(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】自己樹状細胞ワクチンキットおよび使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20230704BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230704BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20230704BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20230704BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230704BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20230704BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20230704BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230704BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K39/00 F
C12M3/00 A ZNA
C12N5/00
A61K39/00 B
A61K39/215
A61K35/15
A61K38/20
A61K38/21
A61P31/14
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574124
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 US2021035501
(87)【国際公開番号】W WO2021247743
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519173657
【氏名又は名称】アイビタ バイオメディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニスター,ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】カーステッド,ハンズ
(72)【発明者】
【氏名】ディルマン,ロバート,オー.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB09
4B065AA93X
4B065BB19
4B065BD39
4B065CA45
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA14
4C084DA22
4C084DA24
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB33
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC03
4C085CC08
4C085CC12
4C085DD24
4C085EE01
4C085GG04
4C085GG05
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
自己樹状細胞に基づいた個別化ワクチンを産生するキットが、本明細書に開示される。このキットは、組換え法または化学合成によって得られた病原生物、病原生物の一部、毒素、毒液、構造に対する一定用量の生樹状細胞ワクチンを産生するのに必要な材料、試薬、および情報をすべて含有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.キット容器、
b.採血用品、
c.単球分離培地または慣性マイクロ流体デバイス、
d.樹状細胞(DC)分化培地成分、
e.少なくとも1つのアクセスポートを備えた細胞培養容器、
f.固有識別のしるし、および
g.抗原
を含む、個別化ワクチンキット。
【請求項2】
前記キット容器は、絶縁壁を含み、インキュベーターとして機能することができる、請求項1に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項3】
前記インキュベーターは、電源およびサーモスタットシステムを含む、請求項2に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項4】
前記サーモスタットシステムは、相交換材料および正の温度係数(PTC)材料を含むが、温度調節器を含まない、請求項3に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項5】
前記DC分化培地成分は、前記細胞培養容器において乾燥した状態で提供される、請求項1から4のいずれか一項に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項6】
前記DC分化培地成分はIL-4を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項7】
前記DC分化培地成分はGM-CSFを含む、請求項6に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項8】
前記DC分化培地成分は、IFNγ、IFNα、IL-2、またはそれらのあらゆる組合せを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項9】
前記抗原は、SARS-CoV-2全長組換えスパイクタンパク質である、請求項1から8のいずれか一項に記載の個別化ワクチンキット。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のキットを使用して、個別化自己樹状細胞(DC)ワクチンを作製する方法であって、
a)個体から、5~50mLの血液を採取する工程、
b)前記血液から末梢血単核細胞(PBMC)を単離する工程、
c)未成熟DCを生成するために、前記DCを前記細胞培養容器に添加して2~5日間、前記細胞をインキュベートすることにより、前記PBMCを分化させる工程と、その後
d)前記未成熟DCに抗原を負荷するために、抗原を前記細胞培養容器に添加し、さらに1~2日間、インキュベートする工程、および
e)抗原負荷した前記未成熟DCを収集する工程
を含む、方法。
【請求項11】
前記単離する工程から得た自己血漿を保存する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
自己血漿中の収集し、前記抗原負荷した未成熟DCを再懸濁する工程をさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記個体から得た細胞または血漿を含有している容器に、前記固有識別のしるしをつける工程をさらに含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記個体への投与の前に、収集し、再懸濁した前記抗原負荷した未成熟DCを貯蔵する工程をさらに含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
室温で最大6時間、前記収集し、再懸濁した抗原負荷した未成熟DCを貯蔵する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
4℃で最大48時間、前記収集し、再懸濁した抗原負荷した未成熟DCを貯蔵する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
混合自己血漿および凍結保存剤中で前記収集し、抗原負荷した未成熟DCを再懸濁する工程、ならびに-80℃で最大21日間、前記収集し、再懸濁し抗原負荷した未成熟DCを貯蔵する工程をさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項18】
請求項10から17のいずれか一項に記載の方法によって作製された、個別化自己樹状細胞(DC)ワクチン。
【請求項19】
個体を免疫する方法であって、皮下または皮内注射によって前記個別化自己樹状細胞(DC)ワクチンを前記個体に投与する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2020年6月2日に出願された米国仮出願第63/033,678号の利益を主張するものであり、その内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
個別化ワクチンは大きな研究的関心を集めているが、臨床診療への移行は限られている。個別化ワクチンの産生には、研究所または製剤製造専用施設の装置および訓練を受けた個人が典型的に必要とされており、そのために入手が制限され、費用が多額になる一因となり、その採用を妨げている。個別化ワクチンは、主に癌治療のために追求されており、その多額の費用はより負担されやすい。
【発明の概要】
【0003】
樹状細胞に基づいた自己ワクチンを産生するのに必要な成分をすべて有する簡易のワクチンキットによって、緊急事態においてもワクチンの迅速な産生ができる。エクスビボで調製された樹状細胞に基づいたワクチンは、起こり得る免疫寛容誘導だけでなく、抗原の毒性の可能性を回避する。本明細書に開示される個人の自己ワクチンキットによって、基本的な研究用機器のみを有する地域市民病院などの施設におけるワクチン産生が可能となる。
【0004】
成分の全体の組成物またはキットが本明細書で開示され、これらは自己ワクチンを作製する毎工程に必要である。
【0005】
さらに、抗原に対する個人のワクチンを産生するためのワクチン製造キットの使用方法が、本明細書に開示される。
【0006】
1つの態様は、個体のための個別化樹状細胞(DC)ワクチンを作製するためのキットである。キットは、キットの他の成分を含有するためのキット容器を含む。キットの成分は、採血用品、単球分離培地または慣性分離デバイス、DC分化培地成分、細胞培養容器、固有識別のしるし、および抗原を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、単球分離培地は採血真空管に含有されている。いくつかの実施形態では、単球分離培地は、中性、高分岐、高質量、親水性の多糖類のFICOLL(登録商標)である。
【0008】
DC分化培地成分は、RPMI-1640、PRIME-XV Dendritic Cell Maturation既知組成培地、またはAIM-V培地などの基底細胞培養培地を含む。いくつかの実施形態では、重炭酸塩を含まない、CO2独立培地が使用される。いくつかの実施形態では、HEPESはCO2独立緩衝剤として使用される。いくつかの実施形態では、培地はインターロイキン4(IL-4)を含有している。いくつかの実施形態では、培地は、IL-4および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含有している。いくつかの実施形態では、培地はGM-CSFを含有していない。いくつかの実施形態では、培地はインターフェロンアルファ(IFNα)を含有し、いくつかの実施形態では、培地はインターフェロンガンマ(IFNγ)を含有している。いくつかの実施形態では、培地はインターロイキン2(IL-2)を含有している。いくつかの実施形態では、培地は最大30%の自己血漿を含有している。
【0009】
いくつかの実施形態では、細胞培養容器は少なくとも1つのアクセスポートを備えた閉鎖系である。いくつかの実施形態では、細胞培養容器は袋である一方で、他の実施形態では、平坦な内面を備えた硬質容器である。いくつかの実施形態では、内面は疎水性である。
【0010】
様々な実施形態において、固有識別のしるしは、一連の英数字文字、バーコード、またはQRコードの可能性がある。
【0011】
いくつかの実施形態では、抗原は、病原生物全体または細菌、真菌、ウイルス、リケッチア、マイコプラズマ、もしくは寄生虫などの病原生物由来の断片である。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗原は毒素または毒液である。細菌、昆虫、および植物由来の毒素ならびに毒液、または合成的に作られた化合物が、非限定的な例として挙げられる。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗原は、タンパク質もしくはペプチド、またはその断片などの精製された分子である。いくつかの実施形態では、抗原は組換え技術によって産生される。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗原は化学合成によって産生される。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗原はSARS-CoV-2の全長スパイクタンパク質である。
【0016】
いくつかの実施形態では、キット容器はインキュベーターとして機能することができる。いくつかの実施形態では、キット容器は絶縁壁を有する。いくつかの実施形態では、キット容器は充電式電源、例えばリチウム電池を有する。いくつかの実施形態では、電源は、キット容器にはまるように形成され得るリチウムポリマー電池である。いくつかの実施形態では、キット容器は温度調節器ではなくサーモスタットを含む。いくつかの実施形態では、サーモスタットは相交換材料および正の温度係数材料を含む。
【0017】
1つの態様は、本明細書に開示されるキットを使用して、個別化自己DCワクチンを作製する方法である。いくつかの実施形態では、この方法は、個体から採血すること、末梢血単核細胞(PBMC)を単離すること、未成熟DCを生成するために、細胞培養容器へDCを添加して、細胞を2~5日間インキュベートしてから、その後未成熟DCに抗原を負荷するために細胞培養容器へ抗原を添加し、さらに1~2日間インキュベートすることでPBMCを分化させること(抗原は、ワクチンの標的である病原体、毒素、または毒液の成分に対する免疫反応を誘導するための免疫原として機能する)、および抗原負荷した未成熟DCを収集することを含む。
【0018】
個別化自己DCワクチンを作製する方法のいくつかの実施形態は、単離する工程から得た自己血漿を保存することをさらに含む。個別化自己DCワクチンを作製する方法のいくつかの実施形態は、個体から得た細胞または血漿を含有している容器に、固有識別のしるしを付けることをさらに含む。個別化自己DCワクチンを作製する方法のいくつかの実施形態は、自己血漿中の、収集された抗原負荷した未成熟DCを再懸濁することをさらに含む。
【0019】
個別化自己DCワクチンを作製する方法のいくつかの実施形態は、個体への投与に先立って、収集、再懸濁された抗原負荷した未成熟DCを貯蔵することをさらに含む。いくつかの実施形態は、室温で最大5時間、収集、再懸濁された抗原負荷した未成熟DCを貯蔵することを含む。いくつかの実施形態は、4℃で最大48時間、収集、再懸濁された抗原負荷した未成熟DCを貯蔵することを含む。いくつかの実施形態は、-80℃で最大21日間、収集、再懸濁された抗原負荷した未成熟DCを貯蔵することを含む。
【0020】
1つの態様は、本明細書に開示されるワクチンを作製する方法のいずれかによって作製された、個別化自己樹状細胞(DC)ワクチンである。
【0021】
1つの態様は、本明細書に開示される個別化自己DCワクチンを個体へ投与することを含む、個体を免疫する方法である。いくつかの実施形態では、個別化自己DCワクチンは、皮下注射によって投与される。いくつかの実施形態では、個別化自己DCワクチンは、皮内注射によって投与される。いくつかの実施形態では、免疫化は単回投与で達成される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】自己樹状細胞ワクチンの原理機序を表す図である。対象から血液試料が得られ、単球は血液試料から単離されインビトロで抗原負荷した樹状細胞へ分化し、そして試料が得られた同一人物に再注入される。
【
図2】SARS-CoV-2ウイルスに感染した患者の組換えウイルススパイクタンパク質に対する、内生的に産生されたIgG抗体の反応性を表す図である。
【
図3】SARS-CoV-2ウイルスに感染した異なる11人の患者の、組換えウイルスヌクレオカプシドタンパク質に対する、内生的に産生されたIgG抗体の反応性を表す図である。
【
図4】SARS-CoV-2ウイルスに感染した異なる11人の患者の、組換えウイルススパイクタンパク質に対する、内生的に産生されたIgA抗体の反応性を表す図である。
【
図5】SARS-CoV-2ウイルスに感染した異なる11人の患者の、組換えウイルスヌクレオカプシドタンパク質に対する、内生的に産生されたIgA抗体の反応性を表す図である。
【
図6】単球が、高い割合でCD11c
+およびCD14の陰性樹状細胞へと分化することを実証するフローサイトメトリーデータを表す図である。
【
図7】自己混合リンパ球の、抗原負荷した樹状細胞との共培養中のサイトカイン分泌対対照を表す図である。
【
図8】自己混合リンパ球の、様々な抗原負荷量で抗原負荷した樹状細胞との共培養中のサイトカイン分泌のパーセント増加を表す図である。
【
図9】抗原負荷した樹状細胞への曝露後にTbet転写因子の陽性リンパ球が増加することを実証するフローサイトメトリーデータを表す図である。
【
図10】本明細書に開示される自己DCワクチンの、1つの一般的な製造プロセスの工程を表す図である。
【
図11】ELISpotアッセイによって決定される、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的な自己DCワクチンを用いる免疫化の前(
図11A)および2週間後(
図11B)の、PBMC集団中のSARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的IFNγ分泌リンパ球の割合を表す図である。
【
図12】アッセイに抗原刺激を用いるまたは用いないELISpotアッセイによって決定される、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的な自己DCワクチンを用いる免疫化の前および2週間後の、PBMC集団中のSARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的なIFNγ分泌リンパ球の平均スポット数を提示する図である。
【
図13】記憶応答の評価を表す図である。
図13Aは、アッセイに抗原刺激を用いる、SARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的IFNγ分泌リンパ球のためのELISpotアッセイによって決定される、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的な自己DCワクチンを用いる免疫化の前および2週間後の、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する記憶反応を示す対象の割合を示す。
図13Bは、免疫化の2週間後の、変換された、ブーストされた、または変化なしという記憶状態に応じた、対象の数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
安全で、効果的で、研究環境にある他のワクチンのアプローチより優れていることが実証されたが、個別化樹状細胞(DC)免疫療法は、産業上の製造規模の拡大という未解決の課題を提示する。本明細書に開示される組成物および方法は、規模拡大の問題に取り組み、産業のための実施可能な解決策を提供する。
【0024】
DC処理およびウイルス抗原の提示は、インビトロでおよび動物モデルにおいて実証された免疫効果で十分に確立されている。樹状細胞を使用するワクチンは、リーシュマニア症、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、Candida albicans、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する防御を実証した。APC特異的免疫抑制のモデルにおいて、DCに基づいたインフルエンザワクチンは、タンパク質ワクチン接種では達成できなかった有意な抗原特異性抗体力価を迅速に誘導した。
【0025】
感染症の予防としてのDC免疫療法の適用は、特に、罹患率増加の危険性があり、従来のワクチン接種に対して十分に応答しない特定のニッチ集団にとって、科学的に合理的と費用対効果が高いことの両方である。
【0026】
DCは、他の免疫細胞への提示のために可溶性抗原を自然に食菌し消化する。このプロセスでは、粒子は、細胞表面受容体認識後、または微飲作用によって、または溶質の非選択的エンドサイトーシスによって、エンドサイトーシスされる。抗原の取り込みは、適応免疫反応のために細胞の抗原提示および最大刺激を促進するDC成熟へ至る活性化シグナルを結果としてもたらす。ヒトの単球由来のDCおよび単球由来のマクロファージは、インビトロで単球から生成することができる。マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)またはGM-CSFのどちらかを用いる培養は単独でマクロファージを作り出す一方で、GM-CSFおよびIL-4を用いる単球の培養はDCを生じさせる。単球由来のDCは抗原提示に優れており、抗原特異性のCD4+およびCD8+T細胞を誘導する。それらは、病原体関連分子パターン(PAMP)、ダメージ関連分子のパターン(DAMP)、または腫瘍抗原などの改変されたグリコシル化自己抗原を認識するために、Tоll様受容体(TLR)およびCタイプレクチン受容体(CLR)などの複数のパターン認識受容体(PRR)を発現する。TLR認識は、細胞内シグナル伝達ならびに抗原提示分子(MHC II分子)、共刺激分子(CD80/86、CD40)、炎症および/または抗ウイルス剤サイトカイン類(TNF-α、IL-12、IL-23、IFNα/βなど)、およびケモカイン類(すなわちIL-8、RANTES)の発現を誘導する。
【0027】
非生存または弱毒化した病原体を使用したワクチンは、多量の抗原および広範な試験を必要とする。抗原が即時のMHC提示を行うことから、DNA/RNAワクチンは合理的な代替である。しかしながら、有効な伝達システムは主要な問題のままである。ゲノムの送達システムは毒性の、免疫原であり得、同じ担体(例えば、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスベクター)のいかなる今後の使用も防ぐことができる。
【0028】
パターン認識受容体発現は、単核の食細胞の分化および成熟によって変動する。本発明者らは、抗原取り込みおよび交差提示のための高い能力を備える未成熟DCを産生する培養条件を確立した。エクスビボ成熟は、TLR4リガンド(LPS、ポリI:C)への曝露によって促進される。末梢注射(皮下または皮内)後、さらなる成熟が所属リンパ節への移動中にインビボで達成される。
【0029】
ウイルス抗原の取り込み、処理、および提示を促進するためにエクスビボで負荷された自己未成熟DCは、いくつかの病原体によって引き起こされた阻害を克服することができ、その非制限的な例としてコロナウイルス、HIV、インフルエンザ、エボラ、HSV-1、麻疹、C型肝炎、デングウイルスなどが挙げられる。阻害経路を回避して、エクスビボ抗原処理は、ウイルス抗原に対する液性および細胞性の免疫反応の誘導を増強する。
【0030】
エクスビボで抗原負荷した未成熟DCを含有している、本明細書に提示される自己ワクチンは、エフェクターCD8+細胞傷害性細胞によって媒介された、Th1型に偏った免疫の利点である、ウイルス感染に対抗する際にTh2応答より優れている本質的なメカニズムを提供する。
【0031】
エフェクターCD8+リンパ球による細胞媒介性反応は、特定の抗原エピトープを標的とする必要はなく、あらゆる発現された抗原中のあらゆる免疫原エピトープに対する反応も、利点となる可能性がある。それに比べて、抗体媒介性免疫はウイルス表面抗原の特定のエピトープに対して方向付けられなければならない。多くの症例では、中和は脱殻またはエンベロープウイルスのための溶解の阻止に関与することができるが、中和抗体はウイルス受容体の受容体結合部位に対して方向付けられる。受容体領域が変異し、つい最近のコロナウイルス(SARS-CoV-2)大流行の中などで中和抗体の効果がない場合、非中和抗体の蓄積によって、疾患増強抗体の増加の恐れが生じる。
【0032】
認識されたエピトープにかかわらず、細胞媒介性免疫は常に中和しており、感染した宿主細胞を標的とし、それによってウイルス複製をさらに妨害する。
【0033】
開示されたDCワクチン産生物は、従来のワクチンの目標である、体液性反応を最大化するためにそのアジュバントシステムによって最適化された抗受容体結合ドメイン抗体になるよりも、突然変異の中ではるかにより適合性である。
【0034】
SARS-CoV-2などの特定のウイルスは、循環CD8+細胞の急激な減少およびインターフェロン産生の抑制によって細胞媒介性免疫を阻害することで知られている。これらのウイルスによって生成された免疫反応の多くは体液性であり、初めに非変異エピトープに対する、7~14日後にウイルスの変異した部分に対する抗体が産生される。突然変異体が受容体結合ドメイン(RBD)にある場合、7~14日間、ウイルスの増殖および非中和抗体産生の期間がある。この現象は、ウイルスのための受容体がより豊富にあり、Th2バイアス(年齢、糖尿病、肥満症など)を導く、他の併存症を患う何人かの患者に生じる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態を説明する、先天性免疫細胞活性化および一般的な炎症を特に引き起こす。
【0035】
製造プロセス
本明細書に開示される製造プロセスは、一個体に割り当てられた個々の単回使用キットに基づく。キットは、最終産生物の製造および品質管理に必要な材料および試薬をすべて含有している。
【0036】
キットは、典型的には採血用品、単球分離培地、DC分化培地、プラスチック用品(plasticware)、用量容器、QCサンプリング容器、QC試薬ラベル、および文書を含む。それにもかかわらず、他の構成も可能である。
【0037】
キット成分はそれぞれ独自に識別され、製造文書に記録され、現在の規制条項に応じて追跡可能である。様々な実施形態では、個々のキットの固有識別の特有のしるしは、一連の英数字、バーコード、QRコードなどのいずれかの可能性がある。いくつかの実施形態では、しるしは、利用される際、キットの成分に添付することができるステッカー上に、およびハードコピーの患者記録中に印刷される。
【0038】
いくつかの実施形態では、キット容器は、貯蔵および輸送中に様々な成分を含有していることに加えて、インキュベーターとしてもまた機能することができる。
【0039】
採血は、標準のヘパリン処理された真空管および静脈切開キットの使用により遂行される。採取管のサイズは5mLから50mLの間で異なり、各管に任意選択でフィコール分離層を含む。採取の1つの方法は、分離培地を予め負荷した真空管を使用することである。
【0040】
採取の別法は、慣性マイクロ流体デバイスを血液分離に使用する。このようなデバイスは非平衡慣性分離アレイを使用する。
【0041】
末梢血単核細胞(PBMC)は、同じ閉鎖ループ系における遠心分離または接線流濾過によって濃縮される。少量の血漿が、最終産生組成物のために採取され、個別に貯蔵される(保存される)。いくつかの実施形態では、ヘパリンは抗凝固剤として使用される。
【0042】
その後、単離されたPBMCは、2~5日間、樹状細胞分化培地に曝露される。
【0043】
DC分化のための例示的な培地は、非重炭酸緩衝剤を含有するCO2独立製剤である。CO2独立培地製剤の例は、RPMI-1640、重炭酸を含まない、およびAIM Vの培地(ThermoFisher)である。組織培養に適した非重炭酸緩衝剤の1つの例は、HEPESである。
【0044】
いくつかの実施形態では、DC分化培地は抗酸化剤およびフリーラジカル捕捉剤を含有している。フリーラジカル捕捉剤の例として、N-アセチル-システイン、カルボキシ-PTIO、フラボノイド、およびL-NG-メチルアルギニンが挙げられる。
【0045】
いくつかの実施形態では、DC分化培地はGM-CSFおよびIL-4を含有している。
【0046】
いくつかの実施形態では、DC分化培地はGM-CSFを含有していない。
【0047】
いくつかの実施形態では、DC分化培地はIFNγを含有している。
【0048】
いくつかの実施形態では、DC分化培地はIFNαを含有している。
【0049】
いくつかの実施形態では、DC分化培地はIL-2を含有している。
【0050】
いくつかの実施形態では、DC分化培地は、採血およびPBMC単離プロセス中に保存された自己血漿を最大30%、含有してもよい。いくつかの実施形態では、培地は、両端を含む、自己血漿を5%~30%、またはその範囲中のあらゆる整数値も含有している。
【0051】
その後、PBMC細胞懸濁液は、DC分化および抗原曝露のため閉鎖系細胞培養容器中に移される。
【0052】
例示的な閉鎖系細胞培養容器は、およそ50cm2の内部細胞培養表面および少なくとも1つのアクセスポートを備える柔軟性のある袋である。
【0053】
代替的な閉鎖系細胞培養容器は、およそ50cm2の平坦な内部細胞培養表面およびアクセスポートを備える硬質容器である。
【0054】
閉鎖系細胞培養容器の内面は、細胞接着を防ぐため疎水性である。
【0055】
閉鎖系細胞培養容器の例示的な材料は、フッ素化されたポリエチレンおよびそのコポリマーなどの気体透過性材料である。
【0056】
閉鎖系細胞培養容器材料のための代替は、疎水性のために化学修飾されたセルロースである。様々な実施形態では、化学修飾されたセルロースは、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸など)を用いてアシル化またはエステル化された酢酸セルロースである。
【0057】
あるいは、疎水性特性は疎水性材料で内面を被覆することによって達成することができる。このような材料は、例えば疎水性のシランであり得る。
【0058】
PBMCおよび培地を含有している容器は、37℃で2~5日間、インキュベートされる。
【0059】
例示的なインキュベーターは、充電式電源およびサーモスタットを含有しているキット容器である。キット容器壁は、約37℃で5~7日間、内容物を維持するため最小限のエネルギー散逸ができる断熱材を提供する。いくつかの実施形態では、電源は箱にはまるように形成され得るリチウムポリマー電池から成る。
【0060】
例示的なサーモスタットは、相交換材料および/または温度調節器の必要性を除去する正の温度係数(PTC)材料を含む。本明細書で使用するとき、温度調節器は、エネルギー(熱)の注入を可能または不能にするために、センサーおよびフィードバックループを有する機械系または電子系である一方で、サーモスタットは一定温度(許容範囲内で)を維持するあらゆる系である。本明細書で使用するとき、相交換材料は、相転移中に十分なエネルギーを放出または吸収して、加熱または冷却を提供する物質である。例えば、加熱によって固体相交換材料の温度が溶解温度まで上昇すると、材料がすべて溶解するまで、温度はほぼ変化することなく熱が吸収される。同様に、放熱し、液相の温度が融点に向かって低下すると、材料は凝固し、材料がすべて凝固されるまで、温度はほぼ変化することなく熱が放出される。いくつかの実施形態では、相交換材料はParaffin 20-Carbons(融点36.7℃)である。いくつかの実施形態では、相交換材料はカンフェニロン(融点39℃)である。いくつかの実施形態では、相交換材料は、エネルギーの放出もしくは吸収のための手段または潜熱蓄熱のための手段と呼ばれる。
【0061】
PTC材料は温度上昇とともに増加した電気抵抗を示す。ある時点で、さらなる温度上昇によってより大きな電気抵抗を受けるため、PTC材料は、与えられた入力電圧の最高温度に到達するように設計することができる。線形抵抗加熱または負の温度材料と異なり、PTC材料は本質的に自己制限している。いくつかの実施形態では、PTC材料は、固有抵抗が無限に増加する温度までのすべての温度の温度上昇と共に指数関数的に増加する固有抵抗によって電気を通すシリコーンゴムである。この温度上では、PTCゴムは電気絶縁体である。特に、PTCゴムは、炭素ナノ粒子を負荷したポリジメチルシロキサン(PDMS)から作製することができる。いくつかの実施形態では、PTC材料は炭素に基づいたPTCインクである。PTCインクは細胞培養容器の外面に配される。いくつかの実施形態では、PTC材料はPTC制限加熱のための手段と呼ばれる。
【0062】
様々な実施形態では、サーモスタットは相交換材料、PTC材料、またはその両方を含む。いくつかの実施形態では、サーモスタットは一定温度の維持のための手段と呼ばれる。いくつかの実施形態では、一定温度は約37℃である。
【0063】
その後、未成熟樹状細胞は1または2日間、抗原に曝露される。抗原は、対応のポート、例えば自己封止式スワバブルバルブを介して閉鎖系細胞培養容器に添加される可能性がある。いくつかの実施形態では、3~7日間の培養物期間中は、培地は変更されない。
【0064】
DC負荷に適切な抗原は、病原体、毒素、および毒液由来の水溶性または不溶性抗原、または病原体の全体、弱毒化生体、発育不可能体、断片、もしくはタンパク質複合体の全体を含む不溶性抗原を含む。病原体のDNA/RNA配列から設計された様々な合成または組換えの構造は、抗原源として使用される可能性がある。さらに、抗原は、抗原性を増強するか、または樹状細胞を刺激する末端ペプチド配列と融合される可能性がある。融合ペプチド配列は、例えばヒト免疫グロブリンの断片および樹状細胞のToll様受容体(TLR)を活性化する化学構造を含むことができる。
【0065】
他で公開されるように、組換え法は抗原を産生するために使用され得る。組み換え法は、病原体のDNA/RNA分析に由来した配列および化学構造を使用する。また、抗原性の予想は主要および主要ではない亜綱上で一致するヒトHLAに基づくことができる。
【0066】
抗原標的のバリデーションは、病原体による感染の生存者または標的とされた病原体の陽性が確認された回復期患者の抗体結合試験によって実施される可能性がある。
【0067】
抗原の組合せは、より幅広い防御を備えるワクチンを産生するために使用される可能性がある。
【0068】
用量調製については、容器の細胞含有物は遠心分離管中で採取され、また上清は遠心分離によって取り除かれ、自己血漿と取り替えられる。
【0069】
投与前に用量を凍結することが予想される場合、この工程で凍結保存溶液が添加される可能性がある。いくつかの実施形態では、凍結保存剤は、細胞を再懸濁するために自己血漿と等しい量で混合される。例示的な凍結保存剤は、トレハロースおよびグリセリンを含有している。凍結保存剤としてのトレハロースおよびグリセリンの使用によって、解凍された産生物の直接注入ができる。これらはワクチンアジュバントとしてUSPに表記されるとおり、直接注入が許される。DMSOなどの他の凍結保存剤は、解凍された産生物の注入が可能になる前に、取り除かれなければならない。
【0070】
少量の細胞は、任意選択で品質管理にかけられる。いくつかの実施形態では、細胞集団は5~30%の樹状細胞および70~95%のリンパ球を含有しており、未分化の単球の含有量は1%未満である。マクロファージの非存在は、DC分化の有効性およびDC分化前の付着細胞の除去を必要としないことを示す。
【0071】
いくつかの実施形態では、用量は残余抗原または細胞培養培地を含有していない。
【0072】
その後、用量は最終容器へと移され、即時の使用のために室温で、2日以内の使用のために4~8℃で、最大21日間までの使用のために-65~-85℃で、および長期間貯蔵用で液体窒素(<-165℃)中で、保存される。
【0073】
品質管理は同定試験、例えばCD14-CD11+細胞の試験、微生物汚染(マイコプラズマ、内毒素および無菌性)の安全性試験、および効力検定、例えば上清におけるIL12の存在、を含むことがある。
【0074】
例示的な効力検定として、ラテラルフローイムノアッセイなどの迅速評価方法が挙げられる。
【0075】
例示的な迅速無菌試験は、迅速に水性サンプルの生存可能な微生物を数えるために、固体相レーザー走査サイトメトリーに基づいている。この方法は、ScanRDI(登録商標)(bioMerieux Inc)などの市販のデバイスに含まれている。
【0076】
いくつかの実施形態では、用量は患者アイデンティティーによって検証され、皮下注射によって投与される。
【0077】
プロセスおよび製品分配
ワクチン製品の生産および分配は、中心位置から調整されることがある。いくつかの実施形態では、個別化DCワクチンは、一般的な生物工学または臨床研究室の環境および技術を使用する、ローテクノロジーの研究室で生産される。いくつかの実施形態では、ワクチン製品の産生と分配は同じ場所で行なわれる。
【0078】
最初の工程において、研究室は空間、設備、および人員資格を評価される。典型的な実験室は、インキュベーター、遠心機、冷蔵庫、冷凍装置、顕微鏡、および一般的な実験室機器を含むバイオセーフティレベル2の空間を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、特定のソフトウェアモジュールは施設の既存の品質管理監督システム(QMS)で実施される。ソフトウェアは、米国食品医薬品局または他国の同等の規制機関に従って指示、製造記録、制御、および放出手順を提供する。このモジュールは、製造キット、トレーニング、およびトラブルシューティングの有効性を保証するために、コーディネーティングセンターにある集中QMSと通信する。
【0080】
各場所の生産キャパシティが評価され、製造キットはそれに応じて計画または保存される。各成分のサプライチェーンは契約上確保されている。
【0081】
キットは、専門の第三者の組み立ておよび倉庫業の組織によって部品表に従って製造されてもよく、現地生産に従って分配されてもよい。
【0082】
例示的なキットの構成は、細胞培養容器に既に含まれている乾燥物質としてすべての試薬を含み、液体フォーマットの再構成は、PBMC単離後に塩化ナトリウム0.8%溶液で懸濁された細胞を添加することにより実施される。DC分化培地が自己血漿を含有している実施形態については、自己血漿もこの時点で細胞培養に添加される。
【0083】
抗原負荷した未成熟DCは再懸濁されると、すぐに使用できるが、一定の貯蔵期間が必要であることが予想され、例えば品質管理アッセイは、約3時間で典型的に完成され得る。さらに、患者は、ワクチンが調製される施設に必ずしも立ち会う必要はない。ワクチンは、患者の移動および/またはワクチンの輸送にかかる時間を考慮に入れるため、室温で少なくとも5時間まで、4℃で少なくとも48時間まで、または-80℃で少なくとも21日間まで貯蔵される可能性がある。
【実施例】
【0084】
実施例1.個体の血液サンプルからの樹状細胞の生成およびSARS-CoV-2ウイルスゲノム由来の組換え抗原を用いる負荷
最初の工程において、既知のCOVID-19患者内で自然に産生した抗体を用いて、標的とした抗原の反応性を確認した。このために、予めPCR検査によってSARS-CoV-2感染と診断された、同意済のドナーの血清を採取し、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質およびヌクレオカプシドタンパク質のDNA配列から得た組換えペプチドで被覆されたELISAプレートに晒した。
【0085】
図2~
図5に表したELISAプレートの分析によって、組換え抗原との反応性を確認した。
【0086】
抗原バリデーションに続いて、自己DCワクチンを産生するために、4人の有志のドナーから全血50mLを、ヘパリン処理されたバキュテーナ中に採取した。
【0087】
全血球計算(CBC)を実施して、出発単核細胞集団を評価した。有志はみなCBC値が正常範囲の中であった。
【0088】
採取から6時間以内に、全血をフィコール分離にかけた。単核細胞の一部を75cm2の細胞培養皿に移し、細胞の一部を12ウェルプレートに分注した。
【0089】
主としてリンパ球から成る浮遊細胞を取り除き、後の使用のために保存した。
【0090】
接着集団を、GM-CSFおよびIL-4を含有しているAIM-V培地を用いて5日間インキュベートした。単球は、集団の90%がCD11c陽性/CD14-細胞の集団にある樹状細胞に分化した(
図6)。
【0091】
その後培地を取り除き、スパイクタンパク質(S1、S2)およびヌクレオカプシドのDNA配列由来の組換え法によって引き出し、各患者培養物から3μgずつ得た、SARS CoV-2抗原を含有した新しい同培地と取り替えた。
【0092】
2日後、負荷した樹状細胞を表現型のためサンプリングし、対応する自己リンパ球と1:3の割合で再混合した。
【0093】
DCおよび自己リンパ球を72時間共培養し、リンパ球活性化を示唆するマーカーに関して分析した。
【0094】
結果は、樹状細胞における単球の分化の成功、抗原の毒性の欠如、および負荷した樹状細胞と共培養したリンパ球の細胞毒性の活性化を示す(表1、
図7、および
図8)。
【0095】
【0096】
分化したDCが抗原に曝露されなかった対照と比較して、CD8+集団は抗原への曝露後41%まで増加した。
【0097】
CD4ヘルパー集団は、Tbet転写因子陽性の非抗原対照に対する平均17%の増加(
図9)、およびFoxP3陽性細胞の非存在(平均0.06%)による免疫寛容の欠如として観測された有意な活性化を示した。適応免疫系のTh1およびTh2の活性化は、共にTbet陽性細胞によるものである。
【0098】
これらの実験は、組換え抗原が自然産生した抗体の有効な標的であること、したがってこれらの抗原に対する免疫化によって、天然のウイルス抗原に反応する抗体を産生することが可能になることを実証する。
【0099】
実験は、さらに樹状細胞上の抗原の直接毒性の欠如および細胞毒性の様式におけるリンパ球の活性化を実証する。
【0100】
さらに6人分の患者試料によって、臨床用製造(
図10)を確認した。製造には、個々の患者特異的キット中の予め梱包された材料および試薬をすべて使用した。採血の加工・流通過程の管理および最終用量を維持するためのロジスティクスを、成分のラベリングシステムに組み込んだ。
【0101】
実用性については、個々のキットは4つの部分に分かれ、部分AおよびBは貯蔵条件に応じて製造現場で使用される一方で、部分CおよびDは採血および用量投与のため臨床現場で使用される。
【0102】
各キットはGMP対応文書を含み、採取されたデータを、トレーサビリティのために会社のデータベースに集中させることが予想される。本開示はさらに現場用の教材を意図する。
【0103】
電子GMP文書およびデータ収集のソフトウェアは、各地でインストールされ、また中央報告の性能を有する。ソフトウェアは、遠隔で更新される性能を有し、それにより、ローカルでのドキュメント変更制御系の実行を回避する。
【0104】
ピーク需要中に材料のカバレッジおよびサプライチェーンの枯渇の回避を保証するビジネスモデルにおいて、製造現場は、組み立てられたキットをワクチン接種の時期に先立って確保することができる。
【0105】
実施例2.組換え全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質を負荷した自己DCワクチンの安全性および有効性
含まれている単球からDC分化を受けた40mLの末梢血リンパ球から作製され、0.1、0.33、または1μgのSARS-CoV-2全長組換えスパイクタンパク質を負荷した自己ワクチン産生物を使用した臨床試験を、実施した。広範な包含基準を試験に使用し、不安定な病状を有する患者といくつかの保護カテゴリーに属する個体(すなわち、小児、妊婦、物理的、社会的、および精神的に無能力になった個体)のみ除外した。評価された主要評価項目は、臨床検査値評価による安全性、および代替マーカーによる有効性であった。
【0106】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードするベクターはシグナル配列を含むことがあり、精製を促進するためにHisタグまたは他の配列を含むことがあるが、これらの部分は、成熟した組換えタンパク質には典型的に存在しない。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2の成熟した全長組換えスパイクタンパク質は、以下のアミノ酸配列を有する。
QCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLEILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPGSASSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLDPPEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPGYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFLLEVLFQGP (配列番号1)
【0107】
本明細書に記載される方法に従って製造を行う。各対象に特有の同定されたキットを割り当て、同じ証明書を対象に与えた。1.073密度勾配フィコール試薬を使用して、PBMCを分離した。
【0108】
PBMCを、250μg/LのGM-CSFおよび100μg/LのIL4の存在下、25mLでVueLifeバイオプロセスバッグ(Saint Gobain)中PRIME-XV Dendritic Cell Maturation既知組成培地(FujiFilm Irvine Scientific)またはAIM-V培地(Thermo Fisher)において5日間分化した。5日目、総量0.1、0.33、または1μgの抗原をバッグに導入した。2日後、細胞を収集し、用量を自己血漿中の細胞の再懸濁によって調製した。収集には、細胞を遠心分離によって沈殿させ、上清を吸引し、生理食塩水中で細胞を再懸濁によって洗浄し、続いて上清の遠心分離と吸引を行った。洗浄によって培地成分とあらゆる遊離抗原を取り除いた。4℃で用量を貯蔵し、翌日、皮下注射によって投与した。
【0109】
注射後3時間、その後3日間にわたって毎日、および4週間にわたって毎週、対象を観察した。実験室の安全性、および代替有効性のため血液を採取した。
【0110】
代替有効性の検査は、インターフェロンγに関するELISPOTによって、非刺激対抗原刺激の条件下で行った。このアッセイによって抗原特異的な活性化IFN-ガンマ分泌細胞を検出し、CPTバキュテーナ(Becton Dickinson)中に8mLの血液を集め、PBMCを遠心分離によって分離し、24ウェルプレート中にスパイクタンパク質抗原とIL-2が存在する状態または存在しない状態で、標準化濃度でプレーティングを行うことによって、アッセイを実施した。さらに抗原刺激を行うことなく10日後、細胞を各条件の3連のウェルである96ウェルELISPOTプレートへ、所定の濃度で移した。製造業者(Becton Dickinson)の標準手順に従ってスポットを着色し、計数した。
【0111】
計138名の対象が投与を受け入れ、うち216名がスクリーニングを受けた。少なくとも1つの有害事象(AE)を呈した対象は61名であった。有害事象の総数は100であった。事象はすべて軽度(94%)から中等度(6%)であると見なした。
【0112】
重度または重篤な有害事象は記録されなかった。有害事象により試験を中止した対象はいなかった。
【0113】
いずれの対象も、ワクチン接種後に徴候的なCOVID-19疾患を患わなかった。
【0114】
最もよく見られたAEは、他のワクチンに共通する局所的な注射部位反応であった(表2)。
【0115】
【0116】
ベースラインELISPOTデータは、対象の30%にSARS-CoV-2曝露(自然感染、または開示されていないワクチン)履歴があることを実証するが、いずれの対象もスクリーニングにおいて抗体を提示しなかった(
図11A)。組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質を刺激剤として使用したため、陽性反応は、対象が曝露されている可能性がある別のコロナウイルスとの交差反応性ではなく、SARS-CoV-2への実際の曝露を反映すると予想される。
【0117】
ワクチン接種後2週間までに、ELISPOT反応性は検査済みの対象の92.9%まで増加した(
図11B)。平均スポット数は、刺激状態と非刺激状態の両方で大幅に増加し(p〈〈0.001)(
図12、表3)、対象の43%に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的な細胞毒性記憶細胞が実証された(IFNγ分泌リンパ球;
図13A)。ワクチン接種後2週間で細胞毒性記憶細胞を有する対象の大多数は、変換の結果である。以前から反応性を有していた対象の一部には、ワクチン接種後のブースター効果を認めたが、少数には変化が見られないままであった(
図13B)。
【0118】
【0119】
ELISPOTデータは、ワクチン接種後2週間での高反応性を実証し、対象の大多数に一次免疫反応があることが示唆される。
【0120】
28名の患者の安全性パイロット試験から得たデータによって、細胞毒性記憶反応は、ワクチン接種後少なくとも4か月持続することがわかったが、さらに長く残ることが予想される。
【0121】
結論として、これらのデータは細胞性免疫の誘導を示す。
【0122】
他に示されない限り、明細書および特許請求の範囲で使用される、成分の量、分子量といった特性、反応条件などを表すすべての数は、すべての例において用語「約」によって修飾されるものとして理解されたい。本明細書で使用するとき、「約」および「およそ」という用語は10から15%以内、好ましくは5から10%以内を意味する。したがって、そうでないと示されない限り、明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメーターは、本発明により取得が求められる所望の特性に応じて変動し得る近似値である。最低でも、各数値パラメーターは少なくとも、請求項の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではなく、報告された有効数字の数に照らして、通常の丸め技法の適用により、解釈されるべきである。本発明の広範な範囲を説明する数値域とパラメーターが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例で述べられた数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、数値はいずれも、それぞれの試験測定値に見られた標準偏差に必然的に起因する特定の誤差を本質的に含んでいる。
【0123】
「a」、「an」、「the」という用語、および本発明の記載に照らして(特に、以下の特許請求の範囲に照らして)使用される同様の指示対象は、本明細書中で別段の定めがないか、または前後関係によって明確に否定されない限り、単数形と複数形の両方を含むと解釈されたい。本明細書における値の範囲の列挙は単に、その範囲に含まれる別個の値それぞれを個別に指す省略表現方法として機能するように意図される。本明細書中で別段の定めのない限り、個々の値はそれぞれ、あたかもそれが本明細書で個々に列挙されるかのように本明細書に組み込まれる。本明細書で別段の定めのない限り、または前後関係によって明確に否定されない限り、本明細書に記載されるすべての方法は、任意の適切な順で実行することができる。本明細書に提供される、あらゆるすべての例、または例示的な語(例えば「など(such as)」)の使用は、本発明をより良く例示するように意図されているにすぎず、他に要求されない本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中の語はいずれも、発明の実施に不可欠で請求項に記載されていない要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0124】
本明細書に開示される本発明の代替的な要素または実施形態のグループ分けは、限定的なものとして解釈されるべきではない。各グループのメンバーは、個々に、またはグループの他のメンバーもしくは本明細書で見出される他の要素とのあらゆる組合せで言及され、かつ請求されることがある。グループの1または複数のメンバーは、利便性および/または特許性を理由にグループに含まれ得る、または削除され得ることが予想される。そのような包含または欠失が生じる場合、本明細書は、修飾されるようなグループを含むと認められ、故に、添付の特許請求の範囲に使用されるすべてのマーカッシュグループの書面による明細を満たす。
【0125】
発明の特定の実施形態が本明細書に記載され、発明を実行するための、発明者に知られる最良の様式が含まれている。当然ながら、これら記載の実施形態に対する変形は、前述の記載を読むことで、当業者に明らかとなろう。発明者は、当業者がそのような変形を適切なものとして利用することを予測し、本明細書に具体的に記載されるもの以外の方法で発明が実施されることを意図している。したがって、本発明は、準拠法によって許容されるように、添付の特許請求の範囲に記載された主題に対する修飾物や等価物をすべて含む。さらに、本明細書中で別段の定めがないかまたは前後関係によって明確に否定されない限り、すべての可能な変形における上記の要素のあらゆる組合せは、本発明に包含される。
【0126】
本明細書に開示される特定の実施形態は、言語からなる、または言語から本質的になる特許請求の範囲において、さらに限定されることがある。特許請求の範囲で使用するとき、出願時のもの、または補正を加えたもののいずれかで、推移の用語「からなる」は、特許請求の範囲で具体化されないあらゆる要素、工程、または成分を排除する。推移の用語「から本質的になる」は、特定された材料または工程、および根本的で新規な特徴に実質的に影響しないものにまで特許請求の範囲を限定する。そのようにして請求項に係る発明の実施形態は、本明細書において本質的または明確に記載され、利用可能となる。
【0127】
さらに、本明細書の至る所で特許および刊行物への多数の参照がなされている。上記の参照および刊行物のそれぞれは、その全体を参照によって個別に本明細書に援用される。
【0128】
最後に、本明細書に開示される発明の実施形態は、本発明の原理を例示することを理解されたい。利用され得る他の修正は、本発明の範囲内である。ゆえに、非限定的な例として、本発明の代替的な構成は、本明細書の教示に従って利用され得る。したがって、本発明は、正確に示された記載されたものに限定されない。
【配列表】
【国際調査報告】