(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】敗血症の治療のためのクロマノール、キノン又はヒドロキノン化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 311/72 20060101AFI20230704BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20230704BHJP
C07D 405/12 20060101ALI20230704BHJP
C07D 295/185 20060101ALI20230704BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230704BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230704BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230704BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230704BHJP
A61K 31/453 20060101ALI20230704BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C07D311/72 101
A61K31/353
C07D405/12 CSP
C07D295/185
A61P31/04
A61P11/00
A61P9/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P25/00
A61P1/00
A61K31/453
A61K31/496
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574167
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 NL2021050351
(87)【国際公開番号】W WO2021246868
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515169186
【氏名又は名称】スルファテック・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Sulfateq B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボウマ,ヤルマル・ローランド
(72)【発明者】
【氏名】クレニング,グイド
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング,ロベルト・ヘンク
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・フラーフ,アドリアヌス・コルネリス
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC79
4C063DD10
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA08
4C086BC21
4C086BC50
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA34
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4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、敗血症、及び敗血症によって誘発される臓器機能不全の治療のための特定のクロマノール、キノン、又はヒドロキノン化合物、及びそれらの誘導体に関する。具体的には、本発明は、S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン、及びS-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノンから選択されるクロマノール化合物、及びその薬学的に許容される塩に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症の治療又は予防に使用するための、式(I)若しくは(II)による化合物、式(II)によるヒドロキノン類似体、又はその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
【化2】
-式中、R1が、水素、又は生体組織において除去され得るプロドラッグ部分を表し、
-i.R2及びR3が、それらが結合しているN原子と一緒に、1~4個のN、O、若しくはS原子を有する、飽和若しくは不飽和の非芳香族の、任意に置換された5~8員環を形成し、R2及びR3が、一緒に3~12個の炭素原子を含むか、
ii.又はR2が、水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3が、窒素若しくは酸素で任意に置換されたアルキル基であり、前記アルキル基が、3~12個の炭素原子を含み、R3における前記アルキル基が、環中に窒素若しくは酸素原子を含み得、直鎖状及び/若しくは分岐状の置換基、並びに1つ以上のエチレン性不飽和を含み得る1つ以上の非芳香族環状構造を含むか、
iii.又はR2が、水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3が、窒素若しくは酸素で任意に置換されたアリール基若しくはアリールアルキル基であり、R3が6~14個の炭素原子を含み、R3が、環中に窒素若しくは酸素原子を含み得、直鎖状及び/若しくは分岐状の置換基、並びに1つ以上のエチレン性不飽和を含み得る1つ以上の芳香族及び/若しくは非芳香族環状構造を含み、前記式(I)若しくは式(II)による化合物が遊離塩基として400Da未満の分子量を有する、化合物、ヒドロキノン類似体、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
R1が水素であるか、又は6-酸素と一緒に2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
前記窒素が、アミン、四級アミン、グアニジン、若しくはイミンであり得、酸素が、ヒドロキシル、カルボニル若しくはカルボン酸であり、かつ/又は酸素及び窒素が一緒になって、アミド、尿素、若しくはカルバメート基を形成する、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
式(I)によるか、又は式(II)によるいずれかの化合物において、R2及びR3が、それらが結合している前記N原子と一緒に、追加のN原子を組み入れる飽和環を形成し、この環が、非置換であるか、又はアルコール、若しくは1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記化合物が、式Iによる化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
R2及びR3が、それらが結合している前記N原子と一緒に、1つの追加のアミン基を含む5~7員環を形成し、この環が、任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換されている、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
R2が、水素原子であり、R3が、4~7個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、この環が、アルキル基、アルコール基、又は酸素、カルボン酸若しくはアミン基を含み得る1~4個の炭素原子を有する基で置換され得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記化合物が、式IIによる化合物であり、式中、R2が、水素原子であり、R3が、4~6個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する環状構造を含み、この環が、任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換されている、請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記化合物が、ラセミ混合物として、又はそのエナンチオマーのうちの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、又は(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記化合物が、SUL-109のS-エナンチオマー:S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-138)、又はその薬学的に許容される塩である、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記化合物が、SUL-121のS-エナンチオマー:S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-151)、又はその薬学的に許容される塩である、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
選択肢(i)及び(ii)に定義される、前記式(I)又は式(II)による化合物が、500Da未満、好ましくは450Da未満、最も好ましくは400Da未満の分子量を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
前記使用が、感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全の治療又は予防のためである、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
前記臓器が、肺、心臓及び血管、肝臓、腎臓、脳、又は腸のうちの1つ以上であり、好ましくは腎臓である、請求項13に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
前記治療又は予防が、敗血症を治療するための1つ以上の一般的な手段との併用療法で行われる、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.
本発明は、敗血症の治療又は予防のためのクロマノール化合物及びその誘導体に関する。本発明は更に、敗血症によって誘発される臓器機能不全の治療又は予防のためのクロマノール化合物及びその誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
II.
敗血症は、感染に対する有害な全身性炎症反応である。これは、世界中の罹患率と死亡率の主な原因である(Rudd et al.,Lancet 2020;395:200-211)。敗血症は現在、感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる、生命を脅かす臓器機能不全と定義されている。最も重篤な形態の敗血症は、多臓器機能不全を引き起こし、重度の免疫機能障害と異化作用を特徴とする重大な病気の状態を引き起こす可能性がある(Gotts&Matthey,BMJ 2016;353:il585)。
【0003】
抗生物質に重点を置き、感染源を根絶し、血圧、臓器の血流、及び換気をサポートする敗血症の現在の治療法は、敗血症に関連する死亡率を減らす限られた効果しか示していない。現在の治療戦略を改善するための努力にもかかわらず、先進国における敗血症の院内死亡率は依然として約20%のままである(Seymour et al.,N.Engl.J.Med.2017;376:2235-2244;Fleischmann-Struzek et al.Intensive Care Med.2018 https://doi.org/10.1007/s00134-018-5377-4)。
【0004】
敗血症反応は通常、微生物感染で始まる。リポ多糖類(LPS)、ペプチドグリカン、リポテイコ酸、非メチル化CpG DNAなどの微生物成分がトール様受容体(TLR)によって認識されると、自然免疫応答が急速に活性化され、グルココルチコイド、カテコールアミン、及び腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、IL-6などの近位炎症性サイトカインを含む様々な体液性メディエーターが放出される。この炎症誘発性状態は、全身性炎症反応症候群(SIRS)であると定義されている。
【0005】
炎症性サイトカインの過剰な産生と、一酸化窒素、血小板活性化因子、プロスタグランジンなどのより遠位のメディエーターの誘発は、内皮の変化と凝固促進状態の誘発に関与しており、低血圧、不十分な臓器灌流、及び多臓器不全症候群(MODS)に伴う壊死性細胞死を引き起こす。
【0006】
多臓器不全症候群(MODS)は、敗血症の最も致命的な合併症の1つとして特定されている。全身性炎症反応の様々な段階を標的とする多くの薬剤が長年にわたって開発されてきたが、これらのほとんどは臨床試験でほとんど又はまったく効果を示していない。
【0007】
WO2019/172766A1は、例えば敗血症によって引き起こされる急性腎障害の症状の予防、治療、治癒、又は改善のためのアルカリホスファターゼの使用を記載している。
【0008】
WO2017/220810A1は、シラスタチンがβ-ラクタム系抗生物質ではない別の薬物と組み合わせて投与されるという条件付きで、哺乳動物対象における敗血症の治療又は予防におけるシラスタチンの使用を記載している。
【0009】
US6231894は、一酸化窒素合成酵素が組織損傷を引き起こす活性酸素産生に寄与する障害の治療のための多くの異なる化合物の使用を記載している。これらの化合物のほとんどはアルギニン誘導体である。提案された化合物の1つはBN80933であり、これは一酸化窒素合成酵素とNO供給化合物の電子伝達反応をブロックする一酸化窒素合成酵素阻害剤であると説明されている。化合物BN80933の構造は次のとおりである。
【化1】
【0010】
敗血症はUS6231894で言及されているが、以下の実験セクション(実施例5)に示されるように、化合物はミトコンドリアレベルではほとんど効果がないように見える。
【0011】
敗血症の治療のための新しい化合物が依然として必要とされている。
【0012】
本発明の目的は、敗血症の治療又は予防のための化合物を提供すること、特に、腎機能障害などの感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全の治療又は予防のための化合物を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2019/172766号
【特許文献2】国際公開第2017/220810号
【特許文献3】米国特許第6231894号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rudd et al.,Lancet 2020;395:200-211
【非特許文献2】Gotts&Matthey,BMJ 2016;353:il585
【非特許文献3】Seymour et al.,N.Engl.J.Med.2017;376:2235-2244
【非特許文献4】Fleischmann-Struzek etal.Intensive Care Med.2018 https://doi.org/10.1007/s00134-018-5377-4
【発明の概要】
【0015】
III.
上記の目的は、特定のクロマノール、キノン又はヒドロキノン化合物を提供することによって満たされる。
【0016】
上記の目的は、敗血症の治療又は予防に使用するための、式(I)、(II)による化合物、式(II)のヒドロキノン類似体、又はその薬学的に許容される塩を提供することにより、本発明によって達成される。
【化2】
-式中、R1が、水素、又は生体組織において除去され得るプロドラッグ部分を表し、
-i.R2及びR3が、それらが結合しているN原子と一緒に、1~4個のN、O、若しくはS原子を有する、飽和若しくは不飽和の非芳香族の、任意に置換された5~8員環を形成し、R2及びR3が、一緒に3~12個の炭素原子を含むか、
ii.又はR2が、水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3が、窒素若しくは酸素で任意に置換されたアルキル基であり、前記アルキル基が、3~12個の炭素原子を含み、R3における前記アルキル基が、環中に窒素若しくは酸素原子を含み得、直鎖状及び/若しくは分岐状の置換基、並びに1つ以上のエチレン性不飽和を含み得る1つ以上の非芳香族環状構造を含むか、
iii.又はR2は水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3は窒素若しくは酸素で任意に置換されたアリール基若しくはアリールアルキル基であり、R3は6~14個の炭素原子を含み、R3は環中に窒素若しくは酸素原子を含み得、直鎖状及び/若しくは分岐状の置換基、並びに1つ以上のエチレン性不飽和を含み得る1つ以上の芳香族及び/若しくは非芳香族環状構造を含み、式(I)若しくは式(II)による化合物が遊離塩基として400Da未満の分子量を有する。
【0017】
本発明の場合、式(II)による化合物は、水素化キノン(すなわち、ヒドロキノン)類似体を含むが、安定性の観点からキノン誘導体が好ましい。
【0018】
好ましい実施形態では、窒素は、アミン、四級アミン、グアニジン若しくはイミンであり得、酸素は、ヒドロキシル、カルボニル若しくはカルボン酸であり、かつ/又は酸素及び窒素が一緒になって、アミド、尿素、若しくはカルバメート基を形成し得る。
【0019】
好ましい実施形態では、式(I)のR1は水素であるか、又は6-酸素と一緒に2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する。
【0020】
式(I)によるか、又は式(II)によるいずれかの化合物の好ましい実施形態では、R2及びR3は、それらが結合しているN原子と一緒に、追加のN原子を組み入れる飽和環を形成し、この環は、非置換であるか、又はアルコール、若しくはエチロール(ethylol)などの1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換されている。
【0021】
別の好ましい実施形態では、R2が、水素原子であり、R3が、4~7個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、この環が、アルキル基、アルコール基、又は酸素、カルボン酸、若しくはアミン基を含み得る1~4個の炭素原子を有する基で置換され得る。
【0022】
別の好ましい実施形態では、化合物は、式(II)による化合物であり、R2は、水素原子であり、R3は、4~6個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する環状構造を含み、この環は、非置換であるか、又はアルコール、若しくはエチロールなどの1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換され、好ましくは任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換される。
【0023】
別の好ましい実施形態では、化合物は、式(I)による化合物であり、R2は、水素原子であり、R3は、4~7個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、この環は、非置換であるか、又はアルコール、若しくはエチロールなどの1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換され、好ましくは任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換される。
【0024】
別の好ましい実施形態では、R3は、窒素又は酸素で任意に置換されたアリール基又はアリールアルキル基であり、R3は、6~10個の炭素原子を含み、R3は、環中に1個以上の窒素原子を含み得、1個又は2個の窒素及び/又は酸素原子で任意に置換された直鎖状及び/又は分岐状の脂肪族基を含み得る1つの芳香環構造を含む。
【0025】
より好ましくは、R2及びR3は芳香環を含まない。
【0026】
更に別の好ましい実施形態によれば、化合物は、ラセミ混合物として、又はそのエナンチオマーのうちの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、又は(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容される塩である。
【0027】
最も好ましい実施形態では、化合物は、SUL-109のS-エナンチオマー、すなわち、S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-138)、又はSUL-121のS-エナンチオマー、すなわちS-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-151)、又はその薬学的に許容される塩である。
【0028】
本発明による好ましい実施形態では、式(I)又は式(II)によるいずれかの化合物は、(遊離塩基として)500Da未満、より好ましくは450Da未満、更に最も好ましくは400Da未満の分子量を有する。
【0029】
本発明による好ましい実施形態では、式(I)又は式(II)によるいずれかの化合物は、臓器系における敗血症の治療又は予防に使用するためのものであり、臓器は、肺、心臓及び血管、肝臓、腎臓、脳、又は腸である。
【0030】
本発明によるより好ましい実施形態では、式(I)又は式(II)によるいずれかの化合物は、感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全、特に、敗血症によって引き起こされる腎臓の臓器機能不全の治療又は予防に使用するためのものである。
【0031】
急性腎障害は敗血症によって最も頻繁に引き起こされるため、腎臓は敗血症の重要な臓器であると思われる。同様に、急性腎障害の発生は、他の臓器の機能不全、及び3倍高い院内死亡率と強く関連している。更に、急性腎障害は、末期腎疾患を発症するリスクの増加に関連して、敗血症後に慢性腎疾患を発症するリスクを9倍増加させる。したがって、急性肝障害の重症度を予防又は軽減することは、敗血症の治療における主な目標の1つであるが、これを達成するのは非常に困難であることが示される。
【0032】
敗血症の予防又は治療における本発明による使用のための化合物は、一般に、抗生物質及び/又は他のケアの標準治療に加えて、補助療法として使用される(前述のGottsを参照)。
【0033】
臓器の生存率の向上は、敗血症の短期的な生存だけでなく、長期的にも非常に有益であることが判明する場合がある。長期生存率の重要性が高まっている。過去10年間で致死率は低下したが、長期罹患率の増加のリスク、特に(致命的な)心血管イベントの大きなリスクにさらされている敗血症生存者の数が増加している。その結果、敗血症後の長期生存率は、敗血症後5年で50%未満である。
【0034】
現在発明されている治療法は、長期生存率を大幅に改善することが期待される。
【0035】
IV.
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】SUL-138の有無にかかわらず、標準的な盲腸結紮及び穿刺(CLP)モデルで敗血症を誘発した後のマウスの剣状突起温度を示している。
【
図2】SUL-138で治療した場合としない場合のCLP誘発後のマウスにおけるサイトカイン(IL-6、TNFα、及びIL12)の血漿レベルを示している。
【
図3】腎機能のバイオマーカーである血漿中のNGALと尿素を測定することにより、SUL-138による治療に応じて、マウスのCLP誘発性腎機能障害又はその予防を示している。
【
図4】SUL-138による治療の有無にかかわらず、マウスのCLP誘発性腎臓炎症を、腎臓における多くのマーカーのRNAの発現によって示している。
【
図5】キイロショウジョウバエにおける敗血症誘発後の生存率及び走地性に対するSUL-151の効果を示している。
【
図6】インビトロでのLPS誘発ミトコンドリア機能障害及び細胞死に対するSUL-138の効果を示している。
【
図7A】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の細胞及びミトコンドリア過酸化物のNO産生とスーパーオキシド産生を比較する。
【
図7B】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の細胞及びミトコンドリア過酸化物のNO産生とスーパーオキシド産生を比較する。
【
図7C】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の細胞及びミトコンドリア過酸化物のNO産生とスーパーオキシド産生を比較する。
【
図7D】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の細胞及びミトコンドリア過酸化物のNO産生とスーパーオキシド産生を比較する。
【
図8A】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の内皮炎症活性化、及び低体温再加温ストレス後の内皮細胞生存率を比較する。
【
図8B】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の内皮炎症活性化、及び低体温再加温ストレス後の内皮細胞生存率を比較する。
【
図8C】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の内皮炎症活性化、及び低体温再加温ストレス後の内皮細胞生存率を比較する。
【
図8D】BN-80933、SUL-138、又はSUL-150の内皮炎症活性化、及び低体温再加温ストレス後の内皮細胞生存率を比較する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
V.
本発明の目的である、敗血症の治療又は予防のための化合物を提供すること、特に、腎機能障害などの感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全の治療又は予防のための化合物を提供することは、敗血症の治療又は予防に使用するための、上記式(I)若しくは(II)による化合物、又はその薬学的に許容される塩を提供することにより達成される。
【0038】
本発明による、より好ましい実施形態では、式(I)又は式(II)によるいずれかの化合物は、感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全の治療又は予防に使用するためのものである。
【0039】
損傷及び/又は機能不全の影響を受けやすい器官は、肺、心臓、及び血管、肝臓、腎臓、脳、又は腸のうちの1つ以上であり得る。
【0040】
本発明による化合物は、敗血症によって引き起こされる腎臓の臓器機能不全を治療又は予防するのに特に適している。
【0041】
本発明によるクロマノール、キノン、又はヒドロキノン化合物による治療又は予防は、敗血症を治療するための1つ以上の一般的な他の手段との併用療法の一部であることが好ましい。
【0042】
R1は、人体で容易に除去される置換基であり得、したがって化合物はプロドラッグである。R1は、例えば、アミノ酸誘導体又はエステル誘導体であり得、一般に、100ダルトン未満の分子量を有する。
【0043】
好ましい実施形態では、式(I)のR1は水素であるか、又は6-酸素と一緒に2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する。エステルは、1つ以上のエーテル又はアルコール基を含むことができる。適切なエステルは、酢酸エステル、酪酸エステル、3-ヒドロキシ酪酸エステルなどである。
【0044】
選択肢(i)の好ましい実施形態では、式(I)又は式(II)によるいずれかの化合物は、R2及びR3が、それらが結合しているN原子と一緒に、3~6個の炭素原子を有し、1つの追加のN原子を組み入れる飽和環を形成し、これは、酸素、カルボン酸、又はアミン基を含み得る1~4個の炭素原子で置換され得る。
【0045】
より好ましくは、R2及びR3は、それらが結合しているN原子と一緒に、1つの追加のアミン基を含む5~7員環を形成し、この環は、任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換される。
【0046】
上記の選択肢(i)において、R2及びR3は合わせて、3個以上で12個以下の炭素原子を有する。
【0047】
上記の選択肢(ii)において、好ましくは、R3は、3個以上で12個以下の炭素原子を有する。
【0048】
選択肢(ii)の別の好ましい実施形態では、R2は、水素原子であり、R3は、3~6個の炭素原子を有し、1個の窒素原子を有する環状構造を含む。
【0049】
より好ましくは、選択肢(ii)において、R2は、水素原子であり、R3は、1つの追加のアミン基を含む5~7員環を含み、この環は、アミド窒素に結合し、任意にメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換される。
【0050】
いずれの場合も、環(R2及びR3、又はR3のみで形成される環状構造)は、非置換であり得、又は1~4個の炭素原子を有するアルキル、アルコール、若しくはエチロールなどの1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換され得る。
【0051】
選択肢(iii)による別の好ましい実施形態において、R3は、窒素又は酸素で任意に置換されたアリール基又はアリールアルキル基であり、R3は10個以下の炭素原子を含む。好ましい実施形態において、R3は、環中に1個以上の窒素原子を含み得、1個又は2個、好ましくは1個のカルボン酸、エステル、又はアミド基で任意に置換された直鎖状及び/又は分岐状の脂肪族基を含み得る1つの芳香環構造を含む。
【0052】
本発明による好ましい実施形態では、式(I)、又は式(II)によるいずれかの化合物は、(遊離塩基として)500Da未満、より好ましくは450Da未満、更に最も好ましくは400Da未満の分子量を有する。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明に従って使用するための化合物は、式Iによるクロマノール化合物である。
【0054】
特定のクロマノール化合物は、WO2014/098586に記載されている。詳細に説明されている化合物には、SUL-XXX(XXXは2桁又は3桁の数字)を指す略語がある。これらの化合物の多くは、ラセミ混合物であるが、一部のエナンチオマーも試験されている。本発明によるクロマノール化合物を調製するための適切な方法は、WO2014/098586又はWO2014/011047に記載されている。
【0055】
WO2017/060432A1は、2-ヒドロキシ-2-メチル-4-(3,5,6-トリメチル-1,4-ベンゾキノン-2-イル)-ブタン酸のアミド誘導体、及びそのような化合物の製造方法を開示している。
【0056】
水素化キノン誘導体は、キノン構造の水素化によって容易に調製することができる。
【0057】
更に別の好ましい実施形態によれば、化合物は、ラセミ混合物として、又はそのエナンチオマーのうちの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、又は(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容される塩である。
【0058】
最も好ましい実施形態では、化合物は、SUL-109のS-エナンチオマー、すなわち、S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-138)、又はSUL-121のS-エナンチオマー、すなわちS-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-151)、又はその薬学的に許容される塩である。
【0059】
薬学的に許容される塩中の対イオンは、当技術分野で知られている対イオンであり得る。好ましくは、化合物は、プロトン化することができる少なくとも1つの塩基性窒素、アミンを有する。対イオンは、好ましくは、塩化物、硫酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩などのハロゲン、最も好ましくは塩化物である。
【0060】
これらの化合物は、ラセミ混合物として、又は実質的に純粋なエナンチオマー形態で有効である。化合物は、1つ以上のキラル中心、一般的に1つ又は2つを有する。
【0061】
実験は、敗血症における有効性について、エナンチオマー形態が強力な決定因子ではないことを示している。しかし、一般的な規制上の理由から、好ましくは、化合物は、実質的に鏡像異性的に純粋な化合物である。実質的に鏡像異性的に純粋なものは、約95%以上の鏡像体過剰率、より好ましくは約98%の鏡像体過剰率、最も好ましくは約99%以上の鏡像体過剰率である。また、化合物に複数のキラル中心が含まれている場合は、これらの量が適用される。
【0062】
化合物は、好ましくは、敗血症の治療又は予防を達成するために有効量で使用される。
【0063】
治療又は予防という用語には、敗血症の症状の改善及び/又は臓器機能の改善を含む敗血症の進行の減少が含まれる。
【0064】
好ましくは、本発明による化合物は、哺乳動物の臓器における敗血症の治療又は予防に使用するためのものであり、哺乳動物は好ましくはヒトである。
【0065】
本発明によるより好ましい実施形態では、式(I)、又は式(II)によるいずれかの化合物は、感染に対する宿主の反応の調節不全によって引き起こされる臓器機能不全の治療又は予防に使用するためのものである。
【0066】
最も好ましい実施形態では、本発明による化合物は、感染によって引き起こされる腎機能障害の治療又は予防に使用するためのものである。
【0067】
感染症は体外からの原因と考えられ、自己免疫疾患などと対比される。感染症の一般的な原因は、細菌、真菌、又はウイルスの蔓延である。細菌及び真菌の感染源が最も一般的である。感染に対する宿主の反応の調節不全を引き起こすウイルスの最近の例は、COVID-19である。呼吸機能不全による入院の際、敗血症が起こる前に、本発明による化合物を予防的に投与することができる。
【0068】
効果は、一般的に体液中の約1μMの量で観察されるが、より多くの量が使用されることが好ましい。好ましい量は、約10μM以上、より好ましくは約20μM以上のインビボ又はインビトロの濃度である。一般的に、ヒトにおける濃度は、約200μM以下で十分かつ安全である。
【0069】
ヒトが使用する場合、これは、30Lの分布容積、100%の有効性、及び約1μMの濃度を想定すると、約10mg以上の投与量を意味する。好ましい量は、約10μMの濃度をもたらし、そのためには、約100mg以上の投与量が適切であろう。したがって、好ましくは、約20mg以上、好ましくは50mg以上、好ましくは100mg以上の剤形が適切である。
【0070】
一般的に、固形、経口剤形は、賦形剤を可能にするために、最大で約500mgの化合物、好ましくは約450mg以下を含む。
【0071】
例えば静脈内などの非経口投与、又は他の液体投与形態では、より多くの量を投与することができる。
【0072】
使用できる投与量の例は、有効量の本発明の化合物の0.2mg/kg以上の投与量であり、例えば、好ましくは約1mg/kg~約100mg/kgの範囲内、又は約2mg/kg~約40mg/kg体重の範囲内、又は約3mg/kg~約30mg/kg体重の範囲内、又は約4mg/kg~約15mg/kg体重の範囲内である。本発明の化合物は、1日1回の用量で投与することができ、又は総1日投与量は、1日2、3又は4回の分割投与で投与することができる。
【0073】
本明細書に記載の化合物は、薬学的又は生理学的に許容される賦形剤担体、及びビヒクルなどの添加剤を配合することにより、医薬組成物として調製することができる。
【0074】
適切な薬学的又は生理学的に許容される賦形剤、担体及びビヒクルには、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖類、二糖類、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、デキストロース、ヒドロキシプロピル-P-シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスなど、それらの任意の2つ以上の組み合わせなどの処理剤、薬物送達調節剤及び増強剤が挙げられる。他の適切な薬学的に許容される賦形剤は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences,”Mack Pub.Co.,New Jersey(1991)に記載されている。
【0075】
医薬組成物は、好ましくは、単位用量製剤を含み、単位用量は、治療効果を有するのに十分な用量である。単位用量は、障害の治療又は抑制の過程で定期的に投与される用量であり得る。
【0076】
本発明の化合物は、必要に応じて、従来の無毒の薬学的又は生理学的に許容される担体、アジュバント、及びビヒクルを含む投与単位製剤において、経腸的、経口的、非経口的、舌下的、吸入(例えば、ミスト又はスプレーとして)によって、直腸に、又は局所的に投与され得る。本明細書で使用される非経口的という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、足根内注射、又は注入手法を含む。化合物は、所望の投与経路に適した薬学的に許容される担体、アジュバント、及びビヒクルと混合される。
【0077】
一般的に、経口投与は、好ましい投与経路であり、経口投与に適した製剤が好ましい製剤である。
【0078】
敗血症は急性疾患であることが多いため、患者が敗血症を発症するリスクがある場合には経口剤形が有用であり、そのような経口剤形は当該患者に予防的に投与される。
【0079】
しかし、特に急性型の敗血症では、患者はしばしば錠剤、丸薬などの経口投与には重症であるため、静脈内注射剤及び/又は持続的な静脈内点滴が好ましい。更に、敗血症は、与えられた薬の経口利用可能性に実質的に影響を与えることがある。血漿レベルの確実性は、一般に静脈内又は他の非経口投与によってのみ達成することができる。
【0080】
本明細書で使用するために記載された化合物は、固体形態、液体形態、エアロゾル形態、又は錠剤、丸剤、散剤混合物、カプセル剤、顆粒剤、注射液、クリーム、液剤、坐剤、浣腸、結腸洗浄、乳剤、分散液、食品プレミックスの形態、及びその他の適切な形態で投与することができる。化合物はまた、リポソーム製剤で投与することができる。
【0081】
注射用製剤、例えば、無菌の注射用水性又は油性の懸濁剤は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って調製され得る。無菌の注射用製剤はまた、例えば、プロピレングリコール中の液剤として、無毒の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌の注射用液剤又は懸濁剤であり得る。使用できる許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌の固定油は、従来は、溶媒又は懸濁媒として使用されている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の刺激の少ない固定油を使用することができる。更に、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤の調製に使用されている。
【0082】
薬物の直腸投与用の坐剤は、薬物を、室温では固体であるが直腸温度では液体であり、したがって直腸で溶融して薬物を放出する、ココアバター及びポリエチレングリコールなどの適切な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができる。
【0083】
経口投与のための固体剤形には、カプセル、錠剤、丸薬、顆粒剤、散剤、顆粒が含まれ得る。そのような固体剤形において、活性化合物は、スクロース、ラクトース、又はデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合され得る。そのような剤形はまた、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を含み得る。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、剤形はまた、緩衝剤を含み得る。錠剤及び丸剤は、腸溶性コーティングで更に調製することができる。
【0084】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、及び水などの当技術分野で一般的に使用されている不活性希釈剤を含むエリキシル剤が含まれ得る。そのような組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、シクロデキストリン、甘味料、香料、及び芳香剤などのアジュバントを含み得る。
【0085】
単回投与形態を生成するために担体材料と組み合わせ得る有効成分の量は、有効成分が投与される宿主及び特定の投与様式に応じて変化するであろう。選択された単位投与量は、通常、血液、組織、臓器、又は体の他の標的領域における薬物の定義された最終濃度を提供するために製造及び投与される。所与の状況に対する有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医又は当業者の技能及び判断の範囲内である。
【0086】
本発明を以下の実施例を使用して更に説明する。実施例では、図を参照している。
【0087】
VI.
【実施例】
【0088】
敗血症の治療又は予防に対する本発明による化合物の有効性は、インビボでマウス及びショウジョウバエで、インビトロでHUVA、HUVEC又はNRK細胞で試験された。(実施例1-4)
【0089】
実施例1;マウス
実験
動物実験は、the Institutional Animal Care and Use Committee of the University Medical Center Groningenによって承認された(IvD nr.16593)。
【0090】
オスのC57/BL6Jマウスは、室温で12時間-12時間の明暗サイクルで飼育された。動物には、標準的な動物用実験用飼料を使用して自由に餌を与え、いつでも飲料水を自由に摂取できるようにした。
【0091】
敗血症を誘発するために、標準的な盲腸結紮及び穿刺(CLP)モデルが使用された。キシラジン/ケタミン(100/10mg/kg)の皮下注射により動物を麻酔し、続いて鎮痛剤としてブプレノルフィン(0.1mg/kg)を投与した。足のピンチと目の反射に対する反応の欠如によって麻酔が確認された後、1cmの正中切開が行われる前に、ポビドンヨード溶液を使用して腹部を剃り、洗浄し、除菌した。盲腸は、遠位極と盲腸の基部との間の距離の半分で6-0縫合糸で結紮され、21ゲージ針(腸間膜から反腸間膜方向への「貫通」)で1回穿刺され、これは「中等度」の敗血症のモデルとして認められている。次に、少量の便(2~3mm)を押し出して、創傷の開存性を確保した。盲腸の位置を変え、それによって糞便が傷の縁にこぼれないように注意した後、腹部の筋肉組織に縫合を行い、皮膚に短い結節縫合をして腹部を閉じた。次に、1mlの生理食塩水(加温、0.9%NaCl皮下注射)を投与して、敗血症の発症により予想される相対体積の喪失を補った。
【0092】
マウスは26~28℃で回復した。広域抗生物質(イミペネム/シラスタチン、100mg/kg皮下注射)を、鎮痛薬(ブプレノルフィン、0.1mg/kg体重、皮下注射)とともに、手術の2時間後及び10時間後に投与した。
【0093】
盲腸が位置しているが穿刺されていない操作された動物のグループは、偽として機能した。
【0094】
更に、時間を一致させた麻酔を受けたが、手術を受けずに対照として機能した動物のグループが含まれていた。
【0095】
SUL-138処置群のマウスには、手術の2時間前と8時間後にSUL-138(生理食塩水に溶解、5mg/kg、皮下注射)を注射し、これらの時点で他のグループのマウスには等量の生理食塩水を注射した。
【0096】
マウスの剣状突起温度は、手順の8時間後及び24時間後に測定された。結果を
図1に示し、以下で説明する。
【0097】
処置の24時間後にマウスを屠殺した。安楽死時に、EDTA抗凝固処理された血液を1,600gで10mm遠心分離することにより血漿に分離し、30分間凝固させた後、3,000gで10分間遠心分離することにより血清に分離した。
【0098】
さらなる分析のために、血漿、血清、及び臓器を液体窒素で瞬間凍結した。
【0099】
全身性炎症に対する敗血症の重症度とSUL-138による治療の効果を定量化するために、メーカーの指示に従って、血漿中のTNFα、IL-6、及びIL-12のレベルを、Mouse DuoSet ELISA(それぞれDY410、DY406、及びD419、RnD-Systems)を使用して測定した。簡単に説明すると、ELISAプレート(DY990、RnD Systems)を100μL PBSで希釈した捕捉抗体で一晩コーティングした。プレートを洗浄バッファー(PBS中の0.05% Tween20;137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、pH7.2-7.4)で3回洗浄し、続いて300μLの試薬希釈液で1時間ブロッキングした(PBS中の1%プロブミンw/v)。洗浄を繰り返し、サンプルをウェルに加えた。血漿サンプルは、試薬希釈液でTNFα及びIL-12については10倍、IL-6については100倍に希釈した。室温で2時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、続いて試薬希釈液で希釈した100μLの検出抗体を各ウェルに加えた。再度、プレートを室温で2時間インキュベートした後、洗浄した。最後に、100μLの基質溶液(DY999、RnD Systems)を添加し、暗所で20分間インキュベートした後、50μLの停止液(2M H2SO4)を添加した。450nmに設定されたマイクロプレートリーダーを使用して光学密度(OD)を測定し、540nmでの読み取り値を補正として差し引いて精度を高めた。結果を
図2に示し、以下で説明する。
【0100】
更に、血清中のNGAL及び尿素の量を測定した。NGALと尿素は、マウスの腎障害の一般的なバイオマーカーである。結果を
図3に示し、以下で説明する。
【0101】
IL-6、TNF-α、IL-1β、ICAMなどの腎臓における炎症誘発性サイトカイン及び接着分子の発現を評価するために、Nucleospin RNA(Machery-Nagel、Duren,Germany)を用いて約30mgの腎臓組織からRNAを分離し、ナノドロップ分光光度計ND-1000を使用して定量化し、各サンプルの0.5μgのRNAを使用してコピーDNA(cDNA)に変換した。細胞からのRNA分離には、キットの溶解バッファーの代わりに、溶解バッファーとしてTRIzolとクロロホルムをわずかに変更して同じキットを使用した。オリゴヌクレオチドプライマーは、NCBI Primer Blast及びClone Manager(付録を参照)を使用して設計され、qRT-PCRを使用した効率、融解温度及び曲線、並びにナイーブ及び酵素消化産物のゲル電気泳動上のサイズを評価することによって検証された。qRT-PCR増幅は、次の熱プロファイルを使用して実行された。すなわち、95°Cで2mm、続いて95°Cで15秒間、58°Cで30秒間、及び72°Cで30秒間の40サイクルである。全ての反応は三連で行い、各プライマーの標準曲線を使用した。結果を
図4に示し、以下で説明する。
【0102】
結果
図1は、チャレンジされていない対照に対するSUL-138を使用した場合と使用しない場合のCLPの誘発後のマウスの剣状突起温度を示している。
図1は、SUL-138で治療すると剣状突起温度が24時間後に回復する一方で、CLP手順が8時間及び24時間後に剣状突起温度の低下をもたらすことを示している。有意差は、対になっていない片側スチューデントT検定を使用して、CLP/生理食塩水に対するチャレンジされていない対照と、CLP/SUL-138に対するCLP/生理食塩水との間で24時間で計算される。図中の「*」は、有意差を示している。
【0103】
図2は、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、及びIL12)の血漿レベルが、SUL-138による治療によって、未治療の対照に近いレベルまで低下することを示している。有意差は、対になっていない片側スチューデントT検定を使用して、CLP/生理食塩水に対する対照と、CLP/生理食塩水に対する偽と、CLP/Sul-138に対するCLP/生理食塩水との間で計算される。TNF-αは明らかに低かったが、その差はT検定では有意に達しなかった。
【0104】
図3は、CLP誘発性腎機能障害がSUL-138による治療によって排除されることを示している。血清尿素(A)及びNGAL(B)レベルは敗血症で大幅に増加するが、これはSUL-138による治療によって排除される。CLPの前にSUL-138で治療された動物における血清尿素及びNGALレベルは、偽手術動物と差がなかった。有意差は、対になっていない片側スチューデントT検定を使用して、CLP/生理食塩水に対する対照と、CLP/生理食塩水に対する偽と、CLP/SUL-138に対するCLP/生理食塩水との間で計算される。
【0105】
図4は、CLP誘発性腎臓炎症がSUL-138による治療によって大幅に減少することを示している。CLPによって誘発された敗血症は、IL-6、TNF-α、IL-1β、ICAMなどの腎臓における炎症誘発性サイトカイン及び接着分子の発現をアップレギュレートした。SUL-138を用いたCLPによる敗血症の誘発前の動物の治療は、IL-6発現の上昇を完全に防止した(
図4Aを参照)。TNF-α、IL-1β、又はICAM(
図4B-D)は、未治療のCLP動物よりも低かったが、対になっていない片側スチューデントT検定を使用すると、統計的に有意な差はなかった。
【0106】
考察
敗血症の誘発後のマウスの体温の低下は、代謝恒常性の喪失を示しており、SUL-138で処理したマウスの24時間後の回復は、敗血症にもかかわらず代謝恒常性の回復を示唆している。
【0107】
IL-6及びIL-12の血漿レベルの増加は、CLPによって誘発された全身性炎症を示しているが、SULで治療した動物では両方のサイトカインがCLP後に有意に低下しており、炎症レベルが低下していることを示している。
【0108】
CLPの誘発後のNGALと尿素のレベルの増加は、急性腎機能障害を示している。NGALと尿素は、マウスの腎機能のバイオマーカーである。
図3は、SUL-138による治療により、マウスのCLP誘発性腎機能障害が排除されるか、少なくとも大幅に減少することを示している。
【0109】
腎臓におけるIL-6、TNF-α、IL-1β、及びICAMのRNA発現は、CLPの誘発後に増加し、腎臓における局所的な炎症反応を示している。Sul-138による治療はIL-6の発現を有意に減少させたが、他のマーカーはSUL-138による治療によって低下した。
【0110】
実施例2;キイロショウジョウバエ
実験
W1118ハエを飼育し、25°Cで12時間-12時間の明/暗サイクルで飼育した。ハエは、約5mLの標準的な酵母コーンミール培地を含むバイアルに保管された。ストックとして保持されたハエは、毎週新しいバイアルにひっくり返された。使用したイーストコーンミール培地は、Stocker and Gallantの「Drosophila Methods and Protocols」の指示に従って調製され、水1リットル当たりイースト100グラム、グルコース75グラム、寒天8グラム、コーンミール55グラム、小麦粉10グラムで構成されている。煮沸後、菌の増殖を防ぐためにリン酸とプロピオン酸を混合物に加えた。
【0111】
黄色ブドウ球菌(S.Aureus)を2.5%トリプシンソイブイヨン(TSB)中、37℃で連続回転(毎分200ラウンド)しながら、-80℃で維持された黄色ブドウ球菌グリセロールストックから、好気性雰囲気下で一晩、培養した。各実験について、実験の1日前に新鮮な培養物を調製した。細菌感染については、翌日、600nmで光学密度(OD)を測定した。清浄なTSBをOD=0.00として使用し、細菌培養物をPBSでOD=2.20に希釈した。次に、1.0mLの細菌培養物(OD=2.20)を14,000gで1分間遠心分離し、上清を捨て、細菌ペレットを1.0mL PBSに再懸濁した。適切な実験では、段階希釈(PBSでそれぞれ約1.05及び0.25の光学密度で5倍及び25倍希釈)を使用した。
【0112】
オスのハエ(生後3~5日)に、注射の直前にCO2パッド上で麻酔をかけた。タングステン針(直径0.25mm、Fine Science Tools、10130-10)を細菌懸濁液に浸し、ハエを胸部の側面(胸部の縫合前の盾板)にピンで刺した。偽ハエにはPBSのみを投与し、対照ハエは操作せず、CO2パッド上で麻酔したのみである。偽ハエには、針の血リンパコーティングを確保し、偽ハエの偶発的な細菌注入を防ぐために最初に注入された。ハエのサブグループは抗生物質で治療された。したがって、リネゾリドは、ハエ培地1mL当たり500μgの物質を溶解して経口投与された。様々な濃度の黄色ブドウ球菌で介入群をピン刺しした後、リネゾリド培地を含むバイアルにハエを入れた。
【0113】
48時間後、ハエを非抗生物質含有バイアルに導入した。細菌感染を誘発する効率を検証するために、250μL PBSで10匹のハエをホモジナイズして細菌負荷を決定した。短時間の遠心分離の後、上清を1/10、1/100、及び1/1000希釈でLuna-Bertam(LB)寒天プレートにプレーティングし、24時間後にチェックした。
【0114】
リネゾリドは、ハエの培地1mL当たり500μgの物質を溶解することにより、経口投与された。ピン刺し後、対照ハエ、偽手術されたハエ、及び様々な濃度の黄色ブドウ球菌を含む感染介入群、ハエをリネゾリド培地を含むバイアルに入れた。48時間後、ハエを非抗生物質含有バイアルに導入した。
【0115】
化合物SUL-151は、細菌注射と同時に胸腔内注射によって投与された。介入群には3mM SUL-151を、ビヒクルに感染したハエには1%DMSOを、細菌注射の直前に細菌溶液自体に溶解して投与した。
【0116】
ハエの健康状態のマーカーとして、負の走地性が研究された。したがって、15匹のハエのグループは、空のスチレンバイアル(高さ9.5cm)に移し替えられた。次に、最大9個のバイアルを、負の走地性用に設計された3Dプリント製のバイアルホルダーに入れた。ハエを5分間順応させた。次に、ワークトップに対してバイアルホルダーを3回軽く叩くことにより、ハエをバイアルの底に向かって軽く叩いた。デジタルカメラを使用して、最後に叩いてから5秒後に写真を撮った。この実験は、試行ごとに1分間の休止を挟んで5回繰り返された。ImageJを使用して、全てのハエが5秒以内に移動した距離を決定し、グループごとに5回の試行を平均した。
【0117】
更に、ハエの生存は、感染後24時間で、バイアル内の死んだハエを数える目視検査によってチェックした。
【0118】
結果
図5は、キイロショウジョウバエにおける敗血症誘発後の生存率(A)及び走地性(B)に対するSUL-151の効果を示している。24時間後の生存率は、SUL-151で治療されたハエの80%であったが、SUL治療なしの敗血症のハエではわずか42%であった(A)。走地性は、SUL(B)で前処置されたハエの敗血症の誘発後24時間及び48時間の両方で改善された。有意差は、対になっていない片側スチューデントT検定を使用して、敗血症/DMSOに対する対照と、敗血症/SUL-151に対する敗血症/DMSOとの間で計算される。
【0119】
考察
敗血症の誘発時の3mM SUL-151の注射は、敗血症の誘発後24時間及び48時間で走地性の改善をもたらし、死亡率は24時間で大幅に減少した。両方の測定値は、感染誘発性炎症に対するSUL151の有効性を示している。
【0120】
実施例3;内皮細胞
実験
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、RuG/UMCG Endothelial Cell Facility(内皮細胞施設)から入手した。臍帯の一次分離株を混合し、その後、20%熱不活化ウシ胎児血清(ThermoFisher Scientific,art.nr.10082147)、2mM 1-グルタミン(Life Technologies art.nr.25030)、5U/ml ヘパリン(Leo Pharmaceutical Products)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich art.nr.P4333)、及び(Sigma-Aldrich,art.nr.E2759)による50μg/ml EC成長因子補足剤で補充されるRPMI 1640(Lonza,art.nr.BE12-115F)からなるHUVEC培養培地で培養した。
【0121】
一次HUVECは、75cm2の組織培養フラスコ(Corning art.nr.430720U)内で37°C、5% CO2/95%空気下で培養された。HUVECは、継代8までの実験に使用された。実験は6ウェル(Corning art.nr.3506)又は96ウェル培養プレート(Corning,art.nr.3596)において、80%の集密度(コンフルエンシー)で行われた。細胞をLPS大腸菌0111:B4(Sigma-Aldrich,art.nr.L2630)により、異なる濃度で刺激した。細胞をトリプシン(Sigma-Aldrich,art.nr.25300054)により剥離した。全ての化合物をハンクス平衡塩類溶液(Lonza、art.nr.10-527F)に溶解した。
【0122】
HUVECは、LPS刺激の1時間前に添加された10マイクログラム/mlの量のSUL-138によりプレインキュベートされた。このようなプレインキュベーションは、インビトロモデルの標準である。
【0123】
膜電位は、JC-1(5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’-テトラエチル-イミダカルボシアニンヨウ化物)を用いて測定した。30分後にミトコンドリア膜電位を測定した。
【0124】
細胞及びミトコンドリアをインキュベートし、548/574nmの励起/発光率でSynergy H4マイクロプレートリーダー(Bio-Tek)で製造元のプロトコルに従って測定した。
【0125】
結果
図6は、SUL-138がインビトロでのLPS誘発ミトコンドリア機能障害及び細胞死から保護することを示している。
【0126】
図6Aは、HUVECの呼吸を示し、対照と比較して、10ug/mlのLPSで脱結合状態(CCCP)の減少を示している。SUL-138で治療されたLPSチャレンジHUVECは、非共役呼吸をほぼ回復する。
【0127】
図6Bは、MitoSOXによって測定された、ミトコンドリアの酸化ストレスのLPS誘発増加を示している。MitoSOXはミトコンドリアでのROS産生を測定するため、SUL-138はLPS誘発性ミトコンドリアの酸化ストレスを軽減する。
【0128】
図6Cは、HUVECでLPSを使用した48時間で細胞生存率が低下したのに対し、SUL-138では48時間後に細胞生存率が回復したことを示している。細胞死はCyquantによって測定された。
【0129】
有意差は、対になっていない片側スチューデントT検定を使用して、LPSに対する対照と、LPS/SUL-138に対するLPSとの間で計算される。
【0130】
考察
LPS処理内皮細胞に対して実施された実験は、細胞レベルでの敗血症がミトコンドリア機能障害を含み、これが本発明による化合物によって回復される一方で、全細胞生存率はSUL-138の使用によって有意に増加したことを示している。
【0131】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、本発明による化合物がLPS誘発ミトコンドリア機能障害及び細胞死から細胞を保護するため、敗血症の治療又は予防に使用できると考える。
【0132】
実施例4(いくつかのSUL化合物を用いたインビトロ試験)
次の化合物がテストされた。
【表1-1】
【表1-2】
【0133】
実験計画
HUVEC細胞培養
ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC、Lonza CC-2519)は、20%ウシ胎児血清、2mM グルタミン(Sigma-Aldrich)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich)及び50μg/ml ウシ下垂体抽出物(Invitrogen)を含むRPMI1640培地で1%ゼラチンをコーティングした培養用フラスコに維持させた。培養物が70%の集密度(コンフルエンシー)に達したとき、HUVECをトリプシン処理によって継代した。全ての実験において、HUVECは0.6・105細胞/cm2で播種し、24時間接着させた。
【0134】
NRK52E細胞培養
ラット腎臓上皮細胞(ATCC #CRL-1571)は、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich)を含むDMEM培地で維持された。NRK52E細胞は、培養物が70%の集密度(コンフルエンシー)に達したときに、トリプシン処理によって継代した。全ての実験で、NRK52E細胞を0.6・105細胞/cm2で播種し、24時間接着させた。
【0135】
エンドトキシン曝露後の炎症活性化
HUVEC及びNRK52E細胞をSUL化合物(10μM)で30分間プレインキュベートし、続いて標準的な培養条件下で24時間LPSに曝露した。細胞をtriZOL試薬(Invitrogen)で溶解し、製造者の指示に従って全RNAを単離した。FirstAid Reverse Transcription Kit(ThermoFisher)を使用して、サンプル当たり1μgの全RNAを逆転写した。ViiA7リアルタイムPCRシステム(ThermoFisher、Waltham,MA)において、iTaq Universal SYBR Green Supermix(Bio-Rad、Hercules、CA)、及び腫瘍壊死因子アルファに特異的なプライマー、インターロイキン1ベータ、インターロイキン-6、及びベータアクチンをローディングコントロールとして使用して、5ngの全RNAに相当するコピーDNAを増幅した。増幅は、95℃で30秒間、60℃で1分間を40サイクル行った。相対的なmRNA発現は
【数1】
として計算され、刺激されていない対照細胞(100%阻害)、及びビヒクル処理及びLPS曝露細胞(0%阻害)に対して正規化された。以下のプライマーを使用した。
【表2】
【0136】
統計的評価
全ての実験は、条件ごとに最低3連で行われた。個別の実験から得られたデータを、GraphPad Prism 9.0(GraphPad Software Inc、Ca)での評価に使用した。ANOVA及びそれに続くボンフェローニ事後分析を使用して、統計的有意性を計算した。0.05未満の確率値(p)は有意とみなされた。
【0137】
結果
内皮及び上皮の炎症性活性化。
【0138】
内皮炎症活性化は、敗血症時の炎症過程の調節に重要な役割を果たす。内皮細胞は、エンドトキシン又はその他の炎症誘発性分子によって引き起こされ、炎症性サイトカインの産生を開始し、その後、炎症性細胞を動員して補充し、炎症反応を引き起こす。
【0139】
内皮細胞及び腎臓上皮細胞は、炎症性サイトカインのベースライン遺伝子発現が非常に低く、LPSなどのエンドトキシンに曝露されると大幅に増加する。内皮細胞又は腎臓上皮細胞をSUL化合物(30mmで全て10μM)で前処理すると、LPSチャレンジの前に、様々な有効性で、次の表に示すように、炎症誘発性サイトカインTNFα、及びインターロイキンIL-1β及びIL-6のmRNA発現の誘発が妨げられる。
【表3】
【0140】
この表から、本発明によらない化合物は約35%以下の阻害率を示すが、本発明による化合物は約40%以上の阻害を示すことが明らかである。
【0141】
更に、SUL-150とSUL-151との比較は、効果がエナンチオマー配置に依存しないことを示している。SUL-138とSUL-138M2との比較は、式2による化合物はあまり好ましくないが、活性も示すことを示している。
【0142】
実施例5及び比較実験A
この研究では、NOの放出、細胞質及びミトコンドリアの酸化ストレスの阻害、炎症性シグナル伝達、並びに低体温再加温ストレス後の細胞生存に焦点を当てたインビトロ実験の範囲内で、SUL化合物SUL-138及びSUL-150(本発明による)の作用機序を、BN-80933(比較A、構造は上記の序文を参照)の作用機序と比較した。これらのインビトロアッセイは、指定された化合物の有効性を確立する前に使用されているため、それらの作用機序の適切な指標とみなされる。
【0143】
実験計画
HUVEC細胞培養
ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC、Lonza CC-2519)は、20%ウシ胎児血清、2mMグルタミン(Sigma-Aldrich)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich)及び50μg/mlウシ下垂体抽出物(Invitrogen)を含むRPMI1640培地で1%ゼラチンをコーティングした培養用フラスコに維持させた。培養物が70%の集密度(コンフルエンシー)に達したとき、HUVECをトリプシン処理によって継代した。全ての実験で、HUVECを0.6・105細胞/cm2で播種し、24時間接着させた。
【0144】
RAW264.7細胞培養
マウスマクロファージRAW264.7細胞(ATCC#TIB-71)を、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich)を含むDMEM培地で維持した。培養物が70%の集密度(コンフルエンシー)に達したとき、RAW264.7細胞をトリプシン処理によって継代した。全ての実験で、RAW264.7細胞を0.5・105細胞/cm2で播種し、24時間接着させた。
【0145】
NO産生の測定
製造元の指示に従って、Measure-IT(商標)High-Sensitivity Nitrite Assay Kit(#M36051、ThermoFisher)を使用して培養培地中の硝酸塩濃度を測定することにより、NOの細胞産生を概算した。産生されたNOは不安定で、半減期は2~30秒で、酸素分子と急速に反応して亜硝酸塩を形成する。亜硝酸塩は、細胞培養液中で更に酸化されて硝酸塩になる。したがって、馴化培地中の硝酸塩濃度は、細胞のNO産生を評価するのに適している。単一の96ウェルプレートウェルに由来する50μlの馴化培地をアッセイごとに使用し、タンパク質濃度に対して正規化した。全ての実験は4連で行った。
【0146】
LPS誘発性細胞及びミトコンドリアの酸化ストレスの測定。
【0147】
細胞及びミトコンドリアの酸化ストレスの生成は、細胞及びミトコンドリアのスーパーオキシド、すなわちそれぞれジヒドロエチジウム(DHE)及びMitoSox(ThermoFisher)の蛍光プローブを使用して測定された。HUVECをBN-80933、SUL-138又はSUL-150(全て10μM)により30mmインキュベートした。次に、HUVECをLPS(100ng/ml)に更に24時間曝露した。インキュベーションの最終時間に、2.5μMのDHE又はMitoSoxを各サンプルに適用した。HUVECをPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温で15分間固定した。核染色は、5μMの2-(4-アミジノフェニル)-lH-インドール-6-カルボキサミジン(DAPI)によって行い、サンプルの蛍光強度を、適切なフィルターセットを備えたCLARIOStar Plusプレートリーダー(BMG Labtech)で記録した。DHE及びMitoSoxの蛍光記録は、DAPI蛍光に対して補正された。全ての実験は4連で行った。
【0148】
エンドトキシン曝露後の炎症活性化
HUVEC細胞をtriZOL試薬(Invitrogen)で溶解し、製造者の指示に従って全RNAを単離した。FirstAid Reverse Transcription Kit(ThermoFisher)を使用して、サンプル当たり1μgの全RNAを逆転写した。ViiA7リアルタイムPCRシステム(ThermoFisher、Waltham,MA)において、iTaq Universal SYBR Green Supermix(Bio-Rad、Hercules,CA)、及び腫瘍壊死因子アルファに特異的なプライマー(TNFα;センス5’-CAGCCTCTTCTCCTTCCTGAT-3’、アンチセンス5’-GCCAGAGGGCTGATTAGAGA-3’)、インターロイキン1ベータ(IL-1β;センス5’-AAGCTGGAATTTGAGTCTGC-3’、アンチセンス5’-ACACAAATTGCATGGTGAAG-3’)、インターロイキン-6(IL-6;センス5’-AGCTCAATAAGAAGGGGCCTA-3’、アンチセンス5’-TGAGAAACCCTGGCTTAAGTAGA-3’)、及びベータアクチン(ACTB;センス5’-CCAACCGCGAGAAGATGA-3’、アンチセンス5’-CCAGAGGCGTACAGGGATAG-3’)をローディングコントロールとして使用して、5ngの全RNAに相当するコピーDNAを増幅した。増幅は、95°Cで30秒間、60°Cで1分間を40サイクル行った。相対mRNA発現は、δδCt法に従って計算された。
【0149】
低体温再加温ストレス後の細胞生存率の定量化。
【0150】
HUVECは、BN-80933、SUL-138又はSUL-150(全て10μM)で37℃の加湿インキュベーター内で1時間前処置した。前処理に続いて、HUVECを冷蔵室(2~8℃)に24時間置き、続いて37℃に戻して3時間再加温した。1時間再加温した後、細胞培養培地を、培養培地中の予熱して濾過した0.4mg/mLのニュートラルレッド(#N4638、Sigma-Aldrich)に交換した。残りの2時間の再加温期間の後、HUVECをPBSで洗浄し、NRUを100μLの吸収溶液(dH2O中の50%エタノール、1%酢酸)に可溶化した。吸光度は、BioTek ELx808プレートリーダーで550nmの波長で測定された。記録されたOD550nm値は、常に37°Cに維持された対照サンプルに対して正規化され、100%生存可能であると想定された。
【0151】
統計的評価
全ての実験は、条件ごとに最低3連で行われた。個別の実験から得られたデータを、GraphPad Prism9.0(GraphPad Software Inc、Ca)での評価に使用した。全てのデータセットは、ビヒクル対照に対して正規化された。ANOVAとそれに続くボンフェローニ事後分析を使用して、統計的有意性を計算した。0.05未満の確率値(p)は有意とみなされた。
【0152】
結果
1.エンドトキシン(LPS)チャレンジ後の内皮NO産生
HUVECの馴化培地中の硝酸塩レベルによって測定される基礎内皮NO産生は、平均239pmol/mgタンパク質であった(
図7A)。BN-80933は内皮NO産生を約38%(p<0.001)抑制したが、SUL化合物は基礎のNO産生を変化させなかった(
図7A)。
【0153】
エンドトキシンは、eNOSの活性を制限することにより、内皮のNO産生を抑制する。HUVECは、ビヒクル(DMSO)、BN-80933、SUL-138、又はSUL-150、又は(全て10μM)で前処置した後、エンドトキシン(LPS 100ng/ml)に24時間曝露した。LPSに曝露された内皮細胞からの馴化培地中の硝酸塩レベルは、平均160pmol/mgタンパク質であり(非LPS曝露HUVECに対して約33%減少、p=0.002)、これは基礎対照レベルより低かった。BN-80933は更に、馴化培地中の硝酸塩レベルを平均90pmol/mgタンパク質(p=0.008)に抑制した(
図7A)。対照的に、SUL-138(p=0.008)及びSUL-150(p=0.004)は、硝酸塩レベルLPS誘発性低下を緩和し、それらのレベルは基礎硝酸塩レベルから変化しなかった。
【0154】
2 エンドトキシン(LPS)チャレンジ後のマクロファージNO産生
生理学的状況下では、非常に限られた量のNOが炎症細胞によって生成されるが、エンドトキシンチャレンジなどの免疫学的ストレス下では、誘導型一酸化窒素シンターゼ(iNOS)によるNO産生が促進される。RAW264.7マクロファージの馴化培地中の硝酸塩レベルによって測定される基礎のNO産生は最小であり、平均5pmol/mgタンパク質であった(
図7B)。BN-80933、SUL-138、SUL-150のいずれも、細胞外硝酸塩の基礎生産に影響を与えなかった。
【0155】
LPSは、iNOSを活性化することにより、マクロファージNO産生を誘発する。RAW264.7マクロファージは、ビヒクル(DMSO)、BN-80933、SUL-138、又はSUL-150、又は(全て10μM)で前処置した後、エンドトキシン(LPS 100ng/ml)に24時間曝露した。LPS露出RAW264.7マクロファージからの馴化培地中の硝酸塩レベルは、平均83pmol/mgタンパク質であった(露出していないRAW264.7細胞に対して約16倍の増加、p=0.001)。BN-80933は、NOS阻害剤としての機能と一致して、細胞外硝酸塩レベルのLPS誘発増加を鈍化させた(p<0.001、
図7B)。SUL-138もSUL-150も、RAW264.7マクロファージによる硝酸塩産生のLPS誘発増加を強く抑制しなかった(
図7B)。
【0156】
3 細胞及びミトコンドリアのスーパーオキシド産生
HUVECは、細胞質(すなわち、DHE)及びミトコンドリア(すなわち、MitoSox)O
2
-蛍光の基底レベルを生成し、これはLPS曝露によって大幅に増強される(
図7C、7D)。BN-80933、SUL-138、及びSUL-150による前処理(全て10μMで30分間)は、細胞質酸化ストレスの誘発を同等の効果で緩和する(
図7C)。SUL-138及びSUL-150はまた、BN-80933による前処理によって影響を受けなかった(
図7D)ミトコンドリアの酸化ストレスのLPS誘発増加を排除した(
図7C)。
【0157】
これらのデータは、BN-80933、SUL-138、及びSUL-150の全てが特定の抗酸化能力を持っていることを示しているが、その能力は細胞コンパートメント等によって異なる。
【0158】
4 内皮炎症活性化
内皮細胞は、炎症性サイトカインのベースライン遺伝子発現が低く、エンドトキシンへの曝露により様々な大きさで劇的に増加する(
図8A~C)。BN-80933、SUL-138、及びSUL-150による前処理(全て10μMで30分間)は、炎症誘発性サイトカインTNFα(
図8A)のmRNA発現の誘発を同等の効果で排除する。特に、BN-80933によるHUVECの前処置は、インターロイキンIL-1β及びIL-6のLPS誘発性mRNA発現を排除しないが(
図8B、8C)、SUL-138及びSUL-150もIL-1β及びIL-6のLPS誘発増加を排除した(
図8A~8C)。
【0159】
5 低体温再加温ストレス後の内皮細胞生存率
異なる作用機序を確認するために、ミトコンドリア損傷のモデルとして内皮細胞を低体温にさらした。4℃で24時間、その後37℃で3時間の冷却-再加温サイクルにさらされた内皮細胞は、正常体温の対照細胞と比較して、細胞生存率が大幅に低下した(約61%)(
図8D)。BN-80933による前処理は、低体温に関連する細胞生存率の低下に影響を与えないが(約55%の低下)、SUL-138及びSUL-150の両方が正常体温の対照細胞の生存率のすぐ下のレベルで、細胞生存率を維持した(約15%の低下)。これは、SUL-138及びSUL-150の作用機序がBN-80933とは異なることを示している。
【0160】
考察
BN-80933、SUL-138、及びSUL-150の作用機序を、エンドトキシン誘発性細胞損傷及び低体温再加温ストレスとの関連で調査すると、以下の結論を導き出すことができる。
1.BN-80933は、SUL-138又はSUL-150とは異なり、内皮細胞及びマクロファージにおける一酸化窒素シンターゼ(NOS)酵素の一般的な阻害剤である。
2.BN-80933、SUL-138、及びSUL-150には、細胞質抗酸化能がある。
3.SUL-138及びSUL-150にはミトコンドリアの抗酸化能があるが、BN-80933にはない。
4.SUL-138及びSUL-150は、全てのTNFα、IL-1β及びIL-6に対するエンドトキシン誘発性内皮細胞活性化を妨げる。BN-80933はTNFαのみを阻害した。
5.SUL-138及びSUL-150は内皮細胞の低体温による再加温損傷を排除するが、BN-80933はこれを排除しない。
【0161】
まとめると、これらのデータは、BN-80933及びSUL化合物が非常に異なる作用機序を持ち、異なる細胞コンパートメントで活性であることを示している。BN80933は、SUL化合物とは対照的に、ミトコンドリアに対して活性がない。
【0162】
結論
実施例は、SUL-138がマウスにおけるCLPの徴候後24時間後に剣状突起温度を回復することを示している。SUL-138による治療は、敗血症誘発後のサイトカインの血漿レベルを低下させる。特に、NGAL及び尿素機能の回復で示されるように、CLP誘発性腎機能障害は、マウスにおけるSUL-138による治療によって妨げられるか、又は有意に減少する。
【0163】
実施例はまた、SUL-151が敗血症のキイロショウジョウバエの死亡率を低下させ、敗血症の誘発後24時間及び48時間で走地性を改善することを示している。
【0164】
敗血症の内皮細胞では、SUL-138はミトコンドリアの機能障害を回復させる。
【0165】
BN-80933及びSUL化合物は作用機序が大きく異なり、異なる細胞コンパートメントで活性がある。BN80933は、SUL化合物とは対照的に、ミトコンドリアに対して活性がない。
【0166】
さらなるインビトロ実験は、多くのSUL化合物が敗血症のインビトロモデルで活性であることを示しており、現在の発見が化合物のグループに適用可能であることを示している。
【0167】
このインビボ及びインビトロ証拠の全体は、本発明によって画定される化合物が敗血症、及び感染誘発性炎症によって引き起こされる臓器機能障害の治療において有効性があることを示している。
【国際調査報告】