(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/02 20060101AFI20230703BHJP
A61B 17/24 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A61L31/02
A61B17/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576435
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2021007035
(87)【国際公開番号】W WO2021251695
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0069481
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0072460
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522480595
【氏名又は名称】メディケアテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDICARETEC CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Hawolgok-dong, Korea Institute of Science and Technology)922A-ho, H1-dong, 5, Hwarang-ro 14-gil Seongbuk-gu Seoul 02792 Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チョン ハンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジ クァンク
(72)【発明者】
【氏名】キム チョンウ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AC07
4C081BB07
4C081BC02
4C081CG03
4C081CG08
4C081DA03
4C081DC15
4C081EA04
4C081EA12
4C160MM06
(57)【要約】
本発明は、作業温度において、チューブ部材の特定の領域においてのみ折り曲げが自由に行われて、使用者がチューブ部材の折り曲げ角度を種々に調節することのできる局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材及びこの製造方法に関するものである。
本発明の一つの観点によれば、互いに異なる合金組織を有する第1の領域及び第2の領域を含む合金チューブ部材であって、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材が提供される。本発明の一実施形態によれば、前記第1の領域は、所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有し、前記第2の領域は、前記作業温度において、マルテンサイト相を有し、前記第2の領域の降伏応力は、前記第1の領域の降伏応力よりもさらに低い値を有していてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる合金組織を有する第1の領域及び第2の領域を含む合金チューブ部材であり、
前記第1の領域は、所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有し、
前記第2の領域は、前記作業温度において、マルテンサイト相を有し、
前記第2の領域の降伏応力は、前記第1の領域の降伏応力よりもさらに低い値を有する、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項2】
前記第1の領域がオーステナイト相を有する場合、前記第1の領域は、第1の相転移温度を有し、
前記第2の領域は、前記第1の相転移温度よりも高い第2の相転移温度を有し、
前記第1及び第2の相転移温度は、低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こる温度である、請求項1に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項3】
前記第1の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに低い温度であり、
前記第2の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに高い温度である、請求項2に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項4】
前記第1の領域は、前記チューブ部材の一方の端部を備え、
前記第2の領域は、前記第1の領域につながるように形成されて前記チューブ部材の他方の端部を備える、請求項1に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項5】
所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有する第3の領域をさらに含み、
前記第1の領域は、前記チューブ部材の一方の端部を備え、
前記第3の領域は、前記チューブ部材の他方の端部を備え、
前記第2の領域は、一方の端が前記第1の領域とつながり、他方の端が前記第3の領域とつながるように形成されて、前記チューブ部材の中間部をなす、請求項1に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項6】
前記第3の領域は、第3の相転移温度を有し、
前記第3の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに低い温度を有する、請求項5に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項7】
前記第3の相転移温度は、第1の相転移温度に等しい、請求項6に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項8】
前記第3の領域は、
前記チューブ部材の他方の端部をなす一方の端にカット部材が結合される、請求項5に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項9】
前記作業温度は、
10℃~50℃の範囲を有する、請求項1~8のいずれか一項の記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項10】
前記チューブ部材は、副鼻洞手術器具を構成する部材である、請求項9に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項11】
前記チューブ部材は、電線(Electric wire)挿入用のガイドチューブ部材を備える、請求項1に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項12】
前記第2の領域は、
所定の折り曲げ角度に折り曲げられた形状を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項13】
前記合金チューブ部材は、ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、銅-亜鉛(Cu-Zn)合金、金-カドミウム(Au-Cd)合金及びインジウム-タリウム(In-TI)合金のうちのいずれか一種を含む合金からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材。
【請求項14】
合金チューブ部材付きの副鼻洞手術器具であって、
前記合金チューブ部材は、
手術が行われる作業温度においてオーステナイト相を有する第1の領域及び第3の領域と、
前記作業温度においてマルテンサイト相を有する第2の領域と、
を含み、
第3の領域の一方の端部にはカット部材が結合され、
前記第1の領域乃至第3の領域は、低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こる相転移温度を有し、
前記第2の領域の相転移温度は、前記第1の領域及び第3の領域の相転移温度よりも高い温度である、副鼻洞手術器具。
【請求項15】
第1の領域と第2の領域とに画成される冷間加工された合金チューブ部材を用意するステップと、
前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、
前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に熱処理を施すステップと、
を含み、
前記熱処理を施すステップは、前記第2の領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、
相転移が起こる温度は、前記第2の領域の折り曲げ作業が行われる温度である作業温度よりもさらに高い温度である、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法。
【請求項16】
第1の領域、第2の領域及び第3の領域に画成される冷間加工された合金チューブ部材を用意するステップと、
前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、
前記チューブ部材がオーステナイト相を有するように、前記チューブ部材の全体の領域に対して第1の温度にて第1の熱処理を施すステップと、
前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第2の熱処理を施すステップと、
を含み、
前記第1及び第2の熱処理を施すステップは、熱処理の施された領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、
前記第2の領域の相転移温度は、前記第1の領域または第3の領域の相転移温度に比べてさらに高い温度である、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法。
【請求項17】
合金をチューブ状に冷間加工して、第1の領域、第2の領域及び第3の領域に画成される直線状のチューブ部材を用意するステップと、
前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、
前記第3の領域がオーステナイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第1の熱処理を施すステップと、
前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第2の熱処理を施すステップと、
を含み、
前記第1及び第2の熱処理を施すステップは、熱処理の施された領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、
前記第2の領域の相転移が起こる温度は、前記第2の領域の折り曲げ作業が行われる温度である作業温度よりもさらに高い温度である、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法。
【請求項18】
前記チューブ部材の前記第3の領域のみを局部的に第1の相転移温度よりも低い低温に冷却させるステップと、
冷却された前記第3の領域の一方の端を拡管してカット部材を結合するステップと、
前記第3の領域を前記第1の相転移温度よりも高い温度まで昇温させるステップと、
をさらに含む、請求項17に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法。
【請求項19】
前記合金チューブ部材は、ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、銅-亜鉛(Cu-Zn)合金、金-カドミウム(Au-Cd)合金、インジウム-タリウム(In-TI)合金のうちのいずれか一種を含む合金からなる、請求項15~18のいずれか一項に記載の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材及びこの製造方法に係り、さらに詳しくは、作業温度において、チューブ部材の特定の領域においてのみ折り曲げが自由に行われて、使用者がチューブ部材の折り曲げ角度を種々に調節することのできる局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の鼻腔とは、顔の真ん中にある鼻中の空いた個所のことを言うが、このような鼻腔の前方は外鼻孔により外界と交通し、後方は後鼻孔により咽頭と交通している。副鼻洞とは、このような鼻腔と連通されている顔骨中の空気により満たされた空いたスペースのことをいい、頭骨の中にある脳を外部の衝撃から保護する役割などを果たし、その種類には、上顎洞、前頭洞、篩骨洞及び蝶形骨洞などがある。
【0003】
副鼻洞は、種類ごとにその位置が異なるため、鼻の穴を介してチューブ部材からなる手術器具を挿入しようとする場合、副鼻洞の種類及び患者の体形に応じて接近角度が異なってくる虞がある。例えば、蝶形骨洞は約0°~30°、前頭洞は約70°~90°、上顎洞は約110°~120°であって、差が出る。これにより、副鼻洞の種類に応じた様々な接近角度に対応すべく、副鼻洞の手術器具は、いくつかの接近角に折り曲げられたステンレス製チューブ部材(例えば、折り曲げ角が0°、12°、40°、60°、90°、120°である)を備えて用いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の副鼻洞手術器具として用いられるステンレス製チューブ部材は、患者の体形や副鼻洞の種類に応じて様々な接近角が求められる場面に十分に対応することができない結果、チューブ部材の位置がターゲットに正確に合わない場合が生じるという不都合があった。また、従来のチューブ部材は、ステンレスから作製されて、チューブを任意に折り曲げて接近角を合わせる場合には、ステンレスの特性からみて、歪みがスリップ転位により起きるため、歪みが局部的に集中し易く、非可逆的に起きるため、チューブ部材の断面が円形状を保持し難く、折り曲げ個所においてチューブ部材が閉塞されてしまうという不都合が生じて、実質的にステンレス製のチューブ部材の折り曲げ角度を任意に調節することが不可能であるという不都合があった。
【0005】
本発明は、上記の如き不都合をはじめとして種々の諸問題を解消するためのものであって、作業者が作業を行う時点でチューブ部材の特定の領域においてのみ折り曲げが自由に行われて、使用者が作業環境に応じてチューブ部材の折り曲げ角度を種々に調節することのできる局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材及びこの製造方法を提供することを目的とする。しかしながら、このような課題は単なる例示的なものに過ぎず、これにより本発明の範囲が限定されることはない。なお、本発明は、上述した副鼻洞手術器具として使用可能であるが、これは単なる例示的なものに過ぎず、作業者により作業の目的に応じて自由に折り曲げて、使用可能な用途にはいずれも適用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの観点によれば、互いに異なる合金組織を有する第1の領域及び第2の領域を含む合金チューブ部材であって、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材が提供される。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、前記第1の領域は、所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有し、前記第2の領域は、前記作業温度において、マルテンサイト相を有し、前記第2の領域の降伏応力は、前記第1の領域の降伏応力よりもさらに低い値を有していてもよい。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、前記第1の領域がオーステナイト相を有する場合、前記第1の領域は、第1の相転移温度を有し、前記第2の領域は、前記第1の相転移温度よりも高い第2の相転移温度を有する。このとき、前記第1及び第2の相転移温度は、低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こる温度を意味する。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、前記第1の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに低い温度であり、前記第2の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに高い温度であってもよい。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、前記第1の領域は、前記チューブ部材の一方の端部を備え、前記第2の領域は、前記第1の領域につながるように形成されて前記チューブ部材の他方の端部を備えていてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有する第3の領域をさらに含んでいてもよい。このとき、前記第1の領域は、前記チューブ部材の一方の端部を備え、前記第3の領域は、前記チューブ部材の他方の端部を備え、前記第2の領域は、一方の端が前記第1の領域とつながり、他方の端が前記第3の領域とつながるように形成されて、前記チューブ部材の中間部をなしてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記第3の領域は、第3の相転移温度を有し、前記第3の相転移温度は、前記作業温度よりもさらに低い温度を有していてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記第3の相転移温度は、第1の相転移温度に等しくてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、前記第3の領域は、前記チューブ部材の他方の端部をなす一方の端にカット部材が結合されてもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記作業温度は、10℃~50℃の範囲を有していてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、前記チューブ部材は、副鼻洞手術器具を構成する部材であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記チューブ部材は、電線(Electric wire)挿入用のガイドチューブ部材を備えていてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、前記第2の領域は、所定の折り曲げ角度に折り曲げられた形状を有していてもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記合金チューブ部材は、ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、銅-亜鉛(Cu-Zn)合金、金-カドミウム(Au-Cd)合金及びインジウム-タリウム(In-TI)合金のうちのいずれか一種を含む合金からなることが好ましい。
【0020】
本発明の別の観点によれば、合金チューブ部材付きの副鼻洞手術器具が提供される。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、前記合金チューブ部材は、手術が行われる作業温度においてオーステナイト相を有する第1の領域及び第3の領域と、前記作業温度においてマルテンサイト相を有する第2の領域と、を含み、第3の領域の一方の端部にはカット部材が結合され、前記第1の領域乃至第3の領域は、低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こる相転移温度を有する。このとき、前記第2の領域の相転移温度は、前記第1の領域及び第3の領域の相転移温度よりも高い温度であってもよい。
【0022】
本発明のさらに別の観点によれば、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、前記方法は、第1の領域と第2の領域とに画成される冷間加工された合金チューブ部材を用意するステップと、前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に熱処理を施すステップと、を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、前記熱処理を施すステップは、前記第2の領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、相転移が起こる温度は、前記第2の領域の折り曲げ作業が行われる温度である作業温度よりもさらに高い温度であってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、第1の領域、第2の領域及び第3の領域に画成される冷間加工された合金チューブ部材を用意するステップと、前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、前記チューブ部材がオーステナイト相を有するように、前記チューブ部材の全体の領域に対して第1の温度にて第1の熱処理を施すステップと、前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第2の熱処理を施すステップと、を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、前記第1及び第2の熱処理を施すステップは、熱処理の施された領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、前記第2の領域の相転移温度は、前記第1の領域または第3の領域の相転移温度に比べてさらに高い温度であってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、合金をチューブ状に冷間加工して、第1の領域、第2の領域及び第3の領域に画成される直線状のチューブ部材を用意するステップと、前記チューブ部材の前記第2の領域の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げるステップと、前記第3の領域がオーステナイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第1の熱処理を施すステップと、前記第2の領域がマルテンサイト相を有するように、前記チューブ部材の前記第2の領域のみに対して局部的に第2の熱処理を施すステップと、を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、前記第1及び第2の熱処理を施すステップは、熱処理の施された領域が低温側のマルテンサイト相から高温側のオーステナイト相への相転移が起こるように行われるが、前記第2の領域の相転移が起こる温度は、前記第2の領域の折り曲げ作業が行われる温度である作業温度よりもさらに高い温度であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、前記チューブ部材の前記第3の領域のみを局部的に前記第1の相転移温度よりも低い低温に冷却させるステップと、冷却された前記第3の領域の一方の端を拡管してカット部材を結合するステップと、前記第3の領域を前記第1の相転移温度よりも高い温度まで昇温させるステップと、をさらに含んでいてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、前記合金チューブ部材は、ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、銅-亜鉛(Cu-Zn)合金、金-カドミウム(Au-Cd)合金、インジウム-タリウム(In-TI)合金のうちのいずれか一種を含む形状記憶合金からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
上述したような構成を有する本発明の一実施形態によれば、チューブ部材の特定の領域においてのみ折り曲げが自由に行われて、作業者が作業環境に応じてチューブ部材の折り曲げ角度を種々に調節することができる。したがって、本発明は、このような作業者による折り曲げが必要とされる場合、自由に折り曲げて、使用可能なあらゆる用途に適用可能である。例えば、チューブ部材を副鼻洞手術器具として用いるとき、一つのチューブ部材をもって患者の体形や副鼻洞の種類に応じて様々な接近角に折り曲げ角度を容易に調節して、副鼻洞に挿入されるチューブ部材の位置がターゲットにぴったり合うようにすることで、患者の治療をなお一層容易にするという効果を奏することができる。
【0032】
別の例を挙げると、医療用の手術器具の他にも、作業者の手が届かない個所に電線や各種の部材を挿入する部材挿入用のガイド部材など各種の作業現場において種々に使える局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を提供することができる。
【0033】
いうまでもなく、このような効果により本発明の範囲が限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一実施形態に係る局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を概略的に示す断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態に係る局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図1及び
図2の局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の各領域ごとの相転移温度を示すグラフである。
【
図4】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を製造する過程をステップごとに示す断面図である。
【
図5】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を製造する過程をステップごとに示す断面図である。
【
図6】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材を製造する過程をステップごとに示す断面図である。
【
図7】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造例を示す結果である。
【
図8】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造例を示す結果である。
【
図9】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造例を示す結果である。
【
図10】局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の製造例を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、互いに異なる合金組織を有する第1の領域及び第2の領域を含む合金チューブ部材であり、
前記第1の領域は、所定の作業温度において、冷間加工状態であるか、あるいはオーステナイト相を有し、
前記第2の領域は、前記作業温度において、マルテンサイト相を有し、
前記第2の領域の降伏応力は、前記第1の領域の降伏応力よりもさらに低い値を有する、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材に関するものである。
【0036】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好適な複数の実施形態について詳しく説明する。
【0037】
本発明の実施形態は、当該技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施形態は、色々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が下記の実施形態に限定されることはない。むしろ、これらの実施形態は、この開示をなお一層充実したものにするとともに、なお一層完全たるものにし、当業者に本発明の思想を完全に伝えるために提供されるものである。なお、図中、各層の厚さや大きさは、説明のしやすさ及び明確性のために誇張されている。
【0038】
以下、本発明の実施形態については、本発明の理想的な実施形態を概略的に示す図面に基づいて説明する。図中、例えば、製造技術および/または公差(tolerance)に応じて、図示の形状の歪みが予想され得る。よって、本発明の思想の実施形態は、この明細書に開示されている領域の特定の形状に制限されたものであると解釈されてはならず、例えば、製造の都合から招かれる形状の変化を含まなければならない。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係るチューブ部材100を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本発明の別の実施形態に係るチューブ部材200を概略的に示す断面図であり、
図3の(a)及び(b)は、
図1及び
図2に示すチューブ部材100、200の各領域ごと110、120、130の相変態温度(phase transformation temperature)を概念的に示すグラフである。ここで、チューブ部材100、200における領域は、同一のチューブ内において互いに異なる相(phase)を有し、境界をなす領域を意味することがある。なお、前記相転移温度は、温度が上がることにつれて、低温側のマルテンサイト相(martensite phase)が高温側のオーステナイト相(austenite phase)へと相転移される温度を意味する。
【0040】
まず、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るチューブ部材100は、合金からなるチューブ状であり、第1の領域110及び第2の領域120を含んでいてもよい。このとき、第1の領域110及び第2の領域120は、
図3の(a)に示すように、マルテンサイト相(M相)からオーステナイト相(A相)への相転移温度Afが互いに異なる領域を含んでいてもよい。
【0041】
具体的に、チューブ部材100は、ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金であって、45at%~55at%のニッケル(Ni)、48at%~55at%のニッケル、45at%~52at%のニッケル、または50at%~51at%のニッケルを含み、残部はチタン(Ti)である形状記憶合金であってもよい。しかしながら、チューブ部材100をなす合金は、必ずしもニッケル-チタン(Ni-Ti)合金に限定されるものではなく、形状記憶合金の性質を有し得る銅-亜鉛(Cu-Zn)合金、金-カドミウム(Au-Cd)合金、インジウム-タリウム(In-TI)合金など多種多様な合金からなることが好ましい。
【0042】
このような形状記憶合金は、高温側のオーステナイト相を有する母相と低温側のマルテンサイト相とにおいて結晶の配列が著しく異なることから、たとえ低温側において形状に変形を加えたとしても、一定の温度よりも高い温度に加熱すれば、元の形状(母相)に戻る形状記憶効果を奏することができる。
【0043】
このような形状記憶の効果は、冷間加工によりチューブ状に成形した後、所定の温度範囲において熱処理まで施した場合に発揮され、単に冷間加工されたチューブは、通常の合金素材のような応力-歪みの効果を発揮する。
【0044】
チューブ部材100は、作業者が手軽に折り曲げて使えるように直線状に形成されて、支持体の役割を果たせるほどの剛性を有する第1の領域110及び作業温度において自由に折り曲げ可能な第2の領域120から構成されてもよい。この場合、第1の領域110は、チューブ部材100の一方の端部を備え、第2の領域120は、第1の領域110につながるように形成されてチューブ部材100の折り曲げられた他方の端部を備えるように形成されてもよい。
【0045】
ここで、作業温度は、作業者により第2の領域120の折り曲げが行われるか、あるいは折り曲げられたチューブ部材200にて作業する環境の温度であってもよい。
【0046】
図3の(a)には、
図1に示すチューブ部材100の各領域ごとの相(phase)及び相転移温度が概念的に示されている。
図3の(a)を参照すると、第1の領域110の相転移温度Af1は、作業温度Tよりも低い値を有し、このため、作業温度Tにおいて、オーステナイト相(A相)を有する。これに対し、第2の領域120の相転移温度Af2は、作業温度Tよりもさらに高い温度を有しており、このため、作業温度Tにおいて、マルテンサイト相(M相)を有する。
【0047】
変形例を挙げると、チューブ部材100の第2の領域120は、マルテンサイト相を有し、第1の領域110は、温度の変化に伴う相転移特性を有していない、冷間加工のみが行われた状態を有していてもよい。
【0048】
作業温度Tにおいて、オーステナイト相もしくは通常の冷間加工状態を有する第1の領域110は、作業者が把持して作業するか、あるいは、別途の把持部と結合して使えるほどの剛性を有する。これに比べて、マルテンサイト相を有する第2の領域120は、小さな力でも簡単に歪める柔軟性を有しており、これについては、後述する別の実施形態においてなお一層詳しく述べる。
【0049】
本発明の別の実施形態を挙げると、チューブ部材200が副鼻洞手術器具のように医療用のチューブ部材として用いられる場合には、人体に進入して炎症など手術部位を取り除けるように、チューブ部材200へのカット部材Sの取り付けが必要になることがある。この場合、
図2に示すように、チューブ部材200は、支持体の役割を果たせる第1の領域110と、自由に折り曲げ可能な第2の領域120及びカット部材Sが挿入されて取り付け可能な第3の領域130を含んでいてもよい。このとき、カット部材Sは、別途に作製されて第3の領域130の一方の端に結合されてもよく、鋸の歯状を第3の領域130に一方の端に形成して一体形に形成されてもよい。
【0050】
例えば、第1の領域110は、チューブ部材200の一方の端部を備え、第3の領域130は、チューブ部材200の他方の端部を備え、第2の領域120は、一方の端が第1の領域110とつながり、他方の端が第3の領域130とつながるように形成されて、チューブ部材200の中間部をなしてもよい。このとき、第2の領域120は、所定の作業温度T上において所定の折り曲げ角度に折り曲げられた形状を有することにより、チューブ部材200は、全体的に折り曲げられたチューブ状に形成されることができる。
【0051】
このようなチューブ部材200は、所定の作業温度Tにおいて特定の領域においてのみ折り曲げが行われ易いように、相転移温度が互いに異なる領域が含まれるように形成されてもよい。
【0052】
より具体的に、
図3の(b)に示すように、第1の領域110は、所定の作業温度Tにおいて、オーステナイト相(A相)を有し、第1の相転移温度Af1を有していてもよく、第3の領域130は、オーステナイト相(A相)を有し、第3の相転移温度Af3を有していてもよい。第1の領域110の第1の相転移温度Af1と第3の領域130の第3の相転移温度Af3とは、作業温度Tよりも低い範囲内において、互いに同一に形成されてもよく、互いに異なるように形成されてもよい。
【0053】
また、作業温度Tにおいて所定の折り曲げ角度に折り曲げられ易い第2の領域120は、作業温度Tにおいてマルテンサイト相(M相)を有し、第1の相転移温度Af1及び第3の相転移温度Af3よりも高い第2の相転移温度Af2を有していてもよい。なお、第2の領域120の降伏応力(もしくは、降伏点)は、第1の領域110及び第3の領域130の降伏応力よりもさらに低い値を有していてもよい。これにより、第2の領域120は、第1の領域110及び第3の領域130よりも焼成歪みがなお一層起きやすい区間として形成されることができる。
【0054】
例えば、チューブ部材200をなしている合金がニチノール(Nitinol)であると言われているニッケル-チタン合金である場合、冷間において鍛造や、圧延や、押出や、引抜きまたは伸線加工などによりチューブ状に加工されれば、加工硬化により強度が大きくなって外力により簡単に歪められずに弾性が大きくなる状態になることができる。冷間加工されたチューブは、加工方法に対応して結晶粒が特定の方向に延伸されるか、あるいは、組織微細化などの微細組織の特性を示すことになる。このような冷間加工された合金は、後続して熱処理が施される場合、これにより、微細組織の変化及び合金特性の変化が伴われることになる。
【0055】
例えば、冷間加工後に、所定の温度において熱処理を施すと、加熱もしくは冷却につれて相転移が起こってしまう合金特性を示すことになる。すなわち、相転移温度よりも高い温度においてはオーステナイト相を有し、相転移温度よりも低い温度においてはマルテンサイト相が現れる相転移特性を示すことになる。相転移が起こる温度は、ニッケル-チタン合金成分や熱処理の方法に応じて零下100℃~零上100℃の範囲内において変わることができる。なお、このような熱処理によりチューブ部材の形状を記憶させ、微細組織を変化させて超弾性または形状記憶効果の特性を与えることができる。
【0056】
このような第2の相転移温度Af2よりも低い温度において、マルテンサイト相を有する第2の領域120は、マルテンサイト相の双晶界面の可逆的な動きによる歪みが起きる可能性がある。したがって、第2の領域120は、歪みに必要な力は非常に小さいため軟らかく歪むかのように感じられることができ、応力を除去すると、通常の金属のように歪んだ状態のままで残るので、所望の形状にしやすい。このとき、双晶界面の動きにより歪める歪み率は、引っ張り歪みを目安にして約7~8%に至ることができ、歪み後に第2の領域120を第2の相転移温度Af2よりも高い温度に加熱すると、オーステナイト相への相転移が起こりつつ、歪み前の形状に戻る形状記憶効果が奏されることができる。
【0057】
このような形状記憶効果を奏する合金の場合、オーステナイト相は、超弾性の特性を有しつつ、かなりの剛性を有するものの、これに対し、マルテンサイト相は、低い応力にも簡単に歪められる機械的な特性を有する。
【0058】
これにより、
図3に示すように、熱処理条件などを調節してチューブ部材200の第2の領域120の第2の相転移温度Af2を作業温度Tよりも高く設定すれば、作業温度Tにおいて、第2の領域120はマルテンサイト相を有することができる。
【0059】
チューブ部材が副鼻洞手術器具に適用される場合、作業温度Tは、医師が手術を行うためにチューブ部材を局部的に折り曲げる温度である室温であるか、あるいはチューブ部材が直接的に触れる人体の体温を含む温度であって、10℃~50℃、好ましくは、20℃~40℃の範囲を有していてもよい。
【0060】
したがって、副鼻洞手術器具に適用される場合、チューブ部材200は、第2の領域120が作業温度T上においてマルテンサイト相を有するようにすることで、患者の副鼻洞の角度に応じて、第2の領域120を自由に折り曲げて所要の折り曲げ形状に容易にすることができる。すなわち、患者の体温である作業温度Tが第2の領域120の第2の相転移温度Af2よりも低いので、マルテンサイト相を有する第2の領域120を自由に折り曲げることができる。
【0061】
別の例を挙げると、作業者の手が届かない個所に電線(Electric wire)や各種の部材を挿入する部材挿入用のガイド部材など各種の作業現場において用いられる場合には、作業者の作業環境である室温と略同一の範囲内において設定されてもよい。
【0062】
このとき、チューブ部材200の全領域110、120、130が作業温度T上においてマルテンサイト相から構成されていても、最小限の所望の折り曲げ動作を行うことができる。しかしながら、チューブ部材200の全領域110、120、130において歪みが自由に起きると、第1の領域110または第3の領域130においても歪みが起きて第2の領域120を所望の角度に歪ませ難く、チューブ部材200を人体に挿入するときに第1の領域110または第3の領域130において余計な歪みが起きやすいため、むしろ患者の治療などの作業効率が低下する虞がある。
【0063】
したがって、
図3に示すように、自由な折り曲げが必要とされる第2の領域120を除いた第1の領域110及び第3の領域120の第1の相転移温度Af1及び第3の相転移温度Af3を作業温度Tよりも低く設定して、作業温度T上において第1の領域110及び第3の領域130が簡単に歪められないオーステナイト相を持たせることができる。
【0064】
これにより、チューブ部材200の各領域110、120、130に役割に応じた異なる特性が与えられることにより、作業温度T上においてオーステナイト相を有する第1の領域110は、取っ手またはハンドピースにつながる個所として活用し、マルテンサイト相を有する第2の領域120は、簡単に歪められるので、折り曲げ角度を調節する個所として活用し、オーステナイト相を有する第3の領域130は、鋸の歯を有するカット部材Sを結合または接合する個所として活用することができる。
【0065】
変形例を挙げると、チューブ部材200の第2の領域120は、マルテンサイト相を有し、第1の領域110及び第3の領域130のうちのどちらか一方以上は、作業温度において冷間加工された状態を有していてもよい。この場合にも、同様に、冷間加工された領域が加工硬化により最小限の剛性を有することができる。
【0066】
以下では、上述した局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材200の製造方法について詳しく説明する。
【0067】
図4から
図6は、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材200を製造する過程をステップごとに示す断面図であり、
図7は、局部的に優れた折り曲げ性を有するチューブ部材の実際の製品を示す画像である。
【0068】
まず、
図4に示すように、ニッケル-チタン(Ni-Ti)など形状記憶効果を奏する合金をチューブ状に冷間加工して、第1の領域110と第2の領域120及び第3の領域130に画成される直線状のチューブ部材200を用意することができる。このようなチューブ部材200は、鍛造や、圧延や、押出や、引抜きまたは伸線加工などに際して冷間において加工されてもよく、全体的に直線状のチューブ形状に形成されてもよい。このとき、チューブ部材200は、冷間加工までのみ行った状態であるため、通常の合金のようなかなりの剛性を持った状態であってもよい。
【0069】
次いで、
図5に示すように、チューブ部材200の熱処理前にチューブ部材200の第2の領域120の少なくとも一部分を所定の折り曲げ角度に折り曲げることができる。このとき、第2の領域120の折り曲げ角度は、使用者が必要とする折り曲げ角度の範囲に鑑みて設定することができる。例えば、直線状のチューブ部材200を折り曲げると、約100°の範囲内において、チューブ部材200の断面積の損傷なしに折り曲げることができる。すなわち、チューブ部材200の所望の折り曲げ角度の範囲が0°~120°である場合、チューブ部材200の熱処理前に第2の領域120を約40°の折り曲げ角度に折り曲げることにより、所要の折り曲げ角度の範囲をいずれも受け入れるようにすることができる。
【0070】
また、自由な折り曲げが必要とされるチューブ部材200の第2の領域120の他に、支持の役割材やカット部材Sが結合されて簡単に歪められない強度を必要とする第1の領域110及び第3の領域130は、熱処理を施すことなく、冷間加工の状態に保持するか、あるいは、熱処理を施して相転移温度を作業温度Tよりも低く設定することにより、作業温度T上において超弾性の状態を保持するようにしてもよい。
【0071】
例えば、第1の領域110及び第3の領域130は、冷間加工の状態を保持し、第2の領域120は、作業温度Tよりも高い第2の相転移温度Af2を有し得るように、チューブ部材200の第2の領域120のみに対して局部的に所定の熱処理を施してもよい。例えば、ニッケル-チタン合金の場合、前記熱処理温度は400~450℃の範囲を有していてもよい。第2の領域120の熱処理は、レーザーを用いて局部的に加熱するか、あるいは、第2の領域120の部分のみを熱処理チャンバーに収容して局部的に加熱するなどして施してもよい。しかしながら、熱処理の方法はこれに何ら制限されるものではなく、第2の領域120のみを局部的に加熱して熱処理を施すことができる限り、種々の熱処理の方法が適用可能である。
【0072】
これにより、チューブ部材200の第2の領域120は、作業温度Tよりも高い第2の相転移温度Af2を有することにより、作業温度T上においてマルテンサイト相を有することができる。このとき、第1の領域110及び第3の領域130は、冷間加工までのみ行った状態であるため、通常の合金のようにかなりの剛性を持った状態であってもよい。
【0073】
したがって、チューブ部材200の第2の領域120は、力を少しだけ加えても簡単に歪められ、その力を除去しても歪みをそのまま保持する挙動を示すのに対し、第1の領域110及び第3の領域130は、力を加えても簡単に歪められず、その力を除去すると、元の状態に速やかに戻るスティッフな(stiff)挙動を示すことにより、作業者がかなりの剛性を有する第1の領域110または第3の領域130を把持したり、別の把持体に結合したりした状態で、マルテンサイト相を有して簡単に歪められる第2の領域120を自由に折り曲げることができる。このような製造方法は、第3の領域130にカット部材Sを挿入せずに、第3の領域103を自ら加工してカット部材Sを製造する場合に利用することができる。
【0074】
第3の領域130にカット部材Sを挿入して結合する場合には、カット部材Sを挿入し易くするために、第3の領域130の熱処理が必要となる場合がある。
【0075】
例えば、冷間加工後に、第2の領域120が所定の折り曲げ角度に折り曲げられたチューブ部材200の全体が作業温度Tよりも低い第1の相転移温度Af1を有するように、チューブ部材200の全体の領域110、120、130に対して第1の温度にて1次熱処理を施してもよい。次いで、第2の領域120が作業温度Tよりも高い第2の相転移温度Af2を有するように、チューブ部材200の第2の領域120のみに対して局部的に第2の温度にて2次熱処理を施すことにより、第2の領域120の相転移温度を設定し直してもよい。このとき、チューブ部材200がニッケル-チタン合金である場合、組成に応じて、1次熱処理の温度は、500~550℃の範囲を有していてもよく、2次熱処理の温度は、350~450℃の範囲を有していてもよい。
【0076】
次いで、
図6に示すように、チューブ部材200の第3の領域130のみを局部的に第1の相転移温度Af1よりも低い低温に冷却させることにより、第3の領域130がマルテンサイト相を有するようにすることができる。次いで、冷却されてマルテンサイト相を有することにより、簡単に歪められる第3の領域130の一方の端を拡管してカット部材Sを結合することができる。このとき、第3の領域130に挿入されるカット部材Sの挿入個所は、拡管前の第3の領域130の内径よりも僅かに大きな外径を有するように形成されてもよい。
【0077】
次いで、第3の領域130を第1の相転移温度Af1よりも高い温度まで昇温させると、拡管された第3の領域130の一方の端が再び縮まりながら、カット部材Sを締まりばめの形態で強く固着することができる。このとき、冷却された第3の領域130の温度の昇温は、別途に加熱して行ってもよいが、相転移温度が室温よりも低く設定される場合には、室温状態に放置するだけでも十分に行われることがある。
【0078】
変形例を挙げると、第1の領域110と第2の領域120を含むチューブ部材100を製造する場合であっても、上述した第3の領域130において行われる作業を除いて、実質的に同様に行われることができ、この詳しい製造方法についての記述は省略する。
【0079】
以下、本発明についての理解への一助となるための製造例について述べる。下記の製造例は、本発明についての理解への一助となるために例示的に開示されるものであって、本発明が下記の製造例により限定されるものではないということはいうまでもない。
【0080】
[製造例1]
冷間加工された50.2at%のNi-Ti合金の直線状のチューブ部材を用意する。チューブ部材の一部分を約30°ほど折り曲げて歪ませた状態で、折り曲げられた部分(第2の領域)のみに対して350℃以上において熱処理を施す。熱処理を施した後、熱処理の施された折り曲げられた部分は歪んだ状態になり、相転移温度が約45℃になるため、作業温度(室温もしくは体温)上においてマルテンサイトの状態に構成される。
【0081】
図7には、製造例1により製造されたチューブ部材が示されている。折り曲げられた部分を歪ませてみると、柔らかな歪みの挙動を示すことになり、熱処理が施されていない残りの部分は冷間加工のままで残っていて非常に強い挙動を示すことになる。
図7中、第1の領域及び第3の領域に相当する部分には、冷間加工された合金の機械的な特性として弾性を示す応力-歪み率のグラフが併記されている。なお、第2の領域に相当する領域には、低い応力にも焼成歪みが起きる応力-歪み率のグラフが併記されている。
【0082】
[製造例2]
冷間加工された50.6at%のNi-Ti合金の直線状のチューブを用意する。チューブ部材の一部分を約40°ほど折り曲げて歪ませた後、チューブ部材の全体に対して500℃において5分間以上熱処理を施す。熱処理を施した後、相転移温度は、概ね15℃であって、室温や体温の範囲を有する作業温度よりも低いため、歪ませてみると、チューブ部材の全体は超弾性の挙動を示す。
【0083】
このとき、折り曲げられた部分に対してのみ約450℃において熱処理を施すと、相転移温度が昇温して熱処理がさらに施された部分である折り曲げられた部分は柔らかな歪みの挙動を示し、残りの部分は超弾性の挙動を示す。これは、450℃の温度において加熱してしまうと、Ni
4Ti
3の析出物が生じてしまい、その結果、既知のNiの濃度が低くなって相転移温度が昇温したことに起因する。結果的に、チューブ部材は、
図8に示すような挙動を有する特性を示すことになる。
図8の第1の領域及び第3の領域に相当する部分には、超弾性の特性を示す応力-歪み率のグラフが併記されている。このようなチューブ部材を歪ませてみると、
図9に示すように、折り曲げられた部分が様々な角度に容易に調節されるということが分かる。
【0084】
次いで、第3の領域に相当する部分にカット部材を挿入するステップを行った。チューブ部材の内径が3.6mmであったため、これよりも僅かに大きな直径3.7mmのステンレス製の鋸の歯を用意した。第3の領域に相当する部分のみを局部的に冷却させて温度を室温以下に降温させた後、チューブの端部の入り口を拡管した。次いで、用意したカット部材を挿入した後、再び室温まで昇温させた。室温においてチューブの内径が縮まりながら、カット部材の締め付けに伴い、非常に強い結合力により結合された。
図10には、カット部材が結合された後の結果が示されている。
【0085】
本発明については、図示の実施形態を参考にして説明されたが、これは単なる例示的なものに過ぎず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、これより様々な変形例及び均等な他の実施形態が採用可能であるという点が理解できる筈である。よって、本発明の真の技術的な保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想により定められるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のチューブ部材は、作業者による折り曲げが必要とされる場合、自由に折り曲げて、使用可能なあらゆる用途に適用可能であることから、各種の作業現場において種々に使用可能である。
【符号の説明】
【0087】
110 第1の領域
120 第2の領域
130 第3の領域
100、200 チューブ部材
S カット部材
T 作業温度
Af1 第1の相転移温度
Af2 第2の相転移温度
Af3 第3の相転移温度
【国際調査報告】