαシヌクレイン結合性ドメインからなる、E1~E18のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E20. 3つのαシヌクレイン結合性ドメインからなる、E1~E19のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E21. 以下の構築物:
a. DNAJ-X-S、
b. DNAJ-X-S-X-S、
c. DNAJ-X-S-X-S-X-S、
d. S-X-DNAJ、
e. S-X-S-X-DNAJ、
f. S-X-S-X-S-X-DNAJ、
g. S-X-DNAJ-X-S、
h. S-X-DNAJ-X-S-X-S、
i. S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
j. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S、
k. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S、
l. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
m. DnaJ-X-DnaJ-X-S-X-S、
n. S-X-DnaJ-X-DnaJ、および
o. S-X-S-X-DnaJ-X-DnaJ、
のうちの1つを含み、
ここで、
Sはαシヌクレイン結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである、E1~E20のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E22. 配列番号5のJドメイン配列、および配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメイン配列を含む、E1~E21のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E23. 配列番号5のJドメイン配列、および配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメイン配列の2個のコピーを含む、E1~E22のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E24. 配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E25. 配列番号88の配列を含む、E1~E24のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E26. 配列番号90の配列を含む、E1~E24のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E27. 配列番号99の配列を含む、E1~E24のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E28. 配列番号100の配列を含む、E1~E24のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E29. 標的化試薬をさらに含む、E1~E28のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E30. エピトープをさらに含む、E1~E29のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E31. エピトープが、配列番号77~83からなる群から選択されるポリペプチドである、E30に記載の融合タンパク質。
E32. 細胞透過剤をさらに含む、E1~E31のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E33. 細胞透過剤が、配列番号84~87からなる群から選択されるペプチド配列を含む、E32に記載の融合タンパク質。
E34. シグナル配列をさらに含む、E1~E33のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E35. シグナル配列が、配列番号102~104からなる群から選択されるペプチド配列を含む、E34に記載の融合タンパク質。
E36. 細胞においてαシヌクレインタンパク質のミスフォールディングを低下させる能力がある、E1~E35のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E37. 細胞においてリン酸化αシヌクレインタンパク質を低下させる能力がある、E1~E36のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E38. αシヌクレインタンパク質の分泌を低下させる能力がある、E1~E37のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E39. αシヌクレイン媒介性細胞毒性を低下させる能力がある、E1~E38のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E40. E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質をコードする核酸配列。
E41. 前記核酸がDNAである、E40に記載の核酸配列。
E42. 前記核酸がRNAである、E41に記載の核酸配列。
E43. 前記核酸が、少なくとも1個の修飾核酸を含む、E40~E42のいずれか1つに記載の核酸配列。
E44. プロモーター領域、5’UTR、ポリ(A)シグナルなどの3’UTRをさらに含む、E40~E43のいずれか1つに記載の核酸配列。
E45. プロモーター領域が、CMVエンハンサー配列、CMVプロモーター、CBAプロモーター、UBCプロモーター、GUSBプロモーター、NSEプロモーター、シナプシンプロモーター、MeCP2プロモーター、およびGFAPプロモーターからなる群から選択される配列を含む、E44に記載の核酸配列。
E46. E40~E45のいずれか1つに記載の核酸配列を含むベクター。
E47. アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアまたは粘液腫)、パラミクソウイルス(麻疹、RSV、またはニューキャッスル病ウイルス)、バキュロウイルス、レオウイルス、アルファウイルス、およびフラビウイルスからなる群から選択される、E46に記載のベクター。
E48. カプシドおよびE46またはE47に記載のベクターを含む、ウイルス粒子。
E49. カプシドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、偽型AAV、アカゲザル由来AAV、AAVrh8、AAVrh10、およびAAV-DJan AAVカプシド変異体、AAVハイブリッドセロタイプ、臓器向性AAV、心臓向性AAV、および心臓向性AAVM41変異体からなる群から選択される、E48に記載のウイルス粒子。
E50. カプシドが、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAVrh10からなる群から選択される、E48またはE49に記載のウイルス粒子。
E51. カプシドがAAV2である、E48~E50のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E52. カプシドがAAV5である、E48~E50のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E53. カプシドがAAV8である、E48~E50のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E54. カプシドがAAV9である、E48~E50のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E55. カプシドがAAVrh10である、E48~E50のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E56. E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E47のいずれか1つに記載のベクター、E48~E55のいずれか1つに記載のウイルス粒子からなる群から選択される作用物質、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物。
E57. 細胞においてαシヌクレインタンパク質の毒性を低下させる方法であって、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E47のいずれか1つに記載のベクター、E48~E55のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE56に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量と前記細胞を接触させるステップを含む、方法。
E58. 細胞が対象内にある、E57に記載の方法。
E59. 対象がヒトである、E57~E58のいずれか1つに記載の方法。
E60. 細胞が中枢神経系の細胞である、E57~E59のいずれか1つに記載の方法。
E61. 対象が、αシヌクレイン疾患を有すると同定されている、E57~E60のいずれか1つに記載の方法。
E62. αシヌクレイン疾患が、PD、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)からなる群から選択される、E61に記載の方法。
E63. αシヌクレイン疾患がPDである、E61またはE62に記載の方法。
E64. 対照細胞と比較した場合、細胞において、ミスフォールドしたαシヌクレインタンパク質の量の低下がある、E57~E63のいずれか1つに記載の方法。
E65. αシヌクレイン疾患の処置、防止、またはその進行の遅延を必要とする対象において、αシヌクレイン疾患を処置する、防止する、またはその進行を遅延させる方法であって、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E47のいずれか1つに記載のベクター、E48~E55のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE56に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量を投与するステップを含む、方法。
E66. αシヌクレイン疾患が、PD、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)からなる群から選択される、E65に記載の方法。
E67. αシヌクレイン疾患がPDである、E65に記載の方法。
E68. 対象においてαシヌクレイン疾患の進行を防止するまたはその進行を遅延させることにおける、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E47のいずれか1つに記載のベクター、E48~E55のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE56に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
E69. 対象におけるαシヌクレイン疾患の処置または防止のための医薬の調製における、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E47のいずれか1つに記載のベクター、E48~E55のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE56に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
E70. αシヌクレイン疾患がPDである、E68またはE69に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。高度に保存されたHPDドメインは、強調表示された四角形内に示されている。
【
図1B】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。
【
図2】Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含むいくつかの代表的な融合タンパク質構築物、ならびに対照構築物を示す図である。
【
図3A】Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質を発現することの効果を示す図である。
図3A:野生型(WT)αシヌクレイン(Syn(WT):バー1~3)または変異体αシヌクレイン(Syn(A53T):バー4~6)が、単独で、またはJドメインDnaJB1およびαシヌクレイン結合性ドメイン(J-SynBP1:バー2および5)を含むFlagエピトープタグ付き融合タンパク質、もしくは変異型Jドメイン(P33Q置換を含有する)およびαシヌクレイン結合性ドメインを含む対照融合タンパク質構築物(J(MT)-SynBP1:バー3および6)と共に、HEK293細胞において発現した。2日後、細胞を、Trisバッファー(プロテアーゼ阻害剤カクテルを追加した、10mM Tris、pH7.4、140mM NaCl、1mM EDTA)中でホモジナイズした。変異体αシヌクレインの凝集のレベルを、サンドイッチELISAで定量化し、そのサンドイッチELISAにおいて、凝集αシヌクレインタンパク質が、コーティング化Syn-O4抗体により捕獲され、続いて、HRPコンジュゲート型抗αシヌクレイン抗体(BioLegend:A15115A)で検出された。
図3B:野生型Syn(WT)(レーン1~3)または変異体Syn(A53T)(レーン4~6)を、単独で一過性にトランスフェクトされ、または融合タンパク質構築物と共に同時発現した、HEK293細胞から可溶化物を調製した。短時間の超音波処理後、細胞可溶化物を、SDS-PAGE/抗αシヌクレイン抗体(Ab-2:上端パネル)、Flag抗体(中央パネル)、または抗チューブリン抗体(下端パネル)でのイムノブロッティングに供した。
【
図3B】Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質を発現することの効果を示す図である。
図3A:野生型(WT)αシヌクレイン(Syn(WT):バー1~3)または変異体αシヌクレイン(Syn(A53T):バー4~6)が、単独で、またはJドメインDnaJB1およびαシヌクレイン結合性ドメイン(J-SynBP1:バー2および5)を含むFlagエピトープタグ付き融合タンパク質、もしくは変異型Jドメイン(P33Q置換を含有する)およびαシヌクレイン結合性ドメインを含む対照融合タンパク質構築物(J(MT)-SynBP1:バー3および6)と共に、HEK293細胞において発現した。2日後、細胞を、Trisバッファー(プロテアーゼ阻害剤カクテルを追加した、10mM Tris、pH7.4、140mM NaCl、1mM EDTA)中でホモジナイズした。変異体αシヌクレインの凝集のレベルを、サンドイッチELISAで定量化し、そのサンドイッチELISAにおいて、凝集αシヌクレインタンパク質が、コーティング化Syn-O4抗体により捕獲され、続いて、HRPコンジュゲート型抗αシヌクレイン抗体(BioLegend:A15115A)で検出された。
図3B:野生型Syn(WT)(レーン1~3)または変異体Syn(A53T)(レーン4~6)を、単独で一過性にトランスフェクトされ、または融合タンパク質構築物と共に同時発現した、HEK293細胞から可溶化物を調製した。短時間の超音波処理後、細胞可溶化物を、SDS-PAGE/抗αシヌクレイン抗体(Ab-2:上端パネル)、Flag抗体(中央パネル)、または抗チューブリン抗体(下端パネル)でのイムノブロッティングに供した。
【
図4】Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質を同時発現する細胞において、培地へ分泌されたαシヌクレインの量の低下を示す図である。野生型(バー2)または変異体(A53T;バー4)のαシヌクレイン単独での細胞のトランスフェクションは、ELISAにより検出可能であるようなシヌクレインの分泌を生じる。正常(バー3)かまたは変異型Jドメイン(P33Q置換を含有する;バー5)かのいずれかを含む融合タンパク質構築物との同時発現は、分泌型αシヌクレインの検出可能なレベルの排除を生じる。
【
図5】融合タンパク質構築物を発現する細胞における全αシヌクレインレベルへの様々な細胞過程の阻害剤の効果を示す図である。細胞に、野生型(レーン2)かまたは変異体(レーン3~8)のいずれかのαシヌクレインをトランスフェクトし、かつまたJB1-SynBP1融合タンパク質もトランスフェクトした(レーン4~8)。細胞をまた、バフィロマイシンA1(後期オートファジーの阻害剤)(レーン5および6、それぞれにおいて10nMおよび100nM)かまたはMG132(プロテアソーム阻害剤)(レーン7および8、それぞれにおいて、0.1μMおよび1μM)のいずれかで処理した。細胞可溶化物を、抗シヌクレイン抗体で探索した。
【
図6】融合タンパク質構築物を発現する細胞における、凝集αシヌクレインレベルへの様々な細胞過程の阻害剤の効果を示す図である。細胞に、野生型かまたは変異体のいずれかのαシヌクレインをトランスフェクトし、かつまたJB1-SynBP1融合タンパク質もトランスフェクトした。細胞をまた、バフィロマイシンA1(後期オートファジーの阻害剤)(10nMおよび100nM)かまたはMG132(プロテアソーム阻害剤)(0.1μMおよび1μM)のいずれかで処理した。細胞可溶化物における凝集シヌクレインを、抗凝集シヌクレイン抗体を用いるELISAにより決定した。
【
図7】U87-MGグリオーマ細胞におけるαシヌクレイン(A53T)媒介性細胞毒性のJB1-SynBP1構築物による改善を示す図である。U87MG細胞を、野生型(「SynWT」)かまたは変異体(「SynA53T」)のいずれかのαシヌクレインタンパク質を単独かまたはJB1-SynBP1構築物と共にかのいずれかで発現するレンチウイルスに感染させた。感染後7日目に、U87-MG細胞から培地を収集した。培地における乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を、LDH-Cytox(商標)アッセイキット(BioLegend)により測定し、SynWTを単独で発現する細胞におけるLDHレベルに対する値として表した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書および特許請求の範囲に用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他に指図しない限り、複数の指示物を含む。例えば、用語「1つの細胞」は、その混合物を含む、複数の細胞を含む。
【0017】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すのに本明細書で交換可能に用いられる。ポリマーは直鎖状または分岐状であり得、それは修飾アミノ酸を含んでもよく、それは非アミノ酸により中断されてもよい。それらの用語はまた、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識コンポーネントとのコンジュゲーションなどの任意の他の操作により、修飾されているアミノ酸ポリマーを包含する。
【0018】
本明細書で用いられる場合、用語「アミノ酸」は、天然および/または非天然もしくは合成のアミノ酸のいずれかを指し、それには、D型またはL型の両方の光学異性体、ならびにアミノ酸類似体およびペプチド模倣体が挙げられるが、それらに限定されない。標準一文字または三文字コードが、アミノ酸を名付けるために用いられる。
【0019】
「宿主細胞」は、対象ベクターについてのレシピエントであり得、またはレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含む。その子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な変異によって、最初の親細胞と必ずしも完全に同一(形態において、または全DNA相補体のゲノムにおいて)というわけではない。宿主細胞は、インビボでこの発明のベクターでトランスフェクトされた細胞を含む。
【0020】
本明細書で開示された様々なポリペプチドを記載するために用いられる場合の「単離された」は、その天然の環境のコンポーネントから識別および分離されており、ならびに/または回収されているポリペプチドを意味する。その天然の環境の夾雑コンポーネントは、典型的には、本ポリペプチドについての診断的または治療的使用に干渉する材料であり、それには、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が挙げられ得る。当業者には明らかであるように、天然に存在しないポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、その天然に存在する対応物からそれを区別するために「単離」を必要としない。加えて、「濃縮された」、「分離された」、または「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、体積あたりの分子の濃度または数が、その天然に存在する対応物のそれより一般的に大きい点で、その天然に存在する対応物から区別可能である。一般的に、組換え手段により生成され、かつ宿主細胞において発現したポリペプチドは、「単離」されていると見なされる。
【0021】
「単離された」ポリヌクレオチド、またはポリペプチドをコードする核酸、または他のポリペプチドをコードする核酸は、それが、そのポリペプチドをコードする核酸の天然源において通常付随している少なくとも1つの夾雑核酸分子から識別および分離されている核酸分子である。単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子は、それが天然で見出される形または設定以外をとる。したがって、単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子は、それが天然の細胞において存在する場合のその特定のポリペプチドをコードする核酸分子から区別される。しかしながら、単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子には、そのポリペプチドを通常発現する細胞に含有される、ポリペプチドをコードする核酸分子が挙げられ、ここで、例えば、その核酸分子は、天然細胞の位置とは異なる、染色体または染色体外の位置にある。
【0022】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」は交換可能に用いられる。それらは、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはその類似体のいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形を指す。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造を有し得、既知または未知の任意の機能を実施し得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的例である:遺伝子または遺伝子断片のコードまたは非コード領域、連鎖解析から定義される遺伝子座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、そのポリマーのアセンブリの前または後に、ヌクレオチド構造への修飾が与えられ得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチドコンポーネントによって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識コンポーネントとのコンジュゲーションなど、ポリマー化後にさらに修飾され得る。
【0023】
本明細書で定義される場合、用語「αシヌクレイン障害」または「シヌクレイノパチー」は、細胞内αシヌクレイン凝集物、特にαシヌクレイン変異タンパク質の凝集物の形成に関連した障害を指す。αシヌクレイン障害の例には、PDを含むパーキンソニズム、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
「ベクター」は、好ましくは適切な宿主において自己複製する、核酸分子であり、それは、挿入された核酸分子を宿主細胞の中へおよび/または宿主細胞間で転移させる。その用語は、主にDNAまたはRNAの細胞への挿入のために機能するベクター、主にDNAまたはRNAの複製のために機能する複製ベクター、ならびにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、上記の機能の1つより多くを提供するベクターも含まれる。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞の中へ導入された場合、転写され、かつポリペプチドへ翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常、所望の発現産物を生じるように機能することができる発現ベクターで構成された適切な宿主細胞を含意する。
【0025】
用語「作動可能に連結された」は、記載されたコンポーネントの並置であって、そこで、それらのコンポーネントが、それらの意図された様式でそれらが機能することを可能にする関係にある、並置を指す。コード配列と「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が、制御配列と適合した条件下で達成されるように、ライゲーションされている。「作動可能に連結された」配列には、目的の遺伝子と近接する発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するようにトランスでまたはある距離を置いて作用する発現制御配列の両方が挙げられ得る。用語「発現制御配列」は、それらがライゲーションされるコード配列の発現およびプロセシングに作用するのに必要であるポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングなどの効率的なRNAプロセシングシグナルおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増強する配列(例えば、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに、必要に応じて、タンパク質分泌を増強する配列が挙げられる。そのような制御配列の性質は、宿主生物体によって異なる;原核生物において、そのような制御配列には、一般的に、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が挙げられる;真核生物において、一般的に、そのような制御配列には、プロモーターおよび転写終結配列が挙げられる。用語「制御配列」は、その存在が発現およびプロセシングに必須であるコンポーネントを含むことが意図され、その存在が有利である追加のコンポーネント、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列も含むことができる。他に言及がない限り、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子を発現ベクターへ挿入することの本明細書での記載または言及は、その挿入される核酸もまた、その挿入される核酸分子を含有する発現ベクターが適合性宿主細胞または生物体の適合性細胞へ導入される場合、コードされた融合タンパク質の発現に必要とされる、機能性プロモーターならびに他の転写および翻訳制御エレメントとベクター内で作動可能に連結されていることを意味する。
【0026】
ポリヌクレオチドに適用される場合の「組換え型の」は、そのポリヌクレオチドが、宿主細胞において潜在的に発現し得る構築物を生じる、インビトロクローニング、制限および/またはライゲーションのステップ、ならびに他の手順の様々な組合せの産物であることを意味する。
【0027】
用語「遺伝子」および「遺伝子断片」は、本明細書で交換可能に用いられる。それらは、転写および翻訳された後、特定のタンパク質をコードする能力がある少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。遺伝子または遺伝子断片は、そのポリヌクレオチドが少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有する限り、ゲノムDNAまたはcDNAであり得、それは、コード領域全体またはそのセグメントを網羅し得る。「融合遺伝子」は、一緒に連結されている少なくとも2つの異種性ポリヌクレオチドで構成される遺伝子である。
【0028】
用語「疾患」および「障害」は、当技術分野において容認可能な医療水準および行為により同定された病的状態を示すように、交換可能に用いられる。
【0029】
本明細書で用いられる場合、用語「有効量」は、疾患またはその1つもしくは複数の症状の重症度および/または期間を低下させまたは改善する;有害なまたは病的な状態の進展を防止する;病的状態の退行を引き起こす;病的状態に関連した1つまたは複数の症状の再発、発達、発生、または進行を防止する;障害を検出する;あるいは、治療(例えば、別の予防または治療剤の投与)の予防的または治療的効果を増強しまたは向上させるのに十分である治療の量を指す。
【0030】
本明細書で用いられる場合、用語「Jドメイン」は、Hsp70およびその同族の内因性ATPアーゼ触媒活性を加速する能力を保持する断片を指す。様々なJタンパク質のJドメインが決定されており(例えば、Kampingaら (2010)Nat.Rev.、11:579~592;Hennessyら (2005)Protein Science、14:1697~1709参照(それぞれは、全体として参照により組み入れられている))、以下のいくつかのホールマークによって特徴づけられる:4つのαヘリックス(I、II、III、IV)、および通常、ヘリックスIIとIIIの間に高度に保存された、ヒスチジン、プロリン、およびアスパラギン酸のトリペプチド配列モチーフ(「HPDモチーフ」と呼ばれる)を有することにより特徴づけられる。典型的には、Jタンパク質のJドメインは、50アミノ酸長から70アミノ酸長の間であり、Hsp70-ATPシャペロンタンパク質とのJドメインの相互作用(結合)の部位は、ヘリックスII内から伸びる領域であると考えられており、HPDモチーフは、Hsp70 ATPアーゼ活性の刺激に必要である。本明細書で用いられる場合、用語「Jドメイン」は、Hsp70の内因性ATPアーゼ活性を加速する能力を保持する、天然のJドメイン配列およびその機能性バリアントを含むことを意図され、その能力は、当技術分野においてよく知られた方法を用いて測定することができる(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、Horneら (2010)J.Biol.Chem.、285、21679~21688参照)。ヒトJドメインの非限定的リストは、表1に提供されている。
【0031】
詳細な説明
本発明者らは、Jタンパク質のJドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質構築物と、細胞をある程度、接触させることが、αシヌクレインタンパク質の凝集を低下させる予想外の効果を生じることを見出している。変異体αシヌクレインの凝集は、いくつかの壊滅的な疾患を引き起こすと考えられており、その疾患には、パーキンソニズム、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および凝集αシヌクレインタンパク質の異常な蓄積に関連した疾患(シヌクレイノパチー)が挙げられるが、それらに限定されない。したがって、αシヌクレイン障害を処置するための、例えばそれを必要とする対象においての、有用な組成物および方法が本明細書に提供される。
【0032】
シャペロンに基づいた治療に関連した問題を克服するために、本発明者らは、高い特異性を有する人工シャペロンタンパク質をデザインすることが可能であるかどうかを調べた。本発明者らは、Hsp70結合/活性化のためのエフェクタードメイン(Jドメイン配列)、およびαシヌクレインタンパク質に対する特異性を与えるドメインを含む一連の融合タンパク質構築物をデザインした。生じた融合タンパク質は、Hsp70およびその同族の内因性ATPアーゼ触媒活性を加速するように作用し、その結果として、タンパク質フォールディングの増加、凝集の低下、および/またはクリアランスの加速を生じる。
【0033】
I. 融合タンパク質構築物
a. 本発明における有用なJドメイン
様々なJタンパク質のJドメインが決定されている。例えば、Kampingaら、Nat.Rev.、11:579~592(2010);Hennessyら、Protein Science、14:1697~1709(2005)参照。本発明の融合タンパク質を調製することにおいて有用なJドメインは、主にHsp70 ATPアーゼ活性を加速するJドメインの特徴を定義する鍵を握る。したがって、本発明において有用な単離されたJドメインは、4つのαヘリックス(I、II、III、IV)、および通常、ヘリックスIIとIIIの間に高度に保存された、ヒスチジン、プロリン、およびアスパラギン酸のトリペプチド配列(「HPDモチーフ」と呼ばれる)を有することにより特徴づけられる、ポリペプチドドメインを含む。典型的には、Jタンパク質のJドメインは、50アミノ酸長から70アミノ酸長の間であり、Hsp70-ATPシャペロンタンパク質とのJドメインの相互作用(結合)の部位は、ヘリックスII内から伸びる領域であると考えられており、HPDモチーフは、原始的な活性の基礎をなす。代表的なJドメインには、DnaJB1、DnaJB2、DnaJB6、DnaJC6のJドメイン、SV40のラージT抗原のJドメイン、および哺乳動物のシステインストリングタンパク質(CSP-α)のJドメインが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の融合タンパク質に用いられ得るこれらを始めとするJドメインについてのアミノ酸配列は、表1に提供されている。保存HPDモチーフは、太字で強調されている。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1~50からなる群から選択されるポリペプチド配列から選択されるJドメイン配列を含む。本発明者らは、保存「HPD」モチーフを含むJドメインが活性を有することを実証している(データ未呈示)。したがって、別の実施形態において、融合タンパク質は、保存「HPD」モチーフを含むJドメイン配列を含む。例えば、特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1~15および17~50からなる群から選択されるポリペプチド配列から選択されるJドメイン配列を含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択されるポリペプチド配列から選択されるJドメイン配列を含む。
【0038】
b. αシヌクレイン結合性ドメイン
融合タンパク質はまた、少なくとも1つのαシヌクレイン結合性ドメインを含む。αシヌクレイン結合性ドメインは、融合タンパク質を形成するようにJドメインと連結された一本鎖ポリペプチドまたは多量体ポリペプチドであり得る。
【0039】
αシヌクレイン結合性ドメインが、細胞内において病的レベルで存在する時のαシヌクレインタンパク質を結合することができるような十分な親和性を有することは理想である。したがって、一実施形態において、融合タンパク質は、96ウェルマイクロタイタープレート上でのELISAにより試験された場合、例えば、2μM以下、1μM以下、500nM以下、300nM以下、100nM以下、30nM以下の、αシヌクレインに対するKDを有するαシヌクレイン結合性ドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、96ウェルマイクロタイタープレート上でのELISAにより試験された場合、例えば、2μM以下、1μM以下、500nM以下、300nM以下、100nM以下、30nM以下の、凝集型のαシヌクレインに対するKDを有するαシヌクレイン結合性ドメインを含む。なお別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、凝集型のαシヌクレインに対する選択性を有する;例えば、αシヌクレイン結合性ドメインは、可溶型のαシヌクレインに対する親和性と比較した場合、凝集型のαシヌクレインに対する少なくとも2倍高い、例えば、少なくとも3倍高い、少なくとも4倍高い、少なくとも5倍高い、少なくとも10倍高い、少なくとも30倍高い、少なくとも100倍高い親和性を有する。
【0040】
αシヌクレイン結合性ドメインは、以前に同定されかつ特徴づけられている(例えば、米国特許第7,605,133号、WO2019/161386、Abeら、(2007)BMC Bioinformatics、8:451参照。それらのそれぞれは、参照により本明細書に組み入れられている)。したがって、別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号51~64からなる群から選択されるαシヌクレイン結合性ドメイン(例えば、表2参照)を含む。一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号63のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。
【0041】
なお別の実施形態において、融合タンパク質は、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含み、前記αシヌクレイン結合性ドメインが配列番号65の配列を含まない。なお別の実施形態において、融合タンパク質は、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含み、前記融合タンパク質が配列番号65を含まない。特定の実施形態において、融合タンパク質は、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含み、前記融合タンパク質が配列番号65を含まず、かつ前記Jドメインが、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択され、かつ前記αシヌクレイン結合性ドメインが前記JドメインのC末端に、任意選択のリンカーありまたはなしで、付着している。
【0042】
別の態様において、融合タンパク質は、Jドメインおよび配列番号65の標的結合性タンパク質を含む。QBP1(配列番号65)を含む融合タンパク質は、A53T αシヌクレインにおける機械的安定性および機械的高安定性の配座異性体の形成を低下させることが以前、示された(Hervasら、(2012)PLoS Biol. 10(5):e1001335)。したがって、特定の実施形態において、融合タンパク質構築物は、配列番号65のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。特定の実施形態において、融合タンパク質構築物は、配列番号:1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択されるJドメイン配列、および配列番号65のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。一実施形態において、融合タンパク質構築物は、配列番号5のJドメイン配列および配列番号65のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。
【0043】
別の実施形態において、融合タンパク質はまた、Jドメインと化学的にコンジュゲートされているαシヌクレイン結合性ドメインの使用を企図する。αシヌクレイン結合性ドメインは、Jドメインと直接的にコンジュゲートされ得る。あるいは、それは、リンカーによりJドメインとコンジュゲートされ得る。例えば、当業者に知られて、かつαシヌクレイン結合性ドメインをJドメインと、または標的化ドメインを、αシヌクレイン結合性ドメインおよびJドメインを含む融合タンパク質と架橋するのに有用である多数の化学的架橋剤がある。例えば、架橋剤は、分子を段階的な様式で連結するために用いることができるヘテロ二官能性架橋剤である。ヘテロ二官能性架橋剤は、タンパク質をコンジュゲートするためのより特異的なカップリング方法をデザインする能力を提供し、それにより、ホモタンパク質ポリマーなどの望ましくない副反応の発生を低下させる。様々なヘテロ二官能性架橋剤が当技術分野において知られており、それには、スクシンイジミル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS);N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC);4-スクシンイミジルオキシカルボニル-a-メチル-a-(2-ピリジルジチオ)-トルエン(SMPT)、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート]ヘキサノエート(LC-SPDP)が挙げられる。N-ヒドロキシスクシンイミド部分を有する架橋剤は、一般的により高い水溶性を有するN-ヒドロキシスルホスクシンイミド類似体として得ることができる。加えて、連結鎖内にジスルフィド架橋を有する架橋剤は、インビボでのリンカー切断の量を低下させるためにアルキル誘導体として、代わりに合成することができる。ヘテロ二官能性架橋剤に加えて、ホモ二官能性架橋剤および光反応性架橋剤を含む、いくつかの他の架橋剤が存在する。ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビスマレイミドヘキサン(BMH)、およびジメチルピメリミデート・2HClは、この開示に用いられる有用なホモ二官能性架橋剤の例であり、ビス-[B-(4-アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド(BASED)およびN-スクシンイミジル-6(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート(SANPAH)は、有用な光反応性架橋剤の例である。タンパク質カップリング技術の最近の概説について、参照により本明細書に組み入れられた、Meansら、(1990)Bioconj. Chem. 1:2~12を参照されたい。
【0044】
【0045】
c. 任意選択のリンカー
本明細書に記載された融合タンパク質は、任意選択で、1つまたは複数のリンカーを含有することができる。リンカーは、ペプチド性または非ペプチド性であり得る。リンカーの目的は、とりわけ、タンパク質内の機能性ドメインの間(例えば、Jドメインとαシヌクレイン結合性ドメインの間、αシヌクレイン結合性ドメインのタンデム配置の間、Jドメインとαシヌクレイン結合性ドメインと任意選択の標的化試薬のいずれかの間、またはJドメインとαシヌクレイン結合性ドメインと任意選択の検出ドメインまたはエピトープのいずれかの間)に、そのドメインのそれぞれの最適な機能のために、適切な距離を与えることである。明らかに、リンカーは、好ましくは、本発明の融合タンパク質のJドメイン、標的タンパク質結合性ドメインのそれぞれの機能に干渉しない。リンカーは、本発明の融合タンパク質に存在する場合には、標的タンパク質(αシヌクレインタンパク質)によって引き起こされる細胞毒性を減弱するように選択され、直接的付着が所望の効果を達成するならば、それは省略され得る。本発明の融合タンパク質に存在するリンカーは、本明細書に記載されているようなタンパク質ドメインまたは融合タンパク質全体をコードする核酸セグメントをインフレームで挿入されている発現ベクターのクローニング部位あたりの核酸のセグメント上に存在するヌクレオチド配列によってコードされる1個または複数のアミノ酸を含み得る。一実施形態において、ペプチドリンカーは、1アミノ酸長から20アミノ酸長の間である。別の実施形態において、ペプチドリンカーは、2アミノ酸長から15アミノ酸長の間である。なお別の実施形態において、ペプチドリンカーは、2アミノ酸長から10アミノ酸長の間である。
【0046】
本発明による融合タンパク質を作製するために1つまたは複数のポリペプチドリンカーを選択することは、当業者の知識と技能の範囲内である。例えば、Araiら、Protein Eng.、14(8):529~532(2001);Crastoら、Protein Eng.、13(5):309~314(2000);Georgeら、Protein Eng.、15(11):871~879(2003);Robinsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95:5929~5934(1998)参照(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。本発明による融合タンパク質を調製することにおいて用いられ得る2個以上のアミノ酸のリンカーの例には、下記の表3に提供されたものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0047】
【0048】
d. 標的化試薬
本明細書に開示された融合タンパク質はさらに、標的化部分を含み得る。本明細書で用いられる場合、用語「標的化部分」および「標的化試薬」は、交換可能に用いられ、細胞においてまたは対象の身体において、融合タンパク質の結合、輸送、蓄積、滞留時間、生物学的利用率を増強し、またはその生物活性もしくは治療効果を改変する、融合タンパク質に会合した物質を指す。標的化部分は、組織、細胞、および/または細胞内のレベルで機能性を有し得る。標的化部分は、例えば融合タンパク質の対象への投与により、融合タンパク質の特定の細胞、組織、もしくは器官への局在、または細胞内分布を方向づけることができる。一実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のN末端に位置する。別の実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のC末端に位置する。なお別の実施形態において、標的化部分は内部に位置する。別の実施形態において、標的化部分は、化学的コンジュゲーションを介して融合タンパク質と付着する。さらなる実施形態において、標的化部分は、核移行シグナルまたは核外移行シグナルなどの細胞内局在化のためのアミノ酸配列であり得る。標的化部分には、とりわけ、有機もしくは無機分子、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、抗体もしくはその断片、成長因子、酵素、レクチン、抗原もしくは免疫原、ウイルスもしくはそのコンポーネント、ウイルスベクター、受容体、受容体リガンド、毒素、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドもしくはアプタマー、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、糖脂質、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、ホルモン、成長因子、化学誘引物質、サイトカイン、ケモカイン、薬物、または小分子が挙げられ得るが、それらに限定されない。
【0049】
本発明の例示的実施形態において、標的化部分は、標的細胞または組織、例えば、神経細胞、中枢神経系、および/または末梢神経系において、プラットフォーム、またはその関連したリガンドおよび/もしくは活性物質の結合、輸送、蓄積、滞留時間、生物学的利用率を増強し、またはその生物活性もしくは治療効果を改変する。したがって、標的化部分は、中枢神経系に関連した細胞受容体に対する特異性を有し得、または血液脳関門(BBB)を経由してのCNSへの送達の増強に別様に関連する。結果的に、上記のようなリガンドは、リガンドと標的化部分の両方であり得る。
【0050】
いくつかの実施形態において、標的化部分は、例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第10,111,965号に記載されているような、細胞透過性ペプチドであり得る。別の実施形態において、標的化部分は、例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第16/131,591号に記載されているような、抗体またはその抗原結合性断片もしくは一本鎖誘導体であり得る。標的化部分は、標的化された細胞送達のためのプラットフォームに、そのコアと直接的または間接的に結合することにより、連結され得る。例えば、コアがナノ粒子を含む実施形態において、標的化部分のナノ粒子とのコンジュゲーションは、ナノ粒子にPEGを繋ぎ止めるために用いられる類似した官能基を利用することができる。したがって、標的化部分は、標的化部分の官能化を通してナノ粒子と直接的に結合することができる。あるいは、標的化部分は、上記で論じられているように、標的化部分の官能化PEGとのコンジュゲーションを通して、ナノ粒子と間接的に結合することができる。標的化部分は、共有結合性、非共有結合性、または静電気性相互作用によってコアと接着することができる。一実施形態において、標的化部分はペプチドである。特定の実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のN末端と共有結合性に付着するペプチドである。
【0051】
e. エピトープ
ある特定の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質に追加の性質を与えることができる任意選択のエピトープまたはタグを含有する。本明細書で用いられる場合、用語「エピトープ」および「タグ」は、典型的には融合タンパク質のN末端またはC末端と付着する、典型的には300アミノ酸長以下の、アミノ酸配列を指すのに交換可能に用いられる。一実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、精製を促進するために用いられるエピトープを含む。下記の表4に提供された、精製に有用なそのようなエピトープの例には、ヒトIgG1 Fc配列(配列番号77)、FLAGエピトープ(DYKDDDDK、配列番号78)、His6エピトープ(配列番号79)、c-myc(配列番号80)、HA(配列番号81)、V5エピトープ(配列番号82)、またはグルタチオン-s-トランスフェラーゼ(配列番号83)が挙げられる。別の実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、対象、例えばヒトへ投与された時、融合タンパク質の半減期を増加させるために用いられるエピトープを含む。半減期を増加させるために有用なそのようなエピトープの例には、ヒトFc配列が挙げられる。したがって、一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインに加えて、ヒトFcエピトープを含む。エピトープは、融合タンパク質のC末端に位置する。
【0052】
【0053】
f. 細胞透過性ペプチド
なお他の実施形態において、本明細書に記載された融合タンパク質はさらに、細胞透過性ペプチドを含み得る。細胞透過性ペプチドは、コンジュゲートされたカーゴを、それが小分子であろうと、ペプチドであろうと、タンパク質であろうと、核酸であろうと、細胞へ運ぶことが知られている。本発明の融合タンパク質における細胞透過性ペプチドの非限定的例には、ポリカチオン性ペプチド、例えば、HIV TATペプチド49-57、ポリアルギニン、およびペネトラチンpAntan(43-58)、両親媒性ペプチド、例えば、pep-1、疎水性ペプチド、例えば、C405Y、およびその他同種類のものが挙げられる。下記の表5参照。
【0054】
【0055】
したがって、一実施形態において、本融合タンパク質は、細胞透過性ペプチドおよび融合タンパク質を含み、前記細胞透過性ペプチドが、配列番号84~87からなる群から選択され、前記融合タンパク質が、配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号84の細胞透過性ペプチド、および配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号85の細胞透過性ペプチド、および配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。なお別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号86の細胞透過性ペプチド、ならびに配列番号88、90~96、および98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。さらに別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号87の細胞透過性ペプチド、ならびに配列番号88、90~96、および98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。細胞透過性ペプチドを含む本融合タンパク質構築物を発現する細胞は、対象、例えばヒト対象(例えば、αシヌクレイン障害を有し、または患うリスクがある患者)へ投与され得る。本融合タンパク質は、細胞から分泌され、αシヌクレイン含有タンパク質凝集および/または関連した細胞毒性を低下させるのを助ける。
【0056】
g. Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインの配置
本明細書に記載された融合タンパク質は、多数の様式で配置され得る。一実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、JドメインのC末端側へ付着している。別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、JドメインのN末端側へ付着している。αシヌクレイン結合性ドメインおよびJドメインは、いずれの立体配置においても、任意で、上記のようなリンカーを介して、分離され得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、Jドメインは、複数のαシヌクレイン結合性ドメイン、例えば、2つのαシヌクレイン結合性ドメイン、3つのαシヌクレイン結合性ドメイン、4つのαシヌクレイン結合性ドメイン、またはそれ以上と付着し得る。αシヌクレイン結合性ドメインは、JドメインのN末端側へ付着し得る。あるいは、αシヌクレイン結合性ドメインは、JドメインのC末端側へ付着し得る。なお別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、JドメインのN末端側およびC末端側に付着し得る。複数のαシヌクレイン結合性ドメインのそれぞれは、同じαシヌクレイン結合性ドメインであり得る。別の実施形態において、融合タンパク質における複数のαシヌクレイン結合性ドメインのそれぞれは、異なるαシヌクレイン結合性ドメイン(すなわち、異なる配列)であり得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、以下の群:
a. DNAJ-X-S、
b. DNAJ-X-S-X-S、
c. DNAJ-X-S-X-S-X-S、
d. S-X-DNAJ、
e. S-X-S-X-DNAJ、
f. S-X-S-X-S-X-DNAJ、
g. S-X-DNAJ-X-S、
h. S-X-DNAJ-X-S-X-S、
i. S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
j. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S、
k. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S、
l. S-X-S-X-S-X-DNAJ-X-S-X-S-X-S、
m. DnaJ-X-DnaJ-X-S-X-S、
n. S-X-DnaJ-X-DnaJ、および
o. S-X-S-X-DnaJ-X-DnaJ、
から選択される構造を含み得、
ここで、
Sはαシヌクレイン結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである。
【0059】
一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1~15および17~50からなる群から選択されるJドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択されるJドメインを含む。一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメインを含む。
【0060】
別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、配列番号51~64からなる群から選択される。一つの特定の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは、配列番号49である。別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは配列番号63である。なお別の実施形態において、αシヌクレイン結合性ドメインは配列番号64である。
【0061】
なお別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメインおよび配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメイン、および配列番号51のαシヌクレイン結合性ドメインの少なくとも2個のコピーを含む。
【0062】
Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質構築物の非限定的例、加えて対照構築物は、
図2に概略的に描かれ、下記の表6にも示されている。一実施形態において、特定の融合タンパク質構築物は、配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される。
【0063】
【0064】
【0065】
II. 融合タンパク質構築物をコードする核酸
本発明の別の態様によれば、(a)前述の実施形態のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または(b)(a)のポリヌクレオチドの相補体から選択されるポリヌクレオチドを含む、単離された核酸が提供される。本発明は、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする、単離された核酸、ならびに融合タンパク質をコードするそのような核酸分子と相補的な配列、加えて、その相同バリアントを提供する。別の態様において、本発明は、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする核酸、融合タンパク質をコードする核酸と相補的な配列、加えて、その相同バリアントを作製するための方法を包含する。本発明のこの態様による核酸は、プレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムDNA(gDNA)、PCR増幅されたDNA、相補DNA(cDNA)、合成DNA、または組換えDNAであり得る。
【0066】
さらに別の態様において、(a)融合タンパク質をコードするヌクレオチドを合成しおよび/またはアセンブルするステップ、(b)コード遺伝子を、宿主細胞に適切な発現ベクターへ組み入れるステップ、(c)適切な宿主細胞を発現ベクターで形質転換するステップ、ならびに(d)融合タンパク質が形質転換宿主細胞において発現することを引き起こしまたは可能にする条件下で宿主細胞を培養し、それにより、生物活性融合タンパク質を産生し、産生された生物活性融合タンパク質が、当技術分野において知られた標準タンパク質精製方法によって、単離された融合タンパク質として回収される、ステップを含む、融合タンパク質を産生する方法が開示される。分子生物学における標準組換え技術が、本発明のポリヌクレオチドおよび発現ベクターを作製するために用いられる。
【0067】
本発明によれば、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする核酸配列(またはその相補体)は、適切な宿主細胞において融合タンパク質の発現を指示する組換えDNA分子を作製するために用いられる。いくつかのクローニングストラテジーは、本発明を実施するのに適しており、その多くは、本発明の融合タンパク質またはその相補体をコードする遺伝子を含む構築物を作製するために用いられる。いくつかの実施形態において、クローニングストラテジーは、本発明の融合タンパク質またはその相補体をコードする遺伝子を産生するために用いられる。
【0068】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数の融合タンパク質をコードする核酸は、RNA分子であり、プレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムDNA(gDNA)、PCR増幅されたDNA、相補DNA(cDNA)、合成DNA、または組換えDNAであり得る。様々な実施形態において、核酸は、所望のポリペプチドを一過性に発現するために細胞へ導入されるmRNAである。本明細書で用いられる場合、「一過性の」は、数時間、数日間、または数週間の期間の間の、組み込まれていない導入遺伝子の発現を指し、発現の期間は、ゲノムへ組み込まれ、または細胞における安定なプラスミドレプリコン内に含有される場合のポリヌクレオチドの発現についての期間より短い。
【0069】
特定の実施形態において、ポリペプチドをコードするmRNAは、インビトロで転写されたmRNAである。本明細書で用いられる場合、「インビトロで転写されたRNA」とは、インビトロで合成されているRNA、好ましくはmRNAを指す。一般的に、インビトロで転写されたRNAは、インビトロ転写ベクターから生成される。インビトロ転写ベクターは、インビトロで転写されたRNAを生成するために用いられる鋳型を含む。特定の実施形態において、mRNAはさらに、5’キャップもしくは修飾5’キャップおよび/またはポリ(A)配列を含み得る。本明細書で用いられる場合、5’キャップ(RNAキャップ、RNA 7-メチルグアノシンキャップ、またはRNA m7Gキャップとも呼ばれる)は、転写の開始後すぐに真核生物メッセンジャーRNAの「最前部(front)」または5’末端に付加されている修飾グアニンヌクレオチドである。5’キャップは、最初に転写されたヌクレオチドに連結され、かつリボソームによって認識され、かつRnアーゼから保護される末端基を含む。キャッピング部分は、mRNAの機能性、例えば、その安定性または翻訳の効率を調節するために修飾され得る。特定の実施形態において、mRNAは、約50個から約5000個の間のアデニンのポリ(A)配列を含む。一実施形態において、mRNAは、約100塩基から約1000塩基の間、約200塩基から約500塩基の間、または約300塩基から約400塩基の間のポリ(A)配列を含む。一実施形態において、mRNAは、約65塩基、約100塩基、約200塩基、約300塩基、約400塩基、約500塩基、約600塩基、約700塩基、約800塩基、約900塩基、または約1000塩基もしくはそれ以上のポリ(A)配列を含む。ポリ(A)配列は、mRNAの機能性、例えば、局在化、安定性、または翻訳の効率を調節するために化学的または酵素的に修飾され得る。本明細書で用いられる場合、用語「ポリヌクレオチドバリアント」および「バリアント」およびその他同種類のものは、参照ポリヌクレオチド配列と実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチド、または以下で定義されるストリンジェントな条件下で参照配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、参照ポリヌクレオチドと比較して、1個または複数のヌクレオチドが、付加し、または欠失し、または異なるヌクレオチドに置き換えられているポリヌクレオチドを含む。この点において、変異、付加、欠失、および置換を含むある特定の変更を、参照ポリヌクレオチドに行うことができ、それにより変更されたポリヌクレオチドが、参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または活性を保持することは、当技術分野においてよく理解されている。
【0070】
ある特定の実施形態において、核酸配列は、目的の遺伝子(例えば、Jドメインおよびポリグルタミン結合性ドメインを含む融合タンパク質)をコードするヌクレオチド配列を核酸カセット内に含む。本明細書で用いられる場合、用語「核酸カセット」または「発現カセット」は、RNAおよびその後、ポリペプチドを発現することができるベクター内の遺伝的配列を指す。一実施形態において、核酸カセットは、目的の遺伝子、例えば、目的のポリヌクレオチドを含有する。別の実施形態において、核酸カセットは、1つまたは複数の発現制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリ(A)配列、および目的の遺伝子、例えば目的のポリヌクレオチドを含有する。ベクターは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個、またはそれ以上の核酸カセットを含み得る。核酸カセットは、カセット内の核酸がRNAへ転写され、必要に応じて、タンパク質もしくはポリペプチドへ翻訳され、形質転換細胞における活性に必要とされる適切な翻訳後修飾を起こし、適切な細胞内コンパートメントへと標的化することまたは細胞外のコンパートメントへの分泌により、生物活性のために適切なコンパートメントへと転位することができるように、ベクター内に位置的にかつ順序的に方向づけられる。好ましくは、カセットは、ベクターへの即時挿入に適応した3’および5’末端を有し、例えば、それは、各末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を有する。カセットは、単一ユニットとして、プラスミドまたはウイルスベクターへ除去および挿入され得る。
【0071】
特定の実施形態における使用に適した実例的な遍在性発現制御配列には、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ウイルスのサルウイルス40(SV40)(例えば初期または後期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルス由来のH5、P7.5、およびPl lプロモーター、伸長因子1-アルファ(EFla)プロモーター、初期増殖応答1(EGR1)、フェリチンH(FerH)、フェリチンL(FerL)、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、真核生物の翻訳開始因子4A1(EIF4A1)、熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)、熱ショックタンパク質90kDaベータ、メンバー1(HSP90B1)、熱ショックタンパク質70kDa(HSP70)、β-キネシン(b-KIN)、ヒトROSA 26遺伝子座(Irionsら、Nature Biotechnology 25、1477~1482(2007))、ユビキチンCプロモーター(UBC)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター(Okabeら (1997)FEBS let. 407:313~9)、b-アクチンプロモーターおよび骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負制御領域が欠失し、dl587revプライマー結合部位に置換された(MND)U3プロモーター(Haasら、Journal of Virology. 2003;77(l7):9439~9450)が挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態において、プロモーターなどの導入遺伝子標的特異性および発現を増強するための少なくとも1つのエレメント(例えば、Powellら (2015)Discovery Medicine 19(102):49~57(その内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている)参照)が、本明細書に記載されたポリヌクレオチドと共に用いられ得る。たいていの組織において発現を促進するプロモーターには、ヒト伸長因子la-サブユニット(EFla)、最初期サイトメガロウイルス(CMV)、ニワトリβ-アクチン(CBA)およびその誘導体CAG、βグルクロニダーゼ(GUSB)、またはユビキチンC(UBC)が挙げられるが、それらに限定されない。組織特異的発現エレメントは、ある特定の細胞型へ発現を制限するために用いられ、それには、例えば、ニューロン、アストロサイト、またはオリゴデンドロサイトへ発現を制限するために用いられ得る神経系プロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。ニューロンについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、血小板由来成長因子(PDGF)、血小板由来成長因子B鎖(PDGF-β)、シナプシン(Syn)、メチルCpG結合タンパク質2(MeCP2)、CaMKII、mGluR2、NFL、NFH、ηβ2、PPE、Enk、およびEAAT2のプロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。アストロサイトについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)およびEAAT2のプロモーターが挙げられる。オリゴデンドロサイトについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーターが挙げられる。Yuら(全体として参照により組み入れられた(2011)Molecular Pain、7:63)は、ラットDRG細胞および一次DRG細胞におけるCAG、EFIa、PGK、およびUBCプロモーター下でのeGFPの発現を、レンチウイルスベクターを用いて評価し、UBCが、他の3つのプロモーターより弱い発現を示し、全てのプロモーターについてたった10~12%だけのグリア発現があることを見出した。Soderblomら(全体として参照により組み入れられた、E.Neuro 2015)は、CMVおよびUBCプロモーターを有するAAV8ならびにCMVプロモーターを有するAAV2におけるeGFPの発現を、運動皮質内の注射後、評価した。UBCまたはEFIaプロモーターを含有するプラスミドの鼻腔内投与は、CMVプロモーターでの発現より高い持続性気道発現を示した(例えば、全体として参照により組み入れられた、Gillら、(2001)Gene Therapy、8巻、1539~1546参照)。Husainら(全体として参照により組み入れられた(2009)Gene Therapy)は、hGUSBプロモーター、HSV-1LATプロモーター、およびNSEプロモーターを有するΗβΗ構築物を評価し、ΗβΗ構築物が、マウス脳においてNSEより弱い発現を示すことを見出した。PassiniおよびWolfe(全体として参照により組み入れられた、J.Virol. 2001、12382~12392)は、新生仔マウスにおける脳室内注射後のΗβΗベクターの長期効果を評価し、少なくとも1年間の持続性発現があることを見出した。Xuら(全体として参照により組み入れられた、(2001)Gene Therapy、8、1323~1332)により、CMV-lacZ、CMV-luc、EF、GFAP、hENK、nAChR、PPE、PPE+wpre、NSE(0.3kb)、NSE(1.8kb)、およびNSE(1.8kb+wpre)との比較として、NF-LおよびNF-Hプロモーターが用いられた場合、全ての脳領域における低発現が見出された。Xuらは、プロモーター活性が、降順で、NSE(1.8kb)、EF、NSE(0.3kb)、GFAP、CMV、hENK、PPE、NFL、およびNFHであることを見出した。NFLは650ヌクレオチドのプロモーターであり、NFHは、920ヌクレオチドのプロモーターであり、両方とも肝臓に存在しないが、NFHが、自己受容感覚ニューロン、脳、および脊髄において豊富であり、NFHは心臓に存在する。Scn8aは、470ヌクレオチドのプロモーターであり、DRG、脊髄、および脳中に発現し、特に、海馬ニューロンおよび小脳プルキンエ細胞、皮質、視床および視床下部に特に高い発現が見られる。(例えば、全体として参照により組み入れられた、Drewsら 2007およびRaymondら 2004参照)。
【0072】
III. 融合タンパク質をコードする核酸を含むベクター
本発明による核酸を含むベクターもまた提供される。そのようなベクターは、好ましくは、ホスファターゼをコードする核酸配列の転写/翻訳に必要なエレメント(例えば、プロモーターおよび/またはターミネーター配列)などの追加の核酸配列を含む。前記ベクターはまた、前記ベクターで形質転換された宿主細胞を選択または維持するために選択マーカー(例えば、抗生物質)をコードする核酸配列を含み得る。用語「ベクター」は、別の核酸分子を移入させまたは輸送する能力がある核酸分子を指す。移入した核酸は、一般的に、ベクター核酸分子と連結され、例えば、その中へ挿入される。ベクターは、細胞において自己複製を指示する配列を含み得、または宿主細胞DNAへの組込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。特定の実施形態において、非ウイルスベクターは、本明細書で企図された1つまたは複数のポリヌクレオチドを罹患細胞(例えば、神経細胞)へ送達するために用いられる。一実施形態において、ベクターは、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする、インビトロで合成されまたは合成的に調製されたmRNAである。非ウイルスベクターの実例には、mRNA、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、および細菌人工染色体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
ベクターの実例には、プラスミド、自己複製配列、および転位因子、例えば、piggyBac、Sleeping Beauty、Mosl、Tcl/mariner、Tol2、mini-Tol2、Tc3、MuA、Himar I、Frog Prince、およびそれらの誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。ベクターの追加の実例には、非限定的に、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはPl由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、および動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして有用なウイルスの実例には、非限定的に、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(vims))、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの実例には、哺乳動物細胞における発現のためのpClneoベクター(Promega);哺乳動物細胞におけるレンチウイルス媒介性遺伝子移入および発現のためのpLenti4/V 5-DEST(商標)、pLenti6/V 5-DEST(商標)、およびpLenti6.2/V 5-GW/lacZ(Invitrogen)が挙げられるが、それらに限定されない。特定の実施形態において、本明細書に開示されたポリペプチドのコード配列は、哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現のためにそのような発現ベクターへライゲーションされ得る。
【0074】
特定の実施形態において、ベクターは、エピソームベクター、または染色体外に維持されるベクターである。本明細書で用いられる場合、用語「エピソームの」は、宿主の染色体DNAへの組込みなしに、かつ分裂する宿主細胞から徐々に失われることなしに複製することができる、つまり、前記ベクターが染色体外にまたはエピソーム的に複製する、ベクターを指す。
【0075】
ベクターは、様々な部位特異的リコンビナーゼのいずれかについての1つまたは複数の組換え部位を含み得る。部位特異的リコンビナーゼについての標的部位が、ベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの組込みに必要とされる任意の部位に加えてであることは、理解されるべきである。本明細書で用いられる場合、用語「組換え配列」、「組換え部位」、または「部位特異的組換え部位」は、リコンビナーゼが認識しかつ結合する特定の核酸配列を指す。
【0076】
例えば、Creリコンビナーゼについての1つの組換え部位は、8塩基対コア配列に隣接する2つの13塩基対逆方向反復(リコンビナーゼ結合部位として働く)を含む34塩基対配列である、loxPである(Sauer,B.、Current Opinion in Biotechnology 5:521~527(1994)の
図1参照)。FLPリコンビナーゼについての適切な認識部位には、FRT(McLeodら、1996)、FI、F2、F3(SchlakeおよびBode、1994)、FyFs(SchlakeおよびBode、1994)、FRT(LE)(Senecoffら、1988)、FRT(RE)(Senecoffら、1988)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0077】
認識配列の他の例は、attB、attP、attL、およびattR配列であり、それらは、リコンビナーゼ酵素lインテグラーゼ、例えば、phi-c3lによって認識される。(pC3l SSRは、ヘテロタイプな部位、attB(34bp長)とattP(39bp長)の間のみの組換えを媒介する(Grothら、2000)。細菌ゲノムおよびファージゲノム、それぞれにおけるファージインテグラーゼについての付着部位に関して名付けられたattBおよびattPはどちらも、おそらくφ031ホモダイマーにより結合される、不完全な逆方向反復を含有する(Grothら、2000)。生成部位、attLおよびattRは、事実上、さらなるtpQA 1媒介性組換えに対して不活性であり(Beltekiら、2003)、反応を不可逆性にさせている。挿入を触媒することについて、attB保有DNAは、attP部位がゲノムattB部位へ挿入するより容易に、ゲノムattP部位へ挿入することが見出されている(Thyagarajanら、2001;Beltekiら、2003)。したがって、典型的なストラテジーは、相同組換えにより、attP保有「ドッキング部位」を、限定された遺伝子座へ位置づけ、その後、そのattP保有「ドッキング部位」が、挿入としてのattB保有の入ってくる配列とパートナーを組まされる。
【0078】
本明細書で用いられる場合、「配列内リボソーム進入部位」または「IRES」は、シストロン(タンパク質コード領域)のATGなどの開始コドンへの直接的な配列内リボソーム進入を促進し、それにより、遺伝子のキャップ非依存性翻訳をもたらすエレメントを指す。例えば、Jacksonら、1990 Trends Biochem Sci 15(12):477~83、ならびにJacksonおよびKaminski 1995 RNA 1(10):985~1000参照。特定の実施形態において、ベクターは、1つまたは複数のポリペプチドをコードする1つまたは複数の目的のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、複数のポリペプチドのそれぞれの効率的な翻訳を達成するために、ポリヌクレオチド配列は、1つもしくは複数のIRES配列、または自己切断性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列によって分離され得る。一実施形態において、本明細書で企図されるポリヌクレオチドに用いられるIRESは、EMCV IRESである。
【0079】
本明細書で用いられる場合、用語「コザック配列」は、リボソームの小サブユニットとのmRNAの最初の結合を大いに促進し、翻訳を増加させる、短いヌクレオチド配列を指す(Kozak、1986、Cell 44(2):283~92、およびKozak、1987、Nucleic Acids Res. 15(20):8125-48)。特定の実施形態において、ベクターは、コンセンサスコザック配列を有するポリヌクレオチド、ならびにJドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。異種性核酸転写物の効率的な終結およびポリアデニル化を方向づけるエレメントは、異種性遺伝子発現を増加させる。転写終結シグナルは、一般的に、ポリアデニル化シグナルの下流に見出される。特定の実施形態において、ベクターは、発現されるべきポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの3’側にポリアデニル化配列を含む。
【0080】
本明細書で企図された特定の実施形態における使用に適したウイルスベクター系の実例には、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、およびワクシニアウイルスのベクターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0081】
様々な実施形態において、Jドメインおよびポリグルタミン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、細胞、例えば、神経細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を細胞に形質導入することにより、導入される。AAVは、小さい(約26nm)複製欠損の、主にエピソーム性の、無エンベロープのウイルスである。AAVは、分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染することができ、そのゲノムを宿主細胞のゲノムへ組み入れ得る。組換えAAV(rAAV)は、典型的には、最小限で、導入遺伝子、ならびにその制御配列、ならびに5’および3’ AAV末端逆位配列(ITR)で構成される。ITR配列は、約145bp長である。特定の実施形態において、rAAVは、AAV1、AAV2(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US6962815B2に記載された)、AAV3、AAV4、AAV5(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US7479554B2に記載された)、AAV6、AAV7、AAV8(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US7282199B2に記載された)、AAV9(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US9737618B2に記載された)、AAV rh10(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US9790472B2に記載された)、またはAAV10から単離されたITRおよびカプシド配列を含む。一実施形態において、本発明のベクターは、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAV rh10からなる群から選択されるカプシド内へ被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV2内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV5内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV8内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV9内に被包される。なお一実施形態において、ベクターは、AAV rh10内に被包される。
【0082】
いくつかの実施形態において、ITR配列が1つのAAV血清型から単離され、かつカプシド配列が異なるAAV血清型から単離されているキメラrAAVが用いられる。例えば、AAV2に由来したITR配列およびAAV6に由来したカプシド配列を有するrAAVは、AAV2/AAV6と呼ばれる。特定の実施形態において、rAAVベクターは、AAV2に由来したITR、およびAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV10のいずれか1つに由来したカプシドタンパク質を含み得る。好ましい実施形態において、rAAVは、AAV2に由来したITR配列およびAAV6に由来したカプシド配列を含む。好ましい実施形態において、rAAVは、AAV2に由来したITR配列およびAAV2に由来したカプシド配列を含む。
【0083】
いくつかの実施形態において、操作および選択方法は、目的の細胞を形質導入する可能性をより高くするために、AAVカプシドへ適用することができる。
【0084】
rAAVベクターの構築、その産生および精製は、例えば、米国特許第9,169,494号;第9,169,492号;第9,012,224号;第8,889,641号;第8,809,058号;および第8,784,799号に開示されており、それらの特許のそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0085】
IV. 送達
特定の実施形態において、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、非ウイルスまたはウイルスのベクターにより細胞へ導入される。特定の実施形態において企図されたポリヌクレオチドの非ウイルス性送達の実例的方法には、エレクトロポレーション、ソノポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ナノ粒子、ポリカチオンまたは脂質核酸コンジュゲート、裸のDNA、人工ビリオン、DEAE-デキストラン媒介性移入、遺伝子銃、および熱ショックが挙げられるが、それらに限定されない。
【0086】
特定の実施形態において企図された特定の実施形態における使用に適したポリヌクレオチド送達系の実例には、Amaxa Biosystems、Maxcyte,Inc.、BTX Molecular Delivery Systems、およびCopernicus Therapeutics Inc.により提供される送達系が挙げられるが、それらに限定されない。リポフェクション試薬は、商業的に販売されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適しているカチオン性および中性脂質は、文献に記載されている。例えば、Liuら、(2003)Gene Therapy 10:180~187;およびBalazsら、(20W)Journal of Drug Delivery 2011:1~12参照。抗体により標的化された、細菌由来の、非生存のナノセルに基づいた送達もまた、特定の実施形態において企図される。
【0087】
特定の実施形態において企図されたポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、インビボで、個々の患者への投与により、典型的には、下に記載されているように、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または頭蓋内の注入)により、くも膜下腔内注射、脳室内注射、または局所適用により、送達され得る。あるいは、ベクターは、個々の患者(例えば、動員末梢血、リンパ球、骨髄液、組織生検など)から外植された細胞または万能ドナーの造血幹細胞などのエクスビボでの細胞へ送達され、その後、その細胞を患者へ再植え込みされ得る。
【0088】
一実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、インビボでの細胞の形質導入のために生物体へ直接的に投与される。
【0089】
適切にパッケージングされかつ製剤化されたウイルスベクターは、中枢神経系(CNS)へくも膜下腔内送達を介して送達され得る。例えば、アデノ随伴ウイルスベクターは、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第15/771,481号に記載された方法を用いて送達され得る。
【0090】
あるいは、裸のDNAが投与され得る。投与は、分子を血液または組織細胞との最終的な接触へ導入するために通常用いられる経路のいずれかによってであり、その経路には、注射、注入、局所適用、およびエレクトロポレーションが挙げられるが、それらに限定されない。そのような核酸を投与する適切な方法が利用でき、当業者によく知られており、特定の組成物を投与するために1つより多い経路を用いることができるが、特定の経路が、別の経路より速効性が高くかつより効果的な反応を提供することができる。
【0091】
様々な実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、細胞、例えば、神経細胞または神経幹細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むレトロウイルス、例えばレンチウイルスを細胞に形質導入することにより、導入される。本明細書で用いられる場合、用語「レトロウイルス」は、そのゲノムRNAを直鎖状二本鎖DNAコピーへ転写し、その後、そのゲノムDNAを宿主ゲノムへ共有結合性に組み込む、RNAウイルスを指す。特定の実施形態における使用に適した実例的なレトロウイルスには、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)、ならびにレンチウイルスが挙げられるが、それらに限定されない。本明細書で用いられる場合、用語「レンチウイルス」は、複雑なレンチウイルスの一群(または一属)を指す。実例的なレンチウイルスには、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV 1型およびHIV 2型を含む);ビスナ・マエディウイルス(VMV);ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV);ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV);ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態において、HIVに基づいたベクターバックボーン(すなわち、HIVシス作用性配列エレメント)が好ましい。
【0092】
レンチウイルスベクターは、好ましくは、LTRを改変することの結果としてのいくつかの安全性の増強を含有する。「自己不活性化」(SIN)ベクターは、複製欠損ベクター、例えば、U3領域として知られた、右側(3’)のLTRエンハンサー-プロモーター領域が、ウイルス複製の最初のラウンドを超えてのウイルス転写を防止するように(例えば、欠失または置換により)改変されている、ベクターを指す。追加の安全性増強は、5’ LTRのU3領域を、ウイルス粒子の産生中にウイルスゲノムの転写を駆動させる異種性プロモーターと置き換えることにより提供される。用いられ得る異種性プロモーターの例には、例えば、ウイルスのサルウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えば、最初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、および単純ヘルペスウイルス(vims)(HSV)(チミジンキナーゼ)のプロモーターが挙げられる。ある特定の実施形態において、レンチウイルスベクターは、公知の方法に従って作製される。例えば、Kutnerら、BMC Biotechnol. 2009;9:10 Doi:10.1186/1472-6750-9-10;Kutnerら、Nat.Protoc. 2009;4(4):495~505 Doi:l0.l038/nprot.2009.22参照。
【0093】
本明細書で企図されたある特定の実施形態によれば、ウイルスベクターバックボーン配列の大部分または全部は、レンチウイルス、例えばHIV-1に由来している。しかしながら、レトロウイルスおよび/もしくはレンチウイルス配列の多くの異なる源が用いられ得、またはレンチウイルス配列のある部分における組み合わせられた多数の置換および変更が、トランスファーベクターが本明細書に記載された機能を実施する能力を損なうことなく、受け入れられ得ることは理解されるべきである。さらに、様々なレンチウイルスベクターが当技術分野において知られており、Naldiniら(l996a、l996b、および1998);Zuffereyら、(1997);Dullら、1998、米国特許第6,013,516号;および第5,994,136号を参照されたい(それらの多くは、本明細書で企図されたウイルスベクターまたはトランスファープラスミドを作製するように適応し得る)。
【0094】
様々な実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、標的細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むアデノウイルスを細胞へ形質導入することにより導入される。アデノウイルスに基づいたベクターは、多くの細胞型において非常に高い形質導入効率の能力があり、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターを用いて、高い力価および高いレベルの発現が得られている。このベクターは、相対的に単純な系において大量に産生され得る。たいていのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd Ela、Elb、および/またはE3遺伝子を置き換えるように操作され、その後、その複製欠損ベクターが、欠失した遺伝子機能をトランスに供給するヒト293細胞において増殖される。Adベクターは、肝臓、腎臓、および筋肉内で見出される細胞などの非分裂性の分化細胞を含む複数の型の組織をインビボで形質導入することができる。通常のAdベクターは、大きな運搬能を有する。
【0095】
複製欠損である、現在のアデノウイルスベクターの生成および伝播は、293と名付けられた固有のヘルパー細胞株を利用し得、その細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞からAd5 DNA断片により形質転換され、Elタンパク質を構成的に発現する(Grahamら、1977)。E3領域は、アデノウイルスゲノムからなくても済むため(Jones & Shenk、1978)、293細胞の助けを借りる現在のアデノウイルスベクターは、El、E3、または両方のいずれかの領域において外来DNAを有する(Graham & Prevec、1991)。アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levreroら、1991;Gomez-Foixら、1992)およびワクチン開発(Grunhaus & Horwitz、1992;Graham & Prevec、1992)に用いられている。異なる組織へ組換えアデノウイルスを投与することにおける研究には、気管滴下(Rosenfeldら、1991;Rosenfeldら、1992)、筋肉注射(Ragotら、1993)、末梢静脈内注射(Herz & Gerard、1993)、および脳への定位接種(Le Gal La Salleら、1993)が挙げられる。臨床試験におけるAdベクターの使用の例は、筋肉内注射を用いた抗腫瘍免疫化のためのポリヌクレオチド治療を含んだ(Stermanら、Hum.Gene Ther. 7:1083~9(1998))。
【0096】
様々な実施形態において、本発明の融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、対象の標的細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む単純ヘルペスウイルス、例えば、HSV-l、HSV-2を細胞に形質導入することにより導入される。
【0097】
成熟HSVビリオンは、152kbである直鎖状二本鎖DNA分子からなるウイルスゲノムを含む、エンベロープ型正二十面体カプシドからなる。一実施形態において、HSVに基づいたウイルスベクターは、1つまたは複数の必須または非必須のHSV遺伝子が欠損している。一実施形態において、HSVに基づいたウイルスベクターは、複製欠損である。たいていの複製欠損HSVベクターは、複製を防止するために1つまたは複数の最初期、初期、または後期HSV遺伝子を除去する欠失を含有する。例えば、HSVベクターは、ICP4、ICP22、ICP27、ICP47、およびそれらの組合せからなる群から選択される最初期遺伝子が欠損し得る。HSVベクターの利点は、結果として長期DNA発現を生じ得る、潜伏期を進入できるその能力、および最大25kbまでの外因性DNA挿入断片を収容できるその大きなウイルスDNAゲノムである。HSVに基づいたベクターは、例えば、米国特許第5,837,532号、第5,846,782号、および第5,804,413号、ならびに国際特許出願WO91/02788、WO96/04394、WO98/15637、およびWO99/06583に記載されている(それらのそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0098】
V. 融合タンパク質を発現する細胞
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載された融合タンパク質を発現する細胞を提供する。細胞は、上記で記載されているような融合タンパク質をコードするベクターをトランスフェクトされ得る。一実施形態において、細胞は原核細胞である。別の実施形態において、細胞は真核細胞である。なお別の実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。特定の実施形態において、細胞はヒト細胞である。別の実施形態において、細胞は、αシヌクレイン媒介性障害を患っておりまたは患うリスクがある患者に由来するヒト細胞であり、そのαシヌクレイン媒介性障害には、ALS、FTD、およびアルツハイマー病が挙げられるが、それらに限定されない。細胞は神経細胞または筋肉細胞であり得る。
【0099】
融合タンパク質を発現する細胞は、融合タンパク質を産生することにおいて有用であり得る。この実施形態において、細胞は、融合タンパク質を過剰発現するベクターをトランスフェクトされる。融合タンパク質は、任意選択で、エピトープ、例えば、(それぞれ、プロテインAカラムまたは抗FLAG抗体カラムを用いる)精製を促進する、本明細書に記載されているようなヒトFcドメインまたはFLAGエピトープを含有し得る。エピトープは、融合タンパク質の残りの部分と、リンカー、または精製中もしくは後にエピトープが融合タンパク質から除去され得るようにプロテアーゼ基質配列を介して、接続され得る。
【0100】
融合タンパク質を発現する細胞はまた、治療関連において有用であり得る。一実施形態において、細胞は、治療を必要とする患者(例えば、αシヌクレイン媒介性障害を患っておりまたは患うリスクがある患者)から収集される。一実施形態において、細胞は神経細胞である。その後、収集された細胞は、融合タンパク質を発現するベクターをトランスフェクトされる。その後、トランスフェクト細胞は、トランスフェクト細胞について濃縮または選択するように処理され得る。トランスフェクト細胞はまた、細胞の異なる型、例えば、神経細胞へ分化するように処置され得る。処理後、トランスフェクト細胞は、患者へ投与され得る。一実施形態において、細胞は、くも膜下腔内注射、頭蓋内注射、または脳室内注射による中枢神経系への定方向的注射(directed injection)により、投与される。
【0101】
代替の実施形態において、融合タンパク質の分泌型を発現する細胞が用いられ得る。例えば、融合タンパク質構築物は、N末端にシグナル配列を有するようにデザインされ得る。代表的なシグナル配列は下記の表7に示されている。
【0102】
【0103】
したがって、一実施形態において、本融合タンパク質は、シグナル配列および融合タンパク質を含み、前記シグナル配列が配列番号102~104からなる群から選択され、前記融合タンパク質が配列番号88、90~96、98~100からなる群から選択される。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号102のシグナル配列、ならびに配列番号88、90~96、および98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号103のシグナル配列、ならびに配列番号88、90~96、および98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号104のシグナル配列、ならびに配列番号88、90~96、および98~100からなる群から選択される融合タンパク質を含む。シグナル配列を含む融合タンパク質構築物を発現する細胞は、対象、例えばヒト対象(例えば、αシヌクレイン障害を有し、または患うリスクがある患者)へ投与され得る。本融合タンパク質は、細胞から分泌され、αシヌクレインタンパク質凝集および/または関連細胞毒性を低下させるのを助ける。
【0104】
上記で記載されているように、ある特定の実施形態において、本融合タンパク質はさらに、細胞透過性ペプチドを含み得る。シグナル配列および細胞透過性ペプチドを含む融合タンパク質を発現する細胞は、シグナル配列を欠く融合タンパク質を分泌する能力がある。細胞透過性ペプチドも含む分泌性融合タンパク質は、その後、すぐ近くの細胞に進入する能力があり、それらの細胞において、αシヌクレインタンパク質により媒介される凝集および/または細胞毒性を低下させる潜在能力を有する。
【0105】
VI. 使用の方法
別の態様において、本発明は、障害において、および/またはαシヌクレイン凝集により媒介されるαシヌクレイン障害、障害、もしくは状態において、有益な効果を達成するための方法を提供する。αシヌクレイン障害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、パーキンソニズム、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、およびレビー小体型認知症からなる群から選択される。
【0106】
いくつかの実施形態において、本発明は、αシヌクレイン疾患、障害、または状態を有する、ヒトなどの対象を処置するための方法であって、治療的または予防的有効量の融合タンパク質、そのような融合タンパク質をコードする核酸、または本明細書に記載されたそのような融合タンパク質をコードするウイルスベクターを対象へ投与するステップを含み、前記投与が、結果として、αシヌクレイン疾患、障害、または状態に関連した1つまたは複数の生化学的もしくは生理学的パラメータまたは臨床エンドポイントの向上を生じる、方法を提供する。
【0107】
他の実施形態において、本発明は、細胞におけるαシヌクレインの凝集を低下させる方法を提供する。細胞は、培養細胞または単離された細胞であり得る。細胞はまた、対象、例えば、ヒト対象の由来であり得る。一実施形態において、細胞は、ヒト対象の中枢神経系内にある。別の実施形態において、ヒト対象は、αシヌクレイン障害を患っておりまたは患うリスクがあり、そのαシヌクレイン障害には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、およびアルツハイマー病が挙げられるが、それらに限定されない。一つの特定の実施形態において、αシヌクレイン障害は筋萎縮性側索硬化症である。
【0108】
αシヌクレインタンパク質の凝集は、いくつかの方法で検出され得る。一例において、凝集αシヌクレインタンパク質は、αシヌクレイン立体構造を特異的に認識する抗体を用いたELISAにおいて検出され得る。αシヌクレインタンパク質の凝集の低下もまた、細胞において、例えば、αシヌクレインタンパク質を検出する標識試薬での免疫蛍光顕微鏡法を用いて、直接的に検出され得る(例えば、Dingら、(2015)Oncotarget、6:24178~24191;Chouら、(2015)Hum.Mol.Genet. 24:5154~5173、および実施例1参照)。ある特定の実施形態において、対照と比較した場合のαシヌクレインポリペプチドレベルのより大きい低下は、より高い効力を示す。
【0109】
したがって、一実施形態において、方法は、未処理または対照細胞と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、αシヌクレインタンパク質の凝集を低下させるのに有効な融合タンパク質または前記融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子の量と、細胞を接触させるステップを含む。
【0110】
下記の実施例1に示されているように、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む融合タンパク質の発現が、αシヌクレイン含有レポーター構築物の全体的なレベルを低下させることが見出されている。したがって、別の実施形態において、方法は、未処理または対照細胞と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、αシヌクレインタンパク質のレベルを低下させるのに有効な、融合タンパク質、前記融合タンパク質を発現する細胞、または前記融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子の量と、細胞を接触させるステップを含む。
【0111】
VII. 薬学的組成物
本明細書で企図された組成物は、本明細書で企図されているような、Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインを含む1つまたは複数の融合タンパク質、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、それを含むベクター、遺伝子修飾された細胞などを含み得る。組成物は、薬学的組成物が挙げられるが、それに限定されない。「薬学的組成物」は、単独かまたは1つもしくは複数の他の治療モダリティーと組み合わせての細胞または動物への投与のための薬学的に許容されるまたは生理学的に許容される溶液として製剤化された組成物を指す。必要に応じて、組成物は、なお他の作用物質、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、小分子、化学療法剤、プロドラッグ、薬物、抗体、または他の様々な薬学的活性物質も組み合わせて、投与され得ることも理解されるであろう。追加の作用物質が、意図された治療を送達する本組成物の能力に悪影響を及ぼさないならば、本組成物にまた含まれ得る他のコンポーネントに、事実上、制限はない。句「薬学的に許容される」は、合理的な利益/リスク比に釣り合って、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して用いるのに、健全な医学的判断の範囲内において、適している、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すように、本明細書で用いられる。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される担体」、「希釈剤」、または「賦形剤」には、ヒトまたは家畜における使用について容認できるとして、米国食品医薬品局によって認可されている、非限定的に、任意のアジュバント、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、色素/着色剤、香味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、等張剤、溶剤、界面活性剤、または乳化剤が挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体には、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーン(com)スターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのその誘導体;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバター、ワックス、動物および植物脂肪、パラフィン、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、コーン(com)油、およびダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリーの水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに薬学的製剤中に用いられる任意の他の適合性物質が挙げられるが、それらに限定されない。
【0112】
VIII. 投薬量
本明細書に記載された組成物(例えば、融合タンパク質構築物、核酸、または遺伝子治療ウイルス粒子を含む組成物)の投薬量は、本化合物の薬力学的性質;投与の様式;レシピエントの年齢、健康、および体重;症状の性質および程度;処置の頻度、およびもしあれば、同時処置の型;ならびに処置されることになっている動物における本化合物のクリアランス速度などの多くの因子に依存して変動し得る。本明細書に記載された組成物は、臨床応答に依存して、必要に応じて調整され得る、適切な投薬量で、最初、投与され得る。いくつかの態様において、組成物の投薬量は、予防的または治療的有効量である。
【0113】
IX. キット
(a)本明細書に記載された、細胞または対象においてαシヌクレインタンパク質の凝集を低下させる、融合タンパク質構築物、そのような融合タンパク質をコードする核酸、またはそのような核酸を包含するウイルス粒子を含む薬学的組成物、および(b)本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための使用説明書を含む添付文書を含むキットが企図される。いくつかの態様において、キットは、(a)本明細書に記載された細胞または対象においてαシヌクレインタンパク質の凝集を低下させる、本明細書に記載された組成物を含む薬学的組成物、(b)追加の治療剤、および(c)本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための使用説明書を含む添付文書を含む。
【実施例】
【0114】
Jドメインが、凝集タンパク質の適切なフォールディングを促進するように特定的に操作され得るかどうかを試験するために、本発明者らは、αシヌクレインタンパク質を標的化するようにデザインされたいくつかの融合タンパク質構築物をデザインし、試験した。
【0115】
実施例1
融合タンパク質デザイン
A. 方法
一般的な技術および材料
本発明の実施は、他に指示がない限り、当業者の能力の範囲内である、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス、および組換えDNAの通常の技術を用いる。Sambrook,J.ら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001;「Current protocols in molecular biology」、F.M.Ausubelら編、1987;シリーズ「Methods in Enzymology」、Academic Press、San Diego、Calif.;「PCR 2:a practical approach」、M.J.MacPherson、B.D.Hames、およびG.R.Taylor編、Oxford University Press、1995;「Antibodies、a laboratory manual」 Harlow,E.およびLane,D.編、Cold Spring Harbor Laboratory、1988;「Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics」、第11版、McGraw-Hill、2005;ならびにFreshney,R.I.、「Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique」、第4版、John Wiley & Sons、Somerset、NJ、2000(それらの内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている)参照。HEK-293細胞(ヒト胚性腎臓細胞)は、American Type Culture Collection(Manassas、VA)から購入された。抗FLAG抗体は、Thermo Fisher Scientificから購入された。ウサギ抗GFP抗体は、GenScripts(Piscataway、NJ)から購入された。精製および特徴づけを容易にするために、この実施例1に用いられる融合タンパク質構築物のいくつかは、配列番号88~101に提供された配列に加えて、配列番号78のFLAGエピトープを、そのタンパク質のC末端かまたはN末端のいずれかに、短いリンカー配列に加えて、含有する。
【0116】
HEK293細胞におけるタンパク質の発現および検出
様々なタンパク質構築物をコードする発現ベクタープラスミドを、HEK293細胞へ、Lipofectamine 3000トランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて、トランスフェクトした。細胞可溶化物を、発現したタンパク質について、イムノブロットアッセイを用いて分析した。培地の試料を、分析前に、遠心分離して、デブリを除去した。細胞を、2mM PMSFおよびプロテアーゼカクテル(完全プロテアーゼ阻害剤カクテル;Sigma)を含有する溶解バッファー(10mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl、10mM EDTA、2%SDS)中に溶解した。短時間の超音波処理後、試料を、発現したタンパク質について、イムノブロットアッセイを用いて分析した。イムノブロット分析について、試料を、SDS試料バッファー中で煮沸し、ポリアクリルアミド電気泳動に流した。その後、分離されたタンパク質バンドを、PVDF膜へ転写した。
【0117】
発現したタンパク質を、化学発光シグナルを用いて検出した。簡単に述べれば、ブロットを、特定のエピトープ(例えば、抗αシヌクレイン抗体)を結合する能力がある一次抗体と反応させた。反応していない一次抗体を洗い流した後、酵素連結型二次抗体(例えば、HRP連結型抗IgG抗体)を、ブロットと結合した一次抗体分子と反応させた。すすいだ後、化学発光試薬を加え、ブロットにおいて結果として生じた化学発光シグナルを、X線フィルム上に捕獲した。
【0118】
BFA/MG132インキュベーション
様々なタンパク質構築物をコードする発現ベクタープラスミドを、Lipofectamine 3000トランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いてHEK293細胞へトランスフェクトした。トランスフェクションから1日後、培地を、バフィロマイシンa1(BFA)またはMG132を含有する新鮮な培地と交換し、細胞を、さらに48時間、インキュベートした。細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete Protease Inhibitor Cocktail;Sigma)および2mM PMSFを追加した、溶解バッファー(20mM Tris、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%NP-40)中に溶解した。短時間の超音波処理後、細胞可溶化物を、ELISAまたはイムノブロッティングアッセイにおいて分析した。
【0119】
ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)
発現したαシヌクレインの凝集状態を、αシヌクレイン凝集物特異的抗体Syn-O4(BioLegend)を用いてモニターした。Syn-O4は、αシヌクレイン凝集物を特異的に認識するが、そのタンパク質の可溶性の単量体型を認識しない、立体構造特異的モノクローナル抗体である58。マイクロタイタープレートウェルを、Syn-O4で、4℃、一晩、コーティングし、コーティング後、ウェルを、PBSで3回、洗浄し、1%BSAを含有するPBSで1時間、ブロッキングし、再び、PBSで洗浄した。
【0120】
発現後、培養細胞を、2mM PMSFおよびプロテアーゼカクテルを含有する溶解バッファー(20mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%NP-40)中に溶解し、その後、短時間、超音波処理した。遠心分離によるデブリの除去後、細胞可溶化物を、ウェルに加え、4℃で一晩、インキュベートした。その後、ウェルを、PBSで3回、洗浄し、1%BSAを含有するPBS中、HRP連結型抗アルファシヌクレイン抗体と1時間、インキュベートし、再び、PBSで3回、洗浄した。最後に、ペルオキシダーゼ活性を、0.1M酢酸ナトリウム(pH6.0)のバッファー中0.01mg/ml 3’,3’,5’,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)および0.01%H2O2を用いてアッセイした。等量の1M HClを加えた後、光学密度を、450nmにおいて決定した。
【0121】
レポーター構築物
本発明者らはまず、αシヌクレインを標的化する融合タンパク質が、培養細胞においてその凝集を改善するかどうかを調べた。この目的を達成するために、本発明者らは、野生型αシヌクレイン、加えて、家族性パーキンソン病に関連していることが知られた変異型(A53T置換を含有する)を発現する2つの構築物を作製した(下記の表8参照)。HEK293細胞を培養し、それに、野生型(配列番号105)または変異体(配列番号106)αシヌクレインをコードするプラスミドをトランスフェクトした。
【0122】
【0123】
融合タンパク質構築物
Jドメインが、αシヌクレイン凝集を低下させるために用いられ得るかどうかを決定するために、最初の実験をまず、野生型または変異体シヌクレインの、シヌクレイン結合性ペプチドSynBP1とコンジュゲートされた、Hsp40 Jドメインタンパク質に由来した(ヒトDnaJB1由来)Jドメイン配列を含む融合タンパク質(下記の表9における構築物1を参照)との同時発現により行った。
図3Aに示されているように、HEK293細胞における野生型かまたは変異体(A53T)のいずれのαシヌクレインの発現も、細胞可溶化物におけるELISAにより検出可能であるような凝集αシヌクレインの出現を生じる(バー1および4参照)。構築物1の同時発現は、検出可能な凝集αシヌクレインの量の劇的な低下を生じる(バー2および5)。しかしながら、Jドメイン内の高度保存されたHPDモチーフ内にP33Q変異を含有する、構築物1の変異体バリアントの同時発現は、より高い総凝集を生じ(バー3および6参照)、凝集の低下の機構が、Hsp70システムを通してであることを示唆している。融合タンパク質がαシヌクレインの総レベルに影響するかどうかを決定するために、細胞可溶化物のウェスタンブロット分析を、抗αシヌクレイン抗体を用いて実施した。
図3Bに示されているように、全ての細胞が、αシヌクレインの相対的に類似したレベルを有し、凝集αシヌクレインの低下が、ただαシヌクレインの分解だけによるのではないことを示唆している。
【0124】
【0125】
αシヌクレインは、分泌されることが知られている。したがって、本発明者らは、融合タンパク質構築物が、分泌型αシヌクレインの量を低下させることに有効であるかどうかを調べた。野生型(バー2および3)または変異体(バー4および5)のαシヌクレインを、単独で発現しまたは構築物1(JB1-SynBP1;バー3および5)もまた発現する細胞から培地を収集し、分泌型αシヌクレインのレベルをELISA分析により試験した。
図4に示されているように、融合タンパク質構築物なしで発現した場合、野生型と変異体(A53T)のαシヌクレインのどちらの型も分泌される(それぞれ、バー2および4)。しかしながら、構築物1を同時発現する細胞は、ELISAにより測定された場合、培地へ分泌された検出可能なαシヌクレインを生じない(野生型および変異体αシヌクレイン、それぞれについてバー3および5)。
【0126】
本発明者らは次に、凝集を低下させることにおける融合タンパク質の機構を調べた。HEK293細胞に、野生型または変異体(A53T)αシヌクレインを、単独かまたは構築物1(JB1-SynBP1)と共にかいずれかでトランスフェクトし、BFA(バフィロマイシンA1、オートファジーの後期の阻害剤)またはMG132(プロテアソーム阻害剤)も加えた。
図5および6は、その結果を示し、それはまた下記の表10にも要約されている(値は野生型単独の対照に対して標準化されている)。見られるように、変異体(A53T)αシヌクレインも発現する細胞における構築物1の発現は、全αシヌクレインの中程度の低下(134.9%から99%へ)だが、凝集αシヌクレインのより顕著な低下(111.5%から53.9%へ)を生じている。これらの細胞の、10nMかまたは100nMのいずれかにおけるBFAでの処理は、変異体αシヌクレインを単独で発現する細胞(すなわち、融合タンパク質構築物1をトランスフェクトされていない)に一致するレベルへの、全部のおよび凝集型のαシヌクレインの回復を生じた。バフィロマイシンA1は、後期オートファジーの強力な阻害剤であり、融合タンパク質構築物が、シャペロン媒介性オートファジーを介してそれらの効果を発揮することを示唆している。
【0127】
対照的に、細胞のMG132(プロテアソーム阻害剤)での処理は、αシヌクレインの全部のレベルへも凝集型のレベルへもほとんど効果を生じなかった。
【0128】
【0129】
変異体(A53T)シヌクレイン凝集を低下させる能力について、追加の構築物を試験した。下記の表11は、異なるシヌクレイン結合性ドメインを含むいくつかの他の構築物が、αシヌクレイン凝集を低下させる能力があったことを示す。興味深いことに、以前、ポリグルタミンリピートと結合することが示された、QBP1を含む融合タンパク質構築物である、構築物10もまた、αシヌクレイン凝集を強力に低下させる能力を示した。
【0130】
【0131】
Jドメインおよびαシヌクレイン結合性ドメインの配置をさらに最適化するために、追加の構築物を試験した。下記の表12は、代替のJドメイン(DnaJB6に由来したJドメインを用いる構築物6;DnaJB13由来のJドメインを用いる構築物7)か、またはJドメインとαシヌクレイン結合性ドメインとの間に異なるリンカーかのいずれかを用いる構築物の能力を示す。
【0132】
【0133】
次に、様々な融合タンパク質構築物の発現が、リン酸化αシヌクレインのレベルへ効果を生じるかどうかを決定するために実験を行った。下記の表13は、様々な融合タンパク質構築物の発現が、Ser129においてリン酸化された変異体(A53T)αシヌクレインのレベルへ顕著な効果を生じたことを示している。
【0134】
【0135】
最後に、様々な融合タンパク質構築物の発現が、変異体(A53T)αシヌクレインの発現による細胞毒性を改善することができるかどうかを決定するために実験を行った。野生型(WT)または変異体(A53T)のいずれのαシヌクレインの発現もHEK293細胞において有意な細胞毒性を誘導しなかったが(データ未呈示)、LDH-Cytotox(商標)アッセイキット(BioLegend、San Diego、CA、USA)により測定された場合の感染後7日目におけるU87-MG細胞から収集された培地におけるLDH活性の増加によって証明されているように(
図7)、αシヌクレインによって引き起こされる細胞毒性効果が、U-87 MG細胞において観察された。JB1-SynBP1(構築物1)との同時発現が、αシヌクレインの細胞毒性効果を強く抑制した。本発明者らは、融合タンパク質構築物がαシヌクレイン媒介性細胞毒性を低下させる能力があることを意味すると、これらの結果を解釈する。
【0136】
実施例2
融合タンパク質構築物をコードするAAVベクター
サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメントおよびニワトリベータアクチンプロモーターを含有するCAGプロモーターの制御下で、表6の融合タンパク質構築物、具体的には構築物1、3、4、および5をコードするコドン最適化cDNAを有するAAV9ベクターにより、例示的な遺伝子治療ベクターを構築する。JB1-SynBP1をコードするcDNAは、コザック配列の下流に位置し、ウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナルによってポリアデニル化される。カセット全体は、AAV-9の2つの非コード末端逆位配列によって隣接されている。
【0137】
組換えAAVベクターは、上記のものと類似したバキュロウイルス発現系を用いて調製される(Urabeら、2002;Unzuら、2011(Kotin、2011に概説されている))。簡単に述べれば、複製およびパッケージングのためのREPをコードする1つ、AAV9のカプシドについてのCAP-5をコードする1つ、および発現カセットを有する1つである、3つの組換えバキュロウイルスが、SF9昆虫細胞に感染するために用いられる。精製は、AVB Sepharose高速アフィニティ媒体(GE Healthcare Life Sciences、Piscataway、NJ)を用いて実施される。ベクターは、導入遺伝子についてのプライマー-プローブの組合せでのQPCRを用いて滴定され、力価は、1mlあたりのゲノムコピー数(GC/ml)として表される。ベクターの力価は、およそ8×1013~2×1014GC/mlの間である。
【0138】
実施例3
PDのマウスモデルにおける効力の試験
上記で調製されたベクターを、PDのマウスモデルにおいて試験する。有用なモデルには、Faresら、(2006)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、113:E912~E921に記載されたマウスモデルが挙げられ、そのモデルは、SNCA-/-バックグラウンドにおいてヒトαシヌクレインの発現により作製され、その発現の結果として、一次ニューロンにおいて、高リン酸化(S129における)およびユビキチン陽性LB様封入体を生じ、その封入体は大型化して、可溶性タンパク質を取り込む。
【0139】
動物モデルにおいて、本出願に記載された試験化合物または既知の化合物の効果を試験するために、融合タンパク質および対応する対照をコードするベクターを含有する異なるAAVウイルス粒子を、トランスジェニック動物へ投与する。一実施形態において、ウイルス粒子は、尾静脈注射により投与される。別の実施形態において、ウイルス粒子は、筋肉内注射により投与される。なお別の実施形態において、前記粒子は、頭蓋内注射により、例えば、Stanekら、(2014)Hum.Gene.Ther. 25:461~474に記載されているように、投与される。
【0140】
投与後、疾患進行を、モニターし、対照注射マウスと比較する。一実施形態において、PD様封入体の発生を、動物において評価する。PD様病態を再現するいくつかの他の動物モデルもまた用いることができる。
【0141】
他の態様
この明細書で言及された全ての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個々に示されて、全体として参照により組み入れられているかのように同じ程度で、全体として参照により本明細書に組み入れられている。本出願における用語が、参照により本明細書に組み入れられた文書においてと異なって定義されていることが見出された場合、本明細書に提供された定義がその用語についての定義としての役割を果たすものとする。
【0142】
本発明は、その特定の態様に関連して記載されているが、本発明はさらに改変することができ、一般的に本発明の原理に従い、かつ当技術分野内での公知または慣習的な実施範囲内に入り、上記で示された本質的な特徴に適用することができような、本開示からの逸脱を含む、本発明の任意のバリエーション、使用、または適応を網羅することを、この出願は意図され、主張された範囲内に従うことは理解されるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】