(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】プロトン交換膜型電解槽デバイス及び該デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20230703BHJP
C25B 1/27 20210101ALI20230703BHJP
C25B 1/30 20060101ALI20230703BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230703BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230703BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20230703BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20230703BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20230703BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20230703BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20230703BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B1/27
C25B1/30
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/067
C25B11/063
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575765
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 NL2021050369
(87)【国際公開番号】W WO2021251826
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504346525
【氏名又は名称】ネーデルランツェ・オルガニザーティ・フォール・トゥーヘパストナトゥールウェテンシャッペレイク・オンダーズーク・テーエヌオー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】シルバニアン, アリレザ ペズマン
(72)【発明者】
【氏名】トレグロサ, イヴァン ガルシア
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011AA20
4K011AA21
4K011AA22
4K011DA01
4K011DA11
4K021AA01
4K021AB15
4K021AB25
4K021BA02
4K021BB02
4K021BB03
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021DC15
(57)【要約】
プロトン交換膜型電解槽は、アノード、カソード、及びプロトン交換膜を含み、アノードは膜の第1の表面にあり、カソードは反対側の第2の表面にある。アノードは、平行なアノード触媒層とアノード多孔質輸送層とを含み、触媒層は輸送層と第1の表面との間にある。カソードは、平行なカソード触媒層とカソード多孔質輸送層とを含み、触媒層は輸送層と第2の表面との間にある。電解槽は、アノード側及びカソード側に導電性の第1のメッシュ及び第2のメッシュを含み、第1のメッシュの表面はアノード触媒層の表面を覆い、第2のメッシュの表面はカソード触媒層の表面を覆っている。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード部分、カソード部分、及びプロトン交換膜を具備するプロトン交換膜型電解槽であって、
前記アノード部分が、前記膜の第1の面側に配置されており、前記カソード部分が、前記膜の反対側の第2の面側に配置されており;
前記アノード部分が、アノード触媒層とアノード多孔質輸送層とを備え;前記アノード触媒層が、前記アノード多孔質輸送層と前記第1の面側との間に配置されており、
前記カソード部分が、カソード触媒層とカソード多孔質輸送層とを備え;前記カソード触媒層が、前記カソード多孔質輸送層と前記第2の面側との間に配置されており、
前記電解槽が、導電性の第1のメッシュ箔及び/又は導電性の第2のメッシュ箔を具備し、
前記導電性の第1のメッシュ箔が、第1の被覆領域において前記メッシュ箔の表面が前記アノード触媒層の表面を覆い、前記第1の被覆領域において前記メッシュ箔と前記アノード触媒層との間に第1の導電界面を設けるように前記アノード触媒層上に積層されており、
前記導電性の第2のメッシュ箔が、第2の被覆領域において前記メッシュ箔の表面が前記カソード触媒層の表面を覆い、前記第2の被覆領域において前記メッシュ箔と前記カソード触媒層との間に第2の導電界面を設けるように前記カソード触媒層上に積層されており、
前記メッシュ箔がそれぞれ、前記アノード触媒層と前記プロトン交換膜との間に、若しくは前記カソード触媒層と前記プロトン交換膜との間に配置されているか、
又は、前記メッシュ箔がそれぞれ、前記アノード触媒層と前記多孔質輸送層との間に、若しくは前記カソード触媒層と前記多孔質輸送層との間に配置されている、プロトン交換膜型電解槽。
【請求項2】
前記メッシュ箔がそれぞれ、隣接する各メッシュ開口部間に間隔を有する2次元配列で配置されたメッシュ開口部を備える、請求項1に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項3】
前記メッシュ箔がそれぞれ、サイズが0.5~20μm、好ましくは0.5~10μmの間であるメッシュ開口部を備える、請求項1又は2に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項4】
前記メッシュ箔のそれぞれにおいて、前記メッシュ開口部の間隔が、500~3000ライン/インチ、196ライン/cm~1181ライン/cmの密度を有する、請求項2又は3に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項5】
前記メッシュ箔のそれぞれにおいて、隣接するメッシュ開口部間のライン幅が0.5~10μmの間である、請求項4に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項6】
前記メッシュ箔がそれぞれ、前記導電界面に沿ってプロトンを輸送することができる、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項7】
前記メッシュ箔がそれぞれ、導電性材料の少なくとも1層を備え、
前記導電性材料が、
金、銀、クロム、ニオブ、ジルコニウム タンタル、ハフニウム、及びバナジウム、バルブ金属を含む金属群、
若しくは白金族の金属群、
若しくは遷移金属の炭化物、窒化物、ホウ化物、又はそれらの混合物/層からなる群のいずれかから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項8】
前記メッシュ箔が、前記多孔質輸送層の電子伝導度よりも相対的に大きな電子伝導度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項9】
箔材料の剛性が、PTL材料の剛性よりも小さい、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項10】
前記メッシュ箔がそれぞれ、ベース材料層をさらに備え、前記ベース材料が導電性ベース材料又は非導電性ベース材料のいずれかであり、前記導電性材料の前記少なくとも1層が前記ベース材料層の表面に配置されている、請求項7~9のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項11】
前記メッシュ箔がそれぞれ、ベース材料層をさらに備え、前記ベース材料が導電性ベース材料又は非導電性ベース材料のいずれかであり、前記ベース材料層の各表面が前記導電性材料の層で覆われている、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項12】
前記メッシュ箔がそれぞれ、前記メッシュ箔が配置された前記触媒層を横方向にシャントするように配置されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項13】
前記メッシュ箔がそれぞれ、50nm~25μm、より一般的には1~10μmの間の厚さを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロトン交換膜型電解槽。
【請求項14】
アノード部分、カソード部分、及びプロトン交換膜を備え、前記アノード部分が前記膜の第1の面側に配置されており、前記カソード部分が前記膜の反対側の第2の面側に配置されている、プロトン交換膜型電解槽を製造する方法であって、
前記アノード部分にアノード触媒層とアノード多孔質輸送層とを設け、前記アノード触媒層を前記アノード多孔質輸送層と前記第1の面側との間に配置するステップと、
前記カソード部分にカソード触媒層とカソード多孔質輸送層とを設け、前記カソード触媒層を前記カソード多孔質輸送層と前記第2の面側との間に配置するステップとを含み、
前記アノード部分側に導電性の第1のメッシュ箔を設け、前記メッシュ箔の表面と前記アノード触媒層の表面との間に第1の重なり部が形成され、前記メッシュ箔と前記アノード触媒層との間に、前記第1の重なり部にわたって第1の導電界面が形成されるように、前記導電性の第1のメッシュ箔を前記アノード触媒層に積層するステップであり、前記導電性の第1のメッシュ箔が、前記アノード触媒層と前記プロトン交換膜との間に、若しくは前記アノード触媒層と前記多孔質輸送層との間に配置される、ステップ、及び/又は
前記カソード部分側に導電性の第2のメッシュ箔を設け、前記メッシュ箔の表面と前記カソード触媒層の表面との間に第2の重なり部が形成され、前記メッシュ箔と前記カソード触媒層との間に、前記第2の重なり部にわたって第2の導電界面が形成されるように、前記導電性の第2のメッシュ箔を前記カソード触媒層に積層するステップであり、前記導電性の第2のメッシュ箔が、前記カソード触媒層と前記プロトン交換膜との間に、若しくは前記カソード触媒層と前記多孔質輸送層との間に配置される、ステップ
をさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、プロトン交換膜型電解槽デバイスに関する。また、本発明は、該デバイスを製造する方法に関する。
【0002】
[背景技術]
プロトン交換膜型電解槽(PEMWE)は、特に風力エネルギー及び太陽エネルギーなどの持続可能なエネルギー資源と組み合わされる場合、水の分解による水素製造及びエネルギー貯蔵のための最も有望なデバイスの1つと考えられてきた。典型的には、従来技術のPEMWEは、バイポーラプレート(BPP)、多孔質輸送層(PTL)、触媒層(CL)及びプロトン交換膜(PEM)などの構成要素を備える。触媒層は、典型的には、PEMにコーティングされる。PTLは、バイポーラプレートからPEMに液体材料を輸送するためのものである。アノード側の触媒は、典型的には、イリジウム(Ir)若しくはルテニウム(Ru)又はIr-Ru合金からなる。カソード側の触媒は、典型的には、白金(Pt)からなる。いずれの金属も地球上に存在する量は比較的少なく、したがって高額でしか入手できない。
【0003】
このため、電解槽において、これらの触媒材料の(より少ない量での)より高い利用率が望まれる。しかし、電解槽内の触媒金属の量を減らすこと(すなわち、触媒材料のより少ない担持量)により、PEMWEは、低い触媒の利用率、及び電解槽の構成要素全体、特にCL内における高いオーミック抵抗という問題を抱えることになる。層を形成する触媒の量を減らすと、触媒層内で中断部/不連続部が生じる可能性がある。その結果、触媒層内の領域が不均一になり、それに伴い小さな触媒パッチ/アイランドが形成されるが、それらは触媒担持量の減少により、互いに、及びPTLから電気的に切断/分離される可能性がある。したがって、分離された触媒粒子はPEMWEの電気化学反応に効果的に寄与することができず、結果として触媒の利用率が低下する。さらに、電気的に切断された触媒層/パッチにより、PEMWEにおいて全体のオーミック抵抗が著しく高く、必要なPEMWE電力が相対的に高くなり、したがって効率が低下することになる。
【0004】
Electrochimica Acta 316 (2019) 43-51では、面内輸送強化層を導入することによる、プロトン交換膜電解セルの性能改善について記載されている。PTLは、薄いチタンシートに直線貫通円形孔が開けられた穿孔シートとして具現化されている。これらのPTLの2層構造は、小細孔径(100ミクロン)を有する層の上に大細孔(830ミクロン)を有する層を積層したもので、物質輸送を向上させるために使用される。しかし、動力学又は触媒の利用率における変化は報告されていない。輸送の向上は、中程度の電流密度(2Amp/cm2)までの物質輸送が主に面外方向(PTLの面に対して垂直方向)において行われ、オーミック抵抗が減少したためであると主張されている。細孔の下にある触媒材料は物質輸送が促進されるが、PTLベースプレートの下にある触媒材料は面内物質輸送に依存し、この設計ではCLにおいて面内物質輸送は促進されない。したがって、電流密度が高くなり物質輸送抵抗も支配的になると、CLのこれらの領域では反応物質が奪われ、触媒の利用率が低下することが予想される。他方では、触媒担持量が減少し、不均一なCLが生じると、細孔の下にある触媒材料の分離されたパッチは、PTLから電気的に切断され、したがって、電気化学反応に有効に関与することができなくなる。また、後者により触媒の利用率も結果として低下する。
【0005】
したがって、PEMWEの運転に必要な電力を最小限に抑えるために、構成要素全体の高いオーミック抵抗と物質輸送抵抗を低減し、同時に触媒の利用率及び動力学を向上させることを目的とする。触媒材料の利用率が改善されれば、超低担持量での触媒材料の使用が可能になり、これによりPEMWEのコストをさらに下げ、この技術がクリーンエネルギー技術の中で広く採用される見通しを向上させることができる。
【0006】
[発明の概要]
目的は、アノード部分、カソード部分、及びプロトン交換膜を具備するプロトン交換膜型電解槽であって、
前記アノード部分が、前記膜の第1の面側に配置されており、前記カソード部分が、前記膜の反対側の第2の面側に配置されており;
前記アノード部分が、アノード触媒層とアノード多孔質輸送層とを備え;前記アノード触媒層が、前記アノード多孔質輸送層と前記第1の面側との間に配置されており、前記カソード部分が、カソード触媒層とカソード多孔質輸送層とを備え;前記カソード触媒層が、前記カソード多孔質輸送層と前記第2の面側との間に配置されており、
前記電解槽が、導電性の第1のメッシュ箔及び/又は導電性の第2のメッシュ箔を具備し、前記導電性の第1のメッシュ箔が、第1の被覆領域において前記メッシュ箔の表面が前記アノード触媒層の表面を覆い、前記第1の被覆領域において前記メッシュ箔と前記アノード触媒層との間に第1の導電界面を設けるように前記アノード触媒層上に積層されており、前記導電性の第2のメッシュ箔が、第2の被覆領域において前記メッシュ箔の表面が前記カソード触媒層の表面を覆い、前記第2の被覆領域において前記メッシュ箔と前記カソード触媒層との間に第2の導電界面を設けるように前記カソード触媒層上に積層されている、プロトン交換膜型電解槽によって達成される。それぞれのメッシュ箔は、以下の4つの方法のうちの1つで配置される。第1に、メッシュ箔は、アノード触媒層とプロトン交換膜との間に配置されてもよい。第2に、メッシュ箔は、カソード触媒層とプロトン交換膜との間に配置されてもよい。第3に、メッシュ箔は、アノード触媒層と多孔質輸送層との間に配置されてもよい。第4に、メッシュ箔は、カソード触媒層と多孔質輸送層との間に配置されてもよい。
【0007】
有利には、導電性の第1の及び/又は第2のメッシュ箔は、付随する触媒層の横方向(面内)のシャントを設ける。比較的薄い触媒層では、触媒層が不連続となり、触媒層の領域が互いに電気的に接続されないことがある。触媒層に付着させた導電性メッシュ箔は、触媒層内の領域間を電気的に接続する導電性シャントを形成する。その結果、電解に寄与しない切断された領域は、電気的に接続され、有効になる。さらに、オーミック抵抗が減少し、それにより、電解槽を駆動するのに必要な電力が減少する。
【0008】
本発明はまた、アノード部分、カソード部分、及びプロトン交換膜を備え、前記アノード部分が前記膜の第1の面側に配置されており、前記カソード部分が前記膜の反対側の第2の面側に配置されている、プロトン交換膜型電解槽を製造する方法であって、
前記アノード部分にアノード触媒層とアノード多孔質輸送層とを設け、前記アノード触媒層を前記アノード多孔質輸送層と前記第1の面側との間に配置するステップと、
前記カソード部分にカソード触媒層とカソード多孔質輸送層とを設け、前記カソード触媒層を前記カソード多孔質輸送層と前記第2の面側との間に配置するステップとを含み、
前記アノード部分側に導電性の第1のメッシュ箔を設け、前記メッシュ箔の表面と前記アノード触媒層の表面との間に第1の重なり部が形成され、前記メッシュ箔と前記アノード触媒層との間に、前記第1の重なり部にわたって第1の導電界面が形成されるように、前記導電性の第1のメッシュ箔を前記アノード触媒層に積層するステップであり、前記導電性の第1のメッシュ箔が、前記アノード触媒層と前記プロトン交換膜との間に、若しくは前記アノード触媒層と前記多孔質輸送層との間に配置される、ステップ、及び/又は
前記カソード部分側に導電性の第2のメッシュ箔を設け、前記メッシュ箔の表面と前記カソード触媒層の表面との間に第2の重なり部が形成され、前記メッシュ箔と前記カソード触媒層との間に、前記第2の重なり部にわたって第2の導電界面が形成されるように、前記導電性の第2のメッシュ箔を前記カソード触媒層に積層するステップであり、前記導電性の第2のメッシュ箔が、前記カソード触媒層と前記プロトン交換膜との間に、若しくは前記カソード触媒層と前記多孔質輸送層との間に配置される、ステップ
をさらに含む、方法に関する。
【0009】
有利な実施形態は、従属請求項によってさらに定義される。
【0010】
本発明は、その例示的な実施形態が示されている図面を参照しながら、以下においてより詳細に説明される。図面は、専ら例示の目的を意図しており、本発明の範囲内に入るすべての変更、均等物、及び代替物を網羅することになる発明概念の制限として意図されたものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される定義によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の分解図を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の導電性メッシュ箔の平面図を概略的に示す図である。
【
図3A】本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の層の配置を概略的に示す図である。
【
図3B】本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の層の配置を概略的に示す図である。
【
図4】一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽及び従来技術によるプロトン交換膜型電解槽の実験的分極曲線を示す図である。
【
図5】一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽及び従来技術によるプロトン交換膜型電解槽の実験的電気化学インピーダンス分光法(EIS)プロットを示す図である。
【0012】
[実施形態の説明]
電解槽では、水などの分子の分解反応が行われる。この分解反応は、2つの半反応:カソード電極においてカソードから電子が供与される(添加される)一方の半反応と、アノード電極においてアノードから電子が除去される他方の半反応からなる。
【0013】
例えば、水の電解の場合、酸性環境では、アノード半反応は次式で与えられる。
2H2O(l)→O2(g)+4H+(aq)+4e-(式1)
(l:液体、g:気体、aq:水溶液、e-:電子)
カソード半反応は次式で与えられる。
2H+(aq)+2e-→H2(g)(式2)
全体の反応は次式で与えられる。
2H2O(l)→O2(g)+2H2(g)(式3)
【0014】
この反応(式1~式3)により、電解槽のアノードでは酸素ガスが、カソードでは水素ガスが生成され、アノードからカソードにプロトン(H+)が輸送される。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽1の分解図を概略的に示す。
【0016】
プロトン交換膜型電解槽1は、アノード部分20、カソード部分40、プロトン交換膜30、第1のバイポーラプレート10及び第2のバイポーラプレート50を備える積層構造体である。アノード部分20、カソード部分40及びプロトン交換膜30は、第1のバイポーラプレート10と第2のバイポーラプレート50との間に配置されている。
【0017】
プロトン交換膜30は、アノード部分(すなわち、アノード反応が行われる容積部)からカソード部分(カソード反応が行われる容積部)へのプロトン(H+)の通過を可能にする電解槽の中心部分である。
【0018】
アノード部分20は、第1のバイポーラプレート10とプロトン交換膜30の第1の膜表面31との間に配置されている。
【0019】
カソード部分40は、プロトン交換膜30の、第1の膜表面とは反対側の第2の膜表面32と、第2のバイポーラプレート50との間に配置されている。
【0020】
第1のバイポーラプレートの外側表面11には、水流入口12と、酸素ガス及び未反応水の放出口13とが形成されている。第1のバイポーラプレート10の内側表面14には、アノード部分20へ水が輸送されるため、及びアノード部分20から酸素ガスが輸送されるための流路構造15が設けられている。
【0021】
第2のバイポーラプレート50の外側表面51には、水素ガスの放出口53が形成されている。第2のバイポーラプレート50の内側表面52には、カソード部分から水素ガスが輸送されるための第2の流路構造(図示せず)が設けられている。いくつかの実施形態において、カソード50もまた、水流入口(ここでは図示せず)を有していてもよいことが理解されよう。
【0022】
アノード部分20は、アノード多孔質輸送層22、アノード触媒層24、及び導電性の第1のメッシュ箔26の積層体を備え、アノード多孔質輸送層22は、第1の流路構造15に接して、第1のバイポーラプレート10と、第1のメッシュ箔26及びアノード触媒層24の組み合わせとの間に配置されている。第1のメッシュ箔26及びアノード触媒層24の組み合わせは、プロトン交換膜30の第1の膜表面31に接している。アノード触媒層24及びアノード多孔質輸送層22は、互いに平行であってもよく、互いに実質的に平行であってもよい。
【0023】
同様に、カソード部分40は、カソード多孔質輸送層42、カソード触媒層44及び導電性の第2のメッシュ箔46の積層体を備え、カソード多孔質輸送層42は、第2の流路構造54に接して、第2のバイポーラプレート50と、第2のメッシュ箔46及びカソード触媒層44の組み合わせとの間に配置されている。第2のメッシュ箔46及びカソード触媒層44の組み合わせは、プロトン交換膜30の第2の膜表面32に接している。カソード触媒層44及びカソード多孔質輸送層42は、互いに平行であってもよく、互いに実質的に平行であってもよい。
【0024】
一実施形態によれば、導電性の第1のメッシュ箔26は、アノード触媒層24上に積層され、第1のメッシュ箔の表面がアノード触媒層の表面を覆って接触する第1の被覆領域を形成する。このようにして、第1のメッシュ箔は、アノード触媒層の領域間に横方向のシャントを設け、電解槽1の使用中に、アノード触媒層のシャントされたすべての領域に電流を供給(ここでは図示しない外部電流源に電子を除去)することができる。横方向のシャントによって、アノード触媒層における領域間の中断部/不連続部が接続され、アノード触媒層の有効面積が拡大される。
【0025】
同様に、一実施形態によれば、導電性の第2のメッシュ箔46は、カソード触媒層44上に積層され、第2のメッシュ箔の表面がカソード触媒層の表面を覆って接触する第2の被覆領域を形成する。同様に、第2のメッシュ箔は、カソード触媒層の領域間に横方向のシャントを設け、電解槽1の使用中に、カソード触媒層のシャントされたすべての領域に電流を供給することができる。カソード触媒層の有効活性面積は、アノード触媒層について上記で説明したのと同じ方法で拡大される。
【0026】
多孔質輸送層22;42とプロトン交換膜30との間の導電性メッシュ箔26;46及び付随する触媒層24;44の配置について、
図3A及び
図3Bを参照してさらに説明する。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の導電性メッシュ箔の平面図を概略的に示す。示されるような導電性メッシュ箔は、カソード触媒層及びアノード触媒層の両方と共に使用することができる。
【0028】
メッシュ箔26;46は、典型的には、金(Au)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)及びタンタル(Ta)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)並びに一般的にはバルブ金属を含む群から選択される金属から作製される導電性箔である。また、該金属は、白金族(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)から選択されてもよい。
【0029】
或いは、メッシュ箔は、窒化チタン(TiN)、窒化ニオブ(NbN)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)、二ホウ化チタン(TiB2)を含む導電性酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物の群から選択される導電性化合物から作製されてもよい。さらに、メッシュは、ステンレス鋼(SS)などの低コストのベース材料で作製され、1種又は複数のバルブ金属及びその誘導体でコーティングされてもよい。
【0030】
メッシュ箔は、さらに、電解プロセスに適合する他の金属又は金属化合物から作製されてもよいことが理解されよう。
【0031】
一実施形態によれば、メッシュ箔の表面(複数可)は、さらに、プロトンを伝導するように構成されてもよく、プロトンを伝導することが可能であってもよい。
【0032】
一実施形態によれば、メッシュ箔は、
図2に概略的に示されるようなレイアウトを有する。一例として、
図2では、開口部の直交分布を有するメッシュ開口部の2次元配列が示されている。
【0033】
メッシュ箔26;46は、開口部間に間隔62を有する複数のメッシュ開口部61によって形成されるメッシュを備える箔である。メッシュ開口部は、開口部及び間隔の両方が整列するように配列されていることが好ましい。このような配列は、例えば、開口部のサイズが1~30μmの間であり、間隔62の密度が約500~3000ライン/インチ(196ライン/cm~1181ライン/cm)の間である、メッシュ開口部の2次元配列である。このような比較的小さな間隔を使用することによって、触媒層上のメッシュ箔による被覆が達成される。これにより、触媒層における、同等又はより大きなサイズのあらゆる中断部/不連続部が埋められ、したがって触媒層の有効活性面積が増加する。
【0034】
さらなる実施形態によれば、メッシュ箔26;46は、約0.5~約30μm、好ましくは約1~約30μm、より好ましくは約1~約20μm、より好ましくは約5~約10μm、又は約0.5~約10μmの間のメッシュ開口部61を備える。メッシュ箔26;46では、隣接するメッシュ開口部61間のライン62の幅が約1~約10μmであってもよい。メッシュにおける任意の2つの隣接するメッシュ開口部間の距離は、約1~約10μmの間であってもよい。
【0035】
一実施形態によれば、メッシュ箔26;46は、約50nm~約25μmの間、好ましくは1~3μmの間の厚さを有する。
【0036】
一実施形態において、開口部は、それぞれ1000ライン/インチ(392ライン/cm)で直交する2方向に沿って分布し、各開口部は約18μmの幅64を有し、ライン離隔(ライン幅62)は約7μmである。
【0037】
代替的実施形態において、開口部は、2000ライン/インチ(788ライン/cm)で直交する2方向に沿って分布し、各開口部は約8μmの幅64を有し、ライン離隔(ライン幅62)は約5μmである。
【0038】
図3A、
図3Bは、本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽の層の配置を概略的に示す。
【0039】
多孔質輸送層22;42とプロトン交換膜30との間のメッシュ箔26;46及び触媒層24;44の配置は、代替的な方法で達成することができる。電解槽は、1、2、3又は4つのメッシュ箔を具備してもよい。メッシュ箔26;46の一方又は両方は、多孔質輸送層22;42と触媒層24;44との間に配置されてもよい。この場合、触媒層24;44は、プロトン交換膜30の表面に直接配置することができる。メッシュ箔26;46の一方又は両方は、触媒層24;44と多孔質輸送層22との間に配置されてもよい。この場合、一方又は両方のメッシュ箔26;46は、プロトン交換膜30の表面に直接配置することができる。
【0040】
図3Aに概略的に示すように、メッシュ箔26;46は、多孔質輸送層22;42と触媒層24;44との間に配置されている。触媒層24;44は、プロトン交換膜30の表面に直接配置されている。
【0041】
図3Bは、メッシュ箔26;46がプロトン交換膜30の表面に直接配置されており、触媒層24;44が多孔質輸送層22;42とメッシュ箔26;46との間に配置されている代替的配置を概略的に示す。
【0042】
図3Aに示すような構成は、薄い金属箔からなる(したがって、比較的高い柔軟性を備える)メッシュ箔構造では、箔材料の剛性がPTL材料の剛性よりも小さく、言い換えれば、箔がPTLよりも柔軟で可鍛性であるという追加の利点を有する。この柔軟性の差により、メッシュ箔はPTLの凸凹に適合し、したがって、接点のサイズ及び数を増加させることができる。これにより、接触抵抗及びオーム損失をさらに低減し、PEMWEの効率を全体的に向上させることができる。加えて、多孔質輸送層22;42と触媒層24;44との間のメッシュ26;46は、膜30上に保護層を形成している。
【0043】
図3Bに示すような構成は、超薄膜(<50ミクロン)を使用して形成し、PEMWEセルにおける全体のオーミック抵抗を低減させ、効率を大幅に向上させることができるという追加の利点を有する。
【0044】
カソード側のメッシュ箔及び触媒層の配置は、アノード側のメッシュ箔及び触媒層の配置と同じで、プロトン交換膜に直接触媒層を設けるか、又はプロトン交換膜に直接メッシュ箔を設けるかのいずれでもよい。また、カソード側のメッシュ箔及び触媒層の配置を、アノード側のメッシュ箔及び触媒層の配置と反対にすることも考えられる。
【0045】
さらなる実施形態において、カソード側及び/又はアノード側の触媒層は、2つの平行なメッシュ箔の間に挟まれることに留意されたい。メッシュ箔のうちの1つは、プロトン交換膜上に直接配置されており、2つのメッシュ箔のうちの他の1つは、触媒層と多孔質輸送層との間にある。
【0046】
いくつかの実施形態において、メッシュ箔は、隣接する触媒層よりも大きな電子伝導度値、例えば少なくとも約25%大きい電子伝導度値を有する。
【0047】
図4は、一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽及び従来技術によるプロトン交換膜型電解槽による水の電解の実験的分極曲線を示す。
【0048】
本発明の一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽は、1000ライン/インチ(392ライン/cm)、メッシュ開口部の幅18μm、ライン幅7μmの金メッシュ箔(カソード及びアノードに1つずつ)を備えたものであった。プロトン交換膜型電解槽の活性面積は10cm2であった。アノードとしてイリジウム(2.5mg/cm2)が使用された。カソードとして白金(0.5mg/cm2)が使用された。プロトン交換膜は「ナフィオン117」から作製されたものであった。
【0049】
多孔質輸送層としてBekaert Tiクロスを使用した。
【0050】
従来技術のプロトン交換膜型電解槽は、同じ活性面積を有し、アノード及びカソードの面密度が同じである。膜は同様に「ナフィオン117」から作製されたものであった。同じ多孔質輸送層Tiクロスを使用した。
【0051】
原料として中性pHを有する水を使用した。電解反応は、各電解槽において60℃で行われた。
【0052】
図4において、分極曲線は、カソードとアノードとの間の電位差を、電流密度(すなわち、電流を電極面積で割ったもの)の関数として示している。従来技術の電解セルの分極曲線70は、十字を含む線によって描かれている。本発明によるプロトン交換膜型電解セルの分極曲線72は、円を含む線によって描かれている。
【0053】
見て分かるように、従来技術の電解セルの分極曲線70は、本発明によるプロトン交換膜型電解セルの分極曲線72よりも上にある。同じ電流密度では、従来技術の電解セルの方がカソードとアノードとの間の電位差がより大きい。ある電流密度(水素発生速度に対応)を発生させるのに必要な電位U(ボルト)は、メッシュ箔を備えたセルの方が、従来技術によるセルよりも低い。このことは、電力消費量が少なく、そのため効率が高いことを意味する。
【0054】
図5は、一実施形態によるプロトン交換膜型電解槽及び従来技術によるプロトン交換膜型電解槽による水の電解の実験的電気化学インピーダンス分光法(EIS)プロットを示す。
【0055】
図5において、EIS曲線は、それぞれの電解セルの電気インピーダンスを複素平面で示す。従来技術の電解セルのEIS曲線80は、十字を含む線によって描かれている。本発明によるプロトン交換膜型電解セルのEIS曲線82は、円を含む線によって描かれている。
【0056】
EIS測定は、
図4に関して上述したのと同じ実験条件下で行われた。
【0057】
図5において、高周波数における実部Re(z)軸の切片(矢印84及び86で示される)は、より良好な伝導度及び効率のために最小にする必要がある「高周波抵抗」を表している。示されるように、セル温度60℃、1.7Vにおいて、本発明による電解槽はHFR=0.024オーム(矢印84)であり、従来技術の電解槽はHFR=0.0276オーム(矢印86)である。さらに、本発明に従ってメッシュを利用した場合の低周波抵抗(LFR)は、0.033オーム(矢印87)から0.0285オーム(矢印88)へと低下している。
【0058】
先行する明細書では、水の分解に関する電解プロセスについて言及したが、電解及び電解セルは、水の分解プロセスに限定されず、二酸化炭素(CO2)の還元、アンモニア(NH3)の生成及び過酸化水素(H2O2)の製造などの、当業者に知られている種々の電気化学プロセスに関連して使用することも可能である。
【0059】
また、上述したような実施形態による電解セルの実験データは、本発明を説明するための例示に過ぎないことに留意されたい。
【0060】
本発明は、その本質的な特徴から逸脱することなく、他の詳細な形態で具現化することができる。説明された実施形態は、すべての点で例示としてのみ考えられ、発明概念を制限するものではない。したがって、本発明の範囲は、前述の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。当業者には、本発明の代替的及び均等な実施形態が考え出され、実施に還元され得ることが明らかであろう。加えて、電解槽の特定の構成又は材料を本発明の教示に適合させるために、その本質的範囲から逸脱することなく、多くの変更を行うことができる。
【0061】
特許請求の範囲の意味及び均等性の範囲に含まれるすべての変更は、その範囲内に包含されるものとする。
【国際調査報告】