(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】水電解装置を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/19 20210101AFI20230704BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230704BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230704BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230704BHJP
【FI】
C25B9/19
C25B9/00 A
C25B15/08 302
C25B1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569262
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2020063724
(87)【国際公開番号】W WO2021228412
(87)【国際公開日】2021-11-18
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519379879
【氏名又は名称】ヘラー・エレクトロライザー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hoeller Electrolyzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】ヘラー,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC02
4K021CA10
4K021CA12
4K021CA15
4K021DB53
(57)【要約】
水から水素と酸素を発生させる水電解装置を動作させる方法は、水素と酸素を発生させるための水が、冷却するための水と一緒に供給されるPEM電解槽(1)を有する。冷却するための水が回路に通され、イオン交換器ユニット(17)によって処理される。その場合、回路に通される水の一部分のみがイオン交換器ユニット(17)に供給され、別の部分はバイパス(13)を介してイオン交換器ユニット(17)を迂回してPEM電解槽(1)に供給される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水から水素と酸素を発生させる水電解装置を動作させる方法であって、前記水素と前記酸素を発生させるための水が、冷却するための水と一緒にPEM電解槽(1)、特にPEM電解スタック(1)に供給され、前記冷却するための水が回路に通され、清浄化及び/又は分離装置(17)によって処理される方法において、前記回路に通される水の一部分のみが前記清浄化及び/又は分離装置(17)に供給され、別の部分はバイパス(13)を介して前記清浄化及び/又は分離装置(17)を迂回して前記PEM電解槽(1)に供給されることを特徴とする方法。
【請求項2】
清浄化及び/又は分離装置(17)として、少なくとも1つの、殊に2つの直列に接続されたイオン交換器(15、16)が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一方では前記清浄化及び/又は分離装置(17)を、他方では前記バイパス(13)を通って流れる前記冷却回路の部分流の比率は、前記冷却回路に通される水量の少なくとも4倍に相当する水量が、1時間ごとに前記清浄化及び/又は分離装置(17)に通され、かつ処理されるように調整されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水電解装置の起動時、前記回路に通される水は、前記水が少なくとも1つの予め定められた品質値に達して初めて、次に前記清浄化及び/又は分離装置(17)を迂回するべく前記回路の前記バイパス(13)が解放されるまでの間、完全に前記清浄化及び/又は分離装置(17)を通して導かれることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水から水素と酸素を発生させる水電解装置であって、冷却水回路に組み込まれ、反応水を供給するためにも用いられるPEM電解槽(1)、特にPEM電解スタック(1)と、前記電解槽(1)の上流に接続された清浄化及び/又は分離装置(17)と、を備える水電解装置において、バイパス(13)が設けられ、前記バイパスを介して、前記清浄化及び/又は分離装置(17)を迂回して前記電解槽(1)に水を供給可能であることを特徴とする、水電解装置。
【請求項6】
前記清浄化及び/又は分離装置(17)は、1つの、殊に2つの直列に接続されたイオン交換器(15、16)を有することを特徴とする、請求項5に記載の水電解装置。
【請求項7】
前記清浄化及び/又は分離装置(17)が少なくとも1つのフィルタを有することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の水電解装置。
【請求項8】
流入する水を冷却するために、冷却装置又は冷却装置の熱交換器(19)が前記清浄化及び/又は分離装置(17)の上流に接続されていることを特徴とする、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項9】
流出する水を加熱するために、加熱装置又は加熱装置の熱交換器(21)が前記清浄化及び/又は分離装置(17)の下流に接続されていることを特徴とする、請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項10】
前記回路に圧力上昇手段(11、18)が設けられ、前記圧力上昇手段は、一方の流路、両方の流路、及び/又は共通の流路に配置されていることを特徴とする、請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項11】
前記バイパス(13)に少なくとも1つの弁(20)が設けられ、前記弁により前記バイパスを完全に、又は部分的に遮断可能であることを特徴とする、請求項5から請求項10のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項12】
前記圧力上昇手段(11、18)、前記弁(20)、並びに/あるいは前記加熱及び/又は冷却装置を協調させて制御する制御部、殊に調節部が設けられていることを特徴とする、請求項5から請求項11のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項13】
前記清浄化及び/又は分離装置(17)は、それぞれ2つの直列に接続されたイオン交換器(15、16)を有する複数の並列に接続されたイオン交換器ユニット(17)を有することを特徴とする、請求項5から請求項12のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項14】
前記並列に接続されたイオン交換器ユニット(17)の数は、保守の目的で、最大負荷のときに機能喪失なしに1つのイオン交換器ユニット(17)をオフにできるように選択されることを特徴とする、請求項13に記載の水電解装置。
【請求項15】
前記熱交換器(12、19、21)は、前記冷却及び/又は加熱装置、殊に共通の温度調節回路に割り当てられていることを特徴とする、請求項5から請求項14のいずれか1項に記載の水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の特徴を有する水電解装置を動作させる方法、及び請求項5の前提部に記載の特徴を有する本発明による方法を実行するための水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような種類の水電解装置は、例えば国際公開第2018/196947号から知られている。そこでは、水素と酸素に電気分解される反応水が、冷却水と一緒にPEM電解槽(高分子電解質膜)に供給され、そこで水の一部分が酸素と水素に分解され、PEM電解槽を冷却するように企図された別の部分は冷却回路に通される。酸素と一緒にPEM 電解槽から出る水は、分離及び回収容器に送られ、そこで酸素が排出され、必要な場合には、脱塩水が代わりに供給される。
【0003】
この電解装置の動作時に、PEM電解槽内で金属イオンが遊離し、金属イオンは、水を新たに供給する場合に電解プロセスに悪影響を及ぼし、PEM電解槽を損傷させる。これを回避するために、この水がPEM電解槽に供給される前に水から金属イオンを除去するイオン交換器がPEM電解槽の上流に接続される。
【0004】
このようなイオン交換器は、水循環における高い液圧抵抗を意味し、したがって循環を維持するためには高いポンプ性能が前提となる。PEM電解槽を可能な限り最適に動作させるには、動作温度を少なくとも70℃、将来の設備では120℃にまでする必要がある。しかし、その場合、イオン交換器に供給される水の温度が60℃までしか許されないという問題がある。したがって、PEM電解槽の可能な限り最適な動作温度を保証するために先ず、イオン交換器に供給される水を60℃に冷却し、次にイオン交換器から出る水を70℃以上に加熱するという手間のかかる熱交換措置が必要である。国際公開第2018/196947号から、適切な加熱/冷却回路によって最小限のエネルギー消費量でこれを実現することは先行技術に属する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このことを背景として、本発明の課題は、水から水素と酸素を発生させる水電解装置を操作するための一般的な方法をさらに改善すること、及び改善されたそのような方法を実行するのに適した水電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の方法に関する部分は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決される。上記課題の装置に関する部分は、請求項5に記載の特徴を有する水電解装置によって解決される。方法及び装置の有利な実施形態は、従属請求項、以下の説明、及び図面に記載されている。
【0008】
水から水素と酸素を発生させる水電解装置を動作させる本発明による方法では、水素と酸素を発生させるための水が、冷却するための水と一緒にPEM電解槽、特にPEM電解スタックに供給され、冷却するための水が回路に通され、例えばイオン交換器などの清浄化及び/又は分離装置によって処理される。本発明によれば、回路に通される水の一部分のみが清浄化及び/又は分離装置に供給され、別の部分はバイパスを介して清浄化及び/又は分離装置を迂回してPEM電解槽に供給される。
【0009】
本発明による方法の基本的な考え方は、回路に通される水のうち、PEM電解槽に供給される水質がPEM電解槽の長期安定動作を保証するのに十分であることが確保される量のみを清浄化及び/又は分離装置に供給するということである。驚くべきことに、PEM電解槽の長期動作のために必要な水質を保証するために、冷却回路に通される水の部分流のみを清浄化及び/又は分離装置に供給すること、並びに別の部分流をバイパスを介して清浄化及び/又は分離装置を迂回してPEM電解槽に直接供給することで十分であり得ることがわかった。
【0010】
本発明による方法には、バイパスによって主な利点が達成されるという利点がある。例えば清浄化及び/又は分離装置としてイオン交換器が設けられている場合、バイパスに通される水は、イオン交換器を通過する際に必要であるような冷却若しくは加熱を必要とせず、通常、別の温度処理なしに直接PEM電解槽に供給することができる。場合によっては、冷却水回路において、回路に通されるすべての水をPEM電解槽の動作に有利な温度にまで下げる冷却を企図することができる。それ以外の温度低減は、清浄化及び/又は分離装置、特にイオン交換器に供給される水の部分流に対して行いさえすればよい。続いて出て行く水流をその範囲で加熱しさえすればよい。さらに、本発明による方法は、水循環の大部分をバイパスを通して導くことを可能にし、そのことはすでに循環のために必要とされるポンプ性能に関して有利である。バイパスは、十分な大きさにされた断面を有する1つの配管又は複数の配管によって形成することができ、それによって、水を循環させるために必要なポンプ性能を大幅に下げることができる。清浄化及び/又は分離装置を通過する部分流のみが、この装置を通り抜けるために場合によってはより高い圧力レベルにされる必要がある。さらには、イオン交換器材料であれ、フィルタ材料であれ、それに類するものであれ、交換される材料のインターバルを、すべての冷却水流が清浄化及び/又は分離装置を通して導かれる従来技術と比べてより長くすることができる。
【0011】
本発明の意味における清浄化及び/又は分離装置は、PEM電解槽に供給される水を処理するのに必要なあらゆる装置、あるいは水流で共に運ばれる粒子を原子部分/イオンなどに至るまで置換、交換、又は捕捉する適切な装置のみと解される。これは、例えばフィルタ、特に活性炭フィルタ又はメンブレンフィルタであり得るが、イオン交換器又は他の適切な処理装置でもあり得る。
【0012】
イオン交換器は、PEM電解槽で溶解され冷却水回路に共に通される金属イオンを確実に除去するので、PEM電解スタックの長期安定動作のために有利であることから、清浄化及び/又は分離装置としてイオン交換器が使用される場合に、本発明による方法を特に有利に用いることができる。この場合、2つのイオン交換器を直列に接続して1つのイオン交換器ユニットとするのが有利であり、イオン交換器材料の交換は、合目的的に、この材料が両方のイオン交換器で同時に取り替えられるのではなく、流れ方向で下流に位置するイオン交換器のイオン交換器材料が、その上流に接続されたイオン交換器に設置され、下流のイオン交換器において除去された材料が新しいイオン交換器材料と取り替えられるようにして行われる。このようにすることで、高い交換品質が達成される。
【0013】
部分流のみを清浄化及び/又は分離装置を通して導くという本発明による方法の基本的な考え方は、PEM電解槽に供給される水の品質要件によって制限される。特に、イオン交換器を清浄化及び/又は分離装置として使用する場合、冷却回路の部分流、すなわち清浄化及び/又は分離装置を通って流れる部分流と、バイパスを流れる部分流との比率は、1時間に清浄化及び/又は分離装置に通して導かれる水量が、冷却回路に通される水量の少なくとも4倍の大きさになるように調整される場合に有利であることが明らかになった。これは、冷却回路に通される水が1時間に少なくとも4回、清浄化及び/又は分離装置を通して導かれるという結果になる。この値は周辺条件に合わせて調整される必要があり、すなわち、使用される清浄化及び/又は分離装置、並びに使用されるPEM電解槽の材料、並びに動作条件に依存する。上記の大きさにすることは、PEM電解スタックの長期動作を確保するために、特にイオン交換器を清浄化及び/又は分離装置として使用する場合に有利である。
【0014】
本発明による方法の有利な発展形態によれば、最初から十分に高い水質が保証されることを確保するために、水電解装置が起動された場合に、回路に通された水は、最初はまだ全くバイパスに通されず、清浄化及び/又は分離装置のみを通して導かれる。これは、合目的的には、少なくとも予め定められた水質値に達するまで行われ、その後、続いて清浄化及び/又は分離装置を迂回するための回路のバイパスが段階的に、連続的に、又は完全に解放される。イオン交換器を清浄化及び/又は分離装置として使用する場合、この値は水で共に運ばれる金属イオンの数によって決まる。この数の決定には非常に手間がかかるため、実際には、水電解装置の起動時にバイパスを時間制御して遮断することが真価を発揮し、その場合、時間は、冷却回路に通された水がこの時間の後に、予め定められた品質値に確実に達するか、又はそれを上回るように選択される。
【0015】
本発明による水電解装置は、本発明による方法を実施するために企図されている。この装置は、PEM電解槽、特に、複数のPEM電解セルが1つの積層体に組み立てられたPEM電解スタックを有し、このPEM電解スタックは冷却水回路に組み入れられ、電気エネルギーを使用して水素と酸素に分解される反応水もこの冷却水回路を介して送られる。水電解装置は、電解槽の上流に接続された清浄化及び/又は分離装置を有する。本発明によれば、水を清浄化及び/又は分離装置を迂回して電解槽に供給することができるバイパスが設けられている。
【0016】
本発明の意味において、バイパスは、基本的に、清浄化及び/又は分離装置を迂回する、すなわちPEM電解槽への直接的な配管接続を形成するあらゆる任意の流体案内接続と解される。これは典型的には管路であり得るが、このような配管接続が集合体、ハウジング部分、又はそれに類するものによって形成されていてもよい。その場合に重要なのは、部分流が清浄化及び/又は分離装置の傍らを通過し、すなわち、この装置に対して平行に配置され、PEM電解槽への直接配管接続が保証されることである。
【0017】
冷却回路内に存在する金属イオンを除去するために、清浄化及び/又は分離装置がイオン交換器を有することが有利である。その場合、2つのイオン交換器を直列に接続して1つのイオン交換器ユニットを形成し、これを、上記のように、イオン交換材料が常に流れ方向で下流に接続されたものから上流に接続されたものに取り替えられ、流れ方向で下流に接続されたものが新しくされるように保守することが特に合目的的である。
【0018】
その場合、イオン交換器ユニットを形成する直列に接続された複数のそのようなイオン交換器対が並列に接続されることが有利であり、その数は、有利には、最大流量時、すなわち場合によってはバイパスの遮断時に、イオン交換器ユニットを保守の目的でオフにすることができる容量になるように選択される。その場合、規則的な時間間隔で必要とされる保守を、水電解装置の連続動作中にガス生産プロセスを中断することなしに行うことができるということが確保される。そのような構成は、フィルタ材料を交換するためであれ、逆洗するためであれ、フィルタを使用する場合に同様に使用することができる。この場合、最大流量の容量を必ずしもバイパスが遮断される始動プロセスに合わせて調整する必要はなく、ここでは電解装置の起動された状態を観察することで十分である。
【0019】
本発明の一発展形態によれば、清浄化及び/又は分離装置は、水流で共に運ばれる粒子を引き止めるため、又は部分を化学的に結合するために、例えば活性炭フィルタ及び/又はメンブレンフィルタなどの少なくとも1つのフィルタを有することができる。特に、イオン交換器若しくはイオン交換器ユニットを使用する場合、装置に入る前に清浄化及び/又は分離装置に供給される水を冷却すること、そしてこのために冷却装置又は冷却装置の熱交換器を上流に配置することが有利である。冷却装置として、例えばペルチェ素子を使用することができ、これは適切な位置に配置される。一般的な冷却集合体を使用する場合、又は分散冷却の場合、1つ又は複数の熱交換器を、清浄化及び/又は分離装置、特にイオン交換器ユニットの入口の前に配置することが企図されることになる。
【0020】
清浄化及び/又は分離装置から出る水をPEM電解槽の動作温度の範囲の温度に加熱するために、加熱装置又は加熱装置の熱交換器を下流に設けることができる。例えば電気ヒータを加熱装置として設けることができ、熱交換器は、熱生成を別の適切な場所で行うか、又はPEM電解槽から出る冷却水によって熱を伝達する加熱回路の一部であり得る。
【0021】
基本的に、冷却回路内で水を循環させるには、回路内の適切な箇所で圧力上昇をもたらす必要がある。これは、電気分解時に生じる反応ガスの圧力を利用して、又は適切な、典型的には電気モータによって駆動される渦巻ポンプによって行うことができる。従来技術では、この中央循環ポンプは常に、全冷却流が清浄化及び/又は分離装置も通って搬送され得るような大きさにされなければならないのに対して、本発明による装置では、清浄化及び/又は分離装置を通して導かれなければならない部分流のためにだけ別の圧力上昇装置、典型的には別の循環ポンプが設けられる場合、そのような冷却回路全体に作用を及ぼす圧力上昇装置をはるかに小さい大きさにすることができる。実際には、回路全体の循環のために、例えば0.5barの圧力上昇を生成するポンプが設けられれば十分であり得、これに対して、清浄化及び/又は分離装置を通して導かれる部分のために、特にイオン交換器を使用した場合、1.2bar~1.5barの圧力上昇を生成するが、連続動作では部分流が比較的少ないため、量に関してはるかに小さい大きさにすることができる別個の循環ポンプを使用することができる。言うまでもなく、例えば電解装置の始動時に、全冷却流が清浄化及び/又は分離装置を通して送られる場合、全流れを搬送できるようにするために、このポンプを場合によっては短時間、より高い出力で駆動する必要がある。しかし、始動時に冷却することが事実上必要ないため、この全水流を比較的少なくすることができる。
【0022】
これに代えて、両方の流路、すなわちバイパスと、清浄化及び/又は分離装置を通る配管系統に別個の循環ポンプを設けることができ、その場合、全冷却水流を搬送するポンプを省略することができる。
【0023】
少なくとも電解装置の起動された動作中にPEM電解槽から熱を排出する必要があるので、冷却及び/又は加熱装置の上流及び下流に接続された熱交換器を、殊に共通の温度調節回路に割り当てることが合目的的である。例えば、PEM電解槽から出る水が清浄化及び/又は冷却装置から出る水と熱交換することができ、後者は、可能な限り所望の動作温度まで加熱される。他方、そこで熱交換によって冷却された水を、入ってくる水の温度を下げるために、清浄化及び/又は分離装置の上流に接続された熱交換器に供給することができる。場合によっては必要な低温レベルを確保するために、温度調節回路に冷却集合体が組み込まれることが合目的的である。
【0024】
全冷却水流の温度調節、清浄化及び/又は冷却装置を通過した部分流の温度調節、並びに循環に必要なポンプを適切に制御するために、例えば水電解装置の起動を自動化して制御することができ、かつ適切な制御回路によって動作中に必要な限界値を遵守することができる中央制御部を設けることが有利である。このような制御部に、典型的には、冷却水回路及び部分流のための循環ポンプだけでなく、温度調節回路の循環ポンプ、及び温度調節回路に設けられた混合弁、並びにバイパスを閉鎖するか、又は部分的に閉鎖する遮断弁も組み入れられている。
【0025】
以下、本発明を図面に示された実施例をもとにして詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】簡略化して示される本発明による水電解装置の回路図である。
【
図2】清浄化及び/又は分離装置を組み込む代替実施形態の図である。
【
図3】清浄化及び/又は分離装置を組み込む別の実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1による水電解装置は、スタックとして、すなわち複数の互いに隣接する個々のセルの積層体として形成されたポリマー電解質膜形式の電解槽1を有し、この電解槽では、水は、入口2から、厳密には一方では反応物として、他方では冷却流体として供給される。この供給される水の一部分は、電流を用いて水素と酸素に電気分解される。水素は電解槽の出口3から排出され、酸素は出口4から余剰の水と一緒に配管5を介して容器6に送られる。
【0028】
容器6はガス分離器をなし、その上側で、そこに集められた酸素が配管7を介して排出される。電解槽1で電気分解により水素と酸素に変換された水を取り替えるために、入口8から脱塩水が供給される。容器6は、配管10を介して先ず、冷却水回路のための循環ポンプ11と、次いで冷却集合体の熱交換器12と接続されている出口9を有する。配管10は、その端で、図に13で示され、バイパスを形成する配管13と、これに平行に配管14とに分かれ、この配管には、前後に接続された2つのイオン交換器15、16の形態の水処理装置が組み入れられている。配管14には、循環ポンプ18、続いて冷却集合体の熱交換器19が、イオン交換器15及び16によって形成されたイオン交換器ユニット17の流れ方向で上流に配置されている。バイパスを形成する配管13には、電気モータによって制御される遮断弁20が配置される。バイパスを形成する配管13と、水処理装置17を含む配管14とは、出口側で一緒になり、電解槽1の入口2に通じている。
【0029】
起動された装置の動作中に、入口2から電解槽1に水が供給される。この水は、電気エネルギーを用いて水素と酸素に電気分解され、水素は出口3から排出され、酸素は、余剰の水と一緒に電解槽1の出口4から出る。水・酸素混合物は配管5を介して容器6に入り、そこで酸素は配管7を介して分離され、水は、場合によっては入口8から脱塩水をさらに供給して出口9に接続された配管10を介して排出される。
【0030】
この加熱された水は、熱交換器12によって、必要な限りで、例えば電解槽1の所望の動作温度に相当する、すなわち例えば70℃の温度にまで下げられる。次に、この水は配管13及び14に入り、配管13及び14の量比率は、弁20によって制御されるか、若しくは予め定められた目標値に調整される。代替的又は追加的に、熱交換器19及び下流に接続されたイオン交換器ユニット17によって高められた液圧抵抗に打ち勝つことができるようにするために、配管14内の圧力レベルを高くする回転数制御可能な循環ポンプ18を制御することによってこれを行うことができる。
【0031】
配管14に通される水は、熱交換器19により60℃の温度にまで冷却され、これは、イオン交換器ユニット17の動作のための最大許容温度である。次に、イオン交換器ユニット17から出る水は、配管13から来る水と一緒に再び電解槽の入口2に入る。配管13及び14の部分流の比率は、この水の清浄化及び/又は分離処理が十分になされ、それにより動作中に電解槽1が損傷されないようにするために、配管13を通る部分流が可能な限り大きく、配管14を通る部分流が必要なだけ大きくなるように選択される。電解槽1を冷却するために必要な、かつ循環させられる水量は、清浄化される水量よりもはるかに多いので、定常動作での配管13での処理量は、配管14における処理量の典型的には10倍~30倍になる。
【0032】
上記の水電解装置を保守作業後又は動作中断後に起動する必要がある場合、水中の金属イオンの割合は典型的には過度に高く、そのため、装置の始動時に先ず、弁20が完全に閉じるように制御され、それにより入口2から電解槽1に供給される全水流が配管14を通して、したがってイオン交換器ユニット17を通して送られ、それによりこの始動状況でも、金属イオンでの電解槽1の許容できない高負荷が生じないことが確保される。弁20は、時間制御されて、温度制御されて、又は配管10内の金属イオン濃度に応じて、最終的に、配管14を通る比較的小さい部分流と配管13を通るはるかに大きい部分流しか電解槽1に供給されない定常状態での上記の流れ比率になるまで開かれる。
【0033】
図2をもとにして、
図1による電解装置でのように、有利には先ず、配管14に通された水の冷却が行われ、イオン交換器ユニット17を通って流れた後に、次の加熱が行われることが示される。このために、イオン交換器ユニット17の下流に熱交換器21が接続され、この熱交換器は、共通の熱回路を介して、水を冷却するために熱交換器12と接続されている。熱交換器12及び21は、配管22を介して互いに接続され、この配管から冷却集合体24への配管23が分岐し、冷却集合体の出口配管25に混合弁26が提供され、この混合弁は、熱交換器21から来る配管と接続され、かつこの混合弁には、熱交換器12に至る配管27がさらに通じている。この配置により、イオン交換器ユニット17の上流での配管14に通される水の冷却と、次の熱交換器21による加熱とを、外部エネルギーをほとんど使わずに行うことができ、必要な場合には、冷却集合体24によって追加の冷却が提供される。
【0034】
図3による実施形態は、共通の温度調節回路における熱伝導に関してさらに進んでいる。そこでは、
図1で熱交換器12を介して接続された冷却ユニットが、
図2をもとにして説明したように、イオン交換器ユニット17のための上述の温度調節装置と接続される。そこでは、熱交換器12の出口と熱交換器19の出口とが配管22に通じ、熱交換器21の出口と冷却集合体24の出口は混合弁26に通じているが、混合弁はそこで熱交換器19に直接通じていず、別の混合弁28と配管29とを介して熱交換器19の入口及び混合弁26と接続されている。
【0035】
したがって、
図3をもとにして示される温度調節装置では、全水流の熱を利用することができ、このことは特に加熱に関して、イオン交換器ユニット17に加えて熱交換器21において有利である。
【0036】
さらに、
図3をもとにして、それぞれ第1のイオン交換器15と、流れ方向でこれの下流に接続された第2のイオン交換器16とからなる3つのイオン交換器ユニット17が並列に接続されていることが示される。この並列配置は、数個のこのようなイオン交換器ユニット17を並列に接続することによって、特別仕様を採用する必要なしに、いわば任意のサイズのイオン交換器を使用できることを単に例示的に示す。その場合、イオン交換器ユニット17は、それ自体公知のように、イオン交換器材料が疲労したとき、すなわちこの材料がその飽和に達した場合に、先ず、イオン交換器材料が下流に接続されたイオン交換器16から上流に接続されたイオン交換器15に移され、イオン交換器16に新しいイオン交換器材料が提供され、それにより、下流に接続された第2のイオン交換器16における処理が、上流に接続されたイオン交換器15における処理よりも集中的に行われることが確保されるように構成されている。
【0037】
その場合、並列に接続されるイオン交換器ユニットの大きさは、少なくとも1つのイオン交換器ユニット17が、電解装置の本来の動作のために必要であるよりも多くなるように定められる。上述のようにイオン交換器材料を保守目的で交換若しくは取り替える必要がある場合に、ここでは詳細に示されない弁によってこのイオン交換器ユニット17の動作を停止させることができる。
【0038】
図をもとにして示され、かつ上述された電解装置は、起動のみならず連続動作をも自動化して制御する中央制御部を有する。この場合、特に温度調節回路の混合弁を適切に制御する制御回路が組み込まれる。この制御は、遮断弁20と循環ポンプ11及び18の制御も含む。
【符号の説明】
【0039】
1 電解槽
2 1の入口
3 1のH2出口
4 1のO2、H2O出口
5 配管
6 容器
7 配管
8 入口
9 出口
10 配管
11 循環ポンプ
12 熱交換器
13 バイパス/配管
14 配管
15 イオン交換器
16 イオン交換器
17 イオン交換器ユニット
18 循環ポンプ
19 熱交換器
20 遮断弁
21 熱交換器
22 配管
23 配管
24 冷却集合体
25 出口配管
26 混合弁
27 配管
28 混合弁
29 配管
【国際調査報告】