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特表2023-529510ADAMTS13タンパク質バリアント及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ADAMTS13タンパク質バリアント及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230703BHJP
   C12N 9/64 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230703BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N9/64 Z
A61K38/48
A61P7/02
A61P9/10
A61P31/14
A61P31/04
A61P7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516457
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 NL2021050325
(87)【国際公開番号】W WO2021242092
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20176333.1
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522458631
【氏名又は名称】サンキン アイピー ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ヤコブス フォールベルグ
(72)【発明者】
【氏名】ヌーノ アレクサンドル ゴメス グラーシャ
(72)【発明者】
【氏名】ボギャチ エルチグ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD11
4B050LL01
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC02
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA511
4C084ZA541
4C084ZB331
4C084ZB351
(57)【要約】
本発明は、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアントであって、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、前記ADAMTS13タンパク質バリアントに関する。さらに、本発明は、そのようなADAMTS13バリアントを含む組成物、その調製のための方法、並びに、特に、抗血栓剤として及び血栓性疾患、血栓性マイクロアンギオパチー、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、虚血性脳卒中、全身性血栓症、COVID19、抗リン脂質症候群、子癇前症/HELLP症候群、敗血症、及び鎌状赤血球症の治療におけるその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアントであって、図1に示されるADAMTS13のアミノ酸残基S556~A685を含むスペーサードメインにおいて、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、前記ADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項2】
ADAMTS13の残基1~1427を含む、請求項1記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項3】
図1に示されるADAMTS13配列の残基R568~R670を含むスペーサードメインの部分において、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、請求項1又は2記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項4】
残基568、591、608、609、636、637、665、668、及びそれらの組合せからなる群から選択される図1に示されるADAMTS13のアミノ酸残基においてN結合型グリコシル化部位を含む、請求項1~3のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項5】
残基608、609、665、及びそれらの組合せからなる群から選択される図1に示されるADAMTS13のアミノ酸残基においてN結合型グリコシル化部位を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の、ADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項6】
図1に示されるADAMTS13のアミノ酸残基608にN結合型グリコシル化部位を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の、ADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項7】
野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する、請求項1~6のいずれか1項記載の、ADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項8】
R568、L591、V604、V605、A606、G607、K608、M609、R636、L637、P638、R639、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基を含むN結合型グリコシル化部位を含む、好ましくは、R568N、L591N、V604N、V605N、A606N、G607N、K608N、M609N、R636N、L637N、P638N、R639N、Y665N、L668N、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む、請求項1~7のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項9】
568REY570から568NET570(NGLY1)、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、636RLPR639から636NLSR639(NGLY5)、636RLPL639から636RNAS639(NGLY6)、665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)、667NLTRP671から667LNVTA671(NGLY8)、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む、請求項1~8のいずれか1項記載の、ADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項10】
608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、及び665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)からなる群から選択される変異を含む、請求項1~9のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項11】
変異608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)を含む、請求項1~10のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項12】
1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項13】
1つ以上のアミノ酸残基における前記変異が、図1に示されるADAMTS13の残基S556~A685を含む前記スペーサードメイン内にある、請求項12記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項14】
R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基における変異をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項15】
R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む、請求項1~14のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項16】
変異R568A及びY665A、又は変異L591A、R636A、L637A、及びL668Aを含む、請求項1~15のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項17】
前記追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位においてN-グリカンを含み、かつ/又は前記移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が、N結合型グリカンを含む、請求項1~16のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント又は請求項18記載の核酸構築体、並びに1つ以上の医薬として許容し得る担体、アジュバント、賦形剤、及び/又は希釈剤、を含む医薬組成物。
【請求項20】
療法における使用のための、請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント又は請求項18記載の核酸構築体。
【請求項21】
抗血栓剤としての使用のための、請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント又は請求項18記載の核酸構築体。
【請求項22】
異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療における使用のための、請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアント又は請求項18記載の核酸構築体。
【請求項23】
異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療のための方法であって、それを必要としている対象に、治療有効量の請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアントを投与することを含む、前記方法。
【請求項24】
異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療のための医薬品の生産における、請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアントの使用。
【請求項25】
前記障害が、血栓性疾患である、請求項22記載の使用のためのADAMTS13タンパク質バリアントもしくは核酸構築体、請求項23記載の方法、又は請求項24記載の使用。
【請求項26】
前記血栓性疾患が、血栓性マイクロアンギオパチーである、請求項25記載の使用のためのADAMTS13タンパク質バリアントもしくは核酸構築体、方法、又は使用。
【請求項27】
前記血栓性疾患が、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(免疫介在性TTP(iTTP)を含む)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、虚血性脳卒中、全身性血栓症、COVID19、抗リン脂質症候群、子癇前症/HELLP症候群、敗血症、及び鎌状赤血球症からなる群から選択される障害である、請求項25もしくは26記載の使用のためのADAMTS13タンパク質バリアントもしくは核酸構築体、方法、又は使用。
【請求項28】
請求項1~17のいずれか1項記載のADAMTS13タンパク質バリアントを製造するための方法であって、請求項18記載の核酸分子を、N結合型グリコシル化をする能力がある宿主細胞、好ましくは、真核生物宿主細胞に導入すること、及び該宿主細胞を、該ADAMTS13タンパク質バリアントの発現を可能とする条件下で培養することを含み、好ましくは、該宿主細胞が、哺乳動物細胞であり、好ましくは、該宿主細胞が、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、PERC.6細胞、及びHEK293細胞からなる群から選択される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Marie Sklodowska-Curie助成合意書第675746号(プロジェクトPROFILE)によるEuropean Union’s Horizon 2020研究及び革新プログラムからの援助を受けて成された。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、療法の分野に関する。より詳細には、本発明は、フォンウィルブランド因子(VWF)が関与する障害の療法の分野に関する。本発明は、止血の維持に関与する修飾されたプロテアーゼに関し、特に、活性を維持しつつ自己抗体の結合の強力な減少を示す修飾されたプロテアーゼ、及び疾患の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
免疫介在性血栓性血小板減少性紫斑病(iTTP)は、ADAMTS13(トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ、メンバー13(A Disintegrin And Metalloproteinase with ThromboSpondin type 1 motifs, member 13))に対する自己抗体の発生に起因する、稀ではあるが生命の危険がある自己免疫疾患である。ADAMTS13は、フォンウィルブランド因子(VWF)のA2ドメイン内のTyr1605~Met1606結合をタンパク質分解によって切断するメタロプロテアーゼである。VWFは、損傷を受けた血管への血小板の付着を媒介する多量体タンパク質である。VWFの多量体サイズは、その生物活性に直接比例し、より大きな多量体ほど、損傷を受けた血管壁への血小板の付着の促進において高活性である。正常な個体では、VWFの多量体サイズは、VWF切断プロテアーゼADAMTS13によって制御される。iTTPの患者におけるVWF多量体のプロセシングは、該患者において生じるADAMTS13に対する病原性自己抗体の存在のために損なわれている。ADAMTS13に対する自己抗体を有するiTTP患者において高分子量VWF多量体が長期間存在し続けることは、生命の危険がある微小血管血栓症を呈する微小血管系における過度の血栓形成に関連している。
【0004】
現行のiTTPの管理は、血漿交換法(PEX)及び高用量グルココルチコイドでの免疫抑制を含む。血漿交換法は、外来性ADAMTS13の供給源を提供し、その作用は、外来性ADAMTS13を含むADAMTS13を標的とする循環病原性抗体の持続的な存在のために短寿命である。血漿交換法に加えて、B細胞枯渇型抗CD20治療用モノクローナル抗体であるリツキシマブが、iTTPの治療に用いられる。また、リツキシマブは、iTTPの患者における再発を予防するのに用いられている。近年、VWFへの血小板結合を遮断するヒト化抗VWFナノボディであるカプラシズマブが、血小板数の正常化を1.55倍加速することが示されている(Scullyらの文献、2019)。出血は、カプラシズマブでの治療の副作用を規定する(Mazepaらの文献、2019)。Mazepaらの文献では、出血がカプラシズマブ療法の主要な有害作用であり、HERCULES臨床試験において65%(プラセボアームでは48%)で生じたことが示された。鼻出血及び歯肉出血を含む粘膜皮膚の出血が、最も好発する事象であり、大部分の出血は、治療介入なしで回復する軽度から中程度の重症度のものであった。カプラシズマブによって重篤な出血を発症した3名の対象は、VWF濃縮物(重篤鼻出血)、トラネキサム酸(歯肉出血の場合)、及び赤血球輸血(上部消化管出血の場合)を与えられた。全体として、大部分のカプラシズマブに関連する出血は、治療介入なしで解消する(しかしながら、該薬物を控えることが必要であることもある)が、外用の血管収縮薬及び抗線溶薬が有効な場合もあり、VWF濃縮物は、重篤な難治性の出血の患者に制限される。
【0005】
iTTPの患者の治療の進歩にもかかわらず、現行の治療レジメンは、このように、未だ最適状態には及ばない。iTTPの患者における血小板数の正常化を加速するのに役立つであろうADAMTS13活性を迅速に再確立する治療が明らかに必要とされている。
【0006】
自己抗体抵抗性ADAMTS13バリアントが、文献(Jianらの文献、2012)に報告されている。ADAMTS13のスペーサードメインは、病原性自己抗体の結合のための主要な部位である。該スペーサードメイン内の5つの残基における保存的な変異が、iTTPの患者で生じる病原性自己抗体の結合に対して抵抗性であると主張されているいわゆる機能獲得型(GoF)バリアントを作り出している(Jianらの文献、2012)。このADAMTS13のGoFバリアントは、米国特許第US9/546,360号にも記載されている。しかしながら、追跡実験によって、このADAMTS13のGoFバリアントが、依然として、患者由来の自己抗体の標的となっており、それらの抑制性の作用に抵抗しないことが明らかとされた(Gracaらの文献、2019)。しかしながら、ADAMTS13の他のドメインに結合する病原性自己抗体もまた、報告されている。
【0007】
従って、ADAMTS13活性を保持しつつ、自己抗体の結合を効果的に逃れるADAMTS13バリアントが、依然として必要とされている。そのようなADAMTS13バリアントは、現在利用可能な治療の選択肢と比較した場合に、iTTP及び他の関連疾患の患者における臨床症状を迅速に治すというそれらの可能性に基づいて治療的に非常に興味深いものとなり得る。
【発明の概要】
【0008】
(発明の概要)
自己抗体による結合を受けにくく、かつタンパク質分解活性を維持している改良されたADAMTS13バリアントを提供することが、本発明の目的である。
【0009】
従って、本発明は、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~1427を含むADAMTS13タンパク質バリアント又は少なくとも残基1~685を含有する切断型のADAMTS13を提供する。好ましくは、前記ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、かつ前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動さない。別の好適な実施態様において、前記N結合型グリコシル化部位は、前記ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には存在しない。好ましい一実施態様において、前記ADAMTS13タンパク質バリアントは、完全長ADAMTS13バリアントであり、すなわち、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されているADAMTS13の残基1~1427を含み、かつ任意に、本明細書に記載される追加の変異を含むものである。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体を提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は本発明による核酸構築体、並びに1つ以上の医薬として許容し得る担体、アジュバント、賦形剤、及び/又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、療法における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、抗血栓剤としての使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療のための方法であって、それを必要としている対象に、治療有効量の野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療のための医薬品の生産における、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体の使用を提供する。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、血栓性疾患の治療における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を提供する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、血栓性疾患、後天性又は先天性双方の血栓性疾患の治療のための方法であって、それを必要としている対象に、治療有効量の野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、血栓性疾患、後天性又は先天性双方の血栓性疾患の治療のための医薬品の生産における、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体、好ましくは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又は核酸構築体の使用を提供する。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントを製造するための方法であって、本発明による核酸分子を、N結合型グリコシル化をする能力がある宿主細胞、好ましくは、真核生物宿主細胞内に導入すること、及び該宿主細胞を、該ADAMTS13タンパク質バリアントの発現を可能とする条件下で培養することを含む、前記方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(詳細な説明)
本発明者らは、N-グリカンの付加のための新規コンセンサス部位の挿入に基づく、病原性自己抗体への結合が低下したADAMTS13バリアントを開発するための新規の戦略を確認している。そのようなN-グリカンコンセンサス部位は、好ましくは、ADAMTS13内の免疫原性領域に挿入される。実施例に示されるように、アミノ酸変異を、野生型のADAMTS13タンパク質に導入して、N-グリカン部位をさまざまな位置に導入した。さらに、この技術を利用して、iTTP患者で生じる病原性ADAMTS13自己抗体の結合をかなり低下させることができることが実証されている。理論によって束縛されることは望まないが、導入されたN-グリカンが、自己抗体が結合するエピトープを遮蔽することができることが仮定される。より具体的には、導入されたN-グリカンは、スペーサードメイン、TSP-1(トロンボスポンジン1型)リピート、及びCUB(補体成分Clr/Cls、Uegf、及び骨形成タンパク質1)、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリンドメイン、シスチンリッチドメイン、並びに抗ADAMTS13自己抗体に結合部位を提供するADAMTS13の他のドメイン及び他のドメイン内の露出された領域における自己抗体が結合するエピトープを含む、ADAMTS13を標的とする自己抗体が結合するエピトープを遮蔽する。特に、ADAMTS13のスペーサードメイン内の主要なエピトープの遮蔽が、自己抗体との反応性の著しい低下をもたらすと考えられている。スペーサードメイン内のこのエピトープは、ADAMTS13配列内のアミノ酸残基R568、F592、R660、Y661、Y665を中心としていると考えられていた。これら5つの残基における変異は、ADAMTS13への自己抗体の結合を効果的に低下させることができるが、これらは通常、活性の低下ももたらす(Gracaらの文献、2019)。本発明において、N-グリカンを、古典的なエピトープ残基(R568、F592、R660、Y661、及びY665)の内部及び/又は外側に導入して、タンパク質分解活性を失うことなく、すなわち、ADAMTS13のVWF切断活性の少なくとも一部分を維持しつつ、ADAMTS13の自己抗体との反応性を低下させることができることが実証される。ADAMTS13を標的とする自己抗体に抵抗し、VWFのスペーサードメインへの結合を維持しているそのようなADAMTS13 N-グリカンバリアントは、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はフォンウィルブランド因子プロセシングに関連する障害の治療にとって非常に興味深いものである。
【0022】
従って、本発明は、第1の態様において、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN-グリコシル化部位が追加されておりかつ/又は1つ以上の既存のN-グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアントであって、但し、該ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には、該1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されず、かつ該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されない、前記ADAMTS13タンパク質バリアントを提供する。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、療法における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体を提供する。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、抗血栓剤としての使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体を提供する。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント、又は該ADAMTS13バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体を提供する。
【0026】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸を含む化合物を意味する。遺伝子によってコードされるタンパク質は、遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に限定されず、該タンパク質の翻訳後修飾を含み得る。
【0027】
本明細書で使用される「ADAMTS13」及び「ADAMTS13タンパク質」という用語は、ADAMTS13遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。ADAMTS13は、メタロプロテイナーゼ遺伝子ファミリーADAM(ディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ(a disintegrin and metalloproteinase))の一員であり、このファミリーは、さまざまな機能を有する膜結合型プロテアーゼからなるものである。ADAMTSファミリーの成員は、C末端における1つ以上のトロンボスポンジン1様(TSP1)ドメインの存在並びにADAMメタロプロテイナーゼ中に存在するEGFリピート、膜貫通ドメイン、及び細胞質側末端の非存在をさらに特徴とする。ADAMTS13は、2つのC末端CUBドメイン(補体C1r/C1sプロテアーゼ、ウニ、及び骨形成タンパク質(complement C1r/C1s proteases, sea Urchin, and Bone morphogenic protein)を表す)を有し、かつVWF(フォンウィルブランド因子)切断プロテアーゼ活性を有する唯一のADAMTSの成員である(Kelwickらの文献、2015)。「野生型ADAMTS13」及び「野生型ADAMTS13タンパク質」という用語は、天然に存在するヒトADAMTS13を意味する。図1は、完全長野生型ADAMTS13のアミノ酸配列を示す。
【0028】
本明細書で使用される「ADAMTS13タンパク質バリアント」という用語は、野生型ADAMTS13中には存在しない少なくとも1つのN-グリコシル化部位を有するという点で野生型ADAMTS13のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するADAMTS13のバリアントを意味する。加えて、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントは、少なくとも図1に示されるADAMTS13アミノ酸配列のアミノ酸1~685を含む。図1に示されるアミノ酸1~685からなる短縮されたADAMTS13タンパク質が、VWFに対するタンパク質分解活性を有することが示されている(Taoらの文献2005)。別の好適な実施態様において、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントは、完全長ADAMTS13タンパク質バリアントである。このことは、該バリアントが、図1に示されるADAMTS13の残基1~1427を有する完全なアミノ酸配列を含み、ここで、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されており、かつ任意に、該バリアントが、本明細書に記載される追加の変異を含んでいることを意味する。
【0029】
本明細書で定義されるアミノ酸配列又はタンパク質バリアントにおいて、アミノ酸は、1文字の略号又は3文字の略号で表記される。これらの1文字及び3文字の略号は、当業者に周知であり、以下の意味を有する:A(Ala)は、アラニンであり、C(Cys)は、システインであり、D(Asp)は、アスパラギン酸であり、E(Glu)は、グルタミン酸であり、F(Phe)は、フェニルアラニンであり、G(Gly)は、グリシンであり、H(His)は、ヒスチジンであり、I(Ile)は、イソロイシンであり、K(Lys)は、リシンであり、L(Leu)は、ロイシンであり、M(Met)は、メチオニンであり、N(Asn)は、アスパラギンであり、P(Pro)は、プロリンであり、Q(Gln)は、グルタミンであり、R(Arg)は、アルギニンであり、S(Ser)は、セリンであり、T(Thr)は、スレオニンであり、V(Val)は、バリンであり、W(Trp)は、トリプトファンであり、Y(Tyr)は、チロシンである。
【0030】
本明細書で示されるアミノ酸残基の位置は全て、図1に示される野生型ADAMTS13の配列におけるアミノ酸残基の付番を意味する。
【0031】
変異、特に、あるアミノ酸の別のアミノ酸による置換は、本明細書では、当該技術分野において標準的なやり方で、すなわち、野生型ADAMTS13配列内に存在するアミノ酸、該配列内での該アミノ酸の位置、及び該位置に導入されたアミノ酸を示すことによって表示される。例えば、「R568K」は、位置568のアルギニンが、リシンで置換されていることを示す。「568REY570から568NET570」は、位置568~570の配列であるアルギニン-グルタミン酸-チロシンが、配列アスパラギン-グルタミン酸-スレオニンで置換されていることを示す。
【0032】
「N結合型グリコシル化」は、窒素原子、通常、アスパラギン残基のN4へのオリゴ糖部分の結合を意味する。「N結合型グリコシル化部位」及び「Nグリコシル化部位」という用語は、互換的に使用され、N結合型グリコシル化が可能なADAMTS13タンパク質バリアント内の部位を意味する。そのような部位は、アミノ酸配列NXT又はNXSを有し、ここで、Xは、Pを除く任意のアミノ酸である。N結合型グリコシル化は、翻訳後修飾であり、タンパク質のN結合型グリカンは、タンパク質のフォールディング、細胞接着、及び/又は機能を調節することができる。N結合型グリカンは、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、フコース、及びシアル酸残基の種々の組合せを有し得る。アスパラギン残基142、146、552、579、614、667、707、828、1235、及び1354に結合しているいくつかのN結合型グリカン(図2を参照されたい)が、ADAMTS13上に確認されており(Verbijらの文献2016))、O-グリコシル化及びS-及びC-マンノシル化を含むいくつかの別の種類のグリコシル化も確認されている。図2は、ADAMTS13内に確認されたN-グリカンの最もよくみられる構造及び他の構造も示す。
【0033】
完全長ADAMTS13のシステインリッチドメイン内の残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541におけるN結合型グリコシル化部位の導入が、De Grootらによって記述されている。そのような部位の挿入、並びにこのドメイン内の配列交換及び一点変異を行って、ADAMTS13のシステインリッチドメインのVWFへの結合及びタンパク質分解における機能的役割を調査した。
【0034】
本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントにおいては、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている。これは、Nグリコシル化部位(NXT又はNXS(式中、Xは、Pを除く任意のアミノ酸である))が、それが野生型のADAMTS13内では存在しないアミノ酸残基に存在していることを意味する。このことは、1つ以上のさらなるN結合型グリコシル化部位の追加、1つ以上のN結合型グリコシル化部位を移動させることのいずれか、又はそれらの組合せによって達成することができる。好ましくは1つ~5つ、より好ましくは1つ~3つ、より好ましくは1つ又は2つのN結合型グリコシル化部位が、追加及び/又は移動される。
【0035】
さらに好適な実施態様において、ADAMTS13配列中に存在する、本発明に従って導入又は移動されているN結合型グリコシル化部位NXS又はNXTの近傍のプロリン(P)が、別のアミノ酸によって置き換えられ、アラニンによる置き換えが好ましい例である。そのような位置でのプロリンの置き換えは、該N結合型グリコシル化部位へのN-グリカンの結合を容易にする。本明細書で使用される場合、近傍のとは、該N結合型グリコシル化部位の前の又は後の1つ又は2つのアミノ酸を意味する。好ましくは、N結合型グリコシル化部位の直後のプロリンが、別のアミノ酸によって置き換えられ、アラニンによる置き換えが好ましい例である。
【0036】
N結合型グリコシル化部位の追加は、野生型ADAMTS13内に存在する天然に存在するN結合型グリコシル化部位を除去することなく、野生型ADAMTS13内には存在しないN結合型グリコシル化部位が、本発明のADAMTS13タンパク質バリアントに導入されていることを意味する。N結合型グリコシル化部位の追加は、N結合型グリコシル化部位が導入されるように、野生型ADAMTS13と比較して、該アミノ酸配列内に1つ以上の変異を導入することによって達成することができる。そのような変異は、野生型ADAMTS13内には存在しないN結合型グリコシル化部位がADAMTS13配列内に導入されるようなやり方での、他のアミノ酸残基によるアミノ酸残基の1つ以上の置換、1つ以上のアミノ酸残基の挿入、もしくは1つ以上のアミノ酸残基の欠失、又はそれらの組合せとすることができる。好適な実施態様において、N結合型グリコシル化部位が、アミノ酸残基の別のアミノ酸残基での1つ以上の置換によって追加される。特に、任意のアミノ酸をアスパラギン残基で置換して、アスパラギンを本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第1の残基として導入することができるか、プロリンを任意の他のアミノ酸で置換して、本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第2の残基としてのプロリンの可能性をなくすることができるか、セリン及びスレオニン以外の任意のアミノ酸をセリン又はスレオニンで置換して、本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第3の残基としてセリン又はスレオニンを導入することができるか、又はそれらの組合せを行うことができる。NXS部位及びNXT部位は双方とも、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13バリアント内に導入することができるが、NXTは、NXSと比較した場合により効率的なN-グリカン付加をもたらすようである。例えば、本明細書の実施例で記載されるADAMTS13バリアントNGLY3においては、位置608のリシンをアスパラギンで置換することによって(K608N)、N結合型グリコシル化部位(NMS)が、アミノ酸残基608~610に追加される。別の実施例として、本明細書の実施例で記載されるADAMTS13バリアントNGLY4においては、位置609のメチオニンをアスパラギンで置換すること及び位置611のイソロイシンをスレオニンで置換すること(609MSI611から609NST611)によって、N結合型グリコシル化部位(NST)がアミノ酸残基609~611に追加される。当業者は、ADAMTS13配列内に適切な変異を設計して1つ以上のN結合型グリコシル化部位を追加するのに十分な能力を有する。
【0037】
N結合型グリコシル化部位を移動させることは、特に、アミノ酸位置142、146、552、579、614、667、707、828、1235、又は1354にアスパラギン残基を含む、野生型ADAMTS13内の特定のアミノ酸残基に存在するN結合型グリコシル化部位を、該ADAMTS13アミノ酸配列内の他のアミノ酸残基に移動させることを意味する。すなわち、N結合型グリコシル化が移動されたADAMTS13タンパク質バリアント内のN結合型グリコシル化部位の総数は、野生型ADAMTS13内のN結合型グリコシル化部位の数と同じである。好ましくは、N結合型グリコシル化部位は、1から10個のアミノ酸残基の間で移動される。移動させることは、野生型のADAMTS13配列における該N結合型グリコシル化部位の位置と比較して下流又は上流のいずれであってもよい。より好ましくは、N結合型グリコシル化部位は、1~7アミノ酸の間、より好ましくは、1~5アミノ酸の間、より好ましくは、1~4アミノ酸の間、より好ましくは、1~3アミノ酸の間で移動され、例えば、野生型のADAMTS13配列内のN結合型グリコシル化部位の位置と比較して上流又は下流のいずれかに1、2、又は3アミノ酸残基移動される。好適な実施態様において、N結合型グリコシル化部位は、1又は2アミノ酸残基、最も好ましくは、1アミノ酸残基移動される。N結合型グリコシル化部位を移動させることは、N結合型グリコシル化部位が移動されるように、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の変異をアミノ酸配列内に導入することによって達成することができる。そのような変異は、N結合型グリコシル化部位の位置が、野生型のADAMTS13配列内でのN結合型グリコシル化部位の位置と比較して移動されるようなやり方での、アミノ酸残基の別のアミノ酸残基による1つ以上の置換、1つ以上のアミノ酸残基の挿入、もしくは1つ以上のアミノ酸残基の欠失、又はそれらの組合せとすることができる。好適な実施態様において、N結合型グリコシル化部位は、アミノ酸残基の別のアミノ酸残基での1つ以上の置換によって移動される。特に、任意のアミノ酸をアスパラギン残基で置換して、アスパラギンを本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第1の残基として導入することができるか、プロリンを任意の他のアミノ酸で置換して、本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第2の残基としてのプロリンの可能性をなくすことができるか、セリン及びスレオニン以外の任意のアミノ酸をセリン又はスレオニンで置換して、本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位NXS又はNXT内の第3の残基としてセリン又はスレオニンを導入することができるか、又はそれらの組合せを行うことができる。それに代えて、又はそれに加えて、アスパラギンを任意の他のアミノ酸で置換して、野生型ADAMTS13内に存在するN結合型グリコシル化部位を除去することができる。一例として、本明細書の実施例で記載されるADAMTS13バリアントNGLY8においては、位置667のアスパラギンをロイシンで置換すること、位置668のロイシンをアスパラギンで置換すること、位置669のスレオニンをバリンで置換すること、及び位置670のアルギニンをスレオニンで置換すること(667NLTR670から667LNVT670)によって、N結合型グリコシル化部位がアミノ酸残基667~669からアミノ酸残基668~670へと移動されている。加えて、位置671のプロリンが、アラニンで置き換えられ、これによって、N-グリカン結合の可能性がかなり増加した(667NLTRP671から667LNVTA671)。当業者は、ADAMTS13配列内に適切な変異を設計して1つ以上のN結合型グリコシル化部位を移動させるのに十分な能力を有する。
【0038】
好適な実施態様において、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリン様ドメイン、TSP 1型 1ドメイン、TSP(トロンボスポンジン)1型 2ドメイン、TSP 1型 3ドメイン、TSP 1型 4ドメイン、TSP 1型 5ドメイン、TSP 1型 6ドメイン、TSP 1型 7ドメイン、TSP 1型 8ドメイン、システインリッチドメイン、スペーサードメイン、CUB(補体成分 Clr/Cls、Uegf、及び骨形成タンパク質1)1ドメイン、CUB2ドメイン、該ドメインのうちの2つの間の領域、及びそれらの組合せ、並びにそれらの組合せからなる群から選択されるドメイン内で、より好ましくは、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリン様ドメイン、TSP 1型 1ドメイン、TSP 1型 2ドメイン、TSP 1型 3ドメイン、TSP 1型 4ドメイン、TSP 1型 5ドメイン、TSP 1型 6ドメイン、TSP 1型 7ドメイン、TSP 1型 8ドメイン、スペーサードメイン、CUB1ドメイン、CUB2ドメイン、該ドメインのうちの2つの間の領域、及びそれらの組合せ、並びにそれらの組合せからなる群から選択されるドメイン内で、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内の1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、野生型ADAMTS13と比較して追加されており、かつ/又は1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は、移動されている。各ドメインについてのアミノ酸残基が、表5の第1列に示されており、それによって、付番は、図1に示される野生型ADAMTS13の配列におけるアミノ酸残基の付番を意味する。「該ドメインのうちの2つの間の領域」とは、2つの隣接するドメインの間、好ましくは、メタロプロテアーゼドメインドメインとディスインテグリン様ドメインとの間、ディスインテグリン様ドメインとTSP 1型 1ドメインとの間、TSP 1型 2ドメインとTSP 1型 3ドメインの間、TSP 1型 3ドメインとTSP 1型 4ドメインとの間、TSP 1型 4ドメインとTSP 1型 5ドメインとの間、TSP 1型 7ドメインとTSP 1型 8ドメインとの間、及びTSP 1型 8ドメインとCUB1ドメインとの間の領域を意味する。
【0039】
本発明によって提供されるADAMTS13タンパク質バリアントにおいて、該ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、かつ前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動されない。好ましくは、ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基440~553又は464~539には、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、かつ前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動されない。より好ましくは、ADAMTS13のアミノ酸残基440~556からなるシステインリッチドメインでは、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動されない。
【0040】
さらに好適な実施態様において、N-グリコシル化部位(NXT又はNXS(式中、Xは、Pを除く任意のアミノ酸である))を、図1に示されるADAMTS13配列の残基S556~A685を含むスペーサードメイン及び/もしくは表5に示されるアミノ酸配列のうちのいずれかに導入すること、又はN-グリコシル化部位を、表5に示されるアミノ酸配列のうちのいずれかに移動させることによって、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内で、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動されている。本発明によって提供されるADAMTS13タンパク質バリアントにおいて、該ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には、該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、かつ該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動されない。
【0041】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内で、1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動され、メタロプロテアーゼドメイン、好ましくは、図1に示されるADAMTS13配列の残基L80~P226を含むメタロプロテアーゼドメイン内で、該1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加され、かつ/又は該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動される。メタロプロテアーゼドメイン内の該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、表5において1~9の番号で示されたドメイン内で追加又は移動され、好ましくは、移動される。
【0042】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内で、1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動され、CUBドメイン、好ましくは、図1に示されるADAMTS13配列の残基C1192~T1427を含むCUBドメイン内で該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加され、かつ/又は該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動される。表5の番号59~89で示されるドメイン内で、CUBドメイン内の前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加又は移動され、好ましくは、移動される。
【0043】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内で、1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動され、TSP1-2-8ドメイン、好ましくは、図1に示されるADAMTS13配列の残基P682~P1131を含むTSP1-2-8ドメイン内で、該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加され、かつ/又は該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動される。好ましくは、表5で32~56の番号で示されたドメイン内で、TSP1-2-8ドメイン内の前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加又は移動され、好ましくは、移動される。
【0044】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント内で、1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動され、図1に示されるADAMTS13配列の残基S556~A685を含むスペーサードメイン内で、該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加され、かつ/又は該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動される。該スペーサードメインは、長さが130アミノ酸で、かつADAMTS13のプロテアーゼ活性に必要とされるいくつかの極めて重要な相互作用を媒介することが知られている。さらに、スペーサードメインまでのアミノ酸を含み、かつ該スペーサードメインを含む、すなわち、アミノ酸1~685を含む切断型のADAMTS13のバリアントが、タンパク質分解活性を示すことが示されている(例えば、Xiaoらの文献2011及びDe Maeyerらの文献2010)。従って、本発明による好適なADAMTS13タンパク質バリアントは、少なくともADAMTS13の残基1~685を含み、ここで、野生型ADAMTS13と比較して、1つ以上のNグリコシル化部位が追加されかつ/又は1つ以上の既存のN-グリコシル化部位が移動されており、かつ本明細書に記載されるようなさらなる任意選択の変異が、導入されている。該スペーサードメインは、抗ADAMTS13自己抗体によって認識される主要なエピトープを形成する表面露出残基を含有する。これらの残基は、エキソサイト-3ドメインとも称される。このドメインは、アミノ酸残基R568、F592、R660、Y661、及びY665を含む。R660、Y661、及びY665のアラニン変異は、VWFによるADAMTS13の認識を損なう(Posらの文献2010;Posらの文献2011)。しかしながら、エキソサイト-3残基の保存的アミノ酸置換が、機能獲得型のADAMTS13のバリアントをもたらすことが示されている(Jianらの文献2012)。初めは、このバリアントも、自己抗体に対して抵抗性であると考えられていたが、追跡実験によって、これが依然として患者由来の自己抗体の標的とされることが明らかにされている(Gracaらの文献、2019)。理論によって束縛されることは望まないが、スペーサードメイン内のアスパラギン残基に結合したN-グリカンが、エキソサイト-3ドメインを遮蔽することができ、それにより、この部位への自己抗体の結合を低下させる又は阻止すると考えられている。
【0045】
特に好ましい実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントでは、図1に示されるADAMTS13配列の残基S556~A685を含むスペーサードメイン内で、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加され、かつ/又は前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動される。
【0046】
図1に示されるADAMTS13配列の残基R568~R670を含むスペーサードメインの一部において、前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加され、かつ/又は前記1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されることがさらに好ましい。
【0047】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。臨床的に重要なレベルについてのカットオフは、少なくとも10%に設定される(例えば、Hieらの文献2014)。本明細書で使用される場合、「VWFに対するタンパク質分解活性」は、ADAMTS13又はADAMTS13タンパク質バリアントの、VWFを切断する能力を意味する。本明細書で使用される場合、「野生型ADAMTS13タンパク質のx%のVWFに対するタンパク質分解活性」は、同じ条件下で組換え野生型ADAMTS13と比較してx%のVWFに対するタンパク質分解活性を意味する。すなわち、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントのVWFに対するタンパク質分解活性は、同じアッセイを用いて、同じ期間にわたって、同じ濃度のタンパク質を用いて決定されるなどを含む同じ条件下で、組換え野生型ADAMTS13タンパク質のVWFに対するタンパク質分解活性と比較される。当業者は、野生型ADAMTS13及び本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントのタンパク質分解活性を、この活性が比較可能であるように同じ条件下で評価するのに十分な能力を有する。VWFに対するタンパク質分解活性は、例えば、本明細書においてFRETS-VWF73を用いる実施例(Kokameらの文献2005に記載)及びVWF多量体アッセイを用いる実施例(Gracaらの文献2019に記載)に記載されるようなアッセイを用いて決定することができる。VWFに対するタンパク質分解活性は、例えば、一般的に入手可能なFRETS-VWF73基質(AnaSpec, Fremont, Ca, USA)を用いて、例えば、実施例2に記載されているようなFRETS-VWF73基質アッセイプロトコールに従って測定することができる。
【0048】
好ましくは、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型の組換えADAMTS13タンパク質のVWFに対するタンパク質分解活性の少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも60%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。特に好ましい実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13タンパク質のVWFに対するタンパク質分解活性の少なくとも70%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。また、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13のタンパク質分解活性よりも高いタンパク質分解活性を有することもあり、すなわち、野生型ADAMTS13タンパク質のVWFに対するタンパク質分解活性の100%を超えるVWFに対するタンパク質分解活性を有することもある。
【0049】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13と比較して低下した自己抗体による結合を示す。本明細書で使用される場合「低下した自己抗体による結合を示す」は、ADAMTS13に対して特異的な自己抗体の結合が、野生型ADAMTS13と比較して低下した結合を、本発明の又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントに対して示すことを意味する。本明細書で使用される場合、「低下した」は、好ましくは、結合が、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%、より好ましくは、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、最も好ましくは、少なくとも95%低下することを意味する。従って、「野生型ADAMTS13と比較して低下した自己抗体による結合」は、好ましくは、例えば、本明細書で以下に詳述されるような本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントのiTTP患者の血清との反応性によって明らかとされる自己抗体による結合が、野生型ADAMTS13タンパク質の結合と比較して少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも15%、20%、25%、50%、75%、80%、85%、90%、又は95%低下することを意味する。好ましくは、前記自己抗体は、これらに限定されないが、エキソサイト-3ドメイン内に位置するエピトープ、より好ましくは、残基F592、R568、R660、Y661、及び/又はY665を含むエピトープに結合する自己抗体である。好ましくは、前記自己抗体は、免疫介在性血栓性血小板減少性紫斑病(iTTP)を患う患者の血清中に存在する自己抗体である。iTTP患者血清の血清中での自己抗体による結合の低下は、例えば、本明細書において実施例に記載さるようなアッセイにおいてADAMTS13タンパク質バリアントのiTTP患者の血清(単数)又は血清(複数)との反応性を測定することにより決定することができる。手短にいうと、ADAMTS13への自己抗体の結合を、表面に直接的に、又はADAMTS13(もしくはV5-タグもしくはHis-タグもしくは任意の他のタグ)に対するモノクローナル又はポリクローナル抗体を固定化することによって間接的にADAMTS13を固定化することによって検出することができる。それに続き、固定化されたADAMTS13を、患者由来の体液、好ましくは、血漿又は血清とインキュベートして、固定化されたADAMTS13への抗ADAMTS13免疫グロブリンの結合を可能とする。それに続き、ADAMTS13との反応性を有する結合した患者由来の免疫グロブリンを、ヒト免疫グロブリンを特異的に認識するコンジュゲート抗体又は標識抗体を採用して検出することができる。そのようなアッセイの例が、実施例3に示される。患者及び正常個体由来の体液中の抗原特異的抗体を検出する他の方法が、文献に網羅的に記載されており、ADAMTS13に対する抗体の検出に適用することができる(例えば、Burbelo PD及びO'Hanlon TPの文献、2014)。iTTP患者の血清中の自己抗体は、不均質なものであるために、本発明のADAMTS13タンパク質バリアントに対する自己抗体の結合は、複数のiTTP患者の血清中で、例えば、少なくとも5名の異なるiTTP患者の血清又は血漿試料中で決定されることが好ましい。
【0050】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、ADAMTS13上に位置する自己抗体結合部位の近傍に含まれる又は該自己抗体結合部位に寄与するアミノ酸残基に少なくともN結合型グリコシル化部位を含む。すなわち、野生型ADAMTS13と比較して追加及び/又は移動されている1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、ADAMTS13上に位置する自己抗体結合部位の近傍に含まれる又は該己抗体結合部位に寄与するアミノ酸残基に存在する。より好ましくは、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、R568、L591、V604、V605、A606、G607、K608、M609、R636、L637、P638、R639、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基においてN結合型グリコシル化部位を含む。より好ましくは、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、R568N、L591N、V604N、V605N、A606N、G607N、K608N、M609N、R636N、L637N、P638N、R639N、Y665N、L668N、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基変異においてN-グリカンを含む。すなわち、1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、これらの群から選択される変異を導入することによって野生型ADAMTS13と比較して追加される。
【0051】
より好ましくは、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、図1に示される568、591、608、609、636、637、665、668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸位置、より好ましくは、図1に示される591、608、609、636、665、668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸位置、より好ましくは、図1に示される608、609、665、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸位置にN結合型グリコシル化部位を含む。
【0052】
一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、568REY570から568NET570(NGLY1)、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、636RLPR639から636NLSR639(NGLY5)、636RLPR639から636RNAS639(NGLY6)、665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)、667NLTRP671から667LNVTA671(NGLY8)、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。すなわち、1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、この群から選択される変異を導入することによって、野生型ADAMTS13と比較して追加及び/又は移動される。「NGLY1」、「NGLY2」などの括弧内の表示は、表1及び表3に示されるバリアントを意味する。「N-gly1」及び「NGLY1」又は「N-gly2」及び「NGLY2」などの「N-glyx」及び「NGLYx」の表示は、本明細書で互換的に使用される。
【0053】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)、及び667NLTRP671から667LNVTA671(NGLY8)からなる群から選択される変異を含み、より好ましくは、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、及び665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)からなる群から選択される変異を含み、最も好ましくは、変異608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)を含む。すなわち、1つ以上のN結合型グリコシル化部位は、この群から選択される変異を導入することによって、野生型ADAMTS13と比較して追加及び/又は移動される。本明細書の実施例で示されるように、これらのバリアントは、iTTP患者の血清中に存在する自己抗体による結合の特に強力な低下を示しているが、VWFに対するタンパク質分解活性を維持している。
【0054】
前記1つ以上の追加及び/又は移動されたN結合型グリコシル化部位に加えて、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異を含んでもよく、好ましくは、該変異(単数)又は変異(複数)は、該タンパク質バリアント内にグリコシル化部位を導入するものではない。該変異(単数)又は変異(複数)は、好ましくは、野生型ADAMTS13タンパク質のアミノ酸配列と比較した場合の、該タンパク質バリアントのアミノ酸配列における変異(単数)又は変異(複数)である。例えば、ADAMTS13タンパク質バリアントへの自己抗体による結合をさらに低下させる1つ以上の変異、VWFに対するタンパク質分解活性の増加をもたらす1つ以上の変異、及び/又はADAMTS13タンパク質バリアントの安定性を増加させる1つ以上の変異を導入することができる。
【0055】
変異は、あるアミノ酸の別のアミノ酸による置換、1つ以上のアミノ酸の挿入、又は1つ以上のアミノ酸の欠失とすることができる。好ましくは、そのようなさらなる変異(単数)又は変異(複数)は、1つ以上のアミノ酸の別のアミノ酸による置換である。該変異は、前記タンパク質バリアントの配列の至る所に導入することができる。好ましい一実施態様において、1つ以上の変異、好ましくは、置換が、自己抗体の標的とされるADAMTS13の種々のドメイン内の部位に導入される。より好適な実施態様において、変異、好ましくは、置換が、図1に示される残基S556~A685を含むスペーサードメイン内の1つ以上のアミノ酸残基において導入される。より好ましくは、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基において変異、好ましくは、置換を含む。例えば、公知の機能獲得型変異体において変異している(すなわち、R568、F592、R660、Y661、及びY665)1つ以上のアミノ酸(例えば、R660、Y661、及びY665、又はR568、F592、R660、及びY661、又はR568、F592、R660、Y661、及びY665など)が、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントにおいて変異している。
【0056】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。本明細書の実施例並びに、例えば、Jianらの文献2012、Posらの文献2010、及びGracaらの文献2019に示されるように、そのような変異体は、ADAMTS13のタンパク質分解活性を保存するか又は増加させるかのいずれかである。
【0057】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異R568A及びY665Aを含む。
【0058】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異L591A、R636A、L637A、及びL668Aを含む。
【0059】
好ましい一実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異R568A及びY665A、又は変異L591A、R636A、L637A、及びL668Aを含む。
【0060】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異R660K、R660A、又はR660N;Y661F、Y661A、又はY661N;及びY665F、Y665A、又はY665Nを含む。
【0061】
さらに好適な実施態様において、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異R568K、R568A、又はR568N;F592Y、F592A、又はF592N;R660K、R660A、又はR660N;及びY661F、Y661A、又はY661Nを含む。
【0062】
さらに好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、変異R568K、R568A、又はR568N;F592Y、F592A、又はF592N;R660K、R660A、又はR660N;Y661F、Y661A、又はY661N;及びY665F、Y665A、又はY665Nを含む。
【0063】
好ましい一実施態様において、図1に示されるADAMTS13配列のアミノ酸残基608においてN-グリコシル化部位を含む本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアント、好ましくは、配列607GNMSI611を含むADAMTS13タンパク質バリアントは、前記さらなる変異のうちの1つ以上をさらに含む。
【0064】
野生型ADAMTS13と比較した場合の、1つ以上のN結合型グリコシル化部位を追加及び/又は移動させるために成された変異及び本明細書に記載される任意のさらなる変異の双方を含めた本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントに導入される変異は、好ましくは、野生型ADAMTS13内の対応するアミノ酸配列の配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むADAMTS13タンパク質バリアントをもたらす。「%配列同一性」という用語は、本明細書において、最高のパーセント配列同一性を達成するように配列をアラインメントし、必要に応じて、任意にギャップを導入した後の、参照アミノ酸配列又は対象アミノ酸配列内のアミノ酸と同一である、あるアミノ酸配列内のアミノ酸の百分率として定義される。アラインメントのための方法及びコンピュータープログラムは、本技術分野において周知である。当業者は、一方のアミノ酸配列における連続したアミノ酸残基が、別のアミノ酸配列における連続したアミノ酸残基と比較されることを理解する。配列同一性は、ADAMTS13タンパク質バリアントの全配列及び野生ADAMTS13の対応する配列にわたって計算される。すなわち、ADAMTS13の残基1~685からなるADAMTS13タンパク質バリアントは、好ましくは、野生型ADAMTS13の残基1~685のアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有し;完全長ADAMTS13タンパク質バリアントは、好ましくは、野生型ADAMTS13の完全長アミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有し;ADAMTS13の残基1~900からなるADAMTS13タンパク質バリアントは、好ましくは、野生型ADAMTS13の残基1~900のアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するなどである。前記配列同一性は、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%である。
【0065】
さらに、本発明は、追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、かつ/又は移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が、N結合型グリカンを含む、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントを提供する。該タンパク質バリアントは、好ましくは、野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%、より好ましくは、野生型ADAMTS13タンパク質のVWFに対するタンパク質分解活性の少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。本明細書で使用される場合、「N結合型グリカン」という用語は、N-グリコシル化部位で窒素結合を介してタンパク質又はタンパク質バリアントに連結された炭水化物部分を意味する。種々のN結合型グリカンが存在するが、前記N結合型グリカンは、本明細書で定義されるN結合型グリコシル化部位に結合させることができる任意のグリカンとすることができる。当業者は、N結合型グリコシル化部位に結合させることができるグリカンをよく知っている。図2は、好適なよくみられるN結合型グリカンの構造及び他のN結合型グリカンの構造を示す。好適な実施態様において、N結合型グリカンは、図2に示されるN結合型グリカンから選択されるN結合型グリカンである。本明細書に記載されるようなADAMTS13タンパク質バリアントへのN結合型グリカンの結合は、組換えによって前記タンパク質バリアントを、N結合型グリカンを含む糖タンパク質を産生することができる適当な宿主細胞において製造することを含む、本技術分野において公知の方法によって達成することができる。適当な宿主細胞としては、真核生物宿主細胞、特に、哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、PERC.6細胞、又はHEK293細胞などが挙げられる。あるいは、グリコシル化パターンのインビトロ修飾が可能である。
【0066】
別の好適な実施態様において、発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、完全長ADAMTS13バリアントであり、すなわち、図1に示されるアミノ酸1~1427を有している。好ましくは、前記ADAMTS13タンパク質バリアントは、前記追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、かつ/又は前記移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は、N結合型グリカンを含み、かつこれは、野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、残基S556~A685を含むスペーサードメイン内の1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異を含み、より好ましくは、R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基における変異を含み、さらにより好ましくは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。
【0067】
別の好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントでは、残基S556~A685を含むスペーサードメインにおいて、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加され、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動され、かつ該ADAMTS13タンパク質バリアントは、野生型ADAMTS13タンパク質のフォンウィルブランド因子(VWF)に対するタンパク質分解活性の少なくとも10%であるVWFに対するタンパク質分解活性を有する。好ましくは、前記ADAMTS13タンパク質バリアントは、前記追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、かつ/又は前記移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は、N結合型グリカンを含む。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、完全長ADAMTS13バリアントであり、すなわち、図1に示されるアミノ酸1~1427を有する。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、残基S556~A685を含む前記スペーサードメイン内の1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異を含み、より好ましくは、R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基において変異を含み、さらにより好ましくは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。
【0068】
別の好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントでは、568REY570から568NET570(NGLY1)、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、636RLPR639から636NLSR639(NGLY5)、636RLPL639から636RNAS639(NGLY6)、665YGNL668から665NVTL668(NGLY7)、667NLTRP671から667LNVTA671(NGLY8)、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異、より好ましくは、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、636RLPR639から636NLSR639(NGLY5)からなる群から選択される変異を導入することによって、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されている。好ましくは、前記ADAMTS13タンパク質バリアントは、前記追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、かつ/又は前記移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は、N結合型グリカンを含む。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、完全長ADAMTS13バリアントであり、すなわち、図1に示されるアミノ酸1~1427を有する。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、残基S556~A685を含むスペーサードメイン内の1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異、より好ましくは、R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基における変異、さらにより好ましくは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。
【0069】
別の好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントでは、表5に示されるアミノ酸配列のうちのいずれかにN-グリコシル化部位(NXT又はNXS(式中、Xは、Pを除く任意のアミノ酸である))を導入することによって、又は表5に示されるアミノ酸配列のうちのいずれかにN-グリコシル化部位を移動させることによって、野生型ADAMTS13と比較して前記1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加又は移動されるが、但し、該ADAMTS13タンパク質バリアントのアミノ酸残基464~466、469~471、476~478、493~495、511~513、及び539~541には該1つ以上のN結合型グリコシル化部位は追加されず、かつ該1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は移動されないことを条件とする。好ましくは、前記ADAMTS13タンパク質バリアントは、前記追加された1つ以上のN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、かつ/又は前記移動された1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位は、N結合型グリカンを含む。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、完全長ADAMTS13バリアントであり、すなわち、図1に示されるアミノ酸1~1427を有する。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、ADAMTS13内の1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異を含む。さらに好適な実施態様において、前記バリアントは、残基S556~A685を含むスペーサードメイン内の1つ以上のアミノ酸残基においてさらなる変異、より好ましくは、R568、L591、F592、R636、L637、L668、L591、F592、R636、L637、R660、Y661、Y665、L668、及びそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸残基における変異、さらにより好ましくは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異を含む。
【0070】
別の好適な実施態様において、本発明による又は本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントでは、591LFT593から591NFT593(NGLY2)、608KMSI611から608NMSI611(NGLY3)、608KMSI611から608KNST611(NGLY4)、及び636RLPR639から636NLSR639(NGLY5)からなる群から選択される変異を導入することによって、野生型ADAMTS13と比較してN結合型グリコシル化部位が追加され、かつ該ADAMTS13タンパク質バリアントは、追加されたN結合型グリコシル化部位にN結合型グリカンを含み、該バリアントは、R568K、R568A、R568N、L591A、F592Y、F592A、F592N、R636A、L637A、R660K、R660A、R660N、Y661F、Y661A,Y661N、Y665F、Y665A、Y665N、L668A、及びそれらの組合せからなる群から選択される変異をさらに含み、好ましくは、変異R568K、R568A、又はR568N;F592Y、F592A、又はF592N;R660K、R660A、又はR660N;Y661F、Y661A、又はY661N;及びY665F、Y665A、又はY665Nをさらに含む。
【0071】
特に好適なADAMTS13タンパク質バリアントは、NGLY1、NGLY2、NGLY3、NGLY4、NGLY5、NGLY6、NGLY7、NGLY8、NGLY3+NGLY7、NGLY+NGLY8、NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668A、NGLY3+R568A/Y665A、及びNGLY3+R568A/Y665A+L591A/R636A/L637A/L668Aとして表記される本明細書に記載されるバリアント、より好ましくは、NGLY2、NGLY3、NGLY4、NGLY5、NGLY7、NGLY8、NGLY3+NGLY7、NGLY+NGLY8、NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668A、及びNGLY3+R568A/Y665Aとして表記される本明細書に記載されるバリアントである。
【0072】
また、本発明は、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸を提供する。本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸配列を含む核酸構築体がさらに提供される。本発明による核酸配列及び構築体は双方とも、治療的応用及び本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントの調製に有用である。
【0073】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、mRNA又はcDNAを含むDNA及びRNA、並びにそれらの合成バリアントを意味する。該核酸は、組換え又は合成の核酸とすることができる。
【0074】
発明による核酸構築体は、好ましくは、発現ベクターなどのベクター内に存在する。発現ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターとすることができる。好適な発現ベクターの非限定的な例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、単純ヘルペスベクター、及びレンチウイルスベクター、非ウイルスベクター、並びに工学的に作り出された(engineered)ベクターが挙げられる。非ウイルス発現ベクターとしては、ヌードDNA、並びにリポソーム、ポリマー、ナノ粒子、及び分子コンジュゲートなどの合成の又は工学的に作り出された組成物中にパッケージングされた核酸が挙げられる。そのような非ウイルス発現ベクターを生じさせるための方法は、本技術分野において周知である。発現ベクターは、好ましくは、CMV又はSV40プロモーターなどの強力なプロモーター/エンハンサー、リボソーム結合部位及び開始コドンなどの最適な翻訳開始配列、並びに/又はタンパク質が真核細胞内で発現される場合にはポリ(A)シグナルを含む転写終結配列を含む。当業者は、用いられるべき発現ベクターが、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント、好ましくは、N結合型グリカン含有タンパク質バリアントの発現のために使用される宿主細胞に左右されることを理解するであろう。発現ベクターは、好ましくは、真核生物宿主細胞、より好ましくは、哺乳動物宿主細胞での、より好ましくは、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、PERC.6細胞、及び/又はHEK293細胞での本発明の核酸分子発現に適している。
【0075】
別の選択肢として、本発明に従って用いられる核酸配列は、外来性のプロモーターを用いて又は用いずに特定の遺伝子座に受容体導入遺伝子を挿入するために、CRISPR/Cas、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、及び転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ-TALENを含む遺伝子編集技術によって、対象に提供されてもよい。好ましいゲノム遺伝子座としては、当業者に公知であるように、AAVS1遺伝子座及びPD-1遺伝子座が挙げられる。
【0076】
また、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントと、1つ以上の医薬として許容し得る担体、アジュバント、賦形剤、及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物も提供される。「医薬として許容し得る」によって、前記補助的な担体、希釈剤、又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合するものでなければならず、かつそれを投与される者にとって有害な、例えば、有毒なものであってはならないことが意味される。一般的に、活性化合物の機能に干渉しない任意の医薬として適当な添加剤を使用することができる。本発明による医薬組成物は、好ましくは、ヒトでの使用に適する。
【0077】
適当な担体の例は、溶液、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体など、又はそれらの混合物を含む。好ましい実施態様において、該適当な担体は、溶液、例えば、生理食塩水である。投与単位、例えば、錠剤を作製するために、フィラー、着色料、重合体結合剤などの慣用の添加剤の使用が想定される。錠剤、カプセル剤などに組み込むことができる賦形剤の例は、以下:トラガカントガム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン、又はゼラチンなどの結合剤;微結晶性セルロースなどの賦形剤;トウモロコシデンプン、アルファ化デンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;スクロース、ラクトース又はサッカリンなどの甘味剤である。
【0078】
本発明による医薬組成物は、好ましくは、非経口投与に適しているか又はそれに適合させている。該投与は、好ましくは、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、及び/又は筋肉内投与である。投与は、注射によるもの又は輸液注入によるもののいずれかであり得る。注射可能な、例えば、静脈内投与用の組成物は、例えば、等張の水性緩衝液などの無菌の水溶液、油性溶液、分散液、乳濁液、及び/又は懸濁液、好ましくは、水溶液中に本発明のADAMTS13タンパク質バリアントを含む溶液であり得る。該注射可能な、例えば、静脈内用の組成物は、例えば、可溶化剤、安定化剤、及び/又は注射又は輸液注入の部位での疼痛を和らげる局所麻酔剤を含み得る。
【0079】
治療されるべき病態及び所望の作用(例えば、短期作用又は長期治療)に応じて適切な投薬レジメン、すなわち、投薬量及び投与間隔を決定することは、当業者の能力の範囲内である。これらの化合物及びその組成物の厳密な用量及びレジメンは、さらに、ADAMTS13タンパク質バリアントの生物活性、対象の年齢、体重、及び性別、該医薬品が投与される個々の対象の必要性、苦痛又は必要性の度合い、並びに医師の判断に左右されるものである。適当な用量の例は、例えば、本発明のADAMTS13タンパク質バリアントが0.1mg~15g、例えば、1~10gなどの範囲の用量である。
【0080】
本発明の実施態様において、本発明の1つ以上の医薬組成物が入れられた1つ以上の容器を含む医薬キット又はパーツのキットが提供される。使用説明書、又はヒトもしくは動物への投与を目的とする生産、使用、もしくは販売に関する機関による承認を表わす通知である、医薬品の生産、使用、もしくは販売を規制する政府機関により規定された形態の通知などのさまざまな文書を、そのような容器と組み合わせることができる。好ましくは、医薬キット又はパーツのキットは、使用説明書を含む。
【0081】
本発明に従って用いられるADAMTS13タンパク質バリアントは、様々な経路で対象に投与することができる。例えば、該タンパク質バリアントは、例えば、外用(例えば、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤)、又は経鼻(例えば、溶液、懸濁液)を含む、任意の適当な非経口又は経口の経路で投与することができる。非経口投与としては、例えば、関節内投与、筋肉内投与、静脈内投与、脳室内投与、動脈内投与、髄腔内投与、皮下投与、又は腹腔内投与を挙げることができる。静脈内投与及び皮下投与が、最も有利であろう。さらに、タンパク質バリアントは、病院で医療従事者による輸液注入又は注射によって対象に投与されてもよい。
【0082】
本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントは、本技術分野において一般に知られておりかつ利用可能な方法によって調製することができる。例えば、当業者は、一般に知られている組換えDNA技術を用いて、本発明によるタンパク質バリアントのアミノ酸配列をコードするDNA配列を作製する方法及び該DNA配列を有する核酸分子を調製し単離する方法を知っているであろう。核酸分子の配列は、適当な宿主細胞での発現のためにコドン最適化することができる。
【0083】
核酸分子は、好ましくは、当業者に公知の組換えDNA技術を用いて、本明細書において上述した発現ベクターに導入される。本発明の文脈における発現ベクターは、本明細書に記載される適当な宿主細胞における本発明によるタンパク質バリアントの発現を指揮する。別の選択肢として、本明細書に記載される適当な遺伝子編集技術を用いて、宿主細胞のゲノム内に核酸分子を挿入してもよい。該挿入は、好ましくは、宿主細胞における本発明の核酸分子の発現を確実なものとする遺伝子座又は領域内でのものである。
【0084】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、異種タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを発現することができる任意の細胞を意味する。好適な実施態様において、宿主細胞は、N結合型グリカンをタンパク質、ペプチド、又はポリペプチドに結合させることができる。さらに好適な実施態様において、該宿主細胞は、真核生物宿主細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞であり、より好ましくは、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、PERC.6細胞、及びHEK293細胞からなる群から選択される。適当なトランスフェクション技術が、例えば、Green及びSambrookの文献、2012.「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、第4版、CSHL Press; Cold Spring Harbor Protocols, www.cshprotocols.cshlp.org)から、本技術分野において公知である。
【0085】
本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントは、VWFタンパク質分解活性を有し、従って、異常なVWF活性及び/もしくはVWFプロセシングを特徴とする障害並びに/又は血栓性疾患を治療するのに特に有用である。
【0086】
従って、本発明は、療法における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体を提供する。また、抗血栓剤としての使用のための、そのようなADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体も提供される。本明細書で使用される場合、「抗血栓剤」という用語は、血餅の形成を予防し、血餅の形成を減少もしくは減速し、かつ/又は既存の血餅に対抗する化合物を意味する。
【0087】
また、本発明は、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体を提供する。また、異常なフォンウィルブランド因子(VWF)活性及び/又はVWFプロセシングを特徴とする障害の治療のための方法であって、それを必要としている対象に、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体を投与することを含む、前記方法も提供される。本明細書で使用される場合、「フォンウィルブランド因子」又は「VWF」という用語は、血小板の付着及び凝集を媒介する血漿糖タンパク質を意味する。VWFは、内皮細胞及び巨核球によって、最高で20,000kDaを超える分子量を有する長い多量体として合成される。循環VWFの大部分は、内皮細胞によって合成される。分泌型VWFの大部分は、血栓形成促進性である超大型のVWF(ULVWF)多量体からなる。本明細書で上述のように、VWFの血栓形成促進活性は、通常の止血の間、ADAMTS13による限定的な切断によって調節される。本明細書で使用される場合、「異常なVWF活性」は、活性VWF活性、特に、VWFの血栓形成促進活性が、健康な対象でのVWF活性から逸脱すること、好ましくは、健康な対象でのVWF活性と比較して増加していることを意味する。この逸脱又は増加は、特に、それが、有害な健康への影響、すなわち、疾患又は障害をもたらすようなものである。本明細書で使用される場合、「異常なVWFプロセシング」は、VWFのプロセシング、特に、VWFの切断、特に、VWF多量体の切断が、健康な対象でのVWFプロセシングから逸脱すること、特に、健康な対象でのVWFプロセシングと比較して減少することを意味する。当業者によって認識されるであろうように、ADAMTS13タンパク質バリアントを使用して、対象におけるADAMTS13欠損を修正することができる。従って、原則として、VWF活性又はプロセシングが異常である任意の障害を、本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントで治療することができる。本明細書で使用される場合、「ADAMTS13欠損」という用語は、健康な対象でのような止血におけるその役割(切断によってVWF多量体のサイズを制御すること)を示さないADAMTS13を意味する。これは、低いADAMTS13タンパク質レベル、その基質VWFの過剰、又はADAMTS13に対する自己抗体の存在によって引き起こされ得る。好ましくは、ADAMTS13欠損は、対象における自己抗体の存在に起因するものである。
【0088】
好適な実施態様において、血栓性疾患、後天性又は先天性双方の血栓性疾患の治療における使用のための、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADATMS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体が提供される。また、血栓性疾患、後天性又は先天性双方の血栓性疾患の治療のための方法であって、それを必要としている対象に、野生型ADAMTS13と比較して1つ以上のN結合型グリコシル化部位が追加されており、かつ/又は野生型ADAMTS13と比較して1つ以上の既存のN結合型グリコシル化部位が移動されている、ADAMTS13の残基1~685を含むADAMTS13タンパク質バリアント又はそのようなADAMTS13タンパク質バリアントをコードする核酸構築体を投与することを含む、前記方法も提供される。そのようなADAMTS13タンパク質バリアントは、VWFを切断し、それによってVWFの活性を低下させることができるために、VWFの血栓形成促進活性が低下する。
【0089】
さらに好適な実施態様において、障害は、血栓性マイクロアンギオパチーである。より好ましくは、障害は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、虚血性脳卒中、全身性血栓症、COVID19、抗リン脂質症候群、子癇前症/HELLP症候群、敗血症、及び鎌状赤血球症からなる群から選択される。
【0090】
ADAMTS13は、例えば、Adamts13-/-マウスにおける自発的な血栓形成を示し、ADAMTS13が強力な天然抗血栓活性を有しておりかつ組換えADAMTS13を、抗血栓剤として使用することができるであろうと結論したChauhanらの文献(2006)により記載されているように、全身性抗血栓作用を有していることが知られている。従って、本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントを、全身性血栓症の治療に有利に用いることができる。
【0091】
血栓性マイクロアンギオパチーは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を含む。TTPは、免疫介在性TTP(iTTP)及び先天性TTP(cTTP)の双方を含む。好適な実施態様において、血栓性マイクロアンギオパチーは、TTPである。さらに好適な実施態様において、TTPは、iTTPである。iTTP及び先天性TTPの双方において、ADAMTS13レベルは、大きく低下している。現在、組換え野生型ADAMTS13が、cTTP及びiTTPの双方の治療のための臨床試験で試験されている(Scullyらの文献、2019;臨床試験識別記号:NCT03922308)。従って、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントを、iTTP及び先天性TTPの双方の治療のために使用することができる。iTTPの患者に存在する自己抗体が、ヒト血漿内に存在するような又は真核生物発現系において野生型組換えADAMTS13タンパク質として産生されるような、野生型ADAMTS13での治療の有効性を制限している。自己抗体抵抗性ADAMTS13バリアントは、機能的なADAMTS13レベルを直ちに回復することを可能とし、それにより、iTTPの患者で認められる重篤な血栓性合併症及び他の血栓性障害を軽減する。
【0092】
HUSは、溶血性貧血、血小板減少症、全身性血栓性マイクロアンギオパチー(TMA)、及び腎不全を特徴とする。部分的なADAMTS13欠損が、HUS患者にみられることもある。従って、本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントを、HUS、特に、部分的ADAMTS13欠損に伴うHUSの治療に有利に用いることができる。
【0093】
血栓症は、急性虚血性脳卒中(AIS)の主たる基礎機構である。いくつかの研究により、ADAMTS13レベルが、虚血性脳卒中を患う患者においてかなり低下することが見出されており、最低のADAMTS13レベルが、急性の脳卒中を患う患者で観察されている。Chenらの総説(2019)で詳細に述べられているように、入手可能なエビデンスによって、ADAMTS13が、虚血性脳卒中の発生、進行、及び予後と密接に関係しており、虚血再灌流傷害から脳を保護することが示されている。VWF:ADAMTS13比率は、脳卒中のリスクと強い相関を有する。ADAMTS13の活性及びレベルは、虚血性脳卒中の発生及び予後について良好な適中度を有する。加えて、AISの治療におけるADAMTS13に関しての動物試験が、著しい進歩をみせている:脳卒中発症から7日後の野生型マウスへの組換えADAMTS13の注射が、新生血管構造の形成及び血管の修復を増加させ、脳卒中後の14日間予後をかなり向上させた。ADAMTS13が、虚血性脳卒中の新規治療薬剤となると期待されると結論されている。従って、本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントは、虚血性脳卒中の治療に有利に用いることができる。
【0094】
敗血症は、凝固障害が認められる疾患であり、血栓性マイクロアンギオパチーが、その成分である場合もある。敗血症における血栓性マイクロアンギオパチーは、低いレベルのADAMTS-13と関連する。Ramsi及びAl Aliの文献(2018)は、血漿交換法で劇的な改善をみせた敗血症に伴う血小板減少症関連多臓器不全(TAMOF)の症例を記載しており、この血漿交換法によって、ADAMTS13活性が回復され、病理学的プロセス及び臓器不全が停止された。したがって、本明細書に記載されるADAMTS13タンパク質バリアントを、敗血症、特に、敗血症を患う対象における血栓性マイクロアンギオパチーの治療に有利に用いることができる。
【0095】
鎌状赤血球症において、低いADAMTS13/VWF比が確認されており、ADAMTS13活性が、急性胸部症候群を発症した患者で低く、これらは、ADAMTS-13レベルの量的な低下を示唆し、組換えADAMTS-13の投与が、有益な作用を有し得ることを示唆している(Sinsらの文献2017)。このことは、従って、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントを、鎌状赤血球症の治療に有利に用いることができることを示している。
【0096】
肺及び全身の血管系に影響を及ぼす血栓症が、重症急性呼吸器症候群-コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる重篤なCOVID19(コロナウイルス疾患2019)の間によくみられる。Turecekらの文献(2020)によって、顕著に増加した血漿VWFレベルに、VWF制御性プロテアーゼADAMTS13の部分的な減少が伴ったことが示された。組換えADAMTS13(rADAMTS13)との、重篤なCOVID-19の患者由来の血漿試料のインキュベーションは、時間及び濃度依存的に、異常に高いVWF活性を実質的に減少させ、全体的な多量体サイズを減少させ、かつUHMW VWF多量体を枯渇させ、rADAMTS13が、COVID-19患者において止血バランスを回復させるのに役立つ治療的役割を有している可能性が示唆された。このことは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントを、従って、COVID-19及び/又はSARS-CoV-2感染症の治療に有利に用いることができることを示す。
【0097】
抗リン脂質症候群及び子癇前症(PEcl)が、低下したADAMTS13レベル、並びに高いADAMTS13抗体、及び低いADAMTS13活性及び活性:抗原比と関連があるとされている(Bitsatzeらの文献2021)。さらに、血小板減少症及び微小血管症性溶血性貧血(TMA)が、HELLP症候群でみられる。更に、Austinらの文献(2008)は、ADAMTS13自己抗体及びADAMTS13機能障害が、抗リン脂質症候群で生じ得ることを示している。これは、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアントを、従って、抗リン脂質症候群及び子癇前症/HELLP症候群の治療に、特に、ADAMTS13機能障害に伴う抗リン脂質症候群及び子癇前症/HELLP症候群に有利に用いることができるということを示している。
【0098】
本明細書で使用される「対象」という用語は、本発明によるADAMTS13タンパク質バリアント又はコード核酸の受け手を意味し、ヒト及び動物を包含する。対象は、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトである。
【0099】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、治療中の疾患又は疾病の症状のうちの1つ以上をある程度緩和するのに十分な、投与されるADAMTS13タンパク質バリアントの量を意味する。これは、症状の減少もしくは軽減、疾患もしくは疾病の原因の減少もしくは軽減、又は任意の他の所望の治療効果とすることができる。
【0100】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、障害を阻害すること、すなわち、その進行もしくは該疾患もしくは疾病の少なくとも1つの臨床症状を停止もしくは減少させること、及び/又は該疾患又は疾病の症状を緩和することを意味する。
【0101】
明確性及び簡潔な記載の目的のために、特徴が、本発明の同一又は別々の態様又は実施態様の一部として本明細書に記載されることがある。本発明の範囲が、同一又は別々の実施態様の一部として本明細書に記載される特徴のうちの全て又は一部の組合せを有する実施態様を含み得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0102】
本発明を、以下の非限定的な例でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
(図面の簡単な説明)
図1図1:ADAMTS13のアミノ酸配列;UniProtアクセッション番号Q76LX8。
図2図2:ADAMTS13上に確認されたN結合型グリカン(Verbijらの文献2016に由来)。
【化1】

図3図3:スペーサードメイン内のR568、F592、R660、Y661、及びY665を含む残基ADAMTS13エキソサイト-3を示すADAMTS13モデル。エキソサイト-3を囲む残基L591、R636、L637、K608、及びM609も示されている。
図4図4:FRETS-VWF73アッセイによって決定される野生型ADAMTS13と比較したADAMTS13バリアントの活性。
図5図5:VWF多量体アッセイにおける野生型ADAMTS13及びADAMTS13バリアントのVWFを切断する能力。
図6図6:TTP患者自己抗体に対する野生型ADATMS13及びADAMTS13バリアントの反応性を示すヒートマップ。
図7図7:FRETS-VWF73を用いて測定された、TTP患者血清の存在下でのADAMTS13バリアントの活性。
図8図8:フロー条件下でのWT-及びNGLY3 ADAMTS13のタンパク質分解活性。VWFストリングの長さを、両時点の間で手作業で測定し、その長さの減少を計算した。結果を、WT-ADAMTS13と比較した相対活性として(左)、及び各バリアントについてのVWFストリングサイズの減少に基づいて(右)表す。WT-ADAMTS13及びNGLY3バリアントは双方とも、本アッセイにおいて活性であることが示された。
図9図9A:いわゆるボルテックスアッセイ(Zhangらの文献、2007)において測定された、乱流下でのVWF多量体に対するタンパク質分解ADAMTS13バリアントの活性。野生型ADAMTS13及びADAMTS13バリアントによるVWFのプロセシングが、高分子量多量体の分解によって評価される。レーン1、11:VWFのみ;レーン2、12:野生型ADAMTS13+EDTA、レーン3、13:野生型ADAMTS13;レーン4:MDCTSドメインADAMTS13+EDTA、レーン5:MDCTS野生型;レーン6:MDCTS 5×Ala+EDTA;レーン7:MDTCS 5×Ala;レーン8:ADAMTS13 5×Ala+EDTA;レーン9:ADAMTS13 5×Ala;レーン10、20:ExpiCHO上清(ADAMTS13なし);レーン14:NGLY3+EDTA;レーン15:NGLY3;レーン16:ADAMTS13 Multi-Ala+EDTA;レーン17:ADAMTS13 Multi-Ala;レーン18:NGLY3+MultiAla+EDTA;レーン19:NGLY3+Multi-Ala。MDCTS:切断型ADAMTS13バリアント(残基1~685)。5×Alaは、R568A/F592A/R660A/Y661A/Y665Aに対応する。MultiAlaは、L591A/R636A/L637A/L668Aに対応する。 図9B:いわゆるボルテックスアッセイ(Zhangらの文献、2007)で測定された、乱流下でのVWF多量体に対するタンパク質分解ADAMTS13バリアントの活性。野生型ADAMTS13及びADAMTS13バリアントによるVWFのプロセシングが、高分子量多量体の分解によって評価される。レーン1、11:VWFのみ;レーン2、12:野生型ADAMTS13+EDTA、レーン3、13:野生型ADAMTS13;レーン4:ADAMTS13+AA+EDTA、レーン5:ADAMTS13+AA;レーン6:NGLY3+AA+EDTA;レーン7:NGLY3+AA;レーン8:NGLY7+EDTA;レーン9:NGLY7;レーン10、20:ExpiCHO上清(ADAMTS13なし);レーン14:NGLY3+NGLY7+EDTA;レーン15:NGLY3+NGLY7;レーン16:NGLY8+EDTA;レーン17:NGLY8;レーン18:NGLY3+NGLY8+EDTA;レーン19:NGLY3+NGLY8。AAは、R568A/Y665Aに対応する。
図10図10:10μlの患者の血清又は血漿の存在下で基質としてFRETS-VWF73を用いて測定された野生型ADAMTS13(WT)に対するNGLY3バリアントの相対活性。4名の患者(TTP-007、TTP-041、TTP-042、及びTTP-076)については、20μlを添加した条件も評価した。患者の血清又は血漿の非存在下で野生型ADAMTS13について得られた活性を、100%に設定した。黒色のバーは、さまざまな患者の血漿及び血清の存在下での野生型ADAMTS13の反応性を示し;灰色のバーは、患者の血漿及び血清の存在下でのNGLY3バリアントの活性を示す。
図11図11:高力価阻害物質患者においてNGLY3について認められた自己抗体抵抗性。野生型ADAMTS13を少なくとも50%阻害する患者の血清及び血漿のサブセットを、本図に選択した。10μlの患者の血清又は血漿の存在下で基質としてFRETS-VWF73を用いて測定された野生型ADAMTS13(WT)に対するNGLY3バリアントの相対活性を図示する。患者の血清又は血漿の非存在下で野生型ADAMTS13について得られた活性を、100%に設定した。黒色のバーは、さまざまな患者の血漿及び血清の存在下での野生型ADAMTS13の反応性を示し;灰色のバーは、患者の血漿及び血清の存在下でのNGLY3バリアントの活性を示す。アステリスクは、野生型ADAMTS13と比較してNGLY3が少なくとも5倍高活性であった患者試料を示す。
図12図12:2名の高力価阻害物質患者由来の血漿中でNGLY3、NGLY7、NGLY3+NGLY6、NGLY8、NGLY3+8について認められた自己抗体抵抗性。野生型ADAMTS13を少なくとも95%阻害する2点の患者血漿を、本図に選択した。10μlの患者の血清又は血漿の存在下で基質としてFRETS-VWF73を用いて測定された野生型ADAMTS13(WT)に対するNGLY3、NGLY7、NGLY3+NGLY7、NGLY8、NGLY3+8バリアントの相対活性を図示する。患者の血清又は血漿の非存在下で野生型ADAMTS13について得られた活性を、100%に設定した。
図13図13:10μlの患者の血清又は血漿の存在下で基質としてFRETS-VWF73を用いて測定された、野生型ADAMTS13(WT)に対するNGLY3+NGLY7バリアントの相対活性。合計で23点の患者試料を分析した。患者の血清又は血漿の非存在下で野生型ADAMTS13について得られた活性を、100%に設定した。黒色のバーは、さまざまな患者の血漿及び血清の存在下での野生型ADAMTS13の反応性を示し;灰色のバーは、患者の血漿及び血清の存在下でのNGLY3+NGLY7バリアントの活性を示す。
図14図14:強力な阻害物質を含む患者試料においてNGLY3、NGLY3+Multi-Ala、NGLY3+AAについて認められた自己抗体抵抗性。10μlの患者の血清又は血漿の存在下で基質としてFRETS-VWF73を用いて測定された、野生型ADAMTS13(WT)に対するNGLY3、NGLY3+Multi-Ala、NGLY3-AAバリアントの相対活性を図示する。患者の血清又は血漿の非存在下で野生型ADAMTS13について得られた活性を、100%に設定した。NGLY3+MultiAlaは、L591A/R636A/L637A/L668Aと組み合わせたNGLY3に対応し;NGLY3+AAは、R568A/Y665Aと組み合わせたNGLY3に対応する。
図15図15:N-グリカン修飾ADAMTS13の質量分析ベースの同定。
【実施例
【0104】
(実施例)
(実施例1.ADAMTS13のN-グリカンバリアントの設計)
免疫TTP(iTTP)の患者で生じる自己抗体は、残基R568、F592、R660、Y661、及びY665(図3を参照されたい)で構成されるスペーサードメイン内の免疫優性領域を対象とすることが多い。以前の研究において、本発明者らは、保存的
【化2】
半保存的
【化3】
非保存的(Y/F→N;推定N-グリコシル化部位の追加なし)、又はアラニン(Y/F/R→A)置換を含む多数のADAMTS13バリアントを作製した。F568、R592、R660、Y661、及びY665がすべて、保存的な残基に置き換えられた以前の機能獲得型のバリアントも含まれていた(RFRYY→KYKFF)(Gracaらの文献、2019)。得られたバリアントのパネルを、18名のiTTPの患者の血清中に存在する自己抗体との反応性について試験した。本発明者らの結果は、スペーサードメイン内の非保存的変異又はアラニン変異が、強く低下した自己抗体の結合をもたらす一方で、半保存的又は保存的変異を含むADAMTS13スペーサードメインバリアントへの自己抗体の結合が、非保存的バリアントと比較して、強く影響を受けなかったことを示す(Gracaらの文献、2019)。残基R568、F592、R660、Y661、及びY665は、ADAMTS13の最適なVWF切断活性に極めて重要である(Posらの文献、2010; Jianらの文献、2012)。これらのデータと一致して、本発明者らは、非保存的置換又はアラニン置換が、活性の低下をもたらす一方で、保存的置換及び半保存的な置換が、より維持された又はさらには正常な活性を有する傾向があったことを確認した。まとめると、本発明者らの結果は、患者自己抗体結合に対する抵抗性とタンパク質分解活性との間の「トレードオフ」を示唆した。この研究の結果は、かなりのタンパク質分解活性を維持している自己抗体抵抗性ADAMTS13バリアントの設計は、残基R568、F592、R660、Y661、及びY665の組合せの、特に、残基F592、R660、及びY661についての系統的な置き換えでは実現可能ではないことを示した(Gracaらの文献、2019)。従って、本発明者らは、残基R568、F592、R660、Y661、及びY665自体は変化させず、それによって、ADAMTS13スペーサードメインにおけるこの領域への折り畳まれていないVWF A2ドメインの結合を可能とする革新的なアプローチを採用した(Posらの文献、2010; Crawleyらの文献、2011;Ercigらの文献、2018a)。現在入手可能なデータに基づいて、本発明者らは、スペーサードメイン内のR568、F592、R660、Y661、及びY665を含むADAMTS13エキソサイト-3に対する折り畳まれていないA2ドメインの残基E1660~R1668の結合を示すモデルを構築した(図3)。このモデルに基づいて、本発明者らは、スペーサードメイン内にN-グリカン結合のためのコンセンサス部位(NXS又はNXT)を選択的に導入することによる追加のN-グリカンの挿入のために、スペーサードメイン内のADAMTS13エキソサイト-3のちょうどその内部又はその周囲のいくつかの残基を選択した。図3に示されるモデルに基づいて、アミノ酸位置568(NGLY1)、591(NGLY2)、608(NGLY3)、609(NGLY4)、636(NGLY5)、及び637(NGLY6)にN-グリカンを挿入した。これらの部位でのN-グリカンの導入に必要とされるアミノ酸置換を、表1に記載する。
(表1:実施例1で作製された全長ADAMTS13 NGLYバリアントのリスト)
【表1】
【0105】
(実施例2:N-グリカンバリアントの発現及び機能評価)
表1に記載したN-グリカンバリアントを、QMCF技術を採用してCHO細胞内で発現させた(欧州特許第EP1851319B1号に記載;www.icosagen.com)。全長野生型ADAMTS13(アミノ酸1427個)、及び置換R568A/F592A/R660A/Y661A/Y665Aを含む全長ADAMTS13バリアント(ADAMTS13-AAAAAと名付ける)を、対照として使用した。スペーサードメインを超える部分が切断された野生型ADAMTS13バリアント(アミノ酸配列1~685)を、追加の対照として使用した;このADAMTS13バリアントを、MDTCSと名付けた。置換R568A/F592A/R660/Y661A/Y665Aが存在するもう一つのMDCTSバリアントも、本発明者らの研究に対照として使用し;このバリアントを、MDTCS-AAAAAと名付けた。これらの構築体は、以前に記述されており、全てが、プラスミド発現ベクターpQMCF3内にクローニングされた(Icosagen Cell Factory OU)(Gracaらの文献、2019)。全てのcDNAは、6×Hisタグがそれに続くカルボキシ末端V5エピトープを含んでいた(Gracaらの文献、2019)。
【0106】
NGLYバリアントは、以下のように構築された:NGLY置換が導入された残基M509~W688(540bp)をコードする合成DNA断片を、Genewiz(Leipzig、ドイツ)によって設計し発注した。合成断片は、該断片の5’末端でXmaI部位及び3’末端でHindIIIと隣接していた。XmaI部位は、野生型ADAMTS13 cDNA配列に元々あるものである。HindIII部位は、
【化4】
への全体的な変化をもたらすQ684(CAGからCAA)及びA685(GCCからGCT)をコードするヌクレオチド配列でのサイレント変異によって導入された。プラスミドpUC57_mut1.1を、特別に設計し、Genewizを通じて得た(Leipzig、ドイツ)。このプラスミド内では、F494~C908をコードし、5’のネイティブ部位PagIと3’のネイティブ部位Esp3Iに隣接するより大きなADAMTS13断片(1245bp)がクローニングされた。pUC57_mut1.1において、L621をコードするヌクレオチド配列のサイレント変異(CTGからCTC)によって、
【化5】
への全体的な変化をもたらして、追加の人工XhoI部位を導入した(Gracaらの文献、2019)。はじめに、NGLY1~NGLY6をコードする合成DNA断片(540bp)を用いて、pUC57_mut1.1内の対応するXmaI-HindIII断片を置き換えた。ここで、これらは別々に埋め込まれて、pUC57_NGLY1~6が作製された。その後、各pUC57_NGLYにおけるネイティブPagI-Esp3Iに隣接するより大きな1245bp断片を用いて、pQMCF3内のADAMTS13の各野生型断片を置き換えた。それに続き、得られたpQMCF3_ADAMTS13-NGLY1~6バリアントを、以前記載したようにCHO細胞で発現させた(Gracaらの文献、2019)。上清を、トランスフェクションの10~12日後に集め、遠心分離によって清澄化し、さらなる使用まで-30℃で保管した。
【0107】
培養上清中に存在するADAMTS13レベルを、以前に確立したアッセイ(Alwanらの文献、2017;Gracaらの文献、2019)を用いるELISAによって定量した。種々のタンパク質に対して測定したADAMTS13抗原レベルは、おおよそ1.0~2.5μg/mlの範囲であり(表2を参照されたい)、培養上清中の野生型ADAMTS13のレベルと類似していた。これまでの知見と一致して、MDCTS及びMDCTS-AAAAAが、より高いレベルで発現された(表2)。これらのデータは、ADAMTS13-NGLY1~6が、トランスフェクションを行ったCHO細胞から、野生型ADAMTS13のレベルに類似のレベルで分泌されることを示す。
(表2-ADAMTS13 NGLYバリアント及び対照の抗原レベル)
【表2】
【0108】
また、本発明者らは、種々のADAMTS13-NGLYバリアントが、Tyr1605~Met1606の切断しやすい結合を内部に有するVWFのA2ドメインを代表する最小ペプチドであるFRETS-VWF73と名付けられた低分子蛍光発生基質をプロセシングできるか、及びADAMTS13活性評価に使用できるかを試験した(Kokameらの文献、2005)。1.05nM(0.2μg/ml)の濃度でADAMTS13 NGLYバリアントを含有する希釈された培養上清を、これらのアッセイに使用した。先ず、ADAMTS13を、0.005% Tween20を追加した20mM HEPES、20mMビス-トリス、20mMトリス-HCl、25mM CaCl2 (pH 6.0)で構成される活性バッファー中に、100μlの体積で2.10nMに希釈した。その後、FRETS-VWF73基質を添加して(100μl、4μM)、ADAMTS13をさらに1.05nMまで希釈し、反応を開始させた。並行して、0.13125~2.10nMの濃度範囲で希釈された野生型ADAMTS13を用いて類似のやり方で検量線を作製した。活性-レベルを内挿し、100%に設定された終濃度が1.05nMの野生型ADAMTS13のそれと比較した。この分析の結果を、図4に示す。NGLY6は、野生型ADAMTS13と比較して低下した活性を示した。NGLY5の活性は、野生型ADAMTS13と比較して僅かに低下した。NGLY1、2、3、及び4の能力は、野生型ADAMTS13と比較して類似又はより高いものであった(図4)。
【0109】
それに続き、本発明者らは、基本的には以前記載したようなより生理学的なVWF多量体アッセイにおいてADAMTS13-NGLY1~6バリアントの活性を試験した(Gracaらの文献、2019)。ADAMTS13バリアントを、20mMビス-トリス、20mMトリス-HCl、20mM HEPES、25mM CaCl2 (pH 7.5)、0.005% Tween20で構成されかつ2%ウシ血清アルブミン画分V(Merck)が追加された活性化バッファー中で0.2μgの濃度で30分間37℃でインキュベートした(ADAMTS13=3.8nM)。並行して、HEK293細胞で産生されたヒト組換え型VWFを、80nMの終濃度で30分間37℃で3M尿素とインキュベートした。次いで、変性組換えVWF多量体を、1対1の比率で混合物を含有するADAMTS13に添加した(最終ADAMTS13=1.9nM;最終VWF=40nM)。これらの条件でVWFを切断する能力は、ゲルのトップからの高分子量(HMW)多量体の消失、ゲルの低い部分での高い強度のバンド及びサテライトバンドの出現から分かる切断産物の蓄積によって可視化される。試料を集め、0分及び30分及び24時間に4×ローディングバッファー(組成:尿素9.6M、4% SDS m/v、トリス塩基0.035M、EDTA 25mM、ブロモフェノールブルー7.5μM、pH調整なし)クエンチして、種々のADAMTS13-NGLY1~6バリアントがVWFをプロセシングする能力を評価した。結果を、図5に示す。これらの実験条件下で、NGLY2及びNGLY5の場合に低下したVWFプロセシング活性が観察された。NGLY3及びNGLY4のVWFプロセシング活性は、野生型ADAMTS13のそれと同様であった(図5)。
【0110】
まとめると、これらの結果は、NGLY2、3、4、及び5が、多量体及びFRETSVWF73アッセイの双方で活性を示すことを示している。
【0111】
(実施例3.TTP患者由来の病原性自己抗体のADAMTS13 NGLYバリアントへの結合)
(収集されたiTTPの患者由来の試料中に存在する自己抗体の結合)
以前に開発したELISAを用いて、iTTP患者の一連の13点の試料(Paul Coppo教授及びAgnes Veyradier教授(Centre de Reference des Microangiopathies Thrombotiques - CNR-MAT, AP-HP, Paris France)によって快くご提供いただいたもの)の結合を評価した。患者由来の自己抗体の評価のためのプロトコールが、以前に公表されている(Gracaらの文献、2019)。プレートを、1μg/mlの濃度の100μlモノクローナル抗体3H9(Vanhoorelbeke教授、KU Leuven、Belgiumによって快くご提供いただいたもの)で1晩コーティングした。次いで、プレートを、2% BSAを追加したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングした。次いで、プレートを、1.05nmol/ウェルのADAMTS13と共にインキュベートした(全長ADAMTS13に対しては200ng/ウェル及びMDTCSバリアントに対しては78.75ng/ウェル)。それに続き、100μlの各患者試料の種々の希釈物を、各ADAMTS13バリアントとの反応性について試験した。次に、基本的には以前記載したように(Gracaらの文献、2019)、それぞれホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲートされかつ1:10000で希釈されたヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4に対するモノクローナル抗体のプール(Sanquin、オランダ)100μlをインキュベートして、固定化されたADAMTS13バリアントに対する患者IgGの結合を評価した。種々の患者試料に対して用いられた希釈物は、患者試料中に存在する抗ADAMTS13抗体の量及び親和性に応じて30×から400×の範囲であった。患者試料の希釈物を、(540nmを参照として用いて)450nmで1.6の最適標的光学密度に合うように調節した。データ内挿について以前に概要を示したように(Gracaらの文献、2019)、可能性のあるアッセイ間のばらつきについて補正を行うために、ヒトモノクローナル抗ADAMTS13抗体II-1の希釈曲線を全ての実験に含めた。ADAMTS13 NGLYバリアントとの各患者試料中の自己抗体の反応性を、観察された野生型ADAMTS13との反応性のそれと比較した。患者自己抗体の結合を、野生型ADAMTS13に対する患者自己抗体の結合の百分率として表した。この分析の結果を、図6に示す。患者試料中に存在する自己抗体の反応性を、100%に設定された野生型ADAMTS13との反応性を基準としてヒートマップとして表した。また、本発明者らは、種々の患者試料の切断型MDTCSバリアントとの反応性を決定した。13点の試料のうちの3点(TTP-049、TTP-080、及びTTP-085)について、野生型ADAMTS13と比較して低下したシグナルが観察された。これらのデータは、近位TSP2-8及びCUB1/2ドメインに対する抗体も、これらの試料中に存在することを示している。強く低下したADAMTS13-AAAAAとの反応性が、緑色のカラーコードによって示されるように観察された。13点の患者試料のうち10点の中に存在する自己抗体は、ADAMTS13-AAAAAに結合しなかった。ADAMTS13-AAAAAに対する結合が残っていることが、TTP-049、TTP-080、及びTTP-085について依然として観察された。MDTCS-AAAAAに対する患者試料中の自己抗体の反応性は、13名の患者のうちの9名で強く低下する。4点の患者試料(TTP-017、TTP-042、TTP-079、及びTTP-080)において、MDTCSに対する結合が残っていることが、依然として観察された(図6;レーンMDTCS AAAAA)。まとめると、これらの知見は、この研究に含まれる患者試料の大部分において、自己抗体が、スペーサードメイン内のR568、F592、R660、Y661、及びY665で構成される免疫優性エピトープの残基を標的としていることを示している。それに続き、本発明者らは、本発明者らの患者抗体のパネルに存在する自己抗体の、ADAMTS13 NGLY1~6との反応性に取り組んだ(図6)。NGLY1、NGLY2及びNGLY5について、結合のわずかな低下が観察された。NGLY4及びNGLY6について、結合のより顕著な低下が観察された。興味深いことに、自己抗体の結合は、13名の患者のうちの11名でNGLY3について強く低下した。患者試料TTP-079及びTTP-085中に存在する自己抗体は、依然として、NLGY3と強力に反応し;これは、ADAMTS13のスペーサードメインの外側で結合する自己抗体の存在が原因である可能性が最も高い。患者由来の自己抗体の大部分がNGLY3との反応性を欠くことは、アミノ酸位置608でのN結合型グリカンの導入が、ADAMTS13のスペーサードメイン内の免疫優性B細胞エピトープへの自己抗体の結合を無効にすることを示している。
【0112】
(実施例4:ADAMTS13のN-グリカンバリアントは、iTTPの患者由来の病原性自己抗体の存在下で活性を維持する)
実施例2において、本発明者らは、NGLY2、NGLY3、NGLY4、及びNGLY5が、VWF多量体及び低分子ペプチド基質FRETS-VWF73のタンパク分解性のプロセシングを行う能力があることを示した。実施例3において、本発明者らは、NGLY3が、iTTPの患者の試料中に存在する病原性自己抗体によってあまり認識されないことを示した。このことは、本発明者らが、NGLY3が、iTTPの患者由来の血漿試料の存在下でFRETS-VWF73をプロセシングする能力を依然として有するかどうかを評価するきっかけとなった。これを試験するために、本発明者らは、図7に示されるデータに基づいて2点の患者試料:試料TTP-008(これは、限定されたとのNGLY3との反応性を見せた);及び試料TTP-085(これは、依然として、NGLY3との98%の反応性を見せた(ADAMTS13のカルボキシ末端TSP2-8及び/又はCUB1/2ドメインに対する自己抗体が原因であろう))を選択した。NGLY3が、これらの自己抗体の存在下で活性を維持しているかどうかを試験するために、本発明者らは、実施例2に記載されているようなFRETS-VWF73アッセイを用いて活性を評価し、FRETS-VWF73基質の添加の前に、ADAMTS13バリアント(2.10nM)をそれぞれ、10μlの患者試料又はPBSの存在下で30分間37℃でインキュベートした。最終体積は、210μlであり、そのうちの10μlは、添加された患者血漿又はPBS(対照の場合)のものであった。患者試料の非存在下でインキュベートされた野生型ADAMTS13 1.05nMの活性-レベルを、100%に設定した。これらの実験の結果を、図7に図示する。野生型ADAMTS13の試料TTP-008とのインキュベーションは、約50%の活性の低下をもたらした。野生型ADAMTS13の試料TTP-085とのインキュベーションは、約75%の活性の低下をもたらした。これらの結果は、試料TTP-008及びTTP-085中に存在する自己抗体が、ADAMTS13のプロセシング活性を阻害することができることを示している。次に、本発明者らは、これらの試料が、NGLY3バリアントの活性も阻害し得るかどうかを評価した。TTP-008及びTTP-085の双方とのインキュベーションは、双方について125%から約75%への活性の低下をもたらした(図7)。
【0113】
さらに、本発明者らは、種々のフロー又は剪断速度アッセイでVWFをプロセシングするNGLY3の能力を分析した。先ず、本発明者らは、内皮細胞の表面でのフローの下でVWFストリングをプロセシングするNGLY3の能力を評価した。内皮細胞を、1%ゼラチン中でコーティングされたIbidi μ-Slide VIチャネル内で増殖させてから播種した。HUVEC’s(Promocell、継代3)を、チャネル1つあたり50.000細胞で播種した。チャネル培地は、Supplement Mix(2% v/v)(Promocell)及びペニシリン/ストレプトマイシン(1%v/v)(Sigma)を含むEGM-18培地(Promocell)で1日あたり2回更新した。測定は、コンフルエント状態の4日目に行った。フロー実験は、約2.5ダイン/cm2の剪断応力に対応する2mL/分の流速を用いて行われた。測定の前に、0.2% BSAを追加したM199培地(Gibco)を用いて5分間細胞を餓状態にした。それに続き、細胞を、0.2% BSAを添加したM199培地中100μMのヒスタミンで10分間刺激した。次に、希釈度1:2000で、AlexaFluor-488で標識された抗VWFポリクローナル抗体(DAKO)を用いてVWFストリングを5分間染色した。ADAMTS13バリアントを、0.2% BSAを添加したM199培地中に0.1μg/mLの終濃度になるよう希釈した。ADAMTS13含有培地を、細胞の上に10分間流し、その間に、3つの別々の位置を、Zeiss Axio Observer Z1顕微鏡を用いて10秒間隔で撮像した。各位置の最初と最後の画像を、ImageJで解析した。各VWFストリングの長さを、手動で測定し、ADAMTS13インキュベーション前後での全長の差を用いて、該タンパク質の活性を決定した。対照のために、本発明者らは、ADAMTS13を全く産生しないExpiCHO細胞と接触させた培地を用いた(図8)。
【0114】
また、本発明者らは、いわゆるボルテックスアッセイ(Zhangらの文献、2007)を採用して、乱流下でVWF多量体をプロセシングするNGLY3の能力を決定した。5mM CaCl2;20mMビス-トリス;20mM HEPES;20mMトリス-HCl;Tween20 0.005%v/vで構成される反応バッファー;pH 7.5(反応の最終体積=200μL)中、3000rpmの乱流下での、1.0ug/ml recADAMTS13との40nM VWFの30分間にわたるインキュベーションは、該試料からの高分子量多量体の消失をもたらした(図9A:レーン3、13)。50mM EDTAの添加は、野生型ADAMTS13による高分子量多量体の切断の妨げとなった(図9A;レーン2、128)。それに続き、本発明者らは、このボルテックスベースのアッセイを用いて、乱流下でのVWF多量体をプロセシングするNGLY3の能力を試験した。野生型ADAMTS13と同様に、NGLY3は、乱流下でVWF多量体を効率的にプロセシングすることができた(図9A:レーン15)。野生型ADAMTS13と同様に、50mM EDTAを添加すると、NGLY3によるVWF多量体のプロセシングが損なわれた(図9A:レーン14)。まとめると、これらの結果は、種々の条件下でのVWF基質を切断するNGLY3の能力が、野生型ADAMTS13のそれと同等であることを示す。
【0115】
これらの結果は、NGLY3バリアントが、ADAMTS13に対する自己抗体の存在下で顕著なタンパク質分解活性を維持していることを示す。
【0116】
次に、本発明者らは、28点の患者の血漿からなる拡張されたパネルに対してNGLY3バリアントを試験した(図10)。総合的にいえば、NGLY3バリアントは、分析された28点の患者試料のうちの18点で高活性であった。低力価阻害物質を含有する限られた数の患者試料において、NGLY3は、野生型ADAMTS13と比較して僅かに高活性であるようであった。8点の患者試料において、NGLY3について認められた阻害のレベルは、野生型ADAMTS13について認められたものと同様であった。これらの患者試料のうちの2点で、小さいが明らかに顕著なNGLY3に有利である差が存在した。重要なことに、NGLY3バリアントは、野生型ADAMTS13と比較して、常により効果的であったか又は同等に効果的であった。
【0117】
本発明者らは、高力価阻害物質を含有する血漿試料のサブセット分析を行った。高力価阻害物質は、野生型ADAMTS13の少なくとも50%の阻害を生じさせた阻害物質のレベルとして定義された(図11)。選択された17名の患者のうちの13名において、NGLY3バリアントは、野生型ADAMTS13と比較して優れていた。4名の患者において、NGLY3バリアントは、野生型ADAMTS13と比較して、同様に効果的であった。注目すべきことに、17名の患者のうちの7名において、NGLY3バリアントは、野生型ADAMTS13と比較して5倍超効率的であるようである(図11;アステリスクで示される試料)。
【0118】
これらの観察事項は、「グリカンで遮蔽された」ADAMTS13バリアントの治療のための投与が、精製された形態の又は血漿交換によって投与されるものとしてのいずれかの、組換型形態又は血漿由来のADAMTS13としてのいずれかで、野生型ADAMTS13の投与と比較してより効率的なiTTPの患者の治療ための治療選択肢を構成し得ることを示唆している。
【0119】
(実施例5:N-グリカンバリアントの拡大されたパネルの自己抗体-抵抗性)
図6に示されるヒートマップから明らかであるように、実施例3では、NGLY3は、患者の自己抗体との反応性が低かった。更に、本発明者らが図7及び実施例4に示すように、NGLY3は、自己抗体の存在下でタンパク質分解活性を維持している。本実施例において、本発明者らは、N667に挿入された天然のN-グリカンが、Y665(NGLY7を生じさせる)又はL668(NGLY8を生じさせる)に移動された追加のNGLYバリアントを提示する。1つ以上のN-グリカンバリアントの組合せが、より効率的である可能性がある。従って、本発明者らは、NGLY3及びNGLY7の組合せ並びにNGLY3及びNGLY8の組合せを設計した(表3を参照されたい)。これらのバリアントは、実施例1に概略を示したものと類似のやり方で構築されている。
【0120】
少なくとも1つの新たに導入された又は移動されたN-グリカンを含むN-グリカンで遮蔽されたADAMTS13バリアントを、病原性自己抗体の結合を低下させる個々のアミノ酸置換と組み合わせることもできる。従って、本発明者らは、NGLY3と、アラニン変異(たいていは、エキソサイト-3の外側)、及びエキソサイト-3の近傍の範囲内の他のNGLY修飾との追加の組合せを作ることを目指している(表3)。本領域内での他の有望なN-グリコシル化シークオンの欠如のために、本発明者らは、ADAMTS13のスペーサードメイン内の天然の既存のN-グリカン、すなわち、N667に存在するグリカンをいずれかの方向(N-又はC末端)に1~2残基移動させる戦略を探索している。
(表3.追加の変異を有するADAMTS13 NGLY3バリアント)
【表3】
【0121】
これらのバリアントは、実施例1に概略が示されるように設計されている。新規NGLYバリアントが導入された残基M509~W688(540bp)をコードする合成DNA断片を、Genewiz(Leipzig、ドイツ)によって設計して発注した。合成断片は、該断片の5’末端でXmaI部位に及び3’末端でHindIII部位に隣接していた。初めに、合成DNA’を、PagI-Esp3Iに隣接するより大きな断片に埋め込まれた、プラスミドpUC57_mut1.1のXmaI-HindIII部位にクローニングした(実施例Iを参照されたい)。次いで、このより大きな断片を用いて、pcDNA3.1ADAMTS13中に存在する野生型ADAMTS13内の対応する断片を置き換えた。
【0122】
得られたNGLY-バリアントを、製造業者(Thermo Fisher Scientific)の説明書に従いExpi-CHO細胞で発現させた。上清を、トランスフェクションの4日後に回収し、遠心分離によって清澄化し、10mMベンズアミジンを追加し、さらなる使用まで-30℃で保管した。培養上清中に存在するADAMTS13レベルを、以前に確立されたアッセイ(Alwanらの文献、2017; GraCaらの文献、2019)を用いてELISAによって定量した。ADAMTS13抗原レベルは、1.43から5.27μg/mlまでの範囲であった(表4を参照されたい)。
【0123】
それに続き、本発明者らは、FRETS-VWF73蛍光発生基質を採用して新規のNGLYバリアントの活性を測定した(表4)。NGLY7は、野生型と比較して125%の活性であり、NGLY8は、野生型ADAMTS13と比較して75%の活性であり;NGLY3+NGLY7は、野生型と比較して125%の活性であり;NGLY3+NGLY8は、野生型ADAMTS13と比較して75%の活性であった。R568A/Y665Aは、野生型と比較して、120%の活性であり;L591A/R636A/L637A/L668Aは、野生型と比較して、90%の活性であった。NGLY3+R568A/Y665Aは、野生型と比較して、120%の活性であり、NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aは、野生型ADAMTS13と比較して95%の活性であり、NGLY3+R568A/Y665A+L591A/R636A/L637A/L668Aは、野生型ADAMTS13と比較して40%の活性であった。
【0124】
まとめると、これらの結果は、NGLY3及びNGLY7、NGLY3及びNGLY8、並びにNGLY7及びNGLY8の組合せが、FRETS-VWF73基質を変換する能力を維持していることを示す。NGLY3とR568A/Y665A及び/又はL591A/R636A/L637A/L668Aとの組合せも、FRETS-VWF73基質を変換するそれらの能力を維持している。
【0125】
また、本発明者らは、ボルテックスアッセイを採用する剪断応力下でVWF多量体をプロセシングする新規バリアントの能力を評価した。これらの条件下で、NGLY3は、完全に活性であり;また、NGLY7も、大きなVWF多量体をプロセシングする能力を明確に有していた(図9B)。NGLY8は、NGLY3及びNGLY7と比較して低下したVWF多量体をプロセシングする能力を示した(図9B)。また、NGLY3/NGLY8の組合せも、これらの実験条件下でのVWF多量体をプロセシングする能力の低下を明らかにしたが、NGLY3/NGLY7の組合せは、多量体VWFに対するタンパク質分解活性を維持していた(図9B)。NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668A及びNGLY3+R568A/Y665Aの組合せは、これらの条件を採用してVWF多量体を効率的にプロセシングした(図9A)。これらの観察事項と一致して、R568A/Y665A及びL591A/R636A/L637A/L668Aバリアントのタンパク質分解活性も、野生型ADAMTS13と比較して低下した(図9A)。
【0126】
また、本発明者らは、変性条件を採用して、VWF多量体をプロセシングする新規バリアントの能力を評価した。これらの条件下で、NGLY3は、完全に活性であったが、NGLY7及びNGLY8も、低下した活性を示した(表4)。NGLY3/NGLY7の組合せ及びNGLY3/NGLY8の組合せも、これらの実験条件下でVWF多量体をプロセシングする能力の低下を示した。NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aの組合せ及びNGLY3+R568A/Y665Aの組合せも、これらの特定の条件を採用してVWF多量体をプロセシングするのに比較的効率的ではなかった(表4)。
(表4-ADAMTS13 NGLYバリアント及び対照の抗原レベル及び活性)
【表4】
【0127】
次に、本発明者らは、新たに設計されたADAMTS13バリアントが、免疫TTPの患者から発生した又は免疫TTPの患者に由来する病原性自己抗体を中和することができるかどうかを評価した。
【0128】
先ず、本発明者らは、高力価阻害物質を含有する2点の患者試料に対するNGLY7、NGLY8、並びにNGLY3+NGLY7の組合せ及びNGLY3+NGLY8の組合せの抗体抵抗性を評価した(図12)。患者血漿中に存在する自己抗体により野生型ADAMTS13について観察された阻害と類似の様式で、NGLY7及びNGLY8は、患者自己抗体によって阻害された。NGLY3は、野生型ADAMTS13と比較して、僅かに阻害されたのみであった。NGLY3及びNGLY7の組合せは、NGLY3単独と比較して自己抗体抵抗性が高かった。NGLY3単独と比較して、NGLY3及びNGLY8の組合せは、同等に抵抗性であった。それに続き、本発明者らは、23点の患者試料に対してNGLY3及びNGLY7の組合せを試験した(図13)。NGLY3及びNGLY7の組合せが、多数の患者試料で自己抗体抵抗性であることが示された(図13)。
【0129】
それに続き、本発明者らは、NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aの組合せ及びNGLY3+R568A/Y665Aの組合せを、それらの、患者試料中での自己抗体抵抗性の効率について試験した。8点の試料のうちの8点で、NGLY3+R568A/Y665Aは、野生型ADAMTS13と比較して僅かに高い活性を有していた(図14)。NGLY3+R568A/Y665Aの活性レベルは、NGLY3単独と比較して僅かに高く、ADAMTS13に追加のAla-置換を含めることの追加の利益を示唆していた。NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aの組合せも、自己抗体抵抗性に関して評価された。試験された8点の患者の試料のうちの8点で、NGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aは、野生型ADAMTS13と比較して顕著に高い活性を有していた(図14)。患者血漿又は血清の存在下でのNGLY3+L591A/R636A/L637A/L668Aの活性レベルは、NGLY3のそれと同等であった。これらの知見は、アラニンによるこれらの特定のアミノ酸の置換が、自己抗体抵抗性に対してわずかな影響を与えることを示す。
【0130】
(実施例6.ADAMTS13のさらなるN-グリカンバリアント)
これまでの実施例は、免疫TTPの患者で生じる病原性自己抗体の主要な結合部位を含むスペーサードメインに焦点を当てている。自己抗体が、ADAMTS13上の他のドメインを標的とすることもあることはよく知られている(Klausらの文献、2004;Thomasらの文献、2015;Posらの文献、2011)。実施例1~4に記載した方法と同様に、メタロプロテアーゼ、ディスインテグリンドメイン、TSP-1リピート、Cysリッチドメイン、スペーサードメインにおけるR568、F592、R660、Y661、及びR665の外側のエピトープ、TSP2-8リピート、並びにCUB1/2ドメイン内に存在する抗体結合部位を標的とする自己抗体の結合を妨げる、N-グリカンで遮蔽されたADAMTS13バリアントを設計することができる。5.更に、NGLY3及び/又は他のN-グリカンで遮蔽されたADAMTS13バリアントは、少なくとも部分的なタンパク質分解活性を維持しつつ自己抗体結合の低下をもたらす、上述のドメイン内の個々の又は複数のアミノ酸置換と組み合わせることができる。
【0131】
ADAMTS13の3D構造を使用して、有望なN-グリコシル化部位を選択するためのADAMTS13の表面残基を選択した。ADAMTS13の結晶構造(PDB: 6qig)を、以下のドメイン:メタロプロテアーゼ、ディスインテグリン様ドメイン、トロンボスポンジン1型リピート1(TSP1-1)、システインリッチ及びスペーサードメインに用いた。残りの構造は、以前に記載されているように(Ercigらの文献、2018b)、TSP1-2からCUB2ドメインまでの相同性モデリングによって構築した。SwissPDB Viewerを用いてADAMTS13の3D構造を調査し、表面残基を手動で選択した。
【0132】
(表5:病原性自己抗体の結合を妨げるN-グリカンの挿入又は移動を可能にするADAMTS13上の露出された領域。太字の残基は、ADAMTS13の天然グリコシル化部位(の一部)である。太字かつ下線を付した残基は、O-グリカンを含むことが示されている。太字かつイタリックで示された残基は、Ser(S)残基のO-フコシル化又はTrp(W)残基のC-マンノシル化によって修飾されている。)
【表5】
【0133】
(実施例7. N-グリカン修飾ADAMTS13の質量分析ベースの同定)
本実施例では、本発明者らは、ADAMTS13内の新たに工学的に作り出されたコンセンサス部位のN-グリコシル化の成功の原理実証(proof of principle)を提供するために質量分析を採用した。本発明者らは、この分析のためにNGLY3バリアントを選択した。前述の実施例に概略が示されているように、NGLY3においては、K608が、N608によって置き換えられており、それにより、N-グリカンの付加のためのコンセンサス部位が導入されている(図15を参照されたい)。また、本発明者らは、K608がアラニンによって置き換えられている(K608A)バリアントを含めた。これは、N-グリコシル化のためのコンセンサス部位を導入するものではない(図15)。NGLY3、K608Aの双方、及び野生型ADAMTS13を、前述の実施例に記載したようにCHO細胞で発現させた。これら3つのADAMTS13バリアントのそれぞれを、磁気を帯びたDynabeadsに結合させたマウス抗V5抗体を用いる免疫沈降によって精製した。質量分析法による分析の前に、これらの変異体に対して、PNGaseF消化を行い(又は対照としてPNGaseF消化を行わずに)、それに続き、ビーズに対してトリプシン消化を行った。PNGaseF処理は、N-グリカンがアスパラギン残基に結合している場合には、該残基の脱アミド化をもたらす。質量分析前のADAMTS13のトリプシン消化には、本発明者らは、リシン及びアルギニンの後で切断が生じるトリプシンを採用した。
【0134】
先ず、本発明者らは、野生型ADAMTS13の質量分析法による分析後にどのペプチド配列が回収されるかを分析した。トリプシン消化精製野生型ADAMTS13の総合的なカバレッジは、66%であった。アミノ酸配列599~629に対応するペプチドのみを、図15に示す。野生型ADAMTS13のトリプシン消化後に、I599~K608に対応するペプチド(ペプチド1)が同定された。M609~R629を含むペプチド(ペプチド2)は、N614での不均質なグリカンの存在が、本ペプチドの質量ベースでの確認を妨げたために確認されなかった。それに続き、本発明者は、野生型ADAMTS13をPGNaseFで処理した。PNGaseF処理は、N-グリカンを取り除き、更に、1ダルトンの質量増加もたらすアスパラギンの脱アミド化をもたらす。PGNaseFで処理されたADAMTS13の分析は、ペプチドI599~K608及びペプチドM609~R629の同定を可能とする。N614の脱アミド化のために、ペプチドM609~R629の質量は、1ダルトン増加した。これらの観察事項は、ペプチドM609~R629が、位置N614に挿入されたN-グリカンを含んでいることを示している(図15にボックスで示されている)。これは、以前のN614のN-グリカンの同定と矛盾しない(図2を参照されたい)。
【0135】
次に、本発明者らは、類似のやり方でNGLY3を分析した。トリプシン消化後に、領域I599~R629に対応するペプチドは回収されなかった。この観察事項は、1つ以上のN-グリカンが、NGLY3のこの部分に存在しているであろうことを示す。PGNaseFで処理すると、1つのペプチドY603~R629が同定された(ペプチド3:図15);N608及びN614でのN-グリカンの存在と矛盾なく、N608及びN614が脱アミド化されていることが確認された。NGLY3におけるNによるK608の置き換えのために、このバリアントは、トリプシンではアミノ酸位置608でもはや切断することができない。(図15にボックスで示されている)。まとめると、これらの結果は、N608のよるK608の置き換えのために、N-グリカンが、アミノ酸位置608で成功裏に導入されていることを示している。
【0136】
追加の対照として、本発明者らは、この位置でK608がアラニンによって置き換えられているADAMTS13バリアントを分析した。この領域でのN結合型グリカンの存在と矛盾なく、この領域に対応するトリプシンで切断されたペプチドの同定は、PGNaseF処理の非存在下では認められなかった。PGNaseFでの消化後に、位置614に脱アミド化されたNを含む単一のY603~R629ペプチドが同定された(図15にボックスで示されている)。この分析は、A608が、A608に結合したN結合型グリカンを含んでいなかったことを示しており;N614に通常存在するN-グリカンのみが、本バリアントでは同定された。
【0137】
まとめると、本提案に概略を示す本アプローチは、NGLY3のアミノ酸位置608でのN-グリカンの付加のためのコンセンサス部位の導入が、本位置でのN-グリカンの結合をもたらすことを示している。同様に、実施例7に列挙したものを含む、NGLY1、2、4、5、6、7、8、及び他のグリカン修飾ADAMTS13バリアントにおける他のN結合型グリカンの存在を、本実施例に概略を示すプロトコールを用いて成功裏に決定することができる。
【0138】
(参考文献)
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2023-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023529510000001.app
【国際調査報告】