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特表2023-529635プレストレスケーブルの注入用グラウト及びそのようなグラウトを含むケーブルの設置方法
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  • 特表-プレストレスケーブルの注入用グラウト及びそのようなグラウトを含むケーブルの設置方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】プレストレスケーブルの注入用グラウト及びそのようなグラウトを含むケーブルの設置方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20230704BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20230704BHJP
   B28B 23/04 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B12/04
B28B23/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574586
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 FR2021051007
(87)【国際公開番号】W WO2021245359
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】2005925
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509167338
【氏名又は名称】ソレタンシュ フレシネ
【氏名又は名称原語表記】SOLETANCHE FREYSSINET
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・トゥルヌール
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・メルシエ
(72)【発明者】
【氏名】イヴィチャ・ジバノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・アロポー
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PE01
(57)【要約】
本発明は、プレストレス補強材を保護するためのジオポリマーグラウトであって、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70である、ジオポリマーグラウトに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレス補強材を保護するためのジオポリマーグラウトであって、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70である、ジオポリマーグラウト。
【請求項2】
ケイ酸ナトリウムが52.1%~72.1%の水の質量含有量を有し、活性剤混合物が65%未満の水の質量含有量を有する、請求項1に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項3】
活性剤混合物が40%~65%の水の質量含有量を有する、請求項2に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項4】
メタカオリン:フライアッシュ:アルカリケイ酸塩溶液:水酸化ナトリウムの質量比が1:1:2~3:0.15~0.35である、請求項1~3のいずれか一項に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項5】
グラウトの全質量の0.5%未満の水溶液ブリーディングを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項6】
13~14のpHを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項7】
メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物のBET比表面積が25m/g以上、好ましくは30m/g以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項8】
ジオポリマーグラウトの製造方法であって、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70であり、製造方法が、メタカオリン及びフライアッシュを活性剤混合物によって活性化し、骨材の重合を得る活性化工程を含む、製造方法。
【請求項9】
メタカオリン及びフライアッシュを均質化する前工程を更に含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
活性剤混合物をメタカオリン及びフライアッシュと混練する混練工程を更に含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
混練工程の開始時に水が添加され、添加される水の量がジオポリマーグラウトの質量の1%~4%である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前粉砕工程において、メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物を粉砕し、25m/g以上、好ましくは30m/g以上のBET比表面積を得る、請求項8~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
構造用ケーブルの設置方法であって、以下の工程:
- 少なくとも1つの補強材を含有するダクトを取り付ける工程、
- 補強材に張力をかける工程、
- ダクトにジオポリマーグラウトを注入する工程
を含み、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70である、設置方法。
【請求項14】
ジオポリマーグラウトをダクトに注入する前に、1リットル当たりおよそ9キロジュールのエネルギーで2~5分間ジオポリマーグラウトを混練し、それにより直径10mmのノズルを備えたマーシュコーンを通して25秒~35秒の流動性を得る工程を含む、請求項13に記載の設置方法。
【請求項15】
注入中に、ジオポリマーグラウトがホースを通してダクトに注入され、ホースが25mmより大きい内径及び100mに制限された長さを有する、請求項13又は14に記載の設置方法。
【請求項16】
グラウトが注入中に圧送され、グラウトの圧送流量が0.5m/時間~1.5m/時間である、請求項15に記載の設置方法。
【請求項17】
13~14のpHを有する、請求項5に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項18】
メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物のBET比表面積が25m/g以上、好ましくは30m/g以上である、請求項5に記載のジオポリマーグラウト。
【請求項19】
メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物のBET比表面積が25m/g以上、好ましくは30m/g以上である、請求項6に記載のジオポリマーグラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事用補強材の分野に関する。本発明は、より詳細には、プレストレスケーブルダクトに注入されるグラウト及びこのグラウトの製造方法、更にダクトの取り付け及びダクトへのグラウトの注入を含む、構造用ケーブルの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレスケーブルは、一般に、しばしば鋼製の補強材の束から構成され、張力をかけることによってプレストレスを加えることができる。補強材は、張力がかけられた後、保護材料で充填される管状ダクト(一般にシースで形成される)内に配置される。プレストレスケーブルは、コンクリートの内側(応力がかかる構造物に埋め込まれる)又は外側(ケーブルは、端部の唯一の定着点を介して構造物に定着される)に位置付けることができる。いずれの場合も、コンクリートのポストストレスは、まず、補強材のないダクト(例えばシース)を含む構造物(例えば梁)にコンクリートを適用することによって得られる。その後、このダクトに補強材を挿通し、張力をかける。補強材に張力をかけた後、一方では、特に腐食から保護することによってケーブルの寿命を確保するため、他方ではコンクリートの内部且つ接合してプレストレスが生じた場合、構造体のコンクリートに力を伝達させるためにシース内にグラウトを注入する。
【0003】
グラウトは、一般に、セメント及び水をベースとする混合物からなり、混合物は、ダクトを充填し、隙間を残さずに補強材の束を被覆するのに十分に流動性である。セメントは、水硬性バインダー、すなわち水中で固化することができるバインダーである。従来のセメントは、非常に微細な粉末の形態であり、水と混合するとペーストを形成し、経時的に徐々に固化して硬化する。従来のセメントの周知の例は、ポルトランドセメントである。セメントは、特定の鉱物化合物の水和によって硬化する。現行のセメントのベース組成物は、石灰(CaO)とシリカ(SiO)、アルミナ(Al)及び酸化鉄(Fe)の組合せから得られるケイ酸カルシウムとアルミネートの混合物である。必要な石灰は石灰岩によって供給され、アルミナ、シリカ及び酸化鉄は粘土によって供給される。これらの材料は、石灰石、粘土又は泥灰土の形態で天然に見出され、既に言及した酸化物に加え、他の酸化物、特に酸化第一鉄であるFeを含有する。水とセメントの懸濁液、すなわちセメント及び水をベースとする混合物は、流動性を向上させ、固化を遅らせるために常に混和される。この混合物は、セメントスラリーと称される。
【0004】
作業の観察により、ポストテンションケーブルの腐食は、(空気及び/又は水溶液で充填されたポケット又は気泡の存在のために)グラウトが欠乏する可能性がある箇所で(おそらく早期に)生じ得ることが示され、これらの欠乏の位置は、特にプレストレスケーブルの配策に依存する。例えば、図1に示されるように、プレストレスケーブル10は、しばしば最上点12及び最下点13を有する曲がりくねった軌道を有し、ケーブル10によって加えられるプレストレス力は、最上点の近傍で下向きになり、その逆も同様である。これらの最上点12では、ケーブル補強材10と接触するグラウトがなく、空気及び/又は水溶液、或いはセメントよりも密度が低い粒子の存在が観察される場合があり、このことが補強材の腐食を促進する可能性がある。セメントスラリーの場合、グラウトの欠如は、グラウトの安定性の不足又は注入操作における不完全な充填に起因する。グラウトの安定性の不足は、沈殿(固形物の堆積)又はフィルトレーション(補強材に沿った水の上昇)により、ダクト内でグラウトが分離する現象で現れ、結果としてブリーディング現象につながる可能性がある。この現象を避けるために、グラウトのダクトへの注入は、特に最上点又は補強材の裏側で、ダクトに空気を送り込まずに又は閉じ込めずに行わなければならない。また、一度硬化したグラウトは、化学的に安定であり、工事の耐用年数を通してケーブルの構成鋼を保護するものでなければならない。更に、注入するために、グラウトはホース及びダクト内で圧送して流すのに十分流動性でなければならず、固化の前後で安定かつ均質を保たなければならない。したがって、ブリーディングを管理する必要がある。
【0005】
グラウトの流動性は、セメントの生成のばらつき、注入作業中の気候の変動、加えられる実施圧力、ダクト内を進むグラウトの運動学、補強材を通したフィルトレーション等により、管理が困難な重要な点である。
【0006】
より詳細には、流動性グラウトは、アジュバントを含有する大量の水に分散されたセメント粒の懸濁液であり、一般にその役割は、混合物を薄め、その固化を遅らせることである。セメントは水和現象によって固化し、ここで水は結晶化反応を誘発する主な試薬である。グラウトには常に過剰の水が存在する。一般に、グラウトは、約0.34~0.40の水のセメントに対する質量比で計量されるが、セメント粒子を水和するのに必要な水の割合はおよそ0.17に過ぎない。懸濁液が安定している場合、過剰の水は微小孔に変換され、これらは硬化した材料が固化するとともにその中に分配される。そうでなければ、フィルトレーション及び/又は沈殿によって引き起こされる分離作用が生じ、結果として固化前に水が最上点へと上昇し、セメントより密度が低い材料の粒子が上昇する場合がある。これが生じると、これらの粒子は、ケーブルの配策の最上点に、硬化せず、かつ硬化したグラウトのものとは異なる化学的特性を有する「白色ペースト」の集積を形成する。注入が正しく管理されないと、この作用は、最上点の空気及び水のポケットの存在と組み合わされる可能性がある。補強材の鋼の腐食によって引き起こされるケーブルの早期破損が潜在的に観察される可能性があるのは、正にこのような注入不良の箇所である。詳細には、比較的大量の水は、化学的な水和反応に必要であるが、ブリーディング又は白色ペーストの蓄積等の欠点を示す。
【0007】
例えば、特許EP0875636A1によれば、ケーブルの最上点にベントを追加し、補強材と接触し得る空気及び水をダクトから排除することを可能にすることにより、注入不良の問題を改善することを目的とした解決策が公知である。しかし、ベントからの排出には、グラウトをダクト内に再注入する複数の後続の工程が必要であるため、この解決策は満足のいくものではない。したがって、この解決策は実施に時間がかかり困難である。
【0008】
他の公知の解決策は、セメントスラリーを、例えば抑制剤ゲル、石油ワックス又は有機樹脂等のこのスラリーの代替物で置き換えることからなる。これらの代替物は、例えば注入された生成物とプレストレス補強材の間の結合の不足、又はワックスの場合、特に使用される代替物の融点より高い温度範囲内になり、それによって低粘度の、したがって注入可能な流体を得るための高温での実施等の多数の欠点を示す。更に、この熱間条件下での実施は、生成物が冷めると縮小(又は収縮)を引き起こす。
【0009】
別の代替案は、セメントスラリーを代替組成のグラウトで置き換えることからなる。例えば、文献FR2623492A1は、例えば砂等の鉱物充填材を含むセメントスラリーを開示している。
【0010】
鉱物材料も想定可能である。この種の材料は、液体形態で安定であり、注入を意図したセメントスラリーと比較して少量の水しか必要としない。これは、一般に「ジオポリマー」と称されるポリ(シリコ-オキソ-アルミネート)型の生成物を含む。ジオポリマーグラウトにはセメントが存在しないため、混合物の水和反応は、グラウトの固化及び硬化に干渉しない。そのため、グラウト中に多量の水が存在することによって引き起こされる問題が回避される。この種の材料は、例えば文献FR2949227A1から公知である。この文献に開示されるジオポリマーグラウトは、製造から28日後に、グラウトの圧縮強度は30MPaより大きいべきであるという仕様によって定義されるレオロジー及び機械的強度に関して性能を示す。しかし、この材料は、グラウトを注入するために必要とされる従来の流動性の基準を満たさない。この流動性は、通常、直径10mmのノズルを備えたマーシュコーンを通した流動時間に関する欧州規格「NF EN 445」に記載の標準試験に従って測定され、理論的に、グラウトの混練から5時間後に25秒以下に留まるべきである(0.5Pa.sの粘度に相当する)。
【0011】
更に、グラウトは、緊張した補強材を含有することを意図したダクトに注入可能であるべきである。文献FR2713690A1は、グラウトを注入するための方法を開示している。しかし、この方法は、特にセメントスラリーのために設計され、したがってジオポリマーグラウトに使用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP0875636A1
【特許文献2】FR2623492A1
【特許文献3】FR2949227A1
【特許文献4】FR2713690A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明によって提案されるグラウトは、これがセメントスラリーを含むか又はジオポリマーグラウトを含むかにかかわらず、固化する公知のグラウトが遭遇する問題を解決することを目的とする。したがって、本発明によって開示されるグラウトは、セメントスラリー中の水の存在と既存のジオポリマーグラウトの流動性の不足の両方につながる問題を解決することを特に目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、プレストレス補強材を保護するためのジオポリマーグラウトであって、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70である、ジオポリマーグラウトを提案する。特に、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比は、0.51~0.60である。
【0015】
ジオポリマーグラウトにおいて、ケイ酸ナトリウムは、更に52.1%~72.1%の水の質量含有量を示してもよく、活性剤混合物は、65%未満の水の質量含有量を示してもよい。
【0016】
ジオポリマーグラウトにおいて、活性剤混合物は、更に40%~65%の水の質量含有量を示してもよい。特に、水の質量含有量は56%~63%である。
【0017】
ジオポリマーグラウトにおいて、メタカオリン:フライアッシュ:アルカリケイ酸塩溶液:水酸化ナトリウムの質量比は、1:1:2~3:0.15~0.35であってもよい。
【0018】
ジオポリマーグラウトにおいて、メタカオリン:フライアッシュ:アルカリケイ酸塩溶液:水酸化ナトリウムの質量比は、更に1:1:2.4~2.6:0.19~0.23であってもよい。
【0019】
ジオポリマーグラウトは、更に13~14のpHを有してもよい。
【0020】
ジオポリマーグラウトは、更にグラウトの全質量の0.5%未満の反応水溶液ブリーディングを示してもよい。
【0021】
ジオポリマーグラウトにおいて、メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物のBET比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー理論)は、25m/g以上、好ましくは30m/g以上であってもよい。
【0022】
本発明はまた、ジオポリマーグラウトの製造方法であって、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70であり、製造方法が、メタカオリン及びフライアッシュを活性剤混合物によって活性化し、骨材の重合を得る活性化工程を含む、製造方法を提案する。
【0023】
製造方法は、メタカオリン及びフライアッシュを均質化する前工程を更に含んでもよい。
【0024】
製造方法は、活性剤混合物をメタカオリン及びフライアッシュと混練する混練工程を更に含んでもよい。
【0025】
製造方法の一実施形態では、混練工程の開始時に水が添加され、添加される水の量は、ジオポリマーグラウトの質量の1%~4%である。添加される水は、グラウトの流動性を向上させるためにのみ有用である。これは、重合工程に水が必要なく、したがってその使用が最小限に抑えられるためである。グラウトの製造に必要なメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物の量に関連して、水はこのように最低限の量を占め、したがってグラウトが固化する際の品質及び安定性に関連するリスクが回避される。
【0026】
製造方法の一実施形態では、前粉砕工程において、メタカオリン単独又はメタカオリン及びフライアッシュを含む混合物を粉砕し、25m/g以上、好ましくは30m/g以上のBET比表面積を得る。
【0027】
本発明はまた、構造用ケーブルの設置方法であって、以下の工程:
- 少なくとも1つの補強材を含有するダクトを取り付ける工程、
- 補強材に張力をかける工程、
- ダクトにジオポリマーグラウトを注入する工程
を含み、ジオポリマーグラウトがメタカオリン、フライアッシュ及び活性剤混合物を含み、活性剤混合物が水酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムを含み、ケイ酸ナトリウムのNaO:SiOモル比が0.40~0.70である、設置方法を提案する。
【0028】
設置方法は、ジオポリマーグラウトをダクトに注入する前に、1リットル当たりおよそ9キロジュールのエネルギーで2~5分間ジオポリマーグラウトを混練し、それにより直径10mmのノズルを備えたマーシュコーンを通して25秒~35秒に等しい流動性を得る工程を更に含んでもよい。
【0029】
設置方法は、ダクトへのジオポリマーグラウトの注入中に、ホースの使用を更に含んでもよく、ホースは、25mmより大きい内径及び100mに制限された長さを有する。
【0030】
設置方法の一実施形態では、グラウトは注入中に圧送され、グラウトの圧送流量は、0.5m/時間~1.5m/時間である。
【0031】
ジオポリマーグラウトの製造方法も、設置方法も、ジオポリマーグラウトの成分又はグラウト自体を加熱する工程を必要としないことに留意すべきである。これらの方法は、例えば、ワックスをその融点より高く加熱する必要がある石油ワックスの注入とは対照的に、常温で実施することができる。その結果、注入後のジオポリマーワックスの収縮現象は軽微か、或いは皆無である。
【0032】
本発明の他の特徴、詳細及び利点は、以下に記載される説明を読み、添付の図面を分析することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】プレストレスケーブルの例を示す基本図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明によるジオポリマーグラウトは、安定した液体形態の鉱物材料であり、その配合は、いかなる自由水も含まないか、又はごくわずかな自由水を含む。より詳細には、これはポリ(シリコ-オキソ-アルミネート)、又は(-Si-O-Al-O)n(ここで、nは重合度である)型の生成物を含む。このジオポリマーグラウトは、ダクト内のプレストレスケーブルを保護するのに特に有利である。これは、このグラウトが、ダクトのより良好な充填及び補強材のより良好な被覆を保証する一方、プレストレス補強材に悪影響を与えないためである。
【0035】
ジオポリマーグラウトは、主に充填材要素と称される粉末及び液体活性剤混合物を含む。充填材要素は、メタカオリン及びフライアッシュである。
【0036】
メタカオリンは、焼成カオリンとも称される。メタカオリンは、全体組成がAl,2Siである脱ヒドロキシル化ケイ酸アルミニウムである。メタカオリンは、例えばArgical 1200(登録商標)の名称で販売されている粉末製品であり、その組成は以下の表[table 1](表1)に詳述される。
【0037】
【表1】
【0038】
上記の表[table 1](表1)は、商品名Argical 1200(登録商標)のメタカオリンの化学組成を示す。
【0039】
使用されるメタカオリンは、微粉砕される。より詳細には、メタカオリンは、15m/gより大きいBET比表面積を有する。優先的に、BET比表面積は25m/gより大きい。例えば、メタカオリンのBET比表面積は30m/gより大きい。メタカオリンは、特に、セメント表面への鉱物塩の堆積(「エフロレッセンス」とも称される)を制限することにより、従来のセメントの場合よりも円滑なグラウトを得ることを可能にする。更に、メタカオリンの粉砕の微細さにより、圧縮時の機械的強度を向上させ、得られるジオポリマーグラウトの粘度を低下させることが可能になる。詳細には、充填材要素のうち、フライアッシュの割合に対してメタカオリンの割合を増加させると、グラウトの機械的強度及び粘度が向上する。メタカオリンが細長い不定形であるのに対し、フライアッシュは球形であるため、メタカオリンを粉砕することにより、フライアッシュとの積層性が向上し、それにより充填材要素のうちメタカオリンの割合が増加する。また、メタカオリンは、通常のセメントに対して抽出に要するエネルギーが少ない成分であるため、ジオポリマーグラウトの製造が環境面で有利になる。これは、メタカオリンの製造は、粘土と石灰石を非常に高温(約1450℃)で化学結合させる必要があるセメントの製造に対して、低温(600℃~800℃)で実行可能なカオリナイト(天然粘土)の焼成によって得られるためである。
【0040】
フライアッシュは、クラスFのフライアッシュである。より詳細には、使用されるフライアッシュは、微粉炭を熱電発電所のボイラーで燃焼させ、電気集塵機で回収することに由来する。例えば、使用されるフライアッシュは、商品名「Silicoline(登録商標)」で販売されている。フライアッシュは、特にグラウトの取り扱い及びその長期的な機械的性能を向上させることができる。
【0041】
使用されるフライアッシュは、微粉砕されてもよい。この場合、フライアッシュは、15m/gより大きいBET比表面積を示す。優先的に、BET比表面積は25m/gより大きい。例えば、フライアッシュのBET比表面積は30m/gより大きい。フライアッシュの粉砕の微細さにより、得られるジオポリマーグラウトの圧縮時の機械的強度を向上させることが可能になる。
【0042】
活性剤混合物は、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム及び水を含む。活性剤混合物は、メタカオリンとフライアッシュ要素の化学結合を切断することによって化学反応を開始させ、非晶質ゲルを形成し、その後重合反応を誘発して骨材を重合させ、Si-O-Al結合を含有する三次元構造を有するジオポリマーを得ることを可能にする。
【0043】
ケイ酸ナトリウムは、アルカリケイ酸塩溶液である。より詳細には、ケイ酸ナトリウムは、0.40~0.70のNaO:SiOのモル比を示す。例えば、モル比は、好ましくは0.51~0.60である。例えば、モル比は0.55~0.59である。別の例によれば、モル比は0.57である。更に、ケイ酸ナトリウムは、52.1%~72.1%の水の質量含有量を示す。例えば、ケイ酸ナトリウムは、その重量の62.1%の水を含む。
【0044】
水酸化ナトリウムは、最初は水酸化ナトリウムペレットの形態である。水酸化ナトリウムペレットは、8.53:100の水酸化ナトリウム:ケイ酸ナトリウムの質量比でケイ酸ナトリウム溶液に組み込まれる。例えば、1000gのケイ酸ナトリウム溶液に85.3gの水酸化ナトリウムが組み込まれる。水酸化ナトリウムの塩基性の性質は、ジオポリマーグラウトのpHを上昇させることを可能にし、これにより腐食に対する補強材の保護が促進される。例えば、グラウトは13~14のpHを有する。別の例によれば、ジオポリマーグラウトは13.3~13.5のpHを有する。優先的な例によれば、ジオポリマーグラウトは13.4に近いpHを有する。結果として、グラウトが、最低限の量の水が添加されることに起因して非常にごくわずかなブリーディング現象を示さなければならない場合、ブリーディングする水溶液は、上記に示された範囲内に含まれる塩基性pHを有する。したがって、ブリーディングする水は、補強材の腐食を引き起こさない。特に、グラウトは、グラウトの全質量の0.5%未満の水溶液ブリーディングを示す場合がある。
【0045】
水酸化ナトリウムは更に、適切なNa/Si又はNa/Alモル比を得ることを可能にし、それにより求められる基準を満たす化学配合を有するジオポリマーグラウトを得ることを可能にする。
【0046】
活性剤混合物は、水を更に含む。水は、ケイ酸ナトリウム溶液の組成の一部を形成する水に加え、添加される水を意味すると本明細書で理解される。結果として、本明細書に記載される水は、ケイ酸ナトリウムを構成する水の一部を形成せず、したがって上記のケイ酸ナトリウムの水の質量含有量の52.1%~72.1%の範囲から除外される。添加された水は、ジオポリマーグラウトの全質量の4%未満を占める。「ジオポリマーグラウトの全質量」は、メタカオリン、フライアッシュ、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム及び添加された水を含むグラウトの質量を意味すると理解される。例えば、添加された水は、ジオポリマーグラウトの全質量の1%~4%を占める。別の例によれば、添加された水は、ジオポリマーグラウトの全質量の1%~2%、好ましくは1.86%を占める。更に別の例によれば、添加された水は、ジオポリマーグラウトの全質量の3%~4%、優先的には3.64%を占める。この量は、ジオポリマーグラウトの全質量に対して最低限を維持する。
【0047】
言い換えると、活性剤混合物は、65%未満の水の質量含有量を示す。この場合、水の質量含有量は、ケイ酸ナトリウムそれ自体に存在する水、並びにケイ酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムに添加された水を考慮する。結果として、この場合の質量含有量は、ケイ酸ナトリウムに存在する水及び添加された水の質量と、活性剤混合物の全質量(すなわちケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び添加された水)の間の比である。例えば、活性剤混合物は、40%~65%、例えば56%~63%の水の質量含有量を示す。例えば、活性剤混合物は、58%~59%の水の質量含有量を示す。別の例によれば、活性剤混合物は、59%~60%の水の質量含有量を示す。
【0048】
有利には、活性剤混合物への水の添加は、ジオポリマーグラウトの流動性を向上させる一方で、固化及び硬化後の機械的強度を制限された範囲にのみ低下させることを可能にし、前記機械的強度は、グラウトの圧縮強度が28日で30MPaより大きいことを要する基準を依然として満たす。
【0049】
本発明のジオポリマーグラウトは、組み込まれる水が少量であることを考慮すると、非常に制限されたブリーディングしか引き起こさず、グラウトの均質性がより良好であるという利点を有する。更に、このように水が少量である結果として、ケーブルを構成する補強材の束の中でフィルトレーションが生じない。添加される水が少量である別の結果は、先行技術のセメントスラリーの多孔度よりもはるかに低いジオポリマーグラウトの多孔度である。例えば、本明細書に記載されるジオポリマーグラウトの多孔度は、セメントスラリーの多孔度より少なくとも6倍低い多孔度を示す。また、ダクト内でのジオポリマーグラウトの注入の動的進行が促進され、従来のセメントスラリーに比べてグラウトが補強材を被覆しやすく、これにより隠れたエアポケット(又は気泡)の出現が防止される。
【0050】
ジオポリマーグラウトは、いくつかの代替案を含む以下に示す方法によって製造される。
【0051】
最初の工程では、メタカオリン及びフライアッシュが機械式ミキサーで均質化される。
【0052】
代替案として、メタカオリン単独(すなわち、フライアッシュなし)を事前に粉砕し、25m/g以上、好ましくは30m/g以上のBET比表面積を得る。例えば、メタカオリンは、ミルを使用して粉砕される。使用されるミルは、リングミル又はボールミルであってもよい。別の代替案によれば、充填材要素(すなわち、メタカオリン及びフライアッシュ)を粉砕し、25m/g以上、好ましくは30m/g以上のBET比表面積を得る。
【0053】
ボールミルの場合、例えば、5kgの質量のメタカオリンを導入し、毎分39回転の速度で12時間粉砕する。粉砕時間の関数として、メタカオリンの種々のBET比表面積が得られ、そのいくつかの例が以下の表[table 2](表2)で照合される。
【0054】
【表2】
【0055】
上記の表[table 2](表2)は、ボールミルによる毎分39回転の速度でのメタカオリン5kgの粉砕を示す。
【0056】
その後、水酸化ナトリウムペレットを組み込んだケイ酸ナトリウム溶液を調製する。例えば、1000gのケイ酸ナトリウム溶液に85.3gの用量の水酸化ナトリウムが組み込まれる。混合物を、水酸化ナトリウムペレットが完全に溶解されるまで撹拌する。
【0057】
その後、混練工程で、活性剤混合物をメタカオリン及びフライアッシュと混練する。この工程により、骨材の重合、及び結果としてジオポリマーグラウトを得ることが可能になる。
【0058】
より詳細には、メタカオリンとフライアッシュの混合物を活性剤溶液に導入する。その後、混合物の解凝集(ダマのない均質な混合物)を確保するために骨材を十分に混練する。
【0059】
次いで、水を骨材に添加する。水の添加により、混合物を薄め、マーシュコーン(直径10mmのノズルを備えた)を通して25秒~35秒、例えば30秒の流動性を有するジオポリマーグラウトを得ることができる。
【0060】
代替案として、水は、骨材が混合される前に添加される。別の代替案によれば、水は、混合中に添加される。詳細には、混合工程中に水が添加されるとき、ジオポリマーグラウトのレオロジー及び機械的強度の点で特性は改変されない。特に、添加された水は、骨材の重合に寄与しないことが理解されなければならない。換言すると、水は、重合工程において反応性構成成分ではない。したがって、混合物への水の添加は、重合とは無関係である。
【0061】
代替案として、骨材はその後90秒間放置される。
【0062】
次に、この骨材を、例えば毎分630回転の速度で60秒間混合する。
【0063】
例として、調製されたジオポリマーグラウトは、以下の表[table 3](表3)で照合される特徴を有する。
【0064】
【表3】
【0065】
上記の表[table 3](表3)は、ジオポリマーグラウトの配合例を照合するものである。
【0066】
結果として、ジオポリマーグラウトは、1:1:2~3:0.15~0.35のメタカオリン:フライアッシュ:アルカリケイ酸塩溶液:水酸化ナトリウムの比を有する。例えば、質量比は、1:1:2.4~2.6:0.19~0.23である。優先的に、表[table 3](表3)中の配合例に示されるように、質量比は1:1:2.489:0.212である。
【0067】
規格NF EN445の試験方法に従い、得られたジオポリマーグラウトについてレオロジー測定及び機械的強度試験を行った。結果を以下の表[table 4](表4)で照合する。
【0068】
【表4】
【0069】
上記の表[table 4](表4)は、圧縮強度及び粘度測定に関する結果を照合するものである。
【0070】
構造用ケーブルの設置方法をここで説明する。設置方法は、少なくとも1つの補強材を含有するダクトを取り付ける工程、及び補強材に張力をかける工程、及びジオポリマーグラウトをダクトに注入する工程を主に含む。
【0071】
ジオポリマーグラウトを上述の製造方法に従って調製した後、ジオポリマーグラウトを混錬し、規格NF EN445に従ってマーシュコーンを通して測定される、25秒~45秒の十分な流動性を得る。例えば、ジオポリマーグラウトは、1リットル当たりおよそ9キロジュールのエネルギーで2~5分(例えば4分)混練される。混練は、例えば、1リットル当たりおよそ9キロジュールのエネルギーを混合物に分散させるためのターボ式混練機によって行われる。この混練は、流動性の向上、換言するとマーシュコーンを通して測定される流動時間の短縮を可能にするため、注入方法において重要な工程である。詳細には、ジオポリマー混合物は、ターボ混錬前に50秒より長い流動時間を有する場合があるが、上記のターボ混錬により、これを25~45秒の値(粘度値0.5~0.9Pa.s)まで低下させることができる。これらの流動時間の値は、グラウトの注入を妨げることなく、規格NF EN445の通常の基準(25秒以下の時間)よりも大きいままであってもよい。
【0072】
次に、ジオポリマーグラウトをホースを介してダクト内に注入する。ホースは、例えば25mmより大きい内径を有する。優先的に、ホースの内径は35mmより大きい。更に、ホースは、例えば100mに制限された長さを有する。ジオポリマーグラウトの注入は、例えばポンプ(公称圧力25barの)により、0.5m/時間~1.5m/時間のポンプ流速で行われる。
【0073】
この設置方法により、ジオポリマーグラウトは安定(すなわち、分離がないことによって均質)を保つ。詳細には、ケーブルの構成補強材の周囲及びそれを通したブリーディングは観察されない。セメントスラリーと比較して、不良の水和反応、特に不安定なグラウトを得ることに関連するリスクが、本明細書でこのように回避される。ジオポリマーグラウトが固化及び硬化した後、空洞又は気泡が、グラウトの質量の0.5%未満を占める、pH13~13.5の再出現した水溶液を含有する可能性がある。これらの溶液の組成は、種々の成分(ナトリウムイオンNa、硫酸イオンSO 2-、ケイ酸イオンHSiO 2-、及びアルミン酸イオンAl(OH) )の主要化学元素を含有し、これらは補強材の腐食に対する保護の点でリスクを示さない。更に、ダクト内の残留空気体積は、従来のセメントスラリーのものより6倍小さい。また、ジオポリマーグラウトが注入されるダクトを傾斜させると、ジオポリマーグラウトは、先端がダクトの上部と下部の間でほんのわずかにずれた状態で進行することが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10 プレストレスケーブル
12 最上点
13 最下点
図1
【国際調査報告】