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特表2023-5296273dB直交ハイブリッドカプラ、高周波フロントエンドモジュール及び通信端末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】3dB直交ハイブリッドカプラ、高周波フロントエンドモジュール及び通信端末
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/18 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
H01P5/18 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574499
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(85)【翻訳文提出日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 CN2021098457
(87)【国際公開番号】W WO2021244648
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】202010503553.4
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522185416
【氏名又は名称】唯捷創芯(天津)電子技術股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】VANCHIP (TIANJIN) TECHNOLOGY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】陳 岡
(72)【発明者】
【氏名】白 雲芳
(57)【要約】
3dB直交ハイブリッドカプラ、RFフロントエンドモジュール及び通信端末を開示し、この3dB直交ハイブリッドカプラは、基板上に設けられ、直進金属コイルと結合金属コイルが、積層構造、コプレーナ構造、または積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用することによって、対応するRF信号入力ポートと第1のRF信号出力ポートが接続され、アイソレーションポートと第2のRF信号出力ポートが接続されることができる。同時に、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数とポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、直進金属コイルと結合金属コイルの巻数と層数を調整して、カプラの挿入損失を低減させ、3dB直交ハイブリッドカプラのポートの反射係数とポートの分離機能などのRF性能を最適化する。これにより、チップ面積を効果的に節約し、RFフロントエンドモジュールの設計コストを低減することができる。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3dB直交ハイブリッドカプラであって、
基板上に設けられ、RF信号入力ポート、第1のRF信号出力ポート、第2のRF信号出力ポート、アイソレーションポート、前記RF信号入力ポートと前記第1のRF信号出力ポートとの間に接続された直進金属コイル及び前記アイソレーションポートと前記第2のRF信号出力ポートとの間に接続された結合金属コイルを備え、前記アイソレーションポートは、アイソレーション抵抗に接続して接地され、
前記RF信号入力ポートにRF入力信号が入力される場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、電磁結合と容量結合を介して、前記RF入力信号の半分が前記第1のRF信号出力ポートに流れ、前記RF入力信号の残りの半分が前記第2のRF信号出力ポートに結合されるようにし、2つのRF出力信号は90度の位相差があることを特徴とする、3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項2】
前記直進金属コイルと前記結合金属コイルとが積層構造を採用する場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルとは、金属コイル表面を介して容量結合されることを特徴とする、請求項1に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項3】
前記基板上において、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルが交互に配置されることを特徴とする、請求項2に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項4】
前記直進金属コイルと前記結合金属コイルがコプレーナ構造である場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、金属コイルのエッジを介して容量結合されることを特徴とする、請求項1に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項5】
前記基板上において、前記直進金属コイルの各層は、前記結合金属コイルと等間隔で交互に配置され、隣接する層間の前記直進金属コイルは、前記結合金属コイルと同じ位置にあることを特徴とする、請求項4に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項6】
前記直進金属コイルと前記結合金属コイルが、積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態である場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、金属コイル表面と金属コイルエッジの組み合わせ形態によって、容量結合されることを特徴とする、請求項1に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項7】
前記基板において、前記直進金属コイルの各層は、前記結合金属コイルと等間隔で交互に配置され、隣接する層間にある前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは対向する位置にあることを特徴とする、請求項6に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項8】
各層間の前記直進金属コイルと前記結合金属コイルとの接続関係は、
第1層に位置する前記結合金属コイルの一端は、前記第1のRF信号出力ポートに接続され、かつ第5貫通孔を介して、奇数層に位置する前記結合金属コイルの一端にそれぞれ接続され、第1層に位置する前記結合金属コイルの他端は、第6貫通孔を介して、偶数層に位置する前記結合金属コイルの一端及び奇数層に位置する前記結合金属コイルの他端にそれぞれ接続され、第2層に位置する前記結合金属コイルの他端は、第7貫通孔を介して、偶数層に位置する前記結合金属コイルの他端にそれぞれ接続され、最終層に位置する前記結合金属コイルの他端は、さらに前記アイソレーションポートに接続され、
第1層に位置する前記直進金属コイルの一端は、前記第1のRF信号出力ポートに接続され、かつ第8貫通孔を介して、奇数層に位置する前記直進金属コイルの一端にそれぞれ接続され、第1層に位置する前記直進金属コイルの他端は、第9貫通孔を介して、偶数層に位置する前記直進金属コイルの一端及び奇数層に位置する前記直進金属コイルの他端にそれぞれ接続され、第2層に位置する前記直進金属コイルの他端は、前記RF信号入力ポートに接続され、かつ第10貫通孔を介して、偶数層に位置する前記直進金属コイルの他端にそれぞれ接続されることを特徴とする、請求項7に記載の3dB直交ハイブリッドカプラ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の3dB直交ハイブリッドカプラを備えることを特徴とする、RFフロントエンドモジュール。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の3dB直交ハイブリッドカプラを備えることを特徴とする、通信端末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3dB直交ハイブリッドカプラに関すると共に、この3dB直交ハイブリッドカプラを備えるRFフロントエンドモジュール及び対応する通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
3dB直交ハイブリッドカプラは、ポート間のアイソレーションを高く維持しながら入力信号を均等に分割し、2つの出力信号の間に90°の位相移動を発生させるか、ポート間のアイソレーションを高く維持しながら90°の位相差を有する2つの入力信号を合成することができる一般的な4ポート装置である。
【0003】
従来技術における3dB直交ハイブリッドカプラは、2本の交差した1/4波長の伝送路で構成されている。理想的には、RF信号入力ポートにRF信号を入力すると、RF信号の半分(3dBに相当)がRF信号出力(位相は0°)ポートに直進し、RF信号の残りの半分がRF信号出力(位相は90°)ポートに結合されることである。3dB直交ハイブリッドカプラの不整合ポートによって発生した反射エネルギーをアイソレーションポートに導いたり、RF信号入力ポートで相殺したりすることで、駆動装置(電力ユニット)の損傷を回避することができる。
【0004】
4G/5Gなどのモバイル端末に使用されるRFフロントエンドモジュールでは、空間に制限がある。より優れたRF性能を実現しようとする場合、3dB直交ハイブリッドカプラは、チップを介して実装するのが一般的であるが、チップ上の受動部品のQ値が低いため、3dB直交ハイブリッドカプラの挿入損失が高くなるなどの制約がある。また、一部のプロセスで製造されたチップは、単層または2層の厚さが異なる金属しか提供しないため、3dB直交ハイブリッドカプラのポートにインピーダンス不整合、分離機能が悪いという課題が発生している。また、チップ上に3dB直交ハイブリッドカプラを設計すると、大きなチップ面積を占め、さらにRFフロントエンドモジュールの設計コストが増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする主たる技術的課題は、基板上に実装された3dB直交ハイブリッドカプラを提供することである。
【0006】
本発明が解決しようとする他の技術的課題は、上記の3dB直交ハイブリッドカプラを備えるRFフロントエンドモジュール及び通信端末を提供することである。
【0007】
上記目的を実現するために、本発明は以下の技術案を採用する。
【0008】
本発明の実施形態の第1の態様により、3dB直交ハイブリッドカプラを提供する。前記3dB直交ハイブリッドカプラは、基板上に設けられ、RF信号入力ポート、第1のRF信号出力ポート、第2のRF信号出力ポート、アイソレーションポート、前記RF信号入力ポートと前記第1のRF信号出力ポートとの間に接続された直進金属コイル、及び前記アイソレーションポートと前記第2のRF信号出力ポートとの間に接続された結合金属コイルを備え、前記アイソレーションポートは、アイソレーション抵抗に接続して接地される。
【0009】
前記RF信号入力ポートにRF入力信号が入力される場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、電磁結合と容量結合を介して、前記RF入力信号の半分が前記第1のRF信号出力ポートに流れ、前記RF入力信号の残りの半分が前記第2のRF信号出力ポートに結合されるようにし、2つのRF出力信号は90度の位相差がある。
【0010】
好ましくは、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルとが積層構造を採用する場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、金属コイルの表面を介して容量結合される。
【0011】
好ましくは、前記基板上において、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは交互に配置される。
【0012】
好ましくは、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルがコプレーナ構造である場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、金属コイルのエッジを介して容量結合される。
【0013】
好ましくは、前記基板上において、前記直進金属コイルの各層は、前記結合金属コイルと等間隔で交互に配置され、隣接する層間の前記直進金属コイルは、前記結合金属コイルと同じ位置にある。
【0014】
好ましくは、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルが、積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態である場合、前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは、金属コイルの表面と金属コイルエッジの組み合わせ形態を介して、容量結合される。
【0015】
好ましくは、前記基板において、前記直進金属コイルの各層は、前記結合金属コイルと等間隔で交互に配置され、隣接する層間にある前記直進金属コイルと前記結合金属コイルは対向する位置にある。
【0016】
好ましくは、各層間の前記直進金属コイルと前記結合金属コイルとの接続関係は、次のとおりである。第1層に位置する前記結合金属コイルの一端は、前記第1のRF信号出力ポートに接続され、かつ第5貫通孔を介して、奇数層に位置する前記結合金属コイルの一端にそれぞれ接続され、第1層に位置する前記結合金属コイルの他端は、第6貫通孔を介して、偶数層に位置する前記結合金属コイルの一端及び奇数層に位置する前記結合金属コイルの他端にそれぞれ接続され、第2層に位置する前記結合金属コイルの他端は、第7貫通孔を介して、偶数層に位置する前記結合金属コイルの他端にそれぞれ接続され、最終層に位置する前記結合金属コイルの他端は、さらに前記アイソレーションポートに接続される。
【0017】
第1層に位置する前記直進金属コイルの一端は、前記第1のRF信号出力ポートに接続され、かつ第8貫通孔を介して、奇数層に位置する前記直進金属コイルの一端にそれぞれ接続され、第1層に位置する前記直進金属コイルの他端は、第9貫通孔を介して、偶数層に位置する前記直進金属コイルの一端及び奇数層に位置する前記直進金属コイルの他端にそれぞれ接続され、第2層に位置する前記直進金属コイルの他端は、前記RF信号入力ポートに接続され、かつ第10貫通孔を介して、偶数層に位置する前記直進金属コイルの他端にそれぞれ接続される。
【0018】
本発明の実施形態の第2の態様により、前記3dB直交ハイブリッドカプラを備えるRFフロントエンドモジュールが提供される。
【0019】
本発明の実施形態の第3の態様により、前記3dB直交ハイブリッドカプラを備える通信端末が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、基板上に実装することができる。このため、直進金属コイルと結合金属コイルは、積層構造、コプレーナ構造、または積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用することによって、対応するRF信号入力ポートと第1のRF信号出力ポート、アイソレーションポート及び第2のRF信号出力ポートが接続される。3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数とポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、直進金属コイルと結合金属コイルの巻数及び層数を調整して、カプラの挿入損失を低減させ、3dB直交ハイブリッドカプラのポートの反射係数とポートの分離機能などのRF性能を最適化する。本発明を用いることで、チップ面積を効果的に節約し、RFフロントエンドモジュールの設計コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】3dB直交ハイブリッドカプラの構造を示す概略図である。
図2】線カプラを結合した構造を示す概略図及び偶数モード容量の等価回路である。
図3】線カプラを結合した構造を示す概略図及び奇数モード容量の等価回路である。
図4】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの積層構造を示す概略図である。
図5】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、単層の金属コイルのコプレーナ構造を示す概略図である。
図6】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、多層の金属コイルのコプレーナ構造を示す概略図である。
図7】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2層の金属コイルを積層したコプレーナの混合構造を示す概略図である。
図8】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、多層の金属コイルを積層したコプレーナの混合構造を示す概略図である。
図9】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、3つのポートの反射係数に関するシミュレーション結果を示す概略図である。
図10】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、挿入損失に関するシミュレーション結果を示す概略図である。
図11】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF出力信号の電力差に関するシミュレーション結果を示す概略図である。
図12】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF出力信号の位相差に関するシミュレーション結果を示す概略図である。
図13】本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF出力信号ポートの分離機能に関するシミュレーション結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の技術内容について、添付図面と具体的な実施形態を参照してさらに詳細に説明する。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施形態では、RFフロントエンドモジュールの設計コストを効果的に削減するために、基板上に実装可能な3dBクワドラチャーハイブリッドカプラを提供する。前記3dB直交ハイブリッドカプラは、RF信号入力ポート1、第1のRF信号出力ポート2、第2のRF信号出力ポート3、アイソレーションポート4、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続された直進金属コイル及びアイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3との間に接続された結合金属コイルを備え、アイソレーションポート4は、アイソレーション抵抗に接続して接地される。
【0024】
RF信号入力ポート1にRF入力信号が入力される場合、直進金属コイルと結合金属コイルは、電磁結合を介して容量結合され、RF入力信号の半分が第1のRF信号出力ポート2に流れ、RF入力信号の残りの半分が第2のRF信号出力ポート3に結合され、これら2つのRF出力信号は90度の位相差がある。
【0025】
ここで、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続された直進金属コイルは、誘導コイルを形成し、アイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3との間に接続された結合金属コイルは、誘導コイルを形成し、直進金属コイルによって形成された誘導コイルは、結合金属コイルによって形成された誘導コイルと電磁的に結合する。また、直進金属コイルと結合金属コイルは、基板上に設けられ、直進金属コイルと結合金属コイルは積層構造、コプレーナ構造、または積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用することにより、金属コイルの表面、金属コイルのエッジ、または金属コイルの表面と金属コイルエッジの組み合わせ形態によって、直進金属コイルと結合金属コイルの容量結合を実現する。
【0026】
具体的には、直進金属コイルと結合金属コイルとが積層構造を採用する場合、直進金属コイルと結合金属コイルは、金属コイルの表面を介して容量結合され、金属コイルの表面は直進金属コイルと結合金属コイルの相互の重なり面である。直進金属コイルと結合金属コイルがコプレーナ構造である場合、直進金属コイルと結合金属コイルは、金属コイルのエッジを介して容量結合される。金属コイルのエッジは、直進金属コイルのエッジとそれに隣接する結合金属コイルのエッジである。直進金属コイルと結合金属コイルが積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態である場合、直進金属コイルと結合金属コイルは、金属コイルの表面と金属コイルエッジの組み合わせ形態を介して容量結合される。
【0027】
直進金属コイルと結合金属コイルとは、対応する金属線で囲まれた1ターンまたは多ターンの金属コイルであってもよい。ここで、直進金属コイルと結合金属コイルは同じ形状であり、好ましくは、円形または方形の直進金属コイルと結合金属コイルである。本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの構造及び原理に対する理解を容易にするために、以下、方形の直進金属コイル及び結合金属コイルを例にして、直進金属コイルと結合金属コイルがそれぞれ積層構造、コプレーナ構造、または積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用した場合について詳細に説明する。
【0028】
<実施例1>
本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、直進金属コイルと結合金属コイルとは積層構造を採用する。ここで、各層の直進金属コイルは同様の長さであり、各層の結合金属コイルは同様の長さである。直進金属コイルは、結合金属コイルと同じ層数とコイル巻数を有し、直進金属コイルは結合金属コイルと重なり、各層の隣接するターンの直進金属コイル及び隣接するターンの結合金属コイルの間隔は同じである。また、基板上において、上から下へ、直進金属コイルと結合金属コイルは交互に配置される。すなわち、基板上において、上から下へ、1層の直進金属コイルと1層の結合金属コイルは交互に配置されるか、または1層の結合金属コイルと1層の直進金属コイルは交互に配置されてもよい。各層の直進金属コイルは、第1貫通孔を介して連結され、各層の結合金属コイルは、第2貫通孔を介して連結される。本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、基板上に実装されることによって、チップ上に3dB直交ハイブリッドカプラを設計すると、チップ面積が大きくなり、RFフロントエンドモジュールの設計コストが高くなるという従来技術の課題を解決する。ここで、本発明の異なる実施例では、金属コイルの最後の層が基準地であり、基準地が位置する金属コイル層からの高さは最も遠いものから最も近いものの順であり、金属コイルの層の順序は上から下への順序で定義する。
【0029】
実際の応用において、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域と出力ポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、以下の式と組み合わせて、基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計する際に参照するデータを初期決定する。このデータは、直進金属コイルと結合金属コイルのコイル幅、グラウンドに対する高さ、層数、巻数及びコイル間の間隔である。基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計した後、そのレイアウトをシミュレーションソフトに入力して3D電磁学シミュレーションモデルを構築し、さらに、設計された3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトで参照したデータが正確であるか否かを検証し、検証結果に基づいて、3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウト設計で参照するデータを調整する。また、新しい3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウトを継続的に生成し、それをシミュレーションソフトに入力して検証用の3D電磁学シミュレーションモデルを構築し、検証結果から出力される、金属線の特性インピーダンス値と動作周波数帯域が、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域を可能な限り設計された周波数範囲内に移行させる値になるまで検証する。そして、第1のRF信号出力ポート2と第2のRF信号出力ポート3の特性インピーダンスを可能な限り一致させると共に、カプラの各ポートのインピーダンスと分離機能が設計指標を満たすようにする。以下、直進金属コイルと結合金属コイルとが積層構造を採用する場合、基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計する際に参照するデータを初期決定する方法について、詳細に説明する。
【0030】
TEM(横電磁モード)モデルを用いて、3dB直交ハイブリッドカプラを解析する。偶数モードと奇数モードの場合、電界は中心線に対して偶数対称であり、2本の帯状導体の間に電流が流れていない。このとき導出される等価回路を図2及び図3に示す。第1のRF信号出力ポート2の電圧は式(1)で表される。
【数1】
【0031】
ここで、V0はRF信号入力ポート1の電圧であり、jは虚数部であり、θは伝送線の位相であり、Cは3dB直交ハイブリッドカプラの結合係数である。
【0032】
第2のRF信号出力ポート3の電圧は式(2)で表される。
【数2】
【0033】
ここで、V0はRF信号入力ポート1の電圧であり、jは位相の虚数部であり、θは伝送線の位相であり、Cは3dB直交ハイブリッドカプラの結合係数である。3dB直交ハイブリッドカプラの結合係数は、式(3)で表される。
【数3】
【0034】
ここで、Z0eは3dB直交ハイブリッドカプラの偶数モードの特性インピーダンスであり、Z0oは3dB直交ハイブリッドカプラの奇数モードの特性インピーダンスである。Z0eとZ0oはそれぞれ式(4)と式(5)で表される。
【数4】
【数5】
【0035】
式(4)において、dは直進金属コイルと結合金属コイルのグラウンドに対する高さであり、cは光速であり、εγは基板の誘電体層の誘電率であり、ε0は標準誘電率であり、Wは直進金属コイルと結合金属コイルのコイル幅である。
【0036】
式(5)において、dは直進金属コイルと結合金属コイルのグラウンドに対する高さであり、Sはコイル間の間隔であり、cは光速であり、εγは基板の誘電体層の誘電率であり、ε0は標準誘電率でり、Wは直進金属コイルと結合金属コイルのコイル幅である。
【0037】
3dB直交ハイブリッドカプラの、2つのRF信号出力ポートの電圧が同じであるため、位相差は90°であり、この2つの条件に基づいて、以下の式(6)と式(7)を得ることができる。
【数6】
【数7】
【0038】
式(6)において、mag(V2)は第1のRF信号出力ポート2の電圧振幅であり、mag(V3)は第2のRF信号出力ポート3の電圧振幅であり、mag(V0)はRF信号入力ポート1の電圧振幅である。
【0039】
式(7)において、phase(V3)は第2のRF信号出力ポート3の電圧位相であり、phase(V2)は第1のRF信号出力ポート2の電圧位相である。上記の2つの条件により、式(1)~式(7)と組み合わせて、基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計する際に参照するデータを決定することができる。上記の式は、次のコプレーナ構造にも適用される。
【0040】
図4に示すように、本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラに対する理解を容易にするために、直進金属コイルと結合金属コイルとが2層の積層構造を採用することを例として、3dB直交ハイブリッドカプラの構造について詳細に説明する。この3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、基板の第1層金属コイルは直進金属コイル111であり、基板の第2層金属コイルは結合金属コイル112である。直進金属コイル111は、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続され、結合金属コイル112は、アイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3との間に接続され、アイソレーションポート4は、アイソレーション抵抗に接続して接地される。ここで、基板は、誘電体層と導電層で構成することができ、この基板は、従来の電力増幅器に用いられている基礎部品であり、マイクロ化されたプリント回路基板と類似しており、ここで詳細に説明する。ここで、本発明の異なる実施例において、金属コイルの最後の層は基準地であり、基準地が位置する金属コイル層から高さが最も高い金属コイル層を第1層直進金属コイルと定義し、金属コイルの層順は、基準地が位置する金属コイル層の高さから、遠い方から近い方の順に並べ替えられる。
【0041】
理想的には、RF信号入力ポート1にRF入力信号が入力される場合、直進金属コイル111で形成された誘導コイルと、結合金属コイル112で形成された誘導コイルとを電磁的に結合させ、直進金属コイル111と結合金属コイル112は、金属コイルの表面を介して容量結合されることによって、RF入力信号の半分が第1のRF信号出力ポート2に流れ、RF入力信号の残りの半分が第2のRF信号出力ポート3に結合され、2つのRF出力信号は90度の位相差がある。
【0042】
<実施例2>
本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、直進金属コイルと結合金属コイルとはコプレーナ構造を採用する。ここで、各層の直進金属コイルは同程度の長さであり、各層の結合金属コイルは同程度の長さである。直進金属コイルは、結合金属コイルと同じ層数とコイル巻数を有し、各ターンの直進金属コイルと結合金属コイル間の間隔は同じである。また、基板上において、各層で同じ巻数の直進金属コイルと結合金属コイルは、等間隔で交互に配置されており、隣接する層間における直進金属コイルと結合金属コイルは同じ位置に配置される。すなわち、基板上において、同一層に位置する直進金属コイルと結合金属コイルに対して、1ターンの直進金属コイルと1ターンの結合金属コイルが交互に配置されるか、1ターンの結合金属コイルと1ターンの直進金属コイルが交互に配置されてもよい。各層の直進金属コイルは、第3貫通孔を介して並列に連結され、各層の結合金属コイルは第4貫通孔を介して並列に連結される。
【0043】
本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、金属コイル層数が少ない、ボトム金属コイルとグラウンド表面の距離が近すぎる、または金属コイルの層厚の差が大きすぎるなど、一部基板特性よっては積層構造に適さない3dB直交ハイブリッドカプラに対して主に設計される。本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラも基板上に実装することで、チップ上に3dB直交ハイブリッドカプラを設計するとチップ面積が大きくなり、RFフロントエンドモジュールの設計コストが高くなるという従来の課題を解決する。
【0044】
コプレーナ構造の3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、直進金属コイルと結合金属コイルの厚さを10μm~40μmの間にすると、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域が高周波数に偏るため、実際の応用では、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域及び出力ポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、また、式(1)~(7)と組み合わせて、基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計する際に参照するデータを初期決定する。上記データは、直進金属コイルと結合金属コイルのコイル幅、グラウンドに対する高さ、層数、巻数及びコイル間の間隔である。基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計した後、そのレイアウトをシミュレーションソフトに入力して、3D電磁学シミュレーションモデルを構築する。さらに、設計された3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウで参照したデータが正確であるか否かを検証する。また、検証結果に基づいて、3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウ設計で参照するデータを調整する。また、新しい3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウトを連続的に生成し、それをシミュレーションソフトに入力して検証用の3D電磁学シミュレーションモデルを構築し、検証結果から出力される、金属線の特性インピーダンス値と動作周波数帯域が、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域を可能な限り設計された周波数範囲内に移行させる値になるまで検証する。よって、第1のRF信号出力ポート2と第2のRF信号出力ポート3の特性インピーダンスを可能な限り一致させ、同時にカプラの各ポートのインピーダンスと分離機能が設計指標を満たすようにする。
【0045】
図5及び図6に示すように、本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラに対する理解を容易にするために、直進金属コイルと結合金属コイルが、それぞれ1層と3層のコプレーナ構造を採用する場合を例として、3dB直交ハイブリッドカプラの構造について詳細に説明する。
【0046】
図5に示すように、3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、基板上に位置する直進金属コイル141と結合金属コイル142は交互に配置され、かつ直進金属コイル141と結合金属コイル142の巻数は、それぞれ1.5ターンである。直進金属コイル141は、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続され、結合金属コイル142は、アイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3の間に接続され、アイソレーションポート4は、アイソレーション抵抗に接続して接地される。
【0047】
理想的には、RF信号入力ポート1にRF入力信号が入力されると、直進金属コイル141で形成された誘導コイルと、結合金属コイル142で形成された誘導コイルとを電磁的に結合させる。直進金属コイル111と結合金属コイル112は、金属コイルのエッジによって容量結合され、RF入力信号の半分が第1のRF信号出力ポート2に流れ、RF入力信号の残りの半分が第2のRF信号出力ポート3に結合され、2つのRF出力信号は90度の位相差がある。
【0048】
図6に示すように、3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、基板上に3層のコプレーナ構造を形成した直進金属コイル151と結合金属コイル152のうち、各層の直進金属コイル151と結合金属コイル152が交互に配置され、かつ直進金属コイル151と結合金属コイル152の巻数は、それぞれ3.75ターンである。3層の直進金属コイルは、第3貫通孔を介して並列に連結されており、3層の結合金属コイルは、第4貫通孔を介して並列に連結される。3層の直進金属コイルと3層の結合金属コイルを用いて並列形態のコプレーナ構造を構成することによって、同一の信号を伝送することができる。ここで、直進金属コイル151は、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続され、結合金属コイル152は、アイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3との間に接続され、アイソレーションポート4は、アイソレーション抵抗に接続して接地される。
【0049】
<実施例3>
本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、直進金属コイルと結合金属コイルは、積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用することによって、RF信号入力ポート1、第1のRF信号出力ポート2及び第2のRF信号出力ポート3の間のインピーダンス対称性をさらに最適化し、3dB直交ハイブリッドカプラの性能を向上させ、3dB直交ハイブリッドカプラを設計する際に必要なチップ面積を節約し、RFフロントエンドモジュールの設計コストを削減する。
【0050】
ここで、各層の直進金属コイルは同程度の長さであり、各層の結合金属コイルは同程度の長さである。直進金属コイルは、結合金属コイルと同じ層数とコイル巻数を有する。また、基板上において、同じ巻数を有する各層の直進金属コイルと結合金属コイルは、等間隔で交互に配置され、隣接する層間にある直進金属コイルと結合金属コイルは対向する位置にある。すなわち、基板上において、同一層に位置する直進金属コイルと結合金属コイルに対して、1ターンの直進金属コイルと1ターンの結合金属コイルを交互に配置することができる。このとき、隣接する層の直進金属コイルと結合金属コイルは、1ターンの結合金属コイルと1ターンの直進金属コイルが交互に配置されるようにしてもよい。あるいは、同一層の直進金属コイルと結合金属コイルは、1ターンの結合金属コイルと1ターンの直進金属コイルが交互に配置されてもよく、このとき、隣接する層の直進金属コイルと結合金属コイルは、1ターンの直進金属コイルと1ターンの結合金属コイルが交互に配置されてもよい。
【0051】
具体的には、直進金属コイルと結合金属コイルの層数が4層以上である場合、各層間の直進金属コイルと結合金属コイルの接続関係は、以下のとおりである。第1層に位置する結合金属コイルの一端は、第1のRF信号出力ポート2に接続され、かつ第5貫通孔を介して、奇数層に位置する結合金属コイルの一端にそれぞれ接続される。第1層に位置する結合金属コイルの他端は、第6貫通孔を介して、偶数層に位置する結合金属コイルの一端及び奇数層に位置する結合金属コイルの他端にそれぞれ接続される。第2層に位置する結合金属コイルの他端は、第7貫通孔を介して、偶数層に位置する結合金属コイルの他端にそれぞれ接続され、最後の層に位置する結合金属コイルの他端は、さらにアイソレーションポート4に接続される。第1層に位置する直進金属コイルの一端は、第1のRF信号出力ポート3に接続され、かつ第8貫通孔を介して、奇数層に位置する直進金属コイルの一端にそれぞれ接続される。第1層に位置する直進金属コイルの他端は、第9貫通孔を介して、偶数層に位置する直進金属コイルの一端及び奇数層に位置する直進金属コイルの他端にそれぞれ接続される。第2層に位置する直進金属コイルの他端は、RF信号入力ポート1に接続され、かつ第10貫通孔を介して、偶数層に位置する直進金属コイルの他端に接続される。ここで、本発明の異なる実施例において、金属コイルの最後の層は基準地であり、基準地が位置する金属コイル層から高さが最も高い金属コイル層を、第1層直進金属コイルと第1層の結合金属コイルとそれぞれ定義し、金属コイルの層順は、基準地が位置する金属コイル層の高さから、遠い方から近い方の順に並べ替えられる。
【0052】
実際の応用において、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域及び出力ポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、式(1)~式(7)と組み合わせて、基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計する際に参照するデータを初期決定する。上記のデータは、直進金属コイルと結合金属コイルのコイル幅、グラウンドに対する高さ、層数、巻数及びコイル間の間隔である。基板上に3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトを設計した後、そのレイアウトをシミュレーションソフトに入力して、3D電磁学シミュレーションモデルを構築し、さらに設計した3dB直交ハイブリッドカプラの初期レイアウトで参照したデータが正確であるか否かを検証する。また、検証結果に基づいて、3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウト設計で参照するデータを調整し、新しい3dB直交ハイブリッドカプラのレイアウトを連続的に生成して、それをシミュレーションソフトに入力して3D電磁学シミュレーションモデルを構築し、検証結果から出力される、金属線の特性インピーダンス値と動作周波数帯域が、3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数帯域を可能な限り設計された周波数範囲内に移行させる値になるまで検証する。そして、第1のRF信号出力ポート2と第2のRF信号出力ポート3の特性インピーダンスを可能な限り一致させ、同時にカプラの各ポートのインピーダンスと分離機能が設計指標を満たすようにする。
【0053】
図7図8に示すように、本実施例によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラに対する理解を容易にするために、直進金属コイルと結合金属コイルが、それぞれ2層及び4層の積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用する場合を例として、3dB直交ハイブリッドカプラの構造について詳細に説明する。
【0054】
図7に示すように、3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、直進金属コイルと結合金属コイルの巻数は、それぞれ1.75ターンである。直進金属コイル121と直進金属コイル122は、RF信号入力ポート1と第1のRF信号出力ポート2との間に接続され、結合金属コイル123と結合金属コイル124は、アイソレーションポート4と第2のRF信号出力ポート3との間に接続され、貫通孔125が直進金属コイル121と直進金属コイル122との間に接続され、貫通孔126が結合金属コイル123と結合金属コイル124との間に接続される。直進金属コイル121と結合金属コイル123とがコプレーナ構造を形成し、直進金属コイル121と結合金属コイル124とが積層構造を形成し、直進金属コイル122と結合金属コイル123とが積層構造を形成し、直進金属コイル122と結合金属コイル124とがコプレーナ構造を形成する。
【0055】
RF信号入力ポート1にRF入力信号が入力されると、直進金属コイル121と直進金属コイル122で形成された誘導コイルは、結合金属コイル123と結合金属コイル124で形成された誘導コイルと電磁的に結合される。直進金属コイル121と結合金属コイル123は、金属コイルのエッジを介して容量結合され、直進金属コイル121と結合金属コイル124は、金属コイルの表面を介して容量結合される。直進金属コイル122と結合金属コイル123は、金属コイルの表面を介して容量結合され、直進金属コイル122と結合金属コイル124は、金属コイルのエッジを介して容量結合される。よって、RF入力信号の半分が第1のRF信号出力ポート2に流れ、RF入力信号の残りの半分が第2のRF信号出力ポート3に結合され、2つのRF出力信号は90度の位相差がある。
【0056】
図8に示すように、3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、同じ巻数を有する各層の直進金属コイルと結合金属コイルは等間隔で交互に配置され、隣接する層間にある直進金属コイルと結合金属コイルは対向する位置にある。
【0057】
ここで、上記4層の積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を有する3dB直交ハイブリッドカプラについて、その各部の接続関係は、以下のとおりである。第1層に位置する結合金属コイル131の一端は、第2のRF信号出力ポート3に接続され、かつ第5貫通孔を介して、第3層に位置する結合金属コイル133の一端に接続される。第1層に位置する結合金属コイル131の他端は、第6貫通孔を介して、第2層に位置する結合金属コイル132、第4層に位置する結合金属コイル134の一端及び第3層に位置する結合金属コイル133の他端にそれぞれ接続される。第2層に位置する結合金属コイル132の他端は、第7貫通孔を介して、第4層に位置する結合金属コイル134の他端に接続され、第4層に位置する結合金属コイル134の他端は、さらにアイソレーションポート4に接続される。第1層に位置する直進金属コイルの一端は、第1のRF信号出力ポート2に接続され、かつ第8貫通孔を介して、第3層に位置する直進金属コイルの一端に接続される。第1層に位置する直進金属コイルの他端は、第9貫通孔を介して、第2層に位置する直進金属コイルの一端、第2層に位置する直進金属コイルの他端にそれぞれ接続される。第2層に位置する直進金属コイルの他端は、RF信号入力ポート1に接続され、かつ第10貫通孔を介して、偶数層に位置する直進金属コイルの他端にそれぞれ接続される。
【0058】
以下、上記の3dB直交ハイブリッドカプラの性能特性について、さらに説明する。上述の式(1)~式(5)から、次の3つの結論が得られる。1)積層構造における層の間隔が大きいほど、誘電率が小さくなり、グラウンド表面から金属層の距離が小さいほど、結合係数が小さくなる。2)金属層の厚さが厚いほど、インダクタンス値が小さくなり、3dB直交ハイブリッドカプラを実現するために必要な面積が大きくなる。3)直進金属コイルと結合金属コイルの寄生パラメータが異なることによって、3dB直交ハイブリッドカプラの直交ポートの出力電圧振幅、位相及びインピーダンスの不整合を招き、ひいては全体的な性能を悪化させる。
【0059】
また、基板材料のパラメータとチップ材料のパラメータは大きく異なる。3dB直交ハイブリッドカプラを実現しようとする場合、3つの困難を克服する必要がある。第1に、結合係数が小さすぎること、第2に、3dB直交ハイブリッドカプラの面積が大きすぎること、第3に、直進金属コイルと結合金属コイルの寄生パラメータが異なることによって、直交ポートの出力電圧振幅、位相及びインピーダンスに不整合を招くこと、が挙げられる。このため、図7及び図8にて示される実施例において、積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用する。
【0060】
積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態は、任意の交互に配置ではなく、次の3つの原則に従う必要があることに留意する。第1に、結合係数を最大化すること、第2に、カプラの面積を減少すること、第3に、直進金属コイルと結合金属コイル間の寄生容量を均一化し、直進金属コイルと結合金属コイルからグラウンド表面への寄生容量が可能な限り等しくなるようにすることが、挙げられる。
【0061】
このため、本願の発明者らは、いくつかの最適化を経て、図7及び図8に示される3dB直交ハイブリッドカプラの構造を提案する。ここで、直進金属コイルは、上下層の容量結合のほか、基板の金属層が厚いという特徴を利用して、側壁の結合により結合度を高めている。同時に、巻数比を制御し、直進金属コイルと結合金属コイルの磁界を同じ方向にすることで、結合係数をさらに高める。
【0062】
また、本発明の実施例では、カプラの面積を小さくするために、基板材料の金属層やコイル形状を可能な限り多く利用しているが、グラウンド表面に近い金属層ほど大きな寄生容量と磁界リークをもたらすため、性能と面積を両立するように、設計において、周波数と基板の積層構造に基づいて、それぞれ最適化する必要がある。各層の金属コイルをずらすことにより、直進金属コイルと結合金属コイルとの相互の寄生容量を可能な限り均一化する。多層の金属を交差結合することにより、直進金属コイルと結合金属コイルからグラウンドまでの容量が等しくなり、直交ポートの出力電圧振幅、位相及びインピーダンスが整合される。
【0063】
本発明の一実施例において、基板材料の金属層の厚さは約14μm~21μmであり、積層構造の層間隔は約25μm~60μmであり、誘電体層材料の誘電率は約3であり、金属層はグラウンド表面より約40μm~60μm離れている。実験により、図7及び図8に示された3dB直交ハイブリッドカプラの構造は、基板材料で小型化を実現し、最適な性能を得ることができ、その収束性と製品性能がチップレベル設計より明らかに優れていることが証明された。
【0064】
本発明では、図8に示された3dB直交ハイブリッドカプラの構造を利用して、6層金属の基板上にn77周波数帯域(3.3GHz~4.2GHz)の3dB直交ハイブリッドカプラを設計し、図9図13は、この3dB直交ハイブリッドカプラの電磁シミュレーションによる性能指標を示している。
【0065】
図9は、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの3ポート(RF信号入力ポート1、第1のRF信号出力ポート2及び第2のRF信号出力ポート3)の反射係数に対するシミュレーション結果であり、ポートのインピーダンスは500hmであり、3ポートの反射係数はいずれも-20dBc以下である。上記指標の数値が小さいほど、ポートのインピーダンス整合が良好であることを意味し、3dB直交ハイブリッドカプラは、RFフロントエンドモジュールの性能を向上させる。また、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの反射係数は-20dBc以下であり、システムの設計指標を満たす。
【0066】
図10は、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの挿入損失に関するシミュレーション結果である。チップの内部に設計して実現された従来の3dB直交ハイブリッドカプラの挿入損失は、一般的に-0.5dBcである。本発明では、基板の金属層を用いて設計するため、金属線幅を大きくし、金属層を厚くし、金属層を多くしたことで、動作周波数帯域全体で、3dB直交ハイブリッドカプラの挿入損失は-0.2dBcより大きく、チップの内部に設計して実現された3dB直交ハイブリッドカプラの設計値より0.3dBc大きい。本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの反射係数は-15dBcより小さく、システムの設計指標を満たす。
【0067】
図11は、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの第1のRF信号出力ポート2及び第2のRF信号出力ポート3の出力電力差に関するシミュレーション結果を示す図であり、2つのRF出力信号の電力差が小さいほど、2つのRF出力信号の対称性が良くなる。本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF信号の出力電力差の絶対値が0.4dBc未満であり、システムの設計指標を満たす。
【0068】
図12は、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおける、第1のRF信号出力ポート2及び第2のRF信号出力ポート3のRF出力信号の位相差に関するシミュレーション結果を示している。2つのRF出力信号の位相差が90度に近いほど、RFフロントエンドモジュールの直交特性が良くなる。本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF出力信号の位相差は90度に非常に近く、システムの設計指標を満たす。
【0069】
図13は、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラの第1のRF信号出力ポート2及び第2のRF信号出力ポート3の分離機能に関するシミュレーション結果を示している。2つのRF出力ポートの分離機能が小さいほど、2つのRF出力ポートの放射エネルギーがRFフロントエンドモジュールの性能に与える影響が小さくなる。本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラにおいて、2つのRF出力ポートの分離機能は-20dBcより小さく、システムの設計指標を満たす。
【0070】
図9図13のシミュレーション指標から分かるように、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、挿入損失の指標をより良く最適化することができると共に、ポートのインピーダンスの反射係数、ポートの分離機能、RF出力信号の電力差及び位相差などの指標の上で、システムの設計指標を全て満たすことによって、回路の性能を最適化し、チップの面積を節約し、RFフロントエンドモジュールのコストを削減する目的を達成した。
【0071】
本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、RFフロントエンド受信リンク、RFフロントエンド送信リンク、平衡電力増幅器の構造などの他の従来の通常デバイスを含む様々なRFフロントエンドモジュールに適用することができるが、ここでは詳細に説明しない。
【0072】
また、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、RF集積回路の重要な構成要素として、通信端末に使用することもできる。ここで言及される通信端末とは、モバイル環境において使用可能で、GSM、EDGE、TD_SCDMA、TDD_LTE、FDD_LTE、5Gなどの各種通信方式をサポートするコンピュータ装置を指し、携帯電話、ノートパソコン、タブレットPC、車載コンピュータなどが挙げられる。また、本発明によって提供される技術的解決策は、通信基地局などの他のRF集積回路用途にも適用可能である。
【0073】
本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラは、基板上に実装することができる。このため、直進金属コイルと結合金属コイルは、積層構造、コプレーナ構造、または積層構造とコプレーナ構造の組み合わせ形態を採用することによって、対応するRF信号入力ポートと第1のRF信号出力ポート、アイソレーションポートと第2のRF信号出力ポートが接続される。3dB直交ハイブリッドカプラの動作周波数とポートの特性インピーダンスの要求に基づいて、直進金属コイルと結合金属コイルの巻数と層数を調整して、カプラの挿入損失を低減し、3dB直交ハイブリッドカプラのポートの反射係数、ポートの分離機能などのRF性能を最適化する。本発明により、チップの面積を効果的に節約し、RFフロントエンドモジュールの設計コストを削減することができる。
【0074】
以上、本発明によって提供される3dB直交ハイブリッドカプラ、RFフロントエンドモジュール及び通信端末について詳細に説明した。当業者にとって、本発明の実質的な内容から逸脱することなく、本発明に対して行われた如何なる明らかな変更は、何れも本発明の特許権の保護範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10
図11
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【国際調査報告】