(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】表面の鉄含有量が増加している、真鍮でコーティングされたスチールコード
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20230703BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230703BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20230703BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
D07B1/06 A
C23C26/00 B
B60C9/00 K
B60C1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575717
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(85)【翻訳文提出日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2021065134
(87)【国際公開番号】W WO2021249922
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/095516
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】シア デギ
(72)【発明者】
【氏名】ワン バオシン
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
4K044
【Fターム(参考)】
3B153BB01
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4K044CA17
(57)【要約】
タイヤ、ホース及びコンベヤベルトなどのゴム物品を強化するためのスチールコードに撚り合わせるためのスチールフィラメントが提示される。スチールフィラメントは、真鍮を含むコーティングでコーティングされるスチール基材を含む。コーティングは、表面の鉄の量が従来技術のスチールフィラメントのものよりも明らかに多い点で異なる。コーティングは、表面から表面下の3ナノメートルの深さまで延びる層中の鉄、亜鉛及び銅原子の合計と比較して4原子パーセント以上の平均鉄含有量を有する。スチールフィラメントで作られたスチールコード及びスチールコードを含むゴム製品が記載される。表面の鉄含有量が増加したスチールフィラメントを製造する方法が代替形態とともに提示される。本発明のスチールフィラメントは、高温及び多湿条件下で改善された接着保持を示し、また有機コバルト化合物含有ゴム及びコバルトを実質的に含まないゴムにおいてこれを示す。ゴム物品の寿命は、本発明の使用によって延長される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真鍮を含むコーティングでコーティングされたスチール基材を含むゴム物品を補強するための、ミリメートルで表される直径「d」を有するスチールフィラメントであって、
前記真鍮は、銅及び亜鉛からなり、
前記コーティングは、前記真鍮の銅及び亜鉛の総質量によって決定される450×dナノメートル以上の平均厚さを有し、
前記真鍮は、前記真鍮における銅及び亜鉛の総質量と比較して61~75質量パーセントの銅の質量を有し、
前記コーティングの前記厚さ及び前記真鍮における銅の前記量は、湿式化学分析法によって決定される、スチールフィラメントにおいて、
前記コーティングは、第1の層において4原子パーセント以上の平均鉄含有量を有し、前記第1の層は、前記フィラメントの表面から前記表面下の3ナノメートルの深さまで延び、前記鉄含有量は、前記第1の層中の鉄、亜鉛及び銅の合計に関連する原子パーセントとして表され、前記鉄、亜鉛及び銅の含有量は、X線光電子分光法によって決定され、前記平均は、前記第1の層の深さにわたって且つ前記スチールフィラメントの表面上の4つの異なるスポットにわたって取得されることを特徴とするスチールフィラメント。
【請求項2】
前記真鍮コーティングは、第2の層において5原子パーセント以上の平均鉄含有量を有し、前記第2の層は、前記フィラメントの表面から前記表面下の9ナノメートルの深さまで延びる、請求項1に記載のスチールフィラメント。
【請求項3】
前記真鍮コーティングは、第3の層において6原子パーセント以上の平均鉄含有量を有し、前記第3の層は、前記フィラメントの表面から前記表面下の20ナノメートルの深さまで延びる、請求項2に記載のスチールフィラメント。
【請求項4】
前記真鍮コーティングは、第3の層において20原子パーセント以下の平均鉄含有量を有し、前記第3の層は、前記フィラメントの表面から前記表面下の20nmの深さまで延びる、請求項1~3のいずれか一項に記載のスチールフィラメント。
【請求項5】
前記真鍮コーティングは、1350×dナノメートル以下の平均厚さを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のスチールフィラメント。
【請求項6】
前記コーティングは、前記スチールフィラメントの長さに沿って配向された交互の薄い真鍮ストライプ及び厚い真鍮ストライプを示し、前記ストライプは、後方散乱電子モードで動作する走査型電子顕微鏡で識別可能であり、厚い真鍮ストライプは、比較的明るく見え、及び前記薄い真鍮ストライプは、比較的暗く見え、
前記厚い真鍮ストライプにおいて、鉄、銅及び亜鉛の合計に対して4原子パーセント以上の平均鉄含有量が存在し、前記平均は、前記厚い真鍮ストリップの表面から上部3ナノメートル以内の深さにわたって取得され、前記鉄、亜鉛及び銅の含有量は、走査型オージェ電子分光法によって決定されることを更に特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のスチールフィラメント。
【請求項7】
前記厚い真鍮ストライプにおいて、鉄、銅及び亜鉛の合計に対して6原子パーセント以上の平均鉄含有量が存在し、前記平均は、前記厚い真鍮ストリップの表面から上部3ナノメートル以内の深さにわたって取得され、前記鉄、亜鉛及び銅の含有量は、走査型オージェ電子分光法によって決定される、請求項6に記載のスチールフィラメント。
【請求項8】
前記厚い真鍮ストライプにおいて、鉄、銅及び亜鉛の合計に対して8原子パーセント以上の平均鉄含有量が存在し、前記平均は、前記厚い真鍮ストリップの表面から上部9ナノメートル以内の深さにわたって取得され、前記鉄、亜鉛及び銅の含有量は、走査型オージェ電子分光法によって決定される、請求項7に記載のスチールフィラメント。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の1つ、2つ又はそれを超えるスチールフィラメントを含むスチールコード。
【請求項10】
請求項9に記載のスチールコードで補強されたゴム製品であって、スチールコードで補強可能なタイヤ、ホース、ベルト又は任意の他のゴム系物品であるゴム製品。
【請求項11】
コバルト又はコバルト含有化合物を実質的に含まない、請求項10に記載のゴム製品。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載のスチールフィラメントを作製する方法であって、
a.ワイヤロッドを選択する工程、
b.前記ワイヤロッドを乾式伸線して中間ワイヤにする工程、
c.前記中間ワイヤをパテンティングして、パテンティングされたワイヤにする工程、
d.前記パテンティングされたワイヤを酸洗浄する工程、
e.前記パテンティングされたワイヤを銅層で電解コーティングする工程、
f.前記パテンティング及び銅コーティングされたワイヤを亜鉛コーティングで電解コーティングする工程、
g.前記パテンティングされたワイヤに前記銅コーティング及び亜鉛コーティングを拡散させて、真鍮コーティングを形成し、それにより真鍮メッキワイヤを形成する工程、
h.前記真鍮メッキワイヤを湿式ワイヤ伸線して前記スチールフィラメントにする工程
を含む方法において、前記中間ワイヤは、0.40マイクロメートルより大きい円周方向粗さR
aを有することを特徴とする方法。
【請求項13】
前記真鍮メッキワイヤの前記ワイヤ伸線において、ダイヤモンドを含む1つ以上のダイは、1つ以上の最終パスで使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程「d」において、酸洗浄は、塩酸中で行われ、前記塩酸は、1リットル当たり6~15グラムである鉄(III)イオンの濃度を有する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
工程「f」後及び工程「g」前に、前記ワイヤは、前記亜鉛コーティングの上部層で亜鉛原子を鉄原子と交換するために、鉄(II)カチオンを含有する酸性浴に通される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記酸性浴は、
- 塩化第一鉄溶液、
- 硫酸第一鉄溶液、
- 硫酸アンモニウム第一鉄溶液、
- ホウフッ化第一鉄溶液、
- スルファミン酸第一鉄溶液、
- 混合硫酸塩-塩化物浴
からなる群からの1つである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下で「ゴム物品」という名称で分類される、タイヤ、ホース、コンベヤベルト及び同様の製品などのゴム製品の強化に使用される、真鍮でコーティングされたスチールコードに関する。
【背景技術】
【0002】
真鍮でコーティングされたスチールコードが、弾力性のある凝灰質の加硫ゴムに強度及び剛性を提供する加硫ゴムの注目すべき複合材料は、並外れたものである。この複合材料は、タイヤなどの過酷で極端な環境で全てが使用されるゴム製品の性能にとって重要である。
【0003】
複合材料が経時的に耐久性があり、長持ちするために、低弾性率の加硫ゴムと高弾性率のスチールコードとの間の接着が最初から高く、ゴム物品の耐用年数全体にわたり良好なままであることが最も重要である。
【0004】
硫黄系の加硫システムを用いてゴム内の真鍮でコーティングされたスチールコードを加硫すると、Cu(2-x)Sとして真鍮の銅とゴムの硫黄との間で顕著な反応が起こり、ここで、「x」は、約0.2であり、木のようにゴム中で樹枝状に成長する。形成される「接着」層の厚さは、250nm未満又は更に100nm未満である。これにより、最初に強い結合が得られる。最初に、真鍮層の表面の主な酸化物は、酸化亜鉛である。この酸化亜鉛は、加硫中の銅と硫黄供与種との反応を遅くする。実際、化学量論的Cu2Sの成長は、脆い結晶が生じて初期接着力が低下するため、防止する必要がある。加硫後、Cu(2-x)Sと同時に、一部の硫化亜鉛が典型的には形成されるが、酸化亜鉛層は、硫化物と残りの金属真鍮との間の中間層として成長している。
【0005】
一方、特に高温多湿の環境では、ゴム物品を長時間使用すると、この接着層が劣化し、接着力の強さが低下する。この劣化の主なメカニズムの1つは、亜鉛イオン(Zn2+)が真鍮層から接着層に向かって拡散することによる真鍮の「脱亜鉛化」であり、そこで亜鉛の酸化物及び水酸化物が形成され、接着結合が弱まる。
【0006】
この問題を克服するために、コバルト系の有機塩、例えばナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト又はデカン酸ホウ素コバルト複合体などが、カーボンブラック、硫黄、促進剤、油、酸化防止剤、活性化剤などの他の添加剤に加えて、スキム化合物に添加される。スキム化合物は、スチールコードをカプセル化するために使用される専用のゴム混合物である。これらのコバルト有機塩は、(1)真鍮とゴムとの間の結合性の少ない硫化亜鉛(ZnS)ブリッジの形成を抑制し、これにより結合形成中の非化学量論的樹枝状硫化銅の形成を促進し、(2)高温多湿条件下で真鍮層からの亜鉛イオンの拡散メカニズムを抑制し、これにより接着保持性を向上させる。
【0007】
しかしながら、コバルト系の有機塩の添加は、それらがジエンゴム結合の酸化触媒として作用し、これによりゴムのエージングを加速させ、最終的にスチールコードの近くでゴムの破損につながり得るという欠点もある。しかしながら、これらのコバルト系の有機塩の主な不利な点は、それらが発癌性の疑いがあるため、使用が一層制限されることである。
【0008】
コバルト系の有機塩の使用を避けるために、コバルトをゴムにおいて、有機形態ではなく、金属形態で真鍮コーティングに組み込むことが提案されている。例えば、米国特許第4255496号明細書及び米国特許第4265678号明細書を参照されたい。このような三元合金層は、実際に、高温多湿の条件で非常に良好な接着保持の結果をもたらす。しかしながら、ゴムから有機コバルト塩を完全に除去することはできなかった。国際公開第2011/076746号パンフレット、国際公開第2013/117248号パンフレット、国際公開第2013/117249号パンフレットで公開された本出願人の最近の研究は、コバルトを含まない化合物でも三元合金コーティングの使用を可能にする解決策を更に提供した。この技術により、タイヤでのコバルトの使用が大幅に削減されるが、スチールコードにコバルトが依然として存在するため、製造環境でもコバルトが存在したままである。
【0009】
ニッケル及び鉄など、コバルトの代わりに他のコーティング金属も考えられている(例えば、‘Rubber-brass bonding’,Chapter6 by W.J.van Ooij of the‘Handbook of Rubber Bonding’,Rapra Technology Limited,of 2001,page 176を参照されたい)。しかしながら、これらの金属は、鉄の場合には遅すぎると考えられるか、又は更にニッケルの場合には受動的すぎると考えられている。
【0010】
それにもかかわらず、米国特許第4446198号明細書では、銅-コバルト-亜鉛コーティングの代わりに三元銅-鉄-亜鉛コーティングを使用することが提案されている。スチール基材に由来する一定量の鉄は、スチールコードの表面のゴムに到達し、接着の保持及び増大に寄与することが知られている(page 429“Mechanism and theories of rubber adhesion to steel tire cords-an overview”,W.J.van Ooij,RUBBER CHEMISTRY AND TECHNOLOGY,Volume 57,page 421-456,1984を参照されたい)。スチールコードの表面の鉄の量を増加させる1つの方法は、真鍮の量を減らし、これによりスチール基材の一部をゴムに露出させることである。しかしながら、接着力を増大させるために十分な真鍮がスチールコードの表面に残っている必要がある点において、これには限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明者らは、改善された接着保持を可能にするために、鉄の分布を改善するという課題を自ら設定した。
【0012】
従って、本発明の主な目的は、ゴム物品におけるコバルトの使用である主要な問題を克服することである:第1に、スチールコードからコバルトを排除し、第2に、コバルトを実質的に含まないゴム化合物の使用を可能にすることである。本発明の別の目的は、その表面に正確な鉄の分布を有するスチールフィラメントを提供することである。本発明の更なる目的は、鉄の深さプロファイルが改善された接着保持の機能で選択されるスチールフィラメントを提供することである。本発明の別の目的は、フィラメントの一部又は全てが好ましい鉄の深さプロファイルを示すスチールコードを提供することである。本発明の更に別の目的は、本発明のスチールコードをもたらす製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、スチールフィラメントは、請求項1の前提部の特徴によって提示される。スチールフィラメントは、本発明の第2の態様で説明されるように、ゴム物品を補強するためのスチールコードに含まれる。
【0014】
スチールフィラメントの直径「d」は、ミリメートルで表される。この適用の目的のために、直径「d」は、スチールフィラメントに垂直な断面と同じ表面積を有する仮想の円の直径である。例えば、スチールフィラメントは、丸い円形の断面を有し得、直径「d」は、この丸いフィラメントの直径に等しい。
【0015】
代わりに、フィラメントは、円から逸脱した断面、例えば楕円若しくは正多角形又は不規則な多角形或いは例えば1つの側、2つの側又はそれを超える側で平らにされた最初の円形のワイヤのように、直線のエッジ及び湾曲した境界が存在する混合された多角形を示すことができる。これらは、全てスチールフィラメントの可能な垂直断面であり、唯一の要件は、それらが凸状であることである。
【0016】
スチールフィラメントは、スチール基材と、真鍮を含むコーティングとを含む。この適用の目的のために、「真鍮」という用語は、銅及び亜鉛によって形成された合金、即ち銅及び亜鉛からなる合金に関する。意図的に(例えば、リン又は鉄)又は意図せずに(例えば、酸素)コーティングに添加される金属又は非金属の任意のその他の要素は、真鍮の一部と見なされない。
【0017】
コーティングは、前述の真鍮における銅及び亜鉛の総質量によって決定される450×dナノメートル以上の平均厚さを有する。例えば、直径が0.30mmのワイヤの平均コーティング厚さは、135ナノメートル以上である。「平均」とは、厚さがその全周にわたり且つ実質的な長さにわたり(例えば、直径「d」の100倍の長さにわたり)決定されることを意味する。換言すれば、「平均厚さ」は、厚さの全体的な尺度であり、局所的な尺度ではない。
【0018】
真鍮は、真鍮における銅及び亜鉛の総質量と比較して61~75質量パーセントの銅の質量を有する。この適用の目的のために、質量パーセントは、「重量%」と略記される。より好ましいのは、銅の質量パーセントが62重量%より高い若しくは63重量%より高い又は更に64重量%より高い場合である。銅の質量パーセントが低くなりすぎると、過度のβ-真鍮形成の危険性がある。β-真鍮は、より高い質量パーセントの銅で形成されるより延性のあるα-真鍮よりも変形しにくい、真鍮のより硬い相である。真鍮における銅の質量パーセントが75重量%を超えると、脆い硫化銅が形成され得る危険性がある。従って、真鍮における銅の73重量%未満若しくは71重量%未満又は更に69重量%未満など、より低い銅質量パーセントが好ましい。
【0019】
コーティングにおける銅及び亜鉛の量は、湿式化学分析法によって決定される。これらの方法は、当業者に周知である。これらの方法では、大量のスチールフィラメントがサンプリングされ、重量が測定され、銅及び亜鉛が剥離溶液によってスチール基材から剥離され、剥離溶液は、標準化された容量に希釈され、銅及び亜鉛の質量は、以下の技術の1つによって決定される:
a.X線蛍光分光法、
b.誘導結合プラズマ分光法、
c.原子吸光分光法。
【0020】
このような手順の詳細は、BISFA,‘Internationally agreed methods for testing of steel tyre cord’,entries E11/1,E11/2 and E11/4に見ることができる。BISFAは、「The International Bureau for the Standardisation of man-made fibres」である。
【0021】
次いで、銅の質量パーセント(Cu(重量%))は、以下のように計算される。
【数1】
【0022】
スチールコードの単位質量当たりの銅及び亜鉛の質量の合計が1キログラム当たり「B」グラムである場合、等価直径「d」を有するフィラメントのナノメートルで表されるコーティングの平均厚さ「t」は、以下から計算することができる:
t=231.8×B×d。
【0023】
スチールフィラメントの特徴は、コーティングがその上面に通常ではない量の鉄を有することである。上面の鉄の量は、頭字語「XPS」で一般に知られている表面分析技術であるX線光電子分光法によって測定される。この技術は、「化学分析用電子分光法」の略である「ESCA」とも呼ばれる。より具体的には、コーティングは、第1の層において4原子パーセント以上の平均鉄含有量を有し、この第1の層は、フィラメントの表面から表面下の3nmの深さまで延びる。鉄の含有量は、鉄、銅及び亜鉛の合計に対する原子パーセント(原子%)で表される。分母には他の要素が考慮されない。
【0024】
XPSでは、集束されたX線ビームの光子によって励起された後、試料の表面からの電子が表面原子から放出される。これらの「光電子」の運動エネルギー分布から、プローブされた表面原子の組成(及びそれらの化学結合状態)に関して結果を導き出すことができる。実質的な円形のX線ビームの直径は、約100μmである。X線光子の波長は、アルミニウムのKアルファ線の波長に対応する。プローブの深さは、表面からわずか数ナノメートルである。従って、プローブされた容量は、非常に薄い円形ディスクに対応する。深さプロファイルを取得するために、X線光電子測定間の標準化された期間、アルゴンイオンスパッタビームによって表面原子がスパッタされる。アルゴンイオンスパッタビームの強度は、10秒で1ナノメートルのアルファ鉄がスパッタされるように調整されている。この適用の目的のために、表面層1ナノメートル当たり10秒のスパッタリング時間のこの比が維持される。光電子の運動エネルギーに基づいて表面の原子種を特定することができる。
【0025】
XPS分析では、炭素、酸素、硫黄などの様々な元素を容易に特定できるが、この適用の目的のために、金属の銅、亜鉛及び鉄のみを測定する。光電子の数及びエネルギーは、それぞれ表面の原子の存在量及び原子数の尺度であるため、鉄の原子パーセントをトレースすることが可能になり、様々な深さ「x
i」でインデックス「i」の「(Fe)」で示される(インデックス「0」は、スパッタリング前に測定され、最後の測定点は、深さ「Δ」において「N」で示される):
【数2】
(式中、#Fe、#Cu及び#Znは、これらの元素に対応するそれぞれのエネルギーに対してフィルター処理された光電子のカウントである)。
【0026】
次いで、このようにして得られた深さ「x
i」の関数としての(Fe)
iの深さプロファイルを、3nmのスパッタ深さ「Δ」まで表面間で平均化する必要がある。好ましくは、表面下の3nmの深さまでの様々な深さで少なくとも4回の測定を行う必要がある。例えば、スパッタリング時間0、6、12、18、24及び30秒で鉄原子(Fe)
iの存在量を決定することができ、「i」は、0、1、2、3、4及び5までカウントする。好ましくは、測定深さは、等距離であるか又は少なくとも均等に広がっている。次いで、鉄の存在量の平均は、台形則を使用して鉄の深さプロファイルを統合し、深さ「Δ」で割ることによって得られる。
【数3】
【0027】
このようにして、前述の深さまでX線ビームによってプローブされたディスク形状の容量にどの程度の鉄原子が存在するかの指標が得られる。
【0028】
集束されたX線光子ビームは、そのビームサイズが比較的大きいため、表面の鉄の多くの変動をすでに平均化しているが、スチールフィラメントの表面の4つの異なるスポットで測定を行い、コーティングの上部3nm層の鉄の量の最終的な尺度として得られた4つの数値の平均を使用することが最良である。
【0029】
スチール基材のスチールは、好ましくは、以下の制限内の組成を有する通常の炭素スチールで作られている(全てのパーセントは、質量パーセントであり、「重量%」と略記されている):
- 例えば、0.80重量%~1.1重量%などの0.60重量%~1.20重量%の範囲の炭素含有量、
- 例えば、0.20重量%~0.80重量%などの0.10重量%~1.0重量%の範囲のマンガン含有量、
- 例えば、0.15重量%~0.70重量%などの0.10重量%~1.50重量%の範囲のシリコン含有量、
- 例えば、0.01重量%未満などの0.03重量%未満の硫黄含有量、
- 例えば、0.01重量%未満などの0.03重量%未満のリン含有量。
【0030】
スチールをワイヤ伸線のようなひずみ硬化操作にかけることにより、2500MPaを超える若しくは3000MPaを超える又は更に3500MPaを超える引張り強度を有するフィラメントを得ることができる。
【0031】
スチールのマイクロ合金化は、更により高い引張り強度のフィラメントを得るのに役立つことができる。合金元素の質量パーセントは、以下の制限内にある:クロム:0.10重量%~1.0重量%、ニッケル:0.05重量%~2.0重量%、コバルト:0.05重量%~3.0重量%、バナジウム:0.05重量%~1.0重量%、モリブデン:0.05重量%~0.60重量%、銅:0.10重量%~0.40重量%、ボロン:0.001重量%~0.010重量%、ニオブ:0.001重量%~0.50重量%、チタン:0.001重量%~0.50重量%、アンチモン:0.0005重量%~0.08重量%、カルシウム:0.001重量%~0.05重量%、タングステン:例えば約0.20重量%の量、ジルコニウム:例えば0.01重量%~0.10重量%の範囲の量、アルミニウム:好ましくは例えば0.015重量%未満、例えば0.005重量%未満などの0.035重量%未満の量、窒素:0.005重量%未満の量、希土類金属(重量%REM):0.010重量%~0.050重量%の範囲の量。
【0032】
マイクロ合金化により、3500MPaを超える又は3700を超える、更に4000MPaを超える引張り強度に達することができる。
【0033】
別の手法では、十分な引張り強度に到達するために長く伸線された低炭素スチールを使用することができる。次いで、典型的なスチール組成物は、0.20重量%未満の炭素含有量を有する。一例は、0.04重量%~0.08重量%の範囲の炭素含有量、0.166重量%のケイ素含有量、0.042重量%のクロム含有量、0.173重量%の銅含有量、0.382重量%のマンガン含有量、0.013重量%のモリブデン含有量、0.006重量%の窒素含有量、0.077重量%のニッケル含有量、0.007重量%のリン含有量、0.013重量%の硫黄含有量であり、全てのパーセントは、質量パーセントである。これらのフィラメントの極限引張り強度は、かなり低くなる:1200MPa超又は更に1400MPa超であるが、中間熱処理が不要であるため、二酸化炭素排出量が削減される。
【0034】
更に改良された第1の実施形態では、このディスク形状の容積に見出される鉄の量は、鉄の少なくとも4原子パーセント又は更に鉄の5原子パーセントである。いずれにせよ、それは、10原子パーセントを超えず、7.5原子パーセントを下回る可能性もある。表面の鉄含有量の増加の利点は、高温多湿の条件での接着保持が、コバルトをまったく添加していない化合物だけでなく、現在使用されているコバルト含有化合物でも改善されることである。
【0035】
鉄の量は、第1の層のすでに高いレベルから測定深度が増加するにつれて着実に増加することが好ましい。従って、第2の実施形態によれば、表面から表面下の9ナノメートルの深さまで延びる第2の層の平均鉄含有量は、5原子パーセントより高いか又は更に6原子パーセントより高い。
【0036】
フィラメントの表面下の20ナノメートルの深さまでスパッタリングする場合、第3の層、真鍮コーティングは、第3の実施形態では、6、8又は10原子パーセント以上の平均鉄含有量を有する。
【0037】
第4の実施形態によれば、この第3の層の平均鉄含有量は、鉄の20原子パーセント未満若しくは15原子パーセント未満又は更に13原子パーセント未満若しくは11原子パーセント未満であり、パーセントは、第3層で検出された鉄、亜鉛及び銅原子の合計を占めている。実際、鉄含有量が高すぎると、最終的に接着を生成するために必要な真鍮が不足する可能性がある。第3の層(0~20nm)における8~11原子%の鉄濃度は、接着において最良のバランスを与えるように見える。値が11原子%を超えると、高温多湿環境での接着保持が向上するが、初期接着が不十分となる。8%未満の値は、良好な初期接着が得られるが、高温多湿環境での接着の最適な増加にはならない。
【0038】
鉄と真鍮とのバランスは、微妙なものである:スチールコードに真鍮が多すぎると、他の接着保持の問題が発生する可能性があるため、真鍮の平均厚さを1350×d以下に保つことが最良であり、ここで、「d」は、ミリメートルでのフィラメントの直径である。例えば、平均厚さは、1200×d以下又は更に1000×d以下にとどまる場合がある。
【0039】
更なる実施形態では、鉄は、真鍮コーティング内に更に微細に分散される。これを確認する方法は、後方散乱電子モード(BSE)で動作する走査型電子顕微鏡でフィラメントの表面を観察することである。これらの電子は、プローブされた表面の原子核から弾性的に後方散乱(「反射」)され、プローブされた表面原子の平均原子量を示す。銅及び亜鉛などの重い元素は、鉄などの軽い原子よりも効率的に電子を返す。従って、フィラメントの表面の真鍮でコーティングされたより厚い部分は、暗く見えるむき出しのスチール表面の薄い真鍮コーティングよりも灰色の色調で明るく見える。
【0040】
ここで、BSEモードでフィラメントの表面を観察すると、コーティングは、スチールフィラメントの長さに沿って配向された交互の薄い真鍮ストライプ及び厚い真鍮ストライプを示す。鉄よりも多くの銅及び亜鉛を含む厚い真鍮ストライプは、より多くの鉄原子を示す薄い真鍮ストライプよりも比較的明るく見える。従って、この適用に関連して、「より明るい」及び「より暗い」という用語は、「薄い」及び「厚い」という用語のように互いに対して相対的であると理解されるべきである。経験の浅い電子顕微鏡を扱う人でも、フィラメントの表面で最大のBSEコントラストを得るために、電子ビームを簡単に調整できるであろう。
【0041】
ここで、この実施形態の特徴は、前述の厚い真鍮ストライプにおいて、少なくとも表面に鉄が存在することである。鉄、銅及び亜鉛の合計に対して少なくとも4原子パーセント以上の平均鉄含有量が存在する。平均値は、厚い真鍮ストリップの表面から上部3ナノメートルにわたり取得される。
【0042】
ここで、鉄の量は、表面の空間的に非常に狭いプローブ(衝突する電子ビームのサイズ、即ち直径100nm程度)を非常に小さい深さにすることができる走査型オージェ電子分光法(AES)によって決定される:問題の元素の場合、これは、約0.5nmである。XPS測定の場合と同様に、アルゴンイオンを使用して原子をスパッタリングすることで続いて上部層を剥離することにより、深さプロファイルが作成される。続いて、台形則を使用して鉄プロファイルを積分し、プロファイルの全深さで除算することにより、平均鉄含有量を決定することができる。
【0043】
代わりに、厚い真鍮ストライプの上部3nm層で検出された鉄の平均量は、鉄、銅及び亜鉛の合計の6原子パーセント以上に相当する。
【0044】
追加的及び代替的に、前述の厚い真鍮ストリップの表面から上部9ナノメートル以内の深さにわたって検出される鉄の平均量は、鉄、銅及び亜鉛の合計に対して8原子パーセント以上である。
【0045】
本発明の第2の態様によれば、スチールコードが提示される。スチールコードは、一緒に組み立てられた1つ、2つ又はそれを超えるフィラメントを含む。スチールフィラメントは、前述の実施形態の1つ又は複数によるものである。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態では、スチールコードは、単一のフィラメントからなる。このような単一フィラメントは、タイヤにおいて、例えばビード領域でビード補強材として又はベルト領域でベルト硬化補強材(「モノフィラメント」)として使用することができる。このようなモノフィラメントは、タイヤベルトの補強のために0.25~0.70mm、例えば0.30~0.35mmなどのより大きい直径又はビード補強のために0.70~2.10mmの直径で作製され得る。代わりに、本発明による単一スチールフィラメントは、ホース補強ワイヤとして使用することもできる。
【0047】
「含む」とは、スチールフィラメントに加えて、アラミド又は高密度ポリエチレン繊維などの他の非スチールフィラメントがスチールフィラメントと混合され得ることを意味する。代わりに、スチールコードは、スチールフィラメントのみからなることもできる。
【0048】
スチールコードは、以下のような公知の技術及び技法に従って組み立てられる:
a.それぞれ直径「d」を有する「n」個のフィラメントが撚り方向及び撚り長さで一緒に撚り合わされてストランドを形成する「n×d」などの単層コード。「n」は、2~5、多くても6であり得、「d」は、0.10~0.50mmで変動する。フィラメントは、フィラメントが互いに緩く接触する個々のらせんを形成する「オープンコード」を得るために変形される可能性がある。例示的なコードは、3×0.30OCである。
b.多層コードでは、層は、単一フィラメント又はそれ自体ストランドであり得るコアの周りに撚り長さ及び方向で巻き付けられる。それらは、通常、コア+m×dとして表記され、ここで、「コア」は、例えば、「n×d」又は直径「d」の単一フィラメントに等しい。例は、1+6、例えば0.32+6×0.30又は3+9、例えば3×0.22+9×0.20又は(3+9+15)×0.175などの3層コードであり、ここで、全てのフィラメントは、同じ直径を有する。全ての層の撚り方向と撚り長さが互いに等しい場合、フィラメントは、「コンパクトコード」として知られるコンパクトな構成、例えば27×0.175mmを形成する。
c.異なるストランドを組み合わせて互いに撚り合わせると、例えばタイプ4×(1+6)のタイプM×Nのマルチストランドコードが得られ、ここで、7つのフィラメントの4つのストランドがコードの撚り長さ及びコードの撚り方向で一緒に撚り合わされる。例えば、「s」方向のストランド及び「Z」方向のコードなど、ストランドの撚り方向がコードの撚り方向と反対である場合、これは、通常の撚りと呼ばれる。コードの撚り方向及び外側ストランドの撚り方向の両方が等しい場合、これを「ラング撚り」と呼ぶ。後者のコードは、はるかに高い伸びに達することができる。
d.特別な種類のマルチストランドコードは、撚りの長さが少なくとも異なる2つのストランド「L」及び「T」からなるコードである。撚り合わされたストランド「T」(「撚り合わされた」)は、ストランド「L」(「長い撚り長さ」)の撚り長さより短い撚り長さを有し、後者は、例えば、ほぼ無限の撚り長さを有する。2つのストランドは、コードの撚り長さ及び方向で互いに巻き付けられる。特に好ましい実施形態は、ストランド「T」が、コードの撚り長さ及び方向に等しい撚り長さ及び方向を有する場合である。特に好ましい例は、2+2、2+3、2+4、3+2、3+3であり、ここで、第1の数字は、「L」ストランドのフィラメントの数を指し、第2の数字は、「T」ストランドのフィラメントの数を指す。
【0049】
本発明の第3の態様によれば、上記で定義したスチールコードで補強されたゴム製品が特許請求される。ゴム製品は、例えば、乗用車、トラック、バン若しくはオフロード機械におけるタイヤ、ホース、コンベヤベルト若しくはエレベータベルトなどのベルト又はスチールコードで補強できる任意の他のゴム系の物品であり得る。これらの製品は、全てそれぞれの技術分野で知られているか、又は知られるようになる方法で製造及び組み立てられる。唯一の違いは、補強に使用されるスチールコードが、フィラメントの表面から表面下の3ナノメートルの深さまで延びる第1の層において、4原子パーセント以上の平均鉄含有量を有するフィラメントを含むことであり、鉄含有量は、スチールフィラメントの表面の4つのスポットにわたり、X線光電子分光法によって決定される、鉄、亜鉛及び銅の合計に関連する原子パーセントとして表される。
【0050】
第3の態様による本発明の特定の実施形態は、加硫ゴム又は未加硫ゴムがコバルト又はコバルト含有化合物を実質的に含まないゴム製品である。実際、スチールコードは、ゴムに添加されるコバルト又は有機コバルト化合物を実質的に含まない「スキム化合物」として知られる接着ゴム化合物と適合するように発明されている。
【0051】
「実質的に含まない」とは、加硫ゴムにおいて、X線蛍光によって検出可能なコバルトの量が、ゴム1グラム当たり100マイクログラム未満(ゴムの0.01質量パーセントのCo、重量%)若しくはゴム1グラム当たり50マイクログラム未満(0.005重量%のCo)又は更にゴム1グラム当たり20マイクログラム未満(0.002重量%のCo)若しくは10マイクログラム未満(0.001重量%のCo)であることを意味する。
【0052】
通常、スキム化合物は、有機コバルト化合物を含むため、例えばスチールコードがゴム製品から引き抜かれたときにスチールコードに付着した残りのゴムなど、スチールコードの近くのゴムで分析を行うのが最適である。それは、コバルトの濃度が最も高いと予想される場所である。
【0053】
本発明の特定の利点は、現在使用されている真鍮スチールコードと比較して、接着及び接着保持にプラスの効果を有する現在使用されているコバルト含有化合物と依然として適合することである。
【0054】
本発明の第4の態様によれば、上記のスチールフィラメントを作製する方法は、以下の工程を含む:
a.前述の製品説明で提案されているスチール組成物を有するワイヤロッドを選択する工程。スチールワイヤロッドの直径は、約5.5mm以上である。ワイヤロッドは、当技術分野で知られている技術に従ってさびが除去され、石鹸キャリアでコーティングされる。
b.ワイヤは、中間ワイヤまで乾式伸線される。中間ワイヤは、0.50~3.20mm、例えば1.20~2.50mmの直径を有する。
c.その後、中間ワイヤは、パテンティングされる。パテンティングは、当業者に知られている操作である。パテンティング操作では、炭素を鉄格子に溶解するために、一般に950℃~1050℃であるスチールのオーステナイト化温度より高い温度にワイヤがもたらされる。その後、中間ワイヤは、550℃~660℃の浸漬温度に保たれ、これによりワイヤロッドの元の微細なパーライトスチール構造が復元される。この構造は、より細い直径に容易に伸線できるため、特に好まれる。得られたワイヤは、パテンティングされたワイヤである。
d.その後、酸を含む浴にワイヤを通すことにより、このワイヤを酸洗浄して余分な酸化物又は伸線した残留物を除去する。典型的には、硫酸水素塩、塩化水素又は同様の強酸がその目的に使用される。
e.パテンティングされたワイヤは、提案された組成と質量に達するように調整された量で、それ自体が知られている方法において銅で更に電解コーティングされる。典型的な銅めっき浴は、硫酸銅又はピロリン酸銅浴であり、組成物、濃度、pH値を有し、当業者に知られている電流密度で操作される。
f.その後、銅コーティングされたワイヤは、提案された真鍮組成物に達するのに十分な量の亜鉛金属で電解コーティングされる。典型的な亜鉛めっき浴は、組成物、濃度、pH値を有し、当技術分野で知られている電流密度で操作される硫酸亜鉛浴である。
g.更なる工程において、真鍮は、それ自体知られている方法で熱を加えることによって亜鉛及び銅を拡散させることによって形成される。熱は、スチールワイヤを介して駆動される電流又は電磁的に誘導された渦電流のいずれかにより、ワイヤの抵抗加熱によって発生することができる。
h.真鍮メッキワイヤを湿式ワイヤ伸線ベンチにおいて伸線することにより、本発明によるスチールフィラメントが形成される。このような操作では、真鍮メッキワイヤを潤滑剤に浸し、オリフィスを徐々に小さくしていく一連のダイを通して伸線する。
【0055】
このプロセスの特徴は、中間ワイヤが0.40マイクロメートルより大きい、例えば0.50マイクロメートルより大きい又は更に0.55マイクロメートルより大きい、以下の円周方向算術平均偏差Ra又は「円周方向粗さ」を有することである。「粗さ」が0.40マイクロメートル未満である場合、接着に対する有利な効果は、より少ない程度で生じることになる。円周方向算術平均偏差は、1.00マイクロメートル以下であり、例えば0.95マイクロメートル未満である。円周方向粗さが大きすぎると、疲労特性が失われる。
【0056】
国際規格ISO 4287:1997で規定されている定義「Geometrical Product Specifications(GPS) - Surface texture:Profile method - Terms,definitions and surface texture parameters」が適用される。「算術平均偏差R
a」は、
【数4】
と定義され、式中、L
eは、ワイヤの円周方向ξにおける評価長さであり、
【数5】
は、ワイヤ軸に対する半径方向の平均値からの絶対偏差であり、
【数6】
は、評価長さL
eにわたる半径偏差の平均値である。物理的に測定値は、数値形式で表示されるため、積分は、iが1~Nにわたる、N個の離散偏差測定r
iにまたがる完全な評価長さにわたる離散総和に置き換えることができる。
【0057】
粗さは、ワイヤが回転している間、スタイラスが半径方向の変動を測定するスタイラス型の装置によって決定されることが好ましい。ISO 4288:1996の推奨に従い、0.40~1.00マイクロメートルの予想される粗さにおいて、最小評価長さLeを4mm、カットオフ長さλcを0.80mmとする必要がある。分析で使用されるカットオフ長さλcは、プロファイルのうねりと実際の粗さとを区別する。ワイヤの直径が1.27mm未満である場合、必要な評価長さに達するためにオーバーラップを導入する必要がある。同じ分析方法に従うことを条件として、ワイヤの垂直断面に基づく光学的方法も使用することができる。
【0058】
スチールフィラメントを作製するための方法の改良形態によれば、ダイヤモンドを含む1つ以上のダイが湿式ワイヤ伸線の1つ以上の最終パスで使用される。「ダイヤモンドを含むダイ」が意味するものの限定的な例は、単一の天然ダイヤモンド、単一の人工ダイヤモンド、一緒に焼結されたダイヤモンド粒子のコンパクト(「焼結ダイヤモンド」)、カーボナード(「ブラックダイヤモンド」)又は多結晶ダイヤモンド(「PCDダイ」)からなるダイである。ダイヤモンドを含むダイを使用すると、一般に使用され、受け入れられているタングステンカーバイドダイと比較して、中間ワイヤの円周方向粗さが増大することと相まって、表面の鉄の量が増加することが本発明者らの経験である。
【0059】
この方法の別の改良形態は、中間ワイヤの酸洗浄工程が塩酸中で行われ、ここで、鉄(III)の濃度は、1リットル当たり6グラム~15グラム又は更に1リットル当たり7グラム~15グラム若しくは1リットル当たり8グラム~13グラムである。これらは、塩酸中の鉄(III)イオンの通常ではない高い濃度である。本発明者らは、このような高濃度がワイヤ表面の攻撃の増加、従って粗さの増加をもたらすことを経験している。粗さが増すと、表面の鉄が多くなる。
【0060】
この方法の更に別の代替形態では、パテンティング及び銅コーティングされたワイヤを亜鉛コーティングで電解コーティングする工程(工程「f」)後、ワイヤを、鉄(II)カチオンを含有する酸性浴に通す。その後にのみ、銅及び亜鉛が真鍮に拡散される(工程「g」)。亜鉛表面原子は、鉄原子と交換され、鉄の表面での存在を増加させる。
【0061】
この方法の更に別の代替形態では、パテンティング及び銅コーティングされたワイヤを亜鉛コーティングで電解コーティングする工程(工程「f」)後、ワイヤを、鉄(II)カチオンを含有する酸性浴に通す。亜鉛表面原子は、鉄原子と交換される。その後、更なる亜鉛層が、鉄交換層の上に電解堆積される。その後にのみ、拡散が実行される。この代替形態には、加えられた鉄が亜鉛層に埋もれているという利点がある。
【0062】
鉄(II)カチオンを含有する可能な酸性浴の組成物は、
- 塩化第一鉄溶液、
- 硫酸第一鉄溶液、
- 硫酸アンモニウム第一鉄溶液、
- ホウフッ化第一鉄溶液、
- スルファミン酸第一鉄溶液、
- 混合硫酸塩-塩化物浴
である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】参照試料及び本発明による様々な試料についての、Fe、Cu及びZn原子の合計に対するFeの原子濃度プロファイル(Fe)
iである。
【
図2】参照試料及び本発明の別の実施形態による様々な試料についての、Fe、Cu及びZn原子の合計に対するFeの原子濃度プロファイル(Fe)
iである。
【
図3】厚い真鍮ストライプが比較的明るく見え、及び薄い真鍮ストライプが比較的暗く見えることを示すBSE SEM写真である。
【
図4】元素分析のための分析点が示されている、走査型オージェ顕微鏡での二次電子イメージングによる
図3の拡大された180°回転した部分を示す。
【
図5】オージェ深さ分析によって測定される、参照試料と2つの本発明の試料の薄い真鍮ストライプ(即ちより暗く見える)の鉄分布の違いを示す。
【
図6】オージェ深さ分析によって測定される、参照試料と2つの本発明の試料の厚い真鍮ストライプ(即ちより明るく見える)の鉄分布の違いを示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明の試料を作製するために、本発明者らは、公称直径5.5mmの炭素クラス0.80重量%Cの高炭素スチールワイヤロッドから始めた。
【0065】
ワイヤは、1.85mmの中間直径に乾式伸線された。約0.90μmの十分に高い円周方向粗さRaを得るように注意が払われた。中間ワイヤの円周方向粗さRaは、乾式伸線工程における石けん粉末の引き込みを大きくするか、乾式伸線工程における最終ダイの絞り値を小さくするか、乾式伸線における伸線速度を遅くするか、乾式伸線でダイ角度を小さくするか、又は上記のいずれかを組み合わせることにより大きくすることができる。こうして、中間ワイヤでは、0.80~1.00μmの円周方向粗さRaが得られた。
【0066】
その後、ワイヤは、当業者によりそれ自体知られている方法で酸洗浄することによって洗浄された。酸洗浄の目的に一般的に使用される酸は塩酸である。しかしながら、鉄(III)カチオンの濃度を1リットル当たり6グラム超及び1リットル当たり15グラム未満に保つことにより - これは、当業者にとって通常ではない条件である - 円周方向粗さを更に増加させることができる。
【0067】
その後、ピロ硫酸銅堆積浴からの電解堆積によってワイヤを銅でコーティングした。適切なすすぎ及び乾燥後、ワイヤは、硫酸亜鉛浴から堆積した亜鉛で電解コーティングされる。これらは、当業者に知られている技術である。
【0068】
亜鉛の堆積に続いて、亜鉛との交換反応により、鉄(II)カチオンを含有する酸性電解液から鉄を堆積させることができる。亜鉛は鉄よりも酸化しないため、亜鉛カチオンが溶液に溶解し、電荷の中性を維持するために鉄(II)カチオンが堆積する。硫酸鉄溶液は、酸が亜鉛電解質の酸と相容性があるため、鉄を堆積させるのに最も適しているようである。堆積する鉄の量は、ワイヤの浸漬時間によって異なる。
【0069】
その後、抵抗加熱又は中間周波数誘導加熱によってワイヤを加熱することにより、銅及び亜鉛が拡散され、交換された鉄が表面に存在し残る。
【0070】
パテンティング、銅メッキ、亜鉛メッキ、鉄の堆積及び拡散は、ランスルー設備においてインラインで実行され、この設備では、中間ワイヤのスプールが巻き戻され、設備に通され、結果として生じる真鍮メッキワイヤが巻き取りスプールに巻き取られる。
【0071】
次の工程では、ワイヤは、直径0.28mmのスチールフィラメントに伸線された湿式ワイヤである。最終パスの1つ以上でダイヤモンドダイを使用することにより、即ち湿式ワイヤ伸線ベンチの出口に向かってダイを配置することにより、ワイヤは、十分に伸線可能になる。特に、亜鉛-鉄交換反応によって真鍮に鉄が豊富に含まれている場合、伸線性が問題になる。
【0072】
上記の様々なパラメーターを変動させることにより、表面で一層高い鉄濃度を示す一連の試料が作成された。参照として、同じルーティングに従うが、中間ワイヤの表面粗さが0.40μm未満である通常の真鍮ワイヤが使用され、酸洗浄条件は、通常(鉄(III)カチオン濃度4~7グラム/リットル)であり、鉄の追加添加は行われず、伸線は、通常のウィディアダイ(widia die)で行われた。この試料は、参照用に「参照」で示される。
【0073】
XRFSにより、スチールコードの質量単位当たりの銅及び亜鉛の質量が、当業者に知られている方法に従って決定された。銅及び亜鉛の総質量から、コーティングの平均厚さ(nmで表される)を計算できる。銅の質量パーセントは、銅及び亜鉛の総質量に対する銅の質量の比によって計算される。
【0074】
真鍮コーティングの上部層における鉄の分布は、X線光電子分光法によって測定された。使用した装置は、Thermo Fisher Scientificから入手可能なK-Alpha X-Ray Photoelectron Spectrometer(XPS)システムであった。典型的には、試料の分析の深度は、約8,000μm
2のビーム領域にわたり2~5nmである。放出された電子の運動エネルギー分布から、プローブされた原子の情報を、元素番号(ピークのエネルギー位置)及び存在する原子の数(ピークの高さ)に関して取得できる。多くの元素をプローブできるが、銅、亜鉛及び鉄のカウントのみが保持される。アルゴン銃によって原子の上部層を段階的に除去することにより、層の上部の原子分布の深さプロファイルが得られる。トレースの例は、
図1及び2に見ることができ、これは、様々な合計スパッタリング時間で検出されたCu、Zn及びFe原子の合計の(Fe)
i量を原子パーセントで示している。調整されたアルゴンビームの場合、10秒間のスパッタリングで約1nmの材料が除去される。トレースから明らかなように、表面に存在する鉄の量は、参照ワイヤ(「参照」で示される)と比較して、本発明のワイヤにおいてはるかに増加する。
【0075】
台形則により、平均鉄含有量は、表面「0」から深さ「x」ナノメートルまで延びる層にわたり計算され、「x」は、第1、第2及び第3の層に対応する3、9及び20nmの値を取る。この手順は、コーティングの局所的な変動によって測定値が偏ることを防ぐために、1つのスチールフィラメントの表面の様々なスポットで取得された4つのトレースで繰り返される。
【0076】
このようにして、以下の表Iが作成される(イタリック体の数字は、特許請求の範囲の条件に該当する)。
【0077】
【0078】
表Iにおいて、試料(S2、S9)、(S3、S10)、(S4、S11)、(S5、S12)及び(S6、S13)間の唯一の違いは、対の第1のメンバーがダイヤモンドダイ(「D」)によって伸線され、第2のメンバーが従来のタングステンカーバイドダイ(「W」)によって伸線されることである。ダイヤモンドを含有するダイの使用は、本発明に合致する表面での鉄の存在の増加、即ち表面での鉄の存在の増加を常にもたらすように見えることに注意すべきである。
【0079】
図3は、走査型電子顕微鏡(FEI Inspectモデル)のBSEモードで後方散乱電子によって形成された真鍮フィラメントの表面の写真を示している。この写真では、コーティングは、ワイヤの方向に交互に明るいストライプと暗いストライプを示している。明るいストライプは、より厚い真鍮ストライプに対応し - その点は、「+2」の参照で示される - より暗いストライプは、例えば「+1」で示される点の比較的薄いコーティングに関連する。走査型オージェ顕微鏡で同じスポットを分析できるように、意図的に傷をつけた。
【0080】
図4は、同じ領域を示しているが、PHIの走査型オージェ顕微鏡で観察される「二次電子イメージング」(SEI)モードである。
図3と比較して、向きが180°回転し、倍率が4倍であることに留意されたい。示されたスポット「1」及び「2」で、ULVAC-PHIから入手可能な「PHI-700 Scanning Auger Nanoprobe」によってオージェ電子プロファイルを測定した。この手順により、両方の領域で得られた深さプロファイルを様々な試料について互いに比較することができる。オージェ分析は、分析領域が非常に小さく、典型的には100nm
2未満である点でXPSと異なる一方、XPSの場合、これは、数平方マイクロメートルである。
【0081】
図5は、SEMのBSEモードで暗く見える領域の鉄、銅及び亜鉛の合計に対する鉄の存在を示している。予想通り - 真鍮のコーティングが薄いため - 存在する鉄の量は、スチール基材に到達すると、急激に増加し、これは、典型的には10nm以内で発生する。本発明による試料と参照の両方が、最初の数ナノメートルで鉄の顕著な存在を示し得る。
【0082】
それとは対照的に、参照試料のSEMのBSEモードで明るく見える領域での鉄の存在を分析すると、表面から最初の3、10又は更に15nmにおいて鉄、銅及び亜鉛の合計に対して鉄の存在は、非常に限られたものにすぎない:平均して、これは0.03又は3原子パーセント未満のままである。しかしながら、本発明の試料、S3及びS4では、非常に低い深さでさえ、厚い真鍮領域でさえ検出された鉄の顕著な存在がすでにある。様々な試料中の鉄の平均原子パーセントを計算すると、以下の結果が得られる(表II)。
【0083】
【0084】
表面の鉄の量が増加すると、コバルト塩含有化合物及びコバルト非含有化合物における接着性能が向上することが以下で実証される。
【0085】
各タイプの参照及び試料フィラメントの0.28mmの3つのフィラメントを一緒に撚り合わせて、3×0.28mmのスチールコードを形成した。これらのスチールコードは、基本的に2つのグループに分かれる多数の様々な接着化合物で接着試験を実施するために使用された:
- グループIは、意図的に添加された有機コバルト塩を含むという共通の特徴を有する6つの様々な化合物を含む。
- グループIIは、意図的に添加されたコバルトを全てが含まない6つの様々な化合物を含む。
【0086】
12種類の化合物のそれぞれについて、通常の硬化(RC)の条件は、TC90時間に5分を加えた時間として設定され、TC90は、特定のゴムが加硫温度で取得したレオメーター曲線でその最大トルクの90%に達する時間である。
【0087】
接着保持を確立するために、以下のエージング条件がRC硬化試料に適用される:
- 硬化湿度エージング(CH)後:RC試料は、相対湿度95%の環境にて93℃で14日間保持される。
- 蒸気エージング(SA)後:この場合、RC試料は、120℃で2日間蒸気加熱される。
【0088】
以下の各加硫条件では、RC、CH又はSAを「条件」と呼ぶ。
【0089】
接着の結果は、BISFA(「The International Bureau for Standardisation of Man-made fibres」)brochure‘Internationally agreed methods for testing of steel tyre cord’1995 Edition,“D12 Determination of static adhesion to rubber compounds”に更に詳述される、ASTM D2229-04規格に従って決定される引き抜き力である。この試験では、スチールコードが、ブロック形状のゴムに埋め込まれ、加硫後に軸方向に沿ってゴムから引き抜かれる。達成された最大力(N単位)が記録される。個々の最大力(N単位)の数回(少なくとも4回)の測定値の平均は、1つの試料、1つのグループ、1つの条件の組み合わせにおける「引き抜き力」(POF)として記録される。
【0090】
接着試験の結果は、参照平均(「RA」)に対するZスコアとして、以下の表III及び表IVに示される。参照平均RAは、「参照」試料、即ちグループIの全てのコバルト含有化合物でタングステンカーバイドダイにおいて伸線された通常の真鍮コーティングの加重平均に等しく、これは、列の見出しに従って特定の条件についてのものである。参照標準偏差(「RSTD」)は、特定の条件のグループI化合物の参照試料において得られた全ての結果の統計的標準偏差に等しい。要するに、正又は負の偏差は、様々な条件のそれぞれについてコバルト含有ゴムで試験されたタングステンカーバイドダイにおいて伸線された既知の真鍮スチールコードに対して計算される。
【0091】
グループI及びIIのそれぞれについて並びに表IIの試料(「試料」)の選択について、引き抜き力が各条件について決定された。引き抜き力は、試料平均(「SA」)に平均化された重量であり、統計的標準偏差が計算され、そのファミリーと条件における試料標準偏差(「SSTD」)と呼ばれる。
【0092】
次いで、特定の条件の化合物のグループにおける試料のZスコアは、そのグループ及び条件の試料平均からその条件の参照平均を差し引いた差を、参照標準偏差及び試料標準偏差のプールされた標準偏差で割ったものに等しい。要するに、
【数7】
(式中、N
Sは、SA及びSSTDを取得するためにプールされた結果の数であり、N
Rは、RA及びRSTDを取得するためにプールされた結果の数である)
である。
【0093】
Zスコアは、平均からの偏差が参照平均から統計的に有意である方法を示し、即ち試料が試験された特定のグループ及び条件における従来技術である:
- 「-2」未満のZスコアは、参照平均と比較して統計的に有意な悪化を示す。
- -2~-1のZスコアは、悪化の可能性を示しているが、統計的に有意ではない。
- 「-1」~「+1」のZスコアは、参照平均に対する統計的に有意な悪化又は改善が推測できないことを示す。
- +1~+2のZスコアは、統計的に有意ではない改善の可能性を示している。
- +2を超えるZスコアは、従来技術に対する統計的に有意な改善を表している。
【0094】
表IIIは、グループI化合物で得られる選択された試料で得られたZスコアの結果を要約する。結論は、以下の通りである:
- 通常の硬化(RC)では、0~3nm内の7.5原子%未満のFeの平均鉄濃度の参照と比較して、全体的な結果は中立から有意に低いものではない。
平均鉄濃度が7.5原子%超のFeである試料(S6、S12)は、参照(二重下線)よりも大幅に低い結果を示している。従って、表面の鉄含有量が高すぎると、通常の硬化の結果に悪影響を及ぼす。
- 硬化湿度(CH)の場合、結果は、一般に、標準参照(全て正の符号)と比較して良好である。試料(S4、S5、太字で表示)の結果は、コバルト含有化合物でCHの結果が有意に改善されたことを示している。しかしながら、従来のタングステンカーバイドダイで伸線された試料は、より低い結果を示している。従って、スチールフィラメントの表面で4原子%超のFeの平均鉄濃度は、硬化した湿度エージングされた接着保持に正の効果をもたらす。
- 蒸気エージング(SA)では、スチールフィラメントの表面で4原子%超のFeの平均鉄濃度で有意な一般的な正の改善が見られる。タングステンカーバイドダイで伸線された試料は、より低い値になる。
【0095】
スチールフィラメントの上部0~3nmに4~7.5原子%のFeを有する試料は、コバルト化合物を含む接着ゴムの3つの条件にわたり最良の性能を発揮する。
【0096】
表IVは、グループII化合物の選択された試料で得られたZスコア結果を要約する。結論は、以下の通りである:
- 通常の硬化(RC)では、全体的な結果は、ダイヤモンドを含むダイで伸線された試料の表面の0~3nm内で7.5原子%未満のFeの平均鉄濃度について参照と比較して中立から有意に負ではない。
タングステンカーバイドで伸線された試料は、スコアが有意に低くなる。
- 硬化した湿度エージング(CH)では、全ての本発明の試料は、参照より良好なスコアであり、0~3nm内で4原子%超のFeの平均鉄濃度について参照より有意に良好である。
- 蒸気エージングされた試料(SA)では、全ての本発明の試料は、参照より有意に良好なスコアである。
【0097】
結論として、表面の0~3nm内で4原子%超のFe及び7.5原子%未満のFeの平均鉄含有量を有する本発明の試料は、コバルト塩を含む接着化合物において、通常の硬化について同等の結果を示し、硬化した湿度エージング及び蒸気エージング条件について改善された結果を示す。コバルトを実質的に含まない接着化合物で試験した場合、硬化した湿度エージング及び蒸気エージング後の結果は、有意により良好であるが、通常の硬化結果は、わずかにより低いのみである。湿式ワイヤ伸線における1つ以上の最終パスにおいてダイヤモンドを含む1つ以上のダイを使用すると、これらの結果が更に改善される。
【0098】
【0099】
【国際調査報告】