(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】MITF遺伝子を標的とする核酸分子及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230703BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230703BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230703BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230703BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230703BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K31/713
A61K31/7088
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575306
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 CN2021091834
(87)【国際公開番号】W WO2021249064
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】202010524139.1
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339315
【氏名又は名称】ラクティゲン セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】リ ロンチョン
(72)【発明者】
【氏名】カン ムーリン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
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4C086AA01
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4C087ZC54
(57)【要約】
二本鎖核酸分子、特に小分子活性化核酸分子を提供し、前記小分子活性化核酸分子は、少なくとも第1オリゴヌクレオチド鎖を含む、MITF遺伝子を標的とする核酸分子であってもよい。小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤及びその使用を更に提供する。前記小分子活性化核酸分子又は前記小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤を使用することで、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレートし、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1オリゴヌクレオチド鎖を含む小分子活性化核酸分子であって、前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、ヒトMITF遺伝子プロモーター領域のいずれか1つの長さが16~35個のヌクレオチドの連続した断片と少なくとも75%の相同性又は相補性を有する、小分子活性化核酸分子。
【請求項2】
前記小分子活性化核酸分子は、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖を含み、前記第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖は、完全に相補するか又は不完全に相補することによって二本鎖構造を形成する、請求項1に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項3】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:299、SEQ ID NO:300、SEQ ID NO:301、SEQ ID NO:302、SEQ ID NO:303、SEQ ID NO:304又はSEQ ID NO:305におけるいずれか1つの長さが16~35個のヌクレオチドの連続した断片と少なくとも75%の相同性又は相補性を有する、請求項2に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項4】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%の相同性又は相補性を有する、請求項2に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項5】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:105~201から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列を含み、又は前記第2オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:202~298から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、請求項4に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項6】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖の長さは16~35個のヌクレオチドであり、前記第2オリゴヌクレオチド鎖の長さは16~35個のヌクレオチドである、請求項2~5のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項7】
前記小分子活性化核酸分子は二本鎖核酸であり、前記第1オリゴヌクレオチド鎖と前記第2オリゴヌクレオチド鎖は、それぞれ前記二本鎖核酸の2本の鎖に位置する、請求項2~6のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項8】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び/又は前記第2オリゴヌクレオチド鎖は、5'末端及び/又は3'末端に突出を有する、請求項7に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項9】
前記突出は0~6個のヌクレオチドの突出である、請求項8に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項10】
前記突出はdTdT又はdTdTdTである、請求項9に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項11】
前記小分子活性化核酸分子は一本鎖核酸であり、前記一本鎖核酸に二本鎖領域を形成できるヘアピン構造を有し、前記第1オリゴヌクレオチド鎖と前記第2オリゴヌクレオチド鎖は、二本鎖構造を形成できる相補的な領域を有する、請求項2~6のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項12】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖と前記第2オリゴヌクレオチド鎖は、少なくとも75%の相補性を有する、請求項2~11のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項13】
前記小分子活性化核酸分子を構成するヌクレオチドは、化学修飾されていない天然のヌクレオチドである、請求項1~12のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項14】
前記小分子活性化核酸分子の1つ又は複数のヌクレオチドは、化学修飾を有するヌクレオチドである、請求項1~12のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項15】
前記化学修飾は、ヌクレオチドのホスホジエステル結合に対する修飾、ヌクレオチドのリボースの2'-OHに対する修飾、ヌクレオチドにおける塩基に対する修飾の1種又は複数種から選ばれる、請求項14に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項16】
前記化学修飾は、ホスホロチオエート修飾、ボラノホスフェート修飾、2'-フルオロ修飾、2'-オキシメチル修飾、2'-オキシエチレンメトキシ修飾、2,4'-ジニトロフェノール修飾、ロックド核酸修飾、2'-アミノ修飾、2'-デオキシ修飾、5'-ブロモウラシル修飾、5'-ヨードウラシル修飾、N-メチルウラシル修飾、2,6-ジアミノプリン修飾の1種又は複数種から選ばれる、請求項14に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項17】
前記第1オリゴヌクレオチド鎖及び/又は前記第2オリゴヌクレオチド鎖の末端は、親油性基に連結し、前記親油性基は、リポソーム、高分子化合物、ペプチド又はコレステロールの1種又は複数種から選ばれる、請求項14~16のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子。
【請求項18】
請求項1~13のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子をコードする断片を含む、核酸分子。
【請求項19】
前記核酸分子は、発現ベクターである、請求項18に記載の核酸分子。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子を含む、細胞。
【請求項21】
請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子と、
必要に応じて薬学的に許容可能な担体と、を含む薬物組成物。
【請求項22】
請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子、又は請求項20に記載の細胞、又は請求項21に記載の薬物組成物を含む、製剤。
【請求項23】
請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子、又は請求項20に記載の細胞、又は請求項21に記載の薬物組成物を含む、試薬キット。
【請求項24】
請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子、又は請求項20に記載の細胞、又は請求項21に記載の薬物組成物の、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレートするための薬物又は製剤の調製における使用。
【請求項25】
細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレートする方法であって、前記細胞に、請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子、又は請求項21に記載の組成物、又は請求項22に記載の製剤を投与することを含む、方法。
【請求項26】
必要とする個体に、請求項1~17のいずれか1項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか1項に記載の核酸分子、又は請求項21に記載の組成物、又は請求項22に記載の製剤を投与することを含む、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療する方法。
【請求項27】
請求項1~17のいずれか一項に記載の小分子活性化核酸分子、又は請求項18~19のいずれか一項に記載の核酸分子、又は請求項20に記載の細胞、又は請求項21に記載の薬物組成物の、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療するための薬物の調製における使用。
【請求項28】
MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する前記疾患又は障害は、白斑、又はワールデンブルグ症候群2A型、又はティッツァー症候群である、請求項27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の技術分野に属し、具体的には、例えば小分子活性化核酸分子などの遺伝子活性化に関連する二本鎖構造を有する核酸分子に関し、特にMITF遺伝子を標的とする核酸分子に関し、更に小分子活性化核酸分子による小眼球転写因子(microphthalmia-associated transcription factor,MITF)の活性化/アップレギュレートの遺伝子転写における適用に関する。本発明は、一般的に化合物、薬物組成物及びその使用方法を提供し、より具体的に、本発明は、例えば白斑などのMITF遺伝子発現を増加させる疾患の治療における適用から利益を得る。
【背景技術】
【0002】
白斑(vitiligo)は、局所的な表皮及び毛髪メラノサイトが減少し、更に不規則な白い斑点を形成することを特徴とする後天性の色素沈着減少性皮膚病である。統計によると、白斑患者は、世界人口の約0.5%~2%を占め、有意な性別差はない(Picardoら、2015)。臨床的特徴によると、尋常性白斑と分節性白斑に分けることができ、尋常性白斑は、メラノサイトの損傷を更に招く自己免疫調節又は酸化ストレスに関連し、分節性白斑は、遺伝的要因に関連する(Gauthier, Cario Andre, and Taieb 2003; Dell'anna and Picardo 2006)。
【0003】
白斑は、家族遺伝、自己免疫調節、酸化ストレス及び機能性メラノサイトの損傷などの要因に関連する。白斑の発生は、明らかな家族集約傾向があり、白斑患者の家族歴の陽性率が約6.25%~40%であり、第一度近親者の罹患リスクが一般人の18倍であり、陽性の家族歴を有する患者は、通常、より早く発症する(Sehgal and Srivastava 2007)。白斑患者において免疫応答によってサイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1β、IL-8)が増加し、体外実験により、大量の炎症誘発性因子は、メラニンの合成及びメラニンの合成に関連する転写因子の発現を阻害することが示された(Kotobukiら、2012)。50%~93%の白斑患者の血清において抗メラノサイト抗体を検出することができ、これらの抗体は、免疫複合体による補体の活性化及び(又は)抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を通じて、メラノサイトの減少又は消失を引き起こすことができる(Kempら、2007)。Dell'Anna実験室により、白斑患者の体内の酸化ストレスの不均衡は、ミトコンドリア電子伝達鎖の活性低下を引き起こし、活性酸素種(reactiveoxygenspecies,ROS)の過剰産生を誘導し、更にメラノサイト死(Dell'Annaら、2007)を引き起こすことができる表皮細胞の異常なカルジオリピンによるかもしれないことが提案された。
【0004】
メラノサイトの損失は、白斑を発症する重要な要因であり、メラノサイトは、物理的及び化学的損傷を受けた後、抗原を放出し、体を刺激して抗メラノサイト抗体を産生し、大量のメラノサイトを不活性化させ、表皮の色素脱失を悪化させる。実験により、皮膚病変のメラニンが表皮を通過する際に損傷又は損失することが示され、これは、おそらく、メラノサイトと基底膜、角質形成細胞との付着欠陥によるものである(Kumar, Parsad, and Kanwar 2011)。メラノサイトの機能不全は、主にメラノサイトの数の減少、メラノサイトの付着と移動障害、メラノサイトの過剰なアポトーシスとメラノサイトの発育、分化不全などとして現れる。
【0005】
MITF遺伝子によってコードされた小眼球転写因子は、塩基性-ヘリックス-ループ-ヘリックス-ロイシンジッパー(bHLH-Zip)構造を有する転写因子であり、二量体の形でDNAに結合する。メラノサイト、網膜色素上皮細胞、破骨細胞及びマスト細胞の発育中に重要な役割を果たす。MITFは、転写因子EB(transcription factor EB,TFEB)、TFE3及びTFECといった関連因子と一緒にMiTファミリーを構成する(Hemesathら、1994)。MITFは、MiTファミリーにおいて、正常なメラノサイトの発育に重要な役割を果たす唯一の因子である(Levy, Khaled, and Fisher 2006)。MITFは、メラノサイトの発育、増殖と生存に必要な調節因子だけでなく、関連する酵素とメラノソームタンパク質の発現を調節するために重要な役割を果たす。チロシナーゼ、TYRP1及びDCTという3つの主な色素沈着関連酵素のプロモーターにおいて、いずれもMITF転写調節の標的遺伝子であるMITFの共通結合部位(TCATGTG)が含まれる(Bentley, Eisen, and Goding 1994)。
【0006】
MITF変異は、ワールデンブルグ症候群2A型(Waardenburg syndrome type 2A,WS2A)、ティッツァー症候群(Tietz syndrome)及びCOMMAD症候群を含む多種のヒト疾患を引き起こすことができ、これらの疾患は、いずれも重度の難聴と色素沈着障害を示し、そのうち、前者の2つは常染色体優性遺伝として現れる。
【0007】
現段階では、白斑の治療方法が様々であるが、白斑を完全に治癒する方法はまだない。化粧品で白い斑点を隠すことで外観を単純に改善することができ、他の治療方法としては、ステロイドホルモン、紫外線照射、手術などが挙げられる。紫外線Bの照射は、白い斑点の境界をぼかすことができるが、光線療法には癌のリスクがある。初期段階で、Kwinterらは、強力なグルココルチコイドを局所的に外用することで70人の白斑の小児患者を治療し、その有効率が64%(Kwinterら、2007)に達したが、再発率が高い。臨床的には、皮膚病変におけるメラノサイトの合成と抗アポトーシスなどを改善するために、一般的にソラレン薬を光増感剤として長波紫外線と組み合わせて白斑患者に対してソラレン光化学療法(PUVA)を行う(Iannellaら、2016)。アファメラノチド(Afamelanotide)は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された唯一の前臨床試験の薬物であるが、アファメラノチドは、狭帯域紫外線B光線療法(NB-UVB)と併用実験を行う必要がある。狭帯域紫外線B光線療法(NB-UVB)によってメラノコルチコイド受容体1(MCIR)を活性化してからこそ、アファメラノチドは、MCIRに結合してメラニンを産生することができるが(Limら、2015;Grimesら、2013)、具体的なNB-UVB作用時間及び薬物の用量について、更に試験する必要がある。外科療法における自家瘢痕吸収表皮移植、自家微小移植、自家メラノサイト移植、複合表皮移植とマイクロピグメンテーション法なども非常に良好な治療結果があるが、これらの手術には厳しい禁忌があり、治療方法は限られている。
【0008】
これらの治療方法は、それぞれ一定の効果があるが、再発しやすく、副作用も大きく、薬物の有効量が更に確認する必要があり、臨床治療が大きく制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記1つ又は複数の面の問題を解決するために、本発明は、MITF遺伝子発現を活性化/アップレギュレートすることで、例えば白斑、ワールデンブルグ症候群2A型又はティッツァー症候群など、MITFタンパク質の欠乏又は不足、又はMITF単一対立遺伝子変異による疾患又は障害を治療する、RNA活性化プロセスに基づく小分子活性化核酸分子(small activating RNA,saRNA)を提供する。
【0010】
本発明の1つの目的は、MITF遺伝子転写を活性化/アップレギュレートすることによって、MITFタンパク質の発現量を増加させるRNA活性化プロセスに基づく小分子活性化核酸分子、又は小分子活性化核酸分子の、MITFタンパク質の欠乏又は不足に関連する疾患又は障害を治療するための薬物の調製における使用を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤を提供することである。
【0012】
本発明のもう1つの目的は、小分子活性化核酸分子又はそれを含む組成物又は製剤の、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートするための薬物の調製における使用を提供することである。
【0013】
本発明のもう1つの目的は、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートする方法を提供することである。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、例えばワールデンブルグ症候群2A型とティッツァー症候群などのMITF単一対立遺伝子変異による疾患の治療に用いることができる、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートする方法を提供することである。
【0015】
本発明のもう1つの目的は、小分子活性化核酸分子又はそれを含む組成物又は製剤の、例えば白斑などのMITFタンパク質の欠乏又は不足に関連する疾患又は障害を治療するための薬物の調製における使用を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、SEQ ID NO:299~SEQ ID NO:305のいずれか1つの配列から選ばれた任意の連続した16~35個のヌクレオチドの配列、又は上記任意の連続した16~35個のヌクレオチドで構成される配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%又は100%の相同性を有する配列を含む、単離されたMITF遺伝子の小分子活性化核酸分子の標的部位を提供することである。
【0017】
本発明の一態様において、例えば小分子活性化RNA(saRNA)分子などの小分子活性化核酸分子を提供し、前記小分子活性化核酸分子は、少なくとも第1オリゴヌクレオチド鎖を含み、前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、ヒトMITF遺伝子プロモーター領域のいずれか1つの長さが16~35個のヌクレオチドの連続した断片と少なくとも75%の相同性又は相補性を有する。更に、前記ヒトMITF遺伝子プロモーター領域は、好ましくは、MITF遺伝子の転写開始部位(TSS)からその上流までの500個のヌクレオチドの領域(SEQ ID NO:1)であり、前記第1オリゴヌクレオチド鎖は、MITF遺伝子の転写開始部位(TSS)からその上流までの500個のヌクレオチドの領域(SEQ ID NO:1)におけるいずれか1つの長さが16~35個のヌクレオチドの連続した断片と少なくとも75%の相同性又は相補性を有する。
【0018】
本発明の一態様において、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化又はアップレギュレートする、例えば小分子活性化RNA(saRNA)分子などの小分子活性化核酸分子を提供し、前記小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、MITF遺伝子プロモーター領域のいずれか1つの長さが16~35個のヌクレオチドの核酸配列と少なくとも75%の相同性又は相補性を有し、プロモーター領域は、転写開始部位の上流の500個のヌクレオチド(その配列がSEQ ID NO:1である)を含むものを指し、これによってMITF遺伝子発現の活性化又はアップレギュレーションを実現する。具体的に、小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、MITF遺伝子プロモーターにおける転写開始部位からの-500~-408領域(領域H1、SEQ ID NO:299)、-403~-351領域(領域H2、SEQ ID NO:300)、-342~-262領域(領域H3、SEQ ID NO:301)、-181~-140領域(領域H4、SEQ ID NO:302)、-250~-193領域(領域W1、SEQ ID NO:303)、-123~-89領域(領域W2、SEQ ID NO:304)、-62~-36領域(領域W3、SEQ ID NO:305)における連続した16~35個のヌクレオチドと少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%又は100%の相同性又は相補性を有する核酸配列を含むか、これらから選ばれ、ホットスポットとウォームスポット領域の配列は、表5に示す通りである。より具体的には、本発明の小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相同性又は相補性を有する。具体的な一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相同性又は相補性を有する核酸配列を含む。別の一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相同性又は相補性を有する核酸配列によって構成される。更なる一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の1本の鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相同性又は相補性を有する核酸配列である。
【0019】
本発明の小分子活性化核酸分子は、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖を含む、MITF遺伝子プロモーター領域を標的とする二本鎖小分子活性化核酸分子、例えば小分子活性化RNA(saRNA)分子を含み、第1オリゴヌクレオチド鎖は、MITF遺伝子プロモーターにおける転写開始部位からの-500~-408領域(領域H1、SEQ ID NO:299)、-403~-351領域(領域H2、SEQ ID NO:300)、-342~-262領域(領域H3、SEQ ID NO:301)、-181~-140領域(領域H4、SEQ ID NO:302)、-250~-193領域(領域W1、SEQ ID NO:303)、-123~-89領域(領域W2、SEQ ID NO:304)、-62~-36領域(領域W3、SEQ ID NO:305)における連続した16~35個のヌクレオチドと少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相同性又は相補性を有し、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖は、相補によって二本鎖核酸構造を形成することができ、二本鎖核酸構造は、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化することができる。
【0020】
本発明の小分子活性化核酸分子の第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖は、異なる2本の核酸鎖に存在してもよく、同一の核酸鎖に存在してもよい。第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖が2本の鎖にそれぞれ位置する場合、小分子活性化核酸分子の少なくとも1本鎖は、5'末端及び/又は3'末端に突出(又はオーバーハングと称される)を有してもよく、例えば3'末端に0~6個のヌクレオチドの突出、例えば、0、1、2、3、4、5又は6個のヌクレオチドの突出を有してもよい。好ましくは、本発明の小分子活性化核酸分子の2本の鎖は、いずれも突出を有し、より好ましくは、小分子活性化核酸分子の2本の鎖の3'末端には、いずれも0~6個のヌクレオチドの突出、例えば、0、1、2、3、4、5又は6個のヌクレオチドの突出を有してもよく、最も好ましくは、2個又は3個のヌクレオチドの突出を有する。好ましくは、突出端のヌクレオチドのタイプは、dT(デオキシチミジン一リン酸、又はTと記載する)であってもよい。好ましくは、5'末端及び/又は3'末端の突出はdTdT又はdTdTdTである。
【0021】
本発明の小分子活性化核酸分子は、二本鎖領域のヘアピン構造を形成できる小分子活性化核酸分子、例えば一本鎖小分子活性化RNA分子を含んでもよい。一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子は、MITF遺伝子プロモーター領域を標的とする一本鎖小分子活性化RNA分子を含み、前記一本鎖小分子活性化核酸分子は、二本鎖領域のヘアピン構造を形成することができる。第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖が同一の核酸鎖に存在する場合、好ましくは、本発明の小分子活性化核酸分子は、ヘアピン型一本鎖核酸分子であってもよく、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖は、二本鎖核酸構造を形成できる相補的な領域を有し、前記二本鎖核酸構造は、例えばRNA活性化メカニズムによって細胞におけるMITF遺伝子の発現を促進することができる。
【0022】
上記小分子活性化核酸分子において、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖の長さは、それぞれ16~35個のヌクレオチド、例えば、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34又は35個のヌクレオチドであってもよい。
【0023】
一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有し、又は小分子活性化核酸分子の第2オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有する。一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有する核酸配列を含み、又はSEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有する核酸配列によって構成され、又は本発明の小分子活性化核酸分子の第2オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有する核酸配列を含み、又はSEQ ID NO:8~104から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも75%、例えば少なくとも約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の同一性又は相同性又は相補性を有する核酸配列によって構成される。具体的な実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子の第1オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:105~201から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列を含んでもよく、及び/又はその第2オリゴヌクレオチド鎖は、SEQ ID NO:202~298から選ばれるいずれか1つのヌクレオチド配列を含んでもよい。一実施形態において、本明細書に記載の小分子活性化核酸分子は、合成するもの、インビトロで転写したもの又はベクターで発現させたものであってもよい。
【0024】
本明細書に記載の小分子活性化核酸分子における全てのヌクレオチドは、化学修飾されていない天然のヌクレオチドであってもよく、少なくとも1種の修飾を含んでもよい。一実施形態において、本明細書に記載の小分子活性化核酸分子における修飾は、化学修飾を含んでもよく、例えば少なくとも1つのヌクレオチドに化学修飾を有してもよく、本発明で使用された化学修飾は、以下のような修飾における1種又は複数種、又はこれらの任意の組み合わせを含んでもよいか、これらから選ばれてもよい。
【0025】
(1)前記小分子活性化核酸分子のヌクレオチド配列におけるヌクレオチドのホスホジエステル結合に対する修飾、
【0026】
(2)前記小分子活性化核酸分子のヌクレオチド配列におけるリボースの2'-OHに対する修飾、
【0027】
(3)前記小分子活性化核酸分子のヌクレオチド配列における塩基に対する修飾、
【0028】
(4)前記小分子活性化核酸分子のヌクレオチド配列における少なくとも1個のヌクレオチドはロック核酸である。
【0029】
前記化学修飾は、当業者に公知されるものであり、前記ホスホジエステル結合に対する修飾とは、ホスホジエステル結合における酸素に対する修飾であり、ホスホロチオエート修飾及びボラノホスフェート修飾を含むが、これらに限定されない。これらの2種類の修飾はいずれもsaRNA構造を安定させ、塩基対の高い特異性及び高い親和性を保持することができる。
【0030】
リボース修飾とは、ヌクレオチドペントースにおける2'-OHに対する修飾であり、即ち、リボースのヒドロキシ位置にいくつかの置換基が導入され、例えば、2'-フルオロ修飾、2'-オキシメチル修飾、2'-オキシエチレンメトキシ修飾、2,4'-ジニトロフェノール修飾、ロック核酸(LNA)、2'-アミノ修飾、2'-デオキシ修飾などを含むが、これらに限定されない。
【0031】
塩基修飾とは、ヌクレオチドの塩基に対する修飾であり、例えば、5'-ブロモウラシル修飾、5'-ヨードウラシル修飾、N-メチルウラシル修飾、2,6-ジアミノプリン修飾などを含むが、これらに限定されない。
【0032】
これらの修飾は、小分子活性化核酸分子のバイオアベイラビリティを向上させ、標的配列との親和性を高め、細胞内のヌクレアーゼ加水分解に対する耐性を向上させることができる。
【0033】
なお、小分子活性化核酸分子の細胞への進入を促進するため、以上の修飾に加え、小分子活性化核酸分子の第1オリゴヌクレオチド鎖及び/又は第2オリゴヌクレオチド鎖の末端に、例えばコレステロールなどの親油性基を導入することにより、脂質二重層からなる細胞膜及び核膜によって、細胞核内の遺伝子プロモーター領域と作用することに寄与する。
【0034】
本発明により提供された小分子活性化核酸分子は、細胞と接触したか又は細胞に導入された後に、細胞におけるMITF遺伝子の発現を効果的に活性化又はアップレギュレートすることができ、好ましくは、発現は少なくとも30%アップレギュレートされる。
【0035】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸に更に関する。一実施形態において、前記核酸はDNA分子であってもよい。一実施形態において、前記核酸は発現ベクターであり、当該発現ベクターは、本明細書に記載の小分子活性化核酸分子をコードする断片を含み、当該発現ベクターを細胞に導入した後、本明細書に記載の小分子活性化核酸分子を発現することができる。
【0036】
本発明の別の態様において、以上に記載の小分子活性化核酸分子又は本明細書に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞を提供する。一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子は、MITF遺伝子プロモーター領域を標的とする二本鎖小分子活性化核酸分子、例えば二本鎖小分子活性化RNA(saRNA)分子であってもよく、第1オリゴヌクレオチド鎖と第2オリゴヌクレオチド鎖を含む。別の一実施形態において、本発明の小分子活性化核酸分子は、MITF遺伝子プロモーター領域を標的とする一本鎖小分子活性化核酸分子、例えば二本鎖小分子活性化RNA(saRNA)分子であってもよい。
【0037】
本発明の別の態様は、本発明に記載の小分子活性化核酸分子又は本明細書に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸と、必要に応じて薬学的に許容可能な担体と、を含む組成物(例えば薬物組成物)を提供する。一実施形態において、前記薬学的に許容可能な担体は、リポソーム、高分子ポリマー又はポリペプチドを含んでもよいか、これらから選ばれてもよい。
【0038】
本発明の別の態様において、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物を含む製剤を提供する。
【0039】
本発明の別の態様において、本発明の小分子活性化核酸分子、本発明に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物を含む試薬キットを提供する。
【0040】
本発明の別の態様は、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明に記載の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物の、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートするための薬物又は製剤の調製における使用に関する。
【0041】
本発明の別の態様は、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートする方法に更に関し、当該方法は、前記細胞に、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤を投与することを含む。一実施形態において、細胞におけるMITF遺伝子の発現を活性化/アップレギュレートする方法は、前記細胞に、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物を投与することを含む。上記細胞は、例えばヒトメラノサイト(HEM)とヒト皮膚角質形成細胞(NHEK)などのヒトからの細胞のような哺乳動物細胞を含み、上記細胞は、エクスビボであってもよく、例えばヒトなどの哺乳動物の体内に存在してもよい。
【0042】
本発明の小分子活性化核酸分子は細胞に直接導入してもよく、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸配列を細胞に導入することで細胞内で産生するものであってもよく、前記細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞である。上記細胞は、例えば細胞系や細胞株などのようなエクスビボ細胞であってもよく、例えばヒトなどの哺乳動物の体内に存在してもよい。当該ヒトは、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を有する患者であってもよい。本発明に記載の小分子活性化核酸分子は、MITFタンパク質量の欠乏又はMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害に対する治療を実現するために十分な量で投与することができる。具体的には、MITFタンパク質量の欠乏又はMITFの発現不足又は減少に関連する前記疾患又は障害は、例えば白斑などを含んでもよい。
【0043】
本発明の別の態様は、単離されたMITF遺伝子小分子活性化核酸分子の作用部位を提供し、当該部位は、MITF遺伝子のプロモーター領域(SEQ ID NO:1)における任意の連続した16~35個のヌクレオチドの配列を有し、好ましくは、前記作用部位は、SEQ ID NO:299~305のいずれか1つの配列における任意の連続した16~35個のヌクレオチドの配列を含むか、これらから選ばれる。具体的には、前記作用部位は、SEQ ID NO:8~104におけるいずれも1つのヌクレオチド配列を含んでもよいか、これらから選ばれてもよい。
【0044】
本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物を個体に投与することを含む、個体におけるMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療する方法に関する。一実施形態において、本発明の個体におけるMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療する方法は、治療有効量の本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物と治療有効量の他の薬剤を個体に投与することを含み、前記他の薬剤は、例えば小分子化合物、抗体、ペプチド、タンパク質などを含む。前記個体は、例えばヒトを含む哺乳動物であってもよい。一実施形態において、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害は、例えば白斑を含んでもよい。臨床的特徴によると、尋常性白斑と分節性白斑に分けることができ、尋常性白斑は、メラノサイトの損傷を更に招く自己免疫調節又は酸化ストレスに関連し、分節性白斑は、遺伝的要因に関連する。白斑は、家族遺伝、自己免疫調節、酸化ストレス及び機能性メラノサイトの損傷などの要因に関連する。
【0045】
本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物を個体に投与することを含む、個体における白斑を治療する方法に関する。一実施形態において、本発明の白斑を治療する方法は、治療有効量の本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物と治療有効量の他の薬剤を個体に投与することを含み、前記他の薬剤は、例えば小分子化合物、抗体、ペプチド、タンパク質などを含む。前記個体は、例えばヒトを含む哺乳動物であってもよい。上記方法において、白斑は、尋常性白斑と分節性白斑などを含む。上記方法において、個体は、例えばヒト等の哺乳動物を含む。
【0046】
本発明の別の態様は、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物の、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害を治療するための薬物の調製における使用に関する。前記個体は、例えばヒトなどの哺乳動物であってもよい。一実施形態において、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する前記疾患は、例えば白斑などを含んでもよい。好ましくは、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害は白斑であり、より好ましくは、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害は、尋常性白斑と分節性白斑などを含む。
【0047】
一実施形態において、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物の、例えば白斑などのMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患を治療する薬物の調製における使用を提供する。一実施形態において、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する前記疾患は、例えば白斑などを含んでもよい。好ましくは、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害は白斑であり、より好ましくは、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は障害は、尋常性白斑と分節性白斑などを含む。
【0048】
本発明の別の態様は、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤の、白斑を治療するための薬物又は薬物組成物の調製における使用に関する。好ましくは、白斑は、尋常性白斑と分節性白斑などを含む。
【0049】
一実施形態において、本発明に記載の小分子活性化核酸分子、本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸、本発明の小分子活性化核酸分子又は本発明の小分子活性化核酸分子をコードする核酸を含む細胞、又は本発明の小分子活性化核酸分子を含む組成物又は製剤の、MITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患を治療するための薬物又は薬物組成物の調製における使用を提供する。
【0050】
従来技術と比べると、本発明は、以下の1つ又は複数の有益な効果を有する。
【0051】
本発明により提供されたMITF遺伝子発現を活性化/アップレギュレートできる小分子活性化RNA(saRNA)などの小分子活性化核酸分子は、MITF遺伝子を永続的に活性化できるため、MITF遺伝子とタンパク質の発現を効率的且つ特異的にアップレギュレート又は回復することができ、且つより低い毒副作用を有し、例えば白斑などのMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は病症を治療するために用いられ、又は例えばワールデンブルグ症候群2A型とティッツァー症候群などのMITFタンパク質の発現不足又は減少に関連する疾患又は病症を治療するための薬物又は製剤の調製に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】saRNAにより媒介されたヒトMITF mRNA発現の変化である。ヒトMITFプロモーターを標的とする239個のsaRNAにより、25 nMの最終濃度でHEM細胞をトランスフェクトし、72時間トランスフェクトした後、ワンステップ法RT-qPCRによってMITF mRNA発現を分析する。図には、対照処理(Mock)に対するMITFのmRNA発現の変化(log2)が降順で示されている。縦軸値は、2回の反復処理の平均値±SDを示す。
【0053】
【
図2】ヒトMITFプロモーターにおけるsaRNAのホットスポット領域である。ヒトMITFプロモーターを標的とする239個のsaRNAにより、25 nMの最終濃度でHEM細胞を72時間トランスフェクトし、トランスフェクション終了後、ワンステップ法RT-qPCRによってMITF mRNA発現を分析する。図には、対照処理(Mock)に対するMITF発現の変化が、MITFプロモーターにおけるsaRNAの標的位置によって-500~-0の順で示されている。黒い中実点は、機能性saRNAを示し、白い中空点は、非機能性saRNAを示し、点線枠は、機能性saRNAが凝集するホットスポット領域(H1~H4)とウォームスポット領域(W1~W3)を示す。縦軸値は、2回の反復処理の平均値±SDを示す。
【0054】
【
図3】ツーステップ法RT-qPCRによって検証されたハイスループットスクリーニングの結果である。
図3に示すsaRNAにより、25 nMの最終濃度でHEM細胞を72時間トランスフェクトし、トランスフェクション終了後、Qiagen RNeasy試薬キットでRNAを抽出し、逆転写した後、ABI 7500高速リアルタイムPCRシステムによってqPCR増幅を行うとともに、HPRT1遺伝子を増幅して内部標準とする。図には、単一のsaRNAにより細胞を処理した後のMITF mRNAの相対発現値が示されている。Mock、dsCon2及びRAG4-618iは、それぞれブランクトランスフェクション、無関係な配列の二本鎖RNAトランスフェクション及び低分子干渉RNA対照トランスフェクションである。縦軸値は、2回の反復処理の平均値±SDを示す。
【0055】
【
図4】ツーステップ法RT-qPCRによって検証されたハイスループットスクリーニングの結果である。
図4に示すsaRNAにより、25 nMの最終濃度でNHEK細胞を72時間トランスフェクトし、トランスフェクション終了後、Qiagen RNeasy試薬キットでRNAを抽出し、逆転写した後、ABI 7500高速リアルタイムPCRシステムによってqPCR増幅を行うとともに、HPRT1遺伝子を増幅して内部標準とする。図には、単一のsaRNAにより細胞を処理した後のMITF mRNAの相対発現値が示されている。Mock、dsCon2及びRAG4-618iは、それぞれブランクトランスフェクション、無関係な配列の二本鎖RNAトランスフェクション及び低分子干渉RNA対照トランスフェクションである。縦軸値は、2回の反復処理の平均値±SDを示す。
【0056】
【
図5】saRNAによるヒトNHEK細胞におけるMITFタンパク質発現への促進である。
図5に示すsaRNAにより、25 nMの最終濃度でNHEK細胞を5日間トランスフェクトし、細胞を回収して細胞総タンパク質を抽出した後、western blotでMITFタンパク質の発現レベルを検出するとともに、チューブリン(α/β-Tubulin)を検出して内部標準とする。図には、単一のsaRNAにより細胞を処理した後のMITFタンパク質の相対発現値が示されている。Mock、dsCon2及びRAG4-618iは、それぞれブランクトランスフェクション、無関係な配列の二本鎖RNAトランスフェクション及び低分子干渉RNA対照トランスフェクションである。
【0057】
【
図6】saRNAによるHEK細胞におけるMITFタンパク質発現への促進である。
図6に示すsaRNAは、25 nMの最終濃度でHEM細胞を72時間トランスフェクトし、細胞を回収して細胞総タンパク質を抽出した後、western blotでMITFタンパク質の発現レベルを検出するとともに、チューブリン(α/β-Tubulin)を検出して内部標準とする。図には、単一のsaRNAにより細胞を処理した後のMITFタンパク質の相対発現値が示されている。Mock、dsCon2及びRAG4-618iは、それぞれブランクトランスフェクション、無関係な配列の二本鎖RNAトランスフェクション及び低分子干渉RNA対照トランスフェクションである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明において、関連用語は、以下のように定義される。
【0059】
本明細書で使用される「相補」という用語は、2本のオリゴヌクレオチド鎖が互いに塩基対を形成する能力を意味する。塩基対は、通常、逆方向に平行となるオリゴヌクレオチド鎖におけるヌクレオチド同士が水素結合により形成されるものである。相補的なオリゴヌクレオチド鎖は、ワトソン・クリック(Watson-Crick)方式で塩基対(例えば、A-T、A-U、C-G)を形成するか、又は二本鎖体の形成を可能にする任意のほかの方式(例えばHoogsteen型又は逆Hoogsteen型塩基対)で塩基対を形成することができる。
【0060】
相補は、完全相補及び不完全相補の2種類を含む。完全相補又は100%相補は、二本鎖オリゴヌクレオチド分子の二本鎖領域における第1オリゴヌクレオチド鎖からの各ヌクレオチドが第2オリゴヌクレオチド鎖の対応する位置のヌクレオチドと「ミスマッチ」無しに水素結合を形成できることを意味する。不完全相補とは、二本鎖のヌクレオチドユニットが全て水素結合で互いに結合することができないことを意味する。例えば、二本鎖領域の長さが20個のヌクレオチドである2本のオリゴヌクレオチド鎖に対しては、各鎖における2つの塩基対のみが互いに水素結合で結合することが可能であると、オリゴヌクレオチド鎖は10%の相補性を有する。同じ実施例では、各鎖における18個の塩基対が互いに水素結合で結合することが可能であると、オリゴヌクレオチド鎖は90%の相補性を有する。実質的な相補とは、少なくとも約75%、約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%の相補性を有することを意味する。
【0061】
本明細書で使用される用語「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの重合体を意味し、DNA、RNA又はDNA/RNAハイブリッドの一本鎖又は二本鎖分子を含むが、これらに限定されず、規則的または非規則的に交互するデオキシリボシル部分とリボシル部分のオリゴヌクレオチド鎖、これらの種類のオリゴヌクレオチドの修飾、及び天然に存在するか又は天然に存在しない骨格を含む。本発明に記載の標的遺伝子転写を活性化するためのオリゴヌクレオチドは、小分子活性化核酸分子である。
【0062】
本明細書で使用される用語「オリゴヌクレオチド鎖」と「オリゴヌクレオチド配列」は、交換可能に使用することができ、35個以下の塩基を有する短鎖ヌクレオチドの総称(デオキシリボ核酸DNA、リボ核酸RNAを含めるヌクレオチド鎖であり、1つ又は複数のデオキシヌクレオチド及び1つ又は複数のリボヌクレオチドが共同して形成した混合オリゴヌクレオチド鎖も含まれる)を意味する。本発明において、オリゴヌクレオチド鎖の長さは、16~35個ヌクレオチドの任意の長さであってもよい。
【0063】
本明細書で使用される用語「第1オリゴヌクレオチド鎖」は、センス鎖であってもよく、アンチセンス鎖であってもよく、小分子活性化RNAのセンス鎖は、小分子活性化RNA二本鎖体において、標的遺伝子のプロモーターDNA配列のコード鎖と同一性を有する核酸鎖が含まれることを意味し、アンチセンス鎖は、小分子活性化RNA二本鎖体におけるセンス鎖と相補する核酸鎖を意味する。
【0064】
本明細書で使用される用語「第2オリゴヌクレオチド鎖」は、センス鎖又はアンチセンス鎖であってもよい。第1オリゴヌクレオチド鎖がセンス鎖である場合、第2オリゴヌクレオチド鎖はアンチセンス鎖である。一方、第1オリゴヌクレオチド鎖がアンチセンス鎖である場合、第2オリゴヌクレオチド鎖はセンス鎖である。
【0065】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、1本のポリペプチド鎖のコード又は1本の機能RNAの転写に必要な全てのヌクレオチド配列を意味する。「遺伝子」は、宿主細胞に対して内因性、あるいは完全又は部分的に組換えられた遺伝子であってもよい(例えば、コードプロモーターを導入した外因性オリゴヌクレオチド及びコード配列、又は内因性コード配列に隣接する異種プロモーターを宿主細胞に導入したもの)。例えば、「遺伝子」は、エクソン及びイントロンで構成される核酸配列を含む。タンパク質をコードする配列は、例えば、開始コドンと終止コドンとの間のオープンリーディングフレームにおけるエクソンに含まれる配列であり、本発明で使用されるように、「遺伝子」は、他の遺伝子がコード配列又は非コード配列を含むか否かを問わず、例えばプロモーター、エンハンサーなどのような遺伝子調節配列及び本分野で知られている他の遺伝子の転写、発現又は活性を調節する他の全ての配列を含むことができる。1つの場合、例えば、「遺伝子」は、例えばプロモーターやエンハンサーなどの調節配列を含む機能性核酸の説明に用いることができる。組換え遺伝子の発現は、1種又は複数種の異種調節配列により制御することができる。
【0066】
本明細書で用いられる用語「標的遺伝子」は、生体内に天然に存在する核酸配列、組換え遺伝子、ウイルス又は細菌配列、染色体又は染色体外及び/又は細胞及び/又はその染色質に一時的又は安定的にトランスフェクション又は混入したものであってもよい。標的遺伝子は、タンパク質コード遺伝子であってもよいし、非タンパク質コード遺伝子(例えば、マイクロRNA遺伝子、長鎖非コードRNA遺伝子)であってもよい。標的遺伝子は、通常、プロモーター配列を含み、プロモーター配列と同一性(相同性とも言われる)を有する小分子活性化核酸分子を設計することにより、標的遺伝子に対する正の調節を実現することができ、標的遺伝子の発現のアップレギュレーションとして表現される。「標的遺伝子プロモーター配列」とは、標的遺伝子の非コード配列を意味し、本発明において「標的遺伝子プロモーター配列と相補する」における標的遺伝子プロモーター配列とは、非鋳型鎖とも言われる当該配列のコード鎖、すなわち、当該遺伝子コード配列と同一の核酸配列である。「標的」又は「標的配列」とは、標的遺伝子プロモーター配列のうち小分子活性化核酸分子のセンスオリゴヌクレオチド鎖又はアンチセンスオリゴヌクレオチドと相同又は相補となる配列断片を意味する。
【0067】
本明細書で使用される用語「センス鎖」、「センス核酸鎖」は、交換可能に使用することができ、小分子活性化核酸分子のセンスオリゴヌクレオチド鎖とは、小分子活性化核酸分子の二本鎖体に標的遺伝子のプロモーター配列のコード鎖と同一性を有する第1オリゴヌクレオチド鎖が含まれることを意味する。
【0068】
本明細書で使用される用語「アンチセンス鎖」、「アンチセンス核酸鎖」は、交換可能に使用することができ、小分子活性化核酸分子のアンチセンスオリゴヌクレオチド鎖とは、小分子活性化核酸分子の二本鎖体におけるセンスオリゴヌクレオチド鎖と相補する第2オリゴヌクレオチド鎖を意味する。
【0069】
本明細書で使用される用語「コード鎖」は、標的遺伝子における転写が不可能な1本のDNA鎖を指し、当該鎖のヌクレオチド配列は、転写により生成されたRNAの配列と一致する(RNAではUでDNAにおけるTを置換した)。本発明に記載の標的遺伝子プロモーターの二本鎖DNA配列のコード鎖は、標的遺伝子DNAコード鎖と同一のDNA鎖に存在するプロモーター配列を意味する。
【0070】
本明細書で使用される用語「鋳型鎖」とは、標的遺伝子の二本鎖DNAのうちコード鎖に相補的な他本の鎖であって、鋳型としてRNAに転写可能な鎖を意味し、当該鎖は、転写したRNA塩基と相補的なものである(A-U、G-C)。転写プロセスにおいて、RNAポリメラーゼは、鋳型鎖に結合し、鋳型鎖の3'→5'方向に沿って移動し、5'→3'方向に従ってRNAの合成を触媒する。本発明に記載の標的遺伝子プロモーターの二本鎖DNA配列の鋳型鎖は、標的遺伝子DNA鋳型鎖と同一のDNA鎖に存在するプロモーター配列を意味する。
【0071】
本明細書で使用される用語「プロモーター」とは、タンパク質コード又はRNAコード核酸配列と位置的に関連付けることによりそれらの転写に対して調節作用を果たす配列である。通常、真核遺伝子プロモーターは、100~5,000個の塩基対を含むが、この長さの範囲は、本明細書で使用される用語「プロモーター」を限定する趣旨ではない。プロモーター配列は、一般的にタンパク質コード又はRNAコード配列の5'末端に位置するが、エクソン及びイントロン配列にも存在してもよい。
【0072】
本明細書で使用される用語「転写開始部位」は、遺伝子の鋳型鎖に転写開始を標識するためのヌクレオチドを意味する。転写開始部位は、プロモーター領域の鋳型鎖に出現することができる。1つの遺伝子は、1つ以上の転写開始部位を有することができる。
【0073】
本明細書で使用される用語「同一性」又は「相同性」は、小分子活性化RNAのうちの1本のオリゴヌクレオチド鎖(センス鎖又はアンチセンス鎖)が標的遺伝子のプロモーター配列のある領域のコード鎖又は鋳型鎖と類似性を有することを意味する。本明細書では、前記「同一性」又は「相同性」は、少なくとも約75%、約79%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%又は約100%であってもよい。
【0074】
本明細書で使用される用語「突出」、「overhang」、「オーバーハング」は、交換可能に使用することができ、オリゴヌクレオチド鎖の末端(5'又は3')の非塩基対ヌクレオチドを意味し、二本鎖オリゴヌクレオチド内の一方の鎖から延出する他方の鎖から産生するものである。二本鎖体の3'及び/又は5'末端から延出した一本鎖領域は、「突出」と称される。
【0075】
本明細書で使用される用語「遺伝子活性化」又は「活性化遺伝子」又は「遺伝子のアップレギュレーション」又は「アップレギュレーションされた遺伝子」は、交換可能に使用することができ、遺伝子の転写レベル、mRNAレベル、タンパク質レベル、酵素活性、メチル化状態、染色質状態又は立体配置、翻訳レベル、又は細胞又は生物系でのその活性又は状態を測定することで、ある核酸の転写、翻訳、発現又は活性の増加を測定することを意味する。これらの活動又は状態は、直接的又は間接的に測定することができる。また、「遺伝子活性化」、「活性化遺伝子」、「遺伝子のアップレギュレーション」、「アップレギュレートされた遺伝子」は、このような活性化のメカニズムによらず、核酸配列に相関する活性が増加したことを意味し、例えば、調節配列として調節作用を発揮したり、RNAに転写されたり、タンパク質に翻訳されてタンパク質の発現を増加させたりする。
【0076】
本明細書で使用される用語「小分子活性化RNA」、「saRNA」、「小分子活性化核酸分子」は、交換可能に使用することができ、遺伝子発現を促進できる核酸分子を指し、且つ標的遺伝子の非コード核酸配列(例えばプロモーター、エンハンサーなど)とは配列同一性又は相同性を有するヌクレオチド配列を含む第1核酸断片(アンチセンス核酸鎖、アンチセンスオリゴヌクレオチド鎖ともいう)と、第1核酸断片と相補するヌクレオチド配列を含む第2核酸断片(センス核酸鎖、センス鎖又はセンスオリゴヌクレオチド鎖ともいう)からなり、そのうち、前記第1核酸断片と第2核酸断片は二本鎖体を形成する。小分子活性化核酸分子は、合成され又はベクターで発現されるとともに二本鎖領域のヘアピン構造を形成できる一本鎖RNA分子で構成されてもよい。そのうち、第1領域は、遺伝子のプロモーター標的配列と配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、第2領域に含まれるヌクレオチド配列は、第1領域と相補的なものである。小分子活性化核酸分子の二本鎖体領域の長さは、通常は約10個~約50個の塩基対、約12個~約48個の塩基対、約14個~約46個の塩基対、約16個~約44個の塩基対、約18個~約42個の塩基対、約20個~約40個の塩基対、約22個~約38個の塩基対、約24個~約36個の塩基対、約26個~約34個の塩基対、約28個~約32個の塩基対であり、通常、約10個、約15個、約20個、約25個、約30個、約35個、約40個、約45個、約50個の塩基対である。また、用語「saRNA」、「小分子活性化RNA」、「小分子活性化核酸分子」には、リボヌクレオチド部分以外の核酸も含まれ、修飾されたヌクレオチド又はその類似物が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0077】
本明細書で使用される用語「ホットスポット(hot spot、H領域)」は、長さが少なくとも25 bpである遺伝子プロモーター領域を意味し、これらの領域において、機能性小分子活性化核酸分子標的の凝集が現れ、即ちこれらのホットスポット領域を標的とする小分子活性化核酸分子の少なくとも30%は、標的遺伝子mRNA発現が1.1倍以上に達するように誘導することができ、用語「ウォームスポット(warm spot、W領域)」は、長さが少なくとも25bpである遺伝子プロモーター領域を意味し、これらの領域において、機能性小分子活性化核酸分子標的の凝集が現れ、即ちこれらのウォームスポット領域を標的とする小分子活性化核酸分子の8~30%は、標的遺伝子mRNA発現が1.1倍以上に達するように誘導することができる。
【0078】
本明細書で使用される用語「合成」とは、オリゴヌクレオチドの合成方式を意味し、例えば化学合成、人体外転写、ベクターによる発現などのRNAを合成可能な任意の方式を含む。
【0079】
本発明は、RNA活性化方式によって、MITF遺伝子の発現をアップレギュレートし、MITFタンパク質の発現量を増加することによって関連疾患、特に白斑を治療する。本発明におけるMITF遺伝子は、標的遺伝子と称される場合もある。
【0080】
本発明が提供する小分子活性化核酸分子の調製方法は、配列設計と配列合成を含む。
【0081】
本発明の小分子活性化核酸分子配列の合成は、化学合成方法を用いるか、又は核酸合成の専門バイオテクノロジー企業に委託することができる。
【0082】
一般的には、化学合成の方法には、(1)オリゴリボヌクレオチドの合成、(2)脱保護、(3)精製分離、(4)脱塩及びアニールという4つのプロセスが含まれる。
【0083】
例えば、本発明に記載のsaRNAの化学合成の具体的なステップは下記の通りである。
【0084】
(1)オリゴリボヌクレオチドの合成
【0085】
自動DNA/RNA合成機(例えば、Applied Biosystems EXPEDITE8909)で1ミクロモルのRNAの合成を設置するとともに、1サイクルのカップリング時間を10~15分間に設定し、固相連結の5'‐O‐パラジメトキシトリチル‐チミジン支持物を開始剤とし、1回目のサイクルで固相支持物に塩基を連結し、n回目(19≧n≧2)のサイクルでn‐1回目のサイクルで連結された塩基に更に塩基を連結し、このように、全ての核酸配列の合成を完了するまでサイクルを繰り返す。
【0086】
(2)脱保護
【0087】
saRNAが連結された固相支持物を試験管に入れ、この試験管にエタノール/アンモニア溶液(体積比1:3)を1 mL加えた後に密閉し、25~70℃でオーブンに入れ、2~30時間インキュベートし、saRNAが連結された固相支持物を含む溶液を濾過してろ液を回収し、再蒸留水で固相支持物を2回(毎回1mL)すすいでろ液を回収し、溶離剤を合わせて回収し、真空条件で1~12時間乾燥する。その後、テトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン溶液(1M)を1 mL加え、室温で4~12時間静置し、更にn‐ブタノールを2 mL加え、高速遠心分離により沈殿物を回収し、saRNA一本鎖の粗生成物を得る。
【0088】
(3)精製分離
【0089】
得られたsaRNAの粗生成物を2 mLの濃度1モル/リットルの酢酸トリエチルアミン溶液に溶解し、次に、高速液体クロマトグラフィー逆相C18カラムにより分離し、精製saRNA一本鎖生成物を得る。
【0090】
(4)脱塩及びアニール
【0091】
サイズ排除ゲルろ過法で塩分を除去し、センス鎖及びアンチセンス鎖のオリゴリボ核酸一本鎖を同じモル比で1~2 mLの緩衝液(10 mMのTris、pH=7.5~8.0、50 mMのNaCl)に混ぜ、この溶液を95℃まで加熱した後、室温までゆっくりと冷却させて、saRNAが含まれる溶液を得る。
【0092】
本研究から、上記saRNAを細胞に導入した後、MITF mRNAとタンパク質の発現を効果的に増加できることが分かる。
【0093】
以下、具体的な実施例及び図面を参照しながら、本発明を更に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものだけであり、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常、一般的な条件、例えばSambrookら、分子クローニング:実験マニュアル(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)に記載の条件、又はメーカーが推薦する条件を用いる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明するが、当業者であれば理解できるように、以下の実施例は本開示を説明するためのものに過ぎず、本開示の範囲を限定するものとみなされるべきではない。実施例において具体的な条件が明記されていない場合、一般的な条件又はメーカーが推奨する条件を用いる。使用される試薬又は機器は、生産メーカーが明記されていない場合、いずれも市販されている一般的な製品であってもよい。
実施例1 ヒトMITF遺伝子プロモーターを標的とするsaRNAの設計と合成
【0095】
MITF遺伝子発現を活性化できる機能性小分子活性化RNAをスクリーニングするために、500 bpのMITFのプロモーター配列を鋳型とし、TSSより上流の-500 bpから、大きさが19 bpの標的を選んだ。その後、標的配列に濾過処理を行い、1)GC含有量が40%~65%の間であり、2)5個以上の連続した同一のヌクレオチドを含まず、3)3個を超えるジヌクレオチドリピート配列を含まず、4)3個を超えるトリヌクレオチドリピート配列を含まないことを基準として標的配列を保留した。濾過後、残りの239個の標的配列は候補としてスクリーニングプロセスに移行した。これらの候補配列により、対応する二本鎖小分子活性化RNAを化学合成した。
【0096】
そのうち、当該実験に使用される二本鎖小分子活性化RNAのセンスとアンチセンス鎖の長さは、いずれも21個のヌクレオチドであり、前記二本鎖saRNAの第1リボ核酸鎖(センス鎖)の5'領域の19個のヌクレオチドは、プロモーター標的配列と100%の同一性を有し、その3'末端にTT配列が含まれ、第2リボ核酸鎖の5'領域の19個のヌクレオチドは、第1リボ核酸鎖配列と相補的なものであり、その3'末端にTT配列が含まれる。前記二本鎖saRNAの2本の鎖を同量のモル数で混合し、アニーリング後に二本鎖saRNAを形成した。
【0097】
ヒトMITFプロモーター配列は、以下に示され、配列表におけるSEQ ID NO:1の5'~3'の位置1~位置500に対応する。
-500 gcgaaggaaa gttcttcctc gttgttccaa tccgaggaca agctgatatg
-450 tcgcagcagc ccagggaagc atgcgagctg ataggaagtc cttttatttt
-400 aagacaggct cgaatgctaa aactttcttg tgccaaaacc cttgactatt
-350 ttatttttaa aataagcact tggcgtgccc tcgcagatgt ctgagctgag
-300 aggtcggggc gatggtagaa gagcagtcag tgtccattct tattcatatt
-250 aagtagccaa gtctgtaccc ttgaagcaag tggggagaga ggagggagag
-200 gagctgctga cattgacaat gaatccaaac aggagttgca ctagcggtgt
-150 ccaccacgtt gcctctcccc cgcctggcct tctgggagct gtagttttcg
-100 tgggagcggc tccccaggcg agctgggaat gccccgcccg ggccgaacta
-50 cagatcccag gcggcgctcg gccgccagcc cctcccgccc gggtgcgagt
【0098】
実施例2 ヒトMITFプロモーターを標的とするsaRNAのハイスループットスクリーニング
(1)細胞の培養及びトランスフェクション
【0099】
ヒトメラノサイト(HEM)(Beijing Beina Chuanglian Biotechnology Co., Ltd.から購入し、BNCC350795)と正常なヒト皮膚角質形成細胞(NHEK)(Beijing Beina Chuanglian Biotechnology Co., Ltd.から購入し、BNCC340593)をDMEM培地(Gibco)において培養し、培地に、10%仔ウシ血清(Sigma-Aldrich)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)が含まれる。細胞を5%のCO2、37℃の条件で培養した。HEM細胞を、1ウェルあたりに2000個の細胞で96ウェルプレートに播種し、メーカーの説明によって、RNAiMax(Invitrogen、Carlsbad、CA)により25 nM(特に明記されていない限り)の濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクトし、トランスフェクション時間が72時間であり、各処理には2つの複製ウェルを使用した。
【0100】
(2)ワンステップ法RT-qPCR
【0101】
トランスフェクション終了後、培地を廃棄し、1ウェルあたりに150 μlのPBSを加えて1回洗浄し、PBSを廃棄し、1ウェルあたりに50 μlの細胞溶解液を加え、室温で5分間インキュベートした。1ウェルあたりに1 μlの細胞溶解液を取ってワンステップ法TB GreenTM PrimeScripTM RT-PCR試薬キットII(Takara、RR086A)を使用した。ABI 7500高速リアルタイム(Fast Real-time)PCRシステム(Applied Biosystems)でqPCR分析を行い、各サンプルを3個の複製ウェルで繰り返して増幅し、PCR反応条件を表1に示す。
【表1】
【0102】
反応条件:段階1-逆転写反応:42℃、5分間;95℃、10秒間;段階2-PCR反応:95℃、5秒間、60℃、20秒間、45サイクルの増幅。HPRT1及びTBPを内部標準遺伝子とする。MITF、HPRT1及びTBPに使用されるPCRプライマーは表2に示され、そのうち、MITFはMITF F1/R1プライマー対で増幅される。
【表2】
【0103】
対照処理(Mock)に対するあるsaRNAトランスフェクションサンプルのMITF(標的遺伝子)の発現値(Erel)を算出するために、式1に標的遺伝子及び2個の内部標準遺伝子のCt値を代入して算出した。
【0104】
【0105】
そのうち、CtTmは、対照処理(Mock)サンプルからの標的遺伝子のCt値であり、CtTsは、saRNA処理サンプルからの標的遺伝子のCt値であり、CtR1mは、Mock処理サンプルからの内部標準遺伝子1のCt値であり、CtR1sは、saRNA処理サンプルからの内部標準遺伝子1のCt値であり、CtR2mは、対照処理サンプルからの内部標準遺伝子2のCt値であり、CtR2sは、saRNA処理サンプルからの内部標準遺伝子2のCt値である。
【0106】
(3)機能性saRNAのスクリーニング
【0107】
MITF転写を活性化できるsaRNAを得るために、上記239個のsaRNAでそれぞれHEM細胞をトランスフェクトし、トランスフェクション濃度が25 nMであり、72時間トランスフェクトした後、前記と同じ方法によって、細胞を溶解してワンステップ法RT-qPCR分析を行い、各saRNA処理サンプルのMITF遺伝子の相対(対照処理グループと比べる)発現値を得た。表3に示すように、29(12.1%)個のsaRNAは、高度活性化作用(≧1.5倍)を示し、68(28.5%)個のsaRNAは、軽度活性化作用(≧1.1倍)を示し、142(59.4%)個のsaRNAは、MITFの発現に対して著しいアップレギュレーション効果を与えなかった。最大活性化程度が2.75倍であり、最大阻害程度が0.38倍であり、これらの活性化活性を有するsaRNAは機能性saRNAと称される。
【表3】
【0108】
図1に示すように、更にヒトMITF saRNAのMITF発現の変化が降順で示されている。そのうち、MITF活性saRNA配列(機能性saRNA配列)、活性標的配列及びMITF mRNA発現の変化は、表4に示す通りである(表4に示された各活性標的配列は配列表におけるSEQ ID NO:8~104に対応し、各saRNAセンス配列は、配列表におけるSEQ ID NO:105~201に対応し、各saRNAアンチセンス配列は、配列表におけるSEQ ID NO:202~298に対応する)。表5には、機能性saRNAが所在する異なるホットスポットとウォームスポット領域及び関連配列(SEQ ID NO:299~305)が示されている。
【表4】
【表5】
【0109】
実施例3 saRNAによるヒトメラノサイト(HEM)におけるMITF mRNAの発現への促進。
(1)細胞の培養及びトランスフェクション
【0110】
細胞の培養は、実施例2に記載の通りであり、ヒトメラノサイト(HEM)を、1ウェルあたりに20×104で6ウェルプレートに播種し、25 nMの最終濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクトし、72時間トランスフェクトし、各処理には2つの複製ウェルを使用した。
【0111】
(2)ツーステップ法RT-qPCR
【0112】
トランスフェクション終了後、培地を廃棄し、1ウェルあたりに500 μlの細胞溶解液を入れ、室温で5分間インキュベートした。Qiagen RNeasy試薬キットでRNAを抽出し、逆転写した後、ABI 7500高速リアルタイム(Fast Real-time)PCRシステム(Applied Biosystems)でqPCR分析を行い、各サンプルを3つの複製ウェルで繰り返して増幅し、PCR反応条件を表6と表7に示す。
【表6】
【表7】
【0113】
反応条件:95℃ 30秒、95℃ 5秒、60℃ 30秒、40サイクルの増幅。同時に、HPRT1遺伝子を増幅して内部標準とし、そのうち、MITFをMITF F1/R1プライマー対で増幅し、増幅プライマーは表2に示す通りである。
【0114】
対照処理(Mock)に対するあるsaRNAトランスフェクションサンプルのMITF(標的遺伝子)の発現値(Erel)を算出するために、式2に標的遺伝子及び1個の内部標準遺伝子のCt値を代入して算出した。
【0115】
【0116】
そのうち、CtTmは、対照処理(Mock)サンプルからの標的遺伝子のCt値であり、CtTsは、saRNA処理サンプルからの標的遺伝子のCt値であり、CtRmは、Mock処理サンプルからの内部標準遺伝子のCt値であり、CtRsは、saRNA処理サンプルからの内部標準遺伝子のCt値である。
【0117】
図3には、異なるsaRNAにより処理した後の細胞におけるMITF mRNAの相対発現値が示されている。対照群(Mock)をブランクトランスフェクション対照とし、対照群と比べると、siRNA(RAG4-618i)群のmRNA相対発現値は81.0%ノックダウンされ、これはsiRNAが低分子干渉RNA対照トランスフェクションとして成功であることを示した。対照群と比べると、異なるsaRNAにより細胞を処理した後、そのMITF mRNAの発現はいずれも上昇し、特にRAG4-175、RAG4-176及びRAG4-290は、それぞれMITF発現を3.9倍、3.1倍及び6.1倍もアップレギュレートした。他のsaRNA(RAG4-284、RAG4-123、RAG4-396、RAG4-461、RAG4-490、RAG4-316及びRAG4-318)は、MITF mRNA相対発現を約2倍も増加させた。これにより、ランダムに選ばれた機能性saRNAの活性はHEM細胞で検証できることが示された。
実施例4 saRNAによるNHEK細胞におけるMITF mRNA発現への促進
【0118】
細胞の培養は、実施例2に記載の通りであり、ヒト皮膚角質形成細胞(NHEK)を、1ウェルあたりに20×104で6ウェルプレートに播種し、25 nMの最終濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクトし、72時間トランスフェクトし、各処理には2つの複製ウェルを使用した。ツーステップ法RT-qPCRは、実施例3に記載する通りである。
【0119】
図4には、異なるsaRNAにより処理した後の細胞におけるMITF mRNAの相対発現値が示されている。対照群(Mock)をブランクトランスフェクション対照とし、対照群と比べると、siRNA(RAG4-618i)群のmRNA相対発現値は、88.5%下がり、これはsiRNAが低分子干渉RNA対照トランスフェクションとして成功であることを示した。対照群と比べると、RAG4-290で処理した後の活性化効果は特に顕著であり、MITF mRNAの相対発現値は、13.1倍上昇した。RAG4-175、RAG4-176及びRAG4-316群のmRNA相対発現値は、いずれも対照群より高く、そのmRNA相対発現値は、それぞれ5.7倍、3.7倍及び3.5倍上昇し、顕著な活性化効果がある。RAG4-284、RAG4-123、RAG4-396、RAG4-461、RAG4-490及びRAG4-318群のmRNA相対発現値は、対照群より約2倍高く、同じく一定の活性化効果を有する。これにより、ランダムに選ばれた機能性saRNAの活性はNHEK細胞で検証できることが示された。
実施例5 saRNAによるNHEK細胞におけるMITFタンパク質発現への促進
【0120】
細胞の培養は、実施例2に記載の通りであり、ヒト皮膚角質形成細胞(NHEK)を、1ウェルあたりに20×104で6ウェルプレートに播種し、25 nMの最終濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクトし、5日間トランスフェクトした。タンパク質酵素阻害剤を含有する細胞溶解液(1×RIPA緩衝液、Cell Signaling Technology)を適量に使用して溶解した。BCA法によりタンパク質を定量化し、次に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動分離を行い、0.45 μmのPVDF膜に移した。ブロットを検出するために使用される一次抗体は、ウサギモノクローナル抗体MITF(Cell Signaling Technology、#12590)、α/β-チューブリン抗体(Cell Signaling Technology、2148s)であり、二次抗体としては、抗ウサギIgG、HRP-結合抗体(Cell Signaling Technology)を使用した。Image Lab(BIO-RAD、Chemistry Doctm MP Imaging System)で検出シグナルをスキャンした。
【0121】
図5には、異なるsaRNAにより処理した後の細胞におけるMITFタンパク質の相対発現量が示されている。対照群と比べると、siRNA(RAG4-618i)群のMITFタンパク質の相対発現量は、約50%下がり、これはsiRNAが低分子干渉RNA対照トランスフェクションとして成功であることを示した。対照群と比べると、各saRNAはいずれもMITFタンパク質の発現量を向上させることができ、そのうち、RAG4-416、RAG4-490及びRAG4-318は、いずれもMITFタンパク質の発現量を1.5倍以上もアップレギュレートし、特にRAG4-318の活性化効果が最も顕著であり、MITFタンパク質の発現量を1.71倍も増加させた。これにより、ランダムに選ばれた機能性saRNAの活性はタンパク質レベルで検証できることが示された。
実施例6 saRNAによるヒトメラノサイト(HEM)におけるMITFタンパク質発現への促進
【0122】
細胞の培養は、実施例2に記載の通りであり、ヒトメラノサイト(HEM)を、1ウェルあたりに20×104で6ウェルプレートに播種し、25 nMの最終濃度で小分子活性化RNAをトランスフェクトし、72時間トランスフェクトした。タンパク質の溶解及び検出方法は、実施例5に記載の通りである。
【0123】
図6には、異なるsaRNAにより処理した後の細胞におけるMITFタンパク質の相対発現量が示されている。対照群と比べると、各saRNAはいずれもMITFタンパク質の発現量を向上させることができ、RAG4-396及びRAG4-490群のタンパク質の発現量は1.4倍上昇した。RAG4-175、RAG4-176、RAG4-290、RAG4-284及びRAG4-123の各群のMITFタンパク質の発現量は、いずれも対照群より高く、その活性化レベルがいずれも1.5倍以上であり、活性化効果が顕著である。これにより、ランダムに選ばれた機能性saRNAの活性はタンパク質レベルで検証できることが示された。
【0124】
以上の結果をまとめると、出願人は、ヒトMITF遺伝子プロモーターを標的とするsaRNAをハイスループットスクリーニングすることによって、MITF遺伝子発現を著しく活性化できる複数のヒトsaRNAを発見した。これらのsaRNAは、mRNAとタンパク質発現の面で細胞におけるMITF遺伝子発現をアップレギュレートすることができ、例えば白斑などのMITFタンパク質の発現減少又は不足による疾患又は病症に用いられ、又は上記疾患又は病症を治療する方法又は薬物の調製に用いられることができる。
【0125】
以上、本開示の各実施例について説明したが、上記の説明はすべて例示的であり、網羅的ではなく、開示された各実施例に限定されるものでもない。記載された実施例の範囲及び精神から逸脱することがない限り、当業者にとって多くの修正と変形が明らかである。本明細書で使用される用語の選択は、各実施例の原理、実際の応用又は市場における技術改良を最も適切に説明し、又は他の当業者に本明細書に開示された各実施例を理解させることを意図する。
【0126】
参考文献
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【配列表】
【国際調査報告】