(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】リチウム金属及びリチウム合金成型品の作製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20230704BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230704BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 41/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 25/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 13/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20230704BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20230704BHJP
C22B 30/02 20060101ALI20230704BHJP
H01M 4/40 20060101ALN20230704BHJP
H01M 4/38 20060101ALN20230704BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/44
C22B23/00 102
C22B15/00
C22B41/00
C22B25/00 101
C22B13/00 101
C22B21/00
C22B26/22
C22B30/02
H01M4/40
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571806
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021064921
(87)【国際公開番号】W WO2021245196
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】102020114839.9
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517346602
【氏名又は名称】アルベマール・ジャーマニー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビーテルマン,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ダビドウスキ,ディルク
【テーマコード(参考)】
4K001
5H050
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA12
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA21
4K001AA24
4K001AA34
4K001AA38
4K001DB17
5H050AA19
5H050BA16
5H050CB12
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
本発明は、リチウム金属及びリチウム合金成型品の製造のためのプロセスであって、n=0~10とするLi(NH3)4+nの組成を有する金属リチウムのアンモニア溶液を金属製または導電性堆積基板と接触させ、-100~100℃の温度で不活性ガスの掛け流しによって、または0.001~700mbarの圧力でアンモニアを除去し、その結果、残存するリチウムが堆積基板上に堆積する、及び/またはそれがリチウムでドープもしくは合金化される、当該プロセスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属及びリチウム合金成型品の製造のためのプロセスであって、
n=0~10とするLi(NH
3)
4+nの組成を有する金属リチウムのアンモニア溶液を金属製または導電性堆積基板と接触させ、-100~100℃の温度で不活性ガスの掛け流しによって、または0.001~700mbarの圧力で前記アンモニアを除去し、その結果、残存するリチウムが前記堆積基板上に堆積する、及び/またはそれがリチウムでドープもしくは合金化されること
を特徴とする、前記プロセス。
【請求項2】
そのような溶液の累積遷移金属含有量が、含有されるリチウムを基準としてたった200ppmまでである
を特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
含有されるリチウムを基準として、そのような溶液の累積遷移金属含有量が、含有されるリチウムを基準としてたった100ppmまでであること
を特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アンモニアが、-20~80℃の温度で除去されること
を特徴とする、請求項1~3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アンモニアの分離が、炭化水素、エーテルまたはアミンからなる群から選択される有機溶媒の添加を伴って行われ、リチウムブロンズLi(NH
3)
4の調製の場合に前記有機溶媒の体積が前記リチウムブロンズの体積の20~500%であること
を特徴とする、請求項1~4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記有機溶媒が飽和炭化水素であることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
粉末、顆粒、箔、薄板、または中空構造を有する三次元物体などの印象を有する金属製の、または単に導電性であるにすぎない物体が前記堆積基板として使用され、
リチウムの前記堆積が、
銅、鉄、ニッケルもしくは炭素系材料からなる群から選択される非リチウム合金化可能金属に対して物理化学的に行われる、及び/または
ケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛、ホウ素、アルミニウム、マグネシウムもしくはアンチモンからなる群から選択されるリチウム合金化可能堆積基板の場合に合金形成プロセスとして行われること
を特徴とする、請求項1~6に記載のプロセス。
【請求項8】
使用される前記炭素系材料が、カーボンナノチューブまたはグラフェンに基づくものであること
を特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リチウム合金化可能堆積基板が、0.1mm~5cmの平均粒径範囲にある合金元素の粉末または顆粒であること
を特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記リチウム金属のアンモニア溶液の前浄化が、-185℃~70℃の温度、好ましくは-40℃~40℃の温度範囲での固/液分離によって行われること
を特徴とする、請求項1~9に記載のプロセス。
【請求項11】
孔径が0.1~10μmの範囲にあるフィルタが使用されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リチウムブロンズLi(NH
3)
4が使用されることを特徴とする、請求項1~11に記載のプロセス。
【請求項13】
リチウム被覆または合金化成型品の表面不動態化が、
それらを、
N
2、CO
2、CO、O
2、N
2O、NO、NO
2、HF、F
2、PF
3、PF
5、POF
3からなる群から選択される気体もしくは液体被覆剤、または
炭酸エステル、有機溶媒による溶液としてのリチウムキレートボレート溶液、有機硫黄化合物、N含有有機化合物、リン酸、有機リン含有化合物、フッ素含有有機及び無機化合物、部分的にフッ素化された炭化水素、BF
3、LiPF
6、LiBF
4もしくはケイ素含有化合物の群から選択される液体被覆剤
と接触させること
によって行われることを特徴とする、請求項1~12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記有機溶媒が、酸素含有複素環、炭酸エステル、ニトリル、カルボン酸エステルまたはケトンからなる群から選択され、前記有機硫黄化合物が、サルファイト、スルホン、スルトンからなる群から選択されること
を特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
Cu、Fe、Niまたは炭素系材料からなる集電箔の上の金属リチウムの被膜が前記リチウム金属成型品として製造され、
付加された前記リチウムの層厚みが、2~40μm、好ましくは5~20μmの範囲にある、
請求項1~14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属及びリチウム合金成型品(物体)、特に、カルバニセルの負極としての使用のための金属リチウムで被覆またはドープされた基板を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属の、特に金属リチウムの液体アンモニア溶液は、古くから知られている(例えば、W.C.Johnson,M.M.Piskur,J.Phys.Chem.37(1933)93-99)。そのような飽和溶液を-60℃よりも低く冷却すると、相分離が起こり、青銅色の金属光沢を有する組成Li(NH3)4を有する液体層、いわゆるLiブロンズが淡青色の溶液の上に形成される(H.Jaffe,Z.Phys.93,1935,741-761)。リチウム/アンモニア系については、R.Hoffmann et al,Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,8198-8232の中で詳しく記載されている。
【0003】
アルカリ金属の、例えばリチウムのアンモニア溶液は、準安定であり、
2M+2NH
3→2MNH
2+H
2(M=Li、Na、K、Rb、Cs) (1)
に従って金属アミドの形成を伴って熱分解する(R.Hoffmann et al.,Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,p.8202)。分解は、水及び酸素の非存在下では極めて緩やかに進行する。しかしながら、複数の遷移金属(例えばFe
2+)が、水素発生下で起こる分解反応を触媒する(Hollemann,Wiberg,“Lehrbuch der Anorganischen Chemie”,102nd ed.,De Gruyter Verlag Berlin 2007,p.1296)。組成Li
2(NH
3)
8を有する化合物(二量体型リチウムブロンズ)の蒸気圧等温線の研究からは、等式(1)による金属アミドへの分解に加えて、
【化1】
による温度依存的解離平衡も存在する可能性があることが推測される(F.Benoit,Bl.Soc.Chim.33(1923)908-917)。
【0004】
US4,206,191Aにはリチウムアミドの調製方法が記載されており、この方法では、リチウム金属と液体芳香族溶媒(トルエン)と無水液体アンモニアと、リチウムアンモニア化合物の形成速度を増大させるための金属触媒(微粉化金属コバルト)との混合物を低温(0℃~-60℃以下)で撹拌しながら反応させてリチウムアンモニア溶液を形成し、次いでこれを室温最大60℃までの昇温によってアンモニア中のリチウムアミドの微粉化分散体に変換する。
【0005】
US2008/0237538A1には、-33℃(常圧でのNH3の沸点)よりも低い温度で有機溶媒、例えばTHFの存在下でリチウムブロンズを調製し、次の工程でそれを、水素受容体(1,3-ジエン、またはアリールオレフィン、例えばスチレン)の存在下で水素発生を伴う熱分解によってリチウムアミドに変換する方法が教示されている。
【0006】
さらには、リチウムブロンズは、無水エーテル中でリチウム片を反応させることによって室温で調製され得、分液漏斗を使用して相分離によって純粋な形態で得られ得ることが知られている(V.I.Mel’nikova,K.K.Pivnitskii,J.Org.Chem.USSR(Engl.Transl.),6,2635,1970)。
【0007】
EP 1 238 944A1では、リチウム顆粒とアンモニアガスとをヘキサン中に含む懸濁液からの室温(RT)でのリチウムブロンズの調製について記載されている。
【0008】
最後に、溶媒の非存在下で、室温でリチウム線及びアンモニアガスからブロンズが形成されることが報告されている(R.H.Muller,J.G.Gillick,J.Org.Chem.43(1978)4647-8)。
【0009】
現在市場で入手できるリチウム電池は、インターカレーションの原理によって機能する。372mAh/gの最大容量を有する黒鉛材料(式LiC6に相当する)が負極として使用される。より高い容量、したがってエネルギー密度は、黒鉛を部分的または完全に合金材料(例えばケイ素または錫、「合金負極材料」)で置き換えることによって、または黒鉛材料を金属リチウムで完全に置き換えることによって得られ得る。
【0010】
リチウム金属は、3862mAh/gという極めて高い電気化学容量を有する。一般的な正極材料ははるかに低い容量(たったの150~300mAh/g)を有するため、これは、均等化電池セル(すなわち、正極と負極の容量比N/Pが1に近いもの)の場合にLi金属系負極側において10mAh/g未満という非常に低い面積負荷を招く。これは、5~20μmの厚さのLi膜に相当する。しかしながら、押出とこの後におそらく続く圧延プロセスによって製造される今日の市販の膜は、50μm、最も薄くて30μmまでの層厚みのものしか入手できない。50μmのリチウム箔を使用する場合、50以上のN/P比が存在する。この不必要に高いリチウム投入量はエネルギー密度を低下させる(大部分のリチウムが、電気化学的に未使用となり、したがって不活性な「死」容量を形成する)。さらには、金属リチウムの不必要に高い投入量は回避可能コスト因子を意味し、それは、そのような電池セルの安全性の特徴をその高い反応性ゆえに悪化させる(J.Liu et al.,Nature Energy 4,180,2019、P.Shi et al.,Adv.Mater.Technol.2020,5,1900806)。
【0011】
したがって、将来のリチウム金属蓄電池に要求される薄いリチウム電極の製造のためには、不都合でコストの掛かるプロセス、大抵はPVD(プラズマ蒸着)技術、またはより高い温度で運転されるプロセス(例えば、180℃超の集電体上でのリチウム溶融堆積法)に頼る必要がある。
【0012】
目的
本発明は、リチウム金属含有成型品(物体/刻印)、例えばリチウムまたはリチウム合金箔を製造するための、穏やかな条件下で実現でき、スケール変更を可能とする低コストプロセスを提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0013】
本発明に係るプロセスは、n=0~10とするLi(NH3)4+nの組成を有する金属リチウムのアンモニア溶液が金属製または導電性堆積基板と接触し、-100~100℃の温度で不活性ガスの掛け流しによって、または0.001~700mbarの圧力でアンモニアが除去され、その結果、残存するリチウムが堆積基板上に堆積する、及び/またはそれがリチウムでドープもしくは合金化されるように、行われる。
【0014】
本発明に係るリチウム金属及びリチウム合金成型品(物体/刻印)は、遷移金属含有触媒または水素受容体の非存在下で、堆積基板と接触した状態の純粋な金属リチウムのアンモニア溶液、好ましくは純粋な液体リチウムブロンズ(Li(NH3)4)を最高100℃、好ましくは最高60℃、特に好ましくは最高40℃の温度で熱分解させることによっ
て作製される。このプロセスにおいてアンモニアは、形成反応の逆で気相を介して完全に除去され、その結果、元素Li金属が残り、これが使用機器及びその中に配置された堆積基板の表面に堆積する。堆積基板は、詳しくは、金属製の、または単に導電性であるにすぎない物体であり、その形態は、粉末、顆粒、箔、薄板、または中空構造を有する三次元物体、例えばスポンジなどである。リチウムの堆積は、(例えば、リチウムとは合金化され得ない金属、例えば、銅、鉄またはニッケルに対する)純粋に物理的なものであり得るが、それは、材料の「内容積」にも到達する物理化学的なものであってもよいし(例えば、スポンジ状物質または特定の炭素材料、例えば、黒鉛、グラフェンなどの場合)、または合金形成反応を伴ってもよい(例えば、ケイ素、ゲルマニウム、錫、ホウ素、アルミニウム、マグネシウム、アンチモンなどからなるリチウム合金化可能な堆積基板の場合)。
【0015】
驚くべきことに、通常の原理に反して、以下により詳しく記載されるプロセス条件が認められる場合にリチウムアミドへの分解がほとんど存在せず、代わりに純粋な金属リチウムが生成することが分かった。
【0016】
Li:NH3のモル比が1:4であるリチウムブロンズは、最も低いアンモニア含有量を有し、それゆえ製造に必要なアンモニアが最も少ないため、この化合物は、本発明に係るプロセスのための理想的な出発物質である:
Li(NH3)4→Li0+4NH3↑ (3)
他方、組成Li(NH3)4+nを有する青色のリチウムのアンモニア溶液が使用される場合には、最初に超過額量論的アンモニア(nモル当量)を、最も濃い液体形態-Liブロンズ-が得られるまで除去する。アンモニア含有量が増加するにつれてプロセス効率は悪化し、望ましくないリチウムアミド形成分解反応が増加する。これらの理由から、希薄なリチウムの液体アンモニア溶液は原理的には使用できるが、経済的なプロセスのためにはリチウムブロンズの使用が好ましい。
【0017】
プロセスは、好ましくは減圧下、すなわち0.001~700mbarの圧力範囲で行われる。あるいは、アンモニアは、その上に不活性ガス流を通すことによっても除去され得る。このプロセスは、揮発除去用ガスによってアンモニア濃度が低下してアンモニアの回収がより困難になるため、真空プロセスと比較して費用対効果がより低くなるのが一般的である。
【0018】
使用されるリチウム源は、市販の工業用リチウム金属、または好ましくは純粋な電池もしくは合金グレードである。そのような金属グレードは、例えば、Sigma-Aldrich-Fluka(SAF)から入手できる。例えば、金属不純物が最大15,000ppmでありナトリウムがはるかに高い割合を占めている99%「高ナトリウム」工業グレードが存在する。他方、遷移金属(特に、Fe、Ag、Cu、Zn)は低いppm範囲(1~20ppm)でしか存在しない。遷移金属不純物の合計は通常100ppm以下の範囲である。さらには、SAFは、電池用品質の、つまり、(金属微量元素を基準として)Li含有量が99.9%であるリチウムを提供している。そのような特に純粋な電池用品質は、最大1500ppmの他の金属不純物を含有し、この場合もナトリウムが大部分を占める。
【0019】
本発明に係るプロセスのためには、最大200ppm、好ましくは最大100ppm、特に好ましくは最大50ppmの累積遷移金属不純物含有量を有する金属リチウムを使用する。他方、主族金属、特に、アルカリ及びアルカリ土類金属の、ならびにホウ素族及び炭素族(第13族及び第14族)の金属による不純物は原理的にはプロセスに干渉しない。したがって、それらはより多い量で、つまり百分率の範囲まで存在していてもよい。
【0020】
本発明に係るプロセスの注目すべき利点は、純度が低く、これに対応して遷移金属元素
を高い含有量で含むリチウム金属グレードでさえ、単純な前処理の後に使用され得ることである。この場合、熱的に誘発される解離過程に先立って単純な濾過、遠心分離及び/またはデカンテーション工程が行われる。遷移金属、特に鉄は概して液体アンモニアに不溶であり、アンモニア錯体化合物を形成しないため、それらは固体形態のままとなり、それゆえ、固/液分離工程によってアンモニア性リチウム溶液またはリチウムブロンズからそれぞれ分離され得る。この前精製工程は、使用されるリチウム-アンモニア溶液の液体範囲全体にわたる温度に関して行われ得る。リチウムブロンズの場合、これは、-185℃~およそ70℃である。-40℃~40℃の温度範囲が好ましい。フィルタを使用する場合、好ましい孔径は、最大10μm、好ましくは最大2μm、特に好ましくは最大0.5μmである。記載のとおりに精製されたリチウムアンモニア組成物の中の遷移金属元素の合計(累積)含有量は、含有されるリチウムを基準として最大200ppm、好ましくは最大100ppm、特に好ましくは最大50ppmである。
【0021】
リチウムアンモニア溶液及び化合物、特に、定義されたリチウムブロンズの熱分解または熱解離は、付加的な有機溶媒(例えば、炭化水素、エーテルまたはアミン)の存在下で、あるいはそのような添加剤なしで起こり得る。リチウム金属に対して不活性である、または少なくとも速度論的に安定である溶媒の存在下において、アンモニア錯体形成反応の放出プロセス熱は、そのような添加剤がない場合よりも簡単に放散され得るため、そのような液体溶媒の存在は本発明の好ましい実施形態を表す。特に、飽和炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、またはそのような化合物の一般的な市販の混合物(工業用「石油エーテル」、「ホワイトオイル」、「ベンジン」)が溶媒として適する。芳香族炭化水素は、限られた範囲で使用され得、なぜならそれは、リチウムアミド形成を伴う望ましくない分解を促進する可能性があるからであり、芳香族化合物はあまり好ましくない。エーテル化合物、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、グライムなどの使用も可能であるが、炭化水素の使用よりも好ましくない。この理由は、CO結合の切断を伴う不都合な条件の下でリチウム金属がエーテル化合物と反応する可能性があるからである。これは、速度論的にのみ抑制される過程であるが、発熱性が高い。工業スケールでリチウム/THF系を使用した際の事故が報告されている。したがって、原理的に、環状エーテルは原則的には使用可能であるが、工業スケールではとりわけ不都合である。定義されたリチウムブロンズの製造に使用され得る有機溶媒の体積は、リチウムブロンズの体積の20~500%である。
【0022】
驚くべきことに、純粋なリチウム(すなわち、遷移金属の合計含有量が最大200ppm、好ましくは最大100ppm、特に好ましくは最大50ppmであるリチウム金属)、または固/液分離によって適切に精製されたリチウム/アンモニア溶液もしくはリチウムブロンズを、その後、100℃を上回る温和な温度かつ好ましくは減圧下での熱分解の間に使用することで、非常に純粋な、つまり低アミドまたはアミド不含リチウム形態が生成することが分かった。堆積したリチウムの総量に対するリチウムアミド含有量は、多くて1重量%、好ましくは多くて0.1重量%である。
【0023】
金属リチウム及びLi/NH3混合物の高い反応性ゆえに、すべてのプロセス工程は、不活性ガス雰囲気(好ましくは、アルゴン、ヘリウム)下で、あるいは真空条件下で行われる。
【0024】
本発明に係るプロセスは、銅、鉄、ニッケルまたは特定の炭素形態、例えばカーボンナノチューブ箔(CNT箔、CNT=カーボンナノチューブ)またはグラフェン系箔からなる電流導体箔上におけるリチウム薄層の直接製造に特に適している。市販形態の基板のいくつかはリチウムによる濡れ性に乏しく、それらを前処理する必要があり得る。この前処理は、例えば、グリース溶解性有機溶媒で洗浄することによっていかなる存在し得るグリ
ース膜も除去すること、洗浄用活水清掃及び/または機械的清掃プロセス、例えば研磨もしくは艶出しからなる。銅の場合、特別な親リチウム化プロセス、例えば酸化条件下での熱的前処理による規定の酸化物層の付加、例えばDE10 2017 208 218A1に記載のものによって、最適な結果がもたらされる。
【0025】
リチウムの液体アンモニア溶液、または特にリチウムブロンズが、リチウムと合金化できる金属製基板Mと接触すると、驚くべきことに、対応する合金LixMyが、温和な条件下で、アンモニアの放出を伴って形成される。そのような合金物体を形成するには、所望の金属Mを好ましくは粉末または顆粒形態でリチウムブロンズに添加する。添加された粒子は膨張して合金を形成する。アンモニアの蒸留分離後、リチウムを含有する合金材料が得られる。リチウムと合金化され得る主族元素、すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biまたはその任意の混合物は、この合金形成プロセスに特に適している。合金化可能な亜族金属、例えば、Zn、TiまたはZrも使用され得るが、望ましくないアミド形成を回避することが難しい場合がある。
【0026】
このようにして生成した合金粉末は、既知の純粋に機械的な押圧プロセス(カレンダー加工)によって、または分散結着剤プロセス(「スラリー塗工」)によって電流導体箔に塗着され得、かくして、負極帯状物に加工され得る。
【0027】
真空下で、または不活性ガス雰囲気下でリチウム-NH3溶液から堆積して間もない金属リチウムは、空気及び水分に対する反応性が高い。工業的用途、例えば電池セルの構築におけるその安全なさらなる処理を確実なものにするために、金属表面の不動態化、すなわち薄い保護層の付加は、意味深いさらなるプロセス工程である。そのようなプロセスは、リチウムとの接触時に安定なポリマー及び/または塩を形成する気体または液体物質と接触させることを伴う。そのようなプロセスは、例えばWO2011/073324A1に記載されている。
【0028】
アンモニア錯体解離中に放出されたアンモニアは、プラント内で液化されて再利用され得、または好ましくはそのまま気体形態で使用されて新たなリチウムブロンズを形成し得る。したがって、エネルギー的に不都合な液化を行わずにアンモニアを再利用することが可能である。
【0029】
リチウム金属及びリチウム合金成型品は、リチウム電池の負極の製造のために、金属材料(好ましくは、Li-MgまたはLi-Al合金)として、ゲッター目的のために、または化学合成において使用される。
【0030】
本発明の実施形態を以下に再度まとめる:
【0031】
・そのような溶液の累積遷移金属含有量が、含有されるリチウムを基準として最大200ppmまでしかない、プロセス。
【0032】
・そのような溶液の合計(累積)遷移金属含有量が、含有されるリチウムを基準として100ppm以下しかない、プロセス。
【0033】
・前記アンモニアが、-20~80℃の範囲の温度で除去される、プロセス。
【0034】
・前記アンモニアの分離が、炭化水素、エーテルまたはアミンからなる群から選択される有機溶媒の添加を伴って行われ、リチウムブロンズLi(NH3)4の製造の場合に前記有機溶媒の体積が前記リチウムブロンズの体積の20~500%である、プロセス。
【0035】
・前記有機溶媒が飽和炭化水素である、プロセス。
【0036】
・粉末、顆粒、箔、薄板、または空洞構造を有する三次元物体などの印象を有する金属製の、または単に導電性であるにすぎない物体が前記堆積基板として使用され、リチウムの前記堆積が、銅、鉄、ニッケルもしくは炭素系材料からなる群から選択される非リチウム合金化可能金属に対して物理化学的に行われる、及び/またはケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛、ホウ素、アルミニウム、マグネシウムもしくはアンチモンからなる群から選択されるリチウム合金化可能堆積基板の場合に合金形成プロセスとして行われる、プロセス。
【0037】
・使用される前記炭素系材料が、カーボンナノチューブまたはグラフェンに基づくものである、プロセス。
【0038】
・前記リチウム合金化可能堆積基板が、平均粒径範囲を0.1mm~5cmとする合金元素の粉末または顆粒を有する、プロセス。
【0039】
・前記リチウム金属のアンモニア溶液が、-185℃~70℃の温度、好ましくは-40℃~40℃の温度範囲での固/液分離によって前浄化される、プロセス。
【0040】
・孔径が0.1~10μmの範囲にあるフィルタが使用される、プロセス。
【0041】
・前記リチウムブロンズLi(NH3)4が使用される、プロセス。
【0042】
・形成されたリチウム被覆または合金化物体の表面不動態化が、N2、CO2、CO、O2、N2O、NO、NO2、HF、F2、PF3、PF5、POF3からなる群から選択される気体被覆剤、または炭酸エステル、有機溶媒による溶液としてのリチウムキレートボレート溶液、有機硫黄化合物、N含有有機化合物、リン酸、有機リン含有化合物、フッ素含有有機及び無機化合物、部分的にフッ素化された炭化水素、BF3、LiPF6、LiBF4もしくはケイ素含有化合物から選択される液体被覆剤と接触させることによって行われる、プロセス。
【0043】
・有機溶媒が、酸素含有複素環、炭酸エステル、ニトリル、カルボン酸エステルまたはケトンからなる群から選択され、前記有機硫黄化合物が、サルファイト、スルホン、スルトンからなる群から選択される、プロセス。
【0044】
・Cu、Fe、Niまたは炭素系材料からなる集電箔の上の金属リチウムの被膜が前記リチウム金属成型品として製造され、付加された前記リチウムの層厚みが、2~40μm、好ましくは5~20μmの範囲にある、プロセス。
【実施例】
【0045】
実施例1:純粋な(遷移金属に乏しい)リチウム金属からのリチウムブロンズの製造
メカニカルスターラー及び炭酸ガススノークーラーを備えた1/2L容の不活性にされた(つまり、乾燥され、Arで満たされた)二重ジャケットガラス製反応器の中に、1.5g(215mmol)のLi顆粒(粒径3mm、Na含有量=0.45%、Fe=26ppm、Zn=2ppm Cu=10ppm未満)を含む200mLの工業用ヘキサンを室温で入れた。その後、よく撹拌しながら22L(920mmol)のアンモニアガスを3時間以内に導入した。数分後、溶媒和熱の放出及びリチウム表面の銀白色から青銅色への変色によって識別できる反応が開始された。反応熱はジャケット冷却によって放散されたので、反応混合物の温度は18~30℃の範囲に保たれた。
【0046】
リチウムがすべて液化してリチウムブロンズに変換された後、アンモニア注入を終了した。2つの液相をデカンテーションによって分離し、上側の軽い相、すなわちリチウムブロンズを、不活性にされたセプタム閉鎖具付きガラス製ボトルに充填した。
収率:15.8g(青銅色液体の理論値の98%)
【0047】
実施例2:リチウムブロンズの精製
実施例1に記載されるものに類似する方法で、鉄含有量が210ppmであるリチウム金属顆粒を使用した。Li(NH3)4となる反応が完了した後、ブロンズをデカンテーションによって分離し、0.45μmの孔径を有する濾過膜で濾過した。
濾過生成物は以下の分析結果を有していた:
Li=13.2mmol/g
Fe=2ppm、0.04μmol/gに相当する
これは、リチウム原料によって導入された鉄含有量の90%を濾過工程によって除去できたことを示している。
【0048】
実施例3:真空下での純粋なLi-ブロンズの熱解離
ガラスジャケット付きスターラーコアを備えた50mL容の不活性にされたガラス製シュレンクフラスコに、実施例1からの3.63g(48.4mmol)の純粋なリチウムブロンズを加えた。よく撹拌しながら、ダイアフラムポンプを使用してフラスコを真空状態にした。液体は沸騰及び飛散し始めた。銀白色の金属膜がガラス壁上に形成された。1時間にわたって0.1mbarの真空状態とした後、最後に真空を解除し、アルゴンに置き換えた。非蒸発性残渣の質量を重量差測定によって決定した。
結果:0.31g(リチウムとして計算して44.7mol、理論値の92%に相当する)
【0049】
実施例4:鉄薄板上におけるリチウム金属膜の堆積
2×4×0.3cmの寸法を有するステンレス鋼製薄板を、微細な研磨紙で機械的に清掃し、最初にアセトン、次いでヘキサンですすぐことによって脱脂した。その後、平板を通常環境温度でリチウムブロンズに約10秒間浸漬した。かくして濡らされた薄板を、空気が排除されたデシケータの内に配置し、最初は500mbarで、次いで最高のオイルポンプ真空でアンモニアを除去した。このようにして、薄い銀白色のリチウム膜で部分的に被覆された鉄薄板が得られた。鋼表面は完全に親リチウム化されていなかったため、リチウムブロンズで濡れずに、それゆえリチウムで被覆されなかった領域がいくらかあった。
【0050】
実施例5:リチウム/アルミニウム合金の製造
ガラス封入磁石スターラーコアを有する不活性な25mL容シュレンクフラスコの中に、実施例1からの2.9g(39mmol)の純粋なリチウムブロンズを入れ、氷浴を使用して0℃に冷却した。その後、0.61gのアルミニウム格子を加え、0℃で1時間撹拌した。この期間の後、混合物を室温に温め、真空下(最後には0.02mbar)でアンモニアを除去した。
収率:銀色の外観を有する0.86gの合金(理論値の98%)
【国際調査報告】