(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ディスバイオーシスの処置に有用なATP加水分解酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20230703BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230703BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230703BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230703BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230703BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230703BHJP
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A61P 13/04 20060101ALI20230703BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230703BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230703BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230703BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230703BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230703BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230703BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20230703BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230703BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230703BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/43 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/546 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20230703BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20230703BHJP
A61K 47/46 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/22
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N1/20 E
A61P1/12
A61P43/00 121
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A61P3/04
A61P3/10
A61P35/00
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A61P13/04
A61P37/02
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A61P19/02
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A61P37/06
A61P9/00
A61P37/08
A61P11/06
A61K48/00
A61K38/47
A61K35/76
A61K35/744
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A61K31/4164
A61K38/14
A61K47/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575307
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2021065315
(87)【国際公開番号】W WO2021250010
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/065849
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522470840
【氏名又は名称】エムヴィ バイオセラピューティクス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】グラッシ,ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ペルーザ,リサ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
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4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、ATP加水分解酵素、ATP加水分解酵素をコードする核酸、または宿主細胞、細菌などの微生物、またはATP加水分解酵素をコードする、かかる核酸を含むウイルス粒子を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、
ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記核酸を含む宿主細胞、前記核酸を含む微生物、前記核酸を含む(組換え)細菌、または前記核酸を含むウイルス粒子。
【請求項2】
ディスバイオーシスの間または後の、マイクロバイオームのバランスの回復または改善における使用のための、
ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記核酸を含む宿主細胞、前記核酸を含む微生物、前記核酸を含む(組換え)細菌、または前記核酸を含むウイルス粒子。
【請求項3】
ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、ATP加水分解酵素。
【請求項4】
前記ATP加水分解酵素が、可溶性ATP加水分解酵素である、請求項1から3のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素。
【請求項5】
前記ATP加水分解酵素が、アピラーゼである、請求項1から4のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素。
【請求項6】
前記アピラーゼが、細菌由来のアピラーゼまたは植物由来のアピラーゼである、請求項5に記載の使用のためのATP加水分解酵素。
【請求項7】
前記ATP加水分解酵素が、配列番号1で表されるアミノ酸配列、または少なくとも70%、80%、または90%の配列同一性を有する、その配列変異体を含む、請求項1から6のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素。
【請求項8】
ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、請求項4から7のいずれかに定義される前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、核酸。
【請求項9】
前記ATP加水分解酵素をコードする前記ポリヌクレオチドを含む前記核酸が、ベクターである、請求項1、2、または7に記載の使用のための核酸。
【請求項10】
前記核酸が、前記ATP加水分解酵素の(異種)発現のための異種エレメントをさらに含む、請求項1、2、7、または8のいずれかに記載の使用のための核酸。
【請求項11】
ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、請求項8から10のいずれかに定義される前記核酸を含むことを特徴とする、宿主細胞。
【請求項12】
前記宿主細胞が、原核細胞または真核細胞である、請求項1、2、または11に記載の使用のための宿主細胞。
【請求項13】
前記宿主細胞が、前記ATP加水分解酵素を異種発現する組換え宿主細胞である、請求項1、2、11、または12に記載の使用のための宿主細胞。
【請求項14】
ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、請求項8から10のいずれかに定義される前記核酸を含むことを特徴とする、微生物。
【請求項15】
前記微生物が、古細菌、細菌、および真核生物から選択される、請求項1、2、または14に記載の使用のための微生物。
【請求項16】
前記微生物が、
Escherichia spp.、
Salmonella spp.、
Yersinia spp.、
Vibrio spp.、
Listeria spp.、
Lactococcus spp.、
Shigella spp.、
Cyanobacteria、及び
Saccharomyces spp.からなる群から選択される、請求項1、2、14、または15に記載の使用のための微生物。
【請求項17】
前記微生物が、プロバイオティクスとして提供される、請求項1、2、および14から16のいずれかに記載の使用のための微生物。
【請求項18】
前記微生物の病原性が、弱毒化されている、請求項1、2、および14から17のいずれかに記載の使用のための微生物。
【請求項19】
前記微生物が、前記ATP加水分解酵素を異種発現する組換え微生物である、請求項1、2、および14から17のいずれかに記載の使用のための微生物。
【請求項20】
ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、請求項8から10のいずれかに定義される前記核酸を含むことを特徴とする、(組換え)細菌。
【請求項21】
前記細菌が、前記ATP加水分解酵素を異種発現する、請求項1、2、または20に記載の使用のための細菌。
【請求項22】
前記細菌が、グラム陽性菌、グラム陰性菌、および
Cyanobacteriaから選択される、請求項1、2、20、または21のいずれかに記載の使用のための細菌。
【請求項23】
前記細菌が、
Escherichia coli、
Salmonella typhi、
Salmonella typhimurium、
Yersinia enterocolitica、
Vibrio cholerae、
Listeria monocytogenes、
Lactococcus lactis、及び
Shigella flexneriからなる群から選択される、請求項1、2、及び20から22のいずれかに記載の使用のための細菌。
【請求項24】
前記細菌が、Nissle1917株の
E.coliである、請求項23に記載の使用のための細菌。
【請求項25】
ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、請求項8から10のいずれかに定義される前記核酸を含むことを特徴とする、ウイルス粒子。
【請求項26】
前記ウイルス粒子が、バクテリオファージである、請求項1、2、または25に記載の使用のためのウイルス粒子。
【請求項27】
ディスバイオーシスが、抗生物質、化学療法剤、食事、または母体のディスバイオーシスによって誘発される、請求項1から26のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項28】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子が、組成物に含まれている、請求項1から27のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項29】
前記組成物が、薬学的に許容される担体、希釈剤、および/または賦形剤をさらに含む医薬組成物である、請求項28に記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項30】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、又は前記ウイルス粒子が、経腸投与経路を介して、好ましくは経口投与を介して投与される、請求項1から29のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項31】
前記ディスバイオーシス関連疾患が、炎症性疾患、胃腸管関連障害、代謝性障害、CNS関連障害、癌、及び自己免疫疾患から選択される、請求項1から30のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項32】
前記ディスバイオーシス関連疾患が、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、セリアック病、結腸直腸癌、
Clostridioides difficile感染症、自閉症スペクトラム障害、尿路結石症(USD)、エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症、シェーグレン症候群、抗リン脂質症候群、心血管症候群、アレルギー、及び喘息から選択される、請求項1から31のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項33】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、又は前記ウイルス粒子が、ディスバイオーシス誘発剤と組み合わせて投与される、請求項1から32のいずれかに記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項34】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、抗生物質である;好ましくは、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、キノロン、リンコサミド、マクロライド、スルホンアミド、グリコペプチド、アミノグリコシド、カルバペネム、アンサマイシン、カルバセフェム、リポペプチド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノン、およびポリペプチドからなる群から選択される;より好ましくは、前記抗生物質が、バンコマイシン、アンピシリン、メトロニダゾール、及びセフォペラゾンからなる群から選択される、請求項33に記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項35】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、化学療法剤である;好ましくは、アルキル化剤、アントラサイクリン、細胞骨格破壊剤、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼIまたはIIの阻害剤、キナーゼ阻害剤、ヌクレオチド類似体および前駆体類似体、白金ベース剤、レチノイド、並びにビンカアルカロイドおよび誘導体から選択される;例えば、前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)である、請求項33又は34に記載の使用のためのATP加水分解酵素、核酸、宿主細胞、微生物、細菌、又はウイルス粒子。
【請求項36】
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せ。
【請求項37】
コードされた前記ATP加水分解酵素が、請求項4から7のいずれかに定義されるものである、請求項36に記載の組合せ。
【請求項38】
前記細菌に含まれる前記核酸が、請求項8から10のいずれかに定義されるものである、請求項36または37に記載の組合せ。
【請求項39】
前記細菌が、請求項20から24のいずれかに定義されるものである、請求項36から38のいずれかに記載の組合せ。
【請求項40】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、抗生物質である;好ましくは、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、キノロン、リンコサミド、マクロライド、スルホンアミド、グリコペプチド、アミノグリコシド、カルバペネム、アンサマイシン、カルバセフェム、リポペプチド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノン、およびポリペプチドからなる群から選択される;より好ましくは、前記抗生物質が、バンコマイシン、アンピシリン、メトロニダゾール、及びセフォペラゾンからなる群から選択される、請求項36から39のいずれかに記載の組合せ。
【請求項41】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、化学療法剤である;好ましくは、アルキル化剤、アントラサイクリン、細胞骨格破壊剤、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼIまたはIIの阻害剤、キナーゼ阻害剤、ヌクレオチド類似体および前駆体類似体、白金ベース剤、レチノイド、並びにビンカアルカロイドおよび誘導体から選択される;例えば、前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)である、請求項36から40のいずれかに記載の組合せ。
【請求項42】
前記細菌および/または前記ディスバイオーシス誘発剤が、組成物に含まれる、請求項36から41のいずれかに記載の組合せ。
【請求項43】
医学における使用のための、請求項36から42のいずれかに記載の組合せ。
【請求項44】
ディスバイオーシスの処置における使用のための、請求項36から43のいずれかに記載の組合せ。
【請求項45】
(i)前記ディスバイオーシス誘発剤;および/または(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が、繰り返し投与される、請求項33から35、43、および44のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項46】
(i)前記ディスバイオーシス誘発剤;および(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が、同日に投与される、請求項33から35及び43から45のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項47】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が、前記ディスバイオーシス誘発剤の投与後に投与される、請求項33から35及び43から46のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項48】
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むことを特徴とする、キット。
【請求項49】
コードされた前記ATP加水分解酵素が、請求項4から7のいずれかに定義されるものである、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
前記細菌に含まれる前記核酸が、請求項8から10のいずれかに定義されるものである、請求項48または49に記載のキット。
【請求項51】
前記細菌が、請求項20から24のいずれかに定義されるものである、請求項48から50のいずれかに記載のキット。
【請求項52】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、抗生物質である;好ましくは、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、キノロン、リンコサミド、マクロライド、スルホンアミド、グリコペプチド、アミノグリコシド、カルバペネム、アンサマイシン、カルバセフェム、リポペプチド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノン、およびポリペプチドからなる群から選択される;より好ましくは、前記抗生物質が、バンコマイシン、アンピシリン、メトロニダゾール、及びセフォペラゾンからなる群から選択される、請求項48から51のいずれかに記載のキット。
【請求項53】
前記ディスバイオーシス誘発剤が、化学療法剤である;好ましくは、アルキル化剤、アントラサイクリン、細胞骨格破壊剤、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼIまたはIIの阻害剤、キナーゼ阻害剤、ヌクレオチド類似体および前駆体類似体、白金ベース剤、レチノイド、並びにビンカアルカロイドおよび誘導体から選択される;例えば、前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)である、請求項48から52のいずれかに記載のキット。
【請求項54】
前記細菌および/または前記ディスバイオーシス誘発剤が、組成物に含まれる、請求項48から53のいずれかに記載のキット。
【請求項55】
前記キットが、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素をコードする前記ポリヌクレオチドを含む前記核酸を含む前記細菌との組合せを使用することによって、ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患を処置するための指示が記載されたパッケージインサート又はラベルを含む、請求項48から54のいずれかに記載のキット。
【請求項56】
医学における使用、好ましくは、ディスバイオーシスの処置における使用のための、請求項48から55のいずれかに記載のキット。
【請求項57】
それを必要とする対象において、ディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患の発症リスクを低減する、又はディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患を処置する、改善する、若しくは低減するための方法であって、前記対象に、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、
を投与することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項58】
それを必要とする対象において、腸内微生物叢のバランスを回復又は改善するための方法であって、前記対象に、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、
を投与することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項59】
前記微生物叢のバランスが、ディスバイオーシスの間または後に回復または改善される、請求項58に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスバイオーシスの処置、およびディスバイオーシスの処置に有用な剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの胃腸(GI)管は、複雑な生態学的ニッチであり、ここでは、生命の3つのドメイン(古細菌、細菌、及び真核生物)及びウイルスが、宿主と密接に関連して共存している(非特許文献1~3)。腸内微生物叢と呼ばれるこの複雑な微生物群集は、宿主と相利共生の関係で共進化しており、エネルギーの獲得、免疫系の発達および機能性などの多くの生理学的機能に影響を与えている(非特許文献4~6)。腸内微生物叢と宿主との間の微妙な平衡は、ヒトの健康における重要な要素である。事実、ディスバイオーシスと呼ばれる、微生物群集構造の組成の変化は、代謝障害(例えば、糖尿病、肥満)(非特許文献7~9)、血圧の変化および心臓病(非特許文献10)、及び自己免疫(非特許文献11)などの症例数の増加に関連している。
【0003】
病原体の90%超が、粘膜表面を通ってヒトに感染する(非特許文献12)。腸内微生物叢は、直接阻害、バリア維持、免疫調節、及び細菌代謝の4つのメカニズムを通して感染症に対する耐性をもたらす(非特許文献13)。まとめると、これらのメカニズムは、「コロニー形成抵抗性」を構成する(非特許文献14)。腸管感染症の保護におけるコロニー形成抵抗性の重要性は、抗生物質で処置されたマウスを感染させるのに必要なSalmonella Typhimuriumの量が、100,000倍減少したことによって示されている(非特許文献15)。
【0004】
腸内マイクロバイオームのバランスの取れた構造は、宿主の代謝恒常性にとって基本的に重要である。マウスとヒトにおける様々な研究により、肥満が微生物叢の多様性及び量の変化に関連することが示されている。さらに、腸内ディスバイオーシスが、肥満およびインスリン抵抗性の発症に因果関係を有することが示唆されている。事実、コンベンショナルマウスから無菌(GF)マウスへの糞便微生物叢移植(FMT)により、体脂肪量とインスリン抵抗性が有意に上昇し(非特許文献16)、これらは、脂肪組織における炎症およびマクロファージの蓄積に関連する(非特許文献17)。腸内微生物叢は、宿主よりも用途の広いメタボロームをコードしており、健康な微生物叢は、宿主との、安定な機能的代謝相互作用に必要な要件である。
【0005】
肝臓および脂肪酸酸化に関与するその下流の標的におけるAMPプロテインキナーゼ(AMPK)活性を調節することにより(非特許文献18)、腸内微生物叢は、小腸でのグルコースの取り込みと、遠位腸での短鎖脂肪酸(SCFA)の生成を促進する(非特許文献19)。抗生物質処置などによって誘発されるディスバイオーシスは、血清グルコースレベルを低下させ、インスリン感受性を改善する。広範な組織リモデリングと短鎖脂肪酸(SCFA)の利用可能性の低下は、結腸細胞のエネルギー利用をSCFAからグルコースにシフトさせることにより、グルコースの恒常性を変化させる(非特許文献20)。さらに、トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)レベル、腸内微生物叢依存性代謝産物、および関連するN-オキシド(TMAO)生成経路は、肥満及びエネルギー代謝に関連しおり(非特許文献21及び非特許文献22)、代謝障害の病因における腸内微生物叢の重要性を強調している。
【0006】
要約すると、ヒトの微生物叢のディスバイオーシスは、多くの疾患に関連している。したがって、ディスバイオーシスを予防または治療するために、いくつかの選択肢が研究されている。長年、抗生物質は、腸の生態系に留めるべき細菌を選択するために投与された(非特許文献23)。しかし、このストラテジーは、その選択圧と抗生物質耐性菌の出現リスクのために、現在、積極的に回避されている。他のストラテジーとしては、糞便微生物叢移植(FMT)が挙げられ、これは現在、他の治療法に耐性があることが証明されている、Clostridium difficile感染症患者の治療に使用されている(非特許文献24)。しかし、この治療法はまだ研究段階にあり、特にプロセスが無菌ではなく、汚染物質がドナーから患者に移る可能性があるので、懸念がある。その観点から、プロバイオティクスとプレバイオティクスが、最近、ディスバイオーシスの治療のための有望なツールとして登場した。しかし、特定の状況下では、その効果が制限される場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Arumugam, M., Raes, J., Pelletier, E., Le Paslier, D., Yamada, T., Mende, D.R., Fernandes, G.R., Tap, J., Bruls, T., Batto, J.M., et al. (2011). Enterotypes of the human gut microbiome. Nature 473, 174-180
【非特許文献2】Human Microbiome Project, C. (2012). Structure, function and diversity of the healthy human microbiome. Nature 486, 207-214
【非特許文献3】Reyes, A., Haynes, M., Hanson, N., Angly, F.E., Heath, A.C., Rohwer, F., and Gordon, J.I. (2010). Viruses in the faecal microbiota of monozygotic twins and their mothers. Nature 466, 334-338
【非特許文献4】Kamada, N., Seo, S.U., Chen, G.Y., and Nunez, G. (2013). Role of the gut microbiota in immunity and inflammatory disease. Nat Rev Immunol 13, 321-335
【非特許文献5】Maslowski, K.M., and Mackay, C.R. (2011). Diet, gut microbiota and immune responses. Nat Immunol 12, 5-9
【非特許文献6】Sampson, T.R., and Mazmanian, S.K. (2015). Control of brain development, function, and behavior by the microbiome. Cell host & microbe 17, 565-576
【非特許文献7】Holmes, E., Loo, R.L., Stamler, J., Bictash, M., Yap, I.K., Chan, Q., Ebbels, T., De Iorio, M., Brown, I.J., Veselkov, K.A., et al. (2008). Human metabolic phenotype diversity and its association with diet and blood pressure. Nature 453, 396-400
【非特許文献8】Larsen, N., Vogensen, F.K., van den Berg, F.W., Nielsen, D.S., Andreasen, A.S., Pedersen, B.K., Al-Soud, W.A., Sorensen, S.J., Hansen, L.H., and Jakobsen, M. (2010). Gut microbiota in human adults with type 2 diabetes differs from non-diabetic adults. PLoS One 5, e9085
【非特許文献9】Turnbaugh, P.J., Hamady, M., Yatsunenko, T., Cantarel, B.L., Duncan, A., Ley, R.E., Sogin, M.L., Jones, W.J., Roe, B.A., Affourtit, J.P., et al. (2009). A core gut microbiome in obese and lean twins. Nature 457, 480-484
【非特許文献10】Blaser, M.J. (2006). Who are we? Indigenous microbes and the ecology of human diseases. EMBO Rep 7, 956-960
【非特許文献11】Dicksved, J., Halfvarson, J., Rosenquist, M., Jarnerot, G., Tysk, C., Apajalahti, J., Engstrand, L., and Jansson, J.K. (2008). Molecular analysis of the gut microbiota of identical twins with Crohn’s disease. ISME J 2, 716-727
【非特許文献12】Brandtzaeg, P. (2010). The mucosal immune system and its integration with the mammary glands. J Pediatr 156, S8-15
【非特許文献13】McKenney, P.T., and Pamer, E.G. (2015). From Hype to Hope: The Gut Microbiota in Enteric Infectious Disease. Cell 163, 1326-1332
【非特許文献14】Lawley, T.D., and Walker, A.W. (2013). Intestinal colonization resistance. Immunology 138, 1-11
【非特許文献15】Bohnhoff, M., Drake, B.L., and Miller, C.P. (1954). Effect of streptomycin on susceptibility of intestinal tract to experimental Salmonella infection. Proc Soc Exp Biol Med 86, 132-137
【非特許文献16】Turnbaugh, P.J., Ley, R.E., Mahowald, M.A., Magrini, V., Mardis, E.R., and Gordon, J.I. (2006). An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature 444, 1027-1031
【非特許文献17】Caesar, R., Reigstad, C.S., Backhed, H.K., Reinhardt, C., Ketonen, M., Lunden, G.O., Cani, P.D., and Backhed, F. (2012). Gut-derived lipopolysaccharide augments adipose macrophage accumulation but is not essential for impaired glucose or insulin tolerance in mice. Gut 61, 1701-1707
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【非特許文献19】Wolin, M.J. (1981). Fermentation in the rumen and human large intestine. Science 213, 1463-1468
【非特許文献20】Zarrinpar, A., Chaix, A., Xu, Z.Z., Chang, M.W., Marotz, C.A., Saghatelian, A., Knight, R., and Panda, S. (2018). Antibiotic-induced microbiome depletion alters metabolic homeostasis by affecting gut signaling and colonic metabolism. Nat Commun 9, 2872
【非特許文献21】Org, E., Blum, Y., Kasela, S., Mehrabian, M., Kuusisto, J., Kangas, A.J., Soininen, P., Wang, Z., Ala-Korpela, M., Hazen, S.L., et al. (2017). Relationships between gut microbiota, plasma metabolites, and metabolic syndrome traits in the METSIM cohort. Genome Biol 18, 70
【非特許文献22】Schugar, R.C., Shih, D.M., Warrier, M., Helsley, R.N., Burrows, A., Ferguson, D., Brown, A.L., Gromovsky, A.D., Heine, M., Chatterjee, A., et al. (2017). The TMAO-Producing Enzyme Flavin-Containing Monooxygenase 3 Regulates Obesity and the Beiging of White Adipose Tissue. Cell Rep 19, 2451-2461
【非特許文献23】Sanders, W. E., Jr., Sanders, C. C.: Modification of normal flora by antibiotics: effects on individuals and the environment. In: Koot, R. K., Sande, M. A. (ed.): New dimensions in antimicrobial therapy. Churchill Livingstone, New York, 1984, p. 217-241
【非特許文献24】Smith MB, Kelly C, Alm EJ (February 2014). “Policy: How to regulate faecal transplants”. Nature. 506 (7488): 290-291. doi:10.1038/506290a
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記に鑑みて、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、ディスバイオーシスおよび/またはディスバイオーシス関連疾患の処置または予防に有用な新規薬剤を提供することである。
【0009】
これらの目的は、以下及び添付の特許請求の範囲に示す発明主題によって達成される。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書に記載の特定の方法、プロトコル、及び試薬は変わる可能性あり、因って、本発明は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。特段の断りがない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0011】
以下に、本発明の要素について説明する。これら要素は、具体的な実施形態と共に列挙されるが、これらを任意の方式で任意の数組み合わせて更なる実施形態を形成することができることが理解されるべきである。記載される様々は実施例及び好ましい実施形態は、明示的に記載した実施形態にのみ、本発明を限定するものではない。この記載は、明示的に記載された実施形態と、任意の数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせる実施形態をサポート及び包含すると理解すべきである。更に、特に指定しない限り、本願において記載された全ての要素の任意の入れ換え及び組合せが、本願の記載によって開示されるとみなすべきである。
【0012】
本明細書及びその後に続く特許請求の範囲全体を通して、特に必要としない限り、用語「含む(comprise)」、並びに「含み(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、言及された部材、整数、又は工程を含むことを意味するが、その他の言及されていない部材、整数、又は工程を除外することを意味するものではない。用語「からなる(consist of)」は、任意の他の指定されていない部材、整数、又は工程が除外される、用語「含む(comprise)」の具体的な形態である。本発明において、用語「含む(comprise)」は、用語「からなる(comsist of)」を包含する。したがって、用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、Xからなっていてもよく、追加の何かを含んでいてもよい(例えば、X+Y)。
【0013】
用語「a」及び「an」及び「the」、並びに本発明の説明(特に、特許請求の範囲)において使用される同様の参照は、本明細書に指定されているか又は文脈上明示的に否定されていない限り、単数及び複数の両方を網羅すると解釈すべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、範囲内の各別個の値を個別に参照する簡易的な方法として機能することを意図する。本明細書において特に指定しない限り、各個別の値は、本明細書に個々に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。明細書中のいずれの言語も、請求の範囲に記載されていないが、本発明を実施するのに必須である要素であることを示すと解釈されるべきではない。
【0014】
用語「実質的に」は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含んでいなくてもよい。必要な場合、用語「実質的に」は、本発明の定義から省略されることもある。
【0015】
数値xに関する用語「約」は、x±10%を意味する。
【0016】
ディスバイオーシスの処置のためのATP加水分解酵素
第1の態様においては、本発明は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、を提供する。
【0017】
特に、本発明は、例えば、本明細書に記載される、ディスバイオーシス誘発剤によって誘発されるディスバイオーシスの間または後の、マイクロバイオームのバランスの回復または改善における使用のための、ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記核酸を含む宿主細胞、前記核酸を含む微生物、前記核酸を含む(組換え)細菌、または前記核酸を含むウイルス粒子、を提供する。
【0018】
本発明者らは驚くべきことに、ATP加水分解酵素(または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞/微生物)の投与が、ディスバイオーシス(の誘発)に対して、効果的に対抗することを見出した。特に、添付の実施例に示されるように、腸内微生物多様性の向上、有用微生物のブルーミング、コロニー形成耐性の維持/回復、および代謝改善が見られた。さらに、実験データは、ATP加水分解酵素(または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞/微生物)の投与により、ディスバイオーシスに関連する症状および疾患が効果的に処置されることを示している。したがって、ATP加水分解酵素-またはATP加水分解酵素をコードする核酸;または、かかる核酸を含む(したがって、ATP加水分解酵素を発現する)宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子-の投与は、ディスバイオーシスおよびディスバイオーシスに関連する(それによって引き起こされる)疾患を効果的に予防または処置することができる。
【0019】
ディスバイオーシスおよびディスバイオーシス関連疾患
前記ATP加水分解酵素-または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸;または、かかる核酸を含む(したがって、ATP加水分解酵素を発現する)宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子-は、ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置のために使用される、又はディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置のために(そのための医薬の調製のために)使用される。
【0020】
本明細書に使用される用語「ディスバイオーシス」は、微生物群集の分類学的組成およびメタゲノム機能に影響を与える、異常なマイクロバイオーム構造を意味する。したがって、ディスバイオーシスは、微生物叢、特に、ヒトの微生物叢の組成の不均衡である。本明細書に使用される用語「微生物叢(microbiota)」は、これまでに植物から動物に至るまで研究されたあらゆる多細胞生物中又は上に存在する、片利共生微生物を意味する。特に、微生物叢は、宿主の免疫学的、ホルモン的、代謝的恒常性にとって重要であることが分かっている。特に、微生物叢は、非病原性である。換言すれば、微生物叢は、(通常のバランスの取れた組成では)通常、宿主に疾患を引き起こさない(引き起こすことができない)および/または宿主にとって有害ではない。したがって、微生物叢とそれらの宿主との間の相互作用は、通常、片利共生または相利共生である。微生物叢は、細菌、古細菌、原生生物、真菌、ウイルス、及びファージを含む。解剖学的には、微生物叢は、胃腸管(GI)、特に、腸(及び口腔、特に、口腔粘膜)、皮膚、結膜、乳腺、膣、胎盤、精液、子宮、卵巣濾胞、肺、及び唾液を含む、多くの組織及び体液のいずれかの上又は中に存在する。ディスバイオーシスは、胃腸管における状態、例えば、小腸の細菌の異常増殖(SIBO)又は小腸の真菌の異常増殖(SIFO)として最も多く報告されている。ある態様では、微生物叢は、胃腸管(GI)の微生物叢であり、したがって、ディスバイオーシスは、胃腸のディスバイオーシスである。GI微生物叢は、腸内微生物叢および口腔内微生物叢から選択することができ、したがって、GIディスバイオーシスは、腸内ディスバイオーシスおよび口腔内ディスバイオーシスから選択することができる。腸内ディスバイオーシスは、腸内の微生物叢種の正常なバランスの乱れである。腸内ディスバイオーシスの症状としては、胃のむかつき、吐き気、便秘、下痢、及び膨満感が挙げられる。
【0021】
ディスバイオーシスは、外的因子(例えば、抗生物質または化学療法剤の投与、食事中の一部の物質、身体的および心理的ストレス)および宿主関連因子を含む様々な因子によって誘発され得る。ディスバイオーシスの主因としては、食物由来の障害(高タンパク高脂質食、糖分が多く繊維が少ない食事;食物アレルギー;炭水化物の吸収不良および消化障害)、消化液分泌不良、ストレス、抗生物質/薬物療法、免疫機能の低下、吸収不良、腸感染症、及び胃腸管のpHの変化が挙げられる。ある態様では、ディスバイオーシスは、抗生物質によって誘発される。他の実施形態では、ディスバイオーシスは、化学療法剤によって誘発される。
【0022】
要約すると、「ディスバイオーシス」は、微生物叢のバランスが崩れ、その結果、その正常な機能が失われることを意味する。これにより、微生物叢の一部の種が選択的に抑制され、宿主にとって危険なものとなり得る、微生物由来の生成物または代謝産物の生成が制御されず、局所的、全身的、またはより離れた器官にさえも、様々な障害を引き起こし得る。したがって、ディスバイオーシスは、様々な疾患の発現に因果関係がある、異常な微生物の生態学的状態である。
【0023】
ディスバイオーシスでは、通常優勢な微生物叢種が減少する一方で、通常競合するまたは含有される種が増加してボイドを埋めることがある。通常優勢な微生物叢種は通常良性または有用であり、消化を助ける、病原性微生物からの保護を提供するなどの、一連の有用且つ必要な機能を行うので、ディスバイオーシスにおける有用な微生物叢種の選択的抑制により、宿主にとって危険なものとなり得る、微生物由来の生成物または代謝産物の生成が制御されず、局所的、全身的、またはより離れた器官にさえも、様々な障害を引き起こし得る。したがって、ディスバイオーシスは、様々な方法で慢性疾患の発症を引き起こし得る。例えば、病原体とその機能は、ディスバイオーシスにおいて獲得される、又は日和見的に異常増殖することがあり、これにより、コレラ又は連鎖球菌性咽頭炎などの感染症をもたらすが、慢性炎症にもつながる可能性がある。さらに、健康を守る細菌とその機能が失われる、又は抑制されることがあり、その後、特に、炎症性腸疾患(IBD)、尿路結石症(USD)、肥満などの慢性疾患などの疾患の発症を促す。
【0024】
炎症性疾患、胃腸管関連障害、代謝性障害、CNS関連障害、癌、及び自己免疫疾患を含む、様々な疾患がディスバイオーシスに関連していることが知られている。したがって、ディスバイオーシス関連疾患は、炎症性疾患、感染症、胃腸管関連障害、代謝障害、CNS関連障害、癌、および自己免疫疾患から選択することができる。
【0025】
炎症性疾患の非限定的な例としては、膵炎、歯肉炎、歯周炎、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、胃炎、腸炎、食道炎、憩室炎、関節リウマチ、および感染性大腸炎が挙げられる。
【0026】
感染症の非限定的な例としては、胃腸感染症、呼吸器感染症、腎臓感染症、並びにClostridioides difficile感染症およびCitrobacter rodentium感染症などの特定の病原体による感染症が挙げられる。
【0027】
胃腸管関連障害および代謝障害の非限定的な例としては、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、胃炎、腸炎、食道炎、胃食道逆流症(GERD)、セリアック病、潰瘍、過敏性腸症候群、肥満、糖尿病、及びメタボリックシンドロームが挙げられる。
【0028】
一般に、ディスバイオーシスによって誘発されるまたはそれに関連する疾患の非限定的な例としては、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、セリアック病、結腸直腸癌、Clostridioides difficile感染症、自閉症スペクトラム障害、尿路結石症(USD)、エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症、シェーグレン症候群、抗リン脂質症候群、心血管症候群、アレルギー、及び喘息が挙げられる。したがって、ディスバイオーシス関連疾患は、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、セリアック病、結腸直腸癌、Clostridioides difficile感染症、自閉症スペクトラム障害、尿路結石症(USD)、エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症、シェーグレン症候群、抗リン脂質症候群、心血管症候群、アレルギー、及び喘息から選択することができる。
【0029】
ある態様では、ディスバイオーシス関連疾患は、クローン病(CD)および/または潰瘍性大腸炎(UC)などの、過敏性腸症候群(IBS)または炎症性腸疾患(IBD)である。IBDは、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む、結腸および小腸の一群の炎症状態である。IBDに罹患した個体は、Firmicutes(即ち、Lachnospiraceae)及びBacteroidetesの減少など、片利共生細菌の生物多様性が30~50%低下していることが分かっている。
【0030】
ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の「処置」は、予防的処置(例えば、発症リスクの低減)または治療的処置であり得る。本明細書に使用される用語「治療的処置」は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の発症後の処置を意味し、「予防的処置」は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の発症前、または最初の症状の発症前の処置を意味する。特に、「治療的処置」は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の発症前に適用される予防的措置を含まない。ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の発症は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の症状と関連していることが多いため、ヒトまたは動物の対象は、前記対象が、特定のディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患に罹患しているという診断または少なくとも(強い)想定の後に、「治療的に」処置されることが多い。治療的処置は、特に、(1)疾患(状態)を緩和、軽減、改善、または治癒すること、または(2)疾患の進行を阻害または遅延させることを目的とする。しかし、疾患の発症の予防は、通常、治療的処置によって達成することはできない。予防的処置は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の発生のリスクを低減すること、または(発症した場合)ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の程度を予防的に低減することを含む。例えば、ディスバイオーシスの(予防的または治療的)処置は、ディスバイオーシスによって誘発される疾患の予防的処置と考えることができる。
【0031】
本明細書に使用される用語「疾患」は、(病状において)用語「障害」および「状態」と、通常同義であり、相互変換可能に使用されることが意図され(いずれも、ヒトまたは動物の体の異常な状態、又はその部分の、正常な機能を損なっている1つの異常な状態を反映する)、通常、徴候及び症状を区別することによって明らかとなり、ヒトまたは動物の寿命または生活の質を低下させる。
【0032】
ATP加水分解酵素およびATP加水分解酵素をコードする核酸
本発明の第1の態様によれば、前記ATP加水分解酵素は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置に使用することができる。
【0033】
本明細書において、用語「ATP加水分解酵素」は、ATPからADPへの加水分解、ATPからAMPへの加水分解、及び/又はADPからAMPへの加水分解を触媒するあらゆる酵素を意味する。前記酵素としては、アピラーゼ、ATPアーゼ、ATP-ジホスファターゼ、アデノシンジホスファターゼ、ADPアーゼ、ATP-ジホスホヒドロラーゼ、及びCD39(エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1、ENTPD1)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の文脈において、いかなるATP加水分解酵素が用いられてもよい。
【0034】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素は内在性CD39(エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1、ENTPD1)ではない。内在性CD39は、カルシウム及びマグネシウム依存性に、ATP及びADPを加水分解し、AMPを産生する膜内在性タンパク質である。グルコシル化及び細胞表面膜への局在変化により活性化され、エクトヌクレオチダーゼとしての酵素活性を示す。CD39は2つの膜貫通型ドメインにより形質膜に付着する(Grinthal A,Guidotti G.CD39、NTPDase 1、is attached to the plasma membrane by two transmembrane domains.Why?.Purinergic Signal.2006;2(2):391-398.doi:10.1007/s11302-005-5907-8)。しかし、上述のように、本発明の文脈においては、可溶性(膜結合性ではない)ATP加水分解酵素が好ましい。膜結合性の内在性CD39とは異なり、CD39を可溶形態のCD39を得るように改変することができる(Gayle RB 3rd、Maliszewski CR,Gimpel SD,Schoenborn MA,Caspary RG,Richards C,Brasel K,Price V,Drosopoulos JH,Islam N,Alyonycheva TN,Broekman MJ,Marcus AJ.Inhibition of platelet function by recombinant soluble ecto-ADPase/CD39.J Clin Invest.1998 May 1;101(9):1851-9.doi:10.1172/JCI1753)。
【0035】
好ましくは、前記ATP加水分解酵素は可溶性であり(分泌されたものであり)、即ち、(形質)膜に結合又は付着していない。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本願発明者は、膜結合酵素と比較し、可溶性ATP加水分解酵素は様々な箇所(例えば、体内における様々な箇所)により効率的に到達することができると考える。特に、いかなる理論にも拘束されるものではないが、腸管腔において、前記ATP加水分解酵素は、(ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患に対する)その有益な効果を媒介すると考えられ、即ち、腸内の微生物叢から放出された細胞外ATPを分解することにより、前記効果を媒介すると考えられる。内在性CD39等の膜結合ATP加水分解酵素は、該膜結合ATP加水分解酵素が存在する組織という限られた範囲にしか活性を示さないため、腸内微生物叢から放出された(大部分の)細胞外ATPには影響を与えることができず、よって、前記ATP加水分解酵素は(形質)膜に付着していないことが好ましい。したがって、前記ATP加水分解酵素は好ましくは可溶性ATP加水分解酵素である。
【0036】
可溶性ATP加水分解酵素の例としては、細菌由来(例えば、Shigella spp.、特に、Shigella flexneri、又はLegionella spp.、特に、Legionella pneumophila)、Toxoplasma gondii、Trypanosoma spp.、及びポテト由来アピラーゼ、並びに、(組換え)可溶性CD39が挙げられる。
【0037】
好ましくは、前記ATP加水分解酵素はアピラーゼである。アピラーゼは、ATPからADPへの及びADPからAMPへの一連の加水分解を触媒し、無機リン酸塩を放出するATP-ジホスホヒドロラーゼである。特に、アピラーゼは、ATPに加えて、ADP及び他のヌクレオシド三リン酸及びヌクレオシド二リン酸に作用してもよい。アピラーゼは、膜結合状態及び/又は分泌された可溶性の状態で、様々な真核生物中に見つけることができる。
【0038】
一般的に、前記アピラーゼは、あらゆる生体からの自然発生するアピラーゼ配列を有してもよい。ある態様では、前記アピラーゼは内在性アピラーゼではない。言い換えると、前記アピラーゼは、投与対象である生体の内在性アピラーゼとは異なる。ある態様では、前記アピラーゼはヒト内在性アピラーゼではなく、例えば、前記アピラーゼは、非ヒトアピラーゼであってもよい。ある態様では、前記アピラーゼは哺乳類アピラーゼではない。好ましくは、前記アピラーゼは細菌又は植物由来のアピラーゼである。本発明に有用な強力なATP加水分解酵素の非限定的な例としては、Shigella spp.,特に、Shigella flexneri、Legionella spp.、特に、Legionella pneumophila、 Toxoplasma gondii、Trypanosoma spp.、及びSolanum tuberosum(ポテト)のアピラーゼ及び可溶性CD39が挙げられる。例えば、前記アピラーゼはShigella flexneriのアピラーゼ又はSolanum tuberosum(ポテト)のアピラーゼであってもよい。また、前記アピラーゼは、自然界に存在するアピラーゼと、少なくとも50%又は60%、好ましくは少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それよりも更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を示す自然発生アピラーゼの配列変異体であってもよい。特に、前記配列変異体は機能性を示すものであってもよく、即ち、前記配列変異体において、前記アピラーゼのATP加水分解機能が保持されている。当業者は、アピラーゼを含み、且つ、特定のアピラーゼのATP加水分解機能に重要な活性部位、ドメイン、及び領域(ヌクレオチド結合領域等)を認識する、アノテーションされたタンパク質の配列を提供する多様なバイオインフォマティクスのツールを認識している。したがって、当業者は、ATP加水分解機能を保持するためには、アピラーゼにおいてアミノ酸の位置が保持されるべきであることはよく承知している。好ましくは、前記アピラーゼは配列番号1のアミノ酸配列を含む。また、上述したように、配列番号1の機能性配列変異体を含むみ、即ち、自然界に存在するアピラーゼと、少なくとも50%又は60%、好ましくは少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それよりも更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を示す配列番号1の機能性配列変異体を含む。配列番号1の配列変異体において、機能を確実なものとするためR192は保持されなければならない。
【0039】
前記ATP加水分解酵素は如何なる方法により得られたものでもよい。好ましくは、前記ATP-加水分解酵素は組換えにより生成される。好ましくは、前記ATP-加水分解酵素は組換えにより生成されたアピラーゼである。好ましくは、前記アピラーゼは、組換えにより生成された配列番号1の配列を有するアピラーゼ、又は、上述のように、例えば、少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それより更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を有する前記アピラーゼの配列変異体であって、R192が好ましくは保持されている。組換え体生成のため、前記ATP加水分解酵素は、自然界において前記ATP加水分解酵素を発現する細胞又は生体には存在しない核酸によりコードされてもよい。例えば、前記ATP加水分解酵素の組換え体生成は、(1)異種発現(前記アピラーゼ配列が、発現に使用される生体とは別の生体に由来する)、(2)発現ベクターに基づく発現(自然界には存在しない;例えば、前記ATP加水分解酵素の過剰発現のために)、(3)自然界には存在しないATP加水分解酵素(例えば、上述の機能性配列変異体)、又は(1)から(3)のいかなる組合せにより行われてもよい。例えば、ATP加水分解酵素を発現する(異種)細胞は、天然の状態では存在していない前記ATP加水分解酵素に翻訳後修飾(PTM;例えば、グルコシル化)を付与してもよい。かかるPTMは、機能的差異(例えば、低減された免疫原性)を引き起こす。したがって、前記ATP加水分解酵素は、自然界に存在するATP加水分解酵素とは異なる、翻訳後修飾を有していてもよい。或いは、前記アピラーゼは自然界の原材量から直接使用されてもよい。前記アピラーゼは植物源、動物源、又は細菌源から得られてもよい。前記アピラーゼは精製されたものであってもよく、細胞抽出物(細菌細胞のペリプラズム抽出物)が用いられてもよい。
【0040】
前記ATP加水分解酵素はタンパク質/ポリペプチドとして用いられてもよく、また、本明細書において記載されている前記ATP加水分解酵素は、核酸に含まれるポリヌクレオチドによりコードされるものでもよい。したがって、本発明は、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子も提供する。核酸(分子)は、核酸成分を含む分子である。通常、用語「核酸分子」は、DNA分子又はRNA分子を意味する。核酸分子は、用語「ポリヌクレオチド」と同義語として用いられてもよく、即ち、前記核酸分子は、前記ATP加水分解酵素コードするポリヌクレオチドのみからなっていてもよい。或いは、前記核酸分子は、前記ATP加水分解酵素コードするポリヌクレオチドと併せて更なる要素を含んでいてもよい。通常、核酸分子は、糖/リン酸骨格のホスホジエステルによりそれぞれ共有結合しているヌクレオチドモノマーを含む又はからなるポリマーである。前記用語「核酸分子」は、また、改変された塩基、改変された糖、又は改変された骨格等からなるDNA又はRNA等の、改変された核酸分子をも意味する。核酸分子及び/又はポリヌクレオチドの例としては、例えば、組換えポリヌクレオチド、ベクター、オリゴヌクレオチド、rRNA、mRNA、miRNA、siRNA、及びatRNA等のRNA分子、及びcDNA等のDNA分子が挙げられる。
【0041】
遺伝コードの冗長性のため、本発明はまた、同じアミノ酸配列をコードする核酸配列の配列変異体を含んでいてもよい。例えば、前記配列番号1のアミノ酸配列を有するアピラーゼをコードするポリヌクレオチドは、同配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号3のヌクレオチド配列又はその配列変異体を(遺伝コードの冗長性のため)有していてもよい。
【0042】
前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド(又は核酸分子全体)は、前記ATP加水分解酵素の発現のために最適化されていてもよい。例えば、前記ヌクレオチド配列のコドン最適化を行って、前記ATP加水分解酵素の作成のための発現システムにおける翻訳の効率を向上してもよい。したがって、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、コドン最適化されたものであってもよい。当業者は、コドン最適化の多様なツール、例えば、Ju Xin Chin, Bevan Kai-Sheng Chung, Dong-Yup Lee, Codon Optimization OnLine (COOL): a web-based multi-objective optimization platform for synthetic gene design, Bioinformatics, Volume 30, Issue 15, 1 August 2014, Pages 2210-2212に開示のもの;又はGrote A, Hiller K, Scheer M, Munch R, Nortemann B, Hempel DC, Jahn D, JCat: a novel tool to adapt codon usage of a target gene to its potential expression host. Nucleic Acids Res. 2005 Jul 1;33(Web Server issue):W526-31に開示のもの;又は、例えば、ジェンスクリプト(Genscript)のOptimumGeneTMアルゴリズム(US 2011/0081708 A1に開示)を認識している。
【0043】
また、前記核酸分子は、例えば、前記ATP加水分解酵素の発現(異種発現)のために、異種の要素(即ち、前記ATP加水分解酵素のためのコード配列として、自然界では同じ核酸分子に存在しない要素)を含んでいてもよい。例えば、核酸分子は、異種プロモーター、異種エンハンサー、異種非翻訳領域(異種UTR)(例えば、最適翻訳/発現のための)、異種ポリAテール等を含んでいてもよい。ある態様では、前記核酸分子は、抗生物質に対する耐性を付与する要素を含んでいてもよい。他の態様では、前記核酸分子は、抗生物質に対する耐性を付与する要素を含んでいない。
【0044】
一般的に、前記核酸分子は、特定の核酸配列を挿入、削除、又は変更するように操作されたものであってもよい。かかる操作による改変としては、これらに限定されるものではないが、制限酵素切断部位を導入する改変、コドン使用頻度を修正する改変、転写及び/又は翻訳調整配列を追加又は最適化する改変等が挙げられる。また、コードされたアミノ酸を変更するように前記核酸を改変させることもできる。例えば、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10等)のアミノ酸置換、削除及び/又は挿入を前記ATP加水分解酵素のアミノ酸配列に行うことも好適である。このような点変異は、安定性、翻訳後修飾、発現量等を変更することができ;共有結合基の付加(例えば、ラベル)のためのアミノ酸を導入することができ;又はタグ(例えば、精製のための)を導入することができる。或いは、核酸配列における変異は、「サイレント」、即ち、上述したように遺伝コードの冗長性のため、アミノ酸配列に反映されていなくてもよい。一般的に、変異は特定の部位に導入され、又は任意に導入され、その後、選択(例えば、分子進化)される。例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸は、任意に又方向性をもって変異させ、前記コードされたアミノ酸に異なる特性を付与してもよい。かかる改変は、最初の改変が保持され、新たな改変が他のヌクレオシド部位に導入される反復プロセスの結果であってもよい。更には、単独の工程により得られた改変が組み合わされてもよい。
【0045】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子は、例えば、発現ベクター等のベクターであってもよい。ベクターは、通常、組換え核酸分子、即ち、自然界では存在しない核酸分子である。したがって、前記ベクターは、異種要素(即ち、自然界の他の起源の配列要素)を含んでいてもよい。例えば、前記ベクターは、マルチクローニングサイト、異種プロモーター、異種エンハンサー、(ベクターを含んでいない細胞と比較し、該ベクターを含む細胞を識別する)異種選択マーカー等を含んでいてもよい。本発明の文脈において、ベクターは、所望の核酸配列を組み込む又は保持するのに好適なものである。かかるベクターとしては、収納ベクター、発現ベクター、クローニングベクター、転写ベクター等であってもよい。収納ベクターは、核酸分子を便利に収納することができるベクターである。したがって、前記ベクターは、例えば、前記ATP加水分解酵素に対応する配列を含んでいてもよい。発現ベクターは、RNA(例えば、mRNA)、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質等の発現物を作成するのに用いられてもよい。例えば、発現ベクターは、(異種)プロモーター配列等の、前記ベクターの一連の配列の転写に必要な配列を含んでいてもよい。クローニングベクターは、通常、核酸配列をベクターに組み込むのに用いられるクローニングサイトを含むベクターである。例えば、クローニングベクターは、プラスミドベクター又はバクテリオファージベクターであってもよい。転写ベクターは、例えば、ウイルスベクター等、細胞又は生体に核酸分子を転写するのに好適なベクターであってもよい。本発明の文脈において、ベクターは、例えば、RNAベクター又はDNAベクターであってもよい。例えば、本願の文脈において、ベクターは、クローニングサイト、選択マーカー、及び複製起点のようなベクターの増殖に好適な配列を含んでいてもよい。本願の文脈において、ベクターはプラスミドベクターであってもよい。
【0046】
ある態様において、前記ベクターは発現ベクターである。発現ベクターは、ベクター内に挿入された又はクローニングされた1つ以上のポリヌクレオチドの発現を増強できるものであってもよい。かかる発現ベクターの例としては、バクテリオファージ、自律複製起点(ARS)、セントロメア、及びインビトロ又は細胞内で複製できる又は複製させることができる、或いは、動物又は人間の細胞内の特定の位置に核酸セグメントを運ぶことができる他の配列が挙げられる。本発明に使用される発現ベクターとしては、染色体誘導ベクター、エピソーム誘導ベクター、及びウイルス誘導ベクター(例えば、細菌プラスミド又はバクテリオファージから誘導されたベクター、及びコスミド、ファージミド等の、それらの組合せから誘導されたベクター);及びアデノウイルス、AAV、レンチウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0047】
前記発現ベクターは、プラスミドであってもよい。ホスト(宿主)内で複製及び生存できる如何なるプラスミド発現ベクターが使用されてもよい。
【0048】
細菌における前記ATP加水分解酵素の発現のために、前記発現ベクターは、細菌、例えば、大腸菌(E.coli)でのタンパク質発現に最適化されたベクターであることが好ましい。かかる発現ベクターは、公知であり、市販されている。例えば、細菌において組換えタンパク質を発現するのに信頼性があり調節可能なシステムを提供するpBADベクターシステムを用いてもよい。前記システムは、大腸菌(E.coli)L-アラビノースの代謝を調節するaraBADオペロンに基づく。前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、pBADベクターのaraBADプロモーターの下流に配置され、L-アラビノースに応答して前記ATP加水分解酵素の発現を発動させ、グルコースにより阻害される。
【0049】
ある態様では、前記発現ベクターは、ミニサークルDNAであってもよい。ミニサークルDNAは、持続的に高いレベルの核酸に有用である。前記サークルベクターは、発現-サイレンシングの細菌配列が欠けていることにより特徴付けられる。例えば、ミニサークルベクターは、複製起点が欠けている点、及び、例えば、β-ラクタマーゼ、tet等の一般的に細菌プラスミドにみられる薬剤選択マーカーが欠ける点において、細菌プラスミドベクターとは異なっている。したがって、ミニサークルDNAはサイズが小さくなり、より効率的な送達を可能とする。
【0050】
ある態様において、前記発現ベクターは、ベクターであってもよい。いかなるウイルスに基づくいかなるウイルスベクターが試剤の担体として用いられてもよい。遺伝子治療に用いられるウイルスシステムの典型的に用いられるクラスは、そのゲノムが宿主細胞のクロマチンに挿入されるか(オンコレトロウイルス及びレンチウイルス)、又は主に染色体外のエピソームとして細胞核中に存続するか(アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、及びヘルペスウイルス)に基づき、2つのグループに分類することができる。したがって、前記ウイルスベクターは、上述のように、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。また、前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、又はヘルペスウイルスのいずれかから誘導されたものであってもよい。
【0051】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルス(AdV)ベクターであってもよい。アデノウイルスは、26Kbpから48Kbpの線状ゲノムを有する、中型2本鎖の非エンベロープDNAである。アデノウイルスは、受容体を介した結合及び内部移行により標的細胞に侵入し、非分割細胞及び分割細胞の両方の核に侵入する。アデノウイルスは、その生存及び複製を宿主細胞に大きく依存し、ホスト(宿主)の複製機構を用いて脊椎動物の細胞の核中で複製することができる。
【0052】
前記ウイルスベクターは、パルボウイルス科のものであってもよい。前記パルボウイルスは、約5,000ヌクレオチドの長さのゲノムを有する、小さい1本鎖の非エンベロープDNAウイルスの科である。前記ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)であってもよい。AAVは、一般的に、生産的な感染サイクルを開始及び維持するためには他のウイルス(通常、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)と共感染する依存性パルボウイルスである。かかるヘルパーウイルスが不在であっても、AAVは依然として受容体を介した結合及び内部移行により標的細胞を感染又は形質導入することができ、非分割細胞及び分割細胞の両方の核に侵入する。ヘルパーウイルスが不在ではAAV感染から子孫ウイルスは生成されないことから、形質導入の範囲は、前記ウイルスが感染した最初の細胞のみに限られる。レトロウイルス、アデノウイルス、及び単純ヘルペスウイルスとは異なり、AAVはヒト病原性及び毒性がないようである。
【0053】
レトロウイルス科のウイルスに基づくウイルスベクターが用いられてもよい。レトロウイルスは、2つの独特な特徴に特徴付けられる1本鎖のRNA動物ウイルスを含む。第一に、レトロウイルスのゲノムは、RNAの2つのコピーからなる二倍体である。第二に、前記RNAはウイルス粒子内在酵素である逆転写酵素により2本鎖DNAに転写される。前記2本鎖DNA、すなわちプロウイルス、は宿主ゲノムに組み込まれ、前記宿主ゲノムに安定して組込まれた成分として親細胞から子孫細胞へ移される。
【0054】
好ましくは、前記発現ベクターはプラスミドである。或いは、前記発現ベクターは好ましくはバクテリオファージである。前記発現ベクターがプラスミド又はバクテリオファージである場合、前記発現ベクターは細菌細胞及び本発明の組成物に含まれる前記細菌細胞中に形質転換される。前記細菌細胞は、大腸菌(E.coli)であってもよい。或いは、前記細菌担体は弱毒化されたサルモネラ菌(Salmonella enterica)であってもよい。前記弱毒サルモネラ菌(Salmonella enterica)は、チフス菌(serovar Salmonella Typhimurium)のものであってもよい。
【0055】
ある態様では、上述のATP-加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子は、例えば、ゲノムDNA(例えば、染色体DNA)であってもよい。言い換えると、前記ATP-加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、前記ATP-加水分解酵素を(異種)発現する生体の遺伝子に組み込まれてもよい。
【0056】
ある態様では、DNA断片は、例えば、細菌等の宿主細胞/微生物のゲノムに組み込まれるために、細菌等の宿主細胞/微生物に導入されてもよい。このため、前記DNA断片は、例えば、細菌等の宿主細胞/微生物のゲノムに組み込むため、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素の発現するヌクレオチド、特にアピラーゼ(例えば、フレキシネル菌(
S.flexneri)
phoN2遺伝子、又はその配列変異体)を含んでいてもよい。例えば、かかるDNA断片は、大腸菌Nissle株(
E.coli Nissle(EcN))ゲノムにおけるフレキシネル菌(
S.flexneri)
phoN2遺伝子に組み込まれるものであってもよい。大腸菌Nissle株(
E.coli Nissle(EcN))ゲノムにおけるフレキシネル菌(
S.flexneri)
phoN2遺伝子への組み込むためのDNA断片の例示は、
図52に示されている。ある態様では、前記DNA断片は、マルトデキストリンホスホリラーゼ(malP)のためのEcN遺伝子を含んでいてもよく;クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)のための
E.coli遺伝子を含んでいてもよく;アピラーゼのための
S.flexneri遺伝子(
phoN2)を含んでいてもよく;マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤(
malT)ためのEcN遺伝子を含んでいてもよく;フリッパーゼ認識標的(Flippase Recognition Target[FRT])配列を含んでいてもよく;前記cat遺伝子のプロモーター(P
cat)を含んでいてもよく;前記
phoN2遺伝子のプロモーター(P
proD)を含んでいてもよく;前記
phoN2遺伝子のリボソーム結合部位(BBa_BB0032 RBS)を含んでいてもよく;及び/又は前記
phoN2遺伝子の転写ターミネーター(T
phoN2)を含んでいてもよい。ある態様では、前記EcN
malP遺伝子部位のヌクレオチドは、配列番号6によるもの又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体である。ある態様では、前記EcN
malT遺伝子部位のヌクレオチドは、配列番号7によるもの、又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体である。ある態様では、前記P
proDプロモーター、BBa_BB0032 RBS、
S.flexneri phoN2遺伝子、又は
phoN2転写ターミネーターを含む前記DNA断片は、配列番号8によるもの又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体であってもよい。ある態様では、前記FRT配列に隣接する
E.coli cat遺伝子を含むDNA断片は配列番号9によるもの、又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体であってもよい。
【0057】
宿主細胞、微生物、及びウイルス粒子
さらなる態様では、本発明はまた、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載の核酸分子、すなわち、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0058】
宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であってもよい。かかる細胞の例としては、真核細胞(例えば、酵母細胞、動物細胞、又は植物細胞等)及び原核細胞(E.coli.等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ある態様では、前記細胞は、哺乳類細胞株等の哺乳類細胞であってもよい。例としては、ヒト細胞、CHO細胞、HEK293T細胞、PER.C6細胞、NS0細胞、ヒト肝細胞、及び骨髄腫細胞が挙げられる。
【0059】
前記細胞は、上述のように、(発現)ベクター等の核酸により形質転換又はトランスフェクションされてもよい。前記用語「トランスフェクション」は真核動物/ヒト細胞にDNA又はRNA(例えば、プラスミド)等の核酸分子を導入することを意味し、前記用語「形質転換」は、通常、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞又は真菌細胞にDNA又はRNA(例えば、プラスミド)等の核酸分子を導入することを意味する。本発明の文脈において、前記用語「トランスフェクション」及び「形質転換」は、例えば、哺乳類細胞及び細菌細胞等の細胞に核酸分子を導入する、当業者に公知の方法のいかなる方法をも包含する。前記方法としては、例えば、エレクトロポレーション、例えば、カチオン性脂質及び/又はリポソームに基づくリポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ナノ粒子に基づくトランスフェクション、ウイルスに基づくトランスフェクション、又はDEAE-デキストラン、ポリエチレンイミン等のカチオン性ポリマーに基づくトランスフェクション等を含む。ある態様では、前記導入は非ウイルス性である。細菌細胞の場合、コンピテント細菌を形質転換に使用することができる。
【0060】
また、本発明の細胞は、前記核酸(ベクター)、例えば、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素を発現する核酸により安定的に又は一時的にトランスフェクション又は形質転換されてもよい。ある態様では、前記細胞は、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸(ベクター)により安定的にトランスフェクションされる。他の態様では、前記細胞は、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸(ベクター)により一時的にトランスフェクション/形質転換される。
【0061】
したがって、本発明は、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載のATP加水分解酵素を異種発現する組換え宿主細胞を提供する。例えば、前記細胞は、前記ATP加水分解酵素とは異なる種の細胞であってもよい。ある態様では、前記細胞の細胞種は、自然界では(かかる)ATP加水分解酵素を発現しない。また、前記宿主細胞は、天然の状態では存在していない前記ATP加水分解酵素に翻訳後修飾(PTM;例えば、グルコシル化)を付与してもよい。かかるPTMは、機能的差異(例えば、低減された免疫原性)を引き起こす。したがって、前記ATP加水分解酵素は、自然発生したATP加水分解酵素とは異なる、翻訳後修飾を有していてもよい。
【0062】
さらなる態様では、本発明はまた、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載の核酸分子、すなわち、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物を提供する。微生物は、本明細書に記載のATP加水分解酵素を異種発現する組換え微生物であってもよい。例えば、微生物は、ATP加水分解酵素とは別の種のものであってもよい。ある態様では、微生物は、本明細書に記載のATP加水分解酵素を過剰発現する組換え微生物であり得る。微生物は、生きた微生物であってもよい。
【0063】
本明細書において用いられる用語「微生物」は、単独の細胞形状で又は細胞のコロニーとして存在していてもよい微生物を意味する。通常、用語「微生物」は全ての単細胞生物を含む。したがって、前記微生物は、古細菌及び細菌等の原核生物、並びに、単細胞原生生物、原生動物、菌類、及び植物等の真核生物から選択されてもよい。
【0064】
好ましくは、前記微生物は、細菌等の原核微生物、又は酵母等の真核微生物である。ある態様では、前記微生物は、エンテロバクター属菌(Escherichia spp.)、サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、エルシニア属菌(Yersinia spp.)、ビブリオ属菌(Vibrio spp.)、リステリア属菌(Listeria spp.)、ラクトコッカス属菌(Lactococcus spp.)、シゲラ属菌(Shigella spp.、赤痢菌)、シアノ細菌(Cyanobacteria)、及びサッカロミケス属菌(Saccharomyces spp.)からなる群から選択される。本明細書中で使用される、微生物に関連する表現「属菌(spp.)」は、種、亜種、及びその他等、記載された属に含まれる全てのものを包含することを意図している。
【0065】
ある態様において、前記微生物は、プロバイオティクス(例えば、生菌のプロバイオティクス)として提供されてもよい。本明細書中で使用される用語「プロバイオティクス」は、細菌及び酵母等の生きた微生物であって、消費されることにより、例えば、腸内フローラを改善又は回復することにより健康上の利益を提供するものを意味する。提供される健康上の利益から、上記生菌は食品添加物として用いることができる。例えば、前記生菌は、顆粒、錠剤、又はカプセル中の凍結乾燥されたものであってもよく、或いは、消費される乳製品に直接混合することができる。健康上の利益があることが示された微生物の例としては、これらに限定されるものではないが、Lactobacillus、Bifidobacterium、Saccharomyces、Lactococcus、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、Bacillus、Escherichia coli、特に、Fijan S. Microorganisms with claimed probiotic properties: an overview of recent literature. Int J Environ Res Public Health. 2014;11(5):4745-4767. doi:10.3390/ijerph110504745、に記載されたそれらのプロバイオティクス株が挙げられ、参照により本明細書に援用する。
【0066】
有毒微生物の場合、前記微生物の毒性を弱毒化させていてもよい。細菌の毒性を弱毒化させる方法としては、公知であり、例えば、WO2018/089841に記載されている。通常、毒性の弱毒化は、毒性病原体から毒性因子を変異することにより達成することができる。
【0067】
特に、本発明は、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載の核酸分子、すなわち、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌(細菌細胞)を提供する。したがって、前記宿主細胞は細菌細胞であってもよく、前記微生物は細菌であってもよい。
【0068】
前記細菌は、組換え細菌、即ち、自然界で発生しない細菌、であってもよい。特に、前記組換え細菌は、例えば、前記ATP加水分解酵素の異種発現又は過剰発現のための、自然界の細菌には存在しない核酸配列を含んでいてもよい。したがって、前記細菌は前記ATP加水分解酵素を異種発現してもよく(即ち、発現されたATP加水分解酵素は細菌において自然には存在しないものであってもよく、異なる株や系統等に由来するものでもよい);又は前記細菌は前記ATP加水分解酵素を過剰発現してもよい。本明細書において用いられる用語「過剰発現」は、標的とする(例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする)遺伝子の人工的な増量された発現を意味する。過剰発現は、例えば、標的とする遺伝子をコードする(例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする)核酸分子の数を増やすことにより、及び/又は発現を増加させる調節要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、又は遺伝子調節要素)を用いることにより等、多様な方法により行うことができる。
【0069】
前記細菌としては、生きた細菌であってもよい。前記細菌が病原体の場合、前記細胞の毒性は、上述のように弱毒化させてもよい。一般的に、前記細菌は、グラム陽性菌又はグラム陰性菌により選択されてもよい。ある態様では、前記細菌は、大腸菌(Escherichia spp.)、サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、エルシニア属菌(Yersinia spp.)、ビブリオ属菌(Vibrio spp.)、及びシゲラ属菌(Shigella spp.、赤痢菌)から選択された細菌等のグラム陰性菌であってもよく、又は、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)、エルシニア・エンテロコイチカ(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、及び赤痢菌(Shigella flexneri)から選択された細菌等のシアノ細菌であってもよい。ある態様では、前記細菌はグラム陽性菌であってもよい。グラム陽性菌の例としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属菌(Lactococcus spp.)、及びリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア属菌(Listeria spp.)が挙げられる。好ましくは、前記細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又はサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)であってもよい。特に好ましくは、前記細菌は、特に、アピラーゼを(異種)発現する大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又はサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)であってもよい。
【0070】
前記細菌は、上述のように、プロバイオティクス特性を提供するものであってもよい。特に、前記プロバイオティクス・細菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又は大腸菌Nissle1917株(Escherichia coli Nissle 1917 (EcN))等の大腸菌(Escherichia coli)のプロバイオティクス株であってもよい。大腸菌Nissle1917株(Escherichia coli Nissle 1917)は、便秘(Chmielewska A., Szajewska H. Systematic review of randomised controlled trials: Probiotics for functional constipation. World J. Gastroenterol. 2010;16:69-75)及び炎症性腸疾患(Behnsen J., Deriu E., Sassone-Corsi M., Raffatellu M. Probiotics: Properties, examples, and specific applications. Cold Spring Harb. Perspect. Med. 2013;3 doi: 10.1101/cshperspect.a010074)を治療し、消化器疾患、潰瘍性大腸炎、及びクローン病(Xia P., Zhu J., Zhu G. Escherichia coli Nissle 1917 as safe vehicles for intestinal immune targeted therapy-A review. Acta Microbiol. Sin. 2013;53:538-544)を緩和することが示されている。
【0071】
さらなる態様では、本発明はまた、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載の核酸分子、すなわち、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子を提供する。ウイルス粒子は、組換え微生物、例えば、本明細書に記載のATP加水分解酵素を異種発現するものであってもよい。本明細書に使用される用語「ウイルス粒子」は、ウイルス様粒子だけでなくビリオンも含む。「ビリオン」(「ウイルス」)は、通常、ある細胞から別の細胞に核酸を移すことができる構造体であり、「エンベロープ型」または「非エンベロープ型」であり得る。
【0072】
本明細書で使用される用語「ウイルス様粒子」(又は「VLP」)は、特に、様々なウイルスに由来する非複写性のウイルス殻を意味する。VLPは、ウイルス複製に必要なウイルス成分が欠如しており、よって、ウイルスが高度に弱毒化した状態を示している。VLPは、一般的に、1つ以上のウイルスタンパク質からなっており、前記タンパク質としては、これらに限定されるものではないが、カプシド、外皮、殻、表面等と称されるタンパク質、及び/又はエンベロープタンパク質、或いは、これらタンパク質から誘導された粒子形成ポリペプチドが挙げられる。VLPは、適切な発現システムにおいて、タンパク質の組換え発現によって自発的に形成される。ウイルス様粒子及びその製造方法は、公知であり、当業者は熟知しており、複数のウイルスから得られるウイルスタンパク質がVLPを形成するとして知られており、前記ウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス、HIV(Kang et al.、 Biol. Chem. 380: 353-64 (1999))、セムリキ森林熱ウイルス(Notka et al.、 Biol. Chem. 380: 341-52 (1999))、ヒト・ポリオーマウイルス(Goldmann et al.、 J. Virol. 73: 4465-9 (1999))、ロタウイルス(Jiang et al.、 Vaccine 17: 1005-13 (1999))、パルボウイルス(Casal、 Biotechnology and Applied Biochemistry、 Vol 29、 Part 2、 pp 141- 150 (1999))、犬パルボウイルス (Hurtado et al.、 J. Viral. 70: 5422-9 (1996))、E型肝炎ウイルス(Li et al.、 J. Viral. 71: 35 7207-13 (1997))、及びニューカッスル病ウイルスが挙げられる。上記VLPの形成は、好適な方法により検知することができる。媒体中のVLPを検知する公知の好適な方法の例としては、例えば、電子顕微鏡技術、動的光拡散法(DLS)、選択的クロマトグラフィー分離法(例えば、VLPのイオン交換、疎水性相互作用、及び/又はサイズ排除クロマトグラフィー)及び密度勾配遠心分離法が挙げられる。更には、VLPは、公知の方法で分離することができ、例えば、密度勾配遠心分離法により分離し、特徴的な密度での帯形成により特定される。例えば、Baker et al. (1991) Biophys. J. 60: 1445-1456;及びHagensee et al. (1994) J. Viral. 68:4503-4505; Vincente、 J Invertebr Pathol.、 2011; Schneider-Ohrum and Ross、 Curr. Top. Microbial. Immunol.、 354: 53073 (2012)を参照。
【0073】
前記ウイルス粒子はヒトに感染性のものでないことが望ましい。特に、バクテリオファージ等の、細菌において感染及び複製するウイルスベクターが用いられてもよい。したがって、本発明は、ディスバイオーシスの処置における使用のための、本明細書に記載の核酸分子、すなわち、本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むバクテリオファージも提供する。バクテリオファージは、細菌及び古細菌中で感染を起こし、複製をするウイルスである。バクテリオファージは、通常、DNA又はRNAゲノムをカプセル化したタンパク質からなり、単純または精巧な、様々な異なる構造で存在する。ファージは抗細菌効果を提供するものであってもよい。前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む前記核酸を含むバクテリオファージは、細菌により前記ATP加水分解酵素が発現されるように、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を細菌に容易に運ぶことができる。
【0074】
組成物
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、及び前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、それぞれ、組成物中に提供することができる。組成物は、ワクチンであってもよい。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、及び前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子のいずれかを含む(医薬)組成物を提供する。
【0075】
例えば、前記組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を任意に含む医薬組成物であってもよい。前記担体、希釈剤、又は賦形剤は投与を容易にするものであるが、これらは、前記組成物の授与対象にとって有害又は有毒なものであってはならない。通常、担体、希釈剤、及び賦形剤は、前記組成物の「有効」成分ではない。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子は、前記組成物の単独有効成分(即ち、特に、治療される病気に対して、薬学的に活性を有する)であってもよい。好ましい担体としては、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体、及び不活性ウイルス粒子等の、分子量が大きく、ゆっくりと代謝される高分子が挙げられる。
【0076】
薬学的に許容される塩が使用でき、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、及び硫酸塩等の鉱酸塩、又は、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、及び安息香酸塩等の有機酸塩が使用できる。
【0077】
前記組成物は、媒介物(vehicle)を含んでいてもよい。媒介物は、通常、薬学的に許容される化合物等の化合物を保存、輸送、及び/又は投与するのに好適な材料であると理解されている。例えば、前記媒介物は、薬学的に活性な化合物を保存、輸送、及び/又は投与するのに好適な材料であり、生理学的許容される液体であってもよい。前記組成物が処方されると、前記組成物は直接投与対象に投与することができる。ある態様では、組成物は、哺乳類(例えば、投与対象人)に投与するために調整される。
【0078】
ある態様では、前記医薬組成物は、特に複数の投与容量でパッケージ化されている場合、抗菌剤を含んでいてもよい。前記医薬組成物は、例えば、Tween80等のTween(ポリソルベート)のような界面活性剤を含んでいてもよい。通常、界面活性剤は低レベル、例えば0.01%以下で存在している。組成物は、強壮性を付与するためにナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)をも含んでいてもよい。例えば、10±2mg/mlの濃度のNaClが典型的である。
【0079】
更に、医薬組成物は、特に凍結乾燥される場合又は凍結乾燥された材料を戻して得られた材料を含む場合、糖アルコール(例えば、マンニトール)又は二糖類(例えば、スクロース又はトレハロース)を、例えば、15~30mg/ml程度(例えば、25mg/ml)を含んでいてもよい。凍結乾燥する組成物のpHは、凍結乾燥前に、5から8の間、又は5.5から7の間、又は6.1程度に調節されてもよい。
【0080】
医薬組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、更に、水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノール等の液体を含んでいてもよい。更に、湿潤又は乳化剤、或いは、pH緩衝剤等の補助剤が前記組成物に存在していてもよい。前記担体は、投与対象が摂取するため、前記医薬組成物が錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー及び懸濁液として処方されるのを可能とする。薬学的に許容される担体の細論はGennaro(2000) Remington:The Science and Practice of Pharmacy、 20th edition、ISBN:0683306472に開示されている。
【0081】
医薬組成物は、多様な形状で用意されてもよく、多数の経路により投与されてもよい。前記投与経路としては、これらに限定されるものではないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、皮下、経腸、舌下、及び経直腸が挙げられる。好ましくは、前記医薬組成物は、経口投与のために錠剤、カプセル等として用意されてもよく、注射可能なように、例えば、液状溶液又は懸濁液として用意されてもよい。注射前の液状媒介物における溶液又は懸濁液に好適な個体形状が更に含まれ、例えば、前記医薬組成物は凍結乾燥された形状のものであってもよい。
【0082】
前記組成物は、例えば、錠剤又はカプセルとして、スプレーとして、又は(任意に風味付けされた)シロップとして経口投与用に調整されてもよい。経口的に許容される剤形としては、これに限定されるものではないが、カプセル、錠剤、水性懸濁液又は溶液が挙げられる。経口用の錠剤の場合、典型的に用いられる担体としては、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤も添加されていてもよい。カプセル形状での経口投与のための好適な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口用に水性懸濁液が必要な場合、有効成分、即ち、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、乳化及び懸濁剤と併用されてもよい。必要に応じて、特定の甘味料、香味料又は着色料が添加されていてもよい。前記有効成分は、それ自体では、胃腸管において分解されやすいものであることがある。したがって、前記組成物が胃腸管を用いる経路で投与されるものである場合、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素が分解されることを防止するが、一度胃腸管から吸収されると前記ATP加水分解酵素を放出する成分を含んでいてもよい。前記組成物は、組合せられた組成物が、投与対象に投与させる直前に再構成されるように設計されたキット形状のものでもよい。例えば、凍結乾燥されたATP加水分解酵素が、滅菌水又は滅菌緩衝剤と共にキット形状で提供されてもよい。
【0083】
様々な投与経路のために調整された多数の形状の組成物が本発明の範囲含まれ、前記形状としては、これらに限定されるものではないが、注射又は注入等、例えば、ボーラス投与による注射又は持続注入等の非経口投与に好適な形状が含まれる。前記製品が注射又は注入のためのものである場合、油性又は水性媒介物中で懸濁液または乳化液の形状を取っていてもよく、懸濁剤、保存剤、安定剤及び/又は分散剤等の調合剤を含んでいてもよい。或いは、前記ATP加水分解酵素は、乾燥状態のもので、適当な減菌液と共に用いると再構成可能なものであってもよい。ある態様では、前記組成物は注射可能な溶液又は懸濁液として調整されてもよい。液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に好適な、注射前の固体形状として調整することもできる(例えば、保存剤を含む減菌水で戻される凍結乾燥組成物)。例えば、静脈注射、皮膚注射、又は皮下注射、或いは、疾病部位への注射等の注射のため、前記有効成分は、パイロジェンフリーで好適なpH、等張性、及び安定性を有する許容される非経口水性溶液の形状であってもよい。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液等の等張性媒介物を用いて好適な溶液を調整することが十分可能である。必要であれば、保存剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤が含まれていてもよい。注射用としては、前記医薬組成物は、例えばシリンジ中にあらかじめ準備した状態で提供されてもよい。
【0084】
医薬組成物は、通常、pHが5.5から8.5の間であるものであってもよく、ある態様では、pHは6から8の間であってもよく、例えば、7であってもよい。前記pHは、緩衝剤を用いることにより保持されていてもよい。前記組成物は無菌及び/又はパイロジェンフリーであってもよい。前記組成物はグルテンフリーであってもよい。前記組成物は人間に対して等張のものであってもよい。ある態様では、医薬組成物は、密封容器で提供されてもよい。
【0085】
対象に与えられるのが上述のタンパク質、ペプチド、核酸分子、宿主細胞、微生物、ウイルス粒子、又は他の医薬的に有用な化合物である場合、投与は、通常、有効量である、例えば、「予防有効量」又は「治療有効量」(場合により)投与され、これら量は個人に効果を発現させるのに十分な量である。実際の投与量、及び投与の速度及び経時変化は、治療対象の特徴及び重度により異なる。したがって、1つ以上の有効成分の「有効」量は、通常、対象疾患又は症状を治療、改善、減弱、低減、又は予防するのに十分な量、又は検出可能な治療効果を示すのに十分な量である。治療効果としては、病原体の効力又は身体症状の低減又は減弱をも含む。特定の対象に対する厳密な有効量は、対象のサイズ、体重、健康状態、症状の特徴及び程度、並びに投与のために選択された治療法又は治療法の組合せによる。特定の状況における有効量は、日常的に行われる試験によって決定され、医療従事者の判断に委ねられる。
【0086】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、更なる活性成分と同一の医薬組成物中に含まれていてもよいし、別の医薬組成物中に含まれていてもよい。したがって、更なる活性成分は、ぞれぞれ、異なる医薬組成物に含まれていてもよい。かかる異なる医薬組成物は、組み合わせて/同時に、又は異なる時に、又は異なる箇所(例えば、人体の異なる箇所)に投与することができる。
【0087】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素は、前記組成物中のタンパク質の合計の少なくとも50重量%(例えば、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上)を占めていてもよい。
【0088】
ある態様では、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸ウイルス粒子を精製した形態で含んでいてもよい。
【0089】
ある場合においては、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、細胞抽出物を含んでいてもよい。例えば、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素を発現する細胞、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞からの細胞抽出物を含んでいてもよい。かかる細胞は、前述のように、細菌細胞であってもよい。例えば、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌のペリプラズム抽出物を含んでいてもよい。この文脈において、好ましい細菌(細菌細胞)は上述の通りである。
【0090】
ある態様では、前記組成物はナノカプセルでの投与のために処方されてもよい。好ましくは、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子を含む前記組成物は、ナノカプセルでの投与のために処方されてもよい。したがって、本発明は、本明細書に記載の組成物を含むナノカプセルも提供する。特に、本発明は、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子(を含む組成物)を含むナノカプセルを提供する。
【0091】
ナノカプセルは、通常、無毒のポリマー/脂質から形成され、成分を有害な環境から守ることができる。ナノカプセルは、通常、ナノスケールで内部の液体コアをカプセル化するポリマー膜からなる小胞系である。カプセル化の方法は公知であり、前記カプセル化の方法としては、ナノ沈殿、エマルジョン拡散、及び溶媒蒸発が挙げられる。ある態様では、前記ナノカプセルは、経腸投与、特に、経口投与のためのものであってもよい。ナノカプセル及びナノカプセルの作成方法は公知であり、例えば、Erdogar N、 Akkin S、 Bilensoy E. Nanocapsules for Drug Delivery: An Updated Review of the Last Decade. Recent Pat Drug Deliv Formul. 2018;12(4):252-266. doi: 10.2174/1872211313666190123153711に記載されており、その全体を本明細書に援用する。
【0092】
本発明はまた、(i)ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子用意する工程と、(ii)1つ以上の薬学的に許容される担体と混合する工程とを含む、(医薬)組成物を調製する方法も提供する。
【0093】
ディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患の処置
前記したように、本発明は、ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、を提供する。
【0094】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、添付の実施例に示されるように、ディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患の症状に対抗することができ、且つ、阻害又は軽減することができる。
【0095】
したがって、本発明はまた、それを必要とする対象において、ディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患の発症リスクを低減する、又はディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患を処置する、改善する、若しくは低減するための方法であって、前記対象に、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、
を投与することを含む方法を提供する。
【0096】
さらに、本発明はまた、それを必要とする対象において、腸内微生物叢のバランスを回復するための方法であって、前記対象に、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、
を投与することを含む方法を提供する。
【0097】
ディスバイオーシス及びディスバイオーシス関連疾患は、前記した通りである。
【0098】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、1回又は繰り返し(同一治療サイクルで)投与することができる。前記投与は、少なくとも2回、繰り返すことができる。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、繰り返し又は継続的に投与されてもよい。前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、少なくとも1、2、3、若しくは4週間;2、3、4、5、6、8、10、若しくは12か月間;或いは2、3、4、若しくは5年間、繰り返し又は継続的に投与されてもよい。例えば、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、1日に2回、1日に1回(例えば、毎日)、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1月に1回、又は2か月毎、投与されてもよい。
【0099】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子を、毎日、例えば、(連続して)3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日以上、投与することができる。他の実施形態では、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子を、1週間に1回または2回、例えば、2又は3週間、投与することができる。
【0100】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、様々な経路、例えば、全身的又は局所的に投与することができる。全身的投与の経路としては、一般に、経腸および非経口経路が挙げられ、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、および腹腔内経路を含む。好ましくは、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、経腸投与経路を介して投与される。経腸投与経路は、胃腸管を介した投与を意味し、胃管を介した投与と共に、例えば、経口、舌下、及び直腸投与を含む。前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子の経口投与が好ましい。いかなる理論にも拘束されるものではないが、前記ATP加水分解酵素は、腸管腔において、すなわち、腸内の微生物叢から放出される細胞外ATPを分解することによって、その有利な効果を媒介すると考えられる。前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子の経腸投与が前記ATP加水分解酵素を胃腸管(腸)に送達するため、この投与経路は、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子にとって好ましい。
【0101】
例えば、(コードされた)ATP加水分解酵素は、可溶性ATP加水分解酵素であることができ;前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、経腸投与経路を介して投与することができる。
【0102】
ある態様では、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患は、または前記対象が、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患に罹患しているという診断又は強い想定の後に、例えば、その症状の検出後に、治療的に処置される。他の実施形態では、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患は、対象が、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患を発症するリスクがある場合、例えば、ディスバイオーシス誘発剤が対象に投与される場合、予防的に処置することができる。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置用)は、ディスバイオーシス誘発剤と組み合わせて投与して、ディスバイオーシスを誘発する前記薬剤の(副)作用を阻害または低減することができる。
【0103】
特定の実施形態では、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置用)は、ディスバイオーシス誘発剤の投与の終了後に投与することができる。特に、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の治療用)の投与は、ディスバイオーシス誘発剤がその主要な薬理作用を示さなくなったときに開始することができる。例えば、抗生物質、化学療法剤、または他の薬物によって誘発されるディスバイオーシスは、通常、ディスバイオーシス誘発剤がその主要な作用(抗生物質、化学療法剤、またはその他の薬物として)を誘発しなくなった後でも、長期間継続する。かかる場合、ディスバイオーシス誘発剤と、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置用)との有効なタイムウインドウが重複しないので、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置用)は、ディスバイオーシス誘発剤と「組み合わせ」られない。それにより、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子(ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置用)の作用は、ディスバイオーシス誘発剤の(他の)薬理学的作用(即ち、ディスバイオーシスの誘発以外のディスバイオーシス誘発剤の薬理学的作用)と干渉しない。ディスバイオーシス誘発剤は、通常、ディスバイオーシスを誘発する目的ではなく、他の薬理学的作用のために投与されるが、ディスバイオーシスの誘発は、通常、望ましくない副作用である。
【0104】
一般に、ディスバイオーシスは、外的因子(ディスバイオーシス誘発剤、例えば、抗生物質又は化学療法剤の投与など)、食餌、身体的および心理的ストレス、ならびに内因性/宿主関連因子など、ディスバイオーシスを誘発する任意の因子によって誘発され得る。ディスバイオーシスは、食餌障害(糖分が豊富で繊維が少ない高タンパク高脂質食;食物アレルギー;炭水化物の吸収不良および消化障害)、消化液分泌不良、ストレス、抗生物質/薬理学療法、免疫機能の低下、吸収不良、腸感染症、及び胃腸管のpHに起因し得る。ある態様では、ディスバイオーシスは、本明細書に記載のディスバイオーシス誘発剤(例えば、抗生物質または化学療法剤)、食餌、または母体のディスバイオーシスによって誘発され得る。
【0105】
母体のディスバイオーシスは、その子孫に大きな影響を与える可能性がある。したがって、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスを患う母親の新生児および乳児の処置にも用いることができる。ある態様では、これは、(ヒトの乳児の場合)1歳までの乳児および新生児を含む。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、1歳までの乳児または新生児に投与することができる。ある態様では、これは、授乳中(および授乳終了後4週間まで)の新生児および乳児を含む。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、授乳中(および授乳終了後4週間まで)の新生児または乳児に投与することができる。
【0106】
特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、抗生物質または化学療法による処置、食餌、または母体のディスバイオーシス(新生児および1歳までの乳児)によって引き起こされるディスバイオーシスなどのディスバイオーシス中またはその後のマイクロバイオームのバランスを回復または改善/向上させるために使用することができる。
【0107】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、病原体による感染症のディスバイオーシス誘発作用のリスクの低減、又は、病原体による感染症のディスバイオーシス誘発作用の阻害、予防、改善、若しくは減少のために使用することができる。したがって、本発明はまた、病原体による感染症のディスバイオーシス誘発作用の発生リスクを低減させる、又は、病原体による感染症のディスバイオーシス誘発作用を処置、改善、阻害、または減少させる方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0108】
好ましくは、前記感染症は、細菌感染症であり、例えば、Citrobacter rodentium又はClostridioides difficileによる感染症である。
【0109】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、低血糖症及び/又は体重減少のディスバイオーシス誘発作用のリスクを低減させる、又は、低血糖症及び/又は体重減少のディスバイオーシス誘発作用を阻害、予防、改善、若しくは減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、低血糖症及び/又は体重減少のディスバイオーシス誘発作用の発生リスクを低減させる、又は、低血糖症及び/又は体重減少のディスバイオーシス誘発作用を処置、改善、阻害、若しくは減少させる方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0110】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、微生物叢の多様性のディスバイオーシスによって誘発される減少のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、微生物叢の多様性のディスバイオーシスによって誘発される減少の発生リスクを低減させる、又は、微生物叢の多様性のディスバイオーシスによって誘発される減少を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0111】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスによって誘発される腸管内細菌の移行のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシスによって誘発される腸管内細菌の移行の発生リスクを低減させる、又は、ディスバイオーシスによって誘発される腸管内細菌の移行を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0112】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスによって誘発される盲腸の肥大のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシスによって誘発される盲腸の肥大の発生リスクを低減させる、又は、ディスバイオーシスによって誘発される盲腸の肥大を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0113】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスによって誘発される腸の(慢性)炎症のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシスによって誘発される腸の(慢性)炎症の発生リスクを低減させる、又は、ディスバイオーシスによって誘発される腸の(慢性)炎症を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0114】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスによって誘発される腸バリアの破壊のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシスによって誘発される腸バリアの破壊の発生リスクを低減させる、又は、ディスバイオーシスによって誘発される腸バリアの破壊を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0115】
ある態様では、本明細書に記載の(使用のための)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、前記細菌、または前記ウイルス粒子は、ディスバイオーシスによって誘発される代謝機能障害のリスクを低減、阻害、予防、改善、又は減少させるために使用することができる。したがって、本発明はまた、ディスバイオーシスによって誘発される代謝機能の低下の発生リスクを低減させる、又は、ディスバイオーシスによって誘発される代謝機能の低下を処置、改善、阻害、若しくは減少させるための方法であって、対象に、
(a)ATP加水分解酵素、特に、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素;
(b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、特に、本明細書に記載の前記核酸;
(c)前記核酸を含む宿主細胞、特に、本明細書に記載の前記宿主細胞;
(d)前記核酸を含む微生物、特に、本明細書に記載の前記微生物;または
(e)前記核酸を含むウイルス粒子、特に、本明細書に記載の前記ウイルス粒子、を投与することを含む方法を提供する。
【0116】
ディスバイオーシスにより低減又は低下され得る(したがって、前記したように処置され得る)代謝機能としては、インスリン抵抗性、肝脂肪沈着、脂肪組織の発達、関節リウマチ、および潰瘍性大腸炎が挙げられる。
【0117】
ディスバイオーシス誘発剤との併用
特定の状況においては、例えば、特定の疾患および状態を治療するために、ディスバイオーシス誘発剤が投与される。ディスバイオーシス誘発剤の非限定的な例としては、ディスバイオーシスを誘発する、抗生物質および化学療法剤が挙げられるが、経口鉄補給、ならびに他のディスバイオーシス誘発薬物も挙げられる。添付の実施例に示されるように、ディスバイオーシス誘発剤を、ATP加水分解酵素またはATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞/微生物と組み合わせて投与すると、ディスバイオーシスを低減または回避することができる。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、またはATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子を、ディスバイオーシス誘発剤と組み合わせることができる。かかる組み合わせにおいて、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、または前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、ディスバイオーシス誘発剤によって誘発されるディスバイオーシスに対抗する、それを低減、改善、減少、阻害する、又はディスバイオーシス誘発剤によって誘発されるディスバイオーシスのリスクを低減するために用いられることが理解される。
【0118】
したがって、本発明はまた、
(i)本明細書に記載のATP加水分解酵素と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0119】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、本明細書に記載の核酸と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0120】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の宿主細胞と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0121】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の微生物と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0122】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載のウイルス粒子と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0123】
特に、本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の細菌と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
特に、前記細菌は、前記ATP加水分解酵素、好ましくはアピラーゼを異種発現する組換え細菌である。
【0124】
したがって、本発明は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、
(i)a)本明細書に記載のATP加水分解酵素、
b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、本明細書に記載の核酸、
c)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の宿主細胞;
d)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の微生物;
e)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載のウイルス粒子;または
f)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の細菌と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
の組合せを提供する。
【0125】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子(例えば、細菌)の詳細な説明は、ディスバイオーシス誘発剤との組合せについても同様に適用される。さらに、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、または前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、前記組成物に含まれ得る。同様に、ディスバイオーシス誘発剤は、組成物に含まれていてもよい。前記組成物の詳細な説明は、ディスバイオーシス誘発剤を含む組成物についても同様に適用される。さらに、この組合せは、特に、本明細書に記載されるように、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置のために、医学において使用することができる。
【0126】
ディスバイオーシス誘発剤は、例えば、Le Bastard Q, Al-Ghalith GA, Gregoire M, et al. Systematic review: human gut dysbiosis induced by non-antibiotic prescription medications. Aliment Pharmacol Ther. 2018;47(3):332-345. doi:10.1111/apt.14451に記載されている。ディスバイオーシス誘発剤としては、ディスバイオーシスを誘発する、抗生物質、化学療法剤、プロトンポンプ阻害剤、スタチン、免疫抑制薬(例えば、糖質コルチコイド)、メトホルミン、抗精神病薬(例えば、非定型抗精神病薬)、および経口鉄補給剤が挙げられる。
【0127】
ある態様では、ディスバイオーシス誘発剤は、抗生物質であり得る。他の実施形態では、ディスバイオーシス誘発剤は、非抗生物質の薬剤であってもよい。ディスバイオーシスを誘発する非抗生物質薬物の例としては、化学療法剤、プロトンポンプ阻害剤、スタチン、免疫抑制剤(例えば、糖質コルチコイド)、メトホルミン、および抗精神病薬(例えば、非定型抗精神病薬)が挙げられる。好ましくは、ディスバイオーシスを誘発する非抗生物質薬物は、化学療法剤またはプロトンポンプ阻害剤である。特に、ディスバイオーシスを誘発する化学療法剤は、細胞傷害剤または細胞増殖抑制剤であり得る。ある態様では、ディスバイオーシスを誘発する化学療法剤は、アルキル化剤、アントラサイクリン、細胞骨格破壊剤、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼIまたはIIの阻害剤、キナーゼ阻害剤、ヌクレオチド類似体および前駆体類似体、白金ベース剤、レチノイド、並びにビンカアルカロイドおよび誘導体からなる群から選択することができる。ディスバイオーシスを誘発する化学療法剤の具体的な非限定的な例としては、5-フルオロウラシル(5-FU)およびイリノテカンが挙げられる。
【0128】
ディスバイオーシスを誘発する抗生物質は、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、キノロン、リンコサミド、マクロライド、スルホンアミド、グリコペプチド、アミノグリコシド、カルバペネム、アンサマイシン、カルバセフェム、リポペプチド、モノバクタム、ニトロフラン、オキサゾリジノン、およびポリペプチドからなる群から選択することができる。
【0129】
ある態様では、前記抗生物質は、アミノグリコシドであることができる。アミノグリコシドの非限定的な例としては、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、およびスペクチノマイシンが挙げられる。
【0130】
ある態様では、前記抗生物質は、アンサマイシンであってもよい。アンサマイシンの非限定的な例としては、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、およびリファキシミンが挙げられる。
【0131】
ある態様では、前記抗生物質は、ロラカルベフなどのカルバセフェムであってもよい。
【0132】
ある態様では、前記抗生物質は、カルバペネムであってもよい。 カルバペネムの非限定的な例としては、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、およびメロペネムが挙げられる。
【0133】
ある態様では、前記抗生物質は、セファロスポリン(例えば、第1、第2、第3、第4、または第5世代)であってもよい。第1世代のセファロスポリンの非限定的な例としては、セファドロキシル、セファゾリン、セフラジン、セファピリン、セファロチン、およびセファレキシンが挙げられる。第2世代のセファロスポリンの非限定的な例としては、セファクロル、セフォキシチン、セフォテタン、セファマンドール、セフメタゾール、セフォニシド、ロラカルベフ、セフプロジル、およびセフロキシムが挙げられる。第3世代のセファロスポリンの非限定的な例としては、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、モキサラクタム、およびセフトリアキソンが挙げられる。第4世代のセファロスポリンの非限定的な例としては、セフェピムが挙げられる。第5世代のセファロスポリンの非限定的な例としては、セフタロリン、フォサミル、およびセフトビプロールが挙げられる。
【0134】
ある態様では、前記抗生物質は、糖ペプチド抗生物質であってもよい。糖ペプチド抗生物質の非限定的な例としては、テイコプラニン、バンコマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、およびオリタバンシンが挙げられる。
【0135】
ある態様では、前記抗生物質は、リンコサミドであってもよい。リンコサミドの非限定的な例としては、クリンダマイシンおよびリンコマイシンが挙げられる。
【0136】
ある態様では、前記抗生物質は、ダプトマイシンなどのリポペプチド抗生物質であってもよい。
【0137】
ある態様では、前記抗生物質は、マクロライドであってもよい。マクロライドの非限定的な例としては、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、スピラマイシン、およびフィダキソマイシンが挙げられる。
【0138】
ある態様では、前記抗生物質は、アズトレオナムなどのモノバクタムであってもよい。
【0139】
ある態様では、前記抗生物質は、ニトロフランであってもよい。ニトロフランの非限定的な例としては、フラゾリドンおよびニトロフラントインが挙げられる。
【0140】
ある態様では、前記抗生物質は、オキサゾリジノンであってもよい。オキサゾリジノンの非限定的な例としては、リネゾリド、ポジゾリド、ラデゾリド、およびトレゾリドが挙げられる。
【0141】
ある態様では、前記抗生物質は、ペニシリンであってもよい。ペニシリンの非限定的な例としては、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ペニシリンG、テモシリン、およびチカルシリンが含まれる。
【0142】
ある態様では、前記抗生物質は、ポリペプチド抗生物質であってもよい。ポリペプチド抗生物質の非限定的な例としては、バシトラシン、コリスチン、およびポリミキシンBが挙げられる。
【0143】
ある態様では、前記抗生物質は、キノロン/フルオロキノロンであってもよい。キノロン/フルオロキノロンの非限定的な例としては、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナジフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、およびテマフロキサシンが挙げられる。
【0144】
ある態様では、前記抗生物質は、スルホンアミドであってもよい。スルホンアミドの非限定的な例としては、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルイミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、およびスルホンアミドクリソイジンが挙げられる。
【0145】
ある態様では、前記抗生物質は、テトラサイクリンであってもよい。テトラサイクリンの非限定的な例としては、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、およびテトラサイクリンが挙げられる。
【0146】
したがって、抗生物質の非限定的な例としては、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、リファキシミン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セフラジン、セファピリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セフォキシチン、セフォテタン、セファマンドール、セフメタゾール、セフォニシド、ロラカルベフ、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、モキサラクタム、セフトリアキソン、セフェピム、セフタロリンフォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、オリタバンシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、スピラマイシン、フィダキソマイシン、アズトレオナム、フラゾリドン、ニトロフラントイン、リネゾリド、ポジゾリド、ラデゾリド、トレゾリド、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ペニシリンG、テモシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナジフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルイミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、スルホンアミドクリソイジン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、チアンフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾール、およびトリメトプリムが挙げられる。
【0147】
ある態様では、前記抗生物質は、アンピシリンなどのペニシリンであってもよい。ある態様では、前記抗生物質は、セフォペラゾンなどの(第3世代の)セファロスポリンであってもよい。いくつかの例では、前記抗生物質は、バンコマイシンなどの糖ペプチド抗生物質であってもよい。特定の実施形態では、前記抗生物質は、メトロニダゾールであってもよい。特に好ましくは、前記抗生物質は、バンコマイシン、アンピシリン、メトロニダゾール、およびセフォペラゾンからなる群から選択することができ;特に、前記抗生物質は、アンピシリンまたはセフォペラゾンであることができる。
【0148】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、または前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、抗生物質と組み合わせて投与されない。
【0149】
一般に、ディスバイオーシス誘発剤は、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子と組み合わせることができる。前記核酸によってコードされるATP加水分解酵素は、組み合わされたときにその効果を発揮する、作用の場(例えば、ヒトまたは動物の体内)で、ディスバイオーシス誘発剤が前記ATP加水分解酵素と組み合わされるように発現され得る。
【0150】
一般的に、(i)本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)本明細書に記載の前記ATP-加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子との「組合せ」は、組み合わされた状態で両成分がそれぞれの効果を発揮することができることを意味する。このため、両成分の効果の時間窓は通常重なり合っている。したがって、両成分の効果は、人体又は動物体内で同時に現れる(1つ又は両方の成分が物理的にもはや存在していないとしても)。ある態様では、両成分は、人体又は動物体内で同時に(物理的に)存在していてもよい。
【0151】
したがって、(i)本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤による処置は、(ii)本明細書に記載の、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子による処置と重複し得る。一方の成分(i)または(ii)が他方の成分((i)または(ii)の他方)と、例えば同日に投与されない場合でも、それらの処置スケジュールは、通常、関連し合っている。これは、本発明の文脈における「組合せ」は、成分(i)および(ii)のうちの他の成分による処置が既に終了している場合、特に、一方の成分(i)または(ii)による処置の開始を含まないことを意味する。
【0152】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、もしくはウイルス粒子の最初の投与は、前記ディスバイオーシス誘発剤による(最後の)処置(例えば、前記ディスバイオーシス誘発剤の最後の投与)の後、1週間以内(好ましくは3日以内、より好ましくは2日以内、さらにより好ましくは1日以内)に開始することができる。ある態様では、前記ディスバイオーシス誘発剤の最初の投与は、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子による(最後の)処置(例えば、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子の最後の投与)の後、1週間以内(好ましくは3日以内、より好ましくは2日以内、さらにより好ましくは1日以内)に開始する。
【0153】
例えば、(i)本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子との組合せにおいて、一方の成分((i)または(ii))を、1週間に1回または2回投与することができ(例えば、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤)、他方の成分を、1日1回投与することができる(例えば、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子)。この例では、一方の成分の1日1回の投与の数日に、他方の成分も投与される。しかし、別の例では、両成分が1週間に1回投与される場合、いくつかの週では、両成分が投与される場合がある(同日に投与されなくても、処置スケジュールが重複する)。成分の一方が1回だけ投与され、他方の成分が繰り返し投与される場合、通常、一方の成分の1回の投与は、他方の成分の処置サイクル内にある(同日に投与されなくても)。
他の実施形態では、両成分は、重複する期間、すなわち、両成分が投与される少なくとも数日間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間、またはそれ以上)、両成分が1日1回投与される。一般に、組合せを達成するために、一方の成分の作用が他方の成分の作用と重複する限り、一方の成分を投与することができる。
【0154】
(i)本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤および/または(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子の投与は、繰り返し(複数回、すなわち、2回以上)の投与、例えば、複数回の注射および/または複数回の経口投与を必要とすることがある。したがって、前記投与は、少なくとも2回、または、例えば1日1回繰り返してもよい。したがって、(i)本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、もしくはウイルス粒子とは、繰り返しまたは継続的に投与されてもよい。本明細書に記載の前記ディスバイオーシス誘発剤、および前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、もしくはウイルス粒子は、少なくとも1、2、3、若しくは4週間;2、3、4、5、6、8、10、若しくは12か月間;或いは2、3、4、若しくは5年間、繰り返し又は継続的に投与されてもよい。例えば、前記ディスバイオーシス誘発剤モジュレーターは、1日に2回、1日に1回、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1月に1回、又は2か月毎、投与されてもよい。例えば、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、または前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、1日に2回、1日に1回、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1月に1回、又は2か月毎、投与されてもよい。
【0155】
ある態様では、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤;および/または(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物または、前記ウイルス粒子は、同日に投与される。ある態様では、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤;および/または(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、繰り返し投与される。例えば、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、1日1回投与されてもよく、前記ディスバイオーシス誘発剤は、他方の成分(前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子)が投与される日に、1週間に1回または2回、投与される。
【0156】
ある態様では、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、略同時に投与してもよい。本願明細書中、「略同時に」とは、特に、同時投与、或いは、成分(i)の投与直後に成分(ii)投与されること、又はその逆を意味する。当業者であれば、「直後」が第二の投与を準備するのに必要な時間、例えば、「投与器具」(例えば、注射器、ポンプ等)の適切な準備と共に、第二の投与を行う部位を露出させ殺菌するのに必要な時間、を含むことを理解するであろう。同時投与は、また、両成分の投与の期間が重複する場合、又は、例えば、一方の成分が、例えば、注入により、30分、1時間、2時間、又はそれ以上等長時間にわたって投与され、他方の成分が前記長時間内に投与される場合を含む。
【0157】
好ましくは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子とは、連続的に投与される。より好ましくは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤は、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が投与される前に投与されてもよい。或いは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤は、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が投与された後に投与されてもよい。連続投与では、両成分(i)および(ii)の投与間の時間間隔は、両成分(i)および(ii)の投与間として、好ましくは1週間以内、より好ましくは3日以内、さらにより好ましくは2日以内、最も好ましくは24時間以内である。(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子が同日に投与されることが特に好ましい。両成分(i)及び(ii)の投与間の時間は、12時間以内、好ましくは6時間以内、より好ましくは3時間以内、例えば、2時間以内または1時間以内であってもよい。
【0158】
前記ディスバイオーシス誘発剤と、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子とは、様々な投与経路、例えば、全身的又は局所的に投与することができる。全身的投与の経路としては、一般に、経腸および非経口経路が挙げられ、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、および腹腔内経路を含む。前記ディスバイオーシス誘発剤と、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子とは、同一または異なる投与経路を介して投与されてもよい。
【0159】
前記したように、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、好ましくは、経腸投与経路を介して投与される。同様に、前記ディスバイオーシス誘発剤は、経腸投与経路を介して投与されてもよい。経腸投与経路としては、例えば、経口、舌下、および直腸投与、ならびに胃管を介した投与が挙げられる。経口投与が好ましい場合もある。しかし、前記ディスバイオーシス誘発剤は、非経口投与経路を介して投与されてもよい(例えば、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子を経腸投与経路を介して投与する場合)。非経口投与の非限定的な例としては、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、結節内、腹腔内、および皮下投与経路が挙げられる。ある態様では、前記ディスバイオーシス誘発剤は、静脈内または皮下に投与することができる。
【0160】
特定の実施形態では、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子とは、前記の経腸または非経口経路のいずれかなどの同一投与経路を介して投与される。
【0161】
前記ディスバイオーシス誘発剤と、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子とは、同一組成物中または異なる組成物中に設けられてもよい。好ましくは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、例えば、前記したように、異なる組成物中に設けられてもよい。これにより、異なる他の成分、例えば、異なるビヒクルを、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤、および(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子のために用いることができる。さらに、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、異なる投与経路および用量(特に、各用量の関係)で、実際の必要性に応じて調整することができる。
【0162】
キット
本発明はまた、
(i)本明細書に記載のATP加水分解酵素と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0163】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、本明細書に記載の核酸と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0164】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の宿主細胞と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0165】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の微生物と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0166】
本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載のウイルス粒子と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0167】
特に、本発明はまた、
(i)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の細菌と、
(ii)ディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
特に、前記細菌は、前記ATP加水分解酵素、好ましくはアピラーゼを異種発現する組換え細菌である。
【0168】
したがって、本発明は、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置における使用のための、
(i)a)本明細書に記載のATP加水分解酵素、
b)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、本明細書に記載の核酸、
c)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の宿主細胞;
d)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の微生物;
e)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載のウイルス粒子;または
f)ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、本明細書に記載の細菌と、
(ii)本明細書に記載のディスバイオーシス誘発剤と、
を含むキットを提供する。
【0169】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞、微生物、またはウイルス粒子(例えば、細菌)の詳細な説明は、前記キットについても同様に適用される。同様に、前記ディスバイオーシス誘発剤の詳細な説明も、前記キットについて適用される。更に、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、または前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、前記組成物に含まれ得る。同様に、前記ディスバイオーシス誘発剤は、前記したように、組成物に含まれていてもよい。前記組成物の詳細な説明は、前記ディスバイオーシス誘発剤を含む組成物についても同様に適用される。さらに、前記キットは、特に、本明細書に記載されるように、ディスバイオーシスまたはディスバイオーシス関連疾患の処置のために、医学において使用することができる。
【0170】
ある態様では、かかるキットは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素をコードする、前記核酸とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、前記宿主細胞とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、前記微生物とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、前記ウイルス粒子とを含む。したがって、前記ディスバイオーシス誘発剤の詳細な実施形態は、本発明に係るキットにも適用される。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする前記核酸、または前記宿主細胞、前記微生物、若しくは前記ウイルス粒子の詳細な実施形態は、本発明に係るキットにも適用される。
【0171】
前記キットの様々な成分は、1以上の容器にパッケージすることができる。ある態様では、異なる成分;特に、成分(i)および(ii)、すなわち、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、または前記ウイルス粒子は、別々の容器中に設けられる。前記各成分を含む別々の容器は、例えば、箱/容器内に一緒に設けてもよい。前記成分は、凍結乾燥または乾燥形態で提供されてもよく、または好適な緩衝液に溶解されていてもよい。例えば、前記キットは、前記ディスバイオーシス誘発剤を含む(医薬)組成物と、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記宿主細胞、前記微生物、若しくは前記ウイルス粒子のいずれかを含む(医薬)組成物とを、例えば、各組成物を別々の容器に含んでもよい。前記キットはまた、前記ディスバイオーシス誘発剤と、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする前記核酸、又は前記宿主細胞、前記微生物、若しくは前記ウイルス粒子のいずれかとの両方を含む(医薬)組成物を含んでもよい。
【0172】
前記キットはまた、例えば、前記成分の保存および/または再構成のための緩衝液、洗浄溶液などを含む、更なる試薬を含んでもよい。
【0173】
さらに、キットオブパーツは、任意に、使用説明書を含んでもよい。好ましくは、前記キットはさらに、(i)前記ディスバイオーシス誘発剤と、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする前記核酸、または前記宿主細胞、前記微生物、若しくは前記ウイルス粒子との組合せを使用することによって、ディスバイオーシス又はディスバイオーシス関連疾患を処置するための指示が記載されたパッケージインサート又はラベルを含む。例えば、前記した本発明に係る組合せを使用するための指示は、投与レジメンを含んでもよい。
【0174】
以下では、添付図面の簡単な説明が与えられる。これらの図面は、本発明をより詳細に説明することを意図している。しかし、これらの図面は、本発明の主題を何ら限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【
図1】
図1は、ペリプラズムATP-ジホスホヒドロラーゼ(アピラーゼ)をコードする
phoN2遺伝子を有するpHND10プラスミドのマップを示す。
【
図2】
図2は、野生型phon2タンパク質のアミノ酸配列(アピラーゼ;配列番号1)を示し、機能喪失型アイソフォームにおけるR192P置換の位置(配列番号2)を示す。
【
図3】
図3は、pHND10プラスミドの作成に用いられる
phoN2遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。
【
図4】
図4は、実施例2において、抗生物質誘発性ディスバイオーシスのマウスモデルにおける処置スケジュールを示す。
【
図5】
図5は、実施例2において、本明細書に記載されるように処置されたマウスからの盲腸サンプルの16Sシークエンシングによるメタゲノム分析を示す。コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、及びABX+
E.coli
pApyr
で処置したC57BL/6マウスの盲腸サンプルにおける細菌科レベルでのシャノン多様性指数。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【
図6】
図6は、実施例2において、アピラーゼ発現細菌による処置が、ディスバイオーシスの誘発後にベータ多様性を保存することを示す。重み付けされていないUnifrac非類似性マトリックスに基づく細菌のベータ多様性の主座標分析(PCoA)。PERMANOVAを用いた。p<0.001。
【
図7】
図7は、実施例2において、アピラーゼ発現細菌による処置が、ディスバイオーシスからのマイクロバイオームの回復を促進することを示す。ヒートマップは、実験群、即ち、未処置(コントロール);ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
で処置したC57BL/6マウスを区別する盲腸の微生物叢における細菌種を示す。種は、DESeq2リードカウントの規格化後のFDR p値補正を使用するWald検定で、p<0.05にしたがって選択した。各行は、1つの種を表し、各列は個々のマウスを表す。未処置(コントロール)、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
で検出された種の平均相対存在量(log10)を示す。
【
図8-1】
図8-1は、実施例2において、DESeq2リードカウントの規格化後のFDR p値補正を使用するWald検定で計算される、
図7に示されるヒートマップに関連するp値を示す。
【
図8-2】
図8-2は、実施例2において、DESeq2リードカウントの規格化後のFDR p値補正を使用するWald検定で計算される、
図7に示されるヒートマップに関連するp値を示す。
【
図9】
図9は、実施例3において、ディスバイオーシスの誘発後の
Citrobacter rodentium感染のマウスモデルにおける処置スケジュールを示す。
【
図10】
図10は、実施例3において、未処置マウス(コントロール)、
C.rodentiumに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.rodentiumに感染させたマウスにおける体重変化(%)を示す。平均±SEMが示される。双方向ANOVAを用いた。
**p<0.01、
***p<0.001。
【0176】
【
図11】
図11は、実施例3において、未処置マウス(コントロール)、
C.rodentiumに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.rodentiumに感染させたマウスにおける、感染後6日目の盲腸粘膜固有層における、(CD45
+Gr1
+CD11b
+としてゲーティングされる)PMN細胞の浸潤の統計分析を示す。
E.coli
pApyr
で処置し、
C.rodentiumに感染させたマウスの盲腸粘膜固有層におけるPMN細胞の浸潤が低減される。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図12】
図12は、実施例3において、未処置マウス(コントロール)、
C.rodentiumに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.rodentiumに感染させたマウスにおける、感染後6日目の盲腸粘膜固有層における、(CD45
+CD11b
+Ly6c
+Ly6g
-としてゲーティングされる)炎症性単球の浸潤の統計分析を示す。
E.coli
pApyr
で処置し、
C.rodentiumに感染させたマウスの盲腸粘膜固有層における単球の浸潤が低減される。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図13】
図13は、実施例4において、ディスバイオーシスの誘発後の
Clostridioides difficile感染のマウスモデルにおける処置スケジュールを示す。連続4日間、毎日、ABXを経口経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発させた。抗生物質処置後、回復期に、マウスに、PBS(コントロール)または10
10CFUの
E.coli
pHND19
または
E.coli
pApyr
を、4日間、経口経管投与した。4日目に、10
5個の
C.difficile VPI 10463胞子を、マウスに経口感染させた。
【
図14】
図14は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける体重変化(%)を示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficileの腸感染による体重減少が緩和される。平均±SEMが示される。双方向ANOVAを用いた。
*p<0.05、
***p<0.001。
【
図15】
図15は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける臨床スコアの変化を示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficileに感染したマウスの臨床スコアが改善される。平均±SEMが示される。双方向ANOVAを用いた。
***p<0.001。
【
図16】
図16は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスの生存率(%)を示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficileに感染させたマウスの生存期間が改善される。ログランク(Mantel-Cox)検定を用いた。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図17】
図17は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける腸の長さを示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficile感染により誘発される大腸炎が緩和される。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図18】
図18は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける、感染後72時間での便中リポカイン2レベルを示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficile感染により誘発される腸の炎症が緩和される。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図19】
図19は、実施例4において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける、感染後72時間での血清中リポカイン2レベルを示す。
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficile感染により誘発される全身性の炎症が緩和される。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図20】
図20は、実施例5において、セフォペラゾンによるディスバイオーシスの誘発後の
Clostridioides difficile感染のマウスモデルにおける処置スケジュールを示す。ディスバイオーシスは、5日間、夜に、セフォペラゾン(2.5mg/マウス)を経口経管投与することにより誘発した。セフォペラゾン処置と共に、10
10CFUの
E.coli
pHND19
又は
E.coli
pApyr
を朝に、経口経管投与した。6日目に、セフォペラゾン処置を中止し、
E.coli
pHND19
又は
E.coli
pApyr
の経口経管投与は、さらに3日間延長した。次いで、マウスに、10
5の
C.difficile VPI 10463胞子を経口感染させた。腸の炎症を評価するために、感染後72時間でマウスを分析した。
【0177】
【
図21】
図21は、実施例5において、
図20に示されるディスバイオーシス/
Clostridioides difficile感染接種モデルにおけるマウスの生存率を示す。感染前、マウスに、2.5mg/マウスのセフォペラゾンを夜に、10
10CFUの
E.coli
pHND19
又は
E.coli
pApyr
を朝に、毎日、経口経管投与した。6日目に、セフォペラゾン処置を中止し、細菌による処置のみを、さらに3日間連続して行った。次いで、マウスに、10
5の
C.difficile VPI 10463胞子を経口感染させた。未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスの生存率(%)。同図は、
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficileに感染させたマウスにおける生存期間が改善されることを示す。ログランク(Mantel-Cox)検定を用いた。
*p<0.05、
***p<0.001。
【
図22】
図22は、実施例5において、未処置マウス(コントロール)、
C.difficileに感染させたマウス、又は
E.coli
pHND19
若しくは
E.coli
pApyr
で前処置し、次いで、
C.difficileに感染させたマウスにおける、感染後24時間での臨床スコアを示す。データから、
E.coli
pApyr
による処置により、
C.difficileに感染させたマウスにおける臨床スコアが改善されることを示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p≦0.05、
**p≦0.01、
****p≦0.0001。
【
図23】
図23は、実施例6において、
E.coli
pBAD28
又は
E.coli
pApyr
を有するC57BL/6GFマウスの単コロニー形成(monocolonization)のスケジュールを示す。無菌マウスに、5×10
9CFU/マウスの
E.coli
pBAD28
又は
E.coli
pApyr
を経口経管投与し、28日後、トランスクリプトーム分析を行うために、腸上皮細胞を精製した。
【
図24】
図24は、実施例6において、単コロニー形成動物の腸上皮細胞における遺伝子転写を示す。Volcanoプロットは、各遺伝子(ドット)に関し、ノトバイオートの
E.coli
pApyr
vs
E.coli
pBAD28
WTマウスにおける差次的発現変動[log
2倍率変化(log
2FC)]およびそれに関連する統計的有意性(log
10p値)を示す。濃い灰色のドットは、FDR補正されたp値<0.05および|log
2FC|>1を有する遺伝子を示す。また、79個のダウンレギュレートされた遺伝子及び53個のアップレギュレートされた遺伝子(FDR補正されたp値<10
-5及び|log
2FC|>1.5)が、2つの長方形で強調される。
【
図25】
図25は、実施例6において、
E.coli
pApyr
vs
E.coli
pBAD28
単コロニー形成マウスにおける遺伝子オントロジー(GO)解析による、差次的に発現する遺伝子(FDR補正されたp値<0.05及び|log
2FC|>1)の相対発現レベル(Z-スコア)を示す。Z-スコアは、下記式の通り、アップレギュレートされた遺伝子の数からダウンレギュレートされた遺伝子の数を減じ、分析された遺伝子の総数の平方根で除して計算した。
【数1】
【
図26】
図26は、実施例6において、
E.coli
pApyr
vs
E.coli
pBAD28
腸上皮細胞における差次的に発現する遺伝子(FDR補正されたp値<0.05及びlog
2FC>1)の遺伝子オントロジー分析を示す。
【
図27】
図27は、実施例7において、コントロール(PBS処置)、抗生物質(ABX)処置、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6マウスにおける4日間の抗生物質処置および4日間の回復後の血糖変化を示す(
図4の図を参照)。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図28】
図28は、実施例8において、セフォペラゾン媒介性ディスバイオーシスのマウスモデルにおける実験スケジュール、および回復プロトコルを示す。セフォペラゾン(2.5mg/マウス)を、5日間、夜に、経口経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発した。同時に、10
10CFUの
E.coli
pHND19
又は
E.coli
pApyr
を、朝に、経口経管投与した。
E.coli
pHND19
及び
E.coli
pApyr
による処置を、図示されるように、セフォペラゾンによる処置後も行った。
【
図29】
図29は、実施例8において、コントロール(PBS処置)、セフォペラゾン処置、セフォペラゾン+
E.coli
pHND19
、およびセフォペラゾン+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6マウスにおける実験後の体重変化を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図30】
図30は、実施例8において、コントロール(PBS処置)、セフォペラゾン処置、セフォペラゾン+
E.coli
pHND19
、およびセフォペラゾン+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6マウスにおける、マウスの体重を基準とする白色脂肪組織沈着のパーセントを示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【0178】
【
図31】
図31は、実施例9において、抗生物質誘発性ディスバイオーシスのマウスモデルにおける実験スケジュールを示す。コントロールマウスを除き、4日間連続して、ABXを毎日、経口経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発した。抗生物質処置と同日に、マウスに、12時間ごとに、PBSまたは40μgの精製組換えアピラーゼを経口経管投与した。
【
図32】
図32は、実施例9において、コントロール(PBS処置)、抗生物質(ABX)処置、ABX+アピラーゼ処置C57BL/6マウスにおける血糖変化を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【
図33】
図33は、実施例9において、コントロール(PBS処置)、抗生物質(ABX)処置、ABX+アピラーゼ処置C57BL/6マウスにおけるWAT沈着(%)を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【
図34】
図34は、実施例6において、単コロニー形成
Igh-J
-/-
動物の腸上皮細胞における遺伝子転写を示す。Volcanoプロットは、各遺伝子(ドット)に関し、ノトバイオートの
E.coli
pApyr
vs
E.coli
pBAD28
Igh-J
-/-
マウスにおける差次的発現[log
2倍率変化(log
2FC)]およびそれに関連する統計的有意性(logic p値)を示す。2つの象限は、
図24に示されるWTマウスで行った実験と同一の実験で最も顕著に制御された遺伝子を強調するために使用される、FDR補正されたp値<10
-5および|log
2FC|>1.5に対応する領域を表す。
【
図35】
図35は、実施例6において、
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成された野生型C57BL/6マウスにおける体重変化を示す。平均±SEMが示される。双方向ANOVAを用いた。
**p<0.01。
【
図36】
図36は、実施例6において、野生型C57BL/6GFマウス、又は
E.coli
pApyr
若しくは
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたマウスにおいて測定された空腹時血糖値を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図37】
図37は、実施例6において、野生型C57BL/6GFマウス、又は
E.coli
pApyr
若しくは
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたマウスにおける血清インスリン量を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図38】
図38は、実施例6において、野生型C57BL/6GFマウス、又は
E.coli
pApyr
若しくは
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたマウスにおける白色脂肪組織(WAT)沈着の量を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05;
**p<0.01。
【
図39】
図39は、実施例6において、野生型C57BL/6GFマウス、又は
E.coli
pApyr
若しくは
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたマウスにおけるグルコース負荷試験(GTT)によって決定したグルコース恒常性を示す。平均±SEMが示される。双方向ANOVAを用いた。
*p<0.05、
**p<0.01、
****p<0.0001。
【
図40】
図40は、実施例6において、
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたC57Bl/6
Igh-J
-/-
マウスにおける体重変化を示す。平均±SEMが示される。双方向ANOVAは、2群間に統計的有意差を示さなかった。
【0179】
【
図41】
図41は、実施例6において、
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたC57Bl/6
Igh-J
-/-
マウスにおいて測定された空腹時血糖値を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定は、2群間に統計的有意差を示さなかった。
【
図42】
図42は、実施例6において、
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成されたC57Bl/6
Igh-J
-/-
マウスにおけるグルコース負荷試験(GTT)によって決定したグルコース恒常性を示す。平均±SEMが示される。双方向ANOVA検定は、2群間に統計的有意差を示さなかった。
【
図43】
図43は、実施例7において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6マウスにおける、総体重を基準とするWAT沈着を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図44】
図44は、実施例7において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
C57BL/6
Igh-J
-/-
マウスにおける4日間の抗生物質処置および4日間の回復後の血糖変化を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図45】
図45は、実施例7において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
C57BL/6
Igh-J
-/-
マウスにおける、総体重を基準とするWAT沈着を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【
図46】
図46は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6野生型マウスにおける、総体重を基準とする盲腸の重量を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図47】
図47は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6野生型マウスのMLNから回収した好気性細菌のコロニー形成単位(CFU)を示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図48】
図48は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6野生型マウスのMLNから回収した嫌気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図49】
図49は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6
Igh-J
-/-
マウスにおける、総体重を基準とする盲腸の重量を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【
図50】
図50は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57Bl/6
Igh-J
-/-
マウスのMLNから回収した好気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01。
【0180】
【
図51】
図51は、実施例10において、コントロール、ABX、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57Bl/6
Igh-J
-/-
マウスのMLNから回収した嫌気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図52】
図52は、実施11における、EcNゲノムにおける
S.flexneri phoN2遺伝子の組み込みのためのDNA断片挿入を示す。
malPは、マルトデキストリンホスホリラーゼのためのEcN遺伝子であり;
catは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのための
E.coli遺伝子であり;
phoN2は、アピラーゼのための
S.flexneri遺伝子であり;
malTは、マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤のためのEcN遺伝子であり;FRTは、フリッパーゼ認識標的配列であり;P
catは、cat遺伝子のプロモーターであり;P
proDは、
phoN2遺伝子のプロモーターであり;BBa_BB0032 RBSは、
phoN2遺伝子のリボソーム結合部位であり;T
phoN2は、
phoN2遺伝子の転写ターミネーターである。
【
図53】
図53は、実施例11におけるEcN
malP遺伝子部位のヌクレオチド配列(配列番号6)を示す。
malP終止コドンは太字で示されている。
【
図54】
図54は、実施例11における、EcN
malT遺伝子部位のヌクレオチド配列(配列番号7)を示す。
malT開始コドンは太字で示されている。
【
図55】
図55は、実施例11において、前記P
proDプロモーター、前記BBa_BB0032 RBS、前記
S.flexneri phoN2遺伝子、及び前記
phoN2転写ターミネーターを含むDNA断片のヌクレオチド配列(配列番号8)を示す。前記P
proD配列には下線が付与されている。前記BBa_BB0032 RBSはイタリック体で示されている。前記
phoN2開始及び終止コドンは太字で示されている。前記
phoN2転写ターミネーターは太字のイタリック体で示されている。
【
図56】
図56は、実施例11において、FRT配列が隣接(flanked)された
E.coli cat遺伝子を含むDNA断片のヌクレオチド配列(配列番号9)を示す。前記cat開始及び終止コドンは太字で示されている。前記FRT配列はイタリック体で示されている。
【
図57】
図57は、実施例11において、EcN::
phoN2の
malP-phoN2-malT組換え遺伝子部位を示す。
malPはマルトデキストリンホスホリラーゼのためのEcN遺伝子を示し;
phoN2はアピラーゼのための
S.flexneri遺伝子を示し;
malTはマルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤のためのEcN遺伝子を示し;FRTはフリッパーゼ認識標的配列を示し;P
proDは
phoN2遺伝子のプロモーターを示し;BBa_BB0032 RBSは
phoN2遺伝子のリボソーム結合部位を示し;T
phoN2は
phoN2遺伝子の転写ターミネーターを示す。
【
図58】
図58は、実施例11において、非組換え
E.coli Nissel(EcN)抽出物と比較した、組換え
E.coli Nissel(EcN)EcN::
phoN2ペリプラズム抽出物におけるアピラーゼ検出を示す。EcN及びEcN::
phoN2クローン1(cl 1)菌は、LB培地において37℃で2.5時間培養され、遠心分離により集菌された。各培養菌のペリプラズム断片は、トリクロロ酢酸(TCA)で分離及び沈殿され、Laemmli緩衝液で安定化され、ポリクローナル抗アピラーゼ・ウサギ血清を用いたウェスタンブロット法により分析された。
【
図59】
図59は、実施例11において、EcN::
phoN2ペリプラズム抽出物によるATPの用量依存分解性を示す。EcN及びEcN::
phoN2クローン1(cl 1)菌は、LB培地において37℃で6時間培養され、遠心分離により集菌された。各培養菌のペリプラズム断片は、分離され、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水で透析され、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水で段階希釈された。ペリプラズム抽出物(PE)におけるアピラーゼ活性は、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水対する50μMのATPの分解のパーセンテージとして計測された。PEにおけるアピラーゼ活性は、組換えホタルルシフェラーゼ及びその基質であるD-ルシフェリンを用いたATP依存性生物発光アッセイにより、製造業者のプロトコル(Life Technologies Europe B.V.)に従って評価された。
【
図60】
図60は、実施例12において、抗生物質誘発性ディスバイオーシスのモデルを示す実験レイアウトを示す。8週齢のC57BL/6雄性マウスを、4つの異なる実験群に無作為に割り当てた:即ち、未処置(コントロール)、抗生物質(ABX:マウス1頭当たり、滅菌水200μl中、バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg)で処置、ABXおよび10
10CFUのEcNで処置、ABXおよび10
10CFUのEcN::
phoN2で処置。
【0181】
【
図61】
図61は、実施例12において、コントロール、ABX、ABX+EcN、又はEcN::
phoN2処置C57BL/6雄性マウスにおける4日間の抗生物質処置および4日間の回復後(
図60の図を参照)の血糖変化を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図62】
図62は、実施例12において、コントロール、ABX、ABX+EcN、又はEcN::
phoN2処置C57BL/6雄性マウスにおける、総体重を基準とするWAT沈着を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図63】
図63は、実施例13において、コントロール、ABX、ABX+EcN、又はEcN::
phoN2処置C57BL/6雄性マウスにおける、総体重を基準とする盲腸の重量を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図64】
図64は、実施例13において、コントロール、ABX、ABX+EcN、又はEcN::
phoN2処置C57BL/6雄性マウスのMLNから回収した好気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図65】
図65は、実施例13において、コントロール、ABX、ABX+EcN、又はEcN::
phoN2処置C57BL/6雄性マウスのMLNから回収した嫌気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図66】
図66は、実施例14において、
Lactococcus lactisを形質転換するために使用される、アピラーゼをコードする
phoN2遺伝子を有するpNZ-Apyrプラスミドのマップを示す。P
nisA、
nisinA誘導性プロモーター;SP
usp45:
usp45遺伝子のシグナル配列;
phoN2:
S.flexneriアピラーゼ遺伝子;
repC:複製遺伝子C;
repA:複製遺伝子A;
camR(
cat):クロラムフェニコール耐性遺伝子。
【
図67】
図67は、実施例15において、総カロリーのパーセンテージとして表される各食餌の各成分の概略図を示す:通常の食餌(ND:タンパク質20%および脂肪15%)およびディスバイオーシスを誘発可能な改変された食餌(DID:タンパク質7%および脂肪5%)。
【
図68】
図68は、実施例15において、5週齢マウスにおけるDID用実験レイアウトを示す。5週齢で、雌性C67BL/6マウスを、通常の食餌(ND:タンパク質20%および脂肪15%)またはディスバイオーシスを誘発可能な改変された食餌(DID:タンパク質7%および脂肪5%)のいずれかを摂取するように無作為に割り当てた。この期間中、DIDマウスに、PBSまたは10
10の
L.lactis
pNZ
または
L.lactis
pNZ-Apyr
を、毎日、経口経管投与した。8週間後、DIDに対するアピラーゼの効果を評価するために、マウスを殺処分し分析した。
【
図69】
図69は、実施例15において、図示される通り、マウスに、所定の食餌を8週間与え、PBS又は10
10の
L.lactis
pNZ
又は
L.lactis
pApyr
を、毎日、経口経管投与した後、デキストラン-FITC経口投与後4時間で測定した、血清中のFITC濃度を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図70】
図70は、実施例15において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置成体C57BL/6マウスのMLNから回収した好気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【0182】
【
図71】
図71は、実施例15において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置成体C57BL/6マウスのMLNから回収した嫌気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図72】
図72は、実施例15において、マウスに、所定の食餌を8週間与え、PBS又は10
10の
L.lactis
pNZ
又は
L.lactis
pApyr
を、毎日、経管投与した後、測定された便中LCN-2濃度を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図73】
図73は、実施例16において、DIDの新生仔モデル用実験レイアウトを示す。8週齢で、雌性C57BL/6マウスを、通常の食餌(ND:タンパク質20%および脂肪15%)またはディスバイオーシスを誘発可能な改変された食餌(DID:タンパク質7%および脂肪5%)のいずれかを摂取するように無作為に割り当てた。15日後、ND及びDIDマウスを、雄性マウスと交配させた。生誕直後から開始して、DIDの新生仔に、PBSまたは10
8の
L.lactis
pNZ
または
L.lactis
pNZ-Apyr
を、生誕後21日目まで、1週間に2回、経口経管投与した。体重、尾の長さ、及び挙動について、毎日、新生仔をモニターした。
【
図74】
図74は、実施例16において、生誕後21日での、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
マウスにおけるデキストラン-FITC経口投与後4時間で測定した、血清中のFITC濃度を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図75】
図75は、実施例16において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置21日齢C57BL/6マウスのMLNから回収した好気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図76】
図76は、実施例16において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置21日齢C57BL/6マウスのMLNから回収した嫌気性細菌のCFUを示す。破線は、検出下限を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05。
【
図77】
図77は、実施例17において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置C57BL/6マウスにおける、生誕後21日で測定した体重変化を示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
**p<0.01、
****p<0.0001。
【
図78】
図78は、実施例17において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置C57BL/6マウスにおける、生誕後21日で測定した尾の長さを示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
****p<0.0001。
【
図79】
図79は、実施例17において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置C57BL/6マウスにおける、生誕後21日で測定した小腸の長さを示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図80】
図80は、実施例17において、ND、DID、DID+
L.lactis
pNZ
、及びDID+
L.lactis
pNZ-Apyr
処置C57BL/6マウスにおける、生誕後21日で測定した結腸の長さを示す。平均±SEMが示される。両側マンホイットニーU検定を使用した。
*p<0.05、
**p<0.01、
****p<0.0001。実施例
【0183】
以下に、本発明の様々な実施形態及び態様を説明する具体例を提示する。しかし、本発明は、本明細書に記載する特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。以下の調製及び実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施することができるように与えられるものである。しかし、本発明は、例示される実施形態によって範囲が限定されるものではなく、前記実施形態は、本発明の1つの態様を説明することのみを意図し、機能的に等価な方法は、本発明の範囲内である。実際、本明細書に記載するものに加えて本発明の様々な変形例は、上述の記載、添付図面、及び以下の実施例から当業者に容易に明らかになる。すべてのかかる変形例は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【0184】
実施例1:アピラーゼ発現細菌の設計及び作成
アピラーゼを発現する細菌を得るため、ヘマグルチニン(HA)断片をタグとして有するShigella flexneri(配列番号1)のペリプラズムATPジホスホヒドラーゼ(アピラーゼ)を発現する、phoN2::HA融合の全長を、PBAD L-アラビノース誘導プロモーターの制御下で、プラスミドpBAD28(ATCC 8739387402)のポリリンカー部位にクローニングした。これにより、概ね、下記の論文に従って作成された。Santapaola, D., Del Chierico, F., Petrucca, A., Uzzau, S., Casalino, M., Colonna, B., Sessa, R., Berlutti, F., and Nicoletti, M. (2006);Apyrase, the product of the virulence plasmid-encoded phoN2 (apy) gene, is necessary for proper unipolar IcsA localization and for efficient intercellular spread; Journal of bacteriology 188, p。1620-1627.
【0185】
コントロールとして、pHND19プラスミドを概ね下記の論文に従って作成した。Scribano、 D.、 Petrucca、 A.、 Pompili、 M.、 Ambrosi、 C.、 Bruni、 E.、 Zagaglia、 C.、 Prosseda、 G.、 Nencioni、 L.、 Casalino、 M.、 Polticelli、 F.、 et al. (2014);Polar localization of PhoN2, a periplasmic virulence-associated factor of Shigella flexneri, is required for proper IcsA exposition at the old bacterial pole.;PloS one 9、 e90230。pHND10プラスミドとは異なり、pHND19プラスミド(コントロール)は、R192P置換を有するアピラーゼの機能喪失型アイソフォームをコードするphoN2
R192P::HA融合を含む。
【0186】
図1は、ペリプラズムATP-ジホスホヒドロラーゼ(アピラーゼ)をコードする
phoN2遺伝子を有するpHND10プラスミドのマップを示す。このマップは、通常、pHND19コントロールプラスミドにも適用され、唯一の違いは、R192P置換を有するアピラーゼの機能喪失型アイソフォームが、野生型アピラーゼの代わりにコードされていることである。
図2は野生型phon2タンパク質のアミノ酸配列(アピラーゼ;配列番号1)を示し、機能喪失型アイソフォーム(配列番号2)におけるR192P置換の位置を示す。pHND10プラスミドを生成するのに用いられる
phoN2遺伝子のヌクレオチド配列が
図3に示される(配列番号3)。
【0187】
Escherichia coli DH10Bは、pHND10(E.coli
pApyr)又はpHND19R192P(E.coli
pHND19)で形質転換され、L-アラビノース(0.03%)及びアンピシリン(100μg/ml)が添加されたLB培地で増殖された。
【0188】
実施例2:アピラーゼ発現細菌の投与は、微生物叢の多様性の、ディスバイオーシスに誘発される減少を軽減する。
ディスバイオーシスからの回復におけるアピラーゼの有利な効果の可能性を調査するために、ディスバイオーシスを誘発したマウスモデルを使用した。抗生物質のミックス(ABX:バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg)を、4日間、毎日、経口経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発した。抗生物質による処置後、回復期に、マウスに、PBS(コントロール)、または、実施例1に記載される、1010CFU(コロニー形成単位)のE.coli
pApyr
若しくはR192Pアミノ酸置換を有するアピラーゼの機能喪失アイソフォームを発現するE.coli(E.coli
pHND19
)を、4日間、経口経管投与した。
【0189】
処置スケジュールを
図4に示す。8週齢のC57BL/6マウスを、4つの異なる実験群に無作為に割り当てた:即ち、未処置(コントロール)、抗生物質(ABX:マウス1頭当たり、滅菌水200μl中、バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg)で処置、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pHND19
で処置;及び、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pApyr
で処置。実験後、マウスをCO
2吸入によって殺処分し、盲腸サンプルを回収した。
【0190】
製造業者の推奨にしたがって、Fast DNA Stool Mini Kit(Qiagen)を使用して、抽出、溶解、およびDNA単離を行った。0.6gの0.1mmガラスビーズを含む2mlのスクリューキャップチューブ中、fastprep24装置(MPBiomedicals;速度4で45秒を4サイクル(4 cycles of 45s at speed 4 followed))で、ビーズ式破砕を行った。200μlの生抽出物を、DNA単離用に調製した。単離したDNAの濃度を、PicoGreen測定(Quant-iTT PicoGreenT dsDNA Assay Kit、Thermo Fisher)で評価し、完全性を、ランダムサンプル用アガロースゲル電気泳動によって確認した。
【0191】
細菌の16S rRNA遺伝子の増幅には、V3-V4超可変領域に特異的な、プライマーセットを使用した(Fw:5’-CCT ACG GGN GGC WGC AG-3’(配列番号4);及びRev:5’-GAC TAC HVG GGT ATC TAA TCC-3’(配列番号5))。続いて、イルミナMiSeqのプラットフォームと、v2 500サイクルキットとを使用して、PCRライブラリーをシーケンスした。イルミナのchastityフィルターを通った、生成されたペアエンドリードを、MiSeqレポーターソフトウェア v2.6に含まれるイルミナのリアルタイム分析ソフトウェアを使用して、イルミナアダプターレジデュアル(residuals)のデマルチプレクシング及びトリミングに付した(精製も選択もこれ以上は行わなかった)。読み取りの品質を、ソフトウェア FastQC バージョン0.11.8で確認した。配列を、Qiime2バーチャル環境で分析した(Bolyen E, Rideout JR, Dillon MR, et al. 2019. Reproducible, interactive, scalable and extensible microbiome data science using QIIME 2. Nature Biotechnology 37: 852-857. doi.org/10.1038/s41587-019-0209-9)。生配列は、合計で、4’896’770(メジアン=71942、平均=72’011.3、SD=15’891.2)であった。最初の7塩基と最後の25塩基のトリミング工程と、読み取りろ過(reads filtration)とによって、優れた品質の配列(Phred>30)が得られた。デノイジングアルゴリズム(DADA2 algorithm; Callahan BJ, McMurdie PJ, Rosen MJ, Han AW, Johnson AJ, Holmes SP. DADA2: High-resolution sample inference from Illumina amplicon data. Nat Methods. 2016;13(7):581-583. doi:10.1038/nmeth.3869)を、これらの高品質配列に対して行った。プロジェクトに使用される非キメラ読み取りを取得するために、重複領域R1とR2とを結合させた。これらは、合計で、1’145’671(メジアン=16’277、平均=16’848.1、SD=3’897.6)であった。
【0192】
分類の割り当ては、BLAST機能分類子によって行った。これは、クエリと参照読み取りとの間で、BLAST+ローカルアライメントを行う。次いで、これは、Greengeneの最後のデータベースバージョン(gg_12_10)の各クエリ配列にコンセンサス分類法を割り当てる。
【0193】
大規模な系統発生データの最尤分析を可能にする、IQ-TREE確率論的アルゴリズムに基づいて有根系統樹を構築した(Nguyen LT, Schmidt HA, von Haeseler A, Minh BQ. IQ-TREE: a fast and effective stochastic algorithm for estimating maximum-likelihood phylogenies. Mol Biol Evol. 2015;32(1):268-274. doi:10.1093/molbev/msu300)。
【0194】
アルファ多様性(シャノン指数;サンプル内リッチネス)を、メイン指数を用いて計算し、リッチネスとイーブンネスの観点からデータを調べた。アルファ多様性の推定値は、phyloseq Rパッケージを用いて計算した(McMurdie PJ, Holmes S. phyloseq: an R package for reproducible interactive analysis and graphics of microbiome census data. PLoS One. 2013;8(4):e61217. Published 2013 Apr 22. doi:10.1371/journal.pone.0061217)。アルファ多様性の統計的に有意な変化は、マンホイットニーの符号順位検定によって決定した。
【0195】
結果を
図5に示す。メタゲノム解析により、ABXおよびABX+
E.coli
pHND19
で処置したコントロールマウスにおいて、シャノン指数として表されるアルファ多様性の大幅な減少が明らかとなり、強力なディスバイオーシスが示された。しかし、ディスバイオーシス誘発後の
E.coli
pApyr
による処置により、このパラメーターの大幅な改善がもたらされた。
【0196】
異なる実験群における細菌組成の類似性を判定するために、重み付けされていないUnifracアルゴリズムによって得られた非類似性テーブルを使用して、主座標分析(PCoA)でベータ多様性(サンプル間非類似性)を分析した(Lozupone C, Knight R. UniFrac: a new phylogenetic method for comparing microbial communities. Appl Environ Microbiol. 2005;71(12):8228-8235. doi:10.1128/AEM.71.12.8228-8235.2005)。ベータ多様性の推定値は、phyloseq R パッケージを使用して計算した(McMurdie PJ, Holmes S. phyloseq: an R package for reproducible interactive analysis and graphics of microbiome census data. PLoS One. 2013;8(4):e61217. Published 2013 Apr 22. doi:10.1371/journal.pone.0061217)。順列MANOVA(PERMANOVA)を、999の順列を有するビーガンRパッケージのadonis()関数を使用して、重み付けされていないUniFrac距離に対して行った。
【0197】
結果を
図6に示す。各抗生物質処置群は未処置コントロール(PERMANOVA<0.001)とは離れてクラスターを形成したが、
E.coli
pApyr
処置マウスはコントロール群のより近くにクラスターを形成しており、生理学的な微生物叢組成の回復が改善されたことを示す。
【0198】
全集団間の微生物叢組成の違いは、DESeq2リードカウントの規格化(1遺伝子当たりの幾何平均に対する、遺伝子数のメジアン比によって決定されるサンプル固有のサイズ係数で除したカウント; Anders, S., Huber, W. Differential expression analysis for sequence count data. Genome Biol 11, R106 (2010). doi.org/10.1186/gb-2010-11-10-r106)の後に、FDR p値補正を使用するWald検定を使用して決定した。微生物叢種は、DESeq2リードカウントの規格化後のFDR p値補正を使用するWald検定で、p<0.05にしたがって選択された。
図7は、異なる実験群:即ち、コントロール、ABX処置、ABX+
E.coli
pHND19
、およびABX+
E.coli
pApyr
処置C57BL/6マウスの盲腸の微生物叢を区別する、差次的に表現されるアンプリコン配列バリアント(ASV)のヒートマップを示す。
図8は、DESeq2リードカウントの規格化後のFDR p値補正を使用するWald検定で計算される、差次的に表現されるASVのp値を示す。
【0199】
これらの結果は、アピラーゼ発現細菌の投与により、Bacteroidales、Clostridiales、Lactobacillales、及びBurkholderialesの科に属する41の種が選択的に保存された、微生物群集構造の改善を示す。Bacteroidalesのうち、Muribaculum intestinaleが、複数のASVによって検出された。この細菌種の減少は、回腸炎に対するより高い感受性と相関することが示された(Dobranowski, P.A., Tang, C., Sauve, J.P., Menzies, S.C., and Sly, L.M. (2019). Compositional changes to the ileal microbiome precede the onset of spontaneous ileitis in SHIP deficient mice. Gut Microbes 10, 578-598)。E.coli
pApyr
の投与は、二次胆汁酸であるデオキシコール酸(DCA)およびリトコール酸(LCA)の生成を通して、C.difficile感染から保護することが示された細菌である、Clostridium scindensの保存に有利にであった。C.scindens単独または細菌コンソーシアム内での再構成は、抗生物質で処置されたマウスを、C.difficile腸内コロニー形成から保護した(Buffie, C.G., Bucci, V., Stein, R.R., McKenney, P.T., Ling, L., Gobourne, A., No, D., Liu, H., Kinnebrew, M., Viale, A., et al. (2015). Precision microbiome reconstitution restores bile acid mediated resistance to Clostridium difficile. Nature 517, 205-208)。Lactobacillales科に属する各種も、E.coli
pApyr
処置マウスにおいて有意に濃縮された。特に、Lactobacillus johnsoniiとLactobacillus reuteriが有意に濃縮された。これらの2つの株は、プロバイオティクスとして一般的に使用されており、Citrobacter rodentium(Mackos, A.R., Eubank, T.D., Parry, N.M., and Bailey, M.T. (2013). Probiotic Lactobacillus reuteri attenuates the stressor-enhanced severity of Citrobacter rodentium infection. Infect Immun 81, 3253-3263)及びCampylobacter jejuni(Bereswill, S., Ekmekciu, I., Escher, U., Fiebiger, U., Stingl, K., and Heimesaat, M.M. (2017). Lactobacillus johnsonii ameliorates intestinal, extra-intestinal and systemic pro-inflammatory immune responses following murine Campylobacter jejuni infection. Sci Rep 7, 2138)の感染に対する保護を与えることが示された。
【0200】
実施例3:アピラーゼ発現細菌の投与は、ディスバイオーシス誘発後のC.rodentium感染の影響を低減する。
哺乳動物の胃腸管には、腸内病原体に対するコロニー形成耐性を与える数百もの微生物種が定着している。ディスバイオーシスは、コロニー形成耐性および腸管感染症に対する感受性の喪失をもたらす。腸管出血性Escherichia coli(EHEC)、腸管病原性E.coli(EPEC)、およびCitrobacter rodentiumは、付着および脱落(attaching and effacing)(A/E)病変形成細菌の科に属するEnterobacteriaceaeである。EHEC及びEPECは、重度の腸の炎症と下痢を引き起こし得る。さらに、非常に強力なShiga毒素(Stx)を発現するEHEC株は、感染個体の死亡に至る重篤な症例をもたらす腎毒性を引き起こす(Collins, J.W., Keeney, K.M., Crepin, V.F., Rathinam, V.A., Fitzgerald, K.A., Finlay, B.B., and Frankel, G. (2014). Citrobacter rodentium: infection, inflammation and the microbiota. Nat Rev Microbiol 12, 612-623)。ヒトのEHECおよびEPECは、抗生物質で処置された成体マウスで中等度の病原性を誘発するだけであるので、マウスにおいてこれらの感染症を模倣するために、C.rodentiumが頻繁に使用される(Collins, J.W., Keeney, K.M., Crepin, V.F., Rathinam, V.A., Fitzgerald, K.A., Finlay, B.B., and Frankel, G. (2014). Citrobacter rodentium: infection, inflammation and the microbiota. Nat Rev Microbiol 12, 612-623; Bhinder, G., Sham, H.P., Chan, J.M., Morampudi, V., Jacobson, K., and Vallance, B.A. (2013). The Citrobacter rodentium mouse model: studying pathogen and host contributions to infectious colitis. J Vis Exp, e50222; Mallick, E.M., McBee, M.E., Vanguri, V.K., Melton-Celsa, A.R., Schlieper, K., Karalius, B.J., O’Brien, A.D., Butterton, J.R., Leong, J.M., and Schauer, D.B. (2012). A novel murine infection model for Shiga toxin-producing Escherichia coli. J Clin Invest 122, 4012-4024)。
【0201】
アピラーゼ発現細菌によって誘発された微生物叢群集構造が
C.rodentium感染からの保護を与えることができるかどうかを調べるために、実施例2に記載されるように、ABXをC57BL/6マウスに4日間投与した。処置スケジュールを
図9に示す。8週齢のC57BL/6マウスを、4つの異なる実験群に無作為に割り当てた:即ち、未処置(コントロール)、抗生物質(ABX:バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg;マウス1頭当たり滅菌水200μl中)で処置、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pHND1
で処置;並びに、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pApyr
で処置。実施例2と同様に、抗生物質による処置後、マウスに、PBS(コントロール);又は10
10CFUの
E.coli
pHND19
;若しくは
E.coli
pApyr
を、4日間、経口経管投与した。
【0202】
その後、マウスに、108CFU/マウスのCitrobacter rodentiumを経口感染させた(未処置コントロール群を除く)。感染実験では、Citrobacter rodentium ATCC(登録商標)51459(DBS100株)を、LB寒天プレートで培養し、次いで、Luriaブロス中で37℃にて一晩増殖させた。
【0203】
感染後0、1、2、3、4、および5日目に、動物の体重を評価した。結果を
図10に示す。
C.rodentium感染後の体重減少率(%)の分析により、ABX単独または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置した群と比較して、
E.coli
pApyr
を経口経管投与したマウスの体重減少が低減されたことが明らかとなった。このことは、アピラーゼ発現細菌の投与が、
C.rodentium感染に対するマウスの耐性を改善することを示す。
【0204】
腸の炎症を評価するために、マウスを、感染後6日目に殺処分した。盲腸を取り出し、縦方向に開き、盲腸内容物と慎重に分離し、氷冷PBSで3回洗浄した。盲腸を、5mMのEDTAを添加したRPMIで2回、37℃で30分間消化した。次いで、ろ過した断片を、RPMI5%FBS(ウシ胎児血清)、1mg/mlコラゲナーゼII型、40μg/mlのDNase-I中で、40分間消化した。盲腸固有層細胞を含むろ過された懸濁液を、1500rpmで5分間遠心分離し、RPMI完全培地に再懸濁した。盲腸固有層からの単細胞懸濁液を、氷上で20分間、2%FBSを含むPBSで希釈した標識抗体で染色した。次のマウス抗体(mAb)を実験に使用した:FITCコンジュゲート抗マウスCD45(1:200,クローン:30F11,Cat.#:103108,Biolegend)、PeCy7コンジュゲート抗マウスCD11B(1:200,クローン:N418,Cat.#:117318,Biolegend)、ビオチン化抗マウスLy6C(1:200,クローン:HK1.4,Cat.#:128004,Biolegend)、Pacific Blueコンジュゲート抗マウスLy6G(1:200,クローン:1A8,Cat.#:127612Biolegend)、PEコンジュゲート抗マウスGr1(1:200,クローン:RB6-8C5,Cat.#:50-5931-U100,TOMBO Bioscience)、ストレプトアビジンAPC(1:200,Cat.#:405207,Biolegend)。サンプルは、LSR Fortessa(BD Biosciences、Franklin Lakes NJ、USA)フローサイトメーターで得た。FlowJoソフトウェア(TreeStar、Ashland、OR、USA)またはFACS Divaソフトウェア(BD Biosciences、Franklin Lakes NJ、USA)を使用してデータを分析した。
【0205】
異なる実験群の盲腸固有層におけるCD45
+Gr1
+CD11b
+多形核(PMN)細胞の頻度の統計分析を行った。結果を
図11に示す。これらのデータは、ABX単独、またはABXと
E.coli
pHND19
との組合せで処置した群と比較して、ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスのPMN細胞の有意な減少を示す。この結果は、
E.coli
pApyr
の投与が、
C.rodentium感染に応答した、ディスバイオーシス媒介性PMN浸潤を軽減させることを示す。
【0206】
さらに、異なる実験群の盲腸固有層におけるCD45
+CD11b
+Ly6c
+Ly6g
-炎症性単球の頻度の統計分析を行った。結果を
図12に示す。これらのデータは、ABX単独、またはABXと
E.coli
pHND19
との組合せで処置した群と比較して、ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスの炎症性単球の有意な減少を示す。PMN浸潤の低減の観察と同様に、この結果は、
E.coli
pApyr
の投与が、
C.rodentium感染に応答した、腸固有層のディスバイオーシス媒介性炎症性浸潤を軽減させることを示す。
【0207】
実施例4:アピラーゼ発現細菌の投与は、ディスバイオーシス誘発後のC.difficile感染の影響を低減する。
Clostridioides difficileは、抗生物質に関連する下痢の主因であり、細菌群集の多様性の低減及び重要な分類群の枯渇など、腸内微生物のディスバイオーシスと関連していることが示されている。
【0208】
アピラーゼ発現細菌によって誘発される微生物叢群集構造がC.difficileによる腸内侵入に対抗できるかどうかを調べるために、実施例2および3に記載されるように、ABXをC57BL/6マウスに4日間投与して、微生物叢の枯渇およびディスバイオーシスを誘発した。処置スケジュールを
図13に示す。8週齢のC57BL/6マウスを、4つの異なる実験群に無作為に割り当てた:即ち、未処置(コントロール)、抗生物質(ABX:バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg;マウス1頭当たり滅菌水200μl中)で処置、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pHND1
で処置;並びに、ABXおよび10
10CFUの
E.coli
pApyr
で処置。実施例2及び3と同様に、抗生物質による処置後、マウスに、PBS(コントロール);又は10
10CFUの
E.coli
pHND19
;若しくは
E.coli
pApyr
を、4日間、経口経管投与した。
【0209】
その後、マウスに、105のC.difficile VPI 10463胞子を経口感染させた(未処置コントロール群を除く)。この目的のために、Clostridioides difficile ATCC(登録商標)43255TM(VPI 10463 A+B+CDT-)胞子を、PBS+1%BSA中、-80℃、108/mlでストックした。胞子の力価は、5g/lの酵母抽出物と、発芽を誘導する0.1%タウロコール酸を添加したブレインハートインフュージョン(BD Biosciences)寒天プレート上に、ストックの段階希釈物をプレーティングすることによって確認した。プレートは、Oxoid AnaerogenTMを備えた気密性キャニスター内で、少なくとも24時間維持した。
【0210】
感染後0、1、2、および3日目に、動物の体重、臨床スコア、および生存期間を評価した。
Clostridioides difficile感染において使用される臨床スコアを表1に示す。
【表1】
表1:
Clostridioides difficile感染において使用される臨床スコア
【0211】
結果を、
図14(体重)、
図15(臨床スコア)、および
図16(生存期間)に示す。
C.difficile感染後の体重減少率(%)の分析により、ABX単独または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置した群と比較して、
E.coli
pApyr
を経口経管投与したマウスの体重減少が有意に低減されたことが明らかとなった。このことは、アピラーゼ発現細菌の投与が、
C.difficile感染からマウスを保護することを示す。
C.difficile感染中の経時での臨床スコアの評価により、ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスは、ABX単独、またはABXと
E.coli
pHND19
との組合せで処置したマウスと比較して、
C.difficile感染による影響が少ないことが確認された。異なる実験群における生存期間の分析により、ABX単独、またはABXを
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較して、ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスの生存期間が改善されることが明らかとなった。この結果は、
E.coli
pApyr
による処置が、抗生物質処置後の
C.difficileの侵襲性を大幅に軽減することを示す。
【0212】
腸の炎症を評価するために、マウスを、感染後72時間で殺処分し、結腸の長さを測定した。結果を
図17に示す。ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスにおける結腸の長さ(腸炎のスコア化するための重要なパラメーター)の測定値は、感染していないマウス(コントロール)と同様の値を示した。一方、ABX単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスでは、腸の長さは、大幅に短縮された。これらのデータは、アピラーゼ発現細菌による処置が、
C.difficile感染によって誘発された腸炎を軽減することを示す。
【0213】
C.difficile誘発性腸炎はまた、便中および血清中リポカリン2(LCN-2)(上皮損傷および好中球浸潤に関係する腸炎症のマーカー)を、殺処分前に、感染後72時間で測定することによって評価した。マウスの炎症状態は、便上清中のリポカリン-2(LCN-2)のレベルを、ELISAアッセイ(R&Dsystems、DuoSet ELISA マウス リポカリン-2/NGAL)で測定することにより評価した。簡単に説明すれば、製造業者の指示にしたがって、便を、100μlのPBS中に0.01g再懸濁し、最大速度で10分間、遠心分離し、ELISAアッセイを行う前に希釈した。血清リポカリン2(LCN-2)レベルの測定のために、マウスから採血し、血清中のLCN-2レベルを、前記したELISAアッセイによって評価した。
【0214】
糞中LCN-2レベルの結果を
図18に示す。ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスは、ABX単独、またはABXを
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較して、LCN-2レベルが低いと特徴付けられ、このことは、
E.coli
pApyr
が、
C.difficileを媒介する腸炎症を軽減できることを更に裏付ける。
【0215】
血清中LCN-2レベルの結果を
図19に示す。異なる実験群における血清中LCN-2の定量により、ABX単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較して、ABXで処置し、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスにおけるLCN-2レベルが低いことが明らかとなった。この結果は、
E.coli
pApyr
による処置が、病原体の全身性拡散を制限することを示す。
【0216】
実施例5:アピラーゼ発現細菌の投与は、異なる接種モデルにおけるディスバイオーシス誘発後のC.difficile感染の影響を低減する。
difficile感染の異なる接種モデルにおけるアピラーゼ発現細菌の影響の可能性に対処するために、抗生物質セフォペラゾン(2.5mg/マウス)を、夜に、5日間連続して経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発した。同日の朝に、10
10CFUの
E.coli
pHND19
または
E.coli
pApyr
を経口経管投与した。6日目に、セフォペラゾン処置を中止し、
E.coli
pHND19
または
E.coli
pApyr
による処置を、さらに3日間連続して行った。次いで、本質的に前記した通りに(実施例4)、マウスに、10
5の
C.difficile VPI 10463胞子を経口感染させた。処置スケジュールを
図20に示す。
【0217】
図21は、
図20に示すように処置したマウスの生存率を示す。異なる実験群におけるマウスの生存期間の分析により、
E.coli
pApyr
の経口経管投与は、セフォペラゾン単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較して、死亡率が低下することが明らかとなった。この結果は、アピラーゼ発現細菌の投与が、
C.difficile媒介死から効果的に保護するという考えをさらに支持する。
【0218】
臨床スコアは、
C.difficile感染後24時間で、前記したように(実施例4、表1)評価した。結果を
図22に示す。
C.difficile感染後24時間での臨床スコアの分析により、
E.coli
pApyr
を経管投与したマウスは、セフォペラゾン単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置されたマウスと比較して、感染の兆候がより低いことによって特徴付けられることが示された。したがって、アピラーゼ発現細菌の投与は、
C.difficileに感染したマウスの臨床スコアを改善する。
【0219】
実施例6:アピラーゼ発現細菌による無菌マウスの単コロニー形成
腸上皮細胞(IEC)の転写制御は、免疫系と、腸上皮と、腸内微生物叢との間の複雑な相互作用において、微生物叢の組成と宿主代謝恒常性の調節に重要な役割を果たす(Shulzhenko, N., Morgun, A., Hsiao, W., Battle, M., Yao, M., Gavrilova, O., Orandle, M., Mayer, L., Macpherson, A.J., McCoy, K.D., et al. (2011). Crosstalk between B lymphocytes, microbiota and the intestinal epithelium governs immunity versus metabolism in the gut. Nat Med 17, 1585-1593)。
【0220】
E.coli
pApyr
で単コロニー形成した無菌(GF)マウスは、空のベクターを有する細菌で単コロニー形成したマウスと比較して、腸内のATPが有意に低減した(Perruzza, L., Gargari, G., Proietti, M., Fosso, B., D’Erchia, A.M., Faliti, C.E., Rezzonico-Jost, T., Scribano, D., Mauri, L., Colombo, D., et al. (2017). T Follicular Helper Cells Promote a Beneficial Gut Ecosystem for Host Metabolic Homeostasis by Sensing Microbiota-Derived Extracellular ATP. Cell Rep 18, 2566-2575)。小腸のパイエル板(PP)における卵胞ヘルパーT(Tfh)細胞数および胚中心(GC)反応の制御における管腔内ATPの役割と一致して(Proietti, M., Cornacchione, V., Rezzonico Jost, T., Romagnani, A., Faliti, C.E., Perruzza, L., Rigoni, R., Radaelli, E., Caprioli, F., Preziuso, S., et al. (2014). ATP-gated ionotropic P2X7 receptor controls follicular T helper cell numbers in Peyer’s patches (PP) to promote host-microbiota mutualism. Immunity 41, 789-801)、Tfh細胞とGC B細胞の両方が、アピラーゼ発現細菌がコロニー形成した動物で増加した。さらに、E.coli
pApyr
で単コロニー形成したGFマウスは、E.coli
pBAD28
で単コロニー形成したマウスと比較して、より多くの量のE.coli特異的IgAを示した(Perruzza, L., Gargari, G., Proietti, M., Fosso, B., D’Erchia, A.M., Faliti, C.E., Rezzonico-Jost, T., Scribano, D., Mauri, L., Colombo, D., et al. (2017). T Follicular Helper Cells Promote a Beneficial Gut Ecosystem for Host Metabolic Homeostasis by Sensing Microbiota-Derived Extracellular ATP. Cell Rep 18, 2566-2575.)。これらのデータは、共生微生物叢によって放出された細胞外ATPが、小腸における分泌型IgA応答を制限することを示す。
【0221】
アピラーゼが腸上皮細胞(IEC)における遺伝子転写を制御することによって宿主の代謝に影響を与えるかどうかを調べるために、アピラーゼによって調整された単コロニー形成マウスを生成した。この目的のため、アピラーゼによって調整された又は調整されていない単コロニー形成マウスを生成するために、無菌(GF)マウスに、
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
を、1回、経口経管投与した。28日後、マウスを殺処分し、ゲノム全体の発現プロファイリングを行って、差次的にコロニー形成した動物の、エキソビボで単離されたIECを比較した。実験スケジュールを
図23に示した。
【0222】
IECは、Romagnani, A., Vettore, V., Rezzonico-Jost, T., Hampe, S., Rottoli, E., Nadolni, W., Perotti, M., Meier, M.A., Hermanns, C., Geiger, S., et al. (2017). TRPM7 kinase activity is essential for T cell colonization and alloreactivity in the gut. Nat Commun 8, 1917に記載の方法で単離した。Trizol沈殿(Invitrogen、Carlsbad、CA)によりIECから全RNAを抽出し、次いで、37℃で15分間、DNaseIで消化して、混入しているDNAを除去した。全RNAの品質をまず、Agilent Bioanalyzer 2100(Agilent Technologies、Palo Alto、CA)を用いて評価した。全RNA150ngから始めて、ビオチン標識cDNAターゲットを合成した。二本鎖cDNA合成および関連するcRNAは、GeneChip(登録商標)WT Plus Kit(Affymetrix、Santa Clara、CA)を用いて行った。センス鎖cDNAは、同一キットで事前に合成し、断片化して標識した。標識化プロトコルの全工程は、ssDNA5.5μgから始めて、キットの製造業者の記載にしたがって行った。各真核生物のGeneChip(登録商標)プローブアレイは、分析したサンプルに存在しなかった、いくつかのB.subtilis遺伝子(lys、phe、thr、およびdap)のプローブセットを含んでいた。GeneChip(登録商標)Poly-A RNA Control Kitは、GeneChip(登録商標)プローブアレイのユーザーがアッセイの全体的な成功を評価できるように、様々な濃度でプレミックスした、これらのB.subtilis遺伝子の、インビトロで合成されたポリアデニル化転写産物を含んでいた。各ターゲットのポリA RNAコントロールの最終濃度は、lys 1:100,000、phe 1:50,000、thr 1:25,000、およびdap 1:6,667であった。ハイブリダイゼーションは、GeneChip(登録商標)Hybridization、Wash and Stain Kitを用いて行った。このキットは、ターゲット希釈用ミックス、最終濃度7%のDMSO、並びにプレミックスされたビオチン標識コントロールoligoB2およびbioB、bioC、bioD、およびcreコントロール(Affymetrix cat #900299)を、それぞれ最終濃度50pM、1.5pM、5pM、25pM、及び100pMで含む。断片化および標識されたsscDNAを、ハイブリダイゼーションバッファー中、23ng/μlの濃度(合計2.3μg)に希釈し、99℃で5分間変性させ、45℃で5分間インキュベートし、最大速度で1分間、遠心分離した後、GeneChip(登録商標)カートリッジに導入した。次いで、1つのGeneChip(登録商標)Mouse Clariom Sを、各ビオチン標識センスターゲットとハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは、ロティサリーオーブンにて45℃で16時間行った。GeneChip(登録商標)カートリッジは、FS450_0007標準プロトコルにしたがって、Affymetrix Fluidics Station 450中、GeneChip(登録商標)Hybridization Wash and Stain Kitで洗浄および染色した。GeneChip(登録商標)アレイを、デフォルトのパラメーターを使用するAffymetrix GeneChip(登録商標)Scanner 3000 7Gを使用してスキャンした。Affymetrix GeneChip(登録商標)Command Consoleソフトウェア(AGCC)を使用して、GeneChip(登録商標)画像を取得して、.DATおよび.CELファイルを生成し、これらを、専用ソフトウェアによる後続の分析に用いた。生データを、ロバストマルチアレイ平均(RMA)法の分位正規化を使用して正規化した。差次的に発現した転写産物の同定とユークリッド距離による階層クラスター分析は、市販のソフトウェアPartek Genomics Suite(v6.6)を使用して行った。
【0223】
差次的発現分析の結果を
図24に示す。
E.coli
pApyr
または
E.coli
pBAD28
で単コロニー形成したノトバイオートマウスで行った差次的発現分析は、
E.coli
pBAD28
WTマウスに対する
E.coli
pApyr
から単離されたIECにおいて、53個のアップレギュレートされた遺伝子および79個のダウンレギュレートされた遺伝子(
図24において長方形で強調)の転写シグネチャーをもたらし(FDR≦5%および絶対倍数変化≧1.5)、このことは、細胞外ATP(eATP)の欠如が、IECの遺伝子転写に大きな影響を与えたことを示唆している。
【0224】
次に、差次的に発現する遺伝子の相対発現レベル(Z-スコア)を、遺伝子オントロジー(GO)解析によって決定した。この目的のため、GOエンリッチメント解析のために、差次的に発現する遺伝子のリストを、DAVID Bioinformatics Resources(v6.8; Huang da, W., Sherman, B.T., and Lempicki, R.A. (2009). Systematic and integrative analysis of large gene lists using DAVID bioinformatics resources. Nat Protoc 4, 44-57)にロードし、RパッケージGOplot(Walter, W., Sanchez-Cabo, F., and Ricote, M. (2015). GOplot: an R package for visually combining expression data with functional analysis. Bioinformatics 31, 2912-2914)とgplotsを用いて視覚化した。Z-スコアは、下記式の通り、アップレギュレートされた遺伝子の数からダウンレギュレートされた遺伝子の数を減じ、分析された遺伝子の総数の平方根で除して計算した。
【数2】
【0225】
結果を
図25に示す。Z-スコアとして測定された遺伝子の相対発現レベルから、
E.coli
pApyr
処置が、細胞周期および分裂に関連する遺伝子のダウンレギュレーションと、脂質代謝プロセスおよび酸化還元プロセスに関連する遺伝子のアップレギュレーションを誘導することが示された。これら2つの遺伝子群は、栄養素の吸収と、化学物質に起因する酸化損傷に対する保護にとって重要である。さらに、酸化還元プロセスに関連する遺伝子のアップレギュレーションは、生理学的プロセスをサポートし、酸化的ストレスに対する酵素反応のネットワークを調整する環境を維持するため重要である(Circu, M.L., and Aw, T.Y. (2011). Redox biology of the intestine. Free Radic Res 45, 1245-1266)。
【0226】
図26は、単コロニー形成したマウスの
E.coli
pApyr
vs
E.coli
pBAD28
腸上皮細胞における差次的に発現する遺伝子の遺伝子オントロジー分析を示す。機能的オーバーリプレゼンテーション分析により、DNA複製に関連する遺伝子セットが
E.coli
pBAD28
マウスのIECに豊富に含まれており、一方で、主に脂質、脂肪酸、及びビタミンA代謝を支配する代謝機能のシグネチャー、カルニチンの溶質担体、低分子ペプチド、およびイオンは、
E.coli
pApyr
マウスで豊富であることが明らかとなった。
E.coli
pApyr
単コロニー形成マウスは、薬物代謝だけでなく、ステロイド、胆汁酸、脂肪酸、プロスタグランジン、生体アミン、及びレチノイドなどの内因性化合物の酸化的、過酸化的、および還元的代謝においても重要であることが示された、CYPファミリーに属する遺伝子のアップレギュレーションも示した(Chang, G.W., and Kam, P.C. (1999). The physiological and pharmacological roles of cytochrome P450 isoenzymes. Anaesthesia 54, 42-50; Thelen, K., and Dressman, J.B. (2009). Cytochrome P450-mediated metabolism in the human gut wall. J Pharm Pharmacol 61, 541-558)。これらの結果は、腸管腔でのeATPの枯渇が、コロニー形成細菌の腸上皮細胞との相互作用を変化させ、それによって、それらの機能と宿主の代謝をコンディショニングすることを示唆する。
【0227】
腸上皮の転写活性の観察されたコンディショニングに対する、アピラーゼ媒介性IgA生成の向上の役割を評価するために、Ig重鎖の遺伝子座におけるJセグメント欠失(
Igh-J
-/-
マウス)のために抗体応答の生成が起こらない単コロニー形成マウスからの腸上皮におけるゲノムワイド転写を分析した。驚くべきことに、
図34のvolcanoプロットに示されるように、
E.coli
pApyr
の単コロニー形成
Igh-J
-/-
マウスと、
E.coli
pBAD28
の単コロニー形成
Igh-J
-/-
マウスとの間に検出される遺伝子発現は、非常に小さい差であった。これらのデータは、
E.coli
pApyr
が単コロニー形成した野生型マウスにおける向上したIgA生成が、腸上皮細胞において、免疫機能よりも代謝機能が優位になることに寄与していることを示す。
【0228】
したがって、
E.coli
pApyr
が単コロニー形成した野生型マウスは、
E.coli
pBAD28
が単コロニー形成したマウスと比較して、体重変化(
図35)、血糖(
図36)、血清インスリン(
図37)、および白色脂肪組織(WAT)沈着(
図38)の上昇、並びにグルコース負荷試験の改善(
図39)を示した。対照的に、
E.coli
pBAD28
または
E.coli
pApyr
のいずれかで単コロニー形成した
Igh-J
-/-
マウスでは、体重変化(
図40)、血糖(
図41)、およびグルコース負荷試験における応答(
図42)に違いは見られなかった。これらのデータは、アピラーゼによる管腔内ATPの調節が、共生微生物の分泌型IgAコンディショニングを介して、宿主の代謝適応を促進できることを示唆する。
【0229】
実施例7:アピラーゼ発現細菌の投与は、ディスバイオーシス誘発性低血糖を低減する。
抗生物質媒介性ディスバイオーシスによる低血糖に対するアピラーゼの効果を調べるために、実施例2(
図4に示される実験スケジュール)に記載されるように、ディスバイオーシスを誘発し、アピラーゼ発現細菌を投与した。4日間の抗生物質処置と4日間の回復後に、血糖値を分析した(
図4を参照)。
【0230】
結果を
図27に示す。抗生物質処置によって誘発されたディスバイオーシスは、血糖の顕著な低下(低血糖)をもたらした。しかし、アピラーゼ発現細菌で処置したマウスは、ABXまたはABX+
E.coli
pHND19
で処置したマウスと比較して、より高い血清グルコースレベルを示した。これらのデータは、
E.coli
pApyr
の投与が、低血糖の抗生物質媒介性誘発を軽減することを示す。
【0231】
さらに、白色脂肪組織(WAT)を採取し、抗生物質媒介性WAT損失に対するアピラーゼの効果を評価するために定量した。結果を
図43に示す。総体重のパーセンテージとしてのWATの定量により、ABX誘発性ディスバイオーシス(ABX単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置した両方のマウス)におけるWATの有意な減少が明らかとなり、ABX誘発性ディスバイオーシスは、
E.coli
pApyr
の投与によって有意に軽減された。
【0232】
共生細菌によって誘発される分泌型IgA応答の制御による、抗生物質処置中の宿主代謝のコンディショニングにおけるアピラーゼの機能と一致して、
E.coli
pApyr
で処置された
Igh-J
-/-
マウスでは、ABX処置後の血糖値(
図44)およびWAT沈着(
図45)に関し、ABX、またはABXと
E.coli
pHND19
との組合せで処置された対応するマウスと比較して、改善が観察されなかった。
【0233】
実施例8:セフォペラゾン媒介性ディスバイオーシスおよび回復のマウスモデル
ディスバイオーシスによる代謝障害に対抗するアピラーゼ処置の有効性をさらに評価するために、セフォペラゾンを、5日間連続して毎日投与することにより、マウスモデルにディスバイオーシスを誘発させた。実験スケジュールを
図28に示す。
【0234】
ディスバイオーシスを誘発するために、マウスを、5日間連続して、夜に、セフォペラゾン(2.5mg/マウス)で処置した。同時に、1010CFUのE.coli
pHND19
又はE.coli
pApyr
を、朝に、経口経管投与した。E.coli
pHND19
及びE.coli
pApyr
による処置を、セフォペラゾンによる処置後、更に3日間、行った。
【0235】
実験終了後、動物の体重を評価した。結果を
図29に示す。データから、セフォペラゾン誘発性ディスバイオーシスが、有意な体重減少をもたらすことが明らかである(セフォペラゾン単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較したコントロールマウス)。対照的に、セフォペラゾンとアピラーゼ発現細菌(
E.coli
pApyr
)とで処置したマウスは、未処置動物と有意には異ならない体重増加を示した一方で、セフォペラゾン単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスよりも有意に高かった。これらのデータは、
E.coli
pApyr
の投与が、セフォペラゾン媒介性ディスバイオーシスによって誘発される体重減少を軽減することを示す。
【0236】
実験終了後、マウスを殺処分し、性腺周囲の白色脂肪組織を採取し定量した。結果を
図30に示す。総体重のパーセンテージとして白色脂肪組織(WAT)を定量したところ、セフォペラゾン誘発性ディスバイオーシスにおけるWATの有意な減少が明らかとなった(セフォペラゾン単独、または
E.coli
pHND19
と組み合わせて処置したマウスと比較したコントロールマウス)。一方、コントロールマウスと、セフォペラゾンおよびアピラーゼ発現細菌(
E.coli
pApyr
)で処置したマウスとの間に有意な変化は見られなかった。したがって、
E.coli
pApyr
処置は、セフォペラゾン媒介性ディスバイオーシスによって誘発されるWATの減少を軽減する。
【0237】
実施例9:抗生物質誘発性ディスバイオーシスのマウスモデルにおけるアピラーゼ投与の効果
次に、アピラーゼの投与の効果を、抗生物質誘発性ディスバイオーシスのマウスモデルで調べた。この目的のために、4日間連続して、毎日、ABXを経口経管投与することにより、ディスバイオーシスを誘発した。抗生物質処置と共に、マウスに、12時間ごとに、PBS、または40μgの精製組換えアピラーゼを、経口経管投与した。
【0238】
実験終了後、血糖値を分析した。結果を
図32に示す。4日間の抗生物質処置後、ABXとアピラーゼを経口経管投与したマウスの血糖値を分析すると、未処置マウスに匹敵する値と、アピラーゼなしでABX処置したマウスよりも有意に高い血糖値とを示すことが明らかとなった。したがって、アピラーゼタンパク質の投与は、抗生物質誘発性ディスバイオーシスにおけるこの代謝変化を軽減するのに十分であり、アピラーゼは、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによって引き起こされる低血糖の誘発を軽減する。
【0239】
実験終了後、マウスを殺処分し、性腺周囲の白色脂肪組織を採取し定量した。結果を
図33に示す。WAT重量を定量したところ、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによる有意な減少が示された一方、この効果は、アピラーゼで処置した動物では観察されず、アピラーゼで処置されていない抗生物質誘発性ディスバイオーシスを有する動物よりも有意に高いWAT重量を示す。したがって、アピラーゼ処置は、抗生物質誘発性ディスバイオーシスによって誘発されるWATの低下を軽減する。
【0240】
実施例10:アピラーゼは、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによって引き起こされる盲腸肥大および細菌の腸間膜リンパ節(MLN)への移行を軽減する。
抗生物質処置によって引き起こされる腸内ディスバイオーシスは、細菌量と多様性の低減、微生物叢組成の変化、及び腸バリア完全性の低下によって特徴付けられる。抗生物質処置後の細菌量の減少を示す宿主の特徴は、盲腸のサイズ、長さ、および重量を評価することで調べることができ、無菌動物では大幅に大きくなると報告されている(Devkota, S., Wang, Y., Musch, M.W., Leone, V., Fehlner-Peach, H., Nadimpalli, A., Antonopoulos, D.A., Jabri, B., and Chang, E.B. (2012). Dietary-fat-induced taurocholic acid promotes pathobiont expansion and colitis in Il10-/- mice. Nature 487, 104-108; Poteres, E., Hubert, N., Poludasu, S., Brigando, G., Moore, J., Keeler, K., Isabelli, A., Ibay, I.C.V., Alt, L., Pytynia, M., et al. (2020). Selective Regional Alteration of the Gut Microbiota by Diet and Antibiotics. Front Physiol 11, 797)。抗生物質媒介性ディスバイオーシスによって引き起こされる盲腸肥大に対するアピラーゼの効果を調べるために、アピラーゼ発現細菌を、実施例2(
図4に示される実験スケジュール)に記載されるように投与した。4日間の抗生物質処置と4日間の回復後に盲腸重量を分析した(
図4参照)。結果を
図46に示す。抗生物質によって誘発されたディスバイオーシスは、盲腸重量の顕著な増加をもたらした。しかし、
E.coli
pApyr
で処置したマウスは、ABX、またはABXと
E.coli
pHN19
とで処置したマウスと比較して、大幅に低い盲腸重量を示した。これらのデータから、
E.coli
pApyr
の投与が、抗生物質に誘発される盲腸肥大を軽減することを示す。
【0241】
抗生物質処置は、腸バリア完全性の破壊と、共生生細菌の腸間膜リンパ節(MLN)への移行を誘発し、炎症反応を促進する(Knoop KA, McDonald KG, Kulkarni DH, Newberry RD. Antibiotics promote inflammation through the translocation of native commensal colonic bacteria. (2016) Gut 65, 1100-9. doi: 10.1136/gutjnl-2014-309059)。MLNへの抗生物質媒介性細菌移行に対するアピラーゼの影響を調べるために、実験終了後、マウスを殺処分し(
図4を参照)、MLNを無菌的にRPMIに回収し、機械的にホモジナイズした。ホモジネートの希釈物を、Schaedler寒天(BD Biosciences)上にプレーティングした。コロニー数をカウントする前に、プレートを、好気性または嫌気性培養条件下にて、37℃で24~72時間、増殖させた。結果を
図47と
図48に示す。好気性と嫌気性の両条件で、MLNのCFUの定量により、未処置動物と比較して、ABX、またはABXと
E.coli
pHN19
とで処置したマウスに、有意な増加が明らかとなった。しかし、ABXと
E.coli
pApyr
との組合せで処置したマウスは、未処置動物と、有意には異ならないMLNのCFU数を示した一方、ABX単独、または
E.coli
pHN19
と組み合わせて処置したマウスよりも有意に低かった。これらのデータは、
E.coli
pApyr
の投与が、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによって誘発される腸内細菌の移行を軽減することを示す。
【0242】
分泌型IgAが、抗生物質によるディスバイオーシスへのアピラーゼ媒介性腸内適応に関与しているかどうかを理解するために、
図4に示される実験と同一の実験を、
Igh-J
-/-
マウスを使用して行った。4日間の抗生物質処置および4日間の回復後に、盲腸重量を分析した。結果を
図49に示す。ABX、ABX+
E.coli
pHN19
、およびABX+
E.coli
pApyr
で処置した
Igh-J
-/-
マウスでは、未処置動物と比較して、抗生物質によって誘発されたディスバイオーシスが、盲腸重量の顕著な増加をもたらした。
Igh-J
-/-
マウスのMLNにおけるCFUの定量により、好気性と嫌気性の両条件で、未処置群と比較して、3つの異なる群全てにおいて、細菌の顕著な移行が明らかとなった(
図50および
図51)。驚くべきことに、ABX、またはABX+
E.coli
pHN19
で処置した
Igh-J
-/-
マウスと比較して、ABXを
E.coli
pApyr
と組み合わせて処置した動物でこの特徴の改善は見られなかった。これらのデータは、ABX処置によって媒介される腸バリア破壊の制御において、アピラーゼによって誘発される分泌型IgAの重要性を示す。
【0243】
実施例11:ゲノム中にアピラーゼ遺伝子を組み込んだ、アピラーゼを異種発現する組換え細菌(EcN::phon2)の生成
実施例1に記載されるように設計及び生成されたアピラーゼ発現細菌は、アピラーゼを発現するプラスミドで細菌を形質転換することにより得られた。かかるプラスミドは、形質転換体の選択のため、抗菌耐性を有していてもよい。このような形質転換体である細菌は、通常、アピラーゼを発現するプラスミドの複数のコピーを有する(抗生物質耐性のために選択されてもよい)。異種のアピラーゼをコードする組換え細菌において、染色体外プラスミドの複数コピーではなく、ゲノム中の単一コピーで同様の効果が得られるかどうかを調べるために、(非伝達性)細菌染色体(抗生物質耐性無し)に、(異種)アピラーゼ(phoN2)遺伝子の単一コピーを有する細菌を生成した。
【0244】
このため、EcNゲノム(GenBankアクセッション番号:CP007799.1)への赤痢菌(Shigella flexneri)phoN2アピラーゼコード遺伝子の染色体組み込みが、λ Red組換えのアプローチ(λ Red recombineering approach)により行われた(Datsenko K.A. and Wanner B.L. 2000 One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl Acad Sci U S A. 97, 6640)。
【0245】
図52は組換えに用いられるDNA断片を概略的に示しており、前記DNA断片は下記のものを含む:
・マルトデキストリンホスホリラーゼ酵素をコードするEcN
malP遺伝子の一部;
・抗生物質クロラムフェニコールに対する耐性を与えるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ酵素をコードする
E.coli cat遺伝子と、それに隣接するフリッパーゼ認識標的(FRT)配列;
・上流ではP
proD合成プロモーター(Davis J.H., Rubin A.J. and Sauer R.T. 2011 Design, construction and characterization of a set of insulated bacterial promoters. Nucleic Acids Res. 9, 1131)及びBBa_BB0032リボソーム結合部位(RBS; iGEM Parts Registry)と融合され、下流では
phoN2転写ターミネーターと融合された
Shigella flexneri phoN2アピラーゼコード遺伝子;
・マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性化因子をコードするEcN
malT遺伝子の一部。
【0246】
図53及び
図54は、それぞれ、EcN
malP及び
malT遺伝子部分のヌクレオチド配列を示す(それぞれ、配列番号6及び配列番号7)。
図55は、P
proDプロモーター、BBa_BB0032 RBS、
S.flexneri phoN2遺伝子、及び
phoN2転写ターミネーターを含むDNA断片のヌクレオチド配列を示す(配列番号8)。
図56は、FRT配列が隣接した
E.coli cat遺伝子を含むDNA断片のヌクレオチド配列を示す(配列番号9)。
【0247】
EcNゲノムにおいて遺伝子組み換えを行うため、挿入DNA断片は、pKD46プラスミドを有するEcN株において形質転換され、前記pKD46プラスミドはファージλ Redリコンビナーゼを発現するものである。
malP及び
malT部位におけるλ Red仲介相同組換えは、EcNの
malP-
malT遺伝子間領域への挿入DNA断片の組み込みを促進した。pKD46除去後、ゲノムに前記挿入DNA断片を有するEcNクローンは、クロラムフェニコール耐性の点から選択され、ゲノムにおいて正しい組み込みが行われたかPCRで確認された。DNA断片の正しい組み込みの点から選択されたEcNクローンは、酵母Flpリコンビナーゼ(フリッパーゼ)を発現するpCP20プラスミドで形質転換され、ゲノムからクロラムフェニコール耐性カセットを除去した。pCP20の除去後、ゲノムにクロラムフェニコールカセットを含まない組換えEcNクローンは、クロラムフェニコール感受性の点から選択され、ゲノムから正しくカセットが切除されているかPCRで確認された。上述により得られた、
malP-
malT遺伝子間領域に
S.flexneri phoN2遺伝子を有する組換えEcNクローンはEcN::
phoN2と命名された。
図57は、得られたEcN::
phoN2クローンの
malP-
phoN2-
malT組換えゲノム領域を概略的に示す。
図58は、ペリプラズム抽出物のウェスタンブロットにおける、選択された1つEcN::
phoN2クローン(cl 1)でのアピラーゼの発現を示す。また、EcN::
phoN2 cl 1における酵素の活性が確認された。
図59は、インビトロATP-分解アッセイにおける、ペリプラズム抽出物による用量依存のATP分解を示す。両アッセイにおいて、EcN野生型株(EcN)はネガティブコントロールとして用いられた。EcN野生型及びEcN::
phoN2細菌株はLB培地で培養された。
【0248】
実施例12:異種発現のための、アピラーゼをゲノムにコードする組換え細菌は、ディスバイオーシス誘発性低血糖およびWAT体重減少を改善する。
phoN2遺伝子がゲノムに組み込まれた、
E.coli Nissle 1917(EcN)プロバイオティクス細菌(前記した実施例11のように得られる)の投与が、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによる低血糖症の改善に有効であったかどうかを調べるために、抗生物質(マウス1頭当たり200μlの滅菌水中、バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg)をC57BL/6マウスに投与し、続いて、EcNまたはEcN::
phoN2株を経管投与した(
図60に示す実験スケジュール)。4日間の抗生物質処置と4日間の回復後に、血糖を分析した(それぞれ、
図60の-4日目と3日目)。
図61に示すように、抗生物質処置により、血糖が有意に低下した(低血糖)。注目すべきことに、EcN::
phoN2で処置したマウスは、未処置マウスと同様の血清グルコースレベルを示し、ABX、およびABX+EcN処置マウスと比較して有意に高かった。これらのデータは、EcN::
phoN2の投与により、抗生物質処置によって損なわれた血糖値が回復することを示す。
【0249】
WATの抗生媒介性喪失に対するEcN::
phoN2の効果を評価するために、白色脂肪組織を採取し定量した。
図62に示すように、WAT重量は、抗生物質誘発性ディスバイオーシスにより有意に減少した一方、この効果は、EcN::
phoN2で処置した動物では軽減され、ABX、またはABX+EcNで処置した動物よりも有意に増加したWAT重量を示した。これらのデータは、EcN::
phoN2の投与が、抗生物質誘発性WAT喪失を緩和することを示す。
【0250】
実施例13:異種発現のための、アピラーゼをゲノムにコードする組換え細菌は、ディスバイオーシスによって引き起こされる盲腸肥大および腸間膜リンパ節(MLN)への細菌移行を軽減する。
ディスバイオーシスからの回復における、EcN::
phoN2の有利な効果の可能性を調べるために、抗生物質誘発性ディスバイオーシスのマウスモデルを用いた。処置スケジュールを
図60に示す。8週齢のC57BL/6雄性マウスを、4つの異なる実験群に無作為に割り当てた:即ち、未処置(コントロール)、抗生物質(ABX:マウス1頭当たり、滅菌水200μl中、バンコマイシン1.25mg、アンピシリン2.5mg、およびメトロニダゾール1.25mg)で処置、ABXおよび10
10CFUのEcNで処置、ABXおよび10
10CFUのEcN::
phoN2で処置。実験後、マウスをCO
2吸入によって殺処分し、盲腸と腸間膜リンパ節(MLN)を回収し分析した。
【0251】
4日間の抗生物質処置と4日間の回復後に、盲腸重量を分析した(
図60を参照)。結果を
図63に示す。抗生物質処置によって誘発されたディスバイオーシスは、盲腸重量の顕著な増加をもたらした。しかし、Ecn::
phoN2で処置したマウスは、ABX、またはABX+EcNで処置したマウスと比較して、有意に低い盲腸重量を示した。これらのデータは、EcN::
phoN2の投与が、抗生物質媒介性盲腸肥大の誘導を軽減することを示す。
【0252】
細菌移行の制御における、EcN::
phoN2の効果を調べるために、MLNを無菌的にRPMIに回収し、機械的にホモジナイズした。希釈物を、Schaedler寒天(BD Biosciences)上にプレーティングした。コロニー数をカウントする前に、プレートを、好気性と嫌気性の両条件下にて、37℃で24~72時間、増殖させた。結果を
図64と
図65に示す。好気性と嫌気性の両条件で、MLNのCFUの定量により、コントロール動物と比較して、有意な増加が明らかとなった。しかし、EcN::
phoN2で処置したマウスは、ABX、またはABX+EcNとで処置したマウスと比較して、好気性と嫌気性の両条件にて、有意に減少したCFUを示した。これらのデータは、EcN::
phoN2の投与が、抗生物質媒介性ディスバイオーシスによって誘発される細菌移行を軽減することを示す。
【0253】
実施例14:アピラーゼ発現Lactococcus lactisの設計および産生
アピラーゼ発現生物学的製剤のプラットフォームをさらに拡大するために、Lactococcus lactisをグラム陽性株として選択した。その非侵襲性および非病原性の特性により、L.lactisは、機能性タンパク質の腸内送達の有望な候補であることが示されている(Varma, N.R., Toosa, H., Foo, H.L., Alitheen, N.B., Nor Shamsudin, M., Arbab, A.S., Yusoff, K., and Abdul Rahim, R. (2013). Display of the Viral Epitopes on Lactococcus lactis: A Model for Food Grade Vaccine against EV71. Biotechnol Res Int 2013, 431315)。インターロイキン-10(IL-10)を発現する遺伝的にエンジニアードされたL.lactisは、炎症性腸疾患(IBD)の処置に使用された(Braat, H., Rottiers, P., Hommes, D.W., Huyghebaert, N., Remaut, E., Remon, J.P., van Deventer, S.J., Neirynck, S., Peppelenbosch, M.P., and Steidler, L. (2006). A phase I trial with transgenic bacteria expressing interleukin-10 in Crohn’s disease. Clin Gastroenterol Hepatol 4, 754-759)。さらに、膵炎関連タンパク質(PAP)を発現する組換えL.lactis株は、化学療法誘発性粘膜炎における腸の恒常性を効率的に維持することが示されている(Carvalho, R., Vaz, A., Pereira, F.L., Dorella, F., Aguiar, E., Chatel, J.M., Bermudez, L., Langella, P., Fernandes, G., Figueiredo, H., et al. (2018). Gut microbiome modulation during treatment of mucositis with the dairy bacterium Lactococcus lactis and recombinant strain secreting human antimicrobial PAP. Sci Rep 8, 15072)。
【0254】
Lactococcus lactisNZ900株における
Shigella flexneriアピラーゼの発現のために、アピラーゼをコードする遺伝子
phoN2を、
S.flexneriゲノムからPCR増幅し、pNZ8123プラスミドにクローニングし、pNZ-Apyrプラスミドを生成した(
図66)。pNZ-Apyrプラスミドでのアピラーゼ発現は、ナイシン抗菌ペプチドによって誘導される、PnisAプロモーターによって制御される。
phoN2遺伝子は、アピラーゼ分泌を可能にする
L.lactis主要分泌タンパク質Usp45のシグナル配列と共にインフレームでクローニングした。
L.lactis
pNZ
と
L.lactis
pNZ-Apyr
の各株を、グルコース(0.5%w/v)とナイシン(4ng/ml)を添加したM17培地で生育させた。
【0255】
実施例15:L.lactis
pNZ-Apyr
の投与は、成体マウスにおける食餌誘発性ディスバイオーシスによって引き起こされる腸バリア破壊およびMLNへの細菌移行に対抗する。
腸バリアは、腸粘膜の防御に関与する形態機能単位を定義し、腸内微生物叢と、腸上皮細胞(IEC)と、サイトカイン、抗菌ペプチド(AMP)、代謝産物、及び多数の調節分子の複雑なネットワークを介して緊密に連携した粘膜免疫とからなる(Meng, M., Klingensmith, N.J., and Coopersmith, C.M. (2017). New insights into the gut as the driver of critical illness and organ failure. Curr Opin Crit Care 23, 143-148)。腸粘膜は、感染の脅威のリスクに曝されている最大の体表面であり、腸バリアの解剖学的且つ機能的恒常性は、人体の抗感染防御における重要なステップである。腸内微生物叢は、腸バリアの防御の最前線である。微生物叢は、胃腸管にコロニーを形成する何百万もの微生物を伴い、その大部分が細菌である。この多数の微生物は、人体との共生関係により、不利な腸内生息環境に耐えている。これらの共生宿主-共生関係は生誕後に発達し、微生物叢が腸の恒常性に寄与する代謝、免疫、および抗感染の各プロセスを可能にする(O’Hara, A.M., and Shanahan, F. (2006). The gut flora as a forgotten organ. EMBO Rep 7, 688-693)。共生集団の構造的且つ機能的安定性は、多数のシグナル伝達分子(クオラムセンシング)および細胞調節因子(miRNA)、ならびに他の生理学的および病理学的因子によって調節される。ディスバイオーシスとして広く定義されるこの微生物群集の質的または量的変化は、宿主と共生種との間の関係を損なわせ、共生生物と病原体との間のバランスを変化させ、腸のバリア保護を低下させ、感染性病原体にとって有利となる(McDonald, D., Ackermann, G., Khailova, L., Baird, C., Heyland, D., Kozar, R., Lemieux, M., Derenski, K., King, J., Vis-Kampen, C., et al. (2016). Extreme Dysbiosis of the Microbiome in Critical Illness. mSphere 1: e00199-16. doi: 10.1128/mSphere.00199-16)。食事は、腸内微生物叢に影響を及ぼす主要な要素である。食物摂取量の自然な変動は、微生物組成の一過性変化をもたらすが、肉、魚、及び繊維などの主要成分は、微生物叢に永続的な影響を及ぼし、特定の細菌群の変化によって特徴付けられる典型的な特徴をもたらす(Scott, K.P., Gratz, S.W., Sheridan, P.O., Flint, H.J., and Duncan, S.H. (2013). The influence of diet on the gut microbiota. Pharmacol Res 69, 52-60)。食物組成の変化、及び食物不足または過剰供給は、腸内微生物叢に影響を及ぼす。非経口摂取において生じる、腸内に栄養素が存在しない状態は、粘膜壁の炎症を促進し、最終的に上皮バリアの破壊を引き起こす、プロテオバクテリアのレベルを上昇させる(Demehri, F.R., Barrett, M., and Teitelbaum, D.H. (2015). Changes to the Intestinal Microbiome With Parenteral Nutrition: Review of a Murine Model and Potential Clinical Implications. Nutr Clin Pract 30, 798-806)。微生物叢の組成に対する食事の影響は、初期のコロニー形成段階中に示される。即ち、母乳で育てられた乳児は、Bifidobacteria spp.のレベルが高くなる一方、粉ミルクで育てられた乳児は、Bacteroides spp.のレベルが高く、Clostridium coccoidesとLactobacillus spp.も増加する(Fallani, M., Young, D., Scott, J., Norin, E., Amarri, S., Adam, R., Aguilera, M., Khanna, S., Gil, A., Edwards, C.A., et al. (2010). Intestinal microbiota of 6-week-old infants across Europe: geographic influence beyond delivery mode, breast-feeding, and antibiotics. J Pediatr Gastroenterol Nutr 51, 77-84)。生後期間後も、微生物叢は、生涯を通じて比較的安定していると考えられていた。しかし、いくつかの最近の研究は、食事因子が微生物群集を変化させ、宿主に生物学的変化をもたらすことを示している。事実、マウスの腸内微生物叢の形成とメタボリックシンドロームの表現型の調節における、宿主の遺伝学と食事との相対的な寄与を評価する研究によって示されるように、腸内微生物叢の組成は食事と強く相関している(Zhang, C., Zhang, M., Wang, S., Han, R., Cao, Y., Hua, W., Mao, Y., Zhang, X., Pang, X., Wei, C., et al. (2010). Interactions between gut microbiota, host genetics and diet relevant to development of metabolic syndromes in mice. ISME J 4, 232-241)。
【0256】
食物は、栄養素の供給源であるだけでなく、体の生理機能のいくつかの調整もし得る。このことは、腸と食物抗原との継続的な相互作用から、特に、腸管に当てはまる(Ulluwishewa, D., Anderson, R.C., McNabb, W.C., Moughan, P.J., Wells, J.M., and Roy, N.C. (2011). Regulation of tight junction permeability by intestinal bacteria and dietary components. J Nutr 141, 769-776)。最近の研究により、食物とIECとの間の相互作用の影響が示された。事実、食物抗原は、トランスポーターの活性、タイトジャンクションの透過性、代謝酵素の発現、免疫機能、および微生物叢を調節することができる(Shimizu, M. (2010). Interaction between food substances and the intestinal epithelium. Biosci Biotechnol Biochem 74, 232-241)。胃腸管に入る食物は、生物に栄養を与える。さらに、宿主酵素または腸内微生物叢による栄養素の酵素的変換によって、または腸バリアの変化を含む多様な機能に影響を及ぼす非酵素分子の放出を刺激することによって、生成される多くの代謝産物が存在する。
【0257】
内腔で生成された代謝産物は血流に入り、体の器官の機能に影響を及ぼすのに十分な濃度に達し得る(Dodd, D., Spitzer, M.H., Van Treuren, W., Merrill, B.D., Hryckowian, A.J., Higginbottom, S.K., Le, A., Cowan, T.M., Nolan, G.P., Fischbach, M.A., et al. (2017). A gut bacterial pathway metabolizes aromatic amino acids into nine circulating metabolites. Nature 551, 648-652)。食事と、消化と、微生物叢と、腸バリアとの間のこれらの相互作用は、腸の恒常性に影響を及ぼし得る(Farre, R., Fiorani, M., Abdu Rahiman, S., and Matteoli, G. (2020). Intestinal Permeability, Inflammation and the Role of Nutrients. Nutrients 12:1185. doi: 10.3390/nu12041185)。
【0258】
食事誘発性ディスバイオーシスも、腸の恒常性のバランスを崩し、炎症をもたらすメカニズムを引き起こす。腸上皮を横断する細菌の移行は、ディスバイオーシスで増加する(Sato, J., Kanazawa, A., Ikeda, F., Yoshihara, T., Goto, H., Abe, H., Komiya, K., Kawaguchi, M., Shimizu, T., Ogihara, T., et al. (2014). Gut dysbiosis and detection of “live gut bacteria” in blood of Japanese patients with type 2 diabetes. Diabetes Care 37, 2343-2350)。健康なヒトの腸内で行われるように、少数の移行共生細菌は、特に、Bacteroides spp.の多糖類(Mazmanian, S.K., and Kasper, D.L. (2006). The love-hate relationship between bacterial polysaccharides and the host immune system. Nat Rev Immunol 6, 849-858)及び粘膜付着性セグメント糸状菌(SFB)(Ivanov, II, Atarashi, K., Manel, N., Brodie, E.L., Shima, T., Karaoz, U., Wei, D., Goldfarb, K.C., Santee, C.A., Lynch, S.V., et al. (2009). Induction of intestinal Th17 cells by segmented filamentous bacteria. Cell 139, 485-498)によって誘導されるTh1およびTh17細胞の作用によって除去される。反対に、多数の侵入細菌はTLRを活性化し、炎症誘発性サイトカインの過剰発現を引き起こし、これにより、腸上皮が損傷して、慢性腸炎症に至る(Karczewski, J., Poniedzialek, B., Adamski, Z., and Rzymski, P. (2014). The effects of the microbiota on the host immune system. Autoimmunity 47, 494-504)。腸バリアの破壊、腸透過性の上昇、および代謝が活性な組織への細菌抗原の移行は、慢性的な炎症状態と、インスリン抵抗性、肝臓の脂肪沈着、過剰な脂肪組織の発達などの代謝機能障害(Tehrani, A.B., Nezami, B.G., Gewirtz, A., and Srinivasan, S. (2012). Obesity and its associated disease: a role for microbiota? Neurogastroenterol Motil 24, 305-311; Camilleri, M. (2019). Leaky gut: mechanisms, measurement and clinical implications in humans. Gut 68, 1516-1526)、関節リウマチ(Guerreiro, C.S., Calado, A., Sousa, J., and Fonseca, J.E. (2018). Diet, Microbiota, and Gut Permeability-The Unknown Triad in Rheumatoid Arthritis. Front Med (Lausanne) 5, 349)、及び潰瘍性大腸炎(Den Hond, E., Hiele, M., Evenepoel, P., Peeters, M., Ghoos, Y., and Rutgeerts, P. (1998). In vivo butyrate metabolism and colonic permeability in extensive ulcerative colitis. Gastroenterology 115, 584-590)をもたらす。
【0259】
この状態に対するアピラーゼの有利な効果を調べるために、食餌誘発性ディスバイオーシス(DID)のマウスモデルを作製した。7%のタンパク質、5%の脂肪、および88%の炭水化物を特徴とする食餌をマウスに与えることにより、ディスバイオーシスを誘発した。20%のタンパク質、15%の脂肪、および65%の炭水化物を特徴とする通常の食餌(ND)をコントロールとして用いた。各食餌の成分の概略図を、
図67に示す。
図68に示す実験レイアウトは、5週齢のマウスのDIDモデルを示す。5週齢で、雌性C67BL/6マウスを、NDまたはDIDの食餌のいずれかに無作為に割り当てた。この期間中、DID給餌マウスに、10
10の
L.lactis
pNZ
または
L.lactis
pNZ-Apyr
を、毎日、経口経管投与した。8週間後、それぞれの食餌の効果を評価するために、マウスを殺処分し分析した。
【0260】
DIDは、腸粘膜の腸バリア機能を損なわせ得る腸内微生物叢の変化を特徴とし、粘膜透過性の向上と、それに続く、共生細菌および/または細菌産物の血液循環への移行をもたらす(Fukui, H. (2019). Role of Gut Dysbiosis in Liver Diseases: What Have We Learned So Far? Diseases 7: 58 doi: 10.3390/diseases7040058)。
【0261】
L.lactis
pNZ-Apyr
が腸の完全性を維持できるかどうかを調べるために、ディスバイオーシスを誘発し、アピラーゼ発現細菌を前記したように(
図68に示される実験スケジュール)投与した。NDまたはDIDの食餌の8週間後、マウスに、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識デキストランを経口経管投与し、続いて、血清中のFITCレベルを測定した。結果を
図69に示す。
L.lactis
pNZ
で処置または未処置のDIDマウスは、NDマウスと比較して、血清中のFITCの有意に高い濃度を特徴とした。対照的に、DIDを給餌され、
L.lactis
pApyr
で処置されたマウスは、ND動物に匹敵する血清中FITCレベルを示し、DID単独又は
L.lactis
pNZ
と共に与えられたマウスに対して有意に低かった。これらのデータは、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与が、DIDによって引き起こされる腸バリア破壊を軽減することを示す。更に、MLNへの細菌移行の軽減におけるアピラーゼの効果を調べるために、実験終了後にマウスを殺処分し(
図68を参照)、MLNを無菌的にRPMIに回収し、機械的にホモジナイズした。希釈物を、Schaedler寒天(BD Biosciences)上にプレーティングした。コロニー数をカウントする前に、プレートを、好気性と嫌気性の両培養条件下にて、37℃で24~72時間、増殖させた。結果を
図70と
図71に示す。好気性と嫌気性の両条件で、MLNのCFUの定量により、ND動物と比較して、DID食、またはDID食+
L.lactis
pNZ
処置マウスにおけるMLNのCFUの有意な増加が明らかとなった。対照的に、
L.lactis
pNZ-Apyr
で処置したDIDマウスは、ND動物と有意に異ならず、DID食、およびDID食+
L.lactis
pNZ
マウスに対して有意に低いMLNにおけるCFU数を示した。これらのデータは、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与が、DIDによって誘発される細菌移行を軽減することを示す。これと共に、DID、およびDID+
L.lactis
pNZ
マウスは、NDマウスと比較して、便中のリポカリン-2(LCN-2)レベルの増加として定量される腸炎症の軽度の徴候を示した。驚くべきことに、DID食を与えられ、
L.lactis
pApyr
で処置されたマウスは、ND動物に有意に異ならず、DID食単独又は
L.lactis
pNZ
と共に与えられたマウスに対して有意に低い便中LCN-2レベルを示した。これらのデータは、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与が、DIDによって引き起こされる腸炎症を軽減することを示す(結果を
図72に示す)。
【0262】
実施例16:L.lactis
pNZ-Apyr
の投与は、新生仔マウスにおける食事誘発性ディスバイオーシスによって引き起こされる腸バリア破壊およびMLNへの細菌移行に対抗する。
母から子への代謝性疾患の伝染は、多因子性であり、遺伝的、エピジェネティック、及び環境的影響が挙げられる。齧歯類、ヒト、および非ヒト霊長類における証拠は、妊娠中の食事誘発性ディスバイオーシスへの曝露が、乳児の免疫系および幼若微生物叢に対する長期に亘る代謝的特徴を形成し、それが子孫の肥満および代謝性疾患の素因となるという科学的前提を支持する。新生児では、母を通じて導入された胃腸管微生物は、乳児免疫系の直接誘導因子/調節因子として機能する能力を有することが知られている。新生児の免疫応答開始能力は限られている。したがって、初期の新生児期に、微生物のコロニー形成が損なわれると、出生後の免疫応答が損なわれる。メカニズムは十分に理解されていないが、妊娠中の食事誘発性ディスバイオーシスが、門脈系を介した直接的な連絡、代謝産物の産生、腸バリア完全性および造血免疫細胞軸(hematopoietic immune cell axis)における変化を通じて、乳児の微生物叢組成、肝臓、およびその他の臓器の発達と調節とに影響を及ぼすことを示唆する証拠が増えている(Collado, M.C., Isolauri, E., Laitinen, K., and Salminen, S. (2010). Effect of mother’s weight on infant’s microbiota acquisition, composition, and activity during early infancy: a prospective follow-up study initiated in early pregnancy. Am J Clin Nutr 92, 1023-1030; Collado, M.C., Laitinen, K., Salminen, S., and Isolauri, E. (2012). Maternal weight and excessive weight gain during pregnancy modify the immunomodulatory potential of breast milk. Pediatr Res 72, 77-85)。
【0263】
新生仔におけるDIDに対するアピラーゼの有利な効果を調べるために、食餌誘発性ディスバイオーシス(DID)の新生仔モデルを作製した。7%のタンパク質、5%の脂肪、および88%の炭水化物を特徴とする食事を母親マウスに与えることにより、ディスバイオーシスを誘発した。20%のタンパク質、15%の脂肪、および65%の炭水化物を特徴とする通常の食餌(ND)をコントロールとして用いた。各食餌の成分の概略図を、
図67に示す。
図73に示す実験レイアウトは、DIDの新生仔モデルを示す。8週齢で、雌性C57BL/6マウスを、ND食またはDID食のいずれかを摂取するように無作為に割り当てた。15日後、NDおよびDIDの雌性C57BL/6マウスを、ND雄性マウスと交配させた。生誕直後から開始して、DIDの新生仔に、10
8の
L.lactis
pNZ
または
L.lactis
pNZ-Apyr
を、生誕後21日目まで、1週間に2回、経口経管投与した。体重、尾の長さ、及び挙動について、毎日、新生仔をモニターした。
【0264】
L.lactis
pNZ-Apyr
が腸の完全性を維持できるかどうかを調べるために、21日齢のDID又はNDマウスに、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識デキストランを経口経管投与し、続いて、血清中のFITCレベルを測定した。結果を
図74に示す。DID、及びDID+
L.lactis
pNZ
マウスは、NDマウスと比較して、血清中のFITCの有意に高い濃度を特徴とした。対照的に、DID食を給餌され、
L.lactis
pNZ-Apyr
で処置されたマウスは、ND動物と有意に異ならない血清中FITCレベルを示した一方、DID食単独又は
L.lactis
pNZ
と共に与えられたマウスに対して有意に低かった。これらのデータは、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与が、食事誘発性ディスバイオーシスによって引き起こされる腸バリア破壊を軽減することを示す。
【0265】
更に、MLNへの細菌移行の軽減におけるアピラーゼの効果を調べるために、実験終了後にマウスを殺処分し(
図73を参照)、MLNを無菌的にRPMIに回収し、機械的にホモジナイズした。希釈物を、Schaedler寒天(BD Biosciences)上にプレーティングした。コロニー数をカウントする前に、プレートを、好気性又は嫌気性培養条件下にて、37℃で24~72時間、増殖させた。結果を
図75と
図76に示す。好気性と嫌気性の両条件で、MLNのCFUの定量により、ND動物と比較して、DID、またはDID+
L.lactis
pNZ
マウスにおけるCFUの有意な増加が明らかとなった。対照的に、
L.lactis
pNZ-Apyr
で処置したDIDマウスは、コントロール動物と非常に類似しており、DID、およびDID+
L.lactis
pNZ
マウスに対して有意に低いMLNにおけるCFU数を示した。これらのデータは、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与が、食事誘発性ディスバイオーシスによって誘発される細菌移行に対抗することを示す。
【0266】
実施例17:L.lactis
pNZ-Apyr
の投与は、新生仔マウスにおける食餌誘発性ディスバイオーシスの影響を受ける成長パラメーターを改善する。
母体のタンパク質欠乏症は、胎児の発育遅延や成体期の疾患の素因となる、重度のディスバイオーシスを引き起こす(Rees, W.D., Hay, S.M., Buchan, V., Antipatis, C., and Palmer, R.M. (1999). The effects of maternal protein restriction on the growth of the rat fetus and its amino acid supply. Br J Nutr 81, 243-250.)。アピラーゼが子孫の成長パラメーターに影響を及ぼすかどうかを理解するために、NDおよびDIDの雌親から生まれた新生仔に、生誕後21日目まで、1週間に2回、10
8の
L.lactis
pNZ
または
L.lactis
pNZ-Apyr
を経口経管投与した(
図73を参照)。生誕後21日目に、体重、尾の長さ、小腸および結腸の長さを評価した。母親の食事誘発性ディスバイオーシスは、DID、およびDID+
L.lactis
pNZ
新生児の両方で、体重変化(
図77)、尾の長さ(
図78)、小腸の長さ(
図79)、および結腸の長さ(
図80)に有意な影響を及ぼした。特に、
L.lactis
pNZ-Apyr
で処置したDID新生仔は、他のDID群と比較して、各種成長パラメーター全ての改善を示した。したがって、
L.lactis
pNZ-Apyr
の投与は、DIDによって引き起こされる成長遅延を改善する。
【0267】
【配列表】
【国際調査報告】