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特表2023-529391エタンODHプロセスにおける酢酸生成の制限
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  • 特表-エタンODHプロセスにおける酢酸生成の制限 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】エタンODHプロセスにおける酢酸生成の制限
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/48 20060101AFI20230703BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20230703BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575246
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 IB2021054554
(87)【国際公開番号】W WO2021250495
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】63/036,471
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505382548
【氏名又は名称】ノバ ケミカルズ(インターナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オレイーウォラ、ボラジ
(72)【発明者】
【氏名】グーダルズニア、シャーヒン
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼーンコフ、ヴァシリー
(72)【発明者】
【氏名】アイファ、モハメド
(72)【発明者】
【氏名】サーハル、カマル
(72)【発明者】
【氏名】ラッド、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ゲント、デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC12
4H006AD18
4H006BA12
4H006BA14
4H006BA15
4H006BA30
4H006BB17
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC18
4H006BC33
4H006BD32
4H006BD52
4H006BE30
4H039CA29
4H039CC10
(57)【要約】
本開示は、エタンをエチレンに変換するための酸化的脱水素化プロセスにおける、酢酸の生成を制限することに関する。酸化的脱水素化のプロセスは、酢酸を、エタン及び酸素と共に、酸化的脱水素化反応器に供給することを含み、そこで触媒と接触することにより、エタンが、エチレン及び酢酸に変換される。供給物中に酢酸を含めることにより、生成される酢酸の量を制限できる可能性があり、消費されるエタンに対する生成されるエチレンの比率が増加する可能性がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタンの酸化的脱水素化のためのプロセスであって、
エタン、酸素、及び酢酸を含む供給流を、酸化的脱水素化反応器内の酸化的脱水素化条件下で、酸化的脱水素化触媒と接触させて、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含む生成物流を生成する工程を含み、
供給流中の酢酸の濃度は、供給流の0.5~10体積%である、上記プロセス。
【請求項2】
前記供給流中の酢酸の濃度が、供給流の2~5体積%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記供給流中の酢酸の濃度が、供給流の2体積%を超える、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
下流の分離プロセスをさらに含み、
前記生成物流を、水及び酢酸を含む液体流と、エチレン及び未反応のエタンを含むガス状成分流とに分離し、前記液体流の少なくとも一部を前記供給流の一部として反応器にリサイクルする、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記液体流を水で希釈して、前記供給流中の酢酸の所望の量を達成する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記液体流の分割画分を調整して、前記供給流中の酢酸の所望の量を達成する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応器への前記供給流が、
i) 0.5~10体積%の酢酸、
ii) 0.5~0.7のモル比でのエタンに対する酸素、及び
iii) 供給組成が可燃限界外になるようなモル比のHO及びCO
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応器を、300℃~425℃の温度で操作する、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応器を、315℃~400℃の温度で操作する、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応器を、0.5psig~100psigの圧力で操作する、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記反応器を、15psig~50psigの圧力で操作する、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記生成物流のガス毎時空間速度が、500h-1~30000h-1である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記生成物流のガス毎時空間速度が、1000h-1~15000h-1である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記生成物流のガス毎時空間速度が、500h-1~4000h-1である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記触媒が、以下からなる群から選択される1種以上の触媒を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iii)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001~5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
iv)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【請求項16】
前記液体流が、10体積%未満の酢酸を含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項17】
エチレンへの選択率が75%~99%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
COへの選択率が10%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
COへの選択率が11%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記反応器への供給流が、2~3体積%の酢酸、29~57体積%のHO、16~26体積%のC、8~14体積%のO、及び17~28体積%のCOを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
補給流及び前記ガス状成分流を、第2の酸化的脱水素化反応器内の酸化的脱水素化条件下で、第2の酸化的脱水素化触媒と接触させて、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含む第2の生成物流を生成し、
前記第2の酸化的脱水素化反応器に入る前記補給流及び前記ガス状成分流の酢酸の全濃度が、0.5~10体積%である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項22】
第2の下流の分離プロセスをさらに含み、
前記第2の生成物流を、水及び酢酸を含む第2の液体流と、エチレン及び未反応のエタンを含む第2のガス状成分流とに分離し、前記第2の液体流の少なくとも一部を、前記供給流の一部として前記酸化的脱水素化反応器に、又は前記補給流の一部として前記第2の酸化的脱水素化反応器にリサイクルする、請求項21に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
この出願は、2020年6月9日に出願された米国仮出願第63/036,471号に対する優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
(技術分野)
本明細書は、エタンをエチレンに変換するための酸化的脱水素化プロセスに関する。より具体的には、供給流中に酢酸を含む酸化的脱水素化プロセスが記載されている。
【背景技術】
【0002】
混合金属酸化物触媒を用いたエタンの酸化的脱水素化は、エチレンの生産のための水蒸気分解に代わるものである。エタンの酸化的脱水素化は、比較的不活性なエタンを、より反応性が高く、より価値のあるエチレンに変換する方法である。エタンの酸化的脱水素化には、エタンからの水素の吸熱除去と、水を生成するための発熱酸化とが含まれる。しかし、エタンの酸化的脱水素化では、酢酸などの望ましくない副生成物を生成する可能性もある。したがって、水素を選択的に酸化し、エタンの酸化を最小限に抑えることが、所望の生成物であるエチレンの生産を最大化するために有益となり得る。
【発明の概要】
【0003】
記載される主題のいくつかの態様は、エタンの酸化的脱水素化(ODH:oxidative dehydrogenation)のためのプロセスとして実施することができる。このプロセスは、酸化的脱水素化条件下、酸化的脱水素化反応器内で、酸素、及び酢酸を含む供給流を、酸化的脱水素化触媒と接触させて、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含む生成物流を生成することを含む。供給流中の酢酸の濃度は、供給流の0.5~10vol%(体積%)である。供給流は、任意選択で不活性希釈剤を含むことができる。いくつかの場合では、生成物流は、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方を含む。
【0004】
この態様及びその他の態様には、以下の特徴のうちの1つ以上を含めることができる。
【0005】
供給流中の酢酸の濃度は、供給流の2~5体積%とすることができる。供給流中の酢酸の濃度は、供給流の2体積%を超えることができる。反応器への供給流は、0.5~10体積%の酢酸を含むことができる。反応器への供給流は、0.5~0.7のモル比でのエタンに対する酸素を含むことができる。反応器への供給流は、水(HO)及び二酸化炭素(CO)を、供給組成が可燃限界外になるようなモル比で含むことができる。
【0006】
このプロセスは、下流の分離プロセスを含むことができる。生成物流は、例えば、下流の分離プロセスによって、液体流とガス状成分流とに分離することができる。液体流は、水及び酢酸を含むことができる。ガス状成分流は、エチレン及び未反応のエタンを含むことができる。場合によっては、ガス状成分流は、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方を含む。液体流の少なくとも一部は、供給流の一部として反応器にリサイクルすることができる。液体流を水で希釈して、供給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。液体流の分割画分(split fraction)を調整して、供給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。
【0007】
反応器は、300℃~425℃の温度で操作することができる。反応器は、315℃~400℃の温度で操作することができる。反応器は、0.5psig~100psigの圧力で操作することができる。反応器は、15psig~50psigの圧力で操作することができる。
【0008】
生成物流のガス毎時空間速度(GHSV)は、500h-1~30000h-1とすることができる。生成物流のGHSVは、1000h-1~150000h-1とすることができる。生成物流のGHSVは、500h-1~4000h-1とすることができる。
【0009】
触媒は、以下からなる群から選択される1種以上の触媒を含むことができる:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iii)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001~5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
iv)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【0010】
液体流は、10体積%未満の酢酸を含むことができる。
【0011】
エチレンへの選択率は75%~99%とすることができる。COへの選択率は10%以下とすることができる。COへの選択率は11%以下とすることができる。反応器への供給流は、2~3体積%の酢酸、29~57体積%のHO、16~26体積%のC、8~14体積%のO、及び17~28体積%のCOを含むことができる。
【0012】
補給流(makeup stream)及びガス成分流は、第2の酸化的脱水素化反応器内の酸化的脱水素化条件下で、第2の酸化的脱水素化触媒と接触させて、第2の生成物流を生成することができる。第2の生成物流は、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含むことができる。いくつかの場合では、第2の生成物流は、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方を含む。第2の酸化的脱水素化反応器に(一緒に)入る補給流及びガス状成分流の酢酸の全濃度は、0.5~10体積%とすることができる。
【0013】
このプロセスは、第2の下流の分離プロセスを含むことができる。第2の生成物流は、例えば、第2の下流の分離プロセスによって、第2の液体流と第2のガス状成分流とに分離することができる。第2の液体流は、水及び酢酸を含むことができる。第2のガス状成分流は、エチレン及び未反応のエタンを含むことができる。いくつかの場合では、第2のガス状成分流は、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方を含む。第2の液体流の少なくとも一部は、供給流の一部として反応器にリサイクルすることができる。第2の液体流を水で希釈して、供給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。第2の液体流の分割画分(split fraction)を調整して、供給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。第2の液体流の少なくとも一部は、補給流の一部として第2の反応器にリサイクルすることができる。第2の液体流を水で希釈して、補給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。第2の液体流の分割画分を調整して、補給流中の酢酸の所望の量を達成することができる。
【0014】
本明細書に記載された開示は、この概要に要約された例に限定されないことが理解される。本明細書では、様々な他の態様が説明され、例示される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】酸化的脱水素化反応器を含む例示的なシステムの概略図である。
図2A図1の酸化的脱水素化反応器の2つの実施態様を含む例示的なシステムの概略図である。
図2B図1の酸化的脱水素化反応器の2つの実施態様を含む例示的なシステムの概略図である。
図3A】酸化的脱水素化プロセスのための例示的な方法のフローチャートである。
図3B】酸化的脱水素化プロセスのための例示的な方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に開示されるプロセスの原理の全体的な理解を提供するために、本開示のいくつかの例示的な態様を説明する。当業者であれば、本明細書に記載されるプロセスが非限定的な例示的態様であり、本開示の様々な例の範囲が特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解するであろう。1つの例示的な態様に関連して図示又は説明された特徴は、他の態様の特徴と組み合わせることができる。そのような修正及び変形は、本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
【0017】
操作例における、又は他に指示がある場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において「約」という用語によって変更されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示が取得することを望む特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、均等論の適用を請求項の範囲に限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効桁数に照らして、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0018】
<定義>
本明細書で使用される場合、「酸化的脱水素化触媒」という用語は、エタンからエチレンへの酸化的脱水素化に使用される触媒を指す。最も頻繁に記載されている酸化的脱水素化触媒は、混合金属酸化物触媒である。「触媒」という用語の使用は、特に明記しない限り、酸化的脱水素化触媒と同義である。さらに、酸化的脱水素化触媒への言及は、1種以上の酸化的脱水素化触媒の混合物を含むことができ、それぞれが異なる化学組成を有し、持持され又は担持されていなくてもよい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「供給流(feed stream)」という用語は、酸化的脱水素化触媒と最初に接触するガス流を指す。典型的な酸化的脱水素化プロセスにおける供給流は、成分であるエタン及び酸素、並びに場合によっては1種以上の不活性希釈剤を含む。いくつかの例では、供給流への成分の寄与は、「供給組成(feed composition)」として記載され、1種以上の成分の体積%(vol%)が示される。いくつかの例では、供給流内の成分、特に酸素及びエタンは、体積%比(vol%比)を用いて記載される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「不活性希釈剤」という用語は、エタン及び酸素を希釈するために使用されるガス状組成物を指す。不活性希釈剤は、酸化的脱水素化条件下で、主にガス状で存在する必要があり、エタンの可燃性を増加させない必要がある。酸化的脱水素化について当業者に知られている一般的な不活性希釈剤には、窒素、二酸化炭素、蒸気、及びそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書で使用される場合、「酸化的脱水素化条件下」という用語は、酸素の存在下で酸化的脱水素化触媒と接触することにより、エタンからエチレンへの変換を可能にするプロセス条件を指し、これには、供給流の温度、圧力、及び流量が含まれるが、これらに限定されない。酸化脱水素化条件は、特定の触媒の条件を最適化する試み、又は不活性希釈剤を供給流中で使用するか否かの試みにおいて、当業者によって調整することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「選択率(selectivity)」という用語は、特に明記しない限り、エタンが消費される程度に基づく炭素原子の選択率を指す。%で示される選択率は、次の式に従って計算することができる。

(式中、Xは、評価されている生成物であり、正味の質量流量は、X又は変換されたCのg/min単位(g/分単位)の流量を指し、生成物流中のX又は変換されたCの質量流量から、供給流中の成分X又は変換されたCの質量流量を差し引いたものに等しく、モル当量(Mol.Equiv.)は、1モルのエタンと完全に反応するか、又は1モルのエタンによって生成される、モル(mol)単位のXの量を指す。)。エタンの変換(転化)に由来して得られる生成物の全ての選択率の合計が100%にならない場合、選択率は100%に正規化される。各生成物に対する正規化は、その生成物の選択率を全ての炭素原子生成物の選択率の合計で割ることによって計算することができる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「約」又は「およそ」という用語は、値又は範囲におけるある程度の変動、例えば、記載されている値又は範囲の記載されている限界の10%以内、5%以内、又は1%以内を許容することができる。
【0024】
本技術の実施形態は、酢酸の生成を制限する条件下での、エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH)のためのプロセスを対象とする。典型的には、エタンの酸化的脱水素化は、エタン及び酸素(並びに任意選択で不活性希釈剤)を含むガス流を、酸化的脱水素化触媒を含む酸化的脱水素化反応器内に供給することを含む。エタン及び酸素が酸化的脱水素化触媒と接触すると、エチレンや様々な副生成物(酢酸を含む)が形成される。酢酸などの副生成物が生成すると、目的生成物のエチレンから酢酸を分離するための費用のかかる下流の分離プロセスが必要となる。本開示の目的は、プロセスへの最初の供給物中にエタン及び酸素と共に酢酸を含めることによって、エタンの酸化的脱水素化において酢酸が生成される程度を制限することである。生成される酢酸の量を低減することにより、酢酸を分離するための下流の分離インフラストラクチャの複雑さを低減し、規模を縮小することができる。
【0025】
<ODHプロセス>
本開示において提供されるのは、エタンの酸化的脱水素化のためのプロセスである。このプロセスは、エタン、酸素、酢酸、及び任意選択で不活性希釈剤を含む供給流を、酸化的脱水素化反応器内の酸化的脱水素化条件下で、酸化的脱水素化触媒と接触させて、エチレン、未反応エタン、水、酢酸、及び場合によっては二酸化炭素及び一酸化炭素の一方又は両方を含む生成物流を生成することを含む。供給流中の酢酸の寄与は、供給流の0.5体積%~10体積%である。図1のシステム100で、酸化的脱水素化プロセスを実施することができる。
【0026】
<供給組成>
本開示は、一態様において、供給流101中に酢酸を含めることによって、エタンの酸化的脱水素化プロセスにおける酢酸の生成を制限しようとするものである。プロセス条件と酸化的脱水素化触媒の性質に応じて、酢酸を含まない従来の供給流を使用した場合の酢酸の選択率は大きく異なるが、経験豊富なオペレータであれば、酢酸の選択率を、変換(転化)されたエタンの10%未満に制限できるはずである。供給流101中に酢酸を含めることにより、酢酸への選択率を低下させることができる。供給流101中に0.5体積%~10体積%の酢酸を含めることにより、酢酸の形成が部分的又は完全に抑制されることが見出された。さらに、酢酸に対する負の選択率が可能であることが見出され、その場合、生成物流103中の酢酸の量が、供給流101中の酢酸の量と比較して減少していることが見出された。いくつかの実施形態では、供給流101中の酢酸の量は、1体積%~10体積%、又は2体積%~5体積%である。いくつかの実施形態では、供給流101中の酢酸の量は、約0.5体積%、約1体積%、約1.5体積%、約2体積%、約2.5体積%、約3体積%、約3.5体積%、約4体積%、約4.5体積%、約5体積%、約6体積%、約7体積%、約8体積%、約9体積%、又は約10体積%である。いくつかの実施形態では、供給流101中の酢酸の量は、約3体積%である。
【0027】
エタンの酸化的脱水素化のプロセスは、当業者の技術の範囲内である。供給物は、好ましくは、プロセスの異常を防止するために、可燃限界の外に該当するO:C比を含む。ユーザーは、混合物が可燃限界外にあることを確実にするために、二酸化炭素や水(蒸気の形態)、又はそれらの混合物などの不活性希釈剤をどれだけ加えることができるかを決定できる。不活性希釈剤を含まない供給流101は可能ではあるが、可燃限界外にとどまるには、供給流が非常に小さい、又は非常に高いO:C比を必要とするので、理想的ではないことに留意されたい。不活性希釈剤として蒸気を使用すると、ガス状の目的生成物からの分離がより簡単になるという利点が得られるが、酢酸への選択率も高まることが知られている。供給流101中に酢酸を含めることにより、不活性希釈剤として蒸気を使用することができ、酢酸への選択率の増加を最小限に抑えつつ、又は回避さえしつつ、目的生成物からのより簡単な分離を可能にすることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、供給流101中のO:C体積比は、0.2:1~1:1、0.3:1~0.8:1、又は0.4:1~0.7:1である。いくつかの実施形態では、供給流101中のエタンの寄与は、10体積%~80体積%、12体積%~50体積%、又は15体積%~30体積%である。いくつかの実施形態では、供給流101中の酸素の寄与は、1体積%~30体積%、5体積%~25体積%、又は8体積%~18体積%である。
【0029】
供給流101の複数の成分は、酸化的脱水素化反応器110に導入する前に予備混合することができ、又はそれらの成分を酸化的脱水素化反応器110に別々に添加してもよい。また、一部の成分を予備混合し、一部の成分を別々に酸化的脱水素化反応器110に供給することも考えられる。例えば、エタンを不活性希釈剤で飽和させ、反応器110に導入し、酸素を別々に添加することができる。次いで、不活性希釈剤で飽和したエタンを酸素と組み合わせて、触媒と接触する供給流101を形成することができる。記載されたプロセスはまた、ガス流への成分の段階的な添加を意図しており、各段階はガス流に別の成分を与え、最後の成分が添加された後に供給流101が形成される。本明細書に記載の酸化的脱水素化のプロセスにおいて、酸化的脱水素化反応器110に導入される供給流101は、エタン、酸素、及び任意選択で1種以上の不活性希釈剤に加えて、酢酸を含んでいる。
【0030】
酢酸は、酸化的脱水素化反応器110に別々に添加してもよく、あるいはエタン、酸素、又は不活性希釈剤のうちの1種以上と混合してもよい。酢酸は、供給流101の約0.5~10.0体積%の範囲の量の酢酸を提供するために、氷酢酸として、又は希釈された形態で添加してもよい。水は酸化的脱水素化プロセスにおける不活性希釈剤として使用するのに適していることがよく知られているので、希釈水性酢酸の使用が理想的である。
【0031】
供給流101は、酸化的脱水素化触媒と接触させる前に全ての成分が確実にガス状になるように、少なくとも供給流101の露点を超える温度まで加熱することができる。これは、水が不活性希釈剤として使用される場合に特に関係がある。なぜなら、酸化的脱水素化触媒は液体の水には敏感であるが、蒸気には敏感ではない可能性があるためである。成分は、別々に加熱してもよいし、又は完全な混合物として加熱してもよい。いくつかの実施形態では、供給流101の温度は、少なくとも150℃、少なくとも225℃、又は少なくとも300℃である。
【0032】
反応器110に入る際の、供給流101の温度、又は個々の成分の温度は、触媒と接触する前に温度が露点以上に上昇することを条件として、150℃より低くてもよい。この例では、反応器110の一部を使用して、供給流成分を好ましい温度に加熱してもよい。触媒床のこの部分には、熱伝導性の非触媒材料を充填してもよい。
【0033】
<反応器>
炭化水素の酸化的脱水素化に適用可能な既知の反応器タイプのいずれも、本技術で使用することができる。特に使用に適しているのは、従来の固定床反応器である。典型的な固定床反応器では、反応物は一方の端から反応器に導入され、固定化された触媒を通過して流れ、生成物が形成され、反応器のもう一方の端から出る。適切な固定床反応器の設計は、このタイプの反応器で知られている技術に従って行うことができる。当業者は、形状及び寸法、反応物の投入、生成物の取り出し、温度及び圧力制御、並びに触媒を固定化するための手段に関して、どの特徴が必要とされるかを知っている。いくつかの実施形態では、酸化的脱水素化反応器110は、固定床反応器を含む。
【0034】
流動床反応器も使用することができる。これらのタイプの反応器もよく知られている。典型的には、触媒は、反応器の底端付近に配置された多孔質構造又は分配板によって支持され、反応物は、流動床を流動化するのに十分な速度で流れる(例えば、触媒が上昇し、流動的に渦を巻き始める)。反応物は、流動化された触媒と接触すると生成物に変換され、その後、反応器の上端から除去される。設計上の考慮事項には、反応器及び分配板の形状、入口及び出口、並びに温度及び圧力の制御が含まれ、これらは全て当業者の知識の下にある。いくつかの実施形態では、酸化的脱水素反応器110は、流動床反応器を含む。
【0035】
流量計、コンプレッサー、バルブ、温度や圧力などのパラメータを測定するためのセンサーなど、化学反応器で一般的に使用される様々なツールを使用することができる。当業者であれば、操作に必要とされ、あるいは安全規制に関連する法的義務を遵守するために必要とされる、これらの構成要素を含めることが期待される。
【0036】
<プロセス条件>
本開示に一致するエタンの酸化的脱水素化プロセスを行うための酸化的脱水素化反応器110の使用は、当業者の知識の範囲内である。オペレータは、生成物の選択率、転化率(変換率)、及び/又は収率を最適化するために、供給組成と共にプロセス条件を変更してもよい。
【0037】
触媒床が、反応器タイプ、プロセス条件、及び触媒組成によって変化し得る温度プロファイル又は勾配を有する可能性があるということは、よく知られている。触媒床内の単一点又は複数の点で温度を測定することを含め、触媒床の温度を測定すること又は推定することも、当技術分野において周知である。触媒床内の温度の変動が最小で、25℃以下、好ましくは10℃以下の範囲である場合、温度は単一点で測定することができる。好ましくは、触媒の温度は、触媒床内の3つ以上の点を用い、重量平均の触媒床温度を用いて計算される。いくつかの実施形態では、エタンの酸化的脱水素化は、300℃~450℃、315℃~425℃、又は330℃~400℃の温度で行ってもよい。いくつかの実施形態では、エタンの酸化的脱水素化は、約300℃、約315℃、約330℃、約400℃、約425℃、又は約450℃の温度で行ってもよい。
【0038】
操作圧力もまた、オペレータによって制御されてもよく、このような圧力には、供給流が酸化的脱水素化反応器に導入される入口圧力が含まれる。入口圧力は、触媒床の長さにわたる圧力低下のために出口圧力よりも高くなる。記載されている圧力は、入口圧力である。いくつかの実施形態では、エタンの酸化的脱水素化は、0.5~100psig(3.447~689.47kPag)、又は15~50psig(103.4~344.73kPag)の圧力で行ってもよい。いくつかの実施形態では、エタンの酸化的脱水素化は、約0.5psig、約10psig、約15psig、約20psig、約30psig、約50psig、約75psig、又は約100psigの圧力で行ってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、反応器110内のエタンの滞留時間は、0.002~30秒、又は1~10秒である。いくつかの実施形態では、反応器110内のエタンの滞留時間は、約0.002秒、約1秒、約2秒、約3秒、約4秒、約5秒、約6秒、約7秒、約8秒、約9秒、約10秒、約15秒、約20秒、約25秒、又は約30秒である。反応物及び不活性希釈剤の流れは、当技術分野で知られている多くの方法で説明することができる。典型的には、流れは、1時間に活性触媒床の体積を通過する全ての供給ガス(反応物及び希釈剤)の体積、又はガス毎時空間速度(GHSV)に関連して記述され、測定される。いくつかの実施形態では、GHSVは、500~30000h-1、1000h-1~20000h-1、1500h-1~10000h-1、又は2000h-1~10000h-1である。いくつかの実施形態では、GHSVは、約500h-1、約1000h-1、約1500h-1、約2000h-1、約3000h-1、約4000h-1、約5000h-1、約500h-1、6000h-1、約7000h-1、約8000h-1、約9000h-1、約10000h-1、約15000h-1、約20000h-1、約25000h-1、又は約30000h-1である。
【0040】
流量は、重量毎時空間速度(WHSV)として測定することもでき、これは、1時間あたりに活性触媒の重量に対して流れるガスの流れを、体積でなく重量で表したものである。WHSVの計算において、ガスの重量は、反応物のみを含む場合があるが、ガス混合物に添加される希釈剤も含む場合がある。いくつかの実施形態では、希釈剤の重量を含むWHSVは、0.5h-1~50h-1、1.0~25.0h-1、又は2.0~10.0h-1である。いくつかの実施形態では、希釈剤の重量を含むWHSVは、約0.5h-1、約1.0h-1、約1.5h-1、約2.0h-1、約3.0h-1、約4.0h-1、約5.0h-1、約6.0h-1、約7.0h-1、約8.0h-1、約9.0h-1、約10h-1、約15h-1、約20h-1、約25h-1、約30h-1、約40h-1、又は約50h-1である。
【0041】
反応器110を通る供給流101の流れは、供給流の線速度(cm/s)として記述することもでき、これは、当技術分野において、供給流101の流量/反応器110の断面積/触媒床の空隙率として定義される。流量(flow rate)は、一般に、反応器110に入る全てのガスの流量の合計を意味し、酸素及びアルカンが最初に触媒に接触する場所で、その時点の温度及び圧力で測定される。反応器110の断面もまた、触媒床の入口で測定される。触媒床の空隙率は、触媒床の空隙の容積/触媒床の全容積として定義される。空隙の容積とは、触媒粒子間の空隙を指し、触媒粒子内部の細孔の容積は含まない。いくつかの実施形態では、線速度は、5cm/秒~1500cm/秒、10cm/秒~500cm/秒、又は25cm/秒~350cm/秒である。いくつかの実施形態では、線速度は、約5cm/秒、約10cm/秒、約15cm/秒、約20cm/秒、約25cm/秒、約50cm/秒、約75cm/秒、約100cm/秒、約150cm/秒、約200cm/秒、約250cm/秒、約300cm/秒、約350cm/秒、約400cm/秒、約500cm/秒、約600cmcm/秒、約700cm/秒、約800cm/秒、約900cm/秒、約1000cm/秒、約1250cm/秒、又は約1500cm/秒である。いくつかの実施形態では、エチレンの空時収率(生産性)(触媒1kgあたりのエチレンのg/時)は、少なくとも900h-1、又は少なくとも1500h-1である。いくつかの実施形態では、温度が350℃~400℃の場合、エチレンの空時収率(生産性)は、触媒1kgあたりのエチレンのg/時であり、少なくとも3500h-1である。なお、温度の上昇に伴う触媒の生産性の向上は、通常、エチレンへの選択率の低下を伴うことに留意する必要がある。
【0042】
プロセス条件の最適化又は調整は、エタンの転化率と、対応する選択率(エチレン及び酢酸への選択率を含む)に影響を与える可能性がある。いくつかの実施形態では、プロセスは、少なくとも60%、少なくとも75%、又は少なくとも90%のエチレンへの選択率を有する。いくつかの実施形態では、エタンの転化率は、少なくとも25%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%である。
【0043】
<触媒>
エタンの酸化的脱水素化に使用することができる既知の触媒は多数ある。モリブデン及びバナジウムを含む混合金属酸化物は、触媒における実施に特に適している。典型的には、酸化的脱水素化触媒は、以下からなる群から選択される混合金属酸化物触媒を含む:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0(好ましくは0.1~0.4)、c=0.01~1.0(好ましくは0.1~0.3)、d=0.01~1.0(好ましくは0.1~0.3)、0.00≦e≦0.10(好ましくはeは0.03~0.1)で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2(好ましくは0.2~0.6);l=0~2(好ましくは0.2~0.6)、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iii)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3(いくつかの例では0.5~1)であり;nは0.5~1.5(いくつかの例では0.5~1)であり;oは0.001~3(いくつかの例では0.01~1)であり;pは0.001~5(いくつかの例では0.01~1)であり;qは0~2(いくつかの例では0.01~1)であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
iv)次式の触媒:
Most
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAl(いくつかの実施形態ではTe、Pd、W及びB)の少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びIn(いくつかの実施形態ではFe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Mg、Sn、Pt、La、Ag及びIn)の少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0(いくつかの実施形態では0.05~0.5);s=0.001~1.0(いくつかの実施形態では0.01~0.4);t=0.001~1.0(いくつかの実施形態では0.01~0.4);u=0.001~0.5(いくつかの実施形態では0.01~0.03);v=0.001~0.3(いくつかの実施形態では0.01~0.2);fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【0044】
いくつかの実施形態では、触媒は、モリブデン、バナジウム、テルル、ニオブ、及び酸素を含む触媒であり、モリブデン対バナジウムのモル比は、1:0.12~1:0.49であり、モリブデン対テルルのモル比は、1:0.01~1:0.30であり、モリブデン対ニオブのモル比は、1:0.01~1:0.30であり、酸素は、少なくとも存在する金属酸化物の原子価を満たす量で存在する。
【0045】
いくつかの実施形態では、触媒は、モリブデン、バナジウム、テルル、ニオブ、及び酸素を含む触媒であり、モリブデン対バナジウムのモル比は、1:0.20~1:0.45であり、モリブデン対テルルのモル比は、1:0.05~1:0.25であり、モリブデン対ニオブのモル比は、1:0.05~1:0.25であり、酸素は、少なくとも存在する金属酸化物の原子価を満たす量で存在する。
【0046】
いくつかの実施形態では、触媒は、モリブデン、バナジウム、テルル、ニオブ、及び酸素を含む触媒であり、モリブデン対バナジウムのモル比は、1:0.25~1:0.40であり、モリブデン対テルルのモル比は、1:0.10~1:0.20であり、モリブデン対ニオブのモル比は、1:0.10~1:0.20であり、酸素は、少なくとも存在する金属酸化物の原子価を満たす量で存在する。
【0047】
いくつかの実施形態では、触媒は、モリブデン、バナジウム、テルル、ニオブ、及び酸素を含む触媒であり、モリブデン対バナジウムのモル比は、1:0.30~1:0.35であり、モリブデン対テルルのモル比は、1:0.13~1:0.17であり、モリブデン対ニオブのモル比は、1:0.12~1:0.14であり、酸素は、少なくとも存在する金属酸化物の原子価を満たす量で存在する。
【0048】
<酢酸のリサイクル>
本開示の別の態様では、エタンの酸化的脱水素化プロセスで生成された酢酸は、供給流に添加するために回収してリサイクルすることができる。生成物流は、目的生成物であるエチレンを単離するための処理工程を経ることができる。第1の処理工程は、理想的には生成物流から酢酸及び水を除去することを含み、典型的には、生成物流を冷却して酢酸及び蒸気の大部分を凝縮させ、その後、液体流107としてガス状物から容易に分離することができることを含み、このことは、当技術分野で説明されてきた。ガス状成分は、エタン、エチレン、及び二酸化炭素を含むガス状成分流105の一部を形成し、次いで、二酸化炭素をエタン及びエチレンから分離し、続いてエタンをエチレンから分離することを含み得るさらなる処理工程に供してもよい。分離されたエタンは、リサイクルして、供給流101の一部を形成することができる。生成物流103からの酢酸の冷却及び分離は、例えば、生成物流103を熱交換器に通すことにより、非希釈とすることができる。生成物流103からの酢酸の冷却及び分離は、例えば、生成物流103を急冷塔118に導入し、冷水を生成物流103に添加することにより、希釈することができる。また、複数の方法を組み合わせて使用することもできる。分離のためにどの方法が使用されるかに関わらず(希釈、非希釈、又は両方の組合せ)、水性酢酸を含む液体流107は、供給流101で使用するためにリサイクルすることができる。
【0049】
液体流107中の酢酸の濃度は、生成物流103中の元の濃度、及び分離のためにどのような方法又は方法の組合せが使用されるかによって変化し得る。例えば、急冷塔118を用いた希釈冷却は、急冷中の水の添加により、酢酸の濃度がはるかに低くなる。当業者は、液体流107中の酢酸の濃度を決定し、その後、液体流107のどれだけの量を供給流101にリサイクルして0.5~10体積%の酢酸を提供できるかを推定することができるであろう。液体流107の全てが供給流101中に所望の体積%の酢酸を提供するのに必要とされない場合には、液体流107の分割画分を、供給流101に添加するためにリサイクルすることができ、残りの液体流は、当技術分野で知られている方法を使用して、氷酢酸にアップグレードするなどのさらなる処理のために送ることができる。液体流107中の酢酸の濃度が、供給流中に0.5体積%~10体積%の酢酸を提供するのに十分な酢酸を提供するには不十分である場合、酢酸の追加の供給源を利用して、その差を補うことができる。流れ101、103、及び105のガス状部分は、それぞれの可燃限界外にある組成を有する。
【0050】
いくつかの実施形態では、炭化水素の酸化的脱水素化は、ODH反応器110の複数の実施態様(図2A及び図2Bに示す例)を用いて行われる。反応器は、並列流構成、直列流構成、又はこれらの組合せとすることができる。図2Aに示すように、炭化水素の酸化的脱水素化は、直列流構成の2つの酸化的脱水素化反応器210A、210Bを含むシステム200aによって行うことができる。ODH反応器210A及び210Bの各々は、前述のODH反応器110の実施態様である。供給流101は、ODH反応器210Aに流れ、ODH反応器210A内の触媒と接触する。
【0051】
生成物流203aは、ODH反応器210Aから急冷塔218Aに流れ、そこで酢酸が生成物流203aから分離される。酢酸を含む液体流207aは、急冷塔218Aから流出する。ガス状成分流205aは、急冷塔218AからODH反応器210Bに流れ、ODH反応器210B内の触媒と接触する。いくつかの実施形態では、補給流(makeup stream)251が、ODH反応器210Bに流れ、ODH反応器210B内の触媒と接触する。いくつかの実施形態では、補給流251は、供給流101と同じ組成を有する。いくつかの実施形態では、補給流251は、供給流101と同じ成分を有するが、供給流101とは各成分の量が異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、補給流251の組成及び流量は、ODH反応器210Bに入る全体の流れ(ガス状成分流205aと補給流251を合わせた流れ)が供給流101と同じ組成を有するように決定される。ガス状成分流205a及び補給流251の成分は、ODH反応器210Bに導入する前に予備混合することができ、又はそれらの成分をODH反応器210Bに別々に添加してもよい。また、一部の成分を予備混合し、一部の成分を別々にODH反応器210Bに供給することも考えられる。
【0052】
生成物流203bは、ODH反応器210Bから急冷塔218Bに流れ、そこで酢酸が生成物流203bから分離される。酢酸を含む液体流207bは、急冷塔218Bから流出する。ガス状成分流205bは、急冷塔210Bから流出する。供給流101及び補給流251の組成は、ODH反応器210A、210Bのそれぞれに入る全体の流れが0.5体積%~10体積%の範囲の酢酸含有量を有するように、調整することができる。供給流101及び補給流251の組成は、流れ101、203a、203b、205a、205b、及び251のガス状部分がそれぞれの可燃限界外の組成を有するように、調整することができる。いくつかの実施形態では、供給流101の組成、ODH反応器210Aの操作温度、ODH反応器210Aの操作圧力、補給流251の組成、分割してODH反応器210Bに迂回するガス状成分流205aの量、又はこれらの組合せを、ODH反応器210Bに入る流れ全体のエチレン含有量が20重量%以下になるように、調整する。
【0053】
いくつかの実施形態では、ガス状成分流205aの一部が分割され、ODH反応器210B及び急冷塔218Bを迂回して、ガス状成分流205bと結合する。次いで、エタン、エチレン、及び二酸化炭素を含むガス状成分流205b(及びいくつかの場合では、205bと結合したガス状成分流205aの一部)は、二酸化炭素をエタン及びエチレンから分離し、続いてエタンをエチレンから分離することを含み得るさらなる処理工程に供してもよい。いくつかの実施形態では、液体流207a、液体流207b、又は両方の液体流207a、207bをリサイクルして、供給流101の少なくとも一部を形成する。いくつかの実施形態では、液体流207a、液体流207b、又は両方の液体流207a、207bをリサイクルして、補給流251の少なくとも一部を形成する。
【0054】
ODH反応器210A、210Bの操作条件(温度及び圧力)は、生成物の分布の制御を改善し、正味のエチレン収率を増加させ、ODHプロセスで使用する希釈ガスの量を減少させ、又はこれらの任意の組合せのために調整することができる。例えば、上流のODH反応器210Aは、下流のODH反応器210Bと比較して低い温度で、下流のODH反応器210Bと比較して高い温度で、又は下流のODH反応器210Bと同じ温度で、操作することができる。例えば、上流のODH反応器210Aは、下流のODH反応器210Bと比較して低い圧力で、下流のODH反応器210Bと比較して高い圧力で、又は下流のODH反応器210Bと同じ圧力で、操作することができる。上流のODH反応器210Aを、下流のODH反応器210Bと比較して低い圧力(又は同じ圧力)で操作する実施形態では、システム200bは、図2Bに示すように、エジェクタ250を含むことができる。そのような実施形態では、補給流251は、エジェクタ250によって駆動流体(motive fluid)として使用することができる。補給流251とガス状成分流205aは、エジェクタ250を通って流れるときに混合し、混合物はエジェクタ250からODH反応器210Bに流れる。エジェクタ250への駆動流体(補給流251)の操作条件は、ODH反応器210Bの目標操作条件に適合するように調整することができる。同様に、供給流101の操作条件は、ODH反応器210Aの目標操作条件に適合するように調整することができる。
【0055】
図3Aを参照すると、方法300aは、酸化的脱水素化プロセスのために実施することができる。方法300aは、例えば、システム100、200a、又は200bのいずれかによって実施することができる。工程302では、供給流(供給流101など)を、酸化的脱水素化反応器(ODH反応器110、210A、又は210Bなど)内の酸化的脱水素化条件下で、酸化的脱水素化触媒と接触させる。前述したように、供給流101は、エタン、酸素、及び酢酸を含む。供給流101中の酢酸の濃度は、供給流101の0.5~10体積%である。いくつかの場合では、供給流101は、不活性希釈剤などの追加の成分を含む。ODH反応器(110、210A、210B)内の酸化的脱水素化条件下で、供給流101を酸化的脱水素化触媒と接触させると、生成物流(生成物流103、203a、又は203bなど)が生成される。前述したように、生成物流(103、203a、203b)は、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含む。いくつかの場合では、生成物流(103、203a、203b)は、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方などの追加の成分を含む。
【0056】
図3Bを参照すると、方法300bは、酸化的脱水素化プロセスのために実施することができる。方法300bは、例えば、システム200a又は200bのいずれかによって実施することができる。方法300aと同様に、方法300bは、工程302を含む。工程304では、生成物流203aは、液体流(液体流207aなど)とガス状成分流(ガス状成分流205aなど)とに分離される。工程304は、急冷塔218Aなどの下流の分離プロセスによって実施することができる。いくつかの実施形態では、液体流207aの少なくとも一部は、供給流101の一部としてODH反応器210Aにリサイクルされる。
【0057】
工程306では、補給流(補給流251など)及びガス状成分流205aを、第2の酸化的脱水素化反応器(ODH反応器210Bなど)内の酸化的脱水素化条件下で、第2の酸化的脱水素化触媒と接触させる。ODH反応器210B内の酸化的脱水素化条件下で、補給流251及びガス状成分流205aを酸化的脱水素化触媒と接触させると、第2の生成物流(生成物の流れ203bなど)が生成される。前述したように、生成物流203bは、エチレン、未反応のエタン、水、及び酢酸を含む。いくつかの場合では、生成物流203bは、一酸化炭素、二酸化炭素、又はその両方などの追加の成分を含む。ODH反応器210Bに(一緒に)入る補給流251及びガス状成分流205aの酢酸の全濃度は、0.5~10体積%である。工程308では、生成物流203bは、第2の液体流(液体流207bなど)と第2のガス状成分流(ガス状成分流205bなど)とに分離される。工程308は、急冷塔218Bなどの第2の下流の分離プロセスによって実施することができる。いくつかの実施形態では、第2の液体流207bの少なくとも一部は、供給流101の一部としてODH反応器210Aに、又は補給流251の一部として第2のODH反応器210Bに、リサイクルされる。
【実施例
【0058】
以下の実施例は、本開示の主題を単に例示するものであり、限定を意図するものではない。ODHプロセスの計算モデリングを使用して、酢酸の生成に対する供給流への酢酸の添加の効果を実証した。モデリングは、モリブデン、バナジウム、ニオブ、及びテルルを含む触媒を用いて生成した実験データに基づいて行った。このモデルは、異なる温度、GHSV、及び供給組成でのODHプロセス条件下で、酢酸を供給流に添加する効果を示している。各プロセス条件について、供給流中の酢酸が0体積%の基本ケースを、供給流中の酢酸が2体積%、5体積%、及び10体積%のケースと比較した。
【0059】
ケース1~5はモデリングの例であり、各ケースは、異なるプロセス条件又は供給組成を表し、供給流中の酢酸を0体積%、2体積%、5体積%、及び10体積%に変化させてモデル化したものである。ケース1からケース5のそれぞれのプロセス条件と供給組成を、表1に要約する。供給流の組成は、O体積%、C体積%、及びCO体積%のみを示し、残りは水と酢酸を添加して合計100体積%(vol%)にしたものである。0体積%、2体積%、5体積%、及び10体積%の酢酸を供給流に添加した場合の、エチレン及び酢酸の選択率(%)、並びにエタンの転化率(%)を含む結果を、表2-1に要約する。表2-1は、供給流中の酢酸の体積%(vol%)ごとに、供給流中に酢酸が存在しない場合と比較して、酢酸の選択率が低下することを示している。エタンの転化率、並びにエチレン、酢酸、及び一酸化炭素/二酸化炭素の選択率を含む結果として、供給流中の0体積%~2体積%の間の酢酸の結果を、表2-1に要約し、その中間である供給流中の0.5体積%の酢酸の結果を表2-2に、要約する。表2-2から、供給流中の酢酸含有量が増加するにつれて、生成物中の酢酸の選択率が低下する傾向が確認される。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2-1】
【0062】
【表2-2】
【0063】
固定床反応器ユニット(FBRU)装置を使用して、エタンの酸化的脱水素化のための供給流への酢酸の添加に関する実験を行った。FBRU装置は、垂直方向に配置された2つの固定床管型反応器を直列に備えたものであり、各反応器は、外径1インチ、長さ34インチのSS316Lチューブであり、電気加熱ジャケットに包まれ、セラミック絶縁材料で密閉されている。各反応器は、DENSTONE(登録商標)99(主にαアルミナ)粉末2.14重量部に対して、触媒1重量部からなる、同一の触媒床を含んでいた。各反応器中の触媒の総重量は、式MoV0.40Nb0.16Te0.14Oを有する触媒の143gであり、Moの相対量1に対する各成分の相対原子量を下付き文字で示した。触媒床の上下にある反応器の残りの部分には、実験中の触媒床の移動のリスクを最小限に抑えるために、グラスウールで適所に固定された石英粉末を詰めた。
【0064】
反応器のそれぞれの温度は、各反応器に存在する対応する7点の熱電対を用いてモニターし、そのうちの4点を各触媒床内に配置した。温度制御、特に低温での温度制御は制限され、変動が生じた。例に記載されている温度は、2つの触媒床内の8つの異なる場所での温度の平均を示している。両方の反応器は、各反応器を取り囲む水ジャケット内の水の圧力と沸騰温度を制御することにより、温度を制御した。
【0065】
実験のセットアップでは、第1の反応器のすぐ上流にある圧力変換器を使用して、入口の圧力をモニターした。第2の反応器を出た生成物流は、空気へ放出する前に凝縮ユニットを通過させたので、その地点の圧力はほぼ0psigであることを示している。
【0066】
ケース6及び7は、FBRU装置を使用して行った実験例であり、酢酸への選択率の低下を物理的設定で実践して実証するためのものである。ケース6及び7のそれぞれのプロセス条件と供給組成を、表3に要約する。供給組成は、O、C、CO、及び酢酸のみを示し、残りは合計で100体積%になるために必要な水が含まれている。エチレン及び酢酸の選択率(%)、並びにエタンの転化率(%)を含む結果を、表4に要約する。表4は、モデリングケース1~5と同様に、供給流に酢酸を添加すると、酢酸の選択率が低下することを示している。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
ケース8~11では、同様のFBRU装置を使用した。ケース8~11では、反応器温度、入口圧力、GHSV、供給エタンの体積分率(volume fraction)、及び供給酸素の体積分率は一定に保った。ケース8~11のそれぞれには2つの実験が含まれており、第1の実験(「a」)では供給物中に蒸気と酢酸の両方が含まれ、第2の実験(「b」)では供給物中に蒸気が含まれているが酢酸は含まれていない。ケース8~11の反応器の操作条件及び供給組成を、vol%(体積%)で、表5に示す。ケース8~11の触媒活性を、表6に示す。ケース8~11について、酢酸が供給物中に存在する場合(「a」)と、酢酸が供給物中に存在しない場合(「b」)とを比較して、触媒活性及び生成物分布の変化の程度を、表7に示す。
【0070】
以下は、ケース8~11で観察された傾向を要約したものである。供給物中の酢酸の有無は、エタン転化率に影響を与えないようであった。エチレンの選択率は、酢酸が供給物中に存在する場合(「a」)には、酢酸が供給物中に存在しない場合(「b」)と比較して、同じままであるか、又は増加した。一酸化炭素/二酸化炭素の選択率は、酢酸が供給物中に存在する場合(「a」)には、酢酸が供給物中に存在しない場合(「b」)と比較して、増加した。酢酸の選択率は、酢酸が供給物中に存在する場合(「a」)には、酢酸が供給物中に存在しない場合(「b」)と比較して、減少するか、又は完全に抑制されるかのいずれかであった。
【0071】
ケース8と比較して、ケース9は、温度を359℃に上昇させて実施した。ケース8とケース9を比較すると、温度の上昇に伴う酢酸選択率の変化は無視できるほどであり(表7)、温度の上昇に伴い、エチレンの選択率が減少する一方で、一酸化炭素/二酸化炭素の選択率が増加し(表7)、温度の上昇に伴い、エタン転化率が増加する(表6)ことが明らかになった。ケース8と比較して、ケース10は、圧力を上昇させて実施した。ケース8とケース10を比較すると、圧力の上昇に伴い、酢酸選択率の減少の程度が減少し(表7)、圧力の上昇に伴い、エチレン選択率の増加の程度がほぼ完全に抑制され(表7)、圧力の上昇に伴い、一酸化炭素/二酸化炭素の選択率の増加の程度が増加し(表7)、圧力の上昇に伴い、エタン転化率が増加する(表6)ことが確認された。
【0072】
これらの実験から、酢酸の一部(供給物中に存在する場合)が、エチレン、一酸化炭素、及び/又は二酸化炭素に変換(転化)されており、温度、圧力、又はその両方を下げることで、一酸化炭素/二酸化炭素への選択率よりもエチレンの方に選択率をシフトさせることができると推測できる。ただし、温度、圧力、又はその両方を下げると、エタン転化率も低下する可能性がある。いくつかの場合では、操作圧力の低下は、操作温度の低下と比較して、一酸化炭素/二酸化炭素への選択率よりもエチレンの方に選択率をシフトさせる上でより大きな影響を与える可能性がある。複数の反応器を(例えば、システム200a及び200bにおいて)使用することにより、目標エタン転化率及び目標エチレン選択率の両方を満たすように、ODHプロセスを、操作温度及び操作圧力の様々な組合せで行うことができる。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
ケース12では、エチレンとエタンの量を変化させて3回の実験を行った。エチレンとエタンの個々の量は変化させたが、供給物中のエチレンとエタンの合計量は一定のままとした。他の成分(水、酸素、一酸化炭素)の量は一定に保った。ケース12の全ての実験では、反応器入口圧力は大気圧、WHSVは1.29~1.31h-1、GHSVは1318~1322h-1、反応器温度は339~342℃であった。供給組成、エタン転化率、及び生成物の選択率を、表8に示す。ケース12の実験の結果は、エチレン組成を11~28重量%(wt%)に増加させると、一酸化炭素及び酢酸への選択率が増加し、エチレンへの選択率が減少し、エタン転化率には観察可能な傾向がないことを示している。
【0077】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示は、エタンの酸化的脱水素化のためのプロセスに関する。このプロセスは、酢酸を、エタン及び酸素と共に、ODHプロセスの供給原料の一部として含めることによって、生成される酢酸の量を制限するために適用可能である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
【国際調査報告】